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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】融合前安定化HMPV Fタンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/40 20060101AFI20231018BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231018BHJP
   C07K 14/08 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231018BHJP
【FI】
C12N15/40 ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/08
A61P31/12
A61K48/00
A61K38/16
A61K47/68
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521506
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 US2021053944
(87)【国際公開番号】W WO2022076669
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】63/089,978
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】マクレラン ジェーソン
(72)【発明者】
【氏名】シェ チン-リン
(72)【発明者】
【氏名】ラッシュ スコット
(72)【発明者】
【氏名】ワン ニアンシュアン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC35
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA22
4C084NA14
4C084ZB33
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA31
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書では、操作されたhMPV Fタンパク質が提供される。一部の態様では、操作されたFタンパク質は、強化された立体構造安定性及び/または抗原性を示す。また、診断薬としての、スクリーニングプラットフォームにおける、及び/またはワクチン組成物における当該操作されたFタンパク質の使用のための方法も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)配列番号1、2、及び4~7のうちいずれかのアミノ酸19~489、または(ii)配列番号3のアミノ酸19~484に対して少なくとも90%の同一性を有する、メタニューモウイルス(MPV)Fタンパク質外部ドメインを含む操作されたタンパク質であって、前記操作されたタンパク質が、配列番号1~7のうちいずれか1つの配列に対して少なくとも1つの変異を含み、前記少なくとも1つの変異が、K166、N342、A/D185、K188、T49、V262、H435、E26、G439、N46、L158、A161、L50、V162、E51、R163、V104、N457、L110、N322、A113、D336、A116、A338、A140、A147、S291、S443、S293、S444、S355、V442、T365、V463、S22、G53、V169、E305、L302、V47、A159、T127、N153、G121、I/F258、G106、A107、T160、I128、A190、V118、Q426、L165、V191、S149、I137、V/I122、S192、T317、L105、L134、A117、S347、G261、I268、S470、L473、S265、L460、F48、Q455、V231、A374、I217、S376、G366、S194、L219、A344、A86、T114、V148、D461、L66、L73、N145、Q195、E453、及び/またはH368に対応する位置に置換を含む、前記操作されたタンパク質。
【請求項2】
A/D185Pに対応するプロリン置換を含む、請求項1に記載の操作されたタンパク質。
【請求項3】
RQSR(配列番号1~7のうちいずれか1つの残基99~102)からRRRR(配列番号10)に対応する置換を含む、請求項1に記載の操作されたタンパク質。
【請求項4】
A/D185Pに対応するプロリン置換及びRQSR(配列番号1~7のうちいずれか1つの残基99~102)からRRRR(配列番号10)に対応する置換を含む、請求項1に記載の操作されたタンパク質。
【請求項5】
配列番号1~7のうちいずれか1つの残基87~104からGGGGSGGGGSR(配列番号8)への置換を含む、請求項1に記載の操作されたタンパク質。
【請求項6】
E26C及びG439C、N46C及びL158C、T49C及びA161C、L50C及びV162C、E51C及びR163C、E51C及びK166C、V104C及びN457C、L110C及びN322C、A113C及びD336C、A116C及びA338C、A140C及びA147C、S291C及びS443C、S293C及びS443C、S293C及びS444C、S355C及びV442C、T365C及びV463C、S22C及びH435C、G53C及びK166C、G53C及びV169C、E305C及びN457C、S291C及びL302C、V47C及びA159C、T127C及びN153C、G121C及びI/F258C、F48C及びT160C、ならびに/またはT365C及びQ455Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項7】
A116C及びA338C、T365C及びV463C、T127C及びN153C、T365C及びQ455C、V104C及びN457C、L110C及びN322C、またはA140C及びA147Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項6に記載の操作されたタンパク質。
【請求項8】
A140C及びA147Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項9】
V104C及びN457Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項10】
L110C及びN322Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項11】
T365C及びV463Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項12】
L219及び/またはV231に対応する位置に置換をさらに含む、請求項11に記載の操作されたタンパク質。
【請求項13】
L219K及び/またはV231Iに対応する置換をさらに含む、請求項11に記載の操作されたタンパク質。
【請求項14】
T127C及びN153Cに対応するシステイン置換の対をさらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項15】
L110C及びN322Cに対応するシステイン置換の対をさらに含む、請求項11~13のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項16】
A140C及びA147Cに対応するシステイン置換の対をさらに含む、請求項11~15のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項17】
G366Sに対応するさらなる置換、請求項11~16のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項18】
Q426、T49、L187、L473、及び/またはS347に対応する位置に置換をさらに含む、請求項11に記載の操作されたタンパク質。
【請求項19】
Q426、T49、L187、L473、及び/またはS347に対応する位置に置換をさらに含む、請求項11に記載の操作されたタンパク質。
【請求項20】
Q426W、T49E、L187F、L473F、及び/またはS347Qに対応する置換をさらに含む、請求項11に記載の操作されたタンパク質。
【請求項21】
A116C及びA338Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項22】
T365C及びV463Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項23】
T127C及びN153Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項24】
T365C及びQ455Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合
を含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項25】
少なくとも1つの追加の操作されたジスルフィド結合をさらに含む、請求項7に記載の操作されたタンパク質。
【請求項26】
G106、A107、T160、L158、I128、A190、V118、Q426、L165、V191、T160、S149、I137、S149、V169、N46、T49、V/I122、S192、T317、V162、L105、L134、A117、S347、V47、G261、I268、S470、V231、A374、I217、及び/またはS355に対応する位置に空洞充填置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項27】
L105、V118、I137、S149、L158、L165、またはQ426に対応する位置に空洞充填置換を含む、請求項26に記載の操作されたタンパク質。
【請求項28】
L105IまたはL105Wに対応する置換を含む、請求項27に記載の操作されたタンパク質。
【請求項29】
L158Wに対応する置換を含む、請求項27に記載の操作されたタンパク質。
【請求項30】
V118FまたはV118Mに対応する置換を含む、請求項27に記載の操作されたタンパク質。
【請求項31】
Q426Wに対応する置換を含む、請求項27に記載の操作されたタンパク質。
【請求項32】
L165Fに対応する置換を含む、請求項27に記載の操作されたタンパク質。
【請求項33】
S149VまたはS149Iに対応する置換を含む、請求項27に記載の操作されたタンパク質。
【請求項34】
I137に対応する位置に置換をさらに含む、請求項33に記載の操作されたタンパク質。
【請求項35】
I137Lに対応する置換を含む、請求項34に記載の操作されたタンパク質。
【請求項36】
G106W、A107F、T160M、L158W、I128F、A190M、V118F、V118M、Q426W、L165F、V191I、T160V、S149V、I137L、S149I、V169I、N46V、T49I、V/I122L、S192L、T317L、V162F、V162W、L105I、L105F、L105W、L134I、A117M、S347M、S347K、S347Q、V47M、G261M、I268M、S470Y、V231I、A374V、I217V、及び/またはS355Fからなる群から選択される空洞充填置換を含む、請求項26に記載の操作されたタンパク質。
【請求項37】
A86P、A107P、A113P、T114P、V148P、S443P、D461P、L130P、L141P、K142P、E146P、L151P、N153P、V162P、A/D185P、D186P、L187P、K188P、N342P、及びA344Pからなる群から選択されるプロリン置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項38】
S376、G366、及び/またはS194に対応する位置に置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項39】
S376T、G366S、及び/またはS194Qに対応する置換を含む、請求項38に記載の操作されたタンパク質。
【請求項40】
K166に対応する位置に置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項41】
K166Eに対応する置換を含む、請求項40に記載の操作されたタンパク質。
【請求項42】
H435に対応する位置に、pH感度を調節する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項43】
H435E、H435D、またはH435Nに対応する置換を含む、請求項42に記載の操作されたタンパク質。
【請求項44】
L66、L73、N145、Q195、E453、L66、K188、H368、D461、T49、及び/またはV262に対応する位置に静電相互作用置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項45】
L66N、L73E、N145E、Q195K、E453Q、L66D、K188R、H368R、D461E、T49E、及び/またはV262Dに対応する置換を含む、請求項44に記載の操作されたタンパク質。
【請求項46】
L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、L219K、V231I、N322C、T365C、E453Q、及び/またはV463Cに対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項47】
T127C、N153C、A185P、T365C、V463C、L219K、及びV231Iに対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項48】
T127C、N153C、A185P、T365C、V463C、L219K、V231I、及びRQSR(配列番号1~7のうちいずれか1つの残基99~102)からRRRR(配列番号10)に対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項49】
T127C、N153C、T365C、V463C、L219K、及びV231Iに対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項50】
L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、A185P、L219K、V231I、N322C、T365C、N368H、E453Q、及びV463Cに対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項51】
L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、A185P、L219K、V231I、N322C、T365C、N368H、E453Q、V463C、及びRQSR(配列番号1~7のうちいずれか1つの残基99~102)からRRRR(配列番号10)に対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項52】
L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、L219K、V231I、N322C、T365C、N368H、E453Q、及びV463Cに対応する置換を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項53】
配列番号1~7のうちいずれか1つの残基87~104からGGGGSGGGGSR(配列番号8)に対応する置換を含む、請求項6~52のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項54】
少なくとも1つの操作されたジスルフィド結合、少なくとも1つの空洞充填置換、及び少なくとも1つのプロリン置換の組み合わせを含む、請求項1~53のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項55】
配列番号14または16と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のポリペプチド配列を含む、請求項1~54のいずれかに記載の操作されたタンパク質。
【請求項56】
配列番号15または17と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のポリペプチド配列を含む、請求項1~54に記載の操作されたタンパク質。
【請求項57】
配列番号1~3のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項1~56のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項58】
配列番号3に対して95%の同一性を有する、操作されたhMPV Fタンパク質外部ドメインを含む、請求項1~56のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項59】
前記タンパク質が、三量体形成ドメインに融合またはコンジュゲートされている、請求項1~58のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項60】
前記タンパク質が、三量体形成ドメインに融合されている、請求項59に記載の操作されたタンパク質。
【請求項61】
前記三量体形成ドメインが、T4フィブリチンの三量体形成ドメインを含む、請求項60に記載の操作されたタンパク質。
【請求項62】
前記タンパク質が、膜貫通ドメインに融合またはコンジュゲートされている、請求項1~58のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項63】
前記タンパク質が、膜貫通ドメインに融合されている、請求項62に記載の操作されたタンパク質。
【請求項64】
前記膜貫通ドメインが、メタニューモウイルス(MPV)Fタンパク質の膜貫通ドメインを含む、請求項62に記載の操作されたタンパク質。
【請求項65】
N末端シグナル配列を含む、請求項1~62のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質。
【請求項66】
前記N末端シグナル配列が、MSWKVMIIISLLITPQHG(配列番号11)である、請求項65に記載の操作されたタンパク質。
【請求項67】
請求項1~66のいずれか1項に記載の少なくとも1つのサブユニットを含む、操作されたメタニューモウイルス(MPV)Fタンパク質の三量体。
【請求項68】
前記三量体が、野生型メタニューモウイルス(MPV)Fサブユニットの三量体と比べて、融合前の立体構造において安定化されている、請求項67に記載の操作された三量体。
【請求項69】
前記三量体が、サブユニット間の少なくとも1つの操作されたジスルフィド結合を含む、請求項67に記載の操作された三量体。
【請求項70】
前記サブユニット間の少なくとも1つの操作されたジスルフィド結合が、S316C及びD421Cから選択される、請求項69に記載の操作された三量体。
【請求項71】
薬学的に許容される担体、および、
(i)請求項1~66のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質、または(ii)請求項67~70のいずれか1項に記載の操作された三量体
を含む、医薬組成物。
【請求項72】
アジュバントをさらに含む、請求項71に記載の組成物。
【請求項73】
請求項1~66のいずれか1項に記載の操作されたタンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子。
【請求項74】
前記核酸が、DNA発現ベクターを含む、請求項73に記載の核酸。
【請求項75】
前記核酸が、mRNAを含む、請求項73に記載の核酸。
【請求項76】
対象におけるメタニューモウイルス(MPV)感染症またはメタニューモウイルス感染症に関連する疾患の予防方法であって、前記対象に、有効量の請求項71~72のいずれか1項に記載の医薬組成物または請求項73~75のいずれか1項に記載の核酸分子を投与することを含む、前記方法。
【請求項77】
対象におけるメタニューモウイルス(MPV)感染症またはメタニューモウイルス感染症に関連する疾患の治療または予防において使用するための、請求項71~72のいずれか1項に記載の医薬組成物または請求項73~75のいずれか1項に記載の核酸分子。
【請求項78】
メタニューモウイルス(MPV)感染症またはメタニューモウイルス感染症に関連する疾患の治療または予防のための医薬の製造における、請求項71~72のいずれか1項に記載の医薬組成物または請求項73~75のいずれか1項に記載の核酸分子の使用。
【請求項79】
抗体に結合された、請求項1~66のいずれかに記載の操作されたタンパク質または請求項67~70のいずれか1項に記載の操作された三量体を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本願は、2020年10月9日に出願された米国仮出願第63/089,978号の優先権の利益を主張するものであり、同文献の内容全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は、EFS-Webを介してASCII形式で提出された配列表を含み、ここに、参照によりその全体が本明細書に援用される。2021年10月7日に作成された該ASCIIの写しは、UTFBP1250WO_ST25.txtと名付けられ、50.6バイトのサイズである。
【0003】
1.技術分野
本開示は、全般的に、医学、ウイルス学、免疫学、及びタンパク質工学の分野に関する。より具体的には、本開示は、操作されたヒトメタニューモウイルス(hMPV)Fタンパク質、ならびに薬物設計及びワクチン製剤化におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0004】
2.関連技術の説明
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、2001年のその発見より前に少なくとも半世紀にわたってヒトにおいて伝播してきた、Pneumoviridae(ニューモウイルス)科の呼吸器ウイルスである(van den Hoogen et al.,2001)。感染はほぼ偏在的に5歳までに起こり、再感染の負荷が生涯を通じて継続する(van den Hoogen et al.,2001)。しかしながら、乳児(6~12ヶ月)、高齢者、及び免疫不全の人たちは、肺炎及び気管支炎等のより重度の疾患により入院のリスクが増加する(Deffrasnes et al.,2007)。hMPVが提示する疾病負荷にもかかわらず、予防または治療のために承認されたワクチンまたは治療薬は存在しない。Pneumoviridae科の成員として(Paramyxoviridae(パラミクソウイルス)内の亜科から最近格上げされた)、hMPVは、エンベロープを持つマイナス鎖RNAウイルスである。この科内のウイルスは、表面に発現した3つの膜タンパク質をコードする。hMPVの場合、これらは、小疎水性(small hydrophobic)(SH)、付着(G)、及び融合(F)タンパク質である(Shafagati & Williams,2018)。
【0005】
クラスIウイルス融合糖タンパク質として、hMPV Fは、最初に単一ポリペプチド前駆体(F)として翻訳される。タンパク質分解切断により、Fは、ジスルフィド結合したF及びFサブユニットに変換される(図1A)。次いで、3つのF/Fヘテロ二量体が会合して、活性型のタンパク質を構成する準安定な融合前(prefusion)三量体となる。細胞培養物中では、このタンパク質分解活性化は、一塩基切断部位でタンパク質を切断するトリプシンの添加によって遂行され得る(van den Hoogen et al.,2001、Skiadopoulos et al.,2006、Schickli et al.,2005)。自然感染中に、hMPV Fは、TMPRSS2等のトリプシン様細胞外セリンプロテアーゼによって切断されるが、標的細胞と対比して産生細胞内でこれが起こる程度は、明確にされていない(Shirogane et al.,2008)。成熟FサブユニットのN末端は、融合前F三量体の内部空洞内に位置する、融合ペプチドと呼ばれる疎水性配列を含む(Battles et al.,2017)。ヒト呼吸器合胞体ウイルスF(RSV F)及びインフルエンザヘマグルチニン(HA)等の他のクラスI融合タンパク質については、三量体は不安定であり、一過性で広がって開く、または「呼吸する」ことが可能であることが示されている(Bangaru et al.,2019、Watanabe et al.,2019、Gilman et al.,2019)。最近、hMPV Fの三量体境界面を標的とするヒト抗体が記載され、融合前hMPV Fがインビボでこの一過性の開口を経ることが示唆されている(Huang et al.,2020)。膜融合を容易にするために、準安定な融合前Fタンパク質は、実質的な立体構造変化を経て、融合ペプチドを遊離させ、宿主の細胞膜の中へ伸展させる。この不安定なプレヘアピン中間体は、それ自体の上に再度折り重なって、いわゆる融合後(postfusion)立体構造において、N末端及びC末端ヘプタッドリピート(それぞれHRA及びHRB)の三量体から構成される高度に安定な6ヘリックスバンドルを形成する(Mas et al.,2016)。ウイルス侵入におけるその必要不可欠な役割を考慮して、hMPVに対するワクチン候補は一般に、Fタンパク質を含む。換言すれば、hMPVに対する潜在的なワクチン接種戦略は、ウイルス感染に必要不可欠であるその融合(F)糖タンパク質を標的とすることによる。しかしながら、薬物候補を同定するため及びFタンパク質に対する有効な免疫応答を刺激するために使用され得る、安定化されたFタンパク質に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本明細書では、熱安定性のhMPV Fの融合前立体構造バリアントが提供される。シスチン(cystine)変異の対の導入によりジスルフィド結合を導入することで、タンパク質の発現量及び熱安定性が改善された。個々の疎水性、静電相互作用、及び電荷低減の変異もまた有益である。加えて、複数の有益な変異を組み合わせることで、所望のタンパク質特性がさらに改善された。
【0007】
一実施形態では、本明細書において、(i)配列番号1、2、及び4~7のうちいずれかのアミノ酸19~489、または(ii)配列番号3のアミノ酸19~484に対して少なくとも90%の同一性を有する、メタニューモウイルス(MPV)Fタンパク質外部ドメインを含む操作されたタンパク質が提供され、該操作されたタンパク質は、配列番号1~7のうちいずれか1つの配列に対して少なくとも1つの変異を含み、該少なくとも1つの変異は、K166、N342、A/D185、K188、T49、V262、H435、E26、G439、N46、L158、A161、L50、V162、E51、R163、V104、N457、L110、N322、A113、D336、A116、A338、A140、A147、S291、S443、S293、S444、S355、V442、T365、V463、S22、G53、V169、E305、L302、V47、A159、T127、N153、G121、I/F258、G106、A107、T160、I128、A190、V118、Q426、L165、V191、S149、I137、V/I122、S192、T317、L105、L134、A117、S347、G261、I268、S470、L473、S265、L460、F48、Q455、V231、A374、I217、S376、G366、S194、L219、A344、A86、T114、V148、D461、L66、L73、N145、Q195、E453、及び/またはH368に対応する位置に置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、(i)配列番号1、2、及び4~7のうちいずれかのアミノ酸19~489、または(ii)配列番号3のアミノ酸19~484に対して少なくとも95%の同一性を有する。配列番号1は、BV-115バリアント配列に対応する。配列番号2は、JSM-1147バリアント配列に対応する。配列番号3は、DW-1バリアント配列に対応する。配列番号4は、hMPV A1 NL/1/00株のFタンパク質(GenBank:AAK62968.2)に対応する。配列番号5は、hMPV A2 NL/00/17株のFタンパク質(GenBank:ACJ70115.1)に対応する。配列番号6は、hMPV B1 NL/1/99株のFタンパク質(GenBank:AY525843.1)に対応する。配列番号7は、hMPV B2 TN/99/419株のFタンパク質(GenBank:AAS92882.1)に対応する。
【0008】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、A/D185Pに対応するプロリン置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、RQSR(配列番号4~7のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号9)からRRRR(配列番号1~3のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号10)に対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、A/D185Pに対応するプロリン置換及びRQSR(配列番号4~7のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号9)からRRRR(配列番号1~3のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号10)に対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、配列番号1~7のうちいずれか1つの残基87~104からGGGGSGGGGSR(配列番号8)に対応する置換を含む。
【0009】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、E26C及びG439C、N46C及びL158C、T49C及びA161C、L50C及びV162C、E51C及びR163C、E51C及びK166C、V104C及びN457C、L110C及びN322C、A113C及びD336C、A116C及びA338C、A140C及びA147C、S291C及びS443C、S293C及びS443C、S293C及びS444C、S355C及びV442C、T365C及びV463C、S22C及びH435C、G53C及びK166C、G53C及びV169C、E305C及びN457C、S291C及びL302C、V47C及びA159C、T127C及びN153C、G121C及びI/F258C、F48C及びT160C、ならびに/またはT365C及びQ455Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、A116C及びA338C、T365C及びV463C、T127C及びN153C、T365C及びQ455C、V104C及びN457C、L110C及びN322C、またはA140C及びA147Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、A140C及びA147Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、V104C及びN457Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L110C及びN322Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T365C及びV463Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。
【0010】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、L219及び/またはV231に対応する位置に置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L219K及び/またはV231Iに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T127C及びN153Cに対応するシステイン置換の対を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L110C及びN322Cに対応するシステイン置換の対を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、A140C及びA147Cに対応するシステイン置換の対を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、G366Sに対応する置換を含む。
【0011】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、Q426、T49、L187、L473、及び/またはS347に対応する位置に置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、Q426W、T49E、L187F、L473F、及び/またはS347Qに対応する置換を含む。
【0012】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、A116C及びA338Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T365C及びV463Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T127C及びN153Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T365C及びQ455Cに対応するシステイン置換の対を含む、操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、少なくとも1つの追加の操作されたジスルフィド結合を含む。
【0013】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、G106、A107、T160、L158、I128、A190、V118、Q426、L165、V191、T160、S149、I137、S149、V169、N46、T49、V/I122、S192、T317、V162、L105、L134、A117、S347、V47、G261、I268、S470、V231、A374、I217、及び/またはS355に対応する位置に空洞充填置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L105、V118、I137、S149、L158、L165、またはQ426に対応する位置に空洞充填置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L105IまたはL105Wに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L158Wに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、V118FまたはV118Mに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、Q426Wに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L165Fに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、S149VまたはS149Iに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、I137に対応する位置に置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、I137Lに対応する置換を含む。
【0014】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、G106W、A107F、T160M、L158W、I128F、A190M、V118F、V118M、Q426W、L165F、V191I、T160V、S149V、I137L、S149I、V169I、N46V、T49I、V/I122L、S192L、T317L、V162F、V162W、L105I、L105F、L105W、L134I、A117M、S347M、S347K、S347Q、V47M、G261M、I268M、S470Y、V231I、A374V、I217V、及び/またはS355Fからなる群から選択される空洞充填置換を含む。
【0015】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、A86P、A107P、A113P、T114P、V148P、S443P、D461P、L130P、L141P、K142P、E146P、L151P、N153P、V162P、A/D185P、D186P、L187P、K188P、N342P、及びA344Pからなる群から選択されるプロリン置換を含む。
【0016】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、S376、G366、及び/またはS194に対応する位置に置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、S376T、G366S、及び/またはS194Qに対応する置換を含む。
【0017】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、K166に対応する位置に置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、K166Eに対応する置換を含む。
【0018】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、H435に対応する位置に、pH感度を調節する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、H435E、H435D、またはH435Nに対応する置換を含む。
【0019】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、L66、L73、N145、Q195、E453、L66、K188、H368、D461、T49、及び/またはV262に対応する位置に静電相互作用置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L66N、L73E、N145E、Q195K、E453Q、L66D、K188R、H368R、D461E、T49E、及び/またはV262Dに対応する置換を含む。
【0020】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、L219K、V231I、N322C、T365C、E453Q、及び/またはV463Cに対応する置換を含む。
【0021】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、T127C、N153C、A185P、T365C、V463C、L219K、及びV231Iに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T127C、N153C、A185P、T365C、V463C、L219K、V231I、及びRQSR(配列番号1~7のうちいずれか1つの残基99~102)からRRRR(配列番号10)に対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、T127C、N153C、T365C、V463C、L219K、及びV231Iに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、配列番号14または16と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のポリペプチド配列を含む。
【0022】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、A185P、L219K、V231I、N322C、T365C、N368H、E453Q、及びV463Cに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、A185P、L219K、V231I、N322C、T365C、N368H、E453Q、V463C、及びRQSR(配列番号1~7のうちいずれか1つの残基99~102)からRRRR(配列番号10)に対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、L110C、T127C、A140C、A147C、N153C、L219K、V231I、N322C、T365C、N368H、E453Q、及びV463Cに対応する置換を含む。一部の態様では、操作されたタンパク質は、配列番号15または17と少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一のポリペプチド配列を含む。
【0023】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、配列番号1~7のうちいずれか1つの残基87~104からGGGGSGGGGSR(配列番号8)に対応する置換を含む。
【0024】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、表1に開示される置換の任意の組を含んでもよい。一部の態様では、操作されたタンパク質は、表1に開示される置換の任意の組を、A/D185Pに対応するプロリン置換と組み合わせて含んでもよい。一部の態様では、操作されたタンパク質は、表1に開示される置換の任意の組を、RQSR(配列番号4~7のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号9)からRRRR(配列番号1~3のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号10)に対応する置換と組み合わせて含んでもよい。一部の態様では、操作されたタンパク質は、表1に開示される置換の任意の組を、A/D185Pに対応するプロリン置換及びRQSR(配列番号4~7のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号9)からRRRR(配列番号1~3のうちいずれか1つの残基99~102;配列番号10)に対応する置換と組み合わせて含んでもよい。
【0025】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、少なくとも1つの操作されたジスルフィド結合、少なくとも1つの空洞充填置換、及び少なくとも1つのプロリン置換の組み合わせを含む。
【0026】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、配列番号1~3のうちいずれか1つのアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有する。一部の態様では、操作されたhMPV Fタンパク質外部ドメインは、配列番号3に対して95%の同一性を有する。
【0027】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、三量体形成ドメインに融合またはコンジュゲートされている。一部の態様では、操作されたタンパク質は、三量体形成ドメインに融合またはコンジュゲートされている。一部の態様では、三量体形成ドメインは、T4フィブリチンの三量体形成ドメインを含む。
【0028】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、膜貫通ドメインに融合またはコンジュゲートされている。一部の態様では、操作されたタンパク質は、膜貫通ドメインに融合されている。一部の態様では、膜貫通ドメインは、メタニューモウイルス(MPV)Fタンパク質の膜貫通ドメインを含む。
【0029】
一部の態様では、操作されたタンパク質は、N末端シグナル配列を含む。一部の態様では、N末端シグナル配列は、MSWKVMIIISLLITPQHG(配列番号6または7の残基1~18;配列番号11)である。一部の態様では、N末端シグナル配列は、MSWKVVIIFSLLITPQHG(配列番号1~5のうちいずれか1つの残基1~18)である。
【0030】
一実施形態では、本明細書において、本操作されたタンパク質の実施形態のいずれか1つに記載の少なくとも1つのサブユニットを含む、操作されたメタニューモウイルス(MPV)Fタンパク質の三量体が提供される。一部の態様では、三量体は、野生型メタニューモウイルス(MPV)Fサブユニットの三量体と比べて、融合前の立体構造において安定化されている。一部の態様では、三量体は、サブユニット間の少なくとも1つの操作されたジスルフィド結合を含む。一部の態様では、サブユニット間の少なくとも1つの操作されたジスルフィド結合は、S316C及びD421Cに対応する置換によって形成される。
【0031】
一実施形態では、本明細書において、
薬学的に許容される担体;および、
(i)本操作されたタンパク質の実施形態のいずれか1つに記載の操作されたタンパク質、または(ii)操作された三量体の実施形態のいずれか1つに記載の操作された三量体
を含む、医薬組成物が提供される。一部の態様では、医薬組成物は、アジュバントをさらに含む。
【0032】
一実施形態では、本明細書において、本操作されたタンパク質の実施形態のいずれか1つに記載の操作されたタンパク質のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸分子が提供される。一部の態様では、該核酸は、DNA発現ベクターを含む。一部の態様では、該核酸は、mRNAを含む。
【0033】
一実施形態では、本明細書において、対象におけるメタニューモウイルス(MPV)感染症またはメタニューモウイルス感染症に関連する疾患の予防方法が提供され、該方法は、対象に、有効量の本医薬組成物の実施形態のいずれか1つに記載の医薬組成物または本核酸分子の実施形態のいずれか1つに記載の核酸分子を投与することを含む。
【0034】
一実施形態では、本明細書において、抗体に結合された本実施形態のいずれか1つに記載の操作されたタンパク質を含む、組成物が提供される。
【0035】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなろう。しかしながら、この詳細な説明及び具体的な例は、本発明の好ましい実施形態を示してはいるが、本発明の趣旨及び範囲内にある種々の変更及び修正がこの詳細な説明から当業者に明らかとなろうため、例示説明としてのみ与えられるものであることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある特定の態様をさらに示すために含まれる。本発明は、本明細書で提示される具体的な実施形態の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面のうちの1つまたは複数を参照することによって、よりよく理解され得る。
【0037】
図1】hMPV F安定化に有益な置換。(A)hMPV Fタンパク質外部ドメインの概略図。ジスルフィド結合及びN-グリコシル化部位が強調表示される。F1及びF2の始まり及び終わりを示す残基番号がバーの下に示される。(B)融合前の立体構造にある三量体hMPV F(PDB ID:5WB0)外部ドメインの側面図。1つのプロトマーがリボンダイアグラムとして示され、その他の2つが白い分子表面として示される。各挿入図は、置換が位置する抗原部位に対応する。
図2A】単一置換hMPV Fバリアントの特性評価。SECのピーク画分の曲線下面積(AUC)によって算出した、精製された個々のバリアントの相対発現量。バリアントは、設計別に群分けされる。水平の点線は、比較のために100%になるように正規化されている、基本構築物の算出AUC濃度を示す。
図2B】単一置換hMPV Fバリアントの特性評価。設計(プロリン、極性、空洞充填、及びジスルフィド)別に群分けされた、精製されたFバリアントのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)。垂直の点線は、hMPV F基本構築物についてのピーク保持体積を示す。
図2C】単一置換hMPV Fバリアントの特性評価。ジスルフィドバリアントの熱安定性の示差走査蛍光光度(DSF)分析。垂直の点線は、基本構築物についての融解温度を示す。
図2D】単一置換hMPV Fバリアントの特性評価。hMPV F基本構築物及び単一置換FバリアントのSDS-PAGE分析。分子量基準が左側にkDa単位で示される。
図3A】Fタンパク質置換バリアント(空洞変異)の発現を示す電気泳動ゲルの画像。分子量基準が左側にkDa単位で示される。
図3B】Fタンパク質置換バリアント(ジスルフィド変異)の発現を示す電気泳動ゲルの画像。分子量基準が左側にkDa単位で示される。
図3C】Fタンパク質置換バリアント(プロリン変異)の発現を示す電気泳動ゲルの画像。分子量基準が左側にkDa単位で示される。
図3D】Fタンパク質置換バリアント(静電変異)の発現を示す電気泳動ゲルの画像。分子量基準が左側にkDa単位で示される。
図4】多置換hMPV Fバリアントの特性評価。(A~C)3サイクルの反復からの精製された多置換hMPV FバリアントのSEC。垂直の点線は、hMPV F基本構築物についてのピーク保持体積を示す。(D)多置換Fバリアントの熱安定性のDSF分析。垂直の点線は、基本構築物についての融解温度を示す。(E)FreeStyle 293-F細胞の1L培養物から精製されたDS-CavEs2のSECトレース。(F)バイオレイヤー干渉によって測定した、熱処理または長期間貯蔵されたDS-CavEs2の、MPE8 Fabへの結合。垂直の点線は、会合事象の終わりを示す。未処理のDS-CavEs2を対照として含めた。
図5】Fタンパク質置換バリアントの熱安定性の示差走査蛍光光度(DSF)分析。垂直の点線は、JSM-1147についての最初の融解温度を示す。
図6】精製されたFタンパク質置換バリアントのサイズ排除クロマトグラフィー。垂直の点線は、基本構築物(BaseCon)についての特徴的なピーク保持体積を示す。
図7】融合前の好ましい(prefusion-preferred)抗体MPE8に結合された操作されたhMPV Fバリアント。(A)リボンダイアグラムとして示される、MPE8 Fabに結合されたhMPV Fバリアント(DSx2)の原子モデルの側面図。明確にするためにMPE8 Fabの定常領域は省略される。DSx2における2つのジスルフィド置換の側鎖が棒で強調表示される。(B)MPE8軽鎖CDR及びFタンパク質の抗原部位II/Vの結合境界面の拡大図。(C)MPE8重鎖CDR及びFの結合境界面の拡大図。CDR3の主鎖が、透明な表面として強調表示される抗原部位IIIに対して集まっている。極性相互作用を形成する重要な残基が棒で示される。
図8】hMPV F DS-CavEs2の構造は、融合前の立体構造を呈する。(A)融合前の立体構造にあるアポhMPV Fバリアント(DS-CavEs2)の原子モデルの側面図。このモデル(耐火レンガ色のリボン)は、融合前Fの構造(銀色のリボン、PDB ID:5WB0)と重ね合わせられている。導入された置換の側鎖が棒で強調表示される。各挿入図は、重ね合わせが行われている抗原部位に対応する。(B)MPE8 Fabと複合体化されたDS-CavEs2の代表的な2Dクラス平均像。
図9】hMPV F DSx2と、関連するPDB構造5WB0との構造比較。PDBID:5WB0(hMPV F)及びhMPV F DSx2からの単一のプロトマーの重ね合わせ。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)融合(F)タンパク質は、ウイルス侵入に必須であり、中和抗体及びワクチン開発の重要な標的である。融合前の立体構造は、最適なワクチン抗原であると考えられるが、以前に記載された融合前Fタンパク質の発現は不十分であり、よく安定化されていなかった。本発明では、hMPV Fの構造を使用して設計を導き、操作されたhMPV Fタンパク質を特性評価した。一部の態様では、実施形態に記載の操作されたhMPV Fタンパク質は、膜融合前に存在する立体構造において安定化されている。かかる操作されたタンパク質を使用して、例えば、抗hMPV Fタンパク質に特異的な免疫応答を刺激することができる。さらなる態様では、操作されたFタンパク質を使用して、試料中のFタンパク質結合抗体を検出することができる。故に、本明細書で提供される操作されたタンパク質は、hMPVに対するワクチン接種のためのより有効な方法を可能にすると同時に、例えば生体試料中の、抗hMPV Fタンパク質抗体を検出するための新たなアッセイ方法を有効にする。
【0039】
I.本開示の態様
hMPV Fタンパク質は、他のクラスI融合タンパク質に類似して、宿主因子によって容易に誘発され、準安定な融合前状態から高度に安定な融合後状態に移行する。DS-Cav1等の融合前安定化タンパク質をワクチン原(vaccinogen)として使用することは、融合後タンパク質を使用することと比較して、動物モデルにおいて高い中和力価を誘発することが判明している。これは、融合前から後への(pre-to-post)移行中に実質的な立体構造変化を経る領域に特異的に、変異を一度に1つずつ戦略的に導入するためのガイドとしての、hMPV F(PDB ID:5WB0)の融合前構造の使用についての着想を与えた。SARS-CoV-2スパイクの操作に対する最近の成功と同様に、複数のプロリン置換が、Fを融合前の立体構造に保持しつつタンパク質発現量を増加させた。融合ペプチドにおけるA107Pの役割は、HexaPro(Hsieh et al.,2020)からのF817P置換のそれにかなり類似しており、恐らくは融合ペプチドに剛性を課すこと、及びまたヘリックスを融合前の立体構造でキャップすることによる。興味深いことに、Alaを、RSV F上の同等の残基であるPheで置き換えることにより、基本構築物と比べてタンパク質発現量が若干減少した(表1)。HRBにおけるD461Pもまた、融合ペプチド内の最も有効なプロリン置換であったA107PまたはA113Pと同じ機能を果たす可能性がある。抗原部位Vにおいて、タンパク質収量の増加につながる3つのプロリン置換がある。これらの残基の側鎖が三量体の表面上に部分的に露出していることを考慮すると、それらはワクチン抗原に準最適であると見なされる。
【0040】
プロトマー間またはサブユニット間塩橋の実装は、プロトマー内塩橋よりも有効な方式で、三量体ウイルスタンパク質を比較的コンパクトな立体構造に効率的に保持する傾向がある。例えば、gp41からのK588E変異は、gp120からのK62またはK492と静電的に相互作用し、これはHIV-1 Envが融合前の閉じた立体構造に留まるのに有利である(Rutten et al.,2018)。本設計の中でも、F1サブユニットからのL219K置換は、F2サブユニットからのE80またはF1サブユニットからのD209のいずれかと塩橋を形成する可能性がある。F2サブユニットからの73E置換もまた、近隣のF1サブユニットからのR198と塩橋を形成する可能性がある。両方のバリアントが発現を増強すると共に、SECにおいてより長い保持時間を有し、このことはクラスI融合タンパク質に対する塩橋設計の酷似した役割を暗に示す。一方で、バリアントN145E等のプロトマー内塩橋設計は、hMPV Fの発現を消失させた(表1)。同様に、この種類の塩橋は、SARS-CoV-2スパイクの安定化に対してあまり奏功しなかった。プロトマー境界面での電荷クラスターによって引き起こされる反発の低減は、三量体の開口を阻止するための別のアプローチである。電荷クラスター(E453/D454)は、三量体の基部に近位のHRB領域で発見された。したがって、Glu453を等価体のGlnと置き換えることは、負に帯電したクラスターによって引き起こされる電荷反発を低減する可能性がある。RSV FからのE487Q置換またはエボラGPからのK588F置換(McLellan et al.,2013、Rutten et al.,2020)に類似して、このバリアントは、SEC溶出プロファイルにより明らかであるように、hMPV Fをよりコンパクトな三量体にし、ネイティブの四次構造を保持した(図2B)。
【0041】
空洞充填アプローチもまた、緩く集まったウイルスタンパク質を融合前の立体構造において安定化するのに非常に有効であった。例えば、Cav1バリアントにおけるS190F置換は、部位Vと部位IIとの間の空洞を首尾よく充填し、V207L置換は、単一のCH付加のみで、部位Φ間のポケットを首尾よく充填する。最も高い発現を示すバリアントのうちの1つであるV231Iは、驚くべきことにドメインIIIb(部位II)に位置し、この領域は、融合前から後への移行中に立体構造変化を経ない。発現を増強したその他の2つの置換(S149I、I137L)は両方ともドメインIIIa(部位V)に位置し、互いに対して集まって、柔軟性の高いα2及びβ3を安定化するようである。
【0042】
hMPV Fを安定化するために用いられた戦略の中でも、恐らくはジスルフィド結合の導入が最も高い成功率をもたらす。L110C/N322C置換は、融合ペプチドを中心空洞内に捕捉するように設計され、T365C/V463C置換は、HRBを膜近位の領域にロックするように設計された。融合ペプチドまたはHRBを、融合前から後への移行中に定常に留まる領域に固定することによって、Fタンパク質は、融合前の立体構造で保持され、その熱安定性は顕著に改善した。このアプローチは、いくつかのクラスIウイルス融合タンパク質に対して成功裏に使用されている(McLellan et al.,2013、Stewart-Jones et al.,2018、Sanders et al.,2013)。この設計は、RSV Fに対するDSバリアント及びHIV-1 Envに対するSOSIPを想起させる。対照的に、T127C/N153CまたはA140C/A147C置換は、異なる種類のジスルフィド設計戦略を代表する。これらのジスルフィド結合は、立体構造変化を経る領域(例えば、ドメインIIIa(部位V))に置かれるが、それらは、中心ヘリックス付近のHRAの再折り畳みを阻止することによって融合前状態を安定化するようである。これはウエンザ(uenza)ウイルス3のFタンパク質に使用されるQ162C/L168C置換(Stewart-Jones et al.,2018)に類似しており、この種類のジスルフィド設計がクラスIウイルス融合タンパク質を安定化するための一般的なアプローチであり得ることを示唆する。それらは、HRAの再折り畳みを阻止することができ、可能性として、それが融合前の立体構造に再度折り畳まれるよう強いることができる。融合前から後への移行中に立体構造変化を経る領域での二次構造の局所的柔軟性を制限するような類似のジスルフィド設計もまた、SARS-CoV-2スパイクに成功裏に応用されている。興味深いことに、V104C/N457C置換は、Fのフューリンプロテアーゼ消化を阻止し、SDS-PAGEにおいてFの単一種をもたらす。融合ペプチドに近位のフューリン切断部位は、ジスルフィド設計に起因して中心空洞に埋もれる可能性がある。このバリアントは、ワクチン抗原のプロテアーゼ不含生産に実用的であり得る。
【0043】
タンパク質の発現量及び安定性を増加させる複数の有益な修飾を組み合わせることは、最適化された融合前抗原を生産するのに有効な戦略であることが判明している(Joyce et al.,2016、Krarup et al.,2015、McLellan et al.,2013、Rutten et al.,2020、Rutten et al.,2018、Jiachen et al.,2021、Hsieh et al.,2020)。本発明では、複数の有益な修飾を組み合わせることにより、ジスルフィド結合、空洞充填、及び静電安定化の設計を含む、最良の構築物のうちの1つであるDS-CavEs2がもたらされた。DS-CavEs2は、10倍高いタンパク質発現量、強化された熱安定性を有し、熱ストレス及び4℃での長期間貯蔵の後にも融合前エピトープを保持する。部位Vでの2つのジスルフィド置換、部位IIでの空洞充填置換、及び融合ペプチドの近位での別のジスルフィド結合の導入は、RSV Fにおいて最も強力な中和エピトープを内部に持つ、hMPV Fの膜遠位半分の立体構造を乱さなかった(図8A)(Graham et al.,2017、Gilman et al.,2016)。対照的に、T365C/V463C置換は、α10ヘリックスの相対位置を変化させた。しかしながら、この膜近位領域は免疫原性である可能性が低く、RSV Fにおいてこの領域を標的とする中和抗体は何ら発見されていない。
【0044】
フューリン部位が柔軟なグリシン-セリン(GS)リンカーまたはポリグリシンリンカーで置き換えられたDS-CavEs2の別のバージョンは、融合前F三量体の一本鎖形態を生成する。一部の実施形態では、リンカーは、配列GGSGGS(配列番号12)またはGGGGGG(配列番号13)を有する。この構築物を組換えにより作製するためにフューリンプロテアーゼが何ら必要とされないことを考慮すると、この設計は、ワクチン抗原の工業生産のためにより費用対効果が高い可能性がある。
【0045】
注目すべきことに、両方の融合前安定化F構築物は、隣接するプロトマーにまたがるエピトープを認識するMPE8と複合体化された場合であっても、単量体として結晶化した。他のグループもまた、異なる抗原部位を認識する抗体に結合された単量体hMPV Fを結晶化させている(Huang et al.,2020、Wen et al.,2012)。nsEMによる三量体F粒子の可視化が可能であったことを考慮すると(図8B)、これらのデータは、hMPV F三量体が、三量体形成モチーフに融合されている場合であっても、解離した単量体と平衡状態にあることを示唆する。これは、いくつかのクラスIウイルス融合タンパク質が三量体の開口または「呼吸」を経ることを実証する最近の結果と一致し、インフルエンザHA及びhMPV Fの三量体境界面に結合する天然型抗体が単離されている(Bangaru et al.,2019、Watanabe et al.,2019、Gilman et al.,2019)。
【0046】
融合前安定化クラスIウイルス融合タンパク質は、動物及びヒトにおいて、融合後の抗原によって誘導される中和抗体価よりも一桁高い場合が多い、高い中和抗体価を引き出すことが知られている(Crank et al.,2019、McLellan et al.,2013、Stewart-Jones et al.,2018)。以前の研究は、融合前及び融合後のhMPV Fタンパク質の免疫原性にほとんど差がなかったことを示したが(Battles et al.,2017)、それらの研究は、10μgの抗原用量、及び融合後の立体構造をまだとっていない融合前様のタンパク質がいくらかの量で混入していたことが今では知られている融合後のFタンパク質を用いて実施されたものであった。融合前安定化hMPV F抗原は、マウスにおいて、融合後のFタンパク質よりも高い中和抗体価を引き出すことが予想される。これらの結果は、以前のhMPV F研究よりも、融合前安定化ウイルスタンパク質の他の免疫原性研究とより一致しよう(Crank et al.,2019、van den Hoogen et al.,2002、Stewart-Jones et al.,2018)。本明細書に記載される安定化されたタンパク質は、hMPV Fワクチン候補の開発を加速させると共に、高リスクコホートの受動的予防に有用であり得る強力で広範に反応性のモノクローナル抗体の単離を容易にするはずである。
【0047】
II.定義
上述の一般的な説明及び以下の詳細な説明はいずれも、例示的かつ説明的なものに過ぎず、特許請求される本発明を制限するものではないことを理解されたい。本願において、単数形の使用は、別途明確な定めのない限り、複数形を含む。本願において、「または」の使用は、別途定めのない限り、「及び/または」を意味する。さらに、「含むこと」という用語、ならびに「含む」及び「含まれる」等の他の形態の使用は、限定するものではない。また、「要素」または「成分」等の用語は、別途明確な定めのない限り、1つのユニットを含む要素及び成分、ならびに1つよりも多くのサブユニットを含む要素及び成分の両方を包含する。また、「部分(portion)」という用語の使用は、部分(moiety)の一部または部分全体を含み得る。
【0048】
本明細書で使用されるとき、「a」または「an」という表記は、1つまたは複数を意味してもよい。本明細書で使用されるとき、請求項(複数可)において、「~を含む」という語と併せて使用される場合、「a」または「an」という語は、1つまたは1つよりも多くを意味してもよい。
【0049】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、本開示が選択肢ならびに「及び/または」のみを指す定義を支持していても、選択肢のみを指すよう明示的に指示されるかまたは選択肢が相互排他的でない限り、「及び/または」を意味するように使用される。本明細書で使用されるとき、「別の」とは、少なくとも2番目またはそれよりも後のものを意味してもよい。
【0050】
量、時間の持続期間等の測定可能な値を指すときに本明細書で使用される「約」という用語は、明記される値から最大±10%の変動を包含することを意図する。別途指示されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される、成分の量、分子量等の特性、反応条件等を表す全ての数字は、全ての出現例において「約」という用語によって修飾されているものとして理解されたい。したがって、それとは反対の指示がない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは、開示される発明の対象によって得られることが求められる所望の特性に応じて様々であり得る近似値である。最低限でも、また特許請求の範囲に対する均等論の適用を限定しようとする試みとしてではなく、各数値パラメータは少なくとも、報告される有効桁数を考慮して、また通例の端数処理技法を適用することによって解釈されるべきである。本発明の広い範囲について記載する数値範囲及びパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、いずれの数値も、それらのそれぞれの試験測定値において見出される標準偏差から必然的に生じるある特定の誤差を本来的に含む。
【0051】
本明細書で使用されるとき、明記される成分に関して「本質的に含まない」という用語は、本明細書で、明記される成分のうちのいずれも組成物中に意図的に配合されていない、及び/または夾雑物としてもしくは微量でのみ存在することを意味するように使用される。したがって、組成物のうちの何らかの意図されない夾雑からもたらされる明記される成分の総量は、0.05%を優に下回り、好ましくは0.01%を下回る。いかなる量の明記される成分も標準分析方法で検出することができない組成物が最も好ましい。
【0052】
「抗体」という用語は、任意のアイソタイプの無傷の免疫グロブリン、または標的抗原への特異的結合について無傷の抗体と競合し得るその断片を指し、例えば、キメラ、ヒト化、完全ヒト、及び二重特異性抗体を含む。「抗体」とは、抗原結合タンパク質の種である。無傷の抗体は一般に、少なくとも2本の完全長重鎖及び2本の完全長軽鎖を含むが、一部の事例では、重鎖のみを含み得るラクダ科動物に天然に存在する抗体のように、より少数の鎖を含み得る。抗体は、単一の供給源のみに由来し得るか、または「キメラ」であり得、つまり、下記にさらに記載されるように、抗体の異なる部分が2つの異なる抗体に由来し得る。抗原結合タンパク質、抗体、または結合断片は、ハイブリドーマにおいて、組換えDNA技法によって、または無傷の抗体の酵素的切断もしくは化学的切断によって生産される。別途指示されない限り、「抗体」という用語は、2本の完全長重鎖及び2本の完全長軽鎖を含む抗体に加えて、その誘導体、バリアント、断片、及び変異タンパク質を含み、これらの例が下記に記載される。さらに、明示的に除外されない限り、抗体には、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体(本明細書で「抗体模倣体」と称されることがある)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体融合体(本明細書で「抗体コンジュゲート」と称されることがある)、及びそれらの断片がそれぞれ含まれる。一部の実施形態では、この用語はまた、ペプチボディを包含する。
【0053】
天然型抗体の構造単位は、四量体を含む。かかる各四量体は典型的に、2つの同一のポリペプチド鎖の対から構成され、各対が1本の完全長「軽」鎖(ある特定の実施形態では、約25kDa)及び1本の完全長「重」鎖(ある特定の実施形態では、約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は典型的に、抗原認識を典型的に担う約100~110個またはそれよりも多くのアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端部分は典型的に、エフェクター機能を担い得る定常領域を画定する。ヒト軽鎖は、典型的にカッパ軽鎖及びラムダ軽鎖として分類される。重鎖は、典型的にミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンとして分類され、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとして抗体のアイソタイプを規定する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含むがこれらに限定されない、いくつかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1及びIgM2を含むがこれらに限定されないサブクラスを有する。IgAは、IgA1及びIgA2を含むがこれらに限定されないサブクラスに同様に細分される。完全長軽鎖及び重鎖内で、典型的には、可変領域及び定常領域は、約12個以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、このうち重鎖はまた、さらに約10個のアミノ酸の「D」領域も含む。例えば、Fundamental Immunology,Ch.7(Paul,W.,ed.,2nd ed.Raven Press,N.Y.(1989))(参照によりその全体が全目的で援用される)を参照されたい。各軽鎖/重鎖対の可変領域は典型的に、抗原結合部位を形成する。
【0054】
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、重鎖においてアミノ末端におよそ120~130個のアミノ酸及び軽鎖において約100~110個のアミノ末端アミノ酸を典型的に含む、抗体の軽鎖及び/または重鎖の一部分を指す。ある特定の実施形態では、異なる抗体の可変領域は、同じ種の抗体間でさえもアミノ酸配列が大幅に異なる。抗体の可変領域は典型的に、特定の抗体のその標的に対する特異性を決定する。
【0055】
可変領域は典型的に、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)が3つの超可変領域(相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる)によって連結された、同じ一般構造を呈する。各対の2本の鎖からのCDRは典型的に、フレームワーク領域によって整列され、これが特異的エピトープへの結合を可能にし得る。N末端からC末端に、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の両方は典型的に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、及びFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割り当ては、典型的に、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987及び1991))、Chothia & Lesk J.Mol.Biol.,196:901-917(1987)、またはChothia et al.,Nature,342:878-883(1989)の定義に従う。
【0056】
ある特定の実施形態では、抗体重鎖は、抗体軽鎖の不在下で抗原に結合する。ある特定の実施形態では、抗体軽鎖は、抗体重鎖の不在下で抗原に結合する。ある特定の実施形態では、抗体結合領域は、抗体軽鎖の不在下で抗原に結合する。ある特定の実施形態では、抗体結合領域は、抗体重鎖の不在下で抗原に結合する。ある特定の実施形態では、個々の可変領域は、他の可変領域の不在下で抗原に特異的に結合する。
【0057】
ある特定の実施形態では、CDRの確定的な境界分け及び抗体の結合部位を構成する残基の特定は、抗体の構造を解明すること及び/または抗体-リガンド複合体の構造を解明することによって遂行される。ある特定の実施形態では、それは、X線結晶構造解析等の、当業者に既知の様々な技法のうちのいずれかによって遂行され得る。ある特定の実施形態では、種々の分析方法を用いて、CDR領域を特定またはおよそ予想することができる。かかる方法の例としては、Kabat定義、Chothia定義、AbM定義、及びcontact定義が挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
Kabat定義は、抗体における残基を番号付けするための標準であり、CDR領域を特定するために典型的に使用される。例えば、Johnson & Wu,Nucleic Acids Res.,28:214-8(2000)を参照されたい。Chothia定義は、Kabat定義に類似するが、Chothia定義は、ある特定の構造的ループ領域の位置を考慮に入れる。例えば、Chothia et al.,J.Mol.Biol.,196:901-17(1986)、Chothia et al.,Nature,342:877-83(1989)を参照されたい。AbM定義は、抗体構造をモデル化する、Oxford Molecular Groupによって製造される統合コンピュータプログラム一式を使用する。例えば、Martin et al.,Proc Natl Acad Sci(USA),86:9268-9272(1989)、“AbMTM,A Computer Program for Modeling Variable Regions of Antibodies,”Oxford,UK;Oxford Molecular,Ltdを参照されたい。AbM定義は、知識データベースと、Samudrala et al.,“Ab Initio Protein Structure Prediction Using a Combined Hierarchical Approach,”in PROTEINS,Structure,Function and Genetics Suppl.,3:194-198(1999)に記載される方法等のアブイニシオ(ab initio)法との組み合わせを使用して、一次配列から抗体の三次構造をモデル化する。contact定義は、利用可能な複合体結晶構造の解析に基づく。例えば、MacCallum et al.,J.Mol.Biol.,5:732-45(1996)を参照されたい。
【0059】
慣習的には、重鎖のCDR領域は、典型的にH1、H2、及びH3と称され、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に順次に番号付けされる。軽鎖のCDR領域は、典型的にL1、L2、及びL3と称され、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に順次に番号付けされる。
【0060】
「軽鎖」という用語は、完全長軽鎖、及び結合特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するその断片を含む。完全長軽鎖は、可変領域ドメインVL、及び定常領域ドメインCLを含む。軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にある。軽鎖は、カッパ鎖及びラムダ鎖を含む。
【0061】
「重鎖」という用語は、完全長重鎖、及び結合特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有するその断片を含む。完全長重鎖は、可変領域ドメインVH、ならびに3つの定常領域ドメインCH1、CH2、及びCH3を含む。VHドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にあり、CHドメインは、カルボキシル末端にあり、このうちCH3がポリペプチドのカルボキシ末端に最も近い。重鎖は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4サブタイプを含む)、IgA(IgA1及びIgA2サブタイプを含む)、IgM、及びIgEを含めた、任意のアイソタイプのものであり得る。
【0062】
二重特異性または二重機能性抗体は典型的に、2つの異なる重鎖/軽鎖対及び2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab’断片の連結を含むがこれらに限定されない、様々な方法によって生産することができる。例えば、Songsivilai et al.,Clin.Exp.Immunol.,79:315-321(1990)、Kostelny et al.,J.Immunol.,148:1547-1553(1992)を参照されたい。
【0063】
「抗原」という用語は、適応免疫応答を誘導することができる物質を指す。具体的に述べると、抗原は、適応免疫応答の受容体のための標的としての機能を果たす物質である。典型的には、抗原は、抗原特異的受容体に結合するが、それ自体では体内で免疫応答を誘導することができない分子である。抗原は通常、タンパク質及び多糖類であり、より低い頻度では脂質でもある。本明細書で使用されるとき、抗原にはまた、免疫原及びハプテンも含まれる。
【0064】
「Fc」領域は、抗体のCH1及びCH2ドメインを含む2つの重鎖断片を含む。これら2つの重鎖断片は、2つ以上のジスルフィド結合及びCH3ドメインの疎水性相互作用によって一緒に保持される。
【0065】
「Fv領域」は、重鎖及び軽鎖の両方からの可変領域を含むが、定常領域は欠いている。
【0066】
特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド上のエピトープ「に特異的に結合する」またはそれ「に特異的」である抗体は、いずれの他のポリペプチドまたはポリペプチドのエピトープにも実質的に結合することなく特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド上のエピトープに結合する抗体である。例えば、本発明のhMPV Fタンパク質特異的抗体は、hMPV Fタンパク質に特異的である。一部の実施形態では、hMPV Fタンパク質に結合する抗体は、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば、10-8M~10-13M、例えば、10-9M~10-13M)の解離定数(Kd)を有する。
【0067】
同じエピトープを競合する抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合断片)の文脈で使用されるときの「競合する」という用語は、試験されている抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合断片)が共通の抗原(例えば、hMPV Fまたはその断片)への参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンド、または参照抗体)の特異的結合を阻止または阻害する(例えば、低減する)、アッセイによって決定されるような抗原結合タンパク質間の競合を意味する。1つの抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかは、多数の種類の競合的結合アッセイ、例えば、固相直接または間接放射免疫測定法(RIA)、固相直接または間接酵素免疫測定法(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al.,1983,Methods in Enzymology 9:242-253を参照されたい);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirkland et al.,1986,J.Immunol.137:3614-3619を参照されたい)、固相直接標識化アッセイ、固相直接標識化サンドイッチアッセイ(例えば、Harlow and Lane,1988,Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Pressを参照されたい);I-125標識を使用した固相直接標識RIA(例えば、Morel et al.,1988,Molec.Immunol.25:7-15を参照されたい);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Cheung,et al.,1990,Virology 176:546-552を参照されたい);及び直接標識化RIA(Moldenhauer et al.,1990,Scand.J.Immunol.32:77-82)を使用して決定することができる。典型的には、かかるアッセイは、これらのいずれかを担持する固体表面または細胞に結合された精製抗原、未標識の試験抗原結合タンパク質、及び標識された参照抗原結合タンパク質の使用を伴う。競合的阻害は、試験抗原結合タンパク質の存在下で固体表面または細胞に結合された標識の量を決定することによって測定される。通常は、試験抗原結合タンパク質は、過剰に存在する。競合アッセイによって特定される抗原結合タンパク質(競合する抗原結合タンパク質)には、参照抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合している抗原結合タンパク質、及び参照抗原結合タンパク質によって結合されたエピトープに対して、立体障害が生じるのに十分に近位の隣接するエピトープに結合している抗原結合タンパク質が含まれる。競合的結合を決定するための方法に関する追加の詳細は、本明細書の実施例で提供される。通常は、競合する抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合、それは、共通の抗原への参照抗原結合タンパク質の特異的結合を少なくとも40~45%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、または75%以上阻害(例えば、低減)しよう。一部の事例では、結合は、少なくとも80~85%、85~90%、90~95%、95~97%、または97%以上阻害される。
【0068】
本明細書で使用される「エピトープ」という用語は、抗体が結合する、抗原上の特定の原子またはアミノ酸の群を指す。エピトープは、線状エピトープまたは立体構造的エピトープのいずれかであり得る。線状エピトープは、抗原からの連続したアミノ酸配列によって形成され、それらの一次構造に基づいて抗体と相互作用する。一方で、立体構造的エピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続の区分から構成され、抗原の3D構造に基づいて抗体と相互作用する。一般に、エピトープは、およそ5または6アミノ酸長である。2つの抗体が抗原に対して競合的結合を示す場合、それらは抗原内の同じエピトープに結合し得る。
【0069】
「宿主細胞」という用語は、核酸配列で形質転換されており、または形質転換されることができ、それによって目的の遺伝子を発現する細胞を意味する。この用語は、目的の遺伝子が存在する限り、子孫の形態または遺伝子構造が元の親細胞と同一であるか否かにかかわらず、親細胞の子孫を含む。
【0070】
「同一性」という用語は、配列の整列及び比較によって決定されるような、2つ以上のポリペプチド分子または2つ以上の核酸分子の配列間の関係を指す。「同一性パーセント」とは、比較される分子におけるアミノ酸またはヌクレオチド間で同一の残基のパーセントを意味し、比較されている分子のうちで最も小さい分子のサイズに基づいて算出される。これらの算出のために、整列におけるギャップ(該当する場合)は、好ましくは、特定の数理モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち、「アルゴリズム」)によって処理される。整列された核酸またはポリペプチドの同一性を算出するために使用され得る方法には、Computational Molecular Biology,(Lesk,A.M.,ed.),1988,New York:Oxford University Press、Biocomputing Informatics and Genome Projects,(Smith,D.W.,ed.),1993,New York:Academic Press、Computer Analysis of Sequence Data,Part I,(Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.),1994,New Jersey:Humana Press、von Heinje,G.,1987,Sequence Analysis in Molecular Biology,New York:Academic Press、Sequence Analysis Primer,(Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.),1991,New York:M.Stockton Press、及びCarillo et al.,1988,SIAM J.Applied Math.48:1073に記載されるものが含まれる。
【0071】
同一性パーセントを算出する際、比較されている配列は、典型的に、配列間の最大の一致をもたらすように整列される。同一性パーセントを決定するために使用され得るコンピュータプログラムの一例は、GCGプログラムパッケージであり、これはGAPを含む(Devereux et al.,1984、Nucl.Acid Res.12:387、Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.)。コンピュータアルゴリズムGAPは、配列同一性パーセントを決定しようとする2つのポリペプチドまたはポリヌクレオチドを整列するために使用される。配列は、それらのそれぞれ対応するアミノ酸またはヌクレオチドが最適に一致するように整列される(アルゴリズムによって決定されるような「一致した範囲」)。ギャップオープニングペナルティ(これは3×平均対角要素として算出され、ここで、「平均対角要素」とは、使用されている比較行列の対角要素の平均であり、「対角要素」とは、特定の比較行列によるアミノ酸の完全な一致の各々に割り当てられるスコアまたは番号である)及びギャップエクステンションペナルティ(これは通常、1/10×ギャップオープニングペナルティである)、ならびにPAM 250またはBLOSUM 62等の比較行列がアルゴリズムと併せて使用される。ある特定の実施形態では、標準的な比較行列(PAM 250比較行列についてはDayhoff et al.,1978,Atlas of Protein Sequence and Structure 5:345-352を参照されたく、BLOSUM 62比較行列についてはHenikoff et al.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:10915-10919を参照されたい)もまたアルゴリズムによって使用される。
【0072】
GAPプログラムを使用してポリペプチドまたはヌクレオチド配列の同一性パーセントを決定する際に用いられ得るパラメータの例は、Needleman et al.,1970,J.Mol.Biol.48:443-453に見出すことができる。
【0073】
2つのアミノ酸配列を整列するためのある特定の整列スキームは、2つの配列の短い領域のみの一致をもたらす場合があり、この小さな整列領域は、これら2つの完全長配列間に顕著な関係が存在しない場合であっても非常に高い配列同一性を有する場合がある。したがって、選択された整列法(GAPプログラム)は、そのように所望される場合には、標的ポリペプチドの少なくとも50個または他の数の連続アミノ酸に及ぶ整列をもたらすように調整され得る。
【0074】
本明細書で使用される「連結」という用語は、分子内相互作用を介した会合、例えば、共有結合、金属結合、及び/またはイオン結合、または分子間相互作用を介した会合、例えば、水素結合もしくは非共有結合を指す。
【0075】
「作動可能に連結される」という用語は、そのように説明される成分がそれらの通常の機能を果たすように構成される、要素の配置を指す。故に、ポリペプチドに作動可能に連結された所与のシグナルペプチドは、細胞からのポリペプチドの分泌を指示する。プロモーターの場合、コード配列に作動可能に連結されているプロモーターは、コード配列の発現を指示する。プロモーターまたは他の制御要素は、それらがコード配列の発現を指示するように機能する限り、コード配列と連続している必要はない。例えば、未翻訳であるが転写された介在配列がプロモーター配列とコード配列の間に存在し得、プロモーター配列は依然として、コード配列に「作動可能に連結される」と見なされ得る。
【0076】
「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、一本鎖ヌクレオチドポリマー及び二本鎖ヌクレオチドポリマーの両方を含む。ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチドであり得るか、またはいずれか種類のヌクレオチドの修飾型であり得る。該修飾には、ブロモウリジン及びイノシン誘導体等の塩基修飾、2’,3’-ジデオキシリボース等のリボース修飾、ならびにホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)、ホスホロアニラデート(phoshoraniladate)、及びホスホロアミデート等のヌクレオチド間結合修飾が含まれる。
【0077】
本明細書で使用されるとき、「ベクター」とは、宿主細胞に導入されて、それによって形質転換された宿主細胞を生み出すような核酸分子を指す。ベクターは、複製起点等の、宿主細胞内での複製を可能にする核酸配列を含んでもよい。ベクターはまた、1つまたは複数の治療用遺伝子及び/または選択可能なマーカー遺伝子、ならびに当該技術分野で既知の他の遺伝要素を含んでもよい。ベクターは、細胞に形質導入、それを形質転換、またはそれに感染することができ、それによって細胞が、細胞にとって天然の核酸及び/またはタンパク質以外の核酸及び/またはタンパク質を発現するようにさせる。ベクターは、任意選択で、ウイルス粒子、リポソーム、タンパク質被覆等といった、核酸の細胞内への侵入を達成するのを助ける物質を含む。
【0078】
「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、ネイティブタンパク質、つまり天然型の非組換え細胞によって産生されるタンパク質のアミノ酸配列を有する高分子を意味するか、またはそれは遺伝子操作もしくは組換え細胞によって産生され、ネイティブタンパク質のアミノ酸配列を有する分子、またはネイティブ配列の1つもしくは複数のアミノ酸の欠失、それへの付加、及び/またはその置換を有する分子を含む。この用語はまた、1つまたは複数のアミノ酸が対応する天然型アミノ酸及びポリマーの化学類似体である、アミノ酸ポリマーも含む。「ポリペプチド」及び「タンパク質」という用語は、抗原結合タンパク質の1つまたは複数のアミノ酸の欠失、それへの付加、及び/またはその置換を有するhMPV Fタンパク質結合タンパク質、抗体、または配列を明確に包含する。「ポリペプチド断片」という用語は、完全長ネイティブタンパク質と比較してアミノ末端の欠失、カルボキシル末端の欠失、及び/または内部欠失を有するポリペプチドを指す。かかる断片はまた、ネイティブタンパク質と比較して修飾されたアミノ酸を含有し得る。ある特定の実施形態では、断片は、約5~500アミノ酸長である。例えば、断片は、少なくとも5、6、8、10、14、20、50、70、100、110、150、200、250、300、350、400、または450アミノ酸長であり得る。有用なポリペプチド断片には、結合ドメインを含む、抗体の免疫学的に機能的な断片が含まれる。hMPV Fタンパク質結合抗体の場合、有用な断片には、CDR領域、重鎖及び/または軽鎖の可変ドメイン、2つのCDRを含む抗体鎖の一部分または単なるその可変領域等が含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
本発明で有用な薬学的に許容される担体は、慣習的なものである。Remington’s Pharmaceutical Sciences,by E.W.Martin,Mack Publishing Co.,Easton,PA,15th Edition(1975)には、本明細書に開示される融合タンパク質の薬学的送達に好適な組成物及び製剤が記載される。一般に、担体の性質は、用いられている特定の投与様式に左右されよう。例えば、非経口用製剤は通常、ビヒクルとして水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロール等といった薬学的にかつ生理学的に許容される流体を含む注射液を含む。固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤形態)の場合、慣習的な無毒の固体担体は、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを含み得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は、湿潤剤または乳化剤、防腐剤、及びpH緩衝剤等、例えば、酢酸ナトリウムまたはモノラウリン酸ソルビタン等の、少量の無毒の補助物質を含有し得る。
【0080】
本明細書で使用されるとき、「対象」という用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、または霊長類)を指す。ヒトは、出生前及び出生後の形態を含む。多くの実施形態では、対象は、ヒトである。対象は、患者であり得、これは疾患の診断または治療のために医療提供者を訪れるヒトを指す。「対象」という用語は、本明細書で「個体」または「患者」と互換的に使用される。対象は、疾患または障害に罹患している場合があるか、またはそれに感受性があるが、疾患もしくは障害の症状を表す場合もあれば、表さない場合もある。
【0081】
本明細書で使用される「治療上有効量」または「有効投薬量」という用語は、疾患または病態を治療するのに有効な薬物の投薬量または濃度を指す。例えば、ウイルス感染症を治療するための、本明細書に開示されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片の使用に関して。
【0082】
本明細書で使用される病態を「治療すること」またはその「治療」には、病態を予防もしくは緩和すること、病態の発現もしくは発症速度を緩徐化すること、病態を発症するリスクを低減すること、病態に関連する症状の発症を予防もしくは遅延させること、病態に関連する症状を低減または終わらせること、病態の完全退縮もしくは部分的退縮を生じさせること、病態を治癒すること、またはそれらの何らかの組み合わせが含まれる。
【0083】
III.hMPV Fタンパク質
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、Pneumoviridae科のエンベロープを持つマイナス鎖ウイルスであり、2001年に発見されたが、その発見前に少なくとも半世紀にわたって伝播してきた。hMPV融合(F)タンパク質は、ウイルスゲノムによってコードされる3つの表面糖タンパク質のうちの1つである。クラスI融合体として、hMPV Fは、最初に単一ポリペプチド前駆体(F0)として翻訳される。最初は非機能的であるため、ジスルフィド結合によって共有結合性で連結されるF1及びF2サブユニットを形成するためにタンパク質分解切断事象が必要である。F2ポリペプチドの新たなN末端は、疎水性配列を含有し、これはウイルス及び宿主の細胞膜を最終的に融合するプロセス中に宿主の細胞膜に挿入されることになる。ある時点で、通過中または膜表面でのいずれかで、Fタンパク質はそれ自体と会合して、いわゆる融合前の立体構造において準安定な三量体を形成する。hMPV融合タンパク質は、トリプシン様プロテアーゼによって細胞外が切断される。未知の誘発事象が起こり、これによる影響を受けてFタンパク質は、融合ペプチドを宿主の細胞膜の中に伸展した後に、それ自体の上に再度折り重なって、いわゆる融合後の立体構造において6ヘリックスバンドルを形成する、劇的な立体構造変化を経る。伸長した中間体と融合後の立体構造との間のエネルギー差が、膜融合に必要なエネルギーを提供する。
【0084】
歴史的に、パラミクソウイルス融合タンパク質の構造は、最初に解明された融合前タンパク質を頭部、頸部、及び茎に概して区分化するドメインに分類されている。3つの一般ドメイン(DI、DII、及びDIII)を追加の構造の融合前構造に割り当てる命名が継続している。pneumoviridae科は、以前はパラミクソウイルスの亜科であったことから、それらもまたこの慣習を保持する。hMPVのドメインは、同じ3つのドメインに漠然と分類され、ヘプタッドリピートの追加の2つの領域も同様に定義される。ヘプタッドリピートA(HRA)は、DIIIa内に位置するF1のN末端にあり、ヘプタッドリピートBは、定義されたドメイン領域の外側のC末端かつタンパク質の膜貫通ドメインより前にある。しかしながら、構造的類似性のため、pneumoviridae科の別の成員である呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の融合タンパク質に使用される抗原部位の命名法の移行を用いて、タンパク質領域をより正確に説明することができる。DIIIaは、融合ペプチドが三量体の内部空洞から解放されるときに最大の立体構造再構成を経験し、融合ペプチドが標的膜に挿入されると同時にHRAが3コイルバンドルを形成する。最終的にHRBがHRAバンドルの外側の周りで会合して、融合後の立体構造において6HBを形成する。
【0085】
最近、クラスI融合タンパク質の融合前の立体構造における安定化が、臨床試験においてワクチン抗原として有望な結果を生み出しており、RSVワクチン及びSARS-コロナウイルス-2ワクチンの両方このアプローチを使用している(Baden et al.,2020、Keech et al.,2020、Williams et al.,2020、Crank et al.,2019)。RSVは、hMPVと約33%の配列同一性を共有し、これら2つの融合前構造は類似性が高い(Battles et al.,2017、van den hoogen et al.,2002)。その解明された融合前構造に基づいて、RSV Fをその融合前の立体構造において安定化するために、プロリン、ジスルフィド結合、及び空洞充填置換の導入を含めた少数の異なる戦略が使用されている(Joyce et al.,2016、Krarup et al.,2015、McLellan et al.,2013)。DS-Cav1の場合、内部空洞は、疎水性残基置換によってより最適に充填され、ジスルフィド結合の導入は、融合ペプチド領域に導入された。PR-DMの場合、ループ領域が、融合後の立体構造で見られる伸展したアルファヘリックスへと再構成されるのを阻止するために、プロリン残基が導入された。RSV Fにおいては、電荷反発の領域もまた特定され、低減された。同様に、解明された融合前構造は、2つのプロリン置換(S-2P)をヒンジ領域に導入することによってコロナウイルスの安定化を可能にした。HIV(SOSIP)及びインフルエンザの分野内でも、安定化変異を導入操作することにより、良好に動作する融合前試薬がもたらされた例が存在する。
【0086】
最近、RSV F研究から得られた知識を使用して、hMPV Fが融合前の立体構造において安定化された。まず、F/F切断部位配列「RQSR」を多塩基性「RRRR」配列で置換して、産生細胞におけるフューリン様プロテアーゼによる効率的な切断を可能にした。次いで、RSV F安定化戦略(Krarup et al.,2015)を模倣して、膜遠位の三量体頂端のFにおけるヘリックス-ループ-ヘリックス領域にプロリンを導入した。この操作戦略により、hMPV Fの三量体融合前結晶構造を得ることができたが、タンパク質の発現は不十分であり、さらなる操作が必要とされることを示唆した(Battles et al.,2017)。さらに、以前の血清枯渇アッセイ及びマウス免疫化実験では、融合前及び融合後のhMPV Fの間で抗原性の有意差が何ら存在しないことが示された(Battles et al.,2017)。対照的に、融合前RSV Fは、融合後RSV Fよりも強固な中和抗体応答を誘導し、血清枯渇実験では、ヒト血清中でRSV中和活性のほとんどが融合前の立体構造に限って結合することが実証された(Sastre et al.,2005、Magro et al.,2012)。これらのデータは、これらの一致しない結果を調査するために、より安定な融合前hMPV F構築物が必要とされることを示唆した。
【0087】
この目的で、Fタンパク質のコード配列の変異によるFタンパク質安定化戦略が本明細書で実証されている。公開された融合前hMPV F構造を使用して、追加のアミノ酸置換の導入操作を導いた。複数の有益な置換の組み合わせが、所望のタンパク質特性に対して相加効果を有することが見出された。本明細書で分析され、提供される変異の詳細を下記の表1に示す。変異タンパク質は、実施例に詳述されるように発現させ、タンパク質と三量体の複合体の産生された量を決定した。
【0088】
(表1)Fタンパク質置換及び変異
【0089】
IV.医薬製剤
本開示は、操作されたhMPV Fタンパク質を含む医薬組成物を提供する。かかる組成物は、ワクチン製剤の一部等、免疫応答を刺激するために使用することができる。
【0090】
操作されたhMPV Fタンパク質をコードする核酸分子を医薬組成物中で使用する場合、核酸分子は、共有結合性で一緒に連結されたデオキシリボヌクレオチド及び/またはリボヌクレオチド、またはそれらの類似体を含むか、またはそれからなってもよい。本明細書に記載される核酸分子は一般に、ホスホジエステル結合を含有するが、場合によっては、少なくとも1つの異なる結合、例えば、ホスホロアミデート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、またはO-メチルホスホロアミダイト結合、ならびにペプチド核酸骨格及び結合を有し得る、核酸類似体が含まれる。天然型ポリヌクレオチド及び類似体の混合物を作製することができるが、代替として、異なるポリヌクレオチド類似体の混合物、ならびに天然型ポリヌクレオチド及び類似体の混合物を作製してもよい。核酸分子は、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体等の修飾ヌクレオチドを含んでもよい。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾を、ポリマーの組織化の前または後に付与してもよい。ヌクレオチドの配列には、非ヌクレオチド成分が介在してもよい。ポリヌクレオチドは、例えば標識成分とのコンジュゲーションによって、重合後にさらに修飾されてもよい。この用語はまた、二本鎖分子及び一本鎖分子の両方を含む。別途明記または要求されない限り、ポリヌクレオチドという用語は、二本鎖形態、及び二本鎖形態を構成することが知られているかまたは予測される2つの相補的な一本鎖形態の各々の両方を包含する。核酸分子は、4つのヌクレオチド塩基、すなわちアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)、及びポリヌクレオチドがRNAである場合にはチミンの代わりにウラシル(U)の特定の配列から構成される。故に、「核酸配列」という用語は、核酸分子のアルファベットによる表現である。別途指示されない限り、特定の核酸配列はまた、明示的に示される配列のみならず、その保存的に修飾されたバリアント(例えば、縮重コドン置換)及び相補的配列も黙示的に包含する。具体的に述べると、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基及び/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって、縮重コドン置換が達成されてもよい。
【0091】
一部の実施形態では、本開示の核酸は、修飾糖部分を含む1つまたは複数の修飾ヌクレオシドを含む。1つまたは複数の糖修飾ヌクレオシドを含むかかる化合物は、天然型の糖部分を含むヌクレオシドのみを含むオリゴヌクレオチドと比べて強化されたヌクレアーゼ安定性または標的核酸との増加した結合親和性等の、望ましい特性を有し得る。一部の実施形態では、修飾糖部分は、置換糖部分である。一部の実施形態では、修飾糖部分は、糖代理物である。かかる糖代理物は、置換糖部分の置換に対応する1つまたは複数の置換を含んでもよい。
【0092】
一部の実施形態では、修飾糖部分は、2’位及び/または5’位の置換基を含むがこれらに限定されない1つまたは複数の非架橋糖置換基を含む置換糖部分である。2’位に好適な糖置換基の例としては、2’-F、2’-OCH3(「OMe」または「O-メチル」)、及び2’-O(CH)2OCH(「MOE」)が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、2’位の糖置換基は、アリル、アミノ、アジド、チオ、O-アリル、O--C~C10アルキル、O--C~C10置換アルキル、OCF、O(CH)2SCH、O(CH--O--N(Rm)(Rn)、及びO--CH--C(=O)--N(Rm)(Rn)から選択され、式中、各Rm及びRnは、独立して、Hまたは置換もしくは非置換C~C10アルキルである。5’位の糖置換基の例としては、5’-メチル(RまたはS)、5’-ビニル、及び5’-メトキシが挙げられるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、置換糖は、1つよりも多くの非架橋糖置換基、例えば、T-F-5’-メチル糖部分を含む(追加の5’,2’-ビス置換糖部分及びヌクレオシドについては、例えば、PCT国際出願WO2008/101157を参照されたい)。
【0093】
2’-置換糖部分を含むヌクレオシドは、2’-置換ヌクレオシドと称される。一部の実施形態では、2’-置換ヌクレオシドは、ハロ、アリル、アミノ、アジド、SH、CN、OCN、CF、OCF、O、S、またはN(Rm)-アルキル;O、S、またはN(Rm)-アルケニル;O、SまたはN(Rm)-アルキニル;O-アルキレニル-O-アルキル、アルキニル、アルカリル、アラルキル、O-アルカリル、O-アラルキル、O(CH)2SCH、O(CH)2--O--N(Rm)(Rn)、またはO--CH--C(=O)--N(Rm)(Rn)から選択される2’-置換基を含み、式中、各Rm及びRnは、独立して、H、アミノ保護基、または置換もしくは非置換C~C10アルキルである。これらの2’-置換基は、ヒドロキシル、アミノ、アルコキシ、カルボキシ、ベンジル、フェニル、ニトロ(NO)、チオール、チオアルコキシ(S-アルキル)、ハロゲン、アルキル、アリール、アルケニル、及びアルキニルから独立して選択される1つまたは複数の置換基でさらに置換され得る。
【0094】
一部の実施形態では、2’-置換ヌクレオシドは、F、NH、N、OCF、O--CH、O(CHNH、CH-CH=CH、O--CH-CH=CH、OCHCHOCH、O(CH)2SCH、O--(CH)2--O--N(Rm)(Rn)、O(CH)2O(CH)2N(CH、及びN-置換アセトアミド(O--CH--C(=O)--N(Rm)(Rn)から選択される2’-置換基を含み、式中、各Rm及びRnは、独立して、H、アミノ保護基、または置換もしくは非置換C~C10アルキルである。
【0095】
一部の実施形態では、2’-置換ヌクレオシドは、F、OCF、O--CH、OCHCHOCH、O(CH)2SCH、O(CH--O--N(CH、--O(CH)2O(CH)2N(CH、及びO--CH--C(=O)--N(H)CHから選択される2’-置換基を含む糖部分を含む。
【0096】
一部の実施形態では、2’-置換ヌクレオシドは、F、O--CH、及びOCHCHOCHから選択される2’-置換基を含む糖部分を含む。
【0097】
一部の実施形態では、本開示のヌクレオシドは、1つまたは複数の未修飾核酸塩基を含む。ある特定の実施形態では、本開示のヌクレオシドは、1つまたは複数の修飾核酸塩基を含む。
【0098】
一部の実施形態では、修飾核酸塩基は、本明細書で定義されるような普遍的塩基、疎水性塩基、無差別(promiscuous)塩基、サイズ拡大塩基、及びフッ素化塩基から選択される。5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ならびにN-2、N-6、及びO-6置換プリンには、本明細書で定義されるような、2-アミノプロピルアデニン、5-プロピニルウラシル;5-プロピニルシトシン;5-ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2-アミノアデニン、6-メチルならびにアデニン及びグアニンの他のアルキル誘導体、2-プロピルならびにアデニン及びグアニンの他のアルキル誘導体、2-チオウラシル、2-チオチミン、及び2-チオシトシン、5-ハロウラシル及びシトシン、5-プロピニルCH3)ウラシル及びシトシンならびにピリミジン塩基の他のアルキニル誘導体、6-アゾウラシル、シトシン、及びチミン、5-ウラシル(シュードウラシル)、4-チオウラシル、8-ハロ、8-アミノ、8-チオール、8-チオアルキル、8-ヒドロキシルならびに他の8-置換アデニン及びグアニン、5-ハロ、特に5-ブロモ、5-トリフルオロメチルならびに他の5-置換ウラシル及びシトシン、7-メチルグアニン及び7-メチルアデニン、2-F-アデニン、2-アミノ-アデニン、8-アザグアニン及び8-アザアデニン、7-デアザグアニン及び7-デアザアデニン、3-デアザグアニン及び3-デアザアデニン、普遍的塩基、疎水性塩基、無差別塩基、サイズ拡大塩基、及びフッ素化塩基を含む。さらなる修飾核酸塩基には、三環式ピリミジン、例えば、フェノキサジンシチジン([5,4-b][1,4]ベンゾオキサジン-2(3H)-オン)、フェノチアジンシチジン(1H-ピリミド[5,4-b][1,4]ベンゾチアジン-2(3H)-オン)、G-クランプ、例えば、置換フェノキサジンシチジン(例えば、9-(2-アミノエトキシ)-H-ピリミド[5,4-13][1,4]ベンゾオキサジン-2(3H)-オン)、カルバゾールシチジン(2H-ピリミド[4,5-b]インドール-2-オン)、ピリドインドールシチジン(H-ピリド[3’,2’:4,5]ピロロ[2,3-d]ピリミジン-2-オン)が含まれる。修飾核酸塩基にはまた、プリンまたはピリミジン塩基が他の複素環、例えば、7-デアザ-アデニン、7-デアザグアノシン、2-アミノピリジン、及び2-ピリドンで置き換えられているものも含まれ得る。さらなる核酸塩基には、米国特許3,687,808に開示されるもの、The Concise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering,Kroschwitz,J.I.,Ed.,John Wiley & Sons,1990,858-859に開示されるものが含まれる。
【0099】
上述の修飾核酸塩基のうちのある特定のもの、ならびに他の修飾核酸塩基の調製について教示する代表的な米国特許には、限定されないが、米国特許3,687,808、4,845,205、5,130,302、5,134,066、5,175,273、5,367,066、5,432,272、5,457,187、5,459,255、5,484,908、5,502,177、5,525,711、5,552,540、5,587,469、5,594,121、5,596,091、5,614,617、5,645,985、5,681,941、5,750,692、5,763,588、5,830,653、及び6,005,096が含まれ、同文献の各々は参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0100】
また、追加の修飾がオリゴヌクレオチド上の他の位置、特に3’末端ヌクレオチド上の糖の3’位及び5’末端ヌクレオチドの5’位で行われてもよい。例えば、本開示のリガンドコンジュゲートオリゴヌクレオチドの1つの追加の修飾は、オリゴヌクレオチドの活性、細胞分布、または細胞取り込みを強化する1つまたは複数の追加の非リガンド部分またはコンジュゲートをオリゴヌクレオチドに化学的に連結することを伴う。かかる部分には、脂質部分、例えば、コレステロール部分、コール酸、チオエーテル、例えば、ヘキシル-5-トリチルチオール、チオコレステロール、脂肪族鎖、例えば、ドデカンジオールもしくはウンデシル残基、リン脂質、例えば、ジ-ヘキサデシル-rac-グリセロールもしくはトリエチルアンモニウム1,2-ジ-O-ヘキサデシル-rac-グリセロ-3-H-ホスホネート、ポリアミンもしくはポリエチレングリコール鎖、もしくはアダマンタン酢酸、パルミチル部分、またはオクタデシルアミンもしくはヘキシルアミノ-カルボニル-オキシコレステロール部分が含まれるが、これらに限定されない。一部の態様では、キメラhMPV/RSV Fタンパク質をコードする核酸分子は、例えば修飾mRNA等の、修飾RNAである。修飾(m)RNAとは、mRNAに増加した安定性及び低い免疫原性を付与して、それによって治療上重要なタンパク質の発現を容易にする、ある特定の化学修飾を企図する。例えば、N1-メチル-シュードウリジン(N1mΨ)は、翻訳能力の点でいくつかの他のヌクレオシド修飾及びそれらの組み合わせよりも優れている。一部の実施形態では、本明細書で使用される(m)RNA分子は、1-メチル-3’-シュードウリジリル塩基等、ウラシルがシュードウラシルと置き換えられていてもよい。一部の実施形態では、ウラシルのうちのいくつかが置き換えられるが、他の実施形態では、ウラシルの全てが置き換えられている。(m)RNAは、5’キャップ、5’UTR要素、任意選択でコドン最適化されたオープンリーディングフレーム、3’UTR要素、ならびにポリ(A)配列及び/またはポリアデニル化シグナルを含んでもよい。
【0101】
核酸分子は、ネイティブであるか修飾されているかにかかわらず、裸の核酸分子として、または脂質ナノ粒子等の送達ビヒクル中で送達されてもよい。脂質ナノ粒子は、脂質ナノ粒子に対して約5:1~約1:100の重量比で存在する1つまたは複数の核酸を含んでもよい。一部の実施形態では、核酸対脂質ナノ粒子の重量比は、約5:1、2.5:1、1:1、1:5、1:10、1:15、1:20、1:25、1:30、1:35、1:40、1:45、1:50、1:60、1:70、1:80、1:90、もしくは1:100、またはその中で導出可能な任意の値である。
【0102】
一部の実施形態では、本明細書で使用される脂質ナノ粒子は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個の脂質を含有してもよい。これらの脂質は、トリグリセリド、リン脂質、ステロイドもしくはステロール、PEG化脂質、またはアルキルアミン等のイオン化可能な基及びC6以上のアルキル基等の1つもしくは複数の疎水基を有する基を含んでもよい。
【0103】
本開示の一部の態様では、脂質ナノ粒子は、1つまたは複数のステロイドまたはステロイド誘導体と混合される。一部の実施形態では、ステロイドまたはステロイド誘導体は、任意のステロイドまたはステロイド誘導体を含む。本明細書で使用されるとき、一部の実施形態では、「ステロイド」という用語は、4環17炭素の環状構造を有する化合物のクラスであり、これはアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、オキソ基、アシル基、または2個以上の炭素原子間の二重結合を含む1つまたは複数の置換をさらに含み得る。
【0104】
本開示の一部の態様では、脂質ナノ粒子は、1つまたは複数のPEG化脂質(またはPEG脂質)と混合される。一部の実施形態では、本開示は、PEG基が結合している任意の脂質を使用することを含む。一部の実施形態では、PEG脂質は、グリセロール基に結合したPEG鎖を同じく含む、ジグリセリドである。他の実施形態では、PEG脂質は、PEG鎖を有するリンカー基に結合した1つもしくは複数のC6~C24長鎖アルキルもしくはアルケニル基、またはC6~C24脂肪酸基を含有する化合物である。PEG脂質のいくつかの非限定的な例としては、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジン酸、PEGセラミドコンジュゲート、PEG修飾ジアルキルアミン及びPEG修飾1,2-ジアシルオキシプロパン-3-アミン、PEG修飾ジアシルグリセロール及びジアルキルグリセロールが挙げられる。一部の実施形態では、PEG修飾ジアステアロイル(diastearoyl)ホスファチジルエタノールアミンまたはPEG修飾ジミリストイル-sn-グリセロール。一部の実施形態では、PEG修飾は、脂質のうちのPEG成分の分子量によって測定される。一部の実施形態では、PEG修飾は、約100~約15,000の分子量を有する。一部の実施形態では、分子量は、約200~約500、約400~約5,000、約500~約3,000、または約1,200~約3,000である。PEG修飾の分子量は、約100、200、400、500、600、800、1,000、1,250、1,500、1,750、2,000、2,250、2,500、2,750、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000、6,000、7,000、8,000、9,000、10,000、12,500から、約15,000である。本開示で使用され得る脂質のいくつかの非限定的な例は、米国特許5,820,873、WO2010/141069、または米国特許8,450,298によって教示され、同文献は参照により本明細書に援用される。
【0105】
本開示の一部の態様では、脂質ナノ粒子は、1つまたは複数のリン脂質と混合される。一部の実施形態では、リン酸基もまた含む任意の脂質。一部の実施形態では、リン脂質は、1つまたは2つの長鎖C~C24アルキルまたはアルケニル基、グリセロールまたはスフィンゴシン、1つまたは2つのリン酸基、及び任意選択で有機小分子を含有する構造である。一部の実施形態では、有機小分子は、アミノ酸、糖、またはコリンもしくはエタノールアミン等のアミノ置換アルコキシ基である。一部の実施形態では、リン脂質は、ホスファチジルコリンである。一部の実施形態では、リン脂質は、ジステアロイルホスファチジルコリンまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミンである。一部の実施形態では、他の双性イオン性脂質が使用され、ここで、双性イオン性脂質とは、正荷電及び負荷電の両方を有する脂質及び脂質様分子を定義する。
【0106】
本開示の一部の態様では、親油性成分及びカチオン性成分を含有する化合物を含有する脂質ナノ粒子が提供され、ここで、カチオン性成分はイオン化可能である。一部の実施形態では、イオン化可能なカチオン性脂質は、生理的pHでプロトン化されるが、8、9、10、11、または12超のpHでは脱プロトン化され得、電荷を有しない、1つまたは複数の基を含有する。イオン化可能なカチオン基は、生理的pHでカチオン基を形成することができる、1つまたは複数のプロトン化可能なアミンを含有してもよい。イオン化可能なカチオン性脂質化合物はまた、C~C24アルキルまたはアルケニル炭素基を有する2つ以上の脂肪酸等の1つまたは複数の脂質成分をさらに含んでもよい。これらの脂質基は、エステル結合を介して結合されてもよいし、またはマイケル付加反応を介して硫黄原子にさらに付加されてもよい。一部の実施形態では、これらの化合物は、デンドリマー、デンドロン、ポリマー、またはそれらの組み合わせであり得る。
【0107】
本開示の一部の態様では、親油性成分及びカチオン性成分を含有する化合物を含有する組成物が提供され、ここで、カチオン性成分はイオン化可能である。一部の実施形態では、イオン化可能なカチオン性脂質とは、電荷(pKa)を獲得することができる窒素原子を有する脂質及び脂質様分子を指す。これらの脂質は、文献でカチオン性脂質として知られ得る。アミノ基を有するこれらの分子は典型的に、2~6本の疎水性鎖、多くの場合、C~C24アルキルまたはアルケニル基等のアルキルまたはアルケニルを有するが、少なくとも1本または6本超の尾部を有してもよい。
【0108】
一部の実施形態では、医薬組成物中にカプセル封入された核酸分子を有する脂質ナノ粒子の量は、約0.1w/w%~約50w/w%、約0.25w/w%~約25w/w%、約0.5w/w%~約20w/w%、約1w/w%~約15w/w%、約2w/w%~約10w/w%、約2w/w%~約5w/w%、または約6w/w%~約10w/w%である。一部の実施形態では、医薬組成物中にカプセル封入された核酸分子を有する脂質ナノ粒子の量は、約0.1w/w%、0.25w/w%、0.5w/w%、1w/w%、2.5w/w%、5w/w%、7.5w/w%、10w/w%、15w/w%、20w/w%、25w/w%、30w/w%、35w/w%、40w/w%、45w/w%、50w/w%、55w/w%、60w/w%、65w/w%、70w/w%、75w/w%、80w/w%、85w/w%、90w/w%から、約95w/w%、またはその中で導出可能な任意の範囲である。
【0109】
一部の態様では、本開示は、医薬組成物中に配合された1つまたは複数の糖を含む。一部の実施形態では、本明細書で使用される糖は、糖類である。これらの糖類は、乾燥プロセス中に医薬組成物を不安定化から保護する凍結防止剤としての機能を果たすように使用されてもよい。これらの水溶性賦形剤には、炭水化物または糖類、例えば、スクロース、トレハロース、もしくはラクトース等の二糖類、ラフィノースを構成するフルクトース、グルコース、ガラクトース等の三糖類、デンプンもしくはセルロース等の多糖類、またはキシリトール、ソルビトール、もしくはマンニトール等の糖アルコールが含まれる。一部の実施形態では、これらの賦形剤は、室温で固体である。糖アルコールのいくつかの非限定的な例としては、エリトリトール、トレイトール、アラビトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクチトール、フシトール、イジトール、イノシトール、ボレミトール、イソマルト、マルチトール、ラクチトール、マルトトリイトール(maltotritol)、マルトテトライトール、またはポリグリシトールが挙げられる。
【0110】
一部の実施形態では、医薬組成物中の糖の量は、約25w/w%~約98w/w%、40w/w%~約95w/w%、50w/w%~約90w/w%、50w/w%~約70w/w%、または約80w/w%~約90w/w%である。一部の実施形態では、医薬組成物中の糖の量は、約10w/w%、15w/w%、20w/w%、25w/w%、30w/w%、35w/w%、40w/w%、45w/w%、50w/w%、52.5w/w%、55w/w%、57.5w/w%、60w/w%、62.5w/w%、65w/w%、67.5w/w%、70w/w%、75w/w%、80w/w%、82.5w/w%、85w/w%、87.5w/w%、90w/w%から、約95w/w%、またはその中で導出可能な任意の範囲である。
【0111】
一部の実施形態では、薬学的に許容されるポリマーは、コポリマーである。薬学的に許容されるポリマーは、個別的な異なる種類のポリマーサブユニットの1、2、3、4、5、または6つのサブユニットをさらに含んでもよい。これらのポリマーサブユニットは、ポリオキシプロピレン、ポリオキシエチレン、または類似のサブユニットを含んでもよい。特に、薬学的に許容されるポリマーは、少なくとも1つの疎水性サブユニット及び少なくとも1つの親水性サブユニットを含んでもよい。特に、コポリマーは、疎水性ユニットの各側に親水性サブユニットを有してもよい。コポリマーは、ポリオキシエチレンである親水性サブユニット及びポリオキシプロピレンである疎水性サブユニットを有してもよい。
【0112】
一部の実施形態では、その後の精製及び細胞/対象への送達のため、またはウイルスベースの送達アプローチにおいて直接使用するためのいずれかで、操作されたhMPV Fタンパク質を発現させるために発現カセットが用いられる。本明細書では、操作されたhMPV Fタンパク質をコードする1つまたは複数の核酸を含有する発現ベクターが提供される。
【0113】
発現は、適切なシグナルがベクター内で提供され、細胞内での操作されたhMPV Fタンパク質の発現を駆動するウイルス源及び哺乳類源の両方からのエンハンサー/プロモーター等の種々の調節要素が含まれることを必要とする。本願全体を通して、「発現カセット」という用語は、核酸のコード配列の一部または全てが転写され、翻訳されることができる、すなわちプロモーターの制御下にある、遺伝子産物をコードする核酸を含有する任意の種類の遺伝子構築物を含むことを意図する。「プロモーター」とは、遺伝子の特異的転写を開始するために必要とされる、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列を指す。「転写制御下」という語句は、RNAポリメラーゼの開始及び遺伝子の発現を制御するために、プロモーターが核酸に対して正しい位置及び向きにあることを意味する。「発現ベクター」とは、複製が可能であり、故に複製起点、転写終結シグナル、ポリ-A領域、選択可能なマーカー、及び多目的クローニング部位のうちの1つまたは複数を含む、遺伝子構築物に含まれる発現カセットを含むことを意図する。
【0114】
プロモーターという用語は、本明細書で、RNAポリメラーゼIIのための開始部位の周りに群がった転写制御モジュールの群を指すように使用されよう。プロモーターがどのように組織化されるかについての考えのほとんどは、HSVチミジンキナーゼ(tk)及びSV40初期転写ユニットについての分析を含めた、いくつかのウイルスプロモーターの分析に由来する。これらの研究は、より最近の取り組みによって増強されて、プロモーターが個別的な機能性モジュールから構成され、これらの各々がおよそ7~20bpのDNAからなり、転写アクチベーターまたはリプレッサータンパク質のための1つまたは複数の認識部位を含有することを示している。
【0115】
各プロモーターにおける少なくとも1つのモジュールは、RNA合成のための開始部位を位置付けるように機能する。これについての最もよく知られた例はTATAボックスであるが、哺乳類末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のためのプロモーター及びSV40後期遺伝子のためのプロモーター等の、TATAボックスを欠いた一部のプロモーターにおいては、開始部位に重なる個別的な要素自体が、開始箇所を固定するのを助ける。
【0116】
追加のプロモーター要素は、転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、近年、いくつかのプロモーターが、開始部位の下流にも機能的要素を含有することが示されている。プロモーター要素間の間隔は柔軟であることが多く、そのため要素が互いに対して反転または移動する場合にもプロモーター機能が維持される。tkプロモーターでは、プロモーター要素間の間隔は、50bpの間隔まで増加させることが可能であり、それ以降は活性が低下し始める。プロモーターによっては、転写を活性化するために、個々の要素を協働的に機能させることも、または独立して機能させることもできるようである。
【0117】
ある特定の実施形態では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス長末端反復等のウイルスプロモーター、ラットインスリンプロモーター、及びグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを使用して、目的のコード配列の高レベルの発現を得ることができる。発現レベルが所与の目的に十分である限り、目的のコード配列の発現を達成するための、当該技術分野で周知の他のウイルスまたは哺乳類細胞または細菌ファージのプロモーターの使用もまた企図される。周知の特性を有するプロモーターを用いることによって、トランスフェクションまたは形質転換後の目的のタンパク質の発現レベル及びパターンを最適化することができる。さらに、特定の生理学的シグナルに応答して調節されるプロモーターの選択により、遺伝子産物の誘導性発現が可能となり得る。
【0118】
エンハンサーは、同じDNA分子上の離れた位置に位置する、プロモーターからの転写を増加させる遺伝要素である。エンハンサーは、プロモーターとよく類似して組織化される。つまり、それらは多くの個々の要素から構成され、これらの各々が1つまたは複数の転写タンパク質に結合する。エンハンサーとプロモーターとの間の基本的な区別は、作動的なものである。全体としてエンハンサー領域は、離れたところから転写を刺激することが可能でなければならないが、これはプロモーター領域またはその構成要素に当てはまる必要はない。一方で、プロモーターは、RNA合成の開始を指示する1つまたは複数の要素を特定の部位にてかつ特定の向きで有しなければならず、これに対しエンハンサーは、これらの特殊性を欠く。プロモーター及びエンハンサーは、重複し、連続していることが多く、しばしば非常に類似のモジュール構成を有するようである。
【0119】
下記は、発現構築物において目的の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて使用され得るプロモーター/エンハンサー及び誘導性プロモーター/エンハンサーの一覧である。さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(真核プロモーターデータベースEPDBによる)もまた、遺伝子の発現を駆動するために使用され得る。真核細胞は、送達複合体の一部としてまたは追加の遺伝子発現構築物としてのいずれかで適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質内転写を支持し得る。
【0120】
プロモーター及び/またはエンハンサーは、例えば、免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、T細胞受容体、HLA DQ a及び/またはDQ β、β-インターフェロン、インターロイキン-2、インターロイキン-2受容体、MHCクラスII 5、MHCクラスII HLA-Dra、β-アクチン、筋クレアチンキナーゼ(MCK)、プレアルブミン(トランスチレチン)、エラスターゼI、メタロチオネイン(MTII)、コラゲナーゼ、アルブミン、α-フェトタンパク質、t-グロビン、β-グロビン、c-fos、c-HA-ras、インスリン、神経細胞接分子(NCAM)、α1-抗トリプシン(antitrypain)、H2B(TH2B)ヒストン、マウス及び/またはI型コラーゲン、グルコース調節タンパク質(GRP94及びGRP78)、ラット成長ホルモン、ヒト血清アミロイドA(SAA)、トロポニンI(TN I)、血小板由来成長因子(PDGF)、SV40、ポリオーマ、レトロウイルス、パピローマウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ならびにテナガザル白血病ウイルスであり得る。
【0121】
cDNA挿入物が用いられる場合、典型的には、遺伝子転写産物の適切なポリアデニル化を達成するためにポリアデニル化シグナルを含めることが所望されよう。ヒト成長ホルモン及びSV40ポリアデニル化シグナル等の、任意のポリアデニル化配列を用いてもよい。また、ターミネーターも発現カセットの要素として企図される。これらの要素は、メッセージレベルを強化し、カセットからの他の配列へのリードスルーを最低限に抑える機能を果たし得る。
【0122】
発現ベクターが細胞に導入され得るいくつかの方法が存在する。ある特定の実施形態では、発現構築物は、ウイルス、またはウイルスゲノムに由来する操作された構築物を含む。ある特定のウイルスは、受容体介在性エンドサイトーシスを介して細胞に侵入し、宿主細胞ゲノムに組み込まれて、ウイルス遺伝子を安定かつ効率的に発現させる能力のため、哺乳類細胞への外来遺伝子の移入のための魅力的な候補となっている。これらは、外来DNA配列のための収容量が比較的低く、制限された宿主スペクトルを有する。さらに、許容細胞におけるそれらの発がん能及び細胞変性効果が安全性への懸念を提起する。それらは、最大8kBの外来遺伝物質しか収容することができないが、様々な細胞株及び実験動物に容易に導入され得る。
【0123】
インビボ送達のための1つの方法は、アデノウイルス発現ベクターの使用である。「アデノウイルス発現ベクター」とは、(a)構築物のパッケージングを支持するため、及び(b)その中にクローニングされた操作されたhMPV Fタンパク質を発現させるために十分なアデノウイルス配列を含有する構築物を含むことを意図する。この関連において、発現は、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0124】
発現ベクターは、遺伝子操作された形態のアデノウイルスを含む。36kBの線状の二本鎖DNAウイルスという、アデノウイルスの遺伝子構成の知識により、アデノウイルスDNAの大きな断片を最大7kBの外来配列で置換することが可能である。レトロウイルスとは対照的に、宿主細胞のアデノウイルス感染は、アデノウイルスDNAが潜在的な遺伝毒性を伴わずにエピソーム様式で複製することができるため、染色体への組み込みをもたらさない。また、アデノウイルスは、構造的に安定であり、大規模な増幅後にゲノム再構成は何ら検出されていない。アデノウイルスは、事実上全ての上皮細胞に、それらの細胞周期の段階を問わず感染することができる。これまでのところ、アデノウイルス感染症は、ヒトにおける急性呼吸器疾患等の軽度の疾患にのみ関連付けられていると考えられる。
【0125】
アデノウイルスは、その中程度のゲノムサイズ、操作の容易さ、力価の高さ、標的細胞範囲の広さ、及び感染能の高さの故に、遺伝子移入ベクターとして使用するのに特に好適である。ウイルスゲノムの両端は、ウイルスDNAの複製及びパッケージングに必要なシスエレメントである、100~200塩基対の逆位反復配列(ITR)を含有する。ゲノムの初期(E)及び後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される異なる転写ユニットを含有する。E1領域(E1A及びE1B)は、ウイルスゲノム及び少数の細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードする。E2領域(E2A及びE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのこれらのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子の発現、及び宿主細胞のシャットオフに関与する。ウイルスカプシドタンパク質の大部分を含めた後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって産出された単一の一次転写産物の顕著なプロセシング後にのみ発現される。MLP(16.8m.u.に位置する)は、感染の後期の間に特に効率的であり、このプロモーターから産出された全てのmRNAは、5’-トリパータイトリーダー(TPL)配列を保有することから、翻訳のために好ましいmRNAである。1つの系において、組換えアデノウイルスは、シャトルベクターとプロウイルスベクターとの間の相同組換えから生成される。2つのプロウイルスベクター間の組換えの可能性に起因して、このプロセスから野生型アデノウイルスが生成され得る。したがって、個々のプラークからウイルスの単一のクローンを単離し、そのゲノム構造を検査することが必要不可欠である。
【0126】
複製欠損である現行のアデノウイルスベクターの生成及び繁殖は、293と呼称される固有のヘルパー細胞株に依存し、この細胞株はAd5 DNA断片によりヒト胎児腎細胞から形質転換されたものであり、E1タンパク質を構成的に発現する。E3領域は、アデノウイルスゲノムにとって不可欠でないため、現行のアデノウイルスベクターは、293細胞の一助により、E1、D3のいずれか、または両方の領域に外来DNAを保有する。本来、アデノウイルスは、野生型ゲノムのおよそ105%をパッケージすることができ、約2kbのDNAの余分な収容量を提供する。E1及びE3領域において置き換え可能であるおよそ5.5kbのDNAと組み合わせると、現行のアデノウイルスベクターの最大収容量は、7.5kb未満、またはベクターの全長の約15%である。アデノウイルスゲノムの80%超がベクター骨格に残存し、ベクター由来の細胞毒性の源となる。また、E1欠失ウイルスの複製欠損は不完全である。
【0127】
ヘルパー細胞株は、ヒト胎児腎細胞、筋肉細胞、造血細胞、または他の間葉系もしくは上皮系のヒト胎児細胞等のヒト細胞に由来し得る。代替として、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスについて許容性である他の哺乳動物種の細胞に由来し得る。かかる細胞には、例えば、Vero細胞または他の間葉系もしくは上皮系のサル胎仔細胞が含まれる。上述したように、好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0128】
本開示のアデノウイルスは、複製欠損であるか、または少なくとも条件的に複製欠損である。アデノウイルスは、42の異なる既知の血清型または下位群A~Fのうちのいずれのものであってもよい。下位群Cのアデノウイルス5型は、本発明において使用するための条件的複製欠損アデノウイルスベクターを得るために使用され得る1つの例示的な出発物質である。
【0129】
他のウイルスベクターもまた本開示における発現構築物として用いられてもよい。ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、及びヘルペスウイルス等のウイルスに由来するベクターもまた用いられてもよい。それらは、種々の哺乳動物細胞に対していくつかの魅力的な特徴を提示する。
【0130】
実施形態、特定の実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。AAVは、ヒト及びいくつかの他の霊長類種に感染する小さなウイルスである。AAVは現在のところ、疾患を引き起こすことは知られていない。このウイルスは、非常に軽度の免疫応答を引き起こすことから、その一見した病原性の欠如がさらに裏付けられる。多くの場合、AAVベクターは宿主細胞ゲノムに組み込まれ、これはある特定の用途に重要であり得るが、望まれない結果もまた有し得る。AAVを使用した遺伝子療法用ベクターは、分裂細胞及び静止細胞の両方に感染することができ、宿主細胞のゲノムに組み込まれることなく染色体外状態で存続するが、ネイティブウイルスにおいては、ウイルスにより運搬される遺伝子の宿主ゲノムへのいくらかの組み込みが実際起こる。これらの特徴により、AAVは、遺伝子療法のためのウイルスベクターを作出するため、及び同質遺伝子型のヒト疾患モデルの作出のための非常に魅力的な候補となっている。網膜における遺伝子療法に対するAAVを使用した最近のヒト臨床試験は、有望性を示している。AAVは、Dependoparvovirus(ディペンドウイルス)属に帰属し、この属が今度はParvoviridae(パルボウイルス)科に帰属する。このウイルスは、エンベロープを持たない小さな(20nm)複製欠損ウイルスである。
【0131】
野生型AAVは、いくつかの特徴のため遺伝子療法の研究者の関心を相当に集めてきた。これらの中でも主要なものは、このウイルスの一見した病原性の欠如である。それはまた非分裂細胞にも感染することができ、ヒト19番染色体の特異的部位(AAVS1と呼称される)にて宿主細胞ゲノムに安定に組み込まれる能力を有する。この特徴により、それは、ときにはがんの発症につながるランダムな挿入及び変異誘発の脅威を呈するレトロウイルスよりも幾分予測がしやすい。AAVゲノムは、言及した部位に最も高頻度で組み込まれる一方で、ごく低い頻度でゲノムへのランダムな組み込みが起こる。しかしながら、遺伝子療法用ベクターとしてのAAVの開発は、ベクターのDNAからのrep及びcapの除去によってこの組み込み能力を排除した。遺伝子の転写を駆動するためのプロモーターと一緒にした所望の遺伝子は、一本鎖ベクターDNAが宿主細胞DNAポリメラーゼ複合体によって二本鎖DNAへと変換された後に、核内でのコンカテマー形成を補助する逆位末端反復配列(ITR)の間に挿入される。AAVベースの遺伝子療法用ベクターは、宿主細胞核内でエピソームコンカテマーを形成する。非分裂細胞では、これらのコンカテマーは、宿主細胞の生涯にわたって無傷のままである。分裂細胞では、AAV DNAは、エピソームDNAが宿主細胞DNAと共に複製されないため、細胞分裂により消失する。AAV DNAの宿主ゲノムへのランダムな組み込みは検出可能であるが、非常に低い頻度で起こる。AAVはまた、中和抗体の生成に制限されるようである非常に低い免疫原性を示す一方で、それらは明確に定義された細胞毒性応答を誘導しない。この特徴は、静止細胞に感染する能力と共にして、ヒト遺伝子療法のためのベクターとしてアデノウイルスに勝るそれらの優位性を示す。
【0132】
AAVゲノムは、約4.7キロ塩基長である、プラス鎖またはマイナス鎖のいずれかの一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)からできている。このゲノムは、DNA鎖の両端における逆位末端反復配列(ITR)、ならびにrep及びcapの2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含む。前者は、AAVの生活環にわたって必要とされるRepタンパク質をコードする4つの重複する遺伝子から構成され、後者は、カプシドタンパク質VP1、VP2、及びVP3の重複するヌクレオチド配列を含有し、これらが一緒に相互作用して正二十面体対称のカプシドを形成する。
【0133】
逆位末端反復(ITR)配列は、各々145塩基を含む。それらは、AAVゲノムの効率的な複製(multiplication)に必要とされることが示されたそれらの対称性のため、そのように命名された。この特性を与えるこれらの配列の特徴は、それらがヘアピンを形成する能力であり、これは第2のDNA鎖のプライマーゼ非依存性の合成を可能にする、いわゆる自己プライミングに寄与する。ITRはまた、AAV DNAの宿主細胞ゲノム(ヒトにおいては19番染色体)への組み込み及びそこからの救済、ならびに完全に組み立てられたデオキシリボヌクレアーゼ耐性AAV粒子の生成と組み合わせたAAV DNAの効率的なカプシド形成の両方に必要とされることが示された。
【0134】
遺伝子療法に関しては、ITRは、治療用遺伝子の隣にてシスで必要とされる唯一の配列であるようであり、構造(cap)及びパッケージング(rep)タンパク質は、トランスで送達され得る。この想定により、レポーターまたは治療用遺伝子を含有する組換えAAV(rAAV)ベクターの効率的な生産のために多くの方法が確立された。しかしながら、ITRが、有効な複製及びカプシド形成のためにシスで必要とされる唯一の要素ではないこともまた発表された。少数の研究グループが、rep遺伝子のコード配列の内側にあるシス作用型Rep依存性要素(cis-acting Rep-dependent element)(CARE)と呼称される配列を特定した。CAREは、シスで存在する場合、複製及びカプシド形成を増強することが示された。
【0135】
一部の態様では、本開示は、1つまたは複数の塩を含有する医薬組成物を提供する。塩は、塩化カリウム、塩化ナトリウム、二塩基性リン酸カリウム、一塩基性リン酸カリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、または一塩基性リン酸ナトリウム等の無機カリウムまたはナトリウム塩であり得る。医薬組成物は、リン酸緩衝液を生成するため等で、1つまたは複数のリン酸塩を含んでもよい。リン酸緩衝液は、溶液を約6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、もしくは8.0、またはその中で導出可能な任意の範囲のpHに緩衝するためにリン酸塩の各々を含んでもよい。
【0136】
一部の態様では、本開示は、医薬組成物中に配合された1つまたは複数の賦形剤を含む。「賦形剤」とは、対象へのAPIの投与もしくは送達を容易にするために使用される、または対象内の作用部位への送達のために薬学的に使用され得る薬物製剤へのAPIのプロセシングを容易にするために使用される、比較的不活性な物質である、薬学的に許容される担体を指す。さらに、これらの化合物は、容易に測定または患者に投与され得る投薬量を得るために希釈剤として使用されてもよい。賦形剤の非限定的な例としては、ポリマー、安定剤、界面活性剤、表面改質剤、溶解促進剤、緩衝剤、カプセル封入剤、酸化防止剤、防腐剤、非イオン性湿潤剤または清澄剤、増粘剤、及び吸収促進剤が挙げられる。
【0137】
具体的な実施形態では、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より特定するとヒトにおける使用に対して、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって認可されているか、または米国薬局方もしくは他の一般に認識されている薬局方に収載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。かかる薬学的担体は、水等の滅菌液であり得、好ましくはアジュバントを含み得る。医薬組成物が筋肉内注射のような注射によって投与される場合、水が特定の担体である。食塩液ならびにデキストロース及びグリセロールの水溶液もまた、特に注射液用の液体担体として用いられてもよい。他の好適な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0138】
組成物は、所望であれば、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤もまた含有することができる。これらの組成物は、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤等の形態をとり得る。経口用製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等といった標準的な担体を含み得る。好適な医薬品の例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載される。かかる組成物は、予防上または治療上有効量の抗体またはその断片を好ましくは精製形態で、患者への適切な投与のための形態を提供するような好適な量の担体と一緒に含有しよう。製剤は投与様式に適するべきであり、投与様式は、経口、静脈内、動脈内、頬内、鼻腔内、噴霧化、気管支吸入、または機械的換気による送達であり得る。
【0139】
本明細書に記載される本開示の操作されたタンパク質は、非経口投与用に製剤化、例えば、皮内、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内、またはさらには腹腔内経路を介した注射用に製剤化され得る。抗体は代替として、局所経路によって粘膜に直接、例えば、点鼻薬、吸入によって、または噴霧器によって投与することが可能である。薬学的に許容される塩には、酸塩、及び例えば、塩酸もしくはリン酸といった無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸等といった有機酸と共に形成される塩等が含まれる。遊離カルボキシル基と共に形成される塩はまた、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄といった無機塩基、及びイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等といった有機塩基に由来し得る。
【0140】
一般に、本開示の組成物の成分は、例えば、活性薬剤の量を表示するアンプルまたはサシェ等の気密封止した容器中の乾燥した凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別個にまたは単位剤形中に一緒に混合されてのいずれかで供給される。組成物が吸入によって投与されることになる場合、それは医薬品グレードの滅菌水または食塩水を含有する吸入ボトルにより分与され得る。組成物が注射によって投与される場合、投与の前に成分が混合され得るように、滅菌注射用水または食塩水のアンプルが提供され得る。
【0141】
本開示の組成物は、中性形態または塩形態として製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来するもの等のアニオンと共に形成される塩、及びナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するもの等のカチオンと共に形成される塩が含まれる。
【0142】
投薬は、単回投与スケジュールまたは複数回投与スケジュールによることができる。複数回投与は、一次免疫スケジュールで及び/または追加免疫スケジュールで使用されてもよい。複数回投与スケジュールでは、種々の用量が、同じまたは異なる経路によって与えられてもよい。複数回投与は、典型的に、少なくとも1週間間隔で(例えば、約2週間、約3週間、約4週間、約6週間、約8週間、約10週間、約12週間、約16週間等)投与されよう。
【0143】
本明細書に開示される組成物を使用して、小児及び成人のいずれを治療してもよい。故に、ヒト対象は、1歳未満、1~5歳、5~16歳、16~55歳、55~65歳、または少なくとも65歳であってもよい。
【0144】
好ましい投与経路には、筋肉内、腹腔内、皮内、皮下、静脈内、動脈内、及び眼内注射が含まれるが、これらに限定されない。特に好ましい投与経路には、筋肉内、皮内、及び皮下注射が含まれる。
【0145】
V.免疫検出方法
依然としてさらなる実施形態では、本開示は、hMPV Fタンパク質結合抗体を結合、精製、取り出し、定量、及び他の様態で概して検出するための免疫検出方法に関する。かかる方法は、慣習的な意味で適用することができるが、別の用途は、ワクチン原液の品質管理及びモニタリングにおけるものであり、その場合、抗体を使用して、抗原の量または完全性(すなわち、長期安定性)を評定することができる。代替として、この方法を使用して、適切な/所望の反応性プロファイルに関して種々の抗体をスクリーニングしてもよい。
【0146】
いくつかの免疫検出方法には、少数を挙げると酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)、免疫放射定量測定法、蛍光免疫測定法、化学発光測定法、生物発光測定法、及びウェスタンブロットが含まれる。特に、hMPV Fタンパク質結合抗体の検出及び定量のための競合アッセイもまた提供される。一般に、免疫結合法は、hMPV Fタンパク質結合抗体を含有することが疑われる試料を得て、試料を本開示による抗原と、場合によっては免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下で、接触させることを含む。
【0147】
これらの方法は、hMPV Fタンパク質結合抗体またはhMPV Fタンパク質を試料から検出または精製するための方法を含む。抗原は好ましくは、カラムマトリックスの形態にあるような固体支持体に連結され、hMPV Fタンパク質結合抗体を含有することが疑われる試料が、固定化した抗原に適用される。不要な成分をカラムから洗浄することにより、固定化した抗原に免疫複合体化したhMPV Fタンパク質結合抗体が残り、次いでこれがカラムから抗原を除去することによって収集される。
【0148】
免疫結合方法はまた、試料中のhMPV Fタンパク質または関連成分の量を検出及び定量するための方法、ならびに結合プロセス中に形成された任意の免疫複合体の検出及び定量も含む。ここでは、hMPV Fタンパク質を含有することが疑われる試料を得、試料を、hMPV Fタンパク質またはその成分に結合する抗体と接触させ、続いて特定の条件下で形成された免疫複合体の量を検出及び定量することになろう。抗原検出の点では、分析される生体試料は、組織切片もしくは検体、ホモジナイズした組織抽出物、血液及び血清を含めた生体液(例えば、鼻腔ぬぐい液)、または糞便もしくは尿等の分泌物等の、hMPV Fタンパク質を含有することが疑われる任意の試料であってよい。
【0149】
選定された生体試料を抗原と、免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下でかつそのために十分な一定期間にわたって接触させることは、一般に、単に抗原組成物を試料に添加し、抗原がhMPV Fタンパク質結合抗体と免疫複合体を形成する(すなわちそれに結合する)のに十分に長い一定期間にわたって混合物をインキュベートする程度のことである。この時間の後、組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウェスタンブロット等の試料-抗体組成物を一般に洗浄して、いずれの非特異的に結合した抗体種も除去して、一次免疫複合体内の特異的に結合した抗体のみが検出されるようにする。
【0150】
一般に、免疫複合体形成の検出は、当該技術分野で周知されており、多数のアプローチの適用により達成され得る。これらの方法は一般に、放射性、蛍光、生物学的、及び酵素タグのうちのいずれか等の標識またはマーカーの検出に基づく。かかる標識の使用に関する特許には、米国特許3,817,837、3,850,752、3,939,350、3,996,345、4,277,437、4,275,149、及び4,366,241が含まれる。当然ながら、当該技術分野で既知であるように、二次抗体及び/またはビオチン/アビジンリガンド結合配置等の二次結合リガンドの使用により追加の利点が見出され得る。
【0151】
検出で用いられる抗体自体を検出可能な標識に連結してもよく、その場合、次いでこの標識を単に検出し、それによって組成物中の一次免疫複合体の量が決定されるようにする。代替として、一次免疫複合体内で結合されるようになる第1の抗体は、その抗体に対して結合親和性を有する第2の結合リガンドを用いて検出してもよい。これらの場合、第2の結合リガンドを検出可能な標識に連結してもよい。第2の結合リガンドは、それ自体が抗体である場合が多く、故に「二次」抗体と称され得る。一次免疫複合体を、標識した二次結合リガンドまたは抗体と、二次免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下でかつそのために十分な一定期間にわたって接触させる。次いで、二次免疫複合体を一般に洗浄して、いずれの非特異的に結合した標識二次抗体またはリガンドも除去して、次いで二次免疫複合体中に残存する標識が検出される。
【0152】
さらなる方法は、2ステップアプローチによる一次免疫複合体の検出を含む。上述したように、当該抗体に対して結合親和性を有する抗体等の第2の結合リガンドを使用して、二次免疫複合体を形成させる。洗浄後、二次免疫複合体を、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の結合リガンドまたは抗体と、再び免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下でかつそのために十分な一定期間にわたって接触させる。第3のリガンドまたは抗体を検出可能な標識に連結して、こうして形成された三次免疫複合体が検出されるようにする。このシステムは、所望であればシグナル増幅を可能にし得る。
【0153】
1つの免疫検出方法は、2つの異なる抗体を使用する。第1のビオチン化抗体を使用して、標的抗原を検出し、次いで第2の抗体を使用して、複合体化したビオチンに結合したビオチンを検出する。その方法では、試験対象の試料を、第1ステップの抗体を含有する溶液中で最初にインキュベートする。標的抗原が存在する場合、抗体の一部が抗原に結合して、ビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次いで、抗体/抗原複合体をストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNA、及び/または相補的ビオチン化DNAの順次の溶液中で、各ステップで追加のビオチン部位を抗体/抗原複合体に添加しつつ、インキュベーションすることによって増幅する。好適なレベルの増幅が達成されるまで増幅ステップを繰り返し、増幅が達成された時点で試料を、ビオチンに対する第2ステップの抗体を含有する溶液中でインキュベートする。この第2ステップの抗体は、例えば、色素原基質を使用した組織酵素学的検査(histoenzymology)によって抗体/抗原複合体の存在を検出するために使用され得る酵素で標識される。好適な増幅により、巨視的に見ることができるコンジュゲートが生産され得る。
【0154】
別の既知の免疫検出方法は、イムノPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)手法を活用する。PCR法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションまではCantor法に類似しているが、複数回のストレプトアビジン及びビオチン化DNAインキュベーションを使用する代わりに、DNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体は、抗体を放出させる低pHまたは高塩緩衝液で洗い出される。次いで、得られた洗浄液を使用して、適切な対照と共に好適なプライマーを用いてPCR反応を実行する。少なくとも理論上は、PCRの莫大な増幅能力及び特異性を利用して、単一の抗原分子を検出することができる。
【0155】
1.ELISA
免疫測定法は、それらの最も単純で直接的な意味で、結合アッセイである。ある特定の好ましい免疫測定法は、当該技術分野で既知の種々の種類の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)及び放射免疫測定法(RIA)である。組織切片を使用した免疫組織化学的検出もまた特に有用である。しかしながら、検出がかかる技法に限定されず、ウェスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS解析等がまた使用されてもよいことは容易に理解されよう。
【0156】
1つの例示的なELISAにおいては、本開示の抗体を、ポリスチレンマイクロタイタープレートのウェル等の、タンパク質親和性を示す選択された表面上に固定化させる。次いで、hMPV Fタンパク質を含有することが疑われる試験組成物をウェルに添加する。結合させ、洗浄により非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原が検出され得る。検出は、検出可能な標識に連結されている別の抗hMPV Fタンパク質抗体の添加によって達成してもよい。この種類のELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出はまた、第2の抗hMPV Fタンパク質抗体の添加、続いて第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体の添加によって達成してもよく、このうち第3の抗体が検出可能な標識に連結されている。
【0157】
別の例示的なELISAにおいては、hMPV Fタンパク質を含有することが疑われる試料(例えば、感染の可能性がある細胞)をウェル表面上に固定化され、次いで本開示の抗hMPV Fタンパク質抗体と接触させる。結合させ、洗浄により非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗hMPV Fタンパク質抗体が検出される。最初の抗hMPV Fタンパク質抗体が検出可能な標識に連結される場合、免疫複合体を直接検出してもよい。ここでもまた、第1の抗hMPV Fタンパク質抗体に対して結合親和性を有する第2の抗体を使用して免疫複合体を検出してもよく、このうち第2の抗体が検出可能な標識に連結されている。
【0158】
用いられる形式とは無関係に、ELISAは、コーティング、インキュベート、及び結合、洗浄による非特異的に結合した種の除去、ならびに結合した免疫複合体の検出等の、ある特定の特徴を共通に有する。これらが下記に記載される。
【0159】
プレートを抗原または抗体のいずれかでコーティングする際は、一般に、プレートのウェルを抗原または抗体の溶液と、一晩または指定される一定期間のいずれかでインキュベートする。次いで、プレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着した材料を除去する。次いで、ウェルのいずれの残存する利用可能な表面も、試験抗血清に関して抗原的に中性である非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、または粉乳の溶液が含まれる。コーティングは、固定化表面上の非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、こうして表面上への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを低減する。
【0160】
ELISAでは、直接手順ではなく二次または三次検出手段を使用することが恐らくはより通例である。故に、ウェルへのタンパク質または抗体の結合、非反応性の材料でのコーティングによるバックグラウンドの低減、及び洗浄による未結合の材料の除去後、固定化表面を試験対象の生体試料と、免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下で接触させる。次いで、免疫複合体の検出は、標識した二次結合リガンドまたは抗体、及び標識した三次抗体または第3の結合リガンドと併せた二次結合リガンドまたは抗体を必要とする。
【0161】
「免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下」とは、抗原及び/または抗体を、BSA、ウシガンマグロブリン(BGG)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)/Tween等の溶液で希釈することを好ましくは含む条件を意味する。これらの添加される薬剤はまた、非特異的バックグラウンドの低減を補助する傾向がある。
【0162】
「好適な」条件はまた、インキュベーションが、有効な結合を可能にするのに十分な温度であるかまたはそのような一定期間にわたることを意味する。インキュベーションステップは、典型的に、好ましくはおよそ25℃~27℃の温度で、約1~2~4時間程であるか、または約4℃程度で一晩であり得る。
【0163】
ELISAにおける全てのインキュベーションステップに次いで、非複合体化材料を除去するように接触表面を洗浄する。好ましい洗浄手順は、PBS/Tween、またはホウ酸緩衝液等の溶液での洗浄を含む。試験試料と最初に結合させた材料との間の特異的免疫複合体の形成、及びその後の洗浄に次いで、微量の免疫複合体の存在でさえも決定され得る。
【0164】
検出手段を提供するために、第2または第3の抗体は、検出を可能にするために会合した標識を有しよう。好ましくは、これは、適切な発色基質とのインキュベートに際して発色を生じさせる酵素であろう。故に、例えば、第1及び第2の免疫複合体をウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、または水素ペルオキシダーゼコンジュゲート抗体と、さらなる免疫複合体形成の発達に有利な一定期間にわたってかつそのような条件下で接触させるかまたはインキュベートすることが望まれよう(例えば、PBS-Tween等のPBS含有溶液中、室温で2時間のインキュベーション)。
【0165】
標識抗体とのインキュベーション、及びその後の洗浄による未結合の材料の除去後、例えば、尿素、またはブロモクレゾールパープル、もしくは2,2’-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、またはH(ペルオキシダーゼが酵素標識の場合)等の発色基質とのインキュベーションによって標識の量を定量する。次いで、例えば可視スペクトル分光光度計を使用して、生じた色の程度を測定することによって定量を達成する。
【0166】
2.ウェスタンブロット
ウェスタンブロット(代替として、タンパク質免疫ブロット)は、所与の組織ホモジネートまたは抽出物の試料中の特定のタンパク質を検出するために使用される分析技法である。それはゲル電気泳動を使用して、ポリペプチドの長さによって(変性条件)またはタンパク質の3D構造によって(ネイティブ/非変性条件)ネイティブまたは変性タンパク質を分離する。次いで、タンパク質を膜(典型的にはニトロセルロースまたはPVDF)に移し、そこで標的タンパク質に特異的な抗体を使用してそれらをプロービングする(検出する)。
【0167】
試料は、全組織からまたは細胞培養物から採取してもよい。ほとんどの場合、ブレンダー(より大きな試料体積の場合)を使用して、ホモジナイザー(より小さな体積)を使用して、または超音波処理によって固形組織を最初に機械的に破壊する。細胞もまた上記の機械的方法のうちの1つによって破壊されてもよい。各種組み合わせた洗剤、塩、及び緩衝剤を用いて、細胞の溶解を促進すると共に、タンパク質を可溶化してもよい。試料自体の酵素による試料の消化を阻止するためにプロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤が添加される場合が多い。組織調製は、タンパク質変性を回避するために低温で行われる場合が多い。
【0168】
ゲル電気泳動を使用して試料のタンパク質が分離される。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子量、電荷、またはこれらの要因の組み合わせによるものであってよい。分離の性質は、試料の処理及びゲルの性質に左右される。これは、タンパク質を決定するために非常に有用な方法である。タンパク質を単一の試料から2次元に広げる2次元(2D)ゲルを使用することもまた可能である。タンパク質は、1次元目では等電点(それらの正味の電荷が中性であるpH)に従って、及び2次元目ではそれらの分子量に従って分離される。
【0169】
タンパク質を抗体検出にアクセス可能にするために、それらをゲル内からニトロセルロースまたはポリフッ化ビニリデン(PVDF)製の膜上に移動させる。膜をゲルの上端に置き、濾紙のスタックをその上に置く。スタック全体を緩衝液に入れ、緩衝液がタンパク質をそれと共に運びながら毛細管作用によって濾紙の上方に移動する。タンパク質を移動させるための別の方法は、エレクトロブロッティングと呼ばれ、電流を使用してタンパク質をゲルからPVDFまたはニトロセルロース膜に引き込む。タンパク質は、それらがゲル内で有していた構造を維持しながらゲル内から膜上に移動する。このブロッティングプロセスの結果として、タンパク質は、検出のために表面薄層上に露出する(下記参照)。両方の種類の膜は、それらの非特異的なタンパク質結合特性(すなわち、全てのタンパク質に等しく良好に結合する)のため選定される。タンパク質結合は、疎水性相互作用、ならびに膜とタンパク質との間の荷電相互作用に基づく。ニトロセルロース膜は、PVDFよりも安価であるが、はるかにより脆弱であり、繰り返されるプロービングにあまり持ちこたえない。ゲルから膜へのタンパク質の移動の均一性及び全体的な有効性は、膜をクマシーブリリアントブルーまたはポンソーS色素で染色することによって確認することができる。ひとたび移動させると、標識一次抗体を使用して、または未標識の一次抗体に続いて、一次抗体のFc領域に結合する標識プロテインAもしくは二次標識抗体を使用した間接検出を使用してタンパク質が検出される。
【0170】
3.免疫組織化学的検査
本開示の抗体はまた、免疫組織化学的検査(IHC)による研究用に調製された新鮮凍結組織ブロック及び/またはホルマリン固定パラフィン包埋組織ブロックの両方と併せて使用されてもよい。これらの微粒子検体から組織ブロックを調製する方法は、種々の予後因子の以前のIHC研究において成功裏に使用されており、当業者に周知されている(Brown et al.,1990、Abbondanzo et al.,1990、Allred et al.,1990)。
【0171】
簡潔に述べると、凍結切片が、50ngの凍結した「粉砕」組織を室温で小さなプラスチック製カプセル中、リン酸緩衝食塩水(PBS)中で再水和する;粒子を遠心分離によってペレット化する;それらを粘性包埋剤(OCT)中に再縣濁させる;カプセルを転倒混和する及び/または遠心分離によって再びペレット化する;-70℃のイソペンタン中で急速冷凍する;プラスチック製カプセルを切り取る及び/または凍結したシリンダーを組織から取り出す;組織シリンダーをクリオスタットミクロトームチャック上に固定する;及び/またはカプセルから25~50個の連続切片を切り出すことによって調製され得る。代替として、凍結した全組織試料を連続切片の切り出しに使用してもよい。
【0172】
永久的切片が類似の方法によって調製されてもよく、この方法は、50mgの試料をプラスチック製微量遠心管中で再水和する;ペレット化する;10%ホルマリン中に再懸濁させて4時間固定する;洗浄/ペレット化する;温かい2.5%寒天中に再懸濁させる;ペレット化する;氷水中で冷却して寒天を硬化させる;組織/寒天ブロックを管から取り出す;パラフィンをブロックに浸透させる及び/またはパラフィンにブロックを包埋する;及び/または最大50個の永久的連続切片を切り出すことを伴う。ここでもまた、全組織試料を代用してもよい。
【0173】
4.免疫検出キット
依然としてさらなる実施形態では、本開示は、上述の免疫検出方法と共に使用するための免疫検出キットに関する。抗体を使用してhMPV Fタンパク質が検出され得るため、抗体がキットに含まれてもよい。免疫検出キットはそれ故、好適な容器手段中に、hMPV Fタンパク質に結合する第1の抗体、及び任意選択で免疫検出試薬を含むことになろう。代替として、hMPV Fタンパク質抗原を使用して、hMPV Fタンパク質結合抗体を検出してもよい。この場合、免疫検出キットはそれ故、好適な容器中に、hMPV Fタンパク質抗原を含むことになろう。
【0174】
ある特定の実施形態では、抗体または抗原は、カラムマトリックス及び/またはマイクロタイタープレーのウェル等の固体支持体にあらかじめ結合されてもよい。キットの免疫検出試薬は、抗体に会合または連結されている検出可能な標識を含む、様々な形態のうちのいずれか1つをとってよい。二次結合リガンドに会合または結合している検出可能な標識もまた企図される。例示的な二次リガンドは、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体である。
【0175】
本キットにおいて使用するためのさらなる好適な免疫検出試薬は、第1の抗体に対して結合親和性を有する二次抗体を、第2の抗体に対して結合親和性を有する第3の抗体と共に含む二成分試薬を含み、第3の抗体が検出可能な標識に連結される。上述したように、いくつかの例示的な標識が当該技術分野で既知であり、全てのかかる標識が本開示に関連して用いられてもよい。
【0176】
キットは、標識済みであるか未標識であるかにかかわらず、検出アッセイのための標準曲線を作成するために使用され得るような、hMPV Fタンパク質の好適に分取された組成物をさらに含んでもよい。キットは、抗体-標識コンジュゲートを完全なコンジュゲート形態で、中間体の形態で、またはキットのユーザーによってコンジュゲートされる別個の部分としてのいずれかで含有してもよい。キットの構成要素は、水性媒体中または凍結乾燥形態でのいずれかで包装されてもよい。
【0177】
キットの容器手段は一般に、抗体が入れられ得る、または好ましくは好適に分取され得る、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段を含むことになろう。本開示のキットはまた、典型的には、抗体、抗原を収容するための手段、及び任意の他の試薬容器を商用販売のために厳重に封じ込めて含むことになろう。かかる容器は、所望のバイアルが保持される射出または吹込み成形されたプラスチック容器を含んでもよい。
【0178】
5.フローサイトメトリー及びFACS
本開示の抗体はまた、フローサイトメトリーまたはFACSにおいて使用されてもよい。フローサイトメトリーは、細胞計数、細胞分取、バイオマーカー検出、及びタンパク質工学を含む、多くの検出アッセイで用いられるレーザーまたはインピーダンスベースの技術である。この技術は、流動する流体中に細胞を懸濁させ、それらを電気検出装置に通過させることにより、1秒間に最大数千個の粒子の物理的特性及び化学的特性の多パラメータ分析を同時に行うことを可能にする。フローサイトメトリーは、障害の診断において慣習的に使用されるが、基礎研究、臨床実務、及び臨床試験において多くの他の応用を有する。
【0179】
蛍光標識細胞分取(FACS)は、特化した種類のサイトメトリーである。それは、生体細胞の不均一な混合物を各細胞の特定の光散乱特性及び蛍光特性に基づいて、一度に1細胞ずつ、2つ以上の容器に分取するための方法を提供する。一般に、この技術は、細胞懸濁液を急速に流動する狭い液体流の中心に引き込むことを伴う。流動は、細胞の直径に対して細胞間が大きく離れているように取り計らわれる。振動機構が細胞の流れを個々の液滴に分割させる。流れが液滴に分割する直前に、流動は蛍光測定ステーションを通過し、そこで各細胞の蛍光が測定される。帯電リングが、ちょうど流れが液滴に分割する地点に配置される。蛍光強度が測定される直前に電荷がリング上に配置され、液滴が流れから分割するときに反対電荷が液滴上に捕捉される。次いで、帯電した液滴は静電偏向システムを通り抜けて落ち、静電偏向システムが液滴をそれらの電荷に基づいて容器の中へそらす。
【0180】
ある特定の実施形態では、フローサイトメトリーまたはFACSにおいて使用されるために、本開示の抗体は、フルオロフォアで標識され、次いで目的の細胞に結合され、これがフローサイトメーターで解析されるかまたはFACSマシンによって分取される。
【実施例
【0181】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すために含まれる。以下に続く実施例において開示される技術は、本発明の実施において良好に機能することが本発明者によって発見された技術を代表するものであり、故に、その実施ための好適な様式を構成すると見なされ得ることが、当業者に理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示される具体的な実施形態において多くの変更を行いながらも、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解するべきである。
【0182】
材料及び方法
タンパク質の発現及び精製。全てのhMPV Fバリアントは、ギブソンアセンブリによってHis及びStrepTag IIタグを含有するプラスミド中に構築し、DNA配列決定によって有効性を確認した。Fバリアント及びフューリンをコードするプラスミドを4:1比で使用して、ポリエチレンイミン(PEI)によりFreeStyle 293F細胞(ThermoFisher)をコトランスフェクトした。トランスフェクションから3時間後、キフネンシンを5μMの最終濃度になるまで添加し、大規模トランスフェクションのためにプルロニックF-68を0.1v/v%の最終濃度になるまで添加した。トランスフェクションから6日後、濾過滅菌した上清を初回精製のためにStrepTactinカラム(IBA)に適用し、次いでSuperose 6 10/300またはSuperdex 200 10/300サイズ排除カラム(SEC)(GE Healthcare)適用して、SEC緩衝液(2mMのトリス(pH8.0)、200mMのNaCl、及び0.03%のNaN)中の単分散画分を得た。初回のバリアントスクリーニング及び特性評価のために、一置換及び組み合わせ置換hMPV Fバリアントを40mL細胞培養物から精製した。Superose 6 16/600カラムを使用してDS-CavEs2の大規模発現体を精製した。
【0183】
MPE8の重鎖及び軽鎖をコードするプラスミドを1:1比でPEIによりFreeStyle 293F細胞にコトランスフェクトした。終止コドンを重鎖のヒンジ領域の前に導入して、MPE8の抗原結合断片(Fab)を生成した。MPE8 Fabを精製するために、濾過滅菌した上清を最初にCaptureSelect(商標)IgG-CH1親和性マトリックス(ThermoFisher)に適用し、次いでSuperdex 200カラム(GE Healthcare)に適用して、PBS緩衝液中の単分散画分を得た。全てのタンパク質試料を5~10mg/mlに濃縮し、次いで液体窒素中で瞬間冷凍し、次いで-80℃で貯蔵した。
【0184】
示差走査熱量測定。最終濃度1μMの精製されたhMPVバリアントを白色の不透明96ウェルプレート(VWR)中、最終濃度5倍のSYPRO Orangeタンパク質ゲル染色剤(ThermoFisher)と混合した。次いで、混合物を、Roche LightCycler 480 IIを使用して、連続蛍光走査(λex=465nm、λem=580nm)によって温度傾斜率4.4℃/分、及び温度範囲25℃~95℃で測定した。データを融解曲線の導関数としてプロットした。
【0185】
バイオレイヤー干渉によるMPE8結合分析。様々な温度ストレス下でのhMPV Fのエピトープの完全性を検査するために、DS-CavEs2のアリコートをサーモサイクラーにおいて37℃、50℃、もしくは70℃で30分間インキュベート、または4℃で2.5ヶ月間放置してから、Octet RED96e(ForteBio)を使用してBLIによりMPE8結合に関して試験した。簡潔に述べると、抗ヒトFab-CH1第2世代(FAB2G)バイオセンサ(ForteBio)を使用して、10mMのHEPES(pH7.4)、150mMのNaCl、0.005v/v%のTween 20、及び1mg/mlのBSAから構成される緩衝液中、30nMの濃度の等量のMPE8 Fabを捕捉し、次いでMPE8を捕捉したバイオセンサを50nMの熱処理済みのDS-CavEs2に浸漬して、会合率を測定した。600秒の会合ステップの後、600秒の解離ステップを緩衝液のみを含有するウェル中で実施した。結合曲線をベースラインに揃え、緩衝液を差し引いた。
【0186】
負染色EM。融合後のhMPV Fを70℃で10分間熱処理し、次いでSolarus 950プラズマ洗浄装置(Gatan)において4:1比のO/Hで45秒間プラズマ洗浄したCF-400-Cuグリッド(Electron Microscopy Sciences)に適用した。タングステン酸メチルアミン(Nanoprobes)を使用してグリッドを染色した。融合前安定化hMPV Fを1倍PBS中、2倍モル過剰のMPE8 Fabと共に室温で30分間インキュベートした。hMPV-F:Fab複合体を2mMのTris(pH8.0)、200mMのNaCl、及び0.02%のNaN中で0.03mg/mLの濃度に希釈し、次いでCF-400-Cuグリッド上に堆積させた。グリッドを、Ceta 16M検出器を装着したTalos F200C TEM顕微鏡(Thermo Fisher Scientific)において92,000倍の倍率(1.63Å/画素の校正画素サイズに対応する)で画像化した。CTF推定及び粒子採集をcisTEM(Grant et al.,2018)で実施した。次いで、2D分類のために粒子をcryoSPARC v2.15.0に送出した(Punjani et al.,2017)。
【0187】
融合前安定化F及びMPE8との複合体化についてのX線結晶構造解析。DS-CavEs2結晶をハンギングドロップ蒸気拡散法により、500nlのDS-CavEs2(10mg/ml)と、0.1MのMES(pH6.0)及び12%(v/v)のPEK 20kを含有する500nlのリザーバ溶液とを混合することによって生成した。20%グリセロールを補充したリザーバに結晶を浸し、液体窒素中で凍結した。回折データをSBCビームライン19ID(Advanced Photon Source,Argonne National Laboratory)で2.5Åまで収集した。MPE8 Fabとの複合体中のDSx2の結晶をシッティングドロップ蒸気拡散法により、100nlの複合体(5.4mg/ml)と、10%(v/v)のイソプロパノール、0.1MのHEPES(pH7.5)、及び20%(w/v)のPEG4000を含有する50nlのリザーバ溶液とを混合することによって成長させた。結晶を凍結保護剤無添加で液体窒素中で直接凍結した。2.2Åまで回折した単結晶についての回折データをSBCビームライン19ID(Advanced Photon Source,Argonne National Laboratory)で収集した。データをiMOSFLM(Battye et al.,2011)で指数付けし、積分してから、Aimless(Evans & Murshudov,2013)を使用してマージし、スケーリングした。分子の置き換えをPhaser(McCoy et al.,2007)で実施し、次いでモデルを複数回のモデル構築に供し、それぞれCoot(Emsley & Cowtan,2004)及びPhenix(Adams et al.,2002)で精密化した。データ収集及び精密化の統計値は表2に見出すことができる。
【0188】
(表2)結晶学的データ収集および精密化の統計値
括弧内の値は、分解能の最も高い最外殻に対するものである。
【0189】
酵素結合免疫吸着測定法。hMPV F融合前特異的モノクローナル抗体(MFP10、Ac967、Ac1025、及びMPE8)(Corti et al.,2013)または融合前特異的ではない抗体(MF11、MF14)(Battles et al.,2017)のパネルを96ウェルマイクロタイタープレート上に4℃で一晩、個々に固定化した。PBS中1%のBSAによるブロッキングステップの後、熱処理済みまたは未処理の融合後hMPV Fの4ngから開始した段階希釈物を、抗体コーティングウェルに室温で1時間適用した。未結合のFをPBS中0.1%のTween-20で3回洗浄することによって除去した。次いで、結合したFを、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)(Bio-Rad)とコンジュゲートした抗HisタグmAbを添加し、続いてPBS中0.1%のTween-20で3回洗浄することによって検出した。次いで、発色のためにHRP基質(Sigma)を添加し、ELISAプレートリーダーを使用して光学密度を492nmで読み取った。
【0190】
実施例1-融合前安定化hMPV Fの構造ベースの設計
他のクラスIウイルス融合糖タンパク質と同様に、融合前hMPV Fタンパク質は、準安定な状態を呈し、誘発の間に安定な融合後の立体構造へと容易に転換する。Fタンパク質を融合前状態で安定化するために、プロリン置換A185Pを三量体頂端のヘリックス-ループ-ヘリックス領域に導入した。この置換により、hMPVの融合前構造を得ることができたが、この構築物の発現レベルの低さがワクチン候補としての潜在的応用を妨げた。したがって、以前に記載された融合前安定化Fタンパク質BV-115(Battles et al.,2017)に類似した、タンパク質発現量を増加させることが以前に示されたH368N置換(Schowalter et al.,2009)もまた使用した。この基本構築物から、hMPV Fの融合前(PDB ID:5WB0)及び融合後(PDB ID:5L1X)構造に基づいて97個のバリアントを設計し、次いで各バリアントを発現させ、産生収量、単分散度、熱安定性、及び抗原性の点で特性評価した。例示的なバリアントを表3に示す。用いた戦略には、融合前から後への移行中に実質的に移動する領域をロックするためのジスルフィド結合、内部空洞を充填するための疎水性残基、内部の電荷不均衡に対抗するための極性残基、及び融合前の立体構造に有利であると共にFの再折り畳みに不利であるプロリン置換が含まれた。移行中に5Åよりも大きく移動する領域が図1Aにおいて青色で強調表示され(Battles et al.,2017)、各カテゴリーからの最良の置換を図1Bに示す。全体的に、単一置換を有する36個のバリアントは、タンパク質発現量を増加させ、このうち多くのバリアントがより高い熱安定性を示した。
【0191】
(表3)例示的なFタンパク質バリアント
【0192】
実施例2-単一置換Fバリアント
42個の個々のバリアントの発現プロファイルを図2Aに要約し、各設計カテゴリーからの選択バリアントのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)トレースを図2Bに示す。この実施例を通して、括弧内に提供されるタンパク質収量の倍率変化の値は、構築物の各々を設計したときに決定された元の値に関することに留意されたい。表3に与えられる値は、全ての構築物を並行して再発現させ、精製した実験からのものであり、各実験についてSECクロマトグラムにおける曲線下面積が基本構築物対照と比較されている。再発現において、全ての構築物は、元の発現におけるよりも良好に発現した。元の発現における基本構築物の収量の低さが、元の値における収量倍率の値がより高いことの主な要因であった。
【0193】
プロリン置換を有する9個のバリアントを設計し、発現させ、特性評価した。9個のバリアントのうちの6個がタンパク質発現を強化した(図2A、B)。2個のバリアントA107P及びA113Pは両方とも、融合ペプチド内に位置し、基本構築物と比べて、それぞれタンパク質収量の2.9倍及び1.9倍の増加[5.1倍及び3.3倍の増加]を示した(図2B)。A107Pは、よりコンパクトな三量体構造を示唆する、基本構築物と比べたSECピークの右方へのシフトを示したことに留意されたい(図2B)。ヘリックスをキャップするように設計されたドメインI(部位I)における唯一の置換である、A344Pは、タンパク質収量の2倍の増加を示したが、Tmを約0.6℃だけ若干減少させた。HRBのα10をキャップするようにD461Pの設計もまた試み、これはタンパク質収量の1.8倍の増加[2.2倍の増加]、及びよりコンパクトな三量体構造を示す、基本構築物と比べたSECピークの右方へのシフトをもたらした。最後に、T114P、E146P、及びV148Pは全て、タンパク質発現量を増加させた。
【0194】
内部の電荷不均衡を中和するために塩橋をMPV Fタンパク質の中に導入操作した。L73E及びL219Kは、タンパク質発現量をそれぞれ1.5倍及び1.4倍[2.6倍及び1.4倍]増加させ(図2A、B)、両方ともSECにおいてより長い保持時間を示した。一対の置換L66D/K188Rを導入し、これは発現量を1.6倍増加させた。E453Qは、タンパク質収量の1.9倍の増加[2.8倍の増加]を示したが、SECにおいて三量体のピークの顕著な右方のシフトもまた示し、このことは三量体が比較的閉じた立体構造にある可能性があることを示唆する(図2C)。加えて、いくつかの空洞充填バリアントが、Fタンパク質の安定化に対して有益な効果を示した。例えば、ドメインIIIb(部位II)におけるV231Iは、タンパク質発現量を2.7倍[3.6倍]増加させた(図2A、B)。1つの他のバリアントS376Tもまた、基本構築物と比べてタンパク質収量の2.4倍の増加を示した。2つの他のバリアントS149I及びG366Sは、基本構築物と比べてタンパク質発現量の2.3倍及び1.7倍の増加[2.3倍及び2.9倍の増加]を示し、SECにおいて単分散ピークとして溶出した。
【0195】
hMPV Fのタンパク質発現量及び熱安定性の改善に関して、融合前安定化ジスルフィド架橋を試験した。L110C/N322C及びT365C/V463Cの2つの例は、基本構築物と比べて、それぞれタンパク質収量の2.5倍及び1.7倍の増加[2.8倍及び2.4倍の増加]ならびにTmの5.6℃及び6.2℃の増加を示した(図2A、B、C)。バリアントA116C/A338Cもまた、基本構築物と比較して熱安定性を改善したが、発現量は増加させなかった。一方で、A140C/A147C及びT127C/N153Cは、全てドメインIIIa(部位V)(すなわち、α2、α3、β3、及びβ4(図1B))に位置し、それぞれタンパク質発現量を3.1倍及び2.8倍[6.0倍及び4.8倍]だけ顕著に増加させた(図2A、B)。T127C/N153Cは、熱安定性を中程度に改善した(図2C)。V104C/N457Cバリアントは、基本構築物と比べて、フューリンによる切断の低減を示し(図2D)、Tmを4℃増加させ、タンパク質発現レベルの減少を示した(図2B、C)。全体的に、42個のバリアントのうちの約20個がタンパク質発現量を増加させ(図2A)、このうち6個のバリアントが熱安定性の増加を示した。
【0196】
実施例3-多置換Fバリアント
単一置換の組み合わせを、2つのジスルフィド結合、1つのジスルフィド結合と1つの空洞充填、または1つのジスルフィド結合と1つの塩橋のいずれかを含有する3個の異なるバリアントの中に導入操作し、生成した。3個全ての組み合わせバリアントにおいて、置換T365C/V463Cをその熱安定性の顕著な改善の故に含めた。3個全てのバリアント(T127C/N153C/T365C/V463C、V231I/T365C/V463C、L219K/T365C/V463C)は、その親構築物T365C/V463Cに対してタンパク質収量のさらなる1.2倍、1.9倍、1.2倍の増加を示し、2つのジスルフィド結合を含有するバリアントのTmは、親T365C/V463C構築物と比べて1.7℃及び基本構築物と比べて6.4℃さらに増加した(図4A、D)。T127C/N153C/T365C/V463CバリアントはDSx2と命名され、L219KまたはV231Iのいずれかをその中にさらに導入操作した。DSx2/L219K及びDSx2/V231Iは、DSx2と比較してさらに1.1倍及び1.6倍の増加を示した(図4B、6)。さらに、全ての有益な変異(T127C/N153C/T365C/V463C/L219K/V231I)を含有するバリアントは、1LのFreeStyle 293-F細胞から16mgのタンパク質を産生させて、DSx2と比較してさらに1.8倍の増加により全ての構築物の中で最も高い発現レベルを示し、60.7℃のTmを有した(図4D、5)。このバリアントはDS-CavEsと新たに命名され、さらに1つのジスルフィド結合設計(L110C/N322C)をDS-CavEsの中にさらに導入操作して、MM-1と命名される五置換バリアント(T127C/N153C/T365C/V463C/L219K/V231I/L110C/N322C)を生成した。MM-1に関して、タンパク質発現量はDS-CavEsと比べて25%減少し、Tmの実質的な改善を示した(67.6℃)。MM-1H(T127C/N153C/T365C/V463C/L219K/V231I//L110C/N322C/N386H)と命名される別のバリアントを、MM-1と比べてH368Nを野生型His368に復帰させることによって作製した。MM-1Hに関して、タンパク質発現量はDS-CavEsと比べて25%減少し、増加したTmを示した(65.2℃)(図4C、D)。L110C/N322Cの導入に起因するこの熱安定性の強化は、ワクチン抗原に非常に有利な可能性がある。追加のジスルフィド結合によって示される有益性に起因して、A140C/A147Cの導入を、単一置換としてのその有利な発現プロファイルに基づいて探索した(図2B)。MM-4Hと称されるこの構築物は、発現収量の最小限の差及びTmの1.0℃の増加を示した(図4C、D)。
【0197】
さらに、A140C/A147C及びE453Q置換をMM-1Hに導入し(これはまたE453QをMM-4Hに導入することにも相当する)、DS-CavEs2と命名した。DS-CavEs-2の大規模発現は、1LのFreeStyle 293-F細胞から15.7mgの融合前安定化Fを産出した(図4E)。DS-CavEs2の抗原性表面は、よく保存されている。融合前特異的抗体MPE8に対するDS-CavEs2の親和性(Wen et al.,2017)は、50℃で30分間のインキュベーション後に変化せず、基本構築物のそれと同等である(図4F)。nsEM分析から、DS-CavEs2は、よく折り畳まれた融合前三量体であるようであり、各プロトマーはMPE8 Fabによって結合された。追加の置換を有するDS-CavEs2は、発現を10倍超強化し、正しい融合前の立体構造のままで最も高い熱安定性(Tm 71.8℃)を示し(図4D)、ワクチン開発に対する可能性を示唆する。
【0198】
実施例4-MPE8結合DSx2構築物の結晶構造
組み合わせ変異DSx2構築物について、hMPV Fの立体構造に対する多置換の効果を決定するために、融合前特異的抗体MPE8と複合体化されたタンパク質の結晶構造を得た。このタンパク質複合体は、空間群P2で結晶化し、2.2Åの分解能までX線を回折した。モデル構築及び精密化の後、この構造は、それぞれ19.68%及び23.5%のRwork及びRfreeを有することが最初に見出され、これらは構造をさらに精密化すると、それぞれ21.3%及び24.2%に改善された(表2)。以前に決定されたhMPV F構造(PDBID:5WB0)と比較して、DSx2は融合前の立体構造を保持し、427個のCα残基について全体的なRMSDが1.8Åであった(図9)。
【0199】
実施例5-MPE8結合DS-CavEs2の構造
DS-CavEs2の結晶構造を空間群P2の結晶から2.5Åの分解能まで決定した(表2)。MPE8の不在下で、DS-CavEs2は、融合前の立体構造を保持し、PDBID:5WB0と共有される428個のCα原子にわたるRMSDが2.3Åであった(図8A)。全てのジスルフィド結合置換(Cys127/Cys153、Cys140/Cys147、Cys110/Cys322、Cys365/Cys463)及び空洞充填置換(I231)について、明確な電子密度が観察された。DS-CavEs2の膜遠位半分(部位II、V、及びφ)と、以前のhMPV F構造(PDBID:5WB0)との重ね合わせにより、中心3回軸の方への抗原部位IVの実質的な移動が明らかとなった(図8A)。両方の構造からの部位IVの重ね合わせにより、Fタンパク質の上半分及び下半分を接続する2つの長いβ鎖(β1及びβ22)の中心で屈曲する剛体が存在することが示された(図8A)。DSx2構造に類似して、部位Vでの2つのジスルフィド結合置換は、局所的立体構造を変化させなかった。対照的に、Cys365/Cys463置換は、α10ヘリックスを中心3回軸から引き離し、こうしてHRBの下向きの軌道を変化させた(図8A)。DS-CavEs2に複合体化したMPE8に対して負染色電子顕微鏡(nsEM)分析を実施した。2Dクラス平均化の後、複数のクラスが、2つまたは3つのMPE8 Fabによって結合されたよく折り畳まれた融合前三量体としてのDS-CavEs2を示し、DS-CavEs2が三量体の立体構造をとり得ることが実証された(図8B)。
【0200】
実施例6-免疫原としての融合前安定化hMPV Fバリアント
融合前安定化hMPV Fバリアントが免疫原として機能するかどうかを調査するために、BALB/cマウスを、CpGで増強した融合前(例えば、基本構築物、DSx2及びDS-CavEs2)または融合後のいずれかのF抗原で3週間間隔で免疫化する。2回目の免疫化から10日後に血清を収集する。融合前安定化F構築物は、融合後のF抗原と比べてhMPV A1及び/またはhMPV B1に対するより高い中和抗体価を引き出すことが予想される。
【0201】
本明細書に開示され、特許請求される方法の全ては、本開示に照らして過度の実験なしに実施され、実行され得る。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態の観点から記載されたが、本発明の概念、趣旨、及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される方法に及び方法のステップまたは方法の一続きのステップにおいて変形形態が適用されてもよいことが当業者には明らかであろう。より具体的には、同じまたは類似の結果が達成される限り、化学的かつ生理学的に関連するある特定の作用物質が、本明細書に記載される作用物質に対して置換されてもよいことが明らかであろう。当業者に明らかな全てのかかる類似の置換及び修正は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲、及び概念の内にあると見なされる。
【0202】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書に定められる詳細を補足する例示的な手順上のまたは他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に明確に援用される。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023544834000001.app
【国際調査報告】