IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティの特許一覧

特表2023-544401BCGベースのワクチン組成物およびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】BCGベースのワクチン組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/33 20060101AFI20231016BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20231016BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20231016BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231016BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231016BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20231016BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20231016BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 39/07 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 39/215 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231016BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231016BHJP
   A61K 38/16 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
C12N15/33
A61K35/74 A
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/42
A61K47/32
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/06
A61K47/20
A61P31/12
A61P37/04
A61P31/14
A61P31/04
A61P3/08
A61P3/10
A61K38/21
A61K48/00
A61K39/07
A61K39/215
A61K9/10
C12N1/21 ZNA
A61K38/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520398
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 US2021053234
(87)【国際公開番号】W WO2022072877
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】63/086,559
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501335771
【氏名又は名称】ザ・ジョンズ・ホプキンス・ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【弁理士】
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(72)【発明者】
【氏名】アロク シン
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ウム
(72)【発明者】
【氏名】キーラ コーエン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム ビシャイ
(72)【発明者】
【氏名】ルーリン ワン
(72)【発明者】
【氏名】スリニヴァサン イェグナスブラマニアン
(72)【発明者】
【氏名】トリニティ ジェイ ビヴァラックア
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA36X
4B065AB01
4B065AC10
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA45
4C076AA16
4C076BB13
4C076CC06
4C076CC21
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD01
4C076DD07
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD34
4C076DD37
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD43Z
4C076DD45
4C076DD49
4C076DD51
4C076DD55
4C076DD59
4C076DD60
4C076DD67
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE38
4C076EE41
4C076FF11
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084CA01
4C084DA21
4C084MA02
4C084MA21
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZB09
4C084ZB33
4C084ZB35
4C084ZC35
4C085AA03
4C085BA09
4C085BA71
4C085CC07
4C085DD62
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC29
4C087CA12
4C087MA21
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB09
4C087ZB33
4C087ZB35
4C087ZC35
(57)【要約】
本開示は、STINGアゴニスト、c-di-AMPを過剰発現するBCG株を使用するBCGベースの治療薬に関する。このBCG株は、BCG-disA-OEと呼ばれ、マクロファージの高められた訓練された免疫を増強し、および対象において早期の抗ウイルスI型インターフェロン応答を促進し、ウイルス感染、例えば、一次呼吸器感染およびSARS-CoV-2感染などのようなものに対する保護が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株であって、該細菌株が任意にカナマイシンに耐性である。
【請求項2】
請求項1に記載の組換え細菌株であって、該細菌株がインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する、組換え細菌株。
【請求項3】
STINGアゴニストがc-di-AMPである、請求項2に記載の組換え細菌株。
【請求項4】
disA遺伝子がM.tuberculosis disA遺伝子である、請求項1に記載の組換え細菌株。
【請求項5】
disA遺伝子がマイコバクテリアプロモーターに融合されている、請求項1に記載の組換え細菌株。
【請求項6】
マイコバクテリアプロモーターがPHSP60である、請求項5に記載の組換え細菌株。
【請求項7】
請求項1記載の組換え細菌株であって、該細菌株の核酸配列はカナマイシン抗菌性マーカーを有しない。
【請求項8】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株と薬学的に許容される担体を含む医薬組成物であって、該細菌株が任意にカナマイシンに耐性を有する。
【請求項9】
細菌株がc-di-AMPを過剰発現する、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
disA遺伝子がマイコバクテリアプロモーターに融合されている、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
薬学的に許容される担体が、リン酸緩衝液;クエン酸緩衝液;アスコルビン酸;メチオニン;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール;ブチルアルコール;ベンジルアルコール;メチルパラベン;プロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;サイクロヘキサノール;3ペンタノール;mクレゾールの群より選ばれる請求項8記載の医薬品組成物;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドン グリシン;グルタミン;アスパラギン;ヒスチジン;アルギニン;リジン;単糖類;二糖類;グルコース;マンノース;デキストリン;EDTA;スクロース;マンニトール;トレハロース;ソルビトール;ナトリウム;生理食塩水;金属界面活性剤;非イオン界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG);ステアリン酸マグネシウム;水;アルコール;食塩水;グリル;鉱油およびジメチル・スホキシド(DMSO)。
【請求項12】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することを含む、対象におけるウイルス感染の一次予防、改善または治療方法であって、それによって感染を治療する方法。
【請求項13】
ウイルス感染症が一次呼吸器感染症である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
感染症がSARS -CoV-2感染症である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
対象が、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張症、およびHIV/AIDSからなる群から選択される状態を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
細菌株がインターフェロン遺伝子の刺激物質(STING)アゴニストを過剰発現する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
STINGアゴニストがc-di-AMPである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
disA遺伝子がマイコバクテリアプロモーターに融合されている、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
細菌株の核酸配列がカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
細菌株が、カナマイシンに任意に耐性である、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
細菌株が選択可能なマーカーを含んでいる、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することを含む、被験者の細菌感染を予防、改善または治療する方法であって、それによって感染症を治療する。
【請求項23】
細菌感染症が一次呼吸器感染症である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
感染が非結核性マイコバクテリア感染症である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
被験者が嚢胞性線維症(CF)または非嚢胞性線維症気管支拡張症である、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
細菌株がインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項27】
STINGアゴニストがc-di-AMPである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
disA遺伝子がマイコバクテリアプロモーターに融合されている、請求項22に記載の方法。
【請求項29】
細菌株の核酸配列がカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項22に記載の方法。
【請求項30】
細菌株がカナマイシンに任意に耐性である、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することを含む、被験者のグルコースレベルを調節する方法であって、それによりグルコースレベルを調節する。
【請求項32】
グルコースレベルが、BCG細菌株の投与後に増加する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
BCG細菌株の投与後、グルコースレベルが低下する、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
細菌株がインターフェロン遺伝子の刺激物質(STING)アゴニストを過剰発現する、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
STINGアゴニストがc-di-AMPである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
細菌株の核酸配列がカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
細菌株が、カナマイシンに任意に耐性である、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与し、それによって免疫学的応答を誘導することを含む、ウイルス感染に苦しむ対象における免疫学的応答を誘導する方法である。
【請求項39】
BCG細菌株の投与が、肺肺胞マクロファージの増加、SCV2媒介T細胞リンパ球減少の防止、顆粒球肺浸潤の防止、肺の免疫グロブリン産生プラズマ細胞の増加、および/または肺のTreg細胞の増加を引き起こす、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
細菌株がインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
STINGアゴニストがc-di-AMPである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
細菌株の核酸配列がカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
細菌株がカナマイシンに任意に耐性である、請求項38に記載の方法。
【請求項44】
以下を含む核酸構築物:
プロモーター配列である;
M. tuberculosis disA配列;
シグナルペプチド;および
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインまたはその抗原性断片を操作可能な順序で配置する。
【請求項45】
プロモーター配列がHsp60プロモーターである、請求項44に記載の核酸構築物。
【請求項46】
SARS-CoV-2感染を有するかまたは有する危険性のある対象への投与のための、請求項44または45に記載の核酸構築物の使用。
【請求項47】
I型インターフェロンを投与することをさらに含む、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
請求項44または45に記載の核酸構築物を含む医薬組成物。
【請求項49】
SARS-CoV-2感染を有するかまたは有する危険性のある対象においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導する方法であって、請求項48に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項50】
投与が静脈内注射によるものである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
被験者がヒトである、請求項49に記載の方法。
【請求項52】
核酸構築物を含む医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む、ウイルス感染の一次予防、改善または治療方法であって、核酸構築物は、以下を含む:
プロモーター配列である;
M.tuberculosisのdisA配列;および
シグナルペプチドを、操作可能な順序で配置する、
これにより、ウイルス感染症を予防、改善、または一次治療することができる。
【請求項53】
ウイルス感染症が一次呼吸器感染症である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
被験者が高齢者、健康な成人、または結核のリスクがない幼児または子供である、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
対象が、肥満、糖尿病 、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張症、およびHIV/AIDSからなる群から選択される状態を有する、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
被験者が、免疫抑制療法の慢性的な使用、悪性腫瘍、放射線療法、骨髄移植、または化学療法により免疫抑制されている、請求項52に記載の方法。
【請求項57】
免疫抑制療法がステロイドまたは抗TNF剤である、請求項56に記載の方法 。
【請求項58】
被験者が、ウイルス感染への曝露のリスクが高い環境におかれている、請求項52に記載の方法。
【請求項59】
環境が、ヘルスケアまたはヘルスケア関連施設、刑務所または老人ホームである、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
核酸構築物が、ウイルスタンパク質またはその抗原性断片をさらに含む、請求項52に記載の方法。
【請求項61】
核酸構築物を被験者に投与することを含む、糖尿病を有する被験者の血糖を管理する方法であって、核酸構築物は、以下のものを含む:
プロモーター配列である;
M.tuberculosisのdisA配列;および
シグナルペプチドを、操作可能な順序で配置する、
これにより、血糖値を管理することができる。
【請求項62】
以下を含む核酸構築物:
プロモーター配列である;
M. tuberculosis disA配列;
ppiA シグナル配列である;
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質、またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン;および
シグナルペプチドを、操作可能な順序で配置する。
【請求項63】
以下を含む核酸構築物:
プロモーター配列である;
M. tuberculosis disA配列;
ppiA配列;および
シグナルペプチドを、操作可能な順序で配置する。
【請求項64】
ppiAシグナル配列およびウイルスタンパク質またはその抗原性断片をさらに含む、請求項63に記載の核酸構築物。
【請求項65】
ウイルスタンパク質またはその抗原性断片が、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインである、請求項64に記載の核酸構築物。
【請求項66】
請求項48に記載の核酸構築物を含む医薬組成物。
【請求項67】
対象者に請求項48の医薬組成物を投与することを含む、対象者におけるウイルス感染に対する免疫応答を誘導する方法。
【請求項68】
対象がSARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
医薬組成物の投与後、I型IFNのレベルの増加がある、請求項67に記載の方法。
【請求項70】
核酸構築物を含む医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む、非結核性マイコバクテリウム(NTM)感染を予防する方法であって、核酸構築物が、以下を含む:
プロモーター配列である;
M.tuberculosisのdisA配列;および
シグナルペプチドを、操作可能な順序で配置する、
これにより、非結核性抗酸菌(NTM)感染症を予防することができる。
【請求項71】
被験者が嚢胞性線維症(CF)または非嚢胞性線維症気管支拡張症(NCFB)を有する、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
核酸構築物が、細菌タンパク質またはその抗原性断片をさらに含む、請求項70に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年10月1日に出願された米国仮出願第63/086,559号の35 U.S.C. §119(e)に基づく優先権の利益を主張する。先行出願の開示は、本願の開示の一部とみなされ、参照によりその全体が本願に組み込まれる。
【0002】
[政府支持声明]
本発明は、National Institutes of Healthから授与されたR01A155346、AI155346およびAI037856の助成金による政府支援を受けて行われた。政府は、本発明について一定の権利を有している。
【技術分野】
【0003】
本発明は、一般にワクチンに関し、より具体的には、ウイルス感染症を予防するためのBCGベースのワクチンに関するものである。
【背景技術】
【0004】
現在進行中のSARS-CoV-2によるCovid-19パンデミックは、世界中で約3200万人が感染し、100万人以上が死亡し、世界の健康と経済に壊滅的な影響を及ぼしている。SARS-CoV-2は、ウイルスに感染しやすい体質の人が、炎症性メディエーターを無制限に産生し、急性呼吸困難症候群やサイトカインストーム症候群を引き起こし、致命的な疾病を引き起こすと考えられている。現在、いくつかの抗ウイルス剤、免疫調節治療薬、ワクチンが試験中だが、すでに承認されている治療薬やワクチンが有効で迅速に展開されれば、何千人もの命を救い、さらに高いレベルの罹患率と経済的苦難を防ぐことができる可能性を持っている。パンデミックは、結核性髄膜炎や播種性結核の予防、非筋肉浸潤性膀胱癌(NMIBC)患者のアジュバント免疫療法に最も広く用いられているワクチンの1つであるマイコバクテリウム・ボヴィスの弱毒株、バシル・カルメット・ゲラン(BCG)への関心を新たにした。BCG接種は、黄熱病、HPV、RSV、インフルエンザA、HSVなどの異種感染症に対する抵抗性をヒトに付与することが示されている。この予防効果は、訓練された免疫と呼ばれる自然免疫細胞のエピジェネティックな再プログラミングにより、新しい刺激に積極的に反応する能力が長期的に変化することに起因していると考えられている。このような観察に基づき、COVID-19予防のためのBCGの臨床試験が開始された。このような臨床試験が進行中であることは喜ばしいことだが、各試験地での発症時期や発症率、十分な患者数を登録することの難しさなどにより、その影響は限定的となる可能性がある。また、COVID-19の一部の患者では、BCGによって引き起こされる過剰な炎症反応が疾患を悪化させる可能性が懸念されている。したがって、SARS-CoV-2感染症におけるBCGの安全性と有効性を確保するためには、BCGを用いた動物実験による前臨床試験が決定的に必要である。
【0005】
また、最近の研究では、COVID-19の発症時には、ウイルスによって誘導される抗ウイルス性のI型インターフェロン(IFN)反応が鈍化・遅延し、本症の免疫病態に寄与していることが明らかになっている。したがって、I型IFNを早期に投与することが予防につながると考えられている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、BCG-disA-OEまたはBCG-STINGと称されるSTINGアゴニスト、c-di-AMPを過剰発現するBCG株を用いたBCGベースワクチンに関するものである。本発明はさらに、一次呼吸器感染症およびSARS-CoV-2などのウイルス感染症の予防、改善または治療のためのBCG-disA-OEの使用に関する。
【0007】
一実施形態では、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を提供し、ここで、細菌株は、任意でカナマイシンに耐性である。ある局面では、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。ある側面において、disA遺伝子は、M.tuberculosis disA遺伝子である。さらなる態様において、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。さらなる側面において、マイコバクテリアプロモーターはPHSP60である。1つの側面において、細菌株の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。追加の側面において、菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。ある側面では、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はさらにプラスミドを含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0008】
一実施形態では、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株と、薬学的に許容できる担体とを有する医薬組成物であって、細菌株が任意にカナマイシンに耐性である、医薬組成物を提供する。一態様では、細菌株は、c-di-AMPを過剰発現する。さらなる態様において、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。さらなる態様において、薬学的に許容される担体は、リン酸緩衝液;クエン酸緩衝液;アスコルビン酸;メチオニン;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム.塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール;ブチルアルコール;ベンジルアルコール;メチルパラベン;プロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール;低分子(約10残基以下)ポリペプチド;血清アルブミン;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドン グリシン;グルタミン;アスパラギン;ヒスチジン;アルギニン;リジン;単糖類;二糖類;グルコース;マンノース;デキストリン;EDTA;ショ糖;マンニトールトレハロース;ソルビトール;ナトリウム;生理食塩水;金属界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG);ステアリン酸マグネシウム;水;アルコール;生理食塩水;グリコール;鉱油またはジメチルスルホキシド(DMSO)。一態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有さない。特定の局面において、存在する場合、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、菌株はさらにプラスミドを含む。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0009】
追加の実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することにより、対象における一次的なウイルス感染を予防、改善または治療し、それによって感染症を治療する方法を提供する。ある態様において、ウイルス感染は、一次呼吸器感染である。特定の局面において、ウイルス感染は、非結核性マイコバクテリア感染症またはSARS-CoV-2感染症である。さらなる態様において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張症、およびHIV/AIDSからなる群から選択される状態を有する。さらなる態様において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の態様において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。一態様では、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。さらなる態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる態様において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0010】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することにより、対象における細菌感染を予防、改善または治療し、それによって感染症を治療する方法を提供する。ある側面では、細菌感染は、一次呼吸器感染症である。ある側面では、感染症は、非結核性マイコバクテリア感染症である。さらなる態様において、対象は嚢胞性線維症(CF)を有する。さらなる側面において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。ある局面では、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。さらなる態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる態様において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することにより、対象におけるグルコースレベルを調節する方法を提供する。一態様において、グルコースレベルは、BCG細菌株の投与後に増加する。さらなる態様において、グルコースレベルは、BCG細菌株の投与後に減少する。さらなる態様において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。さらなる態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる側面において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある局面では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。一実施形態では、本発明は、ディスA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与して、ウイルス感染に苦しむ被験者に免疫学的反応を誘導する方法を提供する。一態様において、BCG細菌株の投与は、肺の肺胞マクロファージの増加、SCV2媒介T細胞リンパ球減少の防止、顆粒球肺浸潤の防止、肺の免疫グロブリン産生プラズマ細胞の増加、及び/又は肺のTreg細胞の増加を引き起こす。追加の態様において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。追加の局面において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる側面において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。さらなる態様において、菌株は選択可能なマーカーをさらに含む。特定の態様において、選択可能なマーカーはカナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株はカナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変されている。
【0012】
一実施形態において、本発明は、プロモーター配列;M.tuberculosis disA配列;シグナルペプチド;およびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはその抗原性断片の受容体結合ドメインを作動可能に有する核酸構築物を提供する。一態様において、プロモーター配列は、Hsp60プロモーターである。
【0013】
追加の実施形態において、本発明は、SARS-CoV-2感染を有するかまたは有するリスクのある対象への投与のための核酸構築物の使用法を提供する。1つの態様において、対象は、I型インターフェロンを追加的に投与される。
【0014】
さらなる実施形態において、本発明は、核酸構築物を含む医薬組成物を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明は、核酸構築物を含む医薬組成物を投与することを含む、SARS-CoV-2感染を有するかまたは有するリスクのある対象において、SARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。一態様では、投与は静脈内注射によるものである。追加の態様において、対象はヒトである。
【0016】
追加の実施形態において、本発明は、核酸構築物を有する医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することによって、一次ウイルス感染を予防、改善または治療する方法を提供し、ここで、核酸構築物は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;およびシグナルペプチドを、作動可能な順序で有する。ある局面では、ウイルス感染は、一次呼吸器感染症である。特定の局面において、対象は、高齢者、健康な成人、または結核のリスクがない乳児もしくは小児である。追加の側面において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張症、およびHIV/AIDSからなる群から選択される状態を有する。ある態様において、対象は、免疫抑制療法の慢性的な使用、悪性腫瘍、放射線療法、骨髄移植、または化学療法に起因して免疫抑制されている。ある側面では、免疫抑制療法は、ステロイドまたは抗TNF剤である。さらなる態様では、対象は、ウイルス感染にさらされるリスクが高い環境にさらされる。様々な側面において、環境は、医療または医療関連施設、刑務所または介護施設である。一態様では、核酸構築物は、ウイルスタンパク質またはその抗原性断片をさらに含む。
【0017】
さらなる実施形態において、本発明は、核酸構築物を被験者に投与することによって、糖尿病を有する被験者の血糖を管理する方法を提供し、ここで、核酸構築物は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;およびシグナルペプチドを、作動可能な順序で有する。
【0018】
一実施形態では、本発明は、プロモーター配列;M.tuberculosis disA配列;ppiAシグナル配列;SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン;およびシグナルペプチドを、作動可能な順序で有する核酸構築物を提供する。
【0019】
追加の実施形態において、本発明は、プロモーター配列;M.tuberculosis disA配列;ppiA配列;およびシグナルペプチドを作動可能な順序で有する核酸構築物を提供する。一態様において、核酸構築物は、ppiAシグナル配列も有し得る。
【0020】
一態様において、核酸構築物は、ウイルスタンパク質またはその抗原性断片を含む。
【0021】
追加の態様では、ウイルスタンパク質またはその抗原性断片は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインである。
【0022】
一実施形態では、本発明は、本明細書に開示される核酸構築物のいずれかを有する医薬組成物を提供する。
【0023】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の核酸構築物を有する医薬組成物を被験者に投与することにより、被験者のウイルス感染に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。一態様では、対象は、SARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある。追加の態様において。医薬組成物の投与後にI型IFNのレベルの増加がある。
【0024】
一実施形態では、本発明は、核酸構築物を含む医薬組成物を、それを必要とする被験者に投与することを含む、非結核性マイコバクテリウム(NTM)感染を予防する方法であって、核酸構築物は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;およびシグナルペプチドを、作動可能な順序で有する、方法を提供する。一態様において、対象は、嚢胞性線維症(CF)または非嚢胞性線維症気管支拡張症(NCFB)を有する。別の態様では、核酸構築物は、細菌タンパク質またはその抗原性断片をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、STINGアゴニストとSARS-CoV-2タンパク質断片を過剰発現した組換えBCGの説明図である。
図2図2A~Cは、BCGとdisAを用いたワクチンの模式図である。図2A:プロモーター、disA配列、ppiAシグナル配列、およびウイルスタンパク質または断片を示す図である。図2B:プロモーター、disA配列およびppiA配列を有する2価のワクチンである。図2C:プロモーター、disA配列、ppiA配列、ppiAシグナル配列およびウイルスタンパク質またはそのフラグメントを有する3価ワクチン。
図3図3A-Bは、Mtb ppiAがI型IFNを増強することを示している。図3A:生の青色ISG細胞。図3B: C57BL/6 BMDMS。
図4図4A~Dは、肺の病理の有病率結果である。図4A:気管支肺炎の有病率。図4B:好中球の浸潤の有病率。図4C:マクロファージ有病率。図4D:肉芽腫の有病率。
図5図5A-Dは、BCGワクチン接種がSCV2媒介の肺T細胞リンパ球減少を鈍らせ、マクロファージの肺への動員を促進し、顆粒球による肺浸潤を減少させることを示している。図5A: CD3+ T細胞。図5B: CD4+細胞。図5C:マクロファージ。図5D:顆粒球。
図6図6は、各治療グループの6種類のリンパ系細胞について、UMAP(uniform manifold approximation and projection)プロットをグラフベースでクラスタリングしたものである。
図7図7A-Cは、細胞分画と差次制御遺伝子(DEGs)を示す。図7A:scRNAseqによるリンパ系細胞の6つのサブセットにわたる相対的な細胞分画を示す。図7B:動物別の各処置群におけるCD4+、NKT、ProT、B、Treg、およびプラズマ細胞フラクション。図7C:プラズマ細胞免疫グロブリン産生を示す。
図8図8A-Bは、細胞分画と差次制御遺伝子(DEGs)を示す。図20A:scRNAseqによる骨髄系細胞の10個のサブセットにわたる相対的な細胞分画を示す。図20B:動物別の各処置群におけるIM、C1q+AM、lsg15+IM、AM、Macro+AM、Apoe+AM、Gngt2+IM、S100a8+IM、Pro AM、およびDC細胞フラクション。
図9図9A-Bは、細胞分画と差次制御遺伝子(DEGs)を示す。図24A:scRNAseqによる顆粒球の6つのサブセットにわたる相対的な細胞分画を示す。図24B:動物別の各処置群におけるSell+Granulocuye、Fcnb+Granulocyte、Camp_Granulocyte、lsg15+Granulocyte、Il1rn_Granulocyte、Pro Granulocyte細胞フラクションを示す。
図10図10A-Bは、CD4+ T細胞における差次的発現遺伝子を示す。図10A:SCV2よりもBCG-STING-SCV2肺でより多く発現したDEGのTヘルパー遺伝子オントロジー。図10B: BCG-STING-SCV2よりもSCV2肺でより多く発現したDEGのTヘルパー遺伝子オントロジーを示す。
図11図11A-Bは、肺胞マクロファージにおける差次的発現遺伝子を示す。図11A:SCV2よりもBCG-STING-SCV2肺でより発現したDEGの肺胞マクロファージ遺伝子オントロジーを示す。図11B:BCG-STING-SCV2よりもSCV2肺で発現量が多いDEGの肺胞マクロファージ遺伝子オントロジーを示す。
図12図12A-Bは、Il1rn+顆粒球における差次的発現遺伝子を示す。図12A:SCV2よりもBCG-STING-SCV2肺でより多く発現したDEGのIl1rn+顆粒球の遺伝子オントロジーを示す。図12B: BCG-STING-SCV2よりもSCV2肺でより多く発現しているDEGのIl1rn+顆粒球の遺伝子オントロジー。
図13図13A~Hは、BCG-disA-OEの抗腫瘍効果の向上がSTING依存性であることを示している。図13A:剖検時の腫瘍重量。図13B:腫瘍における総CD45+免疫細胞。図13C:腫瘍浸潤CD3+リンパ球の総数。図13D:IFN-Y+の腫瘍浸潤CD8+細胞。図13E-F:活性化CD8+ T細胞。図13G:腫瘍浸潤炎症性マクロファージ。図13H:剖検後のMB49腫瘍におけるTNF+免疫抑制性マクロファージの存在量の差分。2-tailed Student's t-test。
図14図14は、剖検時の腫瘍体積を示す。
図15図15A-Bは、骨髄由来マクロファージ(BMDM)におけるBCG誘導差分グルコース取り込みを示す図である。図15A-B:MCG株の感染後のBMDMにおけるGLUT1の誘導発現および細胞内蛍光2-NBDGによって測定される差分グルコース取り込みを示す棒グラフである。
図16図16A-Bは、BCG-STINGと低分子STINGアゴニスト(ADU-S100)の比較である。図16A:STINGアゴニストADU-S100。図16B:腫瘍の病期分類データ。
図17図17A-Bは、嚢胞性線維症のデータである。図17A:調査期間中のCF患者におけるNTM感染の年間率を、集計(すべての国)および普遍的BCG接種方針(BCG中断 vs. 積極的普遍的BCG接種)ごとに報告したものである。図17B:調査期間中にユニバーサルBCGワクチン接種を実施した国のCF患者におけるNTM感染年間率をBCG接種方針(単回接種と複数回接種)別にグループ分けし、BCG接種を中断した国との比較で示した。
図18図18A~Hは、BCG-STINGおよびBCG-WTワクチン接種動物における肺病変の有病率結果を、ワクチン接種動物と比較して示す。図18Aは、気管支肺炎の有病率を示し、図18Bは、好中球浸潤の有病率を示す。図18Cは、マクロファージ浸潤の有病率を示し、図18Dは、間質性浸潤の有病率を示す。図18Eは、リンパ球浸潤の有病率を示し、図18Fは、血管周囲の炎症有病率を示す。図18Gは、肺胞内炎症有病率を示し、図18Hは、気管支周囲炎症有病率を示す。
【0026】
本発明は、BCG-disA-OEまたはBCG-STINGと称されるSTINGアゴニスト、c-di-AMPを過剰発現するBCG株を用いたBCGベースの治療薬に関する。本発明はさらに、一次呼吸器感染症およびSARS-CoV-2などのウイルス感染症の予防、改善または治療のためのBCG-disA-OEの使用に関する。
【0027】
本組成物および方法を説明する前に、本発明は、そのような組成物、方法、および条件が変化し得るので、説明した特定の組成物、方法、および実験条件に限定されないことが理解されるものとする。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲においてのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は特定の実施形態を説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0028】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈から明らかに指示されない限り、複数の参照を含む。したがって、例えば、「本方法」への言及は、本開示等を読めば当業者に明らかになるであろう、本明細書に記載されるタイプの1つまたは複数の方法、および/またはステップを含む。
【0029】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許または特許出願が参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0030】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、この発明が属する技術分野における通常の技術者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、修正および変形が、即席の開示の精神および範囲内に包含されることが理解されるであろう。ここで、好ましい方法および材料について説明する。
【0031】
本明細書で使用する「核酸」または「核酸配列」という語句は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはこれらのいずれかの断片、ゲノムまたは合成由来のDNAまたはRNA(一本鎖または二本鎖であってもよく、センスまたはアンチセンス鎖を表すことができる)、ペプチド核酸(PNA)または天然もしくは合成由来の任意のDNA様またはRNA様材料を指す。核酸」または「核酸配列」という語句は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはこれらのいずれかの断片に、DNAまたはRNA(例えば、mRNA、rRNA、tRNA、iRNA)、一本鎖または二本鎖であってもよく、センス鎖またはアンチセンス鎖を表すゲノムまたは合成由来のもの、ペプチド核酸(PNA)、または天然または合成由来の任意のDNA様またはRNA様物質、例えば、iRNA、リボ核タンパク質(例えば、二本鎖iRNA、例えばiRNP)などを含む。この用語は、天然ヌクレオチドの既知の類似体を含む核酸、すなわち、オリゴヌクレオチドを包含する。この用語はまた、合成バックボーンを有する核酸様構造を包含する、例えば、Mata(1997)Toxicol.Appl.Pharmacol.144:189-197; Strauss-Soukup (1997) Biochemistry 36:8692-8698; Samstag (1996) Antisense Nucleic Acid Drug Dev 6:153-156を参照のこと。"オリゴヌクレオチド"は、一本鎖のポリデオキシヌクレオチドまたは化学的に合成され得る2つの相補的なポリデオキシヌクレオチド鎖のいずれかを含む。このような合成オリゴヌクレオチドは、5′リン酸を有さず、したがって、キナーゼの存在下でATPを用いてリン酸を付加しなければ、別のオリゴヌクレオチドにライゲートしない。合成オリゴヌクレオチドは、脱リン酸化されていない断片にライゲーションすることができる。
【0032】
「遺伝子」とは、ポリペプチド鎖の生成に関与するDNAのセグメントを意味し、コード領域に先行する領域及び後続する領域(リーダー及びトレーラー)、並びに場合により個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含む。本明細書で使用される「操作可能に連結された」とは、2つ以上の核酸(例えば、DNA)セグメント間の機能的関係を意味する。典型的には、転写調節配列と転写される配列との機能的関係を指す。例えば、プロモーターは、適切な宿主細胞または他の発現系においてコード配列の転写を刺激または調節する場合、本発明の核酸のようなコード配列に作動可能に連結される。一般に、転写配列に作動可能に連結しているプロモーター転写調節配列は、転写配列に物理的に連続している、すなわち、シス作用性である。しかし、エンハンサーのようないくつかの転写調節配列は、物理的に連続している必要はなく、また、その転写を増強するコーディング配列に近接して位置している必要もない。
【0033】
本明細書で使用する場合、「プロモーター」という用語は、細胞、例えば植物細胞においてコード配列の転写を駆動することができる全ての配列を含む。したがって、本発明の構築物において使用されるプロモーターは、遺伝子の転写のタイミングおよび/または速度の調節または調整に関与するシス作用性転写制御要素および調節配列を含む。例えば、プロモーターは、エンハンサー、プロモーター、転写ターミネーター、複製起点、染色体統合配列、5′および3′非翻訳領域、またはイントロン配列を含む、転写制御に関与するシス作用性転写制御要素であり得る。これらのシス作用配列は、通常、タンパク質または他の生体分子と相互作用して転写を実行(オン/オフ、調節、モジュレーションなど)する。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの環境条件や発生・細胞分化の状態において、継続的に発現を促すものである。"誘導性"または"調節可能"プロモーターは、環境条件または発生条件の影響下で、本発明の核酸の発現を指示する。誘導性プロモーターによる転写に影響を与えうる環境条件の例としては、嫌気性条件、高温、干ばつ、または光の存在などが挙げられる。
【0034】
本明細書において、「治療」という用語は、「治療方法」という用語と互換的に使用され、1)診断された病的状態又は障害の治癒、減速、症状の軽減、及び/又は進行の停止を行う治療的処置又は手段、及び2)予防的/予防的手段の両方を指している。治療を必要とする者には、既に特定の医学的障害を有する者だけでなく、最終的にその障害を獲得する可能性のある者(すなわち、予防措置を必要とする者)も含まれ得る。
【0035】
治療上有効な量」、「有効量」、「治療上有効な用量」、「有効量」等の用語は、研究者、獣医師、医学博士または他の臨床医が求めている組織、システム、動物またはヒトの生体反応または医療反応を引き出す主題化合物の量を指す。一般に、応答は、患者の症状の改善または所望の生物学的結果のいずれかである。有効量は、本明細書に記載されるように決定することができる。
【0036】
用語「の投与」およびまたは「投与する」は、治療を必要とする対象に治療上有効な量の医薬組成物を提供することを意味すると理解されるべきである。投与経路は、経腸、局所または非経口であり得る。このように、投与経路には、皮内、皮下、静脈内、腹腔内、動脈内、髄腔内、眼窩内、心臓内、皮内、経皮が含まれるが、これらに限定されるものではない、経気管、皮下、関節包内、被膜下、くも膜下、脊髄内および胸骨内、経口、舌下頬、直腸、膣、鼻眼投与、ならびに輸液、吸入およびネブライゼーション。本明細書で使用される「非経口投与」及び「非経口投与」という語句は、経腸投与及び局所投与以外の投与様式を意味する。医薬組成物は、投与方法に応じて様々な単位投与形態で投与することができる。好適な単位剤形としては、粉末、錠剤、ピル、カプセル、トローチ、座薬、パッチ、点鼻薬、注射剤、埋め込み型徐放性製剤、脂質複合体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明によれば、用語「ワクチン」は、投与により免疫応答、特に病原体や癌細胞などの疾患細胞を認識して攻撃する細胞性免疫応答を誘導する医薬製剤(医薬組成物)または製品に関するものである。ワクチンは、疾患の予防や治療のために使用されることがある。
【0038】
Covid-19の病態には、宿主の自然免疫応答の乱れが寄与している。感染初期には、強力な宿主防御機構によってウイルス複製が抑制され、その後、炎症が低レベルになり、症状が軽くなり、予後も良好となる。一方、宿主防御機構に欠陥がある場合は、ウイルスの大量増殖、全身性の高炎症、重症化、そして最終的には死亡に至る可能性がある。マクロファージの訓練された免疫力は、ウイルスに対する初期の免疫反応を高めるのに役立つ(予防)。Covid-19サイトカインストームの主成分であるIL-6を標的とすることで、過剰な炎症をブロックし、症状や病態を緩和することができる(治療的)。
【0039】
BCG-disA-OEは、マクロファージの高次訓練免疫を増強し、被験者における初期の抗ウイルスType Iインターフェロン応答を促進する。BCG-disA-OEと呼ばれる組換えBCG株が生成された。disA遺伝子は、STINGアゴニストである環状di-AMPの生産を触媒する内因性diadenylate cyclase遺伝子である。BCG-disA-OEは、モルモットの結核の重症度を軽減する上で、標準BCGよりも優れていることが示されている。BCG-disA-OEは、マウスおよびラットの膀胱癌の治療において、標準的なBCGよりも優れていることが示されている。最後に、BCG-disA-OEは2つの異なるマウスモデルにおいて、標準的なBCGよりも安全であることも示されている。
【0040】
I型IFNの産生が遅れると、肺胞上皮細胞(マクロファージや間質細胞も含む)による単球走化性物質の放出が促進され、血中単球が肺に持続的に動員される。単球は炎症性マクロファージに分化する。活性化したナチュラルキラー(NK)細胞やT細胞は、単球由来のマクロファージの採用と活性化をさらに促進する。TLR7などの細胞内RNAセンサーによるウイルス感知は、I型IFNを促進し、SARS-CoV-2エントリーレセプターの発現を誘導し、ウイルスがマクロファージの細胞質へのアクセスを可能にし、NLRP3インフラマソームを活性化して成熟IL-1βやIL-18の分泌につながる。活性化した単球由来のマクロファージは、大量の炎症性サイトカインを放出し、COVID-19のサイトカインストームに貢献する。
【0041】
訓練された免疫とは、自然免疫の一種で、第一の抗原刺激によって第二の異種刺激に対する免疫応答が増強されるものである。訓練免疫のメカニズムは、最初の刺激によって誘発されるエピジェネティックな変化とメタボローム変化により、新たな異種刺激に対する免疫学的セットポイントを引き上げると考えられている。最近のデータでは、BCG-disA-OEは、免疫細胞においてより強力な訓練された免疫(エピジェネティックおよびメタボローム変化により測定)を誘発することが示されている。
【0042】
標準BCGは、訓練された免疫機構により、インフルエンザ、RSV、黄熱病などを含むウイルス感染症に対して保護的であることが示されている。標準BCGよりも強い訓練された免疫を引き出すので、本発明は、BCG-disA-OEがCOVID-19を含むウイルス感染症に対して保護的であることを提供する。第二に、BCG-disA-OEワクチン接種は、COVID-19を含むウイルス感染症の重症度を低下させ得る。
【0043】
本明細書において、BCG-disA-OEが、BCG-WTよりもはるかに高いI型IFN応答をインビトロおよびインビボで惹起することが示される。具体的には、現在、BCGおよびM.tbは、強力なI型IFN応答と増加したレベルのオートファジーを誘発する低レベルのc-di-AMPを発現し、BCG-野生型(WT)と比較して、BCG-disA-OEが示すことを示す:モルモットモデルにおける結核からの優れた保護、2つの動物モデルにおけるNMIBCに対する優れた膀胱内効果、2つのマウスモデルにおける安全性の向上、マクロファージおよび膀胱がん細胞/細胞株におけるより強力な炎症性サイトカイン応答、M1シフト、貪食の強化およびオートファジーを伴う骨髄系細胞極性の向上、ヒトMDMにおけるより高度な炎症性エピジェネティクスマーク、ヒトMDMにおける糖化への大きなメタボリズムシフト。
【0044】
STINGアゴニストを過剰発現したBCG(BCG-disA-OEまたはBCG-STING)は、BCG-WTによって付与されることがすでに知られているマクロファージの訓練免疫の上昇を促進し、さらに重要な初期の抗ウイルスI型IFN応答を促進するという2つの目的を担っている。
【0045】
新型コロナウイルスSARS-CoV-2による世界的な大流行「Covid-19」は、世界中で深刻な健康・経済危機を引き起こし、複数の大陸に住む数十億人の人々の生活に劇的な影響を与えている。本稿執筆時点で、全世界で1100万人が感染し、50万人以上が死亡している。この病気は何カ月も世界的な大流行が続くと予想され、北半球の秋から冬にかけて悪化すると予測する専門家もいる。有効なワクチンは、広く苦痛を与え、死さえももたらす。併存疾患、年齢、非遺伝的および遺伝的な危険因子が、病気の進行に寄与しているようだ。BCGワクチンは、小児の髄膜炎や播種性結核に対する予防効果が証明されており、自然免疫細胞のエピジェネティック、転写的、機能的再プログラミングを介する訓練免疫として知られる長期の自然免疫応答の誘導によって、異種感染から保護することが示されている。BCGは、最も優れたワクチンアジュバント(プライミング剤)の1つであることが知られている。BCGは、他の結核ワクチンとのプライミング剤として、多くのプライムブースト試験で使用されてきた。したがって、BCGによる訓練された免疫の誘導は、SARS-CoV-2に対する感受性を低下させ、疾患の重症度を軽減する可能性があることが提案されている。現在、COVID-19に対するBCG接種の効果を評価するいくつかの臨床試験が進行中である。BCGワクチンは、特定のCOVID-19ワクチンが完全に実施される前の暫定的な解決策を提供するだけでなく、BCGによる訓練免疫が新興病原体に対する有効な手段として実際に証明されれば、BCGは将来のコロナウイルス関連パンデミックの初期段階で使用する安全なブリッジワクチンとして機能する可能性もある。しかし、COVID-19の一部の患者では、BCGによって引き起こされる過剰な炎症反応が疾患を悪化させる可能性が懸念されている。したがって、BCGによる訓練された免疫のアップレギュレーションが、重度のコビド-19患者の疾患を悪化させないことを確認するためには、動物実験を用いた前臨床試験だけでなく、無作為化ヒト臨床試験も決定的に必要である。さらに、動物モデルでは、新規STINGアゴニスト発現組換えBCGの有効性が必要とされ、Covid-19で観察された初期の抗ウイルスI型インターフェロン反応の遅延の克服を助けることにより、保護効果をもたらす可能性がある。
【0046】
BCGは、1921年にフランスの微生物学者Albert CalmetteとCamille Guerinによって、結核の弱毒生ワクチンとして開発されたものである。現在、米国とカナダ、西欧の一部の国を除く世界のほぼすべての国で、新生児に皮内BCGが投与されている。BCGは歴史上最も広く利用されているワクチンで、年間1億5,200万回接種され、少なくとも5回のBCG接種が行われていると考えられている。20世紀半ば、BCGはメラノーマ、乳がん、大腸がんなど、さまざまな固形がんに対する腫瘍内免疫療法として成功裏に使用された。しかし、細胞毒性化学療法が普及するにつれて、その使用は好まれなくなった。1976年、膀胱内BCGが非筋肉浸潤性膀胱がん(NMIBC)の免疫療法として有効であることが判明して以来、BCGはNMIBCの治療に使用されており、がんに対する唯一の細菌剤としてFDAに承認されている。
【0047】
BCGは、ウイルス感染症を含む無関係な感染症から保護する。数多くの研究により、BCGはヒトと動物モデルの両方で、多数のウイルス感染に対して異種防御効果を与えることが明らかにされている。BCGを接種したヒトは、偽ワクチン接種者よりも、減弱したYFV株によるチャレンジ後のYFVウイルス血症を制御する能力が高いことが示されている。また、RCTでは、BCGが呼吸器感染症を予防できることが示されている。死亡率の高いギニアビサウでは、BCGにより新生児の全死亡率が38%減少したが、その主な理由は肺炎と敗血症による死亡が少なかったためである。南アフリカでは、BCGにより青年の呼吸器感染症が73%減少した。
【0048】
BCG接種が無関係なウイルスや細菌感染に対して異種防御効果をもたらすという発見から、最近発見された訓練された免疫(TI)という現象に関心が高まっている。TIは、自然免疫防御の理解におけるパラダイムシフトを意味する。TIは、自然免疫細胞において、特定の受容体シグナル伝達経路を活性化し、エピジェネティック、代謝的、転写的な変化を引き起こすとされている。TIは、炎症性サイトカインの産生を促進し、その後のチャレンジに対して非特異的かつ増強的な免疫応答をもたらすなど、様々な形で現れる。重要なことは、動物モデルの予備的研究で、STINGアゴニストを過剰発現させたBCGがマクロファージにおいてTIを促進することが強く示唆されたことである。
【0049】
現在BCGワクチン接種を実施している国は、実施していない国に比べてSARS-CoV-2の発症率および死亡率が低い。MillerらとShetらによる最近の研究では、COVID-19の発生率を、現在BCGの普遍的なワクチン接種政策が実施されているかどうかに基づいて国ごとに比較した。BCGを接種していない高・中・高所得国(例:イタリア、米国)は、BCGを接種している国(例:日本、ブラジル、デンマーク)よりもSARS-CoV-2感染率(p=0.0064)および死亡率(p=0.00086)が著しく高いことがわかりました。これらの結果は、BCGがSARS-CoV-2に対する予防効果を示す可能性があるという議論を強化するものである。
【0050】
過去5年間にBCGを接種した、または接種していない2つの比較的少人数のボランティアを対象としたレトロスペクティブ研究で決定されたBCG接種の安全性プロファイルは、BCG接種が疾患の発生率やCOVID-19症状の重症度の上昇と関連していないことを示している。また、さまざまな疾患で入院した198名の高齢者を対象に、退院時にBCGまたはプラセボを投与する群に無作為に割り付けたACTIVATE試験の中間解析では、BCGにより初感染までの期間が有意に短縮され、副作用の発生頻度に群間差はないことが示された。これらのデータは、BCG接種が安全であり、高齢者を感染症から守ることができることを示している。しかし、COVID-19に対する防御を評価するためには、より大規模な研究が必要である。
【0051】
Covid-19の治療法として初期のI型IFNシグナルを促進するI型IFNシグナルは強力な抗ウイルス免疫応答を誘導する。最近の研究では、他の呼吸器系ウイルスとは対照的に、SARS-CoV-2感染後のI型IFN応答は、ウイルスが宿主のシグナル伝達に干渉するために著しく低下し、I型IFNによる前処理はSARS-CoV-2の複製を抑えることができることが示された。重症患者においては、I型IFN応答が著しく低下し、その結果、IFN刺激遺伝子のダウンレギュレーションが観察され、高血中ウイルス量とTNFa、IL-6、ケモカインの増加を特徴とする炎症反応の悪化と関連している。STINGの活性化はI型IFN反応を強力に誘導することから、STINGアゴニストを過剰発現させたBCGは、従来のBCGに比べ優れた抗SARS-CoV-2保護を提供する可能性があると考えられる。
【0052】
STINGアゴニストは、強力なI型IFN応答を引き起こす。最近の研究で、細胞内センサーであるSTINGが、細胞ストレスや病原体感染に対する自然免疫応答を媒介する上で、重要な役割を担っていることが明らかになった。STINGは、細菌が産生する環状ジヌクレオチドc-di-AMPやc-di-GMPなどの病原体関連分子パターン(PAMP)分子と、2',3'環状GMP-AMP(cGAMP)などの内因性哺乳類危険信号DAMP分子の両方の細胞質受容体となる。cGAMPは微生物または自己由来の細胞質二本鎖DNAに反応してcGAS(cyclic GMP-AMP synthase)によって合成される。STINGの活性化は、I型インターフェロン(IFNa/6)を含む多数のインターフェロン刺激遺伝子を誘導し、インターフェロン制御因子(IRF)転写因子の誘導に続くか並行して、NF-KBおよびSTAT6転写因子の共活性化に関連している。このように、内因性および外因性の環状ジヌクレオチド(CDN)は、TLRに依存しない自然宿主防御の強力なメディエーターである。STINGシグナル伝達の重要な役割に基づき、低分子STINGアゴニストを用いた経路の薬理学的刺激は、現在、抗ウイルス療法や抗腫瘍免疫の強化のために試験されている。現在、少なくとも15社が低分子STINGアゴニストの開発に取り組んでおり、2つの薬剤が第2相試験中である。
【0053】
STINGアゴニストを過剰発現するリコンビナントBCGの開発。M.tbとBCGは、天然のヒトSTINGリガンドであるcGAMPと密接に関連するSTINGアゴニストであるcyclic-di-AMPを合成・分泌することが明らかにされている。細菌由来のc-di-AMPはIRF3経路を活性化し、STING依存的なシグナル伝達を通じてI型IFN応答を誘導することが示された。今回の微生物病態研究では、BCG-disA-OEと呼ばれる遺伝子組み換えBCG株を用い、内在性の微生物由来ジアデニル酸シクラーゼ遺伝子であるdisAを、マイコバクテリアの強力プロモーターであるPhsp60に融合させ、mRNAレベルで200倍以上のdisA過剰発現と15倍以上のc-di-AMP生産過剰を引き起こした(図2)。予備的な結果は、BCG-disA-OEによって誘導される訓練された免疫の優れた有効性と誘導の証拠を提供する。
【0054】
一実施形態では、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を提供し、ここで、細菌株は、任意でカナマイシンに耐性である。ある局面では、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。ある側面において、disA遺伝子は、M.tuberculosis disA遺伝子である。さらなる態様において、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。さらなる側面において、マイコバクテリアプロモーターはPHSP60である。さらなる側面において、細菌株の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。付加的な側面において、その菌株は、選択可能なマーカーをさらに含んでいる。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はさらにプラスミドを含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0055】
BCG(Bacillus Calmette-Guerin)ワクチンは、主に結核に対するワクチンとして使用される。BCGは、弱毒化された生きたウシ結核菌の株から調製される。BCGは、「訓練された免疫」と総称されるプロセスを通じて、ミエロイド細胞とNK細胞の両方を再プログラムすることが示されている。BCGはマクロファージに速やかに貪食され、ウイルスを含む異種抗原との再チャレンジにより、免疫セットポイントを上昇させるエピジェネティックおよびメタボローム修飾を誘発することが示されている。異種抗原との再チャレンジにより、BCGで訓練されたマクロファージはサイトカイン放出の上昇を示し、M1様表現型への再プログラミングを示す。これらの初期現象は、異種BおよびTリンパ球の活性化、抗体価の上昇、さらに自然リンパ球(ILC)や粘膜関連不変性T(MAIT)細胞などの非従来型T細胞の増殖と関連している。BCGはまた、骨髄の造血幹細胞(HSC)や多能性前駆細胞(MPP)の「訓練された」集団を拡大し、その後の病原体の侵入に対する防御を強化することにつながる。
【0056】
ヒトを対象としたBCGワクチン接種のランダム化比較試験で、弱毒生黄熱ウイルスの制圧力が向上することが示された。また、動物実験では、2種類のポジティブセンス1本鎖RNAウイルスを含む少なくとも8種類のウイルスに対してBCGが有効であることが同様に証明されている。
【0057】
M. tuberculosis (Mtb)とBCGは、天然のヒトSTINGリガンドであるcGAMPと密接に関連するSTINGアゴニストであるcyclic-di-AMPを合成し分泌する。細菌由来のc-di-AMPはIRF3経路を活性化し、STING依存的なシグナル伝達によりI型IFN応答を誘導することが示された。結核菌ゲノムのdisA遺伝子は、ジアデニル酸シクラーゼ酵素をコードしている。BCG-disA-OEあるいはBCG-STINGと呼ばれる遺伝子組み換えBCG株は、disAを強力なマイコバクテリアプロモーターPhsp60と融合させることにより、mRNAレベルで200倍、-cdiAMPを-15倍過剰に発現させることができた。
【0058】
追加の実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供し、ここで細菌株は任意でカナマイシンに耐性である。一態様では、細菌株は、c-di-AMPを過剰発現する。追加の態様において、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。特定の局面において、薬学的に許容される担体は、リン酸緩衝液;クエン酸緩衝液;アスコルビン酸;メチオニン;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム.塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール;ブチルアルコール;ベンジルアルコール;メチルパラベン;プロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール;低分子(約10残基以下)ポリペプチド;血清アルブミン;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドングリシン;グルタミン;アスパラギン;ヒスチジン;アルギニン;リジン;単糖類;二糖類;グルコース;マンノース;デキストリン;EDTA;ショ糖;マンニトールトレハロース;ソルビトール;ナトリウム;生理食塩水;金属界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG);ステアリン酸マグネシウム;水;アルコール;生理食塩水;グリコール;鉱油またはジメチルスルホキシド(DMSO)。追加の態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。追加の側面において、菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はさらにプラスミドを含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0059】
本明細書で使用する「医薬組成物」とは、有効成分、および任意に薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を含む製剤をいう。用語「有効成分」は、互換的に「有効成分」を指すことができ、投与時に求められる効果を誘発することができる任意の薬剤を指すことを意味する。有効成分の例としては、化合物、薬剤、治療薬、低分子などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0060】
薬学的に許容される」とは、担体、希釈剤または賦形剤が、製剤の他の成分と適合し、その受容体、および製剤の有効成分の活性に対して劇的に変化しないものでなければならないことを意味する。薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤は、当該技術分野でよく知られており、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A.Ed.(1980).薬学的に許容される担体、賦形剤、または安定剤は、採用される用量および濃度でレシピエントに対して無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩、および他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンなどの抗酸化剤;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子(約10残基以下)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース、デキストリンなどの単糖類、二糖類、その他の炭水化物など;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)などのノニオン性界面活性剤など。担体の例としては、リポソーム、ナノ粒子、軟膏、ミセル、マイクロスフェア、マイクロパーティクル、クリーム、エマルジョン、およびゲルが挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤の例としては、ステアリン酸マグネシウムのような付着防止剤、サッカライドおよびその誘導体(スクロース、ラクトース、スターチ、セルロース、糖アルコールなど)のような結合剤、ゼラチンのようなタンパク質および合成ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない、タルク、シリカなどの滑剤、および酸化防止剤、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、パルミチン酸レチニル、セレン、システイン、メチオニン、クエン酸、硫酸ナトリウム、パラベンなどの防腐剤など。希釈剤の例としては、水、アルコール、生理食塩水、グリコール、鉱油、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
さらなる実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与し、それによって感染症を治療することを含む、対象における一次ウイルス感染症を予防、改善または治療する方法を提供する。ある態様において、ウイルス感染は、一次呼吸器感染である。ある側面では、感染症は、非結核性マイコバクテリア感染症またはSARS-CoV-2感染症である。追加の側面において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張症、またはHIV/AIDSを有する。ある態様において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。さらなる態様において、disA遺伝子は、M.tuberculosis disA遺伝子である。さらなる態様において、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。特定の局面において、マイコバクテリアプロモーターはPHSP60である。追加の局面において、細菌株の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる側面において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有さない。さらなる態様において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0062】
さらなる実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することにより、対象におけるグルコースレベルを調節する方法を提供する。一態様において、グルコースレベルは、BCG細菌株の投与後に増加する。さらなる態様において、グルコースレベルは、BCG細菌株の投与後に減少する。さらなる態様において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。さらなる態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる側面において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0063】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することにより、ウイルス感染に苦しむ対象において免疫学的応答を誘導する方法を提供する。一態様において、BCG細菌株の投与は、肺の肺胞マクロファージの増加、SCV2媒介T細胞リンパ球減少の防止、顆粒球肺浸潤の防止、肺の免疫グロブリン産生プラズマ細胞の増加、および/または肺のTreg細胞の増加を引き起こす。追加の態様において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。追加の局面において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる側面において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0064】
特定の実施形態において、本発明は、嚢胞性線維症または非嚢胞性線維症気管支拡張症を有する患者における非結核性マイコバクテリウム感染を予防する方法を提供する。最近、ミズーリ州セントルイスの5人の健康な人々にBCGを筋肉内投与した前向き臨床試験で、NTMに対する保護免疫のワクチン接種後の増加が観察された。BCGによるNTMに対する防御について、さらに説得力のあるヒトの証拠が、BCGワクチン接種が中断または中止された、強力な監視プログラムを持つヨーロッパ諸国から得られている。フランスでは、強制的なBCGワクチン接種が中止された後、文化的に確認されたNTM頸部リンパ節炎の平均発生率が、年間10万人の子供あたり0.57から3.7に急激に増加した。同様に、フィンランドで行われた大規模なレトロスペクティブな集団ベースの研究では、2006年にBCG政策が普遍的な接種戦略から選択的な接種戦略に変わったとき、小児NTM感染が急激に増加し、発生率比は19.03(95% CI, 8.8-41.07; P<0.001)になった。これらの研究は、BCGがヒトのNTM疾患に対する交差防御を提供するという仮説を支持するものである。
【0065】
国別のBCG接種政策について、WHOと欧州CF学会患者登録(ECFSPR)で報告された2019年のNTM感染率に基づき、独立した評価を実施した。表1に示すように、NTM感染率の低さは、普遍的にBCGワクチンを接種しているヨーロッパの国々でしばしば観察され、一方、標準的なBCGワクチン接種戦略を中止した国々、特に1980年代または1990年代にワクチン接種を中止した国々では高い感染率が観察される。リストアップされた国は、ECFSPRに登録された国内CF人口の75%以上が存在し、NTM感染に関するデータの欠落が少ない国である。ブラジルのCF患者においても、同様の低いNTM感染率が見られる。これらの結果は、BCGワクチン接種がCF患者のNTM感染を予防する可能性があるという仮説を支持するものである。
【0066】
[表1]
少なくとも35年前から、BCGワクチン接種がマウスのNTM感染から保護できることが知られている。最近の研究では、CFU数の細菌封じ込めが確認されただけでなく、サイトカインや細胞媒介免疫など、有益な宿主免疫応答も特徴づけられている。
【0067】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット・ゲリン(BCG)細菌株を投与することにより、対象における細菌感染を予防、改善または治療し、それによって感染症を治療する方法を提供する。ある側面では、細菌感染は、一次呼吸器感染症である。ある側面では、感染症は、非結核性マイコバクテリア感染症である。さらなる態様において、対象は嚢胞性線維症(CF)を有する。さらなる側面において、細菌株は、インターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰発現する。特定の局面において、STINGアゴニストは、c-di-AMPである。ある局面では、disA遺伝子は、マイコバクテリアプロモーターに融合される。さらなる態様において、細菌株の核酸配列は、カナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる態様において、細菌株は、任意にカナマイシンに耐性である。追加の態様において、該菌株は、選択可能なマーカーをさらに含む。特定の局面において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、この株はプラスミドをさらに含んでいる。ある態様では、菌株は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように改変される。
【0068】
以下の実施例は、本発明の実施形態をさらに説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。これらは使用され得るものの典型であるが、当業者に知られている他の手順、方法論、または技術が代替的に使用され得る。
【実施例
【0069】
実施例1
BCG-STING世代
【0070】
BCG-STING(BCG-disA-OEとも呼ばれる)は、BCG Pasteurの組み換え誘導体で、内因性のマイコバクテリア・ジアデニル酸シクラーゼ遺伝子disA(M. tuberculosis CDC1551遺伝子MT3692;M. tuberculosis H37Rvの同一遺伝子は遺伝子Rv3586として注釈がある)を過剰発現させる。結核菌とBCGのdisA遺伝子はヌクレオチドレベルで100%同一である。disAは2個のアデノシン三リン酸分子からc-di-AMPへの変換を触媒している。
【0071】
過剰発現コンストラクトは、選択性のためにカナマイシン耐性カセットを保有するエピソーム型マイコバクテリア過剰発現ベクターpSD5-hsp60内の強いマイコバクテリアプロモーターhsp60にdisA遺伝子を融合することにより作成した。結核菌のMT3692(disA)遺伝子は、遺伝子特異的クローニングプライマーを用いて結核菌CDC1551ゲノムDNAからPCR増幅された。このアンプリコンを、NdeIおよびMluI制限部位で、マイコバクテリアシャトル発現ベクターpSD5-hsp60にクローニングした。コンストラクト(pSD5-hsp60-MT3692)の生成は、制限分析およびシークエンシングを用いて確認した。構築物を用いて、エレクトロポレーションにより野生型BCGパスツール株を形質転換し、組換えクローンをカナマイシン(25μg/mL)に対して選択し、BCG-disA-OE(Pasteur)とも呼ばれるBCG-STING(Pasteur)株を得ることができた。プラスミド同じプラスミド(pSD5-hsp60-MT3692)を野生型BCG Ticeにもエレクトロポレーションし、BCG-disA-OE(Tice)とも呼ばれるBCG-STING(Tice)が得られた。BCG-STING(Pasteur)とBCG-STING(Tice)は、多数のin vitro表現型アッセイとin vivoマウスモデルで並行してテストされ、比較可能な性能を示した。BCG-STING(Pasteur)とBCG-STING(Tice)は、それぞれ対応する野生型BCG株と比較して、in vitroの表現型アッセイおよびin vivoのマウスモデルで異なる表現型を示している。
【0072】
また、BCG-STINGが持つカナマイシン耐性付与遺伝子kanRを除去した第2世代のBCG-STINGも作成されている。この第2世代の組換えBCGは、野生型BCGと同じ抗生物質耐性プロファイルを有しており、BCG-STING-NoKanと呼ばれている。BCG-STING-noKanの作製方法は、WO2021/163602に記載されている。BCG-STING-noKan-#1と呼ばれる1つのBCG-STING-noKan株の生成に成功した。
【0073】
BCG-STING-noKan-#1を作製するために、panC(タンパク質パント酸-β-アラニンリガーゼをコードする)およびpanD(タンパク質アスパルテート1-デカルボキシラーゼをコードする)の無印欠失を有し、したがってパントテン酸(ビタミンB5)強毒であるBCG-Pasteur-Aeras-DpanCD株を入手した。BCGゲノムDNAからネイティブpanCD遺伝子ペアをPCR増幅し、同様にpSD5-hsp60-MT3692のKanRカセット以外の全てをPCR増幅した。その後、ギブソンアセンブリーを用いて、BCG panCDペアがKanRカセットに置き換わったp106cと呼ばれるプラスミドを作製した。p106cでは、panCDの5'-非翻訳領域(5'-UTR)は存在せず、panCDコード配列は、panCD転写を駆動するKanRプロモーターに融合されている。プラスミドp106cをBCG-Pasteur-Aeras-DpanCDにエレクトロポレーションし、補助パントテン酸を欠くMiddlebrook 7H11寒天で単一コロニーをBCG-STING-noKan-#1として選抜した。このようにして得られたBCG-STING-noKan-#1株は、以下の性質を有する。(i)カナマイシンに完全感受性であり、そこからKanR DNAをPCR増幅することはできない。(ii)同等の菌数を用いてRNAを調製したqRT-PCRでは、disA遺伝子の相対遺伝子発現量が226であるのに対し、BCG-STING(第一世代、Kan耐性)は270(p=0.3、統計的に有意差なし)、BCG-WTは1.0である。(iii)IRF3 RAW-LuciaまたはIRF3 -RAWBlueレポーターマクロファージ(Invivogen)に曝露すると、RLUまたはA655 値が上昇し、BCG-WTによるものよりも統計的に有意に高く、BCG-STING(第1世代、耐貫性)のものと統計的に有意な差は認められない。 (iv)50ngのcdiAMPレベル(液体クロマトグラフィー質量分析、LCMSによって検出)を生成する(OD600 1に成長した3ml培養物のペレットからの全細胞画分)。02または~3×108細菌)(OD6001.32培養物の対応するBCG-WTレベルは1.0 ng)および同じ培養物の上清中に2.3 ng/ml(OD6001.32培養物の対応するBCG-WTレベルは0.8ng/ml)である。
【0074】
BCG-STING-noKan-#2を作製するために、BCG-Pasteur-DpanCDを作製する。DpanCD reg-HygR-resを含むマイコバクテリオファージphAE187を入手し、BCG-Pasteur株のpanCD遺伝子をHygRカセットに置換するのに使用した。BCG-Pasteurのファージ感染後、ハイグロマイシン耐性コロニーを15mg/mlのハイグロマイシンを補充した完全Middlebrook 7H11プレートで選択した。得られた株は、(i)24mg/mlのパントテン酸を添加しない固体培地では増殖できないこと(すなわち、パントテン酸オーソトロフである)、(ii)panCDに特異的なプライマーを用いたDNA PCR増幅が測定不能なこと、(iii)その遺伝子のプライマーを用いたHygRカセットが含まれていることが確認できた。次に、HygR-in-place-of-panCDをγ-δリゾルバーゼ遺伝子を含むmycobacteriophage phAE280で感染させ、24mg/mlのパントテン酸を補充したMiddlebrook 7H11プレートにバクテリアをプレーティングする。感染後、200-500個のコロニーを選択し、レプリカプレーティングにより、ハイグロマイシン感受性を持つコロニーを選択する。候補はハイグロマイシン遺伝子特異的プライマーでスクリーニングされ、HygR遺伝子を持たないことが確認される。また、パントテン酸補助栄養体であることも確認される。この無印BCG-Pasteur DpanCD無印欠失株の派生に成功したら、プラスミドp106cをそれに導入し、パントテン酸を補充しないMiddlebrook 7H11寒天上で選択した単一のコロニーを形成する。このような形質転換体は、BCG-STING-noKan-#2の候補クローンである。この候補は、カナマイシンに感受性があり、KanR DNAがPCR増幅できないことを証明することで検証される予定である。その後、qRT-PCR disA遺伝子発現、IRF3 RAW-LuciaまたはIRF3 -RAWBlueレポーターマクロファージ、上記のようにLCMSによるcdiAMPレベルによってさらに検証されるであろう。
【0075】
実施例2
BCG-WTおよびBCG-disA-OEの非ヒト霊長類におけるSARS-CoV-2感染に対する防御効果について
BCG-disA-OEを接種することで、NHPのSARS-CoV-2感染に対してBCG-WTよりも高い防御効果を示すかどうかは、免疫反応や肺病理を評価することで決定される予定である。
【0076】
非ヒト霊長類(NHP)モデルにおいて、BCGの接種によりSARS-CoV-2疾患を予防・軽減すること、およびSTINGアゴニストを過剰発現したBCG(BCG-disA-OE)はBCG-WTと比較して予防効果が高まると考えられている。
【0077】
ヒトの疾病を再現したNHPモデルは,ウイルスや細菌感染症の発症過程の理解や,ワクチンや抗菌薬の開発に不可欠である。BCG-disA-OEは、マウスおよびモルモットモデルにおいて、BCG-WTと比較して結核に対する改善効果を示すことが明らかにされた。マウスでは、その効果の一部はマクロファージの訓練された免疫によって媒介されることが明らかにされた。訓練された免疫は、ウイルス感染に対する防御をもたらすが、SARS-CoV-2に対する過剰な免疫反応にも寄与していると考えられる。BCGを接種したNHPにおけるSARS-CoV-2感染の結果を決定するためには、NHPにおけるBCGおよびBCG-disA-OEの有効性をさらに検証することが重要である。マカクの上皮細胞および肺細胞はACE2受容体を発現しており、NHPはSARS-CoV-2感染に感受性がある。SARS-CoV-2にチャレンジしたカニクイザルおよびアカゲザルは、軽症および中等症の臨床症状を伴う肉眼的肺病変および肺炎を示し、ウイルス排出パターンはヒトで観察されるものと同様であった。BCGおよびBCG-disA-OEの有効性は、(i)偽薬、(ii)BCG-WT、(iii)BCG-disA-OEの接種後、ウイルスでチャレンジすることにより、アカゲザルのSARS-CoV-2感染予防に検証する予定である。
【0078】
18匹のアカゲザル成体(3~12歳、病原体およびレトロウイルス非感染、マイコバクテリア未感染)を6匹ずつ3群に割り当てる。各グループは、PBS(ワクチン未接種対照)、または目標用量106CFUのBCG-WT、またはBCG-disA-OEを皮内接種される予定である。
【0079】
第I相(ワクチン接種相)では、t=0(ワクチン接種前)にベースラインの気管支肺胞洗浄(BAL)、CXR、PET CTスキャン、ツベルクリン皮膚テスト(TST)を行い、ワクチン接種後6週目と12週目に同じ検査を繰り返す。ワクチン接種2週間前とワクチン接種・感染後1週間ごとに血液を採取し、血球計算、免疫学的プロファイル、サイトカインアッセイ、血液化学的検査を行う予定である。ベースライン時、6週目、12週目に採血と骨髄生検を行い、末梢血単核細胞および骨髄骨髄前駆体において、マウスで記録されているような訓練された免疫関連の変化を評価する。
【0080】
第II期(SARS-Cov-2チャレンジ期)では、ワクチン接種から12週間後に動物をBSL3に移し、有効な接種経路であることが実証されている気管内経路でSARS-CoV-2にチャレンジする。呼吸器スワブ、採血、CXRを接種直前とSARS-CoV-2チャレンジ後2週間は2日ごとに行い、ウイルス排出、抗体およびその他の免疫反応、肺炎、炎症、リンパ節腫脹を測定する。PET-CTスキャンは、SARS-CoV-2チャレンジ直前とチャレンジ後3、6、9、12、16、19、23、28日目に実施し、肺炎を評価する予定である。免疫反応(サイトカイン、M1およびM2マクロファージ、CD4+およびCD8+ T-リンパ球の分析)の評価のため、BALおよび骨髄の吸引を毎週実施する予定である。
【0081】
フェーズIII(SARS-CoV-2感染後4週間の剖検)では、動物を安楽死させ、血液、BAL、肺、気管、咽頭組織、骨髄、脾臓、肝臓、小腸および大腸のサンプルを採取する。ウイルス量は、SARS-CoV-2 RT-PCRおよび/または感染性アッセイを使用して測定される。組織切片を分析し、炎症、出血、浮腫、壊死について組織学的にスコア化する。サイトカインレベル、特にIL-6、M1およびM2マクロファージ、CD4+およびCD8+ T-リンパ球の頻度が、血液およびBALで測定される。炎症による凝固は病気の臨床症状であると考えられるため、血液中の凝固因子も測定する予定である。上記の臨床、微生物学、病理学および免疫学的実験の幅広い配列を使用して、BCGまたはBCG-disA-OEによるワクチン接種が、重度のSARS-CoV2誘発疾患からアカゲザルを保護できるかどうかを決定する。
【0082】
BCGを静脈注射すると、NHPで結核菌にチャレンジした後の結核病が予防されることを示した研究がある。BCGの静脈注射は実験的であり、FDAの認可を受けていないため、BCGとBCG-disA-OEの保護効果を評価するためには、ヒト生物学的同等量の皮内投与による試験が重要である。皮内投与によるBCG-disA-OEによる防御が不十分と思われる場合、BCG-disA-OEによる静脈内接種が統計的に有意な防御をもたらすかどうかを判断することになる。
【0083】
実施例3
BCG-disA-OEのhACE2およびゴールデンシリアのハムスターにおける保護効果について
【0084】
hACE2トランスジェニックマウスおよびゴールデンシリアハムスターにおけるSARS-CoV-2感染に対するBCGおよびBCG-disA-OEによるワクチン接種の防御効果を決定する。hACE2トランスジェニックマウスおよびゴールデンシリアハムスターの疾患モデルにおいて、BCG-disA-OEのワクチン接種がSARS-CoV2感染に対してBCG-WTと比較して増強された防御効果を示すかどうかを、免疫応答および肺病理を評価して決定する。
【0085】
マウスでの感染SARS-CoVはマウスに感染し複製されるが、ヒトの疾患と同等の重症度は得られない。マウスACE2(mACE2)はhACE2のようにウイルスの結合を効率的にサポートしないため、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2の主要な宿主細胞受容体であるヒトアンジオテンシン変換酵素2(hACE2)の発現を上皮細胞にターゲット化したトランスジェニックマウス(Tgマウス)を開発し、人間の病気を再現した。ある研究では、SARS-CoV-2はhACE2 Tgマウスでは病原性を示すが、野生型マウスでは病原性を示さないことが示された。マウスモデルは、SARS-CoV-2に対するワクチンとしてのBCG-WTおよびBCG-disA-OEの有効性を試験するのに有用である。複数の投与経路を試験でき、多数の動物で研究を実施できること、免疫反応の研究のための試薬が広く入手可能であることなどの理由が挙げられる。シリアンハムスター(Mesocricetus auratus)における感染:細菌、ウイルス、寄生虫による感染の進行は、重要な病原体を含め、ヒトで観察されるものと類似している。そのため、ハムスターはワクチンや治療薬の前臨床開発において貴重な存在である。ゴールデンシリアハムスターのSARS-CoV感染に関するこれまでの研究では、2dpiまでに肺のウイルス価がピークに達し、その後7dpiまでにウイルスが急速に消失するウイルス複製と、SARS-CoV株による病原性の違いが示されている。最近、ゴールデンシリアハムスターのSARS-CoV-2感染は、ヒトの軽症感染に見られる特徴と類似していることが示された。
【0086】
マウスでの感染K18-hACE2トランスジェニックマウスは、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2に感受性がある(26、27)。接種量にもよるが、マウスは5-14日生存した後、コロナウイルス感染で屈服する。
【0087】
Time-to-Death (TTD)試験:15匹のhACE2トランスジェニックマウスの3つのグループに、PBS、BCG、またはBCG-disA-OEのいずれかを皮内投与する。6週間後、このマウスおよび関連するマウスモデルで最適とされている用量である2×104PFUのSARS-CoV-2でマウスをチャレンジさせる。死亡までの時間は毎日モニターされる。この実験は、静脈内BCGワクチン接種と気管内BCGワクチン接種の2回行われる予定である。最近の研究では、BCGの静脈内投与は気管内投与よりも劇的に優れており、有効性の総合ランキングは、静脈内>気管内>皮内であった。
【0088】
臓器負担試験:SARS-Cov2複製および肺病理を軽減するために、BCGまたはBCG-disA-OEワクチン接種の免疫応答および保護効果を検討する。126 hACE2トランスジェニックマウスに、0.1 mlのPBS(偽ワクチン)、105 CFUのBCG-WTまたはBCG-disA-OEを皮内接種し(3群各42匹)、6週間飼育してから、0日目に2×104PFUで経鼻的にSARS-CoV-2にチャレンジする。各群から7匹のマウスをSARS-CoV-2にチャレンジ後-1、1、3、6、9および12日に犠牲にしている。犠牲時に各群から採取した肺、脾臓、末梢血について、(i)臓器重量、(ii)RT-PCRによるウイルス負荷、(iii)Vero-E6細胞へのウイルス感染性、(iv)肉眼病理、組織病理およびIHC、および(v)IL-6に特に重点をおいたサイトカイン発現について評価する。肺と脾臓の細胞ホモジネートをFACSで調べ、M1-、M2-マクロファージ集団と、炎症促進および抗炎症マーカー(IFNg、FoxP3など)を発現するCD4、CD8細胞のシフトをモニターする予定である。エピジェネティックおよび代謝的なリプログラミングの変化(訓練された免疫)を評価する予定である。ジョンズ・ホプキンス感染・炎症イメージング研究センター(Ci3R)において、3群の代表的なマウスに対して3日ごとに非致死的PET-CTイメージングを実施し、疾患の進行と肺病理をモニタリングする。本実験は、TTD試験と同様に、BCGの静脈内接種と気管内接種の2回繰り返し実施する予定である。
【0089】
シリアンハムスターでの感染SARS-CoV-2感染のシリアンハムスターモデルが確立された。SARS-CoV-2に感染した代表的なゴールデンシリアハムスターの連続CT撮影により、感染後2日目から検出可能な進行性の肺炎が確認された。SARS-CoV-2に感染したゴールデンハムスターの肺をヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色したところ、感染後7日目に肺細胞の過形成と好中球の炎症が確認された。感染したハムスターの肺のウイルス量は、2dpiにピークが観察され、5dpiに減少した。7dpiでは、高コピーのウイルスRNAが引き続き検出されたものの、感染性のウイルスは検出されなかった。75匹のシリアンハムスターに、0.1mlのPBS(偽ワクチン)、105CFUのBCG-WTまたはBCG-disA-OEを皮内接種する(3群各25匹)。6週間飼育した後、0日目に5×104PFUでSARS-CoV-2を経鼻的にチャレンジする。感染前に訓練された免疫マーカーを分析するために、血液単球を分離する。感染したハムスターは、体重、体温、胸部X線写真を毎日撮影し、病気の進行をモニターする。SARS-CoV-2チャレンジ後1、1、3、5、7日目に各グループから5匹のハムスターを犠牲にする。犠牲時に各群から肺、脾臓、末梢血液を採取する。血液化学および血液学、凝固パラメータ(活性化部分トロンボプラスチン時間、プロトロンビン時間、トロンビン時間、フィブリノゲン濃度、プロテインSおよびプロテインC活性)。免疫応答は、IL-1β、IL-6、IFNγ、TNFα、Foxp3、TGFβなどのサイトカインをqRT-PCRで測定することで評価する。ウイルス量の検出肺と脾臓の病理組織学的検査を行い、炎症細胞や圧密化、SARS-CoV-2 Nタンパク質を評価する。
【0090】
BALおよび剖検時のウイルス増殖の評価。GFPタグ付きSARS-CoV-2株は、ウイルス複製を定量化するための追加モダリティを追加する。マウスACE2レセプターはSARS-CoV-2と効率的に結合せず、ヒトの病気は通常のマウス系統ではうまく複製されないため、近交系マウスの使用は制限されている。hACE2トランスジェニックマウスにおけるSARS-CoV-2の病原性は、SARS-CoVと比較して穏やかであることが報告されている。hACE2 Tgマウスはヘミ接合体で、ホモ接合体マウスが生存・繁殖可能かどうかは不明なため、野生型マウスと交配される。Ad-hACE2ウイルスデリバリーの利用。最近、SARS-CoV-2に対する非トランスジェニックマウスの感受性を高めるために使用され得るAd-hACE2ウイルスベクターの開発が報告された。
【0091】
実施例4
BCG AND BCG-disA-OE マクロファージへの影響
SARS-CoV-2が介在する病態のBCGおよびBCG-disA-OEによる修飾におけるマクロファージの役割をin vitroで評価する。Type I IFNシグナルによるマクロファージ上のACE2受容体のアップレギュレーションが、SARS-CoV-2と直接相互作用して炎症性サイトカインの分泌を促進し、BCG-WTおよびBCG-disA-OEによる訓練免疫変化がその応答を悪化または減衰させると考えられている。この仮説は、ヒト末梢血単核球を未処理、BCG-WTまたはBCG-disA-OE処理、評価、マクロファージのリプログラミング、SARS-CoV-2の感染、ウイルス滴定、サイトカインおよびケモカイン反応の解析を用いて検討される予定である。
【0092】
SARS-CoV-2を介した病態において、マクロファージが重要な役割を担っていることが明らかになりつつある。SARS-CoV-2に感染したACE2発現肺上皮細胞は、炎症性マクロファージをリクルートするケモ・アトラクタントを大量に発現し、その結果、炎症性サイトカインやケモカインを大量に生成し、重度のSARS-CoV-2病態で見られるサイトカイン・ストームに寄与している。SARS-CoV感染では、抗ウイルス性のI型IFNシグナルの遅延がマクロファージのリクルートと活性化を促進し、ウイルス量がピークに達する前にI型IFNシグナルを早期に伝達することで、このカスケードが阻害され、免疫病理学的疾患が改善されると考えられている。しかし、SARS-CoV-2感染で同じ現象が起こるかどうかは明らかではない。BCG-WTおよびBCG-disA-OEによって誘発される訓練された免疫の変化は、これらの反応を悪化させるか減衰させるかのいずれかである。例えば、BCG-disA-OEワクチン接種によってもたらされる初期のI型IFNシグナルは、病態を改善する可能性がある。一方、I型IFNシグナルはマクロファージ上のACE2受容体の発現を促進し、SARS-CoV-2が病態を変化させる際の二次的相互作用パートナーとなる可能性がある。ヒトの肺マクロファージはACE2を発現することが示されている。SARS-CoV-2は、MERS-CoVの受容体であるDPP-4のような他の受容体やコ・レセプターを介してマクロファージに感染する可能性もある。COVID-19患者は、前方散乱(FSC)高単球の新規中間集団を示し、これはM1とM2の混合表現型を持つ非古典的マクロファージからなることが示され、FSC高単球を多く持つ患者は、疾患の重症度が高いことが示された。これらのデータは、SARS-CoV-2がマクロファージの異常なリプログラミングを引き起こし、このリプログラミングがサイトカインストームと疾患の進行に寄与する可能性を強く示唆している。これらの影響は、ヒトMDMを用いたin vitroで検討される予定である。
【0093】
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、健康なドナーの全血から分離される。単球は、CD14でコートしたMicroBeads(Miltenyi社製)を用いた磁気活性化セルソーティング(MACS)により単離される。BCG曝露後、細胞は洗浄され、培養液中で3日間インキュベートすることにより休息する。BCG-WTまたはBCG-disA-OE処理の有無によるhACE2受容体の発現誘導は、フローサイトメトリーまたはRT-PCRによって評価される。未処理および処理した細胞は、ウイルス複製動態のために0.1~1のMOIで、またはサイトカインおよびケモカインの分析のために2:1のMOIで、SARS-CoV-2に60分間感染させる。モック感染細胞はコントロールとして機能する。培養後、ウイルス接種液を除去し、細胞を洗浄し、マクロファージ無血清培地で培養する。培養上清を採取し、-70℃で保存し、ウイルスの力価測定やサイトカイン解析に使用する。上清中のウイルス力価は、TCID50アッセイ、RT-PCRおよび感染性アッセイによって決定される。細胞溶解物はまた、SARS-CoV-2 ORF1bおよびサイトカイン(IL-6、TNF1、IL-1b、IFN-g、IL-17およびCCL2、CCLA3、CCL5およびCXCL10などのケモカイン)のmRNA発現について、感染後24時間(hpi)または48hpiに収集する予定である。
【0094】
BCG-disA-OEおよびBCG-WTで処理した細胞におけるウイルス感染後の炎症性サイトカインの誘導の増強がエピジェネティックに媒介されるかどうかの決定は、クロマチン免疫沈降(ChIP-PCR)アッセイを用いて、TNF-aとIL-6遺伝子のプロモーター領域を耐久性があり抗原非依存のエピジェネティック変化について評価するとともに、TNF-aとIL-6のプロモーターに関する活性化のヒストンメチル化マークH3K4me3について検討することにより行われる。また、同じ2つのプロモーターにおけるクロマチン抑制マーク(H3K9me3)が減少しているかどうかも明らかにする予定である。BCG-WTおよびBCG-disA-OEに感染したマクロファージの免疫代謝状態を調べ、ワクチン未接種の感染マクロファージと比較して細胞内グルコースおよび乳酸の増加をLC-MSで評価する。マクロファージの活性化表現型は、ウイルス感染前後にWT株およびBCG-disA-OE株が古典マクロファージの集団(CD11b+ CD14+ CD16-)の増加を誘発するかどうかを把握するために特徴付ける。炎症性マクロファージ(CD14+ CD16- HLA-DR+、TNF-aまたはIL-6-分泌、M1マクロファージ)、代替活性化(CD163+およびCD206+ M2)マクロファージ、移行または中間マクロファージ(CD11b+ CD14+ CD16+ CD68+、CD80+、CD163+、CD206+ IL-6、TNF-αおよび抗炎症IL-10の両方を分泌)は定量されるであろう。
【0095】
ヒト、非ヒト霊長類およびマウス組織において、SARS-CoV-2に侵入するACE2およびTMPRSS2共発現細胞は、肺II型肺細胞、回腸腸細胞、鼻甲介分泌細胞である。マクロファージは主要な侵入標的細胞とは考えられていないが、Covid-19の患者ではACE2を発現することが知られており、ACE2がヒトインターフェロン刺激遺伝子であることから、I型IFNを介した受容体アップレギュレーションの可能性が最も高いと考えられる。In vitroでの研究では、肺細胞とマクロファージ、マクロファージとNK細胞やTリンパ球を含む免疫系の他の細胞との間のクロストークを再現することはできないが、これらはすべてCovid-19の病態に集合的に寄与している。これらの実験により、マクロファージがSARS-CoV-2にチャレンジする前のサイトカイン、細胞集団、エピジェネティックな変化、メタボローム変化におけるBCGを介した変化が、その後チャレンジ後にどのように変化するかを明らかにする。これらの変化は、有益、有害、または中立である可能性がある。
【0096】
実施例5
例6-12のための材料と方法
細菌株と培養条件:本研究では、免疫実験に市販のマイコバクテリウム・ボビス(M. bovis)Bacillus Calmette- Guerin(BCG)-Tice(オンコタイス、メルク)を用いた。凍結乾燥した細菌ストックを、(OADC)(Cat. B11886, Fisher Scientific)、0.5%グリセロール(Cat. G55116, Sigma)および0.05% Tween-80(Cat. BP338, Fisher Scientific)を補充した1mlの7H9 Middlebrook液体培地に再懸濁した。この培養物を、オレイン酸-アルブミン-デキストロース-カタラーゼ(OADC)を添加した7H11プレート上でストリークし、単一のコロニーを摘出して、シードストックの調製のために7H9 Middlebrook液体培地で増殖させた。冷凍ストックから個々のシードストックバイアルをランダムに選択し、その後、免疫化前に7H9培地で増殖させた。
【0097】
細胞およびウイルス:すべての細胞は、American Type Culture Collectionから入手した。Vero C1008 [Vero 76, clone E6, Vero E6] (ATCC CRL-1586) 細胞を、ウイルスの増殖およびウイルスストック力価の決定のために使用した。Vero E6細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、L-グルタミン、およびペニシリン-ストレプトマイシンを含むEMEM中、37℃、5%CO2で増殖した。SARS-CoV-2/Wuhan-1/2020ウイルス(米国疾病管理予防センター)は、Andrew Pekosz博士から提供された。ウイルスストックは-80℃で保存し、力価は組織培養感染量50(TCID50)アッセイで測定した。
【0098】
動物たち:BCGワクチン接種とSARS-Co-V2感染を含むin vivo実験は、雄のゴールデンシリアハムスターを使用して実施された。雄のゴールデンシリアハムスター(年齢5~6週)をEnvigoから購入した。動物は、適切な寝具を備えたケージで、標準的な飼育条件(68~76°F、相対湿度30~70%、12時間明暗サイクル)で個別に飼育された。7日間の馴化後、ケタミン(60~80mg/kg)およびキシラジン(4~5mg/kg)麻酔下で、総量100μlの生理食塩水に生きた5×106BCG-TiceのC.F.Uを用いて動物を静脈内接種し、腹腔内投与した。対照動物には、同量の生理食塩水を投与した。動物を、ケタミン(60~80mg/kg)およびキシラジン(4~5mg/kg)麻酔を腹腔内に投与した状態で、100μlのDMEM(50μl/ナリス)中の5×105 TCID50のSARS-CoV-2/Wuhan-1/2020ウィルスを用いて経鼻経路でチャレンジした。対照動物には、同量のDMEMを投与した。SARS-CoV-2感染後のBCGワクチン接種+SARS-CoV-2感染群では4日目、7日目に安楽死させるよう動物をランダムに割り付けた。体重は、感染日(ベースライン)および終点で測定し、グループごとに該当する場合は毎日測定した。終点で動物をイソフルラン過剰投与で安楽死させ、組織を採取した。気管支肺胞洗浄(BAL)は、20ゲージカテーテルで気管をカニュレーションすることによって得られた。肺は2回洗浄された(各アリコート1ml;カルシウムフリーPBS);総還元量は平均1.15ml/匹であった。BALを600gで5分間、4℃で遠心分離した。
【0099】
フローサイトメトリーによる解析:細胞免疫プロファイリングのために、実験終了時点のハムスター肺、脾臓、血液、またはBALサンプルからの単一細胞に対して、細胞表面染色を行った。肺と脾臓の組織は、単一細胞の調製前に、滅菌したPBSで個々のチューブに採取して保存した。血液は、心臓穿刺を用いてEDTA含有チューブに採取した。BALの分離が行われた。血液サンプルの赤血球溶解は、ACK溶解バッファーを用いて室温で5分間行い、白血球のうち赤血球をすべて除去した。マウス肺の解離キットを使用し、ヒーター付きgentleMACSTMOcto Dissociatorを使用して、製造者の指示に従い単一細胞の調製を行った。細胞を70μmのフィルターに通し、氷冷したPBSで2回洗浄した後、ACK溶解バッファーで5分間室温で赤血球溶解を行った。細胞生存率は、トリパンブルー色素染色を用いて決定し、葉ごとの総生細胞数を決定した。表面染色には、動物の肺あたり合計500万個の細胞を使用した。血液サンプルとBALでは、抗体染色に全細胞を使用した。簡単に説明すると、細胞を氷冷したPBSで再度洗浄し、Zombie AquaTMFixable Viability Kitを使用して室温で20分間染色した。その後、細胞を洗浄し、FACSバッファー(PBS中の1% BSA、2mM EDTA)に再懸濁し、表面染色前にPBSと2% FBS、2%正常ラット血清、2%正常マウス血清からなるブロックバッファー中で4℃にて30分インキュベートした。細胞を再度洗浄し、製造元のプロトコールに従ってコンジュゲート一次抗体で染色した。細胞表面の染色には以下の抗体を使用した:抗CD3、抗CD4、抗CD11b、および抗RT1D。その後、細胞をIC固定バッファーで4℃、60分間固定した。FACSバッファーを用いて細胞を3回洗浄し、BD LSRII with FACSDiva Softwareを使用して取得した。データ解析はFlowJo(v10)を用いて行った。
【0100】
シングルセルRNA-seqサンプルとライブラリーの調製:肺組織由来のシングルセルRNA-seq(scRNA-seq)のために、各動物から右肺上葉全体を分離した。シングルセル調製には、マウス肺溶解キットを使用し、いくつかの改良を加えた。単細胞調製後、細胞懸濁液をMACS Smart Strainer (70μ m)にかけ、10mlのDMEMで2回洗浄した。細胞は、300xgで4℃、合計7分間回転させることでペレット化した。細胞を、DNase(最終濃度100μg/ml)を含む1mlのDMEMに、室温で5分間再懸濁した。0.5%BSAを含む10mlの滅菌PBSを加えて細胞を洗浄し、4℃でペレット化した。赤血球溶解は、総容量1mlの1X赤血球溶解液を用いて、4℃で10分間行った。細胞を0.5%BSAを含む10mlの冷やしたDPBSに再懸濁し、その後、ペレット化した。細胞を35μm Falconセルストレーナーで濾過し、0.04%BSAを含む1ml DPBSの総容量で2ml lo-binding tubeに移した。その後、トリパンブルー色素排除アッセイを用いて細胞をカウントし、細胞生存率と総細胞数を決定した。
【0101】
ワクチン接種に使用したBCG菌:BCG-STING(Tice)別名BCG-disA-OE(Tice)と呼ばれる、実施例1に記載されているものを使用した。使用した野生型BCGは、BCG-Tice(オンコ・タイス)である。
【0102】
シングルセルデータの統合とクラスタリング:10X Single Cell RNA-seq Chromium Chip G 5' Library kits (10X Genomics)を用いて、エマルジョンベースのプロトコルで同一細胞から免疫レパートリー情報と遺伝子発現をシングルセルレベルで取得した。細胞およびバーコード付きゲルビーズを、10X Genomics Chromiumプラットフォームを使用してナノリットルスケールの液滴に分割し、サンプルあたり最大10,000細胞を分割した後、メーカーの標準プロトコルを使用してRNA捕捉および細胞バーコード付きcDNA合成を行った。ライブラリーを作成し、Illumina NovaSeq装置で2×150-bpペアエンドシーケンスを用いてシーケンスした。
【0103】
シングルセルデータの前処理と品質管理:Cell Ranger v3.1.0を使用して、FASTQリードをデマルチプレックスし、ハムスターゲノムにアライメントし、細胞およびユニーク分子識別子(UMI)バーコードを抽出した。このパイプラインの出力は、各サンプルのデジタル遺伝子発現(DGE)マトリックスで、各細胞バーコードに関連付けられた各遺伝子のUMIの数が記録されている。次に、(1)細胞あたり検出された遺伝子数、(2)ミトコンドリア遺伝子/リボソーム遺伝子数の割合に基づいて、細胞の品質を評価した。検出された遺伝子数が250以下、または全細胞の遺伝子数の中央値から絶対値偏差で3倍以上離れている場合、低品質の細胞はフィルターで取り除かれた。ミトコンドリア遺伝子数の割合が10%以上、またはリボソーム遺伝子の割合が10%未満の場合、細胞をフィルターで除外した。単一細胞のVDJ配列決定では、全長配列を持つ細胞のみを保持した。解離/ストレス関連遺伝子ミトコンドリア遺伝子(接頭辞「MT-」でアノテーション)、高存在lincRNA遺伝子、支持率の低い転写モデルとリンクした遺伝子(接頭辞「RP-」でアノテーション)、TCR(TR)遺伝子(クローン型の偏りを避けるためTRA/TRB/TRD/TRG、)などはさらなる分析から取り除かれた。さらに、5細胞未満で発現している遺伝子は除外した。
【0104】
シングルセルデータの統合とクラスタリング:Seurat(3.1.5)を用いて、生カウントデータの正規化、高変動特徴の特定、特徴のスケーリング、サンプルの統合を行った。PCAは、Seuratに実装されているvstメソッドを使用して特定された3,000個の最も可変的な特徴に基づいて実行された。次元削減は、RunUMAP関数を用いて行われた。細胞マーカーは、両側ウィルコクソン順位和検定を用いて同定した。修正P<0.05の遺伝子は保持された。クラスターは、各クラスターにおける上位の差分遺伝子の発現と、正規の免疫細胞マーカーに基づいてラベル付けされた。リンパ球、単球/マクロファージ、顆粒球のグローバルクラスター化も同じ手順で行った。クラスターは、Uniform Manifold Approximation and Projection (UMAP)を用いて可視化した。
【0105】
ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色:ホルマリン固定パラフィン包埋ハムスター肺切片をヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色し、解析した。肺組織は、急性肺炎の動物モデルで以前に発表された基準に従って、特定の肺炎症パラメータのパネルを使用してスコアリングされた。すべての検査は、認定された肺病理医によって行われた。
【0106】
免疫組織化学(IHC)、統計、病理組織学的スコアリング:免疫組織化学は、CD3についてFFPE肺組織切片に、Ventana Discovery(Roche)のオートステイナーを使用して実施した。熱による抗原回収は、ETDA pH9 solution (CC1, Roche)を用いて行った。CD3の一次抗体を4℃で30mインキュベートし、UltraView DAB検出キット(Roche)を用いて検出した。IHCタンパク質発現は、コホート状態または治療グループと盲検化された認定肺病理医によって採点された。CD3膜状染色は、血管周囲または気管支周囲の炎症、気管支上皮、肺胞壁および肺細胞、肺炎の領域(存在する場合)または肺胞腔(肺炎がない場合)で別々に評価された。CD3染色は、1+(散在する単一細胞)、2+(少なくとも2層を持つクラスターまたはシートの細胞)、3+(いくつかのクラスターまたはシート)としてスコア化した。そして、スコアはポイントシステム(焦点1+=0.5、1+=1、焦点2+=1.5、2+=2、3+=3)で数値化し、合計ポイントを治療グループ間で分析した。CD3発現量の合計は、すべての基準の点数を合算して算出した。統計解析は、各タイムポイント(感染後4日目および感染後7日目)において、Welshのt-testを用いてグループ間で実施した。
【0107】
SARS-CoV-2ウイルスの定量化:ウイルスRNA RT-qPCRハムスターの肺および気管ホモジネートからのRNAは、Zymo Quick RNA microPrep kit(Zymo Research)を用いて、製造者のプロトコルにしたがって抽出された。平均して、1サンプルあたり600ngの総RNAを抽出した。QIAamp Viral RNA mini kit(Qiagen)を用いて、メーカーのプロトコールに従って上清からRNAを単離した。cDNAは、qScript cDNA SuperMix(Quantabio)を用いてメーカーのプロトコルに従ってウイルス性RNAから合成した。cDNAは、StepOnePlus Real Time PCRシステム(Applied Biosystems)でTaqMan Fast Advanced Master Mix(Applied Biosystems)を用いてRT-qPCRにより定量化した。SARS-CoV-2 RNAは、予め混合したフォワード(5'-TTACAAACATTGGCCGCAAA-3' SEQ ID NO:1)およびリバース(5'-GCGCGACATTCCGAAGAA-3' SEQ ID NO:2)プライマーとプローブ(5'-FAM-ACAATTTGCCAGCGCTTCAG-BHQ1-3' SEQ ID NO:3)は、SARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)遺伝子の領域を増幅するために、2019-nCoV CDC Research Use Only (RUO) kit (Integrated DNA Technologies,)の一部としてCDCが設計した。PCR条件は以下の通りである:完全なSARS-CoV-2 N遺伝子を含む連続希釈(10倍)プラスミド(Integrated DNA Technologies社製)を測定し、ウイルスRNAコピーの定量化のための標準曲線を作成した。このアッセイの検出限界は、1 x 101RNAコピーであった。細胞溶解物について、ウイルスコピーをヒトRNase P(RP)遺伝子に正規化し、予め混合したフォワード(5'-AGATTTGGACCTGCGAGCG-3' SEQ ID NO:4)およびリバース(5'-GAGCGGCTGTCTCCACAAGT-3' SEQ ID NO:5)プライマーおよびプローブ(5'-FAM-TTCTGACCTGAAGGCTCTGCGCG-BHQ-1-3' SEQ ID NO:6)同じ2019-nCoV CDC RUOキットに含まれている。
【0108】
CTおよびPETイメージング:生ハムスターは、既報の通り、BSL-3に準拠した自社開発の密閉型バイオコンテインメント装置内で撮像した。感染後7日目に、SARS-CoV-2感染雄(n=12)、雌(n=12)、プラセボ処理雄(n=13)、およびE2処理雄(n=13)ハムスターは、nanoScan positron emission tomography (PET)/CT (Mediso USA) small animal imagerを用いて胸部CTを実施した。CT画像は、VivoQuant 2020肺セグメンテーションツール(Invicro)を用いて可視化および分析した。簡単に言うと、肺全体の体積(LV)を作成し、Hounsfield Units(HU)≧0のグローバル閾値を使用して肺病変の周りに関心体積(VOI)を形成し、疾患の重症度(CTスコア)を各動物における疾患肺の割合として定量化した。治験責任医師はグループ分けを盲検化した。PETイメージングには、18 F-FDGを自社で合成し、90%以上の放射化学的純度を実現した。SARS-CoV-2感染ハムスターに、外科的に埋め込まれた中心静脈カテーテルから10.22MBq/ハムスターを投与した。20分間のPET撮影とその後のCTはnanoScan PET/CT(Mediso社製)を用いて実施された。SARS-CoV-2はBSL-3病原体に指定されているため、SARS-CoV-2に感染した生きた動物は、BSL-3封じ込めに準拠し、撮影中に生きた動物を維持するための空気麻酔混合物を供給できる自社開発の透明で密閉したバイオコンテインメントセル内で撮影された。肺のセグメンテーションと画像解析のために、マルチアトラス肺セグメンテーション(MALS)アルゴリズムを使用して、全肺の関心ボリューム(VOI)を作成した。参照ライブラリは、肺疾患の様々な段階にあるSARS-CoV-2感染ハムスターを含む研究画像の選択から作成された。リジッド変換とアフィン変換を組み合わせて肺VOIのバウンディングボックスを生成し、このバウンディングボックス内で高次元の変形可能レジストレーションを行い、線形マッピングの精度を効率的に向上させた。伝播されたラベルは、重み付けされた投票に基づくラベル融合技術を使用してマージされた。また、レジストレーションエラーに対するロバスト性を向上させるために、ローカルサーチアルゴリズムを使用した。肺病変は、グローバルなハウンスフィールド単位(HU)閾値≧0を使用して定義された。データはCTスコア[(肺病変体積/全肺体積)×100]として表現される。CTを解析する治験責任医師は、グループ分けを盲検化した。可視化と定量化には、VivoQuantTM2020(Invicro社)を使用した。PETデータに散乱補正と減衰補正を施し、CTを参照に1頭につき複数のVOIを手動で描出した。
【0109】
実施例6
実験計画
実験デザイン ハムスターのグループに、PBS(非接種)、または5x106CFUのBCG-Tice、または5x106CFUのBCG-STING-Ticeを静脈内接種した。30日後、彼らは5x105TCID50単位のSARS-CoV-2(Wuhan-1/2020)を鼻腔内経路でチャレンジされた。チャレンジ後のd4とd7で、動物は分析のために犠牲にされた。グループ1はBCG-WT(ワクチン接種済みでSCV2曝露なし)、グループ2はSCV2のみ(ワクチン非接種でSCV2曝露、D4およびD7で犠牲になった)、グループ3はBCG-WTおよびSCV2(ワクチン接種およびSCV2曝露)、グループ4はBCG-STINGおよびSCV2(ワクチン接種およびSCV2曝露)であった。特定の実験では、操作されていない、健康で年齢が一致したハムスターも研究された。
【0110】
実施例7
肺病理組織学的解析
BCGワクチン接種により、SCV2感染ハムスターの肺病理が軽減された。この非致死的ハムスターモデルにおいて、事前のBCGワクチン接種がSCV2感染の経過を変化させるかどうかを決定するために、d4およびd7における肺組織学的変化を評価した。図4Bに示すように、気管支肺炎は、d4およびd7の両方で、ワクチン未接種のハムスター肺高出力野(HPF)の100%に存在したが、すべてのBCGワクチン接種ハムスターHPFおよびd4にはなく、d7にはHPFの25%にのみ認められた。同様に、ワクチン未接種のハムスターHPFの100%がd4で好中球の浸潤を示したが、BCGワクチン接種ハムスターでは50%しかこの所見を示さず(データ示さず)、ワクチン接種ハムスター肺でも浸潤リンパ球を示した(データ示さず)。対照的に、BCGワクチン接種はマクロファージの浸潤を促進した(d4でHPFの80%)のに対し、ワクチン未接種の動物のHPFの60%のみがこの所見を示した(図4C)。予想通り、BCGワクチン接種したHPFはすべて肉芽腫形成を示し、この現象はワクチン未接種動物では一様に見られなかった(図4D)。これらの結果は、事前のBCGワクチン接種が、SCV2誘発気管支肺炎とそれに伴う好中球浸潤を軽減し、同時にマクロファージの肺への動員を促進することを決定的に示している。
【0111】
BCG-STINGワクチン接種は、SCV2感染ハムスターの肺病理を軽減し、特定の病理学的マーカーについてはBCG-WTよりも優れている。BCG-STINGワクチン接種をBCG-WTのそれと比較するために、d4およびd7における肺組織学的変化を評価した。図18Aに示すように、気管支肺炎は、BCG-STINGおよびBCG-WTの両方によって、4日目に100%から0%に減少した。しかし、BCG-STINGワクチン接種動物では7日目に0%のままであったが、BCG-WTワクチン接種ハムスターではd7にHPFの25%に存在した。BCG株はいずれも、d4での好中球浸潤を4日目に50%まで減少させた(図18B)。マクロファージ浸潤については、BCG-STINGワクチン接種ではよりマクロファージ浸潤を促進したが(d4でHPFの100%)、BCGワクチン接種動物ではHPFの80%、ワクチン非接種動物では60%にしかこの所見が認められなかった(図18C)。次に、SCV2に対する効果的な免疫応答の潜在的なマーカーであると同時に、免疫病理の潜在的な要因でもある間質性炎症について検討した。BCG-STINGおよびBCG-WTワクチン接種動物はいずれも、ワクチン接種動物よりも4日目に多くの間質性炎症を有していたが、BCG-STINGワクチン接種ハムスターは、BCG-WTワクチン接種動物(100%)と比較して7日目に高い間質性炎症の解消(HPFのわずか40%)を示した(図18D参照)。SCV2関連リンパ球減少症に直面した肺へのリンパ球のリクルートに関して、100%のBCG-STINGワクチン接種ハムスターHPFが4日目にこの属性を示したのに対し、4日目にBCG-WTワクチン接種ハムスター肺HPFの50%にしか見られなかった(図18E)。次に、血管周囲の炎症を調べ、BCG-WT-ワクチン接種動物およびワクチン接種動物がそれぞれHPFの50%および20%でこの現象を示したにもかかわらず、BCG-STINGワクチン接種ハムスターは4日目に血管周囲の炎症が0%であることが分かった(図18F)。BCG-STINGはまた、4日目にBCG-WTよりも低い肺胞内炎症(図18F)および気管支周囲炎症(図18G)を示した。これらの結果は、ハムスターの実験的SCV2感染において、BCG-STINGワクチン接種がBCG-WTワクチン接種と比較して顕著な肺組織学的差異を与えることを実証する。
【0112】
実施例8
フローサイトメトリー(FLOW CYTOMETRY)
BCGワクチン接種は、SCV2を介した肺T細胞リンパ球減少を鈍化させ、マクロファージの肺への動員を促進し、顆粒球による肺への浸潤を減少させた。ハムスターの肺における細胞集団の全体的なフラックスを評価するために、マルチカラーフローサイトメトリーを実施した。BCG-WT実験では、肺T細胞(CD3+細胞)が、年齢をマッチさせた健康な動物(18%)と比較して、SCV非存在下のBCGワクチン接種によって劇的にブーストされることが判明した(生細胞の45%)(データは示さず)。同様の結果は、BCG-STING動物についても再現された(図5A)。SCV2でチャレンジしたワクチン接種していない動物では、全肺CD3+集団はd4およびd7で4~6%と大幅に低下した;一方、BCGワクチン接種したSCV2チャレンジ動物は、これらの同じ時点でほぼ2倍のCD3+細胞(10~12%)を見せた。BCGが肺のT細胞枯渇を防止するこの同じ効果は、肺CD4+ T細胞の間でさらに大きく存在した(データは示さず)。同様に、SCV2感染のない状態でのBCGワクチン接種は、健常動物(5%)と比較して、肺への顕著なマクロファージのリクルートを促した(生細胞の55%)(データは示さず)。また、SCV2感染ではd7までにマクロファージの肺への動員は控えめであったが(生細胞の12%)、BCGワクチン接種済みの動物ではd4とd7の両方で肺のマクロファージ集団が非常に増加した(生細胞の30%)。一方、顆粒球を考慮すると、SCV2ワクチン接種済みのハムスターの肺は、図4Aで観察された深い気管支肺炎と同様に、d4(生細胞の80%)およびd7(72%)(データ示さず)でPMNによる劇的浸潤を示したことがわかった。BCGの事前接種は、この顆粒球浸潤をd4で30%、d7で32%のレベルに制限する効果があり、これは年齢が一致した健康なハムスターの肺のレベルと実質的に同等であった。
【0113】
BCG-STINGを接種したSCV2チャレンジ動物は、ワクチン接種していないSCV2チャレンジしたハムスター(4~6%)よりも、ほぼ2倍のCD3+細胞(~10%)を示したことが分かった(図5A~D)。肺におけるT細胞枯渇を防止するBCG-STINGのこの同じ効果は、肺CD4+T細胞の間でさらに大きく存在した;d4において、ワクチン接種していない動物は平均28%のCD4+T細胞を示したが、BCG-STINGワクチン接種動物は平均48%を示した(図5B)、d7において、ワクチン接種した動物は平均50%のCD4+T細胞を示したがBCG-STINGワクチン接種は平均70%を有した。同様に、SCV2感染の非存在下でのBCG-STINGワクチン接種は、健常動物(5%)と比較して、肺への顕著なマクロファージ勧誘(生細胞の39%)を促した(図5C)。また、SCV2感染ではd7までにマクロファージの肺への動員は控えめであったが(生細胞の12%)、以前にBCG-STINGワクチンを接種した動物では、d4で生細胞の25%、d7で生細胞の41%と肺のマクロファージ集団が非常に上昇した。一方、顆粒球を考慮すると、SCV2ワクチン未接種のハムスターの肺は、図4Aで観察された深い気管支肺炎と同様に、d4(生細胞の80%)およびd7(72%)でPMNによる劇的な浸潤を示した(図5D)ことが判明した。BCGの事前接種は、この顆粒球浸潤をd4で33%、d7で20%のレベルに制限する効果があり、これは年齢が一致した健康なハムスターの肺のレベルと本質的に同等であった。
【0114】
実施例9
液滴ベースのシングルセルRNAシーケンサー
BCG接種ハムスターとワクチン未接種ハムスターの肺細胞におけるシングルセル転写プロファイリング:SARS-CoV-2感染ハムスターにおけるBCG免疫の効果を、COVID-19のピーク期(4日目)と解決期(7日目)に、液滴ベースのシングルセルRNAシーケンス(10X Genomics)を用いてハムスター肺で検討した。BCG-WT実験では、合計13匹のハムスターを以下の3つのグループに分けて評価した:BCGワクチン接種のみ(3匹)、SARS-CoV-2感染のみ(d4で2匹、d7で2匹)、SCV2チャレンジを伴うBCGワクチン接種(d4で3匹、d7で3匹)。合計194,536個の細胞でシークエンシングを行い、低品質の細胞をフィルタリングした後、150,516個の細胞を解析した(表2)。BCGワクチン接種肺(14,284)、SARS-CoV-2感染肺(10,524)、BCGワクチン接種+SARS-CoV-2感染肺(10,928)、BCG-STING接種+SARS-CoV-2感染肺(10,642)の1匹あたりの平均分析細胞数には有意差は見られなかった。免疫細胞だけでなく、完全な組織反応の解像度を最大化するため、免疫細胞の濃縮解析は行わなかった。すべての高品質な細胞は、バッチなしのデータセットに統合され、読み取り深度を補正し、主成分分析にかけられた。
【0115】
[表2]
【0116】
実施例10
BCGワクチン接種、Scv2感染ハムスターのリンパ系、ミエロイド系、非免疫系細胞の特徴について
BCGは、SCV2感染によるリンパ球減少、マクロファージ枯渇、構造的細胞種の喪失を逆転させる:グラフベースの一様多様体近似投影法(UMAP)を用いて、5種類のリンパ系細胞(T細胞、プロT細胞、NK細胞、B細胞、形質細胞)、4種類の骨髄系細胞(顆粒球、マクロファージ)からなる14種類の主要細胞タイプまたはサブタイプのトランスクリプトームが得られた、プロマクロファージ、樹状細胞)、および5種類の非免疫細胞(赤血球、肺胞2型[AT2]細胞、繊毛細胞、内皮細胞、死滅細胞)が同定され、これらはすべてのサンプルで全細胞の98%以上を構成した(データ非表示)。これらの細胞群は、両時点において、すべての動物の肺に均質に分布していた。これらの明確な14の細胞クラスターは、すべてのサンプルに渡って代表され、明確に定義された標準的な遺伝子の発現に基づいていた(データ示さず)。
【0117】
BCG-STINGと同様に、UMAPでは、4種類のリンパ球(T細胞、NK細胞またはNKT、B細胞、形質細胞)、3種類の骨髄球(顆粒球、マクロファージ)を含む11種類の主要な細胞タイプまたはサブタイプのトランスクリプトームが取得された、および樹状細胞)、および4つの非免疫細胞タイプ(肺胞2型[AT2]細胞、繊毛細胞、内皮細胞、および線維芽細胞)が同定され、これらはすべてのサンプルで総細胞の98%以上を構成した(データは示さず)。これらの細胞群は、両時点において、すべての動物の肺に均質に分布していた。これらの明確な11の細胞クラスターは、全サンプルにわたって代表され、明確に定義された標準的な遺伝子の発現に基づいていた(データ示さず)。
【0118】
SCV2感染後d4とd7の両方で、Tリンパ球とマクロファージの著しい減少が観察され、AT2細胞や内皮細胞などの主要な肺構造細胞の喪失も観察された。一方、BCGまたはBCG-STINGを接種したハムスターは、Tリンパ球、AT2細胞、内皮細胞を高レベルで維持し、マクロファージ数の増加とマクロファージサブセットの複雑化の両方を示した。
【0119】
BCGおよびBCG-STINGは、SCV2感染時にTヘルパー、Tレグ、およびプラズマ細胞集団を拡大する。次に、ワクチン接種したハムスターとワクチン接種していないハムスターの両実験において、SCV2感染時の肺免疫細胞を評価するためにサブセット解析を実施した。BCG-WTでは、ハムスター肺のCD4+ T細胞のうち、TメモリーマーカーTcf7とLef1、TregマーカーFoxp3とIkzf2を用いて、全CD4+ T細胞をTメモリー、Treg、Tヘルパー細胞に分別し、合計7つのサブセット(Tメモリー、Treg、Tヘルパー、プロT細胞、NK細胞、B細胞、プラズマセル)を得た。このTヘルパー集団は、Tbx21(Tbet)、Infg、Tnfの発現が比較的高いことから、タイプ1のヘルパーT細胞(Th1)であることが示唆された。RORgt/Stat3(Th17)またはGATA-3/Stat5(Th2)を発現するCD4+ T細胞の有意な集団は見つからなかった。どのハムスター群にもCD8+ T細胞は存在しなかった。
【0120】
その結果、BCGのみを投与したハムスターではプラズマ細胞は肺の小さな集団であったが、BCGワクチンを接種し、SCV2を感染させた動物ではプラズマ細胞が特異的に増加することがわかった(データ示さず)。さらに、SCV2感染により、BCGのみを投与したハムスターと比較して、肺のTヘルパー細胞およびTreg細胞の集団が著しく減少し、BCGワクチン接種により、SCV2感染の継続にもかかわらず、肺のTヘルパー細胞およびTreg細胞の高レベルの維持が促されたことが観察された。これらの結果から、BCGワクチン接種によりハムスターの肺のCD4+T細胞応答がTh1およびTreg発現に歪むこと(Th17またはTh2発現はほとんどない)、SCV2がTh1およびTreg肺集団を抑制すること、および以前にBCGワクチン接種したSCV2感染動物がTh1およびTreg細胞の高レベルを維持可能であることが示された。
【0121】
BCG-STINGでは、図6に示すように、リンパ球の6つのサブセット(CD4+ T細胞、NKT細胞、Pro T細胞、B細胞、Treg細胞、およびプラズマ細胞)を分析した。BCG-STINGのデータ解析では、「BCG-only-noSCV2-challenge」は含まれていないため、細胞タイプが少なく、複雑なデータセットとなっている。
【0122】
BCG-STINGは、BCG-WTよりも多くのNTK細胞およびより多くのB細胞を肺に勧誘した(図7A-B)。BCG-STINGの分析では、BCGとBCG-STINGの両方が、より多くのCD4+ T細胞を勧誘することも判明した(図7A-B)。
【0123】
BCGおよびBCG-STINGは、SCV2感染時のリンパ球においてインターフェロン応答を低下させ、MHC II抗原提示および免疫グロブリン産生を促進させた。肺リンパ球のトランスクリプトーム変化をさらに調査するために、主要なリンパ球タイプにおいて、BCGワクチン接種、SCV感染動物とSCV2単独感染動物を比較することにより、制御される遺伝子(DEGs)を特定した(図7C)。BCG-WTについては、BCGワクチン接種により、Tヘルパー細胞およびTreg細胞集団の両方において、Cd74、H2-Ab1、およびH2-Eaなどの抗原提示遺伝子が強く上昇することが判明した(データ示さず)。BCG-STINGについては、解析対象をCD4+ T細胞に限定した(Tヘルパー、Treg別に分解していない)。しかし、いずれの場合も、以下のことが当てはまる:Cd74は、MHCクラスII HLA-DR抗原関連不変鎖をコードし、マクロファージ遊走阻止因子(MIF)の受容体として知られている。骨髄系細胞やB細胞で顕著に発現しているが、CD74はCD4 T細胞で発現することが知られており、T細胞リンパ腫などの特定の疾患状態やリンパ節症では、その発現がアップレギュレートされている。
【0124】
BCG-WTについては、Isg15(I型IFNにより誘導される分泌型17kDaタンパク質をコード)、IFN誘導型GTP結合タンパク質コード遺伝子Mx1およびMx2(いずれも抗ウイルス免疫応答に関連することが知られている)を含む、SCV2感染ハムスターの未接種肺Tヘルパー、Tregおよびプラズマ細胞における強いインターフェロン誘導反応も観察されている。また、肺Tヘルパー細胞およびTreg細胞では、グランザイムB(細胞溶解活性に関連するセリンプロテアーゼ)をコードするGzmbもSCV2感染のみによって強く誘導された。重要なことは、これらのIFN誘導性遺伝子(Isg15、Mx1、Mx2)およびGzmbの強い発現は、BCGを接種したSCV2感染ハムスターで完全に逆転したことから、SCV2感染時の肺病理につながるかもしれない炎症性応答をBCGが抑制することが示唆された(図11A-B)。BCG-STINGについては、解析はCD4+ T細胞に限定されたが、同じ解析が有効である(図10A-B)。
【0125】
また、BCG-WTについては、Cd74(MHCクラスII HLA-DR抗原関連不変鎖)もBCG接種により形質細胞で強く誘導されることが判明した。そこで、ハムスターの肺形質細胞における遺伝子シグネチャーのスコアを評価したところ、BCG-no SCV2群とBCG-SCV2群の両方で免疫グロブリン産生に関連する遺伝子が上昇する一方、SCV2に感染したワクチン未接種のハムスターの形質細胞ではこのパラメーターが減少していた(データ示さず)。BCG-STINGについては、BCG-STINGとBCG-WTは同様の免疫グロブリン遺伝子のアップレギュレーションを示した(図7C)。これらの結果は、BCGまたはBCG-STINGワクチン接種が抗原提示と免疫グロブリン産生の両方を促進し、SCV2免疫病理の軽減を説明し得るプロセスであるという結論を支持している。
【0126】
BCGワクチン接種、SCV2感染ハムスターおよびBCG-STINGワクチン接種、SCV2感染ハムスターにおけるマクロファージおよび樹状細胞集団の特徴。BCG-WTでは、マクロファージおよび樹状細胞集団のサブセット解析により、カノニカルマーカーによって定義された9つの異なるサブセットが明らかになった(データは示さず)。BCG-STINGでは、マクロファージと樹状細胞集団のサブセット解析により、正規のマーカーで定義された10種類のサブセット(C1q+ Apoe+ AMの代わりに、C1q+ AMとApoe+ AMがあるように、より区別されていた)(データは示さず)が発見された(データは示さず)。肺胞マクロファージは、病原体や残骸を貪食する重要な清掃細胞として知られているが、比較的免疫寛容である。BCG-WTでは、成熟した肺胞マクロファージは、AMとマルコ発現AM(マルコは病原体やアポトーシス細胞の認識に関連するスカベンジャー受容体)の2つのクラスターに分離できることがわかった。重要なことは、BCGを接種し、SCVに感染した動物は高レベルのAMを維持し、接種しない場合、SCV感染ハムスターは高度なAM枯渇を示したことである(データ示さず)。BCG-STINGについては、BCG-WTよりも多くのAMとより多くのMacro+ AMを肺にリクルートすることが判明した(図8A-B)。
【0127】
間質性マクロファージ(IM)は、末梢から肺に集められ、AMよりも炎症が強いと考えられている。従来のIMに加え、Isg15、Gngt2(グアニンヌクレオチド結合タンパク質サブユニットT2)、S100a8(カルグラヌリンA)の高発現を特徴とする3種類のIMサブタイプも同定された。注目すべきは、間質性マクロファージサブセットのうち3つ(IM、Isg+ IM、Gngt+ IM)が、SCV2ワクチン接種を受けたハムスターの肺で強く誘導されていたのに対し、BCGワクチン接種によりその存在量が著しく減少したことである。これらの観察結果は、BCGワクチン接種により、肺のスカベンジングAMのセットポイントが上昇するが、SCV2感染時には、SCV2が介在する肺免疫病理に関与すると考えられる炎症性IM細胞およびIMサブタイプの過剰な勧誘を防ぐという考え方を支持している。
【0128】
BCG-WTでは、AMとIsg15+ IMのDEGを解析した結果、SCV2に感染したワクチン未接種動物では、リンパ系細胞で観察されるようなIFN関連遺伝子(例えばIsg15,Irf7,Mx1、図_violin参照)の転写が多く、これにケモカインコード遺伝子(ccl2、ccl12、ccl4)やリンパ球活性化に関連したもの(Slamf9)、すべてが炎症反応の継続と一致していました。しかし、SCV2ワクチンを接種した動物では、優勢なDEGは、炎症が少なく修復を重視する環境で予想されるように、代謝や修復プロセスに関わるもの(例えば、ユビキチンをコードするubd、ピロホスファターゼ1をコードするppa1、システインジオキシゲナーゼをコードするcdo)または補体因子発現(C1qa、C1qc)へと移行した(図12A~B)。IFNg応答遺伝子シグネチャーのスコアを集中的に分析したところ、事実上すべての9つの骨髄系細胞サブセットについて、BCGワクチン接種動物は、IFNg発現の最高レベルを有するIsg15+ IMを含めて、発現低下を示した(データ示さず)。
【0129】
BCG-STINGについては、AMに限定して解析した(AMとIsg15+IMは対象外)。しかし、結論は上記と同じで、BCG-WTとBCG-STINGの両方が、遺伝子発現をIFNプロセスから代謝および修復プロセスへとシフトさせた。(図8A-B)。
【0130】
BCGワクチン接種、SCV2感染ハムスター、およびBCG-STINGワクチン接種、SCV2感染ハムスターにおける顆粒球の特徴。BCG-WTでは、データセットに多数の顆粒球が含まれ、IL-1b、IL-1 receptor antagonist、IFN-stimulated gene 15、cathelicidin(抗菌ペプチド)、ficolin B(リソソーム蛋白)をそれぞれコードする標準遺伝子IL1b、IL1rn、Isg15、CampおよびFcnbに基づいて6つの明確なクラスタが特定された(データは示さず)。BCGを接種した未抗戦のハムスターは、後期エンドソームコンパートメントにおけるBCGのファゴソーム局在と一致するFcnb+顆粒球の優勢な集団を示した(データは示さず)。顆粒球のこの同じフィコリン発現集団は、BCGワクチン接種したSCV2チャレンジドハムスターの肺において、チャレンジドでワクチン未接種の動物よりも常に豊富であった。しかしながら、Camp+、Isg15+、Il1rn+およびIl1b+顆粒球サブセットについては、BCGワクチン接種は、進行中のSCV2の存在下で肺への顆粒球細胞の採用を減弱させる役割を果たした(データ示さず)。したがって、少なくとも特定の顆粒球集団については、BCGワクチン接種は、図4Aで観察されたBCGワクチン接種動物における気管支肺炎の程度の低下と一致して、肺への動員を鈍らせた。
【0131】
骨髄細胞における観察結果と同様に、SCV2チャレン ジを受けたワクチン非接種動物におけるDEG解析では、IFN関連遺伝子(例:Mx2、Ifit2)およびケモカイン遺伝子(例:ccl5、ccrl2)の高レベルな転写が見られたが、BCG接種ハムスターでは、代謝遺伝子特に酸化的バーストに関わるもの(例:CytB、Cox2、Cox3)へとシフトした(データは示されていない)。
【0132】
BCG-STINGでは、Il1b-顆粒球は同定されなかったが、Sell+顆粒球(Sell=CD62LまたはL-セレクチン(細胞接着分子))は同定された。このように、両解析で6つのクラスターが存在したが、わずかな違いがあった。とはいえ、上記の結論はBCG-STINGでは概ね正しい(図12A-B)。
【0133】
実施例11
その他のScv2疾患マーカー
BCGおよびBCG-STINGワクチン接種済みハムスターにおいて
BCGワクチン接種したハムスターにおけるSCV2疾患の他のマーカー。SCV2ウイルス負荷は、d4およびd7においてすべての動物の肺および気管組織において測定され、d7においてBCGワクチン接種動物においてカウントが減少する非有意な傾向が見られたが、有意な減少は見られなかった(データは示さず)。RT-qPCRによるSCV2ウイルス負荷は、ウイルス負荷に統計的に有意な差はないことを示す。実験は、2つのグループ(グループ3およびグループ4)で時間をずらして実施した。集計の結果、いずれの時点でもSCV2ウイルス量に有意な差は見られなかった。BCGおよびBCG-STINGは、この非致死的動物モデルにおいて、使用したSCV2の用量(高用量)ではウイルス量を減少させないが、(i)scRNAseq、(ii)IHC、(iii)フローサイトメトリで測定した疾患の重症度は減少するようだ。集合体では、d4またはd7犠牲時点のSCV2ウイルス負荷に有意差はなかった。サブグループ3の動物のうち、d7でBCGワクチンを接種した動物は、ウイルス負荷の統計的に有意な減少を示した(p<0.01)(データ示さず)。同様に、CTで確認された肺浸潤と共登録された病変の18 F-FDG取り込み陽性病変のPET分析では、d4またはd7におけるグループ間のPET陽性病変の数に有意差は見られなかった(データは示さず)。ハムスターは、SCV2チャレンジ後4日目および7日目に18F-FDG PETおよびCTイメージングに供された。肺浸潤(CT)と共記憶する炎症性病変(PET)の体積を、全肺体積に対するパーセントで測定した(データは示さず)。結果はグループの平均データを示したが、SCV2チャレンジ後4日目に評価した3匹の動物からのCTおよびPET画像のサンプルは、BCGおよびBCG-STINGの事前接種によって特定の動物で肺浸潤が減少したことを示した(データは示さず)。
【0134】
実施例12
結果概要
本研究では、ゴールデンシリアンハムスターモデルにおけるSCV2肺感染の病因と免疫学に対するBCGおよびBCG-STINGの静脈内接種の影響を、scRNAseq解析で補足した組織学およびフローサイトメトリの伝統的ツールを用いて評価した。その結果、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種により、重症の気管支肺炎の発症が抑制されたことがわかった。併せて、BCGおよびBCG-STINGのワクチン接種は、肺のT細胞リンパ球減少を鈍化させ、顆粒球の肺浸潤を減少させた。また、BCGおよびBCG-STINGのワクチン接種は、肺へのマクロファージの著しいリクルートと関連していた。
【0135】
単細胞転写解析により、SCV2チャレンジの4週間前にBCGおよびBCG-STINGワクチンを接種すると、肺に存在する細胞タイプの集団とこれらの細胞タイプによって発現するDEGの両方において、有意なシフトに関連することが明らかになった。リンパ系細胞のうち、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種動物では、SCV2感染動物およびSCV2感染していないBCGワクチン接種動物には見られなかった、プラズマ細胞のユニークな肺への動員を認めた。Treg細胞(寛容、抗炎症CD4細胞サブセット)は、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種動物の肺でより豊富であった。肺のTヘルパーおよびTregを含むいくつかの豊富なリンパ球系は、ウイルス感染で予想されるように、SCV2感染動物でI型IFN関連遺伝子を高レベルで発現した。しかし、これらの同じ細胞タイプでは、BCGワクチン接種、SCV2感染肺およびBCG-STINGワクチン接種、SCV2感染肺の間で優勢DEGは抗原提示方向にシフトしていることが示された。実際、遺伝子シグネチャーのスコアリングにより、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種動物の血漿細胞は、ワクチン非接種動物の血漿細胞よりも免疫グロブリン遺伝子発現が有意に高いことが示された。血漿細胞の早期採用と抗原提示遺伝子の転写へのシフトは、BCGとBCG-STINGが重症気管支肺炎を予防するメカニズムの1つが、抗ウイルス抗体の産生促進であることを示唆している。
【0136】
マクロファージのうち、scRNAseqにより、ウイルス感染がない状態でBCGワクチンを単独接種すると、肺組織に高レベルの肺胞マクロファージが生じることが明らかになった。SCV2感染時、BCGワクチン接種動物およびBCG-STINGワクチン接種動物は、この高レベルのAMを保持した。一方、間質性マクロファージの集団がいくつか同定され、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種ハムスターの肺よりもワクチン未接種の肺でかなり高い値を示した。間質マクロファージは、高い炎症能力を持つことが知られている末梢から集められた非居住マクロファージであるため、BCGの有用な免疫学的効果は、過剰な炎症性間質マクロファージの動員を防ぐことである可能性がある。ワクチン未接種動物のAMとIM集団のDEGは、いずれもIFN関連遺伝子やケモカイン遺伝子の高発現を示したが、BCGワクチン接種およびBCG-STINGワクチン接種肺では、AMとIMが代謝および修復遺伝子を高発現していることがわかった。
【0137】
BCG-STINGは、BCGに対して2つの重要な利点を示した。第一に、BCG-STINGはBCG-WTよりも多くのNKT細胞と多くのB細胞を肺に集めた。第二に、BCG-STINGはBCG-WTよりも、より多くのAMとより多くのMarco+ AMを肺に集めた。この研究は、SCV2の高チャレンジ用量(5 x 10 TCID50単位)で実施され、ハムスターで重度の気管支肺炎を引き起こした。
【0138】
以上のことから、BCGおよびBCG-STINGの接種により、肺胞マクロファージ数の増加、SCV2によるT細胞リンパ球減少の防止、顆粒球の肺浸潤の防止というメカニズム( )によって、ハムスターの重症SCV2気管支肺炎を予防できることが示された。BCGおよびBCG-STINGは、肺の免疫グロブリン産生形質細胞の出現を促進するようで、抗ウイルス抗体産生の促進を示唆している。BCGおよびBCG-STINGが肺Treg細胞の存在量を上昇させる一方で、多くの細胞タイプがIFN関連遺伝子の発現から遠ざかるという事実は、BCGおよびBCG-STINGが免疫寛容活性を有することを示唆している。これらの観察から、BCGおよびBCG-STINGのワクチン接種は、SCV2に対する保護において貴重な役割を果たす可能性があり、BCGまたはBCG-STINGを既存のCOVID-19ワクチンと組み合わせるさらなる研究が、相乗的な保護をもたらす可能性を示唆している。
【0139】
実施例13
bcg-wtおよびbcg-stingの抗腫瘍効果は、刺戟依存的である。
BCG-STINGは、異所性・同系マウスMB49膀胱癌モデルにおいて、BCG-WTよりも優れた抗腫瘍効果をもたらすことが示されている(WO 2021/163602参照)。BCG-STINGの優位性のメカニズムが、STINGアゴニスト(c-di-AMP)の高レベル放出に特に起因することを確認するために、野生型C57BL/6マウスと同様にSTING-/- マウス(C57BL/6J-Tmem173gt/Jまたはゴールデンチケットマウス)で上記参照特許出願に記載のMB49腫瘍実験が行われた。MB49を接種したSTING-/-マウスの平均腫瘍重量は、BCG-STING(BCG-disA-OE)処理後では0.7g(未処理のWTまたは未処理のSTING-/-マウスと有意差なし)だったのに対し、 0.2g(p0.02)であった(図13A)。これは、WTマウスと比較して、STING-/-マウスの腫瘍に浸潤する免疫(CD45+)細胞の全体的減少に関連していた(図13B)。腫瘍浸潤リンパ球の中で、WTマウスと比較して、処置したSTING-/- マウスの腫瘍において、総リンパ球および活性化CD8+ T細胞(IFN-g+ CD8細胞、CD25+ CD69+ CD8細胞、およびCD69+CD38+ CD8細胞)の大きな減少があったが、未処置またはBCG-WT処置STING-/- とWTマウスではあまり顕著でない変化があった(図13C-F)。同様に、活性化腫瘍浸潤マクロファージ(TNF-a+ F4/80+ CD11b+ 細胞およびTNF-a+CD206+ CD124+ )は、BCG-STING (BCG-disA-OE) 処理STING-/- マウスにおいてWT マウスと比較して著しく減少した(図13G~H)。腫瘍体積もまた、STING-/-マウスのBCG-STING処理によって減少しなかった(図14)。これらのことから、BCG-disA-OEの抗腫瘍効果は,STINGに大きく依存することが確認された。
【0140】
実施例14
膀胱癌に対するBCG-stingの抗腫瘍効果は、低分子スティングアゴニストを静脈内に投与した場合より優れている。
膀胱癌のラット同所性ラットMNUモデル( WO 2021/163602 参照)において、BCG-STING が BCG-WT よりも優れた抗腫瘍効果を発揮することが示された。ADU-S100のような低分子STINGアゴニストの直接適用と比較したBCG-STINGの抗腫瘍効力を決定する実験を行った(図16Aに示す構造)。これを行うために、30匹のラット(Harlan、平均体重160g、年齢7週)を用いて、MNU Fischerラットモデルを使用した。簡単に説明すると、N-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)注射を隔週で行い、3%イソフルランによる麻酔を使用して合計4回の膀胱内注射を行った。完全麻酔後、20Gの血管カテーテルをラットの尿道に留置した。その後、0.9.%塩化ナトリウムに溶解したMNU(1.5mg/kg)(Spectrum)を注入し、カテーテルを抜去した。自発的な排尿を防ぎ吸収させるために60分間鎮静を継続した。MNUは2週間ごとに計4回投与された。最後のMNU注入の2週間後、PBS、25マイクログラムのADU-S100、5×106CFUのBCG-WT、または5×106CFUのBCG-STING(すべて20G血管カテーテルを介して0.3mlで静脈内投与)による静脈内処理を毎週行い、合計投与回数を調べた。最後の膀胱内投与から2日後にネズミを犠牲にし、最後のBCG注入から48時間以内に膀胱を採取した。剖検時にラットの膀胱を取り出し、33%をホルマリン固定し、H&Eスライドを作成した。認定泌尿器科病理医が、ラット膀胱あたり約20の顕微鏡視野を確認し、腫瘍のステージについてそれぞれ採点した。良性、CIS、Ta、またはT1病変を示す顕微鏡視野の割合を、各治療群について計算した(図16B)。示されるように、無治療(MNUのみ)では、ラット膀胱フィールドの30%がT1膀胱がん病変を示し、70%がTaを示した。一方、BCG-STING(oeBCG、BCG-disA-OE)治療ラット膀胱では、60%の良性膀胱組織と40%のCIS(carcinoma in situ)が認められた。BCG-WT処理ラットの膀胱は、100%CISを示した。ADU-S100を投与したラット膀胱では、CIS35%、Ta25%、T140%であった。これらの結果から、BCG-STINGによる膀胱内治療は、MNU発がん後の膀胱がんの病理がT1やTaなどの進行腫瘍に進展するのを防ぐ上で、BCG-WTよりも優れていることが示された。また、両者ともADU-S100による膀胱内治療より優れていた。
【0141】
実施例15
bcg-wtおよびbcg-stingは、グルコーストランスポーターのアップレギュレーションにより、細胞外から細胞内へのグルコースの流入を促進する。
BCG-STINGで処理したヒト単球由来マクロファージが、BCG-WTで処理した同じ細胞よりも有意に高いレベルのグルコースを細胞内空間に取り込むことが以前に示された(WO 2021/163602を参照)。細胞内グルコースのレベルの上昇が、輸送の増加によるものか、またはグルコネシスの増加によるものかを決定するために、BCG-WTおよびBCG-disA-OEに曝露したマクロファージにおける主要グルコーストランスポーターGLUT1の発現が試験された。BCGまたはBCG-STING(BCG-disA-OE)によるマウスBMDMを4時間チャレンジし、グルコースを含まない培地で洗浄および回復後、マクロファージを蛍光2-デオキシ-グルコース類似体2-NBDGで2時間処理し、続いてフローサイトメトリによりGLUT1発現または2-NBDG取り込みのレベルを分析した。図15Aに見られるように、BCG-WTおよびBCG-STING(BCG-disA-OE)への曝露は、曝露していない細胞と比較して、BMDMにおけるGLUT1発現のそれぞれ2倍(p 0.06)および5倍以上(p 0.002)の増加を導いた。同様に、図15Bに示すように、2-NBDGレベルは、BCG-WTおよびBCG-disA-OEへの曝露後にそれぞれ20%(p 0.06)または40%(p 0.003)増加した。これらの観察結果は、BCG-disA-OEが、BCG-WTまたは未処理のコントロールよりも高いレベルのGLUT1トランスポーターおよびグルコース取り込みを誘発し、細胞内グルコースのより大きな蓄積をもたらすことを強く示唆しており、鍛えられた免疫およびSTING活性化を、強化されたmTOR-HIF-1a経路活性化およびそれに伴うグルコーストランスポーターレベルの上昇に結びつける以前の観察結果と一致している。
【0142】
BCG-STINGによるマクロファージへのグルコース蓄積増加のメカニズムは、糖新生の増加ではなく、細胞内への輸送の増加によるものである(図15A-B)。蛍光グルコースの細胞内取り込みが決定された。簡単に言うと、マクロファージは、グルコースフリー培地の存在下で1:20(マクロファージ対BCG比)の比率で感染させ、続いて2-NBDGを外来的に添加した。その後、マクロファージをGLUT1について染色し、フローサイトメトリーを用いて調査した。データ解析はFlowjoおよびGraphpad prismソフトウエアを用いて行った。2-tailed Student's t-test (n=2 experimental replicates) (図15)。
【0143】
実施例16
BCGおよびBCG-STINGワクチン接種により嚢胞性線維症患者における非結核性抗酸菌感染症の発症が予防できる可能性
欧州嚢胞性線維症学会患者レジストリ(ECFSPR)を用いて、2009年から2018年までのCF患者の年間(肺非結核性抗酸菌)NTM有病率の違いと国別のBCG接種方針が関連しているかどうかを評価した。各国のNTM有病率は、各年の観察期間中にNTMデータが入手可能な全個体のうち、NTM培養が陽性であった個体の割合と定義された。2011年以降、ECSFPRは小児と成人のCF患者のNTM感染を別々に報告するようになり、これらの年齢層におけるNTM有病率を別々に計算することができるようになった。ある調査年、年齢層(小児または成人)の国ごとのNTMデータは、レジストリが報告したデータが10人未満である場合、またはその年にNTMデータの欠損が70%以上である場合は、分析から除外した。
【0144】
研究国は、普遍的なBCGワクチン接種の方針によって、積極的か中断されたかに分類され、中断された国については、普遍的なBCGワクチン接種が中断された年代によって、1990年以前、1990年から2000年未満、2000年から2010年未満、または2010年以降に分類された。
【0145】
2009年から2018年の間に、合計37の欧州および特定の近隣地中海諸国(トルコ、イスラエル)が、ECFSPRにNTM感染症の年間サマリーを少なくとも1回寄稿した。ある年の国レベルのデータは、報告されたNTMデータが10人未満であった場合、またはNTMデータの70%以上が欠落していた場合に除外された。これらの基準により、以下の数の国を含めて分析することができた:2019年は14、2010年は14、2011年は22、2012年は23、2013年は23、2014年は21、2015年は24、2016年は26、2017年は20、2018年は31。これらの除外基準の適用後、合計33カ国が一次NTM分析に利用され、成人分析には1年当たり20~27カ国が、小児分析には1年当たり19~28カ国が含まれた。対象国のBCG接種の実施状況は、複数回のBCG接種12カ国(アルメニア、オーストリア、チェコ、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、ロシア連邦、スロバキア共和国、スロベニア、スウェーデン、ウクライナ)、単独接種17カ国(アルバニア、デンマーク、グルジア、ハンガリー、イスラエル、ラトビア、リトアニア、北マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、スペイン、スイス、トルコ、イギリス)であった。2009年から2017年にかけて、嚢胞性線維症(CF)患者の年間NTM率に関するデータを欧州嚢胞性線維症学会患者登録(ECFSPR)に寄せた欧州諸国を、BCG接種政策によって活動中または中断中に分類した。地図はmapchart.netで作成。調査対象国のうち、2011年にユニバーサルBCGワクチン接種が実施されていたのは15カ国(アルバニア、アルメニア、クロアチア、グルジア、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、ラトビア、リトアニア、北マケドニア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア連邦、セルビア)、11カ国は2011年までにユニバーサルBCG接種を中断(オーストリア、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、イスラエル、ノルウェー、スロヴァキア、スロヴェニア、スペイン、スウェーデン)、4カ国がユニバーサルBCG接種戦略を活用しなかった(ベルギー、キプロス、イタリア、オランダ)。注目すべきは、調査期間中にBCG接種を中止した3カ国である:ノルウェー(2009年)、チェコ共和国(2010年)、スロバキア共和国(2011年)である。BCG接種を継続している国は、BCG接種を中止している国と比較して、NTM感染率が統計的に有意に低かった(発生率比[IRR]: 0.38; 95% CI: 0.26, 0.54) (図17AB)。図17Bは、調査期間中にBCGの普遍的な接種を行っていた国のCF患者における年間NTM感染率を、BCG接種戦略(単回接種と複数回接種)別にグループ分けし、BCG接種を中断した国と比較して示した。以前にBCGユニバーサルワクチン戦略を利用した16カ国のうち、1990年以前に中断した国は5カ国、1990年から2000年の間に中断した国は2カ国、2000年から2010年の間に中断した国は4カ国、2010年以降にBCGワクチン接種を中断した国は5カ国であった。
【0146】
研究期間中、欧州のCF患者におけるNTMの年間総有病率は、2009年の1.94%から2018年の4.10%に増加した。小児CF患者(2011年1.55%→2018年1.83%)に対して成人患者(2011年3.41%→2018年6.26%)で高いNTM有病率が観察された。
【0147】
すべての調査年において、積極的な普遍的BCGワクチン接種政策を持つ国は、結核負担を考慮しても、BCGワクチン接種をしなくなった国と比較してNTM感染の有病率が低いことを報告した(図17A-B)。BCGワクチン接種を積極的に行っている国では、NTM感染の有病率は2009年の0.44%から2017年の1.59%に増加したが(PR: 1.14; 95% CI: 1.07, 1.22), BCGワクチン接種を中止した国ではNTM感染の有病率は2009年の2.17%から2017年の4.07%に増加した (PR: 1.06; 95% CI: 1.04, 1.07)。BCG接種を継続している国では、普遍的なBCG接種を中断している国と比較して、NTM感染の年間有病率が統計的に有意に低かった(PR: 0.28; 95% CI: 0.17, 0.45)。
【0148】
実施例17
嚢胞性線維症のデータ概要
欧州の CF 患者における肺 NTM 感染の年間有病率は,BCG 接種を中止している国と比較して,BCG 接種を普遍的に実施している国で有意に低いことが確認された。NTMは、BCGワクチン接種を1回のみ実施している国と比較して、複数回接種戦略を採用している国のCF患者の間でより一般的ではなかったが、この所見は統計的に有意ではなかった。BCG接種は、CFにおける肺NTM感染に対する保護を提供する可能性があり、反復投与によって保護上の利点がもたらされる可能性がある。
【0149】
複数の疫学研究により、BCG接種の中止と小児NTM感染の増加との関係が観察されており、また、in vivoでのNTMに対するBCGの防御効果に関するヒトおよび動物のデータもある。BCGは、無関係な抗原刺激に対する免疫セットポイントを増加させるエピジェネティックな変化を伴う「訓練された免疫」と呼ばれるメカニズムによって、複数の感染性生物に対する異種防御を与えることが示されている。BCGは、NTM、ウイルス感染、癌に対する保護効果に関連しているが、これらのデータは、CFコミュニティに対するBCGの潜在的な利点を示唆している。
【0150】
本調査にはいくつかの限界がある。ECFSPRは包括的なものであるが、すべての国が研究期間を通じて年次データを提供しているわけではなく、一部の国ではNTM感染症データの欠落が報告されている。したがって、報告または培養の実践における偏りが、観察された関連性に影響を与えた可能性がある。ECFSPRの年次報告書には、国内のNTMの種レベルのデータは含まれていないため、種に特化した解析は不可能である。同様に、ECFSPRはNTM肺疾患ではなくNTM感染症を報告しているため、より臨床的なエンドポイントであるCFにおけるBCGワクチン接種とNTM疾患との関係を確認することができない。しかし、BCG ワクチン接種を中止している国でも、CF 患者を含む高リスク患者には BCG ワクチン接種を継続している場合があり、その結果、国によって BCG 接種に異質性がある可能性がある。BCG接種の中止や回数の減少は、結核の罹患率の低下の代用となる可能性が高く、結核への曝露は、実際には、NTMに対する有意な交差防御をもたらす可能性がある。最後に、本研究の性質上、地理的条件、社会経済的条件、移住パターン、免疫BCG株、臨床実践パターンの違いなど、NTM感染のリスクを高める可能性のある個人レベルの特性を説明することはできなかった。
【0151】
実施例18
膀胱がんおよび結核の動物モデルにおけるBCG-STINGの効果
BCG-disA-OEおよびBCG-WTの結核予防効果について、モルモットモデルを用いて評価した。PBS、BCG-disA-OE、BCG-WTを接種したモルモットに病原性Mtbを接種し、18週後に犠牲となった。BCG-DisA-OEはBCG-WTと比較して、肺重量、肺病理スコア、肺Mtb CFU数という3つのパラメータによって結核疾患の進行を抑制した。MB-49マウス異所性脇腹腫瘍モデルを用いると、BCG-disA-OEはBCG-WTよりも、(i)腫瘍重量の減少、(ii)腫瘍関連IFNγ+CD4細胞の腫瘍への増加、(iii)腫瘍関連CD4 Treg細胞の減少に効果があった。モデルC57BL/6マウス(n = 10/グループ)に3x105MB-49細胞を0日目に注射した。PBS(No Tx)または106BCGをd13、d16、d19に腫瘍内投与した。腫瘍重量とフローサイトメトリーのために、マウスはd21で犠牲になった。** p<0.01, *** p<0.001, ****p<0.0001.BCG-disA-OEは、膀胱癌の2つの異なる動物モデルにおいて、BCG-WTよりも有効であった(データは示さず)。
【0152】
BCG-disA-OEを接種した免疫不全BALB/cマウスは,BCG-WTを接種したマウスと比較して,肺のMtb埋蔵量が有意に減少した(データは示さず)。同様に,2種類のBCG株をエアロゾルで曝露した免疫不全SCIDマウスのtime-to-death試験では,BCG-disA-OE株投与後の生存期間がBCGWT株と比較して延長した(データ非表示)。また、BCG-disA-OEに感染したBALB/cマウスの肺と脾臓において、BCG-WTによるレベルと比較して、炎症性サイトカインのレベルが増加していることがわかった(データは示さず)。
【0153】
実施例19
BCG-STINGの訓練された免疫効果
炎症性サイトカインBCG-disA-OEで処理したラットの尿膀胱は、未処理またはBCG-WT処理ラットと比較して、IFN-α/β、IFN-γ、IL-1 β、TNF-α、TGF-β、iNOS、IP-10、MCP-1およびMIP-1 αの著しい誘導_00を示していた(データは示さず)。BCG-disA-OE で処理したラットの膀胱におけるCCL2+ MΦ、Nos2+およびIL-1 β + M1 MΦ(IL-6、IFN-γ、およびIFN-α発現の増加を伴う)の浸潤増加の証拠も発見された。興味深いことに、IP-10の増加が認められ、これはIFN-γの増加とともに、感染や炎症部位でのT細胞の強いリクルートを促進することが知られている(データは示さず)。重要なことに、我々はこれらのデータを5人の健康なコントロールから得たヒトPBMCで再現し、BCG-disA-OEではBCG-WTよりもTNFαとIL-6の有意に大きな増加を観察した(データは示していない)。
【0154】
マクロファージのリプログラミング最近の研究では、炎症促進機能を持つもの(M1 MΦ)と抗炎症性腫瘍促進機能を持つもの(M2 MΦ)を含む多数のMΦサブセットが同定されている。また、骨髄由来抑制細胞(MDSC)は、抗腫瘍や抗感染症の免疫応答を抑制する重要な役割を担っていることが知られている。炎症性サブセットへのリプログラミングが起こるかどうかを判断するために、トレーニングMΦ 実験において、BCG-disA-OE 対 BCG-WT の能力を検討した。図43に示すように、ヒトPBMCのBCG-disA-OEへの曝露は、BCG-WTで生じるよりも強力なM1表現型への骨髄球シフトを誘導する。具体的には、 (i)炎症性MΦ sの全体数、(ii)TNFα発現M1 MΦ s、および(iii)IL-6発現M1 MΦ s。一方、(iv)M2型MΦ sの全体数および(v)IL-10発現M2 MΦ sなどの免疫抑制性ミエロイド細胞タイプの存在量は減少した。 **p<0.01, ***p<0.001.(データは示さず)。
【0155】
エピジェネティック・トレーニング。MΦ で誘導される訓練された免疫は、ヒストンのメチル化とアセチル化のレベルでのエピジェネティックな再プログラミングによって媒介される。組換えBCG株は自然免疫記憶応答を誘導するだけでなく、ヒト単球を代謝的、エピジェネティックに再プログラムし、その後のチャレンジに直面したときに、より良い反応をするように仕向けるという仮説を検証するために、健康なドナーの末梢血からヒト単球を分離し、培養したBCGの野生型株とdisa-OE株を(MOI5:1)3時間チャレンジした。非付着細胞および非内蔵細菌を反復洗浄により除去し、細胞をペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMI中で6日間休ませた。TLRアゴニストPam3CSK4(300ng/μl)を用いて細胞を一晩再刺激し、MΦ、活性プロモーターおよびエンハンサーのマーカーであるリジン4でのヒストンH3モノメチル化(H3K4me1)の分布における変化を調べるため、クロマチン免疫沈降シーケンス(ChIP-sequencing)によりエピジェネティック変化を調査した。IL-6のH3K4メチル化については、BCG-WTと比較して、BCG-disA-OEにより、、TNFαプロモーターが有意に誘導されることが確認された。また、TNFαおよびIL-6プロモーター では、 H3K9メチル化の有意な低下とH3K27アセチル化の促進が認められた(データは示さず)。
【0156】
オートファジーのトレーニング。オートファジーは、細胞内病原体を除去するための重要な宿主防御機構である。オートファジーはBCGによる訓練免疫を調節することが示されているが、オートファジーと訓練免疫のエピジェネティックな変化とを結びつける正確な経路は不明である。最近、BCG-disA-OEが膀胱腫瘍細胞においてオートファジーを促進することが明らかになった。このことは、訓練された免疫のもう一つの指標となる。
【0157】
本発明を上記実施例を参照して説明したが、本発明の精神および範囲内に修正および変形が包含されることが理解されよう。従って、本発明は、以下の請求項によってのみ限定される。
図1
図2A-B】
図2C
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17
図18-1】
図18-2】
【配列表】
2023544401000001.app
【誤訳訂正書】
【提出日】2023-09-04
【誤訳訂正1】
【訂正対象書類名】明細書
【訂正対象項目名】全文
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
この出願は、2020年10月1日付け出願の米国仮出願第63/086,559号の35 U.S.C. §119(e)に基づく優先権の利益を主張する。先行出願の開示はこの出願の開示の一部とみなされ、および参照によってその全体が本願の開示に組み込まれる。
【0002】
政府支援の表明
この発明は、米国国立衛生研究所から授与された認可R01A155346、AI155346およびAI037856の下で政府の支援を受けて行われた。政府は本発明について一定の権利を有する。
【0003】
本発明の背景
本発明の分野
本発明は概して、ワクチンに、およびより一層具体的には、ウイルス感染の防止のためのBCGベースのワクチンに関する。
背景情報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SARS-CoV-2による進行中のCovid-19パンデミックは、世界中でほぼ3200万人の個人に影響を与え、100万人を超える死者を出し、世界の健康および経済に壊滅的な影響を及ぼしている。脆弱な個体におけるウイルスに反応する炎症促進性メディエーターの無制限の生産は、急性呼吸促迫症候群およびサイトカインストーム症候群の一因となり、致命的疾患につながると考えられる。少数の抗ウイルス剤、免疫修飾処置、およびワクチンが目下試用中だが、すでに承認されている治療用物質および/またはワクチンは、有効で、および迅速に展開されれば、何千人もの命を救い、およびさらに高いレベルの罹患率および経済的苦難を防ぐことができる可能性を提供する。パンデミックは、バチルス・カルメット-ゲラン(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG)で、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)の弱毒化株であり、結核性髄膜炎および播種性結核の防止、および非筋肉浸潤性膀胱ガン(NMIBC)を有する患者のためのアジュバント免疫療法として最も広く用いられているワクチンの一つであるものへの関心を新たにした。BCGワクチン接種は、異種感染で、黄熱病、HPV、RSV、インフルエンザA、およびHSVを含めたものに対する抵抗性をヒトに付与することが示されている。この保護効果は、訓練された免疫と呼ばれる生得的免疫細胞のエピジェネティックな再プログラミングに起因し、新規な刺激に積極的に反応するそれらの能力での長期的変化が導かれる。これらの観察結果に基づき、COVID-19防止のためのBCGの臨床試験が開始された。これらの継続している臨床試験は興味をそそる一方で、それらの影響は、それぞれの試用部位でのタイミングおよび疾病の発生によって、ならびに十分な患者数を登録することの難しさによって制限され得る。また、COVID-19を有するいくらかの患者では、BCGによって誘導される過剰な炎症反応が疾患をさらに悪化させるかもしれない可能性に関して懸念が起こっている。したがって、SARS-CoV-2感染におけるBCGの安全性および効力を確実にするために、BCGを用いた動物試験を用いる前臨床試験が決定的に必要である。
【0005】
また、最近の研究は、COVID-19の疾患中に、ウイルスによって誘導される抗ウイルス性のI型インターフェロン(IFN)応答の鈍化および遅延があり、疾患の免疫病態の一因となるという事実を強調する。したがって、I型IFNの早期投与は保護的と考えられる。
本発明の概略
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、STINGアゴニスト、c-di-AMPを過剰発現するBCG-disA-OEまたはBCG-STINGと名付けられるBCG株を用いたBCGベースのワクチンに関する。本発明は、ウイルス感染、例えば、一次呼吸器感染およびSARS-CoV-2などのようなものの防止、改善または処理のためのBCG-disA-OEの使用にさらに関する。
【0007】
一実施形態では、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を提供し、ここで、菌種はカナマイシン(kanamycin)に随意に耐性である。ある態様では、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。いくらかの態様において、disA遺伝子は、M. tuberculosis(M. ツベルクローシス)disA遺伝子である。追加的な態様において、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。さらなる態様において、マイコバクテリウムのプロモーターはPHSP60である。一態様では、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有していない。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様では、選択可能なマーカーは、Kanamycin(カナマイシン)耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanCおよびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0008】
一実施形態では、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種、および薬学的に許容可能な担体を有する薬剤組成物であって、菌種がカナマイシンに随意に耐性であるものを提供する。一態様では、菌種はc-di-AMPを過剰に発現する。追加的な態様において、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。さらなる態様において、薬学的に許容可能な担体は、りん酸緩衝剤;くえん酸緩衝剤;アスコルビン酸;メチオニン;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール;ブチルアルコール;ベンジルアルコール;メチルパラベン;プロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドングリシン;グルタミン;アスパラギン;ヒスチジン;アルギニン;リジン;単糖類;二糖類;グルコース;マンノース;デキストリン;EDTA;スクロース;マンニトール;トレハロース;ソルビトール;ナトリウム;セーリーン;金属界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG);ステアリン酸マグネシウム;水;アルコール;セーリーン溶液;グリコール;鉱油またはジメチルスルホキシド(DMSO)である。一態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有していない。一定の態様において、存在するとき、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。一態様において、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanCおよびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0009】
追加的な実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによって対象におけるウイルス感染を防止、改善または一次処理する方法を提供し、それによって感染を処理する。ある態様において、ウイルス感染は一次呼吸器感染である。一定の態様において、ウイルス感染は非結核性(non-tuberculosis)マイコバクテリウム感染またはSARS-CoV-2感染である。追加的な態様において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張(bronchiectasis)、およびHIV/AIDSからなる群より選ばれる状態を有する。さらなる態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。一態様では、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有していない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0010】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによって対象における細菌感染を防止、改善または処理する方法を提供し、それによって感染を処理する。ある態様では、細菌感染は一次呼吸器感染である。一定の態様では、感染は非結核性マイコバクテリウム感染である。さらなる態様において、対象は嚢胞性線維症(CF)を有する。さらなる態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。ある態様では、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有していない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0011】
さらなる実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによって対象におけるグルコースレベルを調節する方法を提供し、それによってグルコースレベルは調節される。一態様において、グルコースレベルはBCG菌種の投与後に増加する。追加的な態様において、グルコースレベルはBCG菌種の投与後に減少する。さらなる態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有していない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、カナマイシン耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、カナマイシン耐性遺伝子および/またはpanCおよびpanD遺伝子を除去するように修飾される。一実施形態では、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによってウイルス感染を患う対象に免疫学的応答を誘導する方法を提供し、それによって免疫学的応答は誘導される。一態様において、BCG菌種の投与は、肺の肺胞性マクロファージにおける増加、SCV2媒介T細胞リンパ球減少の防止、顆粒球肺浸潤の防止、肺における免疫グロブリン生産性形質細胞の増加(an increase immunoglobulinproducing plasma cells in the lung)、および/または肺でのTreg細胞における増加を引き起こす。追加的な態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有していない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含み、一定の態様において(the strain further comprises a selectable marker In certain aspects)、選択可能なマーカーはKanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種はKanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0012】
一実施形態において、本発明は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;シグナルペプチド;およびSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインまたはその抗原性断片を操作可能な順序で有する核酸構築物を提供する。ある態様において、プロモーター配列はHsp60プロモーターである。
【0013】
追加的な実施形態において、本発明は、SARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある対象への投与のための核酸構築物の使用を提供する。ある態様において、対象はI型インターフェロンを追加的に投与される(the subject is additionally administered of type I interferon)。
【0014】
さらなる実施形態において、本発明は核酸構築物を含有する薬剤組成物を提供する。
【0015】
一実施形態では、本発明はSARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある対象においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導する方法であって、核酸構築物を含有する薬剤組成物を投与することを含む方法を提供する。一態様では、投与は静脈内注射によるものである。追加的な態様において、対象はヒトである。
【0016】
追加的な実施形態において、本発明は、核酸構築物を有する薬剤組成物をその必要がある対象に投与することによってウイルス感染を防止、改善または一次処理する方法を提供し、そこで、核酸構築物は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;およびシグナルペプチドを操作可能な順序で有する。ある態様では、ウイルス感染は一次呼吸器感染である。一定の態様において、対象は、高齢体、健康な成体、または結核の危険性がないインファント(人間で言うと乳児)もしくはチャイルド(人間で言うと小児)である。追加的な態様において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張、およびHIV/AIDSからなる群より選ばれる状態を有する。ある態様において、対象は、免疫抑制療法の慢性的な使用、悪性腫瘍、放射線療法、骨髄移植、または化学療法のために免疫抑制されている。一定の態様では、免疫抑制療法はステロイドまたは抗TNF剤である。さらなる態様では、対象は、ウイルス感染への曝露についての危険性が高い環境におかれている。様々な態様において、環境は、ヘルスケアまたはヘルスケア関連施設、刑務所またはナーシングホームである。ある態様では、核酸構築物はウイルスタンパク質またはその抗原性断片をさらに含む。
【0017】
さらなる実施形態において、本発明は、対象に核酸構築物を投与することによって、糖尿病を有する対象における血糖を管理するための方法を提供し、そこで核酸構築物は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;およびシグナルペプチドを操作可能な順序で有する。
【0018】
一実施形態では、本発明は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;ppiAシグナル配列;SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン;およびシグナルペプチドを操作可能に有する核酸構築物を提供する。
【0019】
追加的な実施形態において、本発明は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;ppiA配列;およびシグナルペプチドを操作可能な順序で有する核酸構築物を提供する。一態様において、核酸構築物はまた、ppiAシグナル配列も有し得る。
【0020】
一態様では、核酸構築物はウイルスタンパク質またはその抗原性断片を含有する。
【0021】
追加的な態様において、ウイルスタンパク質またはその抗原性断片は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインである。
【0022】
一実施形態では、本発明はここに開示される任意の核酸構築物を有する薬剤組成物を提供する。
【0023】
さらなる実施形態において、本発明は、本発明の核酸構築物を有する薬剤組成物を対象に投与することによって、対象においてウイルス感染に対する免疫応答を誘導する方法を提供する。一態様では、対象はSARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある。追加的な態様において.薬剤組成物の投与後にI型IFNのレベルにおける増加がある。
一実施形態では、本発明は、非結核性マイコバクテリウム(NTM)感染を防止するために、核酸構築物が含まれる薬剤組成物をその必要がある対象に投与することを含む方法を提供し、そこで核酸構築物は、プロモーター配列;M. tuberculosis disA配列;およびシグナルペプチドを操作可能な順序で有する。一態様において、対象は嚢胞性線維症(CF)または非嚢胞性線維症気管支拡張(NCFB)を有する。別の態様では、核酸構築物は細菌タンパク質またはその抗原性断片をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】STINGアゴニストおよびSARS-CoV-2タンパク質断片を過剰発現する組換えBCGの実例である。
図2図2A-CはBCGおよびdisAを有するワクチンの模式図である。図2A:プロモーター、disA配列、ppiAシグナル配列およびウイルスタンパク質または断片である。図2B:プロモーター、disA配列およびppiA配列を有する二価のワクチンである。図2C:プロモーター、disA配列、ppiA配列、ppiAシグナル配列およびウイルスタンパク質またはその断片を有する三価ワクチンである。
図3図3A-BはMtb ppiAがI型IFNsを増大させることを示す。図3A:生の青色ISG細胞である。図3B:C57BL/6 BMDMSである。
図4図4A-Dは肺病理の有病率結果を示す。図4A:気管支肺炎有病率である。図4B:好中球浸潤有病率である。図4C:マクロファージ有病率である。図4D:肉芽腫有病率である。
図5図5A-Dは、BCGワクチン接種がSCV2媒介の肺T細胞リンパ球減少を鈍らせ、マクロファージ肺動員を増強し、および顆粒球による肺浸潤を低減することを示す。図5A:CD3+T細胞である。図5B:CD4+細胞である。図5C:マクロファージである。図5D:顆粒球である。
図6】各処理グループについての6つのリンパ球系細胞タイプについての均一多様体近似および投影(uniform manifold approximation and projection)(UMAP)プロットのグラフベースのクラスター化を示す。
図7図7A-Cは、細胞画分および差次的調節遺伝子(differentially regulated genes)(DEGs)を示す。図7A:scRNAseqによるリンパ系細胞の6つのサブセットにわたる相対的な細胞画分である。図7B:動物による各処理群におけるCD4+、NKT、ProT、B、Treg、および形質細胞(Plasma cell)画分である。図7C:形質細胞(plasma cell)免疫グロブリン生産である。
図8図8A-Bは細胞画分および差次的調節遺伝子(DEGs)を示す。図20A:scRNAseqによる骨髄系細胞の10のサブセットにわたる相対的な細胞画分である。図20B:動物による各処理群におけるIM、C1q+AM、lsg15+IM、AM、Macro(マクロ)+AM、Apoe+AM、Gngt2+IM、S100a8+IM、Pro(プロ)AM、およびDC細胞画分である。
図9図9A-Bは細胞画分および差次的調節遺伝子(DEGs)を示す。図24A:scRNAseqによる顆粒球の6つのサブセットにわたる相対的な細胞分画である。図24B:動物による各処理群におけるSell+Granulocuye(セル+グラニュロクエ)、Fcnb+Granulocyte(顆粒球)、Camp(カンプ)_Granulocyte、lsg15+Granulocyte、Il1rn_Granulocyte、Pro Granulocyte細胞画分である。
図10図10A-BはCD4+T細胞における差次的発現遺伝子を示す。図10A:SCV2よりもBCG-STING-SCV2肺でより多く発現されたDEGsについてのTヘルパー遺伝子オントロジー(ontology)である。図10B:BCG-STING-SCV2よりもSCV2肺においてより多く発現されたDEGsについてのTヘルパー遺伝子オントロジーである。
図11図11A-Bは肺胞マクロファージにおける差次的発現遺伝子を示す。図11A:SCV2よりもBCG-STING-SCV2肺においてより多く発現されたDEGsについての肺胞マクロファージ遺伝子オントロジーである。図11B:BCG-STING-SCV2よりもSCV2肺においてより多く発現されたDEGsについての肺胞マクロファージ遺伝子オントロジーである。
図12図12A-BはIl1rn+顆粒球における差次的発現遺伝子を示す。図12A:SCV2よりもBCG-STING-SCV2肺においてより多く発現されたDEGsについてのIl1rn+顆粒球の遺伝子オントロジーである。図12B:BCG-STING-SCV2よりもSCV2肺においてより多く発現されたDEGsについてのIl1rn+顆粒球遺伝子オントロジーである。
図13図13A-HはBCG-disA-OEの改善された抗腫瘍効力がSTING依存性であることを示す。図13A:剖検時での腫瘍重量である。図13B:腫瘍における合計CD45+免疫細胞である。図13C:合計腫瘍浸潤CD3+リンパ球である。図13D:IFN-Y+の腫瘍浸潤CD8+細胞である。図13E-F:活性化CD8+T細胞である。図13G:腫瘍浸潤炎症性マクロファージである。図13H:剖検後のMB49腫瘍におけるTNF+免疫抑制性マクロファージの差次的存在量(differential abundance)である。両側(2-tailed)スチューデントのt検定.
図14】剖検時での腫瘍容量を示す。
図15図15A-Bは骨髄由来マクロファージ(BMDMs)における差次的BCG誘導グルコース取込みを示す。図15A-B:MCG株の感染後のBMDMsにおけるGLUT1の誘導発現および細胞内蛍光2-NBDGによって測定された差次的グルコース取込みを示す棒グラフである。
図16図16A-BはBCG-STING対小分子STINGアゴニスト(ADU-S100)を示す。図16A:STINGアゴニストADU-S100である。図16B:腫瘍ステージ分類データである。
図17図17A-Bは嚢胞性線維症データを示す。図17A:研究期間中のCF患者におけるNTM感染の年差(Annual rates)は集計(aggregate)(すべての国)において、および普遍的(ユニバーサル)BCGワクチン接種方策(BCG中断対活性普遍的BCGワクチン接種)によって報告された。図17B:BCGワクチン接種戦略(単回対複数回接種)によってグループ分けした調査期間中の普遍的BCGワクチン接種を提供した国について、BCGワクチン接種を中断した国と比較したCF患者におけるNTM感染年間率である。
図18図18A-HはBCG-STINGおよびBCG-WTワクチン接種動物における肺病理の有病率結果をワクチン接種動物と比較して示す。図18A:気管支肺炎有病率である。図18B:Neutrophil(好中球)浸潤有病率である。図18C:マクロファージ浸潤有病率である。図18D:間質性浸潤有病率である。図18E:リンパ球浸潤有病率である。図18F:血管周囲炎症有病率である。図18G:肺胞内炎症有病率である。図18H:気管支周囲炎症有病率である。 本発明の詳細な記載
【0025】
本発明は、STING(スティング)アゴニスト、c-di-AMPを過剰発現する(overexpresses)BCG-disA-OEまたはBCG-STINGと名付けられるBCG株を用いたBCGベースの治療薬に関する。本発明はさらに、ウイルス感染、例えば、一次呼吸器感染およびSARS-CoV-2などのようなものの防止、改善または処理のためのBCG-disA-OEの使用に関する。
【0026】
本組成物および方法を説明する前に、この発明は、そのような組成物、方法、および条件が変動し得るため、記載された特定の組成物、方法、および実験条件に制限されないことが理解される。また、ここで使用される用語法は、特定の実施形態だけを説明する目的のためのものであり、および制限することを意図しておらず、それは本発明の範囲が添付の請求の範囲において制限されるだけであるからであることが理解される。
【0027】
この明細および添付の請求の範囲において使用されるように、単数形「a(ある、不定冠詞)」、「an(母音の前に用いる不定冠詞)」、および「the(その、本、など、定冠詞)」は、文脈が明らかに別なふうに指示しない限り、複数の言及を含む。このように、例えば、「その方法」への言及は、ここに記載されたタイプの一またはそれよりも多くの方法、および/またはステップを含み、それはこの開示を読む、およびその他などで当技術において熟練するそれらの人物に明らかになるであろう。
【0028】
この明細において言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、あたかも各個々の刊行物、特許、または特許出願が参照により組み込まれるように具体的に、および個別に指し示されるかのように同じ程度に、参照によりここに組み込まれる。
【0029】
別なふうに規定されない限り、ここで使用されるすべての技術用語および科学用語は、この発明が属する技術における通常の熟練のものによって普通に理解されるのと同じ意味を有する。ここに記載されたものと似ているか、または等価の任意の方法および材料を本発明の実践または試験において使用することができるが、修飾および変形が、当該開示の精神および範囲内に包含されることが理解されるであろう。次に、好ましい方法および材料について説明する。
【0030】
ここで使用する「核酸」または「核酸配列」という語句は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはこれらの任意の断片に、一本鎖または二本鎖であり得、およびセンス鎖またはアンチセンス鎖を表し得るゲノムまたは合成由来のDNAまたはRNAに、ペプチド核酸(PNA)に、または由来が自然または合成の任意のDNA様またはRNA様物質に言及する。「核酸」または「核酸配列」という語句は、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドが、または任意のこれらの断片に、一本鎖または二本鎖であり得、およびセンス鎖またはアンチセンス鎖を表し得るゲノムまたは合成由来のDNAまたはRNA(例は、mRNA、rRNA、tRNA、iRNA)に、ペプチド核酸(PNA)に、または由来で自然または合成の任意のDNA様またはRNA様物質に、以下を含めて、例は、iRNA、リボ核タンパク質(例は、例えば(e.g., e.g.,)、二本鎖iRNAs、例は、iRNPs)が含まれる。用語は、自然ヌクレオチドの既知の類似体を含め、核酸、即ち、オリゴヌクレオチドを包含する。用語はまた、合成骨格を有する核酸様構造をも包含し、例は、Mata(マータ)(1997)Toxicol. Appl. Pharmacol.(トキシコロジー・アンド・アプライド・ファーマコロジー)144:189-197;Strauss-Soukup(シュトラウス-ソウクプ)(1997) Biochemistry(バイオケミストリー)36:8692-8698;Samstag(ザムスターク)(1996) Antisense Nucleic Acid Drug Dev(アンチセンス&ヌクレイック・アシッド・ドラッグ・デベロップメント)6:153-156を参照。「オリゴヌクレオチド」は一本鎖のポリデオキシヌクレオチドまたは化学的に合成され得る二つの相補的なポリデオキシヌクレオチド鎖のいずれでも含む。そのような合成オリゴヌクレオチドは、5'りん酸を有さず、およびこのようにキナーゼの存在下でATPを用いてりん酸を付加しなければ、別のオリゴヌクレオチドにライゲーション(ligate)しない。合成オリゴヌクレオチドは、脱りん酸化されていない断片にライゲーションすることができる。
【0031】
用語「遺伝子」は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAのセグメントを意味し;それには、コード領域に先行する、および後続する領域(リーダーおよびトレーラー)、ならびに該当する場合、個々のコードセグメント(エキソン)間の介在配列(イントロン)が含まれる。ここで使用される「操作可能に連結された(linked)」は、二またはそれよりも多く(二以上と言うこともある)の核酸(例は、DNA)セグメント間の機能的関係に言及する。典型的には、それは転写調節配列と転写される配列との機能的関係に言及する。例えば、プロモーターは、それが適切な宿主細胞または他の発現系においてコード配列の転写を刺激または修飾する場合、コード配列、例えば、本発明の核酸などのようなものに操作可能に連結される。大抵は、転写配列に操作可能に連結しているプロモーター転写調節配列は、転写配列に物理的に連続し、即ち、それらはシス作用性である。しかし、いくらかの転写調節配列、例えば、エンハンサーなどのようなものは、物理的に連続している必要はなく、またはコーディング配列に近接して位置し、その転写がそれらを増強する。
【0032】
ここで使用する場合、「プロモーター」という用語には、細胞、例は、植物細胞においてコード配列の転写を駆動する能力があるすべての配列が含まれる。このように、本発明の構築物において使用されるプロモーターには、遺伝子の転写のタイミングおよび/または速度を調節または修飾することに関与するシス作用性転写制御要素および調節配列が含まれる。例えば、プロモーターは、シス作用性転写制御要素であることができ、エンハンサー、プロモーター、転写ターミネーター、複製起点、染色体統合配列(chromosomal integration sequence)、5'および3'非翻訳領域、またはイントロン配列が含まれ、それらは転写調節に関与する。これらのシス作用性配列は典型的に、タンパク質または転写を遂行するために(オン/オフにする、調節する、修飾する、など)、他の生体分子と相互作用する。「構成的」プロモーターは、ほとんどの環境条件および発生または細胞分化の状態において継続的に発現を推進するものである。「誘導性」または「調節可能」プロモーターは、環境条件または発生条件の影響下で本発明の核酸の発現を指示する。誘導性プロモーターによる転写に影響を与え得る環境条件の例には、嫌気性条件、昇温、干ばつ、または光の存在が含まれる。
【0033】
用語「処理」は、ここにおいて用語「治療上の方法」と互換的に使用され、および次の1)診断された病的状態または障害を治癒し、減速し、その徴候(symptoms)を軽減し、および/または進行を停止させる治療上の処理または対策、および2)ならびに予防的/防止的対策の両方に言及する。処理を必要とするものには、特定の医学的障害を既に有する個体ならびに最終的にその障害を獲得し得るもの(即ち、防止的手段を必要とするもの)も含まれ得る。
【0034】
「治療上有効な量」、「有効用量」、「治療上有効な用量」、「有効量」、またはその種の他のものなどの用語は、研究者、獣医師、医学博士または他の臨床医が求めている組織、系、動物またはヒトの生物学的反応または医療反応を引き出す主題化合物のその量に言及する。大抵、応答はペイシェントにおける徴候の改善(amelioration)または望ましい生物学的転帰(desired biological outcome)のいずれでもである。有効量はここに記載されるように定めることができる。
【0035】
用語「の投与」およびまたは「投与すること」は、処理が必要な対象に治療上有効な量において薬剤組成物を提供することを意味すると理解されるべきである。投与経路は、経腸、局所または非経口であることができる。そのようなものとして、投与経路には、制限されないが、皮内、皮下、静脈内、腹腔内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心内、皮内、経皮、経気管、表皮下、関節内(intraarticulare)、被膜下、くも膜下、脊髄内および胸骨内(intrasternal)、経口、舌下頬側、直腸、膣、鼻眼投与、そのうえ注入、吸入、および噴霧が含まれる。ここで使用されるような「非経口投与」および「非経口的に投与した」という句は、経腸投与および局所投与以外の投与様式を意味する。薬剤組成物は投与方法に応じて様々な単位剤形において投与することができる。好適な単位剤形には、制限されないが、粉体、錠剤、丸薬、カプセル、ロゼンジ、座薬、パッチ、鼻腔スプレー、注射可能物質、移植可能な徐放性調剤物、脂質複合体、などが含まれる。
【0036】
本発明によれば、用語「ワクチン」は、投与により、免疫応答、特に、病原体または疾患細胞、例えば、ガン細胞などのようなものを認識し、および攻撃する細胞性免疫応答を誘導する薬剤調剤物(薬剤組成物)または生産物に関する。ワクチンは疾患の防止または処理のために使用され得る。
【0037】
調節不全宿主(Dysregulated host)の自然免疫応答(innate immune responses)はCovid-19の病状の一因となる。感染の初期相では、強力な宿主防御がウイルス複製の抑止につながり、それはその後、炎症を低レベルに導き、徴候が軽くなり、および予後が良好となる。宿主防御機構が不完全である場合、そのとき、それらは大規模なウイルス複製、全身性の高炎症、疾患の高重症度、および最終的には死亡に至る可能性がある。マクロファージの訓練された免疫はウイルスに対する初期の免疫反応を上昇させるのに役立つことができる(予防的)。過剰な炎症をブロックすることは、IL-6を標的とする例、Covid-19サイトカインストームの主要構成要素であり、徴候および病状を緩和する助けになることができた(治療的)。
【0038】
BCG-disA-OEは、マクロファージの高められた訓練された免疫を増強し、および対象における初期の抗ウイルス性I型インターフェロン応答を促進する。BCG-disA-OEと呼ばれる組換えBCG株が生成された。disA遺伝子は、STINGアゴニストである環状di-AMP(cyclic di-AMP)の生産を触媒する内因性ジアデニル酸(endogenous diadenylate)シクラーゼ遺伝子である。BCG-disA-OEは、モルモットでの結核の重症度を軽減する上で、標準BCGよりも優れていることが示されている。BCG-disA-OEは、マウスでのおよびラットでの膀胱ガンの治療において標準的なBCGよりも優れていることが示されている。最後に、BCG-disA-OEは、二つの異なるマウスモデルにおいて標準BCGよりも安全であることも示された。
【0039】
I型IFNの遅延生産は、肺胞上皮細胞によって(およびおそらくまたマクロファージおよび間質細胞によっても)単球化学誘引物質の高められた放出を促進し、血液単球の肺中への持続的な動員につながる。単球は炎症促進性(pro-inflammatory)マクロファージに分化する。活性化したナチュラルキラー(NK)細胞およびT細胞は、単球由来のマクロファージの動員および活性化をさらに促進する。細胞内RNAセンサ、例えば、TLR7などのようなものによるウイルス感知は、I型IFNを促進し、それはSARS-CoV-2侵入受容体の発現を誘導し、ウイルスがマクロファージの細胞質への接近を可能にし、NLRP3インフラマソームを活性化して成熟IL-1βおよび/またはIL-18の分泌につながる。活性化した単球由来のマクロファージは、膨大な量の炎症促進性サイトカインを放出することによってCOVID-19サイトカインストームの一因となる。
【0040】
訓練された免疫は自然免疫の一種であり、そこでは、第一の抗原性刺激が第二の異種刺激に対する免疫応答を増強させる。訓練された免疫の機構は、新たな異種刺激に対する免疫学的セットポイント(immunologic set point)を引き上げる第一の刺激によって誘導されたエピジェネティックおよびメタボロミック変化であると考えられる。最近のデータでは、BCG-disA-OEは免疫細胞においてより一層強力な訓練された免疫(エピジェネティックおよびメタボロミック変化によって測定)を誘発することが示された。
【0041】
標準BCGは、訓練された免疫機構によって、インフルエンザ、RSV、黄熱およびその他を含め、ウイルス感染に対して保護的であることが示された。それは標準BCGよりも強い訓練された免疫を引き出すので、本発明は、BCG-disA-OEがCOVID-19を含めてウイルス感染に対して保護的であることを提供する。第二に、BCG-disA-OEワクチン接種はCOVID-19を含め、ウイルス感染の重症度を低下させ得る。
【0042】
BCG-disA-OEがBCG-WTよりもはるかに高いI型IFN応答をインビトロおよびインビボで引き出すことが、ここに示される。具体的には、目下、BCGおよびM. tbは、強力なI型IFN応答および増加したレベルのオートファジーの誘引となる低レベルのc-di-AMPを発現すること、およびBCG-野生型(WT)と比較して、BCG-disA-OEが次のもの:モルモットモデルにおけるTB疾患からの優れた保護;二つの動物モデルにおけるNMIBCに対する優れた膀胱内効力(intravesical efficacy);二つのマウスモデルにおける向上した安全性;マクロファージおよび膀胱ガン細胞/細胞系におけるより一層強力な炎症促進性サイトカイン応答;M1シフト、強化した貪食、および増加したオートファジーによるより一層大きな骨髄系細胞極性(myeloid cell polarization);ヒトMDMにおけるより一層高度な炎症誘発性(proinflammatory)エピジェネティックマーク;ならびにヒトMDMにおける解糖へのより一層大きなメタボロミックシフトを示すことを見せる。
【0043】
STINGアゴニストを過剰発現するBCG(BCG-disA-OEまたはBCG-STING)は、二重の目的:それはBCG-WTによって付与されることがすでに知られているマクロファージの訓練された高められた免疫を増強し、およびまた重大な初期の抗ウイルスI型IFN応答を促進することを果たす。
【0044】
Covid-19は、新型コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされた目下の世界的パンデミックであり、世界中で深刻な健康および経済の危機に陥らせ、複数の大陸にわたる何十億もの人々の生活に劇的に影響を及ぼした。この執筆時点で、全世界で1100万の個人が感染し、50万を超える死亡が伴われている。疾患は何か月もの間世界的なパンデミックが続くと予想され、およびいくらかの熟練者は北半球において秋から冬にかけて悪化すると予測する。有効なワクチンは、広く苦痛を与え、および死さえもたらす。併存症、齢、非遺伝的および遺伝的な危険因子は病気の進行の一因となると考えられる。Bacille Calmette-Guerin (BCG)ワクチンは、小児における髄膜炎および播種性TBに対する保護効果を文書で証明され、訓練された免疫として知られる長期の自然免疫応答の誘導のため、異種感染に対して保護されることが示され、それは自然免疫細胞のエピジェネティックな、転写的、および機能的再プログラミングによって媒介される。BCGは知られている最良のワクチンアジュバント(即ち、プライミング剤)の一つである。それは別のTBワクチンとのプライミング剤として、多くのプライムブースト試験において使用された。ゆえに、BCGによる訓練された免疫の誘導が、SARS-CoV-2に対する感受性を低下させ、または疾患の重症度を軽減し得ると提唱される。COVID-19に対するBCGワクチン接種の効果を評定するいくつかの臨床試験が目下、進行中である。BCGワクチンは、特定のCOVID-19ワクチンが十分に満たされる前の暫定的な解決策を提供するだけでなく、BCG誘導の訓練された免疫が新興(emerging)病原体に対する有効なツールとして実際に証明されれば、BCGはまた将来のコロナウイルス関連パンデミックの初期段階で使用する潜在的に安全なブリッジワクチンとして機能することができた。しかしながら、COVID-19を有するいくらかのペイシェント(人間で言うと患者)では、BCGによって引き起こされる過剰な炎症反応が疾患を悪化させるかもしれないという可能性に関して懸念が生じた。したがって、BCGによる訓練された免疫の上方制御が重度のCovid-19を有するペイシェントの疾患を増悪させないことを確実にするためには、動物実験を用いた前臨床試験ならびに無作為化ヒト臨床試験も決定的に必要である。加えて、動物モデルでは、新規STINGアゴニスト発現組換えBCGの効力は必要とされ、およびCovid-19において観察された初期の遅延した抗ウイルスI型インターフェロン反応を克服するのに役立つことによって保護効果を提供し得る。
【0045】
BCGは、1921年にフランスの微生物学者Albert Calmette(アルベール・カルメット)およびCamille Guerin(カミーユ・ゲラン)によって、結核(TB)のための弱毒化生ワクチンとして開発され、彼らは13年間にわたり239回、M. bovis(M.ボビス)の有毒株を連続的に継代した。目下、米国とカナダおよび西欧(W. Europe)の一定の国を除き、世界の事実上すべての国において新生児に皮内BCGが与えられる。それは歴史上唯一の最も広く利用されているワクチンで、年間~1億5,200万用量与えられ、および少なくとも5B用量の集合体(aggregate)が与えられたと考えられる。20世紀半ば、BCGは、さまざまな固形腫瘍について、メラノーマ、乳ガン、および結腸ガンを含めて、腫瘍内免疫療法として好首尾に使用された。しかし、細胞毒性化学療法が普及するにつれて、その使用は好まれなくなった。1976年から、膀胱内BCGが筋層非浸潤性膀胱ガン(NMIBC)についての有効な免疫療法であることが見出されて以来ずっと、BCGはNMIBCの処理のために使用されており、およびガンについてFDAによって承認された唯一の細菌薬剤(bacterial agent)である。
【0046】
BCGはウイルス感染を含む無関係な感染に対して保護する。数多くの研究は、BCGがヒトおよび動物モデルの両方において数多くのウイルス感染に対する異種の保護効力を付与することを明らかにする。BCGを接種したヒトは、シャムワクチン接種した(sham-vaccinated)個体よりも、弱毒化したYFV株でのチャレンジ後にYFVウイルス血症を良好に制御することが可能であったことが示された。RCTsはまた、BCGが呼吸器感染に対する保護ができることを示す。ギニア-ビサウ(Guinea-Bissau)において、高死亡率の状況では(a high-mortality setting)、BCGは、肺炎および敗血症からのより一層少ない死亡が主要な原因となって、新生仔のすべての死因死亡率(all-cause neonatal mortality)を38%まで減少させ、および南アフリカにおいては(and In South Africa)、BCGは非成体(adolescents)における気道感染を73%まで減少させた。
【0047】
BCGワクチン接種が無関係なウイルスおよび細菌感染に対して異種保護効果を提供するという知見は、最近発見された訓練された免疫(TI)の現象における高まった関心を導いた。TIは自然免疫防御の理解におけるパラダイムシフトを表す。TIの誘導は自然免疫細胞における特定の受容体シグナル伝達経路の活性化およびその後のエピジェネティック、代謝的、および転写的な変化を導く。TIは、炎症促進性サイトカインの高められた生産などように、さまざまな形で現れ、およびその後のチャレンジに対して非特異的および増強的な免疫応答がもたらされる。重要なことに、動物モデルの予備的研究は、STINGアゴニストを過剰発現させるBCGがマクロファージにおいて高められたTIを誘導することを強く示唆する。
【0048】
目下、BCGワクチン接種を用いる国は、そうでない国よりも低いSARS-CoV-2の発生および死亡割合を有する。Miller(ミラー)ら、およびShet(シェト)らによる最近の研究では、普遍的なBCGワクチン接種方策が目下行われているかどうかに基づいて、COVID-19割合が国ごとに比較された。BCGを利用してない上位-乃至-中位および高-所得国(例は、イタリア、米国)は、BCGを用いている国(例は、日本、ブラジル、デンマーク)よりもSARS-CoV-2感染(p=0.0064)および死亡(p=0.00086)の著しくより一層高い発生率を有する。これらの知見は、BCGがSARS-CoV-2に対して防止効力を論証し得るという主張を強固にする。
【0049】
過去5年間にBCGを接種し、またはそうしなかったいずれかのボランティアの二つの比較的小さなグループにおける遡及研究において決定されたBCG接種の安全性プロファイルは、BCGワクチン接種が疾患の発生またはCOVID-19徴候の重症度における任意の増加と関係しないことを示した。また、種々の状態について入院した198の高齢体についてのACTIVATE(アクティベート)試験の中間分析は、退院時にBCGまたはプラセボを受けるように無作為に割り付け、BCGは最初の感染までの期間が有意に短縮され、副作用の発生頻度において群間差はないことを示した。これらのデータは、BCGワクチン接種が安全であり、および高齢体を感染に対して保護することができることを示す。しかし、COVID-19に対する保護を評定するためには、より一層大規模な研究が必要である。
【0050】
Covid-19の治療法として初期のI型IFNシグナル伝達を促進することは、強力な抗ウイルス免疫応答を誘導する。最近の研究は、他の呼吸器ウイルスとは対照的に、SARS-CoV-2感染後のI型IFN応答が、宿主のシグナル伝達とのウイルス干渉により著しく減少し、およびI型IFNによる前処理はSARS-CoV-2の複製を低減することができることを示した。重病患者においては、大いに損なわれたI型IFN応答、およびその結果としてのIFN刺激遺伝子の下方制御が観察され、高血中ウイルス負荷量および増加したTNFa、IL-6およびケモカインによって特徴付けられる増悪した炎症反応が関係した。STINGの活性化はI型IFN応答の強力な誘導であることから、STINGアゴニストを過剰発現するBCGが優れた抗SARS-CoV-2保護を伝統的なBCGによって引き出されるものに対して提供する可能性があるのは理にかなっている。
【0051】
STINGアゴニストは強力なI型IFN応答を引き出す。最近の研究は細胞内センサであるSTINGについて、細胞ストレスまたは病原体感染に対する自然免疫応答を媒介する上で、重大な役割を識別した。STINGは、細菌によって生産される環状ジヌクレオチドc-di-AMPまたはc-di-GMPなどのような病原体関連分子パターン(PAMP)分子について、および2',3'環状GMP-AMP(cGAMP)などのような内因性哺乳動物危険シグナル伝達(endogenous mammalian danger signaling)DAMP分子についての両方の細胞質受容体である。cGAMPは微生物または自己由来の細胞質二本鎖DNAに反応してcGAS(環状GMP-AMP合成酵素)によって合成される。STINGの活性化は、I型インターフェロン(IFNa/6)を含め、非常に多くのインターフェロン刺激遺伝子を誘導し、およびインターフェロン制御因子(IRF)転写因子の誘導に続くか、または並行するNF-KBおよびSTAT6転写因子の共活性化と関係する。このように、内因性および外因性の環状ジヌクレオチド(CDNs)は、自然宿主防御の強力なTLR非依存メディエーターである。STINGシグナル伝達の重要な役割に基づき、小分子(small molecule)STINGアゴニストを用いた経路の薬理学的刺激は、抗ウイルス療法および抗腫瘍免疫の強化のために目下試験されている。少なくとも15社が小分子STINGアゴニストの生成に現在取り組んでおり、および二つのそのような薬剤が第2相試験中である。
【0052】
STINGアゴニストを過剰発現する組換えBCGの開発.M. tbおよびBCGが、自然なヒトSTINGリガンドであるcGAMPに密接に関連するSTINGアゴニストである環状-di-AMP(cyclic di-AMP)を合成し、および分泌することが示された。細菌由来のc-di-AMPはIRF3経路を活性化し、およびSTING依存的なシグナル伝達を通してI型IFN応答を誘導することが示された。この微生物病因研究では、BCG-disA-OEと呼ばれる遺伝子操作したBCG株を用い、そこで内在性微生物ジアデニル酸シクラーゼ遺伝子であるdisAは、マイコバクテリウムの強力プロモーターであるPhsp60に融合させ、mRNAレベルにて200倍までのdisAの過剰発現および15倍までのc-di-AMP過剰生産が引き起こされた(図2)。予備的な結果は、BCG-disA-OEによって誘導される訓練された免疫の優れた効力および誘導の証拠を提供する。
【0053】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(bacille Calmette-Guerin、カルメット-ゲラン桿菌)(BCG)菌種(bacterial strain)を提供し、そこで菌種はカナマイシンに随意に耐性である。ある態様では、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(stimulator of interferon genes)(STING)アゴニストを過剰に発現する(over expresses)。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。いくらかの態様において、disA遺伝子はM. tuberculosis(M.ツベルクローシス、マイコバクテリウム・ツベルクローシス、結核菌と言うこともある)disA遺伝子である。追加的な態様において、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。さらなる態様において、マイコバクテリウムのプロモーターはPHSP60である。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。追加的な態様では、その菌種(the strain)はさらに選択可能なマーカーを含む。一定の態様では、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0054】
バチルス・カルメット-ゲラン(Bacillus Calmette-Guerin)(BCG)ワクチンは、主に結核(TB)に対して用いられるワクチンである。BCGは弱毒化した生きたウシ結核桿菌(attenuated live bovine tuberculosis bacillus)の株から調製される。BCGは、「訓練された免疫」と総称されるプロセスを通して骨髄系細胞およびNK細胞の両方を再プログラムすることが示された。BCGはマクロファージによって速やかに貪食され、および両方のエピジェネティックおよびメタボロミック修飾を引き出すことが示され、それらはウイルスを含め、異種抗原を用いる再チャレンジにより、それらの免疫セットポイントを上昇させる。異種抗原との再チャレンジにより、BCGで訓練されたマクロファージは高められたサイトカイン放出を示し、およびM1様表現型への再プログラミングを論証する。これらの初期事象は、異種BおよびTリンパ球の活性化、および上昇した抗体力価、ならびに非慣習的T細胞の増大、例えば、自然リンパ球系細胞(ILCs)および粘膜関連インバリアント(mucosa-associated invariant)T(MAIT)細胞などのようなものと関係する。また、BCG曝露は、骨髄においての造血幹細胞(HSCs)および多能性前駆体(MPPs)の拡大した「訓練された」集団を導き、それらはその後の病原体のチャレンジに対する強化された保護を付与する。
【0055】
ヒトにおけるBCGワクチン接種の無作為化コントロール試験は、生きた弱毒化黄熱ウイルス(live attenuated yellow fever virus)、生きた弱毒化インフルエンザA(live-attenuated influenza A)(H1N1)、およびヒト乳頭腫ウイルスの改善された制御を論証し、および動物試験は、二つのポジティブセンス、一本鎖RNAウイルスを含め、少なくとも八つのウイルスに対してBCGの利益を同様に論証した。
【0056】
M tuberculosis(Mtb)およびBCGは、自然のヒトSTINGリガンドであるcGAMPに密接に関連するSTINGアゴニストである環状-di-AMP(cyclic di-AMP)を合成し、および分泌する。細菌由来のc-di-AMPはIRF3経路を活性化し、およびSTING依存的なシグナル伝達を通してI型IFN応答を誘導することが示された。M tuberculosisゲノムからのdisA遺伝子は、ジ-アデニル酸(di-adenylate)シクラーゼ酵素をコードする。遺伝子操作されたBCG株はBCG-disA-OEまたはBCG-STINGと呼ばれ、そこではdisAは強力なマイコバクテリウムのプロモーターであるPhsp60に融合され、mRNAレベルで200倍までのdisAの過剰発現、および15倍までの過剰生産c-di-AMPがもたらされた。
【0057】
追加的な実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種および薬学的に許容可能な担体を含む薬剤組成物を提供し、そこでは菌種はカナマイシンに随意に耐性である。一態様では、菌種はc-di-AMPを過剰に発現する。追加的な態様において、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。一定の態様において、薬学的に許容可能な担体は、りん酸緩衝剤;くえん酸緩衝剤;アスコルビン酸;メチオニン;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム.塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール;ブチルアルコール;ベンジルアルコール;メチルパラベン;プロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール;低分子量(low molecular weight)(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドングリシン;グルタミン;アスパラギン;ヒスチジン;アルギニン;リジン;単糖類;二糖類;グルコース;マンノース;デキストリン;EDTA;スクロース(ショ糖);マンニトール;トレハロース;ソルビトール;ナトリウム;セーリーン;金属界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG);ステアリン酸マグネシウム;水;アルコール;セーリーン溶液;グリコール;鉱油またはジメチルスルホキシド(DMSO)である。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0058】
ここで使用するように、「薬剤組成物」は、活性原料、および薬学的に許容可能な担体、希釈剤または賦形剤を随意に含む調剤物に言及する。用語「活性原料」は互換的に「有効原料」に言及することができ、および投与の際に求められる効果を誘導する能力がある任意の薬剤に言及することを意味する。活性原料の例には、制限されないが、化合物、薬物、治療薬、小分子、などが含まれる。
【0059】
「薬学的に許容可能な」によって、担体、希釈剤または賦形剤が、調剤物の他の原料と適合し、そのレシピエント、および調剤物の活性原料の活性に対して有害でないものでなければならないことを意味する。薬学的に許容可能な担体、賦形剤または安定剤は、当技術においてよく知られ、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. Ed.(レミントンズ・ファーマスーティカル・サイエンシーズ、第16版、オソル, A.編集)(1980)である。薬学的に許容可能な担体、賦形剤、または安定剤は、採用される投薬量および濃度にてレシピエントに非毒性であり、および緩衝剤、例えば、りん酸塩、くえん酸塩および他の有機酸などのようなもの;抗酸化剤で、アスコルビン酸およびメチオニンが含まれるもの;保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルまたはプロピルパラベンなどのようなもの;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなどのようなもの);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリンなどのようなもの;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンなどのようなもの;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンなどのようなもの;単糖類、二糖類、および他の炭水化物で、グルコース、マンノース、またはデキストリンを含むもの;キレート剤、例えば、EDTAなどのようなもの;糖類、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどのようなもの;塩形成性対イオン、例えば、ナトリウムなどのようなもの;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);および/またはノニオン性界面活性剤、例えば、TWEENTM(ツイーン、TMは米国等でのトレードマーク表示)、PLURONICSTM(プルロニックス)またはポリエチレングリコール(PEG)などのようなものが含まれ得る。担体の例には、制限されないが、リポソーム、ナノ粒子、軟膏、ミセル、マイクロスフェア、微粒子、クリーム、エマルジョン、およびゲルが含まれる。賦形剤の例には、制限されないが、付着防止剤(anti-adherent)、例えば、ステアリン酸マグネシウムなどのようなもの、結合剤、例えば、サッカライドおよびそれらの誘導体(スクロース、ラクトース、スターチ、セルロース、糖アルコールおよびその他同種類のものなど)タンパク質様ゼラチンおよび合成ポリマー、滑沢剤、例えば、タルクおよびシリカなどのようなもの、および保存剤、例えば、抗酸化剤などのようなもの、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンC、パルミチン酸レチニル、セレン、システイン、メチオニン、くえん酸、硫酸ナトリウムおよびパラベンが含まれる。希釈剤の例には、制限されないが、水、アルコール、セーリーン溶液、グリコール、鉱油およびジメチルスルホキシド(DMSO)が含まれる。
【0060】
さらなる実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することを含む、対象におけるウイルス感染の防止、改善または一次処理する(treating primary)方法を提供し、それによって感染を処理する。ある態様では、ウイルス感染は一次呼吸器感染である。一定の態様では、感染は、非結核性マイコバクテリウム感染(non-tuberculous mycobacteria infection、非結核性抗酸菌)またはSARS-CoV-2感染である。追加的な態様において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張、またはHIV/AIDSを有する。追加的な態様において、対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張症、またはHIV/AIDSを有する。一態様では、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。追加的な態様において、disA遺伝子はM. tuberculosis disA遺伝子である。さらなる態様において、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。特定の態様において、マイコバクテリウムのプロモーターはPHSP60である。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有さない。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有さない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0061】
さらなる実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによって対象におけるグルコースレベルを調節する方法を提供し、それによってグルコースレベルが調節される。ある態様において、グルコースレベルはBCG菌種の投与後に増加する。追加的な態様において、グルコースレベルはBCG菌種の投与後に減少する。さらなる態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる態様では、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanC遺伝子およびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0062】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによってウイルス感染を患う対象において免疫学的応答を誘導する方法を提供し、それによって免疫学的応答が誘導される。ある態様において、BCG菌種の投与は、肺の肺胞性マクロファージにおける増加、SCV2媒介T細胞リンパ球減少の防止、顆粒球肺浸潤の防止、肺における増免疫グロブリン生産性形質細胞(an increase immunoglobulin-producing plasma cells in the lung)、および/または肺でのTreg細胞(制御性T細胞)における増加を引き起こす。追加的な態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激物質(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様において、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanCおよびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0063】
一定の実施形態において、本発明は、嚢胞性線維症または非嚢胞性線維症気管支拡張を有するペイシェントにおける非結核性マイコバクテリウム感染を防止するための方法を提供する。最近、St. Louis, MO(ミズーリ州、セントルイス)における5名の健康な人々に筋肉内BCGを与えた前向き臨床試験(prospective clinical trial)は、NTMに対する保護免疫におけるワクチン接種後の増加を観察した。NTMに対するBCG媒介保護について、追加的な説得力のあるヒトの証拠が、BCGワクチン接種が中断または終結された、強力な監視プログラムを有するヨーロッパ諸国から得られる。フランスでは、義務的なBCGワクチン接種が停止された後、培養により確認された(culture-confirmed)NTM頸部リンパ節炎の平均発生は年間10万人の子供あたり0.57から3.7まで激しく増加した。同様に、フィンランドでの大規模な遡及的な(retrospective)集団ベースの研究では、2006年においてBCG方策が普遍的な接種戦略から選択的な接種戦略に変わったとき、幼時NTM感染が急激に増加し、19.03の罹患率(incident rate)比を有する(95%のCI、8.8-41.07;P<0.001)。これらの研究は、BCGがヒトにおけるNTM疾患に対する交差保護(cross-protection)を提供するという仮説を支持する。
【0064】
国固有のBCGワクチン接種方策の独立した評価は、WHOおよびthe European CF Society Patient Registry(ヨーロピアンCFソサエティ・ペイシェント・レジストリ)(ECFSPR)で報告された2019年のNTM感染率につき行われた。表1に示すように、NTM感染の低い比率は、BCGについて普遍的にワクチン接種する欧州諸国においてしばしば観察され、その一方、より一層高い比率は、それらの標準的なBCGワクチン接種戦略をやめた国、特に、1980年代または1990年代にワクチン接種が中断された国において見られる。リストされた国々はECFSPRにおいてナショナルCF集団の>75%を有し、およびNTM感染に関するデータの欠落が少ない。ブラジルでのCF患者において同様の低いNTM感染率が見られる。これらの知見は、BCGワクチン接種がCFを有する人々においてNTM感染に対して保護し得るという仮説を支持する。
【0065】
【表1】
【0066】
少なくとも35年間、BCGワクチン接種はマウスにおいてNTM感染を保護できることが知られている。より一層最近の研究は、CFU計数の細菌封じ込めを確認するだけでなく、サイトカインおよび細胞媒介免疫を含めて、有益な宿主免疫応答も特徴付けられている。
【0067】
一実施形態において、本発明は、disA遺伝子を有する組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することによって対象における細菌感染を防止、改善または処理する方法を提供し、それによって感染が処理される。ある態様では、細菌感染は一次呼吸器感染である。一定の態様では、感染は非結核性マイコバクテリア感染である。追加的な態様において、対象は嚢胞性線維症(CF)を有する。さらなる態様において、菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する。一定の態様において、STINGアゴニストはc-di-AMPである。ある態様において、disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している。追加的な態様において、菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない。さらなる態様において、菌種はカナマイシンに随意に耐性である。追加的な態様において、その菌種は選択可能なマーカーをさらに含む。一定の態様において、選択可能なマーカーは、Kanamycin耐性遺伝子、panC遺伝子および/またはpanD遺伝子である。さらなる態様において、その菌種はプラスミドをさらに含む。ある態様では、その菌種は、Kanamycin耐性遺伝子および/またはpanCおよびpanD遺伝子を除去するように修飾される。
【0068】
以下の例は、本発明の実施形態をさらに説明するために提供されるが、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。それらは使用され得るものの典型である一方で、当技術において熟練する者に知られる他の手順、方法論、または技術が代替的に使用され得る。
【実施例
【0069】
例1
BCG-STINGの生成
BCG-STING(BCG-disA-OEとも呼ばれる)は、BCG Pasteur(BCGパストゥール)の組換え誘導体であり、それは内因性マイコバクテリウムジアデニル酸シクラーゼ遺伝子disAを過剰発現する(M tuberculosis CDC1551遺伝子MT3692;M tuberculosis H37Rvにおいての同一遺伝子は遺伝子Rv3586として注釈される)。M. tuberculosisおよびBCGのdisA遺伝子は、ヌクレオチドレベルにて100%同一である。disAは2つのアデノシン三りん酸分子のc-di-AMPへの変換を触媒する。
【0070】
過剰発現構築物は、選択可能性(selectability)のためにカナマイシン耐性カセットを保有するエピソームマイコバクテリウム過剰発現ベクターpSD5-hsp60内の強いマイコバクテリウムのプロモーターhsp60disA遺伝子を融合することによって生成した。M tuberculosisのMT3692(disA)遺伝子は、遺伝子特異的クローニングプライマーを用いてM tuberculosis CDC1551ゲノムDNAからPCR増幅した。このアンプリコンは、NdeIおよびMluI制限部位にてマイコバクテリウムシャトル発現ベクターpSD5-hsp60中にクローニングした。構築物(pSD5-hsp60-MT3692)の生成は制限分析および配列決定を用いて確認した。構築物は、エレクトロポレーションによって野生型BCG Pasteur株を形質転換するために用い、および組換えクローンは、BCG-disA-OE(Pasteur)とも呼ばれる株BCG-STING(Pasteur)を得るためにKanamycin(25μg/mL)に対して選定した。プラスミドの同じ(Plasmid The same)プラスミド(pSD5-hsp60-MT3692)は野生型BCG Tice(BCGタイス)中にもエレクトロポレーションし、BCG-disA-OE(Tice)とも呼ばれるBCG-STING(Tice)が得られた。BCG-STING(Pasteur)およびBCG-STING(Tice)は、非常に多くのインビトロ表現型アッセイおよびインビボマウスモデルで並行してテストし、およびそれらは比較可能に実行した。それらはそれぞれ、対応する野生型BCG株と比較して、インビトロの表現型アッセイおよびインビボのマウスモデルにおいて別個の表現型を示す。
【0071】
BCG-STINGによって運ばれるカナマイシン耐性付与遺伝子、kanRを除去した第二世代BCG-STINGも作り出した。この第二世代の組換えBCGは、野生型BCGの同じ抗生物質耐性プロファイルを有し、およびBCG-STING-noKanと呼ばれる。BCG-STING-noKanを生成するための方法はWO(国際公開)2021/163602に記載された。BCG-STING-noKan-#1と呼ばれる一つのBCG-STING-noKan株は好首尾に生成された。
【0072】
BCG-STING-noKan-#1を生成するために、BCG-Pasteur-Aeras-ΔpanCD(BCG-パスツール-エアラス-ΔpanCD)で、panC(タンパク質パントテナート-ベータ-アラニンリガーゼをコードする)およびpanD(タンパク質アスパルタート1-デカルボキシラーゼをコードする)のマークされてない欠失を有し、およびそれゆえパントテナート(ビタミンB5)栄養要求体であるものを取得した。BCGゲノムDNAからの自然panCD遺伝子ペアをPCR増幅し、および同様にpSD5-hsp60-MT3692のKanRカセット以外のすべてをPCR増幅した。次いでギブソン・アセンブリー(Gibson assembly)は、BCG panCDペアがKanRカセットに置き換わったp106cと呼ばれるプラスミドを生成するために用いた。p106cでは、panCDの5'非翻訳領域(5'-UTR)は存在せず、およびpanCDのコード配列は、panCDの転写を駆動するKanRプロモーターに融合し;panCDの3'-UTRの81bpは保持される。プラスミドp106cをBCG-Pasteur-Aeras-ΔpanCD中にエレクトロポレーションし、および単一コロニーは補助パントテナートを欠くミドルブルック(Middlebrook)7H11寒天上でBCG-STING-noKan-#1として選抜した。この様式において導かれたBCG-STING-noKan-#1株は、以下の特性を有する。(i)それはカナマイシンに十分に感受性であり、およびKanR DNAはそれからPCR増幅することができない。(ii)RNAを調製するために同等の菌数を用いたqRT-PCRによって、それはdisA遺伝子の相対遺伝子発現レベルが226であり、その一方でBCG-STING(第一世代、Kan耐性)についてのものは270(p=0.3、統計的有意差なし)であり、およびBCG-WTについてのものは1.0であった。(iii)IRF3 RAW-Lucia(ルシア)またはIRF3 RAW Blue(ブルー)レポーターマクロファージ(Invivogen(インビボゲン))はそれに曝露するとき、上昇し、およびBCG-WTでのものより統計的に有意に高く、およびBCG-STING(第一世代、Kan耐性)のものとは統計的に有意な差はないRLUまたはA655値を与える。(iv)50ng(1.02のOD600または~(約とも表される)3×108個の細菌まで増殖した3ml培養物のペレットからの全体細胞画分)(OD600の1.32培養物についての対応するBCG-WTレベルは1.0ngである)の、および同じ培養物の上清における2.3ng/ml(液体クロマトグラフィー-質量分析、LCMSによって検出)のc di AMPレベル(OD600の1.32培養物についての対応BCG-WTレベルは0.8ng/mlである)を生じる。
【0073】
BCG-STING-noKan-#2を生成するために、BCG-Pasteur-ΔpanCDが生成されるであろう。ΔpanCDreg-HygR-resを含むマイコバクテリオファージphAE187が得られ、およびBCG-Pasteur株においてpanCD遺伝子をHygRカセットに置換するために使用した。BCG-Pasteurのファージ感染後、ハイグロマイシン耐性コロニーを15mg/mlのハイグロマイシンを添加した完全Middlebrook 7H11プレート上で選抜した。結果として得られた株は、(i)パントテナートの24μg/mlを補充しない固体培地上では増殖することが可能でなく(即ち、それはパントテナート栄養要求体であり)、(ii)panCDに特異的なプライマーを用いる任意のDNA PCR増幅を欠き、および(iii)その遺伝子に特異的なプライマーを用いるHygRカセットを含むことが確認された。次に、panCDの代わりのHygR(HygR-in-place-of-panCD)は、ガンマ-デルタリゾルバーゼ遺伝子を含むマイコバクテリオファージphAE280で感染させ、および細菌を24μg/mlのパントテナートで補充したMiddlebrook 7H11プレート上に蒔く。感染後、200-500のコロニーを選抜し、およびレプリカ平板法によって、およびコロニーが選抜され、それらはハイグロマイシン感受性である。候補は、それらがHygR遺伝子を欠くことを確認するためにハイグロマイシン遺伝子特異的プライマーによってスクリーニングする。それらはまた、パントテナート栄養要求体によってもそれに確認される(also be confirmed to by pantothenate auxotrophs)。このマークされてないBCG-PasteurΔpanCDのマークされてない欠失株の好首尾な誘導により、プラスミドp106cをそれ、および補充パントテナートを欠くMiddlebrook 7H11寒天上で選抜した単一コロニー中にエレクトロポレーションさせる。そのような形質転換体はBCG-STING-noKan-#2の候補クローンである。候補はカナマイシンに対する感受性、およびKanR DNAがPCR増幅することができないことを論証することによって検証される。その後、それらは、qRT-PCR disA遺伝子発現、IRF3 RAW-LuciaまたはIRF3 RAW Blueレポーターマクロファージ、上記のようなLCMSによるc di AMPレベルによってさらに検証する。
例2
非ヒト霊長類におけるSARS-CoV-2感染に対するBCG-WTおよびBCG-disA-OEの保護効力
【0074】
BCG-disA-OEによるワクチン接種が、NHPにおけるSARS-CoV-2感染に対してBCG-WTと比較して増強された保護効力を示すかどうかは、免疫応答および肺病理を評価することによって決定される。
【0075】
BCGによるワクチン接種が、A非ヒト霊長類(NHP)モデルにおいてSARS-CoV-2疾患から保護および/または緩和し、およびそれ、および(and that and)STINGアゴニストを過剰発現するBCG(BCG-disA-OE)が、BCG-WTと比較して、高められた保護効力を示すと考えられる。
【0076】
ヒトの疾患を再現するNHPモデルは、ウイルスおよび細菌感染に関与する発症プロセス(pathogenic processes)の理解のため、ならびにワクチンおよび抗菌剤の開発のために不可欠である。BCG-disA-OEは、マウスにおいておよびモルモットモデルにおいてTBに対してBCG-WTと比較して改善された効力を示すことが見出された。マウスでは、効果は部分的にマクロファージの訓練された免疫によって媒介されることが示された。訓練された免疫は、ウイルス感染に対する保護を提供するが、またSARS-CoV-2に対する過剰な免疫反応の一因でもあると考えられる。BCGをワクチン接種したNHPsにおけるSARS-CoV-2感染の転帰を定めるためには、NHPsにおけるBCGおよびBCG-disA-OEの有効性をさらにテストすることが重要である。マカクにおける上皮細胞および肺細胞はACE2受容体を発現し、およびNHPsはSARS-CoV-2感染に感受性がある。SARS-CoV-2によりチャレンジしたカニクイザルおよびアカゲザルは、軽症および中等症の臨床兆候を伴う肉眼的肺病変(gross lung lesions)および肺炎、およびヒトで観察されるものと同様なウイルス排出パターンを示した。BCGおよびBCG-disA-OEの効力は、(i)偽薬(sham)、(ii)BCG-WT、または(iii)BCG-disA-OEによるワクチン接種、次いでウイルスによるチャレンジによってアカゲザルにおけるSARS-CoV-2感染を防止することでテストする。
【0077】
18匹の成体アカゲザル(年齢三より十二まで、病原体およびレトロウイルスフリー、およびマイコバクテリウム未処理)を各六匹の三グループに割り当てる。各グループは、PBS(ワクチン接種されていないコントロール)、または目標用量106CFUのBCG-WT、またはBCG-disA-OEにより皮内接種する。
【0078】
第I相(ワクチン接種相)の間、ベースラインの気管支肺胞洗浄(BAL)、CXR、PET CTスキャン、およびツベルクリン皮膚試験(TST)をt=0(ワクチン接種前)に行い、および同じ研究をワクチン接種後6週目および12週目に反復する。血液サンプルは、ワクチン接種2週間前およびワクチン接種と感染後1週間ごとに、血球計数、免疫学的プロファイル、サイトカインアッセイおよび血液化学的検査のために採取する。ベースラインにて、および6週目におよび12週目にて、採血および骨髄生検は、マウスにおいて記録されているように末梢血単核細胞においておよび骨髄ミエロイド前駆体(bone marrow myeloid precursors)において訓練された免疫関連の変化を評定するために実行する。
【0079】
第II相(SARS-Cov-2チャレンジ相)の間、ワクチン接種から12週間後に、動物をBSL3に移し、および有効な接種経路であることが論証されている気管内経路によってSARS-CoV-2によりチャレンジする。呼吸器スワブ(Respiratory swabs)、採血、およびCXRsを接種直前に、およびSARS-CoV-2チャレンジ後2週間は2日ごとに、ウイルス排出、抗体およびその他の免疫反応、ならびに肺炎、炎症およびリンパ節腫脹を測定するために実行する。PET-CTスキャンは、SARS-CoV-2チャレンジのほんのちょっと前および次いでチャレンジ後3、6、9、12、16、19、23、および28日目に、肺炎の評価のために実行する。BALおよび骨髄吸引液は、免疫応答(サイトカイン、M1およびM2マクロファージならびにCD4+およびCD8+Tリンパ球の分析)の評価のために毎週取得する。
【0080】
第III相(SARS-CoV-2感染後4週間の剖検)の間、動物を安楽死させ、および血液、BAL、肺、気管、咽頭組織、骨髄、脾臓、肝臓、小腸と結腸のサンプルを採取する。ウイルス存在量は、SARS-CoV-2 RT-PCRおよび/または感染性アッセイを使用して測定する。組織切片を分析し、および炎症、出血、浮腫および壊死について組織学によってスコア化する。サイトカインレベル、特にIL-6、ならびにM1およびM2マクロファージ、ならびにCD4+およびCD8+T-リンパ球の頻度は、血液およびBALにおいて測定する。凝固因子もまた血液において測定し、それは炎症に誘導される凝固は疾患の臨床的表示であると考えられるからである。上記の臨床、微生物学、病理学および免疫学による実験の幅広いアレイを使用して、BCGまたはBCG-disA-OEによるワクチン接種が重度のSARS-CoV2誘導疾患からアカゲザルを保護することができるかどうかを定める。
【0081】
研究は、BCGが、静脈内に注射すると、NHPにおけるMycobacterium tuberculosisによるチャレンジ後のTB疾患を防止することを示した。IVのBCGは実験的なままであり、およびFDA承認されてないため、皮内に投与したヒト生物学的同等性用量(human-bioequivalent dose)を試験することが、BCGおよびBCG-disA-OEの保護効力を評価することにおいて重要である。皮内経路を介するBCG-disA-OEによって生ずる保護が不十分であると思われる場合、BCG-disA-OEによる静脈内ワクチン接種が統計的に有意な保護をもたらすことができるかどうかを定める。
例3
hACE2およびゴールデンシリアンハムスターにおけるBCG-disA-OEの保護効力
【0082】
hACE2トランスジェニックマウスおよびゴールデンシリアンハムスターにおけるSARS-CoV-2感染に対するBCGおよびBCG-disA-OEによるワクチン接種の保護効力を決定する。免疫応答および肺病理を評価することによって、hACE2トランスジェニックマウスおよびゴールデンシリアハムスターの疾患モデルにおけるSARS-CoV2感染に対して、BCG-disA-OEによるワクチン接種がBCG-WTと比較して増強した保護効力を示すかどうかを定める。
【0083】
マウスでの感染:SARS-CoVはマウスにおいて感染し、および複製されるが、動物はヒトの疾患において観察される疾患と同等の重症度における疾患を発症しない。ヒトの疾患をマウスにおいて複製するために、トランスジェニックマウス(Tgマウス)を開発し、そこでマウスACE2(mACE2)はウイルス結合をhACE2が行うのと同じくらい効率的にサポートしないため、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2についての主要な宿主細胞受容体であるヒトアンジオテンシン変換酵素2(hACE2)の発現を上皮細胞に標的化した。ある研究は、SARS-CoV-2はhACE2 Tgマウスでは病原性であるが、野生型マウスではそうでないことを示した。マウスモデルは、SARS-CoV-2に対するワクチンとしてのBCG-WTおよびBCG-disA-OEの有効性を試験するのに複数の理由から有用である:複数の投与経路をテストすることが可能であり、および多数の動物で研究が行われ;および免疫反応の研究のための試薬が広く入手可能であるためである。シリアンハムスター(Mesocricetus auratus(メソクリケトゥス・アウラトゥス))における感染:細菌、ウイルスおよび寄生虫による感染の進行は、高度に重要な(high consequence)病原体を含め、ヒトで観察されるものに匹敵する。したがって、ハムスターはワクチンおよび治療薬物の前臨床開発において貴重である。ゴールデンシリアンハムスターのSARS-CoV感染に関する前の研究は、2dpiまでに肺でのウイルス力価がピークに達し、その後7dpiまでに急速に消失するウイルス複製、およびSARS-CoV株間の毒性における違いを示した。近年、ゴールデンシリアンハムスターにおけるSARS-CoV-2感染は、軽度の感染を有するヒトに見られる特長と似ていることが示された。
【0084】
マウスでの感染:K18-hACE2トランスジェニックマウスは、SARS-CoVおよびSARS-CoV-2に感受性がある(26、27)。接種物に応じて、マウスはコロナウイルス感染に屈するまで5-14日生存する。
【0085】
死亡までの時間(time-to-death)(TTD)の研究:各15匹のhACE2トランスジェニックマウスの3つのグループは、PBS、BCG、またはBCG-disA-OEのいずれかを皮内に受ける。6週間後、マウスおよび関連するマウスモデルで最適と示されている用量である2×104PFUのSARS-CoV-2でマウスをチャレンジさせる。死亡までの時間は毎日監視する。この実験は二回繰り返し:IVのBCGワクチン接種を用いる一回および気管内BCGワクチン接種を用いる一回である。最近の研究では、IVのBCGは気管内投与より劇的に優れることが示され、および効力の総合ランキングは、IV>気管内>皮内であった。
【0086】
臓器負担試験:BCGまたはBCG-disA-OEワクチン接種の免疫応答および保護効果は、SARS-Cov2複製および肺病状を軽減することにおいて検討する。126匹のhACE2トランスジェニックマウスに、0.1mlのPBS(シャムワクチン接種)、105CFUのBCG-WTまたはBCG-disA-OE(各々の3グループにおける42匹のマウス)のいずれかにより皮内にワクチン接種し、および0日目に2×104PFUで経鼻的にSARS-CoV-2によりチャレンジする前に6週間保持する。各グループからの7匹のマウスはSARS-CoV-2にチャレンジ後-1、1、3、6、9、および12日に犠牲にする。犠牲時に各グループから採取した肺、脾臓、および末梢血は、(i)器官重量、(ii)RT-PCRによるウイルス負荷、(iii)Vero(ベロ)-E6細胞へのウイルス伝染性、(iv)肉眼病理、組織病理およびIHC、および(v)IL-6での特別の重要性を有するサイトカイン発現について評価する。肺および脾臓の細胞ホモジネートは、M1-、M2-マクロファージ集団および、炎症促進および抗炎症マーカー(例は、IFNg、FoxP3)を発現するCD4、CD8細胞におけるシフトを監視するために、FACSによって調べる。エピジェネティックおよび代謝的な再プログラミングの変化(訓練された免疫)を評定する。the Johns Hopkins Center for Infection & Inflammation Imaging Research(感染&炎症イメージング研究のためのジョンズ・ホプキンス・センター)(Ci3R)にて疾患の進行および肺病状を監視するために3グループの代表的なマウスに対して3日ごとに非致死的PET-CTイメージングを実行する。TTD研究と同様に、この実験は二回繰り返し:IVのBCGワクチン接種を用いる一回および気管内BCGワクチン接種を用いる一回である。
【0087】
シリアンハムスターにおける感染:SARS-CoV-2感染のシリアンハムスターモデルが現在確立している。SARS-CoV-2によって感染した代表的なゴールデンシリアンハムスターの連続CTイメージングは、感染後2日目という早い段階で検出可能な進行性の肺炎を明らかにした。SARS-CoV-2によって感染した代表的なゴールデンシリアンハムスター肺のヘマトキシリンおよびエオジン(H&E)染色は、感染後7日目に検査したとき肺細胞の過形成および好中球の炎症を明らかにした。感染したハムスターでの肺におけるピークウイルス負荷は、2dpiに観察され、5dpiに減少を有する。7dpiでは、高コピーのウイルスRNAが引き続き検出されたものの、感染性ウイルスは検出されなかった。七十五匹のシリアンハムスターに、0.1mlのPBS(シャムワクチン接種)、105CFUのBCG-WTまたはBCG-disA-OEのいずれかを皮内にワクチン接種する(各々の3グループにおける25匹のハムスター)。それらは、0日目に5×104PFUによるSARS-CoV-2を用いて経鼻でチャレンジする6週間前に、維持する。感染前の訓練された免疫マーカーの分析のために、血中単球を分離する。感染したハムスターにおいて、毎日撮った体重、体温、および胸部X線写真を測定することで、病気の進行を監視する。SARS-CoV-2チャレンジ後-1、1、3、5、および7日目に各グループから5匹のハムスターを犠牲にする。犠牲時にグループから肺、脾臓、および末梢血を採取した。血液化学および血液学、および凝固パラメータ(活性化部分トロンボプラスチン時間、プロトロンビン時間、トロンビン時間、フィブリノゲン濃度、およびプロテインSおよびプロテインC活性)。免疫応答は、IL-1β、IL-6、IFNγ、TNFα、Foxp3およびTGFβを含め、サイトカインをqRT-PCRにより測定することによって評価する。ウイルス負荷が検出され、病理組織学的検査(detected Histopathological examination)は、炎症細胞および硬化、ならびにSARS-CoV-2 Nタンパク質を評価するために肺および脾臓において行う。
【0088】
BALからでの、および剖検時のウイルス複製の評定(Assessment of viral replication at from BAL and at necropsy).GFPタグ付き組換えSARS-CoV-2株hはウイルス複製の定量化のための付加的な様式を追加する(A GFP-tagged recombinant SARS-CoV-2 strain to add an additional modality for quantification of viral replication)。マウスACE2受容体はSARS-CoV-2を効率的に結合せず、およびヒト疾患は通常のマウス系統ではうまく複製されず、それは近交系マウスの使用を制限する。hACE2トランスジェニックマウスにおけるSARS-CoV-2の病原性は、SARS-CoVと比較して穏やかであることが報告された。hACE2 Tgマウスはヘミ接合性であり、およびホモ接合性マウスが生存可能および繁殖性かどうかは不明なため、野生型マウスと交配される。Ad-hACE2ウイルスデリバリーの使用.最近、SARS-CoV-2に対する非トランスジェニックマウスの感受性を高めるために使用し得るAd-hACE2ウイルスベクターの開発が報告された。
例4
BCGおよびBCG-disA-OEによるマクロファージへの影響
【0089】
SARS-CoV-2媒介病状のBCGおよびBCG-disA-OEモジュレーション(修飾)におけるマクロファージの役割をインビトロで評価する。I型IFNシグナル伝達によるマクロファージ上のACE2受容体のアップレギュレーション(上方制御)が、炎症促進性サイトカインの分泌を促進するためにSARS-CoV-2と直接的な相互作用を導くかもしれないこと、およびBCG-WTおよびBCG-disA-OEによって誘導される訓練された免疫変化が、応答を悪化または減衰させるかもしれないことが考えられる。これは、ヒト末梢血単核細胞未処理、BCG-WTまたはBCG-disA-OE処理、評価およびマクロファージ再プログラミング、次いでSARS-CoV-2による感染およびウイルス滴定、サイトカインおよびケモカイン応答の分析を続けて使用して仮説を検討する。
【0090】
マクロファージがSARS-CoV-2媒介病状において重要な役割を果たすことが、ますます明らかになってきている。SARS-CoV-2によって感染したACE2発現性肺上皮細胞は、炎症性マクロファージを動員する高レベルの化学誘引物質を発現し、それらは次に、おびただしい炎症誘発性サイトカインおよびケモカインを生成し、および重度のSARS-CoV-2病状において観察されるサイトカインストームの一因となる。SARS-CoV感染では、抗ウイルス性のI型IFNシグナル伝達における遅延がマクロファージの動員および活性化を促進し、およびピークウイルス力価前の早期I型IFNシグナル伝達がマウスにおいてこの一連の事象を抑止すると考えられ、それによって免疫病理学的疾患が改善される。しかし、SARS-CoV-2感染において同じ現象が起こるかどうかは明らかではない。BCG-WTおよびBCG-disA-OEによって誘導される訓練された免疫の変化はこれらの反応を悪化させ、または減衰させるかのいずれをもできた。例えば、BCG-disA-OEワクチン接種によって提供される早期I型IFNシグナル伝達は、病状を改善することができた。他方、I型IFNシグナル伝達はマクロファージ上のACE2受容体の発現を促進することができ、それはSARS-CoV-2修飾性疾患転帰(SARS-CoV-2 modulating disease outcome)のための二次的相互作用パートナーとなることができた。ヒト肺マクロファージはACE2を発現することが示された。SARS-CoV-2はまた、MERS-CoVについての受容体であるDPP-4などのような他の受容体または共受容体を介してマクロファージに感染し得る。COVID-19患者は、前方散乱(FSC)高単球の新規中間集団を論証し、それらは混合したM1およびM2表現型を有する非古典的マクロファージを含むことが示され、およびFSC高単球の高レベルを有する患者はより一層高い重症度の疾患を有した。これらのデータは、SARS-CoV-2が異常なマクロファージ再プログラミングを導き、およびこの再プログラミングがサイトカインストームおよび疾患の進行の一因となり得ることを強く示唆する。これらの効果はヒトMDMを使用してインビトロで検討する。
【0091】
ヒト末梢血単核細胞(PBMCs)は健康なドナーからの全血から分離する。単球はCD14でコートされたMicroBeads(マイクロビーズ)(Miltenyi(ミルテニー))を用いた磁気活性化セルソーティング(MACS)によって分離する。それらは培養培地だけ(陰性コントロール)、BCG-WT、またはBCG-disA-OEにより3時間インキュベーションする。BCG曝露の後、細胞を洗浄し、および培養培地中で3日間インキュベーションすることで休ませる。BCG-WTまたはBCG-disA-OE処理の有無によるhACE2受容体の誘導された発現は、フローサイトメトリまたはRT-PCRによって評価する。未処理および処理した細胞は、ウイルス複製動態のために0.1より1までのMOIにて、またはサイトカインおよびケモカインの分析のために2:1のMOIにて、SARS-CoV-2により60分間感染させる。モック感染細胞はコントロールとして機能する。インキュベーション後、ウイルス接種物を除去し、および細胞を洗浄し、およびマクロファージ無血清培地においてインキュベーションする。培養上清のサンプルを収集し、およびウイルスの力価測定またはサイトカイン分析のために-70℃にて貯蔵する。上清におけるウイルス力価は、TCID50アッセイ、RT-PCRおよび感染性アッセイによって決定する。細胞溶解物はまた、SARS-CoV-2 ORF1bおよびサイトカイン(IL-6、TNF1、IL-1b、IFN-g、IL-17およびケモカイン、例えば、CCL2、CCLA3、CCL5およびCXCL10などのようなもの)のmRNA発現について、感染後24時間(hpi)または48hpiに収集する。
【0092】
BCG-disA-OEおよびBCG-WTによって処理した細胞におけるウイルス感染後の炎症誘発性サイトカインの増強された誘導がエピジェネティックに媒介されるかどうかの決定は、クロマチン免疫沈降(ChIP-PCR)アッセイを用いて、耐久性があり、抗原非依存のエピジェネティック変化についてTNF-aおよびIL-6遺伝子のプロモーター領域を評価すること、およびTNF-aとIL-6のプロモーターに関係した活性化ヒストンメチル化マークH3K4me3を検討することによって行う。また、同じ二つのプロモーターにてクロマチン抑圧マーク(chromatin repression mark)(H3K9me3)が減少しているかどうかも定める。BCG-WT株およびBCG-disA-OEにより感染したマクロファージの免疫代謝状態は、ワクチン未接種の感染マクロファージと比較して増加した細胞内グルコースおよび乳酸を調べるため、LC-MSによって評価する。マクロファージの活性化表現型(the macrophage activation phenotype)は、WTおよびBCG-disA-OE株がウイルス感染前後に古典的マクロファージ(CD11b+CD14+CD16-)の集団における増加を誘発するかどうかを把握するために特徴付ける。炎症性マクロファージ(inflammatory macrophages)(CD14+CD16-HLA-DR+、TNF-aまたはIL-6-分泌、M1マクロファージ)代替活性化(CD163+およびCD206+M2)マクロファージおよび移行性または中間マクロファージ(CD11b+CD14+CD16+CD68+、CD80+、CD163+、CD206+の両方分泌性のIL-6、TNF-アルファ、および抗炎症性IL-10)は定量する。
【0093】
ヒト、非ヒト霊長類およびマウスの組織において、SARS-CoV-2に侵入を提供するACE2およびTMPRSS2共発現細胞は、肺II型肺細胞、回腸腸細胞(ileal enterocytes)、および鼻杯状分泌細胞(nasal goblet secretory cells)である。マクロファージは主要な侵入標的細胞とは考えられないが、それらはCovid-19を有する患者ではACE2を発現することが知られ、ACE2がヒトインターフェロン刺激遺伝子であることから、I型IFNsによって媒介した受容体アップレギュレーションの可能性が最も高いと示唆される。インビトロでの研究は、肺細胞とマクロファージ、およびマクロファージとNK細胞とTリンパ球を含めた免疫系の他の細胞との間のクロストークを再現しないが、それらはすべてCovid-19の病状に集合的に寄与する。これらの実験は、マクロファージのSARS-CoV-2チャレンジ前のサイトカイン、細胞集団、エピジェネティックな変化、およびメタボロミック変化におけるBCG媒介変化が、その後、チャレンジ後でどのように変化するかを確立する。これらの変化は、それが有益、有害、または中立であり得る。
例5
例6-12のための材料および方法
【0094】
菌種および培養条件:この研究は、免疫化実験のために、商業上入手可能なMycobacterium bovisM. bovisBacillus Calmette- Guerin(BCG)-タイス(Onco-Tice(c)、(オンコ-タイス、(c)は米国等でのコピーライトマーク)Merck(メルク))を使用した。凍結乾燥した細菌ストックは、(OADC)(Cat.(カタログ)B11886、Fisher Scientific(フィッシャー・サイエンティフィック))、0.5%グリセロール(Cat. G55116、Sigma(シグマ))および0.05%Tween(ツイーン)-80(Cat. BP338、Fisher Scientific)を補充した1mlの7H9 Middlebrook液状培地において再懸濁した。培養物は、オレイン酸-アルブミン-デキストロース-カタラーゼ(oleic-albumin-dextrose-catalase)(OADC)を補充した7H11プレート上でストリークし、および単一のコロニーを抜き取り、およびシードストックの調製のために7H9 Middlebrook液状培地において増殖させた。個々のシードストックバイアルを冷凍ストックからランダムに選び、およびその後、免疫化前に7H9培地において増殖させた。
【0095】
細胞およびウイルス:すべての細胞はAmerican Type Culture Collection(アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)から取得した。Vero C1008[Vero 76、クローンE6、Vero E6](ATCC CRL-1586)細胞はウイルス増殖およびウイルスストック力価の決定のために使用した。Vero E6細胞は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、L-グルタミン、およびペニシリン-ストレプトマイシンを有するEMEMにおいて37℃にて、5%CO2により増殖した。SARS-CoV-2/Wuhan(武漢)-1/2020ウイルス(U.S. Center for Disease Control and Prevention(米国疾病管理予防センター))は、Andrew Pekosz(アンドリュー・ペコシ)博士によって提供された。ウイルスストックを-80℃で保存し、および力価を組織培養感染用量50(TCID50)アッセイによって決定した。
【0096】
動物:BCGワクチン接種およびSARS-Co-V2感染を伴うインビボ実験は、雄のゴールデンシリアンハムスターを使用して行った。雄のゴールデンシリアンハムスター(齢5より6週まで)をEnvigo(エンビゴ)から購入した。動物は、適切な寝床を有するケージにおいて、標準的なハウジング条件(68より76°Fまで、相対湿度30より70%まで、12時間明/12時間暗サイクル)下で個別に収容した。7日間の順化後、動物は、腹腔内投与したケタミン(60より80mg/kgまで)およびキシラジン(4より5mg/kgまで)麻酔下で合計容量100μlのセーリーンにおいて生きた5×106C.F.U.のBCG-Ticeを用いて静脈内ワクチン接種した。コントロール動物は同等容量のセーリーンを受けた。動物は、腹腔内投与したケタミン(60より80mg/kgまで)およびキシラジン(4より5mg/kgまで)麻酔の下で、経鼻経路を通して100μlのDMEM(50μl/鼻孔)中の5×105 TCID50のSARS-CoV-2/Wuhan-1/2020ウイルスを用いてチャレンジした。コントロール動物は同等量のDMEMを受けた。動物はSARS-CoV-2感染後のBCGワクチン接種+SARS-CoV-2感染グループにおいて4日目および7日目に安楽死させるようランダムに割り付けた。体重は、感染日(ベースライン)および終点で測定し、グループごとに適用できるとき毎日測定した。終点にて動物をイソフルラン過剰投与によって安楽死させ、および組織を採取した。気管支肺胞洗浄液(Bronchoalveolar lavage)(BAL)は、20ゲージカテーテルにより気管をカニュレーションすることによって取得した。肺は2回洗浄し(各アリコート1ml;カルシウムフリーPBS);合計還元量は平均1.15ml/動物であった。BALを600gにて5分間4℃で遠心分離した。
【0097】
フローサイトメトリ分析:細胞性免疫プロファイリングのために、細胞表面染色は、実験終点にてハムスターの肺、脾臓、血液、またはBALサンプルからの単一細胞について実行した。肺および脾臓組織は、単一細胞調製前に、採取し、および滅菌PBSにおいて個々のチューブに貯蔵した。血液は、心臓穿刺を用いてEDTA含有チューブに収集した。BALの分離を実行した。血液サンプルのRBC溶解は、白血球間のRBCsをすべて除去するためにACK溶解バッファーを用いて室温で5分間実行した。マウス肺解離キット(mouse lung dissociation kit)は、単一細胞の調製のためにヒーター付きgentleMACSTM Octo Dissociator(ジェントルMACSオクト・ディソシエーター)を使用して製造元の指示通りに使用した。細胞を70μmフィルタに通し、および氷冷PBSを用いて二回洗浄し、次いでACK溶解バッファーで5分間室温にてRBC溶解を続けた。細胞生存率は、トリパンブルー色素染色を使用して決定し、およびローブあたりの合計生細胞を定めた。表面染色のために、動物の肺あたり合計500万個の細胞を使用した。血液サンプルおよびBALのために、抗体染色用に全部の細胞を使用した。簡単に説明すると、細胞は氷冷PBSを用いて再度洗浄し、およびZombie AquaTM Fixable Viability Kit(ゾンビー・アクア・フィクサブル・バイアビリティ・キット)を使用して室温で20分間染色した。その後、細胞を洗浄し、およびFACSバッファー(PBS中の1%BSA、2mMのEDTA)に再懸濁し、および表面染色に先立ちPBSおよび2%FBS、2%正常ラット血清および2%正常マウス血清からなるブロックバッファー中で4℃にて30分インキュベートした。細胞を再度洗浄し、およびコンジュゲートした一次抗体により製造元のプロトコルに従って染色した。細胞表面の染色には以下の抗体を使用した:抗CD3、抗CD4、抗CD11b、および抗RT1Dである。その後、細胞をIC固定バッファーを用いて4℃にて60分間固定した。FACSバッファーを用いて細胞を三回洗浄し、およびBD LSRIIをFACSDiva Software(FACSダイバ・ソフトウェア)と共に使用して取得した。データ分析はFlowJo(フロージョ)(v10)を用いて行った。
【0098】
単一細胞RNA-seqサンプルおよびライブラリの調製:肺組織由来の単一細胞の単一細胞RNA seq(scRNA-seq)のために右肺上葉全体を各動物から分離した。単一細胞調製には、マウス肺解離キットをいくらかの追加的な修飾と共に使用した。単一細胞調製後、細胞懸濁物をMACS Smart Strainer(MACSスマート・ストレイナー)(70μm)に適用し、および10mlのDMEMにより二回洗浄した。細胞は、300×gにて4℃で合計7分間回転させることでペレット化した。細胞は、DNase(終濃度100μg/ml)を含む1mlのDMEMに、室温で5分間再懸濁した。0.5%BSAを含む10mlの滅菌PBSを加えることによって細胞を洗浄し、および4℃でペレット化した。RBC溶解は合計容量1mlの1X RBC溶解液を用いて4℃で10分間行った。細胞は0.5%BSAを含む10mlのチルドDPBSに再懸濁し、およびその後ペレット化した。細胞は35μm Falcon cell strainer(ファルコン・セル・ストレイナー)を用いてろ過し、および0.04%BSAを含む1ml DPBSの合計容量において2mlのロー結合チューブ(lo-binding tube)に移した。その後、細胞生存率および合計細胞数を定めるために、トリパンブルー色素排除アッセイを用いて細胞を計数した。
【0099】
ワクチン接種に使用したBCG菌:例1に記載するBCG-disA-OE(Tice)とも呼ばれるBCG-STING(Tice)をこの研究で用いた。使用した野生型BCGはBCG-Tice(Onco-Tice(c))であった。
【0100】
単一細胞データの統合およびクラスター化:10X Single Cell RNA-seq Chromium Chip G5' Library(10Xシングル・セルRNA-seqクロミウム・チップG5'ライブラリ)キット(10X Genomics(10Xゲノミクス))を用いて、エマルジョンベースのプロトコルにおいて同じ細胞からの免疫レパートリー情報および遺伝子発現を単一細胞レベルにて捕らえた。細胞およびバーコード付きゲルビーズ(barcoded gel beads)は、サンプルあたり最大で10,000細胞までを分割し、次いで製造元の標準プロトコルを使用してRNA捕捉およびセルバーコード付きcDNA合成を続けるために、10X Genomics Chromiumプラットフォームを使用してナノリットルスケールの液滴に分割した。ライブラリは、2×150bpペアエンドシーケンシングを用いて、Illumina NovaSeq(イルミナNovaSeq)装置上で生成し、および配列決定した。
【0101】
単一細胞データの前処理および品質管理:Cell Ranger(セル・レーンジャー)v3.1.0は、FASTQリードを逆多重化し、それらをハムスターゲノムに整列し、およびそれらの細胞およびユニークな分子識別子(UMI)バーコードを抽出するために使用した。このパイプラインの出力は、各サンプルについてのデジタル遺伝子発現(DGE)マトリクスであり、それは各細胞バーコードに関係する各遺伝子についてのUMIsの数を記録する。次に、(1)細胞あたり検出された遺伝子の数、および(2)ミトコンドリア遺伝子/リボソーム遺伝子計数の割合に基づいて、細胞の品質を評定した。低品質の細胞は、検出された遺伝子の数が250未満、またはすべての細胞の中央値遺伝子数からの中央値絶対値偏差で3×を超えて離れている場合、ろ過された。ミトコンドリア遺伝子計数の比が10%より高く、またはリボソーム遺伝子の比が10%未満であった場合、細胞をろ過して取り除いた。単一細胞のVDJ配列決定では、全長配列を有する細胞だけを保持した。解離/ストレス関連遺伝子ミトコンドリア遺伝子(接頭辞「MT-」により注釈)、高存在量lincRNA遺伝子、不十分にしか支持されてない転写モデルとリンクした遺伝子(接頭辞「RP-」により注釈)、TCR(TR)遺伝子(クローン型の偏りを避けるためTRA/TRB/TRD/TRG)はさらなる分析から取り除かれた。加えて、五つの細胞未満で発現した遺伝子は除外した。
【0102】
単一細胞データの統合およびクラスター化:Seurat(スーラ)(3.1.5)を使用して、生の計数データを正規化し、高変動の特色を識別し、特色を調整し、およびサンプルを統合した。PCAは、Seuratにおいて実現されるvstメソッドを使用して識別された3,000の最も可変的な特色に基づいて実行された。次元削減はRunUMAP(ランUMAP)関数を用いて行った。細胞マーカーは両側のウィルコクソン順位和検定を用いることによって識別した。修正P<0.05を有する遺伝子は保持された。クラスターは、各クラスターにおける上位の差次的遺伝子(top differential gene)の発現ならびにカノニカル免疫細胞マーカー(canonical immune cell markers)に基づいてラベル付けした。リンパ球、単球/マクロファージ、および顆粒球でのグローバルクラスター化も同じ手順を用いて実行した。クラスターは、Uniform Manifold Approximation and Projection(一様多様体の近似と投影)(UMAP)を用いて視覚化した。
【0103】
ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色:ホルマリン固定パラフィン包埋ハムスター肺切片を分析のためにヘマトキシリン-エオシン(H&E)により染色した。肺組織は、急性肺炎の動物モデルでの以前に発表された規準に従って、特定の肺炎症パラメータのパネルを使用してスコア化した。すべての検査は認定された肺病理医によって行われた。
【0104】
免疫組織化学(IHC)、統計および病理組織学的スコアリング:免疫組織化学は、自動化されたVentana Discovery(ベンタナ・ディスカバリー)(Roche(ロシュ))オートステイナーを使用して、CD3についてFFPE肺組織切片で実行した。熱による誘導された抗原賦活化は、ETDA pH9溶液(CC1, Roche)を用いて達成した。CD3のための一次抗体を4Cで30mインキュベートし、およびUltraView(ウルトラビュー)DAB検出キット(Roche)を用いて検出を成し遂げた。IHCタンパク質発現は、コホート状態または処理グループに対し盲検化した認定肺病理医によってスコア化された。CD3膜性染色(membranous staining)は、血管周囲または気管支周囲の炎症、気管支上皮、肺胞壁ならびに肺細胞において、および肺炎の領域(存在する場合)または肺胞腔(肺炎がない場合)において別々に評価した。CD3染色は、1+(散在する単一細胞)、2+(少なくとも2層を有するクラスターまたはシートでの細胞)または3+(いくつかのクラスターまたはシート)としてスコア化した。次いで、スコアはポイントシステム(限局性(focal)1+=0.5、1+=1、限局性2+=1.5、2+=2、3+=3)を用いて数量化し、および合計ポイントを処理グループ間で分析した。合計CD3発現は、すべての規準についてのすべてのポイントスコアを組み合わせることによって算出した。統計分析は、各タイムポイント(感染後4日目および感染後7日目)にて、ウェルチ(Welsh)のt検定を使用してグループ間で実行した。
【0105】
SARS-CoV-2ウイルスの定量化:ハムスター肺および気管ホモジネートからのウイルスRNA RT-qPCR RNAは、製造元のプロトコルに従ってZymo Quick RNA microPrep kit(ザイモ・クイックRNAマイクロPrepキット)(Zymo Research(ザイモ・リサーチ))を使用して抽出した。平均して、1サンプルあたり600ngの合計RNAを抽出した。QIAamp Viral RNA mini kit(キアアンプ・バイラルRNAミニキット)(Qiagen(キアゲン))は、製造元のプロトコルに従って上清からRNAを分離するために用いた。cDNAは、qScript cDNA SuperMix(qスクリプトcDNAスーパーミックス)(Quantabio(クアンタバイオ))を用いて製造元のプロトコルに従ってウイルス性RNAから合成した。cDNAは、StepOnePlus Real Time PCR(ステップワンプラス・リアル・タイムPCR)システム(Applied Biosystems(アプライドバイオシステムズ))でTaqMan Fast Advanced Master Mix(Taqマン・ファスト・アドバンスト・マスター・ミックス)(Applied Biosystems)を用いてRT-qPCRによって定量化した。SARS-CoV-2 RNAは、あらかじめ混合したフォワード(5'-TTACAAACATTGGCCGCAAA-3'配列番号1)およびリバース(5'-GCGCGACATTCCGAAGAA-3'配列番号2)プライマーおよびSARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)遺伝子の領域を増幅するために、2019-nCoV CDCResearch Use Only (RUO) kit(2019-nCoV CDCリサーチ・ユース・オンリー(RUO)キット)(Integrated DNA Technologies(インテグレーテッドDNAテクノロジーズ))の一部としてCDCによって設計されたプローブ(5'-FAM-ACAATTTGCCAGCGCTTCAG-BHQ1-3'配列番号3)を用いて検出した。PCR条件は以下のようであった:50℃2分間、95℃2分間、次いで95℃3秒間および55℃30秒間のサイクルが続く。完全なSARS-CoV-2 N遺伝子を含む連続希釈した(10倍)プラスミド(Integrated DNA Technologies)は、ウイルスRNAコピーの定量化用の標準曲線を生成するために測定した。アッセイのための検出の限界は1×101 RNAコピーであった。細胞溶解物について、ウイルスコピーは、あらかじめ混合したフォワード(5'-AGATTTGGACCTGCGAGCG-3'配列番号4)およびリバース(5'-GAGCGGCTGTCTCCACAAGT-3'配列番号5)プライマーおよび同じ2019-nCoV CDC RUOキット中に含むプローブ(5'-FAM-TTCTGACCTGAAGGCTCTGCGCG-BHQ-1-3'配列番号6)を用いてヒトRNase P(RP)遺伝子に正規化した。
【0106】
CTおよびPETイメージング:前に報告した通り、BSL-3に準拠した独自開発の密閉型生物学的封じ込め装置内で、生きたハムスターを撮像した。感染後7日目に、SARS-CoV-2感染雄(n=12)、雌(n=12)、プラセボ処理雄(n=13)、およびE2処理雄(n=13)ハムスターは、nanoScan(ナノスキャン)陽電子放射断層撮影(PET)/CT(Mediso USA(メディソUSA))small animal imager(小動物用イメージャー)を用いて胸部CTを受けさせた。CT画像は、VivoQuant(ビボクオント)2020肺セグメンテーションツール(Invicro(インヴィクロ))を用いて視覚化および分析した。簡単に言えば、肺全体の容量(LV)を作り出し、およびハンスフィールドユニット(Hounsfield Units)(HU)≧0についてのグローバル閾値を使用して肺病変の周りに関心体積(VOI)を形作り、および疾患の重症度(CTスコア)を各動物における疾患肺の百分率として定量化した。研究者はグループ分けに対し盲検化された。PETイメージングのために、18F-FDGは前述のように独自に合成し、>90%の放射化学的純度をもたらした。SARS-CoV-2感染ハムスターに、外科的に埋め込まれた中心静脈カテーテルを介して~10.22MBq/ハムスターが与えられた。20分のPET取得およびその後のCTはnanoScan PET/CT(Mediso)を用いて実行した。SARS-CoV-2はBSL-3病原体に指定されているため、SARS-CoV-2に感染した生きた動物は、BSL-3封じ込めに準拠し、および撮影中に生きた動物を維持するための空気麻酔混合物を送る能力がある独自開発の透明および密閉した生物学的封じ込めセル内で撮影した。肺のセグメンテーションおよび画像分析のために、マルチアトラス肺セグメンテーション(MALS)アルゴリズムを使用して、全体の肺の関心容量(VOI)を作り出した。参照ライブラリは、肺疾患の様々な段階においてSARS-CoV-2感染ハムスターを含む研究画像の選定から生成した。リジッドおよびアフィン変換の組合せを用いて肺VOIのためのバウンディングボックスを生成し、次いでこのバウンディングボックス内で高次元の変形可能レジストレーション技術を行い、線形マッピングの精度を効率的に向上させた。伝播されたラベルは加重投票に基づくラベル融合技術を使用して併合した(merged)。また、レジストレーションエラーに対するロバスト性を向上させるために、ローカルサーチアルゴリズムも使用した。肺病変はグローバルなハウンスフィールド単位(HU)閾値≧0を用いて規定した。データはCTスコア[(肺病変体積/全肺体積)×100]として表現する。CTを分析する研究者はグループ分けを盲検化された。視覚化および定量化には、VivoQuantTM 2020(Invicro)を使用した。PETデータに散乱および減衰補正を適用し、およびCTを参照に用いて動物あたり複数のVOIsを手動で描出した。
例6
実験デザイン
【0107】
実験デザイン:ハムスターのグループに、PBS(非接種)、またはBCG-Ticeの5x106 CFU、またはBCG-STING-Ticeの5x106 CFUのいずれかを静脈内ワクチン接種した。30日後、それらは5x105のTCID50ユニットのSARS-CoV-2(Wuhan-1/2020)を鼻腔内経路でチャレンジした。チャレンジ後のd4およびd7で、動物は分析のために犠牲にした。グループ1はBCG-WT(ワクチン接種し、およびSCV2曝露なし)、グループ2はSCV2だけ(ワクチン非接種で、およびSCV2曝露、D4およびD7で犠牲にした)、グループ3はBCG-WTおよびSCV2(ワクチン接種し、およびSCV2曝露)、およびグループ四はBCG-STINGおよびSCV2(ワクチン接種し、およびSCV2曝露)であった。一定の実験では、操作されていない、健康で齢が一致したハムスターも研究した。
例7
肺病状の組織学的分析
【0108】
BCGワクチン接種はSCV2感染ハムスターでの肺病状を減少させる。事前のBCGワクチン接種がこの非致死的ハムスターモデルにおけるSCV2感染の経過を変えるかどうかを決定するために、d4およびd7にて肺組織学的変化を評価した。図4Bに示すように、気管支肺炎は、d4およびd7の両方で、ワクチン未接種のハムスター肺高倍率視野(HPF)の100%に存在したが、すべてのBCGワクチン接種ハムスターHPFおよびd4にはなく、およびd7にはHPFの25%にだけ見られた。同様に、ワクチン未接種のハムスターHPFsの100%はd4にて好中球の浸潤を示し、その一方でBCGワクチン接種ハムスターでは50%しかこの知見を示さず(データを示していない)、およびワクチン未接種ハムスター肺でも浸潤リンパ球を示した(データを示していない)。対照的に、BCGワクチン接種はマクロファージの浸潤を促進し(d4にてHPFsの80%)、その一方でワクチン未接種の動物ではHPFsの60%しかこの所見を示さなかった(図4C)。予想通り、BCGワクチン接種したHPFsはすべて肉芽腫形成を示し、その現象はワクチン未接種動物では一様に見られなかった(図4D)。これらの結果は、事前のBCGワクチン接種がSCV2誘発気管支肺炎をそれに付随する好中球浸潤と共に減少させ、その一方でマクロファージの肺動員を同時に高めることを最終的に論証する。
【0109】
BCG-STINGワクチン接種は、SCV2感染ハムスターでの肺病状を低減し、および一定の病理学的マーカーについてBCG-WTよりも優れている。BCG-STINGワクチン接種をBCG-WTのものと比較するために、d4およびd7にて肺組織学的変化を評価した。図18Aに示すように、気管支肺炎は、BCG-STINGおよびBCG-WTの両方によって、4日目に100%から0%にまで減少した。しかし、それはBCG-STINGワクチン接種動物において、7日目に0%のままであったが、BCG-WTワクチン接種ハムスターではd7にHPFsの25%に存在した。両方のBCG株は、d4での好中球浸潤を4日目に50%にまで減少させた(図18B)。マクロファージ浸潤に関して、BCG-STINGワクチン接種は、より一層多くのマクロファージ浸潤を促進させ(d4にてHPFsの100%)、その一方でBCGワクチン接種動物ではHPFsの80%だけ、およびワクチン非接種動物では60%にしかこの知見が示されなかった(図18C)。次に、SCV2に対する有効な免疫応答の潜在的なマーカーであるがまた、免疫病理の潜在的な一因でもある間質炎症について検討した。両方のBCG-STINGおよびBCG-WTワクチン接種動物が、ワクチン未接種動物よりも4日目に間質炎症が多かった一方で、BCG-STINGワクチン接種ハムスターは7日目に、BCG-WTワクチン接種動物(100%)と比較して、間質炎症の高度な解消(HPFsのわずか40%)を示した(図18D参照)。SCV2関連リンパ球減少に直面した肺へのリンパ球動員に関して、100%のBCG-STINGワクチン接種ハムスターHPFsが4日目にこの属性を示し、その一方でそれは4日目にBCG-WTワクチン接種ハムスター肺HPFsの50%にしか見られなかった(図18E)。次に、血管周囲性炎症を調べ、およびBCG-WT-ワクチン接種動物およびワクチン非接種動物がそれぞれHPFsの50%および20%でこの現象を示した事実にもかかわらず、BCG-STINGワクチン接種ハムスターが4日目に0%の血管周囲性炎症を有することが分かった(図18F)。BCG-STINGはまた、4日目にBCG-WTよりも低い肺胞内炎症(図18F)および気管支周囲炎症(図18G)を示した。これらの結果は、ハムスターでの実験的SCV2感染において、BCG-STINGワクチン接種がBCG-WTワクチン接種と比較して顕著な肺組織学的差異を付与することを論証する。
例8
フローサイトメトリ
【0110】
BCGワクチン接種は、SCV2媒介の肺T細胞リンパ球減少を鈍らせ、マクロファージの肺動員を高め、および顆粒球による肺浸潤を減少させる。ハムスターの肺における全体的な細胞集団の流動を評定するために、マルチカラーフローサイトメトリを実行した。BCG-WT実験では、肺T細胞(CD3+細胞)が、SCV不存在下のBCGワクチン接種によって劇的に(生細胞の45%)、齢をマッチさせた健康な動物(18%)と比較してブーストされることが見出された(データを示していない)。同様の結果は、BCG-STING動物についても再現された(図5A)。SCV2でチャレンジしたワクチン接種していない動物では、合計の肺CD3+集団はd4およびd7にて4-6%にまで大幅に低下し;その一方でBCGワクチン接種してSCV2チャレンジした動物は、これらの同じ時点でほぼ2倍多くのCD3+細胞(10-12%)を示した。BCGが肺でのT細胞不足を防ぐというこの同じ効果は、肺CD4+T細胞の間でさらにより一層大きなものにまで存在した(データを示していない)。同様に、SCV2感染の不存在下でのBCGワクチン接種は、肺への著しいマクロファージの動員を(生細胞の55%)健康な動物(5%)と比較して促した(データを示していない)。また、SCV2感染はd7までに控えめなマクロファージの肺への動員を導く一方(生細胞の12%)、あらかじめBCGワクチン接種済みの動物ではd4とd7の両方で肺での高度に上昇したマクロファージ集団が示された(生細胞の30%)。対照的に、顆粒球を考慮すると、SCV2チャレンジした、ワクチン非接種のハムスターの肺は、図4Aで観察された深刻な気管支肺炎と一致して、d4(生細胞の80%)およびd7(72%)(データを示していない)でPMNsによる劇的浸潤を明らかにしたことが見出された。BCGによる事前ワクチン接種は、この顆粒球浸潤をd4で30%、およびd7で32%のレベルに制限する効果を有し、それらは齢が一致した健康なハムスターの肺でのレベルと本質的に同等のものであった。
【0111】
BCG-STINGワクチン接種し、SCV2チャレンジした動物は、ワクチン非接種で、SCV2チャレンジしたハムスター(4-6%)よりもほぼ2倍多くのCD3+細胞(~10%)を示したことが見出された(図5A-D)。肺におけるT細胞不足を防止するBCG-STINGのこの同じ効果は、肺CD4+T細胞の間でさらにより一層大きなものにまで存在した;d4にて、ワクチン非接種動物は平均28%のCD4+T細胞を示し、その一方でBCG-STINGワクチン接種動物は平均48%を示し(図5B)、およびd7にて、ワクチン接種動物は平均50%のCD4+T細胞を示し、その一方でBCG-STINGワクチン接種は平均70%を有した。同様に、SCV2感染の不存在下でのBCG-STINGワクチン接種は、肺への著しいマクロファージ動員(生細胞の39%)を健常動物(5%)と比較して促した(図5C)。また、SCV2感染はd7まで控えめなマクロファージの肺への動員を導く(生細胞の12%)一方で、以前にBCG-STINGワクチン接種した動物は、d4で生細胞の25%、およびd7で生細胞の41%にて肺での高度に上昇したマクロファージ集団が示された。対照的に、顆粒球を考慮すると、SCV2チャレンジした、ワクチン未接種のハムスターの肺は、図4Aで観察された深刻な気管支肺炎と同様に、d4(生細胞の80%)およびd7(72%)でPMNによる劇的な浸潤を示した(図5D)ことが見出された。BCGによる事前ワクチン接種は、この顆粒球浸潤をd4で33%、およびd7で20%のレベルに制限する効果があり、それらは齢が一致した健康なハムスターの肺におけるレベルと本質的に同等なものであった。
例9
液滴ベースの単一細胞RNA配列決定
【0112】
BCG接種およびワクチン未接種ハムスターでの肺細胞における単一細胞転写プロファイリング:SARS-CoV-2感染ハムスターにおけるBCG免疫化の効果は、COVID-19のピーク(4日目)および消散期(7日目)の間に液滴ベースの単一細胞RNAシーケンシング(10X Genomics)を用いてハムスター肺において検討した。BCG-WT実験では、合計13匹のハムスターを以下の三つのグループにおいて評価した:BCGワクチン接種だけ(3体の動物)、SARS-CoV-2感染だけ(d4で2体;d7で2体の動物)、およびSCV2チャレンジを伴うBCGワクチン接種(d4で3体、d7で3体の動物)である。合計194,536個の細胞で配列決定を行い、および低品質の細胞をフィルタリングした後、150,516個の細胞を分析した(表2)。BCGワクチン接種肺(14,284)、SARS-CoV-2感染肺(10,524)、BCGワクチン接種+SARS-CoV-2感染肺(10,928)、およびBCG-STING接種+SARS-CoV-2感染肺(10,642)においての動物あたりの平均分析細胞数には有意差は示されなかった。免疫細胞だけでなく、完全な組織反応の解像度を最大化するため、免疫細胞のエンリッチメント解析(enrichment analysis)は行わなかった。すべての高品質な細胞は、バッチなしのデータセットに統合し、リード深度について修正し、および次いでそれを主成分分析にかけた。
【0113】
【表2】
例10
BCGワクチン接種、Scv2感染ハムスターにおけるリンパ系、骨髄系、および非免疫系細胞タイプの特色
【0114】
BCGは、SCV2感染によるリンパ球減少、マクロファージ不足、および構造的細胞タイプの喪失を逆転させる:一様多様体の近似と投影(UMAP)のグラフベースのクラスター化を用いて、5つのリンパ系細胞タイプ(T細胞、pro T細胞、NK細胞、B細胞および形質細胞)、4つの骨髄系細胞タイプ(顆粒球、マクロファージ、プロマクロファージ、および樹状細胞)、および5つの非免疫細胞タイプ(赤血球、肺胞2型[AT2]細胞、繊毛細胞、内皮細胞、および死滅細胞(dying cells))を含む14の主要細胞タイプまたはサブタイプのトランスクリプトームが識別され、およびこれらはすべてのサンプルにわたり合計細胞の98%より多くを構成した(データを示していない)。これらの細胞クラスターは、両時点において、すべての動物の肺に均質に分布していた。これらの別個の14の細胞クラスターはすべてのサンプルにわたって表され、および十分に定義されたカノニカル遺伝子の発現に基づいた(データを示していない)。
【0115】
BCG-STINGについても同様に、UMAPによって、4つのリンパ系細胞タイプ(T細胞、NK細胞またはNKT、B細胞、および形質細胞)、3つの骨髄系細胞タイプ(顆粒球、マクロファージ、および樹状細胞)、および4つの非免疫細胞タイプ(肺胞2型[AT2]細胞、繊毛細胞、内皮細胞および線維芽細胞)を含む11種類の主要細胞タイプまたはサブタイプのトランスクリプトームが識別され、およびこれらはすべてのサンプルにわたり合計細胞の98%よりも多くを構成した(データを示していない)。これらの細胞クラスターは、両時点において、すべての動物の肺に均質に分布していた。これらの別個の11の細胞クラスターはすべてのサンプルにわたって表され、および十分に定義されたカノニカル遺伝子の発現に基づいた(データを示していない)。
【0116】
SCV2感染後のd4およびd7の両方にて、Tリンパ球およびマクロファージの著しい不足が、主要な肺構造細胞、例えば、ハムスターの肺におけるAT2細胞および内皮細胞などのようなものの喪失と同様に観察された。対照的に、BCGまたはBCG-STINGによりワクチン接種したハムスターは、Tリンパ球、AT2細胞、および内皮細胞の高レベルを維持し、および両方はマクロファージ数ならびにマクロファージサブセットの複雑性において増加させた。
【0117】
BCGおよびBCG-STINGは、SCV2感染中にTヘルパー、T reg、および形質細胞集団を拡大する。次に、ワクチン接種およびワクチン非接種のハムスターでの両実験においてSCV2感染中の肺免疫細胞を評価するためにサブセット分析を実行した。BCG-WTについて、ハムスター肺でのCD4+T細胞のうち、TメモリーマーカーTcf7およびLef1およびTregマーカーFoxp3およびIkzf2は、合計CD4+T細胞をTメモリー、Treg、およびTヘルパー細胞に分別するために用い、合計7つのサブセットのリンパ球(Tメモリー、Treg、Tヘルパー、pro T細胞、NK細胞、B細胞および形質細胞)が産生された。このTヘルパー集団によるTbx21(Tbet)、Infg、およびTnfの比較的高い発現は、それらが1型ヘルパーT細胞(Th1)であることを意味した。RORγt/Stat3(Th17)またはGATA-3/Stat5(Th2)発現性CD4+T細胞の有意な集団は見出せなかった。CD8+T細胞は、いずれのハムスターグループにも存在しなかった。
【0118】
BCGだけで処理したハムスターでは形質細胞はより小さな肺集団を構成した一方で、BCGワクチン接種、SCV2チャレンジした動物ではそれらは独特に拡大したことが見出された(データを示していない)。追加的に、SCV2感染が、BCGだけで処理したハムスターと比較して、肺でのTヘルパー細胞およびTreg細胞の集団を著しく減少させ、およびBCGでのワクチン接種が、SCV2感染の継続にもかかわらず、肺でのTヘルパーおよびTreg細胞の高レベルの維持を促したことが観察された。これらの結果は、BCGワクチン接種がTh1およびTreg発現に対するハムスター肺CD4+T細胞応答を歪めること(Th17またはTh2発現はほとんどない)、SCV2がTh1およびTreg肺集団を抑圧すること、および以前にBCGワクチン接種したSCV2感染動物がTh1およびTreg細胞の高レベルを維持可能であることを指し示した。
【0119】
BCG-STINGについては、図6に示すように、リンパ球の6つのサブセット(CD4+T細胞、NKT細胞、Pro T細胞、B細胞、Treg細胞、および形質細胞)を分析した。BCG-STINGデータ分析は、「BCG-only-noSCV2-challenge(BCG-のみ-SCV2-チャレンジなし)」を含まず、それがより少ない細胞タイプしか有しないそれほど複雑でないデータセットとされた。
【0120】
BCG-STINGは、BCG-WTよりも多くのNTK細胞およびより多くのB細胞を肺に動員した(図7A-B)。BCG-STING分析では、BCGおよびBCG-STINGの両方が、より一層多くのCD4+T細胞を動員することも見出された(図7A-B)。
【0121】
BCGおよびBCG-STINGは、SCV2感染中のリンパ球系細胞の間でインターフェロン応答を減少させ、MHC II抗原提示および免疫グロブリン生産を強める。肺のリンパ球系細胞間のトランスクリプトーム変化をさらに調査するために、主要なリンパ球系細胞タイプ内でBCGワクチン接種、SCV感染動物とSCV2により単独感染させたものとを比較することによって、差次的に調節される遺伝子(DEGs)を識別した(図7C)。BCG-WTについて、BCGワクチン接種が、Tヘルパー細胞およびTreg細胞集団の両方において、抗原提示遺伝子、例えば、Cd74、H2-Ab1、およびH2-Eaなどのようなものを強く上方制御することが見出された(データを示していない)。BCG-STINGについて、分析はCD4+T細胞に制限した(Tヘルパー、Tregによって分けない)。しかし、いずれの場合にも、以下のことが当てはまる:Cd74は、MHCクラスII HLA-DR抗原関連不変鎖をコードし、およびマクロファージ遊走阻止因子(MIF)についての受容体として知られ、その一方で骨髄系細胞およびB細胞によって顕著に発現され、CD74はCD4 T細胞上で発現されることが知られ、およびT細胞上のその発現は一定の疾患状態、例えば、T細胞リンパ腫などのようなものにおいて、およびリンパ節症(lymphadenosis)において、上方制御される。
【0122】
BCG-WTについて、また、ワクチン接種していないSCV2感染ハムスターでの肺Tヘルパー、Tregおよび形質細胞における強いインターフェロン誘導応答が観察され、Isg15(I型IFNによって誘導される分泌型17kDaタンパク質をコードする)およびIFN誘導GTP結合タンパク質コード遺伝子Mx1およびMx2(それらの両方は抗ウイルス免疫応答と関係していると知られるものが含まれる。また、肺Tヘルパー細胞およびTreg細胞においてグランザイムB(細胞溶解活性に関係するセリンプロテアーゼ)をコードするGzmbも、SCV2感染単独によって強く誘導された。重要なことに、これらのIFN誘導性遺伝子(Isg15、Mx1、Mx2)およびGzmbの強い発現は、BCGをワクチン接種したSCV2感染ハムスターでは十分に逆転し、BCGがSCV2感染の間の肺病理につながり得る炎症促進性応答を減少させることが示唆された(図11A-B)。BCG-STINGについて、分析はCD4+T細胞に制限されたが、同じ分析が有効である(図10A-B)。
【0123】
BCG-WTについて、また、Cd74(MHCクラスII HLA-DR抗原関連不変鎖)もBCGワクチン接種により形質細胞において強く誘導されることが見出された。したがって、ハムスターからの肺形質細胞における遺伝子シグネチャーのスコアを評価し、およびBCG-no SCV2とBCG-SCV2グループの両方において免疫グロブリン生産に関係する遺伝子が増強され、その一方でこのパラメータは、SCV2により感染させたワクチン未接種のハムスターからの形質細胞において減少した(データを示していない)。BCG-STINGについて、BCG-STINGおよびBCG-WTは同様の免疫グロブリン遺伝子の上方制御を示した(図7C)。これらの知見は、BCGまたはBCG-STINGワクチン接種が、抗原提示および免疫グロブリン生産の両方、低減SCV2免疫病理を説明し得るプロセスを促すという結論を支持する。
【0124】
BCGワクチン接種し、SCV2感染したハムスターおよびBCG-STINGワクチン接種し、SCV2感染したハムスターにおけるマクロファージおよび樹状細胞集団の特色.BCG-WTについて、マクロファージおよび樹状細胞集団のサブセット分析はカノニカルマーカーによって規定された9つの別個のサブセットを明らかにした(データを示していない)。BCG-STINGについて、マクロファージおよび樹状細胞集団のサブセット分析は、カノニカルマーカーによって規定された10のサブセットを明らかにした(C1q+Apoe+AMの代わりに、それらはC1q+AMおよびまたApoe+AMが存在するように、より一層明確になった)(データを示していない)。肺胞マクロファージは病原体および残骸を貪食する重要なスカベンジング細胞として知られるが、比較的免疫寛容である。BCG-WTについて、成熟した肺胞マクロファージは、AMおよびマルコ発現(Marco-expressing)AM(マルコは病原体およびアポトーシス細胞の認識に関係するスカベンジャー受容体である)の二つのクラスターに分けることができたことが見出された。重要なことには、BCGワクチン接種し、SCVチャレンジした動物が高レベルのAMsを維持し、その一方でワクチン接種がない場合、SCV感染ハムスターは高度のAM不足を示した(データを示していない)。BCG-STINGについては、BCG-STINGがBCG-WTより多くのAMおよびより多くのMacro+AMを肺に動員したことが見出された(図8A-B)。
【0125】
間質性マクロファージ(IM)は、末梢から肺に動員されると考えられ、およびAMsよりも炎症性である。伝統的なIMsに加えて、また、Isg15、Gngt2(グアニンヌクレオチド結合タンパク質サブユニットT2)、またはS100a8(カルグラヌリンA)の高レベル発現によって特徴付けられる3つのIMサブタイプも識別した。注目すべきは、間質性マクロファージサブセットのうち三つ(IM、Isg+IM、Gngt+IM)が、ワクチン非接種のSCV2感染したハムスターの肺において強く誘導され、その一方でBCGワクチン接種がそれらの存在量を著しく減少させたことである。これらの観察結果は、BCGワクチン接種が肺におけるスカベンジングAMの上昇したセットポイントをもたらすが、SCV2感染中、それがSCV2媒介の肺免疫病理に関与し得る炎症促進性IM細胞およびIMサブタイプの過剰な動員を防止するという考えを支持する。
【0126】
BCG-WTについて、AMおよびIsg15+IMにおけるDEGsの分析は、SCV2により感染させたワクチン非接種動物において、リンパ系細胞で観察されたようにIFN関連遺伝子(例えばIsg15、Irf7、Mx1、図バイオリン(violin)参照)の高い転写が存在し、およびこれはケモカインコード化遺伝子(ccl2、ccl12、ccl4)によって伴われ、およびリンパ球活性化に関係し(Slamf9)、すべてが進行中の炎症反応と一致することを示した。しかし、SCV2によりチャレンジしたワクチン接種した動物では、支配的な(predominant)DEGsは、炎症が少なく、修復指向の(repair-oriented)環境において予想されるかもしれないように、代謝および修復プロセス(例えば、ユビキチンをコードするubd、ピロホスファターゼ1をコードするppa1、システインジオキシゲナーゼをコードするcdo)または補因子発現(C1qa、C1qc)に関わるものに向けてシフトした(図12A-B)。IFNγ応答遺伝子シグネチャースコアの焦点化分析は、実質すべての9つの骨髄系細胞サブセットについて、BCG-ワクチン接種動物は、IFNγ発現の最高レベルを有するIsg15+IMsについてを含め、低下した発現を示した(データを示していない)。
【0127】
BCG-STINGについて、分析はAMに制限された(AMおよびIsg15+IMではない)。しかし、結論は上記と同じであり、BCG-WTおよびBCG-STINGの両方が、遺伝子発現をIFNプロセスから離れておよび代謝と修復のプロセスへ向けてシフトさせる。(図8A-B).
【0128】
BCGワクチン接種し、SCV2感染したハムスターにおける、およびBCG-STINGワクチン接種し、SCV2感染したハムスターにおける顆粒球の特色.BCG-WTについて、データセットは多数の顆粒球を含み、および6つの境界明瞭なクラスターがIL-1b、IL-1受容体アンタゴニスト、IFN-刺激遺伝子15、カテリシジン(抗微生物ペプチド)、およびフィコリンB(リソソームタンパク質)をそれぞれコードするカノニカル遺伝子IL1b、IL1rn、Isg15、Camp(キャンプ)、およびFcnbに基づいて識別された(データを示していない)。BCGワクチン接種した、未チャレンジのハムスターは、後期エンドソームコンパートメントにおけるBCGのファゴソームの局在(phagosomal localization)と一致するFcnb+顆粒球の優勢な(dominant)集団を示した(データを示していない)。顆粒球のこの同じフィコリン発現集団は、BCGワクチン接種しSCV2チャレンジしたハムスターの肺において、チャレンジした、ワクチン未接種の動物におけるよりも一様に豊富であった。しかしながら、Camp+、Isg15+、Il1rn+およびIl1b+顆粒球サブセットについては、BCGワクチン接種は、進行中のSCV2の存在下で肺への顆粒球細胞の動員を減弱させる役割を果たした(データを示していない)。このように、少なくとも一定の顆粒球集団について、BCGワクチン接種は、図4Aで観察されたBCGワクチン接種動物における気管支肺炎の低下した程度と一致して、肺への動員を鈍化させた。
【0129】
骨髄系細胞における我々の観察と同様に、SCV2チャレンジした、ワクチン非接種動物におけるDEG分析は、IFN関連遺伝子(例は、Mx2、Ifit2)およびケモカイン遺伝子(例は、ccl5、ccrl2)の高レベル転写を示したが、BCGワクチン接種ハムスターでは、代謝性遺伝子、特に酸化バーストに関わるもの(例は、CytB、Cox2、Cox3)へ向けたシフトが存在した(データを示していない)。
【0130】
BCG-STINGでは、Il1b-顆粒球は識別されなかったが、Sell+顆粒球(Sell=CD62LまたはL-セレクチン細胞接着分子)が識別された。このように、両分析で6つのクラスターが存在したが、わずかな違いがあった。それにもかかわらず、上記の結論はBCG-STINGについて概ね正しい(図12A-B)。
例11
BCG-およびBCG-STING-ワクチン接種されたハムスターにおける他のSCV2疾患マーカー
【0131】
BCG-ワクチン接種したハムスターにおけるSCV2疾患の他のマーカー.SCV2ウイルス負荷は、d4およびd7にてすべての動物の肺および気管組織において測定し、およびd7にてBCGワクチン接種動物における減少した計数に対する有意でない傾向があったが、有意な減少は見られなかった(データを示していない)。RT-qPCRによるSCV2ウイルス負荷は、ウイルス負荷において統計的に有意な差はないことを示す。実験は二つのグループ(グループ3およびグループ4)で時間をずらして行った。総計で、いずれの時点でもSCV2ウイルス量において有意な差はなかった。BCGおよびBCG-STINGは、この非致死的動物モデルにおいて、使用したSCV2の用量(それは高かった)ではウイルス負荷を減少させないが、それらは(i)scRNAseq、(ii)IHC、および(iii)フローサイトメトリによって測定したように疾患の重症度を減少させると考えられる。総計として、d4またはd7の犠牲の時点のいずれにおいても、SCV2ウイルス負荷に有意差はなかった。サブグループ3の動物のうち、d7でBCGワクチン接種した動物は、ウイルス負荷において統計的に有意な減少を示した(p<0.01)(データを示していない)。同様に、CTによって見られた肺浸潤によりコレジスターされた(co-registered)病変での18F-FDG取込みについての陽性の病変のPET分析は、d4またはd7のいずれにおいても、グループにわたりPET陽性病変の数に有意差を示さなかった(データを示していない)。ハムスターは、SCV2チャレンジ後4日目および7日目に18F-FDG PETおよびCTイメージングを受けさせた。肺浸潤(CT)によりコレジスターされる炎症性病変(PET)の容量は、合計肺容量のパーセントとして測定した(データを示していない)。結果はグループについての平均データを示した一方で、SCV2チャレンジ後4日目に評価した3体の動物からのサンプルCTおよびPET画像は、肺浸潤が、事前のBCGおよびBCG-STINGワクチン接種によって一定の動物において減少したことを示す(データを示していない)。
例12
結果のサマリー
【0132】
この研究では、ゴールデンシリアハムスターモデルにおけるSCV2肺感染の病因および免疫学に対するBCGおよびBCG-STINGの静脈内ワクチン接種の影響は、scRNAseq分析によって補われた組織学およびフローサイトメトリの伝統的なツールを用いて評価した。結果は、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種が重症の気管支肺炎の発症を防止することを示す。付随的に、BCGおよびBCG-STINGのワクチン接種は、肺でのT細胞リンパ球減少を鈍化させ、および顆粒球の肺浸潤を減少させた。BCGおよびBCG-STINGのワクチン接種はまた、肺へのマクロファージの有意な動員と関係した。
【0133】
単一細胞転写分析は、SCV2チャレンジの4週間前のBCGおよびBCG-STINGワクチン接種が、肺に存在する細胞タイプの集団においておよびこれらの細胞タイプによって発現されるDEGsにおいての両方で有意なシフトと関係したことを明らかにした。リンパ系細胞のうち、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種動物では、SCV2感染動物およびSCV2感染していないBCGワクチン接種動物には見られなかった、形質細胞のユニークな肺への動員が認められた。Treg細胞-寛容化、抗炎症性のCD4細胞サブセットは、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種動物での肺においてより一層豊富であった。肺でのTヘルパーおよびTregsを含むいくつかの豊富なリンパ球系細胞系統は、ウイルス感染で予想されるように、SCV2感染動物でI型IFN関連遺伝子を高レベルで発現した;しかし、これらの同じ細胞タイプでは、BCGワクチン接種し、SCV2感染した肺およびBCG-STINGワクチン接種し、SCV2感染した肺の間で、支配的DEGsは抗原提示方向にシフトした。実際、遺伝子シグネチャーのスコアリングは、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種動物からの形質細胞が、免疫グロブリン遺伝子の発現でワクチン未接種動物のものより有意に高いことを示したことを表した。形質細胞の早期の動員および抗原提示遺伝子の転写に向けたシフトは、BCGおよびBCG-STINGが重度の気管支肺炎を防止する一つのメカニズムが、抗ウイルス抗体の促進された生産によるものであったことを示唆する。
【0134】
マクロファージの中でscRNAseqは、ウイルス感染の不存在下でのBCGワクチン接種単独が、肺組織における高レベルの肺胞マクロファージ、低い炎症能および残骸の摂取に関係する細胞タイプを生産することを明らかにした。SCV2感染の際、BCGワクチン接種動物およびBCG-STINGワクチン接種動物はこれらの高レベルのAMを保持した。対照的に、間質性マクロファージのいくつかの集団は、ワクチン未接種の肺においてBCGおよびBCG-STINGワクチン接種ハムスターでのものよりもかなり高いことが識別された。IMは、高い炎症能力をもつことが知られる末梢から動員されるであろう不在(non-resident)マクロファージであるため、BCGの有益な免疫学的効果は、過剰な炎症促進性IM動員の防止である可能性がある。ワクチン非接種動物でのAMおよびIM集団の両方のDEGsは、IFN関連およびケモカイン遺伝子の高発現を示した一方で、BCG-ワクチン接種およびBCG-STING-ワクチン接種肺は、代謝および修復遺伝子を重度に発現するAMおよびIMを示した。
【0135】
BCG-STINGはBCGを超える二つの重要な利点を示した。第一に、BCG-STINGは、BCG-WTよりも多くのNKT細胞およびより多くのB細胞を肺に動員した。第二に、BCG-STINGは、BCG-WTよりも多くのAMおよびより多くのMarco+AMを肺に動員した。この研究は、SCV2の高いチャレンジ用量(5×10TCID50単位)により実行され、およびハムスターでの重度の気管支肺炎につながった。
【0136】
要するに、結果は、BCGおよびBCG-STINGワクチン接種が、肺胞マクロファージの数の増強、SCV2媒介のT細胞リンパ球減少の防止、および顆粒球の肺浸潤の防止を伴うメカニズムによって、ハムスターにおける重度のSCV2気管支肺炎を防ぐことを指し示す。BCGおよびBCG-STINGが、肺での免疫グロブリン産生形質細胞の出現を促進するようであり、抗ウイルス抗体生産の促進が示唆される。BCGおよびBCG-STINGは肺Treg細胞の存在量を上昇させ、その一方で複数の細胞タイプがIFN関連遺伝子の発現から遠ざかるようにシフトするという事実があり、BCGおよびBCG-STINGが免疫寛容活性を有することが示唆される。これらの観察結果は、BCGおよびBCG-STINGのワクチン接種が、SCV2に対する保護において貴重な役割を果たし得、およびBCGまたはおよびBCG-STINGを既存のCOVID-19ワクチンと組み合わせるさらなる研究が、相乗的な保護を提供し得ることを示唆する。
例13
BCG-WTおよびBCG-STINGの抗腫瘍効力はSTING依存性である
【0137】
BCG-STINGは、異所性、同系マウスMB49膀胱ガンモデルにおいて、BCG-WTよりも優れた抗腫瘍効力を提供することが示されている(WO 2021/163602参照)。BCG-STINGの優位性の機構がSTINGアゴニスト(c-di-AMP)のその高レベル放出に特に起因することを確認するために、上記参照特許出願に記載のMB49腫瘍実験が、STING-/-マウス(C57BL/6J-Tmem173gt/Jまたはゴールデンチケットマウス(golden-ticket mice))ならびに野生型C57BL/6マウスにおいて実行された。MB49を播種したSTING-/-マウスでの平均腫瘍重量は、BCG-STING(BCG-disA-OE)処理後では0.7g(未処理のWTマウスまたは未処理のSTING-/-マウスと有意差はない)だったのに対し、それは処理したWTマウスでは0.2g(p 0.02)であり(図13A)、およびこれはWTマウスと比較してSTING-/-マウスでは腫瘍へ浸潤する免疫(CD45+)細胞の全体的な減少に関係した(図13B)。腫瘍浸潤リンパ球の中で、WTマウスと比較して、処理したSTING-/-マウスからの腫瘍において、合計リンパ球および活性化CD8+T細胞(IFN-g+CD8細胞、CD25+CD69+CD8細胞、およびCD69+CD38+CD8細胞)での大きな減少があり、その変化は、未処理またはBCG-WT処理のSTING-/-およびWTマウスではあまり顕著ではなかった(図13C-F)。同じく、活性化腫瘍浸潤マクロファージ(TNF-a+ F4/80+CD11b+細胞およびTNF-a+ CD206+CD124+)は、WTマウスと比較してBCG-STING(BCG-disA-OE)処理STING-/-マウスにおいて顕著に減少した(図13G-H)。腫瘍容量もまた、STING-/-マウスでのBCG-STING処理によって減少しなかった(図14)。これらの知見は、BCG-disA-OEの抗腫瘍効果が大分部でSTING依存性であることを確認した。
例14
BCG-STING膀胱内の膀胱ガン抗腫瘍効力は、膀胱内に与えた小分子STINGアゴニストのものよりも優れている
【0138】
BCG-STINGは、膀胱ガンのラット同所性ラットMNUモデルにおいて、BCG-WTよりも優れた抗腫瘍効力を提供することが示された(WO 2021/163602参照)。ADU-S100などのような小分子STINGアゴニストの直接適用と比較したBCG-STINGの抗腫瘍効力を決定する実験を行った(図16Aに示す構造)。これを行うために、MNU Fischer(MNUフィッシャー)ラットモデルを30匹のラット(Harlan(ハーラン)、平均体重160g、齢7週)と共に用いた。簡単に説明すると、N-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)滴下注入(instillations)を隔週で、3%イソフルランによる麻酔を使用して、合計4回の膀胱内膀胱滴下注入(intravesical bladder instillations)のために与えた。完全麻酔後、20Gの血管カテーテル(angiocatheter)をラットの尿道中に置いた。次いで、0.9.%塩化ナトリウムに溶解したMNU(1.5mg/kg)(Spectrum(スペクトラム))を注入し(instilled)、およびカテーテルを抜去し、自発的な排尿を防ぎおよび吸収させるために60分間永続する鎮静を継続した。MNUは2週間ごとに合計4回の用量について投与した。最後のMNU滴下注入から2週間後、PBS、25マイクログラムのADU-S100、5×106CFUのBCG-WT、または5×106CFUのBCG-STING(すべて20G血管カテーテルを介して膀胱内に(intravesicallyin)0.3mlを与える)による膀胱内処理を合計用量について毎週与えた。最後の膀胱内処理から2d後に齧歯動物を犠牲にし、および最後のBCG滴下注入の48時間内に膀胱を取得した。剖検時にラットの膀胱を取り出し、および33%をホルマリン固定し、およびH&Eスライドを用意した。認定泌尿器科病理医(certified genitourinary pathologist)が、ラット膀胱あたりおよそ20の顕微鏡視野を再検討し、および腫瘍のステージについてそれぞれスコア化した。良性、CIS、Ta、またはT1病変を示す顕微鏡視野の画分を、各処理グループについて算出した(図16B)。示されるように、無療法(MNUだけ)では、ラット膀胱フィールド(rat bladder fields)の30%がT1膀胱ガン病変を示し、および70%がTaを示した。対照的に、BCG-STING(oeBCG、BCG-disA-OE)処理したラット膀胱は、60%の良性膀胱組織および40%のインサイツのカルシノ―マ(carcinoma in situ)(CIS)を示した。BCG-WT処理ラットの膀胱は100%CISを示した。ADU-S100処理ラット膀胱は、35%CIS、25%Ta、および40%T1を示した。これらの結果は、BCG-STINGによる膀胱内療法がMNU発ガン後の膀胱ガンの病理がT1およびTaなどのような進行性腫瘍に進むのを防ぐ上で、BCG-WTよりも優れていたことを示す。両方ともADU-S100による膀胱内療法より優れていた。
例15
BCG-WTおよびBCG-STINGはグルコーストランスポーターの上方制御によって細胞外空間から細胞内空間へのグルコースの流入を促進する
【0139】
BCG-STINGにより処理したヒト単球由来マクロファージが、BCG-WTにより処理した同じ細胞が行うよりも有意に高いレベルのグルコースを細胞内空間に取り込むことが以前に示された(WO 2021/163602参照)。細胞内グルコースの上昇したレベルが増加した輸送によるものか、または増加した糖新生によるものかを決定するために、BCG-WTおよびBCG-disA-OEに曝露したマクロファージにおける主要グルコーストランスポーターGLUT1の発現を試験した。BCGまたはBCG-STING(BCG-disA-OE)によるネズミBMDMを4時間チャレンジし、およびグルコースを含まない培地において洗浄および回復後、マクロファージを蛍光2-デオキシ-グルコース類似体2-NBDGにより2時間処理し、および続いてフローサイトメトリによりGLUT1発現または2-NBDG取込みのレベルについて分析した。図15Aに見られ得るように、BCG-WTおよびBCG-STING(BCG disA-OE)への曝露は、曝露していない細胞と比較して、BMDMにおけるGLUT1発現のそれぞれ2倍(p0.06)および5倍(p0.002)よりも多くの増加を導いた。同様に、図15Bに示すように、BCG-WTおよびBCG-disA-OEへの曝露後、2-NBDGレベルはそれぞれ20%(p0.06)または40%(p0.003)だけ高められた。これらの観察結果は、BCG-disA-OEが、BCG-WTまたは未処理のコントロールよりも高いレベルのGLUT1トランスポーターおよびグルコース取込みを誘発し、細胞内グルコースのより一層大きな蓄積がもたらされ、および訓練された免疫およびSTING活性化を強化されたmTOR-HIF-1a経路活性化およびグルコーストランスポーターレベルでの付随的な上昇に結びつける以前の観察結果とも整合することを強く示唆する。
【0140】
BCG-STINGによるマクロファージでの増加したグルコース蓄積の機構は、増加した糖新生よりもむしろ細胞中への増加した輸送によるものである(図15A-B)。蛍光グルコースの細胞内取込みが決定された。簡単に言うと、マクロファージは、グルコースフリー培地の存在下で1:20(マクロファージ対BCG比)の比率で感染させ、次いで2-NBDGの外因的添加を続けた。その後、マクロファージをGLUT1について染色し、およびフローサイトメトリを用いて調査した。データ分析はFlowjoおよびGraphpad prism(グラフパッド・プリズム)ソフトウエアを用いて行った。両側スチューデントt-検定(n=2実験反復)(図15).
例16
BCGおよびBCG-STINGワクチン接種は、嚢胞性線維症患者における非結核性マイコバクテリウムの感染の発症を防止し得る
【0141】
欧州嚢胞性線維症学会患者レジストリ(European Cystic Fibrosis Society Patient Registry)(ECFSPR)を用いて、国固有のBCGワクチン接種方策が、2009年から2018年までのCFを有する個体間の異なる年間(肺非結核性マイコバクテリウム)NTM有病率に関係したかどうかを定めるためにそれを評価した。各国でのNTM有病率は、各年の観察期間中にNTMデータが入手可能な全個体のうち、NTM培養が陽性であった個体の割合として規定した。2011年以降、ECSFPRは小児および成人のCF患者のNTM感染を別々に報告するようになり、およびこれらの年齢グループにおけるNTM有病率を別々に計算することが可能になった。レジストリが報告したデータが10個体未満である場合、またはその年でのNTMデータの欠落パーセントが70%を超えている場合、与えられた研究年および齢のグループ(小児または成人)についての国ごとのNTMデータは分析から除外した。
【0142】
研究国は、普遍的BCGワクチン接種方策によって、活性または中断中として分類し、および中断中の国については、普遍的BCGワクチン接種が中断された年代によって分類した:1990年以前、1990年から<2000年、2000年から<2010年、または2010年以降である。
【0143】
2009年および2018年の間に、合計37の欧州および一定の近隣の地中海諸国(トルコ、イスラエル)が、ECFSPRにNTM感染の少なくとも一つの年次サマリーを寄稿した。与えられた年の国レベルのデータは、NTMデータが報告された個人が10名未満であった場合、またはNTMデータの70%よりも多くが欠落していた場合に除外された。これらの規準により、我々は以下の数の国を含め、および分析することが可能になった:2019年は14、2010年は14、2011年は22、2012年は23、2013年は23、2014年は21、2015年は24、2016年は26、2017年は20、および2018年は31である。これらの除外規準を適用した後、NTMの一次分析には合計33か国が、成人の分析において含まれる1年あたり20より27か国までの範囲、および小児の分析において含まれる1年あたり19より28か国までの範囲と共に利用された。含まれる国のBCGワクチン接種の実践は次のようであった:複数回BCGワクチン接種12か国(アルメニア、オーストリア、チェコ共和国、フランス、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、ロシア連邦、スロバキア共和国、スロベニア、スウェーデン、およびウクライナ)および単独BCGワクチン接種17か国(アルバニア、デンマーク、ジョージア、ハンガリー、イスラエル、ラトビア、リトアニア、北マケドニア、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、スペイン、スイス、トルコおよび英国)である。2009年から2017年までにかけて、嚢胞性線維症(CF)患者の年間NTM率に関するデータを欧州嚢胞性線維症学会患者レジストリ(ECFSPR)に寄稿した欧州諸国は、BCGワクチン接種方策によって活性(active)または中断中として分類した。地図はmapchart.netで作り出された。調査対象国のうち、2011年に普遍的BCGワクチン接種が15か国(アルバニア、アルメニア、クロアチア、ジョージア、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、ラトビア、リトアニア、北マケドニア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア連邦、およびセルビア)において行われ、11か国は2011年までに普遍的BCGワクチン接種を中断し(オーストリア、チェコ共和国、デンマーク、フランス、ドイツ、イスラエル、ノルウェー、スロバキア、スロベニア、スペイン、およびスウェーデン)、および四か国が普遍的BCGワクチン接種戦略を利用することはなかった(ベルギー、キプロス、イタリア、およびオランダ)。注目すべきは、三か国が調査期間中にBCGワクチン接種を中断したこと:ノルウェー(2009年)、チェコ共和国(2010年)およびスロバキア共和国(2011年)である。BCGワクチン接種を継続している国は、普遍的BCGを中断した国と比較して、NTM感染率が統計的に有意に低かった(発生率比[IRR]:0.38;95%CI:0.26、0.54)(図17AB)。図17Bは、調査期間中に普遍的BCGワクチン接種を提供した国のCF患者における年間NTM感染率をBCG接種戦略(単回対複数回投薬)別にグループ分けし、BCGワクチン接種を中断した国と比較して示した。以前に普遍的BCGワクチン接種戦略を利用した16か国のうち、五つが1990年より前に中断し、二つが1990年および2000年の間に中断し、四つが2000年より2010年までの間に中断し、および五か国が2010年より後にBCGワクチン接種を中断した。
【0144】
研究期間中、欧州のCF患者の間でNTMの全体的な年間有病率は、2009年での1.94%から2018年の4.10%にまで増加した。より一層高いNTM有病率が成人患者(2011年での3.41%より2018年での6.26%まで)の間で小児CF患者(2011年での1.55%より2018年での1.83%まで)に比例して観察された。
【0145】
すべての調査年において、活性な普遍的BCGワクチン接種方策を有する国は、TB負担を考慮するときでさえ、BCGワクチン接種をしなくなった国と比較して、NTM感染の有病率が低いことを報告した(図17A-B)。活性BCGワクチン接種を伴う国のうち、NTM感染の有病率は2009年での0.44%から2017年での1.59%までに増加した(PR:1.14;95%CI:1.07、1.22)のに対して、BCGワクチン接種を中断した国では、NTM感染の有病率は2009年での2.17%から2017年での4.07%にまで増加した(PR:1.06;95%CI:1.04、1.07)。BCGワクチン接種を継続する国は、普遍的BCGワクチン接種を中断した国と比較して、NTM感染の年間有病率が統計的に有意に低かった(PR:0.28;95%CI:0.17、0.45)。
例17
嚢胞性線維症データサマリー
【0146】
欧州でのCF患者における肺NTM感染の有意に低い年間有病率は、BCGワクチン接種が停止されている国と比較して、普遍的なBCGワクチン接種方策を有する国において観察された。NTMは、一回のBCGワクチン接種だけを提供している国と比較して、複数回ワクチン接種戦略を利用している国でのCF患者の間であまり一般的ではなかったが、この知見は統計的に有意ではなかった。BCGワクチン接種はCFにおける肺NTM感染に対する保護を提供し得、および反復投与によって付与される保護上の利益が存在し得る。
【0147】
複数の疫学研究は、BCGワクチン接種の停止および増加した小児NTM感染の間の関係を観察しており、およびインビボでのNTMに対するBCGの保護効果のヒトおよび動物データも存在する。BCGは、無関係な抗原刺激に対する免疫セットポイントを増加させるエピジェネティック(後成的)な変化を伴う「訓練された免疫」と呼ばれる(dubbed)機構を通して、複数の感染性生物に対する異種保護を付与することが示された。BCGは、NTM、ウイルス感染、およびガンに対する保護的効力と関係した一方で、これらのデータは、CFコミュニティについてのBCGの潜在的な利益を示唆する。
【0148】
本調査には、いくつかの限界がある。ECFSPRは包括的である一方で、すべての国が研究期間を通じて年次データを寄稿しているわけではなく、およびいくらかの国はNTM感染データの欠落を報告しており;したがって、報告または培養の実践における偏りが、観察された関連性に影響を与えた可能性がある。ECFSPRでの年次報告書には、ナショナルNTMの種レベルのデータ(National NTM species-level data)は含まれず、種に特化した分析が妨げられる。同様に、ECFSPRはNTM肺疾患よりもむしろNTM感染を報告し、このように、-より一層臨床的に関連するエンドポイントである-CFにおけるBCGワクチン接種およびNTM疾患間の関係を確かめることができなかった。しかし、国固有のBCGワクチン接種方策は最も包括的な供給源から導き出され、我々は普遍的BCGワクチン接種を中断している国が、CF患者を含めて、高リスク患者にBCGワクチン接種を提供するために継続し得、その結果、BCG曝露の国内での(within-country)異種性がもたらされ得る。BCGワクチン接種の中止および減少した頻度の両方は、TB発生の漸減(waning TB incidence)の代用となる可能性が高く、およびTB曝露は実際には、NTMに対する有意な交差保護を付与し得る。最後に、研究の性質上、我々はNTM感染についてのリスク、例えば、地理的条件、社会経済的状況、移動パターン、免疫化BCG株または臨床実践パターンでの違いなどのようなものを高め得る個人レベルの特性を説明することができなかった。
例18
膀胱ガンおよび結核の動物モデルにおけるBCG-STINGの効果
【0149】
疾病のTB防止についてのBCG-disA-OEおよびBCG-WTの効力は、モルモットモデルを用いて評定した。PBS、BCG-disA-OEまたはBCG-WTを接種されたモルモットは、病原性Mtbによりチャレンジし、および18週後に犠牲にした。BCG-disA-OEはBCG-WTと比較して、三つのパラメータ:肺重量、肺病理スコア、および肺Mtb CFU計数によってTB疾患の進行を抑えた。MB-49マウス異所性脇腹腫瘍モデルを用いると、BCG-disA-OEはBCG-WTよりも、(i)腫瘍重量の減少、(ii)腫瘍に関連するIFNγ+CD4細胞の腫瘍に対する増加、および(iii)腫瘍に関連するCD4 Treg細胞の減少においてより一層効果的であった。モデル:C57BL/6マウス(n=10/グループ)は0日目に3x105のMB-49細胞を注射した。d13、d16、およびd19にPBS(No Tx)または106のBCGの腫瘍内投与を与えた。腫瘍重量およびフローサイトメトリのために、マウスはd21で犠牲にした。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001である。BCG-disA-OEは、膀胱ガンの二つの異なる動物モデルにおいてBCG-WTよりも有効であった(データを示していない)。
【0150】
BCG-disA-OEによりワクチン接種した免疫適格性BALB/cマウスは、BCG-WTを接種したマウスと比較して、肺での有意に減少したMtb負担を示した(データを示していない)。同様に,エアロゾルによって二つのBCG株に曝露した免疫不全SCIDマウスにおける死亡までの時間の研究は,BCG-WT株と比較してBCG-disA-OE株の後の延長された生存を明らかにした(データを示していない)。我々はまた、BCG-disA-OEに感染したBALB/cマウスの肺および脾臓において、BCG-WTによるレベルと比較して、炎症促進性サイトカインの増加したレベルを見出した(データを示していない)。
例19
BCG-STINGの訓練された免疫効果
【0151】
炎症促進性サイトカイン.BCG-disA-OEにより処理したラットからの尿膀胱は、未処理またはBCG-WT処理ラットと比較して、IFN-α/β、IFN-γ、IL-1β、TNF-α、TGF-β、iNOS、IP-10、MCP-1およびMIP-1αの著しい誘導を示したことが見出された(データを示していない)。BCG-disA-OEにより処理したラットの膀胱におけるCCL2+ MΦ、Nos2+およびIL-1β+ M1 MΦの増加した浸潤についての証拠(増加したIL-6、IFN-γ、およびIFN-αの発現を伴う)もまた見出された。興味深いことに、IP-10の増加したレベルが見出され、それは増加したIFN-γと一緒に、感染および炎症の部位でのT細胞の強い動員を促進することが知られている(データを示していない)。重要なことに、我々は五名の健康なコントロールからのヒトPBMCsと共にこれらのデータを再現し、およびBCG-WTを超えるBCG-disA-OEによるTNFαおよびIL-6での有意により一層大きな増加を観察した(データを示していない)。
【0152】
マクロファージ再プログラミング.最近の研究は、非常に多くのMΦサブセットが、炎症誘発性機能(M1 MΦと呼ばれる)および抗炎症腫瘍促進性機能(M2 MΦ)を有するものを含めて識別した。加えて、骨髄由来抑制細胞(MDSCs)は、抗腫瘍および抗感染の免疫応答を抑圧する重要な役割を担うことが知られている。炎症性サブセットへの再プログラミングが起こるかどうかを定めるために、BCG-disA-OE対BCG-WTの能力をトレーニングMΦ実験において調べた。図43に示すように、ヒトPBMCsのBCG-disA-OEへの曝露は、BCG-WTにより生じるよりも強力なM1表現型への骨髄系細胞シフトを誘導する。具体的には、(i)炎症性MΦsの全体数、(ii)TNFα発現性M1 MΦs、および(iii)IL-6発現性M1 MΦsである。対照的に、免疫抑制性骨髄系細胞タイプの存在量は、(iv)M2型MΦsの全体数および(v)IL-10発現性M2 MΦsを含めて減少した。**p<0.01,***p<0.001.(データを示していない)。
【0153】
エピジェネティックトレーニング.訓練された免疫は、MΦsにおいて誘導され-ヒストンメチル化およびアセチル化のレベルでのエピジェネティックな再プログラミングによって媒介される。組換えBCG株が、自然免疫記憶応答を誘導するだけでなく、ヒト単球を代謝的に、およびエピジェネティックに再プログラムし、およびその後のチャレンジに直面してより一層良好に反応するようにそれらをプライミングするという仮説を調べるために、ヒト単球を健康なドナーの末梢血から分離し、および野生型およびdisA-OE株のBCG(5:1のMOI)により3時間それらを培養においてチャレンジした。非付着細胞および非内部移行(non-internalized)細菌を反復洗浄によって除去し、および細胞をペニシリン-ストレプトマイシンを含むRPMIにおいて6日間休ませた。TLRアゴニストPam3CSK4(300ng/μl)を用いて細胞を夜通し再刺激し、およびMΦsは、活性プロモーターおよびエンハンサーのマーカーであるリジン4でのヒストンH3モノメチル化(H3K4me1)の分布における変化を定めるため、クロマチン免疫沈降シーケンシング(ChIP-seq)によってエピジェネティック変化について調べた。IL-6でのH3K4メチル化の有意により一層大きな増大が見出され、およびTNFαのプロモーターが、BCG-WTと比較してBCG-disA-OEによって誘導された。加えて、H3K9メチル化での有意な低下およびTNFαおよびIL-6プロモーター上のH3K27アセチル化の増大が見出された(データを示していない)。
【0154】
オートファジートレーニング.オートファジーは、細胞内病原体を除去するための重要な宿主防御機構である。オートファジーは、BCGで誘導された訓練された免疫を修飾することが示されているが、オートファジーと訓練された免疫でのエピジェネティックな変化とを結びつける正確な経路は不明である。最近、BCG-disA-OEが膀胱腫瘍細胞においてオートファジーを高めることが見出された。これは訓練された免疫のさらに別のマーカーを示す。
【0155】
本発明は上記の例を参照して説明したが、修飾および変形が本発明の精神および範囲内に包含されることが理解されよう。したがって、本発明は以下の請求の範囲によって制限されるに過ぎない。
【誤訳訂正2】
【訂正対象書類名】特許請求の範囲
【訂正対象項目名】全文
【訂正方法】変更
【訂正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種であって、カナマイシンに随意に耐性である、菌種。
【請求項2】
菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する、請求項1の組換え菌種。
【請求項3】
STINGアゴニストはc-di-AMPである、請求項2の組換え菌種。
【請求項4】
disA遺伝子はM.ツベルクローシス(M. tuberculosis)disA遺伝子である、請求項1の組換え菌種。
【請求項5】
disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している、請求項1の組換え菌種。
【請求項6】
マイコバクテリウムのプロモーターはPHSP60である、請求項5の組換え菌種。
【請求項7】
菌種の核酸配列はカナマイシン耐抗菌性マーカー(kanamycin antibacterial resistance marker)を有していない、請求項1の組換え菌種。
【請求項8】
disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種と薬学的に許容可能な担体とを含む薬剤組成物であって、菌種はカナマイシンに随意に耐性である、薬剤組成物。
【請求項9】
菌種はc-di-AMPを過剰に発現する、請求項8の薬剤組成物。
【請求項10】
disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している、請求項8の薬剤組成物。
【請求項11】
薬学的に許容可能な担体は、りん酸緩衝剤;くえん酸緩衝剤;アスコルビン酸;メチオニン;塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール;ブチルアルコール;ベンジルアルコール;メチルパラベン;プロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール;低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドングリシン;グルタミン;アスパラギン;ヒスチジン;アルギニン;リジン;単糖類;二糖類;グルコース;マンノース;デキストリン;EDTA;スクロース;マンニトール;トレハロース;ソルビトール;ナトリウム;セーリーン;金属界面活性剤;非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール(PEG);ステアリン酸マグネシウム;水;アルコール;セーリーン溶液;グリコール;鉱油およびジメチルスホキシド(DMSO)からなる群より選ばれる請求項8の薬剤組成物。
【請求項12】
対象におけるウイルス感染を防止、改善または一次処理するにあたり、disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することを含み、それによって感染が処理される、方法。
【請求項13】
ウイルス感染は一次呼吸器感染である、請求項12の方法。
【請求項14】
感染はSARS-CoV-2感染である、請求項12の方法。
【請求項15】
対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張、およびHIV/AIDSからなる群より選ばれる状態を有する、請求項12の方法。
【請求項16】
菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する、請求項12の方法。
【請求項17】
STINGアゴニストはc-di-AMPである、請求項16の方法。
【請求項18】
disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している、請求項12の方法。
【請求項19】
菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項12の方法。
【請求項20】
菌種はカナマイシンに随意に耐性である、請求項12の方法。
【請求項21】
菌種は選択可能なマーカーを含む、請求項12の方法。
【請求項22】
対象における細菌感染を防止、改善または処理するにあたり、disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することを含み、それによって感染が処理される、方法。
【請求項23】
細菌感染は一次呼吸器感染である、請求項22の方法。
【請求項24】
感染は非結核性マイコバクテリウム感染である、請求項23の方法。
【請求項25】
対象は嚢胞性線維症(CF)または非嚢胞性線維症気管支拡張を有する、請求項22の方法。
【請求項26】
菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する、請求項22の方法。
【請求項27】
STINGアゴニストはc-di-AMPである、請求項26の方法。
【請求項28】
disA遺伝子はマイコバクテリウムのプロモーターと融合している、請求項22の方法。
【請求項29】
菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項22の方法。
【請求項30】
菌種はカナマイシンに随意に耐性である、請求項22の方法。
【請求項31】
対象におけるグルコースレベルを調節するにあたり、disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することを含み、それによってグルコースレベルが調節される、方法。
【請求項32】
グルコースレベルはBCG菌種の投与後に上昇する、請求項31の方法。
【請求項33】
グルコースレベルはBCG菌種の投与後に減少する、請求項31の方法。
【請求項34】
菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する、請求項31の方法。
【請求項35】
STINGアゴニストはc-di-AMPである、請求項34の方法。
【請求項36】
菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項31の方法。
【請求項37】
菌種はカナマイシンに随意に耐性である、請求項31の方法。
【請求項38】
ウイルス感染を患う対象において免疫学的応答を誘導するにあたり、disA遺伝子を含む組換えバシル・カルメット-ゲラン(BCG)菌種を投与することを含み、それによって免疫学的応答が誘導される、方法。
【請求項39】
BCG菌種の投与は、肺の肺胞性マクロファージにおける増加、SCV2媒介T細胞リンパ球減少の防止、顆粒球肺浸潤の防止、肺における増免疫グロブリン生産性形質細胞、および/または肺でのTreg細胞における増加を引き起こす、請求項38の方法。
【請求項40】
菌種はインターフェロン遺伝子の刺激因子(STING)アゴニストを過剰に発現する、請求項38の方法。
【請求項41】
STINGアゴニストはc-di-AMPである、請求項40の方法。
【請求項42】
菌種の核酸配列はカナマイシン耐性マーカーを有しない、請求項38の方法。
【請求項43】
菌種はカナマイシンに随意に耐性である、請求項38の方法。
【請求項44】
次の:
プロモーター配列;
M.ツベルクローシスdisA配列;
シグナルペプチド;および
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインまたはその抗原性断片を操作可能な順序で含む、核酸構築物。
【請求項45】
プロモーター配列はHsp60プロモーターである、請求項44の核酸構築物。
【請求項46】
SARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある対象への投与のための、請求項44または45の核酸構築物の使用。
【請求項47】
I型インターフェロンの投与をさらに含む、請求項46の使用。
【請求項48】
請求項44または45の核酸構築物を含む、薬剤組成物。
【請求項49】
SARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある対象においてSARS-CoV-2に対する免疫応答を誘導するにあたり、請求項48の薬剤組成物を投与することを含む、方法。
【請求項50】
投与は静脈内注射によるものである、請求項49の方法。
【請求項51】
対象はヒトである、請求項49の方法。
【請求項52】
ウイルス感染を防止、改善または一次処理するために、核酸構築物が含まれる薬剤組成物をその必要がある対象に投与することを含み、核酸構築物は次の:
プロモーター配列;
M.ツベルクローシスdisA配列;および
シグナルペプチドを操作可能な順序で含み、
それによってウイルス感染が防止、改善または一次処理される、方法。
【請求項53】
ウイルス感染は一次呼吸器感染である、請求項52の方法。
【請求項54】
対象は高齢体、健康な成体、または結核の危険性がないインファントもしくはチャイルドである、請求項52の方法。
【請求項55】
対象は、肥満、糖尿病、嚢胞性線維症(CF)、非嚢胞性線維症気管支拡張、およびHIV/AIDSからなる群より選ばれる状態を有する、請求項52の方法。
【請求項56】
対象は、免疫抑制療法の慢性的な使用、悪性腫瘍、放射線療法、骨髄移植、または化学療法のために免疫抑制されている、請求項52の方法。
【請求項57】
免疫抑制療法はステロイドまたは抗TNF剤である、請求項56の方法。
【請求項58】
対象はウイルス感染への曝露についての危険性が高い環境におかれている、請求項52の方法。
【請求項59】
環境はヘルスケアまたはヘルスケア関連施設、刑務所またはナーシングホームである、請求項58の方法。
【請求項60】
核酸構築物はウイルスタンパク質またはその抗原性断片をさらに含む、請求項52の方法。
【請求項61】
糖尿病を有する対象における血糖を管理するために、核酸構築物を対象に投与することを含み、核酸構築物は、次の:
プロモーター配列;
M.ツベルクローシスdisA配列;および
シグナルペプチドを操作可能な順序で含み、
それによって血糖値を管理する、方法。
【請求項62】
次の:
プロモーター配列;
M.ツベルクローシスdisA配列;
ppiAシグナル配列;
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメイン;および
シグナルペプチドを操作可能な順序で含む、核酸構築物。
【請求項63】
次の:
プロモーター配列;
M.ツベルクローシスdisA配列;
ppiA配列;および
シグナルペプチドを操作可能な順序で含む、核酸構築物。
【請求項64】
ppiAシグナル配列およびウイルスタンパク質またはその抗原性断片をさらに含む、請求項63の核酸構築物。
【請求項65】
ウイルスタンパク質またはその抗原性断片は、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質またはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質の受容体結合ドメインである、請求項64の核酸構築物。
【請求項66】
請求項48の核酸構築物を含む、薬剤組成物。
【請求項67】
対象においてウイルス感染に対する免疫応答を誘導するにあたり、請求項48の薬剤組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項68】
対象はSARS-CoV-2感染を有するか、または有する危険性がある、請求項67の方法。
【請求項69】
薬剤組成物の投与後、I型IFNのレベルにおける増加がある、請求項67の方法。
【請求項70】
非結核性マイコバクテリウム(NTM)感染を防止するために、核酸構築物が含まれる薬剤組成物をその必要がある対象に投与することを含み、核酸構築物は、次の:
プロモーター配列;
M.ツベルクローシスdisA配列;および
シグナルペプチドを操作可能な順序で含み、
それによって非結核性マイコバクテリウム(NTM)感染が防止される、方法。
【請求項71】
対象は嚢胞性線維症(CF)または非嚢胞性線維症気管支拡張(NCFB)を有する、請求項70の方法。
【請求項72】
核酸構築物は細菌タンパク質またはその抗原性断片をさらに含む、請求項70の方法。
【国際調査報告】