(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20231023BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231023BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231023BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20231023BHJP
A61K 35/44 20150101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N5/077
C12Q1/02
A61P3/04
A61K35/35
A61K35/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023502756
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(85)【翻訳文提出日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2021069888
(87)【国際公開番号】W WO2022013404
(87)【国際公開日】2022-01-20
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516086358
【氏名又は名称】サントル ナショナル デ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】521296063
【氏名又は名称】シーエイチユー ド ニース
(71)【出願人】
【識別番号】523013237
【氏名又は名称】エタブリスメント フランチャイズ デュ サン
(71)【出願人】
【識別番号】521442659
【氏名又は名称】インスティテュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】523013248
【氏名又は名称】ウニベルシテ コート ダジュール
(71)【出願人】
【識別番号】523013259
【氏名又は名称】ウニベルシテ トゥールーズ III-ポール サバティエ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ダニ,クリスチャン,ジーン,ルシエン
(72)【発明者】
【氏名】ダニ,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】カステイラ,ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ドグリオ,アライン,ピエール,ルイス
(72)【発明者】
【氏名】レテルトゥレ,フィリップ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA05
4B063QQ08
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BB07
4B065BB11
4B065BB12
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA10
4C087BB33
4C087BB63
4C087BB64
4C087BB70
4C087NA14
4C087ZA70
(57)【要約】
本発明の主題は、褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法である。本方法は、以下の、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞および褐色またはベージュヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から間質性血管フラクション、ならびに他方で前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、褐色またはベージュヒト脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、培養培地において懸濁液で培養するステップと
を含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪組織由来の褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得るための方法であって、以下の、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から間質性血管フラクション、ならびに他方で前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含み、前記細胞外マトリックスの抽出が、機械的な解離ステップを含む、ステップと、
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の細胞増殖培地において懸濁液で培養するステップと、
脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の分化を誘導して、褐色またはベージュ脂肪細胞を得るステップと
を含み、
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスの抽出は、以下の
ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離された細胞外マトリックスを含むフラクションAおよび間質性血管フラクションを得るステップと、
フラクションAを機械的に解離して細胞外マトリックスを得るステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記脂肪組織の幹細胞の分化が、分化培地で誘導されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機械的な解離ステップが、コラゲナーゼを含まない解離ステップであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記機械的な解離ステップが、非酵素的な解離ステップであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記間質性血管フラクションに存在する血液細胞を排除するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞外マトリックスのコラーゲンが、原線維構成を有する構造化されたコラーゲンであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスの混合物を培養するステップは、以下の
前記混合物を、無菌にて、前記増殖培地を含む懸濁培養バッグに移すステップと、
前記混合物を増幅させて、細胞クラスターを含む増幅した混合物を得るステップと
を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞クラスターを含む増幅した混合物が、細胞凝集物を得るための機械的な解離の対象であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項9】
増殖培地への、血清、線維芽細胞増殖因子、およびインスリン様増殖因子の添加を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
分化培地への、ロシグリタゾンおよび/またはSB431542の添加を含むことを特徴とする、請求項2~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
表面マーカーDPP4を発現する幹細胞をソーティングすることを目的とするセルソーティングステップをさらに含むことを特徴とする請求項1~10のうちの1項に記載の方法。
【請求項12】
ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞、およびコラーゲンを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により抽出された細胞外マトリックス。
【請求項13】
請求項13に記載の細胞外マトリックスと、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により抽出された間質性血管フラクションとの混合物を含む組成物。
【請求項14】
細胞増殖培地が、血清、線維芽細胞増殖因子、およびインスリン様因子を含み、分化培地が、ロシグリタゾンおよび/またはSB431542を含む、請求項13に記載の組成物を含むキット。
【請求項15】
薬学的に有効な成分のスクリーニングおよび/または性質決定のための、請求項12に記載の細胞外マトリックスのin vitroでの使用。
【請求項16】
薬学的に有効な成分のスクリーニングおよび/または性質決定のための、請求項13に記載の組成物のin vitroでの使用。
【請求項17】
薬学的に有効な成分のスクリーニングおよび/または性質決定のための、請求項14に記載のキットのin vitroでの使用。
【請求項18】
細胞療法でのその使用のため、または代謝性障害の処置のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により得られる褐色またはベージュ脂肪細胞を含む産物。
【請求項19】
肥満の処置のための、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法により得られる褐色またはベージュ脂肪細胞を含む産物。
【請求項20】
請求項2~11のいずれか1項に記載の方法による褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の褐色またはベージュ脂肪細胞への分化のための分化培地であって、血清、増殖因子、ロシグリタゾン、およびSB431542を補充、好ましくはウシ胎児血清、線維芽細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、血管内皮増殖因子、アスコルビン酸、ロシグリタゾン、T3、インスリン、およびSB431542を補充した内皮細胞増殖培地を含む、分化培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト脂肪組織からの褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増殖のための方法に関する。さらに本発明は、褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法、細胞外マトリックス、細胞マトリックスおよび間質性血管フラクションの混合物を含む組成物、この組成物を含むキット、細胞外マトリックスまたは細胞外マトリックスおよび間質性血管フラクションの混合物を含む組成物の使用、その使用のため本発明の方法により得た褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞および褐色またはベージュ脂肪細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
細胞療法は、組織または臓器が事故、病態、老化、および代謝性障害により変質した場合にそれらの機能を回復させることを目的とする細胞移植である。これは、「治療用」細胞と呼ばれる細胞の注射により、長期間の患者の処置を可能にする。これら細胞は、特に、患者自身からの複能性幹細胞から得られる。
【0003】
この患者において、褐色/ベージュ脂肪組織(BAT)の質量を増大させることにより、患者の代謝上の適応性を改善しかつ/またはエネルギー依存を刺激するための検討がなされていた。これは、糖尿病、心血管疾患、および他の代謝性機能不全などの代謝性疾患に対処するように意図された革新的な手法である。実際に、褐色またはベージュ脂肪組織は、レドックス代謝の制御下で生物の熱放散に関与しており、これは、ホルモン分泌を介して内分泌およびパラクリンを制御する役割を果たす。よって、これら患者で「TAB」機能と呼ばれる機能を回復させることは、魅力的な治療の選択肢を表す。
【0004】
しかしながら、褐色またはベージュ脂肪組織を用いる(implementing)自家細胞療法は、実際には存在せず、この主な理由は、in vitroまたはex vivoでの増幅のための、成年患者、より具体的には肥満患者における褐色脂肪細胞の供給源が実質的にないことである。実際に、大量に、特に肥満患者に存在する白色脂肪組織とは異なり、褐色またはベージュ脂肪組織は、成年の男性においては特に希少であり、さらには肥満患者においてはほぼ存在せず、この実質的な不存在は、これが主な原因ではない場合、代謝性障害、限定するものではないが、特に過体重に関連した代謝性障害の悪化する要因を構成する。
【0005】
これに関連して、自家性褐色またはベージュ脂肪細胞の培養を行い、その後、糖尿病、心血管疾患、および他の代謝性機能障害などの肥満に関連する代謝性疾患に対処するために十分な量の治療用グレードの褐色またはベージュ脂肪細胞を得ることを可能にする細胞増幅方法を開発することが、必要とされている。
【0006】
脂肪組織サンプルから脂肪細胞前駆体を単離および増幅させるための標準的な手法は、酵素的な解離を経て、その後、培養皿のプラスチックへの結合により2次元(2D)でのその拡大を経る。この手法は、高価で時間がかかり、コンタミネーションのリスクを上げる多くの操作を必要とする。さらにこれは、組織の3次元構造の破壊、ならびにグラフトの血管新生および脂肪細胞の生理機能の両方に重要な役割を果たす内皮細胞などの目的の細胞種の喪失をもたらす。
【0007】
脂肪組織の非酵素的な解離は、より安価で速く、治療用グレードの生産の基準と一致する産物の製造にとって明らかな利点(外部の産物または混入物質への曝露を低下させる)を有する代替的な方法であると思われる。しかしながら、今日までに提示された非酵素的な解離方法は、得られた脂肪細胞前駆体の数が酵素的解離と比較して少ないといくつかの試験から報告されているため、十分ではない。さらに、成熟脂肪細胞、細胞外マトリックス、および脂肪組織の3次元構造は、常に、培養後の解離プロセスの終了時に、失われ、同様に内皮細胞も失われる。
【0008】
その中に脂肪細胞前駆体を播種し、よって、可能な限り脂肪組織の構造を再構成しようとするための異なる合成マトリックスが提案された。これらマトリックスはまた、移植前に本質的に骨性または軟骨性である、非脂肪細胞種へ脂肪細胞前駆体をin vitroで方向付けるために使用される。また、前駆体の分化を増大させ、脂肪組織の構造を良好に模倣するための脱細胞化された脂肪組織も提案されている。これら種のマトリックスの製造は、酵素的な反応または長い化学的処置を含む多くのステップを必要とする。さらに、定義により脱細胞化された組織は、これらの内在性細胞を失う。非細胞化されており、(以前は酵素的解離により単離された)脂肪組織前駆体が豊富であり、その後2D増幅された脂肪組織は、近年、良好な骨再構成のためのマトリックスとして提案されている。この生物学的なマトリックスを作製するための時間は長く、3週間のin vitro培養を必要とし、脂肪細胞前駆体の増幅を行うことができない。骨修復への関心のみが、著者により強調されていた。
【0009】
3次元(3D)の懸濁培養は、これが組織の構造および内因的な質を保つことを本質的に可能にするため、2Dの標準的な方法に代わる選択方法を表す。この利点は、たとえば、in vitroで脂肪組織を最良に模倣する関連するヒトモデルの不存在が、肥満、ならびに2型糖尿病および心血管疾患などの関連する代謝性疾患に対処するために有効な新規の薬物の開発のための、前臨床段階の試験の間の主要な限定であるため、重要である。さらに、3D培養は、閉鎖されたシステムで達成可能であり、これにより操作およびコンタミネーションのリスクが下がる。
【発明の概要】
【0010】
上記を考慮すると、本発明が対処する技術的な問題は、ヒト白色脂肪組織から大量の幹細胞、特に治療用グレードの褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得ることである。
【0011】
この技術的な問題に対する本発明の解決策は、第1の目的では、褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法であって、以下の、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から間質性血管フラクション、ならびに他方で前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含み、前記細胞外マトリックスの抽出が、機械的な解離ステップを含む、ステップと、
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、細胞増殖培地において懸濁液で培養するステップと、
を含む、方法を有する。
【0012】
よって、恐らくは細胞外マトリックスの存在により作製される間質性血管フラクションの懸濁培養は、3D増幅を可能にし、ネイティブな脂肪組織の環境において大量の細胞にアクセスさせ、よって、コンタミネーションのリスクを上げる操作が限定される。
【0013】
好適には、機械的な解離ステップは、コラゲナーゼを含まない解離ステップであり、機械的な解離ステップは、非酵素的な解離ステップであり、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの抽出は、以下の、
ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離された細胞外マトリックスを含むフラクションAおよび間質性血管フラクションを得るステップと、
フラクションAを機械的に解離して細胞外マトリックスを得るステップと
を含み、本方法は、間質性血管フラクションに存在する血液細胞を排除するステップをさらに含み、細胞外マトリックスのコラーゲンは、原線維構成を有する構造化されたコラーゲンであり、前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスの混合物を培養するステップが、以下の
前記混合物を、無菌にて、増殖培地を含む懸濁培養バッグに移すステップと、
前記混合物を増幅させて、細胞クラスターを含む増幅した混合物を得るステップと
を含み、細胞クラスターを含む増幅された混合物が、細胞凝集物を得るための機械的な解離の対象であり、増殖培地が、血清、線維芽細胞増殖因子、およびインスリン様増殖因子を含み、本方法が、表面マーカーDPP4を発現する幹細胞をソーティングすることを目的とするセルソーティングステップをさらに含む。
【0014】
第2の目的では、本発明は、褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得るための方法であって、以下の、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から間質性血管フラクション、ならびに他方で前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含み、前記細胞外マトリックスの抽出が、機械的な解離ステップを含む、ステップと、
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、細胞増殖培地において懸濁液で培養するステップと、
脂肪組織の幹細胞の分化を誘導して、褐色またはベージュ脂肪細胞を得るステップと
を含む、方法に関する。
【0015】
好適には、脂肪組織の幹細胞の分化は、分化培地で誘導され、機械的な解離ステップは、コラゲナーゼを含まない解離ステップであり、機械的な解離ステップは、非酵素的な解離ステップであり、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの抽出は、以下の、
ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離された細胞外マトリックスを含むフラクションAおよび機械的な間質性血管フラクションを得るステップと、
フラクションAを機械的に解離して細胞外マトリックスを得るステップと
を含み、本方法は、間質性血管フラクションに存在する血液細胞を排除するステップをさらに含み、細胞外マトリックスのコラーゲンは、原線維構成を有する構造化されたコラーゲンであり、前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスの混合物を培養するステップが、以下の
前記混合物を、無菌にて、増殖培地を含む懸濁培養バッグに移すステップと、
前記混合物を増幅させて、細胞クラスターを含む増幅した混合物を得るステップと
を含み、細胞クラスターを含む増幅された混合物が、細胞凝集物を得るための機械的な解離の対象であり、増殖培地が、血清、線維芽細胞増殖因子、およびインスリン様増殖因子を含み、分化培地が、ロシグリタゾンおよび/またはSB431542を含み、本方法が、表面マーカーDPP4を発現する幹細胞をソーティングすることを目的とするセルソーティングステップをさらに含む。
【0016】
第3の目的では、本発明は、上記に定義した方法により得られる可能性がある単離された細胞外マトリックスであって、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞、およびコラーゲンを含む、単離された細胞外マトリックスに関する。
【0017】
第4の目的では、本発明は、上記の細胞外マトリックスと、脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含む間質性血管フラクションとの混合物を含む組成物に関する。
【0018】
第5の目的では、本発明は、上記に定義された組成物、増殖培地、および分化培地を含むキットに関する。
【0019】
第6の目的では、本発明は、薬学的に有効な成分のスクリーニングおよび/または性質決定のための、上記に定義された細胞外マトリックスまたは上記に定義された組成物の使用に関する。
【0020】
第7の目的では、本発明は、細胞療法でのその使用のため、または代謝性障害の処置のための、上記の組成物からもたらされる褐色またはベージュ脂肪細胞に関する。
【0021】
第8の目的では、本発明は、肥満の処置のための、上記の組成物からもたらされる褐色またはベージュ脂肪細胞に関する。
【0022】
第9の目的では、本発明は、褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の褐色またはベージュ脂肪細胞への分化のための分化培地であって、血清、増殖因子、ロシグリタゾン、およびSB431542、好ましくはウシ胎児血清、線維芽細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、血管内皮増殖因子、アスコルビン酸、ロシグリタゾン、T3、インスリン、およびSB431542を補充した内皮細胞増殖培地を含む、分化培地に関する。
【0023】
本発明は、添付の図面に関連してまとめられた以下の非限定的な説明を読むことにより、良好に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】
図1Aは、本発明に係る、細胞外マトリックスおよび間質性血管フラクションの抽出に必要とされかつ十分なステップ(ステップ1~3)と、その共培養(ステップ4)とを表す。
【
図1B】
図1Bは、本発明に係る、間質性血管フラクションの細胞外マトリックス(M1~M4)および細胞集団(C1~C3)の連続的な抽出(ステップ1~5)と、その共培養(ステップ6)とを可能にする本方法のより詳細な概略図である。
【
図1C】
図1Cは、本発明に係る産物、すなわち、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスからもたらされるExAdEx-組織と呼ばれる産物、ならびに本発明に係る方法のさらなるステップによる凝集物の形成からもたらされるExAdEx-小葉と呼ばれる産物の例示である。
【
図1D】
図1Dは、本発明の方法による、産物ExAdEx-組織から産物ExAdEx-小葉を得るためのステップを表す。
【
図2A-2K】
図2A、2B、2C、2D、2E、2F、2G、2H、2I、2J、および2Kは、産物ExAdEx-小葉およびExAdEx-組織における以下に列挙された遺伝子:FABP4、PLIN1、アディポネクチン、CD31、DPP4、ICAM1、PDGFRa、Inhibin beta A、MSCA1、IL1b(M1 マクロファージ)、MRCI(M2 マクロファージ)の定量的PCRで表される量をそれぞれ比較するグラフである。
【
図3A-3H】
図3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、および3Hは、前記産物において、免疫蛍光標識により、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニン、エラスチン、DPP4、ICAM1、およびCD31をそれぞれ強調した、産物ExAdEx-小葉の共焦点イメージングにより得られる写真である。
【
図4A-4C】
図4A、4B、および4Cは、本発明の方法により試験した5つの異なる増殖培地でのヒト脂肪細胞幹細胞における低酸素マーカーCA9、ならびに本発明の方法により試験した分化因子で強化した5つの異なる増殖培地での分化した幹細胞におけるPLIN1およびUCP1のそれぞれの存在を代表する図面である。
【
図5A-5C】
図5A、5B、および5Cは、それぞれ、分化培地が脂肪細胞への分化を可能にすること(
図5A)、デキサメタゾンおよびIBMXの存在下で内皮細胞にとって毒性である(
図5B)が、これら化合物が上記培地から除去される場合、毒性ではない(
図5C)ことをそれぞれ示す光学顕微鏡画像である。
【
図6A-6B】
図6Aおよび6Bは、本発明に係る異なる分化培地におけるPLIN1およびUCP1の発現を示す図面である。
【
図7A-7C】
図7A、7B、および7Cは、本発明に係る方法の実施の前(左の写真)、増殖培地において20日後(中央の写真)、増殖培地において20日後、その後分化培地において20日後(ICAM1を除く)(右の写真(ICAM1を除く))での、脂肪組織におけるマーカーCD31(
図7A)、DPP4(
図7B)、およびICAM1(
図7C)の存在に係る内皮細胞および脂肪組織の幹細胞の異なる集団の可視化を可能にする蛍光顕微鏡の画像を示す。
【
図8A-8B】
図8Aおよび8Bは、本発明に係る方法による混合の前の、これら図面における間質性血管フラクションおよび「Endostem」フラクションと呼ばれるフラクションを形成する細胞外マトリックスにおけるDPP4タンパク質およびICAM1タンパク質が、染色体に結合した抗体により標識された、蛍光顕微鏡画像を示す。
【
図9A】
図9Aは、マトリックスM2がコラーゲンを多く含む種であること、ピクロシリウスレッドで標識したコラーゲン(薄灰色)および核の標識(白色)を蛍光顕微鏡により示す。
【
図9B】
図9Bは、マトリックスM3が線維種であること、ピクロシリウスレッドで標識したコラーゲン(薄灰色および白色の線維)、ならびに核の標識(白色)を蛍光顕微鏡により示す。
【
図9C】
図9Cは、顕微鏡において、マトリックスM1の線維種を特徴づける。
【
図9D】
図9Dは、マトリックスM2がマトリックスの種類:線維種およびコラーゲンを多く含む種の観点から異種であることを顕微鏡により示す。
【
図9E】
図9Eは、マトリックスM3の線維種を示す顕微鏡画像である。
【
図10A】
図10Aは、マトリックスM4を含む機械的な解離の後のフラクションAから遠心分離された脂肪組織の写真である。
【
図10B】
図10Bは、マトリックスM4におけるオイルレッドO(薄灰色)の着色による成熟脂肪細胞およびI型コラーゲンを標識(非常に薄い灰色)することによるコラーゲンリッチマトリックスを蛍光顕微鏡により強調している。
【
図10C】
図10Cは、CD31イムノ標識により、M4マトリックスにおけるCD31+内皮細胞により形成される毛細管構造(白色);核の標識(濃灰色)を示す。
【
図10D】
図10Dは、マトリックスM4におけるPDGFRa+脂肪組織の幹細胞アレイの存在(薄灰色のドット);核の標識(濃灰色)を表す。
【
図11】
図11は、増殖中の細胞の核へのEdu、5-エチニル(ethylnyl)2’-デオキシウリジンの組み込みにより、内在性細胞が、本発明の細胞外マトリックスにおいて、懸濁液のEGM+(商標)培地での増殖にて維持されること;核(濃灰色)、増殖している細胞(白色)、マトリックスの自己蛍光(薄灰色)を示す。
【
図12】
図12は、本発明の細胞外マトリックスと共培養した外来性脂肪組織の幹細胞が、マトリックスに存在する脂肪組織のこれら幹細胞および内在性細胞から構成される構造を形成すること;3日間の共培養の後に撮影された画像、核(濃灰色)、コラーゲン(薄灰色)、脂肪組織の外来性幹細胞(薄灰色/白色)を示す。
【
図13A】
図13Aは、間質性血管フラクションに由来する、細胞外マトリックスを含まない懸濁液における脂肪組織の幹細胞および内皮細胞の細胞培養の間の細胞増殖の不存在;10日間の共培養後に撮影された画像;核(濃灰色)、増殖している細胞の核(非常に薄い灰色)を示す。
【
図13B】
図13Bは、本発明の細胞外マトリックスを含む懸濁液における間質性血管フラクションの細胞増殖能;10日間の共培養の後に撮影された画像;核(濃灰色)、コラーゲンマトリックス(薄灰色)、Edu標識による増殖している細胞の核(白色)を示す。
【
図14A】
図14Aは、本発明の細胞外マトリックスを含む懸濁液(右)および含まない懸濁液(左)での培養により得た分化した細胞集団における内皮細胞マーカーCD31の発現レベルを示す。
【
図14B】
図14Bは、本発明の細胞外マトリックスを含む懸濁液(右)および含まない懸濁液(左)での培養により得た分化した細胞集団における脂肪細胞幹細胞マーカーPDGFRaの発現レベルを示す。
【
図14C】
図14Cは、本発明の細胞外マトリックスを含む懸濁液(右)および含まない懸濁液(左)での培養により得た分化した細胞集団における成熟脂肪細胞マーカーPLIN1の発現レベルを示す。
【
図14D】
図14Dは、本発明の細胞外マトリックスを含む懸濁液(右)および含まない懸濁液(左)での培養により得た分化した細胞集団における成熟脂肪細胞マーカーアディポネクチンの発現レベルを示す。
【
図15A-15B】
図15Aおよび15Bは、本発明に係る方法の増殖能の活性化を強調する画像である。
図15Aでは、解離していない脂肪組織は、増殖している細胞を示さない。
図15Bでは、本組成物は増殖している細胞を示し、増殖している細胞の核は、この図面では白色で表されている。
【
図16A-16F】
図16A、16B、16C、16D、16E、および16Fは、増殖培地での20日間の培養後の、間質性血管フラクションの不存在下(
図16A、16C、16E)のEndostemマトリックスと呼ばれるマトリックスおよびこの間質性血管フラクションを添加した(
図16B、16D、16F)Endostemマトリックスと呼ばれるマトリックスに含まれる増殖している細胞が標識されている画像である。
【
図17A-17F】
図17A、17B、17C、17D、17E、および17Fは、単離した間質性血管フラクションで濃縮されているジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)の発現、ならびに単離したマトリックスで濃縮されるICAM1およびCD31の発現(
図17A、17C、17E)、ならびに増幅した組成物におけるDPP4、ICAM1、およびCD31の発現(
図17B、
図17D、17F)を示す。
【
図18】
図18は、本発明に係る方法における脂肪組織の細胞外マトリックスの中のマーカーDPP4を有する細胞の増殖能(陽性Edu)を示す4つの写真から構成されている。
【
図19】
図19は、マーカーDPP4を示す細胞集団(図面の上部3つの写真)またはこのマーカーDPP4を示さない細胞集団(下部の3つの写真)の褐色またはベージュ脂肪細胞へ分化する特性を示す写真から構成されている。
【
図20A-20B】
図20Aおよび20Bは、マーカーPLIN1(
図20A)およびマーカーUCP1(
図20B)のリアルタイムでの定量PCRにより得られる、DPP4を発現するかまたは発現しない細胞集団の褐色またはベージュ脂肪細胞へ分化する特性を示すグラフである。
【
図21A-21B】
図21Aおよび21Bは、本発明に係る増幅した組成物における、M1型マクロファージおよびM2型マクロファージのそれぞれの存在を示す。
【
図22】
図22は、本発明に係る細胞外マトリックスにおける特定のタンパク質の存在、および毛細管ネットワークの保存を示す写真のセットを含む。
【
図23】
図23は、0日目、すなわち増幅した産物ExAdEx-組織の移植前、および21日目の、マウスに移植した後の産物ExAdEx-組織における、ヒトUCP1の相対発現を示す。
【
図24】
図24は、3つの蛍光顕微鏡写真を示しており、左の写真は、本発明の方法の実施前の白色脂肪細胞の中の褐色/ベージュ脂肪細胞の不存在を示し、中央の写真は、増幅および分化の方法の後の、UCP1タンパク質の、過体重の個体におけるex vivoでの発現により薄灰色に特異的に標識された褐色/ベージュ脂肪細胞の存在を示し、右の写真は、重篤な肥満を有する患者における、本発明の実施の後の、ex vivoでの褐色/ベージュ脂肪細胞の存在を示す。
【
図25A-25C】
図25A、25B、および25Cは、塩化アンモニウムを含むACLと呼ばれる1×溶解バッファーでインキュベートした直後(
図25A)、接着培養条件下での24時間の培養の後(
図25B)および5日後(
図25C)の、間質性血管フラクションの精製後の脂肪組織の幹細胞のバイアビリティを示す。
【
図26A-26D】
図26A、26B、26C、および26Dは、塩化アンモニウムを含むACLと呼ばれる1×溶解バッファーでの異なる回数の処置後の生細胞および死細胞の数のフローサイトメトリー分析のグラフでの結果を示す。
【
図27A-27C】
図27A、27B、および27Cは、塩化アンモニウムを含むACLと呼ばれる1×溶解バッファーでインキュベートした直後(
図27A)、接着培養条件下での24時間の培養の後(
図27B)および5日後(
図27C)の、間質性血管フラクションの精製後の脂肪組織の内皮細胞のバイアビリティを示す。
【
図28】
図28は、細胞表面マーカーのフローサイトメトリーによる決定により得られる、本発明のExAdEx法により増幅した脂肪組織の幹細胞のプロファイルを示す。
【
図29A-29B】
図29Aおよび29Bは、フローサイトメトリーにより得た細胞表面マーカーを決定することにより得られたex vivoでの脂肪組織(
図29A)および増幅したExAdEx産物(
図29B)のASCのプロファイルを示す。
【
図30A-30C】
図30A、30B、および30Cは、本発明に記載される増殖培地(
図30A)、本発明に記載される分化培地(
図30B)、ならびにDMEMおよび血清を含む最適化されていない標準的な分化培地(
図30C)で培養したヒト脂肪組織から単離した内皮細胞を示す。
【
図31】
図31は、ヌードマウスへの移植後(移植から4週間後)の本発明に記載される組成物の機能的な血管網の白色での可視化を有する。
【
図32】
図32は、間質性血管フラクションの添加を含まない方法(A)および精製した後に本発明において間質性血管フラクションとも称される下澄液(infranatant)から単離した細胞の添加を含む方法(B)による、脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のバイアビリティおよび増幅能の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を行うために、脂肪組織が提供される。これは実際に、個体、たとえば限定するものではないが過体重の個体、特に肥満、ならびに/または2型糖尿病および心血管疾患などの代謝性障害を有する個体由来の、脂肪組織、たとえば白色脂肪組織である。
【0026】
本発明の第1の目的は、脂肪組織、たとえば白色のヒト脂肪組織からの褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法であって、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から機械的間質性血管フラクションと呼ばれる間質性血管フラクションを抽出(
図1A、ステップ1~2および
図1B、ステップ1~3およびステップ5)、他方で前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出(
図1A、ステップ3および
図1B、ステップ4)するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含み、前記細胞外マトリックスの抽出が、機械的な解離ステップ(
図1A、ステップ3および
図1B、ステップ4)を含むステップと、前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップ(
図1A、ステップ4および
図1B、ステップ6)と、先行するステップで得た混合物を、細胞増殖培地と呼ばれる培養培地の懸濁液で培養するステップとを含む、方法である。この方法はまた、以下で(ex vivoでの脂肪細胞の増殖では)「ExAdEx法」とも呼ばれる。
【0027】
本発明の意味の中で、用語「間質性血管フラクション」は、ヒト脂肪組織のサンプルに存在する細胞を意味する。この間質性血管フラクションは、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含む。本発明に係る間質性血管フラクションは、下澄液とも呼ばれており、好適には、
図1Bに記載のステップ2および3から生じ、DPP4*細胞を多く含む。
【0028】
本発明の意味の中で、用語「細胞外マトリックス」は、生体活性マトリックス、すなわち脂肪組織の異なるタンパク質(
図22)、特に内皮細胞を含む内在性細胞(
図10C)、脂肪組織の幹細胞(
図10D)、脂肪細胞およびマクロファージを含むマトリックスを意味する。
図11は、細胞外マトリックスで増殖している細胞の存在を示す(白色で標識されているEdu)。この細胞外マトリックスは、3D細胞増幅を可能にし、すなわち3次元での細胞の増幅を可能にする。本発明の細胞外マトリックスはまた、本明細書中以下で「EndoStem-マトリックス」とも表される。
【0029】
脂肪組織の細胞外マトリックスのタンパク質は、コラーゲンを含む。このコラーゲンは、構造化されている。これは、原線維構成を有する。これは、特にI型およびIII型のコラーゲンである(ピクロシリウスレッドで標識された繊維状コラーゲン線維を示す
図9Aおよび9B、ならびに抗コラーゲン抗体により標識され共焦点顕微鏡により観察されるI型コラーゲンを示す
図10Bを参照されたい)。脂肪組織の細胞外マトリックスのタンパク質は、特に、フィブロネクチン、エラスチン、ラミニン、およびIV型コラーゲンをさらに含む(
図22)。
【0030】
細胞外マトリックスの抽出は、非酵素的な解離ステップを含み、特に細胞外マトリックスの抽出は、機械的な解離ステップを含む。本発明の「機械的な解離」は、細胞外マトリックスの構造をインタクトなままにすることを可能にし、対して酵素的消化は、一般に、これを消化するコラゲナーゼを含む。よって、機械的な解離は、「脈管構造」の維持を可能にし、これは
図7Aに示されており、ここで血管網は、左の写真においてヒト脂肪組織の解離前に出現しており、ならびに中央の写真で解離および増幅後の血管網が示されている。さらにこの機械的な解離は、細胞外マトリックスのミクロ構造の維持を可能にし、結果としてin vivoでの脂肪組織の組織に類似する組織を有する。
【0031】
間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの抽出は、以下の、
ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離された細胞外マトリックスを含むフラクションAおよび間質性血管フラクションを得るステップと、
フラクションAを機械的に解離して細胞外マトリックスを得るステップと
を含む(
図1A)。
【0032】
ヒト脂肪組織の遠心分離のステップは、油の除去に加えて、提供されるヒト脂肪組織に含まれる血液および麻酔性の液体の除去を可能にする。またこのステップは、提供されるヒト脂肪組織の予備洗浄からもたらされる生理液の除去を可能にする。
【0033】
特定の実施形態では、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの抽出は、以下の、ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離された細胞外マトリックスを含むフラクションAならびにヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むフラクションBを得るステップと、
フラクションAを機械的に解離して解離した細胞外マトリックスを含むフラクションA’を得るステップと、
フラクションA’を遠心分離して少なくとも細胞外マトリックスならびにヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むフラクションB’を得るステップと、
フラクションBおよびB’を混合して、機械的間質性血管フラクションを得るステップと
を含む(
図1B)。
【0034】
この実施形態では、ヒト脂肪組織を遠心分離するステップはさらに、提供される脂肪組織に含まれる油、血液、および麻酔性液体を除去することを可能にする。またこのステップは、提供されるヒト脂肪組織の予備洗浄からもたらされる生理液を除去することを可能にする。フラクションA’の遠心分離はまた、全ての油および生理液の残渣を除去することを可能にする。このフラクションA’を遠心分離するステップは、任意である。
【0035】
特定の実施形態では、本発明に係る方法は、血液細胞を排除するステップをさらに含む。これは、脂肪組織、およびExAdExと呼ばれる機械的解離法の上述のステップの間に得られる機械的SVFと呼ばれる異なる細胞ペレットに存在する赤血球型の血液細胞の排除である。この排除ステップは、無菌化した水で希釈した塩化アンモニウムを含む1×溶解バッファー(「塩化アンモニウム溶解溶液」、Becton Dickinson(商標)-ACLと呼ばれる)での脂肪組織および/または細胞ペレットの1:1~1:10の範囲の、バッファー:サンプル比、5~30分間の範囲のインキュベーション時間の間、4~37℃の温度でのインキュベーションの間に行われる。このステップは、赤血球の溶解を可能にする。
図25A、25B、および25C、ならびに
図26A、26B、26C、および26Dは、LCD処置の脂肪組織の幹細胞に及ぼす効果を示す。この、5分超の期間にわたるACLでのインキュベーションの結果は、下澄液に含まれる幹細胞のバイアビリティおよび増殖能にダメージを与える。さらに、
図27A、27B、および27Cは、下澄液に含まれる脂肪組織の内皮細胞のバイアビリティおよび増殖能に及ぼすACLでのインキュベーションの効果の欠如を示す。
【0036】
間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスの混合物の培養は、以下の、
前記混合物を、無菌にて、増殖培地を含む懸濁培養バッグに移すステップと、
前記混合物を増幅させて、細胞クラスターを形成するステップと
を含む。
【0037】
「無菌」での移動は、本発明の意味の中で、好ましくは閉鎖したシステムで行われる、移動である。この移動は、無菌にて、細胞培養の間の混入物質の存在を回避することを可能にする。増幅の間に形成される細胞クラスターの機械的な解離は、システムの開口を必要とせず、よって環境の要素による培養物のコンタミネーションへの細胞産物の曝露を回避する。
【0038】
一実施形態では、懸濁培養バッグ中の増殖培地は、EGM+(商標)培地である。この増殖培地は、上皮増殖因子(EGF)、塩基性増殖因子(FGF2)、インスリン様増殖因子、血管内皮増殖因子165、アスコルビン酸、ヘパリン、およびヒドロコルチゾンで強化した(EGM+)内皮細胞増殖のための基本培地(EGM)を含む。EGM+培地はまた、脂肪細胞幹細胞の増幅を、脂肪細胞へ分化するその特性を変えることなく可能にする。
【0039】
本発明の方法は、10超、好適には20超、特には30超、好ましくは35超である増幅係数で、脂肪組織の幹細胞の数の増幅を可能にする。この増殖係数は、前記細胞外マトリックスの存在下で単離したSVFの培養後に得た細胞の数と、本発明の前の細胞の数との間の比である。実施例2に記載される特定の実施形態では、本発明の方法は、8日で36からの増幅係数を有する。
【0040】
第2の目的では、本発明は、褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法であって、以下の、
上記に定義されるヒト脂肪組織の幹細胞をin vitroまたはex vivoで増幅するステップと、
脂肪組織の幹細胞の分化を誘導して、褐色またはベージュ脂肪細胞を得るステップと
を含む。言い換えると、第2の目的では、本発明は、褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得るための方法であって、以下の、上記に定義されるようにヒト脂肪組織の幹細胞をin vitroまたはex vivoで増幅するステップと、脂肪組織の幹細胞の分化を誘導して、褐色またはベージュ脂肪細胞を得るステップとを含む。
【0041】
よって、より具体的には、褐色またはベージュ脂肪細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法は、以下の、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から間質性血管フラクションを、他方で、前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記機械的間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、細胞増殖培地の懸濁液で培養するステップと、
脂肪組織の幹細胞の分化を誘導して、褐色またはベージュ脂肪細胞を得るステップと
を含む。よって言い換えると、褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得るための方法は、以下の、
一方で、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むヒト脂肪組織から間質性血管フラクションを、他方で前記ヒト脂肪組織の細胞外マトリックスを抽出するステップであって、前記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞、およびコラーゲンを含む、ステップと、
前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスを混合するステップと、
先行するステップで得た混合物を、細胞増殖培地の懸濁液で培養するステップと、
脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の分化を誘導して、褐色またはベージュ脂肪細胞を得るステップと
を含む。
【0042】
分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法は、脂肪組織の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅に関連するステップを含み、脂肪組織の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のため方法の上記に提供される詳細はまた、分化した細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法にも当てはまる。言い換えると、褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得るための方法は、脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅に関連したステップを含み、脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のin vitroまたはex vivoでの増幅のための方法はまた、褐色またはベージュ脂肪細胞をin vitroまたはex vivoで得るための方法にも当てはまる。
【0043】
特に、細胞外マトリックスの抽出は、非酵素的な解離ステップを含み、特に細胞外マトリックスの抽出は、機械的な解離ステップを含む。
【0044】
一実施形態では、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの抽出は、以下の、
ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離した細胞外マトリックスを含むフラクションAおよび間質性血管フラクションを得るステップと、
フラクションAを機械的に解離して細胞外マトリックスを得るステップと
を含む。
【0045】
別の実施形態では、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの抽出は、以下の、
ヒト脂肪組織を遠心分離して、少なくとも2つの異なるフラクション、遠心分離した細胞外マトリックスを含むフラクションA、ならびにヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むフラクションBを得るステップと、フラクションAを機械的に解離して、解離した細胞外マトリックスを含むフラクションA’を得るステップと、フラクションA’を遠心分離して、少なくとも細胞外マトリックスならびにヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞およびヒト脂肪組織の幹細胞を含むフラクションB’を得るステップと、フラクションBおよびB’を混合して間質性血管フラクションを得るステップと
を含む。
【0046】
細胞外マトリックスのコラーゲンは、ピクロシリウスレッド染色により明らかとなるI型コラーゲンおよびIII型コラーゲンを含む(
図9Aおよび9Bを参照)。
【0047】
本発明に係る方法の特定の実施形態では、前記方法は、CD26とも呼ばれる表面マーカーDPP4を発現する幹細胞をソーティングすることを目的とするセルソーティングステップをさらに含む。見込みのあるバリアントは、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスを混合した後であるが、前記混合物を細胞増殖培地の懸濁液で培養する前の、主にExAdEx法と呼ばれる方法の前に、CD26/DPPEを発現する細胞を選択/ソーティングすることで構成される。この目的は、特に、褐色またはベージュ脂肪細胞の前駆体細胞で使用される産物を強化すること、ならびに他方で、増幅される細胞産物の組成物をホモジナイズおよび標準化することである。
【0048】
実際に、表面マーカーCD26の存在によりソーティングされたヒト脂肪組織の幹細胞のソーティングは、表面マーカーCD26を発現した細胞が、好ましくは褐色/ベージュ脂肪細胞に分化する特性を有することを強調している。
図20Aは、DPP4+集団およびDPP4-集団が、全て、マーカーPLIN1の発現により脂肪細胞へと分化する特性を有することを示している(
図20A)。しかしながら、DPP4+集団のみが、褐色/ベージュ脂肪細胞マーカーUCP1を発現する脂肪細胞へと分化している(
図20B)。
図19での図示は、UCP1タンパク質の蛍光イメージングにより、UCP1タンパク質が、DPP4+を発現する脂肪組織の幹細胞でのみ発現され、脂肪生成培地で分化したことを示している。ソーティングした細胞の培養後に得られる産物の使用は、主に、肥満および代謝性疾患の細胞療法の適用に関連しているが、この種の制御された組成物産物のin vitroでの適用もまた可能である。セルソーティングの方法形式は、このタンパク質を発現する細胞を同定するためのDPP4に特異的な抗体結合に基づく。第1の分離技術は、蛍光色素と結合した抗体を結合することから構成され、ソーティングは、少なくとも4つの異なる細胞集団を分離できる高スループットサイトメーター/セルソーターである自動化セルソーティングプラットフォーム(Aria III(商標)型、BD)で行う。他の方法は、磁場で目的の細胞の保持を可能にする磁気ボールと結合した抗体の使用に基づく免疫磁性セルソーティングに関する(cliniMACs(商標)型技術, Miltenyi Biotec(商標))。これら2つの技術は、最終産物における目的の細胞産物の高度の均一性(>95%)を可能にすることができる。これら技術は全て、プラットフォームを適合させることを条件として細胞療法の適用のGMP条件下で行われるソーティングと適合可能である(磁気ソーティング用のAutomate CliniMacsT(商標)、GMP sorting Cytometer)。
【0049】
本発明の一実施形態では、前記間質性血管フラクションおよび前記細胞外マトリックスの混合物の培養は、以下の、
前記混合物を、無菌にて、培養培地を含む懸濁培養バッグに移すステップと、
前記混合物を増幅させて、細胞クラスターを形成するステップと
を含む。
【0050】
機械的なSVFフラクションおよびマトリックスフラクションの混合物の増幅からもたらされる産物は、「ExAdEx-組織」と呼ばれ得る。本方法の終了時のさらなるステップでの凝集物の形成からもたらされる産物は、「ExAdEx-小葉」と呼ばれ得る。これら産物は、
図1Cにまとめられている。産物EXADEX-小葉は、本発明に係る方法のさらなるステップで得ることができる産物である。共培養ステップの終了時に、産物は、培養フラスコ中のEGM+増殖培地で上述のように増幅される。次にこれは、増幅された産物ExAdEx-組織を構成する。
図1Dに示されるように、この増幅された産物は、撹拌または撹拌せずに、6ウェル、12ウェル、または24ウェルの非接着性ULA(Ultra-Low Attachment)培養プレートの中の増殖培地、特にはEGM+増殖培地に移される。その後、凝集物の形成が観察される、これらは、記載の条件下で3~10日後の産物ExAdEx-組織にて記載された全ての特徴を含む。これら特徴は、ヒト脂肪組織の幹細胞、内皮細胞、および細胞外マトリックスの成分の存在により定義される。この産物はまた、成熟脂肪細胞およびマクロファージの存在により性質決定される。分子マーカーのうち、
図2A~2Kに示されるように、マーカーCD31、DPP4、ICAMI、FDGFRA、PLNI1、アディポネクチン、FABP4、IL1B、およびMRCI1が見出される。これら図面は、同等の方法で産物ExAdEx-組織およびExAdEx-小葉で見出される、上述のマーカーの発現の比較を示す。MSCA1の発現のみが、2つの産物間で異なり、産物ExAdEx-組織と比較したExAdEx-小葉の分子シグネチャーを構成する。ExAdEx-小葉に存在するタンパク質の性質決定はまた、共焦点蛍光顕微鏡によりなされ、脂肪組織の細胞外マトリックスの主要なタンパク質、特にI型コラーゲン(
図3A)およびIV型コラーゲン(
図3B)、同様にフィブロネクチン(
図3C)、ラミニン(
図3D)、エラスチン(
図3E)、および脂肪組織の幹細胞のマーカーDPP4(
図3F)、ICAM1(
図3G)、ならびに内皮細胞マーカーCD31(
図3H)の存在を示す。産生される単位は、産物ExAdEx-組織よりも均一な大きさであり、分子のスクリーニングの観点から製薬業界により使用される標準に適合される。産物ExAdEx-小葉はまた、細胞療法の観点からシリンジ注射に良好に適合される。これら産物ExAdEx-小葉の単位は、異なる増幅時間、たとえば10日間の増幅および最大40日間で、産物ExAdEx-組織から産生され得る。これら凝集体は、形成されると、もはや増幅能を有さないが、10日超の培養でバイアビリティを有する。ExAdEx-小葉の単位は、白色脂肪細胞の産物範囲に維持され得、または分化に誘導され得、または褐色またはベージュ脂肪細胞に分化され得る。
【0051】
最終的に、本発明に係る方法は、3Dの活性細胞外マトリックスにて維持される、褐色またはベージュ脂肪細胞幹細胞(hASC)を増幅して、脂肪組織の微小環境の生細胞、すなわち内皮細胞(hEC)ならびにM1およびM2のマクロファージを維持することを可能にしながら、これらを褐色またはベージュ脂肪細胞へ分化させることを目的とする(
図21A、21B)。この目的のため、hECの増殖および分化のために従来より使用される培養培地が、hECに毒性であり、hECの増殖のために従来より使用される培養培地が、hASC分化の阻害剤であるため、培養培地が開発されている。よって、2つの培養培地が、確立された:hASCの増殖を可能にする増殖培地、および増幅したhASCのマーカーUCP1を発現する脂肪細胞への分化を可能にする分化培地。これら2つの培養培地の独創性は、これらがヒト脂肪組織の内皮細胞の維持とも適合可能であることである。
【0052】
10%のFCS(ウシ胎児血清)を含むDMEMと呼ばれる培地(ダルベッコ(商標)改変イーグル培地)は、hASCの増殖のための参照培地である。しかしながら、この培地は、内皮細胞を生きたままにすることはない。増殖培地を判定するために、一般にヒト内皮細胞の増殖のために販売されている5つの培地を試験した。これらは、以下の培地であった:
No.1:Endo-BM EPC:PrepoTech(商標)companyにより販売(製品参照記号:Cat:GS-EPC)
No.2:PrepoTech(商標)companyにより販売されるEndo-BM MacroV(製品参照記号:Cat:GS-MacroV)
No.3:PrepoTech(商標)companyにより販売されるEndo-BM MicroV(製品参照記号:Cat:GS-MicroV)
No.4:Promocell(商標)companyにより販売されるEGM+(製品参照記号:Cat:CC-22011 plus C-39216)
No.5:Promocell(商標)companyにより販売されるMV2(製品参照記号:CC-39226 plus C-22022B)。
【0053】
2D培養では、これら5つの培地は、参照培地と同じ効率でヒト脂肪組織の幹細胞の増殖を可能にする。しかしながら、増殖培地No.4、すなわちEGM+は、
図4Aに示されるように、特に他の試験した培地とは異なり、hASCが3D懸濁液にある場合に、EGM+が細胞の低酸素を、その後低酸素マーカーCA9を誘導しないことから、選択された。
【0054】
EGM+増殖培地の組成は、以下の通りである:2%のFCS;5ng/mlの上皮増殖因子(EGF);10ng/mlの線維芽細胞増殖因子(FGF2-線維芽細胞増殖因子2);20ng/mlのlong R3 インスリン様増殖因子-1(IGF-1);IF/mlの血管内皮増殖因子(VEGF)165;1μg/mlのアスコルビン酸;22.5μg/mlのヘパリン;0.2μg/mlのヒドロコルチゾンを補充した内皮細胞増殖培地(内皮細胞の増殖)。
【0055】
分化培地を決定するために、異なる培地を試験した。これら培地は、脂肪生成因子で強化し、次に、hASCの分化に関して試験した。これら結果は、培地No.1~3とは異なり、脂肪生成因子を補充したEGM+が、
図4Bに示されるように、脂肪細胞の分化を可能にすることを表した(これは脂肪細胞マーカーPLN1の発現により決定される)。しかしながら、褐色/ベージュ脂肪細胞の特異的なマーカーUCP1の発現は非常に少なく、これは
図4Cに示されている。よって、この最初のEGM+分化培地4は、最適化されていない。また、培地NO.5は、さらには追及されていないEGM+に対する選択肢であることに留意されたい。
【0056】
よって、最適化されていない増殖培地の組成は、好適には、脂肪細胞因子を補充した上述のもの、すなわち、2%のFCS;5ng/mlのEGF;10ng/mlのFGF2;20ng/mlのlong R3 1GF;0.5ng/mlのVEGF因子165;1μg/mlのアスコルビン酸;22.5μg/mlのヘパリン;0.2μg/mlのヒドロコルチゾン:2μMのロシグリタゾン;1nMのT3;2.5μg/mlのインスリン;0.25Mのデキサメタゾン;500μMのIBMX、非特異的なホスホジエステラーゼ阻害剤を補充したEGMである。
【0057】
最適化されていない上述の分化培地は、好適には、以下の方法で最適化される。まず、hASCの分化を増大させるためにEGFおよびヒドロコルチゾンを除去する(両化合物は、UCP1の発現を阻害できると文献に記載されている)。次に、hECのバイアビリティを維持するためにデキサメタゾンおよびIBMXを除去する:
図5Aに示されるように、分化培地は、脂肪細胞への分化を可能にするが、hEC(内皮細胞-
図5B)に対しては毒性である。しかしながら、最初の3日後に分化カクテルのデキサメタゾンおよびIBMXを除去することは、hECのバイアビリティの維持を可能にする(
図5C)。次に、再度、脂肪細胞への分化のためのデキサメタゾンおよびIBMXの除去を補うために化合物SB431542を添加する:最初の3日後に分化カクテルからデキサメタゾンおよびIBMCを除去する影響は、脂肪細胞(PLIN1)への分化の減少である。TGFb経路阻害剤のSB431542の添加は、
図6GAに示されるように分化の修復を可能にする。SB431542は、hECのバイアビリティに関する結果を有さない。最後に、SB431542の添加およびロシグリタゾンの維持は、
図6Bに示されるように、UCP1の発現を可能にする。さらに、ロシグリタゾンの存在は、ロシグリタゾンが最初の3日間のみ存在する場合この発現は非常に低いため、特に好適である。
【0058】
よって、最適化した分化培地の最終的な組成は、好適には以下の通りである:0.1%~5%、好ましくは2%のFCS;2ng/ml~20ng/ml、好ましくは10ng/mlのFGF2;10ng/ml~30ng/ml、好ましくは20ng/mlのlong R3 IGF-1;0.1ng/ml~1ng/ml、好ましくは0.5ng/mlのVEGF165;0.5μg/ml~2μg/ml、好ましくは1μg/mlのアスコルビン酸;0.5μM~4μM、好ましくは2μMのロシグリタゾン;0.5nM~10μM、好ましくは1nMのT3;0.5μg/ml~10μg/ml、好ましくは2.5μg/mlのインスリン;0.1μM~0.500μM、好ましくは0.25μMのデキサメタゾン;100μM~800μM、好ましくは500μMの3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX);1μM~10μM、好ましくは5μMのSB431542を補充したEGM。
【0059】
この分化培地は、デキサメタゾンおよびIBMCを含む第1の分化培地である。しかしながらこれら化合物は、おおよそ分化の最初の3日間のみ存在する。組成が上述の第1の分化培地と一致するが、デキサメタゾンおよびIBMXを含まない第2の分化培地が使用される。
【0060】
よって、この第2の分化培地の最終的な組成は、たとえば以下の通りである:0.1%~5%、好ましくは2%のFCS;2ng/ml~20ng/ml、好ましくは10ng/mlのFGF2;10ng/ml~30ng/ml、好ましくは20ng/mlのlong R3 IGF-1;0.1ng/ml~1ng/ml、好ましくは0.5ng/mlのVEGF165;0.5μg/ml~2μg/ml、好ましくは1μg/mlのアスコルビン酸;0.5μM~4μM、好ましくは2Μmのロシグリタゾン;0.5nM~10μM、好ましくは1nMのT3;0.5μg/ml~10μg/ml、好ましくは2.5μg/mlのインスリン;1μM~10μM、好ましくは5μMのSB431542。
【0061】
さらに、恐らくは、第1および/または第2の分化培地は、5μg/ml~50μg/ml、たとえば22.5μg/mlのヘパリンおよび1μM~20μM、たとえば10μMのY27632を含む。
【0062】
図7Aに示されるように、hECは、増殖培地の組成において20日、およびその後の分化培地の組成において20日超の後に、常に検出可能である。この図面では、ECは、マーカーCD31の発現により可視化されている。左の写真は、本発明に係る方法の実施前の脂肪組織の写真である。中央の写真は、増殖培地における20日後のこの組織の写真である。右の写真は、増殖培地において20日、次に分化培地において20日後のこの組織の写真である。また
図7Bは、DPP4細胞が、増殖培地の組成において20日、およびその後の分化培地の組成において20日超の後に常に検出可能であることを示している。またこれは、20日の共培養の後に増幅された組織において常に検出可能である脂肪細胞前駆体ICAM1でも有効である。
【0063】
分化培地において、他の組成で必要または使用できない因子:-Y27632は、懸濁液において細胞のバイアビリティを増大させると報告されている;-ヘパリン;-脂肪生成因子が、他の濃度で使用され得る。
【0064】
本発明の例示的な実施形態では、脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の褐色またはベージュ脂肪細胞への分化は、in vivoで誘導される。実際に、以下の実施例4は、本発明の方法により増幅された産物が、ヌードマウスへ移植された後に、脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の褐色またはベージュ脂肪細胞への分化を可能にすることを示している。
【0065】
第3の目的では、本発明は、上記に定義された方法により得られる可能性のある単離された細胞外マトリックスであって、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、ヒト脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞、およびコラーゲンを含む、単離された細胞外マトリックスに関する。言い換えると、細胞外マトリックスは、本発明の方法の抽出ステップの間に抽出され、よって、上述の細胞外マトリックスの全ての特徴を含む。
【0066】
コラーゲンは、I型の構造化されたコラーゲン、およびIII型コラーゲンである(
図9Aおよび
図9B)。細胞外マトリックスは、特にフィブロネクチンをさらに含む(
図22)。
【0067】
第4の目的では、本発明は、上記に定義した細胞外マトリックスおよび間質性血管フラクションの混合物を含む組成物であって、上記細胞外マトリックスが、ヒト脂肪組織の血管網の内皮細胞、脂肪組織の幹細胞、およびコラーゲンを含み、上記間質性血管フラクションが、脂肪組織の血管網の内皮細胞および褐色またはベージュ脂肪組織の幹細胞を含む、組成物に関する。
【0068】
言い換えると、組成物は、本発明の方法の抽出ステップの間に抽出される細胞外マトリックスと、本発明の方法のこの同じ抽出ステップの間に抽出される間質性血管フラクションとを含む。よって、本組成物の細胞外マトリックスは、上述の細胞外マトリックスの全ての特徴を含む。よって、本組成物の間質性血管フラクションは、上述の間質性血管フラクションの全ての特徴を含む。
【0069】
コラーゲンは、I型コラーゲンおよびIII型コラーゲンである。細胞外マトリックスは、フィブロネクチンをさらに含む(
図22)。
【0070】
間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの混合物の増幅の前に、本発明の方法により得られるこの組成物は、組織組成物である。この組成物は、成熟脂肪細胞をさらに含む。
【0071】
第5の目的では、本発明は、上記に定義した組成物、増殖培地、および分化培地を含むキットに関する。
【0072】
第6の目的では、本発明は、特に肥満ならびに/または関連する代謝性疾患、たとえば2型糖尿病および心血管疾患に対する、薬理学的な有効成分のスクリーニングおよび/または性質決定のための、上記に定義した細胞外マトリックスのin vitroでの使用または上記に定義した組成物のin vitroでの使用に関する。
【0073】
さらに本発明は、上記に定義した方法により得られるかまたは上記に定義した組成物に由来し、細胞療法における使用が意図されているかもしくはその使用のため、または代謝性障害の処置のための、褐色またはベージュ脂肪細胞に関する。用語「~に由来する」は、脂肪細胞が、褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞の分化により、組成物から生じる意味として理解すべきである。
【0074】
よって、本発明は、本発明の方法により得た組成物であって、褐色もしくはベージュ脂肪細胞または当該脂肪細胞の前駆体を含み、細胞療法における使用が意図されているかもしくはその使用のための、または代謝性障害の処置のための、組成物に関する。この組成物は、ヒト脂肪組織の組織組成物であり、本発明の方法により得られる全ての産物、すなわち、増殖後またはさらには分化後の、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの混合物を含む。
【0075】
褐色もしくはベージュ脂肪細胞または当該脂肪細胞の前駆体は、過体重または肥満の個体における肥満の処置のために使用され得る。この目的のため、一例では、サンプルは、個体の白色脂肪組織から採取される。その後、この採取された組織は、本発明の方法により処置されることにより、この例ではさらに、上述の産物ExAdEx-組織またはさらにはExAdEx-小葉が得られる。褐色またはベージュ脂肪細胞の前駆体幹細胞が増幅を経たこれら産物は、その後、好適には、褐色またはベージュ脂肪細胞への分化の対象である。次に、これら褐色またはベージュ脂肪細胞を含む産物は、たとえば白色脂肪組織の中または個体の当該組織の近くに移植される。褐色またはベージュ脂肪細胞を含む産物は、先行する段落に定義される組織組成物であることに留意されたい。別の実施形態では、褐色またはベージュ脂肪細胞は移植されないが、本発明の方法により増幅を経た褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞、言い換えると、増殖後の間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの混合物を含む上記に定義した組織組成物が移植され、成熟した白色またはベージュ脂肪細胞への分化は、移植された個体の身体で行われる。
【0076】
実施例
実施例1.機械的な抽出
a)プロセスの間の細胞およびマトリックス集団の性質決定のための機械的な抽出プロセス
ヒトドナー由来の脂肪組織サンプルからの、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの機械的な抽出が、以下のステップにより行われ得る(
図1Aおよび1B)。
【0077】
1.-20kPaでの陰圧で2mmのコールマンカニューラを備えた10ccの無菌のシリンジでの吸引による脂肪組織の除去。
【0078】
2.異なる相を分離するために、シリンジを、回収チューブにて1600rcf(相対遠心力)、3分で遠心分離する。油の分画および血液の分画および麻酔液を除去する。C1と称されるペレット状の分画を保持する。
【0079】
3.1ユニットの生理食塩水をシリンジに注射し、撹拌しながら37℃で30分間インキュベートする。シリンジを、回収チューブにて1600rcfにて3分間遠心分離する。生理的な液体の分画および油の分画を除去する。C2と称されるペレット状の分画を保持する。
【0080】
4.シリンジを、Tulip(登録商標)型のコネクターにより接続された別の雄型ルアーロック型のシリンジに接続させて、乳化により組織の解離を行う。2.4mm、1.4mm、および1.2mmの3種類のTulip(登録商標)コネクターが、30の通路にわたり連続して使用される。
【0081】
5.1ユニットの生理食塩水をシリンジに注射し、撹拌しながら、37℃で30分間インキュベートする。シリンジを、回収チューブにて1600rcfで3分間遠心分離する。生理的な液体の分画および油の分画を排除する。C3と称されるペレット状の分画を保持する。
【0082】
6.シリンジの中身ならびに血液細胞を以前に除去した回収チューブの中身C1、C2、およびC3を、増殖段階のため37℃にてEGM+培養培地を含む培養バッグに無菌的接続を介して移す。
【0083】
組織解離の上記のステップ4の間、Tulip(登録商標)のブランド以外のブランドのコネクターが使用され得る。使用されるコネクターの数は、1~5の間に含まれる。これらコネクターを介した通路の数は、10~50の間に含まれる。
【0084】
図1Aは、ステップ2においてC1およびC2の集団、ならびにマトリックスM1およびM2を集めることを可能にする方法を示す。ステップ3では、集団C3ならびにマトリックスM3およびM4がグループ分けされている。
【0085】
b)得られた細胞集団の性質決定
上述のプロセスは、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスを連続して抽出することを可能にする。細胞集団は、特に、蛍光顕微鏡、定量的PCRによる分子の性質決定、およびフローサイトメトリーにより、特徴づけられる。
得られた間質性血管フラクションは、マーカーDPPの遺伝子発現のレベルにある大部分のDPP4+型細胞(
図17A)および顕微鏡によるDPP4タンパク質の観察(
図8A)により特徴づけられる。比較すると、ICAM1タンパク質は、ほとんど存在しない(
図17Cおよび
図8B)。
【0086】
得られた細胞外マトリックスは、遺伝子発現レベルにある大部分のICAM1+型細胞(
図17C)およびCD31+細胞(
図17E)により特徴づけられる。この結果は、顕微鏡により観察されるICAM1タンパク質を発現する細胞の存在により確認される(
図8B)。
【0087】
得られた増幅したExAdEx産物は、特に、CD26*型細胞により性質決定される(
図28)。特に、ex vivoでの脂肪組織および増幅されたExAdEx産物の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のプロファイルは、細胞表面マーカーのフローサイトメトリーによる決定により得られる。よって、本発明の方法はマーカーCD26を発現する細胞集団の、4%から51%への増加を可能にすることが示されている(
図29A)。マーカーCD54を発現する細胞は存在するが、本発明の方法により増幅されない(
図29B)。
【0088】
c)本方法の異なるステップの間に得られるマトリックスM1~M4の性質決定
本明細書中M1と称される、ステップ2の間に得られるマトリックスは、線維型である(
図9C)。
【0089】
本明細書中M2と称される、ステップ3の間に得られるマトリックスは、線維型であり、コラーゲンを多く含む(
図9D)。このコラーゲンは、ピクロシリウスレッドにより明らかにされており(
図9A)、さらに、杆体様のコラーゲン構造を可視化させる。このマトリックスは、内在性細胞を含む。
【0090】
本明細書中M3と称される、ステップ5の間に得られ、回収チューブで単離されるマトリックスは、線維型である(
図9Eおよび
図9B)。またこのマトリックスは、内在性細胞を含む。単離されたマトリックスのコラーゲンは、
図9Bにおいて、I型およびIII型のコラーゲン線維を染色するピクロシリウスレッドにより明らかにされる。得られた赤色(
図9Bでは灰色の影)は、コラーゲンが組織化されたままであること、すなわち、本発明のコラーゲンが常にαヘリックスの二次構造および三重ヘリックスの四次構造を有することを表している。これは分解されていない。実際に、組織化されていないコラーゲンは、ピクロシリウスレッドにより緑色に染色される。
【0091】
本明細書中M4と称される、ステップ5の間に得られ、シリンジに含まれるマトリックスは、成熟脂肪細胞の大部分およびI型コラーゲンのフレームワークから構成される(
図10B)。また、マトリックスM4は、CD31+内皮細胞(
図10C)および脂肪組織のPDGFRa+幹細胞のネットワーク(
図10D)により形成される毛細管構造から構成される。
【0092】
d)C1/C2下澄液(infratant)の精製
C1およびC2の集団は、4~37℃に含まれる温度で、5分~30分まで変動するインキュベーション時間の間に1:1~1:10の範囲のバッファー:サンプル比にて無菌水で希釈した、ACLと呼ばれる塩化アンモニウムを含む1×溶解バッファーにて細胞ペレットをインキュベートすることにより血液細胞を予め除去する。脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞に及ぼすこのACL処置の効果を決定するために、フローサイトメトリー解析を行った。よって、合計1×10
5個のヒト脂肪組織の幹細胞を、対照としての生理食塩水にて、または、10容量の血液細胞溶解溶液にて異なる時間でインキュベートした。
図25Aは、異なる組成物でのインキュベーション後の生細胞の数の観点からの直接的なバイアビリティを表す。
図25Bは、24時間の培養後のバイアビリティを表し、
図25Cは、接着培養条件下で5日後の増殖能を有する(テューキーの事後検定、n=5で*<0.05;**<0.01;***<0.001)。フローサイトメトリーによるこの解析の図画での結果は、
図26A、26B、26C、および26Dに示されており、ACLでの異なる処置時間後の生細胞および死細胞の数の可視化を可能にする。生理食塩水溶液は、参照として取られている。これら図面において、ヨウ化プロピジウム染色により同定された、左の灰色のボックスに生細胞が表され、右のボックスに死細胞が表されている。この染色は、細胞膜が損傷した細胞にのみ浸透する性質を有する。同様に、脂肪組織の内皮細胞に及ぼす下澄液の精製の影響を決定するために、フローサイトメトリーによる別の解析を行った。よって、合計1×10
5個のヒト脂肪組織の内皮細胞を、対照としての生理食塩水溶液において、または10容量の血液細胞溶解溶液において異なる時間でインキュベートした。
図27Aは、異なる組成物におけるインキュベーションの後の生細胞の数の観点からの直接的なバイアビリティを表す。
図27Bは、24時間後のバイアビリティを表し、
図27Cは、接着培養条件下での5日後の増殖能を示す。これら解析から5分間超であるACLでのインキュベーション期間が下澄液に含まれる脂肪組織の幹細胞のバイアビリティおよび増殖能を損なうことがもたらされる。さらに、ACLでのインキュベーションは、ヒト脂肪組織の内皮細胞のバイアビリティまたは増殖能に作用しない。
【0093】
実施例2.細胞の増殖および分化
脂肪組織の褐色またはベージュ脂肪細胞の幹細胞のex vivoでの増殖および脂肪組織を模倣する環境での分化のための方法は、以下のステップを含む。
【0094】
1.集団C1~C3およびEndoStemマトリックスM1~M4と呼ばれるマトリックスを含む実施例1で得た最終産物は、バッグの中の懸濁液で培養し、37℃、5%のCO2で24時間撹拌しながらEGM+増殖培地で維持した後、同じ条件下で、好ましくは撹拌しながら維持する。
【0095】
2.EGM+増殖培地は、2日ごとに50%を変える。
【0096】
3.5日目および10日目に、チューリップに取り付けられた2つのシリンジまたは2つの培養バッグを介した通路による閉鎖したシステムでの機械的な解離を行う。
【0097】
4.14日目に、EGM+増殖培地を、250μMのデキサメタゾン;500μMのIBMX;1μMのロシグリタゾン;2μMのT3および2.5μg/mlのインスリンで強化したEGM+から構成される分化カクテルIと置き換える。
【0098】
5.17日目に、分化培地Iを、1μMのロシグリタゾン;2μMのT3、および2.5μg/mlのインスリンで強化したEGM+から構成される分化培地IIに置き換える。
【0099】
実施例3.マトリックスの増幅能の性質決定
本発明のEndoStem-マトリックスと呼ばれる細胞外マトリックスは、特に、異なる特異的なマーカーの存在下で、蛍光顕微鏡により性質決定されている。よって、増殖している細胞は、
図11に例示されるように、DNA複製の段階の間、蛍光Edu(5-エチニル(ethylnyl)-2’-デオキシウリジン)の本発明のマトリックスEndoStem-マトリックスへの組み込みにより検出されており、これらが生理活性であることを証明している。実際に、
図11は、マトリックスに対し内在性である細胞が、増幅段階の間に増殖で維持されることを示している。
【0100】
さらに、
図12は、本発明の細胞外マトリックスとの3日間の共培養の後に共培養した脂肪組織の外来性幹細胞の存在を強調している。よって、細胞外マトリックスは、間質性血管フラクションの増殖のための支持を提供することを可能にし:添加された脂肪組織の幹細胞は、懸濁液において、マトリックスのEndoStem-マトリックスに結合し得る。これは、外来性細胞が、本発明に係る細胞外マトリックスに結合する特質を有することを示しており、マトリックスが、臨床またはin vitroでの適用のため、特に薬理学的な有効成分のスクリーニングおよび/または性質決定のために、それ自体で単独で使用され得ることを表している。外来性幹細胞は、たとえば目的のタンパク質を発現するように、遺伝子改変され得る。さらに、外来性幹細胞は、非脂肪細胞または具体的には脂肪細胞幹細胞であり得る。これは、たとえば皮膚幹細胞、特には、皮膚の上皮幹細胞または人工多能性幹細胞であり得る。
【0101】
図13Bを参照すると、間質性血管フラクションは、本発明のEndoStemマトリックスでのその培養により増幅される。逆に、
図13Aを参照すると、間質性血管フラクションが、細胞外マトリックスを伴わずに懸濁液で培養される場合、増殖しない細胞凝集体が観察される。よって、本発明の細胞外マトリックスは、添加した脂肪組織の幹細胞を増幅する特性を有する。
【0102】
さらに、
図16は、脂肪組織の幹細胞の増幅を得るために間質性血管フラクションおよびマトリックスの共培養の必要性を強調することを可能にする。
図16A、16C、および16Eは、間質性血管フラクションを添加せずに培養したEndostemマトリックスで増殖している細胞の低い比率を示している。
図16B、16D、および16Fは、間質性血管フラクションおよび細胞外マトリックスの共培養が、脂肪組織の幹細胞の優れた増殖を得ることを可能にすることを示している。また、脂肪組織の幹細胞のバイアビリティおよび増幅能を比較するために、間質性血管フラクションを添加しない組成物(
図32A)または細胞外マトリックスおよび下澄液から単離した細胞の混合物を含む組成物(
図32B)に含まれる細胞を、機械的な消化により単離し、接着条件下で48時間培養した後、固定し、クリスタルバイオレットで染色することにより、細胞密度を観察した。セルウェルに含まれる細胞は、
図32において黒色で示されている。よって、
図32Aは、間質性血管フラクションを添加しない場合の細胞集団の弱い増幅を示している。
図32Bは、培養後の間質性血管フラクションの細胞集団の増幅を示している。
【0103】
実施例1のステップの間に得た異なるマトリックスM1~M4の細胞増幅能を検証した。よって、約104個の脂肪組織の幹細胞を、Ultra Low Attachment (ULA)のウェルにて、異なるマトリックスM1~M4の存在下で懸濁液に維持した。8日後に、細胞を、トリプシン/EDTAによりマトリックスから分離し、次に計測した。得られた値を、以下の表1に示す。
【表1】
【0104】
上記の表で、個々のマトリックスM1~M4の特定の場合、増幅係数は、細胞外マトリックスの存在下での培養後に得た細胞の数と、細胞外マトリックスの不存在下で得た細胞の数との間の比率である。
【0105】
マトリックスM2およびM4は、脂肪組織の幹細胞の強力な増幅力を有する。得られたマトリックスM2の体積は、M4の体積と比較して非常に小さい(
図10A)。マトリックスM4は、本発明で定義される細胞外マトリックスを表す。
【0106】
異なる細胞マーカー(脂肪組織の幹細胞および内皮細胞のマーカーCD31)の発現レベルを、増殖培地において、本発明の細胞外マトリックス上にて間質性血管フラクションの懸濁液での培養後に解析した。この試験は、褐色/ベージュ脂肪組織のDPP4幹細胞の増幅(
図17B)、ヒト脂肪組織の脂肪細胞のICAM1前駆体幹細胞の保存(
図17D)、および内皮細胞集団の保存(
図17F)を明らかにしている。
【0107】
異なる細胞マーカー(内皮細胞マーカーCD31、脂肪細胞幹細胞マーカーPDGFRa、ならびに2つの成熟脂肪細胞のマーカーPLN1およびアディポネクチン)の発現のレベルを、産物ExAdEx-組織の増幅および分化のステップの後に本発明の細胞外マトリックス上で間質性血管フラクションの懸濁液での培養後に解析した。
図14は、本発明の細胞外マトリックスを伴わない間質性血管フラクションの懸濁液における培養からもたらされる、これらの発現レベルの比較を示す。この試験は、脂肪組織の血管網の内皮細胞(
図14A)および脂肪組織の幹細胞(
図14B)の増幅を明らかにしている。またこの試験は、本発明の細胞外マトリックスにより誘導される最良の分化能を強調することを可能にしている(
図14Cおよび14D)。よって、本発明の細胞外マトリックスで3D増幅された脂肪組織の幹細胞は、脂肪細胞へ分化する特性を保持している。
【0108】
本発明のExAdExプロセスはまた、細胞の増幅および分化の間に、ネイティブな血管網を保存することを可能にする。
図30A、30B、および30Cは、異なる培地において培養した後にヒト脂肪組織から単離した内皮細胞を表す。
図30Aは、本発明の増殖培地で培養した後の脂肪組織の内皮細胞を示す。
図30Bは、本発明の分化培地での培養後の脂肪組織の内皮細胞を示す。
【0109】
また、
図30Cは、DMEMおよび血清を含む、標準的な最適化されていない分化培地での培養後の脂肪組織の内皮細胞を示す。結果として、本発明に記載される培地のみが、増殖および褐色/ベージュ脂肪組織への分化のステップの間に内皮細胞を保存することを可能にする。内皮細胞の保存は、特に、褐色/ベージュ脂肪組織の移植適用に重要であり、移植後の血管新生、よって移植産物のバイアビリティを可能にする。これに関して、本明細書において、本発明の方法により得られる増幅した組成物に存在し、恐らくは分化したネイティブな血管網は、ヌードマウスにおいて移植後の血管新生能を有することが示されている。実際に、
図31において白色で出現しているように、ヌードマウスへの移植から4週間後に、本発明の組成物は、機能的な血管網を有する。
【0110】
外食片に同化し得る解離していない脂肪組織が、ex vivoで短時間生存可能でありつつけることに留意されたい。よって、
図15に特に示されるように、解離により単離されるマトリックスは、解離していない組織(
図15A)とは異なり、増殖している細胞を含む(
図15B)。
図15Aおよび15Bは、解離していない組織(
図15A)および単離したマトリックス(
図15B)において細胞増殖を比較することを可能にする。
図15Aでは、解離していない脂肪組織は、増殖している細胞を示さない。
図15Bでは、本組成物は、増殖している細胞を示す。実際に、この図面は、白色で、増殖している細胞の核を示す。
【0111】
洗浄液の遠心分離により、本発明により単離される細胞は、マーカーDPP4により分子学的に特徴づけられることに留意されたい。DPP4は、高い増殖能を有し、脂肪組織の間質性細網に局在化している、ICAM1前脂肪細胞の前駆細胞のマーカーである。これらは、本発明に係る組成物において増殖する特性を有する細胞である。これら細胞が、従来技術の方法により行われる洗浄の後に除去されることに留意することが重要である。同様にこれは
図17Aに示されており、DPP4の発現は、単離された間質性血管フラクションに集中している。マトリックスは、ほとんど発現しない。しかしながら、
図17Cに示されるように、ICAMの発現は、
図17EのCD31型細胞と同様に、単離したマトリックスに集中している。本組成物において増幅を担持する細胞は、DPP4を発現する添加された細胞である。
【0112】
実際に、
図18は、共培養産物において、Edu増殖マーカーを発現する細胞が、同様にマーカーDPP4を発現する細胞であることを示している。よって、増幅力を担持する幹細胞は、優先的には、DPP4またはcd26+型細胞である。
【0113】
さらに、in vivoでの脂肪組織はマクロファージを含むこと、および本発明に係る増幅した組成物は、
図21aに示されるようにM1型のマクロファージの存在を維持し、
図21Bに示されるようにM2型のマクロファージの存在を維持することに留意されたい。
図21Aでは、M1型マクロファージは、マーカーIL-1bにより明らかとなり、
図21Bでは、M2型マクロファージは、マーカーMRCI1により明らかとなる。
【0114】
最後に、
図22に示されるように、本発明に係る単離したマトリックスは、細胞外マトリックスのタンパク質、すなわち特に、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニンを含む。CD31内皮細胞の染色は、毛細管ネットワークが保存されていることを示している。
【0115】
実施例4-増幅/褐色/ベージュ脂肪細胞への分化
図19は、これが、優先的に褐色/ベージュ脂肪細胞の前駆体である陽性DPP4細胞であることを示している。実際に、DPP4+を発現し、本発明で記載される培地により分化したヒト脂肪組織の幹細胞の単離した集団(
図19の一番上の線)は、共焦点顕微鏡でのマーカーUCP1の発現を示す。しかしながら、表面マーカーDPF4を発現しないヒト脂肪組織の幹細胞集団は、分化後にマーカーUCP1の発現を示さない。分子解析により、これら知見が確認され、これは脂肪細胞分化マーカーPLN1が陽性または陰性のDPP4集団に関して比較可能であることを示している(
図20a)、が、褐色/ベージュ脂肪組織の分化のマーカーは、マーカーDPP4を発現する幹細胞から分化して集団でのみ観察可能である(
図20B)。
【0116】
増幅したが分化していない産物ExAdEx-組織を、「ヌード」と呼ばれる免疫不全マウスの褐色脂肪組織の近くに、肩甲骨間レベルに注射した。注射から21日後(D21)に、産物ExAdEx-組織をサンプリングした。RNAは、サンプリングされた組織の構成要素の細胞から抽出した。褐色/ベージュ脂肪細胞のマーカーUCP1の発現レベルを、注射前(J0)の産物のレベルと比較した。D0およびD21でのUCP1の発現レベルを、リアルタイム定量PCRにより決定した後、これらを、発現が2つの条件下で変動しない参照遺伝子、すなわち遺伝子:ヒトGUSB(βグルクロニダーゼ)と関連付けることにより決定した。
図23に示されるように、増殖し移植した組織は、移植後に褐色/ベージュ脂肪細胞へのin vivoでの細胞分化に供されたように思われる。実際に、
図24に示されるように、本発明の方法の実施前の白色皮下脂肪組織に褐色/ベージュ脂肪細胞は存在しない(
図24、左の写真)。過体重の人物の脂肪組織由来の本発明の後のex vivoでの(UCP1タンパク質の発現により特異的に標識される)褐色/ベージュ脂肪細胞の存在(
図24、中央の写真)。重篤な肥満を有する患者の脂肪組織由来の本発明の後のex vivoでの褐色/ベージュ脂肪細胞の存在(
図24、右の写真)。
【国際調査報告】