(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-24
(54)【発明の名称】バイオベースのカーボンフォーム
(51)【国際特許分類】
C04B 38/06 20060101AFI20231017BHJP
C08J 9/36 20060101ALI20231017BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20231017BHJP
【FI】
C04B38/06 F
C08J9/36 CEP
C01B32/05
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519179
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(85)【翻訳文提出日】2023-05-10
(86)【国際出願番号】 IB2021058784
(87)【国際公開番号】W WO2022064457
(87)【国際公開日】2022-03-31
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マッソン, ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ウォルター, ステファン
【テーマコード(参考)】
4F074
4G146
【Fターム(参考)】
4F074AA02
4F074CC04Z
4F074CC42Z
4F074CE15
4F074CE44
4G146AA01
4G146AB05
4G146AB06
4G146AC22A
4G146AD11
4G146AD19
4G146AD23
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4G146BA32
4G146BA49
4G146BB04
4G146BB05
4G146BB07
4G146BC03
4G146BC23
4G146BC33A
4G146BC34A
(57)【要約】
本発明は、バイオベースのカーボンフォーム、それらの製造方法及びそれらの使用に関する。方法は、セルロース繊維のスラリーを発泡させてセルロース繊維フォームを得ることと、フォームにバイオマス成分を添加することと、及びバイオマス-セルロース繊維フォームの炭化と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10~80kg/m
3の密度及び0.5~10mmの平均孔径を有することを特徴とする、バイオベースのカーボンフォーム。
【請求項2】
a)液状媒体中にセルロース繊維を懸濁してセルローススラリーを得ることと、
b)前記スラリーを発泡させてセルロース繊維フォームを得ることと、
c)セルロース繊維フォームにバイオマス成分を添加してバイオマス-セルロース繊維フォームを得ることであって、
バイオマス成分がリグニン及びリグノセルロース材料から選択される、バイオマス-セルロース繊維フォームを得ることと、
d)バイオマス-セルロース繊維フォームを炭化させてバイオベースのカーボンフォームを得ることと、
を含む、バイオベースのカーボンフォームの調製のための方法。
【請求項3】
バイオマス成分のセルロース繊維に対する重量比が、乾燥材料に対して算出した際、3:1~1:3である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
セルロース繊維を懸濁するための液状媒体が水である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
セルローススラリーの濃度が、スラリー中のセルロース及び液状媒体の合計重量に対して算出した際、0.1~40重量%セルロースである、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
セルロース繊維フォームを所望の形状に鋳造される、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
セルロース繊維フォームが乾燥される、請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
乾燥したセルロース繊維フォームが、液状媒体中に分散したバイオマス成分に含浸される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
バイオマス成分が、粉末としてセルロース繊維フォームに添加される、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
バイオマス-セルロース繊維フォームが所望の形状に鋳造される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
バイオマス-セルロース繊維フォームが乾燥される、請求項2から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
バイオマス成分がリグニンである、請求項2から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
炭化が、1つ又は複数の工程における温度を、1~100℃/分の間の速度で、700~1500℃の範囲内の最高温度T
maxに到達するまで上昇させることにより行われる、請求項2から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
炭化が、不活性ガス下で実施される、請求項2から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項2から14のいずれか一項に記載の方法により得られる、バイオベースのカーボンフォーム。
【請求項16】
ある密度を有する多孔性コアを含み、フォームが、その表面に近いほど密度が高くなる、請求項1から15のいずれか一項に記載のバイオベースのカーボンフォーム。
【請求項17】
電気化学デバイスのための電極、大型分子のための吸収剤、吸着剤、高温用途のための断熱材、航空宇宙部品、エネルギー貯蔵、触媒基質、及びステルス技術の少なくとも1つから選択される用途における、請求項1及び15から16のいずれか一項に記載のバイオベースのカーボンフォームの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオベースのカーボンフォーム、それらの製造方法及びそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の日常生活において、マクロ多孔性材料及びミクロ多孔性材料は様々な形状及び組成で使用されている。カーボンフォームは炭素原子の網目構造から形成される多孔性材料であり、非常に大きな比表面積及び高い吸着容量を有し得る。これらの材料は、軽量で、強固で耐性の高い材料を要する、電気化学デバイス用電極、大分子用吸収剤、航空宇宙部品用断熱材、及び他の用途等のように現代技術に貢献することが期待されている。
【0003】
カーボンフォームを作製するための公知の技術は様々な前駆体の混合を伴う。最先端の前駆体は通常、ピッチ、イソシアネート、ポリオール、架橋剤、鎖延長剤及び界面活性剤等の化石ベースの化学品をベースとするが、さらに、触媒等は無機化合物をベースとする。それぞれの前駆体は、発泡プロセス中に異なる処理を要する。
【0004】
カーボンフォームを調製するための従来の方法は、テンプレートとして市販の開細胞ポリウレタンフォームの使用を含むテンプレートルートである。ポリウレタンフォームはフェノール類樹脂又はピッチ等のスラリーに含浸され、その後不活性ガス下で硬化させ、炭化されることで炭素-フォーム構造を形成する。この方法は簡易であり容易に量産可能であるが、テンプレート及び前駆体の両方は化石ベースである。もう一つの方法は直接的な発泡であり、前駆体及び発泡剤を含む液状のスラリーの内部の気泡の生成を伴う。気泡、通常CO2は発泡プロセスの第一の工程中で発泡剤の化学反応に起因して生成する。安定的な多孔性ネットワークが形成された際に、それが不活性ガス下で完全に乾燥して炭化する。直接的な発泡ルートは多量の化石ベースの前駆体を使用する。第三の方法は、前駆体スラリーを調製した後、断熱された反応器中で加圧下での窒素ガスの流通を伴う、間接的な発泡である。得られたフォームはその後乾燥され、炭化される。このプロセスは大きなスケールでは複雑であり高価である。
【0005】
再生可能な原材料資源の使用等、そして環境及びヒトの健康の側面で、化石ベースの化学品をより持続可能な代替物で置き換えることに関心が高まっている。セルロースは、地球上で最も豊富な再生可能な天然ポリマーであり、工業スケールで大量調製するための方法が利用可能であることから、特別な可能性を有する。セルロースベースの多孔性材料は通常、出発材料としてセルロース繊維の水スラリーを使用することにより製造される。水は、濡れた多孔性セルロース材料の乾燥中に崩壊又は収縮を起こさずに除去される必要がある。最近ではセルロースフォームは、WO2020/011587で記載されているように、バイオマス前駆体、バイオ発泡剤、水及び空気のみから調製されている。WO2020/049226は、リグノセルロース材料から得られるリグニン含有画分から調製される多孔性成形可能材料を開示している。公報US3894878は、リグニンの水溶液からの多孔性成形可能材料の調製を開示している。しかし、依然としてカーボンフォームを調製するための環境フレンドリーでかつ安価な方法に対する需要が存在する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】(a)セルローススラリーを発泡させてセルロース繊維フォームを提供すること、(b)セルロース繊維フォーム(----)にリグニン(●)を添加すること、及び(c)乾燥リグニン-セルロースフォームの炭化(
図1(c)において○は炭化したリグニンを表し、-・-・は炭化したセルロース繊維を表す)により、リグニン-セルロースベースのカーボンフォームを調製するための工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本開示の目的は、バイオベースの材料から作製されたカーボンフォームを提供することである。
【0008】
第一の態様において、本発明は、10~80kg/m3又は10~60kg/m3の密度及び0.5~10mm又は1~10mm平均孔径を有することを特徴とする、バイオベースのカーボンフォームに関する。
【0009】
本発明によるカーボンフォームは、軽量で、不燃性であり、化学物質に耐性があり、高温耐性があり、ガス及び液体が透過可能であり、また、音及び照射を吸収する利点を有する。
【0010】
第二の態様において、本発明は、
a)液状媒体中にセルロース繊維を懸濁させてセルローススラリーを得ることと、
b)前記スラリーを発泡させてセルロース繊維フォームを得ることと、
c)セルロース繊維フォームにバイオマス成分を添加してバイオマス-セルロース繊維フォームを得ることであって、
バイオマス成分は、リグニン及びリグノセルロース材料から選択されることと、
d)バイオマス-セルロース繊維フォームを炭化させてバイオベースのカーボンフォームを得ることと、
を含む、バイオベースのカーボンフォームを調製するための方法に関する。
【0011】
工程(a)におけるセルローススラリーは、液状媒体中に乾燥セルロース繊維を浸漬させることに続いて、標準セルロース分離装置を使用して混合することにより調製してもよい。セルロース繊維を懸濁させるために使用される液状媒体は、水溶液又は水であってもよく、好ましくは水である。液状媒体中のセルロース繊維及びバイオマス成分の懸濁液は、10~50℃、15~50℃、又は20~50℃の温度で実施してもよい。セルローススラリーの濃度は、スラリー中のセルロース及び液状媒体の合計重量に基づく算出で0.1~40重量%セルロース、又は0.1~5重量%、又は0.2~2重量%の濃度であってもよい。
【0012】
添加剤もセルローススラリーに添加してもよい。添加剤は、セルロース繊維の添加前に液状媒体中に懸濁させる、セルロース繊維と共に懸濁させる、又はセルロース繊維を懸濁させた後にセルローススラリーに添加してもよい。添加剤は発泡剤、増粘剤、又は可塑剤であってもよく、添加剤はバイオベースの添加剤であることが好ましい。バイオベースの発泡剤の例としては、グルテン、カゼイン、ハイドロフォビン及びゼラチン等のタンパク質が挙げられる。添加剤を、粉末で、あるいは混合物でセルローススラリーに添加することで、スラリーの合計重量に基づく算出で固形分含有量の合計が0.1~40重量%、又は0.1~5重量%、又は0.2~2重量%であるセルロース繊維及び添加剤のスラリーを得てもよい。セルロース繊維の添加剤に対する比率は、セルロース繊維の凝集及び分離の度合いに影響し得る。
【0013】
セルローススラリーの発泡はスラリー中へのガスの導入により実施してもよい。ガスは、泡立て又は強い撹拌により、発泡剤の添加により、ガスを用いてスラリーを加圧することにより、又はガスをスラリー中に通してバブリングする等のガスの直接的な導入により、スラリーに導入することができる。スラリーに導入されるガスは二酸化炭素、窒素、不活性ガス、及び空気、又はそれらの混合物から選択してもよい。好ましくは、ガスは空気である。空気は泡立て又は強い撹拌により導入することができ、これはフォームを作り出すのに安価で直接的な方法である。発泡は、常温で、又は5~100℃、10~100℃、10~80℃、10~60℃、10~40℃、15~60℃、又は15~40℃の温度で実施してもよい。発泡は、常圧で実施してもよい。発泡は、高い圧力を加えた後に圧力を開放することにより実施することもでき、例えば、102~500kPa、又は102~300kPaの範囲内の圧力を加えることにより実施できる。スラリーの体積は、発泡した際に、セルロースの乾燥重量の量に応じて、数100パーセント、例えば200%超、又はさらには最大1000%以上の増大をし得る。本発明による方法の利点は、セルロース繊維フォームを得るためには適度な加熱のみ要求される、あるいは加熱が全く要求されないことである。
【0014】
バイオマス成分は、粉末等の乾燥粒子状でセルロース繊維フォームに添加してもよく、又は、水性溶媒若しくは水等の液状媒体に分散させた粒子としてセルロース繊維フォームに添加し、バイオマス分散体としてセルロース繊維フォームに添加してもよい。バイオマス成分は、リグニン;並びに木粉、パルプ、及び木材繊維、例えば乾燥したリグノセルロース繊維、木材粉、ファインカットセルロースパルプ、おがくず、及びリグニン粉末等のリグノセルロース材料;並びにそれらの異なる組み合わせから選択される。バイオマス成分はリグニンであることが好ましい。リグニンは、粉末等の乾燥粒子状で、又は水性溶媒若しくは水等の液状媒体に懸濁させた粒子でセルロース繊維含有フォームに添加してもよい。平均粒子径は、0.1μm~20μm、0.1~10μm、0.1μm~5μm、又は0.1μm~1μmの範囲内であってもよい。バイオマス成分のセルロース繊維に対する重量比は、乾燥材料に対して算出した際に3:1~1:3、好ましくは2:1~1:2、より好ましくは1:1である。
【0015】
ある実施形態において、セルロース繊維フォームは、バイオマス成分を添加する前の液状媒体の除去により乾燥される。セルロース繊維フォームは、その乾燥前に、例えば板状、3D構造、薄層等の所望の形状に鋳造してもよい。セルロース繊維フォームは、セルロース繊維フォームの合計重量に基づく算出で液状媒体を15重量%未満、又は10重量%未満で含むまで乾燥させてもよい。いくつかの実施形態において、液状媒体の除去の第一の工程は排水であってもよく、重力により又は真空により容易化できる。セルロース繊維フォームの乾燥は、各種方法により実施することができる。使用した液状媒体に応じて、液状媒体は、対流乾燥により、又は15~30℃、又は15~25℃等の室温での照射により、又はセルロース繊維フォームを20℃超の温度、例えば25~130℃、30~100℃、30~80℃、又は50~80℃等の高温に付すことにより、エバポレートさせてもよい。セルロース繊維フォームの安定性によっては、低温も高温も使用することができる。セルロース繊維含有フォームを得るためには適度な加熱のみ要求される、あるいは加熱が全く要求されないが、高温であればフォームを乾燥させるための時間を短縮できる。セルロース繊維フォームを乾燥させるための滞留時間は4~60時間、又は4~48時間、又は4~24時間、又は4~12時間であってもよいが、使用した乾燥方法に応じて調節してもよい。焼付オーブン、硬化オーブン、乾燥オーブン、真空乾燥オーブン又は工業用バッチ式オーブン、及び連続式オーブン等の各種オーブンを使用してもよい。マイクロ波又はマイクロ波と熱流との組み合わせの使用により、セルロース繊維フォームをその内部から加熱すると、乾燥時間をさらに早めることができる。しかし、あまりに高い温度は、セルロース繊維フォームを不均一にし、又はフォームを損傷させて剥離又は構造の崩壊を生じさせる等のおそれもある。乾燥温度は乾燥中に変更することもでき、例えば、低い初期温度と、経時的な温度上昇とを用いることができる。液状媒体は溶媒交換により除去することもでき、例えば水は、エタノールを用いた溶媒交換により除去することができる。
【0016】
乾燥したセルロース繊維フォームは、バイオマス分散体状のバイオマス成分に含浸させてもよい。バイオマス分散体を用いたセルロース繊維フォームの含浸は1時間~最大16時間要してもよい。含浸は、バイオマス分散体をセルロース繊維フォームの最も深い空孔に確実に到達させるため、吸引により高めてもよい。含浸後、炭化前に、得られたバイオマス-セルロース繊維フォームを乾燥させて、バイオマス-セルロース繊維フォームの合計重量に基づく算出で液状媒体の含有量を15重量%未満又は10重量%未満となるように液状媒体の含有量を減少させてもよい。
【0017】
本発明による方法のもう一つの実施形態において、バイオマス成分はフォームの乾燥前にセルロース繊維フォームに粉末で添加される。粉末の平均粒子径は、0.1μm~20μm、0.1~10μm、0.1μm~5μm、又は0.1~1μmの範囲内であってもよい。低いせん断速度で長時間かけてセルロース繊維含有フォームに粉末を添加することで、フォームの気泡を崩壊から守ることができ、気泡の大きさを原理的にそのままとすることができる。乾燥前のセルロース繊維含有フォームへのバイオマス成分の添加は、それを乾燥させ、炭化させる前に例えば板状、3D構造、薄層等の所望の形状にバイオマス-セルロース繊維フォームを鋳造することを可能とする。
【0018】
本開示で開示されている任意の実施形態において、バイオマス-セルロース繊維フォームは、バイオマス-セルロース繊維フォームの合計重量に基づく算出で液状媒体を15重量%未満又は10重量%未満で含むまで乾燥させてもよい。バイオマス-セルロース繊維フォームの乾燥は、排水、対流乾燥により、若しくは照射により、又はそれらの組み合わせ等の各種方法により実施してもよい。乾燥は、15~30℃、又は15~25℃等の室温で実施してもよく、又はバイオマス-セルロース繊維フォームを20℃超の温度、例えば25~130℃、30~100℃、30~80℃、又は50~80℃等の高温に付すことにより実施してもよい。バイオマス-セルロース繊維含有フォームを得るためには適度な加熱のみ要求される、あるいは加熱が全く要求されないが、高温であればフォームを乾燥させるための時間を短縮できる。排水は、重力により、又は真空により容易化できる。バイオマス-セルロース繊維フォームを乾燥させるための滞留時間は、4~60時間、又は4~48時間、又は4~24時間、又は4~12時間であってもよいが、使用した乾燥方法に応じて調節してもよい。焼付オーブン、硬化オーブン、乾燥オーブン、真空乾燥オーブン又は工業用バッチ式オーブン及び連続式オーブン等の各種オーブンを使用してもよい。マイクロ波又はマイクロ波と熱流との組み合わせの使用により、バイオマス-セルロース繊維フォームをその内部から加熱すると、乾燥時間をさらに早めることができる。しかし、あまりに高い温度は、バイオマス-セルロース繊維フォームを不均一にし、又はさらにはフォームを損傷させて構造の剥離又は崩壊を生じさせる等のおそれがある。乾燥温度は乾燥中に変更することもでき、例えば、低い初期温度を経時的に上昇させて用いることができる。液状媒体は溶媒交換により除去することもでき、例えば水は、エタノールを用いた溶媒交換により除去することができる。
【0019】
本開示で開示されている任意の実施形態において、バイオマス-セルロース繊維フォーム中のバイオマス成分の量は、フォーム中の乾燥成分の合計重量に基づく算出で20~70重量%、好ましくは30~60重量%、より好ましくは40~60重量%であってもよい。
【0020】
本発明による方法において、バイオマス-セルロース繊維フォームの炭化は、1つ又は複数の工程における温度を、1~100℃/分の間の速度で、700~1500℃の範囲内の最高温度Tmaxに到達するまで上昇させることにより実施でき、最高温度は800~1300℃であることがより好ましく、最高温度は950~1150℃であることが最も好ましい。冷却を含む炭化の合計所要時間は15~20時間であってもよい。炭化は窒素、ヘリウム、ネオン、又はアルゴン、又はそれらの混合物等の不活性ガス下で実施してもよい。本発明による方法の利点は、液状媒体を排水させただけのフォーム等の湿ったバイオマス-セルロースフォーム上で炭化を実施することもできることである。乾燥したバイオマス-セルロース繊維フォームの炭化は、原理的に乾燥したバイオマス-セルロース繊維フォームと同じ多孔構造を有するカーボンフォームを提供する。湿ったバイオマス-セルロース繊維フォームは、後の使用のために、又はモールドに充填する、若しくは任意の他の方法により所望の形状に形成するために回収して保管することができ、炭化後に所定の形状を有するカーボンフォームの調製を可能とする。このように、本発明の方法の1つの実施形態は、成形されたカーボンフォームを提供するための成形されたバイオマス-セルロース繊維フォームの炭化を包含する。炭化後、カーボンフォームは得られた形状のままとしてもよいし、又は機械加工して所望の形状にしてもよい。
【0021】
本発明による方法により、セルロース繊維フォームは、炭化中にバイオマス成分のための機械的かつ構造的な支持体等の多孔質テンプレートとして作用する。セルロース繊維フォームに生じる空孔は、混合又はバイオマス成分を用いた含浸中、及び炭化中に保たれ得ることから、低密度カーボンフォームを提供する。炭化後に得られるカーボンフォームは原理的にバイオマス-セルロース繊維フォームと同じ多孔構造を有していてもよい。テンプレートとしてセルロース繊維含有フォームを使用するさらなる効果は、最終的なカーボンフォームの孔径の小ささと、均一な孔径分布である。添加したバイオマス成分の量及び種類は、カーボンフォームの孔径、孔の特徴及び最終的な化学組成の調整を可能とする。バイオマス成分、そして特にリグニンも、炭化中のフォームの収縮を防止する。全体として、本開示の方法は、孔径、密度、体積あたりの開口面積、剛性、及び硬度等のカーボンフォームの物性及び特性の調整を可能とする。
【0022】
本発明の方法により調製されるカーボンフォームは、疎水剤、活性化ガス、被覆層又は他の化学物質等の追加の成分で改質してもよく、熱的な後処理により、又はこれらの組み合わせで改質してもよい。カーボンフォームは、特定の吸収物性又は向上した比表面積等の所望の物性を有するフォームを提供するために活性化させてもよい。活性化は、活性化化学物質を用いてフォームを処理し、400~800℃の温度で加熱することにより、又は約800~1100℃の温度でガスを用いてフォームを処理することにより実施することができる。好適な活性化化学物質は、アルカリ塩、リン酸、塩化亜鉛及び硫酸又はそれらの混合物から選択される。活性化化学物質は、材料から残留水分を除去するのを補助することができる。活性化のための好適なガスは、水蒸気及び二酸化炭素又はそれらの混合物から選択される。
【0023】
本発明は、セルロース繊維を液体中に懸濁させてスラリーを得ることと、スラリーを発泡させてセルロース繊維含有フォームを得ることと、リグニン粉末をセルロース繊維含有フォームに添加することと、任意でフォームを板状、3D構造、薄層等、又は他の形状に鋳造することと、リグニン-セルロース繊維フォームを乾燥させることと、及びフォームの炭化とを含む、バイオベースのカーボンフォームを調製するための方法を特に包含する。
【0024】
本発明はまた、液体中にセルロース繊維を懸濁させてスラリーを得ることと、スラリーを発泡させてセルロース繊維含有フォームを得ることと、前記セルロース繊維含有フォームを乾燥させることと、水性溶媒又は水等の液状媒体中にリグニン粒子を分散させて、リグニン分散体を得ることと、乾燥したセルロース繊維含有フォームをリグニン分散体に含浸させてリグニン-セルロース繊維フォームを得ることと、リグニン-セルロース繊維フォームを乾燥させることと、及びリグニン-セルロース繊維フォームの炭化と、を含むバイオベースのカーボンフォームを調製するための方法も包含する。
【0025】
本発明の方法に関する利点は、環境フレンドリーであり、簡易な技術を伴い、そして容易に量産可能であることである。方法において使用されている主成分はバイオベースであり再生可能である。液状媒体は水溶液又は水であってもよい。
【0026】
第三の態様において、本発明は、本発明の第二の態様による方法を用いて得られたバイオベースのカーボンフォームに関する。本発明のさらなる態様は、密度を有する多孔性コアを含む一体型バイオベースのカーボンフォームであり、フォームはその表面に近いほど密度が高くなる。一体型構造は哺乳類の骨の構造に類似しているため、骨インプラント材料及び骨形成原細胞用の足場として使用することができる。
【0027】
さらにもう一つの態様は、電気化学デバイス用電極、大分子用吸収剤、吸着材、高温用途のための断熱材、航空宇宙部品、エネルギー貯蔵、触媒基質、及びステルス技術における、本発明によるバイオベースのカーボンフォームの使用である。
【0028】
本出願で使用される全ての語及び略称は、別途指示がない限り、関連技術においてそれらに通常与えられた意味を有すると解釈されるべきである。しかし、明確化のため、いくつかの語句は下記に具体的に定義される。
【0029】
本開示において、語句「バイオベースの材料」は、生きている、又は一度生きていた、生物体、植物に由来する物質から作製されたあらゆる材料に用いられ、例えば、木材から得られる材料、リグノセルロース材料、セルロース繊維、リグニン、デンプン、タンパク質、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0030】
セルロースは、全ての植物の細胞壁中の主成分である。それは、植物の種類又は部位に応じて異なる成分で生じ得る。木材においては、例えば、セルロースはリグニンとヘミセルロースと共に生じる。葉において、セルロースは、リグニンなしで生じるが、豊富な量のヘミセルロースと共に生じる。綿の種子毛において、セルロースは、リグニンを含まないほとんど純粋な形態で生じる。本発明によるカーボンフォームを調製するために好適なセルロース繊維は、針葉樹材又は広葉樹材等の木材、葉又は繊維作物(綿、亜麻及び麻等)に由来するものであってもよい。好適なセルロース繊維はまた、レーヨン及びリヨセル等の再生されたセルロースに由来するものであってもよい。好ましくはセルロース繊維は木材に由来し、セルロース繊維は木材マトリックスから繊維を遊離させるパルピングプロセスにより得られたパルプ繊維であることがより好ましい。パルプ繊維は、サーモメカニカルパルプ(TMP)又はケモサーモメカニカルパルプ(CTMP)等のメカニカルパルプを得るメカニカルパルピングにより、又はクラフトパルプ若しくは亜硫酸プロセス、ソーダプロセス若しくはオルガノソルブパルピングプロセスにより得られたパルプ等のケミカルパルピングにより遊離させることができる。より好ましくは、セルロース繊維は、ケミカルパルピングプロセスにより遊離したパルプ繊維である。さらにより好ましくは、セルロース繊維は針葉樹材クラフトパルプ又は溶解パルプから得られる。本発明で使用されるセルロース繊維は、リグニン及びヘミセルロースを含まないものであってもよい。各セルロースの様々な特性は、最終的なカーボンフォームの物性に影響することになる。セルロース繊維は、幅よりも長さの方が圧倒的に長い。セルロース繊維の平均幅は0.01から0.05mmであってもよい。針葉樹材の平均繊維長は2.5~4.5mmであってもよく、一方で広葉樹材の平均繊維長は0.7~1.6mm、そしてユーカリの場合は0.7~1.5mmであってもよい。しかし、繊維長は様々な生長箇所等で大きく異なる可能性がある。本開示で開示されているカーボンフォームの調製に使用されているセルロース繊維は0.1mm~65mm、0.1mm~10mm、又は0.5mm~65mm、又は0.5mm~10mm、又は0.5mm~7mmの平均繊維長を有していてもよい。様々な繊維長は、材料に様々な機械的特性を与え得る。繊維の長さのため、それらは互いに絡み合うことができ、フォーム構造に強度をもたらす繊維-繊維間結合を付与する。本発明によるカーボンフォームの調製に使用されるセルロース繊維のアスペクト比、すなわち繊維長の繊維幅に対する比率は、少なくとも10、少なくとも25、少なくとも50、少なくとも75、又は少なくとも100であってもよく、乾燥手順中にフォーム構造を保持させ、かつ安定化させる。アスペクト比は最大6500、又は好ましくは最大2000であってもよい。
【0031】
セルロース繊維の高アスペクト比、すなわち長さの幅に対する比率は最終的なバイオベースのカーボンフォームに対して柔軟性を与え得る。セルロース繊維の支配的な配向は、炭化中のガス放出及びそれに起因する炭化反応速度論に影響し得るフォーム中の様々なマクロ構造の形成を可能とし、このため、最終的なバイオベースのカーボンフォームの物性に影響を与える可能性がある。
【0032】
リグニンは、特に木材及び樹皮における細胞壁の形成において、セルロース、ヘミセルロース、及びペクチン成分の間の細胞壁における空間を充填するという点で剛性を与える、架橋されたフェノール性ポリマーである。ポリマーは定義された主構造を有さず、リグニンの正確な化学物質の組成は種ごとに異なるが、比較的疎水性であり、芳香族サブユニットを豊富に含む。リグニンは、セルロースの製造における望ましくない副生成物であることが多く、セルロースの次に世界で最も大きい再生可能な炭素源である。本方法における使用のためのリグニンの特定の平均粒子径は、0.1~10μmの範囲内であることが好ましい。好ましい径の範囲内の粒子はセルロース繊維に対して良好な密着性を与える。いくつかの用途に対しては、リグニンの灰分含有量は好ましくは可能な限り低くあるべきである。
【0033】
カーボンフォームの密度は方程式(1)を用いて決定することができる:
(式中、mはカーボンフォームの断片の質量であり、Vはカーボンフォームの前記断片の体積である。)
【0034】
本発明によるカーボンフォーム中の空隙空間は、本発明による多孔性材料の空隙空間の合計容積の少なくとも50%、少なくとも70%、又は少なくとも80%が相互的に繋がっている孔を含み得るように、相互的に繋がっている孔状であってもよい。平均孔径及び孔容積は、顕微鏡法を用いた画像解析による方法等の従来の方法により測定することができる。カーボンフォームの間隙率は50~99%の範囲内であってもよい。語句「間隙率」φは、孔の合計容積VPと、カーボンフォームの合計体積Vとの間の比率に使用される。間隙率は、顕微鏡法を用いた画像解析による方法等の従来の方法により測定することができる。
【0035】
「比表面積」は、単位質量あたりの固体材料の合計の表面積を表し、ピクノメトリーにより決定することができる。本発明によるカーボンフォームは500~1500m2/gの比表面積を有していてもよい。
【0036】
本発明の態様及び/又は実施形態の1つの文脈に記載されている実施形態及び/又は特徴及び/又は利点は、本発明の全ての他の態様及び/又は実施形態にも準用できることに留意すべきである。
【実施例】
【0037】
本発明による特徴を下記実施例においてさらに説明する。
【0038】
材料
乾燥したセルロースフォームはCellutech ABより提供され、針葉樹材クラフトリグニン粉末はStora Enso ABから取得している。
【0039】
実施例
リグニン粉末を水中に分散させ、リグニン分散体を得る。リグニンの溶解性を上げるため、任意で添加剤を添加する。セルロースフォームをリグニン分散体に含浸させる。含浸したリグニン-セルロースフォームを乾燥させた後、炭化させる。フォームの密度及び孔径の分布を測定する。
【国際調査報告】