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特表2023-545069共振型ナノフォトニックバイオセンサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】共振型ナノフォトニックバイオセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20231019BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231019BHJP
   G01N 21/65 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
G01N21/27 B
C12M1/34
G01N21/65
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521429
(86)(22)【出願日】2021-10-08
(85)【翻訳文提出日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 US2021054192
(87)【国際公開番号】W WO2022076832
(87)【国際公開日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】63/089,267
(32)【優先日】2020-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディオンヌ、ジェニファー・エー
(72)【発明者】
【氏名】アーベントロート、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス、マーク
(72)【発明者】
【氏名】フー、ジャック
(72)【発明者】
【氏名】サフィール、ファリーハ
(72)【発明者】
【氏名】ディクソン、ジェファーソン
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー、ステファニー・エス
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
4B029
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA03
2G043DA02
2G043DA06
2G043EA03
2G043EA13
2G043EA14
2G043FA02
2G043KA01
2G043LA02
2G059AA05
2G059BB12
2G059CC16
2G059DD13
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE03
2G059EE12
2G059FF03
2G059HH01
2G059KK02
4B029AA07
4B029BB01
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC03
4B029FA11
4B029FA12
(57)【要約】
メタサーフェスから延びる電界プロファイルを有する導波モード共振を有するメタサーフェスを用いた生物学的ターゲットの光センシングが提供される。このようなメタサーフェスの表面機能化は、核酸、タンパク質、低分子、細胞外小胞、及び全細胞などの生物学的ターゲットのセンシングを提供するために用いられる。表面機能化へのターゲットの結合は、導波モード共振の共振波長に影響を与えるため、生物学的ターゲットのための高感度アッセイを提供することができる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置であって、
基板上に配置された1以上の導波管を含む電磁メタサーフェスを備え、
前記導波管のそれぞれは、1以上の導波モードをサポートし、
前記導波管のそれぞれは、長手方向の摂動を有し、それにより、少なくとも1つの導波モード共振が前記導波管のそれぞれにおいてサポートされ、
自由空間放射線が、前記導波管の前記長手方向の摂動により、選択された前記導波モード共振に結合され、
選択された前記導波モード共振は、前記電磁メタサーフェスの外部に広がる電界分布を有し、これにより、環境センシングが提供される、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記自由空間放射線を提供するように構成された放射線源をさらに備える、装置。
【請求項3】
請求項1に記載の装置であって、
前記電磁メタサーフェスからの出力放射線を受け取るように構成された光学検出器をさらに備え、
前記出力放射線は、反射放射線、透過放射線、散乱放射線、回折放射線、及びラマン散乱放射線からなる群から選択される、装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置であって、
前記光学検出器は、前記導波管によって引き起こされる分散に基づいて前記出力放射線のスペクトルを決定するように構成されている、装置。
【請求項5】
請求項1に記載の装置であって、
前記電磁メタサーフェス上に配置され、前記電磁メタサーフェスに近接する1以上の分析物と選択的に結合するように構成された表面機能化をさらに有する、装置。
【請求項6】
請求項5に記載の装置であって、
前記分析物は、核酸、タンパク質、低分子、細胞外小胞、病原体、及び全細胞からなる群から選択される、装置。
【請求項7】
請求項5に記載の装置であって、
前記分析物の検出感度が10fM以上であり、これにより、分析物増幅ステップを事前に行うことなく前記分析物を検出することができる、装置。
【請求項8】
請求項5に記載の装置であって、
前記分析物を検出するためのダイナミックレンジが10dB以上である、装置。
【請求項9】
請求項1に記載の装置であって、
前記電磁メタサーフェスは、1以上のセンサピクセルのアレイとして構成され、
各センサピクセルは、前記導波管のうちの対応する部分またはすべてを含む、装置。
【請求項10】
請求項9に記載の装置であって、
前記1以上のセンサピクセルのアレイは、1次元アレイ及び2次元アレイからなる群から選択される、装置。
【請求項11】
請求項9に記載の装置であって、
ピクセルごとの選択的な表面機能化をさらに有し、これにより、2以上の異なる分析物の多重センシングを提供する、装置。
【請求項12】
請求項1に記載の装置であって、
選択された前記導波モード共振は、0.2以上の電界エネルギーの自由空間率を有する、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光バイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸、タンパク質、低分子、及び全病原体の検査は、生物や生態系の健康状態の予測、検出、モニタリング、及び治療に不可欠である。例えば、呼吸器パネルは、インフルエンザやコロナウイルスなどの感染症を示す抗原、抗体、核酸、及び全病原体のシグネチャーを特定し;核酸や循環腫瘍細胞は、がんを特定し、治療の指針として用いられ;環境サンプルに含まれる核酸や低分子は、海洋、淡水、家畜、土壌、空気の健康を示す。最も一般的には、核酸配列は、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、分子ビーコン、DNAマイクロアレイなどの技術を用いて同定及びプロファイリングされる。同様に、タンパク質及び低分子は、ELISAまたはラテラルフローアッセイを用いて検出される。しかし、これらの技術は、時間がかかるか、または感度が悪いか(例えば、RT-PCR、ELISA)、あるいは、迅速だが不正確であった(例えば、ラテラルフローアッセイ)。そのため、迅速で、ポイントオブケアで機能する、患者サンプルのバイオマーカーを分析するための新規な方法が求められている。また、そのような新規な方法は、世界保健機関のASSUREDガイドライン(低価格、高感度、特異的、ユーザーフレンドリー、ロバストかつ迅速、機器不要、必要とする人に提供可能)に準拠することが理想的である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
ナノ加工プラットフォームに対する(1)DNAまたは抽出されたウイルス-RNAターゲット結合、(2)抗体結合、(3)病原体全体(すなわち、ウイルス全体または細菌全体)の結合、及び/または(4)低分子結合を、迅速かつ定量的に測定するための、光学的特性評価を用いた新たな技術を開発した。
【0004】
SARS-CoV-2ゲノムから抽出した、エンベロープタンパク質、RNA依存性RNAポリメラーゼ、ウイルスヌクレオカプシドを形成するタンパク質などの様々なタンパク質をコードするウイルスRNA遺伝子配列を、増幅することなく同時に検出することが可能である。また、血清サンプルからIgG、IgM、IgAを含む抗体を検出することもできる。また、喀痰や唾液からウイルス全体や細菌全体の結合を検出することもできる。また、この技術は、COVID-19以外のウイルスや細菌の感染症や、がん、アレルゲンまたは神経疾患などの他の疾患、さらには農業環境や自然環境に存在する病気や毒素の検出にも応用可能である。
【0005】
このプラットフォームは、メタサーフェスと呼ばれる高い品質係数(「高-Q」)のナノ構造誘電体基板に依存しており、吸着したバイオマーカーの量に比例した高感度の共振散乱強度を発生させる。メタサーフェスは、受容体で機能化され、例えば鼻咽頭、口腔/粘膜スワブ、血清サンプル、血液、または唾液/呼吸サンプルによってウイルス感染のために検査される患者からの対応するウイルス量を測定するために、患者サンプルに曝露される。
【0006】
メタサーフェスはその後レーザまたは発光ダイオードによって照射され、透過または反射した入射光の光学的読み出しにより、対象の遺伝子/抗体の逆転写、増幅、ラベリングを必要とすることなく、核酸、抗体、または病原体全体のターゲットを、定量的に、高感度で、かつリアルタイムにモニタリングすることができる。この迅速かつ柔軟な抗原・抗体検査技術は、容易に導入可能かつ製造可能であり、新たな感染症にも適応可能である。この技術は、現在の定量RT-PCRやELISAアッセイに匹敵する検出限界と、ラテラルフローアッセイに匹敵する速度とを約束する。
【0007】
高-Qメタサーフェスの設計
【0008】
メタサーフェスとして知られるナノ構造のSi表面を利用することにより、患者サンプルからのターゲット抗原マーカーを検出することができる。メタサーフェスは、小型のオンチップレーザダイオードまたは発光ダイオードによって照射され、散乱強度により、断片化したウイルスRNA、抗体、または病原体全体の濃度を定量的に測定することができる。自由空間の共振メタサーフェスに依存することで、ラテラルフローアッセイの典型的に低い信号対雑音比を克服し、市販の電子機器グレードのカメラセンサを容易に使用することができる。また、他の材料ではなくナノパターン化されたSi表面を使用することにより、このアッセイのスケーラビリティ及び費用対効果が保証される。特に、大規模かつ低コストで製造できるという独自の利点を有する、確立されたCMOS製造プロセスを利用することができる。
【0009】
品質係数の高い(高-Q)回折光学メタサーフェスは、2020年11月4日に出願された米国特許出願第17/089,384号において検討されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらのメタサーフェスは、光を同時にトラップして増幅するとともに、遠視野への光の散乱の仕方を操作するように設計され得るナノアンテナアレイを含む。センシングのために重要なトラップ能力は、シリコンなどの透明な高屈折率材料から作成された個々のアンテナを導波モード共振(GMR)に対応するように構造化することによって得られた。回折スペクトルは可視光の波長域から近赤外光の波長域で鋭いディップを示しており、これはGMRを表している。光共振の寿命は、中心周波数をそのスペクトル幅で割った品質係数(Q)によって特徴付けられる。形状を注意深く調整することにより、共振が何千もの光サイクルにわたって光をトラップし、入射光強度を均等に増幅することが保証され得る。メタサーフェスは、光を時間的に圧縮することに加え、光を非常に小さな体積に押し込める。これらの効果により、抗原核酸断片及び抗体の存在に非常に高感度で反応する散乱基板が完成した。
【0010】
高-Qメタサーフェスの読み出し
【0011】
メタサーフェス内の品質係数モードが高いことにより、高感度のターゲット検出のために重要な信号の増幅がもたらされる。したがって、直接散乱(透過または反射)強度を読み出すことができる。重要なのは、各ナノアンテナが隣のアンテナから独立しているため、多重検出が可能であることである。
【0012】
このメタサーフェスは、病原体全体を特異的に検出する高感度ラマン分光法も可能にする。本開示では、メタサーフェスは、ポンプ波長では高Qモードを備え、ストークスシフト波長では広Qモードを備えるように設計される。あるいは、病原体の特徴が予想されるストークスシフト波長は、一連の高Qモードを備えるように設計することも可能である。
【0013】
最後に、このメタサーフェスは本質的に分散性を有する。このメタサーフェスは、動作波長である約100-1000nmのスケールで設計されているので、散乱光を効率よく回折させることができる。以前の実験では、この回折プロファイルを高Qメタサーフェス共振とは独立してまとめて調整可能であることを実証した。構造分散が強いため、CCDやCMOSカメラでメタサーフェスを単に撮像することで、様々な散乱波長を空間的に分離することができる。この光学分散により、分光器や分光CCDなどの嵩張る高価な光学部品がなくても、抗体や病原体に関する高解像度のスペクトル情報を明らかにすることができる。
【0014】
核酸/抗原検査のためのメタサーフェスの機能化
【0015】
メタサーフェスプラットフォームの化学的機能化は、例えば(3-アミノプロピル)トリメトキシシラン(APTMS)または11-アミノウンデシルトリエトキシシラン(AUTES)によるメタサーフェスの共有結合的なシラン化に依存している。次に、マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミド(MBS)エステルによるアミン-スルフィドリル架橋を用いて、現在のRT-PCRアッセイで使用されている遺伝子配列E、N2、Orf1ab及び5'UTRと相補的なチオ化DNAプローブを取り付けた。APTMS自己組織化単分子膜をトリメトキシ(プロピル)シラン(PTMS)で希釈することにより、DNAプローブの濃度及び表面密度を調整し、RNA断片とのハイブリダイゼーションを高効率に行うことができる。このようによく研究されたシラン化による表面機能化手法は、オリゴヌクレオチドを再現性よく制御して付着させることができると、既に検証されている。
【0016】
抗体検査のためのメタサーフェスの機能化
【0017】
抗体アッセイのための表面機能化は、現在6つのステップを経て行われている。抗原表面化学の最初の2ステップをミラーリングした後、非特異的吸着を最小化するように最適化された双性イオン性のポリエチレングリコール(PEG)(polyethylene glycol (PEG)-lyated)マトリックスの単層で表面を機能化した。このマトリックスは、2-{2-[2-(1-メルカプトウンデック-11-イルオキシ)-エトキシ]-エトキシ}-エトキシニトリロ三酢酸(HS-C11-(EG)3-NTA)、及び、(2-[2-(2-[11-メルカプト-ウンデックイルオキシ]-エトキシ]-エトキシ)-エトキシ]-エトキシ)-ジメチルアンモニオ)アセテートという2分子の最適化比率を有し、前者は最終的にターゲットの抗体と結合する一方で、後者は単分子膜の密度を増加させる。続いて、塩化ニッケル塩とインキュベートすると、NTA分子に結合した。このNi(II)-NTA複合体により、SARS-CoV-2スパイクタンパク質のRBD領域のメタサーフェスに対する結合が可能となった。スパイクタンパク質はポリヒスチジンタグで修飾されており、スパイクタンパク質の金属イオンへの親和性を高めることにより、単分子膜のNi(II)-NTA複合体との結合親和性が高められた。重要なことに、この機能化によって抗体認識部位の向きが変わり、一次抗体と結合する可能性が高くなった。
【0018】
このチップを密閉ホルダ内に配置することにより、患者の液体サンプル(鼻腔咽頭スワブや血清サンプル)を汚染なく導入し、光学的な呼び出し(interrogation)及び読み出し(read-out)を同時に行うことを可能にした。
【0019】
大きな利点が提供される。このアッセイは、既存の抗原検査と比較して、いくつかの利点を有する。(1)瞬時に近い読み出し(現在は30ミリ秒必要);したがって、サンプル処理(例えば、ウイルス遺伝子の断片化)と組み合わせると、ポイントオブケアでは15分未満で抗原の結果を提供することができる。(2)レーザによるシャープな散乱スペクトルに起因して、検出限界は極めて低く、予備実験では1000cp/mLの感度を示した。(3)ナノパターン化したSiを用いることで、高スループットのCMOS製造プロセスによる低コストかつスケーラブルな製造が可能である。(4)蛍光タグや二次抗体を必要としないので、製品受領後にユーザが試薬を用意する必要はない。(5)表面の「自由空間」の照射及びバイオプリント機能化に起因して、1チップで、抗原及び抗体検査の大規模な多重化が可能である。(6)基板を洗浄後、再利用が可能である。(7)PCR法やELISA法のように実験助手や医療従事者を必要としないため、使用するためのトレーニングが最小限である。医師/クリニック、救急医療施設、及び病院などのヘルスケアシステムにおける多くの顧客層が想定され、長期的には家庭での検査も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明の実施形態のいくつかの動作原理を模式的に示す図の1つである。
図1B】本発明の実施形態のいくつかの動作原理を模式的に示す図の1つである。
図1C】本発明の実施形態のいくつかの動作原理を模式的に示す図の1つである。
図2A】高Qセンサの設計を示す図である。
図2B】高Qセンサの設計を示す図である。
図2C】高Qセンサの設計を示す図である。
図2D】高Qセンサの設計を示す図である。
図2E】高Qセンサの設計を示す図である。
図3A】メタサーフェスの流体セル特性評価を示す図である。
図3B】メタサーフェスの流体セル特性評価を示す図である。
図3C】メタサーフェスの流体セル特性評価を示す図である。
図4A】DNA単分子膜の機能化を示す図である。
図4B】共振波長シフトの測定結果を示す図の1つである。
図4C】共振波長シフトの測定結果を示す図の1つである。
図4D】共振波長シフトの測定結果を示す図の1つである。
図5A】SARS-CoV-2遺伝子断片をターゲットとするバイオセンシングデモンストレーションを示す図である。
図5B】SARS-CoV-2遺伝子断片をターゲットとするバイオセンシングデモンストレーションを示す図である。
図5C】SARS-CoV-2遺伝子断片をターゲットとするバイオセンシングデモンストレーションを示す図である。
図6A】ノッチ付きのブロック導波管の導波モード共振の電界プロファイルを示す図である。
図6B】ノッチ付きのブロック導波管の導波モード共振の電界プロファイルを示す図である。
図7】Q値に対する摂動深さの効果を示す図である。
図8A】共振器Qに対する導波管長の効果を示す図である。
図8B】共振器Qに対する導波管長の効果を示す図である。
図8C】共振器Qに対する導波管長の効果を示す図である。
図8D】共振器Qに対する導波管長の効果を示す図である。
図9A】蛍光顕微鏡の結果を示す図である。
図9B】蛍光顕微鏡の結果を示す図である。
図10A】タンパク質検出のための例示的な表面機能化を示す図である。
図10B】タンパク質検出のための例示的な表面機能化を示す図である。
図10C】タンパク質検出のための例示的な表面機能化を示す図である。
図10D】タンパク質検出のための例示的な表面機能化を示す図である。
図10E】タンパク質検出のための例示的な表面機能化を示す図である。
図10F】タンパク質検出のための例示的な表面機能化を示す図である。
図11A図10A図10Fの表面機能化に起因し、かつターゲットタンパク質の結合に起因する共振波長シフトを示す図である。
図11B図10A図10Fの表面機能化に起因し、かつターゲットタンパク質の結合に起因する共振波長シフトを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
セクション(A)は、本発明の実施形態に関連する一般的な原理を説明する。セクション(B)は、核酸検出の実施例に関する。セクション(C)は、タンパク質検出の実施例に関する。
【0022】
(A)一般的な原理
【0023】
図1A図1Cは、本発明の実施形態のいくつかの動作原理を模式的に示している。図1Aは平面図であり、図1Bは側面図であり、図1Cは拡大図である。第1の例示的な実施形態は、基板102上に配置された1以上の導波管104、106、108などを含む電磁メタサーフェス101を備えた装置である。3つの導波管が図示されているが、任意の数の導波管(単一の導波管という特別な場合を含む)を採用することができる。1以上の導波管はそれぞれ、1以上の導波モードをサポートする。1以上の導波管はそれぞれ、対応する長手方向の摂動を有し、それにより、少なくとも1つの導波モード共振が1以上の導波管のそれぞれにおいてサポートされる。図1Aの例では、この長手方向の摂動は、図1Aに示される幅のバリエーションである。導波管の長手方向の摂動とは、導波管の基礎となる並進不変性を乱す任意の摂動である。このような摂動は周期的または非周期的であり、ノッチ、フィン、導波管構造体の長さ、幅、及び/または高さのバリエーションなどの特徴を含み得る。
【0024】
自由空間放射線(例えば、図1Bの光源118からの放射線120)は、1以上の導波管の長手方向の摂動により、導波モード共振のうちの選択された1つまたは複数に結合される。選択された1以上の導波モード共振は、電磁メタサーフェスの外部に広がる電界分布を有し、これにより、環境センシングが提供される。図1Aでは、メタサーフェスの外部に延びる電界は、電界110、112、114、116として概略的に示されており、様々な線のパターンは、以下にさらに説明するように、メタサーフェスのこれらの部分の様々な表面機能化を概略的に示している。図1Aのように導波管が周期的な長手方向のギャップを含む場合、すべてのギャップにこのような高電界領域が存在することが予想されるが、単純化のため、図1Aではこれらのうちの数個のみが示されている。好ましくは、選択された1以上の導波モード共振は、0.2以上の電界エネルギーの自由空間率を有する(セクションB7.1参照)。
【0025】
装置は、自由空間放射線120(図1B)を提供するように構成された放射線源(光源118)をさらに含み得る。装置は、電磁メタサーフェスからの出力放射線122を受け取るように構成された光学検出器126をさらに備え得る。出力放射線は、反射放射線、透過放射線、散乱放射線、回折放射線、及び/またはラマン散乱放射線であり得る。
【0026】
光学検出器126は、1以上の導波管によって引き起こされる分散124に基づいて出力放射線122のスペクトルを決定するように構成され得る。図1Bの側面図において、導波管104、106、108などは回折格子として機能することができるが、これはそのような分散が提供され得る方法の一例であることに留意されたい。
【0027】
装置は、電磁メタサーフェス上に配置され、かつ、電磁メタサーフェスに近接する1以上の分析物と選択的に結合するように構成された表面機能化(表面機能化構造)をさらに有する。図1Cは、図1A図1Bの導波管104(1/4回転している)の拡大図であり、導波管ブロック104a及び104bの上には表面機能化(表面機能化構造130)が設けられ、導波管ブロック104c及び104dの上には表面機能化(表面機能化構造132)が設けられている。図示を容易にするために、表面機能化は導波管ブロックの1つの表面上にのみ示されているが、実際には、通常、導波管ブロックのすべての表面上に存在することになる。
【0028】
好ましくは、図1Cの例のように(また、図1Aにより概略的に示すように)、メタサーフェスの別の部分は、別の表面機能化を有する。これにより、メタサーフェスの別の部分が別のターゲットに選択的に応答することができる。例えば、図1Cでは、表面機能化構造130は、結合したターゲット138によって示されるように、ターゲット134に一致する。同様に、表面機能化構造132は、結合したターゲット140によって示されるように、ターゲット136に一致する。
【0029】
これにより、電磁メタサーフェスが1以上のセンサピクセルのアレイとして構成され、各センサピクセルが1以上の導波管のうちの1つの対応する部分またはすべてを含むものとしてみなされ得る。このような1以上のセンサピクセルのアレイは、1次元アレイまたは2次元アレイであり得る。ピクセルごとの選択的な表面機能化は、2以上の異なる分析物の多重センシングを提供するために使用され得る。
【0030】
本発明の実施は、検出されるべき分析物の種類に決定的には依存しない。適切な分析物は、以下に限定されないが、例えば、核酸、タンパク質、低分子、細胞外小胞、及び全細胞を含む。
【0031】
好ましくは、事前の分析物増幅ステップなしで1以上の分析物の検出を可能にするために、1以上の分析物の検出感度は10fM以上である。本明細書では、ある分析物についての検出感度は、その分析物の最小検出可能濃度である。これは、PCRなどの高価で時間のかかる分析物増幅ステップを回避することができるという重要な可能性を開く。現在のアプローチの別の重要な利点は、高いダイナミックレンジである。好ましくは、1以上の分析物の検出のためのダイナミックレンジは、10dB以上である。
【0032】
(B)実施例1-核酸の検出
【0033】
(B1)導入
【0034】
遺伝子スクリーニング法は、生物及び生態系の健康の予測、検出、治療、及びモニタリングにおいて大きな進歩を可能にした。例えば、呼吸器パネルはインフルエンザやコロナウイルス感染症2019(COVID-19)のような感染症を示す病原体核酸を特定し、組織生検やリキッドバイオプシーは、がんの遺伝子変異や再発の可能性を検出して治療の指針として利用され、新たに登場した環境DNAセンサは、海、淡水、家畜、土壌及び空気の健康状態をモニタリングする。現在の遺伝子スクリーニング法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、次世代シーケンシング(NGS)、サンガーシーケンス、DNAマイクロアレイなどが挙げられる。いずれもオリゴヌクレオチドを増幅した後、光学タグを付すことによりターゲット配列を高感度に検出する方法である。実験室では非常に有用であるにもかかわらず、これらのスクリーニング法を臨床現場や医療現場に応用することは、「伝統的な」光信号伝達(吸収及び蛍光)に依存するので、最終的に制限される。最高の光学タグを使用しても、高感度かつ特異的な読み出しは、一般に、時間のかかる熱サイクル及び/または高価な核酸増幅用試薬によってのみ達成される。
【0035】
生体分子の濃度を増幅するのではなく、光を共振的に増幅することにより、コンパクトなポイントオブケア型のバイオマーカースクリーニングを可能にすることが想定される。フォトニックデバイスは光を強く閉じ込め、散乱させる。分子プローブで装飾されている場合、ターゲット分析物の結合によって共振器環境の偏光度や屈折率が微妙に変化するので、光信号が変化する。プラズモニックセンサは、最も一般的なアフィニティーベースのバイオセンサであるが、金属の基礎吸収により、検出限界が大きくなる。その結果、品質係数(Q)の低い共振器(Q:約10)は、小さな結合信号の差別化(共振器の検出性能指数(FOM))がうまくいかない。感度(屈折率単位(RIU)の変化あたりの共振波長シフト量)をモードの半値全幅(FWHM)で割った値は、約1-10RIU-1である。高Qのウィスパリングギャラリーモード共振器やフォトニック結晶マイクロキャビティデバイスとは異なり、これらのメタサーフェスは自由空間から照明され、遠距離散乱が容易に制御され得るため、イメージングベースデバイスのセンサ統合やスケーラビリティにおいて有利である。しかし、これらのシステムは、通常、拡張された2次元アレイから形成される非局在化された共振モードに依存しており、その結果、モード体積が大きくなり、少量のターゲット分子の結合に対する応答が低下する。さらに、拡張アレイのフットプリントが大きいので、多重分析検出やデータ駆動型分析のための検知要素を高密度に組み込むことができない。
【0036】
本明細書では、高品質因子メタサーフェスに基づく新たな遺伝子解析プラットフォームについて報告する。このメタサーフェスは、サブ波長ナノアンテナを含み、近接場での光を強く閉じ込める一方で、遠距離散乱を正確に制御することができる。高感度なバイオマーカー検出のために、緩衝生物学的媒体中で平均Qが2,200を示し、周辺環境に強い電界を浸透させる共振器を設計した。我々のセンサのFOMは400RIU-1であり、計算モデルとよく一致し、既存のナノフォトニックセンサよりも大幅に大きいことが示された。SARS-CoV-2のE及びORF1ab遺伝子配列に相補的なDNAプローブの自己組織化単分子膜によって共振器を機能させた。表面プローブにターゲット核酸断片がハイブリダイズすると、共振波長が急速に(5分未満で)変化し、感度及び特異度はそれぞれ94%及び96%に達した。高Q共振の空間的な局在性に起因して、個々のセンシングピクセルは1平方cmあたり160,000以上の高密度でパターン化され、多数のバイオマーカーの分析を並行して行うことが見込まれる。
【0037】
(B2)個別処理可能な高Q共振器センシングプラットフォーム
【0038】
図1Aは、本実施例のメタサーフェス構造の上面図である。図1Aでは、シリコン導波管104、106、108などが、基板102上に配置されている。本実施例の長手方向の摂動は、幅方向の摂動Δdである。共振器の幾何学的パラメータは、高さ(h)=500nm、d=600nm、厚さ(t)=160nm、ブロック間隔(a=330nm)、鎖間間隔(a=10μm)であり、△dは30-100nmの間で変化する。
【0039】
図2Aは、Δd=50nmである共振器に対する電気近接場の強化のシミュレーションを示している。図2Bは、通常入射の直線偏光平面波で照明されたメタサーフェスのシミュレーションされた交差偏光透過応答を示している。応答は、摂動された共振器の強度の最大値で正規化されている。図2Cは、個別にモニタリング及び調整された複数の共振器から構成されたメタサーフェスデバイスのSEM顕微鏡写真であり、下の画像は、上の画像の指定部分の拡大図である。図2Dは、7つの共振器を備えたアレイのスペクトル画像であり、CはΔd=0nmの摂動なしのナノ構造、R1-R5はΔd=50nmの摂動を有するナノ構造を示している。共振位置は、ブロック長を調整することによって変調され、R1及びR5はd=595nm、R2及びR4はd=600nm、R3はd=605nmである。図2Eは、図2Dに対応する列平均された(Row averaged)透過強度を示している。
【0040】
このセンサは、近赤外光で照らされたSiナノブロックの行(または列)を含む設計である。それぞれの行は、1次元の導波モード共振(GMR)メタサーフェスを構成している;Δdによって特徴付けられるそれぞれの列のブロック幅の周期的な変調は、有限であるが抑制された双極子放射線と、それ以外の結合した導波モードへの自由空間結合とを可能にする。その結果、長い共振寿命が得られ、強い電気的近接場の強化につながる(図2A)。注目すべきは、Siブロックの表面における電界が80倍に増強されることである。共振器内の個々のシリコンブロック間のギャップにより、電界エネルギーの29%が周囲の媒体に露出したが、これに対し、連続的または部分的に切り欠いた導波管では8%であった(セクションB7.1及び図6A-Bも参照)。このようにギャップ内に電界が集中することにより、表面に結合した分析対象物に対する感度が向上する。さらに、これらのSi共振器は、遠視野で鋭い散乱応答を示した。図2Bに見られるように、計算された透過スペクトルのQ値はΔd=50nmで5,000を超え、dを小さくするとさらに増加した(以下を参照)。
【0041】
サファイア基板の上にSi共振器を作製した(図2C)(セクションB8参照)。近赤外スーパーコンティニュームレーザと分光器とを備えた透過型顕微鏡を利用して、メタサーフェスを垂直入射で照射し、複数の共振器からの透過スペクトルを同時に測定した(図2D)。隣接するナノ構造のブロック長を±5nm変化させることによって、共振モードのスペクトル位置を意図的に変化させ、各導波管構造が個別の共振器として個別に処理及び調整できることを強調している(図2D-E)。換言すれば、この高Q共振は鎖間結合や拡張2Dアレイ効果に依存しない。このような光モードの空間的な局在化により、本プラットフォームは、高密度に分布し、かつ多重化されたセンサアレイの統合にとって理想的に適している。
【0042】
(B3)導波モード共振型メタサーフェスの特性評価
【0043】
図3A-Cは、メタサーフェスの流体セル特性評価を示している。図3Aは、Δdが変化する共振器からのスペクトルを示している。実線は、ローレンツ振動子へのあてはめを表している。図3Bは、異なるΔdを有する共振器の品質係数を示している。太字のマーカー及びエラーバーは、各条件におけるN=30の共振器の平均値及び標準偏差である。星印はシミュレーション値、破線は結合モード理論(セクションB7.2)からの予測値へのあてはめである。図3Cは、共振器の間隔の関数としての品質係数を示し、平均値及び標準偏差は、各条件におけるN=5の共振器についてのものである。
【0044】
本メタサーフェスを、3Dプリントされた流体セルに封入し、生体分子検出のための生理的条件を表すリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(1倍濃度)中で特性評価を行った。図3Aでは、ブロックチェーンに沿って摂動ΔdをΔd=100nmからΔd=30nmまで変化させ、各条件で25-30個の共振器について共振線幅の減少を観察した。重要なことに、この高Qメタサーフェス設計では、自由空間放射線とGMRとの結合強度は、導波管に沿った非対称性の程度によって決定される。シリコンは近赤外では無損失であるので、放射線損失がGMRの共振寿命及びQ値を支配する。したがって、Δdを小さくすると、平均Q値が800(Δd=100nmにおいて)からΔd=30nmで2,200に増加し、個々の共振器ではQが3,000を超える散乱応答も観察された(図3A)。これらのQ値は、報告されているプラズモニックバイオセンサと比較して2~3桁の増加を示し、他のメタサーフェスバイオセンサと比較して有意(5倍超)に増加し、約400のFOMを実現している。この実験値は、製造上の欠陥による散乱損失に起因して制限されている可能性が高い。また、水は1,500nmの波長域に無視できない吸収があるため、達成可能な実験的Q値が制限される可能性がある(セクションB7.2及び図7)。将来、生体媒体の光透過窓(1,300nmなど)にメタサーフェス共振を設計し、製造プロセスを最適化することで、さらに性能が向上し、Q値が数百万に達する可能性がある。このメタサーフェスの将来の反復により、高Qマイクロキャビティの単一粒子感度、自由空間結合による統合の容易さ、及びコンパクトさが実現される。
【0045】
各列に沿ったモードの局在化により、GMRに影響を与えることなく、少なくとも3μmの間隔で共振器を配置することができる(図3C)。長さ200μmの導波管をベースに、1cmあたり160,000超のセンサアレイを実現した。GMRの群速度が遅いため、有限サイズ効果に起因する損失を抑えることができ、50μmの導波管を同等のQで作製することができる(図8A-8D)ため、1cmあたり600,000超のセンサ密度が得られた。このように大きなセンサ密度は、診断研究におけるロバストな統計解析や、多くの異なるバイオマーカーを並行して検出するためのマルチプレックスプラットフォームのための手段として利用される。
【0046】
(B4)自己組織化単分子膜の機能化及びセンシング
【0047】
図4A-4Dは、DNA単分子膜の機能化及び共振波長シフトの測定結果を示す。図4Aは、DNA自己組織化単分子膜(SAM)をシリコンナノ構造上に固定化する際に利用される化学成分の概略図である。本研究のターゲットDNA断片は、SARSCoV-2ウイルスのE及びORF1遺伝子の一部である。図4B及び4Cは、相補的なnCoV.Eターゲット結合を含むSAMの各分子層の追加による共振波長シフト応答を、それぞれ実験的に測定及びシミュレーションしたものを示している。実線は、ローレンツ振動子へのあてはめを示している。実験とシミュレーションとのスペクトルの絶対波長値における差異は、作製した構造体のわずかな寸法差に起因していると考えられる。図4Dは、ベアシリコン構造での初期測定値から参照した、SAM機能化及びDNAセンシング中の全体の共振波長シフトを示す。マーカーは、N=75の独立した共振器デバイスからの個々の測定値を表し、太字のマーカー及びエラーバーは、測定値の平均値及び標準偏差を表す。
【0048】
遺伝子検出のためのセンサアレイを利用するために、相補的な核酸配列が特定のターゲットの捕捉分子として機能するDNA単分子膜によってシリコン表面を修飾した。自己組織化単分子膜(SAM)を3段階のプロセスで堆積させ、26塩基対の一本鎖(ssDNA)DNAプローブをメタサーフェスチップ表面全体に共有結合させた。シリコン表面をまずアミン末端シラン(11-aminoundecyltriethoxysilane, AUTES)で機能化し、次にヘテロ二官能性分子(3-maleimidobenzoic acid Nhydroxysuccinimideester, MBS)を介してチオール化したssDNAプローブ(セクションB8)に架橋させた。本研究では、SARS-CoV-2ウイルスのエンベロープ(E)及びオープンリーディングフレーム1b(ORF1b)遺伝子の核酸断片ターゲットを検討した(GenBank accession:MT123293.2 ポジション26326→26351及び18843→18866、それぞれ)(図4A)。図4Aでは、表面機能化構造のAUTES、MBS及びプローブ層は、それぞれ符号402、404、及び406として参照される。ターゲットは、符号408として参照される。
【0049】
原理を証明するために合成DNAターゲットを使用したが、ウイルスRNAは相補的なDNAプローブと類似的にハイブリダイズすることに留意されたい。図4Bでは、AUTES、MBS、及びプローブDNAの連続した分子単層が共振器表面にグラフトされると、測定されたスペクトルは明確な共振波長シフトを示す。単分子膜はシリコンブロックを囲む薄い誘電体シェルとしてモデル化され、シミュレーションされた応答は実験的な共振シフトと略一致している(図4C)。ターゲットのSARS-CoV-2遺伝子を加えると、0.4nmの明確な共振シフトが観察された(図4D)。N=75の共振器からデータを収集し、チップ上の高密度のセンシング要素は、より大きな2次元アレイ上で信号が平均化される典型的なフォトニックセンサに比べて、測定スループットを大幅に向上させることができることに注目した。AUTES層とMBS層との波長シフトが実験とシミュレーションとの間で乖離しているのは、アミノシラン分子が多層構造を形成する傾向があることに起因する可能性がある。DNAプローブの付着とその後のターゲットのハイブリダイゼーションとの差異は、DNA鎖のハイブリダイゼーション効率及びパッキング密度に、立体障害及び静電反発効果が強く影響することに起因する可能性がある。
【0050】
(B5)迅速かつ特異的な遺伝子断片の検出
【0051】
図5A-5Cは、SARS-CoV-2遺伝子断片ターゲットを用いたバイオセンシングの実証を示す。図5Aは、相補的なDNA結合による大幅な波長シフト(左)と、非相補的な配列に導入した場合の最小限のシグナル変化(右)とを示す測定スペクトルである。図5Bは、nCoV.E相補プローブのみで機能化したメタサーフェスデバイス上でインキュベートしたnCoV.E及びHKU.ORF1ターゲットの両方についての濃度依存性結合応答を示す。エラーバーは、各ターゲット及び濃度条件について、異なる共振器からのN=50-75の測定からの測定値の標準偏差を示す。破線は、Hill方程式へのあてはめを示す。図5Bの挿入図は、一元配置分散分析及びポストホックTukey's HSDテストにより、nCoV.E及びHKU.ORF1ターゲットに対する結合反応に統計的に有意な差があることが確認されたことを示している。マーカーは平均値を表し、バーは99%の信頼区間を表す。非相補的なターゲットに対して、***P<0.002である。図5Cは、100nMのnCoV.Eターゲットとインキュベートした6つの共振器の動力学的結合応答を示す。実線は、実験的測定値の平均値である。
【0052】
共振器を特定のプローブDNA配列と組み合わせることで、ターゲットの遺伝子検出の特異性が得られた。特異性を確認するために、ターゲットDNA鎖をATTO590蛍光ラベルで修飾し(図9A)、nCoV.E配列にのみ相補的なプローブで機能化したセンサをインキュベートした。ターゲットnCoV.E及びHKU.ORF1の10μM溶液に曝露したセンサの蛍光イメージングは、相補的なE遺伝子ターゲットに対してのみ有意な結合を示し、非相補的なORF1鎖に対しては最小限の信号しか示していない(図9B)。このターゲット特異性は共振器散乱スペクトルでも測定され、共振波長シフトは、ターゲット-プローブが相補的な条件では有意であり、非特異的な結合では抑制された(図5A)。このセンサは、1μMから10nMの濃度依存性を有する応答を示した(図5B)。測定は、各ターゲット及び濃度条件において、N=50-75の個々の共振器について行った。各濃度における共振波長シフトの大きな変動は、表面結合の確率的性質によるものと思われる。特に、任意の特定の共振器からの信号は、結合したターゲットの局所的な濃度と空間位置に依存する(したがって、最大電界濃度の部位で結合すると、より大きな共振シフトを生じる)。各濃度における共振波長シフトの大きな変動は、表面結合の確率的性質に起因すると考えられる。特に、特定の共振器からの信号は、結合したターゲットの局所濃度及び空間位置に依存する(したがって、最も電界濃度の高い部位で結合すると、大きな共振波長シフトが生じる)。さらに、機能化やハイブリダイゼーション実験の間に水溶液中のシラン層が加水分解されることによって、信号の変動が生じた可能性もある。表面機能化の均質性及び安定性を最適化することにより、センサの性能が劇的に向上することが期待される。重要なことに、現在、分解能を制限する主要因となっているこのバックグラウンド信号は、フォトニック共振器そのものではなく、センシング環境の不安定性に由来するものであることを確信している。最終的には、検出閾値は共振線幅によって制限され、0.1*FWHM未満のシフトは容易に測定可能であることが予想される。メタサーフェスチップでは、シラン結合作用が、サファイア基板の表面酸化物にDNAプローブを非特異的に機能化することに留意している。各共振器の共振シフトに寄与するターゲット分子は、表面に結合した0.0003%に過ぎないと推定される。したがって、共振器領域のみがターゲット分子に曝露されるマイクロ流体チャンネルを導入したり、シリコン特有の表面機能化プロセスを利用したり、あるいは共振器を互いに分離してセンサ密度をさらに高めるために追加のナノ構造を組み込むことによって、検出限界は10nMから10fMまで低下する可能性がある。さらに、表面プローブの密度を変更することで、本デバイスの濃度依存範囲を分析対象物の濃度の様々な値に調整できる可能性がある。
【0053】
二元配置分散分析(ANOVA)及びポストホックTukeyの範囲検定は、散乱シフト信号の差異が、すべての試験濃度において、相補的ターゲットと非相補的ターゲットとで統計的に異なることを示す(図5Bの挿入図)。このプラットフォームの測定スループットの向上と、より大きなサンプルサイズとが使用されることにより、診断研究の精度を大幅に改善することができ、複数の測定の冗長性によってサンプル集団の定量化及び分類を改善することができる。例えば、共振波長シフト信号の閾値に基づき、各濃度における「ポジティブ」な相補的ターゲット検出と「ネガティブ」な非相補的ターゲット検出とを分類することができる。閾値信号を変化させると、受信者動作特性(ROC)曲線が得られ、ポジティブとネガティブとの信号の識別はROC曲線下の面積(AUC)として定量化される。この解析から、このセンサは、AUC値が最大0.98(AUC=1は完全な信号の識別、0.5は識別なし)であり、感度及び特異度がそれぞれ94%及び96%と高いことを示している。また、ターゲット遺伝子の結合をデジタル化することにより、機械学習ベースの解析と組み合わせて、精度をさらに向上させたり、遺伝子変異や点突然変異に起因する小さな信号を識別できるようにすることも可能である。
【0054】
共振器のリアルタイム測定は、6つの代表的な共振器で測定されたnCoV.E相補的ターゲットの100nM溶液に対する迅速なターゲット結合応答を示している(図5C)。測定ノイズを超える共振波長の変化は数秒以内に検出され、結合信号はサンプル導入後5分以内にプラトーとなる。この信号応答は、Langmuirの吸着モデル(図5Cの実線)と優れた一致を示し、観察されたハイブリダイゼーション速度定数は7x10-3-1であり、他のハイブリダイゼーション捕捉アッセイと同等であった。
このような高速結合速度論は、時間のかかる配列増幅サイクルを必要とする従来の検出技術に対するチップベースのアプローチの重要な利点を強調している。
【0055】
(B6)結論
【0056】
このナノフォトニックデバイスは、高スループットな分子解析のための新しいプラットフォームを提供する。生理的媒体(2,200+)中で高Qの共振を有する自由空間照明共振器を実証することにより、1cmあたり160,000画素を超える密度でパターン化、調整、及び測定され得ることを示した。さらに、構造的な不均一性による散乱損失の低減、生物学的媒体からの吸収損失の低減、及び、共振器鎖が50μm未満に切り詰められた際の光漏れを抑制するフォトニックミラー素子の搭載のための製造プロセスの改善により、より大きなQ及び高密度な機能を有するプラットフォームの実現が可能である。DNAプローブとの相互作用により、従来の遺伝子解析技術が直面していた多くの課題を解決し、迅速かつラベルフリーで高度にデジタル化された遺伝子スクリーニングを可能にするメタサーフェス設計が実現された。異なる遺伝子配列のプローブを異なる検出ピクセルにスポットするバイオプリンティング処理と組み合わせることで、この高Qメタサーフェスチップは、迅速かつラベルフリーの大規模な多重化フォトニックDNAマイクロアレイの基礎を提供することができる。さらに、このナノフォトニックチップは、強度イメージング及び/またはハイパースペクトルイメージング技術に対応しており、分光計を必要とすることなく信号結合情報を提供するので、ポイントオブケア遺伝子スクリーニングの複雑さ及びコストをさらに削減することができる。このプラットフォームは、精密医療、持続可能な農業、及び環境回復の未来のために、広範囲で頻繁に実施される遺伝子スクリーニングのユニークな可能性を約束する。
【0057】
(B7)補足情報
【0058】
(B7.1)共振器周辺の電界の空間的な分布
【0059】
局所的な屈折率の微小な変化に対する共振モードの感度は、共振器の外側に存在する電界エネルギーの割合によって推定することができる。このセンサで利用されているモードの露出度は、以下の方程式によって計算される。
【0060】
【数1】
【0061】
式中、εout及びεinはそれぞれ、分析物を含む媒体の誘電率、及び、共振器と基板との誘電率である。Vout及びVinは、分析物を含む媒体の体積領域、及び、結合物質や分子と重ならない共振器または基板の内部の部分の体積領域を表している。この解析を、上記のセンサ設計、及び、ノッチ付きシリコン導波管を有する文献に記載された導波モード共振構造に対して行うと、このシリコンブロック鎖は、周囲環境への電界浸透を大幅に向上させることがわかった。
【0062】
図6Aは、サファイア基板上のノッチ付きシリコン導波管の電界プロファイルを示す。上段は構造体の中心をx-yで切断したものであり、下段は電界が最も強く集中するノッチ摂動の中心をx-zで切断したものである。図6Bは、サファイア基板上のシリコンブロックの非対称な鎖の電界プロファイルを示す。上段は構造体の中心をx-yで切断したものであり、下段は小さい方のブロックの中心をx-zで切断したものである。スケールバーは200nmである。
【0063】
ノッチ構造及びブロック構造それぞれの電界プロファイルを、同様の横方向の電気導波モードが示されている図6A及び図6Bにプロットした。このセンサでは、シリコンブロックが波長以下の間隔で配置されているので、連続したシリコンワイヤ導波管において見られる周期方向に沿って局所的な導波モードが励起されていることがわかる。しかし、格子状の構造は、導波管の有効モード指数を低下させながらモードの領域を周囲に露出させ、共振器から電界をさらに拡張させる。この設計例では周囲のモードエネルギーの割合がfUE=0.29まで増加するのに対し、ノッチ構造や連続した導波管構造ではfUE=0.08にしかならない。fUEは電界エネルギーの自由空間の割合と呼ぶのが好都合である。
【0064】
(B7.2)品質係数スケーリング及び吸水性
【0065】
上述したように、シリコン導波管に非対称性を導入することで、それまで結合していたモードを励起することができる。メタサーフェスの場合、非対称性Δdを小さくすることにより、自由空間放射線に対するモードの結合強度が低下し、これにより、Q値が増加する。近赤外線中のシリコンのように固有の吸収損失を示さない材料では、摂動強度がゼロに近づくと、Q値は任意に増加することができる。このような微妙な構造上のずれに対するQ値の依存性は、時間的結合モード理論や摂動理論によって既に説明されている。
【0066】
【数2】
【0067】
式中、Bは共振器の形状に依存する定数であり、αはこのメタサーフェスではΔd/dで表される単位のない非対称性パラメータである。この関係は図7に示されており、理論値(実線)及び数値シミュレーション値(星印)は、Δdが減少するにつれてQ値が発散することを示している。また、実験的に観測されたQ値は、予測値よりも低いことが確認された(上述の実験データ)。実験的な品質係数を制限する重要な要因の1つは、通信波長における水の吸収係数である。すべての光学測定を水溶液中で行ったため、水の吸収を含めた数値計算を表す図7の破線によって示されるように、測定されたQ値が散逸損失によって低下することが予想される。共振寿命が長くなると共振モードと吸収性を有する背景媒質との相互作用が大きくなるので、Δdが小さくなるにつれて吸収損失の影響が特に強くなる。本センサの今後の改良点としては、共振器の性能を最大限に引き出すために、1300nm付近の水の吸収窓で設計を行うことが考えられる。さらに、表面粗さやメタサーフェス構造の不均一性などの製造上の不完全性は、散乱損失をもたらし、観測されたQ値を低下させる。
【0068】
(B7.3)有限サイズ共振器
【0069】
上記の共振器は、より長い1次元アレイ(200μm)で高Qモードを示すが、鋭いスペクトル特性を維持しながら、共振器の長さを大幅に縮小できることもできる。このメタサーフェス設計は、導波管の端からの散乱損失が少ないことが特徴であるので、分離したシリコンブロックと背景媒質を含むギャップとの間の高いインデックスコントラストに起因して、共振器の有限サイズ効果に対して比較的ロバストである。図8Aは、ノッチ波形の深さが増加する固体シリコン導波管を有する3つの異なる共振器の計算分散図を示している(図8A、右)。導波管の幅は600nmであり、上から下へ、50、150、300nmの深さで導波管の両側に設けられたノッチに対応するバンドを有している。ノッチの深さが300nmまで増加すると、バンドが平坦になり、導波管が別々のシリコンブロックに分離されることが確認された。この平坦化したバンドは、強い面内ブラッグ散乱に起因する群速度が非常に小さいことを示し、導波管の端部からのモードの伝播を減少させ、Q値に対する共振器の縮小の影響を減少させる。各共振器の全長を短くしながら、高い品質係数を維持できることを実験的に検証した。図8B-8Cに、300μmから50μmまでの異なる長さを有する複数の共振器の代表的なスペクトル(図8B)及びSEM画像(図8C)を示す。各条件にN=6の共振器をあてはめると、図8Dは、導波管長を変化させてもQ値がほとんど変化しないことを示している。Δd=50nm及び30nmの共振器は、50μmまでの共振器であっても、1000を超える高いQ値を維持している。各共振器は、散乱損失を減少させるために導波管の端部にパターニングされた誘電体ミラーを設けることにより、さらに小型化できる可能性がある。このように、数μm単位の長さを有する自由空間結合型高Q共振器を個別に想定することが可能である。
【0070】
(B7.4)蛍光顕微鏡法
【0071】
図9Aは、蛍光タグ付きターゲットDNA配列の模式図を示す。図9Bは、相補的なnCoV.E配列(上)及び非相補的なHKU.ORF1配列(下)に曝露したセンサの蛍光画像及び積分強度を示す図である。蛍光イメージングにより、相補的な核酸配列に対する固定化されたDNAプローブ分子の特異性が確認された。すべてのメタサーフェスセンサは、nCoV.E配列にのみ相補的なプローブで機能化された。
【0072】
5'末端にATTO590色素でタグ付けしたターゲット核酸(図9A)を用いたDNAハイブリダイゼーション実験の後に、蛍光実験を実施した。乾燥したサンプルをZeiss AxioImagerシステムに入れ、20倍の対物レンズで画像化した。蛍光画像を、Zeiss Axiocam 506 monoカメラで、1000ミリ秒の露光で取得した。蛍光強度値を、80×40μmの領域にわたって平均化し、相補的なE遺伝子ターゲットとハイブリダイズしたチップから得た最大強度値に対して正規化した(図9B)。
【0073】
(B8)方法
【0074】
(B8.1)計算機設計
【0075】
電磁波シミュレーションを、Lumerical FDTD Solverを使用して行った。x及びy方向に周期的な境界条件と、z方向に完全整合層(PML)境界条件とを設定して、メタサーフェスをシミュレーションした。構造体は、45°に偏光し、サファイア基板を通して負のz方向から入射した平面波で励起された。透過スペクトルを、メタサーフェスの+z方向の遠方界に配置されたパワーモニタを用いて計算した。交差偏光透過強度を、Power(45°)/(Power(-45°)+Power(+45°))として計算した。
【0076】
(B8.2)作製
【0077】
メタサーフェスを、標準的なリソグラフィー手順で作製した。最初に、500nmの単結晶シリコン・オン・サファイア(MTI社)基板を、アセトン及びイソプロピルアルコール中で超音波洗浄した。この基板を180℃でベークした後、水素シルセスキオキサン(HSQ)ネガティブトーンレジスト(XR-1541-06、Corning社)をスピンコートした。レジストを、80℃で40分間ベークした。帯電を抑えるため、HSQレジスト上に電荷散逸層(e-spacer、昭和電工)をスピンコートし、80℃で5分間再びベークした。メタサーフェスパターンを、JEOL JBX-6300FS EBLシステムの100keV(約1.6×10-14J)の電子ビームによって画定した。25%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液中で、120秒間かけてパターンを現像した。Cl、HBr、及びOによる反応性イオンエッチングにより、シリコン層(Lam TCP 9400)にパターンを転写した。水中で、2%フッ酸を用いてHSQレジストを除去し、120℃に加熱したピラニア溶液(9:1 HSO:H)でサンプルを洗浄した。シリコンナノ構造を、炉内において800℃で30分間加熱し、4nmの酸化物層を成長させることによって不動態化させた。
【0078】
(B8.3)光学特性評価
【0079】
共振器スペクトルを、自作の近赤外線顕微鏡で測定した。サンプルを、コリメートファイバ出力の広帯域NKTスーパーコンティニュームレーザによって照射した。ポラライザP1を、メタサーフェス構造に対して45°の角度の直線偏光入射照明を生み出すようにセットした。光線は、レンズL2(f=50mm)によって垂直入射でサファイア基板を通してサンプルに弱く集光され、スポットサイズは約200μmとなった。さらに、ここでの光学測定はすべて、サンプルチップを流体セルに封入し、PBS 1X(1倍)に浸漬させた状態で行った。散乱光は50X対物レンズ(Olympus LCPLN50XIR)を通して、かつ45°の交差偏光ポラライザP2によって集光され、基板のファブリペロー信号を低減した。散乱光はその後、レンズL3(f=75mm)によってSPR-2300分光器(Princeton Instruments社)に集光された。広帯域信号は、回折格子(600g/mm、ブレーズ波長600nm、Princeton Instruments社)によって回折され、空冷式InGaAs検出器(NiRvana、Princeton Instruments社)に集光された。すべてのスペクトル測定値を、200ミリ秒の連続した3回の取得の平均値として収集した。スペクトルの特徴を、データを関数でフィッティング(あてはめ)することによって分析した。
【0080】
【数3】
【0081】
式中、Tは一定の複素バックグラウンドであるa+aiと、共振周波数f及び半値全幅2γのローレンツ振動子との重ね合わせによる散乱強度である。品質係数は、Q=f/2γとして計算される。
【0082】
(B8.4)表面機能化
【0083】
一本鎖プローブDNAの自己組織化単分子膜を、多段階の化学的機能化プロセスにより、シリコンメタサーフェスに接続した。機能化のためにシリコン表面を活性化するべく、120℃に加熱したピラニア溶液(9:1 HSO:H)にサンプルを20分間浸し、表面をヒドロキシル化した。次に、エタノール中の11-アミノウンデシルトリエトキシシラン(Gelest社)の0.1mM溶液にサンプルを浸漬させ、密封して、18~24時間かけて一晩放置した。新鮮なエタノールでサンプルを5分間(3倍)洗浄した後、150℃で1時間ベークし、安定なシラン層を形成した。ジメチルスルホキシド及びPBSの1:9(v/v)混合液に溶解した3-マレイミド安息香酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(ミリポアシグマ)の1mM溶液に1時間浸漬させることにより、ヘテロ二官能性の架橋分子をシラン層に付着させた。その後、サンプルを脱イオン水で十分に洗浄し、Nガスで乾燥させた。一本鎖DNAプローブを、Integrated DNA Technologies社(アイオワ州コーラルビル所在)から入手し、3'末端にジスルフィドテザーを用いて修飾した。このDNAプローブを50μLのトリス-EDTAバッファー(pH8.0)に分散させ、30mgのDL-ジチオスレイトールと少なくとも1時間混合し、ジスルフィド部分をチオールに還元させた。その後、Illustra NAP-5カラムを用いた重力流サイズ排除クロマトグラフィーにより、プローブを精製した。溶出したDNA溶液の濃度を、UV吸収サイン(Varian Cary 500 UV-Vis Spectrophotometer)を用いて測定した。機能化反応のために、ストック溶液の一部をPBS 1xで20μMに希釈し、2価カチオンである100mM MgClを加えた。DNAプローブ溶液を各サンプルに移し(ピペッティング)、暗所の湿潤環境下で一晩(約18~24時間)インキュベートした。サンプルをPBS 1Xで洗浄した後、1M NaClの濃度になるように塩を加えたPBS溶液に4時間浸し、緩く結合したオリゴヌクレオチドや物理的に吸着したオリゴヌクレオチドを除去した。その後、サンプルをPBS 1X及び脱イオン水で洗浄し、Nガスで乾燥させた。次の化学処理ステップの前に、図4B及び4Dの光学的測定に対応するサンプルを、追加の脱イオン水による洗浄、及びNによる乾燥を含む各機能化ステップの前及び後に測定した。図5A~5Cに対応するサンプルを、ターゲットDNAハイブリダイゼーションの前及び後にのみ、光学的に特徴付けた。
【0084】
(B8.5)DNAハイブリダイゼーション
【0085】
静的DNAハイブリダイゼーション測定(図5Cを除く上記のすべての提示データ)では、プローブDNA単層によって機能化されたメタサーフェス上で、ベースライン分光測定を行った。SARS-CoV-2ウイルスのE遺伝子に対応する配列を有するプローブを、すべての実験に使用した。ベースライン測定後、サンプルを脱イオン水で洗浄し、乾燥させた。相補的なE遺伝子または非相補的なORF1b遺伝子断片のいずれかに対応するターゲットDNA溶液を、100μMのストック溶液を1X PBS中で所望の濃度に希釈することにより、製造した。ハイブリダイゼーションの効率及び速度を向上させるために、100mM MgClに相当する追加の2価カチオンを溶液に加えた。続いて、ターゲット溶液の100μLの液滴を各サンプルチップにピペッティングし、暗所環境下で30分間インキュベートした。最終的な光学的特性評価の前に、サンプルを、PBS 1X及び脱イオン水で洗浄した。
【0086】
図5Cに示される動的DNAハイブリダイゼーション測定のために、DNAプローブによって機能化したサンプルを流体セルに入れ、上述の光伝送装置に取り付けた。スペクトル取得を10秒間隔で収集し、核酸を含まない純粋なハイブリダイゼーション溶液に浸漬したメタサーフェスのベースライン測定を、4分間行った。次に、核酸を含む過剰量のターゲット溶液を、シリンジから流体セルに、注入管を通して10秒間流し込むことによって純粋なハイブリダイゼーション溶液を置換し、ターゲット溶液でセルを完全に満たした。スペクトルをさらに20分間モニタリングし、最初の4分間のベースライン測定から得られた平均共振波長と比較した変化に基づいて、波長シフトを計算した。
【0087】
(C)実施例2-タンパク質の検出
【0088】
本発明の原理は、以下の実施例のように、タンパク質の検出にも適用することができる。
【0089】
An2-SARS-CoV2スパイクタンパク質のRBD(受容体結合ドメイン)領域であるプローブタンパク質の自己組織化単分子膜(SAM)を、図10A-10Fに要約した5段階の化学的機能化プロセスを通じて、シリコンメタサーフェス表面に結合させた。機能化のためにシリコン表面を活性化するべく、120℃に加熱したピラニア溶液(9:1 HSO4:H)にサンプルを20分間浸し、表面をヒドロキシル化した(図10Aの符号1002)。その後、150℃で10分間ベークし、チップに水分が残らないようにした。次に、エタノール中の11-アミノウンデシルトリエトキシシラン(Gelest社)の0.1mM溶液にサンプルを浸漬させ、密封して、室温で18~24時間かけて一晩放置した。続いて、新鮮なエタノールでサンプルを1分間超音波処理した後、エタノール及び脱イオン水で1分間洗浄した(3X)。その後、150℃で1時間ベークし、安定なシラン層を形成した(図10Aの符号1004)。
【0090】
ジメチルスルホキシド及びPBSの1:9(v/v)混合溶媒に溶解した1mMの3-マレイミド安息香酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)(Millipore Sigma社)溶液に1時間浸漬させることにより、ヘテロ二官能性の架橋分子をシラン層に付着させた。その後、サンプルを脱イオン水で十分に洗浄し、アルゴンガスを吹き付けて乾燥させた(図10Bの符号1006)。
【0091】
SAMの次のビルディングブロックについては、Prochimia Surfaces社(ポーランド、グディニャ所在)から購入した。このステップでは、最終的なSAMにとって望ましいタンパク質表面密度を達成するために、生体抵抗性かつ双性イオン性の2つのチオール化リガンドを様々な比率で表面上に機能化した。第1の分子は、非結合性バックグラウンド分子として使用されるカルボキシベタイン末端基(ZI003)で終端し、(HS-C11-(EG)4-Carboxybetaine)であり、第2の分子は、その後のプローブタンパク質の付着に必要なニトリロ三酢酸(TH007)、(HS-C11-(EG)3-NTA)で終端している。表面の機能化のため、ZI003サンプルをエタノールに溶解させて10mMの濃度の液体ストック溶液を形成し、TH007を脱イオン水に溶解させて10mMの液体ストック溶液を形成した。続いて、これらの溶液を最終濃度1mMに希釈し、表面上のタンパク質プローブ密度を変化させるために、比率を変化させて混合した。ZI003とTH007との比率を変えたこの1mMの溶液2mLにサンプルを浸漬し、密閉し、暗所環境下、室温で12時間放置した。続いて、サンプルを脱イオン水で30秒間洗浄し、その後1x PBS溶液に1時間浸し、緩く結合したチオール分子や物理的に吸着したチオール分子を除去した。その後、サンプルを脱イオン水で60秒間再度洗浄し、アルゴンガスで乾燥させた(図10Cの符号1008)。
【0092】
続いて、Niイオンをニトリロ三酢酸(NTA)とキレートし、Ni(II)-NTA複合体を形成してプローブタンパク質との強固な結合を形成するために、無水塩化ニッケル(II)粉末を脱イオン水に溶解して最終濃度5g/Lにした塩化ニッケル(II)溶液により、サンプルをインキュベートした。このステップでは、サンプルを2mLのNi(II)溶液に浸漬して密閉し、室温で2時間放置した(図10Dの符号1010)。
【0093】
その後、サンプルを脱イオン水で30秒間洗浄し、アルゴンガスで乾燥させた。最後に、SAMに対し、スタンフォード大学のScott Boyd教授の研究室で製造されたSARS CoV-2 Spikeタンパク質のRBD領域をプローブタンパク質として機能化して終端処理した後、タンパク質のc末端に6個のヒスチジンアミノ酸によって形成されたポリヒスチジンタグを付加して修飾した。タンパク質のストック溶液を、1x PBSで最終濃度2ug/mLに希釈した。サンプルを2mLのストック溶液で覆い、密閉し、室温で1時間インキュベートさせた。その後、サンプルを1x PBSで十分に洗浄し、未結合または緩く結合したタンパク質を除去した。図10Eを参照されたい。符号1014はプローブタンパク質であり、符号1012はSAMである。
【0094】
最後に、サンプルを、ターゲット抗体であるRecombinant An2-SARS-CoV-2 Spike Glycoprotein S1抗体、CR3022(Abcam社(英国、ケンブリッジ所在)から購入)とインキュベートした。抗体溶液を1x PBSで希釈し、最終濃度を5ug/mLとした。続いて、サンプルを1mLの溶液にインキュベートし、密封し、室温で1時間インキュベートするために放置した。その後、サンプルを1x PBSで十分に洗浄し、最終的なサンプルの測定値を収集した。図10Fを参照されたい。符号1016はターゲット抗体であり、符号1014はプローブタンパク質であり、符号1012はSAMである。
【0095】
図11A-11B中の光学的測定に対応するサンプルを、各機能化ステップの前及び後に測定した。すべての測定を、チップが1x PBSに浸漬されている間に行った。タンパク質が存在するステップ(タンパク質プローブ及びターゲット抗体サンプル)以外のすべてのステップでは、測定後、及び、後続のインキュベーションステップの前に、チップを脱イオン水で洗浄し、アルゴンガスで乾燥させた。プローブタンパク質分子とのインキュベーション後、サンプルを1x PBSに浸し続け、サンプルの乾燥及びタンパク質の変性を避けるために、1x PBSで洗浄した。
【0096】
図11Aは、それぞれの機能化ステップ後のスペクトルシフトの測定値を示している。このプロットは、AUTES、MBS、チオール化PEG-NTA、Ni(II)、プローブタンパク質(RBD)、及び抗体サンプル(Ab)の連続した分子単層が共振器表面に積層されると、明確な共振波長シフトを示す。
【0097】
図11Bは、N=15の共振器から収集されたデータによる、シリコンチップ及び最終的な抗体サンプルの間の最終的なシフトを示す図である。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図11A
図11B
【国際調査報告】