(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-27
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用の負極ペーストを作製するための方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/1395 20100101AFI20231020BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231020BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20231020BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231020BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231020BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231020BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20231020BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231020BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/36 B
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/134
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022559495
(86)(22)【出願日】2021-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-09-28
(86)【国際出願番号】 RU2021050237
(87)【国際公開番号】W WO2022086371
(87)【国際公開日】2022-04-28
(32)【優先日】2020-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519239702
【氏名又は名称】エムシーディ テクノロジーズ エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】プレチェケンスキー, ミハイル ルドルフォビッチ
(72)【発明者】
【氏名】カシン, アレクサンダー アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ボブレノク, オレグ フィリッポビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コソラポブ, アンドリー ゲナディエビッチ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA09
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA24
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
(57)【要約】
提案された発明は、電気技術産業に関し、より詳細にはリチウムイオン電池、さらにより詳細にはシリコン含有負極(アノード)を備えたリチウムイオン電池に関する。本発明は、負極ペーストを作製するための方法、負極ペースト、リチウムイオン電池用の負極を作製するための方法、リチウムイオン電池用の負極、及び初期比容量が高く、初期容量の少なくとも80%が維持されている間の充放電サイクルが多いリチウムイオン電池を提供する。このような技術的結果は、500nm超の直径及び10μm超の長さを柚須得る単層/二層カーボンナノチューブの束とともに、5μm未満の長さを有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束の負極材料が存在するという結果として達成可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用の負極スラリーを作製するための方法であって、負極スラリーの乾燥材料は、シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiO
x、式中、xは2以下の正の数である)の相、又は前記負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコンの相と酸化シリコン(SiO
x)の相との組合せである、50重量%超~99.9重量%未満の活性成分を含み、かつ0.1重量%超~20重量%未満のカーボンナノチューブを含み、前記方法が、
(1)前記シリコンの相若しくは前記酸化シリコン(SiO
x、式中、xは2以下の正の数である)の相、又はかかる相の組合せであって、前記相の組合せ中の酸素:ケイ素の総原子比率が0超~1.8未満である相の組合せを含む組成物(C)を、0.01重量%~5重量%のカーボンナノチューブを含む液相懸濁液(S)へと導入する工程であって、前記懸濁液(S)中の全てのカーボンナノチューブのうち5重量%超のカーボンナノチューブが10μm超の束の長さを有し、束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであり、前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの束の数の流体力学的直径分布のモードが500nm未満である、工程、並びに
(2)前記懸濁液(S)中の前記組成物(C)の混合物を、均一なスラリーが得られるまで混合する工程、といった一連の工程を含むこと、を特徴とする、方法。
【請求項2】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの束の数の前記流体力学的直径分布が二峰性であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シリコン及び酸化シリコン(SiO
x)の相の前記組合せを含む前記組成物(C)を、カーボンナノチューブを含む前記懸濁液(S)へと導入するのと同時に、グラファイト及び/又はバインダ添加剤及び/又は分散剤及び/又は溶媒を導入することを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、グラファイト及び/又はバインダ添加剤及び/又は分散剤及び/又は溶媒を、カーボンナノチューブを含む前記懸濁液(S)に、又は前記懸濁液(S)中の前記組成物(C)の前記混合物に、導入する1つ又は複数の工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物(C)中のシリコン及び酸化シリコンの前記相を、5μm超の分布中央値を有する直径で分布している結合凝集体へと凝集させることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
シリコン及び酸化シリコンの前記相に関するX線干渉性散乱ドメインのサイズが10nm未満であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
シリコン及び酸化シリコンの凝集体の表面が炭素層で覆われ、前記組成物(C)中のC:Siの質量比が0.01超~0.1未満であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブが、波長532nmでのラマンスペクトルのG/Dバンドの強度比が5超であることにより特徴付けられることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブが、波長532nmでのラマンスペクトルのG/Dバンドの強度比が50超であることにより特徴付けられることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
複合材料中のカーボンナノチューブの表面は、炭素よりも高いPaulingの電気陰性度を有する元素を含む0.1重量%超の官能基を含有することを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの前記表面が、酸素を含む0.1重量%超の官能基を含有することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの前記表面が、フッ素を含む0.1重量%超の官能基を含有することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの前記表面が、塩素を含む0.1重量%超の官能基を含有することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの前記表面が、0.1重量%超のカルボキシル基を含有することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
0.01~5重量%のカーボンナノチューブを含む前記懸濁液(S)は水性懸濁液であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
0.01~5重量%のカーボンナノチューブを含む前記懸濁液(S)は、1.5D超の双極性モーメントを有する極性有機溶媒の懸濁液であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
0.01~5重量%のカーボンナノチューブを含む前記懸濁液(S)が、n-メチルピロリドンの懸濁液であることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に従って作製された負極スラリーであって、前記負極スラリー中の全てのカーボンナノチューブのうち、5重量%超のカーボンナノチューブが10μm超の束の長さを有し、束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであり、前記負極スラリー中のカーボンナノチューブの束の数の束の長さ分布のモードが5μm未満であることを特徴とする、負極スラリー。
【請求項19】
ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、そのラテックス、カルボキシメチルセルロース、そのNa塩、そのLi塩、ポリアクリル酸、そのNa塩、そのLi塩、フルオロエラストマー及びそのラテックスから選択される1つ又は複数の結合ポリマー物質をさらに含む、請求項18に記載の負極スラリー。
【請求項20】
カルボキシメチルセルロース、そのNa塩、そのLi塩、ポリアクリル酸、そのNa塩、そのLi塩、及びポリビニルピロリドンから選択される1つ又は複数の分散剤をさらに含む、請求項18又は19のいずれか一項に記載の負極スラリー。
【請求項21】
組成及び構造においてカーボンナノチューブとは異なり、カーボンブラック、グラファイト、周期表の第8族~第11族の金属から選択される、0.1重量%超の1つ又は複数の導電性添加剤をさらに含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の負極スラリー。
【請求項22】
リチウムイオン電池用の負極を作製するための方法であって、前記方法が、請求項1~17のいずれか一項に記載の負極スラリーを作製するための(1)及び(2)といった工程、(3)得られた負極スラリーを集電体上に塗工する工程、(4)前記塗工されたスラリーを乾燥させて前記負極を形成する工程、及び(5)前記負極を必要な密度に圧縮する工程、といった一連の工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項23】
リチウムイオン電池用の負極を作製するための方法であって、前記方法が、(1)請求項18~21のいずれか一項に記載の負極スラリーを集電体上に塗工する工程、及び(2)前記塗工されたスラリーを乾燥させて前記負極を形成する工程、及び(3)前記負極を必要な密度に圧縮する工程、といった一連の工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項24】
リチウムイオン電池用の負極であって、前記負極が請求項22又は23のいずれか一項に従って作製されることを特徴とする、負極。
【請求項25】
シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiO
x、式中、xは2以下の正の数である)の相、又は前記負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコンの相と酸化シリコン(SiO
x)の相との組合せである、50重量%超~99.9重量%未満の高濃度の活性成分を含み、かつ0.1重量%超~20重量%未満のカーボンナノチューブを含む負極材料を有するリチウムイオン電池であって、前記電池が請求項22又は23に従って作製された前記負極を備えることを特徴とする、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気産業、特にリチウムイオン電池に関し、特にシリコン含有負極(アノード)を備えたリチウムイオン電池及びリチウムイオン電池の負極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に使用される場合、シリコン含有負極(アノード)はいくつかの利点を有する。この利点のうち主なものは、理論的には4200mAh/gに達する高い比容量である。しかし、かかる材料の耐用寿命、つまり炭素材料を基とした負極と比較した場合のそれらの容量を保持する充放電サイクルの数は、一般的には少ない。これは、電池充電時にLi22Si5相(密度0.96g/cm3、シリコンの重量分率48重量%)を形成する、シリコン(密度2.33g/cm3)とリチウムとの相互作用によって活性成分の粒子の体積が400%(5倍)増加するという事実に関連している。充放電サイクルを複数回繰り返すと、負極の複合材料を構成しているシリコン粒子間に空隙が形成され、この空隙が結合して亀裂となる。数回のサイクルの後、負極はその一体性を失い、そのことによって負極の一部で絶縁が生じ、電池容量の低下につながる。最終的に、負極は完全に破壊される。これがリチウムイオン電池におけるシリコン及びシリコン含有負極の幅広い適用を制限している主要な課題である。
【0003】
リチウムイオン電池の十分多数の充放電サイクルにわたってシリコン含有負極の効率が保証されるためには、シリコン含有負極の一体性及び材料の高い導電性の両方が提供されなければならない。例えば500mAh/gの負極材料など高い比容量を有し、かつ例えば500回超のサイクルにわたって初期容量の80%超を保持するなど、十分多量の充放電サイクルにわたりその容量を保持可能であるシリコン含有負極を製造することは挑戦的な技術的課題であるが、その解決策は本発明により提供される。
【0004】
本明細書で使用される場合、用語「負極材料」は、集電体を有さない負極の複合材料を指す。本明細書で使用される場合、用語「負極活物質」は、例えばグラファイト、シリコン、酸化シリコン(SiO)など、電池の充電過程中にリチウムと化学的に反応する負極内の物質の組合せを指す。
【0005】
電池容量の損失なしに複数回の充放電サイクルが確実に動作するようにするため、いくつかの特許及び研究出版物は、負極の活物質として、充電過程中のリチウム化プロセスにおいて体積変化が相対的に低いシリコン-炭素複合材の使用を提案している。ただし、このアプローチはリチウム化時の体積の相対的な変化に対し、負極材料の比容量の一次従属に関連する固有の制限を有することから、こうした問題を解決していない。したがって、相対的に低い体積変化とは電池の比容量が小さいことを意味している。
【0006】
その他の提案された解決策は、形成されたケイ酸リチウムが細孔を充填するよう、予めシリコン含有負極材料に多孔質構造を設けることである。こうすることで、数十サイクルの充放電サイクルにわたる複合凝集体の統合を防止することが可能となる。
【0007】
したがって、開示[特許文献1]及び[特許文献2]は、シリコンの多孔性粒子に由来する、結晶性又は非晶質炭素の粒子が埋め込まれた細孔へのSi/Cナノコンポジットを提供する。開示[特許文献1]は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と、結晶性又は非晶質炭素を含む酸化シリコンナノコンポジットとを混合することを含む、かかる複合体を作製するための方法、酸化シリコンを減少させるためのかかる複合材を熱処理するための方法、及びアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物を除去するため、こうして得られた複合材を酸中で熱処理するための方法をも提供する。引用された開示の負極材料は、847~855mAh/gの初回充電容量を有し、50サイクル後の初期容量の73~78%を保持する。
【0008】
述べられている解決策には2つの主な欠点が存在する。すなわち、(1)負極材料を得るための複雑な方法、続いて負極集電体上への塗工は、リチウムイオン電池製造のための既存のプロセスを本質的に修正する必要がある点、及び(2)Si/C複合材中のシリコンの再結晶化及び形成された多孔質構造の漸次的な破壊に起因する、グラファイト負極材料と比較すると依然として短期のままである、負極材料の有用寿命の不十分な増加といった点である。
【0009】
有用寿命が長い負極活物質を得るための別の解決策は、導電性添加剤としてだけではなく強化添加剤として、繊維状の炭素粒子をシリコン含有負極材料に導入することである。複合材料の強化は、繊維などの細長い粒子の好ましい使用により固有の高い強度を有する添加剤を導入して取得可能であると知られている。また、厚さに対して長さの比率が大きくなればなるほど、強化効果を生み出す添加剤の体積分率は十分低くなる。開示[特許文献3]は、多孔性酸化シリコンを含む多孔性複合材「酸化シリコン-炭素材料」と、多孔性酸化シリコンの表面上及び/又は細孔内に積層された「線状の」炭素材料とを含む負極活物質を提供する。当該線状材料はカーボンナノ繊維、カーボンナノチューブ、又はそれらの混合物であり、多孔性酸化シリコンの平均細孔直径は、多孔性酸化シリコン表面から測定した場合、10nm~1000nmの範囲であり、線状材料の平均径は5nm~200nmの範囲であり、その平均長は100nm~5μmの範囲である。負極スラリー(例えばアセチレンブラックなどの導電性成分及び例えばPVDFなどのバインダとともに)を作製し、続いてリチウムイオン電池の負極を製造するための活物質としてこの複合材を使用することで、充放電サイクル数が増加し、破壊が生じずに複合材料の凝集体(粒)により維持されているリチウムイオン電池が製造される。さらには、この複合材料は内部に亀裂が発生した後であってもなお導電性を保持する。到達した比容量は1568mAh/gであり、49回目のサイクルにおいてこの材料の容量の95%が保持されている。
【0010】
開示[特許文献3]で提供された解決策の欠点としては、機械的結合性が弱く、複合材料の凝集体(粒)間の導電性が不足していることが挙げられる。これは、必要とされる負極材料のパラメータを得るため、多孔性複合材「酸化シリコン-炭素材料」に加え、相当量の導電性成分及びバインダの負極スラリーへの導入を必要とする(この開示の実施例では、その含有量は20重量%)。リチウム化の化学的プロセスに対し、かなりの相当量の不活性物質を導入することで、負極の比容量は低下する。開示[特許文献3]で提供された解決策の第2の主要な欠点は、こうした複合材である「酸化シリコン-炭素材料」を得ることが技術的に挑戦的なプロセスであるということである。この複合材は、酸化シリコンに金属触媒を塗工する必要があり、例えば化学気相蒸着を使用し、こうして堆積された金属触媒上に線状の炭素材料を形成するという、技術的に挑戦的かつエネルギーを消費する工程をさらに含む。
【0011】
開示[特許文献3]の負極活物質は、本発明で提供される負極スラリー及び負極材料に最も近く、開示[特許文献3]は、本発明の負極スラリー及び負極材料に対するプロトタイプとして採用されている。
【0012】
負極スラリーを作製するための方法及び負極を製造するための方法に関して本発明に最も近い解決策は、開示[特許文献4]である。これは、非炭素材料及び中空の炭素ナノ繊維を有機溶媒中で粉砕して混合物を得ること、この混合物を乾燥させ、非炭素材料に結合した中空の炭素繊維を含む凝集した一次ナノ粒子の二次粒子を含む負極活物質を作製すること、負極活物質と、電子供与基を有するポリマーバインダ及び溶媒とを混合して負極活物質の組成物を作製すること、この負極活物質の組成物を集電体上へと塗工すること、塗工された負極活物質の組成物を乾燥させ、負極を形成することを含み、非炭素材料の平均粒径が約10nm~約50nmの範囲であり、二次粒子が約50μmの最大粒径を有し、中空の炭素ナノ繊維が単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、円形ナノチューブ、又はそれらの組合せであることを特徴とする、方法を提供する。引用された発明の実施例1及び
図8は、かかる方法で製造された負極が850mAh/gの初期容量を有し、20回の充放電サイクル中に710mAh/g(初期容量の83%)まで減少することを示している。引用された発明の実施例2及び
図10は、かかる方法で製造された負極が1130mAh/gの初期容量を有し、20回の充放電サイクル中に800mAh/g(初期容量の70%)まで減少することを示している。
【0013】
したがって、作製された材料は開示[特許文献3]の材料と同様の欠点を有する。つまり、ナノカーボンナノ繊維は一次ナノ粒子中に含まれ、それによって50μm未満のサイズを有する一次ナノ粒子及び場合によっては二次粒子の強度及び一体性に影響を及ぼす。ただし、負極材料内での二次粒子間の結合は弱く、充放電サイクルの過程中にある負極材料は二次粒子の境界に沿って破壊される。このことによって、負極がその初期容量の80%超を保持する有効な充放電サイクル数が減少する。開示[特許文献4]は、本発明の負極スラリーを作製するための方法及び本発明の負極を製造するための方法に関するプロトタイプとして採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第8263265号明細書
【特許文献2】米国特許第8617746号明細書
【特許文献3】欧州特許第2755263号明細書
【特許文献4】米国特許第8697286号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、負極スラリーを作製するための方法、負極スラリー、リチウムイオン電池用の負極を作製するための方法、リチウムイオン電池用の負極、並びに高い初期比容量及び電池が少なくとも80%の初期容量を保持する多量の充放電サイクルを有する、長いサイクルを有するリチウムイオン電池を提供する。提供された開示の技術的結果は、負極の初期比容量が500mAh/g超であり、この負極及びリチウムイオン電池によって、少なくとも1Cの充電電流及び放電電流にて少なくとも500回の充放電サイクルについての初期容量の80%超が保持されることである。提供された開示のさらに重要な技術的結果は、プロセスの簡潔さ及びリチウムイオン電池を製造するための標準的な技術において提供された方法の工業的な適用の可能性である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような技術的結果を達成するには、リチウムイオン電池用の負極材料は、例えば50重量%超の高濃度でシリコン及び/又は酸化シリコン(SiOx)の相を含む、シリコン含有活物質を含有することが必要とされる。このような技術的結果を達成するには、負極材料中にシリコン及び/又は酸化シリコン(SiOx)のナノ粒子の二次凝集体又はドメインが、非常に多くの充放電サイクルにわたってそれらの一体性を保持することがさらに必要とされる。このような技術的結果を達成するには、負極材料中のシリコン及び/又は酸化シリコン(SiOx)のナノ粒子の二次凝集体又はドメイン間に、非常に多くの充放電サイクルにわたる負極の一体性及び導電性を提供することを可能にする強固な機械的結合及び電気的結合が存在することがさらに必要とされる。
【0017】
このような技術的結果の達成は、負極材料中に5μm未満の長さを有する単層カ及び/又は二層カーボンナノチューブ(SWCNT及び/又はDWCNT)の束、並びに10μm超の長さを有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束の両方が存在することによって可能なものとなる。5μm未満の長さを有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの薄く短い束により、充放電サイクル中のリチウム化及び脱リチウム化時に、シリコン及び/又は酸化シリコン(SiOx)のナノ粒子の二次凝集体の一体性が確実に保持され、これらの粒子との電気的接触が提供される。10μm超の長さを有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの長い束により、負極材料全体の一体性が確実に維持され、充放電サイクル過程中のリチウム化及び脱リチウム化時のシリコン及び/又は酸化シリコン(SiOx)のナノ粒子二次凝集体間での機械的結合が確実に維持され、負極層全体にわたっての導電性が提供される。二次凝集体の特徴的な寸法未満の長さ(5μm未満)を有する要素、及び二次凝集体の特徴的な寸法を超える長さ(10μm超)を有する要素の両方を含むカーボンナノチューブの束からのネットワークの生成は、開示[米国特許第8697286号明細書]による方法を含む先行技術の方法では、不可能である。相当な割合のカーボンナノチューブの束が5μm未満の長さを有するには、カーボンナノチューブの束数の長さ分布のモードが5μm未満であれば十分である。
【0018】
必要とされる技術的結果の達成は、負極スラリーが、活物質の二次凝集体の特徴的な寸法未満の長さを有する相当数の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束と、活物質の二次凝集体の特徴的な寸法を実質的に超える長さを有する相当数の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束との両方を含むカーボンナノチューブの懸濁液を使用して作製され、カーボンナノチューブ及びそれらの束を破壊する上でせん断力が不十分である方法を使用して活物質とかかる懸濁液との混合を実施する場合に確実となる。かかる方法の多くは、例えば種々の形状のインペラを備えたオーバーヘッドスターラ、ドラムミキサ、遊星型ミキサなどを含むことで知られているが、これらに限定されない。使用される懸濁液特有の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束のサイズ分布は、負極スラリー内にて、さらには負極内にて保持される。
【0019】
懸濁された粒子(カーボンナノチューブの束など)の数のサイズ分布は、一般には動的光散乱法(Dynamic Light Scattering:DLS)により決定される。動的光散乱法は、周知のStokes-Einsteinの関係(1):
【0020】
【0021】
により、長さL及び直径dを有する円筒状粒子(ナノチューブ及びそれらの束)について、全ての考えられる配向に関する平均を考慮した上で、式(2):
【0022】
【0023】
[N.Nair,W.Kim,R.D.Braatz,M.S.Strano,“Dynamics of Surfactant-Suspended single-walled Carbon Nanotubes in a Centrifugal Field” Langmuir,2008,Vol.24,pp.1790-1795,doi:10.1021/la702516u]又は横長の楕円形として粒子を見なす場合には、式(3):
【0024】
【0025】
[J.Gigault,I.Le He´cho,S.Dubascoux,M.Potin-Gautier,G.Lespes Single-walled carbon nanotube length determination by asymmetrical-flow field-flow fractionation hyphenated to multi-angle laser-light scattering.J.Chromatogr.A,2010,Vol.1217,pp.7891-7897]により提供される、有効な流体力学的直径(Dh)に関連する、懸濁粒子の拡散係数(Ddiff)を決定することができる。モデル(2)及びモデル(3)の両方は、形状因子に関して非常に類似する値を得るが、束の長さはその有効な流体力学的直径を超えることでこの因子を示している。懸濁液中の圧倒的多数のナノチューブ束に関して、直径に対する長さの比が100~10000の範囲に確かに存在することを考慮すると、形状因子は5~10といった狭い範囲内に存在する。このことを理由として、カーボンナノチューブの束の長さLは、不等式(4)により、有効な流体力学的直径の値から最大2倍まで推定され得る。
【0026】
【0027】
したがって、二次凝集体の特徴的な寸法未満の長さ(5μm未満)を有する要素、及び二次凝集体の特徴的な寸法を実質的に超える長さ(10μm超)を有する要素の両方を含むカーボンナノチューブの束によるネットワークを生成するためには、500nm未満のカーボンナノチューブの束の流体力学的直径分布のモードを有するカーボンナノチューブの懸濁液を使用して負極スラリーを作製することが必要である。この場合、懸濁液(C)中の全てのカーボンナノチューブのうち5重量%超のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する束ねられた単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブである。シリコン含有活性成分とかかる懸濁液との混合は、単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブの束を破壊せず、それらの長さを変化させることもない。このことを理由として、かかる懸濁液から作製された負極材料中では、カーボンナノチューブの束の長さ分布は5μm未満のモードにより特徴付けられ、負極材料中の全てのカーボンナノチューブのうち5重量%超のカーボンナノチューブは、10μmを超える束の長さを有する束ねられた単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブである。
【0028】
好ましくは、懸濁液中のカーボンナノチューブの凝集体(束)の数の流体力学的直径分布は、500nm未満の低モード及び2μm超の高モードを有する二峰性である。ただし、単峰性分布の場合にも技術的結果が達成され得るが、より凝集体サイズの範囲がより大きく広がる。
【0029】
単層及び二層カーボンナノチューブは、凝集して束を形成可能であることが知られており、ナノチューブは、ファンデルワールス力(π-π相互作用)で互いに結合している。多層カーボンナノチューブはこうした束を形成せず、負極材料の一体性を保証するといった点で必要となる利点を提供しない、コイル状の凝集体を形成してしまう傾向がある。束ねられたナノチューブの数が多くなればなるほど、その長さは大きくなる。水又は有機溶媒の懸濁液中に単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブが分散することで、束の破壊及び束のサイズの減少が生じる。付与されたエネルギー(機械的せん断又は超音波処理)の量が大きくなればなるほど、カーボンナノチューブの束のサイズは小さくなる。10μm超の長さを有する束中に、例えば5重量%超など、相当量のカーボンナノチューブも存在している場合には、500nm未満のカーボンナノチューブの凝集体(束)の流体力学的直径分布のモードを有する単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブの懸濁液を得るという課題を種々の方法で解決することができる。可能な方法の1つとしては、異なる分散度の単層及び/又は二層カーボンナノチューブの束を含む2つ又は複数の懸濁液を作製し、後にそれらを混合することである。かかる懸濁液を作製する方法は、本開示の範囲外である。
【0030】
本発明は、シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiOx、式中、xは2以下の正の数である)の相、又は負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコンの相と酸化シリコン(SiOx)の相との組合せである、50重量%超~99.9重量%未満の高濃度の活性成分を含み、並びに
【0031】
(1)シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiOx)(式中、xは2以下の正の数である)の相、又はかかる相の組合せであって、当該相の組合せ中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満である相の組合せを含む組成物(C)を、0.01重量%~5重量%のカーボンナノチューブを含む液相懸濁液(S)に導入する工程であって、懸濁液(S)中の全てのカーボンナノチューブのうち、5重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束長を有する束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであり、懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの束の数の流体力学的直径分布のモードが500nm未満である、工程、
【0032】
(2)均一なスラリーが得られるまで、懸濁液(S)中で組成物(C)の混合物を混合する工程、といった一連の工程を含むことを特徴とする、0.1重量%超~20重量%未満のカーボンナノチューブを含む、乾燥残留物を含む負極スラリーを作製する方法を提供する。
【0033】
この方法のある特定の実施形態では、集電体上に後に塗工する上でスラリーの最適なレオロジー特性又は接着特性を保証するため、グラファイト及び/又はバインダ添加剤及び/又は分散剤及び/又は溶媒は、シリコン及び酸化シリコン(SiOx)の相の組合せを含む組成物(C)を、カーボンナノチューブを含む懸濁液(S)へと導入するのと同時に導入されてもよい。他の用途では、グラファイト及び/又はバインダ添加剤及び/又は分散剤及び/又は溶媒は、組成物(C)を懸濁液(S)に導入するのと同時にではなく、別の工程又は複数のプロセス工程にて導入されてもよい。ほとんどの場合、バインダ添加剤及び/又は分散剤及び/又は溶媒を導入する順序は、達成される技術的結果に何ら影響しない。
【0034】
組成物(C)は、充電中にリチウムと反応し、負極スラリー内に含まれる負極材料の活性成分である。また、これはシリコン若しくは酸化シリコン(SiOx)(式中、xは2以下の正の数である)の相、又は負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコン及び酸化シリコン(SiOx)の相の組合せである。酸化シリコン(SiOx)の相は、化学量論的な酸化シリコン(SiO2)と非化学量論的な酸化シリコンの両方を意味する。活性成分中、均一な化学組成物及び干渉性の結晶構造を有する粒子及びドメインを、多くの場合、参照文献にて「二次凝集体」又は「二次粒子」と称される結合凝集体へと凝集させる。好ましくは、最良の技術的結果を達成するためには、シリコン及び酸化シリコンの相の干渉性散乱ドメイン(coherent-scattering domain:CSD)のサイズとも称される干渉性の結晶構造を有するドメインのサイズは10nm未満である。ただし、技術的結果は、組成物(C)が例えばCSRの寸法が100nm超などの良好な結晶化相を含む場合にも達成され、更には機械的に粉砕された単結晶シリコンを使用する場合であっても達成され得ることに留意されたい。さらに好ましくは、加工性及び職業安全性(例えば、微細なダスト形成を回避する目的)に関して、シリコン及び酸化シリコンの粒子及びドメインが束ねられている凝集体のサイズは、5μm超の分布中央値(D50)を有する直径で分布している。ただし、比容量及び充放電サイクルの数の増加といった主要な技術的結果は、直径による二次凝集体の分布中央値(D50)が例えば1μm~3μmなど低い場合にも達成され得る。
【0035】
好ましくは、負極材料の活性成分はシリコン及び/又は酸化シリコンの凝集体表面を覆っている炭素も含有する。組成物(C)におけるC:Siの比率は、0.01超~0.1未満である。この組成物は、予め粉砕したシリコン及び/又は酸化シリコン表面への炭素のCVD堆積を含むがこれに限定されない、当該技術分野において既知の種々の方法により作製され得る。ただし、主要な技術的結果は、炭素を含まない組成物(C)を使用する場合にも達成され得る。炭素材料によるシリコン及び/又は酸化シリコン凝集体表面への被覆は、負極スラリーを作製するプロセス中に生じる。これはすなわち、組成物(C)と懸濁液(S)とを混合させた際に、5μm未満の束長を有する単層及び/又は二層カーボンナノチューブの短い束がシリコン及び/又は酸化シリコンの凝集体表面を被覆するというものである。
【0036】
懸濁液中のカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ及び/又は二層カーボンナノチューブを含まなくてはならない。懸濁液中のカーボンナノチューブは、壁のグラフェン層の数が2超である(すなわち、多層カーボンナノチューブ及び/又は二、三層のカーボンナノチューブ、並びに炭素の他のナノ繊維形態)ナノチューブもまた含んでもよい。本発明の技術的結果を達成するためには、束の長さが10μm超の束ねられた単層カーボンナノチューブ又は二層カーボンナノチューブの重量分率は、懸濁液中の全てのカーボンナノチューブのうち少なくとも5%であることが不可欠である。本発明の技術的結果を達成するためには、懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの束の数の流体力学的直径分布のモードが500nm未満であることもまた不可欠である。好ましくは、単層及び二層カーボンナノチューブは、構造的欠陥の数が少ない。単層及び二層カーボンナノチューブの構造の欠陥率又は完全性は、ラマンスペクトルのGバンド及びDバンドの比率で定量され得る。好ましくは、532nmの波長におけるラマンスペクトルのG/Dバンド比は5を超える。最も好ましくは、532nmの波長におけるラマンスペクトルのG/Dバンド比は50を超える。
【0037】
この方法のある特定の実施形態では、最良の技術的結果は、複合材料中のカーボンナノチューブの表面が、例えばヒドロキシル、カルボキシル、塩素含有官能基(-Cl、-O-Cl)、フッ素含有官能基を含むがこれらに限定されない、炭素よりも高いPaulingの電気陰性度を有する元素を含む官能基を含有する場合に達成される。かかる基が存在することで、活性成分の粒子へのカーボンナノチューブの良好な接着性が保証される。官能基は、当該技術分野で既知の種々の方法により、カーボンナノチューブ表面で生成され得る。例えば、カルボキシル官能基は、硝酸溶液中で熱処理することでカーボンナノチューブ表面に生成され得る。一方、塩素含有官能基は、開示[ロシア国特許出願公開第2717516号明細書、MCD TECH、2020年3月23日、IPC:C01B32/174,B82B3/00,B82B1/00]にて説明されている方法のうち1つにより生成され得るが、提供されている実施例に限定されない。カーボンナノチューブを官能化するための方法は、本発明の範囲外である。
【0038】
方法のある特定の実施形態では、最良の技術的結果は、懸濁液(S)が0.01重量%超~5重量%未満のカーボンナノチューブを水中に含有する場合に達成される。懸濁液は、追加で分散剤又はNa-カルボキシメチルセルロースを含むがこれらに限定されない、懸濁液作製に使用される界面活性剤を含有してもよい。
【0039】
この方法の他の実施形態では、最良の技術的結果は、懸濁液(S)が、0.01重量%超~5重量%未満のカーボンナノチューブを1.5D超の双極性モーメントを有する極性有機溶媒中に含有する場合に達成される。リチウムイオン電池に関する既存の製造プロセスとの適合性といった観点から、カーボンナノチューブを懸濁させる上で最も好ましい極性有機溶媒はn-メチルピロリドン(NMP)である。ただし、主要な技術的結果は、ジメチルアセトアミド又はジメチルスルホキシドを含むがこれらに限定されない、別の極性有機溶媒のカーボンナノチューブ懸濁液を使用する場合でも達成され得る。極性有機溶媒中の懸濁液は、追加で分散剤、又はポリビニルピロリドン若しくはポリフッ化ビニリデンを含むがこれらに限定されない、懸濁液作製に使用される界面活性剤を含有してもよい。
【0040】
本発明は、シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiOx、式中、xは2以下の正の数である)の相、又は負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコンの相と酸化シリコン(SiOx)の相との組合せである、50重量%超~99.9重量%未満の活性成分を含み、かつ負極スラリー中の全てのカーボンナノチューブのうち、5重量%超のカーボンナノチューブが10μm超の束の長さを有し、負極スラリー中のカーボンナノチューブの束の数の長さ分布のモードが5μm未満である、束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであることを特徴とする、0.1重量%超~20重量%超のカーボンナノチューブを含む、乾燥残留物を含む負極スラリーをも提供する。
【0041】
いくつかの用途では、好ましくは、負極スラリーはポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース又はそのLi塩若しくはそのNa塩、ポリアクリル酸又はそのLi塩若しくはそのNa塩、スチレンブタジエンゴム又はそのラテックス、フルオロエラストマー又はそのラテックスを含む群から選択される、1種以上の結合ポリマー物質を追加で含む。負極スラリーは、カルボキシメチルセルロース又はそのLi塩若しくはそのNa塩、又はポリアクリル酸又はそのLi塩若しくはそのNa塩、又はポリビニルピロリドンを含む群から選択される1種以上の分散剤をさらに含んでもよい。
【0042】
最良の技術的結果を達成するためには、いくつかの用途では、負極スラリーは好ましくは、カーボンブラック、グラファイト、周期表の第8族~第11族の金属(鉄、ニッケル、銅、銀を含むがこれらに限定されない)を含むがこれらに限定されない、カーボンナノチューブとはその組成及び構造で異なる1種以上の導電性添加剤をさらに含んでもよい。周期表の第8族~第11族の金属はまた、当該ナノチューブを作製する方法により、炭素の懸濁液中に存在する不純物として負極スラリーに導入されてもよい。
【0043】
本発明は、(1)シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiOx)(式中、xは2以下の正の数である)の相、又はかかる相の組合せであって、当該相の組合せ中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満である相の組合せを含む組成物(C)を、0.01重量%~5重量%のカーボンナノチューブを含む液相懸濁液(S)に導入する工程であって、懸濁液(S)中の全てのカーボンナノチューブのうち、5重量%超のカーボンナノチューブが、10μm超の束長を有する束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであり、懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの束の数の流体力学的直径分布のモードが500nm未満である、工程;(2)均一なスラリーが得られるまで懸濁液(S)中の組成物(C)の混合物を混合させる工程;(3)得られたスラリーを集電体上に塗工する工程;(4)塗工されたスラリーを乾燥させて負極を形成する工程;並びに(5)必要な密度に負極を圧縮する工程、の一連の工程を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池の負極を作製するための方法をも提供する。
【0044】
本発明はまた、(1)集電体に上で説明された負極スラリーを塗工する工程;(2)塗工されたスラリーを乾燥させ、負極を形成する工程;及び(3)必要な密度に負極を圧縮する工程、の一連の工程を含むことを特徴とする、リチウムイオン電池用の負極を作製するための方法を提供する。
【0045】
本発明は、上で説明された方法のうちいずれかに従い作製されていることを特徴とする、リチウムイオン電池用の負極をも提供する。
【0046】
本発明は、シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiOx、式中、xは2以下の正の数である)の相、又は負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコンの相と酸化シリコン(SiOx)の相との組合せである、50重量%超~99.9重量%未満の高濃度の活性成分を含み、並びに負極材料中の全てのカーボンナノチューブのうち、5重量%超のカーボンナノチューブが10μm超の束の長さを有し、負極中のカーボンナノチューブの束の数の長さ分布のモードが5μm未満である、束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであることを特徴とする、0.1重量%超~20重量%超のカーボンナノチューブを含む、負極材料を含むリチウムイオン電池用の負極をも提供する。
【0047】
本発明は、シリコンの相若しくは酸化シリコン(SiOx、式中、xは2以下の正の数である)の相、又は負極材料中の酸素:ケイ素含有量の総原子比率が0超~1.8未満であるシリコンの相と酸化シリコン(SiOx)の相との組合せである、50重量%超~99.9重量%未満の高濃度の活性成分を含み、並びにリチウムイオン電池の負極中の全てのカーボンナノチューブのうち、5重量%超のカーボンナノチューブが10μm超の束の長さを有し、リチウムイオン電池の負極中のカーボンナノチューブの束の数の長さ分布のモードが5μm未満である、束ねられた単層及び/又は二層カーボンナノチューブであることを特徴とする、0.1重量%超~20重量%超のカーボンナノチューブを含む、負極材料を含むリチウムイオン電池をも提供する。
【0048】
本発明は、添付の図面及び実施例により示される。これは例示のみのために提供されており、本発明の可能な用途を制限しようと意図するものではない。便宜上、提供された実施例の情報は表にも提供されている。
【0049】
【0050】
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】実施例1で使用される組成物(C)のX線回折パターンを示す。
【
図2】実施例1、実施例3及び実施例8で使用される懸濁液(S)の顕微鏡写真を示す。
【
図3】遠心分離によりナノチューブの長い束を沈殿させた後の、実施例1、実施例3及び実施例8で使用される懸濁液(S)の顕微鏡写真を示す。
【
図4】実施例1、実施例3及び実施例8(円)で使用される懸濁液(S)中、実施例2(四角)で使用される懸濁液(S)中、並びに実施例9(三角)で使用される懸濁液(S)中の、粒子(ナノチューブ及びそれらの束)の数の流体力学的直径分布に関するDLSデータを示す。
【
図5】充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する、実施例1の負極の比容量の依存性を示す。
【
図6】充放電サイクル(充電電流及び放電電流:46mA)の数に対する、その初期容量を参照した実施例1のリチウムイオン電池の容量を示す。
【
図7】実施例2で使用される懸濁液(S)の顕微鏡写真を示す。
【
図8】遠心分離によりナノチューブの長い束を沈殿させた後の、実施例2で使用される懸濁液(S)の顕微鏡写真を示す。
【
図9】充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する、実施例2の負極の比容量を示す。
【
図10】実施例4で使用される懸濁液の乾燥残留物の電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【
図11】実施例6で使用される懸濁液の乾燥残留物のエネルギー分散型スペクトル(Energy dispersion spectrum:EDS)を示す。
【
図12】実施例7で使用される懸濁液(S)の顕微鏡写真を示す。
【
図13】充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する、実施例7の負極の比容量を示す。
【
図14】充放電サイクル(充電電流及び放電電流:37.5mA)の数に対する、その初期容量を参照した実施例7のリチウムイオン電池の容量を示す。
【
図15】充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する、実施例8の負極の比容量を示す。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0052】
本発明の好ましい実施形態である。
【実施例1】
【0053】
非晶質炭素の層で覆われたシリコンの相及び酸化シリコンの相を含む組成物(C)の粉体を使用し、負極スラリーを作製した。組成物(C)の粒子サイズ分布分析によって、6.2μmの粉体粒子径の中央値を得る。
図1にこの組成物のX線回折パターンを示す。これらのデータは、組成物が、干渉性散乱ドメインのサイズが5.0nmであるSiの相(粉体回折ファイル27-1402)及び干渉性散乱ドメインのサイズが1.5nmである非晶質SiO
xの相(20~23°の領域におけるブロード最大値は、クリストバライト(christobalite)、SiO
2の構造にとって最も強度が高い回折線である)を含むことを示唆し得る。昇温させながら酸素流れにより温度プログラム酸化させた間の組成物(C)の試料重量の変化に関するデータは、非晶質炭素が組成物の2.6重量%を占める(700℃で重量損失)一方、化学量論SiO
2に対する酸素不足が、組成物(C)の初期重量の14重量%である(200~1400℃の範囲で重量増加)ことを実証している。したがって、当該相の組合せにおける酸素:ケイ素含有量の総原子比率は1.55である。組成物(C)のC:Siの重量比は0.048である。
【0054】
1.2~2.1nmの直径及び1.6nmの平均径(懸濁液の乾燥残留物のTEMを使用し、さらに懸濁液の光吸収スペクトル中の吸収バンドS1-1の位置から、直径を決定した)を有する単層カーボンナノチューブ(SWCNT)Tuball(登録商標)の水性懸濁液(S)を使用し、負極スラリーを作製した。波長532nmでのラマン分光法により、1580cm-1にて単層カーボンナノチューブに特有の顕著なGバンドが、並びに1330cm-1にて炭素の他の同素体変化及び単層カーボンナノチューブの欠陥に特有の顕著なDバンドが示された。G/Dバンドの強度比は75である。懸濁液中のSWCNT濃度は0.4重量%である。この懸濁液は、分散剤として0.6重量%のNa-カルボキシメチルセルロース(CMC)をも含む。
【0055】
懸濁液(S)と8000gで1時間にわたり遠心分離することで沈殿させて長い束を除去した後の懸濁液との500nmでの光学密度を比較することで、10μm超の長さを有する束中に含有されているカーボンナノチューブの割合を決定した。ガラス間に配置された懸濁液の顕微鏡写真を
図2に示す。顕微鏡写真は、最大で2μmの厚さ及び10~50μmの長さを備えるカーボンナノチューブの長い束をはっきりと示している。光学密度を決定するため、懸濁液中0.001重量%のSWCNT濃度になるまで懸濁液を水で希釈した(400倍)。沈殿前、懸濁液中0.01重量%のSWCNT濃度まで懸濁液を水で希釈した(40倍)。遠心分離による沈殿後の懸濁液の顕微鏡写真を
図3に示す。顕微鏡写真はカーボンナノチューブの長い束が存在しないことを示す。10mmの光路長で、400倍に希釈した懸濁液(SWCNT)の光学密度は0.56である。これは、0.38重量%の懸濁液(S)のSWCNT濃度に相当する。40倍に希釈し、沈殿に供され、続けてさらに10倍に希釈した懸濁液(S)の光学密度は0.45である。これは、0.31重量%の懸濁液(S)のSWCNT濃度に相当する。したがって、10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束におけるカーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち19重量%である。
【0056】
0.001重量%のSWCNT濃度に希釈した懸濁液(S)を動的光散乱法(DLS)にかけることにより、カーボンナノチューブの束の数のサイズ分布を決定した。Malvern製のZetasizer ZS装置を使用したDLSにより得られた、懸濁液(S)中の粒子(ナノチューブ及びそれらの束)の数の流体力学的直径分布を、円形マーカを付けた曲線により
図4に示す。
図4のデータを基にすると、ナノチューブの束の数のサイズ分布は二峰性であり、流体力学的直径は100~700nm及び4~6μmの範囲に存在する。分布の第2のモードは、10μm超の長さを有するナノチューブの束に相当する。このナノチューブの束の重量分率は、上に説明される通り、約19重量%であると決定された。第1の最大値モードは、確実に7μm未満(10×700nm未満)の長さを有する束に相当している。この最大値は、Dhm=400nmでのモードを有する、束の数の流体力学的直径の対数正規分布で説明される。これは不等式(4)によれば、2μm<L
m<4μmを意味する。
【0057】
懸濁液(S)75gを150cm3のビーカーに入れ、続いて組成物(C)9gを加え、ディスクインペラを備えたオーバーヘッドスターラを使用し、2000rpmのインペラ回転速度で2時間混合した。続いて20重量%のブタジエンスチレンラテックス1.25gを加え、同じ条件でさらに15分、さらに混合した後に均一な負極スラリーを得た。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、90重量%の活性成分、3重量%のカーボンナノチューブ、4.5重量%のCMC、及び2.5重量%のブタジエンスチレンゴムを含む。得られたスラリー中、19重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4μmの長さで、より強度の高いモードを有する。
【0058】
負極を作製するため、ドクターブレードを使用して銅箔上に得られた負極スラリーを塗工し、40℃で1時間乾燥させ、5tの力にてカレンダーでコンパクト化し、負極材料の密度を1.2g/cm3とした。負極上の活物質の負荷は2.2mg/cm2である。負極材料を有する箔から17.5cm2の面積の負極を切断し、これにニッケルリードを溶接した。負極スラリーに導入したもの以外には、負極へとカーボンナノチューブを導入しなかった。したがって、負極中の19重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4μm未満の束の長さで、より強度の高い分布のモードを有する。
【0059】
負極特性を決定するため、Li正極と、Li参照電極と、5v/v%の炭酸ビニルを添加した体積比1:1:1の炭酸プロピレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチルの溶媒混合物中、1MのLiPF
6を使用した電解質とを含むセルを組み立てた。充電電流2A/gでの負極材料の初期比容量は、負極材料の1296mAh/gである。充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する比容量を
図5に示す。負極は、最初の50回のサイクル中には、その比容量を損なわない(1318mAh/g)。500回のサイクル後では、負極の比容量は1050mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の80%超である。
【0060】
作製された負極、及び16mg/cm
2の負荷でNi:Co:Mnの原子比率が6:2:2である活物質であるニッケルマンガンコバルト酸化物(nickel-cobalt manganese oxide:NCM)として有する正極からリチウムイオン電池を組み立てた。負極に10μmのリチウム箔を配置し、初期サイクルのクーロン効率を増加させた。25μmの厚さのポリプロピレン製セパレータを使用した。5v/v%の炭酸ビニルを加えた、体積比が炭酸プロピレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチル=1:1:1の溶媒混合物中、1M LiPF
6溶液を電解質として使用した。0.1Cの放電電流では、この電池の初期容量は46.5mAhであった。充放電サイクル(充電電流:46mA、放電電流:46mA)の数への初期容量を参照した、容量の依存度を
図6に示す。電池は最初の50回のサイクル中には、その容量を失わない(99.6%)。500回のサイクル後、電池の容量は39mAhである。これはすなわち、初期容量の83.5%超である。
【実施例2】
【0061】
実施例1と同様に、組成物(C)の粉体を使用し、負極スラリーを作製した。分散剤であるBYK-LP N24710を用いて、n-メチルピロリドン中、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)Tuball(登録商標)の懸濁液(S)を使用し、負極スラリーを作製した。SWCNT径は、1.49nmの平均径で1.2~2.1nmの範囲で分布していた(懸濁液の乾燥残留物のTEMを使用し、さらに懸濁液の光吸収スペクトル中の吸収バンドS1-1の位置から、直径を決定した)。波長532nmでのラマン分光法により、1580cm-1にて単層カーボンナノチューブに特有の顕著なGバンドが、並びに1330cm-1にて炭素の他の同素体変化及び単層カーボンナノチューブの欠陥に特有の顕著なDバンドが示された。G/Dバンドの強度比は64である。懸濁液中のSWCNT濃度は0.4重量%である。分散剤であるBYK-LP N24710の濃度は0.8重量%である。
【0062】
懸濁液(S)と8000gで1時間にわたり遠心分離することで沈殿させて長い束を除去した後の懸濁液との500nmでの光学密度を比較することで、10μm超の長さを有する束中に含有されているカーボンナノチューブの割合を決定した。ガラス間に配置された懸濁液の顕微鏡写真を
図7に示す。顕微鏡写真は、最大で2μmの厚さ及び10~50μmの長さを備えるカーボンナノチューブの長い束をはっきりと示している。光学密度を決定するため、懸濁液中0.001重量%のSWCNT濃度まで懸濁液をn-メチルピロリドンで希釈した(400倍で希釈)。沈殿前、懸濁液中0.01重量%のSWCNT濃度まで懸濁液をn-メチルピロリドンで希釈した(40倍で希釈)。遠心分離による沈殿後の懸濁液の顕微鏡写真を
図8に示す。顕微鏡写真はカーボンナノチューブの長い束が存在しないことを示す。10mm厚さのキュベットでの、400倍に希釈した懸濁液(SWCNT)の光学密度は0.56である。これは、0.38重量%の懸濁液(S)のSWCNT濃度に相当する。40倍に希釈し、沈殿に供され、続けてさらに10倍に希釈した懸濁液(S)の光学密度は0.30である。これは、0.21重量%の懸濁液(S)のSWCNT濃度に相当する。したがって、10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束におけるカーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち約54重量%である。
【0063】
400倍に希釈した懸濁液(S)を動的光散乱法(DLS)にかけることにより、カーボンナノチューブの束の数のサイズ分布を決定した。Malvern製のZetasizer ZS装置を使用したDLSにより得られた、懸濁液(S)中の粒子(ナノチューブ及びそれらの束)の数の流体力学的直径分布を、正方形マーカを付けた曲線により
図4に示す。
図4のデータを基にすると、ナノチューブの束の数のサイズ分布は二峰性であり、流体力学的直径は100~700nm及び4~8μmの範囲に存在する。分布の第2のモードは、10μm超の長さを有するナノチューブの束に相当する。このナノチューブの束の重量分率は、上に説明される通り、約54重量%であると決定された。第1のモードは、確実に8μm未満(10×800nm未満)の長さを有する束に相当している。この最大値は、D
hm=370nmでのモードを有する、束の数の流体力学的直径の対数正規分布で説明される。これは不等式(4)によれば、2.25μm<L
m<3.7μmを意味する。
【0064】
NMP懸濁液(S)400gを800mLの体積を有するガラス製ビーカーに入れ、組成物(C)47.7gを加え、ディスクインペラを備えたオーバーヘッドスターラを使用し、2000rpmのインペラ回転速度で30分間混合させた。さらに2時間、同じ条件で混合させながらポリフッ化ビニリデン0.53gを添加し、均一な負極スラリーを得た。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、90重量%の活性成分、3重量%のカーボンナノチューブ、6重量%の分散剤であるBYK-LP N24710、及び1重量%のポリフッ化ビニリデンを含む。得られたスラリー中、60重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、3.7μm未満の長さで、より強度の高いモードを有する。
【0065】
負極を作製するため、ドクターブレードを使用して銅箔上に得られた負極スラリーを塗工し、110℃で1時間乾燥させ、5tの力にてカレンダーでコンパクト化し、負極材料の密度を1.3g/cm3とした。負極上の活物質の負荷は2.4mg/cm2である。負極材料を有する箔から17.5cm2の面積の負極を切断し、これにニッケルリードを溶接した。負極スラリーに導入したもの以外には、負極へとカーボンナノチューブを導入しなかった。したがって、負極中の54重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、3.7μm未満の束の長さで、より強度の高い分布のモードを有する。
【0066】
負極特性を決定するため、Li正極と、Li参照電極と、5v/v%の炭酸ビニルを添加した、体積比が炭酸プロピレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチル=1:1:1の溶媒混合物中、1M LiPF
6溶液を使用した電解質とを含む、セルを組み立てた。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の1079mAh/gである。充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する比容量を
図9に示す。負極は、最初の50回のサイクル中には、その比容量を損なわない(1116mAh/g)。500回のサイクル後、負極の比容量は868mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の80%超である。
【実施例3】
【0067】
実施例1と同様に負極スラリーを作製した。ただし、組成物(C)としては、CSRの寸法が60nmであり、粉体粒子径の重量分布の中央値が2.5μmである分散されたシリコン粉体を使用し、この組成物(C)とともに溶媒、水及びNa-カルボキシメチルセルロース分散剤を懸濁液に導入した。懸濁液(S)への導入前に、Na-カルボキシメチルセルロース溶液で組成物(C)を湿潤させ、微細なシリコンダストが作業箇所の空気中へと入り込むのを防止した。昇温させながら酸素流れにより温度プログラム酸化させる過程中の組成物(C)の試料重量の変化に関するデータに基づいて言うと、使用されるシリコン粉体は部分的に酸化されており、X線非晶質酸化シリコンを含有している。化学量論SiO2に対する酸素不足は、組成物(C)の初期重量の10.4重量%である(200~1400℃の温度範囲での重量増加)。したがって、当該相の組合せにおける酸素:ケイ素含有量の総原子比率は0.09である。
【0068】
濃度が0.1重量%のNa-カルボキシメチルセルロース水溶液10gで予め湿潤させた粉体(C)2.0gを、懸濁液(S)30gへと導入し、均一なスラリーを得るまで混合した。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、86.3重量%の活性成分、8.3重量%のNa-カルボキシメチルセルロース、及び5.3重量%のカーボンナノチューブを含む。得られたスラリー中、19重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は、束の長さによって二峰で分布しており、400nmの流体力学的直径でより強度の高いモードを有する。
【0069】
実施例1と同様に、得られた負極スラリーから負極を作製した。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の1160mAh/gである。50回の充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)後、負極の比容量は1115mAh/gである。500回のサイクル後、負極の比容量は970mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の83%超である。負極中の19重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4μm未満の束の長さで、より強度の高い分布のモードを有する。
【0070】
実施例1と同様に、作製された負極を使用し、リチウムイオン電池を製造した。0.1Cの放電電流では、この電池の初期容量は44.8mAhであった。最初の50回の充放電サイクル(充電電流:45mA、放電電流:45mA)中には、電池はその容量を失わない(99.0%)。500回のサイクル後、電池の容量は37mAhである。これはすなわち、初期容量の82.5%超である。
【実施例4】
【0071】
実施例1と同様に負極スラリーを作製した。ただし、懸濁液(S)としては、1.2~2.8nmの径及び1.8nmの平均径(懸濁液の乾燥残留物のTEMを使用し、ラマンスペクトル中のブリージングモードのバンド位置から直径を決定した)を有する単層及び二層カーボンナノチューブの混合物の水性懸濁液を使用し、組成物(C)を懸濁液(S)に導入する工程後、スチレンブタジエンゴムのラテックスを混合物に加え、得られた混合物を混合して均一なスラリーを得た。ラマンスペクトルのG/Dバンドの強度比は34である。単層カーボンナノチューブとともに束ねられた二層カーボンナノチューブが存在していることは、
図10に示されている電子顕微鏡写真で確認される。水性懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの濃度は0.05重量%である。この懸濁液は、分散剤として0.1重量%のLi-カルボキシメチルセルロース(Li-CMC)をも含む。
【0072】
10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束におけるカーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち12重量%である。DLSデータを基にすると、ナノチューブの束は、360nm及び約6μmでの流体力学的直径のモードを有し、二峰で分布している(第2の最大値は非常に弱い)。
【0073】
組成物(C)2.0gと、20重量%のブタジエンスチレンゴムのラテックス0.3gとを懸濁液(S)30gに同時に加え、均一なスラリーが得られるまで混合した。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、94.9重量%の活性成分、2.9%のカーボンナノチューブのスチレンブタジエンゴム、1.47%のLi-カルボキシメチルセルロース、及び0.73重量%のカーボンナノチューブを含む。得られたスラリー中、12重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層及び二層カーボンナノチューブである。単層及び二層カーボンナノチューブの束は束の長さによって二峰で分布しており、3.6μmの長さで、より強度の高いモードを有する。
【0074】
実施例1と同様に、得られた負極スラリーから負極を作製した。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の1481mAh/gである。50回の充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)後、負極の比容量は1284mAh/gである。500回のサイクル後、負極の比容量は1193mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の80%未満である。負極中の12重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層及び二層カーボンナノチューブである。単層及び二層カーボンナノチューブの束は束の長さによって二峰で分布しており、3.6μmの長さで、より強度の高い分布モードを有する。
【実施例5】
【0075】
実施例2と同様に負極スラリーを作製した。ただし、n-メチルピロリドン(NMP)中、単層及び多層カーボンナノチューブの混合物の懸濁液を懸濁液(S)として使用し、組成物(C)の懸濁液(S)への導入と同時にポリアクリル酸のLi塩のNMP溶液を加え、得られた混合物を混合し、均一なスラリーを得た。懸濁液(S)中の単層カーボンナノチューブの濃度は0.4重量%であり、多層カーボンナノチューブの濃度は3.0重量%である。単層カーボンナノチューブの平均径は1.6nmであり、多層カーボンナノチューブの平均径は10nmである(懸濁液の乾燥残留物のTEMを使用し、単層カーボンナノチューブに関しては、ラマンスペクトルのラジアルブリージングモード(radial breathing mode:RBM)の位置からも直径を決定した)。懸濁液の乾燥残留物のラマンスペクトルのG/Dバンドの強度比は7である。懸濁液は、分散剤として1.0重量%のポリビニルピロリドン(PVP)をも含有する。
【0076】
懸濁液(S)と、遠心分離することで沈殿させて長い束を除去した後の懸濁液との500nmでの光学密度を比較することで決定された、10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束中の単層カーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち6重量%である。DLSデータを基にすると、懸濁液中の粒子は、300nmの流体力学的直径でのモードではブロードな非対称の単峰性分布を有する。
【0077】
組成物(C)7.0gと、3重量%のポリアクリル酸のLi塩(Li-PA)のNMP溶液10.0gとを、懸濁液(S)30gに同時に加え、混合物を混合して均一なスラリーを得た。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、80.8重量%の活性成分及び12.1重量%のカーボンナノチューブを含む。得られたスラリー中、6重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。負極スラリーのカーボンナノチューブの束は長さにより分布しており、3μm未満の束の長さのモードを有する。
【0078】
実施例2と同様に、得られた負極スラリーから負極を作製した。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の963mAh/gである。50回の充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)後、負極の比容量は928mAh/gである。500回のサイクル後、負極の比容量は795mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の82%未満である。負極中の6重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。負極中のカーボンナノチューブの束は長さにより分布しており、3μm未満の束の長さのモードを有する。
【実施例6】
【0079】
実施例2と同様に負極スラリーを作製した。ただし、塩素を含有する官能基と酸素を含有する官能基を含む表面を有する単層カーボンナノチューブのジメチルアセトアミド(DMAA)懸濁液を懸濁液(S)として使用し、組成物(C)を懸濁液(S)へと導入する工程後、分散剤ポリビニルピロリドンを得られた混合物に加え、続いて得られた混合物を混合し、均一なスラリーを得た。懸濁液は、n-メチルピロリドン中に0.6重量%の単層カーボンナノチューブを含有する。エネルギー分散型分光法(energy dispersive spectroscopy:EDS)による元素分析の結果によれば、懸濁液の乾燥残留物は97.1重量%の炭素、2.2重量%の酸素、0.27重量%の鉄、及び0.47重量%の塩素を含む。修飾された材料のEDSスペクトルを
図11に提供する。したがって、懸濁液(S)中のカーボンナノチューブの表面は、0.47重量%超の塩素を含有する官能基及び2.2重量%超の酸素を含有する官能基を含む。
【0080】
光波長532nmのラマン分光法結果によれば、GモードとDモードの積分強度比は97である。単層カーボンナノチューブは、平均径1.6nmで、1.2~2.8nmの範囲の直径により分布している(懸濁液の乾燥残留物のTEMを使用し、さらにラマンスペクトル中のブリージングモードのバンド位置から直径を決定した)。
【0081】
懸濁液(S)と、遠心分離することで沈殿させて長い束を除去した後の懸濁液との500nmでの光学密度を比較することで決定された、10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束中のカーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち28重量%である。DLSデータを基にすると、カーボンナノチューブの束は、420nmのモード(より強度の高いモード)及び6.5μm(より強度の低いモード)で流体力学的直径により二峰で分布する。
【0082】
組成物(C)2.0gを懸濁液(S)30gに加えて混合し、続いて5重量%のポリビニルピロリドンのDMAA溶液(1.5g)を混合物に加え、均一なスラリーを得るまで混合した。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、88.4重量%の活性成分、3.4重量%のポリビニルピロリドン、及び8.2重量%の単層カーボンナノチューブを含む。得られたスラリー中、28重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。負極スラリー中の単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4.2μm未満の長さで、より強度の高いモードを有する。
【0083】
実施例2と同様に、得られた負極スラリーから負極を作製した。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の1122mAh/gである。50回の充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)後、負極の比容量は1081mAh/gである。500回のサイクル後、負極の比容量は931mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の83%未満である。得られたスラリー中、28重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。負極中の単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4.2μm未満の長さで、より強度の高いモードを有する。
【実施例7】
【0084】
実施例2と同様に負極スラリーを作製した。ただし、フッ素で修飾した0.25重量%の単層カーボンナノチューブのn-メチルピロリドン懸濁液を懸濁液(S)として使用し、(S)を組成物(C)と混合した後、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の粉体を混合物に加えた。懸濁液中の単層カーボンナノチューブをフッ素で修飾した。TEMデータを基にすると、懸濁液中のカーボンナノチューブは平均径1.5nmを有する単層である。これは光吸収スペクトル中の吸収バンドS1-1の位置のデータによっても確認される。X線光電子分光法(X-Ray Photoemission Spectroscopy:XPS)のデータを基にすると、カーボンナノチューブ中のフッ素の重量分率は14%であり、酸素の重量分率は7%であり、残りは炭素である。波長532nmのラマンスペクトルのG/D比は2.4である。G/D値が非常に低いということは、フッ素含有官能基を含むSWCNT表面が高度に官能化していることをも示している。
【0085】
懸濁液(S)の顕微鏡写真を
図12に提供する。懸濁液(S)と、遠心分離することで沈殿させて長い束を除去した後の懸濁液との500nmの波長での光学密度を比較することで決定された、10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束中のカーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち9重量%である。DLSデータを基にすると、カーボンナノチューブの束は、370nmのモード(より強度の高いモード)及び4.8μm(より強度の低いモード)で流体力学的直径により二峰で分布する。
【0086】
懸濁液(S)30gを100cm3のビーカーに入れ、続いて組成物(C)2.375gを加え、ディスクインペラを備えたオーバーヘッドスターラを使用し、2000rpmのインペラ回転速度で0.5時間混合した。続いてポリフッ化ビニリデン粉体50mgを加え、同じ条件下でさらに2時間、均一なスラリーを得るまで混合した。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、95重量%の活性成分、3重量%のカーボンナノチューブ、2重量%のポリフッ化ビニリデンを含む。得られたスラリー中、9重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は束の長さによって二峰で分布しており、3.7μm未満の束の長さで、より強度の弱いモードを有する。
【0087】
実施例2と同様に、得られた負極スラリーから負極を作製した。負極上の活物質の負荷は2.4mg/cm2である。負極材料を有する箔から17.5cm2の面積の負極を切断し、これにニッケルリードを溶接した。負極スラリーに導入したもの以外には、負極へとカーボンナノチューブを導入しなかった。したがって、得られたスラリー中、9重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は束の長さによって二峰で分布しており、3.7μm未満の束の長さで、より強度の弱いモードを有する。
【0088】
負極特性を決定するため、Li正極と、Li参照電極と、5v/v%の炭酸フルオロエチレンを添加した体積比が炭酸プロピレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチル=1:1:1の溶媒混合物中、1M LiPF
6溶液を使用した電解質とを含む、セルを組み立てた。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の1257mAh/gである。充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する比容量を
図13に示す。最初の50回のサイクル中には、負極の比容量は1257mAh/gから1302mAh/gに上昇する。500回のサイクル後、負極の比容量は1117mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の88%未満である。
【0089】
14mg/cm
2の負荷の活物質として、得られた負極、及びリン酸リチウム第一鉄(LFP、LiFePO
4)を有する正極からリチウムイオン電池を組み立てた。負極に10μmのリチウム箔を配置し、初期サイクルのクーロン効率を増加させた。25μmの厚さのポリプロピレン製セパレータを使用した。5v/v%の炭酸フルオロエチレンを加えた、体積比が炭酸プロピレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチル=1:1:1の溶媒混合物中、1M LiPF
6溶液を電解質として使用した。0.1Cの放電電流では、この電池の初期容量は37.5mAhであった。充放電サイクル(充電電流及び放電電流:37.5mA)の数に対する初期容量を参照した容量を、
図14に示す。最初の200回のサイクル中には、この電池はその容量を幾分か増加させている。500回のサイクル後、電池の容量は37.5mAhである。これはすなわち、初期容量の100%である。
【実施例8】
【0090】
実施例1と同様に負極スラリーを作製した。ただし、組成物(C)を懸濁液(S)に加えて混合した後、追加でグラファイトを導入して混合した。スチレンブタジエンラテックスをさらに加え、その後均一なスラリーを得るまでこれを混合した。
【0091】
懸濁液(S)225gを400cm3のビーカーに入れ、続いて組成物(C)13.5gを加え、ディスクインペラを備えたオーバーヘッドスターラを使用し、2000rpmのインペラ回転速度で0.5時間混合した。続いて3m2/gのBET比表面を有する13.5gのグラファイトを加えて2時間混合し、続いて20重量%のスチレンブタジエンラテックス3.5gを加え、同じ条件下でさらに2時間、均一なスラリーを得るまで混合した。得られた負極スラリーの乾燥残留物は、50.1重量%の組成物(C)、3重量%のカーボンナノチューブ、40重量%のグラファイト、4.5重量%のカルボキシメチルセルロース、及び2.3重量%のスチレンブタジエンゴムを含む。得られたスラリー中、19重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4μm未満の長さで、より強度の高いモードを有する。
【0092】
負極を作製するため、ドクターブレードを使用して銅箔上に得られた負極スラリーを塗工し、50℃で1時間乾燥させ、7tの力にてカレンダーでコンパクト化し、負極材料の密度を1.4g/cm3とした。負極上の活物質の負荷は3.2mg/cm2である。負極材料を有する箔から17.5cm2の面積の負極を切断し、これにニッケルリードを溶接した。負極スラリーに導入したもの以外には、負極へとカーボンナノチューブを導入しなかった。したがって、負極中の19重量%のカーボンナノチューブは、10μm超の束の長さを有する、束ねられた単層カーボンナノチューブである。負極中の単層カーボンナノチューブの束は長さによって二峰で分布しており、4μm未満の長さで、より強度の高いモードを有する。
【0093】
負極特性を決定するため、Li正極と、Li参照電極と、3v/v%の炭酸ビニルを添加した、体積比が炭酸プロピレン:炭酸エチルメチル:炭酸ジメチル=1:1:1の溶媒混合物中、1M LiPF
6溶液を使用した電解質とを含む、セルを組み立てた。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の634mAh/gである。充放電サイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)の数に対する比容量を
図15に示す。最初の300回のサイクル中には、この負極の比容量は最大で670~690mAh/gに増加する。500回のサイクル後、負極の比容量は581mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の91%未満である。
【実施例9】
【0094】
(比較例)
実施例1と同様に負極スラリーを作製した。ただし、10μm超の長さを有する単層カーボンナノチューブの長い束をほぼ含有しない、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)Tuball(登録商標)の水性懸濁液(S)を使用した。光学顕微鏡法によるデータは、かかる束が有意な量存在しないことを示しており、光学顕微鏡では可視できる繊維状粒子を示さない。同様にDLSデータは、800nm超の流体力学的直径を有する粒子を示さない。これはすなわち、DLSデータを基にすると、懸濁液中で約90nm~380nmの流体力学的直径の範囲でモードを有する二峰性粒子分布を観察しており、より強度が低いモードは、個々のカーボンナノチューブ及び非常に薄い束に対応している可能性がある。一方、第2のモードは6μm未満の長さを有するカーボンナノチューブの束に対応しているということである。カーボンナノチューブの束の長さ分布のうち、より大きいモードは3.8μm未満である。三角形のマーカを付けた曲線による懸濁液(S)のDLS曲線を、
図1に提供する。
【0095】
懸濁液(S)と、実施例1と同様に遠心分離することで沈殿させて長い束を除去した後の懸濁液との500nmでの光学密度を比較することで、10μm超の長さを有する束中に含有されているカーボンナノチューブの割合を決定した。10mmの光路長での、400倍に希釈した懸濁液(SWCNT)の光学密度は0.58である。これは、0.39重量%の懸濁液(S)のSWCNT濃度に相当する。400倍に希釈し、沈殿に供された懸濁液(S)の光学密度は0.56である。これは、0.38重量%の懸濁液(S)のSWCNT濃度に相当する。したがって、10μm超の長さを有するカーボンナノチューブの長い束におけるカーボンナノチューブの割合は、懸濁液中のカーボンナノチューブの総量のうち3重量%未満である。
【0096】
この懸濁液(S)の乾燥残留物のG/Dバンドの強度比は87である。実施例1のように、懸濁液中のSWCNT濃度は0.4重量%である。また、この懸濁液は分散剤として0.6重量%のNa-カルボキシメチルセルロース(CMC)をも含有する。
【0097】
実施例1のように、得られた負極スラリーの乾燥残留物は、90重量%の活性成分、3重量%のカーボンナノチューブ、4.5重量%のNa-CMC、及び2.5重量%のブタジエンスチレンゴムを含む。
【0098】
この試験のための負極製造及びセル組立ての手順は、実施例1と同様であった。負極材料の充電電流2A/gの初期比容量は、負極材料の1241mAh/gである。これは、実施例1による負極容量に非常に近似している。ただし、既に50回のサイクル(充電電流:2A/g、放電電流:1A/g)により、負極の比容量は1056mAh/gに低下する。500回のサイクル後、負極の比容量は712mAh/gである。これはすなわち、初期比容量の58%未満である。したがって、懸濁液(S)中にカーボンナノチューブの長い束が存在しないということは、その初期容量の20%を失うまで負極が継続させるサイクル数に悪影響を与える。懸濁液(S)中に10μM超の長さのカーボンナノチューブの束が存在するということは、請求される技術的結果を達成するためには必要である。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、電気技術産業、より具体的にはリチウムイオン電池、シリコン含有負極(アノード)を備えたリチウムイオン電池の作製、及びリチウムイオン電池用の負極の作製に使用することができる。
引用文献一覧
【0100】
引用参照文献一覧
特許文献
【0101】
特許文献1:米国特許第8263265号明細書
【0102】
特許文献2:米国特許第8617746号明細書
【0103】
特許文献3:欧州特許第2755263号明細書
【0104】
特許文献4:米国特許第8697286号明細書
【0105】
特許文献5:ロシア国特許出願公開第2717516号明細書
非特許文献
【0106】
非特許文献1:N.Nair,W.Kim,R.D.Braatz,M.S.Strano,“Dynamics of Surfactant-Suspended single-walled Carbon Nanotubes in a Centrifugal Field” Langmuir,2008,Vol.24,pp.1790-1795,doi:10.1021/la702516u
【0107】
非特許文献2:J.Gigault,I.Le He´cho,S.Dubascoux,M.Potin-Gautier,G.Lespes Single-walled carbon nanotube length determination by asymmetrical-flow field-flow fractionation hyphenated to multi-angle laser-light scattering.J.Chromatogr.A,2010,Vol.1217,pp.7891-7897
【国際調査報告】