(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】脂肪肝疾患の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/737 20060101AFI20231016BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231016BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P1/16
A61K9/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023518386
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-18
(86)【国際出願番号】 SE2021050895
(87)【国際公開番号】W WO2022071841
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515312807
【氏名又は名称】ティーエックス メディック エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,ラース
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,アダム
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC16
4C076FF11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA75
(57)【要約】
本発明は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に罹患した対象における肝機能の改善に使用するためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩に関する。デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、10000Da以下の平均分子量を有し、対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に罹患している対象における肝機能の改善に使用するための、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩であって、前記対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化されたデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項2】
対象における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)の治療に使用するための、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩であって、前記対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化されたデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項3】
前記NAFLDが非アルコール性脂肪肝(NAFL)である、請求項1又は2に記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項4】
前記NAFLDが非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である、請求項1又は2に記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項5】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が、前記対象への皮下投与用に製剤化されている、請求項1~4のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項6】
前記平均分子量が、2000~10000Daの範囲内、好ましくは3000~10000Daの範囲内、及びより好ましくは、3500~9500Daの範囲内である、請求項1~5のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項7】
前記平均分子量が、4500~7500Daの範囲内、好ましくは4500~5500Daの範囲内である、請求項6に記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項8】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が15~20%の範囲の平均硫黄含量を有する、請求項1~7のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項9】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が約17%の平均硫黄含量を有する、請求項8に記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項10】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が、核磁気共鳴(NMR)分光法によって測定した場合に、1850~3500Daの範囲内、好ましくは1850~2500Daの範囲内、及びより好ましくは、1850~2300Daの範囲内の数平均分子量(Mn)を有する、請求項1~5のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項11】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が、NMR分光法によって測定した場合に、1850~2000Daの範囲内のMnを有する、請求項10に記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項12】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が、グルコース単位あたり2.5~3.0の範囲内、好ましくは2.5~2.8の範囲内、かつより好ましくは2.6~2.7の範囲内の平均硫酸価を有する、請求項10又は請求項11に記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項13】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が平均5.1グルコース単位を有し、グルコース単位あたりの平均硫酸価が2.6~2.7である、請求項1~12のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項14】
前記デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が水性注射液として製剤化される、請求項1~13のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【請求項15】
前記その医薬として許容される塩がデキストラン硫酸のナトリウム塩である、請求項1~14のいずれかに記載の使用のためのデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、脂肪肝疾患、及びデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩を用いたその治療に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
脂肪肝(hepatic steatosis)としても知られている脂肪肝(Fatty liver)疾患(FLD)は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する病態である。脂肪肝疾患には、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)とアルコール性肝疾患(ALD)の2種類がある。
【0003】
代謝(機能障害)関連脂肪肝疾患(MAFLD)としても知られているNAFLDは、肝臓での過剰な脂肪の蓄積である。NAFLDは世界で最も一般的な肝障害であり、世界人口の約25%に存在する。NAFLDは慢性肝疾患の主な原因であり、2017年の時点で米国とヨーロッパにおいて肝移植の2番目に最も一般的な理由である。肥満と2型糖尿病はNAFLDの強力な危険因子である。他のリスクには、体重過多、メタボリックシンドローム、フルクトースを多く含む食事、及び高齢であることが含まれる。
【0004】
NAFLDの現在の治療には、食事の変更と運動による体重減少が含まれる。ピオグリタゾンとビタミンEがNAFLDにプラスの効果をもたらすという暫定的な証拠がある。
【0005】
ALDは、アルコール関連肝疾患(ARLD)とも呼ばれ、脂肪肝、アルコール性肝炎、及び肝線維症又は肝硬変を伴う慢性肝炎を含むアルコール過剰摂取の肝臓症状を包含する用語である。それは、西欧諸国の肝疾患の主な原因である。全ての大量飲酒者の90%超が脂肪肝を発症し、約25%がより重度のアルコール性肝炎を発症し、15%が肝硬変を発症する。
【0006】
コルチコステロイドはALDの治療に使用されることがある。しかし、これは、重度の肝炎症が存在する場合にのみ推奨される。シリマリンは可能性のある治療剤として調べられているが、結果はあいまいである。インフリキシマブ及びエタネルセプトなどの抗腫瘍壊死因子薬の効果は不明であり、おそらく有害である。
【0007】
CN 102973593は、肝線維症を治療するための薬剤を調製する際のデキストラン硫酸の使用を開示している。
【0008】
したがって、脂肪肝疾患に罹患している対象の肝機能を改善できる治療の必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0009】
脂肪肝疾患に罹患している対象の肝機能を改善することが全体的な目的である。
【0010】
脂肪肝疾患の治療を提供することが特定の目的である。
【0011】
これらの及び他の目的は、本明細書に開示される実施形態によって達成される。
【0012】
本発明は、独立請求項で定義される。本発明のさらなる実施形態は、従属請求項によって定義される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の態様は、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に罹患している対象における肝機能の改善に使用するための、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩に関する。デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化される。
【0014】
本発明の別の態様は、対象におけるNAFLDの治療に使用するための、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩に関する。デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化される。
【0015】
デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、実施形態によれば、バイオマーカービリルビンを使用して評価されるように、対象において肝機能の改善を引き起こす。したがって、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、実施形態によれば、NAFLDを含む脂肪肝疾患の治療に使用することができる。
【0016】
実施形態は、そのさらなる目的及び利点と共に、添付の図面とあわせて以下の説明を参照することによって最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、デキストラン硫酸治療後の患者の血清中の総ビリルビンレベルを示す。
【
図2】
図2は、150、400、1300及び4000nMのデキストラン硫酸に対するヒト3BT(B細胞
+末梢血単核細胞)、CASM3C(冠状動脈平滑筋細胞)及びHDF3CGF(皮膚線維芽細胞)系の細胞及び分子応答に関する対数比データを示す。応答の読み出しはx軸に沿って示され、有意と見なされるものはいずれもグラフ上にラベルされる。対照の応答を灰色の領域によって表している。
【
図3】
図3は、全12のBioMAP(登録商標)Diversity Plusヒト細胞系にわたるデキストラン硫酸誘導応答のまとめである。
【
図4】
図4では、デキストラン硫酸を、特発性肺線維症の治療のために承認された抗線維化化合物であるピルフェニドンに対して言及した。デキストラン硫酸とピルフェニドンは、5つの一般的な活性(注釈付き)と正常範囲外の34の異なる活性(灰色)を有する。
【
図5】
図5は、デキストラン硫酸の非存在下(A)及び存在下(B)での48時間にわたる、ヒトシュワン細胞培養物において差次的に調節された遺伝子のまとめを示す。完全な四角は上方制御された遺伝子を示し、破線の四角は下方制御された遺伝子を示す。完全な矢印は、通常の培養条件下でのシュワン細胞培養物における炎症反応の活性化を示す(A);破線の矢印は、デキストラン硫酸による炎症性遺伝子の発現阻害を示す(B)。TGFβは多数の分子の発現を調節する。分子相互作用により、下流のTGFβ作用を予測することができる。ヒトシュワン細胞培養(C)では、TGFβの活性化は線維症と免疫細胞の活性化を誘発するが、デキストラン硫酸治療は、細胞の動きを除いて、これらの変化を阻害する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
本実施形態は、一般に、脂肪肝疾患、及びデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩を用いたその治療に関する。
【0019】
神経疾患の治療のための進行中の研究において、本発明のデキストラン硫酸をヒト患者に投与した。すると、デキストラン硫酸が神経疾患の治療に関連する有益な効果をもたらすだけでなく、患者の肝機能を大幅に改善したことは非常に驚くべきことであった。実際、実施形態のデキストラン硫酸を毎週投与すると、デキストラン硫酸投与前の総ビリルビンレベルと比較して、患者の総ビリルビンが有意に減少した。
【0020】
総ビリルビン、すなわち遊離ビリルビンと抱合型ビリルビンは、肝機能のバイオマーカーとして日常的に使用されている。肝臓の機能に悪影響を与える病状は、肝臓が血流からビリルビンを除去して処理する能力を失うため、血中においてビリルビン蓄積を引き起こし得る。
【0021】
脂肪肝(hepatic steatosis)としても知られている脂肪肝(Fatty liver)疾患(FLD)は、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する病態である。脂肪肝疾患には、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)とアルコール性肝疾患(ALD)の2種類がある。
【0022】
代謝(機能障害)関連脂肪肝疾患(MAFLD)としても知られているNAFLDは、肝臓での過剰な脂肪の蓄積である。NAFLDは世界で最も一般的な肝障害であり、世界人口の約25%に存在する。NAFLDは慢性肝疾患の主な原因であり、2017年の時点で米国とヨーロッパにおいて肝移植の2番目に最も一般的な理由である。肥満と2型糖尿病はNAFLDの強力な危険因子である。他のリスクには、体重過多、メタボリックシンドローム、フルクトースを多く含む食事、及び高齢であることが含まれる。
【0023】
NAFLDには、非アルコール性脂肪肝(NAFL)及び非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の2種類があり、後者には肝臓の炎症も含まれる。これらの疾患は、肝臓の脂肪蓄積(脂肪肝)から始まる。肝臓は、NAFLのように肝機能を乱すことなく脂肪を留まらせることができるが、様々な機構と肝臓への侵襲の可能性により、脂肪症が炎症及び多くの場合には線維症(脂肪性肝炎)と組み合わされた状態のNASHに進行することもある。NASHは、肝硬変及び肝細胞癌などのさらなる合併症につながり得る。
【0024】
ALDは、アルコール関連肝疾患(ARLD)とも呼ばれ、脂肪肝、アルコール性肝炎、及び肝線維症又は肝硬変を伴う慢性肝炎を含むアルコール過剰摂取の肝臓症状を包含する用語である。それは、西欧諸国の肝疾患の主な原因である。全ての大量飲酒者の90%超が脂肪肝を発症し、約25%がより重度のアルコール性肝炎を発症し、15%が肝硬変を発症する。
【0025】
本明細書に提示される実験データは、実施形態によるデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が、総ビリルビンの有意な減少に見られるように肝機能を改善できることを示す。肝機能のそのような改善は、FLD及び特にNAFL又はNASHなどのNAFLDを含む肝疾患に罹患している対象にとって有益である。
【0026】
加えて、実施形態によるデキストラン硫酸は、ヒト細胞における炎症経路及び組織リモデリング経路を調節することができた。本明細書に提示される結果は、デキストラン硫酸が、免疫活性化、炎症解消及び組織リモデリングに関連する重要な自然応答及び適応応答を調節し、最終的に、罹患及び損傷したヒト組織の治癒並びに機能リモデリングの改善につながることを示している。
【0027】
したがって、本発明の態様は、NAFLDに罹患している対象の肝機能の改善に使用するための、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩に関する。デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化される。
【0028】
本発明の関連する態様は、対象におけるNAFLDの治療に使用するための、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩を定義する。デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化される。
【0029】
本発明はまた、NAFLDに罹患している対象における肝機能を改善するための薬剤の製造における、及び対象におけるNAFLDの治療のための薬剤の製造における、10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の使用に関する。該薬剤は、対象への静脈内投与又は皮下投与用に製剤化される。
【0030】
本発明のさらなる態様は、対象における肝機能を改善するための方法に関する。対象の肝機能を改善するために、静脈内投与又は皮下投与により10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩をNAFLDに罹患している対象に投与することを含む方法。本発明のさらに別の態様は、NAFLDを治療するための方法に関する。本方法は、対象におけるNAFLDを治療するために、NAFLDに罹患している対象に静脈内投与又は皮下投与によって10000Da以下の平均分子量を有するデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩を投与することを含む。
【0031】
実施形態では、NAFLDは、非アルコール性脂肪肝(NAFL)である。
【0032】
別の実施形態では、NAFLDは、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)である。
【0033】
デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象への全身投与用に製剤化される。
【0034】
デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象への静脈内(i.v.)又は皮下(s.c.)投与用に製剤化される。したがって、i.v.及びs.c.投与は、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の全身投与の好ましい例である。特定の実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、対象へのs.c.投与用に製剤化される。
【0035】
実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、水性注射溶液として、好ましくは水性i.v.又はs.c.注射溶液として製剤化される。そのため、実施形態のデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、選択された溶媒又は賦形剤と共に水性注射溶液として製剤化されることが好ましい。溶媒は、水性溶媒及び特に緩衝溶液であると都合が良い。このような緩衝溶液の非限定的な例は、クエン酸一水和物(CAM)緩衝液、又はリン酸緩衝液などのクエン酸緩衝液である。例えば、実施形態のデキストラン硫酸は、0.9%NaCl生理食塩水などの生理食塩水に溶解し、次いで任意選択で75mM CAMで緩衝化し、水酸化ナトリウムを用いてpHを約5.9に調整することができる。また、生理食塩水、すなわちNaCl(aq)などの水性注射溶液を含む非緩衝溶液も可能である。さらに、緩衝溶液が望まれる場合は、CAM及びリン酸緩衝液以外の他の緩衝系を使用することができる。
【0036】
活性化合物であるデキストラン硫酸は、次いで、特定の投与経路に基づいて選択された適切な賦形剤、溶媒又は担体と共に製剤化される。
【0037】
担体は、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の送達の効率及び/又は有効性を改善するためのビヒクルとして働く物質を指す。
【0038】
賦形剤は、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩と組み合わせて製剤化される薬理学的に不活性な物質を指し、例えば、増量剤、充填剤、希釈剤及び薬物の吸収若しくは溶解性を促進するため、又は他の薬物動態に関する考慮事項のために使用される生成物を含む。
【0039】
デキストラン硫酸の医薬として許容される塩は、本明細書に開示されるような効果を有し、投与される用量(複数可)でそのレシピエントに有害ではないデキストラン硫酸の塩を指す。
【0040】
デキストラン硫酸とは、いわゆる低分子量デキストラン硫酸である。
【0041】
以下において、デキストラン硫酸の(平均)分子量及び硫黄含量への言及は、デキストラン硫酸の任意の医薬として許容される塩にも適用される。したがって、デキストラン硫酸の医薬として許容される塩は、以下の実施形態で論じるような平均分子量及び硫黄含有量を有することが好ましい。
【0042】
デキストラン硫酸は、硫酸化多糖類、特に硫酸化グルカン、すなわち、多くのグルコース分子からなる多糖類である。本明細書で定義される平均分子量は、個々の硫酸化多糖がこの平均分子量とは異なる分子量を有し得るが、平均分子量が硫酸化多糖の平均分子量を表すことを示す。これはさらに、デキストラン硫酸試料のこの平均分子量の周りに自然な分子量分布があることを意味する。
【0043】
デキストラン硫酸の平均分子量(Mw)は、典型的には、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、光散乱又は粘度などの間接的な方法を用いて決定される。このような間接法を用いた平均分子量の決定は、カラムと溶離液の選択、流速、校正手順などを含む多くの要因に依存する。
【0044】
平均分子量(M
w):
【化1】
典型的には、数値よりも分子サイズに敏感な方法、例えば、光散乱及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法。正規分布を仮定すると、M
wの各側で同じ重量、すなわち、M
w以下の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量は、M
wを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量に等しい。
【0045】
デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、10000Da以下の平均分子量を有する。
【0046】
10000Daを超える平均分子量のデキストラン硫酸は、一般に、より低い平均分子量を有するデキストラン硫酸と比較して、より低い効果対毒性プロファイルを有する。これは、対象に安全に投与することができるデキストラン硫酸の最大用量が、好ましい範囲内の平均分子量を有するデキストラン硫酸分子と比較して、より大きなデキストラン硫酸分子(>10000Da)にとってより低いことを意味する。結果として、そのようなより大きなデキストラン硫酸分子は、デキストラン硫酸がインビボで対象に投与される場合の臨床使用においてあまり適切ではない。
【0047】
実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、2000~10000Daの範囲内の平均分子量を有する。別の実施形態では、平均分子量は、2500~10000Daの範囲内である。特に好ましい実施形態では、平均分子量は、3000~10000Daの範囲内である。
【0048】
任意だが好ましい実施形態では、デキストラン硫酸分子の40%未満は、3000Da以下の分子量を有し、好ましくは、30%未満又は25%未満などの35%未満のデキストラン硫酸分子は、3000Da以下の分子量を有する。加えて、又は代わりに、20%未満のデキストラン硫酸分子は、10000Daを超える分子量を有し、好ましくは10%未満又は5%未満などの15%未満のデキストラン硫酸分子は、10000Daを超える分子量を有する。そのため、特定の実施形態では、デキストラン硫酸は、平均分子量の周囲に実質的に狭い分子量分布を有する。
【0049】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の平均分子量は、3500~9500Daの範囲内、3500~8000Daの範囲内などである。
【0050】
別の特定の実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の平均分子量は、4500~7500Daの範囲内である。
【0051】
さらなる特定の実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の平均分子量は、4500~5500Daの範囲内である。
【0052】
そのため、現在好ましい実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の平均分子量は、好ましくはおよそ5000Daであるか、又は少なくとも実質的に5000Daに近い、5000±500Daなど、例えば5000±400Da、好ましくは5000±300Da又は5000±200Da、5000±100Daなどである。したがって、実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の平均分子量は、4.5kDa、4.6kDa、4.7kDa、4.8kDa、4.9kDa、5.0kDa、5.1kDa、5.2kDa、5.3kDa、5.4kDa又は5.5kDaである。
【0053】
特定の実施形態では、上記に提示されたデキストラン硫酸、又はその医薬塩の平均分子量は、平均Mwであり、好ましくはゲル排除/浸透クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱又は粘度ベースの方法によって決定される。
【0054】
デキストラン硫酸は、デキストランのポリアニオン誘導体であり、硫黄を含んでいる。実施形態のデキストラン硫酸についての平均硫黄含量は、好ましくは15~20%、より好ましくは約17%であり、一般にグルコシル残基あたり約又は少なくとも2つの硫酸基に相当する。特定の実施形態では、デキストラン硫酸の硫黄含量は、対応するデキストラン分子の硫黄含量の最大可能度に等しいか、又は少なくともそれに近いことが好ましい。
【0055】
特定の実施形態では、実施形態のデキストラン硫酸は、核磁気共鳴(NMR)分光法によって測定した場合に、1850~3500Daの範囲内の数平均分子量(Mn)を有する。
【0056】
数平均分子量(M
n):
【化2】
典型的には末端基アッセイ、例えば、NMR分光法又はクロマトグラフィーによって導出される。正規分布を仮定すると、M
nの各側で同じ数のデキストラン硫酸分子を見出すことができ、すなわち、M
n以下の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数は、M
nを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数に等しい。
【0057】
好ましい実施形態では、実施形態のデキストラン硫酸は、NMR分光法により測定した場合に、1850~2500Daの範囲内、好ましくは1850~2300Daの範囲内、かつより好ましくは1850~2000Daの範囲内のMnを有する。
【0058】
特定の実施形態では、実施形態のデキストラン硫酸は、グルコース単位あたり2.5~3.0の範囲内、好ましくは2.5~2.8の範囲内、かつより好ましくは2.6~2.7の範囲内の平均硫酸価を有する。
【0059】
特定の実施形態では、実施形態のデキストラン硫酸は、4.0~6.0の範囲内、好ましくは4.5~5.5の範囲内、かつより好ましくは約5.0~5.2の範囲内、約5.1などのグルコース単位の平均数を有する。
【0060】
別の特定の実施形態では、実施形態のデキストラン硫酸は、平均5.1グルコース単位及びグルコース単位あたり2.6~2.7の平均硫酸価を有し、典型的には、NMR分光法により測定した場合に、1850~2000Daの範囲の数平均分子量(Mn)になる。
【0061】
実施形態に従って使用することができるデキストラン硫酸又はその医薬塩は、WO2016/076780に記載されている。
【0062】
実施形態に係るデキストラン硫酸は、デキストラン硫酸の医薬として許容される塩として提供することができる。このような医薬として許容される塩には、例えば、デキストラン硫酸のナトリウム塩又はカリウム塩が含まれる。特定の実施形態では、医薬として許容される塩は、デキストラン硫酸のナトリウム塩である。
【0063】
特定の実施形態では、Na+対イオンを含むデキストラン硫酸のナトリウム塩は、NMR分光法によって測定した場合に、2000~2500Daの範囲内、好ましくは2100~2300Daの範囲内のMnを有する。
【0064】
実施形態では、有効量のデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が対象に投与される。本明細書において使用される有効量は、対象に投与された場合に、対象の肝機能及び状態の改善に関連する医学的効果を引き起こすことができるデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の治療有効量に関する。このような治療有効量は、好ましくは、ビリルビンなどの肝機能と関連付けられる少なくとも1つのバイオマーカーの変化を誘導することができるデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の量である。デキストラン硫酸又はその医薬塩の治療有効量は、医師が決定することができ、任意選択で、対象の性別、対象の体重、対象の年齢、NAFLDの種類及びNAFLDの重症度のうちの少なくとも1つに基づいて選択され得る。
【0065】
実施形態のデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の適切な用量範囲は、対象のサイズ及び体重、対象が治療される病態、及び他の考慮事項に応じて変化し得る。特にヒト対象の場合、可能な投与量範囲は、1μg/体重kg~150mg/体重kg、好ましくは10μg/体重kg~100mg/体重kgであり得る。
【0066】
好ましい実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、0.05~50mg/対象の体重kg、好ましくは0.05又は0.1~40mg/対象の体重kg、より好ましくは0.05又は0.1~30mg/対象の体重kg、又は0.1~25mg/対象の体重kg又は0.1~15mg/対象の体重kg又は0.1~10mg/対象の体重kgの範囲の投与量で投与されるように製剤化される。デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の現在の好ましい投与量は、0.5~5mg/対象の体重kgである。
【0067】
デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の投与は、必ずしもNAFLDの治療に限定される必要はないが、代わりに、又は加えて、予防のために使用することができる。換言すれば、実施形態のデキストラン硫酸は、NAFLDを発症するリスクが高い対象に投与することができる。
【0068】
NAFLDの治療には、NAFLDの阻害も包含される。本明細書で使用されるNAFLDの阻害は、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩が、100%の治療又は治癒が必ずしも起こらなくても、病態の症状及び作用を軽減することを意味する。例えば、NAFLDの阻害は、総ビリルビンの循環レベルの減少に見られるような肝機能の改善を伴う場合がある。
【0069】
実施形態のデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、単回注射又はボーラス注射の形態などの単回投与機会で投与することができる。このボーラス用量は、対象に極めて迅速に注入することができるが、デキストラン硫酸溶液が、5~10分間又はそれ以上の間などの、数分にわたって対象に注入されるように、経時的に注入されることが都合がよい。
【0070】
あるいは、実施形態のデキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、治療期間中に複数回、すなわち、少なくとも2回の機会で投与することができる。そのため、実施形態のデキストラン硫酸は、例示例として1日に1回又は複数回、1週間に1回又は複数回、1ヶ月に1回又は複数回投与することができる。
【0071】
特定の実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、1週又は複数の連続する週、少なくとも2~5週の連続する週などの間、1週間に1~14回、好ましくは1~7回の投与のために製剤化される。特定の実施形態では、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩は、複数の日数、複数の連続する日など、例えば2~14日間、1日に1回又は2回の投与のために製剤化される。
【0072】
デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩のボーラス注射と、デキストラン硫酸又はその医薬として許容される塩の1以上の追加の投与とを組み合わせることもできる。
【0073】
実施形態では、対象は、哺乳類対象であり、好ましくは霊長類、より好ましくはヒト対象である。実施形態は、特にNAFLDを含む脂肪肝疾患の治療に向けられているが、ヒト対象において、実施形態はまた、又はあるいは、獣医学的適用において使用され得る。動物対象の非限定的な例としては、非ヒト霊長類、ネコ、イヌ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ヤギ、モルモット、ヒツジ及びウシが挙げられる。
【0074】
実施例
実施例1
長期的設計を使用して、この研究は、デキストラン硫酸投与前と治療開始後の異なる時間後の患者における選択した血清代謝物の変化を決定することを目的とした。測定した代謝物の変化は、この患者集団における潜在的な疾患の変容と薬物の作用機序を支持するデキストラン硫酸に対する患者の生化学的応答を示した。
【0075】
材料と方法
デキストラン硫酸(Tikomed AB,Viken,Sweden,WO2016/076780)を、神経疾患を患うヒト患者に、10週間、週に1回、毎日皮下注射により2mg/kgで投与した。
【0076】
標準的な止血帯手順を使用して、少なくとも15分の完全な休息後に、デキストラン硫酸投与前(0週目)及び投与後(5週目及び10週目)の患者から末梢静脈血試料を、血清分離剤と血餅活性化剤を含む単一VACUETTE(登録商標)ポリプロピレンチューブ(Greiner-Bio One GmbH,Kremsmunster,Austria)に採取した。室温(20~25℃)で30分後、血清アリコートを得るために、採血液を1,890×gで10分間遠心分離した。
【0077】
約300μlの血清アリコートを光保護し、次いで、詳細に記載された方法(Lazzarinoら,脂溶性ビタミンおよび抗酸化物質の高速液体クロマトグラフィー分析用の選択された生体液のシングルステップ調製(Single-step preparation of selected biological fluids for the high performance liquid chromatographic analysis of fat-soluble vitamins and antioxidants),J Chromatogr A.2017;1527:43-52)を用いて、脂溶性代謝産物を抽出するために処理した。簡単に説明すると、試料にHPLCグレードのアセトニトリル1mlを添加し、60秒間激しくボルテックスし、攪拌下の水浴中で、37℃で1時間インキュベートして、脂溶性化合物を完全に抽出できるようにした。次に、試料を20,690×gで、4℃で15分間遠心分離してタンパク質を沈殿させ、透明な上清を脂溶性代謝物のHPLC分析まで-80℃で保存した。
【0078】
結果
デキストラン硫酸投与は、
図1に示すように、総ビリルビン(総ビリルビン=遊離ビリルビン+抱合型ビリルビン)の循環レベルの有意な時間依存的減少をもたらし、治療の0週と比較して、治療の10週の時点で有意差(
*p<0.05)に達した。
【0079】
結果は、デキストラン硫酸が患者の肝機能を有意に改善し、それによってNAFLDを含む脂肪肝疾患の治療に有用であることを示している。
【0080】
実施例2
線維増殖状態において炎症が線維症に先行する。この実施例は、ヒト細胞における炎症経路及び組織リモデリング経路の調節におけるデキストラン硫酸の効果を調査した。関連するヒト培養細胞からのタンパク質及び遺伝子発現データから、免疫活性化、炎症解消及び組織リモデリングの再プログラミングを通じて、デキストラン硫酸が、罹患及び損傷したヒト組織の治癒並びに機能的リモデリングの改善につながる主要な自然応答と適応応答を調節することが示唆された。
【0081】
材料と方法
デキストラン硫酸
デキストラン硫酸(Tikomed AB,Viken,Sweden,WO 2016/076780)を20mg/mlのストック濃度として提供し、温度監視冷蔵庫内で保管した。デキストラン硫酸アリコートを使用する直前に、滅菌生理食塩水で適切な濃度に希釈した。
【0082】
BioMAP(登録商標)システムを用いた表現型プロファイリング
市販のサービスの品質管理されたBioMAP(登録商標)Diversity PLUS(Eurofins DiscoverX Corporation,Freemont,CA,USA;詳細についてはhttps://www.discoverx.com)の一環として、炎症、細胞増殖及び線維症の臨床的に関連するタンパク質バイオマーカーに対するデキストラン硫酸の効果を評価するために、12種の初代ヒト細胞及び共培養アッセイを使用した。デキストラン硫酸を、これらのアッセイにおいて、4つの濃度:4000nM、1300nM、400nM及び150nMで試験した。BioMAP(登録商標)システムで採用した、複数のドナー(n=2~6)由来の、商業的に購入し、メーカーの推奨に従って取り扱ったヒト初代細胞を4回の継代で又はそれより早く使用した。ヒト血液由来のCD14+単球を、lMphgシステム(Eurofins DiscoverX Corporation)に加える前にインビトロでマクロファージに分化させた。
【0083】
各アッセイシステムで使用した細胞型及び刺激は以下の通りであった:3Cシステム[ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)+(IL-1β、TNFα及びIFNγ)]、4Hシステム[HUVEC+(IL-4及びヒスタミン)]、LPSシステム[末梢血単核球(PBMC)及びHUVEC+LPS(TLR4リガンド)]、SAgシステム[PBMC及びHUVEC+TCRリガンド]、BTシステム[CD19+B細胞及びPBMC+(α-IgM及びTCRリガンド)]、BF4Tシステム[気管支上皮細胞(BEC)及びヒト新生児皮膚線維芽細胞(HDFn)+(TNFα及びIL-4)]、BE3Cシステム[BEC+(IL-1β、TNFα及びIFNγ)]、CASM3Cシステム[冠動脈平滑筋細胞(CASMC)+(IL-1β、TNFα及びIFNγ)]、HDF3CGFシステム[HDFn+(IL-1β、TNFα、IFNγ、EGF、bFGF及びPDGF-BB)]、KF3CTシステム[ケラチノサイト及びHDFn+(IL-1β、TNFα、IFNγ及びTGFβ)]、MyoFシステム[分化した肺筋線維芽細胞+(TNFα及びTGFβ)]及びlMphgシステム[HUVEC及びM1マクロファージ+ザイモサン(TLR2リガンド)]。
【0084】
アッセイは、単一細胞型又は共培養システムのいずれかに由来した。接着細胞型をコンフルエントになるまで96又は384ウェルプレートで培養し、続いてPBMCを添加した(SAg及びLPSシステム)。BTシステムは、PBMCと共培養し、BCR活性化因子と低レベルのTCR刺激で刺激したCD19+B細胞からなっていた。DMSO(低分子;終濃度≦0.1%)又はPBS(生物製剤)のいずれかで調製した試験薬を、刺激の1時間前に指示した濃度で添加し、細胞を24時間又は別の方法で示したように培養物中で維持した(48時間、MyoFシステム;72時間、BTシステム(可溶性読み出し);168時間、BTシステム(分泌型IgG))。各アッセイプレートには、各システムに適する薬物対照(例えば、1.1μMのレガシー対照試験薬のコルヒチン)、陰性対照(例えば、非刺激条件)及びビヒクル対照(例えば、0.1%DMSO)が含まれていた。直接ELISAを使用して、細胞関連及び細胞膜標的のバイオマーカーレベルを測定した。上清由来の可溶性因子を、HTRF(登録商標)検出、ビーズベースのマルチプレックスイムノアッセイ又は捕捉ELISAのいずれかを用いて定量した。細胞増殖に対するデキストラン硫酸の明白な悪影響及び生存率(細胞傷害性)を、接着細胞についてはスルホローダミンB(SRB)染色によって、懸濁中の細胞についてはalamarBlue(登録商標)還元によって検出した。増殖アッセイについては、個々の細胞型をサブコンフルエントで培養し、各システム(48時間:3C及びCASM3Cシステム;72時間:BT及びHDF3CGFシステム;96時間:SAgシステム)について最適化した時点で測定した。接着細胞の細胞傷害性はSRB(24時間:3C、4H、LPS、SAg、BF4T、BE3C、CASM3C、HDF3CGF、KF3CT、及びlMphgシステム;48時間:MyoFシステム)によって、及び懸濁中の細胞についてはalamarBlue(登録商標)染色(24時間:SAgシステム;42時間:BTシステム)によって示した時点で測定した。
【0085】
BioMAP(登録商標)データ解析
デキストラン硫酸処理試料中のバイオマーカー測定値を、対照試料(同じプレートからの少なくとも6つのビヒクル対照)の平均で割って比率を出し、次にlog10変換した。有意性予測エンベロープを、95%信頼区間で過去のビヒクル対照データを使用して計算した。ビヒクル対照に対して同じ方向における2以上の連続する濃度変化が有意性エンベロープの外側にあり、効果サイズが20%を超える(log10比>0.1)少なくとも1つの濃度を有する場合に、バイオマーカー活性に注釈を付けた。バイオマーカーの主要な活性は、これらの活性が一部のシステムでは増加するが、他のシステムでは減少する場合に調節されると説明された。細胞傷害性状態は、総タンパク質レベルが50%超減少した場合に認められ(SRB又はalamarBlue(登録商標)レベルのlog10比<-0.3)、X軸上に細い黒い矢印で示した。化合物は、3以上のシステムで細胞傷害性が検出された場合に、幅広い細胞傷害性を有するとみなした。検出可能な幅広い細胞傷害性を有する試験薬の濃度は、バイオマーカー活性アノテーション及び下流のベンチマーク、類似性検索及びクラスター解析から除外した。抗増殖効果を、より低い密度で播種した細胞からSRB又はalamarBlue(登録商標)log10比の値<-0.1によって定義し、X軸上に灰色の矢印で示した。細胞傷害性及び抗増殖性の矢印は、プロファイルアノテーションの示された閾値を満たすために1つの濃度のみを必要とする。
【0086】
遺伝子発現研究
ヒトシュワン細胞(ATCC CRL-2884(商標))を、ポリ-d-リジン及びラミニンでコーティングした25cm2培養フラスコ中10%ウシ胎児血清(FBS)を有する高グルコースDMEM中で培養し(n=8)、37℃/5%CO2でインキュベートした。播種(0日目)後24時間の時点で、細胞をデキストラン硫酸(DMEM中0.01mg/ml)又は培地のいずれかで1回処理した。処理の48時間後、培地を除去し、室温(RT)で0.5mlのクロロホルムを含有する2.5mlのトリゾール:水(4:1)溶液中で細胞を収集した。フラスコを顕微鏡下で検査し、細胞が完全に除去されたことを確認した。回収した可溶化液を-80℃で保存した。
【0087】
遺伝子発現研究のためのRNA抽出
可溶化液を室温で5分間平衡化させて、核タンパク質複合体の完全な解離を可能にした。各試料から1mlの可溶化液を除去し、200μLのクロロホルムをそれぞれに加え、チューブを激しく振とうした。試料を室温で2~3分間保存し、続いて4℃で、12,000×g/15分で遠心分離した。混合物を3層:赤色フェノール-クロロホルムの下部相、中間相及び無色の上部水相に分離した。水相(RNAを含む)の上部3/4を新しいきれいなエッペンドルフチューブに移した。等量の100%エタノールを添加することによりRNAを水相から沈殿させた。沈殿させたRNAをスピンカートリッジに固定し、2回洗浄して乾燥させた。RNAを50μLの温かいRNaseフリー水で溶出した。精製したRNAの量及び質をナノドロップによって測定した。該RNAを、遺伝子アレイ解析のためにSource Bioscienceに転送する前に-80℃で保存した。アレイサービスプロバイダー(Source Bioscience)からの追加QCは、該RNAが高品質(分解なし)で、量がAgilentの低インプットRNAマイクロアレイのパラメーター内に十分収まっていることを示した。
【0088】
遺伝子発現データの解析
各試料のバックグラウンド補正した発現データを、別々のファイルにダウンロードした。バックグラウンド補正したシグナルを、統計解析のために全ての試料についてlog2変換した。試料中の誤発見率を低減するために、「発現レベル」以下のシグナルを除去した。log2変換した発現値について、「発現レベル以下」を5に設定した(シュワン細胞では通常発現しないMAPT遺伝子の発現値は5未満であった。しかし、通常の「対照」遺伝子ACTB(A_32_P137939;ACTB)の発現は十分に5を上回っていた)。
【0089】
遺伝子発現データの統計解析
MetaboAnalyst(Chong及びXia,MetaboAnalystR:メタボロミクスデータの柔軟で再現性のある解析のためのRパッケージ(an R package for flexible and reproducible analysis of metabolomics data),Bioinformatics 34(24):4313-4314(2018))を使用して、遺伝子発現プロファイルを解析した。各アレイの対照プローブの発現パターンに基づいて、結果のばらつきを減らすために、解析前に全てのアレイに対して中央値センタリングを実施することを決定した。
【0090】
さらに、3つのデータセットの組み合わせ間で発現差のない遺伝子を選別するために予備解析を実施した。発現パターンを探すために、単純で非厳密なANOVA(p<0.05)を実施した。3つのデータセット間で変化のないプローブは削除した。残りのプローブセットを、Volcanoプロット(Qlucore,Lund,Sweden)を使用して倍数変化と有意性について解析した。プローブの発現の20%超の変化(FC≧1.2又はFC≦0.84)を、発現パターンの検出を可能にするために、最初の例で有意であると見なした。
【0091】
0日目の対照試料と2日目の対照試料の比較により、通常の培養条件下で細胞に見られる遺伝子発現変化の解析が可能になった。デキストラン硫酸の効果を、2日目の対照と2日目のデキストラン硫酸処理試料の差と見なした。この解析からの差次的調節された遺伝子及び倍数変化の値を、Ingenuity Pathway Analysis(IPA;Qiagen Ltd.,Manchester,UK)ソフトウェアにアップロードした。差次的発現プロファイルのコア解析に続いて、デキストラン硫酸効果の完全なプロファイルを提供するために比較解析を行った。関心のあるTGFβ調節機構ネットワークを、線維症及び瘢痕と関連付けられることが知られている遺伝子から構築した。
【0092】
結果
デキストラン硫酸はヒト培養細胞において炎症反応と創傷治癒反応を調節する
BioMAP(登録商標)は、炎症負荷で刺激した複数のヒト細胞型における薬物の有効性、安全性及び作用機序を評価する方法として開発された。デキストラン硫酸の影響を最も受けたBioMAP(登録商標)細胞応答は、B細胞のT細胞依存的活性化(BTシステム)、動脈平滑細胞のTh1炎症環境(CASM3Cシステム)及びヒト皮膚線維芽細胞の組織リモデリング応答(HDF3CGFシステム)に関連した(
図2)。重要なことに、評価したヒト培養系のいずれにおいても、デキストラン硫酸で明らかな細胞傷害性はなかった。アッセイに含まれる12のモデルシステムの応答の全体的な分析から、デキストラン硫酸が炎症性及び免疫調節性のサイトカインと分子、組織リモデリング経路(マトリックス分解酵素の活性化を含む)並びに止血活性を調節することが示された(
図3)。これらの効果をピルフェニドンの効果に対して評価すると、デキストラン硫酸は、この広範囲のヒト細胞系において、負荷後に異なる炎症調節因子を標的とすることにより独自の抗炎症プロファイルを誘導した(
図4)。
【0093】
デキストラン硫酸はヒト培養細胞における炎症性及び線維形成遺伝子の発現を調節する
デキストラン硫酸の機構を確認し、さらに理解し、デキストラン硫酸作用の幅広い関連性を強調するために、ヒトシュワン細胞における遺伝子発現に対する薬物の影響を分析した。これらのグリアは、多くの変性障害に見られる炎症性及び線維性反応を評価するために広く使用されている。遺伝子発現解析により、培養液に入れると、ヒトシュワン細胞は、炎症反応の活性化(
図5A)及びTGFβシグナル伝達経路の活性化(
図5C)をもたらす堅牢な炎症発現プロファイルを生成することが実証された。BioMAP(登録商標)データと同様に、分子ネットワーク解析は、デキストラン硫酸が炎症性遺伝子に複雑な影響を及ぼし、線維化促進性サイトカインTGFβに関連するシグナル伝達カスケードの重要な要素の標的化調節を含む正常な炎症反応の解消をもたらすことを示した(
図5B)。線維症に関与するTGFβ調節機構分子ネットワークには165個の分子が含まれ、そのうちデキストラン硫酸は14(8.5%;p<0.001)の発現を調節した。TGFβ調節遺伝子ネットワークにおける遺伝子発現の変化は、デキストラン硫酸が抗線維化プロテオグリカンデコリンの発現を上方制御し、マトリックスメタロペプチダーゼを調節し、それによって組織リモデリングプロセスを活性化することによって線維症を減弱させることを示した。
【0094】
デキストラン硫酸の機構プロファイルを、異なるヒト組織型における炎症及び創傷治癒応答をモデル化した12の異なる検証済みヒト初代細胞培養システムで構成されるBioMAP(登録商標)Diversity Plusアッセイを使用してタンパク質レベルで調査した。データから、デキストラン硫酸が異なる細胞型に効果があり、異なる炎症メディエーターで刺激が生じる多様式作用を伴う明確な表現型プロファイルを有することが実証された。特にデキストラン硫酸は、全て構造的に関連し、CXC受容体3(CXCR3)を介してシグナル伝達し、インターフェロン及びTNFαによって誘導される3つのケモカインのCXCL9、CXCL10及びCXCL11のレベルを低下させた。CXCR3及びそれと関連付けられるケモカインは、免疫細胞の動員と機能に重要な役割を果たし、多くの炎症性疾患に関与している。
【0095】
上記の実施形態は、本発明のいくつかの例示的な例として理解されるべきである。当業者なら、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に対して様々な修正、組み合わせ及び変更がなされ得ることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分のソリューションは、技術的に可能な場合には、他の構成で組み合わせることができる。しかし、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【国際調査報告】