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特表2023-543875層及び層システム及び導電性プレート及び電気化学電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】層及び層システム及び導電性プレート及び電気化学電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20231011BHJP
   H01M 8/0208 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/18 20060101ALI20231011BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20231011BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231011BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 11/069 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 11/063 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 11/057 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20231011BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0208
H01M8/18
H01M8/0206
H01M8/10 101
C25B11/052
C25B11/081
C25B11/069
C25B11/063
C25B11/057
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/23
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519924
(86)(22)【出願日】2021-11-26
(85)【翻訳文提出日】2023-03-30
(86)【国際出願番号】 DE2021100936
(87)【国際公開番号】W WO2022127976
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020133766.3
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021130935.2
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ロミーナ ベヒシュテット
(72)【発明者】
【氏名】モーリッツ ヴェーゲナー
(72)【発明者】
【氏名】ヤン マーティン シュトゥンプフ
(72)【発明者】
【氏名】エトガー シュルツ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド エンリケ ブルニャーラ
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ウェーバー
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA21
4K011AA26
4K011AA47
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB19
4K021DB20
4K021DB21
4K021DB43
4K021DB53
5H126AA12
5H126BB06
5H126BB10
5H126DD14
5H126GG02
5H126GG08
5H126JJ03
5H126JJ05
(57)【要約】
本発明は、特に、電気化学電池(50)用の導電性プレート(1)を形成するための層(3a)であって、50~99原子%の範囲の濃度のルテニウムの形態の貴金属類からの第1の化学元素と、<10原子%の濃度のケイ素の形態の少なくとも1つの第2の化学元素と、を含有する、層(3a)に関する。本発明は更に、層システム、導電性プレート、及び電気化学電池に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に、電気化学電池(50)用の導電性プレート(1)を形成するための層(3a)であって、50~99原子%の範囲の濃度のルテニウムの形態の貴金属類からの第1の化学元素を含有し、かつ<10原子%の濃度のケイ素の形態の少なくとも1つの第2の化学元素を含有する、層(3a)。
【請求項2】
窒素、炭素、ホウ素、フッ素、水素、及び酸素をから成る群からの少なくとも1つの更なる第2の化学元素を含有する、請求項1に記載の層(3a)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの第2の化学元素が、1原子%~40原子%の範囲の濃度で前記層(3a)内に存在する、請求項2に記載の層(3a)。
【請求項4】
a)ルテニウム、ケイ素、及び炭素を含む、又は、
b)ルテニウム、ケイ素、炭素、及び水素を含む、又は
c)ルテニウム、ケイ素、炭素、及びフッ素、任意選択的に水素を更に含む、又は
d)ルテニウム、ケイ素、炭素、及び酸素、若しくは、
e)ルテニウム、ケイ素、炭素、酸素、及び水素を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の層(3a)。
【請求項5】
高融点金属類、特に、チタニウム、及び/又はジルコニウム、及び/又はハフニウム、及び/又はニオビウム、及び/又はタンタル、及び/又はタングステンからの少なくとも1つの化学元素を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の層(3a)。
【請求項6】
前記高融点金属類からの前記少なくとも1つの化学元素が、0.01~10原子%の濃度範囲で前記層(3a)内に含有される、請求項5に記載の層(3a)。
【請求項7】
前記層(3a)が、卑金属類からの少なくとも1つの化学元素を更に含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の層(3a)。
【請求項8】
前記少なくとも1つの化学元素が、卑金属類アルミニウム、鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛、セリウム、及び錫からのものである、請求項7に記載の層(3a)。
【請求項9】
卑金属類からの前記少なくとも1つの更なる化学元素が、0.01~10原子%の濃度範囲で前記層(3a)内に含有される、請求項7又は8に記載の層(3a)。
【請求項10】
錫の形態の前記卑金属類からの前記少なくとも1つの化学元素、及び前記高融点金属類からの前記少なくとも1つの化学元素が、0.01~10原子%の濃度範囲で前記層(3a)内に一緒に含有される、請求項7~9のいずれか一項に関連する請求項5又は6のいずれか一項に記載の層(3a)。
【請求項11】
イリジウム、白金、金、銀、ロジウム、及びパラジウムをから成る群からの少なくとも1つの追加の化学元素を、0.01~25原子%の濃度範囲で更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の層(3a)。
【請求項12】
前記層(3a)が、0.5nm~500nmの範囲の層厚を有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の層(3a)。
【請求項13】
特に、電気化学電池(50)の導電性プレート(1)のための層システム(3)であって、カバー層(3a)と、アンダーコート層システム(4)と、を備え、前記カバー層(3a)が、請求項1~12のいずれか一項に記載の層(3a)の形態で設計される、層システム(3)。
【請求項14】
前記アンダーコート層システム(4)が、チタニウム、ニオビウム、ハフニウム、ジルコニウム、及びタンタルの群からの少なくとも1つの化学元素を含む、少なくとも1つのアンダーコート層(4a、4b)を備える、請求項13に記載の層システム(3)。
【請求項15】
前記アンダーコート層システム(4)が、前記化学元素のチタニウム及びニオビウムを含む金属合金層の形態の少なくとも1つの第1のアンダーコート層(4a)を備える、請求項14に記載の層システム(3)。
【請求項16】
前記アンダーコート層システム(4)が、チタニウム、ニオビウム、ハフニウム、ジルコニウム、タンタル群からの少なくとも1つの化学元素と、窒素、炭素、ホウ素、及びフッ素群からの少なくとも1つの非金属元素と、も含む、第2のアンダーコート層(4b)を備える、請求項14又は15に記載の層システム(3)。
【請求項17】
前記第2のアンダーコート層(4b)が、前記第1のアンダーコート層(4a)と前記カバー層(3a)との間に配置されることを特徴とする、請求項16に記載の層システム(3)。
【請求項18】
前記第2のアンダーコート層(4b)が、最大5原子%の酸素を含有することを特徴とする、請求項16又は17に記載の層システム。
【請求項19】
特に、燃料電池(90)又は電解槽(20)又はレドックスフロー電池(8)の電極のバイポーラプレートである、導電性プレート(1、1a、1b、1c、1d、24a、24b)であって、金属基板(2)と、前記基板(2)の表面の少なくとも部分的領域に適用される、請求項13~18のいずれか一項に記載の層システム(3)と、を有する、導電性プレート(1、1a、1b、1c、1d、24a、24b)。
【請求項20】
特に、燃料電池(90)、電解槽(20)、又はレドックスフロー電池(8)の形態の電気化学電池(50)であって、請求項19に記載の少なくとも1つの導電性プレート(1、1a、1b、1c、1d、24a、24b)を備える、電気化学電池(50)。
【請求項21】
燃料電池(90)、特に、バイポーラプレートの形態の請求項19に記載の少なくとも1つのプレート(1c、1d)を備える、固体高分子形燃料電池である、請求項20に記載の電気化学電池(50)。
【請求項22】
バイポーラプレートの形態の請求項19に記載の少なくとも1つのプレート(1a、1b)を備える電解槽(20)である、請求項20に記載の電気化学電池(50)。
【請求項23】
電極の形態の請求項19に記載の少なくとも1つのプレート(24a、24b)を備えるレドックスフロー電池(8)である、請求項20に記載の電気化学電池(50)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に電気化学電池用の導電性プレートを形成するための層に関する。更に、本発明は、そのような層を有する層システム、及びそのような層システムを有する導電性プレートに関する。本発明はまた、電気化学電池、特に少なくとも1つのそのような導電性プレートを有する燃料電池、電解槽又はレドックスフロー電池に関する。
【0002】
特に固体高分子形燃料電池などの燃料電池などの電気化学システム、及びそのような燃料電池及び電解槽のための導電性の集電プレート、並びにガルバーニ電池及び電解槽内の集電体が既知である。
【0003】
この例は、燃料電池、特に酸素半電池内のバイポーラプレート又はモノポーラプレートである。バイポーラプレート又はモノポーラプレートは、炭素プレート(例えば、グラフォイルプレート)の形態であり、これは必須要素として炭素を含有する。これらのプレートは、脆い傾向があり、比較的厚いため、燃料電池の電気量を著しく低減させる。別の欠点は、物理的(例えば、熱機械的)安定性、及び/又は化学的安定性及び/又は電気的安定性にかけることである。
【0004】
金属(特にオーステナイト系)のステンレス鋼から燃料電池の集電プレートを製造することが既知である。これらのプレートに利点は、0.5mm未満のプレート厚を達成することができることである。この厚さは、望ましく、そのため、燃料電池のスペース及び重さの両方を、可能な限り小さく維持することができる。これらのプレートの問題は、表面酸化物が燃料電池の動作中に形成されるため、表面抵抗が容認できないほど増加し、及び/又は電気化学的分解(腐食など)が発生することである。
【0005】
ドイツ特許出願公開第102010/026330(A1)号、同102013/209918(A1)号、同112005/001704(T5)号、及び同112008/003275(T5)号は、例えば、最大2nmまでのバンド領域内の金層を有する燃料電池内のバイポーラプレートの使用のための要件を達成する、キャリアとしてのオーステナイト系ステンレス鋼のコーティングついて記載している。要件に対するこの解決策については、いくつかの欠点がある。例えば、金層は、たった2nm厚であっても、大量生産するには非常に高価である。更に大きな欠点は、化学元素である金の基本的特性に見ることができる。金は、キャリア材料としてはステンレスオーステナイト系鋼(ステンレス鋼)よりも貴重であり、燃料電池内で好ましくない動作条件下にあることで、キャリアが溶解し(例えば、孔食又は孔食腐食)、これは耐用年数の低減を招く。腐食は、特に塩化物を含有する環境(例えば、エアロゾル)においては防ぐことができない。
【0006】
特に、別の欠点は、金は、高負荷用途、例えば、酸性環境又は塩基性環境のいずれにおいても、標準水素単位に対して1500mVを上回る電解条件では安定しない。
【0007】
窒化物又は炭化物に基づく硬質材料層と称されるものの形態のキャリア上の層もまた、従来技術において既知である。この例は、窒化チタンであるが、これは、燃料電池の動作中、密閉された表面層を介して酸化金属錯体を形成する傾向がある。結果として、ステンレス鋼と同様に、表面抵抗が高い値に増加する。窒化クロム又は炭窒化クロムを用いたコーティングのプロセスは、例えば、ドイツ特許明細書第19937255(B4)号及び欧州特許明細書第1273060(B1)号及びドイツ公開特許出願10017200(A1)号に見出すことができる。
【0008】
組成物に依存して、硬質材料層は非常に良好な動作特性(例えば、腐食に対する抵抗、摩擦抵抗、高度な輪郭制度)を有するが、好ましくない動作条件下で燃料電池内に濃度連鎖が形成されると、アノード溶解のリスクを与える。このアノード溶解が発生するのは、燃料電池の膜電極一体構造の活性電極とバイポーラプレートとの間に水膜が形成されるなど、局所的要素又は予想外の、かつ望ましくない反応要素と称されるものが燃料電池内の内部電気化学短絡中に発生するときである。
【0009】
また、金又は白金の非常に薄い層を有する窒化物に基づく複数のコーティングが既知である。したがって、燃料電池のための満足のいく動作結果は、2μmより大きい貴金属の層厚によって達成することできる。溶解の基本的問題は、高いアノード電位にある。層厚は、ほとんど孔の無い最上層を確実にし、したがって、孔食腐食のリスクを低減させる。
【0010】
寸法安定アノードと称されるものも、既知である。ここで、酸化ルテニウム及び/又は酸化イリジウムを有する単相酸化物又は多相酸化物が、高融点金属の助けを用いて形成される。この型の層は非常に安定しているが、電気抵抗が非常に高い。同じことはまた、一般に貴金属で作製されるキャリアの表面が、イリジウムでドープされるときに当てはまる。
【0011】
DE102009/010279(A1)は、アノード酸化され、続いて原子層蒸着プロセスによって上に導電層が蒸着される導電性金属プレートを備えるバイポーラ燃料電池プレートを記載している。特に、導電層は、酸窒化チタン、金、白金、炭素、ルテニウム、又は酸化ルテニウムのうちの少なくとも1つを含む。
【0012】
DE102016/202372(A1)は、イリジウムの形態の貴金属類からの第1の化学元素、及び/又はルテニウムの形態の貴金属類からの第2の化学元素、並びに窒素、炭素、ホウ素、フッ素、及び水素から成る群からの少なくとも1つ他の非金属化学元素を含有する、均質又は不均質の固体金属溶液若しくは複合物から成る層を開示している。
【0013】
したがって、以下の要件が、これらの電気化学システムにおいて、特にエネルギー変換のために設計された、PEM燃料電池又は電解槽の金属キャリア又はバイポーラプレートに課されなければならない:
-周囲媒質に対する高い腐食抵抗、及び/又は
-アノード分極負荷若しくはカソード分極負荷に対する高い回復力
-キャリア若しくはそのコーティングの電解質に面する表面の低い表面抵抗
-キャリア、特に、例えば、携帯電話での使用のための燃料電池の使用のためのバイポーラプレートの形態の導電性導体、の低い製造コスト。
【0014】
WO2018/145720(A1)は、流体の最適分布のために構造化されたレドックスフロー電池のための複合材料で作製されたプレート形状の電極を開示している。
【0015】
したがって、本発明の目的は、概して、エネルギー変換器のための、特に燃料電池又は電解槽又はレドックスフロー電池の電極のバイポーラプレートのための、改善された層又は改善された層システムを提供することである。更に、本発明の目的は、改善された層システムを有する導電性プレート、及びそれを装備する電気化学電池を特定することである。
【0016】
目的は、本発明に従って、特に電気化学電池用の導電性プレートを形成するための層であって、50~99原子%の範囲の濃度のルテニウムの形態の貴金属類からの第1の化学元素と、<10原子%未満の濃度のケイ素の形態の少なくとも1つの第2の化学元素と、を含有する、層によって達成される。
ケイ素は、安定した複合物、特に電気化学的攻撃に対する層の抵抗に好影響を与える酸化物、を形成する。
ケイ素は、好ましくは3原子%~<10原子%の範囲の濃度で含有される。
【0017】
目的はまた、本発明に従って、特に電気化学電池の導電性プレートのための層システムであって、カバー層と、アンダーコート層システムと、を備え、カバー層は、本発明に従う層の形態で設計される、層システムによって達成される。
【0018】
目的はまた、本発明に従って、特に燃料電池、電解槽、又はレドックスフロー電池の形態の電気化学電池であって、本発明に従う少なくとも1つの導電性プレートを備える電気化学電池によって達成される。
【0019】
本発明の便利な非自明な開発を用いた有利な構成が、従属請求項に明記される。
【0020】
本発明に従う層は、導電性かつ電極触媒活性であり、腐食から保護するように設計される。
【0021】
本発明に従う層は、好ましくは、窒素、炭素、ホウ素、フッ素、水素、及び酸素から成る群からの少なくとも1つの更なる第2の化学元素を含有する。
【0022】
イリジウム及び/又はルテニウムは、好ましくは、1原子%~40原子%の範囲の濃度でカバー層内に存在することが好ましい。
【0023】
少なくとも1つの第2の化学元素は、好ましくは、格子型のホスト金属又はホスト金属合金が本質的に変化しない方法で、ルテニウムの金属格子で溶解される。
【0024】
本発明に従う層は、好ましくは、
a)ルテニウム、ケイ素、及び炭素、又は
b)ルテニウム、ケイ素、炭素、及び水素、又は
c)ルテニウム、ケイ素、炭素、及びフッ素、選択的に水素、又は
d)ルテニウム、ケイ素、炭素、及び酸素、又は
e)ルテニウム、ケイ素、炭素、酸素、及び水素、を含む。
【0025】
炭素含有層を用いると、すなわち、半金属又は非金属の化学元素の炭素を使用すると、層の導電性が金より高く、同時に酸性溶液内でのその酸化安定性が、標準水素電極に対して電圧2000mVを著しく上回ることが示される。実施形態に依存して、測定された特定の電気抵抗は、5mΩcm-2を下回る(標準条件下で)。
【0026】
比較すると、金の特定の電気抵抗は、室温で、およそ10mΩcm-2である。
【0027】
層はまた、好ましくは、高融点金属類、特にチタニウム及び/又はジルコニウム及び/又はハフニウム及び/又はニオビウム及び/又はタンタル及び/又はタングステン、からの少なくとも1つの化学元素を更に有する。高融点金属類からの少なくとも1つの化学元素が、特に0.01~10原子%の濃度範囲で層内に含有される。高融点金属を追加することでまた、特に電解中に形成されるH及びオゾンを制御することが示された。
【0028】
層はまた、好ましくは、卑金属類からの少なくとも1つの化学元素を含有する。卑金属類からの少なくとも1つの化学元素は、好ましくは、アルミニウム、鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛、セリウム、錫により形成される。卑金属類からの少なくとも1つの更なる化学元素は、特に0.01~10原子%の濃度範囲で、層内に含有される。
【0029】
錫の形態の卑金属類からの少なくとも1つの化学元素と、高融点金属類からの少なくとも1つの化学元素とが、特に0.01~10原子%の濃度範囲で層内に一緒に含有される。
【0030】
層はまた、好ましくは、イリジウム、白金、金、銀、ロジウム、パラジウムをから成る群からの少なくとも1つの追加の化学元素を、0.01~25原子%の濃度範囲で含む。
【0031】
層が、好ましくは、0.5~500nmの範囲の層厚を有する場合、好ましい。
【0032】
貴金属類からの全ての化学元素が、すなわち、ルテニウムと一緒に、50原子%より多く、99原子%までの濃度範囲で層内に含有される場合、有益であることが証明された。
【0033】
鋼、特にハイグレード鋼又はチタニウムで作製されたものなどの金属基板上の腐食保護、基板と層との間の下層システムに本発明に従う層を適用することによって更に改善される。これは、腐食媒質が存在するとき、特に、腐食媒質が塩化物を含有するとき、特に有利である。
【0034】
酸化を受けること、すなわち、支持体の表面であって、この表面上に適用された層、の酸化は、通常、その上に置かれた貴金属層の層間剥離につながる。
【0035】
目的はまた、特に電気化学電池の導電性プレートのための層システムであって、カバー層と、アンダーコート層システムと、を備え、カバー層は、本発明に従う層の形態である、層システムによって達成される。
【0036】
特に、アンダーコート層システムは、チタニウム、ニオビウム、ハフニウム、ジルコニウム、タンタルの群からの少なくとも1つの化学元素を有する少なくとも1つのアンダーコート層を備える。
【0037】
アンダーコート層システムは、特に、化学元素のチタニウム及びニオビウム、特に20~50重量%のニオビウム及び残りのチタニウムを含む金属合金層の形態の第1のアンダーコート層を有する。
【0038】
アンダーコート層システムは、チタニウム、ニオビウム、ジルコニウム、ハフニウム、タンタルの群からの少なくとも1つの化学元素、及び窒素、炭素、ホウ素、フッ素の群からの少なくとも1つの非金属元素も含む、第2のアンダーコート層を特に有する。
【0039】
特に好ましい実施形態では、アンダーコート層システムは、化学元素
a)チタニウム、ニオビウム、並びにまた炭素及びフッ素、又は、
b)特に(Ti67Nb33)N0.8-1.1から形成されるチタニウム、ニオビウム、並びにまた窒素、
を含む、第2のアンダーコート層を有する。
【0040】
第2のアンダーコート層は、好ましくは、第1のアンダーコート層と最上層との間に位置付けられる。
【0041】
第2のアンダーコート層は、最大5原子%までの酸素を更に含有することができる。
【0042】
有利に、本発明に従う層又はカバー層の10nm未満の厚さは、第2のアンダーコート層の抵抗増加する酸化から保護するのに十分である。腐食からの信頼できる保護を提供するために、アンダーコート層システムの一部の層が、少なくとも1つの高融点金属から作製され、これが鋼、特にステンレス鋼の少なくとも2層に、最初に、金属層又は合金層(=第1のアンダーコート層)として、次に半金属層(=第2のアンダーコート層)として、適用される。本発明に従う層の下に、2層構造の助けを用いて形成される二重の層は、一方で、基板材料、すなわち、層システムを受け入れるための基板を形成する材料への電気化学適応、及び他方で、酸化プロセス及び加水分解プロセスによる孔形成が排除されることを確実にする。
【0043】
半金属層(=第2のアンダーコート層)と、本発明に従う層又は最上層と、の両方が、非常に貴重であることから、基板材料への電気化学適応は、必要である。孔形成の事象において、高局所的要素の電位が増大し、容認できない腐食電流をもたらす。金属の第1のアンダーコート層は、好ましくは、チタニウム又はニオビウム又はジルコニウム又はタンタル又はハフニウムから、又これらの金属の合金から形成され、これらは、鋼、特にステンレス鋼の形態の基板材料よりも貴重でなく、最初に腐食プロセスと反応して、不溶性の酸化物を形成し、又は大量の、時としてゲル状のこれらの高融点金属のヒドロキソ複合物を形成する。結果として、孔は塞がれ、腐食から基材を保護する。本プロセスは、層システムの自己回復を表す。
【0044】
特に、窒化物層の形態の第2のアンダーコート層は、水素バリアとして機能し、したがって、特にステンレス鋼で作製された、基板、バイポーラプレート、及び金属の第1のアンダーコート層を水素脆化から保護する。
【0045】
目的はまた、特に燃料電池又は電解槽又はレドックスフロー電池の電極のバイポーラプレートである導電性プレートであって、金属基板と、少なくとも基板の表面の一部の領域に適用された本発明に従う層システムと、を有する、導電性プレートによって達成される。
【0046】
特に、層システムは、基板の一方又は両方の面に全領域にわたって適用される。金属基板は、特に鋼又はチタニウムから、好ましくはハイグレード鋼から形成される。基板の厚さは、好ましくは1mm未満であり、特に0.5mmに等しい。
【0047】
最後に、目的は、特に燃料電池、電解槽、又はレドックスフロー電池の形態の電気化学電池であって、本発明に従う少なくとも1つの導電性プレートを備える電気化学電池によって達成される。
【0048】
本発明に従う燃料電池は、特にバイポーラプレートの形態の本発明に従う少なくとも1つの導電性プレートを備える、固体高分子形燃料電池であって、電気的値及び腐食抵抗の観点で特に有利であることが証明された。したがって、そのような燃料電池は、10年を超える長い耐用年数、又5000時間を超える自動車動作時間を有する。
【0049】
同等な長い耐用年数は、燃料電池に関して反対の動作原理を用いて働き、化学反応、すなわち、材料変換を電流の助けを用いて引き起こす、本発明に従う電解槽を用いて達成することができる。特に、電解槽は、水素電解に好適であるものである。
【0050】
本発明に従う電極の形態の少なくとも1つの導電性プレートを備える本発明に従うレドックスフロー電池を用いて、長い耐用年数及び電力密度を達成することができる。
【0051】
本発明の更なる特徴、利点、及び詳細は、本発明の好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。説明における上記の特徴及び特徴の組み合わせは、本発明の範囲から逸脱することなく、各ケースで指定される組み合わせにおいてのみでなく、他の組み合わせにおいても又は単独でも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】導電性プレートを断面図で示す。
図2】電極をフラックスフィールドとともに示す。
図3】レドックスフロー電池又はレドックスフロー電池を有するレドックスフローバッテリを示す。
図4】電解槽を断面図で示す。
図5】燃料電池スタックを三次元図で示す。
【0053】
図1は、ステンレス鋼で作製された基板2、及び基板2の一方の面の表面全体に適用された層システム3を備える、導電性プレート1を断面図で示す。層システム3は、カバー層3aと、第1のアンダーコート層4a及び第2のアンダーコート層4bを備えるアンダーコート層システム4と、を備える。
【0054】
第1の例示的な実施形態では、ここでは、(改質された)水素を変換するための固体高分子形燃料電池のバイポーラプレートのための、導体の形態の金属基板2は、ステンレス鋼、特に真正(authentic)の鋼と称される、腐食抵抗に対する非常に高い既知の要件を有するもの、例えば、DIN ISO材料番号1.4404で作製されている。
【0055】
層システム3は、基板2上にコーティングプロセス、例えば、真空ベースのコーティングプロセス(PVD)によって形成され、基板2は一工程において、最初に1.5μm厚さのチタニウム層の形態の第1のアンダーコート層4a、次にほぼ等しい厚さの窒化チタン層の形態の第2のアンダーコート層4b、最後に組成物RuSiCを有する最上層3aでコーティングされる。カバー層3aは、一方の面に開放された層コーティングに相当し、更に離れた層、ここでは第2のアンダーコート層4b、の1つのカバー層表面だけが、これに接触するように設計される。したがって、燃料電池内においてカバー層3aの自由表面30が、電解質、特に高分子電解質に面するように配置される。
【0056】
第2の例示的な実施形態では、金属基板2は、最初に厚さ数100nmの金属合金層、組成物Ti0.9Nb0.1を有する金属合金層、の形態の第1のアンダーコート層4aでコーティングされる。第2のアンダーコート層4bの更なる適用は、厚さ更に数百nmの組成物Ti0.9Nb0.11-xで行われる。次いで、厚さ数nmの組成物RuSiCを有するカバー層3aが適用される。
【0057】
利点は、本発明に従うプレート1の酸化に対する格別に高い安定性である。標準水素電極に対する+3000mVの不変負荷があっても、pH値3を有する硫酸溶液には抵抗の増加は見出されない。
【0058】
第1及び第2の例示的な実施形態の本発明に従うカバー層3aは、スパッタリング技法、及び真空アーク蒸着としても既知のカソードARCコーティング法の両方によって適用することができる。多数の液滴、換言すると、スパッタリング技法と比較して、増加された数の金属液滴があるにもかかわらず、カソードARCプロセスで製造される本発明に従うカバー層3aはまた、スパッタリング技法を使用して製造される本発明に従うカバー層3aの経時的に安定した表面導電性を有する、高い腐食抵抗という有利な特性を有する。
【0059】
第3の例示的な実施形態では、本発明に従う層システム3は、構造化された穴あきステンレス鋼板金の形態の基板2上に形成される。基板2は、層システム3が適用される前に、HSO/HPOバスにおいて電解研磨されている。数千nmの厚さの炭化タンタル層の形態の単一のアンダーコート層の適用後、RuSiCHOの形態のカバー層3aが適用される。
【0060】
炭化タンタルから形成されたアンダーコート層の利点は、腐食に対するその並外れた抵抗だけではなく、水素を全く吸収せず、したがって基板2のための水素バリアとして機能するという事実にもある。これは、チタニウムが基板材料として使用される場合に特に有利である。
【0061】
第3の例示的な実施形態の本発明に従う層システム3は、500mAcm-2より大きい電流密度で水素を生成するための電解質電池における使用に好適である。
【0062】
層システム内で、又は最も単純な場合は例えば窒化チタンで形成される第2のアンダーコート層の、両面の間及び/又は両面に密閉されて置かれた半金属層の利点は、10~12mΩcm-2というその低い電気抵抗である。同様に、本発明に従う層又はカバー層はまた、第2のアンダーコート層又は半金属層無しで、抵抗の可能な増加を伴って形成することができる。
【0063】
表1は、いくつかのコーティングシステムをその特性値とともに示す。
【表1】
【0064】
表1は、少数の例示的な層システムのみを示す。有利に、本発明に従う層システムは、温度の値が70~80℃硫酸溶液において標準水素電極に対してアノード負荷+2000mVで、数週間にわたって抵抗に増加が無いことを示す。スパッタリング法若しくは又はARC法を使用する高真空、又はPECVD法(プラズマ化学気相蒸着法)を使用する優れた真空において適用された層システムは、この露出時間の後に部分的に暗くなった。しかし、腐食又は表面抵抗の著しい変化の視認できる兆候はなかった
【0065】
図2は、フラックスフィールド7を形成するプロファイル40を有するステンレス鋼で作製された、金属板の形態の基板2を備える、電極の形態のプレート1の三次元図を示す。基板2には、各ケースにおいてフラックスフィールド7を形成するために両面にプロファイル40があり、結果として電極の表面が三次元構造化されている。基板2は、両面が層システム3でカバーされ、その上を電解質がレドックスフロー電池8内に流れる(図3参照)。
【0066】
図3は、レドックスフロー電池8又はレドックスフロー電池8を有するレドックスフローバッテリの形態の電気化学電池50を示す。レドックスフロー電池8は、電極の形態の2つのプレート1a、1b、第1の反応チャンバ10a、及び第2の反応チャンバ10bを備え、各反応チャンバ10a、10b電極のうちの一方と接触している。反応チャンバ10a、10bは、イオン交換膜9aによって、互いに分離されている。液体アノライト11aが、タンク13aから第1の反応チャンバ10aへポンプ12aを介してポンプ圧送され、電極部1aとイオン交換膜9aとの間を通って供給される。液体カソライト11bが、タンク13bから第2の反応チャンバ10bへポンプ12bを介してポンプ圧送され、電極部1bとイオン交換膜9aとの間を通って供給される。イオン交換は、イオン交換膜9aにわたって発生し、電気エネルギーが電極におけるレドックス反応により放出される。
【0067】
図4は、アノード側A及びカソード側Kに互いを分離する高分子電解質膜9を備える、電解槽の電解セル20の形態の電気化学電池50を示す。触媒層21a、21bは、各々触媒材料及び流体拡散層22a、22bを備え、流体拡散層22a、22bは、高分子電解質膜9の両側に触媒層21a、21bに隣接して配置される。流体拡散層22a、22bは、各々導電性プレート24a、24bに隣接するように置かれ、流体拡散層22a及び22bは、エキスパンドメタルで形成されている。プレート24a、24bは各々、反応媒質(水)の供給及び反応生成物(水、水素、酸素)の除去を改善するために、流体拡散層22a、22bに面する側に流路23a、23bを有する。
【0068】
図5は、燃料電池90の形態の複数の電気化学電池50を備える、燃料電池スタック100を概略的に示す。各燃料電池90は、バイポーラプレートの形態のプレート1c、1dの両面に隣接する高分子電解質膜9を備える。各バイポーラプレートは、ステンレス鋼で作製された基板2を有し、基板2は、両面が層システム3でカバーされている(図1参照)。バイポーラプレートは、開口部80aを有する流入領域と、燃料電池90にプロセスガス及びクーラントを供給し、燃料電池90及びクーラントから反応生成物を除去するために使用される更なる開口部80bを有する出口領域と、を有する。バイポーラプレートはまた、両側にガス分配構造7’を有し、これは、高分子電解質膜9に面するように配置される。
【符号の説明】
【0069】
1、1a、1b、1c、1d、24a、24b 導電性プレート
2 基板
3 層システム
3a 層、カバー層
4 アンダーコート層システム
4a 第1のアンダーコート層
4b 第2のアンダーコート層
7 フラックスフィールド
7’ ガス分配構造
8 レドックスフロー電池
9 高分子電解質膜
9a イオン交換膜
10a 第1の反応チャンバ
10b 第2の反応チャンバ
11a アノライト
11b カソライト
12a、12b ポンプ
13a、13b タンク
20 電解質電池
21a、21b 触媒層
22a、22b 流体拡散層
23a、23b 流導管
30 自由表面
40 プロファイル
50 電気化学電池
80a、80b 開口部
90 燃料電池
100 燃料電池スタック
K カソード側
A アノード側
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】