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特表2023-544139リチウム電池用の環状スルホン添加剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】リチウム電池用の環状スルホン添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231013BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231013BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20231013BHJP
   H01M 6/16 20060101ALI20231013BHJP
   H01G 9/20 20060101ALI20231013BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20231013BHJP
   H01G 11/52 20130101ALI20231013BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
H01M10/054
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/485
H01M6/16 A
H01G9/20 107C
H01G11/64
H01G11/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519454
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(85)【翻訳文提出日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 US2021025136
(87)【国際公開番号】W WO2022071987
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】63/084,911
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518343040
【氏名又は名称】ノームズ テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モガンティ スリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイディア ルトビク
(72)【発明者】
【氏名】シニクロピ ジョン
【テーマコード(参考)】
5E078
5H024
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078CA06
5E078CA09
5E078DA01
5E078DA06
5E078DA14
5H024AA01
5H024AA02
5H024AA03
5H024AA06
5H024AA07
5H024AA11
5H024AA12
5H024FF14
5H024FF19
5H024HH01
5H029AJ07
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM06
5H029AM09
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA13
5H050BA06
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA12
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
電池抵抗を低減するため、サイクル寿命を延長するため、および高温性能を改善するために有用な、電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用に適した、環状スルホン有機化合物および当該環状スルホン有機化合物を含む電解液を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性有機溶媒系;
金属塩;および
以下の分子構造:
にしたがう、少なくとも1つの環状スルホン有機化合物添加剤であって、
式中、
R3は、電子吸引基、または少なくとも1つの水素が電子吸引基で置換されているC1~C12直鎖もしくは分枝アルキル基であり;かつ
R1、R2、R4、R5はそれぞれ独立に水素、置換もしくは無置換のC1~C12直鎖もしくは分枝アルキルおよびフルオロアルキル基、またはC6~C14アリール基であり、ここで水素原子は置換されていなくてもよく、またはハロゲン、アルキル、アルコキシ、パーフルオロ化アルキル、シリル、シロキシ、シラン、スルホキシド、アミド、アゾ、エーテル、およびチオエーテル基もしくはこれらの組み合わせであり得る、
環状スルホン有機化合物添加剤
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス電解液。
【請求項2】
電子吸引基が、ハロゲン、シアノ、カルボニル、スルホニル、ニトロ、またはハロアルキル基のいずれかである、請求項1記載の電解液。
【請求項3】
少なくとも1つの環状スルホン有機化合物添加剤が、4H-1,1-ジオキソ-2,6-(フェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2,6-(4-フルオロフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2-フェニル-6-(4-メチルフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;および4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(2-チエニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピランのうちの少なくとも1つである、請求項1記載の電解液。
【請求項4】
少なくとも1つの環状スルホン有機化合物添加剤が、前記電解液中に0.01重量%~10重量%の濃度で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項5】
非プロトン性有機溶媒系が、鎖状もしくは環状カーボネート、カルボン酸エステル、ニトリット、エーテル、スルホン、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、ホスファイト、モノもしくはポリホスファゼンまたはこれらの混合物を含む、請求項1記載の電解液。
【請求項6】
非プロトン性有機溶媒系が、前記電解液中に60重量%~90重量%の濃度で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項7】
金属塩のカチオンがアルカリ金属である、請求項1記載の電解液。
【請求項8】
アルカリ金属がリチウムまたはナトリウムである、請求項7記載の電解液。
【請求項9】
金属塩のカチオンがアルミニウムまたはマグネシウムである、請求項1記載の電解液。
【請求項10】
金属塩が、前記電解液中に10重量%~30重量%の濃度で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項11】
少なくとも1つの追加の添加剤をさらに含む、請求項1記載の電解液。
【請求項12】
少なくとも1つの追加の添加剤が、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物またはこれらの混合物を含む、請求項11記載の電解液。
【請求項13】
少なくとも1つの追加の添加剤が、部分的もしくは完全にハロゲン化されたリン酸エステル化合物、イオン液体、またはこれらの混合物を含む、請求項11記載の電解液。
【請求項14】
部分的もしくは完全にハロゲン化されたリン酸エステル化合物が、4-フルオロフェニルジフェニルホスフェート、3,5-ジフルオロフェニルジフェニルホスフェート、4-クロロフェニルジフェニルホスフェート、トリフルオロフェニルホスフェート、ヘプタフルオロブチルジフェニルホスフェート、トリフルオロエチルジフェニルホスフェート、ビス(トリフルオロエチル)フェニルホスフェート、またはフェニルビス(トリフルオロエチル)ホスフェートである、請求項13記載の電解液。
【請求項15】
イオン液体が、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、またはトリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである、請求項13記載の電解液。
【請求項16】
少なくとも1つの追加の添加剤が、前記電解液中に0.01重量%~10重量%の濃度で存在する、請求項11記載の電解液。
【請求項17】
正極;
負極;
請求項1記載の電解液;および
セパレーター
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項18】
正極が、リチウム金属酸化物、スピネル、かんらん石、炭素被覆かんらん石、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウムカーボンモノフルオリドまたはこれらの混合物を含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項19】
リチウム金属酸化物が、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCoyMetzO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.1Co0.1Ni0.8O2、LiMn0.2Co0.2Ni0.6O2、LiMn0.3Co0.2Ni0.5O2、LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2、LiMn2O4、LiFeO2、Li1+x'NiαMnβCoγMet'δO2-z'Fz'、またはAn'B2(XO4)3であり、ここでMetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、MnまたはCoであり;Met'はMg、Zn、Al、Ga、B、ZrまたはTiであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、CuまたはZnであり;BはTi、V、Cr、FeまたはZrであり;XはP、S、Si、WまたはMoであり;かつここで0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、0≦z'≦0.4および0≦h'≦3であり、かつ、かんらん石正極がLiFePO4である、請求項17記載のデバイス。
【請求項20】
負極が、リチウム金属、黒鉛材料、無定形炭素、Li4Ti5O12、スズ合金、ケイ素、ケイ素合金、金属間化合物またはこれらの混合物を含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項21】
リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウム電池、リチウム/MnO2電池、またはLi/ポリ(カーボンモノフルオリド)電池を含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項22】
キャパシタまたは太陽電池を含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項23】
電気化学セルを含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項24】
セパレーターが、負極および正極を互いから分離している多孔質セパレーターを含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項25】
多孔質セパレーターが、電子ビーム処理した微多孔質ポリオレフィンセパレーター、あるいは、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、または任意の2つ以上のそのようなポリマーのコポリマーもしくは混合物を含む微多孔質ポリマーフィルムを含む、請求項24記載のデバイス。
【請求項26】
非プロトン性有機溶媒系が、鎖状もしくは環状カーボネート、カルボン酸エステル、ニトリット、エーテル、スルホン、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、ホスファイト、モノもしくはポリホスファゼンまたはこれらの混合物を含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項27】
非プロトン性有機溶媒系が、電解液中に60重量%~90重量%の濃度で存在する、請求項17記載のデバイス。
【請求項28】
金属塩のカチオンがアルカリ金属である、請求項17記載のデバイス。
【請求項29】
アルカリ金属がリチウムまたはナトリウムである、請求項28記載のデバイス。
【請求項30】
金属塩のカチオンがアルミニウムまたはマグネシウムである、請求項17記載のデバイス。
【請求項31】
金属塩が電解液中に10重量%~30重量%の濃度で存在する、請求項17記載のデバイス。
【請求項32】
電解液が、少なくとも1つの追加の添加剤をさらに含む、請求項17記載のデバイス。
【請求項33】
少なくとも1つの追加の添加剤が、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物またはこれらの混合物を含む、請求項32記載のデバイス。
【請求項34】
少なくとも1つの追加の添加剤が、部分的もしくは完全にハロゲン化されたリン酸エステル化合物、イオン液体、(メチルスルホニル)シクロトリホスファゼン、またはこれらの混合物を含む、請求項32記載のデバイス。
【請求項35】
ハロゲン化されたリン酸エステル化合物が、4-フルオロフェニルジフェニルホスフェート、3,5-ジフルオロフェニルジフェニルホスフェート、4-クロロフェニルジフェニルホスフェート、トリフルオロフェニルホスフェート、ヘプタフルオロブチルジフェニルホスフェート、トリフルオロエチルジフェニルホスフェート、ビス(トリフルオロエチル)フェニルホスフェート、またはフェニルビス(トリフルオロエチル)ホスフェートである、請求項34記載のデバイス。
【請求項36】
イオン液体が、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-メチル-トリメチルシリルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、またはN-メチル-トリメチルシリルピロリジニウムヘキサフルオロホスフェートである、請求項34記載のデバイス。
【請求項37】
少なくとも1つの追加の添加剤が、電解液中に0.01重量%~10重量%の濃度で存在する、請求項32記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2020年9月29日提出の米国特許仮出願第63/084,911号の出願日の恩典を主張し、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は、電池抵抗増大を低減するため、サイクル寿命を延長するため、および高温性能を改善するために有用な環状スルホン官能基化有機化合物;環状スルホン有機化合物を含む電解液;およびこの電解液を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
Liイオン電池は、家電製品、電動車両(EV)、ならびにエネルギー貯蔵システム(ESS)およびスマートグリッドにおいて多用されている。しかしながら、高い電位での正極材料の安定性は、酸化の増大によって低減する。これは、材料の電気化学的酸化をもたらしてガスを発生することがあり、電池の性能を低下させ得る。リチウムイオンのインターカレーション/脱インターカレーションが可能な正極活物質は、非水電解液に溶解して、材料の構造破壊をもたらし得、界面抵抗の増大につながることになる。これらのLiイオン電池はまた、典型的には、その動作中に極端な温度にさらされる。負極上に形成されたSEI(固体電解液界面)層は高温で徐々に分解され、したがってより不可逆的な反応を引き起こして、容量損失が起こる。同様に、CEI(正極電解液界面)も、電解液要素との反応により、高温で安定性を失うことになる。これらの反応は、サイクル中に正極および負極で起こるが、一般に、より速い速度論のために温度が高いほど重度である。家電製品、EV、およびESSに使用される次世代Liイオン電池は、現在の最先端のLiイオン電池と比較して、電解液要素の大幅な改善を必要とする。
【0004】
電池電極間の正および負イオンのシャトリングは、電解液の主な機能である。歴史的に、研究者らは電池電極の開発に焦点を当ててきており、電解液の開発は限られていた。伝統的なLiイオン電池は、リチウムイオンを輸送可能な大きい電位窓を有する炭酸塩系の電解液を使用した。これらの電解液は、負極を不動態化し、安定なSEIを形成するための機能性添加剤、ならびに正極を安定化するための添加剤を必要とする。
【0005】
産業が高エネルギー電池のための高エネルギー正極材料に向かうにつれて、広い電圧窓における電池の安定で、効率的、かつ安全なサイクルが必要である。Liイオン電池電解液は、異なる共溶媒および添加剤の添加により、その用途に基づいて調整することができる。この調整可能性により、Liイオンセルの高電圧安定性および安全性のための異なる添加剤の開発が可能になった。高電圧Liイオン電池電解液開発のもう1つの局面は、重合してCEIを形成することにより正極を安定化する添加剤の設計および最適化である。そのような添加剤の開発は、より高エネルギーの正極材料を可能にし、したがってLiイオンセルのエネルギー貯蔵能力を改善し得る。
【0006】
Liイオン電解液添加剤開発のもう一つの局面は、より低い電圧で安定なSEIフィルムを形成することにより、より迅速な形成を可能にすることである。通常のLiイオン電池では、安定な負極SEIの形成を可能にするためにゆっくりした形成が必要とされ、したがってセル形成は電池製造における時間のかかる工程の1つである。したがって、通常のLiイオン電池負極材料上で低電圧で反応する添加剤は、大幅に時間を節約してのLiイオン電池製造を可能にするための鍵である。
【0007】
本明細書において、環状スルホン有機化合物を、Liイオン電池用の多機能添加剤として報告する。電解液添加剤としてこれらの官能基を有する分子は、負極を保護する、形成サイクル中の頑強なCEIの形成を可能にする。分子構造中の官能基は、正極を高温および高電圧での分解からも保護する。電解液中にこの添加剤を含むセルは、安全でサイクル寿命が長く、高エネルギーのリチウムイオン電池を可能にする。
【0008】
環状スルホン官能基化有機化合物は、Detty et al (J. Org. Chem. 1995, 60, 6, 1674-1685)(非特許文献1)により、有用な電子輸送材料として記載されている。LG Chem.の米国特許第8119292号(特許文献1)および米国特許第9905325号(特許文献2)は、サイクル寿命および高温貯蔵適用に有用な電池電解液におけるスルトン系分子の使用を教示している。Samsung SDIの米国特許第9437901 B2号(特許文献3)、第9847549 B2号(特許文献4)、および第9660295 B2号(特許文献5)は、電池電解液のために選択されたニトリル置換リン酸塩の使用を教示している。したがって、電気化学エネルギー貯蔵デバイス、特に電池における適用のために電解液添加剤中でこれらの機能性を組み合わせる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第8119292号
【特許文献2】米国特許第9905325号
【特許文献3】米国特許第9437901 B2号
【特許文献4】米国特許第9847549 B2号
【特許文献5】米国特許第9660295 B2号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Detty et al, J. Org. Chem. 1995, 60, 6, 1674-1685
【発明の概要】
【0011】
概要
本開示の1つの局面に従い、環状スルホン有機化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;および金属塩を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液を提供する。
【0012】
本開示のもう1つの局面に従い、環状スルホン有機化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および少なくとも1つの追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液を提供する。
【0013】
本開示のもう1つの局面に従い、正極:負極;セパレーター、ならびに、環状スルホン有機化合物添加剤、非プロトン性有機溶媒系、および金属塩を含む電解液を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【0014】
本開示のもう1つの局面に従い、環状スルホン有機化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および少なくとも1つの追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、ここで非プロトン性有機溶媒には、鎖状もしくは環状カーボネート、カルボン酸エステル、ニトリット、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、ホスファイト、モノもしくはポリホスファゼンまたはこれらの混合物が含まれる、電解液を提供する。
【0015】
本開示のもう1つの局面に従い、環状スルホン有機化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および少なくとも1つの追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、ここで金属塩のカチオンは、アルミニウム、マグネシウムまたはリチウムもしくはナトリウムなどのアルカリ金属である、電解液を提供する。
【0016】
本開示のもう1つの局面に従い、環状スルホン有機化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および少なくとも1つの追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、ここで追加の添加剤は、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物、硫黄含有化合物、リン含有化合物ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物を含む、電解液を提供する。
【0017】
本開示のもう1つの局面に従い、
非プロトン性有機溶媒系;
金属塩;および
以下の分子構造:
にしたがう、少なくとも1つの環状スルホン有機化合物添加剤であって、
式中、
R3は、電子吸引基、または少なくとも1つの水素が電子吸引基で置換されているC1~C12直鎖もしくは分枝アルキル基であり;かつ
R1、R2、R4、R5はそれぞれ独立に水素、置換もしくは無置換のC1~C12直鎖もしくは分枝アルキルおよびフルオロアルキル基、またはC6~C14アリール基であり、ここで水素原子は置換されていなくてもよく、またはハロゲン、アルキル、アルコキシ、パーフルオロ化アルキル、シリル、シロキシ、シラン、スルホキシド、アミド、アゾ、エーテル、およびチオエーテル基もしくはこれらの組み合わせであり得る、
環状スルホン有機化合物添加剤
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス電解液を提供する。
【0018】
本開示のもう1つの局面に従い、正極;負極;本明細書に開示の電解液;およびセパレーターを含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスを提供する。
【0019】
本開示のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明およびそれに添付の特許請求の範囲の検討により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本開示に従いNMC811/Grセルで試験した電解液のdQ/dVプロファイルを示すグラフである。
図2図2は、本開示に従いNMC811/Grセルで試験した電解液の高温(45℃)サイクル寿命特性を示す。
図3図3は、本開示に従いLCO/Grセルで試験した電解液のdQ/dVプロファイルを示すグラフである。
図4図4は、本開示に従いLCO/Grセルで試験した電解液の25℃サイクル寿命特性を示す。
図5図5は、本開示に従いサイクル中の25℃での1.8Ah NMC811/SiOxセルのサイクル寿命特性を示す。
図6図6は、本開示に従いサイクル中の45℃での5.0Ah NMC811/Grセルのサイクル寿命特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本開示の技術は、一般には、リチウムイオン(Liイオン)電池電解液に関する。特に、本開示は、環状スルホン有機化合物、添加剤材料としての環状スルホン有機化合物を含む電解液、および電解液を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスを目的とする。
【0022】
本開示は、Liイオン電池における負極安定性の課題を克服し得る、電解液添加剤を含むLiイオン電池電解液を記載する。Liイオン電池において負極材料を不動態化して安定かつ頑強なSEIフィルムを形成する添加剤を見つける必要がある。また、現在の最先端のLiイオン電池は、ニッケル含有量が低く、高電圧で動作するか、または高いニッケル含有量を有するが、低電圧で動作する、正極材料を含む。最先端の電解液はこれらの条件に向けて調整されており、研究者らは最近、新規電解液調合物を含む高ニッケル、高電圧電池正極を可能にすることに焦点を当て始めた。高電圧、高ニッケル正極を有するLiイオンセルのサイクルのための電解液を開発する必要がある。本技術は、負極表面にSEIフィルムを形成し得、高電圧、高エネルギー正極の安定性を改善し得る、環状スルホン有機化合物を含む革新的な添加剤に基づいている。電解液添加剤は、独特のCEIを形成し、軽量負荷で使用する場合、正極を過度に不動態化しない。加えて、改善されたCEIは、室温で影響をおよぼすことなく、高温性能および貯蔵安定性を改善する。
【0023】
1つの態様において、電気化学エネルギー貯蔵デバイス電解液は、a)非プロトン性有機溶媒系;b)金属塩;c)環状スルホン有機化合物材料添加剤、およびd)少なくとも1つの追加の添加剤を含む。
【0024】
本開示の1つの局面において、環状スルホン有機化合物添加剤の分子構造を以下に示す:
式中、
R3は、電子吸引基、または少なくとも1つの水素が電子吸引基で置換されているC1~C12直鎖もしくは分枝アルキル基であり;かつ
R1、R2、R4、R5はそれぞれ独立に水素、置換もしくは無置換のC1~C12直鎖もしくは分枝アルキルおよびフルオロアルキル基、またはC6~C14アリール基であり、ここで水素原子は置換されていなくてもよく、またはハロゲン、アルキル、アルコキシ、パーフルオロ化アルキル、シリル、シロキシ、シラン、スルホキシド、アミド、アゾ、エーテル、およびチオエーテル基もしくはこれらの組み合わせであり得る。
【0025】
電子吸引基の例には、限定されないが、ハロゲン、シアノ、カルボニル、スルホニル、ニトロ、またはハロアルキル基が含まれる。
【0026】
本開示の分子の具体例を以下に示す:
4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(フェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(4-フルオロフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2-フェニル-6-(4-メチルフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(4-トリフルオロメチルフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン;4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(2-チエニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン。
これらの例は単なる例示であり、本開示または添付の特許請求の範囲を限定する意図はない。
【0027】
環状スルホン有機化合物をLiイオン電池系に添加することにより、SEI形成中の分子の環重合が可能になる。この反応は、通常のLiイオン電池添加剤に比べて、低電圧で起こる。分子中の置換基電子吸引基はまた正極材料中の遷移金属と配位して、そうでなければ正極材料と接触して起こる電解液要素の残りのさらなる酸化的分解を抑制する。
【0028】
本開示は、環状スルホン有機化合物の合成法、およびリチウムイオン電池電解液中でのそのような分子の使用も含む。これらの分子は、負極上に安定なSEIフィルムを形成し、動作する電位が高いほど正極に大きな安定性を与える。
【0029】
本開示の1つの局面において、電解液は、10重量%~30重量%の範囲のリチウム塩をさらに含む。例えば、Li(AsF6);Li(PF6);Li(CF3CO2);Li(C2F5CO2);Li(CF3SO3);Li[N(CP3SO2)2];Li[C(CF3SO2)3];Li[N(SO2C2F5)2];Li(ClO4);Li(BF4);Li(PO2F2);Li[PF2(C2O4)2];Li[PF4C2O4];リチウムアルキルフルオロホスフェート;Li[B(C2O4)2];Li[BF2C2O4];Li2[B12Z12-jHj];Li2[B10X10-j'Hj'];またはこれらのうち任意の2つ以上の混合物を含む、様々なリチウム塩を使用してもよく、ここでZは各出現時に独立にハロゲンであり、jは0~12の整数であり、かつj'は1~10の整数である。
【0030】
本開示の1つの局面において、電解液は、鎖状もしくは環状カーボネート、カルボン酸エステル、ニトリット、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、ホスファイト、モノもしくはポリホスファゼンまたはこれらの混合物から選択される非プロトン性有機溶媒系を、60重量%~90重量%の範囲でさらに含む。
【0031】
電解液を生成するための非プロトン性溶媒の例には、限定されないが、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(ペンタフルオロプロピル)カーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルメチルカーボネート、パーフルオロブチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルエチルカーボネート、ペンタフルオロエチルエチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルエチルカーボネート、パーフルオロブチルエチルカーボネート等、フッ素化オリゴマー、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ブチルプロピオネート、ジメトキシエタン、トリグライム、ジメチルビニレンカーボネート、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン、2-エトキシ-2,4,4,6,6-ペンタフルオロ-1,3,5,2-5,4-5,6-5トリアザトリホスフィニン、トリフェニルホスファイト、スルホラン、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルビニルスルホン、アリルメチルスルホン、ジビニルスルホン、フルオロフェニルメチルスルホンおよびガンマブチロラクトンが含まれる。
【0032】
本開示の1つの局面において、電解液は、電極および電解液を劣化から保護するための少なくとも1つの追加の添加剤をさらに含む。したがって、本技術の電解液は、電極の表面上で還元または重合されて電極の表面に不動態皮膜を形成する添加剤を含んでもよい。いくつかの態様において、本技術の電解液は、2種類の添加剤の混合物をさらに含む。
【0033】
1つの態様において、添加剤は、少なくとも1つの酸素原子および少なくとも1つのアリール、アルケニルまたはアルキニル基を含む、置換または無置換の直鎖、分枝、または環状炭化水素である。そのような添加剤から形成される不動態皮膜は、置換アリール化合物または置換もしくは無置換ヘテロアリール化合物からも形成され得、ここで添加剤は少なくとも1つの酸素原子を含む。
【0034】
代表的な添加剤には、グリオキサールビス(ジアリルアセタール)、テトラ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6-トリアリルオキシ-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、1,2-ジビニルフロエート、1,3-ブタジエンカーボネート、1-ビニルアゼチジン-2-オン、1-ビニルアジリジン-2-オン、1-ビニルピペリジン-2-オン、1 ビニルピロリジン-2-オン、2,4-ジビニル-1,3-ジオキサン、2-アミノ-3-ビニルシクロヘキサノン、2-アミノ-3-ビニルシクロプロパノン、2 アミノ-4-ビニルシクロブタノン、2-アミノ-5-ビニルシクロペンタノン、2-アリールオキシシクロプロパノン、2-ビニル-[1,2]オキサゼチジン、2 ビニルアミノシクロヘキサノール、2-ビニルアミノシクロプロパノン、2-ビニルオキセタン、2-ビニルオキシシクロプロパノン、3-(N-ビニルアミノ)シクロヘキサノン、3,5-ジビニルフロエート、3-ビニルアゼチジン-2-オン、3 ビニルアジリジン-2-オン、3-ビニルシクロブタノン、3-ビニルシクロペンタノン、3-ビニルオキサジリジン、3-ビニルオキセタン、3-ビニルピロリジン-2-オン、2-ビニル-1,3-ジオキソラン、アクロレインジエチルアセタール、アクロレインジメチルアセタール、4,4-ジビニル-3-ジオキソラン-2-オン、4-ビニルテトラヒドロピラン、5-ビニルピペリジン-3-オン、アリルグリシジルエーテル、ブタジエンモノオキシド、ブチルビニルエーテル、ジヒドロピラン-3-オン、ジビニルブチルカーボネート、ジビニルカーボネート、ジビニルクロトネート、ジビニルエーテル、ジビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンシリケート、ジビニルエチレンスルフェート、ジビニルエチレンスルファイト、ジビニルメトキシピラジン、ジビニルメチルホスフェート、ジビニルプロピレンカーボネート、エチルホスフェート、メトキシ-o-ターフェニル、メチルホスフェート、オキセタン-2-イルビニルアミン、オキシラニルビニルアミン、ビニルカーボネート、ビニルクロトネート、ビニルシクロペンタノン、ビニルエチル-2-フロエート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチレンシリケート、ビニルエチレンスルフェート、ビニルエチレンスルファイト、ビニルメタクリレート、ビニルホスフェート、ビニル-2-フロエート、ビニルシロプロパノン、ビニルエチレンオキシド、β-ビニル-γ-ブチロラクトン、またはこれらのうち任意の2つ以上の混合物が含まれる。いくつかの態様において、添加剤は、F、アルキルオキシ、アルケニルオキシ、アリールオキシ、メトキシ、アリルオキシ基、スルホン酸基、またはこれらの組み合わせで置換されているシクロトリホスファゼンであってもよい。例えば、添加剤は、(ジビニル)-(メトキシ)(トリフルオロ)シクロトリホスファゼン、(トリビニル)(ジフルオロ)(メトキシ)シクロトリホスファゼン、(ビニル)(メトキシ)(テトラフルオロ)シクロトリホスファゼン、(アリールオキシ)(テトラフルオロ)(メトキシ)シクロトリホスファゼン、(メチルスルホニル)シクロトリホスファゼン、もしくは(ジアリールオキシ)(トリフルオロ)(メトキシ)シクロトリホスファゼン化合物、または、2つ以上のそのような化合物の混合物であってもよい。
【0035】
いくつかの態様において、添加剤は、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物またはこれらの混合物である。いくつかの態様において、添加剤は、ビニルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、または任意の2つ以上のそのような化合物の混合物である。さらに、添加剤は、0.01重量%~10重量%の範囲で存在する。
【0036】
本開示のもう1つの局面において、正極、負極および本明細書に記載のイオン液体を含む電解液を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスを提供する。1つの態様において、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、リチウム二次電池である。いくつかの態様において、二次電池は、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、ナトリウムイオン電池、またはマグネシウム電池である。いくつかの態様において、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、キャパシタなどの電気化学セルである。いくつかの態様において、キャパシタは、非対称キャパシタまたはスーパーキャパシタである。いくつかの態様において、電気化学セルは一次セルである。いくつかの態様において、一次セルは、リチウム/MnO2電池またはLi/ポリ(カーボンモノフルオリド)電池である。
【0037】
1つの態様において、多孔質セパレーターを用いて互いから分離された正極および負極ならびに本明細書に記載の電解液を含む二次電池を提供する。
【0038】
適切な正極には、例えば、限定されないが、リチウム金属酸化物、スピネル、かんらん石、炭素被覆かんらん石、LiCoO2、LiNiO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.3Co0.3Ni0.3O2、LiMn2O4、LiFeO2、LiNixCoyMetzO2、An'B2(XO4)3、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウムカーボンモノフルオリド(LiCFxとしても公知)またはこれらのうち任意の2つ以上の混合物が含まれ、ここでMetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、MnまたはCoであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、CuまたはZnであり;BはTi、V、Cr、FeまたはZrであり;XはP、S、Si、WまたはMoであり;かつここで0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、および0≦z≦0.5および0≦n'≦0.3である。いくつかの態様によれば、スピネルは、Li1+xMn2-zMet'''yO4-mX'nの式を有するスピネルマンガン酸化物であり、ここでMet'''はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、NiまたはCoであり;X'はSまたはFであり;かつここで0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5および0≦n≦0.5である。他の態様において、かんらん石は、LiFePO4、またはLi1+xFe1zMet''yPO4-mX'nの式を有し、ここでMet''はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、MnまたはCoであり;X'はSまたはFであり;かつここで0≦x≦0.3、00≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5および0≦n≦0.5である。
【0039】
適切な負極には、例えば、リチウム金属、黒鉛材料、無定形炭素、カーボンナノチューブ、Li4Ti5O12、スズ合金、ケイ素、ケイ素合金、金属間化合物、または任意の2つ以上のそのような材料の混合物が含まれる。適切な黒鉛材料には、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)および黒鉛繊維、ならびに任意の無定形炭素材料が含まれる。いくつかの態様において、負極および正極電極は多孔質セパレーターによって互いから分離されている。
【0040】
リチウム電池用セパレーターは、微多孔質ポリマーフィルムであることが多い。フィルムを形成するためのポリマーの例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブテン、または任意の2つ以上のそのようなポリマーのコポリマーもしくは混合物が含まれる。いくつかの例において、セパレーターは、電子ビーム処理した微多孔質ポリオレフィンセパレーターである。電子処理は、セパレーターの変形温度を上昇させることができ、したがって高温での熱安定性を高めることができる。加えて、または代わりに、セパレーターはシャットダウンセパレーターであり得る。シャットダウンセパレーターは、電気化学セルが約130℃までの温度で動作することを可能にするために、約130℃を超えるトリガー温度を有し得る。
【0041】
本開示を、以下の具体的な実施例を参照してさらに例示する。これらの実施例は例示のために示すものであって、本開示または添付の特許請求の範囲を限定する意図はないことが理解される。
【実施例
【0042】
実施例1 4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(フェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン
段階A:マイケル付加
磁気撹拌子および熱電対を備えた250mLの三頚フラスコに、脱イオン(DI)水(50mL)中のリン酸二カリウムの溶液を、イソプロピルアルコール(IPA)(50mL)中のジベンザルアセトンの部分溶解溶液に加えた。室温で撹拌しながら、水硫化ナトリウム水和物をゆっくり加え、発熱は観察されなかった。混合物を60℃で2時間加熱し、次いで室温で2時間撹拌した。混合物は完全に溶解し、次いで急速に固体白色pptが析出した。100%ジクロロメタン(DCM)中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりもわずかに高いRfに1つの新しいスポットが見られた。固体を減圧ろ過により回収し、パッドをIPA(2×10mL)で洗浄した。固体を風乾し、それ以上精製せずに使用した。収量:白色固体、11.0g(96%)。FTIR:1702、1245、694、498cm-1
【0043】
段階B:スルフィドのスルホンへの酸化
磁気撹拌子および熱電対を備えた250mLのアーレンマイヤーフラスコに、(段階A)生成物、およびDCM(50mL)を加えた。室温で撹拌しながら、過酢酸を滴加し、45℃までの発熱が観察された。発熱は添加終了に向けてはるかに緩和になった。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりも低いRfに2つの新しいスポットが見られた。混合物を室温で1時間撹拌した。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM(2×50mL)中に抽出し、5%NaOH(20mL)で洗浄し、分離し、食塩水(30mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して固体を得た。収量:淡白色固体、12.3g(>99%)。
【0044】
段階C:スルホンジエノンへの脱水素
(段階B)生成物を含む250mLのRBフラスコに、磁気撹拌子および熱電対を設置した。DMSO(30mL)、ヨウ素および硫酸を加え、混合物を90℃で2時間加熱した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりも高いRfに1つの黄色スポットが見られた。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM(2×50mL)中に抽出し、分離し、MgSO4で乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して固体を得た。固体をIPA(30mL)中でスラリー化し、減圧ろ過により回収した。収量:黄色固体、8.5g(70%)。FTIR:1644、1294、1131、768、693、531、518cm-1
【0045】
段階D:ジシアノメチレンの付加
磁気撹拌子、水冷式冷却器、N2流入口および熱電対を備えた250mLの三頚フラスコに、(段階C)生成物、エタノール(50mL)およびマロノニトリルを加えた。室温で撹拌しながら、ピペリジンをピペットでゆっくり加え、30℃までの発熱が観察された。混合物は血赤色に変わり、60℃で1時間加熱した。混合物はゆっくり溶液になり、反応から生成物が沈殿した。混合物を室温で1時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、スルホンジエノンよりもわずかに高いRfに1つの新しい明るい黄色蛍光スポットが見られた。固体を減圧ろ過により回収し、試薬アルコール(2×10mL)で洗浄した。固体を沸騰試薬アルコール(80mL)および酢酸エチル(2mL)から再結晶した。固体を減圧ろ過により回収し、減圧乾燥器(5mbar、60℃)で乾燥した。収量:淡黄色固体、7.0g(71%)。
FTIR:2223、1304、1131、759、681、536cm-1;mp:218~222℃。
【0046】
実施例2 4H-1,1-ジオキソ-2-フェニル-6-(4-メチルフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン
段階A:アルドール縮合
磁気撹拌子を備えた125mLのアーレンマイヤーフラスコに、p-トルアルデヒド、試薬アルコール(30mL)およびトランス-4-フェニル-3-ブテン-2-オンを加えた。室温で撹拌しながら、NaOH水溶液10%(1.5mL)をピペットで加えた。黄色混合物は速やかに濃くなり、DI水を混濁懸濁液が生じるまで滴加した。10分後、明るい黄色結晶pptが生じ、混合物を室温で2時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、1つの新しい薄い黄色スポットが見られ、副生成物または未反応の反応物は見られなかった。固体を減圧ろ過により回収し、試薬アルコール(2×10mL)で洗浄した。収量:明るい黄色固体、6.3g(74%)。FTIR:1618、1584、1336、1095、987、807、689cm-1
【0047】
段階B:マイケル付加
磁気撹拌子、水冷式冷却器、N2バブラーベント(bubbler vent)、ガス流入チューブ(表面下)および熱電対を備えた250mLの三頚フラスコに、(段階A)生成物、試薬アルコール(30mL)および酢酸ナトリウムを加えた。60℃で撹拌しながら、硫化水素ガスを反応混合物中にゆっくり通気した。固体は速やかに溶解し、混合物を2時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発ジエノンよりも高いRfに1つの新しいスポットが見られ、副生成物または未反応の反応物は見られなかった。反応溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して黄色粘着性固体を得た。固体をIPA(30mL)中に分散させ、淡黄色固体を減圧ろ過により回収した。母液は速やかに固化し、ヘキサン(40mL)中に分散させ、淡白色固体を減圧ろ過により回収した。収量:淡白色固体。
【0048】
段階C:スルフィドのスルホンへの酸化
磁気撹拌子および熱電対を備えた250mLのアーレンマイヤーフラスコに、(段階B)生成物、酢酸ナトリウムおよびDCM(60mL)を加えた。フラスコを氷水浴に入れた。5℃で撹拌しながら、過酢酸を滴加し、15℃までの最大発熱が観察された。氷はゆっくり融解し、混合物を室温で18時間撹拌し続けた。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発スルフィドよりも低いRfに2つの新しいスポットが見られた。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM中に抽出し、分離し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して油状物を得た。油状物を高減圧下で排気し、ヘキサン中でスラリー化した。固体を減圧ろ過により回収し、風乾した。収量:淡白色固体、6.4g(60%)。
【0049】
段階D:スルホンジエノンへの脱水素
(段階C)生成物を含む250mLのRBフラスコに、DMSO(20mL)、磁気撹拌子および熱電対を設置した。ヨウ素結晶(触媒)および硫酸(触媒)を加え、混合物は速やかに暗黄色に変わった。混合物を90℃で2時間加熱した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発スルホンよりも高いRfに1つの淡黄色スポットが見られた。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加え、DCM(4×30mL)から抽出し、分離し、MgSO4で乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して油状物を得た。収量:暗褐色油状物、6.3g(>99%)。試薬アルコールを加え、結晶固体が生じ、減圧ろ過により回収した。収量:明るい黄色固体、4.3g(68%)。FTIR:1641、1303、1129、900、814、764、671、521cm-1
【0050】
段階E:ジシアノメチレンの付加
磁気撹拌子、水冷式冷却器、N2流入口および熱電対を備えた100mLの三頚フラスコに、(段階D)生成物、試薬アルコール(30mL)およびマロノニトリルを加えた。室温で撹拌しながら、ピペリジンをピペットで加えた。混合物は血赤色に変わり、ゆっくり溶解した。混合物を60℃で2時間加熱し、固体pptが生じた。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発スルホンジエノンよりもわずかに高いRFに1つの新しい明るい黄色蛍光スポットが見られた。混合物を室温まで冷却し、固体を減圧ろ過により回収し、試薬アルコール(2×5mL)で洗浄した。粗収量:黄色固体、3.0g(60%)。固体を沸騰試薬アルコール(80mL)および酢酸エチル(2mL)から熱スラリー化した。固体を冷却し、減圧ろ過により冷却回収し、減圧乾燥器(5mbar、60℃)で乾燥した。収量:淡黄色固体、3.0g(60%)。
FTIR:2224、1558、1302、1130、817、764、574、495cm-1;mp:189~191℃。
【0051】
実施例3 4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(4-フルオロフェニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン
段階A:アルドール縮合
磁気撹拌子を備えた125mLのアーレンマイヤーフラスコに、試薬アルコール(30mL)、4-フルオロベンズアルデヒドおよびアセトンを加えた。室温で撹拌しながら、NaOH水溶液10%(1.5mL)をピペットで加えた。無色混合物は速やかに濃くなり、DI水を混濁懸濁液が生じるまで滴加した。10分後、黄色結晶pptが生じ、混合物を室温で4時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、1つの新しい薄い黄色スポットが見られ、副生成物または未反応の反応物は見られなかった。固体を減圧ろ過により回収し、試薬アルコール(5mL)で洗浄した。収量:明るい黄色固体、8.0g(89%)。
【0052】
段階B:マイケル付加
磁気撹拌子、水冷式冷却器、N2バブラーベント、ガス流入チューブ(表面下)および熱電対を備えた250mLの三頚フラスコに、(段階A)生成物、試薬アルコール(30mL)、DMF(1mL)および酢酸ナトリウムを加えた。60℃で撹拌しながら、硫化水素ガスを反応混合物中にゆっくり通気した。固体は速やかに溶解し、混合物を4時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発ジエノンよりも高いRfに1つの新しいスポットおよび所望の生成物よりも高いRfに不明の不純物が見られたが、他の副生成物または未反応の反応物は見られなかった。混合物を室温まで冷却し、DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM(3×20mL)中に抽出し、分離し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、それ以上精製せず、理論収率を想定して、次の段階で用いた。
【0053】
段階C:スルフィドのスルホンへの酸化
磁気撹拌子および熱電対を備えた250mLのアーレンマイヤーフラスコに、DCM(60mL)中の(段階B)生成物および酢酸ナトリウムを加えた。室温で撹拌しながら、過酢酸を滴加し、40℃までの最大発熱が観察された。発熱は添加終了に向けてはるかに緩和になった。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりも低いRfに2つの新しいスポットが見られた。混合物を室温で1時間撹拌した。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM中に抽出し、10%NaOH(80mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して固体を得た。収量:淡黄色固体、9.0g(91%)。
【0054】
段階D:スルホンジエノンへの脱水素
(段階C)生成物を含む250mLのRBフラスコに、DMSO(30mL)および磁気撹拌子を設置した。ヨウ素結晶(触媒)および硫酸(触媒)を加え、無色混合物は速やかに暗黄色に変わった。混合物を60℃で2時間加熱した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりも高いRfに1つの淡黄色スポットが見られた。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加え、DCM(4×30mL)から抽出し、10%NaOH(2mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して油状物を得た。試薬アルコール(20mL)を加え、結晶固体が生じ、減圧ろ過により回収した。収量:明るい黄色固体、4.1g(46%)。FTIR:1644、1584、1504、1230、830、507cm-1
【0055】
段階E:ジシアノメチレンの付加
磁気撹拌子、水冷式冷却器、N2流入口および熱電対を備えた100mLの三頚フラスコに、(段階D)生成物、試薬アルコール(30mL)およびマロノニトリルを加えた。
室温で撹拌しながら、ピペリジンをピペットでゆっくり加え、発熱は観察されなかった。混合物は血赤色に変わり、60℃で2時間加熱した。反応溶液から暗橙色懸濁液が速やかに沈殿した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、スルホンジエノンよりもわずかに低いRfに1つの新しい薄い黄色スポットが見られた。混合物を冷却し、室温で1時間撹拌した。固体を減圧ろ過により回収し、試薬アルコール(2×5mL)で洗浄し、減圧乾燥器(5mbar、60℃)で乾燥した。収量:濃橙色固体、4.0g(85%)。固体を沸騰試薬アルコール(30mL)から熱スラリー化し、冷却し、減圧ろ過により冷却回収し、減圧乾燥器(5mbar、60℃)で乾燥した。収量:濃橙色固体、2.4g(51%)。FTIR:2223、1597、1504、1301、1226、1134、835cm-1;mp:216~218℃。
【0056】
実施例4 4H-1,1-ジオキソ-2,6-ジ(2-チエニル)-4-(ジシアノメチリデン)チオピラン
段階A:アルドール縮合
磁気撹拌子を備えた125mLのアーレンマイヤーフラスコに、2-チオフェンカルボキシアルデヒド、試薬アルコール(30mL)およびアセトンを加えた。室温で撹拌しながら、NaOH水溶液10%(4mL)をピペットで加えた。緩和な発熱が観察され、混合物は速やかに暗黄色に変わった。30分後、明るい黄色結晶pptが生じ、混合物を室温で2時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発アルデヒドよりもわずかに低いRfに1つの新しい黄色スポットが見られた。固体を減圧ろ過により回収し、試薬アルコール(2×5mL)で洗浄した。収量:黄色固体、12.0g(94%)。FTIR:1601、1560、966、726、563cm-1
【0057】
段階B:マイケル付加
磁気撹拌子および熱電対を備えた250mLの三頚フラスコに、DI水(50mL)中のリン酸二カリウムの溶液を、試薬アルコール(50mL)中の(段階A)生成物の部分溶解溶液に加えた。室温で撹拌しながら、水硫化ナトリウム水和物をゆっくり一度で加え、発熱は観察されなかった。混合物を60℃で2時間加熱し、固体は完全に溶解した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発ジエノンよりも高いRfに1つの新しいスポットが見られた。混合物を室温までゆっくり冷却し、1時間撹拌した。
DI水(150mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM(60mL)中に抽出し、分離し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して粘着性固体を得た。固体を風乾し、それ以上精製せずに用いた。収量:黄色固体、14.0g(>99%)。
【0058】
段階C:スルフィドのスルホンへの酸化
磁気撹拌子および熱電対を備えた250mLのアーレンマイヤーフラスコに、(段階B)生成物、およびDCM(60mL)を加えた。室温で撹拌しながら、過酢酸を滴加し、40℃までの発熱が観察された。発熱は添加終了に向けてはるかに緩和になった。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりも低いRfに2つの新しいスポットが見られた。混合物を室温で1時間撹拌した。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM(2×50mL)中に抽出し、5%NaOH(20mL)で洗浄し、分離し、食塩水(30mL)で洗浄し、分離し、MgSO4で乾燥し、ろ過し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して固体を得た。収量:帯赤黄色固体、15.3g(>99%)。
【0059】
段階D:スルホンジエノンへの脱水素
(段階C)生成物を含む250mLのRBフラスコに、磁気撹拌子および熱電対を設置した。DMSO(40mL)、ヨウ素および硫酸を加え、混合物を70℃で2時間加熱した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、出発化合物よりも高いRfに1つの黄色スポットが見られた。DI水(100mL)を加え、混合物を分液漏斗に加えた。有機相をDCM(2×50mL)中に抽出し、分離し、MgSO4で乾燥し、溶媒をロータリーエバポレーションにより除去して暗褐色固体を得た。固体を酢酸エチル/試薬アルコール(60mL)中で熱スラリー化し、減圧ろ過により回収した。収量:帯赤黄色固体、13.0g(86%)。FTIR:1629、1565、1299、713、520cm-1
【0060】
段階E:ジシアノメチレンの付加
磁気撹拌子、水冷式冷却器、N2流入口および熱電対を備えた100mLの三頚フラスコに、(段階D)生成物、試薬アルコール(60mL)およびマロノニトリルを加えた。室温で撹拌しながら、ピペリジンをピペットでゆっくり加え、30℃までの発熱が観察された。混合物は血赤色に変わり、60℃で1時間加熱した。混合物はゆっくり溶液となり、反応から生成物が沈殿した。混合物を室温で1時間撹拌した。100%DCM中のシリカゲルのTLCにより、スルホンジエノンよりもわずかに高いRfに1つの新しい明るい黄色蛍光スポットが見られた。固体を減圧ろ過により回収し、沸騰試薬アルコールおよび酢酸エチルから再結晶した。固体を減圧ろ過により回収し、減圧乾燥器(5mbar、60℃)で乾燥した。収量:帯赤橙色固体、1.5g(10%)。FTIR:2218、1613、1551、1311、716、545cm-1;mp:274~277℃。
【0061】
実施例5 NMC811/Grセルのための電解液調合物
電解液調合物を、乾燥アルゴン充填グローブボックス内で、ガラスバイアル中にすべての電解液要素を混合し、24時間撹拌して全ての固体を確実に完全に溶解することにより調製した。環状スルホン添加剤材料を、エチレンカーボネート「EC」、エチルメチルカーボネート「EMC」の体積比3:7の混合物、およびその中に溶解したLi+イオン伝導塩としての1Mリチウムヘキサフルオロホスフェート「LiPF6」を含む、基本電解液調合物に加える。ビニレンカーボネート「VC」を標準負極SEI形成添加剤として使用し、1,3-プロパンスルトン「PaS」を比較例として使用する。電解液調合物を表Aに示す。
【0062】
(表A)NMC811/Grセルで使用する電解液調合物
【0063】
実施例6 NMC811/Grセルの電気化学セルデータ
調製した電解液調合物を、NMC811正極活物質および負極活物質としての黒鉛を含む、1.8Ah Liイオンパウチセルにおいて電解液として使用する。セル動作電圧窓は4.2~2.8Vである。各セルに、6gの電解液を添加し、セル中に1時間浸漬させた。セルを減圧密封し、室温で24時間静置した。次いで、セルをC/50レートで3.7Vまで充電した後脱気し、続いて減圧密封した。脱気後、セルをC/10レートで4.2~2.8Vの間で2回充放電し、結果の概要を表Bに示す。報告した形成放電容量はC/5レートでの形成の最後のサイクルのものであり、AC-IRは、1kHzの周波数で測定した内部抵抗である。0.5重量%の環状スルホンの添加はNMC811-GrセルのAC-IRを低減させることが明らかである。しかし、図1のdQ/dVプロファイルは、比較例と比べて、負極表面上の特有のSEI層を示している。EE1のdQ/dVプロファイルは0.8Vに反応ピークを示し、これは他の電解液のセルには存在しない。
【0064】
(表B)NMC811/Grセルの初期セルデータ
次いで、セルを高温貯蔵試験にかけた。セルを4.2Vで100%充電状態まで充電し、60℃に設定した環境室に置いた。2週間に1回、セルのAC-IR、厚さ、および容量回復を測定した。結果の概要を表Cに示す。表Cに見られるとおり、すべてのセルで内部抵抗の増大、ガス発生によるいくらかの膨張、および容量損失が見られた。しかし、具体例EE1は、AC-IRの増大が最も低く、セル厚増大はCE1よりも有意に低い。
【0065】
(表C)NMC811/Grセルにおける貯蔵データ
図2は、充放電のための1Cレートでのサイクル中の45℃での1.8Ah NMC811/Grセルのサイクル寿命特性を示す。ここで、環状スルホン添加剤の添加は、NMC811/Grセルのサイクル性を低下させないことが明らかである。300サイクル後の容量保持は、CE1およびCE2に比べてEE1のセルの方が高い。このデータの概要を表Dに示す。
【0066】
(表D)NMC811/Grセルの300サイクル後のデータ
【0067】
実施例7 LCO/Grセルのための電解液調合物
電解液調合物を、乾燥アルゴン充填グローブボックス内で、ガラスバイアル中にすべての電解液要素を混合し、24時間撹拌して全ての固体を確実に完全に溶解することにより調製した。環状スルホン添加剤材料を、エチレンカーボネート「EC」、エチルメチルカーボネート「EMC」の体積比3:7の混合物、およびその中に溶解したLi+イオン伝導塩としての1Mリチウムヘキサフルオロホスフェート「LiPF6」を含む、基本電解液調合物に加える。ビニレンカーボネート「VC」、1,3 プロパンスルトン「PaS」および1,3,6 ヘキサントリカルボニトリル「HTCN」を比較例における負極および正極添加剤として使用する。電解液調合物を表Eに示す。
【0068】
(表E)LCO/Grセルで使用する電解液調合物
【0069】
実施例8 LCO/Grセルの電気化学セルデータ
調製した電解液調合物を、コバルト酸リチウム(LCO)正極活物質および負極活物質としての黒鉛を含む、200mAh Liイオンパウチセルにおいて電解液として使用する。各セルに、0.9mLの電解液調合物を添加し、セル中に1時間浸漬させた。セルを減圧密封し、湿潤前に25℃で15時間一次充填した。次いで、セルをC/25レートで3.8Vまで充電した後脱気し、続いて減圧密封した。脱気後、セルをC/10レートで4.45~3.0Vの間で2回充放電し、結果の概要を表Eに示す。報告した放電容量はC/5レートでの形成の最後のサイクルのものであり、AC-IRは、1kHzの周波数で測定した内部抵抗である。0.5重量%の環状スルホン添加剤の添加により、初期セルデータは、表Fに示すとおり、比較例と非常に類似している。しかし、図3のdQ/dVプロファイルにおいて、本開示の環状スルホン添加剤により1.2Vで早期の反応が見られる。
【0070】
(表F)LCO/Grセルの初期セルデータ
【0071】
次いで、セルを高温貯蔵試験にかけた。セルを4.2Vで100%充電状態まで充電し、60℃に設定した環境室に置いた。2週間に1回、セルのAC-IR、厚さ、および容量回復を測定した。結果の概要を表Gに示す。ここで、0.5重量%の環状スルホン添加剤を使用するだけで、ガス発生の劇的な低減が見られる。EE2の厚さの値は、CE3およびCE4に比べて有意に低く、したがって環状スルホン添加剤の利点を証明するものである。
【0072】
(表G)LCO/Grセルにおける貯蔵データ
【0073】
図4のデータで見られるとおり、EE2のセルは比較例のセルに比べて安定なサイクル寿命特性を示す。すべての電解液でセルの容量保持値は、150サイクル後に>95%である。これは、環状スルホンはLiイオン電池の室温性能に悪影響をおよぼさないことを証明するものである。
【0074】
実施例9 NMC811/SiOxセルのための電解液
環状スルホン添加剤を、エチレンカーボネート「EC」およびエチルメチルカーボネート「EMC」の重量比3:7の混合物、ならびにその中に溶解したLi+イオン伝導塩としての1Mリチウムヘキサフルオロホスフェート「LiPF6」を含む、基本電解液調合物に加える。比較例5(CE5)はビニレンカーボネート「VC」、フルオロエチレンカーボネート、およびリチウムジフルオロホスフェート「LiPO2F2」を含む基本調合物からなる。具体例3(EE3)は、FECおよびLiPO2F2に加えて本開示の代表例分子を使用する。使用する電解液要素および添加剤の概要を表Hに示す。
【0075】
(表H)NMC811/SiOxセルのための電解液調合物
【0076】
実施例10 NMC811/SiOxセルの電気化学セルデータ
調製した電解液調合物を、NMC811正極活物質および負極活物質としての人造黒鉛および酸化ケイ素の9:1混合物を含む、1.8Ah Liイオンパウチセルにおいて電解液として使用する。セル動作電圧窓は4.2~2.8Vである。各セルに、6gの電解液を添加し、セル中に1時間浸漬させた。セルを減圧密封し、室温で24時間静置した。次いでセルをC/25レートで3.7Vまで充電した後脱気し、続いて減圧密封した。脱気後、セルをC/10レートで4.2~2.8Vの間で2回充放電し、次いで25℃、1Cレートで4.2~2.8Vの間で400回充放電した。図5は、充放電のための1Cレートでのサイクル中の25℃での1.8Ah NMC811/SiOxセルのサイクル寿命特性を示す。ここで、環状スルホン添加剤の添加は、比較例に比べて、NMC811/SiOxセルのサイクル性を大きく改善することが明らかである。400サイクル後の容量保持は、CE5に比べてEE3のセルの方が高い。このデータの概要を表Iに示す。
【0077】
(表I)NMC811/SiOxセルにおける400サイクル後のデータ
【0078】
実施例11 NMC811/Grセルのための電解液
環状スルホン添加剤を、エチレンカーボネート「EC」およびエチルメチルカーボネート「EMC」の重量比3:7の混合物、ならびにその中に溶解したLi+イオン伝導塩としての1Mリチウムヘキサフルオロホスフェート「LiPF6」を含む、基本電解液調合物に加える。比較例101(CE101)はビニレンカーボネート「VC」を含む基本調合物からなり、比較例102(CE102)は1,3-プロパンスルトン「PaS」をVCと共に有する。具体例101、102および103(EE101、EE102およびEE103)は、VCに加えて本開示の代表例分子を使用する。電解液要素および添加剤の概要を表Jに示す。
【0079】
(表J)NMC811/Grセルのための電解液調合物
【0080】
実施例12 NMC811/Grセルの電気化学セルデータ
調製した調合物を、NMC811正極活物質および負極活物質としての黒鉛を含む、5.0Ah Liイオンパウチセルにおいて電解液として使用する。セル動作電圧窓は4.2~2.8Vである。各セルに、15gの電解液を添加し、セル中に1時間浸漬させた。密封後、セルをC/25レートで3.7Vまで充電した後脱気し、続いて減圧密封した。脱気後、セルをC/10レートで4.2~2.8Vの間で2回充放電し、次いで25℃、0.5Cレートで4.2~2.8Vの間で600回充放電するか、または高温貯蔵試験にかけた。図6は、充放電のための0.5Cレートでのサイクル中の45℃での5.0Ah NMC811/Grセルのサイクル寿命特性を示す。具体例のセルの容量保持はCE101およびCE102のセルと同等であり、600サイクル後の保持は約75%である。高温貯蔵試験にかけたセルを4.2Vで100%充電状態まで充電し、60℃に設定した環境室に置いた。2週間に1回、セルのAC-IR、厚さ、および容量回復を測定した。結果の概要を表Kに示す。表Kに見られるとおり、すべてのセルで内部抵抗の増大、ガス発生によるいくらかの膨張、および容量損失が見られた。しかし、具体例は、AC-IRの増大が低く、セル厚の増大はCE101よりも有意に低い。
【0081】
(表K)5.0Ah NMC811/Grセルの貯蔵データ
【0082】
本明細書において様々な態様を詳細に示し、説明してきたが、当業者であれば様々な改変、追加、置換などを本開示の精神から逸脱することなくなし得ることは明らかであり、したがって、これらは、添付の特許請求の範囲において定義される本開示の範囲内にあると考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】