(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-20
(54)【発明の名称】抗クローディン18.2および抗CD3二重特異性抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231013BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231013BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231013BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231013BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231013BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231013BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231013BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231013BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231013BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231013BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231013BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231013BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231013BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231013BHJP
A61K 38/19 20060101ALI20231013BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231013BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20231013BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N15/62 Z
C07K16/28
C07K16/46
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K45/00
A61P43/00 105
A61P37/04
A61K38/19
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P1/00
A61P1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519492
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(85)【翻訳文提出日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 CN2021121286
(87)【国際公開番号】W WO2022068810
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】202011054428.6
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523353465
【氏名又は名称】イノベント バイオロジクス(シンガポール)プライベート リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】チョウ ショアイシアン
(72)【発明者】
【氏名】コアン チョー
(72)【発明者】
【氏名】ウー ウェイウェイ
(72)【発明者】
【氏名】カオ ヤーロン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B065AA01X
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4B065BA02
4B065CA44
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4C084ZB21
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA13
4C085AA14
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4C085EE03
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、クローディン18.2およびCD3に特異的に結合する新規な二重特異性抗体および抗体断片、ならびにその抗体または抗体断片を含む組成物に関する。また、本発明は、抗体またはその抗体断片をコードする核酸、その核酸を含む宿主細胞、および関連する使用に関する。さらに、本発明は、これらの抗体および抗体断片の治療的使用および診断的使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の抗原結合ドメインおよび第2の結合ドメインを含み、前記第1の抗原結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、前記第2の抗原結合ドメインはCD3に特異的に結合し、前記第1の抗原結合ドメインは、配列番号4に示されるA1-VHに含まれる3つの相補性決定領域A1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3、ならびに配列番号9に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域A1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3を含み、前記第2の抗原結合ドメインは、配列番号30、22または32に示されるA2-VHに含まれる3つの相補性決定領域A2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに配列番号27に示されるA2-VLに含まれる3つの相補性決定領域A2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3を含む、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記第1の抗原結合ドメインは、以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号1、2および3にそれぞれ示されるA1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号6、7および8にそれぞれ示されるA1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1- LCDR 3を含み、かつ
前記第2の抗原結合ドメインは、
(i)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、20および29にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、あるいは、
(ii)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、20および21にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、あるいは、
(iii)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、31および21にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、
請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記第1の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域は、
(i)配列番号4から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号4から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号4から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、かつ/あるいは
前記軽鎖可変領域は、
(i)配列番号9から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号9から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号9から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、
請求項1または2に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域は、
(i)配列番号30、22および32から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号30、22および32から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号30、22および32から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、かつ/あるいは
前記軽鎖可変領域は、
(i)配列番号27から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、
請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
IgG様構造を有する二重特異性抗体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体の前記重鎖定常領域は、IgG1またはIgG2またはIgG3またはIgG4由来であり、好ましくはIgG1由来である、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
2つの重鎖定常領域を含み、一方の重鎖定常領域A1-HCは前記第1の抗原ドメインの前記重鎖可変領域A1-VHと連結されて、CLDN18.2に結合する重鎖の部分を形成し、他方の重鎖定常領域A2-HCは、前記第2の抗原結合ドメインの前記重鎖可変領域A2-VHと連結されて、CD3に結合する重鎖の部分を形成し、かつ2つの軽鎖定常領域を含み、一方の軽鎖定常領域A1-LCは前記第1の抗原ドメインの前記軽鎖可変領域A1-VLと連結されて、CLDN18.2に結合する軽鎖の部分を形成し、他方の軽鎖定常領域A2-LCは、前記第2の抗原結合ドメインの前記軽鎖可変領域A2-VLと連結されて、CD3に結合する軽鎖の部分を形成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
A1-HCはA2-HCと同じでも異なってもよく、かつ/あるいはA1-LCはA2-LCと同じでも異なってもよい、請求項8に記載の抗体。
【請求項10】
CLDN18.2に結合する前記部分のA1-VHおよびA1-VLは完全ヒト型であり、CD3に結合する前記部分のA2-VHおよびA2-VLはヒト化型である、請求項8に記載の抗体。
【請求項11】
CLDN18.2に結合する前記重鎖の前記部分は、
(i)配列番号37から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号37から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号37から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、かつ/あるいは
CLDN18.2に結合する前記軽鎖の前記部分は、
(i)配列番号38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号38から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号38から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、請求項8に記載の抗体。
【請求項12】
CD3に結合する前記重鎖の前記部分は、
(i)配列番号41、39または42から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号41、39または42から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号41、39または42から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、かつ/あるいは
CD3に結合する前記軽鎖の前記部分は、
(i)配列番号40から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号40から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号40から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、請求項8または11に記載の抗体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖可変領域もしくは重鎖可変領域、または軽鎖もしくは重鎖をコードする単離された核酸。
【請求項14】
好ましくは発現ベクターである、請求項13の核酸を含むベクター。
【請求項15】
請求項13に記載の核酸または請求項14に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は原核細胞または真核細胞であり、より好ましくは、酵母細胞、哺乳動物細胞(293細胞またはCHO細胞、たとえばCHO-S細胞またはHEK293細胞など)、および抗体またはその抗原結合断片の調製に適した他の細胞から選択される、宿主細胞。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体をコードする核酸を発現させるのに適した条件で請求項15に記載の宿主細胞を培養すること、必要に応じて前記抗体またはその抗原結合断片を分離すること、さらには必要に応じて前記宿主細胞から前記抗体を回収することを含む、CLDN18.2に結合する抗体またはその抗原結合断片を調製する方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合抗体またはその抗原結合断片、必要に応じて化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬、または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)などの1種以上のその他の治療剤、および必要に応じて薬学的に許容される補助物質を含む、医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および必要に応じて化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬、または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)などの1種以上のその他の治療剤を含む、薬学的組合せ。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、または請求項17に記載の医薬組成物、または請求項18に記載の薬学的組合せの有効量を対象に投与することを含む、前記対象の腫瘍を予防あるいは治療する方法。
【請求項20】
前記腫瘍はがんであり、好ましくは、前記がんはCLDN18.2の上昇したレベル(核酸またはタンパク質レベルなど)を有し、たとえば、前記がんは膵臓がんまたは胃がんまたは食道胃接合部がんである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
治療様式および/または他の治療剤などの1つ以上の治療を前記患者に投与することをさらに含み、好ましくは、前記治療様式は放射線療法または手術を含み、あるいは前記治療剤は化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、その他の抗体、小分子薬、または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)を含む、請求項19~20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローディン18.2およびCD3に特異的に結合する二重特異性抗体ならびに前記抗体を含有する組成物に関する。さらに、本発明は、前記抗体をコードする核酸、この核酸を含む宿主細胞、および関連する使用に関する。本発明はさらに、これらの抗体および抗体断片の治療的使用および診断的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クローディンは、細胞の緊密な結合を構成する重要な成分であるタンパク質ファミリーであり、細胞間の分子の流れを制御する細胞間バリアを確立する。このバリアは、細胞間の分子の流れを制御できる。クローディンファミリータンパク質は4つの膜貫通ドメインを持ち、そのN末端およびC末端は細胞質に含まれる。異なる組織では異なるクローディンタンパク質が発現し、その機能変化は様々な組織でのがんの形成に関連する。たとえば、クローディン1は大腸がんで発現し、予後的重要性をもち、クローディン18は胃がんおよび膵臓がんで高発現し、クローディン10は肝細胞がんで高発現する。細胞膜表面タンパク質として、クローディンは様々な治療戦略の有用な標的である。
【0003】
クローディン18アロタイプ2(クローディン18.2またはCLDN18.2)は選択性の高い細胞系統マーカーである。その発現は、正常組織では胃粘膜から分化した上皮細胞に厳密に限定されるが、胃幹細胞では発現しない。CLDN18.2はかなり大部分の原発性胃がんで発現し、胃転移がん組織でもその発現レベルを保持する。胃がんに加え、CLDN18.2の発現は膵臓がんにも見られ、これらのがんを治療するための理想的な標的分子である(Singh, P., Toom, S. & Huang, Y. Anti-CLDN18.2 antibody as new targeted therapy for advanced gastric cancer. J Hematol Oncol 10, 105 (2017). https://doi.org/10.1186/s13045-017-0473-4)。
【0004】
胃がんについて、2014年の中国全土の胃がんの新規患者数は約41万人、死亡者数は約29万人であり、世界の患者数および死亡者数のほぼ半分を占め、依然として増加傾向にある。しかし、未だ対処されていない臨床腫瘍治療上の要求が多数あり、クローディン18.2を標的とする薬物の開発が必要である。
【0005】
CD3は、T細胞受容体(TCR)複合体と結合し、T細胞の活性化に必要とされる、T細胞で発現するホモ二量体またはヘテロ二量体抗原である。機能性CD3は、ε、ζ、δおよびγの4つの異なる鎖のうちの2つの二量体化および会合により形成される。CD3二量体の配置は、γ/ε、δ/εおよびζ/ζを含む。CD3を標的とする抗体はT細胞上のCD3を凝集させ、ペプチドを結合したMHC分子がTCRに関与するのと似た方法でT細胞の活性化を引き起こすことが示されている。したがって、抗CD3抗体は、T細胞活性化を伴う治療目的のために提案されている。さらに、CD3に結合し腫瘍表面抗原を標的とすることができる二重特異性抗体は、腫瘍細胞とT細胞を結合してT細胞を直接活性化し、グランザイム、パーフォリン、およびサイトカインを放出して腫瘍を殺傷することで、腫瘍の阻害という治療目的を達成することが提案されている。CLDN18.2は胃がん、膵臓がん、食道胃接合部がんなどで高発現するため、これを治療目的達成のためにCD3とクローディン18.2を組み合わせた二重特異性抗体の開発に用いることができる。
【発明の概要】
【0006】
側面によっては、本発明は、2つの結合ドメインを含む二重特異性抗体を提供し、第1の結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、第2の結合ドメインはCD3に特異的に結合する。
【0007】
好ましい実施態様では、本発明のCLDN18.2に特異的に結合する第1の結合ドメインは完全ヒト型であり、かつ/あるいは第2の結合ドメインはヒト化型である。
【0008】
側面によっては、本発明の二重特異性抗体はIgG様構造を有する二重特異性抗体である。
一側面では、本発明は以下の実施態様に関する。
【0009】
1.第1の抗原結合ドメインおよび第2の結合ドメインを含み、前記第1の抗原結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、前記第2の抗原結合ドメインはCD3に特異的に結合し、前記第1の抗原結合ドメインは、配列番号4に示されるA1-VHに含まれる3つの相補性決定領域A1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3、ならびに配列番号9に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域A1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3を含み、前記第2の抗原結合ドメインは、配列番号30、22または32に示されるA2-VHに含まれる3つの相補性決定領域A2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに配列番号27に示されるA2-VLに含まれる3つの相補性決定領域A2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3を含む、二重特異性抗体。
【0010】
2.前記第1の抗原結合ドメインは、以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号1、2および3にそれぞれ示されるA1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号6、7および8にそれぞれ示されるA1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1- LCDR3を含み、かつ
前記第2の抗原結合ドメインは、
(i)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、20および29にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、あるいは、
(ii)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、20および21にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、あるいは、
(iii)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、31および21にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2、A2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、
実施態様1に記載の二重特異性抗体。
【0011】
3.前記第1の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域は、
(i)配列番号4から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号4から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号4から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、かつ/あるいは
前記軽鎖可変領域は、
(i)配列番号9から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号9から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号9から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、
実施態様1または2に記載の抗体。
【0012】
4.前記第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域は、
(i)配列番号30、22および32から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号30、22および32から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号30、22および32から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、かつ/あるいは
前記軽鎖可変領域は、
(i)配列番号27から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない、
実施態様1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【0013】
5.重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域をさらに含む、実施態様1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【0014】
6.IgG様構造を有する二重特異性抗体である、実施態様1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【0015】
7.前記抗体の前記重鎖定常領域は、IgG1またはIgG2またはIgG3またはIgG4由来であり、好ましくはIgG1由来である、実施態様1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【0016】
8.2つの重鎖定常領域を含み、一方の重鎖定常領域A1-HCは前記第1の抗原ドメインの前記重鎖可変領域A1-VHと連結されて、CLDN18.2に結合する重鎖の部分を形成し、他方の重鎖定常領域A2-HCは、前記第2の抗原結合ドメインの前記重鎖可変領域A2-VHと連結されて、CD3に結合する重鎖の部分を形成し、かつ2つの軽鎖定常領域を含み、一方の軽鎖定常領域A1-LCは前記第1の抗原ドメインの前記軽鎖可変領域A1-VLと連結されて、CLDN18.2に結合する軽鎖の部分を形成し、他方の軽鎖定常領域A2-LCは、前記第2の抗原結合ドメインの前記軽鎖可変領域A2-VLと連結されて、CD3に結合する軽鎖の部分を形成する、実施態様1~6のいずれか一項に記載の抗体。
【0017】
9.A1-HCはA2-HCと同じでも異なってもよく、かつ/あるいはA1-LCはA2-LCと同じでも異なってもよい、実施態様8に記載の抗体。
【0018】
10.CLDN18.2に結合する前記部分のA1-VHおよびA1-VLは完全ヒト型であり、CD3に結合する前記部分のA2-VHおよびA2-VLはヒト化型である、実施態様8に記載の抗体。
【0019】
11.CLDN18.2に結合する前記重鎖の前記部分は、
(i)配列番号37から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号37から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号37から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、かつ/あるいは
CLDN18.2に結合する前記軽鎖の前記部分は、
(i)配列番号38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号38から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号38から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、実施態様8に記載の抗体。
【0020】
12.CD3に結合する前記重鎖の前記部分は、
(i)配列番号41、39および42から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号41、39および42から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号41、39および42から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、かつ/あるいは
CD3に結合する前記軽鎖の前記部分は、
(i)配列番号40から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号40から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号40から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、実施態様8または11に記載の抗体。
【0021】
13.実施態様1~12のいずれか一項に記載の抗体の軽鎖可変領域もしくは重鎖可変領域、または軽鎖もしくは重鎖をコードする単離された核酸。
【0022】
14.好ましくは発現ベクターである、実施態様13の核酸を含むベクター。
【0023】
15.実施態様13に記載の核酸または実施態様14に記載のベクターを含む宿主細胞であって、好ましくは、前記宿主細胞は原核細胞または真核細胞であり、より好ましくは、酵母細胞、哺乳動物細胞(293細胞またはCHO細胞、たとえばCHO-S細胞またはHEK293細胞など)、および抗体またはその抗原結合断片の調製に適した他の細胞から選択される、宿主細胞。
【0024】
16.実施態様1~12のいずれか一項に記載の抗体をコードする核酸を発現させるのに適した条件で実施態様15に記載の宿主細胞を培養すること、必要に応じて前記抗体またはその抗原結合断片を分離すること、さらには必要に応じて前記宿主細胞から前記抗体を回収することを含む、CLDN18.2に結合する抗体またはその抗原結合断片を調製する方法。
【0025】
17.実施態様1~12のいずれか一項に記載のCLDN18.2結合抗体またはその抗原結合断片、必要に応じて化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬、または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)などの1種以上のその他の治療剤、および必要に応じて薬学的に許容される補助物質を含む、医薬組成物。
【0026】
18.実施態様1~12のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片、および必要に応じて化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬、または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)などの1種以上のその他の治療剤を含む、薬学的組合せ。
【0027】
19.実施態様1~12のいずれか一項に記載の抗体もしくはその抗原結合断片、または実施態様17に記載の医薬組成物、または実施態様18に記載の薬学的組合せの有効量を対象に投与することを含む、前記対象の腫瘍を予防あるいは治療する方法。
【0028】
20.前記腫瘍はがんであり、好ましくは、前記がんはCLDN18.2の上昇したレベル(核酸またはタンパク質レベルなど)を有し、たとえば、前記がんは膵臓がんまたは胃がんまたは食道胃接合部がんである、実施態様19に記載の方法。
【0029】
21.治療様式および/または他の治療剤などの1つ以上の治療を前記患者に投与することをさらに含み、好ましくは、前記治療様式は放射線療法または手術を含み、あるいは前記治療剤は化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、その他の抗体、小分子薬、または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)を含む、実施態様19~20のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】HB37A6抗体が細胞表面のCLDN18.2に特異的に結合することを示す。
【0031】
【
図2】HB37A6抗体が細胞表面のCLDN18.1には特異的に結合しないことを示す。
【0032】
【
図3】胃がん細胞株NUGC-4、胃がん細胞株KATO III-hCLDN18.2および膵臓がん細胞株DAN-G-hCLDN18.2とのHB37A6抗体の結合を示す。
【0033】
【
図4】膵臓がんマウスモデルにおけるHB37A6抗体の抗腫瘍効果を示す。
【0034】
【
図5】胃がんマウスモデルにおけるHB37A6抗体の抗腫瘍効果を示す。
【0035】
【
図6】細胞レベルでのCD3モノクローナル抗体Hzsp34.24、Hzsp34.87およびHzsp34.97の結合親和性を示す。
【0036】
【
図7】CD3抗体Hzsp34.24、Hzsp34.87およびHzsp34.97のT細胞活性化能力を示す。
【0037】
【
図8】実施例で使用された二重特異性抗体の構造図を示す。
【0038】
【
図9】本発明の二重特異性抗体がCLDN18.2陽性胃がん細胞NUGC-4を特異的に死滅させることを示す。
【0039】
【
図10】本発明の二重特異性抗体がCLDN18.2陽性膵臓がん細胞DAN-GCLDN18.2を特異的に死滅させることを示す。
【0040】
【
図11】二重特異性抗体がCLDN18.2陰性細胞に対して非特異的な死滅効果をもたないことを示す。
【0041】
【
図12】NUGC-4中で二重特異性抗体が依存するT細胞により媒介されるサイトカイン放出を示す。
【0042】
【
図13】DAN-G-CLDN18.2中で二重特異性抗体が依存するT細胞により媒介されるサイトカイン放出を示す。
【0043】
【
図14】CLDN18.2発現が依存する二重特異性抗体により媒介されるT細胞活性化を示す。
【0044】
【
図15】インビボでのNUGC-4胃がんのヒト化モデルにおける二重特異性抗体の効力結果を示す。
【0045】
【
図16】インビボでのDAN-G-CLDN18.2膵臓がんのヒト化モデルにおける二重特異性抗体の効力結果を示す。
【0046】
【
図17】マウスにおける二重特異性抗体の薬物動態(PK)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
I.定義
【0048】
以下に本発明を詳細に説明する前に、当然ながら、本発明は本明細書に記載の特定の方法、実験計画および試薬に限定されず、それらは変更してもよい。また、当然ながら、本明細書で使用される用語は、特定の実施態様を説明することのみを目的とし、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。他に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味をもつ。
【0049】
本明細書を説明する目的で以下の定義を使用するが、適切な場合、単数形で使用される用語は複数形を含む場合もあり、逆も同様である。なお、本明細書で使用される用語は特定の実施態様を説明することのみを目的とし、限定を意図するものではない。
【0050】
数値と組み合わせて使用される「約」という用語は、指定の数値より5%小さい下限から指定の数値より5%大きい上限までの範囲の数値を包含することを意図する。
【0051】
本明細書で使用される「および/または」という用語は、複数の選択肢のうちのいずれか、または選択肢のうちの2つ以上を意味する。
【0052】
本明細書で使用される「含む(comprise、include)」という用語は、記載された要素、整数または工程を含むことを意味するが、他のいかなる要素、整数または工程も排除しない。その用語は、「含む」という用語が使用される場合、他に指定がない限り、本明細書に記載の要素、整数または工程の組合せも包含する。たとえば、抗体可変領域が特定の配列を「含む」という場合、その特定の配列で構成される抗体可変領域も包含するものとする。
【0053】
本明細書で使用される「クローディン(CLAUDIN)」または「CLDN」という用語は、細胞間の密着結合構造を決定する最も重要な骨格タンパク質であり、接着結合に関与し、腫瘍細胞の転移および浸潤に重要な役割を果たす。クローディンタンパク質は哺乳類の上皮細胞や内皮細胞に広く分布し、その分布は主に上皮細胞側および基底細胞の原形質膜上である。異なるクローディンタンパク質は異なる組織で独自の特異的発現を有し、クローディン18(CLDN18)遺伝子は3q22.3に位置し、分子量24kDaで、261個のアミノ酸残基を含み、クローディンスーパーファミリーに属し、そのタンパク質構造は2つの細胞外の環および4つの膜貫通領域を含む。ヒトCLDN18すなわちクローディン18タンパク質の2つのサブタイプは、クローディン18.1すなわちCLDN18.1 (UniProt ID: P56856-1)およびクローディン18.2すなわちCLDN18.2 (UniProt ID: P56856-2)である。この2つのタンパク質の一次構造配列では、N末端シグナルペプチドから細胞外ループ1 (Loop 1)構造の何位かまでのアミノ酸残基のみが異なり、特に細胞外ループ1については、CLDN18.1とCLDN18.2は8個のアミノ酸のみの違いである。この2つのCLDN18タンパク質のサブタイプの種および属間での配列相同性も非常に高い。CLDN18.2の細胞外ループ1の配列は、ヒト、マウス、マカクなどの異なる種で完全に一致するが、ヒトとマウスの間ではCLDN18.2タンパク質の相同性は84%であり、このことはCLDN18.2タンパク質の配列が非常に保存的であることを示している(O. Tureci. et al., Gene 481:83-92, 2011)。CLDN18.2またはその多様体およびアロタイプのいずれも、それらを自然に発現する細胞または組織から単離するか、当技術分野でよく知られる技術および/または本明細書に記載の技術を用いて組み換えることができる。一実施態様では、本明細書に記載のCLDN18.2はヒトCLDN18.2である。
【0054】
本明細書で使用される「抗CLDN18.2抗体」、「抗CLDN18.2」、「CLDN18.2抗体」または「CLDN18.2結合抗体」という用語は、十分な親和性をもって(ヒト)CLDN18.2に結合でき、したがって(ヒト)CLDN18.2を標的とする治療剤として使用できる抗体を指す。一実施態様では、(ヒト)CLDN18.2抗体は、インビトロまたはインビボで、(ヒト)CLDN18.2に高親和性で結合する。一実施態様では、(ヒト)CLDN18.2抗体はCLDN18.1に結合しない。一実施態様では、(ヒト)CLDN18.2抗体はCLDN18.2発現細胞に結合するが、CLDN18.1発現細胞には結合しない。実施態様によっては、結合は、たとえば放射免疫アッセイ(RIA)、生体膜薄層干渉法(BLI)、MSDアッセイまたは表面プラズモン共鳴(SPR)またはフローサイトメトリーにより測定される。
【0055】
本明細書で使用される「CD3」という用語は、多分子T細胞受容体(TCR)の一部としてT細胞上に発現される抗原を指し、以下の4つの受容体鎖すなわちCD3-ε、CD3-δ、CD3-ζおよびCD3-γのうちの2つにより形成されるホモ二量体またはヘテロ二量体で構成される。ヒトCD3-εn (hCD3ε)は、UniProtKB/Swiss-Prot: P07766.2に記載のアミノ酸配列を含む。ヒトCD3-δ (hCD3δ)は、UniProtKB/Swiss-Prot: P04234.1に記載のアミノ酸配列を含む。実施態様によっては、本発明に記載のCD3はヒトまたはカニクイザル由来のCD3を指す。
【0056】
本明細書で使用される「CD3結合抗体」または「抗CD3抗体」という用語は、単一のCD3サブユニット(たとえばε、δ、γまたはζ)に対して特異的に認識あるいは結合する抗体およびその抗原結合断片、ならびに2つのCD3サブユニットの二量体複合体(たとえばγ/ε、δ/εおよびζ/ζのCD3二量体)に対して特異的に認識かつ結合する抗体およびその抗原結合断片を包含する。本発明の抗体および抗原結合断片は、可溶性CD3、結合性CD3および/または細胞表面に発現したCD3に結合できる。可溶性CD3は、天然CD3タンパク質および組換えCD3タンパク質多様体(膜貫通領域を欠くかそれ以外で細胞膜に結合しない単量体および二量体CD3構造など)を包含する。本発明は、低いか検出不可能な結合親和性でヒトおよびカニクイザルCD3に結合してヒトおよびカニクイザルのT細胞を活性化する抗体を提供する。実施態様によっては、結合は、たとえば放射免疫アッセイ(RIA)、生体膜薄層干渉法(BLI)、MSDアッセイまたは表面プラズモン共鳴(SPR)またはフローサイトメトリーにより測定される。
【0057】
「細胞表面に発現されるCD3」という用語は、CD3タンパク質の少なくとも一部が細胞膜の外側に露出し抗体の抗原結合部分に接近しやすいようにインビボまたはインビトロで細胞表面に発現される1種以上のCD3タンパク質を指す。「細胞表面に発現されるCD3」は、細胞膜の機能的T細胞受容体環境に含まれるCD3タンパク質を包含する。「細胞表面に発現されるCD3」という用語は、細胞表面にホモ二量体またはヘテロ二量体の一部として発現されるCD3タンパク質(たとえばδ/ε、γ/εおよびζ/ζのCD3二量体)を包含する。
【0058】
エフェクター細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、Th1、Th2および制御性T細胞(Treg)などのエフェクターT細胞(Tリンパ球)を包含する。エフェクター細胞は、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、顆粒球、形質細胞またはB細胞(リンパ球)をさらに包含する。
【0059】
「多重特異性抗体」という用語は、少なくとも二重特異性である抗体を指し、すなわち、抗体は少なくとも第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインを含み、第1の結合ドメインは1つの標的または抗原に結合し、第2の結合ドメインは別の抗原または標的に結合する。したがって、本発明による抗体は、少なくとも2つの異なる抗原または標的に対する特異性を含む。本発明による抗体は、複数の結合ドメイン/結合部位を含む多重特異性抗体、たとえば抗体が3つの結合ドメインを含む三重特異性抗体も包含する。
【0060】
二重特異性抗体型は、IgG様抗体および非IgG様抗体を包含する(Fan et al. (2015) Journal of Hematology & Oncology 8: 130)。最も一般的なIgG様抗体の種類は、2つのFab 領域および1 つのFc 領域を含む。各Fabの重鎖と軽鎖は別々のモノクローナル抗体に由来してもよい。非IgG様二重特異性抗体はFc領域を欠き、その各抗原結合ドメインまたは標的結合ドメインは、Fab、または単鎖可変断片(scFv)、または2つの抗体の可変ドメインを模倣する融合タンパク質であってもよい。異なる結合ドメインを連結用ペプチド(peptide connector)、化学結合、非共有結合による連結、または他の方法で結合する。これらの型は、二重特異性T 細胞アダプター(BiTE)を含む。
【0061】
本発明の二重特異性抗体を調製するために任意の二重特異性抗体型または技術を用いることができる。たとえば、第1の抗原結合特異性を有する抗体またはその断片を第2の抗原結合特異性を有する別の抗体または抗体断片などの1つ以上の他の分子実体と(たとえば化学結合、遺伝子融合、非共有会合またはその他の方法で)機能的に結合して二重特異性抗体を作製できる。本発明に関して使用できる二重特異性型の具体例としては以下、すなわちscFvに基づくあるいは二抗体の二重特異性型、IgG-scFv融合体、二重可変ドメイン(DVD)-Ig、クアドローマ(融合細胞同士の融合細胞)、knobs-into-holes法、通常の軽鎖(たとえば通常のノブを有する軽鎖など)、CrossMab、CrossFab、(SEED)body、Duobody、IgG1/IgG2、二重機能性Fab (DAF)-IgGおよびMab2二重特異性型が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
本明細書で使用される「リンカー」という用語は、二重特異性抗体の異なる部分を直接結合できる任意の分子を指す。異なる抗体部分間の共有結合を確立するリンカーとしてはペプチドリンカーおよび非タンパク質ライナーが挙げられ、その例としてはポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
本発明による「ペプチドリンカー」という用語は、抗体の第1の部分のアミノ酸配列を抗体の第2の部分に結合するアミノ酸配列を指す。たとえば、ペプチドリンカーは、抗体の第1の(可変および/または結合)ドメインを第2の(可変および/または結合)ドメインに結合できる。たとえば、ペプチドリンカーは、抗体の一部を抗体の別の部分に結合する(抗原結合ドメインをFcドメインまたはその断片に結合するなど)こともできる。好ましくは、ペプチドライナーは、所望の活性を妨げないように、2つの実体が互いに対する立体構造を維持するように結合するのに十分な長さを有する。
【0064】
ペプチドリンカーは、主に次のアミノ酸残基Gly、Ser、AlaまたはThrを含んでも含まなくてもよい。有用なリンカーとしては、グリシン-セリン重合体、たとえば(GS)n、(GSGGS)n、(GGGGS)n、(GGGS)nおよび(GGGGS)nG(ここで、nは1以上(かつ好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、および10)の整数である)が挙げられる。有用なリンカーとしては、グリシン-アラニン重合体、アラニン-セリン重合体、および他の柔軟なリンカーがさらに挙げられる。
【0065】
本発明による「原子価」という用語は、抗体分子中に指定数の結合部位があることを意味する。したがって、二価、三価および四価という用語はそれぞれ、抗体構築物に2つ、3つまたは4つの結合部位があることを示す。本発明による二重特異性抗体は少なくとも二価であり、二価、三価、四価または六価などの多価であり得る。
【0066】
本明細書で使用される「結合ドメイン」という用語は、特定の標的または抗原に結合する二重特異性抗体の任意の部分を指す。結合ドメインは抗原結合部位である。結合ドメインは、たとえば、抗体すなわち免疫グロブリン自体または抗体断片であり得る。このような結合ドメインは、BsABの残りの部分とは独立した三次構造を有していても有していなくてもよく、その標的に結合するあるいは結合しない別個の実体として使用されてもよい。
【0067】
本発明の例示的な実施態様によっては、二重特異性抗体の各抗原結合ドメインは、重鎖可変領域VHおよび軽鎖可変領域VLを含む。第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含む二重特異性抗体において、第1の抗原結合ドメインのVH、VLまたはCDRを接頭辞「A1」で表すことができ、第2の抗原結合ドメインのVH、VLまたはCDRを接頭辞「A2」で表すことができる。たとえば、第1の抗原結合ドメインの重鎖CDR(HCDR)を本明細書ではA1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3と呼ぶことができ、第2の抗原結合ドメインの重鎖CDRを本明細書ではA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3と呼ぶことができる。同様に、第1の抗原結合ドメインの重鎖可変領域VHを本明細書ではA1-VHと呼び、第2の抗原結合ドメインの重鎖可変領域VHを本明細書ではA2-VHと呼ぶ。第1の抗原結合ドメインの軽鎖CDR(HCDR)を本明細書ではA1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3と呼ぶことができ、第2の抗原結合ドメインの軽鎖CDRを本明細書ではA2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3と呼ぶことができる。同様に、第1の抗原結合ドメインの軽鎖可変領域VLを本明細書ではA1-VLと呼び、第2の抗原結合ドメインの軽鎖可変領域VLを本明細書ではA2-VLと呼ぶ。
【0068】
「抗体断片」という用語は、完全な抗体の一部を含む。好ましい実施態様では、抗体断片は抗原結合断片である。
【0069】
「抗原結合断片」は、インタクト抗体の一部を含み、かつインタクト抗体が結合する抗原に結合する、インタクト抗体とは異なる分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、dAb(ドメイン抗体)、線状抗体、単鎖可変断片(たとえばscFv)、単一ドメイン抗体(たとえばVHH)、二価抗体またはその断片、ラクダ科抗体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
「抗原」という用語は、免疫応答を引き起こす分子を指す。このような免疫応答は、抗体の産生もしくは特定の免疫細胞の活性化、またはその両方を含み得る。技術者は理解していることだが、基本的にすべてのタンパク質またはペプチドを含むあらゆる高分子を抗原として使用できる。さらに、抗原は、組換えまたはゲノムDNAに由来し得る。本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗体分子と特異的に相互作用する抗原(たとえばCLDN18.2)の一部を指す。
【0071】
参照抗体としての「同じまたは重複するエピトープに結合する抗体」は、競合アッセイで参照抗体のその抗原への結合の50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を遮断する抗体を指す。反対に、参照抗体は、競合アッセイで抗体のその抗原への結合の50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を遮断する。
【0072】
参照抗体とその抗原への結合について競合する抗体は、競合アッセイで参照抗体のその抗原への結合の50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を遮断する抗体を指す。反対に、参照抗体は、競合アッセイでその抗体のその抗原への結合の50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を遮断する。直接または間接固相放射免疫アッセイ(RIA)、直接または間接固相酵素免疫アッセイ(EIA)、サンドイッチ競合アッセイなどの多種の競合結合アッセイを用いて、抗体が別の抗体と競合するかを判断できる。
【0073】
参照抗体のその抗原への結合を阻害する(たとえば、競合的に阻害する)抗体は、参照抗体のその抗原への結合の50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を阻害する抗体を指す。反対に、参照抗体は、その抗体のその抗原への結合の50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を阻害する。抗体のその抗原への結合を親和性(たとえば、平衡解離定数)により測定できる。親和性を決定する方法は当技術分野で知られている。
【0074】
参照抗体と同じまたは似た結合親和性および/または特異性を示す抗体は、参照抗体の結合親和性および/または特異性の少なくとも50%、60%、70%、80%、90%もしくは95%またはそれ以上を有することができる抗体を指す。これは、当技術分野で知られている任意の結合親和性および/または特異性決定方法で決定できる。
【0075】
「相補性決定領域」または「CDR領域」または「CDR」は、配列が高度に可変であり、構造が定義されたループ(「超可変ループ」)を形成し、かつ/または抗原接触残基(「抗原接触点」)を含む抗体可変ドメイン内の領域である。CDRは主にエピトープとの結合に関与する。重鎖および軽鎖のCDRは、一般にCDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれ、N末端から順に番号が付けられている。抗体重鎖の可変ドメインに位置するCDRはHCDR1、HCDR2および HCDR3と呼ばれ、抗体軽鎖の可変ドメインに位置する CDRはLCDR1、LCDR2およびLCDR3と呼ばれる。軽鎖可変領域または重鎖可変領域の所定のアミノ酸配列において、各CDRの正確なアミノ酸配列境界は、多くのよく知られた抗体CDR指定システム(たとえば、抗体の三次元構造およびCDRループの形態に基づくChothia (Chothia et al. (1989) Nature 342: 877-883; Al-Lazikani et al., "Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins", Journal of Molecular Biology, 273, 927-948 (1997))、抗体配列可変性に基づくKabat (Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 4th edition, U.S. Department of Health and Human Services, National Institutes of Health (1987))、AbM(バース大学)、Contact(ロンドン大学)、International ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)(ワールド・ワイド・ウェブ上のimgt.cines.fr/)、多数の結晶構造を用いる親和性伝播クラスタリングに基づくNorth CDR定義)のいずれか1つまたはその組合せを用いて決定できる。
【0076】
たとえば、様々なCDR決定方式によれば、各CDRの残基は以下の通りである。
【表1】
【0077】
CDRは、参照CDR配列(たとえば本発明の例示的CDRのいずれか)と同じKabat付番位置を有することに基づいて決定することもできる。
【0078】
「CDR」または「CDR配列」という用語は、他に記載がない限り、本発明において上記の方法のいずれかによって決定されるCDR配列を包含する。
【0079】
特に記載のない限り、本発明では、抗体可変領域(重鎖可変領域の残基および軽鎖可変領域の残基を含む)の残基の位置を指す場合、Kabat付番系による付番位置を指す(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))。
【0080】
一実施態様では、本発明の抗体の重鎖可変領域CDRは以下の規則に従い決定される。
【0081】
VH CDR1はAbMの規定に従い決定され、VH CDR2および3はKabatの規定に従い決定される。
【0082】
一実施態様では、本発明の抗体の軽鎖可変領域CDRはKabatの規定に従い決定される。
【0083】
一実施態様では、本発明の抗体の重鎖可変領域CDRは以下の規定に従い決定される。すなわち、VH CDR1はAbMの規定に従い決定され、VH CDR2および3はKabatの規定に従い決定され、軽鎖可変領域のCDRはKabatの規定に従い決定される。
【0084】
なお、異なる割当システムにより得られる抗体の可変領域のCDRの境界は異なり得る。すなわち、異なる割当システムにより定義される抗体の可変領域のCDR配列は異なる。したがって、本発明で定義される特定のCDR配列を有する抗体を定義するとなると、抗体の範囲は、可変領域配列は特定のCDR配列を含むが異なる方式(たとえば異なる割当システムの規則またはその組合せ)が適用された、本発明により定義される特定のCDR境界とは異なる特許請求の範囲に記載のCDR境界を有する抗体も包含する。
【0085】
異なる特異性(すなわち、異なる抗原に対する異なる結合部位)をもつ抗体は、(同じ割当システムで)異なるCDRを有する。しかし、CDRは抗体ごとに異なるが、CDR内の限られた数のアミノ酸位置のみが抗原結合に直接関与する。Kabat、Chothia、AbM、ContactおよびNorthの方法のうち少なくとも2 つを用いて最小重複領域を決定して抗原結合に関する「最小結合単位」を得ることができる。最小結合単位はCDRの小部分であってもよい。当業者には明らかであるが、残りのCDR配列の残基は抗体構造およびタンパク質折畳みにより決定できる。したがって、本明細書に示されるCDRの任意の多様体も本発明で考慮される。たとえば、1つのCDR多様体では、最小結合単位中のアミノ酸残基は未変化のままであってもよく、KabatまたはChothiaにより定義される他のCDR残基は保存的アミノ酸残基で置換されていてもよい。
【0086】
「Fc領域」という用語は、免疫グロブリン重鎖のCH2およびCH3の定常領域を定義するために本明細書で使用され、この用語は、天然配列Fc領域および多様体Fc領域を包含する。天然のFc領域は、免疫細胞の表面の様々なFc 受容体に結合でき、これはCDC\ADCC\ADCPエフェクター機能を引き起こすことができる。このようなエフェクター機能は一般に、Fc領域と結合ドメイン(抗体可変ドメインなど)の組合せを必要とする。実施態様によっては、Fc領域はそのCDC\ADCC\ADCPエフェクター機能を高めるよう変異される。実施態様によっては、Fc領域はそのCDC\ADCC\ADCPエフェクター機能を弱めるか欠失させるよう変異される。
【0087】
「IgG形態の抗体」は、抗体の重鎖定常領域が属するIgG形態を指す。同じ種類のすべての抗体の重鎖定常領域は同一であり、異なる種類の抗体の重鎖定常領域は異なる。たとえば、IgG4の形態の抗体は、IgG4由来のその重鎖定常領域のIgドメインを指す、あるいはIgG1の形態の抗体は、IgG1由来のその重鎖定常領域を指す。
【0088】
「ヒト化」抗体は、非ヒトCDRおよびヒトFR由来のアミノ酸残基を含む抗体を指す。実施態様によっては、ヒト化抗体は基本的に少なくとも1つ、通常は2つの可変ドメインのすべてを含み、CDRのすべてまたはほぼすべて(たとえば、CDR)は非ヒト抗体のものに対応し、FRのすべてまたはほぼすべてはヒト抗体のものに対応する。ヒト化抗体は、必要に応じてヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含んでもよい。抗体(非ヒト抗体など)の「ヒト化形態」は、ヒト化された抗体を指す。
【0089】
「ヒト抗体」または「全ヒト抗体」または「完全ヒト抗体」は互換的に使用可能であり、以下の抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体を指す。前記抗体は、ヒトまたはヒト細胞により生成されるか、ヒト抗体ライブラリーまたは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する。ヒト抗体のこのような定義では、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体は明らかに除外される。
【0090】
本明細書で使用される「結合」または「特異的結合」という用語は、抗原への結合相互作用が選択的であり、望ましくないあるいは非特異的な相互作用とは区別できることを意味する。抗原結合部位による特定の抗原に結合する能力は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)または当技術分野で知られている従来の結合アッセイ、たとえば放射免疫アッセイ(RIA)、薄層生体膜干渉アッセイ、MSDアッセイもしくは表面プラズモン共鳴(SPR)により決定できる。
【0091】
本明細書に記載の「治療剤」という用語は、腫瘍(がんなど)を予防あるいは治療するのに有効な任意の物質、たとえば化学療法剤、サイトカイン、血管新生阻害剤、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬または免疫調節剤(免疫抑制剤など)を包含する。
【0092】
本発明で使用される「細胞傷害性薬剤」という用語は、細胞機能を阻害あるいは防止し、かつ/あるいは細胞死または破壊を引き起こす物質を指す。
【0093】
「化学療法剤」は、がんまたは免疫系疾患の治療に有用な化合物を包含する。
【0094】
「小分子薬」という用語は、生物学的過程を調節できる低分子量の有機化合物を指す。「小分子」は、分子量が10 kD未満、一般に2 kD未満、好ましくは1 kD未満の分子と定義される。小分子としては、無機分子、有機分子、無機成分を含む有機分子、放射性原子を含む分子、合成分子、ペプチド模倣物、および抗体模倣物が挙げられるが、これらに限定されない。治療剤としての小分子は、大分子よりも容易に細胞に浸透でき、分解を受けにくく、免疫応答を誘発しにくい。
【0095】
本明細書で使用される「免疫調節剤」という用語は、免疫応答を阻害あるいは調節する天然または合成の活性剤または薬物を指す。免疫応答は、体液性であっても細胞性であってもよい。免疫調節剤は免疫抑制剤を包含する。実施態様によっては、本発明の免疫調節剤は免疫チェックポイント阻害剤または免疫チェックポイント作動薬を包含する。
【0096】
「有効量」という用語は、単回または複数回の投与で患者に投与された後に、そのような治療または予防を必要とする患者に期待の効果を起こす、本発明の抗体または断片もしくは組成物もしくは組合せの量または用量を指す。
【0097】
「治療有効量」は、必要な投与および必要な期間で所望の結果を有効に達成できる量を指す。治療有効量はまた、抗体または抗体断片もしくは組成物もしくは組合せの任意の毒性または有害作用が治療上有益な作用よりも少ない量である。「治療有効量」は、好ましくは、測定可能なパラメータ(腫瘍体積など)を未治療の対象と比較して少なくとも約40%、あるいはさらに好ましくは少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、さらには100%阻害する。
【0098】
「予防有効量」は、必要な投与で必要な期間、所望の予防結果を有効に達成できる量を指す。一般に、予防用量は対象における疾患の前または初期段階で用いられるため、予防有効量は治療有効量よりも少ない。
【0099】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外来核酸が導入された細胞(そのような細胞の子孫を含む)を指す。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を包含し、これらは継代数に関係なく、一次形質転換細胞およびそれらに由来の子孫を包含する。子孫の核酸含有量は親細胞のものと厳密に同じでなくてもよく、変異を含んでもよい。本明細書では、最初に形質転換された細胞から選別あるいは選択された同じ機能または生物学的活性をもつ変異子孫が包含される。
【0100】
本明細書で使用される「標識」という用語は、試薬(ポリヌクレオチドプローブまたは抗体など)に直接的あるいは間接的に結合あるいは融合され、結合あるいは融合された試薬を検出しやすくする化合物または組成物を指す。標識自体は検出可能(たとえば、放射性同位体標識または蛍光標識)であってもよいし、酵素標識の場合、検出可能な基質化合物または組成物の化学変化を触媒してもよい。この用語は、検出可能な物質をプローブまたは抗体にカップリング(すなわち物理的に接続)することによるプローブまたは抗体の直接標識、および別の直接標識試薬と反応させることによるプローブまたは抗体の間接標識を包含するよう意図される。
【0101】
「個体」または「対象」は哺乳動物を包含する。哺乳動物としては、家畜(ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマなど)、霊長類(ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類など)、ウサギ、およびげっ歯類(マウス、ラットなど)が挙げられるが、これらに限定されない。実施態様によっては、個体または対象はヒトである。
【0102】
「単離」抗体は、その自然な環境の成分から分離された抗体である。実施態様によっては、抗体は電気泳動(たとえば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(たとえば、イオン交換または逆相HPLC)により95%または99%を超える純度に精製される。
【0103】
「抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体またはその断片をコードする単離核酸」は、抗体の重鎖または軽鎖(またはその断片、たとえば重鎖可変領域または軽鎖可変領域)をコードする1つ以上の核酸分子を指し、単一のベクターまたは別個のベクター内のそのような核酸分子、および宿主細胞内の1箇所以上の位置に存在するそのような核酸分子を含む。配列間の配列同一性の計算は以下のように行われる。
【0104】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列の同一性百分率を決定するため、最適な比較を行う目的で配列を整列する(たとえば、最適な整列のために、ギャップを第1および第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方に導入してもよく、あるいは非相同配列を比較のため切り捨ててもよい)。好ましい一実施態様では、比較のため、整列済み参照配列の長さは参照配列の長さの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、80%、90%、100%である。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列中の位置が第2の配列中の対応する位置で同じアミノ酸残基またはヌクレオチドに占められる場合、両方の分子はこの位置では同一である。
【0105】
数学的アルゴリズムを用いて2つの配列間の配列比較および同一性百分率の計算を行うことができる。好ましい一実施態様では、2つのアミノ酸配列間の同一性百分率はNeedlemaおよびWunsch ((1970) J. Mol. Biol., 48:444-453)のアルゴリズム(http://www.gcg.comから利用可能)を用いて決定される。これは、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムに組み込まれ、Blossom 62マトリクスまたはPAM250マトリクスと16、14、12、10、8、6、または4のギャップ重みおよび1、2、3、4、5、または6の長さ重みを用いる。さらに別の好ましい実施態様では、2つのヌクレオチド酸配列間の同一性百分率はGCGソフトウェアパッケージのGAPプログラム(http://www.gcg.comから利用可能)でNWSgapdna.CMPマトリクスと40、50、60、70、または80のギャップ重みおよび1、2、3、4、5、または6の長さ重みを用いて決定される。特に好ましい(かつ他に記載のない限り用いられるべき)パラメータの組は、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、フレームシフトギャップペナルティ5のBlossom 62点数化マトリクスである。ALIGNプログラムに組み込まれているE. MeyersおよびW. Millerのアルゴリズム(2.0版)((1989) CABIOS, 4:11-17)で、PAM120重み付き剰余表、ギャップ長ペナルティ12、およびギャップペナルティ4を用いて2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列間の同一性百分率を決定してもよい。それに加えて、あるいは必要に応じて、本明細書に記載の核酸配列およびタンパク質配列は、公開データベースに対して(たとえば、他のファミリーメンバー配列または関連配列を特定するために)検索を行うための「問合せ配列」としてもさらに使用できる。
【0106】
本明細書で使用される「低緊縮性、中緊縮性、高緊縮性、または極限緊縮性などの緊縮条件でのハイブリダイゼーション」は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を表す。ハイブリダイゼーション反応を実行するための説明はCurrent Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6に記載されている。同文献は参照により組み込まれる。水性および非水性の方法が参考文献に記載されており、いずれの方法を使用してもよい。本明細書に記載の具体的なハイブリダイゼーション条件は次のとおりである:1)低緊縮性のハイブリダイゼーション条件は、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中約45℃、続いて0.2×SSC、0.1%SDS中少なくとも50℃で2回の洗浄(低緊縮性条件では、洗浄温度を55℃まで上げることができる);2)中緊縮性のハイブリダイゼーション条件は、6×SSC中約45℃、続いて0.2×SSC、0.1%SDS中約60℃で1回以上の洗浄;3) 高緊縮性のハイブリダイゼーション条件は、6×SSC中約45℃、続いて0.2×SSC、0.1% SDS中65℃で1回以上の洗浄;好ましくは4)極限緊縮性のハイブリダイゼーション条件は、0.5 Mのリン酸ナトリウム、7% SDS中65℃、続いて0.2×SSC、0.1% SDS中65℃で1回以上の洗浄である。極限緊縮性条件(4)が好ましい条件であり、他に記載しない限り使用されるべき条件である。
【0107】
「抗腫瘍効果」という用語は、様々な手段(たとえば腫瘍体積、腫瘍細胞数、腫瘍細胞の増殖、または腫瘍細胞の生存などが挙げられるがこれらに限定されない)により実証できる生物学的効果を指す。
【0108】
「腫瘍」および「がん」という用語は、本明細書では互換的に使用され、固形腫瘍および血液腫瘍を包含する。
【0109】
「がん」および「がん性」という用語は、非制御の細胞増殖を特徴とする哺乳動物の生理学的疾患を指す、あるいは説明する。実施態様によっては、本発明の抗体による治療に適したがんとしては、胃がん、膵臓がん、または食道胃接合部がん(これらのがんの転移形態を含む)が挙げられる。
【0110】
「腫瘍」という用語は、悪性または良性にかかわらず、すべての新生細胞、またすべての前がんおよびがんの細胞および組織の成長および増殖を指す。「がん」、「がん性」および「腫瘍」という用語は、本明細書に記載の場合、相互に排他的ではない。
【0111】
「薬学的に許容される補助物質」という用語は、活性物質と同時に投与される希釈剤、免疫賦活剤(たとえば、フロイントの(完全および不完全)アジュバント)、賦形剤、担体、または安定剤などを指す。
【0112】
「医薬組成物」という用語は、その中に含まれる活性成分の生物学的活性を有効にする形態で存在し、かつ組成物の投与対象に対して許容できない毒性をもつさらなる成分を含まない組成物を指す。
【0113】
「薬学的組合せ」という用語は、固定されていない組合せ製品または固定された組合せ製品を指し、その例としては薬物キットおよび薬物組成物が挙げられるが、これらに限定されない。「固定されていない組合せ」という用語は、活性成分(たとえば、(i)本発明の抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体またはその断片および(ii)他の治療剤)が特定の時間制限なく同時に、あるいは同じまたは異なる時間間隔で順に、別個の実体として患者に投与されることを意味する。ここで、これらの2種以上の活性物質は、患者に有効なレベルの予防または治療を提供するために投与される。実施態様によっては、薬学的組合せに用いられる本発明の抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体またはその断片および他の治療剤は、それらが単独で使用される場合のレベルを超えないレベルで投与される。「固定された組合せ」という用語は、2種以上の活性剤が単一の実体の形態で患者に同時に投与されることを意味する。疾患または障害の治療で各成分の併用がいずれか1種の成分の単独使用よりも大きな効果を生み出すことができるように、2種以上の活性剤の用量および/または時間間隔を選択することが好ましい。各成分は独自の調製形態をとってもよく、それは同じでも異なってもよい。
【0114】
「併用療法」という用語は、本明細書に記載の疾患の治療に2つ以上の治療剤または治療様式(放射線療法または手術など)を適用することを指す。このような投与としては、これらの治療剤をほぼ同時に投与すること、たとえば一定比率の活性成分を含む単一のカプセルで同時投与することが挙げられる。あるいは、そのような投与としては、複数すなわち別個の容器(錠剤、カプセル、散剤および液体など)で各活性成分を併用投与することが挙げられる。散剤および/または液体を投与前に再構成あるいは希釈して必要な用量にしてもよい。さらに、本出願はまた、各種類の治療剤をほぼ同時に、あるいは異なる時点で連続して使用することを包含する。いずれの場合も、治療計画は、本明細書に記載の疾患または状態の治療において、薬学的組合せの有益な効果を提供する。
【0115】
本明細書で使用される場合、「治療」(または「治療する」もしくは「治療すること」)は、既存の症状、障害、状態または疾患の進行または重症度を遅らせる、妨げる、抑止する、軽減する、止める、低減する、または逆転させることを指す。
【0116】
本明細書で使用される「予防」(または「予防する」もしくは「予防すること」)は、疾患もしくは障害または特定の疾患もしくは障害の症状の発症または進行の阻害を包含する。実施態様によっては、がんの家族歴をもつ対象は予防投与計画の候補である。一般に、がんに関して「予防」という用語は、特にがんのリスクのある対象のがんの徴候または症状の発症前に薬物を投与することを指す。
【0117】
本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それが連結された別の核酸を増殖させられる核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造として機能するベクター、およびそれらが導入された宿主細胞のゲノムに結合するベクターを包含する。ベクターによっては、作動可能に連結された核酸の発現を指示できる。このようなベクターを本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。
【0118】
「対象/患者/個体試料」は、患者または対象から得られた細胞または流体の集合を指す。組織または細胞試料の由来源は、たとえば新鮮、凍結、および/または保存の器官もしくは組織試料、生検試料、または穿刺試料から得られた固形組織;血液または任意の血液成分;脳脊髄液、羊水、腹水、または間質液などの体液;妊娠中または発生中の任意の時点の対象から得られた細胞であってもよい。組織試料は、本来は組織と混ざらない化合物、たとえば保存剤、抗凝固剤、緩衝剤、固定剤、栄養剤、抗生物質を含んでもよい。
II.抗体
【0119】
実施態様によっては、本発明の抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体はCLDN18.2(ヒトCLDN18.2など)に高親和性で結合する。実施態様によっては、本発明の抗体はCLDN18.2(ヒトCLDN18.2など)に特異的に結合するが、CLDN18.1(ヒトCLDN18.1など)には結合しない。実施態様によっては、本発明の抗体またはその抗原結合断片のヒトCLDN18.2との結合親和性は、ゾルベツキシマブ(Zmab)抗体などの知られているCLDN18.2抗体よりも高い。実施態様によっては、本発明の抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体はCD3(ヒトCD3またはカニクイザルCD3など)と必要な(たとえば低い)親和性で結合する。実施態様によっては、本発明の抗体は、ヒトCD3およびカニクイザルCD3の両方に結合できる。実施態様によっては、抗体の親和性は薄層干渉法または表面プラズモン共鳴により決定される。
【0120】
実施態様によっては、本発明の抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体は腫瘍細胞表面のCLDN18.2およびエフェクター細胞表面のCD3に結合できる。実施態様によっては、この結合はフローサイトメトリーにより検出される。
【0121】
実施態様によっては、本発明の抗体は腫瘍細胞、たとえばCLDN18.2発現腫瘍細胞を特異的に死滅させることができる。実施態様によっては、本発明の抗体は、サイトカイン、たとえばIL-2およびTNFα、および/またはIFN-γの放出を媒介する。実施態様によっては、本発明の抗体はエフェクター細胞、たとえばT細胞を活性化できる。
【0122】
実施態様によっては、エフェクター細胞はT細胞、たとえばCD4+T細胞またはCD8+T細胞などのTリンパ球である。
【0123】
実施態様によっては、本発明の抗体またはその抗原結合断片をがんの治療に使用できる。実施態様によっては、本発明の抗体またはその抗原結合断片は腫瘍増殖を有効に阻害でき、その腫瘍阻害率は約25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または100%である。
【0124】
実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含み、第1の抗原結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインはCD3に特異的に結合する。
【0125】
本発明の好ましい実施態様では、第1の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A1-HCDR)A1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3を含む。
【0126】
本発明の好ましい実施態様では、第1の抗原結合ドメインは、軽鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A1-LCDR)A1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3を含む。
【0127】
実施態様によっては、第1の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A1-HCDR)および軽鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A1-LCDR)を含む。
【0128】
側面によっては、第1の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(A1-VH)を含む。側面によっては、第1の抗原結合ドメインは、軽鎖可変領域(A1-VL)を含む。側面によっては、第1の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。実施態様によっては、重鎖可変領域は、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A1-HCDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む。実施態様によっては、軽鎖可変領域は、軽鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A1-LCDR)LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0129】
実施態様によっては、A1-VHは、
(i)配列番号4から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号4から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号4から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない。
【0130】
実施態様によっては、A1-VLは、
(i)配列番号9から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号9から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号9から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない。
【0131】
実施態様によっては、本発明のA1-VH由来の3つの相補性決定領域(A1-HCDR)A1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3は、
(i)配列番号4に示されるVHに含まれる3つの相補性決定領域A1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3である、あるいは
(ii)(i)の配列と比較して少なくとも1つ、かつ5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有する配列を含む。
【0132】
実施態様によっては、本発明のA1-VL由来の3つの相補性決定領域(A1-LCDR)A1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3は、
(i)配列番号9に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域A1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3である、あるいは
(ii)(i)の配列と比較して少なくとも1つ、かつ5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有する配列を含む。
【0133】
実施態様によっては、A1-HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA1-HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0134】
実施態様によっては、A1-HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA1-HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0135】
実施態様によっては、A1-HCDR3は配列番号3のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA1-HCDR3は配列番号3のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0136】
実施態様によっては、A1-LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA1-LCDR1は配列番号6のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0137】
実施態様によっては、A1-LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA1-LCDR2は配列番号7のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0138】
実施態様によっては、A1-LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA1-LCDR3は配列番号8のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0139】
本発明の好ましい実施態様では、第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A2-HCDR)A2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3を含む。
【0140】
本発明の好ましい実施態様では、第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A2-LCDR)A2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3を含む。
【0141】
実施態様によっては、第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A2-HCDR)および軽鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A2-LCDR)を含む。
【0142】
側面によっては、第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域(A2-VH)を含む。側面によっては、第2の抗原結合ドメインは、軽鎖可変領域(A2-VL)を含む。側面によっては、第2の抗原結合ドメインは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む。実施態様によっては、重鎖可変領域は、重鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A2-HCDR)HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む。実施態様によっては、軽鎖可変領域は、軽鎖可変領域由来の3つの相補性決定領域(A2-LCDR)LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0143】
実施態様によっては、A2-VHは、
(i)配列番号22、30および32から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii) 配列番号22、30および32から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii) 配列番号22、30および32から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない。
【0144】
実施態様によっては、A2-VLは、
(i)配列番号27から選択されるアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号27から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなり、好ましくは、前記アミノ酸変化はCDR領域で生じない。
【0145】
実施態様によっては、本発明のA2-VH由来の3つの相補性決定領域(A2-HCDR)A2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3は、
(i)配列番号20、30および32に示されるVHに含まれる3つの相補性決定領域A2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3である、あるいは
(ii)(i)の配列と比較して少なくとも1つ、かつ5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有する配列を含む。
【0146】
実施態様によっては、本発明のA2-VL由来の3つの相補性決定領域(A2-LCDR)A2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3は、
(i)配列番号27に示されるA2-VLに含まれる3つの相補性決定領域A2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3である、あるいは
(ii)(i)の配列と比較して少なくとも1つ、かつ5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有する配列を含む。
【0147】
実施態様によっては、A2-HCDR1は配列番号19のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA2-HCDR1は配列番号19のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0148】
実施態様によっては、A2-HCDR2は20または31のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA2-HCDR2は配列番号20または31のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0149】
実施態様によっては、A2-HCDR3は配列番号21または29のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA2-HCDR3は配列番号21または29のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0150】
実施態様によっては、A2-LCDR1は配列番号24のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA2-LCDR1は配列番号24のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0151】
実施態様によっては、A2-LCDR2は配列番号25のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA2-LCDR2は配列番号25のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0152】
実施態様によっては、A2-LCDR3は配列番号26のアミノ酸配列を含むかその配列からなる、あるいはA2-LCDR3は配列番号26のアミノ酸配列と比較して、1つ、2つ、または3つの変化(好ましくはアミノ酸置換、好ましくは保存的置換)を有するアミノ酸配列を含む。
【0153】
実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、重鎖定常領域も含む。実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、軽鎖定常領域も含む。実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、重鎖定常領域および軽鎖定常領域も含む。実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は2つの重鎖定常領域を含み、一方の重鎖定常領域A1-HCは第1の抗原ドメインの重鎖可変領域A1-VHと連結されて、CLDN18.2に結合する重鎖の部分を形成し、他方であるA2-HCは、第2の抗原結合ドメインの重鎖可変領域A2-VHと連結されて、CD3に結合する重鎖の部分を形成する。実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は2つの軽鎖定常領域を含み、そのうち一方は第1の抗原ドメインの軽鎖可変領域A1-VLと連結されて、CLDN18.2に結合する軽鎖の部分を形成し、他方の軽鎖定常領域A2-LCは、第2の抗原結合ドメインの軽鎖可変領域A2-VLと連結されて、CD3に結合する軽鎖の部分を形成する。一実施態様では、本発明の二重特異性抗体は、A1-HC、A1-LC、A2-HCおよびA2-LCを含む。実施態様によっては、A1-HCはA2-HCと同じであっても異なっていてもよい。実施態様によっては、A1-LCはA2-LCと同じであっても異なっていてもよい。実施態様によっては、A1-HCはA2-HCと異なり、A1-LCはA2-LCと異なる。
【0154】
実施態様によっては、本発明の重鎖定常領域HCは、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4の重鎖定常領域であり、好ましいのはIgG1の重鎖定常領域、たとえば野生型IgG1重鎖定常領域または変異型IgG1重鎖定常領域(IgG1 LALAなど)である。実施態様によっては、本発明の抗体軽鎖定常領域LCはλまたはκ軽鎖定常領域である。
【0155】
実施態様によっては、本発明の重鎖定常領域HCは、
(i)配列番号5および23から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号5および23から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号5および23から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0156】
実施態様によっては、本発明の軽鎖定常領域HCは、
(i)配列番号33および34から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号33および34から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号33および34から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0157】
実施態様によっては、本発明の軽鎖定常領域LCは、
(i)配列番号10および28から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号10および28から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号10および28から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0158】
本発明の特定の実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含み、
第1の抗原結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインはCD3に特異的に結合し、第1の抗原結合ドメインは、配列番号4に示されるA1-VHに含まれる3つの相補性決定領域A1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3、ならびに配列番号9に示されるVLに含まれる3つの相補性決定領域A1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3を含み、
第2の抗原結合ドメインは、配列番号22、30または32に示されるA2-VHに含まれる3つの相補性決定領域A2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに配列番号27に示されるA2-VLに含まれる3つの相補性決定領域A2-LCDR1、A2-LCDR2およびA2-LCDR3を含む。
【0159】
本発明の特定の実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含み、第1の抗原結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインはCD3に特異的に結合し、
第1の抗原結合ドメインは、以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号1、2および3にそれぞれ示されるA1-HCDR1、A1-HCDR2およびA1-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号6、7および8にそれぞれ示されるA1-LCDR1、A1-LCDR2およびA1-LCDR3を含み、かつ
第2の抗原結合ドメインは、
(i)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、20および21にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、あるいは、
(ii)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、20および29にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2およびA2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む、あるいは、
(iii)以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号19、31および21にそれぞれ示されるA2-HCDR1、A2-HCDR2、A2-HCDR3、ならびに以下のアミノ酸配列、すなわち配列番号24、25および26にそれぞれ示されるLCDR1、LCDR2およびLCDR3を含む。
【0160】
本発明の特定の実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体は、第1の抗原結合ドメインおよび第2の抗原結合ドメインを含み、第1の抗原結合ドメインはCLDN18.2に特異的に結合し、第2の抗原結合ドメインはCD3に特異的に結合し、
第1の抗原結合ドメインは、配列番号4に示されるアミノ酸配列またはそのアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなるA1-VH、ならびに配列番号9に示されるアミノ酸配列またはそのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなるA1-VLを含み、
第2の抗原結合ドメインは、配列番号22、30、もしくは32に示されるアミノ酸配列またはそのアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなるA2-VH、ならびに配列番号27に示されるアミノ酸配列またはそのアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなるA2-VLを含む。
【0161】
本発明の特定の実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体はIgG様構造の二重特異性抗体であり、すなわち、CLDN18.2に結合する重鎖および軽鎖の部分ならびにCD3に結合する重鎖および軽鎖の部分を含む。実施態様によっては、2本の重鎖のCH3領域にはKnob-into-Hole配列(Shane Atwell et al., Journal of Molecular Biology, 1997; A. Margaret Merchant et al., Nature Biotechnology, 1998)が存在して、knob-in-hole構造を形成する。実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体の構造は
図8に示される。
【0162】
実施態様によっては、CLDN18.2に結合する重鎖の部分は、
(i)配列番号37から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号37から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号37から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0163】
実施態様によっては、CLDN18.2に結合する軽鎖の部分は、
(i)配列番号38から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号38から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号38から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0164】
実施態様によっては、CD3に結合する重鎖の部分は、
(i)配列番号41、39および42から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、
(ii)配列番号41、39および42から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号41、39および42から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0165】
実施態様によっては、
CD3に結合する軽鎖の部分は、
(i)配列番号40から選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(ii)配列番号40から選択されるアミノ酸配列を含むか、その配列からなる、あるいは
(iii)配列番号40から選択されるアミノ酸配列と比較して、1つ以上(好ましくは20以下または10以下、より好ましくは5つ、4つ、3つ、2つ、1つ以下)のアミノ酸変化(好ましくはアミノ酸置換、より好ましくは保存的アミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を含むか、その配列からなる。
【0166】
本発明の一実施態様では、本明細書に記載のアミノ酸変化はアミノ酸の置換、挿入または欠失を含む。好ましくは、本明細書に記載のアミノ酸変化はアミノ酸置換であり、好ましくは保存的置換である。
【0167】
好ましい実施態様では、本発明に記載のアミノ酸変化はCDRの外の領域(たとえばFR)で起こる。より好ましくは、本発明に記載のアミノ酸変化は重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の外の領域で起こる。実施態様によっては、本発明に記載のアミノ酸変化は抗体の重鎖定常領域のFc領域で起こる。好ましい実施態様では、Fc領域のアミノ酸変化は抗体のADCCおよび/またはCDC機能を弱めるか欠失させる。
【0168】
実施態様によっては、置換は保存的置換である。保存的置換は、アミノ酸を同じ分類の別のアミノ酸に置き換えることを指す。たとえば、1つの酸性アミノ酸を別の酸性アミノ酸に置き換える、1つの塩基性アミノ酸を別の塩基性アミノ酸に置き換える、あるいは1つの中性アミノ酸を別の中性アミノ酸に置き換える。置換の例を下の表に示す。
【表2】
【0169】
実施態様によっては、置換は抗体のCDR領域で起こる。一般に、得られた多様体は、親抗体と比較して、いくつかの生物学的特性に関して修飾(たとえば改善)を有し(たとえば、親和性の増加)、かつ/あるいは親抗体が基本的に保持するいくつかの生物学的活性を有する。置換多様体の例は、親和性成熟抗体である。
【0170】
実施態様によっては、抗体の1つ以上の機能的特性、たとえば血清半減期、補体結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、および/または抗体依存性細胞傷害を変化させるために、本明細書で提供される抗体のFc領域に1つ以上のアミノ酸修飾を導入してFc領域多様体を作製してもよい。Fc領域多様体は、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸変化(置換など)を含むヒトFc領域配列(ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4のFc領域など)を包含し得る。
【0171】
実施態様によっては、システイン操作により修飾された抗体、たとえば抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換された「thioMAb」などを作製することが必要であってもよい。
【0172】
実施態様によっては、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られており容易に入手できる他の非タンパク質成分を含むようにさらに修飾されてもよい。抗体誘導体化に適した部分としては水溶性重合体が挙げられるが、これに限定されない。水溶性重合体の非限定的な例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジアン、ポリ-1,3,6-トリアン、エチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリアミノ酸(ホモポリマーまたはランダム共重合体)、およびデキストランまたはポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリエチレンオキシド/エチレンオキシド共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール(グリセリンなど)、ポリビニルアルコール、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0173】
実施態様によっては、本発明の二重特異性抗体では、CLDN18.2に特異的に結合する第1の抗原結合ドメインまたは重鎖と軽鎖の組合せは完全ヒト型であり、CD3に結合する第2の抗原結合ドメインまたは重鎖と軽鎖の組合せはヒト化型である。
III.本発明の核酸およびそれを含む宿主細胞
【0174】
一側面では、本発明は、上記の二重特異性抗体のいずれかの可変領域または重鎖もしくは軽鎖をコードする核酸を提供する。一実施態様では、この核酸を含むベクターが提供される。一実施態様では、このベクターはpcDNA3.1などの発現ベクターである。一実施態様では、核酸またはベクターを含む宿主細胞が提供される。一実施態様では、この宿主細胞は真核細胞である。別の実施態様では、この宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞(CHO細胞(CHO-Sなど)または293細胞(293FまたはHEK293細胞など)など)、および抗体またはその断片の調製に適した他の細胞から選択される。別の実施態様では、宿主細胞は原核細胞である。
【0175】
一側面では、本発明の核酸は、抗体の軽鎖可変領域および/もしくは重鎖可変領域のアミノ酸配列をコードする核酸、または抗体の軽鎖および/もしくは重鎖のアミノ酸配列をコードする核酸を包含し得る。
【0176】
たとえば、本発明の核酸は、配列番号4、9、22、27、30、32、37~42のいずれかから選択されるアミノ酸配列をコードする、あるいは配列番号4、9、22、27、30、32、37~42のいずれかから選択されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸を包含する。
【0177】
本発明は、緊縮条件下で以下の核酸、すなわち配列番号4、9、22、27、30、32、37~42のいずれかに示されるものから選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸または配列番号4、9、22、27、30、32、37~42のいずれかに示されるアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸配列を含む核酸とハイブリダイズする、あるいはそれらの核酸と比較して1つ以上の置換(保存的置換など)、欠失または挿入を有する核酸を包含する。
【0178】
一実施態様では、核酸を含む1つ以上のベクターが提供される。一実施態様では、ベクターは真核発現ベクターなどの発現ベクターである。ベクターとしては、ウイルス、プラスミド、コスミド、λファージまたは酵母人工染色体(YAC)が挙げられるが、これらに限定されない。一実施態様では、ベクターはpcDNA3.1である。
【0179】
一実施態様では、ベクターを含む宿主細胞が提供される。抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現に適した宿主細胞としては、本明細書に記載の原核細胞または真核細胞が挙げられる。たとえば、特にグリコシル化およびFcエフェクター機能が求められない場合、抗体を細菌で産生できる。発現後、抗体を可溶性画分中の細菌細胞ペーストから分離し、さらに精製してもよい。
【0180】
一実施態様では、宿主細胞は真核細胞である。別の実施態様では、宿主細胞は、酵母細胞、哺乳動物細胞、および抗体またはその断片を調製するのに適した他の細胞から選択される。たとえば、糸状菌または酵母などの真核微生物は、抗体をコードするベクターのクローニングまたは発現の適切な宿主である。たとえば、グリコシル化経路が「ヒト化」された真菌および酵母菌株は、部分的または完全なヒトグリコシル化パターンをもつ抗体の産生に導く。グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物および脊椎動物)にも由来する。脊椎動物細胞も宿主として使用できる。たとえば、懸濁増殖に適した哺乳動物細胞株を使用できる。有用な哺乳動物宿主細胞株のその他の例は、SV40で形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7)、ヒト胎児腎臓系(HEK293、293Fまたは293T細胞)などである。他の有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞、CHO-S細胞、ExpiCHOなどを含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、およびY0、NS0、Sp2/0などの骨髄腫細胞株が挙げられる。抗体の産生に適した哺乳動物宿主細胞株は、当技術分野で知られている。
IV.本発明の抗体分子の産生および精製
【0181】
一実施態様では、本発明の抗体分子を調製する方法が提供され、この方法は、抗体(1つのポリペプチド鎖および/もしくは複数のポリペプチド鎖のいずれかなど)をコードする核酸またはその核酸を含む発現ベクターを含む宿主細胞を上記のような抗体発現に適した条件で培養すること、ならびに必要に応じて宿主細胞(または宿主細胞培養培地)から抗体を回収することを含む。
【0182】
本発明の抗体分子を組み換えて産生するために、抗体(上記の抗体、たとえば1つのポリペプチド鎖および/または複数のポリペプチド鎖のいずれかなど)をコードする核酸を分離し、宿主細胞でのさらなるクローニングおよび/または発現のために1つ以上のベクターに挿入する。従来の手順を用いて(たとえば、抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)このような核酸を容易に分離かつ配列決定できる。
【0183】
知られている既存の技術、たとえば高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、親和性クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーなどにより、本明細書に記載のとおり調製された抗体分子を精製できる。特定のタンパク質を精製するのに用いられる実際の条件は、当業者には自明な正味の電荷、疎水性、親水性などの要因にも依存する。本発明の抗体分子の純度は、サイズ排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、高速液体クロマトグラフィーなどを含む様々な周知の分析方法のいずれかにより決定できる。
V.アッセイ
【0184】
本明細書で提供される抗体は、当技術分野で知られる様々なアッセイを通じて、その物理的/化学的特性および/または生物学的活性により特定、選別あるいは特性評価できる。一方では、本発明の抗体の抗原結合活性は、たとえば、ELISA、ウェスタンブロッティングなどの知られた方法で試験される。当技術分野で知られた方法を用いてCLDN18.2および/またはCD3への結合を決定でき、例示的な方法が本明細書に開示される。実施態様によっては、放射免疫アッセイ(RIA)または生体膜薄層干渉法またはMSDまたは表面プラズモン共鳴(SPR)またはフローサイトメトリーが使用される。
【0185】
他方では、競合アッセイを使用して、CLDN18.2および/またはCD3への結合について、本明細書に開示の任意の二重特異性抗体と競合する抗体を特定できる。実施態様によっては、このような競合抗体は本明細書に開示の二重特異性抗体と同じまたは重複するエピトープ(直鎖状または立体配座エピトープなど)に結合する。
【0186】
本発明は、生物学的活性を有する抗体を特定するアッセイも提供する。生物学的活性としては、たとえば、CLDN18.2および/またはCD3への結合(たとえば、ヒトCLDN18.2および/またはCD3への結合)、CLDN18.2および/またはCD3を発現する細胞への結合、T細胞の活性化、サイトカイン分泌の促進、腫瘍細胞の阻害および死滅などを挙げることができる。インビボおよび/またはインビトロでこのような生物学的活性を有する抗体も提供される。
【0187】
実施態様によっては、本発明の抗体をこのような生物学的活性について試験する。
【0188】
上記のインビトロアッセイのいずれかに用いられる細胞としては、CLDN18.2および/またはCD3を自然に発現するか、修飾によりCLDN18.2および/またはCD3を発現あるいは過剰発現する細胞株が挙げられる。このような細胞は、CLDN18.2および/またはCD3を発現する細胞株、ならびに通常はCLDN18.2および/またはCD3を発現せず、コードDNAを遺伝子導入された細胞株も包含する。実施態様によっては、このような細胞は、胃がん細胞または膵臓がん細胞である。実施態様によっては、これらの細胞は、CLDN18.2を発現するCHO細胞である。実施態様によっては、これらの細胞は、NUGC-4、KATO IIIおよびDAN-G細胞株、たとえばCLDN18.2を過剰発現するKATO IIIおよびDAN-G細胞株である。実施態様によっては、このような細胞はT細胞、たとえばジャーカット細胞などのヒトTリンパ球である。
【0189】
本発明の抗体と他の活性剤との組合せを上記の決定方法のいずれにも使用できることが理解できる。
VI.医薬組成物
【0190】
実施態様によっては、本発明は、本明細書に記載の任意の抗体またはその抗体を含む組成物を提供し、好ましくは、この組成物は医薬組成物である。一実施態様では、この組成物は薬学的に許容される補助物質をさらに含む。一実施態様では、組成物、たとえば医薬組成物は、本発明の抗体またはその断片と1種以上の他の治療剤との組合せを含む。
【0191】
本発明はさらに、本発明の二重特異性抗体またはその抗体を含む組成物(医薬組成物を含む)を包含する。これらの組成物は、薬学的に許容される適切な補助物質、たとえば薬学的に許容される担体および薬学的に許容される賦形剤(当技術分野で知られる緩衝剤を含む)をさらに含んでもよい。
【0192】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、生理学的に適合するあらゆる溶媒、分散媒、等張剤および吸収遅延剤を包含する。
【0193】
薬学的に許容される補助物質の使用および用途については、"Handbook of Pharmaceutical Excipients", 8th edition, R.C. Rowe, P.J. Seskey and S.C. Owen, Pharmaceutical Press, London, Chicagoも参照のこと。
【0194】
本発明の組成物は、様々な形態をとり得る。これらの形態としては、たとえば、液体、半固体および固体の剤形、たとえば溶液(たとえば、注射溶液および輸液)、粉剤または懸濁液、リポソームおよび坐剤が挙げられる。好ましい形態は、意図される投与方式および治療用途に依存する。
【0195】
本明細書に記載の抗体を含む薬物は、必要な純度の本発明の抗体を、好ましくは凍結乾燥製剤または水溶液の形態で、1種以上の任意の薬学的に許容される補助材料と混合することにより調製できる。
【0196】
本発明の医薬組成物または製剤は、治療対象である特定の徴候に必要な2種以上の活性成分(好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない補完的な活性を有する活性成分をさらに含むことができる。たとえば、化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)などの他の治療剤も提供することが理想的である。前記活性成分は、意図される用途に有効な量で適切に組み合わせられる。
【0197】
徐放性製剤を調製してもよい。徐放性製剤の適切な例としては、、抗体を含む固体疎水性重合体を含む半透性の基材が挙げられ、前記基材はフィルムまたはマイクロカプセルなどの成形品の形態である。
VII.薬学的組合せおよびキット
【0198】
実施態様によっては、本発明はさらに、本発明の抗体および1種以上の他の治療剤(化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬または免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)など)を含む薬学的組合せまたは薬学的組合せ製品を提供する。
【0199】
本発明の別の目的は、好ましくは薬物の投与単位の形態で、本発明の薬学的組合せを含むキットを提供することである。したがって、投薬計画または投薬間隔に従ってこの投薬単位を提供できる。
【0200】
一実施態様では、本発明のキットは、本発明の二重特異性抗体を含む医薬組成物が入った第1の容器および他の治療剤を含む医薬組成物が入った第2の容器を含む。
VIII.使用および方法
【0201】
一方では、本発明は、治療上有効な本発明の抗CLDN18.2および抗CD3二重特異性抗体もしくはその断片(好ましくは抗原結合断片)、医薬組成物、薬学的組合せまたはキットを対象に投与することを含む、対象の腫瘍(がんなど)を予防あるいは治療する方法を提供する。
【0202】
実施態様によっては、腫瘍(がんなど)を有する患者は、(核酸またはタンパク質レベルなどの上昇したレベルの)CLDN18.2を有する。
【0203】
実施態様によっては、がんなどの腫瘍は、固形腫瘍、血液腫瘍および転移病変を包含する。一実施態様では、固形腫瘍の例としては悪性腫瘍が挙げられる。がんは、初期、中期、後期、または転移性がんであり得る。
【0204】
実施態様によっては、腫瘍治療は、核酸またはタンパク質レベルでのCLDN18.2の阻害により利益を得る。
【0205】
特定の実施態様では、本発明の抗体は、腫瘍細胞を死滅させ、かつ/あるいは腫瘍細胞、たとえば胃がん細胞または膵臓がん細胞などのCLDN18.2発現腫瘍細胞の増殖を阻害できる。
【0206】
別の特定の実施態様では、本発明の抗CLDN18.2×CD3二重特異性抗体は、T細胞を活性化できる。
【0207】
したがって、本発明の抗体は、細胞障害性T細胞のエフェクター機構が必要とされる任意の腫瘍もしくはがん、またはT細胞動員を必要とする任意の腫瘍もしくはがんの予防または治療に適用できる。
【0208】
実施態様によっては、腫瘍は、腫瘍の免疫回避状態にある。
【0209】
実施態様によっては、腫瘍はがん、たとえば胃がんまたは膵臓がんであり、対象は哺乳動物、たとえば霊長類、好ましくはヒトなどの高等霊長類(たとえば、本明細書に記載の疾患に罹患しているか、本明細書に記載の疾患を罹患するリスクのある個体)であり得る。一実施態様では、対象は、本明細書に記載の疾患(たとえば、がん)に罹患しているか、本明細書に記載の疾患に罹患するリスクがある。実施態様によっては、対象は他の治療、たとえば化学療法および/または放射線療法を受けているか受けたことがある。実施態様によっては、対象は、以前に免疫療法を受けたことがあるか、免疫療法を受けている。
【0210】
他の側面では、本発明は、本明細書に記載の目的、たとえば本明細書に記載の関連疾患または障害の予防または治療のために使用される、医薬品の製造または調製における抗体分子または医薬組成物または薬学的組合せまたはキットの使用を提供する。
【0211】
実施態様によっては、本発明の抗体分子または医薬組成物または薬学的組合せまたはキットは、疾患および/または疾患に関連する症状の発症を遅らせることができる。
【0212】
実施態様によっては、本明細書に記載の用途、たとえば本明細書に記載の関連疾患または障害の予防および/または治療のために、本発明の抗体分子または薬学的組成物を1つ以上の他の治療、たとえば治療方式および/または他の治療薬と併用してもよい。
【0213】
実施態様によっては、治療方式としては、手術、放射線療法、局所照射または集束照射などが挙げられる。
【0214】
実施態様によっては、治療剤は、化学療法剤、血管新生阻害剤、サイトカイン、細胞傷害性薬剤、他の抗体、小分子薬および免疫調節剤(免疫チェックポイント阻害剤または作動薬など)から選択される。
【0215】
免疫調節剤の例としては、免疫抑制剤または抗炎症剤が挙げられる。実施態様によっては、免疫調節剤は免疫チェックポイント阻害剤または作動薬も包含する。他の例示的な抗体としては、免疫チェックポイントに特異的に結合する抗体が挙げられる。
【0216】
実施態様によっては、本明細書に記載の抗体の組合せをたとえば別個の抗体として別個に投与することができる。
【0217】
このような併用療法は、併用投与(たとえば、2種以上の治療剤が同じまたは別個の製剤に含まれる)および異時投与を包含する。この場合、本発明の抗体の投与は、他の治療剤および/または薬物の投与の前、同時、および/または後に行われてもよい。
【0218】
医薬組成物の投与経路は既知の方法、たとえば経口、静脈内注射、腹腔内、脳内(実質)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈内または局所的経路、連続放出システムまたは留置型装置による方法に基づく。実施態様によっては、大量瞬時投与または持続注入または留置型装置により組成物を投与してもよい。
【0219】
組成物はまた、必要な分子を吸収あるいは被包させた留置型の膜、スポンジまたは別の適切な材料により局所投与されてもよい。実施態様によっては、留置型装置を用いる場合、装置は任意の適切な組織または器官に留置されてもよく、拡散、大量瞬時投与の時限放出、または継続投与により必要な分子を送達できる。
IX.診断および検出のための方法および組成物
【0220】
実施態様によっては、生体試料中のCLDN18.2の存在の検出に本明細書で提供される任意の抗体を使用できる。本明細書で使用される「検出」という用語は、定量的または定性的検出を包含し、例示的な検出としては、免疫組織化学、免疫細胞化学、フローサイトメトリー(たとえばFACS)、抗体分子と複合体化された磁気ビーズ、ELISA、およびPCR技術(たとえばRT-PCR)が含まれ得る。実施態様によっては、生体試料は、生体供給源の血液、血清または他の流体試料である。特定の実施態様では、生体試料は細胞または組織を含む。実施態様によっては、生体試料は増殖性のあるいはがん性病変に関連する病変に由来する。
【0221】
一実施態様では、診断または検出方法に使用するための二重特異性抗体が提供される。別の側面では、生体試料中のCLDN18.2の存在を検出する方法が提供される。特定の実施態様では、この方法は、生体試料中のCLDN18.2タンパク質の存在を検出することを含む。特定の実施態様では、CLDN18.2はヒトCLDN18.2である。特定の実施態様では、CD3はヒトCD3である。特定の実施態様では、この方法は、抗体がCLDN18.2に結合できる条件で生体試料を本明細書に記載の抗体と接触させること、および抗体とCLDN18.2との間で複合体が形成されるかどうかを検出することを含む。複合体の形成はCLDN18.2の存在を示す。この方法は、インビトロの方法でもインビボの方法でもよい。一実施態様では、たとえばCLDN18.2が対象を選択するための生物マーカーである場合に、二重特異性抗体による治療に適した対象を選択するために本発明の抗体を使用する。
【0222】
一実施態様では、本発明の抗体は、がんなどの腫瘍を診断してたとえば対象における本明細書に記載の疾患の治療または進行、診断および/または病期分類を評価(たとえば監視)するために使用されてもよい。特定の実施態様では、標識された二重特異性抗体が提供される。標識としては、直接検出される標識または部分(たとえば、蛍光標識、発色団標識、高電子密度標識、化学発光標識および放射性標識)、さらにはたとえば酵素反応または分子相互作用により間接的に検出される部分、たとえば酵素またはリガンドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0223】
本明細書で提供される実施態様によっては、試料は本発明の抗体での治療の前に得られる。実施態様によっては、試料は他の療法による治療の前に得られる。実施態様によっては、試料は他の療法による治療中または治療後に得られる。
【0224】
実施態様によっては、試料はホルマリン固定後パラフィン被覆(FFPE)されている。実施態様によっては、試料は生検(コア生検など)、外科標本(外科的切除からの標本など)、または細針吸引物である。
【0225】
実施態様によっては、CLDN18.2は治療前、たとえば最初の治療の前、または特定の治療から間隔を空けた後の治療の前に検出される。
【0226】
実施態様によっては、本発明の疾患を治療する方法が提供され、この方法は、対象(たとえば試料(たとえば対象から得られた試料))中のCLDN18.2の存在を検出してCLDN18.2値を決定すること、そのCLDN18.2値を対照値と比較すること、およびそのCLDN18.2値が対照値よりも高い場合、治療有効量の本発明の二重特異性抗体を必要に応じて1つ以上の他の療法と併用して対象に投与して前記疾患を治療することを含む。
【0227】
本発明のこれらのおよび他の側面ならびに実施態様について、図面(図面の簡単な説明が伴う)および以下の発明の詳細な説明に記載し、以下の実施例に示す。上記および本出願全体に記載の特徴のいずれかまたはすべてを本発明の様々な実施態様で組み合わせてもよい。以下の実施例は本発明をさらに例示する。なお、しかし、実施例は限定ではなく例示として記載されており、様々な変更が当業者によってなされてもよい。
【実施例】
【0228】
実施例1.安定細胞株の構築
ヒトCLDN18.2過剰発現細胞株の調製
【0229】
Freedom(登録商標)CHO-S(登録商標)Kit(Invitrogen、A1369601)を用い、製造元の指示に従ってヒトクローディン18.2(CLDN18.2と略す、以下同じ)を発現する安定な細胞株を構築した。まず、ヒトCLDN18.2(UniProt ID: P56856-2)の全長遺伝子をベクターpCHO1.0に構築し、プラスミドを形成した。構築したプラスミドをCHO-S細胞(Invitrogen、A1369601)およびHEK293細胞(Invitrogen、A14527)にそれぞれ化学的遺伝子導入および電気的遺伝子導入した。遺伝子導入後、細胞を2回の圧力選別に供し、それぞれCLDN18.2を発現する細胞プール(プール)を得た。次いで、フローサイトメトリー(MoFlo XDP、Beckman Coulter)を用いてCLDN18.2高発現細胞を分離した。CLDN18.2を安定発現するモノクローナル細胞株CHO-hCLDN18.2およびHEK293-hCLDN18.2を希釈法により得た。
ヒトCLDN18.1過剰発現細胞株の調製
【0230】
Freedom(登録商標)CHO-S(登録商標)Kit(Invitrogen、A1369601)を用い、製造元の指示に従ってヒトクローディン18.1(CLDN18.1と略す、以下同じ)を発現する安定な細胞株を構築した。まず、ヒトCLDN18.1(UniProt ID: P56856-1)の全長遺伝子をベクターpCHO1.0(Invitrogen、A1369601)に構築し、プラスミドを形成した。構築したプラスミドをCHO-S細胞(Invitrogen、A1369601)に化学的遺伝子導入により導入した。遺伝子導入後、細胞を2回の圧力選別に供し、それぞれCLDN18.1を発現する細胞プール(プール)を得た。次いで、フローサイトメトリー(MoFlo XDP、Beckman Coulter)を用いてCLDN18.1高発現細胞を分離した。CLDN18.1を安定発現するモノクローナル細胞株CHO-hCLDN18.1を希釈法により得た。
CLDN18.2過剰発現腫瘍細胞株の構築
【0231】
ヒトCLDN18.2の全長遺伝子(UniProt ID: P56856-2)をベクターpWPT-GFP(Addgene、12255)に構築し、その中のGFP配列を置き換え、ウイルス格納のためにレンチウイルスパッケージングベクターpsPAX2(Addgene、12260)およびpMD2.G(Addgene、12259)をHEK293T(ATCC、CRL-3216)細胞に同時遺伝子導入した。培養の48時間後、72時間後に培養上清を回収し、レンチウイルスをPEG8000で濃縮した。濃縮ウイルスを用いて膵臓がんDAN-G細胞および胃がんKATO III細胞に遺伝子導入し、次いでフローサイトメトリー(MoFlo XDP, Beckman Coulter)を用いてCLDN18.2発現細胞を選択し、CLDN18.2が安定に遺伝子導入された腫瘍細胞株DAN-G-hCLDN18.2およびKATO III-hCLDN18.2を得た。
実施例2.CLDN18.2単クローンの作製
【0232】
本発明は、ハイブリドーマ技術を採用し、H2L2完全ヒト抗体遺伝子導入マウス(Harbor BioMedから購入)を実施例1で得た細胞(CHO-hCLDN18.2)で免疫する。次いで、マウスの脾臓細胞を得、骨髄腫細胞と電気融合した。その後、上清を回収し、抗CLDN18.2抗体を特異的に発現するハイブリドーマ細胞をフローサイトメトリー(FACS)で選別したところ、分泌された抗体はCLDN18.1に結合しなかった。実施例1で得た被験細胞(HEK293-hCLDN18.2)を計数し、1×106細胞/mlに希釈し、U字底96ウェルプレートにウェルあたり100 μl添加した。これを500 gで 5 分間遠心分離し、細胞培養液を廃棄した。96ウェルプレートのハイブリドーマの培養上清をU字型プレートにウェルあたり100 μl加えて細胞を再懸濁し、プレートを氷上で30分間静置した。500 gで5分間かけて上清を除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。マウスFabに対するFITC標識二次抗体(PBSで1:500希釈)100 μlを各ウェルに加え、ヒトFabに対するFITC標識二次抗体100 μlを陽性対照抗体に加えた。これを暗所の氷上で30分間恒温放置し、上清を500 gで5分間かけて除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。細胞の再懸濁用に50 μlの1×PBSを使用し、検出用にFACSを装置で使用した。上記と同じ方法を用いて、陽性クローンをCHO-hCLDN18.1で再選別した。2回の選別後、全ヒト抗体クローンHB37A6が得られた。
実施例3.組換えCLDN18.2モノクローナル抗体の調製
【0233】
抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6(CN202010570517.Xを参照)および対照抗体ゾルベツキシマブ(Zmabと略記、INN117の配列)を全長モノクローナル抗体の形態としてHEK293細胞(Invitrogen、A14527)で発現させた。
【0234】
まず、発現ベクターを構築し、HB37A6および対照抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列情報を参照のこと)をヒトIgG1の重鎖定常領域(配列番号5)および軽鎖カッパ定常領域(配列番号10)のN末端にそれぞれ配置した。その後、これをN末端シグナルペプチドを有するpcDNA3.1発現ベクター内に構築し、軽鎖および重鎖発現ベクターを得た。得られた軽鎖および重鎖発現ベクターを、PEI(Polysciences Inc.、23966)によりHEK293細胞に同時遺伝子導入し、培養7日後に培養液上清を回収した。この上清をタンパク質Aカラム(Hitrap Mabselect Sure、GE 11-0034-95)で精製した後、限外濾過を行い、液体をPBS(Gibco、70011-044)に替えた。A280法で濃度を検出し、SEC-HPLC法で純度を決定した。95%を超える純度の抗体溶液が得られ、組換えCLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6が得られた。
【0235】
具体的な遺伝子導入および精製工程は以下のとおりである。
Expi293 細胞(Invitrogen、A14527)を必要な遺伝子導入量に従って継代し、遺伝子導入の前日に細胞密度を1.5×106細胞/mlに調整した。遺伝子導入当日の細胞密度は約3×106細胞/mlであった。Opti-MEM培地(Gibco、31985-070)の最終容量の10分の1を遺伝子導入緩衝液として取り、1.0 μg/mlの遺伝子導入細胞に従って適切なプラスミドを添加した。適切なポリエチレンイミン(PEI)(23966)をプラスミドに加え(293F細胞中のプラスミドとPEIの比1:3)、よく混ぜ合わせ、室温で20分間恒温放置してDNA/PEI混合物を得た。このDNA/PEI混合物をゆっくりと細胞に加えながらフラスコを静かに振り、36.5℃、8% CO2の恒温槽で培養した。7日後に細胞材料が得られ、精製のために細胞上清を回収した。
【0236】
精製用タンパク質Aカラム(Hitrap Mabselect Sure、GE, 11-0034-95)を0.1MのNaOHで2時間処理し、ガラス瓶を蒸留水で洗浄し、180℃で4時間乾燥させた。回収した細胞材料を精製前に4500 rpmで30分間遠心分離した後、0.22 μMフィルターを用いて上清を濾過した。10カラム容量の結合緩衝液(リン酸ナトリウム20 mM、NaCl 150 M、PH7.0)を用いてタンパク質Aカラムを平衡化した。濾過した上清を精製カラムに加え、10カラム容量の結合緩衝液で平衡化した。5 mlの溶出緩衝液(クエン酸+クエン酸ナトリウム 0.1 M、pH3.5)を加えてから溶出液を回収し、次いで溶出液1 mlあたり80 μLの2MのTris-HClを加えた。回収した抗体を濃縮し、濃度を検出する前に限外濾過でPBS(Gibco、70011-044)に交換した。
実施例4.SPR法によるCLDN18.2抗体の親和性の決定
【0237】
ヒトCLDN18.2へのHB37A6の結合の平衡解離定数(K
D)を表面プラズモン共鳴(SPR)で決定した。アミノカップリングキット(GE Healthcare、BR-1006-33)を製造元の指示に従って使用し、ヒトクローディン18.2(GenScrip、P50251802)をCM5チップ(GE Healthcare、29-1496-03)の表面に結合させた。カップリング後、1 Mのエタノールアミンを注入して残りの活性化部位を塞いだ。チップ表面抗原と移動相中の抗体との結合および解離をBiacore(GE Healthcare、T200)で製造業者の指示に従って検出して、親和性および動態的定数を得た。段階希釈された抗体(0~100 nM)を結合時間180 秒、解離時間600秒で低濃度から高濃度の順にチップ表面に流した。最後に、10 mMのグリシンpH 1.5(GE Healthcare、BR-1003-54)を用いてチップを再生した。得られたデータをBiacore T200 分析ソフトウェアを用いて分析し、1:1の組合せモデルを用いて動的分析を行った。表1に示すように、HB37A6の親和性は対照抗体Zmabよりも優れていた。
【表3】
実施例5.CLDN18.2抗体のCLDN18細胞への結合特異性
【0238】
実施例1で得たヒトCLDN18.2およびヒトCLDN18.1で安定的に遺伝子導入されたCHO-S細胞株(すなわち、実施例1に記載のように調製されたCHO-hCLDN18.2およびCHO-hCLDN18.1)に対する上記の抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6および対照抗体Zmabの結合をフローサイトメトリー(FACS)で決定した。
【0239】
具体的には、実施例1で得た被験細胞(CHO-hCLDN18.2およびCHO-hCLDN18.1)を計数し、1×10
6細胞/mlに希釈し、U字底96ウェルプレートにウェルあたり100 μl加えた後、500 gで 5 分間遠心分離してから細胞培養液を除去した。抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6および対照抗体ZmabをU字型プレートにウェルあたり100 μl加えた後、細胞を再懸濁した。抗体の初期濃度は900 nMであり、これを合計10の濃度点になるよう3倍に段階希釈してから氷上で30分間静置し、500 gで5分間かけて上清を除去し、細胞をPBSで1回洗浄してからPE標識ヤギ抗ヒトFc二次抗体(Southern Biotech、J2815-5H87B)をウェルあたり100 μl加え、暗所の氷上で30分間恒温放置し、上清を500 gで5分間かけて除去し、細胞をPBSで1回洗浄した。細胞の再懸濁用に50 μlの1×PBSを使用し、検出にはFACSを使用した。GraphPad Prismソフトウェアを用いて実験データを分析し、
図1および
図2を得た。
図1および
図2に示すように、抗体はヒトCLDN18.2に特異的に結合するが、ヒトCLDN18.1には結合しない。
実施例6.腫瘍細胞株へのCLDN18.2抗体の結合
【0240】
実施例5を参照し、胃がん細胞株NUGC-4(JCRB細胞バンク、JCRB0834)、胃がん細胞株KATO III-hCLDN18.2および膵臓がん細胞株DAN-G-hCLDN18.2へのHB37A6の結合をFACSで決定した。
図3から、全ヒト抗体HB37A6が対照抗体Zmabよりも優れた腫瘍細胞特異的結合を有することがわかった。
実施例7.インビボでのCLDN18.2抗体の抗腫瘍効果
1.担DAN-G-CLDN18.2腫瘍マウスモデルに対する抗体の活性
【0241】
HB37A6抗体を用いて、ヒト膵臓がんを有するNOD-SCIDマウス(雌NOD-SCIDマウス(15~18 g)をBeijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltdから購入した;n=60)で抗腫瘍効果を試験した。実施例1で構築されたヒト膵臓がん細胞DAN-G-hCLDN18.2を後のインビボ実験のために定期的に継代し、次いで遠心分離して細胞を回収し、DAN-G-hCLDN18.2をPBS(1×)に分散させて懸濁液1 mlあたり12×105の細胞密度を得た。この細胞懸濁液をマトリゲルゲルと1:1で混合し、細胞懸濁液1 mlあたり6×105細胞の濃度の細胞を調製した。0日目に、0.2 mlの細胞懸濁液をNOD-SCIDマウスの右腹部に皮下接種し、担DAN-G-CLDN18.2腫瘍マウスモデルを確立した。
【0242】
各マウスの腫瘍体積を腫瘍細胞の接種の5日後に検出した。43.36 mm3~89.47 mm3の範囲の腫瘍体積を有するマウスを選び、腫瘍の大きさに従って蛇行群に分けた(各群8匹のマウス)。
【0243】
各マウスに、hIgG(Equitech-Bio、バッチ番号160308-02)、HB37A6、および対照抗体Zmabを各回10 mg/kgの用量で投与した。投与は、それぞれ接種の5日後、9日後、12日後、および16日後に行われた。マウスの腫瘍体積を週に2~3回監視した。腫瘍体積測定:腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)をノギスで測定した。腫瘍体積を次の式:V=L×W2/2に従って計算した。体重測定には電子天秤を使用した。
2.担NUCG-4マウスモデルに対する抗体の活性
【0244】
ヒト胃がんを有するNOGマウス(雌NOGマウス(15~18 g)をBeijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltdから購入した;n=100)で抗腫瘍効果を試験するためHB37A6抗体を選択した。PBMC(Allcells)を回収して遠心分離によって集めてからPBMC細胞をPBS(1×)に分散させた。細胞密度は細胞懸濁液1 mlあたり2.5×106であり、0.2 mlの細胞懸濁液を取って0日目にNOGマウスの眼に静脈注射し、NOGヒト化マウスモデルを確立した。
【0245】
NUGC-4細胞を後のインビボ実験のために定期的に回収かつ継代した。NUGC-4細胞を遠心分離し、次いでPBS(1×)に分散させて12×106の細胞密度にした後、マトリゲルゲルと1:1で混合し、細胞懸濁液1 mlあたり10×106細胞の濃度の細胞を調製した。5日目に、0.2 mlの細胞懸濁液をNOGヒト化マウスの右腹部に皮下接種し、担NUGC-4腫瘍マウスモデルを確立した。
【0246】
腫瘍細胞の接種後1日目に、マウスを無作為に7匹/群に分けた。各マウスに、hIgG(Equitech-Bio、バッチ番号160308-02)、HB37A6、および対照抗体Zmabを各回10 mg/kgの用量で、それぞれ接種の1日後、5日後、8日後、および12日後に投与した。マウスの腫瘍体積および体重を週に2~3回監視した。腫瘍体積測定:腫瘍の最大長軸(L)および最大幅軸(W)をノギスで測定する。腫瘍体積を次の式:V=L×W2/2に従って計算した。体重測定には電子天秤を使用した。相対腫瘍抑制率(TGI%)を接種の26日後に次の式で計算した。
【0247】
TGI%=100%×(対照群の腫瘍体積-治療群の腫瘍体積)/(対照群の腫瘍体積-投与前の対照群の腫瘍体積)
3.結果
【0248】
図4に示すように、HB37A6および対照抗体Zmabはいずれもヒト膵臓がんDAN-G-CLDN18.2マウスモデルの腫瘍増殖を阻害でき、HB37A6のTGIは28%、ZmabのTGIは24%である。
図5に示すように、ヒト胃がんNUGC-4マウスモデルに対して、HB37A6は対照抗体Zmabよりも優れた抗腫瘍効果を示し、HB37A6のTGIは31%、ZmabのTGIは0%である。
実施例8.抗CD3モノクローナル抗体の調製
【0249】
マウスCD3抗体sp34(米国特許第8236308号;J. Immunol. Methods., 1994, 178:195)ならびにsp34のヒト化および親和性最適化により得られた抗CD3モノクローナル抗体HzSP34.24、HzSP34.87、HzSP34.97を全長モノクローナル抗体としてHEK293細胞(Invitrogen、A14527)で発現させた。
【0250】
HzSP34.24、HzSP34.87、HzSP34.97およびsp34の重鎖可変領域、重鎖可変領域および軽鎖可変領域(配列情報を参照のこと)をIgG1重鎖定常領域(配列番号23)および軽鎖ラムダ定常領域(配列番号28)のN末端に配置した。その後、これらをN末端シグナルペプチドを有するpcDNA3.1発現ベクター内に構築し、軽鎖および重鎖発現ベクターを得た。得られた軽鎖および重鎖発現ベクターを、PEI(Polysciences Inc.、23966)によりHEK293細胞に同時遺伝子導入し、培養7日後に培養液上清を回収した。この上清をタンパク質Aカラム(Hitrap Mabselect Sure、GE 11-0034-95)で精製した後、限外濾過を行い、液体をPBS(Gibco、70011-044)に替えた。A280法で濃度を検出し、SEC-HPLC法で純度を決定した。95%を超える純度の抗体溶液を得、組換え抗CD3モノクローナル抗体HzSP34.24、HzSP34.87、HzSP34.97およびマウスCD3抗体sp34を得た。具体的な遺伝子導入および精製工程については実施例3を参照のこと。
実施例9.ヒトCD3への抗CD3モノクローナル抗体の結合
【0251】
ジャーカット細胞は、ヒトCD3複合体を発現する不死化ヒトTリンパ球であった。この細胞株を用いて、本発明の抗体と細胞との結合を検出した。
【0252】
詳細な操作は以下のとおりである。ジャーカット細胞(Promega、J1621)をU字96ウェルプレートにウェルあたり2×105細胞で接種し、検出対象抗体(抗CD3モノクローナル抗体HzSP34.24、HzSP34.87、HzSP34.97およびマウスCD3抗体sp34)を一連の濃度勾配(抗体分子の初期濃度は500 nM、3倍段階希釈)に従って対応する細胞ウェルに加え、4℃で30分間恒温放置した後、PBSを用いて未結合部分を洗浄し、ヒツジ抗ヒトFcのPE蛍光二次抗体(SouthernBiotech、J2815-5H87B)を加えた。4℃で15分間恒温放置した後、フローサイトメトリー(FACSCELESTA、BD)を用いてオンラインで検出した。
結果:
【0253】
図6に示すように、ヒト化CD3抗体HzSP34.24およびマウス抗体sp34は、細胞レベルで同等の親和性を示したが、細胞レベルでのHzsp34.87およびHzsp34.97のCD3との親和性は様々な程度に弱まっていた。
実施例10.CD3抗体のT細胞活性化機能の検出
【0254】
本発明は、ジャーカットNFAT(活性化T細胞核因子)レポーター細胞(Promega、J1621)を用いて抗CD3モノクローナル抗体HzSP34.24、HzSP34.87、HzSP34.97およびマウスCD3抗体sp34のT細胞活性化機能を検出した。細胞は改変ジャーカットT細胞であった。この細胞は、TCR-CD3経路を介して活性化されたときに下流のシグナルNFATを介してルシフェラーゼ基質を実験系内に放出するため、それによりT 細胞の活性化を検出した。
【0255】
この例の詳細な操作では、白色の平坦な96ウェルプレートを使用し、4×10
4個のジャーカットNFAT細胞を各ウェル内の対応する濃度の様々な抗体分子と混合し(抗体分子の初期濃度は500 nM、3倍段階希釈)、37℃の恒温槽に6~8時間恒温放置してから100 μLのBio-Glo (Promega、G7940)を各ウェルに加え、Microplate Reader(Spectra、Molecular Devices)を用いて波長検出を行った。結果を
図7に示した。マウスCD3抗体sp34、ヒト化CD3抗体HzSP34.24、Hzsp34.87およびHzsp34.97はいずれもT 細胞を活性化する能力を有する。
実施例11.二重特異性抗体の構築および調製
【0256】
表2の組合せに従い、抗CLDN18.2モノクローナル抗体HB37A6と3種の異なる抗ヒトCD3モノクローナル抗体HzSP34.24、HzSP34.87およびHzSP34.97の抗原結合領域の配列をそれぞれ用いて、CLDN18.2×CD3を標的とする「1+1」型の二重特異性抗体030、032および033を構築し、それらの構造を
図8に示した。具体的には、CLDN18.2の抗原結合ドメインを特異的に標的とする重鎖可変領域の配列は配列番号4であり、軽鎖可変領域の配列は配列番号9であった。CD3を特異的に標的とする抗原結合ドメインの重鎖可変領域の配列は配列番号22、配列番号30および配列番号32であり、軽鎖可変領域の配列は配列番号27であった。抗体のFcセグメントは、knob-in-hole構造のIgG1 LALA配列を選択する(A. Margaret Merchant et al., Nature Biotechnology, 1998)。したがって、二重特異性抗体のCLDN18.2部分の重鎖は配列番号37、軽鎖は配列番号38であった。二重特異性抗体のCD3部分の重鎖は配列番号39、41および42、軽鎖は配列番号40であった。
【0257】
二重特異性抗体のプラスミド構築の工程は以下のとおりである。CLDN18.2の重鎖配列(配列番号37)、CLDN18.2の軽鎖配列(配列番号38)、CD3の重鎖配列(配列番号39、41および42)、およびCD3の軽鎖配列(配列番号40)をベクターpcDNA3.1(Invitrogen、V790-20)に挿入して、CLDN18.2部分の重鎖プラスミドおよび軽鎖プラスミド、ならびにCD3部分の重鎖プラスミドおよび軽鎖プラスミドを得た。次いで、PEI(Polysciences、23966)を用いて、CLDN18.2部分の重鎖プラスミドおよび軽鎖プラスミド、ならびにCD3部分の重鎖プラスミドおよび軽鎖プラスミドをExpi293細胞(Invitrogen、A14527)に一過性に遺伝子導入し、CLDN18.2部分およびCD3部分の3つの抗体分子を発現させた。7日後、細胞発酵ブロスを得て濾過し、清澄化し、Hitrap Mabselect Sureのタンパク質Aカラム(GE Healthcare、11-0034-95)でそれぞれ捕捉して、CLDN18.2およびCD3に対する部分の抗体を得た。A280法で濃度を検出した後、両抗体部分を1:1の比で混合し、次いで適量の還元剤GSHを加えて室温で一晩反応させた後、限外濾過により還元剤を除去して反応を終了させた。その後、MonoS陽イオン交換クロマトグラフィー(GE Healthcare、17-5168-01)により高純度精製を行った。A液は20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.6)、B液は1 Mの塩化ナトリウムを含む20 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.6)であった。溶出勾配は0~50%(30カラム容量)であった。溶出したタンパク質溶液を限外濾過し、PBS(Gibco、70011-044)に移した。質量分析法で分子量を決定し、SEC-HPLCで純度を確認した。得られた030、032および033二重特異性抗体を以下の実施例で使用した。
【表4】
実施例12.二重特異性抗体の親和性の決定
【0258】
ヒトCD3タンパク質に結合する本発明の二重特異性抗体の平衡解離定数(KD)を生体層干渉法(BLI)で決定した。既存の方法(Estep, P et al., High throughput solution based measurement of antibody-antigen affinity and affinity binding(高処理量の溶液に基づく抗体-抗原親和性および親和性結合測定). MAbs, 2013.5 (2): 270-8)に従い、BLI法の親和性決定を行った。
【0259】
実験の30 分前に、試料数に応じて適切な数のAHC (18-5060、Fortebio)センサを採用し、SD緩衝液(1×PBS、BSA 0.1%、Tween(登録商標)-20 0.05%)に浸漬した。100 μlのSD緩衝液、各二重特異性抗体およびヒトCD3タンパク質(CT026H0323H、Sino Biological Inc.)を黒色の96ウェルポリスチレン半定量マイクロウェルプレート(Greiner、675076)に加えた。検出にはFortebio Octet Red96を用い、試料の位置に応じてセンサの位置を選択した。機器の設定パラメータは次のとおりである。操作工程:ベースライン、固相化(約1 nm)、ベースライン、結合および解離;各工程の操作時間は試料の結合および解離の速度に依存した。回転速度は1000 rpm、温度は30℃であった。ForteBio Octet 解析ソフトウェアを用いてKD値を解析した。
【0260】
二重特異性抗体の親和性を表3に示した。030 分子のCD3部分の親和性が最も高く、7.4 nMであった。次に、032および033分子のCD3部分の親和性は、それぞれ89 nMおよび440 nMで減少した。
【表5】
【0261】
ヒトCLDN18.2への結合の平衡解離定数(K
D)を表面プラズモン共鳴(SPR)で決定した。アミノカップリングキット(GE Healthcare、BR-1006-33)を製造元の指示に従って使用し、抗原ヒトクローディン18.2(GenScrip、P50251802)をCM5チップ(GE Healthcare、29-1496-03)の表面に結合させた。カップリング後、1 Mのエタノールアミンを注入して残りの活性化部位を塞いだ。チップ表面抗原と移動相中の様々な二重特異性抗体との結合および解離をBiacore(GE Healthcare、T200)で製造業者の指示に従って検出して、親和性および動態的定数を得た。段階希釈後の抗体(0~100 nM、2倍希釈)を結合時間180秒、解離時間600秒で低濃度から高濃度の順にチップ表面に流した。最後に、10 mMのグリシンpH1.5(GE Healthcare、BR-1003-54)を用いてチップを再生した。得られたデータをBiacore T200分析ソフトウェアおよび1:1の組合せモデルを用いて分析した。結果を表4に示した。同じクローンHB37A6を030、032および033二重特異性抗体のCLDN18.2部分に用いたところ、CLDN18.2部分の親和性は0.57 nMの非常に強い親和性で一貫していた。
【表6】
実施例13.インビトロのT細胞死滅試験
【0262】
実施例11で得られた030、032および033二重特異性抗体をインビトロのT細胞死滅試験に用いた。ヒト末梢血単核細胞(PBMC、AllcellsまたはSaily)を完全培地RPMI-1640(Hyclone、SH30809.01)+10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone、SH30084.03)で再懸濁し、PBMCを2×106/mlに調整した。
【0263】
NUGC-4またはクローディン18.2過剰発現DAN-G腫瘍標的細胞DAN-G-hCLDN18.2、非標的細胞L363(DSMZ、ACC49)をFar-Red(Invitrogen)で10分間かけて標識し、2回洗浄した後、完全培地で再懸濁し、次いで細胞濃度を2×105/ml に調整した。
【0264】
PBMCを二重特異性抗体030、032および033とそれぞれ混合し(030および 032 の初期濃度は1 nM、033の初期濃度は400 nM。すべての抗体を合計10の濃度点になるよう5倍希釈した)、37℃で30分間恒温放置した後、50 μLの腫瘍標的細胞(1×104)を50 μLのPBMCエフェクター細胞にエフェクター細胞:標的細胞の比10:1で加え、続いて37℃で24時間恒温放置し、遠心分離して細胞をヨウ化プロピジウム(PI、Invitrogen)1 mlあたり10 μgの最終濃度になるよう再懸濁し、次いでフローサイトメトリー(BD、FACSCELESTA)を用いてFar-Red陽性細胞およびPI陽性細胞の両方を検出した。腫瘍標的細胞の死滅率をFACSDivaソフトウェア(BD、Celestsa)で計算した。
【0265】
図9の結果は、030および032分子が胃がん細胞NUGC-4に対して非常に強い死滅活性を有し、EC50値が1 pM未満であることを示した。
図10の結果は、両細胞のEC50値がCLDN18.2高発現膵臓がん細胞DAN-G-hCLDN18.2についてはさらに0.1 pM未満であることを示した。2つの腫瘍細胞株に対する033分子の死滅活性はより弱く、030および032よりも約1000倍低かったが、それでも最大の死滅(ほぼ100%の溶解細胞)に達した。しかし、CLDN18.2の負の発現の場合、030、032および033分子はいずれも非特異的な死滅効果を有していなかった(
図11)。このことは、030、032および033分子はいずれもCLDN18.2の発現に依存して腫瘍細胞の特異的な死滅を示すことを示している。さらに、本発明の二重特異性抗体の死滅効果は、細胞表面のCLDN18.2の存在量に関連する。特定の発現量範囲では、細胞表面のCLDN18.2の発現が高いほど死滅効果は優れている。
実施例14.インビトロのサイトカイン放出試験
【0266】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC、AllcellsまたはSaily)を完全培地RPMI-1640(Hyclone、SH30809.01)+10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone、SH30084.03)で再懸濁し、PBMCを2×106/mlに調整した。NUGC-4またはクローディン18.2過剰発現DAN-G腫瘍標的細胞DAN-G-hCLDN18.2の濃度を2×105/mlに調整した。
【0267】
PBMCを二重特異性抗体030、032および033とそれぞれ混合し、37℃で30分間恒温放置した後、50 μLの腫瘍標的細胞(1×104)を50 μLのPBMCエフェクター細胞にエフェクター細胞:標的細胞の比10:1で加え、続いて37℃で24時間恒温放置し、遠心分離して細胞上清を得た。ヒトTh1/Th2/Th17キット(BD、製品番号560484)を用いてサイトカインを検出した後、室温で3時間恒温放置し、フローサイトメトリー(BD、FACSCELESTA)で検出し、上清中のサイトカインの放出をFCAP Arrayソフトウェア(BD)で分析した。
【0268】
図12および
図13の結果は、030、032および033分子がCD3部分の親和性と正に相関する胃がん細胞NUGC-4および膵臓がん細胞DAN-G-hCLDN18.2のIL-2、TNFαおよびIFNγサイトカインの高放出を媒介できることを示した。
実施例15.インビトロのT細胞活性化試験
【0269】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC、AllcellsまたはSaily)を完全培地RPMI-1640(Hyclone、SH30809.01)+10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone、SH30084.03)で再懸濁し、PBMCを2×106/mlに調整した。
【0270】
NUGC-4またはクローディン18.2過剰発現DAN-G腫瘍標的細胞DAN-G-CLDN18.2の濃度を2×105/mlに調整した。PBMCを二重特異性抗体030、032および033とそれぞれ混合し、37℃で30分間恒温放置した後、50 μLの腫瘍標的細胞(1×104)を50 μLのPBMCエフェクター細胞にエフェクター細胞:標的細胞の比10:1で加え、続いて37℃で24時間恒温放置し、遠心分離して細胞上清を取り出し、次いで細胞をBV421抗ヒト CD3(Biolegend、317344)、PerCP/Cy5.5マウス抗ヒトCD4(BD、552838)、APC/Cy7抗ヒトCD8a(Biolegend、300926)、PE 抗ヒトCD25(Biolegend、302606)、FITC抗ヒトCD69(Biolegend、310904)と共に4℃で1 時間恒温放置し、次いで1×PBSで3回洗浄し、CD4+およびCD8+T細胞中のCD25およびCD69陽性細胞の両方の比率をフローサイトメトリー(BD、FACSCELESTA)で検出した。CD4+およびCD8+T 細胞中のCD25およびCD69陽性細胞の両方の比率をFACSDivaソフトウェア(BD、Celestsa)で計算した。これは、活性化中のCD4およびCD8+T 細胞の比率であった。
【0271】
図14に示すように、030、032および033分子は胃がん細胞NUGC-4の共培養でT細胞を特異的に活性化でき、活性化能力はCD3部分の親和性と正に相関していた。
実施例16.インビボの薬力学的実験-胃がんモデル
【0272】
本実験では、NUGC-4腫瘍に対する二重特異性抗体の抗腫瘍効果を雌のNOGマウスで調べた。49匹の雌NOGマウス(Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltd.)を選択した。
【0273】
PBMC細胞(Allcells)を蘇生させ、遠心分離した。PBS(1×)を用いてPBMC細胞を分散させ、細胞密度2×107/mlの細胞懸濁液を得た。200 μLの細胞懸濁液を採取し、マウスの眼窩静脈にPBMC細胞を4×106/マウスで注入した。
【0274】
NUGC-4細胞を後のインビボ実験のために定期的に蘇生させて継代培養した。細胞を遠心分離して回収し、NUGC-4細胞をPBS(1×)に分散させ、6×107/mlの細胞密度の細胞をマトリゲルゲルと1:1で混合し、3×107/mlの細胞密度の細胞懸濁液を調製した。3日目に、0.2 mlの細胞懸濁液をNOGヒト化マウスの右腹部に皮下接種し、担NUGC-4腫瘍マウスモデルを確立した。
【0275】
細胞接種後7日目に、マウスの腫瘍の最大幅軸および最大長軸をノギスで測定し、腫瘍体積を計算した。53.35 mm3~168.07 mm3の腫瘍体積を有するマウスを選び、腫瘍体積に従ってマウスを蛇行群に分けた(各群6匹のマウス)。各マウスに、本発明の二重特異性抗体030、032および033ならびに陰性対照h-IgG(Equitech-Bio、バッチ番号160308-02)を週に1回、合計4回、0.3 mg/kgおよび1 mg/kgの用量で静脈注射した。腫瘍体積を測定する頻度は週に2回であった。その間、腫瘍抑制率(TGI%)を以下のように計算した。
【0276】
TGI%=100%×(対照群の腫瘍体積-治療群の腫瘍体積)/(対照群の腫瘍体積-投与前の対照群の腫瘍体積)
【0277】
図15に示すように、担ヒト胃がんNUCG-4腫瘍マウスモデルでは、030および032は0.3 mg/kgの低用量で100%のTGIに達し、1 mg/kgの高用量で50%のCR(完全寛解)に達することができる(6匹のマウスのうち3匹が完全な腫瘍消失を達成した)。しかし、033分子は低用量ではほとんど効果がなく、TGIは1 mg/kgの用量で20%に達することができる。実験全体を通して、実験群および対照群のマウスの体重は減少しなかった。
実施例17.インビボの薬力学的実験-膵臓がんモデル
【0278】
本実験では、DAN-G-クローディン18.2腫瘍に対する二重特異性抗体の抗腫瘍効果を雌のNOGマウスで調べた。49匹のNOGマウス(Beijing Vital River Laboratory Animal Technology Co., Ltd.)の眼窩静脈にPBMC細胞をマウスあたり4×106で注射した。接種量はマウスあたり200 μlであった(実施例18に示すとおり)。これを0日目として記録した。
【0279】
実施例1で構築されたヒト膵臓がん細胞DAN-G-CLDN18.2を後のインビボ実験のために定期的に継代培養した。細胞を遠心分離して回収した。DAN-G-CLDN18.2をPBS(1×)に分散させて10×106/mlの細胞密度の懸濁液を得た。この細胞懸濁液をマトリゲルゲルと1:1で混合し、5×106細胞/mlの濃度の細胞懸濁液を調製した。0日目に、0.2 mlの細胞懸濁液を採取してNOD-SCIDマウスの右腹部に皮下注射し、CLDN18.2過剰発現DNA-G膵臓がんのヒト化モデルを確立した。
【0280】
腫瘍細胞の接種後7日目に、腫瘍の最大幅軸および最大長軸をノギスで測定し、腫瘍体積を計算した。46.42 mm3~120.64 mm3の範囲の腫瘍体積を有するマウスを腫瘍の大きさに従って蛇行群に分けた(各群6匹のマウス)。
【0281】
各マウスに、本発明の二重特異性抗体030、032および033ならびに陰性対照h-IgG(Equitech-Bio、バッチ番号160308-02)を週に1回、合計4回、0.3 mg/kgおよび1 mg/kgの腹腔内用量で静脈注射した。腫瘍体積を測定する頻度は週に2回であった。その間、腫瘍抑制率(TGI%)を以下のように計算した。
【0282】
TGI%=100%×(対照群の腫瘍体積-治療群の腫瘍体積)/(対照群の腫瘍体積-投与前の対照群の腫瘍体積)
【0283】
図16に示すように、CLDN18.2過剰発現DNA-G膵臓がんのヒト化モデルでは、030および032分子はいずれの用量でも100%のTGIに達することができる。033分子も0.3 mg/kgで42%のTGI、1 mg/kgで76%のTGIにそれぞれ達し、このことはDAN-G-CLDN18.2膵臓がん細胞におけるCLDN18.2の高発現に関連している可能性がある。実験全体を通して、実験群および対照群のマウスの体重は減少しなかった。
実施例18.マウスの薬物動態(PK)実験
【0284】
本試験では、雌のBalb/Cマウス(Vitoliva)に10 mg/kgの030、032および033を尾静脈から注射し、マウス体内の薬物動態を研究した。投与の0.086時間後、0.5時間後、2時間後、6時間後、24時間後、48時間後、4日後、7日後、14日後および21日後にそれぞれマウスの眼から採血し、血液を4℃、3000 rpmで10分間遠心分離して血清を回収した。血清中の抗体含有量をELISAで決定し、マウス体内の030、032および033の半減期を計算した。
【0285】
実験結果を
図17に示した。マウス体内の030、032および033の半減期は、通常のモノクローナル抗体のPKと似ていた。このことは、本発明により構築された二重特異性抗体が抗体の半減期に影響しないことをさらに示した。
【0286】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【配列表】
【国際調査報告】