(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】固定化抗凝固剤を含む膜及び該膜を作るための方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20231016BHJP
B01D 69/08 20060101ALI20231016BHJP
B01D 71/06 20060101ALI20231016BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20231016BHJP
B01D 71/72 20060101ALI20231016BHJP
B01D 71/74 20060101ALI20231016BHJP
B01D 61/26 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61M1/18 500
B01D69/08
B01D71/06
B01D71/68
B01D71/72
B01D71/74
B01D61/26
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521861
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2021077211
(87)【国際公開番号】W WO2022078785
(87)【国際公開日】2022-04-21
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501473877
【氏名又は名称】ガンブロ・ルンディア・エービー
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベスリング,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】アルダース,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ローゼ,イルカ
(72)【発明者】
【氏名】カター,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】メンダ,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】クラウゼ,ベルント
(72)【発明者】
【氏名】シュトルアー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】レムプファー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】クルベル,ビビアン・シュテファン
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077KK05
4C077LL05
4C077LL23
4C077NN02
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4C077PP30
4D006GA06
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4D006NA27
4D006NA28
4D006NA64
4D006NA75
4D006PA01
4D006PB09
4D006PC41
(57)【要約】
本開示は、血栓形成性の低下を示す、抗凝固剤被覆微多孔質中空繊維膜に関する。本開示はさらに、前記膜を製造する方法、並びに前記膜を含む濾過及び/又は拡散装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
その上に固定化された抗凝固剤を有する多孔質中空繊維膜であって、i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ii)ポリビニルピロリドン、及びiii)キトサンのブレンドを含む多孔質中空繊維膜。
【請求項2】
前記抗凝固剤がグリコサミノグリカンである、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記抗凝固剤が未分画ヘパリンである、請求項2に記載の膜。
【請求項4】
多孔質中空繊維上の抗凝固剤の濃度が、1,000~5,000IU/m
2の範囲である、請求項1~3のいずれか一項に記載の膜。
【請求項5】
膜の総重量に対し、0.1~5重量%のキトサンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の膜。
【請求項6】
前記キトサンが、5~375kDaの範囲の、GPC分析によって決定される重量平均分子量M
wを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の膜。
【請求項7】
前記キトサンが、85~95%の範囲の脱アセチル化度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の膜。
【請求項8】
その上に固定化された抗凝固剤を有する多孔質中空繊維膜を製造する方法であって、当該方法は、微多孔質中空繊維支持膜の製造及びその後の当該支持膜の少なくとも1つの表面に抗凝固剤をグラフト化することを含み、当該微多孔質中空繊維支持膜の製造が以下のステップ、すなわち
a) 少なくとも1種のポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、少なくとも1種のポリビニルピロリドン、少なくとも1種のキトサン、及びN-メチル-2-ピロリドンを含むポリマー溶液を形成するステップ、
b) 2つの同心円状の開口部を有するノズルの外輪スリットを通ってポリマー溶液を沈殿浴中に押し出すステップ、同時に
c) ノズルの内側開口部から中心流体を押し出すステップ、
d) 得られた膜を洗浄するステップ、その後
e) 膜を乾燥させるステップ
を含み、ポリマー溶液が、ポリマー溶液の総重量に対して10~15重量%のポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、及びポリマー溶液の総重量に対して1~10重量%のポリビニルピロリドン、及び溶液の総重量に対して0.05~0.6重量%のキトサンを含む、方法。
【請求項9】
前記キトサンが、75%~100%の脱アセチル化度及び5kDa~375kDaの範囲の、GPC分析によって決定される、重量平均分子量M
wを有する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマー溶液を形成するステップが、キトサンを乳酸に溶解することを含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記キトサンが乳酸の90%w/w水溶液に溶解される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記抗凝固剤が、前記抗凝固剤の水溶液を前記支持膜の前記少なくとも1つの表面と接触させることによって、当該支持膜の当該少なくとも1つの表面にグラフト化される、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗凝固剤が未分画ヘパリンである、請求項8~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
複数の多孔質中空繊維膜を含む濾過及び/又は拡散装置であって、当該多孔質中空繊維膜は請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔質中空繊維膜である、濾過及び/又は拡散装置。
【請求項15】
血液透析、血液透析濾過、又は血液濾過における請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔質中空繊維膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血栓形成性が低下した抗凝固剤被覆微多孔質中空繊維膜に関する。本開示は、さらに、該膜を製造する方法並びに該膜を含む濾過及び/又は拡散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体外血液回路では、血液の凝固、すなわち微小血栓の形成及び血液凝固を防止するために全身性抗凝固が一般的に用いられる。ヘパリンは最も一般的に用いられる抗凝固剤である。ヘパリンを用いる全身抗凝固は出血リスクの増加と関連があり、ヘパリンはかなり高価である。したがって、ヘパリンを固定化する能力を有する膜は、ヘパリンの全身投与量の必要性を減少させるか、又は排除さえすることができるので、非常に望ましい。
【0003】
US2003/0021826A1は、本質的にアクリロニトリルと少なくとも1種のアニオン性又はアニオン化可能モノマーとのコポリマーから構成される半透性支持膜の表面への安定な方式での抗凝固剤の結合を提案する。抗凝固剤は、体外循環による治療中に血液又は血漿中に浸出することなくその抗凝固活性を発揮することができ、体外血液治療セッション中に患者において全身的に使用される抗凝固剤の量を低減することができる。血液又は血漿と接触するように意図された半透性支持膜の表面は、ポリアクリロニトリルのアニオン性又はアニオン化可能基とイオン結合を形成し得るカチオン性基を担持するカチオン性ポリマー、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、及び前記カチオン性ポリマーのカチオン性基とイオン結合を形成し得るアニオン性基を担持する抗凝固剤(例えば、ヘパリン)で、連続して被覆される。
【0004】
US5840190Aは、表面改質生体適合性膜を開示する。この膜はポリスルホン、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンイミン(PEI)から構成される。膜の表面は、生物活性化合物及びカップリング剤と反応させることによって改質される。実施例では、カップリング剤としてシアノ水素化ホウ素ナトリウムを用いて、亜硝酸によって部分的に分解されたヘパリンを膜表面に共有結合によりカップリングする。
【0005】
EP1024886A1は、疎水性の支持膜上に親水性被覆層を有する複合膜の製造方法を開示し、ここで、疎水性の支持膜に反応剤の水溶液を含浸させて、疎水性の支持膜の表面上及び細孔内に反応剤を分散させ、親水性ポリマーを、親水性ポリマーと反応剤との間の反応により疎水性の支持膜上に薄く被覆させる。疎水性支持膜は、ポリスルホン又はポリエーテルイミドからなり、親水性ポリマーは、アルギン酸ナトリウム、キトサン又はポリビニルアルコールからなる。キトサンを親水性ポリマーとして用いる場合、反応剤は硫酸であり、水溶液中の反応剤の濃度は0.5~20%の範囲である。
【0006】
US10500549B2は、ポリスルホン及び少なくとも1種の孔形成親水性添加剤(これはポリビニルピロリドン、短鎖グリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、又はポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシドである)をベースとするベース膜、ベース膜上に配置され、ポリエチレンイミン、キトサン、ポリリシン、ポリアルギニン、又はポリオルニチンであるポリカチオン性結合剤の層から形成された官能性層、及び15kDa~1MDaの分子量(Mw)を有するデキストラン硫酸塩、30kDa~750kDaの分子量(Mw)を有する硫酸化キトサン、20kDa~1MDaの分子量(Mw)を有するの分子量(Mw)を有するセルロース硫酸塩、及びそれらの混合物から選択されるカルボキシル化多糖又は硫酸化多糖であるポリマーポリアニオンの別の層を含む多層複合透析膜を開示する。
【0007】
US2019/076787A1は、微多孔質中空繊維膜を形成するための方法を開示しており、これには、ポリマードープ溶液を、紡糸口金の外側のリング導管を通って押し出し、同時に、紡糸口金の内部中空コアに沈殿液を通すことが含まれる。ポリマードープ溶液は、ポリスルホン、ポリアリールスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル又はそれらのコポリマーから選択される膜形成ポリマー、及び任意にポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールのような親水性ポリマーを含む。沈殿液は、ポリウレタン、キトサン又は酸素含有部分を有する他のN-含有ポリマーのような限定された水溶性を有する添加剤を含む。キトサンを添加物として使用する場合は、キトサンは、酢酸、無水酢酸、乳酸、ギ酸、又はそれらの組合せなどの弱酸を用いて沈殿液に導入する前にプロトン化することができる。
【0008】
WO2020/144244A1は、血栓形成性の低下を示す抗凝固剤被覆微多孔質中空繊維膜を開示する。この中空繊維膜は、i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、ii)ポリビニルピロリドン、及びiii)アンモニウム基を有するポリビニルピリジン、及びビニルピリジンとアンモニウム基を有するスチレンとのコポリマーからなる群から選択されるアンモニウム基を有する少なくとも1種のポリマーのブレンドを含む。抗凝固剤は、膜の少なくとも1つの表面にグラフト化される。
【0009】
WO2007/069983A1は、病原微生物、炎症性細胞又は炎症性タンパク質を哺乳動物血液から体外除去するための方法に関する。この方法は、固体の基質上に固定化されたヘパリンを含む装置を使用する。調製例4は、アミノ化されたポリマー表面上へのヘパリンの共有結合的付着を開示する。このポリマー表面を酸化剤でエッチングし、続いてポリアミン、ポリエチレンイミン(PEI)、又はキトサンで処理し、ヘパリンとのイオン架橋によりさらに安定化させる。
【0010】
Linhardt、Robertら、「Immobilization of Heparin: Approaches and Applications」、Current topics in medicinal chemistry、8巻、2号、2008-01-01、pp.80~100は、ヘパリンの固定化に使用されてきた種々の技術及びこれらの固定化ヘパリンの用途を検討し、比較する。基質表面に存在する反応性基とヘパリン分子との間のリンカーとしてのキトサンの使用が開示される。ポリスルホン膜の表面をまずオゾンで処理し、次にFeSO4を含むアクリル酸(AA)水溶液で処理して表面にカルボキシル基を生じ、キトサン分子を、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を用いて、このカルボキシル基にカップリングさせ、続いてヘパリンをグルタルアルデヒド(GA)を用いてキトサン分子に結合させた。
【0011】
現在では、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドン、及びキトサンを含む紡糸溶液から調製した膜上に、ヘパリンのような抗凝固剤を固定化することができることがわかっている。得られたヘパリン被覆微多孔質中空繊維膜は血栓形成性の低下を示す。ヘパリン被覆膜を含む濾過及び/又は拡散装置は、体外血液回路における全身抗凝固の必要性を減少させ、又は排除さえすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0021826号明細書
【特許文献2】米国特許第5840190号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1024886号明細書
【特許文献4】米国特許第10500549号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2019/076787号明細書
【特許文献6】国際公開第2020/144244号
【特許文献7】国際公開第2007/069983号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Linhardt、Robertら、「Immobilization of Heparin: Approaches and Applications」、Current topics in medicinal chemistry、8巻、2号、2008-01-01、pp.80~100
【発明の概要】
【0014】
本開示は、その上に固定化された抗凝固剤を有する多孔質中空繊維膜を提供する。この膜は、i)ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、又はポルアリールエーテルスルホン、ii)ポリビニルピロリドン、及びiii)キトサンを含む。また、本開示は、その上に固定化された抗凝固剤を有する前記多孔質中空繊維膜の製造方法を提供する。本開示は、さらに、その上に固定化された抗凝固剤を有する多孔質中空繊維膜を含む濾過及び/又は拡散装置を提供する。この濾過及び/又は拡散装置、例えば、血液透析装置は、例えば、血液透析、血液透析濾過、及び血液濾過における血液の体外処理に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一態様では、その上に固定化された抗凝固剤を有する多孔質中空繊維膜が提供される。この膜は、i)ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)、又はポリアリールエーテルスル-ホン(PAES)、ii)ポリビニルピロリドン(PVP)、及びiii)キトサンのブレンドを含む。
【0016】
適切なポリスルホンの例には、約40,000~80,000Daの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)を有するポリスルホンが含まれる。一実施形態では、45~65kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有するポリスルホンが使用される。一例は、52kDaの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)及び3.5の多分散性Mw/Mnを有するポリスルホンである。もう一つの例は、60kDaの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)及び3.7の多分散性Mw/Mnを有するポリスルホンである。
【0017】
適切なポリエーテルスルホンの例には、約40,000~100,000Daの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)を有するポリエーテルスルホンが含まれる。1実施形態では、50~60kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有するポリエーテルスルホンが使用される。一例は、58kDaの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)及び3.3の多分散性Mw/Mnを有するポリエーテルスルホンである。別の実施形態では、65~80kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有するポリエーテルスルホンが使用される。一例は、75kDaの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)及び3.4の多分散性Mw/Mnを有するポリエーテルスルホンである。さらに別の実施形態では、80~100kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有するポリエーテルスルホンが使用される。一例は、92kDaの重量平均分子量Mw(GPCにより決定)及び3.0の多分散性Mw/Mnを有するポリエーテルスルホンである。
【0018】
適切なポリビニルピロリドンは、50kDa~2,000kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有する、ビニルピロリドンのホモポリマーを含む。これらのホモポリマーは、一般に14kDa~375kDaの範囲の数平均分子量Mnを有する。本発明の膜を調製するのに適したポリビニルピロリドンの例は、Luvitec(R) K30、Luvitec(R) K85、Luvitec(R) K90、及びLuvitec(R)K90HMであり、全てBASF SEから入手可能である。
【0019】
本開示の多孔質中空繊維膜の一実施形態は、約1,100kDaの重量平均分子量Mw、及び約250kDaの数平均分子量Mnを有するポリビニルピロリドンホモポリマーを含む。
【0020】
本開示の多孔質中空繊維膜のさらなる実施形態は、約1,400kDaの重量平均分子量Mw、及び約325kDaの数平均分子量Mnを有するポリビニルピロリドンホモポリマーを含む。
【0021】
キトサンは、ランダムに分布したβ-(1→4)結合D-グルコサミン(脱アセチル化単位)及びN-アセチル-D-グルコサミン(アセチル化単位)から構成される直鎖多糖である。キトサンは、甲殻類(カニ及びエビなど)の外骨格及び菌類の細胞壁の構造要素であるキチンの脱アセチル化によって商業的に生産される。脱アセチル化度(%DD)はNMR分光法で決定でき、市販のキトサンの%DDは60~100%の範囲である。商業的に生産されるキトサンの重量平均分子量Mwは、一般に3kDa~400kDaの範囲である。
【0022】
本開示の多孔質中空繊維膜の一実施形態は、少なくとも75%の脱アセチル化度を有する、すなわち、キトサンの水酸基の最大25%がアセチル化されているキトサンを含む。別の実施形態は、少なくとも80%、例えば、少なくとも90%、又はさらに少なくとも95%の脱アセチル化度を有するキトサンを含む。
【0023】
本開示の多孔質中空繊維膜の一実施形態は、5kDa~375kDaの範囲、例えば、50~190kDaのGPC分析によって決定される重量平均分子量Mwを有するキトサンを含む。
【0024】
一実施形態では、本開示の多孔質中空繊維膜は、多孔質中空繊維膜の総重量に対して0.1~5重量%のキトサンを含む。さらなる実施形態では、本開示の多孔質中空繊維膜は、多孔質中空繊維膜の総重量に対して0.5~3重量%のキトサンを含む。
【0025】
本開示の中空繊維膜は、対称の壁構造又は非対称の壁構造のいずれかを有する。一実施形態において、膜壁は対称の海綿構造を有する。別の実施形態では、膜壁は非対称の海綿構造を有し、すなわち、中空繊維壁の孔の大きさは、膜の内面から外面に向かって増大する。方法のさらに別の実施形態では、膜壁は非対称の壁構造を有し、指構造を有する層、すなわち体積等価直径が5μmを超えるマクロボイドを特徴とする層を含む。
【0026】
一実施形態において、本開示の中空繊維膜は、150~250μm、例えば、180~250μmの内径を有する。別の実施形態では、内径は185μm~195μmの範囲にある。さらに別の実施形態では、内径は195μm~205μmの範囲にある。さらに別の実施形態では、内径は210μm~220μmの範囲にある。
【0027】
一実施形態において、中空繊維膜の壁厚さは、15μm~60μmの範囲にある。一実施形態において、壁厚さは33μm~37μmである。別の実施形態では、壁厚は38~42μmである。さらに別の実施形態では、壁厚さは43μm~47μmである。さらに別の実施形態では、壁厚さは48μm~52μmである。
【0028】
一実施形態において、膜は、1.0のビタミンB12について、1.0のイヌリンについて、少なくとも0.7のβ2-ミクログロブリンについて、及び0.01未満のアルブミンについて、60g/lのタンパク質含量を有するウシ血漿中で、EN1283に従って37℃で測定されたふるい係数を有する。
【0029】
一実施形態では、膜は、10kDa~40kDaの範囲の全血中の分子量カットオフ(MWCO)を有する。さらなる実施形態において、膜の選択的層における平均孔径は、2~5nmの範囲である。
【0030】
一実施形態において、膜は、10・10-4cm3/(cm2・bar・sec)~280・10-4cm3/(cm2・bar・sec)、例えば、15・10-4cm3/(cm2・bar・sec)~130・10-4cm3/(cm2・bar・sec)、又は20・10-4cm3/(cm2・bar・sec)~80・10-4cm3/(cm2・bar・sec)の範囲にある水に対する透水率(Lp)を示す。
【0031】
本開示の中空繊維膜は、その表面にグラフト化された抗凝固剤を有する。一実施形態では、抗凝固剤は、中空繊維膜の管腔表面上にグラフト化される。別の実施形態では、抗凝固剤は、中空繊維膜の外面上にグラフト化される。さらに別の実施形態では、抗凝固剤は、中空繊維膜の管腔表面、外面、及び細孔チャネルの表面上にグラフト化される。抗凝固剤はプロトン化されたキトサンのアンモニウム基とイオン結合を形成する。抗凝固剤は、抗凝固活性を有するグリコサミノグリカン群の少なくとも1種の化合物を含み得、好ましくは、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、ダナパロイド、ヘパリン誘導体、及び該生成物の混合物からなる群から選択される。一実施形態において、未分画ヘパリンが用いられる。堆積された抗凝固剤の表面濃度は、通常、1,000~30,000IU/m2の範囲、例えば、1,000~10,000IU/m2の範囲、又は1,000~5,000IU/m2の範囲である。
【0032】
本開示はまた、本開示の複数の多孔質中空繊維膜を含む濾過及び/又は拡散装置を提供する。濾過及び/又は拡散装置は、血液の体外浄化のための装置、例えば、血液透析装置である。本開示の中空繊維膜を含む血液透析装置の表面積は様々であるが、通常、1.0~2.3m2の範囲である。本開示の膜を含む血液透析装置は、当技術分野で知られているように組み立てることができる。
【0033】
装置の滅菌は、通常、蒸気滅菌、ガンマ線照射、又はETOの使用により行われる。一実施形態において、この装置は121℃の蒸気で少なくとも20分間滅菌される。別の実施形態では、使用されるガンマ線量は25~50kGyの範囲、例えば、25kGyである。さらに別の実施形態では、装置はETOで滅菌される。
【0034】
本開示はまた、血液透析、血液透析濾過、又は血液濾過における本開示の多孔質中空繊維膜の使用を提供する。
【0035】
本開示はまた、その表面にグラフト化された抗凝固剤を有する中空繊維膜を作製するための方法を提供する。この方法は、微多孔質中空繊維支持膜の製造、及びその後の支持膜の少なくとも1つの表面上への抗凝固剤のグラフト化を含む。
【0036】
一実施形態において、多孔質中空繊維支持膜は、以下のステップ、すなわち
a) 少なくとも1種のポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、少なくとも1種のポリビニルピロリドン、少なくとも1種のキトサン、及びN-メチル-2-ピロリドンを含むポリマー溶液を形成するステップ、
b) 2つの同心円状の開口部を有するノズルの外輪スリットを通ってポリマー溶液を沈殿浴中に押し出すステップ、同時に
c) ノズルの内側の開口部から中心流体を押し出すステップ、
d) 得られた膜を洗浄するステップ、その後
e) 膜を乾燥させるステップ
を含み、ポリマー溶液が、ポリマー溶液の総重量に対して10~15重量%のポリスルホン、ポリエーテルスルホン又はポリアリールエーテルスルホン、及びポリマー溶液の総重量に対して1~10重量%のポリビニルピロリドン、及び溶液の総重量に対して0.05~0.6重量%のキトサンを含む連続的溶媒相反転紡糸方法によって製造される。
【0037】
ポリマー溶液中のポリエーテルスルホンの濃度は、一般に10~15重量%、例えば、12~14重量%の範囲である。
【0038】
方法の一実施形態では、ポリマー溶液は、90~95kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有するポリエーテルスルホンを含む。一例は、92kDaの重量平均分子量Mw及び3の多分散性Mw/Mnを有するポリエーテルスルホンである。別の実施形態では、ポリマー溶液は、70~80kDaの範囲の重量平均分子量Mwを有するポリエーテルスルホンを含む。一例は、75kDaの重量平均分子量Mw及び3.4の多分散性Mw/Mnを有するポリエーテルスルホンである。
【0039】
ポリマー溶液中のポリビニルピロリドンの濃度は、一般に1~10重量%、例えば、2~8重量%の範囲である。
【0040】
前記方法の一実施形態では、ポリマー溶液は、1,100kDaの重量平均分子量Mwを有する1~5重量%のポリビニルピロリドンを含む。
【0041】
前記方法のさらなる実施形態では、ポリマー溶液は、50kDaの重量平均分子量Mwを有する3~6重量%のポリビニルピロリドンを含む。
【0042】
前記方法の一実施形態では、ポリマー溶液は、溶液の総重量に対して、0.05~0.6重量%、例えば、0.1~0.5重量%、又は0.2~0.4重量%のキトサンを含む。
【0043】
一実施形態では、キトサンは、75%~100%の脱アセチル化度、及び5kDa~375kDaの範囲のGPCによって決定される重量平均分子量を有する。
【0044】
特定の実施形態では、キトサンは、85%~95%、例えば、90%の脱アセチル化の程度、及び50kDa~190kDaの範囲のGPC分析によって決定される重量平均分子量を有する。
【0045】
本方法の一実施形態では、ポリマー溶液の調製は、弱有機酸の水溶液にキトサンを溶解することによってキトサンの酸性水溶液を調製することを含む。一実施形態において、有機酸は乳酸である。さらなる実施形態において、乳酸の90%w/w水溶液がキトサンを溶解するために使用される。別の実施形態では、有機酸はクエン酸である。さらに別の実施形態では、有機酸は酢酸である。さらに別の実施形態において、有機酸は酒石酸である。
【0046】
前記方法の別の実施形態では、ポリマー溶液の調製は、キトサンを純粋な乳酸に溶解することによってキトサンの酸性溶液を調製することを含む。
【0047】
乳酸は、酢酸、クエン酸、又は酒石酸のような他の弱い有機酸よりも有利であることがわかった。乳酸は室温で液体であるので、キトサン溶液を調製するために水を添加する必要はない。クエン酸を用いて製造されたポリマー溶液は、長期安定性に乏しく、ポリマー溶液を用いて製造された繊維は、紡糸方法で破損する傾向があることがわかった。水性酢酸中のキトサン溶液はポリビニルピロリドンの添加でゲルを形成し、ポリビニルピロリドンは水性酒石酸中のキトサン溶液に不溶である。
【0048】
一実施形態において、乳酸溶液中のキトサンの濃度は、0.2重量%~5重量%、例えば、1重量%~4重量%、又は1.5重量%~3重量%の範囲である。
【0049】
キトサン溶液をN-メチル-2-ピロリドンを混合し、ポリビニルピロリドンを加える。ポリビニルピロリドンが溶解した後、ポリエーテルスルホンを添加し、透明な溶液が形成されるまで混合物を撹拌する。
【0050】
一実施形態では、ポリマー溶液は、溶液の総重量に対して1~4重量%、例えば、1.5~3重量%の水を含む。別の実施形態では、ポリマー溶液は添加した水を含まない。
【0051】
膜を調製するための方法の一実施形態において、中心流体は、中心流体の総重量に対して、40~60重量%の水及び40~60重量%のNMP、例えば、50~60重量%の水及び40~50重量%のNMP、又は52~55重量%の水及び45~48重量%のNMP、例えば、54重量%の水及び46重量%のNMPを含む。
【0052】
前記方法の一実施形態では、沈殿浴は水で構成される。方法の一実施形態では、沈殿浴は、10~30℃、例えば、15~25°の範囲の温度を有する。
【0053】
膜を調製するための方法の一実施形態では、紡糸口金の温度は、40~60℃、例えば、52~56℃の範囲である。
【0054】
前記方法の一実施形態では、ノズルの開口部と沈殿浴との間の距離は、10~120cm、例えば、90~110cmの範囲である。
【0055】
前記方法の一実施形態では、紡糸速度は20~80m/分、例えば、30~50m/分の範囲である。
【0056】
その後、膜を洗浄して残留溶媒及び低分子量成分を除去する。膜を製造するための連続方法の特定の実施形態では、膜は、いくつかの水浴を通って導かれる。この方法の特定の実施形態では、個々の水浴は異なる温度を有する。例えば、各水浴は、先行する水浴よりも高い温度を有することができる。
【0057】
続いて、抗凝固剤を膜の少なくとも1つの表面にグラフト化する。一実施形態において、表面は膜の管腔表面、すなわち、その内壁表面である。別の実施形態では、表面は膜の外面、すなわちその外壁表面である。さらに別の実施形態では、内壁表面及び膜内の細孔チャネルの表面の両方に、抗凝固剤をグラフト化する。さらに別の実施形態では、外壁表面と膜内の細孔チャネルの表面の両方に、抗凝固剤をグラフト化する。さらに別の実施形態では、内壁表面、膜内の細孔チャネル、及び膜の外壁表面に、抗凝固剤をグラフト化する。
【0058】
抗凝固剤は膜表面に存在するアンモニウム基とイオン結合を形成する。抗凝固剤は、負に帯電した抗凝固剤と正に帯電した膜表面との間の静電相互作用によって膜表面に付着する。一実施形態において、抗凝固剤は抗凝固活性を有するグリコサミノグリカン(glycoaminoglycane)群の少なくとも1つの要素を含む。さらなる実施形態では、抗凝固剤は、未分画ヘパリン、分画ヘパリン、ダナパロイド、ヘパリン誘導体、及び該生成物の混合物からなる群から選択される。一実施形態において、抗凝固剤は未分画ヘパリンである。一実施形態において、グラフト化ステップ後の膜表面上の抗凝固剤の濃度は、1,000~30,000IU/m2の範囲、例えば、1,000~10,000IU/m2の範囲、又は1,000~5,000IU/m2の範囲、例えば、1,500~3,500IU/m2の範囲である。
【0059】
グラフト化は、抗凝固剤の水溶液を支持膜表面に接触させることによって行うことができる。一実施形態において、支持膜を抗凝固剤の水溶液で洗い流し、続いて水又は生理食塩水で洗浄して、過剰の抗凝固剤を除去する。別の実施形態では、支持膜を抗凝固剤の水溶液で洗い流し、続いて乾燥させて溶媒を蒸発させる。さらに他の実施形態では、支持膜は、中空繊維によって生成される毛細管力を利用して、抗凝固剤の水溶液に浸漬される。
【0060】
グラフト化は、膜が拡散及び/又は濾過装置に組み込まれる前又は後に行うことができる。換言すれば、グラフト化は、本開示の正電荷を有する多孔質中空繊維膜を含む拡散及び/又は濾過装置上でも行うことができる。例えば、正電荷を有する多孔質中空繊維膜の束を含む拡散及び/又は濾過装置、例えば、血液透析装置を、抗凝固剤の水溶液で洗い流して、グラフト化を行うことができ、その後、装置を水又は生理食塩水で洗浄して、過剰の抗凝固剤を除去する。別の実施形態では、装置を、抗凝固剤の水溶液で洗い流してグラフト化を行い、その後、装置内の膜を乾燥させ、溶媒を蒸発させる。
【0061】
グラフト化後、膜を後処理できる。後処理の例としては、ゆるく結合した抗凝固剤を除去するための膜の大がかりなすすぎ、膜を放射線処理して、抗凝固剤を膜中に存在する他のポリマーと架橋すること、膜の乾燥、膜を加熱することによって膜中に存在するポリマーのポリマー鎖を架橋することが挙げられる。
【0062】
したがって、本開示は、ヘパリンのような抗凝固剤で被覆された膜を製造するための簡単な方法を提供する。本開示の膜の利点は、ベース材料と抗凝固剤皮膜との間に中間層又は下塗り層が存在しないことであり、膜を作製するための方法は、このような下塗り層を形成するための追加のステップを必要としない。本開示の方法はまた、抗凝固剤を膜表面に共有結合によりカップリングするための追加の化学反応ステップを伴わず、その結果、さらなるカップリング剤の使用を伴わない。本開示は、ヘパリン被覆膜の低コストの製造のための簡単で拡大可能な手順を提供する。
【0063】
本開示の主題を、以下の実施例においてさらに記述する。
【0064】
方法
<ミニモジュールの調製>
ミニモジュール[=ハウジング内の繊維]を、繊維を20cmの長さに切断し、繊維を40℃及び100mbar未満で1時間乾燥させ、その後繊維をハウジング内に移すことによって製造する。繊維の両端にはポリウレタンを埋め込む。ポリウレタンが硬化した後、埋め込んだ膜束の両端を切断して繊維を再び開く。ミニモジュールは、繊維の保護を保証する。本例では、360cm2の有効な膜(管腔)表面Aを有するミニモジュールを使用した。
【0065】
<ミニモジュールの透水率(Lp)>
ミニモジュールの透水率は、一方の面が密封されたミニモジュールに、圧力をかけた規定量の水を押し込み、所要時間を測定することで求められる。透水率は、等式(1)に従い、決定した時間t、有効膜表面積A、加えた圧力p及び膜Vを通過した水の体積から算出する。
Lp=V/[p・A・t] (1)
【0066】
有効膜表面積Aは、等式(2)に従い、繊維の長さ及び繊維の内径から算出する。
A=π・di・l・[cm2] (2)
ここで、
di=繊維の内径[cm]
l=有効繊維長[cm]
【0067】
ミニモジュールは、Lp試験が実施される30分前に湿らせる。この目的のために、ミニモジュールを500mLの超純水を入れた箱に入れる。30分後、ミニモジュールを試験システムに移す。試験システムは、37℃に維持される水浴及びミニモジュールを装着できる装置からなる。水浴の充填高さは、ミニモジュールが指定された装置の水面下に配置されるようにする必要がある。
【0068】
膜の漏れが誤った試験結果につながることを避けるため、ミニモジュール及び試験システムの完全性試験を予め実施する。完全性試験は、片側で閉じたミニモジュールに空気を押し込むことによって行われる。気泡はミニモジュール又は試験装置の漏れを示す。漏れが試験装置内のミニモジュールの誤った装着によるものか、膜が漏れているかを確認する必要がある。膜の漏れが検出された場合は、ミニモジュールを廃棄する必要がある。完全性試験で適用される圧力は、適用される圧力が高すぎるために透水率の決定中に漏れが発生することがないことを確実にするために、透水率の決定中に適用される圧力と少なくとも同じ値でなければならない。
【0069】
<ミニモジュール中の中空繊維のヘパリン被覆>
i) 200IU/mlの濃度を有する、等張食塩水溶液(0.9%)中のヘパリン(ヘパリンナトリウム194IU/mg、Celsus Laboratories Inc.、米国シンシナティ)の溶液を調製した。ミニモジュールの透析液側を閉じ、血液側から透析液側への濾過が起こらないようにした。25mlのヘパリン溶液をミニモジュールの血液側に通して30分間流速1ml/分で再循環させた。被覆後、ミニモジュールをその後、20ml/分の流速で、300mlの等張食塩水及び100mlの水ですすいだ。次いで、このモジュールを、ミニモジュールの血液側に圧縮空気を80分間流すことによって乾燥させた。
【0070】
ii) 200IU/mlの濃度を有する、超純水(Milli-Q(R) Advantage A10、Merck KGaA、独国ダルムシュタット)中のヘパリン(ヘパリンナトリウム194IU/mg、Celsus Laboratories Inc.、米国シンシナティ)の溶液を調製した。ミニモジュールの透析液側を閉じ、血液側から透析液側への濾過が起こらないようにした。25mlのヘパリン溶液をミニモジュールの血液側に通して120分間流速1ml/分で再循環させた。被覆後、ミニモジュールをその後、20ml/分の流速で300mlの等張食塩水及び100mlの水ですすいだ。次いで、このモジュールを、ミニモジュールの血液側に圧縮空気を80分間流すことによって乾燥させた。
【0071】
<固定化ヘパリンの定量測定>
3.84g/lのグリシン(Merck KGaA、独国ダルムシュタット)、2.8g/lのNaCl(Merck KGaA、独国ダルムシュタット)及び水からグリシン緩衝液を調製した。pHは30% NaOH溶液(VWR、独国ダルムシュタット)で11±0.1に調整した。ミニモジュールを流速2.3ml/分でこのグリシン緩衝液ですすいだ。10分後、ミニモジュールは完全に空になった。10分後の抽出物から試料を採取し、Azure Aアッセイを用いて試料中のヘパリン濃度を決定した。
【0072】
Azure Aは、ヘパリンなどの硫酸化多糖に結合すると青色から紫赤色に変色する青色の異染性色素である。この色変化を630nmの波長で測光法で測定する。ヘパリン濃度は、0mg/L~12mg/Lのヘパリンの濃度範囲を包含する標準曲線に基づいて決定した。ヘパリンの既知濃度が1.2mg/l、6mg/l及び10.8mg/lの対照試料を毎回同時に測定した。マイクロプレートウェル内の標準試料、対照試料及び測定試料100μlに、25mg/lのAzure Aの濃度を有する200μlのAzure A水溶液(色素含有率 約80%、Sigma-Aldrich Chemie GmbH、独国シュタインハイム)をそれぞれ添加した。マイクロプレートを暗所で15分間保存した後、マイクロプレート光度計(EL 808 Ultra Microplate Reader、BioTek Instruments Inc.、米国ウィノースキ)を用いて測定を行った。
【0073】
<ヘパリン放出の決定>
まず、ミニモジュールを37℃で約150mlの等張食塩水(0.9%)ですすいだ。次に、45~70g/lのヒト血漿タンパク質、4.4~7.4g/lのクエン酸ナトリウム二水和物、0.3~1.2g/lのリン酸二水素ナトリウム二水和物、及び4.0~6.0g/lのグリシンを含み、少なくとも0.5IU/mlの凝固因子活性を示し(Octaplas(R) LG、Octapharma Pharmazeutika Produktionsgesellschaft mBH、A-1100オーストリア、ウィーン)を示す溶媒/界面活性剤処理したプールヒト血漿30mlのリザーバーを、流速9ml/分で120分間ミニモジュールに通して再循環させた。試料を0分、60分、120分で採取した。ヘパリン抗Xa発色アッセイ(Stachrom(R) Heparin、Stago Deutschland GmbH、40474独国ドュッセルドルフ)を用いて、試料中のヘパリン濃度を決定した。
【0074】
<血液適合性の判定>
膜の血液適合性を、in vitroでPRP(μl当たり100,000個の血小板を含む血小板に富むヒト血漿)によるミニモジュールの潅流によって調べた。
【0075】
まず、ミニモジュールの血液側を37℃で約250mlの等張食塩水溶液(0.9%)ですすいだ後、ミニモジュールの濾液側を37℃で約120mlの等張食塩水(0.9%)ですすぎ、続いてストッパーで閉じた。0.05IU/mlのヘパリンを含む50mlのPRPのリザーバーを、流速9ml/分で120分間ミニモジュールに通して再循環させた。0分、10分、20分、40分、60分、90分、120分で、450μl容量の2つの試料を採取した。いずれの場合も、50μlの10重量%のクエン酸三ナトリウム溶液を含むマイクロチューブ(Micro Tube 1,5ml EASY CAP、Sarstedt AG & Co. KG、独国ニュンブレヒト)に2つの試料のうち1つを移し、試料のさらなる凝固を阻害し、氷浴中に保存した。もう一方の試料は、50μlのCTAD(クエン酸-テオフィリン-アデノシン-ジピリダモール)溶液を含むマイクロチューブ(Micro Tube 1,5ml EASY CAP、Sarstedt AG & Co. KG、独国ニュンブレヒト)に移し、試料のさらなる凝固を阻害し、氷浴中に保存した。
【0076】
<血小板液低下の決定>
血漿試料の血小板含有量を細胞計数システム(XP-300、Sysmex Deutschland GmbH、独国22848ノルデルシュテット)を用いて分析した。開始濃度100.000THR/μL(100%に相当)に対するデータを示す。
【0077】
<PF-4の決定>
ヒト血小板第4因子(PF-4)の形成を、サンドイッチ酵素連結免疫吸着測定法(ELISA)(Asserachrom(R) PF4、Stago Deutschland GmbH、独国40474ドュッセルドルフ)により調べた。
【0078】
解凍後、CTADを含む分注した血漿試料をヒト血漿で希釈した。希釈係数は1:50であった。標準試料(2~60μg/l)、対照試料及び希釈用血漿を2回分析したが、試料の単回測定で十分であった。50μlの希釈液及び50μlの試料をマイクロプレートのウェルに移し、PF-4をマイクロプレート上の抗体に結合させた。洗浄プロセス後、2番目の酵素コンジュゲート抗体100μlを添加し、30分間のインキュベーション後に洗浄して除去した。3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)との反応を450nmで測光法で(EL 808 Ultra Microplate Reader、BioTek Instruments Inc.、米国ウィノースキ)測定した。
【0079】
<ヒトTAT複合体の決定>
サンドイッチ酵素連結免疫吸着測定法(ELISA)(Enzygnost(R) TAT micro, Siemens Healthcare Diagnostics Products GmbH、独国)を用いて、ヒト血漿中のトロンビン-アンチトロンビンIII複合体(TAT)を定量決定することにより、膜表面による凝固の活性化を試験した。
【0080】
解凍後、クエン酸三ナトリウムを含む分注した血漿試料をヒト血漿で希釈した。希釈係数は、期待されたTAT濃度に応じて選択し、1:1~1:40の間で変化させた。標準試料(2~60μg/Lの範囲)、対照試料及び希釈用血漿を2回分析したが、試料の単回測定で十分であった。50μlの希釈液及び50μlの試料をマイクロプレートのウェルに移し、TAT複合体をマイクロプレート上の抗体に結合させた。洗浄プロセス後、2番目の酵素コンジュゲート抗体100μlを添加し、30分間のインキュベーション後に洗浄して除去した。色素原の添加によって起こる酵素反応を、1時間以内に490nmで測光法で(EL 808 Ultra Microplate Reader、BioTek Instruments Inc.、米国ウィノースキ)測定した。
【実施例】
【0081】
[比較例1]
ミニモジュールを、市販の透析装置(Revaclear(R)、Gambro Lundia AB)から採取した繊維を用いて作製した。繊維は190μmの内径及び35μmの壁厚さを有し、ポリアリールエーテルスルホンとポリビニルピロリドンとのブレンドから構成される。
【0082】
膜の血液適合性を上で記載したように調べた。90分後、凝固が認められた。凝固により、実験は110分後に終了した。血小板低下、PF-4の形成及びヒトTAT複合体を上で記載したように決定した。結果を表1に要約する。
【0083】
【0084】
[比較例2]
市販の透析装置(Evodial(R)、Gambro Lundia AB)から採取した繊維を、60重量%のグリセロール及び40重量%の水の混合液で、100ml/分で60分間再循環させて洗浄し、圧縮空気で2時間乾燥させたものを用いて、ミニモジュールを作製した。繊維は210μmの内径及び42μmの壁厚さを有し、ポリエチレンイミンでグラフトしたアクリロニトリルとメタリルスルホン酸ナトリウムとのコポリマーで構成され、3,000IU/m2の未分画ヘパリンで被覆されている。
【0085】
膜の血液適合性は上で記載したように調べた。血小板低下、PF-4の形成及びヒトTAT複合体を上で記載したように決定した。結果を表2に要約する。
【0086】
【0087】
<ポリマー溶液の調製>
4,500g(=100% w/w)のポリマー溶液に対して、11.25g(0.25% w/w)のキトサン(キトサン90/100/A1、Kraeber & Co GmbH、独国25474エレルベック)を乳酸の90%w/w水溶液(GPR Rectapur(R)、VWR International GmbH、独国64295ダルムシュタット)720g(16% w/w)に溶解した。このキトサン溶液を3,048.75g(67.75% w/w)のN-メチル-2-ピロリドンと混合し、約1,100kDaの重量平均分子量を有するポリビニルピロリドン(Lubitec(R) K85、BASF SE)90.00g(2% w/w)を添加した。ポリビニルピロリドンが溶解した後、ポリエーテルスルホン(Ultrason(R) E 6020、BASF SE)630.00g(14% w/w)を加え、透明な溶液が形成されるまで混合物を撹拌した。また、PVP及びポリエーテル-スルホンをNMPに溶解した後、第2ステップでキトサンの乳酸溶液を加えることも可能である。
【0088】
[実施例1]
約75kDaの重量平均分子量を有する14.0% w/wのポリエーテルスルホン溶液(Ultrason(R) E 6020、BASF SE)、約1100kDaの重量平均分子量を有する2.0w/wのPVP(Luvitec(R) K85、BASF SE)、0.25% w/wのキトサン(キトサン90/100/A1、Kraeber & Co GmbH、独国25474エレルベック)、14.4% w/wの乳酸、1.6%の水及び67.75%のNMPの溶液を、2つの同心円状の開口部(リングスリットの外側境界直径:500μm、リングスリットの内側境界直径:350μm、中心孔の直径:180μm)を有する紡糸口金の外輪スリットから、水を入れた凝固浴中に押し出した。50% w/wの水及び50% w/wのNMPを含む溶液を中心流体として用い、紡糸口金の内部オリフィスから押し出した。紡糸口金の温度は48℃であり、紡糸シャフトの温度は45℃であり、エアギャップは100cmであり、凝固浴は室温であった。繊維を40m/分の速度で紡糸した。繊維を、50℃~75℃の範囲の温度で、脱塩水を含む一連の水浴に通して誘導した。
【0089】
得られた繊維は190μmの内径及び35μmの壁厚さを有していた。膜は非対称海綿構造を示し、平均孔径は内壁表面から外壁表面に向かう方向に増大した。
【0090】
上で記載したようにミニモジュールを作製し、上で記載したように繊維の透水率を試験した。ミニモジュールのLpを(45±5)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)と決定した(n=2)。
【0091】
多くのミニモジュールを121℃で20分間蒸気で滅菌した。滅菌後、ミニモジュールのLpを(70±3)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)(n=2)と決定した。滅菌膜のふるい係数はミオグロビンに対し(31±1)%、アルブミンに対し(0.7±0.1)%であった(n=2)。
【0092】
上記の手順i)に従い、3つのミニモジュールの膜をヘパリンで被覆し、膜上に固定化されたヘパリンの量を上で記載したように決定した。10分間の抽出後、各ミニモジュール(n=3)から(92±4)IUのヘパリンを抽出した。
【0093】
3つのミニモジュール(n=3)からのヘパリン放出を、上で記載したように試験した。0分時の血漿中ヘパリン濃度は検出限界(<0.1IU/ml)を下回っていた。60分間の抽出後、血漿試料中のヘパリン濃度は、第1及び第2のミニモジュールでは検出限界(<0.1IU/ml)を下回り、第3のミニモジュールでは0.1IU/mlであった。120分の抽出後、血漿試料中のヘパリン濃度は、第1及び第3のミニモジュールでは検出限界(<0.1IU/ml)を下回り、第2のミニモジュールでは0.3IU/mlであった。
【0094】
ヘパリン被覆ミニモジュールのLpを(65±2)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)(n=3))と決定した。ヘパリン被覆膜のふるい係数は、my‐オグロビンに対し(33±1)%、アルブミンに対し(0.8±0.1)%であった(n=3)。
【0095】
[実施例2]
約75kDaの重量平均分子量を有する14.0% w/wのポリエーテルスルホン(Ultrason(R) E 6020、BASF SE)、約1,100kDaの重量平均分子量を有する2.0% w/wのPVP(Luvitec(R) K85、BASF SE)、0.25% w/wのキトサン(キトサン90/100/A1、Kraeber & Co GmbH、独国25474エレルベック)、14.4% w/wの乳酸、1.6%の水及び67.75% w/wのNMPの溶液を、2つの同心円状の開口部(リングスリットの外側境界直径:700μm、リングスリットの内側境界直径:350μm、中心孔の直径:180μm)を有する紡糸口金の外輪スリットから水を入れた凝固浴中に押し出した。50% w/wの水及び50% w/wのNMPを含む溶液を中心流体として用い、紡糸口金の内部オリフィスから押し出した。紡糸口金の温度は49℃であり、紡糸シャフトの温度は45℃であり、エアギャップは100cmであり、凝固浴は室温であった。繊維を30m/分の速度で紡糸した。繊維を、50℃~75℃の範囲の温度で、脱塩水を含む一連の水浴に通して誘導した。
【0096】
得られた繊維は190μmの内径及び35μmの壁厚さを有していた。膜は非対称海綿構造を示し、平均孔径は内壁表面から外壁表面に向かう方向に増大した。
【0097】
上で記載したようにミニモジュールを作製し、上で記載したように繊維の透水率を試験した。ミニモジュールのLpを(44±1)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)と決定した(n=3)。膜のふるい係数は、ミオグロビンに対し(31±0.5)%、アルブミンに対し(1.5±0.0)%であった(n=3)。
【0098】
多くのミニモジュールを121℃で20分間蒸気で滅菌した。滅菌後、ミニモジュールのLpを(82±4)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)(n=3)と決定した。滅菌膜のふるい係数はミオグロビンに対し(39±2)%、アルブミンに対し(1.7±0.1)%であった(n=3)。
【0099】
ミニモジュールの膜を前記の手順i)に従ってヘパリンで被覆し、膜の血液適合性を上で記載したように調べた。血小板低下、PF-4の形成及びヒトTAT複合体を上で記載したように決定した。結果を表3に要約する。
【0100】
【0101】
[実施例3]
約75kDaの重量平均分子量を有する14.0% w/wのポリエーテルスルホン(Ultrason(R) E 6020、BASF SE)、約1,100kDaの重量平均分子量を有する2.0% w/wのPVP(Luvitec(R) K85、BASF SE)、0.1% w/wのキトサン(キトサン90/100/A1、Kraeber & Co GmbH、独国25474エレルベック)、14.4% w/wの乳酸、1.6%の水及び67.9%のNMPを、2つの同心円状の開口部(リングスリットの外側境界直径:500μm、リングスリットの内側境界直径:350μm、中心孔の直径:180μm)を有する紡糸口金の外輪スリットから水を入れた凝固浴中に押し出した。50% w/wの水及び50% w/wのNMPを含む溶液を中心流体として用い、紡糸口金の内口から押し出した。紡糸口金の温度は49℃であり、紡糸シャフトの温度は45℃であり、エアギャップは100cmであり、凝固浴は室温であった。繊維を40m/分の速度で紡糸した。繊維を、続いて、50℃~75℃の範囲の温度で、脱塩水を含む一連の水浴に通して誘導した。
【0102】
得られた繊維は190μmの内径及び35μmの壁厚さを有していた。膜は非対称海綿構造を示し、平均孔径は内壁表面から外壁表面に向かう方向に増大した。
【0103】
ミニモジュールのLpを(73±1)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)であった(n=3)。蒸気滅菌後、ミニモジュールのLpは(91±1)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)であった(n=2)。滅菌膜のふるい係数は、ミオグロビンに対し(44±1)%、アルブミンに対し(0.8±0.0)%であった(n=2)。
【0104】
上記の手順ii)に従って、3つのミニモジュールの膜をヘパリンで被覆し、膜上に固定化されたヘパリンの量を上で記載したように決定した。10分間の抽出後、各ミニモジュール(n=3)から(43±2)IUのヘパリンを抽出した。
【0105】
ヘパリンで被覆したミニモジュールのLpを(82±2)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)と決定した(n=2)。ヘパリンで被覆した膜のふるい係数は、ミオグロビンに対し(42±1)%、アルブミンに対し(0.8±0.0)%であった(n=2)。
【0106】
[実施例4]
約75kDaの重量平均分子量を有する14.0% w/wのポリエーテルスルホン(Ultrason(R) E 6020、BASF SE)、約1,100kDaの重量平均分子量を有する2.0% w/wのPVP(Luvitec(R) K85、BASF SE)、0.4% w/wのキトサン(キトサン90/100/A1、Kraeber & Co GmbH、独国25474エレルベック)、14.4% w/wの乳酸、1.6%の水及び67.6% w/wのNMPの溶液を調製した。ポリマー溶液の粘度を低下させるために、ポリマー溶液の総重量に対して30重量%のNMPを添加した。希釈したポリマー溶液を、2つの同心円状の開口部(リングスリットの外側境界直径:500μm、リングスリットの内側境界直径:350μm、中心孔の直径:180μm)を有する紡糸口金の外側リングスリットから水を含む凝固浴中に押し出した。60% w/wの水及び40% w/wのNMPを含む溶液を中心流体として用い、紡糸口金の内側開口部から押し出した。紡糸口金の温度は45℃であり、紡糸シャフトの温度は42℃であり、エアギャップは100cmであり、凝固浴は室温であった。繊維を40m/分の速度で紡糸した。繊維を、50℃~75℃の範囲の温度で、脱塩水を含む一連の水浴に通して誘導した。
【0107】
得られた繊維は190μmの内径及び35μmの壁厚さを有していた。膜は指構造、すなわち外壁表面の方向に延びるマクロボイドを示した。
【0108】
ミニモジュールのLpは(91±6)・10-4cm3/(cm2・bar・sec)(n=3)であった。膜のふるい係数はミオグロビンに対し(21±2)%、アルブミンに対し(0.5±0.0)%であった(n=3)。
【0109】
上記の手順ii)に従って、3つのミニモジュールの膜をヘパリンで被覆し、膜上に固定化されたヘパリンの量を上で記載したように決定した。10分間の抽出後、各ミニモジュールから(18±1)IUのヘパリンを抽出した(n=3)。
【国際調査報告】