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特表2023-543721心不全の処置のためのクロマノール化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】心不全の処置のためのクロマノール化合物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20231011BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20231011BHJP
   C07D 311/66 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 31/453 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A61K31/353
A61P9/04
C07D311/66 CSP
A61K31/453
A61K31/496
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518173
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(85)【翻訳文提出日】2023-04-19
(86)【国際出願番号】 EP2021075967
(87)【国際公開番号】W WO2022058620
(87)【国際公開日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】2026511
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】515169186
【氏名又は名称】スルファテック・ベスローテン・フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】Sulfateq B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング, ロバート ヘンク
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル グラーフ, アドリアヌス コルネリス
(72)【発明者】
【氏名】クレニング, グイド
(72)【発明者】
【氏名】ヴィゲンハウザー, ルーカス モリッツ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BC21
4C086BC50
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
本発明は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)を処置するための特定のクロマノール、キノン又はヒドロキノン化合物及びそれらの誘導体に関する。具体的には、本発明は、S-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン及びS-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノンから選択されるクロマノール化合物、並びに薬学的に許容され得るその塩に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆出率が低下した心不全の処置又は予防に使用するための、式(I)若しくは(II)による化合物、式(II)のヒドロキノン類似体、又はその薬学的に許容され得る塩。
【化1】

-式中、R1は、水素又は生体組織中で除去することができるプロドラッグ部分を表し、
-以下のいずれかである:
R2とR3とは、それらが結合しているN原子と一緒になって、1~4個のN、O若しくはS原子を有する飽和若しくは不飽和の非芳香族の、置換されていてもよい5~8員環を形成しており、R2とR3とは一緒になって3~12個の炭素原子を含有するか;
又は、R2は、水素原子、若しくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R3は、窒素若しくは酸素で置換されていてもよいアルキル基であり、前記アルキル基は3~12個の炭素原子を含み、R3のアルキル基は、環内に窒素若しくは酸素原子を含んでいてもよく且つ直鎖及び/若しくは分岐鎖の置換された基を含有していてもよい1つ以上の非芳香族環状構造と、1つ以上のエチレン性不飽和とを含む。
【請求項2】
R1が水素であるか、又は6-酸素と一緒になって2~6個の炭素原子を有するエステル基を形成する、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
R2及び/若しくはR3中の窒素がアミン、第四級アミン、グアニジン又はイミンであり得、R2及び/若しくはR3中の酸素がヒドロキシル、カルボニル若しくはカルボン酸であり得;並びに/又はR2及び/若しくはR3中の酸素及び窒素が一緒になってアミド、尿素又はカルバメート基を形成し得る、請求項1または2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
式(I)又は式(II)のいずれかの化合物において、R2とR3とが、それらが結合しているN原子と一緒になって、更なるN原子を組み込んだ飽和環を形成し、この環は、置換されていないか、又はアルコール若しくは1~4個の炭素原子を有するアルカノール基で置換されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記化合物が式Iによる化合物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
R2とR3とが、それらが結合しているN原子と一緒になって、1個の更なるアミン基を含む5~7員環を形成し、該環は、メチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換されていてもよい、請求項5に記載の使用のための化合物。
【請求項7】
R2が水素原子であり、R3が、4~7個の炭素原子及び1個の窒素原子を有する飽和環状構造を含み、該環は、アルキル基、アルコール基、又は酸素、カルボン酸若しくはアミン基を含み得る1~4個の炭素原子を有する基で置換されていてもよい、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記化合物が式IIによる化合物であり、式中、R2が水素原子であり、R3が4~6個の炭素原子を有し且つ1個の窒素原子を有する環状構造を含み、該環は、メチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換されていてもよい、請求項7に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
前記化合物が、ラセミ混合物として若しくはそのエナンチオマーの1つとして、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-121)、((S)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-N-((R)-ピペリジン-3-イル)クロマン-2-カルボキサミド塩酸塩(SUL-13)、若しくは(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-109)、又はその薬学的に許容され得る塩である、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記化合物が、SUL-121の2R-エナンチオマー:(2R)-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-150)又はその薬学的に許容され得る塩である、請求項9に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記式(I)又は式(II)による化合物が500Da未満の分子量を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
前記処置又は予防が、心不全を処置するための1つ以上の一般的な手段との併用療法で行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
駆出率が低下した心不全を有する患者が、50%以下の保持された駆出率(HFmrEF)を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
前記駆出率が低下した心不全を有する患者が、約40%以下の保持された駆出率(HFrEF)を有する、請求項13に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
I.発明の分野
本発明は、駆出率が低下した心不全(HFrEF)の処置又は予防のためのクロマノール化合物及びその誘導体に関する。
【0002】
II.背景技術の説明
心不全は、臨床的診断であり、明白な心機能異常によって引き起こされる、息切れ、疲労、及び静脈圧の上昇を含む症状及び徴候によって特徴付けられる(Pearse and Cowie2014)。
【0003】
様々なタイプの心不全があり、これらは一般に、駆出率が低下した心不全(HFrEF)、駆出率が保持された心不全(HFpEF)、及びうっ血性心不全として分類される。一般に、これらの症状は異なって処置され、あるタイプの心不全に適した薬剤は、一般に、他のタイプの心不全を処置するのには適していない。
【0004】
HFrEFは、通常は心エコー検査から得られる左室駆出率(LVEF)を参照して定量化され、50~60%よりも高い値が正常と認められる。駆出率が保持された心不全に罹患している患者も、≧50%の値を示す。40%未満の値は、低下したLVEF(HFrEF)と考えられ、40~49%の範囲のLVEFを有する患者は、軽度に低下した駆出率(HFmrEF)を有する心不全として定義される「中間領域」を表す。HFmrEFを有する患者は、主に軽度の収縮機能不全を有する可能性が最も高いが、拡張機能不全の特徴も有する。
【0005】
LVEFに基づくHFを有する患者の鑑別は、基礎となる病因、人口統計、併存疾患及び治療に対する応答が異なるため重要である。
【0006】
無症候性の構造的又は機能的な心臓異常(例えば、収縮期又は拡張期の左心室(LV)機能不全)は、心不全の前兆である。しかしながら、弁、心膜、心内膜、心調律及び伝導の異常もまた、心不全を引き起こす可能性がある(2つ以上の異常が存在することが多い)。
【0007】
駆出率が低下した心不全に罹患している患者は、拡張期機能不全の要素と一般に組み合わされる左心室収縮期機能不全も有する。(Yancy et al.JACC Vol 62,No.16.2013)
【0008】
心不全の基礎となる心臓障害の同定は、正確な病態により、使用される特定の処置(例えば、弁膜症のための弁修復又は置換、EFの低下を伴うHFのための特定の薬物療法、頻脈心筋症における心拍数の低下など)が決まるため、治療上の理由から極めて重要である。(ESCガイドライン2016)。
【0009】
国際公開第2020/096862号は、心室をリモデリングするための心臓デバイスであって、このデバイスは、駆出率が低下した心不全の経皮的処置として、第1の心室壁から第2の心室壁まで延びるように構成された力を分配するための手段と、力を分配するための手段を第1の心室壁における組織の第1の領域に固定するように構成された第1の複数の係留手段とを備える、心臓デバイスを記載している。
【0010】
ロシア国特許出願公開第2422136号明細書は、β遮断薬、利尿薬、組換えヒトインターロイキン及びACE阻害剤を使用して、左心室駆出率が低下した慢性心不全を処置する方法を開示している。
【0011】
そのような方法が利用可能であるにもかかわらず、駆出率が低下した心不全の処置のための新しい方法又は化合物が依然として必要とされている。
【0012】
本発明の目的は、駆出率が低下した心不全(HFmrEF若しくはHFrEF)の処置又は予防のための化合物を提供することである。
【0013】
III.発明の概要
上記の目的は、そのような処置に使用するための特定のクロマノール、キノン又はヒドロキノン化合物を提供することによって満たされる。
【0014】
上記の目的は、駆出率が低下した心不全の処置又は予防に使用するための、式(I)、(II)による化合物、式(II)のヒドロキノン類似体、又はその薬学的に許容され得る塩を提供することによって、本発明によって満たされる。
【0015】
【化1】

-式中、R1は、水素又は生体組織中で除去することができるプロドラッグ部分を表し、
-以下のいずれかである:
R2とR3とは、それらが結合しているN原子と一緒になって、1~4個のN、O若しくはS原子を有する飽和若しくは不飽和の非芳香族の必要に応じて置換されていてもよい5~8員環を形成し、R2とR3とは一緒になって3~12個の炭素原子を含有する;
又はR2は、水素原子、若しくは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であり、R3は、窒素若しくは酸素で必要に応じて置換されていてもよいアルキル基であり、アルキル基は、3~12個の炭素原子を含み、R3のアルキル基は、環内に窒素若しくは酸素原子を含んでいてもよく且つ直鎖及び/若しくは分岐鎖の置換された基を含有していてもよい1つ以上の非芳香族環状構造と、1つ以上のエチレン性不飽和とを含む。
【0016】
本発明に関して、式(II)による化合物は、水素化キノン(すなわち、ヒドロキノン)類似体を含むが、安定性の観点からキノン誘導体が好ましい。
【0017】
式IIの化合物は、式Iによる化合物の代謝産物の1つである。したがって、式Iの化合物は、式IIの化合物のプロドラッグであり、式中
【0018】
好ましい実施形態において、窒素はアミン、第四級アミン、グアニジン又はイミンであり得、酸素はヒドロキシル、カルボニル又はカルボン酸であり;及び/又は酸素と窒素とは一緒になってアミド、尿素又はカルバメート基を形成してもよい。
【0019】
好ましい実施形態において、式(I)中のR1は、水素であるか、又は6-酸素と一緒になって2~6個の炭素原子を有するエステル基を形成する。
【0020】
式(I)又は式(II)のいずれかの化合物の好ましい実施形態において、R2とR3とは、それらが結合しているN原子と一緒になって、更なるN原子を組み込んだ飽和環を形成し、この環は、置換されていないか、又はアルコール若しくは1~4個の炭素原子を有するアルカノール基(例えば、エチロール)で置換されている。
【0021】
別の好ましい実施形態において、R2は水素原子であり、R3は、4~7個の炭素原子及び1個の窒素原子を有する飽和環状構造を含み、この環は、アルキル基、アルコール基、又は酸素、カルボン酸若しくはアミン基を含み得る1~4個の炭素原子を有する基で置換されていてもよい。
【0022】
別の好ましい実施形態において、この化合物は、式IIによる化合物であり、R2は水素原子であり、R3は、4~6個の炭素原子を有し且つ1個の窒素原子を有する環状構造を含み、この環は、置換されていないか、又はアルコール若しくは1~4個の炭素原子を有するアルカノール基(例えば、エチロール)で置換されており、好ましくは、必要に応じて、メチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで置換されている。
【0023】
別の好ましい実施形態において、この化合物は、式Iによる化合物であり、R2は水素原子であり、R3は、4個~7個の炭素原子及び1個の窒素原子を有する飽和環状構造を含み、この環は、置換されていないか、又はアルコール若しくは1個~4個の炭素原子を有するアルカノール基(例えば、エチロール)で置換されており、好ましくは、メチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで必要に応じて置換されている。
【0024】
更に別の好ましい実施形態によれば、化合物は、ラセミ混合物として若しくはそのエナンチオマーの1つとして、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-121)、((S)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-N-((R)-ピペリジン-3-イル)クロマン-2-カルボキサミド塩酸塩(SUL-13)、若しくは(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-109)、又はその薬学的に許容され得る塩のいずれかである。
【0025】
Sエナンチオマーは有効であるが、最も好ましい実施形態において、化合物は、SUL-121の(2R)-エナンチオマー、すなわち(2R)-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-150)又はその薬学的に許容され得る塩であり、Rエナンチオマーは更に一層有効であると思われる。
【0026】
本発明による好ましい実施形態において、式(I)又は式(II)のいずれかによる化合物は、500Da未満の分子量を有する。
【0027】
本発明による好ましい実施形態において、式(I)又は式(II)のいずれかによる化合物は、駆出率が50%以下に低下した駆出率低下心不全(HFmrEF)の処置又は予防に使用するためのものであり、更により好ましくは、式(I)又は式(II)のいずれかによる化合物は、駆出率が40%以下に低下した駆出率低下心不全(HFrEF)の処置又は予防に使用するためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
IV.図面の簡単な説明
図1】SUL-150投与が、駆出率の低下を伴う心不全の発症を少なくともある程度妨げることを示す。ラットへのドキソルビシンの長期投与は、(A)心拍数、(B)駆出率、(C)一回仕事量及び(D)心拍出量の減少によって特徴付けられる、駆出率の低下を伴う心不全をもたらす。SUL-150の経口投与は、予防的又は治療的のいずれかで、心機能におけるこれらの変化の少なくとも一部を妨げる。p<0.05対シャム、†p<0.05対ドキソルビシン/賦形剤。
図2】EGFP合成がH9C2心筋細胞の細胞サイズ及びタンパク質合成と関連することを示す。(A)フェニレフリンは、H9C2心筋細胞の細胞表面積及び(B)EGFP発現を用量依存的に増加させる。(C)H9C2心筋細胞表面積は、EGFP発現に関連する。(D)フェニレフリンは、H9C2心筋細胞のタンパク質合成を用量依存的に増加させる。(E)H9C2心筋細胞タンパク質合成は、EGFPの発現と関連する。(F)フェニレフリンは、賦形剤処置対照心筋細胞と比較して、H9C2心筋細胞においてEGFP発現を誘導する。タンパク質合成阻害剤ブレフェルジンAは、H9C2心筋細胞におけるEGFPの発現を減少させる。
図3】SUL化合物が、ラットH9C2心筋細胞におけるフェニレフリン誘導性肥大応答を阻害することを示す。フェニレフリンは、H9C2心筋細胞においてEGFPの発現を用量依存的に誘導する(灰色の線、図A~H)。30μMの(A)SUL-11、(B)SUL-99、(C)SUL-127、(D)SUL-13、(E)SUL-138又は(F)SUL-138の一次代謝産物SUL-138M2、(G)SUL-150又は(H)SUL-151とのプレインキュベーションは、心筋細胞によるEGFPの発現を減少させた。
図4】SUL-150投与がドキソルビシン誘導性心臓線維形成を妨げることを示す。ラットへのドキソルビシン長期投与は、心筋細胞間のコラーゲン沈着の増加によって特徴付けられる線維形成をもたらす。SUL-150の経口投与は、予防的又は治療的のいずれかで、心臓線維形成を妨げ、心臓組織中のコラーゲン含有量を低下させる。
図5】SUL-150投与が心臓酸化ストレスを軽減することを示す。ドキソルビシン長期投与は、脂質過酸化産物(TBARS、A)の増加によって示されるように、心臓酸化ストレスを誘導する。経口SUL-150投与は、予防的又は治療的レジメンのいずれかで、心臓酸化ストレスの誘導を妨げ、脂質過酸化産物のレベルをベースライン(A)に維持する。酸化ストレスは、ラジカル産生の増加又はラジカル捕捉活性の減少から生じ得るので、心臓ラジカル捕捉を調査した(B)。ドキソルビシン投与もSUL-150投与も心臓ラジカル捕捉活性を変化させなかった。
図6】SUL-150投与が心臓エネルギーレベル及びミトコンドリアコピー数を維持することを示す。ドキソルビシン長期投与は、心臓ATPレベル(ADPに対して正規化)を枯渇させ、ミトコンドリア機能不全を示唆する(A)。SUL-150投与は、予防的又は治療的レジメンのいずれかで、心臓エネルギー損失を軽減する。ドキソルビシン長期投与は、心臓mtDNAコピー数(B)を減少させ、これはATPの損失が背景にあると考えられる。SUL-150は、mtDNAコピー数の減少を軽減する。ドキソルビシン処置ラットでは、mtDNAコピー数は心臓駆出率(EF)と関連しており、心臓ミトコンドリア質量の維持が心筋収縮性の改善の背景にあることを示唆している(C)。
図7】SUL-150がドキソルビシンストレス下で呼吸複合体IVの活性を維持することを示す。H9C2心筋芽細胞をドキソルビシン(1μM)に24時間曝露し、その後、それらのミトコンドリアを単離し、複合体IV活性について評価した。ドキソルビシン曝露は複合体IV活性を低下させたが、これはH9C2心筋芽細胞のSUL-150との同時処理によって軽減される。
【0029】
V.発明の詳細な説明
駆出率低下した心不全(HFrEF)の処置又は予防のための化合物を提供する本発明の目的は、HFrEFの処置又は予防において使用するための、上に示した式(I)若しくは(II)による化合物、又は薬学的に許容され得るその塩を提供することによって満たされる。
【0030】
本発明によるクロマノール、キノン又はヒドロキノン化合物による処置又は予防は、好ましくは、心不全を処置するための1つ以上の一般的な他の手段との併用療法の一部である。
【0031】
R1は、化合物がプロドラッグであるように、ヒトの体内で容易に除去される置換基であり得る。R1は、例えば、アミノ酸誘導体又はエステル誘導体であり得、一般に100ダルトン未満の分子量を有する。
【0032】
好ましい実施形態において、式(I)中のR1は、水素であるか、又は6-酸素と一緒になって2~6個の炭素原子を有するエステル基を形成する。エステルは、1個以上のエーテル基又はアルコール基を含み得る。適切なエステルは、アセテート、ブチレート、3-ヒドロキシブチレートなどである。
【0033】
式(I)又は式(II)のいずれかの化合物の好ましい実施形態において、R2とR3とは、それらが結合しているN原子と一緒になって、3~6個の炭素原子を有し且つ1個の更なるN原子を組み込んだ飽和環を形成し、この環は、酸素、カルボン酸又はアミン基を含んでいてもよい1~4個の炭素原子で置換されていてもよい。
【0034】
より好ましくは、R2とR3とは、それらが結合しているN原子と一緒になって、1個の更なるアミン基を含む5~7員環を形成し、この環は、メチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで必要に応じて置換されている。
【0035】
別の好ましい実施形態において、R2は水素原子であり、R3は、3~6個の炭素原子及び1個の窒素原子を有する環状構造を含む。
【0036】
より好ましくは、R2は水素原子であり、R3は1個の更なるアミン基を含む5~7員環を含み、この環はアミド-窒素に結合しており、この環はメチル、エチル、又はアルコール置換メチル若しくはエチルで必要に応じて置換されている。
【0037】
いずれの場合においても、環(R2及びR3によって形成される環状構造、若しくはR3単独の環状構造)は、置換されていなくてもよいし、1~4個の炭素原子を有するアルキル、アルコール、又は1~4個の炭素原子を有するアルカノール基(例えば、エチロール)で置換されていてもよい。
【0038】
本発明による好ましい実施形態において、式(I)又は式(II)のいずれかによる化合物は、500Da未満の分子量を有する。
【0039】
好ましい実施形態において、本発明による使用のための化合物は、式Iによるクロマノール化合物である。
【0040】
特定のクロマノール化合物が、国際公開第2014/098586号に記載されている。詳細に記載された化合物は、SUL-XXX(XXXは2又は3桁の数字である)を指す略語を有する。これらの化合物の多くはラセミ混合物であるが、いくつかのエナンチオマーも同様に試験されている。本発明によるクロマノール化合物を調製するための適切な方法は、国際公開第2014/098586号又は国際公開第2014/011047号に記載されている。
【0041】
国際公開第2017/060432号は、2-ヒドロキシ-2-メチル-4-(3,5,6-トリメチル-1,4-ベンゾキノン-2-イル)-ブタン酸のアミド誘導体及びそのような化合物の製造方法を開示している。
【0042】
水素化キノン誘導体は、キノン構造の水素化によって容易に調製することができる。
【0043】
更に別の好ましい実施形態によれば、化合物は、ラセミ混合物として若しくはそのエナンチオマーの1つとして、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-121)、((S)-6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチル-N-((R)-ピペリジン-3-イル)クロマン-2-カルボキサミド塩酸塩(SUL-13)、若しくは(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-109)、又はその薬学的に許容され得る塩のいずれかである。
【0044】
最も好ましい実施形態において、化合物は、SUL-121のR-エナンチオマー、すなわちR-(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノン(SUL-150)又はその薬学的に許容され得る塩である。
【0045】
薬学的に許容され得る塩中の対イオンは、当技術分野で公知の対イオンであり得る。好ましくは、化合物は、プロトン化され得る少なくとも1つの塩基性窒素、アミンを有する。対イオンは、好ましくは、ハロゲン、例えば塩化物、硫酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩などであり、最も好ましくは塩化物である。
【0046】
これらの化合物は、ラセミ混合物として、又は実質的に純粋なエナンチオマー形態で有効である。化合物は、1つ以上のキラル中心、一般に1つ又は2つのキラル中心を有する。
【0047】
好ましくは、化合物は、実質的に鏡像異性的に純粋な化合物である。実質的に鏡像異性的に純粋とは、約95%以上の鏡像体過剰率、より好ましくは約98%の鏡像体過剰率、最も好ましくは約99%以上の鏡像体過剰率である。また、化合物が2つ以上のキラル中心を含む場合、これらの量が適用される。
【0048】
化合物は、好ましくは、HFrEFの処置又は予防を達成するために有効量で使用される。駆出率が約40%以下である、HFrEF。
【0049】
処置又は予防という用語は、心拍数及び心拍出量などの心機能の改善を含む、心不全の症候の改善及び/又は心不全の進行の抑制を含む。
【0050】
好ましくは、本発明による化合物は、哺乳動物の器官におけるHFrEFの処置又は予防に使用するためのものであり、哺乳動物は好ましくはヒトである。
【0051】
HFrEFは、通常は心エコー検査から得られる左室駆出率(LVEF)を参照して定量化され、50~60%よりも高い値が正常と認められる。駆出率が保持された心不全に罹患している患者も、≧50%の値を示す。40%未満の値は、低下したLVEF(HFrEF)と考えられ、40~49%の範囲のLVEFを有する患者は、軽度に低下した駆出率(HFmrEF)を有する心不全として定義される「中間領域」を表す。HFmrEFを有する患者は、主に軽度の収縮機能不全を有する可能性が最も高いが、拡張機能不全の特徴も有する。
【0052】
本発明は、50%以下(HFmrEF)及び約40%以下(HFrEF)の保持された駆出率を有するHFrEFの処置における使用のための化合物を提供する。好ましくは、処置に使用するための化合物は、約40%以下の保持された駆出率のHFrEFを処置するためのものである。
【0053】
効果は一般に体液中約1μMの量で観察されるが、好ましくはより高い量が使用される。好ましい量は、in vivo又はin vitroで約10μM以上、より好ましくは約20μM以上の濃度である。一般に、約200μM以下のヒトにおける濃度が十分且つ安全であるべきである。
【0054】
ヒトへの使用に関して、これは、30Lの分布容積、100%の利用可能性及び約1μMの濃度を想定して、約10mg以上の投薬量を意味する。好ましい量は、約10μMの濃度をもたらし、約100mg以上の投薬量が適している。したがって、好ましくは、約20mg以上、好ましくは50mg以上、好ましくは100mg以上の剤形が適切である。
【0055】
一般に、固体経口剤形は、医薬品添加剤を考慮して、最大約500mg、好ましくは約450mg以下の化合物を含有する。
【0056】
例えば静脈内(i.v.)などの非経口投与、又は他の液体形態の投与では、より多くの量を投与することができる。
【0057】
使用され得る投薬量の例は、0.2mg/kg以上の投薬量の本発明の化合物の有効量であり、例えば、好ましくは、約1mg/kg~約100mg/kgの範囲内、又は約2mg/kg~約40mg/kg体重の範囲内、又は約3mg/kg~約30mg/kg体重の範囲内、又は約4mg/kg~約15mg/kg体重の範囲内である。本発明の化合物は、単回1日用量で投与されてもよく、又は総1日用量は、1日2回、3回又は4回の分服で投与されてもよい。
【0058】
本明細書に記載の化合物は、薬学的又は生理学的に許容される医薬品添加剤、担体、及び賦形剤などの添加剤と共に製剤化することによって、医薬組成物として製剤化することができる。
【0059】
適切な薬学的又は生理学的に許容され得る医薬品添加剤、担体及び賦形剤としては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、単糖類、二糖類、シクロデキストラン、デンプン、ゼラチン、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、デキストロース、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、ポリビニルピロリドン、低融点ワックスなど、並びにこれらの任意の2つ以上の組み合わせのような、処理剤及び薬物送達調整剤及び増強剤が挙げられる。他の適切な薬学的に許容され得る医薬品添加剤としては、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」,Mack Pub.Co.,New Jersey(1991)が挙げられる。
【0060】
医薬組成物は、好ましくは単位用量製剤を含み、単位用量は治療効果を有するのに十分な用量である。単位用量は、疾患の処置又は抑制の過程で定期的に投与される用量であり得る。
【0061】
本発明の化合物は、経腸的、経口的、非経口的、舌下、吸入(例えば、ミスト若しくはスプレーとして)、直腸的、又は局所的に、従来の非毒性の薬学的又は生理学的に許容され得る担体、アジュバント、及び賦形剤を所望どおり含有する投薬単位製剤で投与され得る。本明細書で使用される非経口という用語は、皮下注射、静脈内、筋肉内、足根内注射、又は注入技術を含む。化合物は、所望の投与経路に適した薬学的に許容され得る担体、アジュバント、及び賦形剤と混合される。
【0062】
一般に、経口投与が好ましい投与経路であり、経口投与に適した製剤が好ましい製剤である。
【0063】
本明細書で使用するために記載される化合物は、固体形態、液体形態、エアロゾル形態、又は錠剤、丸剤、粉末混合物、カプセル剤、顆粒剤、注射剤、クリーム剤、液剤、坐剤、浣腸剤、結腸洗浄剤、乳剤、分散剤、食品プレミックスの形態、及び他の適切な形態で投与することができる。化合物は、リポソーム製剤で投与することもできる。
【0064】
注射用調製物、例えば、滅菌注射用水性又は油性懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、公知の技術に従って製剤化され得る。滅菌注射用調製物はまた、非毒性の非経口的に許容され得る希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用溶液若しくは懸濁液、例えば、プロピレングリコール中の溶液であってもよい。使用可能な許容され得る賦形剤及び溶媒の中には、水、リンガー溶液、及び等張性塩化ナトリウム溶液がある。更に、滅菌不揮発性油が、溶媒又は懸濁媒体として従来から用いられている。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の無刺激性固定油が用いられ得る。更に、オレイン酸などの脂肪酸が、注射剤の調製に使用される。
【0065】
薬物の直腸投与用の坐剤は、薬物を、室温では固体であるが直腸温度では液体であり、したがって直腸内で融解して薬物を放出するカカオバター及びポリエチレングリコールなどの適切な非刺激性医薬品添加剤と混合することによって調製することができる。
【0066】
経口投与用の固体剤形としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、及び顆粒剤を挙げることができる。そのような固体剤形において、活性化合物は、スクロース、ラクトース、又はデンプンなどの少なくとも1種の不活性希釈剤と混合され得る。そのような剤形はまた、不活性希釈剤以外の更なる物質、例えばステアリン酸マグネシウムなどの滑剤を含んでもよい。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含んでもよい。錠剤及び丸剤は更に、腸溶コーティングを用いて調製することができる。
【0067】
経口投与用の液体剤形としては、水などの当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤を含有する薬学的に許容され得る乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤、及びエリキシル剤を挙げることができる。そのような組成物はまた、アジュバント(例えば、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、シクロデキストリン、並びに甘味剤、香味剤、及び付香剤)を含み得る。
【0068】
単一剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる有効成分の量は、有効成分が投与されるホスト及び特定の投与様式に応じて変化する。選択される単位用量は、通常、血液、組織、器官、又は身体の他の標的領域に薬物の規定された最終濃度を提供するように製造及び投与される。所与の状況に対する有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、一般的な臨床医又は当業者の技能及び判断の範囲内である。
【0069】
本発明を以下の実施例を用いて更に説明する。実施例では、図面を参照する。
【0070】
VI.実施例
実施例1
HFrEFの処置又は予防のための本発明による化合物の有効性を、ラットにおいてインビボで試験した。癌の化学療法において使用されるアントラサイクリン系抗生物質であるドキソルビシンを用いて、臨床前ラットモデルにおいて駆出率が低下した心不全を誘発した(Christiansen et al.(2006)Eur.J.Cardiothorac.Surg.30:611-616;Ertunc et al.(2009)Pharmacology 84:240-248; Hayward et al.(2007)J.Am.Ass.Lab.Animal Sci.46:20-32)。
【0071】
実験
SUL-150(250mg)を100%EtOH(1.02mL)に溶解し、蒸留水(68.7mL)で更に希釈して、透明な10mM溶液を得た。SUL-150溶液を標準的な食品ペレット(1.25kg)上に均一に噴霧した。食品ペレットを一晩空気乾燥した。食品ペレットを毎週新たに調製した。食品ペレット中のSUL-150が200mg/kg、350gのラットの1日の食事摂取量が25gと近似しているため、SUL-150の1日の用量は5mg/日と近似する。
【0072】
250~300グラムの雄性非近交系Wistarラット(10~12週齢)を12時間の明/暗サイクルで飼育し、蒸留水を含む標準飼料を自由に摂取させた。30匹のラットに、ドキソルビシン(2mg/kg)を9週間連続して腹腔内注射により毎週投与し、未処置のままにしたか(標準固形飼料食、10匹のラット)、又は予防(1回目のドキソルビシン投与前、10匹のラット)若しくは治療(6回目のドキソルビシン投与後に開始、10匹のラット)としてSUL-150を補充した食餌を与えた。シャム対照ラット(8匹のラット)に、腹腔内注射により生理食塩水を9週間連続で毎週投与し、標準食を与えた。全てのラットを、最初のドキソルビシン投与の12週間後に心機能評価に供した。
【0073】
心機能検査(PVループ評価)を、麻酔(O2中のイソフルラン(FiO2 100%))下で行い、その後、経口気管挿管を行った。ラットを、10mL/kgの一回換気量及び毎分70回の呼吸で機械的げっ歯類人工呼吸器(Harvard Apparatus社、マサチューセッツ州ホリストン在)に入れた。胸骨の下に小さな窓を開け、小さな切開で2Fマイクロチップ圧力コンダクタンスカテーテル(SPR-838;Millar Instruments社、テキサス州ヒューストン在)を、心尖を通して左心室(LV)に直接挿入した。安定化後、シグナルを、データ取得システム(PowerLab、AD Instruments社、コロラド州コロラドスプリングス在)に接続された圧力-体積コンダクタンスシステム(MPVSSUL Ultra、Millar Instruments社、テキサス州ヒューストン在)で記録した。
【0074】
平均動脈圧(MAP)、LV一回仕事量(LVSW)、一回拍出量(SV)、LV拡張終末期容積(LVEDV)、LV収縮終末期圧(LVESP)、平均動脈圧とLV収縮終末期圧との比(MAP LVESP)、LV駆出率(LVEF)、心拍数(HR)、LV収縮期圧増分の最大勾配(dP/dt max)、及びLV圧減衰の時定数(tau)を定常状態条件で得た。
【0075】
前負荷操作のために、下大静脈を圧迫し、データを収集して、前負荷動員一回仕事量(PRSW)、dP/dt-拡張終末期容積関係(dP/dt EDV)、収縮終末期及び拡張終末期P-V関係の勾配(ESPVR及びEDPVR)を評価した。
【0076】
各動物由来の新鮮なヘパリン処理した温かい血液を用いて体積較正を行った。また、50mLの7.5%高張食塩水を、並列コンダクタンス体積較正のために各実験の終わりに注入した。
【0077】
データをGraphPad Prism 8.0(GraphPad Software Inc社、カリフォルニア州)で分析する。全ての結果を平均±S.D.として表す。(標準偏差)又は中央値及び四分位数間隔。群間の差をANOVAによって評価した後、FDR補正を使用して多重比較のためにp値を調整したシャム群及び賦形剤処置群に対するペアワイズ比較を行った。
【0078】
結果
図1は、ラットへのドキソルビシン長期投与が、心拍数、駆出率、及び一回仕事量の減少によって示されるように心不全の発症をもたらし、最終的に心拍出量の重度の減少をもたらすことを示す(は、シャムに対してp<0.05を示す)。図1は更に、ドキソルビシンの投与前に食品ペレットによりSUL-150を投与すると(予防群)、心機能が実質的に保持され、駆出率及び心拍出量が大きく維持されることを示している(†はドキソルビシン処置群に対してp<0.05を示す)。6回の累積ドキソルビシン投与後の食品ペレットによるSUL-150の投与(治療群)は、非処置群と比較して心機能を実質的に改善し(ドキソルビシン処置群と比較してp<0.05)、パラメータは予防群について得られたパラメータと異ならず、SUL-150が心不全の治療薬であることを示した。
【0079】
表1は、ドキソルビシン誘導性心不全が、駆出率の低下を伴う心不全(HFrEF)として現れ、収縮能力及び弛緩能力の両方の低下によって特徴付けられ、心臓組織内のリモデリング又は線維形成を示している。
【0080】
SUL-150の投与は、予防レジメン又は治療レジメンのいずれかで、収縮能力(すなわち、dP/dTmax、収縮効率)及び弛緩能力(すなわち、)を維持し、理論に束縛されることを望むものではないが、SUL-150が心臓線維形成を阻害するか、又は収縮エネルギーを増加させることを示唆している。
【0081】
結論
ドキソルビシン誘導性心不全は、心収縮、したがって心拍出量の低下によって特徴付けられる。6-クロマノールSUL-150による処置は、心収縮機能、したがって心拍出量を実質的に改善する。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例2
実施例2は、in vitro実験において、本発明によるいくつかの異なる化合物が、本発明によらないトロロックス及びいくつかの他のトロロックス誘導体と比較して改善された有効性を有することを示す。
【0084】
心室肥大は、低下した駆出率を伴う心不全(HFrEF)に直接関連する高血圧症及び弁膜症などの血行力学的にストレスの多い状態が悪化する前兆となる。
【0085】
心不全における心室肥大は、心臓質量の増加及び非対称な心室間中隔肥厚に起因する。組織学的特徴としては、心筋細胞サイズの増加(すなわち、心筋細胞肥大)、筋細胞の無秩序な配置(筋原線維錯綜配列)、並びに多くの心筋症における共通の表現型である血管周囲線維症及び間質性線維症の両方が挙げられる。
【0086】
病理学的な心筋細胞肥大の特徴は、成体型優勢αアイソフォーム(MHC-α)、骨格筋αアクチン(SKA)及び心房性ナトリウム利尿因子(ANF)遺伝子の代わりの胎児心臓ミオシン重鎖β(MHC-β)の上方制御を含む、遺伝子発現プロファイルの転換である。更に、心筋細胞は、脂肪酸酸化の代わりに炭水化物依存性エネルギー機構に切り替わり、これ自体は代謝遺伝子の発現レベルの変化を必要とする。興味深いことに、両方の病態生理学的適応は、CREB、JNK、NFκB及びNFATの下流の増加した転写活性と関連する。
【0087】
心筋細胞肥大を調査し、心筋細胞肥大の推定小分子阻害剤についてスクリーニングするためのin vitroアッセイは、心筋細胞肥大中に上方制御される典型的な遺伝子のトランスクリプトームスクリーニング及び心筋細胞表面積の定量化と組み合わせて、十分に特徴付けられた肥大の誘導因子(例えば、フェニレフリン又はIL-6)を利用する。しかし、これらのアッセイは手間と時間がかかり、より大きな低分子化合物の迅速なスクリーニングには非許容的である。
【0088】
タンパク質合成及び心筋細胞サイズを間接的に定量化する代替的な方法は、標準的なサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/プロモーターエレメントの制御下での増強された緑色蛍光タンパク質(EGFP)の発現の定量化である[Vettel,2012]。CMVプロモーターは、CREB、NFκB及びNFATに対する複数の機能的結合部位を含有する。したがって、心筋細胞によるEGFPのin vitroでの発現は、心筋細胞肥大を阻害し[Vettel,2012]、心不全の処置において臨床的有効性を有し得る低分子をスクリーニングするためのハイスループットプラットフォームとして使用することができる。
【0089】
以下の化合物を試験した(表2)
【0090】
【表2】
【0091】
実験設計
H9C2心筋細胞の培養及び分化
ラットH9C2心筋芽細胞(ATCC CRL-1446)を、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(Sigma-Aldrich社)を含有するDMEM培地中で維持し、培養物が70%の細胞密集度に達したら継代した。実験の前に、H9C2筋芽細胞を、血清減少(1%まで)及び20nMレチノイン酸による5日間の刺激によって心筋細胞に分化させた。分化したH9C2心筋細胞を、全ての実験について0.6・10細胞/cmで播種した。
【0092】
細胞サイズの決定
H9C2心筋細胞を24時間血清飢餓状態にし、その後、異なる濃度のフェニレフリン(用量範囲2・10-5~1・10-11M)に更に24時間曝露した。細胞を氷冷PBSで洗浄し、PBS中の2%パラホルムアルデヒドによって室温で10分間固定した。固定した細胞を5μMのローダミン結合ファロイジン(ThermoFisher Scientific社)と共にインキュベートし、PBSで広範囲に洗浄した。Zeiss AxioObserver Z1顕微鏡を用いて蛍光写真をランダムに撮影し、CellProfilerソフトウェア[McQuin,2018]を用いて細胞サイズを分析した。
【0093】
細胞サイズの代用としてのEGFP合成の定量化。
H9C2心筋細胞(0.6・10細胞/cm)を無血清培養培地中でCMV-copGPF(MOI 10)に24時間感染させた。H9C2心筋細胞を30μMのSUL化合物と共に標準培養条件下で30分間プレインキュベートし、次いでフェニレフリン(用量範囲2・10-5~1・10-11M)で更に24時間刺激した。その後、H9C2心筋細胞を100μlのソフト溶解バッファー(25mM Tris、2mMジチオスレイトール、2mM EDTA、1%Triton X-100、pH7.4)中で溶解した。得られた上清の1ウェル当たりの蛍光強度を、FITCフィルターセット(10nmの帯域幅で488nmの励起;20nmの帯域幅で515の発光)を備えたCLARIOStar Plusプレートリーダー(BMG Labtech社)で記録した。
【0094】
統計的評価
全ての実験は、条件毎に三連で行い、平均した。2つの個々の実験から得られたデータを、GraphPad Prism 8.0(GraphPad Software Inc社、カリフォルニア州)における評価のために使用した。平均H9C2心筋細胞サイズを、線形回帰を使用して平均EGFPレベルに関連付けた。フェニレフリン誘導性EGFP合成を、ベースラインレベルを0%として、最大EGFP記録を100%として使用して正規化した。全てのデータセットを賦形剤対照に対して正規化した。4パラメータ非線形回帰を使用して、フェニレフリンがGFP合成を誘導する効力の有効性を決定した。フェニレフリン誘導性EGFP合成を阻害するSUL化合物の有効性を、100%-Emaxとして計算し、Emaxはフェニレフリンによって誘起される最大効果である。
【0095】
結果
EGFP合成は、H9C2心筋細胞肥大に関連する。
確立されたプロトコルに従ってH9C2心筋芽細胞を心筋細胞に分化させ、漸増用量のフェニレフリン:(1・10-11~2・10-5M)で刺激して心筋細胞肥大を24時間誘導した。フェニレフリンは用量依存的(EC50は7.4・10-10)に、H9C2心筋細胞の細胞表面積を、賦形剤処理対照心筋細胞における791±263μmから、2・10-5Mフェニレフリンに曝露された心筋細胞における3278±296μmへと増加させた(図2A)。同様に、フェニレフリンは、CMV-EGFPレンチウイルス粒子で形質転換されたH9C2心筋細胞においてEGFP蛍光を用量依存的に増加させた(EC50は5.2・10-9Mである)(図2B)。EGFPの発現に関連するH9C2心筋細胞表面積の増加(Rは0.5601であり、p<0.001;図2C)。細胞表面積の増加と同様に、フェニレフリンは、H9C2心筋細胞によるタンパク質合成を用量依存的に増加させ(EC50は5.5・10-10である;図2D)、これはEGFP蛍光の増加とも関連していた(Rは0.5734、p<0.0001である;図2E)。広く有効なタンパク質合成阻害剤ブレフェルジンAの添加は、EGFP蛍光のフェニレフリン誘導性増加を阻害し(図2F)、EGFPがフェニレフリン刺激時に新たに合成されることを示唆している。それによって、実験セットアップが検証される。
【0096】
Sul化合物は、H9C2心筋細胞肥大応答を阻害する。
フェニレフリンは、H9C2心筋細胞においてEGFPの発現を用量依存的に誘発する(3A~H、灰色の線)。H9C2心筋細胞を30μMのSUL-11、-99、-127、-13、-138、-138M2、-150又は-151のいずれかと共にプレインキュベートすると、フェニレフリンによって誘導されるEGFPの発現が減少した。しかしながら、本発明による化合物(SUL-13、-138、-150又は-151)は、明らかに効力及び有効性の増加を示した(表2)。注目すべきことに、SUL-138の一次代謝産物であるSUL-138M2は、SUL-138と比較してEGFP発現を阻害する効力を有し、SUL-138がこの実験においてプロドラッグとして作用し得ることを示唆している。更に、(6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-イル)(ピペラジン-1-イル)メタノンのR-及びS-エナンチオマー、それぞれSUL-150及びSUL-151は、H9C2心筋細胞によるEGFP発現の阻害において同等の効力であった(それぞれ図2G及びH)。
【0097】
結果を更に表3にまとめる。
【0098】
【表3】
【0099】
実施例3
以下の実験は、実施例1の予想外の結果を見出した後に設計された。以下の知見は、本発明のSUL型化合物が、駆出率が低下した心不全の処置になぜ有効であるかを理解するのに有用であり得る。
【0100】
この実施例3では、DOX誘導性心不全が、ミトコンドリア機能不全(心臓mtDNAコピー数及びATP産生の減少)に由来し得る心臓線維形成(コラーゲン沈着の増加)及び酸化ストレス(脂質過酸化の増加)と同時に起こることが示される。
【0101】
SUL-150は、予防モデル又は治療モデルのいずれかで、これらの病理学的プロセスを軽減し、心臓ミトコンドリア機能を恒常性レベルで維持した。単離されたミトコンドリアにおいて、SUL-150は、呼吸複合体IV活性のDOX誘導性低下を軽減し、これは、観察された治療効果の根底となる機構であることが示唆される。
【0102】
実験設計
SUL-150食品ペレットの調製
SUL-150(250mg)を100%EtOH(1.02mL)に溶解し、蒸留水(68.7mL)で更に希釈して、透明な10mM溶液を得た。SUL-150溶液を標準的な食品ペレット(1.25kg)上に均一に噴霧した。食品ペレットを一晩空気乾燥した。食品ペレットを毎週新たに調製した。食品ペレット中のSUL-150が200mg/kg、350gのラットの1日の食事摂取量が25gと近似しているため、SUL-150の1日の用量は5mg/日と近似する。
【0103】
動物手順
250~300グラムの雄性非近交系Wistarラット(10~12週齢)を12時間の明/暗サイクルで飼育し、蒸留水を含む標準飼料を自由に摂取させた。30匹のラットに、ドキソルビシン(2mg/kg)を9週間連続して腹腔内注射により毎週投与し、未処置のままにしたか(標準固形飼料食、10匹のラット)、又は予防(1回目のドキソルビシン投与前、10匹のラット)若しくは治療(6回目のドキソルビシン投与後に開始、10匹のラット)としてSUL-150を補充した食餌を与えた。シャム対照ラット(8匹のラット)に、腹腔内注射により生理食塩水を9週間連続で毎週投与し、標準食を与えた。全てのラットを、最初のドキソルビシン投与の12週間後に心機能評価に供した。
【0104】
実験プロトコル
心臓機能試験(PVループ評価)の結果については、上記の実施例1が参照される。
【0105】
心筋線維化
組織病理学用の心臓組織試料を3.6%ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋した。4μm厚の心臓組織切片を作製し、ピクロシリウスレッドを使用して染色し、製造元の指示に従ってWeighertのヘマトキシリン(両方ともSigma-Aldrich社、ミズーリ州セントルイス在)で対比染色した。試料をNanoZoomer S60デジタルスライドスキャナー(Hammamatsu Photonics社)で画像化し、Aperio ImageScope(Leica Biosystems社、ドイツ国ヌスロッホ在)を使用して左心室間質線維症(すなわち、非血管周囲線維症)を定量化した。
【0106】
心臓酸化ストレス
心臓組織試料を、TissueRuptor II(Qiagen社、ドイツ国ヒルデン在)を使用してddHO中でホモジナイズし、続いて20kHzで3×1分間の超音波処理(Sonopuls 2000、Bandelin社、ドイツ国ベルリン在)及び14000gでの遠心分離を行って、不溶性タンパク質をペレット化した。上清を使用して、Re et al.[14]によって記載されているようにABTSラジカル脱色によってラジカル捕捉活性を評価し、Ohkawa et al.[15]に従ってチオバルビツール酸に対する反応性を評価することによって脂質過酸化を評価した。
【0107】
心臓ミトコンドリアコピー数
心臓組織試料を、50U・ml-1のRNase I及び100U・ml-1のプロテイナーゼKを含有する溶解バッファー(20mMトリス-HCl(pH7.4)中の100mM NaCl、10mM EDTA、0.5%のSDS)中でホモジナイズした(両方ともThermoFisher社、マサチューセッツ州ウォルサム在)。55℃で一晩インキュベートした後、2-プロパノールを用いて全DNAを沈殿させた。5ngの全DNAのアリコートを、iTaq Universal SYBR Green Supermix(Bio-Rad社、カリフォルニア州ハーキュリーズ在)及びミトコンドリアDNAに特異的なプライマー(MT-ND1;センス5’-CCTCCTAATAAGCGGCTCCT-3’、アンチセンス5’-GGCGGGGATTAATAGTCAGA-3’)又は核DNA(NDUFA1;センス5’-ATGGCCCGAACCAAGCAGACC-3’、アンチセンス5’-TTAAGCTCTCTCCCCCCGTATCCG-3’)を用いてViiA7リアルタイムPCRシステム(ThermoFisher社、マサチューセッツ州ウォルサム在)で増幅した。mtDNAコピー数を、mtDNA=2×2Cq(NDUFA1)-Cq(MT-ND1として計算した。
【0108】
心臓ATP/ADP比
心臓組織サンプルを、TissueRuptor II(Qiagen社、ドイツ国ヒルデン在)を用いてトリス飽和フェノール(pH 7.4)中でホモジナイズしてアデノシンを抽出し、クロロホルムで分離した。遠心分離により水(1:1 v/v)を加えた。ヌクレオチド分離並びにATP及びADP濃度の測定は、HPLCによって行った。100μLの試料を逆相クロマトグラフィーC18カラムに注入することによって分離を行った。カラム温度を25℃に維持した。移動相は70%アセトニトリル:30%75mmol/L-1 KH2PO4(v/v)であり、流速は1mL/分であった。溶出したヌクレオチドを260nmの波長で検出した。溶出液のヌクレオチド濃度を、各標準ヌクレオチドピーク面積についての較正曲線を使用して計算した。ATP濃度を、各サンプル中のADPの濃度に対して正規化した。
【0109】
呼吸複合体IV活性
H9C2心筋芽細胞を、標準的な細胞培養条件下、1μMのSUL-150の存在下又は非存在下で1μMのDOXに24時間曝露した。MitoCheck(登録商標)ミトコンドリア単離キット(Cayman Chemical#701010、ミシガン州アナーバー在)を製造元の指示に従って使用する密度勾配遠心分離を使用してミトコンドリアを単離し、550nmでの吸光度の増加によって反映されるシトクロムcの酸化速度を測定することによってミトコンドリア複合体IVの活性(シトクロムcオキシダーゼ)を評価した(Cayman Chemical#700990、ミシガン州アナーバー在)。
【0110】
統計的評価
データをGraphPad Prism 8.0(GraphPad Software Inc社、カリフォルニア州)で分析した。全ての結果を、平均±S.D.又は中央値及び四分位数間隔として表す。群間の差をANOVAによって評価した後、FDR補正を使用して多重比較のためにp値を調整したシャム群及び賦形剤処置群に対するペアワイズ比較を行った。
【0111】
結果
SUL-150投与は、ドキソルビシン誘導性心不全のラットモデルにおいて心臓線維化を減少させるとみられる。
ラットへの長期ドキソルビシン投与は、心拍数、駆出率、及び一回仕事量の減少によって示されるように心不全の発症をもたらし、最終的に心拍出量の重度の減少をもたらす。更に、ドキソルビシン長期投与は、コラーゲン沈着の増加によって示されるように、左心室間質における線維形成性応答を誘発する(図4)。ドキソルビシンの投与前(予防群)又は6回の累積ドキソルビシン投与後(治療群)のいずれかの食品ペレットによるSUL-150の投与は、心機能を維持し(上に示す通り)、この線維形成反応を遮断する(図4)。
【0112】
SUL-150投与は、心臓抗酸化能に影響を及ぼすことなく、心臓酸化ストレスを軽減するとみられる。
心不全は、心臓組織における酸化ストレスの増加に関連しており、これは、酸化ラジカル捕捉能及び酸化ラジカル産生の不均衡から生じ得る。脂質過酸化産物(TBARS、図5A)の増加によって示されるように、ドキソルビシン長期投与後に心臓酸化ストレスが明らかであった。SUL-150の投与は、予防レジメン又は治療レジメンのいずれかで、心臓脂質過酸化を軽減し(図5A)、心臓酸化ストレスの低下を示唆する。
【0113】
心臓ラジカル捕捉活性は、慢性的なドキソルビシン投与(図5B)によっても、SUL-150の予防的又は治療的投与(図5B)によっても変化しないままであり、これは、捕捉能の低下ではなくラジカル産生の増加が、観察された酸化ストレスの増加の根底にあることを示唆している。
【0114】
SUL-150投与は、心臓ミトコンドリアコピー数を維持し、心臓エネルギー状態を正常化する。
心不全は、心臓エネルギー損失、ミトコンドリア機能不全の発症、及びマイトファジーによるミトコンドリア質量の損失に関連し、収縮機能不全をもたらす。実際、ドキソルビシン長期投与は、収縮に利用可能な心臓ATP含量を減少させ(図6A)、これは、SUL-150の予防的又は治療的投与によって軽減された。
【0115】
ミトコンドリアDNA(mtDNA)コピー数は、ミトコンドリア質量の代用マーカーとして使用され得、ミトコンドリア質量の減少は、ドキソルビシン長期投与後に生じるエネルギー枯渇の背景にあると考えられる。ドキソルビシン長期投与は、心臓mtDNAコピー数を減少させ(図6B)、これは、SUL-150の投与によって妨げられる。注目すべきことに、ドキソルビシン処置動物において、mtDNAコピー数は、心臓駆出率と正に関連(r=0.454、p=0.033;図6C)し、これは、より高いミトコンドリア負荷が心臓のより良好な収縮性に対応することを示唆している。
【0116】
SUL-150は、単離された心臓ミトコンドリアにおける呼吸複合体IV活性のドキソルビシン誘導性低下を軽減する。
SUL化合物は、ドキソルビシンによって阻害され得る呼吸複合体IVの活性化を介してミトコンドリア機能を増加させることが示されている。実際に、H9C2心筋芽細胞をドキソルビシン(1μM、24時間)に曝露すると、呼吸複合体IVの活性は著しく低下する(図7)。H9C2心筋芽細胞とドキソルビシン及びSUL-150(両方とも1μM、24時間)との同時インキュベーションは、複合体IV活性を維持し、これは、SUL-150処置ラットにおいて観察されたATP産生の増強を説明し得る。興味深いことに、未処置の対照H9C2心筋芽細胞において、SUL-150(1μM、24時間)の投与は、呼吸複合体IVの活性を変化させない。
【0117】
結論
化学療法剤ドキソルビシンは、その心毒性効果で知られており、駆出率の低下を伴う心不全(HFrEF)に至る。
【0118】
実施例1は、6-クロマノールSUL-150(予防的又は治療的のいずれかで投与される)が、ドキソルビシンの投与にもかかわらず、心収縮機能、したがって心拍出量を維持することを示す。
【0119】
実施例2は、特許請求の範囲に記載のSUL-150の類似体も心室肥大の予防に有効であり、特に、本発明によらない他のトロロックス型化合物よりも有効であることを示し、このことは、これらの特許請求の範囲に記載の化合物がHFrEFの処置にも使用できることを示す。
【0120】
実施例3は、ドキソルビシン誘導性心不全が、心臓酸化ストレスの増加、エネルギー枯渇及びミトコンドリア質量の損失と同時に起こることを示す。SUL-150投与は、予防的又は治療的のいずれかで、予想外にも、潜在的に呼吸複合体IV活性の維持を通じて、これらの病理学的変化を妨げる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】