(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】表面修飾された細胞培養基材及び細胞培養基材を修飾する方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C12M3/00 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521583
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 US2021053888
(87)【国際公開番号】W WO2022076639
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】チャン,テレサ
(72)【発明者】
【氏名】ドリー-ソンヌヴィル,パウラ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ギャニオン,ポール アーネスト ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヴィナリア
(72)【発明者】
【氏名】ジョウ,ユエ
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC11
4B029GB09
(57)【要約】
繊維の規則的配列と繊維間に配置された細孔とを有する基材格子を含む、細胞培養基材が提供される。繊維の規則的配列は、細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するための細胞培養表面を含む。細胞培養基材は、細胞培養表面への細胞の接着を促進するように細胞培養表面上に配置された正電荷コーティングをさらに含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養基材において、
繊維の規則的配列と前記繊維間に配置された細孔とを含む基材格子であって、前記繊維の規則的配列が、細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するように構成された細胞培養表面を含む、基材格子、及び
前記細胞培養表面上に配置された正電荷コーティングであって、前記細胞培養表面への細胞の接着を促進するように構成される、正電荷コーティング
を含む、細胞培養基材。
【請求項2】
前記正電荷コーティングが、プラズマ堆積コーティング、シランベースのアミンコーティング、及び光活性ポリマーコーティングからなる群より選択される、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
前記正電荷コーティングが前記プラズマ堆積コーティングを含み、該プラズマ堆積コーティングがジアミン又はトリアミンを含む、請求項2に記載の細胞培養基材。
【請求項4】
前記正電荷コーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、請求項3に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
前記正電荷コーティングが前記シランベースのアミンコーティングを含み、該シランベースのアミンコーティングがアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、請求項2に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
前記シランベースのアミンコーティングが、0.5%から25%のAPS v/vの水を含むAPS溶液の凝縮物である、請求項5に記載の細胞培養基材。
【請求項7】
前記正電荷コーティングが前記光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、請求項2に記載の細胞培養基材。
【請求項8】
前記正電荷コーティングが前記光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングがN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドを含む、請求項2又は請求項7に記載の細胞培養基材。
【請求項9】
前記光活性ポリマーコーティングが、(i)アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体、又は(ii)N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体を含む、請求項8に記載の細胞培養基材。
【請求項10】
細胞培養基材の製造方法において、該方法が、
前記格子の接続部材間に配置された細孔の規則的配列を含む基材格子を提供するステップであって、前記接続部材が細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するように構成された細胞培養表面を含む、ステップ、
前記基材格子の前記細胞培養表面にポリマーコーティングを堆積するステップであって、前記ポリマーコーティングが正味の正電荷を有する、ステップ
を含む、方法。
【請求項11】
前記ポリマーコーティングの前記堆積が、プラズマを使用して前記基材格子を処理することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーコーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリマーコーティングがシランベースのアミンコーティングを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーコーティングが光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2020年10月09日出願の米国仮特許出願第63/089,933号の米国法典第35編特許法119条に基づく優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、細胞を培養するための基材、並びにその製造方法に関する。特に、本開示は、表面修飾された細胞培養基材、及び細胞培養基材を修飾する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオプロセス産業では、ホルモン、酵素、抗体、ワクチン、及び細胞療法の生産を目的として、細胞の大規模培養が行われる。細胞療法及び遺伝子治療の市場は急速に成長しており、有望な治療法は臨床試験へと移行し、急速に商業化に向けて進んでいる。しかしながら、細胞療法の1回の投与には、数十億の細胞又は数兆のウイルスが必要となる場合がある。したがって、臨床の成功には、短期間で大量の細胞産物を提供できることが重要である。
【0004】
バイオプロセスで用いられる細胞のかなりの部分は足場依存性であり、これは、細胞が増殖し機能するために接着する表面を必要とすることを意味する。従来、接着細胞の培養は、Tフラスコ、ペトリ皿、細胞工場、セルスタック容器、ローラーボトル、及びHYPERStack(登録商標)など、多数の容器形式のうちの1つに組み込まれた二次元(2D)細胞接着表面上で行われる。これらの手法には、治療薬又は細胞の大規模生産を可能にするのに十分に高い細胞密度を達成することが困難であることを含む、重大な欠点を有する可能性がある。
【0005】
培養細胞の体積密度を増加させるための代替方法が提案されている。これらには、撹拌タンク内で行われるマイクロキャリア培養が含まれる。この手法では、マイクロキャリアの表面に接着した細胞は一定のせん断応力にさらされ、その結果、増殖及び培養性能に重大な影響を及ぼす。高密度細胞培養システムの別の例は、中空繊維バイオリアクターであり、ここで、細胞は、繊維間空間で増殖するときに、大きい三次元凝集体を形成する可能性がある。しかしながら、栄養素が不足すると、細胞の増殖及び性能は著しく阻害される。この問題を軽減するために、これらのバイオリアクターは小型に作られており、大規模製造には適していない。
【0006】
足場依存性細胞の高密度培養システムの別の例は、充填床バイオリアクターシステムである。このタイプのバイオリアクターでは、接着細胞の接着のための表面を提供するために細胞基材が用いられる。培地は表面に沿って、又は半多孔性基材を通して灌流され、細胞の増殖に必要な栄養素と酸素を供給する。例えば、細胞を捕捉するための支持体又はマトリクスシステムの充填床を含む充填床バイオリアクターシステムは、以前に特許文献1、2、及び3に開示されている。充填床マトリクスは通常、基材としての多孔質粒子又はポリマーの不織布マイクロファイバーで作られる。このようなバイオリアクターは、再循環フロースルーバイオリアクターとして機能する。このようなバイオリアクターに関する重大な問題の1つは、充填床内の細胞分布が不均一であることである。例えば、充填床は、デプスフィルタとして機能し、主に入口領域で細胞が捕捉され、その結果、接種ステップ中に細胞分布の勾配が生じる。加えて、繊維がランダムに充填されていることにより、充填床の断面の流動抵抗及び細胞捕捉効率は均一ではない。例えば、培地は、細胞充填密度が低い領域では速く流れ、抵抗が高い領域では、捕捉された細胞の数が多いことから、ゆっくりと流れる。これにより、体積細胞密度が低い領域には栄養素及び酸素がより効率的に供給され、細胞密度が高い領域では次善の培養条件で維持される、チャネリング効果が生じる。
【0007】
従来技術に開示されている充填床システムの別の重大な欠点は、培養プロセスの最後にインタクトな生細胞を効率的に回収することができないことである。最終産物が細胞である場合、又はバイオリアクターが、細胞集団を1つの容器で増殖させ、その後細胞集団をさらに増殖させるために別の容器に移す「シードトレイン」の一部として用いられる場合、細胞の回収は重要である。特許文献4には、細胞回収ステップでの充填床からの細胞回収効率を向上させるためのバイオリアクターの設計が開示されている。これは、充填床マトリクスを緩め、充填床粒子を撹拌して、多孔性マトリクスを衝突させ、それによって細胞を分離することに基づいている。しかしながら、この手法は手間がかかり、重大な細胞損傷を引き起こす可能性があるため、全体的な細胞生存率が低下する。
【0008】
現在市販されている充填床バイオリアクターの一例は、Pall Corporation社製造のiCellis(登録商標)である。「iCellis」は、不織布配列でランダムに配向した繊維からなる細胞基材材料の小さいストリップを使用する。これらのストリップを容器に充填して、充填床を生成する。しかしながら、市販されている同様の解決策と同様に、このタイプの充填床基材にも欠点がある。具体的には、基材ストリップの不均一な充填により、充填床内に目に見えるチャネルが生成し、充填床全体にわたる優先的かつ不均一な培地の流れ及び栄養素の分布が生じる。「iCellis」の研究では、「固定床の上から下に向かって数が増加する、細胞のシステム的な不均一な分布(systemic inhomogeneous distribution of cells, with their number increasing from top to bottom of fixed bed)」、並びに「細胞の増殖及び産生の制限につながる…栄養勾配(unequal distribution of cells [that] may impair transfection efficiency)」が指摘されており、これらはすべて「トランスフェクション効率を損なう可能性のある、細胞の不均等な分布」につながる(哺乳動物細胞における組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)の生産性を高めるための合理的なプラスミド設計とバイオプロセスの最適化。(Rational plasmid design and bioprocess optimization to enhance recombinant adeno-associated virus (AAV) productivity in mammalian cells.)非特許文献1)。研究では、充填床を撹拌すると分散が改善さうるが、他の欠点を有するであろうことが指摘されている(すなわち、「接種及びトランスフェクション中に分散を良くするために必要な撹拌は、せん断応力の増加を引き起こし、ひいては細胞生存率の低下につながる。(necessary agitation for better dispersion during inoculation and transfection would induce increased shear stress, in turn leading to reduced cell viability.)」非特許文献1)。「iCellis」に関する別の研究では、細胞が不均一に分布しているため、バイオマスセンサを使用した細胞集団のモニタリングが困難であることが指摘されている(「…細胞が不均一に分布している場合、上部キャリア上の細胞からのバイオマス信号はバイオリアクター全体の全体像を示さない可能性がある。(…if the cells are unevenly distributed, the biomass signal from the cells on the top carriers may not show the general view of the entire bioreactor.)」非特許文献2)。
【0009】
加えて、基材ストリップ内の繊維のランダムな配置と、「iCellis」のある充填床と別の充填床との間でのストリップの充填のばらつきにより、基材は培養ごとに異なるため、顧客が細胞培養性能を予測することが困難になりうる。さらには、「iCellis」の充填された基材は、細胞が充填床に閉じ込められていると考えられことから、効率的に細胞を回収することを非常に困難に又は不可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,833,083号明細書
【特許文献2】米国特許第5,501,971号明細書
【特許文献3】米国特許第5,510,262号明細書
【特許文献4】米国特許第9,273,278号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Biotechnol. J. 2016, 11, 290-297
【非特許文献2】Process Development of Adenoviral Vector Production in Fixed Bed Bioreactor: From Bench to Commercial Scale. Human Gene Therapy, Vol. 26, No. 8, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
早期臨床治験用のウイルスベクターの製造は既存のプラットフォームでも可能であるが、後期の商業生産規模に到達するためには、高品質の製品をより多く生産することができるプラットフォームが必要とされている。細胞分布が均一な、高密度形式での細胞の培養を可能にし、容易に達成可能であり、回収量を増加させる、細胞培養マトリクス、システム、及び方法が必要とされている。特に、細胞又は細胞副産物を回収することができるように、基材内に細胞を捕捉することなく、細胞の接着及び増殖に有益な表面を提供する、接着ベースの細胞培養のための効率的な細胞培養表面が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の実施形態によれば、繊維と該繊維間に配置された細孔との規則的配列を有する基材格子を含む、細胞培養基材が提供される。繊維の規則的配列は、細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するための細胞培養表面を含む。細胞培養表面は、細胞培養表面上に配置された正電荷コーティングをさらに含み、ここで、正電荷コーティングは細胞培養表面への細胞の接着を促進する。
【0014】
幾つかの実施形態のさまざまな態様では、正電荷コーティングはポリマーコーティングである。正電荷コーティングは、プラズマ堆積コーティング、シランベースのアミンコーティング、及び光活性ポリマーコーティングを含む群から選択することができる。プラズマ堆積コーティングでは、プラズマ堆積コーティングは、ジアミン又はトリアミンを含みうる。幾つかの例では、プラズマ堆積された正電荷コーティングは、1,3-ジアミノプロパンを含む。シランベースのアミンコーティングでは、シランベースのアミンコーティングは、アミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含みうる。光活性ポリマーコーティングでは、光活性ポリマーコーティングは、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含みうる。幾つかの例となる実施形態では、光活性ポリマーコーティングは、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミド、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体、又はN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体を含む。光活性ポリマーは、紫外(UV)光への光活性ポリマーの曝露を介して細胞培養表面にグラフトされる。実施形態の他の態様は、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミンのうちの少なくとも一方を含む、ポリカチオン性ポリマーを含む正電荷コーティングを含む。
【0015】
さまざまな実施形態によれば、基材格子は、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む。基材格子は、成形ポリマー格子シート、3D印刷された格子シート、及び織りメッシュシートのうちの少なくとも1つを含みうる。繊維の規則的配列の各繊維は、約50μmから約1000μm、約50μmから約600μm、約50μmから約400μm、約100μmから約325μm、又は約150μmから約275μmの繊維直径を含みうる。細孔は、約100μmから約1000μm、約200μmから約900μm、又は約225μmから約800μmの細孔直径を含みうる。細孔は、基材格子全体にわたり規則的パターンで配列することができる。
【0016】
追加の実施形態によれば、細胞培養用の充填床バイオリアクターシステムが提供される。該システムは、培地入口、培地出口、及び培地入口と培地出口との間に配置され、それらと流体連結した内部空洞を有する容器を含む。該システムはまた、充填床構成における培地入口と培地出口との間の内部空洞内に配置された、細胞培養基材も含む。細胞培養基材は、積層配置で複数の多孔性ディスクを含み、該複数の多孔性ディスクの各々は、その上で細胞を培養するように構成された表面を有する。該システムは、複数の多孔性ディスクの各々の表面に配置された正電荷コーティングをさらに含む。正電荷コーティングは、細胞培養中のディスクの表面への細胞の接着を促進する。
【0017】
本開示の幾つかの追加の実施形態によれば、細胞培養基材の製造方法が提供される。該方法は、格子の接続部材間に配置された細孔の規則的配列を有する基材格子を提供することを含む。接続部材は、細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するための細胞培養表面を有する。該方法は、基材格子の細胞培養表面にポリマーコーティングを堆積するステップを含む。ポリマーコーティングは、細胞接着を促進するために正味の正電荷を有する。
【0018】
本方法の実施形態のさまざまな態様によれば、ポリマーコーティングの堆積は、プラズマを使用して基材格子を処理することを含む。プラズマ処理された基材格子のポリマーコーティングは、1,3-ジアミノプロパンを含みうる。ポリマーコーティングは、アミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、シランベースのアミンコーティングを含みうる。ポリマーコーティングは、光活性ポリマーコーティングも含みうる。光活性ポリマーコーティングは、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含みうる。幾つかの特定の実施形態では、光活性ポリマーコーティングは、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミド、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体、及びN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体のうちの少なくとも1つを含みうる。方法の実施形態の幾つかの態様では、ポリマーコーティングの堆積は、(1)ポリマーコーティングで基材格子を噴霧コーティングすること、及び(2)ポリマーコーティングの構成成分を含む溶液に基材格子を浸漬することのうちの少なくとも一方を含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本開示の1つ以上の実施形態による、細胞培養基材の三次元モデルの斜視図
【
図2A】幾つかの実施形態による細胞培養基材の一例
【
図2B】幾つかの実施形態による細胞培養基材の一例
【
図2C】幾つかの実施形態による細胞培養基材の一例
【
図3A】1つ以上の実施形態による多層細胞培養基材の斜視図
【
図3B】1つ以上の実施形態による多層細胞培養基材の平面図
【
図4】1つ以上の実施形態による、
図3Bの多層細胞培養基材の線B-Bに沿った断面図
【
図5】1つ以上の実施形態による、
図4の多層細胞培養基材の線C-Cに沿った断面図
【
図6A】表面処理を施していないPETメッシュをコロイド金で染色した細胞培養基材の写真
【
図6B】表面を正に帯電した1,3-ジアミノプロパンプラズマポリマーでコーティングし、次にコロイド金で染色したPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図6C】表面処理を施していないPETメッシュをTBOで染色した細胞培養基材の写真
【
図6D】表面を負に帯電したアクリル酸プラズマポリマーでコーティングし、次にTBOで染色したPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図7A】表面処理されていないPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図7B】表面をゼラチンでコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図7C】表面を正に帯電した1,3-ジアミノプロパンプラズマポリマーでコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図7D】表面を負に帯電したアクリル酸プラズマポリマーでコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293のカルセイン染色を示す画像
【
図8A】表面処理を施していないPETメッシュをコロイド金で染色した細胞培養基材の写真
【
図8B】表面を5%のAPS溶液でコーティングし、コロイド金で染色したPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図8C】表面を10%のAPS溶液でコーティングし、コロイド金で染色したPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図8D】表面を25%のAPS溶液でコーティングし、コロイド金で染色したPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図9A】表面を0.5%のAPS溶液でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図9B】表面を5%のAPS溶液でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図10A】表面処理を施していないPETメッシュをコロイド金で染色した細胞培養基材の写真
【
図10B】表面を0.2mg/mLのAP02でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図10C】表面を0.1mg/mLのAP02の溶液でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図10D】表面を0.01mg/mLのAP02と0.1335mg/mLのPA04との混合物の溶液でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材の写真
【
図11A】表面を0.1mg/mLのAP02の溶液でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図11B】表面を0.01mg/mLのAP02と0.1335mg/mLのPA04との混合物の溶液でコーティングしたPETメッシュの細胞培養基材上のHEK293細胞のカルセイン染色を示す画像
【
図12】1つ以上の実施形態による、細胞培養システムの概略図
【
図13】1つ以上の実施形態による、細胞培養システムの概略図
【
図14】1つ以上の実施形態による、巻かれた円筒状の構成の細胞培養マトリクスを示す図
【
図15】1つ以上の実施形態による、巻かれた円筒状の細胞培養マトリクスを組み込んだ細胞培養システムを示す図
【
図16A】1つ以上の実施形態による、細胞培養システムの概略図
【
図16B】1つ以上の実施形態による、細胞培養システムの詳細な概略図
【
図17A】1つ以上の実施形態による、細胞培養システム上で細胞を培養するためのプロセスフローチャート
【
図17B】1つ以上の実施形態による、細胞培養システムの灌流流量を制御するための動作を示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示のさまざまな実施形態が、もしあれば、図面を参照して詳細に説明される。さまざまな実施形態への言及は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。加えて、本明細書に記載された例は限定的ではなく、特許請求された発明の多くの可能な実施形態のうちの幾つかを単に記載するものである。
【0021】
本開示の実施形態は、表面修飾された細胞培養基材を含む細胞培養基材、細胞培養基材を修飾する方法、及びこのような基材を組み込む細胞培養システム又はバイオリアクターシステム、並びにこのような基材及びバイオリアクターシステムを使用して細胞を培養する方法に関する。
【0022】
従来の大規模細胞培養バイオリアクターでは、さまざまなタイプの充填床バイオリアクターが使用されてきた。通常、これらの充填床は、接着細胞又は浮遊細胞を保持し、成長及び増殖を支援するための多孔性マトリクスを含む。充填床マトリクスは体積に対する表面積の比率が高く、他のシステムよりも細胞密度を高くすることができる。しかしながら、充填床は多くの場合、細胞がマトリクスの繊維に物理的に捕捉されるか又は絡み合う、デプスフィルタとして機能する。したがって、充填床を通る細胞接種材料の直線的な流れの理由から、細胞は充填床内で不均一に分布し、充填床の深さ又は幅にわたる細胞密度の変動につながる。例えば、細胞密度は、バイオリアクターの入口領域でより高く、バイオリアクターの出口に近づくほど大幅に低くなる。充填床内の細胞のこの不均一な分布は、バイオプロセス製造におけるこのようなバイオリアクターの拡張性及び予測可能性を著しく妨げ、充填床の単位表面積又は体積あたりの細胞の増殖又はウイルスベクター産生に関する効率の低下につながる可能性さえある。
【0023】
従来技術で開示されている充填床バイオリアクターにおいて遭遇する別の問題は、チャネリング効果である。充填された不織布繊維のランダムな性質に起因して、充填床の任意の断面における局所的な繊維密度は均一ではない。培地は、繊維密度が低い領域(床透過性が高い)では迅速に流れるが、繊維密度が高い(床透過性が低い)領域では非常に遅くなる。充填床全体にわたり結果として生じる不均一な培地灌流がチャネリング効果を生み出し、これは、細胞培養及びバイオリアクターの性能全体に悪影響を与える重大な栄養素及び代謝物の勾配として現れる。培地の灌流が低い領域に位置する細胞は飢餓状態になり、多くの場合、栄養素の不足又は代謝物中毒により死滅する。不織繊維足場が充填されたバイオリアクターを使用する場合、細胞回収はさらに別の問題に遭遇する。充填床はデプスフィルタとして機能することから、細胞培養プロセスの最後に放出される細胞は充填床内に閉じ込められ、細胞回収率は非常に低くなる。これにより、生細胞が製品となるバイオプロセスにおけるこのようなバイオリアクターの利用が大幅に制限される。したがって、不均一性により、流れ及びせん断に曝露される領域が異なり、使用可能な細胞培養領域が事実上減少し、培養が不均一になり、トランスフェクション効率及び細胞放出が妨げられる。
【0024】
既存の細胞培養溶液のこれら及び他の問題に対処するため、本開示の実施形態は、足場依存性細胞の効率的かつ高収量の細胞培養及び細胞産物(例えば、タンパク質、抗体、ウイルス粒子)の産生を可能にする、細胞増殖基材、このような基材のマトリクス、及び/又はこのような基材を使用する充填床システムを提供する。実施形態は、均一な細胞播種及び培地/栄養素の灌流、並びに効率的な細胞回収を可能にする、多孔性基材材料の規則正しい整然とした配列から作られた多孔性細胞培養マトリクスを含む。実施形態はまた、該実施形態の均一な性能を犠牲にすることなく、プロセス開発規模から完全な生産サイズ規模まで細胞を播種及び増殖させ、及び/又は細胞産物を回収することができる、基材及びバイオリアクターを備えた拡張可能な細胞培養溶液を可能にする。例えば、幾つかの実施形態では、バイオリアクターは、プロセス開発規模から製品規模まで容易に拡張することができ、生産規模全体にわたって基材の単位表面積あたりのウイルスゲノム(VG/cm2)が同等である。本明細書の実施形態の回収可能性及び拡張性により、同じ細胞基材上で複数のスケールで細胞集団を増殖させるための効率的なシードトレインでの使用が可能になる。加えて、本明細書の実施形態は、記載された他の特徴と組み合わせて、高収率の細胞培養溶液を可能にする、高表面積を有する細胞培養マトリクスを提供する。幾つかの実施形態では、例えば、本明細書で論じられる細胞培養基材及び/又はバイオリアクターは、バッチあたり1016から1018のウイルスゲノム(VG)を生成することができる。
【0025】
一実施形態では、マトリクスには、接着細胞が接着して増殖するための構造的に規定された表面積が設けられており、これは、良好な機械的強度を有し、充填床又は他のバイオリアクター内でアセンブリされた場合に、非常に均一な多数の相互接続された流体ネットワークを形成する。特定の実施形態では、機械的に安定で非分解性の織りメッシュを基材として使用して、接着細胞の産生を支援することができる。本明細書に開示される細胞培養マトリクスは、高体積密度形式で足場依存性細胞の接着及び増殖を支援する。このようなマトリクスへの均一な細胞播種が達成でき、また、細胞又はバイオリアクターの他の生成物の効率的な回収も達成可能である。加えて、本開示の実施形態は、接種ステップ中に均一な細胞分布を提供し、開示されたマトリクス上に接着細胞のコンフルエントな単層又は多層を達成するための細胞培養を支援し、また、栄養素の拡散が制限され、代謝産物濃度が増加する、大きい及び/又は制御不能な3D細胞凝集体の形成を回避することができる。したがって、マトリクスはバイオリアクターの動作中の拡散制限を排除する。加えて、マトリクスは、バイオリアクターからの細胞回収を簡単かつ効率的に可能にする。1つ以上の実施形態の構造的に画定されたマトリクスは、完全な細胞回収及びバイオリアクターの充填床からの一貫した細胞収集を可能にする。細胞培養基材及びこのような基材を組み込むバイオリアクターシステムの例となる実施形態は、その内容全体がここに参照することによって本明細書に組み込まれる、米国特許出願第16/781,723号明細書に記載されている。
【0026】
幾つかの実施形態によれば、治療用タンパク質、抗体、ウイルスワクチン、又はウイルスベクターのバイオプロセス生産のためのマトリクスを備えたバイオリアクターを使用する細胞培養方法も提供される。
【0027】
細胞培養バイオリアクターに用いられる既存の細胞培養基材(すなわち、ランダムに配列された繊維の不織布基材)とは対照的に、本開示の実施形態は、画定された規則的な構造を有する細胞培養基材を含む。画定された規則的な構造により、一貫した予測可能な細胞培養結果が得られる。加えて、基材は、細胞の捕捉を防ぎ、充填層を通る均一な流れを可能にする、開放多孔性構造を有する。この構造は、細胞の播種、栄養素の送達、細胞の増殖、及び細胞の回収の向上を可能にする。1つ以上の特定の実施形態によれば、マトリクスは、シートの厚さが基材の第1の側面と第2の側面の幅及び/又は長さに比べて小さくなるように、比較的薄い厚さで分離された第1の側面と第2の側面とを有する薄いシート状構造を有する基材材料で形成される。加えて、複数の穴又は開口部が、基材の厚さを貫通して形成される。開口部間の基材材料は、細胞がほぼ二次元(2D)表面であるかのように基材材料の表面に接着でき、同時に基板材料の周囲及び開口部を通る適切な流体の流れも可能になるサイズ及び形状のものである。幾つかの実施形態では、基材はポリマーベースの材料であり、成形ポリマーシート;厚さ全体に穿孔された開口部を備えたポリマーシート;メッシュ様の層に融合された多数のフィラメント;3D印刷された基材;又は、メッシュ層へと織られた複数のフィラメントとして形成することができる。マトリクスの物理的構造は、足場依存性細胞を培養するための高い表面積対体積比を有する。さまざまな実施形態によれば、マトリクスは、均一な細胞播種及び増殖、均一な培地灌流、並びに効率的な細胞回収のために、本明細書で論じられるある特定の方法でバイオリアクター内に配置又は充填することができる。
【0028】
幾つかの実施形態では、細胞培養基材の表面は、細胞の接着及び/又は増殖を改善するために修飾することができる。表面修飾は、細胞の接着及び増殖を支援することができる動物由来のゼラチン又は非動物由来のゼラチン代替品で基材表面をコーティングすることを含みうる。動物由来の材料(例えば、ゼラチン)が望ましくない場合、細胞培養基材の表面は、本開示の実施形態に従って他の方法で修飾することができる。例えば、幾つかの実施形態は、基材への細胞の接着を改善することができる、プラズマ処理された細胞培養表面を含む。
【0029】
1つ以上の実施形態では、細胞培養基材は、基材表面に正味の正電荷を提供するために表面処理される。これらの実施形態の一態様は、表面にプラズマ堆積ポリマーを有する細胞培養基材を含む。プラズマ堆積ポリマーは、例えば、アミン含有有機小分子をプラズマチャンバに導入して、基材表面にプラズマ堆積ポリマーを形成することによって提供することができる。幾つかの実施形態の別の態様では、細胞培養基材は、アミン末端シラン分子が細胞培養基材上にシランポリマーネットワークを形成する表面を有する。実施形態のさらに別の態様では、細胞培養基材は、光反応性ポリマーを紫外(UV)光に曝露することによって、アミン含有光反応性ポリマーがグラフトされた表面を有する。これらの表面修飾された細胞培養基材及び細胞培養基材表面を修飾する方法は、細胞培養基材表面の正電荷の大幅な増加、並びに良好な細胞接着を提供することができる。本開示の実施形態によって提供される細胞接着は、無血清細胞培養培地を使用した場合に、ゼラチンコーティングされている同様の基材によって提供される細胞接着と同等又はそれ以上である。
【0030】
1つ以上の実施形態によれば、上記の表面修飾は、ポリマー細胞培養基材上で行われる。幾つかの好ましい実施形態では、細胞培養基材の材料はポリエチレンテレフタレート(PET)を含む。しかしながら、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドを含む、細胞培養用途に適合する異なるポリマー材料が企図されている。
【0031】
本明細書に開示される実施形態の利点は、均一であり(例えば、表面上の均一なコーティング及び/又は正電荷の分布)、制御されたコーティング密度を可能にする、修飾された細胞培養表面を含む。加えて、表面修飾された基材及び方法は、三次元(3D)表面を有する細胞培養基材の修飾された表面を可能にする。例えば、細胞培養基材の実施形態には、織られた繊維及び他の三次元多孔性足場で作られた、複雑な三次元表面を形成することができる基材が含まれる。しかしながら、本明細書に開示される方法は、このような三次元表面のコーティングを可能にし、その結果、表面全体が細胞接着及び増殖の改善を示すことができる。さらには、本明細書に開示される表面を修正する方法の幾つかは、例えばロールツーロール処理を含む、高スループットで拡張可能な製造ワークフローに適用することができる。特に、細胞培養基材上にシランポリマーネットワークを形成するためにアミン末端シラン分子を使用する方法、及び基材にグラフトされたアミン含有光反応性ポリマーを使用する方法は、ロールツーロール処理に適合させることができる。
【0032】
図1A及び1Bは、それぞれ、本開示の1つ以上の実施形態の一例による、細胞培養基材100の三次元(3D)斜視図及び二次元(2D)平面図を示している。細胞培養基材100は、第1の方向に延びる第1の複数の繊維102と第2の方向に延びる第2の複数の繊維104とからなる、織りメッシュ層である。基材100の織られた繊維は、1つ以上の幅又は直径(例えば、D
1、D
2)によって画定されうる複数の開口部106を形成する。開口部のサイズ及び形状は、織りのタイプ(例えば、フィラメントの数、形状、及びサイズ;交差するフィラメント間の角度など)に基づいて変化しうる。織りメッシュは、マクロスケールでは、二次元のシート又は層として特徴付けることができる。しかしながら、織りメッシュを詳しく調べてみると、交差するメッシュの繊維が上下することにより、立体的な構造が明らかになる。したがって、
図1Cに示されるように、織りメッシュ100の厚さTは、単一の繊維の太さ(例えば、t
1)より厚くなりうる。本明細書で用いられる場合、厚さTは、織りメッシュの第1の側108と第2の側110との間の最大厚さである。理論に束縛されるものではないが、基材100の三次元構造は、接着細胞を培養するための大きい表面積を提供することから、有利であり、また、メッシュの構造的剛性により、均一な流体の流れを可能にする一貫した予測可能な細胞培養マトリクス構造を提供することができると考えられる。
【0033】
図1Bでは、開口部106は、対向する繊維102間の距離として画定される直径D
1と、対向する繊維104間の距離として画定される直径D
2とを有する。D
1とD
2は、織りの形状に応じて、等しくても、等しくなくてもよい。D
1とD
2が等しくない場合、大きい方を長径、小さい方を短径と呼ぶ。幾つかの実施形態では、開口部の直径とは、開口部の最も広い部分を指しうる。別段の指定がない限り、本明細書で用いられる開口部の直径は、開口部の対向する側部の平行な繊維間の距離を指す。
【0034】
複数の繊維102の所与の繊維は太さt
1を有し、複数の繊維104の所与の繊維は太さt
2を有する。
図1Aに示されるような円形断面の繊維、又は他の三次元断面の繊維の場合、太さt
1及びt
2は、繊維断面の最大直径又は太さである。幾つかの実施形態によれば、複数の繊維102はすべて、同じ太さt
1を有し、複数の繊維104はすべて、同じ太さt
2を有する。さらに、t
1とt
2は等しくてもよい。しかしながら、1つ以上の実施形態では、t
1とt
2は、例えば複数の繊維102が複数の繊維104とは異なる場合には、等しくない。加えて、複数の繊維102及び複数の繊維104の各々は、2つ以上の異なる太さ(例えば、t
1a、t
1bなど、及びt
2a、t
2bなど)の繊維を含みうる。実施形態によれば、太さt
1及びt
2は、その上で培養される細胞のサイズに比べて大きく、その結果、繊維は細胞の観点から見るとほぼ平坦な表面を提供し、これにより、繊維サイズが小さい(例えば、細胞直径の規模で)他の幾つかの解決策と比較して、より優れた細胞の接着及び増殖が可能となる。
図1A~1Cに示されるように、織りメッシュの三次元的性質により、細胞の接着及び増殖に利用可能な繊維の2D表面積は、同等の平面2D表面における接着のための表面積を超える。
【0035】
1つ以上の実施形態では、繊維は、約50μmから約1000μm;約100μmから約750μm;約125μmから約600μm;約150μmから約500μm;約200μmから約400μm;約200μmから約300μm;又は、約150μmから約300μmの範囲の直径を有しうる。マイクロスケールレベルでは、細胞と比較した繊維のスケール(例えば、繊維の直径が細胞よりも大きい)に起因して、モノフィラメント繊維の表面は、接着細胞が接着し、増殖するための2D表面の近似として表示される。繊維は、約100μm×100μmから約1000μm×1000μmの範囲の開口部を有するメッシュへと織ることができる。幾つかの実施形態では、開口部は、約50μmから約1000μm;約100μmから約750μm;約125μmから約600μm;約150μmから約500μm;約200μmから約400μm;又は、約200μmから約300μmの直径を有しうる。フィラメント直径及び開口部直径のこれらの範囲は、幾つかの実施形態の例であるが、すべての実施形態によるメッシュの可能な特徴部サイズを制限することを意図するものではない。繊維直径と開口部直径との組合せは、例えば、細胞培養マトリクスが多数の隣接するメッシュ層(例えば、個々の層のスタック又は巻かれたメッシュ層)を含む場合に、基材を通る効率的で均一な流体の流れを提供するように選択される。
【0036】
繊維直径、開口部直径、及び織りのタイプ/パターンなどの要因により、細胞の接着及び増殖に利用可能な表面積が決まる。加えて、細胞培養マトリクスがスタック、ロール、又は重なり合う基材の他の配置を含む場合、細胞培養マトリクスの充填密度は充填床マトリクスの表面積に影響を与えるであろう。充填密度は、基材材料の充填厚さ(例えば、基材の層に必要なスペース)によって変化しうる。例えば、細胞培養マトリクスのスタックがある特定の高さを有する場合、スタックの各層は、スタックの全高をスタック内の層の数で割ることによって決定される充填厚さを有すると言える。充填厚さは繊維の直径及び織り方に基づいて異なるが、スタック内の隣接する層の配置によっても変わりうる。例えば、織られた層の三次元的な性質に起因して、隣接する層が互いの位置合わせに基づいて対応することができる、ある程度のインターロッキング又は重なりが存在する。第1の位置合わせでは、隣接する層をしっかりと配置することができるが、第2の位置合わせでは、上層の最下点が下層の最上点と直接接触している場合など、隣接する層の重なりがゼロになることがある。ある特定の用途では、層の充填密度が低い(例えば、より高い透過性が優先される場合)、又は充填密度が高い(例えば、基材表面積を最大化することが優先される場合)、細胞培養マトリクスを提供することが望ましい場合がる。1つ以上の実施形態によれば、充填の厚さは、約50μmから約1000μm;約100μmから約750μm;約125μmから約600μm;約150μmから約500μm;約200μmから約400μm;約200μmから約300μmでありうる。
【0037】
細胞培養基材100は、該細胞培養基材100のあらゆる構成部分の集合表面によって画定される、基材表面107を有する。例えば、基材表面107は、
図1A及び1Bの繊維102、104の累積表面積を含む。基材表面107の面積は、その基材上で細胞の接着及び増殖に利用可能な有効表面積を画定する。複数の細胞培養基材からなる細胞培養マトリクス(例えば、積層構成での複数の織りメッシュ基材を有する多層状の細胞培養マトリクス)の場合、細胞培養マトリクスの利用可能な表面積は、複数の細胞培養基材の累積表面積である。上記構造因子により、単層の細胞培養基材であろうと、複数の基材層を有する細胞培養マトリクスであろうと、細胞培養マトリクスの表面積を決定することができる。例えば、特定の実施形態では、円形で6cmの直径を有する単層の織りメッシュ基材は、約68cm
2の有効表面積を有することができる。本明細書で用いられる「有効表面積」とは、細胞の接着及び増殖に利用可能な基材材料の一部における繊維の総表面積である。特に明記されていない限り、「表面積」への言及は、この有効表面積を指す。1つ以上の実施形態によれば、直径6cmの単一の織りメッシュ基材層は、約50cm
2から約90cm
2;約53cm
2から約81cm
2;約68cm
2;約75cm
2;又は約81cm
2の有効表面積を有しうる。これらの有効表面積の範囲は、例としてのみ提供されており、幾つかの実施形態は、異なる有効表面積を有しうる。細胞培養マトリクスは、本明細書の実施例で論じられるように、多孔性の観点から特徴付けることもできる。
【0038】
基材メッシュは、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドを含む、細胞培養用途に適合するポリマー材料のモノフィラメント又はマルチフィラメント繊維から製造することができる。メッシュ基材は、例えば、編み物、経編み物、又は織物(例えば、平織、綾織、オランダ織、五本針織(five needle weave))を含む、異なるパターン又は織りを有することができる。
【0039】
本明細書で論じられるように、基材表面107の表面化学は、所望の細胞接着特性を提供するために修飾されうる。このような修飾は、基材表面107のポリマー材料の化学処理を通じて、又は細胞接着分子を基材表面107にグラフトすることによって行うことができる。あるいは、基材表面107は、例えば、コラーゲン又はMatrigel(登録商標)を含む、細胞接着特性を実証する生体適合性ヒドロゲルの薄層でコーティングすることができる。あるいは、基材表面107は、業界で知られているさまざまなタイプのプラズマ、処理ガス、及び/又は化学薬品を用いた処理プロセスを通じて細胞接着特性を与えることができる。しかしながら、1つ以上の実施形態では、基材表面107は、表面処理なしに、効率的な細胞増殖表面を提供することができる。
【0040】
コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどの細胞外マトリクスタンパク質で基材表面107をプレコーティングすると、接着細胞の接着を強化することができる。動物由来の原料の使用を回避するために、ポリリシン又はポリオルニチンなどの合成ポリマーカチオンも結合促進因子として使用することができる。細胞の接着及び増殖を改善するためには、酸素パージを伴う真空ベースのプラズマ処理を使用することができる。
【0041】
本開示の好ましい実施形態によれば、遺伝子治療でよく用いられるHEK293細胞は、負に帯電したコーティング又は帯電量の少ない酸素プラズマ処理よりも、ポリマー細胞培養基材(たとえば、織られたPET基材)上の正に帯電したコーティングによく接着することが示されている。したがって、本開示の方法は、制御された方法で効率的かつ均一に正電荷を基材表面107に導入することができる。細胞培養基材100のロールツーロール処理への適応性を利用して、これらの方法をロールツーロール処理にも使用して、大規模製造に利益をもたらすことができる。
【0042】
図2A~2Cは、本開示の幾つかの企図される実施形態による織りメッシュの異なる例を示している。これらのメッシュの繊維直径と開口部サイズ、並びに同等の2D表面と比較したそれぞれのメッシュの単層によってもたらされる細胞培養表面積の増加のおおよその規模を、以下の表1にまとめている。表1において、メッシュAは
図2Aのメッシュを指し、メッシュBは
図2Bのメッシュを指し、メッシュCは
図2Cのメッシュを指す。表1の3つのメッシュ形状は単なる例であり、本開示の実施形態はこれらの特定の例に限定されない。メッシュCは表面積が最も大きいため、細胞の接着及び増殖において高密度を達成するのに有利であり、したがって細胞培養に最も効率的な基材を提供することができる。しかしながら、幾つかの実施形態では、例えば、培養チャンバ内で所望の細胞分布又は流れ特性を達成するために、メッシュA又はメッシュBなどのより低い表面積を有するメッシュ、又は異なる表面積のメッシュの組合せを含むことが、細胞培養マトリクスにとって有利でありうる。
【0043】
【0044】
上の表に示されるように、メッシュの三次元品質により、同等のサイズの平面2D表面と比較して、細胞の接着及び増殖のための表面積の増加がもたらされる。この増加した表面積は、本開示の実施形態によって達成されるスケーラブルな性能に役立つ。プロセス開発及びプロセスの検証研究では、試薬のコストを節約し、実験スループットを向上させるために、多くの場合、小規模のバイオリアクターが必要とされる。本開示の実施形態は、このような小規模な研究に適用可能であるが、同様に産業規模又は生産規模にスケールアップすることもできる。例えば、直径2.2cmの円形の形状をした100層のメッシュCを、内径2.2cmの円筒状の充填床に充填すると、細胞が接着及び増殖するために利用可能な総表面積は、約935cm2に等しくなる。このようなバイオリアクターを10倍に拡張するには、7cmの内径と100層の同じメッシュとを備えた、円筒状の充填床の同様のセットアップを使用することもできる。このような場合、総表面積は9,350cm2になるであろう。幾つかの実施形態では、利用可能な表面積は約99,000cm2/L以上である。充填床でのプラグ型灌流流により、充填床の断面表面積のml/min/cm2で表される同じ流量を、バイオリアクターの小規模バージョン及び大規模バージョンで使用することができる。より大きい表面積により、より高い播種密度及びより高い細胞増殖密度が可能となる。1つ以上の実施形態によれば、本明細書に記載される細胞培養基材は、最大で22,000細胞/cm2以上の細胞播種密度を実証している。参考までに、Corning HyperFlask(登録商標)の二次元表面上での播種密度は、20,000細胞/cm2程度である。
【0045】
より高い表面積及び高い細胞播種密度又は増殖密度の別の利点は、本明細書に開示される実施形態のコストが競合する解決策と同じかそれよりも低くなりうることである。具体的には、細胞製品あたり(例えば、細胞あたり、又はウイルスゲノムあたり)のコストを、他の充填床バイオリアクターと同等か又はそれより低くすることができる。
【0046】
以下に論じられる本開示のさらなる実施形態では、織りメッシュ基材は、バイオリアクター内に円筒状のロール形式で充填することができる(
図14及び15参照)。このような実施形態では、充填床バイオリアクターの拡張性は、メッシュストリップの全長及びその高さを増加させることによって達成することができる。この円筒状のロール構成で用いられるメッシュの量は、充填床の所望の充填密度に基づいて変化させることができる。例えば、円筒状のロールは、密に充填して締まったロールにすることも、緩く充填して緩いロールにすることもできる。充填密度は、多くの場合、特定の用途又は規模に必要とされる細胞培養基材の表面積によって決定される。一実施形態では、メッシュの必要な長さは、次式を使用することによって充填床バイオリアクターの直径から計算することができる:
【0047】
【0048】
式中、Lはバイオリアクターを充填するのに必要なメッシュの全長(すなわち、
図14のH)であり、Rは充填床培養チャンバの内部半径であり、rはメッシュが巻き付けられる内側支持体(
図15の支持体366)の半径であり、tはメッシュの一層の厚さである。このような構成では、バイオリアクターの拡張性は、充填床円筒状ロールの直径又は幅(すなわち、
図14のW)を増加させること、及び/又は充填床円筒状ロールの高さHを増加させることによって達成することができ、したがって、接着細胞の播種及び増殖のためにより多くの基板表面積を提供することができる。
【0049】
十分な剛性を備えた構造的に画定された培養マトリクスを使用することにより、マトリクス又は充填床全体にわたる高い流動抵抗の均一性が達成される。さまざまな実施形態によれば、マトリクスは、単層又は多層フォーマットで配置することができる。この柔軟性により、拡散の制限が排除され、マトリクスに接着した細胞に栄養素と酸素が均一に供給される。加えて、開放マトリクスには充填床構成の細胞捕捉領域が欠けており、培養終了時に高い生存率での完全な細胞回収が可能になる。該マトリクスはまた、充填床の充填の均一性ももたらし、プロセス開発ユニットから大規模な産業用バイオプロセスユニットまでの直接的な拡張を可能にする。充填床から細胞を直接回収する能力は、複雑さが増し、細胞に有害なせん断応力を与えうるであろう、撹拌した又は機械的に振動させた容器内でマトリクスを再懸濁する必要性を排除する。さらに、細胞培養マトリクスの高い充填密度により、産業規模で管理可能な量で高いバイオプロセス生産性が得られる。
【0050】
図3Aは、多層基材200を備えたマトリクスの実施形態を示しており、
図3Bは、同じ多層基材200の平面図である。多層基材200は第1のメッシュ基材層202と第2のメッシュ基材層204とを含む。第1の基材層202と第2の基材層204とが重なっているにもかかわらず、メッシュの形状(例えば、開口部直径の繊維直径に対する比)は、
図3Bのフィラメントのない開口部206によって示されるように、第1の基材層202と第2の基材層204の開口部が重なり合い、流体が多層基材200の全厚を通って流れる経路を提供するようなものである。
【0051】
図4は、
図3Bの線B-Bにおける多層基材200の断面図を示している。矢印208は、第2の基材層204の開口部を通過し、その後、第1の基材層202のフィラメントの周囲を通る、可能な流体流路を示している。メッシュ基材層の形状は、一又は複数の基材層を通る効率的かつ均一な流れを可能にするように設計される。さらには、マトリクス200の構造は、複数の配向でマトリクスを通る流体の流れに適応することができる。例えば、
図4に示されるように、バルク流体の流れの方向(矢印208で示される)は、第1の基材層202及び第2の基材層204の主側面に対して垂直である。しかしながら、マトリクスは、基材層の側面がバルクフロー方向と平行になるように、流れに対して配向することもできる。
図5は、
図4の線C-Cに沿った多層基材200の断面図を示しており、マトリクス200の構造は、多層基材200の流体経路を通る流体の流れ(矢印210)を可能にする。流体の流れがメッシュ層の第1の側及び第2の側に対して垂直又は平行であることに加えて、マトリクスは、複数の基材片を中間の角度で配置することができ、あるいは流体の流れに対してランダムに配置することもできる。この配向の柔軟性は、織られた基材の本質的に等方性の流れ挙動によって可能になる。対照的に、既存のバイオリアクターの接着細胞用の基材は、この挙動を示さず、その代わりに充填床が優先的な流路を生成し、異方性透過性を備えた基材材料を有する傾向がある。本開示のマトリクスの柔軟性により、バイオリアクター容器全体にわたるより良好かつより均一な透過性を可能にしつつ、さまざまな用途及びバイオリアクター又は容器の設計での使用が可能となる。
【0052】
本明細書に開示される細胞培養基材の改良された構造特性及び流動特性により、細胞及び細胞培養培地を充填床全体に容易かつ均一に分配することが可能である。しかしながら、これらの分散した細胞が細胞培養基材の表面に接着するのを助けるために、基材の表面を修飾することができる。上で論じたように、本開示の表面修飾された基材は、次を含みうる:(1)プラズマ堆積された正に帯電した分子を含む基材表面;(2)シランベースのアミンコーティング;及び、(3)光活性な正に帯電したポリマーコーティング。これら3つの表面修飾の実例を以下に説明するが、本開示の実施形態は以下の特定の例に限定されることを意図するものではない。
【0053】
正電荷分子のプラズマ堆積
本開示の幾つかの実施形態によれば、プラズマ堆積は、基材表面107上に正に帯電した分子を堆積するために用いられる。この方法は多くの利点を有する。プラズマ堆積ポリマーコーティングは、均一な厚さで堆積することができ、多くの基材材料によく接着する。また、適切なモノマー及び堆積条件を選択することにより、それらの表面特性を広範囲にわたって制御することができる。本開示の実施形態の一例では、
図1A~1Cの基材100と同様に、織りメッシュ細胞培養基材上に、次を含む1,3-ジアミノプロパンを使用して、正に帯電したポリマーフィルムを堆積させた:
【0054】
【0055】
図6A及び6Bは、コロイド金でコーティングされたPET織りメッシュ細胞培養基材を示しており、
図6Aの基材は染色前に表面処理がされておらず、
図6Bの基材は染色前に正に帯電した1,3-ジアミノプロパンプラズマポリマーでコーティングされていた。比較のために、トルイジンブルーO(TBO)で染色した未処理のPET織りメッシュ基材が
図6Cに示されており、負に帯電したアクリル酸プラズマポリマーでコーティングし、TBOで染色したPET織りメッシュ基材が
図6Dに示されている。染色は、かなりの量の電荷がメッシュ表面に導入されており、その電荷がメッシュ全体にわたり均一であることを示している。
【0056】
図6の処理したメッシュは、HEK293細胞を使用して、細胞の接着についても試験した。
図7A~7Dは、PETメッシュ基材表面でのHEK293細胞のカルセイン染色を使用した結果を示している。
図7Aは、未処理のメッシュ基材上の染色されたHEK293細胞を示しており、
図7Bは、動物由来のゼラチンでコーティングしたメッシュ基材上の染色されたHEK293細胞を示している。
図7Cは、正に帯電したコーティング上で良好な細胞接着が観察されたことを示しており、これは、
図7Bのゼラチンでコーティングされた表面(すなわち、動物由来の表面)で達成された接着と同等であった。しかしながら、
図7Dに示されるように、
図6Dの負に帯電した表面では最小限の接着が観察された。これは、正に帯電した表面処理が、HEK293細胞の接着にとってより有益であることを示唆している。同様のプラズマ重合を使用して、他のジアミン又はトリアミンを堆積させ、本開示のPETメッシュ表面及び他の細胞培養表面に正電荷を導入することができることが企図されている。
【0057】
プラズマ堆積された正に帯電した分子を包含する表面処理を使用した上記の実験では、細胞培養基材は、直径32mmのディスクへと切断されたPET織りメッシュ材料であった。プラズマ重合コーティングの結合を助けるために、200wで1分間、RFプラズマ(Plasma Etch PE-300)を使用してPETメッシュディスクを処理した。プラズマ重合中、1,3-ジアミノプロパンを正に帯電したモノマーとして使用し、アクリル酸を負に帯電したモノマーとして使用した。
【0058】
処理後の正電荷密度及び均一性を可視化するために、負に帯電したコロイド金(Fitzgerald社の55R-PRO500)を使用して、処理されたメッシュ試料を染色した。具体的には、処理したメッシュディスクを、穏やかに混合しつつ、6ウェルプレート内のコロイド金懸濁液に2時間浸漬した。次に、メッシュディスクを画像化する前に水ですすいだ。未処理のメッシュディスクを陰性対照として染色した。未処理のメッシュには顕著な染色はなかった(
図6A)。1,3-ジアミノプロパンプラズマポリマーで処理したメッシュは染色で均一に覆われており(
図6B)、メッシュ表面に正電荷が存在することが確認された。アクリル酸プラズマポリマーで処理したメッシュの負電荷密度及び均一性を視覚化するために、未処理ディスク及び処理済みディスクを、pH11緩衝液中、0.05%トルイジンブルーO(TBO)溶液に浸漬した。結合していない染料を除去するために、複数回、水ですすいだ。
図6Dは、アクリル酸プラズマポリマーでコーティングされたメッシュに顕著な染色があったことを示しており、これにより、大量の負電荷が示唆された。コーティングはメッシュ全体にわたっても均一であった。対照的に、
図6Cの未処理のPETメッシュでは顕著な染色は観察されなかった。
【0059】
細胞接着を試験するため、各メッシュディスクを6ウェル超低接着(ULA)プレートのウェルに入れた。未処理のメッシュディスク及びゼラチンでコーティングされたメッシュディスクを、細胞接着試験中にそれぞれ、陰性対照及び陽性対照として使用した。細胞を播種する前に、メッシュディスクを70%エタノールで消毒した。HEK293T細胞を100,000細胞/ウェルの濃度で播種した。ATCC1×DMEM+10%FBS+4mMのL-グルタミンを培地として使用した。24時間後、細胞接着を示すためにカルセイン染色を使用した。カルセイン染色の結果が
図7A~7Dに示されている。細胞は未処理のメッシュにはあまり接着しなかったが(
図7A)、ゼラチンでコーティングされたメッシュには良好な接着を示した(
図7B)。1,3-ジアミノプロパンプラズマポリマーでコーティングされたメッシュ上では、細胞はゼラチンでコーティングされたメッシュと同等に、非常によく接着した(
図7C)。アクリル酸プラズマポリマーでコーティングされたメッシュ上では(
図7D)、細胞接着は1,3-ジアミノプロパンプラズマポリマーでコーティングされたメッシュよりもはるかに低かった。
【0060】
シランベースのアミンコーティング
本開示の幾つかの実施形態によれば、基材表面107は、シランベースのアミンコーティングでコーティングされる。シランカップリング剤は、有機及び無機材料に対して耐久性のある結合を形成する能力を有する。実施形態では異なるシランベースのアミンコーティングが企図されているが、幾つかの実施形態で用いられる1つの分子の一例は、アミノプロピルシルセスキオキサン(APS)であり、その分子構造は次のとおりである:
【0061】
【0062】
本明細書で論じられる例示的な実施形態では、異なるAPS濃度のアミノプロピルシルセスキオキサン水溶液を使用して、プラズマ処理したPETメッシュ基材上のサイラノール基とヒドロキシル基を縮合させることにより、PETメッシュ細胞培養基材表面を処理した。負に帯電したコロイド金でメッシュを染色すると、表面に均一かつ正に帯電したコーティングが確認された(
図8B~8Dを参照)。コーティングされたメッシュもHEK細胞で試験し、ゼラチンでコーティングされた表面と同等の良好な細胞接着が実証された(
図9A及び9Bを参照)。
【0063】
APS処理した基材を使用した上記の染色及び細胞接着実験では、細胞培養基材は、プラズマ堆積コーティング実験で説明したように、直径32mmのディスクへと切断されたPET織りメッシュ材料であった。メッシュディスクはそのまま使用するか、又はPlasma Etch PE-300を使用して、50Wで2分間、RFプラズマで処理した。水溶液中、アミノプロピルシルセスキオキサン(APS)25% v/vは、Gerest社から購入した(www.gelest.com;CAS番号:29159-37-3)。溶液は、実験計画に応じて、そのまま使用するか、又は水でそれぞれ5%又は10% v/vに希釈して使用した。APS処理では、3つの織りメッシュディスクを、プラスチックのペトリ皿内の5mlのAPS溶液に入れた。メッシュディスクを30分間インキュベートし、次に試料を水で洗浄し、空気中で一晩乾燥させた。
【0064】
織りメッシュディスクの表面電荷を理解するために、処理したメッシュディスクを負に帯電したコロイド金(Fitgerald 55T-PRO550)で染色した。具体的には、メッシュディスクを6ウェルプレートの各ウェルに個別に置き、3mlのコロイド金懸濁液を各ウェルに加えた。染色のために、プレートを回転装置上に2時間置き、その後、水で洗浄し、染色を視覚化するために画像化した。処理したメッシュはすべて(
図8B~8D)、未処理のメッシュ(
図8A)と比較して顕著な染色を示した。5%、10%、及び25%のAPS溶液で処理したメッシュ試料間には有意な差はなかった。したがって、以下の細胞接着試験では、5%のAPS溶液で処理したメッシュディスク試料のみを使用した。さらに、以下の細胞接着実験において、新しいメッシュディスクを低濃度の0.5%APS溶液で処理した。
【0065】
細胞接着試験では、各メッシュディスクを6ウェルULAプレートのウェルに入れた。未処理のメッシュ及びゼラチンでコーティングしたメッシュも、細胞試験中に陰性対照及び陽性対照として使用した。細胞を播種する前に、メッシュディスクを70%エタノールで消毒した。HEK293T細胞を100,000細胞/ウェルの濃度で播種した。ATCC1×DMEM+10%FBS+4mMのL-グルタミンを培地として使用した。24時間後、細胞接着を示すためにカルセイン染色を使用した。
図9A及び9Bは、0.5%APS及び5%APS溶液で処理したメッシュディスク、とりわけ、5%のAPS溶液で処理したメッシュの細胞接着(0.5%APSで処理したメッシュディスクよりも若干多くの細胞接着を示す)が、ゼラチンでコーティングした表面の細胞接着(
図7Bを参照)と同等であったことを示している。
【0066】
光活性な正に帯電したポリマーコーティング
本開示の幾つかの実施形態によれば、基材表面107は、光活性な正に帯電したポリマーコーティングでコーティングされる。本開示の実施形態は、多くの異なる光活性ポリマーを使用して形成された正に帯電したコーティングを含みうることが企図されているが、本明細書で論じられる特定の例では、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]メタクリルアミドに基づく2つの光活性なアクリルアミドポリマーを光活性基として使用して、光活性な正に帯電したポリマーコーティングを評価した。以下の実施例で用いられるポリマーは、SurModics Inc.社からから入手可能な2つのポリマーを含みうる。1つ目は、アクリルアミド(A)とN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミド(B)とのランダム共重合体である、フォトアクリルアミド(PA04)である。ポリマーの残留組成は、-ABABBAAABABABAABBABBで表すことができる。2つ目は、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミド-メタクリルアミド(B)とアミノプロピル-メタクリルアミド(C)とのランダム共重合体である、フォトアミノアクリルアミド(AP02)である。ポリマーの残留組成は、-BCBCCBCCBBBCBCCBで表すことができる。これら2つのポリマー(PA04及びAP02)は、紫外(UV)光によって光活性基が活性化された後に、ポリマー表面にグラフト化することができる。
【0067】
上記光活性ポリマーを使用して正電荷コーティング及び細胞接着を試験するために、120mgのフォトアクリルアミド(PA04)を200mlのMilli-Q水に溶解して、0.6mg/mlのPA04ストック溶液を作製した。さらに、80mgのフォトアミノアクリルアミド(AP02)を200mlの1mM HCL溶液に溶解して、0.4mg/mlのAP02溶液を作製した。コーティング用の作業溶液は表2に従って調製した:
【0068】
【0069】
光活性ポリマー処理した基材を使用した染色及び細胞接着実験では、細胞培養基材は、上記の表面処理実験で説明したように、直径32mm のディスクへと切断されたPET織メッシュ材料であった。メッシュディスクはそのまま使用するか、又はRFプラズマ(Plasma Etch PE-300)で処理した。光活性ポリマーコーティングでは、ディスクを表2の上記3つの試料溶液の内の1つに浸漬し、225mW/cm2で160秒間、UV光(5000-EC Dymax)に曝露した。次に、ディスクを溶液から取り出し、Milli-Q水で3回すすいだ。
【0070】
光活性ポリマー溶液で処理されたメッシュディスクの表面電荷を理解するために、処理した表面を、負に帯電したコロイド金(Fitgerald 55T-PRO550)で染色した。具体的には、メッシュディスクを6ウェルプレートの各ウェルに個別に置き、各ウェルに3mlのコロイド金懸濁液を加えた。染色のために、プレートを回転装置上に2時間置き、その後、水で洗浄し、染色を視覚化するために画像化した。
図10Aは、コーティングされていない試料に生じた染色を示しており、
図10Bは、0.2mg/mlのAPO2を使用してコーティングした試料の染色を示しており、
図10Cは、0.1mg/mlのAP02を使用してコーティングした試料の染色を示しており、
図10Dは、0.01mg/mlのAPO2と0.135mg/mlのPAO4との混合物を使用した試料の染色を示している。処理したメッシュ試料はすべて(
図10B~10D)、未処理のメッシュ試料(
図10A)と比較して顕著な染色を示した。
図10B~10Dの3つの処理したメッシュ試料を比較すると、PA04と低濃度AP02との混合物でコーティングされたもの(
図10D)は、他の2つのコーティングされた試料(
図10B及び10C)と比較して、より低いレベルの染色を示した。
【0071】
細胞接着試験では、0.1mg/mlのAP02、又は0.01mg/mlのAP02と0.135mg/mlのPA04との混合物でコーティングされたメッシュ試料のみを評価した。各メッシュディスクを6ウェルULAプレートのウェルに入れた。未処理のメッシュディスク及びゼラチンでコーティングされたメッシュディスクを、細胞接着試験中に、それぞれ陰性対照及び陽性対照として使用した。細胞を播種する前に、メッシュディスクを70%エタノールで消毒した。HEK293T細胞を100,000細胞/ウェルの濃度で播種し、ATCC1×DMEM+10%FBS+4mMのL-グルタミンを培地として使用した。24時間後、メッシュディスク上での細胞の接着を示すために、カルセイン染色を使用した。
図11A及び11Bに示されるように、未処理の表面と比較して、両方の処理表面で細胞接着が改善された(
図7A参照)。しかしながら、PA04と低濃度のAP02との混合物で処理した表面は、
図11Bに示されるように、メッシュ上のより均一な細胞被覆によって表されるように、より良好な細胞接着を示し、一方、0.1mg/mlのAP02でコーティングされたメッシュディスクは、主に繊維の交点の領域で細胞の接着を示し、これはおそらく、混合コーティングの電荷分布が細胞の接着にとってより好ましい表面を作り出したためと考えられる。
【0072】
幾つかの実施形態によれば、類似の光活性基を使用する他のポリマーも、次のようなアクリレート、メタクリレート、ビニル、及びアクリルアミドを含むがこれらに限定されない、ポリマー細胞培養基材上にグラフトすることができることが企図されている:
【0073】
【0074】
さらなる実施形態では、細胞培養基材はポリカチオン性ポリマー(例えば、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミンなど)でコーティングされており、これは、プラズマ処理された(負に帯電した)細胞培養基材表面(例えば、PET表面)上に堆積及び吸着させることができ、あるいはそのままの表面又は未処理の表面上に堆積させることができる。
【0075】
本明細書で論じられるように、1つ以上の実施形態によれば、細胞培養基材は、バイオリアクター容器内で使用することができる。例えば、基材は、充填床バイオリアクター構成で、又は三次元培養チャンバ内の他の構成で使用することができる。しかしながら、実施形態は三次元培養空間に限定されず、基材は二次元培養表面構成とみなされるうるものにおいても使用することができることが企図されており、ここで、基材の1つ以上の層は、平底の培養皿内などに平らに置かれ、細胞の培養基材を提供する。汚染の懸念があることから、容器は使用後に廃棄することができる使い捨て容器とすることができる。
【0076】
1つ以上の実施形態によれば、細胞培養マトリクスがバイオリアクター容器の培養チャンバ内で用いられる、細胞培養システムが提供される。
図12は、バイオリアクター容器302の内部に細胞培養チャンバ304を有する、バイオリアクター容器302を含む細胞培養システム300の一例を示している。細胞培養チャンバ304内には、基材層308のスタックから作られた細胞培養マトリクス306がある。基材層308は、第1の側面又は第2の側面が、隣接する基材層の第1の側面又は第2の側面に面するように積層される。バイオリアクター容器300は、一端に培地、細胞、及び/又は栄養素を培養チャンバ304に投入するための入口310を有し、反対端に培養チャンバ304から培地、細胞、又は細胞産物を除去するための出口312を有する。この方法で基材層を積層可能にすることにより、画定された構造及び積層された基材を通る効率的な流体の流れに起因して、細胞の接着及び増殖に悪影響を与えることなく、システムを容易にスケールアップすることができる。容器300は、概して、入口310及び出口312を有するものとして説明されるが、幾つかの実施形態では、培地、細胞、又は他の内容物を培養チャンバ304に流入及び培養チャンバ304から流出させるために、入口310及び出口312の一方又は両方を使用することができる。例えば、入口310は、細胞播種、灌流、又は培養段階中に培地又は細胞を培養チャンバ304に流すために使用することができるが、回収段階で入口310を通じて培地、細胞、又は細胞産物のうちの1つ以上を取り出すために使用することもできる。したがって、「入口」及び「出口」という用語は、それらの開口部の機能を制限することを意図するものではない。
【0077】
1つ以上の実施形態では、充填床の流れ抵抗及び体積密度は、異なる幾何学形状の基材層を交互に配置することによって制御することができる。特に、メッシュのサイズ及び幾何学形状(例えば、繊維の直径、開口部の直径、及び/又は開口部の幾何学形状)は、充填床形式における流体の流れ抵抗を規定する。異なるサイズ及び幾何学形状のメッシュを間に配置することにより、バイオリアクターの1つ以上の特定の部分において流れ抵抗を制御又は変更することができる。これにより、充填床内の液体灌流の均一性を向上させることができる。例えば、10層のメッシュA(表1)に続いて10層のメッシュB(表1)、さらに10層のメッシュC(表1)を積み重ねて、所望の充填床特性を達成することができる。別の例として、充填床は、10層のメッシュBから始まり、次に50層のメッシュC、さらに10層のメッシュBが続きうる。このような繰り返しパターンは、バイオリアクター全体にメッシュが充填されるまで継続させてもよい。これらは単なる例であり、可能な組み合わせを制限することを意図するものではなく、説明の目的で使用されている。実際、異なるサイズのメッシュをさまざまに組み合わせて、細胞増殖表面の体積密度と流れ抵抗の異なるプロファイルを得ることが可能である。例えば、異なる体積細胞密度のゾーン(例えば、低/高/低/高などの密度のパターンを生成する一連のゾーン)を備えた充填床カラムは、異なるサイズのメッシュを交互に配置することによってアセンブリすることができる。
【0078】
図12では、バルク流方向は、入口310から出口312の方向になり、この例では、基材層308の第1及び第2の主面はバルク流方向に対して垂直である。対照的に、
図13に示される例は、システム320が培養空間324内にバルク流方向に平行な第1及び第2の側面を有するバイオリアクター容器322及び基材328のスタックを含む実施形態であり、これは、入口330から入り、出口332から出る流線によって示される方向に対応する。したがって、本開示の実施形態のマトリクスは、いずれの構成においても採用することができる。システム300及び320の各々において、基材308、328は、培養チャンバ304、324によって画定される内部空間を満たすようにサイズ調整及び形状化され、その結果、各容器内の培養空間が細胞増殖表面で満たされて、単位容積当たりの細胞の観点から効率を最大化する。
図13は、複数の入口330及び複数の出口332を示しているが、システム320は単一の入口によって供給され、単一の出口を有してもよいことが企図されている。しかしながら、本明細書のさまざまな実施形態によれば、分配プレートは、充填床の断面全体にわたり培地、細胞、又は栄養素を分配するのに役立てるために使用することができ、したがって充填床を通る流体の流れの均一性を向上させることができる。したがって、複数の入口330は、より均一な流れを生成するために、分配プレートに充填床の断面にわたって複数の穴をどのように設けることができるかを表している。
【0079】
図14は、基材が円筒状のロール350へと形成されるマトリクスの実施形態を示している。例えば、メッシュ基材352を含むマトリクス材料のシートは、中心長手方向軸yを中心に円筒形に巻かれる。円筒状のロール350は、中心長手方向軸yに垂直な寸法に沿って幅Wを有し、中心長手方向軸yに平行な方向に沿って高さHを有する。1つ以上の好ましい実施形態では、円筒状のロール350は、中心長手方向軸yが、円筒状のロールを収容するバイオリアクター又は培養チャンバを通る流体のバルク流方向Fと平行になるように、バイオリアクター容器内にあるように設計される。
図15は、このような円筒状のロール構成で細胞培養マトリクス364を収容するバイオリアクター容器362を有する細胞培養システム360を示している。
図14の円筒状のロール350と同様に、細胞培養マトリクス364は、
図15では、紙面内へと延びる中心長手方向軸を有する。システム360は、その周囲に細胞培養マトリクス364が位置する中央支持部材366をさらに含む。中央支持部材366は、純粋に細胞培養マトリクス364の物理的支持及び/又は位置合わせのために設けることができるが、幾つかの実施形態によれば、他の機能を設けることもできる。例えば、中央支持部材366には、細胞培養マトリクス364に培地をマトリクスの長さHに沿って供給するための1つ以上の開口部を設けることができる。他の実施形態では、中央支持部材366は、円筒状のロールの内側部分で細胞培養マトリクス364の1つ以上の部分を保持するための1つ以上の取り付け部位を含んでいてもよい。これらの取り付け部位は、フック、クラスプ、ポスト、クランプ、又はメッシュシートを中央支持部材366に取り付ける他の手段であってもよい。
【0080】
図16Aは、1つ以上の実施形態による細胞培養システム400を示している。システム400は、本明細書に開示される1つ以上の実施形態の細胞培養マトリクスを収容するバイオリアクター402を含む。バイオリアクター402は、培地調整容器404に流体接続することができ、システムは、調整容器404内の細胞培養培地406をバイオリアクター402に供給することができる。培地調整容器404は、懸濁バッチ、流加培養、又は灌流培養のためのバイオプロセス産業で用いられる典型的なバイオリアクターに見られるセンサ及び制御部品を含むことができる。これらには、DO酸素センサ、pHセンサ、酸素供給器/ガス散布ユニット、温度プローブ、並びに栄養素添加ポート及び塩基添加ポートが含まれるが、これらに限定されない。散布ユニットに供給されるガス混合物は、N
2、O
2、及びCO
2ガス用のガス流量コントローラによって制御することができる。培地調整容器404はまた、培地を混合するためのインペラも含む。上に挙げたセンサによって測定されるすべての培地パラメータは、培地調整容器404と通信する培地調整制御ユニット418によって制御することができ、細胞培養培地406の状態を測定及び/又は所望のレベルに調整することが可能である。
図16Aに示されるように、培地調整容器404は、バイオリアクター容器402とは別個の容器として提供される。これは、細胞が培養される場所とは別に培地を調整し、次いで調整された培地を細胞培養空間に供給することができるという点で利点を有しうる。しかしながら、幾つかの実施形態では、培地調整はバイオリアクター容器402内で行うことができる。
【0081】
培地調整容器404からの培地406は、細胞を播種して培養を開始するための細胞接種材料の注入ポートも含みうる、入口408を介してバイオリアクター402へと送給される。バイオリアクター容器402はまた、そこを通じて細胞培養培地406が容器402から出る、1つ以上の出口410も含みうる。加えて、細胞又は細胞産物は出口410を通じて出力されうる。バイオリアクター402からの流出物の内容を分析するために、ラインに1つ以上のセンサ412を設けることができる。幾つかの実施形態では、システム400は、バイオリアクター402への流れを制御するための流量制御ユニット414を含む。例えば、流量制御ユニット414は、1つ以上のセンサ412(例えば、O2センサ)から信号を受信し、その信号に基づいて、バイオリアクター402への入口408の上流にあるポンプ416(例えば、蠕動ポンプ)に信号を送信することによって、バイオリアクター402への流れを調整することができる。したがって、センサ412によって測定された要因の1つ又は組合せに基づいて、ポンプ416は、所望の細胞培養条件を得るために、バイオリアクター402への流れを制御することができる。
【0082】
培地灌流速度は、培地調整容器404及び充填床バイオリアクター出口410に位置したセンサからのセンサ信号を収集して比較する、信号処理ユニット414によって制御される。充填床バイオリアクター402を通る培地灌流の充填流の性質により、栄養素、pH、及び酸素の勾配が充填床に沿って発生する。バイオリアクターの灌流流量は、
図17Aのフローチャートに従って、蠕動ポンプ416に動作可能に接続された流量制御ユニット414によって自動的に制御することができる。
【0083】
本開示の1つ以上の実施形態は、従来の方法とは異なる細胞接種ステップを提供する。従来の方法では、従来のマトリクスを備えた充填床が培地で満たされ、濃縮された接種材料が培地循環ループに注入される。細胞懸濁液は、従来の充填床マトリクス上での捕捉による細胞播種の不均一性を軽減するために、増加した流量でバイオリアクターを通ってポンピングされる。このような従来の方法では、細胞の大部分が充填床バイオリアクターに捕捉されるまで、高い流量での循環ループ内の細胞のポンピングがおそらく数時間継続される。しかしながら、従来の充填床バイオリアクターの不均一な深層濾過の性質に起因して、細胞は充填床内に不均一に分布しており、バイオリアクターの入口領域では細胞密度が高く、バイオリアクターの出口領域では細胞密度が低くなる。
【0084】
対照的に、本開示の実施形態によれば、バイオリアクター内の培養チャンバの空隙容積と等しい体積の細胞接種材料が、バイオリアクター402の入口408にある細胞接種材料注入ポートを通じて充填床に直接注入される(
図16A)。次いで、本明細書に記載される細胞培養マトリクス中に存在する均一かつ連続的な流体通路により、細胞懸濁液は充填床内に均一に分布する。播種の初期段階での重力に起因する細胞の沈降を防ぐために、接種材料の注入後すぐに培地の灌流を開始することができる。重力のバランスをとり、充填床バイオリアクターから細胞が洗い流されるのを回避するために、灌流流量は事前にプログラムされた閾値未満に維持される。したがって、初期の細胞接着段階では、細胞は充填床内で穏やかに転がり、均一な細胞の分布と利用可能な基材表面への接着が達成される。
【0085】
図16Bは、1つ以上の実施形態による細胞培養システム420のより詳細な概略図を示している。システム420の基本構造は、
図16Aのシステム400と同様であり、PET織りメッシュなどの細胞培養材料の充填床を含む容器を有する充填床バイオリアクター422と、別個の培地調整容器424とを備えている。しかしながら、システム400とは対照的に、システム420は、センサ、ユーザインターフェース及び制御装置、並びに培地及び細胞のためのさまざまな入口及び出口を含む、システムの詳細を示している。幾つかの実施形態によれば、培地調整容器424は、適切な温度、pH、O
2、及び栄養素を提供するためにコントローラ426によって制御される。幾つかの実施形態では、バイオリアクター422はコントローラ426によって制御することもできるが、他の実施形態では、バイオリアクター422は、別個の潅流回路428内に設けられ、バイオリアクター422の出口又はその近くでのO
2の検出に基づいて、ポンプを使用して、潅流回路428を通る培地の流量を制御する。
【0086】
図16A及び16Bのシステムは、1つ以上の実施形態によるプロセスステップに従って動作させることができる。
図17Aに示されるように、これらのプロセスステップは、プロセスの準備(S1)、細胞の播種及び接着(S2a、S2b)、細胞の増殖(S3)、トランスフェクション(S4a、S4b)、ウイルスベクターの産生(S5a、S5b)、及び回収(S6a、S6b)を含みうる。
【0087】
図17Bは、
図16A又は16Bのシステム400などの灌流バイオリアクターシステムの流れを制御するための方法450の一例を示している。方法450によれば、システム400のある特定のパラメータは、バイオリアクター最適化の実施を通じてステップS21において事前に決定される。これらの最適化の実施から、pH
1、pO
1、[グルコース]
1、pH
2、pO
2、[グルコース]
2、及び最大流量の値を決定することができる。pH
1、pO
1、及び[グルコース]
1の値は、ステップS22においてバイオリアクター402の細胞培養チャンバ内で測定され、pH
2、pO
2、及び[グルコース]
2は、ステップS23においてバイオリアクター容器402の出口でセンサ412によって測定される。S22及びS23におけるこれらの値に基づいて、灌流ポンプ制御ユニットは、S24において、灌流流量を維持又は調整するための決定を行う。例えば、pH
2≧pH
2min、pO
2≧pO
2min、及び[グルコース]
2≧[グルコース]
2minのうちの少なくとも1つである場合、細胞培養チャンバへの細胞培養培地の灌流流量は、現在の速度で継続されうる(S25)。現在の流量が細胞培養システムの所定の最大流量以下である場合には、灌流流量を増加させる(S27)。さらには、現在の流量が細胞培養システムの所定の最大流量以下でない場合、細胞培養システムのコントローラは、次のうちの少なくとも1つを再評価することができる:(1)pH
2min、pO
2min、及び[グルコース]
2min;(2)pH
1、pO
1、及び[グルコース]
1;並びに、(3)バイオリアクター容器の高さ(S26)。
【0088】
細胞培養マトリクスは、所望のシステムに応じて、培養チャンバ内で複数の構成で配置することができる。例えば、1つ以上の実施形態では、システムは、培養チャンバ内の画定された細胞培養空間の幅を横切って延びる幅を有する、基材の1つ以上の層を含む。このように基材の複数の層を所定の高さまで積層することができる。上で論じたように、基材の層は、1つ以上の層の第1及び第2の側面が、培養チャンバ内の画定された培養空間を通る培地のバルク流方向に対して垂直になるように配置することができ、あるいは1つ以上の層の第1及び第2の側面がバルク流方向に対して平行であってもよい。1つ以上の実施形態では、細胞培養マトリクスは、バルク流に対して第1の配向にある1つ以上の基材層と、第1の配向とは異なる第2の配向にある1つ以上の他の層とを含む。例えば、さまざまな層は、バルク流方向に対して平行又は垂直であるか、あるいはその間の何らかの角度をなす、第1及び第2の側面を有しうる。
【0089】
1つ以上の実施形態では、細胞培養システムは、充填床構成の複数の個別の細胞培養基材片を含み、この基材片の長さ及び/又は幅は培養チャンバに比べて小さい。本明細書で用いられる場合、基材片の長さ及び/又は幅が培養空間の長さ及び/又は幅の約50%以下であるとき、基材片は、培養チャンバに比べて小さい長さ及び/又は幅を有すると見なされる。したがって、細胞培養システムは、所望の配置で培養空間に充填された複数の基材片を含みうる。基材片の配置は、ランダム又はセミランダムであってもよいし、あるいは、基材片が実質的に同様の配向(例えば、水平、垂直、又はバルク流方向に対して0°から90°の間の角度)で配向されるなど、所定の順序又は配列を有していてもよい。
【0090】
本明細書で用いられる「画定された培養空間」とは、細胞培養マトリクスによって占有され、細胞播種及び/又は培養が行われる、培養チャンバ内の空間を指す。画定された培養空間は、培養チャンバのほぼ全体を満たすことができ、あるいは培養チャンバ内の空間の一部を占有してもよい。本明細書で用いられる場合、「バルク流方向」は、細胞の培養中及び/又は培養チャンバへの培地の流入又は流出中の、細胞培養マトリクスを通る、又は細胞培養マトリクスの上の、流体又は培地のバルク質量流の方向として定義される。
【0091】
1つ以上の実施形態では、細胞培養マトリクスは、固定機構によって培養チャンバ内に固定される。固定機構は、細胞培養マトリクスの一部を、該マトリクスを取り囲む培養チャンバの壁、又は培養チャンバの一端のチャンバ壁に固定することができる。幾つかの実施形態では、固定機構は、細胞培養マトリクスの一部を、培養チャンバを通る部材、例えば、培養チャンバの長手方向軸に平行に走る部材、又は長手方向軸に垂直に走る部材に接着する。しかしながら、1つ以上の他の実施形態では、細胞培養マトリクスは、チャンバ又はバイオリアクター容器の壁に固定的に取り付けられることなく、培養チャンバ内に含まれていてもよい。例えば、マトリクスは、該マトリクスがそれらの境界又は構造部材にしっかりと固定されることなく、バイオリアクター容器の所定の領域内に保持されるように、培養チャンバの境界又はチャンバ内の他の構造部材によって収容されてもよい。
【0092】
幾つかの実施形態の一態様は、ローラーボトル構成のバイオリアクター容器を提供する。培養チャンバは、本開示に記載される1つ以上の実施形態による細胞培養マトリクス及び基材を収容することができる。ローラーボトル構成では、バイオリアクター容器は、該バイオリアクター容器を容器の中心長手方向軸の周りを移動させるための手段に動作可能に取り付けられうる。例えば、バイオリアクター容器は、中心長手方向軸の周りを回転することができる。回転は、連続的(例えば、一方向に継続する)であっても、不連続的(例えば、単一方向又は交互方向に断続的に回転する、あるいは前後の回転方向に振動する)であってもよい。動作中、バイオリアクター容器の回転が、チャンバ内の細胞及び/又は流体を移動させる。この動きは、チャンバの壁に対して相対的であると見なすことができる。例えば、バイオリアクター容器がその中心長手方向軸の周りを回転すると、重力により、流体、培地、及び/又は未接着細胞がチャンバの下部に向かって残る可能性がある。しかしながら、1つ以上の実施形態では、細胞培養マトリクスは本質的に容器に対して固定されているため、容器とともに回転する。1つ以上の他の実施形態では、細胞培養マトリクスは取り付けられておらず、容器が回転すると、容器に対して所望の程度まで自由に移動することができる。細胞は細胞培養マトリクスに接着することができるが、容器の移動により、細胞は培養チャンバ内の細胞培養培地又は液体、及び酸素又は他のガスの両方に曝露されうる。
【0093】
本開示の実施形態による細胞培養マトリクス、例えば織物又はメッシュ基材を含むマトリクスなどを使用することにより、ローラーボトル容器には、接着細胞が接着、増殖、及び機能するために利用可能な表面積の増加がもたらされる。特に、ローラーボトル内にモノフィラメントポリマー材料の織りメッシュの基材を使用すると、表面積は、標準的なローラーボトルの約2.4から約4.8倍、又は約10倍増加しうる。本明細書で論じられるように、メッシュ基材の各モノフィラメントストランドは、それ自体が、接着細胞が接着するための2D表面として存在することができる。加えて、多層のメッシュをローラーボトルに配置することができ、利用可能な総表面積が標準的なローラーボトルの約2から20倍の範囲に増加する。したがって、細胞播種、培地交換、及び細胞回収を含む既存のローラーボトル設備及び処理は、本明細書に開示される改良型細胞培養マトリクスの追加によって、既存の動作インフラストラクチャ及び処理ステップへの影響を最小限に抑えつつ、変更することができる。
【0094】
バイオリアクター容器は、任意選択的に、入口及び/又は出口手段に取り付けることができる1つ以上の出口を含む。1つ以上の出口を通じて、液体、培地、又は細胞をチャンバに供給したり、チャンバから取り出したりすることができる。容器内の単一のポートが入口と出口の両方として機能してもよく、あるいは専用の入口及び出口として複数のポートが設けられてもよい。
【0095】
1つ以上の実施形態の充填床細胞培養マトリクスは、該細胞培養マトリクス内に配置又は散在した任意の他の形態の細胞培養基材なしに、織られた細胞培養メッシュ基材から構成されうる。すなわち、本開示の実施形態の織られた細胞培養メッシュ基材は、既存の解決策で用いられる不規則な不織基材のタイプを必要としない、有効な細胞培養基材である。これにより、流れの均一性、回収可能性などに関連して本明細書で論じられる他の利点を備えた高密度細胞培養基材を提供しつつ、簡素化された設計及び構造の細胞培養システムが可能になる。
【0096】
本開示の実施形態は、バッチあたり約1014超のウイルスゲノム、バッチあたり約1015超のウイルスゲノム、バッチあたり約1016超のウイルスゲノム、バッチあたり約1017超のウイルスゲノム、又はバッチあたり最大約1016又はそれより多くのウイルスゲノムの規模で、ウイルスゲノムを産生することができる実用的なサイズのウイルスベクタープラットフォームを実現することができる。幾つかの実施形態では、産生は、バッチあたり、約1015から約1018又はそれより多くのウイルスゲノムである。例えば、幾つかの実施形態では、ウイルスゲノム収量は、バッチあたり約1015から約1016のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1016から約1019のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1016~1018のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1017から約1019のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1018から約1019のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1018以上のウイルスゲノムでありうる。
【0097】
加えて、本明細書に開示される実施形態は、細胞培養基材への細胞の接着及び増殖だけでなく、培養細胞の生存可能な回収も可能にする。生細胞を回収できないことは、現在のプラットフォームの重大な欠点であり、生産能力に十分な数の細胞を構築及び維持することが困難になる。本開示の実施形態の一態様によれば、80%から100%が生存、又は約85%から約99%が生存、又は約90%から約99%が生存を含め、細胞培養基材から生細胞を回収することができる。例えば、回収される細胞のうち、少なくとも80%が生存、少なくとも85%が生存、少なくとも90%が生存、少なくとも91%が生存、少なくとも92%が生存、少なくとも93%が生存、少なくとも94%が生存、少なくとも95%が生存、少なくとも96%が生存、少なくとも97%が生存、少なくとも98%が生存、又は少なくとも99%が生存する。細胞は、例えばトリプシン、TrypLE、又はAccutaseを使用して細胞培養基材から放出されうる。
【0098】
本明細書で論じられるように、細胞培養基材及びバイオリアクターシステムは、多くの利点を提供した。例えば、本開示の実施形態は、AAV(全血清型)及びレンチウイルスなどの多数のウイルスベクターのいずれかの産生を支援することができ、インビボ及びエクスビボの遺伝子治療用途に適用することができる。均一な細胞播種及び分布により、容器あたりのウイルスベクター収量が最大化され、生細胞の回収が可能な設計となっており、同じプラットフォームを使用する複数の増殖期間からなるシードトレインに有用である。加えて、本明細書の実施形態は、プロセス開発規模から生産規模まで拡張可能であり、最終的には開発時間とコストを節約する。本明細書に開示される方法及びシステムはまた、細胞培養プロセスの自動化及び制御を可能にして、ベクター収量を最大化し、再現性を向上させる。最後に、ウイルスベクターの生産レベルの規模(例えば、バッチあたり1016から1018のAAV VG)に達するために必要な容器の数は、他の細胞培養溶液と比較して大幅に削減することができる。
【0099】
実施形態は、中心長手方向軸の周りの容器の回転に限定されない。例えば、容器は、該容器に対して中心に位置しない軸の周りを回転してもよい。加えて、回転軸は水平軸でも垂直軸でもよい。
【実施例】
【0100】
本開示の細胞培養マトリクス、細胞培養システム、及び関連方法の有効性を実証するために、以下の実施例に従って、細胞の播種及び培養に関する研究を行った。
【0101】
本明細書に開示される実施形態は、細胞培養及びウイルスベクター産生のための既存のプラットフォームに優る利点を有する。本開示の実施形態は、例えば、接着細胞又は半接着細胞、トランスフェクトされた細胞を含むヒト胎児腎臓(HEK)細胞(HEK23など)、レンチウイルス(幹細胞、CAR-T)及びアデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターを含めた、多くの種類の細胞及び細胞副産物の産生に使用することができることに留意されたい。これらは、本明細書に開示されるバイオリアクター又は細胞培養基材の幾つかの一般的な用途の例であるが、当業者であれば他の用途への実施形態の適用可能性を理解するように、開示される実施形態の使用又は用途を限定することを意図するものではない。
【0102】
実施例1
表3は、本開示の幾つかの例となる細胞培養基材の実施形態によるPETメッシュ試料の例を示している。
【0103】
【0104】
例示的な実装形態
以下は、開示された主題の実装形態のさまざまな態様の説明である。各態様は、開示された主題のさまざまな特徴、特性、又は利点のうちの1つ以上を含みうる。実装形態は、開示された主題の幾つかの態様を説明することを意図しており、すべての可能な実装形態の包括的又は網羅的な説明と見なされるべきではない。
【0105】
態様1は、繊維の規則的配列と繊維間に配置された細孔とを含む基材格子であって、繊維の規則的配列が細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するように構成された細胞培養表面を含む、基材格子;及び、細胞培養表面上に配置された正電荷コーティングであって、細胞培養表面への細胞の接着を促進するように構成される、正電荷コーティングを含む、細胞培養基材に関する。
【0106】
態様2は、正電荷コーティングがポリマーコーティングである、態様1に記載の細胞培養基材に関する。
【0107】
態様3は、正電荷コーティングが、プラズマ堆積コーティング、シランベースのアミンコーティング、及び光活性ポリマーコーティングからなる群より選択される、態様1又は態様2に記載の細胞培養基材に関する。
【0108】
態様4は、正電荷コーティングがプラズマ堆積コーティングを含み、該プラズマ堆積コーティングがジアミン又はトリアミンを含む、態様3に記載の細胞培養基材に関する。
【0109】
態様5は、正電荷コーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、態様4に記載の細胞培養基材に関する。
【0110】
態様6は、正電荷コーティングがシランベースのアミンコーティングを含み、該シランベースのアミンコーティングがアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、態様3に記載の細胞培養基材に関する。
【0111】
態様7は、シランベースのアミンコーティングが、0.5%から25%のAPS v/vの水を含むAPS溶液の凝縮物である、態様6に記載の細胞培養基材に関する。
【0112】
態様8は、正電荷コーティングが光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、態様3に記載の細胞培養基材に関する。
【0113】
態様9は、正電荷コーティングが光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングがN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドを含む、態様3又は態様8に記載の細胞培養基材に関する。
【0114】
態様10は、光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体を含む、態様9に記載の細胞培養基材に関する。
【0115】
態様11は、光活性ポリマーが、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体を含む、態様9に記載の細胞培養基材に関する。
【0116】
態様12は、光活性ポリマーが、紫外(UV)光への光活性ポリマーの曝露を介して細胞培養表面にグラフトされる、態様8から11のいずれかに記載の細胞培養基材に関する。
【0117】
態様13は、正電荷コーティングがポリカチオン性ポリマーを含む、態様1又は態様2に記載の細胞培養基材に関する。
【0118】
態様14は、正電荷コーティングが、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミンのうちの少なくとも一方を含む、態様13に記載の細胞培養基材に関する。
【0119】
態様15は、基材格子が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、態様1から14のいずれかに記載の細胞培養基材に関する。
【0120】
態様16は、基材格子が、成形ポリマー格子シート、3D印刷された格子シート、及び織りメッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、態様1から15のいずれかに記載の細胞培養基材に関する。
【0121】
態様17は、繊維の規則的配列の各繊維が、約50μmから約1000μm、約50μmから約600μm、約50μmから約400μm、約100μmから約325μm、又は約150μmから約275μmの繊維直径を含む、態様1から16のいずれかに記載の細胞培養基材に関する。
【0122】
態様18は、細孔が、約100μmから約1000μm、約200μmから約900μm、又は約225μmから約800μmの細孔直径を含む、態様1から17のいずれかに記載の細胞培養基材に関する。
【0123】
態様19は、細孔が、基材格子全体にわたり規則的パターンで配列される、態様1から18のいずれかに記載の細胞培養基材に関する。
【0124】
態様20は、細胞培養用の充填床バイオリアクターシステムに関し、該システムは、培地入口、培地出口、及び培地入口と培地出口との間に配置され、それらと流体連結した内部空洞を含む容器;充填床構成において培地入口と培地出口との間の内部空洞に配置された細胞培養基材であって、積層配置での複数の多孔性ディスクを含み、複数の多孔性ディスクの各々がその上で細胞を培養するように構成された表面を含む、細胞培養基材;並びに、複数の多孔性ディスクの各々の表面に配置された正電荷コーティングであって、ディスクの表面への細胞の接着を促進するように構成される、正電荷コーティングを含む。
【0125】
態様21は、正電荷コーティングがポリマーコーティングである、態様20に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0126】
態様22は、正電荷コーティングが、プラズマ堆積コーティング、シランベースのアミンコーティング、及び光活性ポリマーコーティングからなる群より選択される、態様20又は態様21に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0127】
態様23は、正電荷コーティングがプラズマ堆積コーティングを含み、該プラズマ堆積コーティングがジアミン又はトリアミンを含む、態様22に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0128】
態様24は、正電荷コーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、態様23に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0129】
態様25は、正電荷コーティングがシランベースのアミンコーティングを含み、該シランベースのアミンコーティングがアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、態様22に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0130】
態様26は、正電荷コーティングが光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、態様22に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0131】
態様27は、正電荷コーティングが光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングがN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドを含む、態様22又は態様26に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0132】
態様28は、光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体を含む、態様27に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0133】
態様29は、光活性ポリマーが、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体を含む、態様27に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0134】
態様30は、光活性ポリマーが、紫外(UV)光への光活性ポリマーの曝露を介して表面にグラフトされる、態様26から29のいずれかに記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0135】
態様31は、正電荷コーティングがポリカチオン性ポリマーを含む、態様20又は態様21に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0136】
態様32は、正電荷コーティングが、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミンのうちの少なくとも一方を含む、態様31に記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0137】
態様33は、基材格子が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、態様20から32のいずれかに記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0138】
態様34は、複数の多孔性ディスクが、成形ポリマー格子シート、3D印刷された格子シート、及び織りメッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、態様20から33のいずれかに記載の充填床バイオリアクターシステムに関する。
【0139】
態様35は、細胞培養基材の製造方法に関し、該方法は、格子の接続部材間に配置された細孔の規則的配列を含む基材格子を提供するステップであって、接続部材が、細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するように構成された細胞培養表面を含む、ステップ;基材格子の細胞培養表面にポリマーコーティングを堆積するステップであって、ポリマーコーティングが正味の正電荷を有する、ステップを含む。
【0140】
態様36は、ポリマーコーティングの堆積が、プラズマを使用して基材格子を処理することを含む、態様35に記載の方法に関する。
【0141】
態様37は、ポリマーコーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、態様36に記載の方法に関する。
【0142】
態様38は、ポリマーコーティングが、シランベースのアミンコーティングを含む、態様35に記載の方法に関する。
【0143】
態様39は、シランベースのアミンコーティングが、アミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、態様38に記載の方法に関する。
【0144】
態様40は、ポリマーコーティングが光活性ポリマーコーティングを含む、態様35に記載の方法に関する。
【0145】
態様41は、光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、態様40に記載の方法に関する。
【0146】
態様42は、光活性ポリマーコーティングが、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミド、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体、及びN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体のうちの少なくとも一方を含む、態様41に記載の方法に関する。
【0147】
態様43は、ポリマーコーティングの堆積が、(1)ポリマーコーティングで基材格子を噴霧コーティングすること、及び(2)ポリマーコーティングの構成成分を含む溶液に基材格子を浸漬することのうちの少なくとも一方を含む、態様38から42のいずれかに記載の方法に関する。
【0148】
定義
「全合成」又は「完全合成」とは、完全に合成原料から構成され、動物由来又は動物起源の材料を欠いている、マイクロキャリア又は培養容器の表面などの細胞培養物品を指す。本開示の全合成された細胞培養物品は、異種汚染のリスクを排除する。
【0149】
「含む(Include,includes)」、又は同様の用語は、網羅的であるが限定的ではない、すなわち包括的であって排他的ではないことを意味する。
【0150】
「ユーザ」とは、本明細書に開示されているシステム、方法、物品、又はキットを使用する人々を指し、細胞又は細胞産物を採取するために細胞を培養している人々、又は本明細書の実施形態従って培養及び/又は採取された細胞又は細胞産物を使用している人々を含む。
【0151】
本開示の実施形態を説明する際に採用される、例えば、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流量、圧力、粘度などの値、及びそれらの範囲、又は構成要素の寸法及び同様の値並びにそれらの範囲を変更する「約」は、例えば、材料、組成物、複合材料、濃縮物、構成部品、製造品、又は使用製剤の調製に使用される一般的な測定及び取り扱い手順を通じて;これらの手順における不注意によるエラーを通じて;方法を実行するために使用される出発材料又は原料の製造、供給源、又は純度の違いを通じて;及び、同様の考慮事項を通じて発生する可能性のある数量の変動を指す。「約」という用語は、特定の初期濃度又は混合物を伴う組成物又は製剤の劣化に起因して異なる量、及び特定の初期濃度又は混合物を伴う組成物又は製剤の混合又は加工に起因して異なる量も包含する。
【0152】
「任意選択の」又は「任意選択的に」とは、その後に記載される事象又状況が発生してもしなくてもよいこと、及び、その記載が、当該事象又状況が発生する場合と発生しない場合を含むことを意味する。
【0153】
本明細書で用いられる不定冠詞「a」又は「an」及びその対応する定冠詞「the」は、別段の指定がない限り、少なくとも1つ又は1つ以上を意味する。
【0154】
当業者によく知られている略語が用いられることがある(例えば、時間を「h」又は「hrs」、グラムを「g」又は「gm」、ミリリットルを「mL」、 室温を「rt」、ナノメートルを「nm」、及び同様の略語)。
【0155】
成分、原料、添加剤、寸法、条件、及び同様の特徴、並びにそれらの範囲について開示されている特定の好ましい値は、例示のみを目的としており、他の定義された値又は定義された範囲内の他の値を除外しない。本開示のシステム、キット、及び方法は、本明細書に記載されるいずれかの値、特定の値、さらに具体的な値、及び好ましい値のうちの任意の値又は任意の組合せを含みうる。
【0156】
特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の方法は、その工程が特定の順序で実行されることを必要とすると解釈されることは、決して意図していない。したがって、方法クレームがその工程が従うべき順序を実際に列挙していないか、又は工程が特定の順序に限定されるべきであることが特許請求の範囲又は明細書に具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序も、推測されることは、決して意図していない。
【0157】
開示される実施形態の精神又は範囲から逸脱することなく、さまざまな修正及び変更を加えることができることは、当業者にとって明白であろう。実施形態の精神及び本質を組み込んだ開示された実施形態の修正、組合せ、部分組合せ、及び変形が当業者に想起されうることから、本開示の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内のあらゆるものを含むと解釈されるべきである。
【0158】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0159】
実施形態1
細胞培養基材において、
繊維の規則的配列と前記繊維間に配置された細孔とを含む基材格子であって、前記繊維の規則的配列が細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するように構成された細胞培養表面を含む、基材格子、及び
前記細胞培養表面上に配置された正電荷コーティングであって、前記細胞培養表面への細胞の接着を促進するように構成される、正電荷コーティング
を含む、細胞培養基材。
【0160】
実施形態2
前記正電荷コーティングがポリマーコーティングである、実施形態1に記載の細胞培養基材。
【0161】
実施形態3
前記正電荷コーティングが、プラズマ堆積コーティング、シランベースのアミンコーティング、及び光活性ポリマーコーティングからなる群より選択される、実施形態1又は実施形態2に記載の細胞培養基材。
【0162】
実施形態4
前記正電荷コーティングが、前記プラズマ堆積コーティングを含み、該プラズマ堆積コーティングがジアミン又はトリアミンを含む、実施形態3に記載の細胞培養基材。
【0163】
実施形態5
前記正電荷コーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、実施形態4に記載の細胞培養基材。
【0164】
実施形態6
前記正電荷コーティングが、前記シランベースのアミンコーティングを含み、該シランベースのアミンコーティングがアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、実施形態3に記載の細胞培養基材。
【0165】
実施形態7
前記シランベースのアミンコーティングが、0.5%から25%のAPS v/vの水を含むAPS溶液の凝縮物である、実施形態6に記載の細胞培養基材。
【0166】
実施形態8
前記正電荷コーティングが、前記光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態3に記載の細胞培養基材。
【0167】
実施形態9
前記正電荷コーティングが、前記光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングがN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドを含む、実施形態3又は実施形態8に記載の細胞培養基材。
【0168】
実施形態10
前記光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体を含む、実施形態9に記載の細胞培養基材。
【0169】
実施形態11
前記光活性ポリマーが、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体を含む、実施形態9に記載の細胞培養基材。
【0170】
実施形態12
前記光活性ポリマーが、紫外(UV)光への前記光活性ポリマーの曝露を介して前記細胞培養表面にグラフトされる、実施形態8から11のいずれかに記載の細胞培養基材。
【0171】
実施形態13
前記正電荷コーティングがポリカチオン性ポリマーを含む、実施形態1又は実施形態2に記載の細胞培養基材。
【0172】
実施形態14
前記正電荷コーティングが、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミンのうちの少なくとも1つを含む、実施形態13に記載の細胞培養基材。
【0173】
実施形態15
前記基材格子が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1から14のいずれかに記載の細胞培養基材。
【0174】
実施形態16
前記基材格子が、成形ポリマー格子シート、3D印刷された格子シート、及び織りメッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、実施形態1から15のいずれかに記載の細胞培養基材。
【0175】
実施形態17
前記繊維の規則的配列の各繊維が、約50μmから約1000μm、約50μmから約600μm、約50μmから約400μm、約100μmから約325μm、又は約150μmから約275μmの繊維直径を含む、実施形態1から16のいずれかに記載の細胞培養基材。
【0176】
実施形態18
前記細孔が、約100μmから約1000μm、約200μmから約900μm、又は約225μmから約800μmの細孔直径を含む、実施形態1から17のいずれかに記載の細胞培養基材。
【0177】
実施形態19
前記細孔が、前記基材格子全体にわたり規則的パターンで配列される、実施形態1から18のいずれかに記載の細胞培養基材。
【0178】
実施形態20
細胞培養用の充填床バイオリアクターシステムにおいて、該システムが、
培地入口、培地出口、及び前記培地入口と培地出口との間に配置され、それらと流体連結した内部空洞を含む容器、
充填床構成で前記培地入口と前記培地出口との間の前記内部空洞に配置された細胞培養基材であって、積層配置で複数の多孔性ディスクを含み、前記複数の多孔性ディスクの各々がその上で細胞を培養するように構成された表面を含む、細胞培養基材、並びに
前記複数の多孔性ディスクの各々の前記表面に配置された正電荷コーティングであって、前記ディスクの前記表面への細胞の接着を促進するように構成される、正電荷コーティング
を含む、システム。
【0179】
実施形態21
前記正電荷コーティングがポリマーコーティングである、実施形態20に記載のシステム。
【0180】
実施形態22
前記正電荷コーティングが、プラズマ堆積コーティング、シランベースのアミンコーティング、及び光活性ポリマーコーティングからなる群より選択される、実施形態20又は実施形態21に記載のシステム。
【0181】
実施形態23
前記正電荷コーティングが前記プラズマ堆積コーティングを含み、該プラズマ堆積コーティングがジアミン又はトリアミンを含む、実施形態22に記載のシステム。
【0182】
実施形態24
前記正電荷コーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、実施形態23に記載のシステム。
【0183】
実施形態25
前記正電荷コーティングが前記シランベースのアミンコーティングを含み、該シランベースのアミンコーティングがアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、実施形態22に記載のシステム。
【0184】
実施形態26
前記正電荷コーティングが前記光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態22に記載のシステム。
【0185】
実施形態27
27. 前記正電荷コーティングが前記光活性ポリマーコーティングを含み、該光活性ポリマーコーティングがN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドを含む、実施形態22又は実施形態26に記載のシステム。
【0186】
実施形態28
前記光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体を含む、実施形態27に記載のシステム。
【0187】
実施形態29
前記光活性ポリマーが、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体を含む、実施形態27に記載のシステム。
【0188】
実施形態30
前記光活性ポリマーが、紫外(UV)光への前記光活性ポリマーの曝露を介して前記表面にグラフトされる、実施形態26から29のいずれかに記載のシステム。
【0189】
実施形態31
前記正電荷コーティングがポリカチオン性ポリマーを含む、実施形態20又は実施形態21に記載のシステム。
【0190】
実施形態32
前記正電荷コーティングが、ポリエチレンイミン及びポリアリルアミンのうちの少なくとも1つを含む、実施形態31に記載のシステム。
【0191】
実施形態33
前記基材格子が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態20から32のいずれかに記載のシステム。
【0192】
実施形態34
複数の多孔性ディスクが、成形ポリマー格子シート、3D印刷された格子シート、及び織りメッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、実施形態20から33のいずれかに記載のシステム。
【0193】
実施形態35
細胞培養基材の製造方法において、該方法が、
前記格子の接続部材間に配置された細孔の規則的配列を含む基材格子を提供するステップであって、前記接続部材が細胞培養中に接着細胞又は半接着細胞を支持するように構成された細胞培養表面を含む、ステップ、
前記基材格子の前記細胞培養表面にポリマーコーティングを堆積するステップであって、前記ポリマーコーティングが正味の正電荷を有する、ステップ
を含む、方法。
【0194】
実施形態36
前記ポリマーコーティングの前記堆積が、プラズマを使用して前記基材格子を処理することを含む、実施形態35に記載の方法。
【0195】
実施形態37
前記ポリマーコーティングが1,3-ジアミノプロパンを含む、実施形態36に記載の方法。
【0196】
実施形態38
前記ポリマーコーティングがシランベースのアミンコーティングを含む、実施形態35に記載の方法。
【0197】
実施形態39
前記シランベースのアミンコーティングがアミノプロピルシルセスキオキサン(APS)を含む、実施形態38に記載の方法。
【0198】
実施形態40
前記ポリマーコーティングが光活性ポリマーコーティングを含む、実施形態35に記載の方法。
【0199】
実施形態41
前記光活性ポリマーコーティングが、アクリルアミド、メタクリルアミド、及びアミノプロピル-メタクリルアミドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態40に記載の方法。
【0200】
実施形態42
前記光活性ポリマーコーティングが、N-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミド、アクリルアミドとN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとの共重合体、及びN-[3(4-ベンゾイルベンズアミド)プロピル]-メタクリルアミドとアミノプロピル-メタクリルアミドとの共重合体のうちの少なくとも一方を含む、実施形態41に記載の方法。
【0201】
実施形態43
前記ポリマーコーティングの前記堆積が、(1)前記ポリマーコーティングで前記基材格子を噴霧コーティングすること、及び(2)前記ポリマーコーティングの構成成分を含む溶液に前記基材格子を浸漬することのうちの少なくとも一方を含む、実施形態38から42のいずれかに記載の方法。
【符号の説明】
【0202】
100 細胞培養基材
102 第1の複数の繊維
104 第2の複数の繊維
106 複数の開口部
107 基材表面
108 織りメッシュの第1の側
110 織りメッシュの第2の側
200 多層基材
202 第1のメッシュ基材層
204 第2のメッシュ基材層
206 開口部
300 細胞培養システム
302 バイオリアクター容器
304 細胞培養チャンバ
306 細胞培養マトリクス
308 基材層
310 入口
312 出口
320 システム
322 バイオリアクター容器
324 培養空間
328 基材
330 入口
332 出口
350 円筒状のロール
352 メッシュ基材
360 システム
362 バイオリアクター容器
364 細胞培養マトリクス
366 中央支持部材
400 細胞培養システム
402 バイオリアクター
404 培地調整容器
406 細胞培養培地
408 入口
410 出口
412 センサ
414 流量制御ユニット
416 ポンプ
418 培地調整制御ユニット
【国際調査報告】