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特表2023-544114高分子懸濁化剤を用いた水中でのフッ化ビニリデンの重合
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  • 特表-高分子懸濁化剤を用いた水中でのフッ化ビニリデンの重合 図1
  • 特表-高分子懸濁化剤を用いた水中でのフッ化ビニリデンの重合 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】高分子懸濁化剤を用いた水中でのフッ化ビニリデンの重合
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20231013BHJP
   C08F 114/22 20060101ALI20231013BHJP
   C08F 2/16 20060101ALI20231013BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231013BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20231013BHJP
【FI】
C08F2/44 B
C08F114/22
C08F2/16
H01M4/62 Z
H01M50/426
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518106
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2023-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2021075178
(87)【国際公開番号】W WO2022063630
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】20197702.2
(32)【優先日】2020-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ル グルチ, アン-シャルロット
【テーマコード(参考)】
4J011
4J100
5H021
5H050
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011DA01
4J011DA03
4J011JA07
4J011JA08
4J011JB27
4J011PA53
4J011PB40
4J011PC02
4J011PC07
4J100AC24P
4J100EA09
4J100JA43
5H021CC03
5H021EE10
5H021HH01
5H021HH03
5H050BA16
5H050BA17
5H050DA11
5H050EA24
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマー、フッ化ビニリデンポリマーの製造方法、及びフッ化ビニリデンポリマーを含む物品に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性懸濁液中のフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]の製造方法であって、前記方法は、フッ化ビニリデンを、
A)少なくとも非イオン性懸濁化剤;及び
B)少なくともイオン性カルボキシアルキル セルロース
の存在下で重合することを含む、方法。
【請求項2】
前記非イオン性懸濁化剤は、
a)多糖類誘導体;
b)部分加水分解ポリビニルアルコール(PVA);及び
c)アルキレンオキシドポリマー(PAO)
からなる群から選択されるヒドロキシル基を含むポリマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多糖類誘導体が、β-グリコシド結合によって互いに連結された式(I):
【化1】
(式中、それぞれのR’は、出現する毎に他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、C~C炭化水素基又はC~Cヒドロキシアルキル基を表す)の繰り返しβ-D-グルコピラノシド単位を含む炭水化物である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
式(I)の繰り返しβ-D-グルコピラノシド単位を含む前記炭水化物は、ヒドロキシエチル メチルセルロース又は2-ヒドロキシプロピル メチルセルロースである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記部分加水分解ポリビニルアルコール(PVA)が、水性組成物として、部分加水分解ポリ酢酸ビニル及び少なくとも80%の加水分解度を有するポリビニルアルコールである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキレンオキシドポリマー(PAO)が、式(IIb):
HO-(CHCHO)-H (IIb)
(式中、nは、1000~200000、好ましくは2000~100000、さらに好ましくは5000~70000の整数である)を有するポリエチレングリコールである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記非イオン性懸濁化剤A)は、典型的には、VDFモノマー1kgあたり0.01~2g、好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.05~0.55g、より好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.05~0.3gの量で重合反応混合物中に存在している、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン性カルボキシアルキル セルロースB)は、VDFモノマー1kgあたり0.05~10g、好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.3~5g、より好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.5~5gの量で重合反応混合物中に存在している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくともイオン性カルボキシアルキル セルロースB)の量は、前記非イオン性懸濁化剤A)の量よりも多い、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
重合における前記少なくとも1種のイオン性カルボキシアルキルセルロースB)の量は、VDFモノマー1kgあたり0.5gより多く、前記少なくとも1種の非イオン性懸濁化剤A)の量は、VDFモノマー1kgあたり0.3gより少ない、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法により得られるフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]。
【請求項12】
フッ化ビニリデンモノマーの重合に由来する繰り返し単位を50モル%超、好ましくは80モル%超含むフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]であって、前記ポリマー(VDF)は、D50値が250ミクロンを超える粒度分布を有することにより特徴付けられる、フッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の少なくとも1種のポリマー(VDF)を含有する組成物[組成物(C)]。
【請求項14】
請求項11若しくは12に記載のポリマー(VDF)又は請求項13に記載の組成物(C)を含む、物品。
【請求項15】
二次電池用の構成部品である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
親水性膜である請求項14に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、欧州特許出願第N.20197702.2号の優先権を主張し、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマー、前記フッ化ビニリデンポリマーの製造方法、及び前記フッ化ビニリデンポリマーを含む物品に関する。
【背景技術】
【0003】
フッ化ビニリデンポリマーは複数の異なる用途で有利に使用されている。
【0004】
ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)は、懸濁重合又は乳化重合のいずれかによる、二フッ化ビニリデンモノマー(ジフルオロ1,1-エチレン、VF2又はVDF)の重合によって得られ得る。
【0005】
乳化重合と比較した場合のVDFの懸濁重合の主な利点は、界面活性剤の非存在下で、特にフッ素化界面活性剤の非存在下で方法を実施することが可能であることである。
【0006】
しかしながら、任意の懸濁化剤の非存在下でのVDFの懸濁重合中に、反応器付着物(これは、反応器及び攪拌装置の内面上のポリマー堆積物の蓄積である)が認められ、これは、その方法の工業的生産への拡張を妨げる。
【0007】
VDF懸濁重合における非イオン性懸濁化剤の使用は、当技術分野で知られている。例として、国際公開第2016/041808号パンフレットは、アルキレンオキシドポリマー(PAO)及び非イオン性ヒドロキシアルキルセルロースを含む非イオン性界面活性剤の混合物を使用することによってVDF重合における付着物の低減を開示する。
【0008】
しかし、非イオン性懸濁化剤は、いくつかの用途に好適に使用できる良好な品質のVDFポリマーを得るために必要なステップであるポリマーの精製ステップで効果的に除去されない場合がある。
【0009】
前記精製ステップは、純水でポリマー粒子を洗浄することを含む。その結果、懸濁化剤の水への溶解度が高いほど、より高い精製効率が得られ、すると、より純度の高いPVDFポリマーが得られる。
【0010】
懸濁化剤の中でも、イオン性のものが最も高い水溶性を有する。しかしながら、VDFの懸濁重合にイオン性懸濁化剤を使用すると、反応が不安定になり得、反応の制御は、工業レベルまで製造を安全にスケールアップするには十分でない場合がある。
【0011】
そのため、より純度が高く、工業的規模で実現可能なPVDFをもたらすフッ化ビニリデンポリマーの製造方法に対するニーズが当技術分野で依然として存在する。
【発明の概要】
【0012】
ここで驚くべきことに、本発明の方法は、反応器の付着物を回避することができ、同時に、重合終了時にポリマーから容易に洗い流される特定のブレンドの懸濁化剤を使用する方法によって、有利にフッ化ビニリデンポリマーを容易に得ることができることが見出された。
【0013】
第1の態様において、本発明は、水性懸濁液中のフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]の製造方法に関し、前記方法は、フッ化ビニリデンを、
A)少なくとも非イオン性懸濁化剤;及び
B)少なくともイオン性カルボキシアルキルセルロース
の存在下で重合することを含む。
【0014】
本発明者らは、驚くべきことに、少なくともイオン性懸濁化剤と少なくとも非イオン性懸濁化剤との混合物を用いることにより、非イオン性懸濁化剤の量を大いに減少させつつ、付着物なしに制御可能な重合を行うことができることを見出した。
【0015】
したがって、第2の態様では、本発明は、本発明の方法によって得られるフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]に関する。
【0016】
また、驚くべきことに、本発明の方法によって得られるフッ化ビニリデンポリマー粉末は、D50値が150ミクロンを超える粒度分布を有するビーズ状の実質的に丸い粒子によって特徴付けられ、有利には優れた流動性を示すことが見出された。
【0017】
第3の態様では、本発明は、本発明の少なくとも1種のポリマー(VDF)を含有する組成物[組成物(C)]に関する。
【0018】
第4の態様では、本発明は、本発明の組成物(C)を含む物品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ポリマー(VDF)又は実施例1の粉末の倍率50xでのSEM画像を示す。
図2】ペレット形態で標準的なプロセスに従って製造され、その後粒径を小さくするために粉砕されるPVDFポリマーの粒子のSEM画像を示す。倍率は2.55Kxである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
特に明記しない限り、本発明との関連で、すべての百分率は、混合物の総重量で割られた混合物の具体的な成分の重量の比に関連している(wt/wtとして示される)。
【0021】
本明細書で使用される場合、用語「実質的に丸い」及び関連する形態は、両方の断面平面において実質的に丸い外観を有し、細長い本体を有しない粒子を指す。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「フッ化ビニリデンポリマー」は、フッ化ビニリデンモノマー(ジフルオロ1,1-エチレン、VF2又はVDF)の重合に由来する繰り返し単位を50モル%超、好ましくは80モル%超含むポリマーを示す。
【0023】
本発明の目的のために、フッ化ビニリデンポリマーは、好ましくは、VDFのみに由来する繰り返し単位を含むホモポリマーである。
【0024】
本発明の目的のために、フッ化ビニリデンポリマーは、VDFモノマーに加えて、VDF繰り返し単位と異なり、VDFと異なるエチレン性不飽和モノマーの重合に由来する繰り返し単位を任意選択で(例えば、組成物の総モル数に対して0.1~20モル%、好ましくは0.5~10モル%)含んでもよい。前記エチレン性不飽和モノマーは、少なくとも1個のフッ素原子を含んでもよく、したがって、フッ素化コモノマーと指定することができる。それでも、エチレン性不飽和モノマーはフッ素原子を含まないことができ、これらの非フッ素化コモノマーの例は、特に親水性(メタ)アクリルモノマーである。
【0025】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、好ましくは、式:
【化1】
(式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して水素原子又はC~C炭化水素基であり、及びROHは、水素、又は少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)に適合する。親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例は、特に、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0026】
モノマー(MA)は、より好ましくは、
- 下式のヒドロキシエチルアクリレート(HEA):
【化2】
- 下式のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA):
【化3】
- 下式のアクリル酸(AA):
【化4】
- 及び、これらの混合物の中から選択される。
【0027】
最も好ましくは、モノマー(MA)は、AA及び/又はHEAである。
【0028】
上で詳述したとおりのVDFと異なるフッ素化コモノマーの非限定的な例は、特に、以下:
(i)C~Cフルオロオレフィン、例えば、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP);
(ii)式CH=CH-Rf0(式中、Rf0は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレン;
(iii)クロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C~Cフルオロオレフィン、例えば、クロロトリフルオロエチレン(CTFE);
(iv)式CF=CFORf1(式中、Rf1は、C~Cパーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルビニルエーテル、例えば、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)及びパーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE);
(v)式CF=CFOX(式中、Xは、C~C12オキシアルキル基又は1個以上のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基、例えばパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基である)の(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(vi)式CF=CFOCFORf2(式中、Rf2は、C~C(パー)フルオロアルキル基、例えば-CF、-C、-C、又は1個以上のエーテル基を有するC~C(パー)フルオロオキシアルキル基、例えば、-C-O-CFである)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
(vii)式CF=CFOY(式中、Yは、C~C12アルキル基若しくは(パー)フルオロアルキル基、C~C12オキシアルキル基及び1個以上のエーテル基を有するC~C12(パー)フルオロオキシアルキル基から選択され、Yは、カルボン酸又はスルホン酸基を、その酸、酸ハライド又は塩形態で含む)の官能性(パー)フルオロオキシアルキルビニルエーテル;
(viii)フルオロジオキソール、特に、パーフルオロジオキソール;
(ix)フッ化ビニル、並びに
それらの混合物
を含む。
【0029】
最も好ましいフッ素化コモノマーは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)である。
【0030】
本発明のある実施形態では、ポリマー(VDF)は好ましくは、
- フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位と、
- 前記ポリマー(VDF)の繰り返し単位の総モル量に対して、0.1モル%~3モル%の少なくとも1つの(メタ)アクリルモノマー[モノマー(MA)]に由来する繰り返し単位と、
- 前記ポリマー(VDF)の繰り返し単位の総モル量に対して、0.1モル%~10モル%、好ましくは0.2%~5モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と
を含み、より好ましくはこれらからなる。
【0031】
本発明の方法は、水性懸濁液中で行われる重合である。
【0032】
本発明の目的のために、水性懸濁液中での重合とは、反応媒体が有機相で形成され、反応中に発生する熱分散を助けるために水が添加されるプロセスを意味する。有機相は、溶媒を加えることなく、モノマー自体によって、又は適当な有機開始剤、及び構造中に繰り返し分子単位を有する水溶性懸濁化剤の存在下でモノマーを好適な有機溶媒に溶解させることによって、形成することができる。
【0033】
重合反応は、より豊富なモノマー、すなわちVDFが亜臨界又は超臨界状態で存在するような温度及び圧力の条件で行うことができる。
【0034】
本発明の方法は、典型的には少なくとも10℃、好ましくは少なくとも25℃、より好ましくは少なくとも45℃の温度で行われる。
【0035】
圧力は、典型的には25bar超、好ましくは50bar超、更により好ましくは75bar超の値で維持される。
【0036】
本発明の目的のために、用語「非イオン性懸濁化剤」は、
a)多糖類誘導体;
b)部分加水分解ポリビニルアルコール(PVA);及び
c)アルキレンオキシドポリマー(PAO)
からなる群から選択されるヒドロキシル基を含むポリマーを示すことが意図される。
【0037】
用語「多糖類誘導体」は、グリコシド結合によって互いに連結された1個以上のグリコシド単位を繰り返し単位として含むヒドロキシル基を含む多糖類ポリマーの非イオン性誘導体を示すことが本明細書で意図される。グリコシド単位は、6員ピラノシド環又は5員フラノシド環のどちらかを示すことを本明細書では意図する。
【0038】
好ましくは、非イオン性多糖類誘導体は、グリコシド結合によって互いに連結されたD-グルコピラノシド及びグルコフラノシド、又はそれらの混合物から選択される繰り返しグリコシド単位を含む。
【0039】
より好ましくは、本発明の方法において、非イオン性多糖類誘導体a)は、β-グリコシド結合によって互いに連結された式(I):
【化5】
(式中、それぞれのR’は、出現する毎に他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、C~C炭化水素基又はC~Cヒドロキシアルキル基を表す)の繰り返しβ-D-グルコピラノシド単位を含む炭水化物である。
【0040】
より好ましくは、式(I)の炭水化物誘導体において、それぞれのR’は、他のいずれとも等しいか又は異なり、水素原子、ヒドロキシエチル基又は2-ヒドロキシプロピル基を表す。
【0041】
より好ましくは、本発明の方法において、式(I)の炭水化物誘導体は、ヒドロキシエチルメチルセルロース又は2-ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、後者が特に好ましい。
【0042】
本発明の方法に適した多糖類誘導体a)の非限定的な例には、特に、2重量%の濃度で水溶液中20℃で80~120mPa.sの動的粘度を有する、商標名METHOCEL(商標)K100、2重量%の濃度で水溶液中20℃で11,250~21,000mPa.sの動的粘度を有する、商標名METHOCEL(商標)K15M、2重量%の濃度で水溶液中20℃で2.4~3.6mPa.sの動的粘度を有する、商標名METHOCEL(商標)K3、2重量%の濃度で水溶液中20℃で3000~6000mPa.sの動的粘度を有する、商標名METHOCEL(商標)K4M、及び2重量%の濃度で水溶液中20℃で4~8mPaxsの動的粘度を有する、商標名CULMINAL(登録商標)MHPC5の下で利用可能なセルロース誘導体が含まれる。
【0043】
部分加水分解ポリビニルアルコールb)は、部分加水分解ポリ酢酸ビニル及びポリビニルアルコールを含む水性組成物として本明細書で意図される。
【0044】
ポリビニルアルコールは市販されており、様々な分子量及び加水分解度にわたって得ることができる。
【0045】
一般的に、ポリビニルアルコールは、以下のスキーム1に示すように、
スキーム1
【化6】
酢酸ビニル(CHCOOCHCH)の重合から得られるポリビニルアルコール前駆体(ポリ酢酸ビニル)の加水分解によって調製され、鹸化度は、加水分解度として定義される(鹸化度=l/(l+m))。
【0046】
本発明の水性組成物で使用されるPVAの加水分解度は、好ましくは少なくとも80%である。
【0047】
アルキレンオキシドポリマー(PAO)」という用語は、直鎖アルキレンオキシドに由来する繰り返し単位から本質的になる水溶性非イオン性懸濁化剤のホモポリマー又はコポリマーが本明細書で意図される。
【0048】
本発明で使用されるのに適したアルキレンオキシドホモ-又はコポリマーは、典型的には、排他的にではないが、エチレンオキシド(EO)に由来する繰り返し単位からなるホモポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG、POE又はPEOとも示される)から選択される。
【0049】
典型的には、本発明に関連して、アルキレンオキシドポリマーの平均分子量(M)は、当業者に公知の技術、例えば、それらの水溶液の粘度の決定によって測定すると50,000~10,000,000g/モルの範囲である。
【0050】
好ましい実施形態によれば、アルキレンオキシドポリマー(PAO)は、式(II):
O-(CHCHO)-R (II)
(式中、R及びRは、互いに独立して、H又はC~Cアルキル、好ましくはH又はCHであり、nは、1000~200000、好ましくは2000~100000、より好ましくは5000~70000の整数である)
を有するポリエチレンオキシドである。
【0051】
さらに、より好ましい実施形態によれば、アルキレンオキシドポリマー(PAO)は、式(IIb):
HO-(CHCHO)-H (IIb)
(式中、nは、1000~200000、好ましくは2000~100000、さらに好ましくは5000~70000の整数である)を有するポリエチレングリコールである。
【0052】
少なくとも1種のイオン性カルボキシアルキルセルロースB)は、式[C-H-O-Rのセルロース誘導体であり、式中、RはH又はカルボキシアルキル塩、好ましくは式-CH-COO-Mのカボキシメチル塩であり、Mはアンモニウム又はアルカリ金属カチオン、好ましくはNa及びLiから選択される一価カチオンであり、nは100~5000の整数である。
【0053】
少なくとも非イオン性懸濁化剤A)は、典型的には、VDFモノマー1kgあたり0.01~2g、好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.05~0.55g、より好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.05~0.3gの量で重合反応混合物中に存在している。
【0054】
少なくとも1種のイオン性カルボキシアルキルセルロースB)は、典型的には、VDFモノマー1kgあたり0.05~10g、好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.3~5g、より好ましくはVDFモノマー1kgあたり0.5~5gの量で重合反応混合物中に存在している。
【0055】
本発明による好ましい実施形態では、本方法は、A)少なくとも非イオン性懸濁化剤及びB)少なくともイオン性カルボキシアルキルセルロースの存在下で行われ、少なくともイオン性カルボキシアルキルセルロースB)の量は、非イオン性懸濁化剤A)の量よりも多い。
【0056】
より好ましくは、重合における少なくとも1種のイオン性カルボキシアルキルセルロースB)の量は、VDFモノマー1kgあたり0.5gより多く、少なくとも1種非イオン性懸濁化剤A)の量は、VDFモノマー1kgあたり0.3gより少ない。
【0057】
本発明の方法は、典型的にはラジカル開始剤の存在下、水性懸濁媒体中で行われる。ラジカル開始剤の選択は特に限定されない一方で、本発明による方法に適した開始剤は、重合プロセスを開始及び/又は促進することができる化合物から選択されることが理解される。
【0058】
本発明の方法おいて有利に使用され得るラジカル開始剤の中で、有機ラジカル開始剤に言及することができる。好適な有機ラジカル開始剤の非限定的な例としては、アセチルシクロヘキサンスルホニルパーオキシド;ジアセチルパーオキシジカーボネート;ジアルキルパーオキシジカーボネート、例えば、ジエチルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート;tert-ブチルパーネオデカノエート;tert-アミルパーピバレート;2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル;tert-ブチルパーピバレート;ジオクタノイルパーオキシド;ジラウロイル-パーオキシド;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル);tert-ブチルアゾ-2-シアノブタン;ジベンゾイルパーオキシド;tert-ブチル-パー-2エチルヘキサノエート;tert-ブチルパーマレエート;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル);ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;tert-ブチル-パーオキシイソプロピルカーボネート;tert-ブチルパーアセテート;2,2’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン;ジクミルパーオキシド;ジ-tert-アミルパーオキシド;ジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP);p-メタンヒドロパーオキシド;ピナンヒドロパーオキシド;クメンヒドロパーオキシド;及びtert-ブチルヒドロパーオキシドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
本発明のVDFポリマーは、25℃でN,N-ジメチルホルムアミド中で測定される0.05~0.75l/g、好ましくは0.10~0.55l/g、より好ましくは0.13~0.45l/gの固有粘度を有する。
【0060】
本出願人は、驚くべきことに、本発明による方法によって、優れた流動性を特徴とする粒子形態のポリマー(VDF)を得ることができ、これは、粉末形態の多量のVDFポリマーを操作しなければならない工業プロセスにおいて、非常に重要な特徴であることを見出した。
【0061】
したがって、第2の態様では、本発明は、本発明の方法によって得られるフッ化ビニリデンポリマー[ポリマー(VDF)]に関する。
【0062】
特に、本発明の方法によって得られるポリマー(VDF)は、D50値が150ミクロンを超える、非常に狭い粒度分布(PSD)を有することによって特徴付けられる。
【0063】
また、本発明の方法によって得られるポリマー粉末は、ビーズ状の実質的に丸い粒子によって特徴付けられる。
【0064】
先行技術の方法は、ポリマーのペレットを調製し、次に必要な粒径を得るために前記ペレットを粉砕することを含む方法によってのみ、D50値が150ミクロンを超える粒度分布を有する粒子を得ることを可能にする。しかしながら、前記粉砕された粒子の形状は丸くなく、前記粒子の表面は平滑ではなく、その結果、流動性に関する利点は前記粒子によっては得られない。
【0065】
本発明の方法は、図1及び図2に示されるように、先行技術の方法に従ってペレットを粉砕することによって得られる粒子とは明らかに異なる、D50値が150ミクロンを超える粒度分布を有するビーズ状の実質的に丸い粒子を得ることができる。
【0066】
本発明の特に好ましい実施形態は、フッ化ビニリデンモノマーの重合に由来する繰り返し単位を50モル%超、好ましくは80モル%超含むポリマー(VDF)に関し、前記ポリマー(VDF)は、D50値が250ミクロンを超える粒度分布を有することにより特徴付けられる。
【0067】
第3の態様では、本発明は、本発明の少なくとも1種のポリマー(VDF)を含有する組成物[組成物(C)]に関する。
【0068】
本発明の組成物(C)は、1種以上の添加剤を更に含んでもよい。
【0069】
適切な添加剤の非限定的な例としては、例えばジブチルセバケートなどの可塑剤が挙げられる。
【0070】
第4の態様では、本発明は、ポリマー(VDF)又は上記で定義される組成物(C)を含む物品に関する。
【0071】
本発明の物品は、典型的には、射出成形又は圧縮成形などの溶融加工技術を使用してポリマー(VDF)又は上記で定義される本発明の組成物(C)を加工することによって得られる。
【0072】
本発明の物品は、電池用途などの様々な用途における使用に特に適している。
【0073】
特に、ポリマー(VDF)又は上記で定義される本発明の組成物(C)を含む好適な物品は、二次電池用の、特にリチウムイオン電池における電極及び/又はセパレータなどの二次電池用の構成部品である。
【0074】
本発明のポリマー(VDF)又は上記で定義される組成物(C)は、二次電池、特にリチウムイオン電池用の電極におけるバインダーとして特に適している。
【0075】
さらに、本発明のポリマー(VDF)又は上記で定義される組成物(C)は、
- 好ましくは少なくとも1つのポリオレフィンからなる、少なくとも1つの基材層と、
- 前記基材層に付着された、好ましくは本発明の少なくとも1つのポリマー(VDF)を含む、好ましくはこれからなる少なくとも1つの層と
を含む二次電池、特にリチウムイオン電池用のセパレータ、例えば複合セパレータでの使用に特に適している。
【0076】
さらに、本発明の別の目的は、親水性膜の製造のための、ポリマー(VDF)又は上記で定義される組成物(C)の使用である。
【0077】
したがって、本発明は、ポリマー(VDF)又は上記で定義される組成物(C)を含む親水性膜の製造方法、及びポリマー(VDF)又は組成物(C)を含む親水性膜に関する。
【0078】
上に詳述された、親水膜の製造のための使用、方法及びそれからの膜は、ポリマー(VDF)に関連して詳細に記載され;それにもかかわらず、上に詳述されたとおりの組成物(C)は、以下に詳述される実施形態のすべてでポリマー(VDF)の代わりに使用され得ることが理解される。
【0079】
本発明の目的に対して、「膜」という用語は、その通常の意味を有し、すなわち、それは、本質的に、それと接触している化学種の透過を調節する、個別の概して薄い界面を指す。この界面は、分子的に均一であり得る(即ち構造が完全に均一であり得る)か(稠密膜)、又は化学的若しくは物理的に不均一であり得、例えば有限寸法の空隙、空孔又は細孔を含有し得る(多孔質膜)。「細孔」、「空隙」及び「空孔」という用語は、本発明の文脈内で同義であるとして使用される。
【0080】
本発明の膜は好ましくは多孔性膜である。多孔性膜は、一般に、互いにつながった細孔を有する空隙のある構造(voided structure)を有する。
【0081】
多孔性膜は、一般に平均孔径(d)及び空隙率(ε)、すなわち、全膜の、多孔性である比率を特徴とする。
【0082】
本発明の多孔性膜は、有利には少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも3%、且つ有利には多くとも90%、好ましくは多くとも80%の空隙率(ε)を有する。これらの細孔は、一般に有利には少なくとも0.01μm、好ましくは少なくとも0.05μm、より好ましくは少なくとも0.1μm、且つ有利には多くとも50μm、好ましくは多くとも25μm、より好ましくは多くとも10μmの平均径(d)を有する。
【0083】
膜は、フラットシートの形態下であり得るか、又は薄肉の管若しくは繊維(中空繊維膜)の形態下で製造され得る。フラットシート膜は、高フラックスが必要とされるときに一般に好ましい。中空糸への膜の形成は、大きな表面積を含むコンパクトモジュールが要求される場合、特に有利である。
【0084】
本発明の膜は、例えば、特に水性媒体の、精密ろ過及び好ましくは限外ろ過などの様々な分離プロセスにおける化学的処理産業において、例えば、血液透析のための、薬剤の放出制御のための、腎臓、肺及び膵臓などの人工臓器のためのバイオ医療用途において、並びに都市及び産業の廃水処理のための膜バイオリアクターにおいて使用され得る。
【0085】
膜が稠密な膜である場合、本発明の方法は、有利には上に定義されたとおりのポリマー(VDF)をキャスティング及び/又は溶融成形する工程を含む。溶融成形は一般的に、ダイからシートとしての又はブローンフィルムとしての押出のどちらかによって稠密な膜を製造するために用いられる。
【0086】
膜が多孔性膜である場合、本発明の方法は、有利には照射技術、フィルム膨張、鋳型浸出技術、溶液沈殿技術、エレクトロスピニング技術の1つを含む少なくとも1つの工程を含む。
【0087】
参照により本明細書に組み込まれる、特許、特許出願、及び出版物の開示内容は、用語があいまいになり得る程度まで、本出願の明細書と矛盾するはずであるが、本明細書が優先されるべきである。
【0088】
ここで、本発明は、以下の実施例に関連してより詳細に説明されるが、その目的は、例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0089】
原材料
(B-1):Sigma Aldrichから市販されている、平均分子量250,000g/molのカルボキシメチルセルロースナトリウム。
【0090】
(B-2):Sigma Aldrichから市販されている、平均分子量90,000g/molのカルボキシメチルセルロースナトリウム。
【0091】
(A-1):2重量%の濃度の水溶液中において、20℃における80~120mPa・sの動的粘度を有する、「Methocel(登録商標)K100GR」の名称でDow Chemicalにより市販されているヒドロキシプロピルメチルセルロースエーテル。
【0092】
(A-2):80%加水分解された高分子量ポリビニルアルコールである、Alcotex(登録商標)80(Synthomer)の名称で市販されているPVA。
【0093】
DCE:Sigma Aldrichのジエチルカーボネート。
【0094】
ポリマーの固有粘度の決定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマーを約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解させることによって得られた溶液の、25℃での滴下時間に基づいて、以下の式:
【数1】
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、ηは、相対粘度、すなわち、試料溶液の滴下時間と、溶媒の滴下時間との間の比であり、ηspは、比粘度、すなわち、η-1であり、Γは、ポリマー(VDF)については3に相当する、実験係数である)を用いて測定した。
【0095】
実施例1:
回転数650rpmで回転する羽根車を備えた4Lの反応器に以下を順次導入した:脱塩水1,950g、全VDFモノマー1kgあたり0.08gの(A-1)、全VDFモノマー1kgあたり0.93gの(B-1)、及びSigma Aldrichの水酸化カルシウム溶液371.5g。
【0096】
反応器内に存在する酸素は、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0097】
次に、脱塩水40g、過酸化水素5.1g(Brenntag社製)、DCE15.27g、及びクロロホルム酸エチル1.59g(Framochem社製)を反応器に導入した。
【0098】
15分後、880rpmの撹拌速度で1,004gのVDFを混合物に添加した。次いで、83バールの反応器圧力に相当する41.5℃の第1の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。295gのVDFを供給することにより、圧力を常に83バールに等しく保った。この供給後、モノマーをそれ以上供給せず、圧力は57バールまで低下し始めた。次いで、反応器を61℃で徐々に加熱した。この時点で圧力は低下し始めた。圧力が20バールまで低下すると、大気圧に達するまで懸濁液から脱気させることによって反応を停止させた。合計1,300gのVDFを反応器に投入した。その後、ポリマーをろ過により回収し、攪拌したタンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後、ポリマーを流動床乾燥機(Retsch)で60℃で3時間乾燥させた。1,236gの乾燥粉末を回収した。
【0099】
概して、すべての作業実施形態においてVDFの90%を超える変換を達成した。
【0100】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0101】
実施例2 比較:
実施例1と同様の手順を行ったが、全VDFモノマー1kgあたり0.46gの(A-1)のみを反応器に添加し、(B-1)は添加しなかった。
【0102】
1,249gの乾燥粉末を回収した。
【0103】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0104】
実施例3:
実施例1と同様の手順を行ったが、全VDFモノマー1kgあたり0.08gの(A-1)及び全VDFモノマー1kgあたり0.46gの(B-1)を用いた。
【0105】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0106】
実施例4 比較:
実施例1と同様の手順を行ったが、全VDFモノマー1kgあたり0.09gの(A-1)のみを反応器に添加し、(B-1)を添加しなかった。
【0107】
懸濁液は非常に不安定であることが分かり、67分後に反応器を脱気しなければならなかった。有効な重合ではない。これにより、工業生産へのプロセスのスケールアップが妨げられる。
【0108】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0109】
実施例5 比較:
実施例1と同様の手順を行ったが、全VDFモノマー1kgあたり1.19の(B-1)のみを添加し、(A-1)は添加しなかった。
【0110】
懸濁液は非常に不安定であることが分かり、114分後に反応器を脱気しなければならなかった。有効な重合ではない。これにより、工業生産へのプロセスのスケールアップが妨げられる。
【0111】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0112】
実施例6:
実施例1と同様の手順を行ったが、初期VDFモノマー1kgあたり0.08gの(A-1)及び全VDFモノマー1kgあたり0.93gの(B-2)を添加した。
【0113】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0114】
実施例7:
4Lの反応器に脱塩水2,239g、全VDFモノマー1kgあたり0.07gの(A-1)、及び全VDFモノマー1kgあたり0.80gの(B-1)を順次導入した。この混合物を、880rpmの速度で回転する羽根車で攪拌した。
【0115】
反応器内に存在する酸素は、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0116】
次に、DCE20g、及びイソドデカン中の開始剤t-アミルパーピバレート(United Initiators)の溶液(75%)1.47gを反応器に導入した。
【0117】
1,053gのVDFをこの混合物に導入した。次いで、52℃の第1の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。この温度で、反応器の圧力は120バールに固定された。
【0118】
244gのVDFを供給することにより、圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、モノマーをそれ以上供給せず、圧力は90バールまで減少し始めた。次いで、反応器を67℃で徐々に加熱した。圧力を80バールに保ち、281gのVDFを反応器に供給した。圧力が55バールまで低下すると、大気圧に達するまで懸濁液から脱気させることによって重合を停止させた。合計1,580gのVDFを反応器に投入した。その後、ポリマーをろ過により回収し、撹拌したタンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後、ポリマーを流動床乾燥機(Retsch)で60℃で3時間乾燥させた。
【0119】
1,414gの乾燥粉末を回収した。
【0120】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0121】
実施例8:
4Lの反応器に脱塩水2,542g、全VDFモノマー1kgあたり0.06gの(A-1)、及び全VDFモノマー1kgあたり0.68gの(B-1)を導入した。この混合物を、880rpmの速度で回転する羽根車で攪拌した。
【0122】
反応器内に存在する酸素は、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0123】
次に、DCE9.5g、及びイソドデカン中の開始剤t-アミルパーピバレート(United Initiators)の溶液(75%)1.33gを反応器に導入した。
【0124】
820gのVDFをこの混合物に導入した。次いで、52℃の第1の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱した。この温度で、反応器の圧力は120バールに固定された。
【0125】
重合中に合計631gのVDFを供給することにより、圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、モノマーをそれ以上供給せず、圧力は95バールまで減少し始めた。次いで、反応器を65℃で徐々に加熱した。この時点で圧力は減少し始めた。圧力が46バールまで低下すると、大気圧に達するまで懸濁液から脱気させることによって反応を停止させた。合計1,450gのVDFを反応器に投入した。その後、ポリマーをろ過により回収し、攪拌したタンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後、ポリマーを流動床乾燥機(Retsch)で60℃で3時間乾燥させた。
【0126】
1,288gの乾燥粉末を回収した。
【0127】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0128】
実施例9:
4Lの反応器に脱塩水1,714g、全モノマー1kgあたり0.1gの(A-1)、及び全モノマー1kgあたり1.2gの(B-1)を導入した。この混合物を、880rpmの速度で回転する羽根車で攪拌した。
【0129】
反応器内に存在する酸素は、14℃の固定温度で、真空及び窒素のパージのシーケンスで除去した。このシーケンスを3回繰り返した。
【0130】
次に、アクリル酸(AA)0.55g、及びイソドデカン中の開始剤t-アミルパーピバレート(United Initiators)の溶液(75%)4.94gを反応器に導入した。1,279gのVDFをこの混合物に導入した。次いで、55℃の設定点温度に達するまで、反応器を徐々に加熱し、これは、120バールの圧力に相当した。
【0131】
溶液1リットルあたり14.91gのAAを含有する水溶液を供給することによって、重合中ずっと圧力を常に120バールに等しく保った。405分後に、重合は、大気圧に達するまで懸濁液から脱気させることによって停止させた。合計909gのAA溶液を反応器に投入した。
【0132】
その後、ポリマーをろ過により回収し、攪拌したタンク内で清浄な水に懸濁させた。洗浄処理後、ポリマーを流動床乾燥機(Retsch)で60℃で3時間乾燥させた。974gの乾燥粉末を回収した。
【0133】
重合時間、粒子特性決定及び流動性を表1に示す。
【0134】
流動性試験:
実施例1~10で得られた乾燥粉末の流動性を、ASTM D 1895の粉末用規格に従って評価した。
【0135】
乾燥ポリマー粉末50gを精密秤で秤量した。次に、この粉末を、寸法(3.99×7.98cm)のステンレス鋼製円筒容器中で5分間、手で振盪した。得られた粉末を、受け皿カップの高さ12cmに置かれた閉じたInox漏斗(寸法11.4cmであり、開口部の直径は9.3cmである)に入れた。その後、粉末を放出し、粉末が流れるのに必要な時間をストップウォッチでモニタした。粉体がうまく流れないときは、試料が完全に流れるまで漏斗を叩いた。カップに集められた粉末は、精密秤で再度秤量した。流れた粉末の時間及び量、並びにそのアスペクト、粉末が流れるのを助ける必要があったか否かをまとめた。
【0136】
D50:ISO13320規格に基づき、レーザ回折を用いて粉末の粒径分析を行った。D50は、母集団の半分がこの値を下回り、半分が上回る粒径を示す。
【0137】
母集団の粒径分布(PSD)は、SPANを測定して評価した。
【0138】
SPANは以下:
【数2】
(式中、D90は母集団の90%がこの値より下回る直径であり、D10は母集団の10%がこの値を下回る直径である)に従って算出した。
【0139】
結果は、以下の表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示すように、本発明の方法は、大きなポリマー粉末と同時に狭いPSDを示す実施例1、3、及び6~9のいずれか1つの方法に従って得られるポリマーによって特に具体化されるVDFポリマーを有利に得られることが分かった。
【0142】
特に、250μm超の特に大きな粒径を有する実施例1及び6のVDFポリマーは、優れた流動性を示す。一方、非イオン性懸濁化剤又はイオン性懸濁化剤のみを使用した比較例2、4及び5のポリマーの製造方法は、粒径のより小さい乾燥ポリマー、又は反応器中のポリマーのブロックの形成につながる安定した懸濁液の非存在故に制御不能であった重合となった。
図1
図2
【国際調査報告】