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特表2023-544882膠芽腫に対する化学療法剤としてのホスファフェナレン-金(I)錯体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】膠芽腫に対する化学療法剤としてのホスファフェナレン-金(I)錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 19/00 20060101AFI20231018BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/66 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/7135 20060101ALI20231018BHJP
   C07C 329/16 20060101ALI20231018BHJP
   C07C 331/02 20060101ALI20231018BHJP
   C07F 9/6578 20060101ALN20231018BHJP
   C07F 1/12 20060101ALN20231018BHJP
   C07F 9/6584 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
C07F19/00 CSP
A61K47/20
A61K9/08
A61P25/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/66
A61K31/7135
C07C329/16
C07C331/02
C07F9/6578
C07F1/12
C07F9/6584
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522372
(86)(22)【出願日】2021-10-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 EP2021078277
(87)【国際公開番号】W WO2022079085
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】20201555.8
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509223977
【氏名又は名称】ウニベルジテート ハイデルベルク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロメロ-ニエト カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ロッシュ サスキア
(72)【発明者】
【氏名】ヘロルト-メンデ クリステル
(72)【発明者】
【氏名】フェルミ ヴァレンティーナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4H006
4H048
4H050
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB13
4C076CC01
4C076CC27
4C076DD55
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA35
4C086HA01
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZB26
4C086ZC20
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB20
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB20
4H048VA58
4H048VB10
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB20
4H050AB28
(57)【要約】
膠芽腫は最も致命的な脳腫瘍の1つである。膠芽腫の治療が困難であることは、とりわけ、薬物に対する脳の感受性、化学療法剤の限られた脳浸透、及び従来の治療法に対する腫瘍細胞の耐性と関係がある。医薬として、特に膠芽腫等の脳癌の治療において使用される特定のホスファフェナレン-金(I)錯体、かかる錯体を含む医薬組成物及びキットを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬として使用される式(A):
【化1】
(式中、
ArIは、フェニル、ピリジン、ピロール、N-保護ピロール、フラン、チオフェン及び7員芳香族単環からなる群より選択される単環式芳香族部分、又はナフタレン、インドール及びベンゾチオフェンからなる群より選択される二環式芳香族部分を表し、
ArIは、ハロゲン原子(好ましくは、前記ハロゲン原子は、Cl、Br、I及びFから選択される)、N、S又はOを含む5員又は6員の芳香族複素環、C1~6脂肪族基及びC3~6脂環式基(前記C1~6脂肪族基及び/又は前記C3~6脂環式基は、N、S及びOから選択される1つ以上のヘテロ原子を更に含んでもよい)からなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよく、
ArII及びArIIIは、それぞれ独立して、ベンゼン基、ピリジン基、ピロール基、N-保護ピロール基、又はチオフェン基を表し、
は、芳香族基、ヒドロキシ基、C~Cアルキル基又はC~Cアルコキシ基、好ましくはフェニル基を表し、
Xは、糖、アルブミン、ハロゲン原子、CH、NO、CN、及びSRからなる群より選択され、
は、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル、β-D-グルコピラノシル、2,3,4,6-テトラメシル-β-D-グルコピラノシル、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-グルコピラノシル、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-ガラクトピラノシル、ヘプト-O-アセチル-β-マルトシル、1,2-O-イソプロピリデン-5-α-D-キシロフラノシル、C~Cアルキル、CH(COH)CHCOH、2-モルホリノエチル、2’-エチル-1-β-D-グルコピラノシル、2’-エチル-1-チオ-β-D-グルコピラノシル、グルタチオニル塩酸塩、CN、C(NH・HCl、C(NH)NHNH、フェニル、1-アミノフェニル、2-ピリジル、6-メチル-2-ピリジル、4-ピリジル、チアゾリン-2-イル、4,5-ジヒドロチアゾール-2-イル、1H-ベンズイミダゾール-2-イル、ベンゾキサゾール-2-イル、ベンゾチアゾール-2-イル、(CHCHOH)NO 、ピリミジン-2-イル、4-メチルピリミジン-2-イル、4,6-ジメチルピリミジン-2-イル、1,2-ジヒドロピリジン-2-イル、1,2-ジヒドロピリミジン-2-イル、9H-プリン-6-イル、2-アミノ-9H-プリン-6-イル、及び(NHC=からなる群より選択される)の化合物。
【請求項2】
ArII及びArIIIが共にナフタレン基、インドール基、N-保護インドール基、キノリン基、N-保護キノリン基、又はベンゾチオフェン基を表す、請求項1に記載の使用のための化合物。
【請求項3】
ArII及びArIIIが共にナフタレン基を表す、請求項1又は2に記載の使用のための化合物。
【請求項4】
ArIがベンゼン基、ナフタレン基、チオフェン基、フラン基、ピロール基、ベンゾチオフェン基、又はピリジン基であり、ArIが、ハロゲン原子(好ましくは、前記ハロゲン原子は、Cl、Br、I及びFから選択される)、N、S又はOを含む5員又は6員芳香族複素環、C1~6脂肪族基及びC3~6脂環式基(前記C1~6脂肪族基及び/又は前記C3~6脂環式基は、N、S及びOから選択される1つ以上のヘテロ原子を更に含んでもよい)からなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよい、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項5】
ArIがチオフェン基であり、好ましくはArIが非非置換のチオフェン基である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項6】
ArIがピロール基であり、好ましくはArIがN原子上の置換基としてメチル基又はフェニルスルホニル基を有する、より好ましくはN原子上の置換基としてメチル基を有するN-置換ピロール基である、請求項1~4のいずかに記載の使用のための化合物。
【請求項7】
XがCl、キサンテート、チオシアニド、及び3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートからなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項8】
Xが、キサンテート又は3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートであり、好ましくはXが、3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートである、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項9】
ArIがN原子上の置換基としてメチル基を有するN-置換ピロール基であり、Rがフェニル基であり、Xが3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートである、請求項3に記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記ArI、ArII及びArIIIの保護基がSi(CH、SOPh及び糖から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項11】
式(B):
【化2】
(式中、Rはメチル又はSOPhであり、Xはクロリド又は3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートである)の化合物。
【請求項12】
Rがメチルであり、Xが3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
医薬として使用される、請求項11又は12に記載の化合物。
【請求項14】
癌の治療用である、好ましくは脳癌の治療に使用される、請求項1~10又は13のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
前記化合物が膠芽腫治療用である、請求項14に記載の使用のための化合物。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物と少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項17】
前記化合物が、DMSOを含む水溶液に溶解され、好ましくは前記化合物が水とDMSOの混合物、より好ましくは5体積%~20体積%のDMSOを含む水に溶解される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
医薬として使用される、請求項16又は17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
癌の治療用である、好ましくは脳癌の治療用である、より好ましくは膠芽腫、脳転移、髄膜腫、IDH変異神経膠腫、又は頭頸部癌の治療用である、特に好ましくは膠芽腫の治療用である、請求項16又は17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記化合物が静脈内投与されるように用いられる、請求項19に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項21】
少なくとも請求項1~15のいずれか一項に記載の化合物と容器とを備えるキット。
【請求項22】
チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性を阻害するための請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物の使用であって、前記化合物がin vitro/ex vivoで使用される、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬として、特に膠芽腫等の脳癌の治療において使用されるホスファフェナレン-金(I)錯体、かかる錯体を含む医薬組成物及びキット、並びにin vitro/ex vivoでチオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性を阻害するためのかかる錯体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
膠芽腫(GBM)は、最も一般的で悪性のヒト脳腫瘍であり、生存期間はわずか約15ヶ月である。幾つかの主な理由は、急速な腫瘍細胞の増殖、腫瘍の不均一性、遺伝的不安定性、及び非常に浸潤性の成長である。特に非常に浸潤性の成長であるために、外科的に切除できない播種性腫瘍細胞を標的とする全身治療が必要となる。したがって、現在の治療は、手術とそれに続く放射線及びテモゾロミドベースの併用化学療法で構成されている。しかしながら、1年、2年、及び5年の生存率はそれぞれ40%、17.4%、及び5.6%であり、依然として非常に低く、このタイプの治療に対して腫瘍細胞の少なくとも一部の集団はかなりの耐性を示している。
【0003】
これは、自己複製及び化学療法に対する感受性の低下等の幹細胞のような特性を備えた未熟で高度に腫瘍原性の細胞集団に起因する可能性があり、これが腫瘍再発の原因のようであるという仮説が立てられている。
【0004】
これらの知見は、全ての腫瘍細胞集団を根絶することで、腫瘍の再成長を防ぐことができる、より効果的な治療剤の開発の緊急の必要性を強調している。
【0005】
現在の化学療法に対する脳腫瘍細胞の耐性を克服するための新規治療薬の更なる課題は、血液脳関門(BBB)を通過し、腫瘍選択的な活性を発揮することの必要性である。この点で、金(I)錯体は有望な化合物であり、BBBを横断する能力を持っている(非特許文献1)。
【0006】
金錯体の作用機序に関する最も受け入れられている仮説の1つは、細胞の酸化還元恒常性に関与する酵素であり、腫瘍細胞において過剰発現することが示されている、チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の特異的阻害を含む(非特許文献2)。
【0007】
金(I)錯体は、TrxRの選択的阻害に大きな可能性を秘めており、それらの錯体は、チオレドキシン酵素のSH/Se中心と特異的に相互作用し、その活性を阻害し、最終的に細胞アポトーシスを引き起こす能力を有する(非特許文献3)。
【0008】
それにもかかわらず、医学、金療法(chrysotherapy)における金錯体の使用は古代エジプト時代にさかのぼるが、後者の金錯体の臨床応用は今日ではかなり低い。何人かの著者は、この事実を試験された化合物の「安定性の悪さ」及び「溶解性」に起因するとしている(非特許文献4;及び上記で引用した非特許文献2)。
【0009】
現在、癌治療のために最も調査されている金錯体は、オーラノフィン(商標)及び誘導体である。それらの一般的な構造は、Au原子に結合した三置換ホスフィン配位子(フラグメントA)を有し、これが追加のアニオン性配位子(フラグメントB)を結合している、直鎖状分子からなる。
【化1】
【0010】
機構的調査により、両方の配位子が金錯体の抗腫瘍活性を調節することが明らかになった(上記で引用した非特許文献2)。第一に、フラグメントA及びフラグメントBは、錯体の生理活性を確実にするために水性媒体に十分な溶解性を提供しなければならない。次いで、フラグメントBは、金と特定のキャリア酵素との最初のカップリングを可能にするのに十分な不安定性でなければならない。次に、フラグメントAの電子特性が重要な役割を果たし、標的に達するためにTrxRを積極的に阻害する種(すなわち、RP-Au)に対して堅牢な安定性をもたらすものでなければならない。弱いP-Au結合は、加水分解、リンの不可逆的な酸化及び不活性な金コロイドの形成をもたらす。さらに、フラグメントAの親油性及び立体障害は、金部分が細胞に浸透するための基本である(上記で引用した非特許文献3)。このように、分子系の生理活性を高めることは、様々な相乗特性の結果であるため、ハードルの高い課題である。
【0011】
フラグメントAに最も採用されている部分は、ホモ三置換ホスフィンである。リン含有部分、特にフラグメントAの複素環は、癌治療についてほとんど試験されていない。5員複素環に基づく錯体である2,5-ジアリールホスホールのみが今日まで使用されてきた。
【0012】
非特許文献5は、クロロ金錯体「[1-フェニル-2,5-ジ(2-ピリジル)ホスホール]AuCl」を、ヒトグルタチオンレダクターゼを阻害することができる新規金ホスホール阻害剤(GoPI)として報告しており、更にGoPIが、それぞれ、NCH82及びNCH89に対するIC50値12.5±0.8μM及び10.8±0.8μMで膠芽腫細胞株の増殖を阻害することを示した。
【0013】
ヒトグルタチオンレダクターゼ(hGR)及びヒトチオレドキシンレダクターゼ(hTrxR)に対するホスホール含有金及び白金錯体の効果、並びに腫瘍細胞に対する成長抑制作用は、非特許文献6によって記載された。NCH82及びNCH89に対する5つの異なるホスホール含有錯体の抗増殖効果(IC50)は、それぞれ7.2μM~81.8μM、及び10.8μM~87.4μMと報告された。
【0014】
さらに、非特許文献7は、ヒト乳癌MCF-7細胞株に対するそれらの細胞傷害活性について異なる化合物、とりわけホスホール含有金及び白金錯体を評価した。
【0015】
非特許文献1(上記で引用)は、ヒト(NCH82、NCH89)及びラット(C6)の神経膠腫細胞株に対して抗増殖効果を示す金(I)錯体1-フェニル-ビス(2-ピリジル)ホスホール金クロリドチオ-β-d-グルコース四酢酸(GoPI-糖)の抗腫瘍特性、並びにGoPI-糖がチオレドキシンレダクターゼ(IC50 4.3nM)及びヒトグルタチオンレダクターゼ(IC50 88.5nM)を阻害することを報告した。
【0016】
異なるホスホール金錯体の細胞傷害活性は、特許文献1にも開示されている。
【0017】
しかしながら、これらのホスホール金錯体の幾つかは水溶液中で不安定であることが従来技術で報告されている(上記で引用される非特許文献7)。
【0018】
したがって、従来技術から離れて、改善された安定性を有し、血液脳関門を通過することができ、腫瘍細胞の増殖を阻害することができ、腫瘍細胞を感作してアポトーシスを起こすことができる、医薬として、特に膠芽腫等の脳癌の治療において使用される化合物を提供することが本発明の目的である。更なる目的は、かかる化合物を含む医薬組成物及びキットを提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第7923434号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Jortzik E. et al. "Antiglioma activity of GoPI-sugar, a novel gold(I)-phosphole inhibitor: Chemical synthesis, mechanistic studies, and effectiveness in vivo", Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Proteins and Proteomics 2014, 1844 (8), pages 1415-1426
【非特許文献2】Gandin V. et al., "Metal- and Semimetal-Containing Inhibitors of Thioredoxin Reductase as Anticancer Agents", Molecules, 2015, 20(7), 12732-12756
【非特許文献3】Zou T. et al., "Chemical biology of anticancer gold(III) and gold(I) complexes", Chem. Soc. Rev. 2015, 44, 8786-8801
【非特許文献4】Nobili S. et al., "Gold compounds as anticancer agents: chemistry, cellular pharmacology, and preclinical studies", Med. Res. Rev. 2010, 30, 550-580
【非特許文献5】Deponte M. et al., "Mechanistic studies on a novel, highly potent gold-phosphole inhibitor of human glutathione reductase", J. Biol. Chem. 2005, 280, 20628-20637
【非特許文献6】Urig S. et al., "Undressing of Phosphine Gold(I) Complexes as Irreversible Inhibitors of Human Disulfide Reductases", Angew. Chem. Int. Ed., 2006, 45, pages 1881-1886
【非特許文献7】Viry E. et al., "A sugar-modified phosphole gold complex with antiproliferative properties acting as a thioredoxin reductase inhibitor in MCF-7 cells", ChemMedChem 2008, 3, 1667-1670
【発明の概要】
【0021】
これらの目的は、請求項1に記載の使用のための化合物、請求項10に記載の医薬組成物及び請求項14に記載のキットによって解決された。本発明の主題は更に、in vitro/ex vivoにおける請求項15に記載のチオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性を阻害するためのこれらの化合物の使用である。
【0022】
本発明によれば、医薬として使用される式(A):
【化2】
(式中、
ArIは、フェニル、ピリジン、ピロール、N-保護ピロール、フラン、チオフェン及び7員芳香族単環からなる群より選択される単環式芳香族部分、又はナフタレン、インドール及びベンゾチオフェンからなる群より選択される二環式芳香族部分を表し、
ArIは、ハロゲン原子(好ましくは、ハロゲン原子は、Cl、Br、I及びFから選択される)、N、S又はOを含む5員又は6員の芳香族複素環、C1~6脂肪族基及びC3~6脂環式基(C1~6脂肪族基及び/又はC3~6脂環式基は、N、S及びOから選択される1つ以上のヘテロ原子を更に含んでもよい)からなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよく、
ArII及びArIIIは、それぞれ独立して、ベンゼン基、ピリジン基、ピロール基、N-保護ピロール基、又はチオフェン基を表し、
は、芳香族基、ヒドロキシ基、C~Cアルキル基又はC~Cアルコキシ基、好ましくはフェニル基を表し、
Xは、糖、アルブミン、ハロゲン原子、CH、NO、CN、及びSRからなる群より選択され、
は、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-グルコピラノシル、β-D-グルコピラノシル、2,3,4,6-テトラメシル-β-D-グルコピラノシル、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-α-D-グルコピラノシル、2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-β-D-ガラクトピラノシル、ヘプト-O-アセチル-β-マルトシル、1,2-O-イソプロピリデン-5-α-D-キシロフラノシル、C~Cアルキル、CH(COH)CHCOH、2-モルホリノエチル、2’-エチル-1-β-D-グルコピラノシル、2’-エチル-1-チオ-β-D-グルコピラノシル、グルタチオニル塩酸塩、CN、C(NH・HCl、C(NH)NHNH、フェニル、1-アミノフェニル、2-ピリジル、6-メチル-2-ピリジル、4-ピリジル、チアゾリン-2-イル、4,5-ジヒドロチアゾール-2-イル、1H-ベンズイミダゾール-2-イル、ベンゾキサゾール-2-イル、ベンゾチアゾール-2-イル、(CHCHOH)NO 、ピリミジン-2-イル、4-メチルピリミジン-2-イル、4,6-ジメチルピリミジン-2-イル、1,2-ジヒドロピリジン-2-イル、1,2-ジヒドロピリミジン-2-イル、9H-プリン-6-イル、2-アミノ-9H-プリン-6-イル、及び(NHC=からなる群より選択される)の化合物が提供される。
【0023】
本発明による化合物は、ホスファフェナレンの誘導体である縮合6員リン複素環に基づく。これまで、6員リン誘導体は癌治療について調査されていなかった。本発明による化合物は更に、可能性のある化学療法剤としてこれまでに知られているホスフィン及びホスホールとは大きく異なる構造的及び電子的特性を有する。
【0024】
ホスファフェナレン系に基づくクロロ金(I)錯体の調製は、Romero-Nieto C. et al., "Paving the Way to Novel Phosphorus-Based Architectures: A Noncatalyzed Protocol to Access Six-Membered Heterocycles", Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54(52), 15872-15875に記載された。
【0025】
本発明による化合物は、ジメチルスルホキシド/HO溶液中で予想外に高い安定性を示すだけでなく、細胞傷害効果も示すことが今般見出された。
【0026】
本発明によれば、上記式(A)において、ArII及びArIIIは共にナフタレン基、インドール基、N-保護インドール基、キノリン基、N-保護キノリン基、又はベンゾチオフェン基を表すことが好ましい。
【0027】
本発明の好ましい実施の形態によれば、ArII及びArIIIは共にナフタレン基を表す。
【0028】
ArIはベンゼン基、ナフタレン基、チオフェン基、フラン基、ピロール基、ベンゾチオフェン基、又はピリジン基であり、ArIは、ハロゲン原子(好ましくは、ハロゲン原子は、Cl、Br、I及びFから選択される)、N、S又はOを含む5員又は6員芳香族複素環、C1~6脂肪族基及びC3~6脂環式基(C1~6脂肪族基及び/又はC3~6脂環式基は、N、S及びOから選択される1つ以上のヘテロ原子を更に含んでもよい)からなる群より選択される1つ以上の置換基によって置換されていてもよいことが更に好ましい。
【0029】
好ましい実施の形態によれば、ArIは置換されていない。別の好ましい実施の形態によれば、ArIは、上述した群から選択される1個又は2個、より好ましくは1個の置換基によって置換されている。
【0030】
上記式(A)において、ArIは、フェニル、ピリジン、ピロール、N-保護ピロール、フラン、チオフェンからなる群より選択されることが好ましい。好ましい実施の形態によれば、ArIはチオフェン基であり、より好ましくは非置換のチオフェン基である。
【0031】
好ましい実施の形態によれば、ArIはピロール基であり、好ましくはArIはN原子上の置換基としてメチル基又はフェニルスルホニル基を有する、特に好ましくはN原子上の置換基としてメチル基を有するN-置換ピロール基である。
【0032】
好ましい実施の形態によれば、上記式(A)中のXは、Cl、キサンテート、チオシアニド、及び3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートからなる群より選択される。Xはキサンテート又は3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートであることが更に好ましく、Xは3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートであることがより好ましい。
【0033】
本発明の特定の一実施の形態によれば、ArIはN原子上の置換基としてメチル基を有するN-置換ピロール基であり、ArII及びArIIIは共にナフタレン基を表し、Rはフェニル基であり、Xは3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートである。
【0034】
本発明の一実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物1である。本発明の別の実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物2である。本発明の別の実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物3である。本発明の別の実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物4である。
【0035】
本発明の別の実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物5である。本発明の別の実施形の態によれば、本発明の化合物は化合物6である。本発明の別の実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物7である。本発明の別の実施の形態によれば、本発明の化合物は化合物8である。化合物5~化合物8は、本明細書で提供されるそれらの特定の用途に関係なく、それ自体が化合物として本発明の一部をなすことを理解されたい。
【0036】
ArI、ArII及びArIIIの保護基、すなわちN-保護ピロール基、N-保護インドール基及び/又はN-保護キノリン基については、好ましくはSi(CH、SOPh及び糖から選択される。しかしながら、当該技術分野において一般的に知られている他の適切な保護基も使用することができる。
【0037】
ヘテロ原子を含む前述の環状基におけるヘテロ原子(複数の場合もある)の位置に関して、本発明による化合物は、全ての可能な構造異性体を含む。
【0038】
本発明の一実施の形態によれば、本発明は、式(B):
【化3】
(式中、Rはメチル又はSOPhであり、Xはクロリド又は3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートであり、好ましくは、Rはメチルであり、Xは3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートである)の化合物を提供する。本発明の一実施の形態によれば、上記化合物は、医薬として使用するために提供される。
【0039】
好ましい実施の形態によれば、本発明による化合物は、癌の治療において使用されるものである。
【0040】
更に好ましい実施の形態によれば、本発明による化合物は、脳癌の治療に使用されるものであり、好ましくは膠芽腫の治療に使用されるものである。
【0041】
本発明の主題は更に、本発明による化合物と少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物である。医薬組成物は、静脈内投与されることを特徴とすることが好ましい。
【0042】
さらに、本発明による医薬組成物において、化合物はDMSOを含む水溶液に溶解することが好ましく、好ましくは、化合物は水とDMSOの混合物に溶解し、より好ましくは5体積%~20体積%のDMSOを含む水に溶解する。好ましくは、本明細書に記載の医薬組成物は、医薬として使用されるものである。
【0043】
好ましい一実施の形態によれば、医薬組成物は、癌の治療に使用される、より好ましくは脳癌の治療に使用される、更により好ましくは膠芽腫、脳転移、髄膜腫、IDH変異神経膠腫、又は頭頸部癌の治療に使用される、特に好ましくは膠芽腫の治療に使用されるものである。
【0044】
本発明は更に、少なくとも上記のような本発明による化合物と容器とを備えるキットに関する。
【0045】
本発明の主題は更に、チオレドキシンレダクターゼ(TrxR)の活性を阻害するための上記のような本発明による化合物の使用であり、該化合物はin vitro/ex vivoで使用される。
【0046】
本発明の一態様は更に、対象の治療方法に関し、本明細書に記載の化合物、本明細書に記載される医薬組成物、又は本明細書に記載のキットが、上記治療の一部として使用される。
【0047】
本発明は、添付の図面と併せて解釈すると、本発明の以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】化合物4の3つの生物学的複製のうちの1つから得られたNCH82細胞の48時間での用量反応曲線を示す図である。この複製において、化合物4は1.55μMのIC50でNCH82腫瘍細胞の成長を阻害した。
図2】創傷治癒アッセイを用いたNCH82、NCH89、NCH125、及びNCH210の腫瘍細胞の遊走に対する化合物4の効果を示す図である。
図3】化合物4の濃度の増加に伴って増加するアポトーシス/ネクローシス細胞の数を示す図である。図3Aは、NCH89の未処理細胞、並びに1μM、2μM、及び10μMの化合物4に24時間曝露した場合のフローサイトメトリー分析を示す。図3Bは、従来の膠芽腫細胞株NCH82及びNCH89のアポトーシス細胞及びネクローシス細胞の相対的な割合を示す積み上げ型グラフである。図3Cは、神経膠腫幹細胞株NCH421k、NCH644、及びNCH660hのアポトーシス細胞及びネクローシス細胞の相対的な割合を示す積み上げ型グラフである。
図4】(A)NCH93の未処理細胞、並びに1μM、2μM及び5μMの化合物6に48時間曝露した場合のフローサイトメトリー解析、並びに(B)脳転移細胞株、(C)髄膜腫細胞株、(D)IDH変異神経膠腫細胞株、及び(E)頭頸部癌細胞株のアポトーシス細胞及びネクローシス細胞の割合をまとめた積み上げ型グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本発明化合物の評価中に、本発明者らは、金-ホスファフェナレン誘導体が数週間にわたってジメチルスルホキシド/HO溶液中に驚くほど可溶性であり、非常に安定であることを認識した。
【0050】
クロロ誘導体(以下に示す化合物1)でさえ、水溶液中で不安定であると報告された類縁体2,5-ジアリールホスホール金錯体(上記で引用される非特許文献7)とは対照的に、かかる高い安定性を示した。
【0051】
第1段階では、フラグメントBがClであり、下記式(I):
【化4】
で表される上記ホスファフェナレンクロロ誘導体(化合物1)を、[1-フェニル-2,5-ジ(2-ピリジル)ホスホール]AuCl、トリフェニルホスフィン-AuCl(PhPAuCl)及びトリエチルホスフィン-AuCl(EtPAuCl)を含む一連の異なるクロロ誘導体と比較することにより、本発明化合物の電子特性を調べた。
【0052】
これらの錯体は全て、オーラノフィン様構造の合成のためのフラグメントAとして報告された別個のリン配位子を含んでいる。[1-フェニル-2,5-ジ(2-ピリジル)ホスホール]AuClは、上で引用した非特許文献5によって新規の金ホスホール阻害剤(GoPI)として報告された。
【0053】
後者のリン配位子の明確な電子特性を反映して、それらの31P-NMRはAuCl錯体系列内で大きく異なっていた。[1-フェニル-2,5-ジ(2-ピリジル)ホスホール]AuCl、PhPAuCl及びEtPAuClの31Pシグナルは32ppm~40ppmの範囲にあるが、化合物1は2.6ppmでシングレットを示す(表1を参照されたい)。31P-NMRと同様に、差はかなり限定的であるが、化合物1のP-Au結合距離(2.225Å)は、2.230Å~2.231Åの範囲にある他の金錯体よりも小さい(表1)。後者は、ホスファフェナレンのより強い電子供与能、したがって、化合物1に対するより強いP-Au結合の両方を示す。
【0054】
リン系配位子の立体的要求は、その安定性に関するだけでなく、細胞膜の浸透にも重要な役割を果たすため、重要な特徴である。したがって、これらの化合物の立体障害に関する洞察を提供するために、埋め込み体積パーセント(V%)を計算し、金原子の配位球に浸透するリン配位子の電子密度をマッピングした。
【0055】
値V%が高いほど、金原子はより遮蔽される。したがって、化合物1におけるホスファフェナレン配位子のV%値はPhP(30.7%)に匹敵する最も低い値(27.9%)はトリエチルホスフィンで見られ、最も高い値は2,5-ジ(2-ピリジル)ホスホール誘導体(32.8%)に属し、これはおそらく金配位球にピリジル置換基が存在するためである。
【0056】
ホスファフェナレン配位子対ホスホール及びホスフィンの対照的な特性を裏付けた後、フラグメントBの効果を分析した。このために、3つの更なる化合物である下記式(II)、式(III)及び式(IV)で表される化合物2、化合物3及び化合物4を調査した。
【化5】
【0057】
重要なことに、化合物1~化合物4は全て、DMSO/HO混合物1:9に容易に溶解する。化合物1は最も溶解性が低く、0.1Mより高い濃度で沈殿し始めた。一方、化合物4は、最も多様な溶媒、すなわちメタノール、エタノール、DCM、CHCl、EtO及びアセトンに可溶であり、ペンタン及びヘキサンには不溶であった。
【0058】
31P-NMRの特徴については、フラグメントBを変更することで、化合物1の2.56ppmから、化合物2、化合物3及び化合物4のシグナルがそれぞれ6.65ppm、7.1ppm及び8.17ppmにシフトした(表1を参照されたい)。繰り返すが、これは、31P-NMRシグナルが30ppm以上で見られるホスホール及びホスフィンの類縁体とは全く対照的である。化合物1~化合物4の構造特性を更に詳しく知るために、X線分析を行った。
【0059】
そのため、化合物2及び化合物3の結晶化に成功し、それらの特性を親化合物1と比較した(表1)。残念ながら、数ヶ月にわたって化合物4を技術及び溶媒のプールで結晶化する試みは失敗した。
【0060】
一連の化合物1~化合物3の中で、Au-P結合長は、化合物1の2.225Åから化合物2及び化合物3のそれぞれ2.243Å及び2.25Åまでわずかに伸びている。Au-フラグメントB結合距離は同じ傾向に従い、化合物1の2.293Åから化合物2及び化合物3の2.326Å及び2.332Åとなる。
【0061】
【表1】
【0062】
H-NMRを72時間(バイオアッセイの一般的な測定時間を超える)モニタリングすることにより、錯体1~錯体4の安定性を検証するために実施された実験では、分解の兆候は見られなかった。
【0063】
化合物1~化合物4の特徴を分析した後、in vitro実験を行った。まず、ホスファフェナレン-金(I)錯体1~4の最も効果的なフラグメントBを、クリスタルバイオレット増殖アッセイによる神経膠腫細胞増殖の抑制について系統的に調べた。この目的のため、GBM細胞株NCH82及びNCH89を、それぞれ化合物1、化合物2、化合物3、及び化合物4の濃度を増加させて48時間インキュベートした。
【0064】
全ての誘導体が神経膠腫細胞増殖の阻害に対して活性であることが明らかになった(表2を参照されたい)。化合物1~化合物3は、NCH82及びNCH89でそれぞれ8.21±0.52μM~11.4±0.11μM、及び15.1±0.71μM~18.1±1.04μMの範囲の平均IC50値を示したが、最も強い抗増殖効果は、化合物4を含むチオ糖について観察され、それぞれ、GBM細胞株NCH82及びNCH89に対する平均IC50値が1.44±0.16μM及び2.9±0.41μMであった。
【0065】
図1は、NCH82に適用された化合物4の3つの生物学的複製のうちの1つを例示的に示す。
【0066】
後者の錯体の活性を更に裏付けるために、追加の原発性膠芽腫細胞株NCH210及びNCH125を化合物4で処理し、同等、また更に良好な平均IC50値、すなわちそれぞれ2.79±0.07μM及び0.78±0.04μMを得た(表2)。
【0067】
【表2】
【0068】
ほとんどの薬物ベースの治療法が治療抵抗性の膠芽腫幹細胞様細胞(GSC)のために失敗する可能性があるという仮定に基づいて、本発明者らは、NCH421k、NCH644、及びNCH660h等の十分に特徴付けられたGSC株を標的とする可能性を更に調査した。これらの細胞株は、Campos B. et al., “Differentiation therapy exerts antitumor effects on stem-like glioma cells“, Clin Cancer Res. 2010 May 15;16(10), pages 2715-28に記載された。
【0069】
この目的のため、その抗増殖特性を考慮して、化合物4を、CellTiter-Glow(商標)アッセイを使用して浮遊ニューロスフェアとして成長するGSCに対して用いた。その結果、GSCの処理では、NCH421k、NCH644、NCH660hでそれぞれ6.95±1.95μM、6.60±1.98μM、及び2.66±0.58μMの顕著な平均IC50値を示した。この特定のタイプの細胞でわずかに高いIC50値は、それらの深い自己複製能力及び薬物感受性の低下によって引き起こされる可能性があり、それでも後者のIC50値は、従来のGBM細胞で見られるのと同様の範囲にある。
【0070】
腫瘍細胞の増殖の増加に加えて、侵襲性の高い細胞成長はGBMの悪性腫瘍を引き起こす。本発明による化合物の抗癌作用のより完全な全体像を得るために、GBM細胞浸潤に対する化合物4の効果を、NCH82、NCH89、NCH125、及びNCH210の細胞を用いた従来の創傷治癒アッセイを用いて調べた。
【0071】
異なる濃度での化合物4の適用は、少なくとも対応するIC50濃度を採用した場合にのみ、未処理の対照細胞と比較して創傷閉鎖を有意に減少させ、より低い濃度の化合物4では同じことは観察されなかった。
【0072】
創傷閉鎖は、濃度c(IC50)/2及びc(IC50)/10で顕著な影響を受けなかった。それにもかかわらず、限られた腫瘍細胞増殖しか起こらない24時間という短い観察時間は、化合物4の作用機序が、その顕著な抗増殖特性に加えて、IC50値で追加の抗遊走成分を含む可能性があることを依然として支持している。
【0073】
創傷治癒アッセイの結果を図2に示す。創傷治癒アッセイは、GBM細胞単層をピペットチップで掻き取り、濃度c(IC50)/10、c(IC50)/2、c(IC50)、及びc(IC50)×2の化合物4で24時間処理することによって実施した。細胞を、掻き取りを導入した後の0時間(t0)及び24時間(t1)に画像化した。細胞遊走を、t0での無細胞領域及びt1でのそれらの減少を測定することによって評定した。
【0074】
図2の左上隅は、NCH82 p85腫瘍細胞を無処理(対照)で、及びc(IC50)の化合物4で処理し、インキュベーション時間0及び24時間で撮った写真である。図2の棒グラフは、個々の細胞株のデータを3つの生物学的反復の平均±標準偏差として表したものを示す。
【0075】
さらに、化合物4がGBM細胞(NCH82及びNCH89)及びGSC(NCH421k、NCH644、及びNCH660h)を感作してアポトーシスを起こすことができるかどうかを分析した。化合物4の濃度の増加に伴うアポトーシス/ネクローシス細胞の増加を図3に示す。図3Aは、NCH89未処理細胞のフローサイトメトリー分析を示し、1μM、2μM、及び10μMの化合物4に24時間曝露すると、アポトーシス/ネクローシス細胞の用量依存的な増加が明らかになった。
【0076】
図3Bは、従来の膠芽腫細胞株NCH82及びNCH89のアポトーシス細胞及びネクローシス細胞の相対的な割合を示す積み上げ型グラフであり、図3Cは、神経膠腫幹細胞株NCH421k、NCH644、及びNCH660hのアポトーシス細胞及びネクローシス細胞の相対的な割合を示す積み上げ型グラフである。
【0077】
したがって、異なる濃度の化合物4との48時間のインキュベーション期間後、従来のGBM細胞及びGSCをフローサイトメトリーにより分析した。アネキシンV及びヨウ化プロピジウム(PI)をアポトーシス/ネクローシスの指標として使用した。表2に列挙された得られたIC50値と一致して、NCH82細胞が最も感受性の高いGBM細胞株のようであった。
【0078】
既に2μMの薬物濃度が高い割合の細胞でアポトーシスを誘導した(図3B)。対照的に、NCH89細胞はプログラムされた細胞死に対してより耐性があり、化合物4の濃度2μMでは、細胞死が観察されなかった(図3B)。分析されたGSC(図3C)では、アポトーシスの誘導が実証されたが、程度は低かった。
【0079】
請求項1で定義される化合物、すなわち6員リン複素環に基づく金(I)錯体は、従来の膠芽腫細胞だけでなく、重要なことに、膠芽腫幹細胞様細胞に対しても新規化学療法剤の開発のための顕著な可能性を有することを示すことができた。
【0080】
これは、4つの異なるホスファフェナレン-金(I)誘導体の細胞傷害効果の体系的評定の結果であり、チオ糖誘導体、すなわち化合物4について最良の結果が得られた。特に、化合物4は、従来のGBM細胞及びGSCの両方について細胞増殖の有意な抑制を示した。
【0081】
さらに、化合物4は膠芽腫細胞に対して抗遊走効果を示し、従来のGBM細胞及びGSC細胞を感作してアポトーシスを起こすことが示された。本発明による化合物は、高い安定性を提供し、水性媒体への溶解性を満たし、可能性のある更なる要件を満たす合成汎用性を提供する。
【0082】
前述の化合物1~化合物4で得られた有望な知見から離れて、本発明者らは、本明細書において記載される(claimed)化合物の優れた分光学的特性、安定性、及び最も重要なことに、生理活性を示す、更に特異的な改良型ホスファフェナレン-金(I)錯体の開発に着手した。
【0083】
これに関して、下記式(V):
【化6】
で表されるAuClフラグメントに配位したホスファフェナレンコアと縮合したピロール部分を含む化合物5を試験した
【0084】
ピロール含有ホスファフェナレンは安定しており、材料科学に関連して優れた光電子特性を実証し、最大80%の蛍光量子収率を持ち、光電気化学セル、有機発光ダイオード、及びエレクトロフルオロクロミックデバイスに使用されている。これらの特性に基づいて、ピロール含有ホスファフェナレンは、in vivoでの機構調査にとって特に価値のある重要な分光学的特性を有する薬物の追加の利点を提供する可能性がある。
【0085】
化合物5は更に、化合物5のクロリド原子を、下記の式(VI)(本明細書では式(B)とも参照される)に示すように化合物6中の3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートと置き換えて、化合物2(上記を参照されたい)の類縁体化合物である化合物6に変換した:
【化7】
【0086】
生理活性に対する追加の構造修飾の影響を分析するために、ピロールのメチル置換基をより嵩高い置換基、すなわちフェニルスルホニルに置き換えた。これにより、下記式(VII)で表されるクロリド原子を担持した化合物7、及び下記式(VIII)で表される3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレート部分を有する対応する誘導体化合物8がそれぞれ得られた。
【化8】
【0087】
構造修飾は分子の電子分布の変化をもたらし、これらはH-NMRに反映される(データ示さず)。化合物5のCl原子を糖誘導体3,4,5-トリアセチルオキシ-6-(アセチルオキシメチル)オキサン-2-チオレートに置換して化合物6を生成しても、わずかな変化しか生じなかった。
【0088】
しかしながら、N-置換基は大きな影響を及ぼした。ピロール縮合ホスファフェナレンの窒素にフェニルスルホニル基を導入すると、ピロールフラグメントとナフタレンの特定のプロトンの劇的な脱遮蔽がもたらされた。
【0089】
次に、化合物1及び化合物5のクロリド誘導体と比較して、化合物7はフェニルスルホニル基の電子求引効果に由来する構造結果を示す。一方、化合物4、化合物6及び化合物8の全ての糖誘導体は、8.2ppm、9.1ppm及び9.5ppmで明確に脱遮蔽された31P-NMRを示す。これらの値は、以前に報告された生理活性ホスホール及びホスフィンベースの金錯体で観察されたもの(32ppm~47ppmの範囲)よりも大幅に低い。
【0090】
薬物の生理活性における縮合ホスファフェナレン環の役割を調べるために、膠芽腫細胞株NCH82、NCH89及びNCH149における細胞増殖を阻害する化合物5の能力を調べた。この目的のため、化合物5の濃度を増大させて細胞をインキュベートし、細胞増殖をクリスタルバイオレットアッセイにより評価した。
【0091】
化合物5は、3つの細胞株全てにおいて抗増殖効果を示した。細胞株NCH82、NCH89及びNCH149の平均IC50値は、それぞれ8.1μM、15.1μM及び8.87μMであった(以下の表3を参照されたい)。これらの値は、上記の表2に示すように化合物1で見られる値、すなわちNCH82及びNCH89でそれぞれ11.4μM及び17.3μMのIC50と比較してわずかに低い。
【0092】
したがって、チオフェン部分をピロール環で置換することによってホスファフェナレンコアを修飾することは、in vitroでの改善された抗増殖活性をもたらす。上で検討される観察結果と一致して、金部分のクロリド原子を糖誘導体に置き換えると、薬物の生理活性が著しく増加する(表2及び表3)。
【0093】
化合物6は、化合物5よりも1桁低い平均IC50値を示し、サブマイクロモル濃度、すなわち、細胞株NCH82、NCH89及びNCH149についてそれぞれ0.73μM、4.00μM及び0.87μMに達した(表3)。ここでも、これらの値は、ピロール複素環の代わりにチオフェン環に縮合したホスファフェナレンを含有する類縁体化合物4(表3)の値よりも著しく低い。
【0094】
次に、ホスファフェナレンコアの窒素にフェニルスルホニルフラグメントを導入すると(化合物8)、化合物5と比較してより高い生理活性がもたらされる。しかしながら、その値は化合物6のN-メチル誘導体のものより若干低い。
【0095】
【表3】
【0096】
化合物8の平均IC50値は、膠芽腫細胞株NCH82、NCH89及びNCH149でそれぞれ1.37μM、4.49μM及び2.85μMであった(表3)。全体として、生理活性を維持するためにホスファフェナレンコアの縮合複素環に関して柔軟性があるように見えるが、ホスファフェナレンコアの縮合複素環の特定の種類は薬物の生理活性に影響を与えるようである。具体的には、ピロールは細胞傷害活性の更なる改善をもたらすようである。
【0097】
対照的に、電子受容性フェニルスルホニル基を有するホスファフェナレンの嵩高さを更に増加させることも、薬剤の生理活性を大部分維持するが、それ以上増強しない。
【0098】
化合物6で得られた顕著な結果に基づいて、一連の異なる癌細胞株に対するその抗増殖効果を調べた。この目的のため、上記の3つの膠芽腫細胞株に加えて、脳転移(NCH517、NCH604a及びNCH466)、髄膜腫(NCH93及びBenMen-1)、IDH変異神経膠腫(NCH511b、NCH1618及びNCH3763)、及び頭頸部癌細胞株(HNO210、HNO199及びHNO97)を含む他の11の癌細胞株に化合物6を用いた(表3)。
【0099】
全体として、化合物6は全ての細胞株で優れた抗増殖効果を示し、侵襲性の高い脳転移癌細胞さえも含む幾つかの細胞株の平均IC50値は約1.5μMであった。IDH変異神経膠腫細胞株NCH1681では、IC50値がわずか0.88μMで印象的な結果が得られた。
【0100】
これらの結果に動機付けられて、脳転移、髄膜腫、IDH変異神経膠腫及び頭頸部癌に由来する癌細胞株においてアポトーシスを誘導する化合物6の能力を分析した。この目的で、細胞を異なる濃度の化合物6と共に48時間インキュベートし、続いてフローサイトメトリーによって分析した(図4Aの代表例を参照されたい)。アネキシンV及びヨウ化プロピジウム(PI)をアポトーシス/ネクローシスの指標として使用した。
【0101】
予想通り、化合物6は、分析された全ての細胞株でアポトーシス/ネクローシスを誘導することができた(図4)。得られたIC50値(上記の表3を参照)と一致して、脳転移及び髄膜腫細胞株は、頭頸部癌細胞株よりも感受性が高いように見えた。2μMの薬物濃度は、NCH466、NCH517、NCH604a及びNCH93のうち50%を超える細胞でアポトーシス/ネクローシスを誘導した(図4B及び図4C)。一方、頭頸部癌細胞株の50%を超える細胞でアポトーシス/ネクローシスを引き起こすには、5μMの薬物濃度が必要であった(図4E)。
【0102】
これらの驚くべき優れた結果に加えて、本発明の化合物は、照明の反復サイクルに対する制御された熱力学的条件下での化合物6及び化合物8を用いた実験的試験によって示されるように、非常に高い安定性を示した(データは示さず)。
【0103】
本発明の一例として観察された化合物6の高い生理活性及び分光学的特性に基づいて、NCH82細胞株における薬物取り込み動態を調べた。この目的のため、化合物6の濃度を増加させて細胞を処理し、その薬物取り込みを蛍光顕微鏡(励起/発光350nm/455nm;データは示さず)でモニターした。
【0104】
驚くべきことに、10μM(すなわちIC50値を超える濃度)の化合物6でわずか1時間処理した後、細胞は化合物を内在化させ、収縮及び剥離を開始することができた。1μMの化合物6で処理した細胞は、1時間後に化合物を吸収し始めたが、その死は24時間後にのみ観察できた。0.1μMの濃度で使用した場合、化合物6は24時間後に内在化を開始したが、処理開始から48時間後に初めて死細胞が観察された。
【0105】
要約すると、本明細書に提示された結果は、本発明のホスファフェナレン金錯体の生理活性が、それらの構造的特徴の僅かな化学修飾によって影響を受け、改善され得ることを実証する。それらの固有の特性は、π伸長コア上の電子分布、分子の嵩高さ及びそれらの光物理的特性を調整することを可能にする。
【0106】
特に、ピロール縮合ホスファフェナレン誘導体は、チオフェンベースの類縁体よりも更に改善された性能をもたらすようであり、これら全ての化合物が数週間安定していることは注目に値する。また、金原子に結合した糖誘導体は、クロリド原子と比較して更に増加した生理活性を提供する。全体として、本明細書に記載される(described and claimed herein)ホスホフェナレン金錯体は、顕著な、前例のない、驚くべき抗増殖能力を持つ。
【0107】
ホスホフェナレン金錯体は、膠芽腫、脳転移、髄膜腫、IDH変異神経膠腫及び頭頸部癌に由来する14の異なる腫瘍細胞株の増殖を阻害する。さらに、上記化合物は、癌細胞株を感作してアポトーシスを起こすようであり、細胞への効率的な取り込みを実証する。
【0108】
まとめると、本発明のホスファフェナレン金錯体の広範な適用性及び高い生理活性により、それらの顕著な分光学的特性と相まって、致死性疾患の改善された治療のための有望な治療薬を提供するためにこれらの化合物を適切に使用できると考えられる。
【0109】
本発明の範囲に含まれる構造修飾は、実験的に試験された特許請求の範囲の化合物の実質的に同じ溶媒和殻半径を有する。これらの修飾は、錯体の親油性をわずかに変更するだけである。しかしながら、本発明による全ての錯体のサイズが比較的小さいため、親油性の変化は、細胞傷害効果に関して実質的な差異をもたらすとは予想されない。
【0110】
本発明の範囲に含まれる全ての化合物は、抗癌効果を担う活性金原子を保持/配位するために、リン中心において同等の電子密度を示す。したがって、現在請求されている全ての化合物が、類似の構造特性に基づいて類似の技術的効果を示すことは合理的かつ妥当であると考えられる。
【実施例
【0111】
以下では、前述の化合物の合成及び特性評価に関する実験的詳細が提供される。
【0112】
一般的な情報
全ての反応を、乾燥ガラス器具中及びシュレンク技術を用いて精製アルゴン又は窒素の不活性雰囲気下で行った。CHCl及びTHF等の溶媒を、溶媒精製システムMB SPS-800から直接使用した。AcOEt、エタノールアセトンを商業供給業者から購入し、そのまま使用した。キサントゲン酸エチルカリウム、AgNO、KSCN、1-チオ-β-D-グルコース四酢酸、硫酸マグネシウムを、商業供給業者から購入し、そのまま使用した。
【0113】
NMR測定:
H、13C、及び31P NMRスペクトルを、BrukerのAvance DRX-300、BrukerのAvance 500、又はBrukerのAvance 600で記録した。化学シフトは百万分率(ppm、δ)で表され、外部の85%HPO31P)、又は内部標準として溶媒シグナル(H/13C):CDCl(5.33ppm/53.80ppm)を参照する。シグナルの記載は、s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、m=マルチプレット、及びbr=ブロードを含む。結合定数は全て絶対値で、J値はヘルツ(Hz)単位で表される。
【0114】
質量分析:
MS及びHRMSを、ハイデルベルク大学のOrganisch-Chemisches Institutで測定した。DARTスペクトルにはBrukerのApexQe hybrid 9.4 T FT-ICRを使用し、EIスペクトルにはJEOL AccuTOFGCx time-of-flightを使用した。
【0115】
リン配位子の立体障害:
埋め込み体積パーセント%Vの計算は、無料のウェブアプリケーションソフトウェア(http://www.molnac.unisa.it/OMtools/sambvca.php)を使用し、球半径として3.50Åを考慮し実行した。水素原子は省略され、計測したBondi半径は1.7であった。このソフトウェアは、Poater, B. et al., "SambVca: A Web Application for the Calculation of the Buried Volume of N‐Heterocyclic Carbene Ligands", Eur. J. Inorg. Chem., 2009, pages 1759-1766によって提示される。
【0116】
X線結晶学:
X線結晶構造解析を、BrukerのSmart CCD又はBrukerのSmart APEX機でMo-Kα放射を用いて測定した。回折強度を、ローレンツ効果及び偏光効果について補正した。経験的吸収補正を、逆格子空間のラウエ対称性に基づくSADABSを用いて適用した(吸収補正用プログラムSADABS 2008/1;G. M. Sheldrick, Bruker Analytical X-ray-Division, Madison, Wisconsin 2012)。
【0117】
重原子回折を直接法で解き、フルマトリックス最小二乗アルゴリズムでF2に対して洗練した。水素原子を等方的に洗練又は計算した。構造は、SHELXTL[S2]ソフトウェアパッケージを使用して解き、洗練した。化合物2の結晶構造を室温でDCM/ペンタンから、化合物3の結晶構造を室温でゆっくりと蒸発させることによりDCM溶液から得た。これらの化合物の補足結晶学データは、ケンブリッジ結晶学データセンターからwww.ccdc.cam.ac.uk/data_request/cif-CCDC 1832813(化合物2)及び1832814(化合物3)を介して無料で入手することができる。
【0118】
細胞培養条件:
膠芽腫(NCH82、NCH89及びNCH149)、脳転移(NCH466、NCH517及びNCH604a)、髄膜腫(NCH93及びBen-Men-1(DSMZ、ドイツ国ブラウンシュヴァイク))及び頭頸部癌(HNO97、HNO199及びHNO210)に由来する接着成長細胞株、並びにIDH変異神経膠腫(NCH551b、NCH1618及びNCH3763)に由来する幹細胞様細胞株を、既に記載したように特性評価し、培養した(B. Campos et al., Clin. Cancer Res. 2010, 16 (10), 2715-2728. https://doi.org/10.1158/1078-0432.CCR-09-1800.、P. Dao Trong et al., IJMS 2018, 19 (10), 2903. https://doi.org/10.3390/ijms19102903.、Y. Jungwirth et al., Cancers 2019, 11 (4), 545. https://doi.org/10.3390/cancers11040545.、S. Karcher et al., Int. J. Cancer 2006, 118 (9), 2182-2189. https://doi.org/10.1002/ijc.21648.、及びC. Rapp et al., Acta Neuropathol. 2017, 134 (2), 297-316. https://doi.org/10.1007/s00401-017-1702-1.)。
【0119】
接着性成長細胞株(NCH82、NCH89、NCH210、及びNCH125)並びに神経膠腫幹細胞様細胞株(NCH421k、NCH644、NCH660h)を、術中に得られた膠芽腫サンプルから樹立し、既に記載したように特性評価し、培養した(S. Karcher et al., Int. J. Cancer. 2006, 118, 2182-2189.、C. Rapp et al., Acta Neuropathol. 2017, 134, 297-316.、及びB. Campos et al., Clin. Cancer Res. 2010, 16, 2715-2728.)。細胞株は認証され、ハイデルベルク大学医学部の治験審査委員会によって承認された研究提案に従って、患者から書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0120】
増殖アッセイ-接着細胞株:
細胞成長に対する異なる化合物の効果を、前述のようにクリスタルバイオレット法によって評価した(J. P. Rigalli et al., Cancer Lett. 2016, 376, 165-172.)。簡潔には、細胞を96ウェルプレート(10000細胞/ウェル)に播種した。24時間後、細胞培養培地を新鮮な化合物含有培地(10種類の異なる濃度(0.01μM~200μM))に置き換えた。48時間の曝露後の細胞増殖阻害の程度を、生存細胞のクリスタルバイオレット染色により決定した。したがって、細胞を洗浄し、0.5%クリスタルバイオレット溶液(100mlメタノール中2.5g、400mlアクアビデスト(aqua bidest:再蒸留水)で希釈)で15分間染色し、すすぎ、一晩乾燥させた。
【0121】
次に、クリスタルバイオレットをメタノールに可溶化し、555nmにおける吸光度を測定した。増殖指数は、以前に記載されたようにベースライン(細胞なし)に対する百分率としてクリスタルバイオレット吸収強度として計算した(T. Peters et al., Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol. 2006, 372, 291-299.)。細胞生存率をμM単位の薬物濃度(μM単位の(化合物xの)c)の10進対数に対してプロットし、Graph Pad Prism 7.02(GraphPad Software、米国サンディエゴ)を使用してシグモイド用量反応曲線に適合させた。
【0122】
増殖アッセイ-神経膠腫幹細胞様細胞(GSC)株:
IDH変異神経膠腫由来の神経膠腫幹細胞様細胞(GSC)及びGSC株の細胞成長に対する化合物4及び化合物6の効果を評定するため、細胞ATPレベルを発光CellTiter-Gloアッセイ(Promega Corp、ウィスコンシン州マディソン)を用いて測定した。GCSスフェロイド培養物を穏やかに解離させ、細胞懸濁液を96ウェル組織培養プレート(8000細胞/ウェル、100μl/ウェル)に播種した。化合物なしで24時間のインキュベーション期間の後、0.01μMから200μMの範囲の10種類の最終濃度で新たに再構成された化合物を添加し、細胞を48時間インキュベートした。
【0123】
測定前に、プレートを室温で30分間平衡化した。次に、100μlのCellTiter-Glo試薬を各ウェルに加え、プレートをオービタルシェーカーに2分間置き、内容物を混合した。次いで、プレートを室温で10分間インキュベートし、最後に発光を測定した。細胞生存率をμM単位の薬物濃度(c(化合物4/化合物6の)μM)の10進対数に対してプロットし、Graph Pad Prism 7.02(GraphPad Software、米国サンディエゴ)を使用してシグモイド用量反応曲線に適合させた。
【0124】
アポトーシスに対する薬物の効果(アネキシンVアポトーシスアッセイ):
アポトーシス及びネクローシスの程度を定量化するために、DAPIと組み合わせたアネキシンV染色、又はアネキシンV及びヨウ化プロピジウム(PI)による細胞の二重標識のいずれかを使用した。二重標識により、アポトーシス細胞(アネキシンV陽性/DAPI陰性又はアネキシンV陽性/PI陰性)とネクローシス細胞(アネキシンV陽性/DAPI陽性又はアネキシンV陽性/PI陽性)との区別が可能になる。細胞を6ウェルプレート(2.5×10/ウェル)に播種し、一晩放置した。培地を規定の薬物濃度又は化合物溶媒DMSO(未処理対照)を含む新鮮な培地に置き換え、24時間インキュベートした。陽性対照として、1μMのアポトーシス誘導試薬スタウロスポリン(#9953、Cell Signaling Technology、米国ダンバス)で細胞を処理した。
【0125】
アポトーシス細胞及びネクローシス細胞を含む処理上清を回収した後、細胞を採取し、洗浄し、最大1×10細胞を、製造元の指示に従って1:1000のDAPI溶液で希釈したFITCコンジュゲート化アネキシンV抗体と共にインキュベートするか(#51-65874X、BD Bioscienes、米国フランクリンレイクス)、又は製造元の指示に従ってFITCコンジュゲート化アネキシンV抗体及びPIと共に15分間インキュベートした(#51-65974X、BD Bioscienes、米国フランクリンレイクス)。細胞を、BD LSRIIフローサイトメーター(BD Bioscienes、米国フランクリンレイクス)を用いたフローサイトメトリーによって取得し、FlowJo Software v7.6.5(TreeStar、米国アーランド)によって分析した。
【0126】
神経膠腫細胞遊走に対する薬物の効果(スクラッチアッセイ):
in vitroでの細胞遊走に対する薬物の効果を評定するため、細胞を6ウェルプレート(5×10/ウェル)に播種し、付着させた。翌日、細胞単層を直線的に掻き取り、p200ピペットチップで「スクラッチ」を作製した。細胞を洗浄することにより破片を除去し、培地を24時間3つの異なる細胞株特異的濃度(IC50、IC50/2、IC50/10)の化合物含有培地5mlと置き換えた。位相差画像を、SC30カメラを備えたBX50顕微鏡(いずれもオリンパス株式会社、日本国東京)を用いて、それぞれの薬物濃度への曝露の0時間及び12時間後に取得した。両方の時点での無細胞領域を定量化し、イメージングソフトウェアcellSens(オリンパス株式会社、日本国東京)を使用して比較した。
【0127】
薬物取り込み動態:
NCH82細胞による化合物6の取り込み動態を測定するために、NCH82細胞を96ウェルプレート(5000細胞/ウェル)に播種し、24時間後、細胞培養培地を化合物6又はDMSOを含有する培地(0.1μM、1μM及び10μM)と置き換えた。画像を、処理開始後1時間、24時間、48時間に蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社、日本国新宿)で撮影した。励起/発光スペクトルが350nm/455nmのレーザーを使用し、10倍の対物レンズで画像を撮影した。
【0128】
合成手順
化合物1を、Romero-Nieto C. et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2015(上記で引用、金錯体16として示される)によって以前に報告されたように調製した。
【0129】
化合物2
【化9】
【0130】
化合物1(1当量、0.076mmol、42mg)を4mLのDCMに溶解し、キサントゲン酸エチルカリウム(1当量、0.076mmol、12mg)を室温で加えた。粗物質を1.5時間撹拌した。次いで、混合物を水で洗浄し、MgSOで乾燥し、揮発分を減圧下で除去した。粗物質をAcOEtで3回洗浄し、DCM溶液からのゆっくりとした蒸発によって結晶化させた。収率:88(42mg、0.066mmol)。
1H-NMR (600 MHz, CD2Cl2): δ 8.26 (ddd, J = 18.8, 7.0, 1.2 Hz, 1H), 8.21 (dd, J = 7.4, 0.8 Hz, 1H), 8.17 (dd, J = 8.8, 2.9 Hz, 1H), 8.07 (dd, J = 2.9, 1.1 Hz, 1H), 8.04 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.93 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.66 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.63-7.61 (m, 1H), 7.42 (ddd, J = 13.7, 8.3, 1.1 Hz, 2H), 7.33 (td, J = 7.4, 2.0 Hz, 1H), 7.26 (td, J = 7.5, 2.5 Hz, 2H), 4.55-4.50 (m, 2H), 1.40 (d, J = 14.2 Hz, 3H)。
13C{1H}{31P} NMR (151 MHz, CD2Cl2): δ 138.3 (s, 1C), 136.8 (s, 1C), 136.1 (s, 1C), 135.2 (s, 1C), 134.5 (s, 1C), 133.6 (s, 1C), 132.4 (s, 1C), 131.6 (s, 1C), 129.9 (s, 1C), 129.4 (s, 1C), 128.4 (s, 1C), 127.6 (s, 1C), 127.2 (s, 1C), 126.2 (s, 1C), 124.8 (s, 1C), 124.6 (s, 1C), 123.0 (s, 1C), 123.0 (s, 1C), 70.6 (s, 1C), 14.3 (s, 1C)。
31P-NMR (243 MHz, CD2Cl2): δ 6.55。
HRMS(EI+) C10Br の計算値471.6939、実測値471.6940。
【0131】
化合物3
【化10】
【0132】
化合物1(1当量、0.273mmol、150mg)をエタノール4mLに懸濁し、4mlの水に溶解したAgNO(1当量、0.273mmol、46mg)と混合した。混合物を1時間撹拌し、5mLのDCMを加えた。30分間撹拌した後、水中8MのKSCN 80μLを加えた。混合物を1時間撹拌し、DCM相を分離し、水相をDCMで3回抽出した。MgSOで乾燥した後、粗物質を減圧下で濃縮し、セライトを通して濾過した。生成物を、シリカ及びDCM/ペンタン6:4から純粋なDCMへの溶離液混合物を使用するカラムクロマトグラフィーで精製し、DCM/ペンタン混合物から結晶化した。収率:65%(102mg、0.179mmol)。
1H-NMR (600 MHz, CD2Cl2): δ 8.26 (d, J = 7.4 Hz, 1H), 8.18 (dd, J = 19.1, 7.0 Hz, 1H), 8.13 (dd, J = 6.6, 3.3 Hz, 2H), 8.09 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.97 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.71-7.65 (m, 2H), 7.42-7.37 (m, 3H), 7.31 (td, J = 7.8, 2.2 Hz, 2H)。
13C{1H}{31P} NMR (151 MHz, CD2Cl2): δ 138.2 (s, 1C), 136.9 (s, 1C), 136.3 (s, 1C), 134.6 (s, 1C), 134.1 (s, 1C), 134.0 (s, 1C), 132.6 (s, 1C), 132.1 (s, 1C), 130.1 (s, 1C), 129.6 (s, 1C), 128.3 (s, 1C), 127.4 (s, 1C), 126.2 (s, 1C), 125.0 (s, 1C), 123.3 (s, 1C), 123.3 (s, 1C), 121.9 (s, 1C)。
31P-NMR (243 MHz, CD2Cl2): δ 7.10。
HRMS(EI+) C10Br の計算値315.87291、実測値315.8737。
【0133】
化合物4
【化11】
【0134】
NaHを室温で5mLのTHF中の1-チオ-β-D-グルコース四酢酸(1当量、0.182mmol、66mg)に加えた。混合物を1時間撹拌し、カニューレを介してセライトを通して濾過し、室温で5mLのTHFに溶解した化合物1(0.9当量、0.164mmol、90mg)に加えた。溶液を1.5時間撹拌し、溶媒を真空下で除去した。粗物質をDCMに溶解し、セライトを通して濾過し、シリカ及び溶離液としてAcOEt/アセトン8:2を使用するカラムクロマトグラフィーに供した。収率:72%(104mg、0.118mmol)。
1H-NMR (600 MHz, CD2Cl2): δ 8.31-8.24 (m, 3H), 8.12 (ddd, J = 6.2, 2.9, 1.1 Hz, 1H), 8.06 (dd, J = 8.2, 1.2 Hz, 1H), 7.94 (s, 1H), 7.69-7.64 (m, 2H), 7.45-7.39 (m, 2H), 7.35-7.32 (m, 1H), 7.30-7.26 (m, 2H), 5.20-5.14 (m, 2H), 5.08 (dt, J = 13.1, 9.5 Hz, 2H), 4.14 (qd, J = 12.0, 3.7 Hz, 2H), 3.77 (ddd, J = 10.0, 5.0, 2.5 Hz, 1H), 2.07 (s, 3H), 2.00 (s, 3H), 1.98 (s, 3H), 1.91 (s, 3H)。
13C{1H}{31P} NMR (151 MHz, CD2Cl2): δ 170.3 (s, 1C), 169.9 (s, 1C), 169.5 (s, 1C), 169.4 (s, 1C), 137.9 (s, 1C), 137.9 (s, 1C), 136.4 (s, 1C), 136.32(s, 1C), 135.6 (s, 1C), 135.5 (s, 1C), 135.1 (s, 1C), 135.1 (s, 1C), 134.2 (s, 1C), 134.1 (s, 1C), 133.0 (s, 1C), 132.0 (s, 1C), 132.0 (s, 1C), 131.1 (s, 1C), 131.1 (s, 1C), 129.5 (s, 1C), 129.0 (s, 1C), 128.9 (s, 1C), 128.1 (s, 1C), 127.2 (s, 1C), 126.7 (s, 1C), 124.3 (s, 1C), 122.8 (s, 1C), 122.8 (s, 1C), 122.5 (s, 1C), 122.4 (s, 1C), 83.0 (s, 1C), 77.6 (s, 1C), 75.7 (s, 1C), 73.9 (s, 1C), 68.7 (s, 1C), 62.6 (s, 1C), 20.9 (s, 1C), 20.4 (s, 1C), 20.4 (s, 1C), 20.4 (s, 1C)。
31P-NMR (122 MHz, CDCl3)
HRMS(EI+) C10Br の計算値315.8729、実測値315.8728。
【0135】
化合物5の合成
シュレンクアダプターに接続されたベークアウトした10mL一口丸底フラスコに、2-(8-ブロモナフタレン-1-イル)-1-メチル-1H-ピロール(1.0当量、0.18mmol、52mg)を3.6mLの乾燥EtOに溶解し、-80℃に冷却した。次いで、BuLi(1.0当量、0.18mmol、0.11mL、ペンタン中1.7M)を滴下して加えた。
【0136】
その直後に、リチオ化した2-(8-ブロモナフタレン-1-イル)-1-メチル-1H-ピロールをPhPCl(1.05当量、0.19μmol、26μL、97%)と反応させ、反応混合物を室温で1時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、続いて4.5mL DCM及びクロロ(ジメチルスルフィド)金(I)(DMS-AuCl)(1.0当量、0.18mmol、53mg)を加え、反応混合物を更に1.5時間撹拌した。
【0137】
溶媒を再度真空下で除去し、淡褐色固体を得た。アルミナ及び溶離液としてDCM:ペンタン(7:3)の混合物を使用するカラムクロマトグラフィーで精製した後、黄色固体76mg(0.14mmol)を単離した(収率:78%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.17 (dd, J = 18.4, 6.7 Hz, 2H), 8.02 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.96 (d, J = 8.1, 1H), 7.80 (d, J = 8.51 Hz, 1H), 7.61 - 7.58 (m, 2H), 7.49 (dd, J = 14.0, 7.0 Hz, 2H), 7.33 - 7.30 (m, 1H), 7.26 - 7.24 (m, 2H), 6.92 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 6.53 (dd, J = 5.5, 2.8 Hz, 1H), 4.12 (s, 3H)。
13C{1H} and DEPT 135 NMR (101 MHz, CDCl3): δ 136.9 (d, CH), 135.3 (s, C), 134.7 (s, C), 134.3 (d, C), 133.2 (d, CH), 133.0 (d, CH), 132.3 (d, CH), 131.2 (d, CH), 129.8 (d, CH), 129.0 (d, CH), 128.9 (s, CH), 128.7 (d, CH), 126.1 (s, C), 126.0 (d, CH), 125.0 (d, C), 124.2 (s, C), 123.6 (s, C), 127.7 (d, CH), 112.4 (d, CH), 106.0 (d, C), 39.4 (s, CH3)。
31P{1H} NMR (162 MHz,CDCl3中): δ 2.64。HRMS(FAB)m/z:[C2116AuClNP]・+の[M・+]計算値545.0374、実測値545.0404。
【0138】
化合物6の合成
ベークアウトしたシュレンクチューブ内で、1-チオ-β-D-グルコース四酢酸(1.0当量、0.061mmol、22mg)を2mLの乾燥THFに溶解した。次いで、NaH(2.0当量、0.122mmol、3mg)を加え、反応混合物を1時間撹拌した。得られた懸濁液を、1.6mLの乾燥THFに溶解した化合物5(0.9当量、0.055mmol、30mg)の入ったベークアウトしたシュレンクチューブに不活性雰囲気下でセライトを通して濾過した。
【0139】
1.5時間撹拌した後、溶媒を真空下で除去した。アルミナ及び溶離液としてEtOAc:DCM(2:8)混合物を使用するカラムクロマトグラフィーで精製すると、35mg(0.04mmol)の黄色固体が得られた(収率:73%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 8.28 (dd, J = 18.2, 7.0 Hz, 1H), 8.02 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.95 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.79 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.65 - 7.57 (m, 2H), 7.56 - 7.50 (m, 2H), 7.35 - 7.28 (m, 3H), 6.94 (dt, J = 4.1, 2.7 Hz, 1H), 6.65 (ddd, J = 8.0, 5.4, 2.8 Hz, 1H), 5.23 - 5.10 (m, 4H), 4.22 (dd, J = 12.2, 4.7 Hz, 1H), 4.14 (d, J = 2.1 Hz, 1H), 4.12 (d, J = 1.4 Hz, 3H), 3.77 (ddd, J = 9.2, 4.5, 2.2 Hz, 1H), 2.09 (s, 3H), 2.01 (d, J = 10.7 Hz, 6H), 1.88 (s, 3H)。
13C{1H} and DEPT 135 NMR (101 MHz, CDCl3): δ 171.2 (s, C), 170.7 (s, C), 170.0 (d, C), 137.0 (dd, CH), 134.6 dd, C), 133.6 (d, C), 133.3 (0, CH), 132.6 (dd, CH), 131.2 (s, CH), 129.9 (dd, CH), 129.4 (s, C), 129.2 (d, CH), 129.0 (s, CH), 127.3 (d, CH), 126.4 (d, CH), 126.3 (s, CH), 125.6 (d, C), 122.7 (s, CH), 112.8 (dd, CH), 83.4 (s, CH), 77.9 (s, CH), 76.0 (s, CH), 74.6 (s, CH), 69.2 (s, CH), 63.1 (s, CH2), 39.7 (s, CH3), 21.5 (s, CH3), 21.0 (d, CH3)。
31P{1H} NMR (162 MHz,DCl3中): δ 9.11。HRMS(DART):[C3535AuNOPS]・+の[M・+]計算値873.1436、実測値874.1494。
【0140】
化合物7の合成
ベークアウトしたシュレンクチューブ内で、2-(8-ブロモナフタレン-1-イル)-1-(フェニルスルホニル)-1H-ピロール(1.0当量、102μmol、42mg)を5mLの乾燥EtOに溶解し、-90℃に冷却した。次いで、BuLi(1.0当量、102μmol、0.06mL、ペンタン中1.7M)を滴下して加えた。その直後に、リチオ化した中間体をPhPCl(1.0当量、102μmol、14μL、97%)と反応させ、反応混合物を室温で1時間撹拌した。
【0141】
溶媒を真空下で除去し、2mLのDCM及びクロロ(ジメチルスルフィド)金(I)(DMS-AuCl)(1.0当量、102μmol、30mg)を加え、反応混合物を更に1時間撹拌した。溶媒を再度真空下で除去し、褐色固体を得た。シリカ及び溶離液としてDCMを使用するカラムクロマトグラフィーで精製した後、24mg(36μmol)の黄色固体を単離した(収率:51%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 8.70 (d, J = 7.4 Hz, 1H), 8.05 (dd, J = 18.7, 7.1 Hz, 1H), 7.96 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 7.84 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.80 (t, J = 3.6 Hz, 1H), 7.65 - 7.54 (m, 3H), 7.49 (dd, J = 7.6, 3.8 Hz, 3H), 7.39 - 7.28 (m, 6H), 6.67 (dd, J = 4.5, 3.6 Hz, 1H)。
13C{1H} and DEPT 135 NMR (101 MHz, CDCl3): δ 137.7 (d, C), 137.0 (s, C), 136.5 (d, CH), 134.6 (s, CH), 133.6 (d, C), 133.3 (s, CH), 132.4 (s, CH), 132.3 (s, CH), 131.9 (s, CH), 130.8 (s, CH), 130.6 (s, CH), 129.2 (s, CH), 129.1 (s, CH), 128.6 (s, CH), 126.9 (s, CH), 126.1 (s, CH), 125.9 (s, CH), 122.2 (d, C), 115.6 (d, CH)。
31P{1H} NMR (162 MHz,CDCl3中): δ 5.57。HRMS(ESI)m/z:[C2618AuClNOPS]・+の[M・+]計算値671.0150、実測値671.0205。
【0142】
化合物8の合成
1-チオ-β-D-グルコース四酢酸(1.0当量、0.041mmol、15mg)を、1.4mLの乾燥THFの入ったベークアウトしたシュレンクチューブに溶解した。その後、NaH(2.0当量、0.082mmol、2mg)を加え、反応混合物を1時間撹拌した。得られた懸濁液を、1.1mLの乾燥THFに溶解した化合物7(0.9当量、0.037mmol、25mg)の入ったベークアウトしたシュレンクチューブに不活性雰囲気下でセライトを通して濾過した。
【0143】
1.5時間撹拌した後、溶媒を真空下で除去した。アルミナ及び溶離液としてEtOAc:ペンタン(6:4)混合物を使用するカラムクロマトグラフィーによる精製により、20mg(0.02mmol)の黄色固体を得た(収率:54%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ 8.70 (dd, J = 7.4, 4.3 Hz, 1H), 8.16 (ddd, J = 18.2, 6.3, 3.5 Hz, 1H), 7.94 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.82 (dt, J = 7.2, 3.5 Hz, 2H), 7.61 - 7.55 (m, 2H), 7.53 - 7.48 (m, 2H), 7.47 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 7.42 - 7.28 (m, 6H), 6.82 - 6.77 (m, 1H), 5.21 - 5.09 (m, 4H), 4.23 (dd, J = 12.2, 4.7 Hz, 1H), 4.13 (d, J = 12.0 Hz, 1H), 3.78 (dd, J = 7.2, 2.2 Hz, 1H), 2.09 (s, 3H), 2.02 (d, J = 14.8 Hz, 7H), 1.88 (s, 3H)。
13C{1H} and DEPT 135 NMR (101 MHz, CDCl3): δ 171.6 (d, C), 170.6 (s, C), 170.1 (s, C), 170.0 (s, C), 137.5 (d, C), 136.7 (t, CH), 134.8 (s, CH), 133.8 (t, C), 133.3 (s, CH), 132.7 (dd, CH), 131.9 (s, CH), 130.8 (dd, CH), 129.5 (dd, CH), 129.2 (s, CH), 128.5 (d, CH), 127.3 (d, CH), 126.4 (d, CH), 126.2 (s, CH), 122.6 (t, C), 116.0 (s, CH), 83.5 (s, CH), 76.1 (s, CH), 74.5 (s, CH), 69.2 (s, CH), 63.1 (s, CH2), 21.5 (s, CH3), 21.1 (d, CH3)。
31P{1H} NMR (162 MHz,CDCl3中): δ 9.45。HRMS(ESI)m/z:[C4037AuNO11PSNa]・+の[M・+]計算値1022.1109、実測値1022.1122。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】