(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】液体有機化合物による水素貯蔵
(51)【国際特許分類】
C01B 3/00 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C01B3/00 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022571796
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-01-17
(86)【国際出願番号】 FR2021051738
(87)【国際公開番号】W WO2022074336
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モンギヨン, ベルナール
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AA48
(57)【要約】
本発明は、前記配合物の少なくとも1つの水素化/脱水素化サイクルにおける水素の固定及び放出のためのベンゼン、トルエン及びキシレンの少なくとも混合物を含む、常温で液体である配合物の使用に関する。
本発明はまた、石油生成物の水蒸気分解から生じる水素、塩の電気分解などの化学反応から生じる不可避の水素、又は水の電気分解から生じる水素の輸送及び取り扱いのための前記配合物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配合物の少なくとも1つの水素化/脱水素化サイクルにおける水素の固定及び放出のためのベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物を含む常温で液体である、前記配合物の使用。
【請求項2】
ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物が、原油からの芳香族化合物の抽出又はバイオマスの品質向上から生じるBTX混合物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物が、配合物の全重量に対して1000重量ppm以下、好ましくは配合物の全重量に対して100重量ppm以下の量で8個を超える原子を含む化合物をさらに含むことができる、請求項1又は請求項2に記載の使用。
【請求項4】
ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物の比が、混合物の全重量に対する各成分の重量で、限界を除外して、0%~100%の範囲のすべての割合で変化し得る、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
本発明の文脈において使用することができるベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物が、BTX混合物の全重量に対して、1%を超える、さらに良好には2%を超える、好ましくは5%を超える、より好ましくは10%を超える、及び完全に好ましくは15%を超えるベンゼン含有量を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
配合物が、1つ又は複数の他の液体有機水素担体(LOHC)を追加的に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
配合物が、ベンジルトルエン(BT)、ジベンジルトルエン(DBT)及びそれらの混合物からすべての割合で選択される1つ又は複数の他の液体有機水素担体(LOHC)を追加的に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
配合物が、大気圧で80℃超、好ましくは120℃超、より好ましくは150℃超、有利には180℃超の沸点、及び40℃未満、好ましくは30℃未満、より好ましくは20℃未満、より良好には15℃未満、完全に好ましくは10℃未満、有利には厳密に0℃未満の融点を示す、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
配合物が、20℃で0.1mm
2.s
-1~500mm
2.s
-1、好ましくは0.5mm
2.s
-1~300mm
2.s
-1、好ましくは1mm
2.s
-1~200mm
2.s
-1の動粘度(規格DIN 51562に従って測定)を示す、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
石油生成物の水蒸気分解から生じる水素、塩の電気分解などの化学反応から生じる不可避の水素、又は水の電気分解から生じる水素の輸送及び取り扱いのための、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー源の貯蔵及び輸送の分野に関し、より詳細には、エネルギー源としての水素の貯蔵及び輸送の分野に関し、特に、水素を貯蔵及び輸送することができる有機化合物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物による水素の貯蔵及び輸送は、近年の技術であり、科学文献及び特許出願の、出願の主題となっている。その原理は、支持体分子上に水素を固定することにあり、支持体分子は、水素を固定したとき(水素化形態)及び水素を放出したとき(脱水素化形態)の両方で、常温で好ましく、ほとんどの場合液体である。
【0003】
この水素の固定は、通常、支持体分子の水素化の段階で行われる。このように水素化された支持体分子は、固定された水素を「貯蔵」し、この分子は「水素化された」と呼ばれ、貯蔵及び/又は輸送することができる。その後、水素化された支持体分子の脱水素化の段階で、ほとんどの場合消費の部位の近くで、固定された水素を放出することができる。
【0004】
支持体分子は、今日、多くの研究の主題であり、現在、「液体有機水素担体」の頭字語LOHCとしてよりよく知られている。
【0005】
今日研究されている支持体分子によって、金属水素化物型の支持体、又はLOHCの中でもメタノール、アンモニア若しくは芳香族化合物の支持体が挙げられ得る。これらの技術はすべて、様々な利点及び欠点を示し、この新しいタイプの技術における最も重要な基準の1つは、依然としてエネルギーへのアクセスの全体的なコスト、したがってこれらの支持体分子によって利用可能な水素の全体的なコストであることが知られている。
【0006】
今日最も研究されているLOHCの中でも、水素化してメチルシクロヘキサンを得て、次いで脱水素化することができるトルエンを挙げることができる。この分子で遭遇する問題の1つは、比較的低い沸点(大気圧で110.6℃、水素化形態のメチルシクロヘキサンの100.85℃よりも明らかに高い)であり、これは、除去が困難であり得る微量のトルエン及び/又はメチルシクロヘキサンを含有する水素の生成をもたらし得る。
【0007】
脱水素化反応中に放出される水素中の微量の有機化合物は、想定される用途及び水素が使用される用途に応じて現実の問題を引き起こす可能性がある。したがって、トルエン/メチルシクロヘキサン対の場合、微量の有機化合物は、トルエン(水素化形態の分子)及びメチルシクロヘキサン(脱水素化形態の分子)の両方に由来し得るが、すべてのそれらの部分的に水素化又は脱水素化された中間体にも由来し得る。
【0008】
今日知られている他のLOHCは、特にベンジルトルエン(BT)及び/又はジベンジルトルエン(DBT)に代表される2つ又は3つの環を有する芳香族流体であり、これは、例えば、水素の貯蔵及び放出のためのこれらの流体の水素化及び脱水素化のための技術及び操作を記載している欧州特許第2925669号明細書などの多くの研究及び特許出願の主題である。さらに他のLOHC化合物が研究中であり、実施例がPaiviら(Journal of Power Sources、396(2018)、803~823)によって論文に提示されている。そのような分子は、今日でも大部分は容易に市販されていないか、又は法外な価格で入手できない。
【0009】
さらに、水素化及び脱水素化段階の瞬間性能品質を超えて、脱水素化段階中に得られる水素の品質及びとりわけ性能品質(水素固定/放出収率)の維持が、この技術の経済的側面の重要なポイントである。したがって、特に大量の水素の輸送及び貯蔵のために、経済的に有益な解決策を開発する必要がある。
【0010】
これは、このLOHC技術から生じる水素が、例えば燃料電池、工業プロセス、又は輸送手段(列車、ボート、トラック、自動車)用の燃料などの非常に多くの分野で使用されているためである。今日のLOHC技術は最も有望であると思われるが、容易に入手可能であり、安価であり、又は少なくとも水素化/脱水素化サイクルに関して非常に良好な収率を示し、供給及び運転コストが可能な限り低いLOHC分子が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の目的の1つは、可能な限り少ない運転コストで可能な限り最大量の水素の輸送及び貯蔵を可能にするLOHC分子、換言すれば、水素の輸送及び貯蔵のための最も有益で可能なLOHC分子を開発することにある。
【0012】
ここで、上記の目的が、本発明によって全部又は少なくとも部分的に達成されることが発見された。さらに他の目的は、以下の本発明の説明において明らかになり得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
具体的には、本発明者らは、ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物がLOHCとして有利に使用され得ることを今回発見した。したがって、本発明の第1の主題は、前記配合物の少なくとも1つの水素化/脱水素化サイクルにおける水素の固定及び放出のためのベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物を含む、常温で液体である配合物の使用である。
【0014】
ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物は、「BTX」という頭字語でよく知られており、例えば原油精製所で容易に入手可能であり、これらは多くの場合、品質向上されていないか、又は大幅に品質向上されていない副産物と見なされる。したがって、それらのコストは完全に競争力があり、本発明による使用に適している。
【0015】
より詳細には、BTX混合物は、石油生成物から、特に、液体-液体抽出を使用して、特に極性非プロトン性溶媒の助けを借りて、原油から芳香族化合物を抽出することによって得ることができる。その後、溶媒を除去し、ベンゼン、トルエン及びキシレンを回収するために、BTX混合物を蒸留によって分離する。キシレン留分は、キシレンの3つの異性体(オルト-、メタ-及びパラ-キシレン)を含むが、多かれ少なかれ有意なエチルベンゼンの留分も含むことができる。
【0016】
BTX混合物と呼ばれる混合物の他の可能な供給源が今日知られており、その中でも、例えば国際公開第2011031320号、米国特許第2014107036号及び米国特許第2016002544号の出願に記載されているように、バイオマスの品質向上に言及することができる。
【0017】
好ましい実施形態では、本発明の配合物に使用されるBTX混合物は、8個を超える炭素原子を含む化合物を有さない。本説明において、「8個を超える炭素原子を含む化合物を有しない」という用語は、8個を超える炭素原子を含む化合物が存在する可能性があるが、この場合には痕跡の形態でのみ存在する、すなわち、配合物の全重量に対して1000重量ppm以下、好ましくは配合物の全重量に対して100重量ppm以下の量で存在することを示す。
【0018】
BTX混合物(又は本明細書の続きではより簡単に「BTX」)は、あらゆる割合のベンゼン、トルエン及びキシレン(オルト-及び/又はメタ-及び/又はパラ-キシレン)、並びに場合によりエチルベンゼンの混合物である。本発明の好ましい実施形態によれば、ベンゼン/トルエン/キシレン混合物の比は、BTX混合物の全重量に対する各成分の重量で、限界を除外して、0%~100%の範囲のすべての割合で変化し得る。
【0019】
別の実施形態によれば、BTX混合物は、最低レベルの2つの生成物:トルエン+ベンゼン又はトルエン+キシレン又はキシレン+ベンゼンからなる。好ましくは、BTX混合物は、ベンゼン、トルエン及びキシレンの3成分を含み、非常に特に好ましくは上記の割合で含む。
【0020】
本発明の好ましい態様によれば、BTX混合物は、組成物の全重量に対して
・限界を含めて、0重量%~99重量%のベンゼン、
・・限界を含めて、0重量%~99重量%のトルエン、及び
・・限界を含めて、0重量%~99重量%のキシレン、
を含み、好ましくは、それらからなり、
3つの成分のうちの少なくとも2つが存在することが理解される。
【0021】
本発明の別の態様によれば、BTX混合物は、組成物の全重量に対して
・限界を含めて、1重量%~99重量%のベンゼン、
・・限界を含めて、1重量%~99重量%のトルエン、及び
・・限界を含めて、0.01重量%~99重量%のキシレン、
を含み、好ましくは、それらからなる。
【0022】
本発明のさらに別の態様によれば、BTX混合物は、組成物の全重量に対して
・限界を含めて、2重量%~99重量%のベンゼン、
・・限界を含めて、2重量%~99重量%のトルエン、及び
・・限界を含めて、1重量%~99重量%のキシレン、
を含み、好ましくは、それらからなる。
【0023】
非常に特に好ましい態様によれば、本発明の文脈において使用することができるベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物が、BTX混合物の全重量に対して、1%を超える、さらに良好には2%を超える、好ましくは5%を超える、より好ましくは10%を超える、及び完全に好ましくは15%を超えるベンゼン含有量を含む。
【0024】
非限定的な例として、本発明の文脈において有利に使用することができるBTX混合物は、BTX混合物の全重量に対して、重量で40%のベンゼン、30%のトルエン及び30%のキシレンを含む。別の例によれば、BTX混合物は、BTX混合物の全重量に対して、重量で、48%のベンゼン、33%のトルエン及び19%のキシレンを含む。
【0025】
上記のように、BTX混合物は、さらに、1つ又は複数の他の化合物、例えばエチルベンゼンなどのキシレンの異性体、又は好ましくは配合物の全重量に対して1000重量ppm以下、好ましくは配合物の全重量に対して100重量ppm以下の量の8個を超える原子を含有する1つ又は複数の他の炭化水素を含むことができる。
【0026】
BTX混合物の組成は、調製プロセスから直接生じることができるが、当業者が得たい混合物に応じて、当業者に周知の手順に従って前記の合成中に直接変更することもできる。
【0027】
全く驚くべきことに、BTX混合物を、前記混合物の各成分、すなわちベンゼン、トルエン及びキシレンと同じ方法で液体有機水素担体(LOHC)として使用することができること、すなわち、前記混合物を、単独で独立して取り出した前記BTX混合物の成分と同じ方法で水素化/脱水素化サイクルに供すことができることが発見された。その結果、BTX混合物の前記成分の一方又は他方のみを使用し、それによってコストを節約し、本発明の使用を完全に競合的にし、より一般的には先行技術の既知のLOHCよりも経済的にするために、BTX混合物の前記成分の分離を実行することは無意味である。
【0028】
本発明の要件のために、当然のことながら、単一のBTX混合物を使用すること、又は、まさに定義されたようないくつかのBTX混合物の混合物をあらゆる割合で使用することも可能である。
【0029】
本発明の一実施形態では、当業者に周知の任意の方法に従って、BTX混合物に対して1つ又は複数の精製操作を実施すること、特に前記BTX混合物の脱水素化中に生成される水素の汚染を回避すること、水素化及び脱水素化操作中の触媒の不動態化を回避すること、水素化及び脱水素化反応の収率を改善すること、BTX混合物又はLOHCとして使用されるBTX混合物の寿命(水素化及び脱水素化反応のサイクル数)を延ばすことが有利であり得る。
【0030】
LOHC分子と呼ばれる分子は、一般に、ほとんどの場合、それらの理論的重量貯蔵容量(TGSC)によって特徴を明らかにされる。水素が材料の質量中に貯蔵される水素吸収系(LOHC+/LOHC-対)の理論的重量貯蔵容量は、水素を含むホストの重量(LOHC+)に対して、化合物中に貯蔵された水素の重量の比から計算され、重量%での容量TGSCは、以下の式によって与えられる。
【0031】
例えば、メチルシクロヘキサンを理論的に脱水素化して、以下に示すように、6個の水素原子を放出するトルエン(BTXの成分の1つ)を得ることができる。
【0032】
したがって、メチルシクロヘキサン/トルエン系の理論的重量貯蔵容量TGSCは、以下に等しい。
【0033】
同様に、ベンゼンのTGSCは7.69%、キシレンのTGSCは5.3%と算出される。
【0034】
上記の例では、トルエンが完全に水素化されてメチルシクロヘキサンを与え、次いで理論的に完全に脱水素化されると、したがって6個の水素原子を放出することができる。したがって、トルエンが6.12%のTGSCを示すことが本発明の文脈において示されるであろう。
【0035】
本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の文脈において使用することができるベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物は、厳密に0%超、好ましくは1%以上、さらに良好には2%以上、より好ましくは3%以上、完全に好ましくは4%以上、有利には5%以上、典型的には6%以上、さらに良好には6.5%以上のTGSCを示す。
【0036】
したがって、例えば、BTX混合物の全重量に対して、重量で、48%のベンゼン(TGSC=7.69%)、33%のトルエン(TGSC=6.12%)、及び19%のキシレン(TGSC=5.3%)を含むBTX混合物は、6.72%の平均TGSCを示すであろう。したがって、本発明によるBTX混合物を使用する際の大きな利点の1つは、それらが、ほとんどの場合、常温での液体状態での水素の貯蔵及び輸送のために今日推奨されているLOHCの1つであるトルエンのTGSCに少なくとも匹敵する、実際、それよりもさらに大きいTGSCを示す、という点で見られる。
【0037】
したがって、BTXは、常温での液体状態での水素の貯蔵及び輸送のためのこの使用において、BTX混合物のコスト/TGSC比を考慮して、完全に予想外で完全に有益な品質向上を満足させる。
【0038】
いくつかの場合は、及び本発明の一実施形態によれば、LOHCのTGSCを改変すること、例えばさらに増加させることが有利であり得る。したがって、最も一般的なもののみを挙げると、ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物を、他の分子、例えば石油化学物質から得られる分子、特に石油化学物質から得られる芳香族化合物、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、PEBRという名称でよりよく知られているポリエチレンベンゼン残留物、及びすべての割合のそれらの混合物との様々な化学反応に供することを想定することができる。
【0039】
したがって、例として、当業者に周知の手順、特に、特許DE2840272 A1号、Maria Sol Marques da Silvaらによる刊行物、Reactive Polymers、25、(1995)、55-61、又はさらに最近ではTaiga Yurinoらによる論文、European Journal of Organic Chemistry、(2020)、2020(15)、2225-2232に記載されている手順に従って、ハロゲン化誘導体、特に塩素化誘導体又はヒドロキシル化誘導体から出発するカップリングを行うことが可能である。
【0040】
本発明の一実施形態では、ベンゼン、トルエン及びキシレンの混合物(BTX混合物)自体を、他の化学修飾、特にカップリングなしで使用することが好ましく、これはLOHCへのアクセスコストの削減の明らかな理由のためである。しかしながら、特に前記BTX混合物を含有するLOHC配合物の使用中の水素化/脱水素化サイクルの収率を最適化するために、当業者に周知の技術に従って、BTX混合物に対して1つ又は複数の精製操作を行うことが有用である可能性があり、実際、いくつかの場合は必要でさえあり得る。
【0041】
したがって、本発明は、常温で液体であり、その部分的又は完全に脱水素化された形態、その部分的又は完全に水素化された形態であり、前記配合物の少なくとも1つの部分的又は完全な水素化/脱水素化サイクルにおける輸送、固定及び水素の放出のために定義したとおりの1つ又は複数のBTX混合物を含む、配合物の使用に関する。
【0042】
本発明の文脈において使用することができる配合物は、例えば、ベンジルトルエン(BT)、ジベンジルトルエン(DBT)及びそれらの混合物などの当業者に公知の1つ又は複数の他のLOHCをすべての割合でさらに含むことができる。
【0043】
本発明で使用することができる配合物は、さらに、当業者に周知であり、例えば、非限定的な方法で、抗酸化剤、不動態化剤、流動点降下剤、分解阻害剤、着色剤、芳香剤などから選択される1つ又は複数の添加剤及び/又は充填剤、並びにそれらの1つ又は複数の混合物をすべての割合で含むことができる。
【0044】
別の実施形態によれば、特に放出される水素の純度に関する要件によれば、配合物は、水素化可能/脱水素化可能な化合物のみ(部分的又は完全に)を含む。特に、配合物は、添加剤又は充填剤タイプの他の添加生成物なしでLOHC分子からなる。しかし、配合物は、好ましくは痕跡形態、特に使用されるLOHC分子の起源及び/又はその調製プロセスに固有の不純物を含有し得る。
【0045】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、配合物は、大気圧で80℃超、好ましくは120℃超、より好ましくは150℃超、有利には180℃超の沸点、及び40℃未満、好ましくは30℃未満、より好ましくは20℃未満、より良好にはさらに15℃未満の融点、及び完全に好ましくは10℃未満、有利には厳密に0℃未満の融点を示す。
【0046】
別の実施形態によれば、本発明で使用される配合物は、20℃で0.1mm2.s-1~500mm2.s-1、好ましくは0.5mm2.s-1~300mm2.s-1、好ましくは1mm2.s-1~200mm2.s-1の動粘度(規格DIN 51562に従って測定)を示す。
【0047】
水素化/脱水素化サイクルは、一般に、現在周知の方法に従って行われる。特に、脱水素化反応は、任意の既知の方法に従って行うことができ、その操作条件は、非限定的な例として、
・一般に200℃~400℃、好ましくは250℃~360℃、より好ましくは280℃~340℃、より優先的には280℃~330℃、完全に好ましくは280℃~320℃の反応温度、
・一般に0.01MPa~1.00MPa、好ましくは0.01MPa~0.50MPaの反応圧力、
・脱水素反応器に水素分圧を供給すること、
・脱水素化されるべき化合物の完全な脱水素化の前に反応を停止すること、
が含まれ得る。
【0048】
反応は、一般に、そして有利には、当業者に周知の少なくとも1つの脱水素化触媒の存在下で行われる。前記部分脱水素化反応に使用することができる触媒の中でも、非限定的な例として、支持体上に少なくとも1つの金属を含有する不均一触媒を挙げることができる。前記金属は、IUPACの元素の周期表の3から12列の金属、すなわち前記周期表の遷移金属から選択される。好ましい実施形態では、金属は、IUPACの元素の周期表の5から11列、より優先的には5から10列の金属から選択される。
【0049】
これらの触媒の金属は、一般に、鉄、コバルト、銅、チタン、モリブデン、マンガン、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びルテニウム、並びにそれらの混合物から選択される。金属は、好ましくは、ニッケル、銅、モリブデン、白金、パラジウム及びそれらの2つ以上の混合物からすべての割合で選択される。
【0050】
触媒の支持体は、当業者に周知の任意のタイプのものとすることができ、有利には多孔質支持体から、より有利には多孔質耐火性支持体から選択される。支持体の非限定的な例は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、酸化ベリリウム、酸化クロム、酸化チタン、酸化トリウム、セラミック、カーボン、例えばカーボンブラック、グラファイト及び活性炭、並びにそれらの組み合わせを含む。本発明のプロセスで使用することができる支持体の具体的かつ好ましい例の中でも、非晶質アルミノケイ酸塩、結晶性アルミノケイ酸塩(ゼオライト)及びシリカ-チタン酸化物に基づく支持体を挙げることができる。
【0051】
水素化反応はまた、その部分について、上で定義した少なくとも1つのBTX混合物を含む配合物に対して、当業者に周知の任意の方法に従って行うことができる。
【0052】
水素化反応は、一般に、100℃~300℃、好ましくは120℃~280℃、より好ましくは140℃~250℃の温度で行われる。この反応に用いられる圧力は、一般に0.1MPa~5MPa、好ましくは0.5MPa~4MPa、より好ましくは1MPa~3MPaである。
【0053】
水素化反応は、一般に、触媒、より具体的には、当業者に周知であり、有利には、非限定的な例として、支持体上に金属を含有する不均一触媒から選択される水素化触媒の存在下で行われる。前記金属は、IUPACの元素の周期表の3から12列の金属、すなわち前記周期表の遷移金属から選択される。好ましい実施形態では、金属は、IUPACの元素の周期表の5から11列、より優先的には5から10列の金属から選択される。
【0054】
これらの水素化触媒の金属は、一般に、鉄、コバルト、銅、チタン、モリブデン、マンガン、ニッケル、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム及びルテニウム、並びにそれらの混合物から選択される。金属は、好ましくは、ニッケル、銅、モリブデン、白金、パラジウム及びそれらの2つ以上の混合物からすべての割合で選択される。
【0055】
触媒の支持体は、当業者に周知の任意のタイプのものとすることができ、有利には多孔質支持体から、より有利には多孔質耐火性支持体から選択される。支持体の非限定的な例は、アルミナ、シリカ、ジルコニア、マグネシア、酸化ベリリウム、酸化クロム、酸化チタン、酸化トリウム、セラミック、カーボン、例えばカーボンブラック、グラファイト及び活性炭、並びにそれらの組み合わせを含む。本発明のプロセスで使用することができる支持体の具体的かつ好ましい例の中でも、非晶質アルミノケイ酸塩、結晶性アルミノケイ酸塩(ゼオライト)及びシリカ-チタン酸化物に基づく支持体を挙げることができる。
【0056】
好ましい実施形態によれば、水素化反応は、完全に又は部分的に脱水素化された配合物、例えば少なくとも部分的に脱水素化された配合物で、1回以上の水素化/脱水素化サイクルで行われる。
【0057】
同様に、水素化反応は部分的又は完全であってよく、好ましくは、水素化反応は1回以上の水素化/脱水素化サイクルで完了する、すなわち、LOHC配合物中に存在する水素化され得る二重結合のすべてが完全に水素化される。
【0058】
別の態様によれば、本発明は、BTXを品質向上するためのプロセスに関する。これは、BTXが毒性及び生態毒性と見なされ、品質向上することが非常に困難な生成物であり、実際、今日でも、一般に燃焼によって、品質向上されないか又は大幅に品質向上されず、単純に破壊され、したがって大気汚染に加えて、気候変化及び地球温暖化の原因の1つであることが知られている二酸化炭素の少なくない排出を生成するからである。
【0059】
したがって、本発明は、ほとんどの場合石油化学工業によって生成されるBTXを使用する非常に特に有利な可能性を提供する。本発明の品質向上プロセスは、完全に又は少なくとも部分的に水素化されたBTXに結合した水素を放出するために、完全に又は少なくとも部分的に水素化され、場合により貯蔵され、及び/又は場合により輸送され、次いで、完全又は少なくとも部分的に脱水素化されたBTXに結合した水素を放出するように、完全又は少なくとも部分的な脱水素化の段階に供される系において、上記で定義されたBTX混合物と呼ばれる混合物の提供を含む。本発明の品質向上プロセスは、いくつかの水素化/脱水素化サイクル、例えば2~200サイクル、好ましくは5~100サイクルをさらに含むことができ、有利には含むことができる。
【0060】
本発明のプロセスの利点の1つは、このように品質向上されたBTXが、いくつかの水素化/脱水素化操作を含むサイクルで使用され、空気又はそれを取り扱う必要がある人々と接触しないか、又はごくわずかな割合でしか使用されないことである。これは、水素の貯蔵及び/又は輸送が、脱水素化又は完全若しくは少なくとも部分的に水素化された形態であろうとなかろうと、BTX自体にアクセスすることを決して必要としないためである。したがって、本発明のプロセスでは、BTX混合物と呼ばれる混合物はエネルギー貯蔵生成物として品質向上され、このエネルギーは水素である。
【0061】
さらに別の態様によれば、本発明は、先ほど規定されたLOHC配合物の部分的又は完全な脱水素化反応と、前記有機液体の少なくとも1つの部分的又は完全な水素化反応とを含む水素化/脱水素化サイクルに関する。
【0062】
LOHC用途では、その使用が本発明の主題である水素の輸送のための配合物は、その安定性のために非常に特によく適しており、それは輸送のための多数の水素化/脱水素化サイクルでの再利用を可能にするだけでなく、石油生成物の水蒸気分解から生じる水素、塩の電気分解などの化学反応から生じる不可避の水素、又は水の電気分解から生じる水素の貯蔵及び取り扱いにも再利用を可能にする。
【国際調査報告】