(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】乗客輸送システムのための手摺張力監視デバイス
(51)【国際特許分類】
B66B 23/20 20060101AFI20231011BHJP
B66B 29/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B66B23/20
B66B29/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518996
(86)(22)【出願日】2021-09-09
(85)【翻訳文提出日】2023-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2021074821
(87)【国際公開番号】W WO2022063595
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】390040729
【氏名又は名称】インベンテイオ・アクテイエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】INVENTIO AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オルトバウアー,マルティン
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321EA17
3F321EB02
3F321EB07
3F321GA31
(57)【要約】
本発明は、動く歩道又はエスカレータとして設計された乗客輸送システム(1)のための手摺張力監視デバイス(41)に関する。手摺張力監視デバイス(41)は、少なくとも距離センサ(34)と信号処理ユニット(47)とを備える。距離センサ(34)によって検出された測定信号(M)は、信号処理ユニット(47)において処理及び評価されることができる。信号処理ユニット(47)において、乗客輸送システム(1)の走査された手摺(15)の振動周波数(f)は、測定信号(M)の信号曲線(MV)から決定され、前記振動周波数は、少なくとも1つの下側閾値(US)及び/又は上側閾値(OS)と比較されることができ、下側閾値(US)に達していない場合にアラーム信号(Z)が生成され、上側閾値(OS)を超える場合に警告信号(W)が生成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動く歩道又はエスカレータとして設計された乗客輸送システム(1)のための手摺張力監視デバイス(41)であって、手摺張力監視デバイス(41)は、少なくとも距離センサ(34)及び信号処理ユニット(47)を備え、距離センサ(34)によって検出された測定信号(M)は、信号処理ユニット(47)において処理及び評価されることができ、乗客輸送システム(1)の走査された手摺(15)の振動周波数(f)は、測定信号(M)の信号曲線(MV)から信号処理ユニット(47)において決定されることができ、決定された振動周波数(f)は、少なくとも1つの下側閾値(US)及び/又は上側閾値(OS)と比較されることができ、下側閾値(US)に達していない場合にアラーム信号(Z)が生成され、上側閾値(OS)を超えている場合に警告信号(W)が生成されることを特徴とする、手摺張力監視デバイス(41)。
【請求項2】
前記デバイスは、乗客輸送システム(1)の固定構成要素(81)に取り付けることができるホルダ(37)を備え、ホルダ(37)は、手摺張力監視デバイス(41)の動作状態において、その距離センサ(34)は、手摺(15)の自由に吊り下げられた領域(51)において、手摺(15)の手支持面(83)又は後側(85)に向けられるように設計される、請求項1に記載の手摺張力監視デバイス(41)。
【請求項3】
ホルダ(37)は、距離センサ(34)を手摺(15)の手支持面(83)又は後側(85)に対して整列させるための調整手段(73、75)を有する、請求項2に記載の手摺張力監視デバイス(41)。
【請求項4】
距離センサ(34)は、TOFカメラ、赤外線距離センサ、レーザ距離センサ、通過時間検出付き超音波センサ、又はレーダセンサである、請求項1から3のいずれか一項に記載の手摺張力監視デバイス(41)。
【請求項5】
信号処理ユニット(47)は、距離センサ(34)において、乗客輸送システム(1)のコントローラ(19)において、又はデータクラウド(95)において実現される、請求項1から4のいずれか一項に記載の手摺張力監視デバイス(41)。
【請求項6】
アラーム信号(Z)及び/又は警告信号(W)は乗客輸送システム(1)のコントローラ(19)に送信されることができ、その結果、乗客輸送システム(1)の駆動動作が影響され得る、請求項1から5のいずれか一項に記載の手摺張力監視デバイス(41)。
【請求項7】
前記デバイスは、通信手段(89)を有するか、又は、通信手段(89)に接続され得、通信手段(89)を介して測定信号(M)の少なくとも検出された信号曲線(MV)が乗客輸送システム(1)のデジタルツインデータ記録(101)に送信され得る、請求項1から6のいずれか一項に記載の手摺電圧監視デバイス(41)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの手摺張力監視デバイス(41)を有する乗客輸送システム(1)。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の手摺張力監視デバイス(41)の測定信号(M)を処理及び評価するための方法であって、信号処理ユニット(47)において、走査された手摺(15)の振動周波数(f)は、測定信号(M)の信号曲線(MV)から決定され、決定された振動周波数(f)は、少なくとも1つの下側閾値(US)及び/又は上側閾値(OS)と比較され、下側閾値(US)に達していない場合にアラーム信号(Z)が生成され、上側閾値(OS)を超える場合に警告信号(W)が生成されることを特徴とする、方法。
【請求項10】
振動周波数(f)を検証するために、振動する手摺(15)の連続する振幅高さ(H)の数は、測定信号(M)の信号曲線(MV)から決定され、前記振幅高さは、高さ制限値(HG)及び数制限値(n)と比較される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
検出された信号曲線(MV)は、乗客輸送システム(1)のデジタルツインデータ記録(101)に送信され、乗客輸送システム(1)の他の構成要素に対する振動する手摺(15)の効果は、デジタルツインデータ記録(101)を使用して静的及び動的シミュレーションによって決定される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
閾値(OS、US)は、進行方向に応じて確立される、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行されることができ、エスカレータ又は動く歩道として設計された連続的に搬送する乗客輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータ及び動く歩道は、建物又は構造内のトレッド又はパレットなどのステップユニット上に立つ乗客を輸送するために使用される。
【0003】
エスカレータ又は動く歩道は、両側に動く手摺を有する。これらは、バランスを保ち、転倒を回避するために、乗客がエスカレータ又は動く歩道の手摺の1つにつかまることを可能にするために使用される。例えば、乗客が他の乗客に不意に押されたり、エスカレータ又は動く歩道が突然停止したりすると、乗客はバランスを失う可能性がある。入口領域及び出口領域の水平進行部分とそれらの間の傾斜進行部分との間のエスカレータに存在する移行部はまた、ステップが互いに対して垂直に移動し、上側ステップ上の乗客が自分のつま先をステップのただ縁部のみに置いたときに、落下する特定のリスクをもたらす。
【0004】
しかしながら、手摺は、ステップベルト又はパレットベルトと可能な限り同期して移動することが保証されなければならない。手摺又は手摺ベルトは、通常、摩擦駆動機によって駆動されるため、手摺と手摺駆動機の摩擦ホイールとの間の摩擦力がこれらの2つの摩擦相手間の滑りを防止するのに十分に高くなるように、手摺は摩擦ホイールに対して十分にプリテンショニングされなければならない。
【0005】
手摺に張力を付与するために、例えば、特開2008-063056号は、張力付与要素を有する手摺張力付与デバイスを説明する。摩耗及びへたり、並びに動作中の一定の曲げの変化により、手摺はより長くなり、したがって時々再張力付与されなければならない。再張力付与の時間を検出するために、この手摺張力付与デバイスは、張力付与要素の端部位置を走査し、この端部位置に到達して手摺が再張力付与されなければならないとすぐに、乗客輸送システムのコントローラに信号を送る内蔵検知手段を有する。このデバイスの問題は、必要な場合にのみ再張力付与の時間が表示されるが、保守時期の可能性の予測ができないことである。
【0006】
加えて、手摺のプリテンショニング力は高すぎてはならず、そうでなければ、手摺は、それが連続的に案内されるガイドローラ及びガイドプロファイルに対して強く押し付けられすぎ、手摺を移動させるのに必要なエネルギー及びこれらの部品の関連する摩耗が高すぎる。この検知手段でも、過剰な手摺のプリテンショニングを検出することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、既存の手摺のプリテンショニング力の正確でより意味のある決定を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、動く歩道又はエスカレータとして設計された乗客輸送システムのための手摺張力監視デバイスによって達成される。この目的のために、手摺張力監視デバイスは、少なくとも1つの距離センサと信号処理ユニットとを備える。距離センサによって検出された測定信号は、信号処理ユニットにおいて処理及び評価されることができ、乗客輸送システムの走査された手摺の振動周波数は、測定信号の信号曲線から信号処理ユニットにおいて決定されることができる。決定された振動周波数は、少なくとも、下側閾値と比較されることができ、下側閾値に達していない場合にアラーム信号が生成される。
【0010】
言い換えれば、振動するストリングと同様に、手摺のプリテンショニング力は、手摺の振動の挙動に基づいて評価される。ここで既知のパラメータは、手摺の自由に吊り下げられた領域の長さ、その構造、使用される寸法及び材料、並びに振動周波数及び任意選択的に振幅高さの測定されたパラメータである。決定されるパラメータは、手摺のプリテンショニング力である。手摺のプリテンショニング力が高いほど、手摺の振動周波数が高くなり、逆もまた同様である。決定された振動周波数が下側閾値を下回るとすぐに、最小手摺プリテンショニング力は満たされず、これは上述の摩擦相手間の滑りにつながる可能性がある。外挿されることができる変化傾向はまた、振動の挙動又は変化する振動周波数から識別され得る。この外挿を使用して、下側閾値にいつ到達するか、及び手摺はいつ再張力付与される必要があるかについて予測が行われ得る。これにより、保守を計画することがはるかに容易になる。
【0011】
手摺は、好ましくは、搬送動作中の移動によって振動するように刺激される。任意選択で、手摺は通常鋼ストランドで作られた引張部材を有するので、短時間オンにされる交流磁場などの適切に設計されたデバイスは、振動に対する励起をサポートすることができる。
【0012】
下側閾値は、最低限必要な手摺のプリテンショニング力を表す比較値である。以下で更に説明する下側閾値及び上側閾値は、乗客輸送システムの組み立て後にその上での試験によって決定されることが好ましく、次いで、全ての構造的に同一であり、場合によっては構造的に類似した乗客輸送システムに使用され得る。当然、閾値は、具体的には、完成した乗客輸送システムごとに決定されることもでき、例えば、信号処理ユニットの記憶媒体に記憶され、それによって取得され得る。下側閾値のために、動作状態情報(乗客輸送システムが静止しているか搬送動作中か)によって、手摺の故障(断裂)も直ちに認識されることができ、乗客輸送システムの緊急停止などの適切な措置が開始されることができる。
【0013】
既に述べたように、決定された振動周波数はまた、少なくとも1つの上側閾値と比較されることができ、上側閾値を超えると警告信号が生成される。上限閾値は、最大許容手摺プリテンショニング力を表す。
【0014】
手摺電圧監視デバイスが乗客輸送システムに設置されることができるように、手摺電圧監視デバイスは、好ましくは距離センサのためのホルダを有し、このホルダは乗客輸送システムの固定構成要素に取り付け可能である。ホルダは、手摺張力監視デバイスの動作状態において、その距離センサが、手摺の自由に吊り下げられた領域において、手支持面又は手摺の後側に向けられるように設計されることができる。手支持面は、ユーザが手摺の2つの側面を親指と指で把持しながら手を置く手摺の広い面である。手摺の後側には、通常、ガイドプロファイルの表面上で可能な限りスライドすることができるように、スライド可能な布が設けられる。したがって、この構成では、手支持面又は手摺の後側は、センサに向かって、又はセンサから離れるように移動する。距離センサの連続的に検出された測定値は、手摺に発生する振動を反映する測定値曲線をもたらす。測定値の連続的な検出は、高い頻度などを有する離散的なステップでの検出を意味すると理解することもでき、意味があり評価可能な測定値曲線をもたらす。
【0015】
設置を簡単にするために、ホルダは、距離センサを手支持面又は手摺の後側に対して整列させるための調整手段を有することができる。設置中、一方では距離が十分な精度で連続的に検出されることができ、他方では、最小のプリテンション、したがって最大の振幅に達したときに手摺が距離センサと衝突しないように、距離センサは手摺と整列されることができる。
【0016】
例えば、TOFカメラ、赤外線距離センサ、レーザ距離センサ、通過時間検出付き超音波センサ、又はレーダセンサは距離センサとして使用され得る。原則として、振動を距離信号曲線として記録することができる任意のセンサが使用され得る。
【0017】
手摺電圧監視デバイスの信号処理ユニットは、例えば、距離センサにおいて、乗客輸送システムのコントローラにおいて、又はデータクラウドにおいて実現されることができる。言い換えれば、信号処理ユニットは、特定の場所に限定されず、有線及び/又は無線信号伝送方式で距離センサに接続されなければならないか、又は少なくとも周期的に接続可能でなければならない。
【0018】
信号処理ユニットは、下側閾値が満たされていないこと、又は上側閾値を超えたことを検出するとすぐに、アラーム信号及び/又は警告信号を出力することができる。このアラーム信号及び/又は警告信号は、乗客輸送システムのコントローラに送信されることができる。これは、乗客輸送システムの駆動動作に影響を与える可能性があり、乗客輸送システムは即座に停止される、例えば、運転速度が低減されるか、又は他のセンサによって少数のユーザのみが登録されるだけの時間だけ待ち、そうしてやっと対応する保守作業のためにエスカレータがシャットダウンされる。
【0019】
各乗客輸送システムは、好ましくは、その手摺のそれぞれに対して手摺張力監視デバイスを有する。
【0020】
更に、手摺電圧監視デバイスは、信号送信デバイスを有することができるか、又は測定信号の少なくとも検出された信号曲線が乗客輸送システムのデジタルツインデータ記録に送信され得る信号送信デバイスに接続され得る。
【0021】
言い換えれば、物理的に存在する乗客輸送システムと並行して、この乗客輸送システムを仮想的に描写するデジタルツインデータ記録が存在することができる。ここで、距離センサによって生成された測定信号又は信号曲線は、信号送信デバイスを介してデジタルツインデータ記録に送信されることができる。デジタルツインデータ記録のデータに関連してこれらの測定信号及び信号曲線を処理することによって、動作可能な乗客輸送システムの動的プロセスがシミュレートされ、デジタルツインデータ記録上にリアルタイムで表示されることができる。
【0022】
デジタルツインデータ記録は、機械処理可能な方法で物理的乗客輸送システムの構成要素の特性を特徴付けることを含む。このデジタルツインデータ記録は、構造体への組み立て及び設置後の物理的乗客輸送システムの特徴的特性を測定することによって決定されたデータを含む構成要素モデルデータ記録からなる。
【0023】
物理的構成要素の特徴的特性は、構成要素の幾何学的寸法、構成要素の重量、及び/又は構成要素の表面品質であり得る。構成要素の幾何学的寸法は、例えば、構成要素の長さ、幅、高さ、断面、半径、フィレットなどであり得る。構成要素の表面品質は、例えば、構成要素の粗さ、テクスチャ、コーティング、色、反射率などを含むことができる。特徴的特性はまた、動的情報、例えば、周囲の構成要素モデルデータ記録又はデジタルツインデータ記録の静的基準点に対する移動の方向及び速度を示す構成要素モデルデータ記録の動きベクトルであってもよい。
【0024】
特徴的特性は、個々の構成要素又は構成要素群に関連し得る。例えば、特徴的特性は、より大きく、より複雑な構成要素群が組み立てられる個々の構成要素に関連し得る。代替的又は追加的に、特性は、駆動モータ、ギアユニット、コンベアチェーンなどの複数の構成要素から組み立てられたより複雑な機器にも関連し得る。
【0025】
距離センサからの信号は、測定データとしてデジタルツインデータ記録に送信され、規則のセットを使用して、送信された測定データの影響を受ける構成要素モデルデータ記録の特徴的特性が再決定される。次いで、影響を受けた構成要素モデルデータ記録の特徴的特性が、再決定された特徴的特性で更新される。具体的には、例えば、距離センサによって測定された振動周波数及び振幅は、手摺を表す構成要素モデルデータ記録、及び手摺を案内するガイドプロファイル及びガイドレールを形成する構成要素モデルデータ記録に転送されることができる。このようにして、例えば、仮想表現として画面上に再生されたデジタルツインデータ記録の場合、全ての動的に移動可能な構成要素モデルデータ記録は、信号が記録された時点で物理的乗客輸送システム内のそれらの物理的構成要素と同じ動きで表示されることができる。構成要素モデルデータ記録の相互作用は、構成要素モデルデータ記録の動きからシミュレートされることができ、構成要素に作用する力は、物理学、力学、及び強度理論の分野からの適切な既知の計算プログラムを使用して決定されることができる。
【0026】
この後、監視によって、連続的な手摺の更新された特徴的特性の変化及び変化傾向、並びに手摺及び前記手摺と相互作用する構成要素へのそれらの影響は、計算及び/又は静的及び動的シミュレーションによるデジタルツインデータ記録によって追跡及び評価されることができる。結果として、保守の時期が非常に正確に決定されることができ、任意選択的に、摩耗により交換される、手摺と相互作用する構成要素のリストが作成されることができる。当然、限界値を超える動的プロセスに関する評価は、例えば、蓄積する共振振動の場合に、デジタルツインデータ記録上でも可能である。
【0027】
本発明はまた、上述の手摺張力監視デバイスからの測定信号を処理及び評価するための方法を含む。走査された手摺の振動周波数は、信号処理ユニットにおいて、測定信号の信号曲線から決定され、決定された振動周波数は、少なくとも1つの下側閾値と比較される。比較(振動周波数の変化傾向及び下側閾値との差)から、例えば、手摺が再張力付与されなければならない保守時間が決定されることができる。下側閾値が満たされない場合、アラーム信号が生成され、アラーム信号は、例えば、さらなる処理のために乗客輸送システムのコントローラに送信される。アラーム信号に基づいて、前記コントローラは、例えば、駆動機を停止し、保守センターにメッセージを送ることができる。
【0028】
決定された振動周波数はまた、信号処理ユニットにおいて、少なくとも1つの上側閾値と比較されることができ、上側閾値を超えると警告信号が生成される。警告信号により必ずしも駆動を停止する必要はない。しかしながら、過度の摩耗を回避するために、信号処理ユニットは、例えば、手摺にまさに過度に張力をかけた保守作業員に属する携帯電話にメッセージを送ることができる。
【0029】
振動周波数を検証するために、振動する手摺の連続する振幅高さの数は、測定信号の信号曲線から決定され、前記振幅高さは、高さ制限値及び数制限値と比較される。一定の振幅数が高さ制限値を超える場合、これは、振動周波数が低すぎるか、又は手摺のプリテンショニング力が低すぎることを確定する。
【0030】
既に述べたように、検出された信号曲線は、乗客輸送システムのデジタルツインデータ記録に送信されることができ、乗客輸送システムの他の構成要素に対する振動する手摺の効果は、静的及び動的シミュレーションによって決定される。
【0031】
手摺内の引張力は、摩擦条件に起因する回転方向及び距離センサの位置に対する手摺駆動機の位置に応じて異なるため、手摺の振動周波数は通常、進行方向に依存する。これにより、進行方向に応じて閾値が確立されることができる。
【0032】
本発明の可能な特徴及び利点のいくつかは、異なる実施形態を参照して本明細書に記載されていることに留意されたい。当業者は、本発明のさらなる実施形態に到達するために、特徴を必要に応じて組み合わせる、適合させる、又は置き換えることができることを認識する。
【0033】
本発明の実施形態は、添付の図面を参照して以下に説明され、図面及び説明は本発明を限定するものとして解釈されることを意図しない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】エスカレータの最も重要な構成要素又は部品、特にその手摺及び手摺張力付与デバイス、並びに距離センサを有する本発明による手摺張力監視デバイスの構成要素を概略的に示す。
【
図2】
図1に示す乗客輸送システムの手摺張力監視デバイスの手摺張力付与デバイス及び距離センサの拡大図である。
【
図3A】
図1及び
図2に示す距離センサの測定信号の架空信号曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面は単に概略的なものであり、縮尺通りではない。同様の参照符号は、様々な図面における同様の又は同等の特徴を指す。
【0036】
図1は、エスカレータとして設計された乗客輸送システム1の最も重要な構成要素又は部品を概略的に示す。このシステムは、構造体9の2つの支持点5、7の間に配置された輪郭線によって示される支持構造体3を有する。ここで、支持構造体3は、乗客輸送システム1の他の構成要素、例えば、支持構造体3の周りに連続的に案内されるコンベアベルト11、連続的に案内される手摺15をそれぞれ有する2つの欄干13(1つの欄干13のみが示されている)、コンベアベルト11及び手摺15を駆動するための駆動ユニット17、並びにそれらを制御するための駆動ユニット17に信号線49を介して接続されるコントローラ19を収容する。
【0037】
この例では、手摺15の戻りストランド21は、ガイドローラ27によって欄干ベース25内に案内され、そのリーディングストランド23は、ガイドプロファイル29(
図2の断面A-Aを参照されたい)上に案内される。ユーザに見える、したがって把持することができる手摺15の部分は、リーディングストランド23であり、戻りストランド21は、欄干ベース25に隠されている。
【0038】
駆動ユニット17は、主駆動シャフト31に動作可能に接続されている。コンベアベルト11はまた、主駆動シャフト31の周りに案内され、それによって駆動される。手摺15は、手摺駆動機33の摩擦ホイール35によって駆動され、これらの摩擦ホイール35はまた、主駆動シャフト31を介して駆動ユニット17に動作可能に接続される。摩擦ホイール35と手摺15との間で十分な力を伝達できるように、手摺張力付与デバイス37が設けられている。手摺15は、この張力付与デバイスによってプリテンションをかけられることができる。手摺15の戻りストランド21と同様に、手摺張力付与デバイス37、手摺駆動機33、及び手摺15を所定の場所に案内するガイドローラ27も欄干ベース25内に配置されている。
【0039】
また、欄干ベース25には、手摺張力監視デバイス41の距離センサ43が配置されている。距離センサ43は、破線で示す信号線45を介して、乗客輸送システム1のコントローラ19に接続されている。示されているように、手摺張力監視デバイス41の信号処理ユニット47は、コントローラ19内に配置されることができ、又はその電子機器内に実現されることができる。しかしながら、距離センサ43自体に、又は例えばデータクラウド95などの乗客輸送システム1の物理的領域の外側に実現されることもできる。
【0040】
手摺15の振動を検出できるようにするために、距離センサ43は、手摺15の自由に吊り下げられた領域57に、好ましくは2つのガイドローラ27の間に配置される。既存の手摺のプリテンショニング力に応じて、手摺は、自由に吊り下げられた領域57において異なる程度まで垂れ下がる。適切に張力がかけられると、実線51で示すように、わずかに垂れ下がる。張力が強すぎると、一点鎖線53で示す位置になりやすく、張力が十分でないと、破線55で示す位置になりやすい。
【0041】
図2は、
図1に示す乗客輸送システム1の手摺張力監視デバイス41の手摺張力付与デバイス37及び距離センサ43の拡大図である。手摺張力付与デバイス37は、加圧ローラ67を有するローラキャリア69と、スピンドル63と、調整ナット65と、支持体61とを備える。支持体61は、支持構造体3の上弦材に示される例では、例えばねじによって、乗客輸送システム1の固定構成要素81に付けられる。ローラキャリア69にしっかりと接続されたスピンドル63は、調整ナット65によって支持体61に対して調整されることができ、その結果、所望の手摺プリテンショニング力が手摺15に加えられることができる。当然、例えばばね要素を有する、異なる設計の手摺クランプデバイス37が使用されることもできる。しかしながら、そのような手摺張力付与デバイス37はまた、時々再張力付与されなければならない。
【0042】
手摺張力監視デバイス41は、やはり乗客輸送システム1の上弦材又は固定構成要素81に取り付けられたホルダ71を有する。ホルダ71は、手摺張力監視デバイス41の動作状態において、その距離センサ43、より正確には距離センサ43のセンサヘッド77が、手摺15の自由に吊り下げられた領域51において、手支持面83又は手摺15の後側85に向けられるように設計される。更に、ホルダ71は、距離センサ43を手摺15の手支持面83又は後側85に対して整列させるための調整手段73、75を有する。本実施形態では、これらの調整手段73、75は、同時に距離センサを固定する役割も果たす調整ナット75と、ホルダ71を固定構成要素81に取り付けて整列させるためのスロットねじ接続部73とである。
【0043】
距離センサ71は、距離測定の迅速なシーケンスを実行すること、すなわち、振動(両矢印87によって表され、破線によって示される自由に吊り下げられた領域51内の手摺の撓み)によって引き起こされる変化する距離を、測定信号及びその信号曲線として検出することができなければならない。TOFカメラ、赤外線距離センサ、レーザ距離センサ、通過時間検出付き超音波センサ、又はレーダセンサなどの様々な距離センサ71がこの目的に適している。
【0044】
既に述べたように、測定信号及びその信号コースは、例えば信号線45を介して信号処理ユニット47に送信される。当然、信号線45の代わりに、例えばブルートゥース接続などを介して無線送信を行うこともできる。
【0045】
信号処理ユニット47自体が距離センサ71に配置されることができる。しかしながら、
図1に示すように、乗客輸送システム1のコントローラ19に組み込まれることもできる。更に、信号処理ユニット47がデータクラウドに実現され、そこで必要な評価が行われることも可能である。更に、手摺電圧監視デバイス41は、通信手段89を有し得るか、又は測定信号の少なくとも検出された信号曲線が乗客輸送システム1のデジタルツインデータ記録101に送信され得る通信手段89に接続され得る。
【0046】
測定信号M及び信号プロファイルMVの可能な評価を
図3A及び
図3Bに示す。
図3Aは、
図1及び
図2に示す距離センサ43の測定信号Mの架空信号曲線MVを示す。
【0047】
図示の信号曲線MVは、左側から始まり、低振幅A及び高振動周波数fを示す。動作時間tにわたって、手摺15の材料のへたり及び摩耗の結果として、手摺15上のプリテンショニング力の損失がある。これにより、手摺15が更に振動することができるため、振動周波数fが減少し、振幅Aの振幅高さHが増加する。当然ながら、プリテンショニング力の損失は、数回の振動内ではなく、むしろ非常に長い期間にわたって発生する。
【0048】
図3Bは、信号曲線MVから求められる周波数曲線FK、並びに上側閾値OS及び下側閾値USを示す。左側から開始して、測定された振動周波数fは非常に高いので、周波数曲線FKは上側閾値OSを超える。したがって、手摺15は、過度に引っ張られ、したがって、警告信号Wが信号処理ユニット47内で生成され、保守技術者、例えば携帯電話に送信され、その結果、保守技術者は、手摺15に再度張力をかけた直後に、手摺のプリテンショニング力が高すぎることを見ることができる。次いで保守技術者は、上側閾値OSが満たされない程度まで手摺のプリテンショニング力を低減させることができる。当然、
図1に示す乗客輸送システム1のコントローラ19に警告信号Wが送信され、それにより数秒後に乗客輸送システム1の駆動動作を停止させることもできる。
【0049】
乗客輸送システム1の連続動作により、手摺のプリテンショニング力は連続的に減少し、その結果、振動周波数fは減少し、振幅高さHは増加する。ある時点で、振動周波数fが下側閾値USを下回ると、信号処理ユニット47によってアラーム信号Zが出力される。下側閾値USは、手摺15の通常の荷重で、手摺駆動機33の摩擦ホイール35と手摺15との間にほとんど滑りがないように大きさ決めされる(
図1参照)。下側閾値USは、例えば試験によって決定されることができるが、幾何学的データ、手摺駆動機33、手摺15と手摺案内経路全体に沿った様々な摩擦相手との間の摩擦係数、及び手摺のプリテンショニング力から計算されることもできる。
【0050】
手摺15内の引張力は、摩擦条件に起因する回転方向と、距離センサ71の位置に対する手摺駆動機33及び手摺張力付与デバイス37の位置とに応じて異なるため、手摺15の振動周波数fは進行方向に依存する。これにより、進行方向に応じて閾値が確立されることができる。
【0051】
アラーム信号Zは、乗客輸送システム1のコントローラ19に送信され、安全上の理由から、これは、例えば、手摺15が手摺張力付与デバイス37によって再び張力がかけられるまで、乗客輸送システム1の駆動動作を停止する。
【0052】
図3Aに示されるように、振動周波数fを検証するために、振動する手摺15の連続する振幅高さHの数は、測定信号Mの信号曲線MVから決定されることができ、前記振幅高さは、高さ制限値HG及び数制限値nと比較されることができる。結果として、外部の影響、例えば手摺15での急速な引張によって、手摺15がより高い周波数で振動するように刺激され、したがって下側閾値USを下回らないときに、許容できないほど低い手摺プリテンショニング力も決定されることができる。この特別な場合、振幅高さHは、手摺プリテンショニング力が低すぎることを示す。しかしながら、同時に、数制限値nに起因して高さ制限値HGの1回の超過は考慮されていないため、対象期間又は連続する複数の振幅Aにおいて高さ制限値HGを数回超えたときにのみアラーム信号Aが生成される。
【0053】
図1は、手摺張力監視デバイス41又はその距離センサ43からの測定信号M及びその信号曲線MVを評価するためのさらなる選択肢を示す。この目的のために、例えばデータ処理デバイス95(クラウド)に記憶されるデジタルツインデータ記録101が使用される。このデジタルツインデータ記録101は、乗客輸送システム1を仮想的にマッピングする。これは、乗客輸送システム1の各個々の構成要素もデジタルツインデータ記録101に再現されることを意味する。デジタルツインデータ記録101は、好ましくは、インタフェース情報を介して互いにリンクされた構成要素モデルデータ記録113に構造化される。言い換えれば、乗客輸送システム1の構成要素は、構成要素モデルデータ記録113として再現される。これらの構成要素モデルデータ記録113(例えば、ガイドローラ27の構成要素モデルデータ記録113)の各々は、可能な限り完全にマッピングされる物理的構成要素の全ての特徴的特性を有する。更に、デジタルツインデータ記録101に存在するインタフェース情報は、三次元空間における構成要素の配置、力、モーメントなどの作用及び伝達中の互いの相互作用、並びに場合によっては互いに対する移動の自由度を再現するためのものである。
【0054】
このデジタルツインデータ記録101は、例えば、図示の例ではパーソナルコンピュータである入力/出力インタフェース99を介してデータ処理デバイス95からダウンロードされ、更に処理され、シミュレーション105に使用され得る。当然、シミュレーション105は、データ処理デバイス95で実行されることもでき、その場合、入出力インタフェース99は、コンピュータ端末としてのみ機能することができる。
【0055】
シミュレーション105を実行できるようにするために、両矢印97で示すように、例えば、距離センサ43及び測定信号の信号曲線を、手摺電圧監視デバイス41の信号送信デバイス89を介してデジタルツインデータ記録101に送信する選択肢がある。このように補足すると、これを使用して、手摺張力監視デバイス41の測定信号Mが、構成要素モデルデータ記録113によって表されるデジタルツインデータ記録101の個々の仮想構成要素にどのように影響するかを調べることによって、シミュレーション105を実行することができる。
【0056】
シミュレーション105の全実施中、両矢印115によって示されるように、入出力インタフェース99はデータ処理デバイス95と通信している。したがって、シミュレーション105及びシミュレーション結果107は、入出力インタフェース99上に仮想表現103として表示されることができる。このようにして、乗客輸送システム1が動作しているときに発生するプロセスは、評価された形態で入出力インタフェース99上にリアルタイムで表されることができる。
【0057】
図1及び
図2は、エスカレータとして設計された乗客輸送システム1を示しているが、本発明は、動く歩道として設計された乗客輸送システム1にも使用できることは明らかである。
【0058】
最後に、「備える(comprising)」、「有する(having)」などの用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、「1つ(a)」又は「1つ(an)」などの用語は、複数を排除するものではないことに留意されたい。更に、上記の実施形態の1つを参照して説明した特徴又はステップは、上記の他の実施形態の他の特徴又はステップと組み合わせて使用され得ることに留意されたい。特許請求の範囲における参照符号は、限定的であると見なされるべきではない。
【国際調査報告】