(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-17
(54)【発明の名称】薄膜リチウム化材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1391 20100101AFI20231010BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20231010BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231010BHJP
【FI】
H01M4/1391
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520258
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(85)【翻訳文提出日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 FR2021051697
(87)【国際公開番号】W WO2022069842
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504007888
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ レシェルシェ サイエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】518202367
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド リール
(71)【出願人】
【識別番号】516123435
【氏名又は名称】サントラル・リール・アンスティチュ
(71)【出願人】
【識別番号】522111644
【氏名又は名称】ユニベルシテ ポリテクニーク オー-ド-フランス
(71)【出願人】
【識別番号】519209543
【氏名又は名称】ユニベルシテ ダルトワ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE D’ARTOIS
(71)【出願人】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レシエン,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ハロット,マキシム
(72)【発明者】
【氏名】ルーセル,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,ティエリー
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA02
5H050GA12
5H050GA24
5H050GA26
5H050GA27
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、三次元電池又は3D電池に適したリチウム化材料又は3D電池に適したリチウム化材料に基づく正極層を製造するための製造方法に関し、基板上にリチウム化材料を得るために、リチウム化材料は、いくつかの薄層、すなわち、1nm~1μmの厚さを有し、電気化学的に活性な複合材料から構成され、とりわけ、均質であり、リチウム化材料が堆積される基板の表面の多少複雑な隆起パターンに適合するのに適している層を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上にリチウム化材料を製造するための方法であって、当該リチウム化材料は複数の薄層を含み、前記方法は、
a)電池内で使用されることが意図された材料で作られた基板を反応チャンバ内に配置する工程と、
c1)少なくとも1回、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、ランタン、ニオブ、バナジウム、鉄、チタン、及びアルミニウムの中から選択される第1の金属の前駆体を、前記反応チャンバを通じて前記基板の表面の少なくとも一部に原子層堆積させる工程と、
c2)少なくとも1回、前記反応チャンバをパージする工程と、
c3)少なくとも1回、前記反応チャンバを通じて第1の酸化種を拡散させて、前記第1の金属の酸化物の薄層を得る工程と、
c4)少なくとも1回、前記反応チャンバをパージする工程と、
f1)少なくとも1回、第1の金属の酸化物の前記薄層の上に、前記反応チャンバを通じてリチウム前駆体を原子層堆積させて、リチウム化薄層を形成する工程と、
f2)少なくとも1回、前記反応チャンバをパージする工程と、を含み、
前記方法が、工程f2)の後に、リチウム化材料を得るために、600℃~800℃の間の温度で1~4時間にわたる結晶化アニーリング工程g)を更に含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記工程a)とc1)との間に、少なくとも1回、基板を官能化する工程b1)を更に含み、前記官能化工程b1)が、前記反応チャンバを通じて水を拡散させることからなり、その後に前記反応チャンバから水をパージする工程b2)が続く、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程b1)及びb2)のn
1回の第1の反復工程b3)を更に含み、前記工程b3)が、前記工程b2)とc1)との間で実行される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程c1)~c4)のn
2回の第2の反復工程c5)を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c2)とf1)との間に、
-少なくとも1回、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、ランタン、チタン、及びアルミニウムの中から選択される第2の金属の前駆体、又はリン酸塩前駆体を、前記反応チャンバを通じて前記第1の金属の酸化物の前記層の少なくとも一部の上に原子層堆積させる工程d1)と、
-少なくとも1回、前記反応チャンバをパージする工程d2)と、
-少なくとも1回、前記反応チャンバを通じて第2の酸化種を拡散させて、前記第2の金属の酸化物又はリン酸塩の薄層を得る工程d3)と、
-少なくとも1回、前記反応チャンバをパージする工程d4)と、を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程d1)~d4)のn
5回の第3の反復工程d5)を更に含み、前記工程d5)は、工程d4)とf1)との間に実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程c1)~d4)のn
4回の第4の反復工程e)を更に含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程f2)とg)との間に、少なくとも1回、前記リチウム化薄層を強制酸化する工程f3)を更に含み、前記強制酸化する工程f3)が、前記反応チャンバ内への水の拡散か
らなり、その後に前記反応チャンバをパージする工程f4)が続く、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程f1)~f4)のn
5回の第5の反復工程f5)を更に含み、前記工程f5)は、前記工程f4)とg)との間に実行される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム化材料の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、基板の表面上に薄層で堆積されたリチウムを含有する材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の先行技術では、様々なタイプの基板上に材料の薄層を形成する方法、特に、リチウム化材料、すなわちリチウムを含有する材料の層を製造する方法が知られている。これらのリチウム化材料は、特に、電池において、例えば電解質バリア若しくは電極を形成するために、又は任意の他の蓄電デバイスにおいて使用される。これらの層は、前駆体から原子層堆積法(一般に頭字語ALDで称される)を使用することによって、原子層化学気相堆積法(一般に頭字語ALCVDで称される)を使用することによって、あるいは原子層エピタキシ法(一般に頭字語ALEで称される)を使用することによって堆積させることができる。特に、ALD法は、異なる連続的な化学前駆体を有する材料の層を堆積させることが望まれる表面を露出させるためのガス-表面反応に基づく薄膜堆積技術である。
【0003】
しかしながら、現在の先行技術では、薄層、すなわち、1nm~1μmの厚さを有し、電気化学的に活性な複合材料から構成され、とりわけ均質であり、リチウム化材料が堆積される基板の表面の多少の複雑な隆起パターンに適合するのに適した層を含むリチウム化材料を製造する方法は存在しない。
【0004】
本発明の目的上、「複雑な隆起パターン」という用語は、10より大きい表面対体積比を生成する三次元骨格を形成するために、この基板に機械加工された空洞、管、又は柱を有する基板を意味すると理解される。
【0005】
更に、従来技術では、三次元電池又は3D電池に適したリチウム化材料に基づく正極層を製造するための製造方法が存在しない。
【0006】
本発明の目的上、「三次元電池又は3D電池」という用語は、5μmを超える厚さによって画定されるパターンを有する電池を意味すると理解される。例えば、三次元電池又は3D電池として、所定の比表面積を生成する三次元マットを形成するように事前に構造化された基板上に共形的に堆積された少なくとも6層の材料からなるマイクロ電池を有することが可能である。これらの6つの層は、絶縁層、2つの集電体層、負極層、及び正極層である。これら2つの電極層は、固体電解質によって分離されている。これらの6つの層は、任意選択で、3D電池の経年劣化を防止する追加の封入層によって保護されてもよい。
【0007】
本発明の目的は、特に、前述の欠点の全て又はいくつかを克服することである。
【発明の概要】
【0008】
この目的上、第1の態様によれば、本発明は、基板上にリチウム化材料を製造するための方法に関し、リチウム化材料は複数の薄層を含み、本方法は、
a)電池に使用されることが意図された材料で作られた基板を反応チャンバ内に配置する工程と、
c1)ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、ランタン、ニオブ、バナジウム、鉄、チタン、及びアルミニウムの中から選択される第1の金属の前駆体を、反応チャンバを通じて、基板の表面の少なくとも一部に少なくとも1回原子層堆積させる工程と、
c2)反応チャンバを少なくとも1回パージする工程と、
c3)反応チャンバを通じて第1の酸化種を少なくとも1回拡散させて、第1の金属の酸化物の薄層を得る工程と、
c4)反応チャンバを少なくとも1回パージする工程と、
f1)第1の金属の酸化物の薄層の上に、反応チャンバを通じてリチウム前駆体を少なくとも1回原子層堆積させて、リチウム化薄層を形成する工程と、
f2)反応チャンバを少なくとも1回パージする工程と、を含み、
本方法は、工程f2)の後に、リチウム化材料を得るために、600℃~800℃の温度で1~4時間にわたる結晶化アニーリング工程g)を更に含むことを特徴とする、方法。
【0009】
本発明の目的上、「電池に使用されることが意図された材料」によって意味するものは、電池製造プロセスにおいて通常実行される熱処理によって機械的に変化しない十分な機械的強度を有し、化学的に不活性であり、温度に対して電気化学的に安定している任意のタイプの材料である。
【0010】
したがって、本発明のこの第1の態様によれば、上述した第1の金属の酸化物の少なくとも1つの薄層と、基板上のリチウム化薄層とを含む電気化学的に活性な材料を製造することが可能である。したがって、三次元電池に適した電気化学的性能を提供することができる電気化学的に活性な複合材料を基板上に堆積させることが可能である。例えば、この製造方法によって、特に一辺が7.5cmより大きい領域にわたって均質である薄層を含むリチウム化材料を製造することが可能である。
【0011】
このリチウム化材料は、例えば、電気化学的貯蔵デバイスにおいて使用され得ることに留意されたい。特に、そのようなリチウム化材料は、様々な用途のための二次元又は三次元電池、特に三次元マイクロ電池、例えばリチウムイオンマイクロ電池を製造するために使用され得る。二次元又は三次元電池では、基板は二次元又は三次元物体の形態をとり得る。
【0012】
本発明の目的上、「二次元物体」という用語は、例えばシリコンで作られた平坦な物体、又は二次元電池を製造するために材料の層を受け入れるための機械的ベースとして作用することができる任意の物体を意味すると理解される。
【0013】
本発明の目的上、「三次元物体」という用語は、材料、例えば、ALDによって薄層の形態で堆積された材料のスタックによって覆われた物体を意味すると理解される。例えば、三次元物体は、その表面の少なくとも1つの上に、マイクロエレクトロニクスエッチング技術又はマイクロ/ナノ物体の成長のための技術を使用することによって生成され得る構造化を有し得る。
【0014】
したがって、本発明によるそのような方法では、基板が微細構造化されている場合、すなわち、基板がその表面の少なくとも1つにある程度の表面粗さを呈する場合、堆積されたリチウム化材料はこの微細構造に適合し、したがって、材料が形成される領域全体にわたって同じ厚さを有する均質な材料を得るように、基板の微細構造に完全に従うリチウム化材料を容易に形成することが可能である。
【0015】
特に、微細構造化基板は、平坦な(すなわち、非微細構造化)基板よりも大きな比表面積を有する。基板の表面積は、例えば、基板の表面上に高アスペクト比を有する微細構造を配置することによって増加させ得る。微細構造のアスペクト比は、例えば、その縦寸法とその最小横寸法(例えば、基板上に連続して配置された2つの微細構造間の最小横距離)との比に対応する。
【0016】
例えば、微細構造化基板として、溝、柱、及びチャネルなどの微細構造、又は国際公開第2015052412号パンフレットに教示されているような微細構造を含む基板を有することが可能である。また、基板は、微細加工技術を使用して機械加工可能であってもよく、その製造のための方法の実行中、例えば、堆積及びアニーリング工程中に適用される熱処理に耐えることができなければならないことに留意されたい。
【0017】
例えば、基板としては、シリコン、SiO2、Al2O3、Ti、ガラス、Kapton(登録商標)からなる基板から選択された基板を用いることができる。更に、基板は可撓性であってもよいし、剛性であってもよい。
【0018】
なお、第1の金属の前駆体は、液状であってもよいし、粉末状であってもよい。例えば、第1の金属の前駆体は、以下の前駆体:FeCl2、FeCp2、Fe(thd)3、La(thd)3、CoCp2、MnCp2、Mn(thd)3、NiCp2、TiCl4、NbOEt5、Cr(OCI)2の中から選択されてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0019】
第1の酸化種を拡散させる工程c3)は、工程c1)の実行後に表面上に位置する元素の化学結合の破壊を可能にすることに留意されたい。この第1の酸化種は、当の元素の化学結合の強度に従って選択される。例えば、オゾンは、好ましくは、マンガンの酸化を促進してMnO2の形成をもたらすために使用される。
【0020】
好ましくは、第1の金属の酸化物の薄層は、5~15nmの厚さを有する。この第1の層はまた、好ましくは、ALDサイクル当たり0.5~1Aの速度で堆積され得る。
【0021】
なお、リチウム前駆体は粉末形態であってもよい。例えば、リチウム前駆体は、LiOtBuであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0022】
好ましくは、リチウム化薄層は、5~1000nmの厚さを有する。この第1の層はまた、好ましくは、ALDサイクル当たり0.5~1Aの速度で堆積され得る。
【0023】
特定の一実施形態では、後続の堆積工程を容易にするために、特に、第1の金属の前駆体の第1の原子単層の基板への結合を促進するために、基板を官能化することが有利である。そのような官能化はまた、その後の堆積工程中に所望の化学反応につながる表面状態を得ることを意図して、その表面が汚染元素を含まないか、又は非常にわずかしか含まない基板を得ることを可能にする。したがって、本実施形態では、本方法は、工程a)とc1)との間に、少なくとも1回、基板を官能化する工程b1)を更に含み、官能化工程b1)は、反応チャンバを通じて水を拡散させることからなり、その後に反応チャンバから水をパージする工程b2)が続く。
【0024】
好ましくは、官能化工程b1)は、180℃~220℃の温度で実行される。
【0025】
好ましくは、本方法は、工程b1)及びb2)のn1回の第1の反復の工程b3)を更に含み、工程b3)は、工程b2)とc1)との間で実行される。この工程は、後続の堆積工程が実行される前に基板の表面上に存在し得る汚染物質を大幅に制限する、又は完全に排除することさえ可能にする。
【0026】
特定の一実施形態では、第1の金属の酸化物の単一の薄層だけでなく、第1の金属の酸化物の少なくとも1つの薄層及び第2の金属の酸化物の薄層を含むリチウム化材料を製造することが有利である。具体的には、リチウム化材料中に、2つの異なる(遷移)金属の酸化物の少なくとも2つの薄層が存在することにより、現在使用されているものと比較し
てより高い電位で電気化学的に活性であるリチウム化材料を得ることが可能になる。特に、そのようなリチウム化材料を使用して、高電位で動作する、すなわち、Li/Li+に対して4Vよりも高い電位で動作する三次元電池用の正極を製造することが可能である。したがって、本実施形態では、本方法は、工程c2)とf1)との間に、
-少なくとも1回、ニッケル、マンガン、コバルト、クロム、ランタン、チタン、及びアルミニウムの中から選択される第2の金属の前駆体、又はリン酸塩前駆体を、反応チャンバを通じて、第1の金属の酸化物の薄層の少なくとも一部の上に原子層堆積させる工程d1)と、
-少なくとも1回、反応チャンバをパージする工程d2)と、
-少なくとも1回、反応チャンバを通じて第2の酸化種を拡散させて、第2の金属の酸化物又はリン酸塩の薄層を得る工程d3)と、
-少なくとも1回、反応チャンバをパージする工程d4)と、を更に含む。
【0027】
第1の酸化種を拡散させる工程c3)と同様に、第2の酸化種を拡散させる工程d3)は、工程d1)の実行後に表面に位置する元素の化学結合の切断を可能にする。この第2の酸化種は、元素の化学結合の強度に従って選択される。
【0028】
第1の酸化種は、第2の酸化種と同じであってもよいが、必ずしもそうである必要はないことに留意されたい。
【0029】
したがって、例えば、第1及び/又は第2の酸化種として、オゾン、水、又はCO2などの酸素を含む任意の他のガス状化合物を挙げることができる。酸素前駆体の組み合わせはまた、酸化種を拡散させる別個の工程において、又は第1若しくは第2の酸化種を拡散させる同じ工程において同時に使用されてもよい。
【0030】
追加の金属の酸化物の薄層を得るために、前述の工程d1)~d4)と同様の更なる工程を実行することも可能である。したがって、例えば、このようにして、以下の材料:LixM1yM2zM3sOt、ただし、M1、M2、及びM3は、Ni、Mn、Co、Cr及びAlの中から選択される遷移金属、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LixNiyCozAltO2(式中、y+z+t=1)、を得ることが可能である。
【0031】
好ましくは、第2の金属の酸化物又はリン酸塩の薄層は、5~15nmの厚さを有し得る。この層はまた、好ましくは、ALDサイクル当たり0.5~1Aの速度で堆積され得る。
【0032】
第2の金属の前駆体又はリン酸塩前駆体は、工程c1)で堆積されたものと同じであるか、又は異なることに留意されたい。したがって、異なる遷移金属前駆体から誘導される薄層を形成することによって、例えば、三元系、四元系、又は五元系リチウム化材料を形成することが可能である。
【0033】
第2の金属の前駆体又はリン酸塩前駆体は、液体又は粉末形態であってよいことに留意されたい。例えば、第2の金属の前駆体又はリン酸塩前駆体は、以下の前駆体:La(thd)3、CoCp2、MnCp2、Mn(thd)3、NiCp2、TiCl4、Cr(OCI)2の中から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0034】
好ましくは、本方法は、工程c1)~c4)のn2回の第2の反復の工程c5)を更に含む。この工程c5)は、好ましくは工程c4)とd1)との間に実行されることに留意されたい。したがって、これらの工程c1)~c4)によって記載される第1の金属の酸化物の均質な成長を得ること、及び製造される所望のリチウム化材料の最終化学量論を制
御することの両方が可能である。
【0035】
好ましくは、本方法は、工程d1)~d4)のns回の第3の反復の工程d5)を更に含み、工程d5)は、工程d4)とf1)との間に実行される。したがって、これらの工程d1)~d4)によって記載される第2の金属の酸化物の均質な成長を得ること、及び製造される所望のリチウム化材料の最終化学量論を制御することの両方が可能である。
【0036】
好ましくは、方法は、工程c1)~d4)のn4回の第4の反復の工程e)を更に含む。この工程e)は、好ましくは工程d5)とf1)との間に実行されることに留意されたい。したがって、そのようなリチウム化材料を含む三次元電池の性能を向上させるために、第1及び第2の金属の酸化物の薄層のそれぞれの厚さ、したがって活物質の厚さを増加させることが可能である。
【0037】
特定の一実施形態では、リチウム前駆体の原子層堆積の工程f1)の実行後に形成されたであろう炭素種を大幅に制限する、更には排除することが有利である。したがって、本実施形態では、本方法は、工程f2)とg)との間に、少なくとも1回、リチウム化薄層を強制酸化する工程f3)を更に含み、強制酸化する工程f3)は、反応チャンバ内への水の拡散からなり、その後に反応チャンバをパージする工程f4)が続く。
【0038】
好ましくは、強制酸化する工程f3)は、180℃~220℃の温度で実行される。
【0039】
工程b1)及びf3)において、水は好ましくは脱イオン化される。
【0040】
好ましくは、本方法は、工程f1)~f4)n5回の第5の反復の工程f5)を更に含み、工程f5)は、工程f4)とg)との間に実行される。これにより、リチウム前駆体の原子層の厚さを増加させることができる。
【0041】
好ましくは、n5は、n5=0.05*(n2+n3)*n4のように定義される。例えば、このようにして、マンガンとニッケルのALDサイクルの比を最適化して、酸化リチウム(NiO)及びLi2MnO3の存在を制限しながら、リチウム化材料の形成を可能にすることができる。
【0042】
したがって、n1~n5の値を調整することによって、リチウム、ニッケル、マンガン及び酸素を含む材料(以下、LNMO材料と呼ぶ)の異なる化学量論比を得ることが可能である。
【0043】
更に、パージ工程は、特に各前駆体パルスの後に、又は前駆体パルスと同時に、反応チャンバを通じて不活性ガスを引き込むことからなることに留意されたい。変形例として、複数のパージパルスが各前駆体パルスの間に実行されてもよい。パージ工程は、全ての未反応試薬を除去することを意図しており、それによって、自己制御式のガス-表面反応に従ってリチウム化材料の生成が起こることを確実にする。したがって、反応チャンバは、チャンバを通じてパージガスを流すことによって、あるいは圧力を低下させることによってチャンバをフラッシングすることによってパージされてもよい。適切なパージガスは、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを含むが、前駆体を含有する材料の堆積された薄層と反応しない任意の適切なガス又はガス混合物をパルス化することができる。
【0044】
第2の態様によれば、本発明は、上記で定義した方法によって得ることができるリチウム化材料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
本発明は、単に例として提供される以下の説明を読み、添付の図面を参照することにより、より良く理解されるであろう。
【0046】
【
図1】本発明に係る製造方法の一実施形態を模式的に示す図である。
【0047】
【
図2】本発明の一実施形態に従って得られたアニーリング前の実施例1の材料の断面のTEM画像を示し、アルミナ(Al)
2O
3の保護層がこの材料上に更に堆積されている。
【0048】
【
図3】本発明の一実施形態に従って得られたアニーリング後の実施例1の材料の断面図のTEM画像を示し、アルミナ(Al)
2O
3の保護層がこの材料上に更に堆積されている。
【発明を実施するための形態】
【0049】
デバイス/製品
デバイス:
-反応チャンバ:PICOSUN R200 ALD反応器。
【0050】
製品:
-基板:BT Electronics、Siltronix(Si(100)、5~10ohm.cm、2”~4”、1研磨面)
-ALD前駆体:
白金について:トリメチル)メチルシクロペンタジエニル白金(IV)、99%、Merck、StremChemicals
ホスフェートについて:トリメチルホスフェート、最小97%、Merck、Strem Chemicals
リチウムについて:リチウムt-ブトキシド、98+%、Merck、Strem Chemicals
アルミナについて:トリメチルアルミニウム、最小98%、Merck、Strem Chemicals
ニッケルについて:ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、99%(ニッケロセン)、Merck、Strem Chemicals
マンガン:トリス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マンガン(III)、99%Mn(TMHD)3)、Merck、Strem Chemicals。
【実施例】
【0051】
実施例1:本発明による第1のリチウム化材料の製造
【0052】
本実施例で製造されるリチウム化材料は、二次元基板に適用されたLiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)であり、原子層堆積(ALD)技術を用いて以下に示すように得られる。
【0053】
この実施例に従う方法は、4つの主な工程を含む。
-MnO2の薄膜を形成する工程と、
-NiOの薄膜を形成する工程と、
-表面上にリチウム化薄膜を形成する工程と、
-LNMO材料の形成を可能にする結晶化アニーリングする工程。
【0054】
より具体的には、本実施例で実行される連続する工程は、以下の通りである(
図1に示
す)。
a)二次元シリコン基板を反応チャンバ内に配置する工程と、b1)195℃の温度で高反応チャンバを通じて脱イオン水を拡散させることからなる基板を官能化する工程と、
b2)反応チャンバをパージする工程と、
b3)工程b1)及びb2)を10回行う第1の反復工程と、
c1)195℃の温度で高反応チャンバを通じてMn(thd)を引き出すことによってマンガン(Mn)前駆体を原子層堆積させて、基板の表面上にMnを含む薄層を形成する工程と、
c2)反応チャンバをパージする工程と、
c3)195℃の温度で高反応チャンバを通じてオゾンを引き込むことによってオゾンを拡散して、工程c1)の終わりに基板の表面上に予め形成されたMnを含む薄層とオゾンとの反応を促進し、それによってMnO
2の薄層を形成する工程と、
c4)反応チャンバをパージする工程と、
c5)工程c1)~c4)を27回行う第2の反復工程と、
d1)195℃の温度で高反応チャンバを通じてNi(Cp)
2を引き出すことによってニッケル(Ni)前駆体を原子層堆積させて、MnO
2の薄層の表面上にNiを含む薄層を形成する工程と、
d2)反応チャンバをパージする工程と、
d3)195℃の温度で高反応チャンバを通じてオゾンを引き込むことによってオゾンを拡散して、工程d1)の終わりに形成されたMnO
2の薄層の表面上に予め形成されたNiを含む薄層とオゾンとの反応を促進し、それによってNiOの薄層を形成する工程と、
d4)反応チャンバをパージする工程と、
d5)工程d1)~d4)を10回行う第3の反復工程と、
e)工程c1)~d4)を52回行う第4の反復工程と、MnO
2-NiOの層を得る工程と、
f1)225℃の温度で高反応チャンバを通じてLiOtBuを引き出すことによってLi前駆体を原子層堆積させて、MnO
2-NiOの層の表面上にLiを含む薄層を形成する工程と、
f2)反応チャンバをパージする工程と、
f3)225℃の温度で高反応チャンバを通じて脱イオン水を引き込むことによってリチウム化薄層を酸化して、工程f1)の終わりに形成されたMnO
2-NiOの層の表面上に予め形成されたLiを含む層と水との反応を促進し、それによってリチウム酸化物の薄層を形成する工程と、
f4)反応チャンバをパージする工程と、
f5)工程f1)~f4)96回行う第5の反復工程と、
g)約700℃の温度で2時間、空気中で結晶化アニーリングする工程。
【0055】
このように進めることによって、シリコン基板上に堆積され、100nmの厚さを有するリチウム化材料LiNi0.5Mn1.5O4が得られる。
【0056】
上述の工程は、国際公開第2015052412号に記載されているような微細構造化基板に適用することもできることに留意されたい。
試験
【0057】
工程g)で実行されるアニーリングの前(
図2参照)及び後(
図3参照)に、実施例1に従って得られたリチウム化材料の透過型電子顕微鏡(一般に頭字語TEMと呼ばれる)(
図2及び3参照)による分析を行った。リチウム化材料は、電池コレクタ層として作用することができる白金前駆体から適用される白金の層上に堆積される。アニーリング前に材料の酸化リチウム層上に300℃でALDによって堆積されたアルミナAl
2O
3の8
5nm層によって、白金層及びリチウム化材料のアセンブリを、集束イオンビーム(一般に頭字語FIBと呼ばれる)による切断から保護し、このアルミナ層は、アルミナ前駆体から適用される。
【0058】
アニーリング前の材料の分析を
図2に示す。セルA、B、C、及びDは、前述の様々な積層を示す(図に示すように、A及びBは第1のスケールであり、C及びDは第2のスケールである)。
図2のセルA及びBでは、下から上に、アルミナの第1の層、白金の第1の層、マンガン-ニッケルの層、アルミナの第2の層、及び白金の第2の層を見ることができる。
図2のセルC及びDでは、下から上に、白金の第1の層、マンガン-ニッケルの層、及びアルミナの第2の層を見ることができる。
【0059】
更に、アニーリング前に上述の様々な層の間に空間が存在しないことに留意されたい。この空間の不在は、層間の十分な接着の特徴である。更に、セルE~Lでは、アルミナ又は白金とリチウム化材料(リチウムは透過電子顕微鏡では不可視であり、リチウム層が写真では見えないために、ここでは、マンガン-ニッケル層である)との相互拡散は観察されない。リチウム化材料が適用される白金の層は、この層がコレクタ層であり得る電池の場合、表面粗さを呈し、その結晶粒の配向は、上部に堆積されるリチウム化材料の配向に影響を及ぼし、よって、リチウム化材料は正電極層として作用する。マンガン及びニッケルが緊密に混合され、均質な層を形成し、ALDによる堆積中の元素の良好な分布を示すことも見ることができる。したがって、Mnの薄層の堆積後にその上に形成されたNiの薄層は、Mnの層の中に拡散して、マンガン-ニッケル層を形成している。
【0060】
アニーリング後の材料の分析を
図3に示す。この
図3では、セルA及びBでは、下から上に、アルミナの第1の層、白金の層、マンガン-ニッケルの層、及びアルミナの第2の層を見ることができる。
図2のセルC及びDでは、下から上に、白金の層、マンガン-ニッケルの層、及びアルミナの第2の層を見ることができる。更に、ここでは、LNMO材料の結晶粒の好ましい配向に対するコレクタ層、白金層の結晶粒の配向の影響を更に識別することが可能である。一般に、マンガンとニッケルとの間で偏析が観察される。具体的には、ニッケルが枯渇したゾーンはマンガンが富化され、逆もまた同様であるが、異なる割合であることが観察される。アニーリング及びLNMO材料の形成後にNiOが観察されることにも留意されたい。
【0061】
図2及び
図3のセルの各々は、シリコン基板上に積層された層の化学マップに対応する。化学元素は、各セルE~Lの説明に示されている。色(又はグレースケールレベル)が各化学元素に割り当てられている。使用される分析技術は、様々な要素の色又はグレースケールレベルを重ね合わせることも可能にする(
図2のセルB及びC並びに
図3のセルB及びDを参照)。
【0062】
これらの2つの図(2及び3)のにおいて、2つの異なるスケールが存在する(1つのスケールはセルA及びBについてのものであり、別のスケールはセルC及びDについてのものである)。TEM分析、次いで全ての元素を重ね合わせた化学マップをセル画像に示す。
図2のセルE~L及び
図3のセルE~Lでは、各化学元素(Al、Pt、Ni、Mn)が単独で示されている。これにより、連続する層の間の元素の相互拡散又はその不在、あるいはこれらの各種元素の分布などの情報へのより正確なアクセスが可能になる。
図3のセルG及びH、並びにK及びLでは、マンガン-ニッケル元素の偏析が、
図1で考慮されたマンガン-ニッケル比について観察される。また、
図3のセルF~H又はI、K、及びLにおいて、白金層とアルミナ層との間、又は白金層とマンガン-ニッケル層との間に相互拡散は見られない。
【国際調査報告】