(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】プラズマアシスト電極触媒変換
(51)【国際特許分類】
C25B 3/26 20210101AFI20231018BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20231018BHJP
C25B 11/075 20210101ALI20231018BHJP
C01C 1/04 20060101ALI20231018BHJP
C01B 32/40 20170101ALI20231018BHJP
B01J 23/72 20060101ALI20231018BHJP
B01J 23/755 20060101ALI20231018BHJP
C25B 1/27 20210101ALN20231018BHJP
C25B 11/054 20210101ALN20231018BHJP
【FI】
C25B3/26
C25B11/077
C25B11/075
C01C1/04 E
C01B32/40
B01J23/72 M
B01J23/755 M
C25B1/27
C25B11/054
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521608
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-06-07
(86)【国際出願番号】 AU2021051172
(87)【国際公開番号】W WO2022073071
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506093452
【氏名又は名称】ニューサウス イノベーションズ ピーティーワイ リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】519238934
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロベル,エマ
(72)【発明者】
【氏名】アマル,ローズ
(72)【発明者】
【氏名】ダイアン,ラーマン
(72)【発明者】
【氏名】ジャリーリー,ルホラー
(72)【発明者】
【氏名】クレン,パトリック ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マソード,ハサン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ジン
(72)【発明者】
【氏名】アラン,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ティアンキ
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,レンウ
【テーマコード(参考)】
4G146
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G146JA01
4G146JB04
4G146JC01
4G146JC17
4G146JC22
4G146JC34
4G169AA02
4G169BC31B
4G169BC68B
4G169CB81
4G169CB82
4G169DA05
4G169EA08
4G169EA09
4G169FB58
4K011AA29
4K011AA40
4K011BA12
4K011DA11
4K021AB25
4K021BA02
4K021BA03
4K021BA04
4K021BA05
4K021BB02
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【要約】
ガス状化合物、例えば窒素又は二酸化炭素を還元する方法であって、プラズマを形成するためにガス状化合物をプラズマ形成条件に供する工程と、前記プラズマを水又は電解液とプラズマ-水又は電解液-水界面で接触させる工程であって、それによって溶解したプラズマ由来種を提供する、前記接触させる工程と、及び還元化合物を提供するために前記溶解したプラズマ由来種を電極触媒的に還元する工程と、を含む、方法。プラズマは、例えば、筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、カラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドの構成で、グロー放電と火花放電の組み合わせによって生成され得る。遷移金属のような触媒を、有利にはナノ構造触媒の形態で添加してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状化合物を還元する方法であって、
プラズマを形成するために前記ガス状化合物をプラズマ形成条件に供する工程と、
前記プラズマを、プラズマ-水又は電解液-水界面で水又は電解液と接触させる工程であって、それによって、溶解したプラズマ由来種を提供する、前記接触させる工程と、及び
還元化合物を提供するために、前記溶解したプラズマ由来種を電極触媒的に還元する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記ガス状化合物が、酸素含有化合物である、又は酸素と混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガス状化合物が、二酸化炭素である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ガス状化合物が、酸素と混合された窒素である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記プラズマが、筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドの構成で、グロー放電と火花放電との組み合わせによって生成され得る、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラズマ-水又は電解液-水界面が、前記水又は電解液中のガスの気泡の界面にある、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ガス状化合物が、制御された湿度で提供される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水又は電解液が、制御された温度で提供される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水又は電解液が、制御されたpHで提供される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電極触媒による還元が、酸性、中性、又はアルカリ性のいずれかのpHで行われる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記電極触媒による還元が、高温(25℃~90℃)で生じる、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記溶解したプラズマ種が、電極触媒的還元の前にリザーバーに貯蔵される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記リザーバー内の前記溶液が、電極触媒による還元の前に、pH及び導電率を調整するために投与される、上述に記載の方法。
【請求項14】
窒素含有ガスを還元してアンモニアを生産する方法であって、前記方法は、
窒素含有プラズマを形成するために前記窒素含有ガスをプラズマ形成条件に供する工程と、
前記窒素含有プラズマを、プラズマ-水又は電解液-水界面で水又は電解液と接触させる工程であって、それによって溶解したNO
X種を提供する、前記接触させる工程と、及
び
アンモニアを供給するために、前記NO
Xを電極触媒的に還元する工程と、を含む、方法。
【請求項15】
前記窒素含有ガスが、N
2である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記窒素含有ガスが、さらに酸素を含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記窒素:酸素の比が、1:99~99:1wt:wtの間である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記窒素含有ガスが、空気である、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記プラズマが、グロー放電と火花放電との組み合わせによって生成され、又はプラズマが、ピン放電によって生成される、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記プラズマ-水又は電解液水界面が、前記水又は電解液中のガスの気泡の界面にある、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記ガス状化合物が、0~100%の相対湿度で提供される、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記水又は電解液の温度が、20~80℃である、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記電解液が、水性H
2SO
4又はHClである、請求項14~21のいずれか一項に記載された方法。
【請求項24】
前記電解液が、水性KOH又はNaOHである、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記電解液が、水性KCl又はNaClである、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記電解液が、純水である、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記溶解したNO
X種が、NO
2
-又はNO
3
-である、請求項14~21までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記溶解したNO
X種が、触媒還元前にリザーバーに貯蔵される、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記電極触媒による還元が、遷移金属触媒又は遷移金属酸化物触媒によって促進される、先の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記遷移金属が、銅、ニッケル、鉄、錫、ビスマス、コバルト、チタンのうちの1つ以上である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記遷移金属触媒が、フォイル、フォーム、ナノ構造触媒、ナノ粒子触媒、又は単一原子金属の形態である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記遷移金属触媒が、火花放電及び/又はグロー放電の領域に隣接する領域の反応システムに配置される、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法であって
【請求項33】
炭素含有ガスを還元する方法であって、
炭素プラズマを形成するために前記炭素含有ガスをプラズマ形成条件に供する工程と、
前記炭素プラズマをプラズマ-水又は電解液-水界面で水又は電解液と接触させる工程であって、それによって溶解したCO
X種を提供する、前記接触させる工程と、及び
CO、合成ガス、又はギ酸から選択される1つ以上の還元化合物を提供するために前記CO
X種を電極触媒的に還元する工程と、を含む、方法。
【請求項34】
前記炭素含有ガスが、i)酸素含有種、又はii)O
2をさらに含むものである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記炭素含有ガスが、二酸化炭素である、請求項33又は請求項34に記載の方法。
【請求項36】
ガスを還元するための装置であって、
i)反応容器内の液面上又は液面下に位置するグロー/火花プラズマ放電(筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッド)へガスを供給する供給ラインと、
ii)使用時に反応容器内の液体中に気泡を生成するように構成されるハウジングを有する、前記筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドと、及び
iii)溶解したプラズマ種を前記反応容器から電極触媒還元チャンバーに輸送するための供給ラインと、を含む、装置。
【請求項37】
ガスを還元するための装置であって、
i)反応容器内の液面上又は液面下に位置するグロー/火花プラズマ放電(筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッド)へガスを供給する供給ラインと、
ii)使用時に反応容器内の液体中に気泡を生成するように構成されるハウジングを有する、前記筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドと、
iii)溶解したプラズマ反応生成物を前記反応容器からリザーバーに輸送するための流体ラインと、及び
iv)溶解したプラズマ種を前記リザーバーから電極触媒還元チャンバーに輸送するための供給ラインと、を含む、装置。
【請求項38】
遷移金属触媒をナノワイヤーの形状で含む触媒。
【請求項39】
前記ナノワイヤーが、遷移金属フォームに担持される、請求項38に記載の触媒。
【請求項40】
前記触媒が、銅フォームに担持された銅ナノワイヤーである、請求項38又は39に記載の触媒。
【請求項41】
プラズマバブルカラムの前記グロー放電領域内に金属酸化物触媒(ナノ粒子又はモノリス)が充填され、プラズマと触媒の相乗作用によりNO
X種の生成速度を高める、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーンで再生可能な資源を経由してアンモニアなどの還元種を生産するための新しいハイブリッド技術に関するものである。この技術は、プラズマアシストによるガスの活性化と、関連するプラズマ種の電極触媒的対話の結合に基づくものである。また、本発明は、このシステムで使用するのに適した装置及び触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中の窒素(N2)をアンモニア(NH3)に変換することは、多くの生態系や産業プロセスにとって不可欠である。現在、細菌と一部の植物だけが、窒素固定プロセスにより、周囲環境条件で空気や水からアンモニアを合成できる。
【0003】
アンモニアは現在、非常に貴重なグローバル商品であり、近い将来、製造だけでなく、エネルギー生産と貯蔵においても重要な役割を果たすと可能性が高いようである。
【0004】
世界では、毎年約600億ドル相当のアンモニアが生産され、主に肥料の形態で利用される。現在、人間の体内にある窒素の少なくとも半分は、合成アンモニア工場から供給されると推定される。最近、アンモニアは水素経済圏の水素キャリアとして注目が高まってきている。アンモニアは液体水素の約2倍のエネルギーを蓄え、輸出用に輸送及び流通させることが容易である。このように、世界のアンモニア市場は、今後数年間で拡大する大きな可能性を有している。
【0005】
商業的には、アンモニアの生産は第一次世界大戦後、基本的に変わっていない。ハーバーボッシュ法は20世紀初頭に開発され、非常によく知られている。この変換は、通常、高圧(150~250気圧)と高温(400~500℃)で生じる。代替的に、このプロセスでは、比較的高純度の水素(メタンの水蒸気改質)と窒素(空気分離)の供給が必要である。このため、このプロセスは大量のエネルギーを消費し、小規模で非局在的なアンモニア生産とは根本的に相性が悪く、また断続的で拡散性のある再生可能エネルギーに対応することができない。
【0006】
近年、電極触媒を用いた窒素還元反応(eNRR)によるアンモニア生産に注目が高まってきている。電極触媒NRRは、ハーバーボッシュプロセスと比較して、温和な条件(周囲環境温度及び周囲環境圧力)で動作すること、再生可能エネルギーと基本的に互換性があること、非局在的な生産及び流通に適していること、水素供給(水/電解液から得られる水素を有する)が不要であることなどの素晴らしい利点を有する。
【0007】
このような利点があるにもかかわらず、電極触媒を用いたNRRは、アンモニアの収率が低く、低い加電圧で高いファラデー効率を達成することが困難であるため、依然として大きな障害となっている。具体的には、N2が非常に反応しにくい性質であること、水への溶解度が低いことから、eNRRの使用には本質的に制限される。さらに、水素発生は通常eNRRよりも低い加電圧で起こるため、eNRRは水素発生反応(HER)との競合によって阻害される。その結果、eNRRは、アンモニア生産率が低い(通常10-9~10-10mol cm-2 s-1)ため信頼性の高い検出が困難であること、また、一部の例外を除いてファラデー効率が1%より下と非常に低いことが大きな障害となったままである。
【0008】
これまでのところ、電極触媒的に達成された最高収率は~5μg/cm2/h程度であり、将来的なスケーラビリティの可能性について疑問視されている。
【0009】
eNRRの限界を克服する有望なアプローチは、N2をより反応性の高い中間体へ変換することである。そんな中、eNRRよりも高いレートと電流密度を実現するために、リチウム酸化還元中間体NRRが最近注目されてきている。しかしながら、Li-NRRは最低3Vという大きな加電圧を持つため、このプロセスは本質的にエネルギー集約的である。さらに、システムの安定性、超乾燥及び無酸素の有機溶媒の必要性とアノードでの分解、高圧(~50bar)と水素供給、及びリチウム金属の必要性も、この経路のさらなる欠点である。
【0010】
亜硝酸塩と硝酸塩(それぞれNO3
-とNO2
-)は、混在すると集約的にNOXと呼ばれることもあるが、溶解性が高く、N2よりもアンモニアに還元されやすく、すでに知られている化学的な利点がある。このように、N2変換の限界を克服するための中間体としてNOXを生成し利用することは、これらの限界に対する新しい解決策を提示するものである。しかしながら、産業において、亜硝酸塩や硝酸塩はアンモニアからオストワルドプロセスで製造されるため、アンモニア生産の前駆体として直接使用することは現実的ではない。追加的に、硝酸塩/亜硝酸塩は水中での安定性が低いため、直接生産してその場で利用することが必須である。その結果、アンモニアを生産するためにすぐに消費されるNOXの生産は、産業上極めて重要な意味を持つ。
【0011】
(窒素などの)不活性分子を有価物に変換するための電極触媒的アプローチが数多く試みられているが、変換率や選択性の両方の観点から大きな支障をきたしている。特に、これらの分子の溶解性や活性化により、従来の電極触媒では変換や応用に限界がある。
【0012】
先行技術では、プラズマを用いた方法が試みられてきたが、プラズマは必ず無酸素状態で生成され、つまり、先行技術では、乾燥窒素又は窒素とヘリウムなどのガスと組み合わせて使用することよって、NOX種の生成を避けようとしてきた。ヘリウムを使用すると、窒素と酸素の混合物に比べて低い電位で高エネルギー電子を得られるように、NOX発生の可能性がなくなるだけでなく、プラズマのエネルギー特性も変化する。
【0013】
本発明の目的は、先行技術の欠点の少なくとも1つを克服若しくは改善し、又は有用な代替手段を提供することである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ガスと液体(水又は電解液)の界面でのプラズマ形成により、空気の形態でもよい、入力供給ガス、特に窒素を活性化するハイブリッドプラズマ電極触媒システムである。活性化されたNOXは、その後、液中に溶解し、電極触媒的にアンモニアに変換される。
【0015】
広い態様において、本発明は、以下の工程:
ガス状化合物をプラズマの形成が可能な条件下に供する工程と、
前記プラズマを、プラズマ-水又は電解液-水界面で水又は電解液と接触させる工程であって、それによって、溶解したプラズマ由来種を提供する、前記接触させる工程と、及び
還元化合物を提供するために、前記溶解したプラズマ由来種を電極触媒的に還元する工程と、を含む、ガス状化合物を還元する方法を提供する。
【0016】
ガス状化合物は窒素を含むもの(例えば空気)であってもよく、その場合、還元化合物はアンモニアである。代替的に、ガス状化合物は、酸素含有化合物、例えば、二酸化炭素(還元化合物として一酸化炭素やギ酸塩等を生成する場合がある)又は酸素と混合した化
合物である。
【0017】
好ましくは、プラズマはグロー放電と火花放電の組み合わせによって生成されるが、グロー放電又は火花放電のいずれかを単独で実行可能に利用することも可能である。プラズマ電極の実施形態は、筐体なし、ノズル筐体付き、及びバブルカラム筐体付きピン-トゥ-リキッドである。後者は、水又は電解液中のガスの気泡の界面にプラズマ-水界面又は電解液水界面を設けることができるため好ましい。好ましくは、一方又は両方のプラズマ電極が誘電体バリアで覆われる。一実施形態において、高電圧電極を部分的に覆い、グロー放電と火花放電の組み合わせを提供する。好ましくは、接地電極は高電圧電極と同様のデザインで、液中に配置される。他の構成において、誘電体バリアで接地と液体を分離する。
【0018】
好ましくは、水中プラズマバブルを示す構成において、気泡の液中滞留時間がラッシグリングによって促進される。
【0019】
好ましくは、プラズマバブルカラム内のグロー放電領域は、ナノ粒子又はモノリスの形態の金属酸化物で充填され、ボイド率及びベッド高さが調整可能である。
【0020】
好ましくは、ガス状化合物は、制御された湿度において提供される。また、水又は電解液が温度制御された状態で提供されると好ましい。また、水又は電解液は、制御されたpH(アルカリ性と酸性の両方)で提供されることが好ましい。ガス湿度、水温、及びpHは、それぞれ乾燥剤/バブラー、加熱/冷却剤及び緩衝剤のような当技術分野における従来の方法によって制御することができる。
【0021】
プラズマ活性化及び電気分解は、pH0からpH14までの任意のpH範囲(すなわち、例えば、1M H+溶液と1M OH-溶液との間のpHの範囲)で実施することができる。
【0022】
好ましくは、電極触媒による還元は、遷移金属触媒によって促進される。特に好適な遷移金属は、銅、ニッケル、錫、ビスマス、コバルト、チタン又は鉄、若しくは前記遷移金属の酸化物、及びそれらの混合物である。
【0023】
好ましくは、遷移金属触媒は、フォイル、フォーム、ナノ構造触媒、ナノ粒子触媒、又はドープ炭素触媒上の単一原子の金属の形態である。好ましい態様では、触媒は、ナノワイヤーを担持する金属フォームのような、堆積物(特にナノデポジット)を有するフォームの形態である。非常に好ましくは、銅フォーム上に薄いナノワイヤーを均一に分散させた形態の銅触媒である。最も好ましくは、触媒は、例えば、表面欠陥を有する銅ナノワイヤーを担持する銅フォームのような、ナノワイヤーを支持する金属フォームの形態である。
【0024】
本明細書で定義する「ナノ構造」という用語は、ナノスケール、すなわち0.1nm~1000nmの間、好ましくは0.1nm~500nmの間に少なくとも1つの寸法を有する特徴を有する構造体を指す。
【0025】
本明細書で定義する「ナノワイヤー」という用語は、ナノスケールの直径、すなわち0.1nm~1000nm、好ましくは0.1nm~500nmの直径を有する細長いワイヤーを指す。好ましくは、ナノワイヤーはまた、100以上又はさらに1000以上の程度の高い長さ-幅比を有する。
【0026】
触媒は、存在する場合、火花放電及び/又はグロー放電の領域に隣接する領域の反応系
に配置されることが好ましい。
【0027】
好ましくは、溶解したプラズマ種は、分離することなく減少させる。一実施形態において、プラズマが生成される容器内で溶解したプラズマ種を減少させる。代替実施形態では、溶解したプラズマ種は、電極触媒還元前にリザーバーに貯蔵される。
【0028】
好ましい態様において、本発明は、窒素ガスを還元してアンモニアを生産する方法を提供し、前記方法は、以下の工程:
窒素含有プラズマを形成するために、前記窒素含有ガスをプラズマ形成条件に供する工程と、
前記窒素含有プラズマを、プラズマ-水又は電解液-水の界面で水又は電解液と接触させる工程であって、溶解したNOX種を提供する、前記接触させる工程と、
これらの溶解した種をリザーバーに貯蔵し、導電率とpHを変化させる可能性のある投与を行い、及びアンモニアを提供するために電極触媒的に前記NOXを還元する工程と、を含む。
【0029】
窒素含有ガスは、純窒素又は実質的に純窒素であってもよいし、他の種と混在していてもよい。好適には、窒素含有ガスは、さらに酸素を含む。
【0030】
窒素:酸素の比率は、1:99~99:1wt:wtの間の任意の比率であってもよい。ある特定の態様において、窒素含有ガスは空気である。
【0031】
好ましくは、プラズマは、グロー放電と火花放電の組み合わせによって生成される。プラズマ電極の構成は、筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドであり得る。最も好ましくは、プラズマは、グロー放電と火花放電の組み合わせによって生成される。
【0032】
好ましくは、プラズマ-水又は電解液水界面は、水又は電解液中のガスの気泡の界面にある。
【0033】
ガス状化合物は、任意の相対湿度(すなわち、0~100%)で提供されてもよい。窒素の還元を実施するようないくつかの実施形態において、乾燥ガスが好ましい場合がある。いくつかの実施形態において、ガス状化合物は、20~80%の相対湿度において提供される。好ましくは、水又は電解液の温度は、20~80℃の間である。
【0034】
ある好ましい実施形態では、電解液は水性H2SO4又はHClである。また、その他の酸性電解液も使用されてもよい。他の好ましい実施形態では、電極は、水酸化物塩、例えば、KOH又はNaOHの水溶液のような塩基性種である。さらに他の好ましい実施形態では、電解液は純水又は水性塩溶液(例えば、例えば、KCl又はNaClなど)である。
【0035】
好ましくは、溶解したNOX種は、NO2
-又はNO3
-、あるいは少なくともNO2
-及びNO3
-の両方を含む混合物である。
【0036】
一実施形態において、溶解したNOX種は、電極触媒還元の前に、生成容器からリザーバーに移動される。別の実施形態において、溶解したNOX種は、それらが生成された容器内で電極触媒的に還元される。
【0037】
代替的な態様において、本発明は、以下の工程:
活性化種を形成するために、前記炭酸ガスをプラズマ形成条件に供する工程と、
プラズマ-水又は電解液-水界面で活性化された種を水又は電解液と接触させる工程であって、それによって種の溶解を促進する、前記接触させる工程と、及び
CO、合成ガス、又はギ酸から選択される1つ以上の還元化合物を提供するために、前記溶解した種を電極触媒的に還元する工程と、を含む、炭酸ガスを還元する方法を提供する。
【0038】
ガス状化合物は、酸素源を含む。炭素が酸素に結合しているCO2の場合、又は酸素源が還元種と混合されたガスの形態であるか、又はプラズマ形成ガス流に共添加されており、例えば、窒素ガスが還元されている場合のような還元種に共有結合しているいくつかの実施形態において、酸素は、所定の制御量でプラズマ形成供給に添加されるか、プラズマへの供給ガスは空気であってもよい。
【0039】
別の態様において、本発明は、
i)反応容器内の液面上又は液面下に位置するグロー/火花プラズマ放電(筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッド)へガスを供給する供給ラインと、
ii)使用時に反応容器内の液体中に気泡を生成するように構成されるハウジングを有する、前記筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドと、及び
iii)溶解したプラズマ種を前記反応容器から電極触媒還元チャンバーに輸送するための供給ラインと、を含む、ガスを還元するための装置を提供する。
【0040】
さらに別の態様では、本発明は、
i)反応容器内の液面上又は液面下に位置するグロー/火花プラズマ放電(筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッド)へガスを供給する供給ラインと、
ii)使用時に反応容器内の液体中に気泡を生成するように構成されるハウジングを有する、前記筐体なしピン-トゥ-リキッド、ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、又はカラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドと、
iii)溶解したプラズマ反応生成物を前記反応容器からリザーバーに輸送するための流体ラインと、及び
iv)溶解したプラズマ種を前記リザーバーから電極触媒還元チャンバーに輸送するための供給ラインと、を含むガスを還元するための装置を提供する。
【0041】
また、本発明は、遷移金属触媒をナノワイヤーの形態で含む触媒を提供する。好ましくは、ナノワイヤーは、遷移金属フォームに担持される。最も好ましくは、触媒は、銅フォームに担持された銅ナノワイヤーである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、(a)筐体なしピン-トゥ-リキッド、(b)ノズル筐体付きピン-トゥ-リキッド、及び(c)カラムバブラー筐体付きピン-トゥ-リキッドを含む、プラズマ駆動ガス活性化の異なる構成を示す概略図を示す。
【
図2】
図2は、ピン-イン-ノズルの設計における、NO
Xの総生産量に対する電圧及び周波数の影響を示す。
【
図3】
図3は、プラズマリアクター設計及び膨れ上がったエネルギー効率を示す。(A)プラズマバブルカラムリアクター設計構成を表す概略図を用いたエネルギー効率及びNO
X生産率である。単一リアクターグロー放電(SRGD)、単一リアクター火花放電(SRSD)、単一リアクターグロー火花放電、二重リアクターグロー火花放電(DRGSD)、及びラッシグリング付きDRGSDである。ラッシグリング付き二重リアクターグロー火花放電の組み合わせを示す(B)写真及び(C)概略図であり、(D)プラズマバブルを表す写真、(E)及び(F)それぞれグロー及び火花放電についての光学発光スペクトル(OES)を示す。
【
図4】
図4は、類似のNO
X濃度を有する塩溶液と比較した、プラズマ活性化水(PAW)についてのアンモニアの生産率及び対応するファラデー効率を示す。
【
図5】
図5は、小規模で生産率及びファラデー効率を増加させるための電気化学的最適化を示す。(A)溶液中のプラズマ放電を示すデジタル写真である。(B)空気及び水のプラズマ活性化を概説する概略図であり、H-セルにおけるアンモニアの電気化学的合成の中間体として電解液中に溶解したNO
Xを生成する。(C-D)調製されたままのCu-NW触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)である。(E)Cu-NW及びバックグラウンド電解液(10mM H
2SO
4)の線形掃引ボルタンメトリー(5mV.s
-1の走査速度)である。(F)Cu-NW電極に対する印加電位の関数としてのファラデー効率及びNH
3生産率である。セルに接続されたGCを介して水素は検出されなかったことに留意されたい。(G)Cu-NWを用いた-0.5V対RHEの2.5時間の電気分解中のNO
3
-、NO
2
-、及びアンモニウムの時間依存濃度である。注:全ての試験は、iR補正なしで、1cm×1cmの電極及びプラズマ活性化電解液を使用して、カスタム設計されたH-セルにおいて実施された。
【
図6】
図6は、両方ともプラズマバブラーを使用する、(a)H-セル統合及び(b)フローセルシステムを示すプラズマ電極触媒NRRシステムの概略図を示す。
【
図7】
図7は、高いエネルギー効率と収率のためのフロースルーハイブリッドシステムの最適化を示す。(A)NO
Xをアンモニアに変換するためのフロースルー電解槽に通じる液体出口を有するプラズマバブラーを備えるフロースルーシステムの概略図である。(B)文献における他のNRRシステム(eNRR)、Li中間体NRR、及びプラズマアシストNRRについて報告されたアンモニア生産率及びエネルギー消費が示されている。本発明のハイブリッドシステムのデータを比較のために示す。(C)30mA/cm
2で8時間にわたるアンモニア合成のセル電位及びファラデー効率である。(D)セル電圧の関数としてのNH
3生産率と電流密度である。
【
図8】
図8は、プラズマバブルカラムリアクター設計構成の写真を示す。(A)単一リアクターグロー放電(SRGD)、(B)単一リアクター火花放電(SRSD)、(C)単一リアクターグロー火花放電(SRGSD)、(D)二重リアクターグロー火花放電(DRGSD)、及び(E)ラッシグリング付きDRGSDである。各写真の下に概略図を示す。
【
図9】
図9は、火花及びグロー相において、及び水界面において、生成された種を示す。
【
図10】
図10は、異なる重量濃度の酸化グラフェンバインダーを有するTiO
27050触媒を使用することによるプラズマ触媒反応NO
X合成速度を示す。
【
図11】
図11は、電極のCu2pのXPSを示す。(a)Cuフォーム、(b)CuO NW、(c)Cu NW(電気還元後)、及び(d)Cu NW(反応に使用後)である。
【
図12】
図12は、電極触媒試験のA)前、及びB)後、のCu-NW電極のN1のXPSを示す。
【
図13】
図13は、100mlの水を含むH-セル中のプラズマ生成NO
3
-及びNO
2
-の時間依存性濃度を示す。
【
図14】
図14は、硫酸を使用して電解液のpHを調整することによる電解液の最適化を示す。(A)-0.5V対RHEで15分間、触媒としてCuフォイル(1cm×1cm)を使用して、異なる硫酸濃度におけるアンモニア生産率及び対応するファラデー効率である。(B)種々の濃度の硫酸を含む電解液の代表的な線形掃引ボルタンメトリー(LSV、0Vから-1)である。電解液中に酸が存在しない場合、0.5M Na
2SO
4を添加して、導電率を調整した。
【
図15】
図15は、亜硝酸塩及び硝酸塩の電位の研究を示す。(A)-0.2Vから-0.6Vの異なる電位下で、アンモニア生産率及び1mM NaNO
2溶液の対応するFEであり、(B)-0.2Vから-0.6Vの異なる電位下で、アンモニア生産率及び1mM KNO
3溶液のFEである。
【
図16】
図16は、0Vから-0.8Vでの1mM NaNO
2及び1mM KNO
3溶液のLSV曲線(5mV.s
-1の走査速度)を示す。
【
図17】
図17は、速度及びFEを増加させるためのNO
X(亜硝酸塩及び硝酸塩)濃度研究を示す。-0.5V対RHE下で15分間、NaNO
2及びKNO
3溶液の異なる濃度におけるアンモニア生産率と対応するFEである。
【
図18】
図18は、印加電位の関数としてのアンモニア生産率を示す。
【
図19】
図19は、(A)PAW電解液中の異なる多孔度を有する銅触媒(Cuフォイル、Cuフォーム、及びCu NW)のLSV曲線を示し、(B)これらの触媒を使用するアンモニアの生産率及びFEを示す。
【
図20】
図20は、この研究で使用された様々な形態の銅触媒(0.5M Na
2SO
4溶液中のCuフォイル、Cuフォーム、及びCu NW)の電気化学的活性表面積(ECSA)を示す。
【
図21】
図21は、単一原子Ni部位によって触媒される、硝酸塩のアンモニアへの電極触媒還元を示す。
【
図22】
図22は、単一原子Cu部位によって触媒される、硝酸塩のアンモニアへの電極触媒還元を示す。
【
図23】
図23は、亜硝酸塩、硝酸塩、及びアンモニアのサンプリングに伴うCu NWを用いた-0.5V対RHEでの2.5時間の電気分解の間のNO
3
-、NO
2
-、及びアンモニウムの時間依存濃度を、クロノアンペロメトリーi-t曲線と共に示す。
【
図24】
図24は、(A)プラズマ活性化水(PAW)から採取した、(B)PAWの電気還元の2.5時間後に採取した、液体アリコートのNMR分析で得られた、典型的な1D 1Hスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、クリーンで再生可能な資源を経由して還元ガス状種(アンモニアなど)を生産するための新しいハイブリッド技術に関するものである。この技術は、ガスのプラズマアシストの活性化と、プラズマ種と還元ガス状種との電極触媒的な対話という2つの基本的な態様の結合に基づくものである。
【0044】
ガス状種、例えば基底状態の窒素分子は、高いイオン化ポテンシャルを示す。これは熱力学的な観点から本質的に非反応性であるが、プラズマ活性化により、安定性の高い窒素分子を分解しやすい種に変換する道を提供することができる。次に、これらの種は電気化学的により効率的にアンモニアに変換することができる。本発明のハイブリッドシステムは、水と空気を反応物とし、周囲環境条件下で動作させることができる。
【0045】
さらに、生産されたアンモニアは水相であるため、肥料として直接使用するなどの応用分野や繊維産業や火薬産業では、さらなる前処理段階を必要としない。
【0046】
本発明は、入力された供給ガスを活性化して、液体(典型的には水/電解液)内の反応ガスの液体/ガス界面にプラズマを形成するハイブリッドプラズマ-電極触媒システムである。その結果活性化された種は液体中に溶解し、その後、電極触媒作用によって価値ある化学物質に変換される。本発明は、方法、装置に関するものであり、及びまたシステムの特定の特徴、特に触媒の設計などの特徴に関するものである。
【0047】
本発明は、様々な還元性ガスを還元種に変換するために用いることができるが、一般に、本明細書では、窒素(供給された窒素又は空気のいずれか)及び水のアンモニアへの変換を参照して説明されるだろう。このプロセスにおいて、窒素は、大気圧プラズマ放電に供されながら、液体(水や電解液)に窒素を気泡化され、活性化された種を液体中に輸送
することができる。これらの種(特に硝酸塩と亜硝酸塩)は、次に設計された電極触媒を使用することにより、効率的にアンモニアに変換することができる。
【0048】
窒素の還元に加えて、安定な二酸化炭素分子を比較的エネルギーが高く反応しやすい状態に変換する必要があり、電極触媒による二酸化炭素還元反応にも有利に使用できることに留意されるべきであり、それにより、本発明が、高い性能と制御可能な選択性を実現することができる。
【0049】
本発明の特別な利点は、気相活性化が反応速度を決定する工程である反応において見出すことができる。
【0050】
前述のように、電極触媒を用いたNRR(eNRR)の最も大きな阻害要因の2つは、N2分子の高い安定性と液体への低い溶解度である。本発明は、N2をより反応性の高い可溶性の形態に変換することによって、これらの制限を克服しようとするものである。
【0051】
硝酸塩と硝酸塩は溶解性が高く、N2よりもはるかに容易にアンモニアに還元される。このアプローチは有望と思われるかもしれないが、硝酸塩と硝酸塩の工業的な生産プロセスは、オストワルドプロセスを介してアンモニアからであり、したがって、アンモニア生産のための前駆体として直接使用することは非常に遠回りで現実的ではないことを念頭に置いておく必要がある。代替的に、硝酸塩/亜硝酸塩は水中での安定性が低いため、直接生産してその場で利用することが望ましい。結果として、アンモニアを生産するために直接消費するためのプラズマ駆動プロセスによるNOXの生産は、実用的であれば、望ましい工業プロセスであると考えられる。
【0052】
本発明のプロセスの第1の工程は、水/電解液界面で空気をプラズマ活性化し、NOX(すなわちNO2
-とNO3
-種の混合物)を生産することである。プラズマは本来、様々なエネルギーレベルの種(電子、イオン、ラジカル、分子断片など)から構成される電離したガスである。
【0053】
プラズマは、熱プラズマと非熱プラズマ(NTP)に分類され得る。熱プラズマは、電子とバルクガス温度(通常5×103Kより高い)の間で平衡を保つ。一方、NTPではこのような平衡状態が成立していないため、電子の温度が周囲環境より数段高くなることがある。NTPは熱プラズマよりもエネルギー消費が少なく、さらにまた電子構造転移によってN2分子の安定性を克服するのに必要な高い並進エネルギーを持つ電子を有しているため、NTPは前述のプロセスに適している。
【0054】
窒素の活性化、及び酸化は、N2の三重結合を切断するのに必要なエネルギーが熱力学的及び運動学的に安定しているため困難である。プラズマは、N2を活性化するのに十分なエネルギーを供給することができる。この反応は、自然界では雷の結果として普通に生じ、NOを生産する。
【0055】
プラズマ駆動によるNO
X種の生成を促進するために、3つの主要なアプローチが研究されている。
図1は、プラズマ放電の様々な構成(a)ピン-トゥ-リキッドの放電、(b)ピン-イン-ノズル放電、及び(c)気泡放電を示す。これらのシステムの目的は、液体とガスの界面でプラズマを生成し、NO
X種を生産し、次にそれを水や電解液に溶け込ませることができる。
【0056】
(i)種の量、(ii)システム全体のエネルギー効率(NOX生産量/電力入力)、及び(iii)硝酸塩と亜硝酸塩の比率を制御するために使用できる変数範囲がある。これらの変数には、プラズマ入力電圧(振幅、パルス幅、及び繰り返し周波数)、時間、ガ
ス流量、及び液体流量を含む。
【0057】
これらのパラメータが異なるプラズマシステムの性能に与える影響は、相互に関連する。例えば、
図2に示すように、ピン-イン-ノズルの設計上で電圧やパルス/放電周波数を変えても、NO
Xの総生産量に与える影響は比較的軽微である。これは、プラズマそのものではなく、溶液中の活性種の物質移動がNO
X生産の制限要因であることに起因する。一方、これらの物質移動の影響を克服するために、本発明のバブラーシステムを実装すると、パラメータの変化による影響がより大きくなる。
【0058】
表1は、プラズマNO
X生成の設計の違いの間で比較したサンプル結果を示し、特にピン-イン-ノズルとカラムバブラーを比較する。カラムバブラーの場合、生産率が著しく高いことは明らかであるが、この場合、硝酸塩/硝酸塩の比率が顕著に異なる。
【表1】
【0059】
最終的には、プラズマシステムの設計、入力電圧、周波数、時間、ガスの種類及び流量、湿度及び温度液体の種類(電解液/水)と流量が、NOXの量、生産される種のエネルギー効率(生産されるNOX/入力電力)、及び硝酸塩と亜硝酸塩の比率に大きく影響する。本明細書の教示を考慮すれば、NOX生産を最適化するための設計のバリエーションは、当業者の能力の範囲内であることが予想されるだろう。
【0060】
そこで注目されたのが、NOX形成に関わるエネルギー効率の向上であった。DCプラズマと比較して、放電間に周期的なギャップがあるAC正弦波波形が採用され、AC波形が、効率的で安価、かつ長期間の動作が可能であると考えられる。これは、水環境では電極での熱へのエネルギー散逸が少ないため、同様の出力(場合によっては5倍)でより高い励起状態の活性種を得ることができるためである。ガスを20,000K程度に典型的に加熱する熱プラズマと比較して、本発明は、周囲環境温度で生成して加圧しながらも、さらに電子温度の上昇を示す非熱(冷)プラズマを利用したものである。
【0061】
水中プラズマバブルを使用することで、界面積、滞留時間、及び内部圧力によって補助されるガスから液体への物質移動が激しくなる。そこで、本発明者らは、様々な放電体制(火花放電やグロー放電を含む)の気泡カラムを利用した非熱交流プラズマを開発した。水中プラズマバブルを設計の優勢態様とした5つの異なる設計構成(
図3A)がテストされた。
【0062】
図3Aに示すように、火花放電とグロー放電の両方を利用する2つのリアクターとラッシグリングを組み合わせることで、NO
Xエネルギー効率が大幅に向上し、NO
X生成エネルギー効率は263mmol kWh
-1となり、技術水準よりも3倍優れていること
が明確に示される。
【0063】
高いエネルギー効率を導くリアクター設計(
図3B~D)の主な特徴は、(a)複数の放電方式(グロー放電と火花放電)、(b)1つのAC回路内での二重リアクター構成、及び(c)気泡ダイナミクス制御(ラッシグリング)の組み合わせであることである。
【0064】
図3E及びFに示すように、OESデータから、グロー放電で発生する励起種は、火花放電で発生する励起種と大きく異なることを示す。グロー放電システム内では、優勢のNO
3-(SRGD)が生産され、火花放電ではNO
2-(SRSD)が好まれる。2つの放電を1つのユニットにまとめることで、印加された電力を効率よく利用し、エネルギー損失を最小限に抑えることができた。さらに、二重リアクター(一方は高電圧電極、他方は接地)の実装により、溶液内に接地リアクターがあることによるエネルギー損失を低減することができる。
【0065】
ラッシグリングの搭載により、エネルギー効率はさらに向上した。これは、物質移動と滞留時間の変化により、気相NOX種から溶液への物質移動が促進されたためと考えられる。最終的に、これらの重要な設計アプローチにより、エネルギー効率が高く、スケーラブルな水性NOX生産のアプローチの結果となった。
【0066】
プラズマからNOX(硝酸塩/亜硝酸塩混合物)が生産されると、それを還元する必要があり、今回のケースでは電極触媒による還元が選択される。このシステム、そして、NOX中間体を電極触媒的にアンモニアに還元する能力をよりよく理解するために、本発明者らは、当初、H-セル実験に焦点を当てた。これらの実験において、電気化学H-セルにカスタムデザインのプラズマバブラーを組み込んだ統合システムを用いて、NOXのアンモニアへの電極触媒変換を行い、またNOX塩を用いて、電極触媒変換経路を理解した。
【0067】
NO
X種の変換は、N
2を直接生産するよりも高いレートとファラデー効率でアンモニアを生産することができる。酸性媒体中において、以下の式1~3のように反応が進行する。この反応は、水素発生反応(HER)、式4と競合する。HERは硝酸塩/亜硝酸塩還元よりも負電位で生じるが、硝酸塩/亜硝酸塩還元の速度が遅いためHERが発生する可能性があり、電極触媒の最適化により不要なHERに対処できることがわかっている。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【0068】
このように、NOXの変換経路が異なること、競合するHERがあること、反応物質が異なること(NO3
-とNO2
-)から、アンモニア合成の触媒設計には慎重な検討が必
要である。
【0069】
本発明は、窒素のアンモニアへの電極触媒変換を促進するために、様々な遷移金属を使用できることを確立した。このうち、銅とニッケルが最も好まれた。電極触媒の説明は、銅を参照して提供されるが、他の遷移金属に適用できることが理解されるだろう。
【0070】
本発明において、
図4に見られるように、Cuフォイルは、高いファラデー効率でNO
Xをアンモニアに効率よく変換し、高い生産率を得ることができる。Cuのフォーム、Cuのナノ構造、及び単一原子のCu触媒など、多くの銅の形態を研究することで、Cuの表面化学と表面積の間に明確な相関関係を確立することができる。
【0071】
様々なCu系触媒を調製し、NO
Xのアンモニアへの電極触媒としての性能を評価した(Cuフォイル、フォーム、及びフォーム上に成長したナノワイヤー(NW))。Cu NWの代表的な走査型電子顕微鏡(SEM)画像(
図5C及びD)は、銅フォーム上に薄いナノワイヤーが均一に分散したナノ多孔性形態が存在することを裏付ける。これらの画像から、電極調整時に、多孔質背景フォームの金属Cu骨格からCu NWが絶えたことが明らかである。
【0072】
その結果、Cu NWsサンプルは、アンモニア生産率45nmol.s-1cm-2、ファラデー効率(FE)~100%を達成しながら、プラズマ活性化電解液の還元において最も高い電流密度(j)を得ることができたことがわかった。
【0073】
比較してみると、CuフォイルとCuフォームは、アンモニア収率が6.0nmol.s-1.cm2と8.9nmol.s-1cm-2(-0.5Vで)であり、それぞれ~80%と71%の低いFEを実現した。この触媒活性の変動は、電極間の電気化学的活性表面積(ECSA)の変動に起因していると考えられる。
【0074】
Cu NW触媒のECSAは、フォイルサンプルとフォームサンプルで著しく大きく、NWサンプルの活性サイトが増加し、最終的にアンモニアの全体収率を向上させたことを示す。高いFEは、Cu1+/Cu0の存在によるもので、水を酸素と水素に分解する競合する水素発生反応HERを抑制することがよく知られている。
【0075】
NH
3の起源、特にNO
Xや溶解したN
2の還元によるものかを理解するために、電解液のみ(プラズマ活性化なし)でNH
3の生産がないという結果になることを示す対照実験を行った。さらに、分極曲線(
図5E)から、Cu NWs電極は非常に高い電流密度(j)を示し、-1Vで-45mA cm
-2のjを達成した(ブランク電解液では28mA cm
-2)。これは、得られる電流が競合するHERではなく、eNRRから生じていることを示す。
【0076】
図5Fは、アンモニア生産率及びNO
X還元のFEの印加電位依存性(各電解時間は0.25時間)を示す。電位を0.2Vから-0.6Vに変化させると、FEと共にアンモニア生産率が上昇した(0.2Vで5%から~100%まで)。0.2Vから-0.2Vの間の低いFE(100%未満)は、NO
3
-からNO
2
-種への変換から生じるいくつかの電荷損失に起因すると考えられる。NO
3
-還元時に、吸着した
*NO
2が重要な中間体であることが確認された。
【0077】
また、低電位では*NO2の一部がNO2
-として溶液中に脱離することが確認されたため、低電位(0.2から-0.2V)ではFEが低下することが確認された。しかしながら、高い電位では、硝酸塩と亜硝酸塩の両方からアンモニアへの変換率が非常に高くなり、この副反応を補うことができる。
【0078】
反応経路、及び電解時間の関数としての硝酸塩と亜硝酸塩の消費量をさらに理解するために、亜硝酸塩、硝酸塩、アンモニアを連続してサンプリングするバッチ実験が行われた(
図5G)。反応時間を2.5時間に延長したところ、NO
3
-とNO
2
-種はそれぞれ2.7mMと1mMから完全に排出された。一方で、アンモニア濃度は同時期に0mMから3.5mMに増加した。N種の総濃度は電解中に一定に保たれた。さらに、クロノアンペロメトリーのj-t曲線は、一貫して減少するjを示し、これはeNRR中の反応物の消費を示す。長時間の実験を通して、FEは最初の1時間は~100%を維持し、その後、反応性NO
Xが消費されてアンモニアに完全に変換されるにつれて徐々に低下した。重要なことは、反応後のX線光電子分光法(XPS)によるCu NWカソードの評価で、電極の顕著な化学変化が見られなかった。さらに、N1スペクトルでは、カソード表面に結合した窒素は確認されず、NO
X活性種と触媒の非毒性的な相互作用が示された。
【0079】
プラズマ駆動によるNOX生産とアンモニア生産のための電極触媒システムを統合することが強く望まれている。生成した硝酸/亜硝酸塩の安定性は低いため、活性化した種を直接アンモニアに変換することが強く望まれている。
【0080】
図6に示すようなプラズマ/電極触媒システムの統合には、2つの可能なアプローチが考えられる。
図6aは、ラボスケールの検証に使用したバッチ式H-セルシステムにプラズマバブラーを組み込んだものである。
図6bは、液体出口を有するプラズマバブラーを使った、NO
Xをアンモニアに変換するためのフロースルー電解槽につながるフロースルー方式を示す。電解槽のNO
X消費量に対するNO
X生産量の最適化は、生産量と全体のエネルギー効率を最大化するために必要であることが留意されるべきである。このシステムから肥料(硝酸アンモニウムなど)が直接生産されることも特筆すべきさらなる利点である。AC駆動のプラズマ源とDC駆動の電極触媒源の両方を同時に電気力学的に処理するため、統合はかなり複雑なものとなる。そのためには、前述の2つの電気回路の電流バランスを適切に調整し、最適なスループットを達成するための質量とエネルギーバランスが必要である。適切な生産/消費バランスを整えれば、変換から硝酸アンモニウムを直接生産することも可能ある。
【0081】
NOX生成容器とNOX還元容器の中間にリザーバーが設けられる代替実施形態も想定される。リザーバーは、NOXを所定の速度で還元するために供給するという点で、電極触媒還元部位でのNOXの蓄積やNOX飢餓を回避することができるという利点をもたらす。
【0082】
本システムを試験した結果、セル電圧を1Vから1.4Vに上げると、jが27mA cm
-2から52mA cm
-2に、アンモニア率が15mg h
-1から最大24mg
h
-1に増加することが確認された。さらに、プラズマ活性化した電解液を連続的に供給しながら、出口からアンモニアを回収するという、電流密度30mA cm
-2でのフローシステムの安定性を調査した。ハイブリッドシステムは、安定したセル電圧1.5±0.04Vと平均ファラデー効率~58%を8時間連続維持した(
図7C)。
【0083】
スケーラブルな電解槽を用いて、得られたNOX中間体を電気化学的に変換した結果、電流密度は50mA/cm2を超え、ファラデー効率は~60%、アンモニア生産量は1.4Vという非常に低いセル電圧で23.2mg/h(42.1nmol/scm2)となった。
【0084】
図7Bは、アンモニアの全体的な生産率を、周囲環境条件で実証されたeNRR、Li中間体NRR、及びプラズマアシストNRRの最近報告された最先端技術と比較である。本研究で開発されたNO
X中間体は、高いエネルギー効率を維持しながら、アンモニアの
高割合をもたらす可能性が最も高いことが促進されることが示される。アンモニア収率は、他のあらゆる電気化学的方法(同様の反応幾何学的領域において)と比較して、1~3桁高い値を示す。電解槽でスケールアップすると、さらに1桁の速度が向上した。同時に、このハイブリッドシステムは、プラズマアシストアンモニア生産技術と比較して、消費電力(合計253kWh/kg NH
3)が大幅に削減されていることが特徴付けられる。これは、プラズマアシストによる窒素のアンモニアへの電気化学変換や気相誘電体バリア放電(DBD)合成法に比べて、1~3桁の間の少ないエネルギー消費量に相当する。また、エネルギー消費量も、Li中間体アプローチで比較的高収率のアンモニア生産を示した研究よりも優れている。eNRRの場合、かなりの生産率とFEを示す実用的な方法は今まで実証されておらず、これらのシステムはスケーリングに不利なものとなっている。
【実施例】
【0085】
一般的実施例
材料
全ての試薬及び溶媒は、シグマ―アルドリッチ又はケムーサプライPty Ltdから購入した。Cuフォームは、シャメンーTMAXマシンリミテッド(Xiamen TMAX Machine Limited)から購入した。オークトンpH/イオン700イオン700ベンチトップメーター及びコールーパーマーコンビネーションイオン選択電極(硝酸塩)は、ジョンモリスグループ(John Morris Group)から購入した。18.2MΩ.cmの抵抗を有するMilli-Q水を、インラインミリポアRiOs/Origin H2O精製システムから入手し、サンプル調製及び反応のために実験を通じて使用した。
【0086】
銅ナノワイヤー(Cu NW)の作製
市販のCuフォーム及びフォイルを、所望のサイズに切断し、アセトン、エタノール、及び最後にMilli-Q水で15分間隔にて超音波洗浄し、次いで、希釈H2SO4溶液で洗浄して、表面不純物及び酸化物層を除去した。Cu(OH)2ナノワイヤーは、まず0.133M(NH4)2S2O8(過硫酸アンモニウム)及び2.667mNaOHを含む溶液中に、室温で0.5時間浸漬することによってCuフォーム上に合成した。次いで、Cuフォームを溶液から取り出し、Milli-Q水及び無水エタノールで洗い流し、空気乾燥した。その後、調製したCu(OH)2NWアレイを180℃で1時間、空気中でアニーリングすることによって、CuO NWを作製した。得られたCuO NWサンプルを、-1V対RHE下で、0.5MNa2SO4において、Cu/Cu2O NWアレイに電気化学的に還元した。
【0087】
電気化学的評価
全ての電気化学的評価は、Autolab ポテンショスタット(Autolab M204)を使用して、カスタム設計のH-式電気化学セル及び電解槽で実施された。カソードチャンバーは、Nafion@117膜によってアノードチャンバーから分離された。H-式セルに関して、作用電極(WE)としてCu触媒(フォイル、フォーム、及びCu NW)、対電極(CE)として白金ワイヤー、及び参照電極(RE)としてAg/AgCl(飽和KCl)を使用する三電極機構を使用した。10mMのH
2SO
4をこの研究におけるバックグラウンド電解液として使用し、酸濃度の最適化を実施した。典型的には、H-式セルの研究のため、50mLの電解液が電解液サンプルを可能にするために、カソードチャンバー内で使用された。H-セルの電極サイズは、1cm
-2であり、Cuフォイルは最適化研究のために使用された。磁気スターラーを用いて、650rpmの速度で反応を促進させた。H-式セルの全ての電位は、以下の式によって可逆水素電極(RHE)に対して記載された。
【数5】
【0088】
この概念を大きなスケールの用途にさらに変換するために、スケールアップされたリアクター(下記参照)からのプラズマ活性水(PAW)を高スループット電解槽に供給して、アンモニア生産率及び収率の可能性を理解した。Cu NWカソード(電極サイズ9cm2)及びRu/TiO2アノードを市販のNafion膜の間に挟むことによって、膜電極アセンブリ(MEA)を準備した。MEAを電解槽内に装填し、PAWをカソード液として使用し、0.1MのH2SO4をアノード液として使用した(流速1.5mL/分の蠕動ポンプを使用)。電解槽の最適化のために、250mLのPAWをカソードチャンバー内で循環させた。安定性試験のために、30mA.cm-2で適用された連続流を8時間使用した。
【0089】
インドフェノールブルー法によるアンモニア(NH3)検出
カソードチャンバー電解液溶液から、0.5mLの電解液を採取し、2mLのサンプルチューブに移した。このチューブに、0.4mLの1M NaOH溶液(5重量%のサリチル酸及び5重量%のクエン酸ナトリウムを含む)、0.1mLの0.05M NaClO及び水中の30μLの1重量% C5FeN6Na2O(ニトリフェリシアン化ナトリウム)を添加した。その後、UV-Vis試験の前に、混合物を暗所にて室温で2時間インキュベートした。アンモニアの濃度を較正曲線により決定した。較正曲線は、10mM
H2SO4中の公知の量の(NH4)2SO4(濃度はNH4
+に基づく)を含む標準溶液のセットを使用して準備した。これらの溶液に、上述のインドフェノールブルー試薬を添加し、2時間後にインドフェノールブルーの655nmにおける吸光度を測定した。この研究で使用されるUV-Visの検出限界(LOD)は、下限についてはブランクの10mM H2SO4から、上限については200μM NH4
+から得られる655nmでの吸収度を示す。
【0090】
グリース試薬による亜硝酸塩(NO2-)の検出
50μLのサンプルを採取し、キュベットに移し、50μLのグリース試薬及び0.9mLのMilliーQ水と組み合わせた。得られたサンプルを十分に混合した。UV-Vis試験の前に、混合物を暗所にて室温で0.5時間インキュベートした。公知の濃度を有するNaNO2の溶液(10mM H2SO4中)を、較正基準として使用し、525nmの吸光度を使用して較正曲線をプロットした。この研究で使用したUV-Visの上部LODは、200μM NaNO2から得られた525nmでも吸光度を示す。希釈係数を適用して、プラズマ活性水(PAW)中の亜硝酸塩濃度を測定した。
【0091】
イオン選択電極による硝酸塩(NO3
-)検出
特定のイオン電極(SIE)として公知であるイオン選択電極(ISE)は、溶液中に溶解した特定のイオンの活性を電位に変換する変換器(又はセンサー)である。電圧は、ネルンストの式に従って、イオン活性の対数に理論的に依存する。コール・パーマ―硝酸塩選択プローブは、7μMから1M(0.5から62,000ppm)の濃度範囲を有する。イオン溶液のイオン強度は、測定されるイオンの濃度と共に変化する。一定のイオン強度を維持するために、イオン強度調製剤(ISA)が添加される。これは、総イオン強度が分析物濃度から独立していることを確実にする。この研究において、2M 硫酸アンモニウム(NH4)2SO4を、ISAとして400μLで、各20mLの標準又はサンプルに添加して、イオン強度を約0.12Mに調整した。
【0092】
ガスクロマトグラフ(GC)によるH2検出
H2検出は、熱伝導度検出器(TCD)とフレームイオン化検出器(FID)の両方を
備えたGC(Shimidzu,2010 Plus型)によって試験を行った。
【0093】
物理的特徴
X線高電子分光法(XPS)は、熱化学K-アルファX線分光計で実施した。Cu NWの形態及び構造を、JEOL JSM-IT-500HRを使用して走査型電子顕微鏡(SEM)によって画像化した。UV-Vis吸収スペクトルは、Shimadzu UV-3600UV-VIS-NIR分光光度計で記録した。
【0094】
ファラデー効率及び生産率の計算
アンモニア合成の性能を明らかにする2つの重要な記述子は、ファラデー効率及びアンモニア生産率である。ファラデー効率は、アンモニア合成のための電極触媒の選択性を示し、これはアンモニア合成のために消費される電気エネルギーと電気化学的システムを通る全エネルギーとの比を示す。アンモニア合成のファラデー効率(η)は、式(S1)によって決定され、ここで、nは1つのアンモニア分子を合成するための所望の電子の数であり(アンモニアが亜硝酸塩からのものである場合n=6であり、アンモニアが硝酸塩からのものである場合n=8である)、Fはファラデー定数(F=96485.33)であり、Cは検出されたアンモニアモル濃度であり、Vは電解液体積であり、Qは電極にわたって移動した全電気エネルギーである。交換された電子の数を計算するために、亜硝酸塩及び硝酸塩濃度の両方を、各反応の前後で測定した。平均は7.6であることが見出された。亜硝酸塩及び硝酸塩の両方が完全に枯渇する反応については、それらの初期比に基づいてnを計算した。
【数6】
【0095】
アンモニア生産率(R)は、単位時間及び単位電極表面積にわたるアンモニア生産である。それは、式(S2)によって決定することができ、ここで、Cは検出されたアンモニアのモル濃度であり、Vは電解液体積であり、tは反応時間であり、及びSは電極の触媒活性表面積である。
【数7】
【0096】
H-セルにおける水のプラズマ活性化
基底状態の窒素分子は高いイオン化ポテンシャルを示し、熱力学的観点から、本質的に非反応性である。プラズマ活性化は、安定性の高い窒素分子を、分解しやすい中間体(NOX)に変換する手段を提供する。プラズマは、熱プラズマと非熱プラズマ(NTP)とに分類され得る。熱プラズマは、電子とバルクガス温度(典型的には、5×103Kよりも高い)の間で平衡を示す。一方、NTPでは、このような平衡状態が成立していないため、電子の温度は周囲環境よりも数段高くなることがある。NTPは、熱プラズマほどエネルギー消費が少なく、さらにまた電子構造転移によってN2分子の安定性を克服するのに必要な並進エネルギーを持つ電子を有しているため、NTPは前述のプロセスに適している。
【0097】
プラズマシステムの設計、入力電力、周波数、時間、ガスの種類及び流量、液体の種類(すなわち、電解液/水)及び流量が、全て、NOXの量、生産される種のエネルギー効
率(生産されるNOX/入力電力)、及び硝酸塩と亜硝酸塩の比率に大きく影響する。
【0098】
バッチ電気化学的試験のために、カスタムのプラズマバブラーをH-セル内で使用し、プラズマ発生器(PlasmaLeap Technologiesからの「Leap 100」)に接続した。最適化されたプラズマ発生器パラメータは、100Vの電圧、83μsのデューティ、600Hzの放電周波数、及び60kHzの共振周波数を使用した。乾燥した空気(Coregas、乾燥した空気)をカスタムプラズマバブラーの上部から20mL/分で導入して、PAWを生成した。プラズマ活性化を0.5時間実施して、100mLの水中で~4mMのNOX濃度を達成した。
【0099】
プラズマ放電設計
プラズマリアクター、放電方式、及び構成。
水中プラズマバブルを用いた5つのリアクター設計構成をテストした。
図8に示されるプラズマバブルカラムリアクターの設計構成の写真は、(a)単一リアクターグロー放電(SRGD)、(b)単一リアクター火花放電(SRSD)、(c)単一リアクターグロー火花放電(SRGSD)、(d)二重リアクターグロー火花放電(DRGSD)、及び(e)ラッシグリング付きDRGSDであった。プラズマバブルカラムリアクターは、例えばグロー放電と火花放電の2つの放電モードでの操作が可能であった。前者を実現するために、高電圧電極をホウケイ酸で覆った。後者は、1cmの突起を持つ尖った高圧電極を内蔵し、気泡の長手方向に延びる火花を誘導した。一方、コンビナート型放電リアクターは、これらのコンセプトを1つのユニットで結合した。単一リアクターを含む構成において、接地として水が使用されたが、一方で二重リアクター構成では接地として2次プラズマリアクターを使用した。プラズマリアクターは、一端が封止された石英管と、封止された底部から半径5mmの位置にある直径200μmのレーザードリル穴12個を用いて製作した。石英管に同心円状に挿入された高電圧電極として、ステンレス鋼棒を使用した。石英管にティーフィッティングを接続し、電極を配置した。マスフローコントローラを介して、各リアクターに1L/分の流量で供給ガスとして機器グレードの空気を注入した。リアクターは、電圧出力0~80kV(ピーク-トゥ-ピーク)、放電電力700Wまで、及び放電周波数100Hz~3000Hzのプラズマ発生器(「Leap100」、PlasmaLeap Technologies)によって駆動された。全ての実験において、電力は、各バッチの間にはラグタイムを有する正弦波パルスのバッチの形で供給された。パルスの共振周波数は60kHz、各バッチのパルスの放電周波数は300Hz(デューティサイクル103μ秒)に設定した。
【0100】
電気的及び光学的な測定デジタルオシロスコープ(DS6104、Rigol)を用いて,高電圧プローブ(PVM-6、North Star)と電流プローブ(4100、Pearson)をそれぞれ介して正弦波電圧と電流波形の両方を記録した。時間平均放電電力(P)は、測定された放電電圧と放電電流から、以下の式で算出した:
【数8】
【0101】
様々なリアクター構成における電気的パラメータを表2に示す。光学発光スペクトル(OES)は、分光器(SR-500i-A-R、Andor Shamrock)を用いて、格子溝300本mm
-1、露光時間20msで記録した。
【表2】
【0102】
ACシステムでは極性を反転させると、半周期でゼロを通過する電流が発生し、電極の寿命が延びるため、ACシステムが望ましいとされた。
【0103】
特に冷プラズマは、衝突を介した活性種の形成にエネルギー効率が良いため、ガス全体の体積加熱よりむしろ、入射電力を電子に選択的に移動させるのに有効である。
【0104】
理論にとらわれることなく、機械的な撹拌や気泡の破裂による局所的な加熱によって、水相での反応性ラジカルの生産量が多くなると考えられている。
【0105】
図9は、火花プラズマとグロープラズマによるN
2の電離から生じるプラズマ過程と、界面で発生する種を示す。
【0106】
単一リアクターグロー放電(SRGD)は、7.38Wの電力を印加し、高電圧電極の周囲に誘電体バリアを使用することにより、グローオンリー放電方式で動作した。原理的には、誘電体バリアを使用することで電荷の流れを制限し、同じ電力でより高い電圧を可能にする。このような放電方式では、NO2よりもNO3の生成が主であり、これは文献と一致する。一方、火花オンリー放電方式は、NO3よりもNO2が優勢で、グローオンリー方式よりも電流電圧比が高く、出力も比較的高かった(9.22W)。グロー放電方式の高強度電界は、オゾン生成に有利であり、チューブ内の全容積を酸化環境に維持し、NO2のNO3への変換を促進する。しかしながら、火花ストリーマーは濃縮された容積の中に閉じ込められ、高エネルギー種の形成やNO3からNO2への逆反応を促す。
【0107】
このように、本発明の水中プラズマバブラーリアクターは、グロー放電と火花放電の両方を組み合わせて、263mmol/kWhという従来にないエネルギー効率でNOX中間体を生成することができる。
【0108】
なお、上記では、入口ガスとして空気の使用を外接することに留意するべきとしたが、現在では、様々なガスが検討されてきている。あらゆるガスを使用することができ、目的の製品を得るためにプラズマ/インレットのパラメータを調整することが可能である。本明細書において、主に空気を使用した場合の結果を示すが、H2Oを伴ったN2/O2の混合物も有望視されている。さらに、このシステムは、CO2変換にも応用され、良好な結果を得ていることも留意されるべきである。
【0109】
触媒
プラズマシステムへの触媒の組み込み
プラズマ駆動によるNO
X生成のために、グロー放電領域や火花放電領域に触媒が組み込まれる。
図10は、プラズマ駆動NO
X合成において、金属酸化物(TiO
2)と適切なバインダー(酸化グラフェン、GO)を組み込んだ場合の影響を示したものである。その結果、NO
X生産率は~50%向上し、GOの濃度は性能に無視できない影響を与える
ことがわかった。GOがバインダーとなって金属酸化物触媒を成形し、プラズマリアクターシステムのパッキンとなる。
【0110】
上述したように、遷移金属触媒、具体的には銅、ニッケル、錫、鉄、ビスマス、コバルト、チタン、及びそれらの酸化物は、本発明において特に有用である。
【0111】
シリカ、アルミナ、クレー、ポリマー、又は炭素ベースの支持体などの任意の適切な触媒バインダーが使用され得る。
【0112】
触媒部位の物理的特性
eNRRを担う活性部位を調べるために、反応後のCu NW電極のXPS分析を行い、明細書において適用された負バイアスによる電極の表面化学状態の任意の変化を調べた。
図11から、Cu
2+種がCu
1+/Cu
0に還元されていることが見ることができる(932.6eVへのピークシフトによって示される)。これらの結果とeNRRのデータを基づき、理論にとらわれることなく、これらの界面がeNRR反応の活性部位の役割を担っていると考えられる。Cuベースの触媒では、Cu
1+/Cu
0界面の形成により、eNRR中に競合する水素発生反応(HER)が抑制されることが理解される。さらに、これらの界面は、硝酸イオンや亜硝酸イオンを介したアンモニア形成の自由エネルギーバリアを低減することによって、eNRRを促進する。XPSの結果、ナノワイヤーの表面はほとんどがCuO種で構成されていることが明らかになり、高分解能のCu 2p
3/2スペクトルでは、結合エネルギー933.7eVにCu
2+と思われる大きなピークを示した。
【0113】
N1スペクトルを示す
図12は、反応後のCu NW電極の表面には窒素が付着していないことを明らかに示す。これは、Cu NW触媒が反応物であるNO
X種による被毒を受けなかったことを示し、触媒の安定性を裏付ける。
【0114】
NOX分析
キャリブレーションプロットとバックグラウンドの決定
使用した電解液、PAW、溶液、及び電極中のNH3やNOXのバックグラウンドを調べるために、紫外可視分光法を用いて多くの校正と制御実験を行った。
【0115】
いくつかのバブラー構成では、プラズマ活性化中に0.21nmol s-1の速度でかろうじて検出可能な量のアンモニアが生成されるが、プラズマカラムバブラーでは、電解液中にアンモニアが検出されず、本発明の好ましい実施形態がNOXの生成に対して特異的であることが示されることが確認された。PAWの電気分解の場合、45nmol cm-2s-1という有意な生産率が得られた。
【0116】
さらに、バックグラウンドの電解液中のアンモニア濃度の測定値は、他の全ての対照と同様に、電解試験におけるアンモニアの測定値よりも4桁を超えて低い値であった。この結果は、環境汚染が本研究で報告されたアンモニア生産率に寄与していないことを示す。
【0117】
経年によるNO
X種の構築
最適化されたパラメータ(電圧100V、デューティ83μs、放電周波数600Hz、及び共振周波数60Hz)下で、プラズマ活性化時間によりNO
X濃度を制御した。
図13から、NO
Xの総量は、プラズマ活性化時間の関数として直線的に増加することがわかる。この研究では、電解テストに0.5時間のプラズマ活性化(100mLの水中で4mMのNO
Xを生成する)を選択した。このプラズマ活性化時間は、NO
X濃度(硝酸塩と亜硝酸塩を使用して)がアンモニアのFEと生産率に与える影響に関する系統的な研究に基づいて選択された(
図15)。
【0118】
電気化学的最適化
NO
X源として硝酸塩(KNO
3)と亜硝酸塩(NaNO
2)を用い、カスタム設計のH-セルにおいて、カソードとしてCuフォイル(1cm×1cm)、アノードとしてPtワイヤー、及び参照電極としてAg/AgCl(飽和KCl)を用いて、電極触媒を用いたNO
Xのアンモニアへの変換の最適化への第1の工程が行われた(
図5B)。
【0119】
酸性媒体では、以下の式S1~S2に示すように反応が進行する。この反応は、水素発生反応(HER)、式S3[1]と競合する。
【数9】
【数10】
【数11】
【0120】
反応を促進するためにはH
+が必要だが、H
+が高濃度になるとHERが発生する結果となってもよい。今回の実験では、電解液にH
+が存在しない場合、FEとアンモニアの収率がともに非常に低くなった(それぞれ>30%、1nm cm
-2s
-1)。電解液に酸(10mM H
2SO
4)を添加すると、アンモニア生産率は0.81から8.94
nmol cm
-2s
-1に、FEは31%から73%に大幅に増加した。しかしながら、酸の濃度をさらに上げてもアンモニア生産量にプラスの影響はなく、HERの競争力が高まるにつれてFEは大きく低下した。
図14を参照。
【0121】
したがって、本研究では、バックグラウンド電解液として10mM H
2SO
4を使用し、(a)電気化学系の導電性を高めて抵抗によるエネルギー損失を最小限に抑え、(b)アンモニア合成にプロトンを供給し、(c)水に溶け、肥料として直接使用できる硫酸アンモニウム(NH
4)
2SO
4合成をサポートした。
図15を参照。
【0122】
亜硝酸塩を反応物とした場合、マイナス電位になるほどアンモニア生産率は上昇し、-0.5Vで最大となりFEは約73%となった。一方、硝酸塩は-0.4Vで最大生産率(~3.8nmol cm-2s-1)とFE(~60%)が生じた。最適なポテンシャルを超えると、HERが発生する可能性があるため、レート、FEともに低下し始める。
【0123】
図16は、10mM H
2SO
4中の硝酸塩と亜硝酸塩のLSVカーブを比較する。硝酸塩から亜硝酸塩への還元(式S4)は、硝酸塩溶液(1mM KNO
3)のLSV曲線で-0.25V付近にピークが発生することで証明される。
【数12】
【0124】
この結果は、低電位では、硝酸塩がアンモニアよりも亜硝酸塩に変換される方が有利であることを示す(これは文献[2]と一致する)。そこで、1mM KNO3水溶液25mLを用い、-0.3Vで15分間の電解実験を行った。この電位では、0.7μmol
のアンモニアが生成され、1.17μmolの亜硝酸が生成されることがわかった。一方、-0.5Vで実験を行った場合、1.64μmolのアンモニアと0.66μmolの亜硝酸が生成された。
【0125】
NOXの還元反応中、まずNO3
-が電極表面に吸着して*NO3を形成し、その後N-O結合が自然に段階的に切断されて*NO2と*NOを生成することが確認された。次に、*NOの水素化され、*NOHの形成が生じる。順次、*NOHが水素化されて*NH2OHを形成し、*NH3に変化していく。最後に、*NH3が触媒から脱離した。この際、低電位では*NO2の一部がNO2
-として溶液中に脱離することが観察された。これにより、低電位でアンモニア変換のFEが低く観測される理由が明らかになった。しかしながら、高い電位では、硝酸塩と亜硝酸塩の両方からアンモニアへの変換率が非常に高くなり、この副反応を補うことができる。
【0126】
NO
X濃度がアンモニア生産率及びFEに及ぼす影響を調べるため、亜硝酸塩及び硝酸塩の濃度を変化させてテストされた(
図17)。NO
2
-塩の場合、NO
3
-塩に比べ、はるかに高い生産率とFEが観察された。なお、NO
2
-のアンモニアへの変換のFEは100%に達することがあるが、NO
3
-のFEは60%程度に留まる。NO
3
-を使用した場合のFEの低下は、アンモニアの代わりにNO
3
-からNO
2
-種に変換されることで生じる電荷の損失が原因であると考えられる。しかし、NO
3
-もNO
2
-も最終的にはアンモニアに変換される。亜硝酸塩及び硝酸塩ともに、濃度が~1mMになるとアンモニア生産率とFEが著しく増加した。このグラフは、アンモニア生産率やFEが最大になるようにプラズマ活性化(NO
X濃度>1mM達成)の時間を設定する目安になった。
【0127】
電気分解におけるpHの影響
開始pHを変化させるために保存されて、同一条件下で一連の電極触媒還元反応を行った比較試験が実施された。表3は、対応する実験条件を示す。
【表3】
【0128】
様々なpH条件で分析が行われた。例えば、プラズマ活性水(PAW)では、50mM濃度の塩(KCl)をPAWに添加し、中性媒体で電解を行うことができるようにした。この実験と他の実験から、本発明者らは、本発明の還元方法は、任意のpHで実施することができると結論づけた。
図18は、本システムのアンモニア生産率を表示す。
【0129】
触媒の表面積効果
銅ベースの触媒の性能を利用可能な表面積の機能として比較するために、CuフォイルとCuフォームを用いた対照実験を行った。Cu NW電極は、Cuフォイルの-22mA cm
-2やCuフォームの-26mA cm
-2と比較して、-1Vで-45mA cm
-2という非常に高い電流密度(j)を促進した。また、Cu NWは、アンモニア合成において、40±3.3nmol cm
-2 s
-1の生産率と100±7%のFEという、非常に高い触媒活性を発揮した。同時に、Cuフォイルは6.1±0.6nmol cm
-2 s
-1、FE80.6±0.3%のアンモニア生産率しか得られず、Cu
フォームは8.8±1.3nmol cm
-2 s
-1、FE71.1±1.7%の生成率だった。
図19参照
【0130】
CuフォイルとCuフォームの場合は、0.5Vと0.55V対RHEの電位範囲で、Cu NWの場合は0.25Vと0.30V対RHEで非ファラデーリック充電電流を測定する。走査速度を5、10、15、20、25mV/sの間で変化させ、CuフォイルとCuフォームでは0.525V対RHE、Cu NWでは0.275V対RHEの二層充放電曲線からアノード(陽極)電流密度とカソード(陰極)電流密度が得られた。
図20参照
【0131】
次に、カソードとアノードの電流密度の絶対値を平均し、線形フィットの傾きを取ることで二重層キャパシタンスが算出された。Cuフォイル、Cuフォーム、及びCu NWで得られたスロープはそれぞれ0.13mF/cm2、3.03mF/cm2、及び15.24mF/cm2であり、作製された触媒Cu NWは市販Cuフォイル及びCuフォームに比べて非常に大きい電気化学的活性表面積を有することを示す。
【0132】
触媒種
硝酸塩からアンモニアへの電極触媒還元におけるニッケルベース及び単一原子銅触媒の性能を調べ、結果を
図21及び
図22に示す。これらの結果から、本発明の電極触媒による還元において、異なる遷移金属、及び触媒の種類の有効性が確認された。
【0133】
経年によるNO
Xの減少
反応時間を2.5時間に延長したところ(
図23参照)、NO
3
-とNO
2
-はともに完全に枯渇した(それぞれ、2.7mMと1mMから)。一方で、アンモニア濃度は同時期に0mMから3.5mMに増加する。NO
Xの初期濃度に比べてわずかに低くなったアンモニアの最終濃度が得られた(3.5対3.7mM)。この減少は、サンプリングにより少量のNO
Xとアンモニアが失われたことに起因し得る。クロノアンペロメトリーのi-t曲線は、一貫して減少するjを示し、この2.5時間の間に反応物が消費されたことを示す。
【0134】
NMR分析(
図24参照)でも、電極触媒反応前のPAW溶液で非検出量のアンモニアの生成を裏付ける。一般に、N
2H
4のピークは化学シフト3.2ppmで生じ、この結果は最終溶液にN
2H
4が存在しないことを示す。その他、エタノールの不純物に起因する小さなピークが2つあり、それぞれ-CH
3、-CH
2(-OHが主ピーク、バックグラウンド液として水)とされる。
【0135】
CO2還元
二酸化炭素の還元を調べるために、投入ガスを空気から二酸化炭素の還元に変えて、上記と同様の一連の実験が行われた。
【0136】
Milli―Q水にCO2ガスを0.1-0.5L min-1で連続気泡化し、10分間のプラズマランを実施した。これらのテストでは、プラズマリープを電圧200V、デューティサイクル83μs、放電周波数2kHz、及び共振周波数60kHzで動作させた。その後、液相の活性種を電気化学的に炭化水素製品に変換した。カソードには2つの異なる触媒、すなわちCuフォームとNiを選択が選択された。
【0137】
CO2からCOへの変換が優勢であったが、一部の高級炭化水素が生成された。この試験により、本発明がCO2の高付加価値化学物質への変換にうまく利用できることが証明された。
【0138】
技術経済計算
世界の600億ドルのアンモニア肥料市場は、従来のハーバーボッシュ法を使って生成されたアンモニアによって供給されており、その平均価格は1kgあたり0.23~25ドルである。現地では、アンモニア1kgあたり0.2~0.5ドルの価格帯である。規模の経済により大規模な工場が有する有利点により、ほとんどの肥料工場は大規模(~10万MT/年)で、水を必要とする港の近くに戦略的に配置されており、その結果、地方の農場や場所まで肥料を輸送するための大きなインフラが必要となっている。したがって、地元の農家はかなり高い価格、つまりアンモニア肥料5kgで10.58ドルを支払うことが要求される。(2020年9月時点のAUD)
【0139】
そのため、アンモニアを小規模な非局在化のユニットで、競争力のあるコストで製造するための取り組みが進んでいる。電気化学的なアンモニアへの窒素還元反応が有望な技術として提案されているが、最も性能の良いNRR触媒では、RTPで0.23μmol h-1cm-2という低い収率で、1410kWh/kgNH3という高いエネルギー入力でアンモニアを生成できる。高コストに加えて、これらの電気化学的NRRの全体的な収率は非常に低く、これらのシステムをスケーラビリティに不利なものにしていることを述べなければならない。
【0140】
対照的に、本発明のハイブリッドNRRシステムは、NRRの対照物より~3,000倍の収率でアンモニアを生成することが可能である。
図5に示すように、ピンノズルプラズマ設計を用い、H-セルにおいて、本発明のハイブリッドシステムは、3.8kWh/molでNO
Xを生成するピン-トゥ-リキッドバブラーカラムプラズマシステムを用いてアンモニアを生成することができ、これは技術の状態よりも少なくとも3倍のエネルギー効率である。フロースルー型電解槽は、0.19kWh/molアンモニアと同じくらい低い比エネルギー消費量でアンモニアを直接製造することができる。
【国際調査報告】