(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ヒトにおけるSARS-CoV-2の保有または感染(COVID-19)のスクリーニング、診断またはモニタリングのための呼気サンプルの分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/497 20060101AFI20231011BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N33/497 A
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023517952
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-15
(86)【国際出願番号】 IB2021000642
(87)【国際公開番号】W WO2022058796
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513057773
【氏名又は名称】ユニベルシテ、ド、ベルサイユ‐エステ、カンタン、アン、イブリーヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE VERSAILLES-ST QUENTIN EN YVELINES
(71)【出願人】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】510132347
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジ アトミク エ オウ エネルジ アルタナティヴ
(71)【出願人】
【識別番号】523096609
【氏名又は名称】アソシアシオン、オピタル、フォッシュ
【氏名又は名称原語表記】ASSOCIATION HOPITAL FOCH
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カミーユ、ロカンクール
(72)【発明者】
【氏名】エティエンヌ、テヴノ
(72)【発明者】
【氏名】ジラリ、アナン
(72)【発明者】
【氏名】スタニスラス、グラッサン-ドリール
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA09
2G041EA05
2G041FA10
2G041LA08
2G045AA25
2G045CB22
2G045FA36
(57)【要約】
人(112)から吐き出された呼気に由来する元素を含んでなるサンプルを得ること;そのサンプルを分光計にかけること;少なくとも1つの範囲において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の少なくとも1つの値を決定すること、この範囲または各範囲は範囲の中央値および限界値によって定義される;その値に少なくとも1つの検定を適用すること、その範囲およびその検定は、以下を特定するために構成される:人がSARS-CoV-2を保有している、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していること、人がSARS-CoV-2を保有していない、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していないこと、人がCOVID-19に罹患していること、ならびに/または人がCOVID-19に罹患していないこと;ならびにその検定の結果に従ってメッセージを通知することを含んでなる、分析方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人(112)から吐き出された呼気に由来する元素を含んでなるサンプルを得ること;
前記サンプルを分光計にかけること;
少なくとも1つの範囲において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の少なくとも1つの値を決定すること、
前記範囲または各範囲は前記範囲の中央値および限界値によって定義される;
前記値に少なくとも1つの検定を適用すること、
前記範囲および前記検定は、以下を特定するために構成される:
人が症状の有無にかかわらず、SARS-CoV-2を保有している、もしくはSARS-CoV-2に感染していること、
人がSARS-CoV-2を保有していない、もしくはSARS-CoV-2に感染していないこと、
人がCOVID-19に罹患していること、および/または
人がCOVID-19に罹患していないこと;ならびに
前記検定の結果に従ってメッセージを通知すること
を含んでなる、分析方法。
【請求項2】
前記分光計が質量分析計、例えば、プロトン移動反応質量分析計である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記決定工程が、1つのみの範囲において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を1つのみ決定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記範囲がm/z=99.08(99.04~99.14)を含み、前記方法が、例えば、人がSARS-CoV-2を保有している、もしくはSARS-CoV-2に感染していること、または、人がSARS-CoV-2を保有していない、もしくはSARS-CoV-2に感染していないことを特定するために実施される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記決定工程が、範囲群において、前記分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を決定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記範囲が以下の範囲のうち1つを含むか、または前記群が以下の範囲のうち少なくとも1つ、好ましくは、それらの全てを含み、例えば、それらの全てからなる:
m/z=135.09(135.03~135.17)、
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、および
m/z=111.12(111.07~111.18)
請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記範囲が以下の範囲の1つを含むか、または前記群が以下の範囲のうち少なくとも1つ、好ましくは、それらの全てを含み、例えば、それらの全てからなる:
m/z=135.09(135.03~135.17)、
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、
m/z=111.12(111.07~111.18)、
m/z=71.05(71.02~71.09)、
m/z=55.05(55.03~55.09)、
m/z=83.09(83.05~83.13)、および
m/z=93.04(93.00~93.09)
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記範囲が以下の範囲の1つを含むか、または前記群が下記表の範囲のうち少なくとも1つ、好ましくは、それらの全てを含む、例えば、それらの全てからなる:
【表1】
請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
以下の要素:
症状スコア、
前記人がサンプリング前にコルチコステロイド療法を受けていたかどうか、および
前記人が酸素療法を受けていたかどうか、
のうち少なくとも1つを考慮する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記人(112)が侵襲的機械換気を受けている、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルが呼気サンプルである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記サンプルを得る工程が、前記人(112)と連通する移送ライン(106)を介して前記サンプルを得ることを含み、例えば、前記移送ライン(106)が前記人(112)に設置された気管内チューブ(110)の端部に接続され、前記方法が、例えば、前記移送ライン(106)を加熱することを含んでなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
SARS-CoV-2および/またはCOVID-19の診断、スクリーニングまたはモニタリングのための装置(120)であって、
少なくとも1つの範囲において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度のうち少なくとも1つの値を決定する手段と、
前記範囲または各範囲は前記範囲の中央値および限界値によって定義される;
前記値に少なくとも1つの検定を適用する手段と
前記範囲および前記検定は、以下を特定するために構成される:
人がSARS-CoV-2を保有している、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していること、
人がSARS-CoV-2を保有していない、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していないこと、
人がCOVID-19に罹患していること、ならびに/または
人がCOVID-19に罹患していないこと
を含んでなる、装置。
【請求項14】
質量分析計、例えば、プロトン移動反応質量分析計(118)などの分光計を含んでなる、請求項1~13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
請求項1~11に記載の方法の実行を制御するため、または請求項13または14に記載の装置(120;220)を制御するために構成されるコード命令を含んでなる、プログラム。
【請求項16】
プログラムをダウンロードするという観点で通信ネットワーク上に請求項15に記載のプログラムを提供する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARS-CoV-2ウイルスの保有または感染(COVID-19)およびそのスクリーニング、診断またはモニタリングのための検査に関する。
【0002】
従来技術には、本明細書に引用される以下の文献が含まれる。
以下、これらの文献を指数としての番号で参照する。
【0003】
2020年9月28日現在、世界中で約3200万人が重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に感染し、約100万人がコロナウイルス病2019(COVID-19)で死亡している1。COVID-19患者の約5%が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症ショックまたは多臓器機能不全2を発症する。世界中で、この致死的な疾患の予防、早期発見、診断および管理に、かつてないほどの研究努力が注がれている。現在までに、COVID-19で入院した患者の治療薬として承認された抗ウイルス薬は1つだけである(レムデシビル)3。さらに最近、大規模な試験で、デキサメタゾンを1日用量6mgで10日間投与すると、28日目の死亡リスクが大幅に低下することが示された(特に侵襲的機械換気を必要とする重症患者においては、年齢調整率比[95%信頼区間(CI)]:0.83[0.75~0.93](率比:0.64[0.51~0.81])4。
【0004】
初期の免疫応答は重症度には依存しないと思われるが、最も重症の患者は、SARS-CoV-2感染後10日ほどで血中炎症マーカー(IL-1α、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-18およびTNF-αなど)の持続的上昇を示し、その後の臓器損傷のリスクが非常に高い5-7。血清のプロテオミクスおよびメタボローム研究により、COVID-19に特異的な分子シグネチャーが報告されており、COVID-19の重症型と非重症型では、アミノ酸代謝および急性期タンパク質の発現に違いがある8。
人がSARS-CoV-2を保有している、またはSARS-CoV-2に感染していることを早期に発見し、コロナウイルス感染症2019(COVID-19)を診断することが最も重要であるが依然として困難である。
【0005】
本発明の目的は、ヒトにおけるこのウイルスおよび関連疾患の存在のスクリーニング、診断、またはモニタリングに寄与することである。
【0006】
この目的のために、本発明は、
人から吐き出された呼気に由来する元素を含んでなるサンプルを得ること;
前記サンプルを分光計にかけること;
少なくとも1つの範囲において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の少なくとも1つの値を決定すること、
前記範囲または各範囲は前記範囲の中央値および限界値によって定義される;
前記値に少なくとも1つの検定を適用すること、
前記範囲および前記検定は、以下を特定するために構成される:
人がSARS-CoV-2を保有している、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していること、
人がSARS-CoV-2を保有していない、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していないこと、
人がCOVID-19に罹患していること、ならびに/または
人がCOVID-19に罹患していないこと;ならびに
前記検定の結果または決定規則に従ってメッセージを通知すること
を含んでなる、分析方法を提供する。
【0007】
一実施形態では、決定工程は、1つのみの範囲において分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を1つのみ決定することを含む。
【0008】
一実施形態では、範囲はm/z=99.08(99.04~99.14)を含み、方法は、例えば、人がSARS-CoV-2を保有している、もしくはSARS-CoV-2に感染していること、または、人がSARS-CoV-2を保有していない、もしくはSARS-CoV-2に感染していないことを特定するために実施される。
【0009】
別の実施形態では、決定工程は、範囲群において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を決定することを含む。
【0010】
一実施形態では、範囲は、以下の範囲のうち1つを含むか、またはその群が以下の範囲のうち少なくとも1つ、好ましくは、それらの全てを含み、例えば、それらの全てからなる:
m/z=135.09(135.03~135.17)、
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、および
m/z=111.12(111.07~111.18)。
【0011】
別の実施形態では、範囲は、以下の範囲のうち1つを含むか、またはその群が以下の範囲のうち少なくとも1つ、好ましくは、それらの全てを含み、例えば、それらの全てからなる:
m/z=135.09(135.03~135.17),
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、
m/z=111.12(111.07~111.18)、
m/z=71.05(71.02~71.09)、
m/z=55.05(55.03~55.09)、
m/z=83.09(83.05~83.13)、および
m/z=93.04(93.00~93.09)。
【0012】
別の実施形態では、範囲は、以下の範囲の1つを含むか、または前記群が下記表の範囲のうち少なくとも1つ、好ましくは、それらの全てを含む、例えば、それらの全てからなる:
【0013】
【0014】
一実施形態では、この方法は、以下の要素:
症状スコア、
前記人がサンプリング前にコルチコステロイド療法を受けていたかどうか、および
前記人がサンプリング前に酸素療法を受けていたかどうか、
のうち少なくとも1つを考慮する。
【0015】
本発明は、呼気のメタボロミクスに関し、SARS-CoV-2および/またはCOVID-19に特異的な呼気代謝シグネチャーを提供する。
【0016】
本発明は、例えば、SARS-CoV-2を保有する人またはSARS-CoV-2に感染している人に関する。
【0017】
本発明はまた、例えば、COVID-19患者、とりわけ、重症COVID-19患者、例えば、侵襲的機械換気を必要とする患者に関する。
【0018】
本願において、SARS-CoV-2を保有する人は、感染者(COVID-19疾患)およびCOVID-19に罹患していない人(無症状者)を含む。
【0019】
このシグネチャーは、例えば、65の揮発性有機化合物のセットによって形成される。ランキング集約によれば、このシグネチャーの中で最も顕著な8つの揮発性有機化合物は、PTR-MS検出による質量電荷比([M+H]+)によって定義した場合に、重要な順に、m/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08、m/z=111.12、m/z=71.05、m/z=55.05、m/z=83.09およびm/z=93.04であることが示された。(「PTR-MS」はプロトン移動反応質量分析計を意味する)。
【0020】
全シグネチャーを用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を93%の精度(感度:90%、特異度:94%、受信者操作特性曲線下面積:0.93~0.98)で区別することができる。
【0021】
最も顕著な8つの化合物を用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を90~93%の精度(感度:85~90%、特異度:93~94%、受信者操作特性曲線下面積:0.95~0.98)で区別することができる。
【0022】
最も重要な4つの特徴(PTR-MS検出による質量電荷比([M+H]+によって定義した場合にm/z=99.08、m/z=111.12、m/z=135.09およびm/z=143.15)を用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を89~93%の精度(感度:90~98%、特異度:88~94%、受信者操作特性曲線下面積:0.89~0.95)で区別することができる。これら最も重要な4つの特徴はまた、入院の最初の10日の縦断的モデリングにおいても、これらの2群(COVID-19陽性とCOVID-19陰性)を区別する。
【0023】
このシグネチャーは別の例では、1つのみの揮発性有機化合物によって形成され得る。実際に、m/z=99.08などの1つのみの特徴を以下の要素:
症状スコア、
前記人がサンプリング前にコルチコステロイド療法を受けていたかどうか、および
前記人がサンプリング前に酸素療法を受けていたかどうか、
と組み合わせて用い、ウイルスを保有している/ウイルスに感染している人とそうではない人を区別することができる(受信者操作特性曲線下面積:0.85)。
【0024】
よって、呼気中の揮発性有機化合物の非侵襲的検出により、COVID-19を有する患者を特定し、COVID-19の診断を提供することができる。それはまた、症状の有無にかかわらず、ウイルスを保有する、またはウイルスに感染している人を特定することを可能とする。それはまた、ウイルスを保有していない、またはウイルスに感染していない人を特定することを可能とし、従って、COVID-19の診断を排除することができる。この特異的なブレスプリントを知ることで、大規模なCOVID-19スクリーニングまたは疾患の重症度および制御のモニタリングのための、迅速で非侵襲的なポイントオブケア検査の開発が可能となる。
【0025】
よって、一実施形態では、この方法は、COVID-19の診断方法である。
【0026】
本発明は、診断だけでなく、特定の臓器の重症度および具体的な障害の予後/評価、ならびに投与された治療の効果の評価にも寄与することを除外することはできない。
【0027】
以下に説明するように、エラスティックネット、ランダムフォレストまたはサポートベクターマシンとして知られるアルゴリズムなど、様々な種類の検定または決定規則が使用可能である。
【0028】
一実施形態では、決定工程は、サンプル中に1つまたは少なくとも2つ、例えば、3つ、4つ、5つ、6つまたは7つの成分が存在するかどうかを決定することを含む。
【0029】
一実施形態では、分光計は、質量分析計、例えば、プロトン移動反応質量分析計である。
【0030】
プロトン移動反応質量分析計を使用すると、サンプルの迅速分析および迅速結果を得ることができる。しかし、他のタイプの(PTR-MS以外の)質量分析計も同じ化合物の検出を可能とする。
【0031】
同様に、この方法は、例えば、人または患者によって吐き出された呼気を直接分析するのではなく(人工呼吸器に直接接続するか、またはBuffered End-Tidal Breath Sampling Inlet(BET-med)装置(Ionicon、インスブルック、オーストリア)などの呼気分析のための呼気収集装置を使用する)、サンプルの保存工程を追加することよる異なる様式に従って実施することもでき、患者のベッドから呼気を採取し、バッグ(テドラーバッグタイプ)または脱着チューブ(テナックスタイプ)に保存し、その後、別の場所(例えば、研究室)で同じ技術(PTR-MS)または類似技術(GC-MS、GC-IMSなど)で分析する。
【0032】
本発明の方法はまた、以下の特徴のうち少なくとも1つを有し得る:
人が侵襲的機械換気を受けている;
サンプルが呼気のサンプルである;
サンプルを得る工程は、人と直接連通する移送ラインを介してサンプルを得ることを含み、例えば、移送ラインは、人に設置された気管内チューブの端部に接続される;
移送ラインを加熱することを含む;および
人が窒素と酸素の混合物である空気または純粋な酸素を吸引している。
【0033】
本発明はまた、SARS-CoV-2および/またはCOVID-19の診断、スクリーニングまたはモニタリングのための装置であって、
少なくとも1つの範囲において分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)により定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の少なくとも1つの値を決定する手段と、
前記範囲または各範囲は前記範囲の中央値および限界値によって定義される;
前記値に少なくとも1つの検定を適用する手段と
前記範囲および前記検定は、以下を特定するために構成される:
人がSARS-CoV-2を保有している、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していること、
人がSARS-CoV-2を保有していない、および/もしくはSARS-CoV-2に感染していないこと、
人がCOVID-19に罹患していること、ならびに/または
人がCOVID-19に罹患していないこと
を含んでなる、
装置も提供する。
【0034】
本発明の装置はまた、以下の特徴のうち少なくとも1つを含み得る:
呼気サンプルを受容するための手段;
気管内チューブの端部に接続するために構成されたコネクタを備えた移送ライン;
移送ラインを加熱するための手段;および
質量分析計、例えばプロトン移動反応質量分析計などの分光計。
【0035】
本発明はまた、本発明の方法の実行を制御するため、または本発明による装置を制御するために構成されたコード命令を含んでなる、プログラム、ならびにプログラムをダウンロードするという観点で通信ネットワーク上にこのプログラムを提供する方法も提供する。
【0036】
以下、下記の図面により、本発明を実施する2つの非限定的な例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図6】
図1~6は、本発明を実施する第1の例でCovid-19に罹患している患者から吐き出された呼気中の成分の分析結果を示すグラフを示す。
【
図7】
図7は、本発明による装置の実施形態を示す。
【
図8】
図8は、本装置を用いて本発明の方法を実施した場合に得られたグラフを示す。
【
図9】
図9は、プロトン移動反応質量分析を用い、最も顕著な4つの特徴(質量電荷比([M+H]
+)によって定義した場合にm/z=99.08、m/z=111.12、m/z=135.09およびm/z=143.15)の分析に関して得られたグラフを示す。
【
図10】
図10は、本発明の方法の実施形態で用いた検定または決定規則の1つを示す。
【
図11】
図11は、本発明を実施する第2の例における対象者群によるm/z 99.08シグナルの発現レベルを示すグラフである。
【
図13】
図13は、第2の例においてm/z 99.08シグナル強度とCt(サイクル閾値)を対応させたグラフである。
【
図14】
図14は、第2の例においてm/z 99.08シグナル強度と実施されたPCR間の経過時間を対応させた時間である。
【
図16】
図15および16は、本例における診断性能を示すグラフおよびマトリックスである。
【
図18】
図17および18は、本例における補完分析に関する同様のグラフおよびマトリックスである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
第1の例
呼気分析は、揮発性有機化合物(VOC)を検出するための革新的な非侵襲的技術であり、診断および大規模スクリーニングに使用できる可能性がある9,10。感染症、炎症または病的イベント後のヒト呼気には何千というVOCが確認されている11,12。呼気の分析は、結核、侵襲性真菌感染症および気道の細菌定着13-16、また、集中治療室(ICU)の患者のARDSおよび人工呼吸器関連肺炎17-22の診断に使用することができる。同様に、VOC分析は、慢性閉塞性肺疾患患者のウイルス感染および豚モデルでのインフルエンザ感染の診断にも価値がある23,24。
【0039】
本発明者らは、重症のCOVID-19または非COVID-19急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のために集中治療室で侵襲的機械換気を受けている成人の呼気のメタボローム解析を実施するために、リアルタイム、オンライン、プロトン移動反応飛行時間型質量分析計を用いた。
【0040】
2020年3月25日から6月25日の間に、40人のARDS患者を対象とし、そのうち28人にCOVID-19が証明された。多変量解析において、COVID-19に特徴的なブレスプリントを特定した。このシグネチャーは、65の揮発性有機化合物のセットによって形成される。ランキング集約によれば、このシグネチャーの中で最も顕著な8つの揮発性有機化合物は、PTR-MS検出による質量電荷比([M+H]+)によって定義すると、重要な順に、m/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08、m/z=111.12、m/z=71.05、m/z=55.05、m/z=83.09およびm/z=93.04であることが示された。全シグネチャーを用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を93%の精度(感度:90%、特異度:94%、受信者操作特性曲線下面積:0.93~0.98)で区別することができる。最も顕著な8つの化合物を用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を90~93%の精度(感度:85~90%、特異度:93~94%、受信者操作特性曲線下面積:0.95~0.98)で区別することができる。最も重要な4つの特徴(PTR-MS検出による質量電荷比([M+H]+によって定義した場合にm/z=99.08、m/z=111.12、m/z=135.09およびm/z=143.15)を用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を89~93%の精度(感度:90~98%、特異度:88~94%、受信者操作特性曲線下面積:0.89~0.95)で区別することができる。
【0041】
呼気中の揮発性有機化合物のリアルタイムの非侵襲的検出は、COVID-19を有する患者の特定を可能とする。
【0042】
研究デザイン、監督および参加者
本研究は、Raymond Poincare病院(ガルシュ、フランス)のICUで実施された。ICUに入院中の成人患者(18歳以上)で、ARDSを呈し、侵襲的機械換気を必要とする患者を対象とした。以下の全てを満たす場合にARDSと定義した:(i)急性発症、すなわち明らかな臨床的障害から1週間以内に発症し、その後呼吸器症候群が進行する、(ii)胸部画像診断において、他の肺疾患(例えば、胸水、無気肺、結節など)で説明できない両側混濁、(iii)心不全または体液過剰のエビデンスがない、(iv)PaO2/FiO2≦300mmHgおよび呼気終末陽圧(PEEP≧5cm H2O)26。主な除外基準は、妊娠、48時間以内の死亡の予測、および治療の差し控えまたは撤回であった。
【0043】
試験測定および手順
ベースライン時に記録された変数は、患者の人口統計学および人体測定学、感染源および重症度(簡易急性生理学スコア(SAPS)IIおよび臓器不全評価(SOFA)による)であった27,28。以下の変数をベースライン時と入院中毎日記録した:中核体温、バイタルサイン、中心血行動態データ、標準検査データ、微生物学およびウイルス学データ。血液および鼻咽頭、気管支または気管支肺胞洗浄液のサンプルをSARS-CoV-2およびその他の呼吸器ウイルスについて、PCR検査を用いて分析した。また、機械換気、腎代替療法、急速点滴および血管圧迫薬の投与を含む生命維持療法、ならびにコルチコステロイド、チアミン、ビタミンC、その他のビタミン、栄養補助食品、血液製剤、抗凝固剤、鎮静剤、ストレス性潰瘍予防薬および抗感染症薬を含む補助療法も記録した。
【0044】
呼吸解析
各患者の呼気は、退院まで毎日午前中に分析した。測定は、病室の外に設置したプロトン移動反応四重極飛行時間型質量分析計(PTR-Qi-TOF MS)(Ionicon Analytik GmbH、インスブルック、オーストリア)を用いて行われた。サンプルは、気管内チューブの端部に直接接続された(すなわち、機械式人工呼吸器から切り離されることなく)加熱された移送ライン(長さ:1,6m)を介して、50mL/分の空気流で取得した。サンプルマトリックス中の酸素濃度への依存を排除するために、記録は、少なくとも3分間、吸入酸素の割合が100%の患者において行われた29。取得には2分かかった。一次イオンとしてH3O+を用い、装置設定は以下の通りであった:ソース電圧120V、ドリフトチューブ圧力3.8ミリバール、ドリフトチューブ温度60℃、およびドリフトチューブ電圧959V。質量スペクトルはm/z=392まで取得し、時間分解能は0.1秒とした。
【0045】
分光計のデータを提示する際、(正式には)無次元m/zを用いることが一般的であることを思い起こされる。この量は非公式に質量電荷比と呼ばれているが、正確には質量数mと電荷数zの比を表す。分光計は、イオン化した化合物のこの質量電荷比を測定することができる。例えば、分子Mの場合、一次イオンとしてH3O+を用いると、PTR-MSで[M+H]+形式が検出され得る。
【0046】
データおよび統計分析
患者の特徴は、連続変数については中央値[四分位範囲(IQR)]、カテゴリー変数については頻度(%)で表した。COVID-19の有するおよび有さない患者は、カテゴリー変数についてはフィッシャーの正確検定、正規分布および非正規分布の連続変数(dダゴスティーノ-ピアソン検定で評価)についてはt検定またはマン・ホイットニー検定をそれぞれ用いて比較した。
【0047】
質量分析データは、CEAがCeCILLライセンスに基づいて開発したptairMSソフトウエア(https://github.com/camilleroquencourt/ptairMS)で処理し、マスキャリブレーション、呼気相検出、ピーク検出と定量、正規化、アライメント、同位体識別および欠損値の補完を含んだ。各個のピークをアライメントした後、少なくとも1つの群(COVID対非COVID-19)の70%以上で検出されたイオンを保持し、その結果、81の特徴が得られた。欠損値(前処理アルゴリズムで検出されなかった呼気中のイオンに相当)は、生データに戻り、正確な欠損m/zのノイズを積分するptairMSパッケージを用いて入力した。その後、データをlog2変換し、標準化した。外れ値(少なくとも5つの特徴についてzスコア>3である患者)は削除した。残りの患者では、飽和イオン(アセトン、H3O+、H2O-H3O+、酸素)および同位体が削除され、65の特徴の最終的な表が得られた。
【0048】
単変量解析では、ウィルコクソン検定を行い、p値は偽発見率を制御するために補正した30。多変量解析では、まず教師なし学習の主成分分析で分析し、次にRパッケージのropls、e1071、glmnet、およびrandomForestを用いた教師あり機械学習アルゴリズム(直交部分最小二乗判別分析、線形サポートベクターマシン、エラスティックネット、およびランダムフォレスト)を用いて分析した31-34。少ないデータ点数のオーバーフィッティングを避けるため、10倍のクロスバリデーションを4回繰り返した。モデルのパラメーターは、クロスバリデーションの精度を最適化するために調整した。
【0049】
特徴を重要な順にランク付けするために、ウィルコクソン検定の秩序だったp値、主成分分析の負荷量の絶対値の降順順位、直交部分最小二乗判別分析の投影における変数重要度、エラスティックネットとサポートベクターマシンの係数値、およびランダムフォレストの特徴重要度のランク集約(RankAggreg Rパッケージ35)を使用した。また、一回換気量、PEEP、呼吸数、血清C反応性タンパク質(CRP)レベル、体温、および腎代替の影響を相関検定で調べ、主成分分析の第2主成分を用いて、これらの共変量が交絡因子かどうかを判定した(連続変数にはピアソン検定、カテゴリー変数にはカイ2乗検定を使用)。
【0050】
最も重要な特徴の縦断的解析は、固定効果に時間的に一様に分布する4つのスプライン関数の和を用いた混合効果モデルで行った。傾向および平均濃度の群間差は、偽発見率に関して補正したF検定(p値<0.05)で評価した。VOC濃度、SAPS II、SOFAスコアおよびウイルス量間の相関は、ピアソンの相関検定を用いて分析し、偽発見率に関して補正した。
【0051】
結果
患者
2020年3月25日から6月25日の間に、40人の患者(うち28人はCOVID-19関連のARDSが確認)を試験に含めに、合計303回の測定を行った。
【0052】
非COVID-19 ARDS患者と比較して、COVID-19 ARDS患者は、(i)入院前のグルココルチコイドによる治療の発生率が高く、(ii)入院時の呼吸数、FiO2、PEEPおよびCRPが高く、(iii)入院後のヒドロキシクロロキンおよびフルドロコルチゾンによる治療の発生率が高く、ならびに(iv)腎代替療法の可能性がより高かった(表1)。
【0053】
【0054】
呼気の代謝分析
まず、COVID-19 ARDSに関連するバイオマーカーを特定するために、アンターゲットメタボローム戦略を用いた。この目的のために、入院後に採取した最初の呼気サンプルを用いた。40人の参加者のうち12人は、サンプリング期間の開始時に10日を超えて入院していたため、この研究の最初の部分から除外した。従って、COVID-19 ARDS患者18人と非COVID-19 ARDS患者10人を分析した。
【0055】
主成分分析と直交部分最小二乗判別分析により、COVID-19は呼気中の特定のシグネチャーと関連していること、すなわちブレスプリントがCOVID-19患者と非COVID-19患者を識別できることが示された。
図1は、この教師なし解析を示す。SARS-CoV-2のPCR検査が陽性(赤)または陰性(青)であった、挿管され、機械換気を受けているICU患者の呼気シグネチャーの一次成分分析(左)と直交一次最小二乗判別分析(右)。
【0056】
3つの機械学習分類アルゴリズム(エラスティックネット、サポートベクターマシンおよびランダムフォレスト)の使用により、全シグネチャーの65の特徴から19(エラスティックネット)、16(ランダムフォレスト)または65(サポートベクターマシン)の特徴を用いて、10倍のクロスバリデーションを4回繰り返し、最大93%の精度が得られた。対応する受信者操作特性曲線を
図2aに示す。これらの曲線は、COVID-19対非COVID-19 ARDSの患者を分類するモデルに対するものである。内部クロスバリデーション後、感度は90%、特異度は94%であった。
【0057】
交絡効果の可能性を特定するために、まず、COVID-19の状態と、患者の人口統計学(性別、年齢、体重、身長および体格指数)、臨床データおよび生体データ(体温、SAPS IIおよびSOFAスコア、血清CRPおよび血清クレアチニン)、合併症(高血圧、慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、および癌)、換気パラメーター(呼吸数、呼気終末陽圧および一回換気量)、ならびに治療(カテコールアミン、腎代替、ヒドロキシクロロキン、レムデシビル、ロピナビル/リトナビル、グルココルチコイド、フルドコルチゾンおよびエクリズマブ)の利用可能な全ての共変数との間の関係を検証した。定量的変数にはウィルコクソン検定を、定性的変数にはカイ二乗検定を適用し、いずれも偽発見率補正を行った。
【0058】
COVID-19の状態に有意に関連する変数(p値<0.05)は、呼気終末陽圧と呼吸数であった(
図3-A)。
図3は、呼気終末陽圧と呼吸数の影響を次のように示している。
A.COVID-19 ARDS状態による、呼気終末陽圧(PEEP)と呼吸数。ウィルコクソン検定のp値を示す。
B.PEEP<10(左)または呼吸数>20(右)の患者に対応するサブセットの主成分分析。
【0059】
記号「+」と「-」は、患者のCOVID-19状態を示す。因子の強度(色の勾配で表示)と主成分分析の二次成分のスコア(すなわち、COVID-19 ARDと非COVID-19 ARDSを最もよく識別する成分)を比較するピアソン相関検定のp値を示す。
【0060】
そこで、これらの変数が交絡効果を持つかどうかを判断するために、一方では呼気終末陽圧<10、他方では呼吸数>20の患者のみを残し、サンプルを2つのリバランス群に制限した。次に、この制限されたデータセットの主成分分析から得られた二次成分に対して、ピアソンの相関検定を適用した。いずれの場合にもやはり、二次成分はCOVID-19 ARDSと非COVID-19 ARDSの症例を区別し、呼気終末圧または呼吸数との相関は見られなかった(
図3-B)。
【0061】
他の共変数についても、完全なデータセットを用いて同じ手順を用いた。主成分分析の二次成分と有意に相関するものはなかった(
図4)。
図4は、主成分分析と相関分析における一回換気量、CRPおよび体温の影響を示す。COVID-19の状態は「+」と「-」で表し、カラースケールは因子の強度を表す。各グラフに、二次成分と対応する因子を比較したピアソン相関検定のp値を表す。
【0062】
どのVOCがCOVID-19の状態を最も判別しやすいかを調べるために、前述のモデルおよび仮説検定による様々な指標を用いてランク集約を行った。
【0063】
このシグネチャーで最も顕著な8つの揮発性有機化合物は、PTR-MS検出による質量電荷比([M+H]+)で定義した場合、重要度の順に、m/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08、m/z=111.12、m/z=71.05、m/z=55.05、m/z=83.09およびm/z=93.04であった。これらの最も顕著な8つの化合物を用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を90~93%の精度(感度:85~90%、特異度:93~94%、受信者操作特性曲線下面積:0.95~0.98)で区別することができる。
【0064】
最も重要な4つの特徴(PTR-MS検出による質量電荷比([M+H]+によって定義した場合にm/z=99.08、m/z=111.12、m/z=135.09およびm/z=143.15)を用いると、COVID-19患者と非COVID-19患者を89~93%の精度(感度:90~98%、特異度:88~94%、受信者操作特性曲線下面積:0.89~0.95)で区別することができる。
【0065】
対応する受信者操作特性曲線下面積は、最も顕著な8つの化合物(m/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08、m/z=111.12、m/z=71.05、m/z=55.05、m/z=83.09およびm/z=93.04)については
図2bに、最も顕著な4つの化合物(m/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08およびm/z=111.12)については
図2cに示す。
【0066】
図9は、プロトン移動反応質量分析による最も顕著な4つの特徴(質量電荷比([M+H]
+)で定義した場合に(m/z=99.08、m/z=111.12、m/z=135.09およびm/z=143.15)の分析について得られたグラフを示す。各曲線は、試験の患者を表す。そして、COVID+状態の患者とCOVID-状態の患者の曲線は視覚的に区別される。各中央値に関連する範囲を示す。
【0067】
機械換気期間を通じて、全試験集団の最も顕著な4つのVOCの発現を調査した(
図5b)。
図5は、呼気中のVOCの縦断的解析を示す。モデルに最も寄与する4つの特徴(m/z 99.08、135.09、143.15および111.12)は、COVID-19(赤)または非COVID-19 ARDS(青)の挿管し、機械換気を受けている患者のICU滞在中の、患者ごとに利用できる最初のサンプル(a)および時間経過(b)で評価した。ある患者のポイントは全てつながっており、太線は各群の混合モデルの固定効果に対応している。
【0068】
VOC濃度は、(i)COVID-19 ARDS患者の呼気中で、非COVID-19 ARDS患者の呼気よりも有意に高く、(ii)入院の最初の10日間に減少する傾向があると認められた。m/z 135.09、143.15、99.08および111.12の4つの化合物の推定アノテーションはそれぞれ1-クロロヘプタン、ノナナール、メチルペンタ-2-エナール、および2,4-オクタジエンであった。
【0069】
ウイルス量および重症度スコアとの相関
気管支肺胞液のウイルス量を18人の患者について測定した。第1サンプルの中央値[IQR]は、7.2[6.2~8.4]log eq.コピー/mLであった。第1サンプルのVOC濃度は、気管支肺胞液のウイルス量ともICUで最初の24時間に測定された重症度(すなわち、SAPS IIおよびSOFAスコア27,28)とも有意な相関はなかった(表2)。
【0070】
【0071】
本研究は、ICUで侵襲的な機械換気を必要とするCOVID-19関連ARDS患者の呼気において、VOCの測定と特定のVOCブレスプリントの決定を行う概念実証を提供した。このブレスプリントは、重症度およびウイルス量とは無関係であった。4つの特徴(m/z 99.08、111.12、135.09および143.15)は、縦断的解析において、COVID-19と非COVID-19 ARDSを識別する。
【0072】
これら4つの顕著なVOCのうち2つ(m/z=143.15およびm/z=99.08、メチルペンタ-2-エナールおよびノナナールに相当すると思われる)はアルデヒドであり、2,4-オクタジエン(m/z=111.12)はアルカジエンであり、3つの化合物は全て呼気に現れることが知られている38,39。ノナナール(m/z=99.08)は、酸化ストレスの結果としての細胞膜破壊の副産物であり、活性酸素種は気道の様々なタイプの炎症、免疫および構造細胞によって生成され得る40。ARDS患者の呼気の研究では、Schubertらが異常に低いイソプレン濃度を見出し、Bosらが異常に高いオクタン、アセトアルデヒドおよび3-メチルヘプタン濃度を報告している21,22。研究集団(非COVID-19対COVID-19 ARDS)および分析方法(オフライン対オンライン)の違いが、本研究で特定されたVOCとARDSに関する過去の研究で特定されたVOCとの違いを説明する可能性がある21,22。
【0073】
これまでの報告と同様に、今回測定したVOC濃度は、重症度(SAPS IIおよびSOFAスコアで判断)と相関していなかった21。このことは、呼気シグネチャーが重症度ではなく、COVID-19自体のマーカーであることを示唆する。同様に、VOC濃度はウイルス量と相関はなく、このシグネチャーはウイルス保有者のマーカーではなく、SARS-CoV-2に関連した疾患のマーカーであり得ることを示唆する。
【0074】
本発明者らのデータの解釈は、COVID-19と非COVID-19 ARDSサブグループ間の違いによって制限された可能性がある。COVID-19 ARDSコホートの患者は、入院時の呼吸数、FiO2、PEEPおよびCRP値が高かった。呼吸数、PEEPおよびCRPは交絡因子であるとは認められる、全ての患者が100%FiO2呼吸時にサンプリングされた(酸素による質量分析の干渉を避けるため)29。
【0075】
FiO2は、患者が換気している空気中の酸素のパーセンテージを示し、値は21%(周囲空気)から100%(純酸素、最も重症の患者用)の範囲である。この酸素のパーセンテージは、PTR-MSでの分析に干渉する。このため、全ての患者で、まず基礎的なFiO2レベル(21~100%)で1回目の分析を行い、次に全ての患者を100%FiO2で5分間換気して標準化した値を得、2回目の分析を行った。ここでは、この2回目の分析の結果のみを詳述する。
【0076】
図6のグラフは、4つの対象化合物のそれぞれについて、2つの分析で測定された値を表す。最初の4つのグラフは、初期%FiO
2の関数として全ての患者について得られた値(「生」値(cps、上の線)、または正規化(ncps、下の線、正規化手順はここでは詳述しない))を示す。図の他の4つのグラフは、1回目の測定(左側の値、「ベース」)と100%FiO
2での2回目の測定(右側の値)の間に各患者について観察された変動を表す。実施した統計解析では有意差は示されず、酸素のパーセンテージが4つの対象化合物の分析に支障をきたさないことが示唆される。
【0077】
同様に、COVID-19 ARDS患者は、ヒドロキシクロロキンおよびフルドロコルチゾンによる治療を受けている可能性が高かった。しかしながら、これらの薬物は、第1サンプルが分析された後に患者に投与されたものであった。VOC濃度は時間の経時的に減少したが、治療法は変わらなかった。最後に、今回の研究で記載されたVOCと、ヒドロキシクロロキンまたはフルドロコルチゾンの既知の代謝物の分子量との間には一致が見られない。
【0078】
データ解析に使用したptairMS Rパッケージは、https://github.com/camilleroquencourt/ptairMSで全て利用可能である。
【0079】
これらの知見により、高感度、迅速、非侵襲的、リアルタイム質量分析法による呼気分析を適用することができる36,37。これは、サンプリングステップと遠隔で時間のかかる分析ステップを必要とするオフライン技術とは対照的である21,22。その後の診断検証と臨床実施は、目的とする分析に専用の質量分析計または異なるVOC系列に対して比較的選択性の高いセンサーセットを備えた携帯型の「電子鼻」(以前ARDS患者に使用した通り)など、より扱いやすい技術に基づくことができる20。
【実施例】
【0080】
以下、
図7および8を参照して、COVID-19のスクリーニング、診断またはモニタリングのための装置の第1の実施形態を示す。
【0081】
装置102は、本体104を含む。
【0082】
この装置は、呼気サンプルを受容するための手段を含む。これらの手段は、細長い移送ライン106を含む。移送ラインの一端は、気管内チューブ110の端部に接続するように構成されたコネクタ108を有する。このチューブは、侵襲的な機械換気のために人112の顔面に設置するように構成されている。移送ライン106のもう一端114は、本体104の内部に延在している。
【0083】
この装置はまた、移送ラインを加熱するための手段116の含み、これは、成分または化合物が患者から出る瞬間から呼気サンプルが装置102内で分析される瞬間まで、それらを保存するのに役立つ。
【0084】
この装置は、本体104の内部に、呼気サンプル中にm/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08およびm/z=111.12が存在するかどうかを判定するように構成された手段を含む。これらの手段は、この例では、ライン106を通って移送された呼気サンプルを分析するように構成されたプロトン移動反応質量分析計118を含む。
【0085】
この装置は、コンピューターおよび/または電子制御手段120を備える。これらの手段は、以下に提示される方法を実行するために装置102を制御するように構成されたコード命令を含むプログラムを含む。このプログラムは、装置がこのネットワークに古典的手段で接続された際に、このプログラムを装置にダウンロードするという観点で通信ネットワーク上に提供することができる。
【0086】
本発明の方法は、この装置102を用いて以下のように実施される。
【0087】
人112は侵襲的機械換気を受けていると仮定する。気管内チューブ110がその人に装着されている。移送ライン106のコネクタ108は、気管内チューブ110に接続されている。この人は、例えばFiO2100%の空気を吸っており、これは、この人が純酸素を吸入していることを意味する。
【0088】
この方法は、加熱手段116で搬送ラインを加熱する工程を含む。
【0089】
この方法は、次に、加熱された移送ラインを経由して人112から呼気のサンプルを得る工程を含む。よって、呼気サンプルは、分光計にかけられ分析されるように本体104に入る。
【0090】
次に、本方法は、サンプル中にm/z=135.09、m/z=143.15、m/z=99.08およびm/z=111.12が存在するかどうかを判定する工程を含む。
【0091】
この目的のために、分光計118および制御手段120は、範囲群において、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を決定する工程を実行し、各範囲は、中央値および範囲の限界によって定義される。この例では、群は以下の範囲からなる:
m/z=135.09(135.03~135.17)、
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、
m/z=111.12(111.07~111.18)。
【0092】
図8は、装置内に受容された呼気中の特定の成分の量を時間の関数として第2のグラフに示す。サンプルは、ほぼ1分10秒~1分20秒に装置内に受容される。その瞬間、いくつかの成分の量は上昇し、その後減少する。
【0093】
最初のグラフは、異なる成分の強度または濃度をそれらの質量(m/z)の関数として示す。このように各ピークは異なる成分を表す。ピークが高いほど、呼気中の成分の強度または濃度は高い。本装置は、呼気中に8つの成分のうち1つ、2つ、3つ、または全てが存在するかどうかを直接、リアルタイムで評価することができる。
【0094】
この目的で、本装置では、サンプル中の各成分の値m/z([M+H]+)を決定する。
【0095】
次に、これらのシグナル強度または濃度を使用して、データで訓練された機械学習モデルのおかげで、COVID感染の確率を予測する。そのために、この方法は、少なくとも1つの検定または決定規則を値に適用する工程を含み、その群および検定または決定規則は、COVID-19の患者を特定するために構成される。
【0096】
本実施形態では、例えば、エラスティックネット、ランダムフォレストおよびサポートベクターマシン(SVM)の検定または決定規則を使用することができる。この検定工程は、例えば以下のように実行される。
【0097】
測定濃度を対象とするk種類のVOCのppbで対数変換する。それらの値を
【数1】
で示す。
【0098】
エラスティックネット
32
この個人がCOVID-19陽性群に属する確率を一般に次のように定義する。
【数2】
式中、
【数3】
は、本発明者らのデータから推定された既知の係数であり、および
【数4】
【0099】
pが特定の閾値(例えば0.5)より大きい場合、その個人はCOVID-19陽性群に属しているとみなされる。
【0100】
対象とする4つのVOCを伴う本発明者らの例では、イオン99.08、111.12、135.09および143.15濃度の対数
【数5】
を記載する。
【0101】
このモデルを訓練および調整した後、決定規則が得られる。
【数6】
【0102】
pが0.5より大きい場合、その個人はCOVID-19陽性群に属しているとみなされる。
【0103】
ランダムフォレスト
ランダムフォレストアプローチは、多くの決定木の予測値の集約に基づく
33。ここでは、
図10に示すものとして500本の決定木がデータから構築されている。各決定木は、本発明者らの変数のランダムなサブセットから構築される。図の決定木では、イオン135.09の対数が-1.416より小さい場合、患者は陽性群に属するとみなされる。そうでない場合は、イオン99.09の対数濃度を調べる。これが-0.7923より小さい場合、患者は陰性群に属す。500本の決定木について陰性(0)か陽性(1)かの結果を記載する。正の出力が負の出力より多ければ、その個人はCOVID-19陽性群であるとみなされる。
【0104】
SVM
34
2つのクラスを分離する超平面h(x)=0の方程式は、本発明者らのデータから推定されており、例えば線形の場合:
【数7】
または一般の場合:
【数8】
であり、
式中、
【数9】
は、超平面(サポートベクトルと呼ぶ)を構築するために使用する患者の特徴値であり、Kはカーネルであり、
【数10】
は、既知の推定係数を表す。
【0105】
h(x)>0(それぞれh(x)≦0)の場合、患者はCOVID-19陽性(それぞれ陰性)群に属する。
【0106】
対象とする4つのVOCを伴う本発明者らの例では、イオンm/z=99.08、111.12、135.09、143.15濃度の対数
【数11】
を記載し、その平均および分散は、訓練データからの値に従ってスケーリングされている。
【0107】
モデルを訓練および調整した後、決定規則を得る。
【数12】
【0108】
【数13】
>0である場合、患者はCOVID-19陽性群に属する。
【0109】
これらの検定または決定規則のうち1つまたは少なくとも2つが実施される。
【0110】
次に、検定または決定規則の結果に従ってメッセージが通知される。これは、例えば、検定または決定規則の結果を装置の画面に表示すること、物理学者に電子メールを送信することなどを含む。
【0111】
エラスティックネットモデルおよびSVMモデルの上記の例は、対象とする4つのVOCに関して与えられたものである。ここでは、65種類の対象VOCを伴うエラスティックネット検定を用いた場合の係数の値を示す。
【0112】
【0113】
ここで、65種類の対象VOCを備えたSVM検定を使用するため係数の値を示す。
【0114】
【0115】
よって、本方法は、リアルタイム、オンライン、プロトン移動反応飛行時間型質量分析計を用いて、重症のCOVID-19または非COVID-19急性呼吸窮迫症候群(ARDS)のため集中治療室で侵襲的機械換気を受けている成人の呼気のリメタボローム解析を実施する。これはCOVID-19患者を特定するための呼気中のリアルタイム、非侵襲的検出である。
【0116】
第2の例
本発明者らは、今般、本発明によるSARS-CoV-2を保有する、またはSARS-CoV-2に感染している可能性のある自然呼吸者(非挿管者)におけるSARS-CoV-2に関するPTR-MS呼気分析結果を提供する。
【0117】
これらの結果は、Foch病院が推進するVOC-COVID-DIAG(NCT04614883)およびVOC-SARSCOV-DEP(NCT04817371)臨床研究(科学コーディネーターおよび主任研究者らはPhilippe Devillier教授とHelene Salvator博士)のおかげで得られた。
【0118】
これらの研究の目的は、SARS-CoV-2(COVID-19)もしくは他の呼吸器系向性ウイルスが疑われる入院患者、またはSARS-CoV-2感染の体系的スクリーニングを受けた入院患者、ならびにワクチン接種を受けたボランティアにおいて、SARS-CoV-2感染診断のための質量分析、電子鼻および/または嗅覚によって分析された揮発性有機化合物(VOC)の価値を検証することであった。各患者について、分析のために呼気サンプルを、また、イヌの嗅覚または他の非詳細質量分析技術によるVOC分析のために汗サンプルを採取した。また、特定の症状(発熱、倦怠感、咳、下痢、嗅覚消失、無気力、頭痛、呼吸困難、多呼吸、低酸素など)の存在に応じて、調査員が0~4のスケールで症状スコアを設定した。
【0119】
本発明に関する結果は、PTR-MS分析に関するものであり、この技術で使用可能な合計136人の患者で入手可能なデータを分析したものである。
【0120】
最初の実施例の結果は、集中治療室で挿管され、機械的換気を受けている患者を対象としたが、これらの研究の患者は自然呼吸であり、従って、試験デザインは若干異なっていた。また、以下の本実施例の説明では、簡単にするためにまとめて「患者」と表記するが、中には実際にCOVID-19に感染していない者も、単に、臨床症状の有無にかかわらず、SARS-CoV-2を保有しているまたはSARS-CoV-2に感染している可能性がある者もいる。
【0121】
ここでは、病棟で患者の呼気を専用の呼気採取バッグ(Tedlarバッグ(登録商標))に、適切な装置を用いてそのバッグの中に患者が息を吐き出すことにより採取した。バッグを閉じた後に分析室に移送した。その後、フレキシブルチューブをTedlarバッグに接続し、バッグの内容物を質量分析計に直接吸引し、50ml/分の流速でリアルタイム分析を行った。その他の分析およびデータ処理手順は、上記のものと同様であった。
【0122】
患者を3群に分けた:
感染なし:SARS-CoV-2 PCR陰性:69人(ワクチン接種者50人、ワクチン未接種者19人);
以前の感染 SARS-CoV-2 PCR陰性だが、前週または前月にCOVID-19の感染歴がある:12人;および
最近の感染 SARS-CoV-2 PCR陽性:55人。
【0123】
データは、Camille RoquencourtおよびEtienne Thevenot(CEA)が開発したptairMSソフトウエアで分析した。
【0124】
1-単変量解析
単変量解析によれば、m/z 99.08シグナル(p値<0.001 ウィルコクソン検定)について、群環で有意に異なるシグナルが示され、これは集中治療患者の研究における4つの有意なシグナルのうちの1つであった。患者群に応じたm/z 99.08シグナルの発現レベルを表すグラフを
図11に示す。
【0125】
以下の点に注意する必要がある。
【0126】
右に示す「最近の感染」群では、シグナル強度が最も低い12人の患者に特異性があり、特にそのうち5人はサンプリング1~9日前にデキサメタゾン(抗炎症性グルココルチコイド薬)による前処置を受けており、2人は臓器移植患者(腎臓または肺)で免疫抑制治療中であり、1人は吸入グルココルチコイド治療中の喘息患者であった。
【0127】
「以前の感染」群を中央に示す。
【0128】
左に示す「感染なし」群では、最も強度が高い2人の患者は、他の感染症、すなわちクロストリジウム性大腸炎と敗血症(大腸菌養陽性血培養)の患者であった。
【0129】
「感染なし」群では、50人がワクチン接種者、19人が非接種者であった。ワクチン接種者と非接種者の間でm/z 99.08シグナル強度に有意差は認められず(
図12参照)、ワクチン接種状況が提案するスクリーニング手法の妨げにならないことが示唆された。
【0130】
次に、m/z 99.08シグナル強度が、「最近の感染」群でこの値が得られた場合に、上咽頭スワブのPCRアッセイで測定されたCt(サイクル閾値)値と相関しているかどうかを評価した。これは、上咽頭スワブの逆転写酵素定量ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)によるSARS-CoV-2検出に関して得られたものである。Ctは、各サンプルに存在するウイルス量を反映するものであり、検査で検出されたSARS-CoV-2遺伝子mRNAのコピー数が多いほど、Ctは低くなる。結果を
図13に示すが、2つのパラメーター間に相関がないことが示され、呼気検査はウイルス量が多い患者も少ない患者も同様に検出すると思われることが示唆された。
【0131】
また、同じ群で、m/z 99.08シグナル強度とPCRを実施するまでの経過時間に相関があるかどうかを調べた。結果を
図14に示すが、相関はなく、呼気検査はごく最近の感染もそれほど最近でない感染(最大15日間の遅延)と同様に検出できることが示唆された。
【0132】
この例は、人がSARS-CoV-2を保有しているか、もしくはSARS-CoV-2に感染していること、または人がSARS-CoV-2を保有していないか、もしくはSARS-CoV-2に感染していないことを特定するための方法を実行してもよいことを示し、この方法は、
人から吐き出された呼気に由来する元素を含んでなるサンプルを得ること;
前記サンプルを分光計にかけること;
m/z=99.08(99.04~99.14)を含む1つのみの範囲において分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を1つのみ決定すること;
前記値に少なくとも1つの検定を適用すること;および
前記検定の結果に従ってメッセージを通知すること
を含んでなる。
【0133】
この検査は、例えば、強度または濃度が所定の閾値、例えば1.67ppbを超えているか(従って、その人はSARS-CoV-2を保有しているか、もしくはSARS-CoV-2に感染している)または超えていないか(従って、その人はSARS-CoV-2を保有していないか、もしくはSARS-CoV-2に感染していない)ことを判定する工程を含む。m/z 99.08の濃度に基づくロジスティック回帰では、1.67ppbと推定される閾値により、74%の精度(精度40%、再現性97%およびAUC 0.853)でSARS-CoV-2の保有または感染の検出が可能となる。
【0134】
2-多変量解析
A-アンターゲット解析
アライメント、インピュテーション、同位体抑制、飽和イオン(m/z 37およびm/z 59)と酸素イオン、ならびに外れ値抑制の工程の後、82個のVOCと134人の患者のマトリックスが得られる。この解析では、SARS-CoV-2のPCR検査が陰性であった患者(単変量解析の「感染なし」および「以前の感染」の2群に相当)とSARS-CoV-2のPCR検査が陽性の患者の2群のみを考慮し、陽性患者55人と陰性患者79人となった。
【0135】
モデルを構築するために、5つのデータを追加した:
サンプリング前のコルチコステロイド治療歴(0 無し、1 有り)、
COVID-19のワクチン接種状況(0 無し、1 有り)、
症状スコア(0~4)、
サンプリング時の酸素療法(0 無し、1 有り)、および
PCRからの時間(日)。
【0136】
その後,エラスティックネットモデルを用いて,COVID-19の状態を予測した。最適なペナルティパラメーターを選択するために、10倍のクロスバリデーションを4回繰り返し、それぞれの倍数で40%の感染者と60%の非感染者の割合であった。最も精度の高いパラメーターを選択した。
【0137】
特徴m/z 99.08のシグナル強度、症状スコア、サンプリング前のコルチコステロイド治療歴および酸素療法を含む選択モデルは、クロスバリデーションにおいて91%の精度でCOVID-19を検出することを可能とする。診断性能は
図16のグラフに示し、受診者操作特性曲線下面積(AUC)は0.961で、1に近い。
図15は混同行列で、精度は85.5%、再現性は93.4%である。
【0138】
従って、この例はまた、人がSARS-CoV-2を保有しているか、もしくはSARS-CoV-2に感染していること、または人がSARS-CoV-2を保有していないか、もしくはSARS-CoV-2に感染していないことを特定するための方法を実行してもよいことを示し、この方法は、
人から吐き出された呼気に由来する元素を含んでなるサンプルを得ること;
前記サンプルを分光計にかけること;
m/z=99.08(99.04~99.14)を含む1つのみの範囲において分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を1つのみ決定すること;
サンプリング前にコルチコステロイドおよび/または酸素療法を行ったかどうか、症状スコアを決定すること;および
前記値に少なくとも1つの検定を値に適用して、患者がSARS-CoV-2を保有するか、またはSARS-CoV-2に感染している確率を予測すること(エラスティックネットモデルについて記載した通り)
を含んでなる。
【0139】
B-ターゲット分析
この第2の例では、挿管され、機械的換気を受けている患者に対して用いたモデルと同じモデルを用い、4つのシグナルm/z 99.08、m/z 111.12、m/z 135.10およびm/z 143.14の濃度のみを用いた補完的解析を行った。それは、ロジスティック回帰を用いて、10倍クロスバリデーションで78%の精度でCOVID-19の状態を予測することを示す。モデルの混同行列および診者操作特性曲線下面積を
図17および
図18に示す。
【0140】
この場合、この例は、人がSARS-CoV-2を保有しているか、またはSARS-CoV-2に感染していることを特定するための方法を実行してもよいことを示し、この方法は、
人から吐き出された呼気に由来する元素を含んでなるサンプルを得ること;
前記サンプルを分光計にかけること;
以下の範囲:
m/z=135.09(135.03~135.17)、
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、および
m/z=111.12(111.07~111.18)
を含む群内で、分光計によって与えられる質量電荷比(m/z)によって定義されるイオンのシグナル強度および/または濃度の値を決定すること;
前記値に少なくとも1つの検定を適用すること;および
前記検定の結果に従ってメッセージを通知すること
を含んでなる。
【0141】
それ以外は、その方法は、第1の例と同様に実行する。
【0142】
結論
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明から逸脱することなくこれらの実施形態に多くの変更を行うことができる。
【0143】
他のタイプの分光計を使用することも可能である。しかし、この種の分光計は、呼気を直接受容し、分析結果を直ちに提供することができる。他の種類の分光計では、より多くの操作が必要で、一定時間の後に結果が出る場合がある。
【0144】
あるM分子について、上記のm/z値は、使用した質量分析計(PTR-TOF-MS)の特徴である。このタイプの装置では、質量が200に相当する分子Mは、その形態[M+H]+(検出を可能にする電荷を与えるために、分光計が分子にプロトンを「グラフト」する)、すなわちm/z=201で検出される。また、同じ分子Mを、異なる技術に基づく他のタイプの質量分析計、例えばGC-MSで検出することも可能で、この場合には、この同じ分子Mについて、4または5のフラグメント、例えば72、125、140および172に対応する質量が得られる。さらに他のタイプの質量分析計でも、本発明者らの値と厳密に同じ値を得ることができる(SESI-MSなど)。従って、同じ範囲であっても、その範囲の異なる中央値および限界値によって定義される場合がある。
【0145】
例としては、ガスクロマトグラフィー質量分析(GCMS)、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)およびプロトン移動反応質量分析(PTR-MS))、イオンモビリティ分光分析、フィールド非対称イオンモビリティ分光分析、示差移動分光分析(DMS);近赤外(NIR)、選択イオンフロー管質量分析(SIFT)、二次エレクトロスプレーイオン化(SESI)質量分析、フーリエ変換赤外(FOR)分光法およびリングダウン、キャビティ分光法または光吸収分光法などの赤外線分光法(IR分光法)が挙げられる。
【0146】
質量分析は、クロマトグラフィー分離技術と直列して使用することができる。例えば、GCMSは、ガスクロマトグラフィーと質量分析の特徴を組み合わせて化合物を同定するための分析法である。同様に、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)は、液体クロマトグラフィーと質量分析の特徴を組み合わせて化合物を同定するための分析法である。
【0147】
イオンモビリティ分光分析(IMS)は、気相中のイオン化分子を、キャリアバッファーガス中の移動度に基づいて分離および同定する分析技術である。この技術は、質量分析および/またはクロマトグラフィー分離技術と組み合わせることができる。純酸素を吸引させることは強制ではない。他の割合のFiO2を使用してもよい。
【0148】
本装置は、侵襲的機械的換気を受けている人に使用することができるが、受けていない人に使用することもできる。それは、病気の人、または病気の疑いのある人および/またはCOVID-19に罹患していると診断された人であり得る。それは、ARDSを有する人またはARDSを有しない人であってもよい。それは症状がある人または症状がない人であってもよい。機械的換気を受けていない人の場合、気管内チューブの端部に直接接続された移送ライン以外のサンプリング装置、例えばBuffered End-Tidal Breath Sampling Inlet(BET-med装置、Ionicon、インスブルック)を使用してもよい。
【0149】
対象とするVOCの数(またはm/zの範囲)は、1、4、8および65の例で説明している。しかし、検定または決定規則がこの数のVOCとともに使用されるように適切に設計されていれば、例えば10、12、20、30などの他の多くの数が可能である。
【0150】
示されるように、この数のVOCはまた、1つだけであってもよい。この場合、VOCは、8の群においてすでに述べた以下の範囲のいずれかに相当し得る:
m/z=135.09(135.03~135.17)、
m/z=143.15(143.07~143.22)、
m/z=99.08(99.04~99.14)、
m/z=111.12(111.07~111.18)、
m/z=71.05(71.02~71.09)、
m/z=55.05(55.03~55.09)、
m/z=83.09(83.05~83.13)、および
m/z=93.04(93.00~93.09)。
【0151】
さらに、65より少ない数のVOCを使用する場合、対象とする選択されたVOC(またはm/zの範囲)は、65の完全なシグネチャーの中で最も顕著なものの中にある必要はない。最も顕著なものではないVOCの数(および関連する検定または決定規則)により、良好なシグネチャーが得られる可能性がある。
【国際調査報告】