(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】圧延アルミニウム合金製板材およびこの板材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 21/02 20060101AFI20231018BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20231018BHJP
C22F 1/05 20060101ALI20231018BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/05
C22F1/00 623
C22F1/00 604
C22F1/00 630A
C22F1/00 631Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 602
C22F1/00 694B
C22F1/00 691A
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519155
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-04-26
(86)【国際出願番号】 EP2021077778
(87)【国際公開番号】W WO2022074153
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523106517
【氏名又は名称】エーエムエージー ローリング ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】エーブナー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ポガッシャー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,フロリアン
(57)【要約】
本発明は、圧延アルミニウム合金製板材およびこの板材の製造方法に関する。高い強度値を得るために、板材は再結晶化率が25%未満の部分再結晶微細構造を有し、微細構造の非再結晶微細構造領域が回復状態にあり、かつ圧延方向の平均亜粒径が10μm未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の合金成分:
0.7~1.5重量%のケイ素(Si)、
0.5~1.3重量%のマグネシウム(Mg)
0.05~0.6重量%のマンガン(Mn)、
0.1~0.3重量%のジルコニウム(Zr)、
それぞれ任意に
0.5重量%以下の銅(Cu)、
0.7重量%以下の鉄(Fe)、
0.1重量%以下のクロム(Cr)、
0.2重量%以下のチタン(Ti)、
0.5重量%以下の亜鉛(Zn)、
0.2重量%以下のスズ(Sn)、
0.1重量%以下のストロンチウム(Sr)、
0.2重量%以下のバナジウム(V)、
0.2重量%以下のモリブデン(Mo)、
および残りの部分としてアルミニウム、ならびに製造工程上避けられない不純物をそれぞれ最大0.05重量%、合計で最大0.15重量%有する圧延アルミニウム合金製板材であって、
前記板材は再結晶化率が25%未満の部分再結晶微細構造を有し、前記微細構造の非再結晶微細構造領域が回復状態にあり、かつ圧延方向の平均亜粒径が10μm未満である板材。
【請求項2】
前記再結晶化率が15%未満、特に5%未満であることを特徴とする、請求項1に記載の板材。
【請求項3】
圧延方向の前記平均亜粒径が5μm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の板材。
【請求項4】
前記板材が、T6、特にT651状態を有することを特徴とする、請求項1~3のうちいずれか一項に記載の板材。
【請求項5】
前記板材が、350MPa超の降伏強度(R
p0.2)を有することを特徴とする、請求項4に記載の板材。
【請求項6】
前記圧延アルミニウム合金が、
0.9~1.3重量%、特に1.0~1.2重量%のケイ素(Si)、および/または
0.75~0.95重量%のマグネシウム(Mg)、および/または
0.3~0.5重量%のマンガン(Mn)、および/または
0.15~0.25重量%、特に0.18~0.22重量%のジルコニウム(Zr)、および/または
0.1~0.5重量%の銅(Cu)、および/または
0.5重量%以下の鉄(Fe)
を有することを特徴とする、請求項1~5のうちいずれか一項に記載の板材。
【請求項7】
前記アルミニウム合金の金属間相が、平均粒径が最大100nmのZr含有粒子を有し、前記Zr含有粒子の数が1×10
6個/mm
2以上、特に5×10
6個/mm
2以上であることを特徴とする、請求項1~6のうちいずれか一項に記載の板材。
【請求項8】
前記Zr含有粒子の平均粒径が30~100nmの範囲にあり、ならびに/または、前記Zr含有粒子の数が100×10
6個/mm
2以下である、および/もしくは、前記Zr含有粒子の数が5×10
6個/mm
2以上であることを特徴とする、請求項7に記載の板材。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか一項に記載の板材の、機械製造のための使用。
【請求項10】
請求項1~8のうちいずれか一項に記載の板材の製造方法であって、前記方法が、以下のステップを記載の順序で含む方法:
前記アルミニウム合金を用いた圧延インゴットの鋳造、
その後に室温への加速冷却を伴う、前記圧延インゴットの多段階の均質化であって、少なくとも
300~400℃の範囲にある第1の温度での第1の均質化、および
それに続く、前記アルミニウム合金の固相線温度よりも500~10℃低い範囲にある第2の温度での第2の均質化
を含む多段階の均質化、
前記均質化した圧延インゴットの前記板材への熱間圧延、およびそれに続く熱処理であって、
その後に室温への加速冷却を伴う、前記板材の溶体化焼鈍、
場合によっては、ひずみ度が0.5~10%の範囲である冷間加工を伴う、前記溶体化焼鈍した板材の自然時効、ならびに
それに続く前記板材の人工時効。
【請求項11】
前記第1の均質化を、0.5時間以上および/もしくは最大4日間の第1の保持時間、ならびに/もしくは5K/minの最大加熱速度で実施し、ならびに/または
前記第2の均質化を、0.5時間以上および/もしくは最大24時間の第2の保持時間で実施する
ことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記均質化した圧延インゴットの前記熱間圧延は、前記アルミニウム合金の固相線温度よりも5~100℃低い温度で実施することを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記板材の前記溶体化焼鈍を460~580℃の範囲の温度で実施し、および/または、前記板材の前記溶体化焼鈍を1分間~10時間の保持時間で実施することを特徴とする、請求項10~12のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記自然時効を室温で、および/または好ましくは最大8週間の保持時間で実施することを特徴とする、請求項10~13のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記人工時効を130~210℃の範囲の温度で、および/または1~24時間の保持時間で実施することを特徴とする、請求項10~14のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記熱処理によって前記板材がT6、特にT651状態に変化することを特徴とする、請求項10~15のうちいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延アルミニウム合金製板材およびこの板材の製造方法に関する。
【0002】
圧延EN AW-6082アルミニウム合金製板材が知られている。この種の板材は、T6状態では260MPaの降伏強度(Rp0.2)に達し得る。
【背景技術】
【0003】
圧延Al-Mg-Siアルミニウム合金製板材において、再結晶状態でより微細な結晶粒微細構造を得るために、合金に0.1~0.4重量%ジルコニウム(Zr)を添加することが知られている(特許文献1)。Zrを含有するか否かにかかわらず、T4状態の板材の降伏強度(Rp0.2)は基本的に同程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1614760号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Friedrich Ostermann,Anwendungstechnologie Aluminium,第3版,2014年発行:Abkuehlen nach dem Loesungsgluehen
【非特許文献2】Friedrich Ostermann,Anwendungstechnologie Aluminium,第3版,2014年発行,ISBN 987-3-662-43806-0,175ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため本発明は、Al-Mg-Siアルミニウム合金製板材の強度、特に降伏強度(Rp0.2)を向上させることを課題とする。さらに、本発明の課題は、このために再現可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、請求項1の特徴によって、板材に関して提示された課題を解決する。
【0008】
本発明は、請求項10の特徴によって、方法に関して提示された課題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本発明の効果を証明するための圧延半製品、板材Aと板材Bの強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、請求項1の特徴によって、板材に関して提示された課題を解決する。
【0011】
アルミニウム合金は、0.7~1.5重量%のケイ素(Si)、0.5~1.3重量%のマグネシウム(Mg)、0.05~0.6重量%のマンガン(Mn)、0.1~0.3重量%のジルコニウム(Zr)を含む場合、好ましくは降伏強度(Rp0.2)において、強度向上の条件がもたらされ得る。すなわち、他の圧延6xxx合金と比べてZr含有量が高いことを考慮すると、この組成によって板材の特別な微細構造、すなわち、基本的に回復した微細構造、つまり再結晶粒の割合が低い微細構造を得ることができる。そのために、板材は再結晶化率が25%未満の部分再結晶微細構造を有する。加えて、微細構造の非再結晶微細構造領域が回復状態にあり、圧延方向の平均亜粒径が10μm未満である場合、高い強度が得られ得る。驚くべきことに、アルミニウム合金の組成にZrが含まれていることで、比較的微細に分布する金属間Zr含有粒子、例えば(Al,Si)3ZrまたはAl3Zr粒子が微細構造中に形成され、これが、比較的小さな亜粒径を達成すると同時に、比較的低い再結晶化率で亜粒界のピンニングをもたらすことが見出された。板材がこのような特別なミクロ構造または微細構造を有する場合、板材の降伏強度(Rp0.2)が大幅に向上され得る。
【0012】
さらにアルミニウム合金は、追加的に、そのつど任意に、次に列挙する元素の1つまたは複数を以下の含有量で含み得る:0.5重量%以下の銅(Cu);0.7重量%以下の鉄(Fe);0.1重量%以下のクロム(Cr);0.2重量%以下のチタン(Ti);0.5重量%以下の亜鉛(Zn);0.2重量%以下のスズ(Sn)、0.1重量%以下のストロンチウム(Sr)、0.2重量%以下のバナジウム(V)、0.2重量%以下のモリブデン(Mo)。好ましくは、板材は6xxx系の圧延アルミニウム合金製である。
【0013】
回復微細構造の割合を高めるために、再結晶化率は低い方が好ましい。これは特に再結晶化率が15%未満の場合に当てはまる。有利には、高強度化のために微細構造中の回復構造の割合を高く確保できるように、再結晶化率は5%未満である。
【0014】
上記は、圧延方向の平均亜粒径が5μm以下の場合にさらに向上し得る。
【0015】
板材は、T6状態、例えばT651状態を有する場合、強度がさらに高まり得る。
【0016】
T6状態であれば、特に板材は350MPa超の降伏強度(Rp0.2)を有し得る。
【0017】
次に列挙する元素の1つまたは複数でアルミニウム合金をさらに調整する場合、板材をさらに改善し得る:
Si:アルミニウム合金が0.9~1.3重量%のケイ素(Si)を含む場合、特に、アルミニウム合金が1.0~1.2重量%のケイ素(Si)を含む場合、強度はさらに向上し得る。
Mg:アルミニウム合金が0.75~0.95重量%のマグネシウム(Mg)を含む場合、これによりアルミニウム合金中の可溶性Mgが最適量に達し得るのに加えて、MgおよびSi含有相によって強度がさらに向上し得る。
Mn:アルミニウム合金中のマンガン(Mn)含有量が0.3~0.5重量%である場合、特にT6状態で板材の強度をさらに向上させるために、Mnの割合もZr含有粒子も増加させ得る。
Zr:ジルコニウムの含有量をさらに増加させると、すなわち、ジルコニウム(Zr)の含有量が0.15~0.25重量%であると、板材の強度がさらに向上し得る。これは、例えば、Zrが微細構造の再結晶を一層抑制し、粒子の密度を高める。このように、Zr含有量を増加させることにより、熱的に比較的安定した亜粒界硬化が確認でき、その活性は最大570℃の熱処理後も持続した。上記は、アルミニウム合金が0.18~0.22重量%のジルコニウム(Zr)を含む場合にさらに改善される。
Cu:アルミニウム合金が0.1~0.5重量%の銅(Cu)を含む場合、板材の強度がさらに向上し得る。この際、銅(Cu)の上限が0.5重量%であることは、板材の腐食感受性を低く抑えるのに役立つ。
Si+Mg+Cu:SiおよびMg(例えば、最大溶解度に調整)をCuと組み合わせると、特に析出物の体積分率を高めるのに役立つ。
Fe:加えて、鉄(Fe)を最大0.7重量%含有することも、強度をさらに向上させるのに役立ち得る。例えば、Fe含有量は少なくとも0.1重量%とし得る。
【0018】
好ましくは、アルミニウム合金の金属間相は、平均粒径が最大100nm(ナノメートル)のZr含有粒子を有し、Zr含有粒子の数は1×106個/mm2以上である。このような粒径および粒子数であると、亜粒界のピンニングが改善され得るとともに、回復・非再結晶微細構造の割合がさらに増加し得る。加えて、これにより回復微細構造領域の平均亜粒径がさらに小さくなり得ることで、板材の強度がさらに向上し得る。
【0019】
上記は、Zr含有粒子の平均粒径が30~100nmの範囲にあるとき、更に改善され得る。Zr含有粒子の数が100×106個/mm2以下の場合、有利であることも判明し得る。さらに、Zr含有粒子の数が5×106個/mm2以上の場合、有利であり得る。
【0020】
特に、板材は機械製造に適し得る。
【0021】
本発明は、請求項10の特徴によって、方法に関して提示された課題を解決する。
【0022】
圧延インゴットを多段階で均質化し、それに続いて室温に加速冷却(焼入れ)することによって、他の既知の方法と比較して、再結晶化率が比較的低く、かつ亜粒径が比較的小さい、基本的に回復した微細構造を再現可能に生産し得る。これは、300~400℃の範囲にある第1の温度で第1の均質化を、それに続いて、アルミニウム合金の固相線温度よりも500~10℃低い範囲にある第2の温度で第2の均質化を行うことによって実施する。一般に、加速冷却(しばしば、焼入れとも呼ばれる)は、室温および静止空気中での冷却よりも急速な冷却と理解され得るとされている(非特許文献1参照)。
【0023】
好ましくは、第1の均質化は、0.5時間以上および/もしくは最大4日間の第1の保持時間、ならびに/または5K/minの最大加熱速度で実施し得る。それにより、微細構造中のZr含有粒子の数をさらに増加させ得る。好ましくは、微細構造中の濃度差をさらに減少させるために、第2の均質化を、0.5時間以上および/もしくは最大24時間の第2の保持時間で実施する。
【0024】
均質化した圧延インゴットの熱間圧延は、好ましい変形構造を得るために、アルミニウム合金の固相線温度よりも5~100℃低い温度で実施し得る。
【0025】
板材の溶体化焼鈍は、460~580℃の範囲の温度で実施し得る。板材の溶体化焼鈍は、1分間~10時間の保持時間でも実施し得る。一般に、溶体化焼鈍によって、時効硬化に関与する合金元素を可能な限り完全に溶解させ得るとされている(非特許文献2参照)。
【0026】
例えば、自然時効は、室温で、および/または好ましくは最大8週間の保持時間で実施し得る。これは方法のさらなる簡素化に寄与し得る。
【0027】
板材の強度をさらに向上させるために、人工時効は、130~210℃の範囲の温度で、および/または1~24時間の保持時間で実施し得る。
【0028】
上記は、熱処理によって板材がT6、特にT651状態に変化する場合に、さらに向上し得る。
【0029】
得られた効果を証明するために、圧延半製品、すなわち板材AおよびBを、いずれも板厚6mm(ミリメートル)で、それぞれ以下の組成、および残りの部分がアルミニウムからなり、さらに製造工程上避けられない不純物をそれぞれ最大0.05重量%、合計で最大0.15重量%含む圧延アルミニウム合金から製造した。一般に、板材として、4~150mm、特に6~40mmの板厚が考えられる。
【0030】
【0031】
板材Aの合金はEN AW-6082規格合金である。この規格合金EN AW-6082をベースとして、合金元素Si、Mg、およびCuの含有量を増加させた。板材Bは、Si、Mg、およびCuの含有量を変化させたのに加え、Zrも添加しており、それにより本発明による実施形態を表している。
【0032】
図1は製造方法を概略的に示したものであり、前記の順序で、事前に鋳造した圧延インゴットの均質化(H)、均質化した圧延インゴットの板材への熱間圧延(WW)、板材の溶体化焼鈍(LG)、自然時効(KA)、冷間加工(R)、および人工時効(WA)を表す。
図1の実線は、板材Aおよび板材Bを製造する手順を部分的に示している。部分的にというのは、板材Bは均質化(H)の際に、まず点線に従って処理し、次いで実線に従って処理するためである。これは特別な方法改善である。
【0033】
板材AおよびBには前述の順序で次の方法ステップを実施し、この際、板材A用の圧延インゴットには、板材B用の圧延インゴットとは異なる均質化を行った。
a.鋳造圧延インゴットの均質化(H):
板材A用の圧延インゴット:温度550℃(摂氏)で保持時間2h(時間)、加熱速度1K/min(ケルヴィン/分)での1段階均質化(H2);
板材B用の圧延インゴット:第1の均質化(H1)が350℃で保持時間16h、加熱速度1K/min、および第2の均質化(H2)が550℃で保持時間2h、加熱速度1K/minの2段階均質化であり、
図1からわかるように、第2の均質化(H2)は第1の均質化(H1)の直後に行う。
b.540℃の温度で板材を40mm(ミリメートル)の初期厚さから6mmにする、均質化した圧延インゴットの熱間圧延(WW);
c.温度570℃、保持時間20min(分間)での板材の溶体化焼鈍(LG)に続いて、水焼入れ下で室温20℃(RT)に加速冷却;
d.保持時間14日間での板材の自然時効(KA)に続いて、ひずみ度2%での板材の延伸による冷間成形;
e.温度160℃、保持時間14hでの板材の人工時効(WA)。
【0034】
これらの方法を実施した板材AおよびBは、引張試験(DIN規格 EN10002-1に準拠した引張試験)を実施して、機械的特性値の0.2%耐力Rp0.2、引張強さRm、一様伸びAg、および破断伸びAを調べた。
【0035】
【0036】
加えて、両板材について、再結晶化率、平均亜粒径、さらに微細構造中のZr含有粒子の数と平均粒径(このZr含有粒子の最大フェレ径から算出)を決定した。再結晶化率は、日本電子7200F FEG-SEM EBSD検出器を使用し、(a)0.6μmのステップサイズを有する3次カーネル内の粒平均方位差が0.5度未満、(b)平均バンドコントラストが最大測定バンドコントラストの70%超という2つの条件を用いて決定した。板材BのZr含有粒子の値は、走査型電子顕微鏡(倍率17,000倍のHAADF画像、Talos F200X G2 S-TEM)を用いて決定した。
【0037】
表2からわかるように、T651状態では、板材Bは板材Aと比べて大幅に高い強度値Rp0.2およびRmを有する。しかしながら、これは、主に析出密度の増加、およびそれと共に強度の向上をもたらすSi、Mg、およびCuの添加量増加のみに起因するものではない。例えば板材の強度Aは、基本的に、高温時に微細構造を安定化させるFeおよび/またはMn含有粒子と組み合わせた析出物、特に人工時効中に生じるβ‘‘-析出物(Si、Mg)に基づいている。
【0038】
これに対し、板材Bの0.2%耐力(R
p0.2)が6082板材Aと比べて73MPaと大幅に増加しているのは、基本的にZr、またはその粒子Al
3Zrの硬度上昇効果によるものである。微細構造中のZr含有粒子(Al
3Zr)の量が増加することで、微細構造領域は、熱間圧延によって微細構造中に形成される非再結晶の変形構造により安定化する。それに続く熱処理、例えば570℃という比較的高い温度での溶体化焼鈍では基本的に再結晶化が起こらず、この微細構造領域が回復する。これにより、圧延方向の平均亜粒径が5μmと小さいことを考慮すると、Si、Mg、およびCuの添加のみによって得られるよりも、大幅に高い強度が生じる。板材Aに対する板材Bの強度向上は、
図2でも確認できる。
【0039】
粒子を調べると、同様に、微細構造の著しい違いが認められる。
【0040】
例えば、板材Bのアルミニウム合金の金属間相は、平均粒径が74nmのZr含有粒子を有する。Zr含有粒子の数は、7.52×106個/mm2である。
【0041】
これに対し、板材Aのアルミニウム合金の金属間相には、Al(Fe、Mn、Cr)Si含有粒子のみが存在する。これらの平均粒径は101nmである。このAl(Fe、Mn、Cr)Si含有粒子の数は、1.2×106個/mm2である。板材Aのこの粒子値は、走査型電子顕微鏡(倍率10,000倍のBSE画像、日本電子7200F FEG-SEM)で撮影して決定した。
【0042】
したがって、板材Aの粒子は、明らかに大きいだけでなく、その数も、板材BのZr含有粒子と比べて数分の一程度であり、加えて板材Bは、これらAl(Fe、Mn、Cr)Si含有粒子も有する。板材Bの比較的非常に小さなZr含有粒子はこのように量が多いため、亜粒界のピンニングが向上し、それにより、終状態の回復微細構造の割合が高まり、亜粒径がさらに縮小されることになる。
【0043】
これらの効果により、特に機械的に安定した板材が得られ、例えば工具製造に使用できる
【0044】
また、合金中のZr含有量により、冷間成形(ひずみ度2%での延伸)時にもたらされたエネルギーは、その後の人工時効によっても消失せず、ここでもZr含有粒子の安定化作用が有効であることが確認できた。
【0045】
一般に、「insbesondere(特に)」は「more particularly」と英訳し得ることに留意されたい。「insbesondere」または「gegebenfalls(場合によっては)」の後にくる特徴は、省略し得る任意の特徴とみなされ、したがって、例えば、特許請求の範囲を限定するものではない。また、「preferably」と英訳される「vorzugsweise(好ましくは)」についても同様である。
【国際調査報告】