(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】HiPIMSによって接着強度が改善された硬質炭素コーティングおよびその方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20231018BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20231018BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231018BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20231018BHJP
B23P 15/28 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C23C14/06 B
C23C14/34 S
B23B27/14 A
B23B27/20
B23P15/28 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521152
(86)(22)【出願日】2021-10-05
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 EP2021000117
(87)【国際公開番号】W WO2022073631
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051691
【氏名又は名称】エリコン・サーフェス・ソリューションズ・アクチェンゲゼルシャフト,プフェフィコーン
【氏名又は名称原語表記】OERLIKON SURFACE SOLUTIONS AG, PFAEFFIKON
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケローディ,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ギモン,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】クラスニッツァー,ジークフリート
(72)【発明者】
【氏名】ドラビク,マルティン
【テーマコード(参考)】
3C046
4K029
【Fターム(参考)】
3C046FF12
3C046FF20
3C046HH09
3C046HH10
4K029BA03
4K029BA07
4K029BA17
4K029BA55
4K029BB02
4K029BC02
4K029CA05
4K029DC03
4K029DC27
4K029DC33
4K029DC34
4K029DC39
(57)【要約】
高負荷または極端な摩擦、摩耗および他の部品との接触を受ける部品および工具に対する硬質炭素コーティング、およびその接着性を改善する方法。金属炭化物遷移層は、基材表面上に直接堆積された接着促進層と上部硬質炭素コーティングとの間に位置する。金属炭化物遷移層は、剥離による不良に耐えるために、より緻密な微細構造および改善された機械的特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05msを超える長さの少なくとも1つのCrターゲットパルス(t
パルス)に500W.cm
-2を超える出力密度で印加することによって表面上にCr
+イオンをイオン照射する堆積工程を含む、基材上に金属炭化物遷移層を製造する方法。
【請求項2】
前記基材の温度を100℃~250℃、好ましくは100℃~150℃の値に維持することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程が外部加熱なしで行われることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程において作動ガスとしてArが使用され、前記工程が約0.1~0.6PaのAr圧力で行われることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程中に、前記基材にネファティブバイアスが印加されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記バイアスが前記パルスと同期されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バイアス電圧が、20Vより高い、好ましくは50Vより高い、特に好ましくは100Vより高い値に達することを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
基材の表面に直接接触する接着層をコーティングするステップと、
金属炭化物遷移層を前記接着層上に堆積させるステップと、
前記炭化物遷移層上に硬質炭素層を堆積させるステップであって、前記炭素遷移層が、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を使用して前記接着層上に堆積されることを特徴とする、ステップと
を含む、炭素組成物をコーティングする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の硬質炭素コーティング組成物を工具または部品に塗布するステップを含む、硬質炭素コーティング付き工具または部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
背景情報
sp3結合割合に応じてa-Cまたはta-Cと呼ばれることが多い、水素化ドープ(a-C:H)または水素不含有非晶質ダイヤモンド状炭素(DLC)等の硬質炭素コーティングは、今日では、極端な負荷条件下で操作される、または他の摺動相手との極端な摩擦および接触圧力を受ける精密部品(すなわち、自動車部門または機械工学部品用のエンジン部品)の要求の厳しい切断および成形操作中に基材工具の表面上の改善された耐摩耗性を達成するための最も効果的な保護解決策の1つであると考えられている。
【背景技術】
【0002】
物理気相成長法(PVD)および/またはプラズマ化学気相成長法(PACVD)によって適切な熱力学的および速度論的成長条件下で堆積された高品質な硬質炭素コーティングは、高硬度、ドライランニングおよび潤滑条件が不十分な場合の高耐摩耗性、低摩擦係数および化学的不活性等の特性の例外的な組み合わせを示すことがよく知られており、これらは様々な動作条件の性能要件を満たすように非常に具体的に(例えば、水素含有量を操作することによって、または追加の金属および非金属ドーピング元素の選択によって)調整することができる。DLCコーティングの特徴および工業用途に関するさらなる詳細は、とりわけJ.Vetterによる「Surface&Coatings Technology 257(2014)213-240」およびA.Grillによる「Diamond and Related Materials 8(1999)428-434」に記載されている。
【0003】
しかしながら、特に水素不含有層がa-Cまたはta-C型である場合、層の高い圧縮内部応力に関連する基材上のDLCコーティングの弱く不安定な接着は、コーティング/基材が高い接触荷重を受けると、早期のコーティング不良(脆性破壊、剥離および座屈)およびさらには壊滅的な膜の境界画定をもたらし、用途における工具および部品の寿命および性能を妨げる可能性がある。
【0004】
高接触荷重においても硬質炭素コーティングの付着を改善するために、Tashiroらは、米国特許出願公開第20180363128号明細書において、硬質炭素コーティング材料を塗布する前に基材上に付着改善中間層、ここではプラズマCVD法によって1.8μmの膜厚および16GPa未満の膜硬度を有する水素ドープ非晶質炭素(a-C:H)層を塗布することを提案している。中間層は、堆積されたTi接着促進層と、TiC層とを有し、TiC層は、Tiターゲットのスパッタリング時に不活性ガス(Ar)と共に炭素を含む反応性ガス(CH4、C2H2)を同時に導入する、いわゆる反応性不平衡マグネトロンスパッタリング法により形成される。層を緻密化するために、負バイアス電圧を基材に印加して、正に帯電したイオンを基材に対して加速する。Ti層形成工程で印加する負バイアス電圧は、-200V以上-300V以下であることが好ましく、TiC層成膜工程で印加するバイアス電圧は、-30V以上-100V以下であることが好ましい。硬質炭素/基材の接着強度は、硬質炭素/基材の壊滅的な不良を発生させるのに必要な臨界垂直荷重を測定することによってスクラッチ試験を通して評価される。Tashiroらは、44Nより高く50Nより低い荷重で層間剥離が達成されることを見出した。この発明者らは、不活性Arガスと反応性炭化水素CH4ガスとの流量比を制御することにより、勾配TiC中間層の炭素含有量を徐々に増加させ、前述の接着促進Ti層とTiC層との間に勾配TiC層を塗布することにより、DLC層の接着強度をさらに向上させることを提案した。同時に、基材に印加する負バイアス電圧を200Vから50Vまで低下させる。上記の勾配設計戦略において層間剥離を得るための臨界負荷は、62N未満の値で見出された。
【0005】
しかしながら、上記のような層構造は、実施するのが複雑である2つの異なる堆積技術(プラズマCVDおよびスパッタリング)を使用する2段階工程を使用し、さらに、TiCを堆積させるために反応性スパッタリング法を必要とし、これは、使用されるターゲットの状態および年齢に工程が非常に敏感であり、安定性に関して明らかな欠点をもたらすため、工業生産においては通常望ましくない。さらに、Ti層を緻密化し、これらの低温での硬質炭素/基材の接着強度を改善するために、典型的には200Vを超える高い負バイアス電圧を印加して、基材表面での効果的なイオン衝撃を促進し、イオン照射誘起膜緻密化をもたらす。負バイアスを100V未満に低減すると、この状態でスパッタリングされた層が比較的低い密度を有するため、硬質炭素/基材の壊滅的な接着不良が生じる。膜密度を制御するための負の基材バイアスの強い依存性は、本質的に、従来のマグネトロンスパッタリング法中に含まれるプラズマ密度が比較的低いために、スパッタリングされた材料フラックスのイオン化度が低いことに起因することが知られている。従来のスパッタリングは、一般に、スパッタリングされたターゲット材料の最大10%のイオン化をもたらす。これは、Helmersson et al‘‘Ionized physical vapor deposition(IPVD):A review of technology and applications’’,in Thin Solid Films 513(2006),1-24の論文に記載されている。
【0006】
したがって、Greczynski et al.,‘‘Paradigm shift in thin-film growth by magnetron sputtering:From gas-ion to metal-ion irradiation of the growing film’’,in Journal of Vacuum Science&Technology A 37(2019),060801に記載されているように、これは方向およびエネルギーに関して堆積フラックスのより大きな制御を意味し、したがって密度および応力等の膜特性を所望の用途に合わせて調整および最適化することができるので、基材に到達する膜形成種のフラックスがイオン量の増加を特徴とする方法を有することが望ましい。
【0007】
硬質で緻密かつ耐摩耗性の硬質炭素コーティングを製造するために高度にイオン化されたプラズマを達成するための当技術分野で周知の方法は、真空アーク蒸発法である。
【0008】
米国特許出願公開第20190040518号明細書は、低電圧パルスアークによる黒鉛カソードから真空チャンバ内の基材上への耐摩耗性硬質炭素層を開示している。耐摩耗性硬質炭素層は、四面体結合非晶質炭素(ta-C)から形成される耐摩耗層と、基材と摩耗保護層との間にチタン接着層とを有する。接着促進層は、低電圧パルスアークによっても印加される。
【0009】
しかしながら、アーク蒸発工程の基本的な欠点は、重度のコーティング欠陥をもたらし得る大量のマクロ粒子またはいわゆる液滴の生成およびコーティングへの組み込みである。この欠点は、層内の望ましくない不均一性、好ましくない高いコーティング粗さ、およびコーティング性能の低下をもたらす。そのような硬質炭素が減摩コーティングとして使用される場合、対向体の摩耗は許容できないほど高くなり得る。
【0010】
これらの液滴を除去する方法が提案されていることが知られている。例えば、国際公開第2014177641号パンフレットは、電気アーク放電がパルス動作レーザビームを介して真空中で点火され、プラズマのイオン化成分をコーティングチャンバの別個の区画内の磁気フィルタによって基材に向かって偏向させることができるレーザアーク法によって、機械的および/または化学的機械仕上げを必要とせずに、水素不含有四面体非晶質(ta-C)のより滑らかな耐摩耗層を製造する方法を提案している。しかしながら、設計は非常に複雑で高価であり、コーティング工程を経済的に動作させることを困難にする。
【0011】
表面品質を危険にさらすことなくアーク蒸発法で達成されるものと同様の高イオン化プラズマ、スパッタ層の密度および硬度を達成するための周知の代替手法は、いわゆるHiPIMS法(HIPIMS=高出力インパルスマグネトロンスパッタリング)である。工業化された工程は、国際公開第201243091号パンフレットでKrassnitzerによって開示され、Kouznetsov et al,‘‘A novel pulsed magnetron sputter technique utilizing very high target power densities’’,Surface and Coatings Technology 122(1999),290-293に記載されている。HiPIMSでは、スパッタリング材料の高度にイオン化されたフラックスは、ピーク出力密度(W.cm-2におけるPピーク)としても定義されるカソードターゲットのレーストラック領域(cm-2)に非常に高いピーク出力を印加することによって達成される。非常に高いピーク出力密度の結果として、高密度プラズマが達成される。ターゲット/マグネトロン損傷の出力限界未満に留まるために、高いHiPIMS出力が反復パルス方式で印加される。このようにして、平均出力密度(PAv)は、目標温度を融点未満に制限するために従来のマグネトロンスパッタリングレベルに維持される。HiPIMSパルスは、典型的には数マイクロ秒(μs)~数ミリ秒(ms)の範囲の規定のパルス長(tパルス)、および典型的には数ヘルツ~数キロヘルツの範囲の繰り返し周波数で印加され、デューティサイクル(パルスが印加される時間の割合)が典型的には0.5~30%の範囲になる。
【0012】
高いパルス出力密度の結果として、高いプラズマ密度が達成され、スパッタリング材料のイオン化分率が増加する。コーティングされる加工物に負の電圧が印加されると、これらのイオンは加工物に向かって加速され、その結果、非常に高密度のコーティングを生成するために使用することができる。これは、Samuelsson et al,‘‘Influence of ionization degree on film properties when using high power impulse magnetron sputtering’’,in Journal of Vacuum Science&Technology A 30(2012),031507に記載されている。
【0013】
欧州特許第2587518号明細書は、HiPIMSスパッタリング工程によって金属またはセラミック材料の基材上に滑らかな水素不含有ta-Cコーティングを堆積させる方法を開示している。欧州特許第2587518号明細書では、硬質炭素コーティングの総膜厚は、35GPaを超えるコーティング硬度を示すコーティングでは最大1.0μmに制限されており、明らかにこれらの硬質ta-Cコーティング内に存在する大きな内部応力に起因するコーティング接着不良のリスクを制限する。しかしながら、いくつかの用途では、硬質材料層の疲労、摩耗および衝撃寿命を改善するために、耐摩耗性コーティングの厚さを増加させることがさらに必要である。
【0014】
国際公開第2008155051号パンフレットは、低摩擦、耐摩耗性および接着性の炭素含有PVD層を基材上に堆積する方法を開示しており、この方法では、基材は、-500~-1500Vの高い負の基材バイアスで高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)のプラズマ中で前処理され、その後、不平衡マグネトロンスパッタリングによって堆積された基材と機能性硬質炭素含有層との間にHiPIMSによって遷移層が堆積される。第2の遷移層が、機能性硬質炭素含有層の成長前に、第1の遷移層の上に堆積されてもよい。発明者らは、基材前処理および遷移層堆積の両方の間に、結合剤不含有炭化タングステンWCをターゲット材料として使用することが接着強度にとって有利であることが判明したと主張した。結合剤不含有WCターゲットは、金属ターゲットよりも製造コストがかなり高いことがよく知られている。生産性を得るためにPVDが典型的には2つ以上のターゲットに使用されることを考慮すると、注入および遷移層材料としてWCを選択すると、コストが高くなる可能性がある。さらに、遷移層の成長に適したターゲット材料が存在しないという事実は、コーティングされる基材の選択を強く制限する可能性がある。
【0015】
その結果、高い硬度、非常に良好な摺動摩擦特性、および基材に対する優れた接着強度を同時に示す、高いsp3結合割合(50%超)を有する少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素(a-C)から形成される厚い硬質炭素コーティングを堆積させるためのさらなる工程、好ましくはより単純でより柔軟な工程が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
概要
したがって、本開示の目的は、HiPIMSによって部品および工具に塗布される耐摩耗性硬質炭素コーティングであって、膜厚が改善され、同時に高応力領域に塗布された場合でも基材に対する接着強度が改善された耐摩耗性硬質炭素コーティングを提供することである。
【0017】
本開示のさらなる目的は、前述の高性能硬質炭素非晶質コーティングでコーティングされた工具または部品を製造するための工業的に適したコーティング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本開示の目的は、基材の表面上に直接堆積されたCr等の金属接着促進層と、続いてCr1-xCx,等のHiPIMSを同時スパッタリングすることによって生成された特定の緻密な金属炭化物遷移層と、不活性環境での黒鉛ターゲットのHiPIMSスパッタリングによって堆積された平滑で耐摩耗性の硬質炭素層を含む最上層とを少なくとも有する耐摩耗性硬質炭素コーティング組成物を提供することによって達成される。遷移層は、調整可能なコーティング微細構造を有する勾配コーティング構造を含み、極端な負荷条件下であっても厚い硬質炭素コーティングの早期コーティング不良を防止するのに適した改善された機械的特性をもたらす。
【0019】
図面の簡単な説明
本開示は、本開示の好ましい実施形態の非限定的な例として、言及された複数の図面を参照して、以下の詳細な説明でさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】基材の表面上に直接堆積された接着層と、それに続いて金属接着層と上部の耐摩耗性の滑らかで硬質の非晶質炭素層との間に位置する本発明の金属炭化物遷移層とを含む、例示的な実施形態による成長レイアウトをグラフで示す。
【
図2(a)】最先端の傾斜遷移層(サンプルS1)を含む、水素不含有硬質炭素におけるロックウェルCインデンテーションの顕微鏡写真を示す。
【
図2(b)】比較層(サンプルS2)を含む、水素不含有硬質炭素におけるロックウェルCインデンテーションの顕微鏡写真を示す。
【
図2(c)】例示的な実施形態による、本発明の傾斜遷移層(サンプルS3)を含む、水素不含有硬質炭素におけるロックウェルCインデンテーションの顕微鏡写真を示す。
【
図3(a)】最先端の傾斜遷移層(サンプルS1)を含む、水素不含有硬質炭素におけるスクラッチ痕全体の光学顕微鏡写真を示す。
【
図3(b)】比較層(サンプルS2)を含む、水素不含有硬質炭素におけるスクラッチ痕全体の光学顕微鏡写真を示す。
【
図3(c)】例示的な実施形態による、本発明の傾斜遷移層(サンプルS3)を含む、水素不含有硬質炭素におけるスクラッチ痕全体の光学顕微鏡写真を示す。
【
図4(a)】サンプルS1の成長条件下で堆積された遷移層のTEM画像の明視野(a)を示す。黒矢印は柱状間の空隙を示す。
【
図4(b)】サンプルS1の成長条件下で堆積された遷移層のTEM画像のHR-TEM(b)を示す。黒矢印は柱状間の空隙を示す。
【
図4(c)】サンプルS1の成長条件下で堆積された遷移層のTEM画像のSAEDパターン(c)を示す。黒矢印は柱状間の空隙を示す。
【
図4(d)】サンプルS3の成長条件下で堆積された本発明の層間層のTEM画像の明視野画像(d)を示す。
【
図4(e)】サンプルS3の成長条件下で堆積された本発明の層間層のTEM画像のHR-TEM(e)を示す。
【
図4(f)】サンプルS3の成長条件下で堆積された本発明の層間層のTEM画像のSAEDパターン(f)を示す。
【
図5(a)】低いピーク出力密度(サンプルS1の成長に使用される条件に類似)および高いピーク出力密度(本発明のサンプルS3の成長に使用される条件に類似)の下で堆積されたCr
1-xC
x層の硬度HIT(a)対炭素含有量を示す。
【
図5(b)】低いピーク出力密度(サンプルS1の成長に使用される条件に類似)および高いピーク出力密度(本発明のサンプルS3の成長に使用される条件に類似)の下で堆積したCr
1-xC
x層の弾性率EIT対炭素含有量を示す。
【
図5(c)】低いピーク出力密度(サンプルS1の成長に使用される条件に類似)および高いピーク出力密度(本発明のサンプルS3の成長に使用される条件に類似)の下で堆積されたCr
1-xC
x層のH
3/E
2比対炭素含有量を示す。
【
図6】標準PECVD a-C:H対HIPIMSによって堆積された本発明の水素不含有a-Cコーティングの摩擦係数対摺動距離のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
詳細な説明
本発明者らは、驚くべきことに、HiPIMSを同時スパッタリングすることによって、特定の緻密な金属炭化物遷移層が接着金属と上部非晶質層との間に塗布される場合、非常に高い硬度、および同時に、高い接触荷重で基材に対する非常に高い接着強度を有する、非晶質炭素で作られた硬質材料の耐摩耗性コーティングを製造することが可能であることを発見した。この場合、工程パラメータは、金属炭化物中間層の成長に関与する吸着原子の移動度を高め、その結果、粒界の緻密化、ならびに低い成長温度でも柱状間の空隙および細孔の排除をもたらす。
【0022】
「低温」という用語は、本開示の文脈において、100℃~250℃、好ましくは150℃~200℃、またはより好ましくは100℃~150℃の基材表面における温度として使用される。
【0023】
上述したように、スパッタリング法は、デューティサイクル(パルスがオンである時間の割合)およびターゲットレーストラックで供給されるピーク出力密度に関して分類することができる。本開示の目的のために、「従来のマグネトロンスパッタリング法」という用語は、個々のパルスの出力密度が典型的には80W.cm-2未満であり、パルス周波数が50~250Hzの範囲にある場合に動作する工程として定義される。HiPIMS法では、個々のパルスの出力密度は、0.5~15%の範囲のデューティサイクルで500W.cm-2を超える。従来のマグネトロンスパッタリング限界を超え、HIPIMS範囲を下回るすべての放電動作は、中間パルス法と呼ばれる。中間パルス法は、15%を超えるデューティサイクルで80~500W.cm-2の中間出力密度で動作する。これらの定義は、本発明を通して使用される。
【0024】
コーティングシステムを、本発明の一実施形態による最適なsp3フラクション結合割合に達するのに適した低温コーティング工程に保つために、真空コーティングチャンバには、例えば堆積速度を損なうことなく高効率の低温コーティング工程を行うことができるように放熱を増加させることを可能にする特別な保護シールドが装備された。対応するコーティング装置は、国際公開第2019025559号パンフレットにより詳細に記載されている。真空コーティングチャンバは、放射ヒータを有していない。しかしながら、真空コーティングチャンバは、コーティングされる基材を加熱するためにチャンバ内に熱を導入するための熱源として使用することができる1つまたは複数の放射ヒータを備えることもできる。
【0025】
このようにして、より厚い硬質炭素層の成長を達成することができ、例えば塗布領域において上記で挙げた問題を克服し、高接触荷重での接着強度が改善された十分に厚く滑らかな自己潤滑性硬質炭素層を製造することが可能である。
【0026】
本発明者らは、異なる金属炭化物M-C(M=Cr、Ti、W、AlおよびZr)遷移層の堆積を検討した。以下に説明するように、不活性ガスとしてアルゴンを用いた少なくともクロムおよび炭素の同時スパッタリングが好ましい実施形態である。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、接着促進層(層1)は、スパッタリングによって堆積されたCr等のモノリシック多結晶金属層である。金属接着促進層を堆積させるために、Crを含有する少なくとも1つのターゲット、例えばCrターゲットがCr源として使用され、ターゲットは、少なくとも1つの不活性ガス、好ましくはアルゴンを有する不活性雰囲気を用いたスパッタリング工程を使用してコーティングチャンバ内でパルス出力で操作される。
【0028】
金属ターゲットに供給される電力は、好ましくは中間パルス範囲内(>50W.cm-2)、より好ましくはHiPIMS範囲内(>500W.cm-2)の個々のパルスの出力密度およびデューティサイクルで、0.05msを超える長さの個々のパルス(tパルス)で優先的に供給される。この工程は、通常、約0.1~0.6PaのAr圧力で行われる。
【0029】
負バイアス電圧は連続的、またはクロムターゲットに印加されるHiPIMSパルスと同期することができ、バイアス電圧は-200V未満、好ましくは-100V未満、さらに優先的には-75V未満である。
【0030】
堆積工程中、基材の温度は、200℃未満、好ましくは150℃未満の値に維持されてもよい。工程は、外部加熱なしで行われてもよい。
【0031】
好ましくは、Cr接着促進層の総層厚は、100nm超、好ましくは300nm超、最も好ましくは500nm超である。
【0032】
硬質炭素コーティングの耐荷重能力を改善するために、接着促進層は、多層コーティングとして具体化されてもよい。この実施形態では、多層コーティング構造は、タイプAおよびタイプBの交互の個々の層を含む。タイプAの個々の層は、Cr等の金属層を含む。タイプBの個々の層は、窒化物含有(例えば、CrN)層または酸窒化物含有(CrON)層等の硬質材料を含む。これらの硬質材料層は、反応性dcMSおよび/またはHiPIMSによって堆積させることができる。窒化物または酸窒化物を含む層を堆積させるために、Crを含む少なくとも1つのターゲット(例えば、クロムターゲット)がCr源として使用される。コーティングチャンバ内でスパッタリングに使用されるターゲットは、少なくとも1つの不活性ガス、好ましくはアルゴンおよび少なくとも1種または複数の反応性ガス(例えば、N2およびO2)を有する反応性雰囲気でスパッタリング工程を受ける。
【0033】
個々のAの厚さは、500nm以下5nm以上であることが好ましい。また、タイプBの個々の層の厚みは、500nm以下5nm以上であることが好ましい。
【0034】
好ましくは、接着促進多層の総コーティング厚は、0.5μm~10μm、好ましくは3μm~5μmの範囲内であるべきである。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、遷移層(層2)は、基材からの層2の距離が増加するにつれて層2の厚さにわたって減少する金属含有量および増加する炭素含有量を有する傾斜層である。これに関して、層2は、Cr1-xCxの化合物であり、xは、脆い多結晶Cr-C相の形成を回避するために、0.4<x<0.85であることが好ましい。
【0036】
本発明の一実施形態によれば、CrC遷移層は、同時スパッタリングによって接着促進層と硬質炭素層との間に塗布される。CrC遷移層を堆積させるために、Crを含有する少なくとも1つのターゲット(例えば、Crターゲット)がCr源として使用され、炭素を含有する少なくとも1つのターゲット(例えば、黒鉛ターゲット)が炭素源として使用される。ターゲットは、コーティングチャンバ内でのスパッタリングに使用され、少なくとも1種の不活性ガス、好ましくはアルゴンを有する不活性雰囲気でパルス出力で動作する。Crを含有するターゲットは、好ましくは第1の電源装置または第1の電源ユニットによってパルス出力を受ける。また、炭素を含有するターゲットは、第2の電源装置または第2の電源ユニットによってパルス出力を受ける。
【0037】
上述のスパッタリング法では、例えば、黒鉛ターゲットへの平均出力(PAv)を増加させることによってCr1-xCx中の炭素含有量xを制御するように同時スパッタリングを確実に行うことができ、コーティング工程中、クロムターゲットは一定の平均出力(PAv)で操作される。
【0038】
黒鉛ターゲットに供給される電力は、好ましくは中間パルス方法範囲(>50W.cm-2)内の個々のパルスのピーク出力密度およびデューティサイクルで、0.05ms未満、好ましくは0.03ms未満、さらに好ましくは0.01ms未満の長さのパルス(tパルス)で優先的に供給される。
【0039】
本発明者らは、驚くべきことに、本発明のCrC遷移層を製造するための重要な要件が、成長面で十分に高い吸着原子移動度を有する成長条件を達成することであることを見出した。すなわち、HiPIMS法の範囲内(>500W.cm-2)の個々のパルスの出力密度およびデューティサイクルで0.05msを超える長さのパルス(tパルス)をクロムに印加することによって、イオン化されたCr種の高フラックスを成長するCrC膜に曝露することによる。成長するCrC遷移層の表面へのCr+イオンのイオン照射は、バルク膜に組み込まれる前に吸着原子膜種(CおよびCr)の表面および表面下拡散を動的に増強し、これは、衝突するイオン化Cr種によるイオン衝撃部位に近い原子への運動エネルギーの直接移動から生じる。金属イオン照射によって誘発される表面吸着原子移動度は、この低温でのマグネトロンスパッタリングによる、例えば従来のコーティング工程で典型的に観察される、膜の緻密化および柱状間の多孔性および空隙の明確な減少に有利である。これらの欠陥は、早期破壊および最終的には壊滅的な層間剥離を引き起こす亀裂伝播の核形成部位として作用し得ることが知られている。理論に束縛されることを望むものではないが、低温での膜緻密化は、有利な機械的特性(高硬度および弾性率)を有する改善された損傷耐性遷移層の開発のための前例のない機会を提供し、それによって、様々なサイズの亀裂を開始および伝播するためにより多くのエネルギーが必要とされるため、効果的な破壊靱性向上に寄与し、したがって、硬質炭素層の高い圧縮内部応力に関連する鋭い界面での応力誘発性剥離を介した亀裂成長の推進力を抑制すると考えられる。本発明の遷移層の適用による接着促進層と硬質炭素層との間の組成および機械的特性の滑らかな遷移はまた、界面結合を改善し、これらの2つの層の間の弾性率の不整合を減少させる傾向があり、それにより、極端な負荷条件下で、または他の摺動相手との極端な摩擦下および接触圧力下で、性能が改善されたよく接着した厚い硬質炭素コーティングの堆積を容易にする。
【0040】
堆積工程中、基材の温度は、100℃~250℃、好ましくは150~200℃、またはより好ましくは100℃~150℃の値に維持され得る。工程は、外部加熱なしで行われてもよい。
【0041】
好ましい実施形態では、工程は、約0.1~0.6PaのAr圧力で行われる。
本発明のさらに好ましい実施形態によれば、十分に高い吸着原子移動度は、基材に負バイアスを印加することによって達成される。バイアス電圧は、クロムターゲットに印加されるHiPIMSパルスと連続的または同期することができ、バイアス電圧は20Vより高い値、さらに優先的には50Vより高い値、特に好ましくは100Vより高い値を有する。本発明者らは、驚くべきことに、10nm~300nmの上記遷移層の厚さが、硬質炭素/基材の優れた接着強度を促進するのに十分であることを見出した。
【0042】
本発明の別の実施形態によれば、硬質炭素層(層3)は、パルス出力によって堆積された少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素層(a-C)を備える。少なくとも水素不含有非晶質層を堆積させるために、Cを含有する少なくとも1つのターゲット(例えば、黒鉛ターゲット)がC源として使用される。ターゲットは、コーティングチャンバ内でのスパッタリングに使用され、少なくとも1種の不活性ガス、好ましくはアルゴンを有する不活性雰囲気でパルス出力で動作する。
【0043】
黒鉛ターゲットに供給される電力は、好ましくは0.05ms未満、好ましくは0.03ms未満、特に好ましくは0.01ms未満の長さのパルス(tパルス)で供給され、ピーク出力密度およびデューティサイクルは、好ましくは中間パルス法の範囲内、より好ましくはHiPIMS法の範囲内であり、高イオン化Arプラズマを達成して、高密度で、硬く、滑らかで、液滴非晶質炭素のない成長を促進する。
【0044】
好ましい実施形態では、工程は、約0.1~0.3PaのAr圧力で行われる。
負バイアス電圧は連続的であってもよく、または黒鉛ターゲットに印加されるHiPIMSパルスと同期していてもよく、バイアス電圧値は-50V~-150V、より好ましくは-50V~-100Vである。
【0045】
堆積工程中、基材の温度は、150℃未満、最も好ましくは120℃未満、さらに好ましくは100℃未満に維持され得る。工程は、外部加熱なしで行われてもよい。
【0046】
水素不含有非晶質の硬度は、30GPaより高いことが好ましい。非晶質炭素層の硬度の好ましい範囲は、30GPa~40GPaである。
【0047】
水素不含有非晶質層の弾性率は、250GPaより高いことが好ましい。非晶質炭素層の弾性率の好ましい範囲は、250~300GPaである。
【0048】
水素不含有非晶質炭素のsp3結合炭素の割合は、好ましくは30%より高く、さらに好ましくは50%より高く、例えば30%~60%である。
【0049】
好ましくは、少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素は、RZ<0.5μmを特徴とする非常に滑らかな表面を示す。
【0050】
好ましくは、少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素層中のアルゴン濃度は、好ましくは10at%未満、例えば5at%である。
【0051】
好ましくは、少なくとも水素不含有非晶質炭素層の電気抵抗率は、10-3Ω・cm-1未満、好ましくは10-4Ω・cm-1未満である。
【0052】
好ましくは、水素不含有非晶質炭素層は、50から55の間の無煙炭グレー値L*を有する(D65標準照明に基づくCIE1976L*a*b*色空間による)。
【0053】
好ましくは、少なくとも水素不含有非晶質炭素層の摩耗率は、3.0.10-16m3/Nmより低い。
【0054】
好ましくは、少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素層の総厚は、0.1μmより大きく、好ましくは1.0μmより大きく、最も好ましくは2.0μmより大きい。
【0055】
別の実施形態によれば、硬質炭素層は、少なくとも1つの金属を含む少なくとも1つの金属ドープ非晶質炭素層(a-C:Me)を含んでもよい(Me=Cr、Ti、W、AlおよびZr)。少なくともa-C:Me層を形成するための金属素子を提供するために、Meを含む少なくとも1つのターゲットが使用される。一実施形態では、少なくとも1つのターゲットは、アーク蒸発、従来のスパッタ、またはHiPIMS法に供することができる。a-C:Me中の金属の添加は、コーティングの内部圧縮応力を低減し、当業者に一般的に知られているように、例えば高温摩耗、衝撃疲労摩耗等の特定のトライボロジー摩耗現象のための弾性および耐摩耗性を改善することが期待できる。
【0056】
好ましくは、金属ドープ非晶質炭素層中の金属の含有量は、好ましくは10at%未満、例えば5at%である。金属ドープ非晶質炭素層中の金属の最小含有量は1at%である。
【0057】
金属ドープ非晶質層の硬度は、20GPaを超えることが好ましい。a-C:H層の硬度の好ましい範囲は、20GPa~40GPaである。
【0058】
別の実施形態によれば、硬質炭素層は、反応性HiPIMSによって水素不含有非晶質炭素副層の上に堆積された水素ドープ非晶質炭素(a-C:H)を有する層状構造を備え得る。a-C:H層の堆積中、反応性雰囲気は1種の不活性ガス、好ましくはアルゴンを含み、少なくとも1種の炭化水素ガス(CH4,C2H2,C7H8,...)、好ましくはC2H2が反応性ガスとして使用される。この工程の間、黒鉛ターゲットに供給される電力は、水素不含有炭素層の製造のために上記で指定された方法と同じ方法で与えられる。この上部a-C:H層は、摺動面を有する用途における硬質炭素コーティングのランニングイン摩耗挙動にプラスの影響を及ぼすことができる。
【0059】
好ましい実施形態では、工程は、約0.1~0.6Paの全圧で行われる。
水素ドープ非晶質炭素(a-C:H)の一実施形態において、水素濃度は、好ましくは30at%未満、例えば20at%である。好ましくは、水素ドープ非晶質炭素層は、水素不含有非晶質炭素の上に勾配層として適用され、水素の濃度は勾配表面に向かって増加する。
【0060】
水素ドープ非晶質炭素層の硬度は、20GPaを超えることが好ましい。a-C:H層の硬度の好ましい範囲は、20GPa~40GPaである。
【0061】
好ましくは、水素ドープ非晶質炭素層は、40~50のL*値を有する黒色の外観を有する。
【0062】
好ましくは、水素ドープ非晶質炭素層の層厚は、硬質炭素層の総層厚の30%を占めるが、この量に限定されない。
【0063】
別の実施形態によれば、用途に応じて層最適化のために別の非金属元素(一般にXとして識別される)をa-Cにドープすることも可能である。例えば、当業者に一般的に知られているように、a-CにNまたはSiをドープすると、応力および摩擦が減少し、Fをドープすると濡れ特性が変化する(より高い濡れ角)。これらの非金属元素は、窒素、ホウ素、ケイ素、フッ素等であり得る。元素Xは、気相の前駆体(シラン、HDMSO、TMS、フルオロカーボンガスCF4,...のようなSi含有前駆体)から、またはX元素と合金化された黒鉛ターゲットから供給することができる。
【0064】
好ましくは、非金属ドープ非晶質炭素層(a-C:X)中の非金属の含有量は30at%未満であり、好ましくは20at%未満、より好ましくは10at%未満である。非金属ドープ非晶質炭素層(a-C:X)中の非金属の最小含有量は1at%である。
【0065】
好ましくは、非金属ドープ非晶質層(a-C:X)の硬度は、20GPaより高いことが好ましい。a-C:X層の硬度の好ましい範囲は、20GPa~40GPaである。
【0066】
本発明による炭素コーティングは、鋼基材、コバルト超硬炭化タングステン等の硬質金属基材、アルミニウムもしくはアルミニウム合金基材、チタンもしくはチタン合金基材、または銅および銅合金基材から構成される、可撓性または剛性のいずれかの任意の金属加工物をコーティングするために使用することができる。本開示による耐摩耗性炭素系コーティングの製造温度は100℃と低くできるため、感温性基材をコーティングすることが可能である。
【0067】
実施形態では、機械加工工具および成形工具をコーティングすることが可能である。本発明の一実施形態による炭素コーティングは、タペット、リストピン、フィンガ、フィンガーフォロア、カムシャフト、ロッカーアーム、ピストン、ピストンリング、ギア、バルブ、バルブスプリングおよびリフタ等のバルブトレイン構成要素に適用される。とりわけ、ナイフ、はさみ、カミソリ刃等の家電製品、インプラントおよび手術器具等の医療部品、ならびに時計ケース、クラウン、ベゼル、ブレスレット、バックル等の装飾部品等の部品も、本発明の実施形態による炭素コーティングでコーティングすることができる。
【0068】
ここで、本発明の好ましい実施形態を、工程の説明を参照して、例として詳細に説明する。
【0069】
例
例1
本発明の一実施形態による炭素コーティングを製造するために、62HRCの硬度を有する鋼で作られた加工物を、少なくとも3つのクロムターゲットおよび少なくとも3つの黒鉛ターゲットを備えたOerlikon Balzers INLENIA Pica真空処理チャンバに入れ、その後、真空チャンバを約10-5mbarの圧力までポンプダウンした。
【0070】
本発明の一実施形態による金属接着促進層と厚い硬質炭素層との間への特定の緻密な金属炭化物遷移層の介在の有効性を実証するために、金属接着促進層および水素不含有非晶質炭素の堆積を含む残りのすべての工程ステップについて、異なる遷移層を有する3つのサンプルを同一のパラメータで堆積させた。
【0071】
工程の最初の部分として、コーティングされる基材を約200℃のより高い温度にし、基材の表面および真空ポンプによって吸引されている真空チャンバ壁から揮発性物質を除去するために、プラズマ加熱工程を30分間行う。この前処理段階で、イオン化チャンバと補助アノードとの間の低電圧アーク(LVA)によりAr水素プラズマを着火させる。
【0072】
10分間冷却した後、チャンバ内の定常状態の温度は、前述のように保護シールドの高効率の放熱のために100℃に低下した。低電圧アークイオン化チャンバおよび補助アノードを作動させることによって、20分間のArイオンプラズマエッチング工程を開始する。イオン洗浄後に行われる接着性金属層の良好な層接着を確実にするために、バリスティック除去によって自然酸化物または有機不純物等の不純物を除去することを主目的として(すなわち、自然酸化物および不純物は、強力なAr+イオン衝撃によるスパッタエッチである)、Arイオンは、洗浄される基材上に低電圧アークプラズマから120Vの負バイアス電圧によって引き出される。
【0073】
次の手順段階として、以下の工程パラメータ、すなわち、700W.cm-2の個々のパルスの出力密度、0.3PaのAr全圧、および180℃未満のコーティング温度で30分間の-50Vの一定バイアス電圧を使用して、本発明の一実施形態によるHiPIMS法によって厚さ300nmの接着促進層Cr層をコーティングされる基材の表面に直接堆積させる。
【0074】
この時間中、3つのクロムターゲットに上記の工程段階を施した。
そして、その直後に、同時スパッタリング法により本発明の一実施形態に従って傾斜CrC遷移層を200nm堆積した。この方法では、3つのクロムターゲットは前と同様に供したが、異なる設定を有した。さらに、3つの黒鉛ターゲットを添加した。すべてのサンプルについて、C含有量を徐々に増加させるために、3つの黒鉛ターゲットには80W.cm-2から161W.cm-2までの平均出力Pavを与え、クロムターゲットには20W.cm-2の一定の平均出力Pavを与えた。黒鉛ターゲットに供給される個々のパルスの出力密度およびデューティサイクルは、本発明の一実施形態による中間パルス法範囲内であった。クロムターゲットに関して、個々のパルスの出力密度は、金属イオン照射の影響を証明するためにサンプルごとに変更されている。3つの異なる出力密度、すなわち、20W.cm-2、70W.cm-2、および600W.cm-2が選択された。
【0075】
関連するサンプルは、サンプルS1(20W.cm-2の低いCr出力で堆積したCrC)、サンプルS2(70W.cm-2の中間出力パルスで堆積したCrC)、およびサンプルS3(本発明の一実施形態による600W.cm-2の高いピーク出力によって堆積したCrC)としてシーケンスに列挙されている。
【0076】
サンプルS1に使用された設定は、従来のマグネトロンスパッタリングとして従来技術で知られているものに対応する。出力密度値は50W/cm-2未満であった。サンプルS1およびサンプルS2は、層特性および接着強度に関する比較目的のために役立つ。
【0077】
これらの3つの遷移層について、150℃未満の基材温度で30分間、-50Vの一定のバイアス電圧で、動作圧力を常に0.3Paに維持した。
【0078】
これら3つの傾斜CrC遷移層の化学組成を、エネルギー分散型X線分光法(EDX)によって測定した。分析は、基材からの距離が増加するにつれて、遷移層の厚さにわたってC含有量が増加することを示した。これに関して、関連するすべてのサンプルの傾斜CrC遷移層内のC含有量は、40at%~85at%の範囲であった。
【0079】
高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)分析と合わせたX線回折測定により、これらの2つの傾斜CrC遷移層が、秩序炭化物配列の一部のクラスタ(<1~2nm)のみが存在する非晶質/ナノ結晶構造を示すことが明らかになった。長距離秩序の炭化物粒子が存在しないこと、またはナノコンポジット微細構造とも呼ばれることは、遷移層膜成長中に適用される低温条件(<200℃)に起因し得る。非晶質/ナノ結晶構造はまた、単一原子の周りの局所的な秩序化に由来する広い特徴のみを示すXRD回折図によっても裏付けられる。
【0080】
最後に、本発明の一実施形態によるHiPIMS法により、40GPaのコーティング硬度および290GPaの弾性率(フィッシャースコープ装置で10mNの荷重で測定)を有する厚さ2.0μmの耐摩耗性水素不含有a-C層を、以下のパラメータを使用して遷移層の上に堆積させた:500W.cm-2の個々のパルスの出力密度、0.05msのtパルス、0.3Paの全圧、-100Vの一定バイアス電圧、120℃のコーティング温度で360分間の全堆積持続時間。
【0081】
これらの2つのサンプルの接着強度を確認するために、両方のコーティングの接着クラスを150kgの荷重でロックウェルC法(HRC工程)によって評価し、
図2に示す。VDI 3198規格によれば、コーティングの接着性は、光学顕微鏡を使用することによって得られ、インデントの周りの亀裂およびコーティング剥離のレベルに応じて、HF1(非常に良好な接着性)からHF6(不十分な接着性)までの6つの分類に分けられる。
【0082】
上部に同一の接着促進層および硬質炭素層を塗布したにもかかわらず、驚くべきことに、他の参考文献による個々のパルスのより低い出力密度で堆積された傾斜CrC遷移層を含むサンプルS1またはS2と比較して、本開示の実施形態による個々のパルスの高い出力密度で堆積された傾斜CrC遷移層を含むサンプルS3において、硬質炭素基材の接着強度のかなりの改善が見出されることが判明した。
【0083】
図2(a)は、サンプルS1の表面上のロックウェルCインデンテーションの写真を示す。
図2(b)は、サンプルS2の表面上のロックウェルCインデンテーションの写真を示す。
図2(c)は、本発明の一実施形態による傾斜CrC遷移層を有するサンプルS3の表面上のロックウェルCインデンテーションの写真を示す。
【0084】
サンプルS1およびS2では、炭素コーティングは、インデンテーションの周りに大きな剥離場を示し、不十分な接着強度品質HF6の分類をもたらす。エッジ効果に起因する高い内部応力の蓄積のために、サンプルの縁部でサンプルS1の自発的な剥離も観察された。したがって、コーティングされた縁部での自発的な剥離を回避するために、硬質炭素コーティングの厚さを1μm未満の値に減少させなければならない。
【0085】
明確に対照的に、本発明の遷移層によるサンプルS3の炭素コーティングは、インデンテーションの穴の周りに目に見える層間剥離を示さず、インデンテーション後にほぼ亀裂がないままであり、典型的な優れた接着強度品質HF1である。
【0086】
3つすべてのサンプルの接着強度をさらに確認するために、ISO 20502:2016に従って、ロックウェルCダイヤモンドスタイラス(半径0.2mm)を用いてスクラッチ試験を行った。印加荷重は、スクラッチ長さ6mmで荷重速度10N/mmで10~75Nまで直線的に増加させた。各スクラッチ試験を各コーティングについて3回繰り返した。大きな誤差の原因を回避するために、ダイヤモンドスタイラスは、損傷または汚染をチェックするために各スクラッチ試験の前に常に検査される。コーティング基材の凝集破壊および/または接着破壊を誘発する臨界荷重を、倍率200の光学顕微鏡観察によって評価した。スクラッチチャネル(Lc1)に現れる最初の目に見える亀裂、スクラッチに沿った膜の剥離(Lc2)、およびコーティングの壊滅的な接着不良(Lc3)が発生する臨界荷重を決定した。Lc3は、コーティング/基材の接着強度を評価するための良い指標であることが知られている。
【0087】
S1、S2およびS3のスクラッチ試験の比較は、
図3に見ることができる。
図3(a)は、スクラッチ痕の光学顕微鏡写真、ならびにS1の不良メカニズムの拡大顕微鏡写真を示す。
図3(b)は、スクラッチ痕の光学顕微鏡写真、ならびにサンプルS2の不良メカニズムの拡大顕微鏡写真を示す。
図3(c)は、スクラッチ痕の光学顕微鏡写真、ならびにサンプルS3の不良メカニズムの拡大顕微鏡写真を示す。サンプルS1では、Lc1 15+/-3Nの臨界負荷値で亀裂が現れ始め、26+/-3NのLc2の臨界負荷値で脆性剥離が観察され、CrC/a-C界面付近のCrC中間層内部の弱い凝集強度に起因してスクラッチ痕の側面にわたって広範な亀裂および界面分離が延在する。コーティングの壊滅的な不良は、30+/-3Nの臨界負荷Lc3で起こる。同じ不良メカニズムがサンプルS2のスクラッチ試験中に発生するようであるが、より高い臨界負荷では、Lc2の臨界負荷値は34Nで見られ、Lc3は39Nで見られる。
【0088】
本発明のCrC遷移層を有するサンプルS3では、20+/-2Nの臨界荷重値で亀裂が核生成するが、48+/-5Nの接触荷重Lc2では、スクラッチ痕に沿った引張座屈破砕が検出された。驚くべきことに、75Nまでの臨界負荷でもコーティング/基材の壊滅的な接着不良は認められず、これは、ロックウェルC法とよく一致して、コーティング/基材の優れた接着強度および本発明の遷移層の向上した損傷耐性能力を実証する。
【0089】
サンプルS3の接着強度の改善のメカニズムを理解するために、サンプルS1およびS3に適用された傾斜CrC中間層の微細構造の比較を、断面透過型電子顕微鏡(TEM)観察を通して行った。結果を
図4に示す。
図4(a)は、低いピーク出力密度P
パルスで成長させたサンプルS1上に適用された傾斜CrC遷移層の断面TEM顕微鏡写真である。円錐上面および10+/-5nmの平均柱幅を有する顕著な柱状構造が、柱状間および柱状内の多孔性を伴って観察され、これは高分解能TEM顕微鏡写真(b)に最もよく見られ、従来のマグネトロンスパッタリング法の低温工程(T
s<150℃)での低吸着原子表面移動度成長レジームの特徴である。CrC中間層の約150nmの領域からの回折信号を表す選択領域回折(SAED)パターン(TEM画像(c)を参照)は、CrまたはCrC粒子の周期的な長距離の兆候を示さず、代わりに非晶質構造を示す。
【0090】
明確に対照的に、非常に高いピーク出力密度P
パルスで成長させたサンプルS3上の本発明の傾斜CrC遷移層は、断面TEM画像(
図4(d)参照)によって明らかにされ、高分解能TEM観察(
図4(e)参照)によって確認されるように、柱状間空隙の劇的な減少を伴う、50+/-10nmの平均柱幅を有するはるかに高密度の微細構造を示し、柱状頂部ははるかに浅い溝で丸くなる。本発明のCrC遷移層(
図4(f)参照)のSAEDパターンは、サンプルS1と比較して構造変化を示さない。
【0091】
理論に束縛されることを望まないが、低温で観察された膜の緻密化は、非常に高い瞬間高出力パルス中にCrターゲットで生成され、かつ負バイアス電圧を使用して成長中のCrC遷移層に向かって加速される、強力なCr+イオン衝撃に起因すると考えられる。金属イオン衝撃は、付加的な運動エネルギーを吸着原子(CおよびCr)に提供することによって膜成長中に表面付近の原子混合を動的に増強し、それによってバルク膜に組み込まれる前により高い表面移動度を誘導して、低い堆積温度に典型的な柱状間および柱状内の多孔性を排除し、したがって遷移層の凝集強度を増加させる。コーティング層には、Ar+等のガスイオンの代わりに、Cr+イオンが格子歪みを生じることなく取り込まれている。
【0092】
図5(a)~
図5(c)に示すように、Cr
+イオン照射によって引き起こされる微細構造の緻密化は、全く予想外にも、傾斜CrC遷移層の機械的特性の向上に有益な効果を示した。サンプルS1およびサンプルS3と全く同じ工程パラメータで成長させた個々のCr
1-xC
x層の塑性変形または靭性に対する材料抵抗性を反映した、マイクロインデンテーション硬度HIT(GPa)、弾性率EIT(GPa)およびH
3/E
2比を0.3<x<0.7の範囲にわたってC含有量の関数としてプロットした。すべての層の合計膜厚は約1.0μmであった。
【0093】
低いピーク出力密度Pパルス(S1-20W.cm-2)下で成長させたCr1-xCx層では、HITの急速な減少が、x=0.3の18GPaから、それぞれx=0.5および0.7の12GPaおよび7GPaまで観察される。同様に、EITは、より低いx値での210GPaから、x=0.5、0.6、および0.7でそれぞれ180、140、さらには110GPaに低下する。H3/E2比は、より低いx値での0.13からx=0.7での0.02に低下する。
【0094】
驚くべきことに、高いピーク出力密度Pパルス(S3-700W.cm-2)下で成長させたCr1-xCx層について、向上した機械的特性が得られ、x=0.7であっても、HITが18GPaと高い。安定したEITは215GPaで0.35から0.7の範囲のxを有し、これはより高いx値で低いピーク出力密度で成長させた対応するCr1-xCx膜よりもほぼ50%高い。同様に、材料靭性を反映するH3/E2比は、低いピーク出力密度で成長させた同様のC含有量を有するCr1-xCx層について測定された値よりも6倍高い0.7のxでさえ、0.12のレベルで比較的一定のままである。
【0095】
理論に束縛されることを望むものではないが、高いピーク出力密度Pパルス(S3-700W.cm-2)下で成長させた傾斜CrC遷移層の強化された靱性は、遷移層および界面、例えばCr/Cr1-xCx(より低いx値の最も内側の界面)および硬質炭素層/Cr1-xCx(より高いx値の最も外側の界面)における塑性変形に対するより高い歪みに適応することができ、それによって負荷および除荷中の亀裂および破壊不良の確率を低下させ、したがって高負荷条件下でも硬質炭素/基材の接着強度を改善すると考えられる。
【0096】
高いピーク出力密度P
パルス(S3-700W.cm
-2)下で成長させたCrC遷移層との本発明の硬質炭素コーティング組成物の摩擦を、ピンオンディスク試験(ピンオンディスク摩擦計、CSC Instruments)を用いて試験した。試験は、温度22℃、相対湿度43%の乾燥条件下、空気中で行った。サンプルを、直径3mmのコーティングされていない100Cr6鋼ボールに対して摩耗させた。鋼ボールを静止摩擦パートナーとして機能させ、コーティングされたサンプルをその下で回転させた(半径6mm、速度0.3m/s)。ボールに10Nの荷重をかけた。これは、硬質炭素層の表面にかかる2.2GPaの瞬間接触圧力に相当する。本発明のコーティングの測定値を、20GPaのコーティング硬度を有し、プラズマ化学気相成長(PECVD)法によって堆積させた厚さ2.5μmの水素ドープa-C:H DLCコーティングと比較した。両方のコーティングの2000メートル後の代表的な摩擦係数を
図6にプロットする。
【0097】
意外にも、本発明の層のランニングイン特性は、標準的なPECVD DLC層と比較してわずかに良好であることが判明した。
図6から分かるように、本発明のコーティングの摩擦係数は、PECVD DLC層の摩擦係数をわずかに上回っているようである。a-C膜に水素をドープすると、乾燥状態での摩擦係数を低減するのに役立つことが知られている。しかしながら、非常に驚くべきことに、試験後の摩耗した表面の検査が、標準的なPECVD層よりも本発明の層に対して一般に有意に少ない層およびわずかに少ない相手部品の摩耗を示すという事実は(コーティングの摩耗部分の幅150μm対300μm、ボール上の摩耗領域の直径400μm対450μm)、本発明の硬質炭素コーティング組成物の耐摩耗特性の向上を実証している。コーティングされていない対向体ボールのこの驚くほど低い摩耗の1つの可能な説明は、HiPIMSによって堆積されたこのa-C層によって提供される平滑性および低欠陥密度に起因する可能性がある。
【0098】
さらに、少なくとも、本発明は、特定の例示的な実施形態の開示によって、例えば単純化または効率化のために、本発明を製造および使用することを可能にする方法で本明細書に開示されているので、本発明は、本明細書に具体的に開示されていない追加の要素または追加の構造がない状態で実施することができる。
【0099】
前述の例は、単に説明の目的で提供されたものであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本明細書で使用される単語は、限定的な単語ではなく、説明および例示の単語であることが理解される。添付の特許請求の範囲の範囲内で、その態様における本発明の範囲および精神から逸脱することなく、現在述べられているように、および修正されたように、変更を行うことができる。本発明は、特定の手段、材料、および実施形態を参照して本明細書に記載されているが、本発明は、本明細書に開示された詳細に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるような、すべての機能的に等価な構造、方法および使用に及ぶ。
【0100】
基材の表面に直接接触する接着層と、
接着層上に堆積された金属炭化物遷移層と、
炭化物遷移層上に堆積された硬質炭素層と
を備える、基材上に塗布した際の接着強度が向上した硬質炭素コーティング組成物が開示される。
【0101】
硬質炭素コーティング組成物のディヒソン層は、モノリシック多結晶金属層であり得る。
【0102】
モノリシック多結晶金属層はCrを含むことができる。
接着層は、0.1μm~10μmの厚さを有することができる。
【0103】
接着層は、タイプAおよびタイプBの交互の個々の層を含む多層コーティングとすることができ、
タイプAは、金属層を含み、
タイプBは、窒化物含有層または酸窒化物含有層を含む。
【0104】
金属層はCrを含むことができる。
金属炭化物遷移層はM-Cを含むことができ、MはCr、Ti、W、Al、およびZrのうちの少なくとも1つを表し、Cは炭素を表す。
【0105】
金属炭化物遷移層はCr1-xCx,の化合物を含むことができ、xは0.4<x<0.85を表す。
【0106】
金属炭化物遷移層は、基材からの距離が増加するにつれて金属炭化物遷移層の厚さにわたって減少する金属含有量および増加する炭素含有量を有する傾斜層とすることができる。
【0107】
金属炭化物遷移層内の炭素含有量は、40at%~85at%の範囲であり得る。
金属炭化物遷移層は、柱状間の空隙が減少した、50+/-10nmの平均柱幅を有する微細構造を有することができる。
【0108】
金属炭化物遷移層は、10nm~300nmの厚さを有することができる。
硬質炭素層シャンクは、少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素層(a-C)を含む。
【0109】
硬質炭素層は、30GPa~40GPaの硬度を有することができる。
少なくとも1つの水素不含有非晶質炭素層は、少なくとも0.1μmの厚さを有することができる。
【0110】
硬質炭素層は、金属ドープ非晶質炭素層(a-C:Me)層を含むことができ、金属ドープ非晶質炭素層は、Cr、Ti、W、AlおよびZrのうちの少なくとも1つを含む。
【0111】
金属ドープ非晶質炭素層は、10at%未満の金属含有量を有することができる。
硬質炭素層は、水素不含有非晶質炭素副層上に堆積された水素ドープ非晶質炭素(a-C:H)を有する層状構造とすることができる。
【国際調査報告】