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特表2023-544293高温でクリープ性が低減した合わせガラス
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  • 特表-高温でクリープ性が低減した合わせガラス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】高温でクリープ性が低減した合わせガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20231016BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20231016BHJP
   C08F 8/28 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C03C27/12 D
B32B17/10
C08F8/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519251
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2021075977
(87)【国際公開番号】W WO2022063795
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】63/084,239
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512192277
【氏名又は名称】クラレイ ユーロップ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kuraray Europe GmbH
【住所又は居所原語表記】Philipp-Reis-Strasse 4, D-65795 Hattersheim am Main, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】スミス,チャールズ アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ベニソン,スティーブン
【テーマコード(参考)】
4F100
4G061
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AG00A
4F100AG00C
4F100AK21B
4F100AK23B
4F100AL01B
4F100AL05B
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA04B
4F100CA30B
4F100EH17B
4F100EJ39B
4F100JD10B
4F100JK20B
4G061AA04
4G061AA06
4G061BA01
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB18
4G061CD02
4G061CD18
4G061DA07
4G061DA10
4J100AA02Q
4J100AD02P
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA33
4J100HA43
4J100HB25
4J100HB37
4J100HC19
4J100HE05
4J100JA03
(57)【要約】
本発明は、特定のエチレンビニルアセテート系樹脂組成物に基づく中間層を含む合わせガラスに関し、これは、オーバーヘッド建築用グレージング、スパンドレルおよびボルト締めラミネート用途等のポリマークリープが問題となり得る高温用途、特に長期間グレージング温度が50℃、さらには60℃を超え得る場所に適している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物から作られる中間層を含む合わせガラスであって、
(i)前記エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物は、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物の全質量に基づいて、変性ビニルアセタール樹脂成分を80質量%以上含み、
(ii)前記変性ビニルアセタール樹脂成分は、樹脂を構成する全モノマー単位に基づいて、25~60モル%のエチレン単位と、24~71モル%のビニルアルコール単位を含み、アセタール化度が5モル%以上40モル%未満である、1つ以上のエチレン-ビニルアセタール樹脂であり、
(iii)前記合わせガラスは、本明細書に記載のように測定して、60℃1ヶ月で1.9mm未満のクリープを示す、
合わせガラス。
【請求項2】
前記エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物は、可塑剤を実質的に含まないか、または場合により、樹脂組成物の全質量に基づいて、可塑剤を1質量%以下(0質量%を含む)、または0.5質量%以下(0質量%を含む)、または0.1質量%以下(0質量%を含む)の量で含む、請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記エチレン-ビニルアセテート樹脂組成物は、樹脂組成物の全質量に基づいて、20質量%以下、または15質量%以下、または10質量%以下、または5質量%以下の量で可塑剤を含む、請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記エチレン-ビニルアセチル樹脂はアセチル基を含み、前記アセチル基は、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドおよびイソブチルアルデヒドの1つ以上に由来する、請求項1~3のいずれかに記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記樹脂組成物は、添加剤として遮熱材を含む、請求項1~4のいずれかに記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記遮熱材は、遮熱性微粒子または遮熱性化合物の一方または両方である、請求項5に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記中間層は、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物の押出フィルムまたはシートを含む、請求項1~6のいずれかに記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記中間層の少なくとも片面または両面に構造が設けられている、請求項7に記載の合わせガラス。
【請求項9】
前記構造はエンボス加工された構造である、請求項8に記載の合わせガラス。
【請求項10】
オーバーヘッドグレージングである、請求項1~9のいずれかに記載の合わせガラス。
【請求項11】
スパンドレルである、請求項1~9のいずれかに記載の合わせガラス。
【請求項12】
フィンである、請求項1~9のいずれかに記載の合わせガラス。
【請求項13】
ボルト締めされたガラス(a bolted glazing)である、請求項1~9のいずれかに記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオーバーヘッド建築用グレージング、スパンドレル、フィンおよびボルト締めラミネート用途等のポリマーのクリープが問題となり得る高温用途、特に長期間グレージング温度が50℃、さらには60℃を超え得る場所に適した合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、自動車および航空機等の車両のフロントガラス、サイドガラス、およびリアガラス、ならびに建物等の窓等に広く使用されており、外部からの衝撃を受けて破損した場合でもガラスの破片が飛散することを少なくする役割も果たしている。
【0003】
近年、合わせガラスの性能向上の要求が高まっている。特に、建物の構造用途(ファサード)に合わせガラスを使用する場合、合わせガラスはガラスが破損しても飛来物が貫通しないこと、および高温条件下でも合わせガラスが自己支持性を有することが求められる。この要求性能を満足するために、中間膜が一定以上の弾性率を維持するように、接着性と耐熱性の望ましい組み合わせを有することが必要である。
【0004】
合わせガラスの中間膜(中間層)としては、ビニルブチラール樹脂が多量に使用され、成形加工性、耐貫通性、およびガラスへの密着性を調整するために液状可塑剤または接着力調整剤が配合されている。液状可塑剤の配合により、ビニルブチラール樹脂が軟化し耐熱性が低下する。加えて、液体可塑剤の配合量を少なくするか、または配合しない場合、耐熱性は向上するものの、成形加工性が低下するため成形温度を高くする必要がある。このような加熱により、中間層とラミネートの両方の着色が増加する。
【0005】
特開昭63-79741号および特開2004-068013号には、合わせガラスの中間膜におけるα-オレフィンによって変性されたビニルアセタール系ポリマーの使用が記載されている。しかしながら、これらの発明では、可塑剤を多量に使用する必要がある等、上記指摘された問題点が考慮されておらず、改善には至っていない。
【0006】
特開2011-57737号には、エチレン含有量が0.5~40モル%でアセタール化度が30モル%以上のポリビニルアセタール樹脂から製造されたシートが記載されている。なお、アセタール化度には従来2種類の定義が用いられているが(詳細は後述する)、特開2011-57737号にはアセタール化度の定義は記載されていない。したがって、特開2011-57737号におけるアセタール化度の意味は、実測しなければ確認できない。このシートは、透明度が高く、強度があり、柔軟性があり、合わせガラスに利用できると説明されている。
【0007】
しかし、特開2011-57737号の実施例では、シート成形時に、可塑剤であるトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを、上記ポリビニルアセタール100質量部に対して30質量部という多量に使用している。可塑剤を多量に使用すると、先に指摘したように耐熱性が著しく低下する。さらに、アセタール化度が30モル%以上であるため、耐熱性に問題がある。
【0008】
特開平09-30846号には、エチレン-メタクリル酸共重合体の分子間を金属イオンで結合させたアイオノマー樹脂に、有機過酸化物とシランカップリング剤を配合した熱硬化性樹脂をガラス板の間に介在および一体化させ、樹脂層を熱硬化させた合わせガラスが記載されている。この合わせガラスは、中間層にポリビニルブチラール系樹脂を用いた従来の合わせガラスの耐衝撃性および耐貫通性を向上させたもので、耐衝撃性、耐貫通性、加工性および透明性に優れているとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-79741号公報
【特許文献2】特開2004-068013号公報
【特許文献3】特開2011-57737号公報
【特許文献4】特開平09-30846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、アイオノマー樹脂は、成形時の温度条件を厳密に調整しないと白化や接着不良を起こしやすく、特に溶融成形後の冷却速度が遅いと白化しやすいという問題がある。例えば、アイオノマー樹脂の板状成形体を挟み込んだ合わせガラスを冷却すると、冷却速度の遅い中央部に白化が生じ、透明度が低下する。このように、アイオノマー樹脂を用いた合わせガラスは、製造条件の管理が厳しく、製造コストが高く、工業的に大量生産することが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物から作られた中間層を含む合わせガラスを提供することによって上記の問題に対処するものであり、ここで
(i)前記エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物は、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物の全質量に基づいて、変性ビニルアセタール樹脂成分を80質量%含み、
(ii)前記変性ビニルアセタール樹脂成分は、樹脂を構成する全モノマー単位に基づいて、25~60モル%のエチレン単位と、24~71モル%のビニルアルコール単位とを含み、アセタール化度が5モル%以上40モル%未満である、1つ以上のエチレン-ビニルアセタール樹脂であり、
(iii)前記合わせガラスは、本明細書に記載されるように測定して、60℃1ヶ月で1.9mm未満のクリープを示す。
【0012】
一実施形態では、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物は、可塑剤を実質的に含まず、例えば、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物の総質量に基づいて1質量%以下の可塑剤である。
【0013】
別の実施形態では、エチレン-ビニルアセチル樹脂のアセチル基は、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドおよびイソブチルアルデヒドの1つまたは複数に由来する。
【0014】
一実施形態では、中間層は、エチレン-ビニルアセタール樹脂組成物の押出フィルムまたはシートを含む。
【0015】
本発明による合わせガラスは、特に50℃を超える、または60℃(またはそれ以上)の高温で、曲げ強度、剛性、光学特性およびクリープ特性の望ましい組み合わせを提供し、したがって、さまざまな建築およびその他の最終用途での使用に適している。
【0016】
したがって、一実施形態では、合わせガラスはオーバーヘッドグレージングである。
【0017】
別の実施形態では、合わせガラスはスパンドレルである。
【0018】
別の実施形態では、合わせガラスはガラスフィンである。
【0019】
別の実施形態では、合わせガラスがボルト締めされたガラスである。
【0020】
本発明のこれらおよび他の実施形態、特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むことにより、当業者によってより容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明で使用するエチレン-ビニルアセタール樹脂のアセタール化度(DA1)対JP201157737Aにおける想定アセタール化度(DA2)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本発明は、高温用途に適した合わせガラスに関し、前記合わせガラスは、以下にさらに詳細に説明する特定のエチレンビニルアセタール系樹脂組成物のプラスチック中間層を含む。
【0023】
本明細書の文脈において、本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、別段の指示がない限り、完全に記載されているように、すべての目的のためにその全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0024】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含め本明細書が優先される。
【0025】
特に断りのない限り、商標は大文字で示す。
【0026】
特に明記しない限り、すべてのパーセンテージ、部、比率等は重量による。
【0027】
特に明記しない限り、psi単位で表される圧力はゲージ圧であり、kPa単位で表される圧力は絶対圧である。ただし、圧力差は絶対値として表される(例えば、圧力1は圧力2よりも25psi高くなる)。
【0028】
場合により、本明細書に記載の定量値は、公表されたまたは他の方法で認められた標準手順を参照することによって定義される分析法または他の測定法によって決定してよい。そのような認識された標準手順のソースの典型的な例には、ASTM(米国試験材料協会、現ASTMインターナショナル);ISO(国際標準化機構);DIN(Deutsches Institut fur Normung(ドイツ工業規格));およびJIS(日本工業規格)が含まれる。本明細書で別段明確に述べられていない限り、本明細書で使用される特定の標準手順は、本出願の出願日に有効な手順のバージョンであると見なされる。
【0029】
本発明の文脈において、ラミネートの「クリープ」は、四点曲げ試験における長方形の合わせガラスビームのたわみとして定義される。四点曲げ試験は、ISO 1288-3:2016に基づいているが、サンプルサイズ、荷重/支持スパンの寸法、試験温度、および荷重適用率にいくつかの変更が加えられている。四点曲げ試験は、平面寸法305mm×610mmの長方形の合わせガラスサンプルをロードし、150mmスパンでロードし、300mmスパンでサポートすることで構成される。サンプルを60℃の温度に保ち、1kNの固定荷重を1ヶ月かける。ラミネートのたわみは、支持された表面のビーム中心点でモニタリングされる。3mmのガラス+0.76mmの中間層+3mmのガラスからなるラミネートの場合、本発明によるラミネートの最大たわみは、これらの試験条件下で1.9mm未満である。
【0030】
「MFR」とは「メルトフローレート」を意味し、特に断りのない限り、JIS K 7210:2014に準拠した、温度190℃、荷重2160gでの測定値である。
【0031】
量、濃度、または他の値またはパラメーターが範囲として、または上限値と下限値のリストとして与えられる場合、これは、範囲が個別に開示されているかどうかに関係なく、任意の上限範囲と任意の下限範囲の任意のペアから形成されるすべての範囲が具体的に開示されるものとして理解されるべきである。数値の範囲が本明細書で列挙される場合、別段の記載がない限り、範囲は、その端点、および範囲内のすべての整数および分数を含むことを意図する。本開示の範囲が、範囲を定義する際に列挙される特定の値に限定されることは意図されていない。
【0032】
値の範囲が、指定された量(または他の同等の言い回し)を「下回る(less than)」または「超えない(no more than)」と述べられている場合、その範囲は、指定されていないゼロ以外の値によって下端で制限されることを理解する必要がある。それに対応して、値の範囲が指定された量(または他の同等の言い回し)を「超える(more than)」、「超える(greater than)」、または「未満ではない(not less than)」と述べられている場合、上限の範囲は無限ではないこと、および上限が不特定の有限値によって制限されていることが理解されるべきである。
【0033】
「約」という用語が値または範囲の終点を記述する際に使用される場合、その開示は、言及される特定の値または終点を含むと理解されるべきである。
【0034】
本明細書で使用される用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」、またはそれらの他のバリエーションは、非排他的な包含をカバーすることを意図している。例えば、クレーム要素のリストを含むプロセス、方法、物品、または装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されるわけではなく、明示的に列挙されていない、またはそのようなプロセス、方法、物品、または装置に固有の他の要素を含むことができる。
【0035】
「からなる(consisting of)」という移行句は、クレームで特定されていないクレーム要素または成分を除外し、通常それに関連する不純物を除いて、列挙されたもの以外の材料を包含しないようクレームを限定する。「からなる」という語句がプレアンブルの直後ではなく、クレームの本文の句に現れる場合、これはその句に記載されている要素のみを限定する;他の要素は、クレーム全体から除外されない。
【0036】
「から本質的になる(consisting essentially of)」という移行句は、クレームの範囲を、クレームされた発明の基本的で新規な特徴に実質的に影響を与えない特定のクレーム要素、材料またはステップおよびその他のものに限定する。したがって、「から本質的になる」クレームは、「からなる」形式で書かれたクローズドクレームと「含む」形式で起草された完全にオープンなクレームの中間を占める。本明細書で定義される任意の添加剤(そのような添加剤に適切なレベルで)、および少量の不純物は、用語「から本質的になる」によって組成物から除外されない。
【0037】
さらに、逆のことが明示的に述べられていない限り、「または」および「および/または」は、排他的ではなく包括的を指す。例えば、条件AまたはB、またはAおよび/またはBは、次のいずれかによって満たされる:Aが真(または存在)かつBが偽(または存在しない)、Aが偽(または存在しない)かつBが真(または存在)、AとBの両方が真(または存在)。
【0038】
本明細書における様々な要素および構成要素を説明するための「a」または「an」の使用は、単に便宜のためであり、本開示の一般的な意味を与えるためのものである。この記載は、1つまたは少なくとも1つを含むように読解されるべきであり、別の意味であることが明らかでない限り、単数形は複数形も含む。
【0039】
本明細書で使用される「主要部分(predominant portion)」という用語は、本明細書で別段の定義がない限り、参照材料が50%を超えることを意味する。特定されていない場合、パーセントは、分子(例えば水素、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、硫化水素等)を参照する場合はモル基準であり、そうでない場合(例えば炭素含有量等)は重量基準である。
【0040】
本明細書で使用される「実質的な部分(substantial portion)」または「実質的に(substantially)」という用語は、別段の定義がない限り、使用される文脈において関連技術の当業者によって理解されるように、すべて、またはほとんどすべて、または大部分を意味する。産業規模または商業規模の状況で通常発生する、100%からの妥当な差異を考慮に入れることを意図している。
【0041】
「枯渇した(depleted)」または「減少した(reduced)」という用語は、元々存在するものから減少したことと同義である。例えば、流れから材料のかなりの部分を除去すると、その材料が実質的に枯渇した、材料枯渇流が生まれる。逆に、「増えた(enriched)」または「増加した(increased)」という用語は、元々存在するものよりも多いことと同義である。
【0042】
本明細書で使用する「コポリマー」という用語は、2つ以上のコモノマーの共重合から生じる共重合単位を含むポリマーを指す。これに関連して、コポリマーは、その構成コモノマーまたはその構成コモノマーの量に関連して、例えば「酢酸ビニルおよび15モル%のコモノマーを含むコポリマー」、または同様の記載で本明細書に記載されてよい。このような記載は、コモノマーを共重合単位として言及していないという点で;コポリマーの従来の命名法、例えば国際純正・応用化学連合(IUPAC)命名法を含まないという点で;プロダクト・バイ・プロセスの用語(product-by-process terminology)を使用していないという点で;または別の理由で、非公式と見なされ得る。しかし、本明細書で使用されるように、その構成コモノマーまたはその構成コモノマーの量に関連するコポリマーの記載は、そのコポリマーが特定のコモノマーの共重合単位を(指定されている場合は指定された量で)含むことを意味する。限られた状況でそのように明確に述べられていない限り、必然的にコポリマーは、所与のコモノマーを所与の量で含む反応混合物の生成物ではないということになる。
【0043】
文脈から確認できるように、「組成物」という用語は、典型的には、2つ以上のポリマーおよび/またはコポリマー、場合によってはそれらとブレンドまたは混合された他のタイプの成分を一緒に指すために使用されるが、ポリマーまたはコポリマー自体の1つだけを指すために使用することも許容される。
【0044】
「フィルム」および「シート」という用語は互換性があり、設定された業界標準は存在しないが、それぞれの厚さの点で定義できる。本明細書で時々使用される「フィルム」という用語は、約10ミル(0.25mm)以下の厚さを有する構造を指してよく、「シート」という用語は、約10ミル(0.25mm)を超える厚さを有する構造を指してよい。特定の実施形態の文脈では、他の意味(厚さ)が与えられてもよい。
【0045】
材料、方法、または機器が、用語「当業者に知られている(known to those of skill in the art)」、「一般的な(conventional)」、または同義語または同義句で本明細書に記載されている場合、その用語は、本出願の出願時点で一般的である材料、方法、および機器が本明細書に包含されることを意味する。また、現在は一般的ではないが、同様の目的に適していると当技術分野で認識されるようになる材料、方法、および機器も含まれる。
【0046】
便宜上、本発明の多くの要素が別々に説明され、オプションのリストが提供されてよく、数値は範囲であってよい;しかしながら、本開示の目的のために、それは、そのような別個の構成要素、リスト項目、または範囲の任意の組み合わせの任意の請求項に対する開示または本開示のサポートの範囲に対する限定と見なされるべきではない。別段の記載がない限り、本開示で可能なそれぞれおよびすべての組み合わせが、すべての目的のために明示的に開示されていると見なされるべきである。
【0047】
本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を本開示の実施または試験に使用できるが、適切な方法および材料が本明細書に記載される。したがって、本明細書の材料、方法、および実施例は、単に説明のためのものであり、具体的に述べられている場合を除き、限定を意図するものではない。
【0048】
<エチレン-ビニルアセタール樹脂>
本発明で使用するエチレン-ビニルアセタール樹脂は、アルデヒドをエチレン-ビニルアルコール樹脂(以下、エチレン-ビニルアルコールコポリマーという)とアセタール化反応させて得られる。
【0049】
エチレン-ビニルアルコールコポリマーとしては、エチレンとビニルエステルモノマーを共重合させ、得られたコポリマーをけん化したものが挙げられる。
【0050】
エチレンとビニルエステルモノマーとを共重合させる方法としては、従来公知の方法、例えば溶液重合、バルク重合、懸濁重合、および乳化重合等を適用できる。重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等が重合方法に応じて適宜選択される。
【0051】
けん化反応では、アルコーリシス、加水分解等に従来公知のアルカリ触媒または酸触媒を用いることができるが、中でもメタノールを溶媒とし、苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いたけん化反応が簡便である。
【0052】
エチレンビニルアルコールコポリマーのけん化度は特に限定されないが、通常、95モル%以上、または98モル%以上、または99モル%以上、または99.9モル%以上である。
【0053】
適切なビニルエステルモノマーの例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサタイル酸ビニル(vinyl versatile acid)、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。酢酸ビニルが好ましい。
【0054】
エチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位は、典型的には、25モル%から、または30モル%から、または35モル%から、60モル%まで、または55モル%まで、または50モル%までである。エチレン単位比率が低くなると、本発明の変性ビニルアセタール樹脂の耐衝撃性が低下する傾向にある。逆に、エチレン単位比率が高くなると、耐熱性に悪影響を及ぼす傾向にある。上記範囲を満たすことにより、エチレン-ビニルアセタール樹脂のエチレン単位をより詳細に調整し、適切な特性バランスを達成できる。
【0055】
190℃、2.16kg荷重でのエチレンビニルアルコールコポリマーのMFRは、一般に1g/10分から、または2g/10分から、または3g/10分から、30g/10分まで、または20g/10分まで、または10g/10分までである。この範囲を満たすことにより、後述する変性ビニルアセタール樹脂のMFRを好適な範囲に調整できる。
【0056】
本発明で使用するエチレン-ビニルアセタール樹脂の製造方法は特に限定されず、公知の製造方法により製造できる。例えば、酸性条件下で、エチレンビニルアルコールコポリマー溶液にアルデヒドを添加してアセタール化反応を行う方法、または酸性条件下で、エチレンビニルアルコールコポリマー分散液にアルデヒドを添加してアセタール化反応を行う方法が挙げられる。
【0057】
アセタール化反応後に得られる反応生成物をアルカリで中和し、その後、水洗、溶媒で除去して目的の変性ビニルアセタール樹脂が得られる。
【0058】
変性ビニルアセタール樹脂を製造するための溶媒は特に限定されず、その例としては、水、アルコール、ジメチルスルホキシド、および水とアルコール類の混合溶媒等が挙げられる。
【0059】
変性ビニルアセタール樹脂を製造するための分散媒としては特に限定されず、その例としては、水およびアルコール等が挙げられる。
【0060】
アセタール化反応を行うための触媒は特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれを用いてよい。その例としては、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸、炭酸等が挙げられる。特に、塩酸、硫酸、および硝酸等の無機酸は、反応後に容易に洗浄できるため、好ましく用いられる。
【0061】
アセタール化反応に用いられるアルデヒドは特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒド、イソブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、2-メチルブチルアルデヒド、トリメチルアセトアルデヒド、2-メチルペンチルアルデヒド(2-methylpentyaldehyde)、2,2-ジメチルブチルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、3,5,5-トリメチルヘキシルアルデヒド等が用いられ、耐熱性および光学特性の点からブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドおよびイソブチルアルデヒドが好ましい。加えて、一種のアルデヒドを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
反応生成物の中和に用いるアルカリは特に限定されず、その例として例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および炭酸カリウム等が挙げられる。
【0063】
本発明の変性ビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、通常5モル%以上40モル%未満である。様々な実施形態において、アセタール化度の下限値は、6モル%以上、または7モル%以上、または8モル%以上、または9モル%、または10モル%以上である。アセタール化度が低すぎると、変性ビニルアセタール樹脂の結晶性が高くなり、透明性が低下する傾向にある。さらに、他の実施形態では、アセタール化度の上限値は、38モル%以下、または36モル%以下、または34モル%以下、または32モル%以下、または30モル%未満である。なお、アセタール化度の上限値は、29モル%以下、または28モル%以下、または27モル%以下、または26モル%以下、または25モル%未満であってもよい。アセタール化度が高すぎると、耐熱性およびガラス密着性が損なわれる傾向にある。
【0064】
上記のように、エチレン-ビニルアセタール樹脂のアセタール化度には、2種類の定義が一般に使用される。1つは、エチレン単位以外の構造単位のうち、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合として定義される。すなわち、例えば、アセタール化されたビニルアルコール単位と非アセタール化ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位との和に占めるアセタール化されたビニルアルコール単位の割合を指す。このようなアセタール化度は、以下のアセタール化度によって決まる。
DA1(モル%)={k/(k+l+m)}×100
[式中、非アセタール化ビニルアルコール単位のモル分率を(l)、酢酸ビニル単位のモル分率を(m)、およびアセタール化されたビニルアルコール単位のモル分率を(k)と仮定する。]
【0065】
もう1つは、エチレン単位、すなわちアセタール化されたビニルアルコール単位も含む全モノマー単位の割合として定義される。すなわち、例えば、エチレン単位、アセタール化されたビニルアルコール単位、非アセタール化ビニルアルコール単位および酢酸ビニル単位の合計とアセタール化されたビニルアルコール単位との比をいう。このようなアセタール化度は、以下のアセタール化度によって決まる。
DA2(モル%)={k/(k+l+m+n)}×100
[式中、非アセタール化ビニルアルコール単位のモル分率を(l)、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル分率(m)は、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル分率(k)であり、エチレン単位のモル分率を(n)と仮定する]
【0066】
本発明において、アセタール化度は前者のDA1を採用する。換言すると、エチレン単位以外の構造単位の中での、アセタール化されたビニルアルコール単位の割合をアセタール化度と定義する。
【0067】
なお、アセタール化度(DA1)とアセタール化度(DA2)との関係は、式(I):
DA2={(100-n)/100}×DA1 (I)
[式(1)中、nは全モノマー単位に対するエチレン単位のモル比を示す]
で表されることに注意されたい。
【0068】
図1は、例えばn=15、25、32、38、44、48および60におけるアセタール化度(DA1)とアセタール化度(DA2)との関係を示すグラフである。
【0069】
本発明の変性ビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、以下の手順で求めることができる。まず、変性ビニルアセタール樹脂をエタノールに溶解し、2Nの塩酸ヒドロキシルアミン溶液と塩酸を加え、その混合物をコンデンサー付水浴中で4時間攪拌し、冷却後、アンモニア水を加えて中和し、その後、メタノールを加えて沈殿させ、洗浄、乾燥してエチレンビニルアルコールコポリマーを得る。次に、得られたエチレンビニルアルコールコポリマーを120℃でDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、室温まで冷却し、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンと無水酢酸を加えて1時間攪拌反応させ、イオン交換水とアセトンで沈殿させ、洗浄、乾燥してエチレンビニルアセテートコポリマーを得る。
【0070】
得られたエチレンビニルアセテートコポリマーをDMSO-dに溶解し、400MHzのプロトンNMR測定器で測定する。積分回数256回測定して得られたスペクトルより、エチレン単位とビニルアセテート単位由来のメチンプロトン(1.1~1.9ppmのピーク)、およびビニルアセテート単位由来の末端メチルプロトン(2.0ppmのピーク)の強度比からエチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位のモル比(n)を算出できる。
【0071】
変性ビニルアセタール樹脂を構成する全モノマー単位に対するビニルアルコール単位のモル比(l)、酢酸ビニル単位のモル比(m)、およびアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)は、変性ビニルアセタール樹脂をDMSO-dに溶解し、400MHzプロトンNMR分光計で累積256回測定して得られたスペクトルより、エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位由来のメチルプロトン(1.0-1.8ppmのピーク)およびアセタール単位由来の末端メチルプロトン(0.8-1.0ppmのピーク)の強度比、ならびにエチレンビニルアルコール単位コポリマーのモル分率(n)を使って計算される。
【0072】
変性ビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、決定されたビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルアセテート単位のモル比(m)、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)を用いて決定され、DA1を使用して計算される。
【0073】
また、別の方法として、アセタール化反応前のエチレンビニルアルコールコポリマーを120℃でDMSOに溶解し、室温で冷却した後、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンと無水酢酸を加え、1時間攪拌反応後、イオン交換水とアセトンで沈殿させ、洗浄、乾燥してエチレンビニルアセテートコポリマーを得る。
【0074】
得られたエチレンビニルアセテートコポリマーをDMSO-dに溶解し、400MHzのプロトンNMR測定器で測定する。積分回数256回測定して得られたスペクトルより、エチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位のモル比(n)は、エチレン単位とビニルアセテート単位由来のメチンプロトン(1.1~1.9ppmのピーク)、およびビニルアセテート単位由来の末端メチルプロトン(2.0ppmのピーク)の強度比から算出できる。なお、エチレン単位はアセタール化反応の影響を受けないため、アセタール化反応前のエチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位のモル比(n)は、アセタール化反応後に得られる変性ビニルアセタール樹脂のエチレン単位のモル比(n)と等しいことに注意されたい。
【0075】
変性ビニルアセタール樹脂を構成する全モノマー単位に対するビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルアセテート単位のモル比(m)、およびアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)は、変性ビニルアセタール樹脂をDMSO-dに溶解し、400MHzプロトンNMR分光計で累積256回測定して得られたスペクトルより、エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位由来のメチルプロトン(1.0~1.8ppmのピーク)、およびアセタール単位由来の末端メチルプロトン(0.8~1.0ppmのピーク)の強度比、ならびにエチレンビニルアルコール単位コポリマーのモル分率(n)を使用して算出される。
【0076】
変性ビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、求めたビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルアセテート単位のモル比(m)、アセタール化ビニルアルコール単位のモル比(k)を用いて求めてよく、DA1を使用して計算されてよい。
【0077】
さらに別の方法として、JIS K6728:1977に記載の方法に従い、アセタール化されていないビニルアルコール単位の質量比(l)、アセタール化されたビニルアルコール単位の質量比(m)およびアセタール化されたビニルアルコール単位の質量比(k)をそれぞれ滴定から決定し、エチレン単位の質量比(n)は、n=1-l-m-kから決定し、これからアセタール化されていないビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルアセテート単位のモル比(m)、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)を算出し、DA1からアセタール化度を算出する。
【0078】
本発明の変性ビニルアセタール樹脂のビニルアルコール単位は、樹脂を構成する全モノマー単位に基づいて、24~71モル%である。ビニルアルコール単位のモル比の下限は、24.8モル%以上、25.6モル%以上、26.4モル%以上および27.2モル%以上の順でより好ましく、28モル%以上の順が最も好ましい。ビニルアルコール単位のモル比の下限値は、26モル%以上、32モル%以上、または38モル%以上であってもよいことに注意されたい。ビニルアルコール単位の割合が24モル%未満であると、本発明の変性ビニルアセタール樹脂のガラス密着性が損なわれる傾向にある。また、細胞アコールユニットの形態比率の上限(the upper limit of the morphological ratio of the cellular acol unit)は、70.5M%以下、69.8M以下、69M以下、より好ましくは68.3以下、67.5%以下であることが最も好ましい。ビニルアルコール単位のモル比の上限値は、65モル%以下および59モル%以下であってもよい。ビニルアルコール単位の割合が71モル%を超えると、ガラス密着性は高くなるが、透明性が低下する傾向にある。
【0079】
本発明の変性ビニルアセタール樹脂を構成する全モノマー単位に基づくモル%は、アセタール単位1モルをビニルアルコール単位2モルに換算して算出される。例えば、エチレン単位44.0モル、ビニルアルコール単位44.8モル、アセタール単位5.6モルからなる変性ビニルアセタール樹脂のエチレン単位は44.0モル%、ビニルアルコール単位は44.8モル%、アセタール化度は20.0mol%である。
【0080】
本発明の変性ビニルアセタール樹脂の190℃、2.16kg荷重でのMFRは、望ましくは0.1g/10分から、または1g/10分から、または2g/10分から、または3g/10分から、100g/10分まで、または50g/10分まで、または30g/10分まで、または20g/10分までの順番である。MFRが低すぎると、成形加工時の適切な成形温度域での十分な加工性(流動性)が得られず、成形温度を上げる必要があり、得られる成形体が着色しやすくなる傾向がある。MFRが高すぎると、成形加工時の適切な成形温度域で十分な溶融張力が得られず、フィルム成形安定性および成形体の表面状態の悪化等の問題が生じやすい傾向にある。
【0081】
<樹脂組成物>
本発明に用いられる樹脂組成物は、樹脂組成物の総質量に基づいて、好ましくは80質量%以上(100%を含む)より好ましくは90質量%以上(100%を含む)、さらに好ましくは95質量%以上(100%を含む)の変性ビニルアセタール樹脂の1つまたは組み合わせを含有する。
【0082】
変性ビニルアセタール樹脂に加えて、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて他の熱可塑性樹脂を含んでもよい。他の熱可塑性樹脂としては特に限定されず、その例として例えば、(メタ)アクリル樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、アイオノマー系樹脂等が挙げられる。
【0083】
樹脂組成物が他の熱可塑性樹脂を含む場合、その含有量は、樹脂組成物の全質量に基づいて、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。樹脂組成物中の他の熱可塑性樹脂の含有量が20質量%を超えると、透明性、耐衝撃性、およびガラス等の基材との密着性が低下しやすくなる傾向がある。
【0084】
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、接着性向上剤、ブロッキング防止剤、シランカップリング剤、顔料、染料、遮熱材および機能性無機化合物等の添加剤をさらに含有してもよい。さらに、必要に応じて、可塑剤または様々な添加剤を抽出または洗浄し、これら可塑剤および添加剤の含有量をいったん減少させ、再度可塑剤や様々な添加剤等を添加してもよい。
【0085】
樹脂組成物が添加剤を含有する場合、その含有量は、樹脂組成物の総質量に基づいて、好ましくは20質量%以下、または15質量%以下、または10質量%以下、または5質量%以下である。様々な添加剤の含有量が多すぎると、高温条件下での自己支持性(耐熱性)が十分に得られない、合わせガラス用中間膜として長期間使用した場合にブリードが発生する等の問題が発生しやすい。
【0086】
特に、可塑剤は、その性質上、高温条件下での自己支持性(耐熱性)を低下させる効果が高いため、一実施形態においては、樹脂組成物中は可塑剤を実質的に含まない、例えばその含有量が樹脂組成物の全質量に基づいて、1質量%以下(0質量%を含む)、または0.5質量%以下(0質量%を含む)、または0.1質量%以下(0質量%を含む)である。
【0087】
使用する可塑剤は特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ジ-(2-ブトキシエチル)-アジピン酸エステル(DBEA)、ジ-(2-ブトキシエチル)-セバシン酸エステル(DBES)、ジ-(2-ブトキシエチル)-グルタル酸エステル、ジ-(2-ブトキシエトキシエチル)-アジピン酸エステル(DBEEA)、ジ-(2-ブトキシエトキシエチル)-セバシン酸エステル(DBEES)ジ-(2-ブトキシエチル)-アゼライン酸エステル、ジ-(2-ブトキシエチル)-グルタル酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエチル)-アジピン酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエチル)-アゼライン酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエチル)-グルタル酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエトキシエチル)-アジピン酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエトキシエチル)-セバシン酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエトキシエチル)-アゼライン酸エステル、ジ-(2-ヘキソキシエトキシエチル)-グルタル酸エステル、ジ-(2-ブトキシエチル)-フタル酸エステルおよび/またはジ-(2-ブトキシエトキシエチル)-フタル酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、分子を構成する炭素数と酸素数の和が28以上の可塑剤が好ましい。例えば、トリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート、ジ-(2-ブトキシエトキシエチル)-アジピン酸エステル、およびジ-(2-ブトキシエトキシエチル)-セバシン酸エステル等が挙げられる。上記可塑剤は、一種または、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
さらに、本発明の変性ビニルアセタール樹脂は、酸化防止剤を含んでもよい。使用される酸化防止剤の例としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、および硫黄系酸化防止剤が挙げられ、中でもフェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
【0089】
フェノール系酸化防止剤の例としては、アクリレート系化合物、例えば2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、または2,4-ジ-t-アミル-6-(1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス(3-シクロヘキシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メタン、3,9-ビス(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、アルキル置換フェノール化合物、例えば1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン-3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンまたはトリエチレングリコールビス(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート,6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3、5-トリアジンが挙げられ、その例としては例えば、トリアジン基含有フェノール化合物、例えば6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3,5-トリアジン、6-(4-ヒドロキシ-3-メチル-5-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチルチオ-1,3,5-トリアジンまたは2-オクチルチオ-4,6-ビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-オキシアニリノ)-1,3,5-トリアジンが挙げられる。
【0090】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2-t-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、モノホスファイト系化合物、例えば10-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドまたは10-デシルオキシ-9,10-オキサ-10-ホスファフェナントレン、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシルホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(フェニル-ジ-アルキル(C12~C15)ホスファイト)、4,4’-イソプロピリデン-ビス(ジフェニルモノアルキル(C12~C15)ホスファイト)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジ-トリデシルホスファイト-5-t-ブチルフェニル)ブタン、またはジホスファイト系化合物、例えばテトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスファイト等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましい。
【0091】
硫黄系酸化防止剤の例としては、ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(β-ラウリル-チオプロピオネート)、3,9-ビス(2-ドデシルチオエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
【0092】
酸化防止剤の配合量は、変性ビニルアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~5質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。これらの酸化防止剤は、本発明の変性ビニルアセタール樹脂を製造する際に添加してよい。他の添加方法としては、本発明の板状成形体を成形する際に、変性ビニルアセタール樹脂に添加してもよい。
【0093】
さらに、本発明の変性ビニルアセタール樹脂には、紫外線吸収剤を含んでよい。使用される紫外線防止剤は、2-(5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α’ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(3-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、および2-(3,5-ジ-t-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、例えば2-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールまたは2-(2’-ヒドロキシ-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ヒンダーアミン系紫外線吸収剤、例えばビス(1,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2-ブチルマロネートまたは4-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)-1-(2-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)エチル)-2,2,6,6-テトラメチルピリジンであり、例としては、2,4-ジ-t-ブチルフェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートまたはベンゾエート系紫外線吸収剤、例えばヘキサデシル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエートが挙げられる。これらの紫外線吸収剤の添加量は、変性ビニルアセタール樹脂の質量に基づいて、好ましくは10~50000ppm、より好ましくは100~10000ppmの範囲である。さらに、これらの紫外線吸収剤は2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの紫外線吸収剤は、本発明の変性ビニルアセタール樹脂の製造時に添加してよい。他の添加方法としては、本発明の板状成形体を成形する際に、変性ビニルアセタール樹脂に添加してもよい。
【0094】
また、本発明の変性ビニルアセタール樹脂は、接着性向上剤を含有してよい。使用される接着性向上剤としては、例えば、国際公開第03/033583号に開示されているものを用いることができ、有機酸のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩が好ましく用いられ、中でも酢酸カリウムおよび/または酢酸マグネシウム等が好ましい。さらに、シランカップリング等の他の添加剤を加えてよい。接着性向上剤の最適な添加量は、使用する添加剤によって異なり、得られるモジュールや合わせガラスの使用箇所によっても異なるが、得られるシートのパンメル試験(国際公開第03/033583号等に記載されている)における接着力が通常3~10となるように調整することが好ましく、高い耐貫通性が要求される場合には3~6、高いガラス飛散防止性が要求される場合には7~10となるような量に調整することが好ましい。高いガラス飛散防止性が要求される場合、接着性向上剤を添加しないことも有用な方法である。
【0095】
さらに、本発明の変性ビニルアセタール樹脂は、シランカップリング剤を含有してよい。使用される接着性向上剤としては、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシシラン、およびN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0096】
これらのシランカップリング剤は、単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。シランカップリング剤の配合量は、変性ビニルアセタール樹脂100質量部に対して、好ましくは0.001~5質量部、より好ましくは0.01~1質量部である。これらのシランカップリング剤は、本発明の変性ビニルアセタール樹脂を製造する際に添加してよい。他の添加方法としては、本発明の板状成形体を成形する際に、変性ビニルアセタール樹脂に添加してもよい。
【0097】
本発明の中間膜に遮熱材として遮熱性微粒子または遮熱性化合物を配合して、積層体に遮熱機能を付与して合わせガラスを作製する場合、太陽の赤外線放射の透過率を調節することができる。
【0098】
適切な遮熱微粒子は、例えば、米国特許出願公開第2017/0320297号に開示されている。
【0099】
遮熱微粒子の具体例としては、金属ドープ酸化インジウム、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)等、金属ドープ酸化スズ、例えばアンチモンドープ酸化スズ(ATO)等、金属ドープ酸化亜鉛、例えばアルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)等、一般式:MWO(Mは金属元素を表し;mは約0.01以上約1.0以下であり;nは約2.2以上約3.0以下である)で表される金属元素複合酸化タングステン、アンチモン酸亜鉛(ZnSb)、六ホウ化ランタン等が挙げられる。これらの中でも、ITO、ATO、金属元素複合酸化タングステンが好ましく、金属元素複合酸化タングステンがより好ましい。金属元素複合酸化タングステンにおけるMで表される金属元素の例としては、Cs、Tl、Rb、Na、K等が挙げられ、特にCsが好ましい。遮熱特性の観点から、mは好ましくは約0.2以上、または約0.3以上であり、好ましくは約0.5以下、または約0.4以下である。
【0100】
最終的な積層体の透明性の観点から、遮熱性微粒子の平均粒子径は、好ましくは約100nm以下、または約50nm以下である。なお、本明細書において遮熱粒子の平均粒子径とは、レーザー回折装置により測定される粒子径を意味することに留意されたい。
【0101】
最終的な樹脂組成物において、遮熱微粒子の含有量は、樹脂の重量に対して、好ましくは約0.01重量%以上、または約0.05重量%以上、または約0.1重量%以上、または約0.2重量%である。また、遮熱微粒子の含有量は、好ましくは約5重量%以下、または約3重量%以下である。
【0102】
遮熱性化合物の例としては、フタロシアニン化合物、ナフタロシアニン化合物等が挙げられる。遮熱特性をより向上させる観点から、遮熱性化合物は金属を含有することが好ましい。金属の例としては、Na、K、Li、Cu、Zn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Pt、Mn、Sn、V、Ca、Al等が挙げられ、特にNiが好ましい。
【0103】
遮熱性化合物の含有量は、樹脂の重量に基づいて、好ましくは約0.001重量%以上、または約0.005重量%以上、または約0.01重量%以上である。また、遮熱性化合物の含有量は、好ましくは約1重量%以下、または約0.5重量%以下である。
【0104】
着色中間層は、当技術分野で一般的に知られているように形成できる。
【0105】
例えば、米国特許出願公開第2008/0302461号に一般的に開示されているように、1つ以上の顔料を樹脂組成物に添加できる。
【0106】
1つ以上の無機粒子と1つ以上の染料とのブレンドも使用できる。
【0107】
場合によっては、例えば米国特許第7261943号明細書に開示されているようなエッチングまたはサンドブラスト処理されたガラスの美的性質を有するような、または米国特許出願公開第2013/0225746号明細書に開示されているような半透明の白色の外観を有する積層体を製造するために、半透明の中間層を形成することが望ましい場合がある。
【0108】
画像を有する装飾合わせガラスも、例えば米国特許第7232213号に記載されているように調製できる。
【0109】
<中間膜(シートまたはフィルム)>
本発明の変性ビニルアセタール樹脂またはそれを含む板状成形体の、測定温度50℃、周波数1Hzの条件における貯蔵弾性率(E’)は、好ましくは20~1000MPa、より好ましくは30~900MPa、さらに好ましくは40~800MPaである。貯蔵弾性率(E’)が上記範囲内であると、自己支持性がより向上する。本発明において、貯蔵弾性率(E’)は実施例に記載の方法により測定した。
【0110】
中間体の製造方法は特に限定されず、公知の方法が用いられる。具体的には、樹脂組成物を押出成形、プレス成形、ブロー成形、射出成形、溶液キャスト法等によりシートまたはフィルムに成形してよい。特に、樹脂組成物と添加剤とを押出機に供給し、混練、溶融し、金型から取り出してシートまたはフィルムを形成する方法が好ましい。押出時の樹脂温度は、典型的には、約170℃から、または約180℃から、または約190℃から、約250℃まで、または約240℃まで、または約230℃までである。樹脂温度が高くなりすぎると、変性ビニルアセタール樹脂が分解し、揮発性物質が増加し、着色が増加する。反対に、温度が低すぎると、押出が非常に困難になり、揮発分の含有量も増加する。揮発性物質を効率よく除去するため、押出機のベント口から減圧して揮発性物質を除去することが好ましい。
【0111】
本発明の中間膜は、製造時および保存時に中間層同士の接着を防止し、後述する積層工程における脱ガス性を高めるために、表面に凹凸を設けることが好ましい。また、本発明の中間膜の表面には、従来既知の方法によりメルトフラクチャーおよび/またはエンボス加工等の凹凸構造が形成されていることが好ましい。メルトフラクチャーまたはエンボス加工の形状は特に限定されず、従来公知のものを採用できる。
【0112】
好ましくは、このような構造は、合わせガラス用の中間膜の少なくとも片面(より好ましくは両面)に設けられる。
【0113】
合わせガラス用中間膜の表面を造形する方法の例としては、例えば従来公知のエンボスロール法、異形押出法、メルトフラクチャーを利用した押出リップエンボス法等が挙げられる。これらの中でも、中間膜上に形成された均一で微細な凹凸を有する合わせガラス用中間膜を安定して得るために、エンボスロール法が好ましい。
【0114】
エンボスロール法に用いられるエンボスロールは、例えば、所望の凹凸パターンを有する彫刻ミル(マザーミル)を用いて、金属ロールの表面に凹凸パターンを転写することにより製造できる。また、レーザーエッチングを用いてエンボスロールを作製することもできる。さらに、上記のようにして金属ロールの表面に微細凹凸パターンを形成した後、その微細凹凸パターンを有する表面を、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、またはガラスビーズ等の研磨材を用いてブラスト処理し、これにより、より微細な凹凸パターンを形成することもできる。
【0115】
また、エンボスロール法に用いられるエンボスロールには、離型処理が施されていることが好ましい。離型処理が施されていないエンボスロールを使用する場合、エンボスロールから合わせガラス用中間膜を剥離することが困難となる。離型処理の方法の例としては、例えば、シリコーン処理、テフロン(登録商標)処理、およびプラズマ処理等の公知の方法が挙げられる。
【0116】
エンボスロール法等により成形された合わせガラス用中間膜の表面の凹部の深さおよび/または凸部の高さ(以下、「エンボス部の高さ」という場合がある)は、好ましくは約5μm以上、または約10μm以上、または約20μm以上である。エンボス部の高さが約5μm以上であると、合わせガラスを製造した場合に、合わせガラス用中間膜とガラスとの界面に存在する気泡が残留しにくくなり、それにより、合わせガラスの外観が良好となる傾向にある。
【0117】
エンボス部の高さは、好ましくは約150μm以下、または約100μm以下、または約80μm以下である。エンボス部の高さが約150μm以下であると、合わせガラスを製造した場合に、合わせガラス用中間膜とガラスとの密着性が良好となり、それにより、合わせガラスの外観が良好となる傾向にある。
【0118】
本発明においてエンボス部の高さとは、JIS B 0601(2001年)に規定される最大高さ粗さ(Rz)を指す。エンボス部の高さは、例えば、レーザー顕微鏡等の共焦点の原理を利用して測定できる。なお、エンボス部の高さ、すなわち凹部の深さまたは凸部の高さは、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更できる。
【0119】
エンボスロール法等により付与される形状の例としては、格子、斜格子、斜楕円、楕円、斜溝、溝等が挙げられる。これらの中でも、気泡をより良好に逃がす観点から、斜格子、斜溝等の形状が好ましい。傾斜角度はフィルムの流れ方向(MD方向)に対して10°~80°が好ましい。
【0120】
エンボスロール法等による造形は、合わせガラス用中間膜の片面に行ってもよく、または両面に行ってもよいが、両面に行うことがより好ましい。さらに、成形パターンは、規則的なパターンであっても、ランダムマットパターン等の不規則なパターンであってもよく、あるいは米国特許第7351468号に開示されているようなパターンであってもよい。
【0121】
本発明の中間膜の厚さは特に限定されないが、好ましくは約0.10mmから、または約0.40mmから、または約0.70mmから、約3.0mmまで、または約2.8mmまで、または約2.6mmまでである。中間膜が薄すぎると合わせガラスの耐貫通性能を満足させることが困難になる傾向にあり、中間膜が厚すぎるとシート自体のコストが高くなり、および積層プロセスのサイクルタイムが長くなるため好ましくない。中間膜は単層でもよく、または2層以上を使用することで所望の厚さに調整できる。
【0122】
本発明のフィルムまたはシートの耐貫通性は、後述する落錘式衝撃試験において、貫通エネルギーが好ましくは11J以上、より好ましくは13J以上、さらに好ましくは15J以上である。板状成形体の耐貫通性が低すぎると、板状成形体を中間フィルムとして用いた合わせガラスの耐貫性で十分な値が得られず、使用が難しい傾向がある。
【0123】
本発明のフィルムまたはシートは、合わせガラスの中間膜として有用である。合わせガラス用中間膜は、ガラス等の基材との密着性、透明性、および自己支持性の観点から、構造材用合わせガラス用中間膜として特に好ましい。また、構造材用合わせガラスの中間膜に限らず、自動車等の移動体、建築物、太陽電池等の様々な用途の合わせガラスの中間膜としても好適であるが、これらの用途に限定されない。
【0124】
<合わせガラス>
合わせガラスは、無機ガラスまたは有機ガラスから作られた2つ以上のガラスの間に本発明の中間膜を挿入して積層することにより製造できる。本発明の合わせガラス用中間膜と積層されるガラスは特に限定されない。ガラスの厚さは特に限定されないが、約1mmから、または約2mmから、約10mmまで、または約6mmまでであることが好ましい。
【0125】
使用されるガラスは、本質的に無機または有機であり得る。無機ガラスとしては、窓ガラス、板ガラス、珪酸塩ガラス、板ガラス、低鉄ガラス、強化ガラス、強化CeOフリーガラス、フロートガラスだけではなく、色ガラス、特殊ガラス(例えば太陽熱等を制御する成分が含まれているもの等)、コーティングガラス(日照制御目的で金属(例えば銀または酸化インジウムスズ)をスパッタリングしたもの等)、Eガラス、トロガラス、ソレックス(登録商標)ガラス(PPGインダストリーズ、ペンシルベニア州ピッツバーグ)等が挙げられる。このような特殊ガラスは、例えば、米国特許第4615989号、米国特許第5173212号、米国特許第5264286号、米国特許第6150028号、米国特許第6340646号、米国特許第6461736号および米国特許第6468934号に開示されている。特定の積層体に選択されるガラスの種類は、使用目的によって異なる。
【0126】
有機ガラスとしては、ポリカーボネート、アクリル、ポリアクリレート、環状ポリオレフィン(例えばエチレンノルボルネンポリマー等)、ポリスチレン(好ましくはメタロセン触媒ポリスチレン)、ポリアミド、ポリエステル、フルオロポリマー等、およびそれらの2つ以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
本発明の合わせガラスに用いられる中間膜は、上記変性樹脂組成物を含む層(x)のみから構成されていてもよく、少なくとも2つの層(x)を含む多層フィルムであってもよい。多層フィルムとしては、特に限定されず、例えば、層(x)と他の層とが積層された2層フィルム、2つの層(x)の間に他の層が配置された3層フィルム等が挙げられる。
【0128】
他の層としては、公知の樹脂を含む層が挙げられる。樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリイミド等を用いることができる。さらに、他の層は、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、遮熱材(例えば、赤外線吸収能を有する無機遮熱材、有機遮熱材等)、および機能性無機化合物等の添加剤を、必要に応じて含有してもよい。
【0129】
上記合わせガラスを得るための積層方法としては、公知の方法を採用でき、例えば、真空ラミネーター装置を用いる方法、真空バッグを用いる方法、真空リングを用いる方法、ニップロールを用いる方法等が挙げられる。また、仮接着後、オートクレーブ工程に投入する方法を追加で行うこともできる。
【0130】
ニップロールを用いる場合には、例えば、変性ビニルアセタール樹脂の流動開始温度以下の温度で一回目の仮接着を行い、その後、流動開始温度に近い条件下で仮接着をさらに行う方法が挙げられる。具体的には、例えば混合物を赤外線ヒーター等で約30℃~約70℃に加熱した後、ロールで脱泡し、さらに約50℃~約120℃に加熱し、ロールで圧着して接着または仮接着する方法が挙げられる。
【0131】
仮接着後に追加で行われるオートクレーブ工程は、モジュールと合わせガラスの厚さと構成に応じて、例えば約130℃~約145℃の温度、約1MPa~約5MPaの圧力下で約2時間行われる。
【0132】
本発明の合わせガラスは、透明性に優れていることが好ましい。ヘイズは、特定の角度で散乱される光束のパーセンテージである。例えば、合わせガラスを後述する条件で徐冷したときのヘイズは、望ましくは2%以下、または1.6%以下、または1.2%以下である。ヘイズは、ISO 14782に従ってヘイズメーターを使用して測定できる。
【0133】
本発明の合わせガラスは、ガラスとの密着性に優れていることが好ましい。例えば、後述する方法による圧縮せん断強度試験における剥離応力は、望ましくは20MPaから、または22MPaから、または24MPaから、40MPaまで、または38MPaまで、または36MPaである。剥離応力が低すぎると、ガラスと中間膜との密着力が不十分であり、ガラス破損時にガラスが飛散する傾向がある。剥離応力が高すぎると、ガラスと中間膜との接着力が強すぎて、ガラス破壊時の耐貫通性が低下する場合がある。
【0134】
本発明の合わせガラスが遮熱材を含む場合、波長1,500nmにおける透過率は、好ましくは約50%以下、または約20%以下である。波長1,500nmにおける透過率が約50%以下であれば、赤外線の遮蔽率が高くなり、合わせガラスの遮熱性能が向上する傾向にある。
【0135】
熱/遮蔽および耐日射性は、例えば米国特許第7291398号に開示されているように、当業者に一般に知られているようなlow-Eガラスおよび/またはIR反射技術の使用によっても備えることができる。
【0136】
<最終用途>
本発明の合わせガラスは、優れた透明性、耐衝撃性、成形性、耐熱性およびクリープ挙動を有するため、他の従来の材料では信頼性が限られ得る高温用途に適切かつ確実に使用できる。本発明の合わせガラスは、優れた透明性、耐衝撃性、耐熱性および成形性を有するため、自動車のフロントガラス、自動車のサイドガラス、自動車のサンルーフ、自動車のリアガラス、ヘッドアップディスプレイガラス、ファサード、外壁および屋根用積層体、パネル、ドア、窓、壁、サンルーフ、遮音壁、ディスプレイウインドウ、バルコニー、手すり壁等の建築資材、会議室の間仕切りガラス材、太陽光パネル等に好適に使用できる。
【0137】
特に、本発明の積層体は、典型的な中間層材料を用いた特に高温に敏感な最終用途であるオーバーヘッドグレージング、スパンドレル、フィンおよびボルト締めされたガラス用途に適用できる。
【0138】
オーバーヘッドグレージングは、さまざまな状況で使用される。例えば、歩道、天蓋等の従来のオーバーヘッドグレージングシステムは、一般に、構造フレームユニットを形成するために相互接続された複数の水平フレーム部材または母屋桁と、垂直フレーム部材または垂木と、ガラスパネルをフレーム部材の所定の位置に保持するために上部に取り付けられた圧力板とを含む。米国特許第8356454号。オーバーヘッドグレージングは、特にグレージングの破損を引き起こし、最悪の場合、ガラスパネルの接着力を失わせ、ガラスが落下する危険性を高める層間クリープの影響を受けやすい。特に高温での破損の危険性は、本発明の低クリープ性中間膜および合わせガラスを使用することによって低減できる。
【0139】
2階建て以上の建物では、スパンドレルは窓枠とその下にある窓の上部の間との領域である。スパンドレルパネルは、ほとんどの場合、建物の外部から見た場合に必ずしも美的とは限らない建物の内部部分を隠すために使用される。このような内部部分の例としては、建築フレーム部材、暖房および空調ダクト、配管(tubing)または配管(plumbing)、および電気ケーブルまたは導管が挙げられる。建物の内部を隠すことに加えて、スパンドレルパネルは通常、ガラスシステムの窓と建物のその他の属性とを美的に補完または調和させる。積層スパンドレルパネルおよびその使用に関する詳細は、例えば欧州特許第2517877号およびそこに引用されている他の出版物に例示されているように、関連分野の当業者には一般によく知られている。オーバーヘッドグレージングと同様に、特に高温では中間膜のクリープによりスパンドレルパネルの破損が発生する可能性があるが、本発明の低クリープ性中間膜および合わせガラスを使用することによってそのリスクを低減できる。
【0140】
ガラスフィンは、ガラス張りのファサードをサポートし、その剛性を高めるために使用される。それらはガラス屋根のサポートとしても機能する。構造的な完全性が必要なため、クリープによるラミネートの完全性の損失は、ガラスの落下や致命的な損傷につながる可能性がある。損傷のリスクは、本発明の低クリープ性中間膜および合わせガラスを使用することによって低減できる。
【0141】
ボルト締めガラスシステム(ダイレクトポイントアタッチメントグレージングとも呼ばれる)も、例えば米国特許出願公開第2006/0005482号に例示されているように、関連分野の当業者には一般に知られている。従来のボルト締めシステムでは、通常、ボルトの張力を確実に維持するために、ボルトと中間膜との間に低クリープインサートとブッシュが必要である;そうしないと、層間クリープによってボルトが時間の経過とともに緩み、特に高温用途において潜在的な構造上の問題が引き起こされる。このようなブッシングの使用は、積層体製造のコストと複雑さを増加させるが、本発明の低クリープ性中間膜および積層体を使用することによって、部分的または全体的に回避できる。
【実施例
【0142】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0143】
<エチレン単位、ビニルアルコール単位、アセタール単位、アセタール化度の決定>
アセタール化反応前のエチレンビニルアルコールコポリマーを120℃のDMSOに溶解し、室温で冷却した後、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンと無水酢酸を加えて1時間撹拌反応させた。イオン交換水とアセトンで沈殿させ、洗浄、乾燥してエチレンビニルアセテートコポリマーを得た。得られたエチレンビニルアセテートコポリマーをDMSO-dに溶解し、エチレンビニルアセテートコポリマーのエチレン単位のモル比(n)を、400MHzのプロトンNMR測定装置において、積分回数256回でエチレンビニルアセテートコポリマーを測定したことにより得られたスペクトルから、エチレン単位およびビニルアセテート単位由来のメチンプロトン(1.1~1.9ppmのピーク)、ならびにビニルアセテート単位由来の末端メチルプロトン(2.0ppmのピーク)の強度比から算出した。ここで、エチレン単位はアセタール化反応の影響を受けないため、アセタール化反応前のエチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位のモル比(n)は、アセタール化反応後に得られる変性ビニルアセタール樹脂のエチレン単位のモル比(n)と等しいものとして扱う。
【0144】
変性ビニルアセタール樹脂を構成する全モノマー単位に対する、ビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルアセテート単位のモル比(m)、アセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)は、変性ビニルアセタール樹脂をDMSO-dに溶解し、400MHzプロトンNMR分光計で、積分回数256回で得られたスペクトルから、エチレン単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位由来のメチルプロトン(1.0~1.8ppmのピーク、およびアセタール単位に由来する末端メチルプロトン(0.8~1.0ppmのピーク)の強度比、ならびにエチレンビニルアルコール単位コポリマーのモル比(n)を用いて算出した。
【0145】
変性ビニルアセタール樹脂のアセタール化度(DA1)は、上記で決定されたビニルアルコール単位のモル比(l)、ビニルアセテート単位のモル比(m)、およびアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比(k)を使用して決定した。
【0146】
<高温環境下での剛性評価>
後述する方法で得られた樹脂組成物の溶融混練物を、200℃、50kgf/cmの圧力で5分間圧縮成形して、厚さ0.8mmのシートを得た。シートから縦40mm×横5mmの試験片を切り出し、UBM Corporation社製動的粘弾性測定装置を用いて、測定温度50℃、1Hzの周波数条件下で貯蔵弾性率(E’)を測定した。得られた値は、高温環境下における合わせガラス用中間膜の剛性を示す指標となる。
【0147】
<耐貫通性の評価>
後述する方法で得られた樹脂組成物の溶融混練物を、200℃、50kgf/cmの圧力で5分間圧縮成形して、厚さ0.8mmのシートを得た。シートから縦60mm×横60mmの試験片を切り出し、落下錘式衝撃試験機(Instron Co., Ltd.社製CEAST9350)を使用し、ASTM D3763に従って、測定温度23℃、荷重2kg、衝突速度9m/秒の条件で試験を行った。貫通エネルギーは、ストライカーエッジが試験片に接触した瞬間(試験力を感知)から、貫通(試験力がゼロに戻る)して通過(試験力をゼロに戻す)する瞬間までのSS曲線の面積から計算した。
【0148】
<フィルム成形性の評価>
後述する方法で得られた樹脂組成物を、直径40mmのフルフライト1軸押出機および幅60cmのコーティングされたハンガーダイを用いて、バレル温度200℃の条件で製膜することにより、厚み0.8mm、幅50cmのシートを作製した。このときのフィルム成形安定性を観察し、問題なく連続的にフィルム成形が可能で外観の良好なシートが得られた場合をAと評価し、シートの破れや緩み等の問題が発生し、外観の良好なシートが得られなかった場合はBと評価した。
【0149】
<ガラス密着性の評価>
後述する方法で得られた樹脂組成物の溶融混練物を、210℃、50kgf/cmの圧力で5分間圧縮成形して、厚さ0.8mmのシートを得た。得られたシートを厚さ2.7mmのフロートガラス2枚で挟み、真空ラミネーター(Nisshinbo Mechatronics Co., Ltd.製1522N)を用いて100℃で1分間減圧し、真空ラミネーターで30kPaで5分間プレスし、減圧度と温度を保持しながら中間積層体を得た。得られた中間積層体をオートクレーブに入れ、140℃、圧力1.2MPaで30分間処理して、最終合わせガラスを得た。得られた合わせガラスを25mm×25mmの大きさに切断して試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを、国際公開第1999/058334号に記載の圧縮せん断強度試験(圧縮せん断強度試験)により評価した。合わせガラスを剥がす際の最大せん断応力をガラスの密着性の指標とした。
【0150】
<透明性の評価>
上記の方法で得られた合わせガラスを140℃まで加熱し、0.1℃/分の速度で23℃まで徐々に冷却(徐冷)した後、合わせガラスのヘイズを測定した。ヘイズは、ヘイズメーター(Suga Test Instruments Co., Ltd.製、HZ-1)を用いてISO 14782に従って測定した。
【0151】
<実施例1 変性ビニルアセタール樹脂の合成>
特開2016-28139号公報に記載の方法に従って合成された、44モル%のエチレン単位、99%のケン化度、5.5g/10分のMFRを有するエチレンビニルアルコールコポリマーのチップ100重量部を、1-プロパノール 315重量部に分散させ、撹拌しながら溶液の温度を60℃に昇温し、1M塩酸 40重量部を加え、さらにn-ブチルアルデヒド 16.7重量部を加えて溶液を分散させた後、温度を60℃に保ちながらアセタール化反応を行った。反応が進むにつれて、チップは溶解し、均一な溶液となった。反応開始から36時間保持した時点で、炭酸水素ナトリウム 6.4重量部を添加して反応を停止した。反応液に1-プロパノール 500重量部を加えて均一にした後、水 2000重量部に滴下して樹脂を析出させた。その後、濾過、水洗の操作を3回繰り返し、60℃で8時間真空乾燥して変性ビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ビニルアセタール樹脂のエチレン単位は44モル%、アセタール化度は31モル%であった。
【0152】
上記で得られた変性ビニルアセタール樹脂を、ラボプラスチドミル(装置名「4M150」、Toyo Seiki Co., Ltd製)を用いて、チャンバー温度200℃、回転速度100rpmで3分間溶融混練し、チャンバー内容物を取り出して冷却し、溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0153】
<例2~6>
使用したエチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位、MFRおよびn-ブチルアルデヒドの添加量、反応時間を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、各変性ビニルアセタール樹脂を得た。この混合物を実施例1と同様にして溶融混練し、溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0154】
<実施例7>
実施例2と同様にして各変性ビニルアセタール樹脂を得、可塑剤として変性ビニルアセタール樹脂100重量部当たり8重量部のトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエートを添加した以外は実施例1と同様にして溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0155】
【表1】
【0156】
<比較例1~4>
使用したエチレンビニルアルコールコポリマーのエチレン単位、MFRおよび添加したn-ブチルアルデヒドの量、反応時間を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、各変性ビニルアセタール樹脂を得、実施例1と同様にして溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0157】
<比較例5>
ケン化度が99%のビニルアルコール樹脂の7.5%水溶液 1700重量部、ブチルアルデヒド 74.6重量部および2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール 0.13重量部を仕込み、全体を14℃まで冷却した。これに濃度20質量%の塩酸 160.1重量部を加えてアセタール化反応を開始した。塩酸の添加終了から10分後、90分間かけて65℃まで昇温し、さらに120分間反応を行った。その後、室温まで冷却し、析出した樹脂を濾過し、イオン交換水で洗浄した(樹脂に対して10倍量のイオン交換水で10回)。その後、0.3質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて十分に中和を行い、さらに樹脂に対して10倍量のイオン交換水で混合物を10回洗浄し、脱水、乾燥してビニルブチラール樹脂を得た。
【0158】
上記で得られたビニルブチラール樹脂を実施例1と同様にして溶融混練し、溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて、各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0159】
<比較例6>
ビニルブチラール樹脂100重量部に対して、可塑剤としてトリエチレングリコール-ジ-2-エチルヘキサノエート 30重量部を添加した以外は、比較例5と同様にしてビニルブチラール樹脂を得、比較例7と同様にして溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて、各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0160】
<比較例7>
特開201157737号公報の実施例1に記載の方法に従い、エチレン含有量が15モル%、ケン化度が98モル%、平均重合度が1700のポリビニルアルコール 100gを蒸留水 900g中で撹拌したが、ポリビニルアルコールは溶解せず、濃度10重量%のポリビニルアルコール水溶液が得られず、アセタール化反応を行うことができなかった。
【0161】
<比較例8>
特開201157737号公報の実施例1に記載の、エチレン含有量が15モル%、ケン化度が98モル%、平均重合度が1700のポリビニルアルコールとn-ブチルアルデヒドを用い、溶媒として1-プロパノールを用い、反応条件を本願明細書の実施例1に準じて変更した方法で変性ビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ビニルアセタール樹脂のアセタール化度は73モル%であり、特開201157737号公報に記載のアセタール化度64.5モル%と一致しなかった。一方、得られた変性ビニルアセタール樹脂のアセタール単位は62モル%であり、特開201157737号公報に記載のアセタール化度64.5モル%と近似した。
【0162】
このことから、特開201157737号公報におけるアセタール化度は、上記アセタール単位、すなわち全モノマー単位に対するアセタール化されたビニルアルコール単位の割合を表しており、特開201157737号公報は本発明のアセタール化度とは異なるアセタール化度を使用していると考えられる。
【0163】
次に、特開201157737号公報の実施例1と同様にして溶融混練物を得た。得られた溶融混練物を用いて、各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0164】
【表2】
図1
【国際調査報告】