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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】病原体検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20231013BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20231013BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20231013BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20231013BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20231013BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z
C12Q1/70
C12Q1/6806 Z
C12Q1/48 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519229
(86)(22)【出願日】2021-10-06
(85)【翻訳文提出日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2021077634
(87)【国際公開番号】W WO2022074089
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】63/088,423
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】20200426.3
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20200425.5
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20214412.7
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507214038
【氏名又は名称】キアゲン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】フラネス, ミロスラフ
(72)【発明者】
【氏名】ホッホシュタイン, ノルベルト
(72)【発明者】
【氏名】パイスト, ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】コルネリウス, シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ジンガー, トルステン
(72)【発明者】
【氏名】シュタイネルト, ケルシュティン
(72)【発明者】
【氏名】テ カート, カイ
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ10
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR41
4B063QR50
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
(57)【要約】
本発明は、事前の標的精製なく、粗生物学的試料を使用する標的核酸および病原体の増幅に基づく検出のための方法およびキットを提供する。本発明による抽出組成物は、輸送培地に含有され得る粗生物学的試料に添加され、それにより、そのように調製された試料は、標的核酸を事前に精製することなく、1またはそれを超える標的核酸のその後の直接増幅に適合される。前記粗生物学的試料は、培地に含有された生物学的試料によって提供され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の事前の精製なく、粗生物学的試料に含まれる少なくとも1つの標的核酸を増幅に基づく検出のための方法であって、
(A)前記粗生物学的試料を、前記標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅すること、
を含み、
必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われ、
必要に応じて、前記少なくとも1つの標的核酸が病原体に由来する、方法。
【請求項2】
標的核酸の事前の精製なく、粗生物学的試料中のRNAウイルス病原体の存在または非存在を前記病原体に由来する少なくとも1つの標的核酸を増幅することに基づいて検出する方法であって、
(A)前記粗生物学的試料を、前記標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写増幅反応に供し、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅すること、
を含み、
前記少なくとも1つの標的核酸は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルスに由来し、
必要に応じて、前記少なくとも1つの標的核酸は、SARS-CoV-2遺伝子N、N1、N2、RdRP、Eおよび/またはOrf1bに由来する、方法。
【請求項3】
(A)の調製が、
- 前記粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの界面活性剤であって、好ましくは非イオン性および両性界面活性剤から選択される、界面活性剤、
(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および
(c)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出組成物と接触させて、それによって、混合物を提供すること;
および
- 前記混合物をインキュベートして前記調製された生物学的試料を提供すること;
を含み、
前記増幅反応に供される前記調製された生物学的試料が、前記増幅反応の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供し、必要に応じて、前記増幅反応に供される前記調製された生物学的試料のアリコートが、前記増幅反応の全反応体積の最大60%または最大50%を提供する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記粗生物学的試料が、培地に含有された生物学的試料によって提供され、必要に応じて、前記培地が、以下の特徴の少なくとも1つの特徴を有する:
(aa)ハンクス平衡塩類溶液を含む;
(bb)塩含有溶液である;
(cc)生理的塩溶液である;
(dd)0.7%~1.2%(w/v)または0.8%~1%(w/v)のアルカリ金属塩を含む溶液である;
(ee)0.9%(w/v)塩化ナトリウム溶液である;
(ff)リン酸緩衝液であり、必要に応じてPBS緩衝液である;
(gg)前記培地が、ハンクス平衡塩類溶液、ユニバーサル輸送培地(UTM)、ウイルス輸送培地(VTM)、または前述の培地の1またはそれを超える培地と比較して+/-30%もしくは+/-20%の範囲の総塩濃度を有する培地を含むか、またはこれらからなる;
(ee)前記生物学的試料を含む前記培地は塩含有溶液であり、前記生物学的試料を含む前記培地中の前記総塩濃度が、50mM~250mM、例えば75mM~225mM、100mM~200mM、120mM~175mMまたは125mM~150mMの範囲にある、
請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
(B)において、前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供することが、前記調製された生物学的試料を、前記増幅または逆転写増幅反応を実施するために使用される前記成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することを含み、前記調製された増幅反応混合物が、
(a)前記調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写増幅が行われる場合に含まれる逆転写酵素;
(d)Mg2+源、緩衝剤および必要に応じてさらなる添加物を含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス、必要に応じて前記ヌクレオチドは修飾ヌクレオチドまたはdUTPを含む;および
(f)前記1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、および必要に応じてプローブ、
を含み、
前記方法は、
- バリアントAごとに、前記調製された生物学的試料を、成分(b)~(e)および前記1またはそれを超える標的核酸を増幅するための別個に提供されたプライマーおよび必要に応じてプローブを含む増幅マスターミックスと接触させること、またはバリアント(B)ごとに、前記調製された生物学的試料を、成分(b)および(d)~(f)ならびに必要に応じて(c)を含む直接増幅マスターミックスと接触させること、を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
増幅反応緩衝液(d)、成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスおよび/または成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスのイオン強度を低下させ、それにより、前記培地を含有する前記調製された生物学的試料に起因する、イオン、特にアルカリ金属塩および/または塩化物に由来するイオンの前記増幅反応混合物への導入を補償する、請求項4および5に記載の方法。
【請求項7】
前記増幅反応緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まず;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択され;かつ
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHを、有機酸、好ましくはカルボン酸で調整することを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスが、
(i)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(iii)塩化物イオンが存在する場合、前記塩化物イオン濃度は、250mM以下、200mM以下、175mM以下、150mM以下、または125mM以下である;および
(iv)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、好ましくは、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(v)必要に応じて、pHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、前記カルボン酸は酢酸である、
ことを特徴とする、請求項5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記抽出組成物が、以下の実施形態から選択される抽出溶液である:
(i)前記抽出溶液が、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、を含む;
(ii)前記抽出溶液が、
(a)少なくとも1つのポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される少なくとも1つの還元剤、を含む;
(iii)前記抽出溶液の活性成分が、
(a)非イオン性界面活性剤、好ましくはポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)タンパク質性RNase阻害剤、および
(c)好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される還元剤、から本質的になる;
(iv)前記抽出溶液が、
(a)少なくとも1つのポリソルベート、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、を含む;
(v)前記抽出溶液の活性成分が、
(a)少なくとも1つのポリソルベート、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、から本質的になる;
請求項3~8の1またはそれを超える請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記抽出組成物と接触させる前記粗生物学的試料が、培地に含まれる病原体熱不活性化生物学的試料であり、前記方法が、前記病原体熱不活性化生物学的試料を前記抽出組成物と接触させる前に、病原体を不活性化するのに適した温度で、前記抽出組成物の非存在下で前記生物学的試料を加熱することを含む、請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの標的核酸が病原体に由来するRNA標的核酸であり、前記粗生物学的試料が、培地に含まれる生物学的試料であり、前記方法が、
(A)前記粗生物学的試料を、前記少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のために調製することであって、以下を含む:
- 前記粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、
前記混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の前記抽出溶液に由来する前記非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の前記抽出溶液に由来する前記還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、前記方法は、前記抽出溶液の非存在下で前記粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを前記抽出溶液と接触させる前に、前記粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 前記混合物をインキュベートして、前記調製された生物学的試料を提供すること;
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供して、前記反応を実行し、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅すること、を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの標的核酸が病原体に由来するRNA標的核酸であり、前記方法が、
(A)前記粗生物学的試料を、前記少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のために調製することであって、以下を含む:
- 前記粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製すること;
必要に応じて、前記方法は、前記抽出溶液の非存在下で前記粗生物学的試料を加熱して、前記病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを前記抽出溶液と接触させる前に、前記粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 前記混合物をインキュベートして、前記調製された生物学的試料を提供すること;
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、以下によって逆転写および増幅反応に供することであって、
- 前記調製された生物学的試料を、前記逆転写増幅反応を実施するために使用される前記成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、前記調製された増幅反応混合物が、
(a)前記調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)前記1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、を含み、
前記調製された生物学的試料(a)が、前記調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 前記少なくとも1つのRNA標的核酸を増幅するために前記逆転写および増幅反応を実施する、前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供すること、を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
(B)において、前記方法が、前記調製された生物学的試料を成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスと接触させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記増幅反応緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まず;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択され;かつ
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHを、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整することを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスが、
(i)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(iii)塩化物イオンが存在する場合、前記塩化物イオン濃度は、200mM以下、175mM以下、150mM以下、または125mM以下である;
(iv)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、好ましくは、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(v)pHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、前記カルボン酸は酢酸である、
ことを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記粗生物学的試料が、培地に含まれる呼吸器生物学的試料であり、前記方法が、
(A)前記少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための前記粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 培地に含有された前記呼吸器生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、前記混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の前記抽出溶液に由来する前記非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の前記抽出溶液に由来する前記還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、前記方法は、前記抽出溶液の非存在下で培地に含有された前記呼吸器生物学的試料を加熱して、前記病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを前記抽出溶液と接触させる前に、前記粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 前記混合物をインキュベートして、前記調製された生物学的試料を提供すること;
(B)以下によって、前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、好ましくは定量的RT-PCR反応である逆転写および増幅反応に供すること:
- 前記調製された生物学的試料を、前記逆転写増幅反応を実施するために使用される前記成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、前記調製された増幅反応混合物が、
(a)前記調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液であって、前記増幅反応緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;および
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整される、ことを特徴とする、増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)前記1またはそれを超える標的核酸を逆転写および増幅するためのプライマー、
を含み、
前記調製された生物学的試料(a)が、前記調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
前記少なくとも1つのRNA標的核酸を逆転写および増幅するために前記逆転写および増幅反応を実施することであって、
少なくとも以下の工程:
- 前記粗生物学的試料を前記抽出溶液と接触させて前記混合物を調製すること、
- 前記混合物をインキュベートすること、
- 前記逆転写増幅反応を行うこと、
が、同じ反応容器内で行われ;
前記標的核酸は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来する1またはそれを超える、好ましくは2またはそれを超える標的核酸によって提供される、前記逆転写および増幅反応を実施すること;および
工程(A)および(B)が2時間またはそれ未満で完了する、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(A)前記粗生物学的試料を、前記標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅し、必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われ、
(B)において前記増幅反応を実施するために、前記調製された生物学的試料が、前記増幅または逆転写増幅反応を実施するために使用される前記成分と接触されて、それによって増幅反応混合物を提供し、前記調製された増幅反応混合物が、
(a)前記調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写増幅が行われる場合に含まれる逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス、必要に応じて、前記ヌクレオチドは修飾ヌクレオチドまたはdUTPを含む;および
(f)前記1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、および必要に応じてプローブ、
を含み、
- バリアントAごとに、前記調製された生物学的試料は、成分(b)~(e)および前記1またはそれを超える標的核酸を増幅するための別個に提供されたプライマーおよび必要に応じてプローブを含む増幅マスターミックスと接触しているか、または
バリアント(B)ごとに、前記調製された生物学的試料は、成分(b)および(d)~(f)ならびに必要に応じて(c)を含む直接増幅マスターミックスと接触しており、
前記増幅反応緩衝液(d)は、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;および
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHは、有機酸、好ましくはカルボン酸で調整される、ことを特徴とし、
必要に応じて、前記少なくとも1つの標的核酸は病原体に由来する、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(a)(i)少なくとも1つの界面活性剤であって、好ましくは非イオン性および両性界面活性剤から選択される界面活性剤、(ii)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および(iii)必要に応じて少なくとも1つの還元剤、を含む抽出組成物;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)必要に応じて、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅するためのプライマー、
を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項19】
前記増幅緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まず;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択され;かつ
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHを、有機酸、好ましくはカルボン酸で調整することを特徴とする、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
成分(b)~(e)が単一の組成物中に含まれ、それにより増幅マスターミックスを提供し、前記増幅マスターミックスが、
(i)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(iii)塩化物イオンが存在する場合、前記塩化物イオン濃度は、250mM以下、200mM以下、175mM以下、150mM以下、または125mM以下である;および
(iv)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、好ましくは、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(v)必要に応じて、pHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、前記カルボン酸は酢酸である、
ことを特徴とし、
必要に応じて、前記増幅マスターミックスが単一組成物中に成分(f)をさらに含み、それにより直接増幅マスターミックスを提供する、請求項18または19に記載のキット。
【請求項21】
以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する、請求項18~20のいずれか一項に記載のキット:
(aa)前記増幅緩衝液(d)、成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが、以下の添加剤のうちの1またはそれを超える添加材を含む:
- 必要に応じて硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムから選択される、アンモニウム塩;
- ポリエチレングリコール;
- N,N,N-トリメチルグリシン;
- 血清アルブミン;
- 金属イオンキレート剤、必要に応じてEGTA;
- グリセロール;
- 魚ゼラチン;
- PVP(ポリビニルピロリドン);
- DMSO;および
- ホルムアミド;
(bb)前記抽出組成物が、請求項9に記載の実施形態(i)~(v)から選択される抽出溶液である;
(cc)前記キットが、(g)少なくとも1つの内部対照鋳型、および前記内部対照鋳型を増幅するためのプライマー、ならびに必要に応じて検出用のプローブを含む;
(dd)前記キットが、前記少なくとも1つの標的核酸を検出するための1またはそれを超えるプローブを含む。
【請求項22】
前記キットが、タンパク質分解酵素と還元剤とを含む消化溶液を含み、
必要に応じて、前記タンパク質分解酵素がプロテアーゼ、好ましくはプロテイナーゼKであり、前記還元剤がトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)およびβ-メルカプトエタノールから選択され、好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)である、請求項18~21のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、とりわけ、PCRによる病原体の、特に、SARS-CoV-2としてのRNAウイルスの、標的核酸の事前の抽出および精製なしにその核酸ゲノムによる直接検出を可能にする抽出組成物を記載する。さらに、前記方法と併せて使用することができる改善された増幅反応緩衝液および増幅マスターミックスが記載されている。
【0002】
本発明による抽出組成物は、輸送培地に含有され得る粗生物学的試料に添加され、それにより、そのように調製された試料は、標的核酸を事前に精製することなく、1またはそれを超える標的核酸のその後の直接増幅に適合される。本発明の技術は、従来技術の方法と比較して感度を高める。さらに、調製された生物学的試料に含まれる成分による増幅反応の阻害による感度の損失を回避することを可能にする手段が提供される。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
生物学的試料中の標的核酸の存在または非存在を検出するための方法は、広く使用されており、診断分野において特に関連性がある。そのような方法は、対象が目的の病原体に感染しているかどうかを決定するために広く使用されている。細菌またはウイルスなどの病原体の検出のための標準的な手順は、病原体のゲノム核酸、すなわちDNAまたはRNAの存在の証明である。標準的な従来技術の方法では、ウイルスなどの病原体の核酸は、文献に記載されている試料調製方法を使用して患者の試料から精製される。次いで、精製された核酸を核酸増幅反応に適用し、増幅し、病原体の存在または非存在を決定するために検出する。
【0004】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、その感度のため、検出、特にウイルスの検出にしばしば使用される。当技術分野で一般的に知られているように、RNAゲノムを有するウイルスの場合、RNAをDNAに変換するPCRによる検出の前にさらなる工程が必要である。このプロセスを触媒する酵素は逆転写酵素(RT)である。RNAのcDNAへの転写およびその後のPCRによるゲノムの増幅は、一般にRT-PCRとして知られており、当技術分野で広く使用されている。この技術は、限定するものではないが、SARS-CoV[-1](重症急性呼吸器症候群コロナウイルス[1])、MERS-CoV(中東呼吸器症候群コロナウイルス)およびSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)などのコロナウイルス科を含む様々なヒト病原体ウイルスについて十分に確立されている。
【0005】
Covid-19疾患の原因であるSARS-CoV-2を含む多くの病原体の検出のために、例えば鼻咽頭または中咽頭スワブ採取によって対象から生物学的試料を得る。次いで、収集した生物学的試料を含むスワブを、輸送のためにUTM(Universal Transport Medium;Copan)またはVTM(Viral Transport Medium;CDC:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/Viral-Transport-Medium.pdf)などの培地に入れ、さらに増幅に基づく分析のために実験室に送る。SARS-CoV-2 RNAゲノムを含む核酸は、収集された試料中に存在する場合は、次いで、ウイルスDNA/RNA抽出法(例えば、QIAamp Viral RNA Mini Kit、QIAGEN)を使用し、続いて特異的PCRによってウイルスRNAゲノムの1またはそれを超える標的核酸を検出することによって、収集された生物学的試料から単離される。収集された生物学的試料からの核酸の事前精製は、増幅反応のための鋳型を含有する純粋な溶出液を提供する。このような生物学的試料や回収培地に含まれる増幅反応の不純物や阻害剤を予め除去しておくことにより、増幅反応が阻害されず、標的の存在または非存在を高感度に検出することができる。
【0006】
しかしながら、非常に多数の患者試料を可能な限り短時間で分析しなければならない現在のCovid-19のパンデミックなどのパンデミックの状況では、この従来のワークフローは重大な欠点を示す。核酸単離工程を含む最初の試料調製は、方法が自動化された様式で実施される場合であっても、診断プロセス全体を減速させる。したがって、これは、診断において望ましくない許容できないバックログをもたらす可能性がある。さらに、パンデミック中に処理される試料の数が多いため、核酸抽出に必要な試薬が不足する危険性があり、したがって、バックログがさらに増大する。したがって、増幅に基づく検出を行う前に標的核酸の精製を必要としない、収集された生物学的試料中の病原体の存在または非存在の増幅に基づく検出を可能にする信頼性が高く高感度の方法が緊急に必要とされている。
【0007】
この緊急の必要性を考慮して、核酸精製を伴う試料調製工程を回避することを目的とし、代わりに輸送培地から直接SARS-CoV-2などの病原体を検出することを目的とするいくつかのアプローチが開発され、これはその輸送培地中の生物学的試料のアリコートが標準的なPCR反応に直接供されることを意味する。これは、印刷前サーバbioRxiv(https://www.biorxiv.org/)およびmedRxiv(https://www.medrxiv.org/)で公開されているいくつかの刊行物に記載されている。しかし、驚くべきことではないが、輸送培地の成分はPCRを激しく阻害し、その結果、Ct値の有意な増加、したがって許容できない感度の低下をもたらした。したがって、標準的なPCR組成物は、例えばAlcoba-Florez et al(2020)およびFoomsgard ans Rosenstierne(2020)に記載されているように、直接検出には機能しない。
【0008】
輸送培地の直接適用に対処することができるいくつかの市販のPCRキットも利用可能である。しかしながら、それらは依然として、加熱とそれに続く遠心分離(Takara;PrimeDirect Probe RT-qPCR Mix)または前処理溶液の添加とそれに続く加熱(Shimadzu;2019 Coronavirus Detection Kit)などの元の試料の時間のかかる手動の前処理工程を必要とする。これらのシステムの別の制限は、前処理工程の後でさえ、限られた量の試料しか適用することができず、ウイルスRNA精製後のPCR検出と比較して感度が低下する可能性があることである。
【0009】
以前の研究では、PCRの感度および精度に対する初期の熱不活性化工程の影響も調べた。これらの研究は、PCRによるSARS-CoV-2検出の前に試料を加熱すると、ウイルス核酸が加熱工程の後に抽出されるかどうかとは無関係に、また使用されるアッセイ(E,N,ORF 1 ab)とも無関係に、Ct値が劇的に増加し、したがって検出率が低下することを一貫して確認した(E,N,ORF1 ab)(Zou et al.,2020;Alcoba-Florez et al.,2020;Fomsgaard&Rosenstierne,2020)。この感度の低下は、ウイルス量が少ない場合に特に問題となる。さらに、これらの以前の報告から、核酸抽出工程を省略した場合にシグナルを検出することができ、時間を節約することができるとしても、これらの直接的な方法は、PCR感度および精度に関して、現在SARS-CoV-2検出の分野におけるゴールドスタンダードであるウイルス核酸抽出工程を組み込んだ確立された標準的な方法と同等ではないということになる(Alcoba-Florez et al.,2020;Fomsgaard&Rosenstierne,2020)。
【0010】
したがって、本発明の目的は、先行技術の欠点を回避し、生物学的試料に含まれる標的核酸の増幅に基づく検出のための方法およびキットなどの改善された技術を提供することである。
【0011】
また、増幅反応において良好な感度を確保しつつ、事前の核酸精製を回避する増幅に基づく方法を用いて、SARSウイルスなどの病原体の存在または非存在の検出を可能にする方法を提供することも目的とした。特に、時間のかかる前処理工程を回避する迅速な方法が必要とされている。したがって、本発明のさらなる目的は、SARS-CoV-2 RNAなどの病原体核酸の精製を必要とせず、複雑な前処理工程を回避する迅速な直接増幅に基づく方法も提供することである。実施形態では、そのような方法はさらに、検出感度を損なうことなく、可能な限り多くの粗生物学的試料を増幅反応に直接添加することを可能にすべきである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要旨
本発明は、従来技術の中心的な欠点を克服する。特に、本発明は、実施例によって実証され、本明細書で説明されるような前述の問題および困難に対する解決策を提供する方法およびキットを提供する。
【0013】
特に、標的核酸の事前抽出を必要とせずに、輸送培地に含まれる試料を含む粗生物学的試料からの標的核酸、特に病原体に由来する標的核酸の直接検出を可能にする迅速な方法および有用なキットが提供される。本明細書に記載の技術は、とりわけ、粗生物学的試料の改善された前処理に基づく。この目的のために、事前の核酸精製なく直接増幅のために生物学的試料を調製する特別に設計された抽出組成物が好ましく使用される。実施例によって実証されるように、本発明の前処理技術を使用することにより、調製された生物学的試料をインプット材料として使用して行われる直接増幅プロトコルにおける感度が改善される。本明細書に開示される直接増幅技術は迅速であり、増幅前の核酸精製を回避するだけでなく、濾過または遠心分離などの時間のかかる、または試料を損なう前処理工程も省略する。本明細書に開示される前処理プロトコルはさらに、大量の前処理された粗生物学的試料を増幅反応に供することを可能にし、それによって後続の増幅の感度を高めることができる。逆転写増幅を含む増幅の堅牢な性能は、イオン強度が低下した最適化された増幅試薬を使用して保証することができる。本発明による方法は、標準的な熱サイクリングおよび等温増幅手順に適合し、有利には単一の反応容器で実施することができる。それにより、定量的逆転写PCRなどの標準的な逆転写増幅などの標準的な増幅の利点は、直接検出の利点と組み合わされる。その迅速で簡単なワークフローのために、本発明による方法およびキットは、例えばパンデミック状況中に必要とされるように、迅速な病原体検出のための多数の粗生物学的試料の処理に特に適している。それにより、本発明は、生物学的試料中の病原体の検出を大幅に改善する。本実施例に示すように、本方法は、スワブ試料などの呼吸器試料中のSARS-CoV-2などのRNAウイルスの存在または非存在を検出するのに特に適している。したがって、本発明は、当技術分野に重要な貢献をする。
【0014】
第1の態様によれば、標的核酸の事前の精製なく、粗生物学的試料に含まれる少なくとも1つの標的核酸を増幅に基づく検出のための方法が提供され、
(A)粗生物学的試料を、標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、少なくとも1つの標的核酸を増幅することを含み、必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われる。
【0015】
少なくとも1つの標的核酸は、好ましくは病原体に由来する。したがって、本方法は、第2の態様による方法と併せて開示されているので、病原体試験に適している。
【0016】
第2の態様によれば、事前の標的核酸の精製なく、病原体に由来する少なくとも1つの標的核酸を増幅することに基づいて、粗生物学的試料中の病原体の存在または非存在を検出する方法が提供され、
(A)粗生物学的試料を、標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、少なくとも1つの標的核酸を増幅することを含み、必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われる。
第1および第2の態様による方法では、(A)の調製は、好ましくは、
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの界面活性剤、
(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および
(c)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出組成物と接触させて、それによって、混合物を提供すること;
および
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること、を含む。
【0017】
第1および第2の態様による方法のこの実施形態は、生物学的試料中の病原体の存在または非存在の直接増幅に基づく検出のために、輸送培地に含まれる生物学的培地などの粗生物学的試料を調製するのに特に適しているので好ましい。本明細書に開示されるように、病原体は、特にコロナウイルスなどのRNAウイルスであり得る。本明細書に開示されるように、記載される方法は、呼吸器検体などの生物学的試料中のSARS-CoV-2の存在または非存在を検出するための生物学的試料の調製に特に適している。
第3の態様によれば、第1および第2の態様による方法を実施するのに適しており、
(a)(aa)少なくとも1つの界面活性剤、(bb)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および(cc)必要に応じて少なくとも1つの還元剤を含む、抽出組成物;および
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)必要に応じて、少なくとも1つの標的核酸を増幅するためのプライマー、
を含むキットが提供される。
【0018】
第4の態様によれば、本開示は、第1または第2の態様による方法における第3の態様によるキットの使用に関する。
【0019】
本出願の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から当業者に明らかになるであろう。しかしながら、以下の説明、添付の特許請求の範囲、および具体例は、本出願の好ましい実施形態を示しているが、単なる例示として与えられていることを理解されたい。
図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】内部対照を標的として使用したPCR(灰色、左バー)およびRT-PCR(黒、右バー)のCt閾値。体積(μl)は、PCR反応に添加されたそれぞれの溶液(UTM、PBS)の量を示す。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0021】
図2】標準的なQNマスターミックス(図2a)と、アルカリ金属塩濃度が標準的なQNマスターミックスと比較して低下したQNマスターミックスの改変版(図2b)との間のPCRおよびRT-PCRの結果の比較。図2aおよび図2bでは、PCR(灰色、左バー)およびRT-PCR(黒、右バー)のCt閾値を、内部対照(DNAおよびRNA)を標的として示している。体積(μl)は、反応物に添加された0.9%NaClの量を示す。水を対照として使用した。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0022】
図3-1】内部対照(DNAおよびRNA)を標的として使用したPCR(灰色、左バー)およびRT-PCR(黒、右バー)反応のCt閾値。体積(μl)は、それぞれの溶液の量を示す。図3aは、0.9%NaClの添加を示し(図2bを比較)、図3bは、UTMの添加を示し、図3cは、PCR反応へのPBSの添加を示す。水を対照として使用した。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
図3-2】同上。
【0023】
図4】SARS-CoV-2遺伝子N1、N2、E、RdRPおよびOrf1bを標的とするRT-PCR反応のCt閾値。使用したアッセイは、(US)CDC,Chariteから公開され、QIAstat-Dx機器(QIAGEN)で使用された配列に従った。値0、3、6、12は、PCR反応に添加された輸送培地UTMの量(μl)を示す(0μl:黒色、左バー;3μl:薄い灰色、2つ目の左バー;6μl:中くらいの灰色、2つ目の右バー;12μl:濃い灰色、右バー)。列の各セットの下には、それぞれのシグナルのプライマーアニーリング温度が示されている。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0024】
図5】SARS-CoV-2 E遺伝子を標的とするRT-PCR反応のCt閾値(Chariteアッセイ)。値0、3、6、12は、PCR反応に添加される2つの異なる輸送培地UTMの量(μl)を示す(UTMロット1:濃い灰色、左バー;UTMロット2:中くらいの灰色、右バー)。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0025】
図6】SARS-CoV-2 N2遺伝子を標的とするRT-PCR反応のCt閾値(CDCアッセイ)。値0、3、6、12は、PCR反応に添加される溶液の量を示す。左から右へのバーの順序は、凡例の上から下に従っており、以下のPCR反応緩衝液を試験した:(1)KAc/NaAc酢酸を含むPCR反応緩衝液;(2)KAc/NaAc HClを含むPCR反応緩衝液;(3)KCl/NaCl HClを含むPCR反応緩衝液;(4)KCl/NaCl酢酸を含まないPCR反応緩衝液;(5)KCl/NaCl HClを含まないPCR反応緩衝液。y軸はサイクル数を示す。
【0026】
図7】漸増量のTween(登録商標)20を用いた(RT-)PCR反応のCt閾値。左の列(灰色)はヒトDNAを標的とした結果を示し、右の列(黒色)はQN IC RNAを標的とした結果を示す。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0027】
図8】反応中の漸増量のTween(登録商標)20、Tween(登録商標)60およびBrij(登録商標)58を用いた(RT-)PCR反応のCt閾値。DNA(左列、灰色)およびRNA(右列、黒色)の内部対照をそれぞれ標的として使用した。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0028】
図9】RNase阻害剤なし(左列、黒)およびRNase阻害剤あり(右列、灰色)の(RT-)PCR反応のCt閾値(5000コピーのN2標的/反応)。2つの陰性試料は、正常な咽喉を有する患者(試料1)および目立つ咽喉を有する第2の患者(試料2)のスワブから得た。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0029】
図10】氷上で5、10、および30分間インキュベートした後の、それぞれ5、50、500コピーのN2標的/反応を用いた、RNase阻害剤なし(左列、黒)またはRNase阻害剤あり(右列、灰色)のRT-PCR反応のCt閾値。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0030】
図11】500および5000コピーについて、RNase阻害剤を含むまたは含まないTween(登録商標)20を含む「抽出溶液」を加熱または非加熱と組み合わせて使用した場合のRT-PCR反応のCt閾値。x軸上に左から右に示されるデータ:抽出溶液(i)加熱なし(氷)およびRNase阻害剤あり(最も薄い灰色の左の列)、(ii)加熱なし(氷)およびRNase阻害剤なし(左から2番目)、(iii)45°Cで加熱し、RNase阻害剤あり(左から3番目の列)、(iv)45°Cで加熱し、RNase阻害剤なし(右から3番目の列)、(v)95°Cで加熱し、RNase阻害剤あり(右から2番目の列)、および(vi)95°Cで加熱し、RNase阻害剤なし(最後の右の列)。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0031】
図12】示されるように、「抽出溶液」中の異なるRNase阻害剤を用いて、RT-PCR反応の前に45°Cまたは85°Cのいずれかで加熱した、RT-PCR反応のCt閾値。事前のインキュベーション工程なしでPCRに直接適用された非加熱試料を対照として使用した(インキュベーションなし)。値0、500および5000は、コピー数を示す。水を陰性対照として使用した。左から右に示されるx軸上のデータ:RNase阻害剤なし(白色)または異なるRNase阻害剤あり(NxGen:濃い灰色/左2列目、QIAGEN:黒色/左3列目、Promega:薄い灰色/右列)。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。0コピーの非加熱咽頭スワブ対照試料の場合、非特異的増幅で説明され得るシグナルが検出され得る。
【0032】
図13】還元剤TCEP、N-アセチル-L-システインおよびDTTの存在下でのPCR(黒、右列)およびRT-PCR(灰色、左列)増幅のCt閾値。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0033】
図14】500コピー(灰色、左列)および5000コピー(黒右列)について、異なる組成の「抽出溶液」を用いたRT-PCR増幅Ct閾値。数字は、溶液中の各試験添加剤の濃度を示す(表3参照)。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0034】
図15】3つの異なる組成の「抽出溶液」(ES)を用いたRT-PCR増幅Ct閾値(表4参照)。x軸上の数字10は、10μlの調製試料をPCRごとに使用したことを示す。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0035】
図16】(a)UTM(図16a)および(b)Jurkat細胞を添加したUTM(図16b)で添加した「抽出溶液」ありおよびなしの、95°Cでの加熱ありおよびなしでの、PCR(黒、左バー)およびRT-PCR(灰色、右バー)増幅のCt閾値。y軸は、閾値に達するまでのサイクル数を示す。
【0036】
図17-1】時点0(0時間)と(a)4時間(上)および(b)3日(下)との間のPCR(黒、左バー)増幅およびRT-PCR(灰色、右バー)増幅のCt差。シグナル>0は保存後にCt値が増加しており、試料の質が低下していることを示している。y軸は、サイクル差の数を示す。
図17-2】同上。
【0037】
図18】事前の核酸単離を伴わない直接増幅のための生物学的試料を調製するための「抽出溶液」の使用を含む、本発明による方法の有利なワークフロー。
【0038】
図19】輸送培地中のスワブ試料に特に適した本発明によるワークフローの概要。
【0039】
図20】唾液およびうがい試料に特に適した本発明によるワークフローの概要。(A)追加の消化溶液を使用しないワークフロー、および(B)これらの試料タイプでの、より高い感度のための、タンパク質分解酵素および還元剤を含む追加の消化溶液を使用するワークフロー。
【0040】
図21】1回のマルチプレックス反応における異なる呼吸器ウイルスの同時検出のためのRT-PCR反応の個々のCt値。例えば、FluA列は、同じ増幅反応で他の呼吸器ウイルスのシグナルと並行して検出された異なる輸送培地中のFluAのシグナルを表す。HSC:ヒトサンプリング対照。
【0041】
図22】WTおよびNTCと比較した、それぞれSARS-CoV-2バリアントT478K(A)およびE484K(B)の希釈系列(10^1、10^2、10^3、10^4および10^5コピー/反応)の増幅プロット(ベースラインを矢印で示す)。上の横線は閾値を示す。
【0042】
図23】SARS-CoV-2標的(灰色)、内部(白色)およびローディング対照(黒色)についてのRT-PCR増幅反応のCt値。黒の横線は、還元剤(TCEP)なしのベースライン値を示す。
【0043】
図24】異なる量のプロテアーゼ(QIAGENプロテアーゼまたはプロテイナーゼK)を添加した場合の阻害を検出するための内部対照RNAのCt値。
【0044】
図25】唾液試料中のSARS-CoV-2の検出のための異なるプロトコルのバリエーションを比較した場合のCt値(正方形:消化溶液あり、5分、95°C;丸:15分、95°C;三角形:30分、95°C)。
【0045】
図26】ヒット率は、図20に示すプロトコル(A)(加熱)または(B)(消化溶液あり)に従ってZeptometrix Natrol標準でスパイクした唾液試料についての異なる希釈点での陽性検出試料を表す。
【0046】
図27】ヒット率(HR)は、唾液試料およびうがい試料の異なる希釈点での陽性検出試料を表す。(A)図20(A)による初期加熱を用いたプロトコル。(B)図20(B)による消化溶液を用いたプロトコル。
【0047】
図28】1人の既知の陽性ドナーを含むそれぞれ10人および20人のドナーを含むロリポップ・スワブ・プールのCt値。陽性ドナーを比較のために測定した(それぞれ1列目)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
発明の詳細な説明
本明細書に開示される本発明の異なる態様および実施形態は、以下でも説明されるように、当技術分野に重要な貢献をする。
第1および第2の態様による方法
【0049】
第1の態様によれば、標的核酸の事前の精製なく、粗生物学的試料に含まれる少なくとも1つの標的核酸を増幅に基づく検出のための方法であって、
(A)粗生物学的試料を、標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、少なくとも1つの標的核酸を増幅すること、
を含み、
必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われ、
必要に応じて、少なくとも1つの標的核酸が病原体に由来する、方法が提供される。
【0050】
第2の態様によれば、事前の標的核酸の精製なく、病原体に由来する少なくとも1つの標的核酸を増幅することに基づいて、粗生物学的試料中の病原体の存在または非存在を検出する方法であって、
(A)粗生物学的試料を、標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、少なくとも1つの標的核酸を増幅することを含み、必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われる、方法が提供される。
【0051】
ここで、これらの方法の個々の工程および好ましい実施形態について詳細に説明する。第1および第2の態様による方法の工程(A)および(B)は本質的に同一であり、したがって以下で一緒に説明する。
工程(A)
【0052】
好ましい実施形態によれば、(A)の調製は、
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの界面活性剤、
(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および
(c)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出組成物と接触させて、それによって、混合物を提供すること;
および
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること、を含む。
【0053】
1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出のための生物学的試料を調製するために(A)において粗生物学的試料と接触させる抽出組成物は、本発明の重要な態様である。したがって、抽出組成物はまた、単独で開示され、例えば、本発明の第3の態様によるキットに組み込まれ得る。このような抽出組成物の使用は、続いて行われる増幅反応の結果を大幅に改善する。したがって、本明細書に開示される第1および第2の態様による方法のすべての実施形態は、好ましくは、粗生物学的試料と抽出組成物とを含む混合物を提供するために、この接触させる工程を含む。実施例で実証されるように、抽出組成物は、有利には、事前の核酸精製なく、直接増幅のために粗生物学的試料を調製する。これを使用すると、実施例によって示されるように、逆転写増幅反応などの後続の増幅反応の感度を大幅に改善することができる。特に、本発明の教示に従って使用される抽出組成物は、その後の直接増幅反応のために標的核酸を十分に利用可能にする。これは、例えば標的核酸を含有する含有細胞および/またはウイルス粒子を含む生物学的試料の溶解を支援することによって、標的核酸(生物学的試料中に存在する場合)が、例えば、好ましい実施形態では逆転写増幅反応であるその後の増幅反応で使用されるプライマーおよび酵素にとってアクセス可能になる。同時に、抽出組成物は、そのように調製された生物学的試料中のヌクレアーゼによる標的核酸の望ましくない分解を効果的に阻害する。これは、RNA標的核酸の場合、ウイルスRNAを含むRNAは、例えば、生物学的試料または実際の生物学的試料を含有する培地にさらに含有される真核細胞から放出されるRNaseによる分解を特に受けやすいため、特に有利である(抽出組成物と接触する生物学的試料は、収集/輸送培地に含まれる生物学的試料によって提供される中心的な実施形態である)。したがって、標的RNAを分解から保護することが特に重要である。これは、そうでなければ偽陰性結果のリスクがあるため、病原性RNA標的核酸(例えば、コロナウイルスなどのRNAウイルスに由来する)の検出を目的とする場合に特に当てはまる。
【0054】
抽出組成物に含まれる成分は、直接増幅のための粗生物学的試料の調製において上述の有益な効果を組み合わせて達成し、有利には互いにまたはその後の直接増幅反応(好ましい実施形態では逆転写増幅反応)を妨害しない。したがって、事前の核酸精製なく、直接増幅のための粗生物学的試料を調製するために(A)において使用される本発明の抽出組成物は、標準的な下流増幅法および逆転写増幅法に適合する。
本発明の抽出組成物
【0055】
抽出組成物の個々の成分およびその好ましい実施形態を以下に記載する。本明細書に開示されるように、抽出組成物は、(a)少なくとも1つの界面活性剤、(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および(cc)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤を含む。抽出組成物は、好ましくは抽出溶液である。一般に抽出組成物について本出願に記載されるすべての開示および実施形態は、明示的に述べられていなくても、抽出溶液を使用する好ましい実施形態に具体的に適用され、特に言及する。
抽出組成物に含まれる界面活性剤
【0056】
抽出組成物は、少なくとも1つの界面活性剤を含む。含まれる界面活性剤は、含まれる細胞およびウイルス粒子を含む粗生物学的試料の溶解を支援する。それにより、界面活性剤誘導性の溶解は、標的核酸、例えばウイルス核酸の放出を補助し、それにより増幅/逆転写のためにそれらを利用可能にする。抽出組成物に含まれる界面活性剤は、好ましい実施形態では逆転写増幅であるその後の増幅を妨害しない。これは、少なくとも、生物学的試料と抽出組成物の成分とを含む調製された生物学的試料、ならびに必要に応じて生物学的試料を含有する培地を介して増幅反応に導入される濃度である。
【0057】
界面活性剤は、非イオン性および両性界面活性剤から選択され得る。有利な実施形態によれば、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。実施例によって実証されるように、異なる非イオン性界面活性剤を本発明と併せて使用してもよい。一実施形態によれば、非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤である。それは、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;およびポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群から選択され得る。有利な実施形態では、抽出組成物に含まれる非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルから選択される。
【0058】
一実施形態によれば、抽出組成物は、
- ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸に由来する脂肪酸、
- 2~150、4~100、6~50または6~30個の(CHCHO)単位を含有するポリオキシエチレン成分、
を含むポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含む。
【0059】
ポリソルベートとも呼ばれるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、抽出組成物のための非イオン性界面活性剤として特に好ましい。非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(例えば、Tween(登録商標)20)、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウレート(例えば、Tween(登録商標)21)、ポリオキシエチレン(40)ソルビタンモノパルミテート(例えば、Tween(登録商標)40)、ポリオキシエチレン(60)ソルビタンモノステアレート(例えば、Tween(登録商標)60)、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアレート(例えば、Tween(登録商標)61)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート(例えば、Tween(登録商標)65)、ポリオキシエチレン(40)ソルビタンモノオレエート(例えば、Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレエート(例えば、Tween(登録商標)81)、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート(例えば、Tween(登録商標)85)、およびポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノイソステアレートから選択され得る。好ましい実施形態によれば、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80から選択される。実施例で実証されているように、このような非イオン性界面活性剤は、溶解、したがって粗生物学的試料の調製を補助し、より高い濃度で使用した場合でもその後の増幅反応(PCRおよびRT-PCR)を阻害しないので有利である。ポリソルベート20の使用が特に好ましい。
【0060】
一実施形態によれば、抽出組成物は、非イオン性界面活性剤として、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルであって、
- 6~22個の炭素原子を有する脂肪アルコール成分、および
- 2~150、4~100、6~50または6~30個の(CHCHO)単位を含有するポリオキシエチレン成分、
を含むポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルを含む。
【0061】
ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる群から選択されてもよい。好ましい実施形態では、ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルは、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルおよび/またはポリオキシエチレンオレイルエーテルを含む群から選択される。適切な例としては、ポリオキシエチレンセチルまたはポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル、例えばポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(Brij(登録商標)56)、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij(登録商標)58)およびポリオキシエチレン(20)オレイルエーテル(Brij(登録商標)98)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
一実施形態において、抽出組成物は、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルを含む。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルは、5~15個の炭素原子、例えば6~10個の炭素原子を含むアルキル基を有し得る。分岐または非分岐C~C10アルキル基、例えば分岐または非分岐CおよびCアルキル基、例えばイソオクチル基およびノニル基も包含される。ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルは、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテルからなる群から選択されてもよい。トリトンX 100であってもよい。
【0063】
ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーもまた、抽出組成物中に非イオン性界面活性剤として含まれ得る。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、「ポロキサマー」とも呼ばれる。ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、実験式HO(CO)(CO)(CO)Hのものであってもよく、漆器中、「a」はポリオキシエチレン単位の数を指し、「b」はポリオキシプロピレン単位の数を指し、a/b重量比は、必要に応じて0.1~3の範囲内である。このようなポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーは、例えば、商品名Pluronic(登録商標)またはSynperonic(登録商標)で得ることができる。
【0064】
一実施形態によれば、粗生物学的試料を、0.1%~30%(w/v)の範囲内にある濃度で、界面活性剤、好ましくは上記の非イオン性界面活性剤を含む抽出溶液と接触させる。適切な範囲には、0.5%~25%(w/v)、0.7%~20%(w/v)および1%~15%(w/v)が含まれるが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、抽出溶液中の界面活性剤濃度は、1.2%~10%(w/v)、1.5%~8%(w/v)または2%~5%(w/v)である。本出願の教示に従って、当業者は、抽出溶液と接触させる粗生物学的試料の量にも応じて、抽出溶液に適した界面活性剤濃度を選択することができる。調製された生物学的試料が大量の元の生物学的試料(必要に応じて、培地中に含まれる)を含むことを確実にするために、濃縮抽出溶液を使用することが有利である。これにより、より大量の粗生物学的試料を調製するために少量の抽出溶液を使用することが可能になる。例えば、抽出溶液を3倍、4倍または5倍に濃縮してもよい。上記の濃度は、そのような濃縮抽出組成物を提供するのに適している。さらなる実施形態において、抽出溶液は、10倍、15倍または20倍に濃縮される。したがって、抽出溶液の濃度因子は、3倍~20倍の範囲内であり得る。
【0065】
有利な実施形態では、生物学的試料(必要に応じて、培地中に含まれる)を抽出組成物と接触させることによって調製される得られた混合物は、界面活性剤、好ましくは上記の非イオン性界面活性剤を、0.075%~20%(w/v)の範囲内にある濃度で含む。調製された混合物中の界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤の適切な最終濃度範囲としては、0.1%~15%(w/v)、0.15%~15%(w/v)、0.2%~10%(w/v)および0.25%~8%(w/v)が挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、調製された混合物中の最終界面活性剤濃度は、0.2%~5%(w/v)、0.25%~3%(w/v)または0.3%~2%(w/v)である。
【0066】
さらなる実施形態によれば、界面活性剤は両性界面活性剤である。両性界面活性剤は、N,N,Nトリメチルグリシンなどのベタインであってもよい。実施例によって実証されるように、ベタインは、その後の増幅反応を妨害せず、抽出組成物のさらなる成分、例えば好ましくはウイルスRNA標的核酸などのRNA標的核酸の場合に含まれるタンパク質性RNase阻害剤とも適合する。一実施形態では、抽出溶液は、ベタインなどの両性界面活性剤を50mM~1Mの範囲、例えば100mM~500mMの濃度で含む。
【0067】
抽出溶液はまた、好ましくは非イオン性界面活性剤および両性界面活性剤から選択される2またはそれを超える界面活性剤を含んでもよい。
抽出組成物に含まれるヌクレアーゼ阻害剤
【0068】
抽出組成物は、包含されるウイルス粒子などの目的の病原体を含む生物学的試料を溶解し、同時に標的RNAまたは標的DNAなどの標的核酸を分解し得るヌクレアーゼを阻害する。輸送培地に含まれるスワブ試料などの本明細書に記載の生物学的試料は、多くの場合、多量のヌクレアーゼを含有することが見出された。ヌクレアーゼは、含まれる真核細胞からだけでなく、標準的なスワブ輸送培地に含まれ得るウシ胎児血清などの未定義の培地成分からも生じ得る。
【0069】
調製された生物学的試料中のヌクレアーゼによる標的核酸の分解を阻害するために、抽出組成物は少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤を含む。界面活性剤含有抽出組成物によって放出される標的核酸をヌクレアーゼ分解から効果的に保護するために、ヌクレアーゼ阻害剤は強力なヌクレアーゼ阻害を達成することが好ましい。本明細書に開示されるように、ヌクレアーゼはまた、抽出組成物によって溶解される細胞から放出され得る。
【0070】
ヌクレアーゼ阻害剤は、RNase阻害剤またはDNase阻害剤であり得る。抽出溶液は、目的の標的核酸を保護することができるヌクレアーゼ阻害剤を含む。抽出組成物はまた、2またはそれを超えるヌクレアーゼ阻害剤、例えば(i)2またはそれを超えるRNase阻害剤、(ii)2またはそれを超えるDNase阻害剤、または(iii)1またはそれを超えるRNase阻害剤および1またはそれを超えるDNase阻害剤を含んでもよい。RNase阻害剤およびDNase阻害剤を含む抽出組成物を使用することは、RNAおよびDNA標的核酸と適合する汎用抽出組成物、したがって汎用調製方法を提供するために有利であり得る。
【0071】
抽出組成物に含まれるヌクレアーゼ阻害剤は、少なくとも、生物学的試料と抽出組成物の成分とを含む調製された生物学的試料を介して酵素反応に含まれる濃度で、その後の酵素反応(増幅および/または逆増幅など)を妨害しない。したがって、逆転写反応および/または増幅反応を、含まれるヌクレアーゼ阻害剤の存在下で行うことができる。
【0072】
一実施形態によれば、ヌクレアーゼ阻害剤は、RNAase阻害剤である。実施例によって実証されるように、生物学的試料を調製するために使用される抽出組成物にRNase阻害剤を組み込むことにより、事前の核酸精製なく、調製された生物学的試料が供されるその後に行われる直接逆転写増幅の結果が大幅に改善される。本明細書に開示されるように、標的核酸は、好ましい実施形態ではウイルスRNAなどのRNAである。したがって、ウイルスRNAの分解を防止することは、ウイルス検出の感度を高めるのに特に有利である。RNase阻害剤は、広域スペクトルRNase阻害特性を有し得、RNase A、BおよびCならびにヒト胎盤RNaseを阻害し得る。それは、使用される逆転写酵素またはTaqポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼを阻害しない。
【0073】
強力なRNase阻害剤の使用は、分解からの標的RNAの保護を最大化するために好ましい。強力なRNase阻害剤は周知であり、特に組換え生産されたタンパク質性RNase阻害剤において、タンパク質によって提供されることが多い。したがって、有利な実施形態では、RNase阻害剤はタンパク質性RNase阻害剤である。実施例においても実証されているように、多数のタンパク質性RNase阻害剤が市販されており、したがって本発明と併せて使用することができる。タンパク質性RNase阻害剤の例としては、QIAGEN RNase阻害剤、RNasin(登録商標)リボヌクレアーゼ阻害剤、NxGen RNase阻害剤などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本発明の抽出組成物中のRNase阻害剤の量/濃度は、本出願で提供される指針および例えば選択されたRNase阻害剤の製造者の説明書に従って当業者によって実験的に決定することができる。より多くのRNase阻害剤を組み込むことにより、通常、より強いRNase阻害効果が達成される。
【0075】
RNA標的核酸が関心対象である一実施形態では、抽出組成物は、RNase阻害剤、好ましくはタンパク質性RNase阻害剤を含むが、別個のDNase阻害剤を含まない。この実施形態では、RNA標的核酸はRNase阻害剤による分解から保護されるが、非標的DNAの任意の分解は非標的核酸バックグラウンドを減少させる。DNA標的核酸が対象であり、抽出組成物がDNase阻害剤を含むが、別個のRNase阻害剤を含まない場合、対応する考慮事項が適用される。
抽出組成物に含まれる還元剤
【0076】
好ましい実施形態では、粗生物学的試料を調製するために(A)で使用される抽出組成物は、還元剤を含む。還元剤を組み込むことは、直接増幅のための生物学的試料の調製を補助するので有利である。
【0077】
還元剤は、好ましくは、ジスルフィド結合の破壊および生物学的試料に含まれるタンパク質の変性を支援する。したがって、還元剤は、ヌクレアーゼの阻害を補助することができる。それはさらに、標的核酸の放出を支援することができる。さらに、抽出組成物に還元剤を組み込むことは、生物学的試料の液化を助けることができるので有利である。これにより、呼吸器試料などの粘性の生物学的試料の処理を簡単にすることができる。粘性の生物学的試料を液化することは、標的核酸が液化された生物学的試料においてより良好に入手可能であり、調製された生物学的試料がより均質であるので有利である。還元剤は当技術分野で公知である。抽出組成物に含まれる還元剤は、少なくとも、生物学的試料と抽出組成物の成分とを含む調製された生物学的試料を介して酵素反応に含まれる濃度で、その後の酵素反応(増幅および/または逆増幅など)を妨害しない。したがって、逆転写反応および/または増幅反応を、含まれる還元剤の存在下で行うことができる。
【0078】
一実施形態では、還元剤は、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)、1-チオグリセロールおよびβ-メルカプトエタノールから選択される。一実施形態では、含まれる還元剤は、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)、および1-チオグリセロールから選択される。一実施形態では、含まれる還元剤は、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)およびN-アセチルシステインから選択される。実施例で実証されるように、これらの還元剤は、その後の逆転写反応および/または増幅反応を妨害しない。
【0079】
特定の実施形態において、抽出組成物は、還元剤としてトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を含む。TCEPは貯蔵安定性であるため、すぐに使用できるキット形式に有利である。
【0080】
実施例で実証されるように、RNase阻害剤および界面活性剤に加えて、TCEPなどの還元剤を含む抽出組成物は、調製された生物学的試料が供されるその後に行われる直接増幅反応をさらに改善する。
【0081】
一実施形態では、抽出組成物は、0.3mM~50mMの範囲内の濃度で還元剤を含む。抽出組成物中の還元剤の適切な濃度範囲としては、0.5mM~25mM、1mM~20mMおよび1.5mM~15mMが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態では、抽出組成物は、2mM~10mMまたは2mM~5mMの範囲の濃度で還元剤を含む。抽出組成物は、一実施形態では、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される還元剤を、1mM~10mMまたは2mM~5mMの範囲内にある濃度で含み、好ましい実施形態では、還元剤はTCEPである。本出願の教示に従って、当業者は、抽出組成物に適した還元剤濃度を選択することができる。例えば、より粘性の高い生物学的試料の場合、濃度は、生物学的試料が培地中に含有される場合にも、生物学的試料の急速な液化をさらに支援するために増加され得る。上記のように、調製された生物学的試料が大量の元の生物学的試料(必要に応じて、培地中に含まれる)を含むことを確実にするために、濃縮抽出溶液を使用することが有利である。これにより、より大量の粗生物学的試料を調製するために少量の抽出溶液を使用することが可能になる。例えば、抽出溶液を3倍、4倍または5倍に濃縮してもよい。上記の濃度は、そのような濃縮抽出組成物を提供するのに適している。さらなる実施形態において、抽出溶液は、10倍、15倍または20倍に濃縮される。したがって、抽出溶液の濃度因子は、3倍~20倍の範囲内であり得る。
【0082】
有利な実施形態では、粗生物学的試料(必要に応じて、培地中に含まれる)を抽出組成物と接触させることによって調製される得られた混合物は、0.1mM~15mMの範囲内にある濃度の還元剤を含む。調製された混合物中のTCEPなどの還元剤の適切な濃度範囲としては、0.2mM~10mM、0.25mM~8mMおよび0.3mM~5mMが挙げられるが、これらに限定されない。さらなる実施形態では、調製された混合物中の最終的な還元剤濃度は、0.35mM~2mMまたは0.4mM~1.5mMである。
抽出組成物の実施形態
【0083】
上記のように、好ましい実施形態では、抽出組成物は液体組成物として提供される。(A)における抽出溶液の使用は、そのような溶液を、好ましい実施形態では培地に含まれる生物学的試料である粗生物学的試料と容易に混合することができるので有利である。抽出溶液の活性成分、すなわちヌクレアーゼ阻害剤(好ましくはタンパク質性RNase阻害剤)、界面活性剤(好ましくは非イオン性界面活性剤)および好ましくは含まれる還元剤は、生物学的試料中に迅速に分散させることができ、それによって生物学的試料の効率的な溶解および調製ならびに標的核酸の保護を確実にすることができる。このプロセスは、抽出溶液と生物学的試料とが十分に混合されることを確実にするために、ボルテックスなどの撹拌によって補助することができる。
【0084】
含有される核酸の事前の精製なく、標的核酸の直接逆転写および増幅のための培地に含有される生物学的試料などの粗生物学的試料を調製するのに適した特に有利な抽出溶液を以下に記載する。実施例によって実証されるように、それにより設計された抽出溶液は、特に好ましい結果を達成する。実施形態において、続いて記載される抽出溶液は、抽出溶液および同定された活性成分の担体液体(緩衝剤を含み得るか、または緩衝され得ない)から本質的になるか、またはそれからなる。
【0085】
一実施形態によれば、抽出溶液は、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、を含む。
【0086】
非イオン性界面活性剤および還元剤の適切かつ好ましい実施形態は上述したものであり、それぞれの開示を参照されたい。
【0087】
一実施形態によれば、抽出溶液は、
(a)少なくとも1つのポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される少なくとも1つの還元剤、を含む。
【0088】
本明細書に開示されるように、抽出溶液の活性成分は、
(a)非イオン性界面活性剤、好ましくはポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)タンパク質性RNase阻害剤、および
(c)還元剤(好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される)、から本質的になってもよく、またはそれからなってもよい。
【0089】
1つのポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤の適切かつ好ましい実施形態は上述したものであり、それぞれの開示を参照されたい。有利な実施形態では、抽出溶液に含まれる非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルから選択される。
【0090】
好ましい実施形態によれば、抽出溶液は、
(a)少なくとも1つのポリソルベート、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、を含む。
【0091】
実施例によって実証されるように、そのような抽出溶液は非常に有利であり、良好な感度での、含まれるRNA標的核酸(ウイルスRNA標的など)の直接逆転写および増幅のために、培地に含まれる呼吸器検体を含む困難な生物学的試料さえも調製することを可能にする。非イオン性界面活性剤として含めることができる適切なポリソルベートは上に開示されており、それぞれの開示を参照されたい。記載されるように、ポリソルベートは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80から選択され得る。ポリソルベート20は、非イオン性界面活性剤として抽出溶液に含めることができる特に好ましいポリソルベートである。一実施形態では、抽出溶液の活性成分は、
(a)ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20)、
(b)タンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、から本質的になってもよく、またはそれからなってもよい。
【0092】
抽出溶液は、6.0~9.0、例えば6.0~8.5または6.3~8.0の範囲のpHを有し得る。pHは、6.5~7.5の範囲、例えば約7.0であってもよい。
【0093】
抽出溶液は、いくつかの実施形態において、緩衝剤を含んでいてもよい。緩衝剤が組み込まれる場合、好ましくは、その後の増幅反応に悪影響を及ぼし得るイオンを含まない。
【0094】
有利な実施形態では、抽出溶液は緩衝されない。
【0095】
抽出組成物は、抽出組成物の成分を含む調製された生物学的試料が(B)において増幅反応/逆転写増幅反応に供される場合、1またはそれを超える標的核酸のその後に実施される増幅/逆転写増幅を阻害し得る濃度の成分を含むべきではない。さらに、抽出組成物は、含まれる中心的な成分、すなわち界面活性剤、ヌクレアーゼ阻害剤、および含まれる場合は還元剤を打ち消すかまたは損傷する成分を含むべきではない。したがって、抽出組成物/抽出溶液が、以下の成分:
- イオン性界面活性剤;
- カオトロピック塩;
- 20mM超または10mM超の濃度の塩化物イオンであって、好ましくは抽出溶液が塩化物イオンを含まない、塩化物イオン(この実施形態は、標的核酸がRNAである場合に特に有利である);
- 脂肪族C1-C5アルコール;および/または
- プロテイナーゼ酵素、
のうちの1またはそれを超える成分、2またはそれを超える成分、3またはそれを超える成分、またはすべてを含まない場合、有利である。
【0096】
抽出組成物/抽出溶液の成分は、調製された生物学的試料に含まれ、したがって、好ましくは逆転写増幅反応である後続の増幅反応に移される。したがって、抽出溶液をできるだけ簡単に設計することが有利である。したがって、好ましい実施形態では、抽出組成物の活性成分、それぞれ抽出溶液は、(a)界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤、(b)ヌクレアーゼ阻害剤、および(c)含まれる場合は還元剤から本質的になるか、またはそれらからなる。続いて実施される直接逆転写増幅反応(事前の核酸精製なし)のための生物学的試料を調製するために、ヌクレアーゼ阻害剤は、本明細書に記載のRNase阻害剤、好ましくはタンパク質性RNase阻害剤である。
【0097】
本発明の抽出組成物に含まれる中心的な成分は有害ではなく、逆転写増幅などの増幅の実施を支援または促進することさえできる。有利には、抽出組成物は、無機塩、特に塩化物塩およびアルカリ金属塩を含まなくてもよい。これは、含まれる塩に起因するイオン強度が、抽出組成物に起因して調製された生物学的試料においてさらに増加しないので有利である。これは、実施例にも示されているように、塩含有培地(例えば、共通の輸送培地に含まれるスワブ試料)に含まれる生物学的試料を処理することを目的とする場合に有利である。
【0098】
(A)のさらなる特徴および実施形態ならびに第1および第2の態様による方法であって、前記実施形態は、好ましくは、粗生物学的試料を本発明による抽出組成物と接触させることを含む。
【0099】
粗生物学的試料と抽出組成物とを含む混合物の調製は、粗生物学的試料と抽出組成物との完全な混合を確実にするために、抽出組成物と接触して生物学的試料を撹拌することを含み得る。撹拌のために、混合物を例えば吸引し、分注し、および/またはボルテックスしてもよい。
【0100】
粗生物学的試料を本発明による抽出組成物と接触させることによって調製される混合物は、好ましくは、標的核酸を保護しながら、抽出組成物に含まれる成分が生物学的試料を消化することができるようにインキュベートされる。実施形態において、インキュベーションは、1~60分間、1~30分間または1~20分間行われる。さらなる実施形態では、インキュベーションは1~15分間または1~10分間行われる。実施例で実証されているように、本発明による抽出組成物は非常に効果的であるため、直接増幅のための粗生物学的試料を調製するには、1.5~5分または1.5~3分、例えば2分の非常に短いインキュベーション時間で十分である。これは、増幅前に核酸精製を必要とするワークフローと比較して処理時間を大幅に短縮するか、または他のより時間のかかる調製工程を組み込むため、非常に有利である。しかしながら、標的分解が本発明の抽出組成物によって効果的に低減されるので、標的核酸の品質を損なうことなく、より長いインキュベーション時間も実現可能である。これは、多数の生物学的試料が並行して処理される場合に非常に有利である。最初に抽出組成物と接触させた生物学的試料は、最後の生物学的試料も抽出組成物と接触させ、適切な時間インキュベートするまで、調製された生物学的試料の品質を損なうことなく、単により長い時間インキュベートすることができる。したがって、本発明の調製プロトコルは非常に堅牢であり、調製された生物学的試料間でインキュベーション時間が変化しても均一な結果を保証する。
【0101】
有利には、生物学的試料を抽出組成物と接触させる工程および混合物をインキュベートする工程は、実施例で実証されているように周囲温度(例えば室温)で行われ得る。実施形態において、酵素反応(増幅または逆転写増幅)以外のすべての調製工程は、周囲温度で行われる。これにより、本発明による方法の実施が単純化される。必要であれば、これらの工程は、実施例にも示されているように氷上で実施されてもよい。
【0102】
一実施形態では、標的核酸の増幅に基づく検出のために生物学的試料を調製する方法は、抽出組成物と接触している生物学的試料を、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写増幅および増幅から選択される後続の酵素反応に供する前に、少なくとも2分間、75°C以上、例えば70°C以上、65°C以上、60°C以上、55°C以上、50°C以上、45°C以上または40°C以上の温度に加熱することを含まない。実施例で実証されているように、そのような加熱工程は、その後の増幅/逆転写増幅反応において調製された生物学的試料の性能を低下させる可能性があり、したがって好ましくは回避される。特に、この方法は、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅から選択される酵素反応に供する前に、抽出組成物と接触している生物学的試料を、含まれるタンパク質性RNase阻害剤を変性させる温度まで加熱することを含むべきではない。本明細書に開示されるように、そのような強力なタンパク質性RNase阻害剤は、標的核酸の直接増幅に基づく検出のための生物学的試料の調製中に、不安定なRNA標的を分解から保護するために特に有利である。したがって、抽出組成物の正確な性能を確実にするために、タンパク質性RNase阻害剤を変性させる加熱工程を避けるべきである。特に好ましい実施形態では、生物学的試料および抽出組成物を含む混合物は、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写増幅および増幅から選択される後続の酵素反応に供する前に加熱されない。調製された生物学的試料を酵素反応に供した後、加熱工程が当然行われてもよく、通常は、例えば逆転写反応および/または増幅反応のための条件ならびに「ホットスタート」適用を活性化するための条件を確立するために行われる。
【0103】
したがって、特に抽出組成物/溶液がタンパク質性RNase阻害剤を含む場合、タンパク質性RNase阻害剤が機能しており、したがって変性しない温度で行われる標的核酸の増幅に基づく検出のために調製された生物学的試料を提供するためのインキュベーションである。実施例に示されるように、インキュベーションは、例えば、室温または氷上で行われ得る。生物学的試料が増幅のための生物学的試料を調製するために抽出組成物と接触しているこのインキュベーション工程中、加熱工程は回避される。インキュベーション後、次いで、そのように調製された生物学的試料を、増幅反応を実施するために必要な試薬と接触させ、増幅反応を実施し、これは有利な実施形態では逆転写増幅である。実施例に示すように、試料調製のために、生物学的試料を、増幅を実施するために必要な成分と既に接触させた抽出組成物とさらに接触させることができる。これは、例えば、タンパク質分解酵素および還元剤を含む消化溶液および加熱で事前に前処理された唾液またはうがい試料などの試料を処理する場合に実現可能である(実施例を参照)。しかしながら、生物学的試料を調製するためのインキュベーション中、したがって生物学的試料がタンパク質性RNase阻害剤を含む抽出組成物と接触している場合、上記のように加熱は回避される。インキュベーション、したがって調製された生物学的試料の調製の後、増幅反応(実施形態において逆転写反応である)を開始することができ、したがって、調製された生物学的試料のすべてが、次いで少なくとも1つの標的核酸が増幅される増幅反応に供される。次いで、増幅/逆転写増幅中に加熱工程を行うことができる。
【0104】
本発明による方法は、複雑な前処理工程を必要としない迅速かつ簡単なワークフローを提供する。粗生物学的試料を抽出組成物と接触させ、混合物を短時間インキュベートすることは、事前の核酸精製なく、標的核酸の直接増幅を可能にする調製された生物学的試料を提供するのに十分である。
【0105】
したがって、好ましい実施形態では、(A)における調製は、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写増幅および増幅から選択される酵素反応に供する前に、調製された生物学的試料を遠心分離することを含まない。したがって、調製された生物学的試料を、逆転写増幅または増幅を行うのに必要な成分と接触させる前に、遠心分離工程は必要とされない。特に、生物学的試料および抽出組成物を含み、逆転写増幅および増幅から選択される酵素反応に供される調製された生物学的試料を提供する、インキュベートされた混合物から成分(例えば、細胞破片)を除去するために遠心分離工程は必要とされない。所望であれば、例えば、実施例にも記載されているように、調製された生物学的試料を逆転写増幅または増幅を行うのに必要な成分と接触させた後に、例えば反応容器の底部で液体を回収するために、短時間の遠心分離工程が含まれ得る。
【0106】
有利には、第1および第2の態様による方法は、逆転写および増幅から選択される酵素反応を実施する前に、調製された生物学的試料から細胞成分を除去することを含まないように実施することができる。本明細書に開示されるように、本発明による方法はさらに、逆転写および増幅から選択される酵素反応を実施する前に標的核酸を精製する必要がなく、したがってそのような精製工程を省略することができる。これにより、ワークフローが大幅に簡素化および効率化される。
抽出組成物と接触させる前に加熱工程を実施する
【0107】
一実施形態によれば、(A)において抽出組成物と接触させる生物学的試料は、病原体熱不活性化生物学的試料である。本明細書に開示されるように、生物学的試料は、培地(本明細書に記載される輸送培地など)に含まれてもよく、その結果、培地に含まれる生物学的試料は、試料として処理され、本明細書に開示される抽出組成物と接触する。病原体熱不活性化生物学的試料を処理することは、生物学的試料に潜在的に含まれる熱不活性化病原体が試料取り扱い中の感染リスクを低減し、処理を単純化することを可能にするので、バイオセーフティおよびバイオセキュリティに関して有利である。
【0108】
一実施形態によれば、第1または第2の態様による方法は、病原体熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に、抽出組成物の非存在下で、病原体を不活化するのに適した高温で生物学的試料を加熱することを含む。熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に、生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化するための加熱は、病原体を不活性化するのに適した温度で生物学的試料を加熱することを含む。熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に病原体を不活化するために加熱することは、生物学的試料を50°C以上、55°C以上、60°C以上または75°C以上の温度に加熱することを含み得る。病原体不活化のためのそのような加熱プロトコルは、当技術分野で公知である。下端の加熱温度は、通常、ウイルス不活化などの病原体不活化のためにより長い加熱時間を必要とする。好ましい実施形態では、熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に加熱することは、生物学的試料を85°C以上、好ましくは90°C以上、より好ましくは95°C以上の温度に加熱することを含む。このようなより高い温度での加熱は、病原体の不活化を達成するために必要な加熱時間をより短くすることができ、実施例でも実証されているように、病原体の不活化のための短い加熱時間の使用を可能にするので有利である。さらに、病原体不活化のためのそのようなより高い加熱温度の使用はまた、含まれる標的核酸に悪影響を及ぼし得る、粗生物学的試料に含まれるタンパク質を変性させ得る。
【0109】
実施例で実証されているように、抽出溶液の非存在下での生物学的試料のそのような加熱は、有利には病原体不活性化をもたらし、好ましくは(a)非イオン性界面活性剤、(b)ヌクレアーゼ阻害剤、好ましくはRNA標的の場合はタンパク質性RNase阻害剤、および(c)還元剤を含む本発明の抽出組成物のその後の添加は、RNaseの阻害による標的核酸のその後の分解を防止し、それにより、その後の増幅におけるシグナル強度を損なうことなく改善された結果を提供する。実施例に示すように、これらの有益な効果は、信号強度の減少を報告する従来技術の加熱手順では見られない(背景技術で報告された従来技術を参照)。
【0110】
一実施形態では、(A)において熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に、生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活化するための加熱は、ドナーから生物学的試料を収集するために使用される収集容器内の生物学的試料を加熱することを含み、必要に応じて、生物学的試料は収集容器内の培地に含まれる。一実施形態では、収集容器は、生物学的試料の収集後、および生物学的試料に含まれる可能性のある病原体を不活性化するための加熱前に開かれていない。さらなる実施形態では、粗生物学的試料のアリコートを得て、熱不活性化生物学的試料を含む抽出組成物と接触させる前に、本明細書に記載の病原体不活性化のために加熱する。
【0111】
加熱後、生物学的試料を、2時間以下、1時間以下、0.5時間以下または20分以下以内に、試料調製のための抽出組成物と接触させることができる。したがって、必要に応じて、加熱された生物学的試料を抽出組成物と接触させることによって、熱不活性化生物学的試料を直接さらに処理することができる。必要に応じて、加熱と、生物学的試料と抽出組成物との接触との間に冷却工程を実施することができる。
【0112】
実施例で実証されているように、熱不活性化生物学的試料と抽出組成物との接触も遅延させることができる。したがって、病原体熱不活性化生物学的試料を本発明の抽出組成物と接触させる前に、病原体熱不活性化生物学的試料を保持し、貯蔵し、または輸送することができる。実施例から明らかなように、抽出組成物と接触する前の病原体熱不活性化生物学的試料の短期および長期保存が可能である。実施例に示すように、いずれの方法でも良好な増幅結果が達成された。一実施形態によれば、病原体熱不活性化生物学的試料を提供するために生物学的試料を加熱することと、得られた病原体熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させることとの間の時間幅は、>2時間である。実施形態では、時間幅は、2時間以上150時間以下、3時間以上100時間以下、または4時間以上75時間以下の範囲内である。さらなる実施形態では、期間は、少なくとも12時間、少なくとも24時間であり、少なくとも2日または少なくとも3日であり得る。
【0113】
実施例に示すように、抽出組成物の非存在下で生物学的試料を加熱することは、唾液試料またはうがい試料などのタンパク質に富む試料を処理する場合にさらに有利である。一実施形態によれば、唾液またはうがい試料などの生物学的試料は、85°C以上、好ましくは90°C以上、より好ましくは95°C以上の温度で30分以下、例えば20分以下加熱される。好ましくは、そのような温度での加熱は15分以下であり、それによって迅速なワークフローを保証する。一実施形態によれば、唾液またはうがい試料などの生物学的試料は、消化された生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に、タンパク質分解酵素および還元剤を含む消化溶液で処理される。消化溶液による消化は、好ましくは80°C以上または85°C以上の温度での加熱によって補助される。好ましくは、加熱は90°C以上、より好ましくは95°C以上である。これは、生物学的試料の溶解/消化を補助する。さらに、このような高温での加熱は、消化溶液のタンパク質分解酵素が少なくとも加熱工程の終わりに不活性化されることを確実にする。したがって、熱不活性化後、消化された試料に含まれるタンパク質分解酵素は、次いで抽出組成物と接触するが、試料調製および/またはその後の増幅反応/逆転写増幅反応のいずれかに使用されるタンパク質、例えばタンパク質性RNase阻害剤、ポリメラーゼおよび/または逆転写酵素を分解することができない。適切な還元剤は、本明細書の他の箇所で議論されており、それぞれの開示を参照されたい。一実施形態によれば、還元剤は、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)およびβ-メルカプトエタノールから選択される。有利な実施形態によれば、還元剤はトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)である。消化溶液に含まれるタンパク質分解酵素は、プロテアーゼ、例えば好ましくはプロテイナーゼKであり得る。適切な濃度は、本明細書および実施例に提示される指針に従って当業者によって決定することができる。一実施形態によれば、唾液またはうがい試料などの生物学的試料を、収集後に消化溶液と接触させる。消化溶液と生物学的試料との接触は、1:4~1:1、例えば1:3~1:2の比で行われ得る。実施例によって実証されるように、タンパク質が豊富な生物学的試料(唾液またはうがい試料など)を、例えばプロテイナーゼKおよびTCEPなどの還元剤を含み、加熱によって補助される消化溶液で消化することは、標的核酸の増幅に基づく検出の感度を高める。
【0114】
したがって、一実施形態によれば、(A)における調製は、粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、それにより混合物を調製することを含み、
(A)は、
- 抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化し、生物学的試料を85°C以上、好ましくは90°C以上、より好ましくは95°C以上の温度に加熱すること;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を増幅反応のために提供すること、を含む。
【0115】
実施例に示すように、この実施形態は、唾液またはうがい試料などのタンパク質に富む試料に特に適している。一実施形態によれば、(A)における調製は、粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、それにより混合物を提供することを含み、
(A)は、
- 熱処理生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、抽出溶液の非存在下で、粗生物学的試料を85°C以上、好ましくは90°C以上、より好ましくは95°C以上の温度に加熱すること、
必要に応じて、加熱は、粗生物学的試料と接触された消化溶液の存在下で行われ、消化溶液は、タンパク質分解酵素および還元剤を含む、
- 混合物をインキュベートして、増幅反応のための調製された生物学的試料を提供すること、を含む。
【0116】
インキュベーション後、例えば、逆転写および増幅反応を行って、生物学的試料中のRNA標的核酸の存在または非存在を検出することができる。一実施形態では、高速ワークフローを提供する逆転写増幅が実行される。実施例は、調製された生物学的試料を、増幅反応、それぞれ逆転写増幅反応を行うために必要な成分とどのように接触させることができるかを示す様々な実施形態である。例えば、逆転写/増幅に必要な成分を調製された生物学的試料に添加することができ、またはその逆も可能である。また、実施例に示すように、増幅に必要な成分を、抽出溶液と予め混合しておいてもよく、同時に添加してもよい。本明細書の他の箇所に記載されているように、次いで、調製された生物学的試料が抽出組成物と接触したインキュベーションによって提供された後に、増幅/逆転写増幅反応を直接開始することができる(これは、本明細書の他の箇所に記載されているように加熱工程の非存在下で行われる)。増幅/逆転写増幅に必要な試薬が混合物中に既に含まれているので、所望であれば、反応を直接開始することができる。また、増幅/逆転写増幅に必要な試薬の全部ではないが一部が、調製された試料が、抽出組成物の存在下で(好ましくは予め消化された)生物学的試料をインキュベートすることによって提供された後に添加される混合実施形態も実現可能である。実施例に示すように、上記のように高温での加熱によって補助されるタンパク質分解酵素(例えばプロテイナーゼK)および還元剤(例えば、TCEP)を含む消化溶液を使用する前消化に基づくこの実施形態は、例えば、唾液およびうがい試料などのタンパク質に富む試料タイプを処理するのに有利である。
【0117】
したがって、本発明のワークフローは、生物学的試料を最初に消化溶液と接触させ、熱不活性化する追加の工程を含み得る。1つの実施形態によれば、次いで、熱不活性化生物学的試料を、上記の本発明による抽出組成物と接触させる。別の実施形態によれば、熱不活性化生物学的試料を、抽出組成物および増幅反応の成分と接触させる。増幅反応は、好ましい実施形態では、逆転写増幅反応である。
検出される標的核酸および標的病原体
【0118】
標的核酸は、RNAおよび/またはDNAから選択され得る。本明細書に開示されるように、1またはそれを超える、2またはそれを超える、または、3またはそれを超える標的核酸は、好ましくは逆転写増幅である後続の増幅工程で増幅/検出され得る。
【0119】
一実施形態によれば、少なくとも1つの標的核酸は、病原体由来核酸である。病原体は、ウイルス、細菌、原虫、ウイロイドおよび真菌からなる群から選択され得る。本明細書に開示されるように、本発明の技術は、病原体に由来し、したがって病原体を示す少なくとも1つの標的核酸の増幅に基づく検出に基づいて、生物学的試料中の病原体(異なる病原体を含む)の存在または非存在の検出を可能にする。好ましい実施形態によれば、病原体はウイルスである。ウイルスは、キャプシドウイルスまたは非キャプシドウイルスであり得る。一実施形態では、ウイルスはRNAウイルスである。
【0120】
したがって、好ましい実施形態では、少なくとも1つの標的核酸は、ウイルス、好ましくはRNAウイルスに由来するウイルス核酸である。実施例で実証されるように、本発明の技術は、RNAウイルスに由来するウイルス標的RNAの増幅に基づく検出のための粗生物学的試料の調製に特に適している。少なくとも1つの標的核酸は、有利な実施形態では、コロナウイルス、特にヒトに感染性のコロナウイルスに由来する。
【0121】
生物学的試料中のその存在または非存在が本発明の技術を用いて検出され得るウイルスは、コロナウイルス、特にヒトコロナウイルスであり得る。本明細書で使用されるヒトコロナウイルスは、特に、ヒトに感染性である(しかし、例えば、他の動物にも感染する可能性がある)コロナウイルスを指す。
【0122】
他の実施形態によれば、ウイルスは、インフルエンザA、インフルエンザB、インフルエンザC、インフルエンザD、インフルエンザH1N1、またはインフルエンザH3N2などのインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、アデノウイルス、エンテロウイルスまたはライノウイルスである。
【0123】
好ましい実施形態によれば、少なくとも1つの標的核酸は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)または重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoVまたはSARS-CoV-1)または中東呼吸器症候群(MERS)に由来する。好ましい実施形態において、少なくとも1つの標的核酸は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)由来の核酸である。
【0124】
したがって、標的核酸は、コロナウイルス、特にヒトコロナウイルスに由来する。上記のように、ヒトコロナウイルスは、特に、ヒトに感染性であるコロナウイルスを指す。コロナウイルスは、特に、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(COVID-19とも呼ばれるSARS-CoV-2)または重症急性呼吸器症候群(SARS-CoVまたはSARS-CoV-1)などの重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルスであり得る。したがって、好ましい実施形態において、標的核酸は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来する。コロナウイルスはまた、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)などの、中東呼吸器症候群関連コロナウイルスであり得る。さらなる実施形態において、コロナウイルスは、ヒトコロナウイルス229E(HCoV-229E)、HKU1(HCoV-HKU1)、NL63(HCoV-NL63)、OC43(HCoV-OC43)またはB814(HCoV-B814)、ヒト腸内コロナウイルス(HECV)である。さらなる実施形態によれば、コロナウイルスは、ベータコロナウイルス、サルベコウイルス、マウス肝炎ウイルス、マウスコロナウイルス、ヘッジホッグコロナウイルス、ピピペストレルスパットコロナウイルス、例えば、HKU5、HKU4、HKU1、HKU9、またはHCOV-HKU1、チロニクテリス由来コロナウイルス、ロゼット由来コロナウイルス、Ty-BatCoV HKU5、またはリノラプス由来コロナウイルスである。
【0125】
実施例で実証されるように、本発明の技術は、SARS-CoV-2の存在または非存在について生物学的試料を試験するのに特に適しており、既存のSARS-CoV-2試験方法ならびに他のRNAウイルスの試験方法を大幅に改善する有利で迅速かつ簡単なワークフローを提供する。一実施形態によれば、1またはそれを超える標的核酸がSARS-CoV-2に由来し、必要に応じて、標的核酸配列は、SARS-CoV-2遺伝子N、N1、N2、RdRP、EおよびOrf1bに由来する。
【0126】
実験努力の低減および診断速度の向上のために、1回の増幅反応における複数の標的核酸の並行検出が有利である(多重検出)。例えば、これは、同じ病原体の異なるアンプリコンの同時検出および/または異なる病原体に由来する核酸の並行検出を含み得る。多重検出のために本発明の方法を実行することは、従来技術の方法と比較して時間およびコストを節約する。したがって、一実施形態によれば、本方法は、少なくとも2つの標的核酸を検出することを含む。実施形態では、少なくとも2つの標的核酸は、少なくとも2つの異なる病原体に由来する。少なくとも2つの病原体はウイルスであり得る。少なくとも2つのウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、インフルエンザA、インフルエンザB、および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)から選択され得る。一実施形態によれば、少なくとも2つの標的核酸は、(B)において同時に増幅され、必要に応じて、少なくとも2つのウイルスは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、インフルエンザA、インフルエンザB、および呼吸器合胞体ウイルス(RSV)から選択される。実施例で実証されるように、本発明による方法は、輸送培地とは無関係に、少なくとも2つの異なるウイルス、例えばSARS-CoV-2、インフルエンザA、インフルエンザB、およびRSVに由来する標的核酸の同時検出を可能にする。本発明の方法は、それぞれのプライマーを使用して目的の任意の病原体に拡張することができる。
【0127】
さらに、本発明の方法は、同じ病原体の異なるバリアントを検出することを可能にする。したがって、ウイルスバリアント、例えばRNAウイルスバリアントなどの病原体バリアントの遺伝子型決定に使用することができる。実施形態において、本発明の方法は、ウイルスバリアントなどの異なる病原体バリアントの多重検出に使用される。例えば、COVID-19のパンデミックの間に、SARS-CoV-2の様々な新しいバリアントが進化しており、そのいくつかは野生型株よりも伝染性が高い。したがって、人が感染しているウイルスバリアントの同定は、効果的な対策を講じ、さらなる拡散を妨げるために最も重要である。時間のかかるシーケンシング分析とは対照的に、本発明の方法は、異なるウイルスのバリアントの迅速な検出を提供する。実施例によって実証されるように、本明細書で提供されるワークフローは、特定のプライマー/プローブの組み合わせを使用してSARS-CoV-2バリアント間の明確な区別を可能にする。したがって、本発明の方法は、異なるウイルス株または他の病原体の迅速な遺伝子型決定および同定を可能にする。
生物学的試料
【0128】
第1および第2の態様による方法は、事前の標的核酸精製なく、1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出のための生物学的試料の迅速な調製を可能にする。本方法は、逆転写増幅を含む増幅によって病原体試験のための粗生物学的試料を調製し、そのような増幅を迅速かつ堅牢な様式で実行するのに適している。
【0129】
特に、粗生物学的試料は、身体試料(身体の試料とも呼ばれる)であり得、好ましくは細胞含有試料である。そのような身体試料の既知の実施形態には、スワブ試料、塗抹試料、血液および血液由来試料、尿、唾液、吸引物が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
生物学的試料はヒト由来であり得、したがってヒト試料であり得る。これは、例えば、1またはそれを超える病原体による感染、疾患の状態および/または標的核酸の存在または非存在に基づいて決定することができる他の健康症状を同定するために、1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出に依存する診断用途に特に有利である。
【0131】
有利な中心的な実施形態によれば、粗生物学的試料は呼吸器検体である。呼吸器検体は、上気道または下気道から採取されてもよく、好ましくは上気道から採取される。そのような生物学的試料は、特に急性呼吸器症候群関連コロナウイルスなどのRNAウイルスを含むウイルスの検出に特に適している。実施例で実証されるように、第1の態様による方法は、事前の標的核酸単離なく、RNA標的核酸などの含まれる病原性標的の直接増幅に基づく検出のために呼吸器検体試料を調製するのに特に適している。
【0132】
一実施形態によれば、粗生物学的試料は、経口試料、鼻試料、鼻咽頭試料、中咽頭試料、咽喉試料またはこれらの組み合わせである。特定の実施形態では、生物学的試料は、唾液、痰、唾、粘液、よだれ、気管支肺胞洗浄、咽頭分泌物、鼻分泌物、鼻咽頭分泌物、唾液分泌物、口、鼻および/または喉に由来するスワブまたは塗抹、ならびに前述のものの組み合わせから選択される。
【0133】
特定の実施形態によれば、生物学的試料は、鼻咽頭、中咽頭および鼻の試料から選択され、好ましくは鼻咽頭、中咽頭または鼻のスワブ、塗抹または洗浄/吸引試料から選択され、より好ましくはスワブまたは塗抹から選択される。
【0134】
一実施形態によれば、生物学的試料は、唾液、痰および粘液から選択される。
【0135】
好ましい実施形態では、生物学的試料は、好ましくは培地に含有されるスワブ試料であり、標的核酸はウイルスRNAである。ウイルスRNAは、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)または重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoVまたはSARS-CoV-1)、より好ましくはSARS-CoV-2から選択されるウイルスに由来し得る。特に、生物学的試料は、好ましくは培地に含有される鼻咽頭、中咽頭または鼻のスワブ試料であり得、標的核酸は、コロナウイルス、好ましくはヒトコロナウイルス、例えば特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来するウイルスRNAである。さらなる実施形態では、生物学的試料は、唾液、痰または粘液であり、標的核酸は、コロナウイルス、好ましくはヒトコロナウイルス、例えば特に重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来するウイルスRNAである。
【0136】
実施例に示されるように、生物学的試料は、経口および/または喉試料であり得る。これは、唾液およびうがい試料から選択され得る。一実施形態によれば、生物学的試料は唾液試料である。一実施形態によれば、唾液試料は、唾液に浸漬されたスワブである。例えば、生物学的試料は、「ロリポップ試験」としても知られる、唾液に浸したロリポップ・スワブであってもよい。
生物学的試料を含む培地
【0137】
本明細書に開示されるように、多くの生物学的試料は、1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出のために生物学的試料を処理する前に培地に収集されるか、または培地に移される。本発明の方法の特定の利点は、事前の標的核酸精製なく、または培地の除去なく、少なくとも1つの標的核酸の増幅に基づく検出のために、輸送培地などの培地に含まれる生物学的試料を調製および処理することを可能にすることである。実施例で実証されるように、本発明による方法は堅牢であり、有利には、事前の標的核酸精製なく、少なくとも1つの標的核酸の増幅に基づく検出のために様々な異なる培地に含有される生物学的試料を調製および処理することを可能にする。培地に含まれる生物学的試料は、直接処理することができ、予め培地を除去する必要がない。
【0138】
したがって、本発明による方法の中心的な実施形態では、処理された生物学的試料は培地に含まれ、それによって、粗生物学的試料が提供される。本明細書に開示されるように、生物学的試料を含有する培地の少なくともアリコートを、生物学的試料として抽出組成物と接触させる。一般に、粗生物学的試料について本出願に記載されるすべての開示および実施形態は、明示的に述べられていなくても、培地に含まれる生物学的試料が処理され、抽出組成物と接触される中心的な実施形態に具体的に適用され、特にそれを指す。
【0139】
特定の実施形態では、生物学的試料は、対象から収集され、輸送培地などの培地に直接移される。例えば、生物学的試料をスワブ採取によって収集することができ、スワブを輸送および/または貯蔵の前に輸送培地に入れる。他の実施形態では、生物学的試料を対象から収集し、必要に応じて試料を保存および/または輸送することを含む遅延後に、生物学的試料を培地と接触させて培地に含有された生物学的試料を提供し、次いで本発明の抽出組成物と接触させる。例えば、生物学的試料は、液体を含まない容器に収集されて輸送されてもよい。スワブ試料などの生物学的試料のこのような「乾式」収集は、多数の試料が収集され、輸送培地が不足しているパンデミックの状況で行われることがある。この場合、生物学的試料を生理食塩水などの液体培地と接触させて、生物学的試料を培地に収容することが好ましい。次いで、スワブ採取した生物学的試料を含有する培地の少なくともアリコートを、生物学的試料として本発明による抽出組成物と接触させる。
【0140】
1つの実施形態によれば、生物学的試料を含有する培地は、輸送培地である。好ましくは、培地は、スワブおよび/または塗抹試料用の輸送培地である。そのような輸送培地の適切な実施形態は当業者に知られており、本明細書でさらに説明される。
【0141】
媒体は、好ましくは水溶液である。培地は、培地が生物学的試料と接触しているときに、生物学的試料に含まれる細胞内の浸透圧を維持するのに適した生理食塩水であり得る。培地は、生物学的試料に含まれる細胞および/またはウイルス粒子を安定化し得る。これは、例えば生物学的試料に含まれる細胞からのヌクレアーゼの放出を阻害し、標的核酸を含むウイルス粒子を保存することによって、標的核酸の保護を支援する。生物学的試料を受け入れるためにそのような培地を使用することは、当技術分野で周知のように輸送/貯蔵中に標的を保存するので有利である。培地はまた、少なくとも1つの標的核酸を分解に対して安定化し得る。生物学的試料を受け取るための培地は、架橋/固定に起因して、調製された生物学的試料中の1またはそれを超える標的核酸のその後の直接増幅に基づく検出を妨げ、したがって損なう可能性がある、含まれる核酸の架橋または他の固定をもたらさないことが好ましい。
【0142】
一実施形態によれば、生物学的試料を含む培地は塩含有溶液である。培地は、実施形態では塩含有溶液である。培地中の総塩濃度は、50mM~250mM、例えば75mM~225mMまたは100mM~200mMの範囲にあり得る。培地中の総塩濃度は、120mM~175mMまたは125mM~150mMの範囲にあり得る。スワブ試料などの生物学的試料の収集に使用される多くの一般的な培地は、上述の範囲の塩濃度を有する。スワブ試料などの生物学的試料を収集するために使用される多くの一般的な輸送培地は、中心的な成分としてハンクス平衡塩類溶液を含む。本発明の実施形態では、生物学的試料が抽出組成物と接触する前に含まれる培地は、ハンクス平衡塩類溶液、ユニバーサル輸送培地(UTM)、ウイルス輸送培地(VTM)、または上述の培地の1またはそれを超える培地と比較して+/-30%もしくは+/-20%の範囲内の総塩濃度を有する培地を含むか、またはこれらからなる。実施形態において、培地は、生理的塩類溶液である。生物学的試料を含む培地は、0.7%~1.2%(w/v)または0.8%~1%(w/v)のアルカリ金属塩類溶液であり得る。実施形態において、培地は、0.9%(w/v)塩化ナトリウム溶液である。さらなる実施形態では、生物学的試料を含む培地は、リン酸緩衝液、必要に応じてPBS緩衝液によって提供される。実施例で実証されるように、本発明による方法は、培地に含まれる生物学的試料を本発明による抽出組成物と接触させ、それによって抽出組成物、培地および生物学的試料を含む混合物を提供することによって、事前の核酸精製なく、または培地の除去なく、1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出のためにそのような培地を含有するそのような粗生物学的試料を調製することを可能にする。これは、様々な異なる培地、特に、呼吸検体を受け取る、例えば収集するために一般的に使用される異なる培地に含まれる生物学的試料を処理することができる堅牢な調製方法が提供されるので、非常に有利である。
【0143】
生物学的試料が多量の塩を含有する培地に含まれる場合、増幅反応混合物を設定するために使用される増幅反応緩衝液のイオン強度を低下させ、それにより、抽出組成物、生物学的試料および塩含有培地を含む調製された生物学的試料による増幅反応混合物へのイオンの導入を補償することができる。この実施形態は、塩含有培地から調製された生物学的試料に運ばれる成分による増幅反応、したがって増幅反応の有害な阻害なしに、大量の調製された生物学的試料を増幅反応混合物(例えば、好ましくは逆転写増幅である増幅に使用されるすべての成分を含む増幅反応混合物の全体積の最大40%、最大50%または最大60%)に組み込むことを可能にする。これらの有利な実施形態は、本明細書の他の箇所でさらに詳細に開示される。あるいは、増幅反応混合物中の調製された生物学的試料の量を減少させて、増幅反応、特に逆転写増幅反応の高性能を確実にすることができる。
【0144】
一実施形態によれば、(A)における調製は、
- 培地に含有された生物学的試料によって提供される粗生物学的試料を得て、必要に応じて、試料を撹拌すること;
- 得られた粗生物学的試料の少なくともアリコートを抽出組成物と接触させ、それによって混合物を提供すること;
- 混合物をインキュベートして、標的核酸の増幅に基づく検出のために調製された生物学的試料を提供すること、を含む。
工程(B)
【0145】
第1および第2の態様による方法の工程(A)は、事前の標的核酸精製なく、1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出のための調製された生物学的試料を提供する。本明細書に開示されるように、(A)における調製は、好ましくは、
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの界面活性剤、
(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および
(c)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出組成物と接触させて、それによって、混合物を提供すること;
および
- 混合物をインキュベートして、生物学的試料と、抽出組成物と、必要に応じて、生物学的試料を含有した培地とを含む、混合物の調製された生物学的試料インキュベーションを提供すること、を含む。
【0146】
工程(B)は、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、少なくとも1つの標的核酸を増幅させ、必要に応じて、増幅の前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応を行うことを含む。
【0147】
本明細書に開示されるように、逆転写反応および/または増幅反応、例えば逆転写および増幅反応、好ましくは定量的RT-PCRは、調製された生物学的試料を使用して行うことができる。実施例によって実証されるように、本明細書に開示される抽出組成物の使用は、良好な性能および感度を確保しながら、RNA標的核酸などの1またはそれを超える標的核酸の増幅に基づく検出に適した調製された生物学的試料を提供する。
【0148】
1つの実施形態によれば、(B)において、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供することは、調製された生物学的試料を、増幅または逆転写増幅反応を行うために使用される成分と接触させ、それにより、増幅反応混合物を提供することを含む。
【0149】
さらに、実施例に示すように、増幅反応または逆転写増幅反応を行うために必要な成分/試薬を抽出組成物と予備混合してもよい。そのような実施形態は、例えば、タンパク質分解酵素および還元剤を含む消化溶液を使用して粗生物学的試料を前消化し、前消化された生物学的試料を本明細書に開示される抽出組成物と接触させる前に加熱するワークフローと併せて実行可能である。
【0150】
一実施形態では、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写増幅が行われる場合に含まれる逆転写酵素;
(d)Mg2+源、緩衝剤および必要に応じてさらなる添加物を含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス、必要に応じてヌクレオチドは修飾ヌクレオチドまたはdUTPを含む;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、および必要に応じてプローブ、
を含む。
【0151】
一実施形態によれば、本方法は、調製された生物学的試料を、増幅マスターミックス、したがって成分(b)~(e)と1またはそれを超える標的核酸を増幅するための別個に提供されたプライマーとを含む単一組成物と、接触させることを含む。この実施形態は、RNA標的核酸を検出するために特に好ましい。(定量的RT-PCRのための)プローブ、内部対照などの、病原体試験方法で一般的に使用されるさらなる成分も、増幅反応混合物に含めることができる。しかしながら、実施形態において、これらのさらなる成分はまた、別個に提供され、増幅マスターミックスに含まれない。
【0152】
一実施形態によれば、本方法は、調製された生物学的試料を、成分(b)および(d)~(f)ならびに必要に応じて(c)を含む直接増幅マスターミックスと接触させることを含む。
【0153】
有利な実施形態によれば、増幅反応緩衝液(d)、または成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスのイオン強度を低下させ、それにより、培地を含有し得る調製された生物学的試料に起因する、イオン、特にアルカリ金属塩および/または塩化物に由来するイオンの増幅反応混合物への導入を補償する。実施例で実証されているように、多くの一般的に使用される培地は、増幅反応、特に逆転写増幅反応を損ない得る高濃度の塩、例えば塩化物塩を含む。したがって、この実施形態は、培地によって導入された有害イオンを補償し、それによって増幅が適切に機能して高感度試験を可能にすることを確実にするのに有利である。イオン強度、特に塩化物濃度を低下させるためのいくつかの適切かつ好ましい選択肢が以下に記載されており、これらの選択肢は組み合わせて使用することもでき、実施例によっても実証されているように自由に組み合わせることができる。実施形態において、増幅または逆転写増幅反応を実施するために使用されるすべての成分を有する調製された生物学的試料を含む増幅反応混合物中の塩濃度が300mM以下、好ましくは250mM以下または220mM以下になるように、増幅反応緩衝液(d)または成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスのイオン強度を低下させる。調製された生物学的試料が、記載された手段によって補償することができない多量の塩を含む場合、希釈効果を達成するために、より少ない量の調製された生物学的試料を増幅反応混合物に組み込むことができる。本明細書に開示されるように、塩化物、ナトリウムおよび/またはアルカリ金属塩に由来するイオンなどの妨害イオンは、通常、特に生物学的試料が上記のような媒体に含まれる場合、粗生物学的試料に由来する。有利には、1またはそれを超える標的核酸の直接増幅に基づく検出のために生物学的試料を調製するために使用され、したがって調製された生物学的試料に含まれる抽出組成物は、有機塩、特に塩化物塩を含まなくてもよい。
【0154】
一実施形態によれば、増幅反応緩衝液(d)は、以下の特徴の1またはそれを超える特徴、好ましくは2またはそれを超える特徴、より好ましくは3またはそれを超える特徴を有する。
(aa)増幅反応緩衝液(d)は、30mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まない。実施形態において、20mM以上、15mM以上、10mM以上または5mM以上の濃度の塩化ナトリウムを含まない。好ましくは、増幅反応緩衝液(d)は塩化ナトリウムを含まない。
(bb)増幅反応緩衝液(d)は、30mM以上、例えば20mM以上、15mM以上、10mM以上または5mM以上の濃度で塩化カリウムを含まない。好ましくは、増幅反応緩衝液(d)は塩化カリウムを含まない。
(cc)好ましい実施形態では、増幅反応緩衝液(d)は、塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まない。
(dd)増幅反応緩衝液(d)中のアルカリ金属塩化物濃度は、30mM以下、20mM以下、15mM以下または10mM以下である。好ましくは、増幅反応緩衝液(d)は、アルカリ金属塩化物を含まない。
(ee)増幅反応緩衝液(d)中のアルカリ金属塩濃度は、30mM以下、例えば20mM以下、15mM以下または10mM以下である。好ましくは、増幅反応緩衝液(d)は、アルカリ金属塩を含まない。
【0155】
増幅反応緩衝液(d)は、酵素(b)および(c)を含まない。しかしながら、記載されるように、成分(b)~(e)は、有利には、増幅マスターミックスの形態で提供され得る。そのような増幅マスターミックスの使用は一般的な慣行であり、使用者にとって便利である。
【0156】
有利な実施形態では、増幅反応緩衝液(d)は、塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N-(トリ(ヒドロキシメチル)メチル)グリシン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸および2-(N-モルフォリノ)エタンスルホン酸からなる群から選択される。好ましくは、緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される。
【0157】
実施形態において、増幅反応緩衝液(d)のpHは、塩化物を含まない酸で調整される。これにより、塩化物負荷がさらに低減され、したがって、様々な種類の調製された生物学的試料を処理するための、特に逆転写増幅を行うための堅牢な方法が提供される。本明細書に開示されるように、本発明による抽出組成物を使用して調製される塩含有培地または高イオン強度の他の培地に含まれる粗生物学的試料の処理を可能にする。実施例で実証されているように、pHは、有機酸、好ましくはカルボン酸を使用して調整することができる。一実施形態において、増幅反応緩衝液(d)のpHは、酢酸、ギ酸、プロピオン酸および酪酸から選択されるカルボン酸で調整され、好ましくは酢酸で調整される。他の酸としては、鉱酸、例えばH2SO4またはHNO3が挙げられる。増幅反応緩衝液(d)のpHは、一般的に使用される範囲、例えば6~10、6.5~9.5、7.0~9.5および7.5~9.0の範囲、例えば約8.0~8.5であり得る。
【0158】
さらなる実施形態では、増幅反応緩衝液(d)は、Mg2+源として、塩化物を含まない可溶性マグネシウム塩を含む。これもまた、増幅反応緩衝液(d)中の塩化物濃度を低下させることを可能にする。同じことが、増幅マスターミックス(d)を含む増幅マスターミックスにも当てはまる。可溶性マグネシウム塩は、有機酸のマグネシウム塩であってもよく、またはマグネシウム塩は、硫酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムから選択される。
【0159】
一実施形態によれば、増幅反応緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まず;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択され、かつ
(iii)増幅反応緩衝液(d)のpHを、有機酸、好ましくはカルボン酸で調整することを特徴とする。
【0160】
一実施形態によれば、成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスは、以下の特徴の1またはそれを超える特徴、好ましくは2またはそれを超える特徴、または、より好ましくは3またはそれを超える特徴を有する。
(aa)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まない。好ましくは、塩化ナトリウムを含有しない。
(bb)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まない。必要に応じて、塩化カリウムを含まない。しかし、DNAポリメラーゼなどの含まれる酵素(複数可)を介して導入され得るので、少量の塩化カリウムが増幅マスターミックスに含まれてもよい。しかしながら、本明細書中に開示されるように、好ましくは、塩化カリウムは、増幅反応緩衝液(d)を介して導入されない。
(cc)増幅マスターミックス中のアルカリ金属塩化物濃度は、100mM以下、75mM以下、60mM以下、50mM以下または45mM以下である。本明細書に開示されるように、アルカリ金属塩化物を含まなくてもよい。
(dd)増幅マスターミックス中のアルカリ金属塩濃度は、100mM以下、75mM以下、例えば60mM以下、50mM以下または45mM以下である。
(ff)塩化物イオン濃度は、250mM以下、好ましくは200mM以下、175mM以下または150mM以下である。
【0161】
実施例に開示されるように、増幅マスターミックスは濃縮形態で提供され得、上記の濃度は特に3倍または4倍の増幅マスターミックスに適している。
【0162】
成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスは、以下の特徴の一方または両方をさらに有し得る:
(aa)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N-(トリ(ヒドロキシメチル)メチル)グリシン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸および2-(N-モルフォリノ)エタンスルホン酸からなる群から選択され、好ましくは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される。
(bb)pHは有機酸、好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、カルボン酸は酢酸、ギ酸、プロピオン酸および酪酸から選択され、好ましくは酢酸である。
【0163】
特徴(aa)および(bb)は、増幅マスターミックス中のイオン強度をさらに低下させ、それによって、例えば生物学的試料を含有する培地に含まれる塩化物塩に由来するさらなるイオンの影響を補償することができ、それによって、異なる種類の輸送培地を含む粗生物学的試料が処理される場合であっても、定量的RT-PCRなどの増幅の堅牢な実施を保証するので、より大量の調製された生物学的試料を増幅反応混合物に組み込むことを可能にする。
【0164】
一実施形態によれば、成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスは、Mg2+源として塩化物を含まない可溶性マグネシウム塩を含み、必要に応じて、可溶性マグネシウム塩は、好ましくは硫酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムから選択される有機酸のマグネシウム塩である。
【0165】
一実施形態によれば、成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスは、
(i)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(iii)塩化物イオンが存在する場合、塩化物イオン濃度は、250mM以下、200mM以下、175mM以下、150mM以下、または125mM以下である;
(iv)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、好ましくは、緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(v)必要に応じて、pHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、カルボン酸は酢酸である、ことを特徴とする。
【0166】
したがって最適化された増幅試薬(例えば、成分(b)~(e)が単一の組成物で提供される増幅反応緩衝液(d)および/または増幅マスターミックス)を使用するこれらの実施形態は、塩含有培地または高イオン強度の他の培地から調製された生物学的試料に運ばれる成分による増幅反応、したがって増幅反応の有害な阻害なしに、大量の調製された生物学的試料を増幅反応混合物(例えば、好ましくは逆転写増幅である増幅に使用されるすべての成分を含む増幅反応混合物の全体積の最大40%、最大50%または最大60%)に組み込むことを可能にする。あるいは、増幅反応混合物中の調製された生物学的試料の量を減少させて、増幅反応、特に逆転写増幅反応の高性能を確実にすることができる。
【0167】
一実施形態によれば、増幅緩衝液(d)、成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む直接増幅マスターミックスは、以下の添加剤のうちの1またはそれを超える添加剤を含む:
- 必要に応じて硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムから選択される、アンモニウム塩;
- ポリエチレングリコール;
- N,N,N-トリメチルグリシン;
- 血清アルブミン;
- 金属イオンキレート剤、必要に応じてEGTA;
- グリセロール;
- 魚ゼラチン;
- PVP(ポリビニルピロリドン);
- DMSO;および
ホルムアミド。
【0168】
これらの添加剤は、増幅反応に一般的に使用され、当業者は、本出願で提供される一般的な指針に従って適切な濃度を選択することができる。
【0169】
従来技術の方法においても一般的であるように、増幅反応、例えば逆転写増幅反応(例えば、定量的RT-PCR)において使用されるすべての成分を含む調製された増幅反応混合物は、
(g)少なくとも1つの内部対照鋳型、および前記内部対照鋳型を増幅するためのプライマー、ならびに必要に応じて、検出のためのプローブを含む。
【0170】
一実施形態によれば、増幅反応に供される調製された生物学的試料は、増幅反応の全反応体積の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも45%を提供し、必要に応じて、増幅反応に供される調製された生物学的試料は、好ましくは逆転写PCRまたはPCRである増幅反応の全反応体積の最大60%または最大50%を提供する。好ましい実施形態では、調製された生物学的試料は、調製された生物学的試料および増幅を行うのに必要なすべての成分を含む増幅反応混合物の総体積の少なくとも、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも45%を提供する。実施形態において、実施例でも実証されているように、調製された生物学的試料は、調製された生物学的試料および増幅を実施するために必要なすべての成分を含む増幅反応混合物の総体積の最大60%または最大50%を提供する。大量の調製された生物学的試料を逆転写増幅反応などの増幅反応に供し得ることは、感度を高めるため有利である。本明細書に開示され、実施例に示されるように、事前の核酸精製なく、粗生物学的試料を処理するにもかかわらず、粗生物学的試料を抽出組成物と接触させる本明細書に開示される前処理工程は、RNA標的核酸を含む標的核酸を良好な感度で確実に同定することができる調製された生物学的試料を提供する。抽出溶液の成分は、その後の増幅または逆転写増幅を妨げず、さらに生物学的試料の差のバランスをとることができ、それによって堅牢な結果を保証することができる。
【0171】
限定されないが、(i)逆転写増幅反応;(ii)逆転写PCR;(iii)等温増幅反応;(iv)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR);(v)定量的PCR;(vi)定量的逆転写PCR、または(vii)デジタルPCRを含む任意の種類の増幅を行うことができる。本明細書で使用される場合、「PCR」という用語は、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応;DNA増幅)ならびにRT-PCR(逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応;RNA増幅)を含む。特定の好ましい実施形態では、PCRは、半定量的またはより好ましくは定量的PCR、例えば定量的逆転写PCRである。定量的PCRを行うことは、病原体試験のために特に好ましい。選択された増幅タイプを実施するために必要なすべての成分は、調製された生物学的試料も含む増幅反応混合物に含まれる。
【0172】
好ましい実施形態によれば、酵素反応は、逆転写増幅反応、好ましくは定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応である。実施例で実証されているように、本発明による方法は、例えばSARS-CoV-2および他のRNAウイルスの存在または非存在を検出するために、病原体試験の中心的な用途であるRNA標的核酸を増幅するために特に有用である。
【0173】
有利には、本発明によるすべての方法において、
- 粗生物学的試料を抽出組成物と接触させる工程、
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供する工程、
- 増幅反応、好ましくは逆転写増幅反応を実施する工程、
は、同じ反応容器内で行われる。
【0174】
単一の容器内ですべての工程を実施することは、時間および消耗品を節約し、したがって、核酸抽出および増幅工程が別々の容器内で実施される最先端技術と比較して改善を表す。例えば、上記の工程は、1つのPCRチューブまたはPCRプレートの1つのウェル内で連続的に実施することができる。ハイスループットの要求がある場合、例えばパンデミック状況の場合のように、時間および消耗品を節約する本発明によって提供されるような効率的かつ正確な病原体検出方法が特に有利である。
【0175】
上述のように、生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に加熱工程を実施することが有利である。そのような加熱工程は、病原体を不活性化することができ、さらに、含まれる核酸の事前の精製なく、直接増幅/逆転写増幅のための生物学的試料の調製を補助することができる。抽出組成物の非存在下でのそのような加熱工程が、生物学的試料をタンパク質分解酵素(好ましくはプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼK)および還元剤(例えばTCEP)を含む消化溶液と接触させた後に行われる実施形態が上記で記載されており、実施例にも示される。生物学的試料を、加熱によって補助される生物学的試料の消化のためにタンパク質分解酵素および還元剤を含む消化溶液と接触させるそのようなワークフロー(好ましくは80°C以上、例えば85°C以上、好ましくは90°C以上、より好ましくは95°C以上の温度で-上記参照)は、唾液およびうがい試料などのタンパク質に富む試料を処理するのに特に適している。実施例に示すように、感度を向上させることができる。
【0176】
第1および第2の態様による方法の好ましい実施形態は、以下で再び説明される。
【0177】
一実施形態によれば、少なくとも1つの標的核酸は、病原体に由来するRNA標的核酸であり、粗生物学的試料は、培地に含まれる生物学的試料であり、本方法は、以下を含む:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、
混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供し、反応を実施して、少なくとも1つの標的核酸を増幅させること。
【0178】
本明細書に開示されるように、実施される増幅は、生物学的試料中の1またはそれを超える(one more)標的核酸の存在または非存在を検出することを可能にする。これは、例えば本明細書に開示される病原体試験に有利である。増幅反応において1またはそれを超える病原体由来標的核酸について増幅シグナルが得られるかどうかに応じて、生物学的試料が標的病原体(複数可)について陽性であるか陰性であるかを決定することができる。実施例によって示されるように、多重検出が実現可能である。例えば、異なるウイルスなどの少なくとも2つの異なる病原体に由来する2またはそれを超える標的核酸を検出することができる。さらに、少なくとも2つの標的核酸は、ウイルスバリアントなどの、同じ病原体の2またはそれを超える異なるバリアントに由来し得る。
【0179】
一実施形態によれば、少なくとも1つの標的核酸は、病原体に由来するRNA標的核酸であり、本方法は、以下を含む:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供し、反応を実施して、少なくとも1つの標的核酸を増幅することであって;
少なくとも、
- 粗生物学的試料を抽出溶液と接触させて、混合物を調製する工程、
- 混合物をインキュベートする工程、および
- 逆転写増幅反応を行う工程、
は、同じ反応容器内で行われる。
【0180】
一実施形態によれば、少なくとも1つの標的核酸は、病原体に由来するRNA標的核酸であり、本方法は、以下を含む:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、以下によって逆転写および増幅反応に供することであって、
- 調製された生物学的試料を逆転写増幅反応を実施するために使用される成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、を含み、
調製された生物学的試料(a)が、調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 少なくとも1つのRNA標的核酸を増幅するために逆転写および増幅反応を実施する、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供すること。
【0181】
有利な実施形態によれば、本方法は、(B)において、調製された生物学的試料を、単一組成物中に成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスと接触させることを含む。適切かつ好ましい実施形態は上述したものであり、それぞれの開示を参照されたい。
【0182】
1つの実施形態によれば、増幅反応混合物は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来する1またはそれを超える、好ましくは2またはそれを超える標的核酸を増幅するのに適したプライマーと、必要に応じて検出のためのプローブとを含む。PCR用途、特にリアルタイムPCR用途で一般的に使用される任意のタイプのプローブを本発明と併せて使用することができる。
【0183】
一実施形態によれば、少なくとも1つの標的核酸は、病原体、好ましくはRNAウイルスに由来するRNA標的核酸であり、本方法は、以下を含む:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、以下によって逆転写および増幅反応に供することであって、
- 調製された生物学的試料を逆転写増幅反応を実施するために使用される成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、を含み、
調製された生物学的試料(a)が、調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 少なくとも1つのRNA標的核酸を増幅するために逆転写および増幅反応を実施することであって;
少なくとも、
- 粗生物学的試料を抽出溶液と接触させて、混合物を調製する工程、
- 混合物をインキュベートする工程、および
- 逆転写増幅反応を行う工程、
は、同じ反応容器内で行われる、実施する、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供すること。
【0184】
一実施形態によれば、粗生物学的試料は、培地に含まれる生物学的試料である。適切な培地、特に輸送培地として一般的に使用される塩含有培地が上に開示され、それぞれの開示が参照される。
【0185】
一実施形態によれば、粗生物学的試料は、培地に含まれる呼吸器生物学的試料であり、本方法は以下を含む:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 培地に含有された呼吸器生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で培地に含有された呼吸器生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)以下によって、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、好ましくは定量的RT-PCR反応である逆転写および増幅反応に供すること:
- 調製された生物学的試料を、逆転写増幅反応を実施するために使用される成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を逆転写および増幅するためのプライマー、
を含み、
調製された生物学的試料(a)が、調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 少なくとも1つのRNA標的核酸を逆転写および増幅するために逆転写および増幅反応を実施することであって、
少なくとも以下の工程:
- 粗生物学的試料を抽出溶液と接触させて混合物を調製すること、
- 混合物をインキュベートすること、
- 逆転写増幅反応を行うこと、
が、同じ反応容器内で行われ;
標的核酸は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来する1またはそれを超える、好ましくは2またはそれを超える標的核酸によって提供される、逆転写および増幅反応を実施すること。
第3の態様によるキット
【0186】
第3の態様によれば、第1および/または第2の態様による方法を実施するためのキットが提供される。前記キットは、
(a)本発明による抽出組成物を含む。開示されるように、本発明による抽出組成物は、
(a)少なくとも1つの界面活性剤、
(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および
(c)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤を含む。
【0187】
本発明による抽出組成物は、(a)界面活性剤、(b)好ましくはRNase阻害剤であり、より好ましくは逆転写増幅用とのためのタンパク質性RNase阻害剤である少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および(c)還元剤のための適切かつ好ましい実施形態、ならびに成分の適切な濃度範囲を含めて、第1の態様による方法と併せて詳細に記載され、ここでも適用されるそれぞれの開示を参照されたい。還元剤は、好ましくは抽出溶液である抽出組成物に含まれることが好ましい。
【0188】
一実施形態によれば、抽出溶液は、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、を含む。
【0189】
非イオン性界面活性剤および還元剤の適切かつ好ましい実施形態ならびに適切な濃度は上述したものであり、それぞれの開示を参照されたい。本明細書に開示されるように、抽出溶液は、担体液体に含まれる上述の活性成分(a)~(c)から本質的になり得るか、またはそれからなり得る。
【0190】
一実施形態によれば、抽出溶液は、
(a)少なくとも1つのポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される少なくとも1つの還元剤、を含む。
【0191】
本明細書に開示されるように、抽出溶液の活性成分は、
(a)非イオン性界面活性剤、好ましくはポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)タンパク質性RNase阻害剤、および
(c)還元剤(好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される)、から本質的になってもよく、またはそれからなってもよい。
【0192】
1つのポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤の適切かつ好ましい実施形態ならびに適切な濃度は上述したものであり、それぞれの開示を参照されたい。有利な実施形態では、抽出溶液に含まれる非イオン性界面活性剤は、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルから選択される。
【0193】
好ましい実施形態によれば、抽出溶液は、
(a)少なくとも1つのポリソルベート、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、を含む。
【0194】
実施例によって実証されるように、そのような抽出溶液は非常に有利であり、良好な感度での、含まれるRNA標的核酸(ウイルスRNA標的など)の直接逆転写および増幅のために、培地に含まれる呼吸器検体を含む困難な生物学的試料さえも調製することを可能にする。非イオン性界面活性剤として抽出溶液に含めることができる適切なポリソルベートは上に開示されており、それぞれの開示を参照されたい。記載されるように、ポリソルベートは、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80から選択され得る。ポリソルベート20は、非イオン性界面活性剤として抽出溶液に含めることができる特に好ましいポリソルベートである。一実施形態では、抽出溶液の活性成分は、
(a)ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20)、
(b)タンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、から本質的になってもよく、またはそれからなってもよい。
【0195】
一実施形態において、第3の態様に係るキットは、タンパク質分解酵素と還元剤とを含む消化溶液を含む。一実施形態によれば、還元剤は、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)およびβ-メルカプトエタノールから選択され、好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)である。消化溶液に含まれるタンパク質分解酵素は、プロテアーゼ、例えば好ましくはプロテイナーゼKであり得る。適切な濃度は、本明細書および実施例に提示される指針に従って当業者によって決定することができる。実施例によって実証されるように、タンパク質が豊富な生物学的試料(唾液またはうがい試料など)を、例えばプロテイナーゼKおよび還元剤(TCEPなど)を含み、加熱によって補助される消化溶液で消化することは、標的核酸の増幅に基づく検出の感度を高め得る。
【0196】
有利な実施形態では、第3の態様によるキットは、以下の成分の1またはそれを超える成分および好ましくはすべてをさらに含む:
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)必要に応じて、少なくとも1つの標的核酸を増幅するためのプライマー。
【0197】
逆転写が行われる場合には、逆転写酵素が含まれることが好ましい。1つの実施形態によれば、成分(b)~(e)が単一の組成物に含まれ、それにより、増幅マスターミックスが得られる。適切な実施形態は、本発明による方法と併せて開示され、キットに含まれてもよい。増幅マスターミックスは、濃縮形態、例えば少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍または少なくとも5倍で提供され得る。濃縮された増幅マスターミックスの使用は、調製された生物学的試料を含む増幅反応混合物への大量の調製された生物学的試料の組み込みを可能にするので有利であり、増幅マスターミックスは、成分(b)~(e)、および増幅反応で使用されるプライマーなどのさらに別個に添加された成分、ならびに必要に応じてプローブ、色素、内部対照などを含む。そのようなさらなる成分、例えば、定量的(リアルタイム)PCRのためのプローブおよび/または色素、例えば、定量的RT-PCR、内部対照などもキットに含まれ得る。従来技術の増幅方法でも使用されるこれらの標準的な成分は当業者に周知であり、したがって詳細な説明を必要としない。ヌクレオチドはまた、修飾ヌクレオチドを含み得る。ヌクレオチドは、標的核酸の増幅を可能にする。dUTPも含まれ得る。諸実施形態において、成分(e)は、dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPを含むdNTPミックスである。
【0198】
実施形態において、成分(b)および(d)~(f)、ならびに必要に応じて(c)を含む直接増幅マスターミックスが提供される。したがって、そのような直接増幅マスターミックスは、1またはそれを超える標的核酸を増幅するために必要なプライマー(および必要に応じてプローブ)を既に含む。そのような実施形態は、DNA標的用途に使用され得る。
【0199】
キットはまた、増幅反応に使用される追加の成分/添加剤を含み得る。そのような成分はまた、増幅マスターミックスに含まれ得る。
【0200】
一実施形態によれば、キットは、好ましくは増幅反応緩衝液(d)に含まれ、したがって成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスに含まれ得る以下の添加剤の1またはそれを超える添加剤を含む:
- 必要に応じて硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムから選択される、アンモニウム塩;
- ポリエチレングリコール;
- N,N,N-トリメチルグリシン;
- 血清アルブミン;
- 金属イオンキレート剤、必要に応じてEGTA;
- グリセロール;
- 魚ゼラチン;
- PVP(ポリビニルピロリドン);
- DMSO;および
- ホルムアミド。
【0201】
一実施形態によれば、好ましくはPCR反応緩衝液である増幅反応緩衝液(d)は、Mg2+源として可溶性マグネシウム塩を含む。可溶性のマグネシウム塩は、塩化マグネシウム、または硫酸マグネシウムや酢酸マグネシウムのような塩化物を含まないマグネシウム塩であってもよい。
【0202】
一実施形態によれば、キットは、
(g)少なくとも1つの内部対照鋳型と、前記内部対照鋳型を増幅するためのプライマーとを含む。
第4の態様による使用
【0203】
第4の態様では、本発明は、第1および/または第2の態様による方法における第3の態様によるキットの使用に関する。それぞれのキットおよび方法の詳細は上記で詳細に説明されており、ここでも適用されるそれぞれの開示を参照されたい。
【0204】
上記の開示および以下に提供される実施例から明らかなように、本発明は、とりわけ即時かつ迅速なリアルタイムPCR実行を可能にする、事前の核酸精製なく標的核酸および病原体の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料の調製のための効率化されたワークフローを提供する。本発明は、簡単なワークフローを可能にする。いくつかの有利な実施形態が上記で説明され、実施例に示されている。アリコートは、Universal Transport Media(UTM(商標))などの輸送培地に含まれる鼻咽頭、中咽頭または鼻スワブなどの一次試料から採取し、ウイルスRNAを含むウイルス核酸を分解せずに調製するのに特に適している本発明の抽出溶液と接触させることができる。次いで、輸送培地中の生物学的試料および本発明の抽出溶液を含む混合物を、好ましくは逆転写増幅である増幅反応の成分と組み合わせる。他の選択肢も本明細書に開示されている。本明細書に開示されるように、ルーチンリアルタイムPCRは、事前の精製なく調製された生物学的試料を使用して実施することができ、信頼性が高く高感度の結果を提供する。有利には、任意のサイクラーを使用することができ、本発明の全体的な迅速なワークフローは、1時間未満で結果を送達することを可能にする。したがって、本発明は、例えば、結果を得るために3時間およびそれを超える時間を必要とする標準的な抽出に基づく定量的PCRプロセスと比較して、PCR分析を著しく単純化および加速する。これにより、実験室は病原体試験の頻度を大幅に増加させることができる。本発明の方法で達成することができる検出レベルは、通常のPCRワークフローと同様またはそれよりも良好であり、その性能は、米国疾病管理センター(CDC)、世界保健機関(WHO)、および試料抽出にゴールドスタンダードを使用する他の機関の標準的な公衆衛生プロトコルに匹敵している。さらに、本発明は、標準的な実験室自動化装置、標準的なアッセイおよび輸送培地と適合性であり、試料調製および標的検出のための試薬を1つのキットに組み合わせることを可能にする。さらに、プラスチックおよび試薬の使用ならびに実験室での利用を減らすことによって、大幅なコスト削減が可能である。全体として、標的核酸の増幅に基づく検出のために粗生物学的試料を調製するための本発明による抽出組成物の使用に基づく本発明は、標準的な抽出に基づくPCRプロセスを著しく単純化および加速することによって、SARS-CoV-2および他のRNAウイルスなどの病原体検出のための重要な試験のボトルネックを除去する。
【0205】
さらに、本明細書で開示される方法は、多重形式で異なる病原体の並行検出を可能にし、また、異なるウイルスバリアントなどの病原体の異なるバリアントの遺伝子型決定も可能にする。これらはまた、本発明による方法の有利な用途である。
さらなる実施形態
【0206】
本発明の実施形態は、以下で再び詳細に説明される。本発明は、特に、以下の項目を開示し、提供する。
【0207】
1.標的核酸の事前の精製なく、粗生物学的試料に含まれる少なくとも1つの標的核酸を増幅に基づく検出のための方法であって、
(A)前記粗生物学的試料を、前記標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅すること、
を含み、
必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われ、
必要に応じて、前記少なくとも1つの標的核酸が病原体に由来する、方法。
【0208】
2.事前の標的核酸の精製なく、病原体に由来する少なくとも1つの標的核酸を増幅することに基づいて、粗生物学的試料中の病原体の存在または非存在を検出する方法であって、
(A)前記粗生物学的試料を、前記標的核酸の増幅に基づく検出のために調製すること、
(B)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供し、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅することを含み、必要に応じて、増幅前にRNAをcDNAに逆転写するために逆転写反応が行われる、方法。
【0209】
3.(A)の調製が、
- 前記粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの界面活性剤、
(b)少なくとも1つのヌクレアーゼ阻害剤、および
(c)必要に応じて、少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出組成物と接触させて、それによって、混合物を提供すること;
および
- 前記混合物をインキュベートして前記調製された生物学的試料を提供すること;
を含み、
必要に応じて、前記増幅反応に供される前記調製された生物学的試料が、前記増幅反応の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供し、必要に応じて、前記増幅反応に供される前記調製された生物学的試料のアリコートが、前記増幅反応の全反応体積の最大60%または最大50%を提供する、項目1または2に記載の方法。
【0210】
4.前記粗生物学的試料が、培地に含まれる生物学的試料によって提供される、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0211】
5.以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する、項目4に記載の方法:
(aa)バリアントAごとに、前記生物学的試料が前記対象から収集され、前記培地中に直接配置されるか、またはバリアントBごとに、前記生物学的試料が前記対象から収集され、必要に応じて、収集した生物学的試料を保存および/または輸送することを含む遅延後に、前記生物学的試料を培地と接触させて、それにより、前記抽出組成物と接触させられる粗生物学的試料が提供される;
(bb)前記培地が輸送培地であり、必要に応じてスワブおよび/または塗抹試料用の輸送培地である;
(cc)前記媒体が水溶液である;
(dd)前記培地が前記生物学的試料と接触しているとき、前記培地は、前記生物学的試料に含まれる細胞中の浸透圧を維持するのに適した生理食塩水である;
(ee)前記培地は、前記少なくとも1つの標的核酸を分解に対して安定化する;
(ff)前記培地は、前記生物学的試料に含まれる細胞および/またはウイルス粒子を安定化する;および/または
(gg)前記生物学的試料を含有する前記培地のアリコートを抽出組成物と接触させる。
【0212】
6.前記培地が以下の特徴の少なくとも1つの特徴を有する、項目4または5に記載の方法:
(aa)ハンクス平衡塩類溶液を含む;
(bb)塩含有溶液である;
(cc)生理的塩溶液である;
(dd)0.7%~1.2%(w/v)または0.8%~1%(w/v)のアルカリ金属塩を含む溶液である;
(ee)0.9%(w/v)塩化ナトリウム溶液である;
(ff)リン酸緩衝液であり、必要に応じてPBS緩衝液である;
(gg)前記培地が、ハンクス平衡塩類溶液、ユニバーサル輸送培地(UTM)、ウイルス輸送培地(VTM)、または前述の培地の1またはそれを超える培地と比較して+/-30%もしくは+/-20%の範囲の総塩濃度を有する培地を含むか、またはこれらからなる。
【0213】
7.前記生物学的試料を含む培地が塩含有溶液であり、前記生物学的試料を含む培地中の総塩濃度が50mM~250mM、例えば75mM~225mM、100mM~200mM、120mM~175mMまたは125mM~150mMの範囲にある、項目4~6のいずれか一項に記載の方法。
【0214】
8.(A)における調製が、
- 培地に含有された生物学的試料によって提供される粗生物学的試料を得て、必要に応じて、前記試料を撹拌すること;
- 前記得られた粗生物学的試料の少なくともアリコートを前記抽出組成物と接触させ、それによって混合物を提供すること;
- 前記混合物をインキュベートして、前記標的核酸の増幅に基づく検出のために前記調製された生物学的試料を提供すること、を含む、項目4~7のうちの1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0215】
9.(B)において、前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを増幅反応に供することが、前記調製された生物学的試料を、増幅または逆転写増幅反応を行うために使用される前記成分と接触させ、それにより、増幅反応混合物を提供することを含む、項目1~8のいずれか一項に記載の方法。
【0216】
10.前記調製された増幅反応混合物が、
(a)前記調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写増幅が行われる場合に含まれる逆転写酵素;
(d)Mg2+源、緩衝剤および必要に応じてさらなる添加物を含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス、必要に応じて前記ヌクレオチドは修飾ヌクレオチドまたはdUTPを含む;および
(f)前記1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、および必要に応じてプローブ、
を含む、項目9に記載の方法。
【0217】
11.調製された生物学的試料を、成分(b)~(e)および1またはそれを超える標的核酸を増幅するための別個に提供されたプライマー;および必要に応じてプローブを含む増幅マスターミックスと接触させることを含む、項目10に記載の方法。
【0218】
12.前記調製された生物学的試料を成分(b)および(d)~(f)ならびに必要に応じて(c)を含む直接増幅マスターミックスと接触させることを含む、項目10に記載の方法。
【0219】
13.増幅反応緩衝液(d)、成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスおよび/または成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスのイオン強度を低下させ、それにより、前記培地を含有する前記調製された生物学的試料に起因する、イオン、特にアルカリ金属塩および/または塩化物に由来するイオンの前記増幅反応混合物への導入を補償する、項目4~12のいずれか一項に記載の方法。
【0220】
14.前記増幅反応緩衝液(d)が、以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する:
(aa)前記増幅反応緩衝液(d)が30mM以上、20mM以上、15mM以上、10mM以上または5mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは、前記増幅反応緩衝液(d)が塩化ナトリウムを含まない;
(bb)前記増幅反応緩衝液(d)が30mM以上、20mM以上、15mM以上、10mM以上または5mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、好ましくは、前記増幅反応緩衝液(d)が塩化カリウムを含まない;
(cc)前記増幅反応緩衝液(d)が塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まない;
(dd)前記増幅反応緩衝液(d)中の前記アルカリ金属塩化物濃度が30mM以下、20mM以下、15mM以下または10mM以下であり、好ましくは、前記増幅反応緩衝液(d)がアルカリ金属塩化物を含まない;および
(ee)前記増幅反応緩衝液(d)中の前記アルカリ金属塩濃度が30mM以下、20mM以下、15mM以下または10mM以下であり、好ましくは、前記増幅反応緩衝液(d)がアルカリ金属塩を含まない
項目10~13のいずれか一項に記載の方法:。
【0221】
15.前記増幅反応緩衝液(d)が、塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N-(トリ(ヒドロキシメチル)メチル)グリシン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸および2-(N-モルフォリノ)エタンスルホン酸からなる群から選択され、好ましくは、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される、項目10~14のいずれか一項に記載の方法。
【0222】
16.前記増幅反応緩衝液(d)のpHが塩化物を含まない酸で調整され、必要に応じて、pHが有機酸、好ましくはカルボン酸を使用して調整される、項目10~15のいずれか一項に記載の方法。
【0223】
17.前記増幅反応緩衝液(d)のpHが、酢酸、ギ酸、プロピオン酸および酪酸から選択されるカルボン酸で調整され、好ましくは酢酸で調整される、項目16に記載の方法。
【0224】
18.前記増幅反応緩衝液(d)が、Mg2+源として、塩化物を含まない可溶性マグネシウム塩を含む、項目10~17のうちの1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0225】
19.前記可溶性マグネシウム塩が、有機酸のマグネシウム塩であるか、または前記マグネシウム塩が、硫酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムから選択される、項目18に記載の方法。
【0226】
20.前記増幅反応緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まず;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択され、かつ
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHを、有機酸、好ましくはカルボン酸で調整することを特徴とする、項目10~19のうちの1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0227】
21.成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する、項目12または13に従属する場合の項目10~20のうちの1またはそれを超える項目に記載の方法:
(aa)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(bb)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(cc)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まない;
(dd)前記増幅マスターミックスまたは前記直接増幅マスターミックス中の前記アルカリ金属塩化物濃度が100mM以下、75mM以下、60mM以下、50mM以下または45mM以下であり、必要に応じて、アルカリ金属塩化物を含まない;
(ee)前記増幅マスターミックスまたは前記直接増幅マスターミックス中の前記アルカリ金属塩濃度が、100mM以下、75mM以下、60mM以下、50mM以下または45mM以下である;および/または
(ff)前記塩化物イオン濃度が、250mM以下、200mM以下、175mM以下または150mM以下である。
【0228】
22.成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが、以下の特徴の一方または両方を有する:
(aa)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、N-(トリ(ヒドロキシメチル)メチル)グリシン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン、3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N’-(2-エタンスルホン酸)、ピペラジン-1,4-ビス(2-エタンスルホン酸)、N-シクロヘキシル-2-アミノエタンスルホン酸および2-(N-モルフォリノ)エタンスルホン酸からなる群から選択され、好ましくはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(bb)pHが有機酸、好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、前記カルボン酸は、酢酸、ギ酸、プロピオン酸および酪酸から選択され、好ましくは酢酸である、
項目12または13に従属する場合の項目10~21のいずれか一項に記載の方法。
【0229】
23.成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが、Mg2+源として塩化物を含まない可溶性マグネシウム塩を含み、必要に応じて、前記可溶性マグネシウム塩は、好ましくは硫酸マグネシウムおよび酢酸マグネシウムから選択される有機酸のマグネシウム塩である、項目12または13に従属する場合の項目10~22のいずれか一項に記載の方法。
【0230】
24.成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスが、
(i)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(iii)塩化物イオンが存在する場合、前記塩化物イオン濃度は、250mM以下、200mM以下、175mM以下、150mM以下、または125mM以下である;
(iv)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、好ましくは、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(v)必要に応じて、pHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、前記カルボン酸は酢酸である、
ことを特徴とする、項目12または13に従属する場合の項目10~23のいずれか一項に記載の方法。
【0231】
25.前記増幅緩衝液(d)、成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが、以下の添加剤のうちの1またはそれを超える添加剤を含む、項目10~24の1またはそれを超える項目に記載の方法:
- 必要に応じて硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムから選択される、アンモニウム塩;
- ポリエチレングリコール;
- N,N,N-トリメチルグリシン;
- 血清アルブミン;
- 金属イオンキレート剤、必要に応じてEGTA;
- グリセロール;
- 魚ゼラチン;
- PVP(ポリビニルピロリドン);
- DMSO;および
- ホルムアミド。
【0232】
26.前記調製された増幅反応混合物が:
(g)少なくとも1つの内部対照鋳型と、前記内部対照鋳型を増幅するためのプライマーと、必要に応じて検出のためのプローブと、を含む、項目10~25のうちの1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0233】
27.前記増幅反応に供される前記調製された生物学的試料が、前記増幅反応の全反応体積の少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも45%を提供し、必要に応じて、前記増幅反応に供される前記調製された生物学的試料が、好ましくは逆転写PCRまたはPCRである前記増幅反応の全反応体積の最大60%または最大50%を提供する、項目1~26のいずれか一項に記載の方法。
【0234】
28.前記増幅反応が以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する、項目1~27のいずれか一項に記載の方法:(i)逆転写増幅反応である;(ii)逆転写PCRである;(iii)等温増幅反応である;(iv)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である;(v)定量的PCRである;(vi)定量的逆転写PCRである;(vii)デジタルPCRである。
【0235】
29.前記増幅反応が、逆転写増幅反応、好ましくは定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応である、項目1~28のいずれか一項に記載の方法。
【0236】
30.- 前記粗生物学的試料を前記抽出組成物と接触させる工程、
- 前記混合物をインキュベートして、前記調製された生物学的試料を提供する工程、
- 前記増幅反応、好ましくは逆転写増幅反応を実施する工程、
が、同じ反応容器内で行われる、項目3~29のいずれか一項に記載の方法。
【0237】
31.前記抽出組成物に含まれる前記界面活性剤が、非イオン性および両性界面活性剤から選択され、好ましくは、前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、項目3~30のいずれか一項に記載の方法。
【0238】
32.前記非イオン性界面活性剤がポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤であり、好ましくは、
(aa)ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、特にポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;
(bb)ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル;
(cc)必要に応じてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルおよびポリオキシエチレンイソオクチルフェニルエーテルからなる群から選択される、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;および
(dd)ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー
からなる群から選択される、項目31に記載の方法。
【0239】
33.前記抽出組成物が、
- ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸に由来する脂肪酸、
- 2~150、4~100、6~50または6~30個の(CHCHO)単位を含有するポリオキシエチレン成分、を含むポリオキシエチレン脂肪酸エステルを含み、
好ましくは、前記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60およびポリソルベート80から選択される、項目32に記載の方法。
【0240】
34.前記抽出組成物が、
- 6~22個の炭素原子を有する脂肪アルコール成分、および
- 2~150、4~100、6~50または6~30個の(CHCHO)単位を含有するポリオキシエチレン成分、を含むポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルを含み、
前記ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルが、好ましくは、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルおよびポリオキシエチレンオレイルエーテルからなる群から選択される、項目32または33に記載の方法。
【0241】
35.前記界面活性剤が、両性界面活性剤、必要に応じてベタイン、例えばN,N,Nトリメチルグリシンである、項目31に記載の方法。
【0242】
36.以下の特徴の1またはそれを超える特徴を有する、項目31~35のいずれか一項に記載の方法:
(aa)抽出溶液が、0.1%~30%(w/v)の範囲にある、必要に応じて0.5%~25%(w/v)、0.7%~20%(w/v)、1%~15%(w/v)、1.2%~10%(w/v)、1.5%~8%(w/v)および2%~5%(w/v)の範囲から選択される濃度で界面活性剤を含み;および/または
(bb)抽出組成物と接触している生物学的試料を含む混合物が、0.075%~20%(w/v)の範囲にある、必要に応じて0.1%~15%(w/v)、0.15%~15%(w/v)、0.2%~10%(w/v)、0.25%~8%(w/v)、0.3%~5%(w/v)、0.35%~3%(w/v)および0.4%~2%(w/v)の範囲から選択される濃度で界面活性剤を含む。
【0243】
37.前記抽出組成物に含まれる前記ヌクレアーゼ阻害剤がRNase阻害剤またはDNase阻害剤であり、必要に応じて、前記抽出組成物が、2またはそれを超えるヌクレアーゼ阻害剤、例えば、(i)2またはそれを超えるRNase阻害剤、(ii)2またはそれを超えるDNase阻害剤、または(iii)1またはそれを超えるRNase阻害剤および1またはそれを超えるDNase阻害剤を含む、項目3~36の1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0244】
38.逆転写反応および/または増幅反応を、含まれるヌクレアーゼ阻害剤の存在下で行うことができる、項目37に記載の方法。
【0245】
39.前記ヌクレアーゼ阻害剤がRNAase阻害剤である、項目37または38に記載の方法。
【0246】
40 前記RNase阻害剤がタンパク質性RNase阻害剤である、項目39に記載の方法。
【0247】
41.RNase阻害剤がRNasinである、項目40に記載の方法。
【0248】
42.前記抽出組成物が還元剤を含み、前記還元剤がジスルフィド結合を破壊し、タンパク質を変性させることができる、項目3~41の1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0249】
43.前記抽出組成物に含まれる前記還元剤が、前記生物学的試料の液化を補助する、項目3~42の1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0250】
44.前記還元剤が、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)、1-チオグリセロールおよびβ-メルカプトエタノールから選択される、項目3~43の1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0251】
45.前記抽出組成物がトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を含む、項目44に記載の方法。
【0252】
46.以下の特徴の1またはそれを超える特徴を有する、項目3~45の1またはそれを超える項目に記載の方法:
(aa)抽出組成物が、0.3mM~50mMの範囲内にある、必要に応じて0.5mM~25mM、1mM~20mM、1.5mM~15mMおよび2mM~10mMまたは2mM~5mMの範囲から選択される濃度の還元剤を含む;および/または
(bb)抽出組成物と接触している生物学的試料を含む混合物が、0.1mM~15mMの範囲にある、必要に応じて0.2mM~10mM、0.25mM~8mM、0.3mM~5mM、0.35mM~2mMおよび0.4mM~1.5mMの範囲から選択される濃度の還元剤を含む。
【0253】
47.前記抽出組成物が、トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される還元剤を、1mM~10mMまたは2mM~5mMの範囲内にある濃度で含む、項目3~46の1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0254】
48.前記抽出組成物が液体組成物である、項目3~47の1またはそれを超える項目に記載の方法。
【0255】
49.前記抽出溶液が以下の実施形態から選択される、項目48に記載の方法:
(i)前記抽出溶液が、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、を含む;
(ii)前記抽出溶液は、
(a)少なくとも1つのポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される少なくとも1つの還元剤、を含む;
(iii)前記抽出溶液の活性成分は、
(a)非イオン性界面活性剤、好ましくはポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤、
(b)タンパク質性RNase阻害剤、および
(c)好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)、N-アセチルシステイン、THPP(トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン)および1-チオグリセロールから選択される還元剤、から本質的になる;
(iv)前記抽出溶液が、
(a)少なくとも1つのポリソルベート、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、を含む;
(v)前記抽出溶液の活性成分が、
(a)少なくとも1つのポリソルベート、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)トリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、から本質的になる。
【0256】
50.前記抽出溶液が、6.0~9.0、必要に応じて6.0~8.5、6.3~8.0または6.5~7.5の範囲のpHを有する、項目48または49に記載の方法。
【0257】
51.前記抽出溶液が緩衝されていない、項目48~50のいずれか一項に記載の方法。
【0258】
52.前記抽出組成物が、以下の成分:
イオン性界面活性剤;
- カオトロピック塩;
- 10mM超の濃度の塩化物イオンであって、好ましくは抽出溶液が塩化物イオンを含まない、塩化物イオン;
- 脂肪族C1-C5アルコール;および/または
- プロテイナーゼ酵素、
のうちの1またはそれを超える成分、2またはそれを超える成分、3またはそれを超える成分、またはすべてを含まない、項目3~51のいずれか一項に記載の方法。
【0259】
53.以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する、項目3~52のいずれか一項に記載の方法:
(aa)混合物を1~60分、1~30分、1~20分、1~15分、1~10分、1.5~5分または2~3分インキュベートする;および/または
(bb)混合物を調製することは、抽出組成物と接触させて生物学的試料を撹拌することを含み、必要に応じて、混合物は、撹拌のために吸引され、分注され、および/またはボルテックスされる;
(cc)生物学的試料を抽出組成物と接触させる工程および混合物をインキュベートする工程は、周囲温度および/または氷で行われ、必要に応じて、酵素反応以外のすべての工程は、周囲温度および/または氷で行われる。
【0260】
54.前記方法が、以下の特徴の1またはそれを超える特徴を有する、項目1~53のいずれか一項に記載の方法:
(aa)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを前記増幅反応に供する前に、前記抽出組成物と接触している前記生物学的試料を少なくとも2分間、75°C以上、70°C以上、65°C以上、60°C以上、55°C以上、50°C以上、45°C以上または40°C以上の温度に加熱することを含まない;
(bb)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを前記増幅反応に供する前に、前記抽出組成物と接触している前記生物学的試料を、含まれるタンパク質性RNase阻害剤を変性させる温度まで加熱することを含まない;
(cc)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを前記増幅反応に供する前に、前記調製された生物学的試料を遠心分離することを含まない;
(dd)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを前記増幅反応に供する前に、前記調製された生物学的試料から細胞成分を除去することを含まない;および/または
(ee)前記調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを前記増幅反応に供する前に前記標的核酸を精製することを含まない。
【0261】
55.抽出組成物と接触させる粗生物学的試料が、必要に応じて培地に含まれる病原体熱不活性化生物学的試料である、項目3~54のいずれか一項に記載の方法。
【0262】
56.病原体熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に、抽出組成物の非存在下で、病原体を不活化するのに適した温度で生物学的試料を加熱することを含む、項目55に記載の方法。
【0263】
57.以下の特徴のうちの1またはそれを超える特徴を有する、項目55または56に記載の方法:
(aa)前記熱不活性化生物学的試料を前記抽出組成物と接触させる前に、前記生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活化するために加熱することは、前記生物学的試料を病原体を不活化する温度で加熱することを含む;
(bb)前記熱不活性化生物学的試料を前記抽出組成物と接触させる前に、前記生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活化するために加熱することは、前記生物学的試料を50°C以上、55°C以上または60°C以上、好ましくは75°C以上、80°C以上または85°C以上、より好ましくは90°C以上または95°C以上に加熱することを含む;および/または
(cc)前記熱不活性化生物学的試料を前記抽出組成物と接触させる前に、前記生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活化するために加熱することは、前記生物学的試料を前記ドナーから収集するために使用される前記収集容器内で前記生物学的試料を加熱することを含み、必要に応じて、
(i)前記生物学的試料は、前記収集容器内の培地に含まれる、;
(ii)前記収集容器は、生物学的試料の収集後、および生物学的試料に含まれる可能性のある病原体を不活性化するための加熱前に開かれていない。
【0264】
58.加熱後、病原体熱不活性化生物学的試料を、2時間以下、1時間以下、0.5時間以下または20分以下以内に抽出組成物と接触させる、項目55~57のいずれか一項に記載の方法。
【0265】
59.病原体熱不活性化生物学的試料を提供するために生物学的試料を加熱することと、得られた病原体熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させることとの間の時間幅が2時間超である、
項目55~57のいずれか一項に記載の方法。
必要に応じて、時間幅は、2時間超150時間以下、3時間以上100時間以下、または4時間以上75時間以下の範囲内である。
【0266】
60.病原体熱不活性化生物学的試料を抽出組成物と接触させる前に、病原体熱不活性化生物学的試料を保持し、貯蔵し、または輸送する、項目58または59に記載の方法。
【0267】
61.以下の特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有する:
(aa)前記少なくとも1つの標的核酸が、RNAおよび/またはDNAから選択される;
(bb)前記少なくとも1つの標的核酸が、病原体由来核酸であり、前記病原体が、ウイルス、細菌、原虫、ウイロイドおよび真菌からなる群から選択される;
(cc)前記少なくとも1つの標的核酸が、ウイルス、好ましくはRNAウイルスに由来するウイルス核酸である;
(dd)前記少なくとも1つの標的核酸が、RNAウイルスに由来するウイルスRNAである;
(ee)前記少なくとも1つの標的核酸が、コロナウイルス、特にヒトに感染性のコロナウイルスに由来する;
(ff)前記標的核酸が、同じ病原体に由来する2またはそれを超える標的核酸によって提供される、
項目1~60のいずれか一項に記載の方法。
【0268】
62.前記1またはそれを超える標的核酸がRNA標的であり、前記増幅反応が逆転写増幅反応である、項目61に記載の方法。
【0269】
63.前記少なくとも1つの標的核酸が、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoVまたはSARS-CoV-1)または中東呼吸器症候群(MERS)に由来する、項目62に記載の方法。
【0270】
64.前記1またはそれを超える標的核酸がSARS-CoV-2に由来し、必要に応じて、前記標的核酸配列がSARS-CoV-2遺伝子N、N1、N2、RdRP、Eおよび/またはOrf1bに由来する、項目63に記載の方法。
【0271】
65.前記生物学的試料中のSARS-CoV-2の存在または非存在を検出するために、1またはそれを超えるSARS-CoV-2標的核酸が逆転写および増幅され、好ましくは、前記標的核酸配列がSARS-CoV-2遺伝子N、N1、N2、RdRP、Eおよび/またはOrf1bに由来する、項目63または64に記載の方法。
【0272】
66.前記生物学的試料が、以下の特徴の1またはそれを超える特徴を有する、項目1~65のいずれか一項に記載の方法:
(aa)身体試料である;
(bb)ヒト試料である;
(cc)必要に応じて上気道または下気道から採取された呼吸器検体である;
(dd)口腔サンプル、鼻サンプル、鼻咽頭サンプル、中咽頭サンプル、または咽喉サンプルである。
(ee)唾液、痰、唾、粘液、よだれ、気管支肺胞洗浄、咽頭分泌物、鼻分泌物、鼻咽頭分泌物、唾液分泌物、口、鼻および/または喉に由来するスワブまたは塗抹試料、ならびに前述のものの組み合わせからなる群から選択される。
【0273】
67.前記生物学的試料が、鼻咽頭、中咽頭および鼻の試料から選択され、好ましくは鼻咽頭、中咽頭または鼻のスワブ、塗抹または洗浄/吸引試料から選択され、より好ましくはスワブまたは塗抹から選択される、項目66に記載の方法。
【0274】
68.前記生物学的試料が、唾液、痰および粘液から選択される、項目66に記載の方法。
【0275】
69.前記少なくとも1つの標的核酸が、病原体に由来するRNA標的核酸であり、前記粗生物学的試料が、培地に含まれる生物学的試料であり、前記方法は、以下を含む、項目1~68のいずれか一項に記載の方法:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、
混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供し、反応を実施して、少なくとも1つの標的核酸を増幅させること。
【0276】
70.前記少なくとも1つの標的核酸が、病原体に由来するRNA標的核酸であり、前記方法は、以下を含む、項目1~69のいずれか一項に記載の方法:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供し、反応を実施して、少なくとも1つの標的核酸を増幅することであって;
少なくとも、
- 粗生物学的試料を抽出溶液と接触させて、混合物を調製する工程、
- 混合物をインキュベートする工程、および
- 逆転写増幅反応を行う工程、
は、同じ反応容器内で行われる。
【0277】
71.前記少なくとも1つの標的核酸が、病原体に由来するRNA標的核酸であり、前記方法は、以下を含む、項目1~70のいずれか一項に記載の方法:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、以下によって逆転写および増幅反応に供することであって、
- 調製された生物学的試料を逆転写増幅反応を実施するために使用される成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、を含み、
調製された生物学的試料(a)が、調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 少なくとも1つのRNA標的核酸を増幅するために逆転写および増幅反応を実施する、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供すること。
【0278】
72.(B)において、前記方法が、前記調製された生物学的試料を成分(b)~(e)を含む増幅マスターミックスと接触させることを含む、項目71に記載の方法。
【0279】
73.前記増幅反応緩衝液(d)が、
(i)塩化カリウムまたは塩化ナトリウムを含まず;
(ii)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、必要に応じて、前記緩衝剤がトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択され;かつ
(iii)前記増幅反応緩衝液(d)のpHを、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整することを特徴とする、項目71または72に記載の方法。
【0280】
74.成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスが、
(i)50mM以上、20mM以上、15mM以上または10mM以上の濃度で塩化ナトリウムを含まず、好ましくは塩化ナトリウムを含まない;
(ii)100mM以上、75mM以上、60mM以上または50mM以上の濃度で塩化カリウムを含まず、必要に応じて、塩化カリウムを含まない;
(iii)塩化物イオンが存在する場合、前記塩化物イオン濃度は、200mM以下、175mM以下、150mM以下、または125mM以下である;
(iv)塩化物イオンを含まない緩衝剤を含み、好ましくは、前記緩衝剤は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンおよび3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸から選択される;
(v)pHは、塩化物を含まない酸、好ましくは有機酸、より好ましくはカルボン酸で調整され、必要に応じて、前記カルボン酸は酢酸である、
ことを特徴とする、項目72または73に記載の方法。
【0281】
75.前記増幅反応混合物が、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来する1またはそれを超える、好ましくは2またはそれを超える標的核酸を増幅するのに適したプライマーと、必要に応じてプローブとを含む、項目71~74のいずれか一項に記載の方法。
【0282】
76.前記少なくとも1つの標的核酸が、病原体、好ましくはRNAウイルスに由来するRNA標的核酸であり、前記方法は、以下を含む、項目71~75のいずれか一項に記載の方法:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 粗生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で粗生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、以下によって逆転写および増幅反応に供することであって、
- 調製された生物学的試料を逆転写増幅反応を実施するために使用される成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を増幅するためのプライマー、を含み、
調製された生物学的試料(a)が、調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 少なくとも1つのRNA標的核酸を増幅するために逆転写および増幅反応を実施することであって;
少なくとも、
- 粗生物学的試料を抽出溶液と接触させて、混合物を調製する工程、
- 混合物をインキュベートする工程、および
- 逆転写増幅反応を行う工程、
は、同じ反応容器内で行われる、実施する、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを逆転写および増幅反応に供すること。
【0283】
77.前記粗生物学的試料が、培地に含まれる生物学的試料であり、前記培地が、項目5~7のいずれか一項に定義される培地である、項目69~76のいずれか一項に記載の方法。
【0284】
78.前記粗生物学的試料は、培地に含まれる呼吸器生物学的試料であり、前記方法は以下を含む、項目71~77のいずれか一項に記載の方法:
(A)少なくとも1つのRNA標的核酸の増幅に基づく検出のための粗生物学的試料を調製することであって、以下を含む:
- 培地に含有された呼吸器生物学的試料を、
(a)少なくとも1つの非イオン性界面活性剤、
(b)少なくとも1つのタンパク質性RNase阻害剤、および
(c)少なくとも1つの還元剤、
を含む抽出溶液と接触させて、混合物を調製することであって、混合物が、
(i)0.1%~10%(w/v)、必要に応じて0.2%~5%(w/v)または0.3%~3%(w/v)の範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する非イオン性界面活性剤と、
(ii)0.1mM~15mM、必要に応じて0.2mM~10mM、0.3mM~5mMまたは0.4mM~1.5mMの範囲内にある濃度の抽出溶液に由来する還元剤とを含む、混合物を調製すること、
必要に応じて、本方法は、抽出溶液の非存在下で培地に含有された呼吸器生物学的試料を加熱して、病原体熱不活性化生物学的試料の少なくともアリコートを抽出溶液と接触させる前に、粗生物学的試料に潜在的に含まれる病原体を不活性化することを含む;
- 混合物をインキュベートして、調製された生物学的試料を提供すること;
(B)以下によって、調製された生物学的試料の少なくともアリコートまたはすべてを、好ましくは定量的RT-PCR反応である逆転写および増幅反応に供すること:
- 調製された生物学的試料を、逆転写増幅反応を実施するために使用される成分と接触させ、それによって増幅反応混合物を提供することであって、調製された増幅反応混合物が、
(a)調製された生物学的試料;
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)1またはそれを超える標的核酸を逆転写および増幅するためのプライマー、
を含み、
調製された生物学的試料(a)が、調製された増幅反応混合物の全反応体積の少なくとも30%または少なくとも40%を提供する、増幅反応混合物を提供すること;および
- 少なくとも1つのRNA標的核酸を逆転写および増幅するために逆転写および増幅反応を実施することであって、
少なくとも以下の工程:
- 粗生物学的試料を抽出溶液と接触させて混合物を調製すること、
- 混合物をインキュベートすること、
- 逆転写増幅反応を行うこと、
が、同じ反応容器内で行われ;
標的核酸は、重症急性呼吸器症候群関連コロナウイルス、好ましくは重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に由来する1またはそれを超える、好ましくは2またはそれを超える標的核酸によって提供される、逆転写および増幅反応を実施すること。
【0285】
79.工程(A)および(B)が、2時間またはそれ未満、1.5時間またはそれ未満または1時間またはそれ未満で完了する、項目1~78のいずれか一項に記載の方法。
【0286】
80.項目1~79のいずれか一項に記載の方法を実施するためのキットであって、
(a)項目3および29~50または31~52のいずれか一項に記載の抽出組成物;
および好ましくは
(b)DNAポリメラーゼ;
(c)必要に応じて、逆転写酵素;
(d)Mg2+源と、緩衝剤と、必要に応じてさらなる添加剤とを含む増幅反応緩衝液;
(e)ヌクレオチド、好ましくはdNTPミックス;および
(f)必要に応じて、前記少なくとも1つの標的核酸を増幅するためのプライマー、を含む、キット。
【0287】
81.前記増幅緩衝液(d)が、項目14~20のいずれか一項に記載の通りである、項目80に記載のキット。
【0288】
82.成分(b)~(e)が単一の組成物に含まれ、それにより、増幅マスターミックスが得られる、項目80または81に記載のキット。
【0289】
83.成分(b)~(f)が単一の組成物に含まれ、それにより、直接増幅マスターミックスが得られる、項目80または81に記載のキット。
【0290】
84.成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが、項目21~24のいずれか一項に定義される通りである、項目82または83に記載のキット。
【0291】
85.前記増幅緩衝液(d)、成分(b)~(e)を含む前記増幅マスターミックスまたは成分(b)~(f)を含む前記直接増幅マスターミックスが、以下の添加剤のうちの1またはそれを超える添加剤を含む、項目80~84のいずれか一項に記載のキット:
- 必要に応じて硫酸アンモニウムおよび塩化アンモニウムから選択される、アンモニウム塩;
- ポリエチレングリコール;
- N,N,N-トリメチルグリシン;
- 血清アルブミン;
- 金属イオンキレート剤、必要に応じてEGTA;
- グリセロール;
- 魚ゼラチン;
- PVP(ポリビニルピロリドン);
- DMSO;および
- ホルムアミド。
【0292】
86.以下を含む、項目80~85のいずれか一項に記載のキット:
(g)少なくとも1つの内部対照鋳型と、前記内部対照鋳型を増幅するためのプライマーと、必要に応じて検出のためのプローブ。
【0293】
87.タンパク質分解酵素と還元剤とを含む消化溶液を含むキットであって、
必要に応じて、前記タンパク質分解酵素がプロテアーゼ、好ましくはプロテイナーゼKであり、前記還元剤がトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、ジチオスレイトール(DTT)およびβ-メルカプトエタノールから選択され、好ましくはトリス(カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)である、項目80~86のいずれか一項に記載のキット。
【0294】
88.項目1~79のいずれか一項に定義される方法における、項目80~87のいずれか一項に記載のキットの使用。
【0295】
本発明は、本明細書に開示される例示的な方法および材料によって限定されず、本明細書に記載されるものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施形態の実施または試験に使用することができる。数値範囲は、範囲を定義する数を含む。本明細書で提供される見出しは、全体として本明細書を参照することによって読み取ることができる本発明の様々な態様または実施形態の限定ではない。
【0296】
主題の明細書、項目および特許請求の範囲で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の態様を含む。「含む(include)」、「有する(have)」、「備える(comprise)」という用語およびそれらの変形は同義的に使用され、非限定的であると解釈されるべきである。さらなる成分および工程が存在してもよい。本明細書を通して、組成物が成分または材料を含むものとして記載されている場合、組成物は、実施形態において、特に記載のない限り、列挙された成分または材料の任意の組み合わせから本質的になるか、またはそれからなることもできることがさらに企図される。「本開示」および「本発明」などへの言及は、本明細書で教示される単一または複数の態様などを含む。本明細書で教示される態様は、「発明」という用語に包含される。
【0297】
本明細書に記載の好ましい実施形態を選択して組み合わせることが好ましく、好ましい実施形態のそれぞれの組み合わせから生じる特定の主題も本開示に属する。
【0298】
本出願は、2021年10月6日の米国特許出願第63/088,423号、2020年12月16日の欧州特許出願第20214412.7号、2021年10月6日の欧州特許出願第20200426.3号、および2020年10月6日の欧州特許出願第20 200425.5号の優先権を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0299】
以下の実施例は例示のみを目的としており、決して本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0300】
以下の実施例は、本発明による直接PCRシステムの優れた性能を実証する。
略語:
QN QuantiNova
Patho QuantiNova Pathogen Reaction Mix
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
RT 逆転写酵素
NADB QuantiTect核酸希釈緩衝液(QuantiTect Virus Kit製)
NaCl 塩化ナトリウム
KCl 塩化カリウム
HCl 塩酸
NaAc 酢酸ナトリウム
KAc 酢酸カリウム
UTM Universal Transport Medium
VTM ウイルス輸送培地(Centers for Disease Control and Prevention;VTMの調製および組成は添付文書#1および#2を含むSOP#:DSR-052-05として公開され、参照により本明細書に組み込まれる)
PBS リン酸緩衝生理食塩水
HBSS ハンクス平衡塩類溶液
FCS 胎児血清
IC 内部対照
SDS ドデシル硫酸ナトリウム
STAT QIAstat-Dx機器
DTT ジチオスレイトール
TCEP トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン
ACC N-アセチル-システイン
QN IC RNA QuantiNova Pathogen Kit(QIAGEN)からの内部対照RNA
FAM 6-カルボキシフルオレセイン
Ct サイクル閾値
BSA ウシ血清アルブミン
ES 抽出溶液
RSV ヒト呼吸器ウイルス
Flu A インフルエンザAウイルス
Flu B インフルエンザBウイルス
NTC 鋳型なし対照
LoD 検出レベル
HR ヒット率
【0301】
別途言及しない限り、参照により本明細書中に援用されるQuantiNova Pathogen+IC Kit(QIAGEN、Hilden)を用いて実験を行った。PCR反応混合物を調製するために使用されるQuantiNova Pathogen Master Mixは、QuantiNova Pathogen+IC Kitハンドブック(QIAGEN、2016年5月)にも示されるように、表1に示されるPCR成分を含む:
表1 QuantiNova Pathogen+IC Kit Handbook(QIAGEN、2016年5月)に示されるQuantiNova Pathogen Master Mixの中心的な成分
【表1】
【0302】
PCR反応条件を改善し、粗生物学的試料からの病原体標的核酸の直接増幅を可能にするために(およびそれにより、以前の核酸単離を回避するために)、QuantiNova Pathogen Master Mixの改変版を調製した。QuantiNova Pathogen Master Mixのこれらの改変版は、以下の実施例に詳述するように塩含有QN反応緩衝液を改変することによって調製され、それによってマスターミックスの組成が変更される。以下の実施例において別段の指示がない限り、QuantiNova Pathogen+IC Kitの増幅プロトコルは、2016年ハンドブック(QIAGEN、Hilden)に開示されている通りに従った。すべての反応体積は、製造業者の指示に従って合計20μlであった。最大12μlの試料投入が可能である。12μl未満の試料を添加する場合、特に指示しない限り、水で体積を調整した。増幅を40サイクル行った。
【0303】
最初の実験では、PCRおよびRT-PCRを別々に評価して、逆転写酵素またはDNAポリメラーゼに対する影響をそれぞれ検出した。
【0304】
PCR用のInvestigator QuantiPlex Pro Kit(QIAGEN、Hilden)からのICアッセイを用いて、ヒトゲノムDNAを鋳型材料として使用した。RT-PCRのために、QuantiNova Pathogen Kit(QIAGEN)からのInternal Control RNAを使用した。
【0305】
すべての標的およびアッセイをそれぞれの実験に列挙し、適切なプライマーをPCR反応混合物に含めて、標的の増幅を可能にした。
【0306】
標的として、適切なインビトロ転写物を使用したか、または特に記載された試料溶解/調製試験のために、それぞれの実施例で述べたようにiMS2ファージもしくは不活化ウイルス粒子(NATtrol(商標)SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)ストック、#NATSARS(COV2)-ST;SARS関連コロナウイルス2(SARS-CoV-2)分離株:USA-WA1/2020培養液(熱不活性化)、#0810587CFHI;Zeptosens,Buffalo,USA)を使用した。
【0307】
以下の実験で行われるSARS-CoV-2アッセイは、米国CDCによって公表されているSARS-CoV-2遺伝子N1およびN2(2020年9月30日にhttps://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/lab/rt-pcr-panel-primer-probes.htmlで検索、最終更新2020年5月29日)、ならびにCharite(Corman,VM et al.,Euro Surveill、2020年1月23日)によって公表されているRdRP、EおよびOrf1bの標的配列に依存する。
実施例1:粗試料は多量の塩を含有する
【0308】
スワブ採取後、患者の試料を含むスワブをUTM(Universal Transport Medium,Copan)またはVTMのような輸送培地に入れた。UTMの正確な組成が公開されていなくても、VTMと同様に、UTMは主要な画分としてHBSSを含有することが知られている。
表2:HBSSの組成(2020年9月30日にhttps://www.aatbio.com/resources/buffer-preparations-and-recipes/hbss-hanks-balanced-salt-solutionで検索)
【表2】
【0309】
上記の文献でも実証されているように、これは酵素増幅反応のために、高いイオン強度が逆転写酵素ならびにDNAポリメラーゼを阻害し、感度の劇的な低下をもたらす。
実施例2:主要阻害因子(I)としての塩
【0310】
PCRに対する高塩濃度の阻害効果を調べるために、漸増体積のUTMおよびPBS(1、2、5μl)を各(RT-)PCR反応に添加した。
結果:
【0311】
結果は、RT-PCR反応に対する塩(および他の成分)の強い阻害効果を明確に実証している。DNAポリメラーゼは、5μlのUTMまたはPBSを添加しても良好であったが、RTは、2μlの添加でも既にCt値のわずかな増加を示し、5μlのPBSでは増幅が劇的に損なわれた。
実施例3:主要阻害因子(II)としての塩
【0312】
PCR反応に対する塩の推定阻害効果を検証するために、実施例3を設定した。アルカリ金属塩濃度が標準的なQN反応緩衝液と比較して低下した、本発明による改変QN反応緩衝液を調製した。この改変QN反応緩衝液を使用して調製したマスターミックスを、増加する量の0.9%NaCl溶液を添加して増幅反応混合物を調製したときの標準QNマスターミックスと比較した。
【0313】
逆転写酵素に対する溶液の影響をDNAポリメラーゼに対する影響と区別するために、DNA鋳型およびRNA鋳型を各反応に使用した。
結果:
【0314】
実施例2で既に示したように、標準的なQN反応緩衝液では、4/5μlを超える0.9%NaCl溶液をPCR反応混合物に含めた場合、シグナルの遅延(Ct値の増加)が観察された(図2a参照)。対照的に、還元されたアルカリ金属塩濃度を有する改変PCR反応緩衝液を使用してマスターミックスを設定することにより、反応は最大9μlの0.9%NaCl溶液に対応することができ、驚くべきことに、全くないかまたは少量の添加であっても、結果に対する影響は無視できるものであった(図2bを参照)。さらに、塩類溶液を反応物に適度に添加すると、試験条件下で感度がわずかに増加した(より低いCt)(図2bを参照)。この有益な効果は、最小のイオン強度がRTおよび/またはPCR反応に有益であり、アルカリ金属塩濃度が低下した改変PCR反応緩衝液を使用して調製されたPCR反応混合物へのNaCl溶液の添加により、元の条件が部分的に回復したために見られたと考えられる。
【0315】
したがって、生理食塩水培地、特に塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムなどのアルカリ金属塩を含有する培地に含有される生物学的試料を処理する場合、本発明による増幅反応緩衝液、それぞれマスターミックスを使用することが有益であり、この場合、アルカリ金属塩濃度が低下し、それにより、生物学的試料を含有する培地によるアルカリ金属塩の増幅反応混合物への導入が補償される。したがって、塩含有培地に含有される生物学的試料を含む粗試料を処理する直接増幅法(PCRおよびRT-PCRを含む)の場合、アルカリ金属塩濃度が標準的な増幅マスターミックスと比較して低下している本発明による増幅マスターミックスを使用することが有益である。したがって、一実施形態では、増幅反応緩衝液、それぞれ増幅マスターミックスは、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムを含まない。好ましい実施形態では、増幅反応緩衝液、それぞれ増幅マスターミックスは、塩化ナトリウムも塩化カリウムも含有しない。さらなる実施形態では、本発明による増幅反応緩衝液、それぞれ増幅マスターミックスにアルカリ金属塩が含まれない。
実施例4:粗試料の主要阻害成分としての塩
【0316】
実施例3に記載されるような改変QN反応緩衝液(減少したアルカリ金属塩濃度)を使用して、(RT-)PCR反応に対する高塩投入の効果を、反応混合物に増加する量の高塩類溶液:0.9%NaCl溶液(実施例3参照)、UTMおよびPBSを添加することによって決定した。RTに対する溶液の影響をポリメラーゼに対する影響と区別するために、DNAおよびRNA鋳型を各反応に使用した。
結果:
【0317】
結果は、RTおよびPCR反応に対する標準的な輸送培地に含まれる添加塩の阻害効果を再び明確に示す。しかしながら、アルカリ金属塩濃度が従来技術と比較して低下している、本発明による改変された増幅反応緩衝液、それぞれ改変された増幅マスターミックスを使用する場合、PBSおよび0.9%NaClの結果から実証されるように、20μlの増幅反応混合物に含まれる9μlまでの高塩類溶液でさえほとんど効果がない。より大きな体積は、増幅が完全に失敗するまで阻害を増加させた。
【0318】
驚くべきことに、図3a~図3cから分かるように、DNAポリメラーゼは本質的に阻害されなかった。対照的に、高塩類溶液の適度な添加(3~6μl)は、元の条件を模倣することによって反応を改善した。逆転写酵素は、より高い塩濃度で強く阻害された。
実施例5:異なる試料投入およびプライマーアニーリング条件を有するNaClおよびKClが枯渇したPCR反応緩衝液の堅牢性
【0319】
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物;500コピー
アッセイ:SARS-CoV-2遺伝子N、RdRP、E、Orf1b
【0320】
上述のように、先行技術のQN反応緩衝液はKClを含む。KClは、DNAの骨格上に存在する電荷を中和し、プライマーのアニーリングを助け、プライマー-鋳型結合を安定化するので、PCR反応緩衝液中の標準成分である。それは、増幅を成功させるために不可欠であると考えられる。先の実施例は、標準的な先行技術と比較して低下したアルカリ金属塩濃度を有する本発明による増幅反応緩衝液、それぞれ増幅マスターミックスが、核酸の事前精製なく輸送培地に含まれる粗生物学的試料を使用して直接増幅を実施することを目的とする場合に有益であることを実証した。
【0321】
実施例5では、増幅マスターミックスを設定するためにこのようなPCR反応緩衝液を使用すると逆転写増幅の感度を高めることができることを実証するために、KClなしおよびNaClなしで本発明による改変された増幅反応緩衝液を調製した。さらなる成分はQN反応緩衝液に対応した。
【0322】
溶液のイオン強度が鋳型へのプライマーのアニーリング挙動に影響を及ぼすことは周知であり、したがって、温度勾配を適用して、粗試料投入と組み合わせて新しい反応緩衝液に対する効果を調査した。
結果:
【0323】
結果は、KClおよびNaClを含まない増幅反応緩衝液が検出反応の感度を劇的に改善することを明確に実証している。6μlまでの輸送培地(粗試料を模倣する)を、Ct値の無視できるほどの増加で適用することができる。
【0324】
12μlの輸送培地を添加した場合、Ct値の増加が観察された。しかしながら、CDC N1およびSTAT Orf1b遺伝子の場合、この増加は1 Ct値の範囲内にすぎず、NaClおよびKClを枯渇させたPCR反応緩衝液が高いイオン強度を有する輸送培地に対して強い耐性を示す。したがって、好ましい実施形態では、増幅マスターミックスを調製するために使用されるPCR反応緩衝液はNaClおよびKClを含まず、好ましくはアルカリ金属塩を含まない。
【0325】
さらに、実施例5は、アニーリング温度が結果にほとんど影響を及ぼさないことを示している。これは、追加のアニーリング温度の最適化を必要とせずに既存のサイクルプロトコルの使用を可能にするので、大きな利点である。
実施例6:様々なロットの輸送培地に対する堅牢性
【0326】
HBSS(上記参照)に加えて、FCSは、UTM/VTM輸送培地における別の中心的な成分である。FCSはその組成が何らかの形で定義されていないため、様々なFCS組成に起因する輸送培地組成の変動に対処することができる堅牢な解決策を有することが重要である。
【0327】
したがって、(1)KClおよびNaClを含まない;(2)KClを含まない(ただし、NaClを含む)、および(3)増幅マスターミックスを設定するためのNaClを含まない(ただし、KClを含む)本発明による増幅反応緩衝液を使用して、2つの異なるロットのUTMを試験した。標準的なQN病原体マスターミックスを並行して実行した。
結果:
【0328】
2つの異なるロットのUTMを比較した場合、有意差は観察されなかった。これは、アルカリ金属塩の量が低減され、実施形態ではアルカリ金属塩を含まない、本発明による増幅反応緩衝液の驚くべき堅牢性を実証した。
実施例7:増幅反応に対する塩化物の効果
【0329】
以前のデータは、高いイオン強度を有する高負荷の溶液に対する堅牢性を実証した。それにもかかわらず、より多くの量を添加すると、一定の阻害が依然として観察される(例えば、実施例3を参照)。
【0330】
一般的な増幅反応緩衝液をTrisで緩衝し、追加の塩化物イオンを導入するHClで正しいpHを調整する。逆転写酵素が塩化物イオンによって阻害され得ることが疑われ、したがって、塩化物イオンを含まない異なる緩衝剤によってHClを置き換えることによって「さらなる堅牢性」が達成され得るかどうかを試験した。この目的のために、pHを調整するためにカルボン酸、ここでは酢酸を試験した。
【0331】
0.9%NaCl、PBS、UTMおよびVTM中の高塩類溶液を、KClおよびNaClを含有するかまたは含有しない異なる増幅マスターミックスに添加した。pHは酢酸またはHClによって調整した。設定は、図面の凡例に記載されている。
結果:
【0332】
PCR反応緩衝液(3)で調製した増幅マスターミックスは、12μlの各溶液を添加した後、多量の塩に対応できず、完全に失敗であることが明らかとなった。最も注目すべきことに、PCR反応緩衝液中にアルカリ金属塩を含まないと((4)および(5)参照)、12μlを添加した場合、すべての溶液で30をはるかに下回るCt値を得ることが可能であった。
【0333】
酢酸塩(PCR反応緩衝液(1)および(2)-最初の2つのバー)と塩化物(PCR反応緩衝液(1)~(3)-最後の3つのバー)との比較も、全体的なイオン強度が阻害の主な原因であることを実証した。しかしながら、HClを酢酸で置き換えると、示された溶液を12μl添加した場合、NaClおよびPBSによるCt値の有意な減少がもたらされた。UTMおよびVTMでは、この効果ははるかに小さく、この複合培地中の他の成分による阻害効果を示す。
実施例8:PCRおよびRT-PCR増幅に対する非イオン性界面活性剤の効果(I)
【0334】
RT-PCR反応の感度を高めるために、標的RNAへのアクセスは可能な限り完全でなければならない。界面活性剤がウイルス粒子の溶解を改善することは当技術分野で公知である。しかしながら、「可溶化能力」のために界面活性剤はまた、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼなどの逆転写および増幅に使用される酵素を含むすべてのタンパク質に悪影響を及ぼし、したがってRNAおよびDNA標的核酸の最適な増幅条件をおそらく妨げる。
【0335】
これらの酵素に対するあり得る効果を評価するために、非イオン性界面活性剤Tween(登録商標)20(ポリソルベート20)を増幅反応混合物中で漸増量で試験した。
結果:
【0336】
驚くべきことに、非イオン性ポリソルベートでは、逆転写酵素およびTaqポリメラーゼの両方に対する悪影響は観察されなかった。これにより、このタイプの界面活性剤(非イオン性)は、増幅反応に対する阻害効果を有することなく標的核酸にアクセス可能にするために、生物学的試料および例えば含まれるウイルス粒子の溶解を改善する可能な「抽出溶液」の理想的な候補となる。
実施例9:PCRおよびRT-PCR増幅に対する非イオン性界面活性剤の効果(II)
【0337】
非イオン性界面活性剤が一般に増幅反応(例えば、逆転写PCRまたはPCR)を阻害せずに試料溶解のための理想的な成分であることを実証するために、異なる非イオン性界面活性剤を試験した。
【0338】
以下の実験では、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテルの群に属する異なる非イオン性界面活性剤の量の増加を試験した。この目的のために、Tween(登録商標)20(ポリソルベート20)、Tween(登録商標)60(ポリソルベート60)、およびBrij(登録商標)58(ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル)を異なる最終濃度でPCR(左列、青色)およびRT-PCR(右列、赤)反応に添加して、RT-PCRまたはPCR反応に対する阻害効果を試験した。
【0339】
Tween(登録商標)60およびBrij(登録商標)58については、良好な粘度および溶解性を確実にするために、より高い濃度は試験されなかった。
結果:
【0340】
実施例9は、異なる非イオン性界面活性剤と増幅反応との適合性を示し、非イオン性界面活性剤は、事前の標的核酸精製を必要とせずにその後の直接増幅を可能にする溶解系で使用される界面活性剤の理想的な候補となる。
【0341】
増幅反応混合物中の25%(w/v)までの非常に高濃度のTween(登録商標)20でさえ、最小の阻害しか観察されなかった。
実施例10:RNase阻害の効果(I)
【0342】
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物;5000コピー
アッセイ:N2(US-CDC)
【0343】
現実の生物学的試料は、溶解されたヒト細胞および輸送培地の一部として含まれることが多いFCSに起因して大量のヌクレアーゼを含有する。したがって、以下に示すように、標的核酸検出の感度を高めるために、抽出溶液にヌクレアーゼ阻害剤を含めることが有利である。RNAはヌクレアーゼ分解を特に受けやすく、RNA標的はコロナウイルス検出などの病原体検出に非常に重要である。
【0344】
RNase阻害剤(QIAseq UPX 3-Trancriptome Kit(QIAGEN)由来:最終RT-PCR反応で0.5U)または水のいずれかを含有する上流「抽出溶液」による標的RNAの安定性の有益な効果を実証するために、RNase阻害剤を含む「抽出溶液」を、インビトロ転写物でスパイクした現実の生物学的試料(SARS-CoV-2陰性)に添加し、混合物を、いくつかの刊行物(例えば、Foomsgard and Rosenstierne(2020))に記載されているように95°Cで5分間さらに加熱し、引き続いて氷上でインキュベートした。
結果:
【0345】
ヌクレアーゼ阻害剤、ここではRNA標的を考慮したRNase阻害剤有無の直接比較は、病原体検出のためにRNAを標的とする場合のRNase阻害物質を有する上流「抽出溶液」の利点を明確に示す。
【0346】
DNA標的核酸を検出する場合、「抽出溶液」は、DNase阻害に適したDNase阻害剤を含み得る。さらに、「抽出溶液」は、両方のタイプの標的核酸の検出を改善するために、RNase阻害剤およびDNase阻害剤を含み得る。
実施例11:RNase阻害の効果(II)
【0347】
試料タイプ:UTM
標的:インビトロ転写物;5、50、500コピー
アッセイ:N2(US CDC)
【0348】
RT-PCRは、先の実施例に従って調製したQN Pathogen Master Mixの改変版を用いて行った。増幅マスターミックスを設定するために使用したPCR反応緩衝液は、KClおよびNaClを含まなかった(その後、KCl/NaClなしのPCR反応緩衝液と呼ばれる)。これはアルカリ金属塩を含まなかった。pHを酢酸で調整した。簡単にするために、以下の実施例(および実施例10)でも使用されたこの設定は、その後、KCl/NaClを含まず、酢酸でpHを調整した改変QN Pathogen Master Mixとも呼ばれる。
【0349】
RNase阻害剤(QIAseq UPX3-Trancriptome Kit(QIAGEN)由来:最終RT-PCR反応で0.5U)を含有する上流「抽出溶液」の一般的な利点を実証するために、異なるロットのUTMを、RNase阻害剤を含有する「抽出溶液」の存在下または水中で氷上で5、10および30分間インキュベートした。それぞれN2遺伝子を表す5、50、500コピーのインビトロRNA標的で効果を試験した。
結果:
【0350】
本実施例の結果は、先の実施例の初期の知見を裏付けている。RNase阻害剤を含む「抽出溶液」を試料に添加すると、粗試料を増幅反応でのウイルス検出に直接使用する場合に、感度が劇的に改善される(RNase阻害剤を含むおよびRNase阻害剤を含まないUTMロットのシグナルを比較)。
実施例12:「抽出溶液」に対するプラスの効果の組み合わせ
【0351】
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物(500、5000コピー)
アッセイ:N2(US-CDC)
【0352】
RT-PCRを、KCl/NaClを含まず、pHを酢酸で調整した改変QN Pathogen Mixを用いて行った(上記参照)。
【0353】
先の実施例は、増幅反応、ここでは逆転写PCRのために生物学的試料を調製するためにRNase阻害剤を使用する場合、RNA標的核酸を検出するための感度に関してプラスの効果を示した。また、前述のように、界面活性剤のような溶解促進試薬を含むと、標的核酸へのアクセスが向上し、感度がさらに向上するため、好ましい。Tween(登録商標)20などの非イオン性界面活性剤は、PCR性能に悪影響を及ぼさないことが既に実証されている(前の実施例を参照)。したがって、以下では、強いRNase阻害能のために好ましいRNase阻害剤を構成するタンパク質性RNase阻害剤にも不利な効果がないことが分析された。
【0354】
これらの以前の知見に基づいて、「抽出溶液」は、その後のPCR反応に悪影響を及ぼすことなく試料溶解を改善するように構成された。「抽出溶液」(PCRにおける最終濃度):
- 0.5U RNase阻害剤(QIAGEN、QIAseq UPX3-Transcriptomics Kit製):40U
- 0.15% Tween(登録商標)20:0.3μlの10% Tween(登録商標)20ストック溶液を、20μlの総体積で各PCR反応に添加した。
【0355】
さらに、加熱は溶解にプラスの効果をもたらし得る。したがって、試料を(1)氷上でインキュベートするか、または(2)45°Cで5分間加熱する(RNase阻害剤の非変性条件)か、または(3)95°Cで5分間加熱する(RNase阻害剤の変性条件)かのいずれかでインキュベートした。
結果:
【0356】
これらの結果は、RT-PCRの感度に対する「抽出溶液」中のRNase阻害剤の劇的な効果を再び明確に示した。
【0357】
さらに、データはまた、非変性条件下での加熱が、RNase阻害剤が存在する場合のCt値に実質的に影響を及ぼさないことを示した(氷上での結果と45°Cでの結果とを比較)。一方、95°Cで加熱すると、タンパク質性RNase阻害剤が変性して不活性化したため、Ct値が上昇し、したがって、RNase阻害剤を使用した場合の高温の悪影響が示された。
実施例13:異なるRNase阻害剤の適合性
【0358】
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物
アッセイ:N2(US CDC)
【0359】
RT-PCRを、KCl/NaClを含まず、pHを酢酸で調整した改変QN Pathogen Mixを用いて行った(上記参照)。
【0360】
RNase阻害剤のプラスの効果が特に有利であり、その効果が特別なRNase阻害剤とは無関係であることを実証するために、それぞれがPCRにおいて0.5Uの最終濃度を有する3つの異なるRNase阻害剤を、RNase阻害剤を含まない標準プロトコルと比較した。結果を定量するために、標的核酸をスパイクした現実の試料を使用した。
【0361】
試料に標的をスパイクし、前の実施例に記載の「抽出溶液」を添加し、混合物を45°Cおよび85°Cでそれぞれ5分間加熱し、RT-PCR反応に直接適用した。事前のインキュベーション工程なしでPCRに直接適用された非加熱試料を対照として使用した。
結果:
【0362】
この実施例は、RNase阻害剤の有利な効果が特定のRNase阻害剤とは無関係であり、異なるRNase阻害剤が使用され得ることを実証した。本明細書に開示されるように、タンパク質性RNase阻害剤は特に有利であり、様々なタイプのタンパク質性RNase阻害剤が市販されており、したがって容易に入手可能である。
【0363】
前の実験で既に概説したように、増幅反応前の加熱工程は、RNase阻害剤の変性が達成されない条件下では感度に関してプラスの効果を示さなかった。
実施例14:還元剤を使用する利点
【0364】
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物
アッセイ:N2(US CDC)
【0365】
本実施例では、内部のジスルフィド結合を切断して酵素の三次構造を妨害する薬剤が、抽出溶液の成分を増幅反応に移行させる直接増幅プロトコルにおいて、RNaseの阻害を支援し、試料調製時のRNAの安定性を改善し、したがって検出感度を改善できるかどうかを試験した。β-メルカプトエタノールを溶解緩衝液に添加する標準的なRNA試料調製および精製方法、例えばRNeasy(QIAGEN)では、還元剤はその後の精製プロトコル中に除去される。
【0366】
直接増幅では、破壊性酵素(例えば、特にRNaseなどのヌクレアーゼ)を選択的に損なうと同時に逆転写酵素および/またはDNAポリメラーゼの活性構造、したがって増幅による標的検出にその後使用される酵素に影響を及ぼさないジスルフィド切断剤を同定しなければならない。
【0367】
したがって、異なる典型的なジスルフィド還元剤を、(RT-)PCR効率に対するそれらの影響について試験した。RT-PCRを、KCl/NaClを含まず、pHを酢酸で調整した改変QN Pathogen Mixを用いて行った(上記参照)。
結果:
【0368】
試験した還元剤はいずれも、反応混合物中、試験した濃度でPCRおよびRT-PCR反応の性能に悪影響を示さなかった。
【0369】
TCEP、N-アセチル-L-システイン、DTT、β-メルカプトエタノールなどのジスルフィド還元剤は、(ジスルフィド結合含有)ヌクレアーゼを妨害する能力があるためRNA安定性にプラスの効果を及ぼし、増幅反応(PCRおよび逆転写PCR)ではマイナスの効果が観察されなかったので、TCEPまたは同様のジスルフィド還元剤が、生物学的試料調製に使用される「抽出溶液」に含まれることが好ましい。
実施例15:「抽出溶液」中の異なる添加剤の個々の効果
【0370】
その後の実験では、増幅反応に対する還元剤およびいくつかの他の添加剤の効果を試験した。陽性患者試料を陰性患者試料で希釈した。
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物(500、5000コピー)
アッセイ:N2(US CDC)
【0371】
RT-PCRを、KCl/NaClを含まず、pHを酢酸で調整した改変QN Pathogen Mixを用いて行った(上記参照)。
【0372】
各増幅反応について、9μlの試料を異なるバージョンの1μlの10倍「抽出溶液」と混合し、それによって増幅反応のための10μlの調製された生物学的試料を得た。
【0373】
0.5U RNase阻害剤(QIAseq UPX3-Trancriptome Kit(QIAGEN)製)+表3に示す「抽出溶液」中に存在する濃度の以下の添加剤。
表3:「抽出溶液」中に存在する濃度でRNase阻害剤に添加された薬剤。
【表3】

結果:
【0374】
試験した添加剤のいずれも、検出反応の感度の有意な変化を示さなかった。したがって、それらは、RNase阻害剤または増幅反応に悪影響を及ぼさず、したがって、事前の精製なしに直接増幅のための生物学的試料の調製を支援するための「抽出溶液」のための成分として適している。
実施例16:TCEPとTween(登録商標)20の相乗効果
【0375】
試料タイプ:UTM中の中咽頭スワブ(陽性試料を2つの異なる陰性試料で1:160希釈した)
標的:SARS-CoV-2
アッセイ:N2(US CDC)
【0376】
RT-PCRを、KCl/NaClを含まず、pHを酢酸で調整した改変QN Pathogen Mixを用いて行った(上記参照)。
【0377】
実施例15で試験した成分が何らかの相乗的に作用するかどうかを調べるために、RNase阻害剤を含む「抽出溶液」(ES)を還元剤(ここではTCEP)と非イオン性界面活性剤(ここではTween(登録商標)20)の組み合わせで修飾した。試験した「抽出溶液」の組成を表4に示す。
表4:実施例15で試験した「抽出溶液」の組成。
【表4】
結果:
【0378】
還元剤(ここではTCEP)と非イオン性界面活性剤(ここではTween(登録商標)20)の組み合わせは、驚くべきことに、より低いCt値を組み合わせて示した。より高い濃度の還元剤および非イオン性界面活性剤は、閾値を最大1サイクル減少させ、これは2倍の重要な改善を提供する。したがって、(a)RNase阻害剤、好ましくはタンパク質性RNase阻害剤、(b)非イオン性界面活性剤および(c)還元剤を含む抽出組成物を使用することが有利である。TCEPは、その安定性特性の観点から特に適切な還元剤である。
実施例17:「抽出溶液」ありおよびなしでのPCR結果に対する加熱の効果
【0379】
標的RNAへのアクセスを改善するために、界面活性剤またはより複雑な溶液を試料(上記参照:「抽出溶液」)に添加して、病原体溶解を支援した。
【0380】
病原体、特にウイルスを含有する試料を好ましくは>90°Cで加熱することは、病原体を破壊し、したがって不活性化するという紛れもない利点を有し、そのため、試料は、時間および費用がかかる予防措置の必要性を回避する標準的なバイオセーフティ条件下で取り扱うことができる。さらに、最初の加熱工程は、病原体溶解を支援することができ、それによって標的核酸の放出を改善し、したがって感度を高める。
【0381】
しかしながら、RNAウイルスであるSARS-CoV-2を用いた以前の結果は、試料を加熱するとシグナル強度が低下し(Ct値の増加)、したがって感度が低下することを既に示している(上記参照)。観察された感受性の低下は、RNAの不安定性に起因すると考えられる。例えばRNAは、特にマグネシウムおよびカルシウムのような二価カチオンの存在下で(自動)加水分解を起こしやすい。そのようなカチオンは、一般に使用されるユニバーサル輸送培地、例えばUTMおよびVTMの主要成分であるHBSS(組成については上記参照)などの生物学的試料を含有する培地中に存在することが多い。
【0382】
さらに、界面活性剤のような溶解支持試薬の存在下で生物学的試料を加熱すると、加熱単独と比較して感度の損失がさらに高くなる。これはおそらく、細胞内区画および調節機構の破壊後に、含まれる細胞からRNaseがより完全に放出されるためである。全体として、現在の知識に基づいて、検出される標的病原体、特にRNAウイルスの不活性化は、標的の完全性を犠牲にし、その結果シグナル強度を犠牲にする。
【0383】
これらの効果をより深く調べるために、DNA鋳型およびRNA鋳型を、反応あたり15,000個のJurkat細胞を含むUTM培地およびUTM培地にスパイクして、加熱による溶解中のRNase放出の効果をシミュレートした。
【0384】
試料を95°Cで10分間加熱するか、または加熱せずに、非イオン性界面活性剤、ジスルフィド結合破壊還元剤(TCEP)およびタンパク質性RNase阻害剤を含有する「抽出溶液」を増幅前に添加した。「抽出溶液」を添加しない試料を参照として使用した。
試料タイプ:Jurkat細胞を含むおよび含まないUTM
標的:インビトロ転写物
アッセイ:N2(US CDC)
【0385】
RT-PCRを、KCl/NaClを含まず、pHを酢酸で調整した改変QN Pathogen Mixを用いて行った(上記参照)。
結果:
【0386】
試料を(RT-)PCR反応に直接添加した場合、最初の加熱工程は、再びCt値の増加をもたらした。
【0387】
しかしながら、非常に予想外なことに、ここでは非イオン性界面活性剤、ジスルフィド結合破壊還元剤(TCEP)およびタンパク質性RNase阻害剤を含有する本発明による「抽出溶液」の添加は、加熱なしのものと実質的に同一のシグナル強度をもたらし、結果に有益な効果をもたらした。理論的に溶解を促進する溶液(非イオン性界面活性剤)の添加が加熱の有害な影響を元に戻すことができることは非常に驚くべきことであった。
【0388】
予想外に、本明細書に記載の標的を放出するための試料の加熱および調製を「切り離す」こと、すなわち「抽出溶液」の非存在下で最初に生物学的試料を加熱することが重要な点である。この初期加熱工程は、有利には病原体の不活性化をもたらし、増幅前の「抽出溶液」のその後の添加は、RNaseの阻害による標的核酸のその後の分解を防止する。したがって、「抽出溶液」は、病原体不活化のための加熱工程が完了した後に添加される。
【0389】
本発明のこの実施形態は、その後の増幅反応におけるシグナル強度を損なうことなく、病原体不活性化の重要な利点と追加の試料溶解の利点とを有利に組み合わせる。
実施例18:現実の試料を用いたPCRに対する加熱+「抽出溶液」の効果
【0390】
この有利な効果が現実の試料にも存在することを実証するために、異なるドナーからの陰性試料を標的でスパイクし、分析した。潜在的なRNaseの負荷を増加させるために、反応あたり1,200個のJurkat細胞を添加した。
【0391】
試料をそれぞれ5分間および15分間加熱し、周囲温度で4時間または3日間保存した。非加熱試料および加熱直後に処理した試料を参照として使用した。その後、抽出溶液を添加し、標準プロトコルに従って(RT-)PCR反応の直前に室温で2分間試料とインキュベートした:
試料タイプ:Jurkat細胞を含むおよび含まないUTM中の鼻咽頭スワブ
標的:インビトロ転写物
アッセイ:N2(US CDC)
結果:
【0392】
4時間および3日後のCt値と開始点(0時間)との比較は、2サイクル未満では無視できる差しか示さず、これらは現実の試料で作業した場合の変動の通常の範囲内である。3日後のドナー25の減少するCt値は、他のすべてのデータを考慮すると、おそらく外れ値である。
【0393】
これらの結果は、2つの驚くべき完全に予想外の効果を実証した:
1)明らかに有害な加熱工程は、3日間まで試料を安定化させ、生物学的試料の凍結または安定化剤の添加を必要とせずに長期保存を可能にする。
2)以前の実験で観察された加熱の有害な効果は、加熱後および増幅反応前に本発明による「抽出溶液」を添加することによって完全に元に戻すことができる。有利な実施形態では、「抽出溶液」は、非イオン性界面活性剤、ジスルフィド結合破壊還元剤(TCEP)およびタンパク質性RNase阻害剤を含む。
【0394】
これらの有益な効果の可能な説明は、加熱工程が何らかの形でRNaseを損ない、ウイルス粒子および細胞を損傷するが、ウイルス粒子またはヌクレオカプシドタンパク質のいずれからもRNAを放出せず、したがって標的核酸を保護することであり得る。
【0395】
次いで、「抽出溶液」のその後の添加は、(含まれる界面活性剤に起因して)標的核酸を放出し、同時に損傷前のヌクレアーゼ(TCEPおよびRNase阻害剤)を阻害する。したがって、試料が予熱されるこの実施形態は特に有利である。
実施例19:直接PCRによる「抽出溶液」を用いたヒト試料からのSARS-CoV-2標的の検出
【0396】
図18は、本発明による方法の例示的な有利なワークフローを示す。このワークフローは、UTM、VTM、PBSまたはNaClなどの非固定輸送培地に保存された鼻、鼻咽頭または中咽頭スワブで収集されたヒト生物学的試料からの多数の病原体の検出に有利に使用することができる。本明細書に開示されるように、本発明による方法は迅速であり、事前の核酸精製を必要とせず、高い感度で病原体標的核酸の検出を可能にする。RNA標的核酸を増幅し、したがって検出するのに特に適しており、したがって、ヒト生物学的試料中のRNAウイルス、例えばSARS-CoV-2の検出に有利に使用することができる。
【0397】
図18に示すように、対象から生物学的試料(例えばスワブ試料)を採取し、培地に入れる。これは、一般的な輸送培地または本明細書に記載の他の生理食塩水または緩衝液であり得る。輸送のために、生物学的試料(例えばスワブ)を乾燥試料として、すなわち培地なしで収集することも本発明の範囲内である。この場合、乾燥試料は、その後、生物学的試料を処理するときに培地に入れられる。したがって、この方法は、好ましくは、培地中に含まれる生物学的試料から開始する。生物学的試料を培地中で撹拌し(例えば、スワブ含有試料をボルテックスする)、次いで、生物学的試料を含有する培地のアリコートを反応容器(例えばPCRチューブまたはウェル)に移す。次いで、本発明による抽出溶液を、培地に含まれる生物学的試料のアリコートに添加する。培地に含まれる生物学的試料のアリコートを、本発明による抽出溶液を既に含む反応容器に移すことも本発明の範囲内である。得られた混合物をインキュベートして、増幅用の生物学的試料を調製する。本明細書に開示されるように、インキュベーション時間は短くてもよく、それによって本発明による方法を迅速に実施することができることを裏付けている。その後、調製された生物学的試料を、RNA標的の場合は逆転写増幅反応である増幅反応を行うのに必要な成分と接触させる。調製された生物学的試料は、増幅試薬を含む新しい反応容器に移され得るが、本発明の特定の利点は、この方法を単一の反応容器(「ワンポット」)で行うことができることである。したがって、好ましい実施形態では、増幅反応を行うために必要な成分は、インキュベートされて調製された生物学的試料を含む同じ反応容器に添加される。取り扱いをさらに容易にし、ピペッティングエラーを減少させるために、増幅反応に必要なすべての成分を、有利には、鋳型の他に増幅反応に使用されるすべての成分(ポリメラーゼ(複数可)、ヌクレオチド、プライマー、プローブ、潜在的なICコントロールなどを含む)を含む直接PCRマスターミックスに含めることができる。次いで、直接PCRマスターミックスを、インキュベートされた混合物、したがって調製された生物学的試料と接触させることができる。次いで、そのように調製された増幅反応混合物は、増幅反応を行う準備が整う。図18に示すように、増幅反応は、本発明の中心的な実施形態ではRT-PCRである。有利には、逆転写およびPCR増幅は、単一のチューブ内で行われ得る。
【0398】
以下の手順は、PCRシステムによる「抽出溶液」を用いたヒト試料からのSARS-CoV-2標的の直接検出のための本発明による詳細な例示的ワークフローを提供する。
【0399】
1.表5に従って、以下にさらに詳細に記載されるように、直接PCRマスターミックス、試料および本発明の「抽出溶液」(タンパク質性RNase阻害剤、非イオン性界面活性剤および還元剤を含む)を混合することによって増幅反応混合物を調製する。
表5:反応混合物の設定
【表5】
*低ROX色素サイクラーでは200倍濃縮物として、高ROX色素サイクラーでは20倍濃縮物として使用する。
【0400】
2.スワブ含有試料を激しくボルテックスする。
工程3および4-バリアントA
【0401】
3a.本発明による「抽出溶液」2μlをPCRプレートの各PCRチューブまたはウェルに分注する。
【0402】
4a.8μlのスワブ試料を、「抽出溶液」を含む個々のPCRチューブまたはウェルに添加する(工程3aおよび4aは逆にしてもよい)。完全に接触させるために、上下に少なくとも2回ピペッティングすることによって混合する。
工程3および4-バリアントB
【0403】
3b.8μlの試料をPCRプレートの各PCRチューブまたはウェルに分注し、試料を85°C~100°Cで5~15分間加熱する(例えば、95°C、5分)。上記の実施例に示すように、生物学的試料を「抽出溶液」と接触させる前のこの必要に応じて行なわれる加熱工程は、ウイルスを不活性化することを可能にし、それによってウイルスで汚染されている可能性のある生物学的試料を取り扱う場合の安全性を高める。
【0404】
4b.本発明による「抽出溶液」2μlを、熱不活性化生物学的試料を含む個々のPCRチューブまたはウェルに添加する。完全に接触させるために、上下に少なくとも2回ピペッティングすることによって混合する。
【0405】
5.室温で2分間インキュベートする。
注:複数の試料を並行して処理する場合、インキュベーション時間は、最後の試料を「抽出溶液」に添加した後に開始すべきである。
【0406】
6.工程1で調製したDirect PCR Master Mixを10μl添加する。
【0407】
7.プレート/チューブを完全にシールして、交差汚染を防止する。接着フィルムが使用される場合、個々のウェルにわたって密なシールを得るために、プレート全体にわたって均一に圧力を加えることを確実にする。10~30秒間、中圧でボルテックスすることによって穏やかに混合する。ボルテックスしながらプレートを異なる位置に置き、ボルテックスプラットフォームとの等しい接触を確実にする。プレート/チューブを短時間遠心分離して、プレート/チューブの底部に液体を回収する。
【0408】
8.例えば表6に従ってリアルタイムサイクラーをプログラムする。
注:データ取得は、アニーリング/伸長工程中に行われるべきである。

表6:サイクル条件
【表6】
【0409】
9.チューブまたはプレートをリアルタイムサイクラーに入れ、サイクリングプログラムを開始する。
【0410】
表7は、本発明による「抽出溶液」を使用した直接増幅のために調製されたヒト生物学的試料(例えばスワブ試料)からのSARS-CoV-2標的の直接検出方法の可能な結果を示し、また、病原体アッセイで使用される一般的な対照の状態も示している。
表7:ヒト試料からのSARS-CoV-2標的の直接検出方法の可能な結果
【表7】
実施例20:異なる試料材料からのウイルス検出のためのワークフロー
【0411】
上記の実施例で概説した本発明は、便利なワークフローで利用することができる。図19に概略的に記載されるプロトコルは、先の実施例(実施例1~19)に基づいて選択された緩衝液条件およびプロトコル工程に基づく。ワークフローは、スワブ試料を使用して輸送培地中のウイルスの検出を可能にする。
【0412】
化学およびプロトコルをさらに開発し、図20に概略的に示すように、特に唾液またはうがい試料などの経口試料と共に使用するために最適化した。以下の実施例に示すように、増幅に基づく検出のためのそのような試料の調製は、試料をタンパク質分解酵素および還元剤を含む消化溶液と接触させることによってさらに改善することができる。消化溶液は、例えば1:4~1:1の比で試料に適用することができる。実施形態において、1:3または1:2の比で適用される。消化溶液と接触した試料を加熱する。加熱は、好ましくは少なくとも90°C、または少なくとも95°Cの温度で行われる。短い加熱時間で十分であり、例えば5分~10分、好ましくは5分である。タンパク質分解酵素は、有利な実施形態ではプロテアーゼ、例えば好ましくはプロテイナーゼKである。還元剤としては、TCEPを用いてもよい。以下の実施例では、特に指示しない限り、プロテイナーゼKおよびTCEPを含む消化溶液を使用した。
【0413】
特に唾液およびうがい試料などの経口試料については、以下の例おいて、2つの中心的なプロトコルの選択肢が示される:1)95°Cで5分間の加熱と組み合わせて試料を安定化および溶解するための消化溶液の使用、または2)95°Cで15分間のみの加熱。さらなる詳細については、以下の実施例を参照されたい。
実施例21:異なる輸送培地中の様々な病原体の多重検出
【0414】
実験努力の低減および診断速度の向上のために、1回の増幅反応における複数の標的の並行検出が望ましい。例えば、これは、同じ病原体の異なるアンプリコンの検出および/または異なる病原体の並行検出を含み得る。
【0415】
多重検出に対する本発明の適合性を実証するために、いくつかの不活化呼吸器ウイルスを異なる輸送培地に添加し、図19に示すワークフローに従って異なる標的に対するアッセイを使用して並行して検出した。
【0416】
試料タイプ:異なる輸送培地中のサンプリングされた健常ドナー
- eSwab
- 生理的NaCl溶液
- PBS
- UTM
- VTM
標的:不活化ウイルス
- SARS-CoV-2(SC2)
- Flu A
- Flu B
- RSV
アッセイ:N1/N2(US CDC)
【0417】
RT-PCRを、NaCl/KClを含まない改変QN Pathogen Master Mixを用いて行い、pHを上記のように酢酸で調整した。すべての標的を並行して増幅した。各標的の個々のシグナルを図21に示す。
結果:
【0418】
結果は、一連の異なる呼吸器ウイルスを並行して検出することが可能であることを明確に示している。結果はまた、均一なCt値によって表されるシステムの感度に大きな影響を与えることなく、本発明のワークフローをすべての一般的な輸送培地に適用できることを実証している。
実施例22:ウイルスバリアントの遺伝子型決定
【0419】
COVID-19のパンデミックの間に、SARS-CoV-2のいくつかの新しいバリアントが進化しており、そのうちのいくつかは元の野生型株よりも伝染性が高く、より厳しい距離および隔離要件を必要としている。したがって、人が感染しているか否かだけでなく、どの株に感染しているかを知ることが重要である。高価で時間のかかるシーケンシング分析を回避するために、異なるウイルスバリアントのPCR検出および同定が不可欠である。
【0420】
この実施例は、SARS-CoV-2の2つの異なるウイルスバリアント(T478KおよびE484K)の検出の成功および野生型株との明確な区別を実証する。それぞれT478KおよびE484Kに特異的なプライマー/プローブの組み合わせを用いた、図19に示すワークフローに従った不活化ウイルスの標準を用いた希釈系列を示す。野生型転写物(10^7コピー)を参照として使用した。
試料タイプ:UTM
標的:インビトロ転写物
結果:
【0421】
両方のバリアントを異なる希釈に従って検出することができたが、野生型シグナルは検出できなかった(図22、ベースライン、NTCと同一)。
【0422】
これは、異なるウイルス変異が検出され、野生型(したがって、他のウイルスバリアント)と識別され得ることを明確に示し、したがって、本発明は、異なるウイルス株の迅速な遺伝子型決定および同定を可能にする。
実施例23:唾液試料に対するTCEPの効果
【0423】
唾液試料に含まれるウイルス核酸の検出のために、唾液はスワブ試料と比較してより高い含有量の酵素および他のタンパク質を含むので、この試料タイプの処理をさらに改善するために、ウイルス試料を溶解および安定化する追加の工程を含めた。
【0424】
上記の実施例14および15で既に概説したように、TCEP、DTT、またはβ-メルカプトエタノールなどの還元剤の添加は、(ジスルフィド結合を含む)ヌクレアーゼを妨害する能力のためにRNA安定性にプラスの効果を有することが証明されており、試験した濃度範囲内で増幅反応にマイナスの効果は観察されなかった。
【0425】
しかしながら、どの程度まで追加の還元剤を増幅反応に添加することができるかを決定するために、より広い濃度範囲を試験した。
試料タイプ:UTM
標的:サンプリングおよび内部対照によるインビトロ転写物SARS-CoV-2
アッセイ:N1/N2(US CDC)
【0426】
抽出緩衝液/溶液工程なしでRT-PCRを行った。漸増量のTCEPを0~5mM添加した(図23参照)。
結果:
【0427】
実験の結果、RT-PCR反応における最終TCEP濃度が1.6mMまでは増幅反応に影響を与えず、3mMの濃度までは中程度の影響しかないことが示された。
【0428】
したがって、増幅反応における還元剤の総量が増幅反応を妨げない限り、増幅を損なうことなく、TCEPなどの還元試薬を含む追加の溶液を試料の調製に含めることができる。示されるように、TCEPの場合、増幅反応におけるTCEPの総量は、好ましくは2mM未満である。
実施例24:唾液試料に対するプロテイナーゼ/TCEPの効果
【0429】
還元剤の添加は、試料の(RNA)安定性を改善する。唾液試料などのタンパク質に富む試料のより良好な溶解のために、タンパク質分解酵素、例えばプロテ(イン)アーゼによる消化工程が含まれた。さらなるタンパク質消化の効果を決定するために、異なる量のQIAGENプロテイナーゼK(カタログ番号/ID:19131)およびQIAGENプロテアーゼ(カタログ番号/ID:19157)をTCEPの存在下で添加し、加熱工程と組み合わせて試験した(https://www.qiagen.com/us/products/discovery-and-translational-research/lab-essentials/enzymes/qiagen-protease-and-proteinase-k/)。
【0430】
24μlの唾液を4μlのプロテ(イン)アーゼ/TCEP/水混合物(表8参照)に添加し、80°Cまたは95°Cでそれぞれ5分間または15分間加熱した。したがって、阻害に対して感受性である内部対照を標的対照として選択した。
表8:プロテイナーゼ/TCEP/水混合物の組成。
【表8】
試料タイプ:唾液
標的:インビトロ転写物
アッセイ:内部対照
結果:
【0431】
異なる濃度のQIAGENプロテアーゼとプロテイナーゼKとの比較は、プロテイナーゼKと比較して、QIAGENプロテアーゼを使用した場合、内部対照についてより高いCt値を示した。したがって、プロテイナーゼKを用いると、QIAGENプロテアーゼと比較してより良好な結果が得られた。Ct値は、QIAGENプロテアーゼの量が減少するにつれて減少し、したがって改善する。その後の加熱工程が80°Cで5分に短縮された場合にのみ、酵素の不完全な不活性化によって説明することができる効果はあまり明確ではなかった。より高い加熱温度(95°C)では、Ct値はより低く、したがって改善された。実証されているように、異なる加熱期間(5分~15分)を使用することができる。5~10分、好ましくは5分などの短い加熱時間の使用は、調製時間の短縮の観点から有利である。
実施例25:唾液についての異なるプロトコルの比較
【0432】
以下に示すように、消化溶液および5分間の加熱のいずれかを用いて、またはそのように予め溶解/不活性化された試料を本明細書に開示される抽出溶液と接触させる前にのみ加熱する工程によって、唾液試料などの経口試料を処理するのがより困難な不活性化/溶解を行うことが可能である。このために、16人のSARS-CoV-2陽性ドナーからの唾液試料を使用して、消化溶液によって支援される5分間95°Cの加熱工程を、95°Cで15分間および30分間加熱することのみと、それぞれ比較した。
試料タイプ:UTM
標的:唾液試料、SARS-CoV-2陽性
アッセイ:N1/N2(US CDC)
結果:
【0433】
すべての陽性ドナーも、本発明によるPCRプロトコルで正しく陽性と診断された。ほとんどの場合、短い加熱工程と組み合わせてタンパク質分解酵素および還元剤(プロテイナーゼKおよびTCEPなど)を含む消化溶液は、加熱単独と比較して最も感度の高い結果を示した。この実験はまた、より長い加熱工程-30分対15分-が結果をさらに改善しないことを示した。
実施例26:唾液試料の検出レベル(LoD)の改善
【0434】
鼻および中咽頭スワブによるサンプリングは、対象にとって不快であると考えられることが多く、適切なサンプリングのために訓練された人員を必要とする。したがって、他のタイプのサンプリングがより普及しつつある。例えば、これらには、唾液(吐き出し)、生理食塩水でのうがい、または試験者が単にスワブを口に取り、スワブが飽和するまでしばらく吸引するいわゆる「ロリポップ」試験が含まれる。
【0435】
上記のように、唾液の使用は、輸送培地中のスワブ標本と比較して酵素および他のタンパク質の含有量が高いため、スワブとは異なる。本開示は、図20に示すように、輸送培地中のスワブのワークフローに類似した単純かつ簡単なワークフローを確立する2つのワークフローを提供する。
1)ウイルスを不活化および溶解すると同時に、その後の増幅反応を妨害する酵素を不活化する熱不活化/溶解工程を含む(図20(A))
2)短い加熱工程と組み合わせて、タンパク質分解酵素を含む消化溶液を添加する(図20(B))。
【0436】
唾液試料の最新技術は、緊急使用許可(EUA)を得たYale School of Public Healthによって公開されている、いわゆる「Yaleプロトコル」である。このプロトコルに従って、3~12コピー/μl(3,000~12,000コピー/ml)のLoDを決定した(Yale School of Public Health,Department of Epidemiology of Microbial Diseases SalivaDirectアッセイEUA概要-2021年4月9日更新;8/9ページ)。
【0437】
本発明者らは、LoDを決定するために、図20に記載されたワークフローに従って、タンパク質分解酵素および還元剤(ここではプロテイナーゼKおよびTCEP)/5分95°Cを含む消化溶液を用いて(「消化溶液」)、または代替的に15分加熱工程を用いて(「加熱」)、本発明によるRT-PCR反応を試験した。LoDは、検出可能な最低コピー数に基づいて95%信頼区間によって計算した。
【0438】
ヒット率はプロトコルごとに48回の反復に基づく
試料タイプ:唾液
標的:Zeptometrix Natrol(Zeptrometrix,Buffalo NY,USA)
アッセイ:N1/N2(US CDC)
結果:
【0439】
上記の結果に基づいて、両方のプロトコルについて検出レベルを計算した:
a)加熱:2,112コピー/ml
b)消化溶液:2,038コピー/ml
【0440】
したがって、約2,000コピー/mlのLoDを達成することができ、これは、本発明によるプロトコルを使用する場合、現在の最新技術である「Yaleプロトコル」よりも約1,000コピー/ml感度が高い。これは、「Yaleプロトコル」について得られたLoDと比較して検出レベルを約1,000コピー/ml低下させ、最新技術のプロトコルと比較して有意な改善を実証している。
実施例27:他の試料タイプ-唾液およびうがい試料
【0441】
上記実施例に示すように唾液試料の処理を改善する本発明によるこれらのプロトコルは、他の試料タイプにも使用することができる。この実験では、唾液およびうがい試料を図20(A)および(B)に記載の2つのプロトコルの変形と比較した。
試料タイプ:唾液およびうがい試料
標的:Zeptometrix Natrol(Zeptrometrix,Buffalo NY,USA)
アッセイ:N1/N2(US CDC)
【0442】
Natrol標準希釈系列を24名のドナーからの試料に添加し(それぞれ4,000、2,000、1,000、500、250、125コピー/ml)、二連で分析した。
結果:
【0443】
上記の結果に基づいて、両方のプロトコルについて検出レベルを計算した:
c)加熱:
a.唾液:2,122コピー/ml
b.うがい薬:1,302コピー/ml
d)消化溶液:
a.唾液:2,038コピー/ml
b.うがい薬:916コピー/ml
【0444】
この場合も、唾液について、約2,000コピー/mlのLoDを達成することができ、これは、現在の最新技術である「Yaleプロトコル」よりも約1,000コピー/ml感度が高い。うがい試料の場合、特に5分95°Cと組み合わせて消化溶液を使用した場合、LoDはさらに優れていた(<1,000コピー/ml)。
実施例28:他の試料タイプ-ロリポップ試験
【0445】
上記実施例に示すように唾液およびうがい試料の処理を改善する本発明によるこれらのプロトコルは、いわゆる「ロリポップ試験」にも使用することができる。これは、スワブがロリポップのように使用され、さらなる検出のために輸送溶液、例えばPBSに入れられる前に唾液に浸されることを意味する。簡単で便利であるため、このサンプリング方法は、必要な検査の量を減らすために複数の「ロリポップ」が同時試験のためにチューブに入れられることが多い学校や幼稚園で広く受け入れられていることが分かっている。プールが陽性である場合、プールのメンバーは個別に再び試験される。
【0446】
4つの異なるプロトコルを試験した:
1)抽出溶液+本発明による直接PCRマスターミックス(熱処理なし);上記図19参照
2)加熱:70°C、10分
3)加熱:95°C、15分;上記図20(A)参照。
4)本発明による消化溶液;上記図20(B)参照。
試料タイプ:PBS中のロリポップ・スワブ、10または20人の個人を含むプール;各プール内に1つの既知の陽性スワブ
標的:SARS-CoV-2
アッセイ:N1/N2(US CDC)
結果:
【0447】
結果は、すべてのプロトコルバリアントが各プールについて正確に陽性結果を与えたことを実証している。「抽出溶液+直接PCRマスターミックス」単独および加熱工程は、Ct値のわずかな増加、したがって感度のわずかな低下を示したが、本発明による抽出溶液+直接PCRマスターミックスを含むワークフローへの消化溶液の添加は、陽性ドナーおよび異なるプールについて同一の結果をもたらした。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
【国際調査報告】