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特表2023-5436672つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて腫瘍の不均一性を推定するための方法および対応する装置
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  • 特表-2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて腫瘍の不均一性を推定するための方法および対応する装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて腫瘍の不均一性を推定するための方法および対応する装置
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20231011BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20231011BHJP
   G16H 50/30 20180101ALI20231011BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20231011BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231011BHJP
   G16B 25/00 20190101ALI20231011BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20231011BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/6886 Z
G16H50/30
G16H50/20
G01N33/53 M
G16B25/00
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513220
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(85)【翻訳文提出日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2021073554
(87)【国際公開番号】W WO2022048975
(87)【国際公開日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】20194511.0
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145654
【弁理士】
【氏名又は名称】矢ヶ部 喜行
(72)【発明者】
【氏名】アルヴェス デ インダ マルシア
(72)【発明者】
【氏名】ファン デ ストルペ アンヤ
(72)【発明者】
【氏名】ビッカー ヤン ウィレム
【テーマコード(参考)】
4B063
5L099
【Fターム(参考)】
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ58
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS34
4B063QS39
4B063QX01
5L099AA04
5L099AA15
(57)【要約】
試料中の少なくとも2つの空間的に区別された領域についての2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて、腫瘍の不均一性を推測するための方法であって、前記試料が腫瘍を有する被験者から得られた腫瘍の組織試料または液体試料であり、前記方法は、前記少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の変動性に基づいて、前記試料の不均一性についての試料不均一性スコアを決定するステップと、前記試料の不均一性についてのスコアを前記腫瘍に外挿することによって、前記腫瘍の不均一性を推測するステップと、それによって、腫瘍不均一性スコアを提供するステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも2つの空間的に区別された領域についての2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて腫瘍の不均一性を推測するための方法であって、前記試料が腫瘍の組織試料、または前記腫瘍を有する被験者から得られた液体試料であり、当該方法は、
- 前記少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の変動性に基づいて、前記試料の不均一性についての試料不均一性スコアを決定するステップと、
- 前記試料不均一性スコアを腫瘍に外挿することによって腫瘍の不均一性を推測し、それによって腫瘍不均一性スコアを提供するステップと、を有し、
前記試料不均一性スコアを決定するステップは、前記2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータを主成分に変換し、それによって前記2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータ間の相関を低減する主成分分析(PCA)を実施するステップを有し、
前記試料不均一性スコアを決定するステップは、
- 前記主成分の各々の標準偏差を計算して、計算された前記標準偏差に基づいて試料の不均一性についての前記試料不均一性スコアを決定し、
前記試料の不均一性について前記試料不均一性スコアを推測するステップは、
- 前記少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の前記変動性の各々を互いに乗算するステップ、および
- 前記少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の前記変動性の各々を合計するステップ、
のいずれかを有し、
前記方法はさらに、
- 複数の被験者の腫瘍の異なる領域からの試料から構築された基底変換行列Mを提供するステップを有する、方法。
【請求項2】
コンピュータにより実行される方法である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
被験者から得られた前記試料を用意し、前記試料中の2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記PCAを実施するステップが、
- 測定値に基づいて前記2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの各々についての平均値を決定するステップ、
-測定値の各々を、その対応するゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの平均値で差し引くステップ、
を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
- 前記腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて前記被験者の治療計画を決定するステップ、
- 前記腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて前記被験者の治療結果を予測するステップ、
- 前記腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて前記被験者の生存確率を予測するステップ、
- 治療に対する抵抗性を予測するステップ、
- 不均一性分析の前に実施された治療の有効性を決定するステップ、
- 不均一性分析の前に実施された治療に対する抵抗性を決定するステップ、
から選択される1つ以上のステップをさらに有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記遺伝子発現関連パラメータが、ER、AR、HH、PI3K-FOXO、WNT、TGFβ、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3、Notch、PRおよびMAPK-AP1からなるグループから選択される1つまたは複数の細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の遺伝子発現レベルであり、好ましくは、前記遺伝子発現関連パラメータが、前記細胞シグナル伝達経路の前記3つ以上の標的遺伝子の発現レベルに基づく細胞シグナル伝達経路活性であり、より好ましくは、前記細胞シグナル伝達経路活性が、ER、AR、HH、PI3K-FOXO、WNT、TGFβ、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3、Notch、PRおよびMAPK-AP1細胞シグナル伝達経路活性からなるグループから選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍の不均一性を推測するステップが、前記腫瘍不均一性スコアの上限を前記試料不均一性スコアとすることを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行するように構成されたプロセッサを備える装置。
【請求項9】
前記プロセッサがさらに、
- 前記試料をスキャンし、
- 前記試料中の関心領域を同定し、
- 前記関心領域について、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータについての前記少なくとも2つの空間的に区別された領域の値を測定する、
ように構成される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行するためにプロセッサによって実行可能な命令を記憶した非一時的記憶媒体。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法をプロセッサに実行させるためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム。
【請求項12】
腫瘍の不均一性を示す腫瘍不均一性スコアを表す信号であって、前記腫瘍不均一性スコアが、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法の実施に起因する、信号。
【請求項13】
請求項8または9に記載の装置、請求項10に記載の非一時的記憶媒体、請求項11に記載のコンピュータプログラムおよび/または請求項12に記載の信号の、被験者の診断、比肩差yの治療結果の予測、または被験者の最適な治療計画の予測のための使用であって、前記診断または予測が前記腫瘍不均一性スコアに基づく、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に腫瘍に関し、より具体的には、腫瘍の不均一性を推定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌を診断し、最良の治療法を決定するために、腫瘍から腫瘍組織生検試料を採取し、病理学者によって分析する、すなわち、組織病理学分析を行う。最近、分子分析が追加され、癌の原因、ならびに癌細胞の挙動、ならびに標的薬物を含む様々な可能な治療に対する反応または耐性についてのより多くの情報が提供されている。通常、単一の生検ブロックは、治療を必要とする原発性または転移性腫瘍である腫瘍からの生検によって得られる。
【0003】
標的薬物は、腫瘍における基礎となる病態生理を標的とする比較的新規なカテゴリーの薬物である。この病態生理学は、腫瘍成長および転移を潜在的に駆動し得る10~15個の細胞シグナル伝達経路、例えば、エストロゲン、プロゲステロンおよびアンドロゲン受容体(それぞれ、ER、PR、およびAR)経路、PI3K、MAPK、STAT1/2およびSTAT3成長因子経路、Wnt、Hedgehog、Notch、およびTGFβ発生経路、炎症性NFkB経路の活性に関して記載することができる。標的薬物は、これらの経路の1つ、例えばER経路を阻害するタモキシフェンを阻害するために開発されている。それらは、術前補アジュバント助療法の状況で使用することができ、すなわち、外科的切除の前に、手術が不可能な場合の一次治療として、または転移性腫瘍の外科的除去もはや有用でない場合の転移状況で、一次腫瘍が治療される。さらに、標的薬物は、アジュバント療法として、すなわち、腫瘍の外科的切除後の補完療法として使用され得る。
【0004】
しかしながら、これらの標的薬物、および他の標的治療は、標的経路が活性であり腫瘍増殖を駆動する腫瘍の治療においてのみ有効である。一般に、癌タイプ内では、様々なシグナル伝達経路が腫瘍駆動経路であり得、患者のサブグループのみが、同じ経路によって駆動される腫瘍を有する。このため、治療を導入する前に、治療すべき個々の癌における腫瘍駆動経路を明確にすることが非常に重要である。
【0005】
近年、腫瘍は一般に、癌細胞の遺伝子型および表現型に関して均一ではないことが明らかになっている。癌のクローン進化は、理論的には、(1)明確に異なる挙動(例えば、治療に対する反応)を有する比較的大きな領域に腫瘍を分離する、腫瘍中のいくつかの主要な癌細胞クローン、あるいは、(2)任意の領域において遺伝子型/表現型クローンの同じ分布が見出されるように、腫瘍にわたって分布する類似の遺伝子型および表現型を有する多数のより小さなクローンとして表現されており、後者は「癌進化のビッグバン理論」と呼ばれる。
【0006】
したがって、腫瘍の表現型は変化する場合もあるし変化しない場合もあり、したがって、腫瘍内の特定の位置から採取された組織ブロックから分析された単一の生検試料は、腫瘍全体を十分に代表するものではない可能性がある。
【0007】
現在、治療は単一の(生検)試料に対して行われる測定に基づいており、その単一の(生検)試料が全体を代表しない場合、結果として最適ではない治療が選択され得る。標的治療の選択を最適化するには、治療決定が行われる分析された組織が腫瘍全体を代表するものであることが必要である。
【0008】
この問題に対する直接的な解決策は、腫瘍の異なる部分から複数の組織生検を収集することである。しかしながら、これは、患者に対する追加の負荷であり、副作用を誘発する可能性があり、したがって、一般に、臨床的に採用されない。
【0009】
Lee et al、Modern Pathology, vol.31, no.6, 6 FEB 2018, pages 947-955は、腫瘍の不均一性に関し、複数の領域の比較に基づいて非小細胞肺癌腫瘍の不均一性を検討する。
【0010】
Jimenez-Sanchez et al., Nature Genetics, vol.52, no. 6, 1 JUN 2020, pages 582-593は、40人の患者からの80対の試料に基づく、腫瘍微小環境の不均一性の研究に関する。 主成分分析法が、特徴(ホールマーク)を区別するために使用される。
【0011】
WO 2018/191553 A1は、上皮間葉様移行シグネチャ、および、デコンボリューションアルゴリズムによって異種腫瘍試料からこれらを得るための方法に関するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記に続いて、患者の更なる負荷を回避し、したがって更なる副作用も回避する態様で、腫瘍の不均一性を決定または推定する必要がある。
【0013】
本発明の目的は、患者における腫瘍の不均一性を推定するための、フレンドリーで効果的な方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、提示された方法にすべて関連する装置、記憶媒体、コンピュータプログラム、信号および装置の使用を含む。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様によれば、試料中の少なくとも2つの空間的に区別された領域についての2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて、腫瘍の不均一性を推定するための方法が提供され、試料は、腫瘍を有する被験者から得られた腫瘍の組織試料または液体試料であり、当該方法は:
- 少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の変動性に基づいて、試料の不均一性についての試料不均一性スコアを決定すること;
- 試料の不均一性に関するスコアを腫瘍に外挿することによって腫瘍の不均一性を推定し、それによって腫瘍の不均一性スコアを提供することを含む。
【0015】
本開示は、腫瘍の不均一性が腫瘍の単一の試料に基づいて推定され得るコンセプトを対象とする。次に、特定の単一試料の不均一性を腫瘍全体に外挿することができる。
【0016】
本方法は、被験者から得られた試料に対して実施されることができ、したがって、本方法は、前記被験者から試料を得る物理的工程を含まないことが理解される。しかしながら、代替の実施形態では、試料を得るステップが特許請求される方法の一部であってもよい。
【0017】
一例では、本方法はコンピュータで実装される方法である。
【0018】
一例では、本方法は、被験者から得られた試料を提供するステップと、試料中の2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値を決定するステップとをさらに含む。例えば、この決定するステップは、試料からDNAもしくはmRNAを単離してそれを配列決定すること、または試料からタンパク質を単離して例えば質量分析によってそれらを特徴付けることを含み得る。
【0019】
一例では、本開示は、腫瘍の単一の生検ブロックのシグナル伝達経路分析に基づいて、シグナル伝達経路活性の活性に関する腫瘍全体内での不均一性を予測するための方法とみなされ得る。
【0020】
1つの単一の生検ブロック、すなわち、1つの単一の試料を使用することによって、腫瘍がどの程度不均一であるかを明らかにすることができることによって、患者についてのリスクは追加されず、一方、シグナル経路活性に関する腫瘍全体の不均一性についての追加の情報が提供される。これは、腫瘍全体にわたるシグナル伝達経路活性の信頼できる実態をつかむために、1つまたは複数の追加の生検が必要であるかどうかを決定する際に、医師を支援することが期待される。
【0021】
本開示はまた、癌を有する個々の患者のための(標的化された)治療を選択するプロセスを改善し得、個別化された医療に寄与し得、より有効な治療をもたらし、臨床転帰を改善することが期待され得る。
【0022】
したがって、腫瘍の(小さい)領域から採取された組織試料が腫瘍全体のために有益であるか、または代表的であることが、本発明者らの洞察である。これは、同じ腫瘍から追加の(空間的に分布した)試料を得ることを不必要にする。
【0023】
より具体的には、腫瘍の不均一性は、巨視的スケールと比較して、顕微鏡的スケールでは大きくないにしても同様であることが見出されている。したがって、これは、生検試料をサブ試料し、サブ試料の分子組成の変動に基づいて不均一性スコアを推定することによって、単一の生検試料に基づいて腫瘍全体を表す不均一性スコアを明らかにすることまたは推定することを可能にする。
【0024】
一例では、試料不均一性スコアを決定するステップは、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータを主要成分に変換し、それによって2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータ間の相関を低減するための、主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)を実施するステップを含む。
【0025】
多くの異なるゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータが腫瘍に存在する。残念なことに、これらのパラメータは互いに相関する場合があり、どのパラメータが腫瘍の不均一性に最も寄与するか、および、どれだけの腫瘍の不均一性が特定のパラメータまたはパラメータのセットによって引き起こされるかを評価することがより困難になる。
【0026】
本発明者らは、上記に取り組む少なくとも2つの方法を見出した。
【0027】
第1の方法は、上述の相関を補正しない。例えば、どのパラメータが腫瘍において最も重要であるか、または最も変動するかが分かっている場合、単に、提示された方法をこれらの特定のパラメータに焦点を当てることができる。そして、他のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの影響は無視される。したがって、最終結果は、例えば、治療を決定するために医師によって必要とされる最も重要な要因を有する。
【0028】
上述の第1の方法に従って、医師は、特定の影響パラメータが変化しているか否かを知らされ得る。そのような洞察でさえ、正しい治療を決定する際に医師にとって有用であり得る。
【0029】
一例では、ER経路が試料中で活性であることが見出され、試料の分析が腫瘍が均一であることを明らかにする場合(例えば、シグナル伝達経路活性または他のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータを使用することによって)、ER経路が腫瘍中で均一に活性であり、これが腫瘍増殖を駆動する経路であると結論付けることができる。単一の標的薬物を処方することができる。一方、腫瘍が不均一である場合、全身治療(化学療法など)または第2の標的薬物を考慮することができる。
【0030】
さらに、第1の方法では、測定値に基づく2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータのそれぞれについての平均値を決定することができ、それぞれの測定値から、その対応するゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの平均値を減算することができることに留意されたい。そして、最終結果は、医師が適切な治療を決定するために使用することができる腫瘍の不均一性の尺度であり得る。 第2の方法は、上述の相関を補正する。これは、主成分分析(PCA)を実行することによって達成することができる。
【0031】
ここで、PCAは、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータ(おそらく相関変数である)を、主成分と呼ばれる線形無相関変数の値のセットに変換するために、直交変換を使用するように実行される。
【0032】
PCAを行うことで、「最適なカメラ位置の選択」に例えられる空間の基底が、新しい基底において第1成分が可能な限り大きな分散を持ち(これが最も重要な方向となる)、第2成分が2番目に大きな分散を持つ、といったように変換される。その結果、相関は低減される。
【0033】
PCAを実施することによって、共分散、すなわち、異なるゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの結合された可変性の測定が低減されるので、より信頼できる、または正確な推定が、不均一性に対して行われ得る。したがって、これは、より正確な腫瘍の不均一性の推定を提供する。
【0034】
本明細書における一例では、PCAを実行するステップは:
- 測定値に基づいて、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの各々についての平均値を決定すること;
- 各測定値から、その対応するゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの平均値を減算することを含む。
【0035】
PCAは、基本的に、複数のステップを含むことができる。まず、データセットが編成され、複数のパラメータが選択される。選択されたパラメータの各々についての平均値が、試料におけるそれらの測定された状況に基づいて決定される。そして、共分散行列を決定し、共分散行列の固有ベクトル及び固有値を決定することができる。次いで、固有ベクトルおよび固有値は、共分散を低減するために再構成される。
【0036】
これは、以下のように説明することもできる。第1に、いくつかのパラメータを減らして、モニタすべきパラメータ、すなわち、シグナル伝達経路活性、重要な突然変異のパーセンテージ、重要な遺伝子の発現などの数を減らす。したがって、パラメータの総量は、いくつかの実用的なものに集中することによって、すなわち、おそらく数千の遺伝子発現値(各遺伝子は、他のものと同じくらい重要であると考えられ得る)から、診断または治療選択を容易にするために使用され得るいくつかの明確な細胞シグナル伝達経路活性に集中することによって、低減され得る。
【0037】
そして、優先的な例/実施形態では、低減された数のパラメータを変換するための凍結基底が作成される。すなわち、他の腫瘍と直接比較する必要なく単一の腫瘍の不均一性を推定することができるように、最初に、任意の試料を別々に投影することが可能である基底を定義することができる。したがって、本方法はまた、複数の被験者の腫瘍の異なる領域からの試料から構築された基底変換マトリクスMを提供するステップを含んでもよい。
【0038】
最後に、不均一性スコアは、患者の単一試料の複数のサブ試料のパラメータを、多次元ベクトルによって各サブ試料の分子構成を表す方法として凍結基底によって作成された空間に変換することによって決定される。そして、得られた多次元ベクトルは、最初に各方向の変動性を推定し、次いで多次元変動性ベクトルを1つの単一スコアに要約することによって、組み合わせられることができる。
【0039】
上記に続いて、さらなる例において、試料不均一性スコアを決定するステップは:
- 主成分の各々の標準偏差を計算し、計算された標準偏差に基づいて、試料の不均一性についての試料不均一性スコアを決定するステップを有する。
【0040】
さらなる実施例では、本方法は、以下から選択される1つ以上のステップをさらに含む:
- 腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて被験者の治療計画を決定するステップ;
- 腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて被験者の治療結果を予測するステップ;
- 腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて被験者の生存確率を予測するステップ;
- 腫瘍不均一性スコアに少なくとも部分的に基づいて治療に対する耐性を予測するステップ;
- 不均一性分析前に実施した療法の有効性を決定するステップ;
- 不均一性分析の前に実施された治療に対する耐性を決定するステップ。
【0041】
腫瘍の不均一性を推定する提示された方法は、いくつかの場合に使用され得ることが見出された。上述のオプションは、潜在的な候補の非包括的なリストを提供する。推定された不均一性スコアの他の使用もまた、本開示に包含される。不均一性が異なることが分かっている腫瘍についての腫瘍不均一性スコアの閾値を決定することを可能にする方法は公知であり、この閾値は、高いまたは低い不均一性腫瘍を区別する。さらに、治療計画は、研究されている特定の腫瘍の知識に基づいて適合されることができる。例えば、より不均一な腫瘍は、例えば、Leeら(前出)およびJimenez-Sanchezら(前出)によって証明されるように、免疫細胞がより多く存在することを示し、これは、CAR-T細胞療法または免疫チェックポイント阻害剤による治療が有益であることを示唆する。
【0042】
本開示によれば、(生検)試料中の少なくとも2つの空間的に区別された領域が使用され、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値が測定される。特定の実施形態では、特定の患者の腫瘍の単一の生検の4つの象限を使用することができる。これは、各パラメータについて4つの値をもたらし、それによって、不均一性を推定するプロセスの精度を高める。
【0043】
一例では、遺伝子発現関連パラメータは、ER、AR、HH、PI3K-FOXO、WNT、TGFβ、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3、Notch、PRおよびMAPK-AP1からなるグループから選択される1つまたは複数の細胞シグナル伝達経路のそれぞれ3つまたはそれ以上の標的遺伝子の遺伝子発現レベルであり、好ましくは、前記遺伝子発現関連パラメータは、前記細胞シグナル伝達経路の3つまたはそれ以上の標的遺伝子発現レベルに基づく細胞シグナル伝達経路活性であり、より好ましくは、前記細胞シグナル伝達経路活性は、ER、AR、HH、PI3K-FOXO、WNT、TGFβ、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3、Notch、PRおよびMAPK-AP1細胞シグナル伝達経路活性からなるグループから選択される。
【0044】
本発明者らは、特に適切なゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータが細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルであることを見出した。これらの標的遺伝子の発現レベルは、以下に記載されるような数学的モデルを使用して細胞シグナル伝達経路活性を決定するために使用され得る。したがって、細胞シグナル伝達経路の標的遺伝子の発現レベルは、本明細書に開示される方法において、直接使用され得るか、または、標的遺伝子の発現レベルは、1つ以上の細胞シグナル伝達経路の活性を決定するために使用され得、本明細書に開示される方法は、決定された細胞シグナル伝達活性に基づき得る。好ましくは、細胞シグナル伝達経路活性は、ER、AR、HH、PI3K-FOXO、WNT、TGFβ、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3、Notch、PRおよびMAPK-AP1からなるグループから選択される1つまたは複数である。例えば数学的モデルを使用することによって、細胞シグナル伝達経路活性を数値で表すことができ、細胞シグナル伝達経路活性を表すこの数値は、本明細書に記載の方法において直接的に使用可能なパラメータとして利用されることができる。細胞シグナル伝達経路活性の差異は、これらの経路活性が、例えば腫瘍内の遺伝的変異または腫瘍内の遺伝子発現パターンとは異なり、類似または同一の細胞タイプ(またはサブタイプ)間では最小の変異を示しながら、異なる細胞タイプ(またはサブタイプ)間で大きな程度の変異を示すので、腫瘍における不均一性を決定するのに特に有用であることが見出された。
【0045】
一例では、試料の不均一性についての前記試料不均一性スコアを推定するステップは、
- 少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の前記変動の各々を互いに乗算すること、および、少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の前記変動の各々を合計することを含む。
【0046】
本発明者らは、不均一性スコアが最終的には幾つかの方法で決定され得ることを見出した。少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の変動の各々は、乗算され、合計され、または任意の他の方法で取り扱われ得る。
【0047】
他の実施例では、腫瘍の不均一性を推定するステップは:
- 腫瘍不均一性スコアの上限を試料不均一性スコアとする。
【0048】
サブ試料の不均一性スコアは、腫瘍全体の不均一性スコアに外挿されることができることが見出された。しかしながら、少なくともいくつかの特徴について、サブ試料レベルでの不均一性は、対応する腫瘍の不均一性と比較してより高い(または類似している)可能性があることがさらに見出された。したがって、サブ試料レベルについての結果を外挿することによって、腫瘍全体の不均一性について上限を設定することができる。これは、腫瘍全体の不均一性がサブ試料レベルでの不均一性に最も等しい可能性が高いことを医師に示す。
【0049】
本開示の第2の態様では、上で提供された実施例のいずれかによる方法を実行するように構成されたプロセッサを備える装置が提供される。
【0050】
当該装置は、例えば 、
- 前記試料をスキャンし、
- 前記試料中の関心領域を同定し、
- 前記関心領域について、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータについての少なくとも2つの空間的に区別された領域の値を測定する。
【0051】
したがって、本開示による装置は、カメラなどを使用して試料をスキャンするように構成され得ることに留意されたい。関心領域、例えば、腫瘍に関連する領域が、スキャンされた試料中で検出され得る。当該装置は、スキャン領域内の腫瘍領域をマーキングし、それを抽出するためのセロマティック手段、すなわち、独立型の実体として、または装置自体に組み込まれた、セロマティック手段をさらに備えてもよい。最後に、とりわけ、少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の変動性に基づいて試料の不均一性についての試料不均一性スコアを決定するステップと、試料の不均一性についてのスコアを腫瘍に外挿することによって腫瘍の不均一性を推定するステップとを実行し、それによって腫瘍不均一性スコアを提供するために、プロセッサと組み合わせたコンピューティング手段が提供され得る。
【0052】
さらなる態様では、上記で提供された実施例のうちのいずれか1つによる方法を実行するためにプロセッサによって実行可能な命令を記憶する非一時的記憶媒体が提供される。
【0053】
さらに別の態様では、プロセッサに、上記で提供された例示のいずれかによる方法を実行させるためのプログラムコード手段を備えるコンピュータプログラムが提供される。
【0054】
なおさらなる態様において、腫瘍の不均一性を示す腫瘍不均一性スコアを表す信号が提供され、ここで、腫瘍不均一性スコアは、上記で提供される実施例のいずれかによる方法を実施することから生じる。
【0055】
最後の態様では、被験者を診断するため、被験者の治療結果を予測するため、または被験者の最適な治療計画を予測するための、上記で開示された装置、非一時的記憶媒体、コンピュータプログラムおよび/または信号の使用が提供され、診断または予測は腫瘍不均一性スコアに基づく。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】複数の象限を有する腫瘍を示す。単一の象限が本開示に従って不均一性を推定するために使用される。
図2】異なるタイプの乳癌タイプにおけるER経路の変動を開示し、ここで、変動は、象限間または単一象限内のいずれかである。
図3】本開示による主成分分析(Principal Component Analysis:PCA)の使用を視覚的に示す図。
図4】本開示による装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は複数の象限2、3、4を有する腫瘍1を開示し、単一の象限4が、本開示に従って不均一性を推定するために使用される。
【0058】
以下のテキストは、シグナル伝達経路活性に言及する。しかしながら、本開示は、任意の2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値に基づいて腫瘍の不均一性を推定するために適用可能であることに留意されたい。
【0059】
本開示は、一例では例えば、シグナル伝達経路活性に関する腫瘍の不均一性スコアに基づいて、標的薬物治療を決定する方法を対象とする。したがって、第1のステップでは、特定の腫瘍が不均一でありる可能性があり、腫瘍の不均一性の程度が適用可能な薬物治療を決定するためのファクタであると仮定される。
【0060】
第2のステップでは、単一の生検の不均一性の程度、すなわち、例えば、図1に示されるような単一の象限が腫瘍全体の代表的なものであると仮定される。これは、腫瘍のサブ試料における不均一性が腫瘍全体の不均一性に等しいことを必ずしも意味しない。上記は、サブ試料における不均一性の程度が、腫瘍全体の不均一性の程度の尺度であることを意味する。より具体的には、実施例において、腫瘍のサブ試料における不均一性の程度が、腫瘍全体の不均一性の程度と比較して等しいかまたはより高い可能性が高いことが見出され、それによって、腫瘍全体の不均一性の程度の上限を設定する。
【0061】
検査されることができる経路の1つは、異なるタイプの乳癌におけるER経路であり、これを図2に示す。
【0062】
ここで、乳癌の異なるタイプ21は、「LumA 1」、「LumA 2」、「LumA 4」、…、「TN 5」、「TN6」、「TN 15」という表現で示される。
【0063】
垂直スケールは、所与のタイプの乳癌についてのER経路に関する値を示す。
【0064】
各グラフは、2セットのデータ点を含む。各グラフの左側部分は象限間のデータ点に関連し、各グラフの右側部分は、象限内、すなわちサブ試料内のデータ点を対象とする。
【0065】
例えば、LumA 1の場合、象限間のER経路の値、すなわち腫瘍全体の値は、約-6~約-5の範囲である。象限、すなわちサブ試料内のER経路は、約-5~約-4の範囲である。図2に示されたグラフから、データ点間の垂直範囲が、概して、同等であることが推定され得る。すなわち、サブ試料内のER経路の変動は、腫瘍全体内のER経路の変動を表すことができる。
【0066】
本発明者らは、腫瘍全体の不均一性が少なくとも2つの異なる方法で推定され得ることを見出した。
【0067】
パラメータはすべて互いに相関するので、単一のパラメータの不均一性を推定することは困難であり得ることに留意されたい。すなわち、パラメータは、それらの間に連携した変動性を有し得る。したがって、どのパラメータが優勢なものであるか、すなわち、腫瘍の不均一性に対して優勢なものであるかを評価することは困難であり得る。第1の方法は、パラメータ間の上述の連携した変動を補正しない。第2の方法は、PCAを導入することによって連携した変動を補正する。
【0068】
第1の方法を考えてみよう。ここでは、試料の不均一性についての試料不均一性スコアは、少なくとも2つの空間的に区別された領域についての各測定値の変動性に基づいて決定され得る。したがって、例えば、組織試料または液体試料である単一の試料を、複数のサブ試料に分割することができる。
【0069】
次いで、2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータの値が、サブ試料の各々において測定されることができる。次いで、異なるサブ試料間のパラメータの値の差分を使用して、試料の不均一性を推定または決定することができる。次いで、試料の不均一性を腫瘍全体に外挿することができる。
【0070】
上記の差分は、サブ試料中の測定された経路活性間の最小値と最大値との間の範囲であり得る。
【0071】
上述の方法は、図2を用いて視覚化することができる。ここで、範囲、すなわち、特定の試料内のパラメータの測定点間の垂直距離は、腫瘍全体の不均一性を決定するために使用される。LumA1 の状況を考えてみよう。左側において、ER経路を測定する測定点間の範囲は1にほぼ等しいこと、すなわち約-6~約-5の範囲であることが示されている。これは、試料における特定の不均一性を示す。そして、この値は、腫瘍全体の尺度として、外挿され得るか、または単純に使用され得る。これは、同じ図の右側に示されている。ここでは、実際の測定点は左側とは異なり得るが、測定点間の範囲は等しいか、または少なくとも同等であるように見える。
【0072】
第2の方法は、上述の相関を補正する。これは、主成分分析(PCA)を実行することによって達成されることができる。
【0073】
ここで、PCAは、おそらく相関変数である2つ以上のゲノム突然変異および/または遺伝子発現関連パラメータを、主成分と呼ばれる線形無相関変数の値のセットに変換するために、直交変換を使用するように実行され得る。
【0074】
ER、AR、WNT、FOXO、TGFβおよびHH経路が考慮される状況を考える。したがって、これは、パラメータの低減されたセットであり得る。これら全てのパラメータは、互いに相関する可能性がある。すなわち、パラメータの各ペア間の共分散を与える正方行列である共分散行列が存在し得る。このような対角行列の対角には、分散、すなわち各要素のそれ自身との共分散が存在する。
【0075】
したがって、第1の説明した方法は、他のパラメータによって引き起こされる共分散を補正することなく、単一のパラメータの変動を調べる。
【0076】
第2の方法は主成分分析を使用する。主成分分析の基本的な考え方は、データセットに存在する変動を可能な限り保持しながら、相互に相関する複数のパラメータ/変数を含むデータセットの次元数を低減することである。これは、パラメータ/変数を、主成分と呼ばれる変数の新しいセットに変換することによって行われる。これらの主成分は直交し、元の変数/パラメータに存在する変動の保持が、オーダーが下がるにつれて減少するように順序付けされている。したがって、このようにして、第1の主成分は、元の成分中に存在した最も多くの変動を保持する。数学的には、主成分は、共分散行列の固有ベクトルであり、したがってそれらは直交する。
【0077】
上記を考慮すると、PCA法を使用して、例えば、ER、AR、WNT、FOXO、TGFベータおよびHH経路が主成分に変換され、その後順序付けられる。したがって、これは、これらの変数のうちのどれが、それ自体が最大の変動を有し、したがって、腫瘍全体の不均一性における支配的なファクタであることも示す。
【0078】
PCA法3は図3に視覚的に示されており、ここでは、共分散行列の主成分への変換が示されている。
【0079】
上記の実施例は、ER、AR、WNT、FOXO、TGFβおよびHH経路のための細胞シグナル伝達経路活性の使用を実証しているが、他の細胞シグナル伝達経路、またはゲノム突然変異および/もしくは遺伝子発現関連パラメーターが本明細書に開示される方法において使用され得ることは当業者に明らかであろう。
【0080】
細胞シグナル伝達経路活性は、数学的モデルを用いて、それぞれの細胞シグナル伝達経路についての3つ以上の標的遺伝子の発現レベルに基づいて決定されることができる。標的遺伝子発現レベルを細胞シグナル伝達経路活性に関連付けるために較正された数学的モデルを使用することによって、数値を経路活性に割り当てることができる。モデルに応じて、この値は例えば、0~100の値となるように正規化されることができ、ここで、0は経路活性がなく、100は理論上の最大経路活性である。あるいは、平均値が0であり、したがって、減少した経路活性が負の値によって表され、増加した経路活性が正の値によって表されるように、値を正規化してもよい。そのようなモデルを使用して得られる値は、使用されるモデルに依存し、絶対値を表さないことが理解される。したがって、同じモデルが基準値の較正や決定のために使用されるべきであり、本発明の方法において使用される場合、それは、経路活性について得られた数値の比較を可能にする。
【0081】
図4は、本開示による装置41の一例を開示する。
【0082】
この装置は、メモリ45と通信するプロセッサ44を備える。
【0083】
データ42は、例えば、スキャナ等から受信されることができる。データは、特定の試料から取得された画像のようなものでもよい。受信手段 43は、データーの受信を担当する。
【0084】
同定手段46は、データによって表される画像内の領域をマークするために存在してもよい。マーキングされた領域は腫瘍を表すことができる。セルマチック手段47は、スキャンされた領域内の腫瘍領域をマーキングし、それを抽出するために提供され得る。最後に、データの処理、すなわち、不均一性スコアを得るための処理は、CPU44によって実行され得る。
【0085】
用語「経路」、「シグナル伝達経路」、「シグナル交換経路」および「細胞シグナル伝達経路」は、本明細書において互換的に使用される。
【0086】
「シグナル伝達経路の活性」は、試料中のシグナル伝達経路関連転写因子(TF)要素、標的遺伝子の転写を制御するTF要素の、標的遺伝子を発現させる際のシグナル伝達経路の活性、すなわち、例えば、高活性(すなわち高速)もしくは低活性(すなわち低速)として標的遺伝子が転写される速度を指し得、またはそのような活性(例えば速度)に関連するレベル、値などの他の次元を指し得る。したがって、本発明の目的のために、本明細書で使用される「活性」という用語は、本明細書に記載される「経路分析」中に中間結果として得られ得る活性レベルを指すことも意味する。
【0087】
「転写因子要素」(TF要素)という用語は、本明細書で使用される場合、好ましくはアクティブ転写因子の中間体もしくは前駆体タンパク質もしくはタンパク質複合体、または特定の標的遺伝子発現を制御するアクティブ転写因子タンパク質もしくはタンパク質複合体を指す。例えば、タンパク質複合体は、それぞれのシグナル伝達経路タンパク質のうちの1つの少なくとも細胞内ドメインを、1つまたは複数の補因子とともに含有し、それによって標的遺伝子の転写を制御することができる。好ましくは、この用語は、細胞内ドメインをもたらすそれぞれのシグナル伝達経路タンパク質の1つの切断によって誘発されるタンパク質またはタンパク質複合体転写因子のいずれかを指す。
【0088】
較正された数学的経路モデルは、好ましくは、重心または線形モデル、または条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルである。例えば、較正された数学的経路モデルは、標的遺伝子発現レベルおよびシグナル伝達経路の活性に関する条件付き確率に基づく確率論的モデル、好ましくはベイジアンネットワークモデルであってもよく、または較正された数学的経路モデルは、シグナル伝達経路の標的遺伝子の発現レベルの1つまたは複数の線形結合に基づくものであってもよい。
【0089】
本発明の好ましい実施形態によれば、それぞれのシグナル経路の活性は、本明細書に記載の経路分析によって決定され、または決定可能である。
【0090】
経路分析は、それぞれのシグナル伝達経路に関連する転写因子の十分に検証された直接標的遺伝子のmRNAレベルの測定からシグナル伝達経路の活性を推測することに基づいて、上皮細胞におけるシグナル伝達経路活性の定量的測定を可能にする(例えば、W Verhaegh et al., 2014, supra; W Verhaegh, A van de Stolpe, Oncotarget, 2014, 5(14):5196を参照)。
【0091】
好ましくはシグナル伝達経路の活性の決定、複数の経路活性の組み合わせおよびその適用は、例えば、以下の文献に記載されるように行われ、その各々は活性を決定する目的のためにその全体が本明細書に組み込まれる。WO2013011479 (タイトル"ASSESSMENT OF CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING PROBABILISTIC MODELING OF TARGET GENE EXPRESSION"), WO2014102668 (タイトル"ASSESSMENT OF CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING LINEAR COMBINATION(S) OF TARGET GENE EXPRESSIONS"), WO2015101635 ( "ASSESSMENT OF THE PI3K CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING MATHEMATICAL MODELLING OF TARGET GENE EXPRESSION"), WO2016062891 ( "ASSESSMENT OF TGF-β CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING MATHEMATICAL MODELLING OF TARGET GENE EXPRESSION"), WO2017029215 ( "ASSESSMENT OF NFKB CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITY USING MATHEMATICAL MODELLING OF TARGET GENE EXPRESSION"), WO2014174003 ( "MEDICAL PROGNOSIS AND PREDICTION OF TREATMENT RESPONSE USING MULTIPLE CELLULAR SIGNALLING PATHWAY ACTIVITIES"), WO2016062892 ( "MEDICAL PROGNOSIS AND PREDICTION OF TREATMENT RESPONSE USING MULTIPLE CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITIES"), WO2016062893 ( "MEDICAL PROGNOSIS AND PREDICTION OF TREATMENT RESPONSE USING MULTIPLE CELLULAR SIGNALING PATHWAY ACTIVITIES"), WO2018096076 ( "Method to distinguish tumour suppressive FOXO activity from oxidative stress")、および特許出願EP16200697.7 (2016年11月25日出願の"Method to distinguish tumour suppressive FOXO activity from oxidative stress"), EP17194288.1 (2017年10月2日出願の "Assessment of Notch cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), EP17194291.5 (2017年10月2日出願のタイトル"Assessment of JAK-STAT1/2 cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), EP17194293.1 (2017年10月2日出願のタイトル"Assessment of JAK-STAT3 cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression")およびEP17209053.2 (2017年12月20日出願のタイトル"Assessment of MAPK-AP1 cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), PCT/EP2018/076232 (2018年9月27日出願のタイトル"Assessment of JAK-STAT3 cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), PCT/EP2018/076334 (2018年9月27日出願のタイトル"Assessment of JAK-STAT1/2 cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), PCT/EP2018/076488 (2018年9月28日出願のタイトル"Assessment of Notch cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), PCT/EP2018/076513 (2018年9月28日出願のタイトル"Assessment of MAPK-AP-1 cellular signalling pathway activity using mathematical modelling of target gene expression"), およびPCT/EP2018/076614 (2018年10月1日出願のタイトル"Determining functional status of immune cells types and immune response").
【0092】
モデルは、いくつかの細胞型におけるER、AR、PI3K-FOXO、HH、Notch、TGF-β、Wnt、NFkB、JAK-STAT1/2、JAK-STAT3およびMAPK-AP1経路について生物学的に検証されている。
【0093】
その発現レベルが分析されることが好ましい細胞シグナル伝達経路標的遺伝子の固有のセットが同定されている。数学的モデルにおいて使用するために、それぞれ評価された細胞シグナル伝達経路から3個以上、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12個以上の標的遺伝子を分析して、経路活性を決定することができる。
【0094】
本明細書に開示される異なるシグナル伝達経路の活性を決定するための経路分析方法に共通するのは、本発明の目的のために好ましくは本明細書に適用される概念であり、試料中に存在する上皮細胞などの細胞中のシグナル伝達経路の活性は、シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルを受け取り、試料中のシグナル伝達経路関連転写因子(TF)要素の活性レベルを決定し(前記TF要素は3つ以上の標的遺伝子の転写を制御し、当該決定は、3つ以上の標的遺伝子の発現レベルをシグナル伝達経路の活性レベルに関連付ける較正された数学的経路モデルを評価することに基づく)、および任意選択で、シグナル伝達経路関連TF要素の決定された活性レベルに基づいて上皮細胞中のシグナル伝達経路の活性を推測することによって、決定可能である。本明細書に記載されるように、活性レベルは、本明細書に開示される方法における入力として、例えば、主成分分析における主成分として、直接使用され得る。
【0095】
TF要素の「活性レベル」という用語は、本明細書で使用される場合、その標的遺伝子の転写に関するTF要素の活性のレベルを示す。
【0096】
較正された数学的経路モデルは、シグナル伝達経路関連TF要素の活性レベルおよび3つ以上の標的遺伝子の発現レベルに関連する条件付き確率に基づく確率モデル、好ましくはベイジアンネットワークモデルであってもよく、または較正された数学的経路モデルは、3つ以上の標的遺伝子の発現レベルの1つ以上の線形結合に基づくものであってもよい。本発明の目的のために、較正された数学的経路モデルは、好ましくは、重心または線形モデル、または条件付き確率に基づくベイジアンネットワークモデルである。
【0097】
特に、例えば、とりわけ、(i) 被験者の試料において測定された細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルを含む一連の入力に対して、細胞シグナル伝達経路を表す較正済み確率的経路モデル(好ましくはベイジアンネットワーク)の一部を評価するステップ、(ii)シグナル伝達経路に関連する転写因子(TF)要素の被験者における活性レベルを推測するステップであって、シグナル伝達経路に関連するTF要素は細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の転写を制御し、前記推測は、シグナル伝達経路に関連するTF要素の活性レベルと被験者の試料において測定された細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルとを関連付ける条件付確率に基づいて行われる、ステップ、およびオプションとして、(iii)被験者の試料中のシグナル伝達経路関連TF要素の推測された活性レベルに基づいて、細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップによって、発現レベルの決定、及びオプションとして、被験体におけるシグナル伝達経路の活性の推測を行うことができる。これについては、公開された国際特許出願WO 2013/011479 A2("Assessment of cellular signalling pathway activity using probabilistic modelling of target gene expression")に詳細に記載されており、その内容はその全体が本明細書に組み込まれている。
【0098】
例示的な代替案では、被験者における細胞シグナル伝達経路の発現レベルの決定及び任意選択的な活性の推測は、特に、(i)被験者の試料中のシグナル伝達経路に関連する転写因子(TF)要素の活性レベルを決定するステップであって、当該シグナル伝達経路関連TF要素が、細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の転写を制御し、前記決定が、前記細胞シグナル伝達経路の3つ以上の標的遺伝子の発現レベルをシグナル伝達経路関連TF要素の活性レベルに関連付ける較正された数学的経路モデルを評価することに基づき、前記数学的経路モデルは、3つ以上の標的遺伝子の発現レベルの1つ以上の線形結合に基づくものである、ステップ、および任意選択的に、(ii)被験者の試料中のシグナル伝達経路関連TF要素の決定された活性レベルに基づいて、被験者の細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップによって、実施され得る。これは、公開された国際特許出願WO 2014/102668 A2("Assessment of cellular signalling pathway activity using linear combination(s) of target gene expressions")に詳細に記載されている。
【0099】
標的遺伝子発現の数学的モデリングを用いた細胞シグナル伝達経路活性の推測に関するさらなる詳細は、前出のW Verhaegh et al, 2014に見出すことができる。
【0100】
一実施形態では、シグナル伝達経路測定は、qPCR、複数qPCR、多重化qPCR、ddPCR、RNAseq、RNA発現アレイ、または質量分析を使用して実施される。例えば、遺伝子発現マイクロアレイデータ、例えばAffymetrixマイクロアレイ、またはIlluminaシーケンサーのようなRNAシーケンシング方法を使用することができる。
【0101】
特に好ましいのは、推測するステップが、以下を含む方法である:
KIAA1199、AXIN2、RNF43、TBX3、TDGF1、SOX9、ASCL2、IL8、SP5、ZNRF3、KLF6、CCND1、DEFA6およびFZD7からなるグループから選択される試料中で測定されたWnt経路の3つ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13以上の標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づいて、サンプル中のWnt細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップ。オプションとして、推測するステップはさらに、NKD1、OAT、FAT1、LEF1、GLUL、REG1B、TCF7L2、COL18A1、BMP7、SLC1A2、ADRA2C、PPARG、DKK1、HNF1AおよびLECT2からなるグループから選択される試料中で測定されたWnt経路の少なくとも1つの標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上の標的遺伝子の発現レベルに基づく;
【0102】
試料中のER細胞シグナル伝達経路の活性を、CDH26、SGK3、PGR、GREB1、CA12、XBP1、CELSR2、WISP2、DSCAM、ERBB2、CTSD、TFF1およびNRIP1からなるグループから選択される試料中で測定されたER経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13の標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づいて推測するステップ。オプションとして、推測するステップはさらに、AP1B1、ATP5J、COL18A1、COX7A2L、EBAG9、ESR1、HSPB1、IGFBP4、KRT19、MYC、NDUFV3、PISD、PRDM15、PTMA、RARA、SOD1およびTRIM25からなるグループから選択される試料中で測定されたER経路の少なくとも1つの標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12以上の標的遺伝子の発現レベルに基づく;
【0103】
GLI1、PTCH1、PTCH2、IGFBP6、SPP1、CCND2、FST、FOXL1、CFLAR、TSC22D1、RAB34、S100A9、S100A7、MYCN、FOXM1、GLI3、TCEA2、FynおよびCTSL1からなるグループから選択された試料中で測定されたHH経路の3つ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づいて、試料中のHH細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップ。オプションとして、推測するステップはさらに、BCL2、FOXA2、FOXF1、H19、HHIP、IL1R2、JAG2、JUP、MIF、MYLK、NKX2.2、NKX2.8、PITRM1およびTOM1からなるグループから選択された試料中で測定されたHH経路の少なくとも1つの標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12以上の標的遺伝子の発現レベルに基づく;
【0104】
KLK2、PMEPA1、TMPRSS2、NKX3_1、ABCC4、KLK3、FKBP5、ELL2、UGT2B15、DHCR24、PPAP2A、NDRG1、LRIG1、CREB3L4、LCP1、GUCY1A3、AR及びEAF2からなるグループから選択される試料中で測定されたAR経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づいて、試料中のAR細胞シグナル伝達経路の活性を推定するステップ。オプションとして、推測するステップはさらに、APP、NTS、PLAU、CDKN1A、DRG1、FGF8、IGF1、PRKACB、PTPN1、SGK1およびTACC2からなるグループから選択される試料において測定されるAR経路の少なくとも1つの標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12以上の標的遺伝子の発現レベルに基づく;
【0105】
試料中のPI3K細胞シグナル伝達経路の活性を、少なくとも、AGRP、BCL2L11、BCL6、BNIP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDK 1A、CDK 1B、ESR1、FASLG、FBX032、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGCIA、PRDX3、RBL2、SOD2及びTNFSF10からなるグループから選択される試料中で測定されたPI3K経路の3つ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに基づいて推測するステップ。オプションとして、推測するステップはさらに、ATP8A1、C10orf10、CBLB、DDB1、DYRK2、ERBB3、EREG、EXT1、FGFR2、IGF1R、IGFBP1、IGFBP3、LGMN、PPM ID、SEMA3C、SEPP1、SESN1、SLC5A3、SMAD4およびTLE4からなるグループから選択される試料において測定されるPI3K経路の少なくとも1つの標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 11 12以上の標的遺伝子の発現レベルに基づく。オプションとして、推測するステップはさらに、ATG14、BIRC5、IGFBP1、KLF2、KLF4、MYOD1、PDK4、RAG1、RAG2、SESN1、SIRT1、STK11およびTXNIPからなるグループから選択される試料において測定されるPI3K経路の少なくとも1つの標的遺伝子、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10 11 12以上の標的遺伝子の発現レベルに基づいて行われる。好ましくは 試料中のFOXO/PI3K細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップは、AGRP、BCL2L11、BCL6、BNTP3、BTG1、CAT、CAV1、CCND1、CCND2、CCNG2、CDKN1A、CDKN1B、ESR1、FASLG、FBX032、GADD45A、INSR、MXI1、NOS3、PCK1、POMC、PPARGC1A、PrdX3、RBL2、SOD2及びTNFSF10からなるグループから選択される医療被験者の抽出試料において測定されたFOXO/PI3K細胞シグナル伝達経路の少なくとも3つの標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づく。および/または、FOXO転写因子要素の酸化ストレス状態を推測するステップは、医療被験者の抽出試料において測定されたFOXO転写因子の標的遺伝子SOD2、BNIP3、MXI1およびPCK1の1つ以上、好ましくは全ての発現レベルに基づく;
【0106】
試料中のTGFβ細胞シグナル伝達経路の活性を、少なくとも、ANGPTL4, CDC42EP3, CDKNIA, CDKN2B, CTGF, GADD45A, GADD45B, HMGA2, ID1, IL11, SERPINE1, INPP5D, JUNB, MMP2, MMP9, NKX2-5, OVOL1, PDGFB, PTHLH, SGK1, SKIL, SMAD4, SMAD5, SMAD6, SMAD7, SNAI1, SNAI2, TIMP1およびVEGFAからなるグループから、 好ましくは、ANGPTL4, CDC42EP3, CDKNIA, CTGF, GADD45A, GADD45B, HMGA2, ID1, IL11, JUNB, PDGFB, PTHLH, SERPINE1, SGK1, SKIL, SMAD4, SMAD5, SMAD6, SMAD7, SNAI2, VEGFAからなるグループから、より好ましくは、 ANGPTL4, CDC42EP3, CDKNIA, CTGF, GADD45B, ID1, IL11, JUNB, SERPINE1, PDGFB, SKIL, SMAD7, SNAI2およびVEGFAからなるグループから、さらに好ましくは、ANGPTL4、CDC42EP3、ID1、IL11、JUNB、SERPINE1、SKILおよびSMAD7からなるグループから選択される試料中で測定されたTGFβ経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12又は13の標的遺伝子の発現レベルに基づいて推定するステップ;
【0107】
BCL2L1、BIRC3、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL20、CCL22、CX3CL1、CXCL2、CXCL3、ICAM1、IL1B、IL6、IL8、IRF1、MMP9、NFKB2、NFKBIA、NFKB IE、PTGS2、SELE、STAT5A、TNF、TNFAIP2、TNIP1、TRAF1およびVCAM1からなるグループから選択される試料中で測定されたNFkB経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づいて、試料中のNFkB細胞シグナル経路の活性を推測するステップ;
【0108】
試料中のJAK-STAT1/2細胞シグナル伝達経路の活性を、少なくとも、BID、GNAZ、IRF1、IRF7、IRF8、IRF9、LGALS1、NCF4、NFAM1、OAS1、PDCD1、RAB36、RBX1、RFPL3、SAMM50、SMARCB1、SSTR3、ST13、STAT1、TRMT1、UFDIL、USP18およびZNRF3からなるグループから、好ましくはIRFl、IRF7、IRF8、IRF9、OAS1、PDCD1、ST13、STAT1およびUSP18からなるグループから選択される試料中で測定されたJAK-STAT1/2経路の3つ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに基づいて推測するステップ;
【0109】
試料中のJAK-STAT3細胞シグナル伝達経路の活性を、少なくとも、AKT1、BCL2、BCL2L1、BIRC5、CCND1、CD274、CDKN1A、CRP、FGF2、FOS、FSCN1、FSCN2、FSCN3、HIF1A、HSP90AA1、HSP90AB1、HSP90B1、HSPA1A、HSPA1B、ICAM1、IFNG、IL10、JunB.A、ICAM1、ILNG、IL11、IL10、ICAM1、ICAM2、ICAM3、ICAM2、ICAM3、ICAM3、ICAM3、ICAM3、ICAM3、ICAM3、ICAM3、CDK2A、CDK2L3 MCL1、MMP1、MMP3、MMP9、MUC1、MYC、NOS2、POU2F1、PTGS2、SAA1、STAT1、TIMP1、TNFRSF1B、TWIST1、VIMおよびZEB1からなるグループから、好ましくは、BCL2L1、BIRC5、CCND1、CD274、FOS、HIF1A、HSP90AA1、HSP90AB1、MMP1およびMYCからなるグループから、または、BCL2L1、CD274、FOS、HSP90B1、HSPA1B、ICAM1、IFNG、JunB、PTGS2、STAT1、TNFRSF1BおよびZEB1からなるグループから選択される試料中で測定されたJAK-STAT3経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに基づいて推測するステップ;
【0110】
試料中のMAPK-AP1細胞シグナル伝達経路の活性を、少なくとも、BCL2L11、CCND1、DDIT3、DNMT1、EGFR、ENPP2、EZR、FASLG、FIGF、GLRX、IL2、IVL、LOR、MMP1、MMP3、MMP9、SERPINE1、PLAU、PLAUR、PTGS2、SNCG、TIMP1、TP53及びVIMからなるグループから、このましくは、CCND1、EGFR、EZR、GLRX、MMP1、MMP3、PLAU、PLAUR、SERPINE1、SNCGおよびTIMP1からなるグループから選択される試料中で測定されたMAPK-AP1経路の3つ以上、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに基づいて推測するステップ;
【0111】
試料中のNotch細胞シグナル伝達経路の活性を、少なくとも、CD28、CD44、DLGAP5、DTX1、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES1、HES4、HES5、HES7、HEY1、HEY2、HEYL、KLF5、MYC、NFKB2、NOX1、NRARP、PBX1、PIN1、PLXND1、PTCRA、SOX9及びTNCからなるグループから選択される試料中で測定されたNotch経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに基づいて推定するステップ。好ましくは、2つ以上、例えば、3、4、5、6以上のNotch標的遺伝子は、DTX1、HES1、HES4、HES5、HEY2、MYC、NRARPおよびPTCRAからなるグループから選択され、1つ以上、例えば、2、3、4以上のNotch標的遺伝子は、CD28、CD44、DLGAP5、EPHB3、FABP7、GFAP、GIMAP5、HES7、HEY1、HEYL、KLF5、NFKB2、NOX1、PBX1、PIN1、PLXND1、SOX9およびTNCからなるグループから選択される;
【0112】
[PR標的遺伝子]からなる群から選択される試料中で測定されたPR経路の3つ以上の標的遺伝子、例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12または13の標的遺伝子の発現レベルに少なくとも基づいて試料中のPR細胞シグナル伝達経路の活性を推測するステップ;
【0113】
本明細書において、FOXO転写因子(TF)要素は、FOXO TFファミリメンバ、すなわち、FOXO1、FOXO3A、FOXO4およびFOXO6のうちの少なくとも1つを含むタンパク質複合体であると定義され、これは、特定のDNA配列に結合することができ、それによって標的遺伝子の転写を制御する。
【0114】
本明細書において、Wnt転写因子(TF)要素は、TCF/LEF TFファミリメンバ、すなわちTCF1、TCF3、TCF4またはLEF1の少なくとも1つを含むタンパク質複合体であると定義され、好ましくは、Wnt TF要素は、特定のDNA配列に結合することができ、それによって標的遺伝子の転写を制御するβカテニン/TCF4を含む。
【0115】
本明細書において、HH転写因子(TF)要素は、GLI TFファミリメンバの少なくとも1つ、すなわち、特定のDNA配列に結合することができ、それによって標的遺伝子の転写を制御するGLI1、GLI2またはGLI3を含むタンパク質複合体であると定義される。
【0116】
本明細書において、AR転写因子(TF)要素は、核アンドロゲン受容体の少なくとも1つまたは好ましくは二量体を含有するタンパク質複合体であると定義される。
本明細書において、ER転写因子(TF)要素は、核内エストロゲン受容体の少なくとも1つまたは好ましくは二量体、好ましくはERα二量体を含有するタンパク質複合体であると定義される。
【0117】
本明細書において、「TGFβ転写因子要素」または「TGFβTF要素」または「TF要素」という用語は、TGFβ経路に言及する場合、特定のDNA配列に結合し、それによって標的遺伝子の転写を制御することができる、TGFβメンバの少なくとも1つ、または、好ましくはそれらの二量体(SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5およびSMAD8とSMAD4)、または三量体(SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5およびSMAD8から2つのタンパク質とSMAD4)を含有するタンパク質複合体であると定義される。好ましくは、この用語は、TGFβのその受容体への結合によって誘発されるタンパク質もしくはタンパク質複合体転写因子、または、TGFβのその受容体への結合と最終転写因子タンパク質もしくはタンパク質複合体との間の中間下流シグナル伝達物質のいずれかを指す。例えば、TGFβは、細胞内「SMAD」シグナル伝達経路を開始する細胞外TGFβ受容体に結合し、1つまたは複数のSMADタンパク質(受容体調節型またはR-SMAD(SMAD1、SMAD2、SMAD 3、SMAD5およびSMAD8)ならびにSMAD4)が、発現を制御するTGFβ転写シグナル伝達カスケードに関与し、それに関与するヘテロ複合体を形成し得ることが知られている。
【0118】
本明細書において、NFkB転写因子(TF)要素は、特定のDNA配列に結合することができ、それによって標的遺伝子の転写を制御する、NFkBメンバ(NFKB 1またはp50/pl05、NFKB2またはp52/pl00、RELAまたはp65、RELおよびRELB)の少なくとも1つ、または好ましくはそれらの二量体を含むタンパク質複合体であると定義される。
【0119】
本明細書において、用語「Notch転写因子要素」または「NotchTF要素」または「TF要素」は、Notchタンパク質(対応する細胞内ドメインN1ICD、N2ICD、N3ICDおよびN4ICDを伴うNotch1、Notch2、Notch3およびNotch4)のうちの1つの細胞内ドメインを少なくとも含み、特定のDNA配列に結合することができるDNA結合転写因子CSL(CBF1/RBP-JK、SU(H)およびLAG-1)などの補因子、ならびに、好ましくは、転写を活性化してそれによって標的遺伝子の転写を制御するために必要とされる、mastermindlike様(MAML)ファミリ(MAML1、MAML2およびMAML3)からの1つの補アクティベータタンパク質とのタンパク質複合体であると定義される。好ましくは、この用語は、Notchタンパク質(Notch1、Notch2、Notch3およびNotch4)の1つの切断によって誘発され、Notch細胞内ドメイン(N1ICD、N2ICD、N3ICDおよびN4ICD)をもたらすタンパク質またはタンパク質複合体転写因子のいずれかを指す。例えば、隣接する細胞上に発現したDSLリガンド(DLL1、DLL3、DLL4、Jagged1およびJagged2)がNotchタンパク質/受容体の細胞外ドメインに結合し、細胞内Notchシグナル伝達経路を開始し、Notch細胞内ドメインが、発現を制御するNotchシグナル伝達カスケードに関与することが知られている。
【0120】
本明細書において、「JAK-STAT1/2転写因子要素」または「JAKSTAT1/2TF要素」または「TF要素」という用語は、JAK-STAT1/2に言及する場合、少なくともSTAT1-STAT2ヘテロ二量体またはSTAT1ホモ二量体を含むタンパク質複合体であると定義され、これは、特定のDNA配列、好ましくはISRE(結合モチーフAGTTTC NTTCNC/T)またはGAS(結合モチーフTTC/A NNG/TAA)反応要素にそれぞれ結合することができ、それによって標的遺伝子の転写を制御する。好ましくは、この用語は、下流のシグナル伝達をもたらすその受容体への刺激リガンドの結合によって誘発されるIFNなどの異なる刺激によって形成されるタンパク質またはタンパク質複合体転写因子のいずれかを指す。
【0121】
本明細書において、「JAK-STAT3転写因子要素」または「JAK-STAT3TF要素」または「TF要素」という用語は、JAK-STAT3経路を指す場合、特定のDNA配列、好ましくは結合モチーフCTGGGAAを有する反応要素に結合することができ、それによって標的遺伝子の転写を制御する、少なくともSTAT3ホモ二量体を含むタンパク質複合体であると定義される。好ましくは、この用語は、インターロイキン-6(IL-6)およびIL-6ファミリサイトカインなどのSTAT3誘導リガンドのその受容体への結合によって誘発されるタンパク質またはタンパク質複合体転写因子、またはその受容体へのリガンドの結合と最終転写因子タンパク質またはタンパク質複合体との間の中間下流シグナル伝達物質のいずれかを指す。
【0122】
ここで、「AP-l転写因子要素」、「AP-I TF要素」または「TF要素」という用語は、MAPK-AP1経路に言及する場合、少なくともJun(例えばc-Jun、JunBおよびJunB)ファミリのメンバーおよび/またはFos(例えばc-Fos、FosB、Fra-lおよびFra-2)ファミリのメンバーおよび/またはATFファミリのメンバーおよび/またはJDPファミリのメンバーを含み、例えばJun~JunまたはJun~Fos二量体を形成し、特定のDNA配列、好ましくは、反応要素、結合モチーフ5'-TGA G/C TCA-3'を持つ12-0-テトラデカノイルホルボール-L3-アセテート(TPA)反応要素(TRE)、または、結合モチーフ5'-TGACGTCA-3'を持つサイクリックAMP反応要素(CRE)に結合可能であり、それによって標的遺伝子の転写を制御する、タンパク質複合体であると定義される。好ましくは、この用語は、増殖因子(例えば、EGF)およびサイトカインなどのAP-l誘導リガンドの、その受容体または中間下流シグナル伝達物質への結合によって誘発されるか、またはAP-l活性化突然変異の存在によって誘発されるタンパク質またはタンパク質複合体転写因子のいずれかを指す。
【0123】
請求項において、用語「有する」は、他の要素又はステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数性を排除するものではない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。請求項におけるいかなる参照符号も、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】