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特表2023-544927高ニッケル正極活物質、その製造方法、それを含むリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】高ニッケル正極活物質、その製造方法、それを含むリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231019BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20231019BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022562376
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(85)【翻訳文提出日】2022-10-12
(86)【国際出願番号】 CN2021118225
(87)【国際公開番号】W WO2023039717
(87)【国際公開日】2023-03-23
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513196256
【氏名又は名称】寧徳時代新能源科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】Contemporary Amperex Technology Co., Limited
【住所又は居所原語表記】No.2,Xingang Road,Zhangwan Town,Jiaocheng District,Ningde City,Fujian Province,P.R.China 352100
(74)【代理人】
【識別番号】100106220
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 正悟
(72)【発明者】
【氏名】呉 奇
(72)【発明者】
【氏名】陳 強
(72)【発明者】
【氏名】范 敬鵬
(72)【発明者】
【氏名】黄 涛
(72)【発明者】
【氏名】黄 起森
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA11
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
(57)【要約】
本出願は、コアLi1+a[NiCoMn]Oと、第1のシェル層の高速イオン伝導体LiαAlSiと、第2のシェル層のR元素の酸化物と、第1のシェル層と第2のシェル層との間に形成された遷移層Liとを含む高ニッケル三元系正極活物質を提供する。本出願の高ニッケル三元系正極活物質は、著しく減少した表面リチウム不純物量を有し、表面リチウム不純物を、コア材料内のリチウムイオンの吸蔵/放出を促進する高速イオン伝導体LiαAlSi、Liにおける有効成分に創造的に変換し、表面リチウム不純物による電解液の分解・ガス発生を著しく改善し、高ニッケル三元系リチウムイオン電池に高エネルギー密度を備えさせながら、良好なサイクル性能と安全性能を同時に備えさせる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシェル構造の高ニッケル正極活物質であって、
前記コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含み、ここでは、0.6≦x<1、0<y<0.3、0<z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.2、x+y+z+b=1であり、Mは、Mg、Ca、Sb、Ce、Ti、Zr、Sr、Al、Zn、Mo、及びBのうちの一つ以上であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1のシェル層と、前記第1のシェル層を被覆する第2のシェル層とを含み、ここで、
前記第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体であり、
前記第2のシェル層は、元素Rの酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上から選択される、高ニッケル正極活物質。
【請求項2】
前記シェルは、第1のシェル層と第2のシェル層との間に形成された遷移層をさらに含み、前記遷移層は、前記第1のシェル層成分と前記第2のシェル層成分とで形成された一つ又は複数の高速イオン伝導体Liを含み、ここでは、1≦p≦4、1≦q≦5、1≦w≦12であり、且つp、q及びwはいずれも整数である、請求項1に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項3】
前記第1のシェル層の高速イオン伝導体は、LiαAlSiであり、ここでは、0<X<2.4、0<Y<1.8、0.8≦α≦1.2であり、アルミニウム元素の化学量論係数Xとケイ素元素の化学量論係数Yとの比は、0.8~1.2である、請求項1又は2に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項4】
前記遷移層における高速イオン伝導体Liは、LiAlO、LiBO、LiTi12、LiPO、LiCoO、又はLiLaOのうちの一つ以上から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項5】
前記xは、0.8≦x<1であり、前記Mは、Sb、Ti、Zr、Sr、Al、Bのいちの一つ以上であり、前記Rは、Al、La、B、Co、Tiのうちの一つ以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項6】
前記コアにおけるリチウム元素と前記シェル層におけるリチウム元素との質量比は、40~1300:1である、請求項1~5のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項7】
MがAl、B又はTiのうちの一つ又は複数から選択される場合、RとMは異なり、且つ、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記高ニッケル正極活物質における前記M元素の質量含有量は、1000~5000ppmであり、任意選択的には、3000~5000ppmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項8】
MがAl、B又はTiのうちの一つ又は複数から選択される場合、RとMは異なり、且つ、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記R元素の質量含有量は、100~20000ppmである、請求項1~7のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項9】
前記高ニッケル正極活物質において、前記Si元素の質量と前記R元素との質量比は、0.1~7.0:1であり、任意選択的には、0.1~4.4:1である、請求項1~8のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項10】
前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記第1のシェル層におけるケイ素元素とアルミニウム元素の合計質量含有量は、435~13150ppmである、請求項1~9のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項11】
前記高ニッケル正極活物質の体積平均粒径Dv50は、1.5~20μmであり、前記シェル層の総厚さは、0.001~1μmである、請求項1~10のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質。
【請求項12】
高ニッケル正極活物質の製造方法であって、
シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体を提供して、第1の中間体を得るステップS1と、
前記第1の中間体と、M前駆体、リチウム前駆体とを混合し、焼結して第2の中間体を得るステップS2と、
前記第2の中間体と、R前駆体とを混合し、焼結して前記高ニッケル正極活物質を得るステップS3とを含み、
前記高ニッケル正極活物質は、コアシェル構造であり、
前記コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含み、ここでは、0.6≦x<1、0<y<0.3、0<z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.2、x+y+z+b=1であり、Mは、Mg、Ca、Sb、Ce、Ti、Zr、Sr、Al、Zn、Mo、及びBのうちの一つ以上であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1のシェル層と、前記第1のシェル層を被覆する第2のシェル層とを含み、ここで、
前記第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体であり、
前記第2のシェル層は、元素Rの酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上から選択される、高ニッケル正極活物質の製造方法。
【請求項13】
ステップS1において、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された前記高ニッケル三元系前駆体の製造過程は、
(a)アルミニウム前駆体、ケイ素前駆体をアルカリ溶液に完全に溶解させ、その後に高ニッケル三元系前駆体を添加して、固液混合物を得ること、
(b)前記固液混合物のpHを低下させ、アルミニウム前駆体とケイ素前駆体の加水分解-インサイチュ沈殿反応を開始させ、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体を得ることである、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか一項に記載の高ニッケル正極活物質、又は請求項12又は13に記載の製造方法によって製造された高ニッケル正極活物質を含む、リチウムイオン電池。
【請求項15】
請求項14に記載のリチウムイオン電池を含む、電池モジュール。
【請求項16】
請求項14に記載のリチウムイオン電池又は請求項15に記載の電池モジュールのうちの一つ以上を含む、電池パック。
【請求項17】
電力消費装置であって、
請求項14に記載のリチウムイオン電池、請求項15に記載の電池モジュール又は請求項16に記載の電池パックのうちの一つ以上を含み、前記リチウムイオン電池又は前記電池モジュール又は前記電池パックは、前記電力消費装置の電源又は前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられる、電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電気化学分野に関し、特に高ニッケル正極活物質、その製造方法、それを含む正極極板、リチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー分野の急速な発展に伴い、リチウムイオン電池は、その優れた電気化学的性能、記憶効果がなく、環境に対する汚染が少ないなどの優位性によって、様々な大型動力装置、エネルギー貯蔵システム及び様々な消費者製品に幅広く応用され、特に純電気自動車、ハイブリッド電気自動車などの新エネルギー自動車分野に幅広く応用されている。
【0003】
リン酸鉄リチウム材料に比べて、ニッケルコバルトマンガン三元系正極活物質は、その高いグラム容量により幅広く応用されているが、従来技術では、三元系リチウムイオン電池のエネルギー密度とそのサイクル性能、安全性能を総合的に向上させることができなかった。特に、三元系正極活物質におけるニッケル原子の含有量が高いほど、それを含むリチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル特性、安全性能を総合的に向上させることがより困難となり、三元系リチウムイオン電池のより大きい範囲での応用が極めて制限される。
【0004】
従って、高エネルギー密度、良好なサイクル特性、及び良好な安全性能を同時に備えるリチウムイオン電池を設計することは非常に困難である。
【発明の概要】
【0005】
本出願は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、三元系リチウムイオン電池に、高エネルギー密度、良好なサイクル特性、及び良好な安全性能を同時に備えさせる高ニッケル三元系正極活物質を提供することを目的とする。
【0006】
第1の態様によれば、本出願は、コアシェル構造の高ニッケル正極活物質を提供し、ここで、
前記コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含み、ここでは、0.6≦x<1、0<y<0.3、0<z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.2、x+y+z+b=1であり、Mは、Mg、Ca、Sb、Ce、Ti、Zr、Sr、Al、Zn、Mo、及びBのうちの一つ以上であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1のシェル層と、前記第1のシェル層を被覆する第2のシェル層とを含み、ここで、
前記第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体であり、
前記第2のシェル層は、R元素の酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上から選択される。
【0007】
任意の実施形態では、前記シェルは、第1のシェル層と第2のシェル層との間に形成された遷移層をさらに含み、前記遷移層は、前記第1のシェル層成分と前記第2のシェル層成分とで形成された一つ又は複数の高速イオン伝導体Liを含み、ここでは、1≦p≦4、1≦q≦5、1≦w≦12であり、且つp、q及びwはいずれも整数である。
【0008】
任意の実施形態では、前記第1のシェル層の高速イオン伝導体は、LiαAlSiであり、ここでは、0<X<2.4、0<Y<1.8、0.8≦α≦1.2であり、アルミニウム元素の化学量論係数Xとケイ素元素の化学量論係数Yとの比は、0.8~1.2である。
【0009】
任意の実施形態では、本出願の前記遷移層における高速イオン伝導体Liは、LiAlO、LiBO、LiTi12、LiPO、LiCoO、又はLiLaOのうちの一つ以上から選択される。
【0010】
任意の実施形態では、本出願における高ニッケル正極活物質のニッケル含有量は、ニッケルコバルトマンガンの全原子数に対して、80%以上であり、即ち、0.8≦x<1である。
【0011】
任意の実施形態では、本出願の高ニッケル正極活物質のコアにおいて、Mは、Sb、Ti、Zr、Sr、Al、Bのうちの一つ以上であってもよい。
【0012】
任意の実施形態では、本出願の高ニッケル正極活物質において、Rは、Al、La、B、Co、Tiのうちの一つ以上であってもよい。
【0013】
任意の実施形態では、本出願の高ニッケル正極活物質において、前記コアにおけるリチウム元素とシェル層におけるリチウム元素との質量比は、40~1300:1である。
【0014】
任意の実施形態では、MがAl、B又はTiのうちの一つ又は複数から選択される場合、RとMは異なり、且つ、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記高ニッケル正極活物質における前記M元素の質量含有量は、1000~5000ppmであり、任意選択的には、3000~5000ppmである。
【0015】
任意の実施形態では、MがAl、B又はTiのうちの一つ又は複数から選択される場合、RとMは異なり、且つ、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記R元素の質量含有量は、100~20000ppmである。
【0016】
任意の実施形態では、前記高ニッケル正極活物質において、前記Si元素の質量と前記R元素との質量比は、0.1~7.0:1であり、任意選択的には、0.1~4.4:1である。
【0017】
任意の実施形態では、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記第1のシェル層におけるケイ素元素とアルミニウム元素の合計質量含有量は、435~13150ppmである。
【0018】
任意の実施形態では、本出願の高ニッケル正極活物質の体積平均粒径Dv50は、1.5~20μmであり、前記シェル層の総厚さは、0.001~1μmである。
【0019】
第2の態様によれば、本出願は、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体を提供して、第1の中間体を得るステップS1と、
前記第1の中間体と、M前駆体、リチウム前駆体とを混合し、焼結して第2の中間体を得るステップS2と、
前記第2の中間体と、R前駆体とを混合し、焼結して前記高ニッケル正極活物質を得るステップS3とを含む高ニッケル正極活物質の製造方法を提供し、
ここで、前記高ニッケル正極活物質は、コアシェル構造であり、
前記コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含み、ここでは、0.6≦x<1、0<y<0.3、0<z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.2、x+y+z+b=1であり、Mは、Mg、Ca、Sb、Ce、Ti、Zr、Sr、Al、Zn、Mo、及びBのうちの一つ以上であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1のシェル層と、前記第1のシェル層を被覆する第2のシェル層とを含み、ここで、
前記第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体であり、
前記第2のシェル層は、元素Rの酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上から選択される。
【0020】
本出願の製造方法は、原材料の由来が広く、コストが低く、プロセスが簡潔であり、大規模工業化を実現するのにより有利となる。
【0021】
任意の実施形態では、ステップS1において、前記シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体の製造過程は以下の通りである。
【0022】
(a)アルミニウム前駆体、ケイ素前駆体をアルカリ溶液に完全に溶解させ、その後に高ニッケル三元系前駆体を添加して、固液混合物を得る。
【0023】
(b)前記固液混合物のpHを低下させ、アルミニウム前駆体とケイ素前駆体の加水分解-インサイチュ沈殿反応を開始させ、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体を得る。
【0024】
任意の実施形態では、前記ステップ(a)において、前記アルミニウム前駆体と前記ケイ素前駆体とを、アルミニウム:ケイ素=0.8~1.2:1のモル比で前記アルカリ溶液に添加する。
【0025】
任意の実施形態では、前記ステップ(a)において、前記固液混合物の全質量に対して、前記高ニッケル三元系前駆体の質量比は、16%~50%である。
【0026】
任意の実施形態では、前記ステップ(a)において、前記アルカリ溶液のpHは、11~13である。
【0027】
前記ステップ(b)において、1~20mL/minの流速で前記固液混合物に弱酸性ガスを流して、前記固液混合物のpHを8~10に低下させる。
【0028】
任意の実施形態では、前記ステップ(b)において、前記加水分解-インサイチュ沈殿反応の反応温度は、20~40℃であり、反応時間は、0.1~2hであり、撹拌線速度は、1~6m/sである。
【0029】
任意の実施形態では、ステップS2において、前記第1の中間体におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子の総モル量をMe2とすると、
リチウム原子の添加量が0.9~1.1Me2である前記リチウム前駆体と、M原子の添加量が(8×10-4~180×10-4)Me2である前記M前駆体と、前記第1の中間体とを混合する。
【0030】
任意の実施形態では、ステップS2において、焼結温度は、700~950℃であり、焼結時間は、10~20hであり、焼結雰囲気は、空気又は酸素ガスである。
【0031】
任意の実施形態では、ステップS3において、前記第2の中間体におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子の総モル量をMe3とすると、
R原子の添加量が(16×10-4~330×10-4)Me3である前記R前駆体と、前記第2の中間体とを混合する。
【0032】
任意の実施形態では、ステップS3において、焼結温度は、200~700℃であり、焼結時間は、5~15hであり、焼結雰囲気は、空気又は酸素ガスである。
【0033】
第3の態様によれば、本出願は、本出願の第1の態様に記載の高ニッケル正極活物質又は本出願の第2の態様に記載の製造方法により製造された高ニッケル正極活物質を含む正極極板を提供する。
【0034】
第4の態様によれば、本出願は、本出願の第1の態様に記載の高ニッケル正極活物質又は本出願の第2の態様に記載の製造方法により製造された高ニッケル正極活物質又は本出願の第3の態様に記載の正極極板を含むリチウムイオン電池を提供する。
【0035】
第5の態様によれば、本出願は、本出願の第4の態様に記載のリチウムイオン電池を含む電池モジュールを提供する。従来技術における既知の電池モジュールを製造するための方法を用いて電池モジュールを製造することができる。
【0036】
第6の態様によれば、本出願は、本出願の第4の態様に記載のリチウムイオン電池又は本出願の第5の態様に記載の電池モジュールのうちの一つ以上を含む電池パックを提供する。従来技術における既知の電池パックを製造するための方法を用いて電池パックを製造することができる。
【0037】
第7の態様によれば、本出願は、本出願の第4の態様に記載のリチウムイオン電池、本出願の第5の態様に記載の電池モジュール、又は本出願の第6の態様に記載の電池パックのうちの一つ以上を含む電力消費装置を提供し、前記リチウムイオン電池又は前記電池モジュール又は前記電池パックは、前記電力消費装置の電源又は前記電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられる。従来技術における既知の電力消費装置を製造するための方法を用いて電力消費装置を製造することができる。
【0038】
[有益な効果]
本出願は、高ニッケル三元系正極活物質を、それぞれ第1のシェル層の高速イオン伝導体、特にLiαAlSi、遷移層の高速イオン伝導体Li、及び第2のシェル層のR元素の酸化物で被覆することにより、本出願の高ニッケル三元系正極活物質を得ることができる。本出願の高ニッケル三元系正極活物質は、表面リチウム不純物の量が著しく減少し、表面リチウム不純物を、コアにおけるリチウムイオンの吸蔵/放出を促進する高速イオン伝導体LiαAlSi、Liにおける有効成分に創造的に変換し、表面リチウム不純物により電解液が分解してガスを発生させることを著しく改善し、高ニッケル三元系リチウムイオン電池に高エネルギー密度を備えさせながら、良好なサイクル性能と安全性能を同時に備えさせることができる。
【0039】
本出願の電池モジュール、電池パックと電力消費装置は、本出願によるリチウムイオン電池を含むため、少なくとも前記リチウムイオン電池と同じ優位性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本出願の一実施形態による高ニッケル正極活物質の構成概略図である。
図2】本出願の一実施形態による体積平均粒径分布図である。
図3】本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池の概略図である。
図4図3に示される本出願の一実施形態によるリチウムイオン電池の分解図である。
図5】本出願の一実施形態による電池モジュールの概略図である。
図6】本出願の一実施形態による電池パックの概略図である。
図7図6に示される本出願の一実施形態による電池パックの分解図である。
図8】本出願の一実施形態による電力消費装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下では、図面を適当に参照しながら、本出願に具体的に開示された高ニッケル正極活物質、その製造方法、それを含むリチウムイオン電池、電池モジュール、電池パック及び電力消費装置の実施形態を詳細に説明する。しかし、必要のない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同じである構造に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に長くなることを回避し、当業者に容易に理解させるためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者に本出願を十分に理解させるために提供するものであり、特許請求の範囲に記載された主題を限定するためのものではない。
【0042】
本出願に開示される「範囲」は、下限と上限の形式で規定され、所定の範囲は、一つの下限と一つの上限を選択することによって規定され、選択された下限と上限は、特定の範囲の境界を規定する。このように規定される範囲は、端値を含んでもよいし、含まなくてもよく、任意の組合せが可能であり、即ち、任意の下限は、任意の上限と組合せて、一つの範囲を形成してもよい。例えば、特定のパラメータについて60~120と80~110の範囲が挙げられている場合、60~110と80~120の範囲も想定されると理解される。さらに、最小範囲値として1と2が列挙され、最大範囲値として3、4、及び5が列挙される場合、1~3、1~4、1~5、2~3、2~4、及び2~5という範囲が全て想定される。本出願において、別段の記載がない限り、「a~b」という数値範囲は、a~bの間の任意の実数の組み合わせを表す短縮表現であり、ここで、aとbはいずれも実数である。例えば、「0~5」という数値範囲は、本明細書において「0~5」の間の全ての実数が列挙されていることを意味し、「0~5」は、これらの数値の組み合わせの短縮表現に過ぎない。また、あるパラメータが≧2の整数であると記載すると、そのパラメータが例えば整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることが開示されていることに相当する。
【0043】
別段の記載がない限り、本出願の全ての実施形態及び任意選択的な実施形態は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0044】
別段の記載がない限り、本出願の全ての技術的特徴及び任意選択的な技術的特徴は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0045】
別段の記載がない限り、本出願の全てのステップは、順次行われてもよく、ランダムに行われてもよく、好ましくは、順次行われる。例えば、前記方法がステップ(a)と(b)とを含むことは、前記方法が順次行われるステップ(a)と(b)とを含んでもよく、順次行われるステップ(b)と(a)とを含んでもよいことを表す。例えば、前記方法がステップ(c)をさらに含むことは、ステップ(c)が任意の順で前記方法に追加されてもよいことを表し、例えば、前記方法は、ステップ(a)、(b)と(c)を含んでもよく、ステップ(a)、(c)と(b)を含んでもよく、ステップ(c)、(a)と(b)などを含んでもよい。
【0046】
別段の記載がない限り、本出願で言及された「含む」と「包含」は、開放型を表し、閉鎖型であってもよい。例えば、前記「含む」と「包含」は、リストアップされていない他の成分をさらに含み又は包含してもよく、リストアップされた成分のみを含み又は包含してもよいことを表してもよい。
【0047】
本出願で用いられる用語「以上」、「以下」はその数を含み、例えば、「一つ以上」は、一つ又は複数を意味し、「AとBのうちの一つ以上」は、「A」、「B」、又は「AとB」を意味する。
【0048】
別段の記載がない限り、本出願において、用語「又は」は包括的である。例えば、用語「A又はB」は、「A、B、又はAとBの両方」を表す。より具体的には、Aが真であり(又は存在し)かつBが偽である(又は存在しない)条件と、Aが偽であり(又は存在せず)、Bが真である(又は存在する)条件と、また、AとBが共に真である(又は存在する)条件のいずれかも「A又はB」を満たしている。
【0049】
なお、用語「シェル層」は、高ニッケル正極活物質の「コア」上に被覆される部分を指し、前記部分は、前記「コア」を完全に被覆することができるが、必ずしも完全に被覆するものではない。「シェル」又は「シェル層」又は「第1のシェル層」又は「遷移層」又は「第2のシェル層」は、説明の便宜上用いられており、本出願を制限することを意図するものではない。同様に、「第2のシェル層が第1のシェル層を被覆する」は、第2のシェル層が第1のシェル層を完全に又は部分的に被覆することを意味する。
【0050】
用語「高ニッケル含有量」は、対応する正極活物質において、ニッケル原子数がニッケルコバルトマンガンの全原子数の60%以上を占めることを意味する。同様に、本明細書で用いられる用語「ニッケル含有量」は、正極活物質において、ニッケル原子数がニッケルコバルトマンガンの全原子数に占めるパーセントを意味する。本出願で用いられる用語「高ニッケル三元系前駆体」は、水酸化物の形態のニッケルコバルトマンガン三元系材料を意味し、ここで、ニッケルコバルトマンガンの全原子数に対して、ニッケルの原子数が60%以上を占める。
【0051】
用語「高速イオン伝導体(fast ionic conductor)」は、超イオン伝導体とも呼ばれ、固体電解質と呼ばれる場合もある。一般的なイオン伝導体と異なる最も基本的な特徴は、一定の温度範囲において液体電解質と匹敵するイオン導電率(0.01Ω・cm)と、低いイオン伝導活性化エネルギー(≦0.40eV)を有することである。例えば、例示的に、本発明の第1のシェル層と第2のシェル層に存在し得る高速イオン伝導体は、LiAl0.971Si1.022、LiBOなどを含む。
【0052】
本明細書で用いられるある元素の「前駆体」という用語は、原材料を指してもよいし、対象物質を得る前に、初期材料に対して所定の処理を行って得られた、前記元素を含み、且つ本出願の製造方法の条件下でさらに反応して対象物質を得る化合物を指してもよい。例えば、「前駆体」は、相応な元素の酸化物、水酸化物、又は水に溶解できる塩であってもよい。例示的に、例えば、Mがアルミニウム元素を表す場合、その前駆体は、メタアルミン酸塩であってもよいし、水酸化アルミニウムであってもよい。また、例えば、リチウム元素の前駆体は、水酸化リチウムであってもよい。また、例えば、高ニッケル三元系前駆体は、ニッケル、コバルト、マンガン、酸素、水素の5種類の元素で形成される複合水酸化物を指す。
【0053】
本出願の発明者らは、実作業で以下のことを見出した。ニッケルコバルトマンガン三元系正極活物質に対して、その層状構造におけるリチウムの含有量を高めることにより、材料の充放電グラム容量を著しく高めることができ、リチウムイオン電池のエネルギー密度を著しく高めることができる。しかし、ニッケルコバルトマンガン三元系正極活物質におけるニッケル原子数を60%(ニッケル、コバルト、マンガンの全原子数に対して)以上に高めると、該当するリチウムイオン電池には、サイクル特性が著しく低下し、電池内部のガス発生量が急激に増加するなど、電池の電気化学的性能、安全性能を著しく損う一連の現象が出現する。
【0054】
発明者らは、多くの研究により、上記高ニッケル三元系正極活物質が上記のような悪影響を有する理由は以下のことにあることを見出した。第一に、リチウムイオンが複数回吸蔵/放出されるに伴い、低ニッケル三元系正極活物質に比べて、高ニッケル三元系正極活物質は、その微細層状構造に格子歪みが生じやすく、層状構造が崩壊しやすいため、リチウムイオンを脱離させる能力を失い、最終的には、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル特性を大きく低下させる。第二に、高ニッケル三元系正極活物質は、その表面リチウム不純物(例えば、酸化リチウム、炭酸リチウム)の量がより多いため、それと電解液とが接触する相界面での副反応が激しい。その結果、電池内部のガス発生量が大幅に増加し、電池のサイクル特性と安全性能を著しく低下させる。
【0055】
このため、高ニッケル三元系正極活物質は、ニッケル含有量を高めることにより電池のエネルギー密度を高めることができるが、その分、電池のサイクル特性と安全性能を大幅に低下させる。
【0056】
本出願の発明者らは、上記の課題に鑑み、三元系リチウムイオン電池の総合的な性能の向上からすると、高ニッケル三元系正極活物質を改質することにより、リチウムイオン電池のエネルギー密度、サイクル特性と安全性能を総合的に向上させることができる高ニッケル三元系正極活物質を開発した。
【0057】
[高ニッケル三元系正極活物質]
本出願は、コアシェル構造の高ニッケル正極活物質を提供し、ここで、
前記コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含み、ここでは、0.6≦x<1、0<y<0.3、0<z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.2、x+y+z+b=1であり、Mは、Mg、Ca、Sb、Ce、Ti、Zr、Sr、Al、Zn、Mo、及びBのうちの一つ以上であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1のシェル層と、前記第1のシェル層を被覆する第2のシェル層とを含み、ここで、
前記第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体であり、
前記第2のシェル層は、元素Rの酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上から選択される。
【0058】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、本出願の正極活物質のコアにおいて、zとyとの比は、2:1~1:2であり、任意選択的に、3:2~2:3である。
【0059】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、本出願の正極活物質のコアにおいて、yとzの和y+zと、xとの比は、1:10~1:7であり、任意選択的に、1:9~1:8である。
【0060】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、前記第1のシェル層における高速イオン伝導体は、LiαAlSiであり、ここでは、0<X<2.4、0<Y<1.8、0.8≦α≦1.2であり、アルミニウム元素の化学量論係数Xとケイ素元素の化学量論係数Yとの比は、0.8~1.2である。
【0061】
本出願の高ニッケル正極活物質は、コアを2層のシェル層で被覆するコアシェル構造を有し、ここで、コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含む。連続的な2層のシェル層で被覆することにより、一方では、リチウムイオンを吸蔵/放出するコア材料の本体、即ち、Li1+a[NiCoMn]Oが複数回の充放電サイクル後に結晶構造が崩壊することを防止することができ、他方では、コア材料と電解液との直接接触を遮断し、さらに電解液における腐食性物質による正極活物質表面に対する腐食を減少させ、電解液の正極表面での副反応を減少させ、電池内部のガス発生を防止することができる。また、連続的な2層のシェル層で被覆することにより、コア材料の遷移金属元素が電池のサイクルと貯蔵中に溶出する現象を防止し、溶出した遷移金属元素が負極表面に堆積することを防止することができる。最後に同様に重要なことは、連続的な2層のシェル層で被覆することにより、高ニッケル正極活物質の表面におけるリチウム不純物量を著しく改善し、高ニッケル正極活物質における活性リチウムの相対的な占有率を著しく増加させることができる。要するに、連続的な2層のシェル層で被覆することは、上記4点の作用により、高ニッケル三元系リチウムイオン電池のエネルギー密度、サイクル性能と安全性能を総合的に向上させることができる。
【0062】
さらに、本出願に記載の高ニッケル正極活物質のコアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含む。M元素は、コア材料にドープされ、コア材料における他の元素とLi1+a[NiCoMn]Oを形成し、コア材料の構造安定性を向上させ、複数回の充放電サイクルにおけるコア材料の構造崩壊を防止し、さらに電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0063】
なお、本出願の高ニッケル正極活物質は、特に高ニッケル三元系リチウムイオン電池に適用され、特にニッケル含有量が60%以上の範囲である場合に適用され、特にニッケル含有量が80%以上の範囲である場合に適用される。任意選択的に、ニッケル含有量は、60%、80%、90%であってもよい。
【0064】
なお、MがSb、Ti、Zr、Sr、Al、Bのうちの一つ以上である場合、リチウムイオン電池の充放電容量、サイクル容量維持率とガス発生量に対する改善がより顕著になる。
【0065】
さらに、第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体層であり、例えば、高速イオン伝導体は、LiαAlSiである。高速イオン伝導体LiαAlSiの存在により、一方では、コア材料表面におけるリチウム不純物成分をLiαAlSiにおける構造リチウムに創造的に変換することができ、高ニッケル三元系正極活物質のリチウム不純物量を効果的に減少させ、さらに、この材料と電解液との界面副反応を改善し、電池のサイクル性能を向上させることができる。他方では、LiαAlSiは、リチウムイオンの脱離速度を著しく向上させることができ、さらに電池の充放電容量とサイクル特性を向上させることができる。
【0066】
なお、高速イオン伝導体LiαAlSiについて、Al原子とSi原子とのモル比、即ち、XとYとの比は、0.8~1.2である。XとYとの比が上記範囲内である場合、正極材料の表面に良好な高速イオン伝導体を形成するのに有利となり、さらに、表面リチウム不純物の含有量を減少させ、材料の界面副反応を減少させ、また、リチウムイオンの輸送速度を高め、電池のサイクル特性と安全性能を改善するのに有利となる。なお、Al又はSiの含有量が多すぎ、つまり、XとYとの比が上記範囲から外れると、正極材料表層にAl又はSiの低活性物質が形成され、かえってリチウムイオンの輸送に影響を与えるおそれがある。
【0067】
なお、前記LiαAlSiにおけるαは、0.8~1.2の範囲内で、任意選択的に、1であってもよく、0.8~1.2の範囲内の任意の自然数であってもよい。αの値が上記範囲未満であると、第1のシェル層における高速イオン伝導体の相対的な含有量が相対的に少なく、形成された高速イオン伝導体がリチウムイオンを輸送する速度が遅くなり、電池性能に影響を与えるおそれがある。αの値が上記範囲より高い場合、過量のリチウムイオンにより、正極材料表面におけるリチウム不純物量が増加し、電解液との界面副反応が多くなり、電池の安全性能に影響を与えるおそれがある。
【0068】
さらに、第2のシェル層は、元素Rの酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上である。第2のシェル層を設けることにより、電解液の浸漬による高速イオン伝導体LiαAlSiの成分の流失や構造破壊を防止することができるとともに、コア材料と電解液との接触を遮断することができ、高ニッケル正極活物質の安定性を高めるのに重要な役割を果たし、電池のエネルギー密度、サイクル性能及び安全性能を向上させるのに有利となる。
【0069】
なお、RがCo元素である場合、第2のシェル層を製造する際の焼結温度が比較的低く、例えば、200℃である場合、Co元素の水酸化物Co(OH)が存在する可能性もあり、これも本発明の範囲に含まれるべきである。従って、本明細書における用語「元素Rの酸化物」は、元素Rの酸化物に加えて、RがCo元素である場合、Co元素の水酸化物Co(OH)をさらに含むと理解されるべきである。
【0070】
なお、RがAl、La、B、Co、Tiのうちの一つ以上である場合、リチウムイオン電池の充放電容量、サイクル容量維持率、ガス発生量に対する改善がより顕著になる。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記シェルは、第1のシェル層と第2のシェル層との間に形成された遷移層をさらに含み、前記遷移層は、前記第1のシェル層成分と前記第2のシェル層成分で形成された一つ又は複数の高速イオン伝導体Liを含み、ここでは、1≦p≦4、1≦q≦5、1≦w≦12であり、且つp、q及びwはいずれも整数である。
【0072】
本出願の高ニッケル正極活物質のシェル層において、遷移層は、第1のシェル層と第2のシェル層で形成された遷移領域であり、遷移層に含有されたLi成分により、リチウムイオンの高ニッケル正極活物質における脱離速度をさらに高めることができる。従って、本出願の高ニッケル正極活物質において、2層の高速イオン伝導体層(即ち、第1のシェル層と第2のシェル層)の相乗効果により、高ニッケル正極活物質のグラム容量を極大に向上させる。
【0073】
なお、本出願の高ニッケル正極活物質において、前記コアと前記シェル層との間に、第1のシェル層と第2のシェル層との間の遷移層と似た遷移領域を含んでもよく、それは連続的な層状構造であってもよいし、不連続的な層状構造であってもよく、均一又は不均一な厚さを有していてもよい。
【0074】
なお、第1のシェル層と第2のシェル層との間に形成された遷移層は、連続的な層状構造であり、第1のシェル層と第2のシェル層との間にLi成分を有することにより、2つのシェル層間の結合がより緊密になり、さらに、電池の使用中に第2のシェル層が脱落することを防止し、高ニッケル正極活物質のグラム容量を十分に向上させるのにより有利となる。
【0075】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、前記遷移層における高速イオン伝導体Liは、LiAlO、LiBO、LiTi12、LiPO、LiCoO、又はLiLaOのうちの一つ以上から選択される。
【0076】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、前記xは、0.8≦x<1であり、前記Mは、Sb、Ti、Zr、Sr、Al、Bのうちの一つ以上であり、前記Rは、Al、La、B、Co、Tiのうちの一つ以上である。
【0077】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、本出願の高ニッケル正極活物質において、コア層におけるリチウム元素とシェル層におけるリチウム元素との質量比は、40~1300:1である。
【0078】
本出願の高ニッケル正極活物質では、コアにおけるリチウム元素の質量とシェルにおけるリチウム元素の質量との比を上記範囲内にすることにより、一方では、コアにおいて、高ニッケル正極活物質のグラム容量に寄与する十分な活性リチウムが存在することを確保して、電池のエネルギー密度とサイクル特性を向上させることができる。他方では、第1のシェル層、遷移層、第2のシェル層に、有効成分として、高速イオン伝導体LiαAlSi、Liを形成するための適量のリチウム元素があることを確保することができる。また、コアにおけるリチウム元素の質量と、シェルにおけるリチウム元素の質量との比を適切にすることにより、高ニッケル正極活物質の表面リチウム不純物の生成を効果的に防止して、電池内部で生じる副反応を減少させることができる。要するに、上記3点の作用により、コアにおけるリチウム元素の質量と、シェルにおけるリチウム元素の質量との比を適切にすることにより、電池のエネルギー密度、サイクル特性及び安全性能(主に電池内部のガス発生量の改善に具現化される)を向上させるのに有利となる。
【0079】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、MがAl、B又はTiのうちの一つ又は複数から選択される場合、RとMは異なり、且つ、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記高ニッケル正極活物質におけるM元素の質量含有量は、1000~5000ppmであり、任意選択的には、3000~5000ppmである。
【0080】
M元素をドーピングしたコア材料Li1+a[NiCoMn]Oは、ニッケル含有量が低い三元系正極活物質と比較して、リチウムイオンの繰り返しの脱離によるコア材料Li1+a[NiCoMn]Oの構造崩壊と破壊を顕著に改善することができ、リチウムイオンを輸送するためにより安定したチャネルを構築することができ、高ニッケル正極活物質のグラム容量を高めるのに有利となり、それにより、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能を向上させる。
【0081】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、MがAl、B又はTiのうちの一つ又は複数から選択される場合、RとMは異なり、且つ、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記R元素の質量含有量は、100~20000ppmである。
【0082】
R元素の質量含有量を合理的な範囲に規定することにより、一方では、物理化学的構造がより安定なRの酸化物を形成することができ、それにより、電解液によるコア材料と第1のシェル層に対する腐食を効果的に遮断し、電池内部での副反応を減少させることができる。他方では、R元素の酸化物を含む第2のシェル層の存在により、高ニッケル正極活物質の割れと破砕を効果的に回避し、さらに、コア材料の破砕後に生じる小粒子による電池内部の熱暴走を防止することができる。以上の通り、上記作用により、R元素の質量含有量を合理的な範囲に規定することにより、電池のエネルギー密度、サイクル特性と安全性能を向上させることができる。
【0083】
さらに、R元素の質量含有量が500~15000ppmである場合、リチウムイオン電池の充放電容量、サイクル容量維持率とガス発生量に対する改善がより顕著になる。
【0084】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、高ニッケル正極活物質において、前記Si元素の質量と前記R元素との質量比は、0.1~7.0:1であり、任意選択的には、0.1~4.4:1である。
【0085】
高ニッケル正極活物質において、Si元素とR元素との質量比が適切であることは、第1のシェル層と第2のシェル層との質量比が適切な範囲内にあることを意味する。R元素が少なすぎ、Si元素が多すぎると、即ち、第2のシェル層の被覆が不完全であり、第1のシェル層の被覆が厚すぎると、電解液と高ニッケル材料の表面との副反応を減少させる役割を果たせないおそれがあり、また、第1のシェル層(Si元素が容量に寄与しない)が厚すぎるため、材料自体のグラム容量を低下させ、電池の放電容量を低下させるおそれがある。逆に、R元素が多すぎ、Si元素が少なすぎると、即ち、第1のシェル層の被覆が不完全であり、第2のシェル層の被覆が厚すぎると、高ニッケル正極活物質は、完全なリチウムイオンを素早く伝導するネットワーク構造を構築することができず、リチウムイオンの脱離速度を低下させ、高ニッケル正極活物質のグラム容量を低下させ、電池の放電容量を低下させ、電池のサイクル特性に影響を与え、また、第2のシェル層(R元素が容量に寄与しない)が厚すぎるため、材料自体のグラム容量を低下させ、電池の放電容量を低下させるおそれがある。
【0086】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記第1のシェル層のケイ素元素とアルミニウム元素の合計質量含有量は、435~13150ppmである。
【0087】
前記第1のシェル層のケイ素元素とアルミニウム元素の合計質量含有量は、第1のシェル層におけるLiαAlSiの量に対応する。高ニッケル活物質の表面を1層の高速イオン伝導体LiαAlSiで被覆することにより、リチウムイオンの輸送速度を効果的に改善することができ、界面と電解液との副反応を減少させ、容量及び長期的性能を改善することができる。ここでは、被覆量が少なすぎる又は多すぎることは好ましくない。少なすぎると、役割を果たせなく、多すぎると、材料のグラム容量を低下させ、また、リチウムイオンの輸送抵抗を増大させるおそれがある。
【0088】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、前記高ニッケル正極活物質の体積平均粒径Dv50は、1.5~20μmであり、前記シェル層の厚さは、0.001~1μmである。本出願の高ニッケル正極活物質において、粒子の体積平均粒径Dv50が大きすぎると、リチウムイオン脱離抵抗を増大させ、電池の内部抵抗を増大させる。また、体積平均粒径Dv50が小さすぎることも好ましくない。粒径が小さすぎると、一方では、プロセス複雑度が増大し、製造コストが増加する。他方では、電解液との接触面積が増加し、シェル層の機能が失われると、電池性能が急激に劣化するおそれがあるからである。同様に、シェル層の厚さが大きすぎると、電池の内部抵抗が増大し、材料のグラム容量が低下するおそれがあるが、シェル層の厚さが小さすぎると、シェル層の有益な機能を効果的に発揮することが困難であるおそれがある。
【0089】
本出願の高ニッケル正極活物質は、多結晶三元系材料であってもよいし、単結晶三元系材料であってもよい。前記多結晶三元系材料は、多結晶構造を有し、前記単結晶三元系材料は、単結晶構造又は準単結晶構造を有する。前記高ニッケル正極活物質が多結晶構造である場合、高ニッケル正極活物質が寄与するグラム容量がより高い。前記高ニッケル三元正極活物質が単結晶構造又は準単結晶構造である場合、その分、リチウムイオン電池のサイクル特性がより優れる。
【0090】
いくつかの実施形態では、高ニッケル三元系前駆体の粒径を1~5μmに制御し、重要な製造工程の焼成温度を上昇させることにより、本出願に記載された単結晶構造又は準単結晶構造の高ニッケル正極活物質を合成することができる。
【0091】
例えば、本出願に記載の方法において、ステップS2の焼結温度を700℃から950℃に上昇させ、ステップS1における前駆体Dv50の粒度を9μmから3μmに調整すれば、良好な単結晶又は準単結晶構造の高ニッケル正極活物質を合成することができる。
【0092】
当業者は、リチウムイオン電池の異なる応用場面に応じて、本出願の多結晶構造の高ニッケル三元系正極活物質、又は単結晶若しくは準単結晶構造を有する高ニッケル三元系正極活物質を選択することができる。
【0093】
本出願は、以下のステップを含む高ニッケル正極活物質の製造方法を提供し、それは、
シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体を提供して、第1の中間体を得るステップS1と、
前記第1の中間体と、M前駆体、リチウム前駆体とを混合し、焼結して第2の中間体を得るステップS2と、
前記第2の中間体と、R前駆体とを混合し、焼結して前記高ニッケル正極活物質を得るステップS3とを含み、
ここで、前記高ニッケル正極活物質は、コアシェル構造であり、
前記コアは、Li1+a[NiCoMn]Oを含み、ここでは、0.6≦x<1、0<y<0.3、0<z<0.3、0<a<0.2、0<b<0.2、x+y+z+b=1であり、Mは、Mg、Ca、Sb、Ce、Ti、Zr、Sr、Al、Zn、Mo、及びBのうちの一つ以上であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第1のシェル層と、前記第1のシェル層を被覆する第2のシェル層とを含み、ここで、
前記第1のシェル層は、リチウム、アルミニウム、ケイ素、酸素の4種類の元素で構成される高速イオン伝導体であり、
前記第2のシェル層は、元素Rの酸化物を含み、前記Rは、Al、B、Ti、P、Co、Laのうちの一つ以上から選択される。
【0094】
本出願の製造方法は、原材料の供給源が広く、コストが低く、プロセスが簡潔であり、大規模工業化を実現するのにより有利となる。
【0095】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、ステップS1において、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された前記高ニッケル三元系前駆体の製造過程は以下の通りである。
【0096】
(a)アルミニウム前駆体、ケイ素前駆体をアルカリ溶液に完全に溶解させ、その後に高ニッケル三元系前駆体を添加して、固液混合物を得る。
【0097】
(b)前記固液混合物のpHを低下させ、アルミニウム前駆体とケイ素前駆体の加水分解-インサイチュ沈殿反応を開始させ、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体を得る。
【0098】
ステップ(a)において、上記アルミニウム前駆体は、メタアルミン酸ナトリウム(NaAlO)、メタアルミン酸カリウム(KAlO)、メタアルミン酸リチウム(LiAlO)のうちの一つ以上であってもよく、ケイ素前駆体は、ケイ酸ナトリウム(NaO・nSiO)、ケイ酸カリウム(KO・nSiO)、ケイ酸リチウム(LiO・nSiO)のうちの一つ以上であってもよい。
【0099】
ステップ(a)において、固液混合物は、比較的高いpHを保持し、アルミニウム前駆体、ケイ素前駆体の過度な加水分解を引き起こすことなく、アルミニウム前駆体、ケイ素前駆体の十分な溶解を確保することができる。高ニッケル三元系前駆体の添加は、後続のアルミニウム前駆体とケイ素前駆体の加水分解-インサイチュ沈殿反応に沈殿表面を提供する。
【0100】
さらに、ステップ(b)において、固液混合物のpHを低下させることで、アルミニウム前駆体とケイ素前駆体の加水分解-インサイチュ沈殿反応を開始させることにより、加水分解で生成したシリカ-アルミナ水酸化物を高ニッケル三元系前駆体表面に共沈させ、第1の中間体を得る。
【0101】
さらに、ステップ(a)において、前記アルミニウム前駆体と前記ケイ素前駆体とを、アルミニウム:ケイ素=0.8~1.2:1のモル比で前記アルカリ溶液に添加する。
【0102】
さらに、前記ステップ(a)において、前記固液混合物の全質量に対して、前記高ニッケル三元系前駆体の質量比は、16%~50%である。
【0103】
さらに、前記ステップ(a)において、アルミニウム前駆体とケイ素前駆体の加水分解を防止するために、前記アルカリ溶液のpHは、11~13である。
【0104】
さらに、1~20mL/minの流速で前記固液混合物に弱酸性ガスを流して、前記固液混合物のpHを8~10に低下させる。
【0105】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、前記弱酸性ガスは、CO、SOのうちの一つ以上である。
【0106】
さらに、前記ステップ(b)において、前記加水分解-インサイチュ沈殿反応の反応温度は、20~40℃であり、反応時間は、0.1~2hであり、撹拌線速度は、1~6m/sである。
【0107】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、ステップS2において、前記第1の中間体におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子の総モル量をMe2とすると、
リチウム原子の添加量が0.9~1.1Me2である前記リチウム前駆体と、M原子の添加量が(8×10-4~180×10-4)Me2である前記M前駆体と、前記第1の中間体とを混合する。
【0108】
さらに、ステップS2において、焼結温度は、700~950℃であり、焼結時間は、10~20hであり、焼結雰囲気は、空気又は酸素ガスである。
【0109】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、ステップS3において、前記第2の中間体におけるニッケル原子、コバルト原子、マンガン原子の総モル量をMe3とすると、
R原子の添加量が(16×10-4~330×10-4)Me3である前記R前駆体と、前記第2の中間体とを混合する。
【0110】
いくつかの実施形態では、前記R前駆体は、Alを含む酸化物、水酸化物、又は無機酸塩のうちの一つ又は複数であってもよく、前記R前駆体は、Bを含む酸化物、水酸化物、又は無機酸塩のうちの一つ又は複数であってもよく、前記R前駆体は、Tiを含む酸化物、水酸化物、又は無機酸塩のうちの一つ又は複数であってもよく、前記R前駆体は、Pを含む酸化物、水酸化物、又は無機酸塩のうちの一つ又は複数であってもよく、前記R前駆体は、Coを含む酸化物、水酸化物、又は無機酸塩のうちの一つ又は複数であってもよく、前記R前駆体は、Laを含む酸化物、水酸化物、又は無機酸塩のうちの一つ又は複数であってもよい。
【0111】
いくつかの実施形態では、任意選択的に、ステップS3において、焼結温度は、200~700℃であり、焼結時間は、5~15hであり、焼結雰囲気は、空気又は酸素ガスである。なお、ステップS2におけるM元素がコア構造に入るが、ステップS3におけるR元素が基本的にコア構造に入らないように、ステップS3における焼結温度は、少なくともステップS2における焼結温度よりも500℃低い。
【0112】
[正極極板]
本出願は、本出願の高ニッケル正極活物質を含む正極極板を提供する。
【0113】
正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一方の表面に設けられた正極材料とを含む。例示的に、正極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、正極材料は、正極集電体の対向する二つの表面のいずれか一つ又は両者上に設けられている。
【0114】
本出願のリチウムイオン電池において、前記正極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、アルミニウム箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基層と高分子材料基材の少なくとも一つの表面上に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、1,3-プロパンスルトン(1,3-propanesultone)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することによって形成されてもよいが、本出願では、これらの材料に限定されない。
【0115】
前記正極材料は、任意選択的に、導電剤をさらに含む。導電剤の種類に対して具体的に制限せず、当業者は実際の必要に応じて選択してもよい。例示的に、正極材料に用いる導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0116】
本出願では、当技術分野で既知の方法に従って正極極板を製造してもよい。例示的に、本出願の正極材料、導電剤と接着剤を溶媒(例えば、N-メチルピロリドン(NMP)に分散させて均一な正極スラリーを形成し、正極スラリーを正極集電体上に塗布し、乾燥や冷間加圧などの工程を経て正極極板を得てもよい。
【0117】
[負極極板]
負極極板は、負極集電体と、負極集電体の少なくとも一つの表面に設置される負極膜層とを含み、前記負極膜層は、負極活物質を含む。
【0118】
例示的に、負極集電体は、その自体厚さ方向で対向する二つの表面を有し、負極膜層は、負極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一つ又は両方に設置されている。
【0119】
本出願のリチウムイオン電池において、前記負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、銅箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料基層と高分子材料基材の少なくとも一つの表面上に形成された金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)に形成することによって形成されてもよいが、本出願では、これらの材料に限定されない。
【0120】
本出願の負極極板において、前記負極膜層は、通常、負極活物質と、選択的な接着剤と、選択的な導電剤と、他の選択的な助剤とを含み、通常、負極スラリーを塗布し乾燥して形成される。負極スラリーは、通常、負極活物質及び選択的な導電剤と接着剤などを溶媒に分散させ、且つ均一に撹拌して形成される。溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)又は脱イオン水であってもよい。
【0121】
例示的に、導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0122】
本出願の負極極板において、前記負極膜層は、負極活物質を含む他、任意選択的に、他の一般的な負極活物質を含んでもよい。例えば、他の一般的な負極活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料及びチタン酸リチウムなどを列挙できる。前記シリコン系材料は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体及びシリコン合金のうちの一つ以上から選択されてもよい。前記スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化物及びスズ合金のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0123】
[電解質]
電解質は、正極極板と負極極板との間でイオンを伝導する役割を果たす。本出願は、電解質の種類に対して具体的に限定せず、需要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、固体電解質又は液体電解質(即ち、電解液)のうちの少なくとも一つから選択されてもよい。
【0124】
いくつかの実施形態では、前記電解質は、電解液を採用する。前記電解液は、電解質塩と溶媒とを含む。
【0125】
いくつかの実施形態では、電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、リチウムビスフルオロスルホンイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(LiTFSI)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTFS)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO)、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOP)及びリチウムテトラフルオロ(オキサラト)ホスフェート(LiTFOP)のうちの一つ以上から選択されてもよい。
【0126】
いくつかの実施形態では、溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、ブチレンカーボネート(BC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ぎ酸メチル(MF)、酢酸メチル(MA)、酢酸エチル(EA)、酢酸プロピル(PA)、プロピオン酸メチル(MP)、プロピオン酸エチル(EP)、プロピオン酸プロピル(PP)、酪酸メチル(MB)、酪酸エチル(EB)、1,4-ブチロラクトン(GBL)、スルホン(SF)、ジメチルスルホン(MSM)、メチルエチルスルホン(EMS)及びジエチルスルホン(ESE)のうちの1つ以上から選択されてもよい。
【0127】
いくつかの実施形態では、前記電解液は、さらに選択的に、添加剤を含む。例えば、添加剤は、負極成膜添加剤を含んでもよく、正極成膜添加剤を含んでもよく、電池のなんらかの性能を改善できる添加剤をさらに含んでもよく、例えば、電池の過充電性能を改善する添加剤、電池の高温性能を改善する添加剤、電池の低温性能を改善する添加剤などである。
【0128】
[セパレータ]
電解液を採用するリチウムイオン電池、及び固体電解質を採用するいくつかのリチウムイオン電池には、セパレータがさらに含まれている。セパレータは正極極板と負極極板との間に設けられ、隔離の効果を果たす。本出願では、セパレータの種類に対して特に制限することはなく、よく知られている、良好な化学的安定性と機械的安定性を有する任意の多孔質構造のセパレータを選択してもよい。いくつかの実施の形態では、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリフッ化ビニリデンのうちの一つ以上から選択されてもよい。セパレータは、単層薄膜であってもよく、多層複合薄膜であってもよく、特に制限はない。セパレータが多層複合薄膜である場合、各層の材料は同じであってもよく、異なってもよく、特に制限はない。
【0129】
[リチウムイオン電池]
いくつかの実施形態では、正極極板、負極極板とセパレータは、巻回プロセス又は積層プロセスによって電極コンポーネントを製造することができ、前記正極極板は、本願の高ニッケル正極活物質を含む。
【0130】
いくつかの実施の形態では、リチウムイオン電池は外装を含んでもよい。この外装は、上記電極コンポーネントと電解質のパッケージングに用いられてもよい。
【0131】
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池の外装は、硬質ケース、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼製ケースなどであってもよい。リチウムイオン電池の外装は、軟質バッグ、例えば袋式軟質バッグであってもよい。軟質バッグの材質はプラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)及びポリブチレンサクシネート(PBS)などが挙げられる。
【0132】
本出願は、リチウムイオン電池の形状に対して特に制限せず、それは円柱形、四角形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、図3は、一例としての方形構造のリチウムイオン電池5である。
【0133】
いくつかの実施の形態では、図4を参照すると、外装はケース51とトップカバー53とを含んでもよい。ここでは、ケース51は底板及び底板に接続される側板を含むことができ、底板と側板は囲んで収容室を形成する。ケース51は、収容室に連通する開口を有し、トップカバー53は、前記収容室を閉塞するように前記開口に覆設可能である。正極極板、負極極板及びセパレータは、巻回プロセス又は積層プロセスによって電極コンポーネント52を形成することができる。電極コンポーネント52は、前記収容室内にパッケージングされる。電解液は、電極コンポーネント52に浸み込んでいる。リチウムイオン電池5に含まれる電極コンポーネント52の数は一つ又は複数であってもよく、当業者は実際の具体的な需要に応じて選択してもよい。
【0134】
[電池モジュール]
いくつかの実施の形態では、リチウムイオン電池を電池モジュールに組み立てもよく、電池モジュールに含まれるリチウムイオン電池の数は一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者は電池モジュールの応用と容量に基づいて選択してもよい。
【0135】
図5は、一例としての電池モジュール4である。図5を参照すると、電池モジュール4において、複数のリチウムイオン電池5は、電池モジュール4の長さ方向に沿って順に配列して設けられてもよい。もちろん、他の任意の方式で配列してもよい。さらに、この複数のリチウムイオン電池5を締め具によって固定してもよい。
【0136】
任意選択的には、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングをさらに含んでもよく、複数のリチウムイオン電池5はこの収容空間に収容される。
【0137】
[電池パック]
いくつかの実施の形態では、上記電池モジュールをさらに電池パックに組み立てもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、当業者は電池パックの応用と容量に基づいて選択してもよい。
【0138】
図6図7は、一例としての電池パック1である。図6図7を参照すると、電池パック1には、電池筐体と電池筐体の中に設けられた複数の電池モジュール4が含まれてもよい。電池筐体は上部筐体2と下部筐体3とを含み、上部筐体2は下部筐体3に覆設され、電池モージュル4を収容するための密閉空間を形成する。複数の電池モジュール4は任意の方式で電池筐体に配列することができる。
【0139】
[電力消費装置]
また、本出願は、本出願によるリチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの一つ以上を含む電力消費装置をさらに提供する。前記リチウムイオン電池、電池モジュール、又は電池パックは、前記装置の電源として用いられてもよく、前記装置のエネルギー貯蔵ユニットとして用いられてもよい。前記装置は、移動体設備(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクーター、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶と衛星、エネルギー貯蔵システムなどであってもよいが、それらに限らない。
【0140】
前記電力消費装置として、その使用上の需要に応じてリチウムイオン電池、電池モジュール又は電池パックを選択してもよい。
【0141】
図8は一例としての装置である。この装置は純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。この装置の、リチウムイオン電池に対する高出力と高エネルギー密度の需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用してもよい。
【0142】
別の例としての装置は、携帯電話、タブレットパソコン、ノートパソコンなどであってもよい。この装置に、一般的には薄型化と軽量化が求められており、電源としてリチウムイオン電池を採用してもよい。
【実施例
【0143】
以下では、本出願の実施例を説明する。以下に説明されている実施例は、例示的なもので、本出願を解釈することのみに用いられ、本出願を制限するものとして理解すべきではない。実施例において具体的な技術又は条件が明記されていないものは、当技術分野の文献に記述されている技術若しくは条件、又は製品説明書に従って実行する。使用する試薬又は機器について、製造メーカーが明記されていないものは、いずれも市販で購入できる一般的な製品である。本出願の実施例における各成分の含有量については、特に説明しない限り、いずれも質量基準である。
【0144】
実施例1
[高ニッケル三元系正極活物質の製造]
S1,第1の中間体を製造する: メタアルミン酸ナトリウム(NaAlO基準で)13.02g、ケイ酸ナトリウム(NaO・SiO基準で)19.37gを秤量し、2LのpH=12.2のNaOH水溶液に溶解させ、さらにDv50メジアン粒径が9.0μmである高ニッケル三元系前駆体(Ni0.9Co0.05Mn0.05)(OH) 953.00gを添加し、撹拌を開始し、撹拌期間において10mL/minの流速でCOガスを流し、30℃で3m/sの線速度で2h連続的に撹拌し、撹拌を停止した後、吸引ろ過、乾燥、ふるい分けを経て、シリカ-アルミナ水酸化物で被覆された高ニッケル三元系前駆体、即ち、第1の中間体を得た。
【0145】
S2,第2の中間体を製造する: 第1の中間体980.62g、水酸化リチウム(LiOH・HO基準で)472g、酸化チタン(TiO基準で)8.33gを均一に混合し、700℃、酸素雰囲気下で20h焼結して、第2の中間体を得た。
【0146】
S3,対象物質を得る: 第2の中間体1000g、酸化硼素(B基準で)3.18gを均一に混合し、200℃、酸素雰囲気下で5h焼結し、実施例1の高ニッケル正極活物質を得た。
【0147】
他の実施例と比較例の高ニッケル正極活物質の具体的な製造パラメータは、表A~表Hに示される。
【0148】
実施例と比較例の高ニッケル活物質の製品パラメータ及びリチウムイオン電池の性能パラメータは、表1~表8に示される。
【0149】
[正極極板]
上記高ニッケル正極活物質と、接着剤ポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、導電剤アセチレンブラックとを、質量比94:3:3に従って溶媒N-メチルピロリドン(NMP)に均一に混合して正極スラリーを得た。このスラリーをアルミ箔上に均一に塗布し、乾燥、冷間加圧、スリットを経て、正極極板を得た。
【0150】
[負極極板]
負極活物質人造黒鉛と、ハードカーボンと、導電剤アセチレンブラックと、接着剤スチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を90:5:2:2:1の質量比で脱イオン水に均一に混合して混合物を得て、前記混合物を銅箔に塗布して乾燥し、冷間加圧して、実施例1の負極極板を得た。
【0151】
[電解液]
EC:DEC:DMCを体積比1:1:1で混合し、LiPFを添加して電解液を形成した。前記電解液において、LiPFの濃度は1mol/Lである。
【0152】
[セパレータ]
ポリプロピレンセパレータとした。
【0153】
[リチウムイオン電池の製造]
正極極板と、セパレータと、負極極板とを順に積層し、隔離作用を奏するようにセパレータを正負板の間に位置させ、そして捲回して四角形のベアセルを得た。ベアセルをアルミニウムプラスチックフィルムに装入し、相応な非水電解液を注入してシールし、静置、熱間冷間加圧、化成、クランプ、類別などの工程を経て、リチウムイオン電池を得た。
【0154】
[高ニッケル正極活物質の関連パラメータ試験]
1.表面リチウム不純物量試験
酸塩基滴定法:実施例の高ニッケル正極活物質30gを脱イオン水100mlに入れて30min撹拌し、5min静置した後、吸引ろ過する。上澄液10mLを採取し、0.05mol/Lの塩酸標準溶液を用いて上記上澄液を滴定する。pH電極を指示電極として、電位変化によるジャンプによって終点を決定し、正極材料の表面リチウム不純物量Q(単位ppm)を算出した。具体的な式は、Q=V2×C×6.94×n×100/(m×1000)×100000であり、式中、Cは、塩酸標準溶液濃度(単位mol/L)である。V2は、滴定の開始から2番目の滴定終点まで消費された塩酸標準溶液の総体積(単位mL)である。nは、V2とV1との比であり、V1は、滴定後の10mLの上澄液とV2との体積の合計である。mは、試料の質量である(単位g)。
【0155】
2.高ニッケル正極活物質における各元素の含有量試験
プラズマ発光分光計(ICP-OES)を用い、機器型番は、米国Thermo Fisher Scientific社製ICAP7400である。まず、サンプル1gを秤量してビーカーに入れ、サンプルに、質量分率が25%であるHNO溶液25mlを添加して溶解させ、脱イオン水475mlで希釈し、そして希釈液を機器に入れてターゲット元素分析を行い、ターゲット元素含有量を算出した。
【0156】
3.コアにおけるリチウム元素とシェル層におけるリチウム元素の質量分布試験
IB-19500CPイオン研磨機とEPMA(電子プローブ微小分析、Electron Probe Microanalysis)機器とを組み合わせて用いた。サンプル作製用工具を洗浄し、サンプル作製用ペースト(PVDFをNMPに分散させたコロイド物質、PVDFの質量含有量が8%)とサンプル粉末とを均一に混合して(粉末の重量がペーストの約5倍)銅箔に塗布し、60℃で30min乾燥した。調製したサンプルをはさみで6mm×6mmの大きさに切断し、サンプル台に固定し、イオン研磨機(型番:IB-19500CP)に入れてカットし、コア構造と層構造の境界が明瞭であるスライス図を得た。
【0157】
スライス図を参照して、EPMA試験により、コアとシェル層のそれぞれの3点についてリチウム元素分析試験を行い、最後に平均値を求めることにより、コアとシェル層におけるリチウム元素の質量百分率を得た。EPMAの詳細な操作手順は、規格NF A92-801-4-2006(NF A92-801-4-2006、高級工業セラミックス、セラミックコーティングの試験方法、第4部分:電子プローブ微小分析法(EPMA)を用いて化学成分を測定)を参照する。
【0158】
4.体積平均粒径Dv50試験
洗浄ビーカーをとり、適量の試験待ちサンプルを添加し、超音波120W/5minでサンプルを完全に分散させることを確保する。試験機器は、米国マルバーン2000である。サンプルをサンプルタワーに注入し、溶液とともに試験光路系に循環させる。粒子にレーザー光を照射して、散乱光のエネルギー分布を受信、測定することにより、粒子の粒度分布特性(遮光度:8~12%)を求めることができる。試験データに基づいて体積粒度分布図(図2に示すように、実施例1の高ニッケル活物質の体積粒度分布図である)を作成した。この分布図から、総体積の50%を占める粒子の直径があるDv50値よりも大きく、総体積の50%を占める他の粒子の直径がこのDv50値よりも小さい場合、このDv50値は、粒子の体積平均粒径であることが得られる。
【0159】
5.シェル層の厚さ試験
IB-19500CPイオン研磨機と米国FEI Tecnai G2透過電子顕微鏡装置を組み合わせて用いた。サンプル作製用工具を洗浄し、サンプル作製用ペースト(PVDFをNMPに分散させたコロイド物質、PVDFの質量含有量が8%)とサンプル粉末とを均一に混合して(粉末の重量がペーストの約5倍)銅箔に塗布し、60℃で30min乾燥した。調製したサンプルをはさみで6mm×6mmの大きさに切断し、サンプル台に固定し、イオン研磨機(型番:IB-19500CP)に入れてカットした。カットしたサンプルを、米国FEI Tecnai G2透過電子顕微鏡装置に入れて、シェル層の厚さ試験を行えば、粒子のシェル層の厚さを測定することができる。
【0160】
比較例の上記関連パラメータの測定方法は、実施例と同様である。
【0161】
[電池性能測定]
1.初期放電容量
実施例のリチウムイオン電池を25℃の乾燥箱に入れ、5min静置した後、充放電試験を行った。1回の充放電過程は以下の通りである。1/3C電流で2.8Vまで定電流放電し、5min静置し、引き続き1/3Cで4.25Vまで定電流充電した後、4.25Vで電流≦0.05mAになるまで定電圧充電し、5min静置し、その後再び1/3Cで2.8Vまで定電流放電し、このときの放電容量は、本出願に記載の初期放電容量である。
【0162】
2.サイクル容量維持率
25℃で全ての実施例と比較例のリチウムイオン電池に対して充放電試験を行った。一つの充放電サイクルは以下の通りである。1C電流で4.25Vまで定電流充電し、そして4.25Vで電流≦0.05mAになるまで定電圧充電し、5min静置し、その後、1C電流で2.8Vまで定電流放電し、その時の電池容量C1を記録した。以上は電池の一つの充放電サイクルである。以上の手順に従って300サイクル繰り返し、そのときの電池の容量C300を記録した。よって、サイクル容量維持率=C300/C1×100%である。
【0163】
表1~表8におけるサイクル容量維持率は、いずれも300サイクル後に測定されたものである。
【0164】
3.70℃ガス膨張性能試験
70℃で、SOC(荷電状態、State of Charge)が100%である電池(公称容量2.25Ah)に対して、排水法で個々の電池の初期体積V0を測定して、電池を取り出して70℃の保存炉に入れて48h保存し、室温まで冷却した後、再度排水法で電池の体積V1を測定した。上記の手順を繰り返し、20日間保存した後、排水法で電池の体積V10を測定した。すると、ガス膨張量=(V10-V0)/2.25である。
【0165】
表1~表8におけるガス膨張量は、何れも20日間保管後に測定されたものである。
【0166】
比較例の電池性能測定方法は、実施例と同様である。
【0167】
【0168】
【0169】
表1における実施例E1~4と比較例C1~3を総合的に分析すると、実施例E1~4に対応するリチウムイオン電池の表面リチウム不純物量、ガス膨張量が、比較例C1~3に比べて格段に低く、つまり、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能及びサイクル性能を同時に備えていることが分かる。
【0170】
比較例C1と比較例C2とを比較すると、第2のシェル層の存在により、リチウムイオン電池の表面リチウム不純物量及び電池のガス膨張量が顕著に改善し、電池の安全性能とサイクル特性を向上させることができるが、いずれも良好な放電容量を有することが分かる。
【0171】
比較例C1と比較例C3とを比較すると、第1のシェル層の存在により、正極表面リチウム不純物量及びリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が顕著に改善し、電池の安全性能及びサイクル特性を向上させることができるが、いずれも良好な放電容量を有することが分かる。
【0172】
【0173】
【0174】
表2における実施例1及び実施例6~10を総合的に分析すると、X:Yの値が0.8~1.2である場合に、正極表面リチウム不純物量とリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が改善され、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能、サイクル性能を有することが分かる。
【0175】

【0176】
【0177】
表3における実施例1、11~13及び実施例14~15を総合的に分析すると、高ニッケル正極活物質において、コアにおけるリチウム元素とシェル層におけるリチウム元素との質量比が40~1300:1である場合に、正極表面リチウム不純物量とリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が改善され、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能、サイクル性能を有することが分かる。
【0178】
【0179】
【0180】
表4における実施例1、16~17及び実施例18~19を総合的に分析すると、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記高ニッケル正極活物質におけるM元素の質量含有量が1000~5000ppmである場合に、正極表面リチウム不純物量とリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が改善され、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能、サイクル性能を有することが分かる。
【0181】
【0182】
【0183】
表5における実施例1、20~21及び実施例22~23を総合的に分析すると、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記高ニッケル正極活物質の第1のシェル層におけるケイ素元素とアルミニウム元素の合計質量含有量が435~13150ppmである場合に、正極表面リチウム不純物量とリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が改善され、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能、サイクル性能を有することが分かる。
【0184】
【0185】
【0186】
表6における実施例1、24~26及び実施例27~28を総合的に分析すると、前記高ニッケル正極活物質の全質量に対して、前記高ニッケル正極活物質におけるR元素の質量含有量が100~20000ppmである場合に、正極表面リチウム不純物量とリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が改善され、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能、サイクル性能を有することが分かる。
【0187】
【0188】
【0189】
表7における実施例1、29~31及び実施例32~33から、Si元素の質量とR元素の質量との比が0.1~7.0:1、特に0.1~4.4:1である場合、正極表面リチウム不純物量が減少し、電池内部のガス膨張量が改善され、放電容量、安全性能、サイクル性能が更に向上することが分かる。
【0190】
【0191】
【0192】
表8における実施例1及び実施例34~35を総合的に分析すると、高ニッケル正極活物質の体積平均粒径Dv50が1.5~20μmであり、シェル層の厚さが0.001~1μmである場合に、正極表面リチウム不純物量とリチウムイオン電池の内部のガス膨張量が改善され、リチウムイオン電池が良好な放電容量、安全性能、サイクル性能を有することが分かる。
【0193】
説明すべきことは、本出願は上記実施形態に限定されない。上記実施形態は例示に過ぎず、本出願の技術案の範囲内で、技術思想と実質的に同一の構成を有し、同様な作用と効果を奏する実施形態は、いずれも本出願の技術範囲内に含まれるものとする。なお、本出願の主旨から逸脱しない範囲内で、実施形態に対して当業者が想到し得る様々な変形を実施し、実施形態における一部の構成要素を組み合わせて構築される他の形態も、本出願の範囲内に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0194】
1 電池パック
2 上部筺体
3 下部筺体
4 電池モジュール
5 リチウムイオン電池
5 1ケース
52 電極コンポーネント
53 トップカバーコンポーネント
6 コア
7 第1のシェル層
8 遷移層
9 第2のシェル層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】