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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】オートアライメントを含むシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023515066
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(85)【翻訳文提出日】2023-03-03
(86)【国際出願番号】 JP2021033382
(87)【国際公開番号】W WO2022054921
(87)【国際公開日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】63/077,080
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ブルックナー ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン デイヴィッド
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043EA03
2G043FA02
2G043HA01
2G043KA09
2G043LA03
2G043NA05
(57)【要約】
信号取得モジュール(10)およびコントローラ(50)を含むシステム(1)が提供される。信号取得モジュールは、励起光(31)によってターゲット(5)に発生した放出光(35)が入力される受光器(11)と、放出光と前方に伝播した励起光の少なくとも一部である残留光(36)とをターゲットと受光器との間に同軸的に導く受光光路(12)と、残留光を受光光路から分離してイメージセンサー(70)に導くセパレータ(13)と、ターゲットと受光器との間の光学的相対位置制御用のアクチュエータ(40)とを含む。コントローラは、光学的なアライメントを維持するためにアクチュエータを制御するモジュール(50a)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに含まれる成分に関連する情報を含む信号を取得するための信号取得モジュールと、コントローラとを有するシステムであって、
前記信号取得モジュールは、
励起光により前記ターゲットで発生した放出光が入力され、前記放出光から信号を生成する受光器と、
前記放出光と、前方に伝搬した前記励起光の少なくとも一部である残留光とを前記ターゲットと前記受光器との間に同軸的に導く受光光路と、
前記残留光を前記受光光路から分離してイメージセンサーに導くセパレータと、
前記ターゲットと前記受光器との間の光学的相対位置を制御するアクチュエータとを備え、
前記コントローラは、前記イメージセンサーの検出結果に応じて前記ターゲットと前記受光器との間の光学的アライメントを維持するように前記アクチュエータを制御するよう構成されたモジュールを含む、システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記アクチュエータは、前記ターゲットを保持するターゲットホルダ、前記受光光路の少なくとも一部を支持する支持モジュール、および受光光路上の光の方向を変える光学素子の少なくとも1つを動かす、システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記アクチュエータは、目的物を少なくとも2次元的に動かすユニットを含む、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記セパレータは、前記残留光と前記放出光とをそれらの波長の差によって分離するセパレータを含む、システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記励起光を発生させるように構成された発生器と、
前記受光器で受光した放出光のスペクトルを取得するように構成された分光器とをさらに有する、システム。
【請求項6】
ターゲットに含まれる成分に関連する情報を含む信号を取得する信号取得モジュールを含むシステムの制御方法であって、
前記信号取得モジュールは、励起光により前記ターゲットで発生した放出光が入力され、前記放出光から信号を生成する受光器と、
前記放出光と、前方に伝搬した前記励起光の少なくとも一部である残留光とを前記ターゲットと前記受光器との間に同軸的に導く受光光路と、
前記残留光を前記受光光路から分離し、前記残留光をイメージセンサーに導くセパレータと、
前記ターゲットと前記受光器との間の光学的相対位置を制御するアクチュエータとを備えており、
当該方法は、前記イメージセンサーの検出結果に応じて前記ターゲットと前記受光器との間の光学的アライメントを維持するように前記アクチュエータを制御することを含む、方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記制御することは、前記ターゲットを保持するターゲットホルダ、前記受光光路の少なくとも一部を支持する支持モジュール、および前記受光光路上の光の向きを変える光学素子の少なくとも1つを前記アクチュエータにより動かすことを含む、方法。
【請求項8】
ターゲットに含まれる成分に関する情報を含む信号を取得する信号取得モジュールを備えるシステムを制御するためのプログラムであって、
前記信号取得モジュールは、励起光により前記ターゲットで発生した放出光が入力され、前記放出光から信号を生成する受光器と、
前記放出光と、前方に伝搬した前記励起光の少なくとも一部である残留光とを前記ターゲットと前記受光器との間に同軸的に導く受光光路と、
前記残留光を前記受光光路から分離し、前記残留光をイメージセンサーに導くセパレータと、
前記ターゲットと前記受光器との光学的相対位置を制御するアクチュエータとを備え、
当該プログラムは、前記イメージセンサーの検出結果に応じて前記ターゲットと前記受光器との光学的アライメントを維持するよう前記アクチュエータを制御する、コントローラの指示を含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートアライメント機能を含むシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
WO2006/021929号公報には、分光システムが開示されている。このシステムでは、分光分析ユニットの開口の横断面における戻り放射の位置を検出することによって、光学部品のサーボ駆動の並進または傾斜ステージを駆動できる制御信号を生成することができる。このようにして、分光システムの横方向のずれを効果的に検出することができる。
【発明の概要】
【0003】
位置ずれの検出は、ターゲット(試料、対象物、物体)からの放出光(放射)を効率的に検出するために有効であるが、この目的のために放出光を使用すると、本来の目的のために検出すべき放出光の強度を低下させる可能性がある。
【0004】
この発明の側面の1つは、ターゲット(対象物)に含まれる成分に関連する情報を含む信号を取得するための信号取得モジュールと、コントローラとを有するシステムである。信号取得モジュールは、(a)励起光(エキサイテイションライト)によってターゲットで発生した放出光(発生光、エミッションライト)が入力され、放出光から信号を生成する受光器と、(b)放出光と、前方に伝播した励起光の少なくとも一部である残留光とをターゲットと受光器との間で同軸的に導く受光光路と、(c)残留光を受光光路から分離してイメージセンサーに導くセパレータ(分離器)と、(d)ターゲットと受光器との間の光学的相対位置を制御するアクチュエータ(稼働装置、操作器)とを含む。コントローラは、イメージセンサーの検出結果に応じてターゲットと受光器との間の光学的アライメント(光学的な位置関係)を維持するようにアクチュエータを制御するように構成されたモジュール(ユニット)を含む。
【0005】
前方通過型(フォワードパス型)の走査光学系では、サンプリング要素および材料が含まれるキュベットまたはカセットのサンプル容器などのターゲットが、前方の光路を変化させる可能性がある。最初にキュベットまたはカセットのサンプル容器でシステムをセットアップした場合、90度以外に変化すると、ビームパス(光路、光学的パス)を変化させる屈折を引き起こす可能性がある。また、角度誤差を考慮したキャリブレーションを行っている場合、ターゲット(試料)の屈折率が変化すると、それによりミスアライメント(位置合わせ障害、位置ずれ)が発生する可能性がある。同様に、サンプリング構造体を取り外して再挿入したり、またはサンプリング構造体に製造公差があると、同様に位置ずれが発生する原因となる。本発明のシステムにおいては、励起光の残留光を放出光の代用として、光学的アライメントを自動的に維持する。この残留光は通常、検出経路からフィルタリングされて除去されるが、このシステムでは、これまで捨てられていた光である残留光をイメージセンサーにルーティングして位置ずれを検出し、イメージセンサーの検出結果を用いて、ターゲットと受光器との間の光学的アレンジメント(光学的配置)のアライメント(位置合わせ)をアクチュエータにより維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本明細書の実施形態は、図面を参照した以下の詳細な説明から、よりよく理解されるであろう。
図1図1はこの発明のシステムの一実施形態を示し、
図2図2はアライメントの状態の一例を示し、
図3図3はミスアライメントの一例を示し、
図4図4はミスアライメントの他の例を示し、
図5図5はオートアライメントシステムのブロック図を示し、
図6図6は検出結果の例を示し、
図7図7は本システムの制御方法の概要を示すフローチャートを示す。
【実施形態の説明】
【0007】
本明細書の実施形態とその様々な特徴および有利な詳細は、添付図面に図示され、以下の説明で詳述される非限定的な実施形態を参照してより詳細に説明される。周知の構成要素および処理技術の説明は、本明細書の実施形態を不必要に不明瞭にしないように省略される。本明細書で使用される例は、単に、本明細書の実施形態が実施され得る方法の理解を容易にし、当業者が本明細書の実施形態を実践することをさらに可能にすることを意図している。したがって、実施例は、本明細書の実施形態の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0008】
図1は、この発明の一実施形態であるシステム1を示す。システム1の実施形態の1つは、CARS(Coherent Anti-Stokes Raman Scattering、コヒーレント反ストークスラマン散乱)分光装置(分光分析システム、スペクトロメータデバイス)である。CARS、SRS(Stimulated Raman Scattering、誘導ラマン散乱)等の非線形光学法を用いたシステム1では、ターゲット(試料、物体、対象物)5において、異なる波長域を有する1つまたは複数の光を含み得る励起光(励起光パルス、励起光ビーム、励起レーザ)31によって放出光(発生光、発光ビーム、エミッションライトパルス、エミッションビーム)35が生成(発生)され、または励起される。システム1は、ターゲット5における放出される光(放出光)としてCARS光35を励起するための励起光31を出力するレーザモジュール(発生装置)20を含む。励起光31は、ストークス光(ストークスパルス、ストークスビーム)32、ポンプ光(ポンプパルス、ポンプビーム)33およびプローブ光(プローブパルス、プローブビーム)34を含んでもよく、それらはレーザ光源25から第1の光路21、第2の光路22および第3の光路23をそれぞれ介して生成(発生)される。
【0009】
ストークス光32は、ファイバ21aによって広げられた波長1085~1230nmの第1の範囲R1、ポンプ光33は波長1040nmの第2の範囲R2、また、プローブ光34は遅延ステージ23aにより多少の遅延を含む波長780nmの第3の範囲R3を備えていてもよい。放出光35の一例は、波長約680~760nmの範囲R4を有するTD-CARS(time delayed CARS、遅延CARS、time dependent CARS、時間依存のCARS)光が挙げられる。TD-CARS光35は、ストークス32、ポンプ光33、および時間的な遅延を含むプローブ光34を備えた励起光によって生成される。放出光35の他の一例は、波長約900~1000nmの範囲R5を有するCARS光である。CARS光35は、ストークス32とポンプ光33とを含む励起光によって生成される。
【0010】
システム1は、励起光31が入射されるターゲット(対象物、試料)5と、ターゲットホルダ45と、信号取得モジュール10と、コントローラ(プロセッサ)50と、メモリ53とをさらに含む。信号取得モジュール10は、ターゲット5に含まれる成分に関連する情報を含む信号39を取得する。信号取得モジュール10は、励起光31によってターゲット5で発生した放出光35から解析用の信号39を生成するために放出光35が入射する受光器11と、ターゲット5と受光器11との間に放出光35と残留光(残りの光、余分な光)36とを同軸的に導く受光光路12とを含む。残留光36は、前方に伝搬した励起光31の少なくとも一部である。信号取得モジュール10は、残留光36を受光光路12から分離してイメージセンサー70に導くダイクロイックプリズムやダイクロイックミラーなどのセパレータ(分離器)13と、ターゲット5と受光器11との間の光学的相対位置を制御するためのアクチュエータ40とをさらに含む。コントローラ(処理モジュール)50は、イメージセンサー70の検出結果に応じてターゲット5と受光器11との間の光学的な位置関係を維持するためにアクチュエータ40を制御するように構成された(適合された)モジュール(アライメントコントローラ)50aを含む。コントローラ50は、放出光35から検出された信号39を解析するためのモジュール50bなど、他のモジュールを含んでもよい。これらのモジュール50a、50bの機能は、メモリ(プロセッサまたはコンピュータによって読み取り可能な記憶媒体)53に格納された機能実行命令を含むプログラム(プログラム製品)53aを用いてコントローラ50に実装されてもよい。
【0011】
信号取得モジュール10は、分離された残留光36をイメージセンサー70に導く光路14を含んでもよい。セパレータ13は、受光光路12において同軸的に入力する放出光35および残留光36から残留光36を分離する。セパレータ13は、放出光35から残留光36をそれらの波長の差によって分離するダイクロイックセパレータを含んでもよい。上記にて説明したように、非線形光学方式を用いることにより、励起光31によって、励起光31の波長とは異なる波長の放出光(散乱光)35を得ることができる。例えば、TD-CARS光の波長範囲R4は、ストークス光32、ポンプ光33およびプローブ光34を含む励起光31の範囲R1~R3より短い。また、CARS光の波長範囲R5は、ストークス光32およびポンプ光33を含む励起光31の範囲R1~R2よりも短い。そのため、セパレータ13は、励起光31と同じ波長域を有する残留光36を、放出光35から分離することができる。なお、本明細書および図に示した光路の配置は実施形態の一つであり、プリズム、ミラー、レンズなどの光学素子は、実現するシステムの実際の物理条件に応じて省略または追加することができる。
【0012】
イメージセンサー70の実施形態の一つは、画像処理に使用されるCCD、CMOS等の撮像素子アレイを含む2次元イメージセンサーである。また、イメージセンサー70は、画像処理装置であってもよい。イメージセンサー70では、生成されたスポットと所定の位置(理想位置、基準スポット)との2次元の差、および/または、スポットのサイズと理想サイズとの差(基準スポットのサイズ)を比較してもよく、それから位置ズレ(ミスアライメント)を求めることができる。
【0013】
アクチュエータ40によって制御される光学的相対位置は、ターゲット5および受光器(レシーバ)11自体の2D(二次元)または3D(三次元)の位置、向きおよび/または方向に加えて、ターゲット5と受光器11との間の光学的なルートまたはパス(光路または経路)を構成する、レンズ、プリズム、ミラーおよびそれらの支持プレート、ベース等の光学素子の2D(2次元)または3D(3次元)の位置、向きおよび/または方向を含んでいてもよい。ターゲット5とレシーバ11、特にレシーバ11の受光窓11aとの間の光学的アライメント(光学的な位置合わせ、光学的な位置関係)は、光学的相対位置に関わる各光学素子の位置、配向および方向のいずれかを含む要素のいずれかを変更することによって変化し、光学的相対位置に関わる要素の別のいずれかを変更することによって元の状態に回復または復元され得る。すなわち、光学的なアライメントを維持するために、変更した要素の物理的な位置(向きおよび/または方向を含む)を元に戻してもよく、他の要素の物理的な1つまたは複数の位置を変更してそれらの相対的な光学的関係を元に戻してもよい。
【0014】
アクチュエータ40は、ターゲット5を保持するターゲットホルダ45、信号取得モジュール10に含まれる受光光路12の少なくとも一部を支持する支持モジュール44、および受光光路12上の光の向きを変える光学素子の少なくとも1つを動かしてもよい。アクチュエータ40は、操作対象物を少なくとも2次元的に移動させる1つまたは複数のユニットを含んでもよい。本システム1では、ターゲットホルダ45も、サーボモータや圧電アクチュエータなどを用いてターゲット5を2D(2次元方向)に移動させたり回転させたりできるX-Y-θテーブルなどのアクチュエータであってもよい。ターゲットホルダ45は、X-Yテーブルであってもよいし、X-Y-Z-θテーブルであってもよい。また、支持モジュール44も、X-Y-θテーブル、X-Yテーブル、またはX-Y-Z-θテーブル等のアクチュエータであってもよい。受光光路12は、放出光35および残留光36を含む受光光(受信光)の向きを変えるプリズムおよび/またはミラー15を含んでもよい。アクチュエータ40は、ミラー15を移動および/または回転させるアクチュエータ46を含んでもよい。アライメント制御装置50aは、各アクチュエータ44、45、46の動きおよび動く量を個別に制御することで、ターゲット5と受光器11との間のアライメントを制御してもよい。
【0015】
放出光35、例えばCARS光やTD-CARS光を取得する受光器11の一例は、放出光35を光ファイバに導き、分光器や光検出器アレイ(CCD)等の検出器に供給するための入力レンズである。また、受光器11は、検出器(ディテクタ)60を兼ね、放出光35を受光し、ターゲット5内の試料の組成を分析するための検出信号39を出力することができる機能を有していてもよい。
【0016】
ターゲット5の一例としては、キュベットやカセットの試料容器(サンプルコンテナ)が挙げられる。システム1が最初のキュベットやカセットの試料容器で設定されている場合、90度以外に向きが変わると屈折の向きが変わり、受光光路12と光路14を含むビーム経路の変化を引き起こすことになる。システム1が角度誤差を考慮して較正されている場合、ターゲット5内の試料の屈折率が変化すると、角度誤差を考慮することが位置ずれ(ミスアライメント)の原因となる。同様に、ターゲット5およびシステム1の光路の他の要素を含むサンプリング構造の取り外しおよび再挿入、またはサンプリング構造の製造公差も位置ずれを起こす原因となる。検出経路のオートアライメントプロセス(自動位置合わせ処理)がアライメント制御装置50aにより行われ、アライメント制御装置50aは、放出信号(エミッションシグナル、エミッションライト、放出光)35の代わりとして、励起信号が前方に伝播して残留した光(残留励起光)36を利用する。この残留信号36は、通常、検出経路からフィルタリングで除去されるが、このシステム1では、この捨てられる信号は検出素子70にルーティングされ、検出素子により、基準となるケースからの焦点径とXY位置のシフト(変位、変化)を区別することが可能となる。そして、このフィードバックを用いて、調整可能なミラー15などをアクチュエータ40で駆動し、このシフトを補償して、再現性の高いサンプリングを可能にする。
【0017】
図2図4は、従来のシステム90におけるアライメントの状態を示す図である。
このシステム90では、受光器11(検出器60)の上流にフィルタ19が設置され、残留光36(励起光31)を遮断している。図2は、図2(b)に示すように、完全に調整された一例を示す図である。受光器11のピンホール11aのx方向の中心に放出光35のビーム35aが集中している。ビーム35aは、y方向においてもピンホール11aの中心に合わせている。集光されたビーム35aがピンホール11aにカットオフされることなく(あるいは僅かにカットオフされるかもしれないが)入射するように、信号がコリメートされ、完全に集光されている。
【0018】
図3は、図3(b)に示すように、x方向またはy方向にミスアライメント(ずれ)がある場合の例を示す図である。ビーム35aがピンホール11aでカットされ、強度が低下している。この位置ずれは、キュベットの角度がわずかに変化した場合や、温度変化によるミラーの移動などが原因である可能性がある。図4は、ビーム35aがコリメートされていないミスアライメントの例である。信号が完全に集光されず、ビーム35aが大きくなりすぎている。ビーム35aがピンホール11aより大きいため、カットオフや強度低下の原因となる。このようなミスアライメントは、試料の厚さが異なること、コリメーション用の対物レンズと試料との距離が変化したこと、屈折率の異なる試料であること等が原因であると考えられる。
【0019】
図5および図6は、本システム1におけるアライメントの状態を説明する図である。図6(a)は、完全なアライメント、すなわち、ビーム35aがピンホール11aのx方向およびy方向の中心にあり、集光されたビーム35aがピンホール11aにカットオフされることなく(あるいは僅かながらされてもよいが)入るように信号がコリメートされている状態に対応する2次元イメージセンサー(2D撮像センサー)70の検出結果79の一例を示している。このようなアライメント状態(位置合わせされた状態)において、センサー70に導かれた残留光36がセンサー70上に作るスポット36aが、基準スポット(参照スポット)76の基準位置(参照位置)および基準サイズ(参照サイズ)となる。
【0020】
図6(b)は、図3に示す状態に対応するx方向またはy方向のミスアライメントを示す2次元イメージセンサー70上の検出結果79の一例を示す図である。検出結果79における基準スポット76と残留光36のスポット36aとの位置の差(x-y位置)を参照することにより、アライメント制御装置(位置制御装置)50aは、ミスアライメント(位置ずれ)の量と方向とを把握し、または取得して、例えばターゲットホルダー45のx-yテーブルおよび/またはモータ制御もしくはピエゾ制御のミラー15といったアクチュエータ40を独立して、または協調して用いて、xおよびyのミスアライメントに対する補正(補償)を行うことができる。
【0021】
図6(c)は、図4に示す状態に対応するz方向のミスアライメント(ビームがコリメートされていない状態)を示す2次元イメージセンサー70での検出結果79の一例を示す図である。検出結果79における基準スポット76とスポット36aとのスポット径の差を参照することにより、アライメント制御装置(位置制御装置)50aは、ミスアライメントの量および方向を把握し、または取得して、アクチュエータ40、例えばターゲットホルダ45のx-yテーブルを用いてxおよびy方向のミスアライメントに対する補正を施すことができる。以上において説明したように、放出光(CARS信号)35は入力ビームと同一線上(共線的)であり、残留光(励起レーザ)36の方向またはポイントの位置(ポインティング)を代理として用いることができる。コリメーション(平行度)の変化は、リファレンス(最初の測定値)と比較することで検出され、自動的に調整または補正することができる。また、放出光35と残留光36とを含む入射光から残留光36を分離するためのセパレータ13は、従来のシステム90の励起レーザ31を遮断するためのフィルタ19として機能する。
【0022】
図7は、本システム1における処理(制御)の概要を示すフローチャートである。ステップ81において、コントローラ50の制御の下、イメージセンサー70から検出結果79を取得することにより、アライメントコントローラ50aは、ミスアライメント(位置ずれ)の有無を判断する。ステップ81でミスアライメントが検出されると、ステップ82において、アライメントコントローラ50aは、イメージセンサー70の検出結果79に応じて、ターゲット5と受光器11との光学的な位置関係を維持するようにアクチュエータ40を制御してミスアライメントを補正する。ステップ82において、コントローラ50aは、アクチュエータ40により、ターゲットホルダ45、支持モジュール44および光学素子15のうちの少なくとも1つを独立して、または協調して動かしてもよい。
【0023】
ステップ81でミスアライメントが検出されなかった場合、ステップ83で、解析モジュール50bは、検出器60により解析のための信号を取得する。ステップ84において、コントローラ50は、信号を分析することにより、ターゲット5内の試料の1つまたは複数の成分(構成要素)に関する情報を出力する。この処理(制御方法)は、メモリ53または他のコンピュータが読み取り可能な媒体(可読媒体)に格納された命令を含むプログラム(プログラム製品)53aによりコントローラ50に実装されてもよい。
【0024】
以上において説明したように、本発明では、スペクトロメータ(分光器)における光検出のためのオートビームアライメント(自動的な光線の位置合わせ方法、装置)が提供される。フォワードパススキャンニング光学系(前方照射走査光学系)では、サンプリング要素および、その内部に含まれる材料が、前方の光路を変化させることがある。キュベットやカセットといった試料容器でシステムをセットアップした場合、90度ではない角度変化は屈折を引き起こし、ビーム経路を変化させる。また、システムが角度誤差を考慮してキャリブレーション(較正、校正)されている場合、試料の屈折率が変化するとミスアライメントの要因となる。同様に、サンプリング機構の取り外しや再挿入、あるいはサンプリング機構の製造公差もミスアライメントの要因となる。そこで、前方に伝播した残留励起信号を放出信号(発生信号)の代わりとして利用する検出経路の自動アライメントプロセス(自動位置合わせ処理)を開発した。通常、この残留信号は検出経路からフィルタリング(除去)されるが、本例では、この廃棄される信号はセンサーエレメント(検出要素)に導かれ、基準となるケースからの焦点の径やXY方向の位置ずれを検出(区別)することができる。そして、そのフィードバックにより、位置ずれを補償するために調整可能なミラーを駆動することができ、再現性の高いサンプリングが可能となる。
【0025】
特定の実施形態の前述の説明は、本明細書の実施形態の一般的な性質を十分に明らかにするので、他者は、現在の知識を適用することによって、一般的な概念から逸脱することなく、係る特定の実施形態を容易に修正および/または様々な用途に適合させることができ、したがって、係る適合および修正は、開示した実施形態の意味および同等物の範囲で理解されるべきであるし、そうすることを意図するものである。本明細書で採用される言い回しまたは用語は、説明のためのものであり、限定するためのものではないことを理解されたい。したがって、本明細書では、好ましい実施形態について説明したが、当業者は、本明細書の実施形態が、添付の請求項の精神および範囲内で変更を加えて実施できることを認識するであろう。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-06-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットに含まれる成分に関連する情報を含む信号を取得するための信号取得モジュールと、コントローラとを有するシステムであって、
前記信号取得モジュールは、
励起光により前記ターゲットで発生した放出光が入力され、前記放出光から信号を生成する検出器と、
前記放出光と、前方に伝搬した前記励起光の少なくとも一部である残留光とを前記ターゲットと前記検出器との間に同軸的に導く受光光路と、
前記残留光を前記受光光路から分離してイメージセンサーに導くセパレータと、
分離された前記残留光を前記イメージセンサーに導く光路と、
前記ターゲットと前記検出器との間の光学的相対位置を制御するアクチュエータとを備え、
前記コントローラは、前記イメージセンサーの前記分離された残留光の検出結果に応じて前記ターゲットと、前記セパレータによりフィルタされた前記放出光を検出する前記検出器との間の光学的アライメントを維持するように前記アクチュエータを制御するよう構成されたモジュールを含む、システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記アクチュエータは、前記ターゲットを保持するターゲットホルダ、前記受光光路の少なくとも一部を支持する支持モジュール、および受光光路上の光の方向を変える光学素子の少なくとも1つを動かす、システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記アクチュエータは、目的物を少なくとも2次元的に動かすユニットを含む、システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記セパレータは、前記残留光と前記放出光とをそれらの波長の差によって分離するセパレータを含む、システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記励起光を発生させるように構成された発生器と、
前記検出器で受光した放出光のスペクトルを取得するように構成された分光器とをさらに有する、システム。
【請求項6】
ターゲットに含まれる成分に関連する情報を含む信号を取得する信号取得モジュールを含むシステムの制御方法であって、
前記信号取得モジュールは、励起光により前記ターゲットで発生した放出光が入力され、前記放出光から信号を生成する検出器と、
前記放出光と、前方に伝搬した前記励起光の少なくとも一部である残留光とを前記ターゲットと前記検出器との間に同軸的に導く受光光路と、
前記残留光を前記受光光路から分離し、前記残留光をイメージセンサーに導くセパレータと、
分離された前記残留光を前記イメージセンサーに導く光路と、
前記ターゲットと前記検出器との間の光学的相対位置を制御するアクチュエータとを備えており、
当該方法は、前記イメージセンサーの前記分離された残留光の検出結果に応じて前記ターゲットと、前記セパレータによりフィルタされた前記放出光を検出する前記検出器との間の光学的アライメントを維持するように前記アクチュエータを制御することを含む、方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記制御することは、前記ターゲットを保持するターゲットホルダ、前記受光光路の少なくとも一部を支持する支持モジュール、および前記受光光路上の光の向きを変える光学素子の少なくとも1つを前記アクチュエータにより動かすことを含む、方法。
【請求項8】
ターゲットに含まれる成分に関する情報を含む信号を取得する信号取得モジュールを備えるシステムを制御するためのプログラムであって、
前記信号取得モジュールは、励起光により前記ターゲットで発生した放出光が入力され、前記放出光から信号を生成する検出器と、
前記放出光と、前方に伝搬した前記励起光の少なくとも一部である残留光とを前記ターゲットと前記検出器との間に同軸的に導く受光光路と、
前記残留光を前記受光光路から分離し、前記残留光をイメージセンサーに導くセパレータと、
分離された前記残留光を前記イメージセンサーに導く光路と、
前記ターゲットと前記検出器との光学的相対位置を制御するアクチュエータとを備え、
当該プログラムは、前記イメージセンサーの前記分離された残留光の検出結果に応じて前記ターゲットと、前記セパレータによりフィルタされた前記放出光を検出する前記検出器との光学的アライメントを維持するよう前記アクチュエータを制御する、コントローラの指示を含む、プログラム。
【国際調査報告】