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特表2023-544440変異ナノボディを使用して試料中の標的を検出するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-23
(54)【発明の名称】変異ナノボディを使用して試料中の標的を検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/10 20060101AFI20231016BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20231016BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20231016BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20231016BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20231016BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
C07K16/10
G01N27/327 357
G01N27/416 336M
G01N27/416 386Z
G01N33/531 A ZNA
G01N33/569 L
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521891
(86)(22)【出願日】2021-10-12
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021078184
(87)【国際公開番号】W WO2022079032
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】20306199.9
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(71)【出願人】
【識別番号】522111633
【氏名又は名称】セントラール リール アンスティテュート
(71)【出願人】
【識別番号】522111644
【氏名又は名称】ユニベルシテ ポリテクニーク オー-ド-フランス
(71)【出願人】
【識別番号】508192256
【氏名又は名称】サントレ ナスィヨナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック-セエヌエールエス
(71)【出願人】
【識別番号】599176506
【氏名又は名称】アンセルム(アンスチチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】517347447
【氏名又は名称】サントレ ホスピタリエール ユニベルシテール デ リール
(71)【出願人】
【識別番号】512302876
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス-マルセイユ
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】スネリッツ、 サビーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルーセル、 アラン
(72)【発明者】
【氏名】カムビルー、 クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】デヴォス、 ダヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルマン、 イルカ
(72)【発明者】
【氏名】アリジノー、 エンアーニョン カザリ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA30
4H045AA40
4H045BA63
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA53
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、フレームワークのFR1領域のループ中に存在するアミノ酸がシステインに変異している変異ナノボディを用いてサンプル中の標的を検出する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的に結合する変異ナノボディであって、フレームワークのFR1領域のループ中に存在するアミノ酸がシステインに変異している、変異ナノボディ。
【請求項2】
12、13、14または15位のアミノ酸がシステインに変異している、請求項1に記載の変異ナノボディ。
【請求項3】
13位のアミノ酸がシステインに変異している、請求項1に記載の変異ナノボディ。
【請求項4】
標的が、ウイルスタンパク質、タンパク質バイオマーカー、細菌タンパク質、膜タンパク質、原生動物タンパク質、真菌タンパク質、およびプリオンタンパク質からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の変異ナノボディ。
【請求項5】
標的が感染因子に由来する、請求項4に記載の変異ナノボディ。
【請求項6】
標的が、ウイルスタンパク質、好ましくはSARSウイルスタンパク質、より好ましくはSARS-CoV-2ウイルスタンパク質、さらにより好ましくはSARS-CoV-2受容体結合タンパク質(RBP)である、請求項4に記載の変異ナノボディ。
【請求項7】
変異ナノボディが表面に結合している、請求項1から6のいずれか一項に記載の変異ナノボディ。
【請求項8】
表面が、金表面、またはグラフェン、還元型酸化グラフェンおよびその誘導体、または炭素、白金、ニッケル、銅、銀等の金以外の他の金属表面からなる群から選択される表面、好ましくは金またはグラフェン表面である、請求項7に記載の変異ナノボディ。
【請求項9】
表面がバイオセンサーデバイスの作用電極である、請求項7または8に記載の変異ナノボディ。
【請求項10】
変異ナノボディが、短いリンカー、好ましくはピレンベースのリンカーまたはPEG-アリールラジカルで表面に結合している、請求項7から9のいずれか一項に記載の変異ナノボディ。
【請求項11】
試料中の標的を検出するための、請求項7から9のいずれか一項に記載の表面を含むバイオセンサー。
【請求項12】
試料中の標的を検出するための方法であって、
a.請求項11に記載のバイオセンサーを提供する工程、
b.バイオセンサーを試料と接触させる工程、
c.バイオセンサー表面で応答を測定する工程、および
d.標的の有無を決定する工程
を含む、方法。
【請求項13】
試料が、鼻腔または口腔スワブ、唾液、および血液からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変異ナノボディを使用して試料中の標的を検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19発生で世界が現在直面しているもののような集団発生および全地域的発生は、効率的で携帯可能かつ安価な診断デバイスの入手可能性によって、より良く管理することができる。
【0003】
「ウイルスバイオセンサー」の市場は、未だ揺籃期にあり、感染している集団の大部分のスクリーニングの現在の需要に応じることができず、日々の診断を容易かつ個別化された様式で達成し得るツールも提供しない。しかしながら、バイオセンサーは、タンパク質バイオマーカーおよびウイルスの検出のためのそれらの感知モジュールの単純な再構築によって、現在の分析方法を診断戦略に変ずる大きな影響を有する(Dongら、Bioelectrochemical and Bioenergetics.1997、42、7;Xueら、Nature Communications.2014、5、4348;Yangら、Journal of Electroanalytical Chemistry 2001、516、10)。
【0004】
疑いなく、かかる感知プラットフォームは、ウイルスが迅速に変化してヒトからヒトへと広範に伝播するので、ウイルスの診断における拡大する課題に取り組むために絶え間ないアップデートを必要とし、早期診断の緊急性を示している。これは、変化する需要に迅速に適合し得る、容易に感知するプラットフォームの開発を必要とする。さらに、個別化医療およびワイヤレスの感知のための適合した技術の高まりを受けて、現在および将来の何百万人ものウイルス汚染を制御および限定することができる。一週間の閉じ込め(confinement)の要求が、このようにして、限定または回避すらされ得、国家および地球の経済に想像できないポジティブな結果をもたらし得る。
【0005】
現在、基準診断は、鼻腔スワブ(鼻咽頭の関与の徴候を伴う初期感染において有効)および気管スワブ(気管支肺症を伴うがより侵襲性であり、そのため重症例になる運命の、やや後期の感染の事象において有効)に対するリアルタイム逆転写酵素PCRアッセイである。RT-PCR結果を得るのに必要な時間は長く、パンデミックの事象において必要な迅速な管理手段を相当に制限する。また、集団検診、特に無症候性の患者の集団検診の問題がある。主な課題の一つは、分析の時間を稼ぐことであるが、高度に特異的であること、およびRT-PRC分析においてしばしば生じる偽陰性の応答の量を減少させることでもある。
【0006】
したがって、この問題に対する技術的解決策は、目的の標的の高速かつ選択的感知のための、目的の標的に特異的なナノボディの表面固定を通した電気化学的読み出しに基づく高機能で携帯可能なバイオセンサーの使用であり得た。
【0007】
ここ何年も、免疫センサーまたは免疫バイオセンサーとも呼ばれる、表面への抗体固定を通して標的物質を検出する可能性が、実証されてきた。しかしながら、ポリクローナル抗体のバッチ間の不一致およびモノクローナル抗体の膨大な生産時間によって、さらなる制限が引き起こされる。
【0008】
ラクダ科動物由来抗体またはナノボディとも呼ばれるシングルドメイン抗体は、ラクダおよびラマに見られる重鎖抗体由来の、組み換え発現された結合断片である。これらの独特な結合要素は、それらの小さいサイズ(~15kDa)および熱安定性等の多くの望ましい性質を提供し、これによって従来のモノクローナル抗体の魅力的な代替となり得る。これらのナノボディは、温度の変化によって本質的に影響を受けず、高いリフォールディング効率のためにそれらの構造を保持すると報告されている(Clingermanら、Biological Research for Nursing、2012、14、27;Cecchiら、Ecotoxicology and Environment Safety、2012、80、280;Goldmanら、Analytical Chemistry 2006、78、8245)。磁性ミクロスフェアに固定されたサンドイッチイムノアッセイにおけるこれらのナノボディの利用の成功は、例えば、種々の病原体および毒素の検出において有効であると証明されている(Andersonら、Analytical Chemistry 2008、80、9604;Andersonら、Analytical Chemistry 2010、82、7202)。
【0009】
US2017059561A1は、免疫感知デバイスの表面に固定された感知剤としてのシングルドメイン抗体を記載している。しかしながら、ナノボディの固定を容易にするために、ナノボディの固定の前に、少なくとも1つの自己組織化した単層によって伝導性電極を化学的に官能化しており、これは時間がかかる。さらに、ナノボディの、その標的認識能力を最適化するための方向付けは議論されていない。
【0010】
例えば、迅速な読み取りのための特異的で携帯可能なバイオセンサーのための材料の開発のためのナノボディの使用は、今まで報告されていない。したがって、設計が容易で、生産が安価であるが目的の標的に対して特異的であり、迅速な読み取りを有し、良好な統計結果を有する、携帯可能な検出デバイスに対する必要性は、満たされていない。
【0011】
本発明の発明者らは、ナノボディの、その配列の特定の領域での変異によって、ナノボディのパラトープを正しく方向付けることができる一方で表面への直接のグラフト化が可能になることを発見した。よって、目的の標的に特異的でありながら低コストで迅速な検出を可能にすることによって、得られた感知プラットフォームは、前述の技術的問題を解決することを可能にする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、標的、例えばSARS-CoV-2受容体結合ドメイン(RBD)タンパク質に特異的な変異ナノボディの表面固定を通した電気化学的読み出しに基づく「バイオセンサー」を設計および生産する方法を見出した。
【0013】
本発明の第1の態様は、標的に結合する変異ナノボディであって、フレームワークのFR1領域のループ中、好ましくは12、13、14または15位に存在するアミノ酸がシステインに変異している、変異ナノボディに関する。
【0014】
別の態様では、本発明は、変異ナノボディが表面に結合している、本発明の変異ナノボディに関する。
【0015】
本発明はさらに、試料中の標的を検出するための、本発明の表面を含むバイオセンサーに関する。
【0016】
最後に、本発明はさらに、試料中の標的を検出するための方法であって、
a.本発明のバイオセンサーを提供する工程、
b.バイオセンサーを試料と接触させる工程、
c.バイオセンサー表面で応答を測定する工程、および
d.標的の有無を決定する工程
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
用語は、本発明全体を通して使用される場合、以下のように定義される。
【0018】
本明細書で使用される場合、用語「標的」は、ウイルスタンパク質、タンパク質バイオマーカー、細菌タンパク質、膜タンパク質、原生動物タンパク質、真菌タンパク質、およびプリオンタンパク質からなる群から選択される、感知標的をいう。一実施形態において、標的は感染因子に由来する。好ましい実施形態では、標的は、ウイルスタンパク質、好ましくはSARSウイルスタンパク質、より好ましくはSARS-CoV-2ウイルスタンパク質、さらにより好ましくはSARS-CoV-2受容体結合タンパク質(RBP)である。別の好ましい実施形態では、標的はHSV-1ウイルスタンパク質である。感染因子のさらなる例は当業者に周知であり、かかる実施形態は、本発明の範囲内である。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「試料」は、鼻腔スワブ、口腔スワブ、唾液、血液、羊水、眼房水、硝子体液、胆汁、脳脊髄液、乳糜、内リンパ、外リンパ、女性の射出液、男性の射出精液、リンパ、粘液(鼻腔排液および痰を含む)、心膜液、腹腔液、胸膜液、膿、粘膜分泌物、痰(sputum)、滑液、膣分泌液等の生物流体をいう。好ましい実施形態では、本発明の試料は、鼻腔または口腔スワブ、唾液、および血液からなる群から選択される。生物流体は、本発明の分析の前に加工してもよい。例えば、血液を、例えば遠心分離による細胞の除去によって、または除タンパク質によって、本発明の電気化学バイオセンサーデバイスによる分析に適するように加工してもよい。試料を、本発明のバイオセンサーデバイスによる分析に適するようにするために、その起源に応じてどのようにして加工するかは、当業者に公知である。
【0020】
本明細書で他に述べられていない場合、「約」は、±20%、好ましくは±10%、より好ましくは±5%を意味する。
【0021】
変異ナノボディ
ナノボディは、単一の15kDa可変ドメインのみを含む、ラクダ科動物由来の抗原結合タンパク質の種類である。それらは、向上した安定性を示し、多数のエピトープに結合することができ、伝統的な抗体に近づきにくいものにまで、結合することができる場合もある。
【0022】
本発明において、本発明者らは、参照によって本明細書に組み込まれる、Laura S.Mitchell、Lucy J.Colwell「Comparative analysis of nanobody sequence and structure data」Proteins.2018;1~10の記事に記載されている命名法に依拠する。この記事は、図1に示されるようなナノボディの構造を記載しており、これはH1、H2およびH3とも呼ばれ得る3つの高度な可変ループCDR1、CDR2、およびCDR3を含む。これらのループは、ナノボディ抗原結合特異性を決定する、抗原結合境界面、またはパラトープに寄与する、折りたたまれたタンパク質ドメインの一面に、広範囲の、構造的な境界面を形成する。
【0023】
これらの3つのCDR領域の間に、フレームワークがある。このフレームワークは、FR1、FR2、FR3およびFR4と呼ばれる4つの領域で構成される。Laura S.MitchellおよびLucy J.Colwellの記事は、図2に示される、1つのナノボディから別のものへの変異の頻度を研究していた。証明されるように、ナノボディは、VLドメインの欠如を補填するように、そのフレームワーク領域を1つのものから別のものへと多様化しない。Laura S.MitchellおよびLucy J.Colwellの記事の命名法に基づいて、1つのナノボディから別のものへのフレームワークは、FR1は1位から25位まで、FR2は36位から49位まで、FR3は60位から97位まで、およびFR4は117位から126位までに渡る。
【0024】
本発明の変異ナノボディは、ナノボディのフレームワークにおいて変異している。配列中のアミノ酸の位置を決定するため、および変異アミノ酸の位置を決定するために、本発明において、本発明者らは、Laura S.MitchellおよびLucy J.Colwellの記事の命名法を使用する。このフレームワークは1つのナノボディから別のものへと保存されており、変異は全てのナノボディに適用可能である。Laura S.MitchellおよびLucy J.Colwellの記事の命名法によれば、変異は、FR1領域のループ中の位置で生じ、変異は前述の位置に存在するアミノ酸をシステイン(CysまたはC)で置換することにある。この変異は、パラトープと比較して反対側の位置に生じ、そのため、ナノボディの高度な可変CDR領域から生じる。実際、パラトープからのかかる位置にあることによって、二量体化を避けながらパラトープを表面と反対方向に方向付けるように表面にグラフト化される本発明の変異ナノボディを使用することが可能になる。好ましくは、変異は12、13、14、または15位でFR1領域に生じる。
【0025】
本発明の1つの第1の態様は、標的に結合する変異ナノボディであって、FR1領域のループ中、好ましくは12、13、14または15位、より好ましくは13位に存在するアミノ酸がシステインに変異している、変異ナノボディに関する。
【0026】
ナノボディは当業者に周知である(Serge Muyldermans「Nanobodies:Natural Single-Domain Antibodies」Annu.Rev.Biochem.2013.82:775~97;Laura S.MitchellおよびLucy J.Colwell「Comparative analysis of nanobody sequence and structure data」Proteins.2018;1~10)。したがって、検出される標的によって、該標的に特異的なナノボディをどのようにして生成して、そのため本発明の前述の技術を任意の標的に特異的な任意のナノボディに置き換えるかは、当業者に公知であろう。ラマ免疫化およびファージディスプレイを通したナノボディ生成のプロセスは、Desmyterら、Curr Opin Struct Biol.2015;32:1~8に記載されている。したがって、本発明は、限定されないが、本発明の変異した特定のナノボディによって目的の標的の検出の全ての可能性を包含する。
【0027】
典型的には、本発明の変異ナノボディは、例えばポリヒスチジンタグ等の、タグ配列を含んでもよい。典型的には、本発明の変異ナノボディは、例えば別のナノボディ等の別のペプチドまたはポリペプチドに連結させて、二量体を形成してもよい。他のナノボディを本発明の変異ナノボディの標的と同じ標的、または代替の標的に、結合させてもよい。
【0028】
表面に結合している変異ナノボディ
ナノボディは、バイオセンサーの開発のためにうまく適用させられてきた。バイオセンサーは、バイオレセプター、この場合はナノボディが表面、特に生体認識の事象を測定可能なシグナルに変換するトランスデューサーと密着している、デバイスである。
【0029】
本発明の一実施形態では、変異ナノボディは表面に結合している。「表面」は、本発明において、平面でも曲面でもよい伝導性基材をいう。一実施形態では、表面は金表面であり、好ましくは作用電極である。別の実施形態では、表面は、グラフェン、還元型酸化グラフェンおよびその誘導体、または炭素、白金、ニッケル、銅、銀等の金以外の他の金属表面からなる群から選択される。好ましい実施形態では、表面はグラフェン表面である。好ましくは、表面は作用電極である。好ましい実施形態では、表面はバイオセンサーデバイスの作用電極である。
【0030】
本発明はまた、試料中の標的を検出するための、本発明の表面を含むバイオセンサーに関する。
【0031】
ナノボディ修飾作用電極は、それぞれ電気化学的手法を使って、センサーチップ上で分子間相互作用をリアルタイムで分析することができるバイオセンサーになった。金表面層、またはグラフェン、還元型酸化グラフェンおよびその誘導体、または金以外の他の金属表面からなる群から選択される表面層が、本発明のシステイン修飾ナノボディが高い結合能力で安定してグラフト化され得るように、センサーチップ上に形成される。ナノボディが試料中の標的と相互作用する場合、結合および解離がリアルタイムで検出され得る。
【0032】
電気化学的センサーについて、検出用電極表面に結合したナノボディに標的が結合した際の検出用電極表面での電気化学的性質の変化、例えば電子移動性が、試験装置によって測定され得る。試験装置によって測定され得る、検出用電極表面での種々の電気化学的性質としては、限定されないが、電気抵抗、電位および電流変化が挙げられる。特定の実施形態では、試験装置は、電圧計、オーム計、電流計、マルチメータ、またはポテンショスタットである。さらなる実施形態では、この装置を用いて行われる試験は、示差パルスボルタンメトリー、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)、サイクリックボルタンメトリー(CV)、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)クロノアンペロメトリー(CA)、またはクロノポテンショメトリーであってもよい。
【0033】
示差パルスボルタンメトリー(DPV)は、電気化学的測定を行うために使用されるボルタンメトリー方法である。これは線形掃引ボルタンメトリーの派生物であり、一連の通常の電圧パルスが、潜在的な線形掃引または階段状に重ねられている。電流は、各電位変化の直前に測定され、電流差は電位の関数としてプロットされる。電位が変化する直前に電流をサンプリングすることによって、方法を高感度にする感応電流のために、荷電電流の効果を減少させることができる。
【0034】
DPVによって、中でも、pMタンパク質濃度および低い細菌濃度に至る、直接の分析が可能になる。本発明において、使用される酸化還元プローブはフェロセン-メタノール(FcMeOH)であるが、相互作用によって電子電荷移動相互作用が相当に減少するので、標的とグラフト化ナノボディとの相互作用の検出のために、フェロセニルアミン(ferroceylamine)(Fc-NH)、フェリシアン化物(Fe(CN) 3-]フェロシアニドFe(CN) 4-]、ルテニウムヘキサミン(Ru(NH)等の任意の他の酸化還元対であってもよい。標的の存在は、拡散バリアとして作用し、酸化還元プローブから表面への電荷移動を妨げる。試料中に存在する標的の添加は、複合体ナノボディ-標的がバリアを形成するので、酸化還元電流の低下をもたらす。
【0035】
したがって、本発明のナノボディが結合している電気化学的センサーは、標的-ナノボディ相互作用の分析のためのバイオセンサーデバイスとして有用である。
【0036】
さらなる実施形態では、本発明は、試料中の標的、好ましくはウイルスを検出するための方法であって、
a.本発明で定義されるバイオセンサーを提供する工程、
b.バイオセンサーを試料と接触させる工程、
c.バイオセンサー表面で電気化学的応答を測定する工程、および
d.標的の有無を決定する工程
を含む、方法に関する。
【0037】
本発明の方法において、測定される標的を含む試料は、ナノボディ-標的複合体の形成を可能にする条件下で、かかる複合体等の形成を可能にするのに十分な時間、センサーと接触させる。好ましい実施形態では、測定される標的を含む試料は、本発明のナノボディのパラトープと試料中の標的との間の特異的結合のみを可能にする、または促進する条件下で、センサーと接触させる。本発明のナノボディは目的の標的に特異的であり、ナノボディと試料中の他の化学物質との間の非特異的結合は避けられる。ナノボディ-標的複合体の形成を可能にするのに十分な時間は、約1分~約60分、約1分~約10分、または約5分であり得る。
【0038】
表面への本発明のナノボディのグラフト化
本発明のナノボディは、種々の方法で表面に結合させることができる。特定の実施形態では、ナノボディは、共有結合的に表面に結合される。共有結合的な結合によって、ナノボディが、実際的な目的のために、例えばセンサーの洗浄の間に、確実に持続的にセンサーに結合するようになり、それによってナノボディの喪失が避けられる。別の実施形態では、ナノボディは、非共有結合的に表面に結合される。
【0039】
表面へのナノボディの固定は、選択性および感度に影響を及ぼすので、本発明のバイオセンサーデバイスの構築のための中枢的な工程である。一実施形態では、センサー修飾は、伝統的には金電極修飾のために使用される、Au-S結合の形成を通した、ナノボディのチオレート基と金との相互作用に基づく。チオールと金表面との間に形成される金-硫黄(Au-S)相互作用の強度によって、多様な用途のための堅牢な自己組織化した単層を作り上げるための基礎が提供される。別の実施形態では、センサー修飾は、多様な用途のための堅牢な自己組織化した単層を作り上げるための基礎を提供するグラフェン、還元型酸化グラフェンおよびその誘導体、または炭素、白金、ニッケル、銅、銀等の金以外の他の金属表面からなる群から選択される表面とナノボディのチオレート基との相互作用に基づく。
【0040】
特定の態様では、センサー修飾は、ナノボディと金表面、またはグラフェン、還元型酸化グラフェンおよびその誘導体、または炭素、白金、ニッケル、銅、銀等の金以外の他の金属表面、好ましくは金またはグラフェンからなる群から選択される表面との間の、ナノボディのシステインが該表面から1ナノメートル(1nm)未満の距離にあるような、短いリンカーの相互作用に基づく。この短い距離によって、多様な用途のための堅牢な自己組織化した単層を作り上げるための基礎が提供できるようになる。特定の態様では、短いリンカーは、COOH、NH、もしくはマレイミド(MAL)等の官能性末端、またはアリールジアゾニウムイオンの還元を通して表面を攻撃するPEG-アリールジアゾニウム塩等のPEG-アリールラジカルが結合しているピレンベースのリンカーであってもよい。アリールジアゾニウム塩の例は、4-[(トリイソプロピルシリル)エチレニル]ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩(TIPS-Eth-ArN2+)、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-メトキシベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、4-ブロモベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩、および4-カルボン酸ベンゼンジアゾニウムテトラフルオロホウ酸塩である。一実施形態では、金表面、またはグラフェン、還元型酸化グラフェンおよびその誘導体、または炭素、白金、ニッケル、銅、銀等の金以外の他の金属表面からなる群から選択される表面に結合したアリールジアゾニウムの官能基は、ナノボディのチオレート基と連結した、PEG-マレイミド、PEG-ヨードアセチル1-ピレン酪酸(PBA)、1-ピレンブタン酸スクシンイミジルエステル(PBASE)、またはピレン-マレイミド(Py-MAL)で高機能化してもよい。
【0041】
本発明のナノボディは、フレームワークのアミノ酸をシステインで置換するために、変異している。システイン残基のスルフィド基によって、本発明の変異ナノボディを金表面に直接グラフト化することができる。パラトープに関して配列中に挿入されたシステイン残基の離れた位置のおかげで、本発明のナノボディは、パラトープがセンサーの表面と反対方向にあるように方向付けられる。このようにして、表面にグラフト化された各ナノボディは、試料中に存在する標的を結合することができる。さらに、表面へのナノボディの直接のグラフト化または本発明の短いリンカーを通したグラフト化によって、電子がバイオセンサーシグナルを引き起こすために移動しなければならない距離を減少させることができる。このようにして、本発明の変異ナノボディは、より容易に、かつ迅速にグラフト化されることが可能になり、迅速な読み取りを有する、目的の標的に特異的なバイオセンサーを提供することが可能になる。一実施形態では、グラフト化は、ナノボディとセンサーの表面との間にリンカーを使用しない。
【0042】
一実施形態では、表面グラフト化のために使用される変異ナノボディの量は、0.01~20mg/mLの間、好ましくは0.05~10mg/mLの間、より好ましくは0.1~1mg/mLの間である。グラフト化のための時間は、2~24時間の間、好ましくは3~12時間の間、より好ましくは9~12時間の間である。1×希釈のPBS溶液pHは、5~8の間、好ましくは6~8の間、より好ましくは7.4~8の間である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】この図は、Laura S.Mitchell、Lucy J.Colwell「Comparative analysis of nanobody sequence and structure data」Proteins.2018;1~10の論文の図1(B)に相当し、左:ループ領域によって隔てられた9つのβシートからなるナノボディVHHドメインの二次構造を示し、そのうち3つは超可変である(H1、H2およびH3)。4つのフレームワーク領域(FR)によって、可変ループが隔てられている。
図2】この図は、Laura S.Mitchell、Lucy J.Colwell「Comparative analysis of nanobody sequence and structure data」Proteins.2018;1~10の論文の図3(A)に相当し、ナノボディ間のアミノ酸変化を示す配列logoプロットを示す。
図3】実施例2 VHH C13(A)およびVHH C12(B)のグラフト化金電極の示差パルスボルタモグラム。PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)溶液。DPVパラメーター:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。
図4】受容体結合タンパク質の対数濃度の関数としての電流の変化:SARS-CoV-2の異なる濃度の受容体結合タンパク質による、実施例2 VHH C13のグラフト化金電極の示差パルスボルタモグラムの検量線。PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)溶液。DPVパラメーター:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。
図5】RT-PCRと比較した、実施例2のグラフト化金電極の希釈試験。白色のカラムはRT-PCRに相当し、淡灰色はVHH 72ビオチンに相当し、濃灰色は本発明のVHH C13に相当し、黒色は非変異VHH 72に相当する。
図6】RT-PCRがCovid-19陽性または陰性結果を示した患者由来の試料を使用した、非変異VHH 72、ビオチン修飾VHH 72およびシステイン修飾ナノボディVHH C13で修飾された3つの異なる感知境界面の結果。VHH C13の場合、RT-PCRと本発明の変異SARS-CoV-2ナノボディとの間の結果の一致は、100個のPCR陰性試料(濃灰色の黒丸印)および73個のPCR陽性試料(淡灰色の黒丸印)に基づいて生じる。
図7】HSV-1ウイルスの濃度の対数の関数としての電流の変化。
図8】実施例2 VHH C12(A)およびVHH C13(B)の培養されたSARS-CoV-2ウイルス粒子のログ濃度の関数としての電流の変化。PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)溶液。DPVパラメーター:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。
【実施例
【0044】
<実施例1:SARS-Cov-2ウイルスの受容体結合タンパク質に特異的な非変異および変異ナノボディの生成>
1.SARS-Cov-2ウイルスの受容体結合タンパク質に特異的な非変異ナノボディ:VHH 72の生成
SARS-Cov-2ウイルスの受容体結合タンパク質に特異的な非変異ナノボディの配列は以下の通りである:
【0045】
【表1】
【0046】
ナノボディは、精製を容易にするために、C-末端ポリヒスチジンタグを含む。この非変異ナノボディは、Turbo Broth培地(Athena)中で37℃で4時間培養されたT7 Express大腸菌細胞(NEB)中で生成した。この段階で、0.3mM IPTGで発現を誘導し、温度を17℃まで低下させ、細胞をさらに18時間増殖させた。細胞を、10分間、5000g、4℃での遠心分離によってペレット状にした。次いでペレットを液体窒素中で急速冷凍し、室温で解凍した。次いでペレットを溶解バッファー(50mMトリス、300mM NaCl、5%グリセリン、0.1% Triton、5mMイミダゾール、20μg/ml DNA分解酵素、0.1M PMSF、0.1mg/mlリゾチーム)中に再懸濁し、45分間4℃で撹拌下に置いた。細胞を50%振幅で、30秒間を3回、超音波処理した。溶解物を13000gで30分間、4℃で遠心分離し、次いで上清を、50mMトリス、5%グリセリン、5mMイミダゾール、300mM NaCl、pH8.0中で5ml Ni-NTAカラム(GE Healthcare)で精製した。リン酸緩衝食塩水(PBS)中で平衡化したHiLoad 16/60Superdex 75pgゲルろ過カラム(GE Healthcare)にロードする前に、Amicon Ultra 10kDaカットオフ濃縮器を使用した遠心分離によって、250mMイミダゾール中で溶出した画分を濃縮した。精製されたナノボディを、遠心分離によって濃縮した;それらの濃度は、NanoDrop 2000(Thermo Scientific)で280nmでの吸光度を測定することによって決定した。
【0047】
2.本発明のSARS-Cov-2ウイルスの受容体結合タンパク質に特異的な変異ナノボディVHH C13の生成
以下の手順に従って、グルタミン(Q)をシステイン(C)で置換するために、ポイント1の非変異ナノボディを13位で変異させた。変異タンパク質をコードする合成遺伝子をTwist bioscienceに注文した。非変異ナノボディのポイント1に記載されているのと同じプロトコルに従って、変異ナノボディを生成した。
【0048】
本発明の変異ナノボディVHH C13の、得られた配列は、以下の通りである:
【0049】
【表2】
【0050】
3.SARS-Cov-2ウイルスの受容体結合タンパク質に特異的な変異ナノボディVHH-ビオチンの生成
ポイント1の非変異ナノボディを、以下の手順に従ってビオチンで標識した。0.1M重炭酸塩バッファーpH9(100mL:80mL H20+0.765g炭酸水素Na+0.095炭酸Na、H20で100mLに調節)中4mg/mLで1mgの非変異ナノボディを、10mg/mLでDMSO中に溶解させた色素と混合した。遠心分離およびゲルろ過の前に、混合物を1時間、光を避けて持続的撹拌下で維持した。
【0051】
4.本発明のSARS-Cov-2ウイルスの受容体結合タンパク質に特異的な変異ナノボディVHH C12の生成
以下の手順に従って、バリン(V)をシステイン(C)で置換するために、ポイント1の非変異ナノボディを12位で変異させた。変異タンパク質をコードする合成遺伝子をTwist bioscienceに注文した。哺乳動物発現のために、合成物質をベクターに挿入した。FCドメインと融合した変異ナノボディを、ThermoFisherのExpi293発現培地中で37℃、150rpmで細胞がおよそ1,10∧6細胞/mLになるまで培養されたHEK Expi293細胞中で生成した。この段階で、細胞を75μgのDNAおよび225μgのPEI Maxトランスフェクションgrade linear(Polysciences)でトランスフェクトし、細胞をさらに96時間増殖させた。最初の24時間の後、添加物を細胞に加えた:0.5mMのバルプロ酸、4g/Lのグルコースおよび20%トリプトンN1。96時間後に、細胞を、10分間、700g、4℃での遠心分離によってペレット状にし、次いで上清を、50mMトリス、5%グリセリン、5mMイミダゾール、300mM NaCl、pH8.0中で5ml Ni-NTAカラム(GE Healthcare)で精製した。リン酸緩衝食塩水(PBS)中で平衡化したHiLoad 16/60Superdex 75pgゲルろ過カラム(GE Healthcare)にロードする前に、Amicon Ultra 10kDaカットオフ濃縮器を使用した遠心分離によって、250mMイミダゾール中で溶解した画分を濃縮した。精製されたナノボディ-FCを、遠心分離によって濃縮した;それらの濃度は、NanoDrop 2000(Thermo Scientific)で280nmでの吸光度を測定することによって決定した。1:10比のTEVプロテアーゼの使用によって、VHHとFCドメインを分離させた。室温で一晩の切断の後、生成物を、PBS中で平衡化したHiLoad 16/60Superdex 75pgゲルろ過カラムにロードした。精製されたナノボディは、Amicon Ultra 3kDaカットオフ濃縮器を使用した遠心分離によって濃縮し、濃度は、280nmでの吸光度を測定することによって決定し、変性曲線は、Nanotemper TechologiesのTycho NT.6を使用して決定した。
【0052】
本発明の変異ナノボディVHH C12の、得られた配列は、以下の通りである:
【0053】
【表3】
【0054】
<実施例2:金電極上のSARS-CoV-2ナノボディグラフト化>
金電極上の、実施例1のSARS-CoV-2ナノボディのグラフト化の前に、金境界面を以下の手順に従って洗浄した:
【0055】
電極にUV-OZONEを5分間照射した。次いで、mQ水で洗浄し、乾燥空気で乾燥させた。2回目に、電極を0.5M HSO溶液で電気化学的に洗浄した。このために、電極をポテンショスタット(Palmsens、Sensit)に接続させ、HSOを電極上に付着させ、洗浄方法を開始する(表1)。方法が終わると、mQ水で電極をすすぎ、次いで乾燥空気で乾燥させる。
【0056】
【表4】
【0057】
洗浄すると、実施例1の3つの異なるナノボディを使用して、3種類の金電極を生成した。
【0058】
1.本発明の変異ナノボディ:VHH C13またはVHHC12での金電極グラフト化
金電極を2工程で調製する:Au電極を10μLの3-メルカプトプロピオン酸(25mM)の水溶液に30分間室温で曝露する。次いで、酸末端を有する表面をEDC/NHS(1:1モル比、15mM)で20分活性化し、その後にNH-PEG-マレイミド(10μL、0.1mg/m、1×PBS中)に2時間、4℃で浸漬し、MQ水で洗浄する。1×PBS中100μg/mLの、実施例1ポイント2のSARS-CoV-2ナノボディVHH C13または実施例1ポイント4のVHHC12の溶液を電極に滴下し、多湿雰囲気下で4℃で一晩維持する。表面を洗浄し、乾燥させ、使用まで4℃で維持した。
【0059】
2.非変異ナノボディVHHでの金電極グラフト化
PBS 1xで2mMのL-システイン(SigmaAldrich、フランス)溶液を電極に滴下し、多湿雰囲気下で4℃で一晩維持した。電極を洗浄し、乾燥させ、15mMのNHS/EDC(SigmaAldrich、フランス)の溶液を表面に滴下し(4℃で2時間)、2時間後に電極を洗浄し、乾燥させ、100μg/mLの、実施例1ポイント1のSARS-Cov-2ナノボディVHHの溶液を多湿雰囲気下で4℃で一晩インキュベートした。表面を洗浄し、乾燥させ、使用まで4℃で維持した。
【0060】
3.ビオチン変異ナノボディ:VHH-ビオチンでの金電極グラフト化
PBS 1xで2mMのL-システイン溶液を電極に滴下し、多湿雰囲気下で4℃で一晩維持した。電極を洗浄し、乾燥させ、表面を15mMのNHS/EDCで2時間、4℃でインキュベートした。2時間後に電極を洗浄し、乾燥させ、ストレプトアビジンの溶液(ThermoFisher、フランス)を表面とともに多湿雰囲気下で4℃で一晩インキュベートした。翌日、電極を洗浄し、乾燥させ、100μg/mLの、実施例1ポイント3のSARS-Cov-2ナノボディVHH-ビオチンの溶液を2時間インキュベートする。表面を洗浄し、乾燥させ、使用まで4℃で維持した。
【0061】
各金電極のグラフト化の後、各最終電極について示差パルスボルタモグラム(DPV)を測定した。測定の、使用された溶液は、PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)である。DPVパラメーターは以下の通りである:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。DPVの結果は図3にある。このように、本発明の変異ナノボディVHH C13(図3A)およびVHH C12(図3B)での金電極グラフト化は、特に本発明の変異ナノボディによるナノボディから電極への電子の移動のブロックがより少ないことによって、大電流を有することを可能にする。これは、他の電極には当てはまらない。
【0062】
次いで、各最終電極がSARS-CoV-2受容体結合タンパク質(RBP)および培養されたSARS-CoV-2ウイルス試料に特異的に結合する能力を、異なる濃度のSARS-CoV-2 RBP(PBS(0.1M)中のRBPにおけるストック溶液の希釈およびウイルス試料(PBS(0.1M)中のSARS-CoV-2培養ウイルスにおけるストック溶液の希釈)によってDPVの検量線を確立することによって測定した。培養されたウイルスの、最低濃度のRBPとの10分間のインキュベーションを開始し、DPVシグナルを記録し、次に高い濃度のRBPを加えた。測定の、使用された溶液は、PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)である。DPVパラメーターは以下の通りである:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。結果は、RBPについては図4、SARS-CoV-2ウイルス試料については図8(A)および(B)にある。このように、本発明の変異ナノボディVHH C13は4~5nMのSARS-CoV-2 RBPの濃度で迅速に結合するが、他の電極については、結合は後に、4倍および12倍高い濃度で起こる。SARS-CoV-2ウイルス試料で、同様の結果が得られた(図8(A)および(B)参照)。したがって、SARS-CoV-2ナノボディの、その配列中の特定の場所、特に13位での、システインでの変異によって、デバイスの仕様を満たす、非常に感度の高い、高速読み取りの電極を得ることが可能になる。
【0063】
SARS-CoV-2 RBPに方向付けられた異なる二重特異性抗体をナノボディの代わりに試験し、0.28nM、0.082nMおよび0.018nMの結合親和性で、同等の結果が得られた。
【0064】
これらの二重特異性抗体、および本発明の変異ナノボディVHH C13を、SARS-CoV-2バリアント、特にUK、南アフリカおよびデルタ株に関して試験した。同様の結果が得られた。
【0065】
<実施例3:希釈試験による、本発明の変異金電極とRT-PCRとの比較
SARS-CoV-2について、本発明の感知電極の有効性および感度を確立すると、PCRである、SARS-CoV-2の診断のための至適基準と比較した。
【0066】
Viral Transport Medium(VTM/UTM)(Yocon(登録商標))から、鼻咽頭標本を患者から収集した。陽性の強い試料(PCT 18カウント)を、陰性試料中で10倍段階希釈した。
【0067】
MGISP-960 Automated Sample Preparation Systemでの、MGI Easy Nucleic Acid Extraction Kitでの抽出。
【0068】
QuantStudio 5 Real-Time PCR Systemでの、TaqPath(商標)COVID-19 Combo Kit(Thermofischer(登録商標)の、SARS-CoV-2由来の核酸の推定の定性的検出を意図したMultiplexリアルタイムRT-PCR試験)でのRT-PCR。
【0069】
実施例2の3つの金電極を試験した:非変異SARS-CoV-2ナノボディ電極、ビオチン変異SARS-CoV-2ナノボディ電極および本発明のシステイン変異SARS-Cov-2ナノボディ(VHH C13)電極。結果は図6にある。証明されるように、RT-PCRは、5倍希釈までSARS-CoV-2ウイルスを検出し、非変異VHH 72はSARS-Cov-2ウイルスを2倍希釈まで検出し、VHH-ビオチンはSARS-Cov-2ウイルスを4倍希釈まで検出し、本発明のVHH-72-Cys(VHH C13)はSARS-CoV-2ウイルスを7倍希釈まで検出する。結果として、本発明の変異SARS-CoV-2ナノボディによって、特異的に非常に低濃度でのSARS-CoV-2ウイルスの検出が可能になり、PCRがもはや検出できない場合にウイルスを検出することによって、至適基準診断方法の限界を超えることができる。結果として、本発明の変異SARS-Cov-2ナノボディは、ウイルス、および特にSARS-Cov-2ウイルスの、新しい至適基準診断となり得る。
【0070】
<実施例4:PCR至適基準と比較した、本発明の変異SARS-Cov-2ナノボディの臨床試験>
以下のプロトコルに基づいて、臨床試験を行った。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
臨床試験の結果は図6にある。このように、本発明の変異SARS-CoV-2ナノボディ(VHH C13)によって、陰性試料についてPCR結果と95%の一致を有することが可能になり、5つのPCR陰性試料のみが、本発明の変異SARS-CoV-2ナノボディで陽性と検出されていた。PCR陽性試料について、99%の一致が証明され、1つのPCR陽性試料のみが、本発明の変異SARS-Cov-2ナノボディで陰性と検出されていた。
【0074】
<実施例5:本発明の変異ナノボディの、HSV-1への適用>
HSV-1ナノボディの例:VHH 05 cys
VHH 05 cysの配列は以下の通りである:
【0075】
【表7】
【0076】
ナノボディは、精製を容易にするために、C末端ポリヒスチジンタグを含む。
【0077】
金電極上の、実施例2のHSV-1ナノボディのグラフト化の前に、金境界面を以下の手順に従って洗浄した:電極にUV-OZONEを5分間照射した。次いで、mQ水で洗浄し、乾燥空気で乾燥させた。2回目に、電極を0.5M HSO溶液で電気化学的に洗浄した。このために、電極をポテンショスタット(Palmsens、Sensit)に接続させ、HSOを電極上に付着させ、洗浄方法を開始する(表1)。方法が終わると、mQ水で電極をすすぎ、次いで乾燥空気で乾燥させる。洗浄すると、2つの異なるナノボディを使用して、2種類の金電極を生成した:
1.本発明の変異ナノボディ:VHH 05 cysでの金電極グラフト化
1×PBS中のHSV-1ナノボディVHH 05 cysの100μg/mLの溶液を電極に滴下し、多湿雰囲気下で4℃で一晩維持した。表面を洗浄し、乾燥させ、使用まで4℃で維持した。
2.L-システイン修飾境界面に対するEDC/NHS化学作用を使用した、非変異ナノボディ(VHH 05)での金電極グラフト化。PBS 1xで2mMのL-システイン(SigmaAldrich、フランス)溶液を電極に滴下し、多湿雰囲気下で4℃で一晩維持した。電極を洗浄し、乾燥させ、15mMのNHS/EDC(SigmaAldrich、フランス)の溶液を表面に滴下し(4℃で2時間)、2時間後に電極を洗浄し、乾燥させ、100μg/mLの、HSV-1ナノボディVHH 05の溶液を多湿雰囲気下で4℃で一晩インキュベートした。表面を洗浄し、乾燥させ、使用まで4℃で維持した。
【0078】
各金電極のグラフト化の後、各最終電極について示差パルスボルタモグラム(DPV)を測定した。測定の、使用された溶液は、PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)である。DPVパラメーターは以下の通りである:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。次いで、PBS(0.1M)中の異なる濃度のHSV-1ウイルス(ウイルスのストック溶液の希釈10pfu/mL)によってDPVの検量線を確立することによって、HSV-1ウイルスに特異的に結合している各最終電極の容量を測定した。最低濃度のHSV-1ウイルスで10分間のインキュベーションを開始し、DPVシグナルを記録し、次に高い濃度のHSV-1ウイルスを加えた。測定の、使用された溶液は、PBS(0.1M)中のフェロセンメタノール(FcMeOH、1mM)である。DPVパラメーターは以下の通りである:平衡時間3秒;Eステップ=0.01V;Eパルス=0.06V;T=0.02秒;スキャン速度:0.06V/秒。
【0079】
結果を図7に示す。このように、本発明の変異ナノボディVHH 05 cysは10pfu/mLからのHSV-1に迅速に結合し、他の電極についてはウイルス結合は観察されない。したがって、HSV-1ナノボディの、その配列中の特定の位置、特に13位での、システインでの変異によって、デバイスの仕様を満たす、非常に高感度で高速に読み取る電極を得ることが可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
【配列表】
2023544440000001.app
【国際調査報告】