(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】自閉症スペクトラム障害の診断及び治療方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
G01N33/50 D
G01N33/50 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518327
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(85)【翻訳文提出日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 CA2021051309
(87)【国際公開番号】W WO2022056646
(87)【国際公開日】2022-03-24
(32)【優先日】2020-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522005103
【氏名又は名称】モレキュラー ユー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】アンワー、モハマド アシュラフル
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ヂォンナン
(72)【発明者】
【氏名】フレイザー、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ウィシャート、デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】マンダール、ルパスリ
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045DA61
2G045DA77
2G045FA25
2G045FA28
2G045FA40
2G045FB06
(57)【要約】
本開示は、ヒト対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断及び治療のための方法及びキットに関する。本開示はまた、ASDを診断及び治療するためのコンピュータで実行される方法に関する。ASDでは検査所見が一貫して異常であるため、現在の診断プロトコルは主に行動学的検査に限定されている。現在報告されているバイオマーカーはいずれも、これら臨床ツールが最も必要とされる出生から幼児期までの若年齢における小児科の現場において、早期発達スクリーニング又は早期診断若しくは予後予測ツールとしては期待できない。本開示により、ASDを有する対象におけるASDに関するメタボロミクスプロファイル、タンパク質プロファイル、及びそれらの組み合わせが同定される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法であって、
(a)前記対象から得られた生体サンプルを提供することと;
(b)前記得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することと;
(c)前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することと;
(d)前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、前記対象がASDを有すると特定することと;
(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、
を含む方法。
【請求項2】
対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法であって、
(a)前記対象から得られた生体サンプルを提供することと;
(b)前記得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを分光測定ユニットで測定するか又は測定しておくことと;
(c)前記分光測定ユニットで求めたときの前記ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較するか又は比較しておくことと;
(d)前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、前記対象がASDを有すると特定することと;
(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、
を含む方法。
【請求項3】
前記ASD治療レジメが、食事の調整、栄養の補充、行動訓練、ASDを有するか若しくはASDを発症する素因があると診断された対象における前記ASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記対象における前記ASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整が、前記対象における行動遂行の改善が観察されるまで行われる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整が、前記対象における腸内微生物叢の組成を調整することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記特定する工程が、前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照フマル酸及び/又は参照L-リンゴ酸の濃度レベルに比べて低下している、好ましくは、前記得られたサンプルからのフマル酸の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照フマル酸の濃度レベルに比べて約2倍以下低下している及び/又は前記得られたサンプルからのL-リンゴ酸の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照L-リンゴ酸の濃度レベルに比べて約2倍以下低下していると判定されたときに行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記得られたサンプルが、血液又は尿、好ましくは血清、血漿、又は尿である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記ASD関連代謝物が分光技術によって測定され、前記分光技術が、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー質量分析、ガスクロマトグラフィー質量分析、高速液体クロマトグラフィー質量分析、キャピラリー電気泳動質量分析、核磁気共鳴分析法(NMR)、ラマン分光法、及び赤外分光法からなる群から選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項11】
前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物の濃度レベルと前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物の濃度レベルとの比較が、多変量統計解析を用いることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記多変量統計解析が、主成分分析(PCA)又は部分的最小二乗潜在構造投影判別分析(PLS-DA)から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ASD陰性サンプルが、10歳以下、5歳以下、又は3歳以下の非自閉症児からのものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
前記対象が、10歳以下、好ましくは5歳以下、又は好ましくは3歳以下の小児である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項15】
対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)の進行をモニタリングし、前記ASDを治療する方法であって、
(a)第1の時点で対象から得られた第1の生体サンプルを提供することと;
(b)前記第1の得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することによって、第1のASD関連代謝物プロファイルを評価することと;
(c)前記第1のASD関連代謝物プロファイルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物プロファイルと比較することと;
(d)前記第1のASD関連代謝物プロファイルと前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物プロファイルとの間に、ASDを示す第1の差があると判定することと;
(e)前記第1の時点の後である第2の時点で前記対象から得られた第2の生体サンプルを提供することと;
(f)前記第2の得られたサンプルから前記ASD関連代謝物の濃度レベルを測定することによって、第2のASD関連代謝物プロファイルを評価することと;
(g)前記第2のASD関連代謝物プロファイルを、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物プロファイルと比較することと;
(h)前記第1のASD関連代謝物プロファイルと前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物プロファイルとの間に、ASDを示す第2の差があると判定することと;
(i)前記第1の差及び第2の差に少なくとも部分的に基づいてASDの進行を判定することと;
(j)特定された対象をASD治療レジメで治療することと、
を含む方法。
【請求項16】
前記第1の時点と前記第2の時点との間の期間が、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、又は少なくとも3ヶ月である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のサンプル、前記第2のサンプル、又は両方が、血液又は尿であり、好ましくは、両方のサンプルが、同じ検体の種類であり、血清、血漿又は尿から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記アシルカルニチンが、C10:1、C16:2、及び/又はC7-DCから選択される、請求項1、2、又は15に記載の方法。
【請求項19】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからのC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照C10:1、参照C16:2、及び/又は参照C7-DCの濃度レベルと比べて上昇している、好ましくは、前記得られたサンプルからの前記アシルカルニチンの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照アシルカルニチンの濃度レベルに比べて約2倍以下、好ましくは約0.5倍~約2倍上昇していると判定されたときに行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからのC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCの濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからのC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCの濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸の濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸の濃度レベルに比べて低下していると判定されたときに行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記リゾリン脂質が、リゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3である、請求項1、2、又は15に記載の方法。
【請求項24】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからのリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照リゾPC a C17:0及び/又は参照リゾPC a C20:3の濃度レベルに比べて上昇している、好ましくは、前記得られたサンプルからの前記リゾリン脂質の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照リゾリン脂質の濃度レベルに比べて約1.1倍以上、好ましくは約1.2倍以上上昇していると判定されたときに行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからのリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3の濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからのリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記スフィンゴ脂質が、SM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2である、請求項1、2、又は15に記載の方法。
【請求項27】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからのSM(OH)C24:1及び/又は前記SM(OH)C22:2の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照SM(OH)C24:1及び/又は参照SM(OH)C22:2の濃度レベルに比べて上昇している、好ましくは、前記得られたサンプルからの前記スフィンゴ脂質の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照スフィンゴ脂質の濃度レベルに比べて約1.05倍以上、好ましくは約1.1倍以上上昇していると判定されたときに行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2、前記得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2、前記第2の得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2の濃度レベルと判定されたときに行われる、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記グリセロリン脂質が、PC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2である、請求項1、2、又は15に記載された方法。
【請求項30】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照PC ae C36:0及び/又は参照PC aa C40:2の濃度レベルに比べて上昇している、好ましくは、前記得られたサンプルからの前記グリセロリン脂質の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照グリセロリン脂質の濃度レベルに比べて約1.05倍以上、好ましくは約1.1倍以上上昇していると判定されたときに行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は参照2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルに比べて低下している、好ましくは、前記得られたサンプルからの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は参照2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルに比べて検出不可能であると判定されたときに行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項33】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルに比べて低下していると判定されたときに行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項34】
前記特定する工程(d)が、前記得られたサンプルからのp-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項35】
前記判定する工程(i)が、前記第2の得られた生体サンプルからのp-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルが、前記第1の得られた生体サンプルからのp-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項36】
任意で使用説明書と共に、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択されるASD関連代謝物の濃度レベルを測定するための試薬を含む、請求項1、2、又は15のいずれか一項に記載の方法において使用するためのキット。
【請求項37】
自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断するためのキットであって、
(a)得られた生体サンプルからのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを検出するように構成されている検出器と;
(b)ASD陰性対象の対照群に対応する対照レベルのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタゴン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースを含む組成物と;
(c)前記ASD関連代謝物の濃度レベルと前記対照レベルとの差を分析するように構成されている多変量解析システムと;
(d)任意で、ASD診断方法の説明書であって、前記方法が、前記得られた生体サンプルからのASD関連代謝物のレベルを前記検出器を用いて測定し、前記得られたASD関連代謝物のレベルをASD陰性対象から得られたASD関連代謝物の対照レベルと比較することを含む説明書と、
を含むキット。
【請求項38】
前記検出器が、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタゴン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースを含むASD関連代謝物のレベルを測定するように構成されているマルチ代謝物検出器を含む、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
対象の生体サンプルを処理し、自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断し、ASDを治療するためのコンピュータで実行される方法であって、
(a)対象から得られた生体サンプルを受信することと;
(b)処理装置に直接又は無線で接続された分光測定ユニットで前記サンプルを処理することであって、前記処理装置が、前記分光測定ユニットからの測定データを保存するためのメモリを有することと;
(c)前記分光測定ユニットで、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物のレベルを測定し、測定データをプロセッサに保存することと;
(d)多変量統計解析を用いて、保存された測定データをASD陰性サンプルを表すメモリ内の値と比較することと;
(e)前記得られたサンプルからのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物に対応する結果を前記処理装置に保存することであって、前記結果から、前記ASD関連代謝物のレベルを表す測定データがASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、前記対象がASDを有すると特定されることと;
(f)ASDを有するか又はASDを発症する素因を有すると特定された対象のために、前記プロセッサに直接又は無線で接続された電子ディスプレイにASD治療レジメを表示することであって、表示される治療レジメが、前記ASDを有するか又はASDを発症する素因を有すると診断された対象に対する
(i)食事の調整、
(ii)栄養の補充、
(iii)行動訓練、若しくはそれらの組み合わせ、又は
(iv)ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象において行動遂行の改善が観察されるまで、前記対象におけるASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整、のうちの1つ以上について説明するグラフィカルユーザインターフェースにおける電子テキストを含むことと、を含み、好ましくは、前記ASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整が、前記対象における腸内微生物叢の組成の調整を含む、コンピュータで実行される方法。
【請求項40】
対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法であって、
(a)前記対象から得られた生体サンプルを提供することと;
(b)レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質の濃度レベルを測定することと;
(c)前記得られたサンプルからの前記ASD関連タンパク質の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比較することと;
(d)前記得られたサンプルからの前記ASD関連タンパク質の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比べて異なる場合、前記対象がASDを有すると特定することと;
(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、
を含む方法。
【請求項41】
対象の自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法であって、
(a)前記対象から得られた生体サンプルを提供することと;
(b)前記得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することと;
(c)前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することと;
(d)レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質の濃度レベルを測定することと;
(e)前記得られたサンプルからの前記ASD関連タンパク質の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比較することと;
(f)前記得られたサンプルからのASD関連代謝物の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なっており、かつ前記得られたサンプルからのASD関連タンパク質の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比べて異なっている場合、前記対象がASDを有すると特定することと;
(g)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む方法。
【請求項42】
前記特定する工程(f)が、前記得られたサンプルからの前記ASD関連タンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連タンパク質の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記特定する工程(f)が、前記得られたサンプルからのアルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、及び/又はテネイシンCの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照アルファ-2-アンチプラスミン、参照凝固第X因子、参照凝固第XI因子、及び/又は参照テネイシンCの濃度レベルに比べて上昇している、好ましくは、前記得られたサンプルからのアルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、及び凝固第XI因子の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照アルファ-2-アンチプラスミン、参照凝固第X因子、及び/又は参照凝固第XI因子の濃度レベルに比べて約0.5倍~約1.5倍、好ましくは約0.75倍~約1.3倍上昇している、好ましくは、前記得られたサンプルからのテネイシンCの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照テネイシンCの濃度レベルに比べて約0.3倍以上、好ましくは約0.4倍以上上昇していると判定されたときに行われる、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記特定する工程(f)が、凝固第XIII因子A鎖、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、及び/又はレチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照凝固第XIII因子A鎖、参照トロンボスポンジン-1(TSP-1)、及び/又は参照レチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度レベルに比べて低下している、好ましくは、前記得られたサンプルからの凝固第XIII因子A鎖の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照凝固第XIII因子A鎖の濃度レベルに比べて約1.2倍以下、又は好ましくは約1.3倍以下低下している、好ましくは、前記得られたサンプルからのトロンボスポンジン-1(TSP-1)の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照トロンボスポンジン-1(TSP-1)の濃度レベルに比べて約1.2倍以下、又は好ましくは約1.5倍以下低下している、好ましくは、前記得られたサンプルからのレチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照レチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度レベルに比べて約1.5倍以下、好ましくは約1.8倍以下低下していると判定されたときに行われる、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
前記特定する工程が、前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つの濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記特定する工程(f)が、前記得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、及び/又はグリセロリン脂質の濃度レベルが、前記ASD陰性サンプルからの参照3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、参照アシルカルニチン、参照リゾリン脂質、参照スフィンゴ脂質、及び/又は参照グリセロリン脂質の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる、請求項41に記載の方法。
【請求項47】
前記アシルカルニチンが、C10:1、C16:2、及び/又はC7-DCからなる群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記リゾリン脂質が、リゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記スフィンゴ脂質が、SM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記グリセロリン脂質が、PC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2である、請求項46に記載の方法。
【請求項51】
前記得られたサンプルが、血液又は尿、好ましくは血清、血漿、又は尿である、請求項41に記載の方法。
【請求項52】
前記ASD関連代謝物が分光技術によって測定され、前記分光技術が、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー質量分析、ガスクロマトグラフィー質量分析、高速液体クロマトグラフィー質量分析、キャピラリー電気泳動質量分析、核磁気共鳴分析法(NMR)、ラマン分光法、及び赤外分光法からなる群から選択される、請求項41に記載の方法。
【請求項53】
前記得られたサンプルからの前記ASD関連タンパク質の濃度レベルと前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連タンパク質の濃度レベルとの比較が、多変量統計解析を用いることを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項54】
前記得られたサンプルからの前記ASD関連代謝物の濃度レベルと前記ASD陰性サンプルからの前記参照ASD関連代謝物の濃度レベルとの比較が、多変量統計解析を用いることを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項55】
前記ASD陰性サンプルが、10歳以下、5歳以下、又は3歳以下の非自閉症児からのものである、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、自閉症スペクトラム障害(ASD)の診断及び管理/治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症スペクトラム障害(ASD)(本明細書では自閉症とも称する)は、多数の症状を特徴とする深刻な精神神経及び神経発達障害である。典型的には、対象は、社会的行動/相互作用における障害、コミュニケーション(言語及び非言語)における障害、並びに年相応の活動及び関心に取り組むことの困難に苦しんでいる。例えば、対象は、様々な程度の社会的行動の障害、コミュニケーション及び言語の障害、並びに/又はいずれも個人に特有であり、繰り返し行われる関心及び活動の範囲の狭さを有する多種多様な症状を呈することが多い。これら症状は、幼児の発達過程において、すなわち生後5年の間に存在し、現れることがあり、その後、社会的、学習的、職業的、又は他の人生の重要な領域において、臨床的に顕著な障害を引き起こす可能性がある。
【0003】
世界保健機関によれば、世界中で小児160人に1人がASDを有する。しかし、その高い有症率にもかかわらず、適切及び/又は正確なASDスクリーニングツールが不足している。その結果、診断及び治療的介入が遅れることが多い。ASDの初期徴候はわずか2歳の小児でも観察できるにもかかわらず、ほとんどの小児は未だに診断が遅れている(例えば、4~5歳以降)。医師が早期診断及びエビデンスに基づく行動療法の紹介を通してASDの個体、特に小児の転帰を大きく改善できることが示されているため、この遅れは問題である。
【0004】
行動処置及び親の技能訓練プログラム等のエビデンスに基づく心理社会的介入は、コミュニケーション及び社会的行動における困難を軽減し、ASD者及びその介護者の幸福及び生活の質に良い影響を与える。残念なことに、小児科医が通常認識するASDの最初の徴候は、生後18ヶ月~24ヶ月まで顕在化しないコミュニケーション及び言語における欠陥である。ASDは、あらゆる階層の集団に分布する世界的な公衆衛生上の現象であり、スティグマ形成及び差別に対する脆弱性、生殖力に関する制約、並びに監督、支援、及び保護を必要とするある程度の依存性から、犠牲の大きな生涯にわたる影響がある。自閉症児の早期発見及び早期介入は、世界保健機関(「WHO」)によって、ASD者の転帰を改善するための最も重要な要素のうちの2つであると認識されている。
【0005】
今日まで、ASD者を適切に診断する能力は不十分であり、主に訓練を受けた専門家による定性的な観察に基づいている。ASDでは検査所見が一貫して異常であるため、現在の診断プロトコルは主に行動学的検査に限定されている。例えば、現行のこの年齢群におけるASDのスクリーニングツールとしては、乳幼児チェックリスト(Infant Toddler Checklist、「ITC」;コミュニケーション及び象徴行動尺度及び発達プロファイル(Communication and Symbolic Behaviour Scales and Development Profile)としても知られている)及び乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(Modified Checklist for Autism in Toddlers、「M-CHAT」)等が挙げられる。ITCは、生後9ヶ月~24ヶ月の小児における発達障害を特定するために使用することができるが、基本的なコミュニケーションの遅れと明白なASDとの区別における有用性は限定的である。M-CHATは16ヶ月~30ヶ月で使用することができる。しかし、ポジティブスクリーニングのためにフォローアップアンケートが必要であり、これが小児の10%で生じる。ASD児の平均診断年齢は約3歳であり、そのうちの約半数は偽陽性である可能性がある。更に、これら標準的な行動実験プロトコル/ガイドラインを用いてそのような個人を診断するためには適切な有資格者が必要であり、従来の評価アプローチに主観が入る可能性もある。
【0006】
ASDは高度に不均一であり、その病因は不明である。遺伝子異常、免疫系の調節不全、炎症、及び環境要因等のこの疾患の幾つかの潜在的原因が、以前の研究で明らかになっている。近年、ASDにおける腸と脳との相互作用が、科学的及び医学的研究において大きな注目を集めている。最近の研究で自閉症者は腸内細菌の微生物叢が変化していることが判明したので、ASDは重要な腸内微生物叢の構成要素を有することが示されている。長い年月をかけて、選択された微生物叢が、免疫系、代謝、及び神経系と一体化しているヒトの消化管に常在するようになった。また、大腸の常在微生物叢も、クロストリジウム属(Clostridium)の種等の潜在的な病原性微生物の増殖を阻害することによって、重要な宿主防御機能を提供する。便秘、腹痛、膨満感(gaseousness)、下痢、及び鼓腸を含む消化管の問題は、ASDに関連する一般的な症状である。場合によっては、抗生物質の投与及び微生物叢移植療法等の治療的介入によって腸内微生物叢をリモデリングすることで、ASDの症状が緩和されたことも報告されている。
【0007】
出生後いつでも実施可能である代謝物分析によるスクリーニングを含むバイオマーカースクリーニングは、ASDスクリーニングツールキットへの魅力的な追加物となる。糞便又は便のサンプル中の細菌代謝物濃度の測定は、腸内細菌種の存在量を示すのに有用であるが、糞便又は便の検体の収集及び処理が困難である場合がある。収集及び取り扱いが容易であり、かつ適時に検体を収集できるので、医療現場では、他の種類の生体サンプル(例えば、血液、尿)が診断試験に使用される頻度がはるかに高い。
【0008】
幾つかの生化学的代謝マーカーは、自閉症的の形質と関連している。例えば、ASDに関連する代謝異常の存在としては、フェニルケトン尿症(「PKU」)、プリン代謝における障害、脳の発達における葉酸欠乏、コハク酸セミアルデヒド脱水素酵素欠損、スミス・レムリ・オピッツ症候群(「SLOS」)、有機酸尿(例えば、ピリドキシン依存、3-メチルクロトニル-CoAカルボキシラーゼ欠損、プロピオン酸血症)、及びミトコンドリア障害を挙げることができる。これら代謝異常は、一つには、病原性微生物が存在するASD者の腸内微生物叢の変化に起因している可能性がある。これら単独知見から、ASDに関与している可能性のある生化学的経路に関して更なる洞察が得られたが、特に幼児のASD診断及び治療において広範囲にわたる成功が示されたASDの存在又は易罹患性を判定するための信頼できる試験プロトコルは、これまで報告されていない。更に、未だ同定されていないASDの臨床転帰に関連する代謝物は、他に数百存在する。まとめると、現在報告されているバイオマーカーはいずれも、これら臨床ツールが最も必要とされる出生から幼児期までの若年齢における小児科の現場において、早期発達スクリーニング又は早期診断若しくは予後予測ツールとしては期待できない。
【0009】
従って、ASDの存在又は発症の素因に特徴的な行動形質の臨床診断を高い信頼度で確認し、それを治療することができる改良された方法が必要とされている。また、ASDには一貫した身体的特徴がなく、生後数年間のその特徴が顕在化する時期が不確実であるため、行動的特徴だけに依存することなくASD者を客観的にスクリーニング及び治療することも必要とされている。また、対象、特に幼児(すなわち、3歳以下の小児)におけるASDの早期診断及びその早期治療を可能にする検査も必要とされている。
【発明の概要】
【0010】
本明細書において具現化され、説明される通り、一態様では、本開示は、対象における自閉症スペクトラム障害(「ASD」)を診断及び治療する方法に関する。方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを提供することと;(b)該得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(「HPHPA」)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することと;(c)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することと;(d)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、該対象がASDを有すると特定することと;(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0011】
本明細書において具現化され、説明される通り、別の態様では、本開示はまた、対象におけるASDを診断及び治療する方法に関する。方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを提供することと;(b)該得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸HPHPA、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを分光測定ユニットで測定するか又は測定しておくことと;(c)該分光測定ユニットで求めたときの該ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較するか又は比較しておくことと;(d)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルから該参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、該対象がASDを有すると特定することと;(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0012】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、ASDの進行をモニタリングし、対象におけるASDを治療する方法に関する。方法は、(a)第1の時点で対象から得られた第1の生体サンプルを提供することと;(b)該第1の得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することによって、第1のASD関連代謝物プロファイルを評価することと;(c)該第1のASD関連代謝物プロファイルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物プロファイルと比較することと;(d)該第1のASD関連代謝物プロファイルと該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物プロファイルとの間に、ASDを示す第1の差があると判定することと;(e)該第1の時点の後である第2の時点で該対象から得られた第2の生体サンプルを提供することと;(f)該第2の得られたサンプルから該ASD関連代謝物の濃度レベルを測定することによって、第2のASD関連代謝物プロファイルを評価することと;(g)該第2のASD関連代謝物プロファイルを、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物プロファイルと比較することと;(h)該第1のASD関連代謝物プロファイルと該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物プロファイルとの間に、ASDを示す第2の差があると判定することと;(i)該第1の差及び第2の差に少なくとも部分的に基づいてASDの進行を判定することと;(j)特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0013】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、本明細書に記載の方法のうちのいずれか1つで使用するためのキットであって、任意で使用説明書と共に、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択されるASD関連代謝物の濃度レベルを測定するための試薬を含むキットに関する。
【0014】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、自閉症スペクトラム障害(「ASD」)のメタボロミクスプロファイルに関する。幾つかの態様では、ASDの代謝プロファイルは、
(a)ASD陰性サンプルからの参照フマル酸及び/又は参照L-リンゴ酸よりも低い濃度レベルのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸;
(b)ASD陰性サンプルからの参照3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)よりも高い濃度レベルの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA);
(c)ASD陰性サンプルからの好ましくはC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCから選択される参照アシルカルニチンよりも高い濃度レベルの好ましくはC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCから選択されるアシルカルニチン;
(d)ASD陰性サンプルからの参照リゾリン脂質、好ましくはリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3よりも高い濃度レベルのリゾリン脂質、好ましくはリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3;
(e)ASD陰性サンプルからの参照スフィンゴ脂質、好ましくはSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2よりも高い濃度レベルのスフィンゴ脂質、好ましくはSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2;
(f)ASD陰性サンプルからの参照グリセロリン脂質、好ましくはPC ae C36:0及び/又はPC aa C40よりも高い濃度レベルのグリセロリン脂質、好ましくはPC ae C36:0及び/又はPC aa C40;並びに
(g)ASD陰性サンプルから参照4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は参照2-ヒドロキシイソ吉草酸よりも低い濃度レベルの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸
のうちの1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つを含む。
【0015】
他の態様では、メタボロミクスプロファイルは、(a)非ASD対象からの参照フマル酸の濃度レベルの中央値よりも少なくとも約2倍以下低い濃度レベルのフマル酸;及び(b)非ASD対象からの参照L-リンゴ酸の濃度レベルの中央値よりも少なくとも約2倍以下低い濃度レベルのL-リンゴ酸を含む。好ましくは、前述のメタボロミクスプロファイルは、更に、(c)非ASD対象からの参照HPHPAの濃度レベルの中央値よりも少なくとも約10倍以上高い濃度レベルのHPHPAを含む。
【0016】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、自閉症スペクトラム障害(「ASD」)のプロテオミクスプロファイルに関する。幾つかの態様では、ASDのプロテオミクスプロファイルは、
(a)ASD陰性サンプルからの参照アルファ-2-アンチプラスミン、参照凝固第X因子、参照凝固第XI因子、及び/又は参照テネイシンCよりも高い濃度レベルのアルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、及び/又はテネイシンC;並びに
(b)ASD陰性サンプルからの参照凝固第XIII因子A鎖、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、及び/又はレチノール結合タンパク質4(RBP4)よりも低い濃度レベルの凝固第XIII因子A鎖、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、及び/又はレチノール結合タンパク質4(RBP4)
のうちの1つ以上、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つを含む。
【0017】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、ASDを診断するためのキットに関する。キットは、(a)得られた生体サンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを検出するように構成されている検出器と;(b)ASD陰性者の対照群に対応する対照レベルのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタゴン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースを含む組成物と;(c)該ASD関連代謝物の濃度レベルと該対照レベルとの差を分析するように構成されている多変量解析システムと;(d)任意で、ASD診断方法の説明書であって、該方法が、該得られた生体サンプルからASD関連代謝物のレベルを該検出器を用いて測定し、得られたASD関連代謝物のレベルをASD関連代謝物の対照レベルと比較することを含む説明書と、を含む。
【0018】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、対象の生体サンプルを処理し、自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断し、ASDを治療するためのコンピュータで実行される方法に関する。コンピュータで実行される方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを受信することと;(b)処理装置に直接又は無線で接続された分光測定ユニットでサンプルを処理することであって、該処理装置が、該分光測定ユニットからの測定データを保存するためのメモリを有することと;(c)該分光測定ユニットで、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物のレベルを測定し、測定データをプロセッサに保存することと;(d)多変量統計解析を用いて、保存された測定データをASD陰性サンプルを表すメモリ内の値と比較することと;(e)該得られたサンプルからのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物に対応する結果を処理装置に保存することであって、該結果から、ASD関連代謝物のレベルを表す測定データがASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、該対象がASDを有すると特定されることと;(f)ASDを有するか又はASDを発症する素因を有すると特定された対象のために、プロセッサに直接又は無線で接続された電子ディスプレイにASD治療レジメを表示することであって、表示される治療レジメが、ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象に対する(i)食事の調整、(ii)栄養の補充、(iii)行動訓練、若しくはそれらの組み合わせ、及び/又は(iv)ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象において行動遂行の改善が観察されるまで、該対象におけるASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整、のうちの1つ以上について説明するグラフィカルユーザインターフェースにおける電子テキストを含むことと、を含む。
【0019】
本明細書において具現化され、広く説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法に関する。方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを提供することと;(b)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することと;(c)レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質の濃度レベルを測定することと;(d)該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比べて異なる場合、該対象がASDを有すると特定することと;(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0020】
本明細書において具現化され、広く説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法に関する。方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを提供することと;(b)該得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することと;(c)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することと;(d)レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質の濃度レベルを測定することと;(e)該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比較することと;(f)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なっており、かつ該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比べて異なっている場合、該対象がASDを有すると特定することと;(g)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0021】
本明細書において具現化され、広く説明される通り、更に別の態様では、本開示はまた、本明細書に記載の方法のいずれか1つで用いるためのキットであって、任意で使用説明書と共に、レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択されるASD関連タンパク質の濃度レベルを測定するための試薬を含むキットに関する。
【0022】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に更なる態様では、本開示はまた、対象がASDを有するか若しくはそれを発症する素因があると診断する又はASDの進行/退行を評価するためのコンピュータで実行される方法であって、データセットを受信し、コンピュータのメモリに入力することであって、該データセットが、対象に関連する代謝及びプロテオミクスのプロファイルを含むことと;該代謝及びプロテオミクスのプロファイルが、ASD、ASD発症の素因、又はその進行若しくは退行を示すかどうかを、以前のコンピュータで実行されたモデリング解析からのASDモデリングデータに基づいて特定することと;該対象のために、コンピュータのプロセッサに直接又は無線で接続された電子ディスプレイにASD治療レジメを表示することであって、表示される治療レジメが、ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象に対する(i)1つ以上の食事の調整、(ii)1つ以上の栄養の補充、(iii)行動訓練、若しくはそれらの組み合わせ、及び/又は(iv)ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象において行動遂行の改善が観察されるまで、該対象におけるASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整、のうちの少なくとも1つを表示するグラフィカルユーザインターフェースにおける電子テキストを含むことと、を含む方法に関する。
【0023】
代謝及びプロテオミクスのプロファイルにおけるバイオマーカーの例としては、上記及び本明細書において更に記載されるものが挙げられる。一実施形態では、1~50個、2~40個、又は5~30個のバイオマーカーを、ASDモデリングデータに基づいて評価する。
【0024】
本明細書において具現化され、説明される通り、更に更なる態様では、本開示はまた、対象のプロテオミクス及び/又は代謝のプロファイル、好ましくは両方のプロファイルの分析に基づいて、対象がASDを有するか若しくはそれを発症する素因があると診断する又はASDの進行/退行を評価するコンピュータで実行される方法に関する。そのような方法は、データセットを受信し、コンピュータのメモリに入力することを含み、該データセットは、対象からの生体サンプルから得られた複数のASDプロテオミクス及び/又は代謝のバイオマーカーの測定値を含む。一実施形態では、データセットは、対象に関連する代謝及びプロテオミクスのプロファイルのうちの少なくとも1つを含む、並びに/又はASDの診断及び/若しくはASDの進行を示すものとして代謝及び/又はプロテオミクスのASDコンピュータモデリングから予め決定された少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、8個、9個、又は10個のバイオマーカーを含む。一実施形態は、幾つかの実施形態ではADS及び対照の対象から得られた少なくとも1つの代謝及び/又はプロテオミクスのプロファイル、好ましくは両方のプロファイル内の所与のバイオマーカー又はマーカーのセットに重みを割り当てる、以前に得られたコンピュータで実行された計算に基づいて、試験群及び対照群からのコンピュータモデリングデータをコンピュータ可読フォーマットで予め得ることを含む。方法は、コンピュータを用いて、入力されたデータセットに対するデータ計算を行うことであって、該計算が、以前のコンピュータモデリングデータから得られたバイオマーカーのデータと該入力されたデータセットとの比較に基づくことと、上記のコンピュータで実行された比較からの結果に基づいて、対象がASDを有する、ASD発症の素因を有すると特定する、又はASDの進行/退行を評価することと、を更に含んでいてもよい。
【0025】
幾つかの実施形態では、方法は、比較に基づいて、対象のために、コンピュータのプロセッサに直接又は無線で接続された電子ディスプレイにASD治療レジメを表示することであって、表示される治療レジメが、ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象に対する(i)1つ以上の食事の調整、(ii)1つ以上の栄養の補充、(iii)行動訓練、若しくはそれらの組み合わせ、及び/又は(iv)ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象において行動遂行の改善が観察されるまで、該対象におけるASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整、のうちの少なくとも1つを表示するグラフィカルユーザインターフェースにおける電子テキストを含むことを更に含んでいてもよい。
【0026】
本開示の前述の態様のいずれか1つの一実施形態では、データセットは、分光測定ユニットから得られる分光測定データである。別の実施形態では、データセットは、ハイスループット測定ユニットから得られる。
【0027】
前述のように、一実施形態では、以前のモデリングデータは、ASDを有する及びASDを有しない対象のプロテオミクス及び/又は代謝のプロファイルから複数のバイオマーカーを同定する。
【0028】
一実施形態では、モデリングデータは、ASD試験群及び対照群のデータから得られ、各群のデータは、コンピュータで生成された受信者動作特性(ROC)曲線分析、主成分分析(PCA)プロット、及び潜在構造判別分析(PLS-DA)モデル、及び/又は変数重要度の投影(VIP)プロットのうちの少なくとも1つを含むコンピュータで実行される計算に供され、それによって、測定された他のバイオマーカーと比べてASDの診断、発症、又は退行に寄与すると同定された少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、又は10個のバイオマーカーのセットが得られる。
【0029】
幾つかの非限定的な例では、少なくとも2個、3個、4個、又は5個の代謝及び/又はプロテオミクスのバイオマーカーが測定される。更なる実施形態では、最大100個、95個、90個、85個、80個、75個、70個、65個、60個、55個、50個、45個、40個、35個、30個、25個、又は20個の代謝及び/又はプロテオミクスバイオマーカーが、コンピュータモデリングに基づいて同定される。好ましくは、バイオマーカーは、コンピュータモデリングから得られるプロテオミクス及び代謝の両プロファイルから選択される。
【0030】
幾つかの実施形態では、バイオマーカーは、プロテオミクス及び代謝のプロファイルから選択されるバイオマーカーに重みを割り当てることに基づくコンピュータモデリングから選択され、該重みは、ASDを診断するか又はASDの進行を評価するマーカーの能力に基づく。
【0031】
一実施形態では、バイオマーカーは、対象から得られたサンプルからのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースのうちの少なくとも1つから選択される。
【0032】
本開示に記載される例示的な実施形態の全ての特徴は、相互に排他的ではなく、互いに組み合わせることができる。更に言及することなく、ある実施形態の要素を他の実施形態で利用することができる。本開示の他の態様及び特徴は、添付の図面と組み合わせて特定の実施形態に関する以下の説明を精査すれば、当業者に明らかになるであろう。
【0033】
本明細書は、本開示を具体的に指摘し、明確に主張する特許請求の範囲で締めくくられるが、本開示は、以下の添付図面の説明からより深く理解されると考えられる:
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1-2】試験した尿の有機酸の表(続き)を含む。
【
図2】GC-/LC-MS及び分析プロセスのフローチャートである。
【
図3】尿サンプル(実施例1)から試験した代謝物のPCA及びPLS-DAのプロットを可視化したものである。
【
図4】実施例1から試験した代謝物のROC曲線のグラフである。
【
図5】実施例1から試験した代謝物の変数重要度の投影(VIP)プロットである。
【
図6】血清サンプル(実施例2)から試験した代謝物のPCA及びPLS-DAのプロットを可視化したものである。
【
図7】実施例2から試験した代謝物の変数重要度の投影(VIP)プロットである。
【
図8】血漿サンプル(実施例2)から試験したプロテオミクスのPCA及びPLS-DAのプロットを可視化したものである。
【
図9】実施例2から試験した代謝物の変数重要度の投影(VIP)プロットである。
【
図10】
図10Aは、実施例2から試験した代謝物のROC曲線のグラフである。
図10Bは、実施例2から試験したプロテオミクスのROC曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面では、一例として例示的な実施形態が示されている。明細書及び図面は、特定の実施形態を例示する目的のためだけのものであり、理解を支援するものであることが明確に理解される。これらは、いかなる方法であっても、本発明を限定すると解釈されることを意図するものではない。
【0036】
本発明の原理を説明する添付図面と共に、本発明の1つ以上の実施形態の詳細な説明が以下に提供される。本発明は、このような実施形態に関連して説明されるが、本発明は、本明細書に記載される任意の特定の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定される。本発明を十分に理解させるために、以下の説明では多数の具体的な詳細について記載する。これら詳細は、非限定的な例を提供する目的で提供され、本発明は、これらの特定の詳細の一部又は全部がなくても、特許請求の範囲に従って実施することができる。明確にするために、本発明に関連する技術分野において公知の特定の技術資料は詳細には記載されていないので、そのような記述によって本発明が不必要に不明瞭になることはない。
【0037】
定義
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関連する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で使用するとき、特に記載がない限り又は文脈上特に必要がない限り、以下の各用語は下記の定義を有するものとする。
【0038】
特許請求の範囲において使用されるとき、「a」及び「an」等の冠詞は、請求又は記載されているもののうちの1つ以上を意味すると理解される。
【0039】
「自閉症」及び「自閉症スペクトラム障害」(「ASD」)という用語は、一般的に、乳幼児チェックリスト(「ITC」、コミュニケーション及び象徴行動尺度及び発達プロファイルとしても知られている)及び乳幼児期自閉症チェックリスト修正版(「M-CHAT」)に記載されている標準行動実験プロトコル/ガイドラインを用いて有資格者によって特定されたASDを表すために互換的に使用される。また、「ASD」という用語は、不安、脆弱X、レット症候群、結節性硬化症、強迫性障害、注意欠陥障害、統合失調症、自閉性障害(古典的自閉症)、アスペルガー障害(アスペルガー症候群)、特定不能の広汎性発達障害(「PDD-NOS」)、又は小児崩壊性障害(「CDD」)を含むがこれらに限定されないASDの症状のうちの1つ以上を有する病的状態を指す場合もある。
【0040】
「ASD陰性」という用語は、一般的に、ASDに罹患しておらず、ASDを発症してもいない個人からの生体サンプルを指す。
【0041】
「ASD治療レジメ」という用語は、一般的に、ASDに罹患している対象に対応して行われる介入を指す。レジメの目的は、症状の緩和又は予防、ASDの進行又は悪化の減速又は停止、及びASDの寛解のうちの1つ以上を挙げることができるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、「ASD治療レジメ」とは、治療的処置(例えば、ASD関連代謝物レベルの変更)、食事の調整、栄養の補充、及び/又は行動訓練を指す。
【0042】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「含有する(contain)」、「含有する(contains)」、及び「含有する(containing)」は、非限定的であることを意味する、すなわち、結果の結末に影響を与えない他の工程及び他のセクションを追加することができる。上記の用語は、「からなる」及び「から本質的になる」という用語を包含する。
【0043】
「行動遂行の改善」という用語は、一般的に、その程度を問わず、ASDに罹患している個体が示す行動の障害、症状、及び/若しくは異常のうちの1つ以上、又はASDの症状のうちの1つ以上を有する病的状態の予防又は重症度若しくは頻度の低下を指す。行動症状の非限定的な例としては、反復行動、プレパルス抑制(「PPI」)の減少、及び不安の増大が挙げられる。改善は、治療を行う個人又は別の人物(例えば、医療関係者又はその他)によって観察され得る。
【0044】
「代謝物」という用語は、一般的に、代謝に関与する任意の分子を指す。代謝物は、代謝過程における生成物、基質、又は中間体であってよい。代謝物としては、限定されるものではないが、アミノ酸、ペプチド、アシルカルニチン、単糖類、脂質及びリン脂質、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、グルコース、プロスタグランジン、ヒドロキシエイコサテトラエン酸、ヒドロキシオクタデカジエン酸、ステロイド、胆汁酸、並びに糖脂質及びリン脂質を挙げることができる。
【0045】
「ASD関連代謝物」又は「メタボロミクスプロファイル」という用語は、一般的に、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(「HPHPA」)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコース、又はそれらの組み合わせから選択される1つ又は2つ以上の代謝物を含む、ASDに関連する代謝物のプロファイルを指す。
【0046】
用語「好ましい」、「好ましくは」、及び変形は、一般的に、特定の状況下で特定の利点を与える本開示の実施形態を指す。しかし、同じ又は他の状況下で他の実施形態が好ましい場合もある。更に、1つ以上の好ましい実施形態の列挙は、他の実施形態が有用ではないことを意味するものではなく、他の実施形態を本開示の範囲から除外することを意図するものでもない。
【0047】
「予防する」及び「予防」という用語は互換的に使用され、一般的に、対象におけるASD発症リスクの低減につながる任意の活動を指す。
【0048】
「ASD関連タンパク質」又は「プロテオミクスプロファイル」という用語は、一般的に、レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、α-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク2、及びテネイシンC、又はそれらの組み合わせから選択される2つ以上、3つ以上、4つ以上、又は5つ以上のタンパク質を含むASDに関連するタンパク質のプロファイルを指す。
【0049】
「対象」という用語は、一般的に、哺乳類等の脊椎動物を指す。「哺乳類」という用語は、哺乳綱に属する個体として定義され、ヒト、ドメスティックアニマル及び家畜、並びに動物園の動物、スポーツ動物、又はペット動物、例えば、ヒツジ、イヌ、ウマ、ネコ、又はウシが挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、対象は、ヒトである。
【0050】
「治療する」又は「治療」という用語は、一般的に、対象が示すASD又は関連する症状に対応して行われる介入を指す。治療の目的は、ASDの緩和又は予防、ASDの進行又は悪化の減速又は停止、及びASDの寛解のうちの1つ以上を挙げることができるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、「治療」とは、処置療法、食事療法、栄養補助療法、及び/又は行動療法を指す。
【0051】
本開示の全ての実施形態では、全ての百分率、濃度、部、及び比は、特に指定されない限り、本開示の組成物の総重量に基づく。列挙されている成分に関するそのような重量は全て活性レベルに基づくので、特に指定しない限り、市販の材料に含まれる可能性のある溶剤も副産物も含まない。
【0052】
特に具体的に記載のない限り、全ての比は重量比である。特に具体的に記載のない限り、全ての温度は摂氏温度(℃)である。本明細書に開示される全ての寸法及び値(例えば、量、百分率、部、及び比率)は、列挙された正確な数値に厳密に限定されると理解されるべきではない。その代わり、特に指定がない限り、そのような各寸法又は値は、列挙された値とその値の前後の機能的に等価な範囲の両方を意味することが意図される。例えば、「40mm」と開示されている寸法は、「約40mm」を意味することが意図される。
【0053】
ASDを診断及び治療する方法
広範な一態様では、本開示は、対象におけるASD及び任意の関連する症状を(早期)診断及び治療する方法に関する。本開示は、少なくとも部分的には、ASDに関連する病因情報を提供する新規代謝物及び/又は新規タンパク質の同定を前提としており、より有効な療法につながる可能性のある、対象のASDを客観的に代謝物ベース及び/又はタンパク質ベースで診断する機会を提供する。遺伝と環境との間の相互作用の複雑さに鑑みて、代謝及び/又はプロテオミクスのプロファイリングは、ASDのより深い理解及び個別化治療法の決定に役立つ診断検査の開発に向けて重要なアプローチを提供することができる。代謝及び/又はプロテオミクスに基づく解析は、個人の遺伝性の遺伝子に由来するバイオマーカープロファイルを同定することに加えて、ASD対象の固有の代謝プロファイル及び/又はタンパク質プロファイルに寄与する個人の現在のライフスタイル行動(例えば、喫煙、アルコール消費、睡眠行動、身体活動等)、腸内微生物叢、食事、及び環境要因の相互作用を捉えるという利点を有する。早期診断とASD治療レジメとを組み合わせることは、対象の人生のより早い段階で好ましい治療成績が増加するという更なる利点もある。ASD対象の診断及び治療に役立つ該対象に共通する新規の代謝プロファイル及び/又はプロテオミクスプロファイルの同定を提供する方法が、本明細書に記載される。従って、本開示は、当技術分野における進歩を提供する。
【0054】
本開示により、ASDを有する対象において、ASDに関する新規メタボロミクスプロファイルが同定される。ASDに関するメタボロミクスプロファイルは、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物を含む。好ましくは、ASDに関連するメタボロミクスプロファイルは、フマル酸、L-リンゴ酸、及び3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)を含む。
【0055】
代謝物である3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(「HPHPA」)は、ASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照HPHPAのレベルの中央値と比較して約10倍以上のレベルに上昇することが観察されている。幾つかの態様では、約100μmol/mmol(クレアチニン)以上の上昇したHPHPAレベルによって、対象がASDを有すると特定される。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。HPHPAは、ヒトの尿で検出される豊富な有機酸であり、栄養源に由来すると考えられる。しかし、最近、尿中のHPHPAは、消化管内で細菌(すなわち、クロストリジウム属の種)がポリフェノールを代謝することによって生じる異常なフェニルアラニン代謝物から生じる可能性があることが報告されている。
【0056】
代謝物であるフマル酸もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照フマル酸のレベルの中央値と比較して約2倍以下のレベルに低下することが観察されている。幾つかの態様では、約0.4μmol/mmol(クレアチニン)以上の低下したフマル酸レベルによって、対象がASDを有すると特定される。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。フマル酸は、クレブストリカルボン酸(TCA)サイクルにおける代謝を通して生成され、該回路において、フマル酸はL-リンゴ酸の前駆体である。尿中に排出される場合もあり、フマル酸のレベルが低いとミトコンドリア機能不全を示すことがある。
【0057】
代謝物であるL-リンゴ酸もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照L-リンゴ酸のレベルの中央値と比較して約2倍以下のレベルに低下することが観察されている。幾つかの態様では、約7μmol/mmol(クレアチニン)以上の低下したフマル酸レベルによって、対象がASDを有すると特定される。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。L-リンゴ酸は、フマル酸と同様に、クレブスTCAサイクルにおける中間体であり、クエン酸の代謝を通して生成される。L-リンゴ酸は、オキサロ酢酸の前駆体である。尿中に排出される場合もあり、L-リンゴ酸のレベルが低いとミトコンドリア機能不全を示すことがある。
【0058】
代謝物であるアシルカルニチンもASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照アシルカルニチンのレベルの中央値と比較して約0.5~約2.0倍、好ましくは約0.75~約1.75倍、又は好ましくは約0.85~約1.5倍、又はそれ以上のレベルに上昇することが観察されている。好ましくは、アシルカルニチンは、C10:1(デセノイルカルニチン)、C16:2(9,12-ヘキサデカジエノイルカルニチン)、及び/又はC7-DC(ピメリル-L-カルニチン)から選択される。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。生化学的、遺伝学的、及び病理組織学的な所見に基づいて、ミトコンドリア機能不全は、ASDの原因として以前から推測されていた。更に、ASD児の小集団の症状は、集団ベースの調査におけるミトコンドリア呼吸鎖障害の基準と密接に重なっていた(Oliveira,G.et al.,Mitochondrial dysfunction in autism spectrum disorders:a population-based study.Dev.Med.Child Neurol.47,185-189(2005))。ミトコンドリアは、機能するためのエネルギーを細胞に供給するのに関与する中心的なオルガネラであるため、その機能に欠陥があると、疲労、脱力、代謝性脳卒中、発達又は認知の障害、消化管又は腎臓の機能障害を含む広範囲にわたる健康上の懸念が生じる場合があり、そのうちの一部はASD症状として観察されるものである。血漿中のミトコンドリア機能の評価及びアシルカルニチンの濃度上昇は、ミトコンドリア機能不全を示している場合がある。カルニチンは、脂肪酸(FA)代謝に関与し、長鎖FAのミトコンドリア酸化及び細胞内のアシル-CoA-CoA比の緩衝において絶対的な役割を果たす。そのため、アシルカルニチンプロファイルは、β酸化の直接的又は間接的な破壊を通じたミトコンドリア機能不全を示唆する。ASDの状況では、アシルカルニチンが調節不全となることが判明している。理論に束縛されるものではないが、血漿アシルカルニチンは、アシルカルニチンの取り込みが広範囲にわたって阻害されるか、又は恐らくミトコンドリア内部の脂肪アシル-CoA形成を維持するためにCoAのミトコンドリア内基質利用可能性が低下することにより増加し得る。
【0059】
代謝物であるリゾリン脂質もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照リゾリン脂質のレベルの中央値と比較して約1.1倍以上、又は好ましくは約1.2倍以上のレベルに上昇することが観察されている。好ましくは、リゾリン脂質は、リゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3である。ASD対象の血清では、リゾリン脂質のレベルの上昇がみられる。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。理論に束縛されるものではないが、血清リゾリン脂質のレベル上昇は、脂肪酸代謝の障害を示す。
【0060】
代謝物であるスフィンゴ脂質もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照スフィンゴ脂質のレベルの中央値と比較して約1.05倍、又は好ましくは約1.1倍以上のレベルに上昇することが観察されている。好ましくは、スフィンゴ脂質は、SM(OH)C24:1(C24:1ヒドロキシスフィンゴミエリン)及び/又はSM(OH)C22:2(C22:2ヒドロキシスフィンゴミエリン)である。ASD対象の血清では、スフィンゴ脂質のレベルの上昇がみられる。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。理論に束縛されるものではないが、血清スフィンゴ脂質のレベル上昇は、脂肪酸代謝の障害を示す。
【0061】
代謝物であるグリセロリン脂質もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照グリセロリン脂質のレベルの中央値と比較して約1.05倍、又は好ましくは約1.1倍以上のレベルに上昇することが観察されている。好ましくは、グリセロリン脂質は、PC ae C36:0(アシル-アルキル残基の合計がC36:0であるホスファチジルコリン)及び/又はPC aa C40:2(ジアシル残基の合計がC40:2であるホスファチジルコリン)である。ASD対象の血清では、グリセロリン脂質のレベルの上昇がみられる。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。理論に束縛されるものではないが、血清グリセロリン脂質のレベル上昇は、脂肪酸代謝の障害を示す。
【0062】
代謝物であるグルコースもASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照グルコースのレベルの中央値と比較して約1.2倍、又は好ましくは約1.2倍以上のレベルに上昇することが観察されている。ASD対象の血清では、グルコースのレベルの上昇がみられる。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。脂肪酸の酸化に加えて、解糖もエネルギー生産の別の主要なプロセスである。最近の研究で、新生児期の異常なグルコースレベルとミトコンドリア機能不全との間の繋がりが解明された(Hoirisch-Clapauch,S.&Nardi,A.E.Autism spectrum disorders:let’s talk about glucose? Transl.Psychiatry 9,51-51(2019))。グルコース代謝、ミトコンドリア機能不全、及びASDの神経症状の間には関連性があると考えられる。更に、ASD群でみられるような低レベルのインスリン様成長因子が、小児の神経疾患で観察されている。
【0063】
代謝物である4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性者における参照4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸のレベルの中央値と比較したとき、ASDサンプルには存在しない(又は定量可能レベルよりも低い(すなわち、検出不可能である))ことが観察されている。ASD対象の尿中では、4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸のレベルが低下しているか又は検出されないことが見出された。そのような対象は、ASDと臨床的に診断されている場合もある及び/又はASDの治療を受けている。これら有機酸は、非ASD対象と比較してASD対象からのサンプルでは定量可能なレベルよりも低い。
【0064】
本開示により、ASDを有する対象において、ASDに関する新規プロテオミクスプロファイルが同定される。ASDのプロテオミクスプロファイルは、レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質を含む。
【0065】
本発明者らは、ASD対象では血液凝固に関与するタンパク質のレベルが上昇していることを明らかにした。具体的には、タンパク質アルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、及び凝固第XI因子がASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照アルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、及び凝固第XIのレベルの中央値と比べて、約0.5~約1.5倍、好ましくは約0.75~約1.3倍、又は好ましくは約0.85~約1.2倍、又はそれ以上のレベルに上昇することが観察されている。これらタンパク質は、血液凝固のプロセスを支援し、活性化されるとフィブリンを溶解する。
【0066】
タンパク質である凝固第XIII因子A鎖もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照凝固第XIII因子A鎖のレベルの中央値と比較して約1.2倍以下、又は好ましくは約1.3倍以下のレベルに低下することが観察されている。これらタンパク質も、血液凝固のプロセスを支援し、活性化されるとフィブリンを溶解する。凝固第XIII因子A鎖のレベルの低下は、ASD対象で起こる血液凝固プロセスの調節不全を示す。理論に束縛されるものではないが、フィブリンは、凝固カスケードの最終段階に関与しており、これにはフィブリンのネットワークを安定化させるために凝固第XIII因子A鎖が必要となる。凝固第XIII因子A鎖のレベルの低下により、正常な血液凝固プロセスが妨害される。
【0067】
タンパク質であるトロンボスポンジン-1(TSP-1)もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照トロンボスポンジン-1(TSP-1)のレベルの中央値と比較して、約1.2倍以下、好ましくは約1.4倍以下、又は好ましくは約1.5倍以下のレベルに低下することが観察されている。トロンボスポンジン-1(TSP-1)は、血小板の活性化中の凝固第XIII因子の基質であり、トロンボスポンジン-1(TSP-1)のレベルの低下も正常な血液凝固プロセスを妨害する。
【0068】
タンパク質であるテネイシンCもASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照テネイシンCのレベルの中央値と比較して約0.3倍以上、好ましくは約0.35倍以上、又は好ましくは0.4倍以上のレベルに上昇することが観察されている。テネイシンCは、自然免疫及び免疫制御のトリガーとして機能する。テネイシンCレベルの上昇は、傷害又は感染中にみられる炎症促進性サイトカインの増加、炎症の進行及び創傷治癒中の一過性の増加、並びに炎症性疾患、自己免疫疾患、及び線維性疾患に伴う持続的な発現をもたらす。
【0069】
タンパク質であるレチノール結合タンパク質4(RBP4)もASDのバイオマーカーとして同定され、ASD陰性対象における参照レチノール結合タンパク質4(RBP4)のレベルの中央値と比較して、約1.5倍以下、好ましくは約1.7倍以下、又は好ましくは約1.8倍以下のレベルになることが観察されている。RBP4レベルは、ビタミンAの代謝物であるレチノールに結合し、輸送する機能を有することから、レチノールの状態の代用マーカーとなる。血漿RBP4と自閉症との関連についての開示は知られていない。RBP4のレベルの低下は、急性期応答(炎症状態)及び栄養失調に起因する可能性がある。理論に束縛されるものではないが、まとめると、急性期応答、凝固における機能低下、並びに内皮細胞及び血管周囲細胞の調節不全が、ASDの表現型、特に発達遅延及び免疫系の変化の基礎を形成する可能性がある。
【0070】
驚くべきことに、ASDに罹患している対象では、非自閉症者及び/又はASD陰性者と比較してメタボロミクスプロファイル及び/又はプロテオミクスプロファイルが変化することが見出された。特に、ASDを有する対象の循環では、非自閉症者と比較してASD関連代謝物及び/又はASD関連タンパク質のレベルが変化する。特定の実施形態では、ASDを有する対象の血液(例えば、血清、血漿)、体液(例えば、脳脊髄液、胸水、羊水、精液、又は唾液)、尿、及び/又は糞便において、ASD関連代謝物及び/又はASD関連タンパク質のレベルが変化する。理論に束縛されるものではないが、ASD関連代謝物及び/又はASD関連タンパク質は、ASDを有する対象におけるASD関連行動の発現の原因となる役割を果たすと考えられる。あるいは、ASD関連代謝物及び/又はASD関連タンパク質のレベルの変化は、ASDによって引き起こされる。
【0071】
具体的には、一態様では、本開示は、対象における自閉症スペクトラム障害(「ASD」)を診断及び治療する方法を提供する。方法は、工程(a)対象、好ましくはヒトから得られた生体サンプルを提供することを含む。生体サンプルは、成人対象からのものであっても、10代の対象からのものであってもよい。生体サンプルは、小児、例えば、約10歳未満、約5歳未満、約3歳未満、約2歳未満、又は約18ヶ月未満の小児から得ることもできる。本明細書に開示される方法に従って、血液(血清又は血漿を含むがこれらに限定されない)、脳脊髄液(「CSF」)、胸水、尿、便、汗、涙、呼気凝縮液、唾液硝子体液、組織サンプル、羊水、絨毛膜絨毛採取、脳組織;腫瘍、隣接する正常筋、平滑筋、及び骨格筋、脂肪組織、肝臓、皮膚、毛髪、脳、腎臓、膵臓、肺等を含む任意の固形組織の生検材料を含むがこれらに限定されない、対象の身体のいずれかを起源とする任意の種類の生体サンプルを試験することができる。好ましくは、生存対象から得られる生体サンプルは、尿である。ASD関連代謝物は、定量分析化学において一般的に使用される任意の数の抽出/精製手順を使用して、その生物学的起源から抽出することができる。
【0072】
方法は、更に、工程(b)得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することを含む。特定の実施形態では、方法は、得られたサンプルから少なくとも6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、又は15個のASD関連代謝物を測定することを含む。
【0073】
特定の実施形態では、ASD関連代謝物の濃度レベルは、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)GC及び液体クロマトグラフィー質量分析(例えば、LC-MS、LC-MS-MS、LC-MRM、LC-SIM、及びLC-SRM)を含むがこれらに限定されない質量分析を通じて測定してよい。好ましくは、ASD関連代謝物は、分光技術によって測定され、該分光技術は、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー質量分析、ガスクロマトグラフィー質量分析、高速液体クロマトグラフィー質量分析、キャピラリー電気泳動質量分析、核磁気共鳴分析法(NMR)、ラマン分光法、及び赤外分光法からなる群から選択される。また、例えば、比色法、酵素法、免疫学的方法、並びに例えば、リアルタイムPCR、RT-PCT、ノーザン分析、及びインサイチュハイブリダイゼーションを含む遺伝子発現解析等の他の方法論の下で測定を実施してもよい。
【0074】
特定の実施形態では、本明細書に記載される方法のいずれかでは、方法は、本明細書に記載のもののいずれかを含むがこれらに限定されない、1つ以上の追加のASD関連代謝物の濃度レベルを測定することを更に含んでいてもよく、測定することも可能である。本開示の新規アプローチは、診断分類の小集団(すなわち、この場合ASD)に関して高い予測値を有するバイオマーカーを同定する。追加のASD関連代謝物を含めることの利点は、追加の代謝物のサブタイプを明らかにする機会が得られ、方法の全体的な感度が高まることである。追加のASD関連代謝物の非限定的な例を表1に提供する。ここでは、生体サンプルから得られた1つ以上の追加のASD関連代謝物の濃度レベルが参照ASD陰性サンプルにおける濃度レベルと異なる場合、対象はASDを有すると特定される。
【0075】
【0076】
追加のASD関連代謝物の他の好適な例としては、PCT国際出願第PCT/US2014/045397号の表6に列挙されている代謝物が挙げられ、関連する内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
本明細書に記載の方法は、更に、工程(c)得られたサンプルからのASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することを含む。当業者であれば、比較のために、ASDに罹患していない非自閉症集団におけるASD関連代謝物のレベルを代表する値として参照を確立できることを理解するであろう。参照集団における特定の対象の包含及び/又は除外を決定するために、対象の年齢(例えば、参照対象は、治療を必要とする対象と同じ年齢群内であってよい)及び対象の性別(例えば、参照対象は、治療を必要とする対象と同じ性別であってよい)を含む様々な基準を使用することができる。特定の実施形態では、参照は、約10歳以下、約5歳以下、約3歳以下、又は約18ヶ月以下の非自閉症児から得られたASD陰性サンプルからのものである。特定の実施形態では、本明細書に記載の方法では、対象は、約10歳以下、約5歳以下、約3歳以下、又は約18ヶ月以下の小児である。
【0078】
本明細書に記載の方法は、更に、工程(d)得られたサンプルからのASD関連代謝物の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、対象がASDを有すると特定することを含む。特定の実施形態では、特定する工程(d)は、得られたサンプルからの少なくとも1つのASD関連代謝物の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの少なくとも1つの参照ASD関連代謝物の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる。特定の実施形態では、特定する工程(d)は、得られたサンプルからの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる。
【0079】
特定の実施形態では、特定する工程(d)は、得られたサンプルからのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照フマル酸及び/又は参照L-リンゴ酸の濃度レベルに比べて低下していると判定されたときに行われる。幾つかの態様では、得られたサンプルからのフマル酸の濃度レベルは、ASD陰性サンプルからの参照フマル酸の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上低い。幾つかの態様では、得られたサンプルからのL-リンゴ酸の濃度レベルは、ASD陰性サンプルからの参照フマル酸の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上低い。
【0080】
特定の実施形態では、特定する工程(d)は、得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。幾つかの態様では、得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルは、ASD-陰性サンプルからの参照3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上上昇する。幾つかの態様では、約100μmol/mmol(クレアチニン)以上の上昇したレベルの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)によって、対象がASDを有すると特定される。幾つかの態様では、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)レベルが約100μmol/mmol(クレアチニン)未満であると、ASDを有すると特定することから対象が除外される。
【0081】
本明細書に記載の方法は、更に、工程(e)そのようにASDを有すると特定された対象をASD治療レジメで治療することを含む。
【0082】
特定の実施形態では、本明細書に記載の方法のいずれかを用いて、得られたサンプルからの少なくとも1つのASD関連代謝物の濃度レベルとASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルとの比較は、多変量統計分析を用いることを含む。好ましくは、多変量統計解析は、主成分分析(「PCA」)、又は部分的最小二乗潜在構造投影判別分析(「PLS-DA」)から選択される。特定の実施形態では、統計解析のためにコンピュータが使用される。統計解析のためのデータは、当技術分野で公知の統計方法のためのソフトウェアを使用して、クロマトグラム(すなわち、質量シグナルのスペクトル)から抽出することができる。
【0083】
幾つかの態様では、本開示は、ASDの進行をモニタリングし、対象におけるASDを治療する方法に関する。本質的に、方法は、対象におけるASD進行(例えば、ASD進行の低下率又は改善率)をモニタリングするために、治療開始後の1つ以上の時点においてASD関連代謝物を定量することを含む。従って、方法は、(a)第1の時点で対象から得られた第1の生体サンプルを提供することと;(b)該第1の得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することによって、第1のASD関連代謝物プロファイルを評価することと;(c)該第1のASD関連代謝物プロファイルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物プロファイルと比較することと;(d)該第1のASD関連代謝物プロファイルと該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物プロファイルとの間に、ASDを示す第1の差があると判定することと;(e)該第1の時点の後である第2の時点で該対象から得られた第2の生体サンプルを提供することと;(f)該第2の得られたサンプルから該ASD関連代謝物の濃度レベルを測定することによって、第2のASD関連代謝物プロファイルを評価することと;(g)該第2のASD関連代謝物プロファイルを、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物プロファイルと比較することと;(h)該第1のASD関連代謝物プロファイルと該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物プロファイルとの間に、ASDを示す第2の差があると判定することと;(i)該第1の差及び第2の差に少なくとも部分的に基づいてASDの進行を判定することと;(j)特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0084】
上記方法の特定の実施形態では、第1の時点と第2の時点との間の期間は、少なくとも1ヶ月、少なくとも2ヶ月、少なくとも3ヶ月、少なくとも6ヶ月、少なくとも9ヶ月、又は少なくとも12ヶ月、好ましくは少なくとも3ヶ月である。幾つかの実施形態では、最初の2つの生体サンプルが得られる前に、対象には既に治療が施されている。他の実施形態では、生体サンプルの採取間の間隔(複数可)において、対象には既に治療が施されている。特定の実施形態では、第1の生体サンプル、第2の生体サンプル、又はその両方は、血液又は尿、好ましくは血清、血漿、又は尿である。
【0085】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の生体サンプルからの好ましくはC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCから選択されるアシルカルニチンの濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからのC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCの濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0086】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからのフマル酸及び/又はL-リンゴ酸の濃度レベルに比べて低下していると判定されたときに行われる。
【0087】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0088】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからのリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0089】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2、得られたサンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2、第2の得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2の濃度レベルと判定されたときに行われる。
【0090】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0091】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2、得られたサンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2、第2の得られた生体サンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2の濃度レベルと判定されたときに行われる。
【0092】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0093】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからの4-ヒドロキシマンデル酸及び/又は2-ヒドロキシイソ吉草酸の濃度レベルに比べて低下していると判定されたときに行われる。
【0094】
上記方法の特定の実施形態では、判定する工程(i)は、第2の得られた生体サンプルからのp-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルが、第1の得られた生体サンプルからのp-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0095】
本開示はまた、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法を提供する。方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを提供することと;(b)レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質の濃度レベルを測定することと;(c)該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比較することと;(d)該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルから該参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比べて異なる場合、該対象がASDを有すると特定することと;(e)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0096】
本開示はまた、対象における自閉症スペクトラム障害(ASD)を診断及び治療する方法を提供する。方法は、(a)対象から得られた生体サンプルを提供することと;(b)該得られたサンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを測定することと;(c)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比較することと;(d)レチノール結合タンパク質4(RBP4)、アポリポタンパク質A-II、セロトランスフェリン、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、凝固第XIII因子A鎖、アルファ2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、アルファ-1-アンチトリプシン、インスリン様成長因子結合タンパク質2、及びテネイシンCからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連タンパク質の濃度レベルを測定することと;(e)該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比較することと;(f)該得られたサンプルからの該ASD関連代謝物の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なっており、かつ該得られたサンプルからの該ASD関連タンパク質の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの該参照ASD関連タンパク質の濃度レベルと比べて異なっている場合、該対象がASDを有すると特定することと;(g)そのように特定された対象をASD治療レジメで治療することと、を含む。
【0097】
上記方法の特定の実施形態では、特定する工程(f)は、得られたサンプルからのASD関連タンパク質のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つの濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連タンパク質の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる。
【0098】
上記方法の特定の実施形態では、特定する工程(f)は、得られたサンプルからのアルファ-2-アンチプラスミン、凝固第X因子、凝固第XI因子、及び/又はテネイシンCの濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照アルファ-2-アンチプラスミン、参照凝固第X因子、参照凝固第XI因子、及び/又は参照テネイシンCの濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0099】
上記方法の特定の実施形態では、特定する工程(f)は、凝固第XIII因子A鎖、トロンボスポンジン-1(TSP-1)、及び/又はレチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照凝固第XIII因子A鎖、参照トロンボスポンジン-1(TSP-1)、及び/又は参照レチノール結合タンパク質4(RBP4)の濃度レベルに比べて低下していると判定されたときに行われる。
【0100】
上記方法の特定の実施形態では、特定する工程は、得られたサンプルからのASD関連代謝物のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つの濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルに比べて約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上異なると判定されたときに行われる。
【0101】
上記方法の特定の実施形態では、特定する工程(f)は、得られたサンプルからの3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、及び/又はグリセロリン脂質の濃度レベルが、該ASD陰性サンプルからの参照3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、参照アシルカルニチン、参照リゾリン脂質、参照スフィンゴ脂質、及び/又は参照グリセロリン脂質の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0102】
上記方法のいずれかの特定の実施形態では、アシルカルニチンは、C10:1、C16:2、及び/又はC7-DCから選択される。好ましくは、方法の特定する工程は、得られたサンプルからのC10:1、C16:2、及び/又はC7-DCの濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照C10:1、参照C16:2、及び/又は参照C7-DCの濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0103】
上記方法のいずれかの特定の実施形態では、リゾリン脂質は、リゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3である。好ましくは、方法の特定する工程は、得られたサンプルからのリゾPC a C17:0及び/又はリゾPC a C20:3の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照リゾPC a C17:0及び/又は参照リゾPC a C20:3の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0104】
上記方法のいずれかの特定の実施形態では、スフィンゴ脂質は、SM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2である。好ましくは、方法の特定する工程は、得られたサンプルからのSM(OH)C24:1及び/又はSM(OH)C22:2の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照SM(OH)C24:1及び/又は参照SM(OH)C22:2の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0105】
上記方法のいずれかの特定の実施形態では、グリセロリン脂質は、PC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2である。好ましくは、方法の特定する工程は、得られたサンプルからのPC ae C36:0及び/又はPC aa C40:2の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照PC ae C36:0及び/又は参照PC aa C40:2の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0106】
上記方法の特定の実施形態では、特定する工程は、得られたサンプルからのp-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルが、ASD陰性サンプルからの参照p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び/又は4-ヒドロキシ馬尿酸の濃度レベルに比べて上昇していると判定されたときに行われる。
【0107】
ASD治療レジメは、ASDを有するか又はASDを発症する素因があると診断された対象に対する食事の調整、栄養の補充、行動訓練、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましくは、ASD治療レジメは、ASDを有するか又はASDを発症する素因があると診断された対象におけるASD関連代謝物のうちの1つ以上の濃度レベルを、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の対応するレベルに向けて調整する効果を有する。
【0108】
対象の食事を調整するために、様々な方法を用いることができる。非限定的な例として、1つ以上の腸内細菌種を低減するために、低炭水化物食を対象に提供してよい。理論に束縛されるものではないが、低炭水化物食は、発酵に利用可能な材料を制限し、対象における腸内微生物叢の組成を減少させることができると考えられる。例えば、ASDを治療するために、対象におけるクロストリジウム属の細菌(ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)等)のレベルを低下させることが望ましい場合がある。更に、ケトン誘発食による脂肪酸酸化増加及び血糖レベル低下の誘導は、ASDを有する対象、特に小児における症状を改善する可能性がある。
【0109】
栄養の補充は、非限定的な例として、対象に健康上の利益を提供する栄養強化食品又はサプリメントによって調整することができる。本明細書で使用するとき、用語「プロバイオティクス」とは、一般的に、適切な量で投与されたときに健康上の利益を提供し、対象におけるASDの治療に役立ち得る、生存している微生物を指す。プロバイオティクスは、栄養強化食品及び栄養補助食品(例えば、カプセル、錠剤、及び粉末)で利用可能であり得る。プロバイオティクスを含む栄養強化食品の非限定的な例としては、ヨーグルト等の乳製品、発酵及び未発酵乳、スムージー、バター、クリーム、フムス、昆布茶、サラダドレッシング、味噌、テンペ、栄養バー、並びに一部のジュース及び大豆飲料が挙げられる。
【0110】
行動訓練とは、ASDに関連する行動症状が現れているか又は後に発症する人の負担を軽減する任意の活動を指す。行動訓練には、当技術分野で一般的に知られているような標準的な行動修正治療が含まれ得る。
【0111】
対象におけるASD関連代謝物の濃度レベル、例えば血中レベル(例えば、血清レベル)を調整するために、様々な方法を用いることができる。好ましくは、対象における1つ以上のASD関連代謝物の濃度レベルの調整は、該対象において行動遂行の改善が観察されるまで行われる。
【0112】
特定の実施形態では、ASD関連代謝物、ASD関連代謝物のインビボ合成のための中間体、又はASD関連代謝物のインビボ合成のための基質に特異的に結合する抗体を、対象に投与してよい。例えば、HPHPA並びに/又はインビボHPHPA合成における基質及び中間体のうちの1つ以上に特異的に結合する抗体を用いて、対象におけるHPHPAのレベルを低下させることができる。
【0113】
特定の実施形態では、1つ以上のASD関連代謝物の濃度レベル、例えば血中レベル(例えば、血清レベル)は、対象における腸内微生物叢の組成を調整することによって調整される。特定の実施形態では、対象における腸内微生物叢の組成を調整することは、対象における1つ以上の細菌種のレベルを上昇させることを含む。非限定的な例として、対象における腸内微生物叢の組成を調整するために、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、エリュシペロトリクス科(Erysipelotrichaceae)、及び/又はアルカリゲネス科(Alcaligenaceae)の細菌のレベルを上昇させてよい。特定の実施形態では、対象における腸内微生物叢の組成を調整することは、対象における1つ以上の細菌種のレベルを低下させることを含む。非限定的な例として、対象における腸内微生物叢の組成を調整するために、クロストリジウム属の細菌のレベルを低下させてよい。
【0114】
特定の実施形態では、対象における腸内微生物叢の組成は、糞便移植(糞便微生物叢移植(「FMT」)、糞便細菌療法、又は便移植として知られている)によって調整される。糞便移植は、健常ドナー(すなわち、ASD陰性者)からレシピエント(例えば、ASDに罹患している対象)へ糞便細菌を単回又は複数回移植するプロセスを含み得る。
【0115】
特定の実施形態では、対象における腸内微生物叢の組成は、細菌を含む組成物、例えば、バクテロイデス属(Bacteroides)の細菌(例えば、バクテロイデス・フラジリス(B.fragilis))を含む組成物を対象に投与することによって調整される。細菌組成物は、経口投与、直腸投与、経皮投与、鼻腔内投与、又は吸入を介して対象に投与することができる。経口投与では、細菌組成物は、プロバイオティクス組成物、栄養補給組成物、医薬組成物、又はそれらの混合物であってよい。ヒト及び動物の対象への投与量は、好ましくは、所望の効果をもたらすのに十分な量の計算された所定量の細菌を含有する。
【0116】
キット
本明細書に記載のメタボロミクスプロファイルは、継続的な評価、モニタリング、易罹患性評価、保因者検査、及び出生前診断を含む、ASDの診断、予測、調節、又はモニタリングのための検査、アッセイ、方法、キットに利用することができる。本開示は、ASDに関連する少なくとも1つ以上のASD関連代謝物を測定及び同定することによりASDを診断するためのキットを含む。好ましくは、キットは、ASDと判定された際に開始される適切なASD治療レジメを含み得る。従って、キットは、(a)得られた生体サンプルからフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物の濃度レベルを検出するように構成されている検出器と;(b)ASD陰性対象の対照群に対応する対照レベルのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタゴン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースを含む組成物と、(c)該ASD関連代謝物の濃度レベルと該対照レベルとの差を分析するように構成されている多変量解析システムと;(d)任意で、ASD診断方法の説明書であって、該方法が、該得られた生体サンプルからのASD関連代謝物のレベルを該検出器を用いて測定し、得られたASD関連代謝物のレベルをASD陰性対象から得られたASD関連代謝物の対照レベルと比較することを含む説明書と、を含む。好ましくは、ASD診断方法は、ASD関連代謝物のレベルを測定するように構成されているマルチ代謝物検出器を含む。
【0117】
幾つかの態様では、キットは、(本明細書で上述したような)物理的分離技術によってASD関連代謝物を測定するためのものであってよい。幾つかの態様では、キットは、物理的分離法以外の方法、例えば非限定的な例として、比色法、酵素法、及び免疫学的方法によってASD関連代謝物を測定するためのものであってもよい。また、キットは、1つ以上の適切な陰性及び/又は陽性の対照を含んでいてもよい。本開示のキットは、試験を行うために必要なバッファ及び溶液等の他の試薬を含んでいてもよい。
【0118】
コンピュータで実行される方法
本開示はまた、対象の生体サンプルを処理し、ASDを診断し、ASDを治療するためのコンピュータで実行される方法に関する。コンピュータで実行される方法は、更に、より有効な治療レジメを支援するために複数の時点にわたってASDの進行をモニタリングすることを可能にし得る。
【0119】
コンピュータで実行される方法は、対象からの生体サンプルを受信することと;処理装置に直接又は無線で接続されるか又は任意の好適な通信技術を利用してもよい分光測定ユニットでサンプルを処理することであって、該処理装置が、該分光測定ユニットからの測定データを保存するためのメモリを有することと;該分光測定ユニットで、フマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル-3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物のレベルを測定し、測定データをプロセッサに保存することと、を含む。処理装置は、方法に関連するデータを保存するように構成又は適合され得る1つ以上のデータ保存装置を備える。例えば、データ保存装置は、分光測定ユニットからの測定データを保存するように構成又は適合され得る。また、データ保存装置は、そこに保存されたコンピュータプログラムコードを含んでいてもよい。この実施形態のプログラムコードは、その実行時に方法の態様の工程を少なくとも実行するためのプログラムコードを含み得る。
【0120】
コンピュータで実行される方法は、更に、多変量統計解析を用いて、保存された測定データをASD陰性サンプルを表すメモリ内の値と比較することと;得られたサンプルからのフマル酸、L-リンゴ酸、4-ヒドロキシマンデル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、3-(3-ヒドロキシフェニル)-3-ヒドロキシプロパン酸(HPHPA)、p-ヒドロキシフェニル酢酸、2-エチル3-ヒドロキシプロピオン酸、3-メチルグルタコン酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-メチルグルタル酸、及び4-ヒドロキシ馬尿酸、アシルカルニチン、リゾリン脂質、スフィンゴ脂質、グリセロリン脂質、及びグルコースからなる群から選択される少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は少なくとも5つのASD関連代謝物に対応する結果を処理装置に保存することであって、該結果から、ASD関連代謝物のレベルを表す測定データが、ASD陰性サンプルからの参照ASD関連代謝物の濃度レベルと比べて異なる場合、対象がASDを有すると特定されることと;ASDを有するか又はASDを発症する素因を有すると特定された対象のために、プロセッサに直接又は無線で接続された電子ディスプレイにASD治療レジメを表示することと、を含む。表示される治療レジメは、ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象に対する食事の調整、栄養の補充、行動訓練、若しくはそれらの組み合わせ、又は対象において行動遂行の改善が観察されるまで、ASDを有するか若しくはASDを発症する素因を有すると診断された対象におけるASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整、のうちの1つ以上を説明するグラフィカルユーザインターフェースにおける電子テキストを、任意でグラフィカルアイコンと共に含み、好ましくは、該ASD関連代謝物のうちの1つ以上の血中レベルの調整は、対象における腸内微生物叢の組成の調整を含む。
【実施例】
【0121】
以下の実施例は、本明細書に記載される特定の方法を実施する幾つかの例示的な様式について説明する。実施例は、例示目的のためだけのものであり、本明細書に記載のシステム及び方法の範囲を限定することを意味するものではないことが理解されるべきである。
【0122】
実施例1
2歳~18歳のASD対象及びASD陰性対照対象からの尿サンプルをこの試験に含める。対象からシングルスポットの尿サンプルを取得し、最大85種の尿有機酸を定量的に検出するGC-MSで分析する(
図1を参照)。尿サンプルは、分析のために解凍するまで-20℃で保存する。収集と分析との間の間隔は、2週間~2ヶ月の範囲である。
【0123】
GC-MS分析用サンプルの調製
サンプルを調製するために、HPLC水200μL、内部標準物質(ISTD)(内部標準物質としての2.82mMトロパ酸)10μL、及びメトキシアミンHCl40μLを、2mLガラスバイアル内で合わせ、十分に混合する。サンプルを、60℃で30分インキュベートする。サンプルを、ベンチで10分間かけて室温まで冷却し、その後、溶液が酸性(pH=1)になるまで6N塩酸10μLをサンプルに添加する。210μLの体積のブランク/QC/尿サンプルをバイアルから2mLのEppendorf(商標)チューブに移す。酢酸エチルをチューブに添加し(600μL)、得られた溶液を1分間十分にボルテックスする。サンプルを、10,000rpmで3分間スピンする。500μLの体積の上清を新たな2mLガラスバイアルに移す。その後、別の600μLの酢酸エチルをEppendorf(商標)チューブに添加し、1分間十分ボルテックスする。サンプルを10,000rpmで3分間スピンする。500μLの体積の上清を抜き取り、前回の上清の入った2mLガラスバイアルに添加する(すなわち、2回の抽出から得られた上清を合わせる)。窒素下で加熱(35℃)しながら1.5時間かけてサンプルを蒸発乾固する。160μLの体積のヘキサンと40μLの新鮮N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(BSFTA)(1%のN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(TMCS)を含む)をサンプルに添加し、得られた混合物をボルテックスして十分に混合する。サンプルを、80℃で30分間インキュベートする。インキュベーション後、サンプルをベンチで15分間かけて室温まで冷却する。190μLの体積のサンプルをブランク、QC、及び尿サンプル用の250μLのインサートに移す。アルカン標準混合物を新たに調製した、すなわち、2mLガラスバイアルに25μLのアルカン標準溶液C
8~C
20及び75μLのアルカン標準溶液C
21~C
40を添加し、ボルテックスして十分混合し、250μLのインサートに移した。サンプルは、GC-MS分析の準備が整ったか、又は分析の準備が整うまで冷蔵する。GC-MS及び分析プロセスのフローチャートについては
図2を参照。
【0124】
GC-MSデータ解析
約85種の有機酸の完全に定量された代謝物濃度データを含むGC-MSデータを、定量された代謝物データセットの統計解析、機能解析、及び統合解析を行うことができる総合ウェブサーバであるMetaboAnalyst(商標)V3.0(2016)を介して解析する。MetaboAnalyst(商標)ツールは、健常対照サンプルに対してASDを分類するために使用される代謝物を同定するための特定のデータ計算及び可視化を行うために使用される。
【0125】
ASD群及び対照群について、主成分分析(「PCA」)及び部分的最小二乗判別分析(「PLS-DA」)を実施し、結果を比較する。PCAは、サンプル集団における差を可視化し、データセットにおける強いクラスター又はパターンを明らかにするために使用される多変量クラスタリング技術である。出願人は、データの解析及び可視化をより容易にするために多変量手法を使用した。MetaboAnalyst(商標)を使用してPCAプロットを作成し、ASDサンプル及び健常対照サンプルのクラスターの可視化を開始させる(
図3参照)。PLS-DAは、クラス間の分離が最大になるようにPCA成分を回転させることによって2群の所見間の分離を強化するために実行することができる別の分類モデルである。PLS-DAは、どの変数が最も重要なクラス分離情報を担っているかを理解し、順位付けするためにも使用することができる。PLS-DAによって、健常対照集団に対するASDの分離及び分類を強化することができる(
図3参照)。
【0126】
MetaboAnalyst(商標)を使用して、受信者動作特性曲線又はROC曲線を作成する(
図4参照)。ROC曲線とは、二値分類子システムの識別閾値を変化させたときのその診断能力を示すグラフィカルプロットである。ROC曲線下面積(AUC)を計算することによって、健常対照サンプルに対してASDを識別するモデルの診断能力は0.986であると求めることができる。これは、98.6%の診断精度のレベルに相当する。
【0127】
図5を参照すると、上位の変数の方が下位の変数よりもPLS-DAモデルへの寄与が大きい降順で最も重要な変数(すなわち、代謝物)を同定するために、変数重要度の投影(「VIP」)プロットを作成する。また、VIPプロットの上位のものは、ASDの尿サンプルと健常対照の尿サンプルとの分類において高い予測力を発揮する。
【0128】
実施例2
ASD対象(すなわち、試験群)から静脈穿刺により空腹時血液サンプルを回収する。試験群は、3歳~32歳の44名の参加者を含み、そのうち76%が男性である。比較分析のために、40名の非ASD対象(すなわち、対照群)を、出願人が作成したデータベース(本明細書では「Molecular Youデータベース」)から無作為に選択する。対照群は年齢及び性別が一致しており、対照群はほとんど9歳前後であり、約50%が男性である。試験群及び対照群の人口統計データを表2に提供する。
【0129】
【0130】
血清を生成するために、血液サンプルを6mLの血清バキュテナーチューブに回収し、遮光し、採血後に(post-draw)室温で1時間インキュベートして凝固させる。インキュベーション後、血液サンプルを1,300×gで10分間遠心分離して、血清を単離する。血清をクライオバイアルに移し、直ちに、分析のために解凍するまで-20℃で保存する。回収と分析との間の間隔は、2週間~2ヶ月の範囲である。
【0131】
血漿を生成するために、血液サンプルを6mLのEDTAバキュテナーチューブに回収し、採血後直ちに氷浴に入れる。氷浴後、血液サンプルを1,300×gで10分間遠心分離して、血漿を単離する。血漿をクライオバイアルに移し、直ちに、分析のために解凍するまで-20℃で保存する。回収と分析との間の間隔は、2週間~2ヶ月の範囲である。
【0132】
(A)プロテオミクス解析
安定同位体標識標準(SIS)ペプチドのための13C/15N標識アミノ酸を用いたフルオレニルメトキシカルボニル(FMOC)化学を用いてペプチドを合成し、逆相HPLCで精製し、その後MALDI-TOF-MSによって評価し、アミノ酸分析(AAA)及びキャピラリーゾーン電気泳動(CZE)を介して特性評価する。使用した他の化学物質及び試薬は全て、商業的供給元から入手される入手可能な最高級の分析及びLC-MSグレードのものである。
【0133】
140種のタンパク質のパネルを、MC-MRM質量分析を用いたペプチドベースの分析による標的定量に使用する。これらペプチドは、米国国立がん研究所のアッセイ開発のための臨床プロテオミクス腫瘍解析コンソーシアム(CPTAC)ガイドライン(https://asays.cancer.gov/)に従って、LC-MRM実験での使用について事前に検証されている。
【0134】
プロテオミクス分析用サンプルの調製
凍結させた血漿を室温で解凍する。10μLの体積の血漿を、9M尿素、20mMジチオスレイトール、及び0.5Mヨードアセトアミドに逐次供する。全ての工程は、pH8.0のTrisバッファ中で行われる。変性及び還元を37℃で30分間同時に行い、その後暗所において室温で30分間アルキル化を行う。TPCK処理したトリプシン(1mg/mLで70μL;Worthington)を10:1の基質:酵素比で添加することによって、タンパク質分解を開始させる。37℃で一晩インキュベートした後、最終濃度1.0%のギ酸(FA)でタンパク質分解をクエンチする。
【0135】
次いで、SISペプチド混合物(上記の通り)を血漿に添加する。次いで、全ての血漿を固相抽出(WaterのOasis(登録商標)HLB(30マイクロメートル吸着粒子)2mg)によって濃縮する。固相抽出後、スピード真空濃縮機を用いて濃縮溶出液を蒸発させ、LC-MRM/MSのために0.1%FAで最終濃度1μg(ペプチド)/μL(消化物)になるように再水和する。上述の血漿サンプルと同じ方法を用いてPBSバッファ中10mg/mL BSAの消化物から、標準サンプル及びQCサンプルと共に使用するための代用マトリックスを調製する。
【0136】
各アナライトのための天然同位体存在量(NAT)ペプチドを使用して、標準曲線を作成する。8回の希釈で定量下限(LLOQ)の1000倍の高濃度からアッセイのLLOQでもある曲線の最低点まで、代用マトリックスでNATペプチドの希釈系列を調製する。同じNATミックスからQCサンプルを調製し、各ペプチドごとにBSA消化物でLLOQの4倍、50倍、及び500倍に希釈する。
【0137】
血漿トリプシン消化物10μLを注入し、1290 Infinityシステム(Agilent(商標))内に含まれるZorbax Eclipse Plus RP-UHPLC(商標)カラム(2.1×150mm、粒径1.8μm;Agilent)で分離する。多段階LC勾配(2→80%移動相B;移動相組成:AはH2O中0.1%FAであり、一方Bはアセトニトリル中0.1%FAであった)を介して、0.4mL/分で60分かけてペプチドを分離する。カラムは50℃で維持する。各サンプル分析後に4分間の勾配後カラム再平衡化を使用する。LCシステムは、ポジティブイオンモードで動作する標準フローAJS ESI源を介して三連四重極質量分析計(Agilent(商標)6495B)にインターフェースされる。
【0138】
定量分析
Skyline Quantitative Analysis(商標)ソフトウェア(バージョン4.2.0.19072、University of Washington)を用いてMRMデータを可視化し、検討する。これは、SISペプチド及びNATペプチドの正確な選択、統合、及び均一性(ピーク形状及び保持時間の観点で)を確保するためのピーク検査を含む。少数の基準(すなわち、1/×2回帰の重み付け、QCのレベルの精度における20%未満の偏差等)を定義した後、標準曲線を用いて、線形回帰によりサンプル中のペプチド濃度をfmol/μL(血漿)で算出する。
【0139】
バッチの受け入れには、以下の基準を適用する:
1. 8つの標準のうち5つで、逆算された濃度が理論濃度の±20%以内である。
2. QCサンプルの少なくとも66%が理論濃度の±20%以内である。
3. ペプチド較正曲線の95%が許容可能である。
4. プールされたヒト血漿サンプルのQCでは、全ペプチドの2/3が分析中に求められる平均濃度の30%以内でなければならない。
5. クロマトグラフィーのピークを、保持時間の一貫性、ピークの形状、及び干渉がないことについて手動で調べる。
【0140】
(B)メタボロミクス解析
この方法は、96ウェルフォーマットで血清中の代謝物を検出及び定量するための、ポジティブスケジュール型多重反応モニタリング(MRM)モード及び直接注入(DI)MS/MSモードのLC-MS/MSに基づいている。このアッセイは、異なるクラスの代謝物ごとに2つの異なる誘導体化方法(例えば、フェニルイソチオシアネートを用いたプレカラムアミン誘導体化工程)及び3つの異なるラン(LC-MS/MS及びDI MS/MS)を有する。代謝物のクラスは、以下を含む:
1. アミノ酸及び生体アミン
2. 有機酸
3. アシルカルニチン
4. 脂質
5. グルコース
6. その他
【0141】
MSデータ解析を行い、Analyst 1.6.2.(SCIEX)を用いて濃度を計算する。
【0142】
バッチの受け入れには、以下の基準を適用する:
1. R2>0.99の較正曲線。
2. 全てのQC標準サンプルが、理論濃度の0%以内である(アシルカルニチン及びリン脂質には適用せず)。
3. NISTヒト血清QCサンプルから、計算された濃度は、既知の濃度又は分析中に求められる平均濃度の15%以内でなければならない。
【0143】
(C)エクスポソミクス解析
この方法は、血清中の代謝物を検出及び定量するための、ポジティブスケジュール型多重反応モニタリング(MRM)モードのLC-MS/MS及び誘導結合プラズマ(ICP)-MSに基づいている。このアッセイは、異なるクラスの代謝物ごとに2つの異なる誘導体化方法(例えば、フェニルイソチオシアネートを用いたプレカラムアミン誘導体化工程)、3つのLC-MS/MS、及び1つのICP-MSランを有する。
【0144】
バッチの受け入れには、以下の基準を適用する:
1. R2>0.99の較正曲線(ICP-MSにも同様に適用)。
2. 全てのQC標準サンプルが、理論濃度の20%以内である(アシルカルニチン及びリン脂質には適用せず)。
3. NISTヒト血清QCサンプルから、計算された濃度は、既知の濃度又は分析中に求められた平均濃度の15%以内でなければならない。
【0145】
(D)データ解析
データのラングリング及び解析は、R(3.5.1)及びMetaboAnalyst(商標)(https://www.metaboanalyst.ca/)で行う。
【0146】
全ての代謝物関連解析には絶対定量後の濃度を使用するが、タンパク質濃度はペプチド値から換算する。更に、分析機器の検出限界(LOD)又は定量限界(LLOQ)を下回る濃度を有する任意のアナライトについては、分析LODの半分を濃度として割り当てる。各群(試験群及び対照群)におけるアナライトごとに、LOD又はLLOQを下回るサンプルの割合を算出する。LOD/LLOQの割合間で30%を超える差があるアナライトは、比較分析における誤表示又は平均値の一変量比較についての偽の重要な知見を避けるために分析から除外する。このプロセスの後、80種の代謝物及び131種のタンパク質がデータ中に残る。
【0147】
一般化対数変換を用いてデータを正規化し、スケーリングする(平均値を中心にし、各変数の標準偏差で除する)。
【0148】
参照範囲を用いて、参照範囲内、参照範囲の境界の10%以内(参照範囲のカットオフ値の両側で±5%)、及び参照範囲外(参照範囲のカットオフ値の>5%)に該当するかどうかに基づいてアナライトをグループ化する。データ中の検出不可能なアナライトは「ND」に分類する。対応する年齢又は性別特異的な参照範囲値がMolecular Youデータベースにおいて利用可能でない場合、そのデータ点を「NA」に分類する。
【0149】
(E)結果
ウィルコクソン順位和検定を用いて、試験群と対照群との間でアナライト濃度を比較する。結果は、多重比較の偽陽性率(ホルム法)について調整した後、80種の代謝物の濃度のうち41種が試験群と対照群との間で有意に異なることを示す。試験群と対照群との間で絶対効果が最も大きい10種の代謝物を表3に示す。
【0150】
【0151】
タンパク質については、116種のタンパク質のうち38種の濃度が、試験群と対照群との間で有意に異なっている。試験群と対照群との間で絶対効果が最も大きい10種のタンパク質を表4に示す。
【0152】
【0153】
試験群及び対照群で実施したPCA及びPLS-DAを用いて、アナライトの寄与の重要度を判定し、結果を比較する。今回の血清メタボロミクスデータによれば、主成分(PC)1が変動の19.3%を説明し、PC2が変動の12.7%を説明し、PC3が更に8.5%を説明した。合わせると、最初の3つのPCによってメタボロミクスデータにおける変動の40.5%が説明された。全分散(すなわち、100%)を説明するために必要なPCの数は、入力変数の数によって影響を受ける。従って、入力データに多数の変数が含まれている場合、最初の3つのPCで表されるのは全分散の80%未満になることが一般的であり、質量分析ベースのメタボロミクスでは通常そうである。
【0154】
MetaboAnalyst(商標)を使用してPCAプロットを作成し、ASDサンプル及び健常対照サンプルのクラスタリングを開始する(
図6参照)。
図6は、試験群と対照群との間で分析された代謝物のスコアプロットを示す。引き続き
図6を参照すると、試験群と対照群との間に分離があることに留意すべきであり、これはPLS-DA分析でも再現されている。血清代謝物のPLS-DA解析では、成分1が変動の16.9%を説明し、成分2が変動の9.4%を説明し、成分3が更に変動の9.1%を説明する。
【0155】
試験群及び対照群の説明された分散からPLS-DAプロットを作成する。R2及びQ2の10倍交差検証値は、それぞれ0.57及び0.47であり、
図6にも含まれている。並べ替え検定により、PLS-DAでみられた分離が統計的に有意であることが確認された(p<0.05)。
図6に示すように、PCAの結果と比較して、PLS-DA分析を用いると試験群と対照群とがより明確に識別される。理論に束縛されるものではないが、PLS-DAがデータ(x変数)と群(y変数)との間の共分散を最大化したと考えられる。
【0156】
図7を参照すると、上位の変数の方が下位の変数よりもPLS-DAモデルへの寄与が大きい降順で上位20種の寄与している血清代謝物を同定するために、VIPプロットを作成する。試験群及び対照群における絶対回帰係数の重み付き和を用いて各代謝物の重要度を算出し、VIPスコアを割り当てる。
【0157】
今回の血漿プロテオミクスデータによれば、主成分(PC)1が変動の18.9%を説明し、PC2が変動の9.5%を説明し、PC3が35.1%を説明する。MetaboAnalyst(商標)を使用してPCAプロットを作成し、ASDサンプル及び健常対照サンプルのクラスタリングを開始する(
図8参照)。
図8は、試験群及び対照群の間で分析されたプロテオミクスデータのスコアプロットを示す。血清メタボロミクスデータに比べて、血漿プロテオミクス解析では対照群と試験群との差異がより大きい。
【0158】
血漿タンパク質のPLS-DA解析では、成分1が変動の9.6%を説明し、成分2が変動の14.8%を説明し、成分3が更に変動の8.3%を説明する。試験群及び対照群の説明された分散からPLS-DAプロットを作成する。合計117種のタンパク質が解析に含まれている。10倍交差検証の値は、R2=0.72及びQ2=0.69である。並べ替え検定の結果、観察された分離距離(B/W)はp<0.05であることが判明し、PLS-CAモデルが検証された。
図8に示すように、PCAの結果と比較して、PLS-DA分析を用いると試験群と対照群とがより明確に識別される。
【0159】
図9を参照すると、上位の変数の方が下位の変数よりもPLS-DAモデルへの寄与が大きい降順で上位20種の寄与している血漿タンパク質を同定するために、VIPプロットを作成する。試験群及び対照群における絶対回帰係数の重み付き和を用いて各代謝物の重要度を算出し、VIPスコアを割り当てる。
【0160】
平衡サブサンプリングを用いたモンテカルロ交差検証(MCCV)によって、受信者動作特性(ROC)曲線を作成した(
図10A及び
図10B参照)。各MCCVでは、サンプルの3分の2を使用して特徴の重要度を評価する。次いで、上位5つの重要な特徴を用いて分類モデルを構築し、除外されたサンプルの1/3に対して検証を行う。下記のROC曲線の生成に用いた分類方法は、上位5種の血清代謝物(C10:1、C10:1、リゾホスファチジルコリンアシルC17:0、C16:2、グルコース、及びホスファチジルコリンジアシルC40:2)及び上位5種の血漿タンパク質(レチノール結合タンパク質4、トロンボスポンジン、凝固第XIII因子A鎖、テネイシンC、及びXaa-Proジペプチドーゼ)を用いたPLS-DAからの結果に基づいている。ROC曲線下面積(AUC)を計算することによって、健常対照サンプルに対してASDを識別する代謝物モデルの診断能力は0.89であると求めることができる。これは、89%の診断精度のレベルに相当する。同様に、タンパク質モデルのROC曲線下面積は、95%の診断精度のレベルに相当する0.95であると求められる。
【0161】
全体として、ASD対象及びASD陰性対象からの血清及び血漿のサンプル間で、有意に異なる濃度レベルのASD関連代謝物及びASD関連タンパク質が同定される。留意すべきことに、ASD対象とASD陰性対象との間には、ASDの診断に有用な特徴的な代謝及びプロテオミクスのプロファイルが存在する。
【0162】
実施の他の例は本明細書の教示を考慮して読者に明らかになるので、本明細書では更には説明しない。
【0163】
なお、本開示全体を通して、読者の便宜のために表題及び副題を使用することがあるが、決してこれらが本発明の範囲を限定すべきではない。更に、本明細書において特定の理論が提案され、開示されることがあるが、本発明がいかなる特定の理論にも作用様式にも関係なく本開示に従って実施される限り、それが正しいか誤りであるかにかかわらず、いかなる場合も本発明の範囲を限定すべきではない。
【0164】
実施例に関連して説明された本開示の方法及び/又はシステムの要素は、本開示の他の態様に準用される。従って、本開示の方法及び/又はシステムは、本明細書で言及した各工程又は構成要素が独立して本明細書で定義した通り存在している任意の実施形態において、そのような工程及び/又は構成要素のいずれかを含む任意の方法及び/又はシステムを包含することは言うまでもない。本明細書に具体的に規定されているものよりも多くのそのような方法及び/又はシステムが包含される場合もある。
【0165】
本明細書に開示された寸法及び値は、言及された正確な数値に厳密に限定されると理解されるべきではない。その代わり、特に指定がない限り、そのような各寸法は、言及された値とその値の前後の機能的に等価な範囲の両方を意味することが意図される。例えば、「40mm」と開示されている寸法は、「約40mm」を意味することが意図される。
【0166】
任意の相互参照又は関連する特許又は出願、及び本出願が優先権又はその利益を主張する任意の特許出願又は特許を含む本明細書に引用された全ての文書は、明示的に除外されず、その他の限定もされない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いかなる文書の引用も、それが本明細書に開示若しくは請求される任意の開示に関する先行技術であること、又はそれが単独でも任意の他の参照文献(複数可)とのいかなる組み合わせにおいても、任意のそのような開示を教示、示唆、又は開示することを認めるものではない。また、本書における用語の任意の意味又は定義が、参照により組み込まれる文書中の同じ用語の任意の意味又は定義と矛盾する場合に限り、本書でその用語に割り当てられた意味又は定義が適用されるものとする。
【0167】
本開示の具体的な実施形態について図示及び説明してきたが、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な他の変更及び改変を行うことができることは、当業者にとって明らかであろう。従って、本開示の範囲内にある全てのそのような変更及び改変を添付の特許請求の範囲で網羅することが意図される。
【国際調査報告】