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  • 特表-リチウムイオン電池電解液添加剤 図1
  • 特表-リチウムイオン電池電解液添加剤 図2
  • 特表-リチウムイオン電池電解液添加剤 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池電解液添加剤
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20231016BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231016BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231016BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231016BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20231016BHJP
   H01M 50/423 20210101ALI20231016BHJP
   H01M 50/429 20210101ALI20231016BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20231016BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20231016BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20231016BHJP
   H01G 11/64 20130101ALI20231016BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20231016BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/485
H01M4/587
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M50/417
H01M50/423
H01M50/429
H01M50/414
H01M50/426
H01M50/403 E
H01G11/64
H01M10/054
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023515177
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(85)【翻訳文提出日】2023-03-06
(86)【国際出願番号】 US2021053190
(87)【国際公開番号】W WO2022072839
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】63/086,943
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518343040
【氏名又は名称】ノームズ テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】モガンティ スリヤ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイディア ルトビク
(72)【発明者】
【氏名】トーレス ガブリエル
(72)【発明者】
【氏名】ウー ユエ
(72)【発明者】
【氏名】シニクロピ ジョン
【テーマコード(参考)】
5E078
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA03
5E078AA09
5E078AB01
5E078DA02
5E078DA06
5E078DA14
5E078DA19
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE04
5H021EE07
5H021EE10
5H021EE11
5H021HH01
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ04
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB12
5H050DA09
5H050EA23
5H050FA18
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
電池の抵抗を低減させ高温性能を改善するのに有用な、シリル基化合物を含む電解液添加剤;該シリル基化合物添加剤を含む電解液;および該電解液を含む電気化学エネルギー貯蔵デバイスを開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非プロトン性有機溶媒系;
金属塩;ならびに
式:
の少なくとも1つのシリル系化合物添加剤であって、式中、
Xは独立に酸素または硫黄であり、ここで少なくとも1つのXは硫黄であり;
mおよびnは0、1、2または3のいずれかであり;ここでmおよびnの合計は3でなければならず;
R1およびR2は独立にC1~C12置換もしくは無置換アルキル基、またはC6~C14アリール基であり;ここで水素原子は無置換であり得、またはハロゲン、アルキル、アルコキシ、パーフルオロ化アルキル、シリル、シロキシ、シラン、スルホキシド、アミド、アゾ、エーテル、およびチオエーテル基もしくはこれらの組み合わせであり得;かつ
R3、R4、R5は独立に水素、C1~C12アルキル基、ヘテロアルキル基、パーフルオロアルキル基、アルケニル基、フェニルまたはアルコキシ基から選択される、
シリル系化合物添加剤
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス電解液。
【請求項2】
少なくとも1つのシリル系化合物添加剤が、トリス(トリメチルシリル)チオホスフェート、ジエチル(トリメチルシリル)チオホスフェート、ジエチル(トリメチルシリル)ジチオホスフェート、およびこれらの混合物から選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1記載の電解液。
【請求項3】
少なくとも1つのシリル系化合物添加剤が、前記電解液中に0.01重量%~10重量%の濃度で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項4】
非プロトン性有機溶媒系が、鎖状または環状カーボネート、カルボン酸エステル、亜硝酸塩、エーテル、スルホン、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、亜リン酸塩、モノもしくはポリホスファゼン、またはこれらの混合物を含む、請求項1記載の電解液。
【請求項5】
非プロトン性有機溶媒系が、前記電解液中に60重量%~90重量%の濃度で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項6】
金属塩のカチオンがアルカリ金属である、請求項1記載の電解液。
【請求項7】
アルカリ金属がリチウムまたはナトリウムである、請求項6記載の電解液。
【請求項8】
金属塩のカチオンがアルミニウムまたはマグネシウムである、請求項1記載の電解液。
【請求項9】
金属塩が、前記電解液中に10重量%~30重量%の濃度で存在する、請求項1記載の電解液。
【請求項10】
少なくとも1つの第2の添加剤をさらに含む、請求項1記載の電解液。
【請求項11】
第2の添加剤が、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物、またはこれらの混合物を含む、請求項10記載の電解液。
【請求項12】
第2の添加剤が、部分的もしくは完全にハロゲン化されたリン酸エステル化合物、イオン液体、またはこれらの混合物を含む、請求項10記載の電解液。
【請求項13】
ハロゲン化されたリン酸エステル化合物が、4-フルオロフェニルジフェニルホスフェート、3,5-ジフルオロフェニルジフェニルホスフェート、4-クロロフェニルジフェニルホスフェート、トリフルオロフェニルホスフェート、ヘプタフルオロブチルジフェニルホスフェート、トリフルオロエチルジフェニルホスフェート、ビストリフルオロエチルフェニルホスフェート、フェニルビス(トリフルオロエチル)ホスフェートからなる、請求項12記載の電解液。
【請求項14】
イオン液体が、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドからなる、請求項12記載の電解液。
【請求項15】
第2の添加剤が、前記電解液中に0.01重量%~10重量%の濃度で存在する、請求項10記載の電解液。
【請求項16】
正極;
負極;
請求項1記載の電解液;および
セパレーター
を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項17】
正極が、リチウム金属酸化物、スピネル、かんらん石、炭素被覆かんらん石、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウムカーボンモノフルオリドまたはこれらのうち任意の2つ以上の混合物を含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項18】
リチウム金属酸化物が、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCoyMetzO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.1Co0.1Ni0.8O2、LiMn0.2Co0.2Ni0.6O2、LiMn0.3Co0.2Ni0.5O2、LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2、LiMn2O4、LiFeO2、Li1+x'NiαMnβCoγMetO2-z'Fz'、An'B2(XO4)3(NASICON)であり、ここでMetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、MnまたはCoであり;Met'はMg、Zn、Al、Ga、B、ZrまたはTiであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、CuまたはZnであり;BはTi、V、Cr、FeまたはZrであり;XはP、S、Si、WまたはMoであり;かつここで0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦x'≦0.4、0≦α≦1、0≦β≦1、0≦γ≦1、0≦δ≦0.4、0≦z'≦0.4および0≦h'≦0.3である、請求項17記載のデバイス。
【請求項19】
負極が、リチウム金属、黒鉛材料、無定形炭素、Li4Ti5O12、スズ合金、ケイ素、ケイ素合金、金属間化合物、またはこれらの混合物を含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項20】
負極が、活物質であるケイ素またはケイ素合金および該活物質の周りの導電性ポリマーコーティングを含む複合負極である、請求項16記載のデバイス。
【請求項21】
導電性ポリマーがポリアクリロニトリル(PAN)である、請求項16記載のデバイス。
【請求項22】
リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウム電池、リチウム/MnO2電池、またはLi/ポリ(カーボンモノフルオリド)電池を含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項23】
キャパシタまたは太陽電池を含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項24】
電気化学セルを含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項25】
セパレーターが、負極および正極を互いから分離している多孔質セパレーターを含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項26】
多孔質セパレーターが、電子ビーム処理した微多孔質ポリオレフィンセパレーター、あるいは、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテン、または、任意の2つ以上のそのようなポリマーのコポリマーもしくは混合物を含む微多孔質ポリマーフィルムを含む、請求項23記載のデバイス。
【請求項27】
非プロトン性有機溶媒系が、鎖状または環状カーボネート、カルボン酸エステル、亜硝酸塩、エーテル、スルホン、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、亜リン酸塩、モノもしくはポリホスファゼン、またはこれらの混合物を含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項28】
非プロトン性有機溶媒系が、電解液中に60重量%~90重量%の濃度で存在する、請求項16記載のデバイス。
【請求項29】
金属塩のカチオンがアルカリ金属である、請求項16記載のデバイス。
【請求項30】
アルカリ金属がリチウムまたはナトリウムである、請求項27記載のデバイス。
【請求項31】
金属塩のカチオンがアルミニウムまたはマグネシウムである、請求項16記載のデバイス。
【請求項32】
金属塩が、電解液中に10重量%~30重量%の濃度で存在する、請求項16記載のデバイス。
【請求項33】
電解液が、少なくとも1つの第2の添加剤をさらに含む、請求項16記載のデバイス。
【請求項34】
第2の添加剤が、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物、またはこれらの混合物を含む、請求項31記載のデバイス。
【請求項35】
第2の添加剤が、部分的もしくは完全にハロゲン化されたリン酸エステル化合物、イオン液体、またはこれらの混合物を含む、請求項31記載のデバイス。
【請求項36】
ハロゲン化されたリン酸エステル化合物が、4-フルオロフェニルジフェニルホスフェート、3,5-ジフルオロフェニルジフェニルホスフェート、4-クロロフェニルジフェニルホスフェート、トリフルオロフェニルホスフェート、ヘプタフルオロブチルジフェニルホスフェート、トリフルオロエチルジフェニルホスフェート、ビストリフルオロエチルフェニルホスフェート、またはフェニルビス(トリフルオロエチル)ホスフェートである、請求項33記載のデバイス。
【請求項37】
イオン液体が、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-メチル-トリメチルシリルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、またはN-メチル-トリメチルシリルピロリジニウムヘキサフルオロホスフェートである、請求項33記載のデバイス。
【請求項38】
第2の添加剤が、電解液中に0.01重量%~10重量%の濃度で存在する、請求項31記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2020年10月2日提出の米国特許仮出願第63/086,943号の出願日の恩典を主張し、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本開示は、電池の抵抗を低減させ高温性能を改善するのに有用な、シリル基含有チオリン酸およびリン酸誘導体添加剤、ならびに電気化学エネルギー貯蔵デバイスにおける使用に適したシリル基含有トリリン酸およびリン酸誘導体添加剤を含む電解液に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
Liイオン電池は、家電製品、電動車両(EV)、ならびにエネルギー貯蔵システム(ESS)およびスマートグリッドにおいて多用されている。最近、4.35Vを超える電圧のLiイオン電池は、より高い容量およびその後のエネルギー密度の利点から重要性が増している。しかしながら、これらの電位での正極材料の安定性は、酸化の増大によって低減する。これは、材料の電気化学的酸化をもたらしてガスを発生することがあり、電池の性能を低下させ得る。リチウムイオンのインターカレーション/脱インターカレーションが可能な正極活物質は、非水電解液に溶解して、材料の構造破壊をもたらし得、界面抵抗の増大につながることになる。これらのLiイオン電池が、その動作中に極端な温度にさらされると、負極上に形成されたSEI(固体電解液界面)層は徐々に分解され、したがってより不可逆的な反応を引き起こして、容量損失が起こる。これらの反応は、サイクル中に正極および負極で起こるが、一般に、電圧が高いほど重度である。家電製品、EV、およびESSに使用される次世代Liイオン電池は、現在の最先端のLiイオン電池と比較して、電解液要素の大幅な改善を必要とする。
【0004】
電池電極間の正および負イオンのシャトリングは、電解液の主な機能である。歴史的に、研究者は電池電極の開発に焦点を当ててきており、電解液の開発は限られていた。伝統的なLiイオン電池は、リチウムイオンを輸送し得る大きい電位窓を有する炭酸塩系の電解液を使用した。これらの電解液は、負極を不動態化し、安定なSEI層を形成するための機能性添加剤を必要とする。電池材料の高電圧までの充電は、容量値の増大をもたらし、電池パックおよびモジュールのより高いエネルギー密度につながる。
【0005】
産業界が高エネルギー電池のための高エネルギー正極材料に向かうにつれて、広い電圧窓での電池の安定で、効率的、かつ安全なサイクルが必要である。Liイオン電池電解液は、異なる共溶媒および添加剤の添加により、その用途に基づいて調整することができる。この調整可能性により、Liイオンセルの高電圧安定性および安全性のための異なる添加剤の開発が可能になった。高電圧でのLiイオンセルの安全な動作を可能にする電解液添加剤の開発は、これらの高エネルギー密度電池および電池パックを可能にするために重要である。
【0006】
本明細書において、シリル含有基を有するチオリン酸エステル化合物がLiイオン電池用添加剤として報告されている。電解液添加剤としての前記官能基を有する分子は、特に高電圧セルにおいて、Liイオンセルの安全かつ安定な動作を可能にする。シリル系添加剤材料は、有機溶媒への溶解性が高い。これらのシリル系添加剤を含む電解液は、イオン伝導度が高く、電気化学デバイス、特にリチウムイオン電池の電解液としての使用に適している。
【0007】
Mitsuiの米国特許第8,993,158 B2号(特許文献1)は、リチウムイオン電池電解液におけるシリルエステル基含有ホスホン酸誘導体の使用を報告している。Samsung SDIの米国特許第7,494,746 B2号(特許文献2)および米国特許第8,945,776 B2号(特許文献3)は、リチウムイオン電池電解液におけるシリルエステル基含有亜リン酸塩およびホウ酸塩の使用を報告している。したがって、リチウムイオン電池の性能を改善するために新規な添加剤を組み込む必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第8,993,158 B2号
【特許文献2】米国特許第7,494,746 B2号
【特許文献3】米国特許第8,945,776 B2号
【発明の概要】
【0009】
本開示の1つの局面に従い、シリル系化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および少なくとも1つの追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液を提供する。
【0010】
本開示のもう1つの局面に従い、シリル系化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、シリル系化合物添加剤は少なくとも1つのリン-硫黄結合を有する、電解液を提供する。
【0011】
本開示のもう1つの局面に従い、シリル系化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒系;金属塩;および追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、非プロトン性有機溶媒は、鎖状または環状カーボネート、カルボン酸エステル、亜硝酸塩、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、亜リン酸塩、モノもしくはポリホスファゼン、またはこれらの混合物からなる、電解液を提供する。
【0012】
本開示のもう1つの局面に従い、シリル系化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒;金属塩;および追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、金属塩のカチオンは、アルミニウム、マグネシウムまたはリチウムもしくはナトリウムなどのアルカリ金属である、電解液を提供する。
【0013】
本開示のもう1つの局面に従い、シリル系化合物添加剤;非プロトン性有機溶媒;金属塩;および追加の添加剤を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための電解液であって、第2の添加剤は、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物またはこれらの混合物を含む、電解液を提供する。
【0014】
本開示のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲を吟味すれば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、200mAh NMC622-Grセルで試験した電解液のdQ/dVプロファイルを示す。
図2図2は、200mAh NMC622-Grセルで試験した電解液によるセルの室温でのサイクル寿命特性を示す。
図3図3は、200mAh NMC622-Grセルで試験した電解液によるセルの45℃でのサイクル寿命特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本開示の技術は、一般には、リチウムイオン(Liイオン)電池電解液に関する。特に、本開示は、シリル系化合物添加剤、これらの添加剤材料を含有する電解液、および電解液を含有する電気化学エネルギー貯蔵デバイスを目的とする。
【0017】
本開示は、Liイオン電池における高電圧安定性の課題を改善し得る、電解液添加剤を含むLiイオン電池電解液を記載する。異なる温度での高電圧正極を有するLiイオンセルのサイクルのための電解液の開発が必要である。提唱される技術は、シリル基を含有する革新的な電解液添加剤に基づいており、広い温度範囲で動作中の高電圧正極の安定性を改善することができる。電解液添加剤は、軽量負荷で使用する場合でも独特の固体電解液界面(SEI)を形成する。
【0018】
1つの態様において、電気化学エネルギー貯蔵デバイス電解液は、a)非プロトン性有機溶媒系;b)金属塩;c)シリル系添加剤材料およびd)追加の添加剤を含む。
【0019】
本開示の1つの態様において、少なくとも1つのシリル系添加剤の分子構造を以下に示す:
式中、
Xは独立に酸素または硫黄であり、ここで少なくとも1つのXは硫黄であり;
mおよびnは0、1、2または3のいずれかであり、ここでmおよびnの合計は3でなければならず;
R1およびR2は独立にC1~C12置換もしくは無置換アルキル基、またはC6~C14アリール基から選択され;ここで水素原子は無置換であり得、または、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、パーフルオロ化アルキル、シリル、シロキシ、シラン、スルホキシド、アミド、アゾ、エーテル、およびチオエーテル基もしくはこれらの組み合わせであり得;かつ
R3、R4、R5は独立に水素、C1~C12アルキル、ヘテロアルキル基、パーフルオロアルキル、アルケニル、アルキニル、フェニルまたはアルコキシ基から選択される。
【0020】
Liイオン電池系にシリル部分を加えることにより、電極材料上により安定なケイ素含有フィルム、または層がより容易に形成され得る。化合物中のシリル系基は、添加剤の分解を促進することによって通常の電解液の性能を改善することができる。
【0021】
本開示はまた、シリル基含有チオリン酸およびリン酸誘導体の合成法、ならびにリチウムイオン電池電解液中でのそのような分子の使用を含む。これらの分子は、広い温度窓で動作電圧が高いほど電解液に大きな安定性を与える。
【0022】
本開示の1つの局面において、電解液は、10重量%~30重量%の範囲のリチウム塩をさらに含む。例えば、Li(AsF6);Li(PF6);Li(CF3CO2);Li(C2F5CO2);Li(CF3SO3);Li[N(CP3SO2)2];Li[C(CF3SO2)3];Li[N(SO2C2F5)2];Li(ClO4);Li(BF4);Li(PO2F2);Li[PF2(C2O4)2];Li[PF4C2O4];リチウムアルキルフルオロホスフェート;Li[B(C2O4)2];Li[BF2C2O4];Li2[B12Z12-jHj];またはこれらのうち任意の2つ以上の混合物を含む、様々なリチウム塩を使用してもよく、ここでZは各出現時に独立にハロゲンであり、jは0~12の整数である。
【0023】
本開示の1つの局面において、電解液は、鎖状または環状カーボネート、カルボン酸エステル、亜硝酸塩、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、亜リン酸塩、モノもしくはポリホスファゼン、またはこれらの混合物から選択される非プロトン性有機溶媒系を、60重量%~90重量%の範囲でさらに含む。
【0024】
電解液を生成するための非プロトン性溶媒の例には、限定されないが、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ジプロピルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート、ビス(ペンタフルオロプロピル)カーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ペンタフルオロエチルメチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルメチルカーボネート、パーフルオロブチルメチルカーボネート、トリフルオロエチルエチルカーボネート、ペンタフルオロエチルエチルカーボネート、ヘプタフルオロプロピルエチルカーボネート、パーフルオロブチルエチルカーボネート等、フッ素化オリゴマー、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ブチルプロピオネート、ジメトキシエタン、トリグライム、ジメチルビニレンカーボネート、テトラエチレングリコール、ジメチルエーテル、ポリエチレングリコール、トリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ヘキサフルオロシクロトリホスファゼン、2-エトキシ-2,4,4,6,6-ペンタフルオロ-1,3,5,2-5,4-5,6-5トリアザトリホスフィニン、トリフェニルホスファイト、スルホラン、ジメチルスルホキシド、エチルメチルスルホン、エチルビニルスルホン、アリルメチルスルホン、ジビニルスルホン、フルオロフェニルメチルスルホンおよびガンマブチロラクトンが含まれる。
【0025】
本開示の1つの局面において、電解液は、電極および電解液を劣化から保護するための少なくとも1つの追加の添加剤をさらに含む。したがって、本技術の電解液は、電極の表面上で還元または重合されて電極の表面に不動態皮膜を形成する不動態化添加剤を含んでもよい。いくつかの態様において、本技術の電解液は、2種類の添加剤の混合物をさらに含む。
【0026】
1つの態様において、追加の添加剤は、少なくとも1つの酸素原子および少なくとも1つのアリール、アルケニルまたはアルキニル基を含む、置換または無置換の直鎖、分枝、または環状炭化水素である。そのような添加剤から形成される不動態皮膜は、置換アリール化合物または置換もしくは無置換ヘテロアリール化合物からも形成され得、ここで添加剤は少なくとも1つの酸素原子を含む。
【0027】
代表的な添加剤には、グリオキサールビス(ジアリルアセタール)、テトラ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、1,3,5-トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5,7-テトラビニル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、2,4,6-トリアリルオキシ-1,3,5-トリアジン、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、1,2-ジビニルフロエート、1,3-ブタジエンカーボネート、1-ビニルアゼチジン-2-オン、1-ビニルアジリジン-2-オン、1-ビニルピペリジン-2-オン、1 ビニルピロリジン-2-オン、2,4-ジビニル-1,3-ジオキサン、2-アミノ-3-ビニルシクロヘキサノン、2-アミノ-3-ビニルシクロプロパノン、2 アミノ-4-ビニルシクロブタノン、2-アミノ-5-ビニルシクロペンタノン、2-アリールオキシシクロプロパノン、2-ビニル-[1,2]オキサゼチジン、2 ビニルアミノシクロヘキサノール、2-ビニルアミノシクロプロパノン、2-ビニルオキセタン、2-ビニルオキシシクロプロパノン、3-(N-ビニルアミノ)シクロヘキサノン、3,5-ジビニルフロエート、3-ビニルアゼチジン-2-オン、3 ビニルアジリジン-2-オン、3-ビニルシクロブタノン、3-ビニルシクロペンタノン、3-ビニルオキサジリジン、3-ビニルオキセタン、3-ビニルピロリジン-2-オン、2-ビニル-1,3-ジオキソラン、アクロレインジエチルアセタール、アクロレインジメチルアセタール、4,4-ジビニル-3-ジオキソラン-2-オン、4-ビニルテトラヒドロピラン、5-ビニルピペリジン-3-オン、アリルグリシジルエーテル、ブタジエンモノオキシド、ブチルビニルエーテル、ジヒドロピラン-3-オン、ジビニルブチルカーボネート、ジビニルカーボネート、ジビニルクロトネート、ジビニルエーテル、ジビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンシリケート、ジビニルエチレンスルフェート、ジビニルエチレンスルファイト、ジビニルメトキシピラジン、ジビニルメチルホスフェート、ジビニルプロピレンカーボネート、エチルホスフェート、メトキシ-o-ターフェニル、メチルホスフェート、オキセタン-2-イルビニルアミン、オキシラニルビニルアミン、ビニルカーボネート、ビニルクロトネート、ビニルシクロペンタノン、ビニルエチル-2-フロエート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチレンシリケート、ビニルエチレンスルフェート、ビニルエチレンスルファイト、ビニルメタクリレート、ビニルホスフェート、ビニル-2-フロエート、ビニルシロプロパノン、ビニルエチレンオキシド、β-ビニル-γ-ブチロラクトンまたはこれらのうち任意の2つ以上の混合物が含まれる。いくつかの態様において、添加剤は、F、アルキルオキシ、アルケニルオキシ、アリールオキシ、メトキシ、アリルオキシ基またはこれらの組み合わせで置換されているシクロトリホスファゼンであってもよい。例えば、添加剤は、(ジビニル)-(メトキシ)(トリフルオロ)シクロトリホスファゼン、(トリビニル)(ジフルオロ)(メトキシ)シクロトリホスファゼン、(ビニル)(メトキシ)(テトラフルオロ)シクロトリホスファゼン、(アリールオキシ)(テトラフルオロ)(メトキシ)シクロトリホスファゼンもしくは(ジアリールオキシ)(トリフルオロ)(メトキシ)シクロトリホスファゼン化合物または複数のそのような化合物の混合物であってもよい。
【0028】
いくつかの態様において、添加剤は、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、ケイ素含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含有する化合物、カルボン酸無水物、またはこれらの混合物である。いくつかの態様において、添加剤は、ビニルカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、または任意の2つ以上のそのような化合物の混合物である。さらに、添加剤は、0.01重量%~10重量%の範囲で存在する。
【0029】
いくつかの態様において、添加剤は、完全または部分的にハロゲン化されたリン酸エステル化合物、イオン液体、またはこれらの混合物である。ハロゲン化されたリン酸エステルには、4-フルオロフェニルジフェニルホスフェート、3,5-ジフルオロフェニルジフェニルホスフェート、4-クロロフェニルジフェニルホスフェート、トリフルオロフェニルホスフェート、ヘプタフルオロブチルジフェニルホスフェート、トリフルオロエチルジフェニルホスフェート、ビストリフルオロエチルフェニルホスフェート、フェニルビス(トリフルオロエチル)ホスフェートが含まれ得る。イオン液体には、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピロリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)チオホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリス(N-エチル-N-メチルピペリジニウム)ホスフェートビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-メチルトリメチルシリルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N-メチルトリメチルシリルピロリジニウムヘキサフルオロホスフェートが含まれ得る。さらに、添加剤は、0.01重量%~10重量%の範囲で存在する。
【0030】
本開示のもう1つの局面において、正極、負極および本明細書に記載のイオン液体を含む電解液を含む、電気化学エネルギー貯蔵デバイスを提供する。1つの態様において、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、リチウム二次電池である。いくつかの態様において、二次電池は、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、ナトリウムイオン電池、またはマグネシウム電池である。いくつかの態様において、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、キャパシタなどの電気化学セルである。いくつかの態様において、キャパシタは、非対称キャパシタまたはスーパーキャパシタである。いくつかの態様において、電気化学セルは一次セルである。いくつかの態様において、一次セルは、リチウム/MnO2電池またはLi/ポリ(カーボンモノフルオリド)電池である。
【0031】
1つの態様において、多孔質セパレーターおよび本明細書に記載の電解液を用いて互いから分離された正極および負極を含む、二次電池を提供する。
【0032】
適切な正極には、例えば、限定されないが、リチウム金属酸化物、スピネル、かんらん石、炭素被覆かんらん石、LiFePO4、LiCoO2、LiNiO2、LiMn0.5Ni0.5O2、LiMn0.33Co0.33Ni0.33O2、LiMn2O4、LiFeO2、LiNixCoyMetzO2、An'B2(XO4)3(NASICON)、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、ポリスルフィド、リチウムカーボンモノフルオリド(LiCFxとしても公知)またはこれらのうち任意の2つ以上の混合物が含まれ、ここでMetはAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、MnまたはCoであり;AはLi、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、CuまたはZnであり;BはTi、V、Cr、FeまたはZrであり;XはP、S、Si、WまたはMoであり;かつここで0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、および0≦z≦0.5および0≦n1≦0.3である。いくつかの態様に従い、スピネルは、Li1+xMn2-zMet'''yO4-mX'nの式を有するスピネルマンガン酸化物であり、ここでMet'''はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、NiまたはCoであり;X'はSまたはFであり;かつここで0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5および0≦n≦0.5である。他の態様において、かんらん石は、Li1+xFe1zMet''yPO4-mX'nの式を有し、ここでMet''はAl、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、MnまたはCoであり;X'はSまたはFであり;かつここで0≦x≦0.3、00≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5および0≦n≦0.5である。
【0033】
適切な負極には、例えば、リチウム金属、黒鉛材料、無定形炭素、カーボンナノチューブ、Li4Ti5O12、スズ合金、ケイ素、ケイ素合金、金属間化合物、または任意の2つ以上のそのような材料の混合物が含まれる。適切な黒鉛材料には、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)および黒鉛繊維、ならびに任意の無定形炭素材料が含まれる。
【0034】
いくつかの態様において、負極は、ケイ素、ケイ素合金などの活物質;および活物質粒子の周りの導電性ポリマーコーティングを含む複合負極である。複数の活物質は、約1nmから約100μmの間の粒径を有するケイ素粒子であってもよい。他の活物質には、限定されないが、硬質炭素、黒鉛、スズ、およびゲルマニウム粒子が含まれ得る。ポリマーは、200~400℃の温度での熱処理を用いて環化し、ポリマー鎖を架橋することによってラダー化合物に変換することができる。特定のポリマーには、限定されないが、環化によってニトリル結合(C≡N)が二重結合(C=N)に変化するポリアクリロニトリル(PAN)が含まれる。ポリマーバインダーは、弾性であるが堅牢なフィルムを形成し、バインダーマトリックス内のケイ素粒子の制御された断片化/粉砕を可能にする。加えて、PANマトリックスはLiイオン移動の経路も提供し、したがって複合負極の導電性を増強する。得られた負極材料は、例えば、ケイ素粒子の膨張を防止し得るバインダーおよびLiイオン移動の経路を提供するための導電添加剤を提供することによって、ケイ素系負極の膨張および導電性の課題を克服することができる。いくつかの態様において、ポリマーは、陽極複合材料の約10重量%~40重量%である。
【0035】
いくつかの態様において、負極および正極電極は多孔質セパレーターによって互いから分離されている。
【0036】
リチウム電池用セパレーターは、微多孔質ポリマーフィルムであることが多い。フィルムを形成するためのポリマーの例には、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブテン、または任意の2つ以上のそのようなポリマーのコポリマーもしくは混合物が含まれる。いくつかの例において、セパレーターは、電子ビーム処理した微多孔質ポリオレフィンセパレーターである。電子処理は、セパレーターの変形温度を上昇させることができ、したがって高温での熱安定性を高めることができる。加えて、または代わりに、セパレーターはシャットダウンセパレーターであり得る。シャットダウンセパレーターは、電気化学セルが約130℃までの温度で動作することを可能にするために、約130℃を超えるトリガー温度を有し得る。
【0037】
下記は、本開示の適切なシリル系添加剤の分子構造である。
【0038】
さらに、本開示は具体的実施例を示す。これらの実施例は単なる例示であり、本開示または添付の特許請求の範囲を限定する意図はない。
【実施例
【0039】
実施例1-メチルメルカプトTMS-ジエチルチオホスフェートの合成
磁気撹拌子を備えた125mLの三角フラスコに、2.1gのヨードメチルトリメチルシラン(TMS)を加えた。これに30mLのアセトニトリルを加えた。次いで、溶液を2gのO,O'ジエチルジチオリン酸アンモニウムで処理した。次いで、溶液を65℃で2時間加熱した。この間に、溶液から白色固体が生じた。反応工程をTLCでモニターした。反応混合物を50mLの酢酸エチルおよび40mLの脱イオン水の混合物で処理した。反応混合物を数分間撹拌し、次いで分液漏斗に移した。有機相を酢酸エチルに3回抽出した。水層を廃棄し、有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮乾固した。1.7gの澄明油状物を得た。
【0040】
実施例2-トリス(TMS-エチル)チオホスフェートの合成
磁気撹拌子、還流冷却器、滴加漏斗および窒素流入口を備えた250mLの丸底フラスコに、5.2gのトリメチルシリルエタノールと、続いて60mLの酢酸エチルを加えた。撹拌溶液に、5.6gのDMAPを加えた。撹拌し、約20℃まで冷却した。15mLの酢酸エチル中の塩化チオホスホリルを、温度を25℃未満に維持しながら滴加した。滴加中、ほぼただちに白色固体が沈澱した。滴加後、冷却浴を取り除き、反応混合物を1時間撹拌した。反応工程をTLCでモニターした。スラリーを60mLの5%HCl溶液で処理した。分液漏斗に移し、酢酸エチルに3回抽出した。有機層を回収し、MgSO4で乾燥し、ろ過した。溶媒をロトエバポレーターにより減圧下で除去した。3.3gの澄明油状物を得た。
FTIR: 2954.04; 1740.45; 1248.22; 831.48; 760.06; 692.36 cm-1
【0041】
実施例3-電解液調合物
電解液調合物を、乾燥アルゴン充填グローブボックス内で、ガラスバイアル中にすべての電解液要素を混合し、24時間撹拌してすべての固体を確実に完全に溶解することにより調製した。シリル系添加剤材料を、エチレンカーボネート「EC」、エチルメチルカーボネート「EMC」の体積比3:7の混合物、およびその中に溶解したLi+イオン伝導塩としての1Mリチウムヘキサフルオロホスフェート「LiPF6」を含む、基本電解液調合物に加えた。ビニレンカーボネート(VC)およびフルオロエチレンカーボネート(FEC)を標準的な負極SEI形成添加剤として用い、トリメチルシリルホスファイト(TMSPi)はシリル系分子の比較例である。電解液調合物を表Aに挙げる。
【0042】
(表A)電解液調合物
【0043】
実施例4-Liイオンセルデータ
調製した電解液調合物は、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC622)正極活物質および負極活物質としての黒鉛を含む、200mAh Liイオンパウチセルにおいて電解液として使用する。各セルに、0.9mLの電解液調合物を添加し、セル中に1時間浸漬させた。セルを減圧密封し、一次充填した後、25℃で10時間湿潤させた。次いで、セルをC/25レートで3.8Vまで充電した後脱気し、続いて減圧密封した。脱気後、セルをC/10レートで4.45~3.0Vの間で2回充放電し、結果の概要を表Bに示す。初期容量損失(iCL)は、最初のサイクルクーロン効率(CE)に基づいて計算し、報告した放電容量はC/5レートでの形成の最後のサイクルのものである。AC-IRは、1kHzの周波数で測定した内部抵抗である。1重量%シリル系添加剤の添加はAC-IRを増大させ、したがって比較例1に比べて初期放電容量を低減させることが明らかである。しかし、図1のdQ/dVプロファイルは、比較例に比べて、負極表面上の異なる特有のSEI層を示している。TMSPiを含むCE2のdQ/dVプロファイルは、2.95Vに特有の鋭い反応ピークを示し、これは他の電解液によるセルでは見られない。これは、CE2電解液によるセルの最も高いAC-IRに関連付けることもできる。
【0044】
(表B)初期セルデータ
【0045】
サイクル寿命特性を、0.5C充放電レートで4.45~3.0Vの電圧範囲で試験した。図2および3のサイクル寿命プロットにおいて、具体例1の電解液(EE1)によるセルは、市販の例に比べて、室温および45℃でより良好な性能を示す。容量保持データを表Cに示す。
【0046】
(表C)125サイクル後の容量保持データ
【0047】
本明細書において様々な態様を詳細に示し、説明してきたが、当業者であれば様々な改変、追加、置換などを本開示の精神から逸脱することなくなし得ることは明らかであり、したがって、これらは、以下の特許請求の範囲において定義される本開示の範囲内にあると考えられる。
図1
図2
図3
【国際調査報告】