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特表2023-543965吸入経路を介するソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーによるウイルス性肺疾患、急性及び/又は慢性の肺疾患治療におけるヘパリン組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-19
(54)【発明の名称】吸入経路を介するソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーによるウイルス性肺疾患、急性及び/又は慢性の肺疾患治療におけるヘパリン組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/727 20060101AFI20231012BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 31/58 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231012BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20231012BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231012BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231012BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
A61K31/727
A61P11/00
A61K9/72
A61K31/573
A61P43/00 121
A61K31/58
A61K31/56
A61K47/02
A61K47/22
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/44
A61K47/10
A61K9/10
A61K45/00
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023511619
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 TR2021050630
(87)【国際公開番号】W WO2022035397
(87)【国際公開日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】2020/12816
(32)【優先日】2020-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(31)【優先権主張番号】2021/00552
(32)【優先日】2021-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523050726
【氏名又は名称】イスタンブル ウニヴェルシテシ レクトールルグ
【氏名又は名称原語表記】ISTANBUL UNIVERSITESI REKTORLUGU
(74)【代理人】
【識別番号】100081455
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100170966
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 正紀
(72)【発明者】
【氏名】ペコズ、アイカ ユルディズ
(72)【発明者】
【氏名】エレレル、ムスタファ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076AA22
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB25
4C076CC15
4C076DD02F
4C076DD07F
4C076DD23D
4C076DD37T
4C076DD38T
4C076DD43T
4C076DD51T
4C076DD59T
4C076DD61T
4C076DD67T
4C076EE53T
4C076FF14
4C076FF36
4C076FF39
4C076FF43
4C076FF51
4C076FF52
4C076FF57
4C076FF63
4C084AA19
4C084MA13
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA52
4C084MA59
4C084NA05
4C084ZA591
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA08
4C086DA10
4C086DA12
4C086EA27
4C086GA13
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA52
4C086MA59
4C086NA05
4C086NA10
4C086ZA59
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、新型コロナウイルス(COVID-19)、ウイルス性肺疾患、急性及び/又は慢性の肺疾患治療において、吸入経路を介するソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式(VMT)ネブライザーによる抗凝固剤であるヘパリン又はその誘導体、特に低分子量ヘパリン(LMWH)の投与に関するものである。本発明において、ヘパリン及びその誘導体は、受動的振動メッシュ式ネブライザー又は能動的振動メッシュ式ネブライザーによって投与されるものである。抗凝固剤であるヘパリン又はその誘導体は、効率的且つ迅速に肺に到達し、肺局所投与が行われるため、有効な治療が可能となる。局所(直接)投与により、薬剤が全身循環に乗らずに直接肺に到達するため、適用部位における濃度が高くなり、薬剤の副作用や1回あたりの投与コストを低減し、効果を高めることができる。経肺投与は、経口投与では吸収が悪い、あるいは代謝が早い薬剤の最適な投与経路である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するため、吸入経路を介してソフトミスト吸入器又は能動型振動メッシュ式ネブライザー又は受動型振動メッシュ式ネブライザーによって肺に局所的に投与するためのキャリア溶液に溶解したヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体から成る医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
ヘパリンが低分子量ヘパリン(LMWH)であることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
ヘパリンが未分画ヘパリン(UFH)であることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の医薬組成物であって、
薬学的に許容可能なヘパリン誘導体は、ヘパリンナトリウム塩、ヘパリンエステル、ヘパリンエーテル、ヘパリン塩基、ヘパリン溶媒和物、ヘパリン水和物、又は、ヘパリンプロドラッグとして使用される形態の中から選択されることを特徴とする。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
前記キャリア溶液は、注射用水、吸入用水、生理食塩水(0.9%NaCI)、半生理食塩水(0.45%NaCI)又はリン酸緩衝液(pH4.5~7.4)であることを特徴とする。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
前記キャリア溶液に溶解しているヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体を4000~25000IU含有することを特徴とする。
【請求項7】
請求項6記載の医薬組成物であって、
治療に使用されるヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体の投与量が4000IU、6000IU、8000IU又は10000IUであることを特徴とする。
【請求項8】
請求項7記載の医薬組成物であって、
治療に使用されるヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体の投与量が4000IU/ml、6000IU/ml、8000IU/ml又は10000IU/mlであることを特徴とする。
【請求項9】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
少なくとも1種の異なる活性物質又は少なくとも1種の賦形剤をさらに含むことを特徴とする。
【請求項10】
請求項9に記載の医薬組成物であって、
前記活性物質は、マンニトール、アセチルシステイン又は高張(3~20%NaCI、w/v)生理食塩水、抗炎症性コルチコステロイド、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体から選択されることを特徴とする。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物であって、
副腎皮質ホルモンであるデキサメタゾン、ブデソニド、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルチカゾン及び/又はモメタゾンであることを特徴とする。
【請求項12】
請求項9に記載の医薬組成物であって、
少なくとも1種の賦形剤は、浸透圧調整賦形剤、pH調整剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、抗酸化剤、抗菌防腐剤、界面活性剤、溶解性エンハンサー(共溶媒)、安定剤、持続放出又は長期の局所滞留のための賦形剤、湿潤剤、分散剤、矯味剤、甘味剤及び/又は香味剤の中から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
共溶媒は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、エタノール、ポリエチレングリコール、PEG300、PEG400、メタノール、ポリエチレングリコールヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油及び/又はレシチンの中から選択されることを特徴とする。
【請求項14】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
安定化剤は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はそのナトリウム塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンE、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、チオ尿素、リジン、トリプトファン、フェニルプロピルグリシン、グリシン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、セリン、茶ポリフェノール、パルミチン酸アスコルビル、ヒドロキシメチルエステル、ヒドロキシエチルテトラメチルピペリジノール、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ポリサクシネート(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルエタノール)エステル、2-[2-ヒドロキシ-4-[3-(2-エチルヘキシロキシ)-2-ヒドロキシプロポキシ]フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)及び/又は1,3,5-トリアジンの中から選択されることを特徴とする。
【請求項15】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
抗酸化剤が、一次抗酸化剤、還元性抗酸化剤及び/又は相乗的抗酸化剤の中から選択されることを特徴とする。
【請求項16】
請求項15に記載の医薬組成物であって、
抗酸化剤は、酢酸トコフェロール、リコペン、還元型グルタチオン、カタラーゼ、過酸化物ジスムターゼ、アセチルシステイン、R-システイン、ビタミンETPGS、ピルビン酸及び/又はそのマグネシウム塩若しくはナトリウム塩、グルコン酸及び/又はそのマグネシウム塩若しくはナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び/又はその誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸のエステル、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、マルトール及び/又はその塩類の中から選択されることを特徴とする。
【請求項17】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
抗菌防腐剤は、第四級アンモニウム化合物、チメロサールアルコール剤、抗菌エステル、キレート剤及び/又は抗真菌剤の中から選択されることを特徴とする。
【請求項18】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
抗菌防腐剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、塩化ラウラルコニウム、塩化ミリスチルピコリニウム水銀、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、パラヒドロキシ安息香酸エステル、エデト酸二ナトリウム(エチレンジアミン四酢酸、EDTA)、クロルヘキシジン、クロロクレゾール、ソルビン酸及び/又はその塩、ソルビン酸カリウム、ポリミキシン、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、p-ヒドロキシ安息香酸エチル及び/又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルの中から選択されることを特徴とする。
【請求項19】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
pH調整剤は、生理学的に許容可能な酸、塩基、塩又はそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする。
【請求項20】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
pH調整剤は、強鉱酸、鉱塩基、中強度の無機酸、中強度の有機酸、アルカリ土類水酸化物、酸化物、塩基性アンモニウム塩、炭酸塩、クエン酸塩の中から選択されることを特徴とする。
【請求項21】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
pH調整剤は、硫酸、塩酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、メチオニン、酸性のリン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウム、乳酸、グルクロン酸、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酢酸アンモニウム、リジン、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムの中から選択されることを特徴とする。
【請求項22】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
緩衝剤は、クエン酸-クエン酸ナトリウム、クエン酸-リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム-リン酸水素二ナトリウム、クエン酸-水酸化ナトリウム、トロメタモール、リン酸二ナトリウム、十二水和物、七水和物、二水和物、その無水物及び/又はナトリウムの混合物の中から選択されることを特徴とする。
【請求項23】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、デキストロース、グルコン酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム及び/又は塩化カリウム、グルコース、ラクトース、スクロース、トレハロース、キシリトール、ソルビトール及び/又はイソマルトールの中から選択されることを特徴とする。
【請求項24】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
投与形態における所望の浸透圧を達成するために、滅菌等張食塩水を含むことを特徴とする。
【請求項25】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
界面活性剤は、経口又は経鼻吸入に安全なイオン性又は非イオン性の界面活性剤であることを特徴とする。
【請求項26】
請求項25に記載の医薬組成物であって、
前記界面活性剤が、チロキサポール、ポリソルベート、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、レシチン、ビタミンETPGS、マクロゴールヒドロキシステアレート及び/又はマクロゴール-15-ヒドロキシステアレートの中から選択されることを特徴とする。
【請求項27】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、サッカリン、アスパルテーム、シクラメート、スクラロース、アセスルファム、ネオテーム、タウマチン、ネオヘスペリジン及び/又はそれらの塩若しくは溶媒和物からなる薬学的に許容可能な甘味剤の群から選択されることを特徴とする。
【請求項28】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、サッカリンのナトリウム塩又はアセスルファムのカリウム塩であることを特徴とする。
【請求項29】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、スクロース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、キシリトール、マンニトール及び/又はイソマルトであることを特徴とする。
【請求項30】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、薬学的に許容可能な界面活性剤、アルカリ土類金属塩、有機酸及び/又はアミノ酸の中から選択されることを特徴とする。
【請求項31】
請求項30に記載の医薬組成物であって、
クエン酸、乳酸及び/又はアルギニンであることを特徴とする。
【請求項32】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記芳香族の香味剤は、精油から選択されることを特徴とする。
【請求項33】
請求項32に記載の医薬組成物であって、
前記芳香族の香味剤は、メントール、チモール又はシネオールであることを特徴とする。
【請求項34】
請求項32に記載の医薬組成物であって、
湿潤剤又は分散剤は、ポロキサマー、オレイン酸又はその塩、レシチン、水添レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、オレイルアルコール、ホスファチジルグリセロールを含むがこれに限定されないリン脂質、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル、ポリオキシプロピレン脂肪族アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、スフィンゴ脂質やスフィンゴミエリンなどの糖脂質、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセリン脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、エトキシ化ラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪族アルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、アルギン酸プロピレングリコール、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、D-a-トコフェリル-ポリエチレングリコール1000コハク酸、ポリオキシ40ステアレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン植物油、アミノ酸の脂肪酸誘導体、アミノ酸のグリセリド誘導体、塩化ベンザルコニウム及び/又は胆汁酸の中から選択されることを特徴とする。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
COVID-19、インフルエンザ、結核、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、急性肺感染症、気管支炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、低酸素症、肺塞栓症、肺高血圧、特発性肺線維症、急性肺障害(ALI)、サルコイドーシス及び/又は慢性肺塞栓症の治療において使用されることを特徴とする。
【請求項36】
請求項1から35のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
使い捨て又は再利用による投与であることを特徴とする。
【請求項37】
請求項2に記載の医薬組成物であって、
空気力学的質量中央径(MMAD)が1~6μmの範囲であることを特徴とする。
【請求項38】
請求項2に記載の医薬組成物であって、
空気力学的質量中央径(MMAD)が5.3μmであることを特徴とする。
【請求項39】
請求項2に記載の医薬組成物であって、
平均微粒子率(FPF)値が10~60%の範囲であることを特徴とする。
【請求項40】
請求項38に記載の医薬組成物であって、
平均微粒子率(FPF)値が44%であることを特徴とする。
【請求項41】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するための低分子量ヘパリン(LMWH)又はその薬学的に許容可能な誘導体を含む医薬組成物であって、吸入経路を通じてソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーを用いて肺に局所投与されることを特徴とする。
【請求項42】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するための未分画ヘパリン(UFH)又はその薬学的に許容可能な誘導体を含む医薬組成物であって、吸入経路を通じてソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーを用いて肺に局所投与されることを特徴とする。
【請求項43】
請求項9から12の何れか1項に記載の医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、その形態が乳濁液又は懸濁液であることを特徴とする。
【請求項44】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するため、吸入経路を介してソフトミスト吸入器又は能動型振動メッシュ式ネブライザー又は受動型振動メッシュ式ネブライザーによって肺に局所的に投与するためのキャリア溶液に溶解したヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体から成る医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新型コロナウイルス(COVID-19)、ウイルス性肺疾患、急性及び/又は慢性の肺疾患治療において、吸入経路を介するソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式(VMT)ネブライザーによる抗凝固剤であるヘパリン又はその誘導体、特に低分子量ヘパリン(LMWH)の投与に関するものである。本発明において、ヘパリン及びその誘導体は、受動的振動メッシュ式ネブライザー又は能動的振動メッシュ式ネブライザーによって投与されるものである。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(CoV)とは、通常の風邪から中東呼吸器症候群(MERS-CoV)及び重症急性呼吸器症候群(SARS-CoV)のようなより深刻な疾患にまで至る病気の原因となるウイルスの大分類である。コロナウイルスは、一本鎖でプラス極性のエンベロープRNAウイルスである。それらは表面に棒状の拡張部(突起)を備える。これらの突起からなる王冠型の構造体のラテン語の同義語は「コロナ」であり、これに基づき、これらのウイルスは、コロナウイルス(コロナウイルス、王冠を頂いたウイルス)と名付けられた。コロナウイルスは、アルファ-、ベータ-、ガンマ-及びデルタコロナウイルスの4つの主要な属に分類される。それらは、人体内、家庭内及び野生動物(コウモリ、ラクダ、豚、猫、犬、齧歯動物及び家禽など)の体内で検出することができる。ヒトコロナウイルスは、1960年代に最初に確認された。今日、ヒトへの感染因子を持つことが分かっている7種類のコロナウイルスが存在する。229E(アルファコロナウイルス)、NL63(アルファコロナウイルス)、OC43(ベータコロナウイルス)、及びHKU1(ベータコロナウイルス)は、ヒトへの最も一般的な感染因子を持ち且つ上気道及び下気道に影響を与えるコロナウイルスである。他の3つのヒトコロナウイルスは近年確認され、それらは、SARS-CoV、MERS-CoV、そして最後にSARS-CoV2である。SARS-CoVウイルスは、2002年に中国で確認された。それは、重症急性呼吸器症候群を引き起こす。その伝染病は、世界中で774人の死者を発生させた。MERS-CoVは、2012年にサウジアラビアで出現し、中東呼吸器症候群ウイルス(MERS)と名付けられ、24カ国に広まり、1000以上の感染事例及び約400人の死者を発生させた。一方で、SARS-CoV2は、2019年12月下旬に中国の湖北省武漢で始まり、ヒトの肺炎を引き起こす、感染力のある極めて病原性の高いコロナウイルスであって、深刻な呼吸器感染症を引き起こす伝染病であり、まずは国内で徐々に広がり、その後に全世界へと広がった。その伝染病は、最初にこの地域の海鮮市場及び動物市場にいた人々で発見されたが、その後に人から人へと拡がって湖北省の特に武漢から他の都市へと拡がり、中華人民共和国の他の省へ拡がり、そして、人と移動との相互作用によって世界中の他の国へと拡がった。ウイルスが最初に出現した2019年12月から、世界の人口の殆どが地球規模で検疫を受け、世界経済の低迷を引き起こしている。完全な治療法が存在しないため、隔離がいつまで続くのか、人々や経済に与える悪影響を予測することができず、2021年7月までに380万人以上の死者を発生させ、そして、集団免疫を獲得するまでには、この数字が数百万更新されるであろうと言われている。
【0003】
このSARS-CoV2ウイルスを原因とした新たなウイルス性呼吸器疾患、及び、高熱、咳及び呼吸困難(dyspnea、difficulty in breathing)といったそれ自体が一目瞭然なその最も一般的な症状は、世界保健機関によってCOVID-19と定義された。SARS-CoV2ウイルスは肺を直接の標的とし、5日程度の短期間で肺破壊が始まる。患者は、主に呼吸器不全で死に至る。今のところ、COVID-19を完全に治療できる薬を医療現場で入手することはできない。一般的に使用される薬は、これまでのウイルスの待機的治療に使われる抗ウイルス薬、サイトカイン阻害薬及び抗体投与療法である。
【0004】
COVID-19は、病気の個人の咳/くしゃみ、及び、周囲に広がった飛沫の吸い込みによって伝染する。人々は、病気の人達の呼吸粒子で汚染された表面に触れた後、洗浄/消毒せずに、顔、目、鼻又は口に触った場合、ウイルスに感染する可能性がある。そのため、この流行期間中に汚染された手で目、鼻又は口を触ることは、大きなリスクを伴う。SARS-CoV2コロナウイルスの潜伏期間は、2日から14日間であり、軽症(発熱、咽頭痛、衰弱)は、病気の最初の数日のうちに観測され、その後、咳及び呼吸困難(dyspnea)としてそれ自身一目瞭然の発熱を伴う症状が観測され、そして、7日後には、通常、病院で診てもらうのに十分なほどに患者の病状が深刻なものとなる。得られたデータを鑑みるに、ウイルスは、高齢(65歳以上)の人や基礎疾患(喘息、糖尿病、心臓病など)のある人に対する高い重症化リスクを含む。SARS-CoV2コロナウイルスに感染した人の何人かは、症状が現れずに軽症で病気を克服するが、その者たちはキャリアであるため、接触した人に病気をうつす。キャリアとなる患者は、ほとんどの場合、子供か若者である。現在のデータは病気の死亡率が約2%であることを示しているものの、この情報はウイルスの遺伝子構造において生じ得る変異に応じて異なり得る。重症例では、肺炎、深刻な急性呼吸器感染症、深刻な呼吸器不全、腎不全、死亡さえも引き起こす可能性がある。
【0005】
ウイルス感染は、体内でSARS-CoV2ウイルスの発症が始まると呼吸器系及び心臓系に影響を与えることが知られている。死亡患者のコホートや解剖から得られるデータは、SARS-CoV2ウイルスに感染した人の血液凝固プロファイルが進展することを示している。中華人民共和国で実施されている多施設共同の後ろ向き研究は、臨床検査値からCOVID-19を保有すると証明された191人の成人患者を含んでいた。血液凝固障害は、死亡した患者の50%で確認された。敗血症合併症を伴う血液凝固障害の割合は、死亡した患者の70%と記録された。加えて、凝固異常はCOVID-19に感染した患者で確認されたが、これらは敗血症に見られる典型的な播種性血管内凝固症候群(DIC)ではないとも述べられている。また、肺での微小血栓形成も解剖された患者から確認された。
【0006】
SARS-CoV2ウイルスに感染した患者における血栓形成に加え、感染期間中に観測された凝血促進及び抗凝血の状態は、免疫細胞と非免疫細胞との間で平衡障害を引き起こし、さらに、血栓形成を引き起こすことが想定される。内皮は生体の恒常性の維持において重要な役割を担っているが、ウイルス感染は内皮の健全性を破壊することが知られており、それは血液病理学において起こり得るリスクの原因となる。加えて、フォン・ヴィレブランド因子の除去、T様受容体活性化、及び、ウイルス感染の結果として含まれる組織因子経路活性化は、共に凝固カスケードにおいて役割を担っており、この効果は架橋フィブリン凝固を引き起こすと考えられている。これらの凝血塊の破壊に要求される凝固カスケードの過剰活性化のための各生理反応は、凝血促進作用のあるDダイマー因子の原因となる。抗原認識後に、血小板はDダイマーに加えて活性化され、それにより、白血球は病原体除去及び凝固物形成のために調整することが可能となる。その結果、免疫細胞、血小板及び内皮細胞は、ウイルス感染における血液凝固プロファイルの形成において役割を担うことになる。このような臨床像に加えて、COVID-19患者は、ベッドで長時間安静状態のままであるため、静脈血栓塞栓症そのものは、血液凝固にとって有利になるという付加的な理由になることを考慮すべきである。
【0007】
以上詳述したCOVID-19疾患は、凝固経路が破壊され、重篤な経過をたどる疾患である。したがって、ヘパリンは、一般に、当該疾患の治療における第一選択の抗凝固剤投与として、医療従事者に支持されている。ヘパリンは、多くの哺乳類のマスト細胞に存在する高度硫酸化グリコサミノグリカンである。この化合物は、酸性の性質を利用して、凝固因子、成長因子、サイトカイン、ケモカインなどの免疫反応タンパク質に結合する。ヘパリンの抗凝固メカニズムを簡単に説明すると、ヘパリンはアンチトロンビン(AT)に結合し、ATの作用を増強してXa因子を不活性化し、プロトロンビンからトロンビンへの変換を防ぐとともに、フィブリノーゲンからフィブリンへの変換を防ぐ(1)。ヘパリンは、血漿タンパク質や内皮細胞と非特異的に結合するため、皮下投与後の用量反応関係が予測できず、生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)も低い。低分子量ヘパリン(LMWH)もATと結合し、ATの活性を促進するが、Xa因子に優先的に作用し、その効果はより長く持続する。ヘパリンと比較すると、LMWHは、トロンビンの発生を抑制する能力が低く、サイズが小さくなるため血漿タンパク質や内皮細胞との結合も少なくなる(2)。このため、SC投与時のバイオアベイラビリティは85~99%であり、抗凝固反応は予測しやすく、患者間のばらつきも少なく、ヘパリンよりも作用時間が長い(3)。現在、疾患治療において一度に投与されるLMWHの用量は、4000IU-10000IUの範囲にある。一方、1日の総投与量は、現在、COVID-19の治療において、20000IUまでの用量で使用されている。
【0008】
SARS-CoV2ウイルスが最初に検出された中華人民共和国での後向き調査において、抗凝固剤ヘパリン(特に低分子量ヘパリン)を7日間以上非経口投与した重症患者449例中99例のプロトロンビン時間にプラスの改善が認められたが、死亡率及び血小板数にはマイナスの改善が認められると報告されている。
【0009】
ヘパリンは、その抗凝固作用に加え、呼吸器系における抗炎症作用や免疫調節作用を有する。近年の研究により、未分画ヘパリン(UFH)は、エンドトキシンによる肺血管の拡張を抑制し、抗炎症作用を有することが示唆されている。これに加えて、ヘパリンは喘息患者の気管支過敏症において、炎症による特異的刺激および非特異的刺激に対して抗喘息作用を示すことが指摘されている。ヒスタミンやロイコトリエンによって引き起こされる気管支の過敏症を緩和する。陰イオン性ヘパリンは、様々な炎症性細胞傷害性タンパク質と結合し、これらのタンパク質を中和することにより作用する(4)。また、ヘパリンは好中球の走化性やリンパ球の流れに影響を与えることが指摘されている(5)。これらの研究を考慮すると、抗凝固作用を有するヘパリン又はその誘導体を吸入投与することが可能であることが証明されている。低分子量ヘパリンであるエノキサパリンナトリウムは、吸入投与によりマスト炎症メディエーターや好酸球を減少させることが示されている。また、バイパス時に血液が異物と接触するとインターロイキン-6(IL6)、インターロイキン-8(IL8)、腫瘍壊死因子-α(TNF-a)の活性化を引き起こすことが示されており、ヘパリンコーティング材料を用いた場合、これらの炎症性分子が低減されることが示されている。しかも、この効果は投与量に正比例している。また、これらの患者は集中治療室の滞在期間も短縮されている。
【0010】
ヘパリンは、ヒストンにも拮抗する。COVID-19の感染では、傷ついた細胞からヒストンが放出され、それによってヒストン障害が引き起こされる。Enkhbaatarらは、煙誘発性肺損傷において、噴霧されたヘパリンがそのヒストン拮抗作用で酸素化を促進し、肺水腫を軽減することを示している(6)。
【0011】
近年、ヘパリンは急性肺損傷(ALI)の治療に使用されている。ALIは様々な原因により発生する。その結果、難治性の低酸素血症や呼吸困難が生じる。ALIでは、血管透過性の増加、タンパク含有物質の滲出、フィブリン沈着が炎症性メディエーターの放出に起因している。ALIの発症では、40~60%が死亡率とされている。このような中、2017年にCamprubi-Rimblasらによって行われたinvitro研究では、ALIを模擬した肺細胞モデルで使用したヘパリンがNF-KB経路を有意に阻害することが明らかにされた。また、当該阻害は、ヒト肺マクロファージにおけるIL-6およびTNF-aのレベルを低下させることが示されている。ヘパリンが、ヒト肺胞タイプII細胞モデルにおいて、IL-6、TNF-a、および単球化学誘導タンパク質-1(MCP-1)レベルを有意に減少させることが示されている。2017年にChimentiらによって実施された急性呼吸促迫症候群(ARDS)モデルラットに対するinvivo試験において、噴霧されたヘパリンが凝固促進および炎症促進経路を介してALI症状を軽減することが観察されている。さらに、同ラットではIL-6、TNF-a値が有意に低下し、肺胞マクロファージにおけるNF-KB発現の低下まで報告された(7)。Abdelaal Ahmed Mahmoudらにより、2020年に、重症ARDSと診断された患者60名を登録し、噴霧されたヘパリン、ストレプトキナーゼ、プラセボを使用したランダム化比較観察研究が実施された。
【0012】
そこで、10,000IUの噴霧されたヘパリンを4時間おきに投与したところ、8日目終了時点でARDSの有意な改善が認められた。全身凝固マーカーであるAPTTやINRの値は変化せず、ヘパリン使用に有利な所見である大出血や輸血レベルも観察されなかった(8)。COVID-19の症例は、ほとんどが軽度から中等度の呼吸器症状であり、そのうち約20%は重症の呼吸器疾患であった。呼吸器疾患は、主にALIとARDSと診断された。重症患者を対象とした研究では、インターロイキン-2(IL-2)、IL-6、TNF-a、MCP-1などの炎症性サイトカインの著しい増加が報告されている。サイトカインストームと呼ばれる当該炎症性サイトカインレベルは、ウイルスRNAの複製に対する身体の自然な抗ウイルス反応の指標となる。前述のウイルス複製は、単球-マクロファージ浸潤や、好中球数の増加を引き起こすNF-KBやIRF3などの炎症性シグナル経路の下流誘導も引き起こす。SARS-CoV-2に感染した患者では、これらのプロセスが呼吸器系の合併症を進行させる原因となる。COVID-19や他の症例のALIやARDSプロファイルを克服するために、抗凝固剤も含めた様々な治療計画が科学者によって実施されている。
【0013】
ヘパリンは、SARS-CoV-2ウイルスのスパイクタンパク質と結合し、COVID-19の病態に重要な役割を持つIL-6の発現を下流で調節することも、COVID-19の患者に観察されたヘパリンのプラス効果であった。
【0014】
市販の未分画ヘパリン(UFHs)や分画低分子量ヘパリン(LMWHs)、超低分子量ヘパリン(ULMWHs)は、その抗凝固作用により全身投与すると出血の危険性があることが指摘されている。そこで、このような出血リスクを抑制・防止することを目的として、噴霧されたヘパリンをターゲットとした研究が行われている。ヘパリンを全身投与した場合、ヘパリンの局所作用が低下することが指摘されている。ウサギを用いた実験では、肺胞内の酸素分圧を上昇させ、総タンパク質量を減少させることが確認されている。ヘパリンはさらに、内皮障害の指標となるマロンジアルデヒド(MDA)のレベルを低下させ、その代わりに、虚血障害の原因となる活性酸素を除去するスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)や、酸化ストレスから保護するグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)の量を増加させることも確認されている。低分子量ヘパリンを吸入した場合、治療レベルの抗凝固作用を得るためには、皮下投与の10倍の投与量が必要であることが、プロスペクティブスタディにより示された。
【0015】
Jaquesらは1976年にLancet誌に「Intrapulmonary Heparin, A New Procedure for Anticoagulant Therapy」というタイトルで発表した科学研究の中で、初めてヘパリンの吸入投与について言及した。この研究では、Devilbiss超音波ネブライザーを用いて10-20mg/minのヘパリン投与が行われた。この研究では、患者にゆっくり深呼吸をしてもらい、休憩時間を含めて90分間その状態を続けた。この研究では、吸入法と静脈内投与法および皮下投与法を比較した。その結果、副作用の程度や抗凝固活性の持続時間などのパラメータから、吸入ヘパリンが有意に優れていることが示された。
【0016】
Atzらは1998年に行った研究で、4ヶ月以下の肺高血圧症の乳児に吸入ヘパリンと一酸化窒素の吸入を併用することを調査した。その結果、抗酸化作用、抗増殖作用、降圧作用を持つ一酸化窒素は、平滑筋や新生血管の発達を促すヘパリンと併用することで、一次高血圧治療の維持に重要な役割を果たすことが明らかになった(9)。
【0017】
Dixonらは、その急性肺損傷の初期段階にある患者16人を対象に、噴霧されたヘパリンの治療効果を評価した。その結果、4回のヘパリン投与で呼吸機能及び全身性抗凝固作用に大きな変化がないことが確認された(10)。
【0018】
別の研究では、噴霧されたヘパリン、ヘパリノイド、アンチトロンビン、またはフィブロサイトを含む治療法を適用して、非臨床試験と臨床試験が実施された。この吸入療法は、非臨床試験及び臨床試験において、凝固及び抗凝固マーカーに影響を与えることなく、病的状態を軽減することが証明された(11)。Chopraらは、彼らが行った研究の中で、体の87%を焼失し、吸入損傷を受けた患者に対して、エアロゾル化アセチルシステイン/ヘパリン投与により、臨床的に良好な凝固能が発現したことを示した(12)。
【0019】
吸入ヘパリンは、嚢胞性線維症患者に50.000IUを1日2回、2週間投与した場合、喀痰排出量を減少させることができ、出血などの副作用を示さないことが実証されている(13)。ヘパリンの気管支収縮作用は知られていますが、その作用メカニズムについてはまだ十分に解明されていない。多くの非臨床研究及び臨床研究において、ヘパリンの主な作用は、平滑筋への直接作用よりも、肥満細胞の脱顆粒及びその炎症を引き起こすメカニズムの抑制であることが示されている(14-17)。ヘパリンは、多くの哺乳類のマスト細胞で利用可能な高度硫酸基含有グリコサミノグリカンである。その酸性の特徴により、凝固を防ぐ。ヘパリンは、その抗凝固作用に加え、抗炎症作用や免疫調節作用も有している。ヘパリン及びその誘導体の線溶性は、成長因子、サイトカイン、ケモカインなどの免疫応答タンパク質と結合することによって効果を発揮する能力も持っている。また、ポリアニオン性タンパク質であるヘパリンは、ウイルスとの結合を抑制する効果も高い。単純ヘルペスは、ジカウイルス感染症において、ホスト細胞内の表面の糖タンパク質との結合をウイルスと競合している。さらに重要なことは、極めて重症のCOVID-19の患者において、ヘパリンがウイルスの「スパイクタンパク質」と結合することによってウイルスを不活性化し、インターロイキン-6を抑制することが報告されている。COVID-19疾患において、損傷を受けた肺細胞から放出されるヒストンに拮抗する。肺疾患における吸入ヘパリンの使用については、多数の非臨床研究及び臨床研究が発表されている。
【0020】
Tuinmanら(2012)は、ALIにおいて噴霧されたヘパリンの煙吸入に依存して患者の生存率が上昇することを明らかにし、非臨床試験において、ヘパリンの噴霧投与は全身投与と比較すると、出血を起こすことなく望ましい全身凝固効果を生み出すことを明らかにした(18)。
【0021】
COVID-19の治療において、ヘパリン及びその誘導体のネブライザーによる投与に関する臨床試験が進行中であるが、臨床試験データとして公表されたものはまだない。その進行中の研究の一つに、米国におけるCOVID-19HOPE(Nebulized Heparin-N-acetylcysteine in COVID-19 Patients by Evaluation of Pulmonary Function)と題された研究計画がある。Steven Quayらが実施したこの研究計画では、COVID-19患者にヘパリンとN-アセチルシステインを吸入経路で併用投与することにより、人工呼吸を必要とする患者数が減少し、場合によっては、その必要性が完全になくなると考えられている。
【0022】
COVID-19 HOPE研究を除き、COVID-19の治療における抗凝固活性を解析する臨床試験は現在38件あり、そのうち30件は抗凝固剤としてヘパリン及びその誘導体を使用している。これらの研究では、ヘパリン及びその誘導体の投与経路として、従来の薬剤投与経路である皮下投与及び静脈内投与が優先されている。これらの研究のうち、噴霧されたヘパリン物質を用いて生理的食塩水を噴霧した場合の効果を比較・解析することを目的とした研究(ジョンズ・ホプキンス大学による臨床研究、2020年5月21日申請、同年6月1日開始)は1件のみである。
【0023】
この技術分野において、特許番号RU2269346C1には、結核の治療のために、患者の気管気管支樹として定義される部分に、700IU/kgの用量で3~5日間に3~6回、病原性ヘパリンを投与する方法が開示されている。ここでは、吸入又は気管支内へのヘパリン投与が対象となっている。また、先行技術である特許出願番号US4679555Aには、低沸点クロロフルオロカーボン群の推進剤を含む定量吸入器により、粉末又は微粉末の形態のヘパリンナトリウムを肺内投与することが開示されている。一方、当技術分野の特許出願番号US2002195101A1は、治療用エアロゾルを個別に制御して投与するための静止型吸入装置を開示している。当該特許出願は、血栓症を防止するために低分子量ヘパリン又は医薬をエアロゾル化投与するための当該定置吸入器具の使用についても開示している。別の先行技術である特許出願番号CN109260181 Aは、ヘパリンの薬学的に許容可能な塩と共にpH調整賦形剤、等張賦形剤及び界面活性剤を精製水中で混合することによって調製され、その後の噴霧形態での投与に適した液状の医薬溶液を開示している。前記溶液は、COPD、急性肺損傷及び急性呼吸促迫症候群の治療において使用できることが示されている。
【0024】
当該技術分野における特許番号US2014020680A1の「エアルゾル化装置」と題する米国特許文書は、その中に治療剤を含むエアルゾル雲を生成することを可能にし、振動メッシュ機構で動作するネブライザー装置を開示している。この特許文献には、抗凝固作用を有する物質の治療投与やコロナウイルスの適応でその請求項に記載されているアミカシンやバンコマイシン抗菌物質の治療薬としての使用については記載がない。
【0025】
特許番号US10668015B2の「抗凝固のための単位エアロゾル用量(Unit aerosol doses for anticoagulation)」と題する米国特許文書には、アルガトロバンという抗凝固剤で、低分子活性トロンビン阻害剤の活性物質を急性冠症候群に予防的に吸入投与することが記載されている。この特許文献には、アルガトロバン以外の抗凝固剤についての記載はなく、急性冠症候群の場合にのみアルガトロバン物質を予防的に吸入することのみが記載されており、振動メッシュ式ネブライザー装置は特に強調されておらず、抗凝固剤の使用についても触れられていない。
【0026】
現在、COVID-19の患者には、ヘパリンが非経口的に使用されている。しかし、その非経口的な使用は、ヘパリンの活性に以下のような制限的効果をもたらすものである。
【0027】
1)ヘパリンの非経口投与は,COVID-19患者の肺に対する局所作用を低下させる。
2)ヘパリンの非経口投与は、全身に効果をもたらすものである。このため、全身に好ましくない出血が生じ、好ましくない副作用もある。低分子量ヘパリンを吸入した場合、治療レベルの抗凝固作用を得るためには、皮下投与の10倍の投与量が必要であることが前向き研究により示されている。これらのデータは、ヘパリンを肺に局所投与しても、全身に影響を及ぼさないという結果を示している。
【0028】
肺疾患(他の臓器や組織も同様)の治療に使用される薬剤の選択は、専ら臓器又は組織の局所的治療のためのものである。局所的治療では、使用する薬剤が特定の臓器又は組織においてのみ効果があることを保証するものであり、全身における他の部分がその薬剤に晒されることはない。投与結果は、有効物質の適用が少量となるものの、薬剤の局所投与によってより効果的となり、その副作用は低減する。COVID-19のウイルス量を中和し、スパイクタンパク質との結合によりウイルスが細胞内に侵入するのを防ぐ効果は、ヘパリンの抗凝固作用や抗炎症作用と共に確認されている。このヘパリンの薬学的特徴は、COVID-19に対する抗ウイルス効果が、肺に局所的に投与される場合の非経口投与と比較して、より効果的で良好な使用をもたらすことを示している。同様に、他のウイルス性肺疾患の治療においても、経口又は非経口の投与と比較して、局所的な治療がより効果的で成果を奏することが知られている。
【0029】
COVID-19の大流行により、迅速に処方できる剤形及びその技術を必要としている。臨床で使用される吸入器は、定量式吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)、ネブライザー(ジェット、超音波、新型ネブライザー(例えば、振動メッシュ式、電子)、ソフトミスト吸入器)である。MDIやDPIの使用は、特に重度の呼吸困難を伴う患者に対してはあまり有効ではなく、多くの欠点(使用の難しさ、動作制御ができない、汚染リスク)を含んでいる。この時点において、装置の選択が重要になってくる。標準的なネブライザーは、一般的な潮汐呼吸の問題、液滴の広い分布、ネブライザーによる患者の唾液の分布、医療従事者の感染リスクのためCOVID-19の患者にとって安全ではない。現実的には、ジェット、超音波、電子ネブライザーは、ウイルスの分散を引き起こし、感染リスクがあり、イタリアや米国で観察されたように医師や看護師の死亡を引き起こすという事実からも、医療従事者の健康に関して好ましいものではないはずである。呼吸で飛散する飛沫はウイルスを運ぶので、治療過程においてこのリスクを最小限にすることが非常に重要である。したがって、COVID-19疾患を含むウイルス性肺疾患の治療においては、適切な投与経路と適切なネブライザーを選択することが非常に重要である。
【0030】
ソフトミスト吸入器(エアロゾル生成機構とエアロゾル雲特性と記述される)は、マイクロ流体技術を用い、且つ、異なる投薬量の供給を可能にする測定機能を備える非圧力式定量吸入器である(19-20)。DPIでは、生成された微粒子の投薬量が患者ごとに大きく変化する吸気流及び絶対的な肺活量に大きく依存する(19)。一方、ソフトミスト吸入器では、肺での蓄積量及び使いやすさの点で多くの利点がある。ソフトミスト吸入器は、推進剤を必要としない能動的なメカニズムであり、言い換えれば、エアロゾル生成に必要なエネルギーは吸入器から供給されるため、患者の吸気容量に依存しない(20)。ソフトミスト吸入器には、肺への薬剤の蓄積や使いやすさの点でさらに多くの利点がある。ソフトミスト吸入器は、推進剤を必要としない能動的なメカニズムで動作し、エアロゾル生成に必要なエネルギーは吸入器自体から供給される。したがって、ソフトミスト吸入器は、患者の呼吸能力に依存しない。装置から放出されるエアロゾル液滴のサイズ範囲は、2~6μmの範囲であり、このエアロゾル液滴は肺をターゲットとしている。ソフトミスト吸入器のもう一つの利点は、投薬がシリンジによって行われることである。現行の薬剤/有効物質の非経口投与は、前述のシリンジシステムによって付加的な処方ステップを必要とせずに、ソフトミスト吸入器に組み込んで投与することが可能である。
【0031】
薬剤を溶液の状態で定量供給できるソフトミスト吸入器の用量再現性は、懸濁液を少量ずつ放出するドライパウダー吸入器や粉末で運ばれる単回使用型の製剤と比べ、より安定したものとなっている。ソフトミスト吸入器では、薬剤は溶液中に溶解した状態であるため、ドライパウダー吸入器に比べ水分の侵入による影響が少なく、したがってソフトミスト吸入器は、湿度の高い環境条件の地域での使用に適している。ソフトミスト吸入器の比較的低い流速と長い噴霧時間により、再現性のある方法でエアロゾルを吸入することが容易になる。しかし、特定の製剤技術が適用されない限り、ソフトミスト吸入器用の溶液に薬剤が溶解し、安定していることがしばしば要求される。
【0032】
これまで、エアロゾル薬剤の供給システムとしては、ジェットネブライザーが標準的でした。しかし、ジェットネブライザーは、比較的に効率が悪く、作動させるために外部の空気源が必要である。一方、ジェットネブライザーに代わる技術として、振動メッシュ技術が開発された。振動メッシュ式ネブライザーは、ジェットネブライザーよりも効率が良く、人工呼吸器回路に追加のガスを必要としないことが知られている。一方、振動メッシュ式ネブライザーは、ジェット式ネブライザーと比較すると、汚染リスクや装置の向きに配慮する必要があり、精密な電子制御を有する場合がある。振動メッシュ式(VMT)ネブライザーは、エアロゾル生産効率の一貫した向上、末梢肺に到達可能な微粒子率、低残量・低薬量での噴霧能力など、多くの利点を備えている。振動メッシュ式ネブライザーは、推進剤を必要とせず、マイクロポンプ技術を用いた能動的なシステムであり、エアロゾル生成に必要なエネルギーは、物理的な機構上、吸入器から供給される。そのため、肺の中の対象部位への薬剤供給は、患者の呼吸能力に依存しない。振動メッシュ式ネブライザーの特徴は、処理時間が短く、動作音が静かなことである。振動メッシュ式ネブライザーの孔径は、エアロゾルチャンバーと排出速度を調整することで、様々な薬剤に対して最適化することができる。振動メッシュ式ネブライザーの動作原理は、膜に開けられた数千個の孔が同時に1秒間に数十万回振動し、この孔を通過した液体が肺に薬剤を送り込むのに適した大きさのエアロゾル液滴を作るというもので、このエアロゾル液滴が肺に到達するまでの時間を測定する。システム制御センサーが霧化膜に液体が接触しているかどうかを検出し、共振屈曲モードの振動によって精密レーザーを介して作られた数千の孔に液体を通過させることにより、現在のシステムよりも狭小なサイズ分布を有する微細液滴を生成することができる。また、膜の孔径を変えることで、溶液の特性に応じた大きさの液滴が得られるように設計することができる。振動メッシュ式ネブライザーは、マスクをせずに使用するために開発された口にフィットする機構により、従来のネブライザー(ジェットや超音波)と異なり、エアロゾルが漏れないため、より優れた方法で投与が行われることを保証する。また、COVID-19の治療において、従来のネブライザーの使用で見られた室内汚染の問題も、振動メッシュ式ネブライザーはマウスピースによる密閉システムで動作するため、もはや問題ではない。振動メッシュ式ネブライザーでは、薬剤は溶液中に溶解した状態であるため、乾燥粉末と比較して湿気の影響を受けにくく、したがって振動メッシュ式ネブライザーは湿度の高い環境での使用に適している。振動メッシュ式ネブライザーのもう一つの利点は、その低速度での長い噴霧時間により、エアロゾルを再現性よく吸入することを容易にすることである。振動メッシュ式ネブライザーで投与される薬剤は、メッシュの凹面側に配置され、圧電アクチュエータを用いてメッシュを高周波で振動させる。これにより、薬剤は小さな液滴からなる雲状へと変化し、メッシュの底面(凸面)側から供給することができる。また、前述の技術により、液滴の大きさを調整することができる。特に、所望の特定の液滴サイズを実現するために、メッシュ構造に対して幾何学的な変更を行うことができる。液滴は、噴霧ガスがないため、低速で重力の力を受けて装置から離れることがある。さらに、メッシュの穴の数や配置をカスタマイズすることも可能である。
【0033】
特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患、慢性肺疾患を効果的に治療するためには、現在の技術では限界と不十分さがあるため、改良が必要となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
本発明は、抗凝固剤であるヘパリン及びその誘導体の投与について開示するものであり、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性及び/又は慢性肺疾患によって引き起こされる症状の治療において、吸入経路を介してソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザー(VMT)を用いて使用するための特に低分子量ヘパリン(LMWH)並びにヘパリン及びその誘導体を含む組成物、有効な投与形態、投与量について開示するものである。本発明において、前記抗凝固剤は、肺ルートを介して肺に局所的且つ直接的に投与されるものである。この肺ルートは、経口ルートよりも吸収機能が弱く、胃で分解されるペプチド-タンパク質構造を有する有効物質又は急速に代謝される有効物質を投与するのに適したルートである。本発明に係る医薬組成物は、ヘパリン又はヘパリン誘導体だけでなく、追加の有効物質及び/又は賦形剤を含んでもよい。
【0035】
本発明の最も重要な目的は、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の有効な治療法を提供することにある。本発明は、ウイルス性肺疾患の治療において、有効物質を肺に局所的に(直接)投与することができるため、他の投与経路(経口、非経口など)と比較して多くの利点があり、それにより、より効果的な治療を提供することができる。
【0036】
本発明の他の目的は、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に用いられる薬剤/有効物質が、より高い有効性を有し、その副作用を最小にすることである。本発明では、経口経路及び非経口経路と比較して、その局所投与によって薬効が増大し、全身的に発生し得る薬剤の副作用が低減される。
【0037】
本発明のさらに他の目的は、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患、および/または慢性肺疾患の効果的な治療を提供することであり、高い生物学的利用能(バイオアベイラビリティ)を用途によって提供することである。本発明において、ヘパリン及びその誘導体を肺ルートで投与すると、肝臓のファストパス(初期通過)の効果がなくなるため、バイオアベイラビリティが高くなる。また、高分子構造体の肺の通過性がかなり良いので、現在の投与方法に比べて治療効果が高くなる。
【0038】
本発明のさらに他の目的は、COVID-19疾患による肺の損傷を治療することである。本発明では、SARS-CoV-2ウイルスによる肺の急性肺損傷、炎症による気管支過敏症、血栓塞栓症、損傷肺細胞からのヒストン放出、肺のヒストン損傷、ARDS及びそれに伴う低酸素症などの場合に、ヘパリン又はその誘導体、特に低分子量ヘパリンを肺ルートで投与する手段によって治療を行う。
【0039】
本発明の別の目的は、特にCOVID-19及びウイルス性肺疾患の治療中に、医療従事者及び周囲の非感染者への感染リスクを最小化することである。周囲への感染リスクは、本発明に係る吸入投与によって低減される。本発明は、閉鎖系動作によって室内空気の汚染が防止されるような投与を可能にする。
【0040】
本発明では、環境中及び上気道内での蓄積(薬剤/有効物質を含む溶液の凝縮)が最小限に抑えられるため、振動メッシュ式ネブライザーを介したヘパリン又はヘパリン誘導体の投与によって、薬剤蓄積を最適化する低速度のエアロゾルが生成される。振動メッシュ式ネブライザーは発熱しないため、薬剤/有効物質の安定性に影響を与えない。
【0041】
本発明では、ソフトミスト吸入器によるヘパリン又はヘパリン誘導体の投与により、肺における薬剤の局在性が他の機器と比較して非常に高い(20%以上)ことが特徴である。その理由は、ソフトミスト吸入器における液滴サイズ範囲が、定量吸入器(MDI)、ドライパウダー吸入器(DPI)、ジェット式又は超音波式ネブライザーとは比較にならないほど肺に局在しているためである。ソフトミスト吸入器では、マウスピースを介して口に装着し、口から吸入し、その後、鼻から吐き出すため、口からの呼気のリスクを最小とすることができる。また、閉鎖系とすることで、唾液による周囲への感染を防止する。本発明で使用するソフトミスト吸入器は、挿管された患者のために開発された挿管チューブに装着する付与装置を有しており、この装着により現在の吸入器と比較して優れた吸入器を提供することができる。
【0042】
本発明において、ヘパリンまたはヘパリン誘導体を含有する医薬組成物は、使い捨て用又は再利用可能用であるように調整することができる。使い捨ての投与形態は、汚染の危険性がなく、安定性を持たせるために賦形剤(抗酸化剤、抗菌剤など)を付加する必要がないため、急性肺疾患の治療において有利である。しかし、慢性疾患(COPD、喘息など)の治療においては、患者が自宅において自分自身で使用するため、患者の薬剤服用遵守やコストを考慮すると、長期治療においては複数回投与型の方が有利である。
【0043】
本発明において、投与量調整用シリンジを有するソフトミスト吸入器によりヘパリン又はヘパリン誘導体を投与することにより、肺をターゲットとする投与のための投与量調整を、患者の要求に応じて最も繊細な方法で医師が行えるようにすることができる。このようなシリンジシステムは、病院における医師による患者ごとの投薬の実用性を著しく向上させる。また、本発明のヘパリン含有シリンジは、ソフトミスト吸入器に直接取り付けることができるため、治療が必要な場合、迅速に患者に提供することができ、供給面での問題を解消することができる。また、ヘパリン及びヘパリン誘導体は、医薬品工場での製造工程において、使い捨て又は複数回投与の用途に合わせてソフトミスト吸入器にあらかじめ充填し、包装してすぐに使用できるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明に係る投与で使用されるソフトミスト吸入器の分解組立図である。
図2】本発明に係る投与で使用される受動的振動メッシュ式ネブライザーの概略図である。
図3】本発明に係る投与で使用される能動的振動メッシュ式ネブライザーの概略図である。
図4】LMWHの肺沈着ヒストグラムである。
図5】研究フローチャートである(3人の患者は、装置に対するコンプライアンスが低く、したがって、彼らはLMWH[低分子量ヘパリン]を吸入投与されなかった)。
図6】本発明に係る投与で使用される吸入ドライブを備えるソフトミスト吸入器の使用状態を示す図である。
図7】本発明に係る投与で使用される吸入ドライブを備えるソフトミスト吸入器の使用状態を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
図中における部分及び構成要素は、本発明のより詳細な説明のために列挙され、各符号の対応は以下の通りである。
1 - 受動的振動メッシュ式ネブライザー装置
1.1 - 圧電結晶
1.2 - 貯留槽1
1.3 - バッテリー
1.4 - 操作ボタン
1.5 - ホーン変換器
1.6 - マウスピース
1.7 - メッシュ1
2 - 能動的振動メッシュ式ネブライザー装置
2.1 - カバー
2.2 - 貯留槽2
2.3 - メッシュ2
2.4 - T型マウスピース
3 - シリンジ/注射器
4 - 連結管
5 - ソフトミスト吸入器本体
6 - 吸入ドライブ
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、ヘパリン又はヘパリン誘導体の使用に関するものであり、特に吸入経路を介するソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーの手段によるCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性及び/又は慢性肺疾患の治療における低分子量ヘパリン(LMWH)の使用並びにその使用に係る医薬組成物及び投与形態に関する。本発明が対象とする医薬組成物を吸入によってソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーで使用する方法により、肺(その中のヘパリン組成物)における薬剤の定位率は20以上となる。本発明の実施形態において、肺における薬物の定位率(その中のヘパリン組成物)は、吸入によるソフトミスト吸入器の使用によって、40%、50%、または60%である。前記治療においてヘパリンを選択する理由の1つは、ヘパリンが肺への局所投与に適していることである。ヘパリンは、その抗凝固性の特徴に加えて、抗ウイルス性、抗炎症性、及び粘液溶解性の特徴を伴う。
【0047】
ヘパリン又はヘパリン誘導体は、肺におけるSARS-CoV-2ウイルスによる急性肺損傷の治療、炎症による気管支過敏症、血栓塞栓症、損傷肺細胞からのヒストン放出、肺のヒストン損傷、さらには急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に伴う低酸素血症、呼吸困難の治療に適する抗凝固薬である。本発明におけるヘパリンとして、低分子量ヘパリン(LMWH)又は未分画ヘパリン(UFH)は、抗凝固作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、粘液溶解作用を有するため、ウイルス性疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に用いることができる。本発明が対象とする医薬組成物に挙げられるヘパリン誘導体は、ヘパリンの薬学的に許容される誘導体の全てであり得る。ヘパリンナトリウム塩、ヘパリンエステル、ヘパリンエーテル、ヘパリン塩基、ヘパリン溶媒和物、ヘパリン水和物、またはヘパリンプロドラッグとして用いられるこれらの形態は、ヘパリン誘導体の一例である。肺をターゲットとするために吸入で投与されるLMWH及びUFHの全ての誘導体は、COVID-19を筆頭とするウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療において、ソフトミスト吸入器又は受動的振動メッシュ式ネブライザーを用いて吸入経路で肺に局所投与するのに適している。
【0048】
本発明においては、ヘパリン又はヘパリン誘導体を製造段階でソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式(VMT)ネブライザーに投入するか、有効物質を含む溶液をスポイト、プレフィルドシリンジ(PFS)、アンプル又はバイアルに包装して保管し、その後、患者又は医療従事者が病院や任意の環境において、使用前に前記溶液を装置内に投入できるようにするのが好ましい。
【0049】
本発明の実施形態において、振動メッシュ式(VMT)ネブライザーとして、能動的又は受動的振動メッシュ式(VMT)ネブライザーを使用するものである。受動的振動メッシュ式ネブライザー(1)は、圧電結晶(1.1)と、貯留槽1(1.2)と、バッテリー(1.3)と、操作ボタン(1.4)と、ホーン変換器(1.5)と、マウスピース(1.6)と、メッシュ1 (1.7)と、から構成される。一方、能動的振動メッシュ式ネブライザー(2)は、カバー(2.1)と、貯留槽2(2.2)と、メッシュ2(2.3)と、T型マウスピース(2.4)と、から構成される。主要部品は、精密に作られた孔が開いた膜を含むメッシュプレート(1.7)である。圧電結晶(1.1)が開口部のメッシュを振動させ、直径1~6μmの一貫したサイズの微粒子を作るために、孔を通して液体を吸い込むマイクロポンプとして機能する。直径6~10μmの粒子は、大きな肺の気道を越えて移動しないので、上記の粒径は有益合である。振動メッシュ式ネブライザーは、低速度のエアロゾルを生成し、周囲や上気道への滞留(薬剤含有溶液の凝縮)を最小限に抑え、薬剤の蓄積を最適化する。また、熱を発生させないので、薬剤の安定性に影響を与えない。
【0050】
本発明の実施形態において、ヘパリン又はヘパリン誘導体は、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療において、吸入経路を介してソフトミスト吸入器によって使用される。本発明では、最新の技術で利用可能なPulmoSpray(R)デバイスをソフトミスト吸入器として使用することができる。ソフトミスト吸入器は、その中に特殊な膜を含むソフトミスト吸入器本体(5)、接続チューブ、注射器、および任意に、吸入ドライブがプレフィルド形態である場合の吸入ドライブ(6)又は注射器が設置される同様の保持システムからなり(図6~7)、ソフトミスト吸入器本体(5)は、用途に対して最大の効果をもたらす。ここで、最大限の効果とは、最も高い有効物質の移動と最も低い感染リスクのバランスを見ることを意味する。液体を圧力で押す手段によって、液体がソフトミスト吸入器本体(5)の膜を通過するとき、肺に薬剤をターゲティングするのに適したエアゾール液滴が形成される。前記ソフトミスト吸入器は、その機構上、閉鎖系として患者の口に装着され、患者は装置から薬剤を吸入し、鼻から吐き出すので、COVID-19治療の使用における安全性に極めて好適である。COVID-19と他のウイルス性肺疾患の両方に有効なソフトミスト吸入器の液滴サイズの範囲は、ソフトミスト吸入器による肺への薬剤/有効物質の蓄積と使いやすさのために、非常に狭くなっている。ソフトミスト吸入器は、マウスピースを口に装着し、鼻から吸入・吐出するため、閉鎖循環呼吸により唾液による感染リスクを最小限に抑えることができる。さらに、ソフトミスト吸入器には、ネブライザーにはない、投与量の正確さとその実用性という2つの利点がある。ソフトミスト吸入器では、体重や年齢に応じた投与量の調節を付属のシリンジシステムにより、病院内の医師が患者ごとに柔軟に対応し、容易に行うことができる。また、プレフィルドシリンジとして市販されているヘパリンの非経口剤も、シリンジシステムと連動していることから、追加の調合工程を必要とせず、本発明に係る使用方法を介して患者に直ちに使用することが可能である。
【0051】
本発明において、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療におけるヘパリン又はその誘導体の投与に用いられるソフトミスト吸入器における投与機能付き注射器(インジェクター)がある。肺をターゲットに投与するための投与量調整用シリンジは、患者の要求に応じて最も繊細な方法で医師によって行われる。
前記シリンジシステムは、病院における医師による患者特有の投薬の実施を格段に向上させる。さらに、すぐに使える注射器として市販されているヘパリン及びヘパリン誘導体の非経口剤形は、本発明で使用するソフトミスト吸入器に直接連結することができる。ヘパリン及びヘパリン誘導体の非経口剤をデバイスに直接連結するという事実は、「製剤-デバイス-投与」のトライアングルを最も効率的に作動させ、患者、特に時間と拮抗するこれらのパンデミック状態におけるリスクグループ(65歳以上)の高齢者に最も速く投与することを可能とする。ヘパリン又はヘパリン誘導体は、シリンジ(3)の後に機器間接続連結管(4)を通過し、ヘパリン又はその誘導体が肺に滞留し得る粒径範囲のエアロゾル液滴となるので、ソフトミスト吸入器本体(5)のノズル機構により、ソフトミスト吸入器で肺に投与することができる。ソフトミスト吸入器は、推進剤を必要としないアクティブな機構で動作し、エアロゾル生成に必要なエネルギーは吸入器本体から供給されるため、患者の呼吸能力に依存しない。装置から放出されるエアロゾル液滴のサイズ範囲は、2~6μmの範囲であり、前記エアロゾル液滴は肺をターゲットとする。したがって、本発明は、効率的な治療を可能にする。ソフトミスト吸入器の別の利点は、投与がシリンジによって行われることである。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、低分子量ヘパリン(LMWH)は、特にCOVID-19、ウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療のために、ソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式(VMT)ネブライザーを用いて投与されるように用いられる。抗凝固剤である低分子量ヘパリン(LMWH)は、口から吸入することで肺に局所的に作用し、高い効果を発揮する。また、LMWHは、抗ウイルス作用、抗炎症作用、粘液溶解作用があるため、COVID-19やその他のウイルス性肺疾患の治療にも効果的に使用されている。
【0053】
本発明において、吸入経路で投与される医薬組成物は、ヘパリン又はヘパリン誘導体及びヘパリン溶媒の性質を示すキャリア溶液を含むものである。本発明で開示されるヘパリン又はヘパリン誘導体を含有する医薬組成物は、以下、ヘパリン組成物又はヘパリン溶液と称することがある。吸入されるヘパリン含有組成物は、キャリア溶液(好ましくは注射用水)に溶解しているヘパリン又はヘパリン誘導体を4000~25000IU含み、好ましくは低分子量ヘパリン(LMWH)である。溶媒は、ヘパリン組成物内で水性又は非水性であってもよい。剤形は、1つ又は2つ以上の医薬的に許容される溶媒の混合物で処方することができ、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水、鉱油、ピーナッツ油、コム油であり得るが、これらに限定されない。医薬用溶剤は、製剤濃度の調製に使用されるだけでなく、投与形態の再構成に使用されることもある。水、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの医薬的に許容される溶剤は揮発性であり、通常、濃縮製剤中の医薬品及び賦形剤を溶解又は分散させるために使用される。グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールは共溶媒であり、濃縮製剤中の非水溶性又は難水溶性の医薬品の可溶化を補助するために使用される。滅菌注射用水、吸入用水、滅菌普通生理食塩水(0.9%NaCI)、滅菌半生理食塩水(0.45%NaCI)、滅菌リン酸緩衝液(pH4.5-7.4)、及び/又は滅菌5%デキストロース溶液などの医薬的に許容できる再構成溶媒は、振動メッシュ式ネブライザー又はソフトミスト吸入器による口又は鼻からの吸入前に医薬有効物質の溶液又は微粒子懸濁液を形成すべく投与形態の再構成に用いられる。
【0054】
本発明が対象とする組成物は、4000IU、6000IU、8000IU又は10000IUのヘパリン又はヘパリン誘導体を含んでなるものである。より具体的には、本発明が対象とする組成物は、4000lU/ml、6000lU/ml、8000lU/ml又は10000lU/mlのヘパリン、特にLMWH又はUFHからなる滅菌吸入液であり、注射用水、吸入用水、は生理食塩水、半生理食塩水又はリン酸緩衝液中に含まれている。
【0055】
本発明の好ましい実施形態において、組成物は、4000IUのLMWHを1mlのキャリア溶液に溶解することによって得られる4000lU/mlの濃度の滅菌吸入溶液である。組成物中のキャリア溶液は、4000lU/mlの濃度のヘパリン溶液を得るために、必要なミリリットル(ml)まで使用される。ここで、キャリア溶液は、キャリア及び溶剤の両方として働き、注射用水、吸入用水、生理食塩水(0.9%NaCI)、半生理食塩水(0.45%NaCI)又はリン酸緩衝液(pH7.4)の中から選択する。ヘパリン液は、4000lU/mlの濃度で分包され、1回分の投与量として使用される。しかし、小児患者グループに使用されることが望まれる場合の使用者の投与量調節は、前記1回分の投与量で行われる。最終的な組成物の投与経路は、吸入のみであるが、局所的又は全身的な効果のターゲットは、治療が望まれる疾患に応じて異なる場合がある。
【0056】
ヘパリン組成物は、ヘパリン又はヘパリン誘導体に加えて、少なくとも異なる有効物質又は少なくとも1つの賦形剤を含むことができる。ここでいうヘパリンは、好ましくは、LMWH、UFH又はその誘導体である。本発明の実施形態において、ヘパリン又はヘパリン誘導体に加えて使用することができる有効物質は、3つの薬学的グループで与えられ、これらの任意の組み合わせが併用され得る。
1- 粘液溶解作用を目的とするもの:マンニトール、アセチルシステイン、高濃度(3~20%NaCI、w/v)生理食塩水
2- 肺の酸化ストレスの除去を目的としたもの:アスコルビン酸及びその誘導体
3- 抗炎症作用のある副腎皮質ホルモン剤:ブデソニド、ベクロメタゾンジプロピオネート、フルチカゾン、モメタゾン、デキサメタゾンなど
【0057】
本発明の実施形態では、ヘパリン又はヘパリン誘導体を含む医薬組成物中の低分子量ヘパリン(LMWH)又は未分画ヘパリン(UFH)溶液中に、マンニトール又はアセチルシステインが加えられてもよい。そのため、肺の粘液栓の開放効果も提供される。本発明の別の実施形態では、LMWH又はUFHヘパリン溶液にマンニトールを添加したヘパリン溶液を高濃度(3~20%NaCI、w/v)に調製し、それによって、粘液栓の開放効果をもたらす。
【0058】
ヘパリン組成物において、ヘパリン又はヘパリン誘導体に加えて、異なる有効物質を使用する場合の賦形剤を使用することができ、ヘパリン組成物に直接添加することができる。医薬組成物は、強壮剤、pH調整剤又は緩衝剤、強酸性調整剤、抗酸化剤、抗菌防腐剤、界面活性剤、溶解度向上剤(共溶媒)、安定化剤、徐放又は局所保持の延長のための賦形剤、湿潤剤、分散剤、矯味剤、甘味剤及び/又は香料から選択される少なくとも一つの賦形剤とすることができる。これらの賦形剤は、製剤の安定性、エアロゾル化、忍容性、及び/又は吸入時の製剤の有効性をサポートする最適なpH、粘度、表面張力及び味を得るために使用される。
【0059】
有効物質及び/又は他の賦形剤の溶解性を補助するために、1つ又は複数の共溶媒(溶解性向上剤)をヘパリン医薬組成物に含有させることができる。薬学的に許容される共溶媒の例としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、エタノール、ポリエチレングリコール(例えばPEG300又はPEG400)、メタノール、ポリエチレングリコールヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油及び/又はレシチンがあるが、これらに限定はしない。
【0060】
ヘパリン組成物に使用できる安定化剤は、薬学的有効物質及び賦形剤の安定性を向上させるために、それぞれ酸化反応を抑制することができる抗酸化剤及び金属をキレートすることができるキレート剤である。投与形態は、意図された医薬用途に適した濃度で1つ以上の薬学的に許容可能な安定化剤を配合でき、例えば、エデト酸二ナトリウムなどのキレート剤(Ethylenediaminetetraacetic acid, EDTA)又はそのナトリウム塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンE、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、チオ尿素、リジン、トリプトファン、フェニルプロピルグリシン、グリシン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、セリン、茶ポリフェノール、パルミチン酸アスコルビル、ヒドロキシメチルエステル、ヒドロキシエチルテトラメチルピペリジノール、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)、ポリサクシネート(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルエタノール)エステル、2-[2-ヒドロキシ-4-[3-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシプロポキシ]フェニル]-4、6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)及び/又は1,3,5-トリアジンに限定されるものではない。
【0061】
抗酸化剤は、ストレスを受けた組織及び細胞における活性剤の酸化及び/又は酸化傷害を防止又は抑制する天然物質又は合成物質であり、ヘパリン組成物において使用することができる。ヘパリン組成物に使用できる抗酸化剤は、それ自体が酸化可能な抗原性補強剤(すなわち一次抗酸化剤)、または還元剤として作用する抗原性補強剤(すなわち還元性抗酸化剤)、例えば、酢酸トコフェロール、リコペン、還元グルタチオン、カタラーゼ及び/又は過酸化物ジスムターゼであり得る。酸化反応を防止するために使用される他の抗原性補強剤は、相乗的な抗酸化剤であり、これらは酸化プロセスに直接作用しないが、酸化反応を触媒することが知られている金属イオンの錯体化を介して間接的に作用する。よく使われる相乗効果のある抗酸化剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びその誘導体である。さらに有用な抗酸化剤(一次、還元及び/又は相乗的な抗酸化作用機構)は、アスコルビン酸及び/又はその塩、アスコルビン酸のエステル、フマル酸及び/又はその塩、リンゴ酸及び/又はその塩、クエン酸及び/又はその塩、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシ トルエン、プロピルガレート、マルトールである。一般に使用される抗酸化剤の代替として、アセチルシステイン、R-システイン、ビタミンETPGS、ピルビン酸及び/又はそのマグネシウム及び/又はナトリウム塩、グルコン酸及び/又はそのマグネシウム及び/又はナトリウム塩などの物質も吸入用の配合物に有用であるかもしれない。グルコン酸の塩は、ストレスのかかった組織および細胞に対して抗酸化作用を有することが報告されており、酸素ラジカルが炎症プロセスを誘発し永続させるため、炎症の治療において特に有利になるというさらなる利点を有する。また、ピルビン酸塩は、このような生体内での抗酸化作用を有すると考えられている。酸化を防止し、望ましくない変色の防止に寄与するための追加の措置は、不活性ガスによる溶液上の酸素の置換であるが、窒素又はアルゴンのようなものに限定されるものではない。
【0062】
微生物の成長を抑制するために、ヘパリン組成物中に抗菌性保存剤を使用することができる。投与形態は、微生物の成長を防ぐために、適切な濃度で1つ以上の薬学的に許容可能な抗菌防腐剤を配合することができる。肺又は鼻への投与のための組成物は、1つ又は複数の賦形剤を含み、1つ又は複数の保存剤を含むことによって微生物又は真菌の汚染又は繁殖から保護される。薬学的に許容可能な抗菌剤又は防腐剤の例としては、第四級アンモニウム化合物(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、塩化ラウラルコニウム及び/又は塩化ミリスチルピコリニウム水銀)、チメロサールアルコール剤(例えば、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール及び/又はベンジルアルコール)、抗菌エステル(例えば、パラヒドロキシ安息香酸エステルなど)、エデト酸二ナトリウム(EDTA)などのキレート剤、クロルヘキシジン、クロロクレゾール、ソルビン酸及び/又はその塩(ソルビン酸カリウムなど)及びポリミキシンなどの他の抗菌剤があるが、これらに限定されるものではない。薬学的に許容可能な抗真菌剤又は防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、p-ヒドロキシ安息香酸エチル及び/又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルがあるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
pH調整剤又は緩衝剤は、ヘパリン組成物において、以下の理由により、薬剤投与形態のpHを所望の範囲に調整又は維持するために用いることができる。医薬品の有効物質があるpH範囲において優れた化学的安定性を発揮するような優れた製品の安定性のための環境を提供すること、又は、投与において患者により良い快適さを提供すること。過度のpHは、投与部位に炎症及び/又は不快感を与える可能性があり、より良い抗菌防腐剤作用を発揮するためのpH範囲を提供する。ヘパリン組成物は、ヘパリン組成物は、溶液のpH値を調整及び/又は緩衝化するために、1以上の賦形剤を含むことができる。pHを調整し、任意に緩衝化するため、生理学的に許容される酸、塩基、塩及び/又はそれらの組合せを使用することができる。緩衝系における酸性成分が強い鉱酸、具体的には硫酸及び塩酸であるため、賦形剤は、pH値の低減又は使用のためにしばしば用いられる。酸性塩と同様に、リン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、メチオニン、酸性のリン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウム、乳酸及び/又はグルクロン酸などの中強度の無機酸及び有機酸も用いることができる。pHを上げるのに好適又は緩衝系の主要成分としての賦形剤は、具体的には、水酸化ナトリウム又は他のアルカリ土類水酸化物のような無機塩基、水酸化マグネシウムのような酸化物、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、酢酸アンモニウムのような塩基性アンモニウム塩だけでなく、リジンのような塩基性アミノ酸、ナトリウム又は炭酸マグネシウムのような炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、及びクエン酸ナトリウムのようなクエン酸塩である。医薬組成物の素材は、2つの構成要素からなる緩衝剤を構成することができる。最も望ましい緩衝剤の1つは、クエン酸-クエン酸ナトリウム、クエン酸-リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム-リン酸水素二ナトリウム、クエン酸-水酸化ナトリウム、トロメタモール、リン酸二ナトリウム(例えば、十二水和物、七水和物、二水和物、その無水物)及び/又はナトリウム混合物を含む。
【0064】
しかしながら、他の緩衝系も使用することができる。
【0065】
浸透圧調整剤は、浸透活性であり且つ一般的には液剤のオスモル濃度又は浸透圧を調整する目的で使用される1以上の医薬賦形剤である。主な浸透圧調整剤は、投薬によって患者の全体的な心地良さ高めるために使用される。浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール又はD形グルコースから選択されたヘパリン組成物として使用される。浸透圧を調整するためのヘパリン組成物において使用される他の塩は、グルコン酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム及び/又は塩化カリウムである。炭水化物もまたこの目的で使用することができる。例えば、グルコース、ラクトース、スクロース又はトレハロースなどの糖類、キシリトール、ソルビトール及び/又はイソマルトールなどの糖アルコールである。また、主要な浸透圧調整剤を追加することなく、剤形を処方するようにしてもよい。投与形態における望ましい浸透圧は、滅菌等張食塩水で再構成されることで達成することができる。
【0066】
液体組成物の表面張力は、最適な吸入のために重要である。望ましい表面張力を備えた組成物は、気道の粘膜上で良好な拡散性を示すことが期待される。製剤をスムーズに霧化し、均一で安定したエアロゾル粒子を形成して患者に吸収させるためには、最適な表面張力が必要である。さらに、表面張力は、一次パッケージから組成物を良好に放出できるように調整が必要な場合もある。界面活性剤は、親水性-脂溶性の界面に蓄積する少なくとも1つの相対的に親水性な分子領域と、少なくとも1つの相対的に脂溶性な分子領域とを備えた物質であり、表面張力を低減させる。界面活性剤は、イオン性又は非イオン性であってもよい。特に好適な界面活性剤は、良好な生理学的適合性を有し、経口又は経鼻吸入に対して安全と考えられているものである。ヘパリン組成物における好適な界面活性剤は、チロキサポール、ポリソルベート、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、レシチン、ビタミンE-TPGS、マクロゴールヒドロキシステアレート及び/又はマクロゴール-15-ヒドロキシステアレートであるとよい。また、ヘパリン組成物に使用される界面活性剤は、ビタミンE-TPGSと組み合わせたポリソルベート80のような2つ以上の界面活性剤の混合物で構成してもよい。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態では、矯味剤、甘味剤、香味剤もまた賦形剤として使用することができる。吸入用製剤の味が悪いことは、極めて不快で苛立たしいものである。吸入時における味が悪いという感覚は、経口吸入時の口腔領域及び咽頭領域におけるエアロゾル液滴が直接付着すること、経鼻吸入時の鼻から口への薬剤の移動及び呼吸器系における粘膜繊毛クリアランスに関連する呼吸器系から口への薬剤の移動に起因している。矯味剤とは、水溶性の味を改善することができる薬学的に許容可能な化合物又は化合物の混合物であり、その改善メカニズムは問わない。例えば、矯味剤は、味の悪さをカバーする、つまり、味を感じる強さを低減するか、又は、より快適な別の味を組成物に加えることで味を修正し、全体的な感覚の印象を改善することもできる。他の矯味メカニズムは、錯体形成、カプセル化、埋め込み又は薬剤と組成物の他の化合物との間のあらゆる別の相互作用である。ヘパリン組成物に使用可能な矯味剤としては、サッカリン、アスパルテーム、シクラメート、スクラロース、アセスルファム、ネオテーム、タウマチン及び/又はネオヘスペリジンなどの薬学的に許容可能な甘味剤の中から選択され、サッカリンのナトリウム塩及びアセスルファムのカリウム塩などのその塩及び溶媒和物が挙げられる。さらに、スクロース、トレハロース、フルクトース、ラクトースなどの糖類又はキシリトール、マンニトール、イソマルトなどの糖アルコールも使用することができる。さらに利便性の高い矯味剤としては、薬学的に許容可能な界面活性剤、アルカリ土類金属塩、クエン酸や乳酸などの有機酸及び/又はアルギニンなどのアミノ酸が挙げられる。また、エッセンシャルオイルの成分(メントール、チモール又はシネオール)のような芳香族の香味剤もまた、本発明による組成物の味及び許容性を改善するためにヘパリン組成物に使用される。
【0068】
湿潤剤又は分散剤は、湿潤性の増加と不水溶性又は低水溶性の粒子の分散補助のために、ヘパリン組成物として使用することができる。不水溶性及び低水溶性メカニズムに対しては、剤形への1以上の湿潤剤又は分散剤の添加が、浸透した医薬有効物質粒子の補助材料から再構成溶液への放出を助け、上質な懸濁液を形成するための粒子の分散を助けることができる。ヘパリン組成物の経口吸入又は経鼻吸入に適した薬学的に許容可能な湿潤剤又は分散剤の例は、ポロキサマー、オレイン酸またはその塩、レシチン、水添レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、オレイルアルコール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル、ポリオキシプロピレン脂肪アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、スフィンゴ脂質、スフィンゴミエリンなどの糖脂質、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステルなどのリン脂質(ただし、これに限らない)。ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセリン脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、エトキシ化ラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸アルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、アルギン酸プロピレングリコール。ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、D-a-トコフェリル-PEG1000コハク酸、ポリオキシ40ステアレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン植物油、アミノ酸の脂肪酸誘導体、アミノ酸のグリセリド誘導体、塩化ベンザルコニウム及び/又は胆汁酸である。
【0069】
本発明では、LMWH(低分子量ヘパリン)に使用される一次パッケージは、透明、琥珀色又は不透明であることが望ましく、前述のヘパリン組成物の内容物に生物学的に適合する医薬品グレード材料から製造される。ヘパリン組成物を収容するチャンバの材料は、ガラス又は合成物質であってもよい。薬剤は、一回投与又は多回投与の形態でパッケージングされてもよい。薬剤は、吸入器に予め充填されていてもよいし、使用中に薬剤を吸入器に供給できるような形態であってもよい。単位用量の吸入薬は、コストを抑制し、容器の開封を容易にするために、一般に低密度ポリエチレン(LDPE)又はLPDEで形成される軟質プラスチック容器にパッケージングされる。本発明において、LMWHに使用する一次パッケージは、ガラス製であってよい。
【0070】
前述の組成物は、使い捨て又は再利用が可能である。組成物が再利用可能な場合、その組成物は、抗酸化剤、抗菌防腐剤、ビタミン、pH調整剤、緩衝剤、界面活性剤、浸透圧調整剤、安定剤、錯化剤などを含有する。組成物が使い捨ての場合、賦形剤としては、キャリア溶液(噴射用の水、吸入用の水、リン酸緩衝液など)のみで十分である。しかしながら、使い捨ての組成物に異なる有効物質を追加する場合には、追加の賦形剤を使用することもできる。再利用可能又は他の有効物質と組み合わせる場合、上述において詳細に説明した賦形剤グループから選択された物質が薬剤の内容物として追加されてもよい。
【0071】
本発明による組成物は、溶液形態で製造され、ソフトミスト吸入器又はVMTネブライザーを用いた吸入ルートで患者へ投与される。本発明のヘパリン組成物は、ヘパリン又はヘパリン誘導体を含む溶液、懸濁液又は乳濁液であってもよい。本発明の対象となる組成物又はヘパリン組成物に加え、抗ウイルス剤、粘液溶解剤、ビタミン又はコルチコステロイドと組み合わせた組成物は、ウイルス性又は急性若しくは慢性肺疾患の治療、特にCOVID-19、インフルエンザ、結核、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、気管支炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、低酸素症、肺塞栓症、肺高血圧、急性肺損傷(ALI)及び/又はALIに伴う火傷の治療において適用される。本発明に係る組成物が適用され得る患者群は、入院患者、外来患者又は在宅ケア患者である。
【0072】
ソフトミスト吸入器で投与される滅菌溶液投与形態のヘパリンが肺に使用され得る適応症は、本発明の範囲内で大きく3つのタイトルに分類される。

1-ウイルス性肺疾患:COVID-19、インフルエンザ
2-急性肺疾患:急性肺感染症、気管支炎、急性肺障害(ALI)、ALIに伴う障害、急性肺塞栓症、気管支過敏症、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、低酸素血症
3-慢性肺疾患:肺塞栓症、肺高血圧症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、喘息(運動誘発喘息、軽症喘息、寒冷誘発喘息など)、サルコイドーシス、慢性肺塞栓症、COPDなど
【0073】
本発明の範囲内で得られる無菌吸入製剤の肺での分布をシミュレートするために、欧州薬局方2.9.18(EP Monograph 2.9.18, 2010)の方法に基づいて、インパクターを使用した。この装置は、ソフトミスト吸入器に接続されている。空気力学的粒径データは、空気力学的質量中央径(MMAD)、幾何標準偏差(GSD)及び微粒子率(空気力学的粒径が5μm未満の粒子の割合)値として解釈される本発明の組成物から調製されるエアロゾルの分散相は、好ましくは約1~約6μm、より好ましくは約2~約4.5μm又は約1.5~約4μmの空気力学的質量中央径(MMAD)を呈する。空気力学的粒子径は、肺への薬剤の供給において非常に重要である。肺への局所供給では、1~6μmの範囲の粒子が気管支及び細気管支に標的化される。LMWH溶液エアロゾル局在化試験では、平均MMAD値は、1~6μmの間であり、平均FPF値は、10%-60%、より好ましくは、それぞれ5.3μmと44%であることが示された。
【0074】
ネブライザーを用いたLMWHの吸入(UFH)は、これまでの研究で急性肺障害や急性呼吸器障害に高い効果があることが示されていた。そのため、臨床経過の悪い患者を優先的に(倫理的選択により)LMWHの吸入治療を行うこととした。LMWHは、低分子量ヘパリン皮下投与に加え、4000IUを1日2回、研究グループに適用された。対照群には標準療法のみを適用した。
【0075】
吸入LMWHの投与対象である18歳以上の男性又は妊娠していない女性の患者は、COVID-19の鼻咽頭ぬぐい液の逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査が陽性で、コンピュータ断層撮影(CT)により肺炎が確認されたものと、また、COVID-19の上咽頭ぬぐい液の逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査が陰性であっても、臨床的、放射線学的、生化学的にCOVID-19の診断が示唆されたものとがあった。その他の診断の可能性があるものは除外した。除外基準は、インフォームドコンセントの意思がない患者、妊娠、ヘパリンに対するアレルギーとした。包含基準及び除外基準の完全なリストは、表1に記載されている。
【0076】
表1. 研究の包含・除外基準
【表1】
【0077】
登録前に、患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。インフォームドコンセントが得られない患者については、研究についての説明を受けた上で、患者の一親等の親族から同意を得た。書面によるインフォームドコンセントが得られない患者は、登録に含まれていません。研究計画に関する追加情報は、図5の研究フローチャートに記載されている。
【0078】
本研究の主要な成果は、患者の日常的な経過観察中に、酸素飽和濃度、発熱、その他のバイタルサインを評価することであった。さらに、C反応性蛋白、フェリチン、Dダイマー、好中球数、リンパ球数、好中球/リンパ球比などの生化学的パラメータの変化も評価し た。本研究の二次的な成果は、酸素療法の合理性の評価と、これらの患者に対する挿管と集中治療室での治療の必要性の有無であった。
【0079】
本発明に係る研究は、2つのグループから構成される。デバイスグループとコントロールグループである。デバイスグループには、35人のCOVID-19患者(20M/15F)が含まれ、コントロールグループには40人の患者(25M/15F)が含まれる(表1参照)。デバイスグループには、新規デバイスとそれに付随する新規処方が投与され、コントロールグループには、COVID-19の標準的な治療が行われた。デバイスグループの平均年齢は、60.01±10.04歳、コントロールグループの平均年齢は59.62±14.60歳である(表2参照)。
【0080】
表2. 基礎的な患者の特徴
【表2】
【0081】
本発明の実験で使用した標準的なCOVID-19治療アルゴリズムに従い、患者には初日にファビプラビル200mg16錠、その後4日間は200mg6錠/日を投与し、また臨床症状によりLMWH皮下投与とメチルプレドニゾロンも投与しました。コントロールグループ、デバイスグループともにLMWH皮下投与とメチルプレドニゾロン40mg/日の静脈内投与が行われた。入院後、低線量放射線による肺のコンピュータ断層撮影が行われた。
【0082】
実質的な所見は、表3に示すように、肺葉への浸潤、肺葉の浸潤領域、斑状、びまん性という基準によって重症度に分類された。デバイスグループの患者の放射線学的重症度スコアの平均は、5.6±1.5、コントロールデバイスの平均スコアは6.4±1.8であった。デバイスグループとコントロールグループとの間で、放射線学的70度に顕著な差はない。
【0083】
表3. 放射線学的重症度指数
【表3】
【0084】
両グループの患者は、表4に示すように、絶え間ない咳、痰、息切れなどCOVID-19に典型的な呼吸困難を主症状とし、高熱、極度の疲労感などのその他の症状も認められる。治療開始時の患者の発熱データ、CRP、フェリチン、白血球数、好中球/リンパ球比、その他の検査項目と共に末梢酸素飽和度の臨床パラメータを表4に示す。
【0085】
臨床的には、息切れと痰の量がデバイスグループで顕著に多かった(<0.01)。咳は両グループで顕著な差はなかった。臨床症状スコアでは、デバイスグループの方が顕著に症状スコアが高く、このグループのメンバーは(統計的に平均して)COVID-19をより重い症状で経験していることを意味する。吸入型LMWHは、以前の研究で肺損傷の改善に有効であることが示されていた(引用者注:)。このため、症状がより重い患者には、(医学的な倫理的選択により)吸入型LMWHを投与する優先順位が与えられた(表4)。
【0086】
表4. デバイスグループ及びコントロールグループにおける患者パラメータ
【表4】
【0087】
コントロールグループ患者の入院時の発熱(摂氏で測定した体温)の平均値は、デバイスグループより高かったが(<0.001)、1日目の酸素飽和度の値に目立った差はなかった。発熱の顕著な差は、コントロールグループ患者がより強いCOVID-19に罹患したことを示すものである(表4)。これは、本発明に関連する研究において重要な特徴である。すなわち、コントロールグループでは、いくつかの特定のパラメータが悪化し、これらのパラメータは標準的な治療では改善しなかったことを認めることによって、間違いなく本発明の治療がより効果的であったことを示唆している。
【0088】
治療開始時の末梢飽和値95%以上をデバイスグループ、コントロールグループ共に「正常」と予め設定し、それ以下は低酸素血症と判定した。その結果、デバイスグループでは、正常酸素血症は2/35(5.7%)例のみであり、低酸素血症は33/35(94.3%)例でした。コントロールグループでは、29/40(72.5%)が正常酸素血症、11/40(27.5%)が低酸素血症であり、治療開始1日目のデバイスグループでは低酸素血症の割合が高く、重症患者が多かったことが示唆された(表4)。
【0089】
臨床検査パラメータのうち、CRPはコントロールグループで顕著に高く(<0.01 )、フェリチン、白血球、好中球/リンパ球比はデバイス群で顕著に高く(<0.01 )なった。D-ダイマー値の上限値は、両グループ間で顕著な差は認められなかった(Mann-Whitney II)臨床試験パラメータに基づくと、コントロールグループと比較して、デバイスグループには、より重症の患者が含まれていた。
【0090】
低酸素血症の重症度と末梢酸素飽和度は、治療開始1日目と10日目(最終試験日)に、与えられた酸素療法の装置に対する患者の反応に基づいて測定された。各療法は、異なる重症度を意味する。閾値は95%以上と設定された。
【0091】
重症度レベルは以下のように分類された。レベル1は、鼻腔カニューレによる6Lt/minまでの酸素療法で末梢の酸素飽和度が改善した場合、レベル2は、500mlリザーバー酸素マスクによる15Lt/minの酸素療法で改善できる場合、レベル3は、高流量酸素療法で改善できる場合、レベル4は、挿管しか選択肢がなかった場合である(表5)。10日間の治療が終了した時点で、室内空気カテゴリーに属する患者数において、デバイスグループとコントロールグループの間に顕著な差が存在する。デバイスグループは重症患者が中心であるのに対し、コントロールグループは40%が非症状者である。この差は、既存の酸素供給方法と本研究で提案したデバイス供給方法とで、患者がどのような結果になるかを明確に示すものである。
【0092】
表5. 治療開始1日目と10日目におけるデバイスグループとコントロールグループの酸素療法
【表5】
【0093】
デバイスグループの患者は、低酸素血症を克服するために、非常に有意な(p<0.01 )集中酸素療法を必要とした。10日間の治療期間終了後、酸素供給方法による患者の低酸素血症の改善状況を表5(デバイスグループとコントロールグループ)に示す。
【0094】
デバイスグループでは、鼻腔カニューレで酸素を供給した低酸素血症の患者の13/13が治療終了時には正常酸素血症になっていました。デバイスグループでは、16/35例(45.7%)で1段階、12/35例(34.3%)で2段階、3/35例(8.6%)で3段階改善し、臨床成績がより良好となった。治療終了時には、大半が「室内空気供給」の状態になったため、挿管を行ったケースはない。
【0095】
一方、コントロールグループでは、10日間で、より多様な結果が得られている。例えば、鼻腔カニューレグループでは、1日目の時点で4/15例(26.6%)に状態の変化がなかった。しかし、3人の患者は10日間のうちに挿管しなければならなくなった。全体の改善率の場合、14/40例(35%)が70度1段階改善、2/40例(5%)が70度2段階改善、3段階改善は1/40例(2.5%)のみであった。これは、デバイスグループで3人の患者でした。最も対照的なのは2段階改善で、コントロールグループでは、標準治療で2段階の重症度を治癒できたのは5%だけであった。しかし、特に、鼻腔カニューレを使用した場合の3例(7.5%)が挿管重症度に陥ったという事実は、現在の治療法の結果が、患者の反応という点でかなり乖離している可能性を示唆している。標準的な治療で治癒するケースが多くても、挿管を含む「より重症」な状態に陥る患者もいるということである。また、デバイスグループでは、より重症度の低いレベルに均等に症例の比重が移っているため、より多くの患者が装置の恩恵を受けたことになり、1レベル以上改善するなど、レベル間の「より広い移行」が見られるようになった。
【0096】
デバイスグループでは、コントロールグループと比較して、患者への酸素供給量の減少が顕著であった。この差は、リザーバー酸素マスクや高流量酸素療法を受けたサブグループにおいて、明らかに顕著であった。さらに、デバイスグループでは挿管された場合の症例が無かったのに対し、コントロールグループでは3名の患者が挿管されたことから、デバイスグループでは、挿管リスクの確率が著しく低減していることが分かる。また、1日目の呼吸器症状については、デバイスグループの方がコントロールグループよりも改善されている(表5)。
【0097】
パワー解析は、Type I error 0.05, Type II error 0.20とした。酸素供給に関するパワー解析の結果、治療前と治療後のデータに差はない。検体数は、4つの対照群の50%に対し、各グループ19であることが判明した。4つのサブグループにおける50%-検体数は、各グループ19人であった。酸素供給量に関するパワー解析(Type I error 0.05, Type II error 0.20 をパワーとする)を行ったところ、治療開始時と治療終了時の両グループ間に変化は見られなかった。
【0098】
治療前後の二段階のグループ間差(Type I error 0.05, Type II error 0.80 をパワーとする)があれば、検体数が25でデバイスグループで34.3%、コントロールグループで5%である。仮にType I errorが 0.05、Type II errorが 0.80とすると、治療前後の二段階のグループ間差は、検体数が25の場合、デバイスグループで34.3%、コントロールグループで5%となる。
【0099】
低酸素血症を改善するための酸素供給量の減少は、デバイスグループにおいてコントロールグループと比較して統計的に顕著であった(p<0.01 )。酸素の供給方法に基づくサブグループ解析では、鼻腔カニューレでは治療の意義が境界線上にあったのに対し、リザーバー式酸素マスクや高流量酸素療法で酸素供給を受けた重症患者では、いわゆる「改善リープ」(改善の差)がさらに顕著になった(p<0.01 )。
【0100】
参考文献
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するため、吸入経路を介してソフトミスト吸入器又は能動型振動メッシュ式ネブライザー又は受動型振動メッシュ式ネブライザーによって肺に局所的に投与するためのキャリア溶液に溶解したヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体から成る医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
ヘパリンが低分子量ヘパリン(LMWH)であることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬組成物であって、
ヘパリンが未分画ヘパリン(UFH)であることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の医薬組成物であって、
薬学的に許容可能なヘパリン誘導体は、ヘパリンナトリウム塩、ヘパリンエステル、ヘパリンエーテル、ヘパリン塩基、ヘパリン溶媒和物、ヘパリン水和物、又は、ヘパリンプロドラッグとして使用される形態の中から選択されることを特徴とする。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
前記キャリア溶液は、注射用水、吸入用水、生理食塩水(0.9%NaCI)、半生理食塩水(0.45%NaCI)又はリン酸緩衝液(pH4.5~7.4)であることを特徴とする。
【請求項6】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
前記キャリア溶液に溶解しているヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体を4000~25000IU含有することを特徴とする。
【請求項7】
請求項6記載の医薬組成物であって、
治療に使用されるヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体の投与量が4000IU、6000IU、8000IU又は10000IUであることを特徴とする。
【請求項8】
請求項7記載の医薬組成物であって、
治療に使用されるヘパリン又は薬学的に許容可能なヘパリン誘導体の投与量が4000IU/ml、6000IU/ml、8000IU/ml又は10000IU/mlであることを特徴とする。
【請求項9】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
少なくとも1種の異なる活性物質又は少なくとも1種の賦形剤をさらに含むことを特徴とする。
【請求項10】
請求項9に記載の医薬組成物であって、
前記活性物質は、マンニトール、アセチルシステイン又は高張(3~20%NaCI、w/v)生理食塩水、抗炎症性コルチコステロイド、アスコルビン酸及び/又はアスコルビン酸誘導体から選択されることを特徴とする。
【請求項11】
請求項10に記載の医薬組成物であって、
副腎皮質ホルモンであるデキサメタゾン、ブデソニド、プロピオン酸ベクロメタゾン、フルチカゾン及び/又はモメタゾンであることを特徴とする。
【請求項12】
請求項9に記載の医薬組成物であって、
少なくとも1種の賦形剤は、浸透圧調整賦形剤、pH調整剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、抗酸化剤、抗菌防腐剤、界面活性剤、溶解性エンハンサー(共溶媒)、安定剤、持続放出又は長期の局所滞留のための賦形剤、湿潤剤、分散剤、矯味剤、甘味剤及び/又は香味剤の中から選択された少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【請求項13】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
共溶媒は、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール、グリセロール、エタノール、ポリエチレングリコール、PEG300、PEG400、メタノール、ポリエチレングリコールヒマシ油、ポリオキシエチレンヒマシ油及び/又はレシチンの中から選択されることを特徴とする。
【請求項14】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
安定化剤は、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)又はそのナトリウム塩、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ビタミンE、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、次亜リン酸、モノチオグリセロール、没食子酸プロピル、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、チオ尿素、リジン、トリプトファン、フェニルプロピルグリシン、グリシン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、セリン、茶ポリフェノール、ヒドロキシメチルエステル、ヒドロキシエチルテトラメチルピペリジノール、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ポリサクシネート(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルエタノール)エステル、2-[2-ヒドロキシ-4-[3-(2-エチルヘキシロキシ)-2-ヒドロキシプロポキシ]フェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)及び/又は1,3,5-トリアジンの中から選択されることを特徴とする。
【請求項15】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
抗酸化剤が、一次抗酸化剤、還元性抗酸化剤及び/又は相乗的抗酸化剤の中から選択されることを特徴とする。
【請求項16】
請求項15に記載の医薬組成物であって、
抗酸化剤は、酢酸トコフェロール、リコペン、還元型グルタチオン、カタラーゼ、過酸化物ジスムターゼ、アセチルシステイン、R-システイン、ビタミンE TPGS、ピルビン酸及び/又はそのマグネシウム塩若しくはナトリウム塩、グルコン酸及び/又はそのマグネシウム塩若しくはナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び/又はその誘導体、アスコルビン酸、アスコルビン酸のエステル、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、マルトール及び/又はその塩類の中から選択されることを特徴とする。
【請求項17】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
抗菌防腐剤は、第四級アンモニウム化合物、チメロサールアルコール剤、抗菌エステル、キレート剤及び/又は抗真菌剤の中から選択されることを特徴とする。
【請求項18】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
抗菌防腐剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、塩化ラウラルコニウム、塩化ミリスチルピコリニウム水銀、クロロブタノール、フェニルエチルアルコール、ベンジルアルコール、パラヒドロキシ安息香酸エステル、エデト酸二ナトリウム(エチレンジアミン四酢酸、EDTA)、クロルヘキシジン、クロロクレゾール、ソルビン酸及び/又はその塩、ソルビン酸カリウム、ポリミキシン、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、プロピオン酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、p-ヒドロキシ安息香酸エチル及び/又はp-ヒドロキシ安息香酸n-プロピルの中から選択されることを特徴とする。
【請求項19】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
pH調整剤は、生理学的に許容可能な酸、塩基、塩又はそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする。
【請求項20】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
pH調整剤は、強鉱酸、鉱塩基、中強度の無機酸、中強度の有機酸、アルカリ土類水酸化物、酸化物、塩基性アンモニウム塩、炭酸塩、クエン酸塩の中から選択されることを特徴とする。
【請求項21】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
pH調整剤は、硫酸、塩酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、メチオニン、酸性のリン酸水素ナトリウム又はリン酸水素カリウム、乳酸、グルクロン酸、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酢酸アンモニウム、リジン、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウムの中から選択されることを特徴とする。
【請求項22】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
緩衝剤は、クエン酸-クエン酸ナトリウム、クエン酸-リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム-リン酸水素二ナトリウム、クエン酸-水酸化ナトリウム、トロメタモール、リン酸二ナトリウム、十二水和物、七水和物、二水和物、その無水物及び/又はナトリウムの混合物の中から選択されることを特徴とする。
【請求項23】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
浸透圧調整剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、デキストロース、グルコン酸ナトリウム、ピルビン酸ナトリウム及び/又は塩化カリウム、グルコース、ラクトース、スクロース、トレハロース、キシリトール、ソルビトール及び/又はイソマルトールの中から選択されることを特徴とする。
【請求項24】
請求項1から4の何れかに記載の医薬組成物であって、
投与形態における所望の浸透圧を達成するために、滅菌等張食塩水を含むことを特徴とする。
【請求項25】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
界面活性剤は、経口又は経鼻吸入に安全なイオン性又は非イオン性の界面活性剤であることを特徴とする。
【請求項26】
請求項25に記載の医薬組成物であって、
前記界面活性剤が、チロキサポール、ポリソルベート、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート80、レシチン、ビタミンE TPGS、マクロゴールヒドロキシステアレート及び/又はマクロゴール-15-ヒドロキシステアレートの中から選択されることを特徴とする。
【請求項27】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、サッカリン、アスパルテーム、シクラメート、スクラロース、アセスルファム、ネオテーム、タウマチン、ネオヘスペリジン及び/又はそれらの塩若しくは溶媒和物からなる薬学的に許容可能な甘味剤の群から選択されることを特徴とする。
【請求項28】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、サッカリンのナトリウム塩又はアセスルファムのカリウム塩であることを特徴とする。
【請求項29】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、スクロース、トレハロース、フルクトース、ラクトース、キシリトール、マンニトール及び/又はイソマルトであることを特徴とする。
【請求項30】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、薬学的に許容可能な界面活性剤、アルカリ土類金属塩、有機酸及び/又はアミノ酸の中から選択されることを特徴とする。
【請求項31】
請求項30に記載の医薬組成物であって、
前記矯味剤は、クエン酸、乳酸及び/又はアルギニンから選択されることを特徴とする。
【請求項32】
請求項12に記載の医薬組成物であって、
前記芳香族の香味剤は、精油から選択されることを特徴とする。
【請求項33】
請求項32に記載の医薬組成物であって、
前記芳香族の香味剤は、メントール、チモール又はシネオールであることを特徴とする。
【請求項34】
請求項32に記載の医薬組成物であって、
湿潤剤又は分散剤は、ポロキサマー、オレイン酸又はその塩、レシチン、水添レシチン、ソルビタン脂肪酸エステル、オレイルアルコール、ホスファチジルグリセロールを含むがこれに限定されないリン脂質、ホスファチジルコリン、ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル、ポリオキシプロピレン脂肪族アルコールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、スフィンゴ脂質やスフィンゴミエリンなどの糖脂質、ポリオキシエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコールグリセリン脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、エトキシ化ラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪族アルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンステアレート、アルギン酸プロピレングリコール、ジラウリルジメチルアンモニウムクロリド、D-a-トコフェリル-ポリエチレングリコール1000コハク酸、ポリオキシ40ステアレート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン植物油、アミノ酸の脂肪酸誘導体、アミノ酸のグリセリド誘導体、塩化ベンザルコニウム及び/又は胆汁酸の中から選択されることを特徴とする。
【請求項35】
請求項1から34のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
COVID-19、インフルエンザ、結核、嚢胞性線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、急性肺感染症、気管支炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、低酸素症、肺塞栓症、肺高血圧、特発性肺線維症、急性肺障害(ALI)、サルコイドーシス及び/又は慢性肺塞栓症の治療において使用されることを特徴とする。
【請求項36】
請求項1から35のいずれか1項に記載の医薬組成物であって、
使い捨て又は再利用による投与であることを特徴とする。
【請求項37】
請求項2に記載の医薬組成物であって、
空気力学的質量中央径(MMAD)が1~6μmの範囲であることを特徴とする。
【請求項38】
請求項2に記載の医薬組成物であって、
空気力学的質量中央径(MMAD)が5.3μmであることを特徴とする。
【請求項39】
請求項2に記載の医薬組成物であって、
平均微粒子率(FPF)値が10~60%の範囲であることを特徴とする。
【請求項40】
請求項38に記載の医薬組成物であって、
平均微粒子率(FPF)値が44%であることを特徴とする。
【請求項41】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するための低分子量ヘパリン(LMWH)又はその薬学的に許容可能な誘導体を含む医薬組成物であって、吸入経路を通じてソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーを用いて肺に局所投与されることを特徴とする。
【請求項42】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2(SARS-CoV-2)によるCOVID-19を含むウイルス性肺疾患、急性肺疾患及び/又は慢性肺疾患の治療に使用するための未分画ヘパリン(UFH)又はその薬学的に許容可能な誘導体を含む医薬組成物であって、吸入経路を通じてソフトミスト吸入器又は振動メッシュ式ネブライザーを用いて肺に局所投与されることを特徴とする。
【請求項43】
請求項9から12の何れか1項に記載の医薬組成物であって、
前記医薬組成物は、その形態が乳濁液又は懸濁液であることを特徴とする。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0083】
表3. 放射線学的重症度指数
【表3】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0086
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0086】
表4. デバイスグループ及びコントロールグループにおける患者パラメータ
【表4】
【国際調査報告】