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特表2023-544105水性ポリウレタン分散液及びそれらの調製
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  • 特表-水性ポリウレタン分散液及びそれらの調製 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】水性ポリウレタン分散液及びそれらの調製
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/08 20060101AFI20231013BHJP
   C08G 18/00 20060101ALI20231013BHJP
   C08G 18/24 20060101ALI20231013BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20231013BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08G18/08 019
C08G18/00 C
C08G18/24
C08G18/65 005
C08G18/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518025
(86)(22)【出願日】2021-08-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 US2021046284
(87)【国際公開番号】W WO2022066320
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/081,621
(32)【優先日】2020-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ、クリスティーン エスター
(72)【発明者】
【氏名】ク、スン-ユ
(72)【発明者】
【氏名】ワイルズ、ヘザー エム.
【テーマコード(参考)】
4J034
【Fターム(参考)】
4J034BA08
4J034CA05
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB07
4J034CC03
4J034CD05
4J034DF01
4J034DF02
4J034DG01
4J034DG06
4J034DM01
4J034DP12
4J034DP18
4J034EA11
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034HC12
4J034HC22
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034JA02
4J034JA13
4J034JA14
4J034JA15
4J034JA30
4J034JA32
4J034JA42
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
4J034KC18
4J034KD02
4J034KD03
4J034KD12
4J034KE02
4J034QA03
4J034QA05
4J034QB19
4J034QC05
4J034RA07
(57)【要約】
酸官能基を含むプレポリマーは、(i)ジイソシアネートと、(ii)酸基を含有するジオールと、(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させるステップを含む方法によって製造され、接触させるステップは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる。プレポリマーは、水性ポリウレタン分散液の調製に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を含むプレポリマーを製造するための方法であって、前記方法は、
(i)ジイソシアネートと、
(ii)酸基を含有するジオールと、
(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させるステップを含み、
前記接触させるステップは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる、方法。
【請求項2】
水性ポリウレタン分散液(PUD)を製造するための3ステップの方法であって、前記方法は、
(1)
(i)ジイソシアネートと、
(ii)酸基を含有するジオールと、
(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させることにより酸基を有するプレポリマーを形成するステップであって、
前記接触させることは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる、形成するステップと、
(2)前記プレポリマーの前記酸基を塩基で中和するステップと、
(3)前記中和されたプレポリマーを水中に分散させるステップと、を含む、方法。
【請求項3】
前記酸基は、カルボキシル基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸基を含有するジオールは、2,2-ジメチロールブタン酸又は2,2-ジメチロールペンタン酸である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
(4)鎖延長剤を水中の前記中和されたプレポリマーに添加することを更に含み、前記鎖延長剤は、ポリオール又はジアミンである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記酸基を有するプレポリマーを形成するための前記接触ステップは、金属塩触媒を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記金属塩触媒は、有機スズ塩触媒である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(i)中和された酸基を含む鎖延長プレポリマーと、(ii)ジプロピレングリコールジメチルエーテルと、(iii)水と、を含む、ポリウレタン分散液(PUD)。
【請求項9】
前記プレポリマーは、前記分散液の5~60質量パーセントを構成する、請求項8に記載のPUD。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な実施形態では、全般的には、酸基を含むプレポリマーの製造方法、水性ポリウレタン分散液の製造方法、及び水性ポリウレタン分散液(water-based polyurethane dispersion、PUD)に関する。
【背景技術】
【0002】
水性ポリウレタン分散液(PUD)は、種々のコーティング、インク、及び接着剤の用途のための、環境に優しい樹脂として周知である。ポリウレタン分散液の商業生産には、アセトン法及びプレポリマー法という2つの異なる手法がある。アセトンは可燃性溶媒であるため、プレポリマー法がより広範に使用されている。この方法では、PUDは、ジイソシアネート及びポリオールから作製される。この2ステップの方法では、スズ触媒の存在下でジイソシアネートとポリオールとを反応させることにより、最初にプレポリマーが作製される。酸基、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸(2,2-dimethylolpropionic acid、DMPA)を含有するポリオールは、ジイソシアネートと反応し、酸官能基をポリウレタン(PU)プレポリマーに組み込むために使用される。第2のステップでは、酸をアミンで中和し、中和されたPUポリマーを水中に分散させ、ポリオール又はジアミンによって鎖延長してPUDを得る。ステップ1では、N-メチル-2-ピロリドン(N-methyl-2-pyrrolidone、NMP)のような溶媒が、DMPAに対する良好な親和性に起因して、プレポリマー合成中にDMPAを溶解するために長年使用されてきた。
【0003】
NMPは、その低い揮発性、熱安定性、高い極性、非プロトン性、非腐食性、及び良好な溶解特性のため、特に重要で汎用性の高い溶媒であり、PUD化学産業にとって好ましい反応媒体である。しかし、NMPは、動物実験で生殖毒性を示すことが実証されている。その結果、NMPは、最近、化学物質の登録、評価、許可、及び制限(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemical Substances、REACH)の下で潜在的な生殖毒性物質として分類されており、世界レベルでの安全性及び規制上の懸念が高まっている。
【0004】
したがって、より良好な環境安全衛生(environmental, health and safety、EHS)のプロファイル、並びに同様の溶解度特性を有する溶媒で、NMPを置き換えることが望まれる。特に、コーティング用途のためのPUD配合物において良好に機能することができる、無害で不燃性の溶媒と組み合わせた新しい乳化剤のパッケージ溶液を開発することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0005】
一実施形態では、本発明は、酸基を含むプレポリマーを作製するための方法であり、本方法は、
(i)ジイソシアネートと、
(ii)酸基を含有するジオールと、
(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させるステップを含み、
接触させるステップは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる。一実施形態では、酸基を含有するジオールの酸基は、カルボン酸基である。一実施形態では、酸基を含有するジオールは、2,2-ジメチロールブタン酸(2,2-dimethylolbutanoic acid、「DMBA」)である。一実施形態では、酸基を有するプレポリマーを形成するための接触ステップは、金属塩触媒を更に含む。一実施形態では、金属塩触媒は、有機スズ塩である。
【0006】
一実施形態では、本発明は、水性ポリウレタン分散液(PUD)を作製するための3ステップの方法であり、本方法は、
(1)
(i)ジイソシアネートと、
(ii)酸基を含有するジオールと、
(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させることにより酸基を有するプレポリマーを形成するステップであって、
接触させることは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる、形成するステップと、
(2)プレポリマーの酸基を塩基で中和するステップと、
(3)中和されたプレポリマーを水に分散させるステップと、を含む。
一実施形態では、酸基を含有するジオールの酸基は、カルボン酸基である。一実施形態では、酸基を含有するジオールは、2,2-ジメチロールブタン酸(「DMBA」)である。一実施形態では、酸基を有するプレポリマーを形成するための接触ステップは、金属塩触媒を更に含む。一実施形態では、金属塩触媒は、有機スズ塩である。一実施形態では、本方法は、(4)鎖延長剤を水中の中和されたプレポリマーに添加することを更に含み、鎖延長剤は、ポリオール又はジアミンである。
【0007】
酸基を含有するジオールが2,2-ジメチロールブタン酸であるいくつかの実施形態では、溶媒としてのジプロピレングリコールジメチルエーテルの使用は、有利なことに、(特に2,2-ジメチロールプロピオン酸に対して)改善された溶解度を提供することができ、これは、沈殿した固体を伴わずにPUDによって形成されるより安定な膜をもたらすことができる。加えて、いくつかの実施形態では、2,2-ジメチロールブタン酸とジプロピレングリコールジメチルエーテルとの組み合わせは、望ましい硬度を有する、PUDによって形成された膜を提供することができる。
【0008】
一実施形態では、本発明は、(i)中和された酸基を含む鎖延長プレポリマーと、(ii)ジプロピレングリコールジメチルエーテルと、(iii)水と、を含むポリウレタン分散液である。一実施形態では、プレポリマーは、ポリウレタン分散液の5~60質量パーセントを構成する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】水性PUDのための単純な反応機構の図である。PUポリマーは、スズ触媒の存在下で、ジイソシアネートとポリオールとを反応させることにより作製される。2,2-ジメチロールブタン酸は、ジオールであり、PUプレポリマーにカルボン酸官能基を組み込むために使用される。第2のステップでは、カルボン酸官能基をアミンで中和し、中和されたPUポリマーを水中に分散させ、ポリオール又はジアミンによって鎖延長してPUDを得る。ステップ1では、プレポリマー合成中にDMBAを溶解するために溶媒が使用される。商業的な実施では、NMPは、この目的のために最も広範囲に使用されている溶媒である。本発明において、溶媒は、非プロトン性グリコールエーテルであるジプロピレングリコールジメチルエーテル(dipropylene glycol dimethyl ether、「DPGDME」)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
定義
米国特許実務の目的のために、いずれの参照される特許、特許出願、又は刊行物の内容も、特に定義の開示(本開示に具体的に提供されるあらゆる定義と矛盾しない程度に)及び当該技術分野における一般的知識に関して、参照によりそれらの全体が組み込まれる(又はその同等の米国版が参照によりそのように組み込まれる)。
【0011】
特に反対の記載がないか、文脈から暗示されるか、又は当該技術分野で慣習的でない限り、全ての部及びパーセントは、重量に基づき、全ての試験方法は、本開示の出願日時点で最新のものである。
【0012】
本明細書に開示される数値範囲は、下限値及び上限値を含む、下限値から上限値までの全ての値を含む。明示的な値(例えば、1若しくは2、又は3~5、又は6、又は7)を含む範囲には、任意の2つの明示的な値の間の任意の部分範囲が含まれる(例えば、1~2、2~6、5~7、3~7、5~6、などの部分範囲が含まれる)。
【0013】
「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(having)」という用語、及びそれらの派生語は、任意の追加の構成成分、工程、又は手順が本明細書で具体的に開示されているかにかかわらず、それらの存在を排除するように意図するものではない。疑義を回避するために、「含む(comprising)」という用語の使用を通じて特許請求される全ての組成物は、特に反対の記載がない限り、ポリマーであるかその他であるかによらず、任意の追加の添加剤、アジュバント、又は化合物を含み得る。対照的に、「本質的に~からなる」という用語は、実施可能性に必須ではないものを除いて、あらゆる後続の列挙の範囲から、いかなる他の構成成分、工程、又は手順も除外する。「からなる」という用語は、明確に描写又は列挙されていない任意の成分、ステップ、又は手順を除外する。「又は」という用語は、特に明記しない限り、列挙されたメンバーを個別に、並びに任意の組み合わせで指す。単数形の使用は複数形の使用を含み、その逆もまた同様である。
【0014】
「プレポリマー」などの用語は、ジイソシアネートとポリオールとの反応から製造される化合物を意味する。プレポリマーは、過剰のジイソシアネートをポリオールと組み合わせることにより形成される。以下の例証で示されるように、ジイソシアネートのイソシアネート基(NCO)のうちの1つは、ポリオールのヒドロキシ基(OH)のうちの1つと反応し、ポリオールの他方の末端が別のジイソシアネートと反応する。得られたプレポリマーは、両端にイソシアネート基を有する。プレポリマーは、ジイソシアネートそのものであり、それは、ジイソシアネートのように反応するが、いくつかの重要な相違点を有する。元のジイソシアネートと比較すると、プレポリマーは、より大きい分子量、高い粘度、より低いイソシアネート重量含有量(%NCO)、及びより低い蒸気圧を有する。
【化1】

この発明の実施で使用されるプレポリマーは、プレポリマー中にカルボン酸官能基を導入するために、酸基を含有するジオール(例えば、DMBA又はジメチロールペンタン酸)由来の1つ以上の単位を含む。
【0015】
「酸基」、「酸官能基」などの用語は、水溶液中でプロトン、すなわち水素イオンを供与するモノマー、オリゴマー、又はポリマー上の置換基を意味する。
【0016】
「反応条件」などの用語は、一般に、温度、圧力、反応物濃度、触媒濃度、共触媒濃度、モノマー転化率、反応混合物(又は、集合体)の生成物及び副産物(又は、固体)の含有量、及び/又は結果として生じる生成物の特性に影響を与える他の条件を指す。ジイソシアネート及びポリオールからプレポリマーを形成するための反応条件は、当該技術分野で周知であり、それらは、典型的には、40℃~150℃の温度、大気圧、窒素雰囲気、及び水の不在を含む。
【0017】
「溶媒」などの用語は、別の物質(すなわち、溶質)を溶解させて、分子レベル又はイオンサイズレベルで本質的に均一に分散する混合物(すなわち、溶液)を形成することができる物質を意味する。
【0018】
「非プロトン性」などの用語は、プロトンを供与することができない溶媒、例えば、グリコールエーテルを表す。プロトン性溶媒は、酸素(ヒドロキシル基中のような)又は窒素(アミン基中のような)に結合した水素原子を有する溶媒である。一般的には、不安定なH+を含有する任意の溶媒は、プロトン性溶媒である。代表的なプロトン性溶媒としては、DOWANOL(商標)DPM(ジプロピレングリコールメチルエーテル)、DOWANOL(商標)TPM(トリプロピレングリコールメチルエーテル)、DOWANOL(商標)DPnP(ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル)、DOWANOL(商標)DPnB(ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル)、及びDOWANOL(商標)TPnB(トリプロピレングリコールn-プロピルエーテル)が挙げられる。そのような溶媒の分子は、プロトン(H+)を試薬に容易に供与する。本発明の実施で使用されるグリコールエーテル、例えば、PROGLYDE(商標)DMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル又はDPGDME)は、不安定なH+を含有しない。本発明の実施において使用することができる市販の非プロトン性溶媒は、非プロトン性溶媒を製造する製造プロセスからの少量の残留プロトン性化合物を含有することがある。「少量」は、典型的には、非プロトン性溶媒とプロトン性化合物との合計重量に基づいて、非プロトン性溶媒中のプロトン性化合物の1重量%以下、又は0.5重量%以下、又は0.1重量%以下、又は0.05重量%以下、又は0.01重量%以下を意味する。
【0019】
「ニート」などの用語は、単一又は希釈されていないことを意味する。ニートなジプロピレングリコールジメチルエーテルを含有する溶媒は、ジプロピレングリコールジメチルエーテルが溶媒の唯一の構成成分であることを意味する。
【0020】
ジイソシアネート
ジイソシアネートは、芳香族、脂肪族、若しくは脂環式ジイソシアネート、又はこれらの化合物の2つ以上の組み合わせであり得る。ジイソシアネート(OCN-R-NCO)由来の構成単位の非限定的な例は、以下の式(I)により表され、
【化2】

式中、Rは、アルキレン、シクロアルキレン、又はアリーレン基である。これらのジイソシアネートの代表例は、米国特許第4,012,445号、同第4,385,133号、同第4,522,975号、及び同第5,167,899号で見出すことができる。
【0021】
好適なジイソシアネートの非限定的な例としては、4,4'-ジイソシアナト-ジフェニルメタン、p-フェニレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、1,4-ジイソシアナト-シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート-3,3'-ジメチル-4,4'-ビフェニルジイソシアネート、4,4'-ジイソシアナトジシクロヘキシル-メタン、2,4-トルエンジイソシアネート、及び4,4'-ジイソシアナト-ジフェニルメタンが挙げられる。
【0022】
ポリオール
本発明の実施で使用されるポリオールは、酸基を有するものと有さないものの両方を含み、200~10,000g/モルの範囲の分子量(数平均)を有する。酸基を有さない好適なポリオールの非限定的な例としては、ポリエーテルジオール(「ポリエーテルPU」を生じる)、ポリエステルジオール(「ポリエステルPU」を生じる)、ヒドロキシ末端ポリカーボネート(「ポリカーボネートPU」を生じる)、ヒドロキシ末端ポリブタジエン、ヒドロキシ末端ポリブタジエン-アクリロニトリルコポリマー、ジアルキルシロキサンと、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどのアルキレンオキシドとのヒドロキシ末端コポリマー、天然油ジオール、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。一実施形態では、単一のポリオールが使用される。一実施形態では、2つ以上のポリオールの組み合わせが使用される。一実施形態では、反応速度及び所望のポリマー構造に応じて、前述のポリオールのうちの1つ以上が、アミン末端ポリエーテル及び/又はアミノ末端ポリブタジエン-アクリロニトリルコポリマーと混合され得る。例えば、グリセロール、トリメチロールプロパンなどの、3つ以上のヒドロキシ基を有するトリオール及び他のポリオールも使用され得る。本発明の実施で有用なポリオールの更なる例は、米国特許第4,012,445号に見出される。
【0023】
本発明では、ポリオール化合物の総ヒドロキシル基当量数は、好ましくは120~3,000である。ヒドロキシル当量の数がこの範囲内である場合、取得されるポリウレタン樹脂を含有する水性樹脂分散液は容易に生成され得、硬度に関して優れたコーティングフィルムが容易に取得される。取得された水性ポリウレタン樹脂分散液の貯蔵安定性、コーティングにより取得されるコーティングフィルムの硬度、乾燥特性、及び増粘特性の観点から、ヒドロキシル基当量数は、好ましくは150~3000、又は150~800、又は200~700、又は300~600である。
【0024】
ヒドロキシル当量の数は、以下の式(1)及び式(2)により計算され得る。各ポリオールのヒドロキシル当量の数は、各ポリオールの分子量を各ポリオールのヒドロキシル基の数(フェノール性ヒドロキシル基を除く)で除算したものに等しく(1)、ポリオールの総ヒドロキシル基当量数は、Mの総モル数をポリオールで除算したものに等しい(2)。ポリウレタン樹脂の場合、式(2)のMは、[[ポリオール化合物のヒドロキシル当量数×ポリオール化合物のモル数]+[ヒドロキシル当量数×酸基含有ポリオールのモル数]]である。
【0025】
プレポリマー中に酸官能基を導入するために、ジイソシアネートと反応するポリオールの少なくとも一部は、酸基、例えば、カルボキシル基を含有するジオールである。酸基含有ジオールは、1分子中に2つのヒドロキシル基及び1つ以上の酸性基を含有する。酸基を含有するジオールとしては、1分子中に2つのヒドロキシル基及び1つのカルボキシル基を有するジオールが好ましい。具体的には、本発明の実施形態は、2,2-ジメチロールブタン酸又は2,2-ジメチロールペンタン酸を利用する。一実施形態では、酸基を含有するジオールは、2,2-ジメチロールブタン酸である。
【0026】
鎖延長剤
鎖延長剤は本発明の実施では必要ではないが、所望であれば使用され得る。鎖延長剤は、ポリウレタン分散液としてそれらをより安定にするのに特に有用であり得る。使用される場合、鎖延長剤は、水中の中和されたプレポリマーに添加することができる。使用される場合、鎖延長剤は、多官能性、典型的には二官能性であり、かつ鎖中に、2個から10個までの炭素原子を有する脂肪族直鎖又は分岐鎖のポリオール又はアミンであり得る。このようなポリオールの例は、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール;ヒドロキノンビス-(ヒドロキシエチル)エーテル;シクロヘキシレンジオール(1,4-、1,3-、及び1,2-異性体)、イソプロピリデンビス(シクロヘキサノール);ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、エタノールアミン、N-メチル-ジエタノールアミンなど;及び上記のいずれかの混合物である。このようなアミンの例は、エチレンジアミンである。
【0027】
プレポリマーは、例えば、1~25重量パーセント(重量%)の鎖延長剤成分を含有することができる。
【0028】
触媒
ジイソシアネートとポリオールとの反応は、触媒の使用により促進される。いくつかの実施形態では、触媒は、金属塩触媒である。触媒の例としては、有機酸又は無機酸との金属の塩、例えば、スズ系触媒(例えば、ラウリル酸トリメチルスズ、ジラウリン酸ジブチルスズなど)、又は鉛系触媒(例えば、オクチル酸鉛など)、及び有機金属誘導体、アミン型触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルホリン、トリエチレンジアミンなど)、並びにジアゾビシクロウンデセン型触媒が挙げられるが、これらに限定されない。スズ系触媒が好ましい。
【0029】
溶媒
本発明で使用される溶媒は、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、すなわちDPGDMEである。本発明で使用される溶媒は、DPGDMEから本質的になるか、又はDPGDMEからなる。DPGDMEは、酸基を含有するジオール(例えば、DMBA)に対する溶解度に関して高い親和性を有する。本明細書に記載されるように、DPGDMEは、PUプレポリマー及びPUDの調製に有用である。本発明の実施形態で使用することが可能な市販DPGDMEの一例は、The Dow Chemical Company製のPROGLYDE(商標)DMMである。
【0030】
エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのプロトン性溶媒は、溶媒系中の非プロトン性成分が作製される製造プロセスの残留としてのみ、かつ少量、例えば、溶媒系中の非プロトン性化合物とプロトン性化合物とを合計した重量に基づいて、1重量%以下のみが、本発明で使用されるDPGDME中に存在し得る。プロトン性溶媒は、それらが、水のようにイソシアネートと素早く反応するため、好ましくない。
【0031】
この発明の溶媒系の操作性に必須ではないが、溶媒系に含まれ得る任意選択の材料としては、酸化防止剤、着色剤、水分捕捉剤、安定剤、充填剤、希釈剤(例えば、芳香族炭化水素)などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの材料は、プレポリマーの調製のための反応媒体を提供するために、溶媒系の有効性に対する一切の重要な影響を有さない。これらの任意選択の材料は、既知の量、例えば、溶媒系の重量に基づいて、0.10~5、又は4、又は3、又は2、又は1重量パーセントで使用され、それらは、既知の方法で使用される。
【0032】
溶媒の使用
この発明で使用される溶媒(DPGDME)は、エコ溶媒であり、すなわち、DPGDMEは、NMPに関連する毒物学的問題を有さないか、又は低減されたレベルで有する。DPGDMEは、NMP及び他の極性溶媒としてのプレポリマーの調製のための媒体と同じ様式で使用される。
【0033】
ポリウレタン分散液
水性ポリウレタン分散液(PUD)を生成するための方法は、(1)上記のプレポリマーを調製することと、(2)プレポリマーの酸官能基を中和することと、(3)水にプレポリマーを分散させることと、を含む3ステップの方法である。いくつかの実施形態では、中和されたプレポリマーに鎖延長剤(例えば、上述のポリオール又はアミン鎖延長剤)を添加する第4のステップを含むことができる。事実上、いかなる塩基も中和剤として使用され得る。例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンなどの有機アミン、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムなどの無機アルカリ塩、並びにアンモニアが挙げられるが、これらに限定されない。カルボキシル基の中和には、有機アミンが好ましく、第三級アミン、特にトリエチルアミンがより好ましい。
【0034】
水性媒体中にポリウレタンプレポリマーを分散させるステップは、従来の装置及び技法を使用して実施され得る。例えば、プレポリマーは撹拌された水のブレンダーに添加され、実質的に均質なブレンドが得られるまで混合され得る。あるいは、撹拌されたプレポリマーのブレンダーに水が添加され得る。混合は、典型的には、周囲条件(23℃及び大気圧)で行われる。様々な添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、界面活性剤などは、既知の量及び既知の方法を使用して分散液に添加され得る。分散液中のプレポリマーの量は広範囲に変化し得るが、典型的には、プレポリマーは、分散液の5~60、又は15~50質量%を構成する。
【0035】
いくつかの実施形態では、フィルムに形成される場合、DMBAを使用し、溶媒としてDPGDMEを用いて作製された本発明のいくつかの実施形態によるポリウレタン分散液は、改善された硬度を有するフィルムに形成され得る。硬度は、マルテンス硬さを用いて評価することができる。
【0036】
以下の実施例は、本発明の非限定的な例証である。
【実施例
【0037】
実施例1-溶解度評価
ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DPGDME)及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)中の酸基を含有する特定のジオール(2,2-ジメチロールプロピオン酸(DMPA)及び2,2-ジメチロールブタン酸(DMBA))の溶解度を、異なる温度で評価する。使用したDPGDMEは、PROGLYDE(商標)DMM(The Dow Chemical Company)である。対応する量のDMPA又はDMBA及び溶媒(DPGDME又はNMP)を用いて以下の濃度を評価する。
【表1】

Fisher製のポリシールライナー付きの24mm黒色フェノール樹脂スクリューキャップを有する30ミリリットルガラスバイアルを使用して、乳化剤(DMBA又はDMPA)を、表1で指定するように、溶媒(NMP又はDPGDME)中5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、及び25重量%で添加する。磁気撹拌棒を用いて500rpmで混合しながら、試料をハイスループット加熱/混合ステーション上で25℃から100℃まで10℃刻みで加熱する。次いで、試料を取り出し、画像を撮影して溶解度を記録する。
【0038】
いくつかの主要な結果を表2に要約する。「○」の記載は完全に溶解していることを示し、「×」の記載は完全に溶解していないことを示す。
【表2】
【0039】
DMPAの溶解性は、DPGDME中で乏しいことが見出された。DMPAは、NMP中で混合すると、25重量%までの全ての濃度で室温(25℃)で完全に可溶性であった。対照的に、DMPAは、5重量%であっても95℃の高温でDPGDGMEに完全には溶解しなかった。DMBAは、試験した両方の溶媒(NMP及びDPGDME)において、様々な温度で、25重量%までのすべての濃度で可溶性であることが見出された。したがって、DPGDMEは、DMPAに対して低い溶解力を示したが、DMBAを75℃で完全に溶解することが見出された。
【0040】
実施例2-ポリウレタン分散液
ポリウレタン分散液は、溶媒としてのNMP又はDPGDMEのいずれかの中で乳化剤としてDMPA又はDMBAを用いて製造した。表3は、DMPAが乳化剤であり、DPGDME又はNMPが溶媒である場合の配合(比較例A及びB)を示し、表4は、DMBAが乳化剤であり、DPGDMEが溶媒である場合の配合(本発明の実施例1)を示す。
【表3】

【表4】
【0041】
比較例Aの調製-DPGDME中のDMPAを用いるポリウレタン分散液
ポリウレタン分散液(PUD)のためのプレポリマーは、表3に提供される配合を使用して以下のように配合される。ポリ(テトラヒドロフラン)ポリオール(M約1000)及びポリ(テトラヒドロフラン)ポリオール(M約2000)を、50℃のDespatchオーブン中で1時間又はそれらが液体になるまで加熱し、次いでグローブボックスに移す。次いで、ポリ(テトラヒドロフラン)ポリオールを40ミリリットルのガラスバイアルに添加し、次いで、DMPA及びDPGDMEを添加する。配合物を、約30秒間ボルテックスミキサーで混合する。次いで、4,4'-メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(H12MDI)を添加し、溶液を、Flacktekスピードミキサーを用いて3,000rpmで1分間混合する。1滴(0.11マイクロリットル)の触媒(ジラウリン酸ジブチルスズ-DBTDL)を最後に添加し、Flacktekスピードミキサーを使用して、配合物を再び3,000rpmで1分間混合する。次に、プレポリマーをグローブボックスから取り出し、80℃のHTR加熱/混合ステーションに4時間入れる。4時間後、試料をグローブボックスに戻し、トリエチルアミン(中和剤)を添加する。試料を再び、Flacktekスピードミキサーを用いて3,000rpmで1分間混合する。次いで、試料をグローブボックスから取り出し、脱イオン水をドラフト内で添加する。試料を手で約2分間激しく振盪し、次いでFlacktekミキサーに置いて3,000rpmで1分間(ベンチトップ上)、3回又は試料が均一になるまで混合を繰り返す。次いで、ドラフト内で、エチレンジアミン(鎖延長剤)(脱イオン水中30重量%エチレンジアミン)を添加する。Flacktekスピードミキサーを用いて、3,000rpmで1分間、又は試料が均一になるまで、試料を再び混合する。試料をベンチトップ上に一晩放置し、翌日にコーティングを作製する。
【0042】
比較例Bの調製-NMP中のDMPAを用いるポリウレタン分散液
ポリウレタン分散液(PUD)のためのプレポリマーは、表3に提供される配合を使用して以下のように配合される。ポリ(テトラヒドロフラン)ポリオール(M約1000)及びポリ(テトラヒドロフラン)ポリオール(M約2000)を、50℃のDespatchオーブン中で1時間又はそれらが液体になるまで加熱し、次いでグローブボックスに移す。次いで、ポリ(テトラヒドロフラン)ポリオールを40ミリリットルのガラスバイアルに添加し、次いで、DMPA及びNMPを添加する。配合物を、約30秒間ボルテックスミキサーで混合する。次いで、4,4'-メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(H12MDI)を添加し、溶液を、Flacktekスピードミキサーを用いて3,000rpmで1分間混合する。1滴(0.11マイクロリットル)の触媒(ジラウリン酸ジブチルスズ-DBTDL)を最後に添加し、Flacktekスピードミキサーを使用して、配合物を再び3,000rpmで1分間混合する。次に、プレポリマーをグローブボックスから取り出し、80℃のHTR加熱/混合ステーションに4時間入れる。4時間後、試料をグローブボックスに戻し、トリエチルアミン(中和剤)を添加する。試料を再び、Flacktekスピードミキサーを用いて3,000rpmで1分間混合する。次いで、試料をグローブボックスから取り出し、脱イオン水をドラフト内で添加する。試料を手で約2分間激しく振盪し、次いでFlacktekミキサーに置いて3,000rpmで1分間(ベンチトップ上)、3回又は試料が均一になるまで混合を繰り返す。次いで、ドラフト内で、エチレンジアミン(鎖延長剤)(脱イオン水中30重量%エチレンジアミン)を添加する。Flacktekスピードミキサーを用いて、3,000rpmで1分間、又は試料が均一になるまで、試料を再び混合する。試料をベンチトップ上に一晩放置し、翌日にコーティングを作製する。
【0043】
本発明の実施例1の調製-DPGDME中のDMBAを用いるポリウレタン分散液
ポリウレタン分散液(PUD)のためのプレポリマーは、表4に提供される配合を使用して以下のように配合される。ポリ(テトラヒドロフラン)ポリオール(M約1000)及びポリ(テトラヒドロフラン)ポリオール(M約2000)を、50℃のDespatchオーブン中で1時間又はそれらが液体になるまで加熱し、次いでグローブボックスに移す。次いで、ポリ(テトラヒドロフラン)ポリオールを40ミリリットルのガラスバイアルに添加し、次いで、DMBA及びDPGDMEを添加する。配合物を、約30秒間ボルテックスミキサーで混合する。次いで、4,4'-メチレンジシクロヘキシルジイソシアネート(H12MDI)を添加し、溶液を、Flacktekスピードミキサーを用いて3,000rpmで1分間混合する。1滴(0.11マイクロリットル)の触媒(ジラウリン酸ジブチルスズ-DBTDL)を最後に添加し、Flacktekスピードミキサーを使用して、配合物を再び3,000rpmで1分間混合する。次に、プレポリマーをグローブボックスから取り出し、80℃のHTR加熱/混合ステーションに4時間入れる。4時間後、試料をグローブボックスに戻し、トリエチルアミン(中和剤)を添加する。試料を再び、Flacktekスピードミキサーを用いて3,000rpmで1分間混合する。次いで、試料をグローブボックスから取り出し、脱イオン水をドラフト内で添加する。試料を手で約2分間激しく振盪し、次いでFlacktekミキサーに置いて3,000rpmで1分間(ベンチトップ上)、3回又は試料が均一になるまで混合を繰り返す。次いで、ドラフト内で、エチレンジアミン(鎖延長剤)(脱イオン水中30重量%エチレンジアミン)を添加する。Flacktekスピードミキサーを用いて、3,000rpmで1分間、又は試料が均一になるまで、試料を再び混合する。試料をベンチトップ上に一晩放置し、翌日にコーティングを作製する。
【0044】
マルテンス硬さを測定するために、上記の比較例及び本発明の実施例のコーティングを以下のように調製する。コーティングは、半自動反応性コーティングステーション(Reactive Coating Station、RCS)を使用して作製される。RCSは、1.15mm=5.9ミルの湿潤厚さのギャップに設定された金属ドクターブレードを使用して、PUDをアルミニウム基材(Q-Lab Corporation(Q-Panel)、Stock#SP-105523-Bare Aluminium.025×3.06”×4.725”スクエアコーナー、穴なし)上にコーティングする。比較例及び本発明の実施例のそれぞれについて合計4つのコーティングを作製する。コーティングは、接着及び硬度試験を行う前に、相対湿度50%の実験室において室温で7日間硬化させておく。ダイヤモンドチップを使用して5.000mN/10秒(クリープ=10秒)の力でマイクロインデンターを使用する。各試料について合計5点のマルテンス硬さを測定する。
【0045】
DMPA/DPGDMEを含有するポリウレタン分散液(比較例A)は、分散及び鎖延長後に沈殿して固体粒子の形成をもたらすことが見出された。これは、アルミニウム基材のコーティング前に濾過を必要とした。比較すると、DPGDME中にDMBAを含有するポリウレタン分散液(本発明の実施例1)は、いかなる沈殿もなく安定であり、したがって、いかなる濾過もせずに更なるコーティング評価に使用することができた。
【0046】
マルテンス硬さに関して、本発明の実施例1(DMBA/DPGDME)で作製されたコーティングは、22N/mmを超える平均マルテンス硬さを示したが、比較例Bで作製されたコーティングは、13N/mm未満の平均マルテンス硬さを示した。
【0047】
濁度及び粒径を測定するために、本発明の実施例1並びに比較例A及びBの追加の試料を上記のように調製する。濁度は、0~200NTUの範囲でHach比濁度計を使用して測定される。測定は、8ドラム試料セルを使用して室温で行われる。機器の較正は、Gelex濁度標準を使用して確認した。読み取り値が安定するように各試料を少なくとも15秒間平衡化させる。結果を、表5に示す。
【0048】
粒径分析及び分布測定は、ユニバーサル液体モジュール(universal liquid module、ULM)を備えたBeckman Coulter LS 13 310レーザー回折分析器を使用して行う。LS 13 310は、光散乱の偏光効果を高角度での波長依存性と組み合わせて、サイズ下限を40nmまで拡張し、ほぼ理論的限界に到達する。これは、偏光強度差光散乱(Polarization Intensity Differential Light Scattering、PIDS)技術と呼ばれる。PIDSを利用して、ULMを有するLS 13 310によって測定された粒径分布範囲は、0.017~2000μmである。脱イオン水をULM中の液体媒体として利用する。各試料の小部分をピペットで別のバイアルに移し、そこで脱イオン水で希釈して適切な濃度の物質を得る。次いで、これらの試料を、PIDsをオンにした単色光源(レーザー)のビームに通し、データを収集する。結果を、表5に示す。
【0049】
比較例B(乳化剤としてDMPA及び溶媒としてNMP)は、0.085μmで均一な粒径を示し、これは良好なコーティング特性を提供するのに有益である。しかしながら、前述したように、NMPはEHSの観点からあまり望ましくなく、多くの地域で使用することが禁止されている。比較例A(乳化剤としてDMPA及び溶媒としてDPGDME)は、0.086μm及び1.985μmで二峰性粒径分布を示した。大きなPUD粒子は、コーティングプロセスにおける塗布の前に濾過を必要とする場合があるか、又はこのPUD製剤は、不十分なコーティング特性をもたらす場合がある。本発明の実施例1(乳化剤としてDMBA及び溶媒としてDPGDME)は、0.104μmの均一な粒径を示し、これは、0.085μmの粒径を有するDMPA/NMP法と同様である。均一な粒子は、良好なPUDコーティング特性を提供する。
【0050】
比較例A(DMPA/DPGDME)の濁度測定値はわずかに高く(180NTU)、これは、1.985μmのより大きなPUD粒子によって引き起こされた可能性がある。比較例B(DMPA/NMP)及び本発明の実施例1(DMBA/DPGDME)の濁度測定値は、PUDのより小さい粒径に起因して、約130NTUでより低い。
【表5】
図1
【手続補正書】
【提出日】2022-02-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を含むプレポリマーを製造するための方法であって、前記方法は、
(i)ジイソシアネートと、
(ii)酸基を含有するジオールであって、前記酸基を含有するジオールは、2,2-ジメチロールブタン酸である、酸基を含有するジオールと、
(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させるステップを含み、
前記接触させるステップは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる、方法。
【請求項2】
水性ポリウレタン分散液(PUD)を製造するための3ステップの方法であって、前記方法は、
(1)
(i)ジイソシアネートと、
(ii)酸基を含有するジオールであって、前記酸基を含有するジオールは、2,2-ジメチロールブタン酸である、酸基を含有するジオールと、
(iii)酸基を有さないポリオールと、を接触させることにより酸基を有するプレポリマーを形成するステップであって、
前記接触させることは、反応条件下で、ジプロピレングリコールジメチルエーテルから本質的になる溶媒中で行われる、形成するステップと、
(2)前記プレポリマーの前記酸基を塩基で中和するステップと、
(3)前記中和されたプレポリマーを水中に分散させるステップと、を含む、方法。
【請求項3】
前記酸基は、カルボキシル基である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(4)鎖延長剤を水中の前記中和されたプレポリマーに添加することを更に含み、前記鎖延長剤は、ポリオール又はジアミンである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記酸基を有するプレポリマーを形成するための前記接触ステップは、金属塩触媒を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記金属塩触媒は、有機スズ塩触媒である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
(i)中和された酸基を含む鎖延長プレポリマーと、(ii)ジプロピレングリコールジメチルエーテルと、(iii)水と、を含む、ポリウレタン分散液(PUD)。
【請求項8】
前記プレポリマーは、前記分散液の5~60質量パーセントを構成する、請求項7に記載のPUD。
【国際調査報告】