(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-19
(54)【発明の名称】ミトコンドリアを分離するための保護液、その使用、それを含むキット及びミトコンドリアを分離するための方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20231012BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20231012BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C12M1/26
C12N1/02
C12N1/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023501375
(86)(22)【出願日】2021-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 MY2021050056
(87)【国際公開番号】W WO2022010342
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517319329
【氏名又は名称】台湾粒線体応用技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Taiwan Mitochondrion Applied Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】17F-7, No.65, Gaotie 7th Rd., Zubbei City, Hsinchu County, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100125265
【氏名又は名称】貝塚 亮平
(72)【発明者】
【氏名】鄭漢中
(72)【発明者】
【氏名】許智凱
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB01
4B029BB20
4B029FA01
4B029HA05
4B065AA90X
4B065BD04
4B065BD12
4B065BD22
4B065BD36
4B065CA46
(57)【要約】
本開示の実施形態は、細胞からミトコンドリアを分離するための保護液と、ミトコンドリアを分離するためのキットと、ミトコンドリアを分離するための方法とを提供する。このキットは、抽出用管と、保護液と、吸入用ニードルとを含む。抽出用管は、細胞を保持するために用いられる。保護液は、抽出用管にて細胞と混合して混合溶液を形成するように用いられ、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である。吸入用ニードルは、混合溶液を反復吸入してミトコンドリアを細胞から放出させることに用いられる。この方法及び保護液を使用して、簡単に便利な方法で効率的に細胞からミトコンドリアを分離でき、分離したミトコンドリアが良好な機能を維持できる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を保持するための抽出用管と、
前記抽出用管にて前記細胞と混合溶液を形成するための保護液と、
前記混合溶液を反復吸入するための吸入用ニードルとを含む、
ミトコンドリアを分離するためのキット。
【請求項2】
前記吸入用ニードルの長さが15mm以上である、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
前記吸入用ニードルの内径が0.318mm~0.356mmである、請求項1に記載のキット。
【請求項4】
細胞と、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である保護液とを混合して混合溶液を形成することと、
前記保護液の前記細胞への侵入で前記細胞の細胞膜を破壊することを促進するように、前記混合溶液における前記細胞を摩擦し、前記細胞の前記細胞膜を損傷させることと、
前記混合溶液を遠心分離させることと、
遠心分離後に得られるミトコンドリア含有上澄みを収集することと、
を含む、ミトコンドリアの分離するための方法。
【請求項5】
前記細胞を摩擦することにおいて、吸入用ニードルを用いて前記混合溶液を反復吸入する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞と前記保護液とを混合する前に、
細胞収集用ニードルを用いて細胞を含有する溶液を抽出用管に注入することと、
前記溶液を遠心させることと、
前記細胞を含まない上澄みを除去し、前記細胞を残すこととを、さらに含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記ミトコンドリア含有上澄みを収集することは、ミトコンドリア収集用ニードルを用いて行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞と前記保護液とを混合することにおいて、前記保護液の体積に対する前記細胞の数の割合は、毎mLあたり5×10
6個以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記吸入用ニードルの長さが70mmにあたり、前記混合溶液を反復吸入する吸入回数は少なくとも5回である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記吸入用ニードルを用いて前記混合溶液を反復吸入した後、前記混合溶液を少なくとも5分間の平衡時間で静置することを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である、細胞からミトコンドリアを分離して保護するための保護液。
【請求項12】
前記保護液は、浸透圧濃度が42.8mOsm/L~113mOsm/Lである、請求項11に記載の保護液。
【請求項13】
塩化ナトリウムを含む、請求項11に記載の保護液。
【請求項14】
グルコースを含む、請求項11に記載の保護液。
【請求項15】
リン酸二水素ナトリウムを含む、請求項11に記載の保護液。
【請求項16】
マンニトールを含む、請求項11に記載の保護液。
【請求項17】
塩化ナトリウムとグルコースを含み、グルコースに対する塩化ナトリウムの重量比が1:0.06~1:2560である、請求項11に記載の保護液。
【請求項18】
塩化ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを含み、リン酸二水素ナトリウムに対する塩化ナトリウムの重量比が1:0.015~1:133である、請求項11に記載の保護液。
【請求項19】
グルコース及びリン酸二水素ナトリウムを含み、リン酸二水素ナトリウムに対するグルコースの重量比が1:0.0007~1:22である、請求項11に記載の保護液。
【請求項20】
低張溶液であり、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む、細胞から分離ミトコンドリアを分離してミトコンドリア活性を維持するための保護液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、台湾に2022年7月8日出願の出願番号第109123093号の優先権の利益を主張し、これらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示は、ミトコンドリアを分離するための保護液及びその使用、それを含むキット及びミトコンドリアを分離するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリアは細胞内で重要な細胞小器官の一つである。ミトコンドリアは、細胞にエネルギー(アデノシン三リン酸、ATP)を供給することに加えて、さらに酸化ストレス、アポトーシス、細胞間連絡、及び信号伝達の調節に関連する。近年、多くの研究には、ミトコンドリアが老化と疾病の形成に密接に関連すること(Braticet al.、2013)が報告された。さらに、別の研究では、ミトコンドリアを移植することで細胞や組織の損傷を修復できること(Pacak et al.、2015;Cowanet al.、2017)を指摘した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、効率的にミトコンドリアを獲得して、それらの機能及び活性を維持することを、発展の目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態によると、ミトコンドリアを分離するための保護液、それを含むキット、及びミトコンドリアを分離するための方法を提供する。本開示では、ミトコンドリアは簡単に便利な方法で細胞から効率的に分離され、分離したミトコンドリアはその機能及び活性を維持できる。
【0006】
本開示の実施形態の一つによると、ミトコンドリアを分離するためのキットは、細胞を保持するための抽出用管と、抽出用管にて細胞と混合して混合溶液を形成するための保護液と、混合溶液を反復吸入するための吸入用ニードルとを含む。
【0007】
本開示の実施形態の一つによると、ミトコンドリアを分離するための方法は、細胞と、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である保護液とを混合して混合溶液を形成することと、保護液の細胞への侵入で細胞の細胞膜を破壊することを促進するように、混合溶液における細胞を摩擦し、細胞の細胞膜を損傷させることと、混合溶液を遠心分離することと、混合溶液が遠心分離された後に得られるミトコンドリア含有上澄みを採集することと、を含む。
【0008】
本開示の実施形態の一つによると、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である、細胞からミトコンドリアを分離して保護するための保護液を提供する。
【0009】
本開示の実施形態の一つによると、低張溶液であり、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む、細胞からミトコンドリアを分離してミトコンドリア活性を維持するための保護液の使用を提供する。
【0010】
以上によれば、本開示は、ミトコンドリアを分離するための保護液、それを含むミトコンドリアを分離するためのキット及びミトコンドリアを分離するための方法を提供する。細胞の細胞膜は、キットにおける吸入用ニードル及び保護液によって、保護液を用いた吸入用ニードル内の細胞の摩擦により破壊され、この細胞膜を破壊する方法はミトコンドリアを損傷しないようにすることができる。また、前記保護液の浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であることにより、細胞の細胞膜は保護液の低張性を利用して破壊され、ミトコンドリアを放出できる。したがって、ミトコンドリアは簡単に便利な方法で効率的に細胞から分離され、分離したミトコンドリアは優れた機能を持つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本開示は、下記の詳細な説明及び添付の図面により完全に理解されるであろう。それらは例示的に示されるもののみであり、本開示を限定するものではない。
【0012】
【
図1】本開示の第1の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキットを模式的に示す図である。
【
図2】本開示の第1の実施形態のキットを用いるミトコンドリアを分離するための方法を示すフローチャートである。
【
図3】本開示の第1の実施形態のキットの使用を模式的に示す図である。
【
図4】本開示の第2の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキットを模式的に示す図である。
【
図5】本開示の第2の実施形態のキットを用いるミトコンドリアを分離するための方法を示すフローチャートである。
【
図6】異なるニードル長さと異なる吸入回数での抽出効率を示す図である。
【
図7】異なる細胞数と異なる保護液体積での抽出効率を示す図である。
【
図8】異なる静置時間での抽出効率を示す図である。
【
図9】異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウムを含む保護液で末梢血の単核細胞から分離したミトコンドリアの機能を示す図である。
【
図10】異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウムを含む保護液で末梢血の単核細胞から分離したミトコンドリアの抽出効率を示す図である。
【
図11】異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液で脂肪由来幹細胞から分離したミトコンドリアの機能を示す図である。
【
図12】異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液で脂肪由来幹細胞から分離したミトコンドリアの抽出効率を示す図である。
【
図13】異なる成分を含み、浸透圧濃度がいずれも42.8mOsm/Lである保護液で脂肪由来幹細胞から分離したミトコンドリアの機能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の詳細な説明では、開示された実施形態の完全な理解を提供するために、多数の特定の詳細について説明する。しかしながら、一つまたは複数の実施形態は、そのような特定な詳細を伴わず実現されることは明らかであろう。他の例では、周知の構造および装置は、図面を簡略化するために、模式的に示される。
【0014】
本開示による実施形態は、ミトコンドリアを分離するためのキット、ミトコンドリアを分離するための方法、及び細胞から分離してミトコンドリアを保護するための保護液を提供する。
【0015】
以下、本開示の第1の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキットについて説明する。
図1を参照すると、
図1は本開示の第1の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキットを模式的に示す図である。本開示の第1の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキット1は、抽出用管11と、保護液12と、吸入用ニードル13とを含む。
【0016】
抽出用管11は、通常、シリンダ状である。抽出用管11は、閉鎖された底部と開口を有する。抽出用管は、細胞及び溶液を保持するために用いられる。細胞は、ミトコンドリアを有する細胞である。本実施形態では、抽出用管11は円管であるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、遠心機に受け入れられる限り、抽出用管は任意の形状を有する管であってもよい。
【0017】
保護液12は、抽出用管11に細胞と混合して混合溶液を形成するために用いられる。第1の実施形態では、保護液12の浸透圧濃度(osmolarity)は0より大きく220mOsm/L以下であるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、保護液は一般的な細胞小器官の保存や細胞小器官活性の維持ができるバッファーであってもよい。第1の実施形態では、保護液12は抽出用管11と異なる容器に保持されるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、保護液は抽出用管に保持されることにより、細胞は直接に抽出用管に添加され、抽出用管に保持される保護液と混合して、混合溶液を形成できる。
【0018】
吸入用ニードル13は、連結端部131と先端部132とを有する。連結端部131は、注射器に連結するために用いられる。先端部132は、溶液の吸い取りや注射に用いられる。吸入用ニードル13は抽出用管11における細胞と保護液12を含む混合溶液を反復吸入することにより、混合溶液における細胞が吸入用ニードル13にてニードルの内壁と往復摩擦する。細胞膜は摩擦により損傷させることで、ミトコンドリアを放出する。第1の実施形態では、吸入用ニードル13の長さは、抽出用管11の長さに合わせて、70mmであるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、吸入用ニードルの長さは15mmであってもよい。第1の実施形態では、吸入用ニードル13の内径が0.337mmであるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、吸入用ニードル13の内径は0.318mm~0.356mmであってもよい。
【0019】
第1の実施形態では、抽出用管11、保護液12、及び吸入用ニードル13は無菌であるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、これらは使用する前に滅菌されてもよい。
【0020】
以下、本開示の第1の実施形態のキットを用いるミトコンドリアを分離するための方法について説明する。
図2と
図3を参照すると、
図2は本開示の第1の実施形態のキットを用いるミトコンドリアを分離するための方法を示すフローチャートであり、
図3は本開示の第1の実施形態のキットの使用を模式的に示す図である。
【0021】
まず、抽出用管11に細胞と、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である保護液(12)とを混合して混合溶液を形成する(S11)。詳細には、他のニードル、ピペットを用いたり、注いだりする方法で、細胞と保護液12を抽出用管11に添加し、混合溶液を形成できる。細胞及び保護液12を添加する手順は限定されない。細胞は、ミトコンドリアを持つ細胞であればよく、例えば、末梢血の単核細胞、血小板、体性幹細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、羊膜幹細胞、羊水幹細胞、神経幹細胞、毛包幹細胞、嗅神経幹細胞(olfactory ensheathing stem cells)、CD34+幹細胞、骨髄幹細胞、骨格筋細胞、肝細胞、腎細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、口腔上皮細胞、心筋細胞、神経細胞、角化細胞、上皮細胞などが挙げられる。末梢血の単核細胞や血小板は、あらゆる周知の方法で末梢血を分層し、所望の単核細胞や血小板を収集して得られる。本実施形態では、保護液12は低張溶液であり、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であり、保護液12は1×106~5×106個の細胞毎1mLを処理できるが、本開示はこれに限定されない。本実施形態では、細胞と保護液12は、抽出用管11にて混合するが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、細胞と保護液12は抽出用管11以外の容器にて混合した後で抽出用管11に添加されてもよい。
【0022】
次いで、保護液12の細胞への侵入で細胞の細胞膜を破壊することを促進するように、混合溶液における細胞を摩擦し、細胞の細胞膜を損傷させる(S12)。詳細には、吸入用ニードル13と注射器Sを用いて、抽出用管11における混合溶液を反復吸入する。
図3に示されるように、吸入用ニードル13と注射器Sを用いて、抽出用管11における混合溶液を数回(例えば、5回)反復吸入する。これにより、混合溶液における細胞が吸入用ニードル13にてニードルの内壁と往復摩擦する。細胞膜は摩擦により損傷し、保護液12は損傷した細胞膜から細胞へ侵入し、細胞膜を破壊して、ミトコンドリアを放出する。
【0023】
次いで、混合溶液を遠心させる(S13)。詳細には、吸入用ニードル13で反復吸入した後の混合溶液を1500~2500rpmで5~15分間遠心させる。遠心により、細胞破片含有ペレットと、ミトコンドリア含有上澄みとを分層する。
【0024】
最後に、遠心後に得られるミトコンドリア含有上澄みを収集する(S14)。詳細には、ニードル、ピペットを用いたり、注いだりする方法でミトコンドリア含有上澄みを収集することで、ミトコンドリアを分離する目的を達することができる。
【0025】
以下、本開示の第2の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキットについて説明する。
図4を参照すると、
図4は本開示の第2の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキットを模式的に示す図である。第2の実施形態は第1の実施形態と似ているため、以下、相違のみについて説明する。第2の実施形態のミトコンドリアを分離するためのキット2は、抽出用管21、保護液22、吸入用ニードル23を含むことに加えて、さらに栓24、平衡管25、細胞収集用ニードル26及びミトコンドリア収集用ニードル27を含む。第2の実施形態における抽出用管21、保護液22及び吸入用ニードル23は、第1の実施形態における抽出用管11、保護液12及び吸入用ニードル13と同様である。したがって、これらの詳細については、第1の実施形態の説明を参照し、ここでは割愛する。
【0026】
栓24の大きさは抽出用管21の開口の大きさに対応する。栓24は、抽出用管21内の溶液が外部から汚染されることを防止するように、抽出用管21を密封するために用いられる。本実施形態では、栓24はゴム栓であり、ニードルで突き刺さしても抽出用管21の密封性を維持できるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、栓を有しなく、キャップや蓋で抽出用管を密封することができる。
【0027】
平衡管25の重量は抽出用管21の重量と同様である。平衡管25は、抽出用管21が遠心される時に平衡を維持するために用いられる。詳細には、抽出用管21が栓24によって密封される場合には、平衡管25は、遠心時に平衡を維持するように、栓24と同じ重量を有する栓、キャップまたは蓋を有することもできる。抽出用管21内に溶液が保持される場合には、遠心時に平衡を維持するように、平衡管25に同じ重量の溶液を添加することもできる。他の実施形態では、平衡管は抽出用管と同様な管であってもよく、遠心時に遠心機の回転盤が平衡を維持できれば、平衡管を有しなくてもよい。
【0028】
細胞収集用ニードル26は、連結端部261と先端部262とを有する。連結端部261は注射器に連結するために用いられる。先端部262は溶液の吸い取りや注射に用いられる。細胞収集用ニードル26は細胞含有溶液を吸い取って抽出用管21に注入するために用いられる。細胞収集用ニードル26の長さ及び内径は吸入用ニードル23の長さ及び内径と同じでもよく、異なっていてもよい。他の実施形態では、細胞収集用ニードルを有しなくてもよく、ピペットを用いて細胞含有溶液を抽出用管に注入してもよい。
【0029】
ミトコンドリア収集用ニードル27は、連結端部271と先端部272とを有する。連結端部271は注射器に連結するために用いられる。先端部272は溶液の吸い取りや注射に用いられる。ミトコンドリア収集用ニードル27はミトコンドリア含有上澄みを収集するために用いられる。ミトコンドリア収集用ニードル27の長さ及び孔径は吸入用ニードル23の長さ及び孔径と同じでもよく、異なっていてもよい。他の実施形態では、ミトコンドリア収集用ニードルを有しなくてもよく、ピペットを用いてミトコンドリア含有上澄みを採集してもよい。
【0030】
以下、本開示の第2の実施形態のキットを用いるミトコンドリアを分離するための方法について説明する。
図5を参照すると、
図5は本開示の第2の実施形態のキットを用いるミトコンドリアを分離するための方法を示すフローチャートである。
【0031】
まず、細胞収集用ニードル26を用いて細胞含有溶液を抽出用管21に注入する(S21)。詳細には、細胞収集用ニードル26を用いて細胞含有溶液を栓24で密封された抽出用管21に注入する。細胞は、ミトコンドリアを持つ細胞であればよく、例えば、末梢血の単核細胞、血小板、体性幹細胞、脂肪由来幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、羊膜幹細胞、羊水幹細胞、神経幹細胞、毛包幹細胞、嗅神経幹細胞、CD34+幹細胞、骨髄幹細胞、骨格筋細胞、肝細胞、腎細胞、繊維芽細胞、内皮細胞、口腔上皮細胞、心筋細胞、神経細胞、角化細胞、上皮細胞などが挙げられる。末梢血の単核細胞や血小板は、あらゆる周知の方法で末梢血を分層し、細胞収集用ニードル26を用いて所望の単核細胞や血小板を得られる。ここで、吸入用ニードル23を用いず、細胞収集用ニードル26を用いて細胞含有溶液を注入することにより、吸入用ニードル23と接触する保護液22が汚染されることが回避できる。
【0032】
次いで、溶液を遠心させる(S22)。詳細には、細胞の溶液を含有する抽出用管21と同じ重量を有させるように、平衡管25に液体を添加する。細胞の溶液を含有する抽出用管21と、平衡管25とを1000~1500rpmで5~10分間遠心させ、細胞の溶液を、細胞を含有するペレットと細胞を含まない上澄みに分層させる。
【0033】
次いで、遠心後に細胞を含まない上澄みを除去し、細胞を抽出用管21に残す(S23)。詳細には、細胞収集用ニードル26を用いて細胞を含まない上澄みを除去し、細胞を抽出用管21に残す。細胞を含まない上澄みをさらに除去することにより、抽出用管21における細胞の濃度を向上させつつ、その後に添加される保護液22が他の液体によって希釈されて抽出効率を低下させることを回避できる。ここで、吸入用ニードル23を用いず、細胞収集用ニードル26を用いて上澄みを除去することにより、吸入用ニードル23と接触する保護液22が汚染されることが回避できる。
【0034】
次いで、抽出用管21にて細胞と、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である保護液22とを混合して混合溶液を形成する(S24)。詳細には、吸入用ニードル23を用いて適量の保護液22を、細胞を含有する抽出用管21に添加して、混合溶液を形成する。本実施形態では、保護液22は低張溶液であり、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であるが、本開示はこれに限定されない。他の実施形態では、保護液は細胞小器官の保存や細胞小器官活性の維持ができる一般なバッファーであってもよい。第2の実施形態では、保護液22は約1×106~5×106個の細胞毎1mLを処理できる。
【0035】
次いで、吸入用ニードル23と注射器Sを用いて、抽出用管21における混合溶液を反復吸入する(S25)。詳細には、
図3に示されるように、吸入用ニードル23と注射器Sを用いて、抽出用管21における混合溶液を数回(例えば、5回)反復吸入する。これにより、混合溶液における細胞が吸入用ニードル23にてニードルの内壁と往復摩擦する。細胞膜は摩擦により損傷し、保護液22は損傷した細胞膜から細胞に侵入し、細胞膜を破壊して、ミトコンドリアを放出する。
【0036】
次いで、混合溶液を少なくとも5分間静置する(S26)。詳細には、混合溶液を安定した場所に置き、静置時間が少なくとも5分間であるが、本開示はこれに限定されない。混合溶液の静置は、低張の保護液を十分な時間で広がらせて、損傷した細胞の破裂を促進し、ミトコンドリアの放出を促進する。
【0037】
次いで、混合溶液を遠心させる(S27)。詳細には、混合溶液を含有する抽出用管21と同じ重量を有させるように、平衡管25に液体を添加する。静置した混合溶液を含有する抽出用管21と、平衡管25とを1500~2500rpmで5~15分間遠心させる。遠心により、細胞破片含有ペレットとミトコンドリア含有上澄みを分層する。
【0038】
最後に、ミトコンドリア収集用ニードル27を用いて遠心後に得られるミトコンドリア含有上澄みを収集する(S28)。詳細には、ミトコンドリア収集用ニードル27を用いてミトコンドリア含有上澄みを収集することで、混合溶液における細胞破片からミトコンドリアを分離する。ここで、吸入用ニードル23を用いず、ミトコンドリア収集用ニードル27を用いてミトコンドリア含有上澄みを収集することにより、ミトコンドリア含有上澄みが保護液及び混合溶液と接触する吸入用ニードル23で汚染されることが回避できる。
【0039】
実験1~実験5は、本開示の第2の実施形態のキットを用いた方法に従ってミトコンドリアを分離することについて示し、抽出効率、及び分離したミトコンドリアの機能を示す。
【0040】
具体的には、細胞収集用ニードルを用いて末梢血の単核細胞や脂肪由来幹細胞を収集し、細胞を抽出用管に注入する。末梢血の単核細胞は、静脈から末梢血8~20mLを採取し、血液を2000rpmで10分間遠心させることで、それを分層させて、末梢血の単核細胞の層を収集する。細胞を含有する抽出用管を1000rpmで5分間遠心させ、細胞を沈殿させ、細胞収集用ニードルを用いて上澄みを除去する。そして、1~2mLの保護液を細胞を含有する抽出用管に添加して、混合溶液を形成する。吸入用ニードルを用いて混合溶液を数回反復吸入する。そして、混合溶液を少なくとも5分間静置してから、2000rpmで10分間遠心させ、混合溶液を分層させてミトコンドリア含有上澄みと細胞破片含有ペレットを形成する。ミトコンドリア収集用ニードルを用いて、遠心後に得られるミトコンドリア含有上澄みを収集する。実験で使用される保護液は、浸透圧濃度が42.8mOsm/Lの塩化ナトリウム溶液である。
【0041】
ミトコンドリアの抽出効率は、細胞画像計数装置により得られる。細胞が破壊されると、ミトコンドリアは細胞から放出する。細胞画像計数装置は破壊された細胞数と総細胞数を計算する。全ての細胞に対する破壊された細胞の割合は、抽出効率として定義される。
【0042】
ミトコンドリアの機能は、膜電位を測定することにより評価される。テトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)は正帯電の蛍光染料である。TMREは活性を有するミトコンドリア上に集まるため、健康なミトコンドリアを標記することに用いられる。ミトコンドリアの活性が低下したり、または脱分極したりすると、膜電位が低下し、TMREがミトコンドリア上に保持できなくなる。カルボニルシアニド4-(トリフルオロメトキシ)フェニルヒドラゾン(FCCP)は、ミトコンドリアの内膜を通過できるイオノフォアである。FCCPはプロトンと結合してATPの合成を破壊し、膜電位の変化を引き起こす。FCCPは、膜電位を削除できるため、一般にミトコンドリアを不活性化や脱分極化することに用いられる。膜電位の変化は、TMREとFCCPの処理により、蛍光分析で分析され、ミトコンドリアの機能を判断する。TMREで処理された細胞はフローサイトメータにより検出され、TMRE分析に基づいて全粒子に対する機能するミトコンドリアの割合を分析できる。
【0043】
ミトコンドリアの質量は、Pierce(商標)プロテインアッセイキットを用いて測定される。操作方法はこのキットのガイドラインを参照する。本測定は、ウシ血清アルブミン(BSA)を標準品として用いられ、BSAの原液は2μg/mLであり、Pierce(商標)プロテインアッセイキットにおける試薬A(無色)及び試薬B(青)を50:1の割合で作業用試薬を調製する。標準品の調製は表1に示す。分光光度計を用いて562nmでサンプルを測定し、検量線によってサンプルにおけるミトコンドリアの質量を計算する。表1では、空白は背景値を補正するために用いられ、サンプルは抽出後のミトコンドリア含有上澄みである。
【0044】
【0045】
〔実験1〕
実験1では、混合溶液を異なる回数の反復吸入と異なる長さの吸入用ニードルに係る抽出効率について検討した。本実験は、本開示の第2の実施形態のキットを用いた方法に従って行われる。本実験では、各群は末梢血の単核細胞をそれぞれ1×10
6個含有し、保護液は1mLであり、静置時間は5分間であった。なお、長針は23G(内径0.337mm)、長さ70mmのニードルであり、短針は23G(内径0.337mm)、長さ15mmのニードルであり、反復吸入回数は、それぞれ、0、5、10、15及び20回であった。結果は
図6に示され、
図6は異なるニードル長さと異なる吸入回数での抽出効率を示す図である。
【0046】
混合溶液における細胞がニードルの内壁と摩擦、衝突し、細胞膜を損傷して、ミトコンドリアを放出する。そのため、ニードルが長く、反復吸入回数が多いほど、細胞が摩擦される経路が長く、摩擦と衝突も多く、細胞膜を損傷する効率を高めることを促進することを示す。したがって、
図6に示されるように、反復吸入回数が少ないほど、抽出効率が低下し、反復吸入回数が増えると、抽出効率が向上するが、過度の吸入回数は抽出効率に寄与しない。また、同じ反復吸入回数で、長針の抽出効率は短針の抽出効率より優れる。本実験結果によって、短針を用いて、反復吸入回数が5回であっても、約50%の抽出効率を獲得した。長針を用いて、反復吸入回数が15回である場合は、100%に近い抽出効率を獲得した。
【0047】
〔実験2〕
実験2は、異なる細胞数と異なる保護液体積での抽出効率について検討した。本実験は、本開示の第2の実施形態のキットを用いた方法に従って行われる。本実験では、吸入用ニードルは23G(内径0.337mm)、長さ70mmのニードルであり、反復吸入回数は15回であり、静置時間は5分間であった。なお、各群は末梢血の単核細胞を、それぞれ1×10
6または1×10
7個含有し、保護液は0.5、1、1.5、または2mLであった。結果は
図7に示され、
図7は異なる細胞数と異なる保護液体積での抽出効率を示す図である。
【0048】
図7に示されるように、細胞数が1×10
6個である場合には、1mLの保護液は優れた抽出効率を有する。細胞数が1×10
7個である場合には、2mLの保護液は優れた抽出効率を有する。本実験結果によって、浸透圧濃度42.8mOsm/Lの塩化ナトリウム溶液である保護液は、約1×10
6~5×10
6個の細胞毎1mLを処理でき、この範囲で80%以上の抽出効率を獲得した。
【0049】
〔実験3〕
実験3は、異なる静置時間での抽出効率について検討した。本実験は、本開示の第2の実施形態のキットを用いた方法に従って行われる。本実験では、各群は末梢血の単核細胞を、それぞれ1×10
6個含有し、吸入用ニードルは23G(内径0.337mm)、長さ70mmのニードルであり、反復吸入回数が15回であり、保護液は1mLであった。なお、静置時間は、それぞれ0、5、10、15、30分間であった。結果は
図8に示され、
図8は異なる静置時間での抽出効率を示す図である。
【0050】
混合溶液の静置は、低張の保護液を十分な時間で広げて、損傷した細胞膜のさらなる破裂を促進することにより、細胞膜を破壊する効率を向上させる。
図8に示されるように、混合溶液を反復吸入した後に、数分間静置した混合溶液は静置しなかった混合溶液より好ましい抽出効率を有する。本実験結果によって、混合溶液を少なくとも5分間静置する場合は、80%以上の抽出効率を獲得し、静置時間を長くにしても、著しい変化はなかった。
【0051】
〔実験4〕
実験4では、末梢血の単核細胞からミトコンドリアを分離した。本実験では、血液における末梢血の単核細胞の数は約2.5×106個(約8mLの末梢血)であり、保護液は浸透圧濃度42.8mOsm/Lの1mLの塩化ナトリウム溶液であり、吸入用ニードルは23G(内径0.337mm)、長さ70mmのニードルであり、反復吸入回数が15回であり、静置時間が5分間であった。結果は表2に示される。2.5×106個の末梢血の単核細胞から8.30μgのミトコンドリアが分離され、上澄みにおける全ての粒子に対する機能するミトコンドリアの割合は、表2で純度と表され、48.55%であった。
【0052】
〔実験5〕
実験5では、脂肪由来幹細胞からミトコンドリアを分離した。本実験では、脂肪由来幹細胞の細胞数は約5×106個であり、保護液は浸透圧濃度42.8mOsm/Lの1mLの塩化ナトリウム溶液であり、吸入用ニードルは23G(内径0.337mm)、長さ70mmのニードルである、反復吸入回数が15回であり、静置時間が5分間であった。結果は表2に示され、5×106個の脂肪由来幹細胞から10.97μgのミトコンドリアが分離され、上澄みにおける全ての粒子に対する機能するミトコンドリアの割合は、表2で純度と表され、39.68%であった。
【0053】
【表2】
本開示の実施形態は、ミトコンドリア分離用のキット及び方法を提供する。細胞の細胞膜は、キットにおける吸入用ニードル及び保護液によって、保護液を用いた吸入用ニードル内の細胞の摩擦により破壊され、この細胞膜を破壊する方法はミトコンドリアの損傷を防ぐことができる。したがって、簡単に便利な方法で効率的に細胞からミトコンドリアを分離し、分離したミトコンドリアは優れた機能と活性を持つ。
【0054】
以下、本開示によるミトコンドリアを分離するためのキットにおける保護液についてさらに説明する。
【0055】
保護液は、細胞からミトコンドリアを分離して、分離したミトコンドリアを保護するために用いられる溶液である。保護液の浸透圧濃度は0より大きく220mOsm/L以下でよい。一部の実施形態では、保護液の浸透圧濃度は42.8mOsm/L~220mOsm/Lでよい。一部の実施形態では、保護液の浸透圧濃度は42.8mOsm/L~113mOsm/Lでよい。一部の実施形態では、保護液は塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含める。一部の実施形態では、保護液は塩化ナトリウム及びグルコースを含め、グルコースに対する塩化ナトリウムの重量比は1:0.06~1:2560でよい。一部の実施形態では、保護液は塩化ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを含め、リン酸二水素ナトリウムに対する塩化ナトリウムの重量比は1:0.015~1:133でよい。一部の実施形態では、保護液はグルコース及びリン酸二水素ナトリウムを含め、リン酸二水素ナトリウムに対するグルコースの重量比は1:0.0007~1:22でよい。一部の実施形態では、保護液は塩化ナトリウム及びグルコースのみを含め、他の溶質がなくてもよい。一部の実施形態では、保護液は塩化ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムのみを含め、他の溶質がなくてもよい。一部の実施形態では、保護液はグルコース及びリン酸二水素ナトリウムのみを含め、他の溶質がなくてもよい。
【0056】
本開示の実施例である保護液と比較例である抽出液の成分と浸透圧濃度は、表3及び表4に示される。
【0057】
【0058】
【0059】
実験6~実験8は、本開示によって保護液に用いてミトコンドリアを分離することを示す。ミトコンドリアは、それぞれ本開示による保護液、及び比較例である抽出液を用いて、本開示の第2の実施形態のキット、及び方法によって分離させ、分離したミトコンドリアの機能と抽出効率を分析する。
【0060】
具体的には、まず、細胞と保護液とを混合して混合溶液を形成する。詳細には、一定数の細胞(1×106個)を収集する。細胞は、末梢血の単核細胞または脂肪由来幹細胞であるが、本開示はこれに限らない。細胞はあらゆるミトコンドリアを有する細胞でよい。そして、細胞は、1mLの実施例の保護液または1mLの比較例である比較抽出液と混合して、混合溶液を形成する。
【0061】
次いで、保護液の細胞への侵入で細胞の細胞膜を破壊することを促進するように、混合溶液における細胞を摩擦し、細胞の細胞膜を損傷させる。詳細には、細胞と保護液を混合する過程にて、細胞の細胞膜は摩擦により損傷される。損傷した細胞膜は、細胞がさらに破壊されるように、保護液が細胞に侵入することを促進する。ここで、23G、長さ70mmの長針を用いて、混合溶液を反復吸入し、細胞を損傷させるが、本開示はこれに限定されない。本開示による保護液を用いる場合は、実験装置に応じて異なる寸法のニードルを用い、または研磨機などの機械を用いることで、細胞膜をさらに破壊するように、細胞膜を損傷させて、保護液の細胞への侵入を促進することもできる。
【0062】
次いで、混合溶液を遠心させて、分層させる。詳細には、混合溶液を静置してから遠心させ、混合溶液は分層させて、ミトコンドリア含有上澄み、及び細胞破片含有ペレットを形成する。
【0063】
次いで、ミトコンドリア含有上澄みを収集する。詳細には、ニードル、ピペットを用いたり、注いだりする方法で、ミトコンドリア含有上澄みを収集する。
【0064】
最後に、ミトコンドリア含有上澄みを、抽出効率及びミトコンドリアの機能について分析する。
【0065】
〔実験6〕
実験6では、異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウムを含む保護液を用いて、末梢血の単核細胞からミトコンドリアを分離し、抽出効率及びミトコンドリアの機能について分析する。
図9、
図10を参照すると、
図9は異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウムの保護液で末梢血の単核細胞から分離したミトコンドリアの機能を示す図であり、
図10は異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウムの保護液で末梢血の単核細胞から分離したミトコンドリアの抽出効率を示す図である。
図10では、「#」は520mOsm/Lである比較例に対して有意差(P<0.05)を有することを示し、「*」は1025mOsm/Lである比較例に対して有意差(P<0.05)を有することを示す。
【0066】
図9及び表5から、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であり、塩化ナトリウムを含む保護液を用いて、ミトコンドリアを分離する場合は、分離したミトコンドリアは優れた機能を持ち、ミトコンドリアの機能は10%超であることがわかる。
図10及び表5から、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であり、塩化ナトリウムを含む保護液用いて、ミトコンドリアを分離する場合は、優れた抽出効率を獲得し、抽出効率は50%超であることがわかる。まとめると、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であり、塩化ナトリウムを含む保護液を用いて、末梢血の単核細胞からミトコンドリアを分離することで、ミトコンドリアはその機能(10%超)を維持しつつ、優れた抽出効率(50%超)を獲得できる。
【0067】
【0068】
〔実験7〕
実験7は、異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液を用いて、脂肪由来幹細胞からミトコンドリアを分離し、抽出効率及びミトコンドリアの機能について分析する。
図11、
図12を参照すると、
図11は異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液で脂肪由来幹細胞から分離したミトコンドリアの機能を示す図であり、
図12は異なる浸透圧濃度の塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液で脂肪由来幹細胞から分離したミトコンドリアの抽出効率を示す図である。
図11及び
図12では、「#」は520mOsm/Lである比較例に対して有意差(P<0.05)を有することを示し、「*」は1025mOsm/Lである比較例に対して有意差(P<0.05)を有することを示す。
【0069】
図11及び表6から、浸透圧濃度0より大きく220mOsm/L以下であり、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液を用いて、ミトコンドリアを分離する場合は、分離したミトコンドリアは優れた機能を持ち、ミトコンドリアの機能は10%超であることがわかる。
図12及び表6から、浸透圧濃度0より大きく220mOsm/L以下であり、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液を用いて、ミトコンドリアを分離する場合は、優れた抽出効率を獲得し、抽出効率は50%超であることがわかる。まとめると、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であり、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウム、またはマンニトールを含む保護液を用いて、脂肪由来幹細胞からミトコンドリアを分離することで、ミトコンドリアはその機能(10%超)を維持しつつ、優れた抽出効率(50%超)を獲得できる。
【0070】
【0071】
〔実験8〕
実験8では、浸透圧濃度42.8mOsm/Lの異なる成分を含む保護液を用いて、脂肪由来幹細胞からミトコンドリアを分離し、ミトコンドリアの機能について分析する。
図13及び表7を参照すると、
図13は異なる成分を含み、浸透圧濃度がいずれも42.8mOsm/Lである保護液で脂肪由来幹細胞から分離したミトコンドリアの機能を示す図である。
【0072】
図13及び表7から、浸透圧濃度が42.8mOsm/Lである場合に、それぞれに単一の成分を含む保護液(実施例1:塩化ナトリウム、実施例4:グルコース、実施例7:リン酸二水素ナトリウム)を用いて、脂肪由来幹細胞からミトコンドリアを分離することにより、分離したミトコンドリアは優れた機能を持ち、ミトコンドリアの機能は10%超であることがわかる。また、浸透圧濃度が42.8mOsm/Lである場合に、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウムのうちの二つを含む保護液(実施例13:塩化ナトリウム及びグルコース、実施例14:塩化ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム、実施例15:グルコース及びリン酸二水素ナトリウム)を用いて、脂肪由来幹細胞からミトコンドリアを分離することにより、分離したミトコンドリアはさらに優れた機能を持ち、ミトコンドリアの機能は15%超であった。
【0073】
【0074】
上記の結果によって、低張溶液を用いることは、高張溶液を用いることよりも好ましい抽出効率を有することがわかった。また、上記の実験には、浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下である保護液を用いて、ミトコンドリアを分離することにより、ミトコンドリアはその機能を維持しつつ、優れた抽出効率を獲得できることが示される。さらに、上記の実験には、浸透圧濃度が42.8mOsm/Lである場合には、塩化ナトリウム、グルコース、リン酸二水素ナトリウムのうち二つを含む保護液を用いて、ミトコンドリアを分離することにより、分離したミトコンドリアはより優れた機能を持つことが示される。異なる実験では、数値の差は、実験をバッチで実施した時の実験誤差に由来するものであり、上記の数値の差は本技術分野で許容される誤差範囲内である。
【0075】
本開示の実施形態は、細胞からミトコンドリアを分離して、分離したミトコンドリアを保護するための保護液を提供する。細胞膜を損傷する際に、例えば、長針を用いて反復吸入し、細胞膜を摩擦により損傷させ、保護液の浸透圧濃度が0より大きく220mOsm/L以下であることにより、細胞の細胞膜は低張の保護液を用いて破壊され、ミトコンドリアを放出し、この細胞膜を破壊する方法は細胞におけるミトコンドリアの損傷を防ぐことができる。したがって、ミトコンドリアは簡単に便利な方法で効率的に細胞から分離され、分離したミトコンドリアは優れた機能と活性を持つ。
【0076】
本開示の実施形態は上述のように開示したが、本開示は限定されるものではない。本開示の精神と範囲に逸脱することなく、当業者が形状、構造、特徴、および精神に適切な変更を行うことができる。明細書の記載は特許保護の範囲に属する。
【符号の説明】
【0077】
1、2:ミトコンドリアを分離するためのキット
11、21:抽出用管
12、22:保護液
13、23:吸入用ニードル
24:栓
25:平衡管
26:細胞収集用ニードル
27:ミトコンドリア収集用ニードル
131、231、261、271:連結端部
132、232、262、272:先端部
S:注射器
S11~S14、S21~S28:ステップ
【国際調査報告】