(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】炭化ケイ素薄膜及びその蒸着方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/42 20060101AFI20231011BHJP
H01L 21/314 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C23C16/42
H01L21/314 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519746
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 US2021052126
(87)【国際公開番号】W WO2022072258
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521439187
【氏名又は名称】ゲレスト・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バリー・シー・アルクレス
(72)【発明者】
【氏名】アラン・イー・カロエロス
【テーマコード(参考)】
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA09
4K030BA37
4K030CA02
4K030CA04
4K030CA05
4K030FA10
4K030JA10
4K030LA12
4K030LA15
4K030LA16
5F058BA07
5F058BA20
5F058BB05
5F058BB06
5F058BC20
5F058BF27
(57)【要約】
as-depositedの水素を含まない炭化ケイ素(SiC)及び酸素を含むSiC薄膜(SiC:O)薄膜の成長のための蒸着方法。SiC薄膜の製造のために、この方法は、シラハイドロカーボン前駆体、例えばTSCH(1,3,5-トリシラシクロヘキサン)を、希釈ガスの有無にかかわらず気相中で、加熱された基板を含む反応ゾーンに供給する工程を含み、前駆体の吸着及び分解が起こって、化学量論的で水素を含まない炭化ケイ素(SiC)が、ケイ素と炭素の原子比1:1で、他の反応性化学種または共反応体への曝露なしに基板表面に形成される。SiC:O膜については、酸素ソースを反応ゾーンに添加してSiC膜に酸素をドープさせる。シラハイドロカーボン前駆体では、すべての炭素原子が2つのケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子はさらに2つ以上の水素原子に結合している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に1原子%以下の水素を含むas-deposited SiC薄膜を製造するための方法であって、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約600℃~約1000℃の温度に加熱する工程;及び
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;
を含み、ここで、
SiCの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成され、
前記吸着及び分解が、他のいかなる反応性化学種も共反応物の存在もなしに、基板表面で起こる、方法。
【請求項2】
基板が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、または窒化タンタルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前駆体が、1,3,5-トリシラペンタン;1,3,5,7-テトラシラノナン;トリシクロ[3,3,1,13,7]ペンタシラン;1,3-ジシラシクロブタン;1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH);または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前駆体が、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
SiC薄膜が、約1:0.98~1:1.02のSi:C原子比を有する、請求項1から4のいずれか一項に従う方法。
【請求項6】
赤外分光法によって測定されるSiC薄膜の~2080cm
-1のSi-H結合ピーク下の積分面積の、赤外分光法によって測定される~730cm
-1のSi-C結合ピーク下の積分面積に対する比が、約1:50未満である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
基板が、約700℃~約850℃の温度に加熱される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に0.2原子%以下の水素を含むas-deposited SiC薄膜を製造する方法であって、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約700℃~約1000℃の温度に加熱する工程;及び
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;
を含み、ここで、
SiCの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成され、
前記吸着及び分解が、他のいかなる反応性化学種も共反応物の存在もなしに、基板表面で起こる、方法。
【請求項9】
基板が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、または窒化タンタルを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前駆体が、1,3,5-トリシラペンタン;1,3,5,7-テトラシラノナン;トリシクロ[3,3,1,13,7]ペンタシラン;1,3-ジシラシクロブタン;1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH);または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前駆体が、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
SiC薄膜が、約1:0.98~1:1.02のSi:C原子比を有する、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
赤外分光法によって測定されるSiC薄膜の~2080cm
-1のSi-H結合ピーク下の積分面積の、赤外分光法によって測定される~730cm
-1のSi-C結合ピーク下の積分面積に対する比が、約1:50未満である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
基板が、約700℃~約850℃の温度に加熱される、請求項1から13のいずれかの実施態様に記載の方法。
【請求項15】
蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に1原子%以下の水素を含むas-deposited SiC:O薄膜を製造する方法であって、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約600℃~約1000℃の温度に加熱する工程;
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;及び、
同時に、共反応物である反応性酸素含有ガスを、基材を含む反応ゾーンに供給する工程;
を含み、ここで、
SiC:Oの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成される、方法。
【請求項16】
基板が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、または窒化タンタルを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前駆体が、1,3,5-トリシラペンタン;1,3,5,7-テトラシラノナン;トリシクロ[3,3,1,13,7]ペンタシラン;1,3-ジシラシクロブタン;1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH);または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前駆体が、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
基板が、約700℃~約850℃の温度に加熱される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
酸素含有ガスが、酸素、水、オゾン、及び/または亜酸化窒素を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年9月30日に出願された米国特許仮出願第63/085,617号の優先権を主張し、その開示全体を、参照により本明細書に準用することとする。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)薄膜には、複数の応用分野にわたって、研究上の関心がますます増大している。SiCコーティングの魅力は、物理的、機械的、電気的、及び光電子的特性の高度に望ましい組み合わせに起因しており、このためSiCコーティングは自動車、航空宇宙、コンピュータチップ、太陽光、発光、及び医療産業における応用のための有力な候補となっている。
【0003】
SiCコーティングは、その高い硬度(潜在的に40GPa超)、効果的な酸化耐性、高温及び熱衝撃耐性、並びに化学的安定性、魅力的な機械的、摩擦学的及び誘電特性により、厳しい熱的、環境、及び化学的な条件の下で、硬質保護コーティングとして使用される。極薄SiC膜は、集積回路(IC)技術、特にマイクロプロセッサユニット(MPU)、システムオンチップ(SoC)、フラッシュメモリ、及び一般に3次元(3D)集積システムと呼称される電子デバイスの垂直積層などの、幅広い用途で利用されている。例えば、SiCは、二酸化ケイ素(SiO2)に代わる低誘電率(κ)材料と組み合わせて、拡散バリアとして適用される。同様に、SiCは、銅配線用のキャッピング層及びエッチストップとして使用される。
【0004】
同様に、SiC薄膜は、その広いバンドギャップ(2.3eV)及び上昇した電気絶縁破壊電圧により、パネルディスプレイ、照明、及び発光デバイスを含むアクティブな光学及び光電子デバイスにうまく組み込まれている。この点で、SiC薄膜は、発光デバイス(LED)や有機LED(OLED)の透過バリア及び封止層として、また、様々な平面光学システム及び光導波路の製造において、使用されている。さらに、SiCコーティングには、フレキシブルELデバイスにおけるパッシベーション層としての使用も提案されている。SiCの応用は、主に太陽電池の応用における、グリーンエネルギー分野にも及ぶ。例えば、微結晶及びアモルファスのSiCコーティングは、薄膜太陽電池の窓層として採用される。ハードコート及びコンピュータチップ産業と同様に、SiC薄膜は、シリコン太陽電池のパッシベーション層として適用される。
【0005】
これらの広範な研究開発努力にもかかわらず、SiC薄膜を新たな産業用途、例えばヘテロデバイスに拡張できるようにするには、重大な課題を克服しなければならない。例えば、現在のSiC気相成膜方法の大部分は、シランまたはハロゲン化物タイプの前駆体、例えば、SiH4、Si2H6、及びSiCl4の、C含有前駆体、例えば、CHCl3、C3H4、C2H2、及びCCl4との高温反応に依存している。こうした化学物質の使用に関連する固有の課題は、十分に考証されており、その発火性の性質、多くの環境、健康、及び安全性の問題、得られるSiC膜への高レベルの水素の混入、並びに所望のSiC膜仕様を達成するための蒸着後のアニールの必要性を含む。水素化アモルファス炭化ケイ素薄膜の品質を表すための2つのパラメータは、実験式a-Si1-xC1+x:Hで扱われ、ここで、xは、Si原子のC原子に対する化学量論が1:1となることを妨げる、ケイ素原子への水素の置換結合に関連し、:Hは、Si:Cの化学量論を1:1から変えないドーピング(場合により格子間(interstitial)ドーピングを含む)されたH原子を表す。良質の炭化ケイ素には、いずれのタイプのH欠陥も最低レベルであることが非常に望ましい。
【0006】
これらの課題を解決するための従来技術の取り組みには、600℃以下、好ましくは100~200℃の温度でTSCH(1,3,5-トリシラシクロヘキサン)のプラズマ支援原子層蒸着(PA-ALD)の使用(米国特許第8,440,571号)、選択的に一部の前駆体配位子及び付着物を除去して分子層蒸着を実現するための、紫外線処理の適用(米国特許第8,753,985号)、並びに、基板上に流動性層を生成するプラズマ流出を形成する、リモートプラズマ処理(米国特許出願公開第2013/0217239号)が含まれる。残念ながら、これら方法論の全てが、化学量論的である真のSiC相を蒸着させることができず、代わりに、ケイ素-炭素-水素配置のネットワークから成り、ケイ素と炭素の比率が様々であり、水素含有量が変動し、欠陥レベルが著しい膜が得られた。水素の含有が、膜の物理的、化学的、電気的、及び光電子的特性に重大な影響を与えるために深刻に懸念されるのみならず、Si-HとC-Hの結合の性質も、得られる膜特性を調整する上で主要な役割を果たす。
【0007】
別の影響因子は、Si、C、及びH元素のポーリング相対電気陰性度(すなわち、Si:1.90、C:2.55、H:2.20)である。Si-C結合は比較的高い双極子モーメントを持つのに対して、Si-H結合は比較的低い双極子モーメントを持つ。しかるに、公知の方法で調製した膜組成物の原子パーセンテージが同一であっても、得られる膜の原子結合配置は相違する場合があり、得られる膜の誘電特性は異なる場合がある。さらにまた、Hを除去して欠陥の密度を低下させるための、蒸着後の高温アニールの必要性によって、複雑さとコストが追加され、こうした既知のプロセスの使用は、熱的に脆弱な基板を要しない用途に制限される。
【0008】
これらの問題を解決しようとする別の試みには、TSCHを用い、最終材料が溶媒中への可溶性指向剤(SDA)の自己組織化によって定義される、ソフトテンプレート法(STA)が含まれ、SDAは超分子テンプレートとして機能し、溶媒はSiC前駆体の機能を有していた。しかしながら、この方法は多くの課題を抱えており、半導体、光学、光電子工学用途には非常に不向きであった。これらの課題には、(i)前駆体の熱分解が非常に高温(1000℃)で実施されること、(ii)SDA媒体が重合を達成するために1週間を要すること、(iii)得られるSiCは薄膜として成長不可能な、積層した球状粒として多孔質の粒状形態を示す粉末であること、及び(iv)STA法は溶剤ベースの液相であり、このため半導体、エネルギー、光学及び光電子工学産業の一般的な製造プロセスへの組み込みには適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8,440,571号
【特許文献2】米国特許第8,753,985号
【特許文献3】米国特許出願公開第2013/0217239号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】A. Kleinovaet al, "FTIR spectroscopy of silicon carbide thin films prepared by PECVD technology for solar cell application," Proc. SPIE 9563, Reliability of Photovoltaic Cells, Modules, Components, and Systems VIII, 95630U (September 2015)
【非特許文献2】S. Gallis et al “Photoluminescence at 1540 nm from erbium-doped amorphous silicon carbide films” J. Mater. Res., 19(8), 2389-2893, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これらの理由のため、現在のケイ素及び炭素ソース前駆体に関連する問題を排除しつつ、欠陥及び水素の混入を最少化した、高品質で化学量論的なas-depositedのSiC薄膜を形成することによって、これらの及び別の既知の蒸着技術の欠点を克服する蒸着技術を提供することが望ましい。気相蒸着法が現行の処理条件の数及び複雑さを最少化し、これによってプロセスの安全性、有効性、及び生産性を最大化するならば、さらに望ましい。こうした蒸着技術が、処理パラメータ、例えば、基板温度及び前駆体流量を変化させることによってSiC微細構造を制御し、後続のアニール工程を必要とせずに結晶性SiCを達成するならば、これもまた望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の一実施態様においては、蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に1原子%以下の水素を含むas-depositedのSiC薄膜を製造するための方法は、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約600℃~約1000℃の温度に加熱する工程;及び
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、シラハイドロカーボン中の全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;
を含み、ここで、
SiCの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成され、
前記吸着及び分解が、他のいかなる反応性化学種も共反応物の存在もなしに、基板表面で起こる。
【0013】
別の実施態様においては、本開示は、蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に0.2原子%以下の水素を含むas-depositedのSiC薄膜を製造するための方法を提供し、この方法は、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約700℃~約1000℃の温度に加熱する工程;及び
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、シラハイドロカーボン中の全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;
を含み、ここで、
SiCの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成され、
前記吸着及び分解が、他のいかなる反応性化学種も共反応物の存在もなしに、基板表面で起こる。別の実施態様においては、本開示は、蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に1原子%以下の水素を含むas-depositedのSiC:O薄膜を製造するための方法を提供し、この方法は、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約600℃~約1000℃の温度に加熱する工程;
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、シラハイドロカーボン中の全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;及び
同時に、共反応物である反応性酸素含有ガスを、基材を含む反応ゾーンに供給する工程;
を含み、ここで、
SiC:Oの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成される。
【0014】
本発明の有利な改良点は、単独または組み合わせて実施することができ、従属請求項に規定されている。
【0015】
要約すると、以下の実施態様は、本願発明の範囲内で特に好ましいものとして提案される:
【0016】
実施態様1:蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に1原子%以下の水素を含むas-depositedのSiC薄膜を製造する方法であって、この方法は、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約600℃~約1000℃の温度に加熱する工程;及び
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;
を含み、ここで、
SiCの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成され、
前記吸着及び分解が、他のいかなる反応性化学種も共反応物の存在もなしに、基板表面で起こる。
【0017】
実施態様2:基板が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、または窒化タンタルを含む、先行する実施態様に記載の方法。
【0018】
実施態様3:前駆体が、1,3,5-トリシラペンタン;1,3,5,7-テトラシラノナン;トリシクロ[3,3,1,13,7]ペンタシラン;1,3-ジシラシクロブタン;1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH);または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0019】
実施態様4:前駆体が、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0020】
実施態様5:SiC薄膜が、約1:0.98~1:1.02のSi:C原子比を有する、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0021】
実施態様6:赤外分光法によって測定されるSiC薄膜の~2080cm-1のSi-H結合ピーク下の積分面積の、赤外分光法によって測定される~730cm-1のSi-C結合ピーク下の積分面積に対する比が、約1:50未満である、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0022】
実施態様7:基板が、約700℃~約850℃の温度に加熱される、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0023】
実施態様8:蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に0.2原子%以下の水素を含むas-depositedのSiC薄膜を製造する方法であって、この方法は、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約700℃~約1000℃の温度に加熱する工程;及び
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;
を含み、ここで、
SiCの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成され、
前記吸着及び分解が、他のいかなる反応性化学種も共反応物の存在もなしに、基板表面で起こる。
【0024】
実施態様9:基板が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、または窒化タンタルを含む、先行する実施態様に記載の方法。
【0025】
実施態様10:前駆体が、1,3,5-トリシラペンタン;1,3,5,7-テトラシラノナン;トリシクロ[3,3,1,13,7]ペンタシラン;1,3-ジシラシクロブタン;1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH);または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0026】
実施態様11:前駆体が、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0027】
実施態様12:SiC薄膜が、約1:0.98~1:1.02のSi:C原子比を有する、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0028】
実施態様13:赤外分光法によって測定されるSiC薄膜の~2080cm-1のSi-H結合ピーク下の積分面積の、赤外分光法によって測定される~730cm-1のSi-C結合ピーク下の積分面積に対する比が、約1:50未満である、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0029】
実施態様14:基板が、約700℃~約850℃の温度に加熱される、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0030】
実施態様15:蒸着チャンバの反応ゾーンで基板上に1原子%以下の水素を含むas-depositedのSiC:O薄膜を製造する方法であって、この方法は、以下:
蒸着チャンバの反応ゾーンに基板を提供する工程;
基板を約600℃~約1000℃の温度に加熱する工程;
シラハイドロカーボンを含む前駆体であって、全炭素原子が2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している前駆体を、キャリアガスなしに気相中で、基板を含む反応ゾーンに提供する工程;及び、
同時に、共反応物である反応性酸素含有ガスを、基材を含む反応ゾーンに供給する工程;
を含み、ここで、
SiC:Oの層が、前記前駆体の吸着及び分解により基板表面に形成される。
【0031】
実施態様16:基板が、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、または窒化タンタルを含む、先行する実施態様に記載の方法。
【0032】
実施態様17:前駆体が、1,3,5-トリシラペンタン;1,3,5,7-テトラシラノナン;トリシクロ[3,3,1,13,7]ペンタシラン;1,3-ジシラシクロブタン;1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH);または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0033】
実施態様18:前駆体が、1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)または1,3,5,7-テトラシラシクロオクタンを含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0034】
実施態様19:基板が、約700℃~約850℃の温度に加熱される、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0035】
実施態様20:酸素含有ガスが、酸素、水、オゾン、及び/または亜酸化窒素を含む、先行するいずれかの実施態様に記載の方法。
【0036】
本発明の好ましい実施態様の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでよりよく理解されるであろう。本発明を詳説する目的で、図面には、本発明において好ましい実施態様が示される。しかしながら、本発明は、示される正確な配置及び手段に限定されないことが理解される。図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本開示の実施態様による、850℃で蒸着された膜についての、SiCにおけるSi及びCの濃度対侵入深さの代表的XPSプロファイルを表し、1:0.98~1:1.02(名目上1:1)の範囲のSi:C原子比を示す。
【
図2】
図2は、化学量論Si:Cに対応する、本開示の実施態様に従って850℃で蒸着された膜についての、SiCにおけるSi2p結合エネルギーの代表的な高分解能XPSスペクトルである。
【
図3】
図3は、本開示の実施態様に従って850℃で蒸着され、1000℃でアニールされたSiCについての、FTIR吸収係数対波数のグラフである。
【
図4】
図4は、本開示の実施態様による蒸着温度の関数としての、SiCについての、FTIRピークにおけるFWHMのグラフである。
【
図5】
図5は、本開示の実施態様によるSi前駆体としてTSCHを使用したas-depositedのSiC膜と、ベースライン(コントロール)Siソース前駆体を使用して蒸着されたアニール後のSiC膜についての、FTIR正規化吸光度係数を表す。
【
図6】
図6は、本開示の実施態様によるSi前駆体としてTSCHを使用したas-depositedのSiC膜と、ベースライン(コントロール)Siソース前駆体を使用して蒸着されたSiC膜についての、光ルミネセンス(PL)測定値を表す。
【
図7】
図7は、基板温度の関数としての、本開示の実施態様によるSiC材料及びTMDSBコントロールについての、FWHM及びSiC FTIRピークのピーク位置を表す。
【
図8】
図8は、本開示の実施態様による0.2TorrでのSiC膜についての、蒸着温度の関数としての成長速度のグラフである。
【
図9】
図9は、本開示の実施態様による、エリプソメトリにより波長500nmで測定されたSiC膜についての屈折率(n)及び吸収係数(a)値を、基板温度に対してプロットした図である。
【
図10】
図10は、本開示の実施態様による、TSCHから出発して650℃で成長させたSiCについての吸収係数とコントロール(TMDSB)SiCサンプルの吸収係数のグラフである。
【
図11】
図11(a)は、本開示の実施態様による3つの異なる蒸着温度(650℃、700℃、及び800℃)で蒸着されたSiCサンプルについての、500~3000cm
-1の拡張波数範囲の、FTIRスペクトルである。
図11(b)は、Si-Hピークの大きさについてより良い視点を得るための、Si-H伸縮モードに対応する
図11(a)の2090cm
-1周辺の吸収ピークを拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本開示は、構造及び組成上の欠陥、特に、炭化ケイ素の理想的な化学量論(Si:C=1:1)からの変動に関連する欠陥、及び水素の存在に関連する置換及び格子間欠陥が極めて少ない、as-depositedの結晶及びアモルファス炭化ケイ素(SiC)薄膜及び酸素を含むSiC薄膜(SiC:O薄膜)の製造のための蒸着法、並びに、この方法で製造される膜に関する。一般に、10原子%以下の水素レベルを有する炭化ケイ素薄膜は「水素取り込みが低レベル」であると考えられ、1原子%以下の水素レベルを有する膜は「水素を含まない」と考えられる(例えば、A. Kleinovaet al, "FTIR spectroscopy of silicon carbide thin films prepared by PECVD technology for solar cell application," Proc. SPIE 9563, Reliability of Photovoltaic Cells, Modules, Components, and Systems VIII, 95630U (September 2015); S. Gallis et al “Photoluminescence at 1540 nm from erbium-doped amorphous silicon carbide films” J. Mater. Res., 19(8), 2389-2893, 2004を参照のこと)。
【0039】
本明細書に記載の方法は、以上に定義される通り、水素取り込みが低レベルであるSiC膜と、水素を含まないSiC膜の両方、ならびにSiC:O薄膜の製造に使用することができる。現在の技術用語と矛盾なく、「低レベルの水素」を含む膜は、膜が10原子%以下の水素を含むことを意味し、「水素を含まない」は、膜が1原子%以下の水素を含むことを意味し、水素の含有が「検出不能」である膜は、0.2原子%以下の水素を含む。本開示の目的のため、水素が検出不能である炭化ケイ素膜とは、分光法及び装置、例えば、赤外分光法(IR)及びX線光電子分光法(XPS)の検出限界(0.2原子%以下と推定される)以下の水素含有量を有する膜を意味すると理解することもできる。
【0040】
「薄膜」なる語は、当該技術分野において十分理解され、数ナノメートルから数ミクロンまでの厚さの膜を含みうる。より具体的には、「薄膜」なる語は、500nm未満、好ましくは2~50nmの厚さを有する膜を意味すると理解され得る。「as-deposited」との用語は、当技術分野では、膜が、蒸着直後に、さらなる処理、例えば、プラズマプロセス、照射、または熱アニールなしに実用できる特性を有することを意味すると理解されるであろう。
【0041】
SiC薄膜を製造するために、本開示による方法は、以下に記載されるシラハイドロカーボン前駆体、例えば好ましいTSCH(1,3,5-トリシラシクロヘキサン)を、キャリアガスまたは希釈ガスを使用し、または使用せずに、加熱された基板を含む反応ゾーンに気相中で提供する工程を含み、これによって前記前駆体の吸着及び分解が起こり、Si:C原子比が1:0.98~1:1.02の範囲(名目上1:1)である化学量論的炭化ケイ素が、他のいかなる反応性化学種にも共反応物にもさらに曝されることなしに基板表面上に形成される。SiC:O膜を形成するために、酸素ソースが反応ゾーンに添加されてドーピングが調節される。あるいはまた、as-depositedのSiC薄膜は、引き続き酸素ソースと反応させても、酸素ソースで処理してもよい。SiC及びSiC:O膜の粒径及び形態は、処理パラメータ、例えば、基板温度及び前駆体流量を制御することによって、結晶性膜を達成するためにその後のアニール工程を必要とすることなく調節することができる。しかしながら、より大きな結晶粒またはエピタキシャル相が望ましい場合は、アニールもまた実施してよい。
【0042】
本明細書に記載の蒸着技術は、既知の蒸着技術の欠点を克服し、蒸着後のアニールを必要とせずに、1%以下の欠陥及び/または水素を有する高品質で化学量論的なas-depositedのSiC薄膜の成長を可能にする一方で、現行のSi及びCソース前駆体に関連する問題を排除し、現行の処理条件の数及び複雑さを最小限にし、それによって当該プロセスの安全性、有効性、及び生産性を最大限に高める。
【0043】
得られたSiC薄膜は、半導体、エネルギー、光学、及び光電子産業における重要な用途に非常に有利である。特に、as-depositedのSiC薄膜における極めて低レベルの欠陥及び水素の存在のため、これらは、as-depositedのSiCが欠陥及び水素を含むことで光学的及び光ルミネセンス性能が妨げられる傾向があり、そのような欠陥を改善するために高温アニールを必要となる、光学及び光ルミネセンス装置への組み込みに最適である。これに対して、本明細書に記載されるように、as-depositedのSiC膜に存在する欠陥及び水素が極めて低レベルであることにより、ドーパント、例えば酸素及びエルビウムの濃度及び光学性能を微細に調節することができ、得られるデバイス及びシステムにおいて光学性能及び光ルミネセンス性能を最大限に高めることができる。
【0044】
本開示による方法は、ケイ素及び炭素含有ソース前駆体のクラス、シラハイドロカーボンとも表記されるカルボシランを使用し、ここでシラハイドロカーボン中の全ての炭素原子は2個のケイ素原子に結合しており、各ケイ素原子が2個以上の水素原子にさらに結合している。前駆体中の炭素原子に対するケイ素原子の比は、好ましくは約1~1.5の範囲である。前駆体の例には、1,3,5,7-テトラシラノナン;1,3,5,7-テトラシラシクロオクタン;トリシクロ[3.3.1.13,7]ペンタシラン;及び1,3-ジシラシクロブタン(これらは容易に入手できない)が含まれ、及び市販され入手可能な好ましい前駆体には、1,3,5-トリシラペンタン及び1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)が含まれ;最も好ましいのは市販され入手可能な環状カルボシラン1,3,5-トリシラシクロヘキサン(TSCH)である。シラン型またはハロゲン化物型のケイ素前駆体、例えば、SiH4、Si2H6、及びSiCl4とは異なり、このクラスのSi前駆体はケイ素原子と炭素原子との両方を含むため、炭素含有共反応物を必要とすることなく、化学量論的SiCを形成するための分解経路を提供する。シラハイドロカーボンタイプの前駆体、例えばTSCHの化学構造と結合配置によって分解が可能となり、これにより、シランまたはハロゲン化物タイプの前駆体、例えば、SiH4、Si2H6、及びSiCl4の、炭素含有前駆体、例えば、CHCl3、C3H4、C2H2、及びCCl4との反応に必要なよりも低温で、蒸着後のアニール工程を必要とせずに、化学量論SiCが得られる。
【0045】
適切な基板には、好ましいケイ素、ならびに、例えば、以下に限定されるものではないが、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ガリウム、コバルト、ルテニウム、銅、白金、チタン、窒化チタン、タンタル、窒化タンタル、光学及び光ルミネセンス用途に使用される基板などが含まれる。
【0046】
本明細書に記載される蒸着技術の重要な態様は、この方法が、ソース前駆体の分解経路が、物質輸送制限レジームではなく、確実に表面反応制限レジームで起こるように、ソース前駆体温度、基板温度、前駆体流量、反応ゾーンにおける前駆体部分圧、及び全プロセス圧を含む厳密に制御された実験条件に基づくことである。これらのパラメータにより、シラハイドロカーボンタイプの前駆体の吸着及び分解の機構が厳密に制御され、Si-C結合の完全性を維持して、得られる膜のSi:C比を1:1とする一方で、リガンド除去及び水素排除のエネルギーが最適化される。
【0047】
この表面反応制限レジームにおいては、理論に束縛されることを望まないが、本明細書に記載の方法は、2つの重要なプロセス:(i)Si-C二重結合構造「シレン(silen)」が形成される脱離反応、これに次ぐ(ii)ケイ素原子からの水素の解離性吸着であって、これは、蒸着パラメータ、特に基板温度に応じて、低水素含有量(水素が10原子%未満)の、水素を含まない(水素が1原子%未満の)、または検出できる水素含有量を持たない(水素が0.5原子%未満の)膜と表現することのできるSiC膜を生成する反応、が起こることを確実にする。さらにまた、得られるSiC膜は、基板蒸着温度とは無関係に、1:1のSi:C化学量論(1:0.98~1:1.02の範囲として表現可能)から0.2%未満の変動を有する、単純架橋Si-C結合のみからなる。これらの膜は、SiCマトリックスが、主にC-SiからC-C、C-Si、及びC-H型結合への移行を示す一方で、ケイ素が処理条件の関数としてSi-C結合からSi-C、Si-Si、及びSi-H結合へと進化し、SiC膜に高い欠陥密度と顕著な水素含有量を含む様々な温度依存性の複雑な結合構成をもたらした先行技術の膜とは対照的である。
【0048】
「低水素含有量」はまた、赤外分光法によって測定される、~2080cm-1のSi-H結合ピーク下の積分面積と~730cm-1のSi-C結合ピーク下の積分面積との比が、標準分光技術を使用して1:50未満である材料を意味すると理解してもよい。「低水素含有量」は、さらにまた、赤外分光法によって測定されたSi-H結合密度とSi-C結合密度の比が1:50未満である材料を意味すると理解してよい。これらのIR吸収ピークの比は、IRの検出限界以下のSi-H結合が極めて低レベルであることを示す単なる相関関係であることに留意されたい。あるいはまた、分光エリプソメトリを用いて1.75eVで励起された場合に、可視光帯における103cm-1以下の、ドープされていないSiCの吸収係数を観察することによって、低レベルの水素導入(並びに上述の他の欠陥)を決定することができる。
【0049】
好ましい実施態様では、1:1のSi:C化学量論を有し、水素が検出不能(0.2原子%未満)である膜を、約700℃を超え、約1000℃未満の基板蒸着温度で調製することができる。より高い水素含有量が許容されるが、1:1のSi:C化学量論が依然として要求される別の実施態様では、プロセス温度は約600℃と約700℃の間の範囲内であり、これは、熱損傷へのデバイスの露出が少ないこととエネルギー効率との両方の点で利点がある。例えば、650℃の蒸着温度では、膜の化学量論が維持される一方で、膜の水素含有量は0.2~1.0原子%と推定されるレベルで検出される。上記の範囲は、これらの範囲内の全ての温度、例えば、以下に限定されるものではないが、600℃、625℃、650℃、675℃,700℃、725℃、750℃、775℃、800℃、825℃、850℃、875℃、900℃、925℃、950℃、975℃、及び1000℃を含む意図であることに注意されたい。好ましい基板蒸着温度は、約700℃~約850℃であり、例えば、700℃、725℃、750℃、775℃、800℃、825℃、及び850℃である。
【0050】
一実施態様において、本開示の態様は、as-depositedの、水素を含まない(水素が1原子%以下の)結晶性SiC薄膜を製造する方法に関し、この方法は、上述のようなシラハイドロカーボン型前駆体、例えば好ましいTSCHを、気相中で、キャリアガスなしに、約600℃~約1000℃(好ましくは約700℃~約1000℃)の温度で、上述のように加熱された基板を含む蒸着チャンバの反応ゾーンに供給する工程を含み、よって、TSCHまたは他の前駆体の吸着及び分解が基板表面で起こり、他の反応性化学種または共反応物の存在なしに基板上にSiCの層を形成する。この分解プロセスにより、蒸着後のアニール工程を必要とすることなく、as-depositedの水素を含まない結晶性のSiC膜が得られる。また、実用的な利点または利便性を提供する可能性があることから、気相中の前駆体に希釈不活性非反応性ガスを提供することも本開示の範囲内であるが、希釈ガスは必須ではない。
【0051】
TSCHまたは他の前駆体のソース温度は、約-25~約75℃、より好ましくは約0~約25℃に維持され、蒸着チャンバ内の前駆体の部分蒸気圧は、反応ゾーンの全圧の約10%~約100%、より好ましくは反応ゾーンの全圧の約50~約90%に維持され、残りの部分圧力は、存在する場合には希釈ガスに由来する。希釈ガスがない場合には、前駆体の蒸気圧が系の全圧となり、前駆体の蒸気圧が単独で系の全圧(真空)を維持するため、希釈ガスもキャリアガスも不要である。基板蒸着温度は、約600℃~約1000℃、より好ましくは約700℃~約850℃に維持される。反応ゾーン(蒸着チャンバ)の、作動圧とも呼称される全圧は、約0.1torr~約760torrに、より好ましくは0.2torr~10torrに維持される。また、希釈剤ガス流量(使用される場合)は、約10~約1000sccm、より好ましくは50~250sccmに維持される。
【0052】
希釈ガスは、使用される場合、既知の不活性ガス、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、及びキセノンから選択される。
【0053】
SiC膜を形成するためにこれらの処理パラメータを採用することにより、XPSによって測定される1:1±0.05、好ましくは1:1±0.02(1:1.098~1:1.02)のSi:C化学量論と、赤外線分光法によって測定される1原子パーセント未満の水素が確保される。さらにまた、赤外分光法によって測定されるSiC膜についての、~2080cm-1のSi-H結合ピーク下の積分面積と、赤外分光法によって測定される~730cm-1のSi-C結合ピーク下の積分面積との比は、約1:50未満である。
【0054】
別の実施態様では、本開示の態様は、検出不能濃度(0.2原子%以下)のH(格子間及び置換の両方)及び欠陥を有する、as-depositedの結晶性SiC膜を製造するための方法に関する。この方法は、TSCHまたは上述の別のシラハイドロカーボンタイプの前駆体を、気相中、約700℃~約1000℃(好ましくは約700℃~約850℃)の温度で上記のように加熱基板を含む蒸着チャンバの反応ゾーンに提供する工程を含み、これによりTSCHまたは別の前駆体の吸着及び分解が、希釈不活性非反応性ガスの存在下、基板表面上で起こり、他の反応性化学種も共反応物もなく、基板上にSiCの層を形成させる。この分解プロセスは、蒸着後のアニール工程を必要とすることなく、上述のように検出不能なH(格子間及び置換の両方)及び欠陥を有する、as-depositedの結晶性SiC膜をもたらす。また、実用的な利点または利便性を提供する可能性があることから、気相中の前駆体に希釈不活性非反応性ガスを提供することも本開示の範囲内であるが、希釈ガスは必須ではない。
【0055】
TSCH又は他の前駆体のソース温度は、約-25~約75℃、より好ましくは約0~約25℃に維持され、蒸着チャンバ内の前駆体の部分蒸気圧は、反応ゾーンの全圧の約10%~約100%、より好ましくは反応ゾーンの全圧の約50~約90%に維持され、残りの部分圧力は、存在する場合には希釈ガスに由来する。希釈ガスがない場合には、前駆体の蒸気圧が系の全圧となり、前駆体の蒸気圧が単独で系の全圧(真空)を維持するため、希釈ガスもキャリアガスも不要である。基板蒸着温度は、約700℃~約1000℃、より好ましくは約700℃~約850℃に維持される。反応ゾーン(蒸着チャンバ)の、作動圧とも呼称される全圧は、約0.1torr~約760torrに、より好ましくは0.2torr~10torrに維持される。また、希釈剤ガス流量(使用される場合)は、約10~約1000sccm、より好ましくは50~250sccmに維持される。
【0056】
希釈ガスは、使用される場合、既知の不活性ガス、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、及びキセノンから選択される。
【0057】
SiC膜を形成するためにこれらの処理パラメータを採用することにより、1:1±0.05、好ましくは1:1±0.02(1:1.098~1:1.02)のSi:C化学量論と、1原子パーセント未満の水素が確保される。さらにまた、赤外分光法によって測定されるSiC膜についての、~2080cm-1のSi-H結合ピーク下の積分面積と、赤外分光法によって測定される~730cm-1のSi-C結合ピーク下の積分面積との比は、約1:50未満である。
【0058】
さらなる実施態様において、本開示の態様は、1原子%以下の水素を含む、as-depositedのSiC:O膜を製造するための方法に関する。この方法は、キャリアガスまたは希釈ガスを含まない気相中で、TSCH(または以上に定義される他の前駆体)を、約600℃~約1000℃(好ましくは約700℃~約850℃)の温度で上記のように加熱基板を含む蒸着チャンバの反応ゾーンに提供し、同時に、酸素含有ガスを蒸着チャンバの反応ゾーンに導入する工程を含み、これによりTSCHの吸着及び分解が、共反応物としての反応性酸素含有ガスの存在下、基板表面上で起こり、基板表面にSiC:Oの層を形成させる。また、実用的な利点または利便性を提供する可能性があることから、気相中の前駆体に希釈不活性非反応性ガスを提供することも本開示の範囲内であるが、希釈ガスは必須ではない。分解プロセスは、as-depositedの水素を含まないSiC:O膜、すなわち、1原子%以下の水素を含む膜をもたらす。
【0059】
TSCH又は他の前駆体のソース温度は、約-25~約75℃、より好ましくは約0~約25℃に維持され、蒸着チャンバ内のTSCH部分蒸気圧は、反応ゾーンの全圧の約10%~約100%、より好ましくは反応ゾーンの全圧の約50~約90%に維持される。酸素含有ガス共反応物流量は、反応ゾーンにおける対応する部分蒸気圧として、カルボシラン前駆体の約1%~約25%、より好ましくはカルボシラン前駆体の約5%~約10%が達成されるように設定される。基板蒸着温度は、約600℃~約1000℃、より好ましくは約700℃~約850℃に維持される。反応ゾーン(蒸着チャンバ)の、作動圧とも呼称される全圧は、約0.1torr~約760torrに、より好ましくは0.2torr~10torrに維持される。また、希釈剤ガス流量(使用される場合)は、約10~約1000sccm、より好ましくは50~250sccmに維持される。
【0060】
希釈ガスは、使用される場合、既知の不活性ガス、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、及びキセノンから選択される。酸素含有ガス共反応物は、酸素、水、オゾン、亜酸化窒素、及び当技術分野において既知の他の典型的な酸素含有反応物からなる群より選択される。
【0061】
あるいはまた、as-depositedのSiC膜は、その後、酸素含有ソースへの曝露によってin-situ(蒸着チャンバから取出す前に)またはex-situ(蒸着チャンバから取出して炉またはアニールチャンバに入れることにより)処理されて、SiC:O膜を形成することもできる。
【0062】
前駆体中のケイ素原子に結合している水素原子の一部または全部を重水素原子で置換することも、本開示の範囲内である。このことは、2000~2260cm-1の範囲におけるSi-H結合赤外吸収に関連する置換型欠陥を排除するという利点を提供し、また、重水素は、アモルファスケイ素及び炭化ケイ素系において水素に関連する転位を引き起こす傾向が水素よりも少ないことから、(それらが存在する場合には)格子間欠陥の全体濃度をさらに低減する。トリシラシクロヘキサンの場合、6個の水素原子はすべて重水素原子で置換される。この化合物は、重水素化リチウムアルミニウムを利用することによって容易に製造され、ヘキサアルコキシルトリシラシクロヘキサン中間体を還元する。別の例として、トリシラペンタン中のケイ素に結合している8個の水素原子は、同様の方法で重水素に置き換えることができる。
【0063】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例に関連して説明する。これらの実施例は、TSCH(1,3,5-トリシラシクロヘキサン)から出発する、欠陥及び水素のレベルが極めて低い、Si基板上の化学量論的SiC膜の蒸着を説明する。
【0064】
実施例1:最適化されたプロセスウインドウの確認
表Iにまとめた処理パラメータを使用する、Si基板上のTSCH(1,3,5-トリシラシクロヘキサン)の分解により、6つの化学量論的SiC膜が製造された。
【0065】
【0066】
得られた膜は、X線光電子分光法(XPS)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、及び光ルミネセンス(PL)測定によって分析した。
【0067】
SiC膜におけるSi及びC濃度対侵入深さを、基板温度850℃で成長したas-depositedのSiC膜について、
図1及び2に示すように、XPS深さプロファイル分析によって評価した。同様のデータが、上記の2、3、及び6回目についても得られ、蒸着プロセスの堅牢性が実証された。このデータは、1:0.98~1:1.02の精度で、膜全体を通して一貫した1:1のSi:C原子比を示し、膜が化学量論的であることを証明している。Si2p結合エネルギーについての高分解能XPSスペクトルが、800℃で蒸着されたSiC膜について
図8に表示されており、1回目及び5回目(異なる膜厚)の両方が同じXPSスペクトルをもたらした。100.3eVのSi2p結合エネルギー位置により、化学結合がSi-C(標準使用:3C-SiC)に対応することが確認される。
【0068】
FTIR分析では、以下のことが示される: (i)
図3に示されるように、800cm
-1付近に単一の強い吸収ピークが観察され、これは結晶性SiCのSi-C伸縮モードに対応する。このFTIRピークのFWHMは、1000℃にて1時間のアニール処理後に62.0~49.8cm
-1に減少しており、アニール処理による結晶性の増大を示している。(ii)
図4に示されるように、蒸着温度の上昇に伴ってFTIRピークのFWHMが減少しており、蒸着温度の上昇に伴って蒸着結晶性が増大することを示唆している。
【0069】
実施例2:処理パラメータ及び前駆体化学の調査
本発明による10枚の化学量論的SiC膜を、Si基板上にTSCH(1,3,5-トリシラシクロヘキサン)の分解によって製造し、2枚の比較SiC膜(7回目及び14回目)を、Si基板上に前駆体としてのTMDSB(1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジシラシクロブタン)の分解によって、コントロールとして製造した。処理パラメータを、以下の表IIにまとめる。
【0070】
【0071】
図5は、コントロールとしてベースラインソース前駆体を用いて蒸着されたアニール後のSiC膜と、前駆体としてTSCHを用いたas-deposited SiC膜との間での、結晶化度の比較を表示する。FTIRスペクトルは、TSCH前駆体を使用したas-deposited SiC膜が、1100℃におけるアニール後にベースラインSiソース前駆体から出発して蒸着されたSiC膜と同じく100%の結晶化度を示すことを示す。800℃以下ではベースライン前駆体TMDSBについて蒸着は起こらず、比較材料から出発したas-deposited SiCには、高レベルのH(11原子%以上)及び欠陥が取り込まれたことは注目に値する。
【0072】
ベースラインTMDSBコントロール前駆体を使用して蒸着されるSiC膜及びTSCHを前駆体として使用するSiC膜についての、光ルミネセンス(PL)測定が
図6に示される。TSCHを前駆体として使用するSiC膜は、PL強度を示さないか、示しても無視できるPL強度を示しており、ベースライン(TMDSB)Siソース前駆体を使用して蒸着されたSiC膜と比較して、欠陥密度が著しく減少していることが示されている。
【0073】
図7は、基板温度の関数として、TMDSBコントロール及び本発明のTSCHサンプルについてのSiC FTIRピークのピーク位置及びFWHMのグラフである。基板温度の上昇と共に、FWHM及びレッドシフトピーク位置が小さくなっており、蒸着温度が高いほど結晶性が高くなることが示されている。
【0074】
また、0.2Torrでの蒸着温度の関数としての成長速度が
図8に示される。850℃で観測される最高の成長速度は2.23nm/sであった。予測通り、成長速度は、基板温度の低下と共に、前駆体分解反応に利用できる熱エネルギーが減少するため、成長速度は低下する。
【0075】
基板温度の関数としてのSiCサンプルの代表的な原子間力顕微鏡(AFM)顕微鏡写真を測定した(表示なし)。二乗平均平方根(rms)表面粗さは、基板温度が高くなるにつれて増大した。この結果は予測通りであり、基板温度が高いほど結晶性が高くなることに起因する。
【0076】
基板温度が800℃、700℃、650℃の走査型電子顕微鏡(SEM)結果(表示なし)は、rms表面粗さの点で、基板温度が高いほど増加するAFMデータと良好な相関を示した。
【0077】
エリプソメトリにより波長500nmで決定されたSiC膜についての屈折率(n)及び吸収係数(a)値は、
図9において蒸着温度に対してプロットされ、n値は丸によって、a値は三角形によって表される。屈折率nはすべての蒸着温度について2.9~2.7の間で変化し、これは3C-SiCの基準値(2.7)と一致し、化学量論的SiC相であることを示している。
【0078】
さらに、TSCHを用いて650℃で成長させたSiCとコントロールTMDSBのSiCサンプルについての吸収係数の比較が
図10に示される。TSCHのSiC膜は、可視領域での吸収に劇的な減少を示し、そのエネルギー範囲全体で高い吸収を示すコントロールSiC試料とは全く対照的である。このことは、TSCHを用いて650℃で成長させたSiCの欠陥密度が、コントロールのSiC試料に比べて著しく低いことを明確に示している。
【0079】
最後に、
図11(a)は、500~3000cm
-1の拡張波数範囲について、3つの異なる温度(650℃、700℃、及び800℃)で蒸着させた本発明のSiCサンプルについてのFTIRスペクトルを図示する。FTIRスペクトルは、以下: (i)結晶性SiCのSi-C伸縮モードに対応する、800cm
-1付近の単一の非常に強い吸収ピーク、及び、(ii)650℃で成長させたサンプルのSi-H伸縮モードに対応する2090cm
-1付近の極めて小さい吸収ピークを示す。Si-Hピークは、700℃及び800℃で蒸着させた試料については、バックグラウンド信号以下にまで減少しており、SiC試料中のHがFTIRの検出限界以下であることを示している。
図11(b)は、Si-H伸縮モードに対応する2090cm
-1付近の吸収ピークを拡大したものであり、Si-Hピークの大きさをより正確に把握するためのものである。
【0080】
当業者には、その広範な発明の概念から逸脱することなく、上述の実施態様に変更を加え得ることが理解されるであろう。したがって、本発明は、開示された特定の実施態様に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲内における変更の網羅が意図されていることが理解される。
【国際調査報告】