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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】血小板の生成
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20231011BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/14 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/18 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20231011BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20231011BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20231011BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C12N5/078
C12M3/00 Z
A61K35/19
A61K35/14
A61K35/15
A61K35/18
A61K35/28
A61K35/545
A61P7/04
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517778
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 EP2021075704
(87)【国際公開番号】W WO2022058551
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】2014727.8
(32)【優先日】2020-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300002942
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ ブリストル
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】プール,アリスター ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ショアジュアン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA10
4B029DC07
4B029DF10
4B029GA08
4B029GB10
4B065AA90X
4B065AB04
4B065BA30
4B065BD14
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB34
4C087BB36
4C087BB37
4C087BB38
4C087BB44
4C087BB55
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA53
4C087ZB21
(57)【要約】
本発明は、1つ又は複数の細胞を含む原料を微小通路に通過させて、血小板又は血小板様粒子を含む通過材料を生成することを含む、血小板又は血小板様粒子を生成する方法を提供する。また、本発明は、該方法を用いて製造された血小板及び血小板様粒子、並びにその用途を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、血小板又は血小板様粒子を生成する方法:
a)1つ又は複数の細胞を含む原料を微小通路に通過させて、通過材料を生成するステップであって、前記通過材料は、好ましくは血小板又は血小板様粒子を含む。
【請求項2】
前記細胞は、幹細胞、特にiPSC;造血内皮、造血前駆細胞、巨核球、内皮細胞、白血球、赤血球、骨髄細胞、血液細胞、肺細胞及び基底膜を含む細胞などの幹細胞分化の中間及び/又は最終生成物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞は、巨核球又はその前駆体である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記原料を微小通路に通過させるステップは、1つ又は複数の、特に複数の細胞を、1つ又は複数の微小通路、特に複数の微小通路に通過させることを含む、又はそれからなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記通過材料を微小通路に通過させるステップは、前記原料を第1領域から前記微小通路を通って第2領域に通過させることを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1領域内の前記原料に圧力を加えて、前記原料を前記第2領域に移動させるステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記原料を微小通路に通過させるステップは、前記原料を複数の微小通路に通過させることを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記微小通路の長さは、概ね5mm未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記微小通路の幅及び高さの少なくとも一方は、前記微小通路の長さに沿った点で、1~250μm、1~200μm、1~150μm、1~100μm、1~50μm、1~25μm又は1~10μmである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記微小通路の高さ及び/又は幅は、前記微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、250μm未満、200μm未満、150μm未満、100μm未満、75μm未満、50μm未満、25μm未満又は10μm未満である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記微小通路の幅及び/又は高さは、前記微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、1μm超過、5μm超過又は10μm超過である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記原料を前記微小通路に2回以上通過させることを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞を含む原料を微小通路に通過させるステップは、以下のステップを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法:
a)前記原料を第1容器に提供するステップ;
b)前記原料を、1つ又は複数の微小通路を介して前記第1容器から第2容器に通過させて、通過材料を生成するステップ。
【請求項14】
c)前記通過材料を、1つ又は複数の微小通路を介して前記第2容器から前記第1容器に通過させるステップをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ステップb)及び/又はc)を繰り返すことを含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記血小板又は血小板様粒子の存在について前記通過材料を分析するステップをさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記通過材料から血小板又は血小板様粒子を抽出するステップをさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、前記材料をECMO(体外式膜型酸素化)装置;フローセル、特に高圧フローセル;複数のマイクロチャネル、例えばマイクロチャネルプレートを含むバリア;メッシュフィルター;又は管状アレイに通過させることを含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
血小板を生成するための装置であって、
原料が提供される第1領域と、
通過材料を受容するための第2領域とを含み、
前記第1及び第2領域は、少なくとも1つの微小通路によって接続されている、装置。
【請求項20】
前記原料を前記第1領域から前記第2領域へ駆動する手段を備える、請求項19に記載の装置。
【請求項21】
前記微小通路の長さは、概ね5mm未満である、請求項19又は20に記載の装置。
【請求項22】
前記微小通路の幅及び高さの少なくとも一方は、前記微小通路の長さに沿った点で、1~250μm、1~200μm、1~150μm、1~100μm又は1~50μmである、請求項19~21のいずれか1項に記載の装置。
【請求項23】
前記微小通路の高さ及び/又は幅は、前記微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、250μm未満、200μm未満、150μm未満、100μm未満、75μm未満又は50μm未満である、請求項19~22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
前記微小通路の幅及び/又は高さは、前記微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、1μm超過、5μm超過又は10μm超過である、請求項19~23のいずれか1項に記載の装置。
【請求項25】
前記第1及び第2領域は、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも1,000、少なくとも5,000、少なくとも10,000、少なくとも100,000、少なくとも250,000、少なくとも500,000又は約若しくは少なくとも1,000,000の微小通路によって接続されている、請求項19~24のいずれか1項に記載の装置。
【請求項26】
前記微小通路は、前記第1領域と前記第2領域との間に配置されたバリア又は膜;又は管状アレイに配置されている、請求項19~25のいずれか1項に記載の装置。
【請求項27】
前記通過材料を前記第2領域から前記第1領域に戻す手段をさらに備える、請求項19~26のいずれか1項に記載の装置。
【請求項28】
細胞若しくは粒子を計数する手段及び/又は細胞若しくは粒子をサイズによって選別する手段をさらに含む、請求項19~27のいずれか1項に記載の装置。
【請求項29】
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法を用いて得られた、血小板又は血小板様粒子。
【請求項30】
前記血小板は、年齢及び/又はサイズにおいて実質的に均質である、請求項29に記載の血小板又は血小板様粒子。
【請求項31】
請求項29又は30に記載の血小板又は血小板様粒子を含む医薬組成物。
【請求項32】
血小板又は血小板様粒子を必要としている対象を治療する方法であって、
請求項29又は30に記載の血小板若しくは血小板様粒子又はその1つ以上の抽出物を前記対象に投与するステップを含む、方法。
【請求項33】
治療、特に血小板又は血小板様因子を必要とする対象の治療において使用するための、請求項29又は30に記載の血小板又は血小板様粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板及び血小板様粒子を生成する方法、その方法を使用して生成された血小板、血小板生成に使用するための装置並びにその血小板の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は血液の最小の細胞成分であり、止血、血栓症、炎症、血管新生及び組織修復において重要な役割を果たしている。それらは大きな倍数体細胞である巨核球から生成されるが、その生成場所は現在完全には明らかではない。骨髄は、造血幹細胞が巨核球を含むすべての血球系に成熟するための主要なスペースを提供するが、体内の血小板生成の多くは、骨髄から離れた場所で発生する可能性がある。巨核球全体又はこれらの細胞の大きな断片は骨髄を出て循環に入ることが観察されており(Brownら、2018)、その次の微小循環の目的地は肺であり、最近では、かなりの数の血小板が生成される場所であることが示されている(Lefrancaisら、2017)。
【0003】
血小板生成の現在のモデルは、血小板が骨髄の類洞から生成されるといった前提に基づいている。体内では、巨核球が骨髄から絞り出され、巨核球の一部が血液中に入ると、高速で流れる血流の力によって血小板がせん断されるというのが通説である。血小板を製造する既知のデバイス、例えば、Thonら、Blood、18 September 2014、Vol.124,Number12は、MK細胞を含む微孔膜を高流量の液体に押し出すことで、これを模倣している。しかしながら、そのようなシステムの結果は良くなく、MK細胞あたり数個の血小板しか形成されず、血小板の機能性も低い。
【0004】
本発明者らは、血小板形成に関する現在の理解は正しくないと考えている。彼らは、血小板生成の改善された方法を開発し、これにより、MK細胞ごとに形成される血小板数が増加し、生成された血小板の機能性が向上した。
【0005】
せん断力を使用してMK細胞を破壊するのではなく、本発明者らは、圧縮力、特に繰り返し圧縮力をMK細胞に適用して血小板生成をもたらす方法を開発した。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、以下のステップを含む、血小板又は血小板様粒子を生成する方法を提供する:
a)1つ又は複数の細胞を含む原料を微小通路に通過させて、通過材料を生成するステップであって、前記通過材料は、好ましくは血小板又は血小板様粒子を含む。
【0007】
血小板又は血小板様粒子は血液成分であり、その機能は出血に反応して血栓を開始することである。血小板といった用語は、当該技術分野でよく知られている。血小板様粒子は、表面、他の細胞、他の血小板若しくは血小板様粒子又は固相物質に付着する能力、活性化により顆粒の内容物を放出する能力、微粒子やエキソソームを含む細胞外小胞を放出する能力、ホスファチジルセリンなどの負に帯電したリン脂質の表面発現を含む凝固促進能力及び/又は急速に形状を変化させる能力など、血小板の特徴の一部又は全部を有する粒子である。
【0008】
原料は、幹細胞、特にiPSCなどの1つ又は複数の細胞;造血内皮、造血前駆細胞、巨核球、内皮細胞、白血球、赤血球、骨髄細胞、血液細胞、肺細胞並びに基底膜を含む細胞などの幹細胞分化の中間及び/又は最終生成物などを含む。特に、1つ又は複数の巨核球又はその前駆体を含む。原料を微小通路に通過させるステップは、特に、1つ又は複数の、特に複数の細胞を、1つ又は複数の微小通路に通過させること、特に複数の微小通路に通過させることを含むか、又はそれからなる。
【0009】
細胞は、任意の適切な起源からのものであってもよい。例えば、細胞は、哺乳類、特にヒト又は齧歯類、特にネズミであってもよい。それらは、天然であってもよく、ex vivoで生成されてもよい。細胞が天然である場合、それらは単離された細胞であってもよい。
【0010】
細胞は野生型であってもよいし、1つ又は複数の所望の特徴、特に生成された血小板にもある特徴を含むように操作されるか、又は他の方法で操作されてもよい。例えば、細胞は、例えば組織修復遺伝子、タンパク質及びポリペプチド又は他の因子の放出の強化、血栓活性の調節、特定の部位へのホーミングの強化など、強化された治療特性を有するように操作されてもよい。これは、特に、癌、代謝性疾患及びその合併症、冠動脈疾患及び脳卒中を含む虚血性疾患などの症状の治療に有用な血小板及び血小板様粒子の生成に特に有用であってもよい。
【0011】
また、原料は、CCL5、CXCL12、CXCL1O、SDF-1、FGF-4、SIPRI、RGDS、メチルセルロース、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリノゲン、ラミニン、マトリゲル、Flt-3、トロンボポエチン(TPO)、VEGF、PLL、IL3、IL6、IL9、IL1b、ビトロネクチン、幹細胞因子(SCF)又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0012】
巨核球は大きな細胞で、一般に骨髄にある。この用語は、当該技術分野でよく知られている。成熟した巨核球は、一般にタンパク質CD41を発現する。本発明の方法で使用される巨核球は、起源が天然であってもよいし、iPSCなどの幹細胞を使用してex vivoで生成されてもよい。いくつかの実施形態では、巨核球は、CD41などの特定の表面タンパク質を発現又は欠失させるため、又は生成される血小板の治療能力を高めるために、遺伝子操作されてもよい。
【0013】
巨核球の前駆体は、分化して巨核球を生成し得る、特にそのようにプログラムされた任意の細胞である。例えば、それらは、iPSC又は臍帯幹細胞、任意に造血幹細胞(CD34+幹細胞)などの幹細胞であってもよい。細胞はフォワードプログラムされていてもよく、分化を誘導するためにTPOやSCFなどの因子が必要であってもよい。後者の場合、そのような因子が原料に含まれていてもよい。
【0014】
原料は、好ましくは培地を含む。培地は、原料中の細胞に応じて、例えば、細胞の起源に応じて、またそれらが分化するようにプログラムされているかどうか、及びどのようにプログラムされているかに応じて選択されてもよい。
【0015】
一実施形態において、巨核球又はその前駆体は、血液若しくは骨髄から単離されるか、又は人工的に生成される。
【0016】
原料は、一般に、第1領域から微小通路を通って第2領域に送られる。その方法は、原料を第2領域に駆動するために、第1領域内の原料に圧力を加えるステップを含んでもよい。第2領域は、通過材料が受容される培地又は他の材料を含んでもよい。第2領域内の材料は、通過材料が受容される培地等であろうと、通過材料自体であろうと、一般に比較的静的である。第2領域内の材料又は培地に流れがある場合、それは一般に、微小通路を通る原料の移動方向と同じ移動方向である。原料は一般に、特に第2領域ではせん断力を受けない。むしろ、原料は圧縮力、特に微小通路を通過する際に繰り返される圧縮力を受ける。
【0017】
第1領域と第2領域との間には、複数の微小通路が設けられていてもよい。一般に、その方法は、原料を複数の微小通路に通過させることを含んでもよい。微小通路は、並列又は直列又は両方で提供されてもよい。
【0018】
微小通路は、MKが通過する経路である。例えば、一実施形態では、微小通路はチャネル、開口又は細孔であってもよい。微小通路は、微小通路を画定する壁、すなわち原料が通過する開口を画定する壁を有してもよい。微小通路に沿った任意の点で、壁は開口を完全に囲んでいてもよいし、開口の一部の周りにだけ設けられていてもよい。壁は、互いに接続されていてもよいし、単に開口を画定するために互いに近接して配置されていてもよい。
【0019】
微小通路は、1つの概ね円形の壁を有する概ね管状の形状であってもよい。その実施形態では、原料はチューブの内腔に沿って通過する。
【0020】
微小通路は、不規則な形状であってもよい。
【0021】
複数の微小通路が提供される場合、微小通路は同じ又は異なる形状であってもよい。
【0022】
その経路の長さ、すなわち微小通路の一端から他端までの距離は変化してもよいが、一般的には5mm未満である。経路は、概ね直線であってもよいし、1つ若しくは複数の曲がり又は方向転換を含んでいてもよい。微小通路を通って、すなわち経路に沿って移動するとき、原料中の細胞は、微小通路の幅及び/又は高さが制限されたサイズの少なくとも1つの領域を通過する。したがって、微小通路の幅及び高さの少なくとも一方は、その長さに沿った点で、好ましくは1~250μm、1~200μm、1~150μm、1~100μm、1~50μm、1~25μm、1~20μm、1~15μm、1~12.5μm、1~10μm、又は1~5μmである。例えば、微小通路の高さは、微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、好ましくは250μm未満、より好ましくは200μm未満、任意に150μm未満、任意に100μm未満、任意に75μm未満、任意に50μm未満、任意に25μm未満、任意に20μm未満、任意に15μm未満、任意に12.5μm未満、任意に10μm未満、任意に5μm未満である。あるいは又はさらに、微小通路の幅は、微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、好ましくは250μm未満、より好ましくは200μm未満、より好ましくは150μm未満である。あるいは又はさらに、微小通路の高さは、微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、好ましくは250μm未満、より好ましくは200μm未満、任意に150μm未満、任意に100μm未満、任意に75μm未満、任意に50μm未満、任意に25μm未満、任意に20μm未満、任意に15μm未満、任意に12.5μm未満、任意に10μm未満、任意に5μm未満である。あるいは又はさらに、微小通路の幅は、微小通路の長さに沿った少なくとも1つの点で、好ましくは1μm超過、より好ましくは5μm超過、より好ましくは10μm超過である。各微小通路において、幅と高さは同じであっても異なっていてもよい。複数の微小通路が提供される場合、それらは同じ又は異なるサイズであってもよい。
【0023】
幅と高さといった用語は、微小通路を通る細胞の移動方向に対して概ね垂直な平面で見られる微小通路の寸法を指す。
【0024】
一実施形態では、この方法は、材料を微小通路に複数回通過させることを含む。例えば、微小通路を最初に通過した後に生成された通過材料は、再び微小通路を通過してもよいし、別の微小通路を通過してもよい。
【0025】
この実施形態では、その方法は、通過材料を微小通路に通過させるステップを繰り返すことを含んでもよい。その方法は、そのステップを少なくとも1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、15回、20回、25回、30回又はそれ以上繰り返すステップを含んでもよい。
【0026】
一実施形態では、細胞を含む原料を微小通路に通過させるステップは、以下のステップを含む:
a)原料を第1容器に提供するステップ;
b)前記原料を、1つ又は複数の微小通路を介して、第1容器から第2容器に通過させて通過材料を生成するステップ。
【0027】
原料は、複数の微小通路を通過することが好ましい。
【0028】
この実施形態では、その方法はさらに、
c)通過材料を、1つ又は複数の微小通路を介して、第2容器から第1容器に通過させるステップを含んでもよい。
【0029】
この方法は、ステップb)及びc)を繰り返すことを含んでもよい。
【0030】
一実施形態では、本発明は、血小板又は血小板様粒子を生成する方法を提供し、この方法は、巨核球を、幅1~200μmの微小通路に通過させることを含み、微小通路の幅は、微小通路を通る巨核球の移動方向に対して概ね垂直である。
【0031】
この方法は、血小板又は血小板様粒子の存在について通過材料を分析するステップをさらに含んでもよい。分析ステップは、ステップb)又はc)に続いてもよいし、ステップb)又はc)の繰り返しであってもよいし、例えばリアルタイム分析のように連続的であってもよい。分析は、粒子をサイズによって分類及び/又は計数することを含んでもよい。
【0032】
この方法は、通過材料から血小板又は血小板様粒子を抽出するステップをさらに含んでもよい。血小板又は血小板様粒子を抽出するステップは、通過材料を濾過して血小板又は血小板様粒子を除去することを含んでもよい。
【0033】
この方法は、第1容器又は第2容器に圧力を加えて、一方の容器から他方の容器に材料を移動させることをさらに含んでもよい。
【0034】
この方法は、原料、通過材料又はその両方を酸素化するステップをさらに含んでもよい。
【0035】
一実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料をECMO(体外式膜型人工肺)装置、人工肺又は同等のデバイスに通過させるステップを含むか、又はそれからなる。ECMO装置は、膜、チャネルの並列配列又は中空糸人工肺を含む。好ましい実施形態では、ECMO装置は、チャネルの並列配列又は中空糸人工肺を含む。
【0036】
別の実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料をフローセル、特に高圧フローセルに通過させるステップを含むか、又はそれからなる。
【0037】
一実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料を例えばマイクロチャネルプレートなどの複数のマイクロチャネルを含むバリアに通過させるステップを含むか、又はそれからなる。
【0038】
一実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料をマイクロ流体チップに通過させるステップを含むか、又はそれからなる。
【0039】
一実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料をメッシュフィルター又はふるいに通過させるステップを含むか、又はそれからなる。
【0040】
一実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料を管状アレイに通過させるステップを含むか、又はそれからなる。
【0041】
管状アレイは、好ましくは、例えば直径200μm前後又はそれ未満の細長いチューブの集まりである。チューブは、同じ又は異なる直径であってもよい。チューブは、好ましくはそれらがほぼ平行になるように一緒に配置される。チューブは、それらの間に変化する空間が存在するように配置され、原料又は通過材料が通過してもよい複数の通路を作り出す。チューブは、中実又は中空であってもよい。それらは多孔性であってもなくてもよい。チューブが中空である場合、原料は、追加又は代替として1つ又は複数のチューブの内腔を通過してもよい。チューブは、ポリマーなどの任意の適切な材料で作られてもよい。
【0042】
一実施形態では、原料又は通過材料を微小通路に通過させるステップは、材料を針又は複数の針に通過させるステップを含むか、又はそれからなる。
【0043】
一実施形態では、微小通路は、概ね並列配列で配置されたチューブの間に見られるか、又はチューブによって画定される。
【0044】
また、血小板を生成するための装置も提供され、該装置は、原料を収容するための第1領域と、通過材料を受容するための第2領域とを含み、第1及び第2領域は、少なくとも1つの微小通路によって接続されている。
【0045】
装置はまた、原料を第1領域から第2領域に駆動するための手段を含んでもよい。
【0046】
第1及び第2領域は、例えば、それぞれ、容器、チャンバーを含むか、又はそれらによって形成されてもよい。それらは同じでも異なっていてもよい。
【0047】
微小通路は、本明細書に記載された血小板を生成するための方法に関連して記載された通りであってもよい。第1及び第2領域は、一般に、複数の微小通路、例えば、少なくとも100、少なくとも200、少なくとも300、少なくとも400、少なくとも500、少なくとも1,000、少なくとも5,000、少なくとも10,000、少なくとも100,000、少なくとも250,000、少なくとも500,000、約又は少なくとも1,000,000の微小通路によって接続されている。前記微小通路は、並列に見られてもよい。
【0048】
一実施形態では、微小通路は、第1領域と第2領域との間に配置されたバリア又は膜に見られてもよい。バリア又は膜は、プレート、特にセラミック又はガラスプレートなどの剛性バリアであってもよい。あるいは、バリアは、フレキシブル又はメッシュであってもよい。メッシュの場合、例えば、特にポリマー繊維で作られた繊維状のメッシュであってもよい。
【0049】
別の実施形態では、微小通路は、前述のように管状アレイに見られてもよい。
【0050】
装置は、通過材料を第2領域から第1領域に戻すための手段をさらに含んでもよい。材料は、微小通路を介して又は微小通路を通らずに、第2領域から第1領域に戻されてもよい。
【0051】
装置は、サイズによって細胞又は粒子を計数する及び/又は細胞又は粒子を分類するための手段をさらに含んでもよい。それは、通過材料から血小板若しくは血小板様粒子、又は細胞若しくは他の汚染物質を濾過するか、又は他の方法で除去するための手段をさらに含んでもよい。濾過手段は、例えば、中空糸濾過システム、特に接線流フィルターを含んでもよい。いくつかの実施形態では、濾過手段自体が微小通路を含んでもよく、任意に、濾過ステップの一部として材料を微小通路に通過させるさらなるステップを可能にする。
【0052】
また、本発明の方法を使用して入手可能の又は入手された血小板又は血小板様粒子も提供される。血小板又は血小板様粒子は、好ましくは培地中にある。血小板又は血小板様粒子は、一般に、上記定義した通りである。一実施形態では、血小板又は血小板様粒子は、実質的に同期している、すなわち年齢的に概ね均質である、すなわち、互いに約1~2時間以内に生成され、同様のレベルの分解を示す。血小板と血小板様粒子の同期性は、当該技術分野で理解されている。これは、アクリジンオレンジで染色するなどの標準的な手法で測定され得る。
【0053】
一実施形態では、血小板又は血小板様粒子は、形状及び/又はサイズが実質的に均一である。例えば、一実施形態では、培地中の最小の血小板又は血小板様粒子は、例えば、培地中の最大の血小板又は血小板様粒子の直径の、少なくとも70%、75%、80%、85%の大きさである。その又は別の実施形態では、培地中の血小板の少なくとも70%、75%、80%、85%、90%又は95%が、約又は正確に直径で3.5~6μm、4~6μm、4~5.5μmである。
【0054】
一実施形態では、血小板又は血小板様粒子は、一般に、同じ形状であり、活性化されていない血小板の形状を有する。特に、血小板又は血小板様粒子は、一般に、両凸の円盤状又はレンズ状の形状である。血小板又は血小板様粒子は、微小管リングを有してもよい。
【0055】
一実施形態では、血小板又は血小板様粒子は、天然に存在する血小板と比較して、内部タンパク質に対する表面タンパク質の比率が減少していてもよい。例えば、血小板又は血小板様粒子は、天然に存在する血小板と比較して、CD41発現が減少していてもよい。例えば、血小板又は血小板様粒子は、天然の血小板で見られるCD41発現の80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%未満を有してもよい。血小板又は血小板様粒子は、例えば、血小板又は粒子あたり50×10未満のCD41、45×10未満のCD41、40×10未満のCD41、35×10未満のCD41、30×10未満のCD41又は25×10未満のCD41を有してもよい。別の例では、血小板又は血小板様粒子は、天然の血小板よりも少ないCD42B又はGPVIを有してもよい。
【0056】
一実施形態では、血小板はHLA欠損であるか、又はHLAが減少している。
【0057】
血小板又は血小板様粒子は、一般に、それらが生成される細胞に見られる特徴を有してもよい。例えば、組織修復遺伝子、タンパク質及びポリペプチドの放出の増強、血栓活性の調節、特定の部位へのホーミングの増強を含む、増強された治療特性を有するように操作された細胞から生成されてもよい。
【0058】
また、本発明による血小板若しくは血小板様粒子又はその抽出物を含む医薬組成物も提供される。
【0059】
また、血小板又は血小板様粒子を必要とする対象を治療する方法であって、本発明による血小板若しくは血小板様粒子又はその1つ若しくは複数の抽出物を対象に投与するステップを含む方法も提供される。
【0060】
血小板又は血小板様粒子からの抽出物は、当該技術分野で知られている。それらは、エキソソーム、特に精製されたエキソソームを含んでもよい。
【0061】
血小板若しくは血小板様粒子又は抽出物を投与するステップは、血小板、血小板抽出物、多血小板血漿、血小板放出物及び血小板様粒子を投与することを含んでもよい。
【0062】
血小板若しくは血小板様粒子、又はその抽出物を必要とする対象は、例えば外傷後、大手術中、化学療法中又は化学療法後など、血小板減少症の状態にある対象であってもよい。あるいは又はさらに、対象は、ITP(免疫性血小板減少症)又は再生不良性骨髄疾患などの自然に発生する低血小板の状態を有してもよい。
【0063】
本発明による血小板若しくは血小板様粒子又はその抽出物はまた、組織修復及び/又は組織血管分布を増強するために投与されてもよい。本発明による血小板若しくは血小板様粒子又はその抽出物を含む製剤は、成長因子、血管新生因子(新生血管の刺激)及び細胞増殖を含む体内の様々な活動を調節するマイクロRNAが豊富である。それらは、例えば、整形外科、抜歯及び傷の治療で使用されてもよい。
【0064】
さらに、治療、特に血小板減少症若しくは低血小板状態の治療において、又は本発明の治療方法に関連して論じたように組織修復若しくは血管分布を高めるために使用するための、本発明による血小板若しくは血小板様粒子又はその抽出物、又は本発明による血小板若しくは血小板様粒子を含む培地が提供される。
【0065】
ここで、図面を参照して、本発明を単に例として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
図1図1は、1.変形、2.脱核及び3.血小板脱離を含む肺モデルシステムを使用して血小板を生成するための巨核球のin vitro教育を示す。
図2A-C】図2は、マウスex vivo心肺血管系を換気しながら複数回通過させることで巨核球あたりの生成されたマウス血小板を示す。(A)生成された血小板の定量化のためのFACSゲーティング戦略を示す。マウス多血小板血漿を使用して、サイズ及び複雑さに応じてFSC/SSC密度プロットで生成された血小板(P1)をゲート化した。マウス全血を導入して、赤血球及び白血球(P2)と同程度の大きさのCD41(+)イベントを定量化した。針が巨核球を細胞質断片の小片に壊すことができるかどうかを除外するために、針の前後の巨核球の再懸濁液を評価した。生成された血小板数は、18回通過後に採取された溶出液のP1のCD41(+)イベントで決定された。(B)空気若しくは窒素換気下又は換気なしで、異なる通過の溶出液中の巨核球あたりの生成された血小板数をFACSで測定し、折れ線グラフとして表示した。(C)換気下及び換気なしのマウス肺において、溶出液及び残存液中の巨核球あたりの生成された血小板数を計算し、棒グラフとして表示した。
図3図3は、トロンビン及びコラーゲン関連ペプチドが、合成されたマウス血小板のインテグリンaIIbを活性化することを示す。
図4図4は、生成されたマウス血小板が内因性血小板とともに、in vitroで成長する血栓に取り込まれることを示す。
図5図5は、管状アレイの一例を示し、細胞を含む原料が配列内を通過する方向を示すことを含む。
図6図6は、図5の管状アレイをマウスMK及びヒト臍帯血由来MKに使用した結果を示す。
図7図7は、図5の管状アレイをマウスMK及びヒト臍帯血由来MKに使用した結果を示す。
図8図8は、装置で使用されるバリアの一例を示し、バリアは複数の微小通路、具体的にはマイクロチャネルを有する。
図9図9は、装置で使用されるバリアのさらなる例を示し、バリアは微小通路を作成するメッシュを含む。
図10図10は、本発明で使用するマイクロ流体システムを示す。
図11図11は、ヒトCD34+及びヒトiPSC由来のMK細胞を図10に示したシステムに通過させた結果を示す。
図12図12は、ヒトCD34+及びヒトiPSC由来のMK細胞を図10に示したシステムに通過させた結果を示す。
図13図13(A)は、灌流したマウス肺への巨核球の注入、肺を流れる流れ及び採取を示す;図13(B)はそのステップのフローチャートを示す。
図14図14は、標識(ドナー由来)及び非標識(宿主由来)の血小板における機能性を示す。
図15A-B】図15は、血管系におけるMKの脱核を示す。
図16図16は、天然の血小板と比較して、本発明の方法を使用して得られた血小板のサイズを示す。
図17図17は、生成された血小板を示す。血小板は、「天然」の血小板と同一の形態学的特徴を示す。生成されたマウス血小板と対照血小板の超微細構造を、透過型電子顕微鏡(TEM)によって可視化した。宿主血小板は、心肺準備からMKを注入する前に、抗GPIbα抗体R300(2μg/g体重)の腹腔内投与によってまず枯渇した。低倍率の画像は、I-IIIの生成された血小板とIVの対照血小板について示す。低倍率の画像から取得した詳細な画像を(a)-(d)に示す。細胞内構造を示し、略称で注釈している:α-G、α-顆粒;σ-G、σ-顆粒又は高密度体;Mit、ミトコンドリア;OCS、開放管系;MTC、微小管コイル;RBC、赤血球。スケールバー:I-IVは2μm、a-dは500nm。表示されている画像は、4つの独立した実験の代表的なものである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
本発明は、一般的に上述したような方法及び装置を提供する。
【0068】
実施例1.マウスex vivo心肺製剤(ECMOの代表)
ヒト又はマウスの巨核球(MK)を、ex vivoマウス心肺製剤の肺動脈に通過させた。MKは肺の微小循環を通過し、システムの出口である肺静脈に集められた。複数回再循環通過した後、MKは多数の機能性血小板を生成した。このアプローチの結果を図2に示す。
【0069】
実施例2.実施例1の方法を使用した血小板生成の機能性評価
マウス血小板は、マウスMKをex vivoマウス肺血管系に18回通過させることによって生成された。血小板の機能性は、活性化したインテグリンaIIbを認識するFITC標識Jon/A抗体とインキュベートによって評価され、血小板はその後トロンビン(2単位/ml)又はCRP(5mg/ml)で90秒間刺激された。活性化により平均蛍光強度の増加が見られた。
【0070】
実施例3.成長する血栓への血小板の取り込み
in vitroの動脈流速条件下で形成された代表的なコラーゲン誘発血栓の3段階の焦点面及びその断面の顕微鏡写真を示す。生成された血小板(黄色と緑色)は血栓のすべての段階を占めていたが、宿主血小板(赤色)は主に血栓の上部に位置していることから、生成された血小板は内因性血小板よりもさらにコラーゲンに反応し、機能する可能性がある。
【0071】
実施例4.管状アレイ
本発明の装置は、様々なポリマー構造の、通常直径200ミクロンまでの複数のチューブを含む。チューブは、チューブのそれぞれの間に様々な幅のスペースで束ねられている。チューブ間のスペースは、通常5~200ミクロンである。細胞は、矢印(1)のようにチューブ間を通過してもよいし、矢印(2)のようにチューブを通過してもよい。細胞の通過は、複数回繰り返されてもよい。細胞がチューブ間を通過する構成では、チューブ自体は中空であっても中実であってもよい。チューブはまた、微孔性であっても非孔性であってもよい。
【0072】
実施例5.実施例4の管状アレイを使用して生成された血小板
微孔性管状アレイを複数回通過したマウス巨核球は、多数の血小板を生成した。図5の矢印(1)のように、マウス巨核球をチューブ間でシステムに通過させ、通過ごとに血小板数の分析のためのサンプルを採取した。横軸は通過数を示す。縦軸はMK(赤線)あたりに生成された血小板数を示す。血小板は、通常血小板に発現するマーカーであるCD42の表面発現についても染色され、これらの数値も示されている(緑線)。MKあたり600個以上の血小板が生成された。
【0073】
実施例6.実施例4の管状アレイを使用してヒト臍帯血由来のMKから生成された血小板
微孔性中空糸システムを複数回通過したヒト巨核球は、多数の血小板を生成する。前図の黄色の矢印のように、ヒト巨核球をチューブ間でシステムに通過させ、通過ごとに血小板数の分析のためのサンプルを採取した。横軸は通過数を示す。縦軸は生成された血小板数を示す。
【0074】
実施例7.マイクロチャネルプレート
本発明の一実施形態では、装置は、多数の微小通路、具体的にはマイクロチャネルを画定するバリアを含む。このようなバリアの一例を図8に示す。プレート(通常、ガラス製)は、通常、直径1~5cm、深さ1~5mmで構成され、プレート全体に直径1~50ミクロンのマイクロチャネル(多数、多くは数百万個)が通っている。次に、図面に示すように、細胞を含む原料を繰り返し通過させる。あるいは、材料をバリアの一方の側から他方の側に通過させてから、再び戻し得る。
【0075】
実施例8.メッシュフィルター
本発明の一実施形態では、装置はメッシュを含むバリアを含む。このようなバリアの一例を図9に示す。網目構造(通常、PTFE又はその他のポリマー)が構築される。バリアは直径約1~5cmでもよい。繊維間のギャップ(多数、多くは数百万個)はメッシュによって作成され、それぞれの幅は約1~50ミクロンである。細胞を含む原料は、メッシュを繰り返し通過させてもよい。
【0076】
実施例9.マイクロ流体システム
一実施形態では、装置はマイクロ流体システムを含む。この一例を図10に示す。システムは、生理学的な血管系を模した一組のチャネルを含み、分岐が進むにつれてチャネルの直径が通常半分に減少するような分岐構造になっている。最小のチャネルは非常に多く(通常、1000秒)、直径と深さは通常1~15ミクロンである。次に、流体は、より大きな直径のチャネル(通常、最大100~200ミクロン)からより小さな直径のチャネルに流れ、システムから出るときには逆になる。細胞を含む原料は、システムを繰り返し通過する。システムは、並列又は直列の多重化によって、より多くの細胞量を使用できるようにスケールアップしてもよい。
【0077】
実施例10.マイクロ流体セルを通過したヒトCD34+由来MKから生成された機能性血小板
CD34+由来のMKを、毛細血管模倣マイクロ流体システムに6回通過させた。この細胞をCD41で染色し、FACSで測定した。
【0078】
実施例11.ヒトiPSC由来の巨核球がマイクロ流体システムで機能性血小板を生成
iPSC由来のヒト巨核球を、マイクロ流体システムで6回通過させ、血小板を採取し、コラーゲンでコーティングした表面に塗布して機能性を定量、分析した。2つの独立した実験では、巨核球あたり310個と406個の血小板を生成した。生成された血小板は、図12に示すように、コラーゲン線維に結合して活性化させることができた。
【0079】
実施例12.
ex vivoマウス心肺製剤(図13)を使用して、本発明者らは血小板生成の詳細を観察することができた。巨核球は、その大きさにかかわらず、肺の微小循環を容易に通過することができ、複数回の再循環により、巨核球あたり2000~4000の生理学的レベルの血小板を生成した。これは、生理学的レベルの血小板を生成する最初のin vitroシステムであり、また肺血管系が血小板生成に理想的な環境を提供することも示している。したがって、巨核球は、毛細血管網を通過するために、その形状を大量かつ可逆的に変形できなければならない。巨核球が肺血管系を繰り返し通過する際に、定義された再現可能な一連の細胞生物学的変化が発生するが、このプロセスは現在では「教育」と呼ばれている。核の凝縮と辺縁化から始まり、細胞からの核の排出(脱核)が一連の流れである。脱核後も核凝縮のプロセスは続き、裸の核は断片化に進む。肺血管系を約9回通過した後、無核巨核球も断片化し始め、前血小板、最終的には血小板が生成され、肺を18回通過する頃には巨核球1個あたり2000~4000個の割合となる。最後に、このプロセスの機能不全は、ヒトの血小板減少症に大きな役割を果たしている可能性がある。トロポミオシン4をコードするTPM4遺伝子の変異は、ヒトの血小板減少症の原因であり、ここでTPM4-/-マウス巨核球は、ex vivo肺製剤で驚くほど血小板を生成せず、MK教育プロセスにおけるTPM4の重要な役割を示すだけでなく、肺教育による血小板生成が骨髄での血小板生成とは異なる細胞及び分子メカニズムによるものであることが明確に示されている。
【0080】
血小板がこれらの細胞の最終段階のプロセスで巨核球から放出されること、及びこれらの細胞の何らかの形の断片化が行われる必要があることは明らかであるが、そのプロセスの場所とその詳細は理解されていない。マウス肺における実質的な血小板生成の最近の実証を考慮して、本発明者らは、プロセスの詳細を理解するためにex vivo肺モデルを開発することを選択した。彼らの最初の観察は、MKが肺の微小循環に留まらないということであった。これは、毛細血管の内径に対するMKのサイズを考えると、まず驚くべきことであった。したがって、MK懸濁液がex vivoで肺血管系を最初に通過すると、約70%のMKが通過する。これは、細胞の形状を変形させ、微小血管からの出口で形状を再形成する顕著な能力を示唆している。理論にとらわれることなく、内皮との密接でダイナミックな相互作用が関係している可能性がある。
【0081】
これは、肺組織で組織学的に観察されるMKの数と、Lefrancaisら(2017)による、MKがかなりの数の血小板、血小板総数の約50%を生成するといった議論との間の明らかな不一致を説明するのに役立つ。肺組織で組織学的に観察されるMKは非常に少なく、本発明者らは、図14Bに示すように、標識されたMKの2光子切片でそれを確認した。本発明者らは、MKが肺血管系を通過するということは、in vivo環境でMKが複数回通過する可能性があることに気づき、これをex vivo製剤で模倣すると、驚くべきことに、MKは大量の血小板を生成することが明らかになった。これらは、肺の2光子画像(図14B)で見られ、FACSによって溶出液で定量化されてもよい(図14C)。
【0082】
これらの観察からの主な意味は、血小板の生成は体内の血管系のどこでも発生する可能性があり、肺血管系を通過することは、単にMKが肺を通過する際の「教育」プロセスを提供するだけであるということである。血小板を生成するための核凝縮、辺縁化、脱核及び細胞の断片化のその後のイベントは、血管系の離れた部位で潜在的に発生する可能性がある。
【0083】
MK教育プロセスを提供する可能性のある肺血管系の何が特別なのかは、まだ明らかではない。ただし、体内の他の血管床と比較して、この血管床の生態には違いがある。重要な違いの1つは、肺血管系ではO圧レベルが他の場所よりも高く、CO圧レベルが体内の他の場所よりも低いことである。これらは、MK教育のシグナルとして重要である可能性がある。肺血管系はまた、呼吸によって継続的な拡張と収縮を受けており、肺血管系をMKが通過するのを物理的に促進してもよい。本発明者らは、通常換気された、換気されていない又は純粋なNで換気された肺に慢性的に(MK通過の1時間前及びその期間中)又は急性的に(MK通過の期間のみ)MKを通過することによって、これらの変数の役割に対処した。図14Dに示すように、通常換気された肺を18回再循環させた後、1×10E4個のMKは3×10E7個の血小板を生成した。重要なことに、肺が換気されていない場合、MKあたりに生成される血小板数は500に減少したが、肺がNで急激に換気された場合、MKあたりに生成される血小板数は0だった。これらのデータは、酸素化が血小板の生成に重要であるが、血小板は酸素の非存在下でも生成されたため、重要ではないことがわかった。換気されていない肺では血小板数がさらに減少していることから、換気による物理的な力も寄与していると考えられ、MKが微小血管を通過するのを助けると考えられる。
【0084】
しかしながら、慢性的にNに長期間曝されると、内皮細胞に不可逆的な損傷を与えたり、死滅させたり、その生存率や機能性を著しく低下させる可能性がある。これは、通過したMKが血小板を生成する能力に劇的な影響を与え、これらの条件下では血小板が生成されなかった(図14D)。肺は、通常の換気条件下では、MK通過後にその構造内にMKがほとんど見られず、MKが肺循環を通過して微小血管に留まらないことを示唆していたが、MK通過前に1時間Nで換気した場合、毛細血管網に相当数のMKが「滞留」していることがわかった。このことは、微小血管とMKとの間に、MKの可逆的な変形を誘発し、微小血管を通過する運動性を刺激するための不可欠かつダイナミックな会話があることを強く示唆している。
【0085】
MKは換気された肺の微小血管に蓄積されないが、MKが生成された血小板はすべて肺血管系からそれほど効率的に排出されない。肺の毛細血管網内に血小板がかなり滞留しているため、上記のデータのように溶出液の数から単純に血小板数を推定すると、生成された血小板の総数が大幅に過小評価される。本発明者らは、肺微小血管に保持された血小板数を測定するために、固定した肺切片の2光子顕微鏡法によって、肺体積中の標識された血小板数を数えた。肺の総容積を知ることで、保持された血小板数を推定することが可能になった。これは、溶出液に放出される血小板の約2倍にあたる。これらのデータは図14Eに示され、換気された肺の総数はMKあたり約3000であり、換気されていない肺の総数はMKあたり約1000である。
【0086】
これらは、生理学的in vivo血小板生成の推定値と一致する、MKあたりの血小板生成レベルである。これは、現在公開されているex vivoでの血小板生成方法と比較して、約1桁大きく、ex vivoでの血小板の合成における実質的な前進である。これらの数値は、抗CD41-FITC色素で標識された血小板数のみに基づいて推定されている。これは、これらの血小板が、肺を通過する前に抗CD41-FITCでin vitro染色されたMKから生成されることがわかっているためである。つまり、上記の計算はすべて、その標識された血小板に関連している。しかしながら、標識された血小板に加えて、FACS分析は標識されていない血小板のかなりの数を識別する。これらは、2つのソースに由来する可能性がある。本発明者らが示すように、かなりの数の血小板が肺の微小血管をゆっくりと通過するだけであり、流体を複数回通過させても血小板は肺血管系に「保持」される。したがって、肺には標識されていない内因性宿主血小板のプールが存在する可能性がある。さらに、Looneyらは、マウス肺が血管外のMKの発生場所であることを示し、また、標識されていない多数の血小板も生成している可能性があることを実証した。
【0087】
ex vivo肺システムで生成された血小板の生理学的レベルに加え、このアプローチのもう1つの大きな前進は、生成された血小板が完全かつ正常に機能することである。図15は、標識(ドナー由来)と非標識(宿主由来)の両方の血小板における機能性を示している。後者は、染色され生成された血小板の機能性の貴重なコントロールを形成する。ドナー由来及び宿主由来の血小板の両方が、トロンビン又はコラーゲン関連ペプチド(CRP)に反応して、インテグリンαIIbβの活性化及びPセレクチンの表面発現(α-顆粒分泌の指標となる)を示す。重要性はないものの、宿主由来の血小板よりもドナー由来の血小板の方が機能性が高いという一貫した傾向がある。説明の一つとして、すべてのドナー由来の血小板は生成されたばかりで非常に若いのに対し、宿主由来の血小板の細胞年齢は非常に若いものから古い老化した血小板にまで及ぶため、それらの平均年齢はかなり高くなるということである。若い血小板は古い血小板よりも反応性が高いことが以前報告されており、これはドナー由来の細胞における反応性の高さを説明できるかもしれない。また興味深いことに、「換気なし」条件下で血小板を生成すると、MKあたりの血小板数は少なくなるが、その機能性は通常の換気条件下で得られるものと一般的に同程度である(図15B)。ドナー由来の血小板は、血栓形成においても正常に動作する。図15Cは、標識されたドナー由来の血小板をレシピエントマウスの血液に混合させると、標識されていない宿主細胞と同様の挙動を示し、コラーゲンでコーティングされた表面で流動下に形成される血栓に完全に組み込まれることを示している。しかしながら、興味深いことに、ドナー血小板は一貫してコラーゲンと早期に相互作用し、露出したコラーゲン線維の近くに位置していたことから、おそらくこれらの若い血小板の機能性がわずかに高いことを反映している。
【0088】
ex vivo肺システムにより、本発明者らは、MKから血小板への変換の根底にあるメカニズムを解明し、肺血管系を繰り返し通過する際のMKの変化を観察することができた。最も顕著な発見は、血流内で血小板を生成するための断片化の前のステップで、血管内でMKが脱核することである。図16は、プロセスに含まれるステップを示したものであり、図16Aに画像、図16Bに数値化したもの、図16Cに概略的に要約したものを示す。通過回数が少ない間、大きな倍数体核は、辺縁化の過程で細胞の中心位置から周辺に移動する。次いで、肺血管系をさらに通過する際に核が細胞から押し出され、約9回の通過で有核のMKはほとんど残らなくなる。このとき、細胞から押し出された裸の核は、複数の構成要素のサブ核に分裂するプロセスを経て、小さく圧縮されたサブ核単位に凝縮する。無核のMKは、肺血管系をさらに複数回通過すると断片化し、15~18回の通過で血小板数がプラトーに達する(図13Dを参照)。
【0089】
最後に、トロポミオシン4(TPM4)の発現を欠く巨大血小板性血小板減少症の遺伝子改変マウスのMKが、ex vivo肺システムで血小板生成に欠陥があるかどうかに興味があった。TPM4変異は、血小板数が正常値の約50%に低下する、ヒトでは稀なタイプの巨大血小板性血小板減少症と関連している。同様に、TPM4-/-マウスの血小板数は、野生型と比較してほぼ同量減少する。TPM4-/-MKは、通常、in vitroで培養されるが、ex vivoマウス肺を通過すると、これらの細胞は血小板をほとんど生成しない。この驚くべき結果は、アクチン細胞骨格を調節するTPM4が、肺教育メカニズムによるすべての血小板生成に絶対に必要であることを示唆している。しかしながら、正常な数のTPM4-/-MKが肺を通過することが観察されたため、TPM4はこれらの細胞の可逆的な変形には明らかに必要ではなく、むしろその後のステップの1つに必要である。Lefrancaisらは、血小板生成の約50%が肺血管系で発生し、残りの50%が骨髄で発生することを提案していたので、これらの観察は血小板数が50%に減少したことを説明している。さらに、重要なことに、データは、肺血管系における血小板生成のメカニズムが骨髄におけるものとは根本的に異なることを明確に示している。このことから、TPM4は骨髄での血小板生成には必要ない可能性が高いが、肺血管系での血小板形成のプロセスには必要であると推測される。したがって、体内での血小板生成には少なくとも2つの異なるメカニズムが存在する可能性が高く、そのうちの1つはマウスの血小板生成の50%を占める肺教育である。このことがヒトにも当てはまるかどうか、もしそうであるならば、肺教育によって生成される血小板の割合はどれくらいかを明らかにすることが重要であろう。また、in vivo血小板は異なる分子及び細胞メカニズムによって生成されるため、機能的に異なる血小板集団が存在する可能性もある。例えば、血小板の一部のみが凝固促進反応を起こし、血小板表面にホスファチジルセリンを露出させることができることがわかっている(Agbani&Poole、2017)。これは、異なる血小板集団の異なる生成メカニズムの産物であるかどうかを判断することが重要である。
【0090】
TPM4に関しては、以下のように結論付けられることが明らかになった:
【0091】
TPM4-/-細胞では形態が異なるため、TPM4はMKの多葉核の構造/形成において役割を果たす。
【0092】
TPM4は、MKが肺血管系を通過するために必須ではない。ここでは、細胞の運動性に部分的な役割を果たしている可能性があるが、細胞は通過するため、必須ではない。
【0093】
TPM4は、肺切片にも肺通過後の溶出液にも多くの裸の核があるため、脱核には必須ではない。
【0094】
ただし、肺を複数回通過した後の溶出液にはゴーストは存在するが、血小板は存在しないことから、TPM4は、MKゴーストが血小板に分解される最後の断片化イベントに重要である可能性がある。
【0095】
実施例13.生成された血小板のサイズ
本発明の方法を用いて血小板を生成した。それらは染色され、次に天然の血小板と結合された。天然の血小板及び本発明の方法を使用して生成された血小板のサイズを測定し、比較した。結果を図16に示す。図16からわかるように、生成された血小板は、天然の血小板よりも有意に大きく、互いにサイズが概して類似していた。
図1
図2A
図2B-C】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
【国際調査報告】