(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-26
(54)【発明の名称】がんの処置における合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬
(51)【国際特許分類】
C12N 7/01 20060101AFI20231019BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231019BHJP
A61K 35/741 20150101ALI20231019BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231019BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20231019BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20231019BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231019BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20231019BHJP
A61P 19/08 20060101ALI20231019BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231019BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20231019BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231019BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20231019BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231019BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20231019BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20231019BHJP
A61P 15/02 20060101ALI20231019BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20231019BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K35/76 ZNA
A61K35/741
A61K48/00
A61P35/00
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P13/12
A61P1/04
A61P1/16
A61P13/10
A61P19/08
A61P25/00
A61P11/00
A61P27/02
A61P9/00
A61P11/04
A61P35/02
A61P11/02
A61P43/00 105
A61P21/00
A61P1/18
A61P13/02
A61P15/02
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023522361
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-06-06
(86)【国際出願番号】 CA2021051415
(87)【国際公開番号】W WO2022073127
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523129620
【氏名又は名称】テイタム・バイオサイエンス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・ジェニエ
(72)【発明者】
【氏名】エミリー・サン-ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ニール
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・ロドリグ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-フランソワ・ミヨー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA98X
4B065AB01
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4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC19
4C087ZC41
(57)【要約】
本開示は、一般に、少なくとも1つの治療剤を提示する合成治療用バクテリオファージであって、少なくとも1つの治療剤が、合成バクテリオファージのコーティングタンパク質と融合されている、合成治療用バクテリオファージに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの治療剤を提示する合成治療用バクテリオファージであって、少なくとも1つの治療剤が、合成バクテリオファージのコーティングタンパク質と融合されている、合成治療用バクテリオファージ。
【請求項2】
糸状バクテリオファージである、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項3】
バクテリオファージ機構を含むバクテリオファージ分泌系を含む、請求項1又は2に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項4】
バクテリオファージ機構が、バクテリオファージアセンブリモジュール、バクテリオファージ複製モジュール、バクテリオファージコーティングモジュール、及び治療用モジュールを含む、請求項3に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項5】
治療用モジュールが、合成治療用バクテリオファージによって提示されることになる少なくとも1つの治療剤を含む、請求項4に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項6】
治療用モジュールが、それぞれコーティングタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードするか、又はそれらの一部分をコードする、gpIII、gpVI、gpVII、gpVIII、及びgpIX、又はそれらの一部分から選択される1つ又は複数のバクテリオファージコーティング遺伝子を含む、請求項5に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項7】
少なくとも1つの治療剤が、コーティングタンパク質の少なくとも一部において提示される、請求項1~6のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項8】
複数の治療剤を更に提示する、請求項1~7のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項9】
第2の治療剤が、第1の治療剤を提示しないコーティングタンパク質の少なくとも一部において提示される、請求項8に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項10】
バクテリオファージ機構が、調節モジュールを更に含む、請求項3~9のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項11】
調節モジュールが、バクテリオファージ機構の活性を制御する調節エレメントを含む、請求項10に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項12】
治療剤が結合タンパク質である、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項13】
結合タンパク質が、発がん、がんの発生、又は転移の発生に関与する1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子に結合する、請求項12に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項14】
1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子が、CSF1、CSF1R、CCR4、CCL2、CCL17、CCL22、HER2、GD2、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-13、IL-17、IL-27、IL-35、CD20、CD27、CD30、CD33、CD70、TGF-β、M-CSF、EGFR、ERBB2、ERBB3、PGE2、VEGF、VEGFR-2、CXCR4/CXCL12、Tie2、ガレクチン-1、ガレクチン-3、ホスファチジルセリン、並びにTAM及びTimホスファチジルセリン受容体から選択される1つ又は複数の分子を阻害する、請求項13に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項15】
結合タンパク質が、がん性細胞の排除を導く共刺激受容体を活性化するアゴニストとして作用する、請求項12に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項16】
1つ又は複数の共刺激細胞受容体が、CD40、CD27、CD28、CD70、ICOS、CD357、CD226、CD137、及びCD134から選択される、請求項15に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項17】
結合タンパク質が免疫チェックポイント分子を阻害する、請求項12に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項18】
免疫チェックポイント分子が、CCR4、CTLA-4、CD80、CD86、PD-1、PD-L1、PD-L2、TIGIT、VISTA、LAG-3、TIM1、TIM3、CEACAM1、LAIR-1、HVEM、BTLA、CD47、SIRPα、CD160、CD200、CD200R、CD39、CD73、B7-H3、B7-H4、IDO、TDO、KIR、及びA2aRから選択される、請求項17に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項19】
免疫チェックポイント分子がCD47である、請求項18に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項20】
免疫チェックポイント分子がPD-L1である、請求項18に記載の合成バクテリオファージ。
【請求項21】
免疫チェックポイント分子がCTLA-4である、請求項18に記載の合成バクテリオファージ。
【請求項22】
治療剤が免疫応答を刺激する、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項23】
治療剤が抗体又は抗体模倣物である、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項24】
治療剤がナノボディである、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項25】
治療剤がアンチカリンである、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項26】
治療剤がペプチドである、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項27】
ペプチドが腫瘍関連抗原(TAA)である、請求項26に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項28】
治療剤が、抗腫瘍活性を生じる酵素である、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項29】
治療剤がシトシンデアミナーゼである、請求項1に記載の合成治療用バクテリオファージ。
【請求項30】
少なくとも1つの治療剤を産生するための生きたバイオ治療薬であって、請求項1~29のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージを分泌しうるバクテリオファージ分泌系を含む組換え細菌性生物を含む、生きたバイオ治療薬。
【請求項31】
治療剤を産生するための生きたバイオ治療薬であって、合成治療用バクテリオファージを分泌しうるバクテリオファージ分泌系を含む組換え細菌性生物を含み、合成治療用バクテリオファージが治療剤を提示する、生きたバイオ治療薬。
【請求項32】
治療剤が、バクテリオファージコーティングタンパク質と融合されている、請求項31に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項33】
組換え細菌性生物が、腸内細菌科、シュードモナス科、及びビブリオ科から選択される、請求項31又は32に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項34】
組換え細菌性生物が大腸菌である、請求項31又は32に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項35】
組換え細菌性生物が腫瘍標的化細菌である、請求項31又は32に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項36】
腫瘍標的化細菌が、大腸菌Nissle 1917株、大腸菌MG1655株、大腸菌83972株、及び大腸菌HU2117株から選択される、請求項35に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項37】
組換え細菌性生物が生物学的に封じ込められている、請求項31~36のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項38】
組換え細菌性生物が栄養要求体である、請求項37に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項39】
組換え細菌性生物が、1つ又は複数のプロテアーゼについて欠損性である、請求項31~38のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項40】
組換え細菌性生物が弱毒化されている、請求項31~39のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項41】
合成治療用バクテリオファージが糸状バクテリオファージである、請求項31~40のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項42】
バクテリオファージ分泌系がバクテリオファージ機構を含む、請求項31~41のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項43】
バクテリオファージ機構が、バクテリオファージアセンブリモジュール、バクテリオファージ複製モジュール、バクテリオファージコーティングモジュール、及び治療用モジュールを含む、請求項42に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項44】
治療用モジュールが、合成治療用バクテリオファージによって提示されることになる治療剤を含む、請求項43に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項45】
治療用モジュールが、それぞれコーティングタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードするか、又はそれらの一部分をコードする、gpIII、gpVI、gpVII、gpVIII、及びgpIX、又はそれらの一部分から選択される1つ又は複数のバクテリオファージコーティング遺伝子を含む、請求項44に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項46】
バクテリオファージ機構が、調節モジュールを更に含む、請求項43~45のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項47】
調節モジュールが、バクテリオファージ機構の活性を制御する調節エレメントを含む、請求項46に記載の生きたバイオ治療薬。
【請求項48】
少なくとも1つの治療剤を対象における腫瘍部位に送達するための方法であって、それを必要とする対象に、請求項1~29のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージの有効量又は請求項30~47のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬の有効量を投与することを含む方法。
【請求項49】
それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための方法であって、それを必要とする対象に、請求項1~29のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージの有効量又は請求項30~47のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬の有効量を投与することを含む方法。
【請求項50】
がんが、副腎がん、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、胆管がん、膀胱がん、骨悪性腫瘍、脳悪性腫瘍、気管支腫瘍、中枢神経系腫瘍、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸部がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮体がん、食道がん、眼悪性腫瘍、胆嚢がん、胃腸がん、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質性腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、心臓悪性腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭がん、下咽頭がん、白血病、肝臓がん、肺がん、リンパ腫、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔がん、副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽腫、口腔がん、中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ラブドイド腫瘍、唾液腺がん、肉腫、皮膚がん、小腸がん、胃がん、奇形腫、精巣がん、咽頭がん、胸腺がん、甲状腺がん、稀な小児がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍から選択される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための、請求項1~29のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージの有効量又は請求項30~47のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬の有効量の使用。
【請求項52】
それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための、合成治療用バクテリオファージの、又は生きたバイオ治療薬の有効量の使用であって、合成治療用バクテリオファージが治療剤を提示しない、使用。
【請求項53】
がんが、副腎がん、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、胆管がん、膀胱がん、骨悪性腫瘍、脳悪性腫瘍、気管支腫瘍、中枢神経系腫瘍、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸部がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮体がん、食道がん、眼悪性腫瘍、胆嚢がん、胃腸がん、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質性腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、心臓悪性腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭がん、下咽頭がん、白血病、肝臓がん、肺がん、リンパ腫、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔がん、副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽腫、口腔がん、中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ラブドイド腫瘍、唾液腺がん、肉腫、皮膚がん、小腸がん、胃がん、奇形腫、精巣がん、咽頭がん、胸腺がん、甲状腺がん、稀な小児がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍から選択される、請求項51又は52に記載の使用。
【請求項54】
請求項1~29のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージ又は請求項30~47のいずれか一項に記載の生きたバイオ治療薬を、合成治療用バクテリオファージ又は生きたバイオ治療薬の投与のための説明書と共に含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年10月7日に出願された米国仮特許出願第63/088,643号、2021年3月16日に出願された米国仮特許出願第63/161,543号、及び2021年6月25日に出願された米国仮特許出願第63/215,176号の利益及び優先権を主張し、これらの出願の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に、抗腫瘍活性を有する1つ又は複数の組換え分子を提示する合成バクテリオファージ、そのような合成バクテリオファージを発現及び送達する生きたバイオ治療薬、並びにそれを使用してがんを予防及び処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
がんの研究及び処置における重要な進歩にもかかわらず、がんは依然として先進国で2番目に多い死因である(Siegel R.ら、ACS Journal、Cancer statistics 2021年;これは参照により本明細書に組み込まれる)。がんは複雑で処置が困難な疾患であり、処置成功の可能性を最大にするためには、往々にして、いくつかの治療標的に同時に作用する必要がある。この戦略は併用療法と呼ばれ、医師は2つ以上の治療薬を組み合わせることによって患者を処置する(Mokhtariら、Oncotarget 2017年6月;8(23):38022~38043頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)。がん性細胞を阻害又は排除するために複数の異なる経路を標的とすることによって、併用療法は単剤療法よりも良好な結果をもたらし、がん処置の基礎となっている。
【0004】
処置成績を最大にするために複数の療法を組み合わせることの必要性は、免疫系を操作して腫瘍消失を誘発するがん療法の一部門である免疫オンコロジーの分野で例示されている。免疫オンコロジーでは、腫瘍が「ホット」であると考えられる場合に腫瘍消失が大きく改善される(Duanら、Trends in Cancer (2020)、6巻、7号、605~618頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)。これは、(i)免疫細胞が腫瘍内に存在し、(ii)これらの免疫細胞が腫瘍微小環境によって抑制されないという2つの条件が満たされる場合に起こる。コールド腫瘍をホット腫瘍に変えるための現在の戦略は、2つの薬物を使用することであり、第1のものは、免疫細胞の動員及び腫瘍浸潤を促進するためのものであり、第2のものは、免疫細胞が活性であって腫瘍微小環境によって阻害されないことを確実にするためのものである(Haanen J.ら、Cell (2017)、170巻、6号、1055~1056頁、及びSevenich L.、Front.Oncol. (2019)、9巻、論文163;これらは参照により本明細書に組み込まれる)。例えば、これは、腫瘍浸潤を促進する腫瘍溶解性ウイルス治療(例えば、AMGEN社のタリモジーン・ラハーパレプベック(Talimogene Laherparepvec)と、免疫細胞が活性化されることを確実にするチェックポイント阻害剤(例えば、Bristol-Myers Squibb社のイピリムマブ)とを組み合わせることによって行われる(Puzanov I.ら、J Clin Oncol (2016)、1;34(22):2619~26頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)。
【0005】
いくつかの処置様式を組み合わせることは、単剤療法と比較して明らかな治療上の利点を提供するが、そのような戦略には少なくとも2つの大きな欠点がある。第1に、いくつかの処置を組み合わせることにより、それらの副作用も組み合わされる。例えば、PD-L1チェックポイント阻害剤をCTLA-4チェックポイント阻害剤と組み合わせることにより、単剤療法よりも良好な結果が提供されうるが、患者の約50%に有害事象ももたらされる(Grover S.ら、Gastrointestinal and Hepatic Toxicities of Checkpoint Inhibitors: Algorithms for Management 2018 ASCO Educational book;これは参照により本明細書に組み込まれる)。これは、過度の副作用のために時に処置が早期に終了し、患者に治療上の解決を与えないままになるため、重大な帰結を生じる可能性がある。第2に、いくつかの処置を組み合わせることは、これらの処置のそれぞれの開発コストを組み合わせることにもなり、その結果、処置コストが膨れ上がる。
【0006】
それと並んで、抗がん療法は、典型的には、がん細胞を排除するための毒性機序を利用している。ほとんどの抗がん薬は、全身性に投与され、全身に拡散するため、それらは健康な組織及び器官に対して毒性作用を発揮し、その結果、副作用を生じる(Cleeland、C.S.ら、Nat. Rev. Clin. Oncol. (2012)、9巻、471~478頁;これは参照により本明細書に組み入れられる)。
【0007】
このため、現在のがん処置のほとんどは、標的化送達アプローチがないことに悩まされている。これらの処置は、その代わりに、腫瘍部位での治療活性が最適になるように所望の腫瘍内濃度に到達させるための高用量に依拠しており、これは副作用のリスクを増大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】PCT/US2017/013072号
【特許文献2】WO2009101611
【特許文献3】WO2010027827
【特許文献4】WO2011066342
【特許文献5】米国特許出願公開第2015/0359894号
【特許文献6】米国特許出願公開第2015/0238545号
【特許文献7】米国特許第5,989,463号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Siegel R.ら、ACS Journal、Cancer statistics 2021年
【非特許文献2】Mokhtariら、Oncotarget 2017年6月;8(23):38022~38043頁
【非特許文献3】Duanら、Trends in Cancer(2020)、6巻、7号、605~618頁
【非特許文献4】Haanen J.ら、Cell(2017)、170巻、6号、1055~1056頁
【非特許文献5】Sevenich L.、Front. Oncol. (2019)、9巻、論文163
【非特許文献6】Puzanov I.ら、J Clin Oncol (2016)、1;34(22):2619~26頁
【非特許文献7】Grover S.ら、Gastrointestinal and Hepatic Toxicities of Checkpoint Inhibitors: Algorithms for Management 2018 ASCO Educational book
【非特許文献8】Cleeland、C.S.ら、Nat. Rev. Clin. Oncol. (2012)、9、471~478頁
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【非特許文献32】Specthrieら、J. Mol. Biol.、1992年、3:720頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記を考慮すると、がん処置の分野では、上記で明らかにした欠点の少なくともいくつかを克服しうる治療剤が依然として必要とされている。特に、いくつかの治療標的に対して同時に作用することができ、その一方で、低用量での局在性送達及び高い有効性によって副作用を制限することができる治療剤に対してそうである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
様々な態様によれば、本技術は、少なくとも1つの治療剤を提示する合成治療用バクテリオファージであって、少なくとも1つの治療剤が、合成バクテリオファージのコーティングタンパク質と融合されている、合成治療用バクテリオファージに関する。これらの態様の一部の実装形態では、合成バクテリオファージ分泌系は、合成バクテリオファージ機構を含む。合成バクテリオファージ機構は、バクテリオファージアセンブリモジュール、バクテリオファージ複製モジュール、バクテリオファージコーティングモジュール、及び治療用モジュールを含む。一部の場合には、バクテリオファージアセンブリモジュールは、i)タンパク質pI及びpXIをコードするバクテリオファージ遺伝子gpI;又はii)タンパク質pIVをコードするバクテリオファージ遺伝子gpIV;又はiii)i)及びii)の両方を含む。一部の他の場合には、バクテリオファージ複製モジュールは、i)タンパク質pII及びpXをコードするバクテリオファージ遺伝子gpII;又はii)タンパク質pVをコードするバクテリオファージ遺伝子gpV;又はiii)i)及びii)の両方を含む。一部の場合には、バクテリオファージコーティングモジュールは、それぞれコーティングタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードするか、又はそれらの一部分をコードする、バクテリオファージ遺伝子gpIII、gpVI、gpVII、gpVIII、及びgpIX、又はそれらの一部分を含む。一部の場合には、治療用モジュールは、それぞれコーティングタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする、バクテリオファージ遺伝子gpIII、gpVI、gpVII、gpVIII、及びgpIXから選択される1つ又は複数のバクテリオファージコーティング遺伝子を含む。一部の実装形態では、少なくとも1つの治療剤は、コーティングタンパク質の少なくとも一部において提示される。
【0012】
様々な態様によれば、治療剤は結合タンパク質である。一部の場合には、結合タンパク質は、発がん、がんの発生、又は転移の発生に関与する1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子に結合し、それらを阻害する。一部の他の場合には、阻害しようとする1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子は、CSF1、CSF1R、CCR4、CCL2、CCL17、CCL22、HER2、GD2、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-13、IL-17、IL-27、IL-35、CD20、CD27、CD30、CD33、CD70、TGF-β、M-CSF、EGFR、ERBB2、ERBB3、PGE2、VEGF、VEGFR-2、CXCR4/CXCL12、Tie2、ガレクチン-1、ガレクチン-3、ホスファチジルセリン、並びにTAM及びTimホスファチジルセリン受容体から選択される。一部の場合には、結合タンパク質は、がん性細胞の排除を導く共刺激受容体を活性化するアゴニストとして作用し、1つ又は複数の共刺激細胞受容体は、CD40、CD27、CD28、CD70、ICOS、CD357、CD226、CD137、及びCD134から選択されるが、これらに限定はされない。一部の他の場合には、結合タンパク質は、免疫チェックポイント分子、例えば、CCR4、CTLA-4、CD80、CD86、PD-1、PD-L1、PD-L2、TIGIT、VISTA、LAG-3、TIM1、TIM3、CEACAM1、LAIR-1、HVEM、BTLA、CD47、SIRPα、CD160、CD200、CD200R、CD39、CD73、B7-H3、B7-H4、IDO、TDO、KIR、及びA2aRであるが、これらに限定されないものを阻害する。
【0013】
様々な態様によれば、治療剤は免疫応答を刺激する。
【0014】
様々な態様によれば、治療剤は、抗体又は抗体模倣物又はナノボディである。
【0015】
様々な態様によれば、治療剤はシトシンデアミナーゼである。
【0016】
様々な態様によれば、本技術は、少なくとも1つの治療剤を産生及び/又は送達するための生きたバイオ治療薬に関し、生きたバイオ治療薬は、本明細書で定義される合成治療用バクテリオファージを分泌しうる合成バクテリオファージ分泌系を含む組換え細菌性生物を含む。
【0017】
様々な態様によれば、本技術は、治療剤を産生及び/又は送達するための生きたバイオ治療薬であって、合成治療用バクテリオファージを分泌しうる合成バクテリオファージ分泌系を含む組換え細菌性生物を含み、合成治療用バクテリオファージが治療剤を提示する、生きたバイオ治療薬に関する。一部の態様では、組換え細菌性生物は、腸内細菌(Enterobacteriaceae)科、シュードモナス(Pseudomonadaceae)科及びビブリオ(Vibrionaceae)科から選択される。一部の態様では、組換え細菌性生物は、腫瘍標的化細菌、例えば、大腸菌(Escherichia coli)Nissle 1917株及び大腸菌MG1655株であるが、これらに限定されない。
【0018】
様々な態様によれば、本技術は、少なくとも1つの治療剤を対象における腫瘍部位に送達するための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書で定義される合成治療用バクテリオファージの有効量又は本明細書で定義される生きたバイオ治療薬の有効量を投与することを含む方法に関する。
【0019】
様々な態様によれば、本技術は、それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための方法であって、それを必要とする対象に、本明細書で定義される合成治療用バクテリオファージの有効量又は本明細書で定義される生きたバイオ治療薬の有効量を投与することを含む方法に関する。
【0020】
様々な態様によれば、本技術は、それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための方法であって、それを必要とする対象に合成治療用バクテリオファージの有効量を投与することを含み、合成バクテリオファージが治療剤を提示しない、方法に関する。一部の実装形態では、がんは、副腎がん、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、胆管がん、膀胱がん、骨悪性腫瘍、脳悪性腫瘍、気管支腫瘍、中枢神経系腫瘍、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸部がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮体がん、食道がん、眼悪性腫瘍、胆嚢がん、胃腸がん、胃腸カルチノイド腫瘍、胃腸間質性腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、心臓悪性腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭がん、下咽頭がん、白血病、肝臓がん、肺がん、リンパ腫、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔がん、副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽腫、口腔がん、中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ラブドイド腫瘍、唾液腺がん、肉腫、皮膚がん、小腸がん、胃がん、奇形腫、精巣がん、咽頭がん、胸腺がん、甲状腺がん、稀な小児がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍から選択される。
【0021】
様々な態様によれば、本技術は、それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための、本明細書で定義される合成治療用バクテリオファージの有効量又は本明細書で定義される生きたバイオ治療薬の有効量の使用に関する。
【0022】
様々な態様によれば、本技術は、それを必要とする対象におけるがんの予防及び/又は処置のための、合成治療用バクテリオファージの有効量の使用であって、合成治療用バクテリオファージが治療剤を提示しない、使用に関する。
【0023】
様々な態様によれば、本技術は、請求項1~33のいずれか一項に記載の合成治療用バクテリオファージ又は定義される生きたバイオ治療薬を、合成治療用バクテリオファージ又は生きたバイオ治療薬の対象への投与のための説明書と共に含むキットの使用に関する。
【0024】
様々な態様によれば、本技術は、本明細書で定義される生きたバイオ治療薬を、対象への薬物の投与のための説明書と共に含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本技術の1つの実施形態による合成治療用バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の例示的な構成の概略図である。
【
図2】単一特異性及び/又は二重特異性治療タンパク質を提示する単剤、二剤、及び多剤治療用合成バクテリオファージの概略図である。
【
図3】CD47結合性合成治療用バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の作用様式の概略図である。生きたバイオ治療薬は、チェックポイント阻害剤である抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する。CD47ナノボディは、がん細胞上に発現されるCD47免疫チェックポイントを認識して結合する。このため、治療用バクテリオファージはCD47に結合して、CD47免疫チェックポイントがT細胞活性化を阻害するのを妨げる。
【
図4】合成バクテリオファージ及び細菌宿主の免疫原性効果の概略図である。
【
図5】合成バクテリオファージ分泌系の例示的な構造の概略図である。構築された合成バクテリオファージ機構の構造の例には、M13K07(A)、M13mp18-Kan(B)、pTAT004(C)、pTAT025(D)及びそれらの誘導体が含まれる。構築された合成バクテリオファージスカフォールドベクターの例には、pTAT002(E)、pTAT012(F)、pTAT013(G)、pTAT014(H)及びそれらの誘導体が含まれる。
【
図6】pTAT001のマップの概略図を含み、構築物を検証するために選択した制限酵素によって切断された部位がマップ上に特定されている。予想される消化産物も、指定の酵素による消化後の構築物の実験的アガロースゲルと共にマップ上に示されている。
【
図7】
図7A~7Cは、生きたバイオ治療薬が、pIIIと融合されたチェックポイント阻害剤を提示する完全にアセンブリされたバクテリオファージを分泌することを示すグラフである。(A)M13K07を含むものの感染性と比較した、pTAT004をpTAT002(対照)又はpTAT003(抗CD47ナノボディを提示する)のいずれかと共に含む生きたバイオ治療薬によって分泌されたバクテリオファージの感染性。(B)何も提示しないか(pTAT004 + pTAT002)、pIII上にナノボディ(抗CD47、pTAT004 + pTAT003;抗PD-L1、pTAT004 + pTAT020;抗CTLA-4、pTAT004 + pTAT019)、pIII上にアンチカリン(抗CTLA-4、pTAT004 + pTAT030)、pIII上に酵素(シトシンデアミナーゼ、pTAT004 + pTAT022)、pVIII上にペプチド(pTAT002 + pTAT027)、又はpIX上に抗CD47ナノボディ(pTAT025 + pTAT002 + pTAT028)のいずれかを提示する生きたバイオ治療薬によって産生された合成バクテリオファージのELISAによる投与量。HRPと連結された抗pVIII B62-FE3(プロゲン)抗体を用いて検出を行った。(C)pTAT004 + pTAT002、pTAT004 + pTAT003又はM13K07のいずれかを保有する生きたバイオ治療薬によって産生されたバクテリオファージのELISA投与量。検出はHRPと連結された抗HA抗体を用いて行った。
【
図8】合成バクテリオファージがA20リンパ腫がん性細胞に強く結合することを示すグラフである。pTAT004と、pTAT002(対照)又はpTAT003(抗CD47ナノボディを提示する)のいずれかとを保有する生きたバイオ治療薬によって産生されたバクテリオファージを使用してプルダウンアッセイを行った。
【
図9】
図9A~9Lは、チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージが、がん細胞上の免疫チェックポイントを隠すことを示すグラフである。(A)フローサイトメトリーアッセイ中にFITCチャネルを使用して非染色A20細胞上で測定された蛍光基礎シグナル。(B)抗CD47-FITC抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(C)pTAT004 + pTAT002を保有する生きたバイオ治療薬によって産生された対照合成バクテリオファージとまずインキュベートされ、次いで抗CD47-FITC抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(D)pTAT004 + pTAT003を保有する生きたバイオ治療薬によって産生された、pIII上に抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージとまずインキュベートされ、次いで抗CD47-FITC抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(E)フローサイトメトリーアッセイ中にFITCチャネルを使用して非染色A20細胞で測定された蛍光基礎シグナル。(F)抗CD47-FITC抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(G)pTAT004 + pTAT002を保有する生きたバイオ治療薬によって産生された対照合成バクテリオファージとまずインキュベートされ、次いで抗CD47-FITC抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(H)pTAT002 + pTAT025 + pTAT028を保有する生きたバイオ治療薬によって産生された、pIX上に抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージとまずインキュベートされ、次いで抗CD47-FITC抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(I)フローサイトメトリーアッセイ中にPEチャネルを使用して非染色A20細胞で測定された蛍光基礎シグナル。(J)抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(K)pTAT004 + pTAT002を保有する生きたバイオ治療薬によって産生された対照合成バクテリオファージとまずインキュベートされ、次いで抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(L)pTAT004 + pTAT020を保有する生きたバイオ治療薬によって産生された、pIII上に抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージとまずインキュベートされ、次いで抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。
【
図10】抗CTLA-4ナノボディ又はアンチカリンを提示する合成バクテリオファージが、CTLA-4タンパク質に結合しうることを示すグラフである。抗CTLA-4ナノボディ(pTAT019)、若しくは抗CTLA-4アンチカリン(pTAT030)を提示する合成バクテリオファージ、又は提示しない合成バクテリオファージ(pTAT002)についてELISAを行った。
【
図11】
図11A~11Eは、2つのタンパク質ドメイン間でクローニングされた場合に機能的な治療用タンパク質が機能を維持することを示すグラフである。pIII中に挿入された抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージは、A20細胞の表面上のPD-L1タンパク質に結合して、PE標識抗体と競合することができる。(A)フローサイトメトリーアッセイ中にPEチャネルを使用して非染色A20細胞で測定された蛍光基礎シグナル。(B)抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(C)対照合成バクテリオファージ(pTAT002、提示なし)とまずインキュベートされ、次いで抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(D)pIIIのN末端に抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージ(pTAT032)とまずインキュベートされ、次いで抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。(E)pIIIの結合ドメインとバクテリオファージアンカードメインとの間に挿入された抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージ(pTAT033)とまずインキュベートされ、次いで抗PD-L1-PE抗体で染色されたA20集団の蛍光シグナル。
【
図12】
図12A~12Fは、合成バクテリオファージがその全ての主要なコートタンパク質pVIIIサブユニット上に抗原を提示しうることを示すグラフである。(A)pTAT027構築物のSangerシークエンシング。(B)ELISAによって測定した、pVIII上にOVAエピトープを提示するか又は提示しない、及びpIII上に抗CD47ナノボディを提示するか又は提示しない生きたバイオ治療薬によって分泌されたバクテリオファージ粒子。(C)pVIII上にOVAを提示するか又は提示しないバクテリオファージにおけるpIIIサブユニットのタンパク質プロファイルのウェスタンブロット分析。(D~F)A20細胞の表面上のCD47に結合するバクテリオファージのフローサイトメトリー分析。(D)、pVIII-OVA + pIII野生型バクテリオファージとインキュベートされ、抗CD47-FITC抗体で染色されたもの、(E)、又はpVIII-OVA + nbCD47-pIIIバクテリオファージとインキュベートされ、抗CD47-FITC抗体で染色されたもの、(F)。染色強度の低下は、A20細胞の表面上のCD47のマスキングと相関する。
【
図13-1】
図13。
図13A~13Bは、抗CD47、抗PD-L1、又は抗CTLA-4ナノボディの提示により、合成バクテリオファージの抗腫瘍活性が増強されることを示すグラフである。(A)対照合成バクテリオファージ(pTAT002)が10
7個~10
11個の範囲にわたるバクテリオファージ粒子の3回の腫瘍内注入により処置した各マウス群について、平均腫瘍体積を測定した。PBS、10
7個、10
8個、及び10
9個のバクテリオファージ粒子による処置については、用量を第0日、第4日及び第7日に投与した(矢印);一方、10
11個のバクテリオファージ粒子による処置については、用量を第0日、第4日、及び第11日に投与した(グレーの矢印)。(B)対照合成バクテリオファージ処置により処置したマウスで観察された腫瘍消失。(C)治療タンパク質を含まない1×10
8個の対照合成バクテリオファージ(pTAT002)、抗PDL1ナノボディを提示する1×10
8個の合成バクテリオファージ、又は抗CTLA-4ナノボディを提示する1×10
8個の合成バクテリオファージの3回の腫瘍内注入(矢印)により処置したマウスで測定された腫瘍体積。個々の腫瘍体積を、各マウスについて示す(実線=消失がみられたマウス、点線=消失がみられなかったマウス)。(A~B)データは、1群当たり少なくとも5匹のマウスの代表である。腫瘍体積は、最大測定値に直交測定値の二乗を乗算して2で割ることによって計算した。
【
図14-1】
図14。
図14A~14Hは、合成バクテリオファージによって提示されたチェックポイント阻害剤の相乗効果を示す図である。(A)精製抗PD-L1ナノボディが機能的であり、PD-L1タンパク質に結合することを示すELISAアッセイ。(B~C)合成バクテリオファージによって提示されたチェックポイント阻害剤の相乗効果を示す。マウスの右側腹部に5×10
6個のA20細胞を注入することによって、マウスに腫瘍を生着させた。続いて、腫瘍を、腫瘍体積が100~200mm
3の間の範囲になった時点で処置した。第0日、第4日及び第7日に処置した各マウスについて、PBS、分子8×10
15個の抗PD-L1ナノボディ、1×10
8個の対照合成バクテリオファージ粒子(pTAT002)、分子5×10
8個の抗PD-L1ナノボディ、1×10
8個の対照合成バクテリオファージ粒子と分子5×10
8個の抗PD-L1ナノボディ、又は抗PD-L1ナノボディを提示する1×10
8個の合成バクテリオファージ粒子のいずれかを腫瘍内注入して、個々の腫瘍体積を測定した。腫瘍消失データは(B)に報告されており、腫瘍体積は、最大測定値に直交測定値の二乗を乗算して2で割ることによって計算した(実線=消失がみられたマウス、点線=消失がみられなかったマウス)(C)。
【
図15】抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬が、腫瘍増殖を阻害することを示すグラフである。マウスの右側腹部に5×10
6個のA20細胞を注射することによって、マウスに腫瘍を生着させた。続いて、腫瘍を、腫瘍体積が100~200mm
3の間の範囲になった時点で、100μLのPBS(ビヒクル対照)、治療用タンパク質を提示しない合成バクテリオファージを分泌する5×10
8個の生きたバイオ治療薬(pTAT002)、又はpIIIサブユニット上に抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する5×10
8個の生きたバイオ治療薬(pTAT003)を注射することによって処置した。腫瘍体積は、デジタル式キャリパーを使用して指定の時点で測定した。腫瘍体積は、最大測定値に直交測定値の二乗を乗算して2で割ることによって計算した。CD47チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージによる処置のみが腫瘍排除を誘導した。
【
図16-1】
図16。
図16A~16Bは、抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬が、抗腫瘍応答を生じさせることを示すグラフである。マウスの右側腹部に5×10
6個のA20細胞を注入することによって、マウスに腫瘍を生着させた。続いて、腫瘍を、腫瘍体積が80~250mm
3の間の範囲になった時点で、50μLのPBS(ビヒクル対照)、治療用タンパク質を提示しない対照合成バクテリオファージを分泌する5×10
8個の生きたバイオ治療薬(pTAT002)、又はpIIIサブユニット上に抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する5×10
8個の生きたバイオ治療薬(pTAT020)を注入することによって処置した。腫瘍体積は、デジタル式キャリパーを使用して指定の時点で測定した。腫瘍体積は、最大測定値に直交測定値の二乗を乗算して2で割ることによって計算した(実線=消失がみられたマウス、点線=消失がみられなかったマウス)。(B)全てのマウス群について、処置後第24日でのマウスからの腫瘍の全消失を評価した。マウスを屠殺して解剖し、転移を調べると共に原発性腫瘍の全消失を評価した。第24日の時点で原発性腫瘍を有さず、検出可能な転移が認められないマウスは、がん細胞が消失したとみなす。
【
図17】
図17A~17Cは、生きたバイオ治療薬用及び合成治療用バクテリオファージの両方が、がん性細胞に対して長期間持続する適応免疫応答を誘導することを示すグラフである。右側腹部にA20腫瘍を有するマウスを、第0日、第3日及び第11日に、抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージ(A)、又は抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬(B)のいずれかを腫瘍内注入することによって処置した。マウスから腫瘍が消失すると、マウスを処置後45日間保ち、その後で5×10
6個のA20がん細胞の注射により左側腹部に再負荷した。対照として、ナイーブマウスにも5×10
6個のA20がん細胞の注射により負荷した(C)。処置により消失がみられたマウスのみが、新たな腫瘍の形成を妨げる適応免疫応答を獲得した。(A~C)腫瘍体積は、最大測定値に直交測定値の二乗を乗算して2で割ることによって計算した(実線=消失がみられたマウス、点線=消失がみられなかったマウス)。
【
図18】合成治療用バクテリオファージが機能性シトシンデアミナーゼを提示して、抗腫瘍薬5-FUを産生することができることを示すグラフである。5-FCの5-FUへの変換を、石英キュベットを使用して分光光度計で255nm及び290nmの吸光度によって測定した。次に、5-FC及び5-FUの濃度を、各分子の吸光度スペクトルに基づく以下の式を使用して得た:[5-FC]=0.119×A290-0.025×A255、及び[5-FU]=0.185×A255-0.049×A290。
【
図19】シトシンデアミナーゼを提示する合成治療用バクテリオファージによって変換された5-FUが、がん細胞に対して抗増殖効果を有することを示すグラフである。A20がん細胞を、ビヒクル(PBS 12% DMSO)、200μMの5-FC、又は200μMの5-FCとの24時間のインキュベーション後の対照バクテリオファージ(pTAT002)若しくはシトシンデアミナーゼを提示するバクテリオファージ(pTAT022)のいずれかの変換産物と共に、42時間インキュベートした。続いて、がん細胞の死滅をトリパンブルー着色によってモニターした。がん細胞の死滅は、シトシンデアミナーゼを提示する合成バクテリオファージによって産生された5-FUでのみ観察された。
【
図20】
図20A~
図20Bは、代替的開始コドンGTGが、合成治療用バクテリオファージの表面での治療用タンパク質の提示及び完全性を改善することを示すグラフである。(A)開始コドンとしてATG又はGTGを用いてクローニングした場合に、抗pVIII ELISAアッセイによって測定された抗PDL1ナノボディを提示する合成バクテリオファージの産生。(B)開始コドンがATG又はGTGのいずれかである発現系に由来するファージ調製物に対するウェスタンブロットによって測定されたnbPDL1-pIIIの完全性。融合タンパク質の完全形態は、矢印で示される。
【
図21】
図21A~
図21Cは、2つ以上の治療用タンパク質を提示するバクテリオファージ粒子を産生するように、生きたバイオ治療薬を操作することができることを示すグラフである。(A)タンパク質を提示しない対照バクテリオファージ(pTAT004 + pTAT002)、pIII上に抗PD-L1ナノボディを提示するバクテリオファージ(pTAT032)、pIII上に抗PD-L1ナノボディを提示するgpIX欠損変異体(pTAT032ΔgpIX)、又はpIII上に抗PD-L1ナノボディ+ pIX上に抗CTLA-4アンチカリンを提示する二重提示物(pTAT032ΔgpIX + pTAT035)を分泌する生きたバイオ治療薬について、LBブロス中、37℃で一晩増殖させた後のバクテリオファージ産生を、抗PVIIIサンドイッチELISAによって測定した。(B)A20細胞の表面でのPDL1上の種々のファージ調製物の結合を定量化するELISAのHRPシグナル。PEG沈殿を、LB(バクテリオファージなし)、pTAT002 + pTAT004由来のバクテリオファージ(提示なしの対照)、pTAT032由来のバクテリオファージ(pIII上の抗PD-L1ナノボディ)及びpTAT032ΔgpIX + pTAT035由来のバクテリオファージ(pIII上の抗PD-L1ナノボディ+ pIX上の抗CTLA-4アンチカリン)のいずれかに対して行った。A20細胞に結合するバクテリオファージ粒子を検出するために抗pVIII-HRP抗体を使用して、シグナルを測定した。(C)ウェル内に固定化された種々のファージ調製物CTLA-4の結合を定量化するELISAのHRPシグナル。PEG沈殿を、LB(バクテリオファージなし)、pTAT002 + pTAT004由来のバクテリオファージ(提示なしの対照)、pTAT032由来のバクテリオファージ(pIII上の抗PD-L1ナノボディ)及びpTAT032ΔgpIX + pTAT035由来のバクテリオファージ(pIII上の抗PD-L1ナノボディ+ pIX上の抗CTLA-4アンチカリン)のいずれかに対して行った。pIII上のHAと融合した抗PD-L1ナノボディ又はバクテリオファージ粒子の尾部上のpIIIと融合したHAの存在を検出するために、抗HA-HRP抗体を使用してシグナルを測定した。
【
図22】
図22A~
図22Bは、生きたバイオ治療薬が、pIII上に治療用タンパク質の混合物を提示する合成治療用バクテリオファージを分泌しうることを示すグラフである。pIII上にPD-L1(pTAT032)、又はCTLA-4(pTAT019)、又はPD-L1及びCTLA-4の両方(pTAT032 + pTAT019)に対するナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬を、PD-L1(A)又はCTLA-4(B)に対する結合活性についてELISAアッセイによって試験した。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書で使用される場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈が他のことを明確に指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0027】
終点による数値範囲の本明細書における列挙は、その範囲内に包含される全ての数を含むことを意図する(例えば、1から5までの列挙は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、4.32、及び5を含む)。
【0028】
「約」という用語は、明示的であるか否かにかかわらず、本明細書で与えられる全ての量は、実際の所与の値を指すことを意味し、また、そのような所与の値に対する実験及び/又は測定条件による同等物及び近似を含め、当業者の通常に基づいて合理的に推論されるであろう、そのような所与の値に対する近似を指すことも意味して、本明細書で使用される。例えば、所与の値又は範囲の文脈における「約」という用語は、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは15%以内、より好ましくは10%以内、より好ましくは9%以内、より好ましくは8%以内、より好ましくは7%以内、より好ましくは6%以内、より好ましくは5%以内の値又は範囲を指す。
【0029】
「及び/又は」という表現は、本明細書で使用される場合、2つの指定された特徴又は構成要素のそれぞれを、他方を伴うか又は伴わずに、具体的に開示するものと解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBのそれぞれを、あたかもそれぞれが本明細書に個別に記載されているかのように具体的に開示するものと解釈されるべきである。
【0030】
「配列相同性の程度又はパーセンテージ」という表現は、本明細書において、最適なアラインメント後の2つの配列間の配列同一性の程度又はパーセンテージを指す。配列同一性のパーセンテージ(又は同一性の程度)は、比較ウィンドウにわたって2つのアラインメントされた配列を比較することによって決定され、ここで比較ウィンドウにおけるペプチド又はポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントのための参照配列(付加も欠失も含まない)と比較して、付加又は欠失(すなわち、ギャップ)を含みうる。パーセンテージは、同一のアミノ酸残基又は核酸塩基が両方の配列に存在する位置の数を決定して、一致した位置の数を得て、一致した位置の数を比較のウィンドウにおける位置の総数で割り、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得ることによって計算される。
【0031】
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、ウイルス、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド誘導体又はフラグメント又はポリヌクレオチドを含むが、これらに限定されない核酸又はポリペプチドが、それらの天然の環境から分離されていることを指す。例えば、本明細書で使用される場合、「単離された核酸分子」という表現は、組換えDNA手法によって作製される場合は細胞材料若しくは培養培地を、又は化学合成される場合は化学的前駆体若しくは他の化学物質を実質的に含まない核酸を指す。単離された核酸はまた、その核酸の由来である核酸において自然に隣接する配列(すなわち、核酸の5'及び3'末端に位置する配列)を実質的に含まない。
【0032】
2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸は、2つの配列中のヌクレオチド残基又はアミノ酸の配列が、以下に記載されるように最大の対応関係が得られるようにアラインメントされた場合に同一である場合、「同一」であるといわれる。2つの(又はそれ以上の)ペプチド又はポリヌクレオチド間の配列比較は、典型的には、セグメント又は「比較ウィンドウ」にわたって2つの最適にアラインメントされた配列の配列を比較して、配列類似性のある局所領域を同定及び比較することによって行われる。比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith及びWaterman, Ad. App. Math 2:482頁(1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman及びWunsch, J. Mol. Biol. 48:443頁(1970)の相同性整列アルゴリズムによって、Pearson及びLipman, Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85:2444頁(1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ化された実施によって(Wisconsin Genetics Software Package、Genetics Computer Group(GCG)、575 Science Dr., Madison, Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)、又は目視検査によって行うことができる。他のアラインメントプログラム、例えば、「Multiple sequence alignment with hierarchical clustering」、F. CORPET、1988年、Nucl. Acids Res., 16(22), 10881~10890頁も使用することができる。
【0033】
一部の実施形態では、本技術は、本明細書に記載される核酸配列に対して、少なくとも約75%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%、少なくとも約86%、又は少なくとも約87%、又は少なくとも約88%、又は少なくとも約89%、又は少なくとも約90%、又は少なくとも約91%、又は少なくとも約92%、又は少なくとも約93%、又は少なくとも約94%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約96%、又は少なくとも約97%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%の配列同一性を有する、単離された核酸分子に関する。
【0034】
別段の定義がない限り、本発明に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとし、更に、文脈によって別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、複数形の用語は単数形を含むものとする。一般に、本明細書に記載される細胞及び組織培養、分子生物学、並びにタンパク質及びオリゴ又はポリペプチド化学、並びにハイブリダイゼーションに関連して利用される命名法、並びにそれらの手法は、当技術分野において周知であり、一般的に使用される。組換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、並びに組織培養及び形質転換(例えば、エレクトロポレーション、リポフェクチン)のためには、標準的な手法が使用される。酵素反応及び精製手法は、製造元の仕様に従って、又は本明細書に記載されるように当技術分野で一般的に達成されるように行われる。前記の手法及び手順は、一般に、当技術分野で周知の従来の方法に従って、及び本明細書において本明細書を通して引用及び議論される種々の一般的及びより具体的な参考文献に記載されるように行われる(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning. A Laboratory Manualを参照のこと)。
【0035】
「抗体」という用語は、本明細書で使用される場合、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的活性部分、すなわち、抗原と特異的に結合する(「免疫反応する」)抗原結合部位を含有する分子を指す。構造的に、最も単純な天然に存在する抗体(例えば、IgG)は、4つのポリペプチド鎖として、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む。免疫グロブリンは、いくつかのタイプの分子、例えば、IgD、IgG、IgA、IgM及びIgEを含む分子の大きなファミリーを表す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「二重特異性抗体」という用語は、2つの異なるモノクローナル抗体の断片で構成され、その結果、2つの異なる型の抗原に結合する人工タンパク質を指す。
【0037】
「免疫グロブリン分子」という用語は、例えば、ハイブリッド抗体、又は改変された抗体、及びそれらの断片を含む。
【0038】
本明細書で使用される「抗原」は、抗体によって特異的に認識されて結合される物質を指す。抗原には、例えば、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、多糖類及び脂質;それらの同等物及び組合せが含まれうる。本明細書で使用される場合、「表面抗原」という用語は、細胞の原形質膜構成要素を指し、細胞膜を構成する内在性及び表在性膜タンパク質、糖タンパク質、多糖類並びに脂質を包含する。「内在性膜タンパク質」は、細胞の細胞膜の脂質二重層にまたがって伸長する膜貫通タンパク質である。典型的な内在性膜タンパク質は、一般に疎水性アミノ酸残基を含む少なくとも1つの「膜貫通セグメント」を含有する。表在性膜タンパク質は、脂質二重層の疎水性内部に伸長せず、他の膜タンパク質との非共有結合性相互作用によって膜表面に結合する。
【0039】
「抗体断片」は、インタクトな抗体の一部分を含み、好ましくは、インタクトな抗体の抗原結合領域又は可変領域を有する。抗体断片の例には、Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片及びFv断片;ダイアボディ;線状抗体(Zapataら、Protein Eng. 8(10): 1057~1062頁(1995)を参照のこと);単鎖抗体分子;並びに抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
単鎖可変断片(scFv)は、典型的には、免疫グロブリンの重鎖(VH)及び軽鎖(VL)の可変領域の融合タンパク質であり、10から約25アミノ酸の短いリンカーペプチドによって連結されている。リンカーは通常、柔軟性のためにグリシンが豊富であるほか、可溶性のためにセリン又はトレオニンが豊富である。リンカーは、VHのN末端をVLのC末端と連結することができ、又はその逆も可能である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「バクテリオファージ」は、バクテリアに感染するウイルスを指す。同様に、「古細菌ファージ」は、古細菌に感染するウイルスを指す。用語「ファージ」は、両方のタイプのウイルスを指すために本明細書で使用されるが、ある特定の場合には、文脈によって示されるように、バクテリオファージ又は古細菌ファージを具体的に指すための略記としても使用されうる。バクテリオファージ及び古細菌ファージは、宿主生合成機構の一部又は全てを利用することによって細菌/古細菌に感染してその内部で増殖する、(感染させる宿主を同定する工程、及び適切な宿主細胞においてのみそのゲノムを生産的に複製することが可能である工程の両方に関して)偏性細胞内寄生体である。異なるバクテリオファージ及び古細菌ファージは異なる材料を含有しうるが、それらは全て、核酸及びタンパク質を含有し、ある特定の状況では脂質膜に封入されうる。
【0042】
ファージに応じて、核酸はDNA又はRNAのいずれかであり得(しかし典型的には両方ではない)、様々な形態で存在することができ、核酸のサイズはファージに依存する。最も単純なファージは、サイズが数千ヌクレオチドのゲノムしか有しないが、より複雑なファージはそのゲノム中に100,000を上回るヌクレオチド、稀に1,000,000を上回るヌクレオチドを有しうる。加えて、ファージは脂質膜によって覆われてもよく、異なる材料を含有してもよい。ファージ粒子中の異なる種類のタンパク質の数及び各種類のタンパク質の量は、ファージに応じて様々であろう。これらのタンパク質は環境中のヌクレアーゼから核酸を保護し、感染において機能的である。
【0043】
多くの繊維状及び非繊維状ファージのゲノムがシークエンシングされており、これには例えば、繊維状ファージM13、f1、fd、Ifl、Ike、Xf、Pf1及びPf3が含まれる。繊維状ファージのクラスの中で、M13は、その三次元構造が知られており、そのコートタンパク質の機能がよく理解されていることから、最もよく特徴付けられた種である。具体的には、M13ゲノムは、5つのコートタンパク質pIII、VIII、VI、VII及びIXをコードし、これらはM13ベクターへの外来DNAの挿入のための部位として使用される。
【0044】
本明細書で使用される場合、「ファージゲノム」は、天然に存在するファージゲノム及びその誘導体を含む。一般に(必ずしもではないが)、誘導体は、親と同じ宿主内で増殖する能力を有する。一部の実施形態では、天然に存在するファージゲノムと誘導体ファージゲノムとの間の唯一の差異は、ファージゲノムの少なくとも一方の末端からの(ゲノムが線状である場合)、又はゲノム中の少なくとも1つの箇所に沿った(ゲノムが環状である場合)、少なくとも1つのヌクレオチドの付加又は欠失である。
【0045】
本明細書で使用される場合、「宿主細胞」等は、特定のタイプのファージゲノムDNAからファージを形成することができる細胞である。一部の実施形態では、ファージゲノムDNAは、ファージによる細胞の感染によって細胞に導入される。ファージは、宿主細胞の外側の受容体分子に結合し、そのゲノムDNAを宿主細胞に注入する。一部の実施形態では、ファージゲノムDNAは、形質転換又は任意の他の好適な手法を使用して細胞に導入される。一部の実施形態では、ファージゲノムDNAは、細胞に導入される場合、実質的に純粋である。ファージゲノムDNAは、細胞に導入される場合、ベクター中に存在することができる。非限定的な例として、ファージゲノムDNAは、形質転換又は同等の手法によってファージ宿主細胞に導入される酵母人工染色体(YAC)中に存在する。続いて、ファージゲノムDNAはコピーされ、ファージ宿主細胞の溶解後にファージ粒子としてパッケージングされる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「表層配列」は、遺伝子パッケージの「表層タンパク質」をコードするヌクレオチド配列を指す。これらのタンパク質は、遺伝子パッケージのゲノムを封入するタンパク質性コートを形成する。典型的には、表層タンパク質は、遺伝子パッケージ、例えば、ファージ又は細菌の表層上に提示されようとするポリペプチドをアセンブリするようにパッケージに指示する。
【0047】
「誘導性プロモーター」は、1つ又は複数の遺伝子に作動可能に連結された調節領域を指し、ここで、遺伝子の発現は、前記調節領域の誘導物質の存在下で増加するか、又は前記調節領域のリプレッサーの非存在下で増加する。誘導性プロモーターは、外因性環境条件によって誘導することができ、これは本明細書に記載されるプロモーターが誘導される設定又は状況を指す。外因性環境条件は、インタクトな(溶解されていない)操作された微生物に対して外部の環境条件、腫瘍環境に対して内因性若しくは天然性、又は宿主対象環境、又は環境に対して外因性に導入された擾乱を指す。誘導性プロモーターは、1つ又は複数の調節エレメントを含むことができ、これには、エンハンサー配列、応答エレメント、タンパク質認識部位、誘導性エレメント、プロモーター制御エレメント、タンパク質結合配列、5'及び3'非翻訳領域、転写開始部位、終結配列、ポリアデニル化配列、リボスイッチ及びイントロンが含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
本技術について、以下に更に詳細に説明する。この説明は、本技術が実施されうる全ての異なる方法、又は本技術に追加されうる全ての特徴の詳細なカタログであることを意図しない。例えば、1つの実施形態に関して例示された特徴は、他の実施形態に組み込まれてもよく、特定の実施形態に関して例示された特徴は、その実施形態から除去されてもよい。加えて、本明細書で示唆される様々な実施形態に対する多数の変形及び追加が、本開示に照らして当業者には明らかであろうが、これらの変形及び追加は本技術から逸脱しない。それ故に、以下の説明は、本技術の一部の特定の実施形態を例示することを意図し、それらの全ての置換、組合せ及び変形を網羅的に特定することを意図しない。
【0049】
いくつかの治療標的に対して同時に作用することによってがんを処置するための解決策は、いくつかの治療用分子を連結しうる分子スカフォールドを使用することである。繊維状バクテリオファージは、治療用タンパク質又はペプチドが提示されうる大きな免疫原性生物構造である。したがって、繊維状バクテリオファージの免疫原性活性と治療用タンパク質又はペプチドとの組合せは、がん処置の有効性を改善しうる。更に、繊維状バクテリオファージは、細菌によって分泌され得、腫瘍部位に局所的に薬物を送達するための効率的な方法を提供する。
【0050】
様々な実施形態によれば、本技術は、合成治療用バクテリオファージを送達しうる作動可能な合成治療用バクテリオファージ生きたバイオ治療薬に関する。
【0051】
一部の実施形態によれば、本技術は、がんの処置のための合成治療用バクテリオファージを送達しうる作動可能な生きたバイオ治療薬に関する。一部の実装形態では、合成治療用バクテリオファージは、生きたバイオ治療薬細菌によって送達される。一部の場合には、合成バクテリオファージは免疫原性であり、単一特異性又は多重特異性の治療用タンパク質を提示する。
【0052】
一部の態様では、本開示は、合成治療用バクテリオファージの送達のための生きたバイオ治療薬を提供する。
【0053】
一部の実施形態では、本技術は、合成バクテリオファージ機構及び合成バクテリオファージスカフォールドベクターから構成される合成バクテリオファージ分泌系により操作された細菌宿主に関する(
図1)。合成バクテリオファージ機構は、合成治療用バクテリオファージの複製及びアセンブリの原因となる。合成バクテリオファージスカフォールドベクターは、合成治療用バクテリオファージのアセンブリのための核酸スカフォールドを生成するための鋳型として役立つ。
【0054】
一部の実施形態では、合成治療用バクテリオファージを送達するように操作された細菌宿主は、腸内細菌科(シトロバクター属(Citrobacter sp.)、エンテロバシラス属(Enterobacillus sp.)、エンテロバクター属(Enterobacter sp.)、エシェリキア属(Escherichia sp.)、クレブシエラ属(Klebsiella sp.)、サルモネラ属(Salmonella sp.)、シゲラ属(Shigella sp.))、シュードモナス科(シュードモナス属(Pseudomonas sp.))及びビブリオ科(ビブリオ属(Vibrio sp.))のいずれかに由来しうる。一部の他の実施形態では、治療用バクテリオファージを送達するように操作された細菌は、腸内細菌科(シトロバクター属、エンテロバシラス属、エンテロバクター属、エシェリキア属、クレブシエラ属、サルモネラ属、シゲラ属)のいずれか、シュードモナス科(シュードモナス属)及びビブリオ科(ビブリオ属)のいずれかに由来する弱毒型である。別の実施形態では、細菌宿主は、病原性腫瘍標的化細菌、例えば、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、サルモネラ・コレラスイス(Salmonella choleraesuis)、コレラ菌(Vibrio cholera)であるが、これらに限定されない。更に別の実施形態では、細菌宿主は、非病原性膀胱コロニー形成細菌、例えば、大腸菌83972株、大腸菌HU2117株であるが、これらに限定されない。更に別の実施形態では、細菌宿主は、非病原性腫瘍標的化細菌、例えば、大腸菌Nissle 1917株、大腸菌MG1655株であるが、これらに限定されない。
【0055】
更に別の実施形態では、細菌宿主は、腫瘍標的化細菌、例えば、大腸菌であるが、これに限定されない。
【0056】
治療用バクテリオファージを分泌するように操作された細菌宿主は、環境中でのその播種を防ぐために生物学的に封じ込めることができる。生物学的封じ込めは、必須遺伝子を破壊して細菌宿主を栄養要求性にすることによって達成することができる。非限定的な一例では、栄養要求株細菌宿主は、遺伝子dapA又はthyAを破壊することによって操作することができ、これはそれぞれ、細菌宿主をジアミノピメリン酸(DAP)又はチミンの外因性供給源に依存させる。一実施形態では、細菌細胞は、単一の必須遺伝子(例えば、DAP栄養要求性又はチミン栄養要求性のみ)を破壊する単一の生物学的封じ込め戦略を使用して生物学的に封じ込められる。更に別の実施形態では、細菌細胞は、2つ以上の必須遺伝子(例えば、DAP栄養要求性及びチミン栄養要求性)の破壊によって生物学的に封じ込められる。栄養要求性大腸菌細菌宿主を作製するために破壊することができる必須遺伝子には、yhbV、yagG、hemB、secD、secF、ribD、ribE、ML、dxs、ispA、dnaX、adk、hemH、IpxH、cysS、fold、rplT、infC、thrS、nadE、gapA、yeaZ、aspS、argS、pgsA、yefM、metG、folE、yejM、gyrA、nrdA、nrdB、folC、accD、fabB、gltX、gA、zipA、dapE、dapA、der、hisS、ispG、suhB、tadA、acpS、era、rnc、ftsB、eno、pyrG、chpR、Igt、ba、pgk、yqgD、metK、yqgF、plsC、ygiT、pare、ribB、cca、ygjD、tdcF、yraL、yihA、ftsN、murl、murB、birA、secE、nusG、rplJ、rplL、rpoB、rpoC、ubiA、plsB、lexA、dnaB、ssb,alsK、groS、psd、orn、yjeE、rpsR、chpS、ppa、valS、yjgP、yjgQ、dnaC、ribF、IspA、ispH、dapB、folA、imp、yabQ、ftsL、ftsl、murE、murF、mraY、murD、ftsW、murG、murC、ftsQ、ftsA、ftsZ、IpxC、secM、secA、can,folK、hemL、yadR、dapD、map、rpsB、infB、,nusA、ftsH、obgE、rpmA、rplU、ispB、murA、yrbB、yrbK、yhbN、rpsl、rplM、degS、mreD、mreC、mreB、accB、accC、yrdC、def、fmt、rplQ、rpoA、rpsD、rpsK、rpsM、entD、mrdB、mrdA、nadD、hlepB、rpoE、pssA、yfiO、rplS、trmD、rpsP、ffh、grpE、yfjB、csrA、ispF、ispD、rplW、rplD、rplC、rpsJ、fusA、rpsG、rpsL、trpS、yrfF、asd、rpoH、ftsX、ftsE、ftsY、frr、dxr、ispU、rfaK、kdtA、coaD、rpmB、dfp、dut、gmk、spot、gyrB、dnaN、dnaA、rpmH、rnpA、yidC、tnaB、glmS、glmU、wzyE、hemD、hemC、yigP、ubiB、ubiD、hemG、secY、rplO、rpmD、rpsE、rplR、rplF、rpsH、rpsN、rplE、rplX、rplN、rpsQ、rpmC、rplP、rpsC、rplV、rpsS、rplB、cdsA、yaeL、yaeT、IpxD、fabZ、IpxA、IpxB、dnaE、accA、tilS、proS、yafF、tsf、pyrH、olA、rlpB、leuS、Int、glnS、fldA、cydA、infA、cydC、ftsK、lolA、serS、rpsA、msbA、IpxK、kdsB、mukF、mukE、mukB、asnS、fabA、mviN、rne、yceQ、fabD、fabG、acpP、tmk、holB、lolC、lolD、lolE、purB、ymfK、minE、mind、pth、rsA、ispE、lolB、hemA、prfA、prmC、kdsA、topA、ribA,fabl、racR、dicA、ydfB、tyrS、ribC、ydiL、pheT、pheS、yhhQ、bcsB、glyQ、yibJ、gpsA、及びそれらの機能的ホモログが含まれるが、これらに限定されない。
【0057】
細菌宿主は、治療用バクテリオファージの産生及び分泌を増加させるための手段として、プロテアーゼ欠損性となるように遺伝的に操作することができる。一部の実施形態では、細菌宿主は、1つ又は複数のプロテアーゼを欠損している。一部の他の実施形態では、細菌宿主は、大腸菌においてプロテアーゼ7をコードするompT遺伝子を欠損している。別の実施形態では、細菌宿主は、大腸菌においてLonプロテアーゼをコードするlon遺伝子を欠損している。更に別の実施形態では、細菌宿主は、ompT遺伝子及び、細胞分裂阻害因子sulAをコードするsulA遺伝子を欠損しており、プロテアーゼの非存在下で細胞がより正常に分裂することが可能になる。更に別の実施形態では、細菌宿主は、lon遺伝子及びsulA遺伝子を欠損している。更に別の実施形態では、細菌宿主は、lon遺伝子、ompT遺伝子、及びsulA遺伝子を欠損している。
【0058】
細菌宿主は、弱毒化されて、ヒト免疫系を回避するように遺伝的に操作することができる。免疫細胞は、細菌の外膜上に提示されたLPSを認識し、それらを排除する。LPSの構造を操作するための戦略は、免疫系を回避し、血流に注入された細菌の半減期を延長するために開発されており、細菌が免疫系を回避することを可能にするLPS改変は、十分に文書化されており(Motohiro Matsuura、Front Immunol.、2013年、4巻:019頁;Steimleら、Int. J. Med. Microbiol.、2016年、306巻:290頁;Simpsonら、Nat. Rev. Microbiol.、2019年、17巻:403頁;これらは参照により本明細書に組み込まれる)、本発明者らはそれらの全体を引用する。したがって、LPSを切断するか又はそれらの生合成経路を操作することにより、改変された細菌の免疫原性を低下させることが可能である。したがって、一部の実施形態では、細菌宿主は、免疫系を回避するために改変された、又は切断されたLPSを有する。
【0059】
一部の実施形態では、合成バクテリオファージ機構は、バクテリオファージアセンブリモジュール、バクテリオファージ複製モジュール、バクテリオファージコーティングモジュール、及び治療用モジュールを含む。
【0060】
一部の実施形態では、バクテリオファージアセンブリモジュールは、バクテリオファージssDNAスカフォールド上へのバクテリオファージコーティングタンパク質のアセンブリを担う。バクテリオファージアセンブリモジュールは、タンパク質pI及びpXIをコードするバクテリオファージ遺伝子gpI、並びにタンパク質pIVをコードするバクテリオファージ遺伝子gpIVを含みうるが、これらに限定されない。一実施形態では、pI、pXI及びpIVをコードする一部又は全ての遺伝子は、イノウイルス科(Inoviridae)に属する1つ又は複数の密接に関連する繊維状バクテリオファージに由来することができ、これは例えば、バクテリオファージM13、Fd、F1、If1、Ike、Pf1、Pf3、fs-2及びB5であるが、これらに限定されない。別の実施形態では、pI、pXI及びpIVをコードする遺伝子は、繊維状バクテリオファージM13に由来することができる。
【0061】
一部の実施形態では、バクテリオファージ複製モジュールは、バクテリオファージssDNAスカフォールドの複製を担う。これは合成バクテリオファージスカフォールドベクター上に位置するスカフォールド複製モジュールを認識して、環化ssDNAスカフォールド分子を産生するローリングサークル複製を誘発するタンパク質をコードする。バクテリオファージ複製モジュールには、タンパク質pII及びpXをコードするバクテリオファージ遺伝子gpII、並びにタンパク質pVをコードするバクテリオファージ遺伝子gpVが含まれうるが、これらに限定されない。一実施形態では、pII、pX及びpVをコードする遺伝子の一部又は全ては、イノウイルス科に属する密接に関連したバクテリオファージの1つ又は複数に由来することができ、これは例えば、バクテリオファージM13、Fd、F1、If1、Ike、Pf1、Pf3、fs-2、及びB5であるが、これらに限定されない。別の実施形態では、pII、pX及びpVをコードする遺伝子は、繊維状バクテリオファージM13に由来することができる。
【0062】
一部の実施形態では、バクテリオファージコーティングモジュールは、バクテリオファージssDNAスカフォールド上にアセンブリしてバクテリオファージを形成するコーティングタンパク質を含む。バクテリオファージコーティングモジュールには、それぞれタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする、又はそれらの一部分をコードする、バクテリオファージ遺伝子gpIII、gpVI、gpVII、gpVIII、及びgpIX、又はそれらの一部が含まれうるが、これらに限定されない。一部の実施形態では、バクテリオファージコーティングモジュール中に存在する1つ又は複数のコーティング遺伝子は、それらが1つ又は複数の治療用タンパク質と融合される治療用モジュール中にも存在することができる。一部の他の実施形態では、1つ又は複数のコーティング遺伝子が治療用モジュール中に存在し、1つ又は複数の治療用タンパク質と融合される場合、対応するコーティング遺伝子は、バクテリオファージコーティングモジュール中には存在しない。一実施形態では、pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする一部又は全ての遺伝子は、イノウイルス科に属する1つ又は複数の密接に関連したバクテリオファージに由来することができ、これは例えば、バクテリオファージM13、Fd、F1、If1、Ike、Pf1、Pf3、fs-2、及びB5であるが、これらに限定されない。別の実施形態では、pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする遺伝子は、繊維状バクテリオファージM13に由来することができる。
【0063】
一部の実施形態では、治療用モジュールは、治療用バクテリオファージによって提示させようとする治療用タンパク質を含む。治療用モジュールは、限定はされないが、1つ又は複数の治療用タンパク質と融合された、1つ又は複数のバクテリオファージコーティングタンパク質遺伝子を含む。バクテリオファージ治療用モジュールは、限定はされないが、1つ又は複数の治療用タンパク質と融合された、それぞれタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする、バクテリオファージコーティング遺伝子gpIII、gpVI、gpVII、gpVIII、及びgpIXを含むことができる。一実施形態では、pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする一部又は全ての遺伝子は、イノウイルス科に属する密接に関連したバクテリオファージの1つ又は複数に由来することができ、これは例えば、バクテリオファージM13、Fd、F1、If1、Ike、Pf1、Pf3、fs-2、及びB5であるが、これらに限定されない。別の実施形態では、pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXをコードする遺伝子は、繊維状バクテリオファージM13に由来することができる。バクテリオファージによって提示される治療用タンパク質は、ファージコーティングタンパク質、例えば、pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXのいずれにも融合させることができる。
【0064】
一部の実施形態では、治療用タンパク質は、合成バクテリオファージの表面での大きなタンパク質の提示を改善する変異型pVIIIコーティングタンパク質と融合される。繊維状バクテリオファージの表面での大きなタンパク質の提示を改善するpVIII変異型タンパク質が同定されている(S. Sidhuら、J. Mol. Biol. (2000) 296、487~495頁;これは参照により組み込まれる)。一部の実施形態では、治療用タンパク質は、S. Sidhuらと同様のアプローチを使用して同定されたpVIIIコーティングタンパク質上に提示される。一部の実施形態では、治療用タンパク質は、S. Sidhuら、Mol. Biol. (2000) 296、487~495頁に記載されたpVIII(1a)変異体に対応するpVIIIコーティングタンパク質上に提示される。別の実施形態では、治療用タンパク質は、S. Sidhuら、Mol. Biol. (2000) 296、487~495頁に記載されたpVIII(2e)変異体に対応するpVIIIコーティング上に提示される。更に別の実施形態では、治療用タンパク質は、S. Sidhuら、Mol. Biol. (2000) 296、487~495頁に記載されたpVIII(2f)変異体に対応するpVIIIコーティング上に提示される。
【0065】
一部の場合には、治療用タンパク質を過剰に発現させると、細菌宿主に有害な影響を及ぼし、その結果として合成バクテリオファージの分泌が乏しくなる可能性がある。代替的開始コドンは、誤ったヌクレオチドのセット上での転写を開始させる開始tRNAのゆらぎに依拠する。これによりリボソームが停止し、遺伝子上のリボソーム輸送が改善され、より完全なタンパク質産物が産生される可能性がある。いくつかのコドンを代替的開始コドンとして使用することができる(Hechtら、Nucleic Acids Research、2017年、45巻、7号、3615~3626頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)。一部の実施形態では、治療用タンパク質の開始コドンは、64個のコドンのいずれかである。一部の実施形態では、治療用タンパク質遺伝子の翻訳は、標準的な開始コドンATGで開始される。一部の他の実施形態では、治療用タンパク質の開始コドンはTTGである。更に別の実施形態では、治療用タンパク質開始コドンはGTGである。
【0066】
一部の実施形態では、治療用タンパク質は、コーティングタンパク質のN末端又はC末端と融合される。一部の他の実施形態では、治療用タンパク質は、タンパク質の任意の部分への挿入によって、コーティングタンパク質内と融合される。一部の他の実施形態では、コーティングタンパク質は、1つ又は複数のタンパク質タグ、例えば、限定はされないが、ヒトインフルエンザヘマグルチニンタグ(HA-タグ)、ポリ-ヒスチジンタグ(His-タグ)、FLAGタグ、又はmycタグを使用して、治療用タンパク質と融合される。更に別の実施形態では、治療用タンパク質は、アミノ酸リンカー配列を使用して、コーティングタンパク質と融合される。リンカーは、Chenら(Adv Drug Deliv Rev.2013年10月15日;65(10):1357~1369頁;これは参照により本明細書に組み入れられる)によって記載されるように、可撓性、剛性、又は切断可能でありうる。更に別の実施形態では、リンカーはまた、タグ配列、例えば、限定はされないが、ヒトインフルエンザヘマグルチニン(HA-タグ)、ポリ-ヒスチジンタグ(His-タグ)、FLAG-タグ、又はmyc-タグを含みうる。1つ又は複数の治療用タンパク質は、治療用タンパク質の活性及びバクテリオファージのアセンブリにとって有害ではない方法で、1つ又は複数のコーティングタンパク質pIII、pVI、pVII、pVIII、及びpIXと融合される。一部の実施形態では、1つ又は複数の治療用タンパク質は、完全長コーティングタンパク質と融合される。別の実施形態では、1つ又は複数の治療用タンパク質は、1つ又は複数のリンカー配列を介して完全長コーティングタンパク質と融合されうる。別の実施形態では、1つ又は複数の治療用タンパク質は、バクテリオファージのアセンブリに必須のドメインを含む切断されたコーティングタンパク質と融合されうる。更に別の実施形態では、1つ又は複数の治療用タンパク質は、1つ又は複数のリンカー配列を介して、バクテリオファージアセンブリに必須のドメインを含む切断型コーティングタンパク質と融合されうる。一部の実施形態では、1つ又は複数の治療用タンパク質がコーティングタンパク質のN末端と融合される場合、融合タンパク質は、ファージアセンブリのための細菌外膜へのタンパク質の移行を確実にするために、そのN末端にリーダーペプチド配列を更に含む。一部の実施形態では、リーダーペプチド配列には、DsbA、PelB、TorA、及びPhoAシグナルペプチドに由来する1つ又は複数のリーダーペプチドが含まれるが、これらに限定されない。更に別の実施形態では、リーダーペプチドは、Hanら(Hanら、AMB Expr (2017) 7:93頁;これは参照により本明細書に組み入れられる)によって記載されるように、改良された移行活性を有する最適化されたDsbA及びPelBシグナルペプチドである。更に別の実施形態では、リーダーペプチドは、Bharathwajらによって記載されたBKC-1由来のシグナルペプチドである(Bharathwajら、mBio. 2021年6月29日;12(3);これは参照により本明細書に組み込まれる)。一部の実施形態では、リーダーペプチドはPelB由来である。多剤治療用バクテリオファージを分泌させる場合、2つ以上の治療用タンパク質を1つ又は複数のコーティングタンパク質と融合させる(
図2)。多剤治療用バクテリオファージはまた、互いに融合された1つ又は複数の治療用タンパク質を提示するバクテリオファージを含みうる。一部の実施形態では、治療用タンパク質は、1つ又は複数のタンパク質タグ、例えば、限定はされないが、ヒトインフルエンザヘマグルチニンタグ(HA-タグ)、ポリ-ヒスチジンタグ(His-タグ)、FLAGタグ、及びmycタグを使用して融合される。別の実施形態では、治療用タンパク質は、アミノ酸リンカー配列を使用して融合される。リンカーは、Chenら、2013(Adv Drug Deliv Rev. 2013年10月15日;65(10):1357~1369頁. Fusion Protein Linkers: Property, Design and Functionality;これは参照により本明細書に組み入れられる)によって記載されるように、可撓性、剛性、又は切断可能でありうる。更に別の実施形態では、リンカーはまた、タグ配列、例えば、限定はされないが、ヒトインフルエンザヘマグルチニンタグ(HA-タグ)、ポリ-ヒスチジンタグ(His-タグ)、FLAG-タグ、及びmyc-タグを含みうる。1つ又は複数のバクテリオファージコーティングタンパク質と融合される1つ又は複数の治療用タンパク質は、任意の単一特異性結合タンパク質又は多重特異性結合タンパク質であってよく、これには、限定はされないが、抗原結合断片(Fab及びF(ab')2)、単鎖可変断片(scFv)、二単鎖可変断片(di-scFv)、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)、TCR、可溶性TCR、単鎖T細胞受容体可変領域(scTv)、単一ドメイン抗体(ナノボディ)、リポカリン(アンチカリン)、モノボディ(アドネクチン)、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アルマジロ反復タンパク質ベースのスカフォールド、アプタマー、アトリマー、アビマー、DARPin、フィノマー、ノッチン、Knitzドメインペプチド、及びアドヘシンが含まれる。結合タンパク質にはまた、受容体の細胞外ドメイン及びそれらのリガンド、例えば、限定はされないが、PD-1、PD-L1、CTLA-4、B7-1、B7-2、CD112、CD155、TIGIT、CD96、CD226、CD112R、CD96、CD111、CD272、B7H4、CD28、CD80、CD86、OX40、OX40-L、ICOS、ICOS-LG、CD137、CD137-L、AITR、AITR-L、CD27、CD70、TNF-α、TNFR1、TNFR2、LAG-3、TIM-3、ガレクチン-9も含まれる。
【0067】
別の実施形態では、1つ又は複数のバクテリオファージコーティングタンパク質と融合される1つ又は複数の治療用タンパク質は、ペプチドである。
【0068】
更に別の実施形態では、1つ又は複数のバクテリオファージコーティングタンパク質と融合される1つ又は複数の治療用タンパク質は、酵素である。
【0069】
一部の他の実施形態では、1つ又は複数のバクテリオファージコーティングタンパク質と融合される1つ又は複数の治療用タンパク質は、結合タンパク質とペプチドの組合せ、又は結合タンパク質と酵素の組合せ、又は酵素とペプチドの組合せ、又は結合タンパク質、酵素、及びペプチドの組合せである。
【0070】
一部の実施形態では、合成バクテリオファージ機構は、任意選択的なモジュール、例えば、合成バクテリオファージ機構及び合成バクテリオファージスカフォールドベクターの活性を制御する調節エレメントを含む調節モジュールを含みうる。非限定的な一例として、調節モジュールは、バクテリオファージ機構及び/又は合成バクテリオファージスカフォールドベクターの遺伝子の一部又は全てをオン又はオフにすることができる。生きたバイオ治療薬の大規模生産の段階中に、バクテリオファージ機構及び/又は合成バクテリオファージスカフォールドベクターをオフにすることは、選択圧及び進化変動を回避するために有利でありうる。調節モジュールは、バクテリオファージ機構に存在する場合、合成バクテリオファージ機構及び/又は合成バクテリオファージスカフォールドベクターの、遺伝子の発現を調節することができる、又は遺伝子の発現を調節するために使用されうる、1つ又は複数のタンパク質又は非コードRNAをコードする1つ又は複数の遺伝子及び調節エレメント(例えば、転写因子、アクチベーター、リプレッサー、リボスイッチ、CRISPR-Cas9、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALE、及びtaRNA)を含むことができる。
【0071】
一部の実施形態では、合成バクテリオファージ機構は、任意選択的なモジュール、例えば、栄養複製モジュールを保有するベクター、例えば、合成バクテリオファージスカフォールドベクター又は合成バクテリオファージ機構のモジュールを保有するベクターの複製起点(oriV)を認識しうる複製機構を含む維持モジュールを含みうる。維持モジュールは、栄養モジュールのoriVが細菌宿主の複製機構と適合しない場合に必要とされる。維持モジュールは、その複製機構と適合する栄養複製モジュールを含む任意のプラスミドの複製を可能にする。維持モジュールは、細菌宿主に対して異種性でありうる。ベクターの維持がドナー細菌に限定される必要がある場合、維持モジュールをドナー細菌の染色体内に配置する(例えば、組み込む)ことが好ましい。或いは、維持モジュールを、1つ又は複数のベクター上に配置してもよい。維持モジュールはまた、適切なDNA分配に関与する1つ又は複数の遺伝子及び調節エレメントも含みうる。
【0072】
一部の実施形態では、ファージ機構の遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、誘導性プロモーターである。別の実施形態では、ファージ機構の遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、1つ又は複数の外因性分子、例えば、限定はされないが、L-アラビノース、ラムノース、IPTG、及びテトラサイクリンによって誘導される誘導性プロモーターである。更に別の実施形態では、ファージ機構の遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、腫瘍微小環境の1つ又は複数の外因性環境条件、例えば、限定はされないが、低酸素レベル(低酸素)、酸性pH(<7)、酸化条件(高レベルのH2O2)によって誘導される誘導性プロモーターである。更に別の実施形態では、バクテリオファージ機構の遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、1つ若しくは複数の外因性分子によって、及び/又は腫瘍微小環境に存在する1つ若しくは複数の外因性環境条件によって誘導される。別の実施形態では、バクテリオファージ機構の遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、宿主細菌によって産生される1つ又は複数の分子、例えば、ジアミノピメリン酸及びN-アシルホモセリンラクトンによって誘導される。
【0073】
一部の実施形態では、合成バクテリオファージ機構は、細菌細胞のゲノムに組み込まれる。別の実施形態では、合成バクテリオファージ機構のモジュールの一部又は全ては、合成バクテリオファージスカフォールドベクター上に位置する。更に別の実施形態では、合成バクテリオファージ機構のモジュールの一部又は全ては、1つ又は複数のベクター上に位置し、一方、合成バクテリオファージ機構モジュールのうち、細菌細胞及び合成バクテリオファージスカフォールドベクターのゲノム中に残存するものが一部であるか又は皆無である。合成バクテリオファージ機構のモジュールが合成バクテリオファージスカフォールドベクター以外のベクター上に位置する場合、2つの更なるモジュール、すなわち栄養複製モジュール及び選択モジュールがベクターのそれぞれに存在し、1つの更なるモジュール、すなわち維持モジュールが、1つ又は複数のベクター又は細菌宿主のゲノムのいずれかに存在する。
【0074】
栄養複製モジュールは、合成バクテリオファージ機構のモジュールを保有するベクターが細菌宿主細胞内で複製されることを可能にする。栄養複製モジュールは、細菌宿主との適合性のある複製起点oriV、及び/又は維持モジュールとの適合性のあるoriVを含み、バクテリオファージM13並びに/又は以下の細菌ベクターのファミリー、IncA、IncB/O(Inc10)、IncC、IncD、IncE、IncF1、IncF2、IncG、IncHI1、IncHI2、IncI1、IncI2、IncJ、IncK、IncL/M、IncN、IncP、IncQ1、IncQ2、IncR、IncS、IncT、IncU、IncV、IncW、IncX1、IncX2、IncY、IncZ、ColE1、ColE2、ColE3、p15A、pSC101、IncP-2、IncP-5、IncP-7、IncP-8、IncP-9、Inc1、Inc4、Inc7、Inc8、Inc9、Inc11、Inc13、Inc14、及び/若しくはInc18のうちの1つに由来しうる。一実施形態では、栄養複製モジュールoriVは、細菌ベクターのColE1、pSC101、F、p15A、M13ファミリーのうちの1つに由来しうる。例えば、栄養複製モジュールは、細菌ベクターColE1に由来しうる。
【0075】
選択モジュールは、ベクターが細菌宿主内に安定に維持されることを可能にする。選択モジュールは、バクテリオファージ機構の1つ又は複数のモジュールを保有する細菌の識別のための選択可能な形質を付与する1つ又は複数の遺伝子を含む。選択モジュールは、合成バクテリオファージ分泌系の1つ又は複数の細菌ベクターと作動可能に連結される。選択可能な形質は、限定はされないが、抗生物質耐性遺伝子、蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質を含む)をコードする遺伝子、栄養要求性選択マーカー、β-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子(例えば、細菌lacZ遺伝子)、ルシフェラーゼをコードする遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(例えば、細菌cat遺伝子)、細菌シャーシが処理することができない栄養素の使用を可能にする酵素をコードする遺伝子(例えば、内因性thiAが細菌染色体から除去される場合のthiA)、β-グルクロニダーゼをコードする遺伝子、及び適切なDNA分配に関与する調節エレメントでありうる。一部の実施形態では、選択モジュールの遺伝子の発現を制御するプロモーターの一部又は全ては、誘導性プロモーターである。一部の実施形態では、最小合成バクテリオファージスカフォールドベクターは、栄養複製モジュール、選択モジュール、スカフォールド複製モジュール、及びパッケージングモジュールを含む。
【0076】
一部の実施形態では、栄養複製モジュールは、合成バクテリオファージスカフォールドベクターが細菌宿主細胞で複製されることを可能にする。栄養複製モジュールは、細菌宿主との適合性のある複製起点oriV、又は維持モジュールとの適合性のあるoriVを含み、バクテリオファージM13並びに/又は細菌ベクターの以下のファミリー、IncA、IncB/O(Inc10)、IncC、IncD、IncE、IncF1、IncF2、IncG、IncHI1、IncHI2、IncI1、IncI2、IncJ、IncK、IncL/M、IncN、IncP、IncQ1、IncQ2、IncR、IncS、IncT、IncU、IncV、IncW、IncX1、IncX2、IncY、IncZ、ColE1、ColE2、ColE3、p15A、pSC101、IncP-2、IncP-5、IncP-7、IncP-8、IncP-9、Inc1、Inc4、Inc7、Inc8、Inc9、Inc11、Inc13、Inc14及び/若しくはInc18のうちの1つに由来しうる。一実施形態では、栄養複製モジュールoriVは、細菌ベクターのColE1、pSC101、F、p15A、M13ファミリーのうちの1つに由来しうる。例えば、栄養複製モジュールは、細菌ベクターColE1に由来しうる。
【0077】
一部の実施形態では、スカフォールド複製モジュールは、ssDNA合成バクテリオファージスカフォールドの産生を可能にする。スカフォールド複製モジュールは、合成バクテリオファージスカフォールドベクターのローリングサークル複製及び環化ssDNA合成バクテリオファージスカフォールド分子の産生を可能にする、バクテリオファージ複製タンパク質によって認識される複製起点(oriV)を含む。バクテリオファージoriVのDNA配列は、イノウイルス科に属する密接に関連したバクテリオファージ、例えば、限定はされないが、バクテリオファージM13、Fd、F1、If1、Ike、Pf1、Pf3、fs-2、及びB5のうちの1つに由来しうる。一部の実施形態では、スカフォールド複製モジュールの遺伝子の発現を制御するプロモーターの一部又は全ては、誘導性プロモーターである。
【0078】
一部の実施形態では、バクテリオファージパッケージングモジュールは、環化ssDNA合成バクテリオファージスカフォールドが、M13バクテリオファージコーティングタンパク質とのアセンブリのために処理されることを可能にする。パッケージングモジュールは、バクテリオファージのアセンブリを開始させるパッケージングシグナルとして作用するDNA配列を含む。パッケージングシグナルのDNA配列は、イノウイルス科に属する密接に関連したバクテリオファージ、例えば、限定はされないが、バクテリオファージM13、Fd、F1、If1、Ike、Pf1、Pf3、fs-2、及びB5のうちの1つに由来しうる。一部の実施形態では、バクテリオファージパッケージングモジュールの遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、誘導性プロモーターである。一部の実施形態では、選択モジュールが存在して、ベクターが細菌宿主内に安定に維持されることを可能にする。選択モジュールは、合成バクテリオファージスカフォールドベクターを保有する細菌を同定するための選択可能な形質を付与する1つ又は複数の遺伝子を含む。選択モジュールは、合成バクテリオファージスカフォールドベクターと作動可能に連結される。選択可能な形質は、限定はされないが、抗生物質耐性遺伝子、蛍光タンパク質(緑色蛍光タンパク質を含む)をコードする遺伝子、栄養要求性選択マーカー、β-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子(例えば、細菌lacZ遺伝子)、ルシフェラーゼをコードする遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子(例えば、細菌cat遺伝子)、β-グルクロニダーゼをコードする遺伝子、細菌シャーシが処理することができない栄養素の使用を可能にする酵素をコードする遺伝子(例えば、内因性thiAが細菌染色体から除去される場合のthiA)でありうる。一部の実施形態では、選択モジュールの遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、誘導性プロモーターである。
【0079】
一部の実施形態では、フィラーモジュールが存在して、合成バクテリオファージの長さを変化させることを可能にする。フィラーモジュールは、合成バクテリオファージスカフォールドベクターのサイズを変化させることのみを目的とするDNAのランダムな配列を含み、遺伝子又は調節エレメントを必ずしも含まない。フィラーモジュールは、スカフォールドベクターのサイズを変化させることによって、合成バクテリオファージ粒子の長さを変化させることを可能にする。短い合成バクテリオファージを有することにより、バクテリオファージ当たりに必要とされるpVIIIコーティングタンパク質がより少なくなるため、分泌される粒子の数を改善することができる。一方、合成バクテリオファージのサイズを増加させることにより、pIII及びpIXと融合される治療用タンパク質の間の距離を増加させることが可能になり、それ故にこれらの治療用タンパク質とそのそれぞれの標的との相互作用が改善する。したがって、一部の実施形態では、フィラーモジュールは、DNAのサイズが0bp~100,000bpの間で様々であるDNA配列から構成される。
【0080】
一部の実施形態では、合成バクテリオファージスカフォールドベクターの遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、誘導性プロモーターである。別の実施形態では、合成バクテリオファージスカフォールドベクターの遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、1つ又は複数の外因性分子、例えば、限定はされないが、L-アラビノース、ラムノース、IPTG、及びテトラサイクリンによって誘導される誘導性プロモーターである。更に別の実施形態では、合成バクテリオファージスカフォールドベクターの遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、腫瘍微小環境の1つ又は複数の外因性環境条件、例えば、限定はされないが、低酸素レベル(低酸素)、酸性pH(<7)、酸化条件(高レベルのH2O2)によって誘導される誘導性プロモーターである。更に別の実施形態では、合成バクテリオファージスカフォールドベクターの遺伝子の発現を制御する一部又は全てのプロモーターは、1つ若しくは複数の外因性分子によって、及び/又は腫瘍微小環境に存在する1つ若しくは複数の外因性環境条件によって、及び/又は宿主細菌によって分泌される1つ若しくは複数の分子によって誘導される。
【0081】
一部の実施形態では、合成治療用バクテリオファージは、パターン認識受容体(PRR)を刺激する。PRRは、炎症促進性シグナル伝達経路の活性化、食作用応答(マクロファージ、好中球及び樹状細胞)の刺激、又は分泌タンパク質としての微生物への結合を介して、自然免疫応答において重要な役割を果たす。PRRは、2つのクラスの分子、すなわち:微生物病原体及びウイルスに関連する病原体関連分子パターン(PAMP)、並びに細胞損傷、死、ストレス、又は組織損傷の間に放出される細胞構成要素に関連する損傷関連分子パターン(DAMP)を認識する。PAMPは、病原体の生存に必要とされる必須の分子構造であり、例えば、細菌細胞壁分子(例えば、リポタンパク質)、細菌DNA又はウイルスDNAである。一部のPRRは、自然免疫系の細胞によって発現されうるが、PRRには他の細胞(免疫細胞及び非免疫細胞の両方)によって発現されうるものもある。PRRは、細胞表面に局在して細胞外病原体を検出するか、又はエンドソーム及び細胞マトリックス内に局在して細胞内侵入ウイルスを検出する。PRRの例には、Toll様受容体(TLR1、TLR 2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10)、C型レクチン受容体(グループIマンノース受容体及びグループIIアシアロ糖タンパク質)、ヌクレオチドオリゴマー化(NOD)様受容体(NODI及びNOD2)、レチノイン酸誘導性遺伝子I(RIG-I)様受容体(RLR)(RIG-I、MDA5、及びDDX3)、コレクチン、ペントラキシン、フィコリン、脂質トランスフェラーゼ、ペプチドグリカン認識タンパク質(PGR)、及びロイシンリッチリピート受容体(LRR)が含まれるが、これらに限定されない。病原体を検出すると、PRRは、感染性病原体に対して生じる炎症応答及び免疫応答を活性化する。最近の証拠からは、PAMP及びDAMPによって活性化される免疫機構が、腫瘍細胞に対する免疫応答の活性化においても役割を果たすことが示されている(Hobohm & Grange、Crit Rev Immunol. 2008;28(2):95~107頁、及びKrysko DVら、Cell Death and Disease (2013) 4、e631頁;これらは参照により本明細書に組み込まれる)。腫瘍内注入は、一部の微生物、例えば、本開示の微生物(例えば、細菌及びバクテリオファージ)において、免疫応答を刺激することが示されている。一部の場合には、これらは、固形腫瘍、黒色腫、基底細胞癌、及び扁平上皮癌を含むいくつかのタイプのがんにおいて、治療上の利益を提供することが示されている。これらの場合に観察される抗腫瘍応答は、一部には、PRRを活性化する微生物の核酸画分、カプシドタンパク質、及び/又は細胞壁画分の炎症促進特性に起因すると考えられている。本開示の合成治療用バクテリオファージは、腫瘍微小環境において免疫細胞及び腫瘍細胞上に見出されるPRRに対するアゴニストであるPAMP及びDAMPの存在を介して、免疫応答を自然に誘導することができる(Carroll-Portillo A.ら、Microorganisms. 2019年12月;7(12):625頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)(
図4)。したがって、一部の実施形態では、本開示の合成治療用バクテリオファージは、腫瘍部位で免疫応答を誘発する。これらの実施形態では、合成治療用バクテリオファージは、PRRアゴニスト、例えば、1つ又は複数のPAMPを天然に発現する。PAMPの例は、Takeuchiら(Cell、2010、140:805~820頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)に示されている。一部の実施形態では、PRRは、TLR-9及び/又はRIG-Iを介して免疫細胞又は非免疫細胞によって認識される合成バクテリオファージ由来のDNAである。
【0082】
一実施形態では、治療用バクテリオファージは、免疫チェックポイントを阻害する1つ又は複数の結合タンパク質を提示する(
図3)。いくつかの抗がん薬は、免疫チェックポイントを標的とし、阻害して、免疫系を活性化し、がん性細胞によって提示される自己抗原に対して免疫応答を開始させる。しかし、全身性に投与された場合には、免疫調節の変化が免疫機能不全を引き起こし、自己免疫疾患につながる可能性がある。免疫機能不全の副作用、例えば、望ましくない自己免疫応答の発生に対しては、免疫チェックポイント阻害剤又は別の免疫抑制分子の阻害剤を腫瘍部位に局所的に送達することによって対処することができる。阻害されることになる免疫チェックポイント分子は、任意の公知の、又は後に発見される免疫チェックポイント分子又は他の免疫抑制分子でありうる。一部の実施形態では、阻害されることになる免疫チェックポイント分子又は他の免疫抑制分子は、CCR4、CTLA-4、CD80、CD86、PD-1、PD-L1、PD-L2、TIGIT、VISTA、LAG-3、TIM1、TIM3、CEACAM1、LAIR-1、HVEM、BTLA、CD47、SIRPα、CD160、CD200、CD200R、CD39、CD73、B7-H3、B7-H4、IDO、TDO、KIR、及びA2aRから選択されるが、これらに限定されない。結合タンパク質の1つ又は複数が単鎖抗体に由来する場合、それらの配列は、限定はされないが、PCT/US2017/013072の表3及び表4に列挙されたうちの1つ又は複数でありうる;これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
一実施形態では、治療用バクテリオファージによって提示される1つ又は複数の結合タンパク質は、発がん、がんの発生、又は転移の発生に関与する1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子に結合して阻害する。阻害されることになる1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子は、発がん、がんの発生、又は転移の発生に関与する、任意の公知の又は後に発見されるタンパク質、ペプチド、又は分子でありうる。一部の実施形態では、不活性化されることになる1つ又は複数のタンパク質、ペプチド、又は分子は、CSF1、CSF1R、CCR4、CCL2、CCL17、CCL22、HER2、GD2、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-13、IL-17、IL-27、IL-35、CD20、CD27、CD30、CD33、CD70、TGF-β、M-CSF、EGFR、ERBB2、ERBB3、PGE2、VEGF、VEGFR-2、CXCR4/CXCL12、Tie2、ガレクチン-1、ガレクチン-3、ホスファチジルセリン、並びにTAM及びTimホスファチジルセリン受容体から選択されるが、これらに限定されない。
【0084】
一実施形態では、治療用バクテリオファージによって提示される1つ又は複数の結合タンパク質は、がん性細胞の排除を導く共刺激受容体を活性化するアゴニストとして作用する。1つ又は複数の抗体模倣物によって活性化される1つ又は複数の共刺激細胞受容体は、がん性細胞の排除を導く、任意の公知の又は後に発見される共刺激細胞受容体でありうる。一部の実施形態では、1つ又は複数の抗体模倣物によって活性化される1つ又は複数の細胞受容体は、CD40、CD28、ICOS、CD226、CD137、及びCD134から選択されるが、これらに限定されない。
【0085】
一実施形態では、治療用バクテリオファージによって提示される1つ又は複数の結合タンパク質は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘発する抗体Fcドメインである。「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞、例えば、NK細胞が、標的細胞上の結合抗体を認識して、その後に標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介性反応を指す。NK細胞はADCCの重要なメディエーターであり、パーフォリン及びグランザイム、FasL、及びTRAIL相互作用並びにサイトカイン産生を介して直接的な細胞傷害性を誘導する。ADCCを誘発するために必要なNK細胞活性化は、IgG抗体のFcドメインを認識するIgG(FcyR)(ヒトではFcyRI、FcyRIIA、及びFcyRIIIA、マウスではFcyRI、FcyRIII、及びFcyRIV)に対するFc受容体を介して起こりうる。したがって、NKの活性化FcyRに結合する1つ又は複数の操作されたFcドメインを提示する合成治療用バクテリオファージを使用して、腫瘍部位にNKを動員し活性化させて、ADCCを媒介し腫瘍細胞を排除することができる。したがって、一部の実施形態では、合成治療用バクテリオファージは、NKの活性化FcyRに結合する1つ又は複数のFcドメインを提示する。1つ又は複数のFcドメインは、NKを活性化してADCCを誘発する、任意の公知の、又は後に発見されるFcドメインでありうる。ADCCを誘発するFcドメインを有する抗体のリストは、PCT/US2017/013072(これは参照により本明細書に組み込まれる)による表36に見出すことができる。
【0086】
一実施形態では、治療用バクテリオファージによって提示される1つ又は複数の結合タンパク質は、他の結合タンパク質、例えば、限定はされないが、IgG抗体、ナノボディ、アフィボディ、アンチカリン、抗体断片、ScFV、ビオチン、ストレプトアビジンに結合する。
【0087】
一実施形態では、合成治療用バクテリオファージは、免疫チェックポイントを阻害する1つ若しくは複数の結合タンパク質、及び/又は発がん、がんの発生、若しくは転移の発生に関与するタンパク質、ペプチド、若しくは分子を阻害する1つ又は複数の結合タンパク質、及び/又は発がん、がんの発生、若しくは転移の発生を予防する細胞受容体を活性化するアゴニストとして作用する1つ若しくは複数の結合タンパク質、及び/又はADCC及び腫瘍細胞排除を誘発する1つ若しくは複数のFcドメインの組合せを提示する。一実施形態では、合成治療用バクテリオファージによって提示されうる結合タンパク質には、以下が含まれる:抗原結合断片(Fab及びF(ab')2)、単鎖可変断片(scFv)、二単鎖可変断片(di-scFv)、二重特異性T細胞エンゲージャー(BiTE)、TCR、可溶性TCR、単鎖T細胞受容体可変領域(scTv)、単一ドメイン抗体(ナノボディ)、リポカリン(アンチカリン)、モノボディ(アドネクチン)、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アルマジロ反復タンパク質ベースのスカフォールド、アプタマー、アトリマー、アビマー、DARPin、フィノマー、ノッチン、Knitzドメインペプチド、及びアドヘシン。
【0088】
一実施形態では、生きたバイオ治療薬は、1つ又は複数の腫瘍抗原ペプチドを提示する合成治療用バクテリオファージを分泌する。現在までに公知の腫瘍抗原は多数存在しており、例えば、腫瘍特異的抗原、腫瘍関連抗原(TAA)及びネオ抗原があり、その多くは特定の腫瘍及びがん細胞と関連している。これらの腫瘍抗原は、典型的には、免疫応答を刺激することが知られている、特定のがん細胞型と関連する小型ペプチド抗原である。そのような腫瘍抗原、例えば、腫瘍特異的抗原、TAA、及び/又はネオ抗原を局所腫瘍環境に導入することによって、そのネオ抗原と関連することが知られている目的の特定のがん細胞又は腫瘍細胞に対して免疫反応を生じさせることができる。一部の実施形態では、合成治療用ファージによって提示される1つ又は複数の腫瘍抗原ペプチドは、がん細胞と関連する任意の公知の、又は後に発見される腫瘍抗原でありうる。1つ又は複数の腫瘍抗原ペプチドは、PCT/US2017/013072(これは参照により本明細書に組み込まれる)の表26、27、28、29、30、31、及び32から選択されうるが、これらに限定されない。
【0089】
一実施形態では、合成治療用バクテリオファージによって提示される1つ又は複数のペプチドは、がん性細胞の排除を導く細胞受容体を活性化する受容体リガンド又は受容体リガンドの断片のペプチド配列でありうる。1つ又は複数のペプチドリガンドは、がん性細胞の排除を導く細胞受容体を活性化する、任意の公知の、又は後に発見されるペプチドリガンドでありうる。一部の実施形態では、1つ又は複数のペプチドリガンド配列は、限定はされないが、CD40L、CD80、CD86、ICOSリガンド、CD112、CD155、CD137リガンド、及びCD134リガンドに由来する。
【0090】
一実施形態では、合成治療用バクテリオファージによって提示される1つ又は複数のペプチドは、腫瘍細胞を排除する溶解性ペプチドでありうる。
【0091】
一実施形態では、治療用バクテリオファージは、プロドラッグを活性化する1つ又は複数の酵素を提示する。がんの処置のためのプロドラッグを活性化する酵素の例には、シトシンデアミナーゼ、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、デオキシシチジンキナーゼ、チミジル酸キナーゼ、及びウリジン一リン酸キナーゼが含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
一実施形態では、治療用バクテリオファージは、腫瘍及びがん細胞の増殖に必須の代謝産物を枯渇させる1つ又は複数の酵素を提示する。腫瘍及びがん細胞の増殖に重要な代謝産物の例には、L-アスパラギン、L-グルタミン、L-メチオニン、及びキヌレニンが含まれるが、これらに限定されない。合成治療用バクテリオファージによって提示される腫瘍及びがん細胞の増殖に必須の代謝産物を枯渇させる1つ又は複数の酵素は、腫瘍及びがん細胞の増殖に必須の代謝産物を枯渇させる、任意の公知の、又は後に発見される酵素でありうる。腫瘍及びがん細胞の増殖に必須の代謝産物を枯渇させる酵素の例には、L-アスパラギナーゼ、L-グルタミナーゼ、メチオニナーゼ、及びキヌレニナーゼが含まれるが、これらに限定されない。
【0093】
一実施形態では、合成治療用バクテリオファージは、プロドラッグを活性化する1つ又は複数の酵素と、腫瘍及びがん細胞の増殖に必須の代謝産物を枯渇させる1つ又は複数の酵素との組合せを提示する。
【0094】
合成バクテリオファージの抗腫瘍効果を増強するための手段として、治療用バクテリオファージを分泌する細菌宿主は、天然に、又は遺伝子操作の後に、免疫応答を刺激するための更なる治療活性を発揮することができる。腫瘍微小環境に見出される多くの免疫細胞は、パターン認識受容体(PRR)を発現し、この受容体は、炎症促進性シグナル伝達経路の活性化、食作用応答(マクロファージ、好中球及び樹状細胞)の刺激、又は分泌タンパク質としての微生物への結合を介して、免疫応答において重要な役割を果たす。PRRは、2つのクラスの分子、すなわち:微生物病原体に関連する病原体関連分子パターン(PAMP)、及び細胞損傷、死、ストレス、又は組織損傷の間に放出される細胞構成要素に関連する損傷関連分子パターン(DAMP)を認識する。PAMPは、病原体の生存に必要とされる必須の分子構造であり、例えば、細菌細胞壁分子(例えば、リポタンパク質)、細菌DNAである。PRRは自然免疫系の細胞によって発現されるが、他の細胞(免疫細胞及び非免疫細胞の両方)によっても発現されうる。PRRは、細胞表面に局在して細胞外病原体を検出するか、又はエンドソーム及び細胞マトリックス内に局在して、そこで細胞内侵入ウイルスを検出する。PRRの例には、Toll様受容体(TLR1、TLR 2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10)、C型レクチン受容体(グループIマンノース受容体及びグループIIアシアロ糖タンパク質)、ヌクレオチドオリゴマー化(NOD)様受容体(NODI及びNOD2)、レチノイン酸誘導性遺伝子I(RIG-I)様受容体(RLR)(RIG-I、MDA5、及びDDX3)、コレクチン、ペントラキシン、フィコリン、脂質トランスフェラーゼ、ペプチドグリカン認識タンパク質(PGR)、及びロイシンリッチリピート受容体(LRR)が含まれる。病原体を検出すると、PRRは、感染性病原体に対して生じる炎症応答及び免疫応答を活性化する。最近の証拠からは、PAMP及びDAMPによって活性化される免疫機構が、腫瘍細胞に対する免疫応答の活性化においても役割を果たすことが示されている(Hobohm & Grange、Crit Rev Immunol. 2008;28(2):95~107頁、及びKrysko DVら、Cell Death and Disease (2013) 4、e631頁;これらは参照により本明細書に組み込まれる)。本開示の細菌宿主は、腫瘍微小環境において免疫細胞及び腫瘍細胞上に見出されるPRRに対するアゴニストであるPAMP及びDAMPの存在を介して、免疫応答を誘導することができる。したがって、一部の実施形態では、本開示の細菌宿主は、腫瘍部位での免疫応答を誘発する(
図4)。これらの実施形態では、微生物は、PRRアゴニスト、例えば、1つ又は複数のPAMP又はDAMPを天然に発現する。
【0095】
合成治療用バクテリオファージを分泌する細菌宿主を、腫瘍細胞の増殖を防ぐ目的で、1つ又は複数の免疫刺激性酵素を分泌又は産生するように操作することができる。
【0096】
一実施形態では、細菌宿主は、腫瘍及びがん細胞の増殖に必須な代謝産物を枯渇させる1つ又は複数の酵素を分泌又は産生する。
【0097】
一実施形態では、細菌宿主は、プロスタグランジンE2(PGE2)を15-ケト-PGに変換する15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)を分泌又は産生する。プロスタグランジンE2(PGE2)は、多くの腫瘍において過剰産生され、がんの進行を助ける。PGE2は、血管新生、アポトーシス、炎症、及び免疫抑制を含む数多くの生物プロセスに関与する多面的分子である。腫瘍への局所的な15-PGDHの送達は、腫瘍増殖の有意な緩徐化をもたらしたことが示されている。
【0098】
合成治療用バクテリオファージを分泌する細菌宿主を、腫瘍細胞の増殖を防ぐ目的で、1つ又は複数の免疫刺激タンパク質を分泌するように操作することができる。
【0099】
一実施形態では、細菌宿主は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を分泌する。GM-CSFは、免疫/炎症カスケードの一部である。少数のマクロファージのGM-CSF活性化は、その数の増加を迅速にもたらす。GM-CSFは、抗腫瘍免疫を誘発するための免疫刺激アジュバントとして使用されうることが示されている。
【0100】
一実施形態では、細菌宿主は、エフェクターT細胞、例えば、CD4+及び/又はCD8+の分化を刺激及び/又は誘導する、1つ又は複数のサイトカインを分泌する。エフェクターT細胞の分化を刺激及び/又は誘導するサイトカインには、IL-2、IL-15、IL-12、IL-7、IL-21、IL-18、TNF、及びインターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)が含まれるが、これらに限定されない。細菌宿主によって分泌されるエフェクターT細胞の分化を刺激及び/又は誘導する1つ又は複数のサイトカインは、エフェクターT細胞の分化を刺激及び/又は誘導する、任意の公知の、又は後に発見されるサイトカインでありうる。
【0101】
一実施形態では、細菌宿主はトリプトファンを分泌する。トリプトファンの異化は、多くのタイプのがんにおいて免疫抑制性の微小環境を維持する中心的経路である。
【0102】
一実施形態では、細菌宿主は、L-アルギニンを分泌する。ヒトでは、腫瘍微小環境におけるアルギニンの欠如は、G0-G1停止の誘導を介してTリンパ球の細胞周期の進行を阻害し、それによりがん細胞の排除を妨げる免疫抑制因子として作用する。したがって、一部の実施形態では、細菌宿主を、アルギニン経路の1つ又は複数の酵素をコードする1つ又は複数の遺伝子配列を含むように操作することができる。アルギニン経路に関与する遺伝子には、argA、argB、argC、argD、argE、argF、argG、argH、argl、arg.J、carA、及びcarBが含まれるが、これらに限定されない。これらの遺伝子は、天然に又は合成により、1つ又は複数のオペロンに組織化されうる。これらの酵素をコードする遺伝子の全ては、アルギニンとArgRとの相互作用により、各遺伝子の調節領域に結合して転写を阻害する複合体が形成されることを介して、アルギニンによる抑制を受ける。一部の実施形態では、本技術の遺伝子操作された細菌は、グルタミン酸をアルギニン及び/又はアルギニン生合成経路における中間副産物に変換することに関与する酵素をコードするオペロンのうちの1つ又は複数のアルギニン媒介性抑制を低減又は排除する、1つ又は複数の核酸変異を含む。
【0103】
一部の態様では、細菌宿主は、腫瘍微小環境におけるアデノシンのレベルを減少させるためにアデノシンを移入するように操作される。アデノシンは、腫瘍微小環境に見出される強力な免疫抑制分子であり、したがって、そのレベルを減少させることにより、腫瘍細胞に対する免疫応答が増加する。アデノシン移入機構は、任意の公知の、又は後に発見される大腸菌ヌクレオシドパーミアーゼに由来しうる。一実施形態では、操作された細菌宿主は、大腸菌ヌクレオシドパーミアーゼnupG又はnupCを介してアデノシンを移入する。
【0104】
一部の実施形態では、本技術は、限定はされないが、がんの処置及び/又は腫瘍の処置のための、本開示に記載される生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージの使用に関する。腫瘍は悪性であっても良性であってもよい。本技術を使用して処置されうるがんのタイプには、限定はされないが、副腎がん、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、胆管がん、膀胱がん、骨悪性腫瘍(例えば、ユーイング肉腫、骨肉腫、悪性線維性組織球腫)、脳悪性腫瘍(例えば、星細胞腫、脳幹神経膠腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫)、気管支腫瘍、中枢神経系腫瘍、乳がん、キャッスルマン病、子宮頸部がん、結腸がん、直腸がん、結腸直腸がん、子宮体がん、食道がん、眼悪性腫瘍、胆嚢がん、胃腸がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍、妊娠性絨毛性疾患、心臓悪性腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、咽頭がん、下咽頭がん、リンパ腫(例えば、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病)、肝臓がん、肺がん、リンパ腫(例えば、AIDS関連リンパ腫、バーキットリンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫)、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、鼻腔がん、副鼻腔がん、上咽頭がん、神経芽腫、口腔がん、中咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵臓がん、陰茎がん、下垂体腫瘍、前立腺がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、ラブドイド腫瘍、唾液腺がん、肉腫、皮膚がん(例えば、基底細胞がん、黒色腫)、小腸がん、胃がん、奇形腫、精巣がん、咽頭がん、胸腺がん、甲状腺がん、稀な小児がん、尿道がん、子宮がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、及びウィルムス腫瘍が含まれる。一部の実施形態では、それらに関連する症状には、限定はされないが、貧血、食欲不振、膀胱内壁の刺激、出血及び挫傷(血小板減少症)、味覚若しくは嗅覚の変化、便秘、下痢、口渇、嚥下障害、浮腫、疲労、脱毛(脱毛症)、感染症、不妊症、リンパ浮腫、口内炎、悪心、疼痛、末梢神経障害、虫歯、尿路感染症、並びに/又は記憶及び集中力の問題が含まれる。
【0105】
一部の実施形態では、本技術の方法は、それを必要とする対象に、本明細書に記載される少なくとも1つの生きたバイオ治療薬及び/又は少なくとも1つの合成治療用バクテリオファージの有効量を投与することを含む。生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、局部的に、例えば、腫瘍内若しくは腫瘍周囲に、組織中若しくは供給血管内に、筋肉内に、腹腔内に、経口的に、局所的に、又は膀胱内への点滴によって投与することができる。生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、全身性に、例えば、静脈内又は動脈内に、注入又は注射によって投与することができる。
【0106】
一部の実施形態では、本技術は、組成物、例えば、本明細書に記載される少なくとも1つのバイオ治療薬及び/又は少なくとも1つの合成治療用バクテリオファージ、並びに任意選択で1つ又は複数の好適な薬学的賦形剤、希釈剤又は担体を含む、医薬組成物に関する。ある特定の実施形態では、それを必要とする対象に、本明細書に記載される少なくとも1つの生きたバイオ治療薬及び/若しくは少なくとも1つの合成治療用バクテリオファージを投与すること、又は本技術の組成物を投与することは、対象における細胞増殖、腫瘍成長、及び/若しくは腫瘍体積を減少させる。一部の実施形態では、本開示の方法は、未処置又は対照対象におけるレベルと比較して、少なくとも約10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又はそれ以上、細胞増殖、腫瘍成長、及び/又は腫瘍体積を減少させることができる。一部の実施形態では、減少は、医薬組成物の投与前及び投与後の対象における細胞増殖、腫瘍成長、及び/又は腫瘍体積を比較することによって測定される。一部の実施形態では、対象におけるがんを処置又は改善する方法は、がんの1つ又は複数の症状を少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はそれ以上改善することを可能にする。医薬組成物の投与前、投与中、及び投与後に、対象におけるがん性細胞及び/又はバイオマーカーを、生物試料、例えば、血液、血清、血漿、尿、腹腔液、及び/又は組織若しくは器官からの生検試料において測定することができる。一部の実施形態では、本方法は、対象における腫瘍体積を、検出不能なサイズまで、又は処置前の対象の腫瘍体積の約1%、2%、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、又は90%未満まで減少させるために、本技術の組成物を投与することを含みうる。他の実施形態では、本方法は、対象の細胞増殖率又は腫瘍増殖率を検出不能な率、又は処置前の率の約1%、2%、5%、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、又は90%未満に減少させるために、本技術の組成物の投与を含みうる。
【0107】
一部の実施形態では、本技術の組成物は、単独で、又は1つ若しくは複数の更なる治療剤と組み合わせて投与することができる。治療剤の非限定的な例には、従来の療法(例えば、放射線療法、化学治療)、免疫療法(例えば、ワクチン、樹状細胞ワクチン、又は他の抗原提示細胞の他のワクチン、チェックポイント阻害剤、サイトカイン療法、腫瘍浸潤性リンパ球療法、ナイーブ又は操作されたTCR又はCAR-T療法、ナチュラルキラー細胞療法、Fc媒介ADCC療法、細胞傷害性T細胞を腫瘍細胞に連結する二重特異性可溶性scFv、及びエフェクター機能を有する可溶性TCRを用いる療法)、幹細胞療法、並びに抗体又は化合物(例えば、BRAF又は血管内皮成長因子阻害剤)、合成バクテリオファージを用いる標的化療法が含まれる。一部の実施形態では、遺伝子操作された細菌は、メトトレキサート、トラベクテジン(登録商標)、ベロテカン(登録商標)、シスプラチン(登録商標)、カルボプラチン(登録商標)、ベバシズマブ(登録商標)、パゾパニブ(登録商標)、5-フルオロウラシル、カペシタビン(登録商標)、イリノテカン(登録商標)、ゲムシタビン(ジェムザール)、及びオキサリプラチン(登録商標)から選択されるがこれらに限定されない、1つ又は複数の化学療法剤を用いる投薬に対して、逐次的に、同時に、又はその後に投与される。
【0108】
一部の態様では、少なくとも1つの生きたバイオ治療薬は、以下のチェックポイント阻害剤又は当技術分野で公知の又は本明細書に記載される他の抗体の1つ又は複数を用いる投薬に対して、逐次的に、同時に、又はその後に投与される。非限定的な例には、CTLA-4抗体(イピリムマブ及びトレメリムマブ(CP675206)を含むがこれらに限定されない)、抗4-lBB(CD 137、TNFRSF9)抗体(PF-05082566及びウレルマブを含むがこれらに限定されない)、抗OX40抗体(Providence Health and Services社)を含むがこれに限定されない抗CD134(OX40)抗体、抗PDl抗体(ニボルマブ、ピディリズマブ、ペムブロリズマブ(MK-3475/SCH900475、ランブロリズマブ、REGN2810、PD1(Agenus社))を含むがこれらに限定されない)、抗PD-Ll抗体(デュルバルマブ(MEDI4736)、アベルマブ(MSB0010718C)、及びアテゾリズマブ(MPDL3280A、RG7446、R05541267)を含むがこれらに限定されない)、抗KIR抗体(リリルマブを含むがこれに限定されない)、LAG3抗体(BMS-986016を含むがこれに限定されない)、抗CCR4抗体(モガムリズマブを含むがこれに限定されない)、抗CD27抗体(バーリルマブを含むがこれに限定されない)、抗CXCR4抗体(ウロクプルマブを含むがこれに限定されない)が含まれる。
【0109】
一部の実施形態では、少なくとも1つの生きたバイオ治療薬及び/又は1つの合成治療用バクテリオファージは、抗ホスファチジルセリン抗体(バビツキシマブを含むがこれに限定されない)、TLR9抗体(MGN1703 PD1抗体(SHR-1210(Incyte社/Jiangsu Hengrui社)を含むがこれに限定されない)、抗OX40抗体(OX40(Agenus社)を含むがこれに限定されない)、抗Tim3抗体(抗Tim3(Agenus社/INcyte社)を含むがこれに限定されない)、抗Lag3抗体(抗Lag3(Agenus社/INcyte社)を含むがこれに限定されない)、抗B7H3抗体(エノブリツズマブ(MGA-271)を含むがこれに限定されない)、WO2009101611(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている抗CT-011(hBAT、hBATl)、抗PDL-2抗体(AMP-224(WO2010027827及びWO2011066342に記載されている;これは参照により本明細書に組み込まれる)を含むがこれに限定されない)、抗CD40抗体(CP-870、893を含むがこれらに限定されない)、抗CD40抗体(CP-870、893を含むがこれらに限定されない)から選択される1つ又は複数の抗体の投与に対して、逐次的に、同時に、又はその後に投与される。本技術の生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージを含む医薬組成物は、がんを処置、管理、改善、及び/又は予防するために使用することができる。1つ又は複数の生きたバイオ治療薬を単独で、又は予防剤、治療剤、及び/若しくは薬学的に許容される担体と組み合わせて含む本技術の医薬組成物が提供される。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載される遺伝子改変、例えば、1つ又は複数の抗がん分子をコードする1つ又は複数の遺伝子を含むように操作された1つの生きたバイオ治療薬を含む。代替的な実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載される遺伝子改変、例えば、1つ又は複数の抗がん分子をコードする1つ又は複数の遺伝子を含むようにそれぞれ操作された2つ以上の生きたバイオ治療薬を含む。更に別の実施形態では、医薬組成物は、本明細書に記載される組換えタンパク質、例えば、1つ又は複数の抗がん分子を提示するようにそれぞれが操作されている合成治療用バクテリオファージを含む。
【0110】
本技術の医薬組成物は、薬学的使用のための組成物への活性成分の加工を容易にする、賦形剤及び補助剤を含む1つ又は複数の生理的に許容される担体を使用して、従来の様式で製剤化することができる。医薬組成物を製剤化する方法は、当技術分野で公知である(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PAを参照のこと)。一部の実施形態では、医薬組成物は、錠剤化、凍結乾燥、直接圧縮、従来の混合、溶解、顆粒化、遠心分離、乳化、カプセル化、捕捉、又は噴霧乾燥に供されて、錠剤、顆粒、ナノ粒子、ナノカプセル、マイクロカプセル、マイクロ錠剤、ペレット、又は粉末を形成し、これらは腸溶コーティングされていてもコーティングされていなくてもよい。適切な製剤は、投与経路に依存する。
【0111】
生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、任意の好適な投薬形態(例えば、経口投与のための液体、カプセル、サシェ、硬カプセル、軟カプセル、錠剤、腸溶性錠剤、懸濁粉末、顆粒、又はマトリックス持続放出製剤)及び任意の好適なタイプの投与(例えば、経口的、局所的、注射可能、静脈内、皮下、腫瘍内、腫瘍周囲、即時放出性、拍動放出性、遅延放出性、又は持続放出性)のための医薬組成物に製剤化することができる。生きたバイオ治療薬のための好適な投薬量は、細菌約104~1012個の範囲でありうる。組成物は、1回又は複数回を毎日、毎週、毎月、又は毎年投与されうる。組成物は、食事の前、食事中、又は食事の後に投与されうる。一実施形態では、医薬組成物は、対象が食事を摂取する前に投与される。一実施形態では、医薬組成物は、食事と同時に投与される。一実施形態では、医薬組成物は、対象が食事を摂取した後に投与される。
【0112】
生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、1つ又は複数の薬学的に許容される担体、増粘剤、希釈剤、緩衝液、緩衝剤、界面活性剤、中性又は陽イオン性脂質、脂質複合体、リポソーム、浸透促進剤、担体化合物、及び他の薬学的に許容される担体又は薬剤を含む医薬組成物として製剤化することができる。例えば、医薬組成物は、限定はされないが、炭酸水素カルシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、様々な糖及び様々な種類のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、ポリエチレングリコール、並びに例えばポリソルベート20を含む界面活性剤の添加を含むことができる。一部の実施形態では、本発明の生きたバイオ治療薬は、炭酸水素ナトリウムの溶液、例えば、1モル濃度の炭酸水素ナトリウム溶液中に製剤化することができる(酸性細胞環境、例えば、胃を緩衝化するため)。生きたバイオ治療薬は、中性又は塩の形態として投与及び製剤化することができる。薬学的に許容される塩には、陰イオン、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来するもので形成されたもの、及び陽イオン、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するもので形成されたものが含まれる。
【0113】
生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、例えば、注入又は注射によって静脈内投与することができる。或いは、生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、腫瘍内及び/又は腫瘍周囲に投与することができる。他の実施形態では、生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、動脈内、筋肉内、又は腹腔内に投与することができる。一部の実施形態では、生きたバイオ治療薬は、腫瘍の約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上にコロニー形成する。一部の実施形態では、生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、腫瘍被膜、コラーゲン、及び/又は間質の浸透性を強化する目的で腫瘍隔壁を破壊するために、PEG化形態のrHuPH20(PEGPH20)又は他の薬剤と同時投与される。一部の実施形態では、生きたバイオ治療薬は、抗がん分子、並びに線維組織を分解する1つ又は複数の酵素を産生することができる。
【0114】
一部の態様では、処置レジメンは、1回又は複数回の腫瘍内投与を含む。一部の態様では、処置レジメンは、初回用量と、それに続く少なくとも1回のその後の用量を含む。1回又は複数回の用量は、2つ以上のサイクルで逐次的に投与することができる。例えば、初回用量を第1日に投与することができ、2回目の用量は、1、2、3、4、5、6日後、又は1、2、3若しくは4週後、又はより長い間隔の後に投与することができる。追加の用量は、1、2、3、4、5、6日後、又は1、2、3若しくは4週後、又はより長い間隔の後に投与することができる。一部の実施形態では、初回投与及びその後の投与は、同じ投薬量を有する。他の実施形態では、異なる用量が投与される。一部の実施形態では、1日当たり1回を上回る用量が投与され、例えば、1日当たり2回、3回又はそれ以上の用量が投与されうる。
【0115】
本明細書に開示される生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、局所的に投与することができ、軟膏、クリーム、経皮パッチ、ローション、ゲル、シャンプー、スプレー、エアロゾル、溶液、エマルジョン、又は当業者に周知の他の形態の形態で製剤化することができる。例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、Easton、PAを参照されたい。一実施形態では、噴霧不可能な局所投薬形態のために、担体又は局所適用との適合性があり、水を上回る動的粘度を有する1つ又は複数の賦形剤を含む、粘性形態ないし半固体又は固体形態が使用される。好適な製剤には、溶液、懸濁液、エマルジョン、クリーム、軟膏、粉末、リニメント、軟膏等が含まれるが、これらに限定されず、これらは滅菌されうるか、又は種々の特性(例えば、浸透圧)に影響を及ぼすための補助剤(例えば、防腐剤、安定剤、湿潤剤、緩衝剤、又は塩)と混合されうる。他の好適な局所投薬形態には、噴霧可能なエアロゾル調製物が含まれ、ここで、活性成分は、固体又は液体の不活性担体と組み合わせて、加圧された揮発性物質(例えば、気体推進剤、例えば、フレオン)との混合物中に、又はスクイーズボトル中にパッケージ化される。保湿剤又は湿潤剤も、医薬組成物及び投薬形態に添加されうる。そのような更なる成分の例は、当技術分野で周知である。一実施形態では、本技術の生きたバイオ治療薬を含む医薬組成物は、衛生製品として製剤化することができる。例えば、衛生製品は、抗菌製剤、又は発酵製品、例えば、発酵ブロスでありうる。衛生製品は、例えば、シャンプー、コンディショナー、クリーム、ペースト、ローション、及びリップクリームでありうる。
【0116】
本明細書に開示される生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、経口投与され、錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁剤等として製剤化することができる。経口使用のための薬理学的組成物は、固体賦形剤を使用して製造することができ、任意選択的に、得られた混合物を粉砕し、所望により好適な補助剤を添加した後に、顆粒の混合物を加工して、錠剤又は糖剤コアを得ることができる。適切な賦形剤には、充填剤、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、若しくはソルビトールを含む糖;セルロース組成物、例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム;及び/又は生理的に許容されるポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)若しくはポリエチレングリコール(PEG)が含まれるが、これらに限定されない。崩壊剤、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムも添加することができる。
【0117】
錠剤又はカプセル剤は、薬学的に許容される賦形剤、例えば、結合剤(例えば、アルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、スクロース、グルコース、ソルビトール、デンプン、ゴム、カオリン、及びトラガカントゴム);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶性セルロース、又はリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、カルシウム、アルミニウム、ジンク、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、デンプン、安息香酸ナトリウム、L-ロイシン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、又はシリカ);崩壊剤(例えば、デンプン、ジャガイモデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、糖、セルロース誘導体、シリカ粉末);又は湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)を使用して、従来の手段によって調製することができる。錠剤は、当技術分野で周知の方法によってコーティングすることができる。コーティングシェルが存在してもよく、一般的な膜には、ポリラクチド、ポリグリコール酸、ポリ酸無水物、他の生分解性ポリマー、アルギン酸ポリリジン-アルギン酸(APA)、アルギン酸-ポリメチレン-co-グアニジン-アルギン酸(A-PMCG-A)、ヒロドキシメチルアクリレート-メタクリレート(HEMA-MMA)、多層HEMA-MMAMAA、ポリアクリロニトリルビニルクロリド(PAN-PVC)、アクリロニトリル/メタリルスルホン酸ナトリウム(AN-69)、ポリエチレングリコール/ポリペンタメチルシクロペンタシロキサン/ポリジメチルシロキサン(PEG/PD5/PDMS)、ポリN,N-ジメチルアクリルアミド(PDMAAm)、シリカ封入剤、硫酸セルロース/アルギン酸ナトリウム/ポリメチレン-co-グアニジン(CS/A/PMCG)、酢酸フタル酸セルロース、アルギン酸カルシウム、k-カラギーナン-イナゴマメゴムゲルビーズ、ゲラン-キサンタンビーズ、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、カラギーナン、デンプンポリ酸無水物、デンプンポリメタクリレート、ポリアミノ酸、及び腸溶コーティングポリマーが含まれるが、これらに限定されない。
【0118】
一部の実施形態では、生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、腸管又は腸管の特定の領域、例えば、大腸への放出のために腸溶性にコーティングされる。胃から結腸までの典型的なpHプロファイルは、約1~4(胃)、5.5~6(十二指腸)、7.3~8.0(回腸)、及び5.5~6.5(結腸)である。いくつかの疾患では、pHプロファイルは改変されうる。一部の実施形態では、コーティングは、放出の部位を指定する目的で、特定のpH環境において分解される。一部の実施形態では、少なくとも2つのコーティングが使用される。一部の実施形態では、外側コーティング及び内側コーティングは、異なるpHレベルで分解される。
【0119】
一部の実施形態では、1つ又は複数のコーティング層(例えば、外側、内側及び/又は中間コーティング層)において、腸溶コーティング材料を使用することができる。腸溶コーティングされたポリマーは、低いpHで脱イオン化されたままであり、したがって不溶性のままである。しかし、消化管においてpHが増加すると、酸性官能基はイオン化することができ、ポリマーは膨潤するか、又は腸液中で可溶性になる。
【0120】
本明細書中で定義される使用及び方法は、本明細書で論じられる効果を達成するために、本明細書で定義される生きたバイオ治療薬又は合成バクテリオファージの治療有効量を対象に投与することを含む。本明細書で使用される場合、「有効量」又は「治療有効量」という表現は、任意の医学的処置に適用される合理的な利益/リスク比で、本明細書で定義されるいくつかの所望の治療効果を生じるのに有効である、本明細書で定義される生きたバイオ治療薬又は合成バクテリオファージの量を指す。本開示の任意の特定のペプチドの治療有効用量は、対象毎に、及び患者毎に異なると考えられ、とりわけ、達成される効果又は結果、患者の状態及び送達の経路に依存する。「治療的に許容される」、「治療的に好適な」、「薬学的に許容される」及び「薬学的に好適な」という表現は、本明細書で互換的に使用され、疾患の重症度及び処置の必要性に照らして、過度に有害な副作用なしに、本明細書に記載される効果、例えば、本明細書で定義される処置を達成するために対象に投与するのに適したペプチド、化合物、又は組成物を指す。
【0121】
別の実施形態では、本技術の生きたバイオ治療薬を含む医薬組成物は、食用製品、例えば、食物製品であってもよい。一実施形態では、食物製品は、乳、濃縮乳、発酵乳(ヨーグルト、サワーミルク、フローズンヨーグルト、乳酸菌発酵飲料)、粉乳、アイスクリーム、クリームチーズ、乾燥チーズ、豆乳、発酵豆乳、野菜-フルーツジュース、フルーツジュース、スポーツドリンク、菓子、キャンディー、幼児食品(例えば、幼児用ケーキ)、栄養食品製品、動物性飼料、又は栄養補助食品である。一実施形態では、食物製品は、発酵食品、例えば、発酵乳製品である。一実施形態では、発酵乳製品は、ヨーグルトである。別の実施形態では、発酵乳製品は、チーズ、乳、クリーム、アイスクリーム、ミルクシェイク、又はケフィアである。別の実施形態では、本技術の生きたバイオ治療薬は、プロバイオティクスとして作用することが意図された他の生きた細菌細胞を含有する調製物中で組み合わされる。別の実施形態では、食物製品は、飲料である。一実施形態では、飲料は、フルーツジュースベースの飲料、又は植物若しくは薬草抽出物を含有する飲料である。別の実施形態では、食物製品は、ゼリー又はプディングである。本技術の生きたバイオ治療薬の投与に適した他の食物製品は、当技術分野で周知である。例えば、米国特許出願公開第2015/0359894号及び米国特許出願公開第2015/0238545号を参照されたい。これらのそれぞれの全ての内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。更に別の実施形態では、本技術の医薬組成物は、食品、例えば、パン、ヨーグルト、又はチーズに注入される、噴霧される、又は振りかけられる。
【0122】
医薬組成物は、薬剤の量を示す密封容器、例えば、アンプル又はサシェにパッケージ化することができる。一実施形態では、1つ又は複数の医薬組成物は、密封容器内の乾燥滅菌された凍結乾燥粉末又は水を含まない濃縮物として供給され、対象への投与のために適切な濃度に(例えば、水又は生理食塩水で)再構成することができる。一実施形態では、1つ又は複数の予防剤又は治療剤又は医薬組成物は、2℃~8℃の間で貯蔵された密封容器内の乾燥滅菌された凍結乾燥粉末として供給され、再構成された後の1時間以内、3時間以内、5時間以内、6時間以内、12時間以内、24時間以内、48時間以内、72時間以内、又は1週間以内に投与される。凍結乾燥剤形には、凍結保護剤を含めることができ、主に0~10%スクロース(最適には0.5~1.0%)である。他の適切な凍結保護剤には、トレハロース及びラクトースが含まれる。他の適切な充填剤には、グリシン及びアルギニン(いずれも0~0.05%の濃度で含めることができる)、及びポリソルベート-80(最適には0.005~0.01%の濃度で含めることができる)が含まれる。追加の界面活性剤には、ポリソルベート20及びBRIJ(登録商標)界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物は、注射液として調製することができ、アジュバントとして有用な薬剤、例えば、吸収又は分散を増加させるために使用されるもの、例えばヒアルロニダーゼを更に含むことができる。
【0123】
一部の態様では、生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージ並びにそれらの組成物は、静脈内投与、腫瘍内投与、又は腫瘍周囲投与のために製剤化される。生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、デポー製剤として製剤化することができる。そのような長時間作用型製剤は、移植又は注射によって投与することができる。例えば、組成物は、適切なポリマー又は疎水性材料(例えば、許容される油中のエマルジョンとして)又はイオン交換樹脂と共に、又は難溶性誘導体(例えば、難溶性塩として)として製剤化することができる。
【0124】
別の実施形態では、組成物は、制御放出又は持続放出システムで送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用して、制御又は持続放出を達成することができる。別の実施形態では、ポリマー材料を使用して、本開示の治療の制御又は持続放出を達成することができる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,989,463号を参照)。持続放出製剤に使用されるポリマーの例には、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(エチレン-co-ビニルアセテート)、ポリ(メタクリル酸)、ポリグリコリド(PLG)、ポリ酸無水物、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリラクチド(PLA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、及びポリオルトエステルが含まれるが、これらに限定されない。持続放出製剤に使用されるポリマーは、不活性であり、浸出性不純物を含まず、貯蔵時に安定であり、滅菌され、生分解性であってもよい。一部の実施形態では、制御又は持続放出システムは、予防又は治療の標的の近傍に配置することができ、したがって、全身用量の一部のみを必要とする。当業者に公知の任意の好適な技術が使用されうる。
【0125】
本技術の生きたバイオ治療薬及び/又は合成治療用バクテリオファージは、中性又は塩の形態として投与及び処方することができる。薬学的に許容される塩には、陰イオン、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸等に由来するもので形成されたもの、及び陽イオン、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカイン等に由来するもので形成されたものが含まれる。
【実施例】
【0126】
以下の実施例は、本開示の様々な実施形態の実施を説明するために提供される。これらは、本開示の全範囲を限定又は定義することを意図するものではない。本開示は、本明細書に記載及び図示された特定の実施形態に限定されず、添付の実施形態で定義された本開示の範囲内にある全ての修正及び変形を含むことを理解されたい。
【0127】
(実施例1)
治療用タンパク質の提示のための合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の操作
この実施例で使用した全ての菌株及びプラスミドを表1に記載する。細胞は、典型的には、ルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー培地で増殖させ、必要な場合には、以下の濃度の抗生物質を添加した:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジキシ酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、慣行的に37℃で増殖させた。温度感受性プラスミド(pTAT00X、pTAT001)を有する細胞は、30℃で増殖させた。18時間齢を上回る細菌培養物は実験に使用しなかった。
【0128】
【0129】
【0130】
DNA操作。この実施例に使用したオリゴヌクレオチド配列の詳細なリストを表2に示す。プラスミドは、EZ10-Spin Column Plasmid Miniprepキット(BIOBASIC社#BS614)又はQIAGEN Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社)を使用して、製造元の指示に従って調製した。PCR増幅は、DNA部分増幅及びスクリーニングのために、TransStart FastPFU fly DNAポリメラーゼ(Civic Bioscience社)を使用して行った。制限酵素による消化にはNEB社の製品を使用し、製造元の推奨に従って37℃で1時間インキュベートした。プラスミドは、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB)を使用し、製造元のプロトコールに従ってGibsonアセンブリによって構築した。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
DNA精製。DNAの精製は、緩衝液の不適合性を回避するために、又は酵素反応を停止するために、プラスミドアセンブリの各工程の間に行った。PCR反応は一般に、Agencourt Ampure XP DNA結合ビーズ(Beckman Coulter社)を使用し、製造元のガイドラインに従って固相可逆的固定化(SPRI)によって精製するか、又はZymoclean Gel DNA Recovery Kit(Zymo Research社)を使用して、アガロースゲルから回収及び精製した。DNA試料を制限酵素で消化した場合、DNAは細胞懸濁液DNA精製プロトコールに関する製造元の推奨に従って、Monarch(登録商標)PCR & DNA Cleanup Kit(NEB)を使用して精製した。精製後に、DNAの濃度及び純度を、必要に応じてNanodrop分光光度計を使用して慣行的に評価した。
【0135】
エレクトロポレーションによる大腸菌のDNA形質転換。慣行的なプラスミド形質転換をエレクトロポレーションによって行った。エレクトロコンピテント大腸菌株を、20mLのLBブロスから調製した。続いて、600ナノメートル(OD600nm)で光学密度0.6の指数増殖期に達した培養物を、滅菌10%グリセロール溶液で3回洗浄した。続いて、細胞を水200μLに再懸濁させ、50μLのアリコートに分配した。続いて、DNAをエレクトロコンピテント細胞に添加し、混合物を1mmエレクトロポレーションキュベットに移した。1.8kV、25μF及び200Ωのパルスを5msにわたり使用して、細胞のエレクトロポレーションを行った。続いて、細胞を1mLの非選択的LB培地に再懸濁させ、37℃で、又は温度感受性プラスミドについては30℃で1時間おいて回収した後、選択培地にプレーティングした。
【0136】
熱ショックによる大腸菌のDNA形質転換。熱ショック形質転換は、主としてGibsonアセンブリ産物をクローニングするために使用した。化学的コンピテント細胞を、以前に記載されたように塩化ルビジウムプロトコールに従って調製した(Greenら、2013年)。化学的コンピテント細胞は、使用前に-80℃で急速凍結して保存した。Gibsonアセンブリ産物により、EC100Dpir+又はMM294化学的コンピテント細胞に、1/10の容量比で直接形質転換を行った。慣行的に、最大10μLのDNAを100μLのコンピテント細胞に添加した後、42℃で45秒間の熱ショックによる形質転換を行った。続いて、細胞を1mLの非選択的LB培地に再懸濁させ、37℃で、又は温度感受性プラスミドについては30℃で1時間おいて回収した後、選択培地にプレーティングした。
【0137】
生物学的封じ込め対策としての大腸菌ゲノムへのpTAT001の挿入。改変EcN::TAT001株を、前述の手順(McKenzieら、2006年)に基づいて抗生物質耐性カセットのTn7挿入によって得る。組込みを、表2に記載された通りの対応するプライマーを使用してPCRによって検証する。プラスミド排除を検証するために、アンピシリン耐性の消失を確認する。より具体的には、pTAT00Xベクターを大腸菌DH5-Alpha+株から精製し、SmaI + XhoIで消化する。インサートを、対応するプライマーを使用してPCRによって増幅し(表2)、消化されたpTAT00XプラスミドのattLTn7部位とattRTn7部位との間にGibsonアセンブリによって挿入する。続いて、Gibsonアセンブリ産物により、エレクトロコンピテント大腸菌EC100Dpir+株において形質転換を行う。得られたプラスミドを制限酵素を使用して分析し、陽性クローンにより大腸菌EC100ΔdapA+pTA-MOBの形質転換を行う。プラスミドは、大腸菌EC100ΔdapA+pTA-MOBからMG1655に接合によって動員される。glmSのターミネーターへのカセット挿入を媒介するために、MG1655をまず、1%アラビノースを含む30℃のLB中でOD600nm0.6まで培養する。続いて、細胞に42℃で熱ショックを1時間与え、37℃で一晩インキュベートして、プラスミド消失を可能にする。続いて、細菌培養物のアリコートをLB寒天プレートに画線培養する。20個以上のコロニーを分析し、アンピシリンの非存在下でのみ増殖するがインサートの選択マーカーを含むコロニーを、表2に一覧を示した適切なプライマーを使用するPCRによって調べる。
【0138】
合成バクテリオファージ。治療用タンパク質の提示のための合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬を設計した。生きたバイオ治療薬の構成の一般的な説明を
図1に示し、多様な構築物の概要を
図5及び
図6に示す。
【0139】
この実施例は、合成治療用バクテリオファージ分泌系の様々な繰り返し、及びこれらの繰り返しを利用して、結果として得られるバクテリオファージ粒子の種々の部位に治療用タンパク質を提示する方法を示す。合成治療用バクテリオファージ分泌系の第1の形態において、この系は、2つのベクターのセット、すなわち、合成バクテリオファージ骨格ベクター(例えば、pTAT002(
図5E)、pTAT003(
図5E)、pTAT012(
図5F)、pTAT013(
図5G)、pTAT014(
図5H)、pTAT019(
図5G)、pTAT20(
図5G)、pTAT022(
図5G)、又はpTAT030(
図5G))及び合成バクテリオファージ機構ベクター(例えば、M13K07(
図5A)、pTAT004(
図5C)、又はpTAT025(
図5D))に分けることができる。一部の場合には、合成治療用バクテリオファージ分泌系は、単一のベクター(例えば、M13mp18-Kan(
図5B)、pTAT032(
図5B)、又はpTAT033(
図5B))中に含まれうるか、又はpTAT025(
図5D)、pTAT002(
図5E)及びpTAT017(
図5H)若しくはpTAT028(
図5H)で構成される系におけるように、3つ以上の遺伝子構築物に分けることができる。合成治療用バクテリオファージ分泌系の生物学的封じ込めを改善するために、その遺伝子のいくつかを全体として又はいくつかの部分として宿主細胞の染色体内に組み込むことができる(pTAT001について示されるように、
図6を参照のこと)が、合成バクテリオファージ骨格ベクターとして作用するためには、oriM13を含む染色体外DNAエレメント(例えば、pTAT012)を依然として必要とする。
【0140】
バクテリオファージのアセンブリのために必要な遺伝子は全て、M13の天然ゲノムによく似た単一の遺伝エレメントで構成される。この構造には、進化の過程で最適化された天然のタンパク質と同じレベルの発現により、治療用融合タンパク質が利益を得ることが可能になるという利点がある。単一のベクター系を得るための最初の段階は、M13mp18を改変して容易に選択できるようにすることであった。それを目的として、表2に一覧を示したプライマーを使用して、M13mp18、及びM13mp18に含まれるlacZ遺伝子に挿入されるように設計されたM13K07由来のaph-III遺伝子を増幅した。続いてGibsonによって断片を組み立て、M13mp18-Kanの生成がもたらされた。次に、治療用タンパク質を同じ骨格から発現させる必要があった。これを達成するために、本発明者らは、gBlock由来のnbPDL1(抗PD-L1ナノボディ)、及びgpIIIのN末端部分を除く全てのM13mp18-Kan骨格を増幅した。gpIIIのN末端部分はpTAT032中のnbPDL1によって置き換えられた(
図5)。この系の別のバリアント(pTAT033)は、gpIII遺伝子全体を維持するように設計したが、nbPDL1遺伝子は、このコーティングタンパク質を構成する2つのドメインの間のpIIIの中央に挿入した(
図5)。両方の系が首尾よくアセンブリされ、機能的な合成治療用バクテリオファージが産生されたが、これについては実施例3で更に説明する。このことは、治療用タンパク質融合物を合成バクテリオファージ機構において直接クローニングして、合成治療用バクテリオファージを作製しうることを示す。他のカプシドタンパク質、例えば、gpVIII及びgpIXとの融合も可能である。これについては、次の項でpTAT027について例示する。
【0141】
合成バクテリオファージ機構ベクターpTAT004を作製するために、pIIIをコードするgpIII遺伝子を除き、表2に提示した適切なプライマーを使用してM13K07全体を増幅した。M13K07を増幅するために使用したプライマーの相同性尾部は、最終的な構築物からgpIIIが除去されるように慎重に設計した。次に、PCR産物をSPRIによって精製し、Gibsonの方法によってアセンブリして、pTAT004を作製した。このアセンブリによりMM294化学的コンピテント細胞への形質転換を行い、NdeIを使用する消化によってプラスミドの完全性を検証した。pTAT004合成バクテリオファージ機構は、gpIII遺伝子のコピーを有しないため、それ自体では完全に機能するバクテリオファージ粒子を産生することができず、それ故にpIIIを産生しない。バクテリオファージ粒子を産生するためには、gpIIIは、合成バクテリオファージ骨格ベクターによってトランス性に提供されなければならない。次に、別の合成バクテリオファージ機構をpTAT004から導出した。pVIII上にタンパク質及びペプチドを提示させる本発明者らの能力を実証するために、ニワトリ卵白アルブミン遺伝子由来のエピトープをpTAT004上のgpVIII遺伝子のN末端にクローニングして、pTAT027を作製した。このプラスミドは、gpIX-gpVIII遺伝子接合部にいくつかの変異が導入されたpTAT004プラスミドを増幅するためのプライマーを使用してアセンブリした。まず、gpVIIIの開始コドンがgpIXの末端と重複することから、それを変異させ、更なるクローニングを可能にするためにgpXIの最終部の後に再導入した。次に、卵白アルブミンエピトープをプライマー尾部にコードさせて、gpVIII遺伝子の開始コドンの直後に導入した。この構築物は、バクテリオファージが正確にアセンブリされるためにpIIIの外部供給源を必要とするが、pVIII上にOVAペプチドを提示すると考えられる。pTAT002、pTAT003、pTAT012、pTAT019、pTAT020、pTAT022、及びpTAT030合成バクテリオファージ骨格ベクターを次に設計した。合成バクテリオファージ骨格ベクターは全て、高コピープラスミド複製のためのoripMB1(カプシド化のためのDNA材料を最大化する)、ssDNAローリングサークル複製及びファージカプシド化機構による合成バクテリオファージ骨格ベクターの認識のためのoriM13、選択マーカー(ここではスペクチノマイシン耐性)、並びに1つのHA-His二重タグを介してpIIIのN末端断片(pTAT002、治療用タンパク質を含まない対照)、又はチェックポイント阻害剤結合タンパク質(pTAT003、抗CD47ナノボディ;pTAT019、抗CTLA-4ナノボディ;pTAT020、抗PD-L1ナノボディ;pTAT022及びpTAT030、抗CTLA-4アンチカリン)、又は治療用酵素(pTAT022、シトシンデアミナーゼ(CD))のいずれかに連結された恒常的に発現されるpIII C末端断片を含む(治療タンパク質配列については表3を参照)。
【0142】
【0143】
この実施例では、抗CD47、抗CTLA-4、及び抗PD-L1結合タンパク質を治療剤として選択したが、その理由はこれらががん性細胞によって発現される免疫チェックポイントに結合する、十分に特徴付けられたチェックポイント阻害剤であり(Vaddepallyら、Cancers (Basel) 2020年3月;12(3):738頁;これは参照により本明細書に組み入れられる)、一方、シトシンデアミナーゼは、5-FC前駆体を、がんを処置するために一般的に使用される化学療法剤である5-FUに変換する酵素である(Nyati M.K.ら、Gene Therapy 2002;9:844~849頁;これは参照により本明細書に組み入れられる)ためである。最初にアセンブリした合成バクテリオファージ骨格ベクターはpTAT003であった。pTAT003を構築するために、pSB1C3からのori
pMB1、M13K07からのori
M13及びpIII N末端及びC末端部分、大腸菌KN01からのaad7(スペクチノマイシン耐性)、並びにペプチドリンカー及び恒常的プロモーターを有する抗CD47ナノボディを含むgBlockを、PCRによって増幅した。PCR産物を次にGibsonによってアセンブリし、化学的コンピテントMM294細胞への形質転換を行った(
図5)。pTAT002をアセンブリするために、骨格をpTAT003から増幅し、gpIIIの欠損したN末端領域をM13K07から増幅した。次に2つのDNA部分をGibsonの方法によってアセンブリした。次に、ApaLI及びNdeIを使用する消化によってプラスミドの完全性を確認した。次に、表2に一覧を示したプライマーを使用してプラスミドpTAT012を作製し、Gibsonアセンブリによってアセンブリした。pTAT012ベクターは、ori
M13、oriV
pMB1及びaad7耐性遺伝子のみを含む。したがって、これはM13K07を補完するベクターからなり、バクテリオファージの構築のための骨格のみを提供し、1つの生物学的封じ込め戦略を示す。pTAT002及びpTAT003のSangerシークエンシングにより、P5プロモーターの第3位(G>T)における変異が、pTAT003及びpTAT002の両方において見出された。この結果得られたP5mutと命名されたプロモーターは、GFPを使用するpTAT010-P5及びpTAT010-P5mut構築物で測定した場合、上流遺伝子のより低いレベルの発現を可能にする(非提示データ)。構築アセンブリを円滑化する目的で、pTAT002骨格を改変し、gpIIIの代わりにP5プロモーターによって発現されるようにsfGFP遺伝子をクローニングした。この骨格はpTAT003と同様にアセンブリされたが、使用したプライマーにより、P5によって発現される遺伝子の後に更なるターミネーターの挿入が可能になり、ベクターの異なる部分を区切ることを可能にするGibsonアセンブリタグ(GAT)の挿入が可能になった。続いて、この結果得られたpTAT013と命名されたベクターを、pIII上での治療用タンパク質の提示のためのその後の構築物の骨格を増幅するための鋳型として使用した。そのため、pTAT019、pTAT020、pTAT022、及びpTAT030の構築のために、プラスミドの骨格をpTAT013から、P5mutプロモーターをpTAT010-P5mutから、及びgpIIIのC末端部分をM13K07から増幅した。続いて、これらのDNA部分を、提示する治療用タンパク質をコードする異なるgBlockを使用してGibsonによってアセンブリした。そのため、抗CTLA-4ナノボディをコードするgBlockをpTAT019に使用し、抗PD-L1ナノボディをpTAT020に使用し、シトシンデアミナーゼcodAをpTAT022に使用し、抗CTLA-4アンチカリンをpTAT030に使用した。次に、全てのプラスミドを、アセンブリの後にIllumina又はSangerシークエンシングに供したが、有害な変異は検出されなかった。これらの結果により、pIII上に治療用タンパク質を提示する合成バクテリオファージ分泌系の効率試験及び改良ラウンドの準備が整った。合成治療用バクテリオファージ分泌系は、3つ以上のDNA分子に分けることができ、各バクテリオファージ遺伝子の十分なタンパク質が産生される限り、機能を維持することができる。バクテリオファージゲノムの可塑性を説明するために、本発明者らは、バクテリオファージ機構を3つの異なるプラスミドに分けることを目指した。最初の段階として、本発明者らは、M13K07からgpIII及び追加の遺伝子を削除する必要があった。本発明者らは、宿主細胞からのバクテリオファージ出芽に関与する別のカプシド遺伝子gpIXを、タンパク質融合の第2の部位として選択した。gpIXのコード配列はgpVIIIのコード配列と重複するため、M13K07からgpIXを欠失させることはgpIIIを欠失させることよりも複雑である。gpIXを除去するために使用した本発明者らの設計では、gpVIII遺伝子の中断を防ぐためにいくつかの遺伝子リファクタリングを含める必要があった。ATGコドンがgpIXの開始コドンであり、TGAコドンがgpVIII由来の終止コドンである、gpVIIIとgpIXとの間の重複配列。2つの遺伝子間の重複を、gpVIII(AGG及びAGAの両方がアルギニンをコードする)の配列に影響を及ぼすことなく、3位のA>Gを変異させて、ATGコドンをより弱いGTG開始コドンに変更することによって補正した。また、本発明者らは、gpIXの第3コドンをTTAからTAAに変更することで、終止コドンを導入し、gpIXの翻訳を阻害した。次に、この結果として得られる構築物pTAT025を、gpVIII/gpIX遺伝子座にこれらの改変を導入するプライマーを使用してpTAT004を増幅することによって得た。このため、プラスミドpTAT025は、gpIII及びgpIXを除くM13ゲノムの全ての遺伝子を発現し、これらはトランス性に提供される必要がある。バクテリオファージを分泌するためには、ori
M13をコードするバクテリオファージ骨格ベクターも必要である。同じ手順をpTAT032に対して行い、pIII上に抗PDL1ナノボディを提示するpIX欠損バクテリオファージ分泌機構であるpTAT032ΔgpIXを得た。
【0144】
プラスミドpTAT025のgpIII欠損性は、gpIII又はgpIII-治療用タンパク質融合物(pTAT002、pTAT003、pTAT019、pTAT020、pTAT022、又はpTAT030)を発現する上記のプラスミドのいずれかによって補完することができる。しかし、pTAT025は、バクテリオファージを産生するためにgpIXの外因性供給も必要とする。したがって、gpIX産生を支持するためにはプラスミドのセットが必要であった。この目的のために、pKN23からのoripSC101、pUC19からのbla、及びpTAT010-P5からのP5-BCD1-sfGFPを増幅することによって新たな骨格を作製し、これらはそれぞれ、プライマー尾部においてGATを使用してアセンブリした。次に、PCR断片をSPRIによって精製し、GibsonアセンブリによってpTAT014を作製して、その後にMM294における形質転換を行った。次に、構築物を表現型(GFP表現型)によって評価し、Sangerシークエンシングによって配列を決定した。次に、この骨格の全体をsfGFP遺伝子を除いて増幅し、M13K07から増幅されたgpIX遺伝子とアセンブリした。次に、両方のPCR産物をpTAT014と同じ方法でアセンブリして、gpIX補完プラスミド(pTAT017)を作製した。このプラスミドを更に改変して、P5-BCD1を除く全体を増幅し、gBlockに由来する2つのDNA断片を加えることによって、pIX上に抗CD47ナノボディ(nbCD47)を提示させた。最初のものはrevTet発現系であり、2番目のものはpIXのN末端にクローニングされたpelB-nbCD47であった。これにより、Gibsonアセンブリ及びMM294におけるクローニングの後にプラスミドpTAT028が生じた。次に、プラスミドをSangerシークエンシングによって確認した。pTAT017ベクターを更に改変して、pTAT017の骨格、pTAT010-P5mutからのP5mut-BCD1、及びgBlock_TAT10を増幅するためのプライマーを使用して、CTLA-4に対するアンチカリンを提示させた。これらのプライマーはまた、アンチカリン融合タンパク質の開始コドンをATGからGTGに変更させた。この構築物は後にpTAT035と名付けられ、これはCTLA-4アンチカリンのpIX上での提示を可能にする。
【0145】
合成バクテリオファージ分泌系の生物学的封じ込めに向けた最初の段階は、合成バクテリオファージ機構を宿主細胞の染色体に限局させることである。全ての構成要素が染色体外にある系では、バクテリオファージ粒子は、本発明者らの試験で見られるように(実施例IIの
図7Aを参照のこと)、合成バクテリオファージ骨格ベクター(90~99%)、又はランダムエラーによって合成バクテリオファージ機構ベクター(1~10%)のいずれかをキャプシド化することができる。合成バクテリオファージ機構の宿主の染色体への挿入は、合成バクテリオファージ骨格ベクターのみのキャプシド化をもたらすと考えられる。合成バクテリオファージ機構ベクターの染色体組込みを媒介するために、pTAT004(複製起点及び抗生物質耐性遺伝子を含まない)のPCR増幅を、XhoI + NdeIで消化したpTAT00Xのatt部位の間にクローニングした。2つのプラスミドをGibsonアセンブリによって互いに融合させ、SPRIによって精製して、エレクトロコンピテントEC100Dpir+細胞にクローニングした。次に、EcoRI及びPvuIIを使用する消化によって、プラスミドクローンのスクリーニングを行った(
図6)。次に、pTAT001と呼ばれる完成した新たなベクターを、EC100Dpir+から抽出し、EC100Dpir+ + pTA-MOBへの形質転換を行った。続いて、pTA-MOBコンジュゲーション機構を使用して、pTAT001を、EC100Dpir+からMG1655への寒天培地上のコンジュゲーションによって動員した。次に、合成バクテリオファージ機構の組込みを、1%アラビノースを使用して30℃で2時間誘導し、プラスミド骨格を42℃で1時間の熱ショックによって除去した後に、37℃で一晩増殖させた。続いて得られた細胞は、pTAT002、pTAT003、pTAT019、pTAT020、pTAT022、又はpTAT030により形質転換して、合成バクテリオファージ分泌系を完成させる準備が整っていた。pTAT001を使用すると、環境からの細菌がこのベクターを獲得した場合、バクテリオファージ粒子は自己増殖することができない。したがって、この生物学的封じ込めレベルは、操作されたバクテリオファージの環境への拡散を回避するための改善された尺度となる。同じ戦略を行って、pIX又は他のバクテリオファージコーティングタンパク質上での治療用タンパク質の提示を可能にする合成バクテリオファージ機構の生物学的封じ込めを行うことができる。
【0146】
合成バクテリオファージ分泌系の生物学的封じ込めを更に改善するために、pIII、若しくはpIX、又は任意のバクテリオファージコーティングタンパク質と融合された治療用タンパク質を、pTAT002、pTAT003、pTAT019、pTAT020、pTAT022、pTAT028又はpTAT030から細菌宿主細胞のゲノムに移動させることができる。このようにして、治療用モジュールも細菌宿主細胞のゲノムに組み込まれる。この場合、合成バクテリオファージ骨格ベクターは、ori
M13、選択マーカー、及び任意選択で高コピー数の複製起点のみを含む。フィラーモジュールを用いることで、合成バクテリオファージの長さを改変することができ、これは二重特異性ファージ粒子の用途にとって興味深い特徴である(Specthrieら、J. Mol. Biol.、1992年、3:720頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)。例えば、バクテリオファージの尾部と融合された結合タンパク質ががん細胞に結合し、バクテリオファージの頭部と融合された結合タンパク質がT細胞に結合する場合、バクテリオファージの長さは、がん細胞とT細胞との間の距離に影響を及ぼす。このため、フィラーモジュールのサイズを改変することによって、合成バクテリオファージのサイズを変化させ、がん細胞とT細胞との間の距離に影響を及ぼして、それ故にがん性細胞に対するT細胞の応答に影響を及ぼすことができる。合成バクテリオファージ分泌系に対する更なる改変により、分泌及び治療活性の効率を改善することができる。例えば、腫瘍微小環境においてのみ見出される環境条件によって誘導可能であるプロモーターを使用することにより、起こりうる副作用、又は生産規模拡大中の生きたバイオ治療薬の遺伝的変動が減少する。これは、テトラサイクリンによって抑制されるpTAT028構築物によって例示される。合成バクテリオファージ機構を複数の断片に分割して、それらを細菌宿主のゲノム中の遠く離れた座位に挿入することも、組換えの確率を低下させる。これらの構築物を使用すると、合成バクテリオファージ分泌系は、異なるコーティングタンパク質上にいくつかのタンパク質及びペプチドを提示することができる(
図2)。それにもかかわらず、上記で構築された異なるプラスミドは、大腸菌MG1655の形質転換を行い、組み合わされることで合成バクテリオファージ分泌系の能力を示す。
【0147】
(実施例2)
合成バクテリオファージは生きたバイオ治療薬から分泌され、治療剤を提示する。
この実施例に使用した全ての菌株を表1に記載する。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)中で増殖させた:カナマイシン(Km)50μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL。培養物は全て、撹拌(200rpm)しながら37℃で慣行的に増殖させた。18時間齢を上回る細菌培養物は実験に使用しなかった。
【0148】
合成バクテリオファージ粒子のポリエチレングリコールに基づく沈殿。凍結ストックから出発して、上記の段落で指定した濃度の適切な抗生物質を含む滅菌LBブロス5mLを接種し、培養物を撹拌しながら37℃で一晩、又は18時間以内インキュベートする。一晩の細菌培養物1.5mLを移し、13000gで2分間遠心分離する。ペレットを乱さないように、バクテリオファージ粒子を含む上清1.2mLを新たな滅菌マイクロチューブに移す。2.5M NaCl/20% PEG-8000(w/v)300μLを培養上清に加える(上清:PEG溶液の容量比4:1で混合する)。チューブを15回転置することによって十分に混合した後、混合物を4℃で1時間インキュベートする。次に、ビリオンを13 000gで3分間遠心分離することによってペレット化する。続いて、上清を除去し、ペレットを、最初の培養容量の1/10に対応する120μLのTBS 1×(Tris緩衝生理食塩水:50mM Tris-HCl pH 7.5、150mM NaCl、滅菌)で再懸濁させる。バクテリオファージ調製物を更に1時間氷上に保ち、ボルテックス処理して、その後すぐに使用する。
【0149】
感染アッセイによる合成バクテリオファージ粒子の機能性の評価。操作されたバクテリオファージ粒子の完全性をまず試験するために、感染実験を設計した。大腸菌ER2738株の培養物を、適切な抗生物質を含むLB中で一晩増殖させた。バクテリオファージ粒子の感染性を試験するために、1μLの培養上清を1mLの大腸菌ER2738株に添加した。次に、混合物を37℃で1時間30分インキュベートした後、CFU分析のためにプレーティングした。感染細胞は、スペクチノマイシン耐性遺伝子(合成バクテリオファージ骨格ベクター)又はカナマイシン耐性遺伝子(合成バクテリオファージ機構ベクター又はM13K07)のいずれかの獲得によって同定することができる。
【0150】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による合成バクテリオファージの力価測定。バクテリオファージ発現の検出及び定量は、市販のPhage Titration ELISAキット(PRPHAGE、Progen社)を、製造元の指示に従って使用して行った。手短に述べると、凍結乾燥したM13粒子を、製造元の推奨に従ってファージ1,5×108個/mLで再懸濁させ、1/2に連続希釈して標準曲線を作成した。次に、バクテリオファージ調製物を1/1000及び1/10000に希釈し、続いて、(標準曲線と同様に)マウス抗M13をプレコーティングしたELISAウェルに添加した。捕捉されたバクテリオファージ粒子を、ペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗M13によって検出した。テトラメチルベンジジンの添加後、Biotekプレートリーダー機器を使用して、各ウェルの光学濃度を450nmで測定した。操作されたファージの表面の改変pIIIタンパク質を検出するために、キットに用意された抗M13-HRPの代わりに抗体HA-Tag(6E2)マウスmAb(HRPコンジュゲート)(1:1000 Cell Signaling Technology社、Danvers、MA、USA)を使用して、手順を繰り返した。
【0151】
ファージ感染性の評価 - プラスミドpTAT002及びpTAT003により、大腸菌MG1655の形質転換を行った。続いて得られた株をpTAT004で形質転換し、MG1655 + pTAT002 + pTAT004及びMG1655 + pTAT003 + pTAT004を作製した(表1)。pTAT002を保有する株は感染性ファージ粒子を産生するはずであるが(pTAT002はgpIII遺伝子の野生型コピーを保有するため)、pTAT003を保有する株は非感染性ファージ粒子を産生するはずであり、これは野生型gpIIIがpTAT004には存在せず、pTAT003では抗CD47ナノボディと融合されているためである(
図3)。バクテリオファージ粒子の感染性を検証するために、pTAT002、pTAT003及びM13K07由来のファージをPEG沈殿プロトコールを使用して精製した。次に、大腸菌ER2738細胞を1μLの各ファージ調製物で感染させ、37℃で1時間30分インキュベートした。次に、宿主細胞又は感染細胞を選択したLB寒天プレート上でCFUを定量した。pTAT002及びM13K07に由来するバクテリオファージ粒子は感染性であったが、pTAT003に由来するファージ粒子は細胞に感染せず、pIIIの完全なコピーがpTAT003には存在しないことが確認された(
図7A)。この結果には主に2つの意味がある。第1に、これは、pIIIが野生型である場合には合成バクテリオファージ分泌系が機能的なファージ粒子を産生し、それ故に合成バクテリオファージ機構に関連付けられる全ての遺伝子が正しく機能することを示す。第2に、これは、pIII上に治療用タンパク質を提示する場合には、合成バクテリオファージ分泌系の現在の構成が非感染性ファージ粒子を産生することを示す。これは、この系がM13の天然宿主に感染することによって感染及び増殖を行うことができないはずであることを示す、この系の生物学的封じ込めに向けた重要な段階である。
【0152】
ELISAによって測定された生きたバイオ治療薬による合成バクテリオファージの分泌 - 合成バクテリオファージ分泌系の完全性を検証するための最初の段階は、様々な融合を介して様々な治療用タンパク質を提示する合成バクテリオファージの細菌宿主による分泌を検証することである。これを達成するために、種々のバクテリオファージを産生する大腸菌MG1655株における異なるベクターの組合せによる形質転換によって、合成バクテリオファージ分泌系のいくつかの繰り返しをアセンブリした:対照バクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT002)、pIII上に抗CD47ナノボディを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT003)、pIII上に抗CTLA-4ナノボディを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT019)、pIII上に抗PD-L1ナノボディを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT020)、pIII上にシトシンデアミナーゼを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT022)、pIII上に抗CTLA-4アンチカリンを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT030)、pIX上に抗CD47ナノボディを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT025 + pTAT002 + pTAT028)、及びpVIII上にニワトリ卵白アルブミン遺伝子SIINFEKL由来のエピトープを提示するバクテリオファージ(pTAT027 + pTAT002)。次に、2つのタイプのELISAアッセイを、合成バクテリオファージ分泌系の各繰り返し由来のPEG沈殿したバクテリオファージ粒子に対して行った。第1のELISAアッセイはpVIIIの存在を検出するために行い、一方、第2のELISAアッセイは、pTAT002及びpTAT003の両方に由来するバクテリオファージ粒子ではpIII上に存在するが、M13K07に由来するものには存在しない、HAリンカーの存在を検出するために行った。ファージ調製物を1:1000に希釈したところ、1つの株を除く全ての株が抗pVIII ELISAアッセイにおいて高いシグナルを示し、これにより、合成バクテリオファージの高レベルの分泌/mLが確認された(
図7B)。pIX融合物上に抗CD47ナノボディを提示する株からは、他の構築物よりも低いカウントでバクテリオファージが産生された。この低い効率は、他のものとは異なるこの構築物に使用された発現系に関連する可能性がある。第2のELISAにより、MG1655 + pTAT004 + pTAT002(pIII HA)及びMG1655 + pTAT004 + pTAT003(pIII上の抗CD47ナノボディ)の両方の株におけるリンカーHAの存在が確認された(
図7C)。抗HA-HRP(Cell Signaling社)抗体は、HAタグを発現する2つの改変された系についてのみシグナルを生じ、これにより、バクテリオファージ粒子におけるバクテリオファージベクター骨格由来の融合pIIIタンパク質の存在が確認された。MM294 + M13K07(pIII野生型)株は、M13K07によって発現されるpIIIタンパク質にはHAタグリンカーが存在しないことから、予想通り、このアッセイにおいていかなるシグナルも示さなかった。このデータは、治療用タンパク質が提示されることを裏付ける。
【0153】
(実施例3)
合成バクテリオファージは、腫瘍細胞上に発現される免疫チェックポイントを認識して結合することができる治療用結合タンパク質を提示する
この実施例に使用した全ての菌株及びプラスミドを表1に記載する。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジキシ酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に最長で18時間、37℃で慣行的に増殖させた。バクテリオファージは、実施例IIで提示されたPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養物(一晩増殖させた)から抽出した。バクテリオファージ調製物は、沈殿直後に使用した。A20リンパ球Bリンパ腫細胞は、ATCC(TIB-208)に発注した。到着してすぐに細胞を洗浄し、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.05mM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640中に再懸濁させた。この培養培地を、全ての実験のための細胞の調製に使用した。4回の継代後に凍結ストックを作成して、実験のためのその後の培養を開始するために使用した。細胞は、全ての実験を通して、2×105個/mL~2×106個/mLの間の密度に保った。
【0154】
合成バクテリオファージプルダウンアッセイ。PEG沈殿したバクテリオファージを、リン酸緩衝食塩水(PBS) + ウシ血清アルブミン(BSA)0.2% p/v(PBS-B)中に再懸濁させて、4℃で1時間インキュベートした。およそ1×106個/mLの密度の細胞培養物1mLを400gで3分間遠心分離し、500μLのPBS-B中に再懸濁させた。細胞を再び400gで3分間遠心分離した後、100μLのバクテリオファージ溶液中に再懸濁させた。細胞バクテリオファージ混合物のアリコートを更なる分析のために保存した。次に、細胞をPBS-Bで6回洗浄し、1回目、3回目及び6回目の洗浄時に、20μLのアリコートを氷上に保った。細胞を6回洗浄した後、全アリコートの10μLをPCRチューブ内の5% p/v Chelexビーズ90μLと混合した。混合物を50℃で25分間、100℃で10分間インキュベートすることによってDNAを抽出した。このDNA調製物を、EvaGreen色素(Biotium社)を添加したTransStart PFU fly DNAポリメラーゼキット(Civic Bioscience社)を使用するqPCRによって増幅した。バクテリオファージDNAを、表2に記載したプライマーoTAT043及びoTAT044を使用して増幅した。全アリコートの残りの10μLを90μLのPBSで希釈し、細胞数を評価するために使用した。
【0155】
フローサイトメトリーによる合成バクテリオファージの治療標的への結合の評価。PEG沈殿したバクテリオファージを、リン酸緩衝食塩水(PBS) + ウシ血清アルブミン(BSA)0.2% p/v(PBS-B)中に再懸濁させ、4℃で1時間インキュベートした。およそ1×106個/mLの密度の細胞1mLを400gで3分間遠心分離し、500μLのPBS-B中に再懸濁させた。細胞を再び400gで3分間遠心分離した後、ナノボディを提示する治療用バクテリオファージ溶液100μL、又はバクテリオファージなしの対照の場合は100μLのPBS-B中に再懸濁させた。細胞及びバクテリオファージを4℃で1時間インキュベートした。続いて、混合物を400gで3分間遠心分離した。続いて、細胞を、抗CD47ナノボディの特異性を評価する場合は1μgのmiap301 FITC抗CD47ラットIgG2a(Biolegend社)を含む50μLのPBS-B中に再懸濁させ、抗PD-L1ナノボディの特異性を評価する場合は0.25μgのPE抗CD274(B7-H1、PD-L1)ラットIgG2b(Biolegend社)を含む50μLのPBS-B中に再懸濁させた。染色しない対照群も、細胞を抗体で標識しないことを除き、同じ方法で調製した。細胞を暗所で4℃で30分間インキュベートし、続いて400gで3分間遠心分離し、最後に500μLのPBS中に再懸濁させた。次に、細胞をBD Accuri C6 Plus、又はBD FACSJazz(商標) Cell Sorterフローサイトメーターで分析した。
【0156】
ELISAによる合成バクテリオファージのCTLA-4への結合の評価。チェックポイントCTLA-4に対する合成バクテリオファージの結合活性を測定するために、ELISAアッセイを考案した。まず、96ウェルプレートを、コーティング緩衝液(0.05M炭酸塩-重炭酸塩、pH 9.6)で10μg/mLに希釈した組換えCTLA-4タンパク質(R&D systems社)により、4℃で一晩コーティングした。続いて、プレートを200μLのTBS-Tで3回洗浄した。その後、非特異的結合を防ぐためにプレートを200μLのブロッキング緩衝液(TBS-T、3%脱脂乳、1% BSA)と室温で1時間インキュベートした。ブロッキングは、ブロッキング緩衝液を除去して200μLのTBS-Tでプレートを2回洗浄することによって停止させた。続いて、TBS 1Xで希釈し、抗CTLA-4ナノボディ(pTAT004 + pTAT019)、抗CTLA-4アンチカリン(pTAT004 + pTAT030)又は野生型pIII(対照:pTAT004 + pTAT002)のいずれかを提示するPEG沈殿した合成バクテリオファージ100μLを、CTLA-4タンパク質を含むか又は含まないウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。続いてプレートを200μLのTBS-Tで3回洗浄し、ブロッキング緩衝液(1:500)で希釈した抗pVIII-HRP(抗M13/fd/F1、B62-FE2)100μLを添加した。プレートを暗所で室温で1時間インキュベートし、続いてTBS-Tで5回洗浄した。合成バクテリオファージの存在を測定するために、100μLのTMB基質溶液(ThermoFisher社)を各ウェルに添加し、プレートを室温で15分間インキュベートした。100μLの停止溶液(0.5M H2SO4)を各ウェルに添加することによって反応を停止させた。続いて450nmで吸光度を測定した。
【0157】
A20細胞に対する抗PD-L1を提示するバクテリオファージ結合活性のELISAによる評価。1×105個のA20細胞を含むPBS 100μLを各ウェルに添加することによって、96ウェルプレートを調製した。続いて、プレートを30分間インキュベートして細胞を沈降させた。続いて、プレートを傾けてPBSを注意深く除去した。続いて、細胞をプレートに固定するために10%ホルマリン100μLを添加し、プレートを10分間インキュベートした。続いて、固定した細胞をPBS 100μLで穏やかに洗浄し、続いてPBS(1% BSA、3%ミルク)200μLを添加することによってブロックして、その後30分間のインキュベート期間をおいた。ブロッキング緩衝液を除去し、続いてバクテリオファージPEG調製物100μLをウェルに添加した。プレートを1時間インキュベートし、続いて200μLのPBSで3回洗浄した。バクテリオファージを検出するために、PBS(3%ミルク、1% BSA)で1/500に希釈した抗HA-HRP(Cell Signaling社)100μLを添加し、プレートを1時間インキュベートした。ウェルを200μLのPBSで3回洗浄し、続いてテトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液100μLを各ウェルに添加した。プレートを5分間インキュベートし、続いて停止溶液100μLを添加した。続いて、各ウェルからの100μLを新たなプレートに移し、450nmで光学密度を測定した。
【0158】
生きたバイオ治療薬は、A20細胞の表面に結合する抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する。この実施例は、生きたバイオ治療薬によって産生された合成バクテリオファージが、A20マウスリンパ腫細胞の表面上のCD47に結合する能力を確認することを目的とする。対照バクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT002)、又はpIII上に抗CD47ナノボディを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT003)を生物学的3回反復試験として調製した。10
9個の粒子を含む100μLのバクテリオファージ調製物を、次に1,5×10
6個のA20細胞と混合し、4℃で1時間インキュベートした。続いて細胞を6回洗浄して、A20細胞に特異的に結合しなかったファージ粒子を除去した。続いて、細胞混合物のアリコートをqPCRによって分析して、混合段階、1回目の洗浄、3回目の洗浄及び6回目の洗浄(
図8)において存在するファージ粒子の数を定量した。その結果、pTAT002(CD47に対するナノボディを発現しない)で産生されたバクテリオファージ粒子は細胞から迅速に洗浄されるが、pTAT003由来のバクテリオファージはA20細胞に結合し、1回目の洗浄段階における過剰なファージを除いて、洗浄手順によって失われるものは非常に少ないことが示された。これらの結果は、pIII-抗CD47ナノボディ融合物を提示するバクテリオファージ粒子が、おそらくCD47受容体への結合を介して、がん性細胞上の標的に強く結合することを示す。
【0159】
生きたバイオ治療薬は、pIII又はpIX上に抗CD47を提示する合成バクテリオファージを分泌し、これは腫瘍細胞の表面でCD47受容体に特異的に結合する。合成バクテリオファージがA20細胞の表面でCD47に特異的に結合することを確認するために、フローサイトメトリー実験を行った。この実験では、A20細胞をまず、PBS-B、対照バクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT002)、又はpIII上に抗CD47ナノボディを提示するバクテリオファージ(MG1655 + pTAT004 + pTAT003)のいずれかとインキュベートして、バクテリオファージが細胞の表面でCD47に結合できるようにした。続いて細胞を洗浄し、抗CD47-FITC(miap301、Biolegend社)抗体とインキュベートした。この場合、合成バクテリオファージのCD47への特異的結合は抗CD47-FITC抗体の結合の減少をもたらし、それ故にFITCシグナルの減少をもたらすと考えられる。実験は4つのグループで構成した。第1のグループはA20細胞のみからなり、これはバックグラウンド蛍光シグナルを測定するための陰性対照である(
図9A)。第2のグループは、抗CD47-FITC抗体のみとインキュベートしたA20細胞からなり、これは蛍光シグナルについての陽性対照である(
図9B)。第3のグループは、MG1655 + pTAT004 + pTAT002(対照)に由来する合成バクテリオファージとまずインキュベートし、続いて抗CD47-FITC抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図9C)。最後のグループは、MG1655 + pTAT004 + pTAT003(pIII上に抗CD47ナノボディを提示する)に由来する合成バクテリオファージ粒子とインキュベートし、続いて抗CD47-FITC抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図9D)。最初の2つのグループを、タグなし及びタグ標識集団に関する参照として使用して、抗CD47-FITC抗体の結合に対するバクテリオファージの影響を評価した。pTAT003(抗CD47ナノボディを提示する)に由来するバクテリオファージのみが、抗体によって認識されるCD47エピトープを隠すことができ、抗CD47抗体の結合を減少させ、それ故にFITCシグナルを減少させた。次に、MG1655 + pTAT025 + pTAT002 + pTAT028(pIX上に抗CD47ナノボディを提示する)に由来する合成バクテリオファージ粒子を使用して実験を繰り返した(
図9E~
図9H)。pIX上に抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージは、pIII上に抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージと比較して、より低い蛍光シフトを示した。観察されたより低いシフトは、実施例IIで考察したように、この構築物のより低い分泌レベルに関連付けられる。これらの結果は、MG1655 + pTAT004 + pTAT003及びMG1655 + pTAT025 + pTAT002 + pTAT028に由来する合成バクテリオファージが、A20細胞の表面上のCD47受容体に特異的に結合することを示す。したがって、生きたバイオ治療薬は、A20リンパ腫細胞上のCD47受容体に結合しうる、pIII又はpIX上に抗CD47ナノボディを提示する機能的なバクテリオファージ粒子を産生することができる。提示されたタンパク質は、バクテリオファージの頭部タンパク質及び尾部タンパク質の両方によって区別されることなく保持されうる。CD47は重要な免疫チェックポイントであり、T細胞受容体へのその結合を妨げることにより、腫瘍細胞に対する免疫応答が誘発されるはずである。
【0160】
生きたバイオ治療薬は、腫瘍細胞の表面でPD-L1受容体に特異的に結合する抗PD-L1を提示するバクテリオファージを分泌する。合成バクテリオファージは、種々の機能的チェックポイント阻害剤を提示することができる。抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージが、A20細胞の表面でPD-L1に特異的に結合することを実証するために、フローサイトメトリー実験を行った。この実験では、A20細胞をまず、PBS-B、又はpTAT002(対照ファージ)若しくはpTAT020(pIII上に抗PD-L1ナノボディを提示するファージ)に由来するファージ粒子とインキュベートした。続いて、細胞を洗浄し、抗PD-L1-PE(10F.9G2、Biolegend社)抗体とインキュベートした。この場合、合成バクテリオファージのPD-L1への特異的結合は抗PD-L1-PE抗体の結合を減少させ、それ故にPEシグナルを減少させると考えられる。実験は4つのグループで構成した。第1のグループは、非染色A20細胞からなり、これはバックグラウンド蛍光シグナルを測定するための陰性対照である(
図9I)。第2のグループは、抗PD-L1-PE抗体のみとインキュベートしたA20細胞からなり、これは蛍光シグナルの陽性対照である(
図9J)。第3のグループは、MG1655 + pTAT004 + pTAT002由来の合成バクテリオファージ(対照)とまずインキュベートし、続いて抗PD-L1-PE抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図9K)。そして、最後のグループは、MG1655 + pTAT004 + pTAT020由来の合成バクテリオファージ粒子(抗PD-L1ナノボディを提示)とインキュベートし、続いて抗PD-L1-PE抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図9L)。最初の2つのグループを、タグなし及びタグ標識集団の参照として使用して、抗PD-L1-PE抗体の結合に対するバクテリオファージの影響を評価した。pTAT020由来のバクテリオファージ(抗PD-L1ナノボディを提示)のみが、抗体によって認識されるPD-L1エピトープを隠すことができ、抗PD-L1抗体の結合を減少させ、それ故にPEシグナルを減少させた。これは、MG1655 + pTAT004 + pTAT020由来の合成バクテリオファージが、A20細胞の表面上のPD-L1受容体に特異的に結合することを示す。したがって、これらの結果は、生きたバイオ治療薬が、A20リンパ腫細胞上のPD-L1受容体に結合しうるチェックポイント阻害剤、例えば、抗PD-L1ナノボディを提示する機能的なバクテリオファージ粒子を産生しうることを裏付ける。PD-L1は重要な免疫チェックポイントであり、T細胞受容体へのその結合を妨げることにより、腫瘍細胞に対する免疫応答を誘発するはずである。
【0161】
生きたバイオ治療薬は、CTLA-4免疫チェックポイントに特異的に結合する抗CTLA-4結合タンパク質をpIII上に提示する合成バクテリオファージを分泌する。これまでの構築物により、バクテリオファージが、腫瘍細胞の表面で種々の標的を認識しうる機能的ナノボディを提示することができることが実証された。合成バクテリオファージ系はまた、免疫細胞に対して特異的な受容体、例えば、CTLA-4を認識するタンパク質を提示することもできる。バクテリオファージ上に提示される結合タンパク質が様々なタイプでのものでありうることを実証するために、抗CTLA-4ナノボディ(MG1655 + pTAT004 + pTAT019)又は抗CTLA4アンチカリン(MG1655 + pTAT004 + pTAT030)を提示するようにバクテリオファージを設計した。抗CTLA-4ナノボディ及びアンチカリンタンパク質を提示する合成バクテリオファージがそれらの標的タンパク質に特異的に結合することを実証するために、ELISA実験を行った。この実験では、pTAT002(pIII上に提示のない対照)、pTAT019(抗CTLA-4ナノボディのpIII上提示)、又はpTAT030(抗CTLA-4アンチカリンのpIII上提示)のいずれかに由来する合成バクテリオファージを、マウスCTLA-4組換えタンパク質でコーティングしたウェルを有する96ウェルプレート中でインキュベートした。結合段階が完了したところで、96ウェルプレートをTBS-Tで洗浄し、続いて抗pVIII-HRP B62-FE3(progen社)とインキュベートした。この段階では、バクテリオファージのpVIIIタンパク質を西洋ワサビペルオキシダーゼでタグ標識することによって、合成バクテリオファージが標的に結合しているかどうかを顕在化する。標的に結合した合成バクテリオファージの存在は、TMBが西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素の活性によって酸化された場合に450nmにシグナルを生じるTMB基質を加えることによって測定される。シグナルは、抗CTLA-4結合タンパク質を提示する合成バクテリオファージでのみ測定され、これにより、合成バクテリオファージを、種々のタイプの結合タンパク質を使用して免疫チェックポイントを標的化するために使用しうることが証明される(
図10)。生きたバイオ治療薬は、分割された機能的コーティングタンパク質内に挿入された機能的治療用タンパク質を有するバクテリオファージを分泌する。治療用タンパク質が、ファージコーティングタンパク質の中央に挿入された場合に首尾良く提示されうることを実証するために、抗PD-L1ナノボディを、D1/D2ドメインとpIIIの膜貫通領域との間に挿入した(
図5 pTAT033参照)。対照として、抗PD-L1ナノボディを、pTAT020と同様の方法でpIIIのN末端にもクローニングしたが、ただし、バクテリオファージ分泌機構中に直接クローニングした(
図5 pTAT032参照)。続いて、対応する合成バクテリオファージの結合活性を評価するために、フローサイトメトリー実験を行った。この実験では、A20細胞をまず、対照合成バクテリオファージ(pTAT002、提示なし)又はpIII上に抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージ(pTAT032及びpTAT033)のいずれかとインキュベートして、バクテリオファージが細胞表面上のPD-L1に結合しうるようにした。続いて細胞を洗浄し、抗PD-L1-PE(10F.9G2、Biolegend社)抗体とインキュベートした。この場合、合成バクテリオファージのPD-L1への特異的結合は抗PD-L1-PE抗体の結合の減少をもたらし、それ故にPEシグナルの減少をもたらすと考えられる。実験は5つのグループで構成した。第1のグループは、A20細胞のみからなり、これはバックグラウンド蛍光シグナルを測定するための陰性対照である(
図11A)。第2のグループは、抗PD-L1-PE抗体のみとインキュベートしたA20細胞からなり、これは蛍光シグナルの陽性対照である(
図11B)。第3のグループは、MG1655 + pTAT004 + pTAT002(対照)由来の合成バクテリオファージとまずインキュベートし、続いて抗PD-L1-PE抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図11C)。第4のグループは、MG1655 + pTAT032(pIIIのN末端に挿入された抗PD-L1ナノボディを提示する)に由来する合成バクテリオファージ粒子とインキュベートし、続いて抗PD-L1-PE抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図11D)。最後のグループは、MG1655 + pTAT033由来の合成バクテリオファージ粒子(pIIIに挿入された抗PD-L1ナノボディを提示)とインキュベートした後、抗PD-L1-PE抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図11E)。最初の2つのグループを、タグなし及びタグ標識集団の参照として使用して、抗PD-L1-PE抗体の結合に対するバクテリオファージの影響を評価した。pTAT032及びpTAT033由来のバクテリオファージのみが、抗体によって認識されるPD-L1エピトープを隠すことができ、これは抗PD-L1抗体の結合を減少させ、したがって同様にPEシグナルを減少させた。これは、MG1655 + pTAT033に由来する合成バクテリオファージが、A20細胞の表面上のPD-L1受容体に特異的に結合すること、及び機能的な治療用タンパク質をコーティングタンパク質に挿入して適切に提示しうることを示す。pTAT033構築物はまた、ナノボディのサイズよりも大きいタンパク質が、バクテリオファージpIIIコーティングタンパク質上に提示されて、その機能を保持しうると考えられることを示す。pTAT033 pIII融合タンパク質のサイズは2つのナノボディと同等であり、pIII上にクローニングされた場合、これらは両方とも種々の標的に結合しうる。更に、pTAT033由来のファージ粒子は感染性を保ち、これはpIIIのナノボディ及びN末端部分の両方が機能を維持したことを裏付け、2つの結合機能結合タンパク質が同じコートタンパク質上にクローニングされうることを示す。
【0162】
(実施例4)
PVIII上にペプチドを提示する合成バクテリオファージ
この実施例に使用した全ての菌株及びプラスミドを表1に記載する。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジクス酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に最長で18時間、37℃で慣行的に増殖させた。バクテリオファージは、実施例IIに提示されたPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養物(一晩増殖させた)から抽出した。バクテリオファージ調製物は沈殿直後に使用した。この実施例に使用したオリゴヌクレオチド配列の詳細な一覧は表2に見られる。プラスミドは、EZ10-Spin Column Plasmid Miniprepキット(BIOBASIC社 #BS614)又はQIAGEN Plasmid Maxi Kit(QIAGEN社)を、製造元の指示に従って使用して調製した。PCR増幅は、DNA部分増幅及びスクリーニングのために、TransStart FastPFU fly DNAポリメラーゼ(Civic Bioscience社)を使用して行った。制限酵素による消化にはNEB社の製品を使用し、製造元の推奨に従って37℃で1時間インキュベートした。プラスミドは、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(NEB社)を使用し、製造元のプロトコールに従ってGibsonアセンブリによってアセンブリした。Sangerシークエンシング反応は、Plateforme de sequencage de l'Universite Lavalによって行われた。
【0163】
DNA精製。DNAの精製は、緩衝液の不適合性を回避するために、又は酵素反応を停止するために、プラスミドアセンブリの各工程の間に行った。PCR反応は一般に、Agencourt AMPure XP DNA結合ビーズ(Beckman Coulter社)を使用し、製造元のガイドラインに従って固相可逆的固定化(SPRI)によって精製するか、又はZymoclean Gel DNA Recovery Kit(Zymo Research社)を使用して、アガロースゲルから回収及び精製した。DNA試料を制限酵素で消化した場合、DNAは、細胞懸濁液DNA精製プロトコールに関する製造元の推奨に従って、Monarch(登録商標)PCR & DNA Cleanup Kit(NEB社)を使用して精製した。精製後に、DNAの濃度及び純度を、必要に応じてNanodrop分光光度計を使用して慣行的に評価した。
【0164】
細胞培養。A20リンパ球Bリンパ腫細胞は、ATCC(TIB-208)に発注した。到着してすぐに細胞を洗浄し、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.05mM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640中に再懸濁させた。この培養培地を、全ての実験のための細胞の調製に使用した。4回の継代後に凍結ストックを作成して、実験のためのその後の培養を開始するために使用した。細胞は、全ての実験を通して、2×105個/mL~2×106個/mLの間の密度に保った。
【0165】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による合成バクテリオファージの力価測定。バクテリオファージ発現の検出及び定量は、市販のPhage Titration ELISAキット(PRPHAGE、Progen社)を、製造元の指示に従って使用して行った。手短に述べると、凍結乾燥したM13粒子を、製造元の推奨に従ってファージ1,5×108個/mLで再懸濁させ、1/2に連続希釈して標準曲線を作成した。次に、バクテリオファージ調製物を1/10、1/100、1/1000、及び1/10000に希釈して、(標準曲線と同様に)マウス抗M13をプレコーティングしたELISAウェルに添加した。捕捉されたバクテリオファージ粒子を、ペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗M13によって検出した。テトラメチルベンジジンの添加後、Biotekプレートリーダー機器を使用して、各ウェルの光学密度を450nmで測定した。操作されたファージの表面の改変pIIIタンパク質を検出するために、キットに用意された抗M13-HRPの代わりに抗体HA-Tag(6E2)マウスmAb(HRPコンジュゲート)(1:1000 Cell Signaling Technology社、Danvers、MA、USA)を使用して、この手順を繰り返した。
【0166】
ウェスタンブロットによる融合タンパク質の完全性の検証。細菌を、カナマイシン及びスペクチノマイシンを添加したLBブロス中で撹拌しながら37℃で一晩増殖させた。細菌を遠心分離によってペレット化し、培養上清を新たなチューブに移し、濃縮PBSで緩衝化した。ヘキサヒスチジンタグを提示するファージを、Ni-NTAビーズを使用して、撹拌下で4℃で2時間インキュベートすることによって上清からプルダウンした。続いてビーズをPBSで3回洗浄し、試料緩衝液4X(SB4X)を使用する変性によってファージを溶出させた。試料を65℃で1時間変性させ、15%アクリルアミドゲルにローディングした。試料のゲル移動を150ボルトで1時間行った。続いてタンパク質を、100ボルトを1時間印加することによって0.2μmニトロセルロース膜に移した。膜を空気乾燥させて微量のメタノールを蒸発させ、撹拌下で4℃でTBS-0.1% Tween 20 - 4%乾燥ミルク中で1時間ブロックした。膜をウェスタンブロット用密閉可能バッグに移し、ブロッキング緩衝液で希釈した抗HA-HRP(Cell Signaling社)と、撹拌下で4℃で一晩インキュベートした。3回のTBS-0.1% Tween 20洗浄の後、Immobilon ECL Ultra Western HRP基質を適用することによって膜の顕色化を行い、Vilber Fusion FX機器で画像を取得した。画像はImage Labソフトウェアを使用して処理した。
【0167】
フローサイトメトリーによる合成バクテリオファージの治療標的への結合の評価。PEG沈殿したバクテリオファージを、リン酸緩衝食塩水(PBS) + ウシ血清アルブミン(BSA)0.2% p/v(PBS-B)中に再懸濁させ、4℃で1時間インキュベートした。およそ1×106個/mLの密度の細胞1mLを400gで3分間遠心分離し、500μLのPBS-B中に再懸濁させた。細胞を再び400gで3分間遠心分離した後、ナノボディを提示する治療用バクテリオファージ溶液100μL、又はバクテリオファージなしの対照の場合は100μLのPBS-B中に再懸濁させた。細胞及びバクテリオファージを4℃で1時間インキュベートした。続いて、混合物を400gで3分間遠心分離した。続いて、細胞を、抗CD47ナノボディの特異性を評価する場合は1μgのmiap301 FITC抗CD47ラットIgG2a(Biolegend社)を含む50μLのPBS-B中に再懸濁させ、又は抗PD-L1ナノボディの特異性を評価する場合は0.25μgのPE抗CD274(B7-H1、PD-L1)ラットIgG2b(Biolegend社)を含む50μLのPBS-B中に再懸濁させた。染色しない対照群も、抗体で細胞を標識しないことを除いて、同じ方法で調製した。細胞を暗所で4℃で30分間インキュベートし、続いて400gで3分間遠心分離し、最後に500μLのPBS中に再懸濁させた。次に、細胞をBD Accuri C6 PlusフローサイトメーターのFITCチャネルを使用して分析した。
【0168】
合成バクテリオファージ分泌系は、主要コートタンパク質pVIII上にペプチドを提示するバクテリオファージを産生する。バクテリオファージ分泌機構pTAT027(実施例Iを参照のこと)が、pVIII上のニワトリ卵白アルブミン遺伝子由来のペプチド(pVIII-OVA)を提示することを検証するために、構築物の対応する領域のSangerシークエンシングを行った(
図12A)。OVAペプチドはpVIIIタンパク質とインフレームにあり、そのため、pVIIIタンパク質が抗体で検出されうる場合、OVAペプチドは、必然的にバクテリオファージ粒子の表面に存在する。pIII欠損性であるpTAT027機構は、このため、大腸菌MG1655中のpTAT002(HAタグ標識pIIIを提供する)又はpTAT003(抗CD47-ナノボディ-HA-pIIIを提供する)のいずれかによって補完された。続いて菌株を一晩増殖させ、バクテリオファージをPEG沈殿によって精製した。次に、バクテリオファージ産生を、OVAペプチドを提示しない対照として、MG1655 + pTAT004 + pTAT002及びMG1655 + pTAT004 + pTAT003のELISA(PRPHAGE Progene社のキット)によって検出した(
図12B)。pVIII上にOVAペプチドを提示する合成バクテリオファージ分泌系は、野生型pVIIIを有するそれらの対応物と同程度の量のバクテリオファージを産生し、このことはpVIII上のペプチドの提示がバクテリオファージ産生を妨げないことを示唆する。pVIII上のOVAペプチドの提示にかかわらず、バクテリオファージがHAタグ標識pIIIタンパク質融合物(pTAT002)又はnbCD47-HA-pIIIタンパク質融合物(pTAT003)のいずれかを提示することを確認するために、バクテリオファージをNi-NTAで精製し、ウェスタンブロットによって分析し、抗HA-HRP(Cell Signaling社)抗体を使用してタンパク質を顕在化した(
図12C)。pVIII上にOVAペプチドを提示するバクテリオファージは、そのpIII上提示に関して対照バクテリオファージと類似のパターンを生じ、このことはバクテリオファージアセンブリがいずれの場合にも完了しており、完全なバクテリオファージ粒子を産生しうることを示唆する。
【0169】
合成バクテリオファージ分泌系は、pVIII上のペプチド、及びがん細胞の表面上の免疫チェックポイントを隠すpIII上の機能的結合タンパク質を提示するバクテリオファージを産生する。pVIII上にOVAペプチドを提示する合成バクテリオファージが、pIII上に提示されるタンパク質の完全性を損なわないことを確認するために、pVIII上のOVA及びpIII上の抗CD47ナノボディの両方を提示する合成バクテリオファージの機能を評価した。A20細胞の表面のCD47へのバクテリオファージの結合を検証するために、フローサイトメトリー実験を行った。この実験では、A20細胞をまず、PBS-B、MG1655 + pTAT027 + pTAT002に由来するファージ粒子(対照pVIII-OVAのみ)、又はMG1655 + pTAT027 + pTAT003に由来するファージ粒子(ペプチドOVAがpVIII上に提示され、且つ抗CD47ナノボディがpIII上に提示される)のいずれかとインキュベートして、バクテリオファージが細胞の表面上のCD47に結合できるようにした。続いて細胞を洗浄し、抗CD47-FITC(miap301、Biolegend社)抗体とインキュベートした。この場合、合成バクテリオファージのCD47への特異的結合は抗CD47-FITC抗体の結合の減少をもたらし、それ故にFITCシグナルの減少をもたらすと考えられる。実験は3つのグループで構成した。第1のグループはA20細胞のみからなり、これはバックグラウンド蛍光シグナルを測定するための陰性対照である(
図12D)。第2のグループは、MG1655 + pTAT027 + pTAT002に由来する合成バクテリオファージ(対照、pVIII上のOVAのみ)とまずインキュベートし、続いて抗CD47-FITC抗体と共にインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図12E)。最後のグループは、MG1655 + pTAT027 + pTAT003に由来する合成バクテリオファージ粒子(pVIII上のOVA及びpIII上の抗CD47ナノボディを提示)とインキュベートし、続いて抗CD47-FITC抗体とインキュベートしたA20細胞を含んだ(
図12F)。最初の2つのグループを、タグなし及びタグ標識集団の参照として使用して、抗CD47-FITC抗体の結合に対するバクテリオファージの影響を評価した。
図9に示される実験と同様に、(抗CD47ナノボディを提示する)pTAT003に由来するバクテリオファージのみが、抗体によって認識されるCD47エピトープを隠すことができ、抗CD47抗体の結合を減少させ、それ故にFITCシグナルを減少させた。したがって、生きたバイオ治療薬は、A20リンパ腫細胞上のCD47受容体に結合しうる抗CD47ナノボディを提示し、同時にpVIII上にペプチドを提示する機能性バクテリオファージ粒子を産生することができる。CD47は重要な免疫チェックポイントであり、T細胞受容体へのその結合を妨げることにより、腫瘍細胞に対する免疫応答が誘発されるはずである。
【0170】
(実施例5)
チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージは、直接的な抗腫瘍効果を有する。
この実施例に使用した全ての菌株及びプラスミドを表1に記載する。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジキシ酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に最長で18時間、37℃で慣行的に増殖させた。バクテリオファージは、実施例2に提示されたPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養物(一晩増殖させた)から抽出した。A20リンパ球Bリンパ腫細胞は、ATCC(TIB-208)に発注した。細胞は、全ての実験を通して、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.05mM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640中で、2×105個/mL~2×106個/mLの間の密度に保った。
【0171】
PD-L1ナノボディタンパク質の作製及び精製。C末端にヘキサヒスチジンタグ及びHAタグを融合させた抗PD-L1ナノボディのコーディング配列を、GibsonアセンブリによってpTrcHisベクター中にクローニングした。得られたプラスミドにより、BL21(DE3)コンピテント大腸菌の形質転換を行い、アンピシリンを含むLBプレート上で形質転換体を選択した。形質転換体からプラスミドを抽出し、ナノボディコード配列の完全性をSangerシークエンシングによって確認した。タンパク質の発現及び精製のために、BL21形質転換体をアンピシリンを含むLB中で培養した。タンパク質発現は、1mM IPTGを添加した後、撹拌下で室温で18時間インキュベートすることによって誘導した。タンパク質精製は、細胞溶解物をNi-NTAアガロースビーズ(Qiagen社)と4℃で18時間インキュベートすることによって行った。Ni-NTAアガロースビーズを200mMのイミダゾールとインキュベートすることによって、タンパク質を溶出させた。続いてタンパク質を、Amicon UItra-15 10kDa Centrifugal Filter Unitを使用して溶出液から、500μLの最終容量まで濃縮した。濃縮したタンパク質を滅菌PBS中に再懸濁させて15mLの最終容量とした。濃縮及び再懸濁のサイクルを3回繰り返した。最終的な濃縮段階の後、タンパク質の純度を分光光度法及びSDS-PAGEによって検証した。精製及び濃縮された抗PD-L1ナノボディの機能性を、PD-L1を発現するA20細胞に対するELISAによって確認した。
【0172】
ELISAによるA20細胞に対する抗PD-L1ナノボディ結合活性の評価。各ウェルに1×10
5個のA20細胞を含む100μLのPBSを添加することによって96ウェルプレートを調製した。続いて、プレートを30分間インキュベートして細胞を沈降させた。続いて、プレートを傾けてPBSを注意深く除去した。続いて、細胞をプレートに固定するために10%ホルマリン100μLを添加し、プレートを10分間インキュベートした。続いて、固定した細胞を100μLのPBSで穏やかに洗浄し、続いてPBS(1% BSA、3%ミルク)200μLを添加することによってブロックし、その後に30分間のインキュベーション期間をおいた。ブロッキング緩衝液を除去し、続いて100μLのナノボディを1nM~10μMの濃度でウェルに添加した。プレートを1時間インキュベートし、続いて200μLのPBSで3回洗浄した。ナノボディを検出するために、PBS(3%ミルク、1% BSA)で1/500に希釈した抗HA-HRP(Cell Signaling社)100μLを添加し、続いてプレートを1時間インキュベートした。ウェルを200μLのPBSで3回洗浄し、続いて100μLのテトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を各ウェルに添加した。プレートを5分間インキュベートし、続いて100μLの停止溶液を添加した。続いて、各ウェルからの100μLを新たなプレートに移し、450nmで光学密度を測定した。高用量の対照合成バクテリオファージは強力な抗腫瘍効果を示す。対照合成バクテリオファージ単独、すなわち、治療用タンパク質を提示しないものが抗腫瘍効果を有しうるか否かを評価するために、マウスの右側腹部に5×10
6個のA20細胞を皮下注射し、2日毎に観察して腫瘍増殖をモニターした。次にマウスを5つの処置群に分けた。最初の群には50μLのPBS(ビヒクル対照)を投与した。残りの群には、用量を増やしたPEG精製対照合成バクテリオファージ(pTAT002)の10
7個、10
8個、10
9個、及び10
10個のバクテリオファージ粒子を含む50μLのPBSを投与した。PBS、10
7個、10
8個、及び10
9個のバクテリオファージによる処置のために、用量を第0日、第4日、及び第7日に投与した。10
11個のバクテリオファージ粒子による処置では、注射部位に壊死が存在するため、第7日ではなく第0日、第4日、及び第11日に投与された。続いて、腫瘍が1500mm
3を上回るまで、又は最初の注射後の第24日まで、正確なキャリパーを使用して腫瘍サイズを週2回モニターした。高用量の対照合成バクテリオファージは、強い抗腫瘍活性を示した(
図13A~
図13B)。
【0173】
抗チェックポイントナノボディを提示する合成バクテリオファージは抗腫瘍活性を示す。合成バクテリオファージの抗腫瘍活性に対するチェックポイント阻害剤の追加の効果を評価するために、CD47、PD-L1及びCTLA-4チェックポイント阻害剤ナノボディを提示する合成バクテリオファージを、実施例1に記載された工程を使用して開発した。マウスの右側腹部に5×10
6個のA20細胞を皮下注射し、2日毎に観察して腫瘍増殖をモニターした。次に、マウスを2つの処置群に分け、全ての処置を第0日、第4日、及び第7日に腫瘍内に投与した。第1の群には、pIII上に抗CD47ナノボディを提示する10
9個の合成バクテリオファージの有効用量を投与した(
図13C)。第2の群には、pIII上に抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージ、又はpIII上に抗CTLA-4ナノボディを提示する合成バクテリオファージのいずれかの有効用量10
8個を投与した(
図13C)。続いて、腫瘍が排除されるか、又は実験を続行するには大きくなりすぎるまで、正確なキャリパーを使用して腫瘍サイズを週2回モニターした。PBS、又は対照バクテリオファージ(CD47の対照として10
9個のバクテリオファージ粒子用量、PD-L1及びCTLA-4の対照として10
8個のバクテリオファージ粒子用量)で処置した対照群と比較して、抗CD47ナノボディ、抗PDL1ナノボディ、又は抗CTLA-4ナノボディを提示するバクテリオファージのみが抗腫瘍活性を生じ、適切な対照と比較した場合に腫瘍消失をもたらした。この実験は、合成バクテリオファージ上のチェックポイント阻害剤の存在により、それらの抗腫瘍効果が増強されることを示す。
【0174】
チェックポイント阻害剤が合成バクテリオファージによって提示されると、相乗的な治療効果が誘発される。前の項で実証されたように、チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージは、改善された抗腫瘍有効性を示し、腫瘍を消失させるために必要な用量を100分の1に低下させる(ファージ単独では10
10個に対して、抗PD-L1合成バクテリオファージでは10
8個)。次に、本発明者らは、バクテリオファージによって提示されたチェックポイント阻害剤が、単独で又は併用療法として投与されたチェックポイント阻害剤と比較して、同じく強化された治療活性を示すか否かを調べた。強化された活性は、チェックポイント阻害剤とバクテリオファージとの相乗効果を示唆すると考えられる。この仮説を検証するために、本発明者らは、精製抗PD-L1ナノボディの単独又はバクテリオファージとの併用による抗腫瘍活性を測定した。対照として、本発明者らはまず、精製抗PD-L1ナノボディが機能的であることを検証し、A20細胞に対するその結合活性をELISAによって確認した(
図14A)。精製ナノボディの活性が検証されたことを受けて、本発明者らは次に、抗PD-L1ナノボディがバクテリオファージによって提示される場合に相乗効果が観察されるか否かを調べた(
図14B~
図14C)。マウスの右側腹部に5×10
6個のA20細胞を皮下注射し、毎日観察して腫瘍増殖をモニターした。続いて、マウスを6つの処置群に分け、全ての処置を第0日、第4日、及び第7日に腫瘍内投与した。第1群には50μLのPBSのみ(対照ビヒクル)を、第2群には8×10
15個の抗PD-L1ナノボディ分子(20μg、典型的な処置用量に相当)を含む50μLのPBSを、第3群には10
8個の精製対照バクテリオファージ(pTAT002)粒子を含む50μLのPBS(10
8個の抗PD-L1合成バクテリオファージ粒子による処置を模しているが、チェックポイント阻害剤は含まない)を、第4群には5×10
8個の精製抗PD-L1ナノボディ(12.9pg、バクテリオファージ当たり5つの抗PD-L1ナノボディが提示される10
8個の抗PD-L1合成バクテリオファージ粒子による処置を模しているが、バクテリオファージを含まない)を、第5群には10
8個の対照バクテリオファージ(pTAT002)粒子と共に5×10
8個の精製抗PD-L1ナノボディを含む50μLのPBS(抗PD-L1ナノボディを有する10
8個の抗PD-L1合成バクテリオファージ粒子による処置を模しているが、バクテリオファージによっては提示されない)を、最後の群にはpIII上に抗PD-L1ナノボディを提示する10
8個の合成バクテリオファージ(pTAT020)粒子を含む50μLのPBS(チェックポイント阻害剤が合成バクテリオファージによって提示される処置)を投与した。予想された通り、PBSで処置されたマウスの群は、抗腫瘍活性のいかなる徴候も示さず、すぐに実験の限界に達した。分子8×10
15個の精製抗PD-L1ナノボディの単独の用量を投与されたマウス群は、強力な抗腫瘍効果を示したが、腫瘍消失は示さなかった。この実験データポイントにより、精製PD-L1ナノボディが機能的であることが証明された。分子5×10
8個の精製抗PD-L1ナノボディで処置されたマウス、及び粒子10
8個の対照バクテリオファージで処置された群は、中程度の抗腫瘍効果を示し、腫瘍消失は示さなかった。分子5×10
8個の精製抗PD-L1ナノボディと粒子10
8個の対照バクテリオファージとを組み合わせて処置されたマウスの群は改善された抗腫瘍効果を示し、これはチェックポイント阻害剤処置にバクテリオファージを加えることで効果が増強されるが、消失は観察されなかったことを示す。抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージで処置されたマウス群は、強力な抗腫瘍活性を示し、10日間未満で4つの腫瘍が消失した。抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージの粒子10
8個という処置用量は、抗PD-L1ナノボディ単独の8×10
15個の分子よりも高い抗腫瘍活性を示し、これは用量有効性の8×10
7倍の改善に対応する。これらの結果は、チェックポイント阻害剤がバクテリオファージによって直接提示されるか否かにかかわらず、合成バクテリオファージが、予測できない様式で、チェックポイント阻害剤分子の効果を増強することを示す。また、バクテリオファージによって直接提示されるチェックポイント阻害剤を有することにより、チェックポイント阻害剤がバクテリオファージと組み合わせて投与される処置と比較して、抗腫瘍効果が予測できない様式で更に強化される。
【0175】
(実施例6)
生きたバイオ治療薬は合成バクテリオファージを腫瘍内に分泌し、直接的な抗腫瘍効果を有する。
この実施例に使用した全ての菌株及びプラスミドを表1に記載する。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジキシ酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に最長で18時間、37℃で慣行的に増殖させた。バクテリオファージは、実施例IIに詳述されているPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養物(一晩増殖させた)から抽出した。A20リンパ球Bリンパ腫細胞は、ATCC(TIB-208)に発注した。細胞は、全ての実験を通して、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.05mM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640中で、2×105個/mL~2×106個/mLの間の密度に保った。
【0176】
チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬は、固形腫瘍のサイズを減少させることができる。本明細書に記載されるプロセスを使用して開発した、チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の抗腫瘍効果を測定するために、マウスの側腹部に5×10
6個のA20細胞を皮下注射し、毎日観察して腫瘍増殖をモニターした。次にマウスを3つの処置群に分け、全ての処置を、腫瘍が75~200mm
3に達した時点である実験の第0日に腫瘍内に単回投与した。第1群には、PBSのみを腫瘍内に投与し(ビヒクル対照)、第2群には、いかなるチェックポイント阻害剤も提示しない対照バクテリオファージを分泌する5×10
8CFUの生きたバイオ治療薬を投与し、最後の群には、1つ又は複数の免疫チェックポイント阻害剤を提示する合成バクテリオファージを分泌する5×10
8CFUの生きたバイオ治療薬を投与した。続いて、腫瘍が1500mm
3に達するまで、又は処置後の第24日まで、正確なキャリパーを使用して腫瘍サイズを週2回モニターした。実験は、種々のバージョンの合成バクテリオファージを使用して行った。系の第1のバージョンでは、pIIIコーティングタンパク質上に抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージを使用する(pTAT003を用いる前述の実施例に記載されるように)。抗CD47合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の単回用量の注射後すぐに、腫瘍体積が縮小し始めた。この生きたバイオ治療薬は、処置後9日以内に腫瘍を特異的に排除することができたが、一方、PBS、又は対照バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬のいずれかで処置された腫瘍は排除されなかった(
図15)。pIIIコーティングタンパク質上に抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬を使用して、同じ実験を行った。この場合は、A20腫瘍を保有するマウスを、PBS、5×10
8CFUの未改変細菌、5×10
8CFUの対照バクテリオファージを分泌する細菌(pTAT002)、又は5×10
8CFUの抗PD-L1ナノボディを提示するバクテリオファージを分泌する細菌(pTAT020)のいずれかで処置した(
図16A~
図16B)。抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬による処置により、9匹のマウスのうち5匹で消失を認めることができ、その有効性が証明された。これらのデータは、合成治療用バクテリオファージが、生きたバイオ治療薬アプローチを使用して局所的に送達されうることを実証する。
【0177】
合成治療用バクテリオファージは、がん細胞に対して完全な適応免疫応答を誘発することができる。抗CD47ナノボディを提示する合成バクテリオファージ、又は抗CD47ナノボディを提示する合成治療用バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬による処置が、A20がん性細胞に対する適応免疫応答を誘発しうるかどうかを試験するために、これらの腫瘍内処置によって消失がみられたマウスに対して、処置後第46日に、5×10
6個のA20細胞を左側腹部に注射して再負荷した(
図17A及び
図17B)。対照として、ナイーブマウスにもまた、5×10
6個のA20細胞を右側腹部に注射することによって負荷した(
図17C)。腫瘍形成があれば検出するために、両群において腫瘍増殖を週2回モニターした。この両方の処置は、合成治療用バクテリオファージの腫瘍内注射、又は合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の腫瘍内注射のいずれも、新たな腫瘍の形成を妨げる完全な適応応答を誘発した(
図17)。
【0178】
(実施例7)
生きたバイオ治療薬は、抗腫瘍活性を有する治療用酵素を提示する合成バクテリオファージを分泌する
細菌細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー(LBA)培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジクス酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に最長で18時間、37℃で慣行的に増殖させた。バクテリオファージは、実施例2に記載されたPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養物(一晩増殖させた)から抽出した。バクテリオファージ調製物は、沈殿直後に使用した。A20リンパ球Bリンパ腫細胞は、ATCC(TIB-208)に発注した。細胞は、全ての実験を通して、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.05mM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640中で、2×105個/mL~2×106個/mLの間の密度に保った。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)中で増殖させた:カナマイシン(Km)50μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL。培養物は全て、撹拌(200rpm)しながら37℃で慣行的に増殖させた。18時間齢を上回る細菌培養物は実験に使用しなかった。
【0179】
合成バクテリオファージ粒子のNi-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)ビーズ精製。Ni-NTAビーズを使用する合成バクテリオファージの精製のために、合成バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬の一晩培養物(20mL)を50mLのチューブに移し、続いて6000rpmで10分間遠心分離した。その後に、上清18mLを新たな50mLのチューブに移し、2mLのPBS 10Xを加えてpHを緩衝化した。続いて、0.250mLのNi-NTA樹脂(PBS中の50%スラリー)を各チューブに加え、全ての試料を撹拌下で4℃で2時間30分インキュベートした。続いて、チューブを4000rpmで2分間遠心分離し、上清を除去した。ビーズを1mLのPBS中に再懸濁させ、1.5mLのチューブに移し、4000rpmで2分間遠心分離した。上清を廃棄し、ビーズを1mLのPBS中に再懸濁させた。合成バクテリオファージが結合したビーズは、その後のアッセイの準備が整っている。
【0180】
5-フルオロシトシン(5-FC)から5-フルオロウラシル(5-FU)への変換アッセイ。合成バクテリオファージによる5-FCから5-FUへの変換を測定するために、合成バクテリオファージを結合させた250μLのNi-NTAビーズを1.5mLの試験管に加え、更に300μLの6mM 5-フルオロシトシン(5-FC)(12% DMSO)を加えた。続いてチューブを混合し、迅速遠心を行い、上清50μLを、1mLの0,1N HCl(これを使用してT0における5-FC/5-FU比を測定する)を予め充填した分光光度計キュベットに移した。続いて、試料を上下することによって再懸濁させ、37℃で24時間インキュベートした。並行して、1mLの0,1N HCl及び50μLのPBS/DMSO(12%)を含むブランクを調製して、ブランク及び収集試料のODを255nm及び290nmで読み取って、T0における5-FC及び5-FUの濃度を決定した。翌日に24時間のインキュベーションの後、試料を迅速遠心し、上清50μLを、1mLの0,1N HClを予め充填した分光光度計石英キュベットに移した。続いて、試料のODを、1mLの0,1N HCl及び50μLのPBS/DMSO(12%)で構成されるブランク溶液に対して255nm及び290nmで測定した。続いて、5-FC及び5-FUのパーセンテージを、式 %5-FC=[5-FC]24h/[5-FC]0h=(0.119×A290 - 0.025×A255)24h/(0.119×A290 - 0.025×A255)0h、及び%5-FU=[5-FU]24h/[5-FU]0h=(0.185×A255 - 0.049×A290)24h/(0.185×A255 - 0.049×A290)0hを使用して計算した。
【0181】
5-FU抗増殖アッセイ。シトシンデアミナーゼ(codA)による5-FCの変換後に得られた5-FUの抗増殖作用を試験するために、96ウェルプレートに1ウェル当たり104個のA20細胞を播種し、最終濃度200μMの5-FU変換産物、200μMの5-FC(対照)、又は同等容量のPBS 12% DMSO(対照)のいずれかにより3回処置した。続いて、プレートを5% CO2により37℃で42時間インキュベートした。そのインキュベーション期間の後、トリパンブルーを使用して細胞生存率を測定した。手短に述べると、細胞懸濁液100μLを収集して、0.4%トリパンブルー100μLと混合した。続いて、血球計数器を使用して生細胞を計数した。
【0182】
シトシンデアミナーゼを提示する合成治療用バクテリオファージを分泌する生きたバイオ治療薬は、5-FC前駆体を化学療法剤5-FUに変換する。対照としての役を果たすpTAT002に由来する合成バクテリオファージ、又はpIII上にシトシンデアミナーゼ(codA)を提示するpTAT022に由来する合成バクテリオファージを、Ni-NTAビーズを使用して精製し、5-FC 6mM(12% DMSO)と共にインキュベートした。24時間のインキュベーション後に、5-FC及び5-FUのパーセンテージを、255nm及び290nmでODを測定することによって決定した。シトシンデアミナーゼを提示する合成バクテリオファージのみが、5-FC前駆体を化学療法剤5-FUに変換することができ(
図18)、これにより、生きたバイオ治療薬によって産生された合成バクテリオファージを使用して、治療用酵素を送達することができることが証明された。シトシンデアミナーゼを提示する合成治療用バクテリオファージによって生成された5-FUは活性があり、抗腫瘍活性を有する。シトシンデアミナーゼを提示する合成バクテリオファージによって生成された5-FUの抗腫瘍活性を、がん細胞に対して試験した。A20がん細胞を、シトシンデアミナーゼを提示する合成バクテリオファージによって変換された200μMの5-FU、又は対照合成バクテリオファージで得られた同等容量の反応混合物、又は同等容量のビヒクル(PBS 12% DMSO)、又は200μMの5-FCと共に42時間インキュベートした。続いて、がん細胞の死滅をトリパンブルーによってモニターした(
図19)。がん細胞の死滅は、シトシンデアミナーゼを提示する合成バクテリオファージでのみ観察され、この酵素が5-FC前駆体を活性5-FUに変換したことが証明された。したがって、合成バクテリオファージを使用して、抗がん活性を有する酵素を送達することができる。
【0183】
(実施例8)
生きたバイオ治療薬による合成治療用バクテリオファージの分泌を、代替的開始コドンを使用することによって改善することができる
細菌細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー(LBA)培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジキシ酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に、通常は37℃で最長で18時間、増殖させた。バクテリオファージは、実施例2に記載されたPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養(一晩増殖させた)から抽出した。バクテリオファージ調製物は、沈殿直後に使用した。
【0184】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による合成バクテリオファージの力価測定。バクテリオファージ発現の検出及び定量は、市販のPhage Titration ELISAキット(PRPHAGE、Progen社)を、製造元の指示に従って使用して行った。手短に述べると、凍結乾燥したM13粒子を、製造元の推奨に従ってファージ1.5×108個/mLで再懸濁させ、1/2に連続希釈して標準曲線を作成した。続いて、バクテリオファージ調製物を1/10、1/100、1/1000、及び1/10000に希釈して、(標準曲線と同様に)マウス抗M13をプレコーティングしたELISAウェルに添加した。捕捉されたバクテリオファージ粒子を、ペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗M13によって検出した。テトラメチルベンジジンの添加後、Biotekプレートリーダー機器を使用して、各ウェルの光学密度を450nmで測定した。操作されたファージの表面の改変pIIIタンパク質を検出するために、キットに用意された抗M13-HRPの代わりに抗体HA-Tag(6E2)マウスmAb(HRPコンジュゲート)(1:1000 Cell Signaling Technology社、Danvers、MA、USA)を使用して、この手順を繰り返した。
【0185】
ウェスタンブロットによる融合タンパク質の完全性の検証。細菌を、カナマイシン及びスペクチノマイシンを添加したLBブロス中で撹拌しながら37℃で一晩増殖させた。細菌を遠心分離によってペレット化し、培養上清を新たなチューブに移し、濃縮PBSで緩衝化した。ヘキサヒスチジンタグを提示するファージを、Ni-NTAビーズを使用して、撹拌下で4℃で2時間インキュベートすることによって上清からプルダウンした。続いてビーズをPBSで3回洗浄し、試料緩衝液4X(SB4X)を使用する変性によってファージを溶出させた。試料を65℃で1時間変性させ、15%アクリルアミドゲルにローディングした。試料のゲル移動を150ボルトで1時間行った。続いてタンパク質を、100ボルトを1時間印加することによって0.2μmニトロセルロース膜に移した。膜を空気乾燥させて微量のメタノールを蒸発させ、撹拌下で4℃でTBS-0.1% Tween 20 - 4%乾燥ミルク中で1時間ブロックした。膜をウェスタンブロット用密閉可能バッグに移して、ブロッキング緩衝液で希釈した抗HA-HRP(Cell Signaling社)と、撹拌下で4℃で一晩インキュベートした。3回のTBS - 0.1% Tween 20洗浄の後、Immobilon ECL Ultra Western HRP基質を適用することによって膜の顕色化を行い、Vilber Fusion FX機器で画像を取得した。画像はImage Labソフトウェアを使用して処理した。
【0186】
合成バクテリオファージの分泌は、提示されるタンパク質がATG開始コドンの代わりにGTG開始コドンを有することによって改善される。ATGはタンパク質の正常な開始コドンであり、最も高い翻訳レベルをもたらす。一部の場合には、バクテリオファージコーティングタンパク質と融合した治療用タンパク質の過度な発現は有害な怖れがあり、細菌宿主に有害な影響を及ぼし、最終的にバクテリオファージの分泌を乏しくさせる。GTGは、より低いレベルのタンパク質翻訳をもたらす代替的開始コドンである(Hechtら、Nucleic Acids Research、2017年、45巻、7号、3615~3626頁;これは参照により本明細書に組み込まれる)。更に、開始コドンとしてのGTGは、開始tRNAのゆらぎに依拠し、誤ったコドンからの翻訳開始を可能にする。このことはリボソームを停止させ、遺伝子上での改善されたリボソーム輸送を可能にし、それ故に、より完全なタンパク質産物を産生させる可能性がある。治療用バクテリオファージの分泌に対する開始コドンの影響を試験するために、ATG開始コドン(pTAT020)又はGTG開始コドン(pTAT020-GTG)を有するpIIIと融合された抗PD-L1ナノボディを提示する合成バクテリオファージを一晩産生させ、PEG沈殿させて、続いてELISAによって定量した。その結果、GTGコドンの存在により、治療用バクテリオファージの分泌が100倍に増加することが示されている(
図20A)。次に、バクテリオファージの表面のpIII上に提示された抗PD-L1ナノボディの完全性をウェスタンブロットによって調べた。pTAT020及びpTAT020-GTGに由来するバクテリオファージの両方をNi-NTAビーズで精製し、SB4X中での熱変性によって放出させた。続いて、試料をSDS-PAGE及び抗HA抗体を用いたウェスタンブロットで分析して、タンパク質の完全性を調べた(
図20B)。pTAT020構築物についていくつかのバンドが明らかになり、完全なタンパク質産物に対応するものはより低い濃度で存在した。一方、(完全なタンパク質産物に対応する)最も高度のバンドは、pTAT020-GTGのタンパク質産物の大部分であり、このことは、代替的開始コドンを用いることにより、リボソーム輸送が改善され、それがタンパク質分解を低下させ、治療用バクテリオファージの分泌を最大化する可能性があることを裏付ける。
【0187】
(実施例9)
合成バクテリオファージ分泌系は、治療用タンパク質又は2つ以上の少量のコートタンパク質を提示するバクテリオファージを産生することができる
この実施例に使用した全ての菌株及びプラスミドを表1に記載する。細胞は典型的には、必要に応じて以下の濃度の抗生物質を添加したルリアブロス・ミラー(LB)又はルリアブロス寒天ミラー培地で増殖させた:アンピシリン(Ap)100μg/mL、クロラムフェニコール(Cm)34μg/mL、カナマイシン(Km)50μg/mL、ナリジキシ酸(Nx)4μg/mL、スペクチノマイシン(Sp)100μg/mL、ストレプトマイシン(Sm)50μg/mL、スルファメトキサゾール(Su)160μg/mL、テトラサイクリン(Tc)15μg/mL、及びトリメトプリム(Tm)32μg/mL。培養物は全て、実験に使用する前に、最長で18時間、37℃で慣行的に増殖させた。バクテリオファージは、実施例2に示されたPEG沈殿プロトコールを使用して、コンフルエントな細菌培養物(一晩増殖させた)から抽出した。A20リンパ球Bリンパ腫細胞は、ATCC(TIB-208)に発注した。細胞は、全ての実験を通して、10%ウシ胎児血清(FBS)及び0.05mM 2-メルカプトエタノールを添加したRPMI-1640中で、2×105個/mL~2×106個/mLの間の密度に保った。
【0188】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による合成バクテリオファージの力価測定。バクテリオファージ発現の検出及び定量は、市販のPhage Titration ELISAキット(PRPHAGE、Progen社)を、製造元の指示に従って使用して行った。手短に述べると、凍結乾燥したM13粒子を、製造元の推奨に従ってファージ1,5×108個/mLで再懸濁させ、1/2に連続希釈して標準曲線を作成した。続いて、バクテリオファージ調製物を1/10及び1/100に希釈し、続いて、(標準曲線と同様に)マウス抗M13をプレコーティングしたELISAウェルに添加した。捕捉されたバクテリオファージ粒子を、ペルオキシダーゼ結合モノクローナル抗M13によって検出した。テトラメチルベンジジンの添加後、Biotekプレートリーダー機器を使用して、各ウェルの光学密度を450nmで測定した。操作されたファージの表面の改変pIIIタンパク質を検出するために、キットに用意された抗M13-HRPの代わりに抗体HA-Tag(6E2)マウスmAb(HRPコンジュゲート)(1:1000 Cell Signaling Technology社、Danvers、MA、USA)を使用して、この手順を繰り返した。
【0189】
ELISAによる合成バクテリオファージのPDL1への結合の評価。チェックポイントPDL1に対する合成バクテリオファージの結合活性を測定するために、ELISAアッセイを考案した。まず、96ウェルプレートを、氷冷PBS中に30分間再懸濁させた1×105個のA20細胞で室温でコーティングした。次に、上清を穏やかに吸引によって除去し、10%中性緩衝ホルマリンを使用して室温で10分間、細胞をプレートに固定した。続いてプレートを200μLのPBSで1回洗浄した。その後に、非特異的結合を防ぐために、プレートを200μLのブロッキング緩衝液(PBS、3%脱脂乳、1% BSA)と室温で1時間インキュベートした。ブロッキングは、ブロッキング緩衝液を除去して200μLのTBS-Tでプレートを2回洗浄することによって停止させた。続いて、PBS 1Xで希釈し、pIX上の抗CTLA-4アンチカリン及びpIII上のPDL1に対するナノボディ(pTAT032 + pTAT035)を提示する100μLのPEG沈殿した合成バクテリオファージを、A20細胞を含むウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。PDL1に対して提示されるナノボディを含まない対照も行った(pTAT004 + pTAT002)。続いてプレートを200μLのPBSで3回洗浄し、ブロッキング緩衝液(1:500)で希釈した100μLの抗FLAG-HRP(M2、Sigma-aldrich社)を添加した。抗FLAG-HRP(M2、Sigma-aldrich社)は、この場合にpIX-FLAG-アンチカリンCTLA-4の存在を定量することによって完全なバクテリオファージのみを測定するために好ましく、これにより、ナノボディ及びアンチカリンの両方が同じバクテリオファージ粒子上に存在することが確認される。プレートを暗所で室温で1時間インキュベートし、続いてTBS-Tで5回洗浄した。合成バクテリオファージの存在を測定するために、100μLのTMB基質溶液(ThermoFisher社)を各ウェルに添加し、プレートを室温で15分間インキュベートした。反応を、100μLの停止溶液(0.5M H2SO4)を各ウェルに添加することによって停止させた。続いて450nmで吸光度を測定した。
【0190】
ELISAによる合成バクテリオファージのCTLA-4への結合の評価。チェックポイントCTLA-4に対する合成バクテリオファージの結合活性を測定するために、ELISAアッセイを考案した。まず、96ウェルプレートを、コーティング緩衝液(0.05M炭酸塩-重炭酸塩、pH 9.6)で10μg/mLに希釈した組換えCTLA-4タンパク質(R&D systems社)により、4℃で一晩コーティングした。続いて、プレートを200μLのTBS-Tで3回洗浄した。続いて、非特異的結合を防ぐためにプレートを200μLのブロッキング緩衝液(TBS-T、3%脱脂乳、1% BSA)と室温で1時間インキュベートした。ブロッキングは、ブロッキング緩衝液を除去して200μLのTBS-Tでプレートを2回洗浄することによって停止させた。続いて、TBS 1Xで希釈し、pIX上の抗CTLA-4アンチカリン及びpIII上のPDL1に対するナノボディ(pTAT032 + pTAT035)を提示するPEG沈殿した合成バクテリオファージ100μLを、CTLA-4タンパク質を含むウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。CTLA-4に対して提示されるアンチカリンを含まない対照も実施した(pTAT004 + pTAT002)。続いて、プレートを200μLのTBS-Tで3回洗浄し、ブロッキング緩衝液(1:500)で希釈した抗HA-HRP(Cell Signaling社)100μLを添加した。抗HA-HRP(Cell Signaling社)は、この場合にpIII-HA-nbPDL1の存在を定量することによって完全なバクテリオファージのみを測定するために好ましく、これにより、ナノボディ及びアンチカリンの両方が同じバクテリオファージ粒子上に存在することが確認される。プレートを暗所で室温で1時間インキュベートし、続いてTBS-Tで5回洗浄した。合成バクテリオファージの存在を測定するために、TMB基質溶液(ThermoFisher社)100μLを各ウェルに添加し、プレートを室温で15分間インキュベートした。反応を、各ウェルに停止溶液(0.5M H2SO4)100μLを添加することによって停止させた。続いて450nmで吸光度を測定した。
【0191】
生きたバイオ治療薬は、免疫チェックポイントPDL1及びCTLA-4に同時に結合する抗PDL1ナノボディをpIII上に、並びに抗CTLA-4をpIX上に提示する二重特異性合成バクテリオファージを分泌する。前述の実施例により、合成バクテリオファージ分泌系が、異なる結合タンパク質を介していくつかの分子標的に結合するバクテリオファージ粒子を産生しうることが示された。したがって、次の段階は、それらの提示を同じバクテリオファージ上で組み合わせることができ、続いて2つ以上の免疫チェックポイントに結合しうることを示すことであった。二重提示システムの例示的なバージョンは、提示効率を最大化するために、野生型pIII(バクテリオファージの尾部に位置する)及びpIX(バクテリオファージの頭部に位置する)サブユニットの両方を欠くバクテリオファージ分泌機構を必要とする。そのため、gpIXを欠き、pIII上のPDL1に対してナノボディを提示するプラスミドであるpTAT032ΔgpIXを、バクテリオファージ分泌機構として使用した。gpIX遺伝子の欠如によるpTAT032ΔgpIXにおけるファージ分泌の中断を、まず抗pVIII ELISAアッセイによって評価した。プラスミドpTAT032ΔgpIXは、親構築物pTAT032と比較して低い力価でバクテリオファージを産生し、このことはgpIXが首尾良く損なわれていることを裏付ける(
図21A)。本発明者らは次に、pTAT032ΔgpIX(pIXを欠損し、pIII上に抗PDL1ナノボディを提示するバクテリオファージ機構)をpTAT035(抗CTLA-4アンチカリンがpIX上に提示される)と組み合わせることによって、バクテリオファージ粒子が複数の機能的な組換えタンパク質を提示しうるかどうかを試験することにした。これらのプラスミドをMG1655中で組み合わせて、バクテリオファージ粒子を作製し、PEG沈殿によって精製した。次に、タンパク質を提示しないバクテリオファージを対照として使用して、3つのELISAのセットを行った。第1のELISAでは、プレートのウェルに固定化した抗pVIII B62-FE3(Progen社)抗体を使用し、ファージ産生量を明らかにするために抗pVIII-HRP B62-FE3(Progen社)抗体を使用した(
図21A)。第2のELISAは、プレートのウェルに付着したA20細胞を用いて行った。A20細胞はPD-L1を発現し、そこに二重提示系に由来するバクテリオファージ粒子が結合する。続いて、バクテリオファージを、pVIIIに結合してA20細胞に付着したバクテリオファージ粒子を顕在化する抗pVIII-HRP B62-FE3(Progen社)抗体を使用して顕在化した(
図21B)。最後のELISAは、プレートのウェルに付着した組換えCTLA-4精製タンパク質を用いて行う。CTLA-4結合タンパク質を発現するバクテリオファージは、精製されたタンパク質に結合し、続いて、pIII-HA-PD-L1ナノボディに結合する抗HA-HRP(Cell Signaling社)抗体を用いて顕在化され、これにより、CTLA-4タンパク質に結合し、PD-L1ナノボディをも提示する完全なバクテリオファージ粒子のみが明らかになる(
図21C)。対照、及びpTAT032ΔgpIX(pIXを欠損し、pIII上に抗PDL1ナノボディを提示するバクテリオファージ機構)とpTAT035(pIX上に抗CTLA-4アンチカリンが提示される)との組合せに由来するバクテリオファージ粒子の両方がバクテリオファージ粒子を産生したが、後者のみが、CTLA-4及びPDL1の両方に結合するバクテリオファージを産生することができた。以上を総合すると、これらの結果は、バクテリオファージが、同一のバクテリオファージ粒子上に同時にいくつかの機能的な治療タンパク質を提示しうることを示す。
【0192】
生きたバイオ治療薬は、免疫チェックポイントPD-L1及びCTLA-4に同時に結合する、抗PD-L1及び抗CTLA-4ナノボディをpIII上に提示する二重特異性合成バクテリオファージを分泌する。合成治療用バクテリオファージ粒子は、同一のコーティングタンパク質上に異なる治療用タンパク質の混合物を提示することができる。このことを例示するために、プラスミドpTAT032(PD-L1に対するナノボディをpIII上に提示する)及びプラスミドpTAT019(CTLA-4に対するナノボディをpIII上に提示する)を、同一の細菌において組み合わせた。このようにして得られた細胞は、pIII上にPD-L1及びCTLA-4ナノボディの両方を提示することができる合成治療用バクテリオファージを分泌する。この仮説を検証するために、A20細胞に対して最初のELISAを行ったが、これはA20細胞が、二重提示系に由来するバクテリオファージ粒子が結合すると考えられるPD-L1を発現するためである。バクテリオファージを、pVIIIコーティングタンパク質に結合してA20細胞に付着したバクテリオファージ粒子を顕在化する抗pVIII-HRP B62-FE3(Progen社)抗体を使用して顕在化した(
図22A)。第2のELISAは、組換えCTLA-4タンパク質に対して行った。精製タンパク質に結合した抗CTLA-4ナノボディを発現するバクテリオファージを、続いて、CTLA-4タンパク質に結合した完全なバクテリオファージ粒子を顕在化する抗pVIII-HRP(Cell Signaling社)抗体を使用して顕在化した(
図22B)。対照として、PD-L1に対するナノボディのみを提示するバクテリオファージ(pTAT032)、又はCTLA-4に対するナノボディのみを提示するバクテリオファージ(pTAT019)も評価した。予想された通り、これらの対照は、対応する標的に対して試験した場合にのみ強い結合シグナルを生じた。対照的に、抗PD-L1及び抗CTLA-4ナノボディの両方をpIII上に提示する菌株(pTAT032 + pTAT019-GTG)は、両方のELISA試験において、PD-L1及びCTLA-4標的に結合することができ、このことは、複数の異なるナノボディを提示するpIIIコーティングタンパク質の混合物を使用して、二重特異性合成バクテリオファージを作製しうることを裏付ける。
【0193】
参照による組込み
本明細書中で引用された全ての参考文献、及びそれらの参考文献は、追加的又は代替的な詳細、特徴、及び/又は技術的背景の教示のために適切な場合には、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0194】
均等物
本開示を、特定の実施形態を参照して具体的に示し、説明してきたが、上記で開示された並びに他の特徴及び機能の変形物、又はその代替物は、望ましくは、多くの他の異なるシステム又はアプリケーションに組み合わされうることが理解されるであろう。また、現在では予見されない、又は予期されない様々な代替物、修正、変更又は改善が、当業者によってその後に行われてもよく、それらもまた、以下の実施形態の範囲に含まれることを意図している。
【配列表】
【国際調査報告】