(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】タイプ2シータ振動を調節することによって共感を修正するための方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231019BHJP
A61K 31/439 20060101ALI20231019BHJP
A61K 31/407 20060101ALI20231019BHJP
A61K 31/145 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231019BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20231019BHJP
A61N 1/40 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/439
A61K31/407
A61K31/145
A61P25/00
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/24
A61P25/22
A61P25/28
A61N1/36
A61N1/40
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520303
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(85)【翻訳文提出日】2023-05-09
(86)【国際出願番号】 US2021052997
(87)【国際公開番号】W WO2022072716
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(71)【出願人】
【識別番号】516355542
【氏名又は名称】インスティテュート フォー ベーシック サイエンス
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE FOR BASIC SCIENCE
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】リ ジン ヒュン
(72)【発明者】
【氏名】シン ヒ-スプ
【テーマコード(参考)】
4C053
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ40
4C084AA17
4C084ZC201
4C084ZC202
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB03
4C086CB15
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C206AA01
4C206JA13
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA05
4C206ZA06
4C206ZA12
4C206ZA15
4C206ZA16
(57)【要約】
本開示は、対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節することによって、ヒト等の対象における共感を修正するための方法に関する。この方法は、対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を増加させることによって、ヒト等の対象における共感を増加させることを含み、それによって、対象における共感を増加させる。ヒト対象は、準最適な共感を引き起こす精神医学的又は神経学的状態を有してよい。対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節することは、光遺伝学的処置、脳領域の電気刺激、薬剤の投与、又はそれらの組み合わせによって達成することができる。本明細書に開示される方法を実行するためのシステムもまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節することを含む、ヒトにおける共感を調節する方法。
【請求項2】
共感を調節することが、前記ヒトにおける共感を増加させることを含み、前記ヒトが、準最適な(suboptimal)共感を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒトにおける前記準最適な共感が、精神医学的又は神経学的状態によって引き起こされる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
タイプ2シータ振動を調節することが、同調を伴う又は伴わない光遺伝学的処置を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記光遺伝学的処置が、GABA作動性ニューロンを刺激することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記GABA作動性ニューロンが、海馬采脳弓に位置する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記GABA作動性ニューロンが、中隔海馬に位置する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
タイプ2シータ振動を調節することが、前記脳領域におけるニューロンを遺伝子組換えしてタイプ2シータ振動を直接調節することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記脳領域におけるニューロンを遺伝子組換えすることが、Ca
v3.2、Ca
v3.1、CAV3、PLC-β1、及びPLC-β4をコードする1つ以上の遺伝子の発現を修正することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
タイプ2シータ振動を調節することが、1つ以上の電極を使用する前記脳領域の電気刺激を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記調節することが、前記ヒトに薬剤を投与することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記薬剤が、抗コリンエステラーゼ剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記抗コリンエステラーゼ剤が、アトロピン又はフィゾスチグミンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記薬剤が、PLCの活性化剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記PLCの活性化剤が、PLC-β1及び/又はPLC-β4の活性化剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記PLCの活性化剤が、m3M3FBS(2,4,6-トリメチル-N-(メタ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-ベンゼンスルホンアミド)又はタプシガルギンである、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記脳領域が、海馬、中隔海馬、前帯状皮質(ACC)、扁桃体基底外側部(BLA)、視床正中、絶縁領域、内側中隔(MS)、又は海馬采脳弓である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記タイプ2シータ振動が、海馬、ACC、又はBLAにおいて同期される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記精神医学的又は神経学的状態が、アルツハイマー病、自閉症スペクトラム障害、認知症、依存症、うつ病、不安、双極性障害、統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、失感情症、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、精神病質、パーキンソン病、又はてんかんである、請求項3に記載の方法。
【請求項20】
前記精神医学的又は神経学的状態が、自閉症スペクトラム障害、認知症、及び依存症からなる群より選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記調節することが、タイプ2シータ振動を増加させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記調節することが、タイプ2シータ振動を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記タイプ2シータ振動を調節することが、タイプ1シータ振動の調節を誘導しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ヒトの脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節するように構成されたデバイスを備える、ヒトにおける共感を調節するためのシステム。
【請求項25】
前記デバイスが、準最適な共感を有するヒトにおける共感を増加させるように構成されている、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記デバイスが、前記脳領域に光を送達するように構成及び配置された光送信機に作動可能に結合された光源を含む光遺伝学的デバイスである、請求項24又は25に記載のシステム。
【請求項27】
前記デバイスが、前記脳領域に電気刺激を送達するように構成及び配置された少なくとも1つの電極に作動可能に結合された電流発生器を含む電気刺激デバイスである、請求項24又は25に記載のシステム。
【請求項28】
2つの電極を備える、請求項27に記載のシステム。
【請求項29】
前記脳領域が、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、内側中隔、海馬采脳弓、扁桃体、又はそれらの組み合わせである、請求項24又は25に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月1日に出願された米国仮出願第63/086,514号の利益を主張し、その開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
序論
共感は、社会的動物としての人間の存在の重要な機能である。共感障害は、自閉症、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害、注意欠陥/多動障害、失感情症、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、及び精神病質等の多くの障害で観察される。アルツハイマー病及び関連する認知症、パーキンソン病、及びてんかんを含む多くの神経性疾患も、共感の欠如を引き起こすことが知られている。依存症の特徴的な症状の1種には、共感の欠如も含まれる。共感は多くの精神疾患及び神経疾患及び依存症の重要な要素であるが、なぜ共感障害においてそのような一般的症状が起こるのかについてはほとんど知られていない。各疾患は症状において多様なプロファイルを示すが、社会的欠陥は、患者が社会で正常な生活を送ることを妨げる重要な要素である。これらの疾患の病因機構は多様であると考えられているが、これらの疾患状態の多くが社会的欠陥を誘発するという事実は、これらの神経精神疾患の間で共通の神経機構が共有されている可能性があることを示唆している。共感にとって重要な共通の脳領域又は脳回路が、これらの障害において影響を受けている可能性がある。したがって、多くの精神医学的又は神経学的状態は、そのような状態の特徴的な症状が共感に直接関連していないにもかかわらず、低レベルの共感に関連している。
【0003】
人間及び動物は、嫌悪的な出来事にさらされている同種を観察すること、すなわち観察恐怖(observational fear)によって恐怖を感じることができる。実際、霊長類及びヒトにおける研究は、より強い代理的恐怖反応が共感と正の関連性があることを実証した。げっ歯類における観察恐怖学習において、実践個体の苦痛反応を観察することは、観察個体における感情的経験と特定の環境文脈との間の関連(文脈依存的条件付け)を引き起こす代理的な無条件刺激として役立つ可能性がある。苦痛の中にいる実践個体を観察することによって、観察個体において同様の感情的経験を誘発する認知プロセスは、共感に関連する可能性がある。このげっ歯類システムを使用して、最近、感情的共感に関与する遺伝子及び回路に関する多くの見識が得られている。例えば、ヒトにおいて共感に関与している前帯状皮質(ACC)、扁桃体基底外側部(BLA)、視床正中、及び絶縁領域は、マウスにおける共感に関与していることが確認されている。ヒトのfMRI研究においても、これらの脳領域は共感に関与していた。ACC中のソマトスタチン介在ニューロン中のニューレキシン-3分子は、観察恐怖を遮断することが示されている。マウスで確立された観察恐怖学習アッセイは、共感の根底にある分子的、細胞的、回路機構を研究することを可能にした。
【0004】
げっ歯類は、観察恐怖学習、痛みの感情的伝染、親社会的支援、又は苦しんでいる他者の慰め等の共感的な行動を示し、これは、共感はげっ歯類及びヒトにおいて進化的に保存されていることを示唆している。特に、観察恐怖学習は、げっ歯類における共感恐怖の神経生物学を研究するための行動モデルとして利用されてきた。この行動アッセイにおいて、未処置の動物には、隣接する部屋内で足刺激等の嫌悪処置を受けている同種の動物を観察した部屋の文脈によって条件付けられた恐怖心がある。したがって、この条件付けにおいては、従来の恐怖条件付けで使用される直接的な足刺激とは異なり、無条件刺激は実践個体動物の苦しみの代理経験である。未処置の観察個体動物への恐怖の社会的移行、感情的伝染は、観察個体動物は実践個体動物の感情を認識する能力を必要とし、人間の観察恐怖について示されているように、共感がこの行動に関与していることを示唆している。
【0005】
他者の感情を共有し、評価し、反応する能力は、時間とともに進化してきており、模倣及び感情的伝染等の原始的な形態から、視点取得、同情、利他主義、標的を絞った支援等の高レベルの形態までの幅広いものがある。最近の証拠は、げっ歯類が他者の感情的状態に対して顕著な感情的感受性を有し、観察恐怖、痛みの感情的伝染、慰め、及び向親社会的支援行動等の多様な形態の共感的行動を示すことを示している。したがって、げっ歯類モデルは、動物及びヒトにおける共感の研究に日常的に使用される。また、適切なアッセイを伴うこれらのげっ歯類モデルは、共感の欠如の根本的な機構の同定及びヒトにおける減少した又は準最適な(suboptimal)共感を治療するための治療方法の開発を容易にすることができる。
【発明の概要】
【0006】
概要
本開示は、多領域神経回路、例えば、内側中隔、海馬、ACC、及び/又はBLAを含む回路における同期タイプ2シータ振動が、代理、観察恐怖、及び共感に固有の認知プロセスにおいて重要な役割を果たすことを示す。その結果、本明細書において、ヒト対象等の対象における共感を調節するための方法が提供される。この方法は、対象の脳領域におけるタイプ2のシータ振動を調節することを含み、それによって、対象における共感を調節する。ある場合には、この方法は、対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を増加させることを含み、それによって、対象における共感を増加させる。ヒト対象は、準最適な共感を引き起こす精神医学的又は神経学的状態を有することができる。
【0007】
対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動の調節は、光遺伝学的処置、脳領域の電気刺激、薬剤の投与、又はそれらの組み合わせによって達成することができる。
【0008】
本明細書に開示される方法を実行するためのシステムもまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1A】
図1A~
図1S.ACCの錐体ニューロンにおけるPLC-β1の欠損は、2/3層ニューロンにおける観察恐怖及び興奮性を損なう。A:観察恐怖課題に使用される装置の図。B、C:PLC-β1
-/-(n=9)及び野生型(n=11)マウスの観察恐怖。野生型マウスと比較して、PLC-β1ノックアウト観察個体は、障害のある観察恐怖条件付け(B)(F
1、18=4.648、P<0.05、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)及び条件付け24時間後の文脈記憶(C)(p<0.01、t(18)=3.213、t-7検定)を示した。D:野生型マウス脳の両側ACCへのshRNA送達の概略図。ShPLC-β1又はshSCRを発現するレンチウイルスベクターのマウス脳のACCへの両側注入。E、F:shSCRを注入された(n=11)マウスと比較して、shPLC-β1を注入された観察個体(n=7)は、障害のある観察恐怖条件付け(E)(F
1、16=4.916、P<0.05、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)及び条件付け24時間後の文脈記憶(F)(p<0.01、t(16)=2.961、t検定)を示した。G:ShPLC-β1又はshSCRを発現するレンチウイルスベクターの、マウス脳のPrL及びILを含むmPFCへの両側注入の概略図。H、I:同様のすくみレベルは、訓練中(H)(F
1、12=0.00406、P=0.950、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)、及び訓練後24時間の文脈記憶(I)(p=0.824、t(12)=0.228、t検定)において、shPLC-β1を注入されたマウス(n=7)とshSCRを注入されたマウス(n=7)との間で見られた(
*p<0.05、
**p<0.01、及び
***p<0.001)。全てのデータは平均±標準誤差で示される。J:ACCの興奮性ニューロンにおけるPLC-β1削除の概略図。AAV5-CaMKIIα-GFP-Creの、PLC-β1loxP/loxPマウスのACCへの片側注入。K、L:PLC-β1ACC/GFPマウス(n=11)と比較して、PLC-β1
ACC/Cre観察個体(n=9)は、障害のある観察恐怖条件付け(K)(F
1、18=10.981、p<0.01、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)及び条件付け24時間後の文脈記憶(L)(p<0.05、t(18)=2.358、t-14検定)を示した。M:ACC中の非興奮性ニューロンにおけるPLC-β1ノックダウンの概略図。AAV-loxP-U6-shPLC-β1-CMV-mCherry-loxPの、CaMKIIα-CreマウスのACCへの片側注入。N、O:同様のすくみレベルは、観察恐怖条件付け中(N)(F
1、12=0.162、P=0.695、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)、及び条件付け(O)後24時間の文脈記憶(p=0.417、t(12)=-0.841、t検定)において、ACC阻害ニューロン特異的shPLC-β1を注入された観察個体マウス(n=6)とshSCRを注入された観察個体マウス(n=8)との間で、見出された。P:PLC-β1
+/+(左パネル)及びPLC-β1
-/-(右パネル)マウスにおける2/3層(上パネル)及び5/6層(下パネル)のACCニューロンの電流誘起発火の代表的な出力。Q:異なる電流パルスに伴う、PLC-β1
+/+(n=52)及びPLC-β1
-/-(n=48)マウスからのACCニューロンの発火の平均頻度。R:異なる電流パルスに伴う、PLC-β1
+/+(n=16)及びPLC-β1
-/-(n=36)マウスのACCニューロンの2/3層の発火の平均頻度。S:異なる電流パルスを伴う、PLC-β1
+/+(n=20)及びPLC-β1
-/-(n=28)マウスのACCニューロンの5/6層の発火の平均頻度。データは、平均±標準誤差(
*p<0.05、
**p<0.01、及び
***p<0.001)で示される。
【
図2A】
図2A~
図2O.ACCとBLAとの相互接続の光遺伝学的阻害は、古典的な恐怖条件付けではなく、観察恐怖を抑制する。A:観察恐怖試験中のACC-BLA、BLA-ACC、及びmPFC-BLA投射のNpHR3.0媒介性阻害の概略図。B:AAV5-CaMKIIα-NpHR3.0-eYFP(NpHR3.0-eYFP)を野生型マウスのACCに注入し、BLAを黄色レーザー(左パネル)で両側照射した。ACC特異的NpHR3.0-eYFPが注入されたマウスの右又は左BLAで撮影された、ACC及びACC線維中のNpHR3.0-YFP発現興奮性ニューロンを示す冠状断面(右パネル)。C:観察恐怖条件付け中のBLAにおけるACC入力の照射は、すくみレベルを有意に低下させた(F
1、19=14.224、p=0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)。D:NpHR3.0-eYFPが注入された観察個体は、AAV5-CaMKIIα-eYFP(eYFP)が注入されたマウスと比較して、24時間後の文脈記憶の減少を示した(p<0.05、t(19)=-2.671、t検定)。E:野生型マウスのBLAにNpHR3.0-eYFPを注入し、ACCを黄色レーザーで照射した(左パネル)。BLA特異的NpHR3.0-eYFPが注入されたマウスのACCで撮影されたBLA及びBLA線維中のNpHR3.0-YFP発現興奮性ニューロンを示す冠状断面(右パネル)。F、G:観察恐怖条件付け中のNpHR3.0-eYFPが注入された観察個体のACCにおけるBLA入力の光遺伝学的阻害は、eYFPが注入されたマウスと比較して、観察恐怖条件付け(F)(F1、21=12.858、P<0.01、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)及び24時間文脈記憶(G)(p<0.05、t(21)=-2.251、t検定)を有意に低下させた。H:野生型マウスのPrL及びILを含むmPFCにNpHR3.0-eYFPを注入し、BLAを黄色レーザーで両側照射した(左パネル)。ACC特異的NpHR3.0-eYFPが注入されたマウスの右側又は左側BLAで撮影されたmPFC及びmPFC線維中におけるNPHR3.0-YFP発現興奮性ニューロンを示す冠状断面(右パネル)。I:観察恐怖条件付け中のBLAへのmPFC入力の照射は、観察恐怖条件付けに影響を及ぼさなかった(F
1、13=0.00232、P=0.962、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)。J:NpHR3.0-eYFPを注入した観察個体とeYFPを注入したマウスとの間で、24時間文脈記憶に有意差はなかった(p=0.267、t(13)=1.160、t検定)。K:AAV5-CaMKIIα-NpHR3.0-eYFP(NpHR3.0)を野生型マウスのACCに注入し、BLAを黄色レーザーで照射した。L:文脈恐怖条件付け中、BLAへのACC入力の照射は、訓練期間中のすくみ行動に有意な効果を及ぼさなかった(F
1、12=0.0587、P=0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後1検定)。M:NpHR3.0-eYFPが注入された観察個体マウスとAAV5-CaMKIIα-eYFP(eYFP)が注入されたマウスとの間で、24時間の文脈記憶に有意差はなかった(p=0.787、t(12)=0.276、t検定)。N、O:文脈恐怖条件付け中、NpHR3.0-eYFPが注入された観察個体のACCにおけるBLA入力の光遺伝学的阻害は、eYFPが注入されたマウスと比較して、訓練期間中のすくみ行動(N)(F
1、12=1.398、p=0.260、二元配置反復測定分散分析)にも24時間の文脈記憶(O)(p=0.698、t(12)=0.398、t検定)にも影響を及ぼさなかった。
【
図3A】
図3A~
図3L.観察恐怖中のPLC-β1ノックダウンマウスにおいて、ACC-BLA回路には4~8Hzの振動は存在しない。A:観察恐怖中のACC特異的PLC-β1ノックダウン観察個体のACC及びBLAにおけるLFPの同時記録を示す概略図。B:観察恐怖中のLFP記録を示す概略図;観察恐怖の条件付けプロトコルの馴化及び刺激間期間からの記録を観察個体マウスごとに使用した。C:shSCRを注入された観察個体(上)及びACC特異的PLC-β1をノックダウンされた観察個体(下)のACC及びBLAにおけるLFP記録の馴化中の代表的な元の出力。D:条件付けの間、Cと同様である。E、F:ACC特異的shSCR出力(E)及びACC特異的shPLC-β1出力(F)の着色された電力スペクトルは、c(馴化)及びd(条件付け)において示される。ACC特異的shSCRを注入されたマウスのACC及びBLAにおけるシータリズムの出力が、ACC特異的PLC-β1がノックダウンされた観察個体におけるこれらのリズムの出力に対して、馴化期間と比べて条件付け期間の間に、実質的に増加していることに留意されたい。G、H:馴化期間及び条件付け期間中のshSCRが注入されたマウス(n=7)のACC(G)及びBLA(H)におけるニューロン活性の平均電力スペクトル密度。I、J:ACC特異的PLC-β1がノックダウンされた観察個体のACC(I)及びBLA(J)におけるニューロン活動の平均電力スペクトル密度(n=10)。K:順化及び条件付け期間中のACC特異的shSCRが注入された観察個体におけるACCとBLAとの間の平均クロスコレログラム。L:ACC特異的PLC-β1がノックダウンされた観察個体について、Kと同様である。各実験群の順化及び条件付けの相関の間の時間差に関する順位和検定の有意なp値を出力の下に示す。
【
図4A】
図4A~
図4T.中隔海馬GABA作動性投射の光遺伝学的阻害によるタイプ2海馬シータリズムの減衰は、観察恐怖及びACC及びBLAにおける4~8Hzシータ2リズムを減少させる。A:AAV5-EF1α-DIO-NpHR3.0-eYFP(DIO-NpHR)をPV-CreトランスジェニックマウスのMSに注入し、背側脳弓を黄色レーザーで照射した(左パネル)。MSにおけるeYFP発現及びeYFPを発現する脳弓線維を、MS特異的DIO-NpHRを注入されたPV-Creトランスジェニックマウスの背側脳弓において撮影した(右パネル)。B:PV-CreトランスジェニックマウスのACC、BLA、及び海馬に、EEG電極を移植した。C:観察恐怖試験における海馬(MSGABA-Hipp)へのMS GABA作動性投射のNpHR3.0媒介阻害の概略図。D、E:観察恐怖条件付け中の海馬へのGABA作動性MS入力の光遺伝学的阻害は、すくみレベルを有意に低下させた(D)(F
1、22=17.277、p<0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)。DIO-NpHRを注入された観察個体は、AAV5-EF1α-DIO-eYFP(DIO-eYFP)を注入されたマウス(E)と比較して、24時間文脈記憶の減少を示した(p<0.05、t(21)=2.480、t検定)。F:古典的文脈恐怖条件付け試験におけるMSGABA-Hipp投射のNpHR3.0媒介性阻害の概略図。G、H:文脈恐怖条件付け中にDIO-NpHRを注入された観察個体の海馬へのGABA作動性MS入力の光遺伝学的阻害は、DIO-eYFPを注入されたマウスと比較して、訓練期間中のすくみレベル(G)(F
1、11=0.00289、p=0.958)及び24時間文脈記憶(H)(p=0.817、t(11)=0.238、t検定)に影響を及ぼさなかった。I-K:DIO-eYFPを注入された観察個体(n=7)のACC(I)、BLA(J)、及び海馬(K)におけるニューロン活動の平均電力スペクトル密度。L-N:DIO-NpHRを注入された観察個体(n=6)のACC(L)、BLA(M)、及び海馬(N)におけるニューロン活動の平均電力スペクトル密度。O-Q:ACC(O;p<0.05、t(11)=-29678、t検定)、BLA(P;p<0.01、t(11)=-3.1829、t検定)、及び海馬(Q;p<0.05、t(11)=-2.4869、t検定)における4~8Hzの周波数範囲での馴化から条件付けへのLFP電力の変化。R-T:ACC(R;p=0.3189、t(11)=1.0439、t検定)、BLA(S;p=0.3061、t(11)=1.0734、t検定)、及び海馬(T;p=0.1444、t(11)=1.5716、t検定)における8~12Hzの周波数範囲での馴化から条件付けへのLFP電力の変化。
【
図5A】
図5A~
図5J.海馬-帯状-扁桃体回路のタイプ2シータにおける電力調節は、すくみ発作と時間的に連動し、この電力調節の程度は、観察恐怖の大きさを予測する。A、C:すくみ行動の開始(A)及び消失(C)を中心としたACC、BLA及び海馬の平均スペクトログラム。B、D:すくみが開始(B)及び消失(D)したときのACC、BLA、及び海馬におけるLFP電力の平均zスコア。合計42匹(A及びB)及び7匹のマウスに由来する合計41匹のエポック(C及びD)をそれぞれ使用した。スペクトログラム上の黒い線は、運動指数の変化を示す。E-G:ACC(E)、BLA(F)、及び海馬(Hipp、G)におけるタイプ2シータリズムの電力の平均変化と、観察恐怖におけるすくみ行動とのピアソンの相関分析。H-J:ACC(H)、BLA(I)、及び海馬(J)におけるタイプ1シータリズムの電力の平均変化と、観察恐怖におけるすくみ行動とのピアソンの相関分析。
【
図6A】
図6A~
図6W.海馬タイプ2シータの光遺伝学的増強は観察恐怖を調節する。A:AAV5-EF1α-DIO-ChR2-eYFP(DIO-ChR2)をPV-CreトランスジェニックマウスのMSに注入し、背側脳弓を青色レーザーで照射した(左パネル)。MSにおけるeYFP発現及びeYFPを発現する脳弓線維を、MS特異的DIO-ChR2が注入されたPV-Creトランスジェニックマウスの背側脳弓において撮影した(右パネル)。B:PV-CreトランスジェニックマウスのACC、BLA、及び海馬のそれぞれに、3つのEEG電極を移植した。C:観察恐怖試験における中隔海馬へのGABA作動性投射のChR2媒介活性化の概略図。D、E:観察恐怖条件付け中の海馬へのGABA作動性MS入力の光遺伝的活性化は、すくみレベル(D)を増加させた(F
1、17=9.155、p=0.008、二元配置反復測定分散分析、それに続くスチューデント-ニューマン-コイルス事後検定)。しかしながら、24時間の文脈記憶において、試験群と対照群との間に差は観察されなかった(E)(p=0.587、t(17)=0.554)。F-H:DIO-eYFPを注入された対照観察個体(n=8)のACC(F)、BLA(G)、及び海馬(H)におけるLFP活性の平均電力スペクトル密度。I-K:DIO-ChR2を注入された試験観察個体(n=11)のACC(I)、BLA(J)、及び海馬(K)におけるLFP活性の平均電力スペクトル密度。L-N:ACC(L;p<0.05、t(17)=2.4211、t検定)、BLA(M;p=0.1976、t(17)=1.341、t検定)及び海馬(N;p<0.05、t(17)=2.3425、t検定)における、対照群(青色バー)及び試験群(赤色バー)の4~8 8Hzの周波数範囲での馴化から条件付けへのLFP電力の変化。O-Q:ACC(O)、BLA(P)、及び海馬(Hipp、Q)におけるタイプ2シータリズムの電力の平均変化と、観察恐怖におけるすくみ行動とのピアソンの相関分析。R-W:中隔海馬GABA作動性投射の光遺伝活性化によるタイプ1シータリズムの変化は、観察恐怖と関連していなかった。ACC(R;p=0.3162、t(17)=-1.0327、t検定)、BLA(S;p<0.01、t(17)=-3.3174、t検定)、及び海馬(Hipp、T;p<0.05、t(17)=-2.2106、t検定)における8~12Hzの周波数範囲での馴化から条件付けへのLFP電力の変化。ACC(U)、BLA(V)、及び海馬(W)におけるタイプ1シータリズムの電力の平均変化と、観察恐怖におけるすくみ行動とのピアソンの相関分析。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
中枢神経系のニューロンは振動パターンで活性化することができる。これらの振動は、振動の周波数によって分類することができる。例えば、シータ振動は4Hz~8Hzの範囲で発生するが、アルファ振動は8Hz~15Hzの範囲で発生する。シータ振動には、タイプ1シータ振動とタイプ2シータ振動が含まれる。ある場合には、タイプ1振動は7Hz~8Hzで生じる。タイプ1振動は、自発的な動きとレム睡眠中に時々生じる。タイプ1振動は、通常、薬剤アトロピンの投与によって影響を受けない。タイプ2振動は、4Hz~7Hzで時々生じる。ウレタン(すなわち、カルバミン酸エチル)の投与等により、対象が麻酔されている間にタイプ2振動が時々生じる。タイプ2振動は、対象が恐怖のために固まっているとき、例えば、実験室のラットが近くのネコ又はフェレットを恐れているときにも生じることがある。タイプ2の振動は、動物が動く準備をしているがまだ動いていないときに短時間生じることがある。タイプ1及びタイプ2の表記は、海馬の振動に適用されることがある。
【0011】
本開示は、多領域神経回路、例えば、内側中隔、海馬、ACC、及び/又はBLAにかかわる回路における同期2シータ振動が、代理、観察恐怖、及び共感に固有の認知プロセスにおいて重要な役割を果たすことを示す。したがって、本明細書に示されるのは、対象、例えばヒト対象等における共感を、修正、特に、増加させるための方法である。この方法は、対象の脳領域におけるタイプ2のシータ振動を調節することを含み、それによって、対象における共感を修正する。
【0012】
ある場合には、本方法は、対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を増加させることを含み、それによって、対象における共感を増加させる。ヒト対象は、準最適な共感を引き起こす精神医学的又は神経学的状態を有することができる。
【0013】
対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動の調節は、光遺伝子処置、遺伝子組換え、脳領域の電気刺激、薬剤の投与、又はそれらの組み合わせによって達成することができる。
【0014】
本明細書に開示される方法を実行するためのシステムもまた提供される。
【0015】
本発明がより詳細に説明される前に、本発明は、説明される特定の実施形態に限定されるものではなく、したがって、変化し得ることが理解されるべきである。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものにすぎず、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0016】
値の範囲が提供される場合、文脈上別段の指示のない限り、その範囲の上限と下限との間の各介在値も、下限のユニットの10分の1まで具体的に開示されていることを理解されたい。任意の記載値又は記載された範囲内の間に介在する値と、任意の他の記載値又はその記載された範囲内の間に介在する値との間の、それぞれより小さい範囲が、本発明に包含される。これらの小さい範囲の上限及び下限は、独立して範囲に含まれていても、除外されていてもよく、いずれか、どちらでもない、又は両方の限定が小さい範囲に含まれている各範囲も、記載されている範囲の中で任意の具体的に除外されている限定に従うことを条件として、本発明に包含される。記載された範囲が限定の一方又は両方を含む場合、それらの含まれる限定のいずれか又は両方を除外する範囲も、同様に本発明に含まれる。
【0017】
別途定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載される方法及び材料と類似又は均等の任意の方法及び材料は、本発明の実施又は試験に使用することができるが、ここでは、いくつかの潜在的かつ例示的な方法及び材料を説明することができる。本明細書で言及される任意の及び全ての刊行物は、刊行物が引用される方法及び/又は材料を開示及び説明するために、参照により本明細書に組み込まれる。矛盾がある場合、本開示は、組み込まれた刊行物の任意の開示に優先されることを理解されたい。
【0018】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「別個の実体(a discrete entity)」への言及は、1つ以上の別個の実体への言及を含む。特許請求の範囲は、あらゆる要素、例えば、あらゆる選択的要素を除外するように起草してよいことに更に留意されたい。したがって、この宣言は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連して、「専ら」、「のみ」等の排他的用語を使用すること、又は「否定的な」制限を使用することの先行的な根拠として機能することが意図される。
【0019】
本明細書で考察される刊行物は、本出願の出願日前に専らそれらの開示のために提供されている。更に、提供される刊行物の日付は、独立して確認する必要があり得る実際の刊行日とは異なる場合がある。本明細書におけるいずれかの用語の定義又は使用の範囲が、参照によって本明細書に組み込まれる出願又は参照における用語の定義又は使用と矛盾するときには、本出願が統制する。
【0020】
本開示を読むと当業者には明らかであろうように、本明細書に記載及び例証される個々の実施形態の各々は、本発明の範囲又は趣旨から逸脱することなく、他の様々な実施形態のいずれかの特徴から容易に分離され得るか、又はこれらと組み合わされ得る別個のコンポーネント及び特徴を有する。任意の列挙された方法は、列挙された事象の順序、又は論理的に可能な任意の他の順序で実行され得る。
【0021】
定義
本明細書で使用される場合、「準最適な共感」は、その種の平均的な対象で観察される共感よりも低い共感のレベルによって特徴付けられる対象における感情的特性を指す。準最適な共感とは、他者の感情及び要求を認識又は特定することができないことを指し、例えば、冷酷で感情的でない態度、他のヒト又は動物の苦痛を認識することができないこと、及び他のヒト又は動物の感情を推測できないことによって、表され得る。
【0022】
共感は様々な方法で評価することができる。例示的な共感の尺度又はタイプとしては、観察恐怖学習、痛みの感情的伝染、親社会的支援、苦しんでいる他者の慰め、視点取得、同情、利他主義、及び標的を絞った支援が挙げられる。「準最適な共感」という用語は、例えば、医療又は精神医学の専門家が、対象が社会における個人に対する共感の平均レベルを下回るレベルの共感を有すると判断した場合が含まれる。「準最適な共感」には、医学的又は精神医学的専門家が、対象が対人関係の問題を引き起こす共感の欠陥を有すると判断する状況も含まれる。
【0023】
ヒトの共感を評価するため、特定の試験が心理学で使用される。例えば、論文Carre et al.(2013),Psychol Assess;25(3):679-91では、ヒトの共感を評価するために使用される特定の共感尺度が記載されている。Carreらの論文はその全体が本明細書に組み込まれる。別のそのような方法は、Jolliffeらの論文「Development and validation of the Basic Empathy Scale」、Journal of Adolescence,Volume 29,Issue 4,August 2006,Pages 589-611に記載されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。したがって、当業者は、対象、特にヒトが、準最適な共感、すなわち、平均的なヒトで観察される共感よりも低い共感のレベルを有するかどうかを決定することができる。
【0024】
「シータ振動」という用語は、「シータ波」又は「シータリズム」と互換的に使用され、4Hz~8Hzの範囲の周波数を有する神経振動を指す。「神経振動」という用語は、本明細書では、「脳波」及び「脳の波」という用語と互換的に使用される。タイプ2シータ振動はタイプ-2シータ振動と互換的に使用される。シータ振動は、シータリズムと互換的に使用される。「対象」及び「患者」という用語は、本明細書において互換的に使用され、動物、例えばヒトを指す。
【0025】
「治療有効量」、「治療有効用量」、又は「治療用量」は、所望の臨床結果をもたらす(すなわち、治療有効性を達成する、所望の治療応答を達成する等)ために十分な量である。治療有効用量は、1回以上の投与で投与することができる。本開示の目的のために、組成物の治療有効用量は、個体に投与されるときに、対象に存在する疾患の状態又は状態の進行を緩和、改善、安定化、反転、予防、原則又は遅延させるのに十分な量である。
【0026】
本明細書で使用される場合、「決定する」、「測定する」、「評価する」、及び「アッセイする」という用語は、互換的に使用され、定量的及び定性的決定の両方を含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、「薬学的組成物」は、対象、例えば、哺乳動物、特にヒトへの投与に好適な組成物を包含することを意味する。一般に、「薬学的組成物」は、無菌であり、好ましくは、対象に望ましくない応答を誘発することができる汚染物質を含まない(例えば、薬学的組成物中の化合物は、薬学的グレードである)。薬学的組成物は、経口、経頬、経腸、非経口、腹腔内、皮内、気管内、筋肉内、皮下等を含む多数の異なる投与経路を介して、必要とする対象又は患者に投与するように設計できる。
【0028】
方法
本開示は、タイプ2海馬シータ振動が、海馬、ACC、及びBLAの間の長距離ニューロンネットワーク結合を誘導し、次いで、マウスにおいて、古典的恐怖条件付けに影響を及ぼすことなく、観察恐怖の根底にある感情的共感を推進することを示唆する。本開示は、準最適な共感、例えば、多様な神経精神医学的又は神経学的状態によって引き起こされた準最適な共感の治療についての、タイプ2海馬シータ振動の移行可能性を強調する。
【0029】
したがって、ある場合には、対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節することによって、ヒト対象における共感を修正する方法が提供され、それによって、対象における共感を修正する。ある場合には、本方法は、対象の脳領域におけるタイプ2シータ振動を増加させることによって、ヒト対象における共感を増加させることを含み、それによって、対象における共感を増加させる。ある場合には、対象は、精神医学的又は神経学的状態によって引き起こされる可能性がある、準最適な共感を有する。
【0030】
タイプ2シータ振動の調節は、例えば、光遺伝学的処置、1つ以上の電極を使用した脳領域の電気刺激、薬剤の投与、脳領域内のニューロンを遺伝子修正して振動を直接調節すること、又はそれらの組み合わせによって達成できる。ある場合には、調節は、タイプ2シータ振動を増加させることを伴う。他の場合には、調節は、タイプ2シータ振動の減少させることを伴う。
【0031】
タイプ2シータ振動の調節は、感覚刺激、電気刺激、機械的刺激、又は機械的に活性化された遺伝的標的指向型刺激によっても達成することができ、これらは全て、同調、遺伝子療法、細胞療法、及び薬剤とともに、又はこれらなしで、達成することができる。
【0032】
光遺伝学的処置
光遺伝学的処置は、特定の脳領域及び/又は特定のタイプの細胞における細胞を遺伝子組換えすること、それに続いて遺伝子組換えされた脳領域を光に接触させることを含む。遺伝子組換えは、組換えされた細胞に光感受性イオンチャネルを発現させる。ニューロン等の細胞を光に接触させると、これらのチャネルが活性化し、ニューロン等の細胞の活性化に影響を与える。
【0033】
ある場合には、光遺伝学的処置は、同調とともに施される。ある場合には、光遺伝学的処置は、同調せずに施される。
【0034】
特定の脳領域内のニューロン又は他の非神経細胞型等の、脳内の遺伝子組換え細胞の特定の詳細は、論文Haery et al.(2019),Frontiers in Neuroanatomy,Vol.13,Article 93に記載されており、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0035】
ある場合には、ニューロン又は他の脳細胞は、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、又はレンチウイルスベクター等のウイルスベクターを介して遺伝子を送達することによって、遺伝子組換えされる。ウイルスベクターは、光感受性イオンチャネルをコードする遺伝子を含む。そのような感光性イオンチャネルの非限定的な例としては、オプシン、例えば、チャネルロドプシン、例えば、チャネルロドプシン2、藻類チャネルロドプシン、又は微生物ロドプシンが挙げられる。感光性イオンチャネルの更なる例は、米国特許出願公開第2020/0121746号及び米国特許出願公開第2020/0191776号に記載されており、これらは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0036】
ある場合には、感光性イオンチャネルをコードする遺伝子を含有するウイルスベクター等のベクターを、関心領域に特異的に注入し、それによって、脳内の標的領域における感光性イオンチャネルの発現を制限する。ある場合には、ウイルスベクターは、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、MS、海馬采脳弓のうちの1つ以上に注入される。一実施形態において、ウイルスベクターは視床にのみ注入され、ウイルスは、例えば、ACCを含む、視床よりも広い領域の細胞に核酸を導入する。
【0037】
代替的に、ウイルスベクターは、プロモーター又はエンハンサー等の特定の調節要素の制御下で、感光性イオンチャネルをコードする遺伝子を含有することができ、これは、特定の及び所望の領域又は細胞型において感光性イオンチャネルの発現を誘導する。そのようなある特定のプロモーター又はエンハンサーは、Haeryらによって、特に、表4に記載されている。追加のかかるプロモーター又はエンハンサーは、論文Mich et al.(2021),Cell Rep.;34(13):108754に記載されており、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0038】
そのようなある特定プロモーター又はエンハンサーとしては、ヒトシナプシン1、MeCP2、ニューロン特異的エノラーゼ、BM88、mDLX、ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼ、PRSx8(修飾ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼ)、PCP2、FEV、メラニン濃縮ホルモン、SLC6A4、NR2E1、GfABC1D、Aldh1/1、ミエリン関連糖タンパク質、ICAM-2、CLDN5、Tie-2、及びFLT1のプロモーターが挙げられる。
【0039】
感光性イオンチャネルを発現するように特異的に修飾される脳領域は、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、内側中隔(MS)、海馬采脳弓のうちの1つ以上であってよい。ある場合には、脳領域は海馬である。ある場合には、脳領域は中隔海馬である。ある場合には、脳領域はACCである。ある場合には、脳領域はBLAである。ある場合には、脳領域は内側中隔である。ある場合には、脳領域は海馬采脳弓である。
【0040】
光遺伝学的処置のいくつかの場合では、方法は、GABA作動性ニューロンが関与する。これらのニューロンは、神経伝達物質ガンマ-アミノ酪酸(GABA)の影響を受ける。したがって、ある場合には、本方法は、GABAに応答するシナプスを含むニューロンが関与する。ある場合には、GABA作動性ニューロンは、海馬采脳弓に位置する。ある場合には、GABA作動性ニューロンは、中隔海馬に位置する。
【0041】
感光性イオンチャネルの脳領域特異的又は脳細胞特異的発現が確立された後、特定の領域を刺激してタイプ2シータ振動を生成できる。これは、レーザーを使用して標的脳領域を照射することによって達成できる。そのようなレーザーは、対象の脳内に外科的に配置されて、有線又は無線通信を介して活性化され、標的領域を照射できる。このような標的領域の照射は、標的領域内の感光性イオンチャネルを活性化し、それによってタイプ2シータ振動を誘導する。
【0042】
対象の脳内に設置されたレーザーを活性化するための無線及びバッテリーフリーのデバイスは、当該技術分野で既知である。そのような特定のデバイスは、論文Won et al.(2021),Wireless and battery-free technologies for neuroengineering,Nat Biomed Engに記載され、これは参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0043】
設置されたレーザーには、電源と制御デバイスを接続することができる。そのような接続は、有線又は無線であってよい。制御デバイスは、タイプ2シータ振動を誘発するために、対象の脳に設置されたレーザーに電力を供給するように構成されてよい。
【0044】
脳内の標的領域の光遺伝子学的刺激の更なる詳細は、当業者には既知であり、そのような実施形態は、本発明の範囲内である。
【0045】
電気刺激処置
ある場合には、本方法は、1つ以上の電極を使用して脳領域を電気的に刺激し、タイプ2シータ振動を誘導することを含む。ある場合には、電極は、一時的に又は永久的に、関心ある脳領域に配置することができる。通常、そのような技術は「深部脳刺激」と呼ばれる。
【0046】
対象の脳内に設置された電極を作動させるための無線及び電池不要のデバイスは、当該技術分野で既知である。そのような特定のデバイスは、Wonらの論文に記載され、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0047】
脳の関心領域は、上記のようであってよく、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、MS、海馬采脳弓のうちの1つ以上を含む。ある場合には、脳領域は海馬である。ある場合には、脳領域は中隔海馬である。ある場合には、脳領域はACCである。ある場合には、脳領域はBLAである。ある場合には、脳領域は内側中隔である。ある場合には、脳領域は海馬采脳弓である。
【0048】
そのような電極は、対象の脳内に外科的に配置されることができ、それは、標的領域を電気的に刺激するために有線又は無線通信を介して活性化されることができる。このような標的領域の電気刺激は、関心領域におけるタイプ2シータ振動を誘導する。上で特定したWonらの論文は、これらの実施形態のいくつかに関連する情報を提供し、そのような実施形態は、本開示の範囲内である。
【0049】
薬剤
ある場合には、本方法は、薬剤の投与が関与する。ある場合には、薬剤は、抗コリンエステラーゼである。抗コリンエステラーゼは、コリン作動性神経末端からの放出後にアセチルコリンの存在を増加させる薬物である。抗コリンエステラーゼは、アセチルコリンエステラーゼ及びブチルコリンエステラーゼの両方を阻害できる。人工型の抗コリンエステラーゼは、アセチルコリンエステラーゼのアニオン性部位を阻害する。酸転移性抗コリンエステラーゼは、酵素と反応し、アセチルコリンから形成されたアセチル化酵素ほど迅速に加水分解することができない中間化合物を形成する。
【0050】
ある場合には、薬剤は、抗コリンエステラーゼ剤は、アトロピンである。ある場合には、薬剤はフィゾスチグミンであり、これはエゼリンとしても知られている。
【0051】
ある場合には、薬物は、PLCの活性化剤、特に、PLC-β1及び/又はPLC-β4の活性化剤である。場合によっては、PLC活性化剤は、m3M3FBS(2,4,6-トリメチル-N-(メタ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-ベンゼンスルホンアミド)、又はタプシガルギンである。PLCの活性化剤の更なる例は、米国特許出願公開第2020/0306213号及び米国特許出願公開第2011/0123994号に記載されており、これらはその全体が本明細書に組み込まれる。
【0052】
ある場合には、薬剤は修飾され、標的脳領域はその薬剤がその標的脳領域でのみ作用するように修飾される。そのような特定の方法は、論文Shields et al.(2017),Science,356(6333)に開示されており、これは参照によりその全体が組み込まれる。
【0053】
Shields et al.に記載されているように、場合によっては、薬物活性は、連結による薬物の急性制限(DART)と呼ばれる分子内での連結によって、制限される。DARTは、DARTを活性薬物に変換する酵素を発現するタイプの細胞を標的とする。対象の脳内の特定の細胞は、DARTに作用する酵素を発現するように修飾されてもよい。DARTは、酵素を発現する細胞に送達されることができ、次に、その細胞は、標的細胞に薬物を送達する。
【0054】
標的ニューロンの遺伝子組換え
ある場合には、本方法は、脳領域内のニューロンを遺伝子組換えして振動を直接調節することを含む。したがって、これらの実施形態は、ニューロンを光と接触させることを必要とせず、代わりに、他の生化学的経路を介してタイプ2シータ振動を修正することを伴う。例えば、そのような調節には、標的脳領域のニューロン等の細胞の遺伝子組換えが関与し、タイプ2シータ振動を直接調節する。光遺伝学的処置とは異なり、この選択肢は、他の生化学的経路を介してタイプ2シータ振動を修正する。
【0055】
例えば、Arshaad et al.(2021),Scientific Reports,volume11,Article number:1099は、T型Ca2+チャネルCav3.2の阻害が、海馬領域におけるタイプ2シータ振動を増加させることを示す。したがって、一実施形態において、タイプ2シータ振動の調節は、特定の脳領域、特にACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるCav3.2発現の調節を含む。ある場合には、タイプ2シータ振動は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるCav3.2発現を減少させることによって、増加する。このような減少は、これらの領域のうちの1つ以上における細胞を遺伝子組換えして、Cav3.2をコードする遺伝子の発現を阻害する阻害性RNAを発現させることによって達成できる。
【0056】
ある場合には、タイプ2シータ振動の調節は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるCav3.1発現の調節を含む。ある場合には、タイプ2シータ振動は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるCav3.1発現を減少させることによって、増加する。このような減少は、これらの領域のうちの1つ以上における細胞を遺伝子組換えして、Cav3.1をコードする遺伝子の発現を阻害する阻害性RNAを発現させることによって達成できる。
【0057】
ある場合には、タイプ2シータ振動の調節は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるCAV3遺伝子発現の調節を含む。CAV3遺伝子は、タンパク質カベオリン-3をコードする。ある場合には、タイプ2シータ振動は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるCAV3発現を減少させることによって、増加する。このような減少は、これらの領域のうちの1つ以上における細胞を遺伝子組換えして、CAV3遺伝子を阻害する阻害性RNAを発現させることによって達成できる。
【0058】
ある場合には、タイプ2シータ振動の調節は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるPCF-β1発現の調節を含む。ある場合には、タイプ2シータ振動は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるPCF-β1発現を増加させることによって、増加する。このような減少は、これらの領域のうちの1つ以上における細胞を遺伝子組換えして、PCF-β1をコードする遺伝子を発現させることによって達成できる。
【0059】
ある場合には、タイプ2シータ振動の調節は、ある特定の脳領域、特に内側中隔におけるPCF-β4発現の調節を含む。ある場合には、タイプ2シータ振動は、ある特定の脳領域、特に、ACC、BLA、内側中隔、及び/又は海馬におけるPCF-β4発現を増加させることによって、増加する。このような減少は、これらの領域のうちの1つ以上における細胞を遺伝子組換えして、PCF-β4をコードする遺伝子を発現させることによって達成できる。
【0060】
対象及びタイプ2シータ振動の脳領域特定活性化
対象
本方法は、準最適な共感を有すると決定された任意の対象に使用できる。ある場合には、対象は、自閉症スペクトラム障害、認知症、依存症、うつ病、不安、双極性障害、統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、失感情症、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、精神病質、パーキンソン病、及びてんかんからなる群より選択される、精神的又は神経学的状態を有する。ある場合には、精神的又は神経学的状態は、自閉症スペクトラム障害、認知症、及び依存症からなる群より選択される。自閉症スペクトラム障害には、自閉症及びアスベルガー症候群が含まれる。例示的なタイプの認知症としては、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、及び前頭側頭型認知症が挙げられる。注意欠陥多動性障害(ADHD)は、注意欠陥障害(ADD)と互換的に使用される。例示的な依存症としては、アルコール、大麻、ニコチン、オピオイド、幻覚剤、及び覚醒剤が挙げられる。
【0061】
調節される特定の脳領域は、処置の有効性に影響を与えることができる。ある場合には、脳領域は、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、内側中隔、海馬采脳弓、又はこれらの領域のうちのいずれか1つ以上の組み合わせであってよい。ある場合には、脳領域は海馬である。ある場合には、脳領域は中隔海馬である。ある場合には、脳領域はACCである。ある場合には、脳領域はBLAである。ある場合には、脳領域は内側中隔である。ある場合には、脳領域は海馬采脳弓である。ある場合には、列挙された脳領域のうちの2つ以上が調節される。
【0062】
ある場合には、脳領域は、ACCの錐体ニューロン、内側前頭前野、及び/又は中隔海馬GABA作動性投射を含む。
【0063】
システム
対象の特定の脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節することによって、ヒト等の対象における共感を調節するためのシステムが提供される。ある場合には、システムは、対象の特定の脳領域におけるタイプ2シータ振動を増加させることによって、準最適な共感を有するヒト等の対象における共感を増加させる。準最適な共感は、準最適な共感を伴う精神医学的又は神経学的状態によって引き起こされ得る。場合によっては、システムは、対象の脳領域における調節型2シータ振動に構成されるデバイスを含む。
【0064】
ある場合には、デバイスは、光遺伝学的デバイスである。光遺伝子デバイスは、脳領域に光を送達するように構成及び配置された光送信機に作動可能に結合された光源を含む。例えば、光遺伝学的処置のために、対象は、光感受性イオンチャネルを発現するように遺伝的に修正されたニューロンを脳内に有することができ、それによって、光がこれらのチャネルによって細胞と接触することを可能にする。光感受性イオンチャネルを発現するための脳内の遺伝子組換え細胞の特定の詳細は上記に記載されており、そのような詳細は、本明細書に開示されるシステムにも関連する。
【0065】
細胞がニューロンである場合、光感受性イオンチャネルを発現する細胞を光にさらすことは、ニューロンの発火に影響する。ある場合には、光送信機は、光ファイバーケーブルを含む。ある場合には、光ファイバーケーブルの端部が脳領域内に配置され、光はその脳領域内の光遺伝子修正ニューロンに向けられる。
【0066】
ある場合には、デバイスは、脳領域に電気刺激を送達するように構成及び配置された少なくとも1つの電極に作動可能に結合された電流発生器を含む電気刺激デバイスである。ある場合には、システムは、2つの電極を備える。ある場合には、システムは、3つ以上の電極を備える。
【0067】
ある場合には、脳領域は、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、MS、海馬采脳弓、及び扁桃体からなる群より選択される。
【0068】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は、以下の項によっても明確化される。
【0069】
条項1.ヒトの脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節することを含む、ヒトにおける共感を調節する方法。
【0070】
条項2.共感を調節することが、ヒトにおける共感を増加させることを含み、ヒトが、準最適な共感を有する、条項1に記載の方法。
【0071】
条項3.ヒトにおける準最適な共感が、精神医学的又は神経学的状態によって引き起こされる、条項2に記載の方法。
【0072】
条項4.タイプ2シータ振動を調節することが、同調を伴う又は伴わない光遺伝学的処置を含む、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
【0073】
条項5.光遺伝学的処置が、GABA作動性ニューロンを刺激することを含む、先行する条項のいずれか一項に記載の方法。
【0074】
条項6.GABA作動性ニューロンが、海馬采脳弓に位置する、条項5に記載の方法。
【0075】
条項7.GABA作動性ニューロンが、中隔海馬に位置する、条項5又は6に記載の方法。
【0076】
条項8.タイプ2シータ振動を調節することが、脳領域におけるニューロンを遺伝子組換えしてタイプ2シータ振動を直接調節することを含む、条項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0077】
条項9.脳領域におけるニューロンを遺伝子組換えすることが、Cav3.2、Cav3.1、CAV3、PLC-β1、及びPLC-β4をコードする1つ以上の遺伝子の発現を修正することを含む、条項8の方法。
【0078】
条項10.タイプ2シータ振動を調節することが、1つ以上の電極を使用する脳領域の電気刺激を含む、条項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0079】
条項11.調節することが、ヒトに薬剤を投与することを含む、条項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0080】
条項12.薬剤が、抗コリンエステラーゼ剤である、条項11に記載の方法。
【0081】
条項13.抗コリンエステラーゼ剤が、アトロピン又はフィゾスチグミンである、条項12に記載の方法。
【0082】
条項14.薬剤が、PLCの活性化剤である、条項11に記載の方法。
【0083】
条項15.PLCの活性化剤が、PLC-β1及び/又はPLC-β4の活性化剤である、条項14に記載の方法。
【0084】
条項16.PLCの活性化剤が、m3M3FBS(2,4,6-トリメチル-N-(メタ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-ベンゼンスルホンアミド)又はタプシガルギンである、条項14又は15に記載の方法。
【0085】
条項17.脳領域が、海馬、中隔海馬、前帯状皮質(ACC)、扁桃体基底外側部(BLA)、視床正中、絶縁領域、内側中隔(MS)、又は海馬采脳弓である、条項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【0086】
条項18.タイプ2シータ振動が、海馬、ACC、又はBLAにおいて同期される、条項1~17のいずれかに記載の方法。
【0087】
条項19.精神医学的又は神経学的状態が、アルツハイマー病、自閉症スペクトラム障害、認知症、依存症、うつ病、不安、双極性障害、統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)、失感情症、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、精神病質、パーキンソン病、又はてんかんである、条項3に記載の方法。
【0088】
条項20.精神医学的又は神経学的状態が、自閉症スペクトラム障害、認知症、及び依存症からなる群より選択される、条項19に記載の方法。
【0089】
条項21.調節することが、タイプ2シータ振動を増加させる、条項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【0090】
条項22.調節することが、タイプ2シータ振動を減少させる、条項1に記載の方法。
【0091】
条項23.タイプ2シータ振動を調節することが、タイプ1シータ振動の調節を誘導しない、条項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0092】
条項24.ヒトの脳領域におけるタイプ2シータ振動を調節するように構成されたデバイスを備える、ヒトにおける共感を調節するためのシステム。
【0093】
条項25.デバイスが、準最適な共感を有するヒトにおける共感を増加させるように構成されている、条項24に記載のシステム。
【0094】
条項26.デバイスが、脳領域に光を送達するように構成及び配置された光送信機に作動可能に結合された光源を含む光遺伝学的デバイスである、条項24又は25に記載のシステム。
【0095】
条項27.デバイスが、脳領域に電気刺激を送達するように構成及び配置された少なくとも1つの電極に作動可能に結合された電流発生器を含む電気刺激デバイスである、条項24又は25に記載のシステム。
【0096】
条項28.2つの電極を備える、条項27に記載のシステム。
【0097】
条項29.脳領域が、海馬、中隔海馬、ACC、BLA、視床正中、絶縁領域、内側中隔、海馬采脳弓、扁桃体、又はそれらの組み合わせである、条項24又は25に記載のシステム。
【実施例】
【0098】
以下の実施例は、当業者に、本発明の作製及び使用方法の完全な開示及び記載を提供するために提示されるものであり、発明者が発明とみなす範囲を限定することを意図せず、また、以下の実験が実行される全て又は唯一の実験であることを表すことを意図するものではない。使用される数字(例えば、量、温度等)に対する正確性を確保する努力がなされているが、ある程度の実験誤差及び偏差が考慮されるべきである。
【0099】
対象の脳内のタイプ2シータ振動のレベルを調節することによって、対象が準最適なレベルの共感を治療できることが提案されている。理論によって制限されることを意図するものではないが、マウスにおける共感は観察恐怖と相関することが見出されている。特に、より高い観察恐怖を有するマウスは、仲間のマウスに対してより高いレベルの共感も持っているのに対して、より低い観察恐怖を有するマウスは、仲間のマウスに対してより低いレベルの共感を持っている。加えて、タイプ2シータ振動は、より大きな共感とより大きな観察恐怖と関連していることが見出されている。したがって、対象におけるタイプ2シータ振動の増加は、対象における共感を増加させるであろう。
【0100】
実施例1-実験方法
実験的アプローチは、高度な光遺伝学機能的MRIスキャン、計算モデル化、及び光遺伝学機能的超音波イメージングとともに、シータ振動及び共感の根底にある遺伝学的及び回路機構の研究を組み合わせて使用した。
【0101】
マウス繁殖プログラムを実施し、観察恐怖が減少したマウス系統と、観察恐怖のレベルが正常又は増加した2番目のマウス系統とを得た。シータ脳波、遺伝学、光遺伝学、超音波、fMRI、及び光遺伝学機能的MRIによって、共感行動と観察恐怖との間の相関関係を明らかにするため、これらの系統を研究した。
【0102】
予備研究中の観察恐怖学習において重度の欠陥を示したPLC-β1変異マウスを使用した。ACCと扁桃体におけるリズム振動に焦点を当てた。ここでは、ACC興奮性ニューロンにおけるPLC-β1の機能と、観察恐怖中のACC及びBLAにおける同期した4~8Hzシータ振動とが、観察恐怖に関与していることが分かった。これらの同期振動はタイプ2海馬シータリズムであり、これらのリズム同期は、観察恐怖学習のために選択的に必要であるが古典的恐怖条件付けのためには必要ではないことが示された。更に、3つの脳領域(海馬、ACC、及びBLA)間のこのリズム同期の上昇と下降は、観察恐怖中の各すくみの開始と消失に時間的に先行する。最後に、観察恐怖行動の強度は、光遺伝学的にタイプ2シータ振動の強度を変化させることによって、双方向に変化する可能性がある。したがって、海馬、ACC、及び扁桃体からなる長距離ネットワークにおいて同期した海馬タイプ2シータリズムは、従来の恐怖条件付けに影響を及ぼすことなく、観察恐怖につながる感情的共感の根底にある認知プロセスを駆動する。
【0103】
実施例2-ACCの錐体ニューロンにおけるPLC-β1欠損は、2/3層ニューロンにおける観察恐怖及び興奮性を損なう
社会的欠陥を含む統合失調症の複数の中間形質を示すマウスモデルであるPLC-β1変異マウスは、観察恐怖学習の欠如を示す。したがって、この変異体の系統的分析を、行動、細胞、回路、生理学及びEEG分析を含む多様なレベルで実行した。PLC-β1が観察恐怖に関与しているかどうかを具体的に判定するために、先に記載したるJeon et al.(2010)を使用して、PLC-β1ノックアウト(PLC-β1
-/-)マウスによる観察恐怖学習アッセイを実行した(
図1A)。このアッセイにおいて、観察個体PLC-β1
-/-マウスは、野生型観察個体マウスと比較して、すくみ行動の減少を明確に示した(F
1、18=4.648、p<0.05;
図1B)。PLC-β1
-/-観察個体マウスは、同一の観察チャンバーに戻され、他のチャンバーは空にし、訓練後24時間には、野生型観察個体マウスと比較して、すくみが減少したことを示した(p<0.01、t(18)=3.213;
図1C)。したがって、PLC-β1シグナル伝達は、マウスにおける観察恐怖行動に必要である。PLC-β1は、ACCを含む内側前頭前野(mPFC)の領域において豊富に発現される。便宜上、ACCと、前辺縁皮質(PrL)及び下辺縁皮質(IL)を含むmPFC領域とを区別する。PLC-β1
-/-マウスにおける観察恐怖の障害が、ACC又はmPFCにおけるPLC-β1欠損に起因したかどうかを決定するために、PLC-β1 mRNA(shPLC-β1)を標的とする小ヘアピンRNA(shRNA)をコードするレンチウイルスを、野生型マウスのACC(
図1D)又はmPFC(
図1G)に両側から注入した。観察恐怖条件付け中、shPLC-β1のACC特異的注入が施された観察個体は、混合型のshRNA配列(shSCR)を伴うウイルスを注入された観察個体よりも有意に低いすくみレベルを示した(F
1、16=4.916、p<0.05;
図1E)。ACC特異的shPLC-β1注入が施された観察個体において、24時間での文脈記憶も減少した(p<0.01、t(16)=2.961;
図1F)。一方、mPFCにおけるPLC-β1ノックダウンは、観察恐怖条件付け(F
1、12=0.00406、P=0.950;
図1H)及び24時間文脈記憶(p=0.824、t(12)=0.228;
図1I)に影響を及ぼさなかった。全身PLC-β1ノックアウトマウスとは対照的に、PLC-β1のACC特異的サイレンシングは、文脈恐怖条件付け及び24時間文脈依存記憶に影響を及ぼさなかった。この知見は、ACCは観察を通じた代理恐怖学習には関与しているが、有害な刺激である足刺激の直接的経験に依存する古典的な条件付けには関与していない、という以前の報告と一致している。ACC特異的PLC-β1ノックダウンを伴う観察個体マウスは、オープンフィールド試験、明暗遷移試験、及び高架式十字迷路試験によって決定されるような、移動又は不安レベルの変化を示さなかった。遺伝子サイレンシングの程度を評価するために、行動試験の完了後にマウスを屠殺し、ACCニューロンにおけるPLC-β1発現を免疫組織化学的に測定した。ACC中のPLC-β1陽性ニューロンは、shSCRが注入されたマウスと比較して、shPLC-β1が注入されたマウス中で数が顕著に減少した。次に、マウス脳のACCにおいて、PLC-17β1を発現した細胞型を明確にした。PLC-β1と、カルシウム/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼIIα(CaMKIIα)又はグルタミン酸脱炭酸酵素67(GAD67)との共発現を、二重免疫蛍光分析によって調べた。PLC-β1陽性のACCニューロンは、主にCaMKIIαで標識され、GAD67標識細胞の頻度は低かった。CaMKIIα標識ニューロンの平均94.91%±4.39%及びGAD67標識ニューロンの平均32.72%±4.32%もPLC-β1陽性であった。したがって、大部分のACC興奮性ニューロン及びいくつかの阻害性ニューロンは、PLC-1 β1を発現する。
【0104】
観察恐怖における、ACCの興奮性ニューロン中のPLC-β1の役割を調査するため、AAV5-CaMKIIα-GFP-CreをPLC-β1loxP/loxPマウスのACCに注入することによって、Cre-LoxP組換えアプローチを使用してACC興奮性ニューロン特異的PLC-β1条件付きノックアウト(PLC-β1ACC/Cre)マウスを作製した(
図1J)。PLC-β1ACC/Cre観察個体マウスは、AAV5-CaMKIIα-GFP(PLC-β1ACC/GFP)が注入された対照観察個体と比較して、観察恐怖(F
1、18=10.981、p<0.01;
図1K)及び24時間文脈記憶(p<0.05、t(18)=2.358;
図1L)の障害を示した。観察恐怖に対する、阻害ニューロンを含むACC非興奮性ニューロン中のPLC-β1サイレンシングの効果を決定するため、AAV-loxP-U6-shPLC-β1-CMV-mCherry-loxPをCaMKIIα-CreマウスのACCに送達した(
図11 1M)。ACC非興奮性ニューロン中のPLC-β1のノックダウンは、観察恐怖条件付け(F
1、12=0.162、p=0.695;
図1N)及び24時間文脈記憶(P=0.417、t(12)=-0.841;
図1O)に影響を及ぼさなかった。
【0105】
行動試験の完了後、マウスを屠殺し、二重免疫組織化学を用いて、興奮性及び抑制性ACCニューロン中のPLC-β1の発現を測定した。AAV5-CaMKIIα-GFPを注入されたマウスと比較して、AAV5-CaMKIIα-GFP-Creを注入されたマウスのACC興奮性ニューロンにおいて、PLC-β1の発現は低下した。同様に、AAV-loxP-20 U6-shSCR-CMV-mCherry-loxPを注入したマウスと比較して、AAV-loxP-U6-shPLC-β1-CMV-mCherry-loxPを注入したマウスのACC阻害ニューロンにおいて、PLC-β1の発現は低下した。
【0106】
PLC-β1
-/-マウスにおける障害ある観察恐怖の根底にある細胞機構を評価するため、パッチクランプ記録技術を使用して、脳スライス中のACC錐体ニューロンについて、内発的な発火特性を調べた。-60mVに調整された静止膜電位から脱分極電流(10-pA増分、7ステップ、1-s持続時間)を細胞に注入することによって、B6.129 PLC-β1
+/+/GAD65GFPtgマウス及びB6.129 PLC-β1
-/-/GAD65GFPtgマウスにおけるACC錐体ニューロンの活性を比較した(
図1P)。脱分極電流によって誘発される活動電位の頻度は、野生型マウスのそれと比較して、PLC-β1
-/-マウスの錐体ニューロンで有意に減少した(F
1、98=10.86、p=0.0014、二元配置反復測定分散分析;
図1Q)。特に、この興奮性の低下は、2/3層ACCニューロン(F
1、34=11.62、p=0.0017、二元配置反復測定分散分析;
図1R)でのみ観察され、5/6層ニューロン(F
1、62=2.74、p=0.1027、二元配置反復測定分散分析;
図1S)では観察されなかった。総合すると、これらの所見は、ACCの興奮性であって阻害性ではないニューロンにおけるPLC-β1シグナル伝達が、マウスにおける2/3層ニューロンの観察恐怖及び興奮性に関与することを示す。
【0107】
実施例3-ACCとBLAとの間の相互回路は、観察恐怖条件付けのために必要であるが、古典的恐怖条件付けのためには必要ではない
以前の順行性及び逆行性標識研究は、ACC及びmPFCにおいて、5/6層ニューロンではなく、2/3層ニューロンが、マウスにおけるBLAに優先的に投射することを示した。ACCはまた、主にBLAから扁桃体入力を受信し、ACC-BLA回路の相互関係を実証している。自由に行動する野生型観察個体マウスのACC及び外側扁桃体における局所的電場電位(LFP)の同時記録を使用した研究は、観察恐怖におけるACCと扁桃体との機能的接続性を示唆した。ACC又はmPFCからBLAへの投射が観察恐怖に必要かどうかを調査するために、観察恐怖中にACC-BLA又はmPFC-BLA回路を阻害する光遺伝学的アプローチを使用した(
図2A)。これらの実験では、ACC(
図2B)又はmPFC(
図2H)に、観察恐怖課題の6週間前にAAV5-2 CaMKIIα-NpHR3.0-eYFP(NpHR)を注入し、BLAを黄色レーザーで両側照射した。観察恐怖条件付け中の両側BLA内のACC興奮性ニューロンの軸索末端の光遺伝学的サイレンシング時に、NpHRを注入されたマウスは、AAV5-CaMKIIα-eYFP(eYFP)が注入された対照マウスと比較して、すくみの減少を示した(F
1、19=14.224、P=0.001;
図2C)。翌日実行された文脈想起試験において、NpHR注入群のマウスは、eYFP注入群のマウスと比較して、すくみ行動の有意な低下を示した(p<0.05、t(19)=-2.671;
図2D)。しかしながら、観察恐怖中の両側BLA内のPrL及びIL興奮性ニューロンを含むmPFCの軸索末端の光遺伝学的阻害は、条件付け(F
1、13=0.00232、p=0.962;
図2I)及び24時間文脈記憶回復(p=0.267、t(13)=1.160;
図2J)に影響しなかった。古典的文脈恐怖条件付け(
図2K)中の両側BLA(
図2B)内の興奮性ACCニューロンの軸索末端の光遺伝学的阻害も、訓練(F
1、12=0.0587、P=0.813;
図2L)にも24時間文脈記憶回復(p=0.787、t(12)=0.276;
図2M)にも影響を及ぼさなかった。
【0108】
BLAからACCへの投射が観察恐怖に関与しているかどうかを検証するために、観察恐怖中のBLAからACCへの興奮性投射を光遺伝学的に阻害した。この目的のために、BLAにNpHRを注入し、ACCを黄色レーザーで照射した(
図2E)。観察恐怖条件付け中のACC内の興奮性BLA末端の光遺伝学的サイレンシング時(
図2A及び
図2E)、NpHRを注入されたマウスは、eYFPを注入された対照マウスと比較して、すくみの減少を示した(F
1、21=12.858、p<0.01、
図2F)。翌日実行した文脈想起試験において、NpHR注入群のマウスは、eYFP注入群のマウスと比較して、すくみ行動が低下した(p<0.05、t(21)=-2.251;
図2G)。一方、文脈恐怖条件付け(
図2K)中のACC内興奮性BLAニューロンの軸索末端の光遺伝学的阻害(
図2E)は、訓練(F
1、12=1.398、p=0.260、
図2N)にも24時間文脈記憶回復(p=0.698、t(12)=0.398、
図2O)にも影響を及ぼさなかった。まとめると、これらの知見は、ACCとBLAとの間の相互興奮回路は観察恐怖には必要であるが、古典的な文脈的恐怖条件付けには必要ではないことを示唆している。
【0109】
実施例4-ACC-BLA回路における4~8Hz振動は、観察恐怖に障害のあるACC特異的PLC-β1ノックダウンマウスには存在しない
観察恐怖中にACCとBLAとの間に4~8Hzの同期振動が出現することが以前示された。したがって、方法に記載されている手順に従って、これらの同期振動が、観察恐怖に障害のあるACC-PLC-β1-ノックダウンマウスに存在しないかどうかを試験した。この目的のために、shPLC-β1又はshSCR対照ウイルスのいずれかをACC特異的に注入した観察個体マウスにおいて、観察恐怖条件付け中のACC及びBLAにおけるLFPを記録した(
図3A)。条件付け中の馴化及び刺激間の期間に得られたLFP記録を使用し、各マウスについて電力スペクトル密度及びクロスコレログラムを推定した(
図3B~
図3D)。まず、対照マウスにおいて、観察恐怖中のACCとBLAとの間の4~8Hzの同期振動の出現を確認した。その結果、shSCRがACCに注入されたマウスにおいて、馴化から条件付けの間で、LFPシータパワーの有意な調節を見出した(ACC相互作用条件x周波数:F
8、96=6.155、p<0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定;4~8Hz、馴化から条件付けへ:p<0.05、t(6)=3.2792、対応のあるt検定;
図3E及び
図3G)、及びBLA(BLA相互作用条件x周波数:F
8、96=5.697、p<0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定;4~8Hz、馴化から条件付けへ:p<0.05、t(6)=2.5972、対応のあるt検定;
図3E及び
図3H)。対照群とは著しく対照的に、shPLC-β1を注入されたマウスは、馴化から条件付けまで、4~8HzでのLFPスペクトルの電力の有意な低下を示した。(ACC相互作用条件×周波数:F
8、144=4.401、p<0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定;4~8Hz、馴化から条件付けへ:p<0.01、t(9)=-3.2894、対応のあるt検定;
図3F及び
図3I)(BLA相互作用条件x周波数:F
8、144=4.016、p<0.01、二元配置反復測定分散分析、続くボンフェローニ事後検定;馴化から条件付けへ:p<0.01、t(9)=-3.3201、対応のあるt検定;
図3F及び
図3J)。
【0110】
シータ電力の減少に加えて、shPLC-β1を注入された観察個体マウスにおいて、観察恐怖中に、ACCとBLAとの間の同期も障害を受けた。対照であるshSCRを注入されたマウスにおける相互相関分析は、条件付け段階における、有意な相関関係の増加を示し、特にシータ周波数に対応する第2のピーク(0ラグピークから第2のピークまでの平均距離:142ミリ秒[7.046ヘルツ];
図3K、明るい青色の出力)において、ACCとBLAとの間のシータ同期について以前の観察を再度確認した。一方、shPLC-β1を注入されたマウスにおける同様の相互相関分析は、観察恐怖中に同期の兆候を示さなかった(
図3L)。これらの結果は、ACC及びBLAにおけるシータ同期の中断が、ACCにおけるPLC-β1欠失に起因する観察恐怖の障害と関連していることを示唆する。これらの知見は、ACC内のPLC-β1が、ACCとBLAとの間の相互回路における同期した4~8Hz振動及び観察上の恐怖のために必要であることを示す。
【0111】
実施例5-海馬、ACC、及び扁桃体からなる長距離ネットワークにおけるタイプ2シータの同期は、観察恐怖の発現に不可欠である
ACC及びBLAにおけるこの同期した4~8Hzリズムが実際に海馬シータリズムであるかどうかを判定するため、Gangadharanらによって以前に記載された方法を使用して、タイプ2海馬シータリズムを選択的に調節した。内側中隔(MS)から海馬へのGABA作動性投射を阻害することによって、マウスにおいてタイプ1ではなくタイプ2海馬シータリズムが特異的に低減することが知られている。この目的のために、PV-CreトランスジェニックマウスのMSに、観察恐怖アッセイの4週間前にAAV5-EF1a-DIO-NpHR3.0-eYFP(DIO-NpHR)を注入した。次いで、観察恐怖学習中に背側脳弓を黄色レーザーによって照射した(
図4A)。このような光照射は、海馬への中隔GABA作動性投射に選択的に影響を及ぼし、それによってタイプ2シータを選択的に減衰させることが予想される。
【0112】
まず、そのような処置が観察恐怖行動に影響を与えるかどうかを検査した。観察恐怖条件付け中に、背側脳弓内の中隔海馬GABA作動性線維の光遺伝的不活性化の際(
図4C)、DIO-NpHRを注入されたマウスは、対照であるAAV5-EF1a-DIO-eYFP(DIO-eYFP)ウイルスを注入したマウスと比較して、すくみの減少を示した(F
1、22=17.277、p<0.001;
図4D)。翌日実行した文脈想起試験において、DIO-NpHR注入群のマウスは、DIO-eYFP注入群のマウスと比較して、すくみ行動が有意に低下した(p<0.05、t(22)=2.480;
図4E)。対照的に、古典的文脈恐怖条件付け(
図4F)中の中隔海馬GABA作動性線維のNpHR媒介性阻害は、訓練(F
1、11=0.00289、p=0.958;
図4G)及び24時間文脈記憶回復(p=0.817、t(11)=0.238;
図4H)に影響を及ぼさなかった、これは、タイプ2海馬リズムは観察恐怖のためには選択的に必要であるものの、一般的な恐怖のためには必要ではないことを示す。
【0113】
観察恐怖におけるタイプ2海馬シータリズムの役割を、別のアプローチも使用して確認した。PLC-β4のMS選択的サイレンシングは、マウスの海馬におけるタイプ2シータリズムを減衰させることが知られている。したがって、MS特異的PLC-β4ノックダウンマウスを、PLC-β4(shPLC-β4)を標的とするshRNAを使用して作製し、次いでこれらのマウスに観察恐怖課題を課した。MS-8制限PLC-β4-ノックダウン観察個体マウスは、対照であるshRNA(shControl)を注入された観察個体マウスと比較して、障害のある観察恐怖(F1、21=9 7.423、p<0.05)及び障害のある24時間文脈記憶(p<0.05、t(21)=-2.545)を示した。上記光遺伝学的実験と同様に、古典的文脈恐怖条件付け(F1,9=4.847、p=0.055)及び24時間文脈恐怖記憶(p=0.961、t(9)=0.0499)において、shPLC-β4注入群及びshControl注入群の間に差はなかった。
【0114】
次に、ACC及びBLA内の4~8Hz活性が、観察恐怖中のMSにおける海馬投射GABA作動性ニューロンの光遺伝学的阻害によって、実際に影響されるかどうかを確認するために、DIO-NpHR又はDIO-eYFPをMS特異的に注入した同じ観察個体マウスにおいて、観察恐怖条件付け中のACC、BLA、及び海馬におけるLFPを測定した(
図4B)。光遺伝学的サイレンシングは、4~12Hz振動の全体的な発生及び検出を有意に変化させなかった。しかしながら、4~8Hz及び8~12Hz周波数の間の電力の比較分析は、対照であるDIO-eYFPを注入された観察個体において、LFP電力が、3つの脳領域の馴化から条件付けの間、特に4~8Hzの周波数で有意に増加したが、8~12Hzでは増加しなかったこと、を明らかにした。ACC(ACC相互作用条件×周波数:F
8、1 96=4.743、P<0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定;
図4I)、BLA(BLA相互作用条件×周波数:F
8、96=6.248、p<0.001、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定;
図4J)、及び海馬(海馬相互作用条件×周波数:F
8、96=3.061、p<0.01、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定;
図4K)。対照的に、海馬へのMS GABA作動性投射のDIO-NpHR媒介光遺伝学的阻害は、3つの領域の馴化から条件付けの間、LFP電力においてそのような調節を抑止した。ACC(ACC相互作用条件×周波数:F
8、80=0.188、p=0.992、二元配置反復測定分散分析、それに続く10ボンフェローニ事後検定;
図4L)、BLA(BLA相互作用条件×頻度:F
8、80=0.743、p=0.653、二元配置反復測定分散分析;
図4M)、及び海馬(海馬相互作用条件×周波数:F
8、80=0.081、p=1.000、二元配置反復測定分散分析;
図4N)。これらの結果は、海馬タイプ2シータの抑制が実際に観察恐怖行動を妨げることを実証する。
【0115】
重要なことに、観察恐怖中の海馬シータ振動の調節は、タイプ2シータに特異的であり(
図4K)、中隔海馬GABA作動性投射のサイレンシングは、8~12Hzのタイプ1シータ振動に影響を及ぼすことなく(p=0.1444、t(11)=1.5716;
図4T)、タイプ2シータ振動におけるこの調節を選択的に妨害した(P<0.05、t(11)=-2.4869;
図4Q)。海馬シータ振動のタイプ2特異的妨害と一致して、4~8HzのLFP電力における同様の妨害が、ACC(P<0.05、t(11)=-2.9678;
図4O)及びBLA(P<0.01、t(11)=-3.1829;
図4P)において観察された。一方、ACC及びBLAにおける8~12Hzシータリズムの電力変化は、DIO-eYFPを注入されたマウス及びDIO-NpHRを注入されたマウスの間で差はなかった(ACC:p=0.3189、t(11)=1.0439;BLA:p=0.3061、t(11)=1.0734;
図4R及び
図4S)。
【0116】
タイプ2海馬シータ振動の光遺伝学的抑制も、これら3つの脳領域間の同期を妨害した。DIO-eYFPを注入した対照観察個体は、3つの脳領域の間で、4~8Hz、タイプ2シータの範囲において、相関関係の増加を示した(0ラグピークから第2のピークまでの平均距離:ACC-BLA、134ms[7.46Hz];ACC-海馬、163ms[6.13Hz];BLA-海馬、175ms[5.71Hz])。対照的に、馴化から条件付けの間のタイプ2シータ同期におけるそのような調節は、DIO-NpHRを注入された観察個体においては抑止された。脳領域間の非ゼロラグ位相差は、観察恐怖中の同期が、私たちの記録における体積伝導によるものではないことを示唆している。
【0117】
総合すると、これらの知見は、海馬-帯状回枝-扁桃体回路の長距離ネットワークにおけるタイプ2シータリズム同期が、観察恐怖の発現に不可欠であることを示している。
【0118】
実施例6-タイプ2シータにおける電力調節は、すくみ行動と時間的に連動し、この電力調節の程度は、観察恐怖の大きさを予測する
観察恐怖中のタイプ2海馬シータリズムとすくみ発作との間の時間的関係を調べるために、対照であるDIO-eYFP-22を注入された観察個体におけるすくみの開始及び消失付近のタイプ2海馬シータリズムの時間的進行を分析した(
図5A~
図5D)。これらの実験は、海馬-帯状-扁桃体回路におけるタイプ2シータリズムの電力が、すくみの開始直前に増加し(
図5A及び
図5B)、すくみ中に維持され、次いで、すくみの消失の直前に終了(
図5C及び
図5D)することを示し、タイプ2シータ調整とすくみ行動との間の緊密な時間的連動を明らかにした。
【0119】
次に、タイプ2シータの強度が観察恐怖行動の大きさと関連しているかどうかを検討した。馴化から条件付けにおける4~8HzのLFPにおける電力調節の程度も、マウスにおけるすくみレベルと正相関していた(ピアソンの相関分析:ACC、r=0.813、p<0.001;BLA、r=0.836、P<0.001;海馬、r=0.722、p<0.01;
図5E~
図5G)。一方、タイプ1シータリズムのレベルの変化とすくみレベルとの間には有意な相関はなく(
図5H~
図5J)、タイプ1リズムはすくみ中にやや減少しているようである(
図5A~
図5D)。
【0120】
要約すると、これら3つの脳領域におけるタイプ2シータリズムの調節は、観察恐怖中のすくみ行動と、時間的に密接に固定され、定量的に相関している。
【0121】
実施例7-観察恐怖中のタイプ2海馬シータリズム調節の上方調節
タイプ2海馬シータリズムを実験的に調節することが観察恐怖を高める可能性があるかどうかを検証するため、Gangadharanら(2016)による前述の手順を使用して、海馬へのMS GABA作動性投射を光遺伝学的に活性化することによって、タイプ2海馬シータリズムを調節した。この目的のために、AAV5-EF1a-DIO-ChR2-eYFP(DIO-ChR2)を、PV-CreトランスジェニックマウスのMSに観察恐怖アッセイの4週間前に注入し(
図6A)、観察恐怖条件付け中に青色レーザーで背側脳弓を照射した(
図6A及び
図6C)。観察恐怖の間、3つの脳領域ACC、BLA、及び海馬におけるLFP記録によって、マウスを調べた(
図6B)。観察恐怖条件付け中、中隔海馬GABA作動性線維の光遺伝子活性化時(
図6C)、DIO-ChR2を注入されたマウスは、AAV5-EF1a-4 DIO-eYFP(DIO-eYFP)を注入された対照マウスと比較して、条件付け中のすくみ行動が有意に高まったことを示した(F
1,17=9.155、p=0.008、
図6D)。しかしながら、24時間文脈記憶は、DIO-eYFPを注入されたマウスと比較して、有意に高まらなかった(P=0.587、t(17)=-0.554、
図6E)。
【0122】
タイプ2海馬シータにおける電力変化は、光遺伝子刺激によって対照と比較して有意に増加したが、全体的な4~12Hz振動の発生及び検出の有意な変化はなかった。以前の実験と同様に、電力スペクトル密度は、DIO-eYFPを注入されたマウス(
図6F~
図6H;ACC、F
8、112=5.68、p<12 0.0001;BLA、F
8、112=7.022、P<0.0001;海馬、F
8、112=2.391、p<0.05、相互作用条件×周波数、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定)、及びDIO-ChR2を注入されたマウス(
図6I~
図6K、相互作用条件x周波数:ACC、F
8、160=14.26、p<0.0001;BLA、F
8、160=14.17、P<0.0001;海馬、F
8、160=3.521、P<0.0001、二元配置反復測定分散分析、それに続くボンフェローニ事後検定)のACC及びBLAにおいて、低周波数シータ振動の増強を明示した。特に、ChR2媒介光遺伝子刺激は、観察恐怖条件付け中の海馬及びACCにおける4~8Hzのシータの電力変化を更に増加させた(
図6L~
図6N;ACC、p<0.05、t(17)=2.4211;BLA、p=0.1976、t(17)=1.341;海馬、P<0.05、t(17)=2.3425、t検定)。光遺伝子刺激による電力変化の調節は、BLAにおいて、傾向は示したものの、統計的に有意ではなかった。上記
図5の結果と一致して、ACC、BLA、及び海馬における4~8Hzのタイプ2シータの電力変化の大きさは、観察恐怖中のすくみ行動と正相関していた(
図6O~
図6Q)。一方、これらの脳領域における8~12Hzのタイプ1シータの電力変化(
図6R~
図6T)は、観察恐怖中のすくみ行動と相関しなかった(
図6U~
図6W)。総合すると、これらの結果は、タイプ2海馬シータリズムの高めることが観察恐怖を高めることができることを示している。
【0123】
実施例8-海馬、ACC、及び扁桃体のネットワークで同期されたタイプ2シータリズムは、共感的恐怖を駆動する
本開示は、マウスにおいて、海馬、ACC、及び扁桃体からなるネットワーク内で同期したタイプ2シータリズムが、古典的な恐怖条件付けに影響を及ぼすことなく、共感的恐怖を引き起こすことを実証する。したがって、多領域回路におけるシータリズム同期の上昇及び下降は、それぞれすくみ行動の開始及び消失に先行する。また、これらの振動の増強の程度は、観察恐怖中のすくみ行動の強さを予測し、タイプ2海馬シータ振動の電力を変化させることで、3つの領域の振動結合を双方向的に調節し、次に観察恐怖を調節する。
【0124】
ACC-BLA投射は機能的に不均一なようであり、それぞれが別個の恐怖行動に関与している。ACC-BLA又はBLA-ACC興奮性突起の光遺伝学的阻害は、観察恐怖を損なったが、古典的な文脈恐怖条件付けには影響しなかった(
図2)。したがって、相互的なACC-BLA接続における観察恐怖の根底にある神経機構は、古典的な恐怖条件付けに関与するものとは異なる。観察個体動物おける軽度の足刺激についての以前の知識は、代理的観察恐怖学習を強く高める。しかしながら、この行動パラダイムにおいては、ACC-BLA投射及び反対のBLA-ACC投射のいずれの光遺伝学的阻害も、実践個体の苦痛の観察における共感的恐怖反応を抑制しなかった。これは、未処置の観察個体マウスで実施された観察恐怖課題の結果とは対照的であり、それにおいては、ACC-BLA及びBLA-ACC回路の両方が観察恐怖のために必要であった(
図2)。この矛盾は、これら2つの異なるパラダイムによって明らかにされた行動が、異なる神経機構によって支持されている可能性があることを示唆している。したがって、未処置の観察個体動物で明らかにされる観察恐怖は、過去に足刺激を経験した観察個体動物によって社会的に呼び起こされる起想の複雑な問題から隔離された共感的行動を、反映するはずである。ACC-BLA投射の不活性化は、嗅覚的脅威刺激に対する本能的な恐怖反応を高めたが、これらの投射の活性化はこれらの反応を低下させ、異なるACC-BLA投射が恐怖関連行動につながる多様な認知プロセスに関与しているという考えを支持した。
【0125】
海馬シータ振動の明確な亜型の存在と異なる脳機能との関連性は、ヒト及びげっ歯類において示されている。タイプ1シータリズム(8~12Hz)と呼ばれるシータリズムのサブセットの1つは、随意運動の間に現れる。タイプ2シータリズム(4~8Hz)と呼ばれるシータリズムの他のサブセットは、警戒不動、不安関連行動、捕食者臭に対する本能的反応、及び新規性探索行動と関連している。これらシータリズムの2つの形態は、薬理学的感受性、光遺伝学に基づく異なる神経回路、及び関与する遺伝因子によっても互いに区別される。本開示の結果は、哺乳動物の脳におけるシータ振動の不均一性のアイデアを更に強化する。
【0126】
脳の2つの領域間の同期シータ振動は、ヒト及びげっ歯類における認知及び感情行動中の調整された領域間脳コミュニケーションを支持するためのリズムニューロン活動であると考えられている。それにもかかわらず、特定の行動中の前頭前皮質及び扁桃体等の関連する構造に存在するシータ周波数での調整されたリズム活動の起源及び機能は、まだ明らかにされていない。例えば、恐怖消滅後のmPFC及びBLAにおける調整された6~12Hzの振動も海馬シータリズムに似ているが、その起源はまだ決定されていない。mPFC及びBLAにおける同期した4Hzの7つの振動は、条件付けられた恐怖の発現と関連していたが、海馬のシータ振動には依存していなかった。条件付けられた恐怖によって誘導されたすくみ行動中に、mPFC、BLA、及び海馬等のいくつかの脳領域において嗅覚入力は、呼吸関連リズム活性(約4Hz)を調節することができる。しかしながら、これらの海馬呼吸誘導振動は、局所的に生成されたシータ振動とは異なり、海馬呼吸結合リズムは、独自の層状振幅プロファイルを有し、アトロピンに対して耐性である。対照的に、本開示は、観察恐怖中のACC-BLA回路における4~8Hzリズムの同期強化が実際に海馬タイプ2シータであり、観察恐怖中のすくみエピソードと時間的にも量的にも強く関連していることを示す。重要なことに、このリズム同期は、通常の恐怖条件付けには必要なかった。したがって、共感的恐怖に関与するタイプ2海馬シータは、古典的恐怖の間に観察された呼吸誘導4Hz振動とは異なる。また、ACC-BLA回路のタイプ2シータ振動は、観察恐怖に固有の認知プロセスを表し、直接的な恐怖行動と代理的な恐怖行動の2つの異なる恐怖行動が異なる神経系によって媒介されることを示唆している。
【0127】
内側中隔におけるGABA作動性ニューロンの細胞体の光遺伝学的阻害は、海馬の全ての層におけるシータ活性を低下させたが、広範な電気生理学的データによって実証されたように、他の海馬活動には影響を及ぼさなかった。操作の選択性を更に向上させるために、背側脳弓の中隔海馬GABA作動性線維を光遺伝学的に標的とし、これにより、光刺激を中隔海馬GABA作動性線維に限定した。解剖学的には、中隔海馬GABA作動性線維は、MSから海馬へ背側脳弓を介して投射し(
図4A及び
図6A)、これらのGABAニューロンは、海馬全体に投射する。したがって、背側脳弓を介した光学操作は、中隔海馬GABA投射全体を調節する効果的な方法である。この方法は背側海馬及び腹側海馬の両方で低周波シータを操作するので、観察恐怖のために海馬のどの小領域が(違いがある場合に)重要であるかは現在不明である。最近の研究は、感情処理における腹側小領域の強い関与を示唆している。しかしながら、観察恐怖中のACC及び扁桃体とのシータ同期は、古典的恐怖中に以前観察された振動機構と根本的に異なることが判明したため、観察恐怖が腹側海馬機能によるのか、ACCと背側海馬との間の双方向通信等の他の神経回路に依存するのかは調査されていない。中隔海馬GABA作動性線維の光遺伝活性化は、1日目の条件付けで観察恐怖を高めたが、24時間文脈記憶には影響しなかったことは注目に値する。これは、1日目の条件付けにおいて示される「強調行動」の根底にある機構が、2日目の記憶試験の根底にあるものとは根本的に異なる可能性があるという考えと一致する。
【0128】
したがって、本開示は、多様な神経精神医学的又は神経学的状態に示される社会的欠陥の症状が、脳回路におけるタイプ2シータ振動の障害と関連する可能性があることを示唆する。言い換えれば、タイプ2海馬シータ同期の障害は、社会的欠陥の根底にある普遍的な神経病理である可能性があり、これは多様な神経精神医学的又は神経学的状態で広く見られる。
【0129】
PLC-β1は、多くの脳領域に広く分布しているが、大脳皮質において高度に発現している。更に、げっ歯類におけるmPFC(ACCを含む)と相同である背外側前頭前皮質(DLPFC)を含むいくつかの脳領域における統合失調症患者のPLC-β1発現の減少は、統合失調症におけるPLC-β1下方調節の病理的関与を示唆している。ここで、shRNAを介したPLC-β1のサイレンシングを使用して、統合失調症患者のDLPFCにおけるPLC-β1の減少を模倣したマウスモデルを作製した。これらのモデルマウスの行動特性評価は、移動の増加、不安の減少、及び文脈的恐怖条件付けの障害を含むヌル変異体PLC-β1-/-の表現型とは異なり、PLC-β1のACC制限ノックダウンは、不安又は移動に影響を及ぼすことなく、観察恐怖の障害を誘導したことを明らかにした。加えて、本明細書に開示される結果は、感情的共感への関与のために、ACCをmPFCの残りの領域、すなわち、前辺縁皮質及び下辺縁皮質から区別する。したがって、ACCにおける観察恐怖の根底にある神経機構は、PLC-β1-/-、ヌル変異体の抗不安様行動又は過剰に活発な運動の根底にあるものとは異なっていなければならない。更に、本明細書で観察されるシータ振動の欠損と共感の欠如との間の強い関連性は、PLC-β1が減少している統合失調症のヒト患者に見られる社会的欠陥を説明することができる。本開示は、シータ同期が共感的応答のための重要な調節因子であることを確認する。
【0130】
上記の発明は、明確な理解のために例示及び例により多少詳しく説明されてきたが、当業者であれば、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の変更及び修正が行われて得ることが、容易に明らかである。
【0131】
したがって、上述は単に本発明の原理を説明したものである。当業者であれば、本明細書には明示的に記載も示されてもいないが、本発明の原理を具現化し、本発明の趣旨及び範囲内に含まれる様々な変更を考案し得ることが、理解されよう。更に、本明細書に列挙される全ての例及び条件付き用語は、主に、読者が、本発明の原理、及び当該技術分野を更に進めるために発明者らによって提供された概念を理解するのを助けることを意図しており、そのような具体的に列挙される例及び条件に限定されるものではないと解釈されるべきである。更に、本発明の原理、態様、及び実施形態を列挙する、本明細書の全ての記述、並びにその具体例は、その構造的及び機能的等価物の両方を包含することが意図される。更に、そのような等価物は、構造に関係なく、現在知られている等価物と、将来開発される等価物との両方、すなわち、同じ機能を実行するように開発されたあらゆる要素を含むことが意図される。更に、本明細書に開示されるいかなるものも、そのような開示が特許請求の範囲において明示的に列挙されているかどうかにかかわらず、公に献呈するように意図されていない。
【0132】
したがって、本発明の範囲は、本明細書に示され、記載される例示的な実施形態に限定されることを意図するものではない。むしろ、本発明の範囲及び趣旨は、添付の特許請求の範囲によって具現化される。特許請求の範囲においては、米国特許法第112条(f)又は米国特許法第112条(6)は、「のための手段(means for)」又は「のためのステップ(step for)」と完全に一致する語句が、特許請求項における限定の始まりで列挙されるときにのみ、特許請求項におけるそのような限定を喚起しているとして明確に定義されており、そのような完全に一致する語句が、特許請求項における限定に使用されていない場合、米国特許法第112条(f)も米国特許法第112条(6)も適用されない。
【国際調査報告】