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特表2023-544604デキストラン硫酸を用いる筋萎縮の処置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-24
(54)【発明の名称】デキストラン硫酸を用いる筋萎縮の処置
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/737 20060101AFI20231017BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61K31/737
A61P21/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520339
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 SE2021050983
(87)【国際公開番号】W WO2022075913
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】2051180-4
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515312807
【氏名又は名称】ティーエックス メディック エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブルース,ラーズ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA26
4C086GA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
本発明は、サルコペニアに罹患した対象の筋萎縮の処置または予防における、および神経筋疾患および/もしくは損傷、またはサルコペニアに罹患した対象の筋肉機能を改善することにおける、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の使用に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルコペニアに罹患した対象における筋萎縮の処置または予防における使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項2】
神経筋疾患および/もしくは損傷またはサルコペニアに罹患した対象における筋肉機能を改善することにおける使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項3】
前記対象が、内在的な筋肉疾患および/または損傷に罹患している、請求項2に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項4】
前記内在的な筋肉疾患および/または損傷が、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)および筋炎からなる群から選択される、請求項3に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項5】
前記対象が、中枢および/または末梢神経系疾患および/または損傷に罹患している、請求項2に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項6】
前記中枢および/または末梢神経系疾患および/または損傷が、卒中、脊髄傷害、外傷性脳傷害(TBI)、脳性麻痺、シャリコー・マリー・トゥース病(CMT)、原発性側索硬化症(PLS)、脊髄性筋萎縮(SMA)、神経絞扼、および手術の合併症からなる群から選択される、請求項5に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項7】
前記対象への全身投与のために配合される、請求項1~6のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項8】
前記対象への静脈内または皮下投与のために配合され、好ましくは前記対象への皮下投与のために配合される、請求項7に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項9】
10000Da以下の平均分子量を有する、請求項1~8のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項10】
前記平均分子量が、2000~10000Daの範囲内、好ましくは3000~10000Daの範囲内、より好ましくは3500~9500Daの範囲内である、請求項9に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項11】
前記平均分子量が、4500~7500Daの範囲内、好ましくは4500~5500Daの範囲内である、請求項10に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項12】
15~20%の範囲内の平均硫黄量を有する、請求項1~11のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項13】
約17%の平均硫黄量を有する、請求項12に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項14】
1850~3500Daの範囲内の、好ましくは1850~2500Daの範囲内の、およびより好ましくは1850~2300Daの範囲内の核磁気共鳴(NMR)分光法により測定される数平均分子量(Mn)を有する、請求項1~9のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項15】
1850~2000Daの範囲内のNMR分光法により測定されるMnを有する、請求項14に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項16】
2.5~3.0の範囲内の、好ましくは2.5~2.8の範囲内の、およびより好ましくは2.6~2.7の範囲内のグルコース単位あたりの平均硫酸数を有する、請求項14または15に記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項17】
平均で5.1グルコース単位および2.6~2.7のグルコース単位あたりの平均硫酸数を有する、請求項1~16のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項18】
水性注射溶液として配合される、請求項1~17のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【請求項19】
前記その医薬的に許容できる塩が、デキストラン硫酸のナトリウム塩である、請求項1~18のいずれかに記載の使用のための、デキストラン硫酸、またはその医薬的に許容できる塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は一般に、筋萎縮、およびデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩を用いる筋萎縮の処置または予防に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
筋萎縮は、骨格筋量の損失である。筋萎縮は、不動性、加齢、栄養失調、投薬、または骨格筋もしくは神経系に影響を及ぼす広範囲の傷害もしくは疾患により引き起こされ得る。筋萎縮は、筋肉虚弱につながり、能力不全(disability)を引き起こす。
【0003】
不使用は、急速な筋萎縮を引き起こし、多くの場合、四肢の不動または床上安静を必要とする傷害または疾病の間に起こる。不使用の持続期間および個体の健康に依存して、これは、活動により完全に回復される場合がある。栄養失調は最初、脂肪損失を引き起こすが、長期の飢餓において筋萎縮に進行する場合があり、栄養療法で回復し得る。サルコペニアは、加齢に関連する筋萎縮であり、主としてミトコンドリア機能不全の疾患であると考えられ、運動により緩徐化され得る。最後に、筋ジストロフィーまたはミオパチーなどの筋肉の遺伝性疾患は、脊髄傷害または卒中などにおいて神経系を損傷し得る(ニューロパチー)ため、萎縮を引き起こし得る。
【0004】
発病の原因が何であろうと、筋萎縮は、タンパク質合成とタンパク質分解の不均衡から生じるが、精密なメカニズムは、完全に理解されていない。現行の処置は、根本的な原因に依存するが、不動性、加齢または栄養失調により引き起こされた筋萎縮では特に、運動および充分な栄養を含むことが多い。同化剤は、若干の効能を有する場合があるが、副作用により用いられないことが多い。研究中の多くの処置およびサプリメントがあるが、現在、臨床現場では限られた処置選択しかない。
【0005】
つまり、対象において筋肉機能を改善する筋萎縮の処置または予防が、必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
概要
筋萎縮を処置または予防することが、全般的な目的である。
【0007】
神経筋疾患または損傷に罹患した対象の筋肉機能を改善することが、別の全般的な目的である。
【0008】
これらのおよび他の目的は、本明細書に開示される実施形態により適えられる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、独立クレームにおいて定義される。本発明のさらなる実施形態は、従属クレームにより定義される。
【0010】
本発明の態様は、サルコペニアに罹患した対象における筋萎縮の処置または予防における使用のための、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩に関する。
【0011】
本発明の別の態様は、神経筋疾患および/もしくは損傷、またはサルコペニアに罹患した対象における筋肉機能を改善することにおける使用のための、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩に関する。
【0012】
デキストラン硫酸処置は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患した患者において筋萎縮を停止させ、筋肉機能を改善した。デキストラン硫酸処置の結果は、ALS患者の身体活動性の増強を含んだ。さらに、デキストラン硫酸は、血清クレアチンキナーゼおよびミオグロビンの有意な低減、ならびに血清アラニン濃度の有意な増加で分かる通り、筋肉変性を低減しただけでなく、血清乳酸レベルの有意な上昇で分かる通り筋肉機能および活動性を改善した。加えて、ALS患者は、患者の自己申告健康状態プロトコルALS評価問診票40(ALSAQ-40)において日常生活動作/自立(ADL)および身体可動性(PM)サブスコアの改善を報告した。デキストラン硫酸処置はさらに、ミトコンドリア機能を正常化し、筋肉内の細胞エネルギー状態の上昇をもたらした。
【0013】
実施形態は、更なる目的およびその利点と共に、以下の記載を添付の図面と共に参照することにより、最良に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】病理学的プロセスにおける筋除神経を概略的に示す。
図2】デキストラン硫酸処置後のALS患者の血清乳酸レベルを概略的に示す。
図3】デキストラン硫酸処置後のALS患者のALSAQ-40 ADLスコアを概略的に示す。
図4】デキストラン硫酸処置後のALS患者の血清ミオグロビンレベルを概略的に示す。
図5】デキストラン硫酸処置後のALS患者の血清クレアチンキナーゼレベルを概略的に示す。
図6】デキストラン硫酸処置後のALS患者の血清肝細胞増殖因子(HGF)レベルを概略的に示す。
図7】デキストラン硫酸処置後の患者の血清NAAレベル。
図8】デキストラン硫酸処置後の患者の血清尿酸レベル。
図9】デキストラン硫酸処置後の患者の血清中のオキシプリンの総量。
図10】デキストラン硫酸処置後の患者の血清硝酸レベル。
図11】デキストラン硫酸処置後の患者の血清硝酸+亜硝酸レベル。
図12】デキストラン硫酸処置後の患者の血清MDAレベル。
図13】デキストラン硫酸処置後の患者の血清ALAレベル。
図14】デキストラン硫酸処置後の患者の血清CITRレベル。
図15】デキストラン硫酸処置後の患者の血清ORN/CITRレベル。
図16】デキストラン硫酸処置後の患者の血清α-トコフェロールレベル。
図17】デキストラン硫酸処置後の患者の血清γ-トコフェロールレベル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な記載
本発明は一般に、筋萎縮、およびデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩を用いる筋萎縮の処置または予防に関する。
【0016】
筋萎縮は、骨格筋量の損失である。筋萎縮の共通の原因としては、不動性、加齢、栄養失調、および投薬が挙げられる。現行の処置は、根本的な原因に依存するが、特に不動性、加齢または栄養失調により引き起こされた筋萎縮(サルコペニア)では、運動および充分な栄養を含むことが多い。筋萎縮は、神経筋系の疾患または傷害によっても引き起こされ得る。例えば筋ジストロフィーまたはミオパチーなどの遺伝に関連する筋肉の疾患、ならびに運動ニューロン疾患および他のニューロパチーのような除神経状態は、萎縮に加え、骨髄傷害または卒中などの神経系に影響を及ぼす急性損傷または疾患を引きこし得る。
【0017】
筋萎縮の顕著な兆候は、除脂肪体重の損失であり、症状は、身体的労作を実施することの困難または不能をもたらし得る虚弱または線維束性攣縮の増加を含む。
【0018】
現在、神経筋系の疾患もしくは損傷、またはサルコペニアにより引き起こされる筋萎縮の効果的な医学的処置は存在しない。
【0019】
本発明の態様は、サルコペニアに罹患した対象の筋萎縮の処置または予防における使用のための、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩に関する。
【0020】
本明細書に提示される実験データは、デキストラン硫酸処置が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患した患者において筋萎縮を停止させかつ筋肉機能を改善したことを示す。デキストラン硫酸処置の結果は、ALS患者の身体活動性の増強を含んだ。さらに、デキストラン硫酸は、血清クレアチンキナーゼおよびミオグロビンにおける有意な低減で分かる通り筋肉変性を低減しただけでなく、血清乳酸レベルの有意な上昇で分かる通り筋肉機能および活動性を改善した。加えて、ALS患者は、患者の自己申告健康状態プロトコルALS評価問診票40(ALSAQ-40)において日常生活動作/自立(ADL)および身体可動性(PM)サブスコアの改善を報告した。アラニン(ALA)の高い血清濃度は、ALS患者におけるより急速な筋肉タンパク質分解により引き起こされる。デキストラン硫酸処置は、循環ALA値を正常化し、筋肉代謝および機能に及ぼすデキストラン硫酸の有益な作用を示した。
【0021】
筋萎縮、特にサルコペニアは、エネルギー代謝不均衡およびミトコンドリア機能障害を特徴とし、アデニンヌクレオチド分解経路の活性化をもたらし、その結果循環するプリン化合物が増加する。デキストラン硫酸処置は、血清尿酸濃度および総オキシプリン量を減少させ、ミトコンドリア機能の好転および筋肉内の細胞エネルギー状態の上昇を示した。
【0022】
加えて、デキストラン硫酸処置は、ニューロン生存への保護的効果を示唆する血清N-アセチルアスパラギン酸(NAA)濃度を有意に低下させる効果を有した。デキストラン硫酸処置はさらに、硝酸、亜硝酸+硝酸、およびマロンジアルデヒド(MDA)の血清濃度を低下させ、ミトコンドリア機能への有益な影響と、最終的に活性酸素種(ROS)生成の低下を引き起こすことを示した。デキストラン硫酸はさらに、より低い血清シトルリン(CITR)濃度およびより高値のオルニチン(ORN)/CITR比の誘導により分かる通り、ニトロソ化ストレスを低減した。
【0023】
このため、実施形態のデキストラン硫酸は、筋萎縮を処置または予防することにおいて、特にサルコペニアに罹患した対象の筋萎縮を処置または予防することにおいて効果的な様々な有益な効果を誘導した。
【0024】
サルコペニアは、加齢および/または不動により起こる筋萎縮の一タイプである。それは、骨格筋の量、性質、および強度の変性的損失を特徴とする。筋肉損失の速度は、運動レベル、併存症、栄養および他の因子に依存する。筋肉損失は、筋肉合成シグナル伝達経路の変化に関係づけられる。それは、筋肉がサイトカイン介在性分解を通して分解される悪液質とは全く異なるが、両方の状態が共存する場合がある。
【0025】
先に要約され、かつ実施例の節にさらに記載されるデキストラン硫酸処置の効果は、それによりサルコペニアに罹患した対象の筋萎縮に関連する骨格筋の量、性質および強度の変性的損失に対抗するのに効果的である。
【0026】
デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩はそれゆえ、サルコペニアの処置または予防における使用に適する。
【0027】
デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は特に、骨格筋の筋萎縮の処置または予防において有用である。
【0028】
本発明の別の態様は、神経筋疾患および/もしくは損傷、またはサルコペニアに罹患した対象における筋肉機能を改善することにおける使用のための、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩に関する。
【0029】
一実施形態において、対象は、神経筋疾患および/または損傷に罹患している。
【0030】
神経筋疾患は、急性状態、即ち急性神経筋疾患もしくは状態、または慢性状態、即ち慢性神経筋疾患もしくは状態のどちらかであり得る。
【0031】
神経筋疾患および/または損傷は、筋肉の機能を損なう様々な疾患および障害、および損傷、傷害または侵襲を包含する。そのような疾患および/または損傷は、筋肉に直接影響を及ぼす、即ち随意筋の病態である、または神経もしくは神経筋接合部の病態であるなどの、筋肉に間接的に影響を及ぼす、のいずれかであり得る。
【0032】
このため、一実施形態において、対象は、内在的な筋肉疾患および/または損傷に罹患している。
【0033】
そのような内在的な筋肉疾患の実例としては、筋ジストロフィー(MD)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、ALSおよび筋炎が挙げられる。
【0034】
MDは、経時的に骨格筋の衰弱および機能停止の増加をもたらす筋肉疾患群である。この疾患は、どの筋肉が主に影響されるか、虚弱の度合い、増悪の急速さ、および症状の開始時期において異なる。筋ジストロフィー群は、通常は9つの主なカテゴリーまたはタイプに分類される30の異なる遺伝性障害を含む。最も一般的なタイプは、DMDである。他のタイプとしては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD)、肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)、筋強直性ジストロフィーおよび眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)が挙げられる。
【0035】
DMDは、主として少年に影響を及ぼす筋ジストロフィーの重度のタイプである。筋肉虚弱は通常、4歳前後に始まり、急速に増悪する。筋肉損失は典型的には、最初、大腿および骨盤で生じ、続いて腕で生じる。この障害は、X染色体連鎖劣性である。これは、タンパク質ジストロフィンのための遺伝子の変異により引き起こされる。ジストロフィンは、筋線維の細胞膜を維持するために重要である。
【0036】
BMDは、脚および骨盤の緩やかに進行する筋肉虚弱を特徴とするX遺伝子連鎖劣性遺伝病である。それは、ジストロフィノパチーの一タイプである。これは、タンパク質ジストロフィンをコードするジストロフィン遺伝子の変異により引き起こされる。BMDは、両者がジストロフィン遺伝子の変異から生じるという点において、DMDに関連づけられるが、より軽度の経過を有する。
【0037】
先天性筋ジストロフィーは、出生時に存在する筋肉虚弱と、生検が行われる時点での年齢によりミオパチー性~明白なジストロフィー性にわたる筋肉生検における異なる変化を特徴とする常染色体劣性遺伝の筋肉疾患群である。
【0038】
遠位型筋ジストロフィーは、手または足での発病を特徴とする障害群である。多くのタイプは、ジスフェリンに関与する。遠位型筋ジストロフィーの1種である三好型ミオパチーは、ふくらはぎの筋肉で最初の虚弱を起こし、肢帯型筋ジストロフィーの一形態を担う同じ遺伝子の欠損により引き起こされる。
【0039】
エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィーは主に、骨格筋などの運動に用いられる筋肉に影響を及ぼし、かつ心筋にも影響を及ぼす状態である。臨床兆候としては、筋肉虚弱および消耗が挙げられ、四肢遠位筋で発病し、進行して肢帯筋に影響する。
【0040】
FSHDは、顔の骨格筋、肩甲骨を配置する骨格筋、および上腕骨と重なる上腕の骨格筋を優先的に衰弱させる筋ジストロフィーの一タイプである。FSHDは、DUX4遺伝子に関与する複合的遺伝子変化により引き起こされる。FSHDを有しないものに
おいて、DUX4は、ヒト発達の早期に発現され、成熟組織において後に抑制される。FSHDでは、DUX4は、不充分に消失され、それは、複数の異なる変異により引き起こされ得、最も一般的であるのは、DUX4周辺の領域におけるDNAの欠失である。この変異は、「D4Z4収縮」と称され、FSHD症例の95%を占める1型FSHD(FSHD1)を定義する。他の変異によるFSHDは、2型FSHD(FSHD2)として分類される。
【0041】
LGMDは、希少な筋ジストロフィーの遺伝的におよび臨床的に異質の群である。それは、臀部および肩の筋肉に主として影響を及ぼす進行性の筋肉消耗を特徴とする。LGMDは、遺伝質の常染色体パターンを有する。
【0042】
筋強直性ジストロフィーは、筋肉機能に影響を及ぼす長期遺伝性障害である。症状としては、徐々に増悪する筋肉損失および虚弱が挙げられる。筋肉は、多くの場合収縮し、弛緩できない。筋強直性ジストロフィーは、常染色体優性の障害である。2つの主なタイプ:DMPK遺伝子の変異による1型(DM1)、およびCNBP遺伝子の変異による2型(DM2)が存在する。
【0043】
OPMDは、筋ジストロフィーの希少な形態であり、症状は一般に個体が40~50歳である時に始まる。それは、常染色体優性の神経筋疾患または常染色体劣性であり得る。症状は、瞼、顔および喉の筋肉に影響を及ぼし、続いて骨盤および肩の筋肉が衰弱し;それは、機能性タンパク質への幾つかの遺伝子の翻訳を調節する、ゲノム中の短いリピート伸長が原因とされている。
【0044】
ルー・ゲーリック病とも称されるALSは、急速に進行する虚弱、筋萎縮および筋線維束性攣縮、筋痙性、構音障害、嚥下障害および呼吸困難を特徴とする様々な病因による消耗性疾患である。ALSは、最も一般的な運動ニューロン病(ALS、遺伝性痙性対麻痺(HSP)、原発性側索硬化症(PLS)、進行性筋萎縮(PMA)、進行性球麻痺(PSP)および仮性球麻痺)である。ALSの病態における主たる特徴は、脊髄の前角および脳幹の運動核における運動神経細胞の損失である。これは、対応する筋肉の続発的萎縮(筋萎縮症)をもたらす。神経炎症は、ALSの病理学的特徴であり、ニューロン傷害の部位での活性化マクログリアおよびT細胞浸潤を特徴とする。「側索硬化症」は、皮質脊髄路変性(脊髄中で側方に位置する)を指す。実際に、ミエリン損失は、皮質脊髄路で起こる。ALSの硬化症、つまり硬質化は、脊髄側柱または皮質脊髄路に関与し、続発的現象である。
【0045】
一実施形態において、対象は、中枢のおよび/または末梢の神経系疾患および/または損傷に罹患している。
【0046】
一実施形態において、中枢のおよび/または末梢の神経系疾患および/または損傷は、卒中、脊髄傷害、外傷性脳傷害(TBI)、脳性麻痺、シャリコー・マリー・トゥース病(CMT)、原発性側索硬化症(PLS)、脊髄性筋萎縮(SMA)、神経絞扼、および手術の合併症からなる群から選択される。
【0047】
脳または脊髄におけるニューロンへの損傷は、顕著な筋萎縮を引き起こし得る。これは、脳血管の偶発的損傷、卒中または脊髄傷害でなどの、局所的筋萎縮および虚弱または麻痺であり得る。TBIまたは脳麻痺でなどのより広範囲の損傷は、全身性筋萎縮を引き起こし得る。
【0048】
頭蓋内傷害としても知られるTBIは、外部の力により引き起こされる脳への傷害である。TBIは、軽度~重度TBIにわたる重症度;メカニズム、閉鎖性もしくは貫通性の頭部外傷;または他の特色、例えば特定の場所で起こるか、もしくは広範囲の領域にわたり起こるか、に基づき分類され得る。
【0049】
CMTは、遺伝性運動および感覚ニューロパチーの一種であり、身体の様々な部分にわたる筋肉組織および感触の進行性損失を特徴とする末梢神経系の種々の遺伝障害の一群である。CMTは以前は、筋萎縮のサブタイプとして分類された。
【0050】
PLSは、随意筋運動において緩やかに進行する衰弱を伴う希少な神経筋疾患である。PLSは、腕、脚、および顔において、皮質脊髄ニューロンとも呼ばれる上位運動ニューロンに影響を及ぼす。
【0051】
常染色体劣性近位脊髄性筋萎縮および5q脊髄性筋萎縮とも呼ばれるSMAは、運動ニューロンの損失および進行性の筋肉消耗を特徴とする希少な神経筋障害であり、早期死亡につながることが多い。この障害は、全ての真核細胞で広く発現されかつ運動ニューロンの生存に必要なタンパク質SMNをコードする、SMN1遺伝子の遺伝性欠損により引き起こされる。このタンパク質の低いレベルは、脊髄の前角の神経細胞の機能損失と、それに続く体全体の骨格筋萎縮をもたらす。
【0052】
一実施形態において、対象は、遺伝性ミオパチーおよび神経ミオパチーと全く別の病因による疾患サルコペニアに罹患している。
【0053】
一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩が、対象への全身投与のために配合される。一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩が、全身投与の例として非経口投与のために配合される。
【0054】
非経口投与経路の例としては、静脈内(i.v.)投与、動脈内投与、筋肉内投与、脳内投与、脳室内投与、髄腔内投与および皮下(s.c.)投与が挙げられる。
【0055】
一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は好ましくは、対象への静脈内(i.v.)または皮下(s.c.)投与のために配合される。したがってi.v.およびs.c.投与は、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の全身投与の好ましい例である。特別な実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、対象へのs.c.投与のために配合される。
【0056】
一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、水性注射溶液として、好ましくは水性i.v.またはs.c.注射溶液として配合される。このため、実施形態のデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は好ましくは、選択された溶媒または賦形剤を含む水性注射溶液として配合される。溶媒は有利には、水性溶媒、特に緩衝溶液である。そのような緩衝溶液の非限定的例は、クエン酸一水和物(CAM)緩衝液などのクエン酸緩衝液、またはリン酸緩衝液である。例えば、実施形態のデキストラン硫酸は、0.9%NaCl生理食塩水などの生理食塩水中に溶解され得、その後場合により、75mM CAMで緩衝され、水酸化ナトリウムを用いてpHを約5.9に調整され得る。生理食塩水、即ちNaCl(aq)などの、水性注射溶液を含む、非緩衝溶液もまた、可能である。その上、CAMおよびリン酸緩衝液以外の緩衝系が、緩衝された溶液が望ましいならば用いられ得る。
【0057】
実施形態は、注射に限定されず、鼻内、口腔、皮膚、気管、気管支投与、または外用薬投与を含む他の投与経路が、代わりに利用され得る。筋肉内投与などの、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の局所投与もまた、可能である。
【0058】
活性化合物であるデキストラン硫酸はその後、固有の投与経路に基づき選択された適切な賦形剤、溶媒または担体と共に配合される。
【0059】
担体は、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の送達効率および/または有効性を改善するためのビヒクルとして働く物質を指す。
【0060】
賦形剤は、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩と組み合わせて配合される薬理学的不活性物質を指し、例えば、増量剤、フィラー、希釈剤および薬物吸収もしくは溶解度を促すために、または他の薬物動態的配慮のために用いられる製品を含む。
【0061】
デキストラン硫酸の医薬的に許容できる塩は、本明細書に開示された効果を有し、かつ投与用量(複数可)でレシピエントに有害でないデキストラン硫酸の塩を指す。
【0062】
デキストラン硫酸は好ましくは、いわゆる低分子量デキストラン硫酸である。
【0063】
以下において、デキストラン硫酸の(平均)分子量および硫黄量への参照は、デキストラン硫酸の医薬的に許容できる塩にも適用される。このため、デキストラン硫酸の医薬的に許容できる塩は、以下の実施形態で議論される平均分子量および硫黄量を有する。
【0064】
デキストラン硫酸は、硫酸化多糖、特に硫酸化グルカン、即ち、多くのグルコース分子で作製された多糖である。本明細書で定義される平均分子量は、個々の硫酸化多糖がこの平均分子量と異なる分子量を有する場合があるが、平均分子量が硫酸化多糖の分子量平均値を表す、ということを示す。これはさらに、デキストラン硫酸試料のためのこの平均分子量前後の分子量の天然分布が存在することを示唆する。
【0065】
デキストラン硫酸の平均分子量(Mw)は典型的には、ゲル排除/浸透クロマトグラフィー、光散乱法または粘度などの、間接法を用いて決定される。そのような間接法を用いる平均分子量の決定は、カラムおよび溶離液の選択、流速、較正手順などを含む、複数の因子に依存するであろう。
【0066】
数値よりむしろ分子サイズに左右される方法、例えば光散乱法およびサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法で典型的な平均分子量
【数1】
。正規分布が想定されるなら、Mのそれぞれの側で同じ重量であり、即ちM未満の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量は、Mを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の総重量と等しい。
【0067】
一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、好ましくは40000Da以下の、より好ましくは20000Da以下の、特に10000Da以下の平均分子量を有する。
【0068】
10000Daを超える平均分子量のデキストラン硫酸は一般に、より低い平均分子量を有するデキストラン硫酸に比較してより低い効果対毒性プロファイル(effect vs. toxicity profile)を有する。これは、対象に安全に投与され得るデキストラン硫酸の最大用量が、好ましい範囲内の平均分子量を有するデキストラン硫酸分子に比較してより大きいデキストラン硫酸分子(>10000Da)について、より低いことを意味する。結果として、そのようなより大きなデキストラン硫酸分子は、デキストラン硫酸がインビボで対象に投与される場合の臨床使用にあまり適さない。
【0069】
一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、2000~10000Daの範囲内の平均分子量を有する。別の実施形態において、平均分子量は、2500~10000Daの範囲内である。特別な好ましい実施形態において、平均分子量は、3000~10000Daの範囲内である。
【0070】
任意であるが好ましい実施形態において、デキストラン硫酸分子の40%未満が、3000Da未満の分子量を有し、好ましくはデキストラン硫酸分子の30%未満または25%未満などの35%未満が、3000Da未満の分子量を有する。追加でまたは代わりに、デキストラン硫酸分子の20%未満が、10000Daを超える分子量を有し、好ましくはデキストラン硫酸分子の10%未満または5%未満などの15%未満が、10000Daを超える分子量を有する。こうして、特別な実施形態において、デキストラン硫酸は、平均分子量前後の実質的に狭い分子量分布を有する。
【0071】
特別な実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の平均分子量は、3500~8000Daの範囲内などの、3500~9500Daの範囲内である。
【0072】
別の特有の実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の平均分子量は、4500~7500Daの範囲内である。
【0073】
更なる特有の実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の平均分子量は、4500~5500Daの範囲内である。
【0074】
こうして、目下好ましい実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の平均分子量は、好ましくはおよそ5000Daまたは5000±500Daなどの、5000Daに少なくとも実質的に近似した、例えば5000±400Da、好ましくは5000±300Daまたは5000±200Da、5000±100Daなどである。こうして、一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の平均分子量は、4.5kDa、4.6kDa、4.7kDa、4.8kDa、4.9kDa、5.0kDa、5.1kDa、5.2kDa、5.3kDa、5.4kDaまたは5.5kDaである。
【0075】
特有の実施形態において、先に提示されたデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の平均分子量は、平均Mであり、好ましくはゲル排除/浸透クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、光散乱法または粘度に基づく方法により決定される。
【0076】
デキストラン硫酸は、デキストランのポリアニオン性誘導体であり、硫黄を含有する。実施形態のデキストラン硫酸の平均分子量は、好ましくは15~20%、より好ましくはおよそ17%であり、一般的にグルコシル残基あたり約2つまたは少なくとも2つの硫酸基に対応する。特有の実施形態において、デキストラン硫酸の硫黄含量は好ましくは、対応するデキストラン分子の硫黄量の最大に可能な度合いに等しいか、またはそれに少なくとも近い。
【0077】
特有の実施形態において、実施形態のデキストラン硫酸は、1850~3500Daの範囲内の、核磁気共鳴(NMR)分光法により測定される数平均分子量(M)を有する。
【0078】
末端基アッセイ、例えばNMR分光法またはクロマトグラフィーにより典型的に得られる数平均分子量:
【数2】
。正規分布が想定されるなら、同じ数のデキストラン硫酸分子が、Mのそれぞれの側で見出され得、即ちM未満の分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数は、Mを超える分子量を有する試料中のデキストラン硫酸分子の数と等しい。
【0079】
好ましい実施形態において、実施形態のデキストラン硫酸は、1850~2500Daの範囲内の、好ましくは1850~2300Daの範囲内の、より好ましくは1850~2000Daの範囲内の、NMR分光法により測定されるMを有する。
【0080】
特有の実施形態において、実施形態のデキストラン硫酸は、2.5~3.0の範囲内の、好ましくは2.5~2.8の範囲内の、より好ましくは2.6~2.7の範囲内の、グルコース単位あたりの平均硫酸数を有する。
【0081】
特有の実施形態において、実施形態のデキストラン硫酸は、4.0~6.0の範囲内の、好ましくは4.5~5.5の範囲内の、より好ましくは5.0~5.2の範囲内の、約5.1などの、グルコース単位の平均数を有する。
【0082】
別の特有の実施形態において、実施形態のデキストラン硫酸は、平均で5.1グルコース単位および2.6~2.7の、グルコース単位あたりの平均硫酸数を有し、1850~2000Daの範囲内の、NMR分光法により測定される数平均分子量(M)を典型的にもたらす。
【0083】
実施形態により用いられ得るデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、WO2016/076780号に記載される。
【0084】
実施形態によるデキストラン硫酸は、デキストラン硫酸の医薬的に許容できる塩として提供され得る。そのような医薬的に許容できる塩としては、例えば、デキストラン硫酸のナトリウムまたはカリウム塩が挙げられる。特有の実施形態において、医薬的に許容できる塩は、デキストラン硫酸のナトリウム塩である。
【0085】
特有の実施形態において、Na対イオンを含むデキストラン硫酸のナトリウム塩は、2000~2500Daの範囲内の、好ましくは2100および2300Daの範囲内の、NMR分光法により測定されるMを有する。
【0086】
一実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の有効量が、対象に投与される。本明細書で用いられる有効量は、対象に投与されると対象の筋肉機能および状態の改善に関係する医学的効果を引き起こすことが可能なデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の治療的有効量に関する。そのような治療的有効量は好ましくは、血清クレアチンキナーゼまたはミオグロビンなどの筋肉機能に関連する少なくとも1種のバイオマーカの変化を誘導できるデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の量である。デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の治療的有効量は、医師により決定され得、場合により、対象の性別、対象の体重、対象の年齢、神経筋疾患または損傷のタイプ、および神経筋疾患または損傷の重症度の少なくとも1つに基づいて選択されてよい。
【0087】
実施形態のデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の適切な用量範囲は、対象のサイズおよび体重、対象が処置される状態、ならびに他の判断材料により変動してよい。特にヒト対象では、可能な投与量範囲は、1μg/kg~150mg/kg体重、好ましくは10μg/kg~100mg/kg体重であり得る。
【0088】
好ましい実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、0.05~50mg/kg対象体重、好ましくは0.05または0.1~40mg/kg対象体重、より好ましくは0.05もしくは0.1~30mg/kg、または0.1~25mg/kg、または0.1~15mg/kg、または0.1~10mg/kg対象体重の範囲内の投与量で投与されるように配合される。デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の目下好ましい投与量は、0.5~5mg/kg対象体重である。
【0089】
デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の投与は、必ずしも筋萎縮の処置に限定される必要はなく、代わりに、または追加で防護に用いられ得る。言い換えれば、実施形態のデキストラン硫酸は、筋萎縮を発症するリスクの高い対象に投与され得る。
【0090】
筋萎縮の処置は、筋萎縮の阻害も包含する。本明細書で用いられる筋萎縮の阻害は、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩が、100%処置または治癒が必ずしも起こらないとしても、症状および状態の影響を低減することを示唆する。例えば、筋萎縮の阻害は、筋肉機能の改善に関与してもよい。
【0091】
実施形態のデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、単回注射またはボーラス注射の形態などの、単回の投与回数で投与され得る。このボーラス用量は、対象に極めて急速に注射され得るが、有利には経時的に輸注され、それによりデキストラン硫酸溶液は、対象に5~10分間またはより長時間など、数分かけて輸注される。実施形態のデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の徐放配合物もまた、長期放出を実現するために用いられ得る。
【0092】
あるいは実施形態のデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、処置期間中に数回、即ち少なくとも2回投与され得る。こうして、実施形態のデキストラン硫酸は、実例として、1日あたり1回または数回、1週あたり1回または数回、1月あたり1回または数回、投与され得る。
【0093】
特有の実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、1週のまたは少なくとも連続2~5週などの、複数の連続する週の間の1週あたり1~14回、好ましくは1~7回の投与のために配合される。特有の実施形態において、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩は、複数の連続する日、例えば2~14日などの、複数の日の間の1日あたり1~2回の投与のために配合される。
【0094】
デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩のボーラス注射を、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の1回または複数回の追加的投与と組み合わせることも、可能である。
【0095】
一実施形態において、対象は、哺乳動物対象、好ましくは霊長類、より好ましくはヒト対象である。実施形態は、特にヒト対象における筋萎縮の処置に向けられるが、実施形態は、加えて、または代わりに獣医学的適用に用いられてもよい。動物対象の非限定的例としては、非ヒト霊長類、ネコ、イヌ、ブタ、ウマ、マウス、ラット、ヤギ、モルモット、ヒツジおよびウシが挙げられる。
【0096】
本発明はまた、サルコペニアに罹患した対象における筋萎縮の処置または予防のための、あるいは神経筋疾患および/もしくは損傷またはサルコペニアに罹患した対象における筋肉機能を改善するための、薬品の製造におけるデキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩の使用に関する。
【0097】
本発明はまた、筋萎縮を処置または予防するための方法を定義する。方法は、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩をサルコペニアに罹患した対象に投与して、筋萎縮を処置または予防することを含む。本発明はさらに、筋肉機能を改善する方法を定義する。方法は、デキストラン硫酸またはその医薬的に許容できる塩を神経筋疾患および/もしくは損傷またはサルコペニアに罹患した対象に投与して、対象の筋肉機能を改善することを含む。
【0098】
実施例
ALSでは、上位運動ニューロンおよび下位運動ニューロンの両方が、変性しまたは死滅し、筋肉へのメッセージ送信を停止する。機能できず、除神経筋は、徐々に衰弱し、攣縮し始め(線維束性攣縮と呼ばれる)、痩せ衰える(萎縮)。最終的に、脳は、随意運動を開始および制御するその能力を喪失する。徐々に、随意調節下の全ての筋肉が影響を受け、個体は体力を失い、発語、食事、運動の能力、および呼吸の能力までも失う。
【0099】
筋萎縮および身体活動性の損傷は、ALSの早期症状であり、この疾患の特徴である筋肉の除神経を表している。筋肉の除神経は、複数の病理学的プロセスの結果である、図1を参照されたい:
1)星状細胞は、神経機能を支援できず、グルタミン酸クリアランスの損傷が、神経興奮毒性をもたらす;
2)タンパク質分解経路における欠損およびRNAプロセシングの乱れは、タンパク質凝集の形成、RNA毒性およびミトコンドリア機能不全をもたらす;
3)主なM1活性化ミトコンドリアによる炎症促進性サイトカインの分泌は、炎症環境の発達に寄与する;および
4)軸索構成および輸送機能の不全が、乏突起膠細胞の生理学的役割の変化と共に、5)シナプス機能不全、除神経、および最終的に筋萎縮、をもたらす。
【0100】
実施例1
縦断的設計を利用して、この試験は、デキストラン硫酸投与の前および処置の開始に続く異なる時間の後に、ALS患者における選択された血清代謝産物の変化を決定することを目的とした。測定された代謝産物における変化は、潜在的疾患の変化を支えるデキストラン硫酸への患者の生化学的応答、およびこのALS患者集団における薬物の作用機序を示した。
【0101】
材料と方法
デキストラン硫酸(Tikomed AB、スウェーデン ヴィケン、WO2016/076780号)が、ALSに罹患したヒト患者8名に10週にわたり週1回1日1回の皮下注射により2mg/kg/日で投与された。
【0102】
末梢静脈血試料が、標準の駆血帯の手順を利用して、血清セパレータおよび血餅活性化剤(clot activator)(Greiner-Bio One GmbH、オーストリア クレムスミュンスター)を含有する1本のVACUETTE(登録商標)ポリプロピレン管の中に、デキストラン硫酸投与前(0週目)および少なくとも15分の完全な休息後にデキストラン投与後(5週目および10週目)の患者の肘前静脈から採取された。室温(20~25℃)での30分後に、採血物は、1890×gで10分間遠心分離されて、血清アリコートを得た。
【0103】
500μlの血清アリコートは、1mlのHPLC等級アセトニトリルを補充され、60秒間ボルテックス処理され、ベンチトップ遠心分離機の最大速度で遠心分離されて、タンパク質を沈殿させた。上清が、有機溶媒を除去するために多量のHPLC等級クロロホルムで洗浄され、遠心分離され、かつ上部の水相が、試料を同定するために明瞭に標識された異なる試験管に移され、異なる水溶性化合物を決定するために分析されるまで、-80℃で貯蔵された。
【0104】
ALSAQ-40は、処置前、ならびにその後の10週間の処置および追跡調査期間の来院時に週1回、評定された。
【0105】
結果
乳酸が、正常患者およびALS患者の運動中に、筋肉により生成され、血中に蓄積される。血清乳酸レベルの上昇は、筋肉機能/使用の改善を示す。
【0106】
図2は、デキストラン硫酸投与前(0週目)および投与後のALS患者の血清乳酸レベルを示す。データは、主に筋肉細胞の代謝に由来する循環乳酸レベルが、デキストラン硫酸投与の回数の増加と共に有意に上昇したことを示す(0週目に比較して有意に異なる、p<0.01)。5週間のデキストラン硫酸処置後に、血清乳酸レベルは、1.78±0.59から2.31±1.02μmol/Lへと29.8%上昇し(p<0.01、ウィルコクソン符号順位検定)、10週間のデキストラン硫酸処置後には、血清乳酸レベルは、3.02±1.59μmol/Lへと70%上昇した。こうして、デキストラン硫酸投与は、ALS患者において上昇された筋肉活動性をもたらした。
【0107】
「日常生活動作/自立」(ADL)および「身体可動性」(PM)という名称のALSAQ-40サブスコアは、自分の身体活動性および自立のレベルの患者の見方を表す。スコアの降下は、身体活動性の改善を表す。10週間のデキストラン硫酸処置後に、ADLサブスコアは、図3に参照される通り58.9±21.4から44.4±24.7へと18.6%有意に低下し(P < 0.05)、PMサブスコアは、27.2±22.2から22.7±20.2へと16%低下した。これらの結果は、処置の間の患者の身体活動性の改善を示した。
【0108】
実施例2
皮下投与されたデキストラン硫酸の安全性、忍容性および可能な効能が中等度進行速度のALS患者で評定される、第IIa相の単施設非盲検単一群試験の形態の臨床試験。臨床試験は、スウェーデン イエーテボリのSahlgrenska University Hospitalで実行され、Ethics Committee of the University of GothenburgおよびSwedish Medical Products Agencyにより管理および認可された。
【0109】
材料および方法
デキストラン硫酸(Tikomed AB、スウェーデン ヴィケン、WO2016/076780号)が、ALSに罹患したヒト患者13名に5週間にわたり週1回、1mg/kgで1日当たりの皮下注射により投与された。
【0110】
血液試料が、定義された試験間隔で静脈カテーテルによりバキュテーナ管中に採取された。血漿の検査分析は、Sahlgrenska University HospitalのClinical Chemistry Laboratoryにより採取の直後に実施された。
【0111】
ALSFRS-Rが、処置前、ならびにその後の5週間の処置および追跡調査期間の来院時に週1回、評定された。
【0112】
結果
ミオグロビンは、心臓および骨格筋組織で典型的に見出されるタンパク質である。ミオグロビンレベルの上昇が、傷害/疾患が筋肉を損傷させると、血流中で見出される。血清ミオグロビンレベルの低減は、筋肉変性の低減を示す。
【0113】
患者からの血清ミオグロビンデータは、4週間のデキストラン硫酸処置後の、133.92±126.28から103.69±72.16μg/Lへのミオグロビンレベルの統計学的に有意な30%低減(1日目に対比してp=0.021)を明らかにし、処置の間の患者の筋肉組織変性おび筋萎縮の速度の薬物関連性低減を示した、図4を参照されたい。
【0114】
筋肉酵素クレアチンキナーゼの血中の出現は一般に、筋肉損傷のバイオマーカであり、かつALSを含む筋萎縮に関与する医学的状態の診断に特に有用であると見なされる。クレアチンキナーゼレベルの上昇は、ALS患者に共通する特徴である。血清クレアチンキナーゼレベルの低減は、疾患関連のミオパチーの緩和を示す。
【0115】
患者からの血清クレアチンキナーゼデータは、4週間のデキストラン硫酸処置後に、7.15± 5.74から6.2±5.08μkat/Lへの13.3%の統計学的に有意なレベル低減(p<0.05、ウィルコクソン符号順位検定)を明らかにし、処置の間の筋萎縮の薬物関連性低減を示した、図5を参照されたい。
【0116】
肝細胞増殖因子(HGF)は、強力な神経保護性および筋原性薬剤として作用する天然由来の増殖因子であり、ALSモデルを含む数多くの動物モデルで変性疾患進行に対して有用であることが示されている。興味深いことに、Hauerslev S.ら(2014, Plos One 9:e100594)は、筋萎縮のマウスモデルにおいて2週間の組換えHGF処置後に筋肉量の18%増加を実証した。HGF処置が筋萎縮のこの動物モデルで骨格筋においてそのような急速な再生応答を誘導し得るという観察は、ALS患者においてデキストラン硫酸に応答して観察される急速な筋肉応答に関連する。
【0117】
ALS患者からの薬物動態データは、デキストラン硫酸注射後に820±581から37863±14235μg/Lへの薬理学的に関連する循環HGFレベルの統計学的に有意な上昇(p<0.001)を明らかにした、図6を参照されたい。これは、デキストラン硫酸投与後の筋萎縮に及ぼす直接的筋原性および間接的神経栄養性のHGF介在性効果の潜在能力を示している。
【0118】
筋肉変性の低減の生化学的証拠は、筋肉機能改善の臨床的観察を裏づける。例えば、ALSFRS-Rでは、頸部、胴、腰仙部、および呼吸器の筋肉により介在される機能が、それぞれ3項目により評定され、これらのカテゴリーにおけるスコアは、筋肉強度の客観的尺度との密接な一致を示す。注目すべきことに、重度球麻痺の患者2名が、5週間の処置期間の間にこの症状のほぼ完全な解消を体験した。
【0119】
実施例3
この実施例の目的は、「皮下投与ILB(登録商標)の安全性、忍容性およびな効能が筋萎縮性側索硬化症患者で評価される単施設非盲検単一群試験」というタイトルの治験に参加したスウェーデン人ALS患者コホートからの血清試料中の血清代謝産物の濃度に及ぼすデキストラン硫酸反復投与の影響を評価することであった。縦断的設計を利用して、この試験は、週1回デキストラン硫酸処置の前および後に、各ALS患者において選択された血清代謝産物の変化を決定することを目的とした。測定された代謝産物における変化は、潜在的な疾患の変化を支えるデキストラン硫酸への患者の生化学的応答、およびこの患者集団における薬物の作用機序を示す。
【0120】
材料と方法
最初のスクリーニングでの来院後に、患者は、下腹部の皮下脂肪に生理食塩水中の1.0mg/kg体重のデキストラン硫酸(ILB(登録商標)、Tikomed AB、スウェーデン ヴィケン、WO2016/076780号)単回注射の週5回投与を受けた。
【0121】
末梢静脈血試料が、標準の駆血帯の手順を利用して、肘前静脈から血清セパレータおよび血餅活性化剤(Greiner-Bio One GmbH、オーストリア クレムスミュンスター)を含有する1本のVACUETTE(登録商標)ポリプロピレン管の中に、少なくとも15分の完全な休息後の患者から採取された。室温での30分後に、採血物が、1890×gで10分間遠心分離され、得られた血清試料は、分析まで-20℃で貯蔵された。
【0122】
解凍後に、各血清試料の500μlのアリコートは、HPLC等級アセトニトリル1mlを補充され、60秒間ボルテックス処理され、ベンチトップ遠心分離機の最大速度で遠心分離されて、タンパク質を沈殿させた。上清が、有機溶媒を除去するために多量のHPLC等級クロロホルムで洗浄され、遠心分離され、上部の水相が、試料を同定するために明瞭に標識された異なる試験管中に移され、異なる水溶性化合物を決定するために分析されるまで-80℃で貯蔵された。
【0123】
各血清試料の約300μlの第二のアリコットが、遮光され、その後、他の箇所に詳細に記載された方法を利用して脂溶性抗酸化剤を抽出するために処理された(Lazzarino et al., Single-step preparation of selected biological fluids for the high performance liquid chromatographic analysis of fat-soluble vitamins and antioxidants. J Chromatogr A. 2017; 1527: 43-52)。手短に述べると、試料は、1mlのHPLC等級アセトニトリルを補充され、60秒間、激しくボルテックス処理され、撹拌下にて水浴中で37℃で1時間インキュベートされて、脂質溶解性化合物を完全に抽出させた。試料はその後、4℃および20690×gで15分間遠心分離されてタンパク質を沈殿させ、透明な上清が、脂溶性ビタミンおよび抗酸化剤のHPLC分析まで-80℃で保存された。
【0124】
脱タンパク質化血清試料において、以下の水溶性化合物が、他の箇所に記載される方法に従ってHPLCにより分離されおよび定量された(Tavazzi et al., Simultaneous high performance liquid chromatographic separation of purines, pyrimidines, N-acetylated amino acids, and dicarboxylic acids for the chemical diagnosis of inborn errors of metabolism. Clin Biochem. 2005; 38: 997-1008; Romitelli et al., Comparison of nitrite/nitrate concentration in human plasma and serum samples measured by the enzymatic batch Griess assay, ion-pairing HPLC and ion-trap GC-MS: The importance of a correct removal of proteins in the Griess assay. J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 2007; 851: 257-267;Amorini et al., Metabolic profile of amniotic fluid as a biochemical tool to screen for inborn errors of metabolism and fetal anomalies. Mol Cell Biochem. 2012;359: 205-216):ヒポキサンチン、キサンチン、尿酸、マロンジアルデヒド(MDA)、亜硝酸、硝酸、N-アセチルアスパラギン酸(NAA)、シトルリン(CITR)、アラニン(ALA)、およびオルニチン(ORN)。
【0125】
脱タンパク質化血清試料中の以下の脂溶性ビタミンおよび抗酸化剤が、過去に記載された方法に従ってHPLCにより分離されおよび定量された(Lazzarino et al., Cerebrospinal fluid ATP metabolites in multiple sclerosis. Mult Scler J. 2010; 16: 549-554):α-トコフェロール(ビタミンE)およびγ-トコフェロール。
【0126】
統計解析
処置前と処置後の亜群の比較が、対応のあるサンプルでの両側スチューデントt検定により実施された。各サブグループと対照健常対象の群の比較は、対応のない観察での両側ノンパラメトリック・マン・ホイットニーU検定により実行された。p<0.05を有する差が、統計学的に有意と見なされた。
【0127】
結果
統計解析により、2種の処置前および処置後の患者亜群は、NAA(図7)、尿酸(図8)、MDA(図12)、硝酸(NO)(図10)亜硝酸+硝酸(NO+NO)(図11)、総オキシプリン(図9)、ALA(図13)、CITR(図14)、ORN/CITR比(図15)、およびビタミンE(α-トコフェロールおよびγ-トコフェロール)(図16および17)の有意に異なる血清濃度を有した。
【0128】
前述の化合物のデータが、図7~17の箱ひげ図に示されており(最小値、最大値、中央値、25%および75%パーセンタイル値を報告)、そこにイタリア人患者コホートに由来する組織学的データセットからの対照健常対象(25~65歳の範囲内)の値も含まれ、両群(処置前および処置後)の患者に比較された。全ての図において、対照の値に関する差が、1つのアスタリスク()で示され、2つの患者亜群の間の差は、2つのアスタリスク(**)で示される。
【0129】
ALS患者は、おそらく生存能力のあるニューロンの減少に由来して、対照健常対象で測定されたレベルより高い血清NAAレベルを有した(図7)。有意に低いNAA値が、デキストラン硫酸処置後に測定され、このため薬物の細胞生存に及ぼす保護効果を示唆した。
【0130】
ALS患者は、対照で測定された濃度より高い血清尿酸濃度および総オキシプリン(ヒポキサンチン+キサンチン+尿酸)濃度(図8および9)を有し、エネルギー代謝不均衡の結果、アデニンヌクレオチド分解経路の活性化をもたらし、結果的に循環プリン化合物の増加を有した。デキストラン硫酸処置は、これらのパラメータの両方を減少させ、このため細胞エネルギー状態の上昇を伴うミトコンドリア機能の好転を示唆した。
【0131】
ALS患者は、対照で測定されたものより高い血清硝酸濃度(図10)、亜硝酸+硝酸濃度(図11)およびMDA濃度(図12)を有しており、ROS介在性脂質過酸化(MDA)のおよび一酸化窒素代謝(硝酸および亜硝酸+硝酸)のこれらの安定な最終産物の循環レベルの上昇を引き起こす、持続的な酸化/ニトロソ化ストレスを強く示唆した。デキストラン硫酸処置は、これらのパラメータのレベルを低下させ、このため、化合物の直接的スカベンジング活性、BDNFなどの遺伝子への有益な影響、スカベンジャー酵素レベルの調節、および/またはより低レベルのROS生成を最終的に引き起こすミトコンドリア機能への有益な影響のいずれかを示唆した。
【0132】
ALS患者は、より高い比率の筋肉のタンパク質分解のため、対照で測定されたものより高い血清ALA濃度を有した(図13)。デキストラン硫酸処置は、循環ALAの値を正常化し(対象のものと等しく、かつ処置前亜群のものより有意に低く)、筋肉代謝および機能への薬物の有益作用を示唆した。
【0133】
ALS患者は、対照で測定されたものより高い血清CITR濃度(図14)および低いORN/CITR比(図15)値を有し、それにより過剰な一酸化窒素生成、およびそれに続く活性窒素種(RNS)増加により引き起こされる持続的ニトロソ化ストレスの存在を裏づけた。デキストラン硫酸処置は、おそらくニトロソ化ストレスを惹起することを担う酵素である誘導性一酸化窒素合成酵素の発現を低下させることにより、両方のパラメータを好転させた。
【0134】
ALS患者は、対照で測定されたものより低い血清α-トコフェロールおよびγ-トコフェロール(ビタミンEの2つの主な形態)濃度の両方を有し(図16および17)、それにより膜リン脂質の脂肪酸のROS介在性過酸化の遮断物質として重大な役割を果たす主な脂溶性抗酸化剤の有意な減少を示唆した。
【0135】
実施例4
ラットにおける重度の外傷性脳傷害(sTBI)後のグルタミン酸興奮毒性およびミトコンドリア機能に及ぼす1日1回のデキストラン硫酸皮下注射の影響が、凍結脳試料の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析により評価された。結果は、デキストラン硫酸が、ミトコンドリア機能を妨害してエネルギー代謝を改善し、またグルタミン酸興奮毒性を低下させることを示唆する。
【0136】
材料と方法
sTBIの誘導および薬物投与プロトコル
この試験で用いられた実験プロトコルは、動物飼育のための国際規準およびガイドラインに従って、Ethical Committee of the Catholic University of Romeにより認可された。体重(b.w.)300~350gの雄Wisterラットが、管理された環境で標準実験飼料および水を随意に供給された。
【0137】
ラットは、3群に分別された:
1)sTBIに供され、30分後に薬物投与され、TBI後2日目に殺処分されたn=6動物(急性期1)
2)重度TBIに供され、30分後に薬物投与され、TBI後7日目に殺処分されたn=6動物(急性期2)
3)重度TBIに供され、3日後に薬物投与され、TBI後7日目に殺処分されたn=6動物(慢性期)。
【0138】
麻酔混合物として、動物は、35mg/kg b.w.のケタミンおよび0.25mg/kg b.w.のミダゾラムをi.p.注射により受けた。sTBIは、「落錘」衝撃加速度モデルに従って、あらかじめ頭蓋骨に固定された金属盤によって保護されたラット頭部に、450g重量を2mの高さから落下させることにより誘導された(Marmarou et al., A new model of diffuse brain injury in rats. Part I: Pathophysiology and biomechanics. J Neurosurg. 1994; 80: 291-300)。頭蓋骨骨折、てんかん発作、鼻血に見舞われたラット、または衝撃により生き残らなかったラットは、試験から除外された。各処置期間の終了時に、ラットは、再度麻酔され、その直後に殺処分された。
【0139】
薬物処置は、0.5mlのデキストラン硫酸(Tikomed AB、スウェーデン ヴィケン、WO2016/076780号;15mg/kg)の皮下注射であり、前述の計画プロトコルに従って投与された。
【0140】
脳組織の処理
インビボ頭蓋切除術が、麻酔の間に全ての動物で実施され、ラットの頭蓋骨を注意深く取り除いた後、脳が、露出され、手術用スパーテルで取り出され、迅速に液体窒素中に投入された。湿重量(w.w.)決定の後、組織調製が、過去に開示された通り実行された(Tavazzi et al., Cerebral oxidative stress and depression of energy metabolism correlate whith severity of diffuse brain injury in rats. Neurosurgery. 2005; 56: 582-589; Vagnozzi et al., Temporal window of metabolic brain vulnerability to concussions: mitochondrial-related impairment-part I. Neurosurgery. 2007; 61: 379-388; Tavazzi et al., temporal window of metabolic brain vulnerability to concussions: oxidative and nitrosative stresses-part II. Neurosurgery. 2007; 61: 390-395; Amorini et al., Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids. J Cell Mol Med. 2017; 21: 530-542.)。手短に述べると、全脳ホモジネーションが、CHCN+10mM KHPO、pH7.40(3:1;v:v)により構成された7mlの氷冷され窒素飽和された沈殿溶液で、24000rpm/分に設定されたUltra-Turrax(Janke & Kunkel、ドイツ スタウフェン)を用いて実施された。20690×gおよび4℃で10分間の遠心分離後に、透明の上清は、保存され、ペレットは、3mlの沈殿溶液を補充され、上記の通り再度ホモジネートされた。2回目の遠心分離が、実施され(20690×g、10分間、4℃)、ペレットが、保存され、以前に得られたものとまとめられた上清が、2倍容量のHPLC等級CHClと共に激しく撹拌することにより抽出され、上記の通り遠心分離された。水溶性低分子量化合物を含有する上部の水相が、収集され、クロロホルム洗浄にさらに2回供され(この手順は、緩衝された組織抽出物からの全ての有機溶媒および任意の脂質可溶性化合物の除去を可能にする)、最後に水性10%組織ホモジネートを有するように10mM KHPO、pH7.40で容量を調整され、アッセイまで-80℃で保存された。
【0141】
プリン-ピリミジン代謝産物のHPLC分析
各脱タンパク質化組織試料のアリコートが、0.45μmのHV Milliporeフィルターで濾過され、独自のガードカラムを備え、かつ高感度ダイオードアレイ検出器(5cm光路フローセルを具備した)を有して200~399nmの間の波長に設定されたSurveyor System(Thermo Fisher Scientific、イタリア ミラノ ローダノ)からなるHPLC装置に接続された、Hypersil C-18、250×4.6mm、5μm粒子径カラム(Thermo Fisher Scientific、イタリア ミラノ ローダノ)にロードされた(200μl)。データの取得および解析は、HPLC製造業者により提供されたChromQuest(登録商標)ソフトウエアパッケージを用いるPCにより実施された。
【0142】
プリン-ピリミジンプロファイル(以下に列挙)に属し、かつ組織エネルギー状態、ミトコンドリア機能に関係し、かつ酸化-ニトロソ化ストレスに関連する代謝産物が、わずかに変更した既存のイオン対HPLC法に従い、1回のクロマトグラフィー実行で分離された(Lazzarino et al., Single-sample preparation for simultaneous cellular redox and energy state determination. Anal Biochem. 2003; 322: 51-59; Tavazzi et al., Simultaneous high performance liquid chromatographic separation of purines, pyrimidines, N-acetylated amino acids, and dicarboxylic acids for the chemical diagnosis of inborn errors of metabolism. Clin Biochem. 2005; 38: 997-1008)。組織抽出物のクロマトグラフィー実行での目的の化合物の割り付けおよび計算が、滞留時間、吸収スペクトルおよびピーク面積を既知濃度の新たに調製された超純粋標準混合物のクロマトグラフィー実行のピークのものと比較することにより、適切な波長(206、234および260nm)で実行された。
【0143】
化合物のリスト;シトシン、クレアチニン、ウラシル、ベータ-シュードウリジン、シチジン、ヒポキサンチン、グアニン、キサンチン、シチジン二リン酸-コリン(CDP-コリン)、アスコルビン酸、ウリジン、アデニン、亜硝酸塩(-NO )、還元グルタチオン(GSH)、イノシン、尿酸、グアノシン、シチジン一リン酸(CMP)、マロンジアルデヒド(MDA)、チミジン(Thyimidine)、オロト酸、硝酸(-NO )、ウリジン一リン酸(UMP)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)、アデノシン(ADO)、イノシン一リン酸(IMP)、グアノシン一リン酸(GMP)、ウリジン二リン酸-グルコース(UDP-Glc)、UDP-ガラクトース(UDP-Gal)酸化型グルタチオン(GSSG)、UDP-N-アセチル-グルコサミン(UDP-GlcNac)、 UDP-N-アセチル-ガラクトサミン(UDP-GalNac)、アデノシン一リン酸(AMP)、グアノシン二リン酸(GDP-グルコース)、シチジン二リン酸(CDP)、UDP、GDP、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸酸化型(NADP)、アデノシン二リン酸-リボース(ADP-リボース)、シチジン三リン酸(CTP)、ADP、ウリジン三リン酸(UTP)、グアノシン三リン酸(GTP)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)、アデノシン三リン酸(ATP)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸還元型(NADPH)、マロニル-CoA、コエンザイムA(CoA-SH)、アセチル-CoA、N-アセチルアスパラギン酸(NAA)。
【0144】
遊離アミノ酸およびアミノ基含有化合物のHPLC分析
第一級遊離アミノ酸(FAA)およびアミノ基含有化合物(AGCC)(以下に列挙)の同時決定が、他の箇所に詳細に記載された通り、オルトフタルアルデヒド(OPA)と3-メルカプトプロピオン酸(MPA)の混合物での試料のプレカラム誘導体化を利用して実施された(Amorini et al., Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids. J Cell Mol Med. 2017; 21: 530-542; Amorini et al., Metabolic profile of amniotic fluid as a biochemical tool to screen for inborn errors of metabolism and fetal anomalies. Mol Cell Biochem. 2012; 359: 205-216)。手短に述べると、25mmol/lのOPA、1%のMPA、237.5mmol/lのホウ酸ナトリウム、pH9.8により構成された誘導体化混合物が、毎日調製され、オートサンプラー中に配置された。OPA-MPAでの試料(15μl)の自動化プレカラム誘導体化が、24℃で実行され、25μlの誘導体化混合物が、次のクロマトグラフィー分離のためにHPLCカラム(Hypersil C-18、250×4.6mm、5μm粒子径、21℃の恒温)にロードされた。グルタミン酸の場合、脱タンパク質化脳抽出物が、誘導体化手順および次の注入の前に、HPLC等級HOで20倍希釈された。OPA-AAおよびOPA-AGCCの分離が、2種の移動相(移動相A=24mmol/lのCHCOONa+24mmol/lのNaHPO+1%テトラヒドロフラン+0.1%トリフルオロ酢酸、pH6.5;移動相B=40%CHOH+30%CHCN+30%HO)を用いる、適正な段階的勾配を利用して、流速1.2ml/分で実行された(Amorini et al., Severity of experimental traumatic brain injury modulates changes in concentrations of cerebral free amino acids. J Cell Mol Med. 2017; 21: 530-542; Amorini et al., Metabolic profile of amniotic fluid as a biochemical tool to screen for inborn errors of metabolism and fetal anomalies. Mol Cell Biochem. 2012; 359: 205-216)。
【0145】
全脳抽出物のクロマトグラフィー実行でのOPA-AAおよびOPA-AGCCの割り付けおよび計算が、滞留時間およびピーク面積を既知濃度の新たに調製された超純粋標準混合物のクロマトグラフィー実行のピークのそれらと比較することにより、338nmで実行された。
【0146】
FAAおよびACGC化合物のリスト:アスパラギン酸(ASP)、グルタミン酸(GLU)、アスパラギン(ASN)、セリン(SER)、グルタミン(GLN)、ヒスチジン(HIS)、グリシン(GLY)、トレオニン(THR)、シトルリン(CITR)、アルギニン(ARG)、アラニン(ALA)、タウリン(TAU)、ガンマ-アミノ酪酸(GABA)、チロシン(TYR)、S-アデノシルホモシステイン(SAH)、L-シスタチオニン(L-Cystat)、バリン(VAL)、メチオニン(MET)、トリプトファン(TRP)、フェニルアラニン(PHE)、イソロイシン(ILE)、ロイシン(LEU)、オルニチン(ORN)、リシン(LYS)。
【0147】
統計解析
正規データ分布が、コルモゴロフ・スミルノフ検定を利用して検定された。群間の差は、反復測定のための二元配置分散分析により推定された。フィッシャーの制限付き最小二乗法が、事後検定として用いられた。0.05未満の両側でのp値のみが、統計学的に有意と見なされた。
【0148】
結果
24の標準および非標準のアミノ酸、ならびに第一級アミノ基含有化合物の脳の値の最も明白な結果は、デキストラン硫酸処置が、sTBIにより誘導されたグルタミン酸(GLU)増加の顕著な阻害を有し(表1)、これにより過剰のこの化合物による興奮毒性の低減を確かに引き起こしたことであった。
【0149】
この効果は、しかし、薬剤が傷害後の早期(sTBIの30分後)に投与された場合のみ明らかであり、デキストラン硫酸がsTBI後3日目に注射された場合には、この興奮毒性マーカへの効能はなかった。デキストラン硫酸が、いわゆるメチルサイクル(Met、L-Cystat、SAH)に関与する化合物に及ぼす有意な有益効果を有したことも、強調する価値がある、表1を参照されたい。
【表1】
【0150】
表2で認められるとおり、デキストラン硫酸は、エネルギー代謝およびミトコンドリア機能に関係する様々な化合物に有益な影響を及ぼした。特に興味深いのは、ミトコンドリアリン酸化能の尺度としてのアデニンヌクレオチド濃度およびATP/ADP比である。
【表2】
【0151】
酸化型および還元型ニコチン性コエンザイムの顕著な変化も、観察された(表2)。
【0152】
酸化ストレスに関係するパラメータもまた測定され、酸化ストレスの有意な低減が、デキストラン硫酸の投与後に検出された。特に、水溶性脳内抗酸化剤としてのアスコルビン酸、および主要な細胞内SHドナーとしてのGSHが、測定された。特に、主な水溶性脳内抗酸化剤としてのアスコルビン酸、および主要な細胞なSHドナーとしてのGSHが、測定された。結果は、表2に示される通り、デキストラン硫酸の投与後のそれらのレベルの有意な改善を示した。
【0153】
加えて、膜リン脂質の多価不飽和脂肪酸の最終生成物として、およびそれによりROS介在性脂質過酸化のマーカとして採取された、MDAもまた、測定された。MDAレベルは、デキストラン硫酸投与後の有意な低減を示した。先に記載された酸化ストレスマーカは全て、デキストラン硫酸での処置後の抗酸化剤状態の回復における改善を示した(表2)。
【0154】
NO介在性ニトロソ化ストレスの代表的指標(亜硝酸および硝酸)もまた、分析された。デキストラン硫酸の投与は、sTBIの急性および慢性期の両方で硝酸濃度を有意に減少させた(表2)。
【0155】
NAAは、脳に特異的な代謝産物であり、TBI後の悪化または回復をモニタリングするための貴重な生化学的マーカである。NAAは、ニューロンにおいてアスパラギン酸N-アセチルトランスフェラーゼによりアスパラギン酸およびアセチル-CoAから合成される。NAAターンオーバを確実にするために、分子は、細胞内区画の間を移動してオリゴデンドロサイトに達しなければならず、そこでそれはアスパルトアシラーゼ(ASPA)により酢酸とアスパラギン酸に分解される。基質アスパラギン酸およびアセチル-CoAの利用可能性を供給するための異化酵素ASPAおよびNAA減少の上方制御は、代謝障害の状態の指標である。この試験において、NAAおよびその基質が、sTBIの後に測定され、デキストラン硫酸投与後のレベルにおいて有意な改善を示した(表2)。
【0156】
エネルギー代謝産物に及ぼすこれらの効果は、動物が傷害後早期(30分)にデキストラン硫酸投与を受けた場合に、特に明白であった。動物がsTBIの2日後に殺処分された場合、または殺処分がsTBIの7日後に行われた場合のどちらかで、デキストラン硫酸の全体的有益効果が観察されたことに留意することが、重要である。これらの動物群において、AGCCに関連する代謝およびエネルギー代謝産物の一般的好転がより明白であり、脳代謝に及ぼすデキストラン硫酸の長期持続性有益効果を示唆した。
【0157】
考察
本明細書に提示されたデータは、デキストラン硫酸の投与が、ミトコンドリア機能を保護することによりグルタミン酸興奮毒性のレベルを低減し、代謝恒常性の有害な変化を好転させることを示唆し、重度TBI後の化合物の神経保護効果を示した。
【0158】
先に記載された実施形態は、本発明の数例の実例と理解されなければならない。本発明の範囲を逸脱することなく、様々な改良、組合せおよび変化が実施形態になされ得ることは、当業者に理解されよう。特に、異なる実施形態の異なる部分的解決法が、技術的に可能ならば、他の構成で組み合わされてよい。しかし本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲により定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】