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特表2023-544094硬化性シリコーン組成物及びその硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】硬化性シリコーン組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/20 20060101AFI20231013BHJP
   C08G 59/68 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08G59/20
C08G59/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023516487
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-03-13
(86)【国際出願番号】 US2021052167
(87)【国際公開番号】W WO2022072271
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】63/084,890
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジナ
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA05
4J036AK17
4J036GA03
4J036GA22
4J036GA24
4J036HA02
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA07
(57)【要約】
硬化性シリコーン組成物を提供する。組成物は、(A)一価芳香族炭化水素基を有するエポキシ官能性シリコーン樹脂と、(B)エポキシ官能性シリコーンと、(C-1)ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤及び(C-2)スルホニウム塩型カチオン性光開始剤を含むカチオン性光開始剤と、の混合物を含む。組成物は、UV照射による、そして、更なる加熱による優れた硬化性を有し、一般に、優れた透明性を有する硬化物を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性シリコーン組成物であって、
(A)以下の平均単位式で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂であって、
【化1】

式中、各Rが、C1~6一価脂肪族炭化水素基、C6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から選択される、同じか又は異なる有機基であるが、ただし、全Rの少なくとも約15mol%が、C6~10一価芳香族炭化水素基であり、「a」、「b」、「c」、及び「d」が、0≦a<0.4、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.4、0.1≦b/c≦0.6、かつa+b+c+d=1の条件を満たす数であり、全シロキサン単位の約2~約30mol%が、一価エポキシ置換有機基を有する、エポキシ官能性シリコーン樹脂と、
(B)以下の一般式で表されるエポキシ官能性シリコーンであって、
【化2】

式中、各Rが、C1~6一価脂肪族炭化水素基及びC6~10一価芳香族炭化水素基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、各Xが、一価エポキシ置換有機基及び以下の一般式で表されるエポキシ官能性シロキシ基から選択される、同じか又は異なる基であり、
【化3】

式中、各Rが、同じか又は異なるC1~6一価脂肪族炭化水素基であり、Rが、C2~6アルキレン基であり、Xが、一価エポキシ置換有機基であり、「x」が、約0~約5の数であり、「m」は、約0~約100の数であり、成分(A)、(B)、及び(C)の総質量の約5質量%~約40質量%の量である、エポキシ官能性シリコーンと、
(C)カチオン性光開始剤の混合物であって、
(C-1)ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤、及び
(C-2)スルホニウム塩型カチオン性光開始剤を成分(A)、(B)、及び(C)の総質量の約0.2質量%~約2質量%の量で含むカチオン性光開始剤の混合物と、
を含む、硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
成分(A)における前記一価エポキシ置換有機基が、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基、及びエポキシアルキル基から選択される基である、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
成分(B)における前記一価エポキシ置換有機基が、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基、及びエポキシアルキル基から選択される基である、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
(C-1)成分が、以下の一般式で表される構造を有するヨードニウム塩型カチオン性光開始剤
【化4】

[式中、各Rは、同じまたは異なるC1~6アルキル基、C6~24アリール基、または置換C6~24アリール基であり、Xは、非求核性非塩基性アニオンである]である、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
(C-2)成分が、以下の一般式で表される構造を有するスルホニウム塩型カチオン性光開始剤:
【化5】

又は以下の一般式で表される構造を有するスルホニウム塩型カチオン性光開始剤:
【化6】

[式中、各R及びXは、上記と同じであり、Rは、非置換又はヘテロ原子で置換された二価炭化水素基である]である、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項6】
成分(C-1):成分(C-2)の質量比が、1:10~10:1の範囲である、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物であって、
(D)成分(A)、(B)、(C)、及び(D)の総質量の約0.01~約5質量%の量の接着促進剤を更に含む、硬化性シリコーン組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物を硬化させることによって得られる、硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年9月29日に出願された米国仮特許出願第63/084,890号の優先権及び全ての利益を主張するものであり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、硬化性シリコーン組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0003】
エポキシ官能性シリコーンは、紫外線(「UV」)を照射することによって硬化させることができる硬化性シリコーン組成物に使用される。例えば、特許文献1は、硬化性シリコーン組成物を開示しており、この組成物は、平均単位式(RSiO1/2(RSiO2/2ii(RSiO3/2iii(SiO4/2ivで表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂であって、式中、各Rは、C1~6一価脂肪族炭化水素基、C6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から独立して選択される有機基であり、0≦i<0.4、0<ii<0.5、0<iii<1、0≦iv<0.4、0.1≦ii/iii≦0.3、i+ii+iii+iv=1であり、当該樹脂が、少なくとも約2,000の数平均分子量を有し、当該有機基の少なくとも約15mol%が、C6~10一価芳香族炭化水素基であり、シロキサン単位の約2~約50mol%が、エポキシ置換有機基を有する、エポキシ官能性シリコーン樹脂と;一般式R”R’SiO(R’SiO)SiR’R”で表されるエポキシ官能性シリコーンオリゴマーであって、式中、各R’は、C1~8アルキル基であり、各R”は、エポキシ置換有機基であり、「v」は、0又は正の整数である、エポキシ官能性シリコーンオリゴマーと;カチオン性光開始剤と;を含み、当該組成物は、UV光線を照射することによって硬化させることができる。
【0004】
しかしながら、このような硬化性シリコーン組成物は、組成物が十分に硬化されない、又は硬化物の透明性及び機械的特性が不十分であるという問題を有する。
【0005】
したがって、良好な透明性を有する硬化物を形成するために、UV照射による、そして、更なる加熱による優れた硬化性を有する硬化性シリコーン組成物を開発することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/154626(A1)号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な透明性を有する硬化物を形成するために、UV照射による、そして、更なる加熱による優れた硬化性を有する硬化性シリコーン組成物を提供することである。本発明の別の目的は、優れた透明性を有する硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、
(A)以下の平均単位式で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂であって、
【化1】

式中、各Rは、C1~6一価脂肪族炭化水素基、C6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、ただし、全Rの少なくとも約15mol%は、C6~10一価芳香族炭化水素基であり、「a」、「b」、「c」、及び「d」は、0≦a<0.4、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.4、0.1≦b/c≦0.6、かつa+b+c+d=1の条件を満たす数であり、全シロキサン単位の約2~約30mol%は、一価エポキシ置換有機基を有する、エポキシ官能性シリコーン樹脂と、
(B)以下の一般式で表されるエポキシ官能性シリコーンであって、
【化2】

式中、各Rは、C1~6一価脂肪族炭化水素基及びC6~10一価芳香族炭化水素基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、各Xは、一価エポキシ置換有機基及び以下の一般式で表されるエポキシ官能性シロキシ基から選択される、同じか又は異なる基であり、
【化3】

式中、各Rは、同じか又は異なるC1~6一価脂肪族炭化水素基であり、Rは、C2~6アルキレン基であり、Xは、一価エポキシ置換有機基であり、「x」は、約0~約5の数であり、
「m」は、約0~約100の数であり、成分(A)、(B)、及び(C)の総質量の約5質量%~約40質量%の量である、エポキシ官能性シリコーンと、
(C)成分(A)、(B)及び(C)の総質量の約0.2質量%~約2質量%の量の、(C-1)ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤及び(C-2)スルホニウム塩型カチオン性光開始剤を含むカチオン性光開始剤の混合物と、
を含む。
【0009】
様々な実施形態では、成分(A)における一価エポキシ置換有機基は、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基、及びエポキシアルキル基から選択される基である。
【0010】
様々な実施形態では、成分(B)における一価エポキシ置換有機基は、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基、及びエポキシアルキル基から選択される基である。
【0011】
様々な実施形態では、成分(C-1)は、典型的には、以下の一般式で表される構造を有するヨードニウム塩型カチオン性光開始剤である:
【化4】

[式中、各Rは、同じ又は異なるC1~6アルキル基、C6~24アリール基、又は置換C6~24アリール基であり、Xは、非求核性非塩基性アニオンである]。
【0012】
様々な実施形態では、成分(C-2)は、典型的には、以下の式で表される構造を有するスルホニウム塩型カチオン性光開始剤:
【化5】

又は以下の式で表される構造を有するスルホニウム塩型カチオン性光開始剤である:
【化6】

[式中、各R及びXは、上記と同じであり、Rは、非置換又はヘテロ原子で置換された二価炭化水素基である]。
【0013】
様々な実施形態では、成分(C-1):成分(C-2)の質量比は、典型的には、1:10~10:1の範囲である。
【0014】
様々な実施形態では、硬化性シリコーン組成物は、成分(A)、(B)、(C)、及び(D)の総質量の約0.01~約5質量%の量の(D)接着促進剤を更に含む。
【0015】
本発明の硬化物は、上記の硬化性シリコーン組成物を硬化させることにより得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、優れた透明性を有する硬化物を形成するために、UV照射による、そして、更なる加熱による優れた硬化性を有する。一方、本発明の硬化物は優れた透明性を有する。
【発明の詳細な説明】
【0017】
「含むこと(comprising)」又は「含む(comprise)」という用語は、本明細書において、それらの最も広い意味で、「含むこと(including)」、「含む(include)」、「から本質的になる(consist(ing) essentially of)」、及び「からなる(consist(ing) of)」という観念を意味し、包含するように使用されている。実例を列記する「例えば(for example)」「例えば(e.g.,)」、「例えば/など(such as)」及び「が挙げられる(including)」の使用は、列記されている例のみに限定しない。したがって、「例えば(for example)」又は「例えば/など(such as)」は、「例えば、それらに限定されないが(for example,but not limited to)」又は「例えば、それらに限定されないが(such as,but not limited to)」を意味し、他の類似した、又は同等の例を包含する。本明細書で使用されている「約(about)」という用語は、機器分析により測定した、又は試料を取り扱った結果としての数値のわずかな変動を、合理的に包含若しくは説明する働きをする。このようなわずかな変動は、数値の±0~25%、±0~10%、±0~5%、又は±0~2.5%程度であり得る。更に、「約」という用語は、ある範囲の値に関連する場合、数値の両方に当てはまる。更に、「約」という用語は、明確に記載されていない場合であっても、数値に当てはまることがある。一般に、本明細書で使用するとき、「>」は「~を上回る」又は「超」であり、「≧」は「少なくとも(at least)」又は「以上(greater-than or equal to)」であり、「<」は「~を下回る(below)」又は「未満(less-than)」であり、「≦」は「多くとも(at most)」又は「以下(less-than or equal to)」である。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「エポキシ官能性」又は「エポキシ置換」は、エポキシ置換基である酸素原子が炭素鎖又は環系の2個の隣接する炭素原子に直接結合される官能基を指す。エポキシ置換官能性基の例としては、2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基などのグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシロ(cylo)ヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシロヘキシル)プロピル基、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシロヘキシル)-2-メチルエチル基、2-(2,3-エポキシシロペンチル)エチル基、3-(2,3-エポキシシロペンチル)プロピル基などの(3,4-エポキシシクロアルキル)アルキル基;並びに2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、4,5-エポキシペンチル基などのエポキシアルキル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
<硬化性シリコーン組成物>
成分(A)は、以下の平均シロキサン単位式で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂である:
【化7】
【0020】
式中、各Rは、C1~6一価脂肪族炭化水素基、C6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から選択される、同じか又は異なる有機基である。
【0021】
成分(A)におけるC1~6一価脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等のC1~6アルキル基;ビニル基、アリル基、及びヘキセニル基等のC2~6アルケニル基;並びに3-クロロプロピル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等のC1~6ハロゲン化アルキル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基が一般に好ましい。
【0022】
成分(A)におけるC6~10一価芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基が挙げられる。それらの中でも、フェニル基が一般に好ましい。
【0023】
成分(A)における一価エポキシ置換有機基の例としては、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、及び5-グリシドキシペンチル基などのグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシロヘキシル)エチル、3-(3,4-エポキシシロヘキシル)プロピル、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシロヘキシル)-2-メチルエチル、2-(2,3-エポキシシロペンチル)エチル、及び3-(2,3-エポキシシロペンチル)プロピルなどの3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基;並びに2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、及び4,5-エポキシペンチル基などのエポキシアルキル基が挙げられる。それらの中でも、3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基が一般に好ましい。
【0024】
成分(A)において、全Rの少なくとも約15mol%、任意に少なくとも約20mol%、又は任意に少なくとも約25mol%は、C6~10一価芳香族炭化水素基である。一価芳香族炭化水素基の含有量が上記の下限以上であれば、硬化物の光透過率が向上し得、同様にその機械的特性も向上する。
【0025】
式中、「a」、「b」、「c」、及び「d」は、0≦a<0.4、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.4、0.1≦b/c≦0.6、かつa+b+c+d=1、任意にa=0、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.2、0.1<b/c≦0.6、かつb+c+d=1、又は任意にa=0、0<b<0.5、0<c<1、d=0、0.1<b/c≦0.6、かつb+c=1の条件を満たすモル分率及び数である。「a」は、0≦a<0.4、任意に0≦a<0.2、又は任意にa=0であるが、それは、(R SiO1/2)シロキサン単位が多過ぎると、エポキシ含有オルガノポリシロキサン樹脂(A)の分子量が低下するためであり、また(SiO4/2)シロキサン単位が導入されると、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)の硬化物の硬さが著しく増加し、硬化物が脆くなりやすくなる場合がある。この理由から、「d」は、0≦d<0.4、任意に0≦d<0.2、又は任意にd=0である。加えて、(R SiO2/2)単位と(RSiO3/2)単位とのモル比「b/c」は、約0.1以上かつ約0.6以下であり得る。いくつかの例では、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)の製造において、この範囲から外れると、不溶性の副生成物を生じる、強靭性の低下により生成物が亀裂しやすくなる、又は、生成物の強度及び弾性が低くなり引っかき傷がつきやすくなる恐れがある。いくつかの例では、モル比「b/c」の範囲は、約0.1より大きく、約0.6以下である。エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)は、(R SiO2/2)シロキサン単位及び(RSiO3/2)シロキサン単位を含み、その分子構造は、ほとんどの場合、網状組織構造又は三次元構造であるが、それは「b/c」のモル比が約0.1より大きく、約0.6以下であるためである。したがって、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)では、(R SiO2/2)シロキサン単位及び((RSiO3/2)シロキサン単位は存在するが、(R SiO1/2)シロキサン単位及び(SiO4/2)シロキサン単位は任意選択の構成単位である。すなわち、以下の平均単位式を含むエポキシ官能性シリコーン樹脂が存在し得る。
【化8】
【0026】
成分(A)において、分子中の全シロキサン単位の約2~約30mol%、任意に約10mol%~約30mol%、又は任意に約15mol%~約30mol%のシロキサン単位は、エポキシ置換有機基を有する。上記範囲の下限以上のこのようなシロキサン単位が存在すれば、硬化中の架橋密度が向上し得る。一方、この量が上記範囲の上限以下であると、硬化物の光透過率及び耐熱性の向上をもたらし得るため、好適であり得る。エポキシ官能性の一価の炭化水素基中、エポキシ基は、アルキレン基を介してケイ素原子に結合することができ、これにより、エポキシ基はケイ素原子に直接結合しない。エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)は、周知の従来の製造方法によって生成することができる。
【0027】
エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)の重量平均分子量に関して特に制限はないが、硬化物の強靱性及び有機溶媒中でのその溶解度を考慮すると、いくつかの実施形態では、分子量は、約10以上かつ約10以下である。一実施形態では、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A)は、異なる量及び種類のエポキシ含有有機基及び一価炭化水素基を有する、又は異なる分子量を有する、2種以上のこのようなエポキシ官能性シリコーン樹脂の組み合わせを含む。
【0028】
成分(B)は、以下の一般式で表されるエポキシ官能性シリコーンである:
【化9】
【0029】
式中、各Rは、C1~6一価脂肪族炭化水素基及びC6~10一価芳香族炭化水素基から選択される、同じか又は異なる有機基である。
【0030】
成分(B)におけるC1~6一価脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等のC1~6アルキル基;ビニル基、アリル基、及びヘキセニル基等のC2~6アルケニル基;並びに3-クロロプロピル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等のC1~6ハロゲン化アルキル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基が一般に好ましい。
【0031】
成分(B)におけるC6~10一価芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基が挙げられる。それらの中でも、フェニル基が一般に好ましい。
【0032】
式中、各Xは、一価エポキシ置換有機基及び以下の一般式で表されるエポキシ官能性シロキシ基から選択される、同じか又は異なる基である:
【化10】
【0033】
の一価エポキシ置換有機基の例としては、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、及び5-グリシドキシペンチル基等のグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシロヘキシル)エチル、3-(3,4-エポキシシロヘキシル)プロピル、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシロヘキシル)-2-メチルエチル、2-(2,3-エポキシシロペンチル)エチル、及び3-(2,3-エポキシシロペンチル)プロピルなどの3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基;並びに2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、及び4,5-エポキシペンチル基などのエポキシアルキル基が挙げられる。それらの中でも、3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基が一般に好ましい。
【0034】
上記の一般式中、各Rは、同じか又は異なるC1~6一価脂肪族炭化水素基である。RのC1~6一価脂肪族炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等のC1~6アルキル基;ビニル基、アリル基、及びヘキセニル基などのC2~6アルケニル基;並びに3-クロロプロピル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基などのC1~6ハロゲン化アルキル基が挙げられる。それらの中でも、メチル基が一般に好ましい。
【0035】
上記の一般式中、Rは、C2~6アルキレン基である。RのC2~6アルキレン基の例としては、エチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、及びヘキシレン基が挙げられる。それらの中でも、エチレン基が一般に好ましい。
【0036】
上記の一般式中、Xは、一価エポキシ置換有機基である。Xの一価エポキシ置換有機基の例としては、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、及び5-グリシドキシペンチル基などのグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシロヘキシル)エチル、3-(3,4-エポキシシロヘキシル)プロピル、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシロヘキシル)-2-メチルエチル、2-(2,3-エポキシシロペンチル)エチル、及び3-(2,3-エポキシシロペンチル)プロピルなどの3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基;並びに2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、及び4,5-エポキシペンチル基などのエポキシアルキル基が挙げられる。それらの中でも、3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基が一般に好ましい。
【0037】
上記の一般式中、「x」は、約0~約5、任意に約0~約2、又は任意に約0の数である。
【0038】
上記の一般式中、「m」は、約0~約100、任意に約0~約20、又は任意に約0~約10の数である。「m」が上記範囲の上限以下である場合、硬化物の機械的強度が向上し得る。
【0039】
25℃における成分(B)の状態は、限定されないが、一般に液体である。成分(B)の25℃における粘度は限定されないが、その粘度は、一般に約5~約100mPa・sの範囲内である。なお、本明細書において、粘度は、ASTM D 1084に従ってB型粘度計を用いて23±2℃において測定した値である。
【0040】
成分(B)の含有量は、成分(A)、(B)、及び(C)の総質量の約5質量%~約40質量%の量、任意に約10質量%~約40質量%の量、任意に約10質量%~約35質量%の量、又は任意に約10質量%~約30質量%の量である。成分(B)の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化物の可撓性及び衝撃強度が向上し得る。一方、含有量が上記範囲の上限以下であると、硬化物の強靭性及び引張強度が向上し得る。
【0041】
成分(C)は、エポキシ官能性シリコーンのための光開始剤として使用されるカチオン性光開始剤であり、(C-1)ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤及び(C-2)スルホニウム塩型カチオン性光開始剤を含むカチオン性光開始剤の混合物である。
【0042】
(C-1)成分のヨードニウム塩型カチオン性光開始剤は、限定されないが、好ましくは、以下の一般式で表される構造を有する化合物である:
【化11】
【0043】
式中、Rは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、及び他のC1~6アルキル基;フェニル、ナフチル、ビフェニル、トリル、プロピルフェニル、デシルフェニル、ドデシルフェニル、及び他のC6~24アリール基;又はアルキル基、アリール基、アルコキシ基、メルカプト原子、酸素原子、若しくは他のヘテロ原子置換アリール基を表し得、式中、Xは、SbF 、AsF 、PF 、BF 、B(C 、HSO 、ClO 、CFSO 、ノナフルオロブタンスルホネート、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート、トリス(ノナフルオロイソブチル)トリフルオロホスフェート、ビス(ノナフルオロブチルイソブチル)テトラフルオロホスフェート、及び他の非求核性非塩基性アニオンを表し得る。
【0044】
式中、各Rは、好ましくは、C6~24アリール基であるか、又はアルキル基若しくはアルコキシ基置換アリール基である。ジアリールヨードニウム塩のカチオン部分の具体例としては、ジフェニルヨードニウム、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウム、4-メチル-4’-メチル-プロピルジフェニルヨードニウム、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、4-メトキシフェニルフェニルヨードニウムが挙げられる。
【0045】
ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤の具体例としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【化12】

【化13】

【化14】

上記式中、「Me」、「i-Pr」、及び「t-Bu」は、それぞれ、メチル基、イソプロピル基、及びtert-ブチル基を示し、Xは、上記と同様である。
【0046】
ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤の具体的な商品名としては、TR-PAG-30101、30201、30408、30401s、及び31102(TRONYLによって製造)等が挙げられる。
【0047】
一方、(C-2)成分のスルホニウム塩型カチオン性光開始剤は、限定されないが、好ましくは、以下の式で表される構造を有する化合物:
【化15】

又は以下の式で表される構造を有する化合物である:
【化16】
【0048】
式中、各R及びXは、上記と同様である。
【0049】
式中、Rは、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、及び他のC1~6アルキレン基等の非置換又はヘテロ原子で置換された二価炭化水素基;フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、トリレン基、プロピルフェニレン基、デシルフェニレン基、ドデシルフェニレン基、及び他のC6~24アリーレン基;並びにフェニル-チオ-フェニレン基、フェニレン-オキシ-フェニレン基、又はメルカプト、酸素、若しくは他のヘテロ原子で置換された二価炭化水素基を表し得る。
【0050】
トリアリールスルホニウム塩のカチオン部分の具体例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニル-4-メチルフェニルスルホニウム、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウム、ジフェニル-2,4,6-トリメチルフェニルスルホニウム、及び4-(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム等が挙げられる。
【0051】
式中、各Rは、好ましくは、C6~24アリール基であるか、又はアルキル基、アリール基、若しくはメルカプト置換アリール基であり、Rは、好ましくは、チオ置換二価基である。ヨードニウム塩型カチオン性光開始剤の例としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【化17】

【化18】

【化19】

【化20】

【化21】

上記式中、「Me」は、メチル基を示し、Xは、上記と同じであり、各Rは、同じ若しくは異なるアルキル基、アリール基、アルコキシ基、又はメルカプト原子、酸素原子、若しくは他のヘテロ原子含有有機基である。
【0052】
スルホニウム塩型カチオン性光開始剤の具体的な商品名としては、CPI(登録商標)-100P、101A、200K、210S、310B、410S(Sunapro Inc.製)、CPI-310B、TR-PAG-21608(TRONYL製)等が挙げられる。
【0053】
(C)成分において、(C-1)成分:(C-2)成分の質量比は、限定されないが、典型的には、1:10~10:1の範囲、あるいは1:5~5:1の範囲である。これは、質量比が上記範囲内であると、組成物が、紫外線、そして、更なる加熱による優れた硬化性を示すためである。
【0054】
更に、本発明の目的を損なわない限り、本組成物は、(C-1)成分及び(C-2)成分以外のカチオン性光開始剤を含んでいてもよい。セレノニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、パラトルエンスルホン酸塩、トリクロロメチル置換トリアジン、及びトリクロロメチル置換ベンゼン等の当業者に既知の他のカチオン性光開始剤を使用してもよい。セレノニウム塩の例としては、式R Seで表される塩を挙げることができ、ホスホニウム塩の例としては、式R で表される塩を挙げることができ、ジアゾニウム塩の例としては、式R で表される塩を挙げることができ、R及びXは、R に関して本明細書に記載したものと同じであり、パラトルエンスルホン酸塩の例としては、式CHSOc1で表される化合物を挙げることができ、式中、Rc1は、ベンゾイルフェニルメチル基、フタルイミド基等の電子吸引基を含む有機基を表す。トリクロロメチル置換トリアジンの例としては、[CC1c2で表される化合物を挙げることができ、式中、Rc2は、フェニル、置換又は非置換フェニルエチル、置換又は非置換フラニルエチニル、及び他の電子吸引基を表す。トリクロロメチル置換ベンゼンの例としては、CClc3で表される化合物を挙げることができ、式中、Rは、R に関して本明細書に記載したものと同じであり、Rc3は、ハロゲン基、ハロゲン置換アルキル基、及び他のハロゲン含有基を表す。
【0055】
光開始剤の例としては、例えば、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、ジ(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート塩、及びp-クロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートを挙げることができる。
【0056】
成分(C)の含有量は、成分(A)、(B)、及び(C)の総質量の約0.2質量%~約2質量%の量、任意に約0.2質量%~約1質量%の量、又は任意に約0.2質量%~約0.8質量%の量である。成分(C)の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化性シリコーン組成物が十分に硬化される。一方、含有量が上記範囲の上限以下であると、硬化物の光学性能が向上し得る。
【0057】
本組成物は、上記の成分(A)~(C)を含むが、本組成物の硬化物により良好な機械的強度を付与するために、(D)接着促進剤、及び/又は光増感剤、及び/又はアルコール、及び/又は無機充填剤を含有していてもよい。
【0058】
成分(D)は、接着促進剤である。接着促進剤の例としては、エポキシ官能性アルコキシシラン、例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジエトキシシラン、及びそれらの組み合わせ;不飽和アルコキシシラン、例えば、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、ウンデシレニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、及びそれらの組み合わせ;ケイ素原子結合のアルコキシ基を有するエポキシ官能性シロキサン、例えば、ヒドロキシ末端ポリオルガノシロキサンとエポキシ官能性アルコキシシラン(例えば、上述したもののいずれか)との反応生成物、又はヒドロキシ末端ポリオルガノシロキサンとエポキシ官能性アルコキシシランとの物理的ブレンドが挙げられる。接着促進剤は、エポキシ官能性アルコキシシランとエポキシ官能性シロキサンとの組み合わせを含み得る。例えば、接着促進剤は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、ヒドロキシ末端メチルビニルシロキサン及び3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応生成物と、の混合物、又は3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとヒドロキシ末端メチルビニルシロキサンとの混合物、又は3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとヒドロキシ末端メチルビニル/ジメチルシロキサンコポリマーとの混合物によって例示される。
【0059】
成分(D)の含有量は、限定されないが、一般に成分(A)、(B)、(C)、及び(D)の総質量の約0.01~約5質量%の量、又は任意に約0.1~約2質量%の量である。成分(D)の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化物の接着性が向上し得る。一方、上記範囲の上限以下であると、硬化物の機械的特性が向上し得る。
【0060】
光増感剤の例としては、イソプロピル-9H-チオキサンテン-9-オン、アントロン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2,4-ジエチル-9H-チオキサンテン-9-オン、2-イソプロピルチオキサンテン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(BHT)、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[{3,5-ビス(1,1-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル}ホスホネート、3 3’,3”,5,5’,5”-ヘキサン-tert-ブチル-4-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、及びヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。
【0061】
光増感剤の含有量は、限定されないが、一般に成分(A)、(B)、(C)、及び光増感剤の総質量の約0.001~約1質量%の範囲内、任意に約0.005~約0.5質量%の範囲内、又は任意に約0.005~約0.1質量%の範囲内である。光増感剤の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化物の硬化性が向上し得る。一方、上記範囲の上限以下であると、硬化物の光学的クリアランスが向上し得る。
【0062】
アルコールの例としては、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-オクタノール、オレイルアルコール、1-ヘキサデカノール、及びステアリルアルコールなどの一価アルコール;並びにエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,10-デカンジオール、グリセロール、及びペンタエリスリトールなどの多価アルコールが挙げられる。
【0063】
アルコールの含有量は、限定されないが、一般に成分(A)、(B)、(C)、及びアルコールの総質量の約0.01~約10質量%の量、又は任意に約0.1~約10質量%の量である。
【0064】
無機充填剤は、硬化物の機械的強度を高める。充填剤の例としては、微粉化処理された若しくは未処理の沈殿シリカ、又はヒュームドシリカ、沈殿又は粉砕炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、微粉化カオリンなどの粘土、石英粉末、水酸化アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、珪藻土、珪灰石、葉ろう石(pyrophylate)、及びヒュームド又は沈殿二酸化チタン、酸化セリウム、酸化マグネシウム粉末、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物の1つ以上が挙げられる。
【0065】
充填剤の含有量は、限定されないが、一般に成分(A)、(B)、(C)、及び充填剤の総質量の約1~約95質量%の範囲内、任意に約5~約95質量%の範囲内、又は任意に約5~約90質量%の範囲内である。
【0066】
本組成物は、UV光線(すなわち、紫外線(「UV」)光)の照射によって硬化させることができる。例えば、低圧、高圧、若しくは超高圧水銀ランプ、ハロゲン化金属ランプ、(パルス)キセノンランプ、又は無電極ランプは、UVランプとして有用である。照射線量は、一般に約5~約6,000mJ/cmの範囲内、又は任意に約10~約4,000mJ/cmの範囲内である。
【0067】
<硬化物>
本組成物は、UV光線を照射することによって硬化されると、硬化物を形成する。本発明によるこの硬化物は、ASTM D2240に規定されるショアD硬度を用いて測定するとき、少なくとも20以上95以下の範囲、典型的には少なくとも30以上80以下の範囲、より典型的には少なくとも30以上70以下の範囲の硬度を有する。これについての理由は以下のとおりである:硬化物の硬度が記載範囲の下限未満であると、硬化物の有する強度は不十分な場合があり、他方、記載範囲の上限を超えると、対象硬化物の可撓性が不十分になる傾向がある。
【0068】
満足な可撓性を示すために、この硬化物は、ASTM D412に規定される、少なくとも10%の伸びを有し得る。これについての理由は、示された範囲未満では硬化物の可撓性が不十分になるためである。
【0069】
本発明の硬化物は、可撓性かつ高透明性であるため、光、例えば、可視光、赤外線、紫外線、遠紫外線、X線、レーザーなどに対して透過性の光学部材又は部品として有用である。本発明の硬化物はまた、例えば屈曲又は湾曲状態で使用するために、可撓性でなければならない光学部材又は部品としても有用であり、また高エネルギー高出力光を伴うデバイス用の光学部材又は部品としても有用である。加えて、本発明の硬化シリコーン材料を任意の様々な基材と共に単一の物品又は本体に形成した複合材料を作製することによって、可撓性かつ高透明性の硬化物層を有する物品又は部品を作製することができ、硬化物層から衝撃緩和及び応力緩和機能を期待することもできる。
【実施例
【0070】
ここで、本発明の硬化性シリコーン組成物及び硬化物を、実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。式中、「Me」、「Pr」、「Vi」、「Ph」、「Gly」、及び「Ep」はそれぞれ、メチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基を示すことに留意されたい。3-グリシドキシプロピル基及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基。実施例において使用されるエポキシ官能性シリコーン樹脂の構造は、13C NMR及び29Si NMR計測を行うことにより、決定した。エポキシ官能性シリコーン樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレンスタンダードとの比較に基づいてGPCを用いて計算した。エポキシ官能性シリコーン及びシリコーン樹脂の粘度は、以下のように測定した。
【0071】
<粘度>
23±2℃での粘度を、ASTM D 1084「Standard Test Methods for Viscosity of Adhesive」に従って、B型粘度計(Brookfield HA又はHB Type回転粘度計、スピンドル#52を使用、5rpm)を使用することによって測定した。
【0072】
<実施例1~2及び比較例1~3>
以下の成分を使用して、表1に示す硬化性シリコーン組成物(質量%)を調製した。
【0073】
以下のエポキシ官能性シリコーン樹脂を、成分(A)として使用した。
(a1):2,000~6,000の重量平均分子量を有し、以下の平均単位式で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂:
【化22】
【0074】
以下のエポキシ官能性シリコーンを、成分(B)として使用した。
(b1):40mPa・sの粘度、382の重量平均分子量を有し、以下の式で表されるエポキシ官能性シリコーン:
【化23】
【0075】
以下のカチオン性光開始剤を、成分(C-1)として使用した。
(c1):以下の式で表される4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩:
【化24】

(TRONYL製TR-PAG-30408)
【0076】
以下のカチオン性光開始剤を、成分(C-2)として使用した。
(c2):以下の式で表される構造を有するトリアリールスルホニウムホウ酸塩:
【化25】

(TRONYL製CPI-310B)
(c3):以下の式で表されるトリアリールスルホニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩:
【化26】

(TRONYL製TR-PAG-21608)
【0077】
以下の成分を、成分(D)として使用した。
(d1):4800mPa・sの粘度、2,200の重量平均分子量を有し、以下の平均単位式で表されるシリコーン樹脂:
【化27】
【0078】
以下の成分を、光増感剤として使用した。
(e1):2-イソプロポキシチオキサントン
【0079】
<硬化性シリコーン組成物の硬化性>
約0.1~3gの各硬化性シリコーン組成物をスライドガラスに載せた。バーコーターによって表面レベルを平らにした後、5000mW/cmの光強度のD型電球を有するハロゲン化金属UVランプ又は365nm、5000mJ/cmのLEDに通して、硬化性シリコーン組成物を硬化する。以下のように、硬化物を評価した。その硬化物の特性を表1に示す。
○○:急速に硬化(より低い光強度であっても硬化することができる。)
○:硬化した
×:硬化せず
【0080】
<135℃で1時間における加熱硬化性>
約0.1~3gの各硬化性シリコーン組成物をスライドガラスに載せた。バーコーターによって表面レベルを平らにした後、135℃に設定した対流オーブンに1時間通して、硬化性シリコーン組成物を硬化する。以下のように、硬化物を評価した。その硬化物の特性を表1に示す。
○○:急速に硬化(より低い光強度であっても硬化することができる。)
○:硬化した
×:硬化せず
【0081】
<シャドウ領域における硬化性:UV(LED365nm、5000mJ/cm)+加熱(135℃/1時間)>
約0.1~3gの各硬化性シリコーン組成物を黒色アクリル基材に載せた。バーコーターによって表面レベルを平らにした後、シャドウ領域を作製すために、一部を黒色アクリル基材で覆った。LEDランプ365nm、5000mJ/cmに通し、続いて、熱硬化(135℃/1時間)して、硬化性シリコーン組成物を硬化する。以下のように、シャドウ領域における硬化物を評価した。その硬化物の特性を表1に示す。
○○:急速に硬化(より低い光強度であっても硬化することができる。)
○:硬化した
×:硬化せず
【0082】
<光学性能(イエローインデックス<5)>
サンドイッチガラス構造の約150マイクロメートルの厚さを有するサンプルを調製した。UV又は熱又はUV+熱に通して、硬化性シリコーン組成物を硬化する。イエローインデックス(ASTM D1925)を分光計によって測定した。以下のように、シャドウ領域における硬化物を評価した。その硬化物の特性を表1に示す。
○:イエローインデックス<5
×:イエローインデックス≧5
【0083】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、UV光線を照射することによって硬化させることができる。したがって、本組成物は、電気/電子部品の様々な接着剤、封入剤、コーティング剤などとして有用である。
【国際調査報告】