(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-19
(54)【発明の名称】成形ゲル組成物から調製された焼結物品を使用する触覚物品及び用途
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20231012BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20231012BHJP
C04B 35/486 20060101ALI20231012BHJP
B28B 1/14 20060101ALI20231012BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20231012BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20231012BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20231012BHJP
B06B 1/06 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B06B1/04 S
C08F2/44 A
C04B35/486
B28B1/14 Z
B28B1/14 A
G06F3/041 480
H10N30/20
H10N30/88
B06B1/06 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023513283
(86)(22)【出願日】2021-08-12
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 IB2021057447
(87)【国際公開番号】W WO2022043813
(87)【国際公開日】2022-03-03
(32)【優先日】2020-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】カール,ジョナサン ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ケンドリック,ポール エー.
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン,ナサニエル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】クヌドソン,オーリン ビー.
(72)【発明者】
【氏名】エイベルドソン,ジェイソン エル.
(72)【発明者】
【氏名】ハンパル,キャスリーン エム.
(72)【発明者】
【氏名】サイブルスキー,エリック
【テーマコード(参考)】
4J011
5D107
【Fターム(参考)】
4J011PA07
4J011PA25
4J011PA26
4J011PA28
4J011PB27
4J011QA02
4J011QA03
4J011QA24
4J011QA34
4J011QA38
4J011QB24
4J011SA63
4J011SA82
4J011SA84
4J011SA87
4J011UA00
5D107BB08
5D107CC01
5D107FF07
(57)【要約】
成形ゲル組成物から調製された焼結物品を使用する触覚物品、触覚物品の製造方法、及び用途が提供される。触覚物品は、形状化ジルコニアセラミックプレートと、形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、形状化ジルコニアセラミックプレートを超音波振動数で振動させる圧電アクチュエータと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート本体及びその作動面を含む形状化ジルコニアセラミックプレートと、
前記形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、20kHzを超える超音波振動数で前記形状化ジルコニアセラミックプレートの前記作動面上に定在波を生成するように構成された圧電アクチュエータと、
を含む、触覚デバイス。
【請求項2】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートが、一体構造として前記プレート本体上に形成された1つ以上の取り付け特徴部を更に含む、請求項1に記載の触覚デバイス。
【請求項3】
前記1つ以上の取り付け特徴部が、1つ以上のスロット、1つ以上の溝、1つ以上のタブ、1つ以上の穴、1つ以上のボス、又は1つ以上のソケットのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の触覚デバイス。
【請求項4】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートが、形状化ゲル物品を乾燥及び焼結した産物である、請求項1に記載の触覚デバイス。
【請求項5】
前記形状化ゲル物品が、反応混合物の重合生成物を含み、前記反応混合物が重合中に鋳型キャビティ内に位置付けられ、前記形状化ゲル物品が、前記鋳型キャビティから取り出したときに前記鋳型キャビティ(前記鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状の両方を保持し、前記反応混合物が、
a.前記反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子であって、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO
2を含む、ジルコニア系粒子と、
b.前記反応混合物の総重量に基づいて30~75重量%の溶媒媒体であって、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60%含む、溶媒媒体と、
c.前記反応混合物の総重量に基づいて2~30重量%の重合性材料であって、(1)フリーラジカル重合性基を有する第1の表面改質剤を含む、重合性材料と、
d.フリーラジカル重合反応のための光開始剤と、
を含む、請求項4に記載の触覚デバイス。
【請求項6】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートが、少なくとも70モル%のジルコニア系材料を含み、前記ジルコニア系材料の少なくとも80重量%が、立方晶構造、正方晶構造、又はこれらの組み合わせを有する、請求項1に記載の触覚デバイス。
【請求項7】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートが、立方晶相又は正方晶相での結晶質ジルコニアの理論密度の少なくとも99%の密度を有し、前記理論密度が、細孔のない立方晶相又は正方晶相での結晶質ジルコニアの最大密度である、請求項6に記載の触覚デバイス。
【請求項8】
前記プレート本体が、平坦構造、湾曲構造、又は起伏構造のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の触覚デバイス。
【請求項9】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートで覆われたディスプレイを更に含む、請求項1に記載の触覚デバイス。
【請求項10】
前記ディスプレイがフレームによって受容され、前記形状化ジルコニアセラミックプレートが、その1つ以上の取り付け特徴部を介して、前記フレーム上に取り付けられている、請求項9に記載の触覚デバイス。
【請求項11】
前記作動面上の入力ユニットの位置の検出に基づいて、前記圧電アクチュエータによって生成される前記定在波の振動数及び振幅を制御するように構成されたプロセッサを更に含む、請求項1に記載の触覚デバイス。
【請求項12】
触覚デバイスの製造方法であって、
反応混合物を鋳型キャビティ内に提供することであって、前記反応混合物が、前記反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子を含む、ことと、
前記反応混合物を重合させて、前記鋳型キャビティ内に前記鋳型キャビティの表面と接触した形状化ゲルプレートを形成することと、
前記形状化ゲルプレートを前記鋳型キャビティから取り出すことであって、前記形状化ゲルプレートが、前記鋳型キャビティと同一のサイズ及び形状を保持する、ことと、
溶媒媒体を除去することによって、乾燥形状化ゲルプレートを形成することと、
前記乾燥形状化ゲルプレートを加熱して形状化ジルコニアセラミックプレートを形成することと、
前記形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、20kHzを超える超音波振動数で前記形状化ジルコニアセラミックプレートの前記作動面上に定在波を生成するように構成された圧電アクチュエータを提供することと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記ジルコニア系粒子が、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO
2を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ジルコニア系粒子が結晶質であり、前記ジルコニア系粒子の少なくとも80重量%が、立方構造、正方構造、又はこれらの組み合わせを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記ジルコニア系粒子が、80~99モル%の酸化ジルコニウム、1~20モル%の酸化イットリウム、及び0~5モル%の酸化ランタンを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記反応混合物が、
前記反応混合物の総重量に基づいて30~75重量%の溶媒媒体であって、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60%含む、溶媒媒体と、
前記反応混合物の総重量に基づいて2~30重量%の重合性材料であって、(1)フリーラジカル重合性基を有する第1の表面改質剤を含む、重合性材料と、
フリーラジカル重合反応のための光開始剤と、
を更に含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートが、少なくとも70モル%のジルコニア系材料を含み、前記ジルコニア系材料の少なくとも80重量%が、立方晶構造、正方晶構造、又はこれらの組み合わせを有する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記形状化ゲルプレートが、プレート本体と、前記鋳型キャビティの前記表面と接触するときに前記プレート本体上に形成される1つ以上の取り付け特徴部と、を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記形状化ゲルプレートを前記鋳型キャビティから取り出すことであって、形状化ゲル物品が、前記鋳型キャビティ(前記鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状を保持する、ことを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記形状化ジルコニアセラミックプレートで覆われたディスプレイを提供することと、前記形状化ジルコニアセラミックプレートを、その取り付け特徴部を介して、前記ディスプレイのフレームに取り付けることと、を更に含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
超音波振動数でマイクロメートル範囲の振幅にて基材を振動させることにより、粗い表面の感触をより滑らかにすることができる、超音波駆動の可変摩擦表面に関する研究が行われてきた。これは、空気の薄膜が入力ユニット(例えば、指先)と表面との間に捕捉され、それらの間の接触をより少なくし、その結果より低い摩擦をもたらす、「圧搾空気膜」効果によるものであり得る。後の研究では、この原理を、LCDスクリーン上のガラスなどのより大きな表面に適用した。
【発明の概要】
【0002】
本開示は、成形ゲル組成物から調製された焼結物品を使用する触覚物品、触覚物品の製造方法、及び用途を提供する。
【0003】
一態様において、本開示は、プレート本体及びその作動面を含む形状化ジルコニアセラミックプレートと、形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、20kHzを超える超音波振動数で形状化ジルコニアセラミックプレートの作動面上に定在波を生成するように構成された圧電アクチュエータと、を含む触覚デバイスについて記載する。場合によっては、形状化ジルコニアセラミックプレートは、形状化ゲル物品を乾燥及び焼結した産物である。形状化ゲル物品は、反応混合物の重合生成物を含み、反応混合物は重合中に鋳型キャビティ内に位置付けられ、形状化ゲル物品は、鋳型キャビティから取り出したときに鋳型キャビティ(鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状の両方を保持する。
【0004】
別の態様において、本開示は、触覚デバイスの製造方法について記載する。本方法は、反応混合物を鋳型キャビティ内に提供することであって、反応混合物が反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子を含む、ことと、反応混合物を重合させて、鋳型キャビティ内に鋳型キャビティの表面と接触した形状化ゲルプレートを形成することと、形状化ゲルプレートを鋳型キャビティから取り出すことであって、形状化ゲルプレートが、鋳型キャビティと同一のサイズ及び形状を保持する、ことと、溶媒媒体を除去することによって、乾燥形状化ゲルプレートを形成することと、乾燥形状化ゲルプレートを加熱して形状化ジルコニアセラミックプレートを形成することと、形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、20kHzを超える超音波振動数で形状化ジルコニアセラミックプレートの作動面上に定在波を生成するように構成された圧電アクチュエータを提供することと、を含む。
【0005】
様々な予期せぬ結果及び利点が、本開示の例示的な実施形態において得られる。本開示の例示的な実施形態の利点としては、例えば、従来のガラス共振器と比較して、電力をZ軸変位に変換する高い効率を示す形状化ジルコニアセラミックプレートを含む触覚物品が挙げられる。更に、形状化ジルコニアセラミックプレートは、焼結物品中に保持され得る複雑で微細な特徴部を有し得る対応する形状化ゲル物品から調製され得る。
【0006】
以上が本開示の例示的な実施形態の様々な態様及び利点の概要である。上記の「発明の概要」は、本開示の特定の例示的な実施形態の、図示される各実施形態又は全ての実現形態を説明することを意図するものではない。以下の図面及び「発明を実施するための形態」は、本明細書に開示される原理を使用する特定の好ましい実施形態を、より詳細に例示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
以下の本開示の様々な実施形態の詳細な説明を添付図面と併せて検討することで、本開示をより完全に理解し得る。
【0008】
【
図1】一実施形態による、形状化ジルコニアセラミックプレートを含む触覚デバイスの概略図である。
【
図2】一実施形態による形状化ジルコニアセラミックプレートの斜視図である。
【
図3】別の実施形態による形状化ジルコニアセラミックプレートの斜視図である。
【
図4】別の実施形態による形状化ジルコニアセラミックプレートの平面図である。
【
図5】別の実施形態による形状化ジルコニアセラミックプレートの側面斜視図である。
【
図6】別の実施形態による形状化ジルコニアセラミックプレートの側面斜視図である。
【
図7】一実施形態による、形状化ジルコニアセラミックプレートを製造するためのプロセスのフロー図である。
【0009】
図面では、同様の参照符号は、同様の要素を示す。上記に特定した図面は、縮尺通りに描かれないことがあり、本開示の様々な実施形態を説明しているが、「発明を実施するための形態」で指摘するように、他の実施形態もまた企図される。全ての場合において、本開示は、本明細書で開示される開示内容を、明示的な限定によってではなく、例示的な実施形態を表現することによって説明する。本開示の範囲及び趣旨に含まれる、数多くの他の修正形態及び実施形態を、当業者によって考案することができる点を理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の定義された用語の用語解説に関して、これらの定義は、特許請求の範囲又は本明細書の他の箇所において異なる定義が提供されていない限り、本出願全体について適用されるものとする。
【0011】
用語解説
ある特定の用語が、本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用されており、これらの大部分については周知であるが、何らかの説明が必要とされる場合もある。以下を理解されたい:
本明細書で使用するとき、用語「ジルコニア」は、酸化ジルコニウムの種々の化学量論式を指す。最も典型的な化学量論式は、ZrO2であり、概して、酸化ジルコニウム又は二酸化ジルコニウムのいずれかで呼ばれる。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「ジルコニア系」は、材料の大部分がジルコニアであることを意味する。例えば、材料の少なくとも70モル%、少なくとも75モル%、少なくとも80モル%、少なくとも85モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、又は少なくとも98モル%がジルコニアである。ジルコニアは、多くの場合、例えば、ランタニド元素酸化物及び/又は酸化イットリウムなどの他の無機酸化物でドープされる。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「無機酸化物」には、例えば、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、ランタニド元素酸化物、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、及び酸化マグネシウムなどの種々の無機元素の酸化物が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「ランタニド元素」は、元素周期表のランタニド系列の元素を指す。ランタニド系列は、原子番号57(ランタン)~71(ルテチウム)を有し得る。この系列に含まれる元素は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)である。本明細書で使用するとき、用語「希土類」は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、又はランタニド元素である元素を指す。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「範囲内」は、範囲の端点及び端点間の全ての数を含む。例えば、1~10の範囲内とは、数1、10、及び1~10の間の全ての数を含む。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「会合した」は、凝集及び/又は粒塊化した2つ以上の一次粒子の群を指す。同様に、用語「会合していない」は、凝集(aggregation)及び/又は粒塊化(agglomeration)していないか又は実質的にしていない、2つ以上の一次粒子を指す。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「凝集」は、2つ以上の一次粒子の強い会合を指す。例えば、一次粒子は、互いに化学的に結合され得る。概して、凝集体をより小さい粒子(例えば一次粒子)に分割することは、達成するのが困難である。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「粒塊化」は2つ以上の一次粒子の弱い会合を指す。例えば、粒子は、電荷又は極性により共に保持され得る。粒塊をより小さい粒子(例えば、一次粒子)に分割することは、凝集体をより小さい粒子に分割するほど困難ではない。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「一次粒径」は、会合していない単一結晶ジルコニア粒子のサイズを指し、当該粒子は一次粒子とみなされる。X線回折(XRD)は、典型的には一次粒径の測定に用いられる。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「水熱」は、水性媒体を、その水性媒体の沸騰を防止するのに必要な圧力又はそれ以上の圧力において、その水性媒体の標準沸点を超える温度に加熱する方法を指す。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「ゾル」は、液体中の離散粒子のコロイド懸濁液を指す。離散粒子は、多くの場合、1~100nmの範囲の平均サイズを有する。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「ゲル」又は「ゲル組成物」は、キャスティングゾルである反応混合物の重合生成物を指し、キャスティングゾルは、ジルコニア系粒子、溶媒媒体、重合性材料、及び光開始剤を含む。
【0023】
本明細書で使用するとき、用語「形状化ゲル」は、鋳型キャビティ内で形成されたゲル組成物を指し、形状化ゲル(すなわち、形状化ゲル物品)は鋳型キャビティによって決定される形状及びサイズを有する。特に、ジルコニア系粒子を含有する重合性反応混合物を、鋳型キャビティ内で重合させてゲル組成物にすることができ、このゲル組成物(すなわち、形状化ゲル物品)は、鋳型キャビティから取り出したときに鋳型キャビティのサイズ及び形状を保持する。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「エアロゲル」は、三次元低密度(例えば、理論密度の30%未満)の固体を意味する。エアロゲルは、ゲルの液体成分が気体で置き換えられている、ゲルに由来する多孔質材料である。この溶媒除去は、多くの場合、超臨界条件下で行われる。このプロセス中、ネットワークは実質的に縮小せず、高度に多孔質で低密度の材料を得ることができる。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「キセロゲル」は、周囲条件下又は高温での蒸発によって溶媒媒体を除去するために更に加工されたゲル組成物を指す。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「等方性収縮」は、x方向、y方向、及びz方向に本質的に同程度である収縮を指す。すなわち、1方向における収縮の程度は、他の2方向における収縮の5%以内、2%以内、1%以内、又は0.5%以内の範囲である。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「ネット形状化プロセス」は、所望の最終(ネット)形状に実質的に近いが、可能な等方性収縮の程度に対応するより大きな寸法を高確率で有する初期品目を作製するプロセスを指す。これは、機械加工又は研削などの、従来のコストのかかる仕上げ方法の必要性を低減する。
【0028】
本開示は、成形ゲル組成物から調製された焼結物品を使用する触覚物品、触覚物品の製造方法、及び用途を提供する。触覚物品は、形状化ジルコニアセラミックプレートと、形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、形状化ジルコニアセラミックプレートを超音波振動数で振動させる圧電アクチュエータと、を含む。本明細書に記載の触覚デバイスは、ゲル組成物から調製された焼結物品を含み得る。
【0029】
図1は、一実施形態による、形状化ジルコニアセラミックプレート110を含む触覚デバイス100の概略図である。形状化ジルコニアセラミックプレート110は、プレート本体112とその作動面114とを含む。圧電アクチュエータ120は、形状化ジルコニアセラミックプレート110の後面116に結合される。圧電アクチュエータ120は、例えば、20kHz超、40kHz超、又は60kHz超の超音波振動数で0.1μm超、0.2μm超、又は0.3μm超の振幅にて形状化ジルコニアセラミックプレート110の作動面114上に振動(例えば、定在波)を生成するように構成される。
【0030】
図1に示す実施形態において、圧電アクチュエータ120は、エポキシ102を介して、後面116上の形状化ジルコニアセラミックプレート110の縁部に取り付けられる。圧電アクチュエータ120は、任意の好適な機構によって任意の所望の位置で形状化ジルコニアセラミックプレート110に結合することができることを理解されたい。圧電アクチュエータ120は、形状化ジルコニアセラミックプレートに結合してジルコニアセラミックプレートを所望の超音波振動数で振動させる任意の好適な振動アクチュエータとすることができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、圧電アクチュエータ120は、圧電変換器を駆動して振動させるために交番電界を生成する信号発生器又は増幅器を含み得る。信号発生器又は増幅器は、コントローラから送信された振動数及び振幅情報を使用することができ、受信した振動数で電圧が変化する対応する電気信号を生成することができる。コントローラは、例えば、プリント回路基板(PCB)上で、信号発生器又は増幅器と統合されてもよい。コントローラは、プロセッサ又は演算デバイスであり得、例えば、1つ以上の汎用マイクロプロセッサ、特別に設計されたプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、個別ロジックのコレクション、及び/又は本明細書に記載の技法を実行することが可能な任意の種類の処理デバイスを含み得る。
【0032】
圧電アクチュエータ120が作動すると、触覚デバイス100は振動する作動面114を提供し、検出物体(例えば、ユーザの指先2)と作動面114との間の摩擦力を減少させることができる。これは、空気の薄膜が指先と作動面との間に捕捉され、それらの間の接触をより少なくし、その結果より低い摩擦力をもたらす、「圧搾空気膜」効果によるものである。摩擦力の変動は、作動面114の触感に関連し、可変摩擦表面を作製するために利用することができる。
【0033】
本明細書に記載の超音波摩擦低減は、高振動数(例えば、20kHzを超える超音波振動数)で様々な形態の振動(例えば、正弦波、又は他の複雑な形態)を使用して、1つ以上の圧電アクチュエータを駆動し、作動面上に定在波を生じさせることができる。振動数は、検出可能な摩擦の減少のために例えば700nm以上などのピーク変位を達成するために、触覚デバイス100の共振モードに一致するように選択することができる。低振動数の振動触覚デバイスとは異なり、ここで適用される超音波振動数(例えば、>25kHz)は、超音波振動数振動がユーザの皮膚の機械的受容体の応答範囲外であり得るため、振動として知覚されない場合がある。代わりに、摩擦力が減少するので、作動面は「滑りやすい」ように感じられる。
【0034】
いくつかの実施形態において、共振振動数を搬送波信号として使用し、振動として知覚することができる範囲に入る低振動数(例えば、400Hz未満)で調節することができる、洗練された触感エミュレーション効果を生成することができる。
【0035】
本開示において、生成された振動は、好適な振幅、振動数及び振動モードを有する作動面上の表面波が知覚可能な摩擦低減効果をもたらすことができるように制御される。理論に束縛されることを望むものではないが、指先幅未満の半波長を有する定在波は、振動表面(すなわち、作動面)上の「デッドスポット」(ノード)の知覚可能な効果を最小限に抑えることができるか、又はさもなければ作動面が単一の波腹上にあり得るほど十分に広いと考えられる。「デッドスポット」の最小化は、知覚可能な効果を達成するために必須ではない場合がある。いくつかの実施形態において、知覚可能な効果をもたらすために、0.5又は1μmより大きい最大変位を有する振動が必要とされ得る。
【0036】
図1に示す実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレート110は、タッチデバイス14が収容されるフレーム12上に取り付けられた1つ以上の縁部を有する。プレート110は、プレート本体112を支持するフレーム12内の構造支持体124a上でプレート本体112が摺動又は移動することを可能にする低摩擦表面124bを含むことができる。追加のタッチ表面(例えば、
図1に示されていない保護ガラスプレート)を、接着剤122(例えば、光学的に透明な接着剤)を介してタッチデバイス14に取り付けることができる。
【0037】
形状化ジルコニアセラミックプレート110は、一体構造としてプレート本体112上に形成された1つ以上の複雑な特徴部を更に含む。用語「一体構造」は、複雑な特徴部が、特徴部を形成するためにプレートに材料を追加することもプレートから材料を減少させることもなく、インテグラル構造として形状化ジルコニアセラミックプレートと共に形成されていることを意味する。複雑な特徴部は、例えば、1つ以上のスロット、1つ以上の溝、1つ以上のタブ、1つ以上の穴、1つ以上のボス、1つ以上のソケット、及びこれらの組み合わせを含み得る。
【0038】
形状化ジルコニアセラミックプレートは、例えば、平坦構造、湾曲構造、起伏構造などの様々な形状又は幾何学的構造であり得る。プレートのサイズは、様々な用途に応じて変更可能である。いくつかの実施形態において、様々な形状は、例えば、1.0mm~10cmの範囲内の面内(例えば、デカルト座標系におけるXY平面)寸法と、例えば、10μm~1mmの範囲内の厚さ(例えば、デカルト座標系のZ軸における寸法)とを有することができる。いくつかの実施形態において、プレートは、以下で更に説明されるプロセスによって焼結物品から製造されてもよい。任意の所望のサイズ及び形状の焼結物品を調製できる。最長寸法は、最大1cm、最大2cm、最大5cm、又は最大10cm又は更にそれ以上であり得る。最長寸法は、少なくとも1cm、少なくとも2cm、少なくとも5cm、少なくとも10cm、少なくとも20cm、少なくとも50cm、又は少なくとも100cmであり得る。
【0039】
複雑な特徴部は、非常に微細な幾何学形状を有することができる。微細な幾何学形状の最大寸法(例えば、深さ、幅、長さ、直径など)は、例えば、約5mm以下、約2mm以下、約1mm以下、約0.5mm以下、約0.1mm以下、約0.05mm以下、又は更にそれ以下であり得る。いくつかの実施形態において、微細な幾何学形状の最大寸法は、例えば、形状化ジルコニアセラミックプレート110の最大寸法の約1/10、1/20、1/50、1/100、1/200、1/500、又は1/1000未満であってもよい。
【0040】
本明細書に記載の形状化ジルコニアセラミックプレートは、少なくとも70モル%、少なくとも75モル%、少なくとも80モル%、少なくとも85モル%、少なくとも90モル%、少なくとも95モル%、又は少なくとも98モル%のジルコニア系材料を含み得る。ジルコニア系材料の少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも98重量%、少なくとも99重量%、又は少なくとも99.5重量%は、立方晶構造、正方晶構造、又はこれらの組み合わせを有する。
【0041】
本明細書に記載の形状化ジルコニアセラミックプレートは、例えば、Swift Glass Co.(Elmira Heights,NY)から提供される同様の寸法を有するホウケイ酸ガラスなどの標準的なガラスプレートと比較して、高密度を有し得る。ホウケイ酸ガラスは、約2.23g/ccの理論密度を有し得る。正方晶ジルコニアは、約6.10g/ccの理論密度を有し得る。いくつかの実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレートは、立方晶相又は正方晶相での結晶質ジルコニアの理論密度の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%の、又は更に高い相対密度を有し得る。理論密度は、細孔のない立方晶相又は正方晶相での結晶質ジルコニアの最大密度として定義される。
【0042】
いくつかの実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレートは、形状化ゲル物品を乾燥及び焼結した産物であり得る。形状化ゲル物品は、反応混合物の重合生成物を含み得る。反応混合物は重合中に鋳型キャビティ内に位置付けられ、形状化ゲル物品は、鋳型キャビティから取り出したときに鋳型キャビティ(鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状の両方を保持する。反応混合物は、
a.当該反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子であって、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO2を含む、ジルコニア系粒子と、
b.当該反応混合物の総重量に基づいて30~75重量%の溶媒媒体であって、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60%含む、溶媒媒体と、
c.当該反応混合物の総重量に基づいて2~30重量%の重合性材料であって、(1)フリーラジカル重合性基を有する第1の表面改質剤を含む、重合性材料と、
d.フリーラジカル重合反応のための光開始剤と、
を含む。
【0043】
形状化ジルコニアセラミックプレート110は、例えば、ボタン、ノブ、タッチパッドなどの様々な形態の触覚フィードバックデバイスとして提供することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の1つ以上の触覚デバイスは、例えばタッチデバイスなどの別の電子デバイスと組み合わせることができる。触覚デバイスによって生成される「圧搾膜効果」を利用して、電子デバイスとの相互作用にタッチフィードバック寸法を追加することができる。この追加の寸法は、性能を潜在的に改善することができるエンハンストリアリズム(enhanced realism)を付加することができる。
【0044】
一部の用途において、形状化ジルコニアセラミックプレート110の作動面114上のユーザの指先の(X,Y)位置を決定することができる。指の位置は、例えばタッチセンサなどの様々なデバイスを使用して追跡することができる。タッチデバイス又はセンサは、共振面の下に取り付けられたインジウムスズ酸化物(ITO)の層を使用する容量式タッチセンサとすることができる。プレート上の指先の(X,Y)位置は、圧電アクチュエータのための信号発生を制御するコントローラに送ることができる。(X,Y)位置を信号発生器又は増幅器の変化する振幅及び/又は振動数レベルにマッピングして、指先が形状化ジルコニアセラミックプレートの作動面上を移動するときに、変化する表面特徴部の触覚錯覚を生成することができる。
【0045】
取り付け特徴部及び/又は追加の特徴部による様々な形状化構造を有する例示的な形状化ジルコニアセラミックプレートを
図2~
図6に示す。
図2に示す実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレート110aは、その作動面114aを画定する平坦なプレート本体112aと、プレート本体112aに形成された貫通穴21、ボス22、導管23などの1つ以上の特徴部とを有する。
図3に示す実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレート110bは、作動面114bを画定する湾曲したプレート本体112bと、プレート本体112bに形成された貫通穴又はボス31などの1つ以上の特徴部とを有する。
図4に示す実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレート110cは、作動面114cを画定するプレート本体112cと、プレート本体112cの角に形成されたタブ41などの1つ以上の特徴部とを有する。
図5に示す実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレート110dは、作動面114dを画定するプレート本体112dと、プレート本体112dの側面116d上に形成された1つ以上のスロット51とを有する。
図6に示す実施形態において、形状化ジルコニアセラミックプレート110eは、作動面114eを画定するプレート本体112eと、プレート本体112eの側面116e上に形成された1つ以上のソケット61とを有する。
【0046】
本明細書に記載の形状化ジルコニアセラミックプレートは、
図7に示すプロセス700によって作製することができる。
図7に示すプロセス700は、ナノ粒子及び/又はマイクロ粒子から精密なネット形状化セラミックを製造するための経路を提供し、機械加工の高いコストなしに固有の幾何学的形状及び特性を可能にする。710において、ジルコニア系粒子を含有する反応混合物又はキャスティングゾルが調製される。反応混合物は、フリーラジカル重合を起こし得る重合性基を有する(すなわち、重合性基がフリーラジカル重合可能である)1種以上の重合性材料を更に含む。反応混合物は、典型的には、鋳型に入れられる。したがって、(a)鋳型キャビティを有する鋳型と、(b)鋳型キャビティ内に位置付けられ、鋳型キャビティの表面と接触する反応混合物と、を含む物品が710において提供される。720において、ゲル組成物は、反応混合物を硬化させることによって鋳型キャビティ内に形成される。いくつかの実施形態において、ゲル組成物は、反応混合物の重合生成物(すなわち、キャスティングゾル)を含んでもよい。ゲル組成物は、鋳型キャビティによって画定される形状をとり得る。いくつかの実施形態において、ゲル組成物は、プレート本体と、鋳型キャビティの内面と接触するときにプレート本体上に形成される1つ以上の取り付け特徴部と、を含む形状化ゲルプレートとして形成されてもよい。730において、形状化ゲル物品を鋳型キャビティから取り出し、形状化ゲル物品を処理してその有機溶媒を除去する。これは、ゲル組成物又は形状化ゲル物品の乾燥と呼ぶことができる。任意のサイズ及び複雑さの形状化ゲル物品を乾燥してエアロゲル物品にすることができる。740において、エアロゲル物品を加熱して、ポリマー材料又は存在し得る任意の他の有機材料を除去し、高密度化により強度を得る。水酸化アンモニウム水溶液中での有機バーンアウト及び任意選択の浸漬の後、乾燥物品を焼結する。
【0047】
反応混合物(キャスティングゾル)
1. ジルコニア系粒子
反応混合物はジルコニア系粒子を含有する。任意の好適なプロセスを、ジルコニア系粒子を形成するために使用できる。特に、ジルコニア系粒子は、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO2を含有する。ジルコニア系粒子は結晶質であり、結晶質相は主に立方晶及び/又は正方晶である。ジルコニア系粒子は、好ましくは会合しておらず、そのため高密度の焼結物品の形成に好適である。会合していない粒子は、反応混合物の低粘度及び高い光透過性をもたらす。更に、会合していない粒子により、エアロゲル又はキセロゲル内により均一な細孔構造が得られ、より均質な焼結物品が得られる。
【0048】
多くの実施形態において、水熱法(水熱反応器システム)は、結晶質で会合していないジルコニア系粒子をもたらすために使用される。水性媒体に溶解したジルコニア塩及び他の任意選択の塩を含有する、水熱反応器システム用の供給材料が使用される。好適な任意選択の塩としては、例えば、希土類塩、遷移金属塩、アルカリ土類金属塩、及びポスト遷移金属塩が挙げられる。希土類塩の例としては、例えば、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムを含有する塩が挙げられる。遷移金属の例としては、限定するものではないが、鉄、マンガン、コバルト、クロム、ニッケル、銅、タングステン、バナジウム、及びハフニウムの塩が挙げられる。アルカリ土類金属塩の例としては、限定するものではないが、カルシウム及びマグネシウムの塩が挙げられる。ポスト遷移金属塩の例としては、限定するものではないが、アルミニウム、ガリウム、及びビスマスの塩が挙げられる。多くの実施形態において、ポスト遷移金属塩は、アルミニウムの塩である。多くの実施形態において、任意選択の塩は、イットリウム塩、ランタン塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、又はこれらの混合物である。いくつかの好ましい実施形態において、任意選択の塩はイットリウム塩及びランタン塩である。金属は、典型的には、別個の粒子として存在するのではなく、ジルコニア系粒子に組み込まれている。
【0049】
水熱反応器システム用の供給材料に含まれる溶解塩は、典型的には、後続の加工工程で除去可能で非腐食性であるアニオンを有するように選択される。溶解塩は、典型的には、4個以下の炭素原子を有するカルボン酸アニオンを有するものなどのカルボン酸塩、例えば、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩又はこれらの組み合わせなどである。多くの実施形態において、カルボン酸塩は酢酸塩である。すなわち、供給材料は、多くの場合、溶解した酢酸ジルコニウムと、他の任意選択の酢酸塩、例えば、酢酸イットリウム及びランタニド元素の酢酸塩(例えば、酢酸ランタン)とを含む。供給材料は、対応するカルボン酸アニオンのカルボン酸を更に含み得る。例えば、酢酸塩から調製される供給材料は、多くの場合、酢酸を含有する。供給材料のpHは、典型的には酸性である。例えば、pHは、多くの場合、最大6、最大5、又は最大4かつ少なくとも2又は少なくとも3である。
【0050】
例示的なジルコニウム塩の1つは、酢酸ジルコニウム塩であり、
ZrO((4-n)/2)
n+(CH3COO-)n(式中、nは1~2の範囲内である)のような式によって表される。ジルコニウムイオンは、例えば、供給材料のpHに応じて、様々な構造で存在し得る。酢酸ジルコニウムの製造方法は、例えば、W.B.Blumenthal,「The Chemical Behavior of Zirconium,」pp.311-338,D.Van Nostrand Company,Princeton,NJ(1958)に記載されている。好適な酢酸ジルコニウム水溶液は、例えば、Magnesium Elektron,Inc.(Flemington,NJ,USA)から市販されており、これは、例えば、溶液の総重量に基づいて、最大17重量%のジルコニウム、最大18重量%のジルコニウム、最大20重量%のジルコニウム、最大22重量%のジルコニウム、最大24重量%のジルコニウム、最大26重量%のジルコニウム、又は最大28重量%のジルコニウムを含有する。
【0051】
供給材料は、多くの場合、カルボン酸アニオン以外のアニオンの使用を回避又は最小限にするように選択される。すなわち、供給材料は、ハロゲン化物塩、オキシハロゲン化物塩、硫酸塩、硝酸塩、又はオキシ硝酸塩の使用を回避又は最小限にするように選択される。ハロゲン化物及び硝酸アニオンは、より望ましい正方晶相又は立方晶相ではなく、主に単斜晶相であるジルコニア系粒子の形成をもたらす傾向がある。任意選択の塩は、ジルコニウム塩の量と比較して相対的に少ない量で使用されることから、任意選択の塩は、カルボキシレートではないアニオンを有し得る。多くの実施形態において、供給材料に添加される全ての塩が酢酸塩であることが好ましい。
【0052】
供給材料に溶解される種々の塩の量は、供給材料に選択された固体%及びジルコニア系粒子の所望の組成に基づいて容易に決定できる。典型的には、供給材料は溶液であり、分散又は懸濁された固体を含まない。例えば、種粒子は供給材料中に存在しない。供給材料は、通常、5固体重量%を超え、これらの固体は、典型的には溶解されている。「固体重量%」は、試料を120℃で一定重量まで乾燥させることによって計算することができ、水でもなく、水混和性共溶媒でもなく、120℃までの温度で蒸発させることができる別の化合物でもない供給材料の部分を指す。固体重量%は、乾燥重量を湿潤重量で割り、次いで100を掛けることによって計算される。湿潤重量は、乾燥前の供給材料の重量を指し、乾燥重量は、乾燥後の試料の重量を指す。多くの実施形態において、供給材料は、少なくとも5重量%、少なくとも10重量%、少なくとも12重量%、又は少なくとも15固体重量%である。一部の供給材料は、最大20固体重量%、最大25固体重量%、又は更には25固体重量%を超える。
【0053】
固体%が選択されたら、各溶解塩の量を、ジルコニア系粒子の所望の組成に基づいて計算できる。ジルコニア系粒子は、少なくとも70モル%の酸化ジルコニウムである。例えば、ジルコニア系粒子は、少なくとも75モル%、少なくとも80モル%、少なくとも85モル%、少なくとも90モル%、又は少なくとも95モル%の酸化ジルコニウムであり得る。ジルコニア系粒子は、最大100モル%の酸化ジルコニウムであり得る。例えば、ジルコニア系粒子は、最大99モル%、最大98モル%、最大95モル%、最大90モル%、又は最大85モル%の酸化ジルコニウムであり得る。
【0054】
最終的な焼結物品の使用目的に応じ、酸化ジルコニウムに加え、他の無機酸化物が、ジルコニア系粒子に含まれる場合がある。ジルコニア系粒子の最大30モル%、最大25モル%、最大20モル%、最大10モル%、最大5モル%、最大2モル%、又は最大1モル%は、Y2O3、La2O3、Al2O3、CeO2、Pr2O3、Nd2O3、Pm2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Fe2O3、MnO2、Co2O3、Cr2O3、NiO、CuO、V2O3、Bi2O3、Ga2O3、Lu2O3、HfO2、又はこれらの混合物であってもよい。Fe2O3、MnO2、Co2O3、Cr2O3、NiO、CuO、Bi2O3、Ga2O3、Er2O3、Pr2O3、Eu2O3、Dy2O3、Sm2O3、V2O3、又はW2O3などの無機酸化物が、例えば、ジルコニア系粒子の色を変えるために添加されてもよい。
【0055】
酸化ジルコニウム以外の無機酸化物がジルコニア系粒子に含まれない場合、単斜晶系結晶相の一部が存在する可能性が高くなる。単斜晶相は加熱したときに正方晶相又は立方晶相のいずれかよりも安定性が低いことから、多くの用途で、単斜晶相の量を最小限にすることが望ましいと考えられる。例えば、単斜晶相は、1200℃を超えて加熱されると正方晶相に転移し得るが、冷却されると単斜晶相に戻り得る。この転移は、体積膨張を伴うことがあり、それが材料の亀裂又はひび割れを招き得る。対照的に、正方晶相及び立方晶相は、約2370℃以上まで相転移を起こすことなく加熱できる。
【0056】
多くの実施形態において、希土類酸化物がジルコニア系酸化物に含まれるとき、希土類元素はイットリウムであるか、又はイットリウムとランタンとの組み合わせである。イットリウム又はイットリウムとランタンの両方が存在することで、正方晶相又は立方晶相が1200℃を超えるような高温から冷却される際に単斜晶相への破壊的転移を起こすのを防止できる。イットリウム又はイットリウムとランタンの両方を添加することで、焼結物品の物理的完全性、靭性、又はその両方を増大又は維持できる。
【0057】
ジルコニア系粒子は、存在する無機酸化物の総モルに基づいて0~30重量%の酸化イットリウムを含有し得る。酸化イットリウムがジルコニア系粒子に添加される場合、たいていは、少なくとも1モル%、少なくとも2モル%、又は少なくとも5モル%に等しい量で添加される。酸化イットリウムの量は、最大30モル%、最大25モル%、最大20モル%、又は最大15モル%であり得る。例えば、酸化イットリウムの量は、1~30モル%、1~25モル%、2~25モル%、1~20モル%、2~20モル%、1~15モル%、2~15モル%、5~30モル%、5~25モル%、5~20モル%、又は5~15モル%の範囲であり得る。モル%の量は、ジルコニア系粒子中の無機酸化物の総モルに基づく。
【0058】
ジルコニア系粒子は、存在する無機酸化物の総モルに基づいて0~10モル%の酸化ランタンを含有し得る。酸化ランタンがジルコニア系粒子に添加される場合、少なくとも0.1モル%、少なくとも0.2モル%、又は少なくとも0.5モル%に等しい量で使用できる。酸化ランタンの量は、最大10モル%、最大5モル%、最大3モル%、最大2モル%、又は最大1モル%であり得る。例えば、酸化ランタンの量は、0.1~10モル%、0.1~5モル%、0.1~3モル%、0.1~2モル%、又は0.1~1モル%の範囲であり得る。モル%の量は、ジルコニア系粒子中の無機酸化物の総モルに基づく。
【0059】
いくつかの実施形態において、ジルコニア系粒子は、70~100モル%の酸化ジルコニウム、0~30モル%の酸化イットリウム、及び0~10モル%の酸化ランタンを含有する。例えば、ジルコニア系粒子は、70~99モル%の酸化ジルコニウム、1~30モル%の酸化イットリウム、及び0~10モル%の酸化ランタンを含有する。他の例において、ジルコニア系粒子は、75~99モル%の酸化ジルコニウム、1~25モル%の酸化イットリウム、及び0~5モル%の酸化ランタン、又は80~99モル%の酸化ジルコニウム、1~20モル%の酸化イットリウム、及び0~5モル%の酸化ランタン、又は85~99モル%の酸化ジルコニウム、1~15モル%の酸化イットリウム、及び0~5モル%の酸化ランタンを含有する。更に他の実施形態において、ジルコニア系粒子は、85~95モル%の酸化ジルコニウム、5~15モル%の酸化イットリウム、及び0~5モル%(例えば、0.1~5モル%又は0.1~2モル%)の酸化ランタンを含有する。モル%の量は、ジルコニア系粒子中の無機酸化物の総モルに基づく。
【0060】
他の無機酸化物を、希土類元素と組み合わせて又は希土類元素の代わりに使用できる。例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、又はこれらの混合物を、存在する無機酸化物の総モルに基づいて0~30モル%の範囲の量で添加してもよい。これらの無機酸化物の存在は、形成される単斜晶相の量を減少させる傾向がある。酸化カルシウム及び/又は酸化マグネシウムがジルコニア系粒子に添加される場合、添加総量は、多くの場合、少なくとも1モル%、少なくとも2モル%、又は少なくとも5モル%である。酸化カルシウム、酸化マグネシウム、又はこれらの混合物の量は、最大30モル%、最大25モル%、最大20モル%、又は最大15モル%であり得る。例えば、上記の量は、1~30モル%、1~25モル%、2~25モル%、1~20モル%、2~20モル%、1~15モル%、2~15モル%、5~30モル%、5~25モル%、5~20モル%、又は5~15モル%の範囲であり得る。モル%の量は、ジルコニア系粒子中の無機酸化物の総モルに基づく。
【0061】
更に、酸化アルミニウムは、ジルコニア系粒子中の無機酸化物の総モルに基づいて0~1モル%未満の範囲の量で含まれ得る。いくつかの例のジルコニア系粒子は、0~0.5モル%、0~0.2モル%、又は0~0.1モル%の上記無機酸化物を含有する。
【0062】
水熱反応器用の供給材料の液体媒体は、典型的には、主として水である(すなわち、液体媒体は、水系媒体である)。この水は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類イオン、又はその両方のような他の金属種の供給材料への導入を最小限にするために、好ましくは脱イオン化されている。水混和性有機共溶媒は、溶媒媒体相の重量に基づいて最大20重量%の量で溶媒媒体相に含まれ得る。好適な共溶媒としては、限定するものではないが、1-メトキシ-2-プロパノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、N,N-ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドンが挙げられる。ほとんどの実施形態において、有機溶媒は水系媒体に添加されない。
【0063】
水熱処理を施すと、供給材料中の種々の溶解塩は、加水分解及び縮合反応を受け、ジルコニア系粒子を形成する。これらの反応は、多くの場合、酸性副生成物の遊離を伴う。すなわち、この副生成物は、多くの場合、供給材料中の任意の他のカルボン酸塩を加えたジルコニウムカルボン酸塩に相当する1つ以上のカルボン酸である。例えば、塩が酢酸塩である場合、水熱反応の副生成物として酢酸が形成される。
【0064】
任意の好適な水熱反応器システムを、ジルコニア系粒子の調製に使用することができる。この反応器は、バッチ式又は連続式反応器とすることができる。連続式水熱反応器では、バッチ式水熱反応器と比較して、加熱時間は典型的にはより短く、温度は典型的にはより高い。水熱処理の時間は、反応器の種類、反応器の温度、及び供給材料の濃度に応じて変更可能である。反応器内の圧力は、自己生成性であっても(すなわち、反応器の温度における水の蒸気圧)、液圧式であっても(すなわち、拘束に対する流体のポンピングによって生じる圧力)、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスの添加から生じさせてもよい。好適なバッチ式水熱反応器は、例えば、Parr Instruments Co.(Moline,IL,USA)から入手可能である。いくつかの好適な連続式水熱反応器は、例えば、米国特許第5,453,262号(Dawsonら)及び同第5,652,192号(Matsonら)、Adschiriら,J.Am.Ceram.Soc.,75,1019-1022(1992)、並びにDawson,Ceramic Bulletin,67(10),1673-1678(1988)に記載されている。
【0065】
バッチ式反応器を使用してジルコニア系粒子を形成する場合、その温度は、多くの場合、160℃~275℃の範囲内、160℃~250℃の範囲内、170℃~250℃の範囲内、175℃~250℃の範囲内、200℃~250℃の範囲内、175℃~225℃の範囲内、180℃~220℃の範囲内、180℃~215℃の範囲内、又は190℃~210℃の範囲内である。供給材料は、典型的には、室温でバッチ式反応器に入れられる。バッチ式反応器内の供給材料は、指定された温度まで加熱され、その温度に少なくとも30分間、少なくとも1時間、少なくとも2時間、又は少なくとも4時間保持される。この温度は、最大24時間、最大20時間、最大16時間、又は最大8時間保持され得る。例えば、この温度は0.5~24時間の範囲内、1~18時間の範囲内、1~12時間の範囲内、又は1~8時間の範囲内で保持され得る。いずれのサイズのバッチ式反応器も使用できる。例えば、バッチ式反応器の容積は数mL~数L以上までの範囲であってもよい。
【0066】
多くの実施形態において、供給材料は、連続式水熱反応器を通過する。本明細書で使用するとき、水熱反応器システムに関する用語「連続式」とは、供給材料が連続的に導入され、流出物が加熱ゾーンから連続的に除去されることを意味する。供給材料の導入及び流出物の除去は、典型的には反応器の異なる場所で行われる。連続的な導入及び除去は、持続的であっても間欠的であってもよい。
【0067】
多くの実施形態において、連続式水熱反応器システムは、管状反応器を含む。本明細書で使用するとき、用語「管状反応器」は、連続式水熱反応器システムの加熱される部分(すなわち、加熱ゾーン)を指す。管状反応器の形状は、多くの場合、管状反応器の所望の長さ及び管状反応器を加熱するために使用される方法に基づいて選択される。例えば、管状反応器は、直線状、U字形状、又はコイル状であり得る。管状反応器の内部は空であり得るか、又は邪魔板、ボール、若しくは他の公知の混合手段を含み得る。管状反応器を有する水熱反応器システムの一例は、国際出願PCT/WO2011/082031号(Kolbら)に記載されている。
【0068】
いくつかの実施形態において、管状反応器は、フッ素化ポリマー材料を含有する内表面を有する。このフッ素化ポリマー材料としては、例えば、フッ素化ポリオレフィンを挙げることができる。いくつかの実施形態において、ポリマー材料は、DuPont(Wilmington,DE,USA)から「テフロン」の商品名で入手可能なものなどのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。一部の管状反応器は、PTFEホースを編組ステンレス鋼ハウジングなどの金属ハウジング内に有する。供給材料中に存在し得るカルボン酸は、このような管状反応器から金属を浸出しない。
【0069】
管状反応器の寸法は様々であり得、供給材料の流速と共に、管状反応器内の反応物に好適な滞留時間をもたらすように選択することができる。滞留時間及び温度が、供給材料中のジルコニウムをジルコニア系粒子に変換するのに十分でさえあれば、任意の好適な長さの管状反応器を用いることができる。管状反応器は、多くの場合、少なくとも0.5m、少なくとも1m、少なくとも2m、少なくとも5m、少なくとも10m、少なくとも15m、少なくとも20m、少なくとも30m、少なくとも40m、又は少なくとも50mの長さを有する。いくつかの実施形態において、管状反応器の長さは、500m未満、400m未満、300m未満、200m未満、100m未満、80m未満、60m未満、40m未満、又は20m未満である。
【0070】
典型的には、比較的小さい内径を有する管状反応器が好ましい。例えば、約3cm以下の内径を有する管状反応器は、これらの管状反応器で供給材料の高速加熱が実現できることから、しばしば使用される。更に、管状反応器全体の温度勾配は、より大きい内径のものと比較して、より小さい内径の反応器の方が小さい。管状反応器の内径が大きいほど、この反応器はバッチ式反応器に類似する。しかしながら、管状反応器の内径が小さすぎる場合には、反応器の壁に材料が付着することから、稼働中に反応器が詰まるか又は部分的に詰まる可能性が高まる。管状反応器の内径は、多くの場合、少なくとも0.1cm、少なくとも0.15cm、少なくとも0.2cm、少なくとも0.3cm、少なくとも0.4cm、少なくとも0.5cm、又は少なくとも0.6cmである。いくつかの実施形態において、管状反応器の直径は、3cm以下、2.5cm以下、2cm以下、1.5cm以下、又は1.0cm以下である。一部の管状反応器は、0.1~3.0cmの範囲内、0.2~2.5cmの範囲内、0.3~2cmの範囲内、0.3~1.5cmの範囲内、又は0.3~1.0cmの範囲内の内径を有する。
【0071】
連続式水熱反応器システムにおいて、温度及び滞留時間は、管状反応器の寸法と共に、単回水熱処理を用いて、供給材料中のジルコニウムの少なくとも90モル%をジルコニア系粒子に変換させるように選択される。すなわち、連続式水熱反応器システムを1回通過するうちに、供給材料に溶解したジルコニウムの少なくとも90モル%が、ジルコニア系粒子に変換される。
【0072】
あるいは、複数工程の水熱プロセスが使用され得る。例えば、供給材料に第1の水熱処理を施すことができ、ジルコニウム含有中間体及びカルボン酸などの副生成物を形成する。第2の供給材料は、ジルコニウム含有中間体から第1の水熱処理の副生成物の少なくとも一部を除去することによって形成することができる。次いで、第2の供給材料に第2の水熱処理を施し、ジルコニア系粒子を含有するゾルを形成することができる。このプロセスは、米国特許第7,241,437号(Davidsonら)に更に記載されている。
【0073】
2工程の水熱プロセスが使用される場合、ジルコニウム含有中間体の変換の割合は、典型的には、40~75モル%である。第1の水熱処理で用いられる条件は、この範囲内の変換をもたらすように調整することができる。任意の好適な方法を使用して、第1の水熱処理の副生成物の少なくとも一部を除去することができる。例えば、酢酸などのカルボン酸は、蒸発、透析、イオン交換、沈殿、及び濾過などの各種方法によって除去することができる。
【0074】
連続式水熱反応器システムに言及するとき、用語「滞留時間」は、供給材料が連続式水熱反応器システムの加熱部分内にある時間の平均長さを意味する。滞留時間が、溶解されたジルコニウムをジルコニア系粒子に変換するのに十分に長いものである限り、管状反応器を通過する供給材料について任意の好適な流速を用いることができる。すなわち、流速は、多くの場合、供給材料中のジルコニウムをジルコニア系粒子に変換するために必要な滞留時間に基づいて選択される。処理能力を増大させるため、また、管状反応器の壁への材料の付着を最小限にするため、より高い流速が望ましい。反応器の長さを増加させる場合、又は反応器の長さと直径の両方を増加させる場合、より速い流速を用いることができる場合が多い。管状反応器を通過する流れは、層流又は乱流のいずれかであり得る。
【0075】
一部の例示的な連続式水熱反応器では、反応器の温度は170℃~275℃の範囲内、170℃~250℃の範囲内、170℃~225℃の範囲内、180℃~225℃の範囲内、190℃~225℃の範囲内、200℃~225℃の範囲内、又は200℃~220℃の範囲内である。温度が約275℃を超える場合、圧力は、一部の水熱反応器システムにとっては許容できないほど高くなる恐れがある。しかしながら、温度が約170℃未満である場合、供給材料中のジルコニウムのジルコニア系粒子への変換率は、典型的な滞留時間を用いると、90重量%未満となり得る。
【0076】
水熱処理の流出物(すなわち、水熱処理の生成物)はジルコニア系ゾルであり、「ゾル流出物」と呼ぶことができる。ゾル流出物は、水系媒体中のジルコニア系粒子の分散体又は懸濁液である。ゾル流出物は、分散した、懸濁した、又はこれらの組み合わせのジルコニア系粒子を、ゾルの重量に基づいて少なくとも3重量%含有する。いくつかの実施形態において、ゾル流出物は、ゾルの重量に基づいて、少なくとも5重量%、少なくとも6重量%、少なくとも8重量%、又は少なくとも10重量%のジルコニア系粒子を含有する。ジルコニア系粒子の重量%は、最大16重量%以上、最大15重量%、最大12重量%、又は最大10重量%であり得る。
【0077】
ゾル流出物内のジルコニア系粒子は、結晶質であり、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下、15nm以下、又は10nm以下の平均一次粒径を有する。ジルコニア系粒子は、典型的には、少なくとも1nm、少なくとも2nm、少なくとも3nm、少なくとも4nm、又は少なくとも5nmの平均一次粒径を有する。
【0078】
ゾル流出物は、通常、会合していないジルコニア系粒子を含有する。ゾル流出物は、典型的には、澄明又はわずかに濁っている。対照的に、粒塊化したか又は凝集した粒子を含有するジルコニア系ゾルは、通常、乳濁性又は濁った外観を有する傾向がある。ゾル流出物は、多くの場合、ゾル中の一次ジルコニア粒子の小さいサイズ及び会合していない形態のため、高い光透過率を有する。ゾル流出物の光透過率が高いことは、透明又は半透明な焼結物品の調製において望ましい場合がある。本明細書で使用するとき、「光透過率」は、試料(例えば、ゾル流出物又はキャスティングゾル)を通過する光の量を、試料に入射した光の合計量で割ったものを指す。光透過の割合は式
【化1】
(式中、Iは試料を通過する光の強度であり、I
Oは試料に入射する光の強度である)を用いて計算することができる。ゾル流出物を通過する光透過率は、多くの場合、キャスティングゾル(ゲル組成物の形成に使用される反応混合物)を通過する光透過率と関係する。良好な透過率は、ゲル組成物の形成中に十分な硬化が起こることを確実とする効果があり、ゲル組成物内に、より大きな硬化深度をもたらす。
【0079】
光透過率は、例えば、1cmの路長で波長420nm又は600nmに設定された紫外/可視分光光度計を用いて決定してもよい。光透過率は、ゾル中のジルコニアの量の関数である。約1重量%のジルコニアを含有するゾル流出物の場合、光透過率は、典型的には、420nm又は600nmのいずれかにおいて、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、又は少なくとも90%である。約10重量%のジルコニアを含有するゾル流出物の場合、光透過率は、典型的には、420nm又は600nmのいずれかにおいて、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、又は少なくとも70%である。
【0080】
ゾル流出物中のジルコニア系粒子は結晶質であり、立方晶、正方晶、単斜晶、又はこれらの組み合わせであり得る。立方晶相及び正方晶相はX線回折技法を用いて識別することが困難であるため、これらの2つの相は、典型的には、定量的な目的で1つにまとめ、「立方晶/正方晶」相と呼ぶ。立方晶/正方晶相の割合は、例えば、各相についてX線回折ピークのピーク面積を測定し、次の等式を用いることによって求めることができる。
【化2】
この等式において、「C/T」は、立方晶/正方晶相の回折ピーク面積を指し、「M」は、単斜晶相の回折ピーク面積を指し、「%C/T」は、立方晶/正方晶系結晶相の重量%を指す。X線回折測定の詳細は、後述の実施例の項に更に記載されている。
【0081】
典型的には、ゾル流出物中の少なくとも50重量%のジルコニア系粒子が、立方構造、正方構造、又はこれらの組み合わせを有する。立方晶/正方晶相の含量がより高いことが、通常、所望される。立方晶/正方晶相の量は、多くの場合、ジルコニア系粒子中に存在する全結晶質相の総重量に基づいて、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、又は少なくとも95重量%である。
【0082】
例えば、立方晶/正方晶は、電子顕微鏡下で観察した場合、立方体様の形状を有する低アスペクト比の一次粒子の形成と関連付けられることが認められている。この粒子形状は、液体マトリックス中に比較的容易に分散する傾向がある。典型的には、ジルコニア粒子は、最大50nmの平均一次粒径を有するが、より大きい粒径も有用となり得る。例えば、平均一次粒径は、最大40nm、最大35nm、最大30nm、最大25nm、最大20nm、最大15nm、又は更には最大10nmであり得る。平均一次粒径は、多くの場合、少なくとも1nm、少なくとも2nm、少なくとも3nm、又は少なくとも5nmである。ジルコニア粒子の会合していない状態の粒径を指す平均一次粒径は、実施例の項に記載のX線回折によって決定することができる。本明細書に記載のジルコニアゾルは、典型的には、2~50nmの範囲の一次粒径を有する。いくつかの実施形態において、平均一次粒径は、5~50nm、2~40nm、5~40nm、2~25nm、5~25nm、2~20nm、5~20nm、2~15nm、5~15nm、又は2~10nmの範囲である。
【0083】
いくつかの実施形態において、ゾル流出物中の粒子は会合しておらず、平均粒径は一次粒径と同一である。いくつかの実施形態において、粒子は凝集又は粒塊化して最大100nmのサイズになる。一次粒子間の会合の程度は、体積平均粒径から求めることができる。体積平均粒径は、後述の実施例の項でより詳細に記載される、光子相関分光法を用いて測定することができる。簡潔に説明すると、粒子の体積分布(所与のサイズ範囲に対応する総体積の百分率)を測定する。粒子の体積は、直径の3乗に比例する。体積平均サイズは、体積分布の平均に対応する粒子のサイズである。ジルコニア系粒子が会合している場合、体積平均粒径は、一次粒子の凝集体及び/又は粒塊のサイズの測定値をもたらす。ジルコニア粒子が会合していない場合、体積平均粒径は、一次粒子のサイズの測定値をもたらす。ジルコニア系粒子は、典型的には、最大100nmの体積平均サイズを有する。例えば、体積平均サイズは、最大90nm、最大80nm、最大75nm、最大70nm、最大60nm、最大50nm、最大40nm、最大30nm、最大25nm、最大20nm、又は最大15nm、又は更には最大10nmであり得る。
【0084】
ゾル流出物中の一次粒子間の会合度の定量的尺度は、分散指数である。本明細書で使用するとき、「分散指数」は、体積平均粒径を一次粒径で割ったものとして定義される。一次粒径(例えば、加重平均微結晶サイズ)はX線回折技法を用いて決定し、体積平均粒径は光子相関分光法を用いて決定する。一次粒子間の会合の減少に伴い、分散指数は1の値に近づくが、それよりもやや高い又は低い場合もある。ジルコニア系粒子は、典型的には、分散指数が1~7の範囲である。例えば、分散指数は、多くの場合、1~5、1~4、1~3、1~2.5、又は更には1~2の範囲である。
【0085】
光子相関分光法はまた、Z平均一次粒径の計算に用いることもできる。Z平均サイズは、累積分析を用いて散乱光の強度の変動から計算され、粒子径の6乗に比例する。体積平均サイズは、典型的には、Z平均サイズよりも小さい値になる。ジルコニア系粒子は、最大100nmのZ平均サイズを有する傾向がある。例えば、Z平均サイズは、最大90nm、最大80nm、最大70nm、最大60nm、最大50nm、最大40nm、最大35nm、最大30nm、最大20nm、又は更には最大15nmであり得る。
【0086】
ジルコニア系粒子の調製方法に応じ、粒子は、無機酸化物に加え、少なくともいくつかの有機材料を含有し得る。例えば、粒子を、水熱手法を用いて調製する場合には、ジルコニア系粒子の表面に結合したいくつかの有機材料が存在し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、有機材料は、供給材料に含まれるか又は加水分解及び縮合反応の副生成物として形成されるカルボン酸塩種(アニオン、酸、又はその両方)に由来する(すなわち、有機材料は、多くの場合、ジルコニア系粒子の表面に吸着されている)と考えられている。例えば、ジルコニア系粒子は、ジルコニア系粒子の総重量に基づいて、最大15重量%、最大12重量%、最大10重量%、最大8重量%、又は更には最大5重量%の有機材料を含有する。
【0087】
ゲル組成物の形成に使用される反応混合物(キャスティングゾル)は、典型的には、反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子を含有する。ジルコニア系粒子の量は、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、又は少なくとも40重量%であり得、最大55重量%、最大50重量%、又は最大45重量%であり得る。いくつかの実施形態において、ジルコニア系粒子の量は、ゲル組成物に使用される反応混合物の総重量に基づいて、25~55重量%、30~50重量%、30~45重量%、35~50重量%、40~50重量%、又は35~45重量%の範囲である。
【0088】
2. 溶媒媒体
ゾル流出物は、水熱反応器からの流出物であり、水性媒体中に懸濁したジルコニア系粒子を含有する。水性媒体は、主に水であるが、カルボン酸及び/又はカルボン酸アニオンを含有し得る。ゲル組成物及び形状化ゲル物品の形成に使用される反応混合物(キャスティングゾル)では、水性媒体を、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60重量%含有する溶媒媒体で置き換える。いくつかの実施形態において、溶媒媒体は、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、少なくとも97重量%、少なくとも98重量%、又は少なくとも99重量%含有する。沸点は、多くの場合、少なくとも160℃、少なくとも170℃、少なくとも180℃、又は少なくとも190℃である。
【0089】
任意の好適な方法を用いて、ゾル流出物からの水性媒体を、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒が大部分である溶媒媒体で置き換えることができる。多くの実施形態において、水熱反応器システムからのゾル流出物は、水並びにカルボン酸及び/又はカルボン酸アニオンの少なくとも一部を除去するために濃縮される。水性媒体は、多くの場合、乾燥若しくは蒸発、溶媒交換、透析、ダイアフィルトレーション、限外濾過、又はこれらの組み合わせなどの方法を用いて濃縮される。
【0090】
いくつかの実施形態において、水熱反応器のゾル流出物は、乾燥プロセスによって濃縮される。スプレー乾燥又はオーブン乾燥などの任意の好適な乾燥方法を使用できる。例えば、ゾル流出物は、従来のオーブン内で、少なくとも80℃、少なくとも90℃、少なくとも100℃、少なくとも110℃、又は少なくとも120℃に等しい温度で乾燥できる。乾燥時間は、多くの場合、1時間超、2時間超、又は3時間超である。次いで、乾燥した流出物を、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒に再懸濁することができる。
【0091】
その他の実施形態において、水熱処理のゾル流出物に、限外濾過、透析、ダイアフィルトレーション、又はこれらの組み合わせを施して、濃縮ゾルを形成することができる。限外濾過は、濃縮のみをもたらす。透析及びダイアフィルトレーションはいずれも、ゾル流出物に溶解されているカルボン酸及び/又はカルボン酸アニオンの少なくとも一部を除去する傾向がある。透析では、ゾル流出物の試料を閉じた膜バッグ内に入れた後、水浴内に置くことができる。カルボン酸及び/又はカルボン酸アニオンは、膜バッグ内の試料から拡散する。すなわち、これらの種は、膜バッグ内部の濃度を水浴内の濃度と等しくするために、膜バッグを通過してゾル流出物から水浴内に拡散すると考えられる。水浴内の水は、典型的には数回交換し、バッグ内の種の濃度を低下させる。膜バッグは、典型的には、カルボン酸及び/又はそのアニオンは膜バッグから拡散させるが、ジルコニア系粒子は拡散させないものが選択される。
【0092】
ダイアフィルトレーションでは、透過性膜を用いて試料を濾過する。ジルコニア粒子は、フィルタの孔径が適切に選択されれば、フィルタによって保持することができる。溶解したカルボン酸及び/又はそのアニオンは、フィルタを通過する。フィルタを通過するいずれの液体も、新鮮な水で置き換えられる。不連続なダイアフィルトレーション方法では、多くの場合、試料を所定の体積に希釈し、次いで限外濾過によって濃縮して元の体積に戻す。希釈工程及び濃縮工程は、カルボン酸及び/又はそのアニオンが除去されるか又は許容できる濃度レベルに低下するまで、1回以上繰り返される。連続ダイアフィルトレーション方法(定容ダイアフィルトレーション方法と呼ばれることが多い)では、液体が濾過によって除去されるのと同じ速度で、新鮮な水を添加する。溶解したカルボン酸及び/又はそのアニオンは、除去される液体中にある。
【0093】
ジルコニア系粒子中の無機酸化物の大部分は結晶質材料に組み込まれるが、ダイアフィルトレーション又は透析中に除去され得る画分が存在し得る。ダイアフィルトレーション又は透析後のジルコニア系粒子の実際の組成は、水熱反応器からのゾル流出物において、又は水熱反応器用の供給材料に含まれる種々の塩に基づいて予想される組成とは異なる場合がある。例えば、89.9/9.6/0.5 ZrO2/Y2O3/La2O3の組成を有するように調製されたゾル流出物は、ダイアフィルトレーション後に次の組成:90.6/8.1/0.24 ZrO2/Y2O3/La2O3を有し、97.7/2.3 ZrO2/Y2O3の組成を有するように調製されたゾル流出物は、ダイアフィルトレーション後も同じ組成を有した。
【0094】
限外濾過、透析、ダイアフィルトレーション、又はこれらの組み合わせにより、濃縮ゾルは、多くの場合、少なくとも10重量%、少なくとも20重量%、25重量%、又は少なくとも30重量%に等しい固体重量%、及び最大60重量%、最大55重量%、最大50重量%、又は最大45固体重量%を有する。例えば、固体重量%は、多くの場合、濃縮ゾルの総重量に基づいて、10~60重量%、20~50重量%、25~50重量%、25~45重量%、30~50重量%、35~50重量%、又は40~50重量%の範囲である。
【0095】
濃縮ゾルのカルボン酸含量(例えば、酢酸含量)は、多くの場合、少なくとも2重量%であり、最大15重量%であり得る。いくつかの実施形態において、カルボン酸含量は、少なくとも3重量%、少なくとも5重量%であり、最大12重量%、又は最大10重量%であり得る。例えば、カルボン酸は、濃縮ゾルの総重量に基づいて、2~15重量%、3~15重量%、5~15重量%、又は5~12重量%の範囲の量で存在し得る。
【0096】
通常、水性媒体の大部分は、ゲル組成物の形成の前に濃縮ゾルから除去される。追加の水は、多くの場合、溶媒交換プロセスを用いて除去される。例えば、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を濃縮ゾルに添加することができ、水及び任意の残留カルボン酸を蒸留によって除去することができる。蒸留プロセスにはロータリーエバポレータが使用されることが多い。
【0097】
150℃に等しい沸点を有する好適な有機溶媒は、典型的には、水と混和性であるように選択される。更に、これらの有機溶媒は、多くの場合、超臨界二酸化炭素又は液体二酸化炭素に可溶であるように選択される。有機溶媒の分子量は、通常、少なくとも25g/モル、少なくとも30g/モル、少なくとも40g/モル、少なくとも45g/モル、少なくとも50g/モル、少なくとも75g/モル、又は少なくとも100g/モルである。分子量は、最大300g/モル以上、最大250g/モル、最大225g/モル、最大200g/モル、最大175g/モル、又は最大150g/モルであり得る。分子量は、多くの場合、25~300g/モル、40~300g/モル、50~200g/モル、又は75~175g/モルの範囲である。
【0098】
有機溶媒は、多くの場合、グリコール若しくはポリグリコール、モノエーテルグリコール若しくはモノエーテルポリグリコール、ジエーテルグリコール若しくはジエーテルポリグリコール、エーテルエステルグリコール若しくはエーテルエステルポリグリコール、カーボネート、アミド、又はスルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)である。有機溶媒は、通常、1つ以上の極性基を有する。有機溶媒は、重合性基を有しない、すなわち、有機溶媒は、フリーラジカル重合を起こし得る基を含まない。更に、溶媒媒体の成分はいずれも、フリーラジカル重合を起こし得る重合性基を有しない。
【0099】
好適なグリコール又はポリグリコール、モノエーテルグリコール又はモノエーテルポリグリコール、ジエーテルグリコール又はジエーテルポリグリコール、及びエーテルエステルグリコール又はエーテルエステルポリグリコールは、多くの場合、式(I)のものである。
【化3】
式(I)において、各R
1は、独立して、水素、アルキル、アリール、又はアシルである。好適なアルキル基は、多くの場合、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、又は1~4個の炭素原子を有する。好適なアリール基は、多くの場合、6~10個の炭素原子を有し、また、多くの場合、フェニル、又は1~4個の炭素原子を有するアルキル基で置換されたフェニルである。好適なアシル基は、多くの場合、式-(CO)R
a[式中、R
aは、1~10個の炭素原子、1~6個の炭素原子、1~4個の炭素原子、2個の炭素原子、又は1個の炭素原子を有するアルキルである]のものである。アシルは、多くの場合、アセテート基(-(CO)CH
3)である。式(I)において、各R
2は、典型的には、エチレン又はプロピレンである。変数nは、少なくとも1であり、また、1~10、1~6、1~4、又は1~3の範囲であり得る。
【0100】
式(I)のグリコール又はポリグリコールは、水素である2つのR1基を有する。グリコールの例としては、限定するものではないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、及びトリプロピレングリコールが挙げられる。
【0101】
式(I)のモノエーテルグリコール又はモノエーテルポリグリコールは、水素である第1のR1基及びアルキル又はアリールである第2のR1基を有する。モノエーテルグリコール又はモノエーテルポリグリコールの例としては、限定するものではないが、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0102】
式(I)のジエーテルグリコール又はジエーテルポリグリコールは、アルキル又はアリールである2つのR1基を有する。ジエーテルグリコール又はジエーテルポリグリコールの例としては、限定するものではないが、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、及びペンタエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0103】
式(I)のエーテルエステルグリコール又はエーテルエステルポリグリコールは、アルキル又はアリールである第1のR1基及びアシルである第2のR1基を有する。エーテルエステルグリコール又はエーテルエステルポリグリコールの例としては、限定するものではないが、エチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、及びジエチレングリコールエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0104】
他の好適な有機溶媒は、式(II)のカーボネートである。
【化4】
式(II)において、R
3は、水素、又は1~4個の炭素原子、1~3個の炭素原子、若しくは1個の炭素原子を有するアルキルなどのアルキルである。例としては、エチレンカーボネート及びプロピレンカーボネートが挙げられる。
【0105】
更に他の好適な有機溶媒は、式(III)のアミドである。
【化5】
式(III)において、基R
4は、水素、アルキルであるか、又はR
5と組み合わせて、R
4に結合したカルボニル及びR
5に結合した窒素原子を含む5員環を形成する。基R
5は水素、アルキルであるか、又はR
4と組み合わせて、R
4に結合したカルボニル及びR
5に結合した窒素原子を含む5員環を形成する。基R
6は、水素又はアルキルである。R
4、R
5、及びR
6に好適なアルキル基は、1~6個の炭素原子、1~4個の炭素原子、1~3個の炭素原子、又は1個の炭素原子を有する。式(III)のアミド有機溶媒の例としては、限定するものではないが、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-エチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0106】
溶媒媒体は、典型的には、溶媒交換(例えば、蒸留)プロセスの後に、15重量%未満の水、10%未満の水、5%未満の水、3%未満の水、2%未満の水、1重量%未満、又は更には0.5重量%未満の水を含有する。
【0107】
反応混合物は、多くの場合、少なくとも30重量%の溶媒媒体を含む。いくつかの実施形態において、反応混合物は、少なくとも35重量%、又は少なくとも40重量%の溶媒媒体を含有する。反応混合物は、最大75重量%、最大70重量%、最大65重量%、最大60重量%、最大55重量%、最大50重量%、又は最大45重量%の溶媒媒体を含有し得る。例えば、反応混合物は、30~75重量%、30~70重量%、30~60重量%、30~50重量%、30~45重量%、35~60重量%、35~55重量%、35~50重量%、又は40~50重量%の溶媒媒体を含有し得る。重量%の値は、反応混合物の総重量に基づく。
【0108】
任意選択の表面改質剤(これは、非重合性表面改質剤と呼ぶことができる)は、多くの場合、溶媒交換プロセスの前に有機溶媒に溶解されている。任意選択の表面改質剤は、典型的には、フリーラジカル重合反応を起こし得る重合性基を含まない。任意選択の表面改質剤は、通常、ジルコニア系粒子の表面に結合できるカルボン酸若しくはその塩、スルホン酸若しくはその塩、リン酸若しくはその塩、ホスホン酸若しくはその塩、又はシランである。多くの実施形態において、任意選択の表面改質剤は、フリーラジカル重合反応を起こし得る重合性基を含有しないカルボン酸である。
【0109】
いくつかの実施形態において、任意選択の非重合性表面改質剤は、カルボン酸及び/又はそのアニオンであり、ジルコニア系ナノ粒子に極性の特質を付与する相溶性基を有する。例えば、表面改質剤は、アルキレンオキシド又はポリアルキレンオキシド基を有するカルボン酸及び/又はそのアニオンであり得る。いくつかの実施形態において、カルボン酸の表面改質剤は以下の式のものである。
【化6】
この式において、Qは2価の有機連結基であり、zは1~10の範囲内の整数であり、yは1~4の範囲内の整数である。基Qは、少なくとも1つのアルキレン基又はアリーレン基を含み、また、1つ以上のオキシ基、チオ基、カルボニルオキシ基、カルボニルイミノ基を更に含む場合がある。この式の代表例としては、限定するものではないが、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA)及び2-(2-メトキシエトキシ)酢酸(MEAA)が挙げられる。更に他の代表的なカルボン酸は、脂肪族無水物と、ポリアルキレンオキシドモノエーテル、例えば、コハク酸モノ-[2-(2-メトキシ-エトキシ)-エチル]エステル及びグルタル酸モノ-[2-(2-メトキシ-エトキシ)-エチル]エステルとの反応生成物である。
【0110】
他の実施形態において、任意選択の非重合性表面改質剤はカルボン酸及び/又はそのアニオンであり、相溶性基はジルコニア含有ナノ粒子に非極性の特質を付与することができる。例えば、表面改質剤は、式Rc-COOH(式中、Rcは、少なくとも5個の炭素原子、少なくとも6個の炭素原子、少なくとも8個の炭素原子、又は少なくとも10個の炭素原子を有するアルキル基である)のカルボン酸又はその塩であり得る。Rcは、多くの場合、最大20個の炭素原子、最大18個の炭素原子、又は最大12個の炭素原子を有する。例示的な例としては、オクタン酸、ラウリン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0111】
ジルコニア系粒子の表面を改質してゾルが濃縮された際の粒塊化及び/又は凝集の可能性を最小限にするのに加え、任意選択の非重合性表面改質剤は、ゾルの粘度を調整するために用いることができる。
【0112】
任意の好適な量の任意選択の非重合性表面改質剤を、用いることができる。存在する場合、任意選択の非重合性表面改質剤は、通常、ジルコニア系粒子の重量に基づいて少なくとも0.5重量%に等しい量で添加される。例えば、上記の量は、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも4重量%、又は少なくとも5重量%に等しいものであり得、最大15重量%以上、最大12重量%、最大10重量%、最大8重量%、又は最大6重量%であり得る。任意選択の非重合性表面改質剤の量は、典型的には、ジルコニア系粒子の重量に基づいて、0~15重量%、0.5~15重量%、0.5~10重量%、1~10重量%、又は3~10重量%の範囲である。
【0113】
別の言い方をすれば、任意選択の非重合性表面改質剤の量は、多くの場合、反応混合物の総重量に基づいて0~10重量%の範囲である。上記の量は、多くの場合、反応混合物の総重量に基づいて、少なくとも0.5重量%、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、又は少なくとも3重量%であり、最大10重量%、最大8重量%、最大6重量%、又は最大5重量%であり得る。
【0114】
3. 重合性材料
反応混合物は、フリーラジカル重合を起こし得る重合性基を有する(すなわち、重合性基がフリーラジカル重合可能である)1種以上の重合性材料を含む。多くの実施形態において、重合性基は(メタ)アクリロイル基などのエチレン性不飽和基で、式-(CO)-CRb=CH2基(式中、Rbは水素又はメチルである)である。いくつかの実施形態において、重合性基は(メタ)アクリロイル基ではないビニル基(-CH=CH2)である。重合性材料は、通常、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒に可溶又は混和性であるように選択される。
【0115】
重合性材料は、フリーラジカル重合性基を有する表面改質剤である第1のモノマーを含む。第1のモノマーは、典型的には、ジルコニア系粒子の表面を改質する。好適な第1のモノマーは、ジルコニア系粒子の表面に結合できる表面改質基を有する。表面改質基は、通常、カルボキシル基(-COOH又はそのアニオン)又は式-Si(R7)x(R8)3-x(式中、R7は非加水分解性基であり、R8はヒドロキシル基又は加水分解性基であり、変数xは0、1、又は2に等しい整数である)のシリル基である。好適な非加水分解性基は、多くの場合、1~10、1~6、1~4、又は1~2個の炭素原子を有するものなどのアルキル基である。好適な加水分解性基は、多くの場合、ハロ基(例えば、クロロ基)、アセトキシ基、1~10、1~6、1~4、若しくは1~2個の炭素原子を有するアルコキシ基、又は式-ORd-ORe(式中、Rdは1~4又は1~2個の炭素原子を有するアルキレンであり、Reは1~4又は1~2個の炭素原子を有するアルキルである)の基である。
【0116】
いくつかの実施形態において、第1のモノマーはカルボキシル基を有する。カルボキシル基を有する第1のモノマーの例としては、限定するものではないが、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、オレイン酸、及びβ-カルボキシエチルアクリレートが挙げられる。カルボキシル基を有する第1のモノマーの他の例は、ヒドロキシル含有重合性モノマーと無水マレイン酸、無水コハク酸、又は無水フタル酸などの環状無水物との反応生成物である。好適なヒドロキシル含有重合性モノマーとしては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及びヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの反応生成物の具体例としては、限定するものではないが、モノ-2-(メタクリルオキシエチル)サクシネート(例えば、これはヒドロキシエチルアクリレートサクシネートと呼ばれることが多い)が挙げられる。多くの実施形態において、第1のモノマーは、(メタ)アクリル酸である。
【0117】
他の実施形態において、第1のモノマーは、式-Si(R7)x(R8)3-xのシリル基を有する。シリル基を有する第1のモノマーの例としては、限定するものではないが、(メタ)アクリルオキシアルキルトリアルコキシシラン(例えば、3-(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、及び3-(メタ)アクリルオキシプロピルトリエトキシシラン)、(メタ)アクリルオキシアルキルアルキルジアルコキシシラン(例えば、3-(メタ)アクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン)、(メタ)アクリルオキシ(acrloxy)アルキルジアルキルアルコキシシラン(例えば、3-(メタ)アクリルオキシプロピルジメチルエトキシシラン)、スチリルアルキルトリアルコキシシラン(例えば、スチリルエチルトリメトキシシラン)、ビニルトリアルコキシシラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、及びビニルトリイソプロポキシシラン)、ビニルアルキルジアルコキシシラン(例えば、ビニルメチルジエトキシルシラン)、及びビニルジアルキルアルコキシシラン(例えば、ビニルジメチルエトキシシラン)、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルアルキルジアセトキシシラン(例えば、ビニルメチルジアセトキシシラン)、及びビニルトリス(アルコキシアルコキシ)シラン(例えば、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン)が挙げられる。
【0118】
第1のモノマーは、重合性表面改質剤として機能することができる。複数の第1のモノマーを用いることができる。第1のモノマーは、1種の表面改質剤のみでもよく、1種以上の上記のような非重合性表面改質剤と組み合わせてもよい。いくつかの実施形態において、第1のモノマーの量は、重合性材料の総重量に基づいて少なくとも20重量%である。例えば、第1のモノマーの量は、多くの場合、少なくとも25重量%、少なくとも30重量%、少なくとも35重量%、又は少なくとも40重量%である。第1のモノマーの量は、最大100%、最大90重量%、最大80重量%、最大70重量%、最大60重量%、又は最大50重量%であり得る。一部の反応混合物は、重合性材料の総重量に基づいて、20~100重量%、20~80重量%、20~60重量%、20~50重量%、又は30~50重量%の第1のモノマーを含有する。
【0119】
第1のモノマー(すなわち、重合性表面改質モノマー)は、重合性材料中の唯一のモノマーでもよく、溶媒媒体に可溶である1種以上の第2のモノマーと組み合わせてもよい。表面改質基を有しない任意の好適な第2のモノマーを用いることができる。すなわち、第2のモノマーは、カルボキシル基もシリル基も有しない。第2のモノマーは、多くの場合、極性モノマー(例えば、非酸性極性モノマー)、複数の重合性基を有するモノマー、アルキル(メタ)アクリレート、及びこれらの混合物である。
【0120】
重合性材料の全体的な組成は、多くの場合、材料の重合体が溶媒媒体に可溶であるように選択される。有機相の均質性は、ゲル組成物中の有機成分の相分離を回避するために好ましい場合が多い。これは、後で形成されるキセロゲル又はエアロゲルにおけるより小さくより均質な細孔(孔径分布がより狭い細孔)の形成をもたらす傾向がある。更に、重合性材料の全体的な組成は、溶媒媒体との相溶性を調整するため、かつゲル組成物の強度、可撓性、及び均一性を調整するために選択することができる。更にまた、重合性材料の全体的な組成は、焼結前の有機材料のバーンアウト特徴を調整するために選択することができる。
【0121】
多くの実施形態において、第2のモノマーは、複数の重合性基を有するモノマーを含む。重合性基の数は、2~6の範囲又はより多数であり得る。多くの実施形態において、重合性基の数は、2~5又は2~4の範囲である。重合性基は、典型的には、(メタ)アクリロイル基である。
【0122】
2つの(メタ)アクリロイル基を有する例示的なモノマーとしては、1,2-エタンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,12-ドデカンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレン/ポリプロピレンコポリマージアクリレート、ポリブタジエンジ(メタ)アクリレート、プロポキシル化グリセリントリ(メタ)アクリレート、及びネオペンチルグリコールヒドロキシピバレートジアクリレート変性カプロラクトンが挙げられる。
【0123】
3つ又は4つの(メタ)アクリロイル基を有する例示的なモノマーとしては、限定するものではないが、トリメチロールプロパントリアクリレート(例えば、Cytec Industries,Inc.(Smyrna,GA,USA)から商品名TMPTA-Nで市販されているもの、及びSartomer(Exton,PA,USA)から商品名SR-351で市販されているもの)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-444で市販されているもの)、エトキシル化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-454で市販されているもの)、エトキシル化(4)ペンタエリスリトール(pentaertythriol)テトラアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-494で市販されているもの)、トリス(2-ヒドロキシエチルイソシアヌレート)トリアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-368で市販されているもの)、ペンタエリスリトールトリアクリレートとペンタエリスリトールテトラアクリレートとの混合物(例えば、Cytec Industries,Inc.から商品名PETIAで市販されているテトラアクリレート対トリアクリレートをおよそ1:1の比で含むもの、及び商品名PETA-Kで市販されているテトラアクリレート対トリアクリレートをおよそ3:1の比で含むもの)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-295で市販されているもの)、ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-355で市販されているもの)が挙げられる。
【0124】
5つ又は6つの(メタ)アクリロイル基を有する例示的なモノマーとしては、限定するものではないが、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(例えば、Sartomerから商品名SR-399で市販されているもの)及び六官能性ウレタンアクリレート(例えば、Sartomerから商品名CN975で市販されているもの)が挙げられる。
【0125】
一部の重合性組成物は、複数の重合性基を有するモノマーを、重合性材料の総重量に基づいて0~80重量%含有する。例えば、上記の量は、10~80重量%、20~80重量%、30~80重量%、40~80重量%、10~70重量%、10~50重量%、10~40重量%、又は10~30重量%の範囲であり得る。複数の重合性基を有するモノマーの存在は、反応混合物が重合したときに形成されるゲル組成物の強度を増強する傾向がある。このようなゲル組成物は、亀裂を生じることなく、より容易に鋳型から取り出すことができる。上記の量の複数の重合性基を有するモノマーを使用して、ゲル組成物の可撓性及び強度を調整できる。
【0126】
いくつかの実施形態において、任意選択の第2のモノマーは極性モノマーである。本明細書で使用するとき、用語「極性モノマー」は、フリーラジカル重合性基及び極性基を有するモノマーを指す。極性基は、典型的には、非酸性であり、また多くの場合、ヒドロキシル基、第一級アミド基、第二級アミド基、第三級アミド基、アミノ基、又はエーテル基(すなわち、式-R-O-R-(式中、各Rは、1~4個の炭素原子を有するアルキレンである)のアルキレン-オキシ-アルキレン基を少なくとも1つ含有する基)を含有する。
【0127】
ヒドロキシル基を有する、好適な任意選択の極性モノマーとしては、限定するものではないが、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、及び4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート)、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド(例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド又は3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド)、エトキシル化ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、Sartomer(Exton,PA,USA)から商品名CD570、CD571、及びCD572で市販されているモノマー)、及びアリールオキシ置換ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシ-2-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート)が挙げられる。
【0128】
第一級アミド基を有する例示的な極性モノマーとしては、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。第二級アミド基を有する例示的な極性モノマーとしては、限定するものではないが、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-tert-オクチル(メタ)アクリルアミド、及びN-オクチル(メタ)アクリルアミドなどのN-アルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。第三級アミド基を有する例示的な極性モノマーとしては、限定するものではないが、N-ビニルカプロラクタム、N-ビニル-2-ピロリドン、(メタ)アクリロイルモルホリン、並びにN,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、及びN,N-ジブチル(メタ)アクリルアミドなどのN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0129】
アミノ基を有する極性モノマーとしては、様々なN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート及びN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。例としては、限定するものではないが、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、及びN,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0130】
エーテル基を有する例示的な極性モノマーとしては、限定するものではないが、エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、及び2-エトキシエチル(メタ)アクリレートなどのアルコキシル化アルキル(メタ)アクリレート、並びにポリ(エチレンオキシド)(メタ)アクリレート、及びポリ(プロピレンオキシド)(メタ)アクリレートなどのポリ(アルキレンオキシド)(メタ)アクリレートが挙げられる。ポリ(アルキレンオキシド)アクリレートは、多くの場合、ポリ(アルキレングリコール)(メタ)アクリレートと呼ばれる。これらのモノマーは、ヒドロキシル基又はアルコキシ基などの任意の好適な末端基を有することができる。例えば、末端基がメトキシ基である場合、モノマーは、メトキシポリ(エチレングリコール)(メタ)アクリレートと呼ぶことができる。
【0131】
第2のモノマーとして使用可能な好適なアルキル(メタ)アクリレートは、直鎖構造、分枝鎖構造、又は環状構造を有するアルキル基を有し得る。好適なアルキル(メタ)アクリレートの例としては、限定するものではないが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-ペンチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-オクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、3,3,5-トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-プロピルヘプチル(メタ)アクリレート、イソトリデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、2-オクチルデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート及びヘプタデカニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0132】
極性モノマー及び/又はアルキル(メタ)アクリレートモノマーである第2のモノマーの量は、多くの場合、重合性材料の総重量に基づいて、0~40重量%、0~35重量%、0~30重量%、5~40重量%、又は10~40重量%の範囲である。
【0133】
全体として、重合性材料は、典型的には、重合性材料の総重量に基づいて20~100重量%の第1のモノマーと0~80重量%の第2のモノマーとを含有する。例えば、重合性材料は、30~100重量%の第1のモノマーと0~70重量%の第2のモノマー、30~90重量%の第1のモノマーと10~70重量%の第2のモノマー、30~80重量%の第1のモノマーと20~70重量%の第2のモノマー、30~70重量%の第1のモノマーと30~70重量%の第2のモノマー、40~90重量%の第1のモノマーと10~60重量%の第2のモノマー、40~80重量%の第1のモノマーと20~60重量%の第2のモノマー、50~90重量%の第1のモノマーと10~50重量%の第2のモノマー、又は60~90重量%の第1のモノマーと10~40重量%の第2のモノマーを含む。
【0134】
一部の用途では、反応混合物中の重合性材料対ジルコニア系粒子の重量比を最小限にすることが有利な場合がある。これにより、焼結物品の形成の前に燃焼させる必要がある有機材料の分解生成物の量が低減する傾向がある。重合性材料のジルコニア系粒子に対する重量比は、多くの場合、少なくとも0.05、少なくとも0.08、少なくとも0.09、少なくとも0.1、少なくとも0.11、又は少なくとも0.12である。重合性材料のジルコニア系粒子に対する重量比は、最大0.80、最大0.6、最大0.4、最大0.3、最大0.2、又は最大0.1であり得る。例えば、この比は、0.05~0.8、0.05~0.6、0.05~0.4、0.05~0.2、0.05~0.1、0.1~0.8、0.1~0.4、又は0.1~0.3の範囲であり得る。
【0135】
4. 光開始剤
ゲル組成物の形成に使用される反応混合物は、光開始剤を含有する。反応混合物は、有利には、化学線の適用によって開始される。すなわち、重合性材料は、熱開始剤ではなく、光開始剤を使用して重合される。驚くべきことに、熱開始剤ではなく光開始剤を使用することで、ゲル組成物全体により均一な硬化が得られ、焼結物品の形成に関与する後続の工程において均一な収縮が確保される傾向がある。更に、熱開始剤ではなく光開始剤を使用したとき、硬化部品の外面は、より均一で、より欠陥が少ない。
【0136】
光開始重合反応では、多くの場合、熱により開始される重合反応と比較して、硬化時間が短くなり、競合する阻害反応への懸念が少なくなる。硬化時間は、不透明な反応混合物を使用しなければならない熱開始重合反応よりも、より容易に制御できる。
【0137】
ほとんどの実施形態において、光開始剤は、紫外線及び/又は可視光線に応答するように選択される。別の言い方をすれば、光開始剤は、通常、200~600nm、300~600nm、又は300~450nmの範囲の波長の光を吸収する。一部の例示的な光開始剤は、ベンゾインエーテル(例えばベンゾインメチルエーテル又はベンゾインイソプロピルエーテル)、又は置換ベンゾインエーテル(例えばアニソインメチルエーテル)である。他の例示的な光開始剤は、2,2-ジエトキシアセトフェノン、又は2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(BASF Corp.(Florham Park,NJ,USA)から商標名IRGACURE 651で市販されているもの、又はSartomer(Exton,PA,USA)から商標名ESACURE KB-1で市販されているもの)などの置換アセトフェノンである。他の例示的な光開始剤は、1-ヒドロキシシクロヘキシルベンゾフェノン(例えば、Ciba Specialty Chemicals Corp.(Tarrytown,NY)から商品名「IRGACURE 184」で入手可能なもの)などの置換ベンゾフェノンである。更に他の例示的な光開始剤は、2-メチル-2-ヒドロキシプロピオフェノンなどの置換アルファ-ケトール、2-ナフタレンスルホニルクロリドなどの芳香族スルホニルクロリド、及び1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシムなどの光活性オキシムである。他の好適な光開始剤としては、カンファーキノン(camphoquinone)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(IRGACURE 184)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IRGACURE 819)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(IRGACURE 2959)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン(IRGACURE 369)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン(IRGACURE 907)、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン(DAROCUR 1173)が挙げられる。
【0138】
光開始剤は、典型的には、反応混合物中の重合性材料の総重量に基づいて、0.01~5重量%の範囲内、0.01~3重量%、0.01~1重量%、又は0.01~0.5重量%の範囲内で存在する。
【0139】
5. 阻害物質
ゲル組成物の形成に使用される反応混合物は、任意選択の阻害物質を含み得る。阻害物質は、望ましくない副反応を防止する効果を有し得、重合反応を穏やかにする効果を有し得る。好適な阻害物質は、多くの場合、4-ヒドロキシ-TEMPO(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニルオキシ)又はフェノール誘導体、例えば、ブチルヒドロキシトルエン若しくはp-メトキシフェノールなどである。阻害物質は、多くの場合、重合性材料の重量に基づいて0~0.5重量%の範囲の量で使用される。例えば、阻害物質は、少なくとも0.001重量%、少なくとも0.005重量%、少なくとも0.01重量%に等しい量で存在し得る。上記の量は、最大1重量%、最大0.5重量%、又は最大0.1重量%であり得る。
【0140】
ゲル組成物
上記の反応混合物の重合生成物(すなわち、キャスティングゾル)を含むゲル組成物が提供される。すなわち、ゲル組成物は、(a)反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子であって、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO2を含む、ジルコニア系粒子と、(b)30~75重量%の溶媒媒体であって、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60%含む、溶媒媒体と、(c)反応混合物の総重量に基づいて2~30重量%の重合性材料であって、フリーラジカル重合性基を有する第1の表面改質剤を含む、重合性材料と、(d)フリーラジカル重合反応のための光開始剤と、を含む反応混合物の重合生成物である。
【0141】
反応混合物は、典型的には、鋳型に入れられる。したがって、(a)鋳型キャビティを有する鋳型と、(b)鋳型キャビティ内に位置付けられ、鋳型キャビティの表面と接触する反応混合物と、を含む物品が提供される。反応混合物は、上記と同じである。
【0142】
各鋳型は、少なくとも1つの鋳型キャビティを有する。反応混合物は、典型的には、鋳型キャビティの表面と接触した状態で紫外線及び/又は可視光線に曝露される。反応混合物内の重合性材料は、フリーラジカル重合を起こす。第1のモノマーは、反応混合物内のジルコニア系粒子のための表面改質剤として機能し、ジルコニア系粒子の表面に結合することから、重合によりジルコニア系粒子を結合する三次元ゲル組成物が形成される。この結果、通常、強く弾力的なゲル組成物が得られる。また、比較的低温で焼結できる小さい孔径を有する均質なゲル組成物も得られる。
【0143】
ゲル組成物は鋳型キャビティ内で形成される。したがって、(a)鋳型キャビティを有する鋳型と、(b)鋳型キャビティ内に位置付けられ、鋳型キャビティの表面と接触するゲル組成物と、を含む物品が提供される。ゲル組成物は、反応混合物の重合生成物を含み、反応混合物は、上記と同じである。
【0144】
ゲル組成物は鋳型キャビティ内で形成されることから、鋳型キャビティによって画定される形状をとる。すなわち、反応混合物の重合生成物である形状化ゲル物品が提供され、反応混合物は重合中に鋳型キャビティ内に位置付けられ、形状化ゲル物品は鋳型から取り出したときに鋳型キャビティ(鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状の両方を保持する。反応混合物は、上記と同じである。
【0145】
反応混合物(キャスティングゾル)は、典型的には、紫外線/可視光線を透過し得る。40重量%のジルコニア系粒子を含有するキャスティングゾル組成物の透過の割合は、典型的には、1cmの試料セル内で(すなわち、分光光度計は1cmの光路長を有する)420nmで測定したときに、少なくとも5%である。いくつかの例において、同条件下での透過の割合は、少なくとも7%、少なくとも10%であり、最大20%以上、最大15%、又は最大12%であり得る。40重量%のジルコニア系粒子を含有するキャスティングゾル組成物の透過の割合は、典型的には、1cmの試料セル内で600nmで測定したときに、少なくとも20%である。いくつかの例において、同条件下での透過の割合は、少なくとも30%、少なくとも40%であり、最大80%以上、最大70%、又は最大60%であり得る。反応混合物は、半透明であり、不透明ではない。いくつかの実施形態において、硬化ゲル組成物は半透明である。
【0146】
紫外線/可視光線の透過率は、均一なゲル組成物を形成するように十分に高いことが必要である。透過率は、重合が鋳型キャビティ全体で均一に起こるのに十分であることが必要である。すなわち、硬化の割合は、鋳型キャビティ内で形成されたゲル組成物全体で均一又はかなり均一であることが必要である。硬化深度は、実施例の項で後述するように、8個のUV/可視光ランプを有するチャンバ内で、無機酸化物の重量に基づいて0.2重量%の光開始剤を使用して12分間硬化したときに、多くの場合、少なくとも5mm、少なくとも10mm、又は少なくとも20mmである。
【0147】
反応混合物(キャスティングゾル)は、典型的には、十分に低い粘度を有するため、鋳型キャビティの小さく複雑な特徴部を有効に充填できる。多くの実施形態において、反応混合物は、ニュートン又はほぼニュートンである粘度を有する。すなわち、粘度は、剪断速度には非依存的であるか、又は剪断速度にわずかな依存性のみを有する。粘度は、反応混合物の固体%、ジルコニア系粒子のサイズ、溶媒媒体の組成、任意選択の非重合性表面改質剤の有無、及び重合性材料の組成に応じて変動し得る。いくつかの実施形態において、粘度は、少なくとも2センチポアズ、少なくとも5センチポアズ、少なくとも10センチポアズ、少なくとも25センチポアズ、少なくとも50センチポアズ、少なくとも100センチポアズ、少なくとも150センチポアズ、又は少なくとも200センチポアズである。粘度は、最大500センチポアズ、最大300センチポアズ、最大200センチポアズ、最大100センチポアズ、最大50センチポアズ、最大30センチポアズ、又は最大10センチポアズであり得る。例えば、粘度は、2~500センチポアズ、2~200センチポアズ、2~100センチポアズ、2~50センチポアズ、2~30センチポアズ、2~20センチポアズ、又は2~10センチポアズの範囲であり得る。
【0148】
低粘度とジルコニア系粒子の小さい粒径との組み合わせにより、有利なことに、反応混合物(キャスティングゾル)を重合前に濾過することができる。反応混合物は、多くの場合、鋳型キャビティ内に入れる前に濾過される。濾過は、光透過率及び強度などの、ゲル組成物の特性及び焼結物品の特性に悪影響を及ぼす可能性がある破片及び不純物を除去する上で有益であり得る。好適なフィルタは、多くの場合、0.22μm超、0.45μm超、1μm超、2μm超、又は5μm超のサイズを有する材料を保持する。従来のセラミック成形組成物は、粒径及び/又は粘度が原因で、容易に濾過できない。
【0149】
いくつかの実施形態において、鋳型は複数の鋳型キャビティを有する、又は、1つの鋳型キャビティを有する複数の鋳型を、形状化ゲル物品調製の連続プロセスに使用できるベルト、シート、連続ウェブ若しくはダイを形成するように配列できる。
【0150】
鋳型は、一般的に鋳型に使用される任意の材料で構築できる。すなわち、鋳型は、合金を含めた金属材料、セラミック材料、ガラス、石英、又はポリマー材料から製作できる。好適な金属材料としては、限定するものではないが、ニッケル、チタン、クロム、鉄、炭素鋼又はステンレス鋼が挙げられる。好適なポリマー材料としては、限定するものではないが、シリコーン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、又はポリエチレンが挙げられる。場合によっては、鋳型全体が、1種以上のポリマー材料で構築される。他の場合において、キャスティングゾルと接触するように設計された鋳型の表面、例えば、1つ以上の鋳型キャビティの表面のみが、1種以上のポリマー材料で構築される。例えば、鋳型が金属、ガラス、セラミックなどでできている場合、鋳型の1つ以上の表面は、任意選択的にポリマー材料のコーティングを有し得る。
【0151】
1つ以上の鋳型キャビティを有する鋳型は、マスター工具から複製され得る。マスター工具は、加工用鋳型上のパターンの逆であるパターンを有し得る、すなわち、マスター工具は、鋳型上のキャビティに対応する突出部を有し得る。マスター工具は、ニッケル又はその合金などの金属で作製され得る。鋳型を作製するために、ポリマーシートを加熱し、マスター工具の隣に配置してもよい。次に、ポリマーシートをマスター工具に押し付けて、ポリマーシートをエンボス加工し、それによって加工用鋳型を形成できる。マスター工具上に1種以上のポリマー材料を押し出して又は鋳込んで加工用鋳型を調製することも可能である。金属などの多くの他の種類の鋳型材料が、同様の方法でマスター工具によってエンボス加工され得る。マスター工具からの加工用鋳型の形成に関する開示としては、米国特許第5,125,917号(Pieper)、同第5,435,816号(Spurgeon)、同第5,672,097号(Hoopman)、同第5,946,991号(Hoopman)、同第5,975,987号(Hoopman)、及び同第6,129,540号(Hoopman)が挙げられる。
【0152】
鋳型キャビティは、任意の所望の三次元形状を有し得る。鋳型には、同じサイズ及び形状を有する均一な鋳型キャビティを複数有するものもある。鋳型キャビティは、平滑な(すなわち、特徴部を有しない)表面を有してもよく、又は任意の所望の形状及びサイズの特徴部を有してもよい。得られた形状化ゲル物品は、鋳型キャビティの特徴部を、その寸法がきわめて小さい場合でも複製できる。これは、反応混合物(キャスティングゾル)の粘度が比較的低いこと、及び100nm以下の平均粒径を有するジルコニア系粒子の使用により、可能となる。例えば、形状化ゲル物品は、100μm未満、50μm未満、20μm未満、10μm未満、5μm未満、又は1μm未満の寸法を有する鋳型キャビティの特徴部を複製し得る。
【0153】
鋳型キャビティは、紫外線及び/又は可視光線を透過して、鋳型キャビティ内で反応混合物の重合を開始することができる表面を少なくとも1つ有する。いくつかの実施形態において、この表面は、入射した紫外線及び/又は可視光線の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%を透過すると予想される材料で構築されるように選択される。成形部品の厚さが増すと、より高い透過率が必要となる場合がある。この表面は、多くの場合、ガラス、又はポリエチレンテレフタレート、ポリ(メチルメタクリレート)、若しくはポリカーボネートなどのポリマー材料である。
【0154】
場合によっては、鋳型キャビティは離型剤を含まない。これは、鋳型の内容物が鋳型の壁に張り付き、鋳型キャビティの形状を維持することを確実とする効果がある可能性があるため、有益となり得る。他の場合において、鋳型からの形状化ゲル物品のきれいな取り外しを確実にするために、離型剤を鋳型キャビティの表面に塗布することができる。
【0155】
鋳型キャビティは、鋳型離型剤で被覆されているか否かにかかわらず、反応混合物(キャスティングゾル)で充填することができる。反応混合物は、任意の好適な方法によって、鋳型キャビティ内に入れることができる。好適な方法の例としては、ホースを通したポンビング、ナイフロールコータの使用、又は真空スロットダイなどのダイの使用が挙げられる。スクレーパ又はならし棒を使用して、反応混合物を1つ以上のキャビティに押し込み、鋳型キャビティに適合しない反応混合物のいずれかを除去してもよい。1つ以上の鋳型キャビティに適合しない反応混合物の任意の部分は、所望により、リサイクルされ、後で再使用されてもよい。いくつかの実施形態において、複数の隣接する鋳型キャビティから形成された形状化ゲル物品を形成することが望ましい場合がある。すなわち、反応混合物が2つの鋳型キャビティ間の領域を覆うようにして、所望の形状化ゲル物品を形成させることが望ましい場合がある。
【0156】
キャスティングゾルは、その低い粘度により、鋳型キャビティ内の小さい間隙又は小さい特徴部を有効に充填できる。これらの小さい間隙又は特徴部は、低圧でも充填できる。鋳型キャビティは、平滑な表面を有してもよく、1つ以上の特徴部を有する複雑な表面を有してもよい。特徴部は、任意の所望の形状、サイズ、規則性、及び複雑さを有することができる。キャスティングゾルは、典型的には、表面の形状の複雑さに関係なく、鋳型キャビティの表面を覆うように有効に流れることができる。キャスティングゾルは、通常、鋳型キャビティの全ての表面と接触している。
【0157】
反応混合物の重合は、紫外線及び/又は可視光線への曝露と同時に起こり、その結果ゲル組成物が形成され、これは反応混合物の重合(硬化)生成物である。ゲル組成物は、鋳型(例えば、鋳型キャビティ)と同じ形状を有する形状化ゲル物品である。ゲル組成物は、固体であるか、又はその中に液体が取り込まれた半固体マトリックスである。ゲル組成物中の溶媒媒体は、主に、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒である。
【0158】
キャスティングゾルの均質な性質及びポリマー材料を硬化する紫外線/可視光線の使用のため、得られたゲル組成物は均質構造を有する傾向がある。この均質構造は、有利なことに、焼結物品を形成するための更なる加工の間に等方性収縮を生じる。
【0159】
反応混合物(キャスティングゾル)は、典型的には、ほとんど又は全く収縮せずに硬化(すなわち、重合)する。これは、ゲル組成物の鋳型に対する忠実度を維持するのに有益である。理論に束縛されるものではないが、低い収縮率は、ゲル組成物中の高い溶媒媒体濃度と、粒子の表面に結合した重合表面改質剤を介したジルコニア系粒子同士の結合との組み合わせに寄与し得ると考えられる。
【0160】
好ましくは、ゲル化プロセス(すなわち、ゲル組成物を形成するプロセス)は、後で亀裂形成を誘発することなく加工できる任意の所望のサイズの形状化ゲル物品の形成を可能にする。例えば、好ましくは、ゲル化プロセスは、鋳型から取り出したときに崩れることがない構造を有する形状化ゲル物品を生じる。好ましくは、形状化ゲル物品は、安定であり、乾燥及び焼結に耐えるのに十分な強度である。
【0161】
キセロゲル又はエアロゲルの形成
重合後、形状化ゲル物品を鋳型キャビティから取り出し、形状化ゲル物品を、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒及び存在し得る任意の他の有機溶媒又は水を除去するために処理する。これは、有機溶媒を除去するために使用する方法にかかわらず、ゲル組成物又は形状化ゲル物品の乾燥と呼ぶことができる。
【0162】
いくつかの実施形態において、有機溶媒の除去は、室温(例えば、20℃~25℃)又は高温における形状化ゲル物品の乾燥によって行われる。最高200℃の任意の所望の乾燥温度を用いることができる。乾燥温度がより高い場合、有機溶媒除去の速度が高すぎることがあり、その結果亀裂を生じる場合がある。温度は、多くの場合、175℃以下、150℃以下、125℃以下、又は100℃以下である。乾燥のための温度は、通常、少なくとも25℃、少なくとも50℃、又は少なくとも75℃である。キセロゲルは、この有機溶媒除去プロセスから得られる。
【0163】
キセロゲルの形成は、任意の寸法の形状化ゲル物品の乾燥に使用できるが、最も頻繁には、比較的小さい焼結物品の調製に使用される。ゲル組成物が室温又は高温のいずれかで乾燥するにつれて、構造体の密度が増大する。毛管力が構造体を引き寄せて、最大約25%、最大20%又は最大15%などのある程度の線収縮率を生じる。収縮率は、典型的には、存在する無機酸化物の量及び全体的な組成に依存する。線収縮率は、多くの場合、5~25%、10~25%、又は5~15%の範囲である。乾燥は、典型的には、外面で最も急速に起こるため、密度勾配は、多くの場合、構造体全体に確立される。密度勾配は、亀裂の形成を来す場合がある。亀裂形成の可能性は、形状化ゲル物品のサイズ及び複雑さ並びに構造の複雑さと共に増大する。いくつかの実施形態において、キセロゲルは、約1cm以下の最長寸法を有する焼結体の調製に用いられる。
【0164】
いくつかの実施形態において、キセロゲルは、少なくとも150℃に等しい沸点を有する残留有機溶媒をいくらか含有する。残留溶媒は、エアロゲルの総重量に基づいて最大6重量%であり得る。例えば、キセロゲルは、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を、最大5重量%、最大4重量%、最大3重量%、最大2重量%、又は最大1重量%含有し得る。
【0165】
形状化ゲル物品が容易に破断又は亀裂し得る微細特徴部を有する場合、キセロゲルよりもエアロゲル中間体を形成することが好ましい場合が多い。任意のサイズ及び複雑さの形状化ゲル物品を乾燥してエアロゲルにすることができる。エアロゲルは、形状化ゲル物品を超臨界条件下で乾燥することによって形成される。超臨界二酸化炭素などの超臨界流体は、その超臨界流体に可溶又は混和性である溶媒を除去するために形状化ゲル物品と接触させることができる。少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒は、超臨界二酸化炭素によって除去することができる。この種の乾燥には毛管効果がなく、線収縮率は、多くの場合、0~25%、0~20%、0~15%、5~15%、又は線形に0~10%の範囲である。体積収縮率は、多くの場合、0~50%、0~40%、0~35%、0~30%、0~25%、10~40%、又は15~40%の範囲である。線収縮率及び体積収縮率はいずれも、構造体中に存在する無機酸化物の割合に依存する。密度は、典型的には、構造体全体にわたって均一なままである。超臨界抽出は、van Bommelら,J.Materials Sci.,29,943-948(1994)、Francisら,J.Phys.Chem.,58,1099-1114(1954)、及びMcHughら,Supercritical Fluid Extraction:Principles and Practice,Butterworth-Heinemann,Stoneham,MA,1986で詳細に考察されている。
【0166】
少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒の使用により、有利なことに、超臨界抽出の前に、水と置換するためにアルコール(例えば、エタノール)などの溶媒に形状化ゲル物品を浸漬する必要性がなくなる。この置換は、超臨界流体に可溶な(超臨界流体で抽出できる)液体をもたらすために必要である。浸漬工程の結果、形状化ゲル物品に粗い表面が形成されることが多い。浸漬工程によって生じる粗い表面は、浸漬工程中の残渣付着(例えば、有機残渣)から生じる可能性がある。浸漬工程がない場合、形状化ゲル物品は、鋳型キャビティから取り出したときに当初の光沢のある表面をより良好に保持することができる。
【0167】
超臨界抽出は、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒の全て又は大部分を除去できる。有機溶媒の除去により、乾燥した構造体内に細孔が形成される。好ましくは、細孔は、乾燥した構造体を更に加熱して有機材料をバーンアウトさせ、焼結物品を形成する際、構造体に亀裂が生じることなく、ポリマー材料の分解生成物によるガスを逃がせるほど十分大きい。
【0168】
いくつかの実施形態において、エアロゲルは、少なくとも150℃に等しい沸点を有する残留有機溶媒をいくらか含有する。残留溶媒は、エアロゲルの総重量に基づいて最大6重量%であり得る。例えば、エアロゲルは、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を、最大5重量%、最大4重量%、最大3重量%、最大2重量%、又は最大1重量%含有し得る。
【0169】
いくつかの実施形態において、エアロゲルは、50m2/g~400m2/gの範囲の表面積(すなわち、BET比表面積)を有する。例えば、表面積は、少なくとも75m2/g、少なくとも100m2/g、少なくとも125m2/g、少なくとも150m2/g、又は少なくとも175m2/gである。表面積は、最大350m2/g、最大300m2/g、最大275m2/g、最大250m2/g、最大225m2/g、又は最大200m2/gであり得る。
【0170】
エアロゲル中の無機酸化物の体積%は、多くの場合、3~30体積%の範囲である。例えば、無機酸化物の体積%は、多くの場合、少なくとも4体積%又は少なくとも5体積%である。無機酸化物の体積%が上記よりも低いエアロゲルは、きわめて脆くなる傾向があり、超臨界抽出又は後続の加工中に亀裂を生じる可能性がある。更に、存在するポリマー材料の量が多すぎる場合、後続の加熱中の圧力が許容できないほど高くなり、その結果亀裂が形成される可能性がある。無機酸化物含量が30体積%を超えるエアロゲルは、か焼プロセスの間にポリマー材料が分解及び蒸発したときに亀裂を生じる傾向がある。分解生成物は、より密な構造体からは、より放出されにくい場合がある。無機酸化物の体積%は、多くの場合、最大25体積%、最大20体積%、最大15体積%、又は最大10体積%である。体積%は、多くの場合、3~25体積%、3~20体積%、3~15体積%、4~20体積%、又は5~20体積%の範囲である。
【0171】
有機バーンアウト及び予備焼結
溶媒媒体の除去後、得られたキセロゲル又はエアロゲルを加熱して、ポリマー材料又は存在し得る任意の他の有機材料を除去し、高密度化により強度を得る。温度は、このプロセスの間に1000℃又は1100℃もの高温に上げられることが多い。温度の上昇速度は、通常、有機材料の分解及び蒸発から生じる圧力が、構造体内に亀裂を発生させるのに足る圧力とならないように、慎重に制御される。
【0172】
温度の上昇速度は、一定でも時間と共に変化してもよい。温度は、特定の温度まで上昇され、その温度である時間保持され、次いで同じ速度又は異なる速度で更に上昇されてもよい。このプロセスは、所望により、複数回繰り返してもよい。温度は、約1000℃まで又は約1100℃まで徐々に上昇される。いくつかの実施形態において、温度は最初に約20℃から約200℃まで、例えば10℃/時~30℃/時の範囲の穏やかな速度で上昇される。この後、温度は、約400℃まで、約500℃まで、又は約600℃まで、比較的ゆっくり(例えば、1℃/時~10℃/時未満の速度で)上昇される。この遅い加熱速度は、構造体に亀裂を生じることなく有機材料の蒸発を促進する。有機材料の大部分を除去した後、温度は、約1000℃又は約1100℃まで、例えば50℃/時超(例えば、50℃/時~100℃/時)の速度で急速に上昇されてもよい。温度は、任意の温度で最大5分、最大10分、最大20分、最大30分、最大60分、又は最大120分又は更に長時間保持してもよい。
【0173】
熱重量分析及び膨張計を使用して、加熱の適切な速度を決定できる。これらの技法は、異なる加熱速度で生じる重量損失及び収縮率を追跡する。有機材料が除去されるまでの重量損失及び収縮が低速かつほぼ一定速度に維持されるように、異なる温度範囲で加熱速度を調整することができる。有機物除去の慎重な制御により、亀裂が極小又は存在しない焼結物品の形成が促進される。
【0174】
物品は、多くの場合、有機バーンアウト後に室温まで冷却される。冷却された物品は、任意選択的に、水酸化アンモニウム水溶液などの塩基性溶液に浸漬してもよい。浸漬は、プロセスのこの段階における物品の多孔質性のため、硫酸イオンなどの望ましくないイオン種の除去に効果的である場合がある。硫酸イオンは、ヒドロキシルイオンとイオン交換することができる。硫酸イオンが除去されていない場合、硫酸イオンは、焼結物品において、透光性及び/又は強度を低下させる傾向がある小さい細孔を生成し得る。
【0175】
より具体的には、イオン交換プロセスは、多くの場合、有機材料を除去するために加熱した物品を1N水酸化アンモニウム水溶液に浸漬することを含む。この浸漬工程は、多くの場合、少なくとも8時間、少なくとも16時間、又は少なくとも24時間である。浸漬後、物品を水酸化アンモニウム溶液から取り出し、水で十分に洗浄する。物品は、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも2時間、又は少なくとも4時間などの任意の所望の時間にわたって水に浸漬してもよい。水への浸漬は、所望により、水を新鮮な水に交換し、数回繰り返してもよい。
【0176】
浸漬後、物品は、典型的には、水を除去するためにオーブン内で乾燥される。例えば、物品は、少なくとも80℃、少なくとも90℃、又は少なくとも100℃に等しい温度に設定したオーブン内で加熱することによって乾燥できる。例えば、温度は、少なくとも30分、少なくとも60分、又は少なくとも120分の間、80℃~150℃、90℃~150℃、又は90℃~125℃の範囲であり得る。
【0177】
焼結
水酸化アンモニウム水溶液中での有機バーンアウト及び任意選択の浸漬の後、乾燥物品を焼結する。焼結は、典型的には、1100℃を超える温度、例えば、少なくとも1200℃、少なくとも1250℃、少なくとも1300℃、又は少なくとも1320℃などで起こる。加熱の速度は、典型的には非常に速く、例えば、少なくとも100℃/時、少なくとも200℃/時、少なくとも400℃/時、又は少なくとも600℃/時であり得る。温度は、所望の密度の焼結物品を作製するために任意の所望の時間にわたって保持できる。いくつかの実施形態において、温度は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、又は少なくとも4時間保持される。温度は、所望により、24時間又は更にそれ以上保持してもよい。
【0178】
乾燥物品の密度は、焼結工程中に増大し、気孔率は実質的に低下する。焼結物品が細孔(すなわち、ボイド)を有しない場合、その材料において可能な最大密度を有すると考えられる。この最大密度を「理論密度」と呼ぶ。細孔が焼結物品中に存在するとき、密度は、理論密度よりも小さい。理論密度の百分率は、焼結物品の断面の電子顕微鏡写真から求めることができる。電子顕微鏡写真で、焼結物品の細孔に帰属する面積の割合が計算できる。別の言い方をすれば、理論密度の割合は、100%からボイドの割合を差し引くことによって計算できる。すなわち、焼結物品の電子顕微鏡写真の面積の1%が細孔に帰属する場合、焼結物品は、99%に等しい密度を有すると考えられる。密度は、アルキメデス法によって求めることもできる。
【0179】
多くの実施形態において、焼結物品は、理論値の少なくとも99%の密度を有する。例えば、密度は、理論密度の少なくとも99.2%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、少なくとも99.9%、又は少なくとも99.95%、又は更には少なくとも99.99%であり得る。密度が理論密度に近づくにつれ、焼結物品の透光性が改善する傾向がある。理論密度の少なくとも99%の密度を有する焼結物品は、多くの場合、人間の目には半透明に見える。
【0180】
焼結物品は、結晶質ジルコニア系材料を含有する。結晶質ジルコニア系材料は、多くの場合、主に立方晶及び/又は正方晶である。正方晶材料は、ひび割れ時に相変態強化を起こし得る。すなわち、正方晶相材料の一部は、ひび割れ領域内で単斜晶相材料に転移し得る。単斜晶相材料は、正方晶相材料よりも大きい体積を占める傾向があり、ひび割れの伝播を抑える傾向がある。
【0181】
多くの実施形態において、最初に調製された焼結物品中のジルコニア系材料の少なくとも80%が、立方晶及び/又は正方晶系結晶相で存在する。すなわち、最初に調製されたジルコニア系材料の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は少なくとも99.5%が、立方晶相及び/又は正方晶相である。ジルコニア系材料の残りは、典型的には、単斜晶である。単斜晶相の量に関して述べると、ジルコニア系材料の最大20%が単斜晶である。
【0182】
焼結物品中のジルコニア系材料は、通常、80~100%の立方晶及び/若しくは正方晶と0~20%の単斜晶、85~100%の立方晶及び/若しくは正方晶と0~15%の単斜晶、90~100%の立方晶及び/若しくは正方晶と0~10%の単斜晶、又は95~100%の立方晶及び/若しくは正方晶と0~5%の単斜晶である。
【0183】
平均粒度は、多くの場合、75nm~400nmの範囲又は100nm~400nmの範囲である。粒度は、典型的には、400nm以下、350nm以下、300nm以下、250nm以下、200nm以下又は150nm以下である。この粒度は、焼結物品の高い強度に寄与する。
【0184】
焼結材料は、例えば、少なくとも300MPaの平均2軸曲げ強度を有し得る。例えば、平均2軸曲げ強度は、少なくとも400MPa、少なくとも500MPa、少なくとも750MPa、少なくとも1000MPa、又は更には少なくとも1300MPaであり得る。
【0185】
焼結材料は、厚さ1mmで少なくとも65%の全透過率を有し得る。
【0186】
焼結物品の形状は、典型的には、形状化ゲル物品の形状と同一である。形状化ゲル物品と比較して、焼結物品は、等方性のサイズの縮小(すなわち、等方性収縮)を起こしている。すなわち、1方向における収縮の程度は、他の2方向における収縮の5%以内、2%以内、1%以内、又は0.5%以内の範囲である。別の言い方をすれば、ネット形状化焼結物品を、形状化ゲル物品から調製できる。形状化ゲル物品は、焼結物品中に保持され得るが、等方性収縮の程度に基づくより小さい寸法を有する、複雑な特徴部を有し得る。すなわち、ネット形状化焼結物品を、形状化ゲル物品から形成できる。
【0187】
形状化ゲル物品と焼結物品との間の等方性線収縮の量は、多くの場合、40~70%の範囲又は45~55%の範囲である。等方性体積収縮の量は、多くの場合、80~97%、80~95%、又は85~95%の範囲である。これらの大きな等方性収縮の量は、ゲル組成物(形状化ゲル物品)の形成に使用される反応混合物に含まれるジルコニア系粒子の量が比較的少ない(3~30体積%)ことによる。従来の教示では、完全に密な焼結物品を得るためには高い体積分率の無機酸化物が必要であった。驚くべきことに、(入り組んだ複雑な形状及び表面を有する鋳型であっても)鋳型からの取り出し、乾燥、有機物をバーンアウトするための加熱、及び焼結を、亀裂を生じることなく実施するのに十分な強度であるゲル組成物を、比較的少量のジルコニア系粒子を有するキャスティングゾルから得ることができる。これも驚くべきことに、焼結物品の形状は、大きな割合の収縮にもかかわらず、形状化ゲル物品及び鋳型キャビティの形状と非常によくマッチする場合がある。この大きな割合の収縮は、一部の用途にとって利点となる場合がある。例えば、多数の他のセラミック成形プロセスを用いて得ることができる部品よりも小さい部品の製造が可能になる。
【0188】
等方性収縮は、典型的には亀裂がなく、全体に均一な密度を有する焼結物品の形成につながる傾向がある。形成される任意の亀裂は、多くの場合、エアロゲル若しくはキセロゲルの形成中、有機材料のバーンアウト中、又は焼結プロセス中に形成される亀裂よりも、鋳型キャビティからの形状化ゲル物品の取り出しから生じる亀裂に関連する。いくつかの実施形態において、特に、大きな物品又は複雑な特徴部を有する物品の場合、キセロゲル中間体よりもエアロゲルを形成することが好ましい場合がある。
【0189】
任意の所望のサイズ及び形状の焼結物品を調製できる。最長寸法は、最大1cm、最大2cm、最大5cm、又は最大10cm又は更にそれ以上であり得る。最長寸法は、少なくとも1cm、少なくとも2cm、少なくとも5cm、少なくとも10cm、少なくとも20cm、少なくとも50cm、又は少なくとも100cmであり得る。
【0190】
焼結物品は、平滑な表面又は多様な特徴部を含む表面を有し得る。特徴部は、任意の所望の形状、深さ、幅、長さ、及び複雑さを有することができる。例えば、特徴部は、500μm未満、100μm未満、50μm未満、25μm未満、10μm未満、5μm未満、又は1μm未満の最長寸法を有し得る。別の言い方をすれば、1つの複雑な表面又は複数の複雑な表面を有する焼結物品を、等方性収縮を起こした形状化ゲル物品から形成できる。
【0191】
焼結物品は、鋳型キャビティ内で形成された形状化ゲル物品から形成されたネット形状化物品である。焼結物品は、等方性収縮の量の点でより小さい寸法を有するが、その形成に使用した鋳型キャビティと同じ形状を有する形状化ゲル物品の形状を非常に綿密に模倣することから、多くの場合、それ以上のミリングも加工も行わずに使用することができる。
【0192】
焼結物品は、典型的には、強力で半透明である。これらの特性は、例えば、会合していないジルコニア系ナノ粒子を含有するジルコニア含有ゾル流出物から出発した結果である。これらの特性は、均質なゲル組成物を調製した結果でもある。すなわち、ゲル組成物の密度及び組成は、形状化ゲル物品全体で均一である。これらの特性は、小さく均一な細孔を全体に有する乾燥ゲル形状化物品(キセロゲル又はエアロゲルのいずれか)を調製した結果でもある。これらの細孔は、焼結物品を形成するための焼結によって除去される。焼結物品は、極小の粒度を有しながら、高い理論密度を有する。小さい粒度は、高い強度及び高い透光性につながる。酸化イットリウムなどの種々の無機酸化物は、例えば、焼結物品中の立方晶相及び正方晶相の量を調整することによって透光性を調整するために添加されることが多い。
【0193】
別段の指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用される量又は原料、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されていると理解されるものとする。したがって、反対の指示がない限り、前述の明細書及び添付の実施形態のリストに記載される数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変更可能である。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは特許請求される実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0194】
本開示の例示的な実施形態は、本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく、様々な修正及び変更が行われ得る。したがって、本開示の実施形態は、以下に記載の例示的な実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている限定及びこれらの任意の均等物により支配されるものであることは理解されたい。
【0195】
例示的な実施形態のリスト
例示的な実施形態を以下に列挙する。実施形態1~11及び12~21のいずれか1つは組み合わせることができることを理解されたい。
【0196】
実施形態1は、
プレート本体及びその作動面を含む形状化ジルコニアセラミックプレートと、
当該形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、20kHzを超える超音波振動数で当該形状化ジルコニアセラミックプレートの当該作動面上に定在波を生成するように構成された圧電アクチュエータと、
を含む、触覚デバイスである。
【0197】
実施形態2は、形状化ジルコニアセラミックプレートが、一体構造としてプレート本体上に形成された1つ以上の取り付け特徴部を更に含む、実施形態1に記載の触覚デバイスである。
【0198】
実施形態3は、1つ以上の取り付け特徴部が、1つ以上のスロット、1つ以上の溝、1つ以上のタブ、1つ以上の穴、1つ以上のボス、又は1つ以上のソケットのうちの少なくとも1つを含む、実施形態2に記載の触覚デバイスである。
【0199】
実施形態4は、形状化ジルコニアセラミックプレートが、形状化ゲル物品を乾燥及び焼結した産物である、実施形態1~3のいずれか1つに記載の触覚デバイスである。
【0200】
実施形態5は、形状化ゲル物品が、反応混合物の重合生成物を含み、当該反応混合物が重合中に鋳型キャビティ内に位置付けられ、当該形状化ゲル物品が、当該鋳型キャビティから取り出したときに当該鋳型キャビティ(当該鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状の両方を保持し、当該反応混合物が、
a.当該反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子であって、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO2を含む、ジルコニア系粒子と、
b.当該反応混合物の総重量に基づいて30~75重量%の溶媒媒体であって、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60%含む、溶媒媒体と、
c.当該反応混合物の総重量に基づいて2~30重量%の重合性材料であって、(1)フリーラジカル重合性基を有する第1の表面改質剤を含む、重合性材料と、
d.フリーラジカル重合反応のための光開始剤と、
を含む、実施形態4に記載の触覚デバイスである。
【0201】
実施形態6は、形状化ジルコニアセラミックプレートが、少なくとも70モル%のジルコニア系材料を含み、当該ジルコニア系材料の少なくとも80重量%が、立方晶構造、正方晶構造、又はこれらの組み合わせを有する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の触覚デバイスである。
【0202】
実施形態7は、形状化ジルコニアセラミックプレートが、立方晶相又は正方晶相での結晶質ジルコニアの理論密度の少なくとも99%の密度を有し、理論密度が、細孔のない立方晶相又は正方晶相での結晶質ジルコニアの最大密度である、実施形態6に記載の触覚デバイスである。
【0203】
実施形態8は、プレート本体が、平坦構造、湾曲構造、又は起伏構造のうちの少なくとも1つを含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の触覚デバイスである。
【0204】
実施形態9は、形状化ジルコニアセラミックプレートで覆われたディスプレイを更に含む、実施形態1~8のいずれか1つに記載の触覚デバイスである。
【0205】
実施形態10は、ディスプレイがフレームによって受容され、形状化ジルコニアセラミックプレートが、その1つ以上の取り付け特徴部を介して、フレーム上に取り付けられている、実施形態9に記載の触覚デバイスである。
【0206】
実施形態11は、作動面上の入力ユニットの位置の検出に基づいて、圧電アクチュエータによって生成される定在波の振動数及び振幅を制御するように構成されたプロセッサを更に含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の触覚デバイスである。
【0207】
実施形態12は、触覚デバイスの製造方法であって、
反応混合物を鋳型キャビティ内に提供することであって、当該反応混合物が、当該反応混合物の総重量に基づいて20~60重量%のジルコニア系粒子を含む、ことと、
当該反応混合物を重合させて、当該鋳型キャビティ内に当該鋳型キャビティの表面と接触した形状化ゲルプレートを形成することと、
当該形状化ゲルプレートを当該鋳型キャビティから取り出すことであって、当該形状化ゲルプレートが、当該鋳型キャビティと同一のサイズ及び形状を保持する、ことと、
溶媒媒体を除去することによって、乾燥形状化ゲルプレートを形成することと、
当該乾燥形状化ゲルプレートを加熱して形状化ジルコニアセラミックプレートを形成することと、
当該形状化ジルコニアセラミックプレートに取り付けられ、20kHzを超える超音波振動数で当該形状化ジルコニアセラミックプレートの当該作動面上に定在波を生成するように構成された圧電アクチュエータを提供することと、
を含む、方法である。
【0208】
実施形態13は、ジルコニア系粒子が、100nm以下の平均粒径を有し、少なくとも70モル%のZrO2を含む、実施形態12に記載の方法である。
【0209】
実施形態14は、ジルコニア系粒子が結晶質であり、当該ジルコニア系粒子の少なくとも80重量%が、立方構造、正方構造、又はこれらの組み合わせを有する、実施形態13に記載の方法である。
【0210】
実施形態15は、ジルコニア系粒子が、80~99モル%の酸化ジルコニウム、1~20モル%の酸化イットリウム、及び0~5モル%の酸化ランタンを含む、実施形態13又は14に記載の方法である。
【0211】
実施形態16は、反応混合物が、
当該反応混合物の総重量に基づいて30~75重量%の溶媒媒体であって、少なくとも150℃に等しい沸点を有する有機溶媒を少なくとも60%含む、溶媒媒体と、
当該反応混合物の総重量に基づいて2~30重量%の重合性材料であって、(1)フリーラジカル重合性基を有する第1の表面改質剤を含む、重合性材料と、
フリーラジカル重合反応のための光開始剤と、
を更に含む、実施形態12~15のいずれか1つに記載の方法である。
【0212】
実施形態17は、形状化ジルコニアセラミックプレートが、少なくとも70モル%のジルコニア系材料を含み、当該ジルコニア系材料の少なくとも80重量%が、立方晶構造、正方晶構造、又はこれらの組み合わせを有する、実施形態12~16のいずれか1つに記載の方法である。
【0213】
実施形態18は、形状化ゲルプレートが、プレート本体と、鋳型キャビティの表面と接触するときにプレート本体上に形成される1つ以上の取り付け特徴部と、を含む、実施形態12~17のいずれか1つに記載の方法である。
【0214】
実施形態19は、形状化ゲルプレートを鋳型キャビティから取り出すことであって、形状化ゲル物品が、当該鋳型キャビティ(当該鋳型キャビティが過充填された領域を除く)と同一のサイズ及び形状を保持する、ことを更に含む、実施形態12~18のいずれか1つに記載の方法である。
【0215】
実施形態20は、形状化ジルコニアセラミックプレートで覆われたディスプレイを提供することを更に含む、実施形態12~19のいずれか1つに記載の方法である。
【0216】
実施形態21は、形状化ジルコニアセラミックプレートを、その取り付け特徴部を介して、ディスプレイのフレームに取り付けることを更に含む、実施形態20に記載の方法である。
【0217】
本開示の作用を、以下の詳細な実施例に関して、更に記載する。これらの実施例は、様々な具体的な好ましい実施形態及び技法を更に示すために提供される。しかしながら、本開示の範囲内に留まりつつ、多くの変更及び修正を加えることができるということが理解されるべきである。
【実施例】
【0218】
これらの実施例は、単に例証を目的としたものであり、添付の特許請求の範囲を過度に限定することを意図するものではない。本開示の幅広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは近似値であるが、具体的な実施例において示される数値は、可能な限り正確に報告している。しかしながら、いずれの数値にも、それぞれの試験測定値において見出される標準偏差から必然的に生じる、特定の誤差が本質的に含まれる。最低でも、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは特許請求の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
材料
【表1】
【0219】
キャスティングゾルの調製-CS1
ゾル-1aは、無機酸化物に関してZrO2(97.7モル%)/Y2O3(2.3モル%)の組成を有しており、米国特許出願公開第20180044245(A1)号の実施例の項においてゾル-S2について記載されているように調製及び加工した。
【0220】
2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA)(ゾル中の酸化物のグラム数に対して3.56重量%)及び適切な量のジエチレングリコールモノエチルエーテル(ゾル中の意図される最終酸化物濃度、例えば、60重量%に調整)をゾル-1aの一部に添加し、回転蒸発を介してゾルを濃縮することによって、ジエチレングリコールモノエチルエーテル系ゾルであるゾル-1bを作製した。得られたゾルは、60.14重量%の酸化物及び9.28重量%の酢酸であった。
【0221】
キャスティングゾルCS1を調製するために、ゾル-1bの一部(1844.05g)を2Lのボトルに入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(56.48g)、アクリル酸(119.87g)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(22.75g)、オクチルアクリレート(11.33g)、トリメチロールプロパントリアクリレート(「SR351 H」)(200.40g)、及び六官能性ウレタンアクリレート(「CN975」)(100.00g)と合わせた。ジフェニルヨードニウムクロリド(DPICl)(0.99g)をボトルに入れ、ゾルに溶解した。OMNIRAD 819(11.09g)、カンファーキノン(CPQ)(3.55g)、及びエチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート(EDMAB)(17.74g)をジエチレングリコールモノエチルエーテル(407.62g)に溶解し、ボトルに添加した。得られたキャスティングゾルを、1ミクロンのフィルタに通した。
【0222】
ゲル体の調製
米国特許出願公開第20180044245(A1)号の「発明を実施するための形態」の項に記載されているものと同様の方法で、キャスティングゾルCS1を鋳型キャビティに入れることによって、ゲル体を作製した。鋳型キャビティは、P20ステンレス鋼プレートと、鋳型キャビティ側に保護フィルムを有するアクリルプレートとの間に開口領域(184.15mm×116.23mm×1.20mm)を有する商品名Delrinのフレームをクランプ固定することによって形成した。次いで、鋳型キャビティに入れたキャスティングゾルCS1を重合させて、ThorlabsモデルPM100A(検出器モデル番号S12C、400~1100nm、500mW(S/N:17062804)を備えるアナログ針&液晶表示付きパワーメーターコンソール(SN:P1002769))を用いて測定して、およそ0.4W/cm2で450nmのLEDアレイを用いて90秒かけてゲル体を形成した。
【0223】
エアロゲルの調製
ゲル体を乾燥させて、米国特許出願公開第20180044245(A1)号の実施例の項に記載されている方法で超臨界CO2抽出を用いてエアロゲルを形成した。
【0224】
予備焼結体の調製
乾燥エアロゲル体を、アルミナるつぼ内でジルコニアビーズの層の上に置いた。るつぼをアルミナるつぼで覆った後、空気中で、以下のスケジュールに従って焼いた:
1- 20℃から220℃まで、18℃/時の速度で加熱、
2- 220℃から244℃まで、1℃/時の速度で加熱、
3- 244℃から400℃まで、6℃/時の速度で加熱、
4- 400℃から1020℃まで、60℃/時の速度で加熱、
5- 1020℃から20℃まで、120℃/時の速度で冷却。
【0225】
焼結体の調製
予備焼結体を、アルミナるつぼ内でジルコニアビーズの層の上に置いた。るつぼをアルミナるつぼで覆った後、試料を、空気中で、以下のスケジュールに従って焼結した:
1- 25℃から1020℃まで、500℃/時の速度で加熱、
2- 1020℃から1320℃まで、120℃/時の速度で加熱、
3- 1320℃で2時間保持、
4- 1320℃から25℃まで、500℃/時の速度で冷却。
【0226】
焼結後、部品は平坦でなかったので、上記スケジュールを使用して2回目の焼結を行い、但し、2枚のアルミナプレートの間に挟み、クリープを促進するために977gの重さをかけた。これは、部品の平坦化をもたらした。
【0227】
キャスティングゾルの調製-CS2
ゾル-1aは、無機酸化物に関してZrO2(97.7モル%)/Y2O3(2.3モル%)の組成を有しており、米国特許出願公開第20180044245(A1)号の実施例の項においてゾル-S2について記載されているように調製及び加工した。
【0228】
2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA)(ゾル中の酸化物のグラム数に対して3.56重量%)及び適切な量のジエチレングリコールモノエチルエーテル(ゾル中の意図される最終酸化物濃度、例えば、60重量%に調整)をゾル-1aの一部に添加し、回転蒸発を介してゾルを濃縮することによって、ジエチレングリコールモノエチルエーテル系ゾルであるゾル-1cを作製した。得られたゾル-1cは、61.50重量%の酸化物及び8.11重量%の酢酸であった。
【0229】
キャスティングゾルCS2を調製するために、ゾル-1cの一部(1238.15g)を1Lのジャーに入れ、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(93.89g)、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA)(13.57g)、アクリル酸(82.31g)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(8.20g)、オクチルアクリレート(4.08g)、トリメチロールプロパントリアクリレート(「SR351 H」)(72.24g)、及び六官能性ウレタンアクリレート(「CN975」)(36.05g)と合わせた。OMNIRAD 819(5.48g)、カンファーキノン(CPQ)(1.75g)、エチル4-(ジメチルアミノ)ベンゾエート(EDMAB)(8.77g)、及びジフェニルヨードニウムクロリド(DPICl)(0.58g)をジャーに入れ、ゾルに溶解した。
【0230】
ゲル体の調製
米国特許出願公開第20180044245(A1)号の「発明を実施するための形態」の項に記載されているのと同様の方法で、キャスティングゾルCS2を鋳型キャビティに入れることによって、ゲル体を作製した。鋳型キャビティは、P20ステンレス鋼プレートと、鋳型キャビティ側に保護フィルムを有するアクリルプレートとの間に開口領域(203.2mm×114.3mm×3.175mm)を有するDelrin(商標)フレームをクランプ固定することによって形成した。次いで、鋳型キャビティに入れたキャスティングゾルCS2を重合させて、ThorlabsモデルPM100A(検出器モデル番号S12C、400~1100nm、500mW(S/N:17062804)を備えるアナログ針&液晶表示付きパワーメーターコンソール(SN:P1002769))を用いて測定して、およそ0.4W/cm2で450nmのLEDアレイを用いて30秒かけてゲル体を形成した。
【0231】
エアロゲルの調製
ゲル体を乾燥させて、米国特許出願公開第20180044245(A1)号の実施例の項に記載されているものと同様の方法で超臨界CO2抽出を用いてエアロゲルを形成した。
【0232】
予備焼結体の調製
乾燥エアロゲル体をアルミナプレート上に置いた後、空気中で、以下のスケジュールに従って焼いた:
1- 20℃から220℃まで、18℃/時の速度で加熱、
2- 220℃から244℃まで、1℃/時の速度で加熱、
3- 244℃から400℃まで、6℃/時の速度で加熱、
4- 400℃から1020℃まで、60℃/時の速度で加熱、
5- 1020℃から20℃まで、120℃/時の速度で冷却。
【0233】
焼結体の調製
予備焼結体を、米国特許出願公開第20180044245(A1)号の実施例の項に記載されているものと同様の方法でイオン交換した。
【0234】
次いで、予備焼結体をアルミナプレート上に置き、空気中で、以下のスケジュールに従って焼結した:
1- 25℃から1020℃まで、500℃/時の速度で加熱、
2- 1020℃から1320℃まで、120℃/時の速度で加熱、
3- 1320℃で2時間保持、
4- 1320℃から25℃まで、500℃/時の速度で冷却。
【0235】
焼結後、部品は平坦でなかったので、上記スケジュールを使用して2回目の焼結を行い、但し、2枚のアルミナプレートの間に挟み、クリープを促進するために2500gの重さをかけた。これは、部品の平坦化をもたらした。
【0236】
実施例の測定
3つの焼結体EX-1、EX-2、EX-3(それぞれ104.1mm×59.3mm×1.62mm厚、104.0mm×59.4mm×1.64mm厚、106.7mm×59.6mm×1.63mm厚のもの、平均で104.9mm×59.4mm×1.63mm厚)を、上記のように製作した。各試料の密度は約6100.0kg/m3であった。触覚共振器は、導電性エポキシ(Epo-Tek H20E、Epoxy Technology,Inc.,Billerica,MA USA)を用いて、60mm×5mm×2mm厚の圧電共振器(STEMiNC部品番号SMPL60W05T21F27R)(Steiner&Martins Inc.,Doral,FL USA)を各焼結体の短辺に取り付けることによって作製した。正及び負のリードを圧電共振器の各端子に取り付け、BNCコネクタで終端した。
【0237】
4つの触覚共振器CE-1、CE-2、CE-3及びCE-4は、圧電共振器(STEMiNC部品番号SMPL60W05T21F27R)(Steiner&Martins Inc.,Doral,FL USA)を、105.7mm×60.0mm×1.70mm厚の4つの非晶質ガラスプレートに取り付けることによって作製した。各試料の密度は約2764.0kg/m3であった。60mm×5mm×2mm厚の圧電共振器を、導電性エポキシ(Epo-Tek H20E、Epoxy Technology,Inc.,Billerica,MA USA)を用いて各ガラスプレートの短辺に接合した。正及び負のリードを圧電共振器の各端子に取り付け、BNCコネクタで終端した。
【0238】
上記の7つの触覚共振器EX-1、EX-2、EX-3、CE-1、CE-2、CE-3及びCE-4の各々は、取り付けられたBNCコネクタを介してTrek PZD350A M/S圧電増幅器(Trek Inc.,Lockport,NY,USA)に結合した。共振器は、20kHzと40kHzの間のピーク共振振動数で駆動した。Tektronix PA1000電力分析器(Tektronix,Inc.,Beaverton,OR USA)を使用して入力電力を測定し、Polytec(PV-500)レーザ走査振動計(Polytec,Inc.,Irvine,CA USA)を使用して、共振器表面にわたって三角格子パターンに分布したおよそ500個の試料点において、共振振動数における共振器の最大z軸変位を測定した。報告された平均z軸変位は、これらの試料点の平均である。
【0239】
以下の表2は、触覚共振器の各々の最大z軸変位及び関連する入力電力を示す。表2のデータは、ZrO
2試料が、同様のレベルのZ軸変位を得るために、ガラス試料の約1/2~2/3までの電力を必要とすることを示す。これは、ガラス試料と比較して、ZrO
2試料におけるZ軸変位へのより効率的な電力伝達を示す。
【表2】
【0240】
本明細書全体を通して、「一実施形態」、「特定の実施形態」、「1つ以上の実施形態」、又は「ある実施形態」に対する言及は、「実施形態」という用語の前に、「例示的な」という用語が含まれているか否かにかかわらず、その実施形態に関連して説明される具体的な特徴部、構造、材料、又は特徴が、本開示の特定の例示的な実施形態のうちの少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体を通して、様々な箇所における「1つ以上の実施形態において」、「特定の実施形態において」、「一実施形態において」、又は「ある実施形態において」などの表現の出現は、必ずしも本開示の特定の例示的な実施形態のうちの同一の実施形態に言及するものとは限らない。更に、具体的な特徴部、構造、材料、又は特徴は、1つ以上の実施形態において任意の好適な方法で組み合わされてもよい。
【0241】
本明細書では特定の例示的な実施形態について詳細に説明してきたが、当業者には、上述の説明を理解した上で、これらの実施形態の変更形態、変形形態、及び均等物を容易に想起できることが理解されよう。したがって、本開示は、ここまで説明してきた例示的な実施形態に過度に限定されるものではないことを理解されたい。特に、本明細書で使用するとき、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含されるあらゆる数値を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5を含む)ことが意図される。加えて、本明細書で使用される全ての数は、用語「約」によって修飾されるものと想定される。更に、種々の例示的な実施形態が説明されてきた。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
【国際調査報告】