(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-27
(54)【発明の名称】耐糖能異常及びその関連疾患の予防及び治療における使用のためのO-アセチルセリン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/221 20060101AFI20231020BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231020BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20231020BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20231020BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231020BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20231020BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231020BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20231020BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20231020BHJP
C07C 229/22 20060101ALI20231020BHJP
【FI】
A61K31/221
A61P3/10
A61K47/12
A61K47/46
A61K47/42
A61K47/24
A61K9/14
A61K9/48
A23L33/175
C07C229/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023521308
(86)(22)【出願日】2021-10-07
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2021077779
(87)【国際公開番号】W WO2022074154
(87)【国際公開日】2022-04-14
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505129079
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・ドゥ・ルシェルシュ・プール・ラグリキュルテュール,ラリマンタシオン・エ・ランヴィロンヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE RECHERCHE POUR L’AGRICULTURE,L’ALIMENTATION ET L’ENVIRONNEMENT
(71)【出願人】
【識別番号】522237151
【氏名又は名称】アンスティテュート ナシオナル デ シアンス エ アンデュストリ デュ ヴィヴァン エ ド ランヴィロンヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DES SCIENCES ET INDUSTRIES DU VIVANT ET DE L’ENVIRONNEMENT
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ドロルム,クリスティーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドワール,ヴェロニク
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
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4C206AA01
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4H006AB27
4H006BS10
4H006BT12
4H006BU32
(57)【要約】
本特許出願は、O-アセチルセリン又はその塩若しくは誘導体、及び生理学的に許容され得るビヒクルを含む、個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するための、O-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体に関する。
本特許出願はまた、O-アセチルセリン又はその塩若しくは誘導体、及び生理学的に許容され得るビヒクルを含む、個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するための、組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するO-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体。
【請求項2】
請求項1記載の使用のためのO-アセチルセリンであって、前記耐糖能異常に関連する疾患が、2型糖尿病である、O-アセチルセリン。
【請求項3】
請求項1又は2記載の使用のためのO-アセチルセリンであって、前記個体が、過体重又は肥満である、O-アセチルセリン。
【請求項4】
上記請求項のいずれか1項記載の使用のためのO-アセチルセリンであって、前記O-アセチルセリンが、細菌の合成代謝物、具体的には、腸内微生物叢の細菌の合成代謝物、より具体的には、特に細菌株Streptococcus salivariusの合成代謝物である、O-アセチルセリン。
【請求項5】
個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防における使用のための組成物であって、O-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体、及び生理学的に許容され得るビヒクルを含む、組成物。
【請求項6】
請求項5記載の使用のための組成物であって、耐糖能異常に関連する前記疾患が、2型糖尿病である、組成物。
【請求項7】
請求項5又は6記載の使用のための組成物であって、前記個体が、肥満である、組成物。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項記載の使用のための組成物であって、O-アセチルセリンが、細菌の合成代謝物、具体的には、腸内微生物叢の細菌の合成代謝物、より具体的には、細菌株Streptococcus salivariusの合成代謝物である、組成物。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項記載の使用のための組成物であって、前記組成物が、経口組成物であり、具体的には、粉末、顆粒、食品製品、飲料、医薬品、栄養補助食品、食品添加物、ウェハーカプセル又はゲルカプセルの形をしている、組成物。
【請求項10】
請求項5から9のいずれか1項記載の使用のための組成物であって、前記組成物が、耐糖能異常を予防及び/又は治療するための追加の活性剤、具体的には代謝物、抗酸化剤、魚油、DHA、EPA、ビタミン、ミネラル、植物栄養素、タンパク質、脂質、プロバイオティクス、追加の活性剤、及びそれらの組み合わせから選択される追加の活性剤も含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐糖能異常又は前糖尿病などの代謝性疾患、及びまた2型糖尿病などの耐糖能異常に関連する疾患の予防及び/又は治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
2型糖尿病(T2DM)は、身体によるインスリンの不十分な使用により生じる、慢性の高血糖を特徴とする疾患である。この疾患は一般に、過剰な体重及び運動不足(例えば肥満)の結果であり、栄養及び生活習慣の変化に反応して発症する。したがって、T2DMに関連するリスク因子は、特に:過体重、高齢、粗末な食事及びカロリー過多又は栄養不足、運動不足、喫煙又は家族歴である (Vazquez et al. Comparison of body mass index, waist circumference, and waist/hip ratio in predicting incident diabetes: a meta-analysis. Epidemiol Rev 2007; 29: 115-28; Diabetes Prevention Program Research Group. Long-term effects of lifestyle intervention or metformin on diabetes development and microvascular complications over 15-year follow-up: the Diabetes Prevention Program Outcomes Study. Lancet Diabetes Endocrinol 2015; 3: 866-75)。
【0003】
T2DMは世界で最も一般的な糖尿病であり、全症例の90%を占める(世界保健機関。1999年。糖尿病とその合併症の定義:診断及び分類:WHOの協議の報告。第1部、糖尿病の診断及び分類)(World Health Organization. 1999. Definition, diagnosis and classification of diabetes mellitus and its complications: report of a WHO consultation. Part 1, Diagnosis and classification of diabetes mellitus)。糖尿病は、全世界的な流行(1980年から2014年にかけて倍増し、成人人口の4.7%から8.5%に上昇した(世界保健機関による世界糖尿病報告書2016年、ISBN:9789242565256))、高額な治療費及びその合併症のために、深刻な公衆衛生上の問題である。実際、長期的には、糖尿病は、心臓、血管、眼、腎臓及び神経に影響を及ぼし、心疾患及び心筋梗塞のリスクを高める可能性がある。したがって、T2DMを予防及び治療することは、経済的及び社会的なリスクと非常に関連性の高い、治療研究の分野である(IDF Diabetes Atlas - 8th Edition, 2017)。
【0004】
今日では、衛生的な食事対策の推奨は、前糖尿病を対象としており、広く処方されているわけではないが、予防的治療が、2型糖尿病を発症するリスクが高い人に推奨されている。糖尿病の初期で、且つ可逆的な段階である前糖尿病は、特に耐糖能異常を特徴とする。
【0005】
耐糖能異常は、前糖尿病期に発症する2型糖尿病の危険因子である。耐糖能異常すなわち前糖尿病又は中等度高血糖は、血糖の障害である。耐糖能異常に罹った個体は、正常値より高いが、糖尿病と診断できるほど高くはない血糖値を有する。耐糖能異常は、インスリン感受性の低下又はインスリン抵抗性の増加の検出を特徴とする。
【0006】
前糖尿病は、糖尿病の傾向を逆転させて正常な血糖値に戻すことがまだ可能であることがしばしばである段階である。この2型糖尿病の前駆状態は、いくつかの場合、運動及び食事の調整によって逆転させることができる。
【0007】
一般に、バランスのとれた食事と組み合わせた身体活動は、血糖を下げ、T2DMへの進行を防ぐことができる。しかし、今後数年間で予想される2型糖尿病の症例の増加は、これらの生活習慣の調整が不十分であることを示唆する。したがって、生活習慣のリバランスはしばしば非現実的又は不十分であり、血糖値を制御するために処方される経口薬物と組み合わせることができると考えられる。しかし、これらの薬物の数は少なく、中には耐糖能異常が進行している小児及び青少年には推奨されないものもある。例えば、一般的にT2DMを処置するのに用いられるメトホルミンが処方され得る。さらに、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、若しくは食欲不振などの禁忌及び副作用が存在する。
【0008】
これらの副作用は、頻繁な処置の中止の原因となっている(McGovern et al. Comparison of medication adherence and persistence in type 2 diabetes: A systematic review and meta‐analysis. Diabetes Obesity and Metabolism, 2017, 20(4):1040-1043)。長期のメトホルミン処置は、ビタミンB6及びB12欠乏症の増加したリスクと関連しており、神経学的合併症を伴い得る(McGovern et al. Comparison of medication adherence and persistence in type 2 diabetes: A systematic review and meta‐analysis. Diabetes Obesity and Metabolism, 2017, 20(4):1040-1043)。
【0009】
可逆的な前糖尿病状態、特に耐糖能異常を早期に標的とすることは、2型糖尿病への進行を予防するために不可欠であると考えられる。
【0010】
血糖ホメオスタシスを制御するための新規な化合物又は組成物のニーズが存在する。耐糖能異常を標的とするための新規な化合物又は組成物のニーズも存在する。
【0011】
小児又は青少年への投与に対して安全である可能性がある新規な化合物又は組成物のニーズが存在する。
【0012】
耐糖能異常の予防及び/又は治療するための新規な処置のニーズが存在する。特に2型糖尿病のような耐糖能異常に関連する疾患又はその結果生じる疾患を予防及び/又は治療するための新規な処置のニーズも存在する。したがって、前糖尿病を予防及び/又は治療するための新規な化合物又は組成物のニーズが存在する。
【0013】
したがって、食後の高血糖を予防及び/又は治療するニーズが存在する。
【0014】
耐糖能異常に関連する疾患、特に2型糖尿病を治療及び/又は予防するニーズが存在する。
【0015】
本発明の目的は、これらの要求の全て又はいくつかを満たすことである。
【0016】
発明の開示
本発明は、耐糖能異常の治療及び/又は予防に使用するための合成代謝物、O-アセチルセリンを提案する。本発明はまた、耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患、特に2型糖尿病の治療及び/又は予防に使用するためのO-アセチルセリンを提案する。
【発明の概要】
【0017】
本発明の目的は、個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する疾患を予防及び/又は治療するための治療法に使用するための新規な物質を提案することである。
【0018】
驚くべきことに、本発明者らは、グルコースホメオスタシスに対するO-アセチルセリン(又はOAS)の予防効果を観察した。OASは、(脂肪又は糖が豊富な)肥満誘発性の食事によって誘導される耐糖能異常の発病を制限し、そしてT2DMの発病に先行する。したがって、耐糖能異常の予防及び治療は、T2DMの予防及び治療を可能にする。
【0019】
したがって、第一の態様によれば、本発明は、個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するための、O-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体に関する。
【0020】
特定の実施態様では、耐糖能異常に関連する疾患は2型糖尿病である。
【0021】
さらに、前記個体は過体重又は肥満であってもよい。
【0022】
特定の実施態様では、O-アセチルセリンは、細菌の合成代謝物、具体的には腸内微生物叢の細菌の合成代謝物、より具体的には、細菌株Streptococcus salivariusの合成代謝物である。
【0023】
第二の態様によれば、本発明は、O-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体、及び生理学的に許容され得るビヒクルを含む、個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するための組成物に関する。
【0024】
特定の実施態様では、前記耐糖能異常に関連する疾患は2型糖尿病である。
【0025】
さらに、前記個体は肥満であってもよい。
【0026】
一実施態様によれば、O-アセチルセリンは、細菌の合成代謝物であり、具体的には、腸内微生物叢の細菌の合成代謝物であり、より具体的には、細菌株Streptococcus salivariusの合成代謝物である。
【0027】
本発明によれば、前記組成物は、具体的には、粉末、顆粒、食品製品、飲料、医薬品、栄養補助食品(nutraceutical product)、食品添加物、栄養補助食品(food supplement)、ウェハーカプセル又はゲルカプセルの形の経口組成物であってもよい。
【0028】
特定の実施態様では、前記組成物はまた、追加の活性剤、具体的には、耐糖能異常を予防及び/又は治療するための、代謝物、抗酸化剤、魚油、DHA、EPA、ビタミン、ミネラル、植物栄養素、タンパク質、脂質、プロバイオティクス、追加の活性剤、及びそれらの組み合わせから選択される追加の活性剤も含む。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】12週間の食事及び処置の後に試験したマウスの群:対照の食事を受け取った対照群、未処理の高脂肪食(HFD)を受け取ったHFD群、及びO-アセチルセリンで処理したHFD群(HFD+OAS)の最終的な体重(左)及び精巣上体の脂肪組織重量を表す。左の図は、各群のマウスの平均体重をグラム(y軸)で表す。マウスの群は、左から右に、x軸上で:対照;HFD及びHFD+OASを示す。対照群とHFD群との間の体重差は統計学的に有意である(*p<0.05)。右の図では、各マウス群の精巣上体の脂肪組織の平均重量をグラム(y軸)で表す。マウス群は、x軸上で、左から右に、対照;HFD及びHFD+OASで示す。対照群とHFD群又はHFD+OAS群との間の精巣上体の脂肪組織重量の違いは、統計学的に有意である(****p<0.0001)。
【
図2】研究対象の各マウス郡:対照の食事を与えた対照群、未処置の高脂肪食(HFD)を与えたHFD群、及びO-アセチルセリンで処置したHFD群(HFD+OAS)に対する5週間の試験の後の耐糖能試験の結果を表す。左の曲線は、経口ブドウ糖負荷後の各マウス群に対して、マウスの平均血漿ブドウ糖濃度の変化を時間(分)(x軸)の関数として、mg/dL(y軸)で表したものである。対照群は、記号「○」を含む曲線で表され、HFD群は、記号「●」を含む曲線で表され、そしてHFD+OAS群は、記号「■」を含む曲線で表される。一方の対照群と他方のHFD及びHFD+OAS群との間の違いは有意である(t=15分、t=30分、t=60分、t=90分、及びt=120分でそれぞれ**** p<0.0001、*** p<0.00、,** p<0.01、及び* p<0.05を用いる)。右の図では、柱は、X軸上で左から右に、対照、HFD及びHFD+OASで示す各マウス群に対して、左図の曲線から、曲線下面積を1分あたりのmg/dL(y軸)で表す。一方の対照群と他方のHFD及びHFD+OAS群との間の曲線下面積の違いは有意である(****p<0.0001)。
【
図3】研究対象の各マウス郡:対照食事を与えた対照群、未処置の高脂肪食(HFD)を与えたHFD群、O-アセチルセリンで処置したHFD群(HFD+OAS)の各マウス群に対して、9週間の試験後の耐糖能試験の結果を表す。左の図では、曲線は、経口ブドウ糖負荷後の各マウス群についての、マウスの平均血漿ブドウ糖濃度の変化を時間(分)(x軸)の関数としてmg/dL(y軸)で表す。対照群は、記号「○」を含む曲線で表され、HFD群は、記号「●」を含む曲線で表され、HFD+OAS群は、記号「■」を含む曲線で表される。一方の対照群と他方のHFD及びHFD+OAS群との間の違いは有意である(t=15分、t=30分、t=60分、t=90分でそれぞれ**** p<0.0001、*** p<0.001、** p<0.01、* p<0.05を用いる)。t=60分から、一方の対照群と他方のHFD+OAS群との間の違いはもはや有意ではなく、そしてt=30分では、一方のHFD群と他方のHFD+OAS群との間の違いは有意である: * p<0.0001。右の図では、柱は、X軸上で左から右に、対照、HFD及びHFD+OASで示す各マウス群に対して、左図の曲線から、曲線下面積を1分あたりのmg/dL(y軸)で表す。各マウス群間の曲線下面積の違いは有意である(対照群とHFD群との間は、**** p<0.0001、HFD群とHFD+OAS群との間では、* p<0.05、そして対照群とHFD+OAS群との間では、* p<0.05である)。
【
図4】研究対照の各マウス群に対する5日間の研究後の耐糖能試験の結果を表す:対照群は通常の食事を受け取り、且ついずれのO-アセチルセリンも受け取らなかったが、前記OAS群はまた通常の食事+O-アセチルセリン(OAS)の一日の用量を毎日受け取った。左の図では、曲線は、t
0で経口ブドウ糖負荷を行った後の各群のマウスに対する平均マウス血漿ブドウ糖濃度の変化を、時間(分)(x軸)の関数としてmg/dL(y軸)で表したものである。対照群は、記号「■」を有する曲線で表され、OAS群は、記号「●」を有する曲線で表される。対照群とOAS群との間の違いは有意である(t=15分、t=30分、t=60分でそれぞれ**** p<0.0001、* p<0.05を用いる)。右の図では、柱は、X軸上で左から右に、対照;OASで示す各マウス群に対する左図の曲線から、曲線下面積を1分あたりのmg/dL(y軸)で表す。各マウス群の間の曲線下面積の違いは有意である(**** p<0.0001)。
【
図5】研究対象の各マウス群が経口ブドウ糖負荷を受けた後の耐糖能試験の結果を表わす:対照群は、t
0で経口ブドウ糖負荷のみを受けたが、OAS群は、t
0で経口ブドウ糖負荷と共にO-アセチルセリン(OAS)の投与量を受けた。左の図では、曲線は、t
0での経口ブドウ糖負荷後の各マウス群に対する平均血漿ブドウ糖濃度の変化を、時間(分)(x軸)の関数としてmg/dL(y軸)で表す。対照群は、記号「■」を有する曲線で表され、OAS群は、記号「●」を有する曲線で表される。対照群とOAS群との間の違いは有意である(t=15分で*** p<0.001を用いる)。右の図では、柱は、X軸上で、左から右に、対象;OAS示す各マウス群の左図の曲線から、曲線下面積を1分あたりmg/dL(y軸)で表す。各マウス群間の曲線下面積の違いは有意である(* p<0.05)。
【0030】
詳細な説明
本発明者らは、O-アセチルセリンを必要とする個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する疾患を治療及び/又は予防するO-アセチルセリンの能力を特定するために広範な研究を行った。具体的には、本発明者らは、マウスにおける耐糖能異常を治療及び/又は予防するOASの能力を実証した。
【0031】
実際に、以下の実験セクションで開発されたように、本発明者らは、OASを用いる治療が、肥満誘発性の食時を与えられたマウスモデルにおいて、特に耐糖能異常の改善、特に肥満に関連する耐糖能異常の改善を伴うブドウ糖代謝の調節を可能にすることを実証した。したがって、本発明者らは、特に肥満によって引き起こされる代謝障害のインビボでの改善におけるOASの有用性を実証した。
【0032】
定義
本明細書で使用される用語は、検討されている技術分野において通常の意味で使用され、且つ用語が使用される本明細書の文脈に関して使用される。更に、特定の用語は、本発明とその実施に関して追加のガイダンスを提供するために、以下又は本明細書以外の場所で議論される。以下の定義は、本明細書及び特許請求の範囲で提供される。
【0033】
本発明の様々な実施態様の説明は、「含む(comprising)」、「有する(having)」、「からなる(consisting of)」及び「本質的にからなる(consisting essentially of)」を含む実施態様を含む。単語「有する(have)」及び「含む(comprises)」、又は「有する(has)」、「有する(having)」、「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」のような変形態様は、示された要素(組成物の要素又は方法段階など)の含有を意味するが、他の要素の排除を意味しないと理解される。
【0034】
用語「からなる」は、あらゆる追加の要素を除外して、示された要素の含有を意味する。用語「本質的にからなる」は、記載された要素の含有を意味し、そして他の要素が本発明の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を与えない場合、他の要素を含む可能性があることを意味する。文脈によっては、用語「含む」はまた、示された特徴、整数、ステップ、又は成分を厳密に示してもよく、この場合は「からなる」に置き換えられてもよい。
【0035】
用語「2型糖尿病」又は「T2DM」は、膵臓が十分なインスリン(血糖値を調節するホルモン)を生成しない場合か、又は体が生成するインスリンを効果的に使用できない場合に発生する慢性疾患を指す。通常、T2DMは、耐糖能異常が先行する。
【0036】
数値に関して本明細書で使用される用語「約(about)」又は「おおよそ(approximately)」は、通常、当該当業者によって特定される、当該値の通常の誤差範囲を指す。特定の値又はパラメータに関する用語「約」の言及は、その値又はパラメータを含み、そのように記載する。用語「約」は、所与の値の±10%を指す。しかし、問題の値が、分割されたときに同一性を失う分割不可能な対象を指す場合は常に、「約」は分割不可能な対象の±1%を指す。
【0037】
本文中で使用される用語「個体」「患者」は、具体的には哺乳類を指す。対象となる哺乳類には、家畜(例えば牛、羊、猫、犬、及び馬)、霊長類(例えば、ヒト及び非ヒト)、ウサギ及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施態様によれば、個体、又は患者は、人間である。
【0038】
用語「耐糖能異常」は、個体の血糖値が正常値を超えているが、2型糖尿病の診断基準を下回っている生理病理学的病態を指す。耐糖能異常は、空腹時血糖値を測定し、そして経口ブドウ糖負荷試験(又はOGTT)中に血糖値を監視することによって検出できる。
【0039】
用語「肥満」は、個体が脂肪組織を著しく過剰に有する生理病理学的状態を指し、一般的に、特にカロリー食品の過剰摂取を含む肥満誘発性の食事、遺伝的素因、又は不十分又は存在しない身体運動によって誘発される。肥満と宣言された個体は、30を超えるボディマス指数(BMI)を有する。世界保健機関(WHO)による公式な定義によると、BMIは過体重又は低体重であることに関連する健康リスクの指標である。BMIは、個体の体重(キログラム)をその個体の身長(メートル)の2乗で割ることにより算出される。BMI値は、WHOによって与えられた分類に従って、特定の体型と関連付けられる。
【0040】
「肥満」の個体とは異なり、「過体重」の個体は、その状態が生理病理学的でない個体である。過体重の個体はまた、しばしば過剰な脂肪組織を有する。彼又は彼女が、25から30の間のボディマス指数(BMI)を有するとき、その個体は、一般的に過体重とみなされる。
【0041】
用語「前糖尿病」は、正常と比較して高い血糖値が高いが、2型糖尿病の定義の閾値を下回ることを特に特徴とする生理病理学的状態である。空腹時の血糖値は、(i)0.70g/Lと1.10g/Lの間は正常、(ii)1.10g/Lと1.25g/Lの間は前糖尿病の徴候、及び(iii)1.25g/Lを超えると糖尿病の徴候と見なされる。前糖尿病は、通常、症状を誘導しないが、しばしば肥満、脂質異常症、及び高血圧と関連する。前糖尿病は、心血管疾患の危険因子である。前糖尿病は、耐糖能異常を特に特徴とする。
【0042】
本発明の文脈において、生理学的障害又は疾患に関する用語「予防する」、「予防」及び「進行を遅らせる」(及びこれらの用語の変形態様)は、例えば、疾患又は障害を有するか、又は疾患又は障害を発症するリスクがあると疑われる個体における、疾患又は障害の予防的処置を指す。予防は、疾患の発症を予防又は遅延させること、及び/又は1つ以上の疾患の症状を望ましいレベル又は低いレベルで維持することを含むが、これに限定されない。用語「予防」は、疾患又は障害が発生する可能性又は見込みを100%排除することを要求しない。むしろ、この用語は、所与の現象、すなわち、本発明における、前糖尿病状態若しくは2型糖尿病のような耐糖能異常、又は耐糖能異常に関連する疾患の発生のリスク又は可能性をより少ない程度に低減することを指す。前述のように、予防は完全、すなわち、検出可能な症状若しくは疾患がないか、又は症状がより少ないか若しくは症状の強度がより低いような部分的であってもよい。
【0043】
用語「グルコースホメオスタシス」は、正常な血糖値の特徴である個体の血糖バランスを指す。ヒトにおける正常な空腹時の血糖バランスは、約0.70g/Lと約1.10g/Lの間(すなわち、70mg/dLと110mg/dLの間)である。血糖値が0.70g/Lを下回る血糖値は、低血糖を特徴付け、1.10g/Lを超えるが1.26g/Lを下回る高血糖は、中等度の高血糖を特徴付け、耐糖能異常を示し得る。
【0044】
用語「O-アセチルセリン塩」は、生理学的に許容され得る得る酸又は塩基で調製されたO-アセチルセリン塩を意味する。しかし、例えばOASの精製又は単離に有用な酸又は塩基も使用されてもよい。言及され得るO-アセチルセリン塩は、O-アセチル-L-セリン塩酸塩であってもよい。
【0045】
用語「O-アセチルセリン誘導体」は、置換又は分子内移動などの1つ以上の修飾を受けた生理学的に許容され得るO-アセチルセリンを意味する。本発明に係るO-アセチルセリン誘導体の修飾、具体的には置換の例示として、OASのアミン基の水素の少なくとも1つが置換されてアミド官能基を形成することが挙げられる。本発明に係るO-アセチルセリン誘導体の修飾、具体的には付加的又は代替的置換の例示として、OASのメチル基のアルキル基、具体的には(C1~C6)アルキル基(任意選択的にアルキル基は、特にハロゲン、具体的にはフッ素、及び塩素から選択されるハロゲンによって置換される)による置換であってもよい。本発明に係るO-アセチルセリン誘導体の修飾、具体的には付加的又は代替的置換の例示として、OASのカルボキシル基-COOHのプロトンの置換によりエステル官能基を形成してもよい。本発明に係る適切なOAS誘導体は、OASと同じ活性、具体的には個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する疾患を予防及び/又は治療するための同じ活性を有するOAS化合物である。O-アセチルセリン誘導体としては、N-アセチルセリンが挙げられる。
【0046】
本明細書で使用されるとき、用語「治療上有効な量」及び「予防的に効果な量」は、当該病理学的プロセスの治療、予防又は管理において治療上の利益を提供する量を指す。治療上有効である具体的な量は、医師により容易に決定することができ、当該病理学的プロセスの種類及び段階、患者の病歴、性別、体重及び年齢、彼又は彼女の食事、並びに他の治療薬の投与などの要因によって異なってもよい。
【0047】
本発明の目的にために、変化の文脈における用語「有意に」は、観察された変化が顕著であるか、又は統計的に有意であることを意味する。
【0048】
本発明の目的のために、本発明の特徴に関連して使用される用語「実質的に(substantially)類似する」、「実質的に(substantially)異ならない」、「実質的に(essentially)類似する」又は「実質的に(essentially)異ならない」(又はあらゆるそれらの変形態様)は、その特徴を含む実施態様と実質的に同一であるが完全に同一ではないその特徴に関連した、本発明の一組の実施態様を定義することを意図する。
【0049】
用語「経口ブドウ糖負荷試験」又は「OGTT試験」は、身体のブドウ糖を利用する能力を測定するための試験を意味する。OGTT試験は、当業者に周知であり、例えば、使用は、Nagy et al., Study of In Vivo Glucose Metabolism in High-fat Diet-fed Mice Using Oral Glucose Tolerance Test (OGTT) and Insulin Tolerance Test (ITT). J. Vis. Exp. (131), e56672, doi:10.3791/56672 (2018)に記載されているプロトコルによって行ってもよい。
【0050】
本発明の目的のために、用語「処置する(treat)」、「処置(treatment)」、「治療(therapy」」、又は「治療の(therapeutic)」は、活性剤、O-アセチルセリン又はその塩若しくは誘導体、あるいは、疾患又は病理学的障害、又は一つ以上の関連する症状を治癒させる、緩和する、低減する、弱めること若しくは改善を目的とする、又はそのような症状(複数可)又は疾患の進行を予防又は遅延させるための、又はそのような症状(複数可)又は疾患又は病理学的障害の発生を統計的に有意な方法で停止させるための、そのような活性剤を含む組成物の投与又は消費を指す。具体的には、用語「処置する」又は「処置」は、個体における耐糖能異常の病態に関して有益な効果又は所望の転帰を得るためのあらゆる手法を含む。有益又は所望の臨床の転帰には、前糖尿病又は2型糖尿病などの耐糖能異常、耐糖能異常に関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状を緩和又は改善すること;耐糖能異常、耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の程度を減少又は低減させること;耐糖能異常、耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の安定化、即ち悪化しないこと;耐糖能異常、耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の予防;耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の蔓延の予防;耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状、又はそのような疾患の1つ以上の症状の進行を遅延させること;耐糖能異常、耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の再発を低減すること;及び耐糖能異常、耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の中断が含まれるが、これらに限定されない。つまり、本明細書で使用される用語「処置」は、耐糖能異常、耐糖能異常と関連する疾患、又はそのような疾患の1つ以上の症状の治癒、改善、低減、又は中断のいずれをも含む。症状疾患の「低減」は、疾患又は症状の重症度や頻度の減少、あるいはその疾患や症状の消失を意味する。
【0051】
本明細書及び特許請求の範囲で使用されるとき、文脈がそれ以外のものを明示的に示さない限り、単数形の「a」、「an」、「one」及び「the」は複数形を含む。
【0052】
用語「生理学的に許容され得るビヒクル」は、本発明の活性剤が投与される個体の身体に適合するあらゆる物質又は組成物を示すことを意図する。具体的には、生理学的に許容され得るビヒクルは、個体への投与が重大な有害作用を伴わない物質又は組成物である。例えば、「生理学的に許容され得るビヒクル」は、水又は生理食塩水溶液のような無毒の溶媒であってもよい。特に、そのような溶媒は、経口又は直腸投与に適合し、そして好ましくは、経口投与に適している。
【0053】
以下に示される供給源、成分(ingredients)及び成分(components)のリストは、そのあらゆる組み合わせ及び混合物を本発明の範囲内で想定されるように記述されていると理解される。
【0054】
本明細書で与えられる各最大数値制限は、そのような低い数値制限が明示的に書かれているかのように、それぞれのより低い数値制限を含んでいると理解される。本明細書全体を通して与えられる各最小数値制限は、そのような高い数値制限が本明細書に明示的に書かれているかのように、それぞれの高い数値制限を含む。本明細書全体を通して与えられる各数値範囲は、そのようなより狭い数値範囲がすべて明示的に書かれているかのように、そのようなより広い数値範囲に含まれるより狭い数値範囲を各々含む。
【0055】
本明細書で与えられるすべてのリスト、たとえば成分のリストは、マークッシュ群であることを意図しており、且つマークッシュ群として解釈されるべきである。したがって、すべてのリストは、要素「「、、要素のリスト、、及びそれらの組み合わせ及び混合物」からなる群より選択される」として理解され且つ解釈することが出来る。
【0056】
本明細書で使用される様々な成分を含む成分の商品名は、以下で参照され得る。本発明者らは、材料をいずれの特定の商品名に限定することも意図しない。本明細書で別の商品名で示される材料と同等な材料(たとえば、別のソースから別の名前又は参照番号で得られたもの)は、以下の説明において、置き換えられ、そして使用されてもよい。
【0057】
O-アセチルセリン
本発明は、個体における耐糖能異常の治療及び/又は予防に使用するための、O-アセチルセリン(OAS)、又はその塩若しくは誘導体に関する。本発明はまた、個体における耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するためのOAS、又はその塩若しくは誘導体に関する。
【0058】
具体的には、本発明は、個体における耐糖能異常の治療及び/又は予防に使用するための、O-アセチルセリン(OAS)、若しくはその塩、又はN-アセチルセリン(NAS)に関する。本発明はまた、個体における耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するOAS、若しくはその塩、又はN-アセチルセリン(NAS)に関する。
【0059】
O-アセチルセリン(C
5H
9NO
4)は、特定の細菌及び植物の硫黄ベースのアミノ酸の代謝の細胞内二次代謝物であり、以下の式:
【化1】
を有する。
【0060】
これは、セリンO-アセチルトランスフェラーゼの影響下でアセチル-CoAを用いるアセチル化によりセリンから誘導される非蛋白性のα-アミノ酸である。これは、細菌及び植物のシステイン生合成における中間体であり、システインシンターゼによってシステインに変換される。
【0061】
本発明者らは、質量分析によりStreptococcus salivarius株の培養上清画分中でOASを同定した。
【0062】
この共生種は、口腔中に主に存在し、そしてヒトの消化管中に副次的に存在する。S.salivarius株はOASを合成する能力がある。
【0063】
OASはまた、様々な植物中に存在する。
【0064】
ヒトにおいて、この分子は、前立腺、尿及び血液中に見いだされ、そして細菌起源(特に腸内細菌叢の細菌)及び食事起源である。
【0065】
OASは、HMDB4.0ヒト代謝物データベース(http://www.hmdb.ca/metabolites/HMDB0003011)においてHMDB0003011として参照され、CAS番号5147-00-2に対応する。
【0066】
本発明に係るO-アセチルセリンはまた、OASの塩として見出すことができる。
【0067】
具体的には、OASは、O-アセチル-L-セリン塩酸塩(OAS.HCl)の形で存在してもよい。
【0068】
OAS.HCl(C5H9NO4.HCl)塩は、CAS番号66638-22-0で参照される。
【0069】
本発明に係るO-アセチルセリンはまた、OAS誘導体の形又はOAS誘導体塩の形で存在してもよい。
【0070】
具体的には、OASは、N-アセチルセリン(NAS)の形で存在してもよい。OASはまた、NASの塩の形で存在してもよい。
【0071】
本発明に従って使用するのに適したOASは、Sigma-Aldrich社により商業参照A6262_SIGMA(商標登録)の下で化学製品として特に販売されている。
【0072】
本発明に従って使用するのに適したOAS誘導体、具体的には、N-アセチルセリンは、Sigma-Aldrich社により、商業参照A2638(商標登録)の下で化学製品として具体的に販売されている。
【0073】
特定の実施態様によれば、本発明に係るO-アセチルセリンは、細菌の合成代謝物、具体的には腸内微生物叢の細菌の合成代謝物、より具体的には細菌株Streptococcus salivariusの合成代謝物である。
【0074】
特定の実施態様では、OAS又はその塩若しくは誘導体を組成物に含むことができる。
【0075】
組成物
本発明はまた、本発明に係るO-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体、及び少なくとも1つの生理学的に許容され得るビヒクルを含む、個体の耐糖能異常及び/又は耐糖能異常と関連する1つ以上の疾患の治療及び/又は予防に使用するための組成物に関する。
【0076】
記載されている組成物は、それを必要とする個体に治療上有効な量で投与される。この量は、医療従事者により各個体の特徴に基づいて決定される。
【0077】
特定の実施態様では、前記組成物は、食事中又は食事外、好ましくは、食事外での投与に適している。特定の実施態様では、前記組成物は、少なくとも1日1回の摂取、特に1日1回の摂取での投与に適し得る。
【0078】
特定の実施態様によれば、組成物は、当該投与期間にわたって毎日連続して投与されてもよい。あるいは、組成物は、1日、2日以上の連続日にわたって投与され、その後に少なくとも1日、2日以上の連続した中断期間が続いてもよい。投与期間及び中断期間は、サイクルを構成してもよい。組成物は少なくとも1サイクル、場合によっては2サイクル、3サイクル以上の連続したサイクルで投与されてもよい。
【0079】
組成物は、少なくとも5週間、又は少なくとも6週間、又は少なくとも7週間又は少なくとも8週間、又は少なくとも9週間投与されてもよい。
【0080】
組成物は、少なくとも連続した2日間、特に少なくとも連続した5日間、1週間、及び少なくとも1週間から少なくとも12週間、特に少なくとも1週間から少なくとも10週間、特に少なくとも2週間から少なくとも5週間、そして特に少なくとも3週間にわたって投与されてもよい。
【0081】
特定の実施態様によれば、組成物は、1週間の間隔で少なくとも連続した2日間、特に1週間以上の間隔で少なくとも連続した5日間、投与されてもよい。
【0082】
本発明の組成物を調合するために使用され得る生理学的に許容され得るビヒクルとしては、非制限的な方法で、水、生理食塩水緩衝液、特にリン酸緩衝液、炭酸水素ナトリウム、ジュース、乳製品、特に牛乳又はヨーグルト、乳児用食品組成物、モノステアリン酸グリセリンなどの増粘剤、甘味料、菜種油;大豆油;落花生油;大豆レシチン又は魚ゼラチンなどのコーティング剤、乳糖;乳糖一水和物又はデンプンなどの希釈剤、ポビドン;糊化デンプン;ガム;ショ糖;ポリエチレングリコール(PEG)4000又はPEG6000などの結合剤、カルボキシメチルデンプン ナトリウムA型などの微結晶セルロース若しくはカルボキシメチルデンプン ナトリウムなどの分散剤、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、無水コロイダルシリカなどの流動化剤などが挙げられる。
【0083】
生理学的に許容され得るビヒクルは、コーティング材料、フィルム形成材料、充填剤、崩壊剤、放出修飾材料、支持材料、希釈剤、結合剤及びその他のアジュバントを含む、医薬品の製剤形態に使用されるいずれの物質でもよい。典型的な生理学的に許容され得るビヒクルは、スクロース、マンニトール、ソルビトール、デンプン及びデンプン誘導体、乳糖、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、崩壊剤、及び緩衝剤などの物質を含む。また、適切な生理学的に許容され得るビヒクルは、例えば、水、生理食塩水溶液、アルコール、油、好ましくは植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、乳糖、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、界面活性剤、香料油、脂肪酸、モノグリセリド及びジグリセリド、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどを含む。医薬組成物は、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝剤、着色剤、香料及び/又は芳香物質などの補助剤を含んでもよい。
【0084】
本発明では液体形態が想定される。これらは、エマルション、溶液、懸濁液及びシロップを含む。坐薬、錠剤、トローチ剤、錠剤、ゲルカプセル、粉末、発泡性製剤、ドラジェ、顆粒、又はウェハーカプセルなどの固体も想定される。
【0085】
本発明に係る組成物はまた、前記組成物の意図された用途に関して当該技術分野で通常使用されるいずれの添加剤又は賦形剤を含んでもよい。したがって、本発明の組成物はまた、甘味料、安定剤、酸化防止剤、添加剤、香料及び/又は着色料から選択される少なくとも1つを含んでもよい。本発明の組成物の製剤化は、特に糖衣錠、ゲルカプセル、ゲル、放出制御ヒドロゲル、エマルション、フォーム、シロップ、液体、錠剤、ウェハーカプセル又は坐剤を製造するために、当分野で使用される通常のプロセスによって行われる。
【0086】
本組成物は、経口、舌下、経鼻、又は直腸投与、特に経口投与に適し得る。
【0087】
一実施態様では、前記組成物は、栄養補助食品、飲料補助食品、栄養製品、医療食品、又は栄養補助食品組成物の形であってもよい。
【0088】
組成物はまた、栄養又は栄養補助食品組成物の形であってもよい。
【0089】
特に、組成物は、栄養補助食品であってもよい。
【0090】
具体的には、栄養補助食品は、ウェハーカプセル、ゲルカプセル、ソフトカプセル、錠剤、糖衣錠、錠剤、ペースト、トローチ、ガム、飲用可能な溶液又は乳剤、シロップ又はゲルの形であってもよい。
【0091】
本発明での使用に適した組成物は、乳製品、乳製飲料、ヨーグルト、果物若しくは野菜ジュース又はその濃縮物、粉末、大豆又はシリアルベースの飲料、ミューズリーのフレークスなどの朝食用シリアル、果物及び野菜ジュース粉末、シリアル及び/又はチョコレートバー、菓子類、スプレッド、牛乳粉、スムージー、アイスクリーム、再構成された果物製品、食品バー、ソース、乳製品及び非乳製品スポーツサプリメントを含むスポーツサプリメント、デザート、冷凍食品、スープ、液体懸濁液、錠剤、ガム又はキャンディから選択された食品サプリメントの形で特に製剤化されてもよい。
【0092】
有利には、経口投与を目的とした本発明による組成物は、当該組成物に含まれる本発明のO-アセチルセリンが損傷することなく胃を通過できるように、胃液に耐性のあるコーティングが施されてもよい。したがって、本発明によるOASの放出は、上部腸管で初めて行うことができる。
【0093】
特定の実施態様によれば、本発明での使用に適した経口組成物は、粉末、顆粒、食品製品、飲料、医薬品、栄養補助食品、食品添加物、栄養補助食品、ウェハーカプセル又はゲルカプセルから選択されてもよい。
【0094】
本発明の別の実施態様では、組成物は直腸内に投与されてもよい。具体的には、直腸用組成物は、坐薬、浣腸又は泡の形に調製されてもよい。
【0095】
1つの実施態様では、組成物はまた、代謝物、抗酸化剤、魚油、DHA、EPA、ビタミン、ミネラル、植物栄養素、タンパク質、脂質、プロバイオティクス及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの追加の活性剤を含んでもよい。
【0096】
追加的に使用され得るプロバイオティクス活性剤としては、Streptococcus、Lactobacillus、Lactococcus、Bifidobacterium、Veillonella、Desemzia、Coprococcus、Collinsella、Citrobacter、Turicibacter、Sutterella、Subdoligranulum、Sporobacter、Sporacetigenium、Ruminococcus、Roseburia、Proteus、Propionobacterium、Leuconostoc、Weissella、Pediococcus、Prevotella、Parabacteroides、Papilibacter、Oscillospira、Melissococcus、Dorea、Dialister、Clostridium、Cedecea、Catenibacterium、Butyrivibrio、Buttiauxella、Bulleidia、Bilophila、Bacteroides、Anaerovorax、Anaerostopes、Anaerofilum、Enterobacteriaceae、Fermicutes、Atopobium、Alistipes、Acinetobacter、Slackie、Shigella、Shewanella、Serratia、Mahella、Lachnospira、Klebsiella、Idiomarina、Fusobacterium、Faecalibacterium、Eubacterium、Enterococcus、Enterobacter又はEgggerthellaに由来するプロバイオティクス細菌の株が挙げられる。
【0097】
本発明での使用に適した植物栄養素としては、カロテノイド、ポリフェノール又はレスベラトロールが挙げられる。本発明での使用に適した酸化防止剤としては、ビタミンC、グルタチオン、カフェイン又はトコフェロールが挙げられる。本発明での使用に適したビタミンとしては、ビタミンA、B、C又はDが挙げられる。ミネラルとしては、鉄、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、銅又はナトリウムが挙げられる。
【0098】
具体的には、前記組成物は、耐糖能異常を予防及び/又は治療するための少なくとも1つの追加の活性剤を含んでもよい。耐糖能異常の予防及び/又は治療のための当該少なくとも1つの追加の活性剤は、OAS又はその塩若しくは誘導体とは異なる。
【0099】
一実施態様によれば、本発明による組成物は、O-アセチルセリン、又はその塩若しくは誘導体、本発明による、少なくとも1つの生理学的に許容され得るビヒクル、及び耐糖能異常を予防及び/又は治療するための少なくとも1つの追加の活性剤を含む。
【0100】
具体的には、前記追加の活性剤は、いずれの抗糖尿病分子であってもよく、特にメトホルミンであってもよい。耐糖能異常は、α-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース、ボグリボース)、又は膵リパーゼ阻害薬(オルリスタット)、又はグリニド(ナテグリニド)又はインクレチン模倣薬(リラグルチド)を用いて処置することができる。
【0101】
メトホルミン(C4H11N5)は、2型糖尿病の処置に使用される正常血糖ビグアナイドファミリーの経口糖尿病治療薬であり、2型糖尿病を発症するリスクが最も高い前糖尿病患者に推奨される。
【0102】
一態様によれば、OAS又はその塩若しくは誘導体、及びメトホルミンと同一組成物での投与は、メトホルミンのみを含む組成物と比較して、耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する疾患の予防及び/又は治療に対して同等の作用を有すると同時に、組成物中のメトホルミンの量を減少させることが可能である。
【0103】
特定の実施態様によれば、前記組成物は、N-アセチル化オリゴ糖、ガラクト-オリゴ糖及びシアル酸化オリゴ糖からなるオリゴ糖の混合物を含む栄養組成物ではない。
【0104】
別の実施態様によれば、本発明の組成物は、乳児又は幼児における体脂肪の過剰な蓄積を減少及び/又は予防するため、及び/又は乳児又は幼児における体脂肪の過剰な蓄積に関連する、後年での健康障害、例えば後年での肥満及び関連する併存疾患の予防のために使用されることを意図しない。
【0105】
耐糖能異常及び関連疾患
前述のように、本発明に係るOAS、又はその塩もしくは誘導体、あるいは本発明に係る組成物は、個体における耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患を予防及び/又は治療するための治療法に使用される。
【0106】
本発明に係る当該個体又は患者は、哺乳類であってもよい。本発明が対象とする哺乳類は、例えば、家畜(例えば、牛、羊、猫、犬、及び馬、特に猫及び犬)、ヒト及び非ヒト霊長類などの霊長類、ウサギ、マウス及びラットなどのげっ歯類から選択されてもよい。一実施態様によれば、本発明が対象とする個体又は患者は、人間であってもよい。
【0107】
本発明に係るOAS又はその塩もしくは誘導体、又は組成物は、前糖尿病、及び/又は前糖尿病に関連する疾患又は障害、又は前糖尿病の症状を予防及び/又は治療するための治療的処置での使用に特に適してもよい。
【0108】
耐糖能異常又は前糖尿病は、無症状性であってよい。しかし、耐糖能異常又は前糖尿病は、肥満、高いトリグリセリド値及び/又は低いHDLコレステロール値を伴う脂質異常症、及び高血圧と関連し得る。耐糖能異常及び前糖尿病は、心血管疾患の増加したリスクと関連している。前糖尿病及び耐糖能異常は、2型糖尿病の初期段階と考えられている。
【0109】
耐糖能異常又は前糖尿病は、当業者に公知の様々な方法によって診断することができる。具体的には、ヒトの耐糖能異常は、2つの基準:
‐空腹時の血糖値、及び
‐ブドウ糖の経口摂取から2時間後の血糖値
に基づいて診断される。
【0110】
したがって、以下:(i)空腹時の血糖値が、6.1mmol/Lと6.9mmol/Lの間(110mg/dL~125mg/dL)の場合、及び(ii)75gの経口ブドウ糖摂取の2時間後の血糖値が、7.8mmol/Lと11.0mmol/Lの間(140mg/dL~199mg/dL)の場合に耐糖能異常と診断することができる。
【0111】
ブドウ糖摂取の2時間後の血糖値の測定は、経口ブドウ糖負荷試験又はOGTTによって行われる。このような試験は、Hjellestad et al., HbA1c versus oral glucose tolerance test as a method to diagnose diabetes mellitus in vascular surgery patients, Cardiovascular Diabetology, 12:79 (2013)に記載されている。
【0112】
通常、耐糖能異常又は前糖尿病の後に2型糖尿病を発症する可能性がある。2型糖尿病(又はT2DM)は耐糖能異常又は前糖尿病に関連する疾患である。
【0113】
一実施態様によれば、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物は、2型糖尿病を予防及び/又は治療するための治療的処置における使用に特に適し得る。
【0114】
T2DMは、当業者に公知の様々な方法により診断することができる。具体的には、以下の基準:
‐空腹時の血糖値、
‐ブドウ糖の経口摂取から2時間後の血糖値、又は
‐食後の血糖値又は随時の血糖値
‐糖化ヘモグロビンA1C(HbA1C)
のうち1つ以上を満たす場合に、T2DMと診断することができる。
【0115】
したがって、血糖値が(i)空腹時で、7.0mmol/L(126mg/dL)以上の場合、又は(ii)75g経口ブドウ糖摂取の2時間後で11.1mmol/L(200mg/dL)以上の場合、あるいは(iii)随時の血漿ブドウ糖値が11.1mmol/L(200mg/dL)以上の場合、又は(iv)糖化ヘモグロビンA1c(HbA1c)が48mmol/mol(6.5%相当)以上の場合、T2DMと診断される。
【0116】
一実施態様によれば、本発明はまた、必要としている個体において耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する疾患を予防及び/又は治療するための治療的処置方法であって、当該個体に本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体を投与するか、又は本発明に係る組成物を当該個体に投与する少なくとも一段階を含む治療的処置方法に関する。
【0117】
一実施態様によれば、本発明はまた、必要としている個体において前糖尿病及び/又は前糖尿病に関連する疾患を予防及び/又は治療するための治療的処置方法であって、当該個体に本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体を投与するか、又は本発明に係る組成物を当該個体に投与する少なくとも1つのステップを含む治療的処置方法に関する。
【0118】
一実施態様によれば、本発明はまた、必要としている個体において2型糖尿病を予防及び/又は治療するための治療的処置方法であって、当該個体に本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体を投与するか、又は当該個体に本発明に係る組成物を投与する少なくとも1つのステップを含む治療的処置方法に関する。
【0119】
本発明に係る方法は、本発明の活性剤を投与するステップに先立って、耐糖能異常、前糖尿病又は2型糖尿病を診断するステップを含んでもよい。そのような診断は、この目的のために当業者に公知のあらゆる診断方法によって、そして特に上記の方法の1つを介して行ってもよい。
【0120】
本発明に係る方法はまた、耐糖能異常、前糖尿病又は2型糖尿病の症状又は血糖マーカーの減少、抑制又は改善を観察するステップを含んでもよい。
【0121】
特定の実施態様によれば、本発明のための当該個体又は患者は、過体重又は肥満であってもよい。
【0122】
本発明に係る使用又は方法は、本発明に係るOAS又はその塩若しくはその誘導体、又は組成物を、それを必要とする個体又は患者に、適切なあらゆる投与経路を介して投与することを含んでもよい。実施例としては、経口、舌下、経鼻、直腸投与を挙げてもよい。好ましくは、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物の投与は、経口で行なってもよい。
【0123】
一実施態様によれば、本発明に係るOAS又はその塩若しくはその誘導体、又は前記組成物は、少なくとも1日1回の用量で、具体的には1日2回又は3回、より具体的には少なくとも1日1回の用量で投与されてもよい。
【0124】
本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物の摂取は、食事時、又は食事外に行ってもよい。本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物は、24時間にわたって、いつでも摂取され得る。具体的には、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物は、朝、特に朝の食事時に摂取されてもよい。
【0125】
具体的には、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物の投与は、食事外、特に1日1回の摂取で行われてもよい。
【0126】
本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物が投与される期間は、患者の年齢、体重及び性別、他の病理学上の障害の存在、及び食事などのいくつかの要因に依存し、当該分野の通常の慣行に従って当業者により適応される。
【0127】
本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物の投与に適した期間は、少なくとも5週間、少なくとも6週間、又は少なくとも7週間又は少なくとも8週間、又は少なくとも9週間であってよい。
【0128】
投与期間中は、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物は、毎日連続して投与してもよいか、又は、投与は、1日間以上の期間で行い、その後、1日間以上の中断期間の後、適用可能な場合は、1サイクル以上の投与及び中断を行ってもよい。
【0129】
特定の実施態様によれば、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物は、1日間、2日間にわたる連続した期間投与され、その後、少なくとも1日間、2日間以上の連続した中断期間を経て投与してもよい。投与及び中断の期間は、サイクルを構成してもよい。
【0130】
本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は組成物の投与は、少なくとも1回、更に2回、3回以上の連続したサイクルを超えて行ってもよい。
【0131】
したがって、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物は、1週間を超える間隔で少なくとも2日連続して投与してもよい。一実施態様によれば、前記投与は、1週間の間隔で少なくとも5日連続して投与することができる。投与は、上記のように2週間、3週間又はそれ以上にわたって継続してもよい。
【0132】
一実施態様によれば、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物は、治療上有効な量又は用量で投与してもよい。具体的には、本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物は、少なくとも1日あたり約70mg/kgから少なくとも1日あたり約2000mg/kgの範囲の用量に相当する1日の用量で投与してもよい。特に、本発明における使用に適した用量は、1日あたり少なくとも約100mg/kgから1日あたり少なくとも約1000mg/kg、そして特に1日あたり少なくとも約200mg/kgから1日あたり少なくとも約500mg/kgであってもよい。
【0133】
別の態様によれば、本発明はまた、医薬の製造のための本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物に使用に関する。具体的には、本発明は、耐糖能異常及び/又は耐糖能異常に関連する1つ以上の疾患を予防及び/又は治療するための医薬の製造のための本発明に係るOAS又はその塩若しくは誘導体、又は前記組成物の使用に関する。
【0134】
本発明は、別段の指示がない限り、又は矛盾又は不整合が発生することが当業者に明らかでない限り、以下に列挙した1つ以上の請求項の1つ以上の制限、要素、条項、記述用語などが、同じ基本請求項に依存する別の請求項(又は、場合によっては、他のあらゆる請求項)に導入され得るすべての変法、組み合わせ、及び順列を包含することが理解される。項目がリスト形式で提示される場合(例えば、マークッシュ群又は同様の形式で)、項目の各部分群(subgroup)も開示され、且ついずれの項目も前記群から削除される得ることを理解すべきである。一般に、本発明の態様(複数可)が特定の要素、特徴などを含むものとして指定されている場合、本発明の特定の実施態様又は発明の態様は、そのような要素、特徴などからなるか、又は本質的にからなることを理解すべきである。簡略化のため、これらの実施態様は、必ずしも多くの単語で具体的に述べられているわけではない。また、本発明のいずれの実施態様又は態様も、特定の除外が明細書に記載されているかどうかにかかわらず、請求項から明示的に除外され得ることを理解すべきである。本発明の背景を説明し、その実施に関する追加の詳細を提供するために引用された出版物及びその他の文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0135】
本発明は、以下の実施例の助けを借りてより詳細に記述されており、これらは純粋に説明目的のために提供され、そして本発明を限定することを意図しない。
【0136】
本発明は、純粋に説明目的のために提供される以下の実施例の助けを借りてより詳細に記述されている。
実施例
【実施例】
【0137】
本発明に係る活性剤に基づく処置の健常個体に対する予防作用
JanvierLabsから入手した7週齢の雄C57BL/6JRjマウスにペットショップで使用されている通常の食事を与えた。
OASで処置されていない10匹のマウスの第一群を対照群とした。
10匹のマウスの第二の群を、1日あたりのOASの用量 1000mg/kgを用いて5日間処置した。使用したOASは、Sigma-Aldrich社のA6262_SIGMAの名称で販売される製品(CAS番号66638-22-0)であった。この群は、OAS処置群である。
【0138】
経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を2つの群のマウスのそれぞれで行った。
【0139】
この試験は、マウスが経口ブドウ糖負荷を受けた後、120分間の血漿ブドウ糖濃度を監視することから成る。すなわち、T0(空腹時の血糖値)で、ブドウ糖(2.5g/kg)は動物に経口的に与えられる。90分間、15分から30分ごとに尾から一滴の血液を採血して、テストストリップを使用する血糖測定器(a strip glucose meter)(アキュチェック パフォーマ(Accu-Check Perfoma)、薬局で購入可能)を用いて血糖値を測定する。
【0140】
前記OGTTは、OAS処置群が500mg/kgの用量を受け取った2時間後の処置の5日目に行った。OGTTの時点で、処置群のマウスも、経口ブドウ糖負荷と共に500mg/kgのOASを受け取った。
対照群は、経口ブドウ糖負荷のみを受けた。
動物の空腹時の血糖値は、OAS処置群においてより低い傾向にあり、経口ブドウ糖負荷の15分後、30分後、60分後の血糖値は、対照群と比較してOAS処置群の方が対有意に低かった。
【0141】
この試験の結果は、OAS処置5日目は、処置群の空腹時血糖値を低下させ、そして経口ブドウ糖負荷により誘導された高血糖を有意に低下させることを示す(
図4)。
【0142】
この処置は、対照群の曲線下面積よりも低い曲線下面積で高血糖を有意に減少させ(
図4)、食後の高血糖を調整するO-アセチルセリンの効果、したがってインスリン抵抗性及び/又は前糖尿病の確立における本発明に係る活性剤の予防作用の効果を実証した。
【実施例】
【0143】
健常個体における食後の血糖に対する本発明に係る活性剤の単回投与の予防作用
JanvierLabsから入手した7週齢の雄C57BL/6JRjマウスにペットショップで使用される通常の食事を与えた。
OASで処置しなかった5匹のマウスの第一群を対照群とした。
5匹のマウスの第二群は、1000mg/kgでOASの単回投与で処置した。使用されたOASは、Sigma-Aldrich社によりA6262_SIGMAの名称で販売される製品(CAS番号66638-22-0)であった。この群が、OAS処置群である。
【0144】
経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)は、2つの群のマウスに対してそれぞれ行った。
【0145】
この試験は、マウスが経口ブドウ糖負荷を受けた後、120分間の血漿ブドウ糖濃度を監視することからなる。したがって、T0(空腹時の血糖値)で、ブドウ糖(2.5g/kg)は、動物に経口で与えられる。120分間、30分ごとに尾から一滴の血液を採血して、テストストリップを使用する血糖測定器(アキュチェック パフォーマ、薬局で購入可能)で血糖値を測定する。
【0146】
OGTT試験では、OAS処置群は、1000mg/kgの用量のOASを経口ブドウ糖負荷と共に受け取った。対照群は、経口ブドウ糖負荷のみを受けた。経口ブドウ糖負荷の15分後の血糖値は、対照群と比較してOAS処置群において有意に低かった。
【0147】
この試験の結果は、15分後にOASを単回投与すると、経口ブドウ糖負荷により誘導される高血糖が有意に減少することを示す(
図5)。この処置は、対照群よりも曲線下面積の小さい高血糖を有意に減少させる(
図5)。O-アセチルセリンの単回投与は、食後の高血糖を減少させることができる。したがって、これは、インスリン抵抗性及び/又は前糖尿病の確立において、本発明に係る活性剤の単回投与の予防作用を示す。
【実施例】
【0148】
HFD個体に対する本発明による活性剤の作用
本発明による活性剤の作用は、肥満誘発性の食事を受け取った個体においても試験された。
JanvierLabs社より入手した7週齢の雄C57BL/6JRjマウスに高脂肪食(HFD、脂肪 45%、ショ糖 20%)を12週間与えた。この食事は、耐糖能異常を促進する肥満誘発性の食事に匹敵する。
この食事を与えられた10匹のマウスの第一群は、12週間の食事中、週5日の頻度で一日あたり200mg/kgのOASの用量で処置された。使用されたOASは、Sigma-Aldrich社によりA6262_SIGMAとして販売される製品(CAS番号66638-22-0)であった。この群は、HFD+OAS群である。
HFDの食事を与えた9匹のマウスの第2群は、いずれのOAS処置も受けなかった。これがHFD群である。
最後の9匹のマウス群は、いずれの具体的な食事又はOAS処置も受けず、対照群とした。
【0149】
HFDの食事を与えられたマウスでは、HFDの食事を与えられなかったマウス(対照群)と比較して、12週後に、有意に高い体重増加(* p<0.05)及びマウスの精巣上体の脂肪蓄積の有意な増加(**** p<0.0001)が観察された。これらの特徴は、マウスにおける肥満の確立を示している(
図1)。
【0150】
マウスの3つの群のそれぞれに対して、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行った。
この試験は、マウスが経口ブドウ糖負荷を受けた後、120分間の血漿ブドウ糖濃度を監視することからなる。したがって、T0(空腹時の血糖)で、ブドウ糖(2g/kg)は、動物に経口的に与えられる。120分間、30分ごとに尾から1滴の血液を採血して、テストストリップを使用する血糖測定器(アキュチェック パフォーマ、薬局で購入可能)で血糖値を測定する。
【0151】
耐糖能は、ブドウ糖負荷後の正常な血糖値への復帰を調節する身体能力の反映である。
【0152】
前記OGTTは、肥満誘発性の食事の開始の後、5週目及び9週目に行った。この試験の結果は、HFDの食事を与えたマウスの群では、早くも5週間で耐糖能異常の導入を示す。OASを用いる処置は、5週間後にHFD+OAS群では目に見える効果を有さなかった(
図2)。しかし、9週間後、この処置は、対照群の曲線下面積と同様の曲線下面積で、耐糖能異常を有意に減少させた(
図3)。
【0153】
結論として、O-アセチルセリンを用いる処置は、肥満誘発性の食事に関連する耐糖能異常を顕著に改善して、インビボでのブドウ糖代謝を調節することを可能にする。
【国際調査報告】