(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-30
(54)【発明の名称】CRISPRを介した指令コドン書換え
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20231023BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231023BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20231023BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/82 Z
A01H1/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023520242
(86)(22)【出願日】2021-10-01
(85)【翻訳文提出日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2021077206
(87)【国際公開番号】W WO2022069756
(87)【国際公開日】2022-04-07
(32)【優先日】2020-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521045254
【氏名又は名称】リマグレン、ヨーロッパ
【氏名又は名称原語表記】LIMAGRAIN EUROPE
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ティエリー、リザシェ
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD05
2B030CA11
2B030CA19
2B030CD17
(57)【要約】
本発明は、遺伝子内の変位の導入方法であって、前記方法は、細胞の修復マシーナリーにおいてエラー、ならびにエンドヌクレアーゼにより、特にCRISPRシステムを用いて行われる切断を修復する場合に欠失および/または挿入の導入を使用する、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の変異が標的遺伝子の特定の位置において導入されている生物の細胞を得る方法であって、
a)複数の細胞の細胞において、
-エンドヌクレアーゼタンパク質、
-前記標的遺伝子中の標的位置を認識する第一ガイドRNA、
-前記標的遺伝子中の改変された標的位置を認識する第二ガイドRNAであって、前記改変は、前記標的位置における前記第一ガイドRNAにより誘導された前記エンドヌクレアーゼタンパク質による切断後に起こった少なくとも1つのヌクレオチド欠失に存する、前記第二ガイドRNA、
を導入し、
(i)前記第一ガイドRNAは、前記ヌクレアーゼを、前記標的位置において前記標的遺伝子を切断するように指令し、1~3ヌクレオチドの小欠失をいくつかの細胞内で前記切断サイトにおいて修復により導入し、
(ii)前記第二ガイドRNAは、前記ヌクレアーゼを、前記改変された標的位置において前記標的遺伝子を切断するように指令し、所望のヌクレオチドの挿入は前記切断サイトにおいて修復することにより起こり、前記所望のヌクレオチドはこの位置における前記元のヌクレオチドと異なり、それにより、前記標的遺伝子の前記特定の位置における前記特定の変異を前記標的遺伝子の修復によって導入する、
ことと、
b)前記特定の変異がフレームシフトの導入なしで導入された前記細胞を単離するために、前記複数の細胞を所望によりスクリーニングすることと、
を含んでなる、方法。
【請求項2】
第三ガイドRNAを、前記エンドヌクレアーゼタンパク質ならびに前記第一ガイドRNAおよび第二ガイドRNAを含む前記細胞内に導入し、
(i)前記第二ガイドRNAを、改変された標的位置を認識するように設計し、改変は、前記第一ガイドRNAによる前記切断後に前記標的遺伝子中の前記特定の位置における2つの所望のヌクレオチドの欠失に存し、および前記第二ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第一の所望のヌクレオチドを挿入し、
(ii)前記第三ガイドRNAを、前記(i)で得られた挿入により前記改変された標的位置を認識するように設計し、前記第三ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第二の所望のヌクレオチドを挿入し、
それにより、2つの所望のヌクレオチドが2つの元のヌクレオチドを置換した標的遺伝子を有する細胞を得る、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第四ガイドRNAを、前記エンドヌクレアーゼタンパク質ならびに前記第一ガイドRNA、前記第二ガイドRNAおよび前記第三ガイドRNAを含む前記細胞内に導入し、
(i)前記第二ガイドRNAを、改変された標的位置を認識するように設計し、前記改変は、前記第一ガイドRNAによる前記切断後に前記標的遺伝子中の前記特定の位置における3つのヌクレオチドの欠失に存し、および前記第二ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第一の所望のヌクレオチドを挿入し、
(ii)前記第三ガイドRNAを、前記(i)で得られた挿入後に得られた前記改変された標的位置を認識するように設計し、前記第三ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第二の所望のヌクレオチドを挿入し、
(iii)前記第四ガイドRNAを、前記(ii)で得られた挿入により前記改変された標的位置を認識するように設計し、前記第四ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第三の所望のヌクレオチドを挿入し、
それにより、3つの所望のヌクレオチドが3つの元のヌクレオチドを置換した標的遺伝子を有する細胞を得る、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記特定の位置は、タンパク質をコードする遺伝子のコドンであり、前記変異は、前記タンパク質中のアミノ酸の変更を誘導する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記特定の位置は、タンパク質をコードする遺伝子の2つのコドンの2つまたは3つのヌクレオチドを含んでなり、前記変異は、前記2つまたは3つのヌクレオチドの変異を含み、それにより、前記タンパク質中の2つのアミノ酸の変更を引き起こす、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記複数の細胞は、前記生物の細胞の組織または懸濁液である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記変異は、前記標的遺伝子中の1つのヌクレオチドの置換である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記エンドヌクレアーゼは、SpCas9、SaCas9、CjCas9、St1Cas9、NmCas9、FnCas9、RHA FnCas9、xCas9およびCas9-NGから成る群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記エンドヌクレアーゼおよび前記ガイドRNAを、DNAベクターによりまたはリボ核タンパク質(RNP)として細胞に導入する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記標的遺伝子が変異された前記細胞を回収する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記生物は、植物である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記標的遺伝子の前記特定の位置において変異を含む少なくとも1つの細胞を含んでなる植物を、前記細胞集団から再生する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞は、カルスを生成することを可能とし、前記植物を、前記カルスから再生する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
標的遺伝子の特定の位置において変異を含む少なくとも1つの細胞を含んでなる植物の産生方法であって、前記方法は、植物細胞に対して請求項1~13のいずれか一項に記載の方法を行うことおよび前記方法の実施後に得られた前記細胞から前記植物を再生することを含んでなる、方法。
【請求項15】
生物の細胞の標的遺伝子の特定の位置における特定の変異の導入のために必要なガイドの設計方法であって、
-欠失する必要があるヌクレオチドおよび前記欠失するヌクレオチドを置換するように挿入する所望のヌクレオチドを決定することにより、前記特定の位置を改変するように置換する必要がある前記ヌクレオチド/塩基を識別することと、
-前記標的遺伝子中の前記特定の位置の近くのPAMを識別することであって、前記PAMは、前記編集のために使用されるエンドヌクレアーゼに応じて選択される、ことと、
-野生型配列中の前記特定の位置において二本鎖DNAを切断するように第一ガイドを設計することと、
-前記第一ガイドにより引き起こされる前記エンドヌクレアーゼによる前記切断後に得られる前記ヌクレオチドの前記欠失に特異的である第二ガイドを設計することと、
-2つのヌクレオチドが前記野生型配列から欠失されることになる場合に第三ガイドを設計することであって、前記第三ガイドは、前記第二ガイドの作用後期待される前記修復される配列の切断を引き起こす、ことと、
-3つのヌクレオチドが前記野生型配列から欠失されることになる場合に第四ガイドを設計することであって、前記第四ガイドは、前記第三ガイドの作用後期待される前記修復される配列の切断を引き起こす、ことと、
を含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子内の変異の導入(遺伝子編集)方法であって、前記方法は、細胞の修復機構および特に、CRISPRシステムによる遺伝子編集を使用する、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CRISPR/Casシステムによる遺伝子編集(GE)は、原核生物および真核生物ゲノムを編集するための世界的に広く使用されているツールである。(Jinek, M. et al. Science 337, 816-821 2012, Cong, L. et al. Science 339, 819-823 2013)
【0003】
3種類の編集は、CRISPR/Casシステムにより行われた二本鎖切断(DSB)後に得られることができる。SDN1編集は、DNA鎖の修復は、細胞DNA修復マシーナリー:非相同末端結合経路(NHEJ)の1つの経路により行われる。修復は、切断サイトにおいて小挿入または欠失(インデル)をもたらす。
【0004】
SDN2は、修復を、鋳型を用いて相同組換え(HR)による配列の挿入により行う編集である。挿入は、標的配列と通常同じであるが、所望の修正を含んでなる。
【0005】
SDN3は、修復をHRにより行うが、挿入は新たな遺伝子材料である編集でもある。
【0006】
塩基編集(BE)は、ゲノム工学における重要なツールになった。現在、ツールは、シチジン残基を標的とするため、およびより最近ではアデニン残基を標的とするために存在する(シチジンベースエディターおよびアデニンベースエディター)(Kim (2018), Rees and Liu (2018))。これらのベースエディターは、特定のDNA領域に指令されるデアミナーゼ活性を可能とするDNA標的化システムと連結されたシチジンデアミナーゼまたはアデニンデアミナーゼから成る。シチジンデアミナーゼのデアミナーゼ活性は、大多数、C残基をT残基に変換する。しかしながら、使用される酵素およびBE構築に応じて、他の塩基を導入することができる。アデニンBEはより特異的であり、A残基だけをG残基に変換する。
【発明の概要】
【0007】
本出願者は、ベースエディターを用いない1つまたは2つのコドンにおけるいくつかの塩基の変更を改変および指令するために反復Cas9遺伝子編集を用いることによるCRISPR/Cas9塩基編集および小SDN2の代替および改良の両方である方法を開発した。
【0008】
この技術は、核酸配列中の1つまたは2つのコドンの編集を指示することができ、得られたタンパク質配列中の1つまたは2つの特定のアミノ酸の改変を生成することができる。指令コドン書換えを、CRISPR Casエンドヌクレアーゼにより切断された位置において行い、CRISPR Casエンドヌクレアーゼは、例えば、xCas9などの広範なPAMバリアントと共に使用される場合、指令コドン書換えを非常に万能にする。指令コドン書換えは、SDN2および相同組換えのための鋳型配列を必要としないので、オリゴベースのSDN2より効果的であると期待される。
【0009】
本明細書に開示されている方法は、コドン置換またはコドン書換えもしくは指令コドン書換えと呼ぶこともある。
【0010】
コドンは、タンパク質合成中のアミノ酸または終止シグナルをコードする核酸配列中の一連の3連続ヌクレオチドである。
【0011】
ヌクレオチドおよび塩基は、核酸配列の塩基成分:アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)およびチミン(T)を呼ぶために代わりに使用される。
【0012】
PAMは、プロトスペーサー隣接モチーフであり、これは、CRISPRシステムにおけるエンドヌクレアーゼにより標的とされるDNA配列中のDNA配列(通常、2~6塩基対)である。このモチーフは、CRISPRエンドヌクレアーゼによる標的領域の認識のために必須である。PAM配列は、CRISPRエンドヌクレアーゼに特異的である。CRISPRエンドヌクレアーゼのPAM配列は、標的ゲノムにおいて標的とされる可能性のある可能領域を決定する。
【0013】
野生型配列、または元の配列、または初期配列は、方法実施前、したがって、変異導入前の標的配列である。
【0014】
本発明の方法は、遺伝子編集CRISPR技術およびNHEJ細胞DNA修復マシーナリーの誤りがちな修復に基づく。
【0015】
NHEJ経路は、DSB修復のための主要な機序である。この経路は、2つの壊れたDNA末端を結合する(Lieber 2010)。NHEJ経路は、DNAを修復して元のDNA配列の完全性を回復するか、あるいは修復されたDNA中のエラー、例えば、結合部における小欠失もしくは挿入を導入する。
【0016】
コドン書換えマシーナリーは、連続的または同時に使用される平滑末端および少なくとも2つのガイドRNA(gRNA)を生成するCRISPRエンドヌクレアーゼを必要とする。
【0017】
本発明の方法は、標的生物における特定の改変を導入することを可能とする。
【0018】
前記方法を、真核細胞(動物、真菌細胞または植物細胞;好ましくは植物細胞;より好ましくはトウモロコシ、コムギ、イネ、アブラナ、ヒマワリ、オオムギ、ライムギ、ダイズ、ワタ、モロコシ、ビートルート)または原核細胞に適用することができる。
【0019】
したがって、より詳細には、本発明は、標的遺伝子の特定の位置における特定の変異の導入方法であって、前記方法は、
a)複数の細胞において、
-エンドヌクレアーゼタンパク質、
-前記標的遺伝子中の標的位置を認識する第一ガイドRNA、
-前記標的遺伝子中の改変された標的位置を認識する第二ガイドRNA(二次ガイド)であって、前記改変は少なくとも1つのヌクレオチド欠失に存する、第二ガイドRNA、
を導入することと、
b)前記特定の変異がフレームシフトの導入なしで導入された前記細胞を単離するために、前記複数の細胞を所望によりスクリーニングすることと、
を含んでなる方法に関する。
【0020】
結果として、前記方法は、特定の変異が標的遺伝子中の特定の位置(または部位)において導入された生物の細胞を得ることを可能とする。標的遺伝子は、所与のタンパク質をコードする。タンパク質の1つまたは2つのコドンを改変して、その結果、このタンパク質配列の1つまたは2つのアミノ酸が改変される場合に、前記方法を行う。
【0021】
第一ガイドRNAは、標的遺伝子中の所与の位置において二本鎖DNAの切断を引き起こす。前記位置は、所与の位置に近接したPAMの部位(プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)は、CRISPRシステムによる切断に対して標的とされるDNA領域に従う通常2~6塩基対長の短いDNA配列である)、および使用されるエンドヌクレアーゼの部位の両方に依存する。
【0022】
DNA鎖の切断後、細胞DNA修復マシーナリーは、切断されたDNAを修復するために働き始める。この過程の間に、いくつかのエラーが起こる可能性があり、その結果、1つ、2つまたは3つのヌクレオチドは、切断の部位において修復されたDNA配列中で欠失される。より大きい欠失も起こる可能性があるが、コドン書換え方法にとっては望ましくない。あるいは、細胞マシーナリーによるDNA修復過程の間に、いくつかのヌクレオチド挿入も可能である。
【0023】
したがって、本発明は、第一ガイドRNAが、前記ヌクレアーゼを標的位置において標的遺伝子を切断するように指令する事実、および1~3ヌクレオチドの小欠失が、いくつかの細胞内で切断サイトにおいて修復により導入される事実を使用する。結果として、いくつかの細胞は、改変された標的位置を含み、1つ、2つまたは3つのヌクレオチドはこの部位において欠損する。
【0024】
第二ガイドRNAは、ヌクレアーゼが改変された標的位置において標的遺伝子を切断するように指令する。この第二切断により、切断サイトにおける修復の間の所望のヌクレオチドの挿入を有することを目的とし、前記所望のヌクレオチドは、この位置における元のヌクレオチドと異なり、それにより、標的遺伝子の特定の位置における特定の変異を標的遺伝子の修復によって導入する。
【0025】
2つだけのガイドRNAが使用される場合(連続した欠失および挿入による1つのヌクレオチドの置換)に説明されているこの実施形態を、下記に開示されているように、2つ以上のヌクレオチドを置換するため、より多いガイドRNAを用いて、修復は第一ガイドRNAにより指令された切断後2つ以上のヌクレオチドの欠失を導入することができる事実を活用するように広げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
1つの実施形態では、複数の細胞は、生物の組織(通常自己完結型および特定の機能を有する生物の一部)である。別の実施形態では、複数の細胞は、組織である。別の実施形態では、複数の細胞は、生物の細胞の懸濁液である。更に別の実施形態では、複数の細胞は、培養レシピエントと接着された細胞である。
【0027】
好ましい実施形態では、生物は、植物である。特に、植物は、単子葉植物、好ましくは穀物である。単子葉植物として、イネ、コムギ、オオムギ、モロコシ、カラスムギ、トウモロコシなどの穀物を挙げることができるが、サトウキビも挙げることができる。コムギ細胞またはトウモロコシ細胞を用いて、前記方法を有利に行うことができる。別の実施形態では、植物は、双子葉植物である。双子葉植物の中でも、ダイズ、ワタ、トマト、テンサイ、ヒマワリ、またはアブラナを挙げることができる。
【0028】
好ましい実施形態では、複数の植物細胞は、小胞子、胚珠、プロトプラスト、接合体である。特定の実施形態では、細胞を、バイオリステック形質転換のために蒔く。
【0029】
好ましい実施形態では、植物組織は、胚、頂端分裂組織などの成長点、葉、根、茎、胚軸である。
【0030】
前記方法を植物細胞に対して行う場合、かかる植物細胞の全能性を使用することができ、前記植物細胞の全能性は、所与の細胞(例えば、細胞を成育し、培養細胞からカルスを形成した後)から植物全体、したがって、変異が特定の標的座位に導入された植物を再生することを可能とする。
【0031】
前記方法を植物胚芽細胞(花粉、胚珠)に対して行う場合、植物胚芽細胞を使用して別の胚芽細胞を受精させ、得られた植物において変異を導入するために植物を生成することができる。別の実施形態では、倍加半数体を生成し、植物を再生する。
【0032】
1つの実施形態では、変異は、標的遺伝子における1つのヌクレオチドの置換である。この実施形態では、2つのみのガイドRNAを使用することができる。第一ガイドは、第一切断を指令することを目的とする。CRISPR-Cas9の標的特異性を、gRNAの5’末端において20nt配列により決定する。標的とのgRNAの塩基対形成後、Cas9は、二本鎖が所望の標的配列においてPAMの約3~4ヌクレオチド上流での破壊を媒介する。
【0033】
第二ガイドRNAを、第一gRNAを用いて切断が起こったサイトにおいて-1ヌクレオチドの座位において初期配列に指令するように設計する。したがって、第二gRNAは、第一切断後の修復が適切でなく、1つの欠失がこの修復ステップ中に導入された細胞に対する切断のみを認識して指令する。したがって、エンドヌクレアーゼは、欠失を有する標的サイトにおいて二本鎖サイトを再度切断する。
【0034】
次いで、修復が再度起こり、ランダムなヌクレオチドが前記切断サイトに挿入される可能性がある。したがって、所望のヌクレオチドが元のヌクレオチドに置換して挿入された細胞を識別するためにスクリーニングし、それにより、変異が導入された細胞を得ることは可能である。
【0035】
別の実施形態では、第三ガイドRNA(三元ガイド)を、エンドヌクレアーゼタンパク質ならびに第一ガイドRNAおよび第二ガイドRNAを有する細胞内に導入し、
(i)前記第二ガイドRNAを、改変された標的位置を認識するように設計し、改変は、前記第一ガイドRNAによる前記切断後に前記標的遺伝子中の前記特定の位置における2つの所望のヌクレオチドの欠失に存し、および前記第二ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第一の所望のヌクレオチドを挿入し、
(ii)前記第三ガイドRNAを、前記(i)で得られた挿入により前記改変された標的位置を認識するように設計し、前記第三ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第二の所望のヌクレオチドを挿入し、
それにより、変異標的遺伝子(2つの所望のヌクレオチドが2つの元のヌクレオチドを置換し、少なくとも1つのヌクレオチドは元のヌクレオチドと異なるかまたは2つの所望のヌクレオチドは2つの元のヌクレオチドと異なる)を得る。
【0036】
この実施形態では、3つのガイドRNAを使用し、前記方法は、第一gRNAにより指令された切断が修復され、それにより、改変された配列をもたらす場合、2つの所望のヌクレオチドの欠失は導入される可能性があるという事実を活用する。
【0037】
この実施形態では、第二ガイドRNAは、改変された配列(第一切断サイトにおける元の配列-2つの所望のヌクレオチドの欠失)を認識し、この改変された配列を有する細胞内で切断を行うようにエンドヌクレアーゼを指令することができる。切断後、修復機構は、二本鎖を閉じ、1つのランダムなヌクレオチドが挿入され、二次改変配列をもたらす可能性がある。
【0038】
第三RNAガイドは、第一の所望のヌクレオチドが挿入された二次改変配列に対して特異的である。この第一の所望のヌクレオチドは、この部位に存在した元のヌクレオチドと異なる。第三gRNAは、エンドヌクレアーゼを、二次改変配列を切断するように指令する。
【0039】
第二の所望のヌクレオチドを、修復サイトに挿入してよい。したがって、第二の所望のヌクレオチドが挿入された細胞を識別するためにスクリーニングすることは可能である。
【0040】
第三gRNAにより指令された切断後に挿入された第二の所望のヌクレオチドは、元(未変異配列)における同じ部位に存在していた元のヌクレオチドと同じであってよいことは注目すべきである。これは、2つのヌクレオチド欠失における第一の所望のヌクレオチドだけを改変したい場合に起こり得る。
【0041】
この実施形態では、特定の変異が2つのコドンと重複する場合、元の標的遺伝子の1つまたは2つのコドンを改変することができる。
【0042】
別の実施形態では、4つのガイドRNAを使用する:第一gRNAは、元の配列において切断を指令し、第二gRNAは、前記切断サイトにおける3つの所望のヌクレオチドの欠失を有する元の配列に特異的であり、第三gRNAは、3つの所望のヌクレオチドの欠失および元のヌクレオチドと異なる第一の所望のヌクレオチドの1つの挿入を有する元の配列に特異的であり、ならびに第四gRNAは、3つの所望のヌクレオチドの欠失が第一切断後に行われ、その後、2つの所望のヌクレオチドが修復中(第二gRNAおよび第三gRNAを用いた切断後)に連続的に挿入された元の配列に特異的である。
【0043】
手短に言えば、第一gRNAは、所定のサイトにおいて切断を指令する。修復は、3つの所望のヌクレオチドの欠失を導入し、それにより、第一改変配列をもたらし得る。
【0044】
第二gRNAは、第一改変配列に対して特異的であり、エンドヌクレアーゼによる切断を指令する。修復時、1つのランダムなヌクレオチドの挿入が起こり、それにより、第二改変配列をもたらすことができる。
【0045】
第三gRNAは、第一の所望のヌクレオチド(元のヌクレオチドと異なる)が挿入された第二改変配列に対して特異的である。第三gRNAは、エンドヌクレアーゼ切断を指令して修復し、この時、1つのランダムなヌクレオチドを挿入してよく(第一の所望のヌクレオチドの下流)、第三改変配列をもたらす。
【0046】
第四gRNA(四次ガイド)は、第二の所望のヌクレオチドが挿入された第三改変配列に対して特異的である。第四gRNAは、エンドヌクレアーゼ切断を指令して修復し、この時、1つのランダムなヌクレオチドを挿入してよく(第二の所望のヌクレオチドの下流)、第四改変配列をもたらす。
【0047】
第四改変配列を有する細胞のスクリーニングにより、第三の所望のヌクレオチドが第二の所望のヌクレオチドの下流に挿入された細胞を識別することは可能である。
【0048】
第一の所望のヌクレオチドが同じ部位において元のヌクレオチドと異なるが、1つまたは他の2つの所望のヌクレオチドは、元の配列に存在したヌクレオチドと同じであってよいことは注目すべきである。1つの実施形態では、第一の所望のヌクレオチドは異なるが、2つの最後に再導入されたヌクレオチドは、元の配列中のヌクレオチドと同じである。別の実施形態では、2つの第一の所望のヌクレオチドは異なるが、再導入された最後のヌクレオチドは、元の配列中のヌクレオチドと同じである。別の実施形態では、3つの所望のヌクレオチドは、元の配列中のヌクレオチドと異なる。
【0049】
この実施形態では、第四ガイドRNAを、前記エンドヌクレアーゼタンパク質ならびに前記第一ガイドRNA、前記第二ガイドRNAおよび前記第三ガイドRNAを含む細胞内に導入し、
(i)前記第二ガイドRNAを、改変された標的位置を認識するように設計し、前記改変は、前記第一ガイドRNAによる前記切断後に前記標的遺伝子中の前記特定の位置における3つのヌクレオチドの欠失に存し、および前記第二ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第一の所望のヌクレオチドを挿入し、
(ii)前記第三ガイドRNAを、前記(i)で得られた挿入後に得られた前記改変された標的位置を認識するように設計し、前記第三ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第二の所望のヌクレオチドを挿入し、
(iii)前記第四ガイドRNAを、前記(ii)で得られた挿入により前記改変された標的位置を認識するように設計し、前記第四ガイドRNAによる前記切断後の前記修復は、前記改変された標的位置において第三の所望のヌクレオチドを挿入し、
それにより、標的遺伝子が変異する(3つの所望のヌクレオチドは、3つの元のヌクレオチドを置換し、少なくとも1つのヌクレオチドは対応する元のヌクレオチドと異なるか、または2つのヌクレオチドは対応する元のヌクレオチドと異なるか、または3つのヌクレオチドは対応する元のヌクレオチドと異なる)細胞を得る。
【0050】
エンドヌクレアーゼ、およびガイドRNAを、リボ核タンパク質複合体(RNP)として、または異なる要素をコードする遺伝子構築物を含んでなるベクターを用いて植物中に送達することができる。
【0051】
送達方法は、当業者に公知である。例えば、エレクトロポレーション、バイオリステック、ウイルス媒介形質転換、アグロバクテリウム媒介植物形質転換(Ishida et al., 1996)を挙げることができる。
【0052】
異なる要素をコードする遺伝子構築物を含んでなるベクターは、プラスミドであってよい。エンドヌクレアーゼおよびgRNAをコードする核酸を、プロモーターの制御の下で蒔く。本発明のプロモーターは、ZmUbiプロモーター、TaU6プロモーター、トウモロコシU6プロモーター、トウモロコシU3プロモーター、イネU3プロモーターおよびイネU6プロモーターなどの構成的プロモーターを含んでなる。
【0053】
所望により、ベクターは、bar、nptII、ハイグロマイシンおよび/または視覚性マーカー(GFP、ルシフェラーゼ、GUS)などの選択可能なマーカーを含んでなることができる。
【0054】
エンドヌクレアーゼおよびgRNAを含んでなるRNP複合体を、in vitroで産生およびアセンブリし、標的細胞に送達する(照射、エレクトロポレーション、PEG形質転換)。
【0055】
上記のように、変異が、遺伝子によりコードされたタンパク質中のアミノ酸の変更を誘導する場合が好ましい。別の実施形態では、変異は、タンパク質の2つの連続したアミノ酸の変更をもたらす(2つまたは3つの欠失を導入する修復能が使用される場合、特定の位置がタンパク質をコードする遺伝子の2つのコドンの2つまたは3つのヌクレオチドを含んでなる場合、および変異がこれらのヌクレオチドのうちの少なくとも2つの変異を含み、それにより、前記タンパク質中の2つのアミノ酸の変更を引き起こす場合)。別の実施形態では、変異は、コード配列中に終止コドンを作成し、それにより、短縮タンパク質をもたらす。別の実施形態では、遺伝子の発現を減少または増加するために、例えば、遺伝子のプロモーター中の遺伝子の調節領域において、変異を導入する。
【0056】
好ましい実施形態では、細胞を、in vitroで培養して細胞数を増加させる。別の実施形態では、生物が植物である場合、標的遺伝子が変異した細胞を回収し、植物/小植物全体を再生する(特に、細胞はカルスを形成することを可能とし、植物はカルスから再生する)。各再生植物/小植物のサンプルを、分析用に採取する。DNA全体を各サンプルから抽出し、配列決定して特定の変異の存在を検出する。あるいは、標的遺伝子中の標的領域に特異的なプライマーを使用して標的領域を増幅する。標的領域を配列決定して、特定の変異の存在を検出する。
【0057】
複数の細胞から再生された植物に対してスクリーニングを行ってよい。なお、再生植物は総じてキメラ植物(再生植物が様々な変異細胞(いくつかの変異イベントは本明細書に開示されている反復方法を考慮して存在し得る)を含むので)ならびに非変異細胞である。全細胞内に変異を有する植物を得る1つの方法は、たぶん胚芽細胞が特定の変異を含むであろう植物を選択するために再生された植物をスクリーニングすることであろう。
【0058】
このスクリーニングの1つの方法は、上記の再生された植物のサンプル(体細胞組織)を使用すること、および変異を有するDNAの定量分析を行うことであろう。体細胞内の変異率がより高いほど、変異が細胞分裂および再生の早期に起こる可能性ならびに胚細胞も変異し、したがって、変異が伝染性である確率が高くなる可能性が高まる。結果として、各植物からの同様なサンプル(例えば、パンチにより葉から採取された円)を用いた複数の再生された植物をスクリーニングすることにより、特定の変異を含む細胞の量を評価することおよびこれらの細胞を収穫した植物を選択することは、変異されたDNAの量の定量により可能である。例えば、サンプル中の変異量により(したがって、変異DNA解析のために同様なサンプルを採取することの重要性)植物をランク付けすること、および更なる処理のために第一十分位数(解析されたDNA中の変異の最大量を有する植物の10%)を選択することは可能である。別の実施形態では、解析されたDNA中の変異の最大量を有する植物の5%、または植物の2%、または植物の1%を選択する。
【0059】
かかる選択された植物を、他の植物との更なる交雑のために使用することができる。一定の割合の次世代植物は、特定の変異に対してヘテロ接合性である。
【0060】
別の方法は、再生された植物を分析しないが、これらの植物を交雑して後代の特定の変異の存在についてスクリーニングすることであろう。
【0061】
特定の変異が植物において除草剤耐性を導入する場合、前記除草剤を含んでなる選択的培地上で細胞を選択する。
【0062】
別の実施形態では、標的遺伝子の特定の位置において変異を含む少なくとも1つの細胞を含んでなる植物を、細胞集団から再生する。
【0063】
使用されるエンドヌクレアーゼを、当技術分野において公知のエンドヌクレアーゼから選択することができる。エンドヌクレアーゼは、好ましくは、CRISPR Casエンドヌクレアーゼ、最も好ましくは、クラス2のII型(Cas9)エンドヌクレアーゼである。ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)(SpCas9)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(SaCas9)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)(CjCas9)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)(St1Cas9)、ナイセリア・メニンギティディス(Neisseria meningitidis)(MnCas9)、フランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)(FnCas9)、E1369R/E1449H/R1556Aフランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)の三重変異体(RHA FnCas9)、改良されたCas9(Hu et al, Nature. 2018 Apr 5;556(7699):57-63)、またはCas9-NG (Ren et al, Molecular Plants, 12 (7), 2019, 1015-1026に記載されているxCas9)などのいずれかの公知の宿主由来のCas9を使用することができる。本明細書に開示されている方法において使用されるエンドヌクレアーゼは、標的配列を切断する場合、平滑末端を生成しなければならない。
【0064】
本発明は、標的遺伝子の特定の位置において変異を含む少なくとも1つの細胞を含んでなる植物の産生方法であって、前記方法は、上記に開示されている標的遺伝子において変異を導入する方法を実施すること、およびこの方法の実施後得られた細胞から植物を再生することを含んでなる、方法にも関する。この方法は、上記方法により複数の細胞から再生された複数の植物から植物を選択するステップも含んでよい。
【0065】
本発明は、生物の細胞の標的遺伝子の特定の位置における特定の変異の導入のために必要なガイドの設計方法であって、前記方法は、
-欠失する必要があるヌクレオチドおよび前記特定の位置において前記欠失されるヌクレオチドを置換するように挿入する所望のヌクレオチドを決定することにより、前記特定の位置を改変するように置換する必要がある前記ヌクレオチド/塩基を識別することと、
-前記標的遺伝子中の前記特定の位置の近くのPAMを識別することであって、前記PAMは、前記編集のために使用される前記エンドヌクレアーゼに応じて選択される、ことと、
-野生型配列中の前記特定の位置において前記エンドヌクレアーゼが二本鎖DNAを切断するように第一ガイドを設計することと、
-前記第一ガイドにより引き起こされる前記エンドヌクレアーゼによる前記切断後に得られる前記ヌクレオチドの前記欠失に特異的である第二ガイドを設計することと、
2つのヌクレオチドが前記野生型配列から欠失されることになる場合に第三ガイドを設計することであって、前記第三ガイドは、前記第二ガイドの作用後期待される前記修復される配列の切断を引き起こして所望のヌクレオチドの導入をもたらす、ことと、
3つのヌクレオチドが前記野生型配列から欠失されることになる場合に第四ガイドを設計することであって、前記第四ガイドは、前記第三ガイドの作用後期待される前記修復される配列の切断を引き起こして所望のヌクレオチドの導入をもたらす、ことと、
を含んでなる、方法にも関する。
【0066】
したがって、前記方法は、目的の改変に応じて特異的に設計されたガイドを用いて所望の変異を得るようにCRISPR適用後、非相同末端連結修復から得られたランダム変異において、コドン書換えを指令するように指令された反復的濃縮である。
【0067】
第一ガイド(一次ガイド)および本発明のエンドヌクレアーゼは、書換えする所望のヌクレオチドにおいて切断を含む天然(野生型)配列を標的とすることができる。いくつかの細胞では、1~3ヌクレオチドからの小欠失または1ヌクレオチドの挿入は、合理的高頻度に出現する。
【0068】
同時または順次導入して、所望の欠失(1~3ヌクレオチド)を有する天然配列を認識する第二ガイド(二次ガイド)を細胞に送達する。所望の欠失の出現の場合、変異配列は、二次ガイドのおかげでエンドヌクレアーゼにより再び切断される。この時、高頻度の挿入を利用して、一部分の細胞は、新しいヌクレオチドを挿入する。
・目的の書換えが1ヌクレオチドである場合、細胞/植物を解析して、適切なコドンをコードする所望のヌクレオチドを有する編集された植物を選択する。
・目的の書換えが2または3ヌクレオチド(2または3ヌクレオチド欠失イベントに基づいて)である場合、所望のヌクレオチドの欠失および各々の連続的挿入に特異的な第三ガイド(三次ガイド)および第四ガイド(四次ガイド)も同時導入され、反復的に機能する。細胞/植物を解析して、適切なコドンをコードする所望のヌクレオチドを有する編集された植物を選択する。
【0069】
コドン中の1ヌクレオチドの書換えを目的とする場合、コドン書換えマシーナリーは、少なくとも2つのガイドRNAを含んでなる。コドン書換えは、部分的コドン書換えとなる。
【0070】
コドン中の2ヌクレオチドの書換えを目的とする場合、コドン書換えマシーナリーは、少なくとも3つのガイドRNAを含んでなる。コドン書換えは、部分的コドン書換えとなる。
【0071】
コドン中の3ヌクレオチドの書換えを目的とする場合、コドン書換えマシーナリーは、少なくとも4つのガイドRNAを含んでなる。コドン書換えは、完全コドン書換えとなる。
【0072】
いくつかのステップを本明細書に開示する:
ステップ1=標的生物における対象とする標的核酸配列中の標的ヌクレオチドコドンを識別し、各切断イベントにおいてヌクレオチドの連続的欠失/付加により前記コドンを改変するように置換される必要があるヌクレオチド/塩基を識別する。最後に、同数の塩基を欠失し、対象とする標的核酸内にフレームシフトが存在しないように配列中に同数の塩基を付加する。
【0073】
標的コドンの改変は、野生型タンパク質と比較して、対象とする標的核酸によりコードされるタンパク質の配列内のアミノ酸改変によるタンパク質レベルの改変を誘導する。いくつかの実施形態では、変異は、遺伝子配列において終止コドンを導入する。
【0074】
タンパク質中のこのアミノ酸改変は、標的生物に特異的遺伝形質をもたらす。
【0075】
植物における対象とする遺伝形質は、例えば:収穫改良、栄養素取込みの改良、植物構造の改良、非生物的ストレス(熱、寒冷、干ばつ、塩分、浸透圧ストレス・・・)に対する耐性の改良、官能特性、生物的ストレス(昆虫、線虫、真菌、細菌、ウイルス・・・)に対する耐性の耐容能、除草剤/抗生物質に対する耐容能、種子油含有率の改良、種子タンパク質含有率の改良である。
【0076】
ステップ2=編集のために使用されるエンドヌクレアーゼに応じて対象とする標的核酸配列中の標的ヌクレオチドコドン近くのPAM識別
【0077】
当業者は、異なるエンドヌクレアーゼのPAM特異性を知っている。
【0078】
本発明のエンドヌクレアーゼは、平滑末端、通常、クラス2のII型CRISPRヌクレアーゼを生成するCRISPRエンドヌクレアーゼである。本発明のクラス2のII型CRISPRヌクレアーゼは、国際公開第2014/093661号または国際公開第2013/176772号に記載されているSpCas9であり得、Wang et al (2020)におけるSaCas9、CjCas9、St1Cas9、NmCas9、FnCas9、RHA FnCas9であり得、xCas9(Hu et al, 2018)、Cas9-NG (Nishimasu et al, 2018)であり得る。
【0079】
ステップ3=標的ヌクレオチドコドンを改変するために必要な切断/切断サイトおよび所望の連続的欠失/挿入の部位を識別する
【0080】
切断サイトにおいて観察される最も多いNHEJ修復エラーは、1~3ヌクレオチドの欠失および1ヌクレオチドの挿入である。
【0081】
Cas9エンドヌクレアーゼを用いて、Cas9における2つのヌクレアーゼドメインは、各々、PAMの3塩基上流でDNA鎖の1つを切断して、平滑末端DNA二本鎖切断端(DSB)を残す。PAM配列上流(5’)の4番目のヌクレオチドの欠失、4番目および5番目のヌクレオチドの欠失、もしくは4番目、5番目および6番目のヌクレオチドの欠失または4番目の位置における1つのヌクレオチドの挿入は、野生型配列中に導入される高頻度の改変である。
【0082】
ステップ4=野生型配列中の所望の位置における二本鎖DNAを切断するための一次ガイドの設計ならびに連続的所望の欠失または挿入イベントに対して特異的な次のガイドの設計(ガイドRNAおよびCasエンドヌクレアーゼは標的配列中の二本鎖切断端(切り口とも呼ばれる)を導入することができることが思い出される)は、総じて、ヌクレオチド挿入または1~3ヌクレオチド欠失により修復される。
【0083】
ステップ5=改変コドンを得るための細胞内または複数の細胞内のガイドRNA(またはガイドRNAをコードする発現カセット)およびエンドヌクレアーゼ(またはエンドヌクレアーゼをコードする発現カセット)の導入
【0084】
コドン書換えマシーナリーの送達は、標的細胞に依存する。当業者は、送達方法を如何に適応させるかを知っている。
【0085】
コドン書換えマシーナリーを、例として、核酸ベクター中の発現カセットまたはリボ核タンパク質複合体として送達することができる。
【0086】
ステップ6=所望のコドン改変を有する編集された細胞を識別するために細胞をスクリーニングする
【0087】
全ての細胞のDNAを抽出し、標的領域を、充分なプライマーを用いて増幅し、配列決定する。標的領域を野生型配列にアラインし、編集の導入を検証する。
【0088】
編集された細胞の識別を、全RNAまたは全タンパク質の抽出により行うことができる。
【0089】
例えば、コドン改変が形態差または耐性を導入する場合、編集された細胞を目視で識別することも可能である。
【0090】
編集された細胞が植物細胞である場合、編集された細胞を編集された植物に再生することができる。当業者は、各植物に適した再生方法を知っている。
【0091】
コドン書換え方法を開始する前に、細胞DNA修復マシーナリーを用いて得られた各可能性のあるヌクレオチドの欠失および挿入の頻度を決定するために、ガイドRNAを用いて対象とする標的核酸配列内の標的領域を試験することは可能である。
【0092】
この試験を行うために、ガイドRNAは、選択されたエンドヌクレアーゼを細胞に提供する。細胞を、編集に充分な条件下で維持する。全ての細胞のDNAを抽出し、標的領域を、充分なプライマーを用いて増幅し、増幅産物を配列決定する。
【0093】
したがって、標的領域における4ヌクレオチドの欠失および挿入の頻度を測定することができる。
【0094】
このステップは、切れ目の部位において最もありそうな挿入または欠失イベントに対してガイドの設計を最適化するのに役立つ。
【0095】
場合によっては、コドンの改変を、欠失および挿入のいくつかの異なるシナリオにより行うことができる。このステップは、よりありそうなシナリオに基づいてガイドの設計を可能とすることにより最終的な効率を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】野生型配列のAsp94コドンを標的とする一次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側の核酸配列は、ZmHRC(配列番号1)の標的領域である。上側の場合、核酸配列は、置換する必要があるコドンである(AspをコードするGAT)。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、野生型配列の一次ガイドRNAにおいて使用されるZmHRC_Asp94スペーサー設計(配列番号3)である。
【
図2】ZmHRC標的領域における最も一般的インデル。野生型配列は、上部に示されている(配列番号43)。標的配列は、四角形内に示されており;PAM配列は下線を引いており;欠失は破線により示され;Asp94のコドンは太字である(配列番号44~48)。
【
図3】105編集T0植物の中からZmHRCにおけるインデル型の修復。
【
図4】Asp94コドンを標的とする二次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、GATコドンの3ヌクレオチド(del3)の欠失を有するZmHRC(配列番号1)における標的領域である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、ガイドRNAにおいて使用されるZmHRC_Asp94-del3特異的スペーサー設(配列番号12)である。
【
図5】Asp94コドンを標的とする三次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、GATコドンの3ヌクレオチドの欠失および1つのTの挿入(del3insT)を有するZmHRC(配列番号1)における標的領域である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、ガイドRNAにおいて使用されるZmHRC_Asp94-del3insT特異的スペーサー設(配列番号15)である。
【
図6】Asp94コドンを標的とする四次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、GATコドンの3ヌクレオチドの欠失および2つのTの挿入(del3insTT)を有するZmHRC(配列番号1)における標的領域である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、ガイドRNAにおいて使用されるZmHRC_Asp94-del3insTT特異的スペーサー設(配列番号18)である。
【
図7】ZmHRC_Asp-94-Phe完全コドン書換え(配列番号49)。
【
図8】野生型配列のVal286コドンを標的とする一次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、TaLox1における標的領域である。上側の場合、核酸配列は、置換される必要があるコドンである(ValをコードするGTC)。第二核酸配列は、相補鎖である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、野生型配列のガイドRNAにおいて使用されるTaLox1_Val286特異的スペーサー(配列番号21)である。
【
図9】染色体BおよびDのTaLox1標的領域における最も一般的インデル。野生型配列(配列番号50)は、上部に示される。標的配列は、四角形内に示されており;PAM配列は下線を引いており;欠失は破線により示され;Val286のコドンは太字である(配列番号51~55)。
【
図10】51編集T0植物の中からTaLox1におけるインデル型の修復。
【
図11】Val286コドンを標的とする二次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、2ヌクレオチドの欠失(del2)を有するTaLox1における標的領域である。第二核酸配列は、相補鎖である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、ガイドRNAにおいて使用されるTaLox1_Val286-del2特異的スペーサー設計(配列番号27)である。
【
図12】Val286コドンを標的とする三次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、2ヌクレオチドの欠失および1つのAの付加(del2insA)を有するTaLox1における標的領域である。第二核酸配列は、相補鎖である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、ガイドRNAにおいて使用されるTaLox1_Val286-del2insA特異的スペーサー設計(配列番号30)である。
【
図13】TaLox1_Val-286-Glu部分的コドン書換え(配列番号56)。
【
図14】野生型配列のSer621コドンを標的とする一次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、ZmALS2における標的領域である。上側の場合、核酸配列は、置換される必要があるコドンである(SerをコードするAGT)。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、野生型配列のガイドRNAにおいて使用されるZm_ALS2_Ser621特異的スペーサー設計(配列番号35)である。
【
図15】Ser621コドンを標的とする二次ガイドRNAのスペーサー配列の設計。上側核酸配列は、標的コドンにおけるGの欠失(del1)を有するZmALS2における標的領域である。下線の塩基は、Cas9により認識されるPAM配列である。下側の核酸配列は、ガイドRNAにおいて使用されるZmALS2_Ser621-del1特異的スペーサー設計(配列番号38)である。
【
図16】ZmALS2 Ser-621-Asn部分的コドン書換え(配列番号57)。
【実施例】
【0097】
実施例1:完全コドン書換え:トウモロコシにおけるHRC遺伝子を標的とするコドン書換えマシーナリー
A)標的コドンの識別。
選択された標的は、トリーティクム・アエスティウム(Triticum aestivum)(GenBank:MK450306.1)由来の仮想ヒスチジンリッチカルシウム結合タンパク質をコードする遺伝子であるフザリウムヘッドブライト感受性遺伝子HRC(Su et al.)である。トウモロコシHRC遺伝子(Zea maize cvA188)を同定した(配列番号1)。ZmHRCタンパク質(配列番号2)中の位置94におけるアスパラギン酸アミノ酸(Asp)をコードする標的コドンGATは、同位置においてフェニルアラニンアミノ酸(Phe)をコードするTTTまたはTTCにより置換されることを目的とする。所望の置換は、ZmHRCにおけるAsp-94-Phe変異である。
配列番号1においてAsp94コドンを標的とする一次gRNAを、野生型配列のAsp94コドン後の切断点を導入するようにコード鎖上に設計した。(
図1)
【0098】
Cas9ヌクレアーゼによる期待される切断サイトは、PAMサイトの3塩基上流(5’)に位置する(下線)。切断は、Asp94のGATコドンにおけるT後に位置する。
【0099】
B)CRISPR Cas9およびガイドRNAの送達によるトウモロコシ植物細胞におけるゲノム編集ならびにトウモロコシ植物の再生
Cas9 gRNAガイドを、実施例1A)に記載されている切断サイトを標的とするように設計し(配列番号4)、前記ガイドを発現する核酸を、トウモロコシU6プロモーター(配列番号5)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号6を生成する。
【0100】
ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)由来のCas9遺伝子は、当技術分野において公知の標準的技術を用いてイネ科(Poaceae)に最適化されたコドン(配列番号7)であり、核局在化シグナル(NLS)を両末端において添加した:配列番号8によりコードされたサルウイルス40(SV40)単節型アミノ末端NLSならびに、それぞれ、アミノ末端およびカルボン酸末端における配列番号9によりコードされたアフリカツメガエル(Xenopus laevis)ヌクレオプラスミンNLS。Cas9の最適化配列を、トウモロコシユビキチンプロモーターならびに第一イントロン(Christensen et al.)およびアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)NOSターミネーター(Depicker et al.)の制御下、標準的方法によりクローン化した。
【0101】
Cas9発現カセットおよびgRNAカセットを、レポーターおよび選択可能なマーカーカセットを有するバイナリーペクターpMRTに導入してpBIOS12094ベクターを生成し、アグロバクテリウム株強病原性LBA4404/pSB1(Komari et al.)に形質転換した。
【0102】
トウモロコシA188未成熟胚をアグロバクテリウム株強病原性LBA4404/pSB1およびIshida et al, 2007に記載されている手順に従って再生された植物においてpBIOS12094を用いて形質転換した。
【0103】
C)一次ガイドを用いて得られた変異プロファイルの解析
編集を検出するため、再生されたトウモロコシ植物由来のDNAを、葉サンプルから抽出し、Asp94標的サイトを、プライマーPP_03359_F(配列番号10)およびPP_03359_R(配列番号11)を用いて増幅する。増幅産物を、次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて配列決定する。Asp94標的サイトを中心とした10ヌクレオチド領域における少なくとも1ヌクレオチドのインデルを有する配列数を評価する。(
図2)
【0104】
105 T0トランスジェニック植物におけるインデル型の修復を
図3に示す。
【0105】
Asp-94-Phe変異に必要なAsp94の座位における3ヌクレオチドの欠失および1ヌクレオチドの挿入は可能性があり高頻度である。加えて、Tヌクレオチドの挿入は、1ヌクレオチドの挿入で頻繁に見られる。
【0106】
【0107】
Asp94のコドンに対するTTTによるGATの置換は、妥当な頻度で起こり得る。期待される改変は、GATコドンの3ヌクレオチドの欠失およびTの3連続付加である。
【0108】
D)二次ガイドRNAの設計
一次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中でも、3ヌクレオチド(GAT)の欠失が望ましい(del3)。二次ガイドを、Asp94コドンの3ヌクレオチド(GAT)の欠失を有するZmHRC配列に特異的であるように設計する。(
図4)
【0109】
Cas9 gRNAガイド(配列番号13)を、ZmHRC_Asp94-del3を標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、トウモロコシU6プロモーター(配列番号5)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号14を生成する。
【0110】
E)三次ガイドRNAの設計。
二次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中でも、1ヌクレオチド(T)の挿入が望ましい(del3insT)。三次ガイドを、ZmHRC_Asp94-del3において1ヌクレオチド(T)の挿入を有するZmHRC_Asp94-del3配列に特異的であるように設計する。(
図5)
【0111】
Cas9 gRNAガイド(配列番号16)を、ZmHRC_Asp94-del3insTを標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、トウモロコシU6プロモーター(配列番号5)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号17を生成する。
【0112】
F)四次ガイドRNAの設計。
三次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中でも、1ヌクレオチド(T)の挿入が望ましい(del3insTT)。四次ガイドを、ZmHRC_Asp94-del3insTにおいて1ヌクレオチド(T)の挿入を有するZmHRC_Asp94-del3insTT配列に特異的であるように設計する。(
図6)
【0113】
Cas9 gRNAガイド(配列番号19)を、ZmHRC_Asp94-del3insTTを標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、トウモロコシU6プロモーター(配列番号5)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号20を生成する。
四次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中で、1ヌクレオチド(T)の挿入が起こり、したがって所望のZmHRC_Asp-94-Pheコドン書換えを生成する。(
図7)
【0114】
G)CRISPR Cas9およびガイドRNAの送達によるトウモロコシ植物細胞におけるコドン書換えならびにトウモロコシ植物の再生
一次、二次、三次および四次ガイドのためのCas9発現カセットおよびgRNAカセットを、レポーターおよび選択可能なマーカーカセットを有するバイナリーペクターpMRTに導入して、pZmHRC_Asp-94-Phe_Cd-RWベクターを生成し、強病原性アグロバクテリウム株LBA4404/pSB1に形質転換した(実施例1Aのように)。
【0115】
トウモロコシA188未成熟胚を、アグロバクテリウム株強病原性LBA4404/pSB1においてpZmHRC_Asp-94-Phe_Cd-RWを用いて形質転換し、実施例1Bに記載されている手順に従って植物を再生する。
【0116】
H)トウモロコシ植物において得られる変異プロファイルの解析
編集を検出するため、再生されたトウモロコシ植物由来のDNAを、葉サンプルから抽出し、ZmHRC_Asp94標的サイトを、プライマーPP_03359_F(配列番号10)およびPP_03359_R(配列番号11)を用いて増幅する。増幅産物を、次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて配列決定する。所望のAsp-94-Pheコドン書換えを含む植物を識別し、これらの表現型を、フサリウム病原菌の存在下で評価する。
【0117】
実施例2:部分的コドン書換え:コムギにおけるLox1遺伝子を標的とするコドン書換えマシーナリー
A)標的コドンの識別。
選択された標的は、9-リポキシゲナーゼをコードするトリティクム・アエスティウム(Triticum aestivum)(GenBank:GQ166692.1)由来のリポキシゲナーゼ1遺伝子(Lox1)である。この遺伝子のサイレンシングは、コムギに赤かび病に対する耐性を付与する。
【0118】
Lox1遺伝子を改変するこの実験では、TaLox1の位置286においてバリンアミノ酸(Val)をコードする標的コドンGTCをGAAまたはGAGにより置換して同位置においてグルタミン酸アミノ酸(Glu)をコードする。所望の置換は、TaLox1におけるVal-286-Glu変異である。
【0119】
TaLox1を標的とする機能性gRNAは、Wang et al, 2018により、相補鎖上で識別された。このガイドを選択して一次ガイドを設計する。(
図8)
【0120】
Cas9ヌクレアーゼによる期待される切断サイトは、Wang et al, 2018により示されているようにLox1タンパク質のVal286のためのコドン中のGの後、PAMサイトの3塩基上流(5’)に位置する。
【0121】
コドン表により、Aspは、GAAまたはGAGのいずれかによりコードされる。Val-286-Glu変異のための最小経路は、AAまたはAGによるGTCコドンの最終2ヌクレオチド(TC)の置換を含む。
【0122】
B)CRISPR Cas9およびガイドRNAの送達によるコムギ植物細胞におけるゲノム編集およびコムギ植物の再生
Cas9 gRNAガイド(配列番号22)を、実施例2A)に記載されているサイトを標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、コムギU6プロモーター(配列番号23)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号24を生成する。
【0123】
Cas9発現カセットおよびgRNAカセットを、レポーターおよび選択可能なマーカーカセットを有するバイナリーペクターpMRTに導入してpBIOS12093ベクターを生成し、アグロバクテリウム株EHA105に形質転換した。
【0124】
コムギ未成熟胚を、Ishida et al, 2015により記載されているように形質転換し、選択し、再生した。
【0125】
C)一次ガイドを用いて得られた変異プロファイルの解析
編集を検出するため、コムギ植物由来のDNAを、葉サンプルから抽出し、Val286標的サイトを、プライマーPP_03344_F(配列番号25)およびPP_03344_R(配列番号26)を用いて増幅する。増幅産物を、次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて配列決定する。Val286標的サイトを中心とした10ヌクレオチド領域における少なくとも1ヌクレオチドのインデルを有する配列数を評価する(
図9)。
【0126】
51 T0トランスジェニック植物におけるインデル型の修復を
図10に示す。
【0127】
したがって、Val-286-Glu変異に必要なVal286の座位における2ヌクレオチドの欠失および1ヌクレオチドの挿入は可能性がある。加えて、全4ヌクレオチドは、1ヌクレオチドの中で見られる。
【0128】
【0129】
Val286のGTCコドンにおけるAAまたはAGによるTCの置換は、妥当な頻度で起こり得る。置換AAは、AGより高頻度で起こる。
【0130】
D)二次ガイドRNAの設計。
一次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中でも、2ヌクレオチド(TC)の欠失が望ましい。二次ガイドを、Val286コドンの2ヌクレオチド(TC)の欠失を有するTaLox1配列に特異的であるように設計する。(
図11)
【0131】
Cas9 gRNAガイド(配列番号28)を、TaLox1_Val286-del2を標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、コムギU6プロモーター(配列番号23)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号29を生成する。
【0132】
E)三次ガイドRNAの設計。
二次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中でも、AまたはGヌクレオチドの挿入が望ましい。A挿入の頻度が標的座位においてより高い(実施例2C)ので、Aの挿入は好ましい。三次ガイドを、TaLox1_Val286-del2において1ヌクレオチド(A)の挿入を有するTaLox1_Val286-del2配列に特異的であるように設計する。(
図12)
【0133】
Cas9 gRNAガイド(配列番号31)を、TaLox1_Val286-del2insAを標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、コムギU6プロモーター(配列番号23)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号32を生成する。
三次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中で、Aの挿入が起こり、所望のVal-286-Gluコドン書換えを生成する。(
図13)
【0134】
F)CRISPR Cas9およびガイドRNAの送達によるコムギ植物細胞におけるコドン書換えおよびコムギ植物の再生
一次、二次および三次ガイドのためのCas9発現カセットおよびgRNAカセットを、レポーターおよび選択可能なマーカーカセットを有するバイナリーペクターに導入して、pTaLox1_Val-286-Glu_Cd-RWベクターを生成し、アグロバクテリウム株EHA105に形質転換した。
【0135】
コムギ未成熟胚を、Ishida et al, 2015により記載されているように形質転換し、選択し、再生した。
【0136】
G)一次ガイドを用いて得られた変異プロファイルの解析
編集を検出するため、コムギ植物由来のDNAを、葉サンプルから抽出し、Val286標的サイトを、プライマーPP_03344_F(配列番号25)およびPP_03344_F(配列番号26)を用いて増幅する。増幅産物を、次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて配列決定する。所望のVal-286-Gluコドン書換えを含む植物を識別し、これらの表現型を評価する。
【0137】
実施例3:部分的コドン書換え:トウモロコシにおける除草剤耐性のためのZmAHAS遺伝子を標的とするコドン書換えマシーナリー
A)標的コドンの識別。
選択された標的は、除草剤および選択可能なマーカー遺伝子アセトヒドロキシ酸合成酵素(AHASまたはALS)である。トウモロコシALSタンパク質中の位置621におけるアスパラギン(Asn)によるセリン(Ser)の置換は、クロルスルフロンまたはイマゼタピルなどのスルホニルウレア除草剤に対するトウモロコシカルスの耐性をもたらす(Zhu et al.)。トウモロコシは、2つの遺伝子:ALS1(配列番号33)およびALS2(配列番号34)を有する。ガイドRNA(gRNA)を、Ser-621-Asn変異をZmALS2に導入するように設計する。
【0138】
ZmALS2中の位置621におけるセリンアミノ酸(Ser)をコードする標的コドンAGTは、トウモロコシの除草剤耐性を導入するために、同位置においてアスパラギンアミノ酸(Asn)をコードするようにAATまたはAACにより置換しなければならない。所望の置換は、ZmALS2におけるSer-621-Asn変異である。
【0139】
Ser-621-Asn変異を導入するための塩基置換は、次の最小変更を要する:AGTにおいてGを欠失してAにより置換してAATを生成する。
【0140】
B)一次ガイドRNAの設計
最適Cas9 PAM配列を、Ser621コドンにおける標的とされるGの直後に切れ目を導入するように、標的とされるヌクレオチドZmALS2の近くで識別する。(
図14)
【0141】
Cas9 gRNAガイドを設計し(配列番号36)、前記ガイドを発現する核酸を、トウモロコシU6プロモーター(配列番号5)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号37を生成する。
【0142】
C)二次ガイドRNAの設計
一次ガイドを用いて得られることができる様々な変異の中でも、1ヌクレオチド(G)の欠失が望ましい。二次ガイドを、ZmALS2_Ser621の1ヌクレオチド(G)の欠失を有するZmALS2配列に特異的であるように設計する。(
図15)
【0143】
Cas9 gRNAガイド(配列番号39)を、ZmALS2_Ser621-del1を標的とするように設計し、前記ガイドを発現する核酸を、トウモロコシU6プロモーター(配列番号5)の後ろで高コピー数プラスミドにクローン化して配列番号40を生成する。
【0144】
二次ガイドは、欠失されたGの部位において切断を導入してこのサイトに新たな変異を誘導する。これらの変異のいくつかはヌクレオチド(A)の挿入であり、ZmALS2へのSer-621-Asn変異を生成する(
図16)。
【0145】
D)トウモロコシプロトプラストにおけるコドン書換え
1つの実験では、一次gRNA(配列番号37)および二次gRNA(配列番号40)プラスミドの両方を、標準的PEG系プロトコール(Cao et al.)を用いて、Cas9カセットおよびレポーターカセットでトウモロコシA188プロトプラストに同時形質転換する。
【0146】
編集を検出するため、トウモロコシプロトプラスト由来のDNAを抽出し、Ser-621-Asn標的サイトを、プライマーZmALS_621_for(配列番号41)およびZmALS_621_rev(配列番号42)を用いて増幅する。増幅産物を、次世代シークエンシング(NGS)技術を用いて配列決定する。所望のGからAへ編集(Ser-621-Asn)した配列数を評価して、コドン書換えの相対的効率を決定する。
【0147】
E)トウモロコシカルスにおけるコドン書換え
第二実験では、Cas9発現カセットならびに一次gRNA(配列番号37)および二次gRNA(配列番号40)の両方を、レポーターおよび選択可能なマーカーカセットを有するバイナリーペクターpMRTに導入して、pZmALS2_Ser-621-Asn_Cd-RWベクターを生成した。
【0148】
pZmALS2_Ser-621-Asn_Cd-RWを、Kirihara, 1994により記載されている遺伝子銃によりトウモロコシブラックメキシカンスイート(BMS)細胞懸濁液に導入する。個別のクロルスルフロン耐性カルスを単離し、DNAを標準的プロトコールにより抽出した。
【0149】
Ser-621-Asn標的サイトを、プライマーZmALS_621_for(配列番号41)およびZmALS_621_rev(配列番号42)を用いて増幅する。増幅産物を配列決定して、特定のコドン書換えを確認する。
【0150】
F)AHAS遺伝子により除草剤耐性トウモロコシ植物を得るためのコドン書換え
第三実験では、pZmALS2_Ser-621-Asn_Cd-RWを、アグロバクテリウム株強病原性LBA4404/pSB1に形質転換し(Komari et al.)、トウモロコシA188未成熟胚およびIshida et al, 2007により記載されている手順に従って再生された植物を形質転換するために使用する。
【0151】
T0植物に対して、Ser-621-Asn標的サイトを、プライマーZmALS_621_for(配列番号41)およびZmALS_621_rev(配列番号42)を用いて増幅する。増幅産物を配列決定して、特定のコドン書換えを確認し、頻度を評価する。クロルスルフロン耐性を、Svitashev et al, 2015により記載されているT1植物に対して確認する。
【0152】
【配列表】
【国際調査報告】