(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】アリールピロール誘導体の薬学的塩
(51)【国際特許分類】
C07D 207/337 20060101AFI20231016BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231016BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20231016BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231016BHJP
A61K 31/402 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C07D207/337 CSP
A61P35/00
A61K45/00
A61P43/00 111
A61K31/402
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519234
(86)(22)【出願日】2021-09-23
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2021076203
(87)【国際公開番号】W WO2022063899
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523107927
【氏名又は名称】センチネル オンコロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メジャー、メリエル ルース
(72)【発明者】
【氏名】ボイル、ロバート ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】トラバース、スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー、デイビッド ウインター
(72)【発明者】
【氏名】ノーゼン、ジュリアン スコット
(72)【発明者】
【氏名】サントーニ、ステファニア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA03
4C084NA05
4C084ZB26
4C084ZC20
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC05
4C086GA14
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA03
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC20
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミド(+)-L-酒石酸塩、その調製方法、それを含有する医薬組成物、及びがんなどの疾患の治療におけるその使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸と塩基との間のモル比が約1:1である、(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミド(+)-L-酒石酸塩。
【請求項2】
式(2)を有する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの(+)-L-酒石酸塩。
【化1】
【請求項3】
酸と塩基との間に約1:1のモル比が存在し、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドが単一のアトロプ異性体の形態である、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの(+)-L-酒石酸塩。
【請求項4】
単一のアトロプ異性体が式(1)のアトロプ異性体である、請求項3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項5】
単一のアトロプ異性体が4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドのRアトロプ異性体である、請求項3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項6】
単一のアトロプ異性体が本明細書の例で記載されたようなアトロプ異性体A-2である、請求項3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項7】
(+)-L-酒石酸塩が本明細書の例で記載されたようなものである、請求項3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項8】
結晶形態である、請求項1~7のいずれかに記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項9】
無水物である、請求項8に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項10】
パターンBとして本明細書で同定される無水物である、請求項9に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【請求項11】
(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で10%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在する、のいずれかである、請求項1~10のいずれかに記載の(+)-L-酒石酸塩を含む物質の組成物。
【請求項12】
(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で0.1%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在する、のいずれかである、請求項11に記載の物質の組成物。
【請求項13】
請求項1~10のいずれかに記載の(+)-L-酒石酸塩、又は請求項11及び12のいずれかに記載の物質の組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項14】
がん、例えば本明細書の態様3.4~3.16のいずれか1つに記載のがんの治療に使用するための、請求項1~10のいずれかに記載の(+)-L-酒石酸塩、又は請求項11及び12のいずれかに記載の物質の組成物。
【請求項15】
請求項1~12のいずれかに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、別の治療活性剤とを含む医薬組み合わせ。
【請求項16】
本明細書の態様1.1~1.19、2.1~2.5、3.1~3.34、4.1~4.12、及び5.1~5.6のいずれか1つに記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、トリアリールピロール化合物のアトロプ異性体の薬学的塩、その調製方法、それを含有する医薬組成物、及びがんなどの疾患の治療におけるその使用に関する。
【0002】
正常なKRAS遺伝子によって発現されるタンパク質は、正常な組織のシグナル伝達に不可欠な機能を実行する。単一のアミノ酸置換、特に単一のヌクレオチド置換によるKRAS遺伝子の変異は、多くのがんの発生に不可欠なステップである活性化変異の原因である。結果として生じる変異タンパク質は、肺腺癌、粘液腺腫、膵管癌、及び結腸直腸癌を含む様々な悪性腫瘍に関係している。Rasファミリーの他のメンバーと同様に、KRASタンパク質はGTPaseであり、多くのシグナル伝達経路に関与している。
【0003】
KRASは分子のオン/オフスイッチとして作用する。それはオンになると、増殖因子ならびにc-Raf及びPI-3キナーゼなどの他の受容体のシグナルの伝播に必要なタンパク質を補充して活性化する。通常のKRASは、活性状態でGTPに結合し、ヌクレオチドの末端ホスファートを切断して、それをGDPに変換する固有の酵素活性がある。GTPをGDPに変換すると、KRASはオフになる。変換速度は、通常遅いが、GTPase活性化タンパク質(GAP)クラスのアクセサリータンパク質、例えばRasGAPによって劇的に高速化できる。次に、KRASはグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)クラスのタンパク質、例えばSOS1に結合することができ、これは結合したヌクレオチドの放出を強制する。その後、KRASはサイトゾル中に存在するGTPに結合し、ras-GTPからGEFが放出される。変異体KRASでは、そのGTPアーゼ活性が直接除去され、KRASを構成的に活性状態にする。変異体KRASは、多くの場合、コドン12、13、61、又はそれらの混合物の変異を特徴とする。
【0004】
変異体KRASを保有するがん細胞の生存率は、ポロ様キナーゼ1(PLK1)に依存することが既知であり、PLK1をサイレンシングすると変異体KRASを含有する細胞が死に至ることが示されている(Luo et al.,Cell.2009 May 29;137(5):835-848を参照)。したがって、PLK1を阻害する化合物は、KRAS変異から生じるがんの治療に有用であるはずであるが、PLK1の保存されたATP結合ドメインに結合するように設計された現在のキナーゼ阻害剤は、この作用機序にアクセスするには他のキナーゼと比べて非選択的すぎる場合がある(例えば、Elsayed et al.,Future Med.Chem.(2019)11(12),1383-1386を参照)。
【0005】
PLK1は603個のアミノ酸からなるセリン/トレオニンキナーゼであり、分子量は66kDaであり、細胞周期の重要な調節因子である。特に、PLK1は有糸分裂に重要であり、細胞周期のM期中の有糸分裂紡錘体の形成及び変化、ならびにCDK/サイクリン複合体の活性化に関与している。
【0006】
すべてのポロ様キナーゼは、N末端セリン/トレオニンキナーゼ触媒ドメイン及び1つ又は2つのポロボックスを含有するC末端領域を含有する(Lowery et al.,Oncogene,(2005),24,248-259)。ポロ様キナーゼ1、2、及び3の場合、両方のポロボックスを含むC末端領域全体が、ポロボックスドメイン(PBD)として既知の単一のモジュラーホスホセリン/スレオニン結合ドメインとして機能する。結合した基質が存在しない場合、PBDはキナーゼドメインの基礎活性を阻害する。PBDのその配位子へのリン酸化依存性結合は、キナーゼドメインを放出すると同時に、ポロ様キナーゼを特定の細胞内構造に局在化する。
【0007】
PLKL1は、そのポロボックスドメインを介して細胞内アンカー部位に局在化するため、PLK1の作用は、PBDの機能を阻害することにより、その細胞内局在を妨害する小分子によって阻害することができることが示されている(Reindl et al.,Chemistry&Biology,15,459-466,May 2008)。
【0008】
腫瘍タンパク質p53は腫瘍抑制因子として機能し、アポトーシス、ゲノムの安定性、及び血管新生の阻害の役割を果たす。p53欠損及び高いPLK1発現の両方を有する腫瘍は、PLK1阻害剤に特に敏感である場合があることが既知である(Yim et al.,Mutat Res Rev Mutat Res,(2014).761,31-39)。
【0009】
したがって、文献における証拠は、PBDに結合してその機能を阻害する小分子がPLK1キナーゼの効果的な阻害剤であるはずであり、したがってKRAS及び/又はp53変異から生じるがんの治療にも有用であるはずであることも示唆している。特に、PBDドメインはPLKにのみ存在するため、このドメインに対して設計された阻害剤が以前のATP競合阻害剤よりも高い選択性を有する可能性により、KRAS変異体及びp53欠損がんを標的とするより高い能力を可能にし得る。
【0010】
原発性脳がんの治療薬の特定及び開発は、特に難しいことが証明されている。標的がん療法、特にプロテインキナーゼ阻害剤を使用する療法は、製薬企業及びバイオテクノロジー企業にとって大きな焦点となっている(Nature Reviews Clinical Oncology 2016,13,209--227)。しかしながら、30個以上のキナーゼ阻害剤は、腫瘍学での使用が承認されているが、これらのいずれも原発性脳がんの治療用ではない。特に問題となっているのは、承認されたキナーゼ阻害剤腫瘍学薬のほとんどが、脳がんの治療に使用される場合に必要な脳への曝露を達成するために必要な薬物物質の品質を欠いていることである[JMC 2016,59(22),10030-10066]。
【0011】
アルキル化剤テモゾロミド(Temodar(登録商標)、Temodal(登録商標))は、現在、脳腫瘍多形性膠芽腫の第一選択治療薬であり、放射線療法と組み合わせて頻繁に使用されている。しかしながら、薬物耐性は膠芽腫の管理における主要な問題であり、したがってテモゾロミドの有用性を制限する。したがって、現時点では、悪性神経膠芽細胞腫は不治のままである。
【0012】
ポロ様キナーゼ1(PLK1)は、多形性膠芽腫を含む様々な腫瘍タイプで過剰発現する(Translational Oncology 2017,10,22-32)。さらに、最近の研究では、PLK1が多形性膠芽腫のチェックポイント適応及びテモゾロミド耐性を推進することが示されている[Oncotarget 2017,8,15827-15837]。
【0013】
上衣腫は脳及び脊髄の腫瘍であり、現在の標準治療は手術及び放射線に限定されている。PLK1は上衣腫に関係しており、PLK1の阻害剤は上衣腫細胞株に対して活性である[Gilbertson et.al.,Cancer Cell(2011)20,384-399]。
【0014】
PLK1はまた、高悪性度で浸潤性な小児脳腫瘍であるびまん性橋神経膠腫(DIPG)の標的として研究されている[Amani et al.BMC Cancer(2016)16,647 and Cancer Biology and Therapy(2018)19,12,1078-1087]。
【0015】
より具体的には、PLK1の阻害は、IDH1変異神経膠腫におけるテモゾロミドの有効性を増強し[Oncotarget,(2017)8,9,15827-15837]、MMR欠損のテモゾロミド耐性膠芽腫異種移植モデルにおける腫瘍の増殖を阻害することが示されている[Mol Cancer Ther;17(12)December 2018]。
【0016】
上記の場合、現在の阻害剤は十分な脳曝露を欠く。
【0017】
PLKL1を阻害するが、薬物耐性を誘発せず、良好な脳曝露を示す化合物は、多形性膠芽腫及び他の脳がんの治療に有用であると期待される。
【0018】
PLK4は、中心体複製において重要な役割を果たすセリン/トレオニンキナーゼのポロ様キナーゼファミリーのメンバーであり、中心小体複製の中心的調節因子として作用する(Bettencourt-Dias,Curr Biol.2005 15(24);2199-207)。中心体におけるPLK4依存的変化は、有糸分裂時の非対称染色体分離をもたらし得、これは、染色体の誤分離及び有糸分裂欠陥後の細胞死を引き起こし得る。
【0019】
PLK4は、ヒトがんにおいて異常に発現され、腫瘍形成及び転移に関係している。したがって、PLK4は、がん療法の有望な標的として強調されている(Zhao,J Canc Res Clin Oncol.,2019)。
【0020】
PLK4は、ラブドイド腫瘍、髄芽腫及び脳の他の胎児性腫瘍(Pediatr Blood Cancer.2017)、ならびに乳がん、肺がん、黒色腫、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん、及び卵巣がんを含む多くのがんで過剰発現される。PLK4の上昇又は過剰活性化は、卵巣がん、乳がん、及び肺がんを含むがん患者における生存率の低下と関連している(Zhao,J Canc Res Clin Oncol.,2019)。
【0021】
PLK4阻害は、多形性膠芽腫の治療について研究されており、PLK4がテモゾロミド化学感受性の調節において重要な役割を果たすことが実証されている。膠芽腫PDXモデルにおけるテモゾロミドとPLK4の阻害の組み合わせは、テモゾロミド単独と比較して抗腫瘍効果を増強することが示されている(Cancer Letters,Vol 443,2019,91-107)。
【0022】
PLK4はがん発生においてp53不活性化と協働することが報告されており、PLK4過剰発現及びp53欠損を有するがんは腫瘍を形成しやすいと予測されている(Sercin,2016;Nat Cell Biol 18:100-110)。したがって、PLK4活性を阻害する化合物は、p53変異がんの治療に有用であると予想される。
【0023】
PLK4の阻害は、肺がんにおいて抗腫瘍活性をもたらし、活性は、野生型及び変異体KRASを保有するがんにおいて見られる(Kawakami,PNAS 2018,115(8)1913-18)。したがって、PLK4活性を阻害する化合物は、KRAS変異体がんの治療に有用であると予想される。
【0024】
現在のPLK4阻害剤はキナーゼ活性部位で作用し、脳浸透に最適ではない(Int.J.Mol.Sci.2019,20,2112)。したがって、PLK4のPBDを阻害するが、良好な脳曝露も示す化合物は、多形性膠芽腫及び他の脳がんの治療に有用であると期待される。
【0025】
本発明者らの先の国際特許出願WO2018/197714は、以下の式の化合物を開示している:
【化1】
(式中、環Xがベンゼン又はピリジン環であり、環Yはベンゼン、ピリジン、チオフェン、又はフラン環であり、Ar
1が置換されていてもよいベンゼン、ピリジン、チオフェン、又はフラン環であり、R
1~R
4、R
6、R
7が水素又は様々な置換基である)。化合物は、抗がん活性を有し、経口投与後に良好な脳曝露を有すると記載されており、それらを脳がんの治療の良好な候補にする。化合物は膠芽腫細胞株に対して活性があり、PLK1キナーゼのポロボックスドメインの阻害剤として作用すると考えられている。これらの化合物は、変異体RASがん細胞株(HCT116など)に対して活性があり、KRAS変異から生じるがんの治療にも有用であるはずであるとも開示している。
【発明の概要】
【0026】
現在、WO2018/197714の例33の化合物、すなわち4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド、及びその類似体はアトロプ異性体を形成することが見出された。アトロプ異性体は、回転障壁に対するエネルギー障壁が個々の回転異性体の単離を可能にするのに十分に高い、単結合軸を中心とした妨げられた回転から生じる立体異性体である;LaPlante et al.,J.Med.Chem.,54:7005-7022(2011)を参照。
【0027】
アトロプ異性体は、キラル軸が回転によってラセミ化するのに必要なエネルギーの量及びラセミ化が起こるのに必要な時間の長さに基づいて3つのカテゴリーに分類することができる。クラス1のアトロプ異性体は、84kJ/mol(20kcal/mol)未満のキラル軸まわりの回転障壁を有し、室温において数分以内で測定される期間でラセミ化し;クラス2のアトロプ異性体は、84~117kJ/mol(20~28kcal/mol)の回転障壁を有し、室温において数時間~数ヶ月間で測定される期間でラセミ化し;クラス3のアトロプ異性体は、117kJ/mol(28kcal/mol)超の回転障壁を有し、室温において数年間で測定される期間でラセミ化する。
【0028】
アトロプ異性体の立体化学構造は、
図1に示す(S)-6,6’-ジニトロビフェニル-2,2’-ジカルボン酸によって例示されるCahn-Ingold-PrelogのR及びS系を使用して割り当てることができる。
【0029】
この系では、アリール-アリール結合の両側の最も近い置換基にa-b-c-dの順序で優先順位が割り当てられる。置換基a、b、及びcが反時計回りの配置にある場合、アトロプ異性体はS異性体である。対応するR異性体では、置換基a、b、及びcは時計回りの配置である。
【0030】
4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド及びその類似体のアトロプ異性体は、単離及び特性評価するのに十分に安定であり、80℃までの温度に10日間加熱しても、有意な程度までラセミ化しないことが見出されている。したがって、アトロプ異性体は、クラス3のアトロプ異性体として分類することができる。アトロプ異性は、2-トリフルオロメチル置換基とピロール環の2位及び5位に結合している芳香環との間の立体相互作用が、2-トリフルオロメチル置換された環とピロール環の窒素原子との間の結合のまわりの回転を妨げるために生じると考えられる。
【0031】
4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの2つの個々のアトロプ異性体は、有意に異なる生物学的特性を有することが分かっている。したがって、典型的には、対の一方のアトロプ異性体は、対の他方のアトロプ異性体よりも特定のがん標的に対して有意に活性である。目的の生物学的標的に対してより良好な生物活性を有するアトロプ異性体は、単結晶のX線解析によってR配置、すなわち化学構造(1)を有することが示されている。
【化2】
【0032】
酸と塩基との間に約1:1のモル比が存在し、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの(+)-L-酒石酸塩が、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの遊離塩基形態、及び化合物の他の塩よりも有利であることがさらに見出された。
【0033】
(+)-L-酒石酸は、遊離塩基よりも改善された水溶性で表面水分(90%RHで1%未満)のみを取り込む高度に結晶性で安定な固体であるという点で特に有利である。これらの特性は、それを医薬開発に特に適したものにする。
【0034】
したがって、第1の態様(態様1.1)では、本発明は、酸と塩基との間のモル比が約1:1である、(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミド(+)-L-酒石酸塩を提供する。
【0035】
さらなる態様では、本発明は以下を提供する:
1.2 式(2)を有する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの(+)-L-酒石酸塩:
【化3】
【0036】
1.3 酸と塩基との間に約1:1のモル比が存在し、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドが単一のアトロプ異性体の形態である、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの(+)-L-酒石酸塩。
【0037】
1.4 単一のアトロプ異性体が式(1)のアトロプ異性体である、態様1.3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0038】
1.5 単一のアトロプ異性体が4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドのRアトロプ異性体である、態様1.3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0039】
1.6 単一のアトロプ異性体が以下のパラメーターのいずれか1つ又は複数を特徴とする、態様1.3に記載の(+)-L-酒石酸塩:
(i)本明細書の例3に実質的に記載されているようなX線結晶学データ;
(ii)本明細書のキラルHPLC方法1によって決定した場合の約20分(例えば約20.5分)の保持時間;及び
(iii)本明細書の例2に記載の方法を用いて測定した場合の約-11.76°の比旋光度。
【0040】
1.7 単一のアトロプ異性体が本明細書の例で記載されたようなアトロプ異性体A-2である、態様1.3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0041】
1.8(+)-L-酒石酸塩が本明細書の例で記載されたようなものである、態様1.3に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0042】
1.9 結晶形態である、態様1.1~1.8のいずれか1つに記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0043】
1.10 無水物である、態様1.9に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0044】
1.11 パターンBとして本明細書で同定される無水物である、態様1.10に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0045】
1.12 溶媒和物である、態様1.9に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0046】
1.13 パターンAとして本明細書で同定される溶媒和物である、態様1.12に記載の(+)-L-酒石酸塩。
【0047】
1.14(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で10%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在するのいずれかである、態様1.3~1.13のいずれか1つに記載の(+)-L-酒石酸塩を含む物質の組成物。
【0048】
1.15(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で5%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在するのいずれかである、態様1.14に記載の物質の組成物。
【0049】
1.16(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で2%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在するのいずれかである、態様1.14に記載の物質の組成物。
【0050】
1.17(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で1.5%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在するのいずれかである、態様1.14に記載の物質の組成物。
【0051】
1.18(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で1%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在するのいずれかである、態様1.14に記載の物質の組成物。
【0052】
1.19(a)単一のアトロプ異性体が、組成物中に存在する4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの唯一のアトロプ異性体であるか、又は(b)前記単一のアトロプ異性体に対して、モル量で0.1%未満の、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドの任意の他のアトロプ異性体が存在するのいずれかである、態様1.14に記載の物質の組成物。
【0053】
定義
態様1.1~1.19のいずれか1つで定義される、(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミド(+)-L-酒石酸塩、式(2)の化合物、及び物質の組成物は、集合的に又は総称して「本発明の酒石酸塩」と呼ばれることがある。したがって、「本発明の酒石酸塩」への言及は、文脈がそうでないことを示さない限り、態様1.1~1.19のいずれか1つへの言及であると解釈され得る。
【0054】
同位体
態様1.1~1.19のいずれか1つで定義される、物質の組成物、化合物又は塩は、1つ以上の同位体置換を含有し得、特定の要素への言及は、その範囲内にその要素のすべての同位体を含む。例えば、水素への言及には、その範囲内に1H、2H(D)、及び3H(T)が含まれる。同様に、炭素及び酸素への言及には、それぞれ12C、13C、及び14C、ならびに16O及び18Oが含まれる。
【0055】
同位体は放射性でも非放射性であってもよい。本発明の一態様では、物質の組成物又はアトロプ異性体は放射性同位体を含有しない。そのような化合物は治療用途に好ましい。しかしながら、別の態様では、物質の組成物又はアトロプ異性体は1つ以上の放射性同位体を含有してもよい。そのような放射性同位体を含む化合物は、診断の状況において有用であり得る。
【0056】
溶媒和物及び無水物
態様1.1~1.19のいずれか1つで定義される、物質の組成物、化合物又は塩は、溶媒和物及び無水物を形成し得る。
【0057】
特定の溶媒和物は、本発明の物質の組成物又はアトロプ異性体の固体状態構造(例えば、結晶構造)への非毒性の薬学的に許容される溶媒(以下溶媒和溶媒と呼ばれる)の分子の組み込みにより形成される溶媒和物である。溶媒和物は、溶媒和溶媒を含有する溶媒又は溶媒の混合物で本発明の物質の組成物又はアトロプ異性体を再結晶化することにより調製することができる。溶媒和物が任意の所与のインスタンスで形成されたかどうかは、熱重量分析(TGE)、示差走査熱量測定(DSC)、及び粉末X線回折(XRPD)などの周知の標準的な技術を使用して、物質の組成物又はアトロプ異性体の結晶を分析に供することにより判定することができる。
【0058】
溶媒和物は、化学量論的又は非化学量論的溶媒和物であり得る。
【0059】
溶媒和物の例は、水、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール)、アルキルアルカノアートエステル(例えば、酢酸エチル及び酢酸イソプロピル)、エーテル(特に、1-4-ジオキサン及びテトラヒドロフランなどの環状エーテル)、及び単環式ラクタム(例えば、N-メチルピロリドン)から選択される1つ以上の溶媒のいずれか1つで形成されるものである。
【0060】
溶媒和物ならびにそれらの作製及び特性化に使用される方法のより詳細な議論については、Bryn et al.,Solid-State Chemistry of Drugs,Second Edition,published by SSCI,Inc of West Lafayette,IN,USA,1999,ISBN 0-967-06710-3を参照されたい。
【0061】
溶媒和物を形成することに加えて、態様1.1~1.19のいずれか1つで定義される物質の組成物、化合物又は塩は、無水物の形態で提供され得る。本明細書で使用される「無水物」という用語は、その三次元構造(例えば結晶形態)内に水を含有しない(好ましくは他の溶媒を含有しない)固体粒子形態を指すが、塩又は化合物の粒子は、その外表面に水分子が付着していてもよい。
【0062】
本発明の化合物の調製方法
本発明の(+)-L-酒石酸塩は、式(1)のアトロプ異性体から、溶媒又は溶媒の混合物中で酒石酸と反応させ、次いで、溶媒又は溶媒の混合物から酒石酸塩を単離することにより調製することができる。
【0063】
一態様では、式(1)のアトロプ異性体を1つの溶媒に溶解又は懸濁して第1の混合物を形成し、(+)-L-酒石酸を同じ又は別の溶媒に溶解又は懸濁して第2の混合物を形成し、次いで第1及び第2の混合物を合わせて一定時間放置して(例えば、撹拌しながら)塩形成を起こさせ、続いて(+)-L-酒石酸塩を単離することができる。
【0064】
第1及び第2の混合物を合わせる場合、式(1)のアトロプ異性体及び(+)-L-酒石酸のモル量はほぼ同等であることが好ましい;すなわち、式(1)のアトロプ異性体と(+)-L-酒石酸との間には、好ましくは1:1のモル比が存在する。
【0065】
(+)-L-酒石酸塩は、濾過(沈殿が形成される場合)又は溶媒の蒸発により合わせた混合物から単離することができる。
【0066】
したがって、合わせた混合物中に2つ以上の溶媒が存在する場合、共溶媒又は貧溶媒として作用するように異なる溶媒を選択することができる。
【0067】
溶媒又は溶媒の混合物は、加熱された場合に少なくとも部分的に(+)-L-酒石酸塩を溶液中に保持するが、溶媒又は溶媒の混合物が冷却された場合に塩を沈殿物として堆積させるように選択することができる。
【0068】
第1の混合物(式(1)のアトロプ異性体を含有する混合物)を形成するために使用される溶媒は、例えば、脂肪族ケトン、脂肪族酸の脂肪族エステル、非芳香族環状エーテル、及び脂肪族アルコールから選択することができる。
【0069】
脂肪族ケトンの好ましい例はアセトンである。
【0070】
脂肪族酸の脂肪族エステルの例には、酢酸のC2-4アルキルエステルが含まれ、特定の例はイソプロピルアセタートである。
【0071】
非芳香族環状エーテルの例には、ジオキサン、2-メチルテトラヒドロフラン、及びテトラヒドロフランが含まれ、特定の例は2-メチルテトラヒドロフランである。
【0072】
脂肪族アルコールの例は、C2-4脂肪族アルコール、より具体的にはイソプロピルアルコール及びブタノールなどのC3-4アルカノールである。
【0073】
第2の混合物((+)-L-酒石酸を含有する混合物)を形成するために使用される溶媒は、例えば、水、非芳香族環状エーテル、及び脂肪族アルコールから選択することができる。
【0074】
第2の混合物のための脂肪族アルコール溶媒の特定の例は、エタノールである。
【0075】
第2の混合物のための非芳香族環状エーテル溶媒の特定の例は、テトラヒドロフラン(THF)である。
【0076】
第2の混合物の形成に使用するための溶媒の別の特定の例は水である。
【0077】
式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩は、いくつかの結晶形態、特にパターンA(溶媒和物である)及びパターンB(無水物である)で存在することができる。異なる結晶形態の特性評価の詳細は、本明細書の他の箇所に提供される。異なる結晶形態は、塩の形成に使用される溶媒及び加熱条件を変化させることにより調製することができる。
【0078】
パターンAを有する式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩を作製するための一プロセスでは、アセトン中のアトロプ異性体の溶液を、20℃~30℃の範囲の温度(例えば、約25℃)でエタノール中の(+)-L-酒石酸の溶液と混合し、得られた混合物を、塩形成が起こるのに十分な時間(例えば12~24時間)撹拌するか、そうでなければかき混ぜ、次いで、塩を濾過により単離する。
【0079】
パターンAを有する式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩を作製するための別のプロセスでは、イソプロピルアルコール中のアトロプ異性体の溶液を、35℃~45℃の範囲の温度(例えば、約40℃)でエタノール中の(+)-L-酒石酸の溶液と混合し、得られた混合物を、約1~3時間にわたって20℃~30℃の範囲の温度(例えば、約25℃)まで冷却し、次いで、塩を濾過により単離する。
【0080】
パターンAを有する式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩を作製するための別のプロセスでは、2-メチルテトラヒドロフラン中のアトロプ異性体の溶液を、20℃~30℃の範囲の温度(例えば、約25℃)でエタノール中の(+)-L-酒石酸の溶液と混合し、得られた混合物を、塩形成が起こるのに十分な時間(例えば12~24時間)撹拌するか、そうでなければかき混ぜ、次いで、塩を濾過により単離する。
【0081】
パターンBを有する式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩を作製するための一プロセスでは、35℃~45℃の範囲の温度(例えば、約40℃)の酢酸イソプロピル中のアトロプ異性体の溶液を、エタノール中の(+)-L-酒石酸の溶液と混合し、得られた混合物を、約1~3時間にわたって20℃~30℃の範囲の温度(例えば、約25℃)まで冷却し、次いで、塩を濾過により単離する。
【0082】
パターンBを有する式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩を作製する別のプロセスでは、35℃~45℃の範囲の温度(例えば、約40℃)の酢酸イソプロピル中のアトロプ異性体の溶液を、THF中の(+)-L-酒石酸の溶液と混合し(分割して又は単回投入のいずれかで)、塩パターンBの1つ以上のシード結晶を添加して沈殿物を得、混合物を20℃~30℃の範囲の温度(例えば、約25℃)まで冷却し、沈殿物を濾過により単離することができる状態まで熟成させるのに十分な時間(例えば12~24時間、特に約20時間)撹拌又はかき混ぜる。
【0083】
パターンBを有する式(1)のアトロプ異性体の(+)-L-酒石酸塩の別のプロセスでは、70℃~85℃の範囲の高温(例えば、約80℃)のブタノール中のアトロプ異性体の溶液を、水中の(+)-L-酒石酸の溶液と混合し(分割して又は単回投入のいずれかで)、得られた混合物を65℃~70℃の範囲の中間温度まで冷却した後、パターンB塩の1つ以上のシード結晶を添加し、混合物を3~10℃の範囲の低温まで8~15時間にわたって冷却し、その後、得られた混合物を低温又はその付近でさらに2~8時間(例えば、約6時間)撹拌又はかき混ぜ、次いで、形成されたパターンB塩を濾別する。
【0084】
式(1)のアトロプ異性体は、
(a)4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミドのアトロプ異性体の混合物(例えば、ラセミ混合物)を分離すること;又は
(b)式(3)のアトロプ異性体:
【化4】
を式H
2N-(CH
2)-N(CH
3)
2のアミンとアミド形成条件下で反応させること
によって調製することができる。
【0085】
式(1)、(2)及び(3)の化合物は、以下のスキーム1に示す経路により調製することができる。
【化5】
【0086】
スキーム1に示される合成経路の出発物質は、4-シアノ-アセトフェノン(4)及び4-クロロフェナシルブロミド(5)であり、これらは両方とも市販されている。
【0087】
ステップ1において、4-シアノ-アセトフェノン(4)と4-クロロフェナシルブロミド(5)を一緒に反応させて、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-オキソ-ブタノイル]ベンゾニトリル(6)を得る。反応は、典型的には、好適な溶媒、例えばベンゼン又はトルエンなどの非極性(例えば、炭化水素)溶媒と第三級アルコール(例えば、t-ブタノール)との混合物中、トリエチルアミンなどの第三級アミンの存在下、亜鉛(II)塩(例えば、塩化亜鉛)の存在下で実施される。反応は、室温又は室温付近で、例えば、12~60時間にわたって実施することができる。
【0088】
ステップ2において、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-オキソ-ブタノイル]ベンゾニトリル(6)を2-トリフルオロメチルアニリンと反応させて、4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)ベンゾニトリル(7)を得る。反応は、典型的には、好適な高沸点溶媒(例えば、ジオキサン)中、p-トルエンスルホン酸などの酸触媒の存在下、高温(例えば、130~170℃)及び/又はマイクロ波照射で実施される。反応は、1~12時間、例えば1~6時間実施することができる。
【0089】
ステップ3において、4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)ベンゾニトリル(7)をアルカリ加水分解に供して、4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(8)を得る。加水分解反応は、典型的には、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物(典型的には過剰量)の存在下で、メタノールなどのアルコールを含有し得る水性溶媒中、一般的には、例えば60~80℃の範囲の温度又は約20時間以上までの期間、加熱しながら実施される。加水分解が完了すると、酸(8)は、典型的には、反応混合物を冷却及び酸性化することによって単離される。
【0090】
ステップ3に続いて、アトロプ異性体(1)への2つの可能な経路のうちの1つに従うことができる。ステップ4b及び5b及び6からなる一変形例において、4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(8)を、アミド形成条件下でN,N-ジメチルエチレンジアミンと反応させて、4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)-N-(2-(ジメチルアミノ)エチル)ベンズアミド(9)のアトロプ異性体のラセミ混合物を得、次いで、これをキラル分離によって個々のアトロプ異性体に分割して、アトロプ異性体(1)を得る。
【0091】
他の変形例では、ラセミ6,4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(8)をキラル分離に供してアトロプ異性体(3)を得、次いで、これをアミド形成条件下でN,N-ジメチルエチレンジアミンと反応させてアトロプ異性体(1)を得る。
【0092】
カルボン酸(3)及び(8)を、アミドカップリング試薬の存在下、アミド形成条件下でN,N-ジメチルエチレンジアミンと反応させる。そのようなアミドカップリング試薬の例には、1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(Sheehan et al,J.Amer.Chem Soc.1955,77,1067)及び1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(本明細書ではEDC又はEDCIとも呼ばれる)(Sheehan et al,J.Org.Chem.,1961,26,2525)などのカルボジイミド系カップリング試薬が含まれ、これらは典型的には1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)(L.A.Carpino,J.Amer.Chem.Soc.,1993,115,4397)又は1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(Konig et al,Chem.Ber.,103,708,2024-2034)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HATU)などのウロニウム系カップリング試薬、及びプロパンホスホン酸無水物(T3P)(A.Garcia,Synlett,2007,No.8,pp1328-1329を参照)と組み合わせて使用される。プロセスステップ5a及び5bで使用するための特定のアミドカップリング試薬は、HATU及びT3Pである。
【0093】
アミドカップリング反応は、典型的には、非干渉性塩基、例えばトリエチルアミン又はN,N-ジイソプロピルエチルアミンなどの第三級アミンの存在下の室温又はその付近(例えば、18~30℃)で、テトラヒドロフランもしくはジメチルホルムアミド又はそれらの混合物などの非水性、極性、非プロトン性溶媒中で実施される。
【0094】
カルボン酸(8)及びアミド(9)のアトロプ異性体の混合物のキラル分離は、様々な技術を使用して行うことができる。例えば、キラルクロマトグラフィーを使用して、個々のアトロプ異性体を分離することができる。キラルクロマトグラフィー手順におけるアトロプ異性体の保持時間は、NMR及びMS特性が典型的に同じである個々のアトロプ異性体を区別し、特徴付ける手段を提供する。
【0095】
個々のアトロプ異性体を分離するために使用することができるキラルクロマトグラフィーカラムは、例えば官能化アミロース又はセルロースに基づくことができる固定化キラル固定相(CSF)を含む。そのようなCSFの例は、クロロ及び/又はメチル置換フェニルカルバマートで官能化されたアミロース及びセルロースである。本発明の個々のアトロプ異性体を単離するために使用され得るキラルカラムの特定の例は、Daicel Corporationから入手可能な「Chiralpak IG」カラムである。
【0096】
上記キラルカラムと共に典型的に使用することができる移動相は、(A)ジエチルアミンなどのアルキルアミン塩基を少量(例えば、最大1%(v/v)及びより通常には約0.1%(v/v))含有するn-ヘプタンなどの液体アルカン;ならびに(B)アルコール及びその混合物、例えばイソプロピルアルコールとメタノールの混合物(例えば、70:30 IPA:MeOH)を含む。例えば、移動相は、比80:20~95:5、例えば約85:15~約90:10の範囲でA:Bの混合物を含むことができる。移動相は、アイソクラティック又は勾配溶出法で使用され得るが、本発明の一態様では、アイソクラティック溶出法で使用される。
【0097】
本発明のアトロプ異性体は、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)条件下でのキラルHPLCにより分割することもできる。超臨界流体クロマトグラフィーでは、移動相は、多くの場合、アルコール又はアルコールの混合物、例えばメタノール、エタノール、及びイソプロパノールなどの共溶媒と共に、二酸化炭素などの超臨界流体を含む。
【0098】
上記のChiralpak IGカラムは、二酸化炭素/メタノール/イソプロパノール混合物を移動相として使用するSFCクロマトグラフィー手順で使用することができる。
【0099】
SFCで使用するための他のキラルカラム/共溶媒の組み合わせには、以下が含まれる:
Luxセルロース4(MeOH、EtOH);
Luxセルロース2(MeOH);
Luxアミロース1(MeOH、EtOH);及び
YMCアミロース-SA(MeOH、EtOH)。
【0100】
キラルカラムのLuxファミリーは、Phenomenex,Inc.から入手可能である。
【0101】
YMCアミロース-SAカラムは、YMC America,Inc.から入手可能である。
【0102】
上記キラルクロマトグラフィー法は、特にラセミ混合物(9)からアトロプ異性体(1)を分離するために使用され得る。
【0103】
キラルクロマトグラフィーの代替として、キラル酸(例えば、(+)-10-カンファースルホン酸)をラセミ混合物(9)と反応させて、ジアステレオ異性体の混合物としてキラル塩を形成することができ、これを結晶化によって分離してアトロプ異性体(1)の塩を得、次いでこれをアトロプ異性体(1)の遊離塩基に変換することができる。
【0104】
カルボン酸(8)のアトロプ異性体のラセミ混合物は、(S)-1-(4-メトキシフェニル)-エチルアミンなどのキラルアミンとの塩を形成して、例えば、キラルアミンとアトロプ異性体(1)との塩のシード結晶の助けを借りた結晶化によって分離することができるジアステレオ異性体の混合物を形成することによって分割することができる。
【0105】
上述のプロセスの特定の側面は、本発明のさらなる態様(態様2.1~2.5)を表す。したがって、本発明は、以下を提供する:
【0106】
2.1 アミド形成条件下での式(3)の化合物とN,N-ジメチルエチレンジアミンとの反応を含む、式(1)の化合物の調製方法。
【0107】
2.2 アミド形成条件が、アミドカップリング試薬、例えば本明細書に記載のアミドカップリング剤の存在を含む、態様2.1に記載の方法。
【0108】
2.3 アミドカップリング試薬がプロパンホスホン酸無水物(T3P)である、態様2.2に記載の方法。
【0109】
2.4 式(3)の化合物の調製方法であって、例えば、キラルクロマトグラフィー又はキラル塩基との塩形成及び得られたキラル塩の分割による、式(8)のアトロプ異性体の混合物からの式(3)の化合物のキラル分離を含む、方法。
【0110】
2.5 式(3)を有するアトロプ異性体化合物又はその塩(例えば、アルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩などの金属塩、又はアンモニアもしくは有機アミンとの塩)。
【0111】
生物学的特性及び治療用途
以下の例に示される証拠は、本明細書で定義される式(1)のアトロプ異性体及びその酒石酸塩がPLK1及びPLK4キナーゼのポロボックスドメインの阻害剤ではあるが、PLK1及びPLK4キナーゼの触媒ドメインを阻害しないことを示す。PBDドメインはPLKにのみ存在するため、式(1)のアトロプ異性体及びその酒石酸塩は、ATP競合キナーゼ阻害剤である化合物よりもはるかに高い選択性(したがって、オフターゲットキナーゼ阻害による望ましくない副作用が少ない)を示すはずである。式(1)のアトロプ異性体を97個のキナーゼのパネルに対して試験し、他のキナーゼに対して無視できる活性を示した、以下の例7Fに記載される研究から得られた結果は、式(1)のアトロプ異性体が、他の構造的及び機能的に同様のキナーゼよりもPLK1-PBD及びPLK4-PBDに対して高い選択性を有することを裏付けている。
【0112】
触媒ドメインではなくPBDドメインを阻害するさらなる利点は、これにより、触媒ドメインを阻害するPLK1阻害剤と比較して、薬物耐性を誘発する傾向が低下し得ることである。
【0113】
PLK1キナーゼのPBDドメインの阻害剤としての、式(1)のアトロプ異性体及びその酒石酸塩の活性は、Narvaez et al.,Cell Chemical Biology,24,1017-1028,2017(1018頁及び1026頁を参照(方法の詳細))に記載されている蛍光偏光(FP)アッセイを使用して実証することができる。
【0114】
式(1)のアトロプ異性体及びその酒石酸塩は、KRAS変異体を構成的に活性化する結果として細胞経路の弱点を利用するのに有効であり得ると考えられ、したがって、KRASの調節により媒介される疾患及び状態の治療に有用であり得る。
【0115】
単一のヌクレオチド置換に起因するKRASの変異は、様々な形態のがんに関連している。特に、KRAS変異は、白血病、結腸がん、膵臓がん、及び肺がんで高い割合で見られる。
【0116】
さらに、式(1)のアトロプ異性体及びその酒石酸塩が、p53の欠損又はTP53遺伝子の変異を特徴とするがんの治療に有用であり得ると考えられている。PLK1はがん細胞のp53を阻害すると考えられている。したがって、PLK1阻害剤で治療すると、腫瘍細胞のp53が活性化され、アポトーシスを誘発するはずである。
【0117】
KRAS変異体及びp53欠損がんに対する式(1)のアトロプ異性体の活性は、少なくとも部分的に、上記のように、PLK1キナーゼのC末端ポロボックスドメイン(PBD)の阻害を介して生じると考えられている。KRASはPLK1との相互作用に依存することが既知である。
【0118】
式(1)のアトロプ異性体は、アトロプ異性体のPLK1-PBD及びPLK4-PBD阻害活性から生じると考えられる特性である、非会合染色体による有糸分裂停止を誘導する(以下の例7Cを参照)。
【0119】
アトロプ異性体は、多極紡錘体表現型を有する有糸分裂停止を誘導し、PLK4阻害のよく記載された表現型である中心小体の増幅を引き起こす(Lei 2018,Cell Death&Disease 9,1066;Kawakami,PNAS 2018,115(8)1913-18)。これらの表現型は、式(1)のアトロプ異性体のPLK4-PBD阻害活性から生じると考えられる。
【0120】
がん細胞株(U87MG、ヒト脳(膠芽腫星状細胞腫))を利用する抗がん活性の主要なスクリーニングは、以下の例7Aに記載されている。得られたデータは、式(1)のR-アトロプ異性体(アトロプ異性体A-2)が、U87MG細胞株に対して4.6μMのIC50を有する対応するS-アトロプ異性体(A-1)よりもはるかに活性である(0.22μMのIC50)ことを実証している。
【0121】
2つのアトロプ異性体(A-2及びA-1)もまた、48個のがん細胞株のパネルに対して試験し、結果を以下の例7Bに示す。試験したすべての細胞株において、式(1)のアトロプ異性体(A-2)は、ほとんどの場合、アトロプ異性体(A-1)より少なくとも10倍程度活性であった。
【0122】
例7Bのデータは、式(1)のアトロプ異性体(A-2)が、膵臓がん、大腸及び結腸直腸がん、肺がん、脳及び神経のがんなどの固形腫瘍、ならびにリンパ腫及び白血病などの血液がんに及ぶ広範囲の異なるがん細胞株に対して活性であることを実証している。
【0123】
式(1)のアトロプ異性体は、良好な経口バイオアベイラビリティを有し(以下の例7Gを参照)、経口投与された場合に良好な脳曝露を有する(例7G)。したがって、本発明の物質の組成物又はアトロプ異性体は、神経膠腫及び神経膠芽腫などの脳がんの治療に有用であるはずである。
【0124】
今日までに得られた証拠に基づいて、式(1)のアトロプ異性体は、広範囲のがん(及びそれらの良性の対応物)、例えば以下の態様に記載されるがんの治療に有用であると考えられる。
【0125】
したがって、さらなる態様(態様3.1~3.25)では、本発明は、以下を提供する:
【0126】
3.1.PLK1-PBDとして使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0127】
3.2 PLK4-PBD阻害剤として使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0128】
3.3 PLK1-PBD及びPLK4-PBD阻害剤として使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0129】
3.4 がんが、上皮由来の腫瘍(腺癌、扁平上皮癌、移行上皮癌、及び他の癌を含む様々な種類の腺腫及び癌)、例えば、膀胱、尿路、乳房、胃腸管(食道、胃(胃部)、小腸、結腸、直腸、及び肛門を含む)の癌、肝臓(肝細胞がん)、胆嚢及び胆道系、膵外分泌、腎臓、肺(例えば、腺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、気管支肺胞癌、及び中皮腫)、頭頸部(例えば、舌、頬腔、喉頭、咽頭、鼻咽頭、扁桃、唾液腺、鼻腔、及び副鼻腔のがん)、卵巣、卵管、腹膜、膣、外陰部、陰茎、子宮頸部、子宮筋層、子宮内膜、甲状腺(例えば、甲状腺濾胞癌)、副腎、前立腺、皮膚及び付属器(例えば、黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、角化棘細胞腫、形成異常母斑);血液悪性腫瘍(すなわち、白血病、リンパ腫)ならびに血液悪性腫瘍及びリンパ系の関連状態を含む前悪性血液疾患及び境界悪性腫瘍の障害(例えば、急性リンパ性白血病[ALL]、慢性リンパ性白血病[CLL]、B細胞リンパ腫、例えばびまん性大細胞型B細胞リンパ腫[DLBCL]、濾胞性リンパ腫、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫及び白血病、ナチュラルキラー[NK]細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、毛様細胞白血病、意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症、形質細胞腫、多発性骨髄腫、及び移植後リンパ増殖性障害)、ならびに骨髄系の血液学的悪性腫瘍及び関連状態(例えば、急性骨髄性白血病[AML]、慢性骨髄性白血病[CML]、慢性骨髄単球性白血病[CMML]、好酸球増加症候群、骨髄増殖性障害、例えば真性赤血球増加症、本態性血小板血症及び原発性骨髄線維症、骨髄増殖性症候群、骨髄異形成症候群、及び前骨髄球性白血病);間葉由来の腫瘍、例えば軟部組織、骨、又は軟骨の肉腫、例えば骨肉腫、線維肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、カポジ肉腫、ユーイング肉腫、滑膜肉腫、類上皮肉腫、消化管間質腫瘍、良性及び悪性の組織球腫、ならびに隆起性皮膚線維肉腫;中枢又は末梢神経系の腫瘍(例えば、星状細胞腫、神経膠腫及び神経膠芽腫、髄膜腫、上衣腫、松果体腫瘍、ならびに神経鞘腫);内分泌腫瘍(例えば、下垂体腫瘍、副腎腫瘍、膵島細胞腫瘍、副甲状腺腫瘍、カルチノイド腫瘍、甲状腺髄様癌);眼及び付属腫瘍(例えば、網膜芽細胞腫);胚細胞及び栄養膜腫瘍(例えば、奇形腫、セミノーマ、未分化胚細胞腫(dysgerminomas)、胞状奇胎、及び絨毛癌);ならびに小児及び胎児の腫瘍(例えば、髄芽腫、神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、及び原始神経外胚葉性腫瘍);又は、患者が悪性腫瘍に感受性がある先天性又はその他の症候群(例えば、色素性乾皮症)から選択される、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0130】
3.4A がんが、膵臓がん、大腸及び結腸直腸がん、肺がん、脳及び神経のがん、血液がん(例えば、リンパ腫及び白血病)から選択される、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0131】
3.5 がんが、膵臓がん、大腸及び結腸直腸がん、肺がん、脳及び神経のがん、ならびにリンパ腫及び白血病などの血液がんから選択される、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0132】
3.6 がんが、神経膠腫及び神経膠芽腫(例えば、多形性膠芽腫、上衣腫、びまん性橋神経膠腫、IDH1変異性神経膠腫)から選択される、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0133】
3.7 がんが、ラブドイド腫瘍、髄芽腫及び脳の他の胎児性腫瘍;乳がん、肺がん、黒色腫、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん、及び卵巣がんから選択される、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0134】
3.7 任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するためであって、がんが以下から選択される、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物:
(a)乳がん、胃腸管がん、膵外分泌がん、肺及び前立腺がんから選択される上皮由来の腫瘍;
(b)びまん性大細胞型B細胞リンパ腫[DLBCL]、バーキットリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病[AML]、慢性骨髄性白血病[CML]、及び骨髄異形成症候群などのB細胞リンパ腫から選択される血液悪性腫瘍;
(c)骨肉腫及び横紋筋肉腫から選択される間葉由来の腫瘍;
(d)神経膠腫、神経膠芽腫及び上衣腫から選択される中枢又は末梢神経系の腫瘍;ならびに
(e)髄芽腫及び神経芽細胞腫から選択される小児腫瘍及び胎児性腫瘍。
【0135】
3.8 がんが、PLK1が関係している(例えば、PLK1が過剰発現される)ものである、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0136】
3.9 がんが、態様3.4~3.7のいずれか1つで定義された通りである、態様3.8に記載の使用のための、酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0137】
3.10 がんが、PLK4が関係している(例えば、PLK4が過剰発現される)ものである、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0138】
3.11 がんが、態様3.4~3.7のいずれか1つで定義された通りである、態様3.10に記載の使用のための、酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0139】
3.12 がんが、p53欠損又はTP53遺伝子の変異を特徴とするものである、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0140】
3.13 がんが、態様3.4~3.7のいずれか1つで定義された通りである、態様3.12に記載の使用のための、酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0141】
3.14 がんが、KRASの変異形態の存在を特徴とするものである、がんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0142】
3.15 KRASの変異形態が、グリシン12、グリシン13、グルタミン61、及びそれらの組み合わせから選択されるタンパク質中のアミノ酸に変異を有するものである、態様3.14に記載の使用のための、酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0143】
3.16 がんが、態様3.4~3.7のいずれか1つで定義された通りである、態様3.14又は3.15に記載の使用のための、酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0144】
3.17 任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、医薬品又は療法に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0145】
3.18 KRASタンパク質の異常発現を特徴とする病状及び状態の予防又は治療において、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0146】
3.19 抗がん剤として使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0147】
3.20 態様3.4~3.16のいずれか1つで定義されるがんに罹患している対象(例えば、ヒトなどの哺乳動物対象)を治療する方法であって、任意に別の治療薬又は治療(例えば、抗がん剤又は療法)と組み合わせて、治療有効量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を対象に投与することを含む、方法。
【0148】
3.21 態様3.1~3.9のいずれか1つで定義される使用のために医薬品を製造するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物の使用。
【0149】
3.22 PLK1-PBDを阻害する方法であって、有効な阻害量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物をPLK1-PBDと接触させることを含む、方法。
【0150】
3.23 PLK4-PBDを阻害する方法であって、有効な阻害量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物をPLK4-PBDと接触させることを含む、方法。
【0151】
3.24 PLK1-PBD及びPLK4-PBDを阻害する方法であって、有効な阻害量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物をPLK1-PBD及びPLK4-PBDと接触させることを含む、方法。
【0152】
3.25 有効な阻害量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を、インビボで、例えばヒト対象などの哺乳動物対象において、PLK1-PBD及び/又はPLK4-PBDと接触させる、態様3.22~3.24のいずれか1つに記載の方法。
【0153】
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物の投与の前に、患者をスクリーニングして、患者が罹患している又は罹患している可能性のあるがんがPLK1及び/又はPLK4キナーゼレベルの上昇を特徴として、その結果PLK1及び/又はPLK4キナーゼに対する活性を有する化合物による治療に感受性があるがんであるかどうかを判定し得る。
【0154】
例えば、患者から採取した生体サンプルを分析して、患者が罹患している又は罹患している可能性があるがんがPLK1及び/又はPLK4キナーゼのアップレギュレーションをもたらす遺伝的異常又は異常なタンパク質発現を特徴とするがんであるかどうかを判定し得る。アップレギュレーションという用語には、遺伝子増幅(すなわち、複数の遺伝子コピー)を含む発現又は過剰発現の上昇、転写効果による発現増加、ならびに変異による活性化を含む多動性及び活性化が含まれる。したがって、患者は、PLK1及び/又はPLK4キナーゼのアップレギュレーションに特徴的なマーカーを検出するための診断試験に供してもよい。診断という用語にはスクリーニングが含まれる。マーカーには、例えば、PLK1の変異を特定するためのDNA組成の測定などの遺伝子マーカーが含まれる。マーカーという用語には、酵素活性、酵素レベル、酵素状態(例えば、リン酸化又は非リン酸化)及び前述のタンパク質のmRNAレベルを含むPLK1及び/又はPLK4のアップレギュレーションに特徴的なマーカーも含まれる。
【0155】
PLK1及び/又はPLK4キナーゼのアップレギュレーションを伴う腫瘍は、PLK1阻害剤に特に敏感になり得る。PLK1及び/又はPLK4のアップレギュレーションについて腫瘍を優先的にスクリーニングし得る。したがって、患者は、PLK1及び/又はPLK4のアップレギュレーションに特徴的なマーカーを検出するための診断試験に供してもよい。典型的には、診断試験は、腫瘍生検サンプル、血液サンプル(腫瘍細胞の分離及び濃縮)、便生検、染色体分析、胸水、ならびに腹水から選択された生体サンプルで行われる。
【0156】
変異の同定及び分析ならびにタンパク質のアップレギュレーションの方法は、当業者に既知である。スクリーニング方法には、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)又はインサイチュハイブリダイゼーションなどの標準的な方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0157】
RT-PCRによるスクリーニングでは、mRNAのcDNAコピーを作成し、続いてPCRでcDNAを増幅することにより、腫瘍内のmRNAのレベルを評価する。PCR増幅の方法、プライマーの選択、及び増幅条件は、当業者に既知である。核酸操作及びPCRは、例えばAusubel,F.M.et al.,eds.Current Protocols in Molecular Biology,2004,John Wiley&Sons Inc.,or Innis,M.A.et-al.,eds.PCR Protocols:a guide to methods and applications,1990,Academic Press,San Diegoに記載されている標準的な方法で実施される。核酸技術を伴う反応及び操作は、Sambrook et al.,2001,3rd Ed,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressにも記載されている。あるいは、市販のRT-PCR用キット(例えば、Roche Molecular Biochemicals)、又は米国特許第4,666,828号;同4,683,202号;同4,801,531号;同5,192,659号、同5,272,057号、同5,882,864号、及び同6,218,529号に記載の方法論を使用してもよく、参照により本明細書に組み込まれる。
【0158】
mRNA発現を評価するためのインサイチュハイブリダイゼーション技術の例は、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(FISH)である(Angerer,1987 Meth.Enzymol.,152:649を参照)。
【0159】
一般に、インサイチュハイブリダイゼーションは、以下の主要なステップを含む:(1)分析する組織の固定ステップ;(2)標的核酸のアクセシビリティを高め、非特異的結合を減らすためのサンプルのプレハイブリダイゼーション処理ステップ;(3)生物学的構造又は組織内の核酸への核酸混合物のハイブリダイゼーションステップ;(4)ハイブリダイゼーションで結合していない核酸断片を除去するためのハイブリダイゼーション後洗浄ステップ;及び(5)ハイブリダイズした核酸断片の検出ステップ。そのような用途で使用されるプローブは、典型的には、例えば放射性同位体又は蛍光レポーターで標識されている。好ましいプローブは、過酷な条件下で標的核酸との特異的なハイブリダイゼーションを可能にするのに十分な長さ、例えば約50、100、又は200ヌクレオチド~約1000ヌクレオチド以上である。FISHを実施するための標準的な方法は、Ausubel,F.M.et al.,eds.Current Protocols in Molecular Biology,2004,John Wiley&Sons Inc and Fluorescence In Situ Hybridization:Technical Overview by John M.S.Bartlett in Molecular Diagnosis of Cancer,Methods and Protocols,2nd ed.;ISBN:1-59259-760-2;March 2004,pps.077-088;Series:Methods in Molecular Medicineに記載されている。
【0160】
あるいは、mRNAから発現したタンパク質生成物は、腫瘍サンプルの免疫組織化学、マイクロタイタープレートを用いた固相イムノアッセイ、ウエスタンブロッティング、2次元SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ELISA、フローサイトメトリー、及び特定のタンパク質を検出するための当技術分野で既知の他の方法でアッセイされ得る。検出方法には、部位特異的抗体の使用が含まれる。当業者は、PLK1及び/又はPLK4キナーゼのアップレギュレーションの検出のためのそのようなすべての周知の技術が本事例に適用可能であることを認識するであろう。
【0161】
あるいは、又は加えて、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物の投与の前に、患者をスクリーニングして、患者が罹患している又は罹患している可能性のあるがんが変異KRASを特徴として、その結果変異体KRASを保有するがん細胞に対して活性を有する化合物による治療に感受性があるがんであるかどうかを判定し得る。
【0162】
例えば、患者から採取された生体試料を分析して、患者が罹患している、又は罹患している可能性のあるがんが変異体KRASの存在を特徴とするものであるかどうかを判定し得る。したがって、例えば、患者はKRASタンパク質のコドン12、13、61、又はそれらの混合物における変異を検出するために診断試験に供してもよい。変異体KRASの市販の診断試験には、Roche Molecular Systems,Incからのcobas(登録商標)KRAS変異試験及びQiagen Manchester,Ltdからのtherascreen KRAS RGQ PCRキットが含まれる。
【0163】
変異体KRASを有する腫瘍は、PLK1及び/又はPLK4阻害剤に特に敏感であり得る。変異の同定及び分析ならびにタンパク質のアップレギュレーションの方法は、当業者に既知である。スクリーニング方法には、上記のように、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)又はインサイチュハイブリダイゼーションなどの標準的な方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0164】
したがって、さらなる態様(態様3.26~3.34)では、本発明は、以下を提供する:
【0165】
3.26 スクリーニングされ、PLK1キナーゼ(例えばPLK1過剰発現)のレベルの上昇を特徴とするがんに罹患していると判定された対象(例えば、ヒト対象)のがんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0166】
3.27 スクリーニングされ、PLK4キナーゼ(例えばPLK4過剰発現)のレベルの上昇を特徴とするがんに罹患していると判定された対象(例えば、ヒト対象)のがんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0167】
3.28 スクリーニングされ、PLK1キナーゼ及びPLK4キナーゼ(例えばPLK1及びPLK4過剰発現)のレベルの上昇を特徴とするがんに罹患していると判定された対象(例えば、ヒト対象)のがんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0168】
3.29 スクリーニングされ、KRASに対する活性を有する化合物による治療に感受性のある疾患もしくは状態に罹患している、又は罹患するリスクがあると判定された対象(例えば、ヒト対象)のがんの治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0169】
3.30 スクリーニングされ、変異KRASを特徴とする、及び変異体KRASを保有するがん細胞に対する活性を有する化合物による治療に感受性のあるがんに罹患していると判定された対象(例えば、ヒト対象)の治療に使用するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0170】
3.31 がんが、態様3.4~3.16のいずれか1つで定義されるがんである、態様3.26~3.30のいずれか1つに記載の使用のための酒石酸塩、又は物質の組成物。
【0171】
3.32 態様3.26~3.31のいずれか1つで定義される使用のために医薬品を製造するための、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物の使用。
【0172】
3.33 KRASの変異形態の存在を特徴とする病状又は状態(例えば、がん、例えば、態様3.4~3.16のいずれか1つで定義されるがん)を診断及び治療する方法であって、(i)対象(例えばヒト対象)をスクリーニングして、対象が罹患している又は罹患している可能性のある疾患又は状態が、KRASに対して活性を有する化合物による治療に感受性があるものであるかどうかを判定すること;及び(ii)対象がこのように感受性のある疾患又は状態であることが示された場合、その後、治療有効量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を対象に投与することを含む、方法。
【0173】
3.34 KRASの変異形態の存在を特徴とする病状又は状態(例えば、がん、例えば、態様3.4~3.16のいずれか1つで定義されるがん)を治療する方法であって、スクリーニングされ、KRASに対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾患もしくは状態に罹患している、又は罹患するリスクがあると判定された対象(例えばヒト対象)に、治療有効量の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を投与することを含む、方法。
【0174】
医薬製剤
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物は、典型的には、医薬組成物の形態で患者に投与される。したがって、本発明の別の態様(態様4.1)では、本発明は、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0175】
さらなる態様では、以下が提供される:
【0176】
4.2 約1%(w/w)~約95%(w/w)の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、99%(w/w)~5%(w/w)の薬学的に許容される賦形剤又は賦形剤の組み合わせと、任意に1つ以上のさらなる治療活性成分とを含む、態様4.1に記載の医薬組成物。
【0177】
4.3 約5%(w/w)~約90%(w/w)の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、95%(w/w)~10%の薬学的賦形剤又は賦形剤の組み合わせと、任意に1つ以上のさらなる治療活性成分とを含む、態様4.2に記載の医薬組成物。
【0178】
4.4 約10%(w/w)~約90%(w/w)の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、90%(w/w)~10%の薬学的賦形剤又は賦形剤の組み合わせとを含む、態様3.3に記載の医薬組成物。
【0179】
4.5 約20%(w/w)~約90%(w/w)の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、80%(w/w)~10%の薬学的賦形剤又は賦形剤の組み合わせとを含む、態様4.4に記載の医薬組成物。
【0180】
4.6 約25%(w/w)~約80%(w/w)の態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、75%(w/w)~20%の薬学的賦形剤又は賦形剤の組み合わせとを含む、態様3.5に記載の医薬組成物。
【0181】
本発明の医薬組成物は、経口、非経口、局所、鼻腔内、気管支内、眼科、耳、直腸、膣内、又は経皮投与に好適な任意の形態であり得る。組成物が非経口投与を目的とする場合、それらは、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下投与用に、又は注射、注入、もしくは他の送達手段による標的器官もしくは組織への直接送達用に処方することができる。
【0182】
経口投与に好適な医薬剤形には、錠剤、カプセル、カプレット、丸薬、ロゼンジ、シロップ、溶液、スプレー、粉末、顆粒、エリキシル及び懸濁液、舌下錠、スプレー、ウエハース又はパッチ、ならびに頬パッチが含まれる。
【0183】
したがって、さらなる態様では、本発明は以下を提供する:
【0184】
4.7 経口投与に適している、態様4.1~4.6のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0185】
4.8 錠剤、カプセル、カプレット、丸薬、ロゼンジ、シロップ、溶液、スプレー、粉末、顆粒、エリキシル及び懸濁液、舌下錠、スプレー、ウエハース又はパッチ、ならびに頬パッチから選択される、態様4.7に記載の医薬組成物。
【0186】
4.9 錠剤及びカプセルから選択される、態様4.8に記載の医薬組成物。
【0187】
4.10 非経口投与に適している、態様4.1~4.6のいずれか1つに記載の医薬組成物。
【0188】
4.11 静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下投与用に、又は注射、注入、もしくは他の送達手段による標的器官もしくは組織への直接送達用に処方される、態様4.10に記載の医薬組成物。
【0189】
4.12 注射又は注入のための溶液又は懸濁液である、態様4.11に記載の医薬組成物。
【0190】
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を含有する医薬組成物(例えば、態様4.1~4.12のいずれか1つで定義される)は、既知の技術に従って処方することができ、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Easton,PA,USAを参照されたい。
【0191】
したがって、錠剤組成物(態様4.9)は、糖もしくは糖アルコールなどの不活性希釈剤又は担体、例えばラクトース、スクロース、ソルビトール、もしくはマンニトール;ならびに/又は炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、タルク、炭酸カルシウムなどの非糖由来希釈剤、もしくはメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロースもしくはその誘導体、及びコーンスターチなどのデンプンとともに活性化合物の単位用量を含有することができる。錠剤は、ポリビニルピロリドンなどの結合剤及び造粒剤、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性架橋ポリマー)、潤滑剤(例えば、ステアラート)、防腐剤(例えば、パラベン)、酸化防止剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、ホスファート又はシトラート緩衝液)、ならびにシトラート/ビカルボナート混合物などの発泡剤も含有し得る。そのような賦形剤は周知であり、ここで詳細に議論する必要はない。
【0192】
カプセル製剤(態様4.9)は、硬ゼラチン又は軟ゼラチンの種類のものであってもよく、固体、半固体、又は液体形態の活性成分を含有することができる。ゼラチンカプセルは、動物ゼラチンもしくはその合成物又は植物由来の同等物から形成することができる。
【0193】
固体剤形(例えば;錠剤、カプセルなど)はコーティングされていてもコーティングされていなくてもよいが、典型的にはコーティング、例えば保護フィルムコーティング(例えば、ワックスもしくはワニス)又は放出制御コーティングを有する。コーティング(例えば、Eudragit(商標)タイプのポリマー)は、胃腸管内の所望の位置で活性成分を放出するように設計することができる。したがって、コーティングは、胃腸管内の特定のpH条件下で分解し、それにより胃又は回腸もしくは十二指腸内で物質の組成物又はアトロプ異性体を選択的に放出するように選択することができる。
【0194】
コーティングの代わりに、又はそれに加えて、薬物は、放出制御剤、例えば、胃腸管内で酸性又はアルカリ性が変化する条件下で物質の組成物又はアトロプ異性体を選択的に放出するように適合され得る放出遅延剤を含む固体マトリックスで提示することができる。あるいは、マトリックス材料又は放出遅延コーティングは、剤形が胃腸管を通過するときに実質的に連続して侵食される侵食性ポリマー(例えば、無水マレイン酸ポリマー)の形態をとることができる。
【0195】
局所使用のための組成物には、軟膏、クリーム、スプレー、パッチ、ゲル、液滴、及び挿入物(例えば、眼内挿入物)が含まれる。そのような組成物は、既知の方法に従って処方することができる。
【0196】
非経口投与用の組成物(態様4.10~4.12)は、典型的には、滅菌水溶液もしくは油性溶液もしくは微細懸濁液として提供され、又は注射用滅菌水で即座に補うための微粉化滅菌粉末形態で提供され得る。
【0197】
直腸又は膣内投与用の製剤の例には、例えば、活性化合物を含有する成形された塑造可能な又はワックス状の材料から形成され得るペッサリー及び坐剤が含まれる。
【0198】
吸入による投与のための組成物は、吸入可能な粉末組成物又は液体もしくは粉末スプレーの形態をとってもよく、粉末吸入器又はエアロゾル分配装置を使用して標準形態で投与することができる。そのような装置は周知である。吸入による投与の場合、粉末製剤は、典型的には、ラクトースなどの不活性固体粉末希釈剤とともに活性化合物を含む。
【0199】
医薬組成物は、一般に、単位剤形で提供され、それ自体、典型的には所望のレベルの生物活性を提供するのに十分な化合物を含有する。例えば、態様4.1~4.9のいずれか1つに記載)、経口投与を意図した組成物は、2ミリグラム~200ミリグラム、より一般的には10ミリグラム~100ミリグラム、例えば12.5ミリグラム、25ミリグラム、及び50ミリグラムの活性成分を含有してもよい。
【0200】
ポソロジー
活性化合物(態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物)は、それを必要とする患者(例えば、ヒト又は動物の患者)に、所望の治療効果、例えば上記の態様3.1~3.34に記載の効果を達成するのに十分な量で投与される。
【0201】
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物は、一般に、そのような投与を必要とする対象、例えばヒト又は動物の患者、好ましくはヒトに投与される。
【0202】
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物は、典型的には、治療的又は予防的に有用であり、一般に無毒である量で投与される。しかしながら、特定の状況では、本発明の化合物を投与する利点は、毒性効果又は副作用の欠点を上回る場合があり、その場合、ある程度の毒性に関連する量で化合物を投与することが望ましいと考えられる場合がある。
【0203】
一態様では、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物の典型的な1日用量は、体重1キログラムあたり0.025ミリグラム~5ミリグラム、例えば体重1キログラムあたり最大3ミリグラム、より典型的には体重1キログラムあたり0.15ミリグラム~5ミリグラムの範囲であり得るが、必要に応じて、高用量又は低用量を投与してもよい。
【0204】
別の態様では、態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物の典型的な1日用量は、体重1キログラムあたり0.025ミリグラム~50ミリグラム、例えば体重1キログラムあたり最大30ミリグラム、より典型的には体重1キログラムあたり0.15ミリグラム~50ミリグラム(例えば、1キログラムあたり0.5ミリグラムから30ミリグラム)の範囲であり得るが、必要に応じて、高用量又は低用量を投与してもよい。
【0205】
例として、本発明の一態様では、12.5mgの初期開始用量は、1日2~3回投与され得る。投与量は、医師が判定したように、個人の最大耐量及び有効用量に達するまで、3~5日ごとに1日12.5mgずつ増やすことができる。
【0206】
本発明の別の態様では、週1回の投与スケジュールは、第1週に0.5~1.5mg/kg(例えば、1mg/kg)の初期開始用量、続いて第2週以降に、対象に対する治療効果及び忍容性に合わせ最大投与量まで用量を漸増(例えば、3回、4回又は5回までの用量漸増のために以前の用量を2回又は3回)することによって構成することができる。例えば、第1週に、1mg/kgの開始用量を投与し、続いて第2週に3mg/kg、第3週に9mg/kg及び第4週に27mg/kgの用量に増加させてもよい。
【0207】
最終的に、投与される化合物の量は、治療される疾患又は生理学的状態の性質、ならびに所与の投与計画によってもたらされる治療効果及び副作用の有無に見合ったものとなり、医師の裁量になる。
【0208】
併用療法
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物は、単独の化学療法剤として、又はより一般的には、化学療法剤との併用療法もしくは様々な増殖性病状もしくは状態の予防もしくは治療における放射線療法のいずれかとして有用であると考えられる。そのような病状及び状態の例は上記に示されている。
【0209】
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と同時投与され得る化学療法剤又は他の治療の特定の例は以下を含む:
・トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、イリノテカン)
・代謝拮抗剤:(例えば、シタラビン又はゲムシタビン)
・チューブリンターゲティング剤(例えば、パクリタキセル)
・DNAバインダー及びトポイソメラーゼII阻害剤
・EGFR阻害剤(例えば、ゲフィチニブ又はアファチニブ)
・mTOR阻害剤(例えば、エベロリムス)
・PI3K経路阻害剤(例えば、PI3K、PDK1)
・Akt阻害剤
・アルキル化剤(例えば、テモゾロミド)
・モノクローナル抗体。
・アンチホルモン
・シグナル伝達阻害剤
・プロテアソーム阻害剤
・DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤
・サイトカイン及びレチノイド
・低酸素誘発DNA損傷剤(例えば、チラパザミン)
・アロマターゼ阻害剤
・抗Her2抗体(例えば、http://www.wipo.int/pctdb/en/wo.jsp?wo=2007056118を参照)
・抗cd20抗体(例えば、リツキシマブ)
・血管新生の阻害剤
・HDAC阻害剤
・MEK阻害剤
・B-Raf阻害剤
・ERK阻害剤
・HER2小分子阻害剤(例えば、ラパチニブ又はアファチニブ)
・Bcr-Ablチロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブ)
・CDK4/6阻害剤(例えば、パルボシクリブ)
・Mps1/TTK阻害剤
・オーロラB阻害剤
・FLT3キナーゼ阻害剤
・IDH1又はIDH2阻害剤
・BRD4阻害剤
・テモゾロミド
・PD1、PDL-1、及びCTLA4を含むシグナル成分を遮断する免疫チェックポイントの阻害剤;ならびに
・G12C(例えば、ソトラシブ)などの特定の変異に対するものを含むKRAS遮断薬;
・Bcl2阻害剤(例えば、ベネトクラックス(venetoclax)、サブトクラックス(sabutoclax)、又はオバトクラックス(obatoclax));ならびに
・放射線療法。
【0210】
態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と同時投与され得る化学療法剤又は他の治療の好ましい例は以下から選択され得る:
・トポイソメラーゼI阻害剤(例えば、イリノテカン)
・代謝拮抗剤:(例えば、シタラビン又はゲムシタビン)
・チューブリンターゲティング剤(例えば、パクリタキセル)
・EGFR阻害剤(例えば、ゲフィチニブ又はアファチニブ)
・mTOR阻害剤(例えば、エベロリムス)
・アルキル化剤(例えば、テモゾロミド)
・抗cd20抗体(例えば、リツキシマブ)
・PD1、PDL-1、及びCTLA4を含むシグナル成分を遮断する免疫チェックポイントの阻害剤;ならびに
・G12C(例えば、ソトラシブ)などの特定の変異に対するものを含むKRAS遮断薬;
・Bcl2阻害剤(例えば、ベネトクラックス(venetoclax)、サブトクラックス(sabutoclax)、又はオバトクラックス(obatoclax));ならびに
・放射線療法。
【0211】
したがって、さらなる態様では、本発明は以下を提供する:
【0212】
5.1 態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、別の治療活性剤とを含む医薬組み合わせ。
【0213】
5.2 前記別の治療薬が上に列挙される特定及び好ましい化学療法剤から選択される、態様5.1に記載の医薬組み合わせ。
【0214】
5.3 前記別の治療薬が抗がん剤である、態様5.1に記載の医薬組み合わせ。
【0215】
5.4 態様1.1~1.19のいずれか1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物及び前記別の治療活性剤が、単一の医薬組成物又は患者パックで提供される、態様5.1~5.3のいずれか1つに記載の医薬組み合わせ。
【0216】
5.5 態様1.1~1.19のいずれかに1つに記載の酒石酸塩、又は物質の組成物と、別の治療活性剤と、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【0217】
5.6 がんに罹患している対象の治療方法であって、治療有効量の態様5.1~5.5のいずれか1つに記載の医薬組み合わせを対象に投与することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【
図1】アトロプ異性体のR/S分類系を示す概略図である。
【
図2】単結晶X線結晶学的研究により決定された4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)-フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミドのアトロプ異性体A-2の三次元構造の描写である。
【
図3】2つのアトロプ異性体A-1(S)及びA-2(R)の概略立体化学図、ならびにCahn-Ingold-Prelog(CIP)配列規則を使用してそれらの立体化学構造を割り当てるための基礎である。
【
図4】アトロプ異性体A-2遊離塩基の粉末X線回折スペクトルである。
【
図5】アトロプ異性体A-2酒石酸パターンA塩(底部の線)及びパターンB塩(上部及び中央の線)の粉末X線回折スペクトルである。
【
図6】アトロプ異性体A-2遊離塩基の熱プロファイルを示し、示差走査熱量測定プロット(線6A)及び熱重量分析プロット(線6B)を示す。
【
図7】アトロプ異性体A-2酒石酸パターンA塩の熱プロファイルを示し、示差走査熱量測定プロット(線7A)及び熱重量分析プロット(線7B)を示す。
【
図8】アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩の熱プロファイルを示し、示差走査熱量測定プロット(線8A)及び熱重量分析プロット(線8B)を示す。
【
図9】アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩に対して実施された重量法蒸気収着研究における重量変化対相対湿度のプロットである。
【
図10】0.03μM濃度のアトロプ異性体A-1又はアトロプ異性体A-2のいずれかでU87MG細胞を処理した後に観察された異なる有糸分裂表現型(非会合染色体、多極紡錘体/異常な細胞質分裂、単極紡錘体、正常な前中期、後に生成される正常な中期)の割合を示す棒グラフである。
【
図11】0.02μM濃度のアトロプ異性体A-1又はアトロプ異性体A-2のいずれかで処理した後のHeLa細胞に存在する中心小体の数を示す棒グラフである。
【
図12】アトロプ異性体A-2のマウスへの経口及びi.v.投与後の時間に対する血漿濃度のプロットである。24時間まで伸びる下側の線は、2mg/kgのi.v.投与の線である。他方の線は、10mg/kgのp.o.投与についてである。
【
図13】アトロプ異性体A-2のマウスへの経口投与(10mg/kg)後の時間に対する血漿及び脳濃度のプロットである。上側の線は脳濃度を示し、下側の線は血漿濃度を示す。
【
図14】アトロプ異性体A-2の投与後のU87MG皮下異種移植モデルの雄性無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍体積対時間のプロットである。
【
図15】アトロプ異性体A-2の投与後のU87-Luc同所異種移植モデルの雄性無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍の増殖に関連する生物発光シグナルのグラフ比較である。
【
図16】アトロプ異性体A-2の投与後のHCT116皮下異種移植モデルの雄性無胸腺ヌードマウスにおける腫瘍体積対時間のプロットである。
【0219】
例
ここで、以下の例に記載される特定の態様を参照することにより、本発明を例示するが、これらに限定するものではない。
【0220】
プロトン磁気共鳴(1H NMR)スペクトルは、特に明記しない限り、27℃でジメチルスルホキシド-d6(DMSO-d6)又はメタノール-d4(MeOH-d4)(示されているように)において400MHzで動作するBruker 400機器で記録され、以下のように報告される:化学シフトδ/ppm(多重度s=シングレット、d=ダブレット、dd=ダブルダブレット、dt-ダブルトリプレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、br=ブロード、プロトンの数)。残留プロトン性溶媒を内部参照として使用した。
【0221】
液体クロマトグラフィー及び質量分析は、以下に示すシステム及び動作条件を使用して実施した。異なる同位体を有する原子が存在し、単一の質量が引用されている場合、化合物に引用されている質量はモノアイソトピック質量(つまり、35Cl;79Brなど)である。
【0222】
LCMS条件
以下の例で示されるLCMSデータは、以下に記載されている方法のうちの1つを使用して得られた。
【0223】
LCMS法1
LCMSは、PDAフォトダイオードアレイ検出器及びQDa質量検出器を備えたUPLC AQUITYで実施した。使用したカラムは、C18、2.1×50mm、1.9μmであった。カラム流量は1.2mL/分であり、使用した移動相は、(A)MilliQ水中の0.1%ギ酸(pH=2.70)(B)水:アセトニトリル(10:90)中の0.1%ギ酸、注入量は4~7μLであった。サンプルをメタノール:アセトニトリル中で調製して、約250ppmの濃度を達成した。
【0224】
【0225】
質量パラメーター
プローブ:ESIキャピラリー
供給源温度:120℃
プローブ温度:600℃
キャピラリー電圧:0.8KV(+Ve及び-Ve)
コーン電圧:10&30V
イオン化のモード:正及び負
【0226】
HPLC分析
報告されるHPLCデータは、以下の方法を用いて得られた。
【0227】
HPLC法1
HPLC分析は、Agilent Technologies 1100/1200シリーズHPLCシステムで実施した。使用したカラムは、ACE 3 C18、150×4.6mm、粒径3.0μm(例:Hichrom、品番:ACE-111-1546)であった。流量は1.0mL/分であった。移動相Aは水:トリフルオロ酢酸(100:0.1%)、移動相Bはアセトニトリル:トリフルオロ酢酸(100:0.1%)であった。注入量は5μLであり、以下の勾配を使用した:
【表2】
【0228】
キラルHPLC分析
報告されるキラルHPLCデータは、以下に記載されている方法のうちの1つを使用して得られた。
【0229】
キラルHPLC法1
キラルHPLCは分析であり、Agilent Technologies 1200シリーズHPLCシステムで実施した。使用したカラムは、CHIRAL PAK IG、250×4.6mm、5μmであった。カラム流量は1.0mL/分であり、移動相は:(A)n-ヘプタン中の0.1%v/v DEA及び(B)IPA:MeOH(70:30)であった。注入量は25μLであった。サンプルをIPA:MeOH中で調製して、約250ppmの濃度を達成し、以下のアイソクラティック法を用いた:
【表3】
【0230】
キラルHPLC法3
キラルHPLCは、Agilent Technologies 1200シリーズHPLCシステムで実施した。使用したカラムは、CHIRAL PAK IG、250×4.6mm、5μmであった。カラム流量は1.0mL/分であり、移動相は:(A)n-ヘプタン中の0.1%v/v DEA及び(B)IPA:MEOH(70:30)であった。注入量は10μLであった。サンプルをIPA:MeCN中で調製して、約250ppmの濃度を達成し、以下のアイソクラティック法を用いた:
【表4】
【0231】
キラルHPLC法4
以下のアイソクラティック法を使用することを除いてキラル法3と同一の条件:
【表5】
【0232】
キラルHPLC法5
以下のアイソクラティック法を使用することを除いてキラル法3と同一の条件:
【表6】
【0233】
キラルHPLC法6
キラルHPLCは分析であり、Agilent Technologies 1100/1200シリーズHPLCシステムで実施した。使用したカラムは、CHIRALPAK AD-H;250×4.6mm、5.0μmであった。カラム流量は1.0mL/分であり、移動相はヘキサン:EtOH:TFA(90:10:0.1%)であった。注入量は5μLであった。サンプルを100%EtOH中で調製して、約0.5mg/mLの濃度を達成した。
【0234】
キラルHPLC法7
キラルHPLCは分析であり、Agilent Technologies 1100/1200シリーズHPLCシステムで実施した。使用したカラムは、CHIRALPAK IA、250×4.6mm、5.0μmであった。カラム流量は1.0mL/分であり、移動相はヘキサン:EtOH:エタノールアミン(90:10:0.1%)であった。注入量は5μLであった。サンプルを100%EtOH中で調製して、約0.5mg/mLの濃度を達成した。
【0235】
分取キラルHPLC法:
アトロプ異性体を、以下の分取キラルHPLC法のうちの1つを使用して単離した。
【0236】
分取キラルHPLC法1
分取キラルHPLCは、CHIRALPAK IG SFC、21×250mm、5μmカラムを使用し、(A)ヘプタン中の0.1%DEA及び(B)IPAを移動相として溶出し、流量30mL/分及び以下のアイソクラティック系を用いて実施した:
【表7】
【0237】
分取キラルHPLC法2
分取キラルHPLCは、CHIRALPAK IG SFCカラム、21×250mm、5μmを使用し、(A)ヘプタン中の0.1%DEA及び(B)IPA:MeOH(90:10)を移動相とし、流量22mL/分で溶出して実施し、溶出には以下のアイソクラティック系を使用した:
【表8】
【0238】
例1
(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド
【化6】
【0239】
表題化合物を、上記のスキーム1に示す合成経路のステップ1、2、3、4b、及び5bに従って調製した。
【0240】
ステップ1:4-[4-(4-クロロフェニル)-4-オキソ-ブタノイル]ベンゾニトリル(6)
【化7】
【0241】
塩化亜鉛(30.5g、223mmol)を真空下で融解するまで加熱し、次いで室温まで冷却した。トルエン(100mL)、tert-ブタノール(16.5mL、172mmol)、及びトリエチルアミン(24mL、172mmol)を添加し、混合物を室温で窒素雰囲気下で2時間撹拌し、その時点で塩化亜鉛は完全に溶解した。4-シアノアセトフェノン(25g、172mmol)及び4-クロロフェナシルブロミド(40.2g、172mmol)を添加し、反応混合物を室温で48時間撹拌した。次いで、反応混合物を酢酸エチル(300mL)で希釈し、水(5×100mL)で洗浄した。合わせた有機抽出物を乾燥させ(Na2SO4)、減圧下で蒸発させた。得られた残渣を、メチルtert-ブチルエーテル(400mL)を使用する粉砕により精製して、表題化合物(30g、101mmol、59%)を得た。
【0242】
ステップ2:4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)ベンゾニトリル(7)
【化8】
【0243】
4-(4-(4-クロロフェニル)-4-オキソブタノイル)ベンゾニトリル(30g、101mmol)、2-トリフルオロメチルアニリン(48.79g、303mmol)、及びp-トルエンスルホン酸(1.92g、10.099mmol)のジオキサン(300mL)中撹拌溶液を、150℃で16時間加熱した。反応混合物を減圧下で濃縮し、得られた残渣を、溶離剤として8%酢酸エチル/ヘキサンを使用するシリカゲル(60~120メッシュ)のカラムクロマトグラフィーにより精製して、表題化合物(30g、71mmol、70%)を得た。
【0244】
ステップ3:4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(8)
【化9】
【0245】
4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)ベンゾニトリル(2g、4.739mmol)のメタノール(20mL)中溶液に、水(10mL)中の水酸化ナトリウム(1.89g、47mmol)を添加し、得られた混合物を90℃で24時間撹拌した。混合物を減圧下で濃縮し、得られた残渣を、ジエチルエーテル(10mL)を使用することによる粉砕により精製して、表題化合物(1.8g、4.1mmol、86%)を得た。
【0246】
ステップ4b:4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)-N-(2-(ジメチルアミノ)エチル)ベンズアミド(9)
【化10】
【0247】
4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(1.8g、4.0mmol)のジメチルホルムアミド(12mL)中撹拌溶液に、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(2.13mL、22mmol)、続いて(1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム-3-オキシドヘキサフルオロホスファート)(HATU)(4.65g、12mmol)を添加した。反応混合物を室温で30分間撹拌し、続いてN,N’-ジメチルエチレンジアミン(1.08g、12mmol)を滴下し、撹拌を室温で4時間続けた。次いで、混合物を氷冷水(150mL)に注ぎ、酢酸エチル(3×100mL)で抽出した。合わせた有機層を乾燥させ(Na2SO4)、減圧下で濃縮した。得られた残渣を、6%メタノール/ジクロロメタンで溶出する中性アルミナのカラムクロマトグラフィーにより精製して、表題化合物(1.2g、2.3mmol、57%)をアトロプ異性体の混合物として得た。
【0248】
ステップ5b:アトロプ異性体の分離
4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドのアトロプ異性体は、分取キラルHPLC法1を使用するキラルHPLCにより分割した。
【0249】
2つのピークを単離した:
ピーク1:例A-1、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドーアトロプ異性体1(0.3g、0.58mmol、38%、>99%ee)、及び:
ピーク2:例A-2、4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミドーアトロプ異性体2(0.31g、0.606mmol、39%、98%ee)。
【0250】
化合物は、それらの塩酸塩として単離することもできる。
【0251】
例2
アトロプ異性体のさらなる精製及び特性評価
アトロプ異性体A-1:(S)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド塩酸塩
例1、ステップ5bのピーク1(0.31g、0.606mmol)をHPLCグレードの水(30mL)中で撹拌し、続いて10分間超音波処理し、酢酸エチル(3×30mL)で抽出することによりさらに精製した。合わせた有機層を乾燥させ(Na2SO4)、濾過し、減圧下で濃縮し、その後凍結乾燥させて、非晶質固体(0.290g、0.567mmol、94%)を得、これをジクロロメタン(7.12mL)に溶解した。得られた溶液を0℃まで冷却し、ジオキサン(1.42mL)中の4N HClを添加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した。混合物を濃縮し、高真空下で乾燥させた。ジエチルエーテル(10mL)を使用した粉砕及び凍結乾燥による精製により、表題化合物(0.3g、0.56mmol、98%)をオフホワイトの固体として得た。
【0252】
1H NMR(DMSO-d6)δ 10.03,(brs,1H),8.62(s,1H),7.81-7.68(m,6H),7.25(d,J=8.4 Hz,2H),7.10-7.03(m,4H),6.67-6.58(m,2H),3.56-3.54(m,2H),3.20-3.18(m,2H),2.76(s,6H).LCMS(方法1)-RT2.54、MH+512.4
【0253】
アトロプ異性体A-2:(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド塩酸塩
アトロプ異性体A-2の塩酸塩を、ピーク2から出発してアトロプ異性体A-1に使用したのと同じ方法を使用して調製して、表題化合物(0.31g、0.56mmol、99%)をオフホワイトの固体として得た。
【0254】
1H NMR(DMSO-d6)δ 9.91(brs,1H),8.69(s,1H),7.81-7.68(m,6H),7.25(d,J=8.0 Hz,2H),7.10-7.03(m,4H),6.67-6.58(m,2H),3.56-3.54(m,2H),3.20-3.18(m,2H),2.77(s,6H).LCMS(方法1)-RT2.56、MH+512.4
【0255】
アトロプ異性体A-2(下記の例3を参照)の単結晶X線結晶解析は、アトロプ異性体A-2がR異性体(化合物(1))であるため、アトロプ異性体A-1がS異性体でなければならないことを示した。
【0256】
キラル分析
アトロプ異性体A-1及びA-2のキラル特性の分析を、キラルHPLCにより得られたそれらの旋光度及びそれらの保持時間を測定することにより実施した。
【0257】
比旋光度プロトコル:
機器:光学活性AA-10自動偏光計
波長:589nm
温度:23℃
セルの経路長:1dm
溶媒:クロロホルム(Fisher、HPLCグレード)
濃度:1.0g/100mL
【0258】
サンプリング技術:
機器のスイッチを入れ、較正の前30分間安定させた後、光学活性石英コントロールプレート(S/N00049)を使用して確認した。黄色ナトリウムD線を使用して23℃での角回転を(サンプル管なしで最初に機器をゼロにした後)34.16°で測定した。機器をゼロにし、次いでクロロホルムをサンプル管に充填し、機器がまだ0.00(+/-0.02)を読み取っていることを確認することによって、サンプル管の品質を確認した。機器をクロロホルムブランクでゼロにした。サンプルをCHCl3(2mL中2mg)に溶解し、濾過し、2mLを細胞にピペットで入れてαを測定した。
【0259】
比旋光度を以下の式から計算した:[α]Tλ=(α×100)/(cl)
【表9】
【0260】
アトロプ異性体の分類
単離されたアトロプ異性体A-1及びA-2について安定性試験を実施した。
【0261】
アトロプ異性体A-1及びアトロプ異性体A-2の相互変換を評価するために、キラル安定性を40℃及び80℃でモニターした。以下に示す結果によって示されるように、いずれの温度で10日間加熱しても相互変換は観察されなかった。
【表10】
【0262】
プロトコル:
1.2×1mgの純粋なアトロプ異性体を、密封されたドラムバイアル内の1mLのエタノールに溶解した。
2.一組のバイアルを40℃で加熱し、別の組を80℃で加熱した。
3.指定された時点で、各ストック溶液(1mL)から20μLのアリコートを取り、ヘキサン:エタノール;80:20の80μL溶液を含有するHPLCバイアルにクエンチし、200ppmの最終濃度を得、サンプルをキラルHPLCにより分析した。
4.分析を以下の時点で実施した:キラルHPLC法5を使用して、40℃で保ったサンプルについては0時間、24時間、48時間、72時間、96時間、及び240時間、80℃で保ったサンプルについては24時間、96時間、及び240時間。
【0263】
単離されたアトロプ異性体、A-1及びA-2の安定性は、それらがクラス3のアトロプ異性体であることを確認した(LaPlante et al.,J.Med.Chem.,54:7005-7022(2011)))。
【0264】
例3
アトロプ異性体A-2のX線結晶解析
アトロプ異性体A-2遊離塩基を調製し、以下のように単結晶をX線結晶研究に供した。
【0265】
実験:
アトロプ異性体A-2の単一の定義されていない形態学的結晶を、メチルイソブチルケトン(MIBK)からの再結晶により得た。好適な結晶0.19×0.13×0.04mm3を選択し、MiTiGen MicroMountを使用して、HyPix-6000HE検出器を備えたRigaku XtaLAB Syngery-S回折計に取り付けた。データ収集中、結晶を一定のT=123(2)Kに保った。
【0266】
データはCuKα線を使用して作成した。達成された最大分解能はΘ=74.263°(0.80Å)であった。データ削減、スケーリング、及び吸収補正を実行した。最終的な完全性は、Θで74.263°に対して100.00%であった。化合物の吸収係数μは波長(λ=1.542Å)で1.761mm-1と決定された。
【0267】
CrysAlisProソフトウェアを使用してデータを収集及び処理し、Intrinsic Phasing解決法を使用してShelXT(Sheldrick,2015)構造解決プログラムを用いて、及びグラフィカルインターフェースとしてOlex2(Dolomanov et al.,2009)を使用することにより構造を解明した。最小二乗最小化を使用して、ShelXL-2018/3(Sheldrick,2018)のバージョン2018/3でモデルを精密化した。
【0268】
結晶構造は単斜晶であることが見出され、空間群P21(#4)に割り当てられた。
【0269】
すべての非水素原子を異方的に精密化した。水素原子の位置を幾何学的に計算し、ライディングモデルを使用して精密化した。
【0270】
参考文献:O.V.Dolomanov and L.J.Bourhis and R.J.Gildea and J.A.K.Howard and H.Puschmann,Olex2:A complete structure solution,refinement and analysis program,J.Appl.Cryst.,(2009),42,339-341。
Sheldrick,G.M.,Crystal structure refinement with ShelXL,Acta Cryst.,(2015),C71,3-8。
Sheldrick,G.M.,ShelXT-Integrated space-group and crystal-structure determination,Acta Cryst.,(2015),A71,3-8。
【0271】
研究の結果を以下の表1~7に示す。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15-1】
【表15-2】
【表16-1】
【表16-2】
【表17】
【0272】
以下に示すデータに基づいて、アトロプ異性体A-2は、
図2及び
図3に示すR配置を有すると考えられ、したがって、(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)-エチル]ベンズアミドと命名することができる。
【0273】
例4
(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド酒石酸塩の調製及び特性評価
方法1:酒石酸塩の小規模調製
アトロプ異性体A-2遊離塩基(904.2mg)をアセトン(9.042mL、10体積)に懸濁し、25℃で40分間撹拌した。溶液が目に見える微粒子を含まなくなった時、溶液を12個の等量のアリコート(603μL)に分け、サンプルあたり約60.3mgの活性含有量を得た。
【0274】
エタノール中247μLの0.5M酒石酸溶液のアリコート(1.05当量)を、25℃で遊離塩基溶液のアリコートに添加した。混合物を25℃で18時間撹拌した後、白色の懸濁液が形成され、次いで、得られた固体を濾過(PTFE 10ミクロンフリットカートリッジ)により単離し、真空中40℃で約72時間乾燥させた。得られた塩を酒石酸塩パターンA(溶媒和物)として標識した。
【0275】
方法2:アトロプ異性体A-2の酢酸イソプロピル溶液を使用した酒石酸塩の調製
アトロプ異性体A-2(749.8mg)を酢酸イソプロピル(15mL、20体積)に懸濁し、懸濁液をかき混ぜながら40℃に加熱した。溶液が目に見える微粒子を含まなくなった時、溶液を12個の等量のアリコート(1ml)に分け、サンプルあたり約50mgの活性含有量を得た。エタノール中195.3μLの1Mアトロプ異性体A-2溶液のアリコートを、40℃で遊離塩基溶液のアリコートに添加した。得られた混合物を約10℃/時間の冷却速度で25℃まで冷却した。形成した白色の懸濁液及び得られた固体を、次いで、濾過により単離し、真空中40℃で約18時間乾燥させた。得られた塩を酒石酸塩パターンBとして標識した。
【0276】
方法3:アトロプ異性体A-2のイソプロピルアルコール溶液を使用した酒石酸塩の調製
アトロプ異性体A-2(750.1mg)を最初にイソプロピルアルコール(15ml、20体積)に懸濁したことを除いて、方法2に従って、酒石酸パターンA塩を調製した。
【0277】
方法4:アトロプ異性体A-2の2-メチル-テトラヒドロフラン溶液を使用した酒石酸塩の調製
アトロプ異性体A-2(913.9mg)を最初に2-メチル-テトラヒドロフラン(15ml、20体積)、(9.139mL、10体積)に懸濁し、25℃で約40分間撹拌し、次いで、エタノール中1M酒石酸の250μl(1.05当量)アリコートをA-2遊離塩基溶液のアリコート(609μL)に添加したことを除いて、方法1を繰り返し、酒石酸パターンA塩を得た。
【0278】
方法5:アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩の500mgスケールでの調製
アトロプ異性体A-2遊離塩基(521.5mg)をガラスバイアルに秤量し、酢酸イソプロピル(20体積、10.430ml)を投入した。混合物を40℃に加熱し、15分間撹拌して透明な溶液を得た。次いで、溶液に、3mLのテトラヒドロフランに溶解した酒石酸(1.05当量、162.5mg)を投入した。得られた混合物をアトロプ異性体A-2酒石酸パターンBでシードし、これにより塩を40℃で直ちに沈殿させ、移動懸濁液を形成させた。混合物を25℃まで冷却し、20時間撹拌した。得られた固体を濾過により単離し、真空中40℃で乾燥させて、アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩を収率84%で得た。
【0279】
方法6:アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩(無水形態)のスケールアップ調製
アトロプ異性体A-2遊離塩基(10.0497g)をBuchiフラスコに秤量し、酢酸イソプロピル(20体積、200ml)を投入した。混合物を40℃に加熱し、微粒子のない透明な溶液を得、30分間撹拌した。溶液に、テトラヒドロフラン(50mL)に溶解した酒石酸(3.1954g、1.08当量)を投入し、酸を以下のように少しずつ添加した:40℃で15mL;アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩でシードし、30分間撹拌;10mL添加し、1時間撹拌;10mL添加し、30分間撹拌;15mL添加し、30分間撹拌した。次いで、白色の懸濁液を10℃/時間の冷却速度で室温に冷却し、18時間撹拌した。得られた固体を真空中で濾過により単離し、酢酸イソプロピル(2×2体積)で洗浄し、真空中の40℃で20時間乾燥させて、A-2酒石酸パターンB塩(無水)を収率97%;HPLC純度99.74%(HPLC法1)、キラル純度99.27%(キラルHPLC法7)で得た。
【0280】
方法7:ブタノール/水96:4からの冷却結晶化によるアトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩(無水形態)の代替のスケールアップ調製
アトロプ異性体A-2遊離塩基(36.79g)をフラスコに秤量し、ブタノール(282.57ml、7.68体積)を投入した。混合物を80℃に加熱し(淡黄色の濁った溶液)、30分間撹拌した後、80℃で予熱したMya*ベッセルに清澄化した。次いで、溶液に、L-(+)-酒石酸(1.023当量、11.0806g)を水溶液(11.77mL、0.32体積の初期APIチャージ)として投入した。酸溶液を清澄化しながら、80℃で滴下を行った。次いで、混合物を30分間かけて68℃まで冷却し、0.1%の粉砕アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩シード結晶(32.6mg)でシードし、1時間保持した。次いで、混合物を5℃まで5℃/時間の冷却速度で冷却し、5℃で6時間撹拌した後、固体を単離した。固体を真空中で濾過し、ブタノールで2回洗浄し、フィルター上で15分間乾燥させ、次いで40℃で20時間乾燥させて、アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩(無水)を収率83%;HPLC純度99.84%(HPLC法1)、キラル純度99.66%(キラルHPLC法7)で得た。
【0281】
*注:温度制御及び/又は規定の加熱/冷却プロファイルを必要とする前述の平衡化又は結晶化では、RadleyのMya4 Reaction Stationを使用した。RadleyのMya4 Reaction Stationは、磁気撹拌能力及びオーバーヘッド撹拌能力、ならびに2~400mLスケールの混合物に対して-30~180℃の温度範囲を有する4ゾーンの反応ステーションである。必要な反応条件は、Mya 4 Control Padを介してプログラムした。
【0282】
アトロプ異性体A-2酒石酸塩の特性評価
1:1(遊離塩基:酒石酸のモル比)化学量論的塩としての塩の同一性を、オートサンプラーを備えたJEOL ECX 400MHz分光計を使用して収集したそれらの1H NMRスペクトルから確認した。サンプルを分析に好適な重水素化溶媒に溶解した。データは、Delta NMR Processing and Control Softwareバージョン4.3を使用して取得した。
【0283】
酒石酸塩は、以下に記載する技術を使用する、粉末X線回折(XRPD)、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)、重量溶解度試験、及び重量法蒸気収着試験を使用して特性評価した。
【0284】
粉末X線回折(XRPD)
粉末X線回折パターンを、CuKα線(45kV、40mA)、θ-θゴニオメーター、集光ミラー、発散スリット(1/2”)、入射ビーム及び発散ビームの両方におけるソーラースリット(4mm)、ならびにPIXcel検出器を使用してPANalytical回折計で収集した。データ収集に使用したソフトウェアはX’Pert Data Collector、バージョン2.2fであり、データはX’Pert Data Viewer、バージョン1.2dを使用して提示した。XRPDパターンは、PANalytical X’Pert PROを使用して、周囲条件下で透過箔サンプルステージ(ポリイミド-カプトン、厚さ12.7μmのフィルム)を介して周囲条件下で取得した。データ収集範囲は2.994~35°2θであり、連続走査速度は0.202004°s-1であった。
【0285】
示差走査熱量測定(DSC)
DSCデータは、45ポジションのサンプルホルダーを備えたPerkinElmer Pyris 6000 DSCで収集した。機器を、認証されたインジウムを使用してエネルギー及び温度の較正について検証した。所定量のサンプル0.5~3.0mgをピンホール付きアルミニウムパンに入れ、20℃.min-で30~350℃に加熱するか、又は実験によって変化させた。20ml/分-1での乾燥窒素のパージをサンプル上に維持した。機器の制御、データの取得、及び分析を、Pyris Software v11.1.1改訂版Hを用いて実行した。
【0286】
熱重量分析(TGA)
TGAデータは、20ポジションオートサンプラーを備えたPerkinElmer Pyris 1 TGAで収集した。機器を、認証された重量ならびに認証されたアルメル及びパークアロイ(Perkalloy)を使用して温度について較正した。所定量のサンプル1~5mgを風袋計量済みアルミニウムるつぼに入れ、周囲温度から400℃まで20℃.分-1で加熱した。20ml/分-1での窒素パージをサンプル上に維持した。機器の制御、データの取得、及び分析を、Pyris Software v11.1.1改訂版Hを用いて実行した。
【0287】
重量溶解度
塩の水への溶解度は、重量溶解度プロトコルを使用して測定した。
【0288】
1mlの水を結晶管に充填した。固体を風袋引きしたガラスバイアルに秤量し、溶液に少しずつ添加し、各添加後に濁った溶液が観察されるまでバイアルを秤量した。次いで、mgでの量を計算して、mg/ml単位の溶解度を得た。
【0289】
特性評価研究から得られた結果を以下の表8に示す。
【表18】
【0290】
重量法蒸気収着(GVS)
以下に示すプロトコルを使用して、アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩に対してGVS研究を実施した。
【0291】
収着等温線は、IGAsorp Systems Software V6.50.48により制御されるHiden Isochema水分収着分析器(モデルIGAsorp)を使用して得た。サンプルを機器制御により一定温度(25℃)で維持した。湿度は、乾燥窒素と湿潤窒素の流れを混合することにより制御し、総流量は250ml/分-1であった。機器を、3つの較正されたRotronic塩溶液(10-50-88%)を測定することにより相対湿度含有量について検証した。サンプルの重量変化を、微量天秤(精度+/-0.005mg)により湿度の関数としてモニターした。規定量のサンプルを風袋引きしたメッシュのステンレス鋼バスケットに周囲条件下で入れた。完全な実験サイクルは、典型的には、0~90%の範囲にわたって、一定温度(25℃)及び10%RH間隔での3回のスキャン(収着、脱着、及び収着)(各湿度レベルについて60分間)からなった。このタイプの実験は、明確な湿度範囲のセットにわたって水分を吸収する(又は吸収しない)研究サンプルの能力を実証するはずである。
【0292】
GVS分析(
図9を参照)は、最初の脱着前に約0.3%の水分含有量を示した。80~90%のRHでは、水分のわずかにより高い増加があり、固体は約0.8%の水分を得る。第2の吸収/脱着サイクルは、吸湿がどのように完全に可逆的であり、0%RHで0重量%に戻ることを示す。0%RH及び90%RHで最低3時間保持したGVSサイクリング後のXRPDにより、両方のRH値で無水パターンBを得た。
【0293】
したがって、アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩は安定な固体として存在し、形態を変化させることなく表面水分のみを吸収すると結論付けることができる。
【0294】
例5
(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド酒石酸塩のさらなる特性評価
溶解度
アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩は、水性製剤に非常に可溶性であり、経口送達に適していることが分かった。連続的に撹拌し、40℃まで穏やかに加温した後、(2-ヒドロキシプロピル)-β-シクロデキストリン20%w/vの水溶液中で>100mg/mLの濃度が達成された。
【0295】
粉末密度
かさ密度は、50mLガラスビーカーにアトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩を投入することによって測定した。化合物を秤量する前に静置させ、約40mLの体積占有及びかさ密度を計算した。
【0296】
タップ密度は、6~8mLのアトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩を10mLメスシリンダーに投入し、その後、ゴムマット及び木槌を使用して垂直及び水平に手動で15分間、又はそれ以上沈降しない一貫した床が達成されるまで、材料を繰り返しタップし、振動させることによって決定した。次いで、タップ密度を計算した。
【0297】
アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩は、0.55g/mLの粉末かさ密度値及び約0.659g/mLのタップ密度を有する。
【0298】
薬物粉末の流動性、したがってカプセル形態での製剤化に対するその適合性は、以下の式に従ってそのかさ密度及びタップ密度から計算することができるそのCarr指数及びHausner比によって定義することができる。
Carr圧縮性指数=100(ρT-ρB)/ρT
Hausner比=ρT/ρB
【0299】
次いで、Carr指数及びHausner比を、以下の表に記載の流動性記述子に変換することができる(出典:https://www.researchgate.net/figure/Specifications-for-Carrs-index-and-Hausner-ratio_tbl1_325365029)。
【表19】
アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩について、Carr指数は16.5%と計算され、Hausner比は1.19と計算され、「中」の流動性を示した。したがって、この塩形態は、カプセル投与の粉末に適している。
【0300】
安定性
アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩の安定性を、2組の保存条件を用いて評価した。すなわち、25℃±2℃/60%RH及び40℃±2℃/75%RHである。安定性プロトコルはICHガイドラインに従った。
【0301】
したがって、アトロプ異性体A-2酒石酸パターンB塩(1容器あたり1g)を以下の充填剤成分と共に25℃/60%RH及び40℃/75%RHでICH定格安定性キャビネットに入れた:
-ダブルポリテンバッグ(ベンダー-Armagrip;パーツ番号G01-PB-120)、
-スクリューキャップクロージャ付き広口HDPEボトル(ベンダー-Curtec;パーツ番号4303)、
-プラスチックタイストリップ(ベンダー-Thomas&Betts;パーツ番号TY125-40-100)。
【0302】
保存後、これらのサンプルを安定性キャビネットから取り出し、外観、カールフィッシャー滴定(KF)による含水量、及び純度について分析した。
【0303】
含水量及びHPLCによる化学純度の変化は、6ヶ月にわたって観察されなかった。含水量及びHPLCによる化学純度の変化は、6ヶ月にわたって観察されなかった。
【表20】
【0304】
例6
(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド(アトロプ異性体A-2)を調製するための代替方法
【化11】
【0305】
表題化合物を、上記のスキーム1に示す合成経路のステップ1、2、3、4a、及び5aに従って調製した。この経路では、キラル分割は、ジメチルアミノエチルアミド(9)ではなくカルボン酸中間体(8)で実施される。
【0306】
ステップ1:4-[4-(4-クロロフェニル)-4-オキソ-ブタノイル]ベンゾニトリル(6)
フラスコにテトラヒドロフラン(4mL/g)を投入し、塩化亜鉛(1.222g/g、1.3当量)を少しずつ添加して白色の移動懸濁液を得、これを15分間撹拌した。tert-ブタノール(0.66mL/g、1当量)、続いてトリエチルアミン(0.96mL/g、1当量)を少しずつ添加し、温度を40℃未満に維持した。反応物を2時間撹拌した。4-シアノアセトフェノン(1g/g、1当量)及び4-クロロフェナシルブロミド(1.61g/g、1当量)を添加し、反応混合物を20℃(±5)で48時間又は反応が完了するまで撹拌した。HCl水溶液での沈殿及びHCl水溶液とメタノール中のスラリーにより生成物を単離した。得られた固体を真空下(45℃)で乾燥させて、表題化合物を淡黄色の固体として得た。
【0307】
ステップ2:4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)ベンゾニトリル(7)
4-(4-(4-クロロフェニル)-4-オキソブタノイル)ベンゾニトリル(1g/g、1当量)をフラスコに入れ、ジオキサン(10mL/g)を添加して、黄色の懸濁液を得た。2-トリフルオロメチルアニリン(1.269mL/g、3当量)を一度に、続いてp-トルエンスルホン酸(0.06399g/g、0.1当量)を添加し、反応混合物を101℃で40~72時間加熱した(必要に応じてp-トルエンスルホン酸の追加分(0.1当量)を8時間ごとに添加して反応を完了させた)。反応混合物を室温まで冷却し、真空下で濃縮した。得られた油性残渣をメタノール(10mL/g)中でスラリー化することにより精製した。固体を濾過により単離し、真空下で乾燥させて(45℃)、表題化合物を黄色の固体として得た。
【0308】
ステップ3:4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(8)
メタノール(10.9mL/g)中の4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)ベンゾニトリル(1g/g、1当量)に、水酸化ナトリウム(0.948g/g、10当量)水溶液(5mL/g)を15分かけて滴下し、得られた混合物を70~76℃で18時間又は完了するまで撹拌した。反応混合物を室温まで冷却し、酸性化し、生成物を濾過により単離し、水(5mL/g)及びアセトニトリル(3mL/g)で洗浄した。生成物をアセトン/水(20体積、75:25)中50~55℃でスラリー化し、真空下で乾燥させて(60℃)、表題化合物を黄色の固体として得た。
【0309】
ステップ4a:(8)のキラル分割による(R)4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(3)
4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(1g/g、1当量)をフラスコに加え、続いてテトラヒドロフラン(2mL/g)及びアセトニトリル(0.75mL/g)を添加した。(S)-1-(4-メトキシフェニル)-エチルアミン(0.335mL/g、1当量)を5分かけて滴下し、得られた反応混合物を40~50℃で15分間撹拌し、次いで、室温まで冷却した。アセトニトリル(7.25mL/g)を添加し、反応物をシードした(0.0001g/g、99%ee、所望のアトロプ異性体の(S)-1-(4-メトキシフェニル)-エチルアミン塩)。反応混合物を16時間撹拌し、得られた固体をアセトニトリルで濾過洗浄により単離した。アセトニトリル中の高温(75~80℃)スラリーは、キラル塩を白色の固体として得た(収率40%、98.16%ee)。1M HCl(2.2当量)を使用してTHF/水(2/2体積)中で塩破壊を行い、酸を得、これを水中スラリーによってさらに精製して、表題化合物(90.52g、塩破壊収率97%、全体収率39%、98.06%ee)を得た。1H NMR(DMSO-d6)δ 12,83(brs,1H),7.77-7.67(m,6H),7.23-7.10(m,2H),7.08-7.01(m,4H),6.68(d,J=4.0 Hz,1H),6.59-6.58(d,J=4.0 Hz,1H).キラルHPLC法6を用いたキラルHPLCは、単一のアトロプ異性体、RT6.083分、99.02面積%(マイナーアトロプ異性体、RT7.07分、0.98面積%)を示した。
【0310】
キラル分割は、(S)-(-)-1-フェニルエチルアミンを使用して達成することもできる。
【0311】
ステップ5a:(R)-4-[5-(4-クロロフェニル)-1-[2-(トリフルオロメチル)フェニル]ピロール-2-イル]-N-[2-(ジメチルアミノ)エチル]ベンズアミド(1)
4-(5-(4-クロロフェニル)-1-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-1H-ピロール-2-イル)安息香酸(単一のアトロプ異性体、(3))(1g/g、1当量)をTHF(5mL/g)に溶解し、N,N-ジメチルエチレンジアミン(0.75mL/g、3当量)、続いてDIPEA(1.58mL/g、4当量)を滴下した。THF中の50%T3P(2.72mL/g、2当量)を滴下し、反応混合物を20℃で15分間撹拌した。反応が完了するまで、THF中の50%T3Pの追加分を添加した。反応混合物をpH8~10になるまで10%ブライン(2mL/g)及び水酸化ナトリウム溶液(2mL/g)で希釈した。層を分離し、水層を酢酸エチル(2×5mL/g)で抽出した。合わせた有機層をブラインで洗浄し、乾燥させ(MgSO4)、濃縮して、表題化合物(80g、156mmol、71%)を白色のトリボルミネセンス固体として得た。キラルHPLC法7を用いたキラルHPLCは、単一のアトロプ異性体、RT12.62分、99.32面積%(マイナーアトロプ異性体、RT10.58分、0.67面積%)を示した。
【0312】
例7
生物活性
A.U87MGヒト膠芽腫がん細胞の生存率に対するアトロプ異性体A-1及びA-2の効果を測定するアッセイ
以下のプロトコルを使用して、U87MG細胞の生存率に対するアトロプ異性体A-1及びA-2の効果を測定した。
【0313】
U87MG細胞を、推奨される増殖培地/補助物質(ATCC)中で増殖させた。細胞を5000細胞/ウェルの濃度で96ウェルプレートに37℃、5%CO2で一晩播種した。細胞を、関連する濃度の試験化合物で72時間処理した。72時間のインキュベーション後、スルホローダミンB(SRB)比色アッセイを用いて生存率を確立した。生存率をDMSO処理対照サンプルの平均に対して計算し、細胞増殖の阻害についてのIC50値を、GraphPad Prismソフトウェアを使用して非線形回帰(4パラメーターロジスティック方程式)により計算した。
【0314】
上記プロトコルに従ってアトロプ異性体A-1及びA-2について得られたIC
50値を以下の表9に示す。
【表21】
【0315】
B.多様ながん細胞株パネルのがん細胞の生存率に対するアトロプ異性体A-1及びA-2の効果を測定するアッセイ
アトロプ異性体A-1及びA-2に対する感受性を示す腫瘍タイプを同定するために、多様ながん細胞株に対するスクリーニングを実行した。アトロプ異性体A-1/A-2の希釈液を使用するハイスループット増殖アッセイで、48種のがん由来細胞株のパネルをスクリーニングした。スクリーニングされた細胞株には、膵臓、大腸/結腸直腸、肺、脳及び神経のがん、ならびにリンパ腫及び白血病細胞株を代表するものが含まれた。細胞株を化合物の連続半対数希釈物で処理し、CellTiter-Glo Assay(Promega)を使用して増殖について72時間後にアッセイした。IC
50値を、非線形回帰モデルを使用して用量-反応データを適合させることにより計算した。アトロプ異性体A-1及びA-2のマイクロモル濃度でのIC
50値を以下の表10に示す。
【表22-1】
【表22-2】
データから分かり得るように、アトロプ異性体A-2は、すべての細胞株に対してアトロプ異性体A-1よりも有意に活性な細胞増殖阻害剤であった。
【0316】
C.有糸分裂の細胞に対するアトロプ異性体A-2の効果を測定するアッセイ
PLK1及びPLK4のPBDを介してそれらのパートナーに結合するPLK1及びPLK4の能力を阻害すると、細胞が有糸分裂で停止することは公知である。実験的には、これは、有糸分裂細胞中にのみ存在するマークであるリン酸化ヒストンH3(pH3)の免疫蛍光検出により、試験化合物で処理した後の特定の時点で有糸分裂している細胞の数を評価することで測定することができる。PLK1/4-PBD阻害剤は、pH3陽性細胞の用量依存性の増加を引き起こすと予想され、これは、有糸分裂指数(MI)-特定の時点で、この有糸分裂マークに対して陽性である細胞のパーセンテージとして報告する。
【0317】
異なる有糸分裂表現型が、細胞におけるPLK1及びPLK4の阻害後に誘導される。PLK1のPBDドメインの破壊は、ATP競合PLK1阻害剤によって誘導される単極紡錘体表現型とは異なる表現型である、非会合染色体による有糸分裂停止を引き起こすことが実証されている(Hanisch et al.,2006 Mol.Biol.Cell 17,448-459)。中心小体の集合はPLK4によって制御され、阻害剤は中心体の欠陥に起因して多極紡錘体表現型を誘導し、これが異常な細胞質分裂をもたらす(Wong et al.,2015.Science 348(6239);1155-1160)。
【0318】
以下のプロトコルを使用して、有糸分裂における細胞の停止及び表現型の分析に対するアトロプ異性体A-2の効果を測定した。
【0319】
有糸分裂指数及び表現型プロトコル
細胞を96ウェルプレートに10000個/ウェルで培養し、一晩インキュベートした。翌日、DMSO中のアトロプ異性体A-2ストックを培地に希釈し、次いで、細胞に対する最大最終DMSO濃度0.2%で細胞に添加した。細胞を化合物と24時間インキュベートし、次いで3.7%ホルムアルデヒド(formaldeyde)で固定した。細胞を0.1%TritonX-100で透過処理し、次いで抗ホスホヒストンH3(Ser10)抗体(Abcam ab5176)とインキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、次いで、4ug/ml Hoechst 33342(Invitrogen H3570)の存在下でAlexaFluor488標識ヤギ抗ウサギIgG(Invitrogen A11034)とインキュベートした。細胞をPBS中で洗浄し、次いで、Target Activation V4 Bioapplicationを使用してArrayscan VTi HCS機器(Thermo Fisher)で画像化した。ホスホヒストンH3染色の強度に基づいて、有糸分裂細胞を同定するために、ユーザ定義の閾値を適用した。
【0320】
GraphPad Prismを使用して、最小二乗適合及び制約なしで、log(阻害剤)対応答変数の傾きを使用して、化合物濃度に対する有糸分裂細胞%をプロットした。
【0321】
上記のプロトコルに従って得られた結果から、アトロプ異性体A-2について、HeLa及びU87MG細胞株に対する有糸分裂におけるEC
50値及び細胞のパーセンテージを得た。EC
50値を以下の表11に示す。
【表23】
別個の研究では、上記のプロトコルに従うが、アトロプ異性体A-1及びアトロプ異性体A-2のそれぞれについて0.03μMの単一の化合物濃度を使用して、U87MG細胞で観察された有糸分裂表現型の頻度を手動で評価し、A-1及びA-2のそれぞれについて以下の表現型:非会合染色体、多極紡錘体/異常な細胞質分裂、単極紡錘体、正常な前中期、正常な中期に分類した。結果を
図10に示す。
【0322】
図10に示す結果は、アトロプ異性体A-2が、アトロプ異性体A-1よりも正常な有糸分裂を破壊するのにはるかに大きな効果を有することを実証している。したがって、A-1では、細胞の76%が正常な有糸分裂表現型を示し、DMSO対照で処理した細胞の77%に匹敵し、DMSO対照で処理した23%と比較して24%が異常な細胞質分裂を示した。DMSO対照又はアトロプ異性体A-1処理細胞のいずれにおいても、非会合染色体表現型の証拠は見られなかった。対照的に、より活性なアトロプ異性体A-2での細胞の処理は、17%のみの正常な有糸分裂表現型を有する細胞、70%の異常な細胞質分裂を有する細胞、及び13%の非会合染色体を有する細胞をもたらした。これらの表現型は、有糸分裂中のPLK1及びPLK4活性の破壊と一致する。
【0323】
D.中心体に対するアトロプ異性体A-2の効果を測定するアッセイ
上記の研究Cの結果は、アトロプ異性体A-2が、調節不全の中心体機能に特徴的な有糸分裂効果を引き起こすことを示す。したがって、中心体機能に対するA-2の効果をさらに調査した。セントリン1-GFP融合タンパク質を安定に発現するHeLa細胞を96ウェルプレートに一晩播種した。細胞をアトロプ異性体A-2(DMSO中0.02μMの濃度)又はDMSO対照で72時間処理し、次いで蛍光顕微鏡を使用して画像化した。各処理条件について複数の細胞視野を捕捉し、その後画像を手動で分析した。セントリン1-GFPは、中心小体を別々の焦点として特異的にマークし、したがって、細胞あたりの中心小体数を定量するために使用することができる。したがって、各処理条件について、100個の細胞を分析し、各細胞に存在する中心小体の数を記録した。次いで、データをビン(中心小体なし、1つの中心小体、2つの中心小体、及び2つを超える中心小体)に分離し、
図11に示す。
【0324】
データから、アトロプ異性体A-2が、HeLa細胞のPLK4阻害表現型の証拠を示すと結論付けることができる。
【0325】
E.野生型対KRAS HeLa細胞の生存率に対するアトロプ異性体A-2の効果を測定するアッセイ
野生型HeLa細胞及びKRAS癌遺伝子を有するHeLa細胞に対するアトロプ異性体A-2の効果を比較するためにアッセイを行った。
【0326】
したがって、アトロプ異性体A-2は、FLP-in/T-Rexシステム(Invitrogen)を使用して、野生型又は発がん性のKRasG12V導入遺伝子を誘導的に発現するように設計されたHeLa細胞で試験した。細胞を培養し、次いでドキシサイクリンの有無にかかわらず導入遺伝子の発現を誘導し、次いで連続希釈アトロプ異性体A-2で処理した。72時間のインキュベーション後、細胞力価ブルー試薬(Promega)及びBMG Pherastarプレートリーダーを使用して、細胞の生存率を評価した。GraphPad Prismを使用して、野生型又は発がん性のG12V KRASの細胞の生存率に対するPBD阻害の効果を評価した。
【0327】
上記のプロトコルに従って得られた結果から、アトロプ異性体A-2について、野生型及びKRAS G12V HeLa細胞株に対するGI
50値を決定し、以下の表12に示す。
【表24】
【0328】
F.キナーゼ選択性アッセイ
本明細書で提供される証拠は、アトロプ異性体A-2が、PLK1及びPLK4のPBDドメインに結合するが、PLK1及びPLK4の触媒ドメインには結合せず、他のキナーゼよりも良好な選択性を示すはずであることを示す。アトロプ異性体A-2を、DiscoverX KinomeScreenアッセイを使用して、3μMの濃度でキノーム全体に分布する97個のキナーゼのパネルに対するオフターゲット活性について試験することにより調査した。
【0329】
DiscoverX KinomeScreenアッセイは、溶液中でキナーゼに結合又は捕捉することができる固体支持された対照化合物の使用によって、キナーゼに対する化合物の結合親和性を測定する部位特異的競合結合アッセイである。キナーゼ阻害剤試験化合物が存在しない場合、キナーゼのすべてが固体支持体に結合する。キナーゼ阻害剤試験化合物がアッセイミックスに添加される場合、固体支持体に結合するキナーゼの量は減少し、減少の程度はキナーゼ阻害剤としての試験化合物の効力に依存する。キナーゼに対する試験化合物の効力は、所与の濃度の試験化合物で固体支持体に結合するキナーゼのパーセンテージ(対照パーセント)として表すことができ、パーセンテージが低いほど、試験化合物のキナーゼ結合能はより強力である。したがって、100%の対照パーセント値は、キナーゼのすべてが固体支持体に結合しているので、試験化合物がキナーゼに全く結合しないことを示すであろう。逆に、0%の対照パーセント値は、固体支持体に結合しているものがないので、試験化合物がすべてのキナーゼに結合したことを示すであろう。
【0330】
プロトコル:
ほとんどのアッセイのために、キナーゼタグ付きT7ファージ株を、BL21株に由来する大腸菌(E.coli)宿主において24ウェルブロックで並行して増殖させた。
【0331】
大腸菌(E.coli)を対数期まで増殖させ、凍結ストックからのT7ファージで感染させ(感染多重度=0.4)、溶解するまで(90~150分間)32℃で振盪しながらインキュベートした。溶解物を遠心分離し(6,000×g)、濾過して(0.2μm)、細胞残屑を除去した。残りのキナーゼをHEK-293細胞で産生し、続いてqPCR検出のためにDNAでタグ付けした。ストレプトアビジン被覆磁気ビーズをビオチン化小分子リガンドで室温で30分間処理して、キナーゼアッセイ用の親和性樹脂を生成した。リガンドを有するビーズを過剰のビオチンでブロックし、ブロッキング緩衝液(SeaBlock(Pierce)、1%BSA、0.05%Tween20、1mM DTT)で洗浄して、未結合リガンドを除去し、非特異的ファージ結合を減少させた。結合反応物を、キナーゼ、リガンドを有するアフィニティービーズ、及び試験化合物を1×結合緩衝液(20%SeaBlock、0.17×PBS、0.05%Tween20、6mM DTT)中で合わせることによってアセンブルした。試験化合物を100%DMSO中の40×ストックとして調製し、アッセイで直接希釈した。すべての反応は、最終容量0.02mlのポリプロピレン384ウェルプレート中で実行した。アッセイプレートを室温で振盪しながら1時間インキュベートし、アフィニティービーズを洗浄緩衝液(1×PBS、0.05%Tween20)で洗浄した。次いで、ビーズを溶出緩衝液(1×PBS、0.05%Tween20、0.5μM非ビオチン化アフィニティーリガンド)に再懸濁し、室温で振盪しながら30分間インキュベートした。溶出液中のキナーゼ濃度をqPCRにより測定した。
【0332】
キナーゼ活性部位に結合し、直接的に(立体的に)又は間接的に(アロステリックに)キナーゼが固定化リガンドに結合するのを妨げる化合物は、固体支持体上に捕捉されるキナーゼの量を減少させる。逆に、キナーゼに結合しない試験分子は、固体支持体上に捕捉されたキナーゼの量に影響を及ぼさない。
【0333】
試験分子のキナーゼへの結合の強度は、対照パーセント(%Ctrl)として表すことができる。
【0334】
対照パーセント(%Ctrl)
化合物(複数可)を3000nMの濃度でスクリーニングし、一次スクリーニング結合相互作用の結果を「%Ctrl」として報告し、以下の頁では、数字が小さいほど、マトリックスにおけるヒットが強いことを示す。
%Ctrl計算
【数1】
【0335】
パネルキナーゼに対するアトロプ異性体A-2の%Ctrl値を以下の表13に示す。
【表25-1】
【表25-2】
【0336】
97個のキナーゼに対する結果は、アトロプ異性体A-2が広範囲のキナーゼに対してわずかな又は存在しない結合活性を有し、したがって、オフターゲットキナーゼ阻害に関連する問題を被りにくいことを実証している。
【0337】
PLK1及びPLK4の場合、アトロプ異性体A-2は、これらのキナーゼの触媒ドメインに対してほとんど又は全く結合親和性を示さなかった(それぞれ97%及び100%の%Control値)。したがって、上記の例で実証されたPLK1/PLK4阻害活性を示す活性プロファイルは、PLK1及びPLK4の非触媒ポロボックスドメインへの結果であると結論付けられる。
【0338】
G.マウスPKにおける経口バイオアベイラビリティ及び脳曝露の判定
アトロプ異性体A-2をインビボマウスモデルで評価して、p.o.及びi.v.投与後の脳及び血漿濃度を決定した。
【0339】
以下のプロトコルに従った:
雄のCD-1マウスに、アトロプ異性体A-2をi.v.投与(2mg/kg)又はp.o.投与(10mg/kg)のいずれかによって投与した。
【0340】
分析のために、2、10、30分、1、2、4、8、及び24(i.vの場合)でのi.v.レッグの8個のサンプル、15、30分、1、2、4、8、24、48、及び72時間でのp.o.レッグの9個のサンプルを採取した。
【0341】
アトロプ異性体A-2は、各時点あたりN=3匹のマウスのi.v.及びp.o.投与のために10%DMSO/95%ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(水中20%w/v)で処方した。
【0342】
投与後、最終血液サンプルを個々の動物から採取し、抗凝固剤(EDTA)を含有する標識ポリプロピレンチューブに送達した。コホート内のすべての動物のサンプリングが完了するまでの間、サンプルを最大30分間、湿った氷上で保持した。血液サンプルを血漿のために遠心分離し(4℃、21100gで5分間)、得られた血漿を対応する標識チューブに移した。各PO投与された動物の終末脳を切除し、生理食塩水ですすぎ、予め秤量した標識ポリプロピレンチューブに入れ、貯蔵前にサンプルを再秤量した。
【0343】
液体クロマトグラフィーを使用して定量的生物分析を実施し、質量分析を実行した。結果を以下の表14及び15ならびに
図12及び13に示す。
【0344】
経口バイオアベイラビリティ
【表26】
【表27】
結果は、マウスへの経口投与後にアトロプ異性体A-2が高度に吸収されることを実証している。
【0345】
脳曝露
【表28】
表16に示す脳曝露試験の結果は、アトロプ異性体A-2がマウスへの経口投与後に3.3のAUC B:P比で高い脳曝露を有することを実証している。
【0346】
H.インビボ有効性
アトロプ異性体A-2は、以下に記載される研究により示されるように、腫瘍を皮下及び同所に移植した場合、膠芽腫マウスモデルにおいて有効性を示す。
【0347】
(i)U87MG皮下異種移植モデルにおけるインビボ抗がん活性
U87MG腫瘍を保有する雄性無胸腺ヌードマウスに、100mg/kgのアトロプ異性体A-2の経口用量を1、4、及び7日目に与え、腫瘍体積を20日間にわたって測定した。同じ時点でのみビヒクルを受容した腫瘍保有マウスの対照群の腫瘍体積も測定した。
図14に示すように、処置群は、対照と比較して有意に減少した腫瘍体積を示した(13日目に3.85%T/C)。
【0348】
(ii)U87-Luc同所異種移植モデルにおけるインビボ抗がん活性
U87-Luc細胞を雄性無胸腺ヌードマウスの脳内に脳内移植し、腫瘍の増殖を生物発光シグナルによってモニターした。処置群では、動物に、100mg/kgのアトロプ異性体A-2の経口用量を1、4、7、10、及び13日目に与えた。対照群の動物にはビヒクルのみを与えた。
図15に示す結果は、15日目の処置群対対照群の腫瘍シグナルの減少を実証している。
【0349】
(iii)HCT116腫瘍を保有するマウスのインビボ抗がん活性
アトロプ異性体A-2は、以下のように、KRAS変異結腸直腸がんモデルにおいて有効性を示した。
【0350】
HCT116異種移植腫瘍を保有する雄性無胸腺ヌードマウスに、100mg/kgのアトロプ異性体A-2の経口用量を1、8、及び15日目に与え、腫瘍体積を3週間にわたって測定した。同じ時点でのみビヒクルを受容した腫瘍保有マウスの対照群の腫瘍体積も測定した。
【0351】
図16に示す結果は、20日目で腫瘍の増殖に対する顕著な効果(TGI 60%)を実証している。
【0352】
医薬製剤
(i)錠剤製剤
態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を含有する錠剤組成物は、50mgの化合物を希釈剤として197mgのラクトース(BP)、及び潤滑剤として3mgのステアリン酸マグネシウムと混合し、圧縮して既知の方法で錠剤を形成することにより調製される。
【0353】
(ii)カプセル製剤
カプセル製剤は、100mgの態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を100mgのラクトースと混合し、得られた混合物を標準的な不透明な硬ゼラチンカプセルに充填することにより調製される。
【0354】
(iii)注射製剤I
注射による投与のための非経口組成物は、態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の酒石酸塩、又は物質の組成物を10%のプロピレングリコールを含有する水に溶解して1.5重量%の活性化合物の濃度を得ることにより調製することができる。次いで、溶液を濾過滅菌し、アンプルに充填して密封する。
【0355】
(iv)注射製剤II
注射用の非経口組成物は、態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の酒石酸塩、又は物質の組成物(2mg/ml)及びマンニトール(50mg/ml)を水に溶解し、溶液を滅菌濾過し、密封可能な1mlのバイアル又はアンプルに充填することにより調製される。
【0356】
(v)注射製剤III
注射又は注入によるi.v.送達用製剤は、態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の物質の組成物を20mg/mlの水に溶解することにより調製することができる。次いで、バイアルを密封し、オートクレーブ滅菌する。
【0357】
(vi)注射製剤IV
注射又は注入によるi.v.送達用製剤は、態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の物質の組成物を、20mg/mlの緩衝液(例えば、0.2MアセタートpH4.6)を含有する水に溶解することにより調製することができる。次いで、バイアルを密封し、オートクレーブ滅菌する。
【0358】
(vii)皮下注射製剤
皮下投与用組成物は、態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の物質の組成物を医薬品グレードのコーン油と混合して5mg/mlの濃度にすることにより調製される。組成物は滅菌され、好適な容器に充填される。
【0359】
(viii)凍結乾燥製剤
態様1.1~1.19のいずれか1つ、又は上記の例に記載の物質の組成物を配合したアリコートを50mlバイアルに入れ、凍結乾燥する。凍結乾燥中、組成物は(-45°C)で1ステップ凍結プロトコルを使用して凍結する。アニーリングのために温度を-10°Cに上げ、次いで下げて-45°Cで凍結させ、その後+25°Cで約3400分間一次乾燥し、その後温度が50°Cの場合はステップを増やして二次乾燥する。一次及び二次乾燥中の圧力は80ミリトールに設定する。
【0360】
等価物
前述の例は、本発明を説明する目的で提示されており、本発明の範囲に何らかの制限を課すものと解釈されるべきではない。本発明の基礎をなす原理から逸脱することなく、上記で説明し、例で示した本発明の具体的な態様に対して多数の修正及び変更を行い得ることは容易に明らかであろう。そのようなすべての修正及び変更は、本出願に包含されることが意図されている。
【国際調査報告】