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特表2023-543647量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置
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  • 特表-量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置 図1
  • 特表-量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置 図2
  • 特表-量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01W 1/00 20060101AFI20231011BHJP
   G06N 10/60 20220101ALI20231011BHJP
【FI】
G01W1/00 A
G06N10/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538418
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(85)【翻訳文提出日】2022-06-21
(86)【国際出願番号】 CN2021113385
(87)【国際公開番号】W WO2023015588
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】202110912690.8
(32)【優先日】2021-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520510830
【氏名又は名称】南京師範大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】兪 肇元
(72)【発明者】
【氏名】胡 旭
(72)【発明者】
【氏名】羅 文
(72)【発明者】
【氏名】袁 林旺
(72)【発明者】
【氏名】趙 彬如
(57)【要約】
本発明は、量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置を開示する。前記方法において、まず、緯度による近接空間大気の変化特徴に基づいて、検討エリアを緯度に応じて複数のバンドに分割し、次に、バンド構造の1次元トポロジネットワークに基づいて、バンド間の気体分子の相互作用と転移過程を量子ウォークでシミュレーションし、近接空間大気の可能な全進化パターンを得て、その後、観測した大気密度データを境界条件とし、各バンドに実際に存在する進化パターンを段階的回帰で選別し、最後に、近接空間大気マルチ進化パターンと大気密度パラメータ値とのマッピング機構を構築し、近接空間大気状態のシミュレーションと最適化を実現することを含む。本発明は、高いシミュレーション精度を有し、近接空間大気の複雑な構造特徴を効果的に掲示することができ、かつ、まばらな衛星観測データから連続的なデータ観察場の生成にメソッドサポートを提供できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
緯度による近接空間大気の変化特徴に基づいて、検討エリアを緯度に応じて複数のバンドに分割するステップ(1)と、
ステップ(1)に記載のバンド構造の1次元トポロジネットワークに基づいて、バンド間の気体分子の相互作用と転移過程を量子ウォークでシミュレーションし、近接空間大気の可能な全進化パターンを得るステップ(2)と、
観測した大気密度データを境界条件とし、各バンドに実際に存在する進化パターンを段階的回帰で選別するステップ(3)と、
近接空間大気マルチ進化パターンと大気密度パラメータ値とのマッピング機構を構築し、近接空間大気状態のシミュレーションと最適化を実現するステップ(4)とを含むことを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【請求項2】
請求項1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(1)の実現過程は、以下であり、
空間パーティションのアイディアに基づいて、一定の経度、緯度および時間分解能で近接空間大気状態を離散化し、近接空間大気状態の時間空間立方体を形成し、ここで、各時間空間立方体単位間の大気状態パラメータがこの単位中の衛星観測データの平均値で表されることを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【請求項3】
請求項1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(2)の実現過程は、以下であり、
量子ウォークの動力学特性が下記式(1)のハミトンマトリックスHによって制御され、かつこのハミルトンマトリックスHは、ウォークネットワークのトポロジー構造によって決定され、通常、隣接マトリックスで表され、1次元トポロジネットワークに抽象化され、
【数1】
量子ウォークにおいて、与えられた量子ウォークパラメータk(m=1,2,...,M)の場合、時間演算子は、下記式(2)によって示され、
【数2】
ウォーカーの初期時刻の状態をλ(0)で示し、時間演算子によって、ウォーカーの時刻tでの状態は、下記式(3)によって示され、
【数3】
ここで、λ(t,k)は、波動関数であり、時刻tにおいてウォーカーがいずれかのノードに位置する確率幅を示し、ウォーカーの状態は、下記式(4)によって示され、
【数4】
したがって、量子ウォークパラメーターセット
【数5】
を構築し、このパラメーターセットで量子ウォークを行うことで、一連の波動関数を生成し、かつ、これらの波動関数は、強度の異なる近接空間大気進化パターンを示し、これらによって近接空間大気の複雑な構造特徴を反映することを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【請求項4】
請求項1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(3)の実現過程は、以下であり、
サブセット段階的回帰選別方法を近接空間大気進化パターンの選別方法とし、実際に観測した近接空間大気状態パラメータ時系列Dens(t)の制約の下で、可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について、下記式(5)のようにサブセット段階的回帰選別を行い、
【数6】
赤池情報量準則(AIC)に基づいて、式(5)のサブセット段階的回帰選別方法で可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について選別し、モード選別結果
【数7】
かつ
【数8】
を得、ここで、Nは、選別した大気進化パターンの数であり、nは、選別した大気進化パターンの可能な全大気進化パターンにおける番号であることを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【請求項5】
請求項1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(4)の実現過程は、以下であり、
ステップ(3)で選別した実際に存在する進化パターン
【数9】
に基づいて、近接空間大気パラメータ時系列と大気進化パターンとの下記式(5)のマッピング転化関係を確立し、
【数10】
ここで、Nは、選別したコンポーネント数であり、Dens(t)は、実際の近接空間大気パラメータ時系列であり、α(m)とε(t)は、マッピングパラメータであり、
【数11】
は、選別したコンポーネントのパラメータであり、近接空間大気動的進化過程の重要な表現パラメータであることを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【請求項6】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されてプロセッサで実行可能なコンピュータプログラムを含む量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション装置であって、
前記コンピュータプログラムがプロセッサにロードされると、請求項1~5のいずれか一項に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を実現することを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気科学と量子理論の分野に属し、具体的に量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法および装置に係る。
【背景技術】
【0002】
近接空間は、高密度大気と低密度大気の遷移エリアとして、複雑な空間環境過程、大気活動、さまざまな物理的および化学的過程をカバーするため、複雑な時間と空間上の変化を有し、人間の生活や気候の変動に重要な影響を与える。しかし、現在の近接空間大気観測データは、まばらな分布であり、近接空間大気の時間空間分布構造と進化特徴を包括的かつ細かく反映することが困難である。したがって、シミュレーションのアイディアに基づいて、限られた観測データによる近接空間大気の進化パターンの反転は、近接空間大気の進化特徴および拡散メカニズムの検討に寄与し、近接空間のさらなる開発および利用に重要な価値を有する。
【0003】
大気モデルは、近接空間大気のシミュレーションに用いられる重要なルートである。現在広く使用されている大気モデルには、主に標準大気モデル、参照大気モデル、数値モデルの3種類が含まれる。標準大気モデルは、近接空間大気を理想的かつ安定した状態の気体/流体に抽象化し、理想的気体法則/流体静的方程式に基づいて、グローバルまたはエリアの大気の理想的な環状状態での理論的数値をシミュレートする。典型的な標準大気モデルには、アメリカ標準大気1962、米国標準大気増強1966、米国標準大気1976が含まれる。標準大気モデルは、定常状態の条件下での大気パラメーターの全体的な傾向を反映することができるが、エクスペリエンスパラメータまたは平均状態パラメーターによる大気パラメータの高度の近似のために、標準大気モデルは、近接空間大気の正確なシミュレーションと特徴分析を実現することが困難になる。参照大気モデル(エクスペリエンス大気モデル)は、大気理論と大気検出データによって確立されたエクスペリエンスモデルであり、特定の地理的位置、エリアまたはグローバルの大気パラメーターの垂直分布を記述できる。代表的な参照大気モデルには、CIRAシリーズ、MSISシリーズおよびHWMシリーズがある。一般に、参照大気モデルは、大気検出データを補助データとして数値の近似とデータの同化を行うことによって、近接空間大気パラメータのシミュレーションを実現する。近接空間大気には、複雑な変化規則および強い局所特徴があるため、既存の参照大気モデルのシミュレーション結果は、実際測定データとは大きく異なり、大気シミュレーションのファイン化ニーズを満たすことが困難である。数値モデルは、大気循環モデルのフレームワークに基づくモデルであり、大気運動の基本的な特性およびさまざまな物理的および化学的過程を包括的に考慮し、入力の制御およびパラメーター化スキームの選択により、大気パラメーターのより正確なシミュレーションを行う。数値モデルは、中高層大気の物理的および化学的現象の原理的な検討によく使用される。現在、一般的な大気数値モデルには、CMAM、TIME-GCMおよびWACCMなどがある。数値モデルは、より良いシミュレーション結果を得ることができるが、パラメーターが複雑であり、計算オーバーヘッドが大きいに加え、入力パラメータおよびパラメータキャリブレーション過程に対するシミュレーション結果の強い依存性は、モデルの拡張と適用を制限する。さらに、いくつかの検討では、極端な天候が発生した場合、既存の大気モデルのシミュレーションエラーが100%に達し、場合によってそれより高い。これらの大気モデルが異常事象に敏感であり、異常事象による大気の突発的変化に迅速に応答できないことを意味する。
【0004】
一部の学者は、パラメーター修正と反転のアイディアに基づいて、近接空間大気シミュレーションモデルを開発し、線形モデルと非線形モデルにまとめることができる。たとえば、Miao Juanなどは、神舟宇宙機の検出データに基づいて、リアルタイムの大気密度観測データに基づいた修正方法を提案した。Chang Xinzhuoなどは、キャリブレーション後のMSISモデルと太陽および地磁気のアクティビティ指数とを組合せてNARX大気密度予測モデルを構築し、低空衛星の短期軌道の予報精度を向上させるアイディアを提案した。
【0005】
要するに、上記の大気シミュレーションモデルは、確定性の視点に基づいて近接空間大気をシミュレートするが、大気進化の元々の特性、つまり気体分子のランダム拡散と相互作用を無視している。その結果、これらのモデルは、シミュレーションの精度および測定データの制約のもとで、近接空間大気パラメータと大気進化パターンとのマッピング関係を構築し、近接空間大気パラメータの動的シミュレーションを実現することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、シミュレーションの精度と計算の複雑度の良好なバランスをとると同時に、近接空間大気パラメータの動的シミュレーションを実現する、量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を提案し、緯度による近接空間大気の変化特徴に基づいて、検討エリアを緯度に応じて複数のバンドに分割するステップ(1)と、ステップ(1)に記載のバンド構造の1次元トポロジネットワークに基づいて、バンド間の気体分子の相互作用と転移過程を量子ウォークでシミュレーションし、近接空間大気の可能な全進化パターンを得るステップ(2)と、観測した大気密度データを境界条件とし、各バンドに実際に存在する進化パターンを段階的回帰で選別するステップ(3)と、近接空間大気マルチ進化パターンと大気密度パラメータ値とのマッピング機構を構築し、近接空間大気状態のシミュレーションと最適化を実現するステップ(4)とを含む。
【0008】
さらに、前記ステップ(1)の実現過程は、以下である。空間パーティションのアイディアに基づいて、一定の経度、緯度および時間分解能で近接空間大気状態を離散化し、近接空間大気状態の時間空間立方体を形成する。ここで、各時間空間立方体単位間の大気状態パラメータは、この単位中の衛星観測データの平均値で表される。
【0009】
さらに、前記ステップ(2)の実現過程は、以下である。
量子ウォークの動力学特性が下記式(1)のハミトンマトリックスHによって制御され、かつこのハミルトンマトリックスHは、ウォークネットワークのトポロジー構造によって決定され、通常、隣接マトリックスで表され、1次元トポロジネットワークに抽象化される。
【数1】
量子ウォークにおいて、与えられた量子ウォークパラメータk(m=1,2,...,M)の場合、時間演算子は、下記式(2)によって示される。
【数2】
ウォーカーの初期時刻の状態をλ(0)で示し、時間演算子によって、ウォーカーの時刻tでの状態は、下記式(3)によって示される。
【数3】
ここで、λ(t,k)は、波動関数であり、時刻tにおいてウォーカーがいずれかのノードに位置する確率幅を示し、ウォーカーの状態は、下記式(4)によって示される。
【数4】
したがって、量子ウォークパラメーターセット
【数5】
を構築し、このパラメーターセットで量子ウォークを行うことで、一連の波動関数を生成し、かつ、これらの波動関数は、強度の異なる近接空間大気進化パターンを示し、これらによって近接空間大気の複雑な構造特徴を反映する。
【0010】
さらに、前記ステップ(3)の実現過程は、以下である。
サブセット段階的回帰選別方法を近接空間大気進化パターンの選別方法とし、実際に観測した近接空間大気状態パラメータ時系列Dens(t)の制約の下で、可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について、下記式(5)のようにサブセット段階的回帰選別を行う。
【数6】
赤池情報量準則(AIC)に基づいて、式(5)のサブセット段階的回帰選別方法で可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について選別し、モード選別結果
【数7】
かつ
【数8】
を得る。
ここで、Nは、選別した大気進化パターンの数であり、nは、選別した大気進化パターンの可能な全大気進化パターンにおける番号である。
【0011】
さらに、前記ステップ(4)の実現過程は、以下である。
ステップ(3)で選別した実際に存在する進化パターン
【数9】
に基づいて、近接空間大気パラメータ時系列と大気進化パターンとの下記式(5)のマッピング転化関係を確立する。
【数10】
ここで、Nは、選別したコンポーネント数であり、Dens(t)は、実際の近接空間大気パラメータ時系列であり、α(m)とε(t)は、マッピングパラメータであり、
【数11】
は、選別したコンポーネントのパラメータであり、近接空間大気動的進化過程の重要な表現パラメータである。
【0012】
同一の発明のアイディアに基づいて、本発明は、メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されてプロセッサで実行可能なコンピュータプログラムを含む量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション装置をさらに提案し、前記コンピュータプログラムがプロセッサにロードされると、上記の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を実現することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
既存の技術と比較して、本発明の有益な効果は、以下である。従来の大気モデルの多くは、主に数値近似とデータ同化のアイディアに基づいて大気パラメータをシミュレートするが、パラメータが複雑であり、地理的エリアの相違に対する考慮が足りず、近接空間大気の不規則構造の記述が困難であるといった問題が存在する。本発明は、近接空間大気状態のエリア間の相違を考慮し、大気状態が異なるブロック間の大気分子による相互作用および動的進化の結果であると考え、大気の動的進化過程を確率の形式で記述する。したがって、量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーションモデルを構築した。このモデルは、近接空間大気を緯度に応じて大気バンドに区分し、バンド間の大気進化パターンを量子ウォークで記述し、さらに既存の少量の衛星観測データから、大気進化パターンと大気パラメータ間の予測方程式を確立し、大気状態のシミュレーションおよび最適化を実現した。TIMED衛星によって2012年7月に観測した大気密度データに基づくシミュレーション結果から、本発明は、高いシミュレーション精度を有し、近接空間大気の段階的変化/突発的変化、パーティション/分層などの複雑な構造特徴を効果的に掲示することができる。本発明は、まばらな衛星観測データから連続的なデータ観察場の生成にメソッドサポートを提供し、非確定の視点から近接空間モデリングにアイディアを提案する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明のフローチャートである。
図2】異なるエリアのシミュレーション結果と実際測定データの比較図である。
図3】各バンドのシミュレーション精度図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【0016】
量子力学、大気科学などの関連する理論方法に基づいて、本発明は、量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を提案し、図1に示すように、具体的に以下のステップを含む。
【0017】
ステップ1:緯度による近接空間大気の変化特徴に基づいて、検討エリアを緯度に応じて複数のバンドに分割する。
【0018】
本発明は、近接空間大気状態のエリア間の相違を考慮し、近接空間大気状態が異なるブロック間の高層大気による相互作用および動的進化の結果であると考え、近接空間の大気進化パターンを確率の形式で記述する。したがって、空間パーティションのアイディアに基づいて、一定の経度、緯度および時間分解能で近接空間大気状態を離散化し、近接空間大気状態の時間空間立方体を形成する。ここで、各時間空間立方体単位間の大気状態パラメータは、この単位中の衛星観測データの平均値で表され、本発明のデータの基礎を構築する。
【0019】
2012年7月にTIMED(thermosphere ionosphere mesosphere energetics and dynamics)衛星によって観測した近接空間大気密度を例にとり、空間分解能を1°×1°×10kmに、時間分解能を6時間に設定して、360×180×10×124次元の4次元時間空間立方体を構築した。観測データが極めてまばらであるため、時間空間立方体の平均ヌル値率が99.73%と高く、ほぼすべての時間空間立方体は、連続的な大気密度時系列を構成することができない。そのため、時間空間立方体の空間分解能を段階的に増大し、最終的には、4°の緯度分解能で25のバンドに区分し、経度は、区分しない。6時間の時間分解能で検討期間を区分し、高さ20km、100km付近の近接空間を2つの時間空間立方体セクションに離散化し、処理して各セクション単位上の連続的な大気密度時系列を得る。
【0020】
ステップ2:ステップ1に記載のバンド構造の1次元トポロジネットワークに基づいて、バンド間の気体分子の相互作用と転移過程を量子ウォークでシミュレーションし、近接空間大気の可能な全進化パターンを得る。
【0021】
近接空間の大気は、大気の動力学、放射や光化学過程などの物理化学過程の総合的な影響を受け、気体分子間に強い拡散や相互作用が存在するため、近接空間の大気変数(温度、密度など)を一定の時間空間範囲内で連続的な推移過程として表現する。この連続的推移過程は、時間空間立方体単位間の複数の異なる強度の大気進化パターンが共に積み重なった結果である。理想的な状態では、各時間空間立方体単位は、系列が同一または類似する大気進化パターンを持つと考えられる。そのため、ステップ1で構築した時間空間立方体トポロジー構造の制約下で、異なるステップ(パラメーター)で量子ウォークを行い、系列強度の異なる理想大気進化パターンを生成する。これは、近接空間大気状態と系列大気進化パターン間の重畳結合関係の掲示に役立つだけでなく、高精度、強いロバストの近接空間大気状態シミュレーションモデルの構築に基礎を提供した。
【0022】
量子ウォークの動力学特性が下記式(1)のハミトンマトリックスHによって制御され、かつこのハミルトンマトリックスHは、ウォークネットワークのトポロジー構造によって決定され、通常、隣接マトリックスで表され、1次元トポロジネットワークに抽象化される。
【数12】
量子ウォークにおいて、与えられた量子ウォークパラメータk(m=1,2,...,M)の場合、時間演算子は、下記式(2)によって示される。
【数13】
ウォーカーの初期時刻の状態をλ(0)で示し、時間演算子によって、ウォーカーの時刻tでの状態は、下記式(3)によって示される。
【数14】
ここで、λ(t,k)は、波動関数であり、時刻tにおいてウォーカーがいずれかのノードに位置する確率幅を示す。式(2)と式(3)から、ウォーカーの状態は、さらに下記式(4)によって示される。
【数15】
したがって、量子ウォークパラメーターセット
【数16】
を構築し、このパラメーターセットで量子ウォークを行うことで、一連の波動関数を生成する。かつ、これらの波動関数は、強度の異なる近接空間大気進化パターンを示し、これらによって近接空間大気の複雑な構造特徴を反映する。
【0023】
ステップ3:観測した大気密度データを境界条件とし、各バンドに実際に存在する進化パターンを段階的回帰で選別する。
【0024】
近接空間の大気は、多くの要素の影響を受け、大気状態の構造が複雑であり、モードがさまざまであるが、人為的な介入、影響要素相違の客観的な制約により、一部の理想的な進化パターンは、その中に存在できない。ステップ2で生成された可能な全大気進化パターンは、ただ1つの共通集合であり、近接空間大気シミュレーションの「基礎」であり、理想的な近接空間大気の動的進化過程しか記述できない。そのため、衛星観測データの制約下で、特定の近接空間大気進化パターンの選別準則に基づき、解析して各時間空間立方体単位における実際の進化パターンを得て、近接空間大気状態とマルチ進化パターンとの間の重畳結合関係を後続に探索するのに便利である。
【0025】
本発明は、サブセット段階的回帰選別方法を近接空間大気進化パターンの選別方法とし、実際に観測した近接空間大気状態パラメータ時系列Dens(t)の制約の下で、ステップ2で生成した可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について、下記式(5)のようにサブセット段階的回帰選別を行う。
【数17】
赤池情報量準則(AIC)に基づいて、式(5)のサブセット段階的回帰選別方法で可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について選別し、モード選別結果
【数18】
かつ
【数19】
を得る。
ここで、Nは、選別した大気進化パターンの数であり、nは、選別した大気進化パターンの可能な全大気進化パターンにおける番号である。
【0026】
ステップ4:近接空間大気マルチ進化パターンと大気密度パラメータ値とのマッピング機構を構築し、近接空間大気状態のシミュレーションと最適化を実現する。
【0027】
ステップ3で選別して得られた各時間空間単位中の複数の大気進化パターン、すなわち波動関数の解を求めて得られた動的変化の確率分布は、多元線形回帰モデルを利用して近接空間大気状態とマルチ進化パターン間のマッピング転化メカニズムを構築し、これにより近接空間大気状態のシミュレーションと最適化を実現する。
【0028】
ステップ(3)で選別した大気進化パターン
【数20】
に基づいて、近接空間大気パラメータ時系列と大気進化パターンとの下記式(5)のマッピング転化関係を確立する。
【数21】
ここで、Nは、ステップ3で選別したコンポーネント数であり、Dens(t)は、実際の近接空間大気パラメータ時系列であり、α(m)とε(t)は、マッピングパラメータであり、
【数22】
は、選別したコンポーネントのパラメータであり、近接空間大気動的進化過程の重要な表現パラメータである。
【0029】
同一の発明のアイディアに基づいて、本発明は、メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されてプロセッサで実行可能なコンピュータプログラムを含む量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション装置をさらに提案し、前記コンピュータプログラムがプロセッサにロードされると、上記の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を実現する。
【0030】
本発明の実験配置は、主に以下の部分を含む。
(1)基本実験配置:TIMED(thermosphere ionosphhere mesosphere energetics and dynamics)衛星は、米国の科学衛星であり、2001年12月7日に打ち上げられ、2002年1月22日から、そのSABER(sounding of the atmosphere using broadband emission radiometry)から観測データを取得した。SABERは、60日ごとに境界検出の方向を変える必要があるため、緯度は、(52°S、83°N)と(83°S、52°N)との間で変化する。また、高さ20-100kmの範囲の近接空間は、空間環境、大気活動およびさまざまな物理・化学過程の影響を受け、この範囲内の大気パラメータは、複雑な時間空間特徴を持つことになる。以上の2点の理由から、本検討では、経度:-52°~52°、緯度:-180°~180°、高さ:20km付近と100km付近のエリアを実験エリアとした。かつ時間範囲は、2012年7月1日-2012年7月31日とした。
(2)評価指標配置:本発明は、決定係数(Coefficient of Determination,R2)を選択してモデリング性能を評価する。
【0031】
以上の実験配置に基づいて、本発明の結果は、以下の2つに分けられる。
(1)量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法のモデリング結果。
(2)各バンドのシミュレーション精度の対比。
【0032】
ある検討によると、同じ高さで、高層の大気密度は、緯度の影響を大きく受けるが、経度の影響は、小さく、無視できる。本発明は、検討エリアを4°の緯度分解能で25個のバンドに区分し、経度は、区分しない。そして、検討期間を6時間の時間分解能で区分し、各期間の観測密度の平均値をそのバンドの密度値とした。最終的に、本発明の入力データである、それぞれのバンドの長さ124の大気密度の時系列が得られる。
【0033】
大気進化パターンを生成する際、近接空間バンドで構造した1次元トポロジーネットワークで2000回の量子ウォークを行い、量子ウォークパラメータkは、0.01から20まで増加し、かつ間隔は、0.01である。また、モデルのシミュレーション効果を決定係数(Coefficient of Determination,R2)を用いて評価した。
【0034】
本発明のシミュレーション結果を図2に示す(検討エリア内の6つのサブエリアを例とする)。N-20エリアを除き、本発明のモデルは、近接空間の大気密度の変化傾向をよくシミュレーションすることができる。検討期間内のN-20エリアの近接空間の大気密度の変動は、比較的緩やかであるが、それは、多くの複雑な大気進化パターンによる共同進化の結果である。観測データのスパース性は、本発明のモデルがその真の進化過程に近づくことを制限し、N-20エリアのモデリング精度をわずかに低下させる。これは、北半球のシミュレーション結果も赤道エリアと南半球にやや劣る要因となっている。さらに、異常事象によって引き起こされる大気密度の激しい変動の正確な捕捉も、本発明のモデルの大きな利点である。例えば、2012年7月7日から2012年7月18日までの間に複数回の強い太陽事象が発生し、高さ20kmの検討エリア内の大気密度に一度の大幅な変化(30~50時間目)が生じたが、本発明のモデルは、この激しい変動を捉えた。以上のシミュレーション結果は、本発明のモデルが異なる時間空間範囲内の近接空間大気密度の複雑な波動とマルチスケール構造に対する優れた反転能力を証明した。(注:N-20は、経度46°N~50°N、高さ20kmのサブエリア、E-20は、経度2°S~2°N、高さ20kmのサブエリア、S-100は、経度46°N~-50°N、高さ100kmのサブエリアを示し、それ以外は、これに準じて類推する。)
【0035】
各バンドのシミュレーション精度を図2に示す。全体的に言って、モデルのモデリング精度は、比較的に高く(0.75-0.99)、異なるエリア内の大気密度の複雑な波動構造を反転することができる。特に、高さ100kmのモデリング精度は、変動幅が小さく、より安定している。これは、高さが高いほど大気の変動が比較的緩やかで、進化パターンが安定し抽出しやすいためとみられる。局所的には、高さ20kmと100kmのモデリング精度には3つの明らかな谷が現れた。その中の4つは、すべて北半球の低緯度エリアに出現し、本発明のモデルによる北半球の大気密度の複雑な変動の捕捉能力が南半球よりやや劣ることを表明した。これは、2012年7月に太陽直射点が北緯10度から北緯20度に位置し、このエリア内の大気温度が比較的高く、気体分子間の相互作用が比較的強く、複雑な大気進化パターンが形成されたためとみられる。しかし、その極めてまばらの観測データは、部分的に顕著な大気進化パターンしか表現できず、本発明のモデルがその真実の進化過程を近似することが困難であり、そのためモデリング精度がやや低下する。
【0036】
(付記)
(付記1)
量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
緯度による近接空間大気の変化特徴に基づいて、検討エリアを緯度に応じて複数のバンドに分割するステップ(1)と、
ステップ(1)に記載のバンド構造の1次元トポロジネットワークに基づいて、バンド間の気体分子の相互作用と転移過程を量子ウォークでシミュレーションし、近接空間大気の可能な全進化パターンを得るステップ(2)と、
観測した大気密度データを境界条件とし、各バンドに実際に存在する進化パターンを段階的回帰で選別するステップ(3)と、
近接空間大気マルチ進化パターンと大気密度パラメータ値とのマッピング機構を構築し、近接空間大気状態のシミュレーションと最適化を実現するステップ(4)とを含むことを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【0037】
(付記2)
付記1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(1)の実現過程は、以下であり、
空間パーティションのアイディアに基づいて、一定の経度、緯度および時間分解能で近接空間大気状態を離散化し、近接空間大気状態の時間空間立方体を形成し、ここで、各時間空間立方体単位間の大気状態パラメータがこの単位中の衛星観測データの平均値で表されることを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【0038】
(付記3)
付記1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(2)の実現過程は、以下であり、
量子ウォークの動力学特性が下記式(1)のハミトンマトリックスHによって制御され、かつこのハミルトンマトリックスHは、ウォークネットワークのトポロジー構造によって決定され、通常、隣接マトリックスで表され、1次元トポロジネットワークに抽象化され、
【数23】
量子ウォークにおいて、与えられた量子ウォークパラメータk(m=1,2,...,M)の場合、時間演算子は、下記式(2)によって示され、
【数24】
ウォーカーの初期時刻の状態をλ(0)で示し、時間演算子によって、ウォーカーの時刻tでの状態は、下記式(3)によって示され、
【数25】
ここで、λ(t,k)は、波動関数であり、時刻tにおいてウォーカーがいずれかのノードに位置する確率幅を示し、ウォーカーの状態は、下記式(4)によって示され、
【数26】
したがって、量子ウォークパラメーターセット
【数27】
を構築し、このパラメーターセットで量子ウォークを行うことで、一連の波動関数を生成し、かつ、これらの波動関数は、強度の異なる近接空間大気進化パターンを示し、これらによって近接空間大気の複雑な構造特徴を反映することを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【0039】
(付記4)
付記1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(3)の実現過程は、以下であり、
サブセット段階的回帰選別方法を近接空間大気進化パターンの選別方法とし、実際に観測した近接空間大気状態パラメータ時系列Dens(t)の制約の下で、可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について、下記式(5)のようにサブセット段階的回帰選別を行い、
【数28】
赤池情報量準則(AIC)に基づいて、式(5)のサブセット段階的回帰選別方法で可能な全大気進化パターン(λ(t,k),λ(t,k),...,λ(t,k))について選別し、モード選別結果
【数29】
かつ
【数30】
を得、ここで、Nは、選別した大気進化パターンの数であり、nは、選別した大気進化パターンの可能な全大気進化パターンにおける番号であることを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【0040】
(付記5)
付記1に記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法であって、
前記ステップ(4)の実現過程は、以下であり、
ステップ(3)で選別した実際に存在する進化パターン
【数31】
に基づいて、近接空間大気パラメータ時系列と大気進化パターンとの下記式(5)のマッピング転化関係を確立し、
【数32】
ここで、Nは、選別したコンポーネント数であり、Dens(t)は、実際の近接空間大気パラメータ時系列であり、α(m)とε(t)は、マッピングパラメータであり、
【数33】
は、選別したコンポーネントのパラメータであり、近接空間大気動的進化過程の重要な表現パラメータであることを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法。
【0041】
(付記6)
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されてプロセッサで実行可能なコンピュータプログラムを含む量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション装置であって、
前記コンピュータプログラムがプロセッサにロードされると、付記1~5のいずれか1つに記載の量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション方法を実現することを特徴とする量子ウォークに基づく近接空間大気状態シミュレーション装置。
図1
図2
図3
【国際調査報告】