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特表2023-543770調整可能な機能的安定性を有する核酸ナノ構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】調整可能な機能的安定性を有する核酸ナノ構造体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/10 20060101AFI20231011BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231011BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20231011BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C12N15/10 110Z
C12M1/34 Z ZNA
G01N33/531 A
G01N33/573 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518914
(86)(22)【出願日】2021-09-23
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 SG2021050576
(87)【国際公開番号】W WO2022066101
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】10202009491W
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507335687
【氏名又は名称】ナショナル ユニヴァーシティー オブ シンガポール
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】シャオ,フイリン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ユアン
(72)【発明者】
【氏名】ホ,ルイ ユアン ニコラス
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029DA10
4B029DG10
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB10
4B029HA10
(57)【要約】
本発明は、RNAの汎用的検出を可能にする、触媒活性を有する核酸ナノ構造体、その使用、および該核酸ナノ構造体を含むデバイスに関する。開発されたナノ構造体は、合理的な構成により、様々な機能的安定性を有し、それにより長さや配列組成の異なる様々なRNA標的を認識することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAポリメラーゼ酵素特異的DNAアプタマーを含む認識ナノ構造体であって、該DNAポリメラーゼ酵素特異的DNAアプタマーが、DNAポリメラーゼに結合してこれを不活性化するための保存配列領域と、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的なセグメントを含む可変配列領域と、該保存アプタマー配列領域と該可変配列領域の間に二本鎖安定化領域とを含み、該二本鎖安定化領域の長さおよび/または組成の変化により、該ナノ構造体の立体構造安定性が変化し得る認識ナノ構造体。
【請求項2】
前記可変配列領域が、少なくとも8個のヌクレオチドで構成されている、請求項1に記載の認識ナノ構造体。
【請求項3】
前記認識ナノ構造体が、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドを含み、該標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの一部が、前記可変配列領域と二本鎖を形成し、該標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの別の一部が、少なくとも4個のヌクレオチドからなる突出末端を形成する、請求項1または2に記載の認識ナノ構造体。
【請求項4】
前記二本鎖安定化領域の長さの延長および/またはGC含量の増加により、前記ナノ構造体の立体構造安定性が向上し、それにより、i)標的の範囲などの標的適合性、ii)酵素の活性化動態、ならびに/またはiii)水素結合に影響を及ぼし得る使用可能な温度および化学物質などの、入力を測定する能力などが変化する、請求項1~3のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体。
【請求項5】
前記二本鎖安定化領域が、1~20個、1~15個または3~12個の核酸、好ましくは3~6個の核酸で構成されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体。
【請求項6】
前記二本鎖安定化領域が、表1~表4のいずれかに記載の核酸配列を含むか、該核酸配列からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体。
【請求項7】
前記二本鎖安定化領域が、配列番号3、配列番号4、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53および配列番号54を含む群から選択される核酸配列を含むか、該核酸配列からなる、請求項6に記載の認識ナノ構造体。
【請求項8】
前記認識ナノ構造体のオリゴヌクレオチド配列が、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53および配列番号54を含む群から選択される、請求項7に記載の認識ナノ構造体。
【請求項9】
サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(a)核酸を含むサンプルを提供する工程;
(b)DNAポリメラーゼ酵素と、請求項1、2および4~8のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体と、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドとを含む組成物を提供するか、
(c)DNAポリメラーゼ酵素と請求項3~8のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体とを含む組成物を提供する工程;
(d)核酸を含む前記サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、標的核酸が前記インバーターオリゴヌクレオチドに結合すると、前記認識ナノ構造体が不安定化されて、DNAアプタマーによる前記DNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;ならびに
(e)DNAポリメラーゼ酵素活性を検出することにより、活性強度から、前記サンプル中の標的核酸の存在が示される工程
を含む方法。
【請求項10】
対象における疾患を診断する方法であって、
(a)核酸を含むサンプルを提供する工程;
(b)DNAポリメラーゼ酵素と、請求項1、2および4~8のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体と、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドとを含む組成物を提供するか、
(c)DNAポリメラーゼ酵素と請求項3~8のいずれか1項に記載の認識ナノ構造体とを含む組成物を提供する工程;
(d)核酸を含む前記サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、標的核酸が前記インバーターオリゴヌクレオチドに結合すると、前記認識ナノ構造体が不安定化されて、DNAアプタマーによる前記DNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;
(e)DNAポリメラーゼ酵素活性を検出することにより、活性強度から、前記サンプル中の標的核酸の存在が示される工程;ならびに
(f)前記サンプル中で標的核酸の存在が確認された場合に、前記患者が疾患を有すると診断する工程
を含む方法。
【請求項11】
前記インバーターオリゴヌクレオチドが、約18~45個のヌクレオチドで構成されている、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
多重検出用に、前記サンプル中の第1の認識ナノ構造体の標的核酸とは異なる1つ以上の標的核酸と相補的な1つ以上のさらなる認識ナノ構造体を提供することをさらに含む、請求項9~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
各認識ナノ構造体が、前記DNAアプタマーと前記インバーターオリゴヌクレオチドと前記DNAポリメラーゼ酵素とを特定の比率で組み合わせたものを含み、AND、OR、NOT、NANDおよびNORを含む群から選択される論理ゲートを形成する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
各認識ナノ構造体のDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼ酵素の組み合わせの比率が、以下の群(i)~(v)から選択される、請求項13に記載の方法。
(i)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:1:0.5であるナノ構造体を2つ含み、AND論理ゲートを形成する。
(ii)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:1:1であるナノ構造体を2つ含み、OR論理ゲートを形成する。
(iii)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:0:1であるナノ構造体を1つ含み、NOT論理ゲートを形成する。
(iv)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:0:1であるナノ構造体を2つ含み、NAND論理ゲートを形成する。
(v)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:0:0.5であるナノ構造体を2つ含み、NOR論理ゲートを形成する。
【請求項15】
前記サンプル中の複数の標的の量に差がある場合、各認識ナノ構造体のDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼ酵素との組み合わせにおける該インバーターオリゴヌクレオチドの相対量を調整することにより、前記DNAポリメラーゼ酵素活性を平準化することができる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
複数のDNAナノ構造体の組み合わせ、および各ナノ構造体におけるDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼの比率を変更することにより、(a)多入力ORゲートまたは(b)多入力ANDゲートを提供することができる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
複数のDNAナノ構造体の組み合わせ、および各ナノ構造体におけるDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼの比率を変更することにより、前記サンプル中の複数の標的の検出閾値を設定することができる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項18】
前記疾患が非小細胞肺がん(NSCLC)であり、前記認識ナノ構造体により、miR-21-5p、miR-223-5p、GAPDH、hnRNPA2B1、GAS5およびこれらの組み合わせを含む群から選択される複数のRNA種が検出される、請求項12~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記認識ナノ構造体のオリゴヌクレオチド配列が、配列番号28、配列番号30、配列番号34、配列番号38および配列番号40を含む群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
(i)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物b)または組成物c)を第1の位置に含み;
(ii)活性化DNAポリメラーゼ酵素と反応するセルフプライミング部分を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のシグナル生成ナノ構造体が第2の位置に取り付けられており;かつ
(iii)前記検出ナノ構造体とサンプル核酸を混合して、活性化された前記酵素を前記第2の位置へと送るように構成された中間ステージを含む、
デバイス。
【請求項21】
マイクロ流体デバイスおよびラテラルフローデバイスを含む群から選択される、請求項20に記載のデバイス。
【請求項22】
前記デバイスが、
(i)シグナル生成共通カートリッジと、
(ii)該シグナル生成共通カートリッジに収容されるように構成された1つ以上のアッセイカセットと
を含むマイクロ流体デバイスであり、
前記シグナル生成共通カートリッジが、シグナル生成ナノ構造体を固定するためのメンブレンが埋め込まれた基材と、各アッセイカセットと前記第2の位置で流体連通する共通排出口とを含み、
各アッセイカセットが、注入口と、少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と、少なくとも1つの認識ナノ構造体とを前記第1の位置に含むとともに、前記第1の位置と前記第2の位置を流体連通する中間ステージマイクロチャネルを含み、
前記中間ステージマイクロチャネルが、前記検出ナノ構造体とサンプル核酸を混合して、活性化された前記酵素を前記第2の位置へと送るように構成されており、
組み合わせて作製した前記デバイスの使用中は、セプタムを介した吸引により、前記サンプル注入口から前記共通排出口へと流体が移動する、
請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
核酸検出キットであって、
(a)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と、請求項3~8のいずれか1項に記載の少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物;
(b)活性化DNAポリメラーゼ酵素と反応するセルフプライミング部分が含まれていることで、該活性化DNAポリメラーゼ酵素と反応可能なシグナル生成ナノ構造体;もしくは
(c)標識ヌクレオチド(dNTP)およびシグナル発現試薬;または
これらの組み合わせ
を含み、
前記活性化DNAポリメラーゼ酵素により、前記標識ヌクレオチドが前記シグナル生成ナノ構造体に付加され、前記シグナル発現試薬が、前記セルフプライミング部分に導入された前記標識ヌクレオチドと結合する、
核酸検出キット。
【請求項24】
前記(a)~(c)が、先行する請求項のいずれか1項に記載したものである、請求項23に記載の核酸検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAの汎用的検出を可能にする、触媒活性を有する核酸ナノ構造体に関する。より具体的には、このナノ構造体は、核酸と酵素を組み合わせたハイブリッド会合により形成され、目的の核酸標的(例えば、RNA)との特異的なハイブリダイゼーションにより活性化されて、活性化酵素を遊離する。開発されたナノ構造体は、合理的な構成により、様々な機能的安定性を有し、それにより長さや配列組成の異なる様々なRNA標的を認識することができる。
【背景技術】
【0002】
循環RNAは、近年、新たな疾患診断を可能にする有望な低侵襲バイオマーカーとして注目されている。しかし、循環RNAは、このような臨床的可能性を有するものの、多様性に富み、長さや配列組成の異なる様々な分子種が含まれるため、その臨床応用には大きな課題がある。長鎖RNA(mRNAやlncRNAなど)の解析では、市販のアッセイは主にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して増幅・検出を行うが、DNAへの変換が必要な上、多くの操作や特別な操作が求められる。短鎖RNA標的(例えば、miRNA)の検出では、そのプロセスはさらに困難なものとなる。短鎖RNA標的は、従来のPCRで必要な増幅用プライマーとの結合に十分な長さを有していないため、短鎖RNA標的の修飾、増幅や解析に専用のアッセイデザインと大掛かりな処理が必要である。したがって、この手法はコストが高く、多重測定も困難である。
【0003】
RNAの直接的で迅速な視覚的かつモジュール的検出を可能にする分子プラットフォームが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の技術は、標的核酸の増幅を利用することなく、RNAの汎用的検出が可能な、触媒活性を有する核酸ナノ構造体を提供するものである。より具体的には、このナノ構造体は、核酸と酵素を組み合わせたハイブリッド会合により形成され、目的の核酸標的(例えば、RNA)との特異的なハイブリダイゼーションにより不安定化および活性化されて、活性化酵素を遊離する。本発明のナノ構造体は、合理的な構成により、様々な機能的安定性を有し、それにより一塩基変異を含む様々な(長さや配列組成の)RNA標的を認識できるように開発されたものである。さらに、本発明のシステムは、様々な環境での様々な測定様式に対応しており、携帯性に優れている。さらに、本発明のシステムは、ワンポット反応での多重分子論理演算が可能である。本発明のシステムは、i)異なる標的濃度の平準化、ii)掛け合わせ機能の実施(複数の標的)、およびiii)閾値処理機能の実装が可能である。
【0005】
第1の態様において、DNAポリメラーゼ酵素特異的DNAアプタマーを含む認識ナノ構造体であって、該DNAポリメラーゼ酵素特異的DNAアプタマーが、DNAポリメラーゼに結合してこれを不活性化するための保存配列領域と、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的なセグメントを含む可変配列領域と、該保存アプタマー配列領域と該可変配列領域の間に二本鎖安定化領域とを含み、該二本鎖安定化領域の長さおよび/または組成の変化により、該ナノ構造体の立体構造安定性が変化し得る認識ナノ構造体が提供される。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記可変配列領域は、少なくとも8個のヌクレオチドで構成されている。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記認識ナノ構造体は、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドを含み、該標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの一部は、前記可変配列領域と二本鎖を形成し、該標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの別の一部は、少なくとも4個のヌクレオチドからなる突出末端を形成する。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記二本鎖安定化ドメインの長さの延長および/またはGC含量の増加により、前記ナノ構造体の立体構造安定性が向上し、それにより、i)標的の範囲などの標的適合性、ii)酵素の活性化動態、ならびに/またはiii)水素結合に影響を及ぼし得る使用可能な温度および化学物質などの、入力を測定する能力などが変化する。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記二本鎖安定化ドメインは、0~20個、0~15個または3~12個の核酸、好ましくは3~6個の核酸で構成されている。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記二本鎖安定化領域は、表1~表4のいずれかに記載の二本鎖安定化領域核酸配列を含むか、該核酸配列からなる。
【0011】
より具体的には、前記二本鎖安定化領域は、配列番号3、配列番号4、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53および配列番号54を含む群から選択される核酸配列を含むか、該核酸配列からなる。
【0012】
第2の態様において、サンプル中の標的核酸を検出する方法であって、
(a)核酸を含むサンプルを提供する工程;
(b)DNAポリメラーゼ酵素と、本発明のいずれかの態様に記載の認識ナノ構造体と、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドとを含む組成物を提供するか、
(c)DNAポリメラーゼ酵素と本発明のいずれかの態様に記載の認識ナノ構造体とを含む組成物を提供する工程;
(d)核酸を含む前記サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、標的核酸が前記インバーターオリゴヌクレオチドに結合すると、前記認識ナノ構造体が不安定化されて、DNAアプタマーによる前記DNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;ならびに
(e)DNAポリメラーゼ酵素活性を検出することにより、活性強度から、前記サンプル中の標的核酸の存在が示される工程
を含む方法が提供される。
【0013】
第3の態様において、対象における疾患を診断する方法であって、
(a)核酸を含むサンプルを提供する工程;
(b)DNAポリメラーゼ酵素と、本発明のいずれかの態様に記載の認識ナノ構造体と、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドとを含む組成物を提供するか、
(c)DNAポリメラーゼ酵素と本発明のいずれかの態様に記載の認識ナノ構造体とを含む組成物を提供する工程;
(d)核酸を含む前記サンプルを(b)または(c)の組成物と接触させることにより、標的核酸が前記インバーターオリゴヌクレオチドに結合すると、前記認識ナノ構造体が不安定化されて、DNAアプタマーによる前記DNAポリメラーゼ酵素の阻害が解除される工程;
(e)DNAポリメラーゼ酵素活性を検出することにより、活性強度から、前記サンプル中の標的核酸の存在が示される工程;ならびに
(f)前記サンプル中で標的核酸の存在が確認された場合に、前記患者が疾患を有すると診断する工程
を含む方法が提供される。
【0014】
第2または第3の態様のいくつかの実施形態において、前記インバーターオリゴヌクレオチドは、約18~45個のヌクレオチドで構成されている。
【0015】
第1~第3の態様のいくつかの実施形態において、前記方法は、多重検出用に、前記サンプル中の第1の認識ナノ構造体の標的核酸とは異なる1つ以上の標的核酸と相補的な1つ以上のさらなる認識ナノ構造体を提供することをさらに含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、各認識ナノ構造体は、前記DNAアプタマーと前記インバーターオリゴヌクレオチドと前記DNAポリメラーゼ酵素とを特定の比率で組み合わせたものを含み、AND、OR、NOT、NANDおよびNORを含む群から選択される論理ゲートを形成する。
【0017】
いくつかの実施形態において、各認識ナノ構造体のDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼ酵素の組み合わせの比率は、以下の群(i)~(v)から選択される。
(i)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:1:0.5であるナノ構造体を2つ含み、AND論理ゲートを形成する。
(ii)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:1:1であるナノ構造体を2つ含み、OR論理ゲートを形成する。
(iii)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:0:1であるナノ構造体を1つ含み、NOT論理ゲートを形成する。
(iv)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:0:1であるナノ構造体を2つ含み、NAND論理ゲートを形成する。
(v)DNAアプタマー:インバーターオリゴヌクレオチド:DNAポリメラーゼ酵素の比率が1:0:0.5であるナノ構造体を2つ含み、NOR論理ゲートを形成する。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記サンプル中の複数の標的の量に差がある場合、各認識ナノ構造体のDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼ酵素との組み合わせにおける該インバーターオリゴヌクレオチドの相対量を調整することにより、前記DNAポリメラーゼ酵素活性を平準化することができる。
【0019】
いくつかの実施形態において、複数のDNAナノ構造体の組み合わせ、および各ナノ構造体におけるDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼの比率を変更することにより、(a)多入力ORゲートまたは(b)多入力ANDゲートを提供することができる。
【0020】
いくつかの実施形態において、複数のDNAナノ構造体の組み合わせ、および各ナノ構造体におけるDNAアプタマーとインバーターオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼの比率を変更することにより、前記サンプル中の複数の標的の検出閾値を設定することができる。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記疾患は非小細胞肺がん(NSCLC)であり、前記認識ナノ構造体により、miR-21-5p、miR-223-5p、GAPDH、hnRNPA2B1、GAS5およびこれらの組み合わせを含む群から選択される複数のRNA種が検出される。
【0022】
NSCLCとは、小細胞肺がん(SCLC)を除くすべてのタイプの上皮性肺がんを意味する。NSCLCの最もよく見られるタイプは、扁平上皮がん、大細胞がんおよび腺がんであるが、発生頻度の低い他のタイプもいくつかあり、すべてのタイプがまれな組織学的変異体で発生する可能性がある。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記認識ナノ構造体のオリゴヌクレオチド配列は、表4に記載の配列から選択される。
【0024】
より具体的には、1つ以上の前記認識ナノ構造体のオリゴヌクレオチド配列は、配列番号28、配列番号30、配列番号32、配列番号34、配列番号36、配列番号38、配列番号40、配列番号42、配列番号44、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53および配列番号54を含む群から選択される。好ましくは、1つ以上の前記認識ナノ構造体のオリゴヌクレオチド配列は、配列番号28、配列番号30、配列番号34、配列番号38および配列番号40を含む群から選択される。
【0025】
第4の態様において、
(i)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と少なくとも1つの認識ナノ構造体を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の組成物b)または組成物c)を第1の位置に含み;
(ii)活性化DNAポリメラーゼ酵素と反応するセルフプライミング部分を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載のシグナル生成ナノ構造体が第2の位置に取り付けられており;かつ
(iii)前記検出ナノ構造体とサンプル核酸を混合して、活性化された前記酵素を前記第2の位置へと送るように構成された中間ステージを含む、
を含むデバイスが提供される。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記デバイスは、マイクロ流体デバイスおよびラテラルフローデバイスを含む群から選択される。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記デバイスは、
(i)シグナル生成共通カートリッジと、
(ii)該シグナル生成共通カートリッジに収容されるように構成された1つ以上のアッセイカセットと
を含むマイクロ流体デバイスであり、
前記シグナル生成共通カートリッジは、シグナル生成ナノ構造体を固定するためのメンブレンが埋め込まれた基材と、各アッセイカセットと前記第2の位置で流体連通する共通排出口とを含み、
各アッセイカセットは、注入口と、少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と、少なくとも1つの認識ナノ構造体とを前記第1の位置に含むとともに、前記第1の位置と前記第2の位置を流体連通する中間ステージマイクロチャネルを含み、
前記中間ステージマイクロチャネルは、前記検出ナノ構造体とサンプル核酸を混合して、活性化された前記酵素を前記第2の位置へと送るように構成されており、
組み合わせて作製した前記デバイスの使用中は、セプタムを介した吸引により、前記サンプル注入口から前記共通排出口へと流体が移動することを特徴とする。
【0028】
第5の態様において、核酸検出キットであって、
(a)少なくとも1つのDNAポリメラーゼ酵素と、第1の態様に記載の少なくとも1つの認識ナノ構造体とを含む組成物;
(b)活性化DNAポリメラーゼ酵素と反応するセルフプライミング部分が含まれていることで、該活性化DNAポリメラーゼ酵素と反応可能なシグナル生成ナノ構造体;もしくは
(c)標識ヌクレオチド(dNTP)およびシグナル発現試薬;または
これらの組み合わせを含み、
前記活性化DNAポリメラーゼ酵素により、前記標識ヌクレオチドが前記シグナル生成ナノ構造体に付加され、前記シグナル発現試薬が、前記セルフプライミング部分に導入された前記標識ヌクレオチドと結合する、核酸検出キットが提供される。
【0029】
いくつかの実施形態において、(a)~(c)は、本発明のいずれかの態様に記載したものである。
【0030】
本発明のいずれかの態様において、前記アプタマーオリゴヌクレオチド、前記インバーターオリゴヌクレオチドおよび/または前記シグナル生成ナノ構造体オリゴヌクレオチドのうち少なくとも1つは、天然の核酸に構造的修飾および/または化学的修飾が施されたものである。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記構造的修飾および/または化学的修飾は、合成時における、ホスホロチオエート(PS)結合の付加、2'-O-メチル化、ホスホラミダイトC3スペーサーの付加、およびアミノ基、チオール基、アクリダイト(acryldite)基もしくはアジド基などの5'付加を含む群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】安定化ドメインの長さの効果を示した図である。(上段)安定化ドメインの長さが(a)3塩基対(bp)、(b)12bpまたは(c、d)0bpであり、二本鎖形成可変領域が(a、b、c)12bpまたは(d)16bpである認識ナノ構造体の会合に関する模式図。この模式図は原寸に比例して描写したものではない。(下段)様々なサンプルと各ナノ構造体をインキュベートした場合のポリメラーゼ活性の測定結果。標的が存在しない場合、すべてのナノ構造体でシグナルの最低値が観測された。標的(長さが異なる標的;18塩基長、40塩基長および100塩基長)の存在下では、3bpの安定化ドメインを有するナノ構造体のみがすべての標的で強いシグナルを生成した。すべてのポリメラーゼシグナルは、適切なポジティブコントロールとネガティブコントロールで補正したものである。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0033】
図2】安定化ドメインを有するナノ構造体と安定化ドメインを持たないナノ構造体の阻害効率を示した図である。可変領域の長さを変化させた場合の、安定化ドメインを有するナノ構造体(上、左側の曲線)または安定化ドメインを持たないナノ構造体(下、右側の曲線)のシグナルを示す。シグナルの減少から分かるように、6bpの安定化ドメインが存在する場合、ナノ構造体における標的に特異的な鎖の二本鎖形成部分は短くても、DNAポリメラーゼ酵素に結合して阻害することが確認された。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0034】
図3】ナノ構造体の安定化ドメインの熱力学的特性を示した図である。融解温度(Tm)が異なる安定化ドメイン、すなわち、Tm値が高い(濃い灰色)、Tm値が中程度(灰色)、Tm値が低い(薄い灰色)安定化ドメインをそれぞれナノ構造体に組み込んだ。Tm値の高い安定化ドメインを有するナノ構造体は、インキュベーション温度が高くても、DNAポリメラーゼの酵素活性を効率的に阻害することができる。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0035】
図4】本発明のDNAナノ構造体の汎用性を示した図である。安定化領域の配列に加えて、可変領域の配列を調整することで、異なる種類のRNAに対応する9種類のナノ構造体を開発した。各ナノ構造体は、標的応答性が高く(標的を添加した場合、80%を超えるシグナル)、標的非存在下で高い安定性(10%未満のシグナル)を示した。
【0036】
図5】DNAナノ構造体の特異性を示した図である。この実験は、短い標的(左、18塩基)または長い標的(右、40塩基)とナノ構造体をインキュベートすることによって行われた。完全に相補的な標的を用いた場合のナノ構造体によるシグナルと比べると、それぞれの一塩基変異標的を用いた場合のシグナルは非常に低いことがわかった。すべてのシグナルは、完全に相補的な標的の存在下および標的非存在下のシグナルをコントロールとして補正したものである。
【0037】
図6】ナノ構造体の検出感度を示した図である。様々な既知量の標的核酸を用意し、ナノ構造体とのインキュベーションを行った。酵素活性は、感度の高い二次シグナル生成反応と組み合わせて測定した。点線は、検出限界(バックグラウンドシグナルの標準偏差の3倍)を示す。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0038】
図7】2入力論理回路の設計図である。DNAナノ構造体の組み合わせと、各ナノ構造体の構成要素(アプタマー、標的に特異的な鎖およびポリメラーゼ)の相対比率を変化させて(上段の模式図)、以下の論理演算をプログラムした:ORゲート、ANDゲート、NOTゲート、NORゲートおよびNANDゲート。すべての標的の組み合わせおよび各組み合わせで予想される演算出力を、対応する真理値表にまとめて示した(中段)。観測されたシグナル(下段)は、予想出力とよい一致を示した。すべてのシグナルは、適切なポジティブコントロールとネガティブコントロールで補正したものである。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0039】
図8】2入力イコライザーの設計図である。標的に特異的な鎖の量を調整して、2入力イコライザー論理ゲートを構築した。(a)OR、(b)ANDの例を示す。設計したゲート毎に、その構成の作成に用いた構成要素を示した(上段)。すべての標的の組み合わせおよび各組み合わせで予想される演算出力を、対応する真理値表にまとめて示した(中段)。観測されたシグナル(下段)は、予想出力とよい一致を示した。すべてのシグナルは、適切なポジティブコントロールとネガティブコントロールで補正したものである。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0040】
図9】多入力論理ゲートを示した図である。DNAナノ構造体の組み合わせと、各ナノ構造体の構成要素(アプタマー、標的に特異的な鎖およびポリメラーゼ)の相対比率を変化させて(左側の模式図)、以下の論理演算をプログラムした:(a)6入力ORゲートおよび(b)6入力ANDゲート。すべてのシグナルは、適切なポジティブコントロールとネガティブコントロールで補正したものである。検知閾値を上回る(バックグラウンドシグナルの標準偏差の3倍を上回る)補正シグナル(水平方向の点線)を真のシグナルとした。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0041】
図10】閾値処理モジュールを示した図である。DNAナノ構造体の組み合わせと、各ナノ構造体の構成要素(アプタマー、標的に特異的な鎖およびポリメラーゼ)の相対比率を変化させて(左側の模式図)、以下の論理演算をプログラムした:(a)3/6の閾値処理モジュールおよび(b)5/6の閾値処理モジュール。すべてのシグナルは、適切なポジティブコントロールとネガティブコントロールで補正したものである。検知閾値を上回る(バックグラウンドシグナルの標準偏差の3倍を上回る)補正シグナル(水平方向の点線)を真のシグナルとした。測定はすべて3連で行った。データは平均±s.d.で示した。
【0042】
図11】NSCLC診断のための臨床応用例である。(a)臨床血漿サンプルにおける各RNAマーカーの定量化。肺がんサンプルと正常サンプルは、それぞれ個々の患者から得た(n=20)。(b)NSCLC臨床診断のための計算分類器と分子分類器を用いた操作プロセスのスキーム。(左)単一バイオマーカー検出を用いた計算分類器によるデータ処理により、循環RNAからNSCLCの罹患リスクを判定する。(右)同じRNAサンプルを用いて、1回の反応で5種類のRNAマーカーすべてを同時に分析し、計算分類器と同様の操作で分類する分子分類器である。リスクスコアデータを示したグラフの左側が正常対照群、右側ががん患者群である。正常集団とがん集団のリスクスコアの有意差は、スチューデントt検定で算出した。(****は、p<0.0005を示す)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明のナノ構造体は、合理的な構成により、様々な機能的安定性を有し、それにより一塩基変異を含む様々な(長さや配列組成の)RNA標的を認識できるように開発されたものである。さらに、本発明のシステムは、様々な環境での様々な測定様式に対応しており、携帯性に優れている。さらに、本発明のシステムは、ワンポット反応での多重分子論理演算が可能である。本発明のシステムは、i)異なる標的濃度の平準化、ii)掛け合わせ機能の実施(複数の標的)、iii)閾値処理機能の実装、およびiv)周囲温度での動作が可能である。
【0044】
本明細書に記載の参考文献は、便宜上、実施例の末尾に参考文献一覧として記した。このような参考文献の内容は、その全体が参考により本明細書に援用される。
【0045】
定義
別段の定めがない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているものと同じ意味を有する。便宜上、本明細書、実施例および添付の請求項において使用される特定の用語を以下にまとめた。
【0046】
本明細書および添付の請求項において、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに別段の解釈がなされる場合を除き、複数についての言及も含むことに留意されたい。したがって、例えば、「1つの標的配列(a target sequence)」についての言及は、複数のこのような標的配列を包含するものであり、「1つの酵素(an enzyme)」についての言及は、1つ以上の酵素および当業者に公知のその等価物についての言及である。
【0047】
本明細書において、「アプタマー」という用語は、一本鎖のDNA分子または一本鎖のRNA分子を表す。アプタマーは、高い親和性および高い特異性で様々な分子に結合する。例えば、本明細書において、DNAアプタマーは、標的DNAの非存在下において、ポリメラーゼと強く結合してポリメラーゼ活性を阻害する。
【0048】
「核酸」または「核酸配列」という用語は、本明細書において、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドもしくはこれらのフラグメント;一本鎖、二本鎖のいずれであってもよく、センス鎖、アンチセンス鎖のいずれであってもよい、ゲノムDNA、ゲノムRNA、合成DNAもしくは合成RNA;ペプチド核酸(PNA);またはDNA様の物質もしくはRNA様の物質を表す。
【0049】
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、少なくとも約6~60個のヌクレオチド、好ましくは約15~30個のヌクレオチド、最も好ましくは約20~25個のヌクレオチドからなる核酸配列を表し、PCR増幅、ハイブリダイゼーションアッセイまたはマイクロアレイに使用可能な核酸配列を表す。本明細書において、「オリゴヌクレオチド」という用語は、「アンプリマー」、「プライマー」、「オリゴマー」および「プローブ」と実質的に同義であり、これらの用語は、一般に当技術分野で定義されている用語である。
【0050】
本明細書において、「保存配列領域」という用語は、DNAポリメラーゼ酵素特異的アプタマー内で、DNAポリメラーゼに結合してこれを不活性化するための領域を意味する。
【0051】
本明細書において、「可変配列領域」という用語は、標的特異的インバーターオリゴヌクレオチドの一部と相補的なセグメントを含む領域を意味する。
【0052】
本明細書において、「二本鎖安定化領域」または「二本鎖安定化ドメイン」という用語は、前記保存アプタマー配列領域と前記可変配列領域の間にあるDNAポリメラーゼ酵素特異的アプタマー内の領域を意味し、この二本鎖安定化領域の長さおよび/または組成の変化により、前記ナノ構造体の立体構造安定性が変化し得る。保存領域、安定化領域および可変領域を図示したものを図1に示す。
【0053】
本明細書において、「インバーター配列」または「インバーターオリゴヌクレオチド」という用語は、標的核酸配列と相補的なオリゴヌクレオチドであって、一部が前記アプタマーの可変配列領域との二本鎖形成に関与し、別の一部が突出末端を形成して標的核酸との二本鎖形成に関与するオリゴヌクレオチドを意味する。
【0054】
本明細書において、安定化領域が短い場合、長い安定化領域よりも標的配列に対する前記アプタマーの感度が高くなることが示されている(図1aおよび1b参照)。本明細書において、安定化ドメインが存在しない場合、二本鎖領域が長いほど、短い標的に対する前記ナノ構造体の安定性が高いことが示されている(図1cおよび1d参照)。
【0055】
本明細書において、「サンプル」という用語は、最も広い定義で使用される。例えば、生体サンプルは、ある疾患に対応するRNA配列の存在が疑われる生体サンプルであってもよい。サンプルには、体液;細胞抽出物、または細胞から単離された染色体、細胞小器官もしくは膜;細胞;ゲノムDNA、RNAまたはcDNA(溶液中に含まれるもの、または固体担体と結合した状態のもの);組織;組織転写物(tissue print)などが含まれる。本明細書において、例えば、配列番号28、配列番号30、配列番号38および配列番号40などのNSCLCマーカーに対応するRNA配列の存在が疑われる単離した血液サンプルが例として挙げられる。
【0056】
本発明で使用されるオリゴヌクレオチドは、構造的修飾および/または化学的修飾が施されていてもよく、例えば、本発明の方法を実施する際に、ヌクレアーゼが含まれている可能性があるサンプル中で当該オリゴヌクレオチドの活性が長く持続するように修飾を施してもよく、キットの保存期間が長くなるように修飾を施してもよいことは理解されるであろう。したがって、本発明で使用されるアプタマー、インバーターおよび/または任意のオリゴヌクレオチドプライマーもしくはプローブは、化学的に修飾されていてもよい。いくつかの実施形態において、前記構造的修飾および/または化学的修飾には、合成時における、蛍光性タグ、放射性タグ、ビオチン、5'テールなどのタグの付加、ホスホロチオエート(PS)結合の付加、2'-O-メチル化、および/またはホスホロアミダイトC3スペーサーの付加などが含まれる。
【0057】
本明細書において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、これらの用語によって示される本明細書に記載の特徴、整数、工程または成分(要素)の存在を明記するものであると解釈されるが、1つ以上の特徴、整数、工程もしくは成分(要素)またはこれらの群の存在または付加を除外するものではない。また、本開示の文脈において、「含む(comprising)」または「含む(including)」という用語は、「からなる(consisting of)」という意味も包含する。したがって、「comprise」や「comprises」などの「含む(comprising)」という用語のバリエーション、および「include」や「includes」などの「含む(including)」という用語のバリエーションも同様に広い意味を有する。
【実施例
【0058】
具体的な記載のない当技術分野で公知の標準的な分子生物学手法については、概してGreen and Sambrook, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, New York (2012) の記載に従って実施した。
【0059】
実施例1
方法
ナノ構造体の作製
認識ナノ構造体を調製するために、最適化した比率で配合した各種DNAオリゴヌクレオチド成分(IDT)を、50mM NaCl、1.5mM MgCl2、50mM Tris-HClバッファー(pH8.5)で構成されたバッファーに加えて95℃で5分間インキュベートした。その後、この混合物を0.1℃/秒で室温まで徐冷し、適当なモル量のTaq DNAポリメラーゼ(Promega)を加えて、ロック状態のナノ構造体を作製した。
【0060】
ナノ構造体の特性評価
核酸標的の存在下における各種認識DNAナノ構造体の反応を調べるために、標的配列と一致する合成オリゴヌクレオチド(IDT)を使用した。ロック状態のDNAナノ構造体を含む溶液に様々な既知量の標的を加え、ポリメラーゼ活性を測定した。測定方法として、(A)予めアニーリングさせたTaqmanプローブの5'エキソヌクレアーゼ分解に基づいて経時的に測定を行いポリメラーゼの遊離動態を測定する方法、または(B)電極に固相化して予めアニーリングさせたシグナル生成ナノ構造体の伸長に基づいて、サンプルとのインキュベーション前後のペルオキシダーゼ活性を測定する方法を用いた。すべての配列は、表に記載されている。
【0061】
RNAの抽出
全RNAは、RNeasy kit(Qiagen)を用いて、メーカーのプロトコルにしたがってサンプルから単離した。サンプルをRLT溶解バッファーで希釈し、最高速度で1分間ボルテックスした。1容量の70%エタノールをサンプルに加え、ボルテックスでよく混合した。この混合物をスピンカラムに加え、最高速度で15秒間遠心分離した。カラム上でDNase消化を行った後、RPEバッファーでカラムを洗浄した。RNAをヌクレアーゼフリー水で溶出した。抽出したRNAの質および量を分光光度計(Thermo Scientific)で確認し、使用するまでの間-80℃で保存した。
【0062】
臨床測定
抽出したRNA 1μlを分子分類器に添加し、電極上で室温でインキュベートした後、前述の方法で測定した。データの主成分分析を行って、マーカーの次元を圧縮し、症例と対照の分離をプロットした。最も分離の良い主成分を構成する重みの大きい複数のマーカーを多重ロジスティック回帰モデルに使用し、分類器を構築するためにマーカーシグナルに適切な重み付けを行った。分類器の分類性能は、一つ抜き交差検証で全患者の予測を行うことにより決定した。
【0063】
ロジスティックモデルを用いて、同じ5つのマーカーを用いた、同じアルゴリズムをコードする計算回路を設計した。各イコライザーゲートを、それぞれのベースラインのRNAレベルに合わせて調整し、ロジスティックモデルのマーカー重みに比例した出力が得られるようにした。重みの方向に基づいて、正論理ゲート(レギュラーゲート)と負論理ゲート(NOTゲート)のいずれかを回路に追加した。分子分類器からの補正出力シグナルをリスクスコアとして用いた。
【0064】
実施例2
ナノ構造体の設計
各ナノ構造体は、ポリメラーゼ特異的DNAアプタマー、標的に特異的なDNA鎖およびDNAポリメラーゼ酵素を含む。我々が以前に開発したナノ構造体 [Ho, N. R. Y. et al., Nat Commun 9: 3238 (2018)] との違いは、可変領域に安定化ドメインが含まれていることである。この安定化ドメインは、保存アプタマー配列と標的に特異的な鎖の間に位置する(図1)。この安定化ドメインにより、標的に特異的な鎖が短い場合や熱力学的に不安定な場合でも、ナノ構造体の立体構造安定性が維持され、短い核酸から長い核酸まで多様な標的による汎用的な活性化が可能になる(図1a)。特に、長くて強力な安定化ドメインである場合は、標的の存在下でも活性化できないほど安定したナノ構造体が形成される(図1b)。安定化ドメインが存在しない場合は、不安定で酵素活性を完全に阻害できないか(図1c、短い二本鎖)、長い標的に対してのみ反応し短い標的には反応しない(図1d、長い二本鎖)ナノ構造体となる。使用した配列を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例3
調整可能な安定性
上述したように、安定化ドメインを組み込むことで、ナノ構造体の安定性と汎用性が大きく広がる。安定化ドメインの熱力学的特性は、DNAハイブリダイゼーションのギブス自由エネルギー(ΔGo)の様々なモデルに基づいて正確に予測することができる [Tulpan, D., Andronescu, M. & Leger, S. BMC Bioinformatics 11: 105 (2010)]。ACTGGC配列を有する6bpの安定化ドメインを加えることで、ナノ構造体は、標的に特異的な鎖と12bpの二本鎖を形成して安定な酵素-アプタマー複合体を形成することができる。しかし、安定化ドメインを持たないナノ構造体は、安定な酵素-アダプター複合体を形成するために、標的に特異的な鎖と18bpの二本鎖を形成する必要があった(図2、表2)。
【0067】
【表2】
【0068】
また、安定化ドメインを調整することで、様々な熱力学的プロファイルで応答するDNA-酵素ナノ構造体を設計することもできる。本質的に安定性が高い配列(より負のb.G0)を用いることで、安定性に悪影響を与える以下の要因:(1)アプタマーと標的に特異的な鎖の間の二本鎖の長さ(短い=安定性が低い)、(2)アプタマーと標的に特異的な鎖の間の二本鎖の配列組成(GC含量が低い=安定性が低い)、(3)温度(高いほど安定性が低くなる)、(4)塩濃度(正の一価または二価の塩が少ないほど安定性が低くなる)、(5)pH(6-Bの範囲外=安定性が低い)および(6)ホルムアミドやスペルミンなどのハイブリダイゼーションに影響を及ぼす化学物質(化学物質により異なる;ホルムアミド:濃度が高いほど安定性が低くなる、スペルミン:濃度が低いほど安定性が低くなる)に対してより強い耐性を備えたナノ構造体を設計することができる。AT含量が高く、短い4bpの安定化ドメイン(Tm値は低値)を用いたところ、20℃では安定なナノ構造体が得られたが、高温ではすぐに不安定化した。安定化ドメインの長さはそのままで、その組成をGC含量の高いものに変更することで(Tm値は中程度)、高温でのナノ構造体の安定性が向上した。最後に、安定化ドメインの長さを長くし、GC含量を高くすることで(Tm値は高値)、高温における耐性が最も強く、35℃でも完全に安定なナノ構造体が得られた(図3、表3)。
【0069】
【表3】
【0070】
実施例4
性能評価
安定化ドメインを調整することで、様々なΔGoを持つ標的配列に対してナノ構造体の性能を標準化することができる。様々な種類のRNA標的それぞれに対応するナノ構造体を設計し、各ナノ構造体の安定化ドメインを調整することで、すべてのナノ構造体で±2kcal/mol ΔGo以内に収まるようにした(表4)。
【0071】
その結果、幅広い種類のRNA標的(miRNA、mRNA、lncRNAなど)に対して、同等の性能プロファイルを示す特異なナノ構造体群を開発することができた(図4)。
【0072】
また、ナノ構造体に安定化ドメインを組み込むことで、一塩基のミスマッチを高い特異性で検出することも可能である。我々が以前に設計したナノ構造体のように安定化ドメインが存在しない場合は、標的配列の選択が限られており、変異したときに大きな熱力学的ギャップが生じるような一塩基の位置を選択する必要があった。しかし、安定化ドメインの設計を入念に行うことで、様々な種類の一塩基ミスマッチの熱力学的ギャップを最大限に高めることができる。その結果、ナノ構造体の、ミスマッチを高解像度で解読する(すなわち一塩基変異を解読する)能力の向上だけでなく、幅広い種類の標的配列への適用が可能になる(図5および表5)。
【0073】
【表4-1】
【0074】
【表4-2】
【0075】
【表5】
【0076】
酵素活性シグナルを増幅・伝達する下流アッセイ(例えば、さらなる酵素動員[PCT/SG2021/050194;WO2020/009660])と組み合わせることにより、当該新規ナノ構造体による標的核酸の高感度検出が可能となる(図6)。
【0077】
実施例5
多重分子論理演算
複数のナノ構造体を組み合わせたワンポット反応により、多重分子論理演算を行うことができる。これは、反応に使用する各構成要素(ポリメラーゼ、アプタマー鎖および標的に特異的な鎖)の用量設定を行うことで制御される。例えば、ポリメラーゼ酵素、アプタマー鎖1、標的に特異的な鎖1、アプタマー鎖2および標的に特異的な鎖2をそれぞれ異なる比率で混合することにより、ワンポットアッセイにおいて、OR(2:1:1:1:1)、AND(1:1:1:1:1)、NOT(1:1:0:0:0もしくは1:0:0:1:0)、NOR(1:1:0:1:0)またはNAND(2:1:0:1:0)という論理関数が作成される(図7)。
【0078】
標的に特異的な鎖の量をさらに変化させることで、同じ量の標的に対して異なる反応を示すように、または、異なる量の標的に対して同じ反応を示すように、ナノ構造体の感度をさらに調整することができる。つまり、標的に特異的な鎖が、標的の過剰なコピーと結合して、異なる量の標的から生じるシグナルを平準化する分子シンク(molecular sink)として機能する。論理関数で設定した用量比で混合することにより、イコライザー論理関数を作成することができる(図8)。これは、異なる標的の遺伝子発現レベルを測定する際、各遺伝子標的のベースラインの発現量が異なる場合に有効であると考えられる。
【0079】
さらに、論理関数は3つ以上の標的に拡張することができる。1つの反応において複数のナノ構造体を組み合わせることで、同じ標的入力に対して異なる反応を示す多種標的アッセイを実現することができる(図9)。さらに、ワンポット反応においてナノ構造体の組み合わせをさらに調整することで、設定した閾値を超える発現を示す標的数を測定することができる(図10)。
【0080】
実施例6
臨床への応用
患者血清(NSCLC10検体、コントロール10検体)中の複数の循環RNAマーカーの定量を行った(図11a)。各バイオマーカーの発現量に基づいて、異なる5種類のRNAマーカー(すなわち、miR-21-5p、miR-223-5p、GAPDH、hnRNPA1B2およびGAS5)を用いた機械学習モデルを構築した。計算で得られたRNAシグネチャーに基づいて、肺がん患者と正常対照者を正確に識別することができた(図11b、左)。
【0081】
次に、化学反応において機械学習モデルを模倣した5マーカー多重分子論理演算を構築した。この分子分類器(図11b、右)を用いて患者の循環RNAを直接測定したところ、各マーカーの測定値を用いた計算分類器と同等の性能を示した。これは、分子論理ゲートを用いて化学的アルゴリズムを作成した例を紹介したものであり、このアルゴリズムを使用してワンポット反応で様々なマーカーを定量することで、患者の正確な診断が可能になる。
【0082】
本明細書で引用された既に出版されている一連の文献およびこれらに記載の考察は、当技術分野の技術水準や技術常識の一部を構成するものであると認識する必要は必ずしもない。
【0083】
参考文献
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2. Tulpan, D., Andronescu, M. & Leger, S. Free energy estimation of short DNA duplex hybridizations. BMC Bioinformatics 11: 105 (2010).
3. PCT/SG2021/050194 Shao, H., Ho, N. R. Y., Sundah, N. R., Liu, Y. & Chen, Y. Responsive, Catalytic Nucleic Nanostructures. National University of Singapore, Agency for Science, Technology and Research, Singapore.
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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【国際調査報告】