(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】PD1キメラポリペプチドを含む方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20231019BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231019BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231019BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20231019BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231019BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20231019BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231019BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20231019BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231019BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/86 Z
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/705
C12N5/10
C12N15/09 Z
A61K35/17
A61P35/00
A61P35/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521443
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-05-29
(86)【国際出願番号】 US2021053971
(87)【国際公開番号】W WO2022076685
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
【住所又は居所原語表記】1900 Ninth Ave. Seattle, WA 98101 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マイケル シー.
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,アダム
(72)【発明者】
【氏名】ロサー,ジェイムズ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)の細胞外ドメインと細胞内免疫刺激ドメインとを含むキメラタンパク質に関する。いくつかの実施形態は、PD1キメラポリペプチドとキメラ抗原受容体(CAR)とを含む細胞を含む。いくつかの実施形態において、このCARは、固形腫瘍上の標的抗原に特異的に結合することができるリガンド結合ドメインを含む。さらなる実施形態は、例えば、がん、例えば、固形腫瘍などの特定の疾患を治療、抑制または緩和するための治療方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PD1の細胞外ドメインと細胞内免疫刺激ドメインとを含むキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記PD1の細胞外ドメインがA99L置換を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記PD1の細胞外ドメインが、配列番号1または配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを含む、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記細胞内免疫刺激ドメインが、myeloid differentiation primary response 88タンパク質(MYD88)、CD28およびCD2から選択されるタンパク質の細胞内ドメインから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記細胞内免疫刺激ドメインが、配列番号3~5のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記細胞内免疫刺激ドメインが、MYD88またはCD2の細胞内ドメインを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記PD1の細胞外ドメインが、膜貫通ドメインを介して前記細胞内免疫刺激ドメインに連結されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記膜貫通ドメインが、PD1の膜貫通ドメインを含む、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記PD1の膜貫通ドメインが、配列番号12のヌクレオチド配列によってコードされる、請求項8に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記膜貫通ドメインが、リンカーを介して前記細胞内免疫刺激ドメインに連結されている、請求項7~9のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記リンカーが、配列番号13のヌクレオチド配列によってコードされる、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
前記キメラポリペプチドが、配列番号6~12のいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
細胞表面選択マーカーをコードする核酸をさらに含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
前記細胞表面選択マーカーが、切断型HER2(Her2tG)ポリペプチド、切断型EGFR(EGFRt)ポリペプチドおよび切断型CD19(CD19t)から選択される、請求項13に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記キメラポリペプチドをコードする核酸と、前記細胞表面選択マーカーをコードする核酸が、リボソームスキップ配列を介して連結されている、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記リボソームスキップ配列が、P2A、T2A、E2AおよびF2Aから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記キメラポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結された構成的プロモーターをさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記プロモーターがE1aプロモーターを含む、請求項17に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
前記キメラポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結された誘導型プロモーターをさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
前記誘導型プロモーターが、配列番号14で示されるヌクレオチド配列を含む、請求項19に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
誘導型細胞傷害性遺伝子をさらに含む、請求項1~20のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記細胞傷害性遺伝子が、チミジンキナーゼ、チミジル酸キナーゼに融合されたチミジンキナーゼ、オキシドレダクターゼ、デオキシシチジンキナーゼ、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ、シトシンデアミナーゼ、およびウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼに融合されたシトシンデアミナーゼから選択されるタンパク質をコードする、請求項21に記載のポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記細胞傷害性遺伝子が、チミジンキナーゼをコードする、請求項21または22に記載のポリヌクレオチド。
【請求項24】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸をさらに含む、請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項25】
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項26】
ウイルスベクターを含む、請求項25に記載のベクター。
【請求項27】
レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターから選択される、請求項25または26に記載のベクター。
【請求項28】
レンチウイルスベクターを含む、請求項27に記載のベクター。
【請求項29】
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド。
【請求項30】
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項31】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸、またはCARタンパク質をさらに含む、請求項30に記載の細胞。
【請求項32】
前記CARが、がん細胞により発現される標的抗原に特異的に結合することができる、請求項31に記載の細胞。
【請求項33】
前記標的抗原が、固形腫瘍の細胞表面抗原を含む、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
前記標的抗原が、CD171、CD19またはEGFRを含む、請求項32または33に記載の細胞。
【請求項35】
ナチュラルキラー細胞である、請求項30~34のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項36】
T細胞である、請求項30~34のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項37】
CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞である、請求項30~34のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項38】
前記CD8+T細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球であるか;前記CD4+T細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、請求項37に記載の細胞。
【請求項39】
初代細胞である、請求項30~38のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項40】
哺乳動物細胞である、請求項30~39のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項41】
ヒト細胞である、請求項30~40のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項42】
エクスビボの細胞である、請求項30~41のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項43】
請求項30~42のいずれか1項に記載の細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含む医薬組成物。
【請求項44】
対象において、がんなどの疾患を治療、緩和または抑制する方法であって、
がんなどの疾患の治療、緩和または抑制を必要とする対象に、請求項30~42のいずれか1項に記載の、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞を投与することを含み、
前記対象が、例えば、前記疾患の有無を調べるための臨床的評価または診断的評価などによって、前記疾患用の医薬品を投与するために選択または特定された対象であってもよい、方法。
【請求項45】
前記疾患が、標的抗原を含むがんを含み、前記CARが、該標的抗原に特異的に結合することができる、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記がんが固形腫瘍を含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記疾患が、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がんおよび肝臓がん;ならびに白血病または多発性骨髄腫などの非固形腫瘍から選択されるがんを含む、請求項44~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞が、前記対象から得られた自家細胞である、請求項44~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記細胞が、前記対象から得られた自家細胞ではない、請求項44~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記対象が哺乳動物である、請求項44~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記対象がヒトである、請求項44~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
対象における疾患の治療、緩和または抑制において使用するための、請求項30~42のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項53】
医薬品、例えば、対象における疾患の治療、緩和または抑制に使用するための医薬品としての、請求項30~42のいずれか1項に記載の細胞の使用であって、前記疾患が、例えば、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がんおよび肝臓がん;ならびに白血病または多発性骨髄腫などの非固形腫瘍から選択されるがんである、使用。
【請求項54】
エフェクター細胞を作製する方法であって、請求項1~24のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを細胞に導入することを含む方法。
【請求項55】
増強された細胞傷害活性を有するエフェクター細胞を作製する方法であって、
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを細胞に導入することを含み、
前記エフェクター細胞が、標的抗原に特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を含むこと、および前記エフェクター細胞が、前記標的抗原の存在下において、前記ポリヌクレオチドを含まない細胞と比べて増強された細胞傷害活性を有することを特徴とする方法。
【請求項56】
前記増強された細胞傷害活性が、サイトカインの発現量の増加、および/または前記標的抗原を発現する標的細胞の細胞溶解の程度の増加を含む、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記サイトカインが、IL-2、IFN-γ、TNF-αおよびグランザイムBから選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
標的抗原を発現する標的細胞を抑制する方法であって、
請求項1~24のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むエフェクター細胞を標的細胞に接触させることを含み、
前記エフェクター細胞が、前記標的抗原に特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を含む、方法。
【請求項59】
前記標的抗原が、がん抗原である、請求項55~58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記標的抗原が、固形腫瘍の細胞表面抗原を含む、請求項55~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記標的抗原が、CD171、CD19またはEGFRを含む、請求項55~60のいずれか1項に記載の方法。
【請求項62】
前記エフェクター細胞がナチュラルキラー細胞である、請求項54~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
前記エフェクター細胞がT細胞である、請求項54~62のいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記エフェクター細胞が、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞である、請求項54~63のいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記CD8+T細胞が、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球であり;かつ前記CD4+T細胞が、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記エフェクター細胞が初代細胞である、請求項54~65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記エフェクター細胞が哺乳動物細胞である、請求項54~66のいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記エフェクター細胞がヒト細胞である、請求項54~67のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
前記エフェクター細胞がエクスビボの細胞である、請求項54~68のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月9日に出願された「PD1キメラポリペプチドを含む方法および組成物」という名称の米国仮出願第63/089,752号の優先権を主張するものであり、この出願は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI254WOSEQLISTのファイル名で2021年10月4日に作成された約13kbのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)の細胞外ドメインと細胞内免疫刺激ドメインとを含むキメラタンパク質に関する。いくつかの実施形態は、PD1キメラポリペプチドとキメラ抗原受容体(CAR)とを含む細胞を含む。いくつかの実施形態において、このCARは、固形腫瘍上の標的抗原に特異的に結合するように構成されたリガンド結合ドメインを含む。さらなる実施形態は、例えば、がん、例えば、1つ以上の固形腫瘍を有するがんなどの特定の疾患を治療、抑制または緩和するための治療方法に関する。
【背景技術】
【0004】
細胞を用いた養子免疫療法では、患者から単離したT細胞を組み換えて合成タンパク質を発現させ、この細胞を患者に再移入して、新たな治療的機能を発揮させる。そのような合成タンパク質の例として、キメラ抗原受容体(CAR)および組換えT細胞受容体(TCR)がある。現在使用されているCARの一例として、細胞外認識ドメイン(例えば抗原結合ドメイン)、膜貫通ドメインおよび1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインからなる融合タンパク質がある。CARに抗原が結合すると、免疫細胞において、CARの細胞内シグナル伝達部分が活性化関連応答(細胞溶解分子の放出など)を開始し、腫瘍細胞の死滅を誘導する。しかし、改良された細胞養子免疫療法が引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、PD1の細胞外ドメインと細胞内免疫刺激ドメインとを含むキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0006】
いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインはA99L置換を含む。いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインは、配列番号1または配列番号2と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記細胞内免疫刺激ドメインは、myeloid differentiation primary response 88タンパク質(MYD88)、CD28およびCD2から選択されるタンパク質の細胞内ドメインから選択される。いくつかの実施形態において、前記細胞内免疫刺激ドメインは、配列番号3~5のいずれかと少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを含む。いくつかの実施形態において、前記細胞内免疫刺激ドメインは、MYD88またはCD2を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインは、膜貫通ドメインを介して前記細胞内免疫刺激ドメインに連結されている。いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、PD1の膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記PD1の膜貫通ドメインは、配列番号12のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、リンカーを介して前記細胞内免疫刺激ドメインに連結されている。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、配列番号13のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記キメラポリペプチドは、配列番号6~12のいずれかと少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる。
【0011】
いくつかの実施形態は、細胞表面選択マーカーをコードする核酸をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記細胞表面選択マーカーは、切断型HER2(Her2tG)ポリペプチド、切断型EGFR(EGFRt)ポリペプチドおよび切断型CD19(CD19t)から選択される。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記キメラポリペプチドをコードする核酸と、前記細胞表面選択マーカーをコードする核酸は、リボソームスキップ配列を介して連結されている。いくつかの実施形態において、前記リボソームスキップ配列は、P2A、T2A、E2AおよびF2Aから選択される。
【0013】
いくつかの実施形態は、前記キメラポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結された構成的プロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記構成的プロモーターは、E1aプロモーターを含む。
【0014】
いくつかの実施形態は、前記キメラポリペプチドをコードする核酸に作動可能に連結された誘導型プロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記誘導型プロモーターは、配列番号14に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態は、誘導型細胞傷害性遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記細胞傷害性遺伝子は、チミジンキナーゼ、チミジル酸キナーゼに融合されたチミジンキナーゼ、オキシドレダクターゼ、デオキシシチジンキナーゼ、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ、シトシンデアミナーゼ、およびウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼに融合されたシトシンデアミナーゼから選択されるタンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、前記細胞傷害性遺伝子は、チミジンキナーゼをコードする。
【0016】
いくつかの実施形態は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含む。
【0017】
いくつかの実施形態は、前記ポリヌクレオチドのいずれか1つを含むベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、ウイルスベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターから選択される。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターを含む。
【0018】
いくつかの実施形態は、前記ポリヌクレオチドのいずれか1つによってコードされるポリペプチドを含む。
【0019】
いくつかの実施形態は、前記ポリヌクレオチドのいずれか1つを含む細胞を含む。
【0020】
いくつかの実施形態は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第4の核酸、またはCARタンパク質をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記CARは、がん細胞により発現される標的抗原に特異的に結合することができる。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、固形腫瘍の細胞表面抗原を含む。いくつかの実施形態において、前記標的抗原はCD171を含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記細胞はナチュラルキラー細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞に由来するものである。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記細胞は初代細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。
【0023】
いくつかの実施形態は、前記細胞のいずれか1つと、薬学的に許容される添加剤とを含む医薬組成物を含む。
【0024】
いくつかの実施形態は、対象において疾患を治療、緩和または抑制する方法あって、
疾患の治療、緩和または抑制を必要とする対象に、キメラ抗原受容体(CAR)を含む前記細胞のいずれか1つを投与することを含み、
前記対象が、例えば、前記疾患の有無を調べるための臨床的評価または診断的評価などによって、前記疾患用の医薬品を投与するために選択または特定された対象であってもよい、
方法を含む。
いくつかの実施形態において、前記疾患は、標的抗原を含むがんを含み、前記CARは、該標的抗原に特異的に結合することができる。いくつかの実施形態において、前記がんは固形腫瘍を含む。いくつかの実施形態において、前記がんは、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がんおよび肝臓がん;ならびに白血病または多発性骨髄腫などの非固形腫瘍から選択される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象から得られた自家細胞ではない。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。
【0025】
いくつかの実施形態は、対象におけるがんなどの疾患の治療、緩和または抑制において使用するための、前記細胞のいずれか1つを含む。
【0026】
いくつかの実施形態は、医薬品、例えば、対象におけるがんなどの疾患の治療、緩和または抑制に使用するための医薬品としての、前記細胞のいずれか1つの使用を含む。
【0027】
いくつかの実施形態は、エフェクター細胞を作製する方法であって、前記ポリヌクレオチドのいずれか1つを細胞に導入することを含む方法を含む。
【0028】
いくつかの実施形態は、増強された細胞傷害活性を有するエフェクター細胞を作製する方法であって、前記ポリヌクレオチドのいずれか1つを細胞に導入することを含み、前記エフェクター細胞が、標的抗原に特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を含むこと、および前記エフェクター細胞が、前記標的抗原の存在下において、前記ポリヌクレオチドを含まない細胞と比べて増強された細胞傷害活性を有することを特徴とする方法を含む。いくつかの実施形態において、前記増強された細胞傷害活性は、サイトカインの発現量の増加、および/または前記標的抗原を発現する標的細胞の細胞溶解の程度の増加を含む。いくつかの実施形態において、前記サイトカインは、IL-2、IFN-γ、TNF-αおよびグランザイムBから選択される。
【0029】
いくつかの実施形態は、標的抗原を発現する標的細胞を抑制する方法であって、前記ポリヌクレオチドのいずれか1つを含むエフェクター細胞を標的細胞に接触させることを含み、前記エフェクター細胞が、前記標的抗原に特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を含むことを特徴とする方法を含む。
【0030】
いくつかの実施形態において、前記標的抗原はがん抗原である。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、固形腫瘍の細胞表面抗原を含む。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、CD171、CD19またはEGFRを含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はナチュラルキラー細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はT細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球であり;かつ前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は初代細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はエクスビボの細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】PD1キメラポリペプチドをコードする特定の複数のポリヌクレオチドの模式図である。
【0033】
【
図2】特定のPD1キメラポリペプチドとHer2tGマーカーの共発現を調べたCD8+T細胞のフローサイトメトリー分析を示す。このPD1キメラポリペプチドとして、PD1(A99L):CD28ポリペプチド;PD1(野生型):CD28ポリペプチド;PD1(A99L):MYD88ポリペプチド;PD1(野生型):MYD88ポリペプチド;PD1(A99L):CD2ポリペプチド;またはPD1(野生型):CD2ポリペプチドのいずれかを使用した。
【0034】
【
図3】エフェクター細胞と標的細胞の共培養におけるインターフェロンγ(IFN-γ)放出アッセイの結果を示した棒グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、またはOKT3とPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0035】
【
図4】エフェクター細胞と標的細胞の共培養におけるインターロイキン2(IL-2)放出アッセイの結果を示した棒グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、またはOKT3とPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0036】
【
図5】エフェクター細胞と標的細胞の共培養における腫瘍壊死因子α(TNF-α)放出アッセイの結果を示した棒グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、またはOKT3とPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0037】
【
図6】エフェクター細胞と標的細胞の共培養におけるクロム放出アッセイの結果を示した線グラフを示す。エフェクター細胞として、Her2tGマーカーポリペプチドを共発現する特定のPD1キメラポリペプチドを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、またはOKT3とPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0038】
【
図7】特定のPD1キメラポリペプチドとHer2tGマーカーを共発現したCD8+T細胞、または806キメラ抗原受容体(CAR)とEGFRtマーカーを共発現したCD8+T細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【0039】
【
図8】エフェクター細胞と標的細胞の共培養におけるクロム放出アッセイの結果を示した線グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドと806CARを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を発現するK562細胞、EGFRvIIIを発現するK562細胞、またはEGFRvIIIとPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0040】
【
図9】エフェクター細胞と標的細胞の共培養におけるインターロイキン2(IL-2)放出アッセイの結果を示した棒グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドと806CARを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を発現するK562細胞、EGFRvIIIを発現するK562細胞、またはEGFRvIIIとPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0041】
【
図10】エフェクター細胞と標的細胞の共培養におけるインターフェロンγ(IFN-γ)放出アッセイの結果を示した棒グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドと806CARを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を発現するK562細胞、EGFRvIIIを発現するK562細胞、またはEGFRvIIIとPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0042】
【
図11】エフェクター細胞と標的細胞の共培養における腫瘍壊死因子α(TNF-α)放出アッセイの結果を示した棒グラフを示す。エフェクター細胞として、特定のPD1キメラポリペプチドと806CARを発現するCD8+T細胞を使用し、標的細胞として、K562細胞、OKT3を発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を発現するK562細胞、EGFRvIIIを発現するK562細胞、またはEGFRvIIIとPD-L1を発現するK562細胞を使用した。
【0043】
【
図12】806CARとPD1キメラポリペプチドを含むH9細胞のフローサイトメトリー分析を示す。
【0044】
【
図13A】MESFビーズで作製した検量線に対するPD1キメラポリペプチドのフローサイトメトリー分析を示す。
【0045】
【
図13B】ビーズで作製した検量線に対するPD1キメラポリペプチドのフローサイトメトリー分析を示す。
【0046】
【
図13C】PD1キメラポリペプチドのF/P比を示したグラフを示す。
【0047】
【
図14】PD1キメラポリペプチドに対するPD1-L1の相対親和性を示したグラフを示す。
【0048】
【
図15】Seahorse XF細胞ミトコンドリアストレス試験のプロファイルを示す。
【0049】
【
図16】3人のドナー(D1、D2およびD3)由来の、806CARとPD1キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞の酸素消費速度を示したグラフを示す。
【0050】
【
図17A】806CARとPD1キメラポリペプチドを含むD1由来CD8+T細胞の酸素消費速度を示したグラフを示す。
【0051】
【
図17B】806CARとPD1キメラポリペプチドを含むD2由来CD8+T細胞の酸素消費速度を示したグラフを示す。
【0052】
【
図17C】806CARとPD1キメラポリペプチドを含むD3由来CD8+T細胞の酸素消費速度を示したグラフを示す。
【0053】
【
図18】「Be2-CD19t腫瘍」とS1Sp1の重み付けスコアとに関する14日目の重み付けスコアを示したグラフを示す。このグラフにおいて、CD4+細胞における導入遺伝子の順位付けを丸印で示し、CD8+細胞における導入遺伝子の順位付けを三角形で示す。
【0054】
【
図19】切断型CD19ポリペプチドを発現する標的細胞でチャレンジした場合の、1回目のチャレンジおよび2回目のチャレンジにおいて、抗CD19 CARのみを含むエフェクターCD8 T細胞、または抗CD19 CARとPD1キメラポリペプチドを含むエフェクターCD8 T細胞に対する効果を調べるための試験のタイムラインを示す。
【0055】
【
図20A】
図19に示した試験における標的細胞とエフェクター細胞の共培養の2日目の上清中のIL-2またはTNF-αの濃度を示す。
【0056】
【
図20B】
図19に示した試験における標的細胞とエフェクター細胞の共培養の2日目の上清中のインターフェロンγおよびグランザイムBの濃度を示す。
【0057】
【
図21A】
図19に示した試験における標的細胞とエフェクター細胞の共培養の4日目の上清中のIL-2またはTNF-αの濃度を示す。
【0058】
【
図21B】
図19に示した試験における標的細胞とエフェクター細胞の共培養の4日目の上清中のインターフェロンγおよびグランザイムBの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)の細胞外ドメインと細胞内免疫刺激ドメインとを含むキメラタンパク質に関する。いくつかの実施形態は、PD1キメラポリペプチドとキメラ抗原受容体(CAR)とを含む細胞を含む。いくつかの実施形態において、このCARは、固形腫瘍上の標的抗原に特異的に結合することができるリガンド結合ドメイン、または固形腫瘍上の標的抗原に特異的に結合するように構成されたリガンド結合ドメインを含む。さらなる実施形態は、例えば、がん、例えば、1つ以上の固形腫瘍を有するがんなどの特定の疾患を治療、抑制または緩和するための治療方法に関する。
【0060】
キメラ抗原受容体(CAR)を含むT細胞を用いた免疫療法は、液性腫瘍の治療に大きな成功を収めているが、固形腫瘍の治療におけるこのような免疫療法の有効性は限定的である。例えば、CARを含むT細胞は、その表面にプログラム細胞死タンパク質1(PD1)を発現している。固形腫瘍内の細胞では、PD1のリガンドであるPD-L1がアップレギュレートされていることがある。このPD-L1と、CAR T細胞の表面上に発現されたPD1とが相互作用すると、CAR T細胞の抑制、エフェクター機能の喪失および細胞機能障害が起こることがある。固形腫瘍におけるCAR T細胞療法では、このような欠点が存在しうることから、CAR T細胞療法の増強が必要とされている。既存のCAR T細胞技術のこのような欠点を克服できる方法として、導入遺伝子によってコードされるPD1キメラポリペプチドを使用することができる。
【0061】
いくつかの実施形態において、PD1キメラポリペプチドは、通常の免疫抑制シグナルを免疫刺激シグナルへと切り替えることができる2つの構成要素を含む。PD1キメラポリペプチドの受容体部分はPD1の細胞外ドメインを含み、PD1のリガンド(例えばPD-L1)との相互作用を担う。内在性PD1とPD-L1が会合すると、通常は免疫抑制シグナルが生じる。内在性PD1の細胞内領域を免疫刺激性のタンパク質ドメインに置き換えることによって、PD1キメラポリペプチドとリガンド(例えばPD-L1)の相互作用を、本来の抑制性の相互作用から刺激性の相互作用に切り替えることができる。いくつかの実施形態において、PD1キメラポリペプチドの細胞内ドメインは、TLRアダプタータンパク質(例えばMYD88)、またはCD2やCD28などの共刺激タンパク質を含んでいてもよい。
【0062】
いくつかの実施形態において、PD1の細胞外ドメインは、野生型のPD1の細胞外ドメインを含むPD1キメラポリペプチドよりも活性が増強するように組換えることができる。いくつかの実施形態において、PD1の細胞外ドメインは、A99L変異を含んでいてもよい。例えば、このように組換えられたPD1の細胞外ドメインを用いることによって、PD-L1などのリガンドとの結合が増強され、かつ/または細胞内シグナル伝達事象が増強されたPD1キメラポリペプチドを含む細胞を得ることができる。いくつかの実施形態において、PD1キメラポリペプチドとCARを含む細胞は、PD1キメラタンパク質を含まない細胞よりも活性が増強されていてもよい。
【0063】
本明細書で提供される方法および組成物のいくつかは、Prosser M.E., et al. (2012) Mol Immunol. 51:263-72に開示された態様を含んでいてもよい(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0064】
用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。
【0065】
本明細書において、「a」または「an」は、1つまたは1つ以上を意味してもよい。
【0066】
本明細書において、「約」は、測定値について述べる場合、所定値から±20%または±10%の変動を含むことを意味し、より好ましくは±5%の変動、さらにより好ましくは±1%の変動、さらにより好ましくは±0.1%の変動を含むことを意味する。
【0067】
本明細書において、「核酸」または「核酸分子」という用語は、本明細書全体を参照すれば、一般的な通常の意味を有し、例えば、ポリヌクレオチドを指してもよく、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得られる断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用またはエキソヌクレアーゼ作用により得られる断片などが挙げられる。核酸分子は、天然のヌクレオチドモノマー(DNAやRNAなど)、天然のヌクレオチドの類似体(例えば、天然のヌクレオチドのエナンチオマー)、またはこれらの組み合わせから構成されていてもよい。修飾ヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジン塩基部分もしくはプリン塩基部分に修飾を有していてもよい。糖部分の修飾としては、例えば、ハロゲン、アルキル基、アミンまたはアジド基による1つ以上のヒドロキシル基の置換が挙げられ、糖部分はエーテル化またはエステル化されていてもよい。さらに、糖部分全体が、立体構造的に類似の構造や電子的に類似の構造と置換されていてもよく、このような構造として、例えば、アザ糖または炭素環式糖類似体が挙げられる。修飾塩基部分としては、アルキル化プリン、アルキル化ピリミジン、アシル化プリン、アシル化ピリミジン、およびその他の公知の複素環置換基が挙げられる。核酸モノマーは、ホスホジエステル結合またはこれと似た結合により連結することができる。ホスホジエステル結合と似た結合としては、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホロセレノエート結合、ホスホロジセレノエート結合、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)結合、ホスホロアニリデート(phosphoranilidate)結合、ホスホロアミデート結合などが挙げられる。「核酸分子」は、いわゆる「ペプチド核酸」も包含し、これは、ポリアミド主鎖に付加された天然の核酸塩基または修飾核酸塩基を含む。核酸は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。いくつかの実施形態において、融合タンパク質をコードする核酸配列を提供する。
【0068】
本明細書において、「コードする」という用語は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列が、所定のアミノ酸配列などの別の巨大分子を合成するための鋳型として機能するという特性を含む。したがって、特定の遺伝子に対応するmRNAが転写および翻訳されて、細胞またはその他の生物系においてタンパク質が産生される場合、その遺伝子はこのタンパク質をコードする。
【0069】
本明細書において、「キメラ抗原受容体(CAR)」という用語は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、疾患または障害に関連する分子に結合する抗体配列またはその他のタンパク質配列のリガンド結合ドメインを含む合成設計受容体が挙げられ、好ましくは、このようなリガンド結合ドメインが、スペーサードメインを介して、細胞(例えばT細胞)の1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインまたはその他の受容体の1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン(例えば、1つ以上の共刺激ドメイン)に連結された合成設計受容体が挙げられるが、これらに限定されない。キメラ受容体は、人工細胞受容体、人工T細胞受容体、キメラ細胞受容体、キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体またはCARと呼ぶこともできる。レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを使用してキメラ受容体のコード配列を細胞(好ましくはT細胞)に移入することによって、モノクローナル抗体またはその結合断片の特異性を細胞(好ましくはT細胞)に移植することができる。いくつかの場合、CARは、特定の細胞表面抗原を発現する標的細胞へT細胞を指向させるために設計された遺伝子組換えT細胞受容体であってもよい。養子細胞移入と呼ばれる方法によって、まず対象からT細胞を得た後、抗原に対して特異性を発揮することができる受容体を発現できるようにT細胞を遺伝子操作する。次に、このT細胞を患者に再導入する。再導入されたT細胞は抗原を認識し標的とすることができる。CARは、免疫受容体を発現する細胞に任意の特異性を移植することができる遺伝子組換え受容体でもある。研究者によっては、CARは、抗体または抗体断片(好ましくは抗体の抗原結合断片)、スペーサー、シグナル伝達ドメインおよび膜貫通領域を含むものであると理解されている。本明細書に記載のCARは、様々な構成要素すなわちドメイン(例えば、エピトープ結合領域(例えば、抗体断片、scFvまたはそれらの一部)、スペーサー、膜貫通ドメインおよび/またはシグナル伝達ドメインなど)が遺伝子組換えされており、これよって驚くべき効果が得られたことから、本明細書の開示を通して、CARの各構成要素はそれぞれ独立したエレメントとして明確に区別できることが多い。CARに含まれる様々な構成要素は様々なバリエーションを有することから、例えば、所望の結合親和性を得ることができ、例えば、特定のエピトープまたは抗原に対する結合親和性が増強される。
【0070】
ベクターを使用してCARのコード配列をT細胞に移入することによって、モノクローナル抗体もしくはその結合断片またはscFvの特異性をT細胞に移植することができる。治療が必要な対象を治療するためにCARを使用する場合、養子細胞移入と呼ばれる技術が利用される。この技術では、治療対象からT細胞を採取し、得られたT細胞を遺伝子操作して、抗原に特異的なCARを発現させる。CARの発現により抗原の認識とその標的化が可能になったT細胞を患者に再導入する。
【0071】
本明細書において、「リボソームスキップ配列」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、翻訳中のリボソームにリボソームスキップ配列を「スキップ」させてペプチド結合の形成を妨げ、リボソームスキップ配列の直後の領域から翻訳させるという機能を有する配列が挙げられる。例えば、いくつかのウイルスはリボソームスキップ配列を有することから、単一の核酸から複数のタンパク質を連続して翻訳することができ、翻訳されたタンパク質はペプチド結合によって連結されずに別個のタンパク質として得られる。本明細書において、リボソームスキップ配列は「リンカー」配列として使用される。本明細書で提供する核酸の実施形態のいくつかにおいて、本発明の核酸は、キメラ抗原受容体をコードする配列とマーカータンパク質をコードする配列との間にリボソームスキップ配列を含むことから、キメラ抗原受容体とマーカータンパク質が、ペプチド結合によって連結されずに共発現される。いくつかの実施形態において、前記リボソームスキップ配列は、P2A配列、T2A配列、E2A配列またはF2A配列である。
【0072】
本明細書において、「マーカー配列」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、目的のタンパク質またはこのタンパク質を有する細胞の選択または追跡に使用されるタンパク質が挙げられる。本明細書に記載の実施形態において、本明細書で提供される融合タンパク質は、フローサイトメトリーなどの実験において選択可能なマーカー配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記マーカーは、切断型Her2(Her2t)ポリペプチドまたは切断型EGFR(EGFRt)を含む。
【0073】
本明細書において、「自殺遺伝子療法」、「自殺遺伝子」および「自殺遺伝子システム」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、アポトーシスにより細胞を破壊する方法が挙げられ、この方法では、細胞にアポトーシスを起こして自殺させる自殺遺伝子が必要とされる。腫瘍環境の治療または改変のために遺伝子組換え免疫細胞の使用を必要とする患者の安全性への懸念から、有害事象を予防または軽減するための様々な戦略が開発されつつある。前処置工程として遺伝子組換え免疫細胞を対象に移植する際に見られうる有害作用としては、移入されたT細胞が血流にサイトカインを放出することによって起こる「サイトカインストーム(サイトカイン放出症候群)」が挙げられ、この疾患では生命に危険が及ぶほどの高熱や血圧の急降下を招く恐れがある。発熱などのサイトカインストームの徴候がある場合、過去の報告に従って、タモキシフェンを用いて自殺遺伝子システムを制御してもよい。
【0074】
本明細書において、「ベクター」または「構築物」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、細胞に異種核酸を導入するために使用される核酸であって、様々な調節エレメントを含むことから、細胞において異種核酸を発現させることができる核酸が挙げられる。ベクターとしては、プラスミド、ミニサークル、酵母、ウイルスゲノム、レンチウイルスベクター、フォーミーウイルスベクター、レトロウイルスベクターまたはガンマレトロウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、DNAであってもよく、RNA(例えばmRNA)であってもよい。
【0075】
本明細書において、「T細胞」すなわち「Tリンパ球」は、どのような哺乳動物から得られたものであってもよいが、サルやヒトなどの霊長類、イヌ、ネコ、ウマなどの愛玩動物、またはヒツジ、ヤギ、ウシなどの家畜から得られたものであることが好ましい。いくつかの実施形態において、T細胞は、レシピエント対象と同種の細胞(同種であるが別のドナーに由来するもの)である。いくつかの実施形態において、T細胞は自家細胞である(ドナーとレシピエントは同じである)。いくつかの実施形態において、T細胞は同系の細胞である(ドナーとレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0076】
本明細書において、「前駆T細胞」は、胸腺へと遊走して、前駆T細胞になることができるリンパ球系前駆細胞を指し、前駆T細胞はT細胞受容体を発現しない。すべてのT細胞は、骨髄中の造血幹細胞に由来する。造血幹細胞由来の造血前駆細胞(リンパ球系前駆細胞)は、胸腺に定着して細胞分裂により拡大増殖し、未熟な胸腺細胞の大集団を作り出す。ごく初期の胸腺細胞はCD4もCD8も発現しないことから、ダブルネガティブ(CD4-CD8-)細胞に分類される。これらはその発達が進むにつれて、ダブルポジティブ胸腺細胞(CD4+CD8+)となり、最終的にシングルポジティブ(CD4+CD8-またはCD4-CD8+)胸腺細胞に成熟して、その後、胸腺から末梢組織に放出される。
【0077】
本明細書において、「造血幹細胞」すなわち「HSC」は、骨髄系細胞に分化することができる前駆細胞であり、該骨髄系細胞としては、例えば、マクロファージ、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞および/またはリンパ系細胞(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞など)が挙げられる。HSCは3種の幹細胞を含む異種細胞集団であり、これら3種の幹細胞は血液中のリンパ系子孫細胞と骨髄系子孫細胞の割合(L/M)によって区別される。
【0078】
本明細書において、「CD4+発現T細胞」および「CD4+T細胞」という用語は、本明細書を通して同じ意味で使用され、ヘルパーT細胞としても知られており、免疫系および獲得免疫系において重要な役割を果たしている。CD4+T細胞は、T細胞サイトカインを放出することにより他の免疫細胞の活性を補助する役割も果たす。CD4+T細胞は、免疫応答を補助し、抑制し、または調節する。CD4+T細胞は、B細胞抗体のクラススイッチ、細胞傷害性T細胞の活性化および増殖、ならびにマクロファージなどの食細胞の殺菌活性の最大化において不可欠である。CD4+発現T細胞は、数種類のサイトカインを産生する能力を有するが、CD4+T細胞により産生されるサイトカインの量は、移植適合性を向上または改善したり、移植適合性に寄与したり、移植適合性を誘導するような濃度ではない。本明細書において、「CD4+T細胞」は、獲得免疫系において一定の役割を果たす、成熟したヘルパーT細胞である。
【0079】
本明細書において、「CD8+発現T細胞」および「CD8+T細胞」という用語は、本明細書を通して同じ意味で使用され、TC、細胞傷害性Tリンパ球、CTL、Tキラー細胞、細胞溶解性T細胞またはキラーT細胞としても知られている。本明細書に記載されているように、CD8+T細胞は、がん細胞、ウイルス感染細胞、または損傷した細胞を殺傷することができるTリンパ球である。CD8+T細胞は、特定の抗原を認識できるT細胞受容体(TCR)を発現する。CD8+T細胞は、細胞表面にCD8を発現する。CD8+発現T細胞は、数種類のサイトカインを産生する能力を有するが、CD8+T細胞により産生されるサイトカインの量は、移植適合性を向上または改善したり、移植適合性に寄与したり、移植適合性を誘導するような濃度ではない。「CD8 T細胞」または「キラーT細胞」は、がん細胞、ウイルス感染細胞、または損傷した細胞を殺傷することができるTリンパ球である。
【0080】
成熟T細胞は、表面タンパク質としてCD4を発現し、CD4+T細胞と呼ばれる。CD4+T細胞は、一般に、免疫系においてヘルパーT細胞としての役割を果たすことが運命づけられているものとして扱われる。例えば、抗原提示細胞がクラスII MHC上に抗原を発現する場合、CD4+細胞は細胞間相互作用(例えばCD40とCD40L)の組み合わせおよびサイトカインを介して抗原提示細胞を補助する。しかしながら、稀に例外があり、例えば、制御性T細胞、ナチュラルキラー細胞、および細胞傷害性T細胞のサブグループもCD4を発現する。これらのCD4+発現T細胞群は、いずれもヘルパーT細胞とは見なされない。
【0081】
本明細書において、「セントラルメモリー」T細胞(または「TCM」)は、抗原を経験したCTLであり、ナイーブ細胞と比較して、その表面上にCD62LまたはCCR-7とCD45ROとを発現するが、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているCTLを指す。いくつかの実施形態において、セントラルメモリー細胞は、ナイーブ細胞と比較して、CD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45ROおよび/またはCD95の発現が陽性であるが、CD54RAの発現が低下している。
【0082】
本明細書において、「エフェクターメモリー」T細胞(または「TEM」)は、抗原を経験したT細胞であり、セントラルメモリー細胞と比較して、その表面上にCD62Lを発現していないか、CD62Lの発現が低下しており、ナイーブ細胞と比較して、CD45RAを発現していないか、CD45RAの発現が低下しているT細胞を指す。いくつかの実施形態において、エフェクターメモリー細胞は、ナイーブ細胞またはセントラルメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/またはCCR7の発現が陰性であり、CD28および/またはCD45RAの発現が陽性または陰性である。
【0083】
本明細書において、「ナイーブ」T細胞は、抗原を経験していないTリンパ球であり、セントラルメモリー細胞またはエフェクターメモリー細胞と比較して、CD62Lおよび/もしくはCD45RAを発現しており、かつ/またはCD45ROを発現していないTリンパ球を指す。いくつかの実施形態において、ナイーブCD8+Tリンパ球は、ナイーブT細胞の表現型マーカーの発現によって特徴付けられ、ナイーブT細胞の表現型マーカーとしては、CD62L、CCR7、CD28、CD127およびCD45RAが挙げられる。
【0084】
本明細書において、「エフェクター」T細胞または「TE」T細胞は、抗原を経験した細胞傷害性Tリンパ球であり、セントラルメモリーT細胞またはナイーブT細胞と比較して、CD62L、CCR7およびCD28を発現していないか、CD62L、CCR7およびCD28の発現が低下しており、かつグランザイムBもしくはパーフォリンまたはその両方が陽性のTリンパ球を指す。
【0085】
本明細書において、「タンパク質」は、本明細書に照らせば、一般的な通常の意味を有し、例えば、1つ以上のポリペプチド鎖を含む巨大分子が挙げられる。したがって、タンパク質は複数のペプチドから構成されていてもよい。ペプチドとは、モノマーとしての1つ以上のアミノ酸がペプチド(アミド)結合によって連結されたアミノ酸鎖である。タンパク質またはペプチドは2つ以上のアミノ酸を含んでいてもよく、タンパク質配列またはペプチド配列に含まれるアミノ酸の最大数に特に制限はない。前記アミノ酸としては、例えば、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、システイン、シスチン、グリシン、プロリン、アラニン、バリン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、ピロリシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、オルニチン、S-アデノシルメチオニンまたはセレノシステインが挙げられるが、これらに限定されない。タンパク質は、例えば、糖鎖基などの非ペプチド成分をさらに含んでいてもよい。タンパク質への糖鎖やその他の非ペプチド性置換基の付加は、該タンパク質を産生する細胞によって行われてもよく、付加される糖鎖やその他の非ペプチド性置換基の種類は細胞の種類によって異なる。本明細書において、タンパク質は、そのアミノ酸主鎖の構造によって定義され、糖鎖基などの置換基は特に規定されないが、このような置換基がタンパク質に含まれていてもよい。
【0086】
本明細書において、「細胞を増殖させること」または「増殖」は、細胞を増殖、拡大、成長かつ複製させる工程を指す。例えば、CD8+T細胞またはCD4+T細胞の培養は、通常、Tリンパ球の成長および増殖に適した条件下で、CD8+T細胞およびCD4+T細胞をインキュベートすることによって行うことができる。キメラ抗原受容体を有する遺伝子組換えT細胞を作製する方法の実施形態のいくつかにおいて、前記CD4+発現T細胞を少なくとも1日増殖させるが、20日間増殖させてもよく、例えば、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間もしくは20日間、またはこれらの時点のいずれか2つを上下限とする範囲内の期間増殖させてもよい。キメラ抗原受容体を有する遺伝子組換えT細胞を作製する方法の実施形態のいくつかにおいて、前記CD8+発現T細胞を少なくとも1日増殖させるが、20日間増殖させてもよく、例えば、1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間もしくは20日間、またはこれらの時点のいずれか2つを上下限とする範囲内の期間増殖させてもよい。
【0087】
別の一実施形態において、拡大培養方法または増殖方法は、(例えば、少なくとも0.5ng/mlの濃度で)抗CD3抗体および/または抗CD28抗体を培養培地に添加することをさらに含んでいてもよい。別の一実施形態において、キメラ抗原受容体を有する遺伝子組換えT細胞の作製方法は、IL-2、IL-15もしくはIL-21またはこれらの任意の組み合わせを培養培地に添加することをさらに含んでいてもよい(例えば、IL-2の濃度は、少なくとも10単位/mLである)。別の一実施形態において、キメラ抗原受容体を有する遺伝子組換えT細胞を作製する方法は、IL-7、IL-15もしくはIL-21またはこれらの任意の組み合わせを培養培地に添加することをさらに含んでいてもよい(例えば、IL-2の濃度は、少なくとも10単位/mLである)。拡大培養を行う前または拡大培養を行った後に、単離された細胞傷害性Tリンパ球およびヘルパーTリンパ球をそれぞれナイーブT細胞亜集団、メモリーT細胞亜集団、およびエフェクターT細胞亜集団にソートすることができる。
【0088】
本明細書で述べる「対象」または「患者」は、例えば、実験、診断、予防および/または治療を目的として、本明細書に記載の実施形態を使用または投与してもよいあらゆる生物を指す。対象または患者として、例えば、動物が挙げられる。いくつかの実施形態において、対象は、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類またはヒトである。いくつかの実施形態において、対象は、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、霊長類またはヒトである。
【0089】
本明細書で述べる「がん」は、体内の他の部位に浸潤または拡散することがある異常な細胞増殖を伴う疾患群である。本明細書に記載の方法を用いて処置することができる対象としては、がんを有するとして特定または選択された対象が挙げられ、該がんとしては、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、白血病、多発性骨髄腫、脳腫瘍などが挙げられるが、これらに限定されない。がんを有する対象の特定および/または選択は、臨床的評価または診断的評価によって行うことができる。いくつかの実施形態において、悪性黒色腫、乳がん、脳腫瘍、扁平上皮腫、大腸がん、白血病、骨髄腫または前立腺がんなどの腫瘍に関連する抗原または分子が知られている。前記がんとしては、B細胞リンパ腫、乳がん、脳腫瘍、前立腺がん、および/または白血病が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、1つ以上の腫瘍形成性ポリペプチドは、腎臓がん、子宮がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん、腎臓がん、前立腺がん、卵巣がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がん、脳腫瘍、腺癌、膵臓がん、慢性骨髄性白血病または白血病に関連している。
【0090】
いくつかの実施形態において、対象における前記がんのうちの1つ以上を治療、緩和または抑制する方法であって、該方法が、前記がんのうちの1つ以上の治療、緩和または抑制を必要とする対象に、キメラ抗原受容体(CAR)を含む本明細書に記載の細胞のいずれか1つを投与することによって実施され、前記対象が、例えば、前記がんの有無を調べるための臨床的評価または診断的評価などによって、前記がん用の医薬品を投与するために選択または特定された対象であってもよいことを特徴とする方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記がんは、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、肝臓がん、大腸がん、皮膚がん(悪性黒色腫を含む)、骨がんまたは脳腫瘍である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載のいずれかの治療を受ける対象は、さらに別のがん治療を行うために選択され、この別のがん治療として、がん治療法、放射線療法、化学療法またはがん治療薬が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記対象に提供されるがん療法薬として、アビラテロン、アレムツズマブ、アナストロゾール、アプレピタント、三酸化ヒ素、アテゾリズマブ、アザシチジン、ベバシズマブ、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、カバジタキセル、カペシタビン、カルボプラチン、セツキシマブ、化学療法薬の組み合わせ、シスプラチン、クリゾチニブ、シクロホスファミド、シタラビン、デノスマブ、ドセタキセル、ドキソルビシン、エリブリン、エルロチニブ、エトポシド、エベロリムス、エキセメスタン、フィルグラスチム、フルオロウラシル、フルベストラント、ゲムシタビン、イマチニブ、イミキモド、イピリムマブ、イクサベピロン、ラパチニブ、レナリドミド、レトロゾール、ロイプロリド、メスナ、メトトレキサート、ニボルマブ、オキサリプラチン、パクリタキセル、パロノセトロン、ペムブロリズマブ、ペメトレキセド、プレドニゾン、ラジウム223、リツキシマブ、Sipuleucel-T、ソラフェニブ、スニチニブ、タルク胸膜腔内注入用懸濁剤、タモキシフェン、テモゾロミド、テムシロリムス、サリドマイド、トラスツズマブ、ビノレルビンまたはゾレドロン酸が挙げられる。
【0091】
いくつかの実施形態は、ポリペプチド配列またはその保存的バリアント配列(例えば、ポリペプチド配列が保存的置換された配列)を含む。いくつかの実施形態において、「保存的アミノ酸置換」は、機能的に同等なアミノ酸同士が置換されるアミノ酸置換を指す。保存的アミノ酸変化によって、得られるペプチドのアミノ酸配列において同義変化が起こる。例えば、同等の極性を有する1つ以上のアミノ酸は同等の機能を有し、得られるペプチドのアミノ酸配列において同義変化が起こる。特定の残基をより小さい残基で置換した場合に電荷が変わらない置換も、たとえこれらの残基が別々のグループに属していたとしても、「保存的置換」であると考えてもよい(例えば、フェニルアラニンからより小さいイソロイシンへの置換)。類似した側鎖を有するアミノ酸残基ファミリーは当技術分野において定義されている。保存的アミノ酸置換に含まれるいくつかのファミリーを表1に示す。
【表1】
【0092】
特定のポリペプチド
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、例えば、プログラム細胞死タンパク質1(PD1)の細胞外ドメインと細胞内免疫刺激ドメインとを含むPD1キメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、PD1の細胞外ドメインをコードする第1の核酸と、細胞内免疫刺激ドメインをコードする第2の核酸とを含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインは、野生型のPD1の細胞外ドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインは、A99L置換を含む。いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインは、配列番号1または配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを含む。
【0094】
いくつかの実施形態において、前記細胞内免疫刺激ドメインは、myeloid differentiation primary response 88タンパク質(MYD88)、CD28およびCD2から選択されるタンパク質の細胞内ドメインである。いくつかの実施形態において、前記細胞内免疫刺激ドメインはMYD88またはCD2を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞内免疫刺激ドメインは、配列番号3~5のいずれかに示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを含む。
【0095】
いくつかの実施形態において、前記PD1の細胞外ドメインは、膜貫通ドメインを介して前記細胞内免疫刺激ドメインに連結されている。いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、PD1の膜貫通ドメインを含む。いくつかの実施形態において、前記PD1の膜貫通ドメインは、配列番号12のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0096】
いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、リンカーを介して前記細胞内免疫刺激ドメインに連結されている。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、グリシンリンカー、例えば、連続した2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個のグリシン残基を含むグリシンリンカー、または連続した2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個もしくは10個のグリシン残基からなるグリシンリンカーを含む。いくつかの実施形態において、前記リンカーは、配列番号13のヌクレオチド配列によってコードされる。
【0097】
いくつかの実施形態において、前記PD1キメラポリペプチドは、配列番号6~12のいずれかに示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の配列同一性、またはこれらの割合のいずれか2つを上下限とする範囲内の割合の配列同一性を有するヌクレオチド配列によってコードされる。
【0098】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、細胞表面選択マーカーをコードする第3の核酸をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記細胞表面選択マーカーは、切断型HER2(Her2tG)ポリペプチド、切断型EGFR(EGFRt)ポリペプチドおよび切断型CD19(CD19t)から選択される。いくつかの実施形態において、第2の核酸と第3の核酸は、リボソームスキップ配列を介して連結されている。いくつかの実施形態において、前記リボソームスキップ配列は、P2A、T2A、E2AおよびF2Aから選択される。
【0099】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、第1の核酸に作動可能に連結された構成的プロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記構成的プロモーターは、EF1αプロモーターを含む。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、第1の核酸に作動可能に連結された誘導型プロモーターをさらに含む。前記誘導型プロモーターの例として、米国特許公開第2020/0095573号に開示されている誘導型合成プロモーター(iSynPro)配列が挙げられる(この文献は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される)。
【0100】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、誘導型細胞傷害性遺伝子をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記細胞傷害性遺伝子は、チミジンキナーゼ、チミジル酸キナーゼに融合されたチミジンキナーゼ、オキシドレダクターゼ、デオキシシチジンキナーゼ、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ、シトシンデアミナーゼ、およびウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼに融合されたシトシンデアミナーゼから選択されるタンパク質をコードする。いくつかの実施形態において、前記細胞傷害性遺伝子は、チミジンキナーゼをコードする。
【0101】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるポリヌクレオチドのいずれか1つを含むベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、ウイルスベクターを含む。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターから選択される。いくつかの実施形態において、前記ベクターは、レンチウイルスベクターを含む。
【0102】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるポリヌクレオチドのいずれか1つによってコードされるポリペプチド、例えば、PD1キメラポリペプチドを含む。特定の実施形態において有用な特定のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を表2に挙げる。
【表2】
【0103】
特定の細胞
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるキメラポリペプチドのいずれか1つ、例えば、PD1キメラポリペプチド、またはそのようなキメラポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのいずれか1つを含む細胞または細胞集団を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする第4の核酸、および/またはCARタンパク質をさらに含む。いくつかの実施形態において、前記CARは、がん細胞によって発現される標的抗原に特異的に結合することができるか、がん細胞によって発現される標的抗原に特異的に結合するように構成されている。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、固形腫瘍細胞によって発現される。いくつかの実施形態において、前記標的抗原はCD171を含む。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記細胞はT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞に由来するものである。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。
【0106】
いくつかの実施形態において、前記細胞は初代細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、対象と同種の細胞であり、ヒトである対象と同種の細胞であることが好ましく、別の実施形態では、前記細胞は、対象から得られた自家細胞であり、ヒトである対象から得られた自家細胞であることが好ましい。
【0107】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供される細胞のいずれか1つと、薬学的に許容される添加剤とを含む医薬組成物を含む。
【0108】
細胞を作製する特定の方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、エフェクター細胞を作製することを含む。このような方法のいくつかは、本明細書において開示されたポリヌクレオチドおよびベクターのいずれか1つを細胞に導入することを含む。
【0109】
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、増強された細胞傷害活性を有するエフェクター細胞を作製することを含む。このような方法のいくつかは、本明細書において開示されたポリヌクレオチドおよびベクターのいずれか1つを細胞に導入することを含む。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は、標的抗原に特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を含む。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は、前記標的抗原の存在下において、前記ポリヌクレオチドを含まない細胞と比べて増強された細胞傷害活性を有する。いくつかの実施形態において、前記増強された細胞傷害活性は、サイトカインの発現量の増加、および/または前記標的抗原を発現する標的細胞の細胞溶解の程度の増加を含む。いくつかの実施形態において、前記サイトカインは、IL-2、IFN-γ、TNF-αおよびグランザイムBから選択される。
【0110】
いくつかの実施形態において、前記標的抗原はがん抗原である。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、固形腫瘍の細胞表面抗原を含む。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、CD171、CD19またはEGFRを含む。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はナチュラルキラー細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はT細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球であり;かつ前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は初代細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はエクスビボの細胞である。
【0112】
標的細胞を抑制する特定の方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、標的抗原を発現する標的細胞を抑制することを含む。このような方法のいくつかは、本明細書において開示されるポリヌクレオチドおよびベクターのいずれか1つを含むエフェクター細胞を前記標的細胞と接触させることを含む。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は、前記標的抗原に特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記標的細胞は、がん細胞、例えば、固形腫瘍のがん細胞である。いくつかの実施形態において、前記標的抗原はがん抗原である。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、固形腫瘍の細胞表面抗原を含む。いくつかの実施形態において、前記標的抗原は、CD171、CD19またはEGFRを含む。
【0114】
いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はナチュラルキラー細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はT細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、前駆T細胞または造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記CD8+T細胞は、ナイーブCD8+T細胞、セントラルメモリーCD8+T細胞、エフェクターメモリーCD8+T細胞およびバルクCD8+T細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性Tリンパ球であり;かつ前記CD4+T細胞は、ナイーブCD4+T細胞、セントラルメモリーCD4+T細胞、エフェクターメモリーCD4+T細胞およびバルクCD4+T細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーTリンパ球である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は初代細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はヒト細胞である。いくつかの実施形態において、前記エフェクター細胞はエクスビボの細胞である。
【0115】
特定の治療方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、治療方法に関する。本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象における疾患を治療、緩和または抑制する方法であって、疾患の治療、緩和または抑制を必要とする対象に、本明細書で提供される細胞のいずれか1つを投与することを含む方法に関する。いくつかの実施形態において、前記細胞は、キメラポリペプチド、例えば、PD1キメラポリペプチドと、CARとを含む。いくつかの実施形態において、前記疾患は、標的抗原を含むがんを含み、前記CARは、該標的抗原に特異的に結合することができる。例えば、標的抗原は、非がん細胞に存在しない抗原や、非がん細胞よりもがん細胞において高発現される抗原を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、前記がんは、大腸がん、乳がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、前立腺がん、悪性黒色腫、腎臓がん、膵臓がん、脳腫瘍、膠芽腫、神経芽腫、髄芽腫、肉腫、骨がん、肝臓がんなどの固形腫瘍;および白血病、多発性骨髄腫などの非固形腫瘍から選択される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象と同種の細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前記対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、該細胞が投与される前記対象から得られた自家細胞ではない。いくつかの実施形態において、前記対象は哺乳動物である。いくつかの実施形態において、前記対象はヒトである。本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、対象におけるがんなどの疾患の治療、緩和または抑制において使用するための、本明細書で提供される細胞および細胞集団のいずれか1つに関し、前記対象は、本明細書に記載の細胞および細胞集団のいずれか1つ以上を投与するために選択または特定された対象であることが好ましく、このような対象は、例えば、前記細胞または前記細胞集団が投与される特定の疾患(例えばがん)の臨床的評価および/または診断的評価に基づいて選択または特定することができる。
【実施例】
【0116】
実施例1-PD1キメラポリペプチドの構築
PD1キメラポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドを構築した。
図1は、EF1αプロモーター;PD1の細胞外ドメイン(野生型またはA99L置換型);PD1の膜貫通ドメイン;任意の構成要素としてのリンカー(GLY3);細胞内ドメイン(MYD88の細胞内ドメイン、CD2の細胞内ドメインまたはCD28の細胞内ドメイン);T2Aスキップ配列;およびHer2tG選択マーカーをコードする特定の複数のポリヌクレオチドを示す。各ポリヌクレオチドをレンチウイルス発現ベクターepHIV7.2に挿入した。表2は、これらのポリヌクレオチドの構築に使用した配列の一覧を示す。
【0117】
実施例2-PD1キメラポリペプチドのインビトロ活性
特定のPD1キメラポリペプチドと切断型HER2(Her2tG)ポリペプチドマーカーをコードする核酸をCD8+T細胞に導入した。このPD1キメラポリペプチドを発現する細胞をフローサイトメトリーで分析した。
図2は、特定のPD1キメラポリペプチドとHer2tGマーカーの共発現を調べたCD8+T細胞のフローサイトメトリー分析を示す。このPD1キメラポリペプチドとして、PD1(A99L):CD28ポリペプチド;PD1(野生型):CD28ポリペプチド;PD1(A99L):MYD88ポリペプチド;PD1(野生型):MYD88ポリペプチド;PD1(A99L):CD2ポリペプチド;またはPD1(野生型):CD2ポリペプチドのいずれかを使用した。いずれのCD8+T細胞でも、PD1キメラポリペプチドの発現陽性率は高かった。
【0118】
サイトカイン放出アッセイおいて、PD1キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞のサイトカイン放出活性を測定した。PD1キメラポリペプチドを含むエフェクターCD8+T細胞を標的細胞とインキュベートし、インターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン2(IL-2)または腫瘍壊死因子α(TNF-α)の産生を測定した。標的細胞として、K562親細胞、OKT3を過剰発現するK562細胞、またはOKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞を使用した。IFN-γの産生の測定では、OKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞とインキュベートした場合、PD1(A99L):MyD88キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞およびPD1(A99L):CD2キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞は、その他のキメラポリペプチドを含むCD8+T細胞よりもIFN-γの産生量が多かった(
図3)。IL-2の産生の測定では、OKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞とインキュベートした場合、PD1(WT)ドメインまたはPD1(A99L)ドメインを含むこと以外は同じ構成のキメラポリペプチドを含むCD8+T細胞間でのIL-2の産生量は同程度であった(
図4)。TNF-αの産生の測定では、OKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞とインキュベートした場合、PD1(A99L)ドメインを含むキメラポリペプチドを含むCD8+T細胞は、PD1(WT)ドメインを含むこと以外は同じ構成のキメラポリペプチドを含むCD8+T細胞よりもTNF-αの産生量が多かった(
図5)。
【0119】
クロム放出アッセイを用いて、PD1キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞の特異的な溶解活性を測定した。PD1キメラポリペプチドを含むエフェクターCD8+T細胞を標的細胞と様々な比率でインキュベートした。この標的細胞として、K562親細胞、OKT3を過剰発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞、またはCD19とPD-L1を過剰発現するK562細胞を使用した。
図6は、標的細胞に対する特異的な溶解を調べたアッセイの結果をまとめた線グラフを示し、これには対照も含まれていた。
【0120】
実施例3-PD1キメラポリペプチドとCARを含むCD8+T細胞のインビトロ活性
PD1キメラポリペプチドとキメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞の活性を測定した。EGFRvIIIに特異的に結合する806CARを使用した。CD8+T細胞に、(1)PD1キメラポリペプチドと切断型HER2(Her2tG)選択マーカーポリペプチドをコードする核酸;および(2)806キメラ抗原受容体(CAR)と切断型EGFR(EGFRt)選択マーカーポリペプチドをコードする核酸を形質導入した。806CARをコードする核酸はレンチウイルスベクターに導入した。Her2tGマーカーとEGFRtマーカーを用いて、PD1キメラポリペプチドと806CARが形質導入されてこれらが発現された細胞を細胞集団から濃縮した。PD1キメラポリペプチドと806CARを発現する細胞をフローサイトメトリーで分析した。
図7は、PD1キメラポリペプチドとHer2tGマーカーを共発現したCD8+T細胞と、806CARとEGFRtマーカーを共発現したCD8+T細胞のフローサイトメトリー分析を示す。これらの細胞は、PD1(A99L):CD28ポリペプチド;PD1(A99L):MYD88ポリペプチド;またはPD1(A99L):CD2ポリペプチドと、806CARとを含んでいた。すべてのCD8+T細胞において、PD1キメラポリペプチドと806CARの発現陽性率は高かった。
【0121】
クロム放出アッセイを用いて、PD1キメラポリペプチドと806 CARを含むCD8+T細胞の特異的な溶解活性を測定した。806CARとPD1キメラポリペプチドを含むエフェクターCD8+T細胞を標的細胞と様々な比率でインキュベートした。標的細胞として、K562親細胞、OKT3を過剰発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞、EGFRvIIIを過剰発現するK562細胞、またはEGFRvIIIとPD-L1を過剰発現するK562細胞を使用した。エフェクター細胞と標的細胞を、30:1、10:1、3:1または1:1の4つの比率で4時間にわたり共インキュベートした。
図8は、標的細胞に対する特異的な溶解を調べたアッセイの結果をまとめた線グラフを示し、これには対照も含まれていた。
【0122】
サイトカイン放出アッセイおいて、PD1キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞のサイトカイン放出活性を測定した。806CARとPD1キメラポリペプチドを含むエフェクターCD8+T細胞を標的細胞とインキュベートし、IFN-γ、IL-2またはTNF-αの産生を測定した。標的細胞として、K562親細胞、OKT3を過剰発現するK562細胞、OKT3とPD-L1を過剰発現するK562細胞、EGFRvIIIを過剰発現するK562細胞、またはEGFRvIIIとPD-L1を過剰発現するK562細胞を使用した。
図9は、IL-2の産生に関する結果を示す。
図11は、TNF-αの産生に関する結果を示す。
図10は、IFN-γの産生に関する結果を示す。これらの結果から、PD1キメラポリペプチドとCARを含むエフェクター細胞は、CARのみを含むエフェクター細胞よりも高い反応を誘導したことが示された。
【0123】
実施例4-PD1キメラポリペプチドとCARを含むH9細胞のインビトロ活性
Her2tG選択マーカーに連結された806CARをコードする核酸と、PD1キメラポリペプチドをコードする核酸をH9細胞に形質導入した。PD1キメラポリペプチドとして、PD1(A99L):CD28ポリペプチド;PD1(野生型):CD28ポリペプチド;PD1(A99L):MYD88ポリペプチド;PD1(野生型):MYD88ポリペプチド;PD1(A99L):CD2ポリペプチド;またはPD1(野生型):CD2ポリペプチドを使用した。免疫磁気選択を利用してHer2tGを選択することによって、形質導入された細胞を選択し、特異的抗体を用いてPD1またはHer2tGを染色した。
図12は、染色した細胞のFACS分析を示し、Her2tGによって形質導入細胞が効率的に選択され、この形質導入細胞が、PD1キメラポリペプチドを発現していたことが示された。
【0124】
形質導入後に選択した細胞の表面上のPD1キメラポリペプチドの相対存在量を測定した。Her2tGで選択したH9細胞を抗PD1抗体で染色し、MESFビーズまたはCellularビーズで作製した検量線に対してフローサイトメトリー分析を行って、細胞表面上のPD1キメラタンパク質の総量を定量した。測定した発現量を考慮に入れて親和性アッセイを行った(
図13A)。次に、細胞を抗PD1抗体で染色し、MESFビーズおよびQuantum Simply Cellularビーズを用いて作製した検量線と比較した(
図13B)。既知の抗体結合能(ABC)のビーズとMESFビーズとを組み合わせて使用してF/P比を測定して、蛍光色素と一次抗体の比率を求めたところ、いずれも約1.2~1.4であった(
図13C)。これらの結果から、PD1:CD2キメラポリペプチドの発現量が、その他のPD1キメラポリペプチドよりも高いことが示された(
図13A、
図13B、
図13C)。この結果は、形質導入効率、Her2tGの選択、および/またはゲノム内に組み込まれた導入遺伝子の量に起因するものであると考えられた。
【0125】
競合結合アッセイを実施して、異なるPD1キメラポリペプチド間での相対結合親和性を測定した。具体的には、PD1(WT):CD28ポリペプチドとPD1(A99L):CD28ポリペプチドの間で相対結合親和性を測定した。
【0126】
PD1(WT):CD28ポリペプチドを含むH9細胞集団をCellTrace Violetで標識し、PD1(A99L):CD28ポリペプチドを含むH9細胞集団と混合した。次に、混合した細胞を可溶性PD-L1(0.02pg/μL~20ng/μl)と30分間インキュベートした後、ストレプトアビジン-APCで染色した。次に、フローサイトメトリー分析を行って、これらの2つの細胞集団を、CellTrace Violet陽性(PD1(WT):CD28ポリペプチドを含むH9細胞)集団と、CellTrace Violet陰性(PD1(A99L):CD28ポリペプチドを含むH9細胞)集団に分けた。これらの細胞集団のAPC陽性率を分析した。この結果、PD1(A99L):CD28ポリペプチドのPD-L1に対する結合親和性は、PD1(WT):CD28ポリペプチドの約9倍であることが示された(
図14)。
【0127】
実施例5-PD1キメラポリペプチドとCARを含むCD8+T細胞の代謝分析
Seahorse代謝分析を行って、CD8+T細胞の酸素呼吸にPD1キメラポリペプチドが影響を及ぼすかどうかを評価した。このCD8+T細胞は、806CARとPD1キメラポリペプチドを含んでいた。このPD1キメラポリペプチドとして、PD1(A99L):CD28ポリペプチド、PD1(A99L):MYD88ポリペプチドまたはPD1(A99L):CD2ポリペプチドを使用した。PD1キメラタンパク質を発現するCD8+細胞を刺激した後、このCD8+細胞の酸素消費速度(OCR)を測定した。ドナーに応じて、CD8+806CARと806CAR+PD1キメラの間で差が観察されたことから、806CARのみの場合と比べて、PD1キメラによって酸素呼吸速度が摂動したことが示唆された。
【0128】
図15は、Seahorse XF細胞ミトコンドリアストレス試験のプロファイルを示す。
図16は、3人のドナー(D1、D2およびD3)由来の、806CARとPD1キメラポリペプチドを含むCD8+T細胞の酸素消費速度を示したグラフを示す。
図17A、
図17Bおよび
図17Cは、ドナーD1、ドナーD2およびドナーD3に由来するCD8+T細胞の酸素消費速度を示したグラフを示す。
【0129】
実施例6-PD1キメラポリペプチドの順位付け
PD1キメラ導入遺伝子(ライブラリーに含まれるその他の導入遺伝子から選択したもの)をCD4+T細胞またはCD8+T細胞に導入するとともに、CD19CARを形質導入し、インビトロで拡大培養した。PD1キメラを使用することによって、CD4+T細胞またはCD8+T細胞の生存率を向上させたり、その増殖を促進したりするという利点が得られるかどうかを調べるため、インビボにおいて、切断型CD19(CD19t)を発現する神経芽腫腫瘍細胞株(Be2)に対するT細胞の腫瘍チャレンジを行った。CD4+T細胞またはCD8+T細胞を尾静脈に注入した。14日後に、CD4+T細胞またはCD8+T細胞を腫瘍から回収し、磁気活性化セルソーティングで単離した。インビトロで拡大培養した後(S1Sp1)にインビボで腫瘍に暴露させたT細胞からゲノムDNAを単離し、ドロップレットデジタルPCR(ddPCR)でPD1キメラ配列を定量した。インビトロでのT細胞の拡大培養の分析とインビボでの腫瘍チャレンジの分析を行うため、CD4+T細胞またはCD8+T細胞におけるPD1キメラポリペプチドの順位付けを行った。PD1キメラ導入遺伝子の順位付けは、その存在量について行い、インビトロでのT細胞の拡大培養とインビボでのT細胞の腫瘍チャレンジを行った後の順位に基づいてスコアを付与した。PD1キメラ導入遺伝子は、インビトロでの拡大培養とインビボでの腫瘍チャレンジを通して一貫して豊富に存在していたことから、これらのPD1キメラが、CD4+CAR T細胞またはCD8+CAR T細胞に対して増強効果を付与できることが示唆された。ドナー:n=4。
図18は、「Be2-CD19t腫瘍」とS1Sp1の重み付けスコアとに関する14日目の重み付けスコアを示したグラフを示す。
【0130】
実施例7-1回目の刺激後および2回目の刺激後のサイトカイン放出アッセイ
抗CD19 CARのみ(EF1a_CD19CAR)を含むCD8エフェクターT細胞と、抗CD19 CARとPD1キメラポリペプチド(iSynPro_PD1(A99L):キメラ)を含むCD8エフェクターT細胞を作製した。抗CD19 CARは構成的プロモーターEF1aの制御下に置き;PD1キメラポリペプチドは誘導型合成プロモーターiSynProの制御下に置いた。PD1キメラポリペプチドとして、PD1(A99L):CD28;PD1(A99L):MYD88;またはPD1(A99L):CD2を使用した。切断型CD19ポリペプチドを発現するように標的神経芽腫細胞株を組み換えた(Be2-CD19t)。
【0131】
これらのエフェクター細胞と標的細胞を、4:0、4:1、2:1または1:1の様々な比率で共培養した。標的細胞は、共培養の0日目および3日目に加えた(
図19)。2日目および4日目に、Qbeadsを用いて、培養上清中のIL-2、TNF、IFN-γおよびグランザイムBの濃度を測定した。Que3でデータを収集し、ForeCytでデータを分析した。
【0132】
2日目において、IL-2、TNF、IFN-γの濃度は、CD19CARのみを含むエフェクター細胞株よりも、PD1:キメラを発現するすべてのエフェクター細胞株において高かった(
図20A、
図20B)。PD1キメラ群のうち、PD1(A99L):MYD88群におけるIL-2、TNFαおよびIFN-γの放出量が最も多かった。また、PD1(A99L):CD2群におけるグランザイムBの濃度が最も高かった。以上のデータから、Be2標的細胞株でチャレンジした場合、エフェクター関連サイトカインの放出は、CARのみの群よりもPD1キメラ群の方が多いことが示唆された。
【0133】
3日目に、エフェクター細胞に再チャレンジを行い、4日目にサイトカインの濃度を測定した(
図21A、
図21B)。0日目に最初の刺激を行った後の2日目のサイトカイン濃度と比べて、再チャレンジした際のサイトカインの濃度は低下していた。しかし、PD1:キメラを発現するすべてのエフェクター細胞株におけるIL-2、TNFおよびIFN-γの濃度は、CD19CARのみを含むエフェクター細胞株よりも高くなった。いずれのPD1キメラ群でも同じ傾向が観察され、特に、PD1(A99L):MYD88群においてIL-2、TNFαおよびIFN-γの濃度が最も高くなった。また、最も高いE:T比のみにおいて、グランザイムBの濃度がCD19CARのみの群よりも高くなったが、PD1キメラ群の間では、グランザイムBの濃度に大きな差はなかった。以上のデータから、調節された導入遺伝子であるPD1(A99L):MYD88を発現するCD8+CD19CAR T細胞は、標的で再刺激した場合のサイトカイン産生の抑制に対してより優れた耐性を示すことが示唆された。
【0134】
本明細書で使用されている「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」または「特徴とする(characterized by)」という用語と同義であるとともに、オープンエンドで包括的な意味であり、本明細書には記載されていないさらなる要素や工程を除外するものではない。
【0135】
前述の説明は、本発明のいくつかの方法および材料を開示するものである。本発明の方法および材料は、変更することができ、製造方法および器具も変更することができる。このような変更は、本開示または本明細書に開示された本発明の実施を考慮に入れて、当業者であれば容易に理解することができる。したがって、本発明は、本明細書に開示された特定の実施形態に限定されず、本発明の真の範囲および要旨において可能なあらゆる変更およびその他の態様を包含する。
【0136】
本明細書において引用された公開特許出願、非公開特許出願、特許および学術文献を含む(ただしこれらに限定されない)すべての参考文献は、引用によりその全体が本明細書に援用され、本明細書の一部を構成する。引用により援用された文献、特許または特許出願が本明細書の開示内容と矛盾する場合、このような矛盾事項よりも本明細書の記載が採用および/または優先される。
【配列表】
【国際調査報告】