IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヴァデリス セラピューティクス エージーの特許一覧

特表2023-543993遺伝性出血性毛細血管拡張症の治療における使用のためのアロステリックAKT阻害剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-19
(54)【発明の名称】遺伝性出血性毛細血管拡張症の治療における使用のためのアロステリックAKT阻害剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 498/04 20060101AFI20231012BHJP
   A61K 31/5383 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20231012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
C07D498/04 111
C07D498/04 CSP
A61K31/5383
A61P9/00
A61P25/06
A61P3/00
A61P11/00
A61P25/00
A61P9/12
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519016
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2021076811
(87)【国際公開番号】W WO2022069552
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】2015536.2
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523106137
【氏名又は名称】ヴァデリス セラピューティクス エージー
【氏名又は名称原語表記】VADERIS THERAPEUTICS AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】ピカール ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】サン-メザール ピエール
【テーマコード(参考)】
4C072
4C086
【Fターム(参考)】
4C072AA01
4C072BB02
4C072CC02
4C072CC11
4C072EE07
4C072FF07
4C072GG07
4C072HH01
4C072HH02
4C072UU01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CB22
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA08
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA59
4C086ZC20
4C086ZC21
(57)【要約】
本発明は、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の治療における使用のための式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩を提供する。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の治療における使用のための式(I)の化合物:
【化1】
又はその薬学的に許容される塩
(式中、
各Xが、独立して、O又はSであり;
が、水素及びC-C10アルキルから選択され、各C-C10アルキルがハロゲン、-CN、-OR、又は3~6員のシクロアルキルから選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよく;
及びRが、それぞれ独立して、水素及びC-C10アルキルから選択され;又はR及びRが、それらが結合している窒素原子と共に、3~6員の複素環を形成し;
及びRが、それぞれ独立して、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、又はC-Cアルキニルから選択され;又はR及びRが、それらが結合している炭素原子と共に、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよい、3~6員のシクロアルキル環又は複素環を形成し;
が、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよい、5~7員のアリール環又はヘテロアリール環であり;並びに
各Rが、独立して、水素及びC-C10アルキルから選択される)。
【請求項2】
式(I)の化合物が以下の構造を有する、請求項1に記載の使用のための化合物。
【化2】
【請求項3】
が非置換型フェニルである、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
及びRが、それらが結合している炭素原子と共に、シクロブチル環を形成する、請求項1~3のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項5】
各XがOである、請求項1~4のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項6】
がC-Cアルキルである、請求項1~5のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項7】
がメチル又はエチルである、請求項6に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
が-(CHCN(式中、nが1、2、3、4、又は5である)である、請求項1~7のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項9】
及びRがそれぞれ、水素である、請求項1~8のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項10】
式(I)の化合物が
【化3】
(式中、Rが-OH、-CN、ハロゲン、及びC-Cアルキルから選択される)
又はその薬学的に許容される塩である、請求項1~9のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項11】
式(I)の化合物が
【化4】
又はその薬学的に許容される塩である、請求項1~10のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項12】
薬学的に許容される塩が酒石酸塩、メシル酸塩、又はリン酸塩である、請求項1~11のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項13】
薬学的に許容される塩が酒石酸塩である、請求項12に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
酒石酸塩がL-酒石酸塩である、請求項13に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
対象への経口投与のために製剤化される、請求項1~14のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項16】
対象がヒトである、請求項1~15のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項17】
対象が成人である、請求項16に記載の使用のための化合物。
【請求項18】
式(I)の化合物が20~75mg Q.D.の用量で対象に投与される、請求項17に記載の使用のための化合物。
【請求項19】
式(I)の化合物が10~50mg Q.D.の用量で対象に投与される、請求項17に記載の使用のための化合物。
【請求項20】
式(I)の化合物が20~40mg Q.D.の用量で対象に投与される、請求項19に記載の使用のための化合物。
【請求項21】
式(I)の化合物が20~30mg Q.D.の用量で対象に投与される、請求項20に記載の使用のための化合物。
【請求項22】
HHTの治療が、HHTに関連した出血の頻度、持続時間、又は強度を低下させることを含む、請求項1~21のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項23】
HHTに関連した出血が胃腸(GI)出血である、請求項22に記載の使用のための化合物。
【請求項24】
HHTに関連した出血が鼻出血である、請求項22に記載の使用のための化合物。
【請求項25】
HHTの治療が対象においてヘモグロビンレベルを増加させることを含む、請求項1~24のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項26】
HHTの治療が対象において毛細血管拡張の数を減少させることを含む、請求項1~25のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項27】
HHTの治療が対象において毛細血管拡張のサイズを低下させることを含む、請求項1~26のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項28】
毛細血管拡張が皮膚毛細血管拡張である、請求項26又は27に記載の使用のための化合物。
【請求項29】
毛細血管拡張が鼻毛細血管拡張である、請求項26又は27に記載の使用のための化合物。
【請求項30】
毛細血管拡張が口腔毛細血管拡張である、請求項26又は27に記載の使用のための化合物。
【請求項31】
毛細血管拡張が胃腸毛細血管拡張である、請求項26又は27に記載の使用のための化合物。
【請求項32】
HHTの治療が、対象において動静脈奇形(AVM)の数を減少させることを含む、請求項1~31のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項33】
HHTの治療が、対象において動静脈奇形(AVM)のサイズを低下させることを含む、請求項1~32のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項34】
HHTの治療が対象において動静脈奇形(AVM)の形成を防止することを含む、請求項1~33のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項35】
動静脈奇形が肺AVMである、請求項32~34のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項36】
動静脈奇形が大脳(脳)AVMである、請求項32~34のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項37】
動静脈奇形が内臓AVMである、請求項32~34のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項38】
HHTの治療が心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の低下を含む、請求項1~37のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項39】
HHTの治療が心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の防止を含む、請求項1~38のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項40】
HHTの治療が対象における肺AVMにより誘発される右-左シャントの防止を含む、請求項1~29のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項41】
HHTの治療が対象における肺AVMにより誘発される右-左シャントのグレードの低下を含む、請求項1~40のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項42】
HHTの治療が対象における鉄分補給の必要性の低下を含む、請求項1~41のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項43】
HHTの治療が、対象にとって必要である輸血の回数の減少を含む、請求項1~42のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項44】
HHTの治療が肝血流の減少を含む、請求項1~43のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項45】
HHTの治療が対象において肝移植の必要性を減らす、請求項1~44のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項46】
HHTの治療がHHTの追加の症状の頻度及び/又は重症度の低下を含む、請求項1~45のいずれかに記載の使用のための化合物。
【請求項47】
追加の症状が、呼吸困難、片頭痛、疲労、神経学的事象、及び/又は塞栓性事象である、請求項46に記載の使用のための化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロステリックAKT阻害剤及び遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT,Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia)の治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝性出血性毛細血管拡張症(HTT)は、世界中で5,000~8,000人に1人が罹る常染色体顕性遺伝性疾患である。臨床症状には、毛細血管を介在することなしの動脈と静脈の間の直接的接続からなる、肺、脳、及び肝臓の動静脈奇形(AVM,arteriovenous malformation)が挙げられる。AVMは、治療されないならば、生命に関わる合併症を引き起こし得る。HHT患者はまた、鼻、口腔、及び胃腸管において毛細血管拡張と名付けられた小さい動静脈奇形を発症する。これらの脆弱な血管は、容易に破裂して、出血し、重度かつ頻繁な出血エピソード後、再発性貧血を引き起こす(Dupuis-Girod et al., (2010), “Hereditary hemorrhagic telangiectasia: From molecular biology to patient care”, Journal of Thrombosis and Haemostasis. https://doi.org/10.1111/j.1538-7836.2010.03860.x;Iriarte et al., (2019), “PI3K (Phosphatidylinositol 3-Kinase) Activation and Endothelial Cell Proliferation in Patients with Hemorrhagic Hereditary Telangiectasia Type 1”, Cells. https://doi.org/10.3390/cells8090971)。
【0003】
これまで同定された変異の大部分は、2つの遺伝子内に見出されている。HHT1は、ENG(エンドグリン,endoglin)遺伝子内の変異によって引き起こされ、一方、HHT2は、ACVRL1(アクチビン受容体様キナーゼ1(ALK1,Activin receptor-like kinase 1))内の変異によって引き起こされる。どちらも、主に内皮細胞に発現するトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β,Transforming Growth Factor-β)/骨形成タンパク質(BMP,Bone Morphogenetic Protein)の受容体である。変異は、ヌル対立遺伝子を表し、ハプロ不全がHHTの根本原因であることを指し示している。ENG又はACVRL1(ALK1)における変異がどのようにして病的血管新生をもたらすのかは、依然としてわからないところが多いままである。
【0004】
原因である遺伝子変異の同定及び動物モデルの作製により、内皮細胞におけるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)/骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の減少及び血管内皮細胞増殖因子(VEGF,vascular endothelial growth factor)シグナル伝達活性の増加が、HHTにおける血管奇形の発生に関与していることが明らかにされている。これらの鍵となる経路における撹乱が、内皮細胞活性化をもたらし、その結果として、壁細胞の内皮からの脱離を生じる(Galaris et al., (2019), “Pericytes in Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia”, Advances in Experimental Medicine and Biology. https://doi.org/10.1007/978-3-030-16908-4_10)。この最初の不安定状態が、血管が血管新生性トリガーに曝された時、血管を不適切に応答させ、その結果として、過剰な血管成長、及び出血を起こしやすい血管異常の形成を生じる。
【0005】
最近、マウスモデル及びインビトロでの実験からの一連の研究により、PI3K/AKTシグナル伝達経路とHHTで観察される内皮細胞活性化の増加との間の関連が明らかにされた。ALK1シグナル伝達の喪失は、内皮細胞におけるPTENの低下により誘導されるPI3K/AKTシグナル伝達の増加と同時発生する(Jin et al., (2017), “Endoglin prevents vascular malformation by regulating flow-induced cell migration and specification through VEGFR2 signalling”, Nature Cell Biology, 19(6), 639-652. https://doi.org/10.1038/ncb3534;Ola et al., (2016), “PI3 kinase inhibition improves vascular malformations in mouse models of hereditary haemorrhagic telangiectasia”, Nature Communications, 7. https://doi.org/10.1038/ncomms13650;Ola et al. (2018), “SMAD4 Prevents Flow Induced Arteriovenous Malformations by Inhibiting Casein Kinase 2”, Circulation, 138(21), 2379-2394)。この観察は、HHT1及びHHT2患者の皮膚毛細血管拡張生検において確認されており、内皮細胞増殖の増加が、PI3K/AKT経路下流遺伝子の増加に結びつけられる(Alsina-Sanchis et al., (2018), “ALK1 loss results in vascular hyperplasia in mice and humans through PI3K activation”, Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. https://doi.org/10.1161/ATVBAHA.118.310760)。
【0006】
Pi3K/AKT/mTORシグナル伝達をターゲットとすることで、HHTに観察される病的血管新生の治療のための治療ストラテジーを提供し得る。しかしながら、安全かつ効果的な治療剤は、まだ知られていない。例として、広く用いられている汎Pi3K阻害剤である、ワートマニンは、ALK1又はSMAD4 iKOの網膜マウスモデルにおいてAVM形成を阻害することができるが(Ola et al., (2016)、(2018)、上記の通り)、エンドグリンの誘導型ノックアウト(Eng-iKO,Endoglin-inducible knockout)モデルにおいては阻害できない(Jin et al., (2017)、上記の通り)。同様に、典型的なmTOR阻害剤である、シロリムスは、Eng-iKOモデルにおいてAVM形成をブロックすることができない(Ruiz et al., (2019), “Sirolimus plus nintedanib treats vascular pathology in HHT mouse models”, BioRxiv Cell Biology. https://doi.org/10.1101/739144)。
【0007】
したがって、効果的であり、かつ受け入れられる安全性プロファイルを有する、HHTの治療剤を提供する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dupuis-Girod et al., (2010), “Hereditary hemorrhagic telangiectasia: From molecular biology to patient care”, Journal of Thrombosis and Haemostasis. https://doi.org/10.1111/j.1538-7836.2010.03860.x
【非特許文献2】Iriarte et al., (2019), “PI3K (Phosphatidylinositol 3-Kinase) Activation and Endothelial Cell Proliferation in Patients with Hemorrhagic Hereditary Telangiectasia Type 1”, Cells. https://doi.org/10.3390/cells8090971
【非特許文献3】Galaris et al., (2019), “Pericytes in Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia”, Advances in Experimental Medicine and Biology. https://doi.org/10.1007/978-3-030-16908-4_10
【非特許文献4】Jin et al., (2017), “Endoglin prevents vascular malformation by regulating flow-induced cell migration and specification through VEGFR2 signalling”, Nature Cell Biology, 19(6), 639-652. https://doi.org/10.1038/ncb3534
【非特許文献5】Ola et al., (2016), “PI3 kinase inhibition improves vascular malformations in mouse models of hereditary haemorrhagic telangiectasia”, Nature Communications, 7. https://doi.org/10.1038/ncomms13650
【非特許文献6】Ola et al. (2018), “SMAD4 Prevents Flow Induced Arteriovenous Malformations by Inhibiting Casein Kinase 2”, Circulation, 138(21), 2379-2394
【非特許文献7】Alsina-Sanchis et al., (2018), “ALK1 loss results in vascular hyperplasia in mice and humans through PI3K activation”, Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. https://doi.org/10.1161/ATVBAHA.118.310760
【非特許文献8】Ruiz et al., (2019), “Sirolimus plus nintedanib treats vascular pathology in HHT mouse models”, BioRxiv Cell Biology. https://doi.org/10.1101/739144
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、対象における遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の治療における使用のための、式(I)の化合物:
【0010】
【化1】
【0011】
又はその薬学的に許容される塩が提供される
(式中、
各Xは、独立して、O又はSであり;
は、水素及びC-C10アルキルから選択され、各C-C10アルキルはハロゲン、-CN、-OR、又は3~6員のシクロアルキルから選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよく;
及びRは、それぞれ独立して、水素及びC-C10アルキルから選択され;又はR及びRは、それらが結合している窒素原子と共に、3~6員の複素環を形成し;
及びRは、それぞれ独立して、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、又はC-Cアルキニルから選択され;又はR及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよい、3~6員のシクロアルキル環又は複素環を形成し;
は、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよい、5~7員のアリール環又はヘテロアリール環であり;並びに
各Rは、独立して、水素及びC-C10アルキルから選択される)。
【0012】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は以下の構造を有する:
【0013】
【化2】
【0014】
いくつかの実施形態において、Rは、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されたフェニルである。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。他の実施形態において、Rは、非置換型フェニルである。
【0015】
いくつかの実施形態において、Rは、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている5~7員のヘテロアリール環である。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。他の実施形態において、Rは、非置換型5~7員のヘテロアリール環である。ある特定の実施形態において、ヘテロアリール環は、6員のヘテロアリール環である。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール環は、少なくとも1個の窒素原子を含有する。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール環は、少なくとも1個の酸素原子を含有する。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール環は、少なくとも1個の硫黄原子を含有する。例えば、ヘテロアリール環は、ピリジン、ピラン、チオピラン、ピロール、フラン、又はチオフェンであり得る。
【0016】
いくつかの実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、3~6員の非置換型のシクロアルキル環又は複素環を形成する。他の実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている、3~6員の非置換型のシクロアルキル環又は複素環を形成する。例えば、シクロアルキル環は、シクロプロピル環、シクロブチル環、シクロペンチル環、又はシクロヘキシル環であり得る。いくつかの実施形態において、複素環は、少なくとも1個の窒素原子を含有する。いくつかの実施形態において、複素環は、少なくとも1個の酸素原子を含有する。いくつかの実施形態において、複素環は、少なくとも1個の硫黄原子を含有する。例えば、複素環は、ピペリジン、テトラヒドロピラン、チアン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、又はテトラヒドロチオフェンであり得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、非置換型のシクロプロピル環、シクロブチル環、シクロペンチル環、又はシクロヘキシル環を形成する。他の実施形態において、シクロプロピル環、シクロブチル環、シクロペンチル環、又はシクロヘキシル環は、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、非置換型シクロブチル環を形成する。他の実施形態において、シクロブチル環は、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。
【0018】
いくつかの実施形態において、各XはOである。
【0019】
いくつかの実施形態において、Rは、非置換型C-C10アルキル、非置換型C-Cアルキル、又は非置換型C-Cアルキルである。いくつかの実施形態において、Rは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、又はヘキシルである。いくつかの実施形態において、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、又はt-ブチルである。いくつかの実施形態において、Rは、メチル又はエチルである。いくつかの実施形態において、Rは、ハロゲン、-CN、-OH、又は3~6員のシクロアルキルから選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換された、C-C10アルキル、C-Cアルキル、又はC-Cアルキルである。いくつかの実施形態において、Rは、-(CHCN(式中、nは1、2、3、4、又は5である)である。
【0020】
いくつかの実施形態において、R及びRはそれぞれ、独立して、水素及びC-C10アルキルから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRはそれぞれ、独立して、水素及びC-Cアルキルから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRはそれぞれ、独立して、水素、メチル、及びエチルから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRはそれぞれ、水素である。
【0021】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、
【0022】
【化3】
【0023】
(式中、Rは-OH、-CN、ハロゲン、及びC-Cアルキルから選択される)又はその薬学的に許容される塩である。
【0024】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、
【0025】
【化4】
【0026】
又はその薬学的に許容される塩である。
【0027】
いくつかの実施形態において、薬学的に許容される塩は、酒石酸塩、メシル酸塩、又はリン酸塩である。いくつかの実施形態において、薬学的に許容される塩は、酒石酸塩である。いくつかの実施形態において、酒石酸塩は、L-酒石酸塩である。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記化合物は、対象への経口投与のために製剤化される。
【0029】
いくつかの実施形態において、対象はヒトである。いくつかの実施形態において、対象は成人である。いくつかのそのような実施形態において、式(I)の化合物は、20~75mg Q.D.の用量で対象に投与される。他のそのような実施形態において、式(I)の化合物は、10~50mg Q.D.、20~40mg Q.D.、又は20~30mg Q.D.の用量で対象に投与される。
【0030】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、HHTに関連した出血の頻度、持続時間、又は強度を低下させることを含む。いくつかのそのような実施形態において、HHTに関連した出血は、胃腸(GI,gastrointestinal)出血である。いくつかの実施形態において、HHTに関連した出血は、鼻出血である。
【0031】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象においてヘモグロビンレベルを増加させることを含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において毛細血管拡張の数を減少させることを含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において毛細血管拡張のサイズを低下させることを含む。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、皮膚毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、鼻毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、口腔毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は胃腸毛細血管拡張である。
【0033】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において動静脈奇形(AVM)の数及び/又はサイズを低下させることを含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象においてAVMの形成を予防することを含む。いくつかのそのような実施形態において、動静脈奇形は肺AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は脳(cerebral)(脳: brain)AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は内臓AVMである。
【0034】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の低下を含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の予防を含む。
【0035】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象における肺AVMにより誘発される右-左シャントの予防を含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象における肺AVMにより誘発される右-左シャントのグレードの低下を含む。
【0036】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象における鉄補給の必要性の低下、例えば、対象にとって必要である鉄注入の回数の減少を含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象にとって必要である輸血の回数の減少を含む。
【0037】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、肝血流の減少を含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において肝移植の必要性を減らす。
【0039】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、HHTの追加の症状の頻度及び/又は重症度の低下を含む。そのような追加の症状には、呼吸困難、片頭痛、疲労、神経学的事象、及び塞栓性事象が挙げられ得る。
【0040】
本発明は又、遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の治療のための医薬の製造のための、上記の実施形態のいずれかに定義されているような式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の使用を提供する。
【0041】
本発明は又、上記の実施形態のいずれかに定義されているような式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の有効量を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象における遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の治療の方法を提供する。
【0042】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、HHTに関連した出血の頻度、持続時間、又は強度の低下を生じる。いくつかのそのような実施形態において、HHTに関連した出血は、胃腸(GI)出血である。いくつかの実施形態において、HHTに関連した出血は、鼻出血である。
【0043】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象においてヘモグロビンレベルの増加を生じる。
【0044】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において毛細血管拡張の数の減少を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において毛細血管拡張のサイズの低下を生じる。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張症は、皮膚毛細血管拡張症である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張症は、鼻毛細血管拡張症である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張症は、口腔毛細血管拡張症である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張症は胃腸毛細血管拡張症である。
【0045】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において動静脈奇形(AVM)の数の減少を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において動静脈奇形(AVM)のサイズの低下を生じる。いくつかの実施形態において、方法は、対象においてAVMの形成を予防する。いくつかのそのような実施形態において、動静脈奇形は、肺AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は脳AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は内臓AVMである。
【0046】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象の生活の質の向上を生じる。
【0047】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の低下を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の予防を生じる。
【0048】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、対象において肺AVMにより誘発される右-左シャントを予防する。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、対象において肺AVMにより誘発される右-左シャントのグレードの低下を生じる。
【0049】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象における鉄補給の必要性の低下、例えば、対象にとって必要である鉄注入の回数の減少を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象にとって必要である輸血の回数の減少を生じる。
【0050】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、肝血流の減少を生じる。
【0051】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、対象において肝移植の必要性を減らす。
【0052】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、HHTの追加の症状の頻度及び/又は重症度の低下を生じる。そのような追加の症状には、呼吸困難、片頭痛、疲労、神経学的事象、及び塞栓性事象が挙げられ得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象の生活の質の全体的な向上を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1A】~
図1E図1Aは、AKT2との複合体における化合物6の全体的な構造を示す図である。図1Bは、アロステリックポケットを拡大しかつアミノ酸相互作用を示す、複合体の構造を示す図である。図1Cは、アミノ酸相互作用の概略図である。図1Dは、AKT2との複合体におけるVAD044の遊離塩基の構造(アロステリックポケットを拡大しかつアミノ酸相互作用を示す)を示す図である。図1Eは、アミノ酸相互作用の概略図である。
図2A】~
図2B図2Aは、異なるキナーゼの相対的配列相同性を示す樹形図である(図中、同じ分枝上にありかつ互いに近くに位置付けされるキナーゼは、高レベルの配列相同性を有する;一方、異なる分枝上に位置付けされるキナーゼは非常に異なる配列相同性を有する)。図2Aに示されているように、AKT1、AKT2、及びAKT3は、非常に高いレベルの配列相同性を有する。PDK1は、AKT1/2/3と同じ主枝(「AGC」とラベルされている)上に位置し、AKT1/2/3との相対的に高いレベルの配列相同性を指し示している;一方、p38αは、全く異なる主枝(「CMGC」とラベルされている)上にあり、AKT1/2/3とp38αの間の低レベルの配列相同性を指し示している。図2Bは、VAD044(6-(4-(1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン L-酒石酸塩)によって達成されたこれらの5つの選択されたキナーゼ(AKT1、AKT2、AKT3、PDK1、及びp38α)の%阻害を示す図である。
図3A】~
図3B】ペリフォシン(Perifosine)の安全性及び潜在的毒性を示す図である。図3Aは仔の死亡率を示し、図3Bは、出生後4日目(P4)とP7の間での動物体重差を示す。全ての誤差バーはS.E.M.を表す。****p<0.0001は、各群の平均値を、ビヒクルのみを注射した対照群と比較した一元配置Anova及びダネットの事後検定による結果である。「ns」=有意でない。
図4A】~
図4D】ペリフォシンがマウスにおいて弱い抗血管新生性を有することを示す図である。図4Aは、P4にビヒクルのみ又はペリフォシンの5mg/kg、10mg/kg、25mg/kg、50mg/kg、若しくは100mg/kgの腹腔内注射後の、P7での野生型マウスの網膜血管におけるイソレクチンB4染色内皮細胞を示す。下部は、より高い倍率での血管網である。図4Bは、放射状伸展の定量化を示し、図2Cは、イソレクチンB4陽性表面積を示し、図4Dは、視野あたりの分岐点の数を示す。全ての誤差バーはS.E.M.を表す。p<0.05及び**p<0.01は、各群の平均値を、ビヒクルのみで治療した対照群と比較した一元配置Anova及びダネットの事後検定による結果である。「ns」=有意でない。
図5A】~
図5F】Eng-iKOマウスモデルにおいてAVM形成を予防するペリフォシンの有効性を示す図である。図5Aは、ペリフォシンの注射スキームの図解である。図5Bは、内皮細胞を明らかに示すためにイソレクチンB4で染色されたEng-iKO網膜へのペリフォシンの効果を示す共焦点画像を示す。下部は、より高い倍率での血管網である。図5Cは、マウス1匹あたりのAVシャントの数を示す。図5Dは、放射状伸展の定量化を示し、図5Eは、イソレクチンB4陽性エリアを示し、図5Fは、視野あたりの分岐点の数を示す。全ての誤差バーはS.E.M.を表す。p<0.05は、各群の平均値を、Eng-iKO群と比較した一元配置Anova及びダネットの事後検定による結果である。「ns」=有意でない。
図6A】~
図6B】ユプロセルチブ(Uprosertib)の安全性及び潜在的毒性を示す図である。図6Aは仔の死亡率を示し、図6Bは、出生後4日目(P4)とP7の間での動物体重差を示す。全ての誤差バーはS.E.M.を表す。p<0.05は、各群の平均値を、ビヒクルのみを注射した対照群と比較した一元配置Anova及びダネットの事後検定からの結果。「ns」=有意でない。
図7A】~
図7D】マウスにおけるユプロセルチブの抗血管新生性を示す図である。図7Aは、P4にビヒクルのみ又はユプロセルチブの2.5mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、25mg/kgの腹腔内注射後の、P7での野生型マウスの網膜血管におけるイソレクチンB4染色内皮細胞を示す。下部は、血管網の拡大図である。図7Bは、放射状伸展の定量化を示し、図7Cは、イソレクチンB4陽性表面積を示し、図7Dは、視野あたりの分岐点の数を示す。全ての誤差バーはS.E.M.を表す。p<0.0、**p<0.01、***p<0.001、及び****p<0.0001は、各群の平均値を、ビヒクルのみで治療した対照群と比較した一元配置Anova及びダネットの事後検定による結果である。「ns」=有意でない。
図8A】~
図8B図8Aはユプロセルチブの注射スキームの図解であり、図8Bは、仔の死亡率を示す図である。Engflox/flox;cdh5-CreERT2動物に、P2においてタモキシフェン(50μg)を注射して、新生仔マウスにおいてほぼ完全な遺伝子ノックアウトを誘導し、その後、P3及びP5において1回、ユプロセルチブの0mg/kg体重又は5mg/kg体重をIP注射した。同じ体積のビヒクルが注射され、それが対照動物としての役割を果たした。
図9A】~
図9B図9AはVAD044の注射スキームの図解であり、図9Bは、仔の死亡率を示す図である。Engflox/flox;cdh5-CreERT2動物に、P2においてタモキシフェン(50μg)を注射して、新生仔マウスにおいてほぼ完全な遺伝子ノックアウトを誘導し、その後、P3及びP5において1回、VAD044の0mg/kg体重、2.5mg/kg体重、5mg/kg体重、又は10mg/kg体重をIP注射した。同じ体積のビヒクルが注射され、それが対照動物としての役割を果たした。その後、P7においてマウスを殺害し、記載されているように(Lebrin et al., 2010)、網膜を免疫蛍光染色のために処理した。
図10A】~
図10E】Eng-iKOマウスモデルにおいてAVM形成を予防するVAD044の有効性を示す図である。図10Aは、内皮細胞を明らかに示すためにイソレクチンB4で染色されたEng-iKO網膜へのVAD044の効果を示す共焦点画像を示す。図10Bは、マウス1匹あたりのAVシャントの数を示す。図10Cは、放射状伸展の定量化を示し、図10Dは、イソレクチンB4陽性エリアを示し、図10Eは、視野あたりの分岐点の数を示す。全ての誤差バーはS.E.M.を表す。p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001は、各群の平均値を、Eng-iKO群と比較した一元配置Anova及びダネットの事後検定による結果である。「ns」=有意でない。
図11】Eng-iKOマウスの肺からのマウス初代内皮細胞の単離のための方法及び特徴づけ、並びに、前記細胞においてEng遺伝子の欠失を誘導するためのCreリコンビナーゼのアデノウイルス感染(及びその後の、Engタンパク質の欠失)を示す図である。
図12】正常な、及びEngを欠失した内皮細胞(EC,endothelial cells)におけるAKT及びSMADシグナル伝達を示す図である。
図13A】~
図13C図13Aは、正常EC及びEng-iKO ECにおけるエンドグリン発現に対するCreアデノウイルス感染の効果を示す図である。図13Bは、正常なレベルのEng発現を有するマウス肺内皮細胞、及びEng発現の完全な喪失を提示するマウス肺内皮細胞におけるVAD044のIC50を示す図である。図13Cは、p42/p44リン酸化を示す図であり、それは、選択性の対照として分析された。
【発明を実施するための形態】
【0055】
上記で論じられているように、Pi3K/AKT/mTORシグナル伝達経路のターゲティングは、HHTの治療のための治療ストラテジーを提供し得る。しかしながら、安全かつ効果的な治療剤は、まだ知られていない。
【0056】
AKTは、3つのアイソフォーム:AKT1、AKT2、及びAKT3を有するセリン/スレオニンプロテインキナーゼである。AKT1は、出芽伸長及び血管リモデリングなどの血管新生シグナル伝達のいくつかの側面を促進する重要な下流エフェクター(例えば、eNOS、Ang2、及びFOXOs)を調節することにより、内皮細胞において必須機能を有する(Lee et al., (2014), “Endothelial Akt1 mediates angiogenesis by phosphorylating multiple angiogenic substrates”, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. https://doi.org/10.1073/pnas.1408472111)。いくつかの研究により、持続性内皮型AKT活性化が、慢性血管透過性からの血管サイズの増加及び全身性浮腫を引き起こすことが示されている(Phung et al., (2006), “Pathological angiogenesis is induced by sustained Akt signaling and inhibited by rapamycin”, Cancer Cell. https://doi.org/10.1016/j.ccr.2006.07.003)。同様に、内皮細胞におけるAKT1の無制御活性化は、インビボで血管奇形を誘発する(Perry et al., (2007), “AKT1 overexpression in endothelial cells leads to the development of cutaneous vascular malformations in vivo”, Archives of Dermatology. https://doi.org/10.1001/archderm.143.4.50)。したがって、AKTは、HHTにおいて観察される病的血管新生及び血管奇形を制御する鍵となる分子標的であり得る。
【0057】
本発明者らは、異なるタイプのAKT阻害剤を試験し、それらの毒性プロファイル、正常血管新生へのそれらの効果、及びHHTのマウスモデルにおいて血管奇形の発生を予防するそれらの能力を評価した。その結果は、以下の実施例において詳細に論じられている。
【0058】
要約すれば、本発明者らは、驚くべきことに、下記の式(I)を有する特定のアロステリックAKT阻害剤が、HHT 1型(HHT1)のEng-iKOマウスモデルにおいて血管奇形の発生を予防することができることを見出した。下記の実施例に、より詳細に論じられているように、この化合物(及び2つの他の比較AKT阻害剤)の安全性/毒性プロファイルが得られ、出生後7日目(P7)のC57BL/6J野生型マウスにおける血管新生の阻害のための各化合物の最小有効用量が、新生仔網膜血管新生モデルを用いて決定された。Eng-iKOマウスにおける動静脈奇形(AVM)の発生の予防のための各化合物の最小有効用量もまた、各化合物について決定された。
【0059】
本発明者らは、式(I)のアロステリックAKT阻害剤が、受け入れられる安全性プロファイルを示しながら、驚くべき低い投薬量(腫瘍学に典型的に用いられる投薬量のおよそ10分の1)で、HHTに関連した血管奇形を治療及び/又は予防し得ることを予想外に見出した。
【0060】
したがって、第1の態様において、本発明は、対象でのHHTの治療における使用のための、式(I)の化合物:
【0061】
【化5】
【0062】
又はその薬学的に許容される塩を提供する
(式中、
各Xは、独立して、O又はSであり;
は、水素及びC-C10アルキルから選択され、各C-C10アルキルはハロゲン、-CN、-OR、又は3~6員のシクロアルキルから選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよく;
及びRは、それぞれ独立して、水素及びC-C10アルキルから選択され;又はR及びRは、それらが結合している窒素原子と共に、3~6員の複素環を形成し;
及びRは、それぞれ独立して、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、又はC-Cアルキニルから選択され;又はR及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよい、3~6員のシクロアルキル環又は複素環を形成し;
は、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されてもよい、5~7員のアリール環又はヘテロアリール環であり;並びに
各Rは、独立して、水素及びC-C10アルキルから選択される)。
【0063】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は以下の構造:
【0064】
【化6】
を有する。
【0065】
いくつかの実施形態において、Rは、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されたフェニルである。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。他の実施形態において、Rは、非置換型フェニルである。
【0066】
いくつかの実施形態において、Rは、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている、5~7員のヘテロアリール環である。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。他の実施形態において、Rは、非置換型5~7員のヘテロアリール環である。ある特定の実施形態において、ヘテロアリール環は、6員のヘテロアリール環である。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール環は、少なくとも1個の窒素原子を含有する。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール環は、少なくとも1個の酸素原子を含有する。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール環は、少なくとも1個の硫黄原子を含有する。例えば、ヘテロアリール環は、ピリジン、ピラン、チオピラン、ピロール、フラン、又はチオフェンであり得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、3~6員の非置換型のシクロアルキル環又は複素環を形成する。他の実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及びNR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている、3~6員の非置換型のシクロアルキル環又は複素環を形成する。例えば、シクロアルキル環は、シクロプロピル環、シクロブチル環、シクロペンチル環、又はシクロヘキシル環であり得る。いくつかの実施形態において、複素環は、少なくとも1個の窒素原子を含有する。いくつかの実施形態において、複素環は、少なくとも1個の酸素原子を含有する。いくつかの実施形態において、複素環は、少なくとも1個の硫黄原子を含有する。例えば、複素環は、ピペリジン、テトラヒドロピラン、チアン、ピロリジン、テトラヒドロフラン、又はテトラヒドロチオフェンであり得る。
【0068】
いくつかの実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、非置換型のシクロプロピル環、シクロブチル環、シクロペンチル環、又はシクロヘキシル環を形成する。他の実施形態において、シクロプロピル環、シクロブチル環、シクロペンチル環、又はシクロヘキシル環は、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRは、それらが結合している炭素原子と共に、非置換型シクロブチル環を形成する。他の実施形態において、シクロブチル環は、C-C10アルキル、-CN、-OR、ハロゲン、-COR、CO、CONR 、及び-NR から選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換されている。いくつかの実施形態において、1つ又は2つ以上の置換基は、C-Cアルキル、-CN、-OH、及びハロゲンから選択される。
【0069】
いくつかの実施形態において、各XはOである。
【0070】
いくつかの実施形態において、Rは、非置換型C-C10アルキル、非置換型C-Cアルキル、又は非置換型C-Cアルキルである。いくつかの実施形態において、Rは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、又はヘキシルである。いくつかの実施形態において、Rは、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、又はt-ブチルである。いくつかの実施形態において、Rは、メチル又はエチルである。いくつかの実施形態において、Rは、ハロゲン、-CN、-OH、又は3~6員のシクロアルキルから選択される1つ又は2つ以上の置換基で置換された、C-C10アルキル、C-Cアルキル、又はC-Cアルキルである。いくつかの実施形態において、Rは、-(CHCN(式中、nは1、2、3、4、又は5である)である。
【0071】
いくつかの実施形態において、R及びRは、それぞれ独立して、水素及びC-C10アルキルから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRは、それぞれ独立して、水素及びC-Cアルキルから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRは、それぞれ独立して、水素、メチル、及びエチルから選択される。いくつかの実施形態において、R及びRはそれぞれ、水素である。
【0072】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、
【0073】
【化7】
【0074】
(式中、Rは-OH、-CN、ハロゲン、及びC-Cアルキルから選択される)又はその薬学的に許容される塩である。
【0075】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、
【0076】
【化8】
【0077】
又はその薬学的に許容される塩である。
【0078】
いくつかの実施形態において、薬学的に許容される塩は、酒石酸塩、メシル酸塩、又はリン酸塩である。いくつかの実施形態において、薬学的に許容される塩は、酒石酸塩である。いくつかのそのような実施形態において、酒石酸塩は、L-酒石酸塩である。
【0079】
いくつかの実施形態において、前記化合物は、対象への経口投与のために製剤化される。
【0080】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、HHTに関連した出血の頻度、持続時間、又は強度を低下させることを含む。いくつかのそのような実施形態において、HHTに関連した出血は、胃腸(GI)出血である。いくつかの実施形態において、HHTに関連した出血は、鼻出血である。
【0081】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象においてヘモグロビンレベルを増加させることを含む。
【0082】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において毛細血管拡張の数を減少させることを含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において毛細血管拡張のサイズを低下させることを含む。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、皮膚毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、鼻毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、口腔毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は胃腸毛細血管拡張である。
【0083】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において動静脈奇形(AVM)の数を減少させることを含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において動静脈奇形(AVM)のサイズを低下させることを含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象においてAVMの形成を予防することを含む。いくつかのそのような実施形態において、動静脈奇形は肺AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は脳(cerebral)(脳: brain)AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は内臓AVMである。
【0084】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の低下を含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の予防を含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象における肺AVMにより誘発される右-左シャントの予防を含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象における肺AVMにより誘発される右-左シャントのグレードの低下を含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象における鉄補給の必要性の低下、例えば、対象にとって必要である鉄注入の回数の減少を含む。いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象にとって必要である輸血の回数の減少を含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、肝血流の減少を含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、対象において肝移植の必要性を減らす。
【0089】
いくつかの実施形態において、HHTの治療は、HHTの追加の症状の頻度及び/又は重症度の低下を含む。そのような追加の症状には、呼吸困難、片頭痛、疲労、神経学的事象、及び塞栓性事象が挙げられ得る。
【0090】
本発明は又、上記の実施形態のいずれかに定義されているような式(I)の化合物又はその薬学的に許容される塩の有効量を対象に投与するステップを含む、それを必要とする対象における遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)の治療の方法を提供する。
【0091】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、HHTに関連した出血の頻度、持続時間、又は強度の低下を生じる。いくつかのそのような実施形態において、HHTに関連した出血は、胃腸(GI)出血である。いくつかの実施形態において、HHTに関連した出血は、鼻出血である。
【0092】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象においてヘモグロビンレベルの増加を生じる。
【0093】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において毛細血管拡張の数の減少を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において毛細血管拡張のサイズの低下を生じる。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、皮膚毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、鼻毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は、口腔毛細血管拡張である。いくつかの実施形態において、毛細血管拡張は胃腸毛細血管拡張である。
【0094】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において動静脈奇形(AVM)の数の減少を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象において動静脈奇形(AVM)のサイズの低下を生じる。いくつかの実施形態において、方法は、対象においてAVMの形成を予防する。いくつかのそのような実施形態において、動静脈奇形は、肺AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は脳AVMである。いくつかの実施形態において、動静脈奇形は内臓AVMである。
【0095】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象の生活の質の向上を生じる。
【0096】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の低下を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、心不全及び肺動脈高血圧(PAH)の予防を生じる。
【0097】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、対象において肺AVMにより誘発される右-左シャントを予防する。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、対象において肺AVMにより誘発される右-左シャントのグレードの低下を生じる。
【0098】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象における鉄補給の必要性の低下、例えば、対象にとって必要である鉄注入の回数の減少を生じる。いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象にとって必要である輸血の回数の減少を生じる。
【0099】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、肝血流の減少を生じる。
【0100】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、対象において肝移植の必要性を減らす。
【0101】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、HHTの追加の症状の頻度及び/又は重症度の低下を生じる。そのような追加の症状には、呼吸困難、片頭痛、疲労、神経学的事象、及び塞栓性事象が挙げられ得る。
【0102】
いくつかの実施形態において、HHTを治療する方法は、結果として、対象の生活の質の全体的な向上を生じる。
【0103】
定義及び略語
本明細書で用いられる場合、用語「アロステリックAKT阻害剤」は、AKTと、その酵素の活性部位以外の部位で結合することにより、AKTの活性を阻害する物質を意味する。
【0104】
本明細書で用いられる場合、用語「ハロゲン」は、-F、-Cl、-Br、及び-Iを指す。
【0105】
略語:
【0106】
【表1】
【0107】
[実施例]
【実施例1】
【0108】
6-(4-(1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オンの合成
6-(4-(1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン(本明細書で「VAD044遊離塩基」と呼ばれる)を、国際公開第2011077098号パンフレット(特に、実施例97、113、及び139(下記で再現された)参照)に示されているようなプロトコールに従って合成した。
【0109】
6-(4-((1s,3s)-1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オンの合成:国際公開第2011077098号パンフレット実施例139から:
【0110】
【化9】
【0111】
ステップ1:tert-ブチル((1s,3s)-1-(4-(1-エチル-2-オキソ-7-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-6-イル)フェニル)-3-ヒドロキシシクロブチル)カルバメート
15mL反応チューブにおいて、1,4-ジオキサン(2.3ml)と水(0.8ml)の混合物中に6-ブロモ-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン(50mg、0.150mmol)、tert-ブチル((1s,3s)-3-ヒドロキシ-1-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)シクロブチル)カルバメート**(49mg、0.125mmol)、及び炭酸セシウム(204mg、0.625mmol)を加えて、無色の溶液を得た。これを、窒素を15分間、通気することにより脱気し、続いて[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)ジクロロメタン付加物(20mg、0.025mmol)を加え、さらに5分間、脱気した。その反応混合物を、窒素雰囲気下で1時間、50℃に加熱し、その後、室温へ冷却させ、水(5ml)で希釈し、酢酸エチル(3×5ml)へ抽出した。その合わせた有機相を、NaSO上で乾燥させ、濾過し、減圧下で乾燥状態へ濃縮した。その残留物を、Biotage社製クロマトグラフィー(シクロヘキサン:酢酸エチル、90:10~0:100の勾配溶出)により精製し、オフホワイト色の固体として所望の生成物(45mg、70%収率)を得た。H-NMR(500MHz,CDCl) δ 7.29~7.35(5H,m)、7.28(1H,s)、7.18~7.24(4H,m)、4.96(1H,br s)、4.88(2H,s)、4.05(1H,br s)、4.01(2H,q)、2.98(2H,br s)、2.75(2H,br s)、1.20~1.51(9H,br m)、1.32(3H,t)。LCMS(メソッドD) RT=1.25分間、M+H=516.20。
【0112】
ステップ2:6-(4-((1s,3s)-1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン
tert-ブチル((1s,3s)-1-(4-(1-エチル-2-オキソ-7-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-6-イル)フェニル)-3-ヒドロキシシクロブチル)カルバメート(45mg、0.087mmol)を、TFA(1mL)中に溶解し、30秒間、撹拌した。その溶液を、すぐに、減圧下で乾燥状態へ濃縮した。その残留物を、ジエチルエーテル(約3mL)中に溶解し、減圧下で3回、乾燥状態へ濃縮した。その後、その残留物を、ジエチルエーテル(3mL)中でスラリーにし、沈降後、上清溶媒をピペットにより除去した。これを3回、繰り返した。その残留溶媒を、一晩、凍結乾燥により除去し、オフホワイト色の固体として所望の化合物(33mg、71%収率)を得た。H-NMR(500MHz,MeOD) δ 7.55(1H,s)、7.39~7.42(4H,m)、7.27~7.31(3H,m)、7.20~7.24(2H,m)、4.93(2H,s)、4.01~4.11(3H,m)、3.03~3.11(2H,m)、2.42~2.50(2H,m)、1.28(3H,t)。LCMS(メソッドD) RT=0.74分間、M+H=416.20。
【0113】
6-ブロモ-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オンの合成:WO国際公開第2011077098号パンフレット実施例113(ステップ1~4)及びページ222(ステップ5)から:
ステップ1:エチル2-((5-ブロモ-3-ニトロピリジン-2-イル)オキシ)アセテート
温度が30℃未満に維持されるのを確かめながら、1,4-ジオキサン(250ml)中の水素化ナトリウム(5.31g、133mmol)の懸濁液へ、グリコール酸エチル(12.56ml、133mmol)を、30分間にわたって滴下した。その結果生じた濃い懸濁液を、室温で15分間、撹拌した。別の1L丸底フラスコにおいて、1,4-ジオキサン(150ml)中に5-ブロモ-2-クロロ-3-ニトロピリジン(21g、88mmol)を加えて、褐色の溶液を得た。水素化ナトリウムとグリコール酸エチルの懸濁液を、0℃で30分間にわたって液滴で加えた。その結果生じた反応混合物を、一晩、80℃に加熱した。
【0114】
その反応混合物を、減圧下で濃縮し、粗残留物を、Biotage社製シリカクロマトグラフィー(n-ヘキサン中0%~10%酢酸エチルの勾配)により精製して、前記タイトルの化合物(1.8g、44%)を得た。H NMR(500MHz,CDCl) δ 8.48(1H,s)、8.42(1H,s)、5.07(2H,s)、4.28~4.24(2H,q)、1.31~1.28(3H,t)。
【0115】
ステップ2:エチル 2-((3-ニトロ-5-フェニルピリジン-2-イル)オキシ)アセテート
1L丸底フラスコにおいて、エチル 2-(5-ブロモ-3-ニトロピリジン-2-イルオキシ)アセテート(18.33g、60.1mmol)、フェニルボロン酸(10.99g、90mmol)、トリフェニルホスフィン(4.73g、18.02mmol)、及びフッ化セシウム(45.6g、300mmol)を、1,2-ジメトキシエタン(300ml)中に加えて、黄色の溶液を得た。その反応混合物を、窒素を30分間、通気することにより脱気した。酢酸パラジウム(II)(2.023g、9.01mmol)を加え、その混合物を、窒素雰囲気下で一晩、75℃に加熱した。その反応混合物を、室温に冷却し、減圧下で乾燥状態へ濃縮して、褐色の固体を得た。これを、ジクロロメタン中に再溶解し、濾過し、減圧下で乾燥状態へ濃縮して、褐色の固体を得た。その粗残留物を、Biotage社製クロマトグラフィー(n-ヘキサン中5%~60%酢酸エチルの勾配)によって精製して、前記タイトルの化合物(6.9g、38%)を得た。H NMR(500MHz,CDCl) δ 8.58(1H,s)、8.56(1H,s)、7.59~7.52(2H,m)、7.48~7.46(2H,m)、7.45~7.43(1H,m)、5.13(2H,s)、4.30~4.26(2H,q)、1.33~1.30(3H,t)。
【0116】
ステップ3:7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン
500ml丸底フラスコにおいて、エチル 2-(3-ニトロ-5-フェニルピリジン-2-イルオキシ)アセテート(4.6g、15.22mmol)を、塩酸、37%(40ml)中に加えて、黄色の懸濁液を得た。その混合物を、0~5℃に冷却し、続いて、スズ粉末(9.94g、84mmol)を少量ずつ加えた。その添加は発熱性であるとわかった。加える間、注意を要する。その後、その混合物を、室温でさらに30分間、全ての発泡が止むまで、撹拌した。その反応混合物を、窒素雰囲気下で3時間、80℃に加熱した。その反応混合物を、室温に冷却し、水(800ml)で希釈した。その白色の沈殿物を、濾過により単離し、水(100ml)で洗浄し、吸引乾燥して、白色の固体を得た。その固体を、トルエン(3×30ml)と共沸して、前記タイトルの化合物として白色の固体(2.6g、77%)を得た。H NMR(500MHz,(CDSO) δ 10.41(1H,s)、8.10(1H,s)、7.59(2H,d)、7.49~7.42(2H,t)、7.39~7-38(1H,d)、4.83(2H,s)。
【0117】
ステップ4:6-ブロモ-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン
10mlマイクロ波バイアルにおいて、7-フェニル-1 H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン(50mg、0.221mmol)及びN-ブロモスクシンイミド(78.6mg、0.441mmol)をジメチルホルムアミド(1ml)中に加えた。その反応混合物を、マイクロ波照射下で30分間、80℃に加熱した。その反応混合物を、室温に冷却し、酢酸エチル(10ml)で希釈した。その有機溶液を、水(2×10ml)及びブライン(2×10ml)で洗浄した。その有機相を、無水NaSO上で乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。その粗残留物を、Biotage社製クロマトグラフィー(ジクロロメタン中0%~5%メタノールの勾配)により精製して、黄色の固体として前記タイトルの化合物(61mg、90%)を得た。H NMR(500MHz,CD3OD) δ 7.48~7.32(5H,m)、7.12(1H,s)、4.82(2H,s)。
【0118】
ステップ5:6-ブロモ-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン
15mL反応チューブにおいて、無水N,N-ジメチルホルムアミド(1mL)中に6-ブロモ-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン(300mg、0.983mmol)、ヨードエタン(0.095mL、1.180mmol)、及び炭酸カリウム(408mg、2.95mmol)を加えて、褐色の懸濁液を得た。これを、50℃、窒素雰囲気下で60分間、撹拌した。その反応混合物を、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(5mL)で希釈し、酢酸エチル(3×5mL)中へ抽出した。その合わせた有機相を、50:50の水:ブライン(3×5mL)で洗浄し、NaSO上で乾燥させ、濾過し、減圧下で乾燥状態へ濃縮して、褐色の固体を得た。これを、Biotage社製クロマトグラフィー(25gシリカカートリッジ、シクロヘキサン:酢酸エチル、90:10~20:80の勾配溶出)により精製して、ベージュ色の固体として前記タイトルの化合物(160mg、48.8%収率)を得た。H NMR(500MHz,CDCl) δ 7.58~7.37(5H,m)、7.21(1H,s)、4.86(2H,s)、3.96(2H,q)、1.27(3H,t)。LCMS(メソッドD) RT 1.293分間、M+1=334。
【0119】
**tert-ブチル((1s,3s)-3-ヒドロキシ-1-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェニル)シクロブチル)カルバメートの合成(国際公開第2011077098号パンフレットの実施例97から):
40mL反応チューブにおいて、tert-ブチル(1s,3s)-1-(4-ブロモフェニル)-3-ヒドロキシシクロブチルカルバメート***(0.25g、0.731mmol)を無水テトラヒドロフラン(14ml)中に加えて、無色の溶液を得た。これを、窒素を20分間、通気することにより脱気し、続いて、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)ジクロロメタン付加物(60mg、0.073mmol)を加えた。窒素をさらに15分間、通気した後、酢酸カリウム(143mg、1.461mmol)及びビス(ピナコラート)ジボロン(223mg、0.877mmol)を加えた。その反応混合物を、一晩、加熱還流し、その後、減圧下で乾燥状態へ濃縮し、Biotage社製クロマトグラフィー(シクロヘキサン:酢酸エチル、88:12~0:100の勾配溶出)により精製して、静置により固体化する無色の油として所望の生成物(240mg、84%収率)を得た。H-NMR(500MHz,CDCl) δ 7.71(2H,d)、7.44(2H,d)、4.15(1H,br s)、2.87~2.98(2H,m)、2.27~2.44(2H,m)、1.22~1.49(21H,br m)。
*** WO国際公開第2009148887号パンフレット及び国際公開第2009148916号パンフレットに記載された合成)
【実施例2】
【0120】
インビトロでの薬動力学
6-(4-(1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン L-酒石酸塩(VAD044)が、生化学キナーゼアッセイにおいて、完全長AKT1及びAKT2の活性を強力かつ選択的に阻害することが見出され、IC50値は、それぞれ、125nM及び95nMであった(AKT3に対する500nMを超える値と比較して)。しかしながら、不活性プレクストリン相同(PH,pleckstrin homology)ドメインを含有する、3つ全てのAKTアイソフォームの変異型は、VAD044によって阻害されなかった。さらに、VAD044を増加性濃度のATPとインキュベートすることは、ATPについてのKにおいて実行された実験と比較した場合、IC50値に効果を生じなかった。これは、VAD044についての結合の様式がアロステリックであり、ATP濃度に無関係であることを確信させる。
【0121】
VAD044の推定上のアロステリック結合様式は、AKT2との複合体におけるVAD044遊離塩基に近いアナログ(化合物6、下記)に関して得られた高解像度(2.32Å)共結晶構造により、確認された(図1A参照)。
【0122】
【化10】
【0123】
図1Bに示されているように、化合物6は、キナーゼドメイン及びPHドメインのNローブとCローブの界面におけるヒンジ領域から約10Å離れたアロステリック結合ポケットにおいて結合する。
【実施例3】
【0124】
キナーゼ選択性、並びに受容体及びイオンチャネルのプロファイル
VAD044は、AKT1及びAKT2の強力なアロステリック阻害剤である。VAD044の、標的非関連タンパク質キナーゼに対する選択性ウィンドウ、Gタンパク質共役型受容体、及びイオンチャネルを試験した。良好な選択性ウィンドウは、患者において有効であると予想される薬理学的濃度における好ましい安全性プロファイルを示唆する。
【0125】
キナーゼ選択性
VAD044は、450個のキナーゼのパネルに対して試験した場合、10μMにおいて、AKT1及びAKT2に対する選択性が高いことが示された(図2Bに示されているように、AKT1の89%阻害及びAKT2の95%阻害を達成した)。とりわけ、75%より高い阻害は、たった2つの他のキナーゼ:p38α及びPDK1(同様に図2Bに示されているように、それぞれ、84%及び77%阻害)に関してのみ達成された。AKT3の阻害は72%だけ達成された(図2B参照)。
【0126】
10点の滴定曲線によるさらなる分析により、p38α及びPDK1に対するIC50が10μMより高いことが確認された。
【0127】
加えて、VAD044についてのIC50値は、AKT3アイソフォームに対して(それに対するVAD044のEC50値は500nMより高かった)より、AKT1及びAKT2に対してはるかに低いことが見出された(それぞれ、IC50=125nM及びIC50=95nM)。
【0128】
したがって、上記の結果は、VAD044がAKT1及びAKT2の強力かつ選択的な阻害剤であることを実証している。
【0129】
受容体及びイオンチャネルのプロファイル
10μMにおいて試験した場合、VAD044は、心臓イオンチャネルNav1.5、Cav1.2、Kv4.3、KChIP2、Kv1.5、KCNQ1、minK、Kir2.1、及びHCN4をそれらの活性の25%より下へは阻害せず、76個の受容体及びイオンチャネルのパネル(Millipore社 創薬安全性及び責任パネル(Drug Discovery Safety and Liability Panel))において優秀な選択性を示した。特に、3つのGタンパク質共役型受容体(GPCR,G protein-coupled receptors)だけが10μMにおいて50%より高い阻害を実証し-すなわち、LPA1受容体、モチリン受容体、及びP2Y1受容体(それぞれ、57.4%、50.0%、及び50.6%の平均パーセンテージ阻害値を示す)-、1つのGPCRだけが、GPCR活性の20%より大きい増加を有する、アゴニスト活性を示した(すなわち、GPR14、10μMにおいて29.5%の増加が観察された)。これらの結果は、下記の表2に示されている:
【0130】
【表2】
【0131】
上記の結果は、VAD044が、試験された受容体及びイオンチャネルに干渉しないことを実証している。
【0132】
したがって、VAD044のインビトロでの酵素プロファイルは以下のように要約することができる:
- VAD044は、AKT1及びAKT2を強力かつ選択的に阻害し(IC50=125nM及び95nM)、AKT3アイソフォーム(IC50>500nM)に対して少なくとも5倍のウィンドウ(window)を有する
- VAD044は、幅広いパネルの試験されたキナーゼ、受容体、及びイオンチャネルに干渉しない。
【実施例4】
【0133】
3つのAKT阻害剤化合物のEng-iKOマウスにおける安全性/毒性;抗血管新生性;及びAVM形成を予防する能力の研究
材料/方法
マウス
C57Bl/6J妊娠中の雌は、Janvier Labs社により提供された。Engflox/floxマウス(Mahmoud et al., (2010), “Pathogenesis of arteriovenous malformations in the absence of endoglin”, Circulation Research. https://doi.org/10.1161/CIRCRESAHA.109.211037)が、Cdh5(PAC)-CreERT2(12)と交雑されて、内皮特異的誘導型Engノックアウトが作製された。動物飼育及び手順は、オランダ政府ガイドライン及び欧州議会の指令2010/63/EUに従った。用いられる動物の数及びそれらの苦痛を最小限にするためにあらゆる努力がなされた。Leiden University Medical Centerの施設内動物福祉委員会(プロジェクト番号AVD1160020171628)が全プロトコールを承認した。雄及び雌のマウスは、網膜血管新生を研究するために出生後第1週中に用いられた。
【0134】
インビボでのAKT阻害
安全性/毒性プロファイル及び血管新生を阻害する最小有効用量の同定
野生型C57Bl/6Jの仔に、P4に1回、ペリフォシンを5mg/kg体重、10mg/kg体重、25mg/kg体重、50mg/kg体重、若しくは100mg/kg体重で、又はユプロセルチブを0mg/kg体重、2.5mg/kg体重、5mg/kg体重、10mg/kg体重、25mg/kg体重、若しくは50mg/kg体重で、又は2.5mg/kg、5mg/kg、及び10mg/kgでVAD044を注射し、その後、P7に殺害した。網膜を、記載されているように(Lebrin et al., (2010), “Thalidomide stimulates vessel maturation and reduces epistaxis in individuals with hereditary hemorrhagic telangiectasia”, Nature Medicine. https://doi.org/10.1038/nm.2131)、免疫蛍光染色のために処理した。
【0135】
Eng-iKOマウスにおいてAVM形成を予防する最小有効用量の同定:
Engflox/flox;cdh5-CreERT2に、P2において、タモキシフェン(50μg)を注射して、新生仔マウスにおいてほぼ完全な遺伝子ノックアウトを誘導し、その後、P3及びP5において1回、ペリフォシンを0mg/kg体重、25mg/kg体重、若しくは50mg/kg体重でIP注射し、又はP3、P4、P5、及びP6において1回、ペリフォシンを10mg/kg体重でIP注射した。同じ体積のビヒクルが注射され、それが対照動物としての役割を果たした。その後、P7において、マウスを安楽死させ、網膜を、記載されているように(Lebrin et al.、上記の通り)、免疫蛍光染色のために処理した。
【0136】
Engflox/flox;cdh5-CreERT2に、P2において、タモキシフェン(50mg)を注射して、新生仔マウスにおいてほぼ完全な遺伝子ノックアウトを誘導し、その後、P3において1回、ユプロセルチブを0mg/kg体重、1mg/kg体重、2.5mg/kg体重、又は5mg/kg体重でIP注射した。同じ体積のビヒクルが注射され、それが対照動物としての役割を果たした。その後、P7において、マウスを安楽死させ、網膜を、記載されているように(Lebrin et al.、上記の通り)、免疫蛍光染色のために処理した。
【0137】
Engflox/flox;cdh5-CreERT2に、P2において、タモキシフェン(50mg)を注射して、新生仔マウスにおいてほぼ完全な遺伝子ノックアウトを誘導し、その後、P3及びP5において1回、VAD044を0mg/kg体重、2.5mg/kg体重、5mg/kg体重、又は10mg/kg体重でIP注射した。同じ体積のビヒクルが注射され、それが対照動物としての役割を果たした。その後、P7において、マウスを安楽死させ、網膜を、記載されているように(Lebrin et al.、上記の通り)、免疫蛍光染色のために処理した。
【0138】
網膜血管網の分析
網膜血管網について、マウス1匹あたりのAVシャントの数の定量化を手作業で行った。視神経からの放射状伸展、血管長、及び分岐点を、Lebrin et al., (2010), “Thalidomide stimulates vessel maturation and reduces epistaxis in individuals with hereditary hemorrhagic telangiectasia”, Nature Med, 16(4), 420-8;Gkatzis et al., (2016), “Interaction Between ALK1 Signaling and Connexin40 in the Development of Arteriovenous Malformations”, Arterioscler Thromb Vasc Biol., 36(4), 707-17;及びThalgott et al., (2018), “Decreased Expression of Vascular Endothelial Growth Factor Receptor 1 Contributes to the Pathogenesis of Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia Type 2”, Circulation, 138(23), 2698- 2712に記載されているように、網膜あたり少なくとも4つの視野において、Image Jソフトウェア(米国国立衛生研究所(US National Institute of Health))により分析した。カスタムの当研究所作成マクロは、同じ処理及び定量化パラメータを用いる、画像の自動処理を可能にした。簡単に述べれば、画像の輝度を、特定の画像ヒストグラムコンテンツに依存するピクセル極値を改変することにより、増強した。ガウシアンフィルターを適用して、均一性の強度を低下させた。フィルター次数は、画像解像度に依存した。次に、閾値ステップを、二値画像を生じる、Otsuの方法又はLiの方法などのグローバル閾値技術に基づいて、計算した。その後、中央値フィルターを適用して、偽分岐点検出を引き起こし得る潜在的局所不規則性を排除した。二値画像から、血管密度を定量化した(画像におけるピクセルの総数で割られた、血管に関連したピクセルの比率として算出される)。他のパラメータについて、まず、画像の骨格を、imageJを用いて計算し、その後、血管の全長を、ImageJからのMeasure Skeleton Lengthプラグインを用いて、定量化した。分岐点の数を、ImageJのAnalyze Skeletonプラグインから抽出した。全ての結果を、Microsoft Office Excelソフトウェアに転送し、当研究所カスタム作成プログラムを用いて、自動再編成した。処理の各ステップにおいて作成された全ての画像は保存されているので、異常な結果がないことを保証するために、視覚的な制御を行った。
【0139】
統計解析を、Prism 7ソフトウェア(GraphPad社)で実施した。実験の大部分について、多重比較のために一元配置ANOVAを用いた。結果は、平均値±SEMとして表されている。事後ペアワイズについて、ダネット検定を用いた。P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、又は****P<0.0001の値は、統計的有意性を示す。血管構造変化に関係したパラメータにおけるおよそ15%の群内変動は、以前、本発明者らによって観察されており、したがって、およそ20~30%の対照と変異体マウスとの間の差が予測された。したがって、状態あたり8匹のマウスの群は、統計的差を明らかに示すと予想された。
【0140】
マウス内皮細胞単離、培養、及び刺激
Galaris et al., (2021) “In vitro Three-Dimensional Sprouting Assay of Angiogenesis using Mouse Embryonic Stem Cells for Vascular Disease Modeling and Drug Testing” J Vis Exp (171)に記載されているように、Engflox/flox仔から肺を、外科的に摘出し、氷冷DMEM中ですすぎ、内皮細胞を単離した。要約すれば、組織を、ハサミを用いて刻み、DMEM-3mg/ml 1コラゲナーゼA(10103586001、Roche社)中、37℃で15分間、消化させ、その後、70μmストレーナーに通して濾過した。細胞上清を、200gで5分間、遠心分離し、CD45+細胞を、ラット抗マウスCD45抗体(550539、BD Pharmigen社)でコーティングされたDynabeadsヒツジ抗ラットIgG(11035、Invitrogen社)を用いて除去した。内皮細胞を、ラット抗マウスPECAM1抗体(550274、BD Pharmigen社)でコーティングされたDynabeadsヒツジ抗ラットIgG(11035、Invitrogen社)を用いて、製造会社の使用説明書に従って、ソートした。DMEM-0.1%BSAで5回、洗浄した後、細胞を、6ウェルプレートに播種した。肺及び肝臓ECを、2~3継代の間、ウシ胎仔血清、ヒト上皮細胞増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、ヒト血管内皮細胞増殖因子-165、アスコルビン酸、ヘパリン、及びハイドロコルチゾン(C-39211、SupplementPack EC GM2、PromoCell社)で補われた内皮細胞増殖培地2(C-22011、PromoCell社)中に維持した。
【0141】
ECを、6ウェルプレートに播種し、90%コンフルエンスまで増殖させた。その後、細胞を、PBSで洗浄し、6時間、血清飢餓にした。VEGF-A(25ng/ml)での30分間の刺激の前に、細胞を、内皮細胞増殖培地2(C-22011、PromoCell社)中0.05mM、0.1mM、0.25mM、0.5mM、1.0mM、5.0mM、又は10.0mMにおけるVAD044で1時間、処理した。細胞を、冷たいPBSで洗浄し、その後、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤(PPC1010、Sigma-Aldrich社)を含有するRIPAバッファー(50mM Tris-HCl pH7.4、150mM NaCl、1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1% Triton X-100、0.1% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS,Sodium Dodecyl Sulfate)、0.5% デオキシコール酸塩)中に溶解した。
【0142】
アデノウイルス感染
肺又は肝臓ECに、Creリコンビナーゼ(SL100707、SignaGen Laboratories社)を発現するアデノウイルスを、500の感染多重度(m.o.i,multiplicity of infection)を用いて、6時間、感染させ、PBSで洗浄し、その後、使用前に、内皮細胞増殖培地2中、12~60時間、培養した。
【0143】
免疫蛍光染色
眼を、PBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)において室温で10分間、固定し、網膜を解剖し、PBS中4%PFAにおいて4℃で一晩、後固定し、その後、免疫染色のために処理した。網膜を、PBS、1%BSA、及び0.5%Triton X-100中4℃で一晩、透過処理し、PBS中ですすぎ、PBlec(PBS、pH6.8、1% Triton-X-100、0.1mM CaCl、0.1mM MgCl、0.1mM MnCl)中で2回、洗浄し、その後、PBlec中ビオチン化グリフォニア・シンプリシフォリア(Griffonia simplicifolia)レクチン(イソレクチンB4)(B-1205、Vector Laboratories社、1:50)において4℃で一晩、インキュベートした。PBS中での5回の洗浄後、試料を、ストレプトアビジンCy-3(PA43001、Sigma-Aldrich社、1:100)、並びにPBS、0.5%BSA、及び0.25%X-100中に希釈されたFITCコンジュゲート型a-SMA(クローン1A4)(F3777、Sigma-Aldrich社)と4℃で2時間、インキュベートした。洗浄後、フラットホールマウント網膜を、DAKO培地(S3023、Dako社)にマウントした。ホールマウント網膜の完全な高解像度3次元レンダリングを、レーザー走査顕微鏡SP5又はSP8(Leica社)を用いて、取得した。
【0144】
ウェスタンブロット及び定量化
試料を、10分間、煮沸し、タンパク質を、10%アクリルアミドゲル上で分離し、5%BSA又は5%粉ミルク/Tris緩衝食塩水/Tween 20でのブロッキング前に、ニトロセルロース膜上に転写し、以下の一次抗体とインキュベートした:ウサギ抗ホスホAkt1(Ser473)(44-621G、Invitrogen社)、ウサギ抗Akt1(2938S、Cell Signaling社)、ウサギ抗ホスホSmad1/5(Ser463/465)(9516S、Cell Signaling社)、ウサギ抗Smad1(6944S、Cell Signaling社)、マウス抗ホスホ-p44/42 MAPK(Thr202/Tyr204)(E10)(9106S、Cell signaling社)、ウサギp44/42 MAPK(Erk1/2)(9102S、Cell Signaling社)、ヤギ抗エンドグリン(AF1097、R&D systems社)、及びマウス抗β-アクチン(A5441、Sigma-Aldrich社)。HRP抗ウサギIgG若しくはHRP抗マウスIgG(それぞれ、W4011又はW4021、Promega社)又はHRP抗ヤギIgG(HAF017、R&D systems社)を用いて検出し、続いて、BIO-RAD社ChemiDoc imagerでスキャンした。画像を、線形範囲で捕獲し、タンパク質レベル及びタンパク質リン酸化レベルを測定するためにImageJソフトウェアを用いた。全てのブロットについて、図に指し示されているように、バックグラウンドを引き算し、結果を標準化した。
【0145】
新生仔マウスにおけるVAD044の薬物動態学(PK)プロファイル
VAD044を、滅菌PBS中に製剤化し、P3及びP5に、新生仔マウスにおいて、腹腔内(i.p.,intra-peritoneal)ルートで、2.5mg/kgの用量濃度及び10μl/gの用量体積で投与した。注射後24時間目及び48時間目に、血漿の調製のために、イソフルラン麻酔下で各マウスから末梢血試料を収集した。本研究において1時点あたり4匹の新生仔マウスを用いた。血漿調製のために、血液をEDTAコーティング化microvettes(Sartsed社)へ収集した。血液を、2700xgで10分間、遠心分離し、おおよそ30~40μlの血漿を取り出し、ポリプロピレンチューブへ分注した(動物あたり2個のアリコート)。血漿試料を、バイオアナリシスまで-80℃で保管した。血漿試料中のVAD044化合物レベルを、LC-MS/MSによって決定した。24時間目及び48時間目におけるVAD044血漿中濃度は、以下の式を用いてCavgの算出を可能にする:AUC0-inf/(48時間にわたる区間数)。
【0146】
ヒト用量のモデリング
ヒト用量モデリング分析を、MONOLIX(バージョン2019R1)の適格インストールでの非線形混合効果モデリングアプローチを用いて実施した。R(バージョン3.5.3)を、データの処理前及び処理後並びにモデルアウトプットについての分析において用いた。モデルを構築するためにマウス種、ラット種、及びイヌ種において作成された全てのPK生データは、表3に要約され、その表3は、全分析に含まれる動物の数及び試料の数の概観を示す。
【0147】
【表3】
【0148】
ヒトモデルのPKパラメータを、体重とのクリアランス及び体積パラメータの相対成長率に基づいて決定した。生物学的利用率及び吸収率について、仮定を立てなければならなかった。吸収率kabsは、-0.25の指数部を有する体重との相対成長率を用いて、イヌにおける値から導かれた。この指数部は、kabsとしての同じ物理的単位、1/時間に関連した他のパラメータについて以前、観察されており、Dawson TH. Allometric relations and scaling laws for the cardiovascular system of mammals. Systems. 2014 Jun;2(2):168-85を参照されたい。現分析におけるデータは、ヒトにおける生物学的利用率の値の情報を与えることができなかった。したがって、合理的な仮定を立てなければならず、ヒトにおける50%生物学的利用率は、十分控え目な見積りであると仮定された。
【0149】
下記で論じられているように、マウス新生仔の血漿における2.5mg/kgの用量でのLC/MS/MSバイオアナリシスにより測定されたVAD044遊離塩基の血液暴露は、48時間の投薬区間にわたる22.9ng/ml(又は55.1nM)のCavgに対応する。PKモデリングに基づいて、この暴露は、ヒトにおいて(VAD044遊離塩基の)20mg~40mgの単回固定用量Q.D.で達成されると推定される。この投薬は、70kgのヒト成人について、及び50%~75%のVAD044の推定生物学的利用率を以て、算出されている。
【0150】
評価された化合物
異なるAKTキナーゼ阻害性を有する3つの化合物を試験した:
(i)ペリフォシン(比較化合物):アルキルリン脂質クラスのAKT阻害剤。ATP結合性キナーゼ阻害剤と違って、ペリフォシンは、AKTのプレクストリン相同(PH)ドメインをターゲットし、したがって、それの細胞膜への転位置を予防する(Gradziel et al., (2014), “Cytotoxic amphiphiles and phosphoinositides bind to two discrete sites on the Akt1 PH domain”, Biochemistry, https://doi.org/10.1021/bi401720v;Kondapaka et al., (2003), “Perifosine, a novel alkylphospholipid, inhibits protein kinase B activation”, Molecular Cancer Therapeutics;Rios-Marco et al., (2017), “Alkylphospholipids: An update on molecular mechanisms and clinical relevance”, In Biochimica et Biophysica Acta - Biomembranes, https://doi.org/10.1016/j.bbamem.2017.02.016))
(ii)ユプロセルチブ(比較化合物):AKT1、AKT2、及びAKT3のATP競合的阻害剤。それは又、PRKACA、PRKACBを含むPKCファミリーメンバー、加えてcGMP依存性プロテインキナーゼPRKG1及びROCKキナーゼを潜在的に阻害することができる(Dumble et al., (2014), “Discovery of novel AKT inhibitors with enhanced anti-tumor effects in combination with the MEK inhibitor”, PLoS ONE. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0100880)
(iii)VAD044(本発明の化合物):他のキナーゼに対して優秀な選択性を有する、AKT1/2の新規のアロステリック阻害剤。上記で論じられているように、VAD044は、下記で示された化合物のL-酒石酸塩である(「VAD044遊離塩基」と呼ばれる):
【0151】
【化11】
【0152】
IUPAC名:6-(4-(1-アミノ-3-ヒドロキシシクロブチル)フェニル)-1-エチル-7-フェニル-1H-ピリド[2,3-b][1,4]オキサジン-2(3H)-オン
【0153】
ペリフォシンのプロファイル
毒性
P4に5~25mg/kgの範囲の用量でペリフォシンを1回、注射された新生仔マウスにおいて有害効果は観察されなかった。50mg/kgにおけるペリフォシンの投与は、体重増加を遅らせ、100mg/kgにおけるペリフォシンの投与は、重大な仔の死亡を誘導した(図3参照)。したがって、以前、新生仔マウスにおいて試験されておりかつHHT患者において鼻出血の重症度及び頻度を低下させることが報告されたサリドマイド(Lebrin et al.、上記の通り)などの薬物と比較した場合、ペリフォシンの安全性プロファイルは良好である。
【0154】
C57Bl/6Jマウスにおける抗血管新生性
P4に1回、投与された低用量のペリフォシン(5~10mg/kgの範囲の用量)は、血管新生に影響しなかった(図4A~D参照)。25~100mg/kgの範囲である高用量のペリフォシンのみが、結果として網膜血管床の微小な変化を生じ、分岐点の数及び血管エリアのわずかな減少があった(図4A~D参照)。100mg/kgにおけるペリフォシンは又、血管の放射状伸展の低下をもたらし、微小な内皮細胞抗遊走性を明らかに示した(図4A~B参照)。結論として、ペリフォシンは、弱い抗血管新生性を呈する。
【0155】
Eng-iKOマウスにおいてAVM形成を予防する能力
50μgタモキシフェンを、P2 Eng-iKOマウスに注射した。その後、マウスに、ペリフォシンをP3及びP5に(25mg/kg体重又は50mg/kg体重、i.p)(図5A)か又はP3~P6の毎日(10mg/kg体重、i.p)かのいずれかで腹腔内投与した。P7において、網膜を分析した(図5A)。ビヒクルのみ、又はタモキシフェンとビヒクルのみを注射された同腹仔を対照として用いた。予想通り、P2におけるEngのコンディショナル欠失は、網膜AVM形成(図5B)及び中程度の低下した血管伸長(図3D)を結果として生じた。ペリフォシンは、試験された用量及び注射スキームにおいて(図5A~F)、Eng-iKOマウスにおいてAVM形成を予防することができず(図5C)、かつ血管新生を阻害しなかった(図5D~E)。さらに、25mg/kgにおけるペリフォシンの毎日の腹腔内投与は、仔の死亡を結果として生じた(データ未呈示)。
【0156】
ユプロセルチブプロファイル
毒性
ユプロセルチブは、P4におけるユプロセルチブ(10~50mg/kg体重の範囲の濃度)の単回注射後にP4~P7において観察された野生型マウスの仔の生存率及び体重によって証明されているように、毒性が高いことが見出された - 図6A~B参照のこと。Eng-iKOマウスに投与された1~5mg/kg体重の用量は、仔の大部分の死亡を結果として生じることが見出された。
【0157】
C57Bl/6Jマウスにおける抗血管新生性
P4に1回、投与された低用量(5~25mg/kg、i.p)においてさえも、ユプロセルチブは、血管新生を阻害し、放射状伸展のわずかな減少(図7B);血管エリア(図7C)及び分岐点の数(図7D)の著しい減少を生じ、内皮細胞抗増殖性効果を示唆した。これらの結果は、ユプロセルチブが、マウス網膜における血管新生の強力な阻害剤であることを示している。
【0158】
Eng-iKOマウスにおいてAVM形成を予防する能力
Eng-iKOマウスに、ユプロセルチブをP3及びP5において2回、注射した(図8A)。しかしながら、ユプロセルチブの2回の注射が、仔の大部分の死亡を結果として生じることが見出され(図8B)、試験される用量でマウスにおいてAVM形成を予防するユプロセルチブの能力のさらなる調査が妨げられた。
【0159】
VAD044プロファイル
化合物VAD044は、腫瘍異種移植モデルにおける以前の前臨床研究において良好な安全性プロファイルを有することがすでに示されており、したがって、追加の安全性/毒性研究は実施しなかった。
【0160】
Eng-iKOマウスにおいてAVM形成を予防する能力
試験された濃度は、ユプロセルチブについて用いられたものと同等であった(図9A)。これらの濃度において、新生仔Eng-iKOマウスにVAD044を2回(P3及びP5において)、1.25~10mg/kg体重の範囲の薬物濃度で注射した時、有害効果は観察されなかった(図9B)。VAD044は、2.5mg/kg及びそれ以上の濃度において、Eng-iKOマウスでAVシャント形成を効率的に予防した(図10A~B)。1.25mg/kgの用量は、AVシャント形成を予防するのに有効ではないことが見出された(図10A~B)。VAD044は又、Eng-iKOマウスの網膜血管網の密度を正常化することができ(図10D)、血管新生へは微小な効果を生じ、Eng-iKO血管網の放射状伸展(図10C)及び分岐点の数(図10E)をわずかに低下させた。マウス新生仔の血漿中の2.5mg/kgの用量におけるLC/MS/MSバイオアナリシスによるVAD044遊離塩基の血液暴露は、48時間の投薬区間にわたる22.9ng/ml(又は55,1nM)のCavgに対応する。
【0161】
マウス初代内皮細胞におけるエンドグリンタンパク質欠失は、AKT活性化を優先的に誘導した
初代内皮細胞を、出生後7日目(P7)のEngflox/flox仔の肺から、コラゲナーゼIに基づいた酵素消化、続いて、PECAM1コーティング化マイクロビーズでの細胞ソーティングを用いて単離した(図11A)。CD45コーティング化マイクロビーズを用いて、CD45+/PECAM1+免疫細胞集団を枯渇させた(図11A)。単離されたCD45-/PECAM1+細胞集団は、内皮細胞のそれと似ており、少なくとも3継代の間、培養することができた。PECAM1及びVE-カドヘリン染色により、内皮細胞のアイデンティティが確認された(図11B)。
【0162】
Cre-Lox系をうまく利用して、Eng遺伝子を切除するために、初代内皮細胞培養物に、Creリコンビナーゼをコードする組換えアデノウイルスを感染させた。アデノウイルス感染は非常に効率的であり、細胞生存率に効果を生じなかった。ほとんど全ての細胞が、最初の10時間以内に遺伝子組換えを起こし、エンドグリンは、相対的に安定なタンパク質であり、半減期がおよそ17時間と見積もられたため、均一な内皮細胞培養物は、感染後最初の60時間以内に得られ、染色及びウェスタンブロット分析により示されているように、エンドグリンレベルは、正常から、半分低下し、完全な喪失までわたった(図11C~D)。
【0163】
その後、Engタンパク質発現が枯渇した肺内皮細胞におけるAkt及びSmad1シグナル伝達経路の活性化を調べた。細胞を、エンドグリン発現の異なるレベルに対応する感染後の異なる時点において、VEGF、TGF-β1、及びBMP9で30分間、処理した。Jakobssonの研究室(Jin et al., 2017、上記の通り)により以前発表されているように、本発明者らは、エンドグリンタンパク質発現減少が、Aktリン酸化の増加と関連していることを確認することができた(図12A)。最も興味深いことには、Engタンパク質の50%の低下が、正常レベルのエンドグリンを発現する内皮細胞と比較して、Aktリン酸化の増加を誘導し(図12A)、一方、Smad1リン酸化は、変化していない(図12B)ため、AKTリン酸化が、Engタンパク質減少に対してより感受性が高い。この結果は、エンドグリン発現の半分の低下が、VEGF応答の増加及びAKTシグナル伝達の増加(増殖及び遊走を増加させ、血管奇形に寄与する)を誘導し、一方、古典的BMP/SMADシグナル伝達は正常のままであることを示唆する。
【0164】
対照及びEng-iKOマウス内皮細胞におけるVAD044 IC50の測定
その後、VAD044の、Eng-iKOマウス由来の単離された初代肺内皮細胞への効果を、試験した。予想通り、Creアデノウイルス感染は、60時間後、エンドグリン発現の完全な喪失を結果として生じた(図13A)。Eng発現の正常レベルを有する対照由来のECは、VAD044に対して感受性が高く、IC50は55nMにおいて測定され、一方、Eng発現の完全喪失を提示する肺マウス内皮細胞におけるVAD044のIC50は、93nMであった(図13B)。このIC50の約2倍のシフトは、Engタンパク質が完全にノックダウンされた場合のAKT活性化の増加(約2~4倍)によって説明することができる(図12A)。並行して、選択性の対照として、p42/p44リン酸化を分析し、VAD044がMAPK経路へ影響を生じないことが確認された(図13C)。
【0165】
結果/考察
ユプロセルチブは、AKT1、2、及び3のアイソフォームのATPキナーゼ結合ポケットと結合する、競合的AKT阻害剤である。この化合物は、強力な汎ATPキナーゼポケット阻害を有する典型的な低分子量スキャフォールドである(Dumble et al., 2014)。しかしながら、AKTとプロテインキナーゼA(PKA)、プロテインキナーゼC(PKC)、又はプロテインキナーゼG(PKG)との間にATP結合ポケットにおける高度の相同性がある。したがって、ユプロセルチブは、PKA、PKG、PKC、加えてROCKキナーゼに対して強い阻害を提示する。この「オフターゲット」キナーゼ活性は、副作用の増加を伴う場合が多い(Rodon et al., (2013), “Development of PI3K inhibitors: Lessons learned from early clinical trials”, Nature Reviews Clinical Oncology, https://doi.org/10.1038/nrclinonc.2013.10)。
【0166】
対照的に、アロステリック阻害剤は、AKTに対するより高い特異性を有するように思われる。例えば、VAD044は、新しいAKTアロステリック阻害剤であり、それは、AKT1及び2に対して強い効力を有するこのクラスの阻害剤において、最も高い選択性プロファイルの一つを提供する(米国特許第9221838号明細書)。ペリフォシンは、AKTのプレクストリン相同ドメインをターゲットし、それにより、活性化に必要とされる細胞膜へのそれの転位置を予防する、珍しいアロステリック阻害剤である。
【0167】
VAD044のAKTキナーゼ阻害に関する生化学的及び細胞性効力は、ユプロセルチブのそれに匹敵する。例として、ユプロセルチブ及びVAD044は、類似した生化学的キナーゼ活性アッセイに基づいて、それぞれ、180nM及び125nMの、AKT1に対するIC50を示す(Pachl, et al (2013). “Characterization of a chemical affinity probe targeting Akt kinases”, Journal of Proteome Research, https://doi.org/10.1021/pr400455j;及び上記のVAD044に関する実施例3参照)。同様に、どちらの分子も、ユプロセルチブについての34~143nM、及びVAD044についての50~130nMを含む、Pi3Kα又はPTEN変異体細胞株(例えば、MCF7、BT474、又はLnCAP)におけるAKTキナーゼ阻害について同等のIC50範囲を提示する。対照的に、ペリフォシンは、VAD044とユプロセルチブのどちらよりも弱い効力を有し、類似した細胞株におけるAKTへの細胞性阻害活性はuM範囲である(Gradziel et al., 2014;Kondapaka et al., 2003;Rios-Marco et al., 2017、上記の通り)。
【0168】
上記結果は、受け入れられる安全性と望ましい阻害効力の両方を有するペリフォシン及びユプロセルチブについての治療的投薬量ウィンドウを同定することが不可能であったことを示している。ペリフォシンについて、AKTキナーゼの完全阻害が予想され得る高い投薬量においてさえも、正常な血管新生及びAVMシャントへの効果はわずかであった。許容され得る最も高い用量(25mg/kg及び50mg/kg)において、HHT1マウスモデルでのシャント形成において有意な効果は観察されなかった。10mg/kgで毎日注射された場合、効力傾向が観察されたが、統計的有意性は達成されなかった。対照的に、ユプロセルチブは、P3において1回、注射された場合、強力な抗血管新生性を提示した。5mg/kgの用量は、耐容性が良く、効力研究に選択された。しかしながら、P3及びP6において2回、注射された場合、5mg/kg用量は、高レベルの仔の死亡率を結果として生じ、したがって、AVMシャント形成を予防することにおけるそれの効力の少しの更なる評価も妨害された。これは、ユプロセルチブの、P3~P7の間の仔の発達に関与し得るPKA、PKG、及びROCKキナーゼへのオフターゲット阻害効果により得る(Shi et al., (2011), “Rho-kinase in development and heart failure: Insights from genetic models”, Pediatric Cardiology. https://doi.org/10.1007/s00246-011-9920-0)。
【0169】
5mg/kgの類似した用量において、VAD044の2回の注射は、耐容性が良く、死亡は観察されなかった。2.5mg/kgにおいて、VAD044は、AVMシャント形成を完全に予防することができた。驚くべきことに、この用量は、シャント形成を予防することに完全に効果的でありながらも、正常な血管新生にほとんど又は全く影響を生じない。
【0170】
この結果は、VAD044が、HHTに観察される血管欠陥をAKT経路阻害の機構によって治療し得ることを示唆している。それは又、部分的経路阻害が、HHTに観察される血管欠陥を治療するのに十分であり得ることも示唆している。第1に、上記の結果は、内皮細胞におけるEng欠失が、SMADシグナル伝達が正常のままでありながら、AKTシグナル伝達を優先的に、2~4倍、過剰活性化することを確認している。上記の結果において同定されているような、2.5mg/kgの最小有効用量は、22.9ng/ml(又は55.1nM)のVAD044遊離塩基Cavgの血液暴露に対応する。この濃度は、低く、正常な内皮細胞におけるAKT阻害についてのVAD044のIC50、及びEngタンパク質が欠失した内皮細胞におけるAKT阻害についてのVAD044のIC30~40と等価である。驚くべきことに、HHTモデルにおけるVAD044の最小有効用量は、腫瘍学適応症においてよりはるかに低い。インビトロでのMCF7腫瘍細胞におけるVAD044のIC50は類似しているが(約50nM)、腫瘍異種移植モデルにおけるインビボでの最小有効用量は、30mg/kg、すなわち、上記のHHT1マウスモデルにおいての約10倍である。異なるPKモデリングに基づいて、22.9mg/mLのCavgに対応するこの有効濃度は、ヒトにおいて、(VAD044遊離塩基の)20~40mgの単回固定用量Q.D.で達成されることが推定される。この投薬は、70kgのヒト成人について、及び50~75%のVAD044の推定生物学的利用率を以て、算出されている。
【0171】
全体的に見ると、これらの結果は、HHT遺伝子欠失を保有する血管構造及び内皮細胞が、AKT阻害に対して非常に感受性が高いことを示唆している。したがって、低用量のVAD044は、おそらくPI3Kアルファ又はTIE2の体細胞変異に起因する異常増殖症候群又は静脈奇形に観察されているように、HHTに観察されるようなBMP9シグナル伝達の抑制によるだけでなく、機能獲得変異によっても、経路が過剰活性化されている場合に、血管奇形を制御することに効果的であり得る(Castillo et al., (2016), “Phosphoinositide 3-kinase: a new kid on the block in vascular anomalies”, Journal of Pathology (Vol. 240, Issue 4, pp. 387-396). John Wiley and Sons Ltd. https://doi.org/10.1002/path.4802)。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12
図13A
図13B
図13C
【国際調査報告】