(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-18
(54)【発明の名称】抗アデノシン受容体(A2aR)抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231011BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231011BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231011BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231011BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231011BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231011BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231011BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231011BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231011BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231011BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231011BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231011BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P37/04
A61P35/00
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K45/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520021
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 US2021052819
(87)【国際公開番号】W WO2022072601
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523115519
【氏名又は名称】エヌエー バイオテック コーポレイション
(71)【出願人】
【識別番号】523115520
【氏名又は名称】アデプト バイオファーマシューティカル アンド テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リウ, シュイン
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ, シンヤン
(72)【発明者】
【氏名】フー, チャンユン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA02
4B064CA05
4B064CA06
4B064CA08
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA10
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、抗体およびその抗原結合断片を含む抗A2aR抗原結合分子、ならびにがん、慢性疾患、慢性感染症、自己免疫疾患、炎症性疾患、神経変性疾患および線維性疾患を含む、異常なアデノシンシグナル伝達に関連する種々の疾患を処置するためにそれを使用するための方法を提供する。本発明は、A2aRに特異的に結合することによって、A2aRの活性をモジュレートする(例えば、活性を増強または阻害する)ための抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアデノシンA2A受容体(A2aR)に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、
N末端からC末端に、3つの重鎖相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;ならびに
N末端からC末端に、3つの軽鎖相補性決定領域(CDR):LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン
を含み;
(a)前記HCDR1が、アミノ酸配列X
1-X
2-W-M-N(配列番号8)を含み、式中、X
1は、SまたはRであり、X
2は、YまたはFであり;
(b)前記HCDR2が、アミノ酸配列R-I-D-P-X
3-D-S-E-X
4-X
5-Y-X
6-H-K-F-W-X
7(配列番号9)を含み、式中、X
3は、SまたはYであり、X
4は、AまたはTであり、X
5は、HまたはQであり、X
6は、HまたはNであり、X
7は、DまたはGであり;
(c)前記HCDR3が、アミノ酸配列SLYGKGDY(配列番号3)を含み;
(d)前記LCDR1が、アミノ酸配列R-S-S-Q-S-X
17-V-H-X
18-N-G-N-T-Y-L-E(配列番号30)を含み、式中、X
17は、LまたはIであり、X
18は、RまたはSであり;
(e)前記LCDR2が、アミノ酸配列K-V-S-N-R-F-S(配列番号26)を含み;
(f)前記LCDR3が、アミノ酸配列X
19-Q-G-S-H-V-P-L-T(配列番号31)を含み、式中、X
19は、YまたはFである、単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
(a)前記HCDR1が、配列番号1、4および6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;
(b)前記HCDR2が、配列番号2、5および7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;
(c)前記HCDR3が、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含み;
(d)前記LCDR1が、配列番号25または28に示されるアミノ酸配列を含み;
(e)前記LCDR2が、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含み;
(f)前記LCDR3が、配列番号27または29に示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記抗体が、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR3、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR1、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR2、および配列番号27に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR3;
(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR3、配列番号28に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR1、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR2、および配列番号29に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR3;または
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む前記HCDR3、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR1、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR2、および配列番号29に示されるアミノ酸配列を含む前記LCDR3
を含む、請求項2に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
(a)前記HCDR1が、配列番号21、22、23および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;
(b)前記HCDR3が、配列番号12、15および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体が、
(a)配列番号35、36、37、38、39および40からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);ならびに
(b)配列番号41、42および43からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
前記抗体が、
(a)配列番号35もしくは38に示されるアミノ酸配列を含む前記HCVRおよび配列番号41に示されるアミノ酸配列を含む前記LCVR;
(b)配列番号36もしくは39に示されるアミノ酸配列を含む前記HCVRおよび配列番号42に示されるアミノ酸配列を含む前記LCVR;または
(c)配列番号37もしくは40に示されるアミノ酸配列を含む前記HCVRおよび配列番号43に示されるアミノ酸配列を含む前記LCVR
を含む、請求項5に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
ヒトアデノシンA2A受容体(ヒトA2aR)に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、
N末端からC末端に、3つの重鎖相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;ならびに
N末端からC末端に、3つの軽鎖相補性決定領域(CDR):LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメイン
を含み;
(a)前記HCDR1が、配列番号1、4および6からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;
(b)前記HCDR2が、配列番号2、5および7からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;
(c)前記HCDR3が、配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;
(d)前記LCDR1が、配列番号25および28からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;
(e)前記LCDR2が、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み、
(f)前記LCDR3が、配列番号27および29からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含む、単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
ヒトアデノシンA2A受容体(ヒトA2aR)に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号35、36および37からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);ならびに
(b)配列番号41、42および43からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む、単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
ヒトアデノシンA2A受容体(ヒトA2aR)に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号35または38に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);および
(b)配列番号41に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む、単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
ヒトアデノシンA2A受容体(ヒトA2aR)に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号36または39に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);および
(b)配列番号42に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)
を含む、単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
前記重鎖および/または軽鎖の前記N末端が、ピログルタミン酸(pE)残基である、請求項1から10のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
(i)前記抗体が、ヒトA2aRへの結合について、1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9からなる群から選択されるモノクローナル抗体と競合する;
(ii)前記抗体が、A2aRの活性を阻害する;
(iii)前記抗体が、免疫応答を改善する;
(iv)前記抗体が、細胞表面ヒトA2aRに特異的に結合する;
(v)前記抗体が、組織中のcAMP濃度を低減させる;
(vi)前記抗体が、タンパク質キナーゼA活性を低減させる;
(vii)前記抗体が、A2aRシグナル経路のcAMP応答エレメントのリン酸化を低減させる;または
(viii)前記抗体が、ヒトおよび/もしくはカニクイザルA2aRに特異的に結合する、請求項1から11のいずれか一項に記載の単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
ヒトA2aRへの結合について、請求項1から12のいずれか一項に記載の抗体と競合する、単離された抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
前記抗体が、ヒト化抗体またはキメラ抗体である、請求項1から13のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
前記抗体が、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMから選択されるクラスの重鎖定常領域を含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
前記抗体が、クラスIgGの重鎖定常領域を含み、前記IgGが、IgG4、IgG1、IgG2およびIgG3からなる群から選択される、請求項15に記載の抗体またはその抗原結合断片。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、そのHCVR、そのLCVR、その軽鎖、その重鎖、またはその抗原結合断片をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項18】
請求項17に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項19】
請求項17に記載のポリヌクレオチドまたは請求項18に記載の発現ベクターを含む組換え細胞。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片を産生する方法であって、請求項17に記載の組換え細胞において前記抗体を発現させるステップおよび発現された抗体を単離するステップを含む、方法。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片と、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む、医薬組成物。
【請求項22】
前記医薬組成物中の前記抗体またはその抗原結合断片が、(a)細胞表面のヒトまたはカニクイザルA2aRに特異的に結合する;(b)組織中のcAMP濃度を低減させる;(c)ヒトA2aRの活性を阻害する;(d)A2aRシグナル経路のcAMP応答エレメントのリン酸化を低減させる;e)免疫細胞の免疫応答を改善する;f)タンパク質キナーゼA活性を低減させるのに;および(g)(a)~(f)の任意の組合せに、有効な量である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項23】
細胞表面上で発現されたA2aRの活性を阻害する方法であって、前記細胞を、請求項1から16のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合断片または請求項21もしくは22に記載の医薬組成物と接触させるステップを含み、それにより、前記細胞において前記A2aR活性を阻害する、方法。
【請求項24】
対象において免疫応答を増強する方法であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合断片または請求項21もしくは22に記載の医薬組成物を前記対象に投与するステップを含み、それにより、前記対象において前記免疫応答を増強する、方法。
【請求項25】
対象において腫瘍の成長を阻害する方法であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合断片または請求項21もしくは22に記載の医薬組成物を前記対象に投与するステップを含み、それにより、前記腫瘍の成長を阻害する、方法。
【請求項26】
対象においてがんを処置する方法であって、請求項1から16のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合断片または請求項21もしくは22に記載の医薬組成物を投与するステップを含み、それにより、前記がんを処置する、方法。
【請求項27】
T細胞を活性化し、前記T細胞が腫瘍標的細胞を死滅させるように方向付けるという結果をもたらす、請求項23から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
さらなる治療剤を投与するステップをさらに含む、請求項23から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記さらなる治療剤が、抗腫瘍剤、放射線療法、化学療法剤、手術、がんワクチン、免疫細胞の刺激受容体に対するアゴニスト、サイトカイン、細胞治療、またはチェックポイント阻害剤を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記チェックポイント阻害剤が、PD-1、PD-L1、TIGIT、CTLA-4、PD-1、PD-Ll、PD-L2、LAG-3、TIM-3、ニューリチン、BTLA、CECAM-1、CECAM-5、IL-1R8、VISTA、LAIR1、LILRB1、LILRB2、LILRB3、LILRB4、LILRB5、CD96、CD112R、CD160、2B4、TGFβ-R、KIR、NKG2A、およびそれらの任意の組合せを阻害する薬剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記薬剤が、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害し、前記薬剤が、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、BMS-936559、シンチリマブ、トリパリマブ、チスレリズマブ、カムレリズマブ、スゲマリマブ、ペンプリマブ、カドニリマブ、スルファモノメトキシン1およびスルファメチゾール2からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記CTLA4阻害剤が、イピリムマブ、カドニリマブ、YH001(Encure Biopharma)である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記さらなる治療剤が、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1、ICOS(CD278)、4-1 BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、NKG2D、SLAMF7、NKp46、NKp80、CD160、B7-H3、CD83リガンド、およびそれらの任意の組合せから選択される免疫細胞の刺激受容体に対するアゴニストである、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記さらなる治療剤が、前記抗体と同じ医薬組成物中に製剤化される、請求項28から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記さらなる治療剤が、前記抗体とは異なる医薬組成物中に製剤化される、請求項28から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記さらなる治療剤が、前記抗体を投与するステップの前に、および/または前記抗体を投与するステップの後に投与される、請求項請求項28から33および35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記さらなる治療剤が、前記抗体またはその抗原結合断片と併せて投与される、請求項28から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
請求項21または22に記載の医薬組成物を含むキット。
【請求項39】
さらなる治療剤をさらに含む、請求項38に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2020年9月30日出願の米国仮特許出願第63/085,612号に関連し、その優先権を主張する。上述の出願の全内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、がん処置のための抗体、特に、がん免疫療法のためのアデノシン受容体A2aR抗体に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
免疫系は、新生物性細胞の同定および排除において重要な役割を果たす。腫瘍細胞は、腫瘍細胞の免疫媒介性の破壊を回避するために種々の機構を使用する。それらの経路の中で、腫瘍細胞は、エフェクターT細胞機能の高度に有効なインヒビターであるアデノシンのレベルおよびアデノシンに対する応答性を増加させることによって、免疫防御を避けるために、アデノシンシグナル伝達経路を活用している。
【0004】
アデノシンは、アデノシン三リン酸(ATP)の分解から生じるプリンヌクレオシドである。低酸素、虚血、炎症またはがんが含まれる有害な状態下では、アデノシンの細胞外レベルは、有意に増加する。放出されると、アデノシンは、4種の公知のGタンパク質共役受容体、アデノシンA1受容体サブタイプ(A1R)、アデノシンA2A受容体サブタイプ(A2aR)、アデノシンA2B受容体サブタイプ(A2bR)およびアデノシンA3受容体サブタイプ(A3R)の会合を介して、細胞のシグナル伝達経路を活性化する。
【0005】
アデノシンレベルは、CD39およびCD73の活性によって主に制御される。CD39およびCD73は、2ステップの反応において炎症促進性ATPを免疫抑制性アデノシンに変換するように一緒になって作用する2種のエクト酵素である。CD39は、ATPをAMPへと加水分解し、AMPは、CD73によってアデノシンへとさらに加水分解され、アデノシンは、ほとんどの細胞に容易に進入することができる。さらに、腫瘍細胞は、代謝ストレスまたは低酸素ストレスの結果として細胞死を受けるので、腫瘍細胞は、ATP(これに対して、細胞は一般には不透過性である)の細胞内貯蔵を、細胞外空間に放出する。
【0006】
腫瘍微小環境内で、CD73によって産生されたアデノシンは、抗腫瘍免疫応答を抑制する一方で、腫瘍細胞の成長および生存を促進する。がん細胞は、腫瘍組織において高レベルのCD73発現を示し、それらの蓄積は、乳がんおよび卵巣がんに罹患している患者における、不良な全生存期間および不良な無再発生存期間に関連付けられている。CD73およびアデノシンは、がん細胞における成長促進性の新生血管形成、転移および生存を支持している。アデノシンは、T細胞上のA2A(またはA2A)受容体(A2aR)に結合し、T細胞の活性化および機能の抑制をもたらす細胞内シグナル伝達カスケードを活性化する。A2aRは、A1R、A2bRおよびA3Rもまた含まれるGタンパク質共役受容体のアデノシン受容体群のメンバーであり、脳およびリンパ系組織中の細胞上でのその優勢な発現を介する、細胞外アデノシンの抗炎症性エフェクターである。
【0007】
免疫微小環境中の異常に高い濃度でのアデノシンの存在は、A2aRの活性化をもたらし、腫瘍がそれによって免疫認識を回避することができるネガティブフィードバックループを示す。特に、A2aRのアデノシン媒介性の活性化は、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)およびT制御性(Treg)細胞が含まれる免疫抑制性細胞型の活性を増強する一方で、IFNγ産生を阻害し、CD8+T細胞、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞およびM1マクロファージが含まれる複数の抗腫瘍免疫細胞の活性を抑制することによって、腫瘍が免疫監視から逃避できるようにする。腫瘍細胞上のA2aRの活性化は、腫瘍細胞転移を促進することも示唆されている。
【0008】
いくつかのA2A受容体小分子アンタゴニストは、パーキンソン病およびがんの処置のための臨床試験に進んでいるが、がん治療の文脈における生物製剤薬物候補によるA2aR遮断は、いまだ欠如している。A2aRアンタゴニスト、例えばZM241385で処置したマウスは、エフェクターT細胞に対する免疫抑制の低減に起因して、腫瘍成長における有意な遅延を示した。これは、腫瘍拒絶の増大を示したA2aRノックアウトマウスによってさらに強調された。さらに、小分子アンタゴニストによるA2aR遮断は、単一のPD-1/PD-L1またはCTLA-4経路単独の遮断と比較して、モノクローナル抗体によるPD-1/PD-L1またはCTLA-4阻害と組み合わせた場合に、免疫応答を増加させることに対して相乗的な効果を有することが示された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
結果として、腫瘍微小環境におけるA2aR活性、アデノシン濃度、ならびに/またはエフェクター免疫細胞のCD39/CD73発現および活性化をモジュレートすることが、腫瘍進行を制限し、抗腫瘍免疫応答を改善し、治療誘導性の免疫逸脱を回避し、正常な組織毒性を潜在的に制限するための魅力的な治療戦略として存在している。免疫細胞のA2aR活性をモジュレートする、例えば、阻害することによってがんを処置する組成物および方法が、当該分野で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
本発明は、A2aRに特異的に結合することによって、A2aRの活性をモジュレートする(例えば、活性を増強または阻害する)ための抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を提供する。A2aRは、細胞、例えば、哺乳動物細胞、例えば、哺乳動物の免疫細胞、例えば、マウス免疫細胞、カニクイザル免疫細胞またはヒト免疫細胞の表面上にあり得る。本発明は、A2aRの活性をモジュレートする、例えば、阻害するために、またはA2aRの活性をモジュレートする、例えば、阻害することから利益を得る対象、例えば、A2aR関連疾患に罹患しているもしくはA2aR関連疾患に罹患する傾向がある対象を処置するために、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を使用する方法もまた提供する。
【0011】
したがって、一態様では、本発明は、ヒトアデノシンA2A受容体(A2aR)に結合する単離された抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片を提供する。この抗体は、N末端からC末端に、3つの重鎖相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;ならびにN末端からC末端に、3つの軽鎖相補性決定領域(CDR):LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含み;(a)HCDR1は、アミノ酸配列X1-X2-W-M-N(配列番号8)を含み、式中、X1は、SまたはRであり、X2は、YまたはFであり;(b)HCDR2は、アミノ酸配列R-I-D-P-X3-D-S-E-X4-X5-Y-X6-H-K-F-W-X7(配列番号9)を含み、式中、X3は、SまたはYであり、X4は、AまたはTであり、X5は、HまたはQであり、X6は、HまたはNであり、X7は、DまたはGであり;(c)HCDR3は、アミノ酸配列SLYGKGDY(配列番号3)を含み;(d)LCDR1は、アミノ酸配列R-S-S-Q-S-X17-V-H-X18-N-G-N-T-Y-L-E(配列番号30)を含み、式中、X17は、LまたはIであり、X18は、RまたはSであり;(e)LCDR2は、アミノ酸配列K-V-S-N-R-F-S(配列番号26)を含み;(f)LCDR3は、アミノ酸配列X19-Q-G-S-H-V-P-L-T(配列番号31)を含み、式中、X19は、YまたはFである。
【0012】
本発明の種々の態様およびその実施形態では、抗体は、抗体の抗原結合断片である。本発明の種々の態様およびその実施形態では、ヒトA2aRは、配列番号50に示される配列を含む。
【0013】
一実施形態では、(a)HCDR1は、配列番号1、4および6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;(b)HCDR2は、配列番号2、5および7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;(c)HCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含み;(d)LCDR1は、配列番号25または28に示されるアミノ酸配列を含み;(e)LCDR2は、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含み;(f)LCDR3は、配列番号27または29に示されるアミノ酸配列を含む。
【0014】
別の実施形態では、単離された抗原結合分子(例えば、抗体)は、(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号27に示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;(b)配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号28に示されるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号29に示されるアミノ酸配列を含むLCDR3;または(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3、配列番号25に示されるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号26に示されるアミノ酸配列を含むLCDR2、および配列番号29に示されるアミノ酸配列を含むLCDR3を含む
【0015】
さらに別の実施形態では、(a)HCDR1は、配列番号21、22、23および24からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み;(b)HCDR3は、配列番号12、15および20からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0016】
なお別の実施形態では、抗原結合分子(例えば、抗体)は、(a)配列番号35、36、37、38、39および40からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);ならびに(b)配列番号41、42および43からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0017】
一実施形態では、抗原結合分子(例えば、抗体)は、(a)配列番号35もしくは38に示されるアミノ酸配列を含むHCVRおよび配列番号41に示されるアミノ酸配列を含むLCVR;(b)配列番号36もしくは39に示されるアミノ酸配列を含むHCVRおよび配列番号42に示されるアミノ酸配列を含むLCVR;または(c)配列番号37もしくは40に示されるアミノ酸配列を含むHCVRおよび配列番号43に示されるアミノ酸配列を含むLCVRを含む。
【0018】
別の態様では、本発明は、ヒトアデノシンA2A受容体(A2aR)に結合する単離された抗原結合分子(例えば、抗体)を提供する。この抗原結合分子(例えば、抗体)は、N末端からC末端に、3つの重鎖相補性決定領域(CDR):HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変(VH)ドメイン;ならびにN末端からC末端に、3つの軽鎖相補性決定領域(CDR):LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変(VL)ドメインを含み;(a)HCDR1は、配列番号1、4および6からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;(b)HCDR2は、配列番号2、5および7からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;(c)HCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;(d)LCDR1は、配列番号25および28からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み;(e)LCDR2は、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含み、(f)LCDR3は、配列番号27および29からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含む。
【0019】
一実施形態では、(a)HCDR1は、配列番号1、4または6からの1または2つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(b)HCDR2は、配列番号2、5または7からの1、2、3、4または5つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(c)HCDR3は、配列番号3に示される配列または配列番号3からの1もしくは2つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(d)LCDR1は、配列番号25または28からの1、2、3または4つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(e)LCDR2は、配列番号26に示される配列または配列番号26からの1もしくは2つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(f)LCDR3は、配列番号27または29からの1または2つのアミノ酸置換を含む配列を含む。別の実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。別の実施形態では、(a)HCDR1は、HCDR1の1位または2位にアミノ酸置換を含み;(b)HCDR2は、HCDR2の5位、9位、10位、12位または17位にアミノ酸置換を含み;(c)LCDR1は、LCDR1の6位または9位にアミノ酸置換を含み;あるいは(d)LCDR3は、LCDR3の1位にアミノ酸置換(and amino acid substitution)を含む。一実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。一実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。なお別の実施形態では、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、Kabat番号付けスキームに基づいて定義される。
【0020】
一実施形態では、(a)HCDR1は、配列番号10、13または16からの1、2または3つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(b)HCDR2は、配列番号11、14または17からの1、2または3つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(c)HCDR3は、配列番号12または15からの1、2または3つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(d)LCDR1は、配列番号32または33からの1、2、3または4つのアミノ酸置換を含む配列を含み;(e)LCDR3は、配列番号27または29からの1または2つのアミノ酸置換を含む配列を含む。別の実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。別の実施形態では、(a)HCDR1は、HCDR1の3位、6位または7位にアミノ酸置換を含み;(b)HCDR2は、HCDR2の4位または8位にアミノ酸置換を含み;(c)HCDR3は、HCDR3の1位にアミノ酸置換を含み、(d)LCDR1は、LCDR1の3位または6位にアミノ酸置換を含み;あるいは(e)LCDR3は、LCDR3の1位にアミノ酸置換を含む。一実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。なお別の実施形態では、HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2およびLCDR3は、IMGT番号付けスキームに基づいて定義される。
【0021】
なお別の態様では、本発明は、抗原結合分子、例えば、抗体を提供する。この抗体は、(a)配列番号35、36および37からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);ならびに(b)配列番号41、42および43からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0022】
一実施形態では、(a)HCVRは、配列番号35、36および37からの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12個のアミノ酸置換を含む配列を含み;(b)LCVRは、配列番号41、42および43からの1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個のアミノ酸置換を含む配列を含む。別の実施形態では、アミノ酸置換は、保存的置換である。
【0023】
一態様では、本発明は、ヒトアデノシンA2A受容体(A2aR)に結合する抗原結合分子、例えば、抗体を提供する。この抗体は、(a)配列番号35または38に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);および(b)配列番号41に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、ヒトアデノシン2A受容体(ヒトA2aR)に結合する抗原結合分子、例えば、抗体を提供する。抗体は、配列番号36または39に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);および(b)配列番号42に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0025】
なお別の態様では、本発明は、ヒトアデノシン2A受容体(ヒトA2aR)に結合する抗原結合分子、例えば、抗体を提供する。抗体は、配列番号37または40に示されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(HCVR);および(b)配列番号43に示されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(LCVR)を含む。
【0026】
本発明の種々の態様の一実施形態では、抗原結合分子、例えば、抗体の重鎖および/または軽鎖のN末端は、ピログルタミン酸(pE)残基である。
【0027】
別の実施形態では、(i)抗体は、ヒトA2aRへの結合について、1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9からなる群から選択されるモノクローナル抗体と競合する;(ii)抗体は、A2aRの活性を阻害する;(iii)抗体は、免疫応答を改善する;(iv)抗体は、細胞表面ヒトA2aRに特異的に結合する;(v)抗体は、組織中のcAMP濃度を低減させる;(vi)抗体は、タンパク質キナーゼA活性を低減させる;(vii)抗体は、A2aRシグナル経路のcAMP応答エレメントのリン酸化を低減させる;または(viii)(i)~(vii)の任意の組み合わせである。
【0028】
一実施形態では、A2aRまたは細胞表面A2aRへの抗体の結合は、実施例5、6および7に記載されるフローサイトメトリーベースのアッセイ、またはその実質的な類似のアッセイを使用して決定される。別の実施形態では、抗体によるA2aRまたは細胞表面A2aRへの結合についての競合は、当該分野で公知のアッセイ、例えば、Harms, et al., Microtiter plate-based antibody-competition assay to determine binding affinities and plasma/blood stability of CXCR4 ligands, Scientific Reports, 2020:10:16036, doi.org/10.1038/s41598-020-73012-4に記載されるアッセイ、またはその実質的な類似のアッセイを使用して決定される。なお別の実施形態では、A2aRの活性の阻害は、実施例4に記載されるアッセイ、またはその実質的に類似のアッセイを使用して決定される。さらに別の実施形態では、cAMP濃度の低減は、実施例4に記載されるアッセイ、またはその実質的に類似のアッセイを使用して決定される。一実施形態では、タンパク質キナーゼA活性における低減および/またはA2aRシグナル経路のcAMP応答エレメントのリン酸化における低減は、Karege et al., A non-radioactive assay for the cAMP-dependent protein kinase activity in rat brain homogenates and age-related changes in hippocampus and cortex, Brain Res., 2001 Jun 8;903(1-2):86-93, doi: 10.1016/s0006-8993(01)02409-xに記載される方法、またはその実質的に類似のアッセイを使用して決定される。別の実施形態では、免疫応答の増強は、当該分野で周知の方法、例えば、組織中の炎症性サイトカインの濃度の増加、細胞傷害性CD8+ T細胞の数における増加を使用して決定される。
【0029】
一実施形態では、抗体は、A2aRの活性を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約100%阻害する、例えば、低減させる。別の実施形態では、抗体は、免疫応答を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約100%、約1.5倍、約2倍、約4倍またはそれよりも大きく増強する。なお別の実施形態では、抗体は、組織中のcAMP濃度を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約100%低減させる。さらに別の実施形態では、抗体は、タンパク質キナーゼA活性を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約100%低減させる。一実施形態では、抗体は、A2aRシグナル経路のcAMP応答エレメントのリン酸化を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約100%低減させる。
【0030】
なお別の実施形態では、抗体は、ヒトA2aRおよび/またはカニクイザルA2aRに特異的に結合する。さらに別の実施形態では、抗体は、類似の親和性でヒトA2aRおよび/またはカニクイザルA2aRに特異的に結合する。一実施形態では、抗体は、非霊長類A2aRに結合しない、またはヒトA2aRおよび/もしくはカニクイザルA2aRの親和性よりも有意に低い親和性で非霊長類A2aRに結合する。なお別の実施形態では、抗体は、細胞内cAMPの産生を低減させる。一実施形態では、抗体は、組織中のcAMPの濃度を低減させる。一実施形態では、抗体は、cAMPの細胞内濃度を低減させる。別の実施形態では、抗体は、組織中のcAMPの細胞外濃度を低減させる。本発明の種々の態様およびその実施形態では、カニクイザルA2aRは、配列番号51に示される配列を含む。
【0031】
一態様では、本発明は、ヒトA2aRへの結合について、任意の態様の抗体と競合する単離された抗原結合分子、例えば、抗体を提供する。
【0032】
一実施形態では、抗原結合分子、例えば、抗体は、ヒト化抗体またはキメラ抗体である。別の実施形態では、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgMから選択されるクラスの重鎖定常領域を含む。なお別の実施形態では、抗体は、クラスIgGの重鎖定常領域を含み、IgGは、IgG4、IgG1、IgG2およびIgG3からなる群から選択される。
【0033】
別の態様では、本発明は、任意の態様およびその種々の実施形態の抗原結合分子、例えば、抗体、そのHCVR、そのLCVR、その軽鎖、その重鎖、またはその抗原結合断片をコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。
【0034】
なお別の態様では、本発明は、ポリヌクレオチドを含む(includes comprising the polynucleotide)発現ベクターを提供する。
【0035】
さらに別の態様では、本発明は、ポリヌクレオチドまたは発現ベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0036】
一態様では、本発明は、任意の態様およびその種々の実施形態の抗原結合分子、例えば、抗体を産生する方法を提供する。方法は、組換え細胞において抗体を発現させるステップおよび発現された抗体を単離するステップを含む。
【0037】
一態様では、本発明は、医薬組成物を提供する。医薬組成物は、任意の態様およびその種々の実施形態の抗原結合分子、例えば、抗体と、薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む。
【0038】
一実施形態では、医薬組成物中の抗体は、(a)細胞表面のヒトまたはカニクイザルA2aRに特異的に結合する;(b)組織中のcAMP濃度を低減させる;(c)ヒトA2aRの活性を阻害する;(d)A2aRシグナル経路のcAMP応答エレメントのリン酸化を低減させる;e)免疫細胞の免疫応答を改善する;f)タンパク質キナーゼA活性を低減させる;および(g)(a)~(f)の任意の組合せに有効な量である。別の実施形態では、組織中のcAMP濃度(the cAMP concentration is a tissue)の低減は、ベースラインレベルと比較した、細胞内cAMP産生の低減ならびに/またはcAMPの細胞内および/もしくは細胞外濃度の低減を介して達成される。なお別の実施形態では、A2aR活性の阻害は、アデノシンの生理活性の阻害を介して達成される。
【0039】
一態様では、本発明は、細胞表面上で発現されたA2aRの活性を阻害する方法であって、細胞を、任意の態様の単離された抗体または任意の態様の医薬組成物と接触させるステップを含み、それにより、細胞においてA2aR活性を阻害する、方法を提供する。一実施形態では、A2aRの阻害は、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約100%の、組織中のcAMP濃度の低減を生じる。別の実施形態では、方法は、がんまたは神経変性疾患を処置する際に使用される。なお別の実施形態では、抗原結合分子、例えば、抗体は、A2aR活性を、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%または約100%阻害する。別の実施形態では、方法は、がんまたは神経変性疾患を処置する際に使用される。
【0040】
別の態様では、本発明は、対象において免疫応答を増強する方法を提供する。方法は、任意の態様の単離された抗体または任意の態様の医薬組成物を対象に投与するステップを含み、それにより、対象において免疫応答を増強する。一実施形態では、免疫応答には、a)エフェクターT細胞機能を促進すること;b)Treg活性を低減すること;c)Treg拡大増殖を防止すること;d)NK細胞機能を増強すること;e)抗原提示細胞の1型活性化を促進すること;またはf)腫瘍微小環境における免疫抑制を低減することが含まれるがこれらに限定されない。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、免疫応答を、ベースラインレベルと比較して、少なくとも約10%、約20%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約1倍、約2倍、約4倍またはそれよりも大きく増加させる。
【0041】
なお別の態様では、本発明は、対象において腫瘍の成長を阻害する方法を提供する。方法は、任意の態様の単離された抗体または任意の態様の医薬組成物を対象に投与するステップを含み、それにより、腫瘍の成長を阻害する。
【0042】
さらに別の態様では、本発明は、対象においてがんを処置する方法であって、任意の態様の単離された抗体または態様の医薬組成物を投与するステップを含み、それにより、がんを処置する、方法を提供する。一実施形態では、がんは、本明細書に記載される任意のがんである。特定の一実施形態では、がんは、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)、膵管腺癌(PDAC)、転移性去勢抵抗性前立腺(mCRPC)、腎細胞癌(RCC)、多発性骨髄腫、結腸直腸がん(CRC)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の群から選択される。
【0043】
さらに別の態様では、本発明は、対象において神経変性疾患を処置する方法であって、任意の態様の単離された抗体または態様の医薬組成物を投与するステップを含み、それにより、神経変性疾患を処置する、方法を提供する。
【0044】
一実施形態では、上記態様のうちいずれかの方法は、T細胞を活性化し、T細胞が腫瘍標的細胞を死滅させるように方向付ける結果をもたらす。
【0045】
別の実施形態では、上記態様のうちいずれかの方法は、さらなる治療剤を投与するステップをさらに含む。一実施形態では、さらなる治療剤には、本明細書に記載される任意の治療剤が含まれる。別の実施形態では、さらなる治療剤は、抗腫瘍剤、放射線療法、化学療法剤、手術、がんワクチン、免疫細胞の刺激受容体に対するアゴニスト、サイトカイン、細胞治療、またはチェックポイント阻害剤を含む。一実施形態では、さらなる治療剤は、多特異性抗体、例えば、二特異性抗体が含まれる抗体である。
【0046】
なお別の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、PD-1、PD-L1、TIGIT、CTLA-4、PD-1、PD-Ll、PD-L2、LAG-3、TIM-3、ニューリチン、BTLA、CECAM-1、CECAM-5、IL-1R8、VISTA、LAIR1、LILRB1、LILRB2、LILRB3、LILRB4、LILRB5、CD96、CD112R、CD160、2B4、TGFβ-R、KIR、NKG2A、およびそれらの任意の組合せを阻害する薬剤である。さらに別の実施形態では、チェックポイント阻害剤は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害し、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、BMS-936559、シンチリマブ(sintilimab)、トリパリマブ、チスレリズマブ、カムレリズマブ、スゲマリマブ、ペンプリマブ(penpulimab)、カドニリマブ(cadonilimab)、スルファモノメトキシン1およびスルファメチゾール2からなる群から選択される薬剤である。一実施形態では、CTLA阻害剤は、イピリムマブ、カドニリマブ、YH001(Encure Biopharma)である。
【0047】
なお別の実施形態では、さらなる治療剤は、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1、ICOS(CD278)、4-1 BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、NKG2D、SLAMF7、NKp46、NKp80、CD160、B7-H3、CD83リガンド、およびそれらの任意の組合せから選択される免疫細胞の刺激受容体に対するアゴニストである。
【0048】
一実施形態では、さらなる治療剤は、抗体と同じ医薬組成物中に製剤化される。別の実施形態では、さらなる治療剤は、抗体とは異なる医薬組成物中に製剤化される。
【0049】
なお別の実施形態では、さらなる治療剤は、種々の態様の抗原結合分子、例えば、抗体の前に投与される。さらに別の実施形態では、さらなる治療剤は、抗体を投与するステップの後に、抗原結合分子(antigen biding molecule)、例えば、抗体の後に投与される。別の実施形態では、さらなる治療剤は、抗原結合分子、例えば、抗体と併せて投与される。
【0050】
一態様では、本発明は、キットを提供する。キットは、任意の態様の医薬組成物を含む医薬組成物を含む。一実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載されるさらなる治療剤のうちいずれか1種または複数をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】
図1は、ヒトA2aRコードDNA免疫によって誘導された、マウス血清中のヒトA2aRに対する抗体価を示すグラフである(1つの曲線は1つのマウス血清を示す)。8匹のマウス(M1~M8)からの血清を、フローサイトメトリーアッセイによって、ヒトA2aR過剰発現Expi293細胞への結合を介して決定される抗体価について試験した。MFI:平均蛍光強度。
【0052】
【
図2】
図2は、4種のハイブリドーマクローン1B5-3D7、3F6-9G5、3F8-12E9および8D5-16E2のハイブリドーマ細胞培養培地から単離された抗A2aR抗体の結合を示す蛍光活性化細胞選別(FACS)プロットを含む。本明細書で使用される場合、クローン名称、即ち、1B5-3D7、3F6-9G5、3F8-12E9および8D5-16E2は、文脈に応じて、これらのクローンから単離されたモノクローナル抗体もまた示す。Expi293:Expi293細胞;A2aR/Expi293:ヒトA2aRを発現するベクターでトランスフェクトされたExpi293細胞。
【0053】
【
図3】
図3は、ハイブリドーマ培地から精製されたIgG分子型全体の本発明の例示的な抗体を用いた細胞ベースのcAMPアッセイにおける、抗ヒトA2aR mAb 1B5-3D7、3F6-9G5、3F8-12E9および8D5-16E2のin vitro遮断活性を示すグラフである。RLU:相対光単位;ZM241385:小分子A2aRアンタゴニスト(Sigma、Cat.Z0153)。
【0054】
【
図4】
図4は、本発明の例示的な抗体の配列をコードするベクターで一過的にトランスフェクトされたExpi293細胞の培養物上清から精製された組換えIgG分子型全体の本発明の例示的な抗体を用いた細胞ベースのcAMPアッセイにおける、抗ヒトA2aR mAb 1B5-3D7および3F6-9G5のin vitro遮断活性を示すグラフである。
【0055】
【
図5】
図5は、本発明の例示的な抗体1B5-3D7および3F6-9G5が、細胞表面上で発現されたヒトA2aRに特異的に結合することを示すグラフである。グラフは、他の供給源由来の抗ヒトA2aR抗体の、細胞表面上で発現されたヒトA2aRへの結合が、検出されないまたは弱いこともまた示している。1B5:1B5-3D7;3F6:3F6-9G5;MAB9497:ヒトアデノシンA2aR抗体、R&D Systems、Cat.MAB9497;SDIX-10:米国特許出願公開第2014/0322236A1号に開示されるヒトアデノシンA2aR抗体、クローン864H10;SDIX-14:米国特許出願公開第2014/0322236A1号に開示されるヒトアデノシンA2aR抗体、クローン864H14;mIgG2a iso:マウスIgG2aアイソタイプ対照;hIgG1 iso:ヒトIgG1アイソタイプ対照。
【0056】
【
図6-1】
図6は、本発明の例示的な抗体3F6-9G5が、ヒトおよびカニクイザル末梢血単核球(PBMC)由来のCD8
+CD3
+CD8 T細胞およびCD8
-CD3
+CD4 T細胞の細胞表面上で発現されたヒトA2aRおよびカニクイザルA2aRに結合することを示すフローサイトメトリーアッセイドットプロットを含む。GMI:幾何平均蛍光強度。
【
図6-2】
図6は、本発明の例示的な抗体3F6-9G5が、ヒトおよびカニクイザル末梢血単核球(PBMC)由来のCD8
+CD3
+CD8 T細胞およびCD8
-CD3
+CD4 T細胞の細胞表面上で発現されたヒトA2aRおよびカニクイザルA2aRに結合することを示すフローサイトメトリーアッセイドットプロットを含む。GMI:幾何平均蛍光強度。
【発明を実施するための形態】
【0057】
詳細な説明
本発明および添付の図面は、当業者が本発明を実施することを可能にするためにここで考察される。しかし、当業者は、以下に記載される発明が、これらの具体的な詳細を用いることなしに実施され得ること、または本明細書に記載される目的以外の目的のために使用され得ることを理解する。実際、本発明は、本開示を考慮して、改変され得、当業者に公知の生成物および技法と併せて使用され得る。図面および説明は、本発明の種々の態様の例示を意図しており、添付の特許請求の範囲を狭めることを意図しない。さらに、図面が、本発明の態様を切り離して示している場合があり、1つの図中の要素が、他の図中に示される要素と併せて使用され得ることが理解される。
【0058】
態様、特色、利点または類似の言語に対する本明細書全体を通じた言及は、本発明を用いて実現され得る全ての態様および利点が、本発明のいずれか単一の実施形態にあるはずである、またはその中にあるということを意味しないことが理解される。むしろ、態様および利点に言及する言語は、実施形態と併せて記載された具体的な態様、特色、利点または特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態中に含まれることを意味すると理解される。したがって、本明細書全体を通じた態様および利点の考察、ならびに類似の言語は、同じ実施形態を指し得るが、必ずしも指すわけではない。
【0059】
本発明の記載された態様、特色、利点および特徴は、1つまたは複数のさらなる実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされ得る。さらに、当業者は、本発明が、特定の実施形態の具体的な態様または利点のうち1つまたは複数なしに実施され得ることを認識する。他の例では、さらなる態様、特色および利点は、認識され、本発明の全ての実施形態中に存在していなくてもよいある特定の実施形態で特許請求され得る。
【0060】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本出願が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。当業者は、本発明の態様および実施形態の実施において使用され得る、ここで記載されるものと類似または等価な多くの技法および材料を認識する。本出願の記載された態様および実施形態は、記載された方法および材料に限定されない。
【0061】
さらに、本発明における教示に関して、本出願に記載される任意の引用された参考文献、任意の発行された特許または特許出願公報は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0062】
I.定義
本発明がより容易に理解できるように、ある特定の用語が最初に定義される。さらに、パラメーターの値またはその値の範囲が列挙されるときには、列挙された値の中間の値および範囲もまた、本発明の一部であることが意図されることが意図されることに留意すべきである。
【0063】
(特に、以下の特許請求の範囲との関連で)本発明を記載するという状況では、用語「1つの(a)」および「1つの(an)」および「その(the)」ならびに類似の指示対象の使用は、本明細書に他に示さない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数形および複数形(即ち、1つまたは複数)の両方をカバーすると解釈すべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含有する(containing)」は、特記しない限り、オープンエンドの用語(即ち、「~が含まれるがこれらに限定されない」を意味する)と解釈すべきである。本明細書の値の範囲の列挙は、本明細書で他に示さない限り、列挙されたまたはその範囲内に入る各別々の値に個々に言及する略記法として機能することを単に意図しており、各別々の値は、それがあたかも個々に列挙されたかのように、本明細書に組み込まれる。
【0064】
語句「一実施形態では」、「別の実施形態では」、「他の実施形態では」、「一部の実施形態では」または「ある特定の実施形態では」が使用される場合、本開示は、特色が互いに組み合わせ不能でない限り、相互に排他的でない限り、または本明細書で明示的に権利放棄されない限り、そこに記載される異なる実施形態を定義する特色のいずれかの組合せを包含すると解釈すべきである。
【0065】
用語「約」または「およそ」は通常、所与の値または範囲の10%以内、好ましくは5%以内、またはより好ましくは1%以内を意味する。
【0066】
範囲は、「約」1つの特定の値から、および/または「約」別の特定の値までとして、本明細書で表され得る。かかる範囲が表される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、値が、先行する「約」の使用によって近似値として表される場合、特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。範囲の各々の終点は、他の終点と関連しておよび他の終点とは独立しての両方で重要であることがさらに理解される。いくつかの値が本明細書で開示されること、および各値が、その値自体に加えて「約」その特定の値としても本明細書で開示されることも理解される。例えば、値「10」が開示されている場合には、「約10」もまた開示されている。ある値が開示される場合、当業者によって適切に理解されるように、(即ち、その値)「未満またはそれと等しい」、(即ち、その値)「よりも大きいまたはそれと等しい」、および値間の可能な範囲もまた開示されていることも理解される。例えば、値「10」が開示されている場合、「10未満またはそれと等しい」ならびに「10よりも大きいまたはそれと等しい」もまた開示されている。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「薬剤」は、任意の物質、化合物(例えば、分子)、超分子複合体、材料、またはそれらの組合せもしくは混合物に関して使用される。化合物は、化学式、化学構造または配列によって示され得る任意の薬剤であり得る。薬剤の例には、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸(例えば、RNAi剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー)、脂質、多糖などが含まれる。一般に、薬剤は、当該分野で公知の任意の適切な方法を使用して得られ得る。当業者は、例えば、薬剤の性質に基づいて、適切な方法を選択する。薬剤は、少なくとも部分的に精製され得る。一部の実施形態では、薬剤は、種々の実施形態では、薬剤に加えて、例えば、対イオン、水性もしくは非水性の希釈剤もしくは担体、バッファー、保存剤、または他の成分を含有し得る組成物の一部として提供され得る。一部の実施形態では、薬剤は、塩、エステル、水和物または溶媒和物として提供され得る。一部の実施形態では、薬剤は、例えば、細胞によって取り込まれる典型的な薬剤の範囲内では、細胞透過性であり、生物学的効果を生じるために、細胞内で、例えば、哺乳動物細胞内で作用する。ある特定の化合物は、特定の幾何形態または立体異性形態で存在し得る。シス-およびトランス-異性体、E-およびZ-異性体、R-およびS-エナンチオマー、ジアステレオマー、(D)-異性体、(L)-異性体、(-)-および(+)-異性体、それらのラセミ混合物、ならびにそれらの他の混合物が含まれるかかる化合物が、他に示さない限り、本開示によって種々の実施形態において包含される。ある特定の化合物は、種々の(in a variety or)プロトン化状態で存在し得る、種々の配置を有し得る、(例えば、水との(即ち、水和物)または一般的な溶媒との)溶媒和物として存在し得る、および/または異なる結晶形態(例えば、多形)もしくは異なる互変異性形態を有し得る。かかる代替的なプロトン化状態、配置、溶媒和物および形態を示す実施形態は、適用可能な場合、本開示によって包含される。
【0068】
ある特定の実施形態では、文脈に依存して、「薬剤」には、処置の方法、例えば、放射線療法、化学療法または手術もまた含まれる。
【0069】
用語「アミノ酸」は、20種の一般的な天然に存在するアミノ酸を指す。天然に存在するアミノ酸には、アラニン(Ala;A)、アルギニン(Arg;R)、アスパラギン(Asn;N)、アスパラギン酸(Asp;D)、システイン(Cys;C);グルタミン酸(Glu;E)、グルタミン(Gin;Q)、グリシン(Gly;G);ヒスチジン(His;H)、イソロイシン(He;I)、ロイシン(Leu;L)、リシン(Lys;K)、メチオニン(Met;M)、フェニルアラニン(Phe;F)、プロリン(Pro;P)、セリン(Ser;S)、スレオニン(Thr;T)、トリプトファン(Trp;W)、チロシン(Tyr;Y)およびバリン(Val;V)が含まれる。
【0070】
用語「アンタゴニスト」または「阻害剤」は、別の分子、例えば、受容体の生物活性または生物学的効果を防止する、遮断する、阻害する、中和するまたは低減させる物質を指す。
【0071】
用語「アゴニスト」は、別の分子の生物活性または生物学的効果を促進する(即ち、誘導する、引き起こす、増強する、または増加させる)物質を指す。アゴニストという用語は、受容体に結合する物質、例えば、抗体、および受容体に結合することなしに(例えば、関連のタンパク質を活性化することによって)受容体機能を促進する物質を包含する。
【0072】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、特定の抗原(例えば、A2aR)に特異的に結合するまたはそれと特異的に相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子または分子複合体を意味する。用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖:2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにそれらのマルチマー(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書でHCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン:CH1、CH2およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でLCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在した相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域へとさらに細分され得る。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に以下の順序で整列された、3つのCDRおよび4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる実施形態では、抗A2aR抗体(またはその抗原結合断片)のFRは、マウスもしくはヒトの生殖系列配列と同一であり得、または天然にもしくは人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つまたはそれよりも多くのCDRの並列解析に基づいて定義され得る。
【0073】
用語「抗体」には、本明細書で使用される場合、完全抗体分子の抗原結合断片もまた含まれる。抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語には、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に取得可能な、合成の、または遺伝子操作されたポリペプチドまたは糖タンパク質が含まれる。抗体の抗原結合断片は、任意の適切な標準技法、例えば、タンパク質分解消化、または抗体可変ドメインおよび必要に応じて定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む組換え遺伝子操作技法を使用して、例えば、完全抗体分子から誘導され得る。かかるDNAは、公知であり、および/または例えば、商業的供給源、DNAライブラリー(例えば、ファージ-抗体ライブラリーが含まれる)から容易に入手可能であり、または合成され得る。DNAは、配列決定され得、例えば、1つもしくは複数の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを適切な配置に整列させるため、またはコドンを導入するため、システイン残基を創出するため、アミノ酸を改変、付加もしくは欠失させるためなどに、化学的に、または分子生物学の技法を使用することによって、操作され得る。
【0074】
抗原結合断片の非限定的な例には、(i)Fab断片;(ii)F(ab’)2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;および(vii)抗体の超可変領域(例えば、単離された相補性決定領域(CDR)、例えば、CDR3ペプチド)を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位、または拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドが含まれる。他の操作された分子、例えば、ドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小モジュラー免疫医薬品(SMIP)、およびサメ可変IgNARドメインもまた、本明細書で使用される場合、表現「抗原結合断片」内に包含される。
【0075】
抗体の抗原結合断片は、典型的には、少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズまたはアミノ酸組成のものであり得、1つもしくは複数のフレームワーク配列に隣接する、またはそれとインフレームの、少なくとも1つのCDRを一般に含む。VLドメインと会合したVHドメインを有する抗原結合断片では、VHドメインおよびVLドメインは、任意の適切な整列で、互いに対して置かれ得る。例えば、可変領域は、ダイマーであり、VH-VH、VH-VLまたはVL-VLダイマーを含有し得る。あるいは、抗体の抗原結合断片は、モノマーVHドメインまたはVLドメインを含有し得る。
【0076】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合により連結された少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本発明の抗体の抗原結合断片内で見出され得る可変ドメインおよび定常ドメインの非限定的な例示的な配置には、(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;および(xiv)VL-CLが含まれる。上に列挙された例示的な配置のいずれかが含まれる、可変ドメインおよび定常ドメインの任意の配置において、可変ドメインおよび定常ドメインは、互いに直接連結され得るか、または完全なもしくは部分的なヒンジ領域もしくはリンカー領域によって連結され得る。ヒンジ領域は、単一のポリペプチド分子中の隣接する可変および/または定常ドメイン間の可撓性または半可撓性の連結を生じる、少なくとも2つの(例えば、5、10、15、20、40、60個またはそれよりも多くの)アミノ酸からなり得る。さらに、抗原結合断片は、互いにおよび/または1つもしくは複数のモノマー性VHドメインまたはVLドメインと(例えば、ジスルフィド結合(複数可)によって)非共有結合により会合した、上で列挙された可変ドメインおよび定常ドメインの配置のいずれかのホモ-ダイマーまたはヘテロ-ダイマー(または他のマルチマー)を含み得る。
【0077】
完全抗体分子と同様、抗原結合断片は、単一特異性または多特異性(例えば、二特異性)であり得る。抗体の多特異性抗原結合断片は、少なくとも2つの異なる可変ドメインを典型的には含み、各可変ドメインは、別々の抗原に、または同じ抗原上の異なるエピトープに、特異的に結合することが可能である。本明細書で開示される例示的な二特異性抗体型が含まれる任意の多特異性抗体型は、当該分野で利用可能な慣用的な技法を使用して、本発明の抗体の抗原結合断片に関連する使用のために適応され得る。
【0078】
本発明の抗体は、単離された抗体であり得る。「単離された」分子、例えば、単離された抗体または単離されたポリペプチドは、本明細書で使用される場合、同定され、その天然の環境の少なくとも1つの構成成分から分離および/または回収された分子、例えば、抗体を意味する。例えば、生物の少なくとも1つの構成成分から、または抗体が天然に存在するもしくは天然に産生される組織もしくは細胞から分離されたまたは取り出された分子、例えば、抗体は、本発明の目的のために、「単離された」分子、例えば、抗体である。単離された分子、例えば、抗体には、組換え細胞内のin situの分子、例えば、抗体も含まれる。ある特定の実施形態では、単離された分子、例えば、抗体は、少なくとも1回の精製または単離ステップに供された分子、例えば、抗体である。ある特定の実施形態によれば、単離された分子、例えば、抗体は、他の細胞性材料および/または化学物質を実質的に含まなくてもよい。
【0079】
本発明は、A2aRに結合するワンアーム抗体もまた含む。本明細書で使用される場合、「ワンアーム抗体」は、単一の抗体重鎖および単一の抗体軽鎖を含む抗原結合分子を意味する。本発明のワンアーム抗体は、表1~9に示されるHCVR/LCVRまたはCDRのアミノ酸配列のいずれかを含み得る。
【0080】
本明細書の抗A2aR抗体またはその抗原結合ドメインは、抗原結合分子または抗原結合ドメインが由来した対応する生殖系列配列と比較して、重鎖および軽鎖の可変ドメインのフレームワークおよび/またはCDR領域中に1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入および/または欠失を含み得る。かかる変異は、本明細書で開示されるアミノ酸配列を、例えば、公的抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって、容易に解明され得る。本発明は、本明細書で開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体およびその抗原結合ドメインを含み、1つまたは複数のフレームワークおよび/またはCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸は、抗体が由来した生殖系列配列の対応する残基(複数可)に、または別のヒト生殖系列配列の対応する残基(複数可)に、または対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に、変異される(かかる配列変化は、本明細書で集合的に「生殖系列変異」と呼ばれる)。本明細書で開示される重鎖および軽鎖の可変領域配列で開始して、当業者は、1つもしくは複数の個々の生殖系列変異またはそれらの組合せを含む多数の抗体および抗原結合断片を容易に産生することができる。ある特定の実施形態では、VHドメインおよび/またはVLドメイン内の全てのフレームワークおよび/またはCDR残基は、抗体が由来した元の生殖系列配列中に見出される残基に復帰変異される。他の実施形態では、ある特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸内もしくはFR4の最後の8アミノ酸内で見出される変異した残基のみ、またはCDR1、CDR2もしくはCDR3内で見出される変異した残基のみが、元の生殖系列配列に復帰変異される。他の実施形態では、フレームワークおよび/またはCDR残基(複数可)のうち1つまたは複数は、異なる生殖系列配列(即ち、抗体が元々由来した生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)に変異される。さらに、本発明の抗体またはその抗原結合ドメインは、フレームワークおよび/またはCDR領域内の2つまたはそれよりも多くの生殖系列変異の任意の組合せを含有し得、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異されるが、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持される、または異なる生殖系列配列の対応する残基に変異される。一旦得られると、1つまたは複数の生殖系列変異を含有する抗体またはその抗原結合断片は、1つまたは複数の所望の特性、例えば、改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善または増強されたアンタゴニスト性またはアゴニスト性生物特性(場合によって)、低減された免疫原性などについて、容易に試験され得る。この一般的な方法で得られた抗体またはその抗原結合断片は、本発明内に包含される。
【0081】
本発明は、本明細書で開示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む抗A2aR抗体もまた含む。本発明のこの態様内に含まれる例示的なバリアントには、1つまたは複数の保存的置換を有する、本明細書で開示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントが含まれる。例えば、本発明は、本明細書の表に示されるHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列のいずれかと比べて、例えば、10個またはそれよりも少ない、8つまたはそれよりも少ない、6つまたはそれよりも少ない、4つまたはそれよりも少ないなどの保存的アミノ酸置換を有するHCVR、LCVRおよび/またはCDRアミノ酸配列を有する抗A2aR抗体および抗原結合タンパク質を含む。
【0082】
軽鎖は、カッパまたはラムダ(lambdamko)(K、λ)のいずれかとして分類される。各重鎖クラスは、カッパ軽鎖またはラムダ軽鎖のいずれかと結合され得る。一般に、軽鎖と重鎖とは、互いに共有結合され、2つの重鎖の「テイル」部分は、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞または遺伝子操作された宿主細胞のいずれかによって生成される場合、共有ジスルフィド結合または非共有結合によって互いに結合される。重鎖では、アミノ酸配列は、Y配置フォーク型末端のN末端から、各鎖の下部のC末端に及ぶ。
【0083】
本明細書で使用される場合、用語「軽鎖定常領域」または「CL」は、抗体軽鎖に由来するアミノ酸配列に関して、本明細書で相互交換可能に使用される。好ましくは、軽鎖定常領域は、定常カッパドメインまたは定常ラムダドメインのうち少なくとも1つを含む。
【0084】
本明細書で使用される場合、用語「重鎖定常領域」は、免疫グロブリン重鎖に由来するアミノ酸配列を含む。重鎖定常領域を含むポリペプチドは、以下のうち少なくとも1つを含む:CH1ドメイン、ヒンジ(例えば、上部、中央部および/または下部ヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらのバリアントもしくは断片。例えば、本開示における使用のための抗原結合ポリペプチドは、CH1ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部分、およびCH2ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメインおよびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖;CH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部分、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖、またはCH1ドメイン、ヒンジドメインの少なくとも一部分、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含むポリペプチド鎖、を含み得る。一部の実施形態では、本開示のポリペプチドは、CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む。さらに、本開示における使用のための抗体は、CH2ドメインの少なくとも一部分(例えば、CH2ドメインの全てまたは一部)を欠如し得る。重鎖定常領域は、アミノ酸配列が天然に存在する免疫グロブリン分子とは異なるように改変され得ることを理解すべきである。
【0085】
本明細書で開示される抗体の重鎖定常領域は、異なる免疫グロブリン分子に由来し得る。例えば、ポリペプチドの重鎖定常領域は、IgG1分子に由来するCH1ドメインおよびIgG3分子に由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖定常領域は、IgG1分子に一部由来し、IgG3分子に一部由来するヒンジ領域を含み得る。別の例では、重鎖部分は、IgG1分子に一部由来し、IgG4分子に一部由来するキメラヒンジを含み得る。
【0086】
「軽鎖-重鎖対」は、軽鎖のCLドメインと重鎖のCH1ドメインとの間でジスルフィド結合を介してダイマーを形成し得る軽鎖および重鎖の集合体を指す。
【0087】
種々の免疫グロブリンクラスの定常領域のサブユニット構造および三次元配置は、周知である。本明細書で使用される場合、用語「VHドメイン」には、免疫グロブリン重鎖のN末端可変ドメインが含まれ、用語「CH1ドメイン」には、免疫グロブリン重鎖の最初の(最もN末端側の)定常領域ドメインが含まれる。CH1ドメインは、VHドメインに隣接し、免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域に対してN末端側である。
【0088】
本明細書で使用される場合、用語「CH2ドメイン」には、例えば、従来の番号付けスキームを使用して抗体の約残基244から残基360(残基244~360、Kabat番号付けシステム;および残基231~340、EU番号付けシステム)へと伸びる重鎖分子の部分が含まれる。CH2ドメインは、別のドメインと密接に対形成しないという点で、独自である。むしろ、2つのN結合型分岐炭水化物鎖が、インタクトなネイティブIgG分子の2つのCH2ドメイン間に挟まれている。CH3ドメインは、CH2ドメインからIgG分子のC末端へと伸び、およそ108残基を含む。
【0089】
本明細書で使用される場合、用語「ヒンジ領域」には、CH1ドメインをCH2ドメインにつなぐ重鎖分子の部分が含まれる。このヒンジ領域は、およそ25残基を含み、可撓性であり、そうして、2つのN末端抗原結合領域が独立して動くことを可能にする。ヒンジ領域は、3つの別個のドメイン:上部、中央部および下部ヒンジドメインへと細分され得る。
【0090】
本明細書で使用される場合、用語「ジスルフィド結合」は、2つの硫黄原子間で形成される共有結合を含む。アミノ酸システインは、第2のチオール基とジスルフィド結合または架橋を形成することができるチオール基を含む。ほとんどの天然に存在するIgG分子では、CH1領域およびCL領域は、ジスルフィド結合によって連結され、2つの重鎖は、Kabat番号付けシステムを使用して239位および242位(226位または229位、EU番号付けシステム)に対応する位置における2つのジスルフィド結合によって連結される。
【0091】
用語「エピトープ」は、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域中の特異的抗原結合部位と相互作用する抗原決定基を指す。単一の抗原は、1つよりも多くのエピトープを有し得る。したがって、異なる抗体が、抗原上の異なるエリアに結合し得、異なる生物学的効果を有し得る。エピトープは、コンフォメーションまたは線状のいずれかであり得る。コンフォメーションエピトープは、線状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの、空間的に並置されたアミノ酸によって産生される。線状エピトープは、ポリペプチド鎖中の隣接するアミノ酸残基によって産生されるエピトープである。ある特定の状況では、エピトープは、抗原上のサッカリド、ホスホリル基またはスルホニル基の部分を含み得る。
【0092】
用語「実質的な同一性」または「実質的に同一な」は、核酸またはその断片に言及する場合、適切なヌクレオチド挿入または欠失を伴って別の核酸(またはその相補鎖)と最適にアライメントされた場合に、配列同一性の任意の周知のアルゴリズム、例えば、以下で考察されるFASTA、BLASTまたはGapによって測定した場合に、ヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、より好ましくは少なくとも約96%、97%、98%または99%においてヌクレオチド配列同一性が存在することを示している。参照核酸分子に対して実質的な同一性を有する核酸分子は、ある特定の場合には、参照核酸分子によってコードされるポリペプチドと同じまたは実質的に類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードし得る。
【0093】
ポリペプチドに適用される場合、用語「実質的な類似性」または「実質的に類似の」は、デフォルトギャップウェイトを使用して、例えば、プログラムGAPまたはBESTFITによって最適にアライメントされた場合に、2つのペプチド配列が、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%または99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基位置は、保存的アミノ酸置換によって異なる。「保存的アミノ酸置換」は、あるアミノ酸残基が、類似の化学的特性(例えば、電荷または疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換される置換である。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つまたはそれよりも多くのアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、パーセント配列同一性、または類似性の程度は、置換の保存的性質に対して補正するために、上向きに調整され得る。この調整を行うための手段は、当業者に周知である。例えば、Pearson (1994) Methods Mol. BioI. 24: 307-331を参照されたい。類似の化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例には、以下が含まれる:(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリンおよびスレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギンおよびグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リシン、アルギニン、およびヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸およびグルタミン酸、ならびに(7)硫黄含有側鎖は、システインおよびメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換群は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸およびアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的置き換えは、Gonnet et al. (1992) Science 256: 1443-1445に開示されるPAM250対数尤度行列においてプラスの値を有する任意の変化である。「中程度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度行列において非負値を有する任意の変化である。
【0094】
配列同一性とも呼ばれる、ポリペプチドについての配列類似性は、典型的には、配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換が含まれる、種々の置換、欠失および他の改変に割り当てられた類似性の尺度を使用して、類似の配列をマッチさせる。例えば、GCGソフトウェアは、密接に関連するポリペプチド、例えば、異なる種の生物由来の相同なポリペプチド間の、または野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性または配列同一性を決定するために、デフォルトパラメーターと共に使用され得るプログラム、例えば、GapおよびBestfitを含有する。例えば、GCGバージョン6.1を参照されたい。ポリペプチド配列は、デフォルトまたは推奨されたパラメーターを使用するGCGバージョン6.1中のプログラムFASTAを使用して比較することもできる。FASTA(例えば、FASTA2およびFASTA3)は、クエリ配列と検索配列との間の最良の重複の領域のアライメントおよびパーセント配列同一性を提供する(Pearson (2000)上記)。本発明の配列を異なる生物由来の多数の配列を含有するデータベースと比較する場合の別の好ましいアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを使用するコンピュータープログラムBLAST、特に、BLASTPまたはTBLASTNである。例えば、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410およびAltschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-402を参照されたい。
【0095】
用語「抗体」は、生化学的に区別することができる、ポリペプチドの種々の広いクラスを包含する。当業者は、重鎖が、それらの中の一部のサブクラス(例えば、γ1~γ4)を伴って、アルファ、デルタ、イプシロン、ガンマおよびミュー、またはα、δ、ε、γおよびμとして分類されることを理解する。この鎖の性質が、抗体の「クラス」を、それぞれIgG、IgM、IgA、IgGまたはIgEとして決定する。免疫グロブリンサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgG5などは、十分に特徴付けられており、機能特化を付与することが公知である。これらのクラスおよびアイソタイプの各々の改変されたバージョンは、本開示を考慮して当業者に容易に識別可能であり、したがって、本開示の範囲内である。全ての免疫グロブリンクラスは、本開示の範囲内であり、以下の考察は、IgGクラスの免疫グロブリン分子を一般に対象とする。
【0096】
本開示の抗体には、ポリクローナル、モノクローナル、多特異性、二特異性、三特異性、ヒト、ヒト化、霊長類化、キメラおよび単鎖抗体が含まれるがこれらに限定されない。本明細書で開示される抗体は、鳥類および哺乳動物が含まれる任意の動物起源由来であり得る。好ましくは、抗体は、ヒト、マウス、ロバ、ウサギ、ヤギ、モルモット、ラクダ、ラマ、ウマまたはニワトリ抗体である。一部の実施形態では、可変領域は、起源においてコンドリクトイド(condricthoid)であり得る(例えば、サメ由来)。
【0097】
用語「ヒト化抗体」は、本明細書で使用される場合は、ヒト抗体定常ドメインと、ヒト可変ドメインに対する高レベルの配列相同性を含有するように改変された非ヒト可変ドメインとを含有する、遺伝子操作された非ヒト抗体を指す。これは、抗原結合部位を一緒になって形成する6つの非ヒト抗体相補性決定領域(CDR)を、相同なヒトアクセプターフレームワーク領域(FR)上にグラフトすることによって達成され得る。親抗体の結合親和性および特異性を再構成するために、親抗体(即ち、非ヒト抗体)からのフレームワーク残基の、ヒトフレームワーク領域中への置換(復帰変異)が、要求され得る。構造的相同性モデリングは、抗体の結合特性にとって重要なフレームワーク領域中のアミノ酸残基を同定することを助け得る。したがって、ヒト化抗体は、非ヒトCDR配列と、非ヒトアミノ酸配列への1つまたは複数のアミノ酸復帰変異を必要に応じて含む主にヒトのフレームワーク領域と、完全にヒトの定常領域とを含み得る。必要に応じて、必ずしも復帰変異ではないさらなるアミノ酸改変が、好ましい特徴、例えば、親和性および生化学的特性を有するヒト化抗体を得るために適用され得る。
【0098】
本明細書で使用される場合、語句「キメラ抗体」は、免疫反応性の領域または部位が、第1の種から得られるかまたはそれに由来し、定常領域(これは、インタクトであり得る、部分的であり得る、または本開示に従って改変され得る)が第2の種から得られる、抗体を指す。ある特定の実施形態では、標的結合領域または部位は、非ヒト供給源(例えば、マウスまたは霊長類)由来であり、定常領域はヒトである。
【0099】
「単鎖断片可変」または「scFv」は、免疫グロブリンの重鎖の可変領域(VH)と軽鎖の可変領域(VL)との融合タンパク質を指す。一部の態様では、領域は、10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドを用いて接続される。リンカーは、可撓性のためのグリシン、ならびに溶解性のためのセリンまたはスレオニンに富んでいてよく、VHのN末端をVLのC末端と接続し得、その逆も同じであり得る。このタンパク質は、定常領域の除去およびリンカーの導入にもかかわらず、元の免疫グロブリンの特異性を保持する。
【0100】
IgGに関して、標準的な免疫グロブリン分子は、分子量およそ23,000ダルトンの2つの同一な軽鎖ポリペプチド、および分子量53,000~70,000の2つの同一な重鎖ポリペプチドを含む。4つの鎖は、「Y」配置で、ジスルフィド結合によって典型的にはつながれ、ここで、軽鎖は、「Y」の口で始まり可変領域を通じて続く重鎖を挟む。
【0101】
用語「バリアント」は、本明細書で使用される場合、前駆体ポリペプチドまたはポリヌクレオチド(例えば、「親」ポリペプチドまたはポリヌクレオチド)中への1つまたは複数のアミノ酸またはヌクレオチドの挿入、置換または欠失の組み込みによって誘導されるポリペプチド、例えば、抗体、またはポリヌクレオチドを指す。ある特定の実施形態では、バリアントポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、親ポリペプチドまたはポリヌクレオチドのアミノ酸またはヌクレオチド配列全体に対して、少なくとも約85%のアミノ酸またはヌクレオチド配列同一性、例えば、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%または約100%のアミノ酸またはヌクレオチド配列同一性を有する。タンパク質またはペプチドのバリアントは、タンパク質の構造、機能または活性を実質的に維持する。例えば、抗体のバリアントは、その抗原に特異的に結合し、および/または抗原の活性をモジュレートする、例えば、阻害する機能または活性を維持する。ポリヌクレオチドの場合、そのバリアントは、親ポリヌクレオチドのその機能または活性を維持する。例えば、バリアントポリヌクレオチドは、親ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと類似の機能または活性を有するタンパク質またはペプチドをコードし得る。用語「配列同一性」は、本明細書で使用される場合、核酸またはポリペプチド分子の対間の比較、即ち、2つのアミノ酸配列間または2つのヌクレオチド配列間の関連性を指す。一般に、配列は、最も高次のマッチが得られるようにアライメントされる。配列同一性を決定するための方法は、公知であり、2つまたはそれよりも多くの配列間の同一性のパーセンテージを計算することができる市販のコンピュータープログラムによって決定され得る。かかるコンピュータープログラムの典型的な例は、BLASTまたはCLUSTALである。
【0102】
本明細書で使用される場合、用語「特異的結合」または「特異的に結合する」は、結合が生じる環境中での可能な結合パートナー間を識別する能力を指す。一部の実施形態では、他の潜在的抗体が存在する場合に1つの特定の抗原と相互作用する、例えば、優先的に相互作用する抗体は、それが相互作用する抗原に「特異的に結合する」と言われる。一部の実施形態では、特異的結合は、抗体とその標的化された抗原との間の会合の程度を検出または決定することによって評価される;一部の実施形態では、特異的結合は、抗体-抗原複合体の解離の程度を検出または決定することによって評価される。一部の実施形態では、特異的結合は、その標的と別の抗体との間の代替的な相互作用と競合する抗体の能力を検出または決定することによって評価される。一部の実施形態では、特異的結合は、ある範囲の濃度にわたってかかる検出または決定を実施することによって評価される。一般に、抗体は、その抗原結合ドメインを介してエピトープに結合し、この結合は、抗原結合ドメインとエピトープとの間でのいくらかの相補性を必然的に伴う。したがって、抗体は、ランダムな無関係のエピトープに結合する場合よりもより容易に、その抗原結合ドメインを介してエピトープに結合する場合、そのエピトープに「特異的に結合する」と言われる。用語「特異性」は、ある特定の抗体がある特定のエピトープに結合する相対的親和性を適格とするために本明細書で使用される。例えば、抗体「A」は、所与のエピトープに対して抗体「B」よりも高い特異性を有するとみなされ得る、または抗体「A」は、関連のエピトープ「D」に対してそれが有する特異性よりも高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言われ得る。一部の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片が、10-6Mもしくはそれ未満、10-7Mもしくはそれ未満、10-8Mもしくはそれ未満、10-9Mもしくはそれ未満、または10-10Mもしくはそれ未満の解離定数(Kd)で抗原と複合体を形成する場合、抗体または抗体断片は、抗原「に対する特異性を有する」。ある特定の実施形態では、抗原結合分子、例えば、抗ヒトA2aR抗体またはその抗原結合断片の特異的結合は、実施例4~7に記載されるアッセイ、または実質的に類似の方法を使用して、細胞表面上で発現されたヒトA2aRへの抗原結合分子の優先的結合によって示され得る。
【0103】
本明細書で使用される場合、用語「A2aR」は、アデノシンA2A型受容体を指す。例えば、ヒトA2aRへの具体的な言及によって他に示さない限り、用語「A2aR」は、例えば、ヒト、霊長類、げっ歯類、イヌ、ネコ、ウマおよびウシ由来の全ての哺乳動物種のネイティブA2aRを含む。A2aRのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は公知であり、例えば、GenBank受託番号NP_000666.2、NP_033760.2、XP_038954384.1、EHH65694.1、EAW59658.1、XP_015313061.1、NP_445746.3およびXP_001095531.1において見出され得、その各々の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。以下は、例示的なヒトA2aRアミノ酸配列である:
MPIMGSSVYITVELAIAVLAILGNVLVCWAVWLNSNLQNVTNYFVVSLAAADIAVGVLAIPFAITISTGFCAACHGCLFIACFVLVLTQSSIFSLLAIAIDRYIAIRIPLRYNGLVTGTRAKGIIAICWVLSFAIGLTPMLGWNNCGQPKEGKNHSQGCGEGQVACLFEDVVPMNYMVYFNFFACVLVPLLLMLGVYLRIFLAARRQLKQMESQPLPGERARSTLQKEVHAAKSLAIIVGLFALCWLPLHIINCFTFFCPDCSHAPLWLMYLAIVLSHTNSVVNPFIYAYRIREFRQTFRKIIRSHVLRQQEPFKAAGTSARVLAAHGSDGEQVSLRLNGHPPGVWANGSAPHPERRPNGYALGLVSGGSAQESQGNTGLPDVELLSHELKGVCPEPPGLDDPLAQDGAGVS(配列番号50)
【0104】
例示的なカニクイザルA2aRアミノ酸配列は、以下に示される:
VPIMGSSVYITVELAIAVLAILGNVLVCWAVWLNSNLQNVTNYFVVSLAAADIAVGVLAIPFAITISTGFCAACHGCLFIACFVLVLTQSSIFSLLAIAIDRYIAIRIPLRYNGLVTGTRAKGIIAICWVLSFAIGLTPMLGWNNCGQPKEGKNHSQGCGEGQVACLFEDVVPMNYMVYFNFFACVLVPLLLMLGVYLRIFLAARRQLKQMESQPLPGERARSTLQKEVHAAKSLAIIVGLFALCWLPLHIINCFTFFCPDCNHAPLWLMYLAIVLSHTNSVVNPFIYAYRIREFRQTFRKIIRSHVLRQQEPFKAAGTSARVLAAHGSDGEQVSLRLNGHPPGVWANGSAPHPERRPNGYALGLVSGGSTQESQGNTSLPDVELLSHELKGVCPEPPGLDDPLAQGGAGVS(配列番号51)
【0105】
用語「抗A2aR抗体」または「A2aR抗体」は、A2aRに特異的に結合する抗体またはポリペプチドを指す。ある特定の実施形態では、抗A2aR抗体は、A2aR生物活性および/またはA2aRによって媒介される下流のシグナル経路を阻害することができる。抗A2aR抗体は、CDRまたは可変領域の形態で1つまたは複数の抗原結合ドメインを含有する抗体またはポリペプチドを包含する。ある特定の実施形態では、本発明の抗A2aR抗体は、A2aRによって媒介される下流の事象、例えば、A2aR結合および下流のシグナル伝達、腫瘍成長の刺激、抗腫瘍免疫応答の阻害、ならびに免疫低下状態の(immune-compromised)疾患状態における免疫抑制が含まれるA2aR生物活性を(有意に、を含む任意の程度まで)遮断する、アンタゴナイズする、抑制するまたは低減させる。
【0106】
語句「小分子薬物」は、ポリマーではなく、医薬活性を有し、約2kDa未満、約1kDa未満、約900Da未満、約800Da未満または約700Da未満の分子量を有する、しばしば有機または有機金属である分子実体を指す。用語は、タンパク質または核酸以外の「薬物」と呼ばれるほとんどの医薬化合物を包含するが、小さいペプチドまたは核酸アナログは、小分子薬物とみなされ得る。例には、化学療法抗がん薬物および酵素阻害剤が含まれる。小分子薬物は、合成により、半合成により(即ち、天然に存在する前駆体から)、または生物学的に誘導され得る。
【0107】
本明細書で使用される場合、用語「組換え」は、天然には存在せず、通常は一緒には生じない整列でポリヌクレオチドまたはポリペプチドを組み合わせることによって作り出し得る、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。
【0108】
個々のドメイン間にハイフンを用いてポリペプチドドメイン整列を記載する場合(例えば、CH2-CH3)、列挙されたドメインの順序は、N末端からC末端であることを理解すべきである。
【0109】
用語「イムノコンジュゲート」は、共有結合によってペプチドまたは小分子薬物に融合された抗体を指す。ペプチドまたは小分子薬物は、定常重鎖のC末端または可変軽鎖および/もしくは重鎖のN末端に連結され得る。
【0110】
A2aR活性のレベルに関して、用語「阻害する」、「阻害」、「低減させる」および「低減」は、かかるレベルにおける統計的に有意な減少を指す。減少は、例えば、少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%であり得る、または検出方法の検出レベルを下回り得る。例えば、A2aR活性の阻害または低減は、実施例4に記載される方法を使用して、細胞内cAMP濃度の減少によって決定され得る。
【0111】
用語「処置する」および「処置」は、疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状の寛解を指す。このように、これらの用語は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状の開始の予防もしくは遅延;疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状の重症度もしくは頻度の低下;任意の客観的もしくは主観的パラメーター、例えば、軽減;軽快;症状の減弱、または傷害、病態もしくは状態を、患者にとってより容認できるものにすること;変性もしくは減退の速度における減速;変性の最終点をあまり衰弱性でなくすること;および/あるいは患者の肉体的もしくは精神的健康状態を改善することが含まれる、傷害、疾患、病態または状態の治療または寛解における成功の任意の兆候を指す。「処置すること」および「処置」には、予防的処置も含まれ得る。
【0112】
語句「それを必要とする患者に」、「処置を必要とする患者に」または「処置を必要とする対象」には、細胞増殖性障害の処置のための本開示の抗体の投与から利益を得る対象、例えば、哺乳動物対象が含まれる。
【0113】
用語「予防する」は、患者における疾患症状(例えば、A2aR活性またはその機能に関連する)の発生における減少を指す。上に示されるように、予防は、処置なしで生じる可能性があるものよりも少ない症状が観察されるように、完全(検出可能な症状なし)または部分的であり得る。
【0114】
用語「治療有効量」、「薬理学的有効量」および「生理学的有効量」は、疾患または障害の少なくとも1つの症状を寛解させるのに十分な活性薬剤の量を意味するために、相互交換可能に使用される。例えば、所与のパラメーターについて、治療有効量は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、40%、50%、60%、75%、80%、90%、95%、99%または少なくとも100%の増加または減少を示す。治療有効性は、「~倍」の増加または減少としても表され得る。例えば、治療有効量は、対照を上回る少なくとも1.2倍、1.5倍、2倍、5倍またはそれよりも大きい効果を有し得る。正確な量は、多数の因子、例えば、組成物の特定の活性薬剤、構成成分および物理的特徴、意図した患者集団、体重、性別などが含まれる患者の考慮事項に依存し、本明細書で提供されるまたは関連文献において他の方法で入手可能な情報に基づいて、当業者によって容易に決定され得る。
【0115】
用語「改善する」、「増加させる」または「低減させる」は、この文脈で使用される場合、ベースライン/対照/参照測定値、例えば、本明細書に記載される処置の開始前の細胞もしくは組織における測定値、または本明細書に記載される処置の非存在下での細胞もしくは組織における測定値、本明細書に記載される処置の開始前の同じ個体における測定値、または本明細書に記載される処置の非存在下での対照個体における測定値(または複数の対照個体に由来する標準的測定値、例えば、複数の対照個体の平均値)と比較した値またはパラメーターを示す。
【0116】
「対照個体」は、類似の状態を有する個体、例えば、処置されている個体と同じ細胞増殖性障害に罹患している個体、処置されている個体と同じ程度の年齢の個体(処置個体および対照個体(複数可)における疾患のステージが匹敵することを確実にするため)である。処置されている個体(「患者」または「対象」とも呼ばれる)は、細胞増殖性障害を有する胎児、乳幼児、小児、青年期または成人のヒトであり得る。
【0117】
用語「細胞増殖性障害」は、細胞の異常な増殖によって特徴付けられる障害を指す。増殖性障害は、細胞成長の速度に関するいずれの制限も暗示せず、成長および細胞分裂に影響を与える正常な制御の喪失を示すに過ぎない。したがって、一部の実施形態では、増殖性障害の細胞は、正常細胞と同じ細胞分裂速度を有し得るが、かかる成長を制限するシグナルには応答しない。新生物、がんまたは腫瘍が、「細胞増殖性障害」の範囲内である。
【0118】
用語「がん」は、周囲の組織に侵入するおよび/または新たなコロニー形成部位に転移する能力を有する細胞の増殖によって特徴付けられる種々の悪性新生物のいずれか1つを指し、これには、固形およびリンパ系の両方のがんが含まれる、癌、肉腫、腺癌、黒色腫、白血病、リンパ腫、胚細胞腫瘍および芽腫が含まれる。本発明の組成物および方法に従って処置され得る例示的ながんには、脳、膀胱、乳房、子宮頸部、結腸、頭頸部、腎臓、肺、非小細胞肺、中皮腫、卵巣、前立腺、胃および子宮のがん、白血病、ならびに髄芽腫が含まれる。
【0119】
用語「癌」は、周囲の組織に浸潤し、転移を生じる傾向がある、上皮細胞の悪性成長を指す。例示的な癌には、例えば、腺房(acinar)癌、腺房(acinous)癌、腺様嚢胞癌、腺様嚢胞癌、腺腫性癌(carcinoma adenomatosum)、副腎皮質の癌、肺胞癌、肺胞癌、基底細胞癌(basal cell carcinoma)、基底細胞癌(carcinoma basocellulare)、類基底癌、基底有棘細胞癌、細気管支肺胞上皮癌、細気管支癌、気管支原性癌、大脳様癌、胆管細胞癌、絨毛癌(chorionic carcinoma)、コロイド癌、面疱癌、子宮体癌、篩状癌、鎧状癌、皮膚癌、円柱状癌、円柱細胞癌、腺管癌、硬性癌(carcinoma durum)、胚性癌、脳様癌、類表皮癌、上皮腺様癌(carcinoma epitheliale adenoides)、外方増殖性癌、潰瘍癌(carcinoma ex ulcere)、線維性癌、膠様(gelatiniform)癌、膠様(gelatinous)癌、巨細胞(giant cell)癌、巨細胞癌(carcinoma gigantocellulare)、腺癌(glandular carcinoma)、顆粒膜細胞癌、毛母基癌、血液様癌(hematoid carcinoma)、肝細胞癌、ハースル細胞癌、ヒアリン癌、副腎様(hypemephroid)癌、小児胚性癌、上皮内癌(carcinoma in situ)、表皮内癌、上皮内癌(intraepithelial carcinoma)、Krompecher癌、Kulchitzky細胞癌、大細胞癌、レンズ状癌(lenticular carcinoma)、レンズ状癌(carcinoma lenticulare)、脂肪腫性癌、リンパ上皮癌、髄様癌(carcinoma medullare)、髄様癌(medullary carcinoma)、黒色性癌、軟性癌(carcinoma molle)、粘液性(mucinous)癌、粘液分泌性癌(carcinoma muciparum)、粘液細胞癌(carcinoma mucocellulare)、粘表皮癌、粘膜癌(carcinoma mucosum)、粘液性(mucous)癌、粘液腫性癌(carcinoma myxomatodes)、鼻咽頭(naspharyngeal)癌、燕麦細胞癌、骨化性癌(carcinoma ossificans)、類骨癌、膵管腺癌、乳頭癌、門脈周囲癌、前浸潤癌、有棘細胞癌、粥状癌(pultaceous carcinoma)、腎臓の腎細胞癌、リザーブ細胞癌、肉腫様癌(carcinoma sarcomatodes)、シュナイダー癌、硬性癌(scirrhous carcinoma)、陰嚢癌、印環細胞癌、単純癌、小細胞癌、ソラノイド癌(solanoid carcinoma)、スフェロイド細胞癌(spheroidal cell carcinoma)、紡錘細胞癌、海綿様癌、扁平上皮癌、扁平上皮細胞癌、ストリング癌(string carcinoma)、毛細血管拡張性癌(carcinoma telangiectaticum)、毛細血管拡張性癌(carcinoma telangiectodes)、移行上皮癌、結節癌(carcinoma tuberosum)、結節癌(tuberous carcinoma)、いぼ状癌および絨毛癌(carcinoma villosum)が含まれる。
【0120】
用語「肉腫」は、胚性結合組織などの物質で構成された腫瘍を指し、一般に、繊維状または均質な物質中に包埋されたぎっしり詰まった細胞から構成される。例示的な肉腫には、例えば、軟骨肉腫、線維肉腫、リンパ肉腫、黒色肉腫、粘液肉腫、骨肉腫、Abemethy肉腫、脂肪肉腫(adipose sarcoma)、脂肪肉腫(liposarcoma)、肺胞軟部肉腫、エナメル芽細胞肉腫、ブドウ状肉腫、緑色腫肉腫、絨毛癌(chorio carcinoma)、胚性肉腫、ウィルムス腫瘍肉腫、子宮内膜肉腫、間質肉腫、ユーイング肉腫、筋膜肉腫(fascial sarcoma)、線維芽細胞肉腫、巨細胞肉腫、顆粒球性肉腫、ホジキン肉腫、特発性多発性色素性出血性肉腫(idiopathic multiple pigmented hemorrhagic sarcoma)、B細胞の免疫芽球肉腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫)、T細胞の免疫芽球肉腫、Jensen肉腫、カポジ肉腫、クッパー細胞肉腫、血管肉腫、白血肉腫、悪性間葉腫肉腫、傍骨性肉腫、網状赤血球肉腫、ラウス肉腫、漿液嚢胞性肉腫(serocystic sarcoma)、滑膜肉腫および毛細血管拡張性肉腫が含まれる。
【0121】
用語「黒色腫」は、皮膚および他の臓器のメラニン細胞系から生じる腫瘍を指す。黒色腫には、例えば、末端黒子型黒色腫、無色素性黒色腫、良性若年性黒色腫、クラウドマン黒色腫、S91黒色腫、Harding-Passey黒色腫、若年性黒色腫、悪性黒子型黒色腫、悪性黒色腫、結節性黒色腫、爪下黒色腫および表在拡大型黒色腫が含まれる。
【0122】
用語「リンパ腫」は、リンパ節、脾臓、胸腺および骨髄において主に見出される血球であるリンパ球で始まる、造血系組織およびリンパ系組織に影響を与える一群のがんを指す。リンパ腫の2つの主な型は、非ホジキンリンパ腫およびホジキン病である。ホジキン病は、全ての診断されたリンパ腫のおよそ15%に相当する。これは、リード・シュテルンベルク悪性Bリンパ球に関連するがんである。非ホジキンリンパ腫(NHL)は、がんが成長する速度および関与する細胞の型に基づいて分類され得る。高悪性度(高グレード)および低悪性度(低グレード)のNHLが存在する。関与する細胞の型に基づいて、B細胞およびT細胞NHLが存在する。例示的なB細胞リンパ腫には、小リンパ球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、節外性(MALT)リンパ腫、節性(単球様B細胞)リンパ腫、脾リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫または前駆Bリンパ芽球性リンパ腫が含まれるがこれらに限定されない。例示的なT細胞リンパ腫には、皮膚T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫、菌状息肉症および前駆Tリンパ芽球性リンパ腫が含まれるがこれらに限定されない。
【0123】
用語「白血病」は、血液形成性臓器の進行性の悪性疾患を指し、一般に、血液および骨髄における白血球およびそれらの前駆体のゆがんだ増殖および発生によって特徴付けられる。例示的な白血病には、例えば、急性非リンパ球性白血病、慢性リンパ球性白血病、急性顆粒球性白血病、慢性顆粒球性白血病、急性前骨髄球性白血病、成人T細胞白血病、非白血性白血病、白血球血症性白血病(leukocythemic leukemia)、好塩基球性白血病、芽細胞白血病(blast cell leukemia)、ウシ白血病、慢性骨髄球性白血病、皮膚白血病、胎生細胞性白血病、好酸球性白血病、グロス白血病、ヘアリー細胞白血病、血芽球性白血病(hemoblastic leukemia)、血球芽細胞性白血病(hemocytoblastic leukemia)、組織球性白血病、幹細胞性白血病、急性単球性白血病、白血球減少性白血病、リンパ性白血病、リンパ芽球性白血病、リンパ球性白血病、リンパ行性白血病(lymphogenous leukemia)、リンパ様白血病、リンパ肉腫細胞白血病、マスト細胞白血病、巨核球性白血病、小骨髄芽球性白血病、単球性白血病、骨髄芽球性白血病、骨髄球性白血病、骨髄性顆粒球性白血病、骨髄単球性白血病、ネーゲリ白血病、形質細胞白血病、形質細胞性白血病、前骨髄球性白血病、リーダー細胞白血病、シリング白血病、幹細胞性白血病、亜白血性白血病および未分化細胞白血病が含まれる。
【0124】
さらなるがんには、例えば、多発性骨髄腫、神経芽細胞腫、乳がん、卵巣がん、肺がん、横紋筋肉腫、原発性血小板増加症、原発性マクログロブリン血症、小細胞肺腫瘍、原発性脳腫瘍、胃がん、結腸がん、悪性膵インスリノーマ(insulanoma)、悪性カルチノイド、前悪性皮膚病変、精巣がん、甲状腺がん、神経芽細胞腫、食道がん、泌尿生殖器がん、悪性高カルシウム血症、子宮頸がん、子宮内膜がんおよび副腎皮質がんが含まれる。
【0125】
II.A2aR抗体および抗原結合タンパク質
本発明は、A2aRに特異的に結合するA2aR抗原結合分子を提供する。本明細書で使用される場合、用語「抗原結合分子」は、単独の、または特定の抗原に特異的に結合する1つもしくは複数のさらなるCDRおよび/もしくはフレームワーク領域(FR)と組み合わせた、少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むまたはそれからなるタンパク質、ポリペプチドまたは分子複合体を指す。ある特定の実施形態では、これらの用語は、本明細書の別の箇所で定義されるように、抗原結合分子は、抗体またはその抗原結合断片である。ある特定の実施形態では、本発明の抗原結合分子は、A2aRのその生物機能のうち1つまたは複数を阻害する。
【0126】
ある特定の実施形態では、A2aRは、ヒトA2aRである。例示的なヒトA2aRは、配列番号50に示されるアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、A2aRは、カニクイザルA2aRである。例示的なカニクイザルA2aRは、配列番号51に示されるアミノ酸配列を有する。
【0127】
1.例示的な抗原結合分子の配列
A2aR抗原結合分子は、モノクローナル抗体;1つまたは複数のA2aR抗原結合ドメインを含有する1つまたは複数のポリペプチド断片;あるいは1つまたは複数のA2aR結合ドメインをコードする1つまたは複数の核酸の形態であり得る。
【0128】
本発明の種々の例示的な実施形態では、抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、(1)3つの相補性決定領域(HCDR):HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む重鎖可変領域であって、HCDR1が、配列番号1、4および6からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有し;HCDR2が、配列番号2、5および7からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有し、HCDR3が、配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有する、重鎖可変領域;ならびに(2)3つの相補性決定領域(LCDR):LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む軽鎖可変領域であって、LCDR1が、配列番号25および28からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有し;LCDR2が、配列番号26に示されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有し、LCDR3が、配列番号27および29からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有する、軽鎖可変領域、を含み;抗原結合分子は、ヒトA2aRに特異的に結合する。本発明で開示される例示的な抗ヒトA2aRモノクローナル抗体に対応する例示的なHCDRおよびLCDRアミノ酸配列は、表1~5に示される。
【0129】
CDRのアミノ酸配列境界は、Kabat et al.によって記載されるもの、上記(「Kabat」番号付けスキーム);Al-Lazikani et al., 1997, J. Mol. Biol., 273:927-948によって記載されるもの(「Chothia」番号付けスキーム);MacCallum et al., 1996, J. Mol. Biol. 262:732-745によって記載されるもの(「Contact」番号付けスキーム);Lefranc et al ., Dev. Comp. Immunol., 2003, 27:55-77によって記載されるもの(「IMGT」番号付けスキーム);およびHonegge and Pluckthun, J. Mol. Biol, 2001, 309:657-70によって記載されるもの(「AHo」番号付けスキーム)が含まれる、いくつかの公知の番号付けスキームのいずれかを使用して当業者によって決定され得る;その各々は、その全体が参照により組み込まれる。表1および2は、それぞれKabat番号付けスキームおよびIMGT番号付けスキームに従う、本発明の例示的な抗体の重鎖CDRの配列を示す。表3は、本発明の例示的な抗体の重鎖CDRの配列を示し、表中、CDR配列は、KabatおよびIMGT番号付けスキームに基づくCDRを組み合わせることによって定義される。表4および5は、Kabat番号付けスキームおよびIMGT番号付けスキームに従う、本発明の例示的な抗体の軽鎖CDRの配列を示す。
【0130】
ある特定の実施形態では、本発明は、KabatおよびIMGT番号付けスキーム、またはそれらの組合せに基づいて定義されたCDRを含む抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を含む。したがって、ある特定の実施形態では、本発明は、(1)表2に列挙されるHCDR1配列から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1;(2)表2に列挙されるHCDR2配列から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2;(3)表2に列挙されるHCDR3配列から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3;(4)表5に列挙されるLCDR1配列から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1;(5)表5に列挙されるLCDR2配列から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2;および(6)表5に列挙されるLCDR3配列から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3を含む抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0131】
ある特定の実施形態では、本発明は、(1)表3に列挙されるHCDR1配列から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR1;(2)表3に列挙されるHCDR2配列から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR2;(3)表3に列挙されるHCDR3配列から選択されるアミノ酸配列を有するHCDR3;(4)表4に列挙されるLCDR1配列から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR1;(5)表4に列挙されるLCDR2配列から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR2;および(6)表4に列挙されるLCDR3配列から選択されるアミノ酸配列を有するLCDR3を含む抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0132】
本明細書で使用される場合、CDR中の「位置」は、CDRのN末端から数えたアミノ酸を指す。例えば、HCDR1中の1位は、HCDR1の最初のアミノ酸を指す。したがって、mAB 1B5-3D7では、Kabat番号付けスキームに基づくHCDR1の1位は、アルギニン(R)である。
【0133】
【0134】
本明細書で使用される場合、X1は、SまたはRであり、X2は、YまたはFであり、X3は、SまたはYであり、X4は、AまたはTであり、X5は、HまたはQであり、X6は、HまたはNであり、X7は、DまたはGである。
【0135】
【0136】
本明細書で使用される場合、X8は、AまたはTであり、X9は、RまたはSであり、X10は、FまたはYであり、X15は、SまたはYであり、X16は、GまたはLである。
【0137】
【0138】
本明細書で使用される場合、X14は、AまたはTであり、X15は、RまたはSであり、X16は、FまたはYである。
【0139】
【0140】
本明細書で使用される場合、X17は、LまたはIであり、X18は、RまたはSであり、X19は、YまたはFである。
【0141】
【0142】
本明細書で使用される場合、X20は、LまたはIであり、X21は、RまたはSである。
【0143】
一部の実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、(1)配列番号35、36および37からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR);ならびに(2)配列番号41、42および43からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%~約100%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)を含み、抗体またはその抗原結合断片は、ヒトA2aRに特異的に結合する。本発明で開示される例示的な抗ヒトA2aRモノクローナル抗体に対応する例示的なHCVRおよびLCVRアミノ酸配列は、表6~8に示される。表9および10は、本発明の例示的な抗ヒトA2aR抗体のそれぞれHCVRおよびLCVRをコードするDNAの例示的なヌクレオチド配列を示す。
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
ある特定の実施形態では、本発明の抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、翻訳後に改変される。翻訳後改変の例には、重鎖のC末端におけるカルボキシペプチダーゼによるリシンの切断;重鎖および軽鎖のN末端におけるピログルタミル化によるピログルタミン酸へのグルタミンまたはグルタミン酸の改変;グリコシル化;酸化;脱アミド;ならびに糖化が含まれ、かかる翻訳後改変が種々の抗体中に存在することが公知である(その全体が参照により組み込まれるjournal of Pharmaceutical Sciences, 2008, Vol. 97, p. 2426-2447を参照されたい)。翻訳後改変を受けた抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片の例には、重鎖可変領域のN末端におけるピログルタミル化および/または重鎖のC末端におけるリシンの欠失を受けた抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片が含まれる。N末端においてピログルタミル化を受ける例示的な抗原結合分子の配列は、表7に列挙される。本明細書で使用される場合、「pE」は、ポリペプチド中のアミノ酸を示すために使用される場合、ピログルタミン酸を指す。
【0150】
2.抗原結合分子のバリアント
ある特定の実施形態では、本発明のA2aR抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、Fab、(Fab)2、scFv、または本明細書に記載されるさらなる結合特異性を含む多特異性抗体であり得る。
【0151】
したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、抗体の1つまたは複数の機能的特性、例えば、血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、および/または抗原依存性細胞傷害を典型的には変更するために、1つまたは複数の改変を含むFcに連結され得る。さらに、本明細書に記載される抗体は、抗体の1つまたは複数の機能的特性を変更するために、化学的に改変され得る(例えば、1つまたは複数の化学的部分が抗体に結合され得る)、またはそのグリコシル化を変更するように改変され得る。より具体的には、ある特定の実施形態では、本発明における抗体は、(a)増加もしくは減少した抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、(b)増加もしくは減少した補体媒介性細胞傷害(CDC)、(c)C1qに対する増加もしくは減少した親和性、および/または(d)親Fcと比較して増加もしくは減少した、Fc受容体に対する親和性、を有するFcバリアントを生成するために、Fc領域中に改変を含み得る。かかるFc領域バリアントは、一般に、Fc領域中に少なくとも1つのアミノ酸改変を含む。アミノ酸改変を組み合わせることは、特に望ましいと考えられる。例えば、バリアントFc領域は、例えば、本明細書で同定された特定のFc領域位置のうち、2つ、3つ、4つ、5つなどの置換をその中に含み得る。
【0152】
エフェクター機能を全体的に回避すべき場合、例えば、抗原結合単独が、所望の治療利益を生じるのに十分であり、エフェクター機能が、所望されない副作用をもたらす(またはそのリスクを増加させる)だけである場合の使用のために、IgG4抗体もしくはADCC-ヌルバージョンのIgG1 L234F、L235E、P331Sが使用され得、またはFc領域もしくはその実質的な部分を欠如する抗体もしくは断片が考案され得、またはFcが、グリコシル化を完全に排除するために変異され得る(例えば、N297A)。あるいは、FcγRに結合する(IgG2と同様)および補体を活性化する(IgG4と同様)能力を欠如する、エフェクター機能を欠く、ヒトIgG2(CH1ドメインおよびヒンジ領域)とヒトIgG4(CH2ドメインおよびCH3ドメイン)とのハイブリッド構築物が生成され得る。IgG4定常ドメインを使用する場合、IgG1中のヒンジ配列を模倣する置換S228P、およびFabアーム交換を防止し、それによりIgG4分子を安定化するR409K変異を含んで、処置されている患者における治療用抗体と内因性IgG4との間でのFab-アーム交換を低減させることが、通常は好ましい。
【0153】
ある特定の実施形態では、抗A2aR抗体またはその断片(複数可)は、生物学的半減期の増加を提供するために改変され得る。例えば、FcRnに対するFc領域の結合親和性を増加させるものが含まれる種々のアプローチが用いられ得る。一実施形態では、抗体は、米国特許第5,869,046号および同第6,121,022号に記載されるように、IgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループから取られたサルベージ受容体結合エピトープを含有するように、CH1またはCL領域内で変更される。Fc領域中の残基の番号付けは、KabatのEUインデックスの番号付けである。本明細書で開示される配列バリアントは、天然に存在するアミノ酸の代わりに置換されるアミノ酸が後に続く残基番号を参照して提供され、必要に応じてその位置で天然に存在する残基が先行する。複数のアミノ酸が所与の位置に存在し得る場合、例えば、配列が、天然に存在するアイソタイプ間で異なる場合、または複数の変異がその位置において置換され得る場合、それらは、スラッシュによって分離される(例えば、「X/Y/Z」)。
【0154】
FcRnへの結合を増加させるおよび/または薬物動態学的特性を改善する例示的なFcバリアントは、例えば、2591、308F、428L、428M、434S、434H、434F、434Yおよび434Mが含まれる、259位、308位および434位における置換を含む。FcRnへのFc結合を増加させる他のバリアントは、以下を含む:250E、250Q、428L、428F、250Q/428L(Hinton et al., 2004, J. Biol. Chem. 279(8): 6213-6216、Hinton et al. 2006 Journal of Immunology 176:346-356)、256A、272A、305A、307A、31IA、312A、378Q、380A、382A、434A(Shields et al. (2001) J. Biol. Chem., 276(9):6591-6604)、252F、252Y、252W、254T、256Q、256E、256D、433R、434F、434Y、252Y/254T/256E、433K/434F/436H(Dall'Acqua et al. (2002) J. Immunol., 169:5171-5180、Dall'Acqua et al. (2006) J. Biol. Chem., 281:23514-23524および米国特許第8,367,805号)。
【0155】
IgG Fc中のある特定の保存された残基(1253、H310、Q311、H433、N434)の改変、例えば、N434Aバリアント(Yeung et al. (2009) J. Immunol. 182:7663)は、FcRn親和性を増加させるための方法として提唱されており、そうして、循環中での抗体の半減期を増加させる(WO98/023289)。M428LおよびN434Sを含む組合せFcバリアントは、FcRn結合を増加させ、血清半減期を5倍まで増加させることが示されている(Zalevsky et al. (2010) Nat. Biotechnol. 28:157)。T307A、E380AおよびN434A改変を含む組合せFcバリアントもまた、IgG1抗体の半減期を延長させる(Petkova et al. (2006) Int. Immunol. 18:1759)。さらに、M252Y-M428L、M428L-N434H、M428L-N434F、M428L-N434Y、M428L-N434A、M428L-N434MおよびM428L-N434Sバリアントを含む組合せFcバリアントもまた、半減期を延長させることが示されている(U.S.2006/173170)。さらに、M252Y、S254TおよびT256Eを含む組合せFcバリアントは、半減期をほぼ4倍増加させることが報告されている。Dall'Acqua et al. (2006) J. Biol. Chem. 281:23514。
【0156】
ある特定の実施形態では、本発明のA2aR抗原結合分子は、A2aRに特異的に結合する第1の標的化ドメインと、A2aRまたは別のタンパク質中の別のエピトープに特異的に結合する第2の標的化ドメインとを含む二特異性抗体である。一部の実施形態では、第1の標的化ドメインは、本発明のA2aR抗体のうちいずれか由来の抗原結合断片を含む。
【0157】
ある特定の実施形態では、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、1種または複数の治療的に活性なペプチドおよび/または小分子薬物に、化学的にコンジュゲートされる。ペプチドまたは小分子薬物は、例えば、還元されたSH基および/または炭水化物側鎖に結合され得る。ペプチドまたは小分子薬物の抗体との共有結合または非共有結合コンジュゲートを作製するための方法は、当該分野で公知であり、任意のかかる公知の方法が利用され得る。
【0158】
一部の実施形態では、ペプチドまたは小分子薬物は、ジスルフィド結合形成を介して、還元された抗体構成成分のヒンジ領域に結合される。あるいは、かかる薬剤は、ヘテロ二機能性クロスリンカー、例えば、N-スクシニル3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)を使用して結合され得る。かかるコンジュゲーションのための一般的な技法は、当該分野で周知である。一部の実施形態では、ペプチドまたは小分子薬物は、抗体のFc領域中の炭水化物部分を介してコンジュゲートされる。炭水化物基は、チオール基に結合される同じ薬剤の負荷を増加させるために使用され得る、または炭水化物部分は、異なる治療剤もしくは診断剤を結合するために使用され得る。抗体炭水化物部分を介してペプチド阻害剤または小分子薬物を抗体にコンジュゲートするための方法は、当業者に周知である。例えば、一実施形態では、方法は、酸化された炭水化物部分を有する抗体構成成分を、少なくとも1つの遊離アミン官能基を有する担体ポリマーと反応させることを含む。この反応は、最初のシッフ塩基(イミン)結合を生じ、これは、第2級アミンへの還元によって安定化されて、最終コンジュゲートを形成し得る。小分子薬物およびペプチドを抗体にコンジュゲートするための例示的な方法は、米国特許出願公開第2014/0356385号に記載されている。
【0159】
その断片およびそれからの多特異性形態が含まれるA2aR抗体は、サイズが、50kD~300kD、50kD~250kD、60kD~250kD、80kDa~250kD、100kD~250kD、125kD~250kD、150kD~250kD、60kD~225kD、75kD~225kD、100kD~225kD、125kD~225kD、150kD~225kD、60kD~200kD、75kD~200kD、100kD~125kD~200kD、150kD~200kD、60kD~150kD、75kD~150kD、100kD~150kD、60kD~125kD、75kD~125kD、75kD~100kDの範囲、または上に引用された範囲中の列挙された整数の任意の組合せによって包含される任意の範囲、または上に引用された範囲のいずれかの間の整数の任意の組合せによって特定される任意の範囲であり得る。
【0160】
3.抗体および抗原結合分子の生物学的特徴
本発明は、ヒトおよびカニクイザルA2aRに結合する抗体およびその抗原結合断片を含む。
【0161】
本発明は、細胞表面上で発現されたヒトおよびカニクイザルA2aRに特異的に結合することが可能であり、A2aRの活性または機能を阻害するA2aR抗原結合分子、例えば、A2aR抗体またはその抗原結合断片を含む。ある特定の実施形態によれば、抗原結合分子は、細胞表面上で発現されたヒトA2aRとA2aRアゴニストとの間の相互作用を遮断する。A2aR抗原結合タンパク質、例えば、A2aR抗体またはその抗原結合断片がA2aRの活性を阻害する程度は、実施例4に記載されるアッセイまたは実質的に類似のアッセイによって評価され得る。本発明は、実施例4に示されるアッセイ、または実質的に類似のアッセイを使用して決定した場合に、4.5×10-9M~約1.5×10-9M、またはそれ未満のIC50値で、細胞表面上で発現されたヒトA2aRとA2aRアゴニストとの間の相互作用を遮断する、抗原結合分子、例えば、抗体を含む。
【0162】
本発明は、細胞表面上で発現されたヒトA2aRに特異的に結合するA2aR抗原結合分子、例えば、A2aR抗体を含む。ある特定の実施形態では、A2aRまたはある特定の非ヒト哺乳動物由来のA2aR、例えば、マウスA2aR以外のヒトアデノシン受容体への、本発明の抗原結合分子の結合は、実施例5に示されるアッセイ、または実質的に類似のアッセイを使用して決定した場合、検出不能であるか弱いかのいずれかである。
【0163】
本発明は、細胞表面上で発現された非ヒト霊長類A2aR、例えば、カニクイザルA2aRに特異的に結合するA2aR抗原結合分子、例えば、A2aR抗体またはその抗原結合断片を含む。したがって、ある特定の実施形態では、A2aR抗原結合分子、例えば、A2aR抗体または抗原結合断片は、実施例7に示されるアッセイ、または実質的に類似のアッセイを使用して決定した場合、類似の親和性で非ヒト霊長類A2aRに結合する。
【0164】
本発明は、ヒトまたは非ヒト霊長類免疫細胞の表面上で発現された内因性ヒトおよび非ヒト霊長類A2aR、例えば、カニクイザルA2aRに特異的に結合するA2aR抗原結合分子、例えば、A2aR抗体またはその抗原結合断片を含む。したがって、ある特定の実施形態では、A2aR抗原結合分子、例えば、A2aR抗体または抗原結合断片は、実施例7に示されるアッセイ、または実質的に類似のアッセイを使用して決定した場合、末梢血単核球(PBMC)中の免疫細胞の表面上で発現されたヒトまたは非ヒト霊長類A2aRに結合する。
【0165】
4.種選択性および種交差反応性
本発明は、ある特定の実施形態によれば、ヒトA2aRに結合するが他の種由来のA2aRには結合しない抗原結合分子を提供する。本発明は、ヒトA2aRおよび1つまたは複数の非ヒト種、例えば、非ヒト霊長類由来のA2aRに結合する抗原結合分子もまた含む。
【0166】
本発明のある特定の例示的な実施形態によれば、ヒトA2aRに結合する抗原結合分子が提供され、これは、場合によって、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル、マーモセット、アカゲザルまたはチンパンジーのA2aRのうち1つまたは複数に結合してもしなくてもよい。例えば、本発明の特定の例示的な実施形態では、ヒトA2aRおよび非ヒト霊長類、例えば、カニクイザルA2aRに結合する抗原結合ドメインを含む抗原結合分子が提供される。
【0167】
III.抗A2aR抗原結合分子の治療的使用
抗体、その抗原結合断片およびその多特異性抗体が含まれる本発明の抗A2aR抗原結合分子は、がんの処置において、アデノシンによるシグナル伝達および他のシグナル伝達経路を遮断することによって、免疫応答の増強に関連する多数のin vitro、in vivoおよびex vivoの有用性を有する。いずれの理論に束縛されることも望まないが、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片が、細胞表面上に発現されたA2aRに結合し、その活性を阻害する、例えば、A2aR活性の阻害の結果として細胞内cAMP濃度を低減させると仮説が立てられる。したがって、本発明の抗原結合分子(およびそれを含む治療用組成物)が、とりわけ、A2aR活性の阻害、例えば、免疫応答の刺激および/または活性化が有益である任意の疾患または障害を処置するために、有用である。A2aRの広範な発現ならびにアデノシンおよびA2aRによって媒介される多面発現性効果を考慮して、本発明の抗A2aR抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、個々に、または種々のがんを含む広範な疾患もしくは障害を処置するための種々の活性薬剤と組み合わせて、使用され得る。
【0168】
したがって、本発明は、細胞における細胞内cAMP濃度を低減させる方法であって、細胞を、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片と接触させる、細胞と接触させる、ステップを含む方法を提供する。細胞内cAMP濃度の低減は、実施例4に記載される方法、または実質的に類似の方法によって測定され得る。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、細胞内cAMPの濃度を、ベースラインレベルと比較して、少なくとも約10%、約20%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれよりも大きく低減させる。
【0169】
一部の実施形態では、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、種々の疾患において免疫を増強するために、培養物中の細胞に(in vitro)またはヒト対象にin vivoもしくはex vivoで投与される。したがって、一実施形態では、免疫応答を刺激することを必要とする対象において免疫応答を刺激するための方法は、免疫応答が、例えば、腫瘍成長を阻害し、抗腫瘍T細胞免疫を刺激しおよび/または抗菌免疫を刺激するために、対象において増強、刺激または上方調節されるように、本明細書に記載される抗A2aR抗体、その抗原結合断片(例えば、抗A2aR HCVRおよびLCVR)または多特異性抗A2aR抗体を対象に投与するステップを含む。
【0170】
一態様では、対象において免疫応答(例えば、T細胞応答)を増強するための方法は、対象において免疫応答(例えば、T細胞応答)が増強されるように、本明細書に記載される抗A2aR抗体を対象に投与するステップを含む。一部の実施形態では、対象は、腫瘍保有対象であり、腫瘍に対する免疫応答が増強される。腫瘍は、固形腫瘍または液体腫瘍、例えば、血液学的悪性腫瘍であり得る。ある特定の実施形態では、腫瘍は、免疫原性腫瘍である。他の実施形態では、腫瘍は、非免疫原性である。他の実施形態では、対象は、病原体に対する免疫応答が、本明細書に記載される抗A2aR抗体を投与したことの結果として増強される、病原体保有対象である。免疫応答には、a)エフェクターT細胞機能を促進すること;b)Treg活性を低減すること;c)Treg拡大増殖を防止すること;d)NK細胞機能を増強すること;またはe)抗原提示細胞の1型活性化を促進することが含まれるがこれらに限定されない。
【0171】
ある特定の実施形態では、本発明の方法は、免疫応答を、ベースラインレベルと比較して、少なくとも約10%、約20%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約1倍、約2倍、約4倍またはそれよりも大きく増加させる。
【0172】
好ましい対象には、免疫応答の増強が望まれるヒト患者が含まれる。方法は、免疫応答(例えば、T細胞媒介性免疫応答)を増加させることによって処置され得る障害を有するヒト患者を処置するために特に適切である。方法は、がん、慢性感染症および慢性炎症性疾患状態の処置のために特に適切である。好ましくは、本明細書に記載される開示された方法における使用のための抗体は、ヒトまたはヒト化抗体である。
【0173】
一実施形態では、対象において腫瘍細胞の成長を阻害するための方法は、腫瘍の成長が対象において阻害されるように、本明細書に記載される抗A2aR抗体を対象に投与するステップを含む。腫瘍成長の阻害は、種々の方法によって測定され得る。腫瘍成長は、例えば、https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4764475/において入手可能な、Talkington, A and Durrett, R, Estimating Tumor Growth Rates in vivo, Bull Math Biol., 2015 Oct.: 77 (10): 1934-54に記載される方法を使用して測定され得、その全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。腫瘍成長の阻害は、腫瘍サイズの低減によっても測定され得る。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、腫瘍成長を、ベースラインレベルと比較して、少なくとも約10%、約20%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれよりも大きく阻害する。
【0174】
ある特定の実施形態では、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、腫瘍微小環境における免疫抑制を低減させるための方法において使用され得る。かかる低減は、種々の方法によって測定され得る。例えば、腫瘍微小環境における免疫抑制のレベルは、腫瘍中のある特定のバイオマーカー、例えば、PD-L1、CD73、IL-10またはTGF-βの存在および/または存在量によって測定され得る。免疫抑制のレベルはまた、腫瘍中のCD8+細胞傷害性T細胞の制御性T(Treg)細胞に対する比によって測定され得る。一般に、免疫抑制は、CD8+細胞傷害性T細胞のTregに対する比(ration)を減少させる。ある特定の実施形態では、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、腫瘍微小環境における免疫抑制のレベルを、ベースラインレベルと比較して、少なくとも約10%、約20%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%またはそれよりも大きく低減させる。
【0175】
腫瘍、例えば、がん性腫瘍を有する対象の腫瘍微小環境からTreg細胞を枯渇させるための方法であって、腫瘍微小環境中のTreg細胞の枯渇を刺激するFcを含む本明細書に記載される抗A2aR抗体の治療有効量を対象に投与するステップを含む方法もまた、本明細書で包含される。Fcは、例えば、1つまたは複数の活性化Fc受容体によって付与される適切なエフェクター機能または増強されたエフェクター機能を有するFcであり得る。
【0176】
ある特定の好ましい実施形態では、Treg枯渇は、腫瘍微小環境中のTeffの有意な枯渇も阻害も伴わず、腫瘍微小環境の外側のTeff細胞およびTreg細胞の有意な枯渇も阻害も伴わずに生じる。ある特定の実施形態では、対象は、腫瘍微小環境中のTeff細胞上よりも、Treg細胞上に、より高いレベルのA2aRを有する。ある特定の実施形態では、抗A2aR抗体は、腫瘍中のTregおよび/または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)中のTregを枯渇させ得る。
【0177】
ある特定の好ましい実施形態では、対象は、細胞増殖性疾患またはがんを有する。本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を用いた、A2aRを介したアデノシンシグナル伝達の遮断は、患者においてがん性細胞に対する免疫応答を増強し得る。したがって、本発明は、がんを有する対象を処置するための方法であって、対象が処置されるように、例えば、がん性腫瘍の成長が阻害もしくは低減されるように、および/または腫瘍が退行するように、本明細書に記載される抗A2aR抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片を対象に投与するステップを含む方法を提供する。抗A2aR抗体は、がん性腫瘍の成長を阻害するために、単独で使用され得る。あるいは、抗A2aR抗体は、以下に記載されるように、1種または複数の他の活性薬剤、例えば、他の抗がん標的、免疫原性薬剤、標準的ながん処置または他の抗体を目標とすることと併せて使用され得る。本発明の抗原結合分子は、例えば、原発性および/または転移性腫瘍を処置するために使用され得る。本発明は、対象において残存がんを処置するための方法もまた含む。本明細書で使用される場合、用語「残存がん」は、抗がん療法による処置後の対象における1つまたは複数のがん性細胞の存在または持続を意味する。
【0178】
したがって、一態様では、がんを処置する方法は、本明細書に記載される抗A2aR抗体の治療有効量を、がんを処置することを必要とする対象に投与するステップを含む。好ましくは、抗体は、ヒト抗A2aRの活性を阻害し、本明細書に記載される1つまたは複数のHCVRおよびLCVRを含む。さらに、この方法における使用のための抗A2aR抗原結合分子、例えば、抗体は、それらからのキメラまたはヒト化非ヒト抗A2aR抗体を含み得る。がんを処置することの有効性は、種々の方法によって測定され得る。例えば、がんを処置することの有効性は、生存における改善、または腫瘍サイズにおける低減によって測定され得る。ある特定の実施形態では、本発明の方法は、がんを処置することの有効性を、ベースラインレベルと比較して、少なくとも約10%、約20%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約1倍、約2倍、約4倍またはそれよりも大きく増加させる。がん処置の文脈において使用される場合、ベースラインレベルは、本発明のA2aR抗原結合分子が唯一の治療剤である場合には、プラセボを使用した有効性、または本発明のA2aR抗原結合分子がさらなる治療剤と組み合わせて使用される場合には、プラセボもしくはさらなる治療剤を使用した有効性を指す。
【0179】
その成長が本発明の抗体を使用して阻害され得るがんには、広範な種々のがん、特に、他の抗体または化学療法剤による単剤治療に対して無応答性であるがん、または無応答性になる傾向を有するがんが含まれる。処置のためのがんの非限定的な例には、扁平上皮細胞癌、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、扁平上皮非小細胞肺がん(NSCLC)、非NSCLC、神経膠腫、胃腸がん、腎がん(例えば、明細胞癌)、卵巣がん、肝臓がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(例えば、腎細胞癌(RCC))、前立腺がん(例えば、ホルモン不応性前立腺腺癌)、甲状腺がん、神経芽細胞腫、膵がん、神経膠芽腫(多形神経膠芽腫)、子宮頸がん、胃(stomach)がん、膀胱がん、ヘパトーマ、乳がん、結腸癌、および頭頸部がん(または癌)、胃(gastric)がん、胚細胞腫瘍、小児肉腫、副鼻洞ナチュラルキラー、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫、例えば、皮膚または眼内悪性黒色腫)、骨がん、皮膚がん、子宮がん、肛門領域のがん、精巣がん、ファロピウス管の癌、子宮内膜の癌、子宮頸部の癌、腟の癌、外陰部の癌、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟部組織の肉腫、尿道のがん、陰茎のがん、小児の固形腫瘍、尿管のがん、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮がん、扁平上皮細胞がん、T細胞リンパ腫、アスベストによって誘発されるがんが含まれる環境誘発がん、ウイルス関連がん(例えば、ヒトパピローマウイルス(HPV)関連腫瘍)、および2つの主要な血球系列、即ち、骨髄性細胞系(これは、顆粒球、赤血球、血小板、マクロファージおよびマスト細胞を産生する)またはリンパ系細胞系(これは、B、T、NKおよび形質細胞を産生する)のいずれかに由来する血液学的悪性腫瘍、例えば、全ての型の白血病、リンパ腫および骨髄腫、例えば、急性、慢性、リンパ球性および/または骨髄性白血病、例えば、急性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、および慢性骨髄性白血病(CIVIL)、未分化AML(MO)、骨髄芽球性白血病(M1)、骨髄芽球性白血病(M2;細胞成熟を伴う)、前骨髄球性白血病(M3またはM3バリアント[M3V])、骨髄単球性白血病(M4、または好酸球増加症を伴うM4バリアント[M4E])、単球性白血病(M5)、赤白血病(M6)、巨核芽球性白血病(M7)、孤立性顆粒球性肉腫、および緑色腫;リンパ腫、例えば、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NEIL)、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、単球様B細胞リンパ腫、粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫、未分化(例えば、Ki 1+)大細胞型リンパ腫、成人T細胞リンパ腫/白血病、マントル細胞リンパ腫、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、血管中心性リンパ腫、腸管T細胞リンパ腫、縦隔原発B細胞リンパ腫、前駆Tリンパ芽球性リンパ腫、Tリンパ芽球性;ならびにリンパ腫/白血病(T-Lbly/T-ALL)、末梢性T細胞リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫、移植後リンパ増殖性障害、真性組織球性リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、リンパ芽球性リンパ腫(LBL)、リンパ系系統の造血器腫瘍、急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性組織球性リンパ腫(DHL)、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫(CTLC)(菌状息肉症またはセザリー症候群とも呼ばれる)、およびワルデンストレームマクログロブリン血症を伴うリンパ形質細胞性リンパ腫(LPL);骨髄腫、例えば、IgG骨髄腫、軽鎖骨髄腫、非分泌性骨髄腫、くすぶり型骨髄腫(無症候性骨髄腫とも呼ばれる)、孤立性形質細胞腫(solitary plasmocytoma)、および多発性骨髄腫、慢性リンパ球性白血病(CLL)、ヘアリー細胞リンパ腫;骨髄性系列の造血器腫瘍、線維肉腫および横紋筋肉腫(rhabdomyoscarcoma)が含まれる間葉性起源の腫瘍;セミノーマ、奇形腫、星細胞腫、シュワン細胞腫が含まれる中枢神経および末梢神経の腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫(rhabdomyoscaroma)および骨肉腫が含まれる間葉性起源の腫瘍;ならびに黒色腫、色素性乾皮症、角化棘細胞腫、セミノーマ、甲状腺濾胞性がんおよび奇形癌、リンパ系系統の造血器腫瘍、例えば、小細胞および大脳様細胞型のものが含まれる、T細胞障害、例えば、T前リンパ球性白血病(T-PLL)が含まれるがこれらに限定されないT細胞腫瘍およびB細胞腫瘍が含まれる、他の腫瘍;好ましくはT細胞型の大顆粒リンパ球性白血病(LGL);a/d T-NHL肝脾リンパ腫;末梢性/胸腺後T細胞リンパ腫(多形性および免疫芽球性サブタイプ);血管中心性(鼻)T細胞リンパ腫;頭頸部のがん、腎がん、直腸がん、甲状腺のがん;急性骨髄性リンパ腫、ならびに前記がんの任意の組合せが含まれる。本明細書に記載される方法は、転移性がん、不応性がん(例えば、例えば、遮断CTLA-4またはPD-1抗体による以前の免疫療法に対して不応性のがん)、および再発性がんの処置のためにも使用され得る。
【0180】
一部の実施形態では、本発明に従う抗A2aR抗体および/または他の活性薬剤によるがん患者の処置は、少なくとも1、2、3、4、5、10年間もしくはそれよりも長い長期生存、および/あるいは少なくとも1、2、3、4、5もしくは10年間またはそれよりも長い無再発生存期間を含む、現在の標準治療と比較して長期の持続可能な応答をもたらし得る。ある特定の実施形態では、本発明に従う抗A2aR抗体および/または他の活性薬剤によるがん患者の処置は、例えば、1、2、3、4、5もしくは10年間またはそれよりも長く、がんの再発を予防するまたはがんの再発を遅延させる。抗A2aR処置は、第1選択または第2選択の処置として使用され得る。
【0181】
骨髄移植は、造血系起源の種々の腫瘍を処置するために現在使用されている。移植片対宿主病は、この処置の結果であるが、A2aR阻害は、移植片対腫瘍応答を低減させることによって、ドナーの生着した腫瘍特異的T細胞の有効性を増加させるために使用され得る。
【0182】
一部の実施形態では、抗原特異的T細胞の、抗A2aR抗体の存在下でのex vivo活性化、および拡大増殖、ならびにレシピエント中へのこれらの細胞の養子移入は、養子移入されたT細胞の頻度および活性を増加させることによってがんまたはウイルス感染に対する抗原特異的T細胞を刺激するために用いられ得る。
【0183】
本明細書に記載される本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片(例えば、ヒト化モノクローナル抗体、多特異性抗体およびイムノコンジュゲート)をin vivo、ex vivoまたはin vitroで投与するための適切な経路は、当該分野で周知であり、当業者によって選択され得る。例えば、抗体組成物は、非経口注射(例えば、静脈内または皮下)によって投与され得る。適切な投与量は、以下にさらに記載されるように、対象の年齢および体重ならびに抗体組成物の濃度および/または製剤に依存する。
【0184】
A2aR活性の増加は、神経変性疾患に関与している。したがって、ある特定の実施形態では、本発明は、神経変性疾患を処置する方法であって、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を、神経変性疾患を処置することを必要とする対象に投与するステップを含み、それにより、神経変性疾患を処置する、方法を提供する。
【0185】
IV.併用療法
別の態様では、本発明は、対象において抗原特異的T細胞応答を増強する、免疫抑制を低減させる、および/または腫瘍成長を低減させるための治療用組成物および併用療法を提供する。本発明は、1種または複数のさらなる治療剤と組み合わせた、例えば、本明細書の例示的な抗原結合分子のうちいずれかを含む組成物および治療用製剤、ならびにかかる組合せを、処置を必要とする対象に投与するステップを含む処置の方法を含む。用語「さらなる治療剤」は、本明細書で使用される場合、疾患または障害を処置するために使用され得る任意の薬剤、およびある特定の疾患または障害のための任意の処置の方法を指す。例えば、放射線療法および手術は、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて使用される場合、「さらなる治療剤」とみなされる。
【0186】
ある特定の実施形態では、さらなる治療剤は、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片とは異なるA2aRアンタゴニストであり得る。例示的なA2aRアンタゴニストには、AZD4635(AstraZeneca)、NIR178(Novartis)、AB928(Arcus)、CPI-444(Corvus)、EOS850(iTeos)、MK-3814(Merck Sharp and Dolme)が含まれるがこれらに限定されない。
【0187】
一実施形態では、さらなる治療剤は、別のアデノシンシグナル伝達経路メンバーに対する抗体またはその抗体断片(複数可)、例えば、A1aR、A2bR、A3R、CD39、CD73アンタゴニスト、またはそれらの組合せの形態で投与され得る。例示的なCD39アンタゴニストには、例示的な抗CD39抗体が含まれるがこれらに限定されず、それらの抗原結合部位は、米国特許第10,738,128号、同第10,662,253号および同第10,556,959号に記載されている。例示的な小分子CD73アンタゴニストには、AB421、MEDI9447およびBMS-986179が含まれるがこれらに限定されない。例示的な抗CD73抗体およびそれらの抗原結合部位は、第10,766,966号、第10,584,169号、第10,556,968号および第10,167,343号に記載されている。
【0188】
一部の実施形態では、本発明の抗A2aR抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、対象において免疫応答および/またはアポトーシスをさらに増強、刺激または上方調節するために、免疫応答および/またはアポトーシスを刺激する際に有効な量(複数可)の1種または複数のさらなる治療剤と共に共投与される。さらに、1種または複数のさらなる治療的に活性な薬剤は、抗A2aR抗体による処置の前に、またはそれの後に投与される。
【0189】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、1種のもしくは他のより多くの他の活性薬剤、例えば、抗がん抗体またはポリペプチド、化学療法剤、および放射性毒性剤と組み合わせて、またはそれと組み合わせて併せて、投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、標準的ながん処置、例えば、手術もしくは放射線と組み合わせて、またはそれと組み合わせて併せて、投与される。
【0190】
抗A2aR抗体の、これらの活性薬剤または処置モダリティとの共投与は、薬物耐性に関する臨床的欠損、腫瘍細胞が抗体と反応しなくなる該腫瘍細胞の抗原性の変化、および毒性に対処し得る(より低い用量の1種または複数の薬剤を投与することによって)。A2aR阻害は、他の方法では不応性の化学療法レジメンと組み合わせた場合の使用に、特に良好に適している。これらの場合には、有効性の増強を達成することが可能であり得るが、投与される化学療法試薬の用量を低減させることが可能であり得る(Mokyr et al. (1998) Cancer Research 58: 5301-5304)。放射線または化学療法と併せたA2aR阻害についての論理的根拠は、抗原提示経路における腫瘍抗原のレベルの増加をさらに生じ得る、放射線およびほとんどの化学療法化合物の細胞傷害作用の結果として細胞死を促進することに基づいている。細胞死を介してA2aR阻害と相加的または相乗的に作用し得る他の併用療法は、手術およびホルモン欠乏または阻害である。これらのプロトコールの各々は、宿主において腫瘍抗原の供給源をさらに作り出す。
【0191】
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、免疫複合体、イムノコンジュゲートまたは融合タンパク質の形態で、別の活性薬剤に連結される。あるいは、抗A2aR抗体は、他の活性薬剤とは別に投与され得る。この場合、抗A2aR抗体および他のアンタゴニストは、他の活性薬剤の前に、その後に、もしくはそれと併せて投与され得、または他の公知の治療、例えば、他の抗がん剤、放射線などと共投与され得る。したがって、本発明は、ヒトがん細胞において細胞傷害効果および免疫保護効果の両方を有益に提供するために、異なる機構を介して相加的もしくは相乗的に動作する2種またはそれよりも多くの抗がん剤を提供するための組成物および方法を提供する。
【0192】
例えば、一部の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、抗がん剤、例えば、アルキル化剤;アントラサイクリン抗生物質;代謝拮抗薬;解毒剤;インターフェロン;ポリクローナルもしくはモノクローナル抗体;EGFR阻害剤;HER2阻害剤;ヒストンデアセチラーゼ阻害剤;ホルモン;有糸分裂阻害剤;ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)阻害剤;Akt阻害剤;ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)阻害剤;プロテアソーム阻害剤;ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤;Ras/MAPK経路阻害剤;中心体クラスタ分離剤;マルチキナーゼ阻害剤;セリン/スレオニンキナーゼ阻害剤;チロシンキナーゼ阻害剤;VEGF/VEGFR阻害剤;タキサンもしくはタキサン誘導体、アロマターゼ阻害剤、アントラサイクリン、微小管標的化薬物、トポイソメラーゼ毒薬物、分子標的もしくは酵素(例えば、キナーゼまたはタンパク質メチルトランスフェラーゼ)の阻害剤、シチジンアナログまたはそれらの組合せと組み合わされ得る。
【0193】
例示的なアルキル化剤には、シクロホスファミド(Cytoxan;Neosar);クロラムブシル(Leukeran);メルファラン(Alkeran);カルムスチン(BiCNU);ブスルファン(Busulfex);ロムスチン(CeeNU);ダカルバジン(DTIC-Dome);オキサリプラチン(Eloxatin);カルムスチン(Gliadel);イホスファミド(Ifex);メクロレタミン(Mustargen);ブスルファン(Myleran);カルボプラチン(Paraplatin);シスプラチン(CDDP;Platinol);テモゾロミド(Temodar);チオテパ(Thioplex);ベンダムスチン(Treanda);またはストレプトゾシン(Zanosar)が含まれるがこれらに限定されない。
【0194】
例示的なアントラサイクリン抗生物質には、ドキソルビシン(Adriamycin);ドキソルビシンリポソーム(Doxil);ミトキサントロン(Novantrone);ブレオマイシン(Blenoxane);ダウノルビシン(Cerubidine);ダウノルビシンリポソーム(DaunoXome);ダクチノマイシン(Cosmegen);エピルビシン(Ellence);イダルビシン(Idamycin);プリカマイシン(Mithracin);マイトマイシン(Mutamycin);ペントスタチン(Nipent);またはバルルビシン(Valstar)が含まれるがこれらに限定されない。
【0195】
例示的な代謝拮抗薬には、フルオロウラシル(Adrucil);カペシタビン(Xeloda);ヒドロキシウレア(Hydrea);メルカプトプリン(Purinethol);ペメトレキセド(Alimta);フルダラビン(Fludara);ネララビン(Arranon);クラドリビン(Cladribine Novaplus);クロファラビン(Clolar);シタラビン(Cytosar-U);デシタビン(Dacogen);シタラビンリポソーム(DepoCyt);ヒドロキシウレア(Droxia);プララトレキセート(Folotyn);フロクスウリジン(FUDR);ゲムシタビン(Gemzar);クラドリビン(Leustatin);フルダラビン(Oforta);メトトレキセート(MTX;Rheumatrex);メトトレキセート(Trexall);チオグアニン(Tabloid);TS-1またはシタラビン(Tarabine PFS)が含まれるがこれらに限定されない。
【0196】
例示的な解毒剤には、アミホスチン(Ethyol)またはメスナ(Mesnex)が含まれるがこれらに限定されない。
【0197】
例示的なインターフェロンには、インターフェロンアルファ-2b(Intron A)またはインターフェロンアルファ-2a(Roferon-A)が含まれるがこれらに限定されない。
【0198】
例示的なポリクローナルまたはモノクローナル抗体には、トラスツズマブ(Herceptin);オファツムマブ(Arzerra);ベバシズマブ(Avastin);リツキシマブ(Rituxan);セツキシマブ(Erbitux);パニツムマブ(Vectibix);トシツモマブ/ヨウ素131(odine131)トシツモマブ(Bexxar);アレムツズマブ(Campath);イブリツモマブ(Zevalin;In-111;Y-90 Zevalin);ゲムツズマブ(Mylotarg);エクリズマブ(Soliris)、またはデノスマブ(ordenosumab)が含まれるがこれらに限定されない。
【0199】
例示的なEGFR阻害剤には、ゲフィチニブ(Iressa);ラパチニブ(Tykerb);セツキシマブ(Erbitux);エルロチニブ(Tarceva);パニツムマブ(Vectibix);PKI-166;カネルチニブ(CI-1033);マツズマブ(Emd7200)またはEKB-569が含まれるがこれらに限定されない。
【0200】
例示的なHER2阻害剤には、トラスツズマブ(Herceptin);ラパチニブ(Tykerb)またはAC-480が含まれるがこれらに限定されない。
【0201】
例示的なヒストンデアセチラーゼ阻害剤には、ボリノスタット(Zolinza)、バルプロ酸、ロミデプシン、エンチノスタット、アベキシノスタット、ギビノスタットおよびモセチノスタットが含まれるがこれらに限定されない。
【0202】
例示的なホルモンには、タモキシフェン(Soltamox;Nolvadex);ラロキシフェン(Evista);メゲストロール(Megace);ロイプロリド(Lupron;Lupron Depot;Eligard;Viadur);フルベストラント(Faslodex);レトロゾール(Femara);トリプトレリン(Trelstar LA;Trelstar Depot);エキセメスタン(Aromasin);ゴセレリン(Zoladex);ビカルタミド(Casodex);アナストロゾール(Arimidex);フルオキシメステロン(Androxy;Halotestin);メドロキシプロゲステロン(Provera;Depo-Provera);エストラムスチン(Emcyt);フルタミド(Eulexin);トレミフェン(Fareston);デガレリクス(Firmagon);ニルタミド(Nilandron);アバレリックス(Plenaxis);またはテストラクトン(Teslac)が含まれるがこれらに限定されない。
【0203】
例示的な有糸分裂阻害剤には、パクリタキセル(Taxol;Onxol;Abraxane);ドセタキセル(Taxotere);ビンクリスチン(Oncovin;Vincasar PFS);ビンブラスチン(Velban);エトポシド(Toposar;Etopophos;VePesid);テニポシド(Vumon);イクサベピロン(Ixempra);ノコダゾール;エポチロン;ビノレルビン(Navelbine);カンプトテシン(CPT);イリノテカン(Camptosar);トポテカン(Hycamtin);アムサクリンまたはラメラリンD(LAM-D)が含まれるがこれらに限定されない。
【0204】
例示的なホスファチジルイノシトール-3キナーゼ(PI3K)阻害剤には、PI3Kの不可逆的阻害剤であるワートマニン、ワートマニンの誘導体であるデメトキシビリジン、PI3Kの可逆的阻害剤であるLY294002;BKM120(ブパルリシブ);イデラリシブ(PI3Kデルタ阻害剤);デュベリシブ(IPI-145、PI3Kデルタおよびガンマの阻害剤);アルファ特異的PI3K阻害剤であるアルペリシブ(BYL719);経口PI3Kデルタ阻害剤であるTGR 1202(以前にはRP5264として公知);および主にPI3Kα、δアイソフォームの阻害剤であるコパンリシブ(BAY 80-6946)が含まれる。
【0205】
例示的なAkt阻害剤には、ミルテホシン、AZD5363、GDC-0068、MK2206、ペリフォシン、RX-0201、PBI-05204、GSK2141795およびSR13668が含まれるがこれらに限定されない。
【0206】
例示的なMTOR阻害剤には、エベロリムス(Afinitor)またはテムシロリムス(Torisel);ラパミューン(rapamune)、リダフォロリムス;デフォロリムス(AP23573)、AZD8055(AstraZeneca)、OSI-027(OSI)、INK-128、BEZ235、PI-103、Torin1、PP242、PP30、Ku-0063794、WAY-600、WYE-687、WYE-354およびCC-223が含まれるがこれらに限定されない。
【0207】
例示的なプロテアソーム阻害剤には、ボルテゾミブ(PS-341)、イキサゾミブ(MLN2238)、MLN 9708、デランゾミブ(CEP-18770)、カルフィルゾミブ(PR-171)、YU101、オプロゾミブ(oprozomib)(ONX-0912)、マリゾミブ(NPI-0052)およびジスフィラム(disufiram)が含まれるがこれらに限定されない。
【0208】
例示的なPARP阻害剤には、オラパリブ、イニパリブ、ベラパリブ(velaparib)、BMN-673、BSI-201、AG014699、ABT-888、GPI21016、MK4827、INO-1001、CEP-9722、PJ-34、Tiq-A、Phen、PF-01367338およびそれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない。
【0209】
例示的なRas/MAPK経路阻害剤には、トラメチニブ、セルメチニブ、コビメチニブ、CI-1040、PD0325901、AS703026、R04987655、R05068760、AZD6244、GSK1120212、TAK-733、U0126、MEK162およびGDC-0973が含まれるがこれらに限定されない。
【0210】
例示的な中心体クラスタ分離剤には、グリセオフルビン;ノスカピン、ノスカピン誘導体、例えば、臭素化ノスカピン(例えば、9-ブロモノスカピン)、還元型ブロモノスカピン(RBN)、N-(3-ブロモベンジル(brormobenzyl))ノスカピン、アミノノスカピンおよびそれらの水溶性誘導体;CW069;フェナントリジン(phenanthridene)由来ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ阻害剤、PJ-34;N2-(3-ピリジルメチル)-5-ニトロ-2-フラミド、N2-(2-チエニルメチル)-5-ニトロ-2-フラミドおよびN2-ベンジル-5-ニトロ-2-フラミドが含まれるがこれらに限定されない。
【0211】
例示的なマルチキナーゼ阻害剤には、レゴラフェニブ;ソラフェニブ(Nexavar);スニチニブ(Sutent);BIBW 2992;E7080;Zd6474;PKC-412;モテサニブ;またはAP24534が含まれるがこれらに限定されない。
【0212】
例示的なセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤には、ルボキシスタウリン;エリル/ファスジル(eril/easudil)塩酸塩;フラボピリドール;セリシクリブ(seliciclib)(CYC202;Roscovitrine);SNS-032(BMS-387032);Pkc412;ブリオスタチン;KAI-9803;SF1126;VX-680;Azd1152;Arry-142886(AZD-6244);SCIO-469;GW681323;CC-401;CEP-1347またはPD 332991が含まれるがこれらに限定されない。
【0213】
例示的なチロシンキナーゼ阻害剤には、エルロチニブ(Tarceva);ゲフィチニブ(Iressa);イマチニブ(Gleevec);ソラフェニブ(Nexavar);スニチニブ(Sutent);トラスツズマブ(Herceptin);ベバシズマブ(Avastin);リツキシマブ(Rituxan);ラパチニブ(Tykerb);セツキシマブ(Erbitux);パニツムマブ(Vectibix);エベロリムス(Afinitor);アレムツズマブ(Campath);ゲムツズマブ(Mylotarg);テムシロリムス(Torisel);パゾパニブ(Votrient);ダサチニブ(Sprycel);ニロチニブ(Tasigna);バタラニブ(Ptk787;ZK222584);CEP-701;SU5614;MLN518;XL999;VX-322;Azd0530;BMS-354825;SKI-606 CP-690;AG-490;WHI-P154;WHI-P131;AC-220;またはAMG888が含まれるがこれらに限定されない。
【0214】
例示的なVEGF/VEGFR阻害剤には、ベバシズマブ(Avastin);ソラフェニブ(Nexavar);スニチニブ(Sutent);ラニビズマブ;ペガプタニブ;またはバンデチニブ(vandetinib)が含まれるがこれらに限定されない。
【0215】
例示的な微小管標的化薬物には、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポチロンおよびナベルビンが含まれるがこれらに限定されない。
【0216】
例示的なトポイソメラーゼ毒薬物には、テニポシド、エトポシド、アドリアマイシン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ミトキサントロン、アムサクリン、エピルビシンおよびイダルビシンが含まれるがこれらに限定されない。
【0217】
例示的なタキサンまたはタキサン誘導体には、パクリタキセルおよびドセタキソール(docetaxol)が含まれるがこれらに限定されない。
【0218】
例示的な一般的な化学療法剤、抗新生物剤、抗増殖剤には、アルトレタミン(Hexalen);イソトレチノイン(Accutane;Amnesteem;Claravis;Sotret);トレチノイン(Vesanoid);アザシチジン(Vidaza);ボルテゾミブ(Velcade)アスパラギナーゼ(Elspar);レバミゾール(Ergamisol);ミトタン(Lysodren);プロカルバジン(Matulane);ペグアスパルガーゼ(Oncaspar);デニロイキンジフチトクス(Ontak);ポルフィマー(Photofrin);アルデスロイキン(Proleukin);レナリドミド(Revlimid);ベキサロテン(Targretin);サリドマイド(Thalomid);テムシロリムス(Torisel);三酸化ヒ素(Trisenox);ベルテポルフィン(Visudyne);ミモシン(Leucenol);(1Mテガフール - 0.4M 5-クロロ-2,4-ジヒドロキシピリミジン - 1Mオキソン酸カリウム)またはロバスタチンが含まれるがこれらに限定されない。
【0219】
ある特定の実施形態では、A2aR阻害は、抗A2aR抗体による処置の前に、それと同時に、またはその後に、CD3刺激(例えば、膜CD3を発現する細胞との共インキュベーションによる)と組み合わせて実施される。例えば、一実施形態では、抗原特異的T細胞応答を増強する方法は、抗原特異的T細胞応答が増強され、A2aR媒介性の免疫抑制が低減されるように、T細胞を、本明細書に記載される抗A2aR抗体およびCD3発現細胞と接触させるステップを含む。抗原特異的T細胞応答の任意の適切な指標が、抗原特異的T細胞応答を測定するために使用され得る。かかる適切な指標の非限定的な例には、抗体の存在下でのT細胞増殖の増加および/または抗体の存在下でのサイトカイン産生の増加が含まれる。好ましい実施形態では、抗原特異的T細胞によるインターロイキン-2および/またはインターフェロン-γ産生が増強される。
【0220】
一部の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、FcαまたはFcγ受容体発現エフェクター細胞を腫瘍細胞に向かわせる二特異性抗体と組み合わせても使用され得る(例えば、米国特許第5,922,845号および同第5,837,243号を参照されたい)。かかる二特異性抗体は、2つの別々の抗原を標的とするために使用され得る。例えば、抗Fc受容体/抗腫瘍抗原(例えば、Her-2/neu)二特異性抗体は、マクロファージを腫瘍の部位に向かわせるために使用されてきた。この標的化は、腫瘍特異的応答をより有効に活性化し得る。これらの応答のT細胞アームは、A2aRの阻害によって増進される。あるいは、抗原は、腫瘍抗原および樹状細胞特異的細胞表面マーカーに結合する二特異性抗体の使用によって、DCに直接送達され得る。
【0221】
上記方法の全てにおいて、A2aR阻害は、腫瘍抗原の増強された提示を提供するために、他の形態の免疫療法、例えば、サイトカイン処置(例えば、インターフェロン、GM-CSF、G-CSF、IL-2)、または2つの異なる結合特異性を使用する二特異性抗体治療と組み合わされ得る。
【0222】
一部の実施形態では、上述の処置の方法のいずれかにおける使用、抗原結合分子の使用、または医薬組成物の使用のためのさらなる治療剤は、以下から選択される免疫刺激剤である:(a)免疫細胞の阻害受容体(免疫チェックポイント)もしくはそのリガンドのシグナル伝達を遮断する薬剤(免疫チェックポイント阻害剤)、またはかかる薬剤をコードする核酸;(b)免疫細胞の刺激受容体に対するアゴニスト、またはかかるアゴニストをコードする核酸;(c)サイトカイン、またはサイトカインをコードする核酸;(d)腫瘍溶解性ウイルス、または腫瘍溶解性ウイルスをコードする核酸;(e)キメラ抗原受容体を発現するT細胞;(f)二特異性もしくは多特異性の、T細胞に対する抗体、またはかかる抗体をコードする核酸;(g)抗TGF-β抗体、またはかかる抗体をコードする核酸;(h)TGF-βトラップ、またはかかるトラップをコードする核酸;(i)そのような抗原、またはかかる抗原をコードする核酸を含む、がん関連抗原に対するワクチン、(j)細胞治療、および(k)それらの組合せ。一部の実施形態では、さらなる治療剤は、免疫細胞の阻害受容体もしくはそのリガンドのシグナル伝達を遮断する薬剤、またはかかる薬剤をコードする核酸であり、阻害受容体またはそのリガンドは、PD-1、PD-L1、TIGIT、CTLA-4、PD-1、PD-Ll、PD-L2、LAG-3、TIM-3、ニューリチン、BTLA、CECAM-1、CECAM-5、IL-1R8、VISTA、LAIR1、LILRB1、LILRB2、LILRB3、LILRB4、LILRB5、CD96、CD112R、CD160、2B4、TGFβ-R、KIR、NKG2A、およびそれらの組合せから選択される。一部の実施形態では、さらなる治療剤は、免疫細胞の刺激受容体に対するアゴニスト、またはかかるアゴニストをコードする核酸であり、免疫細胞の刺激受容体は、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CDl1a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD28、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、KG2C、SLAMF7、NKG2C、NKG2D、NKp46、NKp80、CD160、B7-H3、CD83リガンド、およびそれらの組合せから選択される。一部の実施形態では、さらなる治療剤は、IL-2、IL-5、IL-7、IL-12、IL-15、IL-2I、およびそれらの組合せから選択されるサイトカインまたはサイトカインをコードする核酸である。一部の実施形態では、さらなる治療剤は、単純ヘルペスウイルス、水疱性口内炎ウイルス、アデノウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ワクシニアウイルス、マラバウイルス、およびそれらの組合せから選択される腫瘍溶解性ウイルス、または腫瘍溶解性ウイルスをコードする核酸である。一部の実施形態では、さらなる治療剤は、細胞治療である。細胞治療は、キメラ抗原受容体(CAR)を有するT細胞、NK細胞またはマクロファージを含み得る。一部の実施形態では、細胞治療は、二特異性または多特異性の、T細胞に対する抗体を含む。
【0223】
ある特定の実施形態では、本発明は、対象において疾患または障害、例えば、がんを処置する方法を提供する。方法は、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を、単独で、または第2の1種もしくは複数のさらなる治療剤と組み合わせて、対象に投与するステップを含み、対象は、第1の1種または複数のさらなる治療剤による処置を以前に受けている。ある特定の実施形態では、第1の1種または複数のさらなる治療剤による処置は、対象において疾患を処置する際に低い有効性を示し得る。例えば、第1の1種または複数の治療剤による処置は、対象が耐性を示し得る抗PD1抗体による処置であり得る。一部の実施形態では、第2の1種または複数のさらなる治療剤は、第1の1種または複数のさらなる治療剤と同じである。一部の実施形態では、第2の1種または複数のさらなる治療剤は、第1の1種または複数のさらなる治療剤とは異なる。
【0224】
ある特定の実施形態では、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイントと特異的に相互作用する抗体である。一部の実施形態では、さらなる治療剤は、免疫刺激剤を含む。一部の態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、抗PD-1抗体(例えば、ペムブロリズマブまたはニボルマブ)、および抗PD-L抗体(例えば、アテゾリズマブ)、および抗CTLA-4抗体(an and -CTLA-4 antibody)(例えば、イピリムマブ)、およびそれらの組合せから選択される。一部の態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、ペムブロリズマブである。一部の態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、ニボルマブである。一部の態様では、免疫チェックポイント阻害剤は、アテゾリズマブである。
【0225】
一部の実施形態では、さらなる治療剤は、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害する薬剤である。一部の態様では、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害するさらなる治療剤は、抗体、ペプチド模倣物および小分子から選択される。一部の態様では、PD-1とPD-L1との間の相互作用を阻害するさらなる治療剤は、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、BMS-936559、スルファモノメトキシン1およびスルファメチゾール2から選択される。
【0226】
一部の実施形態では、抗A2aR抗体は、免疫原性薬剤と組み合わせて、またはそれと併せて投与される。免疫原性薬剤の非限定的な例には、がん細胞、腫瘍ワクチン、および精製された腫瘍抗原(組換えタンパク質、ペプチドおよび炭水化物分子が含まれる);腫瘍溶解性ウイルス;免疫刺激性サイトカインをコードする遺伝子でトランスフェクトされた細胞などが含まれる。
【0227】
ある特定の実施形態では、抗A2aR抗体は、抗原特異的免疫を増強するために、目的の抗原、または処置される対象(例えば、腫瘍保有またはウイルス保有対象)中に存在することが既知の抗原と一緒に投与される。抗A2aR抗体が別の薬剤と一緒に投与される場合、その2つは、別々に、または同時に投与され得る。
【0228】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、これらの抗体のいずれかのうち1つまたは複数の、目的の抗原との共投与(例えば、ワクチン)によって、抗原特異的免疫応答を増強するために使用され得る。したがって、一実施形態では、対象において抗原に対する免疫応答を増強するための方法は、対象において抗原に対する免疫応答が増強されるように、(i)抗原;および(ii)A2aRベースの抗体を対象に投与するステップを含む。抗原は、例えば、腫瘍抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、または病原体由来の抗原であり得る。かかる抗原の非限定的な例には、上記セクションで考察したもの、例えば、上で考察した腫瘍抗原(または腫瘍ワクチン)、または上記ウイルス、細菌もしくは他の病原体由来の抗原が含まれる。
【0229】
相乗的活性薬剤組成物に関連する利益を考慮して、ある特定の実施形態では、抗A2aR抗体および他の活性薬剤の各々は、それを用いた単剤治療で使用される用量と比較して治療量以下の用量で、それを必要とする対象に投与される。
【0230】
ある特定の実施形態では、A2aR阻害は、標準的ながん処置(例えば、手術、放射線および化学療法)と組み合わされる。これらの場合には、投与される化学療法試薬の用量を低減させることが可能であり得る。A2aR阻害の化学療法との組合せ使用は、アポトーシスを増強し、細胞傷害性免疫のための腫瘍抗原提示を増加させ得ると考えられる。他の相乗的併用療法には、放射線、手術またはホルモン欠乏もしくは阻害と組み合わせたA2aR阻害が含まれる。これらのプロトコールの各々は、宿主において腫瘍抗原の供給源を作り出す。
【0231】
さらなる治療剤は、本発明の抗原結合分子の投与の前に、それと併せて、またはその後に、投与され得る(本開示の目的のために、かかる投与レジメンは、さらなる治療的に活性な構成成分「と組み合わせた」抗原結合分子の投与とみなされる)。
【0232】
本発明は、本発明の抗原結合分子が、本明細書の他の場所に記載されるように、さらなる治療剤のうち1種または複数と共に共製剤化された、医薬組成物を含む。
【0233】
V.抗A2aR抗体を発現させるための核酸および宿主細胞
別の態様では、本発明は、本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、およびかかる核酸を含む発現ベクターを提供する。一部の実施形態では、核酸は、本明細書に記載される実施形態に従う抗体もしくは断片、または本明細書に記載される他の抗体および抗体断片のいずれかの、HCVRおよび/またはLCVR断片をコードする。
【0234】
モノクローナル抗体中の抗原結合部位をコードするDNAは、従来の手順を使用して(例えば、モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することが可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)、ハイブリドーマ細胞から単離され配列決定され得る。あるいは、目的の免疫グロブリン由来のアミノ酸配列は、直接的タンパク質配列決定によって決定され得、適切なコードヌクレオチド配列は、ユニバーサルコドン表に従って設計され得る。他の場合には、抗原結合部位、または定常領域、ヒンジ領域などが含まれる他の免疫グロブリン配列の、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、当該分野で周知の公開された供給源から得られ得る。
【0235】
発現ベクターは、培養された細胞中でin vitroで本開示の抗体を合成するために使用され得、または本開示の抗体をin vivoもしくはex vivoで発現させるために患者に直接投与され得る。本明細書で使用される場合、「発現ベクター」は、抗体調製を目的とした、または治療剤としての直接的投与のための、宿主細胞におけるポリヌクレオチドからの発現に適切な形態での、本開示の1つまたは複数の抗体をコードするポリヌクレオチドを含むウイルスまたは非ウイルスベクターを指す。
【0236】
核酸配列は、前者が後者と機能的な関係に置かれる場合、別の核酸配列に「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列もしくはシグナルペプチドのためのDNAは、それがポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに作動可能に連結されている;プロモーターもしくはエンハンサーは、それが配列の転写に影響を与える場合、コード配列に作動可能に連結されている;またはリボソーム結合部位は、それが翻訳を促進するように位置を占めている場合、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結した」は、連結されているDNA配列が連続していること、およびシグナルペプチドの場合には、連続しており、リーディング相中にあることを意味する。しかし、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、簡便な制限部位におけるライゲーションによって達成される。かかる部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用され得る。
【0237】
本開示の抗体を発現させるための核酸配列は、典型的には、成熟タンパク質から除去されるN末端シグナルペプチド配列を含む。シグナルペプチド配列は、発現のレベルに影響を与え得るので、ポリヌクレオチドは、種々の異なるN末端シグナルペプチド配列のうちいずれか1つをコードし得る。発現ベクターの設計が、形質転換される宿主細胞の選択、所望のタンパク質の発現のレベルなどの因子に依存し得ることが、当業者に理解される。
【0238】
上記「調節配列」は、1つまたは複数の宿主生物における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列を指す。用語「調節配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことが意図される。調節配列には、多くの型の宿主細胞におけるヌクレオチド配列の構成的発現を指示するもの、またはある特定の宿主細胞においてのみヌクレオチド配列の発現を指示するもの(例えば、組織特異的調節配列)が含まれる。発現ベクターは、一般に、転写終結のための配列を含有し、mRNA安定性に正に影響を与える1つまたは複数のエレメントをさらに含有し得る。
【0239】
発現ベクターは、本開示の抗体の発現を指示するための、プロモーターおよび/またはエンハンサーが含まれる1つまたは複数の転写調節エレメントを含有する。プロモーターは、転写開始部位に関して相対的に固定された位置から転写を開始させるように機能するDNA配列を含む。プロモーターは、RNAポリメラーゼと転写因子との基本的な相互作用のために要求されるコアエレメントを含有し、他の上流のエレメントおよび応答エレメントと併せて動作し得る。
【0240】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター」は、例えば、発生的刺激および/または外部刺激、ならびにトランス作用性の調節タンパク質または核酸に応答して、それに作動可能に連結された遺伝子の活性化または抑制を調節するさらなるTRE(即ち、上流の活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサーおよびサイレンサー)ありまたはなしの、正確な転写開始のためのTATAボックスまたはイニシエーターエレメントが含まれる、ゲノム遺伝子由来の転写調節エレメント(TRE)またはそれ由来のキメラTREを含むように広く解釈すべきである。プロモーターは、ゲノム断片を含有し得る、または一緒に組み合わされた1つもしくは複数のTREのキメラを含有し得る。
【0241】
好ましいプロモーターは、目的の標的細胞において高レベル発現を指示することが可能なプロモーターである。プロモーターには、構成的プロモーター(例えば、HCMV、SV40、伸長因子-1α(EF-1α))または目的の特定の細胞型における優先的発現を示すプロモーターが含まれ得る。エンハンサーは、一般に、転写開始部位から離れたところで機能し、転写単位に対して5’側または3’側のいずれかにあり得る、DNA配列を指す。さらに、エンハンサーは、イントロン内だけでなく、コード配列内にもあり得る。これらは通常、長さが10~300bpの間であり、シスで機能する。エンハンサーは、近くのプロモーターからの転写を増加させるおよび/または調節するように機能する。好ましいエンハンサーは、抗体産生細胞における高レベル発現を指示するエンハンサーである。細胞または組織特異的転写調節エレメント(TRE)は、所望の細胞型に発現を制限するために、発現ベクター中に組み込まれ得る。Pol IIIプロモーター(H1またはU6)は、siRNAが発現されるshRNAを発現させるために特に有用である。発現ベクターは、1つまたは複数の細胞型における本開示の抗体の発現を容易にするように設計され得る。
【0242】
siRNAは、mRNAの配列特異的転写後遺伝子サイレンシングを誘導するように操作され得る二本鎖RNAである。合成により産生されたsiRNAは、酵素Dicerによって細胞中で通常プロセシングされるsiRNAの型を、構造的に模倣する。発現ベクターから発現される場合、発現ベクターは、細胞の内側で標的化siRNAへとプロセシングされる短い二本鎖ヘアピン様RNA(shRNA)を転写するように操作される。合成siRNAおよびshRNAは、周知のアルゴリズムを使用して設計され、従来のDNA/RNA合成装置を使用して合成され得る。
【0243】
本開示の抗体の個々の鎖を共発現させるために、適切なスプライスドナー配列およびスプライスアクセプター配列が、両方の産物を発現させるために組み込まれ得る。あるいは、内部リボソーム結合配列(IRES)または2Aペプチド配列が、1つのプロモーターから複数の産物を発現させるために用いられ得る。IRESは、mRNAの5’末端にある必要がない、リボソームが結合し得る構造を提供する。したがって、IRESは、mRNA内の第2の開始コドンにおいて翻訳を開始するようにリボソームに指示し、1つよりも多くのポリペプチドが単一のmRNAから産生されることを可能にし得る。2Aペプチドは、2A部位から上流および下流のペプチドの共翻訳自己切断を媒介する短い配列を含有し、単一の転写物からの等モル量での2つの異なるタンパク質の産生を可能にする。CHYSELは、翻訳中の真核生物リボソームに、mRNAから解離することなしに合成している成長中のポリペプチド鎖を放出させる2Aペプチドの非限定的な例である。リボソームは、翻訳を続け、それにより、第2のポリペプチドを産生する。
【0244】
発現ベクターは、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターを含み得る。ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、ポックスウイルス、レトロウイルス(レンチウイルス、例えば、HIV-1およびHIV-2が含まれる)、シンドビスおよび他のRNAウイルス、アルファウイルス、アストロウイルス、コロナウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、トガウイルスなどに由来し得る。非ウイルスベクターは、ウイルス由来の構成成分(例えば、カプシドおよび/またはエンベロープ)をパッケージしていない、単なる「ネイキッド」発現ベクターである。
【0245】
ある特定の場合には、これらのベクターは、ウイルスベクターにとって固有の、またはウイルスベクター中に操作されたターゲティング特性を使用することによって、ある特定の疾患または細胞集団を標的とするように操作され得る。特定の細胞が、ポリヌクレオチドの送達、ならびに発現のために「標的とされ(targeted)」得る。したがって、用語「標的化すること(targeting)」は、この場合、特定の細胞への送達のためのカプシド、エンベロープタンパク質、抗体の形態での内因性もしくは異種の結合剤の使用、発現を細胞の特定のサブセット(複数可)に制限するための組織特異的調節エレメントの使用、またはその両方に基づき得る。
【0246】
一部の実施形態では、抗体鎖の発現は、調節エレメント、例えば、組織特異的またはユビキタスプロモーターの制御下にある。一部の実施形態では、特定の抗体重鎖もしくは軽鎖またはそれからの単鎖誘導体の発現を制御するためのユビキタスプロモーター、例えば、CMVプロモーター、CMV-ニワトリベータ-アクチンハイブリッド(CAG)プロモーター、組織特異的または腫瘍特異的プロモーター。
【0247】
非ウイルス発現ベクターは、ネイキッドDNAの直接的注射による、またはリポソーム、微小粒子、マイクロカプセル、ウイルス様粒子もしくは赤血球ゴースト中に抗体コードポリヌクレオチドを封入することによるかのいずれかで、非ウイルス遺伝子移入のために利用され得る。かかる組成物は、目的の所望の細胞中への核酸の標的化送達および/または進入を容易にするために、化学的コンジュゲーションによって、標的化ドメインにさらに連結され得る。さらに、プラスミドベクターは、合成遺伝子移入分子、例えば、ポリリシン、プロタミンおよびアルブミンのようなポリマー性DNA結合カチオンと共にインキュベートされ、細胞標的化リガンド、例えば、アシアロオロソムコイド、インスリン、ガラクトース、ラクトースまたはトランスフェリンに連結され得る。
【0248】
あるいは、ネイキッドDNAが用いられ得る。ネイキッドDNAの取り込み効率は、コンパクションによって、または生分解性ラテックスビーズを使用することによって、改善され得る。かかる送達は、疎水性を増加させ、それにより、エンドソームの崩壊および細胞質中へのDNAの放出を容易にするためにビーズを処理することによって、さらに改善され得る。
【0249】
VI.抗A2aR抗体を産生するための方法
別の態様では、本発明は、抗A2aR HCVRおよび/またはLCVRをコードする核酸または発現ベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。宿主細胞は、抗A2aR HCVRおよび/もしくはLCVRをコードする核酸もしくは発現ベクター、または本明細書に記載される他の共投与される抗体もしくはアンタゴニストのいずれかを発現させることが可能な、任意の細菌細胞または真核生物細胞であり得る。
【0250】
別の態様では、本開示の抗体を産生する方法は、抗体または断片の産生を可能にする条件下で、1つのまたは抗A2aR HCVRおよび/またはLCVRをコードする核酸または発現ベクターで形質転換された宿主細胞を培養するステップ、ならびに細胞から抗体を精製するステップを含む。
【0251】
さらなる態様では、本発明は、抗体を産生するための方法であって、抗体中の1つまたは複数のポリペプチド鎖をコードする1つまたは複数の構築物を一過的にまたは安定に発現する細胞を培養するステップ;および培養された細胞から抗体を精製するステップを含む方法を提供する。機能的抗体を産生することが可能な任意の細胞が使用され得る。好ましい実施形態では、抗体発現細胞は、真核生物または哺乳動物起源のもの、好ましくは、ヒト細胞である。種々の組織細胞型由来の細胞が、抗体を発現させるために使用され得る。他の実施形態では、細胞は、酵母細胞、昆虫細胞または細菌細胞である。好ましくは、抗体産生細胞は、抗体を発現するベクターで安定に形質転換される。
【0252】
抗体重鎖または軽鎖をコードする1つまたは複数の発現ベクターは、任意の従来の方法によって、例えば、ネイキッドDNA技法、カチオン性脂質媒介性トランスフェクション、ポリマー媒介性トランスフェクション、ペプチド媒介性トランスフェクション、ウイルス媒介性感染、物理的または化学的な作用物質または処置、電気穿孔などによって、細胞中に導入され得る。さらに、細胞は、抗体を発現する安定に形質転換されたクローンの選択を容易にする選択可能なマーカーと共に抗体を発現する1つまたは複数の発現ベクターでトランスフェクトされ得る。かかる細胞によって産生された抗体は、当該分野で公知の技法に従って、例えば、遠心分離、クロマトグラフィーなどによって、収集および/または精製され得る。
【0253】
哺乳動物細胞のための適切な選択可能なマーカーの例には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、チミジンキナーゼ、ネオマイシン、ネオマイシンアナログG418、ハイグロマイシン(hydromycin)およびピューロマイシンが含まれる。かかる選択可能なマーカーが哺乳動物宿主細胞中に首尾よく移入された場合、形質転換された哺乳動物宿主細胞は、選択圧下に置かれた場合に生存することができる。2つの広く使用される別個のカテゴリーの選択レジメンが存在する。第1のカテゴリーは、細胞の代謝、および補充された培地とは無関係に成長する能力を欠如する変異体細胞系の使用に基づく。2つの例は、CHO DHFR-細胞およびマウスLTV細胞である。これらの細胞は、チミジンまたはヒポキサンチンなどの栄養素の添加なしに成長する能力を欠如している。これらの細胞は、完全なヌクレオチド合成経路に必要なある特定の遺伝子を欠如しているので、欠けているヌクレオチドが、補充された培地中に提供されない限り、生存することができない。培地に補充することの代替法は、インタクトなDHFRまたはTK遺伝子を、それぞれの遺伝子を欠如する細胞中に導入し、それによって、それらの成長要件を変更させることである。DHFR遺伝子でもTK遺伝子でも形質転換されていない個々の細胞は、補充されていない培地中での生存が不可能である。
【0254】
第2のカテゴリーは、任意の細胞型において使用される選択スキームを指し、変異体細胞系の使用を要求しない、優性選択である。これらのスキームは、典型的には、薬物を使用して宿主細胞の成長を停止させる。新規遺伝子を有する細胞は、薬物耐性を伝達するタンパク質を発現し、選択を生き延びる。かかる優性選択の例は、薬物であるネオマイシン、ミコフェノール酸またはハイグロマイシンを使用する。3つの例は、適切な薬物、それぞれ、G418もしくはネオマイシン(ジェネティシン)、xgpt(ミコフェノール酸)またはハイグロマイシンに対する耐性を伝達するために、真核生物の制御下で細菌遺伝子を用いる。他の薬物には、ネオマイシンアナログG418およびピューロマイシンが含まれる。
【0255】
例示的な抗体発現細胞には、ヒトJurkat細胞、ヒト胎児由来腎臓(HEK)293細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウスWEHI線維肉腫細胞、ならびに単細胞原生動物種、例えば、Leishmania tarentolaeが含まれる。さらに、安定に形質転換された抗体産生細胞系は、c-mycまたは他の不死化剤を用いて不死化された初代細胞を使用して産生され得る。
【0256】
一実施形態では、細胞系は、安定に形質転換されたLeishmania細胞系、例えば、Leishmania tarentolaeを含む。Leishmaniaは、哺乳動物型のグリコシル化パターンを示す真核生物タンパク質の高レベル発現のための、ロバストな急成長する単細胞宿主を提供することが公知である。市販のLeishmania真核生物発現キットが入手可能である(Jena Bioscience GmbH、Jena、Germany)。
【0257】
一部の実施形態では、細胞系は、培養物1リットル当たり、少なくとも1mg、少なくとも2mg、少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも20mg、少なくとも50mgまたは少なくとも100mgの抗体を発現する。
【0258】
本発明における抗体は、任意の適切な培養培地、例えば、RPMI、DMEMおよびAIM V(登録商標)中での培養および維持の後に、抗体発現細胞から単離され得る。抗体は、プロテインAまたはプロテインG免疫親和性精製の使用が含まれる従来のタンパク質精製手順(例えば、親和性精製、クロマトグラフィーなど)を使用して精製され得る。一部の実施形態では、抗体は、そこからの単離のための培養物上清中への分泌のために操作される。
【0259】
VII.医薬組成物および投与手順
一態様では、本発明の医薬組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて、本明細書に記載される抗原結合分子、例えば、A2aR抗体またはその抗原結合断片(複数可)を含む。他の実施形態では、A2aR抗体またはその抗原結合断片(複数可)は、薬学的に許容される担体と組み合わせて投与される。抗A2aR組成物は、本明細書に記載されるように、1つもしくは複数の異なる抗体、1つもしくは複数の多特異性抗体、1つもしくは複数の融合タンパク質、1つもしくは複数のイムノコンジュゲート、またはそれらの組合せを含み得る。
【0260】
本発明は、本発明の抗原結合分子を含む医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、適切な担体、賦形剤、および改善された移入、送達、忍容性などを提供する他の剤を用いて製剤化される。多数の適切な製剤が、全ての薬剤師に公知の処方集:Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, PAにおいて見出され得る。これらの製剤には、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、脂質(カチオン性またはアニオン性)含有小胞(例えば、LIPOFECTIN(商標)、Life Technologies、Carlsbad、CA)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型および油中水型エマルジョン、エマルジョンカーボワックス(種々の分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、ならびにカーボワックスを含有する半固体混合物が含まれる。Powell et al. "Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA (1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311"もまた参照されたい。
【0261】
患者に投与される抗原結合分子の用量は、患者の年齢およびサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに依存して変動し得る。好ましい用量は、典型的には、体重または体表面積に従って計算される。本発明の二特異性抗原結合分子が成人患者において治療目的のために使用される場合、通常は約0.01~約20mg/kg体重、より好ましくは約0.02~約7、約0.03~約5または約0.05~約3mg/kg体重の単一用量で、本発明の二特異性抗原結合分子を静脈内投与することが有益であり得る。状態の重症度に依存して、処置の頻度および持続時間は、調整され得る。二特異性抗原結合分子を投与するための有効な投与量およびスケジュールは、経験的に決定され得る;例えば、患者の進行は、定期的評価によってモニタリングされ、用量がしかるべく調整され得る。さらに、投与量の種間拡大縮小は、当該分野で周知の方法を使用して実施され得る(例えば、Mordenti et al., 1991, Pharmaceut. Res. 8:1351)。
【0262】
種々の送達システムが公知であり、例えば、リポソーム、微小粒子、マイクロカプセル中での封入、変異体ウイルスを発現することが可能な組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシスが、本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る(例えば、Wu et al., 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432を参照されたい)。導入の方法には、真皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外および経口経路が含まれるがこれらに限定されない。組成物は、任意の簡便な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮または皮膚粘膜内層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管粘膜など)を介した吸収によって投与され得、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。投与は、全身性または局所的であり得る。
【0263】
本発明の医薬組成物は、標準的な針およびシリンジを用いて、皮下または静脈内送達され得る。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスが、本発明の医薬組成物の送達において容易に適用を有する。かかるペン型送達デバイスは、再使用可能または使い捨てであり得る。再使用可能なペン型送達デバイスは、一般に、医薬組成物を含有する置き換え可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内の全ての医薬組成物が投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジは容易に廃棄され、医薬組成物を含有する新たなカートリッジで置き換えられ得る。次いで、ペン型送達デバイスは、再使用され得る。使い捨てペン型送達デバイスでは、置き換え可能なカートリッジは存在しない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスには、デバイス内のリザーバー中に保持された医薬組成物が予め充填される。リザーバーの医薬組成物が空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0264】
ある特定の状況では、医薬組成物は、制御放出システムで送達され得る。一実施形態では、ポンプが使用され得る(Langer、上記;Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー性材料が使用され得る;Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), 1974, CRC Pres., Boca Raton, Floridaを参照されたい。さらに別の実施形態では、制御放出システムは、組成物の標的に近接して置かれ得、したがって、全身用量のごく一部のみが要求される(例えば、Goodson, 1984, Medical Applications of Controlled Release, 上記, vol. 2, pp. 115-138を参照されたい)。他の制御放出システムは、Langer, 1990, Science 249:1527-1533による総説において考察されている。
【0265】
注射可能な調製物には、静脈内、皮下、皮内および筋肉内注射、点滴注入などのための剤形が含まれ得る。これらの注射可能な調製物は、公知の方法によって調製され得る。例えば、注射可能な調製物は、例えば、上記抗体またはその塩を、注射のために従来から使用される無菌水性媒体または油性媒体中に溶解、懸濁または乳化させることによって、調製され得る。注射のための水性媒体としては、適切な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などと組み合わせて使用され得る、例えば、生理食塩水、グルコースおよび他の補助剤を含有する等張溶液などが存在する。油性媒体としては、可溶化剤、例えば、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと組み合わせて使用され得る、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが用いられる。こうして調製された注射液は、好ましくは、適切なアンプル中に充填される。
【0266】
有利には、上記経口または非経口使用のための医薬組成物は、有効成分の用量に適するように適応させた単位用量で、剤形へと調製される。単位用量でのかかる剤形には、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル剤)、坐剤などが含まれる。含有される上述の抗体の量は、単位用量での剤形1つ当たり一般に約5~約500mgであり;特に、注射剤の形態では、上述の抗体は、約5~約100mgで、他の剤形については約10~約250mgで含有されることが好ましい。
【0267】
別の態様では、細胞増殖性障害、例えば、がん、慢性感染症または免疫学的に低下状態の疾患状態を処置するための方法は、それを必要とする対象に、本明細書に記載される抗A2aR抗体または抗原結合断片を、薬学的に許容される担体と組み合わせて含有する医薬組成物を投与するステップを含む。一部の実施形態では、方法は、リンパ球の活性を回復させる、強化するまたは増強することを必要とする対象においてリンパ球の活性を回復させる、強化するまたは増強する。ある特定の好ましい実施形態では、抗体または断片は、A2aRを介したシグナル伝達を低減または無効化するヒトまたはヒト化抗A2aR抗体である。
【0268】
一部の実施形態では、医薬組成物の投与は、リンパ球活性の増加が有益である疾患、または免疫抑制、免疫抑制性細胞、もしくは例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞、B細胞)によって生成されたアデノシンによって引き起こされるもしくはそれによって特徴付けられる疾患を有する患者においてリンパ球(例えば、T細胞)の活性を増加させる。本明細書に記載される方法は、例えば、腫瘍微小環境(およびそこでのアデノシン産生)が免疫系による認識の欠如(免疫逃避)に寄与し得ると疑われる固形腫瘍を有する患者において特に有用である。腫瘍は、例えば、A2aR発現(または過剰発現)免疫細胞、例えば、CD4 T細胞、CD8 T細胞、T-reg、B細胞によって特徴付けられ得る。
【0269】
ある特定の実施形態では、方法および組成物は、種々のがんおよび他の増殖性疾患の処置のために利用される。これらの方法は、リンパ球の抗腫瘍活性を阻害し得るアデノシンレベルを低減させるように機能するので、非常に広範ながん、特に、腫瘍微小環境中のアデノシンが抗腫瘍免疫応答を抑制することが公知である固形腫瘍に適用可能である。
【0270】
本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片を使用する処置のための非限定的ながんには、例えば、肝臓がん、骨がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部のがん、乳がん、肺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)、黒色腫、子宮がん、結腸がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、精巣がん、子宮がん、ファロピウス管の癌、子宮内膜の癌、子宮頸部の癌、腟の癌、外陰部の癌、非ホジキンリンパ腫、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟部組織の肉腫、尿道のがん、陰茎のがん、小児の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱のがん、腎臓または尿管のがん、腎盂の癌、中枢神経系(CNS)の新生物、原発性CNSリンパ腫、腫瘍血管新生、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、下垂体腺腫、カポジ肉腫、類表皮がん、扁平上皮細胞がん、アスベストによって誘発されるがんが含まれる環境誘発がん、例えば、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫/縦隔原発B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性リンパ腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ様白血病、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、免疫芽球性大細胞型リンパ腫、前駆Bリンパ芽球性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、菌状息肉症、未分化大細胞型リンパ腫、T細胞リンパ腫および前駆Tリンパ芽球性リンパ腫が含まれる血液学的悪性腫瘍、またはこれらのがんの任意の組合せが含まれる。本開示は、転移性がんの処置にも適用可能である。患者は、処置の前、その間、またはその後に、上記臨床的属性のうち1つまたは複数について試験または選択され得る。
【0271】
一実施形態では、抗A2aR抗体は、A2aRの酵素活性の中和について、少なくともEC50、必要に応じてEC70、必要に応じて実質的にEC100の血中濃度を、個体において達成するおよび/または(例えば、1、2、3、4週間にわたって、および/または抗原結合化合物のその後の投与まで)維持するのに有効な量で投与される。一実施形態では、抗A2aR抗体の活性量は、A2aRの酵素活性の中和について、EC50、必要に応じてEC70、必要に応じて実質的にEC100を、個体の血管外組織において達成するのに有効な量である。一実施形態では、抗A2aR抗体の活性量は、A2aRの酵素活性を中和するの阻害について(for inhibition of neutralize the enzymatic activity of A2aR)、EC50、必要に応じてEC70、必要に応じて実質的にEC100を、個体において達成(または維持)するのに有効な量である。
【0272】
必要に応じて、一実施形態では、ADCCによるA2aR発現腫瘍細胞の枯渇(これは、例えば、受容体飽和を提供する濃度と等しいまたは実質的にそれよりも低い濃度で完全な有効性を提供することができる)へと向けられる一部の抗体とは対照的に、抗A2aR抗体は、主に遮断剤であり(実質的なFcγ受容体媒介性の活性を有さない)、所望の期間にわたって、例えば、1週間、2週間、1か月間、抗A2aR抗体の次の連続する投与まで、A2aRの酵素活性を中和するのに有効な量で投与される。
【0273】
一実施形態では、抗A2aR抗体は、アデノシンへのAMPの、A2aR媒介性の異化の阻害について、少なくともEC50、必要に応じてEC70、必要に応じて実質的にEC100の血中濃度を、個体において達成するおよび/または(例えば、1、2、3、4週間にわたって、および/または抗A2aR抗体のその後の投与まで)維持するのに有効な量で投与される。一実施形態では、抗A2aR抗体の量は、アデノシンへのAMPの、A2aR媒介性の異化の阻害について、EC50、必要に応じてEC70、必要に応じて実質的にEC100を、個体の血管外組織において達成(または維持)するのに有効な量である。
【0274】
一実施形態では、個体においてがんを処置または予防するための方法であって、循環中、必要に応じて、目的の血管外組織(例えば、腫瘍または腫瘍環境)中で、循環中での50%、70%または完全な(例えば、90%の)受容体飽和A2aR発現細胞(例えば、PBMC中で評価した場合)のために要求される濃度よりも高い濃度を達成するまたは特定された期間にわたってそれを維持する量の抗A2aR抗体を、疾患を有する個体に投与するステップを含む方法が提供される。必要に応じて、達成される濃度は、特定された受容体飽和のために要求される濃度よりも、少なくとも20%、50%または100%高い。
【0275】
一実施形態では、個体においてがんを処置または予防するための方法であって、A2aR発現細胞への結合について、循環中、必要に応じて、目的の血管外組織(例えば、腫瘍または腫瘍環境)中で、EC50、必要に応じてEC70または必要に応じてEC100よりも高い濃度を達成するまたは特定された期間にわたってそれを維持する量の抗A2aR抗体を、個体に投与するステップを含む方法が提供される。必要に応じて、達成される濃度は、A2aR発現細胞への結合について、EC50、必要に応じてEC70または必要に応じてEC100よりも少なくとも20%、50%または100%高い。
【0276】
任意の実施形態では、抗体は、例えば、ヒトPBMC中のA2aR発現細胞への結合について、0.5~100ng/mlの間、必要に応じて1~100ng/mlの間、必要に応じて30~100ng/mlの間、例えば、約30~90ng/mlのEC50、必要に応じてEC70または必要に応じてEC100を有し得る。例えば、EC50は、約30、37、39、43、57、58、61、62、90、95、143ng/mlであり得る。
【0277】
抗A2aR抗体によるA2aRの酵素活性の中和についてのEC50は、例えば、約0.01μg/ml~1μg/mlの間、必要に応じて0.1μg/ml~10μg/mlの間、必要に応じて0.1μg/ml~1μg/mlの間であり得る。例えば、EC50は、約0.1μg/ml、約0.2μg/mlまたは約0.3μg/mlであり得る。したがって、この抗A2aR抗体の量は、例えば、少なくとも0.1μg/ml、必要に応じて少なくとも0.2μg/ml、必要に応じて少なくとも1μg/ml、または必要に応じて少なくとも2μg/mlの血中濃度を達成および/または維持するために(so at to)投与される。
【0278】
脈管構造の外側の組織(例えば、固形腫瘍の処置では、腫瘍環境)が標的とされる場合、典型的には、循環中で対応する濃度を提供する用量と比較しておよそ10倍高い用量が、必要とされると考えられる。約1μg/ml、2μg/ml、10μg/mlまたは20μg/mlの循環(血液)中の濃度を達成(および/または維持)するために投与される抗A2aR抗体の量は、それぞれ、約0.1μg/ml、0.2μg/ml、1μg/ml、2μg/mlの血管外組織(例えば、腫瘍組織)濃度を達成(および/または維持)すると予想される。
【0279】
一実施形態では、抗A2aR抗体は、例えば、少なくとも0.1μg/ml、必要に応じて少なくとも0.2μg/ml、必要に応じて少なくとも1μg/ml、または必要に応じて少なくとも2μg/mlの組織(例えば、腫瘍環境)濃度を達成および/または維持するための量で投与される。抗体は、例えば、少なくとも約1μg/ml、2μg/ml、10μg/mlまたは20μg/ml、例えば、1~100μg/ml、10~100μg/ml、1~50μg/ml、1~20μg/mlまたは1~10μg/mlの間の血中濃度を達成および/または維持する(maintained)ための量で投与され得る。投与される量は、投与後特定された期間(例えば、1、2、3、4週間など)の持続時間にわたる所望の濃度の維持を提供するために調整され得る。
【0280】
一部の実施形態では、抗A2aR抗体の量は、血液(血清)または血管外組織(例えば、腫瘍環境)中の、A2aRの酵素活性の中和についての少なくともEC70またはEC100に対応する濃度を得るために投与される。抗体は、例えば、少なくとも約1μg/ml、2μg/ml、10μg/mlまたは20μg/mlの、血液濃度または血管外組織(例えば、腫瘍環境)を達成および/または維持するための量で投与され得る。
【0281】
所与のA2aR抗体についてのEC50、EC70およびEC100値は、例えば、A2aRの酵素活性の中和について、細胞アッセイにおいて評価され得る。「EC50」は、A2aRの酵素活性の中和に関して、酵素活性の中和に関してその最大応答または効果の50%を生じる、抗A2aR抗体の濃度を指す。「EC70」は、A2aRの酵素活性の中和に関して、その最大応答または効果の70%を生じる、抗A2aR抗体の濃度を指す。「EC100」は、A2aRの酵素活性の中和に関して、酵素活性のかかる中和に関してその最大応答または効果を生じる、抗A2aR抗体の効率的な濃度を指す。ある特定の実施形態では、文脈に依存して、EC50、EC70またはEC100は、抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片がA2aRの活性を阻害することを反映するために、それぞれ、IC50、IC70またはIC100と呼ばれ得る。ICxxは、生物学的プロセスをxx%阻害するのに必要とされる薬物の濃度を指す。
【0282】
一部の実施形態では、特に、固形腫瘍の処置のために、達成される濃度は、組織中(脈管構造の外側、例えば、腫瘍または腫瘍環境中)の、酵素活性の中和についての少なくともEC50に対応する、必要に応じて、約EC100または少なくとも約EC100に対応する濃度をもたらすように設計される。
【0283】
一実施形態では、抗A2aR抗体の量は、1~20mg/kg体重の間である。一実施形態では、量は、毎週、2週間毎、毎月、または2か月毎に、個体に投与される。
【0284】
一実施形態では、がんを処置することを必要とする対象においてがんを処置する方法は、少なくとも1つの投与サイクル(必要に応じて、少なくとも2、3、4つまたはそれよりも多くの投与サイクル)にわたって、本開示の抗A2aR抗体の有効量を個体に投与するステップを含み、サイクルは、8週間またはそれ未満の期間であり、少なくとも1つのサイクルの各々について、1、2、3または4用量の抗A2aR抗体が、1~20mg/kg体重の用量で投与される。一実施形態では、抗A2aR抗体は、静脈内注入によって投与される。
【0285】
例えば、ヒト対象を処置するための適切な処置プロトコールは、例えば、抗A2aR抗体の本明細書で開示される量を患者に投与するステップを含み、方法は、少なくとも1つの用量の抗A2aR抗体が投与される少なくとも1つの投与サイクルを含む。必要に応じて、少なくとも2、3、4、5、6、7または8用量の抗A2aR抗体が投与される。一実施形態では、投与サイクルは、2週間~8週間の間である。
【0286】
一実施形態では、個体において疾患(例えば、がん、固形腫瘍、血液学的腫瘍)を処置または予防するための方法は、少なくとも1つの投与サイクルにわたってA2aRの酵素活性を中和する抗A2aR抗体を個体に投与するステップを含み、投与サイクルは、抗A2aR抗体の、少なくとも第1および第2の(ならびに必要に応じて、第3、第4、第5、第6、第7および/もしくは第8のまたはさらなる)投与を含み、抗A2aR抗体は、少なくとも0.1μg/ml、少なくとも0.2μg/ml、少なくとも1μg/ml、少なくとも2μg/ml、少なくとも10μg/ml、少なくとも20μg/ml、1~100μg/mlの間、1~50μg/mlの間、1~20μg/mlの間、1~10μg/mlの間、または上述の濃度のいずれか間の範囲の抗A2aR抗体の血中(血清)濃度を、達成する、または2つの連続する投与間で維持するのに有効な量で投与される。
【0287】
一実施形態では、特定された連続する血中濃度が維持され、血中濃度は、特定された期間(例えば、抗体の2つの投与の間、週数、1週間、2週間、3週間、4週間)の持続時間にわたって、特定された血中濃度を実質的に下回って低下することはない。言い換えると、血中濃度は、特定された期間の間に変動し得るが、維持される特定された血中濃度は、最小または「トラフ」濃度を示す。
【0288】
一実施形態では、抗A2aR抗体の治療的に活性な量は、血液中および/または組織中の、抗体の投与の後少なくとも約1週間、約2週間または約1か月間の期間にわたって、A2aRの酵素活性の中和についての(少なくとも)EC50濃度、必要に応じてEC70濃度、必要に応じてEC100濃度を提供することが可能な、かかる抗体の量である。
【0289】
本開示の抗A2aR抗体による処置の過程の前またはその間に、患者の腫瘍内のおよび/またはそれに隣接する、細胞中のA2aR、CD39および/もしくはCD73の発現レベル;A2aR発現細胞、CD39発現細胞および/もしくはCD73発現細胞のパーセンテージ;ならびに/またはアデノシン、ADPおよび/もしくはAMPのレベルが、患者が処置に適切であるかどうか、および処置に応答する可能性があるかどうかを評価するために評価され得る。上述のレベルまたは発現の増加は、個体が、本開示の抗A2aR抗体による処置に適切である(例えば、本開示の抗A2aR抗体から利益を得る可能性がある)ことを示し得る。
【0290】
一部の実施形態では、患者の腫瘍の組織試料内のおよび/またはそれに隣接する、A2aR、CD39および/またはCD73の発現レベル、ならびにアデノシン、ADPおよび/またはAMPの濃度を評価することは、がん患者由来の組織、例えば、がん組織、がんの周辺部に対して近位のもしくはがんの周辺部における組織、がん隣接組織、隣接非腫瘍性組織または隣接正常組織からなる群から選択されるヒト組織の生物学的試料、ならびに組織内のA2aR、CD39および/またはCD73の発現レベルならびにアデノシン、ADPおよび/またはAMPの濃度を、対象から得るステップを含む。患者からの発現レベルまたはヌクレオチド濃度は、レベルを、例えば、健康な個体に対応する参照レベルと比較することであり得る。
【0291】
処置(または抗体の投与)の前のレベルと比較して投与(または抗体の投与)の後の比較したアデノシン、ADPおよび/またはAMPのレベルの減少は、個体が、本開示の抗A2aR抗体(基質結合したA2aRを阻害する抗体が含まれるがこれに限定されない)による処置から利益を得ていることを示し得る。必要に応じて、患者が抗A2aR抗体による処置から利益を得ている場合、方法は、抗A2aR抗体のさらなる用量を、単独でまたは別の活性薬剤と組み合わせて患者に投与するステップ(例えば、処置を継続するステップ)をさらに含み得る。
【0292】
上述を考慮すると、ある特定の実施形態では、方法は、(a)腫瘍環境中の、必要に応じて、腫瘍内および/または隣接組織内のA2aR、CD39および/もしくはCD73の発現レベルならびに/またはアデノシン、ADPおよび/もしくはAMPの濃度を決定するステップと、腫瘍環境が、それらの対応する参照レベル(複数可)と比較してA2aR、CD39、CD73、アデノシン、ADPおよび/またはAMPのレベルの増加を示すことが決定された際に、(b)抗A2aR抗体を個体に投与するステップとを含む。
【0293】
ある特定の実施形態では、腫瘍環境内のA2aR、CD39、CD73、アデノシン、ADPおよび/またはAMPのレベルを決定することは、がん組織および/またはがんの周辺部に対して近位のもしくはがんの周辺部における組織(例えば、がん隣接組織、隣接非腫瘍性組織または隣接正常組織)を含有する生物学的試料(biological)を対象から得るステップ、ならびにA2aR発現細胞、CD39発現細胞および/もしくはCD73発現細胞のレベルおよび/もしくは相対的パーセンテージ、ならびに/またはアデノシン、ADPおよび/もしくはAMPのレベルを検出するステップを含む。A2aR発現細胞、CD39発現細胞および/またはCD73発現細胞には、例えば、腫瘍細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、B細胞、およびそれらの組合せが含まれ得る。A2aR、CD39、CD73の発現レベルは、健康な対象に対応する参照レベルと比較した、または処置前の参照レベルと比較した、それらのmRNA発現(例えば、RT-PCRによって)またはポリペプチド発現(例えば、ウエスタンブロッティング、免疫蛍光染色によって)を、当業者に周知の技法を使用して評価することによって、決定され得る。
【0294】
がんを有する対象は、腫瘍微小環境中の(例えば、腫瘍細胞、CD4 T細胞、CD8 T細胞、B細胞における)A2aR、CD39、CD73、アデノシン、ADPおよび/またはAMPレベルを評価するステップありまたはなしで、抗A2aR抗体で処置され得る。
【0295】
生物学的試料が、参照と比較して、A2aR、CD39および/もしくはCD73を過剰発現する、ならびに/または高濃度のアデノシン、ADPおよび/もしくはAMPを含有する細胞を含むという決定は、対象が、A2aRを阻害する薬剤による処置から利益を得る可能性があるがんを有することを示している。一部の実施形態では、用語「過剰発現された」は、所与の患者から採取されたかなりの数の細胞において、例えば、対象から採取された腫瘍細胞またはリンパ球のうち少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%またはそれよりも多く発現されるA2aR、CD39および/またはCD73ポリペプチドに関して使用される。
【0296】
一実施形態では、がんを処置または予防することを必要とする対象におけるがんの処置または予防のための方法は、(a)腫瘍環境内の、必要に応じて、腫瘍内および/または隣接組織内の、A2aR、CD39および/またはCD73に対応する細胞のパーセンテージおよび/または発現の程度を検出するステップと、腫瘍環境が、必要に応じて、適切な参照レベルと比較して増加したレベル(複数可)でA2aR、CD39および/またはCD73を過剰発現する細胞を含むことが決定された際に、(b)抗A2aR抗体を対象に投与するステップとを含む。一実施形態では、細胞は、腫瘍細胞である。別の実施形態では、腫瘍環境、腫瘍および/または隣接組織内の細胞は、非悪性免疫細胞、例えば、T細胞である。
【0297】
一部の実施形態では、腫瘍環境内のA2aR、CD39および/またはCD73発現の程度を決定することは、がん組織および/またはがんの周辺部に対して近位のもしくはがんの周辺部における組織(例えば、がん隣接組織、隣接非腫瘍性組織または隣接正常組織)を含む生物学的試料を個体から得るステップ、細胞を、A2aRポリペプチド、CD39ポリペプチドおよび/またはCD73ポリペプチドに結合する抗体と接触させるステップ、ならびにA2aR、CD39および/またはCD73に対応する細胞のパーセンテージおよび/または発現の程度を検出するステップを含む。ある特定の実施形態では、A2aR、CD39および/またはCD73の発現は、免疫組織化学アッセイを使用して、それらの細胞表面発現によって評価される。
【0298】
抗体組成物は、単剤治療、または抗体がそのために投与される特定の治療目的のために通常利用される薬剤が含まれる1種もしくは複数の他の治療剤との併用処置として、使用され得る。上記「併用療法」を参照されたい。さらなる治療剤は、通常、処置されている特定の疾患または状態のための単剤治療においてその薬剤のために典型的に使用される量および処置レジメンで投与される。かかる治療剤には、抗がん剤および化学療法剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0299】
上記のように、本明細書に記載される医薬組成物を使用するための方法は、本開示に従う医薬組成物の有効量を、投与を必要とする対象に投与するステップを含む。
【0300】
任意の適切な経路または様式の投与が、抗体の治療的または予防的な有効用量を患者に提供するために用いられ得る。投与の例示的な経路または様式には、非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内)、経口、局部(鼻、経皮、真皮内または眼内)、粘膜(例えば、鼻、舌下、頬側、直腸、腟)、吸入、リンパ内、脊髄内、頭蓋内、腹腔内、気管内、膀胱内、髄腔内、腸内、肺内、リンパ内、腔内、眼窩内、包内および経尿道、ならびにカテーテルまたはステントによる局所的送達が含まれる。
【0301】
本開示に従う抗A2aR抗体を含む医薬組成物は、任意の薬学的に許容される担体(複数可)または賦形剤(複数可)中で製剤化され得る。本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合性の任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。医薬組成物は、適切な固体またはゲル相の担体または賦形剤を含み得る。例示的な担体または賦形剤には、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー、例えば、ポリエチレングリコールが含まれるがこれらに限定されない。例示的な薬学的に許容される担体には、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどのうち1つまたは複数、ならびにそれらの組合せが含まれる。多くの場合には、組成物中に等張剤、例えば、糖、ポリアルコール、例えば、マンニトール、ソルビトール、または塩化ナトリウムを含めることが好ましい。薬学的に許容される担体は、治療剤の有効期間または有効性を増強する微量の補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、保存剤またはバッファーをさらに含み得る。
【0302】
ある特定の好ましい実施形態では、治療的に活性な薬剤は、非経口投与に適切な医薬組成物中に組み込まれ得る。非経口投与のための医薬組成物は、注射による、例えば、ボーラス注射または持続注入による、製剤化であり得る。
【0303】
適切なバッファーには、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムまたはリン酸カリウムが含まれるがこれらに限定されない。塩化ナトリウムは、0~300mM(最適には、液体剤形については150mM)の濃度で、溶液の毒性を改変するために使用され得る。凍結保護剤は、凍結乾燥された剤形について、基本的には0~10%のスクロース(最適には0.5~1.0%)が含まれ得る。他の適切な凍結保護剤には、トレハロースおよびラクトースが含まれる。増量剤は、凍結乾燥された剤形について、基本的には1~10%のマンニトール(最適には2~4%)が含まれ得る。安定剤は、液体剤形および凍結乾燥された剤形の両方において、基本的には1~50mMのL-メチオニン(最適には5~10mM)が使用され得る。他の適切な増量剤には、グリシン、アルギニンが含まれ、0~0.05%のポリソルベート-80(最適には、0.005~0.01%)として含まれ得る。さらなる界面活性剤には、ポリソルベート20およびBRIJ(登録商標)界面活性剤が含まれるがこれらに限定されない。
【0304】
治療剤調製物は、凍結乾燥され、好ましくは真空下で無菌粉剤・散剤(sterile powder)として貯蔵され、次いで、注射前に、静菌性水(例えば、ベンジルアルコール保存剤を含有する)中または無菌水中で再構成され得る。医薬組成物中の治療剤は、「治療有効量」または「予防有効量」で製剤化され得る。「治療有効量」は、所望の治療結果を達成するために必要な投与量でおよびそのような期間にわたって有効な量を指す。抗体または活性薬剤の治療有効量は、処置される状態、状態の重症度および経過、投与の様式、抗体または薬剤が予防目的のために投与されるか治療目的のために投与されるか、特定の薬剤(複数可)のバイオアベイラビリティ、抗体が個体において所望の応答を惹起する能力、以前の治療、患者の年齢、体重および性別、患者の臨床歴および抗体に対する応答、使用される抗体の型、主治医の自由裁量などに依存して変動し得る。治療有効量は、組換えベクターの任意の毒性または有害作用を治療的に有益な効果が上回る量でもある。「予防有効量」は、所望の予防効果を達成するために必要な投与量でおよびそのような期間にわたって有効な量を指す。
【0305】
好ましくは、本明細書に記載される抗体または他の活性薬剤において利用されるポリペプチドドメインは、投与された治療剤に対する炎症性応答を低減させるために、それらが投与されるのと同じ宿主に由来する。上で示唆されたように、治療剤(複数可)は、一度に、または一連の処置にわたって、対象に適切に投与され、診断以降のいつでも、患者に投与され得る。A2aR抗体は、唯一の処置として、または問題の状態を処置する際に有用な他の活性薬剤もしくは治療と併せて、投与され得る。
【0306】
一般的な提案として、A2aR抗体(または他の活性薬剤)の治療有効量または予防有効量は、1つの投与によってであれ、複数の投与によってであれ、約1ng/kg体重/日~約100mg/kg体重/日の範囲で投与される。特定の実施形態では、各A2aR抗体または活性薬剤は、約1ng/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約1ng/kg体重/日~約1mg/kg体重/日、約1ng/kg体重/日~約100μg/kg体重/日、約1ng/kg体重/日~約10μg/kg体重/日、約1ng/kg体重/日~約1μg/kg体重/日、約1ng/kg体重/日~約100ng/kg体重/日、約1ng/kg体重/日~約10ng/kg体重/日、約10ng/kg体重/日~約100mg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日~約1mg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日~約100μg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日~約10μg/kg体重/日、約10ng/kg体重/日~約1μg/kg体重/日、10ng/kg体重/日~約100ng/kg体重/日、約100ng/kg体重/日~約100mg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日~約1mg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日~約100μg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日~約10μg/kg体重/日、約100ng/kg体重/日~約1μg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日~約100mg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日~約1mg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日~約100μg/kg体重/日、約1μg/kg体重/日~約10μg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日~約100mg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日~約1mg/kg体重/日、約10μg/kg体重/日~約100μg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日~約100mg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約100μg/kg体重/日~約1mg/kg体重/日、約1mg/kg体重/日~約100mg/kg体重/日、約1mg/kg体重/日~約10mg/kg体重/日、約10mg/kg体重/日~約100mg/kg体重/日の範囲で投与される。
【0307】
他の実施形態では、A2aR抗体および/または活性薬剤は、3日毎に500μg~20gの用量で、または3日毎に25mg/kg体重で、投与される。
【0308】
他の実施形態では、各A2aR抗体および/または活性薬剤は、個々の投与当たり約10ng~約100ng、個々の投与当たり約10ng~約1μg、個々の投与当たり約10ng~約10μg、個々の投与当たり約10ng~約100μg、個々の投与当たり約10ng~約1mg、個々の投与当たり約10ng~約10mg、個々の投与当たり約10ng~約100mg、注射1回当たり約10ng~約1000mg、個々の投与当たり約10ng~約10,000mg、個々の投与当たり約100ng~約1μg、個々の投与当たり約100ng~約10μg、個々の投与当たり約100ng~約100μg、個々の投与当たり約100ng~約1mg、個々の投与当たり約100ng~約10mg、個々の投与当たり約100ng~約100mg、注射1回当たり約100ng~約1000mg、個々の投与当たり約100ng~約10,000mg、個々の投与当たり約1μg~約10μg、個々の投与当たり約1μg~約100μg、個々の投与当たり約1μg~約1mg、個々の投与当たり約1μg~約10mg、個々の投与当たり約1μg~約100mg、注射1回当たり約1μg~約1000mg、個々の投与当たり約1μg~約10,000mg、個々の投与当たり約10μg~約100μg、個々の投与当たり約10μg~約1mg、個々の投与当たり約10μg~約10mg、個々の投与当たり約10μg~約100mg、注射1回当たり約10μg~約1000mg、個々の投与当たり約10μg~約10,000mg、個々の投与当たり約100μg~約1mg、個々の投与当たり約100μg~約10mg、個々の投与当たり約100μg~約100mg、注射1回当たり約100μg~約1000mg、個々の投与当たり約100μg~約10,000mg、個々の投与当たり約1mg~約10mg、個々の投与当たり約1mg~約100mg、注射1回当たり約1mg~約1000mg、個々の投与当たり約1mg~約10,000mg、個々の投与当たり約10mg~約100mg、注射1回当たり約10mg~約1000mg、個々の投与当たり約10mg~約10,000mg、注射1回当たり約100mg~約1000mg、個々の投与当たり約100mg~約10,000mgおよび個々の投与当たり約1000mg~約10,000mgの範囲で投与される。本開示の抗体は、毎日、2、3、4、5、6もしくは7日毎に、または1、2、3もしくは4週間毎に、投与され得る。
【0309】
他の特定の実施形態では、各A2aR抗体または活性薬剤の量は、約0.0006mg/日、0.001mg/日、0.003mg/日、0.006mg/日、0.01mg/日、0.03mg/日、0.06mg/日、0.1mg/日、0.3mg/日、0.6mg/日、1mg/日、3mg/日、6mg/日、10mg/日、30mg/日、60mg/日、100mg/日、300mg/日、600mg/日、1000mg/日、2000mg/日、5000mg/日または10,000mg/日の用量で投与され得る。
【0310】
ある特定の実施形態では、A2aR抗体および/または他の活性薬剤(複数可)のコード配列は、上記方法に従う処置を必要とする対象においてA2aR抗体または他の活性薬剤の有効量を発現させるために、適切な発現ベクター(例えば、ウイルスまたは非ウイルスベクター)中に組み込まれる。例えば、1つまたは複数の組換えAAV(rAAV)ウイルスの投与を含むある特定の実施形態では、医薬組成物は、1kg当たり少なくとも1010、少なくとも1011、少なくとも1012、少なくとも1013もしくは少なくとも1014ゲノムコピー(GC)もしくは組換えウイルス粒子、またはそれらの任意の範囲を含む量で、rAAVを含み得る。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、1対象当たり少なくとも1010、少なくとも1011、少なくとも1012、少なくとも1013、少なくとも1014、少なくとも1015ゲノムコピーもしくは組換えウイルス粒子ゲノムコピー、またはそれらの任意の範囲を含む量での、組換えウイルス、例えば、rAAVの有効量を含む。
【0311】
投与量は、任意の特定の細胞増殖性障害または免疫低下状態の疾患状態に適切な、1つまたはいくつかの当該分野で受容された動物モデルにおいて試験され得る。
【0312】
送達方法論は、殺滅ウイルスに連結したまたは連結していないポリカチオン縮合DNA、リガンド連結DNA、リポソーム、真核生物細胞送達ビヒクル細胞、光重合ヒドロゲル材料の沈着、携帯式遺伝子移入粒子銃の使用、電離放射線、核電荷中和または細胞膜との融合、粒子媒介性遺伝子移入などの使用もまた含み得る。
【0313】
VIII.抗体の診断的使用
本発明の抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片は、例えば、診断目的のために、試料中のヒトもしくはカニクイザルA2aR、またはヒトもしくはカニクイザルA2aR発現細胞を検出および/または測定するためにも使用され得る。例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片は、A2aRの異常な発現(例えば、過剰発現、過少発現、発現の欠如など)によって特徴付けられる状態または疾患を診断するために使用され得る。例えば、患者から得られた試料を、本発明の抗体と接触させる、A2aRについての例示的な診断アッセイであって、抗体は、検出可能な標識またはレポーター分子で標識される。あるいは、未標識の抗体が、それ自体が検出可能に標識された二次抗体と組み合わせて、診断適用において使用され得る。検出可能な標識またはレポーター分子は、放射性同位体、例えば、3H、14C、18F、32P、35Sもしくは125I;蛍光もしくは化学発光部分、例えば、フルオレセインイソチオシアネートもしくはローダミン;または酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、ベータガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼもしくはルシフェラーゼであり得る。試料中のA2aRを検出または測定するために使用され得る具体的な例示的なアッセイには、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)および蛍光活性化細胞選別(FACS)が含まれる。本発明に従うA2aR診断アッセイにおいて使用され得る試料には、正常または病理学的状態下で患者から取得可能な、検出可能な量のA2aRタンパク質またはその断片を含有する任意の組織または体液試料が含まれる。一般に、健康な患者(例えば、異常なA2aRレベルまたは活性に関連する疾患にも状態にも罹患していない患者)から得られた特定の試料中のA2aRのレベルが、A2aRのベースラインまたは標準レベルを最初に確立するために測定される。次いで、A2aRのこのベースラインレベルは、A2aR関連の疾患または状態を有することが疑われる個体から得られた試料中で測定されたA2aRのレベルに対して比較され得る。
【0314】
さらに、本明細書に記載される抗A2aR抗体は、免疫親和性精製を介してヒトA2aRを精製するために使用され得る。
【0315】
IX.キット
本明細書に記載される組成物、例えば、本発明の抗A2aR抗原結合分子、および/またはさらなる治療剤のうちいずれかは、キット中に含まれ得る。非限定的な例では、キットは、抗原結合分子、例えば、抗体またはその抗原結合断片を含む。ある特定の実施形態では、キットは、本明細書に記載されるさらなる治療剤をさらに含む。
【0316】
キットは、疾患または障害を処置するための試薬または指示をさらに含み得る。キットは、1つまたは複数のバッファーもまた含み得る。
【0317】
キットの構成成分は、水性媒体中、または凍結乾燥された形態のいずれかで、包装され得る。キットの容器手段には、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段が含まれ、その中に、構成成分が入れられ、好ましくは、適切にアリコート化され得る。キット中に1つよりも多くの構成成分が存在する場合(標識化試薬および標識は、一緒に包装され得る)、キットはまた、一般に、第2、第3または他のさらなる容器を含有し、この中に、さらなる構成成分が別々に入れられ得る。キットは、無菌の薬学的に許容されるバッファーおよび/または他の希釈剤を含有するための第2の容器手段もまた含み得る。しかし、構成成分の種々の組合せが、バイアル中に含まれ得る。本発明のキットはまた、典型的には、本発明の組成物、例えば、抗A2aR抗原結合分子および/またはさらなる治療剤を含有するための手段、ならびに商業的販売のために厳重に封じ込められた任意の他の試薬容器を含む。
【0318】
キットの構成成分が、1つおよび/または複数の液体溶液で提供される場合、液体溶液は、水溶液であり、無菌水溶液が特に好ましい。しかし、キットの構成成分は、乾燥した粉末として提供され得る。試薬および/または構成成分が乾燥粉末(複数可)として提供される場合、粉末は、適切な溶媒の添加によって再構成され得る。溶媒は、別の容器手段中で提供されてもよいことが想定される。
【0319】
本発明は、限定として解釈すべきではない以下の実施例によってさらに例示される。本出願全体を通じて引用される全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容、ならびに図および表は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0320】
(実施例1)
抗A2aRモノクローナル抗体の生成
マウスの免疫
6~8週齢のC57BL/6マウスを、IACUC承認されたプロトコールの下で、ヒトA2aR(ヒトA2aR:配列番号50)をコードするプラスミドをマウス中に注射することによって免疫した。簡潔に述べると、ヒトA2aR遺伝子挿入物を、改変された発現ベクター中にクローニングした。次いで、DNAプラスミドを、Mega精製キット(Qiagen、Cat.12981)を用いて、Escherichia coli(HB101株)から産生した。6~8週齢のC57/B6マウス(Taconic Farms)に各々、遺伝子銃(Bio-rad)システムまたは真皮内(ID)注射とその後の電気穿孔(BTX-Harvard Apparatus)とのいずれかによって送達したヒトA2aRコードプラスミドによる複数ラウンドの免疫を与えた。血清試料を、最初の免疫の前、および最後の免疫の7日後に採取した。
【0321】
血清滴定を、蛍光活性化細胞選別(FACS)を標準手順に従って使用して実施した。ヒトA2aR発現Expi293細胞を、96ウェルプレートに最初に添加し(1ウェル当たり1×10
5細胞)、各個々のマウス由来の段階希釈した血清(1:50、1;150、1:450、1:1350、1:4053、1:12150)50μlを、細胞と共に氷上で30分間インキュベートした。FACS緩衝液(PBS中2%の胎仔ウシ血清、2mMのEDTA)で洗浄した後、Alex Fluor 647コンジュゲート抗マウスIgGを添加し、氷上で20分間インキュベートした。細胞を、2回の洗浄の後に100μlのFACS緩衝液で再懸濁し、FACS解析(BD LSR IIフローサイトメーター、HTS)の準備が整った。
図1に示されるように、数匹のマウスは、A2aRコードDNA免疫の後に、強いA2aR特異的抗体応答を示し、事前採血した血清からの結合は示されなかった(MFI:平均蛍光強度)。
【0322】
次いで、高い特異的力価を有するマウスを、安楽死させて脾臓を無菌的に単離するために選択した。
【0323】
Sp2/0細胞と脾臓細胞との融合
脾臓組織をホモジナイズした。脾臓からの単一細胞懸濁液を調製し、次いで、電気融合(BTX-Harvard Apparatus)によってSP2/0骨髄腫細胞と1:1の比で融合させた。次いで、細胞を、ヒポキサンチン(hypxanthine)-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地(Millipore-Sigma、Cat.H0262)を含む96ウェルプレート中にプレーティングした。細胞を、次ステップのスクリーニングのために非特異的バックグラウンドを低減させるための2回の培地交換を伴って、12~14日間培養した。
【0324】
ハイブリドーマの初期スクリーニング
96ウェルプレート中のハイブリドーマ上清の初期スクリーニングを、以下の変更を除き、血清滴定について記載したのと同じFACS手順を使用して実施した:1)ヒトA2aR発現Expi293細胞(GFPを発現する)を、親Expi293(A2aR発現なし)と1:1の比で混合し、96ウェルプレートに添加した(1ウェル当たり2×105細胞)、2)96ウェルプレートの各ウェルから移した50μlのハイブリドーマ上清を、細胞と共に氷上で30分間インキュベートした。ヒトA2aR発現細胞に対して陽性であるが、親Expi293細胞に対して陽性でないウェルを選択し、サブクローニングのために処理した。
【0325】
サブクローニング
サブクローニングを、限界希釈法によって実施した。簡潔に述べると、FACSによって同定された陽性ウェルを、1細胞/ウェルの平均密度で96ウェルプレート中に播種した。96ウェルプレートを、インキュベーター中に7~10日間入れて、細胞を成長させた。細胞の成長を、定期的にモニタリングした。約4日目に、プレート上のウェルを、位相差顕微鏡下で観察し、成長している単一のコロニー(即ち、ハイブリドーマ1つの凝集のみ)を有するように見えるウェルを記録した。単一コロニーウェルからの細胞を、細胞のコンフルエンスが約50%に低下した時点で、ハイブリドーマの初期スクリーニングについて記載したのと同じ手順を使用するFACSによってスクリーニングした(screed)。
図2に示されるように、ハイブリドーマクローン1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9、8D5-16E2から単離された抗体は、ヒトA2aR発現細胞に対する特異的結合を示したが、親Expi293細胞に対しては示さなかった。
【0326】
ハイブリドーマ細胞培養および抗体精製
ハイブリドーマ細胞を、低IgG胎仔ウシ血清(Millipore Sigma、Cat.F1283)を補充したBD Cell mAb Quantum yield培地(Thermo Fisher、Cat.220511)中で成長させた。細胞の生存率が約50%に(to about to 50%)低下したときに、上清を収集した。抗体を、製造所のプロトコールに従ってプロテインG樹脂を使用して精製した。
【0327】
(実施例2)
抗A2aRマウスハイブリドーマからの抗体可変領域のクローニング
SMARTer RACEキット(TaKaRa、Cat.634858)を使用して、4種のマウスハイブリドーマから、例示的な抗体の可変領域(即ち、HCVRおよびLCVR)をコードするDNA断片をクローニングした。4種のマウスハイブリドーマの各々を培養し、サブクラス試験を介して確認して、それぞれγ2a鎖およびκ鎖からなるHおよびL鎖を有するモノクローナル抗体を産生した。総RNAを、Qiagen RNAキットを使用して3×106細胞から調製した。
【0328】
SMARTer RACE cDNA増幅キットのためのプロトコールに従って、第1鎖cDNAを、5’末端におけるSMART配列の付加を伴って最初に合成して、鋳型として総RNAを使用する下流の増幅およびクローニングのためのこの部位の使用を可能にした。各試料について、2つのPCR反応を、それぞれHおよびL鎖について、ユニバーサルフォワードプライマー(キット中に提供される)およびリバースプライマー(NCBIヌクレオチドデータベース中に登録されたマウスIgG2aおよびマウスカッパクラスの定常領域配列に基づいて設計した)を使用して同時に実施した。
【0329】
上記反応から増幅されたPCR産物を、アガロースゲル電気泳動の後にNuceloSpin Gel and PCR Clean-Upキット(Qiagen、Cat.740609)を用いたゲル抽出によって精製し、In-Fusion HD Cloning(SMARTer RACEキット中に提供される)を用いて、線状化したpRACEベクター(SMARTer RACEキット中に提供される)中にクローニングした。HおよびL可変領域配列を、Sanger配列決定を介して解析および決定した。
【0330】
例示的な抗体1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9のCDR、HCVRおよびLCVRのアミノ酸配列は、KabatおよびIMGT番号付けスキームを使用して定義して、表1~5に示される。表10および11は、例示的な抗体1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9をコードする例示的な核酸配列を示す。
【0331】
(実施例3)
マウスIgG抗体の組換え発現および精製
哺乳動物細胞系における発現のために、1B5-3D7および3F6-9G5をコードする抗体遺伝子を、適切な発現ベクター中に最初に再クローニングした。プラスミドDNAの小規模調製の後に、Expi293細胞系を、一過的トランスフェクションに使用した。上清を、トランスフェクション後の5~7日後に収集し、IgG型の抗体を、製造所のプロトコールに従ってプロテインG樹脂を使用して精製した(GE、Cat.GE17-0618-01)。
【0332】
(実施例4)
抗ヒトA2aR mAb 8D5-16E2、3F6-9G5、1B5-3D7および3F8-12E9のin vitro遮断活性
A2aRの活性は、アデニリルシクラーゼを活性化して細胞内cAMPの合成を生じるGαsタンパク質によって媒介される。cAMPのレベルは、それぞれのアデノシン(アゴニスト)レベルと相関する。cAMPは、種々の市販のcAMPアッセイキットを使用して検出され得る。
【0333】
ヒトA2aRを安定に発現するHEK293細胞(BPS Bioscience、Cat.79381)を、200μlの飢餓培地(MEM(Hyclone Cat.SH30024.01)+2%のチャコールでストリッピングした血清(Thermo Fisher Cat.A3382101))中に5000細胞/ウェルで播種し、37℃で一晩培養した。次の日、200μlの温PBSで3回洗浄した後、2倍または3倍段階希釈した濃度の、誘導緩衝液(500μM 3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)(Millipore Sigma、Cat.I7018)+100μM Ro 20-1724、Millipore Sigma、Cat.B8279を含むPBS)中の精製されたA2aR mAb(1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9)またはZM241385対照(A2aRに対する標準的な小分子アンタゴニスト)のいずれかを、細胞と共に37℃で15分間事前インキュベートした。抗体またはZM241385(Millipore Sigma、Z0153)とのインキュベーションの後、安定なアデノシンアゴニストNECA(Millipore Sigma、E2387)を、300nMまたは500nMの最終濃度になるようにその後添加した。次いで、細胞を、37℃でもう1時間インキュベートした。cAMP-Glo(商標)アッセイキット(Promega、Cat.V1501)を使用して、細胞溶解を実施し、cAMPを検出した。結果(相対光単位、RLU)を、ルミノメーターを使用して読み取った。RLUは、cAMP標準曲線およびPrismソフトウェアを使用して、cAMP(nM)に変換することができる。
【0334】
図3に示されるように、ハイブリドーマ上清から精製されたマウスIgG2a型の本発明の例示的な抗体、抗ヒトA2aR mAb 1B5-3D7、3F6-9G5および3F8-12E9は、約4.5×10
-9M~約1.5×10
-9Mの間のIC
50値で、細胞表面上で発現されたヒトA2aRの活性を遮断した。表11は、細胞表面ヒトA2aRへのNECA結合の際に誘導されるcAMP産生を遮断することに関する、例示的な抗体のIC
50値を示す。例示的な抗体のIC
50値は、小分子阻害剤(SMI)ZM241385についてのIC
50値の100分の1であり、これは、例示的な抗体のin vitro阻害がSMI ZM241385よりも少なくとも100倍強力であることを示している。
【0335】
【0336】
図4に示されるように、抗体遺伝子を発現する組換え発現ベクターで一過的にトランスフェクトされたExpi293細胞から精製されたマウスIgG2a型の本発明の例示的な抗体、抗ヒトA2aR mAb 1B5-3D7、3F6-9G5は、細胞表面上で発現されたヒトA2aRの活性を遮断する類似のIC
50を示した。
【0337】
(実施例5)
抗ヒトA2aR抗体の特異性の決定
この評価の目的は、ヒトA1R、A2bRおよびA3Rが含まれるアデノシン受容体ファミリーメンバーに対する例示的な抗ヒトA2aR抗体(クローン1B5-3D7および3F6-9G5)の特異性、ならびにマウスA2aRとのそれらの交差反応性を決定することであった。
【0338】
方法
他の3種のアデノシン受容体ファミリーメンバーのいずれに対してでもなく、ヒトA2aRに対する本発明の抗原結合分子、例えば、抗A2aR抗体またはその抗原結合断片の特異性を試験するために、フローサイトメトリーベースの細胞結合アッセイを、Multispan Inc(Hayward、CA)が実施した。Multispan Incが生成した、種々のアデノシン受容体、即ち、ヒトA1R、A2bRおよびA3RならびにマウスA2Rを安定に発現するHEK293T細胞、ならびにHEK293T親細胞系を、アッセイにおいて使用した。簡潔に述べると、アデノシン受容体過剰発現細胞系およびHEK293T親細胞系を、2、10および50nMの抗ヒトA2aRモノクローナル抗体(クローン1B5-3D7および3F6-9G5)ならびに10および50nMのマウスIgG2aアイソタイプ対照と共に、暗中で4℃で60分間インキュベートした。抗FLAG抗体(Abcam、ab72469、2μg/mL)を、それぞれ、種々のアデノシン受容体を過剰発現する細胞系についての陽性対照として使用した。FACS緩衝液(PBS+0.1%BSAおよび0.2%アジ化ナトリウム)による3回の洗浄の後、細胞を、抗マウス-IgG-PE(Invitrogen、cat.P852)検出抗体で4℃で45分間染色した。次いで、細胞を、FACS緩衝液で3回洗浄し、FACSort(Becton Dickinson)で解析した。データを、CellQuest Pro(Becton Dickinson)を使用して解析した。
【0339】
結果
本発明の2種の例示的な抗体1B5-3D7および3F6-9G5は、ヒトA2aRに特異的に結合した。他のヒトアデノシン受容体またはマウスA2aRへの結合は、陰性対照(HEK293T)において検出された結合のレベルと類似であったか、またはヒトA2aRへの結合よりも有意に弱かった(HEK293T-A1)かのいずれかであった(表12)。
【0340】
表12は、FACSアッセイによって二連で実施した、親HEK293T細胞、または異なるアデノシン受容体を発現するHEK293細胞への、例示的な抗体1B-3D7および3F6-9G5の結合シグナルをまとめている。
【0341】
【0342】
(実施例6)
本発明の例示的な抗ヒトA2aR抗体と他の抗ヒトA2aR抗体との結合親和性の比較
ヒトA2aR発現Expi293細胞または親Expi293細胞を、96ウェルプレートに最初に添加した(1ウェル当たり1×105細胞)。各抗体について7.5ug/mlから開始した12ポイントの1:2段階希釈試料の50マイクロリットル(50μl)を、細胞と共に氷上で30分間インキュベートした。FACS緩衝液(DPBS中2%の胎仔ウシ血清)で洗浄した後、1μg/mlのAlex Fluor 633コンジュゲート抗マウスIgG(Life technology、Cat.A21050)またはAlex Fluor 647コンジュゲート抗ヒトIgGの100μlを添加し、氷上で30分間インキュベートした。細胞を、2回の洗浄の後に、100μlのFACS緩衝液を用いて再懸濁した。生/死染色のための、100マイクロリットル(100μl)の1:50希釈7-AADを、細胞懸濁液に添加し、FACS解析(BD Accuri C6 plusまたはLSR IIフローサイトメーター、HTS)の準備が整った。
【0343】
図5に示されるように、mIgG2a型の例示的な抗体1B5-3D7および3F6-9G5は、hA2aR-Expi293に対する強い用量依存的特異的結合を示したが、親Expi293に対しては示さなかった。驚くべきことに、hA2aR-Expi293細胞への結合が存在しないことが、抗A2aRモノクローナル抗体MAB9497R(R&D Systems、クローン599717R)またはSDIX-14(米国特許出願公開第2014/0322236A1号、クローン864H14)による染色について検出された。さらに、抗hA2aRモノクローナル抗体SDIX-10(米国特許出願公開第2014/0322236A1号、クローン864H10)は、hA2aR-Expi293細胞および親Expi293細胞の両方に対して、類似のより低いGMI(50nMの濃度において<2000)で非特異的結合を示した(GMI:幾何平均蛍光強度)。
【0344】
(実施例7)
ヒトおよびカニクイザル初代細胞への抗ヒトA2aR抗体結合ならびに非ヒト霊長類に対する交差反応性の決定
ヒトでは、A2aRは、T細胞によって発現されることが報告されている。アデノシン遮断抗ヒトA2aR抗体(クローン3F6-9G5)を、ヒトおよびカニクイザルのPBMCへの潜在的結合について試験した。
【0345】
方法
ヒトおよびカニクイザルのPBMCは、それぞれ、Cytologics LLC(San Diego、CA)およびiQ Biosciences(Berkeley、CA)から購入した。初代細胞結合を、ウサギFc型の抗ヒトA2aRクローン3F6-9G5を使用して決定した。簡潔に述べると、100μlのFACS緩衝液中106個のヒトおよび/またはカニクイザルのPBMCを、3F6-9G5(2μg/ml)と共に4℃で60分間インキュベートした。カニクイザル交差反応性抗ヒトCD3(クローンSP34、BD)、抗ヒトCD8(クローンRPA-T8、Biolegend)およびZombie Green fixable Viability色素(Biolegend、Cat.423111)を、製造業者の指示に従って使用して、生免疫細胞サブセットを定義した。FACS緩衝液での3回の洗浄の後、細胞を、PEコンジュゲートロバ抗ウサギFc検出抗体(1:200、Biolegend、Cat.406421)で4℃で30分間染色した。FACS緩衝液での3回の洗浄の後、細胞を、LSRII(Becton Dickinson)で解析した。データを、FlowJo(Becton Dickinson)を使用して解析した。
【0346】
結果
抗ヒトA2aRクローン3F6-9G5は、ヒトT細胞(CD4+およびCD8+の両方)の小さいサブセットに結合したが、抗HELウサギFcアイソタイプ対照(Biointron、Cat.B730001)には結合しなかった(
図6)。これは、カニクイザルT細胞(CD4+およびCD8+の両方)とも交差反応した(
図6)。
【0347】
上の記載は、本発明をどのように実施するかを当業者に教示することを目的としており、本記載を読んだ当業者に明らかになるその明白な改変およびバリエーションの全てを詳述することは意図していない。しかし、全てのかかる明白な改変およびバリエーションが、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれることが意図される。特許請求の範囲は、文脈が具体的に逆を示さない限り、意図した目標を達成するのに有効な任意の順番で、特許請求した構成要素およびステップをカバーすることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】