IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グレフェックス, インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-545135SARS-CoVタンパク質発現細胞に対するT細胞応答を標的にする抗体コンストラクト、それらの設計および使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】SARS-CoVタンパク質発現細胞に対するT細胞応答を標的にする抗体コンストラクト、それらの設計および使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/46 20060101AFI20231019BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231019BHJP
   C07K 16/10 20060101ALI20231019BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20231019BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231019BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231019BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20231019BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/28
C07K16/10
A61K39/00 Z
A61P35/00
A61P31/14
C12N15/62 Z
C12N15/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521851
(86)(22)【出願日】2021-10-12
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 US2021054502
(87)【国際公開番号】W WO2022081529
(87)【国際公開日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】63/090,557
(32)【優先日】2020-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522382691
【氏名又は名称】グレフェックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シュテルツ, ウーベ ディー.
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA11
4C085BA71
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、ハイブリッドリガンド分子を提供する。ハイブリッドリガンド分子は、2つの抗体結合部位を有する。第1の抗体結合部位は、エフェクター細胞のエフェクター細胞受容体複合体構造に結合する。第2の抗体結合部位は、標的細胞特異的抗体結合部位である。第1のおよび第2の抗体結合部位は、連結されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的細胞特異的抗体結合部位である第2の抗体結合部位に連結された、エフェクター細胞のエフェクター細胞受容体複合体構造に結合する第1の抗体結合部位を含むハイブリッドリガンド分子。
【請求項2】
エフェクター細胞がTリンパ球であり、エフェクター細胞受容体複合体構造がT細胞受容体複合体構造である、請求項1に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項3】
第1の抗体結合部位が、Tリンパ球の表面のT細胞抗原受容体に方向付けられている、請求項2に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項4】
第1の抗体結合部位が、Tリンパ球の表面のCD3複合体に方向付けられている、請求項2に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項5】
第2の抗体結合部位が、ウイルスによってコードされ、標的細胞の表面に発現されるタンパク質に結合する、請求項1に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項6】
第2の抗体結合部位が、コロナウイルスにコードされ、標的細胞の表面に発現されるウイルスタンパク質に方向付けられている、請求項5に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項7】
第1の抗体結合部位が、T細胞受容体複合体構造に結合し、Tリンパ球を活性化することができる、請求項1に記載のハイブリッドリガン(hybrid ligan)分子。
【請求項8】
エフェクター細胞上の活性化細胞表面受容体に結合する第1の抗体結合部位を含むハイブリッドリガンド分子。
【請求項9】
エフェクター細胞が、T細胞、ナチュラルキラー細胞、貪食性の細胞およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項10】
エフェクター細胞が、アルファベータT細胞、ガンマデルタT細胞、ナチュラルキラー細胞、および貪食性の細胞からなる群から選択される、請求項9に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項11】
活性化細胞表面受容体が、CD3複合体、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)、およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項12】
活性化細胞表面受容体が、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD 16a)、FcγRIIIB(CD 16b)およびこれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載のハイブリッドリガンド分子。
【請求項13】
複数の異なる連結された抗体結合部位を含むハイブリッドリガンド分子であって、複数のもののうちの少なくとも第1のものがT細胞受容体複合体構造に結合し、複数のものの少なくとも第2のものが標的細胞特異的抗原に結合する、ハイブリッドリガンド分子。
【請求項14】
生理的に許容できる希釈剤に分散されたハイブリッドリガンド分子を含む組成物であって、前記ハイブリッドリガンド分子が複数の異なる連結された抗体結合部位を含み、複数のもののうちの少なくとも第1のものがT細胞受容体複合体構造に結合し、複数のものの少なくとも第2のものが標的細胞特異的抗原に結合し、外から供給された細胞傷害性エフェクターTリンパ球の供給源の存在下で、in vitroでの有効量で標的細胞と接触した場合に、液が前記細胞傷害性エフェクターTリンパ球による標的細胞の溶解を誘導する、組成物。
【請求項15】
感染細胞を死滅させる方法であって:
(a)生理的に許容できる希釈剤に分散された単位用量のハイブリッドリガンド分子を含有する組成物を提供することであって、ハイブリッドリガンド分子は第2の抗体結合部位に連結された第1の抗体結合部位を含み、第1の抗体結合部位はエフェクター細胞受容体複合体構造に結合し、第2の抗体結合部位はウイルス特異的抗原に結合し、組成物が、ウイルス特異的抗原を保有する細胞と反応するエフェクター細胞によってウイルス感染細胞の破壊を誘導すること;
(b)ウイルス特異的抗原を保有する感染細胞を、その産生が第1の抗体結合部位によって活性化されるエフェクター細胞の供給源の存在下で、組成物と接触させることであって、組成物が細胞傷害性エフェクターTリンパ球へのおよび感染細胞への結合をもたらすために十分な量で存在すること;ならびに
(c)(i)第2の抗体結合部位がウイルス特異的抗原に結合するため、および(ii)第1の抗体結合部位がエフェクター細胞に結合し、その産生を活性化するために十分な時間接触を維持することであって、産生されたエフェクター細胞が特定の抗原を保有する細胞と反応すること
を含む方法。
【請求項16】
感染細胞が腫瘍細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
エフェクター細胞がT細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
T細胞が貪食性の細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
実質的にすべての感染細胞が死滅されるまで工程(a)~(c)を周期的に繰り返す工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる2020年10月12日に出願された仮出願第63/090,557号の優先権を主張し、その本出願である。
【0002】
分野
本開示は、リガンド分子に、およびさらに具体的にはウイルス標的細胞関連抗体結合部位に連結されたTリンパ球活性化作用剤を含むリガンド分子に関する。
【背景技術】
【0003】
コロナウイルス(CoV)は、4つの属に分類される:アルファ、ベータ、ガンマおよびデルタコロナウイルス。多くのβ-CoVがヒトにも感染することが周知であるが、β-CoVは哺乳動物、一般にコウモリおよびげっ歯類に感染できるエンベロープを有するプラス鎖RNA(30kb)ウイルスである。ウイルスは、アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を介して宿主細胞に進入する。それらの4つの主な構造タンパク質のうち、Sタンパク質は、細胞受容体結合を媒介する。それは、フラン(furan)切断部位によって分離されるS1鎖およびS2鎖に分けられる。SARS受容体結合ドメイン(RBD)は、S1に位置し、膜融合セクションはS2に位置する。他の主なタンパク質は、M、Nおよびエンベロープ(E)タンパク質を含む。
【0004】
ヒトおよび動物におけるCoVでの感染は、軽度から中等度の上気道の短期間の疾患を一般に生じる。例外は、重度のしばしば致死性の症状によって特徴付けられる重症急性呼吸器症候群(SARS-1)、中東呼吸器症候群(MERS)および武漢を起源とするSARS-CoV-2(SARS-2)(COVID-19とも称される)である。MERSの最初の症例は、2012年9月にサウジアラビアにおいて報告され、2014年および2015年における主な発生に小規模の季節性流行が続いた。これまでに確認されたMERSの2,494症例は、患者858名の死亡(致死率34.3%;WHO)を生じたことが観察された。SARS-2感染の最初の症例は、2019年12月に見られた。2020年4月16日の時点で、疾病管理予防センター(CDC)による報告で、米国だけで推定632,000症例が報告され、推定31,000名が死亡し、致死率4.9%という結果であった。SARS-2は、およそ3のRが概算されて(Liu 2020)ヒトに高度に感染性である。世界保健機関(WHO)は、SARS-2の世界的なパンデミック、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を2020年1月30日に宣言した。
【0005】
米国では、SARS-2は、50州すべて、Washington D.C.および少なくとも4か所の準州において報告された。長期療養施設およびホームレス施設での大流行は、集団の背景での曝露および感染のリスクを際立たせた。直接または飛沫のいずれかでのヒトからヒトへの伝播は、SARS-2の伝播の主な方法であると想定される。
【0006】
SARS-2が、最も一般的な症状が発熱、咳または胸部絞扼感および呼吸困難である軽度の疾患として一般に現れる一方で、疾患は、高齢者および多罹患(polymorbid)患者については最も致死性である。重度の合併症は、肺炎、凝固亢進、多臓器機能不全(心筋損傷および腎臓を含む)ならびに究極的には死亡を含む。小児では、多系統炎症性症候群(MIS-C)は、心臓、血管、腎臓、消化器系、脳、皮膚または眼などの身体の一部分が炎症をおこす重篤な状態である。
【0007】
SARS-2のための特別な処置はなく、研究中である。現在推奨されるのは、無症候性または軽度疾患を有する患者を観察することである。中等度の疾患を有する患者において、肺疾患が急速に進行する場合があることを考えると、彼らは注意深くモニターされるべきである。疾患の重症型は、急性呼吸促迫、ウイルス誘導性血液分布異常性ショック、心機能不全、サイトカインストームおよび、広範な臓器不全も伴う。SARS-2を罹患している患者のための特別な処置は、抗ウイルス剤Remdesivir(Gilead)が臨床成績の改善に有望さを示し、入院患者のために現在推奨されて、まだ臨床試験中である。ヒドロキシクロロキンがARS-2処置のために使用するかどうかの問題は、まだわかっていない。
【0008】
CoVは、液性および細胞性免疫応答の両方を誘導する。動物試験および臨床試験は、SARS-1およびMERS感染がSタンパク質に対する強力な中和抗体応答を生じることを実証している。さらに、SARS-2液性応答は、Mタンパク質に結合する他の抗体と同様にSタンパク質を標的にする。Mタンパク質は、CD8T細胞応答の焦点としても作用する。抗SARS-2 CD4T細胞は、主にNおよびS抗原の両方を見る。不活化ウイルスワクチンは、本質的に多価である。それらは、単一のSタンパク質ワクチンよりも強いSARS-2応答をもたらすことができる。動物試験は、不活化ウイルスワクチンが、Th2型、おそらく抗N疾患増強免疫応答を誘導する傾向があることを示唆している。疾患増強は、Sベースのコンポーネントワクチンを用いても観察されたが、それらは、ウイルスベクター化抗Sワクチンでは明らかでなかった。FDAは、強い中和抗体と共にThl型T細胞極性化を実証するSARS-2ワクチンを選んでいる。
【0009】
SARS関連(SARSr)ウイルスの全体の変異率は、変異0.1個/世代と算出された。動物SARSrウイルスのS受容体結合ドメインにおけるわずかな変化は、ヒトACE2への結合を増強でき、それによりヒト集団へのジャンプを促進する。Sタンパク質配列をアラインすることは、S2領域内に顕著な安定エリアを含んで遺伝子全体にわたる顕著な相違を明らかにする一方で、SARSrウイルスのMおよびNは、全体で顕著に低い変異率を示している。
【0010】
ウイルス感染のクリアランスは、自然および適応免疫応答による複合体相互作用を含む。感染細胞は、宿主自然および適応免疫応答を開始できる炎症促進性媒介物を放出する。ウイルス感染を解決するために重要である特異的な免疫は、2つの武器を配備している。液性免疫では、CD4ヘルパーT(TH2)細胞によって導かれるB細胞は、抗体を産生する。中和Abは、ウイルスがそれらの細胞表面受容体に会合することを阻害し、それにより細胞進入を妨げる。それにより、細胞表面または病原体結合Ab受容体は、細胞進入を妨げる。細胞表面または病原体結合Abは、それらの定常(C)領域を通じて細胞溶解および食作用を媒介できる。細胞性免疫応答は、ウイルス感染の効率的なクリアランスのために重要である。CD8細胞傷害性T細胞(CTL)は、ウイルス複製の病巣を除去することに重要な役割を果たし、それにより感染プロセスを終結させる。それらが感染細胞を認識すると、それらは、細胞膜に孔をあけ、アポトーシス経路を引き起こすパーフォリンおよびグランザイムの放出によってそれらを死滅させる。CD4H1細胞は、免疫応答をさらに広げる炎症性プロセスを駆動することによってウイルスクリアランスを支持する。
【0011】
T細胞またはTリンパ球は、細胞媒介性免疫において中心的役割を果たすリンパ球の一種(白血球のサブタイプ)である。Tコール(T call)は、細胞表面のT細胞受容体の存在によって他のリンパ球、例えばB細胞および実際のキラー細胞(actual killer cells)とは区別され得る。T細胞のいくつかのサブセットは、それぞれ別個の機能を有する。大部分のT細胞は、それらのアルファおよびベータ鎖を細胞受容体上に再配置し、アルファデータT細胞(αβT細胞)と称され、適応免疫系の一部である。特定化されたガンマデルタT細胞、ヒトの身体においてごく少数のT細胞は、多様性が限定的なインバリアントT細胞受容体を有し、他のT細胞に効果的に抗原を提示でき、自然免疫系の一部であると考えられている。
【0012】
エフェクターT細胞のカテゴリーは、同時刺激などの刺激に活発に応答する種々のT細胞型を含む広範なものである。これは、ヘルパー、キラー、制御性および潜在的に他のT細胞型を含む。ヘルパーT細胞(T細胞)は、B細胞の形質細胞およびメモリーB細胞への成熟ならびに細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化を含む免疫学的プロセスにおいて他の白血球を補助する。これらの細胞は、それらの表面にCD4糖タンパク質を発現することからCD4T細胞としても周知である。ヘルパーT細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子によってペプチド抗原を提示された場合に活性化される。活性化されると、それらは、迅速に分割し、活発な免疫応答を制御または補助するサイトカインと呼ばれる小さなタンパク質を分泌する。これらの細胞は、THl、TH2、TH3、TH17、TH9またはTFHを含むいくつかのサブタイプの1つに分化でき、異なる種類の免疫応答を促進する異なるサイトカインを分泌する。APCからのシグナル伝達は、T細胞を特定のサブタイプに方向付ける。
【0013】
細胞傷害性T細胞(Tc細胞、CTL、Tキラー細胞、キラーT細胞)は、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を破壊し、移植片拒絶反応にも関与する。これらの細胞は、その表面にCD9糖タンパク質を発現することからCD8T細胞としても周知である。これらの細胞は、すべての有核細胞の表面に存在するMHCクラスI分子を伴った抗原に結合することによってそれらの標的を認識する。IL-10、アデノシンおよび制御性T細胞によって分泌される他の分子を通じて、CD9細胞は、自己免疫疾患を予防するアネルギー性状態に不活性化され得る。
【0014】
ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞-自然免疫系のナチュラルキラー細胞と混同しないこと)は、適応免疫系と自然免疫系とを橋渡しする。主要組織適合複合体(MHC)分子によって提示されるペプチド抗原を認識する従来のT細胞とは異なり、NKT細胞は、CD Idと呼ばれる分子によって提示される糖脂質抗原を認識する。活性化されるとこれらの細胞は、T細胞およびTc細胞の両方に起因する機能を実施できる(すなわち、サイトカイン産生および細胞溶解性/細胞死滅分子の放出)。それらは、一部の腫瘍細胞およびヘルペスウイルスに感染した細胞を認識し、除去することもできる。
【0015】
ガンマデルタT細胞(γδT細胞)は、それらの表面に独特なT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さなサブセットを表す。大部分のT細胞は、α-およびβ-TCR鎖と呼ばれる2つの糖タンパク質鎖から構成されるTCRを有する。γδT細胞を活性化する抗原性分子は、いまだ全く未知である。しかし、γδT細胞は、非MHC拘束性であり、APC上にMHC分子によって提示される要求されるペプチドよりむしろ全タンパク質を認識することができると考えられる。しかし、一部のマウスγδT細胞は、MHCクラスIB分子を認識する。末梢血において主なγδT細胞集団を構成するヒトVγ0/Vδ2T細胞は、それらが、実質的にすべての生細胞によって産生されるホスホ抗原と集合的に呼ばれる一連の非ペプチド性リン酸化イソプレノイド前駆体に特異的かつ迅速に応答することから独特である。動物およびヒト細胞(がん細胞を含む)由来の最も一般的なホスホ抗原は、イソペンテニルピロホスフェート(IPP)およびその異性体ジメチルアリルピロホスフェート(DMPP)である。多くの微生物は、高度に活性の化合物ヒドロキシ-DMAPP(HMB-PP)および対応するモノヌクレオチドコンジュゲートをIPPおよびDMAPPに加えて産生する。植物細胞は、両方の種類のホスホ抗原を産生する。薬物活性化ヒトVγ9/Vδ2T細胞は、内因性のIPP/DMAPPを上方制御する合成ホスホ抗原およびアミノビスホスホネートを含む。
【0016】
Tリンパ球活性化経路:T細胞は、主に2つの経路で免疫防御に寄与する;一部は免疫応答を方向付け、制御し;他は感染またはがん性細胞を直接攻撃する。CD4T細胞の活性化は、APC上の主要組織適合複合体(MHCII)ペプチドおよび同時刺激分子によるT細胞受容体およびT細胞上の同時刺激分子(CD29、またはICOSなど)の同時会合を通じて生じる。CD8T細胞の活性化は、APC上の主要組織適合複合体(MHCI)ペプチドおよび同時刺激分子によるT細胞上のT細胞受容体および同時刺激分子(CD28、またはICOSなど)の同時会合を通じて生じる。両方のシグナルは、効果的な免疫応答の産生のために必要であり;同時刺激の非存在下、T細胞受容体シグナル伝達単独では、アネルギーを生じる。同時刺激分子より下流のシグナル伝達経路は、原形質膜でPIP3を生成し、PKCθの活性化および最終的にIL-2産生のために不可欠であるPDK1などのシグナル伝達分子を含有するPHドメインをリクルートするPI3K経路に通常関与する。最適なCD8T細胞応答は、CD4シグナル伝達に依存する。CD4細胞は、ナイーブCD8 T細胞の初期の抗原性活性化において有用であり、急性の感染の後にメモリーCD8T細胞を維持する。したがって、CD4-T細胞の活性化は、CD8T細胞の作用に有益であり得る。
【0017】
第1のシグナル伝達は、APC上のMHCIIにおいて提示されるその同族ペプチドへのT細胞受容体の結合によってもたらされる。MHCIIは、いわゆるプロフェッショナルな抗原提示細胞、2~3例をあげると樹状細胞、B細胞およびマクロファージなどに限定される。MHCクラスI分子によってCD8T細胞に提示されるペプチドは、長さ8~9アミノ酸であり;MHCクラスII分子の結合間隙の末端が開いていることから、MHCクラスII分子によってCD4細胞に提示されるペプチドはより長く、通常長さ12~25アミノ酸である。第2のシグナルは同時刺激に由来し、APC上の表面受容体は、比較的少数の刺激、通常は病原体の産生物、時には細胞の分解産物、例えば、壊死した身体または熱ショックタンパク質によって誘導される。ナイーブT細胞によって構成的に発現される唯一の同時刺激受容体は、CD28であり、そのためこれらの細胞のための同時刺激はAPC上でそれぞれB7タンパク質、B7.1およびB7.2を合わせて構成するCD80およびCD86タンパク質由来である。他の受容体は、T細胞の活性化で発現される、例えばOX40およびICOSであるが、これらは、それらの発現についてCD28に大きく依存する。第2のシグナルは、抗原に応答するようにT細胞をライセンス化する。それがなければ、T細胞はアネルギー性になり、その先の活性化がさらに困難になる。この機構は、自己ペプチドが適切な同時刺激と共には通常提示されないことから、自己への不適切な応答を予防する。T細胞が適切に活性化される(すなわち、シグナル1およびシグナル2を受ける)と、種々のタンパク質の細胞表面での発現を変更する。T細胞活性化のマーカーは、CD69、CD71およびCD25(Treg細胞についてのマーカーでもある)ならびにHLA-DR(ヒトT細胞活性化のマーカー)を含む。CTLA-4発現は、活性化T細胞でも上方制御され、次に、B7タンパク質への結合についてCD28に勝る。これは、T細胞の過活性化を妨げるためのチェックポイント機構である。活性化T細胞はそれらの細胞表面グリコシル化プロファイルも変化させる。
【0018】
T細胞受容体は、いくつかのタンパク質の複合体として存在する。実際のT細胞受容体は、独立したT細胞受容体アルファおよびベータ(TCRαおよびTCRβ)遺伝子から産生される2本の別々のペプチド鎖から構成される。複合体中の他のタンパク質は、CD3タンパク質:CD3εγおよびCD3εδヘテロダイマーおよび最も重要には、合計6個のITAMモチーフを有するCD3ζホモダイマーである。CD3ζ上のITAMモチーフは、Lckによってリン酸化されてもよく、次にZAP-70をリクルートする。Lckおよび/またはZAP-70は、多数の他の分子、特にCD28、LATおよびSLP-76上のチロシンもリン酸化することができ、これらのタンパク質周辺のシグナル伝達複合体の凝集を可能にする。リン酸化LATは、次にPLC-γ、VAV1、ltkおよび潜在的にPI3Kを取り込み得る膜にSLP-76をリクルートする。PLC-γは、活性中間体ジアシルグリセロール(DAG)、イノシトール-1,4,5-トリスホスフェート(IP3)を生じるように膜の内葉でPI(4,5)P2を切断する;PI3KはPIP2にも作用し、ホスファチジルイノシトール-3,4,5-トリスホスフェート(PIP3)を産生するようにそれをリン酸化する。DAGは、一部のPKCに結合し、活性化する。T細胞において最も重要なのは、転写因子NF-κBおよびAP-1を活性化するために重要なPKCθである。IP3は、PLC-γによって膜から放出され、急速に拡散(diffuse)してER上のカルシウムチャンネル受容体を活性化し、サイトゾルへのカルシウムの放出を誘導する。小胞体での低カルシウムは、ER膜上にSTIM1クラスター形成を生じ、細胞膜CRACチャンネルの活性化をもたらし、細胞外間隙からサイトゾルへのカルシウムの追加的な流れを可能にする。この集まったサイトゾルのカルシウムはカルモジュリンに結合し、次いでカルシニューリンを活性化し得る。次にカルシニューリンは、NFATを活性化し、次いで核に移動する。NFATは、一連の多面発現的な遺伝子、最も有名なのはIL-2、活性化T細胞の長期間の増殖を促進するサイトカイン、の転写を活性化する転写因子である。PLCγは、NF-κB経路を開始することもできる。DAGはPKCθを活性化し、次にCARMA1をリン酸化し、それをアンフォールドさせ、スキャフォールドとして機能する。サイトゾルドメインは、次にTRAF6に結合するCARD(カパーゼ(Capase)活性化誘引ドメイン)ドメインを介してアダプターBCL10に結合し、K63をユビキチン化する。この形態のユビキチン化は、標的タンパク質の分解を生じない。むしろ、NEMO、IKKαおよびβ、ならびにTAB 1-2/TAK1をリクルートするように作用する。TAK1はIKK-βをリン酸化し、次にK48ユビキチン化を可能にするようにIκBをリン酸化し:プロテオソーム分解を生じる。次にRel Aおよびp50は、核に進入し、NF-κB応答エレメントに結合できる。これはNFATシグナル伝達と一体となってIL-2遺伝子の完全な活性化を可能にする。
【0019】
CD4およびCD8Tリンパ球に成熟する未成熟Tリンパ球は、発達の際に、それぞれのヒトまたは動物に存在するクラスIおよびクラスII MHC分子のセットと関連して外来抗原を認識するそれらの能力について選択される。MHC分子のこのセットを使用できない未成熟Tリンパ球は、胸腺でのこのポジティブ選択プロセスの際に成熟しない。別のプロセスでは、それぞれのヒトまたは動物に存在する自己抗原由来のペプチドを認識する未成熟Tリンパ球は、成熟Tリンパ球に発達することが許されない。このプロセスは、ネガティブ選択と呼ばれる。これら2つのプロセスの結果として、ヒトまたは動物に存在する成熟T細胞のレパートリーは、それらの成熟化の際に存在するMHC分子のセット内に存在するMHC分子と共に抗原由来のペプチドを認識できるだけである。異なるヒトおよび動物が異なるセットのMHC分子を一般に保有することから、それらのab T細胞は、所与のab T細胞が、ドナーにおいてポジティブ選択されたものと同一または密接に関連するMHC分子を宿主において見出さない限り、新たな宿主への移入において機能しない。ab T細胞によるこのMHC拘束性認識は、あるヒトまたは動物から別のヒトまたは動物へのab T細胞、したがってそれらのエフェクター機能の移入を不可能ではないが困難にする。
【0020】
免疫グロブリン(Ig)としても公知の抗体(Ab)は、細菌およびウイルスなどの病原体を同定および中和する免疫系によって使用され、形質細胞によって主に産生されるY形タンパク質である。抗体は、例えば、これらに限定されないが、タンパク質または炭水化物などの抗原と呼ばれる分子をFabの可変領域を介して認識する。抗体の「Y」の各先端は、パラトープ(鍵に似ている)を含有し、これは抗原上のある特定のエピトープ(同様に、鍵穴に似ている)に特異的であり、これら2つの構造物が正確に一緒に結合できるようにする。エピトープは、それに抗体超可変領域またはパラトープが結合する抗原の領域またはドメインとして定義される。免疫系の他の成分と情報交換する抗体の能力は、これらの相互作用に関与する保存されたグリコシル化部位を含有するそのFc領域(「Y」の基部に位置する)を介して媒介される。抗体の産生は、液性免疫系の主な機能である。抗体は、適応免疫系のB細胞によって、形質細胞と呼ばれる分化したB細胞によって主に分泌される。抗体は、2つの物理的な形態、血漿中に細胞から自由に分泌される可溶型形態、およびB細胞の表面に付着し、B細胞受容体(BCR)と称される膜結合形態であり得る。BCRは、B細胞の表面においてだけ見出され、これらの細胞の活性化および、形質細胞と呼ばれる抗体工場または、身体内に残存し、B細胞が将来の曝露により速く応答できるようにその同じ抗原を覚えるメモリーB細胞のいずれかへの続く分化を促進する。可溶型抗体は、血液または組織液および多数の分泌物に放出され、侵入する微生物に対する調査を継続する。所与の抗体を産生するB細胞および形質細胞は、これらの細胞を不死化細胞に融合することによって不死化され得る。生じた融合産物は、ハイブリドーマと呼ばれ、無制限に増殖でき、それぞれの単一の抗体を大量に産生するために使用され得る。代替的に、B細胞および形質細胞は、ある特定のウイルス、例えば、これらに限定されないが、エプスタイン・バーウイルス(EBV)でのその感染によって、または不死化遺伝子を用いるそれらのトランスフェクションによって不死化され得る。
【0021】
抗体は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖タンパク質である。それらは、血液タンパク質のガンマグロブリン画分の大部分を構成する。それらは、2本の大きな重鎖および2本の小さな軽鎖をそれぞれ含む基本的構造単位から典型的にはできている。抗原結合断片に結合し得る5つの異なる種類の結晶化可能な断片(Fc)を決めるいくつかの異なる種類の抗体重鎖がある。5つの異なる種類のFc領域は、抗体を5つのアイソタイプに分類するようになる。特定の抗体アイソタイプの各Fc領域は、その特異的Fc受容体に結合することができ(本質的にBCRであるIgDを除く)、それにより、それが結合したFcRに応じてさまざまな役割を抗原-抗体複合体が媒介するようにする。その対応するFcRに結合する抗体の能力は、そのFc領域内の保存された部位に存在するグリカン(複数可)の構造によってさらに調節される。FcRに結合する抗体の能力は、それらが遭遇するそれぞれ異なる種類の外来性の目的物に対して適切な免疫応答を方向付けることを助ける。例えば、IgEは、マス細胞(mas cell)脱顆粒およびヒスタミン放出からなるアレルギー反応に関与する。IgEのFabパラトープは、アレルギー性抗原、例えば、ハウスダストダニ粒子に結合する一方で、そのFc領域はFc受容体εに結合する。アレルゲン-IgE-FcRε相互作用は、喘息などの状態を誘導するアレルギー性シグナル伝達を媒介する。
【0022】
抗体と抗原とは、空間的相補性(鍵と鍵穴)によって相互作用する。Fabエピトープ相互作用に関与する分子力は、弱く、非特異的である-例えば、静電力、水素結合、疎水性相互作用、およびファンデルワールス力。このことは、抗体と抗原との間の結合が可逆的であることを意味し、抗原に対する抗体の親和性は絶対的よりむしろ相対的である。比較的弱い結合は、抗体が異なる相対的親和性の異なる抗原に交差反応することができることも意味する。ハプテンは、それら自体によって免疫応答は生じないにもかかわらず抗体によって認識され得る小さな分子である。
【0023】
抗体は、重い(約150kDa)球状血漿タンパク質である。それらは、保存されたアミノ酸残基に付加された糖鎖(グリカン)を有する。言い換えると抗体は、糖タンパク質である。とりわけ、発現されたグリカンは、その対応するFcR(複数可)に対する抗体の親和性を調節できる。各抗体の基本的な機能単位は、免疫グロブリン(Ig)モノマー(1個のIg単位だけを含有する)であり;分泌された抗体は、IgAのように2個のIg単位を有するダイマー、硬骨魚IgMのように4個のIg単位を有するテトラマー、または哺乳動物IgMのように5個のIg単位を有するペンタマーであってもよい。
【0024】
Igモノマーは、4本のポリペプチド鎖;ジスルフィド結合によって繋がれた2本の同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」形分子である。各鎖は、免疫グロブリンドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは、約70~110アミノ酸を含有し、それらのサイズおよび機能によってさまざまなカテゴリー(例えば、可変またはIgV、および定常またはIgC)に分類される。それらは、保存されたシステインおよび他の荷電アミノ酸間の相互作用によって結びついている2つのベータシートが「サンドイッチ」形を作る特徴的な免疫グロブリンフォールドを有する。
【0025】
ギリシャ文字α、β、ε、γおよびμによって記される5種類の哺乳動物Ig重鎖がある。存在する重鎖の種類は、抗体のクラスを明らかにし;これらの鎖はそれぞれIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体において見出される。別個の重鎖は、サイズおよび組成において異なっており;αおよびγはおよそ450アミノ酸を含み、一方μおよびεはおよそ550アミノ酸を有する。
【0026】
典型的な抗体のドメインおよび構造は:
Fab領域;
Fc領域;
1個の可変(V)ドメインに続く定常ドメイン(Cl)、ヒンジ領域、およびさらに2個の定常(C2およびC3)ドメインを含む重鎖(青);
1個の可変(V)および1個の定常(C)ドメインを含む軽鎖;
抗原結合部位(パラトープ);ならびに
ヒンジ領域
である。
【0027】
重鎖は、2個の領域、定常領域および可変領域を有する。定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体において同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、αおよびδは、3個のタンデム型(一列の)Igドメイン、および可動性を付与するためのヒンジ領域から構成される定常領域を有し;重鎖μおよびεは、4個の免疫グロブリンドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生される抗体では異なっているが、単一のB細胞またはB細胞コーン(B cell cone)によって産生されるすべての抗体について同じである。各重鎖の可変領域は、およそ110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0028】
哺乳動物では、ラムダ(λ)およびカッパ(κ)と呼ばれる2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は、2つの連続的ドメイン:1つの定常ドメインおよび1つの可変ドメインを有する。軽鎖のおよその長さは211~217アミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を含有し;哺乳動物では抗体あたりで1種類だけの軽鎖κまたはλが存在する。他の種類の軽鎖、例えば、イオタ(I)鎖は、サメ(軟骨魚網(Chondrichthyes))および硬骨魚(真骨下網(Teleostei))などの他の脊椎動物において見出される。
【0029】
抗体の一部分は同じ機能を有する。例えばYのアームは、抗原(一般に、同一)に結合できる部位を含有し、それにより特定の外来性の目的物を認識できる。抗体のこの領域は、Fab(断片、抗原結合)領域と呼ばれる。それは、抗体の各重鎖および軽鎖由来の1つの定常および1つの可変ドメインから構成される。パラトープは、重鎖および軽鎖由来の可変ドメインによって抗体モノマーのアミノ末端に形作られる。可変ドメインは、Fv領域とも称され、抗原への結合のために最も重要な領域である。特異的であるために、β-ストランドの可変ループ、軽(V)鎖および重(V)鎖上でそれぞれ3個が、抗原への結合に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と称される。
【0030】
Yの基部は、免疫細胞活性を調節する役割を果たす。この領域は、Fc(断片、結晶化可能)領域と呼ばれ、抗体のクラスに応じて2つまたは3つの定常ドメインを与える2本の重鎖から構成される。それによりFc領域は、特定のクラスのFc受容体、および他の免疫分子、例えば補体タンパク質に結合することによって、各抗体が所与の抗原に対する適切な免疫応答を生じさせることを確実にする。これにより、オプソニン化粒子の認識(FcγRへの結合)、細胞の溶解(補体への結合)、マス細胞(mas cell)、好塩基球および好酸球性の脱顆粒(FcεRへの結合)を含むさまざまな生理的効果を媒介する。
【0031】
要約すると、抗体のFab領域は抗原特異性を決定する一方で、抗体のFc領域は、抗体のクラス効果を決定する。重鎖の定常ドメインだけが抗体のFc領域を形成することから、抗体における重鎖のクラスはそれらのクラス効果を決定する。抗体における重鎖のあり得るクラスは、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロンおよびミューを含み、それらは抗体のアイソタイプIgA、G、D、EおよびMをそれぞれ決定する。このことは、抗体の異なるアイソタイプが、それらの異なるFc領域結合および異なる種類の受容体を活性化することにより、異なるクラス効果を有することを示す。考えられる抗体のクラス効果は:オプソニン化、凝集、溶血、補体活性化、マスト細胞脱顆粒および中和(しかし、このクラス効果は、Fc領域よりむしろFab領域によって媒介され得る)を含む。Fab媒介効果が微生物または毒素に方向付けられる一方で、Fc媒介効果がエフェクター細胞またはエフェクター分子に方向付けられることも意味する。
【0032】
細胞外で複製する病原体と戦うために、抗体は病原体にそれらを連結するように結合し、それらを凝集させる。抗体が少なくとも2つのパラトープを有することから、それは、これらの抗原の表面に保有される同一のエピトープに結合することによって1つより多い抗原に結合できる。病原体をコーティングすることによって、抗体は、それらのFc領域を認識する、細胞中の病原体に対するエフェクター機能を刺激する。コーティングされた病原体を認識するこれらの細胞は、Fc受容体を有し、名称が示すとおり、IgA、IgG、およびIgE抗体のFc領域と相互作用する。特定の細胞上のFc受容体と特定の抗体との会合は、その細胞のエフェクター機能を引き起こし;貪食細胞は貪食し、マスト細胞および好中球は脱顆粒し、ナチュラルキラー細胞はサイトカインおよび細胞傷害性分子を放出し;最終的には侵入した微生物の破壊を生じる。抗体によるナチュラルキラー細胞の活性化は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)として周知の細胞傷害性機構を開始させ-このプロセスは、がんに対する生物学的療法において使用されるモノクローナル抗体の有効性を説明できる。Fc受容体は、アイソタイプ特異的であり、免疫系にさらに大きな適応性をもたらし、別個の病原体に対して適切な免疫機構だけを生じさせる。
【0033】
ある特定の細胞は、コーティングされた病原体をそれらのFc受容体を介して認識でき、名称が示すとおり、IgA、IgG、およびIgE抗体のFc領域と相互作用する。特定の細胞上のFc受容体と特定の抗体との会合は、その細胞のエフェクター機能を引き起こし;貪食細胞は貪食し、マスト細胞および好中球は脱顆粒し、ナチュラルキラー細胞はサイトカインおよび細胞傷害性分子を放出し;最終的には侵入した微生物の破壊を生じる。抗体によるナチュラルキラー細胞の活性化は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)として周知の細胞傷害性機構を開始させ-このプロセスは、がんに対する生物学的療法において使用されるモノクローナル抗体の有効性を説明できる。Fc受容体は、アイソタイプ特異的であり、免疫系にさらに大きな適応性をもたらし、別個の病原体に対して適切な免疫機構だけを生じさせる。
【0034】
Fc受容体は、ある特定の細胞-とりわけBリンパ球、濾胞性樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球、好酸球性、好塩基球、ヒト血小板およびマスト細胞を含む-の表面に見出されるタンパク質であり、免疫系の防御機能に寄与する。その名称は、Fc(断片、結晶化可能)領域として周知の抗体の一部についてのその結合特異性に由来する。Fc受容体は、感染細胞または侵入した病原体に付着した抗体に結合する。それらの活性は、抗体媒介食作用または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)によって微生物または感染細胞を破壊するように食作用性または細胞傷害性細胞を刺激する。
【0035】
すべてのFcγ受容体(FcγR)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、オプソニン化された(マークされた)微生物の食作用を誘導するために最も重要なFc受容体である。このファミリーは、それらの異なる分子構造のために親抗体和性において異なるいくつかのメンバー、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD 16a)、FcγRIIIB(CD 16b)を含む。例えば、FcγRIは、FcγRIIまたはFcγRIIIが結合するよりも強くIgGに結合する。FcγRIは、3個の免疫グロブリン(Ig)様ドメイン、FcγRIIまたはFcγRIIIが有するよりも1つ多いドメイン、から構成される細胞外部分も有する。この特性は、FCγRIが単独のIgG分子(またはモノマー)に結合できるようにするが、すべてのFcγ受容体は活性化される免疫複合体内で複数のIgG分子に結合しなければならない。
【0036】
Tリンパ球によるMHC拘束性認識の制限を回避するために主に2つの戦略がある、(1)キメラT細胞受容体:抗体、例えば、広範に反応性の抗ウイルス抗体の特異性がTCR複合体のメンバーに移植される方法でのTCR複合体の操作、または(2)ハイブリッド抗体:抗体、例えば、広範に反応性の抗ウイルス抗体のうちの1つの可変ドメインを、TCR複合体の1つまたは複数のメンバーに単独でまたはT細胞アクセサリー分子と共に結合する抗体可変領域に連結する抗体コンストラクトの使用。
【0037】
人工T細胞受容体(キメラT細胞受容体、キメラ免疫受容体、キメラ抗原受容体(CAR)としても周知)は、抗体特異性をTCR複合体に移植する、操作された受容体である。典型的には、これらの受容体は、レトロウイルスベクターによって促進されるそれらのコード配列の移入を用いて、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植するために使用される。CARの最も一般的な形態は、CD3-ゼータ膜貫通およびエンドドメインに融合されたモノクローナル抗体由来の単鎖可変断片(scFv)の融合物である。このようなコンストラクトの例は、14g2a-ゼータであり、ハイブリドーマ14g2a由来のscFvの融合物である(ジシアロガングリオシドGD2を認識する)。
【0038】
免疫グロブリン重鎖および軽鎖の可変部分は、可動性のリンカーによって融合されてscFvを形成する。このscFvは、新生タンパク質を小胞体に、および続いて表面発現(切断されて)に方向付けるシグナルペプチドに先行される。可動性スペーサーは、抗原結合を可能にするようにscFvがさまざまな方向に向けるようにする。膜貫通ドメインは、典型的な疎水性アルファヘリックスであり、細胞に突き出し、所望のシグナルを伝達する元の分子のシグナル伝達エンドドメインに通常由来する。ScFv/CD3ゼータハイブリッドは、その標的のscFvによる認識に応答してゼータシグナルの伝達を生じる。
【0039】
最も一般的に使用されるエンドドメイン成分は、3ITAMを含有するCD3ゼータである。これは、抗原が結合した後にT細胞に活性化シグナルを伝達する。CD3ゼータは、完全に適格性の活性化シグナルを提供できず、共刺激シグナル伝達が必要である。例えば、キメラCD29およびOX40は、増殖/生存シグナルを伝達するためにCD3-ゼータと共に使用されてもよく、または3つすべてが合わせて使用されてもよい。第1世代CARは、内因性のTCR由来のシグナルの主な伝達物質であるCD3ζ鎖由来の細胞内ドメインを典型的には有する。第2世代CARは、種々の同時刺激タンパク質受容体(例えば、CD29、41BB、ICOS)由来の細胞内シグナル伝達ドメインをCARの細胞質テールに加え、T細胞に追加的シグナルをもたらす。前臨床研究は、第2世代がT細胞の抗腫瘍活性を改善することを示した。さらに最近、第3世代CARは、力価を増強するために複数のシグナル伝達ドメインを組み合わせる、例えばCD3z-CD28-41BBまたはCD3z-CD28-OX40。
【0040】
ハイブリッド抗体(HAb)、例えば、二重特異性モノクローナル抗体または多重特異性モノクローナル抗体は、2つ(またはそれを超える)異なるモノクローナル抗体の断片から構成される人工タンパク質であり、結果として2つ(またはそれを超える)異なる種類の抗原に結合する。この手法の最も広範に使用される応用は、HAbが、細胞傷害性細胞(受容体、例えばT細胞受容体複合体、例えばCD3、またはFc受容体複合体の成分を使用する)および破壊される腫瘍細胞などの標的に同時に結合するように操作されるがん免疫療法である。
【0041】
HAbは、さまざまな方法で産生される。第1世代のHAbは、2本の重鎖および2本の軽鎖、それぞれ2つの異なる抗体由来のもの、から構成される。2つのFab領域(アーム)は、2つの抗原に対して方向付けられている。Fc領域(フット)は、2本の重鎖から形成されており、第3の結合部位を形成する;そのためこの名称である。このような抗体は、目的の2つの抗体を産生する2つのB細胞ハイブリドーマを融合することによって産生され得る。これら、いわゆるクアドローマは、次に、問題のHAbが精製され得る抗体を放出する。代替的には、異なる抗体鎖は、発現ベクターに遺伝的にクローニングされ、次いで産生細胞にトランスフェクトされた。
【0042】
二重特異性抗体の他の種類は設計されている。それらは、Fab領域だけからなる化学的に連結されたFab、および種々の種類の二価および三価の単鎖可変性断片(scFvs)、2つの抗体の可変ドメインを模倣する融合タンパク質を含む。これらの新規形態のさらに開発されたものは、二重特異性T細胞エンゲージャーおよびmAb2’、Fc定常領域の代わりにFcab抗原結合断片を含有するように操作された抗体である。
【0043】
例えば、可変ドメインの上部を形成する2つのパラトープのうち、一方は腫瘍抗原に対して、他方はCD3などのT-リンパ球抗原に方向付けられてもよい。一部の場合では、Fc領域は、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞または樹状細胞などのFc受容体を発現する細胞にも結合できる。
【0044】
このファミリーは、それらの異なる分子構造のために親抗体和性において異なるいくつかのメンバー、FcγRI(CD674)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIII A(CD 16a)、RcγRIIIB(CD 16b)を含む。例えば、FcγRIは、FcγRIIまたはFcγRIIIが結合するよりも強くIgGに結合する。FcγRIは、3個の免疫グロブリン(Ig)様ドメイン、FcγRIIまたはFcγRIIIが有するよりも1つ多いドメイン、から構成される細胞外部分も有する。この特性は、FcγRIが単独のIgG分子(またはモノマー)に結合できるようにするが、すべてのFcγ受容体は活性化される免疫複合体内で複数のIgG分子に結合しなければならない。
【0045】
Fc受容体(FcR)は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。(1)キメラFc受容体:抗体、例えば、広範に反応性の抗ウイルス抗体の特異性がFc受容体複合体のメンバーに移植される方法でのFc受容体複合体の操作、または(2)ハイブリッド抗体:抗体、例えば、広範に反応性の抗ウイルス抗体のうちの1つの可変ドメインを、Fc受容体複合体の1つまたは複数のメンバーに単独でまたはアクセサリー分子と共に結合する抗体可変領域に連結する抗体コンストラクトの使用によって、抗体特異性をFc受容体に移植することは可能である。
【発明の概要】
【0046】
本開示は、ハイブリッドリガンド分子を提供する。本開示の実施形態により、ハイブリッドリガンド分子は、標的細胞特異的抗体結合部位である第2の抗体結合部位に連結されたエフェクター細胞のエフェクター細胞受容体複合体構造に結合する第1の抗体結合部位を含む。
【0047】
一実施形態では、エフェクター細胞はTリンパ球であり、エフェクター細胞受容体複合体構造はT細胞受容体複合体構造である。さらなる実施形態では、第1の抗体結合部位は、Tリンパ球の表面のT細胞抗原受容体に方向付けられている。またさらなる実施形態では、第1の抗体結合部位は、Tリンパ球の表面のCD3複合体に方向付けられている。
【0048】
一実施形態では、第2の抗体結合部位は、ウイルスによってコードされ、標的細胞の表面に発現されるタンパク質に結合する。さらなる実施形態では、第2の抗体結合部位は、コロナウイルス内にコードされ、標的細胞の表面に発現されるウイルスタンパク質に方向付けられている。さらに別の実施形態では、第1の抗体結合部位は、T細胞受容体複合体構造に結合し、Tリンパ球を活性化することができる。
【0049】
概要
本開示は、ハイブリッドリガン(hybrid ligan)分子を提供する。本開示の実施形態により、ハイブリッドリガンド分子は、エフェクター細胞上の活性化細胞表面受容体に結合する第1の抗体結合部位を含む。
【0050】
一実施形態では、エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、貪食性の細胞およびこれらの組合せからなる群から選択される。別の実施形態では、エフェクター細胞は、アルファベータT細胞、ガンマデルタT細胞、ナチュラルキラー細胞および貪食性の細胞からなる群から選択される。別の実施形態では、活性化細胞表面受容体は、CD3複合体、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)およびこれらの組合せからなる群から選択される。さらに別の実施形態では、活性化細胞表面受容体は、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0051】
本開示は、ハイブリッドリガンド分子を提供する。本開示の実施形態により、ハイブリッドリガンド分子は、複数の異なる、連結された抗体結合部位を含み、複数のもののうちの少なくとも第1のものはT細胞受容体複合体構造に結合し、複数のものの少なくとも第2のものは標的細胞特異的抗原に結合する。
【0052】
本開示は、ハイブリッドリガンド分子を含む組成物を提供する。本開示の実施形態により、組成物は、生理的に許容できる希釈剤に分散されたハイブリッドリガンド分子を含み、前記ハイブリッドリガンド分子は、複数の異なる、連結された抗体結合部位を含み、複数のもののうちの少なくとも第1のものはT細胞受容体複合体構造に結合し、複数のものの少なくとも第2のものは標的細胞特異的抗原に結合し、細胞傷害性エフェクターTリンパ球の外から供給される供給源の存在下でin vitroでの有効量で標的細胞と接触された場合に、液は前記細胞傷害性エフェクターTリンパ球による標的細胞の溶解を誘導する。
【0053】
本開示は、感染細胞を死滅させる方法を提供する。本開示の実施形態により、感染細胞を死滅させる方法は、(a)生理的に許容できる希釈剤に分散された単位用量のハイブリッドリガンド分子を含有する組成物を提供することであって、ハイブリッドリガンド分子は第2の抗体結合部位に連結された第1の抗体結合部位を含み、第1の抗体結合部位はエフェクター細胞受容体複合体構造に結合し、第2の抗体結合部位はウイルス特異的抗原に結合し、組成物が、ウイルス特異的抗原を保有する細胞と反応するエフェクター細胞によってウイルス感染細胞の破壊を誘導すること;(b)ウイルス特異的抗原を保有する感染細胞を、産生が第1の抗体結合部位によって活性化されるエフェクター細胞の供給源の存在下で、組成物と接触させることであって、組成物が細胞傷害性エフェクターTリンパ球へのおよび感染細胞への結合をもたらすために十分な量で存在すること;ならびに(c)(i)第2の抗体結合部位がウイルス特異的抗原に結合するため、および(ii)第1の抗体結合部位がエフェクター細胞に結合し、その産生を活性化するために十分な時間接触を維持することであって、産生されたエフェクター細胞が特定の抗原を保有する細胞と反応すること、を含む。
【0054】
別の実施形態では、感染細胞は腫瘍細胞である。さらなる実施形態では、エフェクター細胞はT細胞である。さらに別の実施形態では、T細胞は貪食性の細胞である。またさらなる実施形態では、方法は、実質的にすべての感染細胞が死滅されるまで工程(a)~(c)を周期的に繰り返す工程をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】Ig重鎖および軽鎖のドメインならびに抗体の断片を記すIgG抗体を示す図である。
図2a】TCR受容体複合体を示す図である。
図2b-d】キメラ抗体/TCRコンストラクトの例を示す図である。
図3a】F(ab’)/F(ab)断片の再構築に基づく、ハイブリッド抗体コンストラクト二重特異性Abを示す図である。
図3b】「完全な」Ig分子としてのハイブリッド抗体コンストラクト二重特異性Abを示す図である。
図3c】可変ドメイン(Fv)から構成されるハイブリッド抗体コンストラクト二重特異性Abを示す図である。
図3d】Bite立体配置にある可変ドメイン(Fv)から構成されるハイブリッド抗体コンストラクト二重特異性Abを示す図である。
図3e】Trite立体配置にある、可変ドメイン(Fv)から構成されるハイブリッド抗体コンストラクト三重特異性Abを示す図である。
図3f】Qite立体配置にある、可変ドメイン(Fv)から構成されるハイブリッド抗体コンストラクト四重特異性Abを示す図である。
図3g】トリボディ(Tribody)立体配置にある、改変F(ab’)断片の再構成に基づくハイブリッド抗体コンストラクト三重特異性Abを示す図である。
図3h】三重抗体(Triantibody)立体配置にある、「Bite」立体配置アームを有する「完全な」Ig分子としてのハイブリッド抗体コンストラクト三重特異性Abを示す図である。
図3i】クアドボディ(Quadbody)立体配置にある、「Bite」立体配置の2つの改変F(ab’)断片の再構成に基づくハイブリッド抗体コンストラクト四重特異性Abを示す図である。
図3j】四重抗体(QuadAntibody)立体配置にある、2つの「Bite」立体配置アームを有する「完全な」Ig分子としてのハイブリッド抗体コンストラクト四重特異性Abを示す図である。
図4a-4b】本出願に記載される実験1の結果を示すグラフである。
図5a-h】抗TCR複合体抗体および広範に反応性の抗ウイルス抗体を組み込むHAb、ならびに抗TCR複合体抗体および抗アクセサリー分子抗体および広範に反応性の抗ウイルス抗体を組み込むHAbを示す図である。
図6a-f】抗ウイルス抗体の超可変領域を組み込むキメラTCRを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本開示のすべての実施形態が詳細に説明される前に、本開示が、その応用において、以下の記述に記載されるか、または図に例示される成分のコンストラクションおよび配置の詳細に限定されないことは理解される。本開示は、他の実施形態であってよく、種々の方法で実施または実行することができる。同様に、本明細書において使用される表現法および用語法は記載の目的のためであり、限定としてみなされるべきではないことは理解される。本明細書における、含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」およびこれらの変化形の使用は、その後に列挙される項目およびそれらの等価物ならびに追加的項目を包含することを意味する。本明細書における「本質的に含む(including essentially)」および「本質的にそれからなる(consisting essentially)」ならびにこれらの変化形の使用は、その後に列挙される項目ならびに等価物および追加的項目を、そのような等価物および追加的項目が全体の特性、使用または製造を本質的に変更しない限り、包含することを意味する。本明細書における「からなる(consisting of)」およびその変化形の使用は、その後に列挙される項目を、およびこれらの項目だけを含むことを意味する。
【0057】
図を参照して、およその数は全体を通じたおよそのエレメントを指す。第1の、第2のなどの用語は本明細書において種々のエレメント、成分、領域、および/またはセクションを記載するために使用される場合があるが、これらのエレメント、成分、領域、および/またはセクションがこれらの用語によって限定されるべきでないことは理解される。これらの用語は、あるエレメント、成分、領域、および/またはセクションを別のエレメント、成分、領域、および/またはセクションから区別するためだけに使用される。それにより、第1のエレメント、成分、領域またはセクションは、本開示から逸脱することなく第2のエレメント、成分、領域、および/またはセクションと称され得る。
【0058】
本開示における数値範囲は、およそであり、したがって別途指示がない限り範囲の外の値も含む場合がある。数値範囲は、下限値および上限値を含む(別途指定がない限り)それからのすべての値を、任意の下限値と任意のより高い値の間に少なくとも2単位の分離があるという条件で、1単位きざみで含む。例として、組成上、物理的または他の特性、例えば、重量での成分の量などが10から100である場合は、すべての個々の値、例えば10、11、12などおよび部分的な範囲、例えば10から44、55から70、97から100などは、明確に列挙されると意図される。明確な値を含む範囲について(例えば、1、または2、または3から5、または6、または7からの範囲)、任意の2つの明確な値の間の任意の部分的な範囲は含まれる(例えば、上記の範囲1~7は、部分的な範囲1から2;2から6;5から7;3から7;5から6、などを含む)。1未満である値を含む、または1より大きい小数(例えば、1.1、1.5、など)を含む範囲について、1単位は、必要に応じて0.0001、0.001、0.01または0.1であると見なされる。10未満の1桁の数(例えば、1から5)を含有する範囲について、1単位は、0.1であると典型的には見なされる。これらは、具体的に意図されるものの例に過ぎず、列挙される下限値と上限値の間の数値のすべての可能な組合せが、本開示において明確に述べられていると見なされる。
【0059】
空間的な用語、例えば「下方」、「下」、「低い」、「上」、「上方」などは、図に例示される、1つのエレメントまたは特性の別のエレメント(複数可)または特性(複数可)との関係を記載する記載を容易にするために本明細書において使用され得る。空間的に関連する用語は、使用または例示における方向に応じてさまざまな方向を包含することが意図されることは理解される。例えば、図中のデバイスが回転する場合、他のエレメントまたは特性の「下」または「下方」として記載されたエレメントは、次に他のエレメントまたは特性の「上」に方向付けられる。それにより、例示的用語「下」は、上および下の両方の方向を包含し得る。デバイスは、他の方向にあってもよく(90°または他の方向に回転)、本明細書において使用される空間的に相対的な記載はそれに応じて判断される。
【0060】
本明細書において使用される場合、用語「および/または」は、1つまたは複数の関連する列挙された項目の任意およびすべての組合せを含む。例えば、「Aおよび/またはB」などの句において使用される場合、語句「および/または」は、AおよびBの両方;AまたはB;A(単独);ならびにB(単独)を含むと意図される。同様に、用語「および/または」は、「A、Bおよび/またはC」などの句において使用される場合に、以下の実施形態「A、BおよびC;A、B、またはC;AまたはC;AまたはB;BまたはC;AおよびC;AおよびB;BおよびC;A(単独);B(単独);ならびにC(単独)のそれぞれを包含することが意図される。
【0061】
本明細書において開示される実施形態は、キメラTCR、Fc受容体およびTCRまたはFc受容体を標的にする多量体抗体コンストラクトへの、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域の組込みに関する。
【0062】
他に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書において使用される命名法、ならびに以下に記載される細胞培養、分子遺伝学および核酸化学およびハイブリダイゼーションにおける検査手技は、当技術分野において十分周知であり、一般に使用されるものである。標準的技術は、組換え核酸法、ポリヌクレオチド合成および微生物培養および形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクション)のために使用される。一般に、酵素反応および精製工程は、製造者の仕様書に従って実施される。技術および手順は、本明細書全体で提供される当技術分野における従来法および種々の一般的参考文献に従って一般に実施される(本明細書に参照により組み込まれる、Sambrookら、Molecular Cloning:a Laboratory Manual,2d ed.(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を一般に参照されたい)。単位、接頭辞および記号は、それらのSIで認められた形式で記され得る。別途指示がない限り、それぞれ、核酸は左から右に5’から3’方向で記載され;アミノ酸配列は左から右にアミノからカルボキシル方向で記載される。アミノ酸は、それらの一般に周知の3文字記号によって、またはIUPAC-IUB Biochemical nomenclature Commissionによって推奨される1文字記号によって本明細書において参照され得る。同様に、ヌクレオチドは、それらの一般に認められた1文字コードによって参照され得る。特に指定のない限り、本明細書において使用されるソフトウェア、電気的および電子的用語は、The New IEEE Standard Dictionary of Electrical and Electronics Terms(5.sup.th edition,1993)において定義されるとおりである。
【0063】
本開示全体で使用される場合、以下の用語は、別途指示がない限り、以下の意味を有すると理解されるべきであり、明細書全体を参照することによってさらに完全に定義される。
【0064】
「抗原」によって、細胞性抗原特異的免疫応答または液性抗体応答を生じるように宿主の免疫系を刺激する1つまたは複数のエピトープを含有する分子が意味される。それにより抗原は、タンパク質、ポリペプチド、抗原タンパク質断片、オリゴ糖、多糖類などを含む。さらに抗原は、任意の周知のウイルス、細菌、寄生虫、植物原虫(plants protozoan)、または菌類由来であってよく、生物体全体であってもよい。用語は、腫瘍抗原も含む。同様に、DNA免疫化応用においてなど、抗原を発現するオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドも抗原の定義に含まれる。合成抗原も含まれる、例えばポリエピトープ、隣接エピトープおよび他の組換えまたは合成由来抗原(Bergmannら、(1993)Eur.J.Immunol.23:2777 2781;Bergmannら、(1996)J.Immunol.157:32423249;Suhrbier,A.(1997)Immunol.And Cell Biol.75:402408;Gardnerら、(1998)12th World AIDS Conference,Geneva,Switzerland,Jun 28-Jul.3,1998)。
【0065】
「コード配列」または選択されたポリペプチドを「コードする」配列は、適切な調節配列(または「コントロールエレメント」)のコントロール下に置かれた場合に、in vivoでポリペプチドに転写(DNAの場合)および翻訳(mRNAの場合)される核酸分子である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。転写終結配列は、コード配列の3’に位置付けられ得る。コード配列の転写および翻訳は、これだけに限らないが、転写プロモーター、転写エンハンサーエレメント、シャイン・ダルガーノ配列、転写終結シグナル、ポリアデニル化配列(翻訳終結コドンの3’に位置付けられる)、翻訳開示の最適化のための配列(コード配列の5’に位置付けられる)および翻訳終止配列を含む「コントロールエレメント」によって典型的には制御される。
【0066】
用語「コンストラクト」は、タンパク質の発現をコードする遺伝的組成物を指す。
【0067】
Tリンパ球は、T細胞受容体を保有するヒトおよび動物の身体中の白血球の集団である。
【0068】
用語「T細胞受容体(TCR)」は、Tリンパ球において発現され、抗原を認識するためにTリンパ球によって使用される2個の「可変鎖」から構成される受容体を指す。用語「TCR」は、アルファ鎖およびベータ鎖と記される2本のTCR鎖から構成されるTCRを指す。
【0069】
用語「CD3」は、TCRに連結されたg、d、eおよびzと記される遺伝子およびタンパク質のセット、ならびに生物学的なトリガーを受け取り、伝達するその能力を指す。
【0070】
用語「TCR複合体」は、TCRおよびCD3タンパク質から主に構成される、Tリンパ球に見出される細胞表面複合体を指す。
【0071】
用語「アクセサリー分子」は、リンパ球に見出される、それらの活性化または非活性化を可能にするか、または増強する細胞表面分子を指す。それらは、これだけに限らないがCD4、CD9、CD28、LFA-1、4-1BBおよびOX40を含む。
【0072】
用語「Bリンパ球」は、免疫グロブリンを産生する能力を有する、ヒトおよび動物における白血球の集団を指す。
【0073】
用語「形質細胞」は、免疫グロブリンを産生する能力を有する、Bリンパ球の集団を指す。
【0074】
用語「免疫グロブリン」、「Ig」または「抗体」は、ヒトおよび動物の身体において見出され、抗原に特異的に結合する能力を有するタンパク質を指す。「抗体結合部位」または「パラトープ」は、別の分子、例えば、抗原、T細胞またはTCR複合体などに結合する抗体の部分を指す。
【0075】
用語「超可変領域」または「超可変ドメイン」は、特異的結合のために使用される抗体内の区域を指す。
【0076】
用語「重鎖」は、抗体において見出される大きなタンパク質鎖を指す。用語「軽鎖」は、抗体において見出される小さなタンパク質を指す。
【0077】
用語「Fc」は、ある特定の免疫機能、例えば補体活性化を活性化できるか、または細胞表面受容体、いわゆる「Fc受容体」または「FcR」への抗体の結合を媒介できる重鎖の非可変セクションから構成される抗体の非可変セクションを指す。
【0078】
用語「Fab」は抗体の超可変領域および第1の定常領域から構成される抗体のセクションを指し(図1および3に示す)、用語「F(ab)’2」はダイマー分子が維持されるように重鎖の第2の定常領域の断片と合わせて、抗体の超可変領域および第1の定常領域から構成される抗体のセクションを指す(図1および3に示す)。
【0079】
用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する能力を有するある特定の白血球の細胞表面受容体を指す。Fc受容体のファミリーは、それらの異なる分子構造のためにそれらの抗体親和性において異なるいくつかのメンバー、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD 16a)、FcγRIIIB(CD 16b)を含む。
【0080】
用語「免疫アクセサリー細胞」は、免疫細胞、例えば、これだけに限らないが、Tリンパ球および/またはBリンパ球と相互作用する能力を有するある特定の白血球、例えば、これだけに限らないが、樹状細胞およびマクロファージを指す。
【0081】
用語「樹状細胞」、「マクロファージ」、「顆粒球」、「単球」および「好中球」は、ヒトおよび動物において見出される白血球の集団を指す。
【0082】
用語「ハイブリッド抗体」または「HAb」は、1つより多い超可変領域を保有するように構造が改変された抗体を指す。
【0083】
用語「二重特異性抗体」または「BAb」は、2つの異なる超可変領域を保有するように改変されたHAbを指す。
【0084】
用語「ダイアボディ」、「bite」、「trite」、「qite」、「トリボディ」、「三重抗体」、「クアドボディ」および「三重抗体」は、図3および5に例示されるHAbの異なるバージョンを記載する。
【0085】
用語「キメラTCR」は、抗体超可変領域が結合され得るように遺伝的に改変されたTCR複合体の成分から構成されるコンストラクトを指す(図2に示す)。
【0086】
用語「キメラFcR」は、抗体超可変領域が結合され得るように遺伝的に改変されたFcR複合体の成分から構成されるコンストラクトを指す。
【0087】
遺伝子配列は、制御可能である。遺伝子発現の制御は、1)遺伝子構造の変更:部位特異的リコンビナーゼ(例えば、Cre-loxPシステムに基づくCre)は、プロモーターと遺伝子との間の挿入配列を除去することによって遺伝子発現を活性化できる;2)誘導(カバーされた)によるか、または抑制の開放によるかのいずれかでの転写における変化;3)mRNAに組み込まれた特定の配列によるか、またはsiRNAによるmRNA安定性における変化;および4)mRNA中の配列による翻訳における変化、のうちの1つによって達成され得る。欠失フラビウイルスは、「大容量」フラビウイルスとも呼ばれる。これらの欠失フラビウイルスは、8kbまでの遺伝子配列に適応できる。
【0088】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子発現コンストラクト」は、プロモーター、目的の遺伝子の少なくとも断片およびポリアデニル化シグナル配列を指す。本開示のベクターモジュールは、遺伝子発現コンストラクトを含む。
【0089】
「目的の遺伝子」または「GOI」は、RNAまたはタンパク質のレベルでその効果を発揮するものであり得る。目的の遺伝子の例は、これだけに限らないが、治療遺伝子、免疫調節遺伝子、ウイルス遺伝子、細菌遺伝子、タンパク質産生遺伝子、抑制性RNAまたはタンパク質および制御タンパク質を含む。例えば、治療遺伝子によってコードされるタンパク質は、遺伝性の疾患の処置において使用され得る、例えば、嚢胞性線維症の処置における嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス制御因子をコードするcDNAの使用。さらに、治療遺伝子は、例えば、アンチセンスメッセージまたはリボザイム、当技術分野において周知であるsiRNA、代替的RNAスプライス受容体またはドナー、スプライシングまたは3’プロセシング(例えば、ポリアデニル化)に影響を与えるタンパク質、または細胞内で別の遺伝子の発現レベルに影響を与えるタンパク質をコードすることによって(すなわち、遺伝子発現がプロセスされたタンパク質の産生を通じて転写の開始からのすべての工程を含むと広範に考えられる場合)、おそらく、とりわけmRNA蓄積の速度の変化、mRNA輸送の変化および/または転写後制御における変化を媒介することによってRNAのレベルでその効果を発揮できる。
【0090】
本明細書において使用される場合、語句「遺伝子治療」は、遺伝性または後天性疾患または状態を処置または予防するための目的の遺伝子材料の宿主への移入を指す。目的の遺伝子材料は、in vivoでの産生が望ましい産生物(例えば、タンパク質ポリペプチド、ペプチド、または機能性RNA)をコードする。例えば、目的の遺伝子材料は、治療的価値のあるホルモン、受容体、酵素または(ポリ)ペプチドをコードし得る。目的の遺伝子材料の例は:嚢胞性線維症膜貫通制御因子(CFTR)、第VIII因子、低密度リポタンパク質受容体、ベータガラクトシダーゼ、アルファガラクトシダーゼ、ベータグルコセレブロシダーゼ、インスリン、副甲状腺ホルモンおよびアルファ-1-アンチトリプシンをコードするDNAを含む。
【0091】
「遺伝子送達ベクター」、「GDV」、「遺伝子移入ベクター」または「遺伝子移入ビヒクル」は、本開示のパッケージングされたベクターモジュールを含む組成物を意味する。
【0092】
「免疫応答」によって、獲得免疫応答、例えば、細胞性または液性免疫応答が好ましくは意味される。
【0093】
本明細書の文脈では、「免疫調節分子」は、抗原特異的様式で標的細胞に方向付けられた細胞性および/または液性宿主免疫応答を調節する、すなわち増加させるか、または減少させるポリペプチド分子であり、好ましくは宿主免疫応答を減少させるものである。一般に、本発明の教示により免疫調節分子(複数可)は、標的細胞表面膜と会合する、例えば、本明細書に記載されるGDVから発現された後に細胞表面膜に挿入されるか、または共有結合的にもしくは非共有結合にそれに結合する。一部の実施形態では、免疫調節分子は、CD8アルファ鎖のすべてのまたは1つの機能性部分を含む。ヒトCD8コード配列について、Leahy,Faseb J.9:17-2(1995);Leahyら、Cell 68”II 145-62(1992);Nakayamaら、Immunogenetics 30:393-7(1989)を参照されたい。CD8タンパク質およびポリペプチドに関して「機能性部分」によって、本明細書に記載されるベト活性を保持しているCD8.アルファ鎖の一部、さらに具体的にはCD8.アルファ鎖のHLA結合活性を保持している部分、および詳細にはCD8.アルファ鎖の細胞外領域中の免疫グロブリン様ドメインが意味される。例示的バリアントCD8ポリペプチドは、参照により本明細書に組み込まれるGao and Jakobsen,Immunology Today 21:630-636(2000)に記載されている。一部の実施形態では、全長CD8.アルファ鎖が使用される。しかし、一部の実施形態では、細胞質ドメインは除去される。好ましくは膜貫通ドメインおよび細胞外ドメインは保持される。
【0094】
「in vivo遺伝子治療」および「in vitro遺伝子治療」は、エクスビボ適用を含んで「遺伝子治療」として当業者によって一般周知であり、参照されるものの過去、現在および将来の変更および改変のすべてを包含することが意図される。
【0095】
用語「導入する」または「トランスフェクション」は、宿主細胞への発現ベクターの送達を指す。ベクターは、トランスフェクション、典型的には物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクションもしくはリポフェクション)による異種DNAもしくはRNAの細胞への挿入を意味する;感染、典型的には感染作用剤、すなわち、ウイルスの方法による導入を指す;または形質導入、典型的にはウイルスを用いた細胞の安定感染またはウイルス剤(例えば、バクテリオファージ)の方法によるある微生物から別のものへの遺伝子材料の移入を意味する、によって細胞に導入され得る。上に記載のとおり、ベクターは、プラスミド、ウイルスまたは他のビヒクルであってもよい。
【0096】
本明細書において使用される場合、用語「直鎖DNA」は、非環状化DNA分子を指す。本明細書において使用される場合、用語「直鎖RNA」は、非環状化RNA分子を指す。
【0097】
本明細書において使用される場合、用語「天然」は、天然;野生型;生来のまたは生得的に見出される場合を指す。
【0098】
用語「核酸」は、一本鎖または二本鎖形態のいずれかにあるデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指し、他に限定されない限り、天然ヌクレオチドと同様の様式で一本鎖核酸にハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドと同じ本質的な性質を有する公知の類似物(例えば、ペプチド核酸)を包含する。
【0099】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれた場合に、「動作可能に連結されている」。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を与える場合に、コード配列に動作可能に連結されている。一般に、「動作可能に連結された」は、連結されるDNA配列が近接していることを意味する。しかし、エンハンサーは近接されていなくてもよい。連結は、従来の制限酵素認識部位でのライゲーションによって達成される。そのような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーは、従来の慣例により使用される。
【0100】
用語「パッケージングコンストラクト」または「パッケージング発現プラスミド」は、環状、二本鎖DNA分子の操作されたプラスミドコンストラクトを指し、ここでDNA分子は、プロモーターのコントロール下にフラビウイルス構造または非構造遺伝子の少なくとも1つのサブセットを含む。「パッケージングコンストラクトは、感染、ウイルス粒子および/またはウイルス粒子にパッケージングされる遺伝子材料の効率的なパッケージングを生じるための独立的なウイルス複製を可能にするためのUTRまたは遺伝情報を含まない。
【0101】
用語「病原体」は、免疫応答を誘発する任意の分子の供給源を指して広い意味で使用される。それにより、病原体は、これだけに限らないが、病原性または弱毒化ウイルス、細菌、真菌、原虫、寄生虫、がん細胞などを含む。典型的には、免疫応答は、これらの病原体によって産生される1つまたは複数のペプチドによって誘発される。以下に詳細に記載されるとおり、これらおよび他の病原体抗原性ペプチド形態(form)をコードするゲノムDNAは、天然の感染への応答を模倣する免疫応答を生じさせるために使用される。本明細書の教示を考慮して方法が、1つより多い病原体から得られたゲノムDNAの使用を含むことは明らかである。
【0102】
「許容的」である細胞は、ウイルスの複製を支持する。
【0103】
本明細書において使用される場合、用語「プラスミド」は、染色体DNAから分離された、染色体DNAから独立して複製することができる染色体外DNA分子を指す。多くの場合、それは環状で二本鎖である。
【0104】
用語「ポリリンカー」は、任意のプロモーターまたはDNAセグメントの容易な挿入を可能にする多数の固有の制限酵素認識部位を保有する人工的に合成されたDNAの短いストレッチについて使用される。用語「異種」は、天然では通常密接に関連して見出されないDNA配列の任意の組合せについて使用される。
【0105】
用語「プロモーター」は」、特定の遺伝子の転写を促進するDNAの制御因子領域を意味することが意図される。プロモーターは、特定のコード配列のための適切な転写開始部位でRNA合成を開始するようにRNAポリメラーゼIIを方向付けることができるTATAボックスを通常含む。プロモーターは、TATAボックスの上流または5’に一般的に位置付けられた他の認識配列を追加的に含んでもよく、上流プロモーターエレメントと称され、転写開始速度に影響を与える。「構成的プロモーター」は、多数の細胞型でこの関連遺伝子の構成的転写を可能にするプロモーターを指す。「誘導性プロモーター系」は、遺伝子を誘導またはサイレンシングするために、制御作用剤(小分子、例えば、テトラサイクリン、ペプチドおよびステロイドホルモン、神経伝達物質ならびに、熱およびモル浸透圧濃度などの環境因子を含む)を使用する系を指す。そのような系は、制御作用剤の濃度に依存して応答が徐々に変わる意味において「アナログ」である。同様に、かかる系は、制御作用剤の中止により可逆的である。これらのプロモーターの活性は、生物的または非生物的因子の存在または非存在によって誘導される。誘導性プロモーターは、それらに動作可能に連結された遺伝子の発現が、生物体のまたは特定の組織の発達のある特定の段階でオンにまたはオフにされ得ることから遺伝子工学において強力なツールである。
【0106】
本明細書において使用される場合、用語「増殖する(propagate)」または「増殖した(propagated)」は、任意のプロセスによって再生、繁殖または数、量もしくは程度において増加することを指す。
【0107】
本明細書において使用される場合、用語「精製」は、外来性、外来のまたは好ましくないエレメントから精製するか、またはそれらを除去するプロセスを指す。
【0108】
本明細書において使用される場合、用語「調節配列」(「制御領域」または「制御エレメント」とも呼ばれる)は、プロモーター、エンハンサーまたは制御タンパク質、例えば転写因子が優先的に結合するDNAの他のセグメントを指す。それらは、遺伝子発現およびそれによりタンパク質発現をコントロールする。
【0109】
用語「制限酵素」(または「制限エンドヌクレアーゼ」)は、二本鎖DNAを切る酵素を指す。
【0110】
用語「制限酵素認識部位」または「制限認識部位」は、DNA分子を切るための部位として制限酵素によって認識されるヌクレオチドの特定の配列を指す。必ずしもそうではないが一般的に部位は、制限酵素が通常ホモダイマー)として結合することからパリンドロームであり、特定の酵素は、その認識部位内の、またはその近くのどこかの2つのヌクレオチドの間を切ることができる。
【0111】
本明細書において使用される場合、用語「複製」または「複製する」は、対象、例えば、これだけに限らないが、ウイルス粒子などの同一のコピーを作ることを指す。
【0112】
使用される場合(as used wherein)、用語「複製欠損」は、天然の環境で複製できないウイルスの特徴を指す。複製欠損ウイルスは、その複製のために必須である1つまたは複数の遺伝子、例えば、これだけに限らないがEl遺伝子が欠失しているウイルスである。複製欠損ウイルスは、欠失している遺伝子を発現する細胞株中で研究室において増殖され得る。
【0113】
本明細書において使用される場合、用語「標的」または「標的化」は、例えば、これだけに限らないが、タンパク質、細胞、器官または核酸など、その活性が外からの刺激によって改変され得る生物学的実体を指す。刺激の性質に応じて、標的に直接的な変化がない場合があるか、または標的において立体配置変化が誘導される場合がある。
【0114】
本明細書において使用される場合、「標的細胞」は、単一の実体として存在する場合があるか、または細胞の大きな収集物の一部である場合がある。そのような「細胞の大きな収集物」は、例えば、細胞培養物(混合もしくは純粋のいずれか)、組織(例えば、上皮もしくは他の組織)、器官(例えば、心臓、肺、肝臓、胆嚢、膀胱、眼もしくは他の器官)、器官系(例えば、循環器系、呼吸器系、胃腸管系、泌尿器系、神経系、外皮系もしくは他の器官系)、または生物体(例えば、トリ、哺乳動物、特にヒトなど)を含み得る。好ましくは、標的化される器官/組織/細胞は、循環系(例えば、これだけに限らないが心臓、血管および血液を含む)、呼吸器系(例えば、鼻部、咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支、肺など)、胃腸管系(例えば、口腔、咽頭、食道、胃、腸、唾液腺、膵臓、肝臓、胆嚢などを含む)、泌尿器系(例えば、腎臓、尿管、膀胱、尿道など)、神経系(例えば、これだけに限らないが、脳および脊髄、ならびに特殊感覚器、例えば眼を含む)および外皮系(例えば、皮膚)のものである。さらにより好ましくは、細胞は、心臓、血管、肺、肝臓、胆嚢、膀胱、眼の細胞および幹細胞からなる群から選択される。一実施形態では、標的細胞は肝細胞であり、方法は、対象における同種肝細胞のベトベクター(veto vector)媒介移植のために提供される。一実施形態では、標的細胞はケラチノサイトであり、方法は、対象における同種異系ケラチノサイトの、例えば操作された皮膚のベトベクター媒介移植のために提供される。一実施形態では、標的細胞は膵島である。一実施形態では、標的細胞は、心筋細胞である。一実施形態では、標的細胞は腎臓細胞であり、方法は、対象における同種異系腎臓のベトベクター媒介移植のために提供される。一実施形態では、標的細胞は線維芽細胞であり、方法は、対象における同種異系線維芽細胞、例えば、操作された皮膚のベトベクター媒介移植のために提供される。一実施形態では、標的細胞はニューロンである。一実施形態では、標的細胞はグリア細胞である。
【0115】
具体的には、GDVが接触する標的細胞は、接触された標的細胞がGDVによって標的化され得る特定の細胞表面結合部位を含むことから別の細胞と異なっている。「特定の細胞表面結合部位」によって、細胞に接着し、それにより細胞に進入するためにGDVが相互作用できる細胞の表面に存在する任意の部位(すなわち、分子または分子の組合せ)が意味される。特定の細胞表面結合部位は、それにより、細胞表面受容体を包含し、好ましくはタンパク質(改変タンパク質を含む)、炭水化物、糖タンパク質、プロテオグリカン、脂質、ムチン分子またはムコタンパク質、などである。有望な細胞表面結合部位の例は、これだけに限らないが:ヘパリンおよびグリコサミノグリカンに見出されるコンドロイチン硫酸塩部分;ムチンに見出されるシアル酸部分、糖タンパク質、およびガングリオシド;主要組織適合抗原複合体I(MHC I)糖タンパク質;膜グルコサミンに見出される一般的な炭水化物分子、フコースおよびガラクトース;マンノース、N-アセチル-ガラクトサミン、N-アセチル-グルコサミン、フコースおよびガラクトースを含む糖タンパク質;糖タンパク質、例えば、ICAM-1、VCAM、E-セレクチン、P-セレクチン、L-セレクチンおよびインテグリン分子;ならびにがん性細胞に存在する腫瘍特異的抗原、例えばMUC-1腫瘍特異的エピトープなど、を含む。しかし、細胞にGDVを標的化することは、細胞相互作用(すなわち、所与の細胞表面結合部位との相互作用)のいかなる特定の機構にも限定されない。
【0116】
本明細書において使用される場合、用語「トランスフェクション」は、DNAまたはRNAとしての細胞遺伝子材料への遺伝子材料の導入(例えば、単離された核酸分子または本開示のコンストラクトの導入)を指す。本明細書において使用される場合、用語「形質導入」は、DNAとして、または本開示のGDVの手段によってのいずれかでの遺伝子材料の細胞DNAへの導入を指す。本開示のGDVは、標的細胞に形質導入され得る。
【0117】
用語「ベクター」は、宿主細胞の感染において使用される核酸を指し、その中にポリヌクレオチドが挿入され得る。ベクターは、しばしばレプリコンである。発現ベクターは、その中に挿入された核酸の転写を可能にする。一部の一般的なベクターは、これらに限定されないが、プラスミド、コスミド、ウイルス、ファージ、組換え発現カセットおよびトランスポゾンを含む。用語「ベクター」は、ある位置から別の位置への遺伝子の移入を補助するエレメントも指す。
【0118】
本明細書において使用される場合、用語「ウイルスDNA」または「ウイルスRNA」は、ウイルス粒子において見出されるDNAまたはRNAの配列を指す。
【0119】
本明細書において使用される場合、用語「ウイルスゲノム」は、ウイルス粒子において見出され、ウイルス複製のために必要なすべてのエレメントを含有するDNAまたはRNA全体を指す。ゲノムは、ウイルス複製の各周期で複製され、ウイルス子孫に伝達される。
【0120】
本明細書において使用される場合、用語「ビリオン」は、ウイルス粒子を指す。各ビリオンは、保護タンパク質カプシド内の遺伝子材料から構成される。
【0121】
本明細書において使用される場合、用語「野生型」は、天然にある場合の生物体、株、遺伝子、タンパク質、核酸または特徴の典型的な形態を指す。野生型は、天然の集団での最も一般的な表現型を指す。用語「野生型」および「天然に存在する」は、互換的に使用される。
【0122】
図1は、抗体の図表示である。重鎖1および軽鎖2が示されている。VLは、軽鎖の可変領域を記す。CLは、軽鎖の定常領域を記す。VHは、重鎖の可変領域を記す。CHI、CH2およびCH3は、重鎖の3つの異なる定常領域を記す。Fabは、VL、VH、CLおよびCHI領域を含有する抗体のアームを記す。ヒンジは、抗体アームと定常Fcステムとを繋ぐ可動性領域を記す。Fcは、CH2およびCH3から構成される定常ステム領域を記す。
【0123】
図2は、TCRおよびキメラTCRコンストラクトの図表である。(a)は、TCR複合体が可変TCRアルファおよびベータ鎖ならびにインバリアントCD3分子イプシロン、ガンマ、デルタおよびゼータから構成されることを示す。(b)~(d)は、抗体可変領域(VLおよびVH)がCD3コンストラクト(TCR-1)に、CD28成分(TCR-2)および同様に4-1BBまたはOX40成分(TCR-3)と共に連結されている、キメラTCRのさまざまなバージョンを示す。
【0124】
図3は、種々のHAb設計の図表である。(a)は、二重特異性抗体がFc領域の完全なまたは部分的な欠失を有して設計されたことを示す。(b)は、重鎖および軽鎖の2つの異なるセットから構成される二重特異性抗体設計を示す。(c)は、2つの異なるVH/VLドメインから構成される二重特異性抗体設計のさまざまなバージョン(ダイアボディ)を示す。(d)は、異なる連結を使用する2つの異なるVH/VLドメインから構成される二重特異性抗体のさまざまなバージョン(Bite)を示す。(e)は、VH/VLドメインの3つの対から構成される三重特異性HAb(Trite)を示す。(f)は、四重特異性HAbが4対のVH/VLドメインから構成される(Qite)ことを示す。(g)は、第3のVH/VLドメインが加えられた、二重特異性Fab断片から構成される三重特異性抗体(トリボディ)を示す。(h)は、第3のVH/VLドメインが加えられた、二重特異性抗体から構成される三重特異性抗体(三重抗体)を示す。(i)は、2つの追加的なVH/VLドメインが加えられた、二重特異性Fab断片から構成される四重特異性抗体(クアドボディ)を示す。(j)は、2つの追加的なVH/VLドメインが加えられた、二重特異性抗体から構成される四重特異性抗体(四重抗体)を示す。
【0125】
図4は、インフルエンザ感染細胞の、抗TCR抗体および高度に特異的な抗ウイルス抗体を組み込むHAbを有するT細胞への標的化の例である。インフルエンザウイルスPR/8(10)、インフルエンザウイルスJAP(12)または非感染(14)標的細胞は、二重特異性HAb(抗ab TCR/高度に特異的な抗PR/8血液凝集素)を用いてプレコーティングされ、さまざまなエフェクター-標的比(E/T)でのレクチンPHAの非存在下(a)または存在下(b)でのCTL株の細胞による溶解への感受性について検査された。
【0126】
図5は、抗TCR複合体抗体および広範に反応性の抗ウイルス抗体を組み込むHAb、ならびに抗TCR複合体抗体および抗アクセサリー分子抗体および広範に反応性の抗ウイルス抗体を組み込むHAbを示す図表である。(a)は、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと抗TCR複合体特異性(または、抗Fc受容体特異性)を有する1つとを組み合わせるように設計された二重特異性HAbを示す。(b)は、抗ウイルス特異性を有するVH/VLドメインおよび抗TCR複合体特異性(または、抗Fc受容体特異性)を有するVH/VLドメインを含有するBiteコンストラクトとして設計された二重特異性HAbを示す。(c)は、抗ウイルス特異性を有するVH/VLドメイン、抗TCR複合体特異性(または、抗Fc受容体特異性)を有するVH/VLドメイン、および抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインを組み合わせるtriteコンストラクトとして設計された三重特異性HAbを示す。(d)は、抗ウイルス特異性を有する1つのアームを、抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインに連結された抗TCR複合体特異性(または、抗Fc受容体特異性)を有する1つのアームと組み合わせるTribodコンストラクトとして設計された三重特異性HAbを示す。(h)は、抗ウイルス特異性を有する1つのアームを、抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインに連結された抗TCR複合体特異性(または、抗Fc受容体特異性)を有する1つのアームと組み合わせる、三重抗体コンストラクトとして設計された三重特異性HAbを示す。
【0127】
図6は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の超可変領域を組み込むキメラTCRの図表である。(a)は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)をCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計されたキメラTCR(TCR-1a)を示す。(b)は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)を、CD28成分を含むCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計されたキメラTCR(TCR-2a)を示す。(c)は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)を、CD28成分および、41-BBまたはOX40成分も含むCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計されたキメラTCR(TCR-3a)を示す。(d)は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)ならびに第1の定常領域(CLおよびCHI)を、CD3 z-コンストラクトに連結することによって設計されたキメラTCR(TCR-lb)を示す。(e)は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)ならびに第1の定常領域(CLおよびCHI)を、CD28成分を含むCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計されたキメラTCR(TCR-2b)を示す。(f)は、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)ならびに第1の定常領域(CLおよびCHI)を、CD28成分および、41-BBまたはOX40成分も含むCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計されたキメラTCR(TCR-3b)を示す。
【0128】
ハイブリッドリガンド分子
一実施形態では、本開示はハイブリッドリガンド分子を提供する。ハイブリッドリガンド分子は、標的細胞特異的抗体結合部位である第2の抗体結合部位に連結されたエフェクター細胞受容体複合体構造に結合する第1の抗体結合部位またはパラトープを含む。
【0129】
一実施形態では、エフェクター細胞は、本明細書に記載される任意のエフェクター細胞またはエフェクター細胞の組合せであってもよい。好ましい実施形態では、エフェクター細胞は、T細胞、ナチュラルキラー細胞、貪食性の細胞およびこれらの組合せである。実施形態では、T細胞は、αβT細胞、ガンマデルタT細胞およびこれらの組合せであってもよい。
【0130】
エフェクター細胞受容体複合体は、活性化細胞表面受容体である。一実施形態では、活性化細胞表面受容体は、CD3複合体、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)およびこれらの組合せからなる群から選択される。
【0131】
一実施形態では、エフェクター細胞はT細胞であり、エフェクター細胞受容体複合体はTCR複合体である。さらなる実施形態では、エフェクター細胞受容体複合体はTCR複合体であり、第1の抗体結合部位は、Tリンパ球の表面のT細胞抗原受容体に、またはさらに具体的にはCD3複合体に方向付けられている。
【0132】
一実施形態では、第1の抗体結合部位は、単独でまたはアクセサリーモジュールと共にエフェクター細胞受容体複合体の1つまたは複数のメンバーに結合する抗体可変領域である。
【0133】
一実施形態では、標的細胞は、本明細書に示され、記載されるとおり、任意の標的細胞、または標的細胞の組合せであってもよい。好ましい実施形態では、標的細胞はウイルス特異的抗原である。さらなる実施形態では、標的細胞はウイルス特異的抗原であり、第2の抗体結合部位は、ウイルスによってコードされ、標的細胞の表面に発現されるタンパク質に結合する。
【0134】
一実施形態では、本開示の抗体可変領域の反応性についてのウイルス候補(および、それによる標的細胞)は、以下に列挙される。本明細書に列挙されていないウイルスも、本明細書に記載される治療薬による標的化から除外されていない。
【0135】
ウイルス-オルトミクソウイルス
インフルエンザA-血液凝集素(HAおよびノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP1)Mu M2、NSf、NS2(NEP)、PA、PB/、PB1-F2およびPB2
インフルエンザB
インフルエンザC
【0136】
ウイルス-ヘルペスウイルス
単純ヘルペス1(口腔ヘルペス)、単純ヘルペス2(性器ヘルペス)-ポリペプチド-ウイルス糖タンパク質(gB、gC、gO、gE、gG、gH、gi、gj、gK、gL、およびgMと命名)は周知であり、他に1つが予測されている(gN);糖タンパク質BおよびD。
【0137】
エプスタイン・バー(モノククレオシス(monocucleosis)、バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌)
エプスタイン・バー由来核抗原[EBNA]1、2、3A、38、3C、LPおよびLMP;gp350/20、aka gp340
【0138】
サイトメガロビルス(Cytomegalovirs)
糖タンパク質B、1 El、pp89、gBおよびpp65は、中和抗体および細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を誘導するためのワクチンにおける最小必要条件である。追加的なタンパク質、例えば、中和抗体のため、ならびにCTL応答のためのEl exon4およびpp150を用いた免疫化は、防御免疫応答を強化する。
水痘帯状疱疹ウイルス(水疱および帯状疱疹)-gE、gIおよびgB遺伝子についての組換えタンパク質
カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス8(カポジ肉腫)
ヘルペス6(AおよびB)
ヘルペス7
ヘルペスB-糖タンパク質B(gB)
【0139】
ウイルス-乳頭腫ウイルス
すべてのHPV LIカプシドタンパク質について、El、E2、E6およびE7遺伝子
HPV(子宮頸癌 高リスク:16、18、31、33、35、39、54、51、52、56、58、59、おそらく高リスク:26、53、66、68、73、82)
HPV(尋常性疣贅:2、7)
HPV(足底疣贅:1、2、4、63)
HPV(扁平疣贅:3、10)
HPV(肛門性器疣贅:6、11、42、43、44、55)
【0140】
ウイルス-レオウイルス科
ロタウイルスA(胃腸炎)-VP2およびVP6タンパク質
【0141】
ウイルス-コロナウイルス
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(重症急性呼吸器症候群)-SARS-CoVおよびMERS-CoVは、レプリカーゼ(Rep)ならびに構造タンパク質スパイク(S)、エンベロープ(E)、膜(M)およびヌクレオカプシドをコードする30kbゲノムを有するエンベロープを有するプラス鎖RNAウイルスである;
MERS-CoV
ヒトコロナウイルス229-Eスパイクおよびエンベロープ遺伝子
ヒトコロナウイルスNL63
ウイルス-アストロウイルス(胃腸炎)-アストロウイルス870kDa構造ポリタンパク質
ウイルス-ノロウイルス(胃腸炎)-ウイルスカプシド遺伝子、VP1およびVP2
【0142】
ウイルス-フィアビウイルス科(Fiaviviridae)
デング熱-プレ膜(prM)およびエンベロープ(E)遺伝子
日本脳炎-prM、EおよびNSf遺伝子;JEウイルスのprMおよびエンベロープ(E)コード化領域
キャサヌール森林疾患
マレー渓谷脳炎
セントルイス脳炎
ダニ媒介脳炎
西ナイル脳炎
ジカウイルス
黄熱ウイルス
C型肝炎-C型肝炎ウイルス糖タンパク質E2;C型肝炎の糖タンパク質ElおよびE2;HCVのコア遺伝子
【0143】
ウイルス-ピコルナウイルス科-エンテロウイルス
ヒトエンテロウイルスA(一部のコクサッキーAウイルスを含む21サブタイプ)
ヒトエンテロウイルスB(エンテロウイルス、コクサッキーBウイルスを含む57タイプ)
ヒトエンテロウイルスC(一部のコクサッキーAウイルスを含む14タイプ)
ヒトエンテロウイルスD(3タイプ:EV-68、EV-70、EV-94)-VPI遺伝子
【0144】
ウイルス-ピコルナウイルス科-ライノウイルス
ヒトライノウイルスA(74セロタイプ)
ヒトライノウイルス8(25セロタイプ)
ヒトライノウイルスC(7セロタイプ)-ライノウイルス由来VPI;呼吸器細胞の感染に決定的に関与する表面タンパク質
【0145】
ウイルス-ピコルナウイルス科-ヘパトウイルス
A型肝炎
【0146】
ウイルス-トガウイルス科-アルファウイルス
シンドビスウイルス
東部ウマ脳炎ウイルス
西部ウマ脳炎ウイルス
ベネズエラウマ脳炎ウイルス
ロスリバーウイルス
オニョンニョンウイルス
【0147】
ウイルス-トガウイルス科-ルビウイルス
風疹ウイルス
【0148】
ウイルス-トガウイルス科-ヘペウイルス
E型肝炎ウイルス-ORF2タンパク質;組換えHEYカプシドタンパク質;ワクチンペプチドは、HEYカプシドタンパク質の別のペプチド、E2のN末端から26アミノ酸伸長を有する
【0149】
ウイルス-トガウイルス科-ボマウイルス(Bomaviridae)
バルナ疾患ウイルス-BDV核タンパク質(BDV-N)
【0150】
ウイルス-トガウイルス科-フィロウイルス
エボラウイルス
マールブルグウイルス
【0151】
ウイルス-トガウイルス科-パラミクソウイルス
麻疹
センダイウイルス
ヒトパラインフルエンザウイルス1および3
おたふくかぜウイルス
ヒトパラインフルエンザウイルス2および4
ヒトRSウイルス
ニューカッスル疾患ウイルス
ウイルス-トガウイルス科-レトロウイルス
HIV-gag:pl8、[24、-55;pol:p31、p51、p66;env:p41、p!20、pl60
B型肝炎ウイルス
HTLVI、II
【0152】
ウイルス-トガウイルス科-ラブドウイルス
狂犬病
【0153】
ウイルス-トガウイルス科-アレナウイルス
ランタ(Ranta)ウイルス
韓国型出血熱
リンパ性脈絡髄膜炎ウイルス
フニン
マチュポ
ラッサ
サビア
グアナリト(Guanarito)
カリフォルニア脳炎
コンゴ-クリミア出血熱
リフトバレー熱
【0154】
ウイルス-パルボウイルス
ヒトパルボウイルス(Bl9)
【0155】
詳細な実施形態では、標的細胞は、コロナウイルス(CoV)、好ましくはβ-CoV、より好ましくはSARSrウイルスおよびMERSウイルス、またはさらに好ましくはSARS-1ウイルス、SARS-2ウイルスおよびMERSウイルスからなる群から選択されるβ-CoVにおいてコードされ、標的細胞の表面に発現される1つまたは複数のタンパク質を含む。
【0156】
一実施形態では、ハイブリッドリガン(hybrid ligan)分子は、複数の異なる、連結された抗体結合部位を含み、ここで、少なくとも第1の連結された抗体結合部位はエフェクター細胞受容体複合体に結合するように設定され、少なくとも第2の連結された抗体結合部位は、標的細胞特異的抗原に結合するように設定される。
【0157】
組成物
一実施形態では、本開示は、単位用量のハイブリッドリガンド分子を含む組成物を提供する。ハイブリッドリガンド分子は、本明細書に提供されるハイブリッドリガンド分子の任意の実施形態または実施形態の組合せのとおりであってもよい。
【0158】
一実施形態では、単位用量は生理的に許容できる希釈剤に分散される。
【0159】
in vitroでの有効量で標的細胞と接触された場合に、組成物は、標的細胞と反応するエフェクター細胞による標的細胞の破壊を誘導する。
【0160】
具体的な実施形態では、細胞傷害性エフェクターTリンパ球の外から供給された供給源の存在下でin vitroでの有効量で標的細胞と接触された場合に、組成物は、前記細胞傷害性エフェクターTリンパ球による標的細胞の溶解を誘導する。
【0161】
感染細胞を死滅させる方法
一実施形態では、本開示は感染細胞を死滅させる方法を提供する。
【0162】
一実施形態では、方法は、ハイブリッドリガンド分子の単位用量を含む組成物を提供することを第1に含む。組成物は、本明細書において提供される組成物の任意の実施形態または実施形態の組合せのとおりであってもよい。
【0163】
方法は、標的細胞または特定の抗原を保有する感染細胞を、産生物が第1の抗体結合部位によって活性化されるエフェクター細胞の供給源の存在下で、組成物と接触させることをさらに含む。組成物は、エフェクター細胞および標的細胞への結合をもたらすために十分な量で存在する。一実施形態では、エフェクター細胞は、細胞傷害性エフェクターTリンパ球であり、標的細胞は腫瘍細胞である。
【0164】
一実施形態では、接触させる工程は、ヒトまたは動物宿主に、好ましくは感染させたヒトまたは動物に組成物を投与することを必要とする。
【0165】
方法は、(i)第2の抗体結合部位が標的細胞に、または標的細胞特異的抗原に結合するため、および(ii)前記第1の抗体結合部位がエフェクター細胞に結合し、その産生を活性化するため、に十分な時間接触を維持することをさらに含む。
【0166】
一実施形態では、方法は、実質的にすべてまたはすべての標的細胞が死滅されるまで提供すること、接触させること、および維持することを周期的に繰り返すことをさらに含む。
【0167】
具体的な実施形態では、エフェクター細胞はT細胞、またはさらに詳細には貪食性の細胞である。
【0168】
具体的な実施形態では、本開示のHAbおよびキメラTCRは、ウイルス、細菌または他の感染作用剤による感染の部位に免疫エフェクター細胞をリクルートすることによって、感染性疾患を処置および/または予防するために使用される。他の実施形態では、本開示のHAbおよびキメラTCRは、ある特定の種類のウイルスに感染した細胞で作用するように免疫エフェクター細胞をリクルートし、活性化させるために使用される。他の実施形態では、本開示のHAbおよびキメラTCRは、他の感染作用剤、例えば、これだけに限らないが、細菌、真菌または寄生虫による感染の部位に免疫エフェクター細胞をリクルートし、活性化させるために使用される。
【0169】
一実施形態では、HAbは、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと抗TCR複合体特異性とを有するものとを組み合わせる二重特異性HAbとして設計される(図5)。一実施形態では、二重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと抗Fc受容体特異性を有するものとを組み合わせて設計される(図5)。
【0170】
一実施形態では、HAbは、抗ウイルス特異性を有するVH/VLドメインおよび抗TCR複合体特異性を有するVH/VLドメインを含有するBiteコンストラクトとして設計される(図5)。一実施形態では、HAbは、抗ウイルス特異性を有するVH/VLドメインおよび抗Fc受容体特異性を有するVH/VLドメインを含有するBiteコンストラクトとして設計される(図5)。
【0171】
一実施形態では、三重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有するVH/VLドメイン、抗TCR複合体特異性を有するVH/VLドメインおよび抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが、抗CD28特異性を有するVH/VLドメインを組み合わせるTriteコンストラクトとして設計される(図5)。一実施形態では、三重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有するVH/VLドメイン、抗Fc受容体特異性を有するVH/VLドメインおよび抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインを組み合わせるTriteコンストラクトとして設計される(図5)。
【0172】
一実施形態では、三重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと、抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインに連結された抗TCR複合体特異性を有する1つのアームとを組み合わせるトリボディコンストラクトとして設計される(図5)。一実施形態では、三重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと、抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインに連結された抗Fc受容体特異性を有する1つのアームとを組み合わせるトリボディコンストラクトとして設計される(図5)。
【0173】
一実施形態では、三重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと、抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインに連結された抗TCR複合体特異性を有する1つのアームとを組み合わせる三重抗体コンストラクトとして設計される(図5)。一実施形態では、三重特異性HAbは、抗ウイルス特異性を有する1つのアームと、抗アクセサリー分子特異性、例えば、これだけに限らないが抗CD28特異性を有するVH/VLドメインに連結された抗Fc受容体特異性を有する1つのアームとを組み合わせる三重抗体コンストラクトとして設計される(図5)。
【0174】
一実施形態では、キメラTCRは、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)をCD28成分を有するCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計される(図6)。一実施形態では、キメラTCRは、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)をCD28成分を有するCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計される(図6)。一実施形態では、キメラTCRは、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)をCD8成分および、41-BBまたはOX40成分も有するCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計される(図6)。
【0175】
一実施形態では、キメラTCRは、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)ならびに第1の定常領域(CLおよびCHI)をCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計される(図6)。一実施形態では、キメラTCRは、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)ならびに第1の定常領域(CLおよびCHI)をCD28成分を有するCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計される(図6)。一実施形態では、キメラTCRは、広範に反応性の抗ウイルス抗体の可変領域(VLおよびVH)ならびに第1の定常領域(CLおよびCHI)をCD28成分および、41-BBまたはOX40成分も有するCD3 z-コンストラクトに連結することによって設計される(図6)。
【0176】
当業者は、本開示の組成物を治療目的、例えば、遺伝子治療、免疫療法、ワクチン接種などのためにヒトまたは動物に投与する好適な方法(例えば、Rosenfeld at al.,Science,252,431 434(1991),Jaffeら、Clin.Res.,39(2),302A(1991),Rosenfeldら、Clin.Res.,39(2),311A(1991),Berkner,BioTechniques,6,616 629(1988)を参照されたい)が利用可能であり、抗体コンストラクトを投与するために1つより多い経路を使用することができるが、特定の経路が別の経路よりさらに即時的でさらに有効な反応を提供できることを理解する。薬学的に許容される添加物は、当業者に周知であり、容易に利用可能である。添加物の選択は、抗体コンストラクトを投与するために使用される具体的な方法によって一部決定される。したがって、本開示の抗体コンストラクトの種々の好適な製剤がある。以下の製剤および方法は、単に例示的であり、限定ではない。しかし、経口、注射可能およびエアロゾル製剤は好ましい。
【0177】
経口投与に好適な製剤は、(a)液体;(b)カプセル、サシェ剤または錠剤;(c)適切な液体中の懸濁剤;および(d)好適な乳剤から構成され得る。一実施形態では、本開示の抗体コンストラクトは、単独でまたは他の好適な成分との組合せで、吸入を介して投与されるためのエアロゾル製剤に作製され得る。これらのエアロゾル製剤は、加圧された許容される噴霧剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素などに入れられてよい。本開示の抗体コンストラクトは、ネブライザーまたはアトマイザー中などの加圧されていない調製物のための医薬として製剤化されてもよい。非経口投与のために好適な製剤は、水性および非水性、等張滅菌注射用液を含み、それらは抗酸化物、バッファー、静菌剤および、製剤を目的のレシピエントの血液と等張にする溶質、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤および防腐剤を含み得る水性および非水性滅菌懸濁物を含み得る。製剤は、単位用量または複数用量の封をされた容器、例えばアンプルおよびバイアルで存在してもよく、使用直前に滅菌液体添加物、例えば、注射用水の添加だけを必要とする凍結乾燥(凍結乾燥された)状態で保存されてもよい。即時注射溶液および懸濁剤は、既に記載された調製形態滅菌粉末、顆粒および錠剤などであってよい。
【0178】
本開示の文脈において、動物、特にヒトに投与される用量は、目的の遺伝子または他の配列、使用される組成物、投与の方法および処置される具体的な部位および生物体で変動する。用量は、所望の期間内に所望の応答、例えば、治療的応答または免疫応答をもたらすために十分であるべきである。
【0179】
したがって、以下の1つまたは複数の経路は、本開示の抗体コンストラクトを投与できる:経口投与、注射(直接注射など)、局所、吸入、非経口投与、粘膜投与、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与、眼内投与または経皮投与。一実施形態では、本開示の抗体コンストラクトは、局所的に投与される。一実施形態では、本開示の抗体コンストラクトは、吸入によって投与される。一実施形態では、本開示の抗体コンストラクトは、非経口、粘膜、筋肉内、静脈内、皮下、眼内および経皮手段ならびにこれらの組合せからなる群から選択される方法によって投与され、そのような各投与のために製剤化される。
【0180】
典型的には、医師は、個体対象のために最も好適であり、具体的な患者の年齢、体重および応答ならびに状態の重症度で変動する抗体コンストラクトの実際の投薬量を決定する。特定の患者のための詳細な用量レベルおよび投薬の頻度は、変動する場合があり、使用される具体的な化合物の活性、化合物の代謝安定性および作用期間、年齢、体重、全身状態、性別、食事、投与の様式および期間、排出速度、薬物組合せ、具体的な状態の重症度ならびに治療を受ける宿主を含む種々の要因に依存する。
【0181】
本開示の文脈において、動物、特にヒトに投与される用量は、目的の治療用導入遺伝子および/または免疫調節分子の性質、使用される組成物、投与の方法および処置される具体的な部位および生物体で変動する。しかし、好ましくは、抗体コンストラクトの有効量に対応する用量が、使用される。「有効量」は、宿主において所望の効果を生じるために十分であるものであり、当業者に周知のいくつかの評価項目を使用してモニターされ得る。例えば、1つの所望の効果は、宿主細胞への核酸移入である。そのような移入は、これだけに限らないが、治療効果(例えば、処置される疾患、状態、障害もしくは症候群に関連する一部の症状の緩和)、または宿主内での移入された遺伝子もしくはコード配列もしくはその発現の証拠によって(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応、ノーザンもしくはサザンハイブリダイゼーション、または宿主細胞中の核酸を検出するための転写アッセイを使用する、あるいはイムノブロット解析、抗体媒介検出、または移入された核酸によってコードされるタンパク質またはポリペプチド、またはそのような移入によるレベルもしくは機能への影響を検出するための特定化されたアッセイを使用する)、を含む種々の手段によってモニターされ得る。記載されるこれらの方法は、決して包括的ではなく、特定の応用に適合するさらなる方法は、当業者に明らかである。これに関して、抗体コンストラクトの導入への宿主の応答が、投与されるウイルスの用量、送達の部位、抗体コンストラクトおよび導入遺伝子の遺伝的構造ならびに免疫応答を抑制する手段に応じて変動する場合があることは記載されるべきである。
【0182】
一実施形態では、操作されたTCRおよび抗体は、CoV、例えば、これだけに限らないがSARS-CoVまたはMERS-CoVに対して個体を防御するために使用される。一実施形態では、ウイルスは、SARS-CoV-1またはSARS-CoV-2ウイルスである。一実施形態では、ウイルスは、MERS-CoVウイルスである。一実施形態では、本開示の抗体超可変領域は、CoVにコードされるタンパク質、例えば、これだけに限らないがスパイク(S)、膜(M)、ヌクレオカプシド(N)およびエンベロープ(E)タンパク質に方向付けられたものから選択される。
【実施例
【0183】
実施例1(図4
実施例は、実際にHAb抗体が、Tリンパ球をウイルス感染細胞に標的化するために使用され得ることを実証するために示される。ここで、高度に特異的な抗インフルエンザモノクローナル抗体2A7は、PR/8インフルエンザウイルスの高度可変ヘッド領域を認識するが、JAPインフルエンザウイルスの高度可変ヘッド領域を認識しない。F23.1モノクローナル抗体は、TCRのベータ鎖を認識する。2A7およびF23.1の超可変領域を連結する二重特異性HAbを産生した。SL2マウス細胞を、インフルエンザウイルスPR/8を用いて、またはインフルエンザウイルスJAPを用いて感染させた。対照SL2マウス細胞は、非感染であった、さまざまな細胞集団をHAbを用いてコーティングし、洗浄した。次にそれらをOE4 CTLSの溶解への感受性についてアッセイした。図は、HAbがPR/9感染細胞の溶解を媒介できることを実証している。さらに、これらの研究において使用した抗ウイルス抗体がPR/8感染細胞に高度に特異的であったことから、対照細胞またはJAPインフルエンザウイルスを用いて感染させた細胞は、溶解されなかった。さらに、非特異的レクチンをさまざまな細胞にコーティングするために使用した場合、すべて溶解され、すべての標的細胞がOE4 CTLによる溶解に感受性であったことを実証している。広範に反応性の抗ウイルス抗体は、さまざまな株のインフルエンザウイルスを用いて感染された細胞に結合し、それにより、同様の設計のHAbに組み込まれた場合にエフェクターT細胞の活性にそれらを感受性にする。
【0184】
実施例2(図5
二重特異性HAbをBiteコンストラクトとして設計する。この目的のために、広範に反応性の抗インフルエンザ血液凝集素抗体の可変ドメイン、例えば、モノクローナル抗体CT149の可変ドメイン(VH/VL)を、抗ヒトTCR複合体モノクローナル抗体の可変ドメイン(VH/VL)、例えばモノクローナル抗体OKT3の可変ドメイン(VH/VL)と合わせる(図5b)。さまざまな断片を、以下の順で発現ベクターにクローニングする。プロモーター-シグナル/リーダーペプチド-VL(CT149)-スペーサーペプチド-VH(CT149)-スペーサーペプチド-VL(OKT3)-スペーサーペプチド-VH(OKT3)-スペーサーペプチド-ポリアデニル化部位。類似の特異性を有する他の抗体可変領域は、さまざまな超可変領域のVIおよびVH領域が、それらの正しい機能性の立体配置に再構成するような、同じ順でのまたは他の順でのそれらのヒト化形態でも想定される。
【0185】
真核生物発現ベクターなどの発現ベクターを、必要な真核性プロモーターおよびポリアデニル化部位を使用して上に記載のとおり構築したら、HAbが産生され精製される真核細胞に移入またはトランスフェクトする。
【0186】
代替的に原核生物発現ベクターを、原核生物プロモーターおよびポリアデニル化部位と共に使用し、HAbが産生され精製される細菌に移入または形質転換する。それぞれの発現コントロールエレメントを使用して植物細胞においてそのようなHAbを産生することも可能である。
【0187】
HAbを、in vitroまたはin vivoでヒトT細胞をコーティングするために使用し、そのためそれらは感染細胞に作用できる。
【0188】
実施例3(図5
二重特異性HAbを、Biteコンストラクトとして設計する。この目的のために、広範に反応性の抗インフルエンザ血液凝集素抗体の可変ドメイン、例えば、モノクローナル抗体CT149の可変ドメイン(VH/VL)を、抗ヒトFc受容体複合体、例えば、抗FcγRI(CD64)モノクローナル抗体の可変ドメイン(VH/VL)、例えば、モノクローナル抗体10.1の可変ドメイン(VH/VL)を合わせる(図5b)。さまざまな断片を、以下の順で発現ベクターにクローニングする:プロモーター-シグナル/リーダーペプチド-VL(CT149)-スペーサーペプチド-VH(CT149)-スペーサーペプチド-VL(10.1)-スペーサーペプチド-VH(10.1)-スペーサーペプチド-ポリアデニル化部位。類似の特異性を有する他の抗体可変領域は、さまざまな超可変領域のVLおよびVH領域が、それらの正しい機能性の立体配置に再構成するような、同じ順での他の順でのそれらのヒト化形態でも想定される。
【0189】
真核生物発現ベクターなどの発現ベクターを、必要な真核性プロモーターおよびポリアデニル化部位を使用して上に記載のとおり構築したら、それを、HAbが産生され精製される真核細胞にトランスフェクトするように移入させる。
【0190】
代替的に原核生物発現ベクターを、原核生物プロモーターおよびポリアデニル化部位と共に使用し、HAbが産生され精製される細菌に移入または形質転換する。そのようなHAbを植物細胞において、それぞれの発現コントロールエレメントを使用して産生することも可能である。
【0191】
HAbは、in vitroまたはin vivoでFc受容体保有細胞をコーティングするために使用され、そのためそれらは感染細胞で作用できる。
【0192】
実施例4(図5
三重特異性HAbを、Triteコンストラクトとして設計する。この目的のために、広範に反応性の抗インフルエンザ血液凝集素抗体の可変ドメイン、例えば、モノクローナル抗体CT149の可変ドメイン(VH/VL)を、抗ヒトTCR複合体モノクローナル抗体の可変ドメイン(VH/VL)、例えば、モノクローナル抗体OKT3の可変ドメイン(VH/VL)と合わせる(図5c)。
【0193】
さまざまな断片を、以下の順で発現ベクターにクローニングする:プロモーター-シグナル/リーダーペプチド-VL(CT149)-スペーサーペプチド-VH(CT149)-スペーサーペプチド-VL(OKT3)-スペーサーペプチド-VH(OKT3)-VL(CD28.2)-スペーサーペプチド(VH(CD28.2))-スペーサーペプチド-ポリアデニル化部位。類似の特異性を有する他の抗体可変領域は、さまざまな超可変領域のVLおよびVH領域が正しい機能性の立体配置に再構成するような、同じ順でのまたは他の順でのヒト化形態でも想定される。
【0194】
真核生物発現ベクターなどの発現ベクターを、必要な真核性プロモーターおよびポリアデニル化部位を使用して上に記載のとおり構築したら、それは、HAbが産生され精製される真核細胞に移入またはトランスフェクトする。
【0195】
代替的に原核生物発現ベクターを、原核生物プロモーターおよびポリアデニル化部位と共に使用し、HAbが産生され精製される細菌に移入または形質転換する。そのようなHAbを植物細胞において、それぞれの発現コントロールエレメントを使用して産生することも可能である。
【0196】
実施例5(図5
二重特異性HAbを、ハイブリッド抗体コンストラクトとして設計する。この目的のために、広範に反応性の抗インフルエンザ血液凝集素抗体、例えばCT149の軽鎖および重鎖を、抗TCR複合体アンチビ、例えばOKT3の軽鎖および重鎖と、単一の真核生物、原核生物または植物産生細胞において共発現させる。ダイマーを形成できるように、および/または異なるFcが優先的に加わるように、それぞれのIg Fc領域を改変する必要がある場合がある。二重特異性HAbにおいて使用される抗体は、HAbの産生の前にヒト化されていてもよい。
【0197】
実施例6(図6
キメラTCRを、CT149のVL/VH断片のような広範に反応性の抗ウイルス抗体の超可変領域をCD3、CD28および4-1BBの断片にペプチドスペーサーを介して連結する発現コンストラクトを操作することによって設計する。
【0198】
さまざまな断片を、以下の順で発現ベクターにクローニングする:プロモーター-シグナル/リーダーペプチド-VL(CT149)-スペーサーペプチド-VH(CT149)-スペーサーペプチド-4-1BB断片-スペーサーペプチド-CD28断片-CD3 z-ポリアデニル化部位(図6c)。
【0199】
類似の特異性を有する他の抗体可変領域は、さまざまな超可変領域のVLおよびVH領域が正しい機能性の立体配置に再構成するような、同じ順番でのまたは他の順でのそれらのヒト化形態でも想定される。
【0200】
発現コンストラクトを、キメラTCRが発現されるようにTリンパ球に移入させた。発現コンストラクトを、ベクター、例えば、これだけに限らないが、Tリンパ球に形質導入することができるレンチウイルスベクターによって送達する。
【0201】
発現ベクターを用いたT細胞形質導入は、in vitroまたはin vivoで実施する。in vitroで形質導入されたT細胞は、患者から採取された自己または異種T細胞のいずれかである。形質導入において、それらは、ウイルス感染に対する治療のために患者に移入される。
【0202】
ハイブリッドリガンド、組成物および感染細胞を死滅させる方法の複数の実施形態が本明細書に詳細に記載されたが、それらへの改変および変更は可能であり、そのすべてが本発明の真の趣旨および範囲内にあることは明らかである。さらに、当業者が多数の改変および変更を容易に想定することから、示され記載された厳密な構成および操作に本発明を限定することは望ましくなく、したがって、すべての好適な改変および等価物は、本開示の範囲内に再分類され得る。
図1
図2a
図2b-d】
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図3f
図3g
図3h
図3i
図3j
図4a-4b】
図5a-h】
図6a-f】
【国際調査報告】