IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルピ・ロジャースの特許一覧

<>
  • 特表-コロナウイルス治療法 図1a
  • 特表-コロナウイルス治療法 図1b
  • 特表-コロナウイルス治療法 図2
  • 特表-コロナウイルス治療法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-25
(54)【発明の名称】コロナウイルス治療法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20231018BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20231018BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C12N15/09 Z
C07K7/06 ZNA
A61P31/20
A61P43/00 111
A61P3/00
A61P9/12
A61P9/00
A61P13/12
A61P11/00
A61P3/04
A61P35/00
A61P3/10
A61P25/28
A61P25/18
A61P25/24
A61P25/00
A61P25/16
A61P21/00
A61P43/00 105
A61K38/08
A61K31/7088
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023544785
(86)(22)【出願日】2021-10-04
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 GB2021052554
(87)【国際公開番号】W WO2022074366
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】2015755.8
(32)【優先日】2020-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523125091
【氏名又は名称】アルピ・ロジャース
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】アルピ・ロジャース
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA12
4C084ZA16
4C084ZA18
4C084ZA36
4C084ZA42
4C084ZA59
4C084ZA70
4C084ZA81
4C084ZA94
4C084ZB21
4C084ZB26
4C084ZB33
4C084ZC01
4C084ZC21
4C084ZC35
4C084ZC41
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA12
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA59
4C086ZA70
4C086ZA81
4C086ZA94
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZB33
4C086ZC01
4C086ZC21
4C086ZC35
4C086ZC41
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA15
4H045DA45
4H045EA20
4H045FA10
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、コロナウイルス感染または感染した対象における症状の処置、予防、または改善における使用のための、ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロナウイルス感染または感染した対象における症状の処置、予防、または改善における使用のための、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸。
【請求項2】
未処置の対象における抗抗T細胞受容体抗体のレベルと比較して、対象における抗抗T細胞受容体抗体の産生を低減させ、かつ/または阻害することができる、請求項1に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項3】
未処置の対象におけるグルカゴン分泌のレベルと比較して、対象におけるグルカゴン分泌を低減させ、かつ/または阻害することができる、請求項1または2に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項4】
未処置の対象におけるグルカゴン分泌のレベルと比較して、対象の膵島におけるグルカゴン分泌が低減され、かつ/または阻害される、請求項3に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項5】
未処置の対象におけるグルタミン酸分泌のレベルと比較して、対象におけるグルタミン酸分泌を低減させ、かつ/または阻害することができる、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項6】
未処置の対象におけるACE2発現のレベルと比較して、対象におけるACE2過剰発現を低減させ、かつ/または阻害することができる、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項7】
カルジオリピンに結合することができ、場合により、未処置の対象におけるミトコンドリアからのミトコンドリアDNA(mtDNA)放出のレベルと比較して、対象におけるミトコンドリアからのmtDNAの放出を低減させ、かつ/または阻害することができる、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項8】
コロナウイルスが、疾患を引き起こす病原体のコロナウイルス群に属するウイルスであり、宿主細胞上のアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を標的として感染する、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項9】
コロナウイルスが、MERS、SARS-CoV-1、およびSARS-CoV-2から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項10】
コロナウイルスが、SARS-CoV-2、またはACE2標的選択性を有する任意の将来株である、請求項1から9のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項11】
基礎疾患をもつ感染した対象におけるコロナウイルス感染または症状を処置、予防、または改善することができ、基礎疾患が、耐糖能異常または高い空腹時血糖値と関連する、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項12】
基礎疾患が、高いグルカゴンレベル(すなわち、高グルカゴン血症)またはインスリン抵抗性(すなわち、高インスリン血症)と関連する、請求項11に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項13】
対象がグルコース不耐性である、請求項11または12に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項14】
基礎疾患が、糖尿病、1型糖尿病、2型糖尿病、高血圧、心血管系疾患、腎疾患、および肺疾患からなる群から選択される、請求項11から13のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項15】
対象が、SARS-CoV-2に感染した糖尿病患者である、請求項14に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項16】
対象が、基礎疾患をもっていない、請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項17】
対象が、SARS-CoV-2に感染した非糖尿病患者である、請求項16に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項18】
20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代、または90代である感染した対象におけるコロナウイルス感染または症状を処置、予防、または改善することができる、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項19】
核酸分子が、実質的に配列番号2または3に記載のヌクレオチド配列またはそのバリアントもしくは断片を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項20】
ペプチド、その誘導体または類似体をコードする核酸分子が、遺伝子構築物であり、かつ/または該核酸分子または遺伝子構築物が、組換えベクター内で提供される、請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項21】
高グルカゴン血症、高インスリン血症、および/または高いもしくは過剰なグルタミン酸を特徴とする状態の処置、予防、または改善における使用のための、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸。
【請求項22】
請求項1から20のいずれか一項に定義される通りである、請求項21に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項23】
2型または1型糖尿病、高血圧、慢性心疾患、心血管系疾患、腎疾患、慢性肺疾患、肥満、がん、耐糖能異常(IGT)、空腹時血糖/グルカゴン異常(IFG)、アルツハイマー病、慢性統合失調症、大うつ病性障害(MDD)、自閉スペクトル症、多発性硬化症、パーキンソン病、または神経・筋変性障害の処置、予防、または改善における使用のための、請求項21または請求項22に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項24】
好ましくは、対象におけるACE2発現を、未処置の対象におけるACE2発現のレベルと比較して低減させ、かつ/または阻害することにより、コロナウイルス感染または感染した対象における症状の有効な発症予防、改善、または処置において使用される、請求項21から23のいずれか一項に記載の使用のためのペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸。
【請求項25】
コロナウイルス感染の予防、処置、または改善医薬組成物であって、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードするの治療的有効量、および薬学的に許容されるビヒクルを含む、医薬組成物。
【請求項26】
請求項24に記載のコロナウイルス感染の予防、処置、または改善医薬組成物を作製する方法であって、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸の治療的有効量を、薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせるステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス治療法に関し、詳細には、限定するものではないが、コロナウイルス感染または感染した対象における症状を処置、予防、または改善するための、新規の組成物、治療法、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2019-nCoVまたはCOVID-19疾患を引き起こす重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS)および中東呼吸器症候群関連コロナウイルス(MERS)を含む、病原体のコロナウイルス(CoV)群に属するウイルスである。コロナウイルスは、通常はそれらの野生宿主(例えばコウモリ)に限定されている。しかしながら、SARSおよびMERSの両方、さらに最近ではSARS-CoV-2がいずれも人間に移り、これが原因となって、SARS、MERS、およびSARS-CoV-2の大流行が、それぞれ2003年、2012年、および2019年に起こった。
【0003】
2019年後半における中国での新規病原性SARS-CoV-2の出現は、人命の損失ならびに社会的および経済的混乱という両面で結果的に人類に苦痛となる深刻な規模のパンデミックをもたらした。現在のところ、確認された症例の処置は対症的であり、入院者数および死亡者数を含め、ウイルスの強烈性を予防し、または低減させることができる利用可能な標的療法はない。ワクチンの開発には固有の課題があり、開発に成功した場合でも、恩恵は一過性であるか、遅きに失する可能性があり、あるいはおそらく将来のパンデミックには適用できなくなる。さらに、COVID-19疾患と既に診断された個人へのワクチン接種は、ワクチン接種後、防御免疫が発揮されるのに時間がかかるため、疾患改善効果を有するとは考えられない。
【0004】
CDC COVID-19 Response Team(1)による報告によると、感染性の高いSARS-CoV-2の特徴は、この疾患の重症度が年齢と慢性状態との両方に関連することをはっきりと示している。7162名のCOVID-19感染症患者からの予備データは、37.6%が1つまたは複数の基礎疾患をもっていたことを示している。さらに、集中治療室(ICU)のCOVID-19患者の78%は、少なくとも1つの基礎疾患をもっていたことが報告されており、32%が糖尿病、29%が心血管系疾患、21%が慢性肺疾患、および12%が長期腎疾患であった(1)。
【0005】
1型または2型糖尿病、高血圧、心血管系疾患、腎疾患、および肺疾患などの基礎疾患はすべて、SARS-CoV-2感染の重症度に寄与することが留意されてきた。しかしながら、これまでは、COVID-19の重症度は、これら基礎疾患の同時罹患に起因した脆弱性の上昇の結果であると考えられてきた。
【0006】
1型および2型糖尿病だけでなく、重篤なCOVID-19感染症および死亡のリスク因子である心血管系疾患、腎疾患、および肺疾患などの糖尿病と関連した状態のすべては、根底にある2つの代謝的特徴を共有することが観察されている。2つの特徴とは、ACE2過剰発現と糖調節異常であり、1型および2型糖尿病における場合と同様に高い血糖およびグルカゴンとして明白に発現するか、または糖尿病がない場合は、耐糖能異常(IGT)もしくは高い空腹時血糖値(FPG)として密かに発現する(2、3、4)。
【0007】
糖調節異常は、1型および2型糖尿病、高血圧、心血管系疾患、腎疾患、および肺疾患を含む数多くの状態において観察されている。例えば、高インスリン血症、FPGの上昇、および経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)に対する異常応答として現れるグルコース代謝の異常は、すべて、心血管系疾患(CVD)に対する重要なリスク因子であることが示されている(5、6、7)。さらに、Qiaoらは、耐糖能異常が、慢性心疾患(CHD)の発生率、慢性血管疾患(CVD)による早い死亡、および臨床診断された糖尿病の発症によって混同されなかったあらゆる原因による死亡に対する独立した予測因子であることを実証した(8)。同様に、Sechi LAらは、高血圧患者321名が、対応する正常血圧の対象92名と比較した場合、高インスリン血症を有することが認められたことを報告した(9)。
【0008】
高インスリン血症は、インスリン抵抗性とも呼ばれ、付随するグルカゴンレベルの測定はないため、通常は、血漿糖レベルの上昇に起因すると考えられている。OGTT試験に基づくと、ブドウ糖負荷の前に、正常な空腹時血糖レベルを有する対象と高い空腹時血糖レベルを有する対象との間に差異があった。これらの試験から得られる対象の分類は、正常耐糖性(NGT)、耐糖能異常(IGT)、または空腹時血糖異常(IFG)である。IGTおよびIFGの進行アウトカムは両群とも様々であり、約25%が糖尿病に進行し、他は、異常な糖血症状態を維持するか、またはNGTに戻ることが報告されている(10、11)。
【0009】
Faerch Kらは、彼らのOGTT試験において、グルカゴンおよびインスリン測定値を調査し、糖尿病の個人では、正常耐糖性の個人と比較した場合、空腹時グルカゴンレベルが30%高く、早期のグルカゴン抑制が弱まっていたことを報告した。インスリン抵抗性、すなわち高インスリン血症もまた、より高い空腹時グルカゴンレベルおよび早期のグルカゴン抑制の低下と関連していた(12)。さらに、Itchikawa Rらは、前糖尿病および軽度2型糖尿病の対象が正常な耐糖性の対象より高い空腹時血漿グルカゴンレベルを示したOGTT試験において、グルカゴン分泌過多の役割を強調した(13)。
【0010】
Reaven GMらは、肥満および非肥満いずれの非インスリン依存性2型糖尿病(NIDDM)患者も、正常な対象と比較して高グルカゴン血症、すなわち過剰グルカゴンであることを実証した(14)。血漿グルコース、インスリン、および遊離脂肪酸(FFA)濃度はすべて、NIDDM患者では肥満、非肥満のいずれにせよ、正常より高かった。さらに、終日血漿グルカゴン濃度はどちらのNIDDM群でも上昇しており、総血漿グルカゴン応答と総血漿グルコースレベルとの間に直接的な関係が観察された(14)。
【0011】
グルカゴンは、糖新生およびグリコーゲン分解による内在性ブドウ糖産生を起こすことから、高いグルカゴンレベルが、高血糖症および高インスリン血症両方の根本的原因であることは明らかである(15)。さらに、グルカゴンは、グルカゴン受容体を介して直接β細胞へ作用してインスリンを分泌させる(16)。したがって、グルカゴンレベルは、正常な対象では、インスリン抵抗性と直接相関する(17)。
【0012】
Yang J.K.らは、グルカゴンレベルおよびCOVID-19を考察するにあたり、非SARS肺炎患者19名と比較した、SARS-CoV-2感染を患った患者(死亡患者135名、生存患者385名)の後向き解析を行った。結果から、空腹時血糖値(FPG)レベルは、死亡群では生存群おび非SARS肺炎群に対して有意に高かったことが実証された(9.7+/-5.2対6.5+/-3.0対5.1+/-1.0mmol/l、p<0.01)。この研究では、生存解析から、FPGレベルの上昇は、COVID-19による死亡率のハザード比(HR)の上昇と非依存的な関係であることが示された(6)。
【0013】
SARS-CoV-2のための標的受容体であるアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)は、そのような基礎疾患をもつ患者で有意に過剰発現されることが観察されている。例えば、総計961名を対象とした個別の7試験において観察されたように、ACE2タンパク質発現は、糖尿病性腎症を含む1型および2型糖尿病の両方において高まることが示されている(5)。したがって、このACE2受容体の発現が高まれば高まるほどウイルス量が高まることとなり、より重篤な感染症となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、ACE2発現を低減させて、コロナウイルス感染自体を低減させ、または予防し、さらにウイルスに感染した対象における症状の発症を処置または改善することもできる、新規の即効性の治療法を提供することが急ぎ必要である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、「NDX-90」として知られるペプチド(配列番号1)の、コロナウイルス感染またはコロナウイルスの症状の予防、処置、および/もしくは改善に対する有効性を検討した。これは、対象におけるグルカゴンレベルの低減が、対象の「宿主」細胞のACE2受容体の発現の低下をもたらすこととなるという本発明者の仮説に基づくものである。したがって、本発明者は、グルカゴンレベルに対するNDX-90ペプチドの影響を検討し、驚くべきことに、NDX-90の添加によって、新鮮単離された膵島培養物からのグルカゴンのストレス誘発性分泌過多が低減されることを実証した。さらに、本発明者は、NDX-90で処置された対象では、プラセボ群と比較した場合、空腹時血漿グルカゴンレベルが一定期間、有意に低減したことを観察した。
【0016】
したがって、本発明者は、NDX-90は、ACE2発現レベルを低減させて宿主細胞上のACE2受容体濃度を低減させることによって、まずコロナウイルス感染の発生を予防的に低減させ、または予防し、さらにウイルスに感染した対象における症状を処置または改善する治療薬として利用されうると考える。
【0017】
よって、本発明の第1の態様では、コロナウイルス感染または感染した対象における症状の処置、予防、または改善における使用のための、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸が提供される。
【0018】
本発明の第2の態様では、コロナウイルス感染または感染した対象における症状を処置、予防、または改善する方法であって、そのような処置を必要とする対象に、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸の治療的有効量を投与するステップまたは投与したステップを含む方法が提供される。
【0019】
実施例に記載するように、本発明者は、驚くべきことに、単離されたラット膵島培養物からのグルカゴンの分泌が、NDX-90(すなわち、配列番号1)の存在下で培養した膵島では、培養培地単独で培養した単離膵島と比較して有意に低下したことを示した。よりいっそう驚くべきことに、本発明者は、グルカゴン分泌を正常化する効果がNDX-90ペプチド添加のほぼ直後に始まり、4時間後には32%の低減に達し、24時間後にはほぼ正常レベルとなることを観察した。さらに、表2に示すように、発明者は、NDX-90が数カ月にわたって長期的にグルカゴンを正常化する効果を有したことが観察されたことに驚いた。これは、空腹時血漿グルカゴンレベルの低下によって実証された。したがって、本発明者の研究は、NDX-90ペプチドは、グルカゴンレベルを低減させ、次いで、ACE2発現を低減させることとなることを示したものであり、これによって、NDX-90ペプチドがコロナウイルス感染の処置だけでなく、予防または発症予防においても使用することができることを実証するものである。
【0020】
これまでは、高いACE2発現と糖尿病および高血圧などの基礎疾患との関連は、レニン・アンギオテンシンシステム(RAS)の炎症誘発性アームを抑制する抗炎症性アウトカムの増加をもたらす反応性防御応答として考えられていた。この炎症誘発性アームは、アンギオテンシン変換酵素(ACE)およびアンギオテンシン1型受容体(AT1R)によって特徴付けられ、これらは線維症、インスリン抵抗性、炎症、および血管収縮と関連している(18)。
【0021】
レニン・アンギオテンシンシステム(RAS)の炎症誘発性アームと防御アームとの間の平衡は、アデニン一リン酸キナーゼ(AMPK)の活性化によって制御されており(19)、AMPKは、高いグルカゴンレベルによって活性化されることがわかっている(20)。AMPKの薬理学的活性化は、ACEおよびAT1Rを抑制するものであり(18)、様々な疾患の改善において有益であると広く認識されている。例えば、AMPKの活性化は、心臓代謝疾患を改善し、心機能を保護し心不全を遅延させ、心肥大および心筋症を阻害し、内皮機能を改善することによりアテローム性動脈硬化症を処置しうることが実証されている(21~25)。そのように、AMPKの活性化は、数多くの病態に有益であると一般的に考えられる。
【0022】
本発明者は、しかしながら、グルカゴンレベルを抑制し、これにより同時にAMPK活性化を低減させることによって、RASの炎症誘発性ACE/AT1Rアームのレベルが上昇し、その結果、保護的なACE2/Ang1-7アームのレベルが低下するはずであると、反直観的に仮定した。これにより、ACE2レベルが低減する方向に向けて平衡が是正され、それによってCOVID-19の原因となるSARS-CoV-2などのコロナウイルスに対して予防的かつ治療的に作用するはずである。例えば、図1aに見られるように、正常なグルカゴンレベルは、より高いAT1R発現(7つのAT1Rによって表されている)およびより低いACE2発現(3つのACEによって表されている)と関連しており、SARS-CoV-2ウイルスの侵入のための標的を減少させるものである。そのように、細胞に結合するための受容体をもたない遊離ウイルス粒子は、うまく細胞に感染することができず、したがって、自然免疫応答によって血液循環において死ぬこととなる。対照的に、図1bに例証するように、高いグルカゴンレベルは、AMPKを活性化するものであり、よってAT1R発現を抑制し(4つのAT1Rによって表されている)、その結果、ACE2発現が上昇し(6つのACEによって表されている)、ウイルス侵入のための標的が増加し、これによって、宿主細胞のより重篤なウイルス感染がもたらされる。
【0023】
いかなる仮説にも拘泥されるものではないが、これに基づくと、本発明者は、コロナウイルス感染による死亡率の増加の最も考えられる原因は、そのような基礎疾患を患う患者では患者のグルカゴンレベルの上昇にあり、その結果、ACE2が過剰発現され、これが疾患の重症度を高めると考える。
【0024】
しかしながら、本発明者の仮説は、反直観的なものであり、したがって、幾つかの理由によって非自明性である。第一に、ACE2は疾患に対する保護的機序であることが認識されている。したがって、そのような状態を患う対象においてACE2レベルを低下させることを検討することは、明らかに反直観的となる。さらに、心血管性、肺性、およびネフローゼ状態の患者において観察されたCOVID-19の重症度および死亡に対する現在の見解は、単に、これらの基礎疾患によって誘発された付随した脆弱性に基づくものである。現在のところ、そのような状態における過剰なグルカゴンレベルとACE2発現の上昇との間に関係は認められていない。さらに、ブドウ糖およびインスリンの測定値が最優先されるため、グルカゴンは糖調節不全関連疾患の専門家によってもほとんど検討されてないパラメーターであり、したがって、現在のところ、グルカゴンを低下させる薬物を用いて処置する疾患はない。したがって、RASシステムの炎症誘発性アーム(ACE/AT1R)のレベルの上昇をもたらして、疾患保護アーム(ACE2)のレベルを低減させ、これによってACE2受容体を減少させてCOVID-19感染に対する保護を獲得するという、これまでは結び付けて考えられていなかった多段階プロセスを関連させることは、予想外であり、かつ知られていない。
【0025】
さらに、新たに浮上した1つの概念があり、それは、過剰グルカゴンレベルは、ウイルス感染の結果として、グルカゴンを増やす自己抗体によって生じるというものである。T細胞はウイルス感染に対する防御的免疫応答として増殖し、これらのT細胞の自然死は、初代抗T細胞受容体抗体(抗TCR)の発達を伴う。ある特定の個人では、この後に、一次抗TCRに対する第二世代の自己抗体、すなわち、抗抗T細胞受容体抗体(抗抗TCR)が発現する。これらの抗抗TCR抗体は、ヒト膵臓のα細胞に結合し、連続したグルカゴンの分泌を引き起こす。例えば、単離された膵島の培養物に添加された抗抗TCR抗体が、培養して2日以内に、対照と比較してグルカゴンレベルを50%超上昇させたことが示された。この抗抗TCR抗体の存在によって、2型糖尿病の対象において観察された高グルカゴン血症を説明することができる。
【0026】
ヒトにおけるSARS-CoV-2感染の急性期では、スパイクタンパク質が媒介する膜融合を介してTリンパ球感染がもたらされ、T細胞の感染によって、80%超の患者においてCD4およびCD8両T細胞の顕著なリンパ球減少が起こりうることが実証されている。したがって、SARS-CoV-2の感染に起因するT細胞の破壊が、抗抗TCR抗体のレベルをさらに刺激して、グルカゴン/インスリン比の平衡をケトアシドーシスに傾かせる可能性があるように思われる。これらの自己抗体の産生は、特異的B細胞受容体に結合し、自己抗体産生B細胞のスイッチを切るNDX-90ペプチドによって遮断されうる。したがって、そのような自己抗体の抑制およびグルカゴンレベルの正常化は、コロナウイルス感染の重症度、ならびにウイルス感染の症状および病状の重症度を改善させることが期待される。
【0027】
したがって、好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、未処置の対象における抗抗T細胞受容体抗体のレベルと比較して、対象における抗抗T細胞受容体抗体の産生を低減させ、かつ/または阻害することができる。
【0028】
正常な対象は、生理学的に「正常な」濃度(またはレベル)の抗抗T細胞受容体抗体を有すること、また、糖調節異常を特徴とする基礎疾患を患う対象は、正常な対象の「正常な」抗体濃度と比較して、高い濃度の抗抗T細胞受容体抗体を有することが理解されよう。したがって、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与によって、正常な対象における正常な抗体濃度に対して少なくとも70%低減されている抗抗T細胞受容体抗体の濃度をもたらすことが好ましい。好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常な抗体濃度に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、または95%低減されている抗抗T細胞受容体抗体の濃度をもたらす。最も好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象に対して正常な抗体濃度に向けて低減されている抗抗T細胞受容体抗体の濃度をもたらす。
【0029】
別法として、抗抗T細胞受容体抗体の濃度は、好ましくは、正常な対象における「正常な」濃度で維持される。
【0030】
好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、未処置の対象におけるグルカゴン分泌のレベルと比較して、対象におけるグルカゴン分泌を低減させ、かつ/または阻害することができる。
【0031】
正常な対象は、グルカゴンの生理学的に「正常な」濃度(またはレベル)を有すること、また、糖調節異常を特徴とする基礎疾患を患う対象は、正常な対象における「正常な」グルカゴン濃度と比較して、高い濃度のグルカゴンを有することが理解されよう。したがって、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なグルカゴン濃度に対して少なくとも70%低減されているグルカゴンの濃度をもたらすことが好ましい。好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なグルカゴン濃度に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、または95%低減されているグルカゴンの濃度をもたらす。最も好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なグルカゴン濃度に対して低減されているグルカゴンの濃度をもたらす。
【0032】
別法として、グルカゴンの濃度は、好ましくは、正常な対象における「正常な」グルカゴン濃度で維持される。
【0033】
膵臓組織からインタクトな膵島を分離する酵素消化手順に起因して、単離された膵島は、正常より高いレベルのグルカゴンを分泌することが観察されている(Lee HBおよびBlaufox MD、J Nucl Med、1985;25:72~76頁)。したがって、好ましくは、対象の膵島におけるグルカゴン分泌は、未処置の対象におけるグルカゴン分泌のレベルと比較して低減され、かつ/または阻害されていてもよい。
【0034】
膵臓アルファ細胞からのグルカゴン分泌は、グルタミン酸(glutamate)の化学量論的な共分泌を伴う(26)。グルタミン酸は、グルカゴン放出のための正の自己分泌シグナルとして作用し、したがって、グルタミン酸の共分泌は、さらなるグルカゴン放出のための連続的なシグナルを生み(27)、これがコロナウイルス感染の重症度を高めることとなる。
【0035】
したがって、好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、未処置の対象におけるグルタミン酸分泌のレベルと比較して、対象におけるグルタミン酸分泌を低減させ、かつ/または阻害することができる。
【0036】
正常な対象は、グルタミン酸の生理学的に「正常な」濃度(またはレベル)を有すること、また、糖調節異常を特徴とする基礎疾患を患う対象は、正常な対象における「正常な」グルタミン酸濃度と比較して、高いグルタミン酸濃度を有することが理解されよう。したがって、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なグルタミン酸濃度に対して少なくとも70%低減されているグルタミン酸の濃度をもたらすことが好ましい。好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なグルタミン酸濃度に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、または95%低減されているグルタミン酸の濃度をもたらす。最も好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なグルタミン酸濃度に対して低減されているグルタミン酸の濃度をもたらす。
【0037】
別法として、グルタミン酸の濃度は、好ましくは、正常な対象における「正常な」グルタミン酸濃度で維持される。
【0038】
最も好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、未処置の対象におけるグルカゴンおよびグルタミン酸分泌のレベルと比較して、対象におけるグルカゴンおよびグルタミン酸分泌を低減させ、かつ/または阻害することができる。
【0039】
好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、未処置の対象におけるACE2発現のレベルと比較して、対象におけるACE2過剰発現を低減させ、かつ/または阻害することができる。
【0040】
正常な対象は、ACE2発現の生理学的に「正常な」レベルを有すること、また、糖調節異常を特徴とする基礎疾患を患う対象は、正常な対象における「正常な」ACE2発現レベルと比較して、高いACE2発現のレベルを有することが理解されよう。したがって、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なACE2発現レベルに対して少なくとも70%低減されているACE2発現のレベルをもたらすことが好ましい。好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なACE2発現レベルに対して少なくとも75%、80%、85%、90%、または95%低減されているACE2発現のレベルをもたらす。最も好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常なACE2発現レベルに対して低減されているACE2発現レベルをもたらす。
【0041】
別法として、ACE2発現のレベルは、好ましくは、正常な対象における「正常な」ACE2発現レベルで維持される。
【0042】
有利には、NDX-90は、グルカゴン分泌を標的とし、したがって、ACE2発現を低減させる。対象において細胞の表面上に存在するACE2受容体の数を減少させることは、コロナウイルスが宿主細胞に感染する能力を低減させ、したがって、本質的に予防的なものである。対照的に、糖尿病および関連状態を処置するために使用される多数の現行の治療法は、実際にはACE2受容体の数を増加させている。現行の治療法としては、SGLT2阻害剤、ピオグリタゾン、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、およびインスリンが挙げられ、これらはすべて、ACE2を上方調節することが示されている(28)。したがって、NDX-90による処置は、コロナウイルス(例えば、SARS-CoV-2)による感染のリスクを増加させ、コロナウイルス(例えばCOVID-19)に感染した対象における症状の予後を悪化させる恐れさえあったこれまでの治療法より、優れた有意な利点を提供するものである。
【0043】
さらに、コロナウイルス感染の重症例では、ミトコンドリアの損傷が起こっており、これによりミトコンドリアDNA(mtDNA)が放出され、これに伴いカルジオリピンも放出され、その結果、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム、および多臓器不全となる。また、高い循環mtDNAレベルは、Covid-19アウトカムが好ましくないことを示す早期指標でありうることが示されている(29)。表4に示すように、本発明者は、NDX-90が、カルジオリピンに結合する能力を有し、したがってカルジオリピンの二量体アームを一体に保持して、ミトコンドリア膜の二重層の厚さを改善し、mtDNAの放出を妨げることによって、カルジオリピン鎖が別々に移動するのを妨げうることを実証した。
【0044】
よって、好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、カルジオリピンに結合することができる。
【0045】
さらにより好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、未処置の対象におけるミトコンドリアからのmtDNA放出のレベルと比較して、対象におけるミトコンドリアからのミトコンドリアDNA(mtDNA)の放出を低減させ、かつ/または阻害することができる。
【0046】
正常な対象は、生理学的に「正常な」レベルのmtDNA放出を有すること、また、コロナウイルス感染を患う対象は、正常な対象における「正常な」mtDNA放出と比較して高いレベルのmtDNA放出を有することが理解されよう。したがって、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常レベルのmtDNA放出に対して少なくとも70%低減されているレベルのmtDNA放出をもたらすことが好ましい。好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常レベルのmtDNA放出に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、または95%低減されているレベルのmtDNA放出をもたらす。最も好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の投与は、正常な対象における正常レベルのmtDNA放出に対して低減されているレベルのmtDNA放出をもたらす。
【0047】
別法として、mtDNA放出のレベルは、好ましくは、正常な対象における「正常な」レベルのmtDNA放出で維持される。
【0048】
コロナウイルスは、感染のために宿主細胞上のアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体を標的とする、病原体のコロナウイルス群に属する任意のウイルスでありうる。したがって、好ましくは、配列番号1を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸は、コロナウイルス感染を予防し、またはACE2受容体を介して宿主細胞を標的化し感染する何らかのコロナウイルスに感染した対象における症状を処置し、もしくは改善させる。
【0049】
好ましくは、コロナウイルスは、MERS、SARS-CoV-1、およびSARS-CoV-2から選択される。ただし、最も好ましくは、コロナウイルスは、SARS-CoV-2およびACE2標的選択性を有する任意の将来株である。SARS-CoV-2はCOVID-19の原因物質であることは理解されよう。
【0050】
感染性の高いSARS-CoV-2の特徴は、該疾患の重症度が、1型または2型糖尿病、高血圧、心血管系疾患、腎疾患、および肺疾患などの基礎疾患と関連することを示すことである。特に、これらの基礎疾患および任意のその他の状態は、糖調節異常を特徴とする。
【0051】
ゆえに、一実施形態では、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、基礎疾患をもつ感染した対象におけるコロナウイルス感染または症状を、処置、予防、または改善することができる。特に、基礎疾患は、糖調節異常を特徴としていてもよい。好ましくは、基礎疾患は、耐糖能異常または空腹時高血糖値と関連するものである。さらにより好ましくは、基礎疾患は、高いグルカゴンレベル(すなわち、高グルカゴン血症)またはインスリン抵抗性(すなわち、高インスリン血症)と関連する。好ましくは、対象は、グルコース不耐性である。
【0052】
好ましくは、基礎疾患は、糖尿病、1型糖尿病、2型糖尿病、高血圧、心血管系疾患、腎疾患、および肺疾患からなる群から選択される。対象は、コロナウイルスに感染した糖尿病患者であってもよく、好ましくは、SARS-CoV-2に感染した糖尿病患者である。
【0053】
別の実施形態では、対象は、基礎疾患をもっていない。言い換えると、対象は、健康な個人である。したがって、対象は、非糖尿病患者であってもよい。対象は、コロナウイルスに感染した非糖尿病患者であってもよく、好ましくは、SARS-CoV-2に感染した非糖尿病患者である。
【0054】
好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代、または90代である感染した対象におけるコロナウイルス感染または症状を処置、予防、または改善することができる。
【0055】
実施例に記載するように、本発明者は、NDX-90ペプチド(配列番号1)が、グルカゴン分泌を低減させることを示しており、これによって、このペプチドが、高グルカゴン血症および/または高インスリン血症の有効な治療法として、高グルカゴン血症が潜在するすべての状態において使用されうることが指摘される。
【0056】
よって、本発明の別の態様では、高グルカゴン血症、高インスリン血症、および/または高いもしくは過剰なグルタミン酸を特徴とする状態の処置、予防、または改善における使用のための、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体、または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸が提供される。
【0057】
本発明のさらなる態様では、対象における高グルカゴン血症、高インスリン血症、および/または高いもしくは過剰なグルタミン酸を特徴とする状態を処置し、予防し、または改善させる方法であって、そのような処置を必要とする対象に、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸の治療的有効量を投与するステップまたは投与したステップを含む方法が提供される。
【0058】
好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、本明細書で定義した通りである。
【0059】
例えば、高グルカゴン血症を特徴とする状態は、2型または1型糖尿病であってもよく、最初は高いグルカゴンに起因した高インスリン血症を伴っていてもよい。疾患が進行するにつれて、共分泌された高いまたは過剰なグルタミン酸によって、成熟インスリンの分泌が、2型糖尿病では約50%/50%超、また、1型糖尿病では約95%/95%超遮断される。グルタミン酸は、B細胞中の分泌顆粒へと輸送され、そこでインスリンの成熟化に寄与する。グルタミン酸は、分泌顆粒内を酸性化させ、プロインスリンからインスリンへの変換を刺激する。過剰なグルタミン酸は、より速い分泌を促すため、プロインスリンの分泌、および酸性化/プロインスリンのインスリンへの成熟化のための時間の不足に好都合となる。高いプロインスリンおよび微量の成熟インスリンの分泌は、1型糖尿病の特徴であり、2型糖尿病でもそれより低い程度で存在する。高グルカゴン血症および高インスリン血症が潜在する疾患としては、高血圧、慢性心疾患、心臓血管系疾患、腎疾患、慢性肺疾患、肥満、およびがんも挙げられる。耐糖能異常(IGT)、空腹時血糖/グルカゴン異常(IFG)もまた、深刻な疾患への進行を予防するために予防的に処置されうる基礎疾患である。
【0060】
血漿または血液グルタミン酸レベルが高い疾患としては、アルツハイマー病、慢性統合失調症、大うつ病性障害(MDD)、自閉スペクトル症、多発性硬化症、パーキンソン病および神経・筋変性障害が挙げられる。
【0061】
好ましくは、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸は、好ましくは、未処置の対象におけるACE2発現のレベルと比較して、対象におけるACE2発現を低減させ、かつ/または阻害することによって、コロナウイルス感染または感染した対象における症状の有効な発症予防、改善、または処置において使用されうる。
【0062】
一実施形態では、「NDX-90」と呼ばれるペプチドのタンパク質配列は、9アミノ酸長であり、本明細書では、以下のように配列番号1として示される。
QQYNSYPLT
[配列番号1]
一実施形態では、該ペプチドは、第2のペプチドと一体に連結されて二量体を形成する。好ましくは、第2のペプチドもまた、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列、またはその誘導体もしくは類似体を含む。好ましくは、該ペプチドは、各ペプチドのN末端においてシステイン残基によって連結される。
【0063】
該ペプチドは、アミノ酸の除去によってサイズを低減してもよい。アミノ酸の低減は、該ペプチドのC末端および/またはN末端からの残基の除去によって成されうるか、または該ペプチドのコア内部からの1つまたは複数のアミノ酸の削除によって成されうる。
【0064】
「その誘導体もしくは類似体」という用語は、アミノ酸残基が、類似の側鎖またはペプチド骨格特性を有する残基(天然アミノ酸であれ、非天然アミノ酸であれ、またはアミノ酸模倣物であれ)によって置換されているペプチドを意味しうる。さらに、そのようなペプチドの末端は、アセチルまたはアミド基と類似の特性を有するN末端および/またはC末端の保護基によって保護されていてもよい。
【0065】
本発明によるペプチドの誘導体および類似体は、インビボにおけるペプチドの半減期を延ばす誘導体および類似体も含みうる。例えば、本発明のペプチドの誘導体および類似体は、ペプチドのペプトイドおよびレトロペプトイド誘導体、ペプチド・ペプトイドハイブリッド、およびペプチドのD-アミノ酸誘導体を含みうる。
【0066】
ペプトイドまたはポリ-N-置換グリシンは、側鎖が、ペプチド骨格のアルファ炭素にではなく窒素原子に付加され、アミノ酸内にあるような、ペプチド模倣薬の1つのクラスである。本発明のペプチドのペプトイド誘導体は、ペプチドの構造の知識から容易に設計されうる。レトロペプトイド(すべてのアミノ酸が逆の順序のペプトイド残基によって置換されている)もまた、本発明による好適な誘導体である。レトロペプトイドは、ペプチド、または1つのペプトイド残基を含有するペプトイド・ペプチドハイブリッドと比べると、リガンド結合溝において反対方向で結合することが予想される。結果として、ペプトイド残基の側鎖は、元のペプチドの側鎖と同じ方向を向くことができる。
【0067】
本発明による好ましい核酸分子は、以下を含みうる。
TGTCAGCAATATAACAGCTATCTTCTCACG
[配列番号2]
TGCCAACAGTACAATAGTTACCCCCTTACA
[配列番号3]
したがって、好ましくは、本核酸分子は、実質的に配列番号2もしくは3のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列、またはそのバリアントもしくは断片を含む。
【0068】
核酸分子は、単離もしくは精製された核酸配列であってもよい。核酸配列は、DNA配列であってもよい。核酸分子は、合成DNAを含んでいてもよい。核酸分子は、cDNAを含んでいてもよい。核酸は、異種のプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。本ペプチド、その誘導体または類似体をコードする核酸配列は、遺伝子治療で使用するためにまたはクローニングのために遺伝子構築物に組み込まれていてもよい。
【0069】
好ましい一実施形態では、したがって、本ペプチド、その誘導体または類似体をコードする核酸分子は、遺伝子構築物である。より好ましくは、核酸分子または遺伝子構築物は、組換えベクター内で提供される。
【0070】
本発明の遺伝子構築物は、コードされたペプチド、その誘導体または類似体の宿主細胞における発現に好適でありうる発現カセットの形態であってもよい。遺伝子構築物は、ベクターに組み入れられることなく、宿主細胞中に導入されてもよい。例えば、核酸分子でありうる遺伝子構築物は、リポソームまたはウイルス粒子内に組み入れられてもよい。別法として、精製された核酸分子(例えば、ヒストンを含まないDNAまたは裸のDNA)は、好適な手段、例えば、直接エンドサイトーシスによって取り込ませることによって、直接宿主細胞中に挿入されてもよい。クローニングでは、遺伝子構築物は、宿主対象の細胞(例えば、細菌細胞、真核細胞、または動物細胞)に、トランスフェクション、感染、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、プロトプラスト融合、または微粒子銃によって、直接導入されてもよい。別法として、本発明の遺伝子構築物は、パーティクルガンを使用して、直接宿主細胞中に導入されてもよい。別法として、好適な宿主細胞における発現の場合、遺伝子構築物は、組換えベクター内に保持されていてもよい。処置中の対象への投与の場合、遺伝子構築物は、AAVなどのファージ送達システムに含有されてもよい。
【0071】
組換えベクターは、プラスミド、コスミド、またはファージであってもよい。そのような組換えベクターは、宿主細胞を遺伝子構築物で形質転換する場合、また、ベクター内で発現カセットを複製させる場合、有用である。当業者であれば、本発明の遺伝子構築物は、発現用途の多種類のバックボーンベクターと組み合わされうることを理解されよう。組換えベクターは、遺伝子発現を開始するための好適なプロモーターを含む、様々なその他の機能的エレメントを含んでいてもよい。例えば、組換えベクターは、宿主細胞の細胞質ゾルにおいて自律的に複製するように設計されていてもよい。この場合、組換えベクター中に、DNA複製を誘導または調節するエレメントが必要となりうる。別法として、組換えベクターは、宿主細胞のゲノム中に組み込まれるように設計されていてもよい。この場合、標的化した組込み(例えば相同組換えによる)に有利に働くDNA配列が想定される。
【0072】
クローニングを容易にするために、組換えベクターはまた、クローニングプロセスにおける選択マーカーとして使用されうる、すなわち、トランスフェクトまたは形質転換された細胞の選択を可能にするための、かつ異種DNAを組み込むベクターを保持する細胞の選択を可能にするための遺伝子をコードするDNAも含んでいてもよい。別法として、選択マーカー遺伝子は、目的の遺伝子を含有するベクターと同時に使用されるように、異なるベクター中にあってもよい。ベクターはまた、コード配列の発現の調節に関係したDNA、または発現されたポリペプチドを宿主細胞のある特定の部分へと標的化するためのDNAも含んでいてもよい。
【0073】
本発明によるペプチド、その誘導体または類似体は、コロナウイルス感染または感染した対象における症状を処置、予防、または改善するために医薬において使用されうるものであり、単独療法(すなわち、本ペプチド、その誘導体もしくは類似体、または本核酸の単独での使用)として使用されうることが理解されよう。別法として、本発明によるペプチド、その誘導体もしくは類似体、または核酸は、コロナウイルス感染または感染した対象における症状を処置、予防、または改善するための既知の治療法に対する補助剤として、またはそれらと組み合わせて使用されうる。例えば、対象は、追加的に、レムデシビル(RTM)、アスピリン、デキサメタゾン、および/またはビタミンDで処置されてもよい。
【0074】
本発明によるペプチドまたは核酸は、多数の異なる形態を有する組成物中で、特に、組成物が使用される予定の方法に応じて、組み合わされてもよい。すなわち、例えば、組成物は、散剤、錠剤、カプセル剤、液剤、軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル溶液、経皮吸収型貼付剤、リポソーム懸濁液、または処置を必要とする個人または動物に投与されうる任意のその他の好適な剤形の形態であってもよい。本発明による医薬のビヒクルは、投与される対象に十分に許容されるビヒクルであるべきであることが理解されよう。
【0075】
本発明によるペプチドを含む医薬は、多数の方法において使用されうる。例えば、経口投与は、本ペプチドが、例えば、錠剤、カプセル剤、または液剤の形態で経口的に摂取されうる組成物内に含有されうる場合に必要となりうる。表5および6に示すように、本発明のペプチド(NDX-90)は、頬側組織細胞による有効な取込みが実証されており、これは、経口投与がNDX-90を対象に送達する有効な方法であることを示すものである。
【0076】
したがって、好ましくは、本発明のペプチドは、経口的に投与され、最も好ましくは、舌下投与である。該ペプチドは、好ましくは頬側粘膜に付着させるための粘膜粘着剤と共に製剤化されうる。
【0077】
本発明のペプチドは、細胞膜透過性促進因子、浸透促進剤および/または吸収促進因子と共に製剤化されうる。
【0078】
本発明によるペプチドはまた、徐放性または遅延放出性デバイス内に組み込まれていてもよい。そのようなデバイスは、例えば、皮膚上または皮下に挿入されてもよく、医薬は、数週間またはさらには数カ月かけて放出されうる。デバイスは、処置部位に隣接して位置付けられてもよい。そのようなデバイスは、本発明に従って使用されるペプチドによる長期処置が必要で、通常、頻繁な投与(例えば、毎日の注射)が必要と考えられる場合、特に有利でありうる。
【0079】
好ましい一実施形態では、本発明による医薬は、血流中へのまたは処置を必要とする部位への直接的な注入によって対象に投与されてもよい。例えば、該医薬は、膵島の近くにまたは少なくとも隣接して注入されてもよい。注入は、静脈内(ボーラスまたは輸注)、筋肉内(ボーラスまたは輸注)、皮下(ボーラスまたは輸注)、または皮内(ボーラスまたは輸注)であってもよい。
【0080】
必要とされるペプチドの量は、その生物学的活性およびバイオアベイラビリティによって決定され、次いで、投与の方法、ペプチドの生理化学的特性、また、単独療法、併用療法のどちらで使用されているかに依存することが理解されよう。投与の頻度もまた、処置中の対象の体内または体表でのペプチドの半減期に影響されることとなる。投与されるべき最適な用量は、当業者によって決定されてもよく、使用中の特定のペプチド、医薬組成物の強度、および投与の方法によって変わることとなる。対象の年齢、体重、性別、食事、および投与の時間を含む、処置中の個々の対象に応じた追加の要素によって、用量の調整が必要となる。
【0081】
最適な用量は、コロナウイルス感染の重症度に応じて決定されうる。本ペプチドは、入院中の感染した対象に1日1回または2回、投与されうる。入院していない感染した対象は、入院中の対象より、週に1回または2回など、少ない回数の本ペプチドの投与、および/または低い用量を必要としてもよい。別法として、予防的処置として使用される場合は、本ペプチドは、さらに少ない回数で投与されてもよい。例えば、コロナウイルス感染の重症度に寄与する既存の病状を有する非感染の対象では、本ペプチドの週に1回または月1回の投与が必要とされうる。別法として、本ペプチドは、正常な耐糖能または耐糖能異常を有する非感染の対象に、1カ月毎、3カ月毎、または6カ月毎に投与されうる。
【0082】
一般的には、0.001μg/kg体重から10mg/kg体重の間または0.01μg/kg体重から1mg/kg体重の間の1日量の本発明によるペプチドが、コロナウイルス感染または感染した対象における症状を処置、予防、または改善するために使用されうる。
【0083】
本ペプチドは、コロナウイルス感染に関連した症状の発症の前、間、または後に投与されうる。1日量は、単回投与(例えば、1日1回の適用)として投与されうる。別法として、本ペプチドは、1日に2回以上の投与が必要でありうる。一例として、本ペプチドは、0.07μgから700mgの間の1日2回(以上の)投薬(すなわち、70kgの体重と仮定して)として投与されうる。処置中の患者は、起床後に1回目の投薬を、次いで夕方(2回の投薬計画であれば)またはその後3時間または4時間あけて2回目の投薬を行ってもよい。別法として、患者に反復投与を求めることなく本発明によるペプチドの至適用量を提供するために、徐放性デバイスが使用されうる。
【0084】
製薬業界で通常用いられている手順などの既知の手順(例えば、インビボ実験法、臨床試験など)が、本発明によるペプチドの具体的な製剤化および厳密な治療計画(薬剤の1日量および投与の頻度など)を形づくるために使用されうる。本発明者は、本発明のペプチドの使用に基づきコロナウイルス処置組成物を提案するのは、本発明者が最初であると考える。
【0085】
ゆえに、本発明の第3の態様では、コロナウイルス感染の予防、処置、または改善医薬組成物であって、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸の治療的有効量、および薬学的に許容されるビヒクルを含む医薬組成物が提供される。
【0086】
本発明はまた、第4の態様において、第3の態様によるコロナウイルス感染の予防、処置、または改善医薬組成物を作製する方法であって、実質的に配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体または該ペプチドもしくはその誘導体もしくは類似体をコードする核酸の治療的有効量を、薬学的に許容されるビヒクルと組み合わせるステップを含む方法を提供する。
【0087】
「対象」は、脊椎動物、哺乳動物、または家畜であってもよい。ゆえに、本発明による医薬は、任意の哺乳動物、例えば家畜(例えばウマ)、ペットを処置するために使用してもよく、またはその他の獣医学的用途において使用してもよい。しかしながら、最も好ましくは、対象はヒトである。
【0088】
ペプチドの「治療的有効量」は、対象に投与される場合、コロナウイルス感染を処置し、改善させ、もしくは予防し、または所望の効果をもたらすために必要とされる活性剤の量である任意の量である。本ペプチド、その誘導体もしくは類似体は、コロナウイルス感染の予防または処置のための補助剤として使用してもよい。これは、必要となるその他の予防的または治療的処置の用量が低くなることを意味する。
【0089】
例えば、使用されるペプチドの治療的有効量は、約0.001mgから約800mgまで、好ましくは約0.01mgから約500mgまでであってもよい。
【0090】
本明細書において言及される「薬学的に許容されるビヒクル」は、医薬組成物の製剤において有用であることが当業者に公知の任意の既知の化合物または既知の化合物の組合せである。
【0091】
一実施形態では、薬学的に許容されるビヒクルは、固体であってもよく、組成物は、散剤または錠剤の形態であってもよい。固体の薬学的に許容されるビヒクルは、香味剤、滑沢剤、可溶化剤、懸濁化剤、色素、増量剤、滑剤、圧縮助剤、不活性結合剤、甘味剤、防腐剤、コーティング剤、または錠剤崩壊剤としても作用しうる、1つまたは複数の物質を含んでいてもよい。該ビヒクルはまた、封入材であってもよい。散剤中では、該ビヒクルは、微細に分割された本発明による活性薬剤と混和されている、微細に分割された固体である。錠剤中では、活性薬剤(すなわち、本ペプチドまたは核酸)は、好適な比率で必要な圧縮特性を有するビヒクルと混合され、所望の形状およびサイズにしっかり結合されうる。好適な固体ビヒクルとしては、例えば、リン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、デキストリン、デンプン、ゼラチン、セルロース、ポリビニルピロリジン、低融点ワックス、およびイオン交換樹脂が挙げられる。別の実施形態では、製薬的ビヒクルは、ゲルであってもよく、組成物は、クリームなどの剤形であってもよい。
【0092】
しかしながら、製薬的ビヒクルは、液剤であってもよく、医薬組成物は、溶液の形態である。液体ビヒクルは、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤、および加圧組成物の調製において使用される。本発明による活性薬剤(すなわち、本ペプチドまたは核酸)は、水、有機溶媒、両者の混合物、または薬学的に許容される油もしくは脂肪などの薬学的に許容される液体ビヒクルに溶解または懸濁されうる。液体ビヒクルは、可溶化剤、乳化剤、緩衝剤、防腐剤、甘味剤、香味剤、懸濁化剤、増粘剤、着色料、粘性調節剤、安定化剤、または浸透圧調節剤などの、その他の好適な製薬的添加剤を含有しうる。経口および非経口投与のための液体ビヒクルの好適な例としては、水(部分的に、上記の添加剤、例えばセルロース誘導体、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム溶液を含有する)、アルコール(一価アルコールおよび多価アルコールを含む、例えばグリコール)およびそれらの誘導体、ならびに油(例えば、分留されたヤシ油およびラッカセイ油)が挙げられる。非経口投与では、液体ビヒクルはまた、オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルなどの油性エステルでありうる。滅菌液体ビヒクルは、非経口投与のための滅菌液体形態の組成物において有用である。加圧組成物のための液体ビヒクルは、ハロゲン化炭化水素またはその他の薬学的に許容される噴霧剤でありうる。
【0093】
滅菌溶液または懸濁液である液体医薬組成物は、例えば、筋肉内、髄腔内、硬膜外、腹腔内、静脈内、特に皮下注射によって利用されうる。本ペプチドは、滅菌水、生理的食塩水、またはその他の適切な滅菌注射可能溶媒を使用して投与時に溶解または懸濁することができる滅菌固体組成物として調製されうる。
【0094】
本発明のペプチドおよび組成物は、その他の溶質または懸濁化剤(例えば、溶液等張性を得るのに十分な生理的食塩水またはブドウ糖)、胆汁酸塩、アカシア、ゼラチン、モノオレイン酸ソルビタン、およびポリソルベート80(ソルビトールのオレイン酸エステルおよびエチレンオキシドで共重合されたその酸無水物)などを含有する滅菌溶液または懸濁液の形態で経口的に投与されうる。本発明に従って使用されるペプチドはまた、液体または固体組成物のいずれかの形態で、経口的に投与されうる。経口投与に好適な組成物としては、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、および散剤などの固体剤形、ならびに溶液、シロップ剤、エリキシル剤、および懸濁剤などの液体剤形が挙げられる。好ましくは、経口投与可能な製剤は、胃では溶解せず、優先的には十二指腸で溶解する。経口投与可能な製剤は、腸管溶性であってもよく、例えば腸溶性錠剤またはカプセル剤であってもよい。非経口投与に有用な剤形としては、滅菌溶液、乳剤、および懸濁剤が挙げられる。
【0095】
本発明は、本明細書において言及された配列のうちいずれかのアミノ酸または核酸配列を実質的に含むあらゆる核酸もしくはペプチド、またはそのバリアント、誘導体、もしくは類似体、ならびにそれらの機能的バリアントもしくは機能的断片に及ぶものであることが理解されよう。「実質的にアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列」、「機能的バリアント」、および「機能的断片」という用語は、本明細書で言及された配列のいずれか1つのアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列と少なくとも40%の配列同一性を有する、例えば、配列番号1~3として同定された配列と40%の同一性を有する配列などでありうる。
【0096】
言及された配列のうちのいずれかに対して、65%を超える、より好ましくは70%を超える、さらにより好ましくは75%を超える、さらにより好ましくは80%を超える配列同一性である配列同一性を有するアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列もまた、想定される。好ましくは、アミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列は、本明細書で言及された配列のうちのいずれかと少なくとも85%の同一性を、より好ましくは、本明細書で言及された配列のうちのいずれかと少なくとも90%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも92%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも97%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%の同一性、および最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する。
【0097】
当業者であれば、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列の間のパーセント同一性をどのように算出するかは理解されよう。2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列の間のパーセント同一性を算出するためには、まず2つの配列のアラインメントを作成した後、配列同一性の値を算出しなければならない。2つの配列のパーセント同一性は、以下に応じて、異なる値が得られる可能性がある。(i)配列をアラインメントさせるために使用される方法、例えば、ClustalW、BLAST、FASTA、スミス-ウォーターマン(様々なプログラムに実装されている)、または3D比較による構造的アラインメント、ならびに(ii)アラインメント方法によって使用されるパラメーター、例えば、ローカルアラインメント対グローバルアラインメント、使用されるペア・スコアマトリックス(例えば、BLOSUM62、PAM250、Gonnetなど)、ならびにギャップペナルティー、例えば関数形および定数。
【0098】
アラインメントを行った場合、2つの配列間のパーセント同一性を算出する多様な方法がある。例えば、同一性の数を、(i)最短配列の長さ、(ii)アラインメントの長さ、(iii)配列の平均の長さ、(iv)非ギャップ位置の数、または(iv)オーバーハングを除いた一致する位置の数、によって割ることができる。さらに、パーセント同一性はまた、強く長さ依存性であることが理解されよう。したがって、配列の対が短いほど、偶然に生じたと予想できる配列同一性が高くなる。
【0099】
ゆえに、タンパク質またはDNA配列の正確なアラインメントは複雑なプロセスであることが理解されよう。一般的なマルチプルアラインメントプログラムClustalW(Thompsonら、1994年、Nucleic Acids Research、22、4673~4680頁;Thompsonら、1997年、Nucleic Acids Research、24、4876~4882頁)が、本発明によるタンパク質またはDNAのマルチプルアラインメントの生成に好ましい手段である。ClustalWの好適なパラメーターは、以下の通りでありうる:DNAアラインメントの場合:ギャップ開始時ペナルティー=15.0、ギャップ伸長ペナルティー=6.66、およびマトリックス=同一性。タンパク質アラインメントの場合:ギャップ開始時ペナルティー=10.0、ギャップ伸長ペナルティー=0.2、およびマトリックス=Gonnet。DNAおよびタンパク質アラインメントの場合:ENDGAP=-1、およびGAPDIST=4。当業者であれば、最適な配列アラインメントのためには、これらのパラメーターおよびその他のパラメーターを変更することが必要でありうることに気づかれよう。
【0100】
好ましくは、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列の間のパーセント同一性の算出は、次いで、そのようなアラインメントから、(N/T)*100として算出されうる。ここで、Nは、配列が同一残基を共有する位置の数であり、Tは、ギャップを含み、かつオーバーハングを含んでまたは除いて比較された位置の総数である。好ましくは、オーバーハングは算出に含める。ゆえに、2つの配列間のパーセント同一性を算出する最も好ましい方法は、(i)例えば上記のようなパラメーターの好適なセットを使用するClustalWプログラムを使用して、配列アラインメントを作成するステップ、および(ii)式:配列同一性=(N/T)*100へ、NおよびTの値を挿入するステップを含む。
【0101】
類似配列を同定するための別法は、当業者には公知であろう。例えば、実質的に類似したヌクレオチド配列は、ストリンジェントな条件下でDNA配列またはそれらの相補体にハイブリダイズする配列によってコードされることとなる。ストリンジェントな条件とは、およそ45℃で、3×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中で、フィルターに結合したDNAまたはRNAにヌクレオチドをハイブリダイズさせた後、およそ20~65℃で、0.2×SSC/0.1%SDSで少なくとも1回洗浄することを意味する。あるいは、実質的に類似したペプチドは、配列番号1~3に示された配列と少なくとも1、2、3、4、または5つのアミノ酸だけが異なっていてもよい。
【0102】
遺伝暗号の縮重により、本明細書に記載した核酸配列はいずれも、それらの機能的バリアントを得るために、核酸配列によってコードされるタンパク質の配列に実質的に影響を与えることなく修正または変更することが可能であることは明白である。好適なヌクレオチドバリアントは、配列内で同じアミノ酸をコードする異なるコドンの置換、すなわちサイレント変異をもたらすことによって改変された配列を有する、ヌクレオチドバリアントである。その他の好適なバリアントは、相同なヌクレオチド配列を有するが、置き換えられるアミノ酸に類似の生物物理学的特性の側鎖を有するアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって改変されて、保存的変化がもたらされている全配列または配列の一部を含むバリアントである。例えば、低分子の無極性の疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、およびメチオニンが挙げられる。高分子の無極性の疎水性アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンが挙げられる。極性の中性アミノ酸としては、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、およびグルタミンが挙げられる。正電荷をもつ(塩基性)アミノ酸としては、リジン、アルギニン、およびヒスチジンが挙げられる。負電荷をもつ(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。したがって、アミノ酸は類似した生物物理学的特性を有するアミノ酸によって置換されうることが理解され、当業者であれば、これらのアミノ酸をコードするヌクレオチド配列はわかるであろう。
【0103】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約、および図面すべてを含む)に記載した特徴のすべて、および/またはそのように開示されたいずれの方法もしくはプロセスのステップのすべては、そのような特徴および/またはステップの少なくとも幾つかが互いに排他的である組合せを除き、上記の態様のいずれかとあらゆる組合せで組み合わせることができる。
【0104】
次に、本発明をより良く理解するために、またどのようにしてその実施形態を効果に移すことができるのかを示すために、例として添付の図面に対して言及する。
【図面の簡単な説明】
【0105】
図1a図1aは、SARS-CoV-2による感染の重症度に対する正常なグルカゴンレベルの影響を示す図である。正常なグルカゴンレベルは、AT1Rのより高い発現(7つのAT1Rによって表されている)、およびACE2受容体のより低い発現(3つのACE2によって表されている)と関連している。その結果として、SARS-CoV-2ウイルス侵入のための標的はより少なく、結合受容体をもたない遊離ウイルス粒子は、血液循環中で死滅する。
図1b図1bは、SARS-CoV-2による感染の重症度に対する高いグルカゴンレベルの影響を示す図である。高いグルカゴンレベルは、AMPKを活性化しており、AMPKがAT1R発現を抑制し(すなわち、4つのAT1Rによって表されているように、図1aで存在するより少ない)、ACE2発現を高めている(すなわち、6つのACE2によって表されているように、図1aで存在するより多い)。このことは、ウイルス侵入のための標的を増加させ、よってより重篤なSARS-CoV-2による感染をもたらす。
図2】細胞培養培地のみ(青色)の存在下、ならびに細胞培養培地および抗抗TCR抗体(緑色)の存在下で培養された、ラット膵島細胞におけるグルカゴン分泌を示す図である。
図3】細胞培養培地のみで培養されたラット膵島細胞(青色のバー)と比較した、抗抗TCR抗体の存在下で培養されたラット場合の膵島細胞からのグルカゴン分泌(緑色のバー)およびグルタミン酸分泌(オレンジ色のバー)の同時増加を示す図である。
【実施例
【0106】
本発明者は、NDX-90ペプチドが、対象におけるグルカゴンレベルを低減させ、これによって対象「宿主」細胞におけるACE2受容体の発現を低下させることができ、したがって、コロナウイルス感染または感染した対象における症状を処置し、予防し、または改善させるための新規治療法をもたらしうる、という仮説を検証することを試みた。
材料および方法
単離されたラット膵島培養物から分泌されたグルカゴンレベルの測定
単離された膵島を、11mmol/L(200mg/dL)ブドウ糖および10%FCSを含有するRPMI 1640に懸濁した。ブドウ糖濃度は、糖尿病の環境をシミュレートする。NDX-90を培養培地に溶解し、1μg/mlの最終濃度で適切なウェルに加えた。指定時間、インキュベートした後、試料を取り出して、Quantikine ELISA Immunoassay(R&D Systems)を使用してグルカゴンを測定した。
細胞浸透実験
頬側組織カルチャーインサートを、(5%COを含有する密封バッグ中で4℃で維持した)元の組織培養24-ウェルプレートから、無菌条件下で、37℃に予熱した無血清培地を1.0ml含む新しい24ウェルプレートのウェル中に移した。プレートは、投与に先立ち、前平衡手順として、5%CO雰囲気の37℃の加湿したインキュベーター内で、1時間インキュベートした。インキュベーターから取り出した後、組織の表面を覆う培養培地をすべて注意深く取り除き、血清フリー培養培地で適切に希釈されたペプチド溶液40μLと置き換えた。プレートは、5%CO雰囲気中、37℃中で、さらに30分間インキュベートした。インキュベーターからプレートを取り出し、上清試料を採取し、HPLCによって分析した。上清の主なピーク面積を、インキュベーション前の保存試料の主なピーク面積と比較した。
【0107】
実施例1
単離されたラット膵島培養物から分泌されたグルカゴンレベルに対するNDX-90ペプチドの影響
本発明者は、NDX-90がグルカゴンレベルを低減させることができるかどうかを判定するために、単離されたラット膵島培養物から分泌されたグルカゴンレベルを測定した。
【0108】
【表1】
表1に示したように、本発明者は、驚くべきことに、分泌過多正常化効果が、NDX-90ペプチド添加のほぼ直後に始まることを発見した。4時間後、グルカゴン分泌の32%の低減が観察され、24時間後、グルカゴン分泌は40.9%低減されており、これはほぼ正常レベルに達するものであった。
【0109】
すなわち、このデータは、明らかにかつ驚くべきことに、単離された膵島培養物へのNDX-90ペプチドの添加によって、ペプチドの添加後きわめて早期に、新鮮単離された膵島からのグルカゴンのこのストレス誘発性分泌過多が低減することを実証するものである。
【0110】
実施例2
空腹時血漿グルカゴンに対するNDX-90ペプチド処置の効果
本発明者は、次いで、2型糖尿病を有する対象における空腹時血漿グルカゴンレベルに対する、数カ月にわたるNDX-90ペプチド処置の効果を測定した。
【0111】
【表2】
表2に示したように、平均空腹時血漿グルカゴンレベルは、プラセボ群(1.29pg/ml、P=0.0843)と比較して、NDX-90ペプチドを投与された対象では有意に低減した(9.61pg/ml、P=0.009)。これらの結果は、NDX-90ペプチドが、数カ月にわたる長期のグルカゴン正常化効果を有することを実証するものである。
【0112】
また、2型糖尿病における平均空腹時グルカゴン濃度が、非糖尿病の対照対象より3.5pmol/L(12.2pg/ml)高かったことが報告された(P=0.012)(Menge B、Gruber Lら、Diabetes、2011年;60:2160~2168頁)。したがって、表2に示した2型糖尿病患者における空腹時グルカゴンレベルの平均9.61pg/mlの改善は、正常に向けて78.8%の改善を意味する。
【0113】
グルカゴンレベルを正常化させる重要性は、グルカゴン分泌の正常化だけにとどまらず、コロナウイルス感染の予防または治療法に有益性を与えることである。膵臓アルファ細胞からのグルカゴン分泌は、グルタミン酸の化学量論的共分泌を伴う(26)。第一に、グルタミン酸は、グルカゴン放出のための正の自己分泌シグナルとして作用し、したがって、グルタミン酸の共分泌が、さらなるグルカゴン放出のための連続的なシグナルを生み(27)、このサイクルが遮断されない限り、コロナウイルス感染の重症度を高めることとなる。第二に、グルタミン酸レベル(グルタミン酸(glutamic acid)とも呼ばれる)の上昇が、Covid-19疾患の重症度上昇と相関することが示されている(30)。さらに、II型糖尿病132名における血漿中のグルタミン酸レベルが、対照対象137名における血漿中のグルタミン酸レベルより有意に高かった(P<0.01)ことが示されている(31)。
【0114】
したがって、グルタミン酸と共分泌されるグルカゴンの分泌過多は、代謝調節不全および神経学的合併症を伴うCovid-19疾患の重症度に、二重の影響を及ぼす。特に、グルタミン酸は、平衡が崩れると神経学的異常の原因となりうる重要な神経伝達物質である。さらに、過剰グルタミン酸およびグルタミン酸トランスポーターが、Sars-Cov-2感染および疾患重症度と関連することが実証されている。さらに、グルタミン酸はウイルスが複製のために資化するため、Covid-19感染患者における高いグルタミン酸レベルは、疾患重症度に関係づけられている(32)。
【0115】
前述のように、過剰グルカゴンレベルは、ウイルス感染の結果として、グルカゴンを増やす自己抗体(抗抗TCR抗体)によって生じる。表3および図2に例証するように、本発明者は、ラット膵島細胞培養物におけるグルカゴン分泌が、抗抗TCR抗体の存在下で培養した場合、培養培地のみの場合と比較して有意に増加することを実証した。
【0116】
【表3】
さらに、培養培地のみまたは抗抗TCR抗体を加えた培養培地の存在下で培養したラット膵島細胞を、グルカゴンとグルタミン酸との共分泌について調べた。抗抗TCR抗体の存在下での培養では、4時間以内に、グルカゴンおよびグルタミン酸分泌の両方において、培地のみで培養した対照細胞と比較してきわめて有意な増加が認められた。特に、グルカゴンと同じ分泌顆粒から共分泌されたグルタミン酸レベルは、グルカゴンレベルが測定される培養物上清と同じものから測定したが、グルカゴンレベルより有意に高かった(図3を参照されたい)。
【0117】
感染、および中枢神経系(CNS)へのウイルスの侵入後、ACE2受容体は、ウイルスの侵入および複製を介した神経毒性、神経炎症、および神経変性の発生を媒介する。過剰なグルタミン酸の蓄積は、酸化ストレスを増加させることによって炎症性神経変性を進行させる(33)。神経学的症状は、Covid-19の入院患者では発生することが多い。脳の合併症が、血流、感染ニューロン、嗅神経、眼上皮、および障害された血液脳関門を含む幾つかの経路を経て生じることがある。したがって、グルタミン酸レベルを低減させることによるグルタミン酸興奮毒性の低減によって、コロナウイルス感染における神経学的症状の予防または改善が可能である。
【0118】
214例および841例のCovid-19入院患者を対象とした2つの試験では、神経学的所見が、それぞれ36.4%および57.4%の症例で観察された(34)。さらに、横断的研究では、高いグルタミン酸レベルが、より高い肥満度指数(BMI)、高血圧、および糖尿病を含むインスリン抵抗性と関連したことが報告されている(35)。980名が参加した臨床試験では、2型糖尿病または少なくとも3つの心血管系疾患(CVD)リスク因子を有する55~80歳の男女に、通常の対照食と比較した、地中海食による処置を行った。Zengらは、ベースラインのグルタミン酸が、複合型CVDまたは脳卒中単独のリスクのそれぞれ43%および81%増加と関連したことを報告した。数年間にわたる地中海食のフォローアップによって、CVDリスクが対照食と比較して37%低下した。高いグルタミン酸と関連した状態、すなわち、より高いBMI、高血圧、およびインスリン抵抗性もまたCovid-19感染症の重症度と関連するため、NDX-90を投与した数時間以内にグルカゴンおよび共分泌されたグルタミン酸レベルを低減させることは、Covid-19疾患、ならびに重篤なCovid-19アウトカムの素因となる基礎疾患の予防または改善においてもきわめて有効となろう。
【0119】
実施例3
NDX-90ペプチドのカルジオリピンと結合する能力
カルジオリピンは、そのミトコンドリア膜とほぼ排他的に結合し、電子伝達系によって生じる電気化学的勾配を介してATPを生成するように設計されているため、ミトコンドリアの生物エネルギー論において有意な役割を果たしている。ミトコンドリアの呼吸鎖複合体は、呼吸超複合体と呼ばれ、酸化的リン酸化に関与し、カルジオリピンの独特な二量体架橋構造を介して自身の構造的完全性および活性を維持している。カルジオリピンは、酸化可能な標的である不飽和脂肪アシル鎖を含有する。カルジオリピンの過酸化は、カルジオリピンの構造的完全性を改変し、年齢ならびに糖尿病および心血管系疾患を含む様々な病態生理学的状態と関連したミトコンドリアの機能障害をもたらすと考えられている(36)。
【0120】
詳細な解析から、カルジオリピンの酸化が、酸化されたカルジオリピン分子の主鎖/頭部および鎖領域における立体構造の変化をもたらすことが明らかとなった。酸化された主鎖/頭部は、別々に移動することが観察されており、これが、脂質鎖あたりの面積を増加させ、二重層の厚さを低減させ、これよって、ミトコンドリア内膜の機能性が改変される(37)。
【0121】
【表4】
表4に示したように、(二量体である)NDX-90は、カルジオリピン(はまた二量体)に結合する能力を有する。本発明者は、NDX-90は、カルジオリピンの二量体アームを一体に保持し、すなわち、ミトコンドリアの内膜中で二量体アームが別々に移動することを防ぎ、カルジオリピン依存性生体エネルギー論的プロセスを維持することによって機能している可能性があると考える。カルジオリピンへの結合によって、NDX-90は、糖尿病、またはミトコンドリアの機能障害と関連するインスリン抵抗性および高いグルカゴンレベルを特徴とするその他の状態を患う対象において、治療効果を有する。したがって、上記のNDX-90の驚くべき細胞透過機構的能力が、NDX-90の治療的機能に寄与するものと考えられる。Covid-19感染症の重症例では、ミトコンドリアの損傷が起き、その結果、カルジオリピンの放出を伴ってミトコンドリアDNA(MT-DNA)の放出が起こり、その結果、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム、および多臓器不全となる。MT-DNAは、内因的炎症であり、患者の血漿では非常に高いレベルを示していた。高い循環MT-DNAレベルはまた、Covid-19アウトカムが好ましくないことを示す早期指標でありうることが示されている。多変量回帰分析から、高い循環MT-DNAは、ICU入院、挿管、昇圧剤使用、または腎代替療法のための、独立したリスク因子であることが明らかとなった(29)。
【0122】
カルジオリピンは、様々なミトコンドリアタンパク質に結合しており、これによって、ミトコンドリアタンパク質の完全性および機能に寄与していることが知られている(37)。カルジオリピン鎖へのNDX-90二量体の結合は、酸化によって改変されたカルジオリピン鎖が別々に移動するのを防ぎ、ミトコンドリア膜の二重層の厚さを改善し、MT-DNAの放出を防ぐことができる。
【0123】
実施例4
NDX-90ペプチドの透過性
本発明者は、次に、NDX-90ペプチドの頬側組織透過性を測定して、その取込みを決定した。表5には、3つのペプチドA、B、およびNDX-90予備的な透過性解析をまとめ、表6には、ペプチドAおよびNDX-90について3つ組の解析を示す。ペプチドAは単量体当たり17個のアミノ酸の二量体であり、該ペプチドは、各ペプチドのN末端でシステイン残基によって連結されている(すなわち、ペプチドAは、NDX-90のサイズのほぼ2倍である)。ペプチドBは、単量体当たり8個のアミノ酸の二量体であり、該ペプチドはやはり、各ペプチドのN末端でシステイン残基によって連結されている。
【0124】
【表5】
【0125】
【表6】
表5に見られるように、ペプチドBは、実験条件下では、組織表面を横切る透過性を全く示さなかった。しかしながら、NDX-90は、3つ組の培養物において頬側組織細胞による効率的な取込みをはっきりと示した。NDX-90とペプチドAおよびBとの比較は、ペプチドの膜透過性は、サイズによる影響ではなくペプチドの固有特性であり、これは、予測または予想できるものではないことを明示している。
【0126】
実施例5
ACE2レベルを低減させるNDX-90ペプチドの能力
本発明者は、次に、2型糖尿病組織ドナーからのヒト膵島細胞の培養物中の可溶性ACE2レベルに対するNDX-90ペプチドの影響を測定した。ヒト膵島細胞は、24ウェル組織培養プレートで培養した。2つのシリーズの培養を構成した。NDX-90ペプチド溶液を一方のシリーズに加え、等量の培養培地を2つめのシリーズに加えた。処理剤の添加の4時間後、24時間後、および48時間後に、試験培養物および対照培養物から上清試料を取り出した。上清試料は、各試験ウェルおよび対照ウェルから各時点につき1回だけ取り出した。試料は、市販のELISAキットを製造業者の使用説明書に従って使用して、可溶性ACE2について試験した。試験は3回繰り返し実施し、平均吸光度(OD)データを下記の表7に示す。
【0127】
【表7】
データは、培養物へのペプチドの添加の4時間後には、可溶性ACE2レベルの5.3%の低減が認められ、24時間後には、さらに6.25%まで低減させたことを示している。それより長い48時間というインキュベーション時間では、さらなる低減は観察されなかった。これは、支配的な疾患プロセスの存在しない場合の、正常性を維持するための生理的システムにおける恒常性制御を反映している。
【0128】
上記で概説したNDX-90による可溶性ACE2の低減の影響は、Kragstrup TWによる論文を考慮すると明らかである(38)。この論文では(図2)、305名のCovid-19入院患者からの血漿ACE2レベルを、Normalized Protein eXpression(NPX)を使用して相対的なタンパク質値として、0~6の1点を除いたデータ点で、0~8のスケール上で表した。患者は、疾患重症度に基づいて、28日以内の死亡(グループ1)から重症度のより低いグループ2~5まで、酸素要求に関わらず5グループに分類した。各グループについて、入院0日目における血漿ACE2レベルの中央値を決定した。0~6の範囲内の血漿ACE2レベルの範囲を0から60に再分割すると、グループ1(28日以内の死亡)とグループ2~5(生存者、酸素有り無し両方)との間の中央値の違いは、0~60の範囲では、血漿ACE2は4単位だけ高かったことが明らかとなる。60単位が100%を表すこの範囲内では、4単位は6.6%を表している(4/60×100)。
【0129】
これは、NDX-90の存在下でヒト2型糖尿病膵島細胞培養物から得られた可溶性ACE2レベルの低減が、対照培養物と比較して6.25%であったことに、驚くほど近いものである(上記の表7を参照されたい)。したがって、これは、4~24時間以内の早期のNDX-90処置が、可溶性ACE2を十分に低減させて、Covid-19感染症の進行を止め、死亡を防ぎうることを明白に示している。上記で示した培養条件下とは異なり、インビボでの投薬は、状態の重症度に応じて繰り返すことができる。入院後7日目のKragstrup TWの論文の図3に見られるように、投薬の繰り返しによって血漿ACE2レベルの上昇は防げるはずである(38)。また、糖尿病、高インスリン血症、高グルカゴン血症、心血管系疾患、およびインスリン抵抗性を伴う状態の基礎疾患を有する個人の処置は、個人の特定の状態のためにも、Covid-19疾患の治療法または予防としても、NDX-90処置から利益を得ることができるということも必然の結論である。
総括
SARS-コロナウイルス2は、特に、耐糖能異常と関連した基礎疾患を有する個人において、人類が苦しむきわめて深刻なパンデミックをもたらした。ある有効な処置が、グルカゴンレベルを低減させ、これによってACE2発現を低減させると仮定できるならば、この処置は、コロナウイルス感染を予防的に防ぎ、または感染した対象における症状を処置し、もしくは改善させる能力を有するはずである。
【0130】
本明細書に記載したように、本発明者は、単離されたラット膵島培養物にペプチドNDX-90を投与し、対照と比較して、該ペプチドの添加後きわめて早期に(4時間)、グルカゴンの分泌の有意な低下を観察した。本発明者はまた、NDX-90が、数カ月にわたる長期のグルカゴン正常化効果を有し、2型糖尿病を有する対象における空腹時血漿グルカゴンレベルを効果的に低下させることを見出した。この研究は、したがって、NDX-90ペプチドがグルカゴン分泌を低減させることを示し、これによって、このペプチドが、ACE2受容体の発現を低下させることによって、高グルカゴン血症および/もしくは高インスリン血症のための有効な治療法、ならびにコロナウイルス感染および感染した対象における症状の有効な発症予防、改善、または処置として、高グルカゴン血症が潜在するすべての状態において使用されうることを指摘するものである。
【0131】
さらに、NDX-90は、投与から数時間以内にCovid-19感染および疾患進行を食い止めるさらに2つの機序を示した。グルカゴンは、同じ膵島アルファ細胞分泌小胞からグルタミン酸と共分泌される。膵臓を源とするこのグルタミン酸は、インスリン抵抗性、糖尿病、心血管性所見、高血圧、肥満、および重篤なCovid-19アウトカムの素因となるその他の基礎疾患を有する患者における過剰グルタミン酸の大部分を占める。グルタミン酸レベルは、Covid-19感染症では上昇し、疾患重症度を悪化させる神経学的症状の原因である。グルタミン酸は同じ分泌顆粒からグルカゴンと共分泌されるため、グルタミン酸分泌は、グルカゴン分泌と同時に低減される。
【0132】
ただし、グルタミン酸の作用は、グルカゴンの作用とは異なる。グルタミン酸は、ウイルスの複製プロセスにおいてウイルスによって資化され、したがって、高いグルタミン酸レベルは、ウイルス量に寄与し、Covid-19重症度および乏しい生存アウトカムと関連する。Covid-19入院患者を対象とした2つの研究では、それぞれ、症例の36.4%および57.4%で神経学的所見が観察された。したがって、NDX-90の投与によるグルタミン酸レベルの低減は、Covid-19疾患のために予防的かつ治療的なものとなるはずである。
【0133】
さらに、NDX-90は、ミトコンドリア内膜にほとんど排他的に配置する独特なリン脂質であるカルジオリピンに結合する能力を有する。Covid-19の重症例では、ミトコンドリアDNA(MT-DNA)の放出をもたらすミトコンドリアの損傷が起こり、これは、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム、および多臓器不全をもたらすカルジオリピンの放出を伴うものである。MT-DNAは内因的炎症であり、患者の血漿中では非常に高いレベルを示していた。高い循環MT-DNAレベルはまた、Covid-19アウトカムが好ましくないことを示す早期指標でありうることが示されている。したがって、カルジオリピン鎖へのNDX-90二量体の結合は、酸化によって改変されたカルジオリピン鎖が別々に移動することを防ぎ、ミトコンドリア膜の二重層の厚さを改善し、MT-DNAの放出を防ぐことができる。
【0134】
したがって、NDX-90を予防的および治療的なものにさせうる3つの機序は、以下の通りである。
【0135】
1)第一に、グルカゴンレベルを正常度まで低減させることによって、ACE2レベルを十分に低減させて、Covid-19感染症を予防的に防ぎ、または疾患進行および死亡を治療的に防ぐ。
【0136】
2)第二に、グルカゴンとグルタミン酸は、化学量論的に共分泌されており、したがって、グルカゴン分泌の低減は、グルタミン酸分泌の化学量論的な低減を伴う。グルタミン酸は、ウイルスの増殖を助長し、グルタミン酸興奮毒性は、Covid-19疾患において神経学的合併症の原因である。したがって、グルカゴンおよびグルタミン酸分泌の両方を低減させることによって、NDX-90は、コロナウイルス感染の予防または改善においてきわめて有効でありうる。
【0137】
3)第三に、重篤なCovid-19疾患において観察された、損傷したミトコンドリアからのミトコンドリアDNAおよびカルジオリピン漏出は、炎症性であり、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、サイトカインストーム、および多臓器不全をもたらす。NDX-90二量体は、やはり二量体であるカルジオリピンに結合し、損傷したカルジオリピンリッチなミトコンドリア膜を安定化させる。細胞透過性であるNDX-90は、ミトコンドリア機能障害関連疾患であり重篤なCovid-19感染症アウトカムの素因となる2型糖尿病において、きわめて有意な治療効果を既に示している。
【0138】
したがって、包括的な速効性処置薬であるNDX-90は、初期感染レベル(グルカゴンおよびACE2)、さらにはウイルスの増殖と、神経毒性と、炎症誘発性ミトコンドリアDNAおよびカルジオリピンを放出するミトコンドリアの不安定化とに関与する疾患悪化因子(高いグルタミン酸)にも対処するものである。したがって、NDX-90ペプチドは、コロナウイルス感染および感染した対象における症状の有効な発症予防、改善、または処置において使用されうる。
参考文献
1. CDC COVID-19 Response Team. Preliminary Estimates of the Prevalence of Selected Underlying Health Conditions Among Patients with Coronavirus Disease 2019-United States, February 12-March 28,2020. MWMR, April 3,2020, Vol 69, No 13.

2. Ramchand J., Patel S.K., et al. Elevated plasma angiotensin converting enzyme 2 activity is an independent predictor of major cardiac events in patients with obstructive coronary artery disease. PLOS ONE journal.pone.0198144 June 19 2018.

3. Soro-Paavonen A, Gordin D, Forsblom C et al. Circulating ACE2 activity is increased with type 1diabetes and vascular complications. J Hypertens 30: 375-383, 2012.

4. Anguiano L, Riera M,Pascual J et. al. Circulating angiotensin-converting enzyme 2 activity in patients with chronic kidney disease without previous history of cardiovascular disease. Nephrol Dial Transplant 30:1176-1185, 2015.

5. Gilbert A., Liu J., Cheng G., etal. A review of urine angiotensin converting enzyme 2 in diabetes and diabetic nephropathy. Biochem Med (Zagreb) 2019;29(1): 010501.

6. Yang JK, Feng Y, Yuan MY et. al. Plasma glucose levels and diabetes are independent predictors for mortality and morbidity in patients with SARS. Diabetic Medicine, 23 (6): 623-628, 2006.

7. Jia HP, Look DC, Shi L, Hickey M et. al. ACE2 receptor expression and Severe Acute Respiratory syndrome Coronavirus Infection depend on differentiation of human airway epithelia. Journal of Virology, 79:14614-14621, 2005.

8. Qiao Q, Jousilahti P, ErikssonJ et.al, Predictive properties of Impaired Glucose Tolerance for Cardiovascular risk are not explained by the development of overt diabetes during follow-up. Diabetes Care, 26: 2910-2914, 2003.

9. Sechi LA, Catena C, Zingaro L, et. al. Abnormalities of glucose metabolism in patients with early renal failure. Diabetes, 51:1226-1232, 2002.

10. Nathan DM, Davidson MB, DeFronzo RA et. al. Impaired fasting glucose and impaired glucose tolerance. Diabetes Care, 30:753-759, 2007.

11. Abdul-Ghani MA, Tripathy D, De Fronzo RA. Contribution of β-cell dysfunction and insulin resistance to the pathogenesis of impaired glucose tolerance and impaired fasting glucose. Diabetes Care, 29:1130-1139, 2006.

12. Faerch K, Vistsen D, Pacini G et. al. Insulin resistance is accompanied by increased fasting glucagon and delayed glucagon suppression in individuals with normal and impaired glucose regulation. Diabetes, 65: 3473-3481, 2016.

13. Ichikawa R, Takano K, Fujimoto K, et.al. Basal glucagon hypersecretion and response to oral glucose load in prediabetes and mild type2 diabetes. Endocrine Journal,66:663-675, 2019.

14. Reaven GM, Chen YD, Golay A, et. al. Documentation of hyperglucagonemia throughout the day in nonobese and obese patients with noninsulin-dependent diabetes mellitus. J Clin. Endocrinol.Metab. 64:106-110, 1987.

15. Estall JL , Drucker DJ. Glucagon and Glucagon-Like Peptide Receptors as Drug Targets. Current Pharmaceutical Design 2006; 12: 1731- 1750

16. Huypens P, Ling Z, Pipeleers D, Schuit F. Glucagon receptors on human islet cells contribute to glucose competence of insulin release. Diabetologia 2000; 43:1012-1019

17. Ahren B. Glucagon secretion in relation to insulin sensitivity in healthy subjects. Diabetologia 2006 Jan;49(1):117-22. Epub 2005 Dec 17

18. Liu J, Li X, Lu Q et al. AMPK: a balancer of the renin-angiotensin system. Bioscience Reports , 2019, 39 BSR 20181994.

19. Hardie, DG. Minireview: the AMPK-activated protein kinase cascade: the key sensor of cellular energy status. Endocrinology, 2003; 144:5179-5183.

20. Longuet C, Sinclair EM, Maida A et.al. The glucagon receptor is required for the adaptive metabolic response to fasting. Cell Metabolism 8:359-371, 2008.

21. Hardie, DG. AMP-activated protein kinase: a key regulator of energy balance with many roles in human disease. J. Intern. Med., 2014; 276: 543-559.

22. Meng RS, Pei ZH et al. Adenosine-monophosphate- activated protein kinase inhibits cardiac hypertrophy through reactivating peroxisome-activated receptor-alpha signaling pathway. Eur.J. Pharmacol., 2009; 620: 63-70.

23. Li X., Liu J. et al., AMPK: a therapeutic target of heart failure-not only metabolism regulation. 2019; Biosci. Rep. 39, BSR20181767.

24. Kim SG., Kim JR. et al., Quercetin-induced AMP-activated protein kinase activation attenuates vasoconstriction through LKB1-AMPK signaling pathway. J.Med.Food, 2018; 21:146-153.

25. Gao F., Chen J. et al. A potential strategy for treating atherosclerosis: improving endothelial function via AMP-activated protein kinase. Sci. China Life Sci.,2018; 61: 1024-1029.

26. Hyashi M, Yamada H et al. Secretory Granule-mediated Co-secretion of L-Glutamate and Glucagon Triggers Glutamatergic Signal Transmission in Islets of Langerhans, JBC,2003; 278:1966-1974.

27. Cabrera O, Jacques-Silva MC et al. Glutamate Is a Positive Autocrine Signal for Glucagon Release, Cell Metabolism, 2008; 7:1-10.

28. Ceriello A, Standl E, et al.Issues of Cardiovascular Risk Management in People With Diabetes in
The Covid-19 Era. Diabetes Care, 2020; 43(7): 1427-1432.

29. Scozzi D, Cano M et al. Circulating mitochondrial DNA is an early indicator of severe illness and mortality from COVID-19. JCI Insight, 2021:6(4):e143299 https://doi.org/10.1172/jci.insght.143299

30. Paez-Franco JC, Torres-Ruiz J et al, Metabolomics analysis reveals a modified amino acid metabolism that correlates with altered oxygen homeostasis in COVID-19 patients, Nature Scientific Reports, 2021; 11:6350.

31. Chen T, Zang X, Long Y, Yu H, Ran X, Gao Y, Lu H, Xie X, Chen X, et al. The association of plasma free amino acids with liver enzymes in type 2 diabetes patients. J Endocrinol Invest. 2012, 35:772-775.

32. Krishnan S, Nordqvist H et al. Implications of central carbon metabolism in SARS-C0v-2 replication and disease severity. bioRxiv , 2021; doi:https://doi.org/10.1101/2021.02.24.432759

33. Engin AB, Engin ED et al. Current opinion in neurological manifestations of SARA-CoV-2 infection. Current Opinion in Toxicology, 2021; 25: 49-56.

34. Romero-Sanchez CM, Diaz-Maroto I et al. Neurologic manifestations in hos;ilazed patients with COVID-19: the ALBACOVID registry. Neurology, 2020; 95: e1060-e1070.

35. Zeng Y, Hu FB et al. Metabolites of Glutamate Metabolism Are Associated With Incident Cardiovascular Events in the PREDIMED PREvencion con DIeta MEDiterranea (PREDIMED) Trial. J Am Heart Assoc. 2016; 5:e003755.

36. Paradies G, Paradies V, De Benedictis V et al. Functional role of cardiolipin in mitochondrial bioenergetics. Biochimica and Biophysica Acta, 2014; 1837: 408-417.

37. Vahaheikkila M, Peltomaa T, Rog T et al. How cardiolipin peroxidation alters the properties of the inner mitochondrial membrane. Chemistry and Physics of Lipids, 2018; 214: 15-23.
38. .Kragstrup TW, Sing HS et al., Plasma ACE2 predicts outcome of COVID-19 in hospitalized patients PLOS ONE, 2021; 16(6):e0252799.
図1a
図1b
図2
図3
【配列表】
2023544910000001.app
【国際調査報告】